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出生前検査、胎児異常例対応に医療者の75%が「葛藤」

 妊娠後に胎児の染色体異常を調べる「出生前検査」は手軽になり、多くの妊婦が受けるようになった一方で、検査を手掛ける医療機関が増え、適切な検査前の説明や遺伝カウンセリングがされないなどの問題が生じていた。これを受け、2022年に日本医学会による新たな「出生前検査認証制度」がスタートし、こども家庭庁は啓発事業によって、正しい知識の啓蒙と認証を得た医療機関での受診を呼びかけている。 この活動の一環として2024年3月に「『出生前検査』シンポジウム」と題したメディアセミナーが開催された。本シンポジウムにおける、聖マリアンナ医科大学・臨床検査医学・遺伝解析学の右田 王介氏と昭和大学・産婦人科の白土 なほ子氏の講演内容を紹介する。右田氏講演「出生前検査に関する基本情報と取り巻く環境」――出生前検査にはさまざまな種類がある。なかでも、2010年代に母体の採血のみで実施可能な「母体血中遊離核酸によるNIPT(Non-Invasive Prenatal Testing:非侵襲的出生前検査)」の受検が広がり、注目を集めている。このNIPTは妊娠9または10週以降に採血を行い、胎児の21トリソミー(ダウン症候群)、18トリソミー、13トリソミーの可能性を判断するものだ。 検査が広がった背景の1つに、染色体数に伴う疾患と出産年齢との関係がある。新生児の染色体異数性の頻度は妊婦の年齢と共にわずかずつだが増加する。一般に母体が35歳以上の出産を高年出産と呼ぶが、2000年頃には1割とされていた高年での出産は、2022年には約30%となった。母親の年齢によって染色体異常が急増するわけではないものの、不安を感じる妊婦が増えている。 NIPTは、母の採血のみで実施でき、検査としての安全性や検査特性が優れている。妊婦やその家族は胎児の健康を願い、検査から安心を得たいと考えているが、NIPTは胎児の疾患診断につながる検査であることに注意が必要だ。結果には偽陰性や偽陽性も含まれ、その確定には羊水穿刺など侵襲的検査が必要となる。 また、NIPTは羊水穿刺や母体血清マーカーといった検査に比べ、より早い妊娠週数で検査が実施される。検査実施には十分な情報提供と熟考が必須であるにもかかわらず、妊婦や家族が意思決定に掛けられる時間は短い。 加えて、NIPTの原理は将来さまざまな遺伝性疾患に応用される可能性があり、このことで遺伝的な個性を排除するという社会の動きが加速する可能性がある。出生前検査の実施や選択に、女性の生殖に関する自己決定権が強調されることもあるが、検査を検討し選択する責任は母親だけが負うべきものではない。より広く議論することが必要である。 NIPTについての意思決定は時間を掛け、慎重に行われるべきだ。出生前検査の施設認証では専門外来で検査前から十分な遺伝カウンセリングを行うことを求めている。また日本小児科学会では2022年4月に出生前コンサルト小児科医の認証制度をスタートさせた。妊婦やその家族の希望に応じ、検査実施前から小児科医の立場からの情報提供を行うことができる。このような支援制度もぜひ活用いただきたい。白土氏講演「出生前検査に対する支援体制における現状とこれから」――認証制度の前身となる日本医学会の「出生前検査認定施設」は2013年の制度スタート時は15施設だった。2022年7月に要件を緩和した「出生前検査認証制度」となってから登録施設数は急増し、2023年10月時点の認証施設は478施設となっている。認証施設は遺伝カウンセリングができる体制にあり、出生前コンサルタント小児科医との連携、検査についての情報提供と意思決定支援、検査後のフォロー体制を持つことなどが条件となっている。 白土氏らが認証制度開始前後にNIPT受検者を対象とした調査を行ったところ、「どこで検査を受けたか」という質問に対し、「認定・認証施設」が50%強、「非認定・認証施設」が20~30%、残りは不明という回答分布で、これは制度開始前後で大きな変化はなかった。「何を重視してNIPTを受ける施設を決めたか」という質問に対しては、「認定・認証施設」の受検者は「検査前のカウンセリングがある」「かかりつけ医の紹介」といった回答が多かった。一方で、「非認定・認証施設」の受検者は「口コミがよい」「ネット予約が可能」「アクセスがよい」といった回答が目立った。 同時期に、NIPTを提供する医療機関と医療者個人(医師、看護師・助産師、遺伝カウンセラー等)へのアンケート調査も行った。1次調査として医療機関に対してハード面に関するアンケートを行い、同意が取れた施設に2次調査として医療者個人にNIPTへの対応経験を聞いた。調査は2021年10~12月に行い、1次調査は316施設、2次調査は204人が回答した。 出生前検査で陽性になった症例について、「自施設で対応しているか」という設問に対し「対応している」と回答したのは316施設中71%、うち半数強の57%が「自施設内で決めた基本的な対応方針やルールがある」とした。「対応している」施設では妊娠を継続した場合の実施項目として「NICU/小児科との連携」「院内カンファでの症例共有・検討」「自治体・行例との連携」などの項目に「必ず行う」「症例によって行う」とした施設が多かった。一方で、「患者会・当事者会の紹介」「精神科/心療内科との連携」は「必ず行う」「症例によっては行う」とした施設数が少なかった。 中絶を選択した場合、「助産師との面談」は9割近くの施設が「必ず行う」「症例によっては行う」と回答し、「産婦人科の臨床遺伝専門医の診察」も7割程度が「必ず行う」「症例によっては行う」と回答したが、中絶時は妊娠継続時より全体として実施項目が少ない傾向にあった。 医療者個人へのアンケート調査では、「陽性例の対応業務」は「自身の職種として当然の業務」とした回答が99%を占めたが、「できれば避けたい業務」と考える回答者も3割程度存在した。さらに「検査陽性例についての自身の業務」について「葛藤がある」とした医療者が75%に上り、その要因として「時間的な制約がある」「予後予測が困難」「個別化した対応が必要」といった理由を挙げる人が多かった。 総合して、2021年10月時点では出生前検査を行っているものの陽性例には対応していない施設が3割あり、陽性例対応施設においても一定の方針を定めていない施設が半数程度あることがわかった。検査へのアクセス強化のために受検施設を増やすと同時に、地域連携の充実、基幹施設における他診療科を含めた連携による支援体制の強化が望まれる。 また、施設での支援者が葛藤(精神的負担など)を抱いている実態もわかった。ケアが担当医療者個人の努力に依存して行われている状況がうかがえた。医療者の心のケアも含めたサポート体制の充実が必要であるとともに、ケアを担う医療スタッフの負担軽減策も必要だと考えられる。 本調査の結果は「出生前検査に関する支援体制構築のための研究」報告書として、事例の紹介とともにサイトで公開されている。

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統合失調症における安静状態と作業状態の機能的接続異常

 統合失調症の主な病理学的仮説として、聴覚処理障害と大脳ネットワーク内の接続不全が挙げられる。しかし、多くの神経画像研究では、統合失調症患者の安静状態またはタスクに関連した機能接続障害に焦点が当てられている。九州大学の高井 善文氏らは、統合失調症患者の聴覚定常状態応答(ASSR)タスク中の血中酸素濃度依存性(BOLD)シグナル、安静状態およびASSRタスク中の機能的接続性、安静状態とASSRタスクの状態変化について、検討を行った。The European Journal of Neuroscience誌2024年4月号の報告。 対象は、統合失調症患者25例および健康対照者25例。スキャナーノイズによる機能への影響を軽減するため、安静状態およびスパースサンプリング聴覚fMRIパラダイムを採用した。聴覚刺激は、周波数20、30、40、80Hzのバイノーラルクリックトレインとした。検出されたASSR誘発性BOLDシグナルに基づき、安静状態とASSRタスク状態における視床と両側聴覚皮質の機能接続およびそれらの変化を調査した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者では、80HzでASSRタスク中に視床および両側聴覚皮質でBOLDシグナルの有意な減少が認められた(補正済みp<0.05)。・統合失調症患者の視床聴覚ネットワーク内の機能的接続の変化において、安静状態とASSRタスク状態とでは、有意な逆相関が認められた。・統合失調症患者では、安静状態の機能接続性がより強く(p<0.004)、ASSRタスク中の機能的接続性の低下が認められ(p=0.048)、これは異常な状態変化により媒介されることが示唆された。 著者らは、「統合失調症患者における安静状態と作業状態との移行の欠陥に関連する異常な視床皮質接続の存在が示唆された」としている。

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孤食は高齢者の自殺リスク【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第255回

孤食は高齢者の自殺リスクillustACより使用日本は比較的自殺が多い国であり、とくに高齢者の自殺が多いとされています。私は、独りで食事をすることはそんなに寂しいとは思いませんが、高齢になってくると、どうやら孤食は自殺のリスク要因になるようです。社会的孤立と高齢者の自殺リスクの関連を明らかにするため、日本の12の自治体に住む65歳以上の高齢者約4.6万人を対象に、7年間の追跡調査を行った大規模な前向きコホート研究を紹介しましょう。Saito M, et al.Social disconnection and suicide mortality among Japanese older adults: A seven-year follow-up study.Soc Sci Med. 2024 Mar 11;347:116778.この調査でわかったことは、孤食が自殺リスクを高めるということです。抑うつなどの交絡因子で調整しても、独りで食事をする高齢者は、誰かと一緒に食事をする高齢者と比べて、自殺リスクが2.81倍高いことが示されました(ハザード比:2.81、95%信頼区間:1.47~5.37)。社会的孤立の指標が重なるほど自殺リスクが上昇していき、複数項目が該当する孤立者は自殺リスクが非常に高いという結果になりました。このことから、日本では毎年約1,800人の高齢者が「孤食に関連した自殺」で亡くなっている可能性があると書かれています。社会のつながりが大事だよ、と言いながらも、お隣さんのことを気にかける人は減っており、マンションなどでは隣に誰が住んでいるか知らないこともある時代です。何か解決策があればよいのですが、SNSを使った試みや、体操・サロンなどの充実くらいしか思いつきません。ただ、「自宅に閉じこもっているほうが精神的にラクだ」と思っている人は、他者との関わりをそもそも持とうとしないので、根本的に行政などが解決策を講じることは難しいかもしれませんが…。

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日本における抗CGRP抗体の使用状況~日本頭痛学会会員オンライン調査

 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)モノクローナル抗体は、片頭痛治療の選択肢を大きく変えた。しかし、日本ではCGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(1ヵ月当たりの片頭痛日数[MMD]が4日以上および予防的治療の失敗が1回以上)はよく知られているものの、抗CGRP抗体のリアルワールドでの使用および関連する頭痛ケアの状況については、よくわかっていない。慶應義塾大学の滝沢 翼氏らは、日本における抗CGRP抗体の使用経験および使用の意思決定について、調査を行った。The Journal of Headache and Pain誌2024年3月15日号の報告。 日本頭痛学会会員を対象にオンライン調査を実施し、抗CGRP抗体の使用経験およびその使用に関連する意思決定方法について調査した。 主な結果は以下のとおり。・回答者397例中320例が抗CGRP抗体を使用していた。・抗CGRP抗体を推奨するうえで、過去の予防的治療失敗回数の閾値は、2回(170例、54.5%)が最も多く、次いで1回(64例、20.5%)であった。・MMDの閾値は、4以上71例(22.8%)、6以上68例(21.8%)、8以上76例(24.4%)、10以上81例(26.0%)であった。・回答者は3ヵ月後に治療効果を評価する傾向があった(反復性片頭痛:217例、69.6%、慢性片頭痛:188例、60.3%)。・抗CGRP抗体のコストが処方制限の要因と考えられ、多くの回答者は、抗CGRP抗体に対するさまざまな要求(27.7%)、治療反応者が抗CGRP抗体を中止する最も多い理由(24.4%)を挙げていた。 著者らは、「日本において抗CGRP抗体は、多くの場合、予防的治療の失敗が2回以上、次いで1回以上であった。MMDは、ほとんどが4~10の範囲で使用されていた。また、抗CGRP抗体の使用に際しては、コストへの懸念が挙げられる」と報告した。

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うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法の有用性

 うつ病患者は不安症状が高頻度でみられ、そのような患者では抗うつ薬に対する治療反応が低下し、機能的な悪影響につながる恐れがある。カナダ・トロント大学のRoger S. McIntyre氏らは、不安症状を伴ううつ病患者における補助的ブレクスピプラゾール治療の抑うつ症状および機能に対する有効性を評価するため、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(RCT)の事後分析を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2024年3・4月号の報告。 うつ病患者および抗うつ薬治療で効果不十分な患者を対象に、補助的ブレクスピプラゾール治療6週間RCT3件よりデータを抽出した。患者は、DSM-Vの不安による苦痛(anxious distress)に準じて層別化した。ベースライン時から6週目までのMontgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)の項目スコアおよびシーハン障害尺度(SDS)の平均スコアの変化について、補助的ブレクスピプラゾール治療群(2mg、2~3mg)とプラセボ群で比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時に不安による苦痛を感じていた患者は、746例中450例(2mg分析:60.3%)および1,162例中670例(2~3mg分析:57.7%)であった。・不安による苦痛を伴ううつ病患者において、補助的ブレクスピプラゾール治療群は、プラセボ群と比較し、MADRSの項目スコア(悲しみ)の改善が認められた(p<0.05)。悲しみ、内面的緊張、睡眠の減少、食欲低下、倦怠感、無感情、悲観的思考の改善が報告された(Cohen d エフェクトサイズ:0.18~0.44)。・同様に、SDS平均スコアの改善も認められた(エフェクトサイズ:0.21~0.23)。 著者らは「補助的ブレクスピプラゾール治療は、抗うつ薬治療で効果不十分なうつ病患者および不安による苦痛を伴う患者において、中核症状である抑うつ症状や睡眠、食欲、機能の改善に有効であることが示唆された」としている。

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名を変え、実を取りたい「エンディングノート」【外来で役立つ!認知症Topics】第16回

高齢化社会になってから、われわれが若い頃と比べると、テレビ、新聞や書籍のターゲット層の年代はぐっと高まった。NHKの歌謡番組などは、懐メロ一色に見える。私はときに、出版社などマスコミの関係者で、高齢者向けの記事や番組制作の担当者とご一緒させていただく。近年、こうした方々にみられがちな傾向があると思っている。どなたも「高齢者への配慮と敬意」を示す言葉遣いをなさる。ところが、以前から言われてきた「老いの神話」、つまり老いた者への軽視・哀れみという価値観は、現代の彼ら・彼女らにも伝わっているように感じてしまうのである。70歳代の知人から次のようなお手紙をいただいた。「年寄り向けの本がいろいろ出るのはありがたい。しかし70歳にもならない筆者に、われわれ高齢者の気持ちがわかっているとは思えない。まして編集など出版の実務に携わり、売れ行きを考えるのは30~40代の若手だろう。だから現実離れしたことが、堂々と世間に流布している」と。これに似たコメントは結構多い。「エンディングノート」という名称の違和感ところで「エンディングノート」という名を初めて聞いたときの第一印象は、なんと粗雑で気配りのない名前だろうという不快感だった。その意味はわかる、しかし何と当事者への配慮を欠く命名かと感じた。要は「あんた、もうすぐ終わり。相続などで皆を喜ばせ、また迷惑をかけないように」だよね、と。この印象は今でもまったく同じだ。ならばせめて日本語では、「未来への連絡帳」とか、「賢者の一筆」とか当事者の気持ちが少しは明るく前向きになるものに変えてほしいものだ。さて聞くところでは、この種の出版物は、とくに敬老の日の前後に書店では目立つ場所に置かれるようだ。この時期に限らず、全国の書店では、比較的安定した売れ筋の商品だと聞く。そして買う人は、1回きりでなく繰り返し購入するリピーターになる傾向もあると。その最大の理由は、買って、書き始めても書き終えないからだ。あるいは「あの頃はそう思って書いたけど、今は違う考えになった」という声もあった。いずれにせよ完成する確率は低い。そもそもエンディングノートを書く意味はどこにあるのだろうか? ある専門家が簡潔に話してくれた。目的は、「こんな場合はこうしてほしい」と、老い先を託す人にできるだけ負担をかけずに支援を具体的に依頼することだ。立場を変えると、老い先を託された人が困らないようにする予告メッセージとも言える。そこでは課題ごとの要望を述べるのはもとより、できる限りその財源を明示すべきだろう。いずれにしてもこの種のことは、積極的に考えたくない事柄。それだけに明文化されたものを前にして向き合えば、双方の覚悟が多少とも定まると教わった。何を書くべきか? 必要最小限の4項目そこでは何を書くべきか? この種の本を読むと、ものによっては圧倒されるほど多くの項目が並んでいる。しかし筆者は自分事として考えたとき、次の4項目が必要最小限だと思う。まず認知症などになったときの介護・施設。また終末期医療についての希望も不可欠だろう。そして財産・相続の重要性は言うまでもない。最後に葬儀と役所等への各種の届け出も欠かせない。これらの回答に先立つ最大のポイントは子供の数だろう。1人なら簡単だが、2人以上だと難易度が高まる。経験的に考えると、終末期のケアをお子さんたちが平等にシェアするのは例外的で、誰か中心になるお子さんがいるのが普通である。中心役を誰に託すかで、悩む人は多い。託したい人には他の子より遺産分配が多くなるのが当然だろう。となると誰しも自分亡きあとの子孫間の確執を連想する。「難し過ぎる」、「想像がつかない」、「考えたくない」となって、「うまくやってくれるはず」で終わってしまう。さて問題はここからだ。実行が難しくても書き上げなくてはならない。この領域の専門家は次のように述べる。まず遅くとも75歳までには仕上げること、さもないと仕上げへの意欲も合理的な判断力も失われてしまうから。次に、当事者である親子の話し合いが出発点だが、信託銀行など企業を排除することだと言う。なぜなら企業の関与は当事者にとって得でないことが多いからだそうだ。したがって、合法的、合理的な生前贈与を勧める。ちなみに、筆者は最近、『徒然草』において吉田 兼好が生前贈与を勧めていると知った1)。これらが当事者の努力なら、行政や法曹界からも工夫が必要だろう。まず家庭の人間模様に応じた典型例のケーススタディは欲しい。それぞれのポイント解説や法的・制度的なレクチャーは不可欠だ。また個々人の「考えたくない」点を中心に相談し、解決策を探るには、有資格のコンシェルジュの育成や制度も要るだろう。加えて多くの国民に、これは自分事と思っていただかねばならない。過去に自死予防のためにうつ病の初期発見に注目した「お父さん眠れている?」いうキャッチフレーズが広まった。この先例に倣って、ご本人が当事者で国民なら誰でもが知っている著名人に「私はこうやって書き終えました」とやってもらえないかと愚考する。参考1)吉田 兼好. 『徒然草』第百四十段「身死して財残る事は、智者のせざる処なり」.

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第208回 「地域ごとの医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代に入ってきた」と武見厚労大臣、地域偏在、診療科偏在の解消に向け抜本策の検討スタート

医師の偏在対策はこれからの医療政策の大きな課題にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。日本のプロ野球では、中日ドラゴンズの好調が続いています。4月15日時点の勝率は8勝4敗2分の6割6分7厘でセ・リーグ1位。2年連続最下位のチームとは思えない快進撃ぶりです。昨年、“令和の米騒動”で話題となった立浪ドラゴンズについては、この連載の第206回で「今年もAクラス入りは厳しいのではと感じた次第です」と書いたばかりで少々戸惑っています。やはり、中田 翔選手の加入(打点増)がプラスに働いているのかもしれません。本来の“ドラゴンズらしさ”が出てくるまで、もう少し様子を見てみたいと思います。さて今回は、先週の日曜日(4月7日)の朝、NHK総合で放送された「日曜討論」での武見 敬三厚生労働大臣の「地域ごとに医師数割当」発言について書いてみたいと思います。2024年の診療報酬改定・介護報酬改定の同時改定も終わり、医療の世界では中長期的な制度改革の議論が始まっています。医師の地域偏在や、診療科での偏在はこれまで幾度も議論が行われてきましたが、決定的な解決策は出ていません。次の“地域医療構想”の議論も始まった中、医師の偏在対策は、これからの医療政策の大きな課題になってくるかもしれません。「医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことを我が国もやらなければならない段階に入ってきた」と武見厚労相4月7日放送の「日曜討論」は「医療」がテーマでした。武見厚労相のほか、横倉 義武日本医師会名誉会長ら専門家が議論しました。この中で武見厚労相は、医師の偏在対策について「今まで、入学試験に地域枠を設けるなど色んな試行錯誤をしてきたがまだまだ偏在を解消できない。ここまで来ると、地域において医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代となった。したがって、医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことを我が国もやらなければならない段階に入ってきた」と述べ、地域偏在や診療科偏在の是正を、これまでとは違ったやりかたで検討していくべきだという考えを示しました。「地域において医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代となった」「医師の偏在を規制によってきちんと管理していくことをやらなければならない」といった発言は、厚労相としては相当踏み込んだ発言と言えます。実際、この発言はNHKの番組内でのものにもかかわらず、4月7日付の朝日新聞デジタルや、4月8日付の日本経済新聞でも報道されました。日本経済新聞の記事のタイトルは、「医師の偏在『規制で管理』」というもので、国が医師数を「規制する」に力点が置かれていました。その後、武見厚労相の発言はさらに勢いを増します。4月15日付の朝日新聞の報道によれば、武見厚労相は、この日開かれた衆院決算行政監視委員会で「単に医師の増員によって医師不足が解消できるかといったら、そうではなかった。規制を含めて、前例にとらわれない方法で問題を解決する政治的リーダーシップが必要」と述べ、医師偏在問題を解消するため規制の導入も視野に入れ、年末までに具体策をまとめる方針を示し、厚労省内に検討チームの設置を指示したとのことです。ちなみに、朝日新聞デジタルは4月15日付で、「『医師偏在を規制で管理』 役人も仰天の武見厚労相発言 本気度は?」というタイトルの記事を配信、「武見氏の発言は省内に波紋を広げた。厚労省幹部は『憲法違反になる。大臣の頭の中はさっぱりわからない』と話す。別の幹部も『医師会からどれだけ反対されると思っているのか。国が強制的に割り当てるなんて無理だ』と驚く」と厚労省内の戸惑いを報じています。朝日新聞報道によれば、武見厚労相は、政府が毎年6月にとりまとめる「骨太の方針」に大きな方向性を盛り込み、年末までに具体的な方向性を提示する考えとのことです。「三位一体改革」の一つ、「実効性のある医師偏在対策の着実な推進」医師の偏在対策については、国も手をこまねいてきたわけではありませんが、実際のところ、実効性に乏しいものばかりでした。コロナ禍の前まで、厚労省は2040年を展望した医療提供体制の改革として、盛んに「三位一体改革」という言葉を使っていました。当時は、2025年を目標年とした地域医療構想の実現に取り組みはじめたところで、政府は少子高齢化の進展、人口減に伴う医療人材の不足などにも対応するため、「地域医療構想の実現」、「医師・医療従事者の働き方改革の推進」、「実効性のある医師偏在対策の着実な推進」の3つを同時に進めることが重要だと考えていました。この方針は基本的に今でも踏襲されています。「医師の働き方改革」は本年度からいよいよスタート、「地域医療構想」も来年に目標年を迎えます。この2つの施策は一応進展を見せている一方で、「医師の偏在対策」だけは、その効果はほとんど出ていないのが現状です。そうした中で期待されているのが、2024年度から各都道府県で始まった「第8次医療計画」です。この中には「医師確保計画」が含まれており、これは2次医療圏を医師多数区域(医師偏在指標に照らして上位3分の1)、中間の区域、医師少数区域(同下位3分の1)に3区分し、地域の区分に応じた「医師確保計画」を作成する、というものです。地域枠の確保や、2次医療圏・3次医療圏間の医師の融通などが計画されている模様です。とは言うものの、全国レベルでの医師偏在が解決されない状況では、都道府県がどれだけ計画を立てても、その地域の医師数が足りていなければ計画の実現は困難です。武見厚労相の発言は、医療計画での医師確保計画の実現を後押しするため、国による規制の導入の必要性を訴えたものだと言えるでしょう。地域偏在と併せて深刻な診療科の偏在医師の地域偏在と併せて深刻なのは、武見厚労相も言及していた「診療科の偏在」です。3月19日、厚生労働省は「医師・歯科医師・薬剤師統計」の最新結果を取りまとめ、公表しました。それによると、全国の医師数は34万3,275人で、前回調査(2020年)に比べ1.1%増加。人口10万対医師数は274.7人で、前回に比べ5.5人増加しました1)。この調査では「従事する主たる診療科」も調べています。それによれば、前回調査時(2020年)と比較して医師数が増えた診療科は、美容外科(対前回比132.4%)、アレルギー科(110.7%)、産科(108.3%)、形成外科(106.8%)など。一方で医師数の減少が大きかったのは気管食道外科(95.4%)、小児外科(95.7%)、外科(96.7%)、心療内科(97.5%)、耳鼻咽喉科(97.7%)などでした。最近話題となっている、高収入で業務も比較的ラクな美容外科への転身が増えているのは、日本の医療提供体制にとって由々しき事態だと言えるでしょう。危機感を募らす医学会、「2023年度の調査で美容領域で医学部2つ分に相当するような多数の新規の医師採用があった」と指摘こうした現状に対し、日本の医学会も危機感を募らせています。2023年12月21日、142の学会で構成する日本医学会連合(門脇 孝会長)は、武見厚労相ら4大臣に「専門医等人材育成に関わる要望書」を手渡しました。要望書は、専門医の取得・維持と学位取得や研究が両立できる専門医制度と、専門医制度の充実と地域偏在・診療科偏在の課題解決について検討する必要性を指摘、その議論に医学会連合の参画を求める内容です。この中で、診療科偏在については、専門医制度におけるシーリング制度や、将来出てくるであろう類似の規制の問題点として、「職業選択の自由を奪うこと」「医学部卒業生や臨床研修医が十分な臨床的修練を経ずに保険診療以外の領域への大量流出に繋がる危険をはらむこと」「医師たちのモチベーションを下げること」などを指摘しつつも、各診療科の適正数の算定等の議論に各学会が積極的に関与していくという姿勢を見せています。なお、この要望書では、「確定的な数値ではありませんが、2023年度の関係諸機関の調査で、美容領域で医学部2つ分に相当するような多数の新規の医師採用がありました」と、自由診療、とくに医師たちの美容外科への“転向”を憂慮する一文もありました。憲法第22条の「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」という条文が最大のハードルか15年ほど前、当時の舛添 要一厚労相にインタビューしたことがあるのですが、診療科偏在の問題を問うた時、「憲法で職業選択の自由が保障されているからなあ。そこはとても難しい」と答えていたのが印象的でした。おそらく憲法第22条の「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」という条文が、医師数に関する規制を導入するにあたっての最大のハードルになっているのでしょう。というわけで、国、医学会、日本医師会などが議論して、医師の地域偏在や診療科偏在の解消に効果的な“規制”のルールをどこまで導入できるかはまだまだ未知数です。個人的には、医師養成には多額の税金が投入されていること、診療報酬にも税金が入っていること、そして、素人考えですが憲法第22条にある「公共の福祉」は地域の医療提供体制も包含した概念と解釈できそうなことを考えると、医師の診療科選択や配置についても、国の権限である程度のコントロールを行っても問題ないと思うのですが、皆さんいかがでしょう。まさか、韓国のように、医学生や医師のストライキが起きたりはしないと思いますが、もし医師偏在や診療科偏在を是正する何らかの“規制”が実現するとしたら、武見厚労相は、父上・武見 太郎元日本医師会長と同様、日本の医療の歴史に名を刻むことになるでしょう。参考1)医師数統計公表、増えた診療科・減った診療科-厚労省調査

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認知機能低下の高齢者における活動時の疼痛の特徴

 神戸学院大学の中田 健太氏らは、アビー痛みスケール(APS)を用いて、認知機能が低下している高齢者の運動および活動に伴う疼痛を評価し、活動時の疼痛を効果的に反映するサブ項目を特定しようと試みた。Journal of Pain Research誌2024年3月5日号の報告。 富山県・池田リハビリテーション病院の筋骨格系疾患および認知機能低下を有する高齢患者225例を対象に横断的研究を実施した。歩行中または移動中の疼痛の評価には、言語式評価スケール(VRS)およびAPSを用いた。疼痛の有無や程度を最も正確に反映するAPSサブ項目を特定するため項目反応理論(IRT)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・運動に伴う疼痛スコアは、VRSで1.3±1.1、APSで2.5±2.6であった。・IRT分析では、疼痛の最も信頼できる指標として、発声、顔の表情、ボディランゲージの変化が抽出された。・これらの抽出された項目は、内部一貫性が良好であり(Cronbach's α=0.72)、VRSの変化と有意な正の相関が認められ(rs=0.370、p<0.001)、主観的な疼痛がある患者とない患者において有意な差が認められた。 著者らは「認知機能が低下している高齢者の運動および活動時の疼痛を最も正確に反映している指標として、APSのサブ項目である発声、顔の表情、ボディランゲージの変化が挙げられた。運動療法中の疼痛の評価やマネジメントの信頼性を高めるためにも、このようなアプローチは重要である」としている。

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統合失調症治療における抗精神病薬単剤療法と多剤併用療法の有効性

 統合失調症スペクトラム障害患者の抗精神病薬単剤療法と多剤併用療法について、救急での使用状況、興奮や攻撃性を伴う症状、再入院に対する有効性の違いは、いまだ明らかになっていない。トルコ・チャナッカレ・オンセキズ・マルト大学のSukru Alperen Korkmaz氏らは、同患者における抗精神病薬の単剤療法と多剤併用療法のリアルワールドでの有効性を評価するため本研究を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2024年3月5日号の報告。 本研究は、救急受診で入院した統合失調症スペクトラム障害患者669例を対象に、電子健康記録のデータを用いて実施された。対象患者を初回入院時の抗精神病薬使用状況に応じて、(1)抗精神病薬の服薬アドヒアランス不良期間が90日超、(2)同期間が15~90日、(3)抗精神病薬単剤療法、(4)同多剤併用療法の4群に分類した。すべての患者を初回入院後1年以上フォローアップした。主要アウトカムは、初回入院後の抗精神病薬単剤療法群と多剤併用療法群における、すべての原因による精神科入院との関連性とした。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬の服薬アドヒアランス不良群は、単剤療法群または多剤併用療法群と比較し、救急受診率が高く、入院および、興奮や攻撃性を伴う入院が多かった。これらの結果には、単剤療法群と多剤併用療法群で差が認められなかった。・単剤療法群と多剤併用療法群の入院リスクに差はみられなかった。・フォローアップ期間中、退院後の再入院率は、単剤療法群と多剤併用療法群で差が認められなかった。 結果を踏まえて著者らは、「抗精神病薬の単剤療法より多剤併用療法を推奨する明確なエビデンスはなく、治療抵抗性でない患者では、抗精神病薬の単剤療法が多剤併用療法よりも望ましい可能性が示唆された」としている。

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 1

今回のキーワード心の癖(認知バイアス)1位バイアス概念化自閉スペクトラム症統合失調症権威バイアスランキングビジネス比較癖皆さんは、世界一と聞くとワクワクしませんか? さまざまな世界一の記録を集めた本がギネスブック、現在の正式名は「ギネス世界記録」です。そして、これは独自のガイドラインに従って世界一の記録を認定する組織でもあります。それにしても、あの政治家の有名なセリフを借りれば…世界一になる理由は何があるんでしょうか?2位じゃダメなんでしょうか?今回は、ギネスブックを取り上げます。いつもと違い、シネマセラピーのスピンオフバージョン、「ビブリオセラピー」(読書療法)としてお送りします。この本を通して、私たちの心に潜む、1位に過剰な価値を付けたがる心理を掘り下げます。その心理を踏まえて、1位から「天才」を祭り上げる「天才ビジネス」のからくりにも迫ります。さらに、おまけとして、2位以降の順位付け(ランキング)も気になってしまう心理も掘り下げてみましょう。1番であることで過剰に価値が付けられるギネスブックでは、「最も」という言葉によって、大きさ、長さ、多さ、そして速さなどを主に認定しています。たとえば、これまで最も高い身長は272cmで、その人の写真を見たことがある人は多いでしょう。一方、2番目に身長が高い人は知らず、そこまで興味もありません。やはり、1番であることにとくに大きな注目が向きます。実際に、2番目はギネスブックに載りません。しかし、世界で何千番目であっても、日本で1番目となると、また気になります。私たちは、当たり前すぎてあまり気にも留めませんが、明らかに何かで1番であることで過剰に価値が付けられていることがわかります。これは、私たちの心の癖(認知バイアス)です。しかし、このバイアスには名前が見当たりません。近いバイアスとしては、権威によって価値が付けられる権威バイアスが挙げられます。しかし、このバイアスは1位だけでなく、2位以降の人たち、専門家、権力者にもかかり、概念として広いです。また、希で少ないことで価値が付けられる希少性バイアスが挙げられます。しかし、このバイアスは1番ではなくても、ただまれで少ない人や物にもかかり、概念としてやはり広いです。よって、より正確に言えば、「1位による権威と1位以上は1人だけという希少性の両方の要素を併せ持ったバイアス」です。ただ、長たらしいので、この記事では「1位バイアス」と名付けます。逆に価値を付けるために1番になるカテゴリーがつくられるギネスブックでは、走りながら手作業をするなど、2つの行動の組み合わせの「最も」も多数認定されています。また、「最も」多い人数でやる同じ行動も認定されています。さらに、16歳未満の「子供限定記録」の部門も新しくできています。あまりにも細分化されてしまい、「記録のための記録」になっているようにも見えてきます。つまり、もともとあるカテゴリーで1番であることに価値が付けられていたのに、逆に価値を付けるためにあえて1番になるカテゴリーがつくられるようになっています。すごいから1番なのではなく、1番だからすごい(はずだ)という認知的なすり替えが起きています。これは、世界的に有名なあるサッカー選手の名言にも通じます。それは、「強い者が勝つのではない。勝つ者が強いのだ」です。私たちは「強い者」(1番)につい目が行きがちだけど勝負の世界はわからないよというメッセージです。逆に、このような「1位バイアス」をうまく利用することもできます。たとえば、プロフィール紹介で、「大学で首席だった」はわかります。しかし、「全国模試で1位だった」は中身がよくわからないですが、何かすごそうと印象付けることができます。そもそもなんで1番であることで過剰に価値が付けられるの?それでは、そもそもなぜ1番であることで過剰に価値が付けられるのでしょうか? もちろん、特許や著作権などの権利を第一人者に与える法的な場合はわかります。しかし、そうじゃない場合はどうでしょうか?その答えは、脳の解釈装置が働くからです。これは、概念化と呼ばれています。私たちの脳は、社会生活を送る中、すべての体験をそのまま丸ごとは覚えきれません。そのため、ざっくりとしたイメージや言葉(概念)に置き換えています。進化心理学的に考えれば、原始の時代、たとえば「1番のしっかり者が長(おさ)」としてみんなが認めたわけですが、年を取ってしっかりしなくなっても「長(おさ)だから1番のしっかり者」とみんな思い込んでいたほうが、リーダーが簡単に交代せずに部族の上下関係が安定します。「1番助け合うから親友」として認めたわけですが、疎遠になっても「親友だから1番助け合う」と思い込んでいたほうが、協力関係が保てて人間関係が安定します。「1番すばらしい異性が自分の妻(夫)」として選んだわけですが、年月が経っても「自分の妻(夫)だから1番すばらしい」と思い込んでいたほうが、離婚せずに家族関係が安定します。このように解釈(概念化)に偏り(バイアス)があったほうが、部族としてより生き残り、夫婦としてより子孫を残したでしょう。このような「長(おさ)」「親友」「夫婦」などは概念であり、これが、「1位バイアス」という概念化の起源です。これは、「すごい」ということ(概念)にすごいと思うことです。ちょうど、逆の「ダメだ」ということにダメだと思うマイナス思考(回避性パーソナリティ)や、不安であることに不安に思う予期不安(パニック症)と同じ心理メカニズムです。なお、概念化の起源の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 2

実は「天才」は存在しない!?1番であることで過剰に価値が付けられているのは、概念化という脳の解釈装置が働くからであることがわかりました。それは、「すごい」ということにすごいと思うことでした。実はこれは、「天才」という概念に重なります。天才とは、天性の才能、つまり生まれつきのものであり、努力だけでは得られないものとされています。たとえば、「天才物理学者」「天才ピアニスト」「天才プレーヤー」「天才クリエイター」「天才子役」「天才棋士」「天才起業家」「お笑いの天才」のように、突出して何かを達成した人です。しかし、よくよく考えると、このような認知能力にしても身体能力にしても、ある能力について、その達成度のレベルをグラフ化すれば、正規分布になります。より厳密に言えば、正規分布になるようにその能力のレベル分け(判定基準)を意図的に人間がつくっていると言えます。たとえば、お笑いでさえ、漫才や大喜利などを競技化して判定基準を形式としてつくることで可能にしています。その正規分布の最も右端の先細りした部分は、1位であり、1人しかいません。当たり前ですが、ナンバーワンでオンリーワン、いわゆる類いまれです。つまり、天才だから類いまれなのではなく、 類いまれだから天才と呼んでいるだけです。実際の研究では、世界で上位0.03%に入る「天才」と呼ばれる約1,400人のゲノム(全遺伝子配列)の分析を行ったところ、一般人との違いはないとの結果が出ました1)。つまり、天才は「天性(遺伝性)の才能」とされていながら、その遺伝子は突き止められなかったのでした。このことからも、実は「天才はいる」のではなく、私たちが無意識的にも意識的にも「天才にしている」だけであることがわかります。なお、天才とされる人たちは、通常の人と違う飛び抜けた能力を発揮(発達)している点で、自閉スペクトラム症や統合失調症などの非定型発達と関係があることは指摘されています。これらの詳細については、関連記事2、関連記事3をご覧ください。「天才ビジネス」のからくりとは?世の中では、天才とされる人たちに注目が集まり、ビジネスになっています。たとえば、「天才〇〇」の著作や関連の啓発本から、テレビ出演、講演会、グッズ、さらには「〇〇の天才を生んだ母親」の著作や講演会にも広げられています。また、「天才を育てる幼児教育」もよく見かけます。しかし、先ほど触れたように、天才はそう仕立て上げられ、私たちが思い込んでいるだけです。これ自体、良くも悪くも、私たちの文化です。つまり、天才とは、絶対的な存在ではなく、相対的にたまたま1位になった人を私たちの社会の文化によってそう意味付け価値付けた単なる記号であり、称号であり、フィクションであると言えます。これが、「天才ビジネス」のからくりです。そして、これは、「天才ビジネス」にとって不都合な真実でしょう。もちろん、天才として祭り上げるこのフィクションを1つの文化として楽しむことはできます。しかし、「天才」という言葉に踊らされて、むやみにビジネスに利用されないように、私たちは賢明になる必要もあるでしょう。これは、権威や希少性に振り回されないようにするのと同じです。ギネスブックとは?実は、ギネスブック自体も、「最も売れている年刊本」として自らギネス世界記録に認定しています。結局、ギネスブック自体も「1位バイアス」を利用して、自らの売り上げにちゃっかり貢献して、ビジネスとして回っているわけです。この記事の最初に問いかけた質問は、「世界一になる理由は何があるんでしょうか?」「2位じゃダメなんでしょうか?」でした。この答えは、私たちが文化的に楽しむためと言えるでしょう。そして、2位じゃダメではまったくないのですが、私たちが2位じゃダメと思う原因は「1位バイアス」「天才ビジネス」に惑わされているからと言えるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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本「ギネスブック」【2位じゃダメなんでしょうか?(「天才ビジネス」のからくり)】Part 3

おまけ先ほどまで、私たちが「1位バイアス」「天才ビジネス」にとらわれている心理に迫りました。ここからはおまけとして、私たちが2位以降の順位付け(ランキング)にもとらわれている心理を掘り下げます。ランキング上位であるというだけで価値が生まれる世の中では、「〇〇ランキング」「〇〇の格付け」が溢れています。もちろん、私たちがそれを参考にして、物を買ったりサービスを利用して、社会生活をより充実させているのはよくわかります。ちなみに、このコラムにも「人気記事ベスト3」を自動更新できるようにして表示しています。しかし同時に、ランキングが上位であれば、勝手に好印象を持ってしまってもいます。つまり、人気(価値)があるからランキング上位であったのに、ランキング上位であるというだけで人気(価値)が出るようになってしまっています。これは、先ほどにも触れた権威バイアスによるものです。逆に人気を生み出すためにランキングをつくるよくよく考えると、細かく順位付けする必要がないものまでも、私たちはランキングがあるとつい見てしまいます。たとえば、先ほども触れたお笑いや、演技、美術品です。また、ギョーザ好きの地域、本好きの地域などです。これらは、好きか、楽しめるか、価値があるか自分で決めればいいだけで、他の人や地域全体がどうかは気にする必要はないはずなのにです。これは、心理学で比較癖とも呼ばれています。つまり、もともと価値があるからランキングをつくっていたのに、逆にランキングをつくることで価値を生み出しています。これは、ランキングによって注目度を高めていることから、「ランキングビジネス」と名付けることができます。これも、権威バイアスによるものです。もっと言えば、そのランキング自体(ランキング会社)にも、それだけ注目されるために価値が生まれています。このランキングビジネスを巧妙に利用しているのが、進学校の偏差値ランキングや有名大学に進学する出身高校ランキングです。情報化した現代社会で、高校にしても大学にしてもその教育機能にそれほど差はないでしょう。「秘伝の教育メソッド」があったとしても、すぐに広まります。しかし、このようなランキングがあることで、より偏差値ランキング上位の学校に、より偏差値ランキング上位の生徒が集まります。よほどその学校が世間とズレた教育をしていない限り、とくに上位の学校のランキングは不変です。当たり前の話です。つまり、学校間のランキングに差があるとしたら、それは学校教育そのものにあるのではなく、集まる生徒のもともとの認知能力にあるということです。そもそもなんでランキングにとらわれているの?それにしても、そもそも私たちはなぜこれほどにもランキングにとらわれているのでしょうか?進化心理学的に考えれば、私たちの祖先がまだ類人猿だった約2000万年前、彼ら(サルたち)はケンカの強さをもとにした序列(上下関係)によって群れをつくるようになったでしょう(社会性)。実際に、集団で暮らすサルたちは、ケンカしている仲間の2匹のサルを見て、それぞれ自分との力関係を推し量っていることがわかっています2)。これが、ランキングの起源であり、比較癖の起源です。つまり、私たちがランキングにとらわれているのは、人類が社会(集団)を維持するために必要な機能の1つだったからです。その後に、先ほどご紹介した脳の解釈装置(概念化)が発達したことによって、そのランキングに過剰な価値が付けられるようになったのです。これが、権威バイアスの起源です。1)「脳科学的に正しい一流の子育てQ&A」P5:西剛志、ダイヤモンド社、20192)「人は感情によって進化した」P47:石川幹人、ディスカヴァー携書、2011<< 前のページへ■関連記事インサイド・ヘッド(続編・その3)【意識はなんで「ある」の? だから自分がやったと思うんだ!】ガリレオ【システム化、共感性】ビューティフルマインド【統合失調症】

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レビー小体型認知症に対するドネペジルの有用性~国内第IV相試験

 ドネペジルは日本において、レビー小体型認知症(DLB)に対する治療薬として承認された。大阪大学の森 悦朗氏らは、DLBに対するドネペジルの有効性を評価するため、12週間の二重盲検期間における全体的な臨床症状に焦点を当てた第IV相試験の結果を報告した。Psychogeriatrics誌オンライン版2024年3月4日号の報告。 DLBが疑われる患者をプラセボ群(79例)またはドネペジル10mg群(81例)にランダムに割り付けた。主要エンドポイントは、臨床面接による認知症変化印象尺度-介護者入力(Clinician's Interview-Based Impression of Change plus Caregiver Input:CIBIC-plus)を用いて評価した全体的な臨床症状の変化とした。また、CIBIC-plusの4つの領域(全身状態、認知機能、行動、日常生活活動)およびミニメンタルステート検査(MMSE)、Neuropsychiatric Inventory(NPI)で測定した認知機能障害と行動および精神神経症状の変化も評価した。 主な結果は以下のとおり。・ドネペジルの優位性は、全体的な臨床状態では示されなかったが、認知領域では有意な好ましい効果が認められた(p=0.006)。・事後分析で調整後のMMSEスコアは、ドネペジル群で改善が認められた(MMSE平均差:1.4、95%信頼区間[CI]:0.42~2.30、p=0.004)。・NPIの改善は、両群間で同様であった(NPI-2:-0.2、95%CI:-1.48~1.01、p=0.710、NPI-10:0.1、95%CI:-3.28~3.55、p=0.937)。 著者らは「DLB患者に対するドネペジル10mgによる治療は、認知機能改善において臨床的に意味のある有効性が観察された。全体的な臨床症状の評価は、本研究に登録された軽度~中等度のDLB患者により影響を受ける可能性がある。また、新たな安全性の懸念は認められなかった」としている。

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dementia(認知症)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第3回

言葉の由来認知症は英語で“dementia”といいますが、この言葉は“de-ment-ia”と3つの部分に分解していくと言葉の由来が見えやすくなります。まず、“de”という接頭辞はほかの医学用語でもよく見かけるものかもしれません。たとえば、「処方する」を“prescribe”というのに対し、「脱処方する(減薬する)」を“deprescribe”といったりします。このように、“de”という接頭辞には、“away from”または“out of”(~から脱する、離れる)という意味があります。では、この“dementia”では「何から脱するか」といえば、後ろの“ment”の部分ということになります。“ment”はラテン語のmenteまたはmensに由来しているとされ、“mental”などの言葉からも想像できるかもしれませんが、「心、精神、知」というような意味があります。なお、最後の“ia”は病名などを表す際によく用いられる接尾辞で、これ自体には意味を持ちません。これらを合わせると、認知症の英名“dementia”は“out of mind”(心、知能が離れてしまった)という意味を持つ言葉のようです。今でこそ“dementia”は、医学界では「認知症」の意味で定着していますし、病気への理解が進んで「心が離れてしまった」状態ではないこともよく理解されていますが、そのような語源が一般市民レベルでの先入観や偏見につながっていることもたびたび指摘されています。このため、病気への偏見をなくすために、病名自体を“cognitive impairment”(認知機能障害)に置き換えるべきだ、と指摘する専門家もいます。併せて覚えよう! 周辺単語軽度認知障害mild cognitive impairmentせん妄delirium遂行機能executive function海馬の萎縮hippocampal atrophy行動障害behavioral disturbanceこの病気、英語で説明できますか?Dementia is a general term for the impaired ability to remember, think, or make decisions, which interferes with doing everyday activities. Alzheimer’s disease is the most common type of dementia. 講師紹介

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早期アルツハイマー病に対するレカネマブの費用対効果

 2023年1月、米国FDAより軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病による軽度認知症に対する治療薬としてモノクローナル抗体レカネマブが承認された。しかし、認知症に対するレカネマブの費用対効果は、不明なままである。カナダ・Memorial University of NewfoundlandのHai V. Nguyen氏らは、レカネマブの費用対効果およびアルツハイマー病の検査制度とAPOE ε4の状況によりどのように変化するかを定量化するため、本研究を実施した。Neurology誌2024年4月9日号の報告。 検査アプローチ(PET、CSF、血漿アッセイ)、治療法の選択(標準的治療、レカネマブ併用)、ターゲティング戦略(APOE ε4非キャリアまたはヘテロ接合性患者を特定するか否か)の組み合わせにより定義した7つの診断治療戦略について比較した。有効性は、クオリティ調整された生存年数により測定し、第3者および社会の観点から生涯期間にわたるコスト(2022年米国ドル)を推定した。次の5つの状態でhybrid decision tree-Markov cohort modelを構成した。(1)MCI(臨床的認知症重症度判定尺度[Clinical Dementia Rating Sum of Boxes:CDR-SB]スコア:0~4.5)、(2)軽度認知症(CDR-SBスコア:4.6~9.5)、(3)中等度認知症(CDR-SBスコア:9.6~16)、(4)高度認知症(CDR-SBスコア:16超)、(5)死亡。 主な結果は以下のとおり。・7つの診断治療戦略のうち、費用対効果の観点では標準的治療が最適な治療戦略であった。・レカネマブ治療、APOE ε4遺伝子型の有無にかかわらずその治療は、早期アルツハイマー病の診断に使用される検査とは無関係に、標準的治療と比較し、費用対効果が高かった。・しかし、レカネマブの薬剤費が年間5,100米国ドル未満であれば、CSF検査とその後の標準的治療の費用対効果が高くなった。・これらの結果は、診断検査の精度、レカネマブの中止および有害事象の発生率に対しロバストであった。 著者らは「レカネマブ治療、ε4遺伝子型の有無にかかわらない治療は、MCIまたはアルツハイマー病による軽度認知症の患者にとって、標準的治療と比較し、費用対効果が優れているとはいえなかった。レカネマブの価格が年間5,100米国ドル未満となれば、状況により費用対効果が高くなるであろう」としている。

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超加工食品の安全性を十分に吟味することなく、利便性・時短性を優先するのは危険!―(解説:島田俊夫氏)

 超加工食品は現代社会において利便性・時短性の面から今や世界中で重宝される食品となっています。しかしながら、利便性が高くても健康被害が増える食品であれば逆に寿命の短縮につながる可能性が高く、食の安全性を吟味することは必要・不可欠です。 超加工食品の過剰摂取(食品の10%を超えると危険が増大)は生活習慣病(心血管病/がん/糖尿病/肺疾患)、認知症、うつ病、短命(早死)、肥満らを引き起こす可能性大といわれています1-3)。 最近話題になっている超加工食品のマイナス面に照準を絞り警鐘を鳴らす論文が散見されています。この度、オーストラリア・ディーキン大学Melissa M. Lane氏らは超加工食品に関して有害アウトカムを評価した多数の先行研究(コホート研究・症例対照研究・システマティックレビュー・メタ解析)を集約し、アンブレラレビューを行った。その結果がBMJ誌2024年2月28日号に掲載された。時宜にかなった関心の高いトッピクと考えコメントします。 簡単な要約:超加工食品の摂取増加は心臓病、がん、肺疾患、精神障害、短命(早死)、2型糖尿病らの有害アウトカムのリスク増に関連している可能性が高いと報告しています。高所得国の一部では超加工食品摂取の占める割合が58%にも達しており、低・中所得国の多くでも超加工食品の摂取が急速に普及しています。これまで多数の研究報告、メタ分析が行われていますが、約1,000万人を対象者としたアンブレラレビューの報告はありません。 超加工食品摂取量が増えると心血管疾患関連死亡リスク比が50%増え、精神疾患オッズ比が55%増え、2型糖尿発症リスク比が12%増えることが示された。さらに、超加工食品の摂取量の増加は全死亡リスク比を21%、肥満オッズ比を55%、糖尿病オッズ比を40%、睡眠障害転帰オッズ比を41%、うつ病のハザード比を22%それぞれで増加させることが示された。コメント 本アンブレラレビューの研究者は超加工食品摂取量の正確な評価は難しい点もあり、さらなる研究の必要性を認めている。しかしながら、事前に指定した系統的な方法を用いて分析しているために、信頼性と品質評価は精査に十分に堪えうるとの自信をのぞかせている。今回の結果を重く受け止めて、超加工食品の安全性を無視した、利便性・時短性の追求のみに目を向けるのは危険です。超加工食品に関しては食質の吟味が重要になると考えられますので、経過措置として食全体に占める超加工食品の割合を可能な限り少なくして、当面は生活をするのが好ましい対処法ではと考えます。

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経口と長時間作用型注射剤抗精神病薬の有用性~ネットワークメタ解析

 長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬は、主に統合失調症の再発予防に期待して使用されるが、状況によっては急性期治療にも役立つ場合がある。ドイツ・ミュンヘン工科大学のDongfang Wang氏らは、急性期統合失調症成人患者に焦点を当て、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2024年6月号の報告。 対象薬剤は、リスペリドン、パリペリドン、アリピプラゾール、オランザピンおよびプラセボであり、経口剤またはLAIとして用いられた。17のその他の有効性および忍容性アウトカムにより補完し、全体的な症状に関するデータを統合した。エビデンスの信頼性の評価には、Confidence-in-Network-Meta-Analysis-framework(CINeMA)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・分析には、115件のRCTより2万5,550例を含めた。・すべての薬剤において、プラセボと比較し、標準化平均差(SMD)が有意に良好であった。【オランザピンLAI】SMD:-0.66、95%信頼区間(CI):-1.00~-0.33【リスペリドンLAI】SMD:-0.59、95%CI:-0.73~-0.46【オランザピン経口】SMD:-0.55、95%CI:-0.62~-0.48【アリピプラゾールLAI】SMD:-0.54、95%CI:-0.71~-0.37【リスペリドン経口】SMD:-0.48、95%CI:-0.55~-0.41【パリペリドン経口】SMD:-0.47、95%CI:-0.58~-0.37【パリペリドンLAI】SMD:-0.45、95%CI:-0.57~-0.33【アリピプラゾール経口】SMD:-0.40、95%CI:-0.50~-0.31・有効性は、LAI抗精神病薬と経口剤との間で有意な差は認められなかった。・主要アウトカムの症状全体の感度分析では、これらの所見がほぼ確認された。・エビデンスの信頼性は、ほとんどが中程度であった。・LAI抗精神病薬は、急性期統合失調症に対し有効であり、副作用の観点で経口剤と比較し、いくつかのベネフィットが期待できる可能性がある。 著者らは「臨床医が急性期統合失調症患者の治療を行う際、本結果は経口剤とLAI抗精神病薬のリスクとベネフィットを比較検討するうえで役立つであろう」としている。

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認知機能の低下抑制、マルチビタミンvs.カカオ抽出物

 市販のマルチビタミン・ミネラルサプリメント(商品名:Centrum Silver、以下「マルチビタミン」)の連日摂取が高齢者の認知機能に与える影響を詳細に調査したCOSMOS-Clinic試験の結果、マルチビタミンを摂取した群では、プラセボとしてカカオ抽出物(フラバノール500mg/日)を摂取した群よりも2年後のエピソード記憶が有意に良好で、サブスタディのメタ解析でも全体的な認知機能とエピソード記憶が有意に良好であったことを、米国・Massachusetts General HospitalのChirag M. Vyas氏らが明らかにした。The American Journal of Clinical Nutrition誌2024年3月号掲載の報告。 これまで、二重盲検無作為化2×2要因試験「COSMOS試験※」のサブスタディでは、電話やインターネットを用いた認知機能に関する評価において、マルチビタミン群ではカカオ抽出物群よりも良好な結果であったことが報告されている。しかし、対面式の詳細な神経心理学的評価は行われていなかった。そこで研究グループは、神経心理学的評価を対面で行って認知機能の変化に対するマルチビタミンの影響を検証するとともに、COSMOS試験のサブスタディのメタ解析も実施した。※COSMOS試験:60歳以上の米国成人2万1,442例を対象として、マルチビタミンおよび/またはカカオ抽出物の連日摂取によって心血管疾患およびがん発症リスクが軽減するかどうかを調査した大規模試験。無作為化は2015年6月~2018年3月に行われ、2020年12月31日まで追跡された。 COSMOS-Clinicの解析対象は、60歳以上で、ベースラインおよび2年後に対面で神経心理学的評価(45分間)を受けた573例であった。主要アウトカムは11つのテストの平均標準化スコアによる全体的な認知機能で、副次アウトカムはエピソード記憶、実行機能/注意力であった。メタ解析には、3つのCOSMOS試験のサブスタディ(COSMOS-Clinic[573例、2年間、対面]、COSMOS-Mind[2,158例、3年間、電話]、COSMOS-Web[2,472例、3年間、インターネット])を用いた(重複する参加者を含めずに実施)。 主な結果は以下のとおり。COSMOS-Clinic試験・参加者はマルチビタミン群272例(平均年齢69.3歳、男性51.1%)、カカオ抽出物群301例(69.8歳、50.5%)に無作為に割り付けられた。両群ともに2年後でも90%超がアドヒアランス良好であった。・エピソード記憶については、マルチビタミン群の平均標準化スコア(高いほど良好)はベースライン時0.01、2年後0.36、カカオ抽出物群はそれぞれ-0.01、0.23、平均差は0.12[95%信頼区間[CI]:0.002~0.23])であり、マルチビタミン群ではカカオ抽出物群と比較して統計的に有意な改善が認められた。・全体的な認知機能(平均差:0.06[95%CI:-0.003~0.13])および実行機能/注意力(0.04[-0.04~0.11])は、有意差はなかったもののマルチビタミン群で良好な傾向を示した。サブスタディのメタ解析・全体的な認知機能は、マルチビタミン群ではカカオ抽出物群と比較して、統計的に有意な改善が認められた(平均差:0.07[95%CI:0.03~0.11]、p=0.0009)。・エピソード記憶でも、マルチビタミン群では統計的に有意な改善が認められた(平均差:0.06[95%CI:0.03~0.10]、p=0.0007)。・マルチビタミン群の全体的な認知機能に対する効果は、2歳離れたカカオ抽出物群と同程度であり、マルチビタミン群の認知機能の老化を2年遅らせたことに相当する。

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産業医の独立性と中立性とは【実践!産業医のしごと】

産業医をしていると、「産業医の独立性や中立性」という言葉を聞くことがあります。2018年の働き方改革関連法案において産業医の権限が強化されたことで、産業医の独立性や中立性の強化について明記されるようになりました。実際、産業医の活動の中でも独立性や中立性が重要であると語られる機会が増えていますが、具体的にはどういうことなのでしょうか。今回は、産業医の独立性や中立性について考察します。独立性と中立性の意味「独立性」とは、外部の影響や圧力に屈せず、自らの意思に基づいて行動する能力を意味します。産業医においては、企業や労働者からの影響に左右されることなく、公正な医学的判断を下すことが求められます。一方、「中立性」は、対立する双方の立場に偏りない立場からアドバイスや判断を行うことを指します。産業医は、企業と労働者の間の健康に関する課題に対して、どちらか一方の側に立つことなく、中立的な立場を保つ必要があります。独立性と中立性の共存の難しさ産業医が独立性と中立性を保つことが理想的ですが、実際には多くの課題が存在します。たとえば、産業医が企業から報酬を受け取ることで生じる潜在的な利害の衝突があります。また、産業医が従業員の主治医としての役割を担う場合、その独立性が妨げられる可能性があります。産業医として、独立性と中立性を完全に保つのは困難だと認識する必要があります。しかし、独立性と中立性を同時に追求する努力が必要で、それを担保するのが意思決定プロセスです。産業医の判断が行われた医学的な根拠を明確にし、倫理的考慮を基に、関係者への説明責任を果たす努力が必要になります。具体的な事例で考えてみましょう「てんかん発作の既往がある労働者の高所作業の職務適性に関して判断する」という場面を例に挙げてみましょう。独立性と中立性を同時に追求するためには、次のようないくつかのステップを踏むことが重要です。1)情報の収集と評価労働者の医療記録、てんかん発作の頻度や重度、現在の治療法やその効果、作業環境の詳細など、関連する情報を収集します。この情報収集の段階で、産業医は中立性を保ち、必要な情報を集められているか、情報源の信頼性や偏りがないかを慎重に評価する必要があります。2)リスク評価収集した情報に基づき、高所作業中にてんかん発作が発生した場合のリスクを評価します。リスク評価には、労働者自身や周囲の人々への危害の可能性、安全配慮義務の観点などが含まれます。この過程でも、中立性を保ちつつ、客観的な判断が求められます。3)倫理的考慮労働者の健康と安全を優先に考えると同時に、職場での公平性や個人の働く権利についても考慮します。この段階では、独立性と中立性の維持がとくに重要となり、産業医は慣例や先入観に影響されずに判断することが求められます。4)説明責任と透明性最終的な判断を下した際には、その理由と根拠を明確に説明することが重要です。高所作業を禁止する場合でも、労働者本人、企業や職場に対して、医学的な根拠と意思決定プロセスの公正さを示すことで、独立性を担保します。5)継続的な評価とフォローアップ職場環境や労働者の健康状態に変化があった場合、再評価を行い、必要に応じて判断を見直します。このプロセスでは、新たに得られた情報を基に、独立性と中立性を意識しつつ、柔軟に対応する能力が求められます。産業医が独立性と中立性を担保することは、産業医の重要な責務であり、その専門性の証です。これらの原則を維持することは簡単ではありませんが、産業医の専門知識、倫理観、判断能力を結集し、職場の公平性や労働者の働く権利を考慮することが求められています。

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