サイト内検索|page:215

検索結果 合計:5550件 表示位置:4281 - 4300

4281.

再生不良性貧血〔AA : aplastic anemia〕

再生不良性貧血のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義再生不良性貧血は、末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする症候群である。同じ徴候を示す疾患群から、概念のより明確なほかの疾患を除外することによって診断することができる。病気の本態は「骨髄毒性を示す薬剤の影響がないにもかかわらず、造血幹細胞が持続的に減少した状態」である。再生不良性貧血という病名は、鉄欠乏性貧血や悪性貧血などのように、不足している栄養素を補充すれば改善する貧血とは異なり、血液細胞が再生しにくいという意味で付けられたが、治療方法が進歩した現在では、再生不良性貧血の骨髄は必ずしも「再生不良」とはいえないので、この病名は現実に即さなくなってきている。■ 疫学臨床調査個人票による調査では、2004~2012年の9年間の罹患数は約9,500(年間約1,000人)、罹患率は8.2(/100万人年)と推計された。罹患率の性比(女/男)は1.16であり、男女とも10~20歳代と70~80歳代でピークが認められ、高齢のピークの方が大きかった1)。これは欧米諸国の約3倍の発生率である。■ 病因成因によってFanconi貧血、dyskeratosis congenitaなどの先天性と後天性に分けられる。後天性の再生不良性貧血には原因不明の一次性と、クロラムフェニコールをはじめとするさまざまな薬剤や放射線被曝・ベンゼンなど化学物質による二次性がある。一次性(特発性)再生不良性貧血は、何らかのウイルスや環境因子が引き金になって起こると考えられているが詳細は不明である。わが国では特発性が大部分(90%)を占める。また、そのほかに特殊型として肝炎後再生不良性貧血は、A型、B型、C型などの既知のウイルス以外の原因による急性肝炎発症後1~3ヵ月で発症する。若年の男性に比較的多く重症化しやすいが、免疫抑制療法に対する反応性は特発性再生不良性貧血と変わらない。再生不良性貧血-発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)症候群は、臨床的には再生不良性貧血でありながら、末梢血中にglycosylphosphadidylinositol(GPI)アンカー膜蛋白の欠失した血球が増加しており、溶血を伴う状態を指す。そのなかには、発症時から再生不良性貧血‐PNH症候群状態のもの(骨髄不全型のPNH)と、再生不良性貧血と診断されたのち長期間を経てPNHに移行するもの(二次性PNH)の2種類がある。再生不良性貧血の重症度は、血球減少の程度によって表1のように5段階に分けられている1)。画像を拡大する特発性再生不良性貧血の約70%は抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG、商品名:サイモグロブリン)やシクロスポリン(CsA〔同:ネオーラル〕)などの免疫抑制療法によって改善することから、免疫学的機序による造血幹細胞の破壊・抑制が多くの例で関与していると考えられている。しかし、免疫反応の標的となる自己抗原は同定されていない。再生不良性貧血の約60%に、GPIアンカー膜蛋白の欠失したPNH形質の血球(PNH型血球)が検出されることや、第6染色体短腕の片親性二倍体により細胞傷害性T細胞からの攻撃を免れて造血を支持するようになった造血幹細胞由来の血球が約25%の例で検出されること2,3)などが、免疫病態の関与を裏付けている。一方、Fanconi貧血のように、特定の遺伝子異常によって発症する先天性再生不良性貧血が存在することや、特発性再生不良性貧血と診断されていた例のなかにテロメラーゼ関連の遺伝子異常を持つ例があることなどから、一部の例では造血幹細胞自身に異常があると考えられている。ただし、これらの遺伝子異常が検出される頻度は非常に低い。免疫抑制療法が効かない再生不良性貧血例のなかには、骨髄が脂肪髄であったために再生不良性貧血として治療されたが、その後短期間で異常細胞が顕在化し、診断が造血器悪性腫瘍に変更される例も含まれている。さらに、免疫抑制療法が効かないからといって、必ずしも免疫病態が関与していないという訳ではない。そのなかには、(1)免疫異常による発病から治療までの時間が経ち過ぎているために効果が出にくい、(2)免疫抑制療法の強さが不十分である、(3)免疫学的攻撃による造血幹細胞の枯渇が激しいために造血が回復しえない、などの理由で免疫抑制療法に反応しない例もある。このため、発病して間もない再生不良性貧血のほとんどは、造血幹細胞に対する何らかの免疫学的攻撃によって起こっていると考えたほうがよい。■ 症状息切れ・動悸・めまいなどの貧血症状と、皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向がみられる。好中球減少の強い例では発熱がみられる。軽症・中等症例や、貧血の進行が遅い重症例では無症状のこともある。他覚症状として顔面蒼白、貧血様の眼瞼結膜、皮下出血、歯肉出血などがみられる。■ 予後かつては重症例の50%が半年以内に死亡するとされていた。最近では血小板輸血、抗菌薬、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの支持療法が進歩し、免疫抑制療法や骨髄移植が発症後早期に行われるようになったため、約7割の患者が輸血不要となるまで改善し、9割が長期生存するようになっている。一部の重症例や、発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法によっても改善せず、定期的な赤血球輸血・血小板輸血を必要とする。赤血球輸血が40単位を超えると糖尿病・心不全・肝障害などの鉄過剰症による症状が現れる。最近では、デフェラシロクス(商品名:エクジェイド)による鉄キレート療法が行われるようになったため、輸血依存例の予後の改善が期待されている。一方、免疫抑制療法により改善した長期生存例の約5%が骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)、5~10%がPNHに移行する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 末梢血所見通常は赤血球、白血球、血小板のすべてが減少する。重症度の低い例では貧血と血小板減少だけしか認めないこともある。急性型では正球性正色素性、慢性型では通常大球性を示し、すべての例で網赤血球の増加を伴わない。重症例では好中球だけではなくリンパ球も減少する。■ 血液生化学検査血液生化学検査では血清鉄、鉄飽和率、血中エリスロポエチン値、トロンボポエチン値などの増加がみられる。とくにトロンボポエチンの増加は、前白血病状態との鑑別に重要である。トロンボポエチンが300pg/mL未満であれば再生不良性貧血は否定的である4)。■ 骨髄穿刺・生検所見再生不良性貧血と診断するためには両者を行うことが必須である。骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少している。なかでも巨核球・幼若顆粒球・赤芽球の著しい減少が特徴的である。骨髄細胞が残存している場合には多くの例で赤芽球に異形成が認められる。好中球にも異形成を認めることがあるが、その割合が全好中球の10%を超えることはない。巨核球は減少しているため、異形成の有無は評価できないことが多い。ステージ4までの再生不良性貧血では、穿刺する場所によって骨髄が正形成または過形成を示すことがあるが、そのような場合でも巨核球は通常減少している。染色体は原則として正常であるが、病的意義の明らかでない染色体異常を少数認めることがある。■ 病理腸骨からの骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少し、重症例では完全に脂肪髄化する(図1)。ただし、ステージ 1~3の患者では、細胞成分の多い部分が残存していることが多い。画像を拡大する■ 骨髄MRI骨髄穿刺・生検で評価できる骨髄は一部に限られるため、骨髄細胞密度を評価するためには胸腰椎を脂肪抑制画像で評価することが望ましい。重症再生不良性貧血例の胸腰椎をMRIで検索するとSTIR法では均一な低信号となり、T1強調画像では高信号を示す。ステージ3より重症度の低い例の胸腰椎画像は、残存する造血巣のため不均一なパターンを示す。■ フローサイトメトリーによるCD55・CD59陰性血球の検出Decay accelerating factor(DAF、CD55)、homologous restriction factor(HRF、CD59)などのGPIアンカー膜蛋白の欠失した血球の有無を、感度の高いフローサイトメトリーを用いて検索すると、明らかな溶血を伴わない再生不良性貧血患者の約半数に少数のCD55・CD59陰性血球が検出される。このようなPNH形質の血球陽性例は陰性例に比べて免疫抑制療法が効きやすく、また予後もよいことが知られている5)。■ 診断基準・鑑別診断わが国で使用されている診断基準を表2に示す1)。画像を拡大する再生不良性貧血との鑑別がとくに問題となるのは、MDS(2008年分類)のなかでも芽球の割合が少ないrefractory cytopenia with unilineage dysplasia(RCUD)、refractory cytopenia with multilineage dysplasia(RCMD)、idiopathic cytopenia of undetermined significance(ICUS)、骨髄不全の程度が強いPNH、欧米型の有毛細胞白血病などである。RCUD、RCMDまたはICUSが疑われる症例において、巨核球増加を伴わない血小板減少や血漿トロンボポエチンの上昇がみられる場合には、再生不良性貧血と同様の免疫病態による骨髄不全を考えたほうがよい。PNH形質血球の増加がみられる骨髄不全のうち、網赤血球の増加(>10万/μL)、正常上限の1.5倍を超えるLDH値の上昇、間接ビリルビンの上昇、ヘモグロビン尿などの溶血所見がみられる場合には、骨髄不全型PNHと診断する。骨髄生検上細網線維の増加や、血清可溶性インターロイキン2レセプター値の著増などがみられる場合は、有毛細胞白血病を疑う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステージ1、2に対する治療輸血を必要としないこの重症度で、血球減少の進行がみられない場合には、血球減少が自然に回復する可能性があるため、無治療で経過をみることが勧められてきた。しかし、再生不良性貧血では診断から治療までの期間が長くなるほど免疫抑制療法の奏効率が低くなるため、診断後はできるだけ早期にCsAを投与して効果の有無をみたほうがよい。とくに血小板減少が先行する例は、免疫抑制療法に反応して改善することが多いので、血小板減少が軽度であっても、少量のCsAを短期間投与し反応性をみることが望ましい。図2は筆者の私案を示している。画像を拡大する■ 重症例(ステージ3以上など)に対する治療この重症度の患者に対する治療方針(筆者私案)を図3に示す。画像を拡大する患者が40歳以下でHLAの一致する同胞ドナーが得られる場合には、同種骨髄移植が第一選択の治療方法である。とくに20歳未満の患者では治療関連死亡の確率が低く、長期生存率も90%前後が期待できるため、最初から骨髄移植を行うことが勧められる。40歳以上の高齢患者に対してはATG・CsAか、ATG・CsA・エルトロンボパグ(ELT〔商品名:レボレード〕)併用療法を行う。サイモグロブリンの市販後調査によると、ステージ4・5例およびステージ2・3例におけるATG+CsAの有効率はそれぞれ44%(219/502)、64%(171/268)とされている。ELTは、ATG+CsAと同時またはATG+CsAの2週間後から併用することにより、ウマATG+CsAの有効率が90%まで向上することが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の臨床研究により示された6)。日本でも2017年8月より保険適用が認められ、初回のATG+CsA療法後に併用することが可能になっている。これにより、日本で唯一使用できるサイモグロブリンの有効率が高まる可能性がある。ただし、NIHの臨床試験では、2年間で約12%の症例に、第7染色体異常を中心とする新たな染色体異常が出現していることから、ELT併用によって異常造血幹細胞の増殖が誘発される可能性は否定できない。このため、若年患者に対する初回治療にELTを併用するかどうかは、患者の重症度、罹病期間、免疫病態マーカーの有無などを考慮して判断することが勧められる。とくに、治療前に骨髄FISH検査で第7染色体欠失細胞がないかどうかを確認する必要がある。保険で認められているサイモグロブリンの投与量は2.5~3.75mg/kgと幅が広く、至適投与量についてはよく分かっていない。サイモグロブリンは、リンフォグロブリンに比べて免疫抑制作用が強いため、サイトメガロウイルスやEBウイルスの再活性化のリスクが高いとされている。このため、治療後2~3週以降はできる限り頻回にEBウイルスコピー数をモニタリングする必要がある。重症例のうち初診時から好中球がほとんどなく、G-CSF投与後も好中球がまったく増えない劇症型の場合には、緊急的な臍帯血移植やHLA部分一致血縁ドナーからの移植適応がある。■ 難治例に対する治療免疫抑制療法が無効であった場合、初回治療としてELTが使用されなかった例に対しては約40%にELTの効果が期待できる7)。メテノロンやダナゾール(保険適用外)も重症度の低い一部の例には有効である。これらの薬物療法にすべて抵抗性であった場合には、非血縁ドナーからの骨髄移植の適応がある。支持療法としては、貧血症状の強さに応じて、ヘモグロビンで7g/dL以上を目安に1回あたり400mLの赤血球濃厚液‐LRを輸血する。輸血によって血清フェリチン値が1,000ng/mL以上となった場合には経口鉄キレート剤のデフェラシロクスを投与し、輸血後鉄過剰症による臓器障害を防ぐ。血小板数が1万/μL以下となっても、明らかな出血傾向がなければ予防的血小板輸血は通常行わないが、感染症を併発している場合や出血傾向が強いときには、血小板数が2万/μL以上となるように輸血を行う。4 今後の展望再生不良性貧血の発症の引き金となる自己抗原が同定されれば、その抗原に対する抗体や抗原特異的なT細胞を検出することによって、造血幹細胞に対する免疫的な攻撃によって起こった骨髄不全、すなわち再生不良性貧血であることが積極的に診断できるようになる。自己抗原やそれに対する特異的なT細胞が同定されれば、現在用いられているATGやCsAのような非特異的な免疫抑制剤ではなく、より選択的な治療法が開発される可能性がある。また、近年使用できるようになったELTは、治療抵抗性の再生不良性貧血に対しても約40%に奏効する画期的な薬剤であるが、どのような症例に奏効し、またどのような症例に染色体異常が誘発されるのか(ELTを使用すべきではないのか)は不明である。これらを明らかにするために前向きの臨床試験と定期的なゲノム解析が必要である。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)特発性造血障害に関する調査研究班(資料)(再生不良性貧血診療の参照ガイドがダウンロードできる)公的助成情報難病情報センター 再生不良性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報再生つばさの会(再生不良性貧血の患者と家族の会の情報)1)再生不良性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ. 再生不良性貧血診療の参照ガイド 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業特発性造血障害に関する調査研究班:特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド(平成22年度改訂版); 2011. p3-32.2)Katagiri T, et al. Blood. 2011; 118: 6601-6609.3)Maruyama H, et al. Exp Hematol. 2016; 44: 931-939 e933.4)Seiki Y, et al. Haematologica. 2013; 98: 901-907.5)Sugimori C, et al. Blood. 2006; 107: 1308-1314.6)Townsley DM, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1540-1550.7)Olnes MJ, et al. N Engl J Med. 2012; 367: 11-19.公開履歴初回2013年09月26日更新2018年01月23日

4282.

ウイルス抑制HIVの維持療法、ドルテグラビル+リルピビリンが有望/Lancet

 ウイルスが抑制されているHIV-1感染患者の維持療法において、ドルテグラビル+リルピビリン療法は、現在の抗レトロウイルス療法(ART)レジメン(current ART regimen:CAR)に対し非劣性であることが、スペイン・Germans Trias大学病院のJosep M. Llibre氏らが行ったSWORD-1とSWORD-2試験のプール解析で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年1月5日号に掲載された。HIV-1感染の1次および2次治療では、3剤によるARTが標準とされるが、投与は生涯にわたることから、累積的な薬剤の曝露や毒性を最小化するために、2剤併用レジメンへの関心が高まっている。ドルテグラビル(インテグラーゼ鎖転移阻害薬)とリルピビリン(非核酸系逆転写酵素阻害薬)の安全性、忍容性、有効性は、この2剤に併用レジメンとしての適合性があり、実質的に有効である可能性を示唆していた。12ヵ国、1,000例以上で、2剤レジメンの非劣性を検討 SWORD-1とSWORD-2は、ドルテグラビル(50mg)+リルピビリン(25mg)の1日1回投与とCAR継続投与の有効性および安全性の評価を目的に、12ヵ国の参加の下、同じ試験デザイン(多施設共同、非盲検、無作為化、並行群間比較、非劣性)で行われた第III相試験である(ViiV HealthcareとJanssen Pharmaceutica NVの助成による)。 対象は、年齢18歳以上で、スクリーニング時に3剤を用いた1次または2次ARTにより、血漿HIV-1 RNA量が6ヵ月以上安定(ウイルス量<50コピー/mL)している患者であった。 主要エンドポイントは、試験薬の投与を1回以上受けた患者における、48週時のウイルス量<50コピー/mLの患者の割合であった。非劣性マージンは-8%とした。 患者のスクリーニングは、SWORD-1試験が2015年4月14日~10月15日に、SWORD-2試験が2015年4月21日~9月25日にそれぞれ行われた。ドルテグラビル+リルピビリン群に516例、CAR継続群に512例が割り付けられた。主要エンドポイントは両群とも95% ベースラインの全体の年齢中央値は43歳(範囲:21~79)で、約7割が50歳未満であり、女性は22%、白人が80%であった。最も多く使用されていたARTは、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩(ドルテグラビル+リルピビリン群:73%、CAR継続群:70%)およびエムトリシタビン(69%、67%)であった。 48週時のintention-to-treat集団のプール解析では、ウイルス量<50コピー/mLの患者の割合は、両群とも95%(ドルテグラビル+リルピビリン群:486/513例、CAR継続群:485/511例)であった。補正後の治療群間の差は-0.2%(95%信頼区間[CI]:-3.0~2.5)であり、ドルテグラビル+リルピビリン群のCAR継続群に対する非劣性が確認された。 有害事象は、ドルテグラビル+リルピビリン群で77%(395/513例)、CAR継続群で71%(364/511例)発現した。最も頻度の高い有害事象は、鼻咽頭炎(ドルテグラビル+リルピビリン群:10%[49例]vs.CAR継続群:10%[50例])および頭痛(8%[41例]vs.5%[23例])であった。治療中止の原因となった有害事象の割合は、ドルテグラビル+リルピビリン群のほうが高かった(3%[17例]vs.<1%[3例])。 著者は、「これらの結果は、ウイルスが抑制されたHIV患者の維持療法において、この2剤併用レジメンの使用を支持するもの」としている。

4283.

米国成人におけるウイルスとうつ病との関連

 うつ病などの気分障害は、一般的な精神疾患である。うつ病に関連する因子には、C型肝炎、インフルエンザ、水痘帯状疱疹、ヘルペスなどのウイルスを含む感染症への曝露がある。米国・ブリガムヤング大学のShawn D. Gale氏らは、ウイルス曝露とうつ病とのさらなる関連を評価するため検討を行った。Psychiatry research誌オンライン版2017年12月20日号の報告。 米国疾病管理予防センターと米国国民健康栄養調査より、うつ状態や抗うつ薬の使用、A型肝炎、B型肝炎、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、ヒト免疫不全ウイルス、サイトメガロウイルスへの曝露、および社会人口統計学的変数に関するデータを収集し、調整された多変量モデルにおけるうつ病とウイルス曝露との関連性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・単純ヘルペスウイルス2型は、うつ病のリスク上昇と関連が認められたが、A型肝炎、B型肝炎、単純ヘルペスウイルス1型では認められなかった。・サイトメガロウイルスの血清反応陽性の患者において、より高いサイトメガロウイルス抗体レベルは、うつ病との関連が認められた。 著者らは「米国成人においては、単純ヘルペスウイルス2型への曝露および、おそらくはサイトメガロウイルスへの曝露が、うつ病と関連している」としている。■関連記事うつ病既往で感染症リスク増加うつ病と性行為感染症リスク、その関連を検証うつ病になりやすい性格

4285.

1型DMリスク乳児に加水分解粉ミルクの影響は?/JAMA

 遺伝的に1型糖尿病のリスクがある乳児に対し、離乳後にカゼイン完全加水分解粉ミルクを与えても、通常の粉ミルクを与えた場合と比べて1型糖尿病発症リスクは変わらないことが示された。フィンランド・ヘルシンキ大学のMikael Knip氏らが行った、無作為化プラセボ対照二重盲検試験「TRIGR」の結果で、JAMA誌2018年1月2日号で発表された。これまでの研究で、複合的な食品含有タンパク質の早期曝露が、1型糖尿病のリスクを高める可能性が示されていたが、今回の結果を踏まえて著者は、「1型糖尿病リスクのある乳児に対する食事の推奨を、修正する必要性を支持する所見は示されなかった」とまとめている。粉ミルクを60日以上投与し1型糖尿病リスクを比較 研究グループは2002年5月~2007年1月にかけて、15ヵ国78ヵ所の試験参加センターを通じて、ヒト白血球型抗原(HLA)関連疾患への感受性が高く、第1度近親者に1型糖尿病患者がいる乳児2,159例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方にはカゼイン完全加水分解の粉ミルクを(1,081例)、もう一方には通常の粉ミルク(80%)と完全加水分解粉ミルク(20%)の混合を(1,078例)、それぞれ投与した。粉ミルク投与期間は、月齢6~8ヵ月までの60日以上とした。2017年2月末まで追跡を行った。 主要アウトカムは、WHO基準による1型糖尿病の診断。副次評価項目は、同診断時の年齢、安全性(有害事象)などだった。1型糖尿病発症リスクは両群とも約8% 被験者のうち、女児は47.3%(1,021例)で、試験を完了したのは80.8%(1,744例)だった。観察期間の中央値は11.5年(四分位数[Q]:10.2[1Q]~12.8[3Q])だった。 1型糖尿病の絶対発症リスクは、加水分解粉ミルク群が8.4%(91例)に対し、通常粉ミルク群は7.6%(82例)で、有意差はなかった(群間差:0.8%、95%信頼区間[CI]:-1.6~3.2)。HLAリスクグループや授乳期間、粉ミルク投与期間、性別、試験地で補正後、ハザード比は1.1(95%CI:0.8~1.5、p=0.46)だった。 1型糖尿病と診断された年齢の中央値についても、それぞれ6.0歳(3.1[1Q]~8.9[3Q])、5.8歳(同2.6~9.1)と、同等だった(差:0.2歳、95%CI:-0.9~1.2)。 最も多く発症した有害事象は上気道感染症で、発症頻度はそれぞれ0.48件/年、0.50件/年だった。

4286.

骨折治療用インプラント除去後感染に術前抗菌薬は有用か/JAMA

 膝下の骨折の治療に用いた整形外科用インプラント除去後の手術部位感染の予防において、手術前に抗菌薬投与を行っても感染リスクは低減しないことが、オランダ・アムステルダム大学医療センターのManouk Backes氏らが実施したWound Infections Following Implant Removal(WIFI)試験で示された。整形外科用インプラント除去術の手技は“clean(皮膚の菌汚染や局所感染がない)”とされ、手術部位感染率は2~3.3%と予測されるため、米国疾病管理予防センター(CDC)の最新のガイドラインでは抗菌薬の予防投与の適応はない。その一方で、予測を超える高い感染率が複数の研究で報告されている。JAMA誌2017年12月26日号掲載の報告。予防投与の効果を無作為化試験で評価 WIFI試験は、感染率が最も高い領域とされる膝下の骨折治療に用いられた整形外科用インプラント除去後の、抗菌薬予防投与の効果を評価する多施設共同二重盲検無作為化試験である(Netherlands Organization for Health Research and Development[ZonMw]の助成による)。 対象は、年齢18~75歳で、膝下(足、くるぶし、下腿)の骨折治療後に整形外科用インプラントの除去術を受けた患者であった。除外基準は、活動性の手術部位感染症や瘻孔、インプラント除去時の抗菌薬治療、術中の骨接合材の再設置、セファロスポリンのアレルギー、腎疾患、免疫抑制薬の使用、妊娠であった。 被験者は、術前にセファゾリン1,000mg+生理食塩液(0.9%)または生理食塩液(0.9%)をそれぞれ静脈内ボーラス投与する群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、米国CDCの判定基準に基づく術後30日以内の手術部位感染であり、副次アウトカムは身体機能、健康関連QOL、患者満足度とした。 2014年11月~2016年9月にオランダの19施設に500例が登録され、477例が割り付けの対象となった。6ヵ月間のフォローアップが行われ(最終フォローアップ日:2017年3月28日)、470例(セファゾリン群:228例、生食群:242例)が解析の対象となった。30日以内の手術部位感染:13.2% vs.14.9% 割り付け対象例(477例)の平均年齢は44歳(SD 15)、女性が274例(57%)であった。インプラント設置からの経過期間中央値は11ヵ月(IQR:7~16)だった。 30日以内の手術部位感染は66例(14.0%)で発症した(表層感染:58例、深層感染:8例)。このうちセファゾリン群が30例(13.2%)、生食群は36例(14.9%)と、両群間に有意な差を認めなかった(絶対リスク差:-1.7、95%信頼区間[CI]:-8.0~4.6、p=0.60)。 表層感染はセファゾリン群が29例(12.7%)、生食群は29例(12.0%)で、深層感染はそれぞれ1例(0.4%)、7例(2.9%)であり、いずれも両群間に有意差はみられなかった。 健康関連QOL(EuroQol 5-Dimension 3-Level[EQ-5D-3L])、身体機能(Lower Extremity Functional Scale[LEFS])、患者満足度(視覚アナログスケール[VAS])についても、両群間に有意な差はなかった。 著者は、「本試験の手術部位感染率は、既報の一連の後ろ向き試験に比べて高かった。前向き試験では退院後の手術部位感染の適切な把握は困難で、一般に過少報告となるため感染率は高くなることが多いとはいえ、14.0%は予想を超えて高く、観血的整復固定術後の感染率を上回る値である」としている。

4287.

ビッグデータの分析による正常体温の個体差/BMJ

 正常体温は、加齢とともに低下し、正常体温が高いことはがんやBMIの増加と関連する可能性があることが、米国・ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のZiad Obermeyer氏らによる、長期的なビッグデータを用いた検討で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2017年12月13日号に掲載された。19世紀に開始されたヒトの深部体温の研究には長い伝統があるが、主に特定の集団の平均体温の確立に重点が置かれてきた。一方、体温は、患者によって大きく異なる多彩な因子(年齢と体内時計、代謝、排卵周期など)の影響を受けることが知られ、個々の患者のベースラインの正常体温には系統的な差異がある可能性が高まっているという。約3万5,000例の患者の体温と併存疾患などとの関連を解析 研究グループは、個々の患者の体温の評価を行い、ほかの生理学的測定値や健康状態との相関について検討するコホート研究を行った(米国国立衛生研究所[NIH]の助成による)。 米国の大規模研究病院の電子記録のデータセットを用いた。2010~12年に病院の救急部および外来を受診した患者を同定し、これらの患者の2009~14年の体温測定を含む外来受診データを収集した(37万4,306件)。 このうち、感染症の診断を受けていないか、抗菌薬を処方されておらず、体温が正常範囲内と予測される患者3万5,488例(体温測定:24万3,506件)を解析の対象とした。解析した因子では説明不能な体温が、死亡の予測因子に ベースラインの平均年齢は52.9歳で、女性が64%、非白人が41%であった。最も頻度の高い初回診断名は、変形性関節炎/変形性関節症(5.9%)であり、次いで背部痛(4.9%)、定期健診(4.5%)の順であった。 ベースラインの平均体温は36.6度(95%range:35.7~37.3度、99%range:35.3~37.7度)であった。3次医療施設で治療を受けた患者の1年死亡率は6.2%だった。 個々の患者のベースラインの体温は、さまざまな人口統計学的因子や併存疾患、生理学的測定値と関連した。たとえば、体温は加齢とともに低下し、年齢が10歳高くなるごとに0.021度低くなった(p<0.001)。白人男性と比較して最も体温が高かったのはアフリカ系米国人女性で、0.052度の差が認められた(p<0.001)。 また、がんは、体温が高いことと関連が認められた(0.020度、p<0.001)のに対し、甲状腺機能低下症は、体温が低いことと関連した(-0.013度、p=0.01)。さらに、BMIの1単位の増加は、体温が高いことと関連した(0.002度、p<0.001)。 一方、全体として、これらの因子で説明可能な体温の範囲は8.2%にすぎなかった。これに対し、事前に年齢、性別、人種、バイタル・サイン、併存疾患で補正すると、体温の0.149度(全体の1SDに相当)の上昇ごとに、1年死亡リスクが8.4%増加した(p=0.014)ことから、残りの説明不能な体温の範囲は、死亡の有意な予測因子であることが示唆された。 著者は、「個々の患者の体温には、測定誤差や環境因子のみに帰すことのできない重要な多様性があることが示された」とし、「説明不能な体温の範囲と死亡との顕著な相関は興味深く重要な知見であり、さらなる研究を要する」と指摘している。

4288.

黄色ブドウ球菌菌血症へのリファンピシン併用、効果は?/Lancet

 黄色ブドウ球菌菌血症の成人患者において、標準抗菌薬治療にリファンピシンの補助的投与を行っても、全体的なベネフィットは変わらないことが確認された。英国・オックスフォード大学のGuy E Thwaites氏ら英国臨床感染症研究グループ(UKCIRG)による多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「ARREST試験」の結果として、Lancet誌オンライン版2017年12月14日号で発表された。黄色ブドウ球菌は、世界中で重症市中感染症や院内感染の原因としてよくみられる。研究グループは、リファンピシンの補助的投与は、黄色ブドウ球菌の死滅を早め、原病巣や感染血液を速やかに除菌し伝播や転移のリスクを減じることで、細菌学的定義の治療失敗や菌血症の再燃、死亡を減らせるのではないかと仮説を立て、検証試験を行った。リファンピシン補助的投与を2週間行い、プラセボ投与と12週アウトカムを比較 試験は英国内の29病院から、黄色ブドウ球菌菌血症で積極的な抗菌薬治療を受けてから96時間以内の、18歳以上の患者を集めて行われた。 被験者は、中央で作成されたコンピュータ生成の経時的無作為化リストによって、標準抗菌薬治療とともに、2週間のリファンピシン補助的投与(体重によって600mgまたは900mg/日を経口または静注)もしくは同用量によるプラセボ投与を受ける群に1対1に割り付けられ追跡を受けた。患者、試験担当医、患者介護者は割り付けを盲検化された。 主要アウトカムは、細菌学的定義の治療失敗または菌血症再燃もしくは死亡(全死因)までの時間であった。評価期間は無作為化から12週間までで、治療について盲検化された独立レビュー委員会が判定にあたった。解析はintention-to-treat法にて行われた。治療失敗・再燃・死亡について、プラセボ投与と有意差なし 2012年12月10日~2016年10月25日に、試験適格であった758例が無作為化を受けた(リファンピシン群370例、プラセボ群388例)。 被験者は、男性が65%、年齢中央値65歳(IQR:50~76)、チャールソン併存疾患スコアは2(0~3)、ICU入室者は9%で、平均C反応性蛋白値は164(SE 3.7)mg/Lであった。 また、485例(64%)が市中感染患者で、132例(17%)が院内発症患者(入院後48時間以上で発症)であった。47例(6%)にメチシリン耐性が認められた。301例(40%)は原病巣が深部にあった(埋設した血管デバイスや心臓弁など)。標準抗菌薬の投与期間は29日間(IQR:18~45)。619例(82%)がflucloxacillinの投与を受けた。 12週時点の評価で、治療失敗・菌血症再燃・死亡を経験していた患者は、リファンピシン群62例(17%)、プラセボ群71例(18%)であった(絶対リスク差:-1.4%、95%信頼区間[CI]:-7.0~4.3、ハザード比[HR]:0.96、95%CI:0.68~1.35、p=0.81)。 無作為化から12週間に観察された有害事象について、重篤例(p=0.17)またはGrade3-4例(p=0.36)ともにエビデンスのある差は認められなかった。しかし、抗菌薬または試験薬が変更となった有害事象(リファンピシン群63例[17%]vs.プラセボ群39例[10%]、p=0.004)、薬物相互作用(リファンピシン群24例[6%]vs.プラセボ群6例[2%]、p=0.0005)について有意な差が観察された。

4289.

letermovirは造血幹細胞移植での有力なサイトメガロウイルス感染症発症予防薬となるか(解説:吉田 敦 氏)-792

 造血幹細胞移植患者において、サイトメガロウイルス(CMV)は高率に活性化し、肺炎やGVHDを引き起こす。このためガンシクロビルやバルガンシクロビルが予防薬として用いられてきたが、効果が限定的であるうえ、骨髄抑制・回復抑制が問題であった。しかしながらこの2剤に頼らざるをえない状況は10年以上変わっていない。 CMVはターミナーゼ(terminase)によりゲノムDNAの中間体を切断し、カプシド蛋白にまとめていく。このターミナーゼに結合してウイルス複製を阻害するのがletermovirであり、その効果は非常に強く、かつヒトサイトメガロウイルスに特異的であり、また細胞毒性も少ないことが判明していた。造血幹細胞移植患者を対象とした第II相試験では、生着後12週間にわたって1日60mg、120mg、240mgをそれぞれ投与したところ、ウイルス血症の予防に対する効果は240mgで最も大きく、さらに予防できなかった患者はプラセボ群で64%であったのに対し、letermovir 240mg群では29%であり、有意差があった1)。これを受けて今回、第III相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験が行われた。 20ヵ国の67医療機関を受診した18歳以上の患者で、登録時にCMV感染症を認めず、さらに血漿中CMV DNAが検出感度(151コピー/mL)以下であった者を対象とした。生着の有無にかかわらず、letermovir投与群(480mg/日、点滴・経口あり、ただしシクロスポリン併用者は240mg/日)とプラセボ群に割り付けて14週まで投与し、その後経時的に測定したCMV DNAが上昇するか、CMV感染症を発症した時点を、エンドポイント(試験中止)と判断した。さらに本試験に関連したと考えられる副作用や、死亡に至った重大な合併症の有無については、48週まで観察した。 結果として、letermovir群は325例、プラセボ群は170例となり、移植からletermovir開始までの期間は0~28日(中央値9日)であった。24週までにエンドポイントに達した患者は37.5%対60.6%と、letermovir群で有意に低く(p<0.001)、これは患者のCMV感染症の発症リスクの高低によらなかった。次いで副作用をみると、嘔吐、浮腫、心房細動/粗動がletermovir群でやや多かったが、有意差はなかった。総死亡率はletermovir群20.9%、プラセボ群25.5%であった。 今回の結果では、letermovirでCMV感染症を有意に予防することができた。安全性・忍容性ともに許容される範囲であった点(骨髄抑制を含む)、内服・静注両方で使用が可能であった点も好ましかった。したがって従来の薬剤に代わる予防薬として期待されるところである。ただし本剤はゲノムの点変異のみで耐性を来すこと、それも1日60mgの投与で耐性が出現した例が報告されている2)。すでにFDAはletermovirを成人造血幹細胞移植患者の予防薬として認可したが、用量・血中濃度に注意した本剤の適正な使用と、有効性・耐性出現の両方について今後も慎重な評価が必要であるといえる。

4290.

小児の急性上気道感染症への抗菌薬、広域 vs.狭域/JAMA

 小児の急性気道感染症において、広域抗菌薬(アモキシシリン-クラブラン酸、セファロスポリン系、マクロライド系薬)の投与と狭域抗菌薬(アモキシシリン、ペニシリン)の投与は、臨床的アウトカムや大部分の患者中心アウトカムについて同等であることが示された。一方で有害事象の発生頻度は、広域抗菌薬群が狭域抗菌薬群よりも高率だった。米国・フィラデルフィア小児病院のJeffrey S. Gerber氏らが、3万例超の小児を対象にした後ろ向きコホート試験と、約2,500例の小児を対象とした前向きコホート試験を行って明らかにしたもので、著者は「今回の結果は、大部分の小児の急性気道感染症に対しては、狭域抗菌薬を使用することを支持するものだ」とまとめている。JAMA誌2017年12月19日号掲載の報告。生後6ヵ月~12歳の小児を対象に試験 研究グループは、米国ペンシルベニア州とニュージャージー州の小児プライマリケアネットワークに参画する診療所31ヵ所を通じて、2015年1月~2016年4月に急性気道感染症の診断を受け経口抗菌薬を投与した生後6ヵ月~12歳の小児を対象に、臨床的アウトカムを検証する後ろ向きコホート試験と、患者評価のアウトカムを検証する前向きコホート試験をそれぞれ行った。広域抗菌薬と狭域抗菌薬のアウトカムについて比較した。 後ろ向きコホート試験では、主要アウトカムは診断後14日間の治療失敗と有害事象だった。前向きコホート試験では、主要アウトカムは生活の質(QOL)、その他の患者評価のアウトカム、患者報告の有害事象だった。 両コホート試験について、層別解析や傾向スコアマッチング解析を行い、医療者による交絡因子や患者個人の背景による交絡因子をそれぞれ補正した。患者報告QOL、広域抗菌薬群でわずかに低スコア 後ろ向きコホート試験の被験者数は3万159例で、そのうち1万9,179例が急性中耳炎、6,746例がA群レンサ球菌性咽頭炎、4,234例が急性副鼻腔炎だった。このうち、広域抗菌薬を投与されたのは、14%(4,307例)だった。治療失敗率は、広域抗菌薬群3.4%、狭域抗菌薬群3.1%と同等だった(完全マッチング解析によるリスク差:0.3%、95%信頼区間[CI]:-0.4~0.9)。 前向きコホート試験の被験者は2,472例で、うち1,100例が急性中耳炎、705例がA群レンサ球菌性咽頭炎、667例が急性副鼻腔炎だった。広域抗菌薬を投与されたのは35%(868例)だった。小児患者のQOLについて、狭域抗菌薬群の平均スコアが91.5点だったのに対し、広域抗菌薬群では90.2点と、わずかに低かった(同リスク差:-1.4%、95%CI:-2.4~-0.4)。一方、その他の患者評価のアウトカムについては、両群で同等だった。 医療者が報告した有害事象の発生率は、狭域抗菌薬群2.7%に対し広域抗菌薬群は3.7%と高率だった(同リスク差:1.1%、95%CI:0.4~1.8)。患者が報告した有害事象の発生率も、狭域抗菌薬群25.1%に対し広域抗菌薬群は35.6%と高率だった(同リスク差:12.2%、95%CI:7.3~17.2)。

4291.

インフルエンザ関連呼吸器系死亡の実情は?/Lancet

 これまでインフルエンザに関連した呼吸器系死亡推計は、世界で年間25~50万人とされてきた。米国疾病予防管理センターのA Danielle Iuliano氏らは、「この推計値はWHOが2004年頃に公表したものだが、算出方法が不明で、1990年代のデータを用いていると推察され、各国の実状を反映していないと思われる」として、1995~2015年の各国インフルエンザ関連の呼吸器系超過死亡の推計値を用いて、最新の状況を推算した。結果、従来値よりも多い約29万~65万人と算出されたという。インフルエンザ関連死の推計値は、国際的なおよび各国のパブリックヘルスの優先事項を決定する際に重視されている。著者は、「従来数値によって、疾病負荷が過小評価されていたかもしれない」と指摘し、「世界のインフルエンザ関連死亡に占める、呼吸系疾患以外の死因について調査する必要がある」と提言している。Lancet誌オンライン版2017年12月13日号掲載の報告。モデリング法を用いて世界各国のインフルエンザ死亡リスクの実態に迫る 検討は、モデリング法を用いて行った。まず、死亡レコードとインフルエンザサーベイランスデータがある33ヵ国について、時系列対数線形モデルを用いて各国のインフルエンザ関連呼吸器系超過死亡率(EMR)を推算。次に、データのない国のために外挿法を用いて推計を行うため、WHO Global Health Estimate(GHE)の呼吸器感染症死亡率を用いて、各国の3つの年齢群(65歳未満、65~74歳、75歳以上)について、3つの分析部門(1~3)に分類した。 EMR推定値のある国とない国のGHE呼吸器感染症死亡率の比較で全世界におけるインフルエンザ死亡リスクの差を明らかにするため、死亡率比(MRR)を算出。また、各年齢別分析部門内で個々の国の死亡推計を算出するために、無作為に選択した平均年間EMRsと各国MRRおよび母集団を乗算して評価した。 全体の95%確信区間(CrI)の推定値は、1シーズンまたは1年間のインフルエンザ関連死の可能な値域を示す国別全推計の事後分布から取得した。 そのほかに、呼吸器感染症による死亡率が高い92ヵ国について、同様の手法を用いて5歳未満児のインフルエンザ関連死を推計した。季節性インフルエンザ関連呼吸器系死は、毎年29万1,243~64万5,832例と推計 EMR推定値の得られた33ヵ国のデータは、全集団の57%を占めた。 平均年間インフルエンザ関連呼吸器系EMRは、65歳未満群では、10万人当たり0.1~6.4にわたった。65~74歳未満群では、同2.9~44.0であり、75歳以上群では17.9~223.5にわたった。 季節性インフルエンザ関連呼吸器系死は、毎年29万1,243~64万5,832例(10万人当たり4.0~8.8)発生していると推計された。死亡率比が最も高いのは、サハラ以南のアフリカ(10万人当たり2.8~16.5)、東南アジア(同3.5~9.2)であり、年齢群では75歳以上(同51.3~99.4)で最も高いと推定された。 92ヵ国の5歳未満児のインフルエンザ関連呼吸器系死は、毎年9,243~10万5,690例発生していると推計された。

4292.

1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第42回

第42回:水痘/帯状疱疹、50歳以上にワクチン接種勧めますか?監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 今回のテーマは水痘/帯状疱疹です。日本では2014(平成26)年10月から水痘ワクチンが定期接種化(生後12~36ヵ月)されています。先日も6歳の子が水痘で受診されましたが、接種していなくて未発症の姉は予防接種すべきか、担がん患者の祖母は接種したほうがよいか、非常に迷いました(50歳以上の接種で帯状疱疹を予防するエビデンスあり)。身近な問題ながら、わからないことが多いのが、水痘/帯状疱疹です。 以下、Am Fam Physician.11月15日号1)より帯状疱疹は、水痘ウイルスの再活性化(reactivation)で発症する。米国では年間100万人発症し、その人が生涯発症するリスクは30%程度とされている。家庭医の診療ベースでは、人口1,500人当たりで年間2~3例が発症し、体液性免疫が低下している人に関しては、そのリスクが20~100倍まで跳ね上がる。発疹の2~3日前に、全身倦怠感、頭痛、発熱、腹部の皮膚の違和感があるが、前駆症状だけで診断するのはかなり困難である。発疹は片側性に、1つのデルマトームに限局することが多く、水疱は7~10日で痂皮化する。72時間以内の抗ウイルス薬投与が勧められるが、新しい病変が発生する場合や、眼病変、神経症状が出る場合はその限りではない。アシクロビルにするか、バラシクロビル(商品名:バルトレックス)にするか迷うところである。アシクロビルは安価だが生体利用率が低く、投与回数も多い(3回と5回)。また、6ヵ月後の皮膚病変については差がないが、神経痛の改善はバラシクロビルのほうが早いと言われている2)。帯状疱疹後神経痛は5人に1人の割合で発症し、治療法はリドカイン、カプサイシン、ガバペンチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬がある。50歳以上の人に水痘ワクチンを接種することは、帯状疱疹の減少につながる可能性がある(ちなみに抗体価を測って接種の可否を決める必要はない。年齢要件があれば、既往や抗体価の有無に関わらず適応がある)。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Saguil A, et al. Am Fam Physician. 2017;96:656-663. 2) Beutner KR, et al .Antimicrob Agents Chemother. 1995;39:1546-1553.

4293.

再発性ディフィシル感染症に対する糞便移植-経口カプセル投与は有効か-(解説:小金丸博氏)-788

 クロストリジウム・ディフィシルは抗菌薬関連下痢症の原因となる主要な細菌である。クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)は、治療によりいったん改善しても約20%で再発し、再入院や医療費増加の原因となることが知られている。また1度再発した患者のうち、40~65%がさらなる再発を経験する。再発を繰り返すCDIの治療アルゴリズムはまだ確立していないが、近年、糞便移植の有効性が数多く報告され注目を集めている。 本研究は、再発性CDI患者を対象に、便細菌叢の投与経路による有効性の違いを検討した非盲検ランダム化非劣性試験である。少なくとも3回以上CDIを繰り返した18~90歳の患者を対象とし、経口カプセルで投与する群と大腸内視鏡で投与する群に分けて、治療効果、有害事象発生率、患者不快感などを評価した。慢性下痢症、炎症性腸疾患、がんで治療中の患者などは対象から除外された。1回の糞便移植で12週後にCDI再発を予防できたのは、経口カプセル投与群、大腸内視鏡投与群ともに96.2%であり、経口カプセル投与群の大腸内視鏡投与群に対する非劣性が示された(群間差:0%、片側95%信頼区間:-6.1%~無限大、p<0.001)。また、経口カプセル投与群では「まったく不快でない」と回答した人の割合が、大腸内視鏡投与群と比較し有意に高率だった。 糞便移植とは、健常者の便に含まれる腸内細菌叢を患者に投与することで正常な腸内環境を復元し、腸炎の治癒を図る治療法である。本研究では、再発性CDIに対する治療法として、経口カプセルによる糞便移植が大腸内視鏡投与と同等の高い有効率を示した。カプセル製剤にすることで経口投与が可能となり、患者の心理的、肉体的負担を軽減できるのは大きなメリットである。再発性CDIに対する糞便移植の有効性については評価が定まりつつあるが、投与経路、長期安全性、ドナーの選定方法など未解決な部分も存在するため、今後のさらなる研究が待たれる。 CDIに対する糞便移植は、日本ではまだ一般的でなく、保険適用にもなっていない。しかしながら、再発性CDIに対する高い有効性は魅力的であり、利便性や安全性が高まれば、治療方法の1つとして日本でも広がる可能性が十分あると考える。■「糞便移植」関連記事糞便移植は潰瘍性大腸炎の新たな治療となるか/Lancet

4294.

救急外来 診療の原則集―あたりまえのことをあたりまえに

教育への情熱で磨かれたキーフレーズ+解説身体診察の祭典、JPC2015で参加者の心をわしづかみにした救急医の坂本氏の最新刊が登場。「簡単なようで難しい、身に着ければ強い―それが『あたりまえのこと』」というコンセプトのもと、著者の臨床知見をあますことなく掲載。研修医向けの教育講習を重ね、ベストチューターを受賞した著者だからこそわかる、救急現場で知っておかなくてはいけない内容満載です。具体的には、消化管出血、敗血症、肺炎、尿路感染症など全21章に分け、101項目(病歴聴取、病状説明、救急診療で遭遇する頻度が高い疾患や症候)の解説を加えています。研修医だけでなく、普段救急から遠ざかっている医療従事者も知識の確認に使える1冊です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。    救急外来 診療の原則集―あたりまえのことをあたりまえに定価4,200円 + 税判型A5判(21×14.8×1.3cm)頁数327頁発行2017年11月著者坂本 壮Amazonでご購入の場合はこちら

4295.

プロバイオティクス・カプセル、アトピー性皮膚炎を改善

 新たな剤形で複数成分を含むプロバイオティクス・カプセル製剤は、小児・若年者におけるアトピー性皮膚炎(AD)の経過を改善する可能性が、スペイン・Hospital Universitario VinalopoのVicente Navarro-Lopez氏らによる無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果、示された。アトピー性皮膚炎疾患重症度評価(SCORAD)スコアが低下し、局所ステロイドの使用も減少したという。JAMA Dermatology誌オンライン版2017年11月8日号掲載の報告。 研究グループは2016年3月~6月に、新たな混合プロバイオティクス製剤の経口摂取について、有効性と安全性、ならびに局所ステロイドの使用に及ぼす影響を評価する目的で、12週間の無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を行った。 対象は、4~17歳の中等度AD患者50例(女児26例[50%]、平均[±SD]年齢:9.2±3.7歳)。試験前3ヵ月以内に全身性免疫抑制剤の使用歴のある患者、2週以内に抗菌薬使用歴のある患者、腸疾患合併の診断や細菌感染症の症状のある患者は除外された。 性別、年齢、発症年齢により層別化し、ブロックランダム化法によりプロバイオティクス群または対照群(プラセボ)に割り付け、凍結乾燥させたビフィズス菌(Bifidobacterium lactis)CECT 8145、ビフィズス菌(B.longum)CECT 7347、乳酸菌(Lactobacillus casei)CECT 9104を計109 CFU含むカプセル製剤(キャリアとしてマルトデキストリン使用)、またはプラセボ(マルトデキストリン)を毎日、12週間経口投与した。 主要評価項目は、SCORADスコアと局所ステロイドの使用日数とした。 主な結果は以下のとおり。・12週後、プロバイオティクス群は対照群と比較して、SCORADスコアの平均減少幅が19.2ポイント大きかった(群間差:-19.2、95%信頼区間[CI]:-15.0~-23.4)。・ベースラインから12週時点までのSCORADスコアの変化は、プロバイオティクス群-83%(95%信頼区間[CI]:-95~-70)、対照群-24%(95%CI:-36~-11)であった(p<0.001)。・対照群(220/2,032患者・日、10.8%)と比較して、プロバイオティクス群(161/2,084患者・日、7.7%)では局所ステロイドの使用が有意に減少したことが認められた(オッズ比:0.63、95%CI:0.51~0.78)。

4296.

乳児のインフル、妊産婦のワクチン接種で予防可能か

 生後6ヵ月までの乳児は重度のインフルエンザ合併症リスクが高いが、インフルエンザワクチンを接種するには早過ぎる。今回、日本の前向きコホート研究で、母親のインフルエンザワクチン接種により乳児のインフルエンザが減少することを、大阪市立大学の大藤 さとこ氏らが報告した。著者らは「今回の結果は、妊産婦が幼児を守るためにインフルエンザワクチン接種を受けるべきであることを示唆する」としている。The Journal of infectious diseases誌オンライン版2017年12月5日号に掲載。 本研究は、2013/14年のインフルエンザシーズンの前に研究参加病院で生まれた乳児3,441人における前向きコホート研究。募集時、母親に2013/14シーズンにおけるインフルエンザワクチン接種状況についてアンケートした。2013/14シーズン終了後に追跡調査を行い、乳児のインフルエンザ診断と入院に関する情報を収集した。 主な結果は以下のとおり。・2013/14シーズン中、71人(2%)がインフルエンザと診断され、13人(0.4%)はインフルエンザで入院した。・母親のインフルエンザワクチン接種(とくに出生前)は、乳児のインフルエンザの減少効果を示した。・出生前ワクチン接種のワクチン有効性は61%(95%信頼区間:16~81%)、産後ワクチン接種のワクチン有効性は53%(同:-28~83%)であった。・母親のインフルエンザワクチン接種は乳児のインフルエンザ関連入院の減少とも関連していたが、インフルエンザのため入院した乳児数が少なかったため、ワクチンの有効性(73%)は統計的に有意ではなかった。

4297.

造血幹細胞移植後のCMV感染症予防にletermovirは有効か/NEJM

 造血幹細胞移植レシピエントに対する、移植後の抗サイトメガロウイルス(CMV)薬letermovirの予防投与は、プラセボと比較してCMV感染症リスクを有意に減少することが示された。有害事象の発現はプラセボと同程度で、大半が軽度だった。米国・ブリガム&ウィメンズ病院のFrancisco M. Marty氏らが、565例を対象に行った第III相の無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果で、NEJM誌オンライン版2017年12月6日号で発表した。同種造血幹細胞移植後のCMV感染症は、頻度が高い合併症のままで、letermovirは、CMVテルミナーゼ複合体を阻害する抗ウイルス薬として開発された。移植後14週間、letermovirまたはプラセボを投与 研究グループは、2014年6月~2016年3月にかけて、CMV血清反応陽性の造血幹細胞移植レシピエント565例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2対1の割合で2群に分け、letermovirまたはプラセボを1日1回480mg(シクロスポリン投与患者は1日240mg)投与した。投与は移植を受けてから中央値9日後に開始し14週間行った。投与中に臨床的に重篤なCMV感染症(CMV疾患またはCMV血症で先制治療を要した)を発症した患者は、試験薬投与を中止し抗CMV治療を受けた。 主要エンドポイントは、無作為化時点でCMV-DNAが検出されなかった患者における、移植後24週間以内に臨床的に重篤なCMV感染症を発症した患者の割合とした。途中で試験薬投与を中止した患者や、24週時点でエンドポイントデータが得られなかった患者は、主要エンドポイントが認められたとみなして解析に組み込んだ。 フォローアップは、移植後48週まで行われた。CMV感染症の発症、letermovir群37.5%に対しプラセボ群60.6%で有意な差 無作為化時点でCMV-DNAが検出されなかった患者は495例だった。このうち移植後24週時点でCMV感染症を発症した患者(または主要エンドポイントを発生したとみなされた患者)の割合は、プラセボ群60.6%(103/170例)に対し、letermovir群は37.5%(122/325例)と、有意に低率だった(p<0.001)。 有害事象の発現頻度や重症度については、両群でおおむね同等だった。嘔吐を認めたのはletermovir群18.5%に対しプラセボ群13.5%、浮腫はそれぞれ14.5%と9.4%、心房細動・心房粗動は4.6%と1.0%だった。骨髄毒性イベントや腎毒性イベント発生率も、両群で同等だった。 移植後48週時点の全死因死亡率は、letermovir群20.9%、プラセボ群25.5%だった(p=0.12)。

4298.

ペストに気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。今回は前回に引き続いてペストについてです。前回は、主にペストの歴史と疫学について学びました。現在、マダガスカルでアウトブレイク中ッ! とか言っていましたが、いつの間にかほぼ終息していますね。良かった良かった。しかし、またいつペストが流行するかわかりませんから、最低限の知識は持っておきましょう!ペストは「一類感染症」 疑ったら保健所に!はじめに重要な点ですが、ペストはわが国では「一類感染症」に指定されています。一類感染症と言えば、数年前に問題となったエボラ出血熱などと同じ括りになります。つまりッ! ペストが疑われた場合は、ただちに保健所に連絡して、特定感染症指定医療機関(全国に4施設)または第一種感染症指定医療機関(おおむね各都道府県に1施設)に転送し、隔離の上で診断・治療を行うことになります。自分の病院で診てはいけないのですッ!ところで漫画『リウーを待ちながら』(作・朱戸アオ/講談社)というペストを扱った作品をご覧になったことがありますでしょうか(本書でのCOIはありません)。これは日本のS県横走市という架空の自治体でアウトブレイクした多剤耐性(!)ペストと闘う話で、まぁ確かに面白いです。面白いんだけど…ペストだっつってんのに普通の総合病院で診療をしてるんですッ! 感染症法を完全無視ッ! 肺ペスト患者が普通に大部屋で入院ッ! 患者を隔離せんかい、隔離ッ! まあ飛沫感染ですから、厳密には個室隔離は不要だとは思いますが、一応法律上は隔離が必要です、はい。つーか、本来は、保健所に連絡して転院って流れになるんですが、そのまま自分の病院で診ちゃってるっていう…。良い子は絶対にマネすんなよっ! ていう内容です。ペストの感染経路のまとめさて、それはともかく前回ペストの感染経路について「腺ペストはノミに刺されることによって感染する」「腺ペストの患者の体液に曝露するとヒト-ヒト感染が成立する」「肺ペストの感染者やげっ歯類から飛沫感染によっても感染する」とご紹介しました。我ながら、何がなんだかわかりませんので、もう少し詳しくペストの感染経路についてご紹介したいと思います。図1はペストの感染経路について超絶わかりやすく示したものです。ペスト菌は、流行地域において野生のげっ歯類とノミの間をサイクルしています。なお、野生のげっ歯類がペストに感染して死亡した場合、土壌にペスト菌がプールされることがあります。野生のげっ歯類(あるいはヒト)が、この土壌の粉塵を吸入することで感染することがあります。画像を拡大するヒトへの感染経路は、要約しますと、1)ペスト菌を持つ野生環境でノミに吸血される2)ペストに感染した野生環境でげっ歯類(またはその死体)と直接接触する3)屋内・人間社会に生息するペストに感染したげっ歯類(またはその死体)と直接接触する4)ペスト菌に汚染された土壌の粉塵を吸入する5)肺ペストの患者からの飛沫感染の5つがあります(厳密にはほかにも感染動物の食肉を生で食べる、とかもあります)。基本的には、このうち1)~3)では腺ペスト、4)と5)では肺ペストを発症します。ペストの主な症状腺ペストは、ペストの80~90%を占めるといわれており、通常は曝露してから1~7日の潜伏期間の後に高熱、頭痛、嘔吐、ノミに刺された部位の所属リンパ節の腫大と疼痛などの症状が出現します。肺ペストは、腺ペストに比べると潜伏期が短く、急激に進行する呼吸困難、血痰などの呼吸器症状が急激に進行します。ペスト全体に対する割合は、数%とされていますが、2017年のマダガスカルのアウトブレイクでは、肺ペスト患者がより多くの割合で報告されています。いずれの病型も敗血症を起こし、全身に出血斑、壊死が出現することがあります。ペスト敗血症に至ると、治療を行わなければ数日~1週間程度で致死的になります。ペスト全体の10%程度が敗血症に至るとされています。図2は米疾病対策センター(CDC)の医師が撮影したペスト敗血症の臨床写真ですが、手指末端が壊死しています。これが「黒死病」と呼ばれた所以ですね。画像を拡大するペストの診断と治療ペストの診断ですが、ペストはペスト菌(Yersinia pestis)による細菌感染症ですので、ペスト菌を証明することで診断されます。血液、リンパ節、喀痰、病理組織などそれぞれの病態に応じた感染臓器の検体からの分離同定、蛍光抗体法での抗原検出、PCR法による遺伝子検出などによる病原体検出により確定診断となります。しかし! 何度も申しあげますが、ペストが疑われる場合は、保健所にただちに連絡すべしッ! ですので不用意に診断しちゃわないようにご注意ください。治療は抗菌薬が有効です。ストレプトマイシン、ドキシサイクリン、クロラムフェニコールといった「動物由来感染症によく使う系抗菌薬」で治療を行います。最後に予防ですが、残念ながらペストには有効なワクチンが現在ありません。ペスト発生国では、ネズミなどのげっ歯類、ノミ、ペストからの感染可能性のある患者や死体に接しないことが大切です(誰もそんなこと好き好んでしないと思いますが)。 また、入院患者対応としては、肺ペスト患者からは飛沫感染があるので、サージカルマスクの着用が有用です。ということで、2回にわたりペストについてお送りいたしました。次回こそは「バベシア症」についてご紹介したいと思います。1)Jonathan Cohen, et al. Infectious Diseases 4th Edition.Elsevier.2017.2)World Health Organaization. Plague: Fact sheet.

4299.

生物学的製剤がSLE治療へ

 グラクソ・スミスクライン株式会社は、2017年11月28日、都内において「女性のライフコース選択に影響を及ぼす難病 全身性エリテマトーデス(SLE)治療における生物学的製剤への期待」をテーマにメディアセミナーを開催した。 セミナーは、同社から発売予定のベリムマブ(商品名:ベンリスタ)が、9月27日に製造販売の承認を取得したことを機に開催されたものである(薬価収載は11月22日)。セミナーでは、全身性エリテマトーデス(以下「SLE」と略す)の最新知見の講演のほか、同薬剤の説明も行われた。諸刃の剣のステロイド治療 はじめに竹内 勤氏(慶應義塾大学医学部 リウマチ膠原病内科 教授)が、「全身性エリテマトーデス(SLE)」をテーマに講演を行った。 SLEは、膠原病の原型で自己免疫病、結合組織病、リウマチ病の3要素が交差する難病であり、特徴的な症状として白血球減少、低補体血症、蛋白尿を呈する。推定患者数は6万人とされ、男女比では1:8と女性に多く発症する。 その多くは孤発性で、地域差はないが遺伝的要素は否定できないという。発症機序としては、ウイルス感染、紫外線、薬剤などの環境要因とHLAなどの遺伝要因の作用が考えられ、そのためにトレランス破綻、アポトーシス欠陥などが起こり、自己抗体の生成、免疫複合体、サイトカインの発生などが誘発されると考えられている。 診断では、次の臨床症状と抗体検査により確定診断される。SLEでは多彩な臨床症状を示し、発熱、関節炎、頬部紅斑(蝶形紅斑)、日光過敏、レイノー現象、腎障害などが現れる。とくに腎症状は50%近くで発生する。増悪と寛解を繰り返すSLEでは、ステロイド治療も相まって他の臓器ダメージを蓄積するために、臓器障害への対応が重要だという。 SLEの予後向上のポイントとしては、1)疾患活動性の速やかなコントロール、2)感染症、血管合併症対策、3)ステロイドの副作用を最小限にすることが求められ、治療でのステロイド減量をいかに行うかが課題だと指摘する。ステロイド減量ができ、再燃させないことへの期待 SLEの治療は、重症度に応じてプレドニゾロンによるステロイド療法が行われ、現在では大量に短い期間で投与する傾向にある。また、ステロイド単独での寛解導入も減少し、最近では免疫抑制薬との併用が増加しているという。 こうした治療環境の中で登場した生物学的製剤ベリムマブは、Bリンパ球刺激因子(BLyS)を標的とし、B細胞の生存の延長や増殖の補助刺激および抗原提示機能などを抑制する作用により、SLEの疾患活動性を低下させる治療薬である。 最後に竹内氏は、「こうした治療薬が登場することで、重症病態に有効で、活動性残存症例を寛解に導き、その状況を維持できる(再燃しない)効果があり、長期的なQOL改善が達成されることを期待したい。また、今後は転帰を指標とした評価も必要になる」と展望を語り、レクチャーを終えた。SLEの症状コントロールを容易に 続いて、ベリムマブの特徴について、同社の杉浦 亙氏(メディカル・アフェアーズ部門)が次のように説明を行った。 ベリムマブは、BLySに結合することで自己抗体の産生を抑え、SLEの疾患活動性を低下させる効果をもたらす。対象はSLEの既存治療で効果不十分な患者で、点滴製剤と皮下注製剤を提供するとしている。海外では2017年6月時点で、点滴製剤は70ヵ国以上で承認されている。 第III相国際共同試験(BLISS-NEA試験)は、疾患活動性を有するSLE患者707例をベリムマブ併用群とプラセボ併用群にランダム化し、SRI4(SLE Responder Index4)レスポンダー率、再燃率、ステロイド累積投与量、疲労感を最終評価として52週にわたり行われた。 SRI4レスポンダー率について、ベリムマブ併用群はプラセボ併用群に比べ約13%高く(p=0.0001)、再燃率ではベリムマブ併用群がプラセボ併用群に比べ約12%低下していた(p=0.0003)。また、ステロイドの累積投与量もプラセボ併用群4,758.13mgに対しベリムマブ併用群は4,190.00mgと有意に減少し(p=0.0005)、疲労感(FACIT-Fatigueスコア)の平均変化量はプラセボ併用群2.07に対しベリムマブ併用群4.77と有意に改善されていた(p<0.0003)。 また、安全性では、有害事象発現数に両群で差はなかった。

4300.

血小板輸血後に女児死亡、厚労省から注意喚起

 2017年11月29日、血小板製剤輸血による細菌感染が疑われていた症例について、患者の死亡が確認されていたことが、厚生労働省の有識者会議にて報告された。患者は、急性骨髄性白血病の再発に対する同種骨髄移植を受けた10歳未満の女児。移植の約1ヵ月後に、血小板製剤の投与が行われ、投与20分後より振戦、呼吸促拍の出現により投与が一時中止された。その後、投与が再開されたものの、嘔吐、下痢により再び中止に至った。女児は投与後4日目に一時心肺停止状態となり、投与後1ヵ月6日目、敗血症性ショックによる多臓器不全で死亡した。 今回、女児が投与されたのは、「照射濃厚血小板-LR」(採血後4日目)20mlで、その後の検査により、残りの製剤および女児の血液から同一の大腸菌が同定された。担当医は「細菌感染と輸血血液との因果関係はあると考えられる」との見解を出している。 この問題に関して、厚生労働省は12月4日付で、血小板製剤使用時の安全確保について都道府県などに向けた通知を出した。 主な内容は以下のとおり。・少なくとも輸血開始後約5分間は患者の観察を十分に行い、約15分経過した時点で再度観察を行う。・輸血には同種免疫などによる副作用やウイルスなどに感染する危険性がありえるので、他に代替する治療法などがなく、その有効性が危険性を上回ると判断される場合にのみ実施する。・輸血を行う場合は、その必要性とともに感染症・副作用のリスクについて、患者またはその家族などに文書にてわかりやすく説明し、同意を得る。

検索結果 合計:5550件 表示位置:4281 - 4300