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ファイザーとモデルナ、高齢者により安全なワクチンはどっち?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)mRNAワクチンの安全性と有効性は、モデルナ社製ワクチンでもファイザー社製ワクチンでも高いとされている。しかし、高齢者におけるワクチン接種後の有害事象の発生という点では、軍配はモデルナ社製ワクチンに上がるとする研究結果が報告された。米ブラウン大学公衆衛生大学院、老年学・ヘルスケア研究センターのDaniel Harris氏らが米国立老化研究所の資金提供を受けて実施した研究で、詳細は、「JAMA Network Open」に8月2日掲載された。 Harris氏は、「COVID-19にまつわる有害事象の発生リスクは、新型コロナウイルスに自然感染した場合の方が、mRNAワクチンを接種した場合よりもはるかに高い。しかし、世界人口の70%以上が何らかのCOVID-19ワクチンを接種した今となっては、ワクチンの供給についてさほど心配する必要はない」と説明する。そして、現時点で必要とされているのは、どのワクチンを接種するかを決める際の判断材料となる、ワクチンの安全性と有効性に関する詳細な情報だと強調する。 今回の研究でHarris氏らは、mRNAワクチンの1回目接種を終えた、66歳以上の出来高払い方式のメディケア受益者638万8,196人(平均年齢76.3歳、女性59.4%)を対象に、モデルナ社製ワクチンとファイザー社製ワクチン接種後の有害事象の発生について比較を行った。対象者の38.1%はプレフレイル(フレイル前段階)、6.0%はフレイルと判定されていた。また、339万704人がファイザー社製ワクチンを、299万7,492人がモデルナ社製ワクチンを接種していた。有害事象としては、深部静脈血栓症、肺塞栓症、血小板減少性紫斑病、ギラン・バレー症候群、急性心筋梗塞など12種類について検討した。 検討した12種類の有害事象の発生率は全て1%以下であり、最も高かったのは深部静脈血栓症の0.27%と肺塞栓症の0.23%であった。あらゆる因子を調整したモデルを用いた解析からは、モデルナ社製ワクチンの方が肺塞栓症リスクが4%低く、また、血栓塞栓症の複合(急性心筋梗塞、深部静脈血栓症、出血性脳卒中、非出血性脳卒中、肺塞栓症)のリスクも2%低いことが示された。モデルナ社製ワクチンはさらに、COVID-19と診断されるリスクがファイザー社製ワクチンよりも14%低かった。ただし、このようなリスク低下は、フレイルと判定された人では6%にとどまっていた。 Harris氏は、「この研究結果は、公衆衛生の専門家が、フレイルのある人も含めた高齢者にとって、どのmRNAワクチンが望ましいかを検討する上で役に立つ」と話す。同氏はまた、健康に慢性的な問題を抱えていることの多い高齢者は、臨床試験から除外されることが多いことを指摘し、「介護施設に入居している高齢者ではCOVID-19の重症化リスクが高いことを考えると、高齢者でのワクチンの安全性と有効性を調べることは極めて重要である」としている。 では、なぜモデルナ社製ワクチンの方が、わずかではあるが有害事象の発生リスクが低かったのか。Harris氏は、「安全性と有効性は相互に関連している。モデルナ社製ワクチンを接種した患者の方が、ファイザー社製ワクチンを接種した人よりも肺塞栓症やその他の有害事象のリスクがわずかに低かったのは、モデルナ社製ワクチンの方がCOVID-19罹患リスクを低減させる効果が高いことに起因する可能性がある」と話している。 ただし、この研究では、有害事象の発生リスクの違いが、安全性または有効性のどちらに起因するのかについて、結論付けることはできなかった。また、本研究で検討されたのはmRNAワクチンの初回投与後についてだけであり、研究グループは、さらなる研究が必要だとしている。

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オミクロン感染した高齢者、再感染リスクが高い!?

 高齢者は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの接種率が高いにもかかわらず、SARS-CoV-2オミクロン株への感染および重症化のリスクが高く、とくに介護施設などで共同生活をしている高齢者はそのリスクが高いことが知られている。また、高齢者において、SARS-CoV-2オミクロン株感染後のハイブリッド免疫(ワクチン接種と感染をいずれも経験した人の免疫)の再感染に対する予防効果は明らかになっていない。そこで、カナダ・McMaster UniversityのJessica A. Breznik氏らの研究グループは、介護施設や老人ホームに入所しているワクチン接種済みの高齢者を対象に、SARS-CoV-2感染リスクに関連する因子を検討した。その結果、SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する高齢者は再感染リスクが低下せず、むしろ高かったことが明らかになった。本研究結果は、eClinicalMedicine誌オンライン版2023年8月21日号で報告された。 カナダ・オンタリオ州の介護施設または老人ホームに入所している高齢者で、ワクチン接種を4回受けている750例を対象に、2022年7月1日~9月13日の期間におけるSARS-CoV-2感染率を後ろ向きに調査し、感染リスクに関連する因子を検討した。また、観察期間前3ヵ月(2022年4月1日~6月30日)において、318例を対象に体液性免疫とT細胞免疫について検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象者の年齢中央値は87.0歳、女性の割合は64.4%(483例)、介護施設入所者の割合は57.1%(428例)であった。・観察期間において、750例中133例(17.7%)にSARS-CoV-2感染が確認された。・観察期間においてSARS-CoV-2感染が認められなかった617例のうち、観察期間前にSARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する割合は8.9%(55例)であった。一方、観察期間に感染が認められた133例のうち、観察期間前にSARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する割合は57.1%(76例)であった。・Cox比例ハザードモデルを用いてSARS-CoV-2感染リスクに関連する因子を検討した結果、SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する人は、観察開始9~29日後におけるSARS-CoV-2感染リスクが有意に高かった(ハザード比[HR]:47.67、95%信頼区間:23.73~95.76、p<0.0001)。また、mRNA-1273とBNT162b2を組み合わせてワクチンを4回接種した人は、BNT162b2のみで4回接種した人よりも、観察期間中のSARS-CoV-2感染リスクが低かった(同:0.49、0.26~0.90、p=0.023)。・一方、年齢、性別、居住形態、過去の居住地でのアウトブレイクの有無、オミクロン株以前の株への感染歴、4回目のワクチン接種日は、観察期間中のSARS-CoV-2感染リスクとの関連が認められなかった。・SARS-CoV-2オミクロン株への感染歴を有する人のうち、再感染が認められた人は血清中の抗SARS-CoV-2受容体結合ドメインIgG抗体価、抗スパイクタンパク質IgA抗体価が有意に低く(それぞれp=0.0009、0.0072)、オミクロン株BA.1に対する中和抗体価も低かった(p=0.0072)。すなわち、再感染者は体液性免疫応答の誘導が弱かった。

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第161回 新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省2.医師の過労死問題に加藤厚労相「適切な労働時間管理」を求める/兵庫県3.新型コロナ診療手引き改訂、医療従事者の就業制限と治療薬の使用を明確化/厚労省4.感染症対策の体制を大幅刷新、尾身 茂氏が一線を退く/政府5.看護師不足とハラスメント対策に、看護師確保の基本指針を初改定へ/厚労省6.人材不足が深刻化する日本の医療・福祉業界、対策を模索/厚労省1.新型コロナワクチンの秋接種、9月から全世代対象で/厚労省厚生労働省は、全世代を対象にした追加接種を9月から開始すると発表した。対象となるのは、生後6ヵ月以上のすべての人で、新たに承認申請されたオミクロン株の亜系統「XBB」に対応するワクチンを使用する。これまで高齢者や基礎疾患のある人には「努力義務」が適用されていたが、9月からの接種では、この「努力義務」は適用されない見通し。なお、接種は今年度内は無料で行われるが、来年度以降の接種費用については、「定期接種」に変更される可能性があり、場合によっては接種費用の一部自己負担が必要となる可能性がある。東京都では9月20日から接種を開始すると発表しており、接種会場は都庁の北展望室をはじめとした複数の場所で行われる見込み。予約はインターネットで8月28日から開始され、使用するワクチンは米ファイザー製、米モデルナ製、および米ノババックス製の3種類とされている。政府は、早めの予約と各自治体からの最新情報に注意を払うよう呼びかけている。参考1)新型コロナワクチンの接種について(厚労省)2)コロナワクチン追加接種は9月20日から 全世代で「XBB」対応へ(朝日新聞)3)東京都、9月20日から新型コロナワクチンの秋接種開始(日経新聞)4)9月からのコロナワクチン接種 子ども含め幅広く対象に【Q&A】(NHK)2.医師の過労死問題に加藤厚労相「適切な労働時間管理」を求める/兵庫県2022年、神戸市の甲南医療センターで勤務していた26歳の医師が自殺した事件が労災と認定された件について、加藤 勝信厚生労働大臣は8月25日の閣議後の記者会見で「医師の健康確保のために適切な労働時間管理が必要」とコメントした。遺族は当時、学会発表の準備に追われていたと指摘しているが、病院側は業務時間外の自己研鑽であると主張。これに対し、加藤大臣は「医師の研究時間が労働時間に含まれるかどうかの指針を明確化している」と説明した。厚生労働省の調査によると、病院勤務の医師の約2割が「過労死ライン」とされる年960時間以上の残業をしていることが明らかになった。とくに脳神経外科、救急科、外科、産婦人科などでこの傾向が顕著である一方で、働き方改革により長時間労働は減少傾向にあり、一部の施設では患者や家族への病状説明を診療時間内に限定するなどの取り組みが進んでいる。調査代表の自治医科大学の小池 創一教授は「勤務時間は短くなったが、新しい医療の研究や若手教育の時間も減っている。どうやって働き方改革を進めていくのかが課題」と指摘している。また、2019年に施行された働き方改革関連法の医師への適用が24年度に迫っており、この問題はさらに注目されている。以上の状況を受けて、厚労相は「過労死は許されない。医師が健康であることが国民に対して適切な医療が確実に提供される基盤になる」と強調。労働時間管理の支援を含め、引き続き必要な対応を図ると明言している。参考1)医師の専門性を考慮した勤務実態を踏まえた需給等に関する研究(厚労省)2)医師自殺で労災認定 “労働時間管理 支援含め対応” 厚労相(NHK)3)勤務医2割、なお過労死ライン 残業推計「年960時間超」 長時間労働、是正傾向も・厚労省研究班(時事通信)3.新型コロナ診療手引き改訂、医療従事者の就業制限と治療薬の使用を明確化/厚労省厚生労働省は、8月21日に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する診療の手引き第10.0版を公表した。今回は、新型コロナが5類(一般感染症)に移行した後の初の改訂で、医療従事者の就業制限や治療薬の使用指針について新たな規定が盛り込まれている。今回の手引きでは、医療従事者に対する就業制限は感染症法に基づく制限がないものの、厚労省は医療機関や高齢者福祉施設に対して、「発症日を0日目として5日間、かつ症状が軽快してから24時間以上経過するまで」の就業制限を考慮するよう呼びかけている。また、家庭内に感染者がいる場合や10日目までの期間には、マスク着用や黙食などの感染防止策を徹底するよう推奨している。治療薬に関しては、ファビピラビル(商品名:アビガン錠)やイベルメクチン(同:ストロメクトール)などのコロナ治療効果が認められず、使用は推奨されていないと明示している。そのほか、新たな重症化リスク因子、小児例や妊婦例の特徴、各種薬物療法についての情報が更新されている。また、診療の手引きには「G-MIS(病床管理システム)を活用した入院調整」が新たに盛り込まれ、このシステムの導入により、地域の病床状況が可視化され、保健所との照会が不要になるなどのメリットが挙げられている。今回の改訂は、とくに九州地方や沖縄県でのコロナ再燃や日本全体での感染再拡大が懸念される中で行われたもので、感染拡大を防ぐための配慮が依然として求められている。厚労省では今後も状況に応じた指針の更新を行うとしている。参考1)新型コロナウイルス感染症COVID-19診療の手引き 第10.0版(厚労省)2)新型コロナウイルス感染症 診療の手引き・第10.0版 改定のポイント(同)3)5類移行後初改訂、医療従事者の就業制限など追加 厚労省がコロナ診療の手引きを事務連絡(CB news)4)コロナ5類移行後、初の「診療の手引き」改訂!法定就業制限はないが、医療機関等では感染拡大への配慮を―厚労省(Gem Med)4.感染症対策の体制を大幅刷新、尾身 茂氏が一線を退く/政府2023年8月25日、政府は新型コロナウイルスを含む感染症対策の一層の強化を目的として、いくつかの新たな組織と体制の変更を発表した。9月1日に発足する「内閣感染症危機管理統括庁」は、政府の感染症対策の司令塔となる。この統括庁には約5億2,000万円の2024年度予算が割り当てられる予定で、約60人の職員が配置される。厚生労働省も同日、新たに「感染症対策部」を設置すると発表した。この新組織は、統括庁と連携し、新たな感染症危機に備える。さらに、医薬・生活衛生局と健康局が改組され、食品衛生基準業務と水道業務はそれぞれ消費者庁、国土交通省と環境省に移管される。内閣感染症危機管理統括庁のトップには栗生 俊一官房副長官が就任することが決まっており、担当大臣としては後藤 茂之コロナ担当相が務める。そのほかの主要な役職には厚労省の迫井 正深医務技監や中村 博治新型コロナウイルス等感染症対策推進室長も名を連ねる。この一連の発表と同時に、新型コロナ対策の専門家として活躍してきた尾身 茂氏が一線から退くことが明らかになった。尾身氏は、新体制のもとで「新型インフルエンザ等対策推進会議」の委員数が35人から15人に減り、議長から外れる形となった。尾身氏は、今後「葛藤の記録を残したい」と語り、この間の活動を書籍にまとめる予定だ。政府は、新たな体制のもとで感染症対策の連携と効率を高めることを目指しており、この体制変更は、新型コロナウイルスによる緊急事態が一段落ついた今、次の感染症危機に備える重要なステップとなる。尾身氏の引退は、新たな体制のスタートとともに、これまでの感染症対策の一区切りとも言えるタイミングでの出来事となる。参考1)尾身氏、コロナ対策一線退く「葛藤の記録残したい」 政府が体制刷新(朝日新聞)2)厚労省に新組織「感染症対策部」 司令塔「統括庁」発足にあわせ(同)3)感染症統括庁トップに栗生俊一氏…コロナ分科会は廃止(読売新聞)5.看護師不足とハラスメント対策に、看護師確保の基本指針を初改定へ/厚労省厚生労働省は、看護師を確保するための基本指針を31年ぶりに全面改定すると発表した。今回の改定は、看護師不足の解消、新たな感染症に備えた専門知識のある看護師の養成、ハラスメント対策、処遇改善、業務負担軽減など多岐にわたる要素が盛り込まれる方針。看護系の人材不足はとくに都市部と訪問看護ステーションで深刻で、労働時間短縮や業務負担の軽減が必要とされている。具体的には、国の基金を活用し、夜勤業務の負担軽減、仮眠や休憩ができる場所の設置など、看護職員の処遇改善を進めるとともに、業務のデジタル化なども計画されている。さらに、訪問看護の現場でのハラスメントの危険性が高いことから、暴力やハラスメント対策の支援も進められる予定のほか、タスク・シフトやタスク・シェアの推進、特定行為研修の推進なども改定に含まれており、年次有給休暇の取得を可能とするような勤務割の長期計画も盛り込まれ、雇用管理の責任体制も明確化される方向となっている。看護師確保の基本指針は、1992年に作成されており、高齢化社会の本格化とともに、2040年にはさらに多くの看護職員が必要とされる看護職の環境の変化を反映して、今回初めて見直しを受け、今年の秋にも正式に告示される予定。参考1)第3回医道審議会保健師助産師看護師分科会看護師等確保基本指針検討部会 [資料]看護師等確保基本指針の改定について(厚労省)2)看護師確保の指針、30年ぶり改定へ 感染症、ハラスメントに対応(朝日新聞)3)看護師確保の基本指針改定を諮問、秋ごろ告示 厚労相・文科科相(CB news)6.人材不足が深刻化する日本の医療・福祉業界、対策を模索/厚労省厚生労働省が発表した令和4年の雇用動向調査の結果によると、2022年に「医療、福祉」分野で入職超過率が初めてマイナスとなるなど、国内で医療介護業界での人材不足が深刻化していることが明らかとなった。厚労省によれば、医療、福祉業界への入職者数は昨年度の約113万8,100人、一方で離職者数は約121万人、入職超過率は0.9ポイントのマイナスとなった。全産業を合わせた場合の入職超過率は0.2ポイントのプラスであり、医療・福祉業界は全産業平均を下回っていた。とくに介護職員の離職率は14.4%と過去最低水準を維持しているが、事業所間での格差も大きい状況であり、小規模や新設の事業所では離職率が高く、「職場の人間関係」や「事業所の理念や運営に不満」などが離職の主な理由とされている。訪問介護の現場でも人手不足が顕著で、担当者の38%が60歳以上、7人に1人は70歳以上とスタッフの高齢化が進行していた。厚労省は2024年に施設職員を訪問介護にも活用できるようにする計画を進めている。この複合型サービスは、訪問と通所の両方を利用する場合に効率の良い介護を提供する可能性がある。しかし、介護業界全体で人材確保が難しく、とくに訪問介護員の有効求人倍率は過去最高の15.53倍に達している。今後、団塊の世代が後期高齢者に移行することで、介護保険の給付は一段と増えると見込まれ、人材不足問題の解決が急募となっている。参考1)令和4年 雇用動向調査結果の概要(厚労省)2)介護職員の離職率、14.4% 過去最低並みを維持 事業所間で2極化の傾向=介護労働実態調査(JOINT)3)訪問介護でも「老々」拡大 利用者10年で2割増/担い手70歳以上13% 厚労省、施設職員活用へ(日経新聞)4)「医療、福祉」入職超過率、初のマイナスに 厚労省概況、現行統計の2009年以降で(CB news)

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ワクチン接種者でCOVID-19が重症化しにくいのはなぜか

 周知のように、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン(以下、新型コロナワクチン)を接種することで、感染リスクがなくなるわけではないが感染後の重症化リスクは低下する。しかし、それはなぜなのか。その理由の解明につながる研究結果を、米コロラド大学コロラド公衆衛生大学院のAlison Abraham氏らが、「The Lancet Microbe」に8月7日発表した。この研究によると、COVID-19罹患者のうち、ワクチン接種を受けていた人では未接種の人に比べて、炎症マーカーの値が低かったことが示されたという。 サイトカインとケモカインは、感染症やワクチン接種に対する応答において重要な役割を果たしている。サイトカインは主に免疫細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達を行う。一方、ケモカインはサイトカインの一種で、細胞遊走を活性化する働きを持つ。Abraham氏らは、2020年6月29日から2021年9月30日の間に新型コロナウイルスに感染した882人(女性57%)の血液サンプルを用いて、新型コロナワクチン接種と、21種類のサイトカインおよびケモカインの濃度とその経時的な変化との関連性を検討した。対象者は、回復期患者血漿療法のCOVID-19重症化に対する効果を検討する目的で実施された試験への参加者で、78%(688人)が新型コロナワクチン未接種、6%(55人)は一部(1回)接種済み、139人(16%)は接種完了者だった。 対象者の年齢や性別、BMI、基礎疾患などで調整して解析した結果、感染後1〜8日(スクリーニング時)では、ワクチン接種完了者では未接種者に比べて、IL(インターロイキン)-2RA、IL-7、IL-8、IL-15、IL-29、INF(インターフェロン)-γ誘導性サイトカイン(IP-10)、MCP(単球走化性促進因子)-1、TNF(腫瘍壊死因子)-αの濃度の幾何平均が有意に低いことが明らかになった。また、回復期患者血漿療法後90日目では、ワクチン接種完了者では未接種者よりも、IL-7、IL-8、VEGF(血管内皮増殖因子)-Aの濃度の幾何平均がそれぞれ、26%、20%、17%低かった。これに対して、ワクチンの一部接種者では未接種者に比べて、スクリーニング時にIP-10とMCP-1の濃度の幾何平均が有意に低かったが、回復期患者血漿療法後90日目になると、いずれのサイトカイン・ケモカイン濃度の幾何平均についても、未接種者との間に有意差は認められなかった。 研究グループは、「これらの結果は、新型コロナワクチンが、COVID-19重症化の引き金となる炎症反応を短期的にも長期的にも減少させる効果を持つことを示唆している」と述べている。その上で、「この知見は、ワクチンを接種した人でCOVID-19の重症化リスクや死亡リスクが低下し、後遺症の発症率も低下する理由の少なくとも一部を説明するものだ」と付け加えている。 今回の研究には関与していない、米ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターのAmesh Adalja氏は、「オミクロン株が蔓延していた頃のワクチン接種の主な目的は、感染症予防よりも重症化予防だった。今回の研究結果は、重症化予防のメカニズムの一端を解明するものだ」と指摘している。 研究グループは、今回の研究で得られた知見により、COVID-19のより良い治療法を探る研究に弾みがつく可能性があるとの見方を示している。論文の上席著者である、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部病理学・内科学・疫学分野のAaron Tobian氏は、「新型コロナワクチンが、この疾患の悪化や長期的影響、死亡を予防するメカニズムの解明は、体の過剰な炎症反応を抑えるための方法の開発につながり、それが患者に対するより良い治療に役立つ」と述べている。

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新型コロナなど呼吸器系ウイルスの重複感染率はどの程度か

 米国で、2022年後半に実施された2万6,000件以上の呼吸器系ウイルスの検査結果を調べたところ、陽性結果の1%以上で新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RS(呼吸器合胞体)ウイルスの重複感染が認められたとする研究結果が報告された。重複感染は、21歳以下の若年者の間で多く認められたという。米クエスト・ダイアグノスティックス社のテクニカルディレクターを務めるGeorge Pratt氏らによるこの研究結果は、米国臨床化学会年次総会(2023 AACC、7月23〜27日、米アナハイム)で発表された。 Pratt氏は今回の研究背景について、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが終息に向かい始め、人々の行動様式が変化する中で、われわれは、他の呼吸器系ウイルスの再流行とそれらの重複感染、特に、再流行を見せている新型コロナウイルスとの重複感染の可能性を調査することが重要だと考えた」と説明する。 重複感染は、呼吸器系疾患のアウトブレイクが複数発生した場合に起こりやすい。例えば2022年後半に米国でRSウイルス感染症例が急増した際には、COVID-19のパンデミックと季節性インフルエンザの流行が重なった。Pratt氏らは、同時に複数の感染症に罹患した場合には、重症化や治療合併症のリスクが高まると指摘する。 今回の研究でPratt氏らは、2022年の秋に107日にわたって実施された2万6,657件の呼吸器系ウイルス(RSウイルス、新型コロナウイルス、A型・B型インフルエンザウイルス)の検査結果を収集して分析した。この中には、21歳以下の患者に対して実施された9,800件の検査の結果も含まれていた。 その結果、陽性結果の1.33%、全検査結果の0.55%で、2種類以上のウイルスの重複感染が認められることが明らかになった。重複感染率は感染しているウイルスにより異なり、成人では、新型コロナウイルスとRSウイルスの重複感染での0.38%から、A型インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの重複感染での2.28%までの幅があった。これに対して、21歳以下の若年者での重複感染率はいずれのウイルスの組み合わせでも成人より高く、新型コロナウイルスとA型インフルエンザウイルスの重複感染では6%に上った。 Pratt氏は、「本研究は、米国北東部で複数のウイルスについて同時に実施された大量の検査結果に基づいている点が斬新だ。2万6,000件以上の検査結果を調査できたことは、われわれにとって大きな財産となった」と述べる。 Pratt氏はさらに、「インフルエンザシーズンやその他の呼吸器系ウイルスの流行の経験を重ねていくことで、重複感染率に関するさらなるデータの蓄積が可能となる。今回の研究は、この先、重複感染率が減少するのか増加するのかを評価する際に役立つデータポイントになることだろう」との考えを示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第59回 新型コロナ「エリス」がすでに来ている

「エリス」襲来Pixabayより使用米国疾病予防管理センター(CDC)の報告によると、8月5日までの1週間のコロナ入院患者数が14%増となり、4月下旬以来の多さとなっており1)、再び流行が始まるのではと懸念されています。現在懸念されているのが、EG.5です。BA.1が従来のオミクロン株で、その後BA.2株が2022年5月に流行しました。BJ.1株とBM1.1.1株が組み合わさったのがXBB株で、いろいろなXBB株が存在します。XBB.1.9.1株から派生したEG.5株、EG.5.1株が、われわれの次の敵になります。「もういいよー、覚えられないし」と思っている医療従事者も多いでしょう。大丈夫です、私も覚えられません。EG.5は通称「エリス」と呼ばれています。これは例のごとくギリシャ神話の女神にちなんだ名前で、SNS上で命名されたものです。これまでもケンタウルス、ケルベロスなどさまざまなあだ名が付けられてきた変異ウイルスですが、中二病っぽい感じもあって、小恥ずかしくてなかなか堂々と言えませんでした。「エリス」については中二病感が薄いためか、比較的世界的にも受け入れられている印象です。日本では「エリス」で報道されるのかどうか、気になるところです。第9波の流行の主流であったXBB系統から、いずれ「エリス」へ置き換わりが進むと予想されていましたが、想定よりも早いようです。東京都ではすでに「エリス」が主流株になっており、これまでの主流株であったXBB.1.16株を逆転しています2)。「エリス」は、現在のXBB系統よりも伝播性が高いです。そうじゃないと、主流株にならないので。世界保健機関(WHO)は8月9日、「エリス」を「注目すべき変異株(VOI)」に指定しています。医療従事者はワクチンアップデートを医療従事者の間でもワクチンに対する信頼性が低下しているような印象です。ケアネットをご覧になっている皆さんは、エビデンスを咀嚼できていると思いますので、mRNAワクチンの重要性については理解されているでしょう。もしオミクロン株対応2価ワクチンを接種されていない方は、アップデートを推奨します。2価ワクチンあるいはXBB対応ワクチン(9月接種開始予定)のいずれも、「エリス」以前のXBB系統を含めたオミクロン株全体の重症化を予防する効果があると思われます。秋開始接種で使用するモデルナ社のXBB対応ワクチンは、予備的な臨床試験において、「エリス」に対しても良い免疫反応が得られたとプレスリリースを出しています。参考文献・参考サイト1)CDC:COVID-NET A Weekly Summary of U.S. COVID-19 Hospitalization Data2)東京都健康安全研究センター:定点医療機関当たりの報告数 東京都感染症週報 第30週(7月30日~8月6日)より

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外来・入院・集中治療別マネジメントを記載、COVID-19診療の手引き第10.0版/厚労省

 厚生労働省は8月21日、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第10.0版」を公開し、全国の自治体や関係機関に通知した。2023年2月に公開された「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第9.0版」以来、5類移行後初めての改訂となる本版は、オミクロン株に置き換わって以降の国内外の知見が反映され、よりコンパクトな内容になっている。とくに外来診療にも役立てられるよう、COVID-19診療の手引きの第4章では、前版までは重症度別に記載されていたマネジメントが、「外来診療」「入院診療」「集中治療」別にまとめなおされ、「外来診療」の項目には、成人の外来診療における抗ウイルス薬の選択フロー図が示された。また、COVID-19診療の手引きを基に「COVID-19 外来診療の基礎知識」の表も公開された。COVID-19診療の手引きに抗ウイルス薬の選択フロー図を追加 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第10.0版」の主な改訂点は以下のとおり。太字は5類移行に関連する改訂点。【1 病原体・発生状況】・病原体/発生状況を更新【2 臨床像】・臨床像に第9.0版の胸部画像所見、合併症の内容を追加し、更新・重症化リスク因子/小児例の特徴/妊婦例の特徴を更新・COVID-19ワクチンに関する説明を追加【3 診断・サーベイランス】・症例定義に関する記載を削除・検体と採取法を説明する表を追加・届出に関する記載を参考として更新 [参考]定点医療機関における届出基準 2023年5月8日より、COVID-19は、流行の状況や症状等を鑑み、感染症法上の位置づけを見直し、5類感染症に位置づけ、インフルエンザと同様、診療科名に内科・小児科を含む指定届出機関による届出対象疾病に追加された。したがってCOVID-19指定届出機関の管理者が届出基準を満たした患者を診断した場合に届出を行うこととなった。【4 重症度分類とマネジメント】・序文、重症度分類/高齢者の管理/小児の管理/妊産婦の管理を更新・重症度別に記載していたマネジメントを「外来診療」「入院診療」「集中治療」にまとめなおし、内容を更新・G-MISを活用した入院調整に関する説明を参考として追加【5 薬物療法】・抗ウイルス薬/中和抗体薬/免疫抑制・調節薬/妊婦に対する薬物療法を更新・オミクロン流行期以降に実施された臨床研究の表、抗ウイルス薬の選択フロー図を追加・日本国内で開発中の主な薬剤を削除し、国内外で開発が中止された主な薬剤を更新 【6 院内感染対策】・序文/職員の健康管理、個人防護具/妊婦および新生児への対応/死後のケアを更新・病理解剖業務における感染対策/医療従事者の就業制限を追加 [参考]医療従事者の就業制限 5類移行後は感染症法に基づく就業規制は行われないが、国は医療機関や高齢者福祉施設等に対して、COVID-19に罹患した従事者の就業制限を考慮するよう呼びかけている。位置づけ変更後の新型コロナ患者の療養の考え方(発症日を0日目として5日間、かつ解熱および症状軽快から24時間経過するまでは外出を控えることが推奨される)等を参考に、罹患した者の体調や業務内容、地域の流行状況、事業継続性等を総合的に判断して、施設ごとに対応することが求められている。・退院基準、解除基準(第9.0版)の内容を感染予防策を実施する期間として更新 [参考]感染予防策を実施する期間 医療施設内で感染予防策を実施する期間(隔離期間)の基準は示されていないが、新型インフルエンザ等感染症に指定されていた際の退院基準を参考にするなど、医療機関ごとに対応が求められる。

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29歳で2カ所の脳梗塞を発症した女性

 当時29歳の米国ニュージャージー州の女性、Bethany Moeddelさんは、夜のパーティーに参加した翌日、吐き気と頭痛を感じた。二日酔いだと判断した。とはいえ、ボーイフレンドの弟が、カトリック教徒になるための重要な儀式である初聖体が予定されていたため、寝て過ごすわけにはいかなかった。 教会に到着しいったんは礼拝堂の席に着いたが不快感は続いていた。礼拝堂の中で嘔吐してしまわないように、席を外して車に戻った。暑い日だったので、車のドアを開けたままにして休んだ。次に彼女が覚えているのは、救急隊員の声である。「リビング・ウィルはありますか?」と隊員が尋ねた。彼女が「なぜ? 私は死ぬの?」と聞き返すと、「分かりません」という答えが返ってきた。 2日後、Moeddelさんは集中治療室(ICU)で目覚めた。左半身を動かすことができなかった。ベッドサイドに親友が座っていて、脳卒中が起きたことを伝えられた。より正確には、脳の右側の額の近くに1カ所、耳の後ろ辺りに1カ所、計2カ所の梗塞巣が確認されていた。医師から「腕を上げてみて」などの指示が立て続けに出され、Moeddelさんは混乱し、苛立ちと怒りを感じた。彼女は自分の体に何が起こっているのかをまだ十分理解していなかった。 ICUで1週間強過ごし、その後、リハビリテーション病院で約2カ月間を過ごした。退院に際しては車椅子と杖が用意され、介護施設で生活するか、両親とともに生活するかという選択肢が示された。結局、オハイオ州から車で来た両親とともに、実家に戻ることになった。「私は数週間もすれば回復すると思っていた。まさか、その状態が永久に続くとは考えていなかった」と彼女は振り返る。 15年の時が経過した。現在44歳のMoeddelさんは、まだ左半身の部分的な麻痺が残っているものの、自力で歩けるし、階段を上ったり車を運転することもできる。ただ、今もオハイオ州の実家暮らしだ。数年前にニュージャージー州に戻ろうと試みたが、長くは続けられなかった。 脳卒中を発症前、Moeddelさんは弁護士補助の資格取得を目指し、仕事と勉強を両立させていた。現在は電子メールとライブチャットを利用したリモートワークで、顧客サービス業務に携わっている。それだけでなく、脳卒中の啓発活動にボランティアとして参加し、学校を訪問して子どもたちに脳卒中の症状について教えている。また、米国心臓協会(AHA)主催のミニマラソン・ウォーキング大会にエントリーして、それをリハビリ継続のモチベーションとしている。昨年は8マイル(約15km)以上歩き、今年も同じくらいの距離を歩き切った。 この15年の間に、父親が亡くなった。2012年のことだった。一方、母親のRuth Moeddelさんは、「われわれ親子は役割があべこべだ。成人した子どもが年老いた親の世話をする代わりに、年老いた親が成人した子どもの世話をするのだから」と言いながらも、娘の健康を心配している。彼女は、新型コロナウイルス感染症のために、息子も亡くした。 そんなRuthさんは、「Bethanyはタフで立ち直る力を持っている。彼女がリハビリ病院を退院する時、私の娘が車椅子から離れられることは決してないだろうと誰もが言った。しかし今、娘は驚くほど元気に過ごしている」と語っている。[2023年7月19日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.利用規定はこちら

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Long COVIDは頭痛の有無でQOLが異なる

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降にさまざまな症状が遷延している状態、いわゆる「long COVID」の病状を、頭痛に焦点を当てて詳細に検討した結果が報告された。頭痛を有する患者はオミクロン株流行以降に増加したこと、年齢が若いこと、生活の質(QOL)がより大きく低下していることなどが明らかになったという。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科総合内科学分野の大塚文男氏の率いる診療・研究チームによるもので、「Journal of Clinical Medicine」に5月18日掲載された。 この研究は、岡山大学病院総合内科・総合診療科に設けられている、コロナ・アフターケア(CAC)外来を2021年2月12日~2022年11月30日に受診した患者から、研究参加への不同意、年齢が10歳未満、データ欠落などに該当する人を除外した482人を対象とする、後方視的観察研究として行われた。Long COVIDは、COVID-19感染から4週間以上経過しても何らかの症状が持続している状態と定義した。 解析対象の4分の1弱に当たる113人(23.4%)が受診時に頭痛を訴えていた。頭痛の有無で二分し比較すると、頭痛あり群は年齢が若いこと〔中央値37(四分位範囲22~45)対42(28~52)歳、P<0.01〕以外、性別の分布、BMI、喫煙・飲酒習慣に有意差はなかった。COVID-19急性期の重症度についても、両群ともに軽症が8割以上を占めていて、有意差はなかった。また採血検査の結果は、炎症マーカー、凝固マーカーも含めて、主要な項目に有意差が認められなかった。 その一方、COVID-19罹患の時期を比較すると、頭痛なし群はデルタ株以前の流行時に罹患した患者が53.9%と過半数を占めていたのに対して、頭痛あり群ではオミクロン株出現以降に罹患した患者が61.1%を占めていた(P<0.05)。また、頭痛なし群ではCOVID-19罹患から平均84日後にCAC外来を受診していたが、頭痛あり群では約2週間早く外来紹介されていた(P<0.01)。 頭痛以外の症状の有病率を比べると、以下に挙げるように、頭痛あり群の方が有病率の高い症状が複数認められた(以下の全てがP<0.05)。倦怠感(76.1対54.7%)、不眠症(36.2対14.9%)、めまい(16.8対5.7%)、発熱(9.7対3.8%)、胸痛(5.3対1.1%)。一方、嗅覚障害の有病率は、頭痛あり群の方が有意に低かった。 次に、さまざまな症状の主観的評価指標〔抑うつ症状(SDS)、胃食道逆流症(FSSG)、倦怠感(FAS)〕のスコアを見ると、それらのいずれも、頭痛あり群で症状が有意に強く現れていることを示しており、QOLの評価指標(EQ-5D-5L)は頭痛あり群の方が有意に低かった(P<0.01)。 続いて、EQ-5D-5Lスコア0.8点未満をQOL障害と定義して、多変量解析にて独立して関連する症状を検討。その結果、最もオッズ比(OR)の高い症状は頭痛であることが明らかになった〔OR2.75(95%信頼区間1.55~4.87)〕。頭痛のほかには、しびれ〔OR2.64(同1.33~5.24)〕、倦怠感〔OR2.57(1.23~5.34)〕、不眠症〔OR2.14(1.24~3.70)〕などがQOL低下と独立した関連があり、反対に嗅覚障害は唯一、負の有意な関連因子として抽出された〔OR0.47(0.23~1.00)〕。 著者らは本研究の限界点として、単一施設での後方視的研究であるため解釈の一般化が制限されること、頭痛の臨床像が詳しく検討されていないことなどを挙げている。その上で、「頭痛はlong COVIDの最も深刻な症状の一つであり、単独で出現することもあれば、ほかの多くの症状と併存することもある。頭痛がほかの症状の主観的評価に悪影響を及ぼす可能性もあり、long COVIDの治療に際しては頭痛への対処も優先すべきではないか」とまとめている。

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モデルナXBB対応コロナワクチン、新変異株EG.5やFL.1.5.1にも有効

 米国・Moderna社は8月17日付のプレスリリースにて、2023年秋の新型コロナワクチン接種に向けて承認申請中のXBB系統対応ワクチン(mRNA-1273.815)について、予備的臨床試験で、全世界で感染が拡大している新たな変異株EG.5およびFL.1.5.1に対して、中和抗体の有意な増加が確認されたことを発表した。本結果により、同社の新たなワクチンが、今季流行が懸念される変異株にも効果的であることが示唆された。 新たな変異株であるEG.5は「エリス」とも呼ばれ、世界保健機関(WHO)は8月9日にこの変異株を含むEG.5系統を「注目すべき変異株(VOI)」に指定した1)。EG.5はXBB.1.9.2の子孫系統であり、XBB.1.5と同じスパイクアミノ酸プロファイルを持つ。WHOによると、EG.5系統はXBB系統と同様に、感染拡大力や免疫回避能は中等度であるが、重症化リスクは低いとされている。日本を含む東アジア、北米、欧州など全世界で勢力を拡大しており、8月15日時点の発表では、日本では主系統のXBB.1.16に次いで、EG.5.1とEG.5.1.1が流行株となっている2)。米国疾病予防管理センター(CDC)のデータでは、8月19日時点で、EG.5は米国のコロナ新規感染者の20.6%を占めており、XBB系統に代わって主流となった。FL.1.5.1(フォルナックス)は13.3%で、7月22日時点よりも3倍以上増加し、2番目に優勢の株となっている3)。 同社は本ワクチンについて、米国食品医薬品局(FDA)、欧州医薬品庁(EMA)、および各国・地域の規制当局に申請しており、承認が得られれば今秋のワクチン接種への十分な供給が可能だという。

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HIVはコンドーム無しのセックスでもうつりません―How low viral load is low enough for HIV zero transmission(解説:岡慎一氏)

 HIVはセックスでうつるので、コンドームで予防しましょう。これは、わが国で40年間言われ続けている予防法である。「HIVが感染したのは、コンドームの使い方が悪かったからだ」と、使い方まで事細かに指導されてきた。しかし、感染は減らなかった。曝露前予防(PrEP)の有効性が確認されると、「PrEPでコンドームの使用が減るので、ほかの性感染症が増える」と、PrEPを批判する人まで出てくる始末である。コンドームを使うなとは言わないが、口からでもうつる梅毒はコンドームでは防げない。ほかの性感染症もしかり。 この10年、HIV感染予防に有効なのは、コンドームではなく「治療でウイルス量を下げることだ」ということが、多くの臨床研究から明らかになってきた。口火を切ったのは、Myron Cohenらが行ったHPTN 052試験で、片方が感染していない(discordant couple)約1,800組の夫婦間での感染を、治療群と感染予防教育群(治療待機群)で検討した研究であった。10年間の予定であったが、3年目の中間解析で感染予防教育群惨敗の結論が出た。“Treatment as Prevention (T as P)”という言葉が生まれた。次に決定的だったのは、Alison Rodgerらが行った、782組のゲイのdiscordant coupleでのコホート研究である。ウイルスを半年以上検出限界以下に抑えていたカップル間では、最も感染リスクが高いといわれているコンドーム無しの肛門性交を7万6,088回行っても感染はゼロであった。この結果から、“undetectable equals untransmittable (U=U)”という言葉が生まれた。この結果は、治療でウイルスを抑えれば、パートナーにHIVを感染させることはないことを証明し、感染者を大いに勇気づけた。U=Uは、HIV感染症の差別・偏見をなくすキャンペーンの中心的な合言葉となった。 とはいえ、問題は感染者数が圧倒的に多いが、感度の良いウイルス量測定ができない、治療薬も先進国ほど進んでいない途上国である。検出限界以下なら問題なし。200コピー/mL以下でも感染しないことは、多くの先進国の研究で明らかである。それでは、「1,000コピー/mL以下ではどうか」を、systematic reviewで検討したのがこの論文である。その結果、条件に該当する約7,700組のdiscordant coupleで感染したのは2例であった。途上国でも、ろ紙血を使ったウイルス量測定で1,000コピー/mLなら何とか測れる。とにかく、1,000コピー/mL以下にウイルス量を下げ、維持できれば、新規HIV感染を防ぐことができるということが証明された。How low is low enoughの答えは、1,000コピー/mLである。

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第160回 医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響

<先週の動き>1.医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響2.来年の診療報酬改定に向け、高齢者の救急搬送問題などの議論開始/厚労省3.厳しい経営環境の中、大学病院で求められる働き方改革/文科省4.神戸の医師自殺、労災認定。遺族と病院、労働時間を巡り対立/兵庫5.電子カルテ情報の全国共有化へ、令和7年に法案提出を計画/政府6.YouTube、新型コロナワクチンについて誤った医療情報のコンテンツを削除へ1.医療機関の倒産が急増、とくに診療所に深刻な影響新型コロナウイルス感染症禍以降、医療機関の倒産が増加の一途を辿っていることが今回明らかになった。とくに診療所は競争が激化しており、今年前半は過去10年間で最速のペースでの倒産があり、今年は10年間で最多の倒産件数となる見込みである。帝国データバンクの調査によれば、診療所の経営者の平均年齢は68歳前後で、1代限りで廃業を考える経営者も増えており、地域によっては社会問題へと発展する可能性もある。コロナ禍で、政府の各種の支援策や返済のリスケジュールなどにより、倒産は一時的に減少したものの、2022年には早くも増加の傾向に転じている。とくに2023年は、医療法人社団心和会の倒産が注目され、その負債総額は132億円と過去3番目の大きさとなった。一方、医療用医薬品の販売会社の支店長は、「医療の多角化についていけない診療所が増えている」と指摘。また、「ゼロゼロ融資の返済が始まる中、患者が来ない医療機関には注意が必要」との声も上がっており、債権管理が今後の重要な焦点となる。これらの動向を受け、医療機関、とくに診療所の経営環境は今後も厳しさを増していくことが予想されている。参考1)2022年度の「診療所」倒産、過去最多の22件「コロナ関連」は減少、後継者難や不正発覚が増加(東京商工リサーチ)2)医療機関の倒産が再び増加 診療所、高齢化で厳しさ増す(日経産業新聞)2.来年の診療報酬改定に向け、高齢者の救急搬送問題などの議論開始/厚労省厚生労働省は、8月10日に中央社会保険審議会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開催、急性期入院医療について具体的な検討を開始した。この中で、一般病棟用の重症度、医療・看護必要度について、2022年度の診療報酬改定で「心電図モニタ管理」が削除されたため、多くの病院での看護必要度の低下に対して、「注射薬剤3種類」を増加させることで影響は相殺していた。厚労省はこのような病院側の対応について、看護必要度の適正化を求めている。また、高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染症の患者は、医療資源投入量が高くないにも関わらず、救急搬送後の入院後5日間は、看護必要度のA項目2点が追加されるため、入院単価の高い急性期一般1の病床へ高齢者の救急搬送を促進している可能性を指摘されるなど、今後、さらに議論を重ね、看護必要度について改善案についての検討が進むとみられる。参考1)令和5年度 第5回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省)2)看護必要度が「高齢の誤嚥性肺炎等患者の急性期一般1への救急搬送」を促している可能性-入院・外来医療分科会(Gem Med)3)看護必要度また見直しへ、24年度に入院の機能分化促進(CB news)3.厳しい経営環境の中、大学病院で求められる働き方改革/文科省文部科学省は、8月16日に「今後の医学教育の在り方に関する検討会」を開催し、大学病院に対して、大学病院の運営や教育・研究・診療、財務などの面での改革プランの策定を促進するための「議論の整理」を提案した。背景には、大学病院が増収減益という厳しい経営状況に加え、医師の働き方改革を進めつつ、教育・研究機能の維持が必要とされており厳しい環境にあるため。この「議論の整理」には、大学病院の役割や機能、基本的な考え方、運営の方針などが含まれており、大学病院の指導教官らの教育・研究の時間が減少し、臨床に割かれる時間が増大している現状を反映している。これに対して、国は大学病院の改革を支援する方針を示しており、とくに経営状況の改善や教育・研究機能の強化を求めている。座長の永井 良三氏は、現行の大学設置基準が現代のニーズに合わせて更新されるべきであり、大学病院の臨床機能の強化と、そのための国の支援が必要だと指摘した。参考1)大学病院の9割「研究成果が減少」と危惧…「医師の働き方改革」で残業規制へ(読売新聞)2)研究時間確保へ、文科省が「大学病院改革」 働き方改革に向け(Medifax)3)大学病院改革、「診療規模」「運営」の再検討を 文科省検討(同)4.神戸の医師自殺、労災認定。遺族と病院、労働時間を巡り対立/兵庫神戸市東灘区の甲南医療センターに勤務していた26歳の男性医師が2022年6月に自殺した事件について、西宮労働基準監督署は、長時間労働によるうつ病が自殺の主な原因であると判断し、「労災」と認定した。医師の遺族は8月18日に記者会見を開き、この認定を明らかにした。遺族によると、この医師は亡くなる直前まで100日間連続で勤務しており、月の残業時間は200時間を超えていた。遺族は「病院側は具体的な再発防止策を取っておらず、人の命を軽視している」と病院の対応を批判しており、遺族は昨年12月に病院の運営法人を労働基準法違反の疑いで西宮労基署に刑事告訴している。今後は、損害賠償を求める訴訟を起こすことも検討している。病院側は、労働時間に関する主張を否定し、過重労働の認識はないとの立場を示している。遺族と病院側では、実際の労働時間に関して見解が異なっており、病院側が記者会見で述べた「知識や技能を習得する自己研鑽の時間が含まれており、すべてが労働時間ではない」とする主張に対して、批判が集まっている。参考1)神戸 勤務医自殺で労災認定 遺族会見“病院は労務管理せず”(NHK)2)神戸の26歳専攻医自殺、労災認定 残業月207時間(毎日新聞)3)甲南医療センター過労自殺 遺族が会見「医師を守れない病院に患者を守れるのか」(神戸新聞)5.電子カルテ情報の全国共有化へ、令和7年に法案提出を計画/政府政府は、全国の医療機関や薬局で電子カルテの情報を共有する仕組みを進める方針を強化しているが、今後の計画が明らかになってきた。6月に開催された「医療DX推進本部」において示された医療DXの推進に関する工程表に基づいて、岸田総理大臣は医療分野のデジタル化の取り組みを進行するよう関係閣僚に指示しており、マイナンバーカードと健康保険証の一体化を加速し、来年秋には現行の保険証を廃止、これを基盤として、電子カルテ情報の全国共有化を目指す方針が決定されている。政府は、令和7年の通常国会に関連する法案を提出する方針を固めており、「マイナ保険証」を通じて、患者の過去の診療記録を全国の病院や診療所で閲覧可能にし、データに基づく適切な医療提供を促進する狙いがある。電子カルテ共有のためのネットワークの構築は、厚生労働省所管の「社会保険診療報酬支払基金」が主導して進める方針となっており、今後もさらに国民に対してマイナンバーカードの普及を働きかけ、より効率的・効果的な医療サービスの提供を行っていくことを目指していく。参考1)医療DXの推進に関する工程表(内閣官房)2)電子カルテ活用へ、政府が令和7年に法案提出方針 マイナ保険証通じ全国共有(産経新聞)3)医療分野デジタル化 “電子カルテの共有 来年度中に”首相指示(NHK)6.YouTube、新型コロナワクチンについて誤った医療情報のコンテンツを削除へ/GoogleGoogleの動画配信サービスYouTubeが、誤った医療情報を含むコンテンツに対する新しい方針を発表した。これにより、「予防」、「治療」、「事実の否定」の3カテゴリーに分けてガイドラインが整理される。とくに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の存在を否定したり、確実な予防・治療法があるとの不正確な情報を含むコンテンツは許可されず、即時に削除される。また、がん治療に関する非科学的な主張、たとえば「ニンニクやビタミンCががんを治療する」といったコンテンツも削除対象となる。さらにYouTubeは、信頼性のある医療情報提供のため、メイヨー・クリニックとの協力を発表。高品質な医療情報を提供する映像コンテンツの共有が進められる。YouTubeは、医療誤報ポリシーの透明性を高め、コンテンツ制作者と視聴者の理解を深めることを目指しているとコメントしている。参考1)YouTube、「新型コロナは存在しない」など誤った医療情報を含むコンテンツを削除へ(ケータイ Watch)2)YouTubeが「有害あるいは効果がないと証明されたがん治療法」を宣伝するコンテンツを削除すると発表(GIGAZINE)

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高齢コロナ感染者の退院後死亡率、インフルより高い/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で入院後に生存退院した米国の65歳以上の高齢者(メディケア受給者)88万3,394人を含む後ろ向きコホート研究で、インフルエンザで入院後に生存退院した高齢者と比較した結果、COVID-19で入院した高齢者の生存退院後の死亡リスクが高率であったことが、米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのAndrew S. Oseran氏らにより明らかにされた。ただし、両者の差は退院後の早期においてみられるものであり、同死亡リスクはパンデミックの経過と共に漸減していたという。BMJ誌2023年8月9日号掲載の報告。インフルエンザ生存退院の対照と比較、退院180日以内の全死因死亡などを評価 研究グループは後ろ向きコホート研究にて、高齢者におけるCOVID-19入院後の長期にわたる死亡および再入院のリスクを調査した。 2020年3月1日~2022年8月31日にCOVID-19で入院後に生存退院した65歳以上のメディケア出来高払い制プランの加入者88万3,394人(COVID-19コホート)を、2018年3月1日~2019年8月31日にインフルエンザで入院後に生存退院した対照5万6,409人(インフルエンザコホート)と比較した。観察された特性の違いは、重み付け法(weighting methods)を用いて解釈した。 主要アウトカムは、退院180日以内の全死因死亡とし、副次アウトカムは、180日以内のあらゆる原因による初回再入院、死亡または再入院の複合などとした。180日間にわたり死亡リスクはCOVID-19コホートが高率 COVID-19コホートはインフルエンザコホートと比較して、平均年齢が若く(77.9 vs.78.9歳、標準化平均差:-0.12)、女性の割合が低かった(51.7% vs.57.3%、-0.11)。両群の黒人加入者(10.3% vs.8.1%、0.07)、メディケイドとメディケア両方の適格者(20.1% vs.19.2%、0.02)の割合は類似していた。なお、COVID-19コホートのほうが次の併存疾患による負荷が低かった。心房細動(24.3% vs.29.5%、-0.12)、心不全(43.4% vs.49.9%、-0.13)、慢性閉塞性肺疾患(39.2% vs.52.9%、-0.27)。 重み付けで調整後、COVID-19コホートはインフルエンザコホートと比較して、退院後の全死因死亡リスク(累積発生率)が、30日時点(10.9% vs.3.9%、標準化リスク差:7.0%[95%信頼区間[CI]:6.8~7.2])、90日時点(15.5% vs.7.1%、8.4%[8.2~8.7])、180日時点(19.1% vs.10.5%、8.6%[8.3~8.9])のいずれの評価時点でも高率であった。 再入院リスクもCOVID-19コホートが、30日時点(16.0% vs.11.2%、標準化リスク差:4.9%[95%CI:4.6~5.1])と90日時点(24.1% vs.21.3%、2.8%[2.5~3.2])では高率であったが、180日時点では同等であった(30.6% vs.30.6%、-0.1%[-0.5~0.3])。 なお試験期間中に、COVID-19コホートの30日死亡リスクは17.9%から7.2%に低下していた。

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学校でのコロナ感染対策、マスクとワクチン完全接種が有用

 学校の生徒と職員を対象に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の学校内での感染リスクについて、2年間の接触追跡データに基づいた調査が、米国・マサチューセッツ総合病院のSandra B. Nelson氏らの研究チームによって行われた。その結果、学校生活において、マスクの使用状況やワクチン接種状況、校内の活動や地域の社会的状況など、感染リスクが高くなる要因が明らかになった。JAMA Health Forum誌2023年8月4日号に掲載の報告。 本調査は、マサチューセッツ州の幼稚園から中等教育までの学校を対象に、2020年秋~21年春学期(F20/S21、従来株の優勢期)および2021年秋学期(F21、デルタ株の優勢期)の2つの期間にわたって行われた。F20/S21は70校3万3,000人以上、F21は34校1万8,000人以上が参加した。学校内でSARS-CoV-2に2次感染した割合をSAR(Secondary Attack Rate)と定義した。SARは検査によって確認された値で算出した。感染と関連する可能性のある要因(学年、マスクの着用、曝露した場所、ワクチン接種歴、社会的脆弱性指数[SVI]など)について、ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・F20/S21期での学校関連SARは2.2%、F21期での学校関連SARは2.8%となり、両期間ともに低かった。・F20/S21期では、昼食時(未調整SAR:11.1%)、初発症例者と接触者の両方がマスクを着用していない(11.7%)、学校内での至近距離での接触(18.2%)の場合に、SARが有意に高かった。・F21期では、高学年や職員よりも低学年(未調整SAR:4.6%)、教室内での曝露(3.4%)、接触者がTTSプログラム(毎日の迅速抗原検査)に参加していない場合や、接触者がワクチン接種未完了(5.3%)もしくは未接種(3.6%)、および指標症例が未接種(3.5%)である場合に、SARが有意に高かった。社会的脆弱性指数(SVI)スコアが高いほどSARも高かった(8.0%)。・多変量解析では、F20/S21期において、マスクの着用は、マスクを着用しない場合と比較して、伝播のオッズが低かった(オッズ比[OR]:0.12、95%信頼区間[CI]:0.04~0.40、p<0.001)。・F21期では、教室内の曝露は、教室外の曝露と比較して、伝播のオッズが高かった(OR:2.47、95%CI:1.07~5.66、p=0.02)。ワクチンを完全に接種した接触者は、未接種と比較して、オッズが低かった(OR:0.04、95%CI:0.00~0.62、p<0.001)。・F20/S21期とF21期の両期間とも、SVIスコアが高い地区ほど、伝播のオッズが高かった。 著者らは本結果について、「SVIスコアの高い低所得地域では、教室の密度が高くなる可能性があり、感染リスクが高くなることが示された。感染リスクの高い地域には、感染対策のためのリソースをより多く配分することで、健康と教育の格差を減少させることができるかもしれない」としている。

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HIV感染者の心血管イベント、ピタバスタチンで35%減/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者において、ピタバスタチンはプラセボと比較し、追跡期間中央値5.1年で主要有害心血管イベントのリスクを低下することが示された。米国・マサチューセッツ総合病院のSteven K. Grinspoon氏らが12ヵ国145施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「Randomized Trial to Prevent Vascular Events in HIV:REPRIEVE試験」の結果を報告した。HIV感染者は、一般集団と比較して心血管疾患のリスクが最大2倍高いことが知られており、HIV感染者における1次予防戦略に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2023年7月23日号掲載の報告。HIV感染者約7,800例において、主要有害心血管イベントの発生を評価 研究グループは2015年3月26日~2019年7月31日に、抗レトロウイルス療法を受けている心血管疾患リスクが低~中等度の40~75歳のHIV感染者7,769例を登録し、ピタバスタチン群(ピタバスタチンカルシウム1日4mgを1日1回経口投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。過去90日以内のスタチン使用歴があり、アテローム性動脈硬化症が認められた患者は除外した。 主要アウトカムは、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、脳卒中、一過性脳虚血発作、末梢動脈虚血、冠動脈・頸動脈・末梢動脈の血行再建術、原因不明の死亡の複合と定義)とし、出生時の性別およびスクリーニング時のCD4数で層別化したCox比例ハザードモデルを用いたtime-to-event解析を行った。ピタバスタチンで心血管イベントが35%低下 7,769例(ピタバスタチン群3,888例、プラセボ群3,881例)の年齢中央値は50歳(四分位範囲[IQR]:45~55)、CD4数の中央値は621個/mm3(IQR:448~827)であった。また、HIV RNA量は、利用可能なデータを有する5,997例中5,250例(87.5%)で定量未満であった。 本試験は、追跡期間中央値5.1年(IQR:4.3~5.9)時点の2回目の中間解析の結果、有効性が認められ安全性の懸念はなかったことから早期に打ち切りとなった。 主要有害心血管イベントの発生頻度は、ピタバスタチン群が1,000人年当たり4.81、プラセボ群は1,000人年当たり7.32で、ハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.48~0.90、p=0.002)であった。 有害事象については、Grade3以上または治療変更を要した筋肉痛またはミオパチーがピタバスタチン群で91例(2.3%)、プラセボ群で53例(1.4%)、糖尿病がそれぞれ206例(5.3%)、155例(4.0%)に認められ、いずれもピタバスタチン群では発現率が高かった。 なお、著者は、「今回はピタバスタチンを用いた結果ではあるが、LDLコレステロールを低下させる他の戦略も同様に有用である可能性があり、さらなる大規模臨床試験においてスタチン療法単独で得られた結果と比較検証する必要がある」とまとめている。

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米国での誤診による深刻な被害の実態が明らかに

 毎年約79万5,000人の米国人が、誤診により死亡したり永続的な障害を被っていることが、米ジョンズ・ホプキンス大学医学部のDavid Newman-Toker氏らによる研究で示された。この研究結果は、「BMJ Quality & Safety」に7月17日掲載された。 Newman-Toker氏は、「プライマリケア、救急外来などの特定の臨床現場で発生した誤診に焦点を当てた研究はこれまでにも実施されていたが、複数の医療現場にまたがる深刻な被害の総計は調査されておらず、その推定値には年間4万件から400万件の幅があった。われわれの研究では、疾患別の誤診と被害発生率を基に損害の総計を推定した点で注目に値する」と話す。 Newman-Toker氏らは今回、米国内の特定の疾患の発生件数に、その疾患の患者のうち誤診による深刻な被害(死亡、または永続的な障害)が生じた者の割合を掛け合わせることで、その疾患に関して生じた被害の大きさを割り出した。その後、血管イベント、感染症、がんの3つの領域(Big 3領域)の主要な15種類の疾患について同様の計算法を適用し、得られた結果を合計して、国内全体での誤診や被害に関する推定値を算出した。次いで、この測定値の妥当性を検討するために、さまざまな仮定を立てて分析を行い、推定値を出すために選択した手法などの影響を評価し、さらに、独立したデータ源や専門家のレビューとの比較も行った。 その結果、米国では毎年、血管イベントが600万件、感染症が620万件、がんが150万件発生しており、これらの3領域における重み付けされた誤診率は11.1%、被害発生率は4.4%と計算された。疾患全体での誤診率は、心筋梗塞での1.5%から脊椎膿瘍での62%まで、疾患により大きな開きがあった。誤診により生じた深刻な被害が最も多かったのは、脳卒中だった。 Big 3領域以外の全ての疾患に対象を広げると、米国全体で誤診に関連する深刻な被害が年間79万5,000件(推定範囲59万8,000~102万3,000件;死亡37万1,000件、永続的な障害42万4,000件)生じているものと推定され、医療現場全体にわたる深刻な被害状況が浮き彫りになった。この結果は、外来診療所や救急外来、入院治療での誤診に焦点を当てた複数の先行研究において報告されたデータと一致していた。15種類の疾患は全体の深刻な被害の50.7%を占め、深刻な被害が生じる頻度の高い上位5つの疾患(脳卒中、敗血症、肺炎、静脈血栓塞栓症、肺がん)が全体の38.7%を占めていた。 以上の結果を踏まえて研究グループは、「誤診率の高い疾患に最優先で対処すべきだ」と主張する。Newman-Toker氏は、「疾患に焦点を当てたアプローチにより誤診を予防・軽減することで、このような被害を大幅に減らせる可能性がある。脳卒中、敗血症、肺炎、肺塞栓症、肺がんの誤診を半減させることで、後遺障害と死亡の発生件数を年間15万件減らせるはずだ」と話す。 ジョンズ・ホプキンス大学では、すでに脳卒中の見逃しに対処するための解決法を開発して使い始めているという。その解決法とは、第一線の臨床医のスキルを向上させるためのバーチャル患者シミュレーターや、専門医が遠隔操作で臨床医の脳卒中診断を支援するための、ビデオゴーグルや携帯電話を介したポータブル眼球運動計測装置などである。また、診断プロセスの一部を自動化するコンピューターベースのアルゴリズムや、パフォーマンスを測定し、質の向上に関するフィードバックを提供するダッシュボードなども導入されている。 Newman-Toker氏は、「このような取り組みに必要な資金は、いまだ十分でない」と指摘する。同氏は、「われわれが直面している公衆衛生危機の中では、誤診の削減のために投入される資金が最も少ない。高い精度で確実な診断を行い、誤診による予防可能な被害をゼロにすることを目指すのであれば、そのための努力に投資し続ける必要がある」と述べている。

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生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関係が明らかに

 特定健診データを利用した解析から、生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関連が明らかになった。喫煙習慣の有無にかかわらず、身体活動の低下は呼吸器疾患関連死の独立したリスク因子である可能性などが示された。山形大学医学部第一内科の井上純人氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月22日掲載された。 生活習慣と心血管代謝性疾患リスクとの関連については数多くの研究がなされているが、呼吸器疾患については、喫煙と肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の関連を除いてほとんど明らかにされていない。これを背景として井上氏らは、2008~2010年の7都道府県の特定健診受診者、66万4,926人のデータを用いた縦断的解析により、生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関連を検討した。 解析対象者の主な特徴は、平均年齢62.3±8.8歳、男性42.76%、BMI23.4±3.5、喫煙者15.56%、習慣的飲酒者46.50%。7年間の追跡で8,051人の死亡が記録されていた。死因のトップは悪性新生物で4,159人(51.66%)であり、呼吸器疾患は437人(5.43%)で4位だった。死因としての呼吸器疾患には、ウイルスまたは細菌感染症(202人)、間質性肺炎(126人)、閉塞性肺疾患(42人)、誤嚥(30人)などが含まれていた。 悪性新生物の中の「気管支及び肺の悪性新生物」による死亡(826人)を加えた計1,263人を「呼吸器疾患による死亡」として、特定健診の健診項目データとの関連を検討すると、単変量解析では、高齢、男性、収縮期血圧高値、喫煙・飲酒習慣などが、オッズ比上昇と有意な関連があり、反対にBMI高値や運動習慣はオッズ比低下と有意な関連が認められた。 単変量解析で有意な関連が認められた因子を説明変数とする多変量解析の結果、呼吸器疾患による死亡リスクに正の独立した関連のある因子とそのハザード比(HR)は、高齢(1歳ごとに1.106)、男性(3.750)、喫煙習慣(1.941)、HbA1c(1%高いごとに1.213)、尿酸(1mg/dL高いごとに1.056)、尿蛋白陽性(1.432)、および脳血管疾患の既往(1.623)となった。反対に、負の独立した関連因子は、BMI(1高いごとに0.915)、運動習慣(0.839)、飲酒習慣(0.617)、歩行速度が速いこと(0.518)、LDL-コレステロール(1mg/dL高いごとに0.995)だった。 次に、「気管支及び肺の悪性新生物による死亡」を除く437人で多変量解析を行うと、高齢(1.141)、男性(3.898)、HbA1c(1.241)、尿酸(1.066)、尿蛋白陽性(1.876)、eGFR(1mL/分/1.73m2高いごとに1.006)および脳血管疾患の既往(2.049)が正の独立した関連因子、BMI(0.831)、運動習慣(0.591)、歩行速度が速いこと(0.274)、LDL-コレステロール(0.995)が負の独立した関連因子として抽出された。喫煙習慣や飲酒習慣は、単変量解析の段階で有意な関連が示されなかった。 続いて、「気管支及び肺の悪性新生物による死亡」の826人のみで多変量解析を行うと、独立した正の関連因子は、高齢(1.096)、男性(3.607)、喫煙習慣(3.287)、HbA1c(1.209)であり、独立した負の関連因子は歩行速度が速いこと(0.629)とヘモグロビン(1g/dL高いごとに0.884)が抽出された。 著者らは、上記3パターンの解析のいずれにおいても、運動習慣を有することや歩行速度が速いことと死亡リスクの低さとの強い関連が認められたことから、「日本人60万人以上を対象とする大規模なサンプルを用いた解析から、喫煙習慣の有無にかかわらず、運動は呼吸器疾患による死亡リスクを抑制するための重要な因子と考えられる」とまとめている。

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鼻をほじる医療者は、コロナ感染リスク増

 医療従事者はCOVID-19の感染リスクが高く、マスク、ガウン、ゴーグル/フェイスシールド、手袋などの個人防護具(PPE)装着をはじめとした感染対策を取るケースが多い。にもかかわらず医療従事者の感染者が多い理由を探るため、PPE装着や飛沫を受けることに関連する可能性のある、鼻をほじるなどの特定の行動・身体的特徴を調査する研究が行われた。オランダ・アムステルダム大学のA H Ayesha Lavell氏らによる本研究の結果は、PLOS ONE誌オンライン版2023年8月2日号に掲載された。鼻をほじることが病院内のコロナ感染拡大につながる可能性 研究者らは、オランダの2つの大学医療センターに勤務する医療従事者404例を対象としたコホート研究において、特定の行動・身体的特徴が感染リスクと関連しているかどうかを調査した。感染との関連を調査した具体的な行動は以下のものだった。・鼻をほじる・爪をかむ・眼鏡を掛ける・ひげを生やす 医療従事者のコロナ感染者が多い理由を探るため、鼻をほじるなどの特定の行動・身体的特徴を調査する研究の主な結果は以下のとおり。・404例にコロナ感染率に影響を及ぼす可能性のある習慣に関するオンライン調査を行い、計219例(回答率52%)が回答した。・以前の研究から「COVID-19患者のケアに従事している」「COVID-19に感染した同僚または地域住民と接触した」ことが感染リスク増と関連があると示されていたため、これらの因子で分類し、結果を調整した。期間中2つの病院は院内のPPE着用ルールをはじめ、同一の感染制御対策を実施した。・参加者の大多数(185例、85%)が偶発的に鼻をほじると回答し、その頻度は月1回、週1回、毎日とさまざまであった。鼻をほじる群はほじらない群よりも若く(年齢中央値44歳vs.53歳)、男性のほうがより頻繁に鼻をほじる(90% vs.83%)と報告した。鼻をほじる頻度が最も高かったのは医師(研修医:100%、専門家:91%)、次いでサポートスタッフ(86%)、看護師(80%)であった。 ・2020年3~10月の追跡期間中に34例(15.5%)がCOVID-19の陽性判定を受けた。COVID-19発症率は、鼻をほじる群がほじらない群と比較して高かった(32/185例:17.3% vs.2/34例:5.9%、オッズ比:3.80、95%信頼区間:1.05~24.52)。・爪をかむ、眼鏡を掛ける、ひげを生やすこととCOVID-19感染率との有意な関連は認められなかった。 研究者らは「鼻をほじることが病院内の感染拡大につながる可能性があり、そのリスクは過小評価されている。今後の研究結果次第では、教育セッションや感染予防ガイドラインの推奨に加えるなど、より意識を高める必要があるだろう」としている。

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コロナ2価ワクチンのブースター接種、安全性が示される/BMJ

 50歳以上の成人において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する4回目ブースター接種ワクチンとしてのオミクロン株対応2価mRNAワクチンは、事前規定の27種の有害事象に関するリスク増大との関連は認められなかったことが、デンマーク・Statens Serum InstitutのNiklas Worm Andersson氏らによる同国の50歳以上の接種者を対象に行った試験で示された。BMJ誌2023年7月25日号掲載の報告。接種後28日間の27種の有害事象による病院受診率を評価 研究グループは2021年1月1日~2022年12月10日に、COVID-19ワクチンを3回接種した50歳以上の成人222万5,567人を対象とするコホート試験を行った。 主要アウトカムは、オミクロン株対応2価mRNAワクチンの4回目ブースター接種後28日間(主要リスク期間)の27種の有害事象による病院受診率で、同ワクチン3回目あるいは4回目接種後29日以降(参照期間)の同受診率と比較した。27種の有害アウトカムいずれも増大せず 2価mRNAワクチンの4回目接種者は、174万417人(平均年齢67.8[SD 10.7]歳)だった。 2価mRNAワクチンの4回目接種は、参照期間と比較して、主要リスク期間の全27種の有害アウトカムの統計学的に有意な増大と関連していなかった。たとえば、虚血性心イベントの発生件数は、主要リスク期間で672件、参照期間では9,992件で、発生率比は0.95(95%信頼区間[CI]:0.87~1.04)だった。 年齢や性別、ワクチンタイプに基づく解析や、別の解析手法を用いた場合でも、同様の結果が得られた。 ただし事後分析で、心筋炎のリスクが検出されたが(女性被験者では統計学的に有意に関連)、発現はまれで少数の症例に基づく所見だった。また、脳梗塞リスクの増大はみられなかった(主要リスク期間644件vs.参照期間9,687件、発生率比:0.95、95%CI:0.87~1.05)。

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成人の胸腺摘出、全死亡・がんリスクが増加/NEJM

 胸腺摘出を受けた患者は摘出を受けなかった対照群よりも、全死因死亡およびがんリスクが高いことが、米国・マサチューセッツ総合病院のKameron A. Kooshesh氏らによる検討で示された。また、術前感染症、がん、自己免疫疾患を有する患者を除外した解析では、胸腺摘出は自己免疫疾患のリスクを増大すると思われる関連性もみられたという。成人における胸腺の機能は明らかになっていないが、さまざまな外科手術でルーチンに摘出が行われている。研究グループは、成人の胸腺は、免疫機能と全般的な健康の維持に必要であるとの仮説を立て、疫学的・臨床的・免疫学的解析評価で検証した。NEJM誌2023年8月3日号掲載の報告。胸腺摘出vs.非摘出の死亡・がん・自己免疫疾患のリスクを評価 研究グループは、胸腺摘出術を受けた成人患者と人口統計学的にマッチさせた胸腺摘出術を受けずに類似の心臓胸部手術を受けた成人患者を比較し、死亡・がん・自己免疫疾患のリスクを評価した。患者サブグループで、T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度も比較した。 Mass General Brigham(MGB)Research Patient Data Registryを用いて、1993年1月1日~2020年3月1日にマサチューセッツ総合病院で胸腺摘出術を受けた全成人患者を特定。術後90日以内に死亡した患者、また術後5年以内に非腹腔鏡下心臓手術を受けた患者は除外した(胸腺摘出群)。同様に2000年1月1日~2019年12月31日に非腹腔鏡下で心臓手術を受けた胸腺摘出術歴のない全成人患者を特定。術後90日以内に死亡した患者、術前心不全を呈した患者、術後5年以内に2度目の心臓手術を受けた患者は除外した(対照群)。 データは2022年3月1日まで収集された。死亡の相対リスク2.9倍、がん相対リスク2.0倍 レジストリの探索で、胸腺摘出群1,470例、対照群1万6,679例が特定され、除外後にそれぞれ1,420例と6,021例が試験に包含された。このうち主要コホートは、対照とのマッチが少なくとも1つ以上あった胸腺摘出群1,146例(81%)と、その年齢・人種・性別でマッチさせた対照群1,146例で構成された。 術後5年時点で、全死因死亡率は胸腺摘出群(8.1%)が対照群(2.8%)より2倍超高く(相対リスク:2.9[95%信頼区間[CI]:1.7~4.8]、p<0.001)、がんリスクも同様に胸腺摘出群(7.4%)が対照群(3.7%)より高かった(2.0[1.3~3.2])。自己免疫疾患リスクは、主要コホート全体では実質的な群間差は認められなかったが(1.1[0.8~1.4])、術前感染症、がん、自己免疫疾患を有する患者を解析から除外すると、群間差が認められた(12.3% vs.7.9%、相対リスク:1.5[95%CI:1.02~2.2])。 追跡期間5年超の全患者(マッチした対象の有無を問わず)の解析では、全死因死亡率は、胸腺摘出群(9.0%)が米国一般集団(5.2%)よりも高く、がん死亡率も同様であった(2.3% vs.1.5%)。 T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度が測定された患者のサブグループ(胸腺摘出群22例、対照群19例、平均追跡期間14.2術後年[範囲:8~26])では、胸腺摘出群のほうが対照群よりもCD4+、CD8+リンパ球の新生量が少なかった。signal joint T-cell receptor excision circle(sjTREC)解析で測定した平均CD4+リンパ球数は、胸腺摘出群1,451/μg DNA vs.対照群526/μg DNAであり(p=0.009)、同平均CD8+リンパ球数はそれぞれ1,466/μg DNA vs.447/μg DNAであった(p<0.001)。血中の炎症性サイトカイン濃度も胸腺摘出群で高かった。

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