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第239回 女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会

<先週の動き> 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県 1.女性の痩せ願望に警鐘「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」提唱/肥満学会日本肥満学会は4月17日、成人女性における低体重や低栄養を背景に多様な健康障害が生じる状態を「女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」と定義し、新たな疾患概念として確立する提言を発表した。対象は18歳以上で閉経前までの女性とし、今後は診断基準や予防・治療指針の整備を進める。FUSに該当する症状としては、骨密度の低下や月経異常、貧血、筋力低下、倦怠感、抑うつ、不安、睡眠障害、低血圧、低血糖、摂食障害、さらには将来の不妊リスクや胎児の低出生体重といった次世代への影響まで多岐にわたる。2023年の国民健康・栄養調査では、BMI18.5未満の女性が20代で24.4%、30代で17.9%と報告されており、先進国の中でもわが国は突出して高い。背景にはSNSやメディアの影響による強い「痩せ志向」や、貧困など社会的・経済的要因も複雑に絡んでいるとされている。学会では「肥満対策と同様に、低体重のリスクにも体系的に対応すべき」として、FUSを社会構造・教育・医療・産業界全体で共有すべき課題と捉えるべきだと提起しているほか、GLP-1受容体作動薬の美容目的での使用拡大にも強い懸念を示している。また、症状が単発で現れることも多く、従来の医療では見逃されやすいことから、健康診断でのスクリーニングや医師・栄養士・心理職との多職種連携による早期介入体制の構築も求めている。今後はメタボリックシンドロームのようにFUSの診断基準を整備し、政策的介入へとつなげたいとしている。「まずは、よく食べて、運動して、眠る。そして不調があれば医療へ」と、学会は社会全体での健康意識の見直しを呼びかけている。 参考 1) 閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題-新たな症候群の確立について-(日本肥満学会) 2) 女性の「痩せ」学会警鐘 20代の2割、新症候群の確立提言(日経新聞) 3) 健康害する女性の低体重・低栄養は「疾患」、肥満学会が位置付け…基準定め治療や予防法を確立(読売新聞) 4) 日本肥満学会ワーキンググループが提唱「成人女性の低体重・低栄養症候群(FUS)」が新たな疾患概念に(日経メディカル) 5) 「SNSやメディア、貧困など原因」「肥満と比べ軽視されてきた」女性の“低体重・低栄養”巡り、肥満学会が新疾患の枠組み提言(弁護士JPニュース) 2.帯状疱疹ワクチンで認知症リスク20%減、7年間28万人の追跡研究/スタンフォード大帯状疱疹ワクチンに、認知症発症リスクの低減効果があることが、米スタンフォード大学などの研究チームによる28万人以上の高齢者を対象とした研究で明らかになった。この研究は、英国ウェールズにおけるワクチン接種開始時の制度を活用した「自然実験」の手法を取り、1933年9月2日以降に生まれた接種対象者と対象外の高齢者を比較したもの。7年間の追跡で、接種群の認知症発症率は非接種群より3.5%ポイント、相対的に20%低かった。この効果は教育歴や持病などの因子を考慮しても変わらず、とくに女性において顕著だった。認知症リスクの低下が、免疫機能の強化や帯状疱疹ウイルスの脳への影響防止による可能性があると示唆されているが、明確なメカニズムは未解明である。なお、従来の生ワクチン「Zostavax」での効果を示した今回の研究に対し、新型の不活化ワクチン「Shingrix」にも同様の効果があるかは今後の検証が必要とされている。専門家は「現行の薬理学的手段よりも有望」と評価し、ワクチン接種が認知症予防の新たな選択肢となる可能性が期待されている。 参考 1) Eyting M, et al. Nature. 2025 Apr 2.[Epub ahead of print] 2) 認知症の予防効果がある「身近なワクチン」とは?高齢者7年間の追跡調査で判明(ダイヤモンドオンライン) 3) 帯状疱疹ワクチンで認知症のリスクが低下、研究続々(ナショナルジオグラフィック) 4) “認知症”リスクが20%減-「帯状疱疹ワクチン」接種が認知症発症に与える影響 28万人以上を調査(ITmedia) 3.「マイナ保険証」一本化、後期高齢者は1年延期へ/厚労省政府は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」の利用促進を進めているが、利用率は依然として低迷している。とくに75歳以上の高齢者においては、昨年12月時点での利用率が24.57%に止まり、紛失への不安などから移行が進んでいない。このため厚生労働省は、75歳以上の全員に保険証の代替となる「資格確認書」を交付し、マイナ保険証への一本化を事実上2026年夏まで延期する方針を決定した。原因としては施設での管理の負担や利用者の混乱もあり、実際の運用が追いついていない現状がある。一方で、政府はマイナ保険証の価値を示す取り組みとして、今秋から全国で「マイナ救急」を導入する。救急隊が現場でマイナ保険証をカードリーダーで読み取ることで、患者の既往歴や薬剤情報を即座に把握し、適切な処置や搬送先の選定に役立てる仕組み。昨年度の実証では、意識が不明瞭な高齢者の適切な搬送に繋がる事例が報告されている。今年度は全国の5,334救急隊に拡大する予定で、端末の簡便化により、30秒~1分程度で情報閲覧が可能となる見込み。政府はこれを医療DX推進の鍵と位置付け、利用率向上のきっかけとしたい考え。さらに、スマートフォンでマイナ保険証機能を利用できる実証事業も6月に開始する予定で、順調なら9月にも全国展開される。診察券一体化システムへの補助も継続し、利便性の向上を図る。だが、制度変更の頻発や運用現場の負担には懸念の声も多く、高齢者層を中心とした受け入れの広がりには時間が必要とみられている。 参考 1) 利用率の低さ、状況変わるのか? マイナ保険証、75歳以上は一本化延期(中日新聞) 2) マイナ保険証の救急活用、秋に全国で 既往歴把握し搬送(日経新聞) 4.病院経営は破綻寸前、経常利益率最頻値がマイナス圏に/厚労省厚生労働省が、2024年度の医療機関の経常利益率を推計した結果、最頻値が病院運営医療法人で-1.0~0.0%、無床診療所運営法人で-3.0~-2.0%と、いずれも赤字圏内にあることが明らかになった。こうした厳しい経営状況は、福祉医療機構の2025年3月の病院経営動向調査でも裏付けられており、医業収支DIでは一般病院がわずかに改善したものの、精神科病院は-41と大幅に悪化していた。課題としては人件費増加や職員確保難が挙がっている。日本病院会も同日開催した研修会で、経営状況の悪化に警鐘を鳴らした。島 弘志副会長は「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」と述べ、2023年度には一般病院の黒字割合が前年度の79.4%から40.6%へ急落したことを紹介。これを受け、日本病院会など5団体は政府に対し、緊急的な財政支援や診療報酬体系の見直しなどを要望した。さらに、経営環境が予測困難で変動の激しい「VUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)時代」への対応として、今後の病院経営には、利益と社会的価値の両立が求められると提言した。また、中小病院における経営改善には、業務の可視化・分析・改善に至る具体的なフローを実践し、データに基づいた行動変容を促す体制が必要とされた。現場では医療従事者の疲弊が進む中、迅速かつ柔軟な対応が地域医療の継続と再生の鍵を握る。行政・経営者・現場の連携と改革が急務となっている。 参考 1) 医療機関の経常利益率、「最頻値」がマイナスに 24年度、厚労省推計(MEDIFAX) 2) 医業収益DI、一般は改善も療養・精神は低下 WAM、3月調査(同) 3) 「病院経営は破綻寸前、地域医療崩壊の危機」、日本病院会が経営管理者向け研修会を開催(Gem Med) 4) 病院経営動向調査の概要(福祉医療機構) 5.救命救急センター「S」評価は33%、質向上へ従来の評価再開/厚労省厚生労働省は、全国の救命救急センターを対象とした2024年版の「充実段階評価」の結果を発表した。評価対象は2023年末までに運営を開始した全308施設で、最上位の「S」評価を獲得したのは102施設(33.1%)と、前年から1.2ポイント増加した。「A」評価は199施設(64.6%)で最多、「B」は7施設(2.3%)、最低評価の「C」は該当なしだった。評価は救急科専門医の配置、重篤患者の受け入れ数、トリアージ機能などを総合的に採点し、94点以上かつ是正項目がない場合に「S」が与えられる。とくに、日本医科大学付属病院、聖マリアンナ医科大学病院、神戸市立医療センター中央市民病院の3施設は満点の100点を獲得。神戸市立医療センター中央市民病院は11年連続での満点評価となった。コロナ禍の影響を受けた2020~23年の評価では一部項目が除外されたが、今回は全項目を対象とした従来型の評価が復活。なお、希望した17施設については、新型コロナの影響に関する個別ヒアリングを経た上で評価が決定された。本評価は、診療報酬上の「救急体制充実加算」の基準や、国からの運営補助金額にも影響を与える重要な指標であり、救命救急体制の質的向上や公平な支援配分に直結するものとして注目されている。 参考 1) 令和5年救命救急センターの評価結果(厚労省) 2) 救命救急センターの評価結果(令和5年)について(同) 3) 救急救命センターの充実段階評価、「S」評価が33% 100点満点は3施設 24年(CB news) 6.麻酔科医の心身疲弊を招く勤務体制に、第三者委が具体的改善計画を要求/高知県高知県立幡多けんみん病院(宿毛市)に勤務する麻酔科医の過重労働が明らかになったことを受け、高知県は外部有識者4人による第三者委員会を設置・調査を実施し、2025年3月に報告書を取りまとめ、公表した。これは2024年度に高知大学医学部から派遣された麻酔科医3人のうち2人が心身の不調を訴えたことが発端で、大学側は県に勤務状況の調査を依頼した。報告書によると、麻酔科医は一人で複数の患者の麻酔を同時に担い、集中治療室で重症患者への対応も行っていた。さらに、「宿日直許可」に基づく労働時間外の時間帯にも救急対応を強いられていた。これにより、同院は労働基準監督署から行政指導を受けている。報告書では、病院側に医師の働き方改革への理解不足、勤務実態の把握やメンタルケアの欠如を指摘し、「具体的な業務改善計画」の策定を求めた。高知大学は2025年度、派遣する麻酔科医を1人減らし2人とした。これにより、病院で行える手術数の減少が懸念されており、病院では非常勤医師の勤務日の増加や外科医による局所麻酔対応などで補おうとしている。年間約2,000件の手術のうち1,500件に麻酔科医が関与している現状で、人的資源の縮小は地域医療体制への影響が大きい。県は6月を目途に改善計画を策定し、高知大学への謝罪と説明を行う方針。同院の担当者は「医師の健康への配慮が不十分で申し訳ない」とコメント。高知大学は「地域医療の責務は認識している。改善が確認され次第、派遣増員を検討したい」としている。なお、第三者委員会の会議は非公開で行われた。 参考 1) 県立幡多けんみん病院における医師の勤務状況に関する第三者委員会について(高知県) 2) 県立幡多けんみん病院で過酷勤務 高知大派遣の麻酔科医が心身不調に 第三者委が改善要求(高知新聞) 3) 県立病院派遣の複数の麻酔科医不調訴え 業務改善求める報告書(NHK)

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ヤマアラシのトゲ外傷の1例【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第280回

ヤマアラシのトゲ外傷の1例皆さんは、ヤマアラシに遭遇したことはないでしょうか? 私はないです。Pandey AK, et al. A Rare, Atypical Case of Porcupine Quill Shot in the Glenoid Fossa: Case Report and Review of Literature. Indian J Otolaryngol Head Neck Surg. 2025 Jan;77(1):500-504.この論文は、顎関節窩にヤマアラシの針が刺さるという、きわめてまれな症例です。若い男性患者が森の中でバイクに乗っていた際、ヤマアラシと遭遇しました。ドラクエみたい。「ビビったヤマアラシが、自己防衛のために針を発射した」と論文には書かれています。かつてヤマアラシはトゲを飛ばして敵を攻撃すると考えられていましたが、実際はそのようなことはなく、触るとトゲは体から抜け落ちるそうです。刺さると痛いとは思いますが、ちょっとこの導入部の記載は修正が必要かもしれません。(インドの雑誌にわざわざ修正要請の手紙は出しませんが…)まあ、とにかくヤマアラシに襲われた患者は、左前腕と顔に8〜10本の針が刺さったそうです。しかし、左耳前部に深く刺さった3.5cmの針は、重度の痛みと開口障害を引き起こしたそうで、救急部門を受診することになりました。頭頚部CT検査により、耳前部から顎関節に達する透過性の高い鋭利な物体が確認され、この針が口を開ける際の下顎頭の動きを妨げていることが判明しました。患者は局所麻酔下で緊急手術を受け、鉗子を用いて慎重に取り出されました。感染予防のため、アモキシシリン+クラブラン酸+メトロニダゾールが投与され、破傷風トキソイドも適用されました。その後の経過観察で、患者の開口状態は正常に戻り、痛みも軽減し、合併症は残りませんでした。ヤマアラシの針は中空でケラチンでできており、後方に向いた鋭い「かえし」があります。刺さるとなかなか抜けません。針の長さは通常15〜30cm程度ですが、最大約50cmまで成長することもあるそうです。ほぼ凶器。読者の皆さんがもし道端でヤマアラシに遭ったら、トゲは飛んでこないかもしれないが、刺さったら大変だと思って、できるだけ触らないようにしましょう。

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TAVI生体弁比較、SAPIEN 3 vs.Myval/Lancet

 経カテーテル心臓弁(THV)を植え込む低侵襲の経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)は、重症大動脈弁狭窄症および劣化した大動脈生体弁に対するガイドラインに基づいた治療法である。次々と新しいTAVI用THVプラットフォームが上市され臨床現場で使用されているが、その性能に関する短期データは少なく、長期データについては存在していない。デンマーク・オーフス大学病院のChristian Juhl Terkelsen氏らは、「最新のTHVは、現状で最良とされるTHVと比較すべき」として、SAPIEN 3 THVシリーズ(SAPIEN 3またはSAPIEN 3 Ultra、米国・Edwards Lifesciences製)とMyval THVシリーズ(MyvalまたはMyval Octacor、インド・Meril Life Sciences製)を直接比較する多施設共同全患者無作為化非劣性試験「COMPARE-TAVI 1試験」を実施。Myval THVはSAPIEN 3 THVに対して1年時の複合エンドポイント(死亡、脳卒中、中等症/重症の大動脈弁逆流症、または中等症/重症のTHVの血行動態悪化)に関して非劣性であったことを報告した。Lancet誌オンライン版2025年4月2日号掲載の報告。デンマークの3つの大学病院で被験者を募り試験 試験はデンマークの3つの大学病院で、18歳以上、TAVIが予定されており、SAPIEN 3 THVまたはMyval THVによる治療の対象であった患者を適格とし行われた。 被験者は、SAPIEN 3(29mm径)またはSAPIEN 3 Ultra(20mm、23mmまたは26mm径)THVを用いた治療を受けるSAPIEN 3 THV群、MyvalまたはMyval Octacor THV(20~32mm径)を用いた治療を受けるMyval THV群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 TAVI手術は、弁尖切開術を行う場合を除き、試験地の手術手順にて局所麻酔下で行われた。 主要エンドポイントは、Third Valve Academic Research Consortium(VARC-3)基準に基づく1年時点の死亡、脳卒中、中等症/重症の大動脈弁逆流症、または中等症/重症のTHVの血行動態悪化の複合とした。 無作為化された全患者をITT解析に包含し、割り付け治療を受けた全患者をper-protocol解析に包含した。予想イベント発生率は13%で、事前に規定した非劣性マージンは5.3%とした。主要エンドポイントの発生はSAPIEN 3 THV群13%、Myval THV群14% 2020年6月15日~2023年11月3日に1,031例が登録された。なお登録は、特許関連の法的手続きのため2回中断された。 1,031例のうち、517例がSAPIEN 3 THV群に、514例がMyval THV群に無作為化された。被験者の年齢中央値は81.6歳(四分位範囲[IQR]:77.6~85.0)、415例(40%)が女性、616例(60%)が男性であった。STSスコア中央値は2.3%(IQR:1.6~3.7)。1,031例のうち98例(10%)が二尖弁(すべてSievers分類タイプ1)を有し、40例(4%)がvalve-in-valve手術を受け、103例(10%)は急性または亜急性TAVIであった。無作為化から手術までの時間は中央値50分(IQR:31~1,313)。Myval THV群でXLサイズ弁(30.5mm、32mm径)の植え込みを受けたのは、507例のうち10例(2%)。THV径中央値は、SAPIEN 3 THV群(516例)26mm(IQR:23~26)、Myval THV群(514例)26mm(24.5~27.5)であった。 主要エンドポイントの発生は、SAPIEN 3 THV群67/517例(13%)、Myval THV群71/514例(14%)であった(群間リスク差:-0.9%[片側95%信頼区間上限:4.4%]、非劣性のp=0.019)。

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臨床背景で違いが出る手技、過失を問われるポイントは?【医療訴訟の争点】第10回

症例前回、患者の病態により左右されることの少ない定型化された機械的所作の手技の過失の有無等が争われた事案を紹介した。今回は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度など)に応じて手技内容が異なる手技の過失の有無が争われた東京地裁平成24年6月21日判決を紹介する。本件では、肝細胞がんに対するラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)の手技の過失が争われている。RFAについては、本件判決において、以下のものと整理されている。〔ラジオ波焼灼療法(RFA)〕腫瘍に穿刺した電極針から発生する高周波電流(ラジオ波)によって生ずる熱によって腫瘍を凝固壊死させる治療法。RFA装置は超音波画像上、穿刺状況を確認できるようになっているとともに、焼灼が進むと水分が蒸発して、インピーダンス(抵抗)値が上昇する。インピーダンス値により、焼灼がどの程度進んでいるのかを把握し、ロール・オフ(熱凝固が進むことにより水分が蒸発し、ラジオ波通電性が失われ電気抵抗値が最大になった状態)を判断し、ロール・オフになると自動的に出力がゼロになるように設計されている。局所再発を減らすためには、焼灼範囲に腫瘍の周囲5mmのセーフティ・マージンを確保する必要があり、そのため症例によっては複数回穿刺を行う。<登場人物>患者59歳(本件手術時)・男性他の医療機関にて肝内に腫瘍があるとの診断を受け、紹介により被告病院を受診。原告患者配偶者被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成14年(2002年)8月7日他の医療機関にて肝内に腫瘍があるとの診断を受け、紹介により被告病院を受診。肝細胞がんと診断された。9月4日肝細胞がん治療のためRFAを実施。平成15年(2003年)12月12日肝動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)実施平成16年(2004年)12月13日TAE実施平成17年(2005年)10月17日TAE実施10月25日動注化学療法実施11月22日動注化学療法実施平成18年(2006年)3月22日被告病院に入院3月23日S6およびS8領域の肝細胞がん治療のため、RFA(本件手術)実施。3月27日腹部CT検査実施3月29日上記CT検査の結果につき、放射線科医師より、遊離ガスが認められ、大腸穿孔が起きていると考えられる旨が消化器内科医師に報告された。午後11時頃、本件患者より腹痛が続いているとの訴えがあり、診察した医師は、腹膜炎を起こした可能性が高いと診断。3月30日腹膜炎治療のため開腹手術。4月21日肝不全により死亡。〔本件手術中の経過〕~〔司法解剖の結果(解剖所見)〕〔本件手術中の経過〕本件手術当時、患者の肝臓に残存していた腫瘍(肝細胞がん)は、S6領域に長径30mm(30mm×18mm)程度、S8領域に長径23mm(23mm×13mm)程度のものであった。執刀医は、局所麻酔の後、S8領域の肝細胞がんを焼灼するため、超音波画像下で展開時4cmなるRTC針を皮膚から約7cm穿刺し、半展開してロール・オフするまで3分22秒間焼灼した。その後、同箇所にて針を全展開してロール・オフするまで6分2秒間焼灼した。そして、熱凝固範囲を広げるため、針を閉じて約1cm引き抜き、再度針を全展開してロール・オフするまで5分40秒間焼灼した。続いて、S6領域の肝細胞がんを焼灼するため、超音波画像下で皮膚から約7cm穿刺し、RTC針を半展開してロール・オフするまで4分8秒間焼灼した。その後、同箇所にて針を全展開してロール・オフするまで5分1秒間焼灼し、熱凝固範囲を広げるため、針を閉じて約1cm引き抜き、針を全展開してロール・オフするまで5分51秒間焼灼した。そして、針を閉じて皮膚から1度抜き、再びS6領域の肝細胞がんに対して、先ほどとは別の位置から穿刺し、全展開して焼灼を試みたものの、5分経過時にエラーとなって停止したため、同箇所で再度ロール・オフするまで4分31秒間焼灼した。〔本件手術4日後(3月27日)撮影CT画像〕総焼灼部の長径は約90mmに及び、焼灼部全体の形は円形ではなくいびつであった。〔司法解剖の結果(解剖所見)〕『主要所見』欄の内部所見欄に「肝臓は黄色硬化著明で、肝硬変末期を呈する。右葉外側に球形の壊死巣を2ヵ所認め、底面において横行結腸が壊死巣の一つに開放されている。」『考察』欄に「医療行為そのものが直接的に死亡に結びついたとは考えにくい。」「熱凝固法で問題となった結腸への同治療法の波及による穿孔形成も、解剖において確認できる。ただし、この穿孔部は肝臓底面に接する壊死巣にほぼ連続しており、誤ってラジオ波を結腸に当てたというよりは、肝臓のがん組織に照射したものが辺縁部において一部結腸を巻き込んだ様相を呈している」との記載。実際の裁判結果本件裁判では、穿刺箇所の過誤または穿刺経路の過焼灼の有無について争われたが、裁判所は、以下のとおり、いずれも過誤は認められないと判断した。1. 穿刺箇所の過誤について原告は、本件手術で使用された器具の構造上、焼灼範囲は4cm程度にしかならず、また、ほかに焼灼範囲が広範囲となる原因は見当たらないのであるから、焼灼範囲が広範囲となった原因は、穿刺箇所の過誤以外には考え難い旨主張した。しかし、裁判所は、RFA装置は手技者が超音波画像において腫瘍と針の位置を常に視認することが可能であることを指摘し、「手技者は、位置断面図を映し出す超音波画像上、腫瘍(目的部位)と針の両方を確認でき、手技者はその画像上でリアルタイムに針の肝臓への刺入から腫瘍までの到達を視認することが可能なのであるから、目的部位以外を穿刺することは通常は考え難い」とした。また、本件では、本件手術4日後(3月27日)撮影CT画像において、総焼灼部の長径は約90mmに及び、焼灼部全体の形は円形ではなくいびつであったという事情があり、本件手術に使用された器具の構造上、通常は、焼灼範囲は4cm程度にしかならないのに、焼灼範囲が広範囲に及んでいるという事情があった。原告はこの点を指摘し、穿刺箇所に過誤があったと主張した。しかし、裁判所は、焼灼範囲について球形に近い凝固形状を形成することからすると、本件のような広くいびつな焼灼範囲が生じたことは説明できないこと、長径30mmあるS6領域の腫瘍の最下辺部または腫瘍の存在しない箇所に穿刺しない限りは、焼灼部位が大腸(または肝臓の最下端)にまで広がることは考え難く、そのような極めて重大、明白な過誤を犯すことは、特段の事情がない限り想定し難いことを指摘し、過誤を否定した。2. 穿刺経路の過焼灼の有無について原告は、患部から針を抜く際に焼灼し過ぎれば、焼灼範囲が広範囲となるのであるから、本件において焼灼範囲が広範囲となったと主張した。これに対し、裁判所は、RFA装置は、超音波画像上、穿刺状況を確認できるようになっているとともに、インピーダンス値が表示され、この値により、焼灼がどの程度進んでいるのかを把握し、ロール・オフを判断し、ロール・オフになると自動的に出力がゼロになるように設計されているのであるから、その構造上、過焼灼が生ずる可能性は認め難いとした。注意ポイント解説本件は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が異なる手技の過失の有無が争われた事案である。裁判所は、上記のとおり、治療対象の腫瘍の位置や大きさ、術後の画像所見、司法解剖の結果などから、原告の主張するとおりの手技の過誤が認められるかを判断している。そして、本件では、使用されたRFA装置が、RTC針が刺入される角度と同じ角度で超音波画像上にニードルマークを表示させることができ、実際にRTC針がニードルマークに沿って目的部位(腫瘍)に向かって進んでいるかどうか、針先が目的部位に到達しているかどうかといった穿刺状況を、超音波画像上で確認することができるものであったため、「目的部位以外を穿刺することは通常は考え難い」とされた。しかしながら現状では、このような装置を用いての手技や術中画像が存在するケースは多くなく、一般的には、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に照らして過誤を来たしやすい手技か、手術記録や術後の経過・検査結果等が過誤のあった場合のものと整合するか等の点から、過誤の有無が判断されることとなる。このため、本件では過誤は否定されているが、注意を怠れば過誤を来たしやすい手技である場合(注意を尽くしていても不可避の合併症と説明できない場合)や、術後の画像所見が手技に過誤があった場合に生じるものと整合する場合などには、過誤があるとの判断がなされることとなる。なお、本件では、術後CT画像等において焼灼範囲が広範囲に及んでいた原因を特定できないこととなるが、これに関し、裁判所は、以下の点を指摘し、「焼灼範囲が広範囲に及んだ原因が特定できないことを理由に、穿刺箇所の過誤があったものと推認することは、やはり許されないというべき」とした。焼灼対象となる肝臓の状況によって例外があり得ないものとまで考えることはできないこと。たとえば、RFAやTAEによる血流の低下や熱伝導の抵抗の低下が原因である可能性も否定はできないこと。本件の司法解剖の結果によっても、穿刺箇所の過誤を示唆するような点は見当たらず、むしろ、「誤ってラジオ波を結腸に当てたというよりは、肝臓のがん組織に照射したものが辺縁部において一部結腸を巻き込んだ様相を呈している」と指摘されていること。上記は、過誤以外の原因により、このような術後所見を来たしうることを、過誤の有無の判断における一つの考慮要素としているものといえる。医療者の視点本件のように、医療手技の適切性が問われるケースでは、手技の選択や実施において、医療者がどのような判断を行い、どのようにリスクを管理していたかが重要になります。手技には、標準的なプロトコルがあるものの、患者ごとの病態に応じて適応や実施方法を調整する必要があります。そのため、術前の計画立案、手技中の慎重な対応、術後の経過観察が不可欠となります。とくに、侵襲的な手技では、術者の経験や技術だけでなく、使用する機器の特性、術中のモニタリング、患者の解剖学的特徴など、多くの要因が結果に影響を与えます。たとえば、穿刺系の手技では、解剖学的な個人差や病態による組織の変化が予期しない合併症の要因となることがあり、慎重な画像評価とリアルタイムのフィードバックが求められます。また、医療機器を用いる治療では、隣接組織への影響を十分に考慮し、適切な出力設定やエネルギー制御を行うことが重要です。さらに、医療訴訟の観点からは、手技前のリスク説明と手技後のフォローアップも重要です。とくに、偶発的な合併症が発生しうる手技では、患者や家族に対し、そのリスクや対応策を明確に説明し、納得を得るプロセスが不可欠です。また、術後に異常所見が見られた場合、その原因を正確に特定し、適切な対応を迅速に行うことが求められます。本件の裁判では、手技自体の過誤は認められませんでしたが、医療者としては、手技の安全性を高めるための努力を継続することが重要です。事前の十分な準備、術中の精度の高い対応、術後の適切なフォローアップにより、医療の質を向上させ、患者の安全を確保することが、臨床医に求められる役割といえます。Take home message行われた手技が患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に照らして過誤を来たしやすいものか、術後の経過・検査結果等が過誤のあった場合のものと整合するか(過誤以外の原因による症状・経過であるか)等から、手技の過誤の有無が判断される。不可避の合併症であること、または、過誤以外の原因による術後経過であることを説明できるかがポイントとなる。キーワード病理解剖・AI(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)患者の死亡事案においては、司法解剖が行われるケース以外にも、家族の同意を得て、病理解剖やAIが行われることがある。それらが行われている場合、その結果は、死因の究明、病態進行の確認、他の原因疾患の有無などの確認で活用されるものであるが、医療紛争となった場合においては、過失や因果関係の判断でも用いられる。

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硬膜外ステロイド注射は慢性腰痛に効果あり?

 特定のタイプの慢性腰痛患者において、痛みや障害の軽減を目的とした硬膜外ステロイド注射(epidural steroid injection;ESI)の効果は限定的であることが、米国神経学会(AAN)が発表した新たなシステマティックレビューにより明らかになった。このレビュー結果は、「Neurology」に2月12日掲載された。 ESIは、脊柱の硬膜外腔と呼ばれる部分にステロイド薬や局所麻酔薬を注入して炎症を抑え、痛みを軽減する治療法である。このレビューの筆頭著者である米ロマリンダ大学医学部のCarmel Armon氏は、「慢性腰痛は一般的だが、動作や睡眠、日常的な活動を困難にして、生活の質(QOL)に悪影響を及ぼし得る」とAANのニュースリリースで述べている。 今回のシステマティックレビューでは、2005年1月から2021年1月の間に発表された90件のESIに関するランダム化比較試験を対象に、神経根症および脊柱管狭窄症に対するESIの痛み軽減効果に焦点を当てて分析が行われた。神経根症は、主に頸椎や腰椎の変性により神経根が圧迫されることで、脊柱管狭窄症は脊柱管(背骨の中の神経の通り道)が狭くなって脊髄や神経が圧迫されることで生じ、いずれも痛みやしびれなどが生じる。分析結果は、研究ごとに有効性の指標が大きく異なるため、短期的(治療後3カ月まで)および長期的(治療後6カ月以上)に見て、ESIを受けた患者(ESI群)において治療により良好な転帰を達成した割合がESIを受けていない対照群と比べてどの程度多いか(success rate difference;SRD)に基づき報告された。 その結果、頸部または腰部神経根症の場合、ESI群では対照群と比較して短期的に痛みが軽減した人の割合が24%(SRD −24.0%、95%信頼区間−34.9〜−12.6)、障害が軽減した人の割合が16%(同−16.0%、−26.6〜−5)多いことが示された。また長期的に見ても、ESI群では障害が軽減した人の割合が対照群より約11%多い可能性が示された(同−11.1%、−25.3〜3.6)。ただし、対象研究の多くは腰部神経根症の人が中心であり、頸部の疾患に対する治療については十分な研究がなかった。そのため、頸部の神経根症に対するESIの効果は不明であるという。 一方、脊柱管狭窄症の場合、ESI群では対照群と比較して、短期的にも長期的にも障害が軽減した人の割合が、それぞれ26%(SRD −26.2%、95%信頼区間−52.4〜3.6)と12%(同−11.8%、−26.9〜3.8)多い可能性が示唆されたが、統計学的な有意性は確認されなかった。また、短期的に痛みを軽減する効果については、統計学的に有意な差は確認されず(同−3.5%、−12.6〜5.6)、長期的に痛みを軽減する効果については、エビデンスが十分ではなく不明とされた。全ての研究が腰部脊柱管狭窄症の人を対象にしていたため、頸部脊柱管狭窄症に対するESIの効果は不明であった。 共著者の1人である、米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのPushpa Narayanaswami氏は、「われわれの研究は、特定の慢性腰痛に対するESIの短期的な効果は限定的であることを裏付けている」とニュースリリースで述べている。同氏はまた、「治療を繰り返すことの有効性や、治療が日常生活や仕事復帰に及ぼす影響について検討した研究は見当たらなかった。今後の研究では、こうしたギャップを解消する必要がある」と付言している。

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非がん性慢性脊椎痛、効果的な治療はない?/BMJ

 非がん性(軸性または神経根性)慢性脊椎痛に対し、一般的に行われている関節注射、硬膜外注射、高周波治療などの介入手技は偽手技と比較して、ほとんどまたはまったく疼痛緩和をもたらさない可能性があることが、低~中のエビデンスの確実性をもって示された。カナダ・マクマスター大学のXiaoqin Wang氏らが無作為化比較試験のシステマティックレビューとネットワークメタ解析の結果を報告した。非がん性慢性脊椎痛は、世界的に大きな健康問題であり、社会経済的に大きな負担を伴う。ステロイドの硬膜外注射、神経ブロック、高周波神経焼灼術などの介入が行われるようになってきているが、現行ガイドラインではそれらの使用に関して相反する推奨事項が示されていた。BMJ誌2025年2月19日号掲載の報告。介入手技と、偽手技等を比較した無作為化試験についてネットワークメタ解析 研究グループは2023年1月24日までにMedline、Embase、CINAHL、CENTRAL、Web of Scienceに登録された文献を検索し、対象研究を特定した。選択基準は、軸性または神経根性の非がん性慢性脊椎痛(持続期間12週以上)を有する患者(18歳以上の成人患者を80%以上含む)を対象とし、10例以上の患者を介入群(関節注射、硬膜外注射、後根神経節への高周波治療、高周波除神経術、傍脊椎筋肉内注射)と対照群(代替手技、偽手技、または理学療法・運動療法・非ステロイド性抗炎症薬投与などの通常ケア)に無作為に割り付け、1ヵ月以上追跡した研究とした。がん関連痛を伴う患者や、感染症または炎症性脊椎関節炎の患者を登録した研究は除外した。 評価者2人がそれぞれ適格研究の特定、データ抽出、バイアスリスクの評価を行った。ネットワークメタ解析は頻度論的ランダム効果モデルを用いて行い、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)アプローチを用いてエビデンスの確実性を評価した。ほとんどの介入手技は偽手技と比べて疼痛緩和に差はない 適格研究132件が特定され、このうち13の介入手技または手技の組み合わせを検討した81件、患者計7,977例がメタ解析に組み入れられた。 慢性軸性脊椎痛の疼痛緩和に関して、局所麻酔薬の硬膜外注射(10cmの視覚的アナログスケールにおける加重平均差[WMD]:0.28cm、95%信頼区間[CI]:-1.18~1.75)、局所麻酔薬とステロイドの硬膜外注射(0.20cm、-1.11~1.51)、ステロイドの関節注射(0.83cm、-0.26~1.93)は、偽手技と比較してほとんどまたはまったく差がないと考えられることが示された(エビデンスの確実性:中)。 また、局所麻酔薬の筋肉内注射(WMD:-0.53cm、95%CI:-1.97~0.92)、ステロイドの硬膜外注射(0.39cm、-0.94~1.71)、局所麻酔薬の関節注射(0.63cm、-0.57~1.83)、局所麻酔薬とステロイドの関節注射(0.22cm、-0.42~0.87)も、慢性軸性脊椎痛の疼痛緩和に関して偽手技と比較して、ほとんどまたはまったく差はない可能性が示された(エビデンスの確実性:低)。 局所麻酔薬とステロイドの筋肉内注射は、慢性軸性脊椎痛の疼痛を増大する可能性が示された(WMD:1.82cm、95%CI:-0.29~3.93)(エビデンスの確実性:低)。 慢性軸性脊椎痛に対する関節高周波焼灼術の有効性は、エビデンスの確実性が非常に低いことが示された。 慢性神経根性脊椎痛の疼痛緩和に関して、局所麻酔薬とステロイドの硬膜外注射(WMD:-0.49cm、95%CI:-1.54~0.55)、ならびに後根神経節の高周波焼灼術(0.15cm、-0.98~1.28)は、偽手技と比較してほとんどまたはまったく差はない可能性が示された(エビデンスの確実性:中)。 また、局所麻酔薬の硬膜外注射(WMD:-0.26cm、95%CI:-1.37~0.84)およびステロイドの硬膜外注射(-0.56cm、-1.30~0.17)も、慢性神経根性脊椎痛の疼痛緩和に関して偽手技と比較して、ほとんどまたはまったく差はない可能性が示された(エビデンスの確実性:低)。

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検査等の定型的な手技、過失責任は?【医療訴訟の争点】第9回

症例診療時の医療処置ではさまざまな手技が行われるが、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が異なるものと、患者の病態により左右されることの少ない定型化された機械的所作の手技とがある。今回は、機械的所作と言いうる要素が比較的大きいマンモトーム生検における局所麻酔の手技の過失の有無等が争われた東京地裁平成28年5月25日判決を紹介する。<登場人物>患者43歳(被告病院初診時)・女性人間ドックにて左乳腺腫瘤疑いと指摘されて被告病院を受診。原告患者本人被告総合病院(大学病院)事案の概要は以下の通りである。平成23年(2011年)1月12日人間ドックを受診し、左乳腺腫瘤疑いを指摘された。1月19日被告病院を紹介受診。被告病院にて、超音波検査やマンモグラフィ検査、細胞診等を受けたが、積極的に悪性を疑わせる所見が認められなかったことから、約6ヵ月後に経過観察をする方針となった。<以後、数ヵ月ごとに被告病院を受診し、穿刺吸引細胞診、乳腺MRI検査等を受けた>平成24年(2012年)10月17日超音波検査及びマンモグラフィ検査を受けた。10月19日被告病院を受診し、主治医のA医師(乳腺外科15年目)より説明を受け、エコーガイド下マンモトーム生検を受けることとなった。なお、A医師は、「治療に関する説明・同意書」を用いて、同生検の目的や方法を説明したほか、生じ得る合併症として、発生頻度の比較的高い出血や皮下血腫などについては説明したが、「予想される不利益」として気胸についての記載はなく、A医師も気胸が発生する可能性については説明しなかった。10月30日エコーガイド下マンモトーム生検を実施するにあたり、B医師(研修医終了後3年目)が局所麻酔を行ったところ、手技中に咳き込み、マンモトーム生検は中止となった。室内気でSpO2 100%、血圧は150 mmHg台と高かったものの、その後、111/75mmHgに戻り、心拍数は86/分、呼吸音にラ音はなく、皮下気腫が生じた場合に生じる頸部皮膚の握雪感も認めなかった。気胸が生じた可能性を考慮し胸部X線検査を行ったが、異常所見は認められなかった。10月31日原告は胸痛が出現したため被告病院の救急外来を受診した。胸部X線検査で左気胸が認められたため、被告病院の呼吸器外科を受診し、胸腔ドレーン挿入などの治療を受けた。実際の裁判結果裁判所は、以下の点を指摘し、「原告に生じた左気胸は、マンモトーム生検の局所麻酔を行った際に胸腔内まで麻酔針が貫通し、肺を穿刺したことによって生じた医原性気胸である」と認定した。一般に、気胸の病因による分類の一つに、医療行為に伴う医原性気胸があること本件では、マンモトーム生検の局所麻酔を行っている最中に原告に咳嗽が生じ、気分不快等を訴えたことマンモトーム生検中止の直後から原告には胸痛や息苦しさが生じていたものと認められることマンモトーム生検を行った平成24年10月30日当日の胸部X線検査では、原告に明らかな異常所見は認められなかったものの、翌31日も、原告の胸痛等の症状が持続し、同日の胸部X線検査及び胸部単純CT検査において、左気胸と診断されたこと裁判所は、本件の局所麻酔について、以下の点を指摘した。エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺による合併症として気胸を指摘する文献は証拠上見当たらないこと(生検に伴う「合併症」として「乳房が小さい場合や病変が深部にあるとき、まれに局所麻酔の注射針で気胸を生じることがある」旨の文献の記載があるが、これは直接的には摘出生検に係る記載であり、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺に関するものとは読めないこと)エコーガイド下マンモトーム生検の局所麻酔を行うに当たっては、筋層直上に位置しており胸腔やその内部にある肺と至近距離にある部位(レトロマンマリースペース)まで麻酔針を到達させることが重要とされていることレトロマンマリースペースの位置からすると、麻酔針が胸腔内まで貫通し、肺を穿刺する一般的な危険性を有することは否定できないこと術者はモニター画面上で針先を中心に継続的な確認を行いながら自ら針の刺入等の操作を行っており、針先が明確に確認できなくなれば、針を回転させる等の方法で針先位置を確認し直した上で穿刺を継続し、あるいは刺入し直す等の方法で対応していること針治療や肺・胸腔穿刺(胸膜穿刺)、胸膜生検、中心静脈栄養法のための鎖骨下静脈穿刺、気管支鏡による経気管支肺生検なども同様に胸腔近傍において針の穿刺を行う手技ではあるが、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の胸腔内への貫通によって気胸を生じる例が極めてまれであることエコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺については、一定の抽象的な危険性や制約はあるものの、突発的な体動の発生や超音波による描出が特に困難な事情等特段の事情があれば別論、一般的には前記のような手段を講じ通常の注意義務を尽くすことによって胸腔内への貫通を防止し得ることが通常であることかかる事項を指摘した上で、裁判所は、以下のとおり判示し、手技上の過失(注意義務違反)があったものと推認されるとした。「本件マンモトーム生検の局所麻酔において、超音波画像で麻酔針の針先が確実に描出できていなかった可能性をもって、原告に生じた医原性気胸が不可避であったものと断ずることはできず、本件マンモトーム生検の局所麻酔において原告の胸腔内まで麻酔針を貫通させ、肺を穿刺したことについて、B医師には、針先の十分な確認を怠り、あるいは、超音波画像の評価を誤って麻酔針を進入させた手技上の注意義務違反ないし過失があったものと推認せざるを得ない」その上で、過失を覆す証拠がないとして、本件マンモトーム生検の局所麻酔の手技の過失を認めた。注意ポイント解説本件は、専ら施術における機械的所作の手技により、発症率が極めて低い合併症が生じたことにつき、手技上の過失が認められた事案である。裁判所が、エコーガイド下マンモトーム生検の麻酔針の穿刺については、一定の抽象的な危険性や制約はあることを指摘し、これによる気胸の合併症報告が極めてまれであること等を指摘し、通常の注意義務を尽くすことによって胸腔内への貫通を防止し得るとした上で、発生した合併症(気胸)について、「針先の十分な確認を怠り、あるいは、超音波画像の評価を誤って麻酔針を進入させた手技上の注意義務違反ないし過失があったものと推認せざるを得ない」としたことが注目される。かかる裁判所の判断は、患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が左右されることの少ない機械的所作の手技については、同様に当てはまる可能性がある。このため、機械的所作の手技の結果、発生がまれな合併症が生じた場合には、医療者の過失(注意義務違反)が推認される可能性があることに留意する必要がある。この場合、処置時(手技実施時)において、通常のケースと異なる配慮が必要な状態であったことや予想外の事態が生じたことをカルテ記載等で示せない限り、責任を回避することは困難と考えられる。医療者の視点本事案の裁判所の判断は、機械的所作とされる手技においても、術者の適切な確認が求められることを示しています。たとえば、中心静脈穿刺では、エコーガイド下であっても患者の体動や解剖学的個体差により、血管穿刺が困難になり、誤って胸膜を穿刺するリスクがあります。このような状況では、針先の動きを慎重にモニタリングし、異常があれば即座に対応する判断力が重要です。また、術中に通常と異なる状況が生じた場合、それを記録し、客観的な説明ができるよう備えておくことが、後のリスク管理につながります。安全な医療の提供には、技術の習熟だけでなく、想定外の事態に対応する柔軟な判断力と、それを記録・説明する意識が不可欠です。Take home message患者の病態(原因疾患の部位や大きさ・進行度などを含む)に応じて手技内容が左右されることの少ない機械的所作の手技の結果、発生がまれな合併症が生じた場合には、医療者の過失(注意義務違反)が推認される可能性がある。処置時(手技実施時)に通常と異なる事態が生じていたのであれば、そのことを記録しておく必要がある。キーワード合併症と医療者の責任合併症の中には、医療行為により不可避的に生じるものと、医療者の過失(注意義務違反)により生じるものとがある。悪しき結果が生じた場合にそのすべてが医療者の責任とされるものではないが、医療者の過失(注意義務違反)により生じたものについては、医療者に責任が発生する。このため、医療事故をめぐる紛争においては、患者側に生じた悪しき結果が、患者側の主張する医療者の過失(注意義務違反)によって生じたものであるのか、不可避の合併症であるのかが争われることも多い。この場合、医学文献・論文を用いての立証に加え、協力医の意見書の提出がされることや、裁判所の選任する鑑定医による鑑定がなされることもある。

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医薬品供給不足の現在とその原因は複雑/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、「医薬品供給等の最近の状況」をテーマに、メディア懇談会を2月19日に開催した。懇談会では、一般のマスメディアを対象に現在問題となっている医薬品の安定供給の滞りの原因と経過、そして、今後の政府への要望などを説明した。 はじめに松本氏が挨拶し、「2020年夏頃より医薬品供給などに問題が生じてきたが、4年経過しても解決していない。後発医薬品だけではない、全体的な問題であり、その解消に向けて医師会も政府などに要望してきた。複合的な問題であるが、早く解消され、安心・安全な医薬品がきちんと医師、患者さんに届くことを望む」と語った。安定供給に立ちはだかる内的要因と外的要因 「医薬品供給等の最近の状況について」をテーマに同会常任理事の宮川 政昭氏(宮川内科小児科医院 院長)が、長引く医薬品供給停滞について、その現状と問題点を説明した。 医薬品の安定供給問題には、採算性の低下、国の関与不足、トレーサビリティの問題・情報開示などの内的要因と地政学リスク、材料の特定国への依存、日本独自の品質要求などの外的要因が交錯し、問題を複雑化している。 2025年2月18日時点での厚生労働省医療用医薬品供給状況の発表でも、通常出荷されていない割合は約21.9%、そのうち後発医薬品の割合が約60%、先発医薬品や長期収載医薬品なども12.7%という状況。 医薬品の供給不足に関しては、供給体制を強化する必要があるが、安定供給は国民の健康を守るために重要な課題であり、安全保障の観点からも重要と述べるとともに、医療用医薬品不足の原因としては、「品質問題」「海外依存リスク」「国内生産基盤の強化」の3つがあると提示した。(1)品質問題 2020年頃より顕在化するようになった後発医薬品メーカーの品質問題の不祥事による厚生労働省の行政処分。厚労省、日本ジェネリック製薬協会が何度も自主点検を行っても、こうした事態が解消されずにいる。2023年の先発医薬品メーカーも含めた日本製薬団体連合会主導の自主点検でも、「一部承認書との相違の整理あり」の案件が3,281件(37.6%)と、いまだ約4割に相違があることは非常に問題だという。実際、自主点検で報告された代表事例として、製造方法の改変、規格の齟齬、承認書と関連文書の矛盾、承認書からの追加・省略事例、文書化されていない口頭伝承などがあった。今後の対応としては、とくに「組織ガバナンス」の問題として、「経営レベルでのガバナンス強化」「品質管理システムの徹底」「従業員の意識改革」などが期待されると説明した。(2)海外依存のリスク 厚労省が、サプライチェーン調査を実施したところ、安定確保医薬品カテゴリーAの21成分の原薬原材料の供給経路につき、8成分が単一国、5成分が2ヵ国、8成分が3ヵ国以上だった。仕入先国では、中国、韓国、インドが多く、特定の国への集中は考慮する必要があると問題を提起した。厚労省の対策会議などでは、供給が単一国の場合はその供給の複数国化や、医薬品メーカーの代替供給源の探索を行う際の補助事業、供給リスク管理のためのマニュアル作成事業などが提案され、これらを推進することで、材料などの安定的な供給を進めていると紹介した。(3)国内生産基盤の強化 医薬品の安定供給確保には、国内の製造基盤を維持・強化することが不可欠であり、GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理および品質管理)基準適合の設備導入や、政府支援による生産拠点整備が求められる。一方で、後発医薬品メーカーによっては工場の老朽化が進んでおり、懸念材料となっている。建て替えには数百億円の費用が必要とされるが、政府などの支援がないのが現状。また、単純に薬価を上げれば安定供給になるわけでもないので、安定供給のために製薬企業全体として国に対策を協力してもらい、国家の安全保障としての枠組み作りを国に要望したいと語った。医薬品流通体制の3つの課題 次に「医薬品の流通体制」について、現状、インフルエンザ治療薬、局所麻酔薬、テオフィリン徐放性製剤が不足しており、地域医師会などから悲痛な声が医師会に届いていることを報告した。そして、医薬品の流通体制の問題点として「共同開発」「委受託製造」「1社流通」の3つの問題を上げた。 「共同開発」では、後発医薬品メーカーの開発コスト削減などメリットがある一方で、製造販売承認では開発各社が安定性試験などの資料をそろえ、申請をしなければならない煩雑さがある。「委受託製造」では、品質管理のばらつき、コスト削減による品質低下、緊急対応の難しさなどがあると指摘する。「1社流通」では、効率的な流通、コスト削減、品質管理の保持ができる一方で、従来からある医薬品供給の遅れ、価格の固定化、安定供給への懸念などさまざまな課題が提起されている。実際、日本保険薬局協会の調査でも「製薬企業・卸から理由の説明を受けたことがある薬局」は約7%で、丁寧な情報提供がないなど流通改善のガイドラインなどが順守されていないという。 終わりに宮川氏は、「医薬品に関連するさまざまな問題を説明した。今後、マスメディアにはこうした現状を理解してもらい、適切な報道をしていただきたい」と述べ、懇談会を終えた。

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生きた○○が耳の中に侵入【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第274回

生きた○○が耳の中に侵入タイトルの時点でもう異物論文確定ですが、耳といえばマジかよという異物論文が多いです。耳異物論文史上もっとも衝撃的なのは、耳内ゴキブリの1例でしょう。異物論文専門医の皆さんはもうご存じかもしれませんが、オーストリアのグラーツ医科大学耳鼻咽喉科から、新たな異物論文が報告されました。ゴキブリを上回る衝撃ではないかもしれませんが、紹介させてください。Kiss P, et al.Unusual Foreign Body in the Middle Ear: Surgical Removal of a Live Ant Entering the Tympanic Cavity Through an Ear Drum Perforation.Diagnostics (Basel). 2024 Nov 12;14(22):2530.42歳の女性が、ある日突然のガリガリという耳鳴りと違和感があり、外来を受診したそうです。ずっとガサゴソ鳴っている…。この患者さん、実は以前から鼓膜穿孔があり、穴があいていたそうです。医師が耳鏡で確認したところ、確かに鼓膜の後方部分に楕円形の穴があいており、鼓膜の奥に黒い物体が動いていることが確認されました。もう、ホラーやん!よく観察すると、それは生きたアリでした。いやああああ!でもまぁ、ゴキブリよりマシか。ε-(´∀`*)ホッまずは局所麻酔を用いて異物の摘出が試みられましたが、うまくいきませんでした。そこで患者は入院し、全身麻酔下での内視鏡的手術が行われることとなりました。この手術では、鼓膜の一部を切開し、アリを慎重に摘出するという方法が取られました。幸いにも手術は無事に成功し、患者は翌日には退院しました。その後の経過観察でも症状やアリ侵入の再発はありませんでした。外耳道の虫というのはありがちなマイナーエマージェンシーですが、中耳にまで侵入するケースはまれです。今回のように鼓膜穿孔がある場合には、異物が中耳に到達するリスクが存在しますが、小さな子供の場合、鼓膜そのものを虫が食い破ることもあるため1)、耳鳴りや耳の詰まり感といった症状を軽視せず、早めに医療機関を受診することが重要です。ガサゴソと動く音がするという主訴をみた場合、外耳道や中耳に虫が入っている可能性を考慮ください。ゴキブリでないことを祈りましょう。1)Supiyaphun P, et al. Acute otalgia: a case report of mature termite in the middle ear. Auris Nasus Larynx. 2000 Jan;27(1):77-8.

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陰茎をファスナーに挟んだ【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第20回

ジャンパーなどを着ていて、下に着ていた服や下着がファスナーに挟まれたことがある人は少なくないと思います。では、皮膚がファスナーに挟まれることはあるのでしょうか?実は、ファスナーの開閉時に陰茎が挟まれることがあり、思春期の陰茎外傷の中でファスナーによる外傷は珍しくありません。2~12歳の男児において、4,000人に1人の割合でこの外傷が生じています。年齢を重ねると頻度が下がりますが、これは年齢を重ねると包皮が亀頭を覆う頻度が下がるためです。勢いよくファスナーを上げ下げすることがなくなることも影響していると思います。なので私は、ファスナー外傷は救急外来の男児しか診たことがありません。なお、ファスナーの呼称はさまざまで、日本では「チャック」、アメリカでは「ジッパー」、一般的な名称としては「ファスナー」とされています。これらはすべて同じ物を指す言葉ですが、今回は「ファスナー」とします。<症例>5歳、男児主訴陰茎がファスナーに挟まった。経過ズボンをはき、ファスナーを上げたところ、下着と一緒に包皮を挟んで取れなくなった。男性であれば挟まれた際の激痛を想像できるでしょう。処置にあたってはとてつもない痛みと恐怖が予想されます。不用意にファスナーを動かせば痛みが生じますので、まず挟んでいる部位に局所麻酔を実施します。陰茎ブロックも適応なのですが、手技に慣れが必要であることと、ファスナーが挟んでいる範囲が狭いことから、私は局所麻酔にしています。では、どのようにしてファスナーから解放できるのでしょうか。まず、ファスナーの構造を理解することが重要です(図)。図 ファスナーとスライダーの構造スライダーの中はダイヤモンド部分で上下が繋がっていて、内部はY字形のトンネルになっています。ここを通ると務歯の隙間が押し広げられ、務歯同士がかみ合ったり離れたりします。陰茎がスライダーと歯の間に挟まれた場合、構造上、このダイヤモンド部分をニッパーなどで切断すれば上下に分離します。切断が困難な場合は、石けんなどを使用して滑りをよくしたり、マイナスドライバーを歯の間に差し込んでねじって広げたりする方法を試みます。本症例は、局所麻酔後、ニッパーを用いてスライダーを切断し、除去しました。挟まれた部位は浅い挫創程度であったので、洗浄して軟膏を塗布したガーゼで覆って帰宅としました。なかなか診る機会がないファスナー外傷ですが、いざというときのために参考にしてください。

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中心静脈カテーテルのガイドワイヤーを2年間放置されていた男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第268回

中心静脈カテーテルのガイドワイヤーを2年間放置されていた男性「これってただの医療過誤では…」と思われる症例が、ときに医学論文化されていることがあります。日本だと、さすがに中心静脈カテーテル(CVC)のガイドワイヤーを長期間放置したら、ニュースになるでしょう…。Chatzelas DA, et al. Surgical Removal of a Long-Forgotten, Retained Intravascular Foreign Body: A Case Report and Literature Review. Vasc Specialist Int. 2024 Jul 17:40:25.82歳の男性患者が2021年9月に大腸がんの手術を受けました。手術中に右内頸静脈からCVCが挿入されましたが、その際にガイドワイヤーが体内に残されたことに気付かれませんでした。内頸静脈のガイドワイヤー、ということは右房・右室に向かって入っていたのでしょうが、2年後の2023年10月、CT検査でなんと右大腿静脈から上大静脈まで伸びるガイドワイヤーが残っていることが発見されました。こっわ…!幸いにも患者さんには症状がなく、深部静脈血栓症などの血栓徴候もありませんでした。局所麻酔下で外科的に異物を除去することが決定され、右大腿静脈を切開し、鉗子を使用してガイドワイヤーを慎重に引き抜きました。透視検査で残存するガイドワイヤー断片が残っていないことを確認し、静脈造影でも出血がないことを確認しました。患者さんは術後早期に退院しました。その後、1ヵ月後、6ヵ月後のフォローアップでも、とくに異常はなかったそうです。めでたし、めでたし。ん?…いや…、めでたいのか…?CVCで使用するガイドワイヤー紛失は、基本的にまれです。というか、ガイドワイヤーの先端をつかむことに神経を集中させているので、紛失などあってはならないものです。残置されたガイドワイヤーは、不整脈、血管損傷、血栓塞栓症、感染、心臓穿孔、心タンポナーデなどの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、基本的には緊急的に処置されるべきものです。この症例の問題は、ガイドワイヤーを置き忘れたことだけでなく、大腸がんの術後なのに2年間画像フォローされたことがなかったという点でしょうか。

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第235回 麻酔薬を巡る2つのトピック、アナペイン注供給不足と芸人にプロポフォール使用の配信番組で麻酔科学会大忙し(前編)

東京女子医大新学長に国際医療福祉大の山中寿教授こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。同窓会組織・至誠会と学校法人の不適切な資金支出や、寄付金を重視する推薦入試や人事のあり方などが問題視され、8月に前任理事長が解任された東京女子医大ですが、10月18日に理事会が開かれ、理事会の全理事と監事が辞任、新しい学長には国際医療福祉大の山中 寿教授(70)が選任されました。東京女子医大については、本連載でも「第226回 東京女子医大 第三者委員会報告書を読む(前編)『金銭に対する強い執着心』のワンマン理事長、『いずれ辞任するが、今ではない』と最後に抗うも解任」などで度々書いてきましたが、結局、経営陣は総入れ替えになりそうです。新しく学長に就任した山中氏はリウマチ学の権威で、1983年から東京女子医大に在籍、2003~18年には同大附属の膠原病リウマチ痛風センターなどで教授を務めていました。どういった経緯で山中氏が選ばれたのかは不明ですが、女子医大の内実をよく知り、かつ同大病院の名物センターの一つ、膠原病リウマチ痛風センターを切り盛りしていた実績が買われたのでしょう。山中氏は国際医療福祉大の教授であり、同大関連の医療法人財団順和会山王メディカルセンターの院長でもありました。国際医療福祉大が、厚生労働省官僚の主要“天下り先”であることを考えると、国、厚生労働省の意向も少なからず反映されたのかもしれません。70歳という年齢はやや行き過ぎている感は否めませんが、正常かつ公正な大学運営が行われることを期待したいと思います。供給不足が社会問題化していたアナペイン注に不足解消の兆しさて今回は麻酔薬を巡るトピックを2つ紹介します。まずは、6月以降限定出荷が続き、供給不足が社会問題化していた局所麻酔薬のアナペイン注(一般名:ロピバカイン塩酸塩水和物)ですが、不足解消の兆しが見えてきました。アナペイン注の供給不足については、10月2日付のNHKニュースでも大きく報じられました。同ニュースは、「国立がん研究センター中央病院では、がんの手術にアナペインを使っています。ところが出荷制限でことし6月ごろから減少し始め、8月になってからはほとんど入荷しなくなりました。このため臨床試験や大腸がんの手術に使用を限定しているということです」と報じ、さらに「産婦人科の中には出産の際に麻酔で陣痛を抑える無痛分べんに応じきれなくなることを心配する声も聞かれます」と、市中の産科での混乱も伝えていました。そのアナペイン注ですが、製造販売元のサンドは10月9日、「アナペイン注2mg/mL」について「10月8日、製造所追加の承認を取得いたしました」と、翌9日には「アナペイン注7.5mg/mL」について「10月9日、製造所追加の承認を取得いたしました」と発表しました。いずれも初回出荷に向けた最終確認、調整に入っているとのことです。なお、「アナペイン注10mg/mL」については製造所追加の承認取得の手続きを進めているとのことです。また、福岡 資麿厚生労働大臣は10月8日の閣議後会見で、「アナペイン注」の限定出荷が続いている現状を踏まえ、今年8月に薬事承認されたテルモの後発品が年内にも供給開始される見込みだと説明しました。海外生産のリスクを回避しようと国内生産に切り替えようとしたことが裏目にそもそもなぜ、アナペイン注は供給不足に陥ったのでしょうか。サンドは5月に出した「アナペイン注2mg/mL,7.5mg/mL,10mg/mL(10管、1バッグ)供給に関するお詫びとご案内」で、「製造委託先変更に伴う、逸脱による製造遅延が発生し、調査および品質・安全確保のために製造を停止しております」と理由を説明していました。NHKなどの報道によれば、製造を行っている関連会社が製造所を海外から国内に移そうとしたところ技術移転に時間がかかることが明らかになり、国内製造を延期せざるを得なくなったとのことです。海外で製造される医薬品が海外の工場などの事情で供給不足に陥った事例については、本連載でも「第74回 膵がん治療に欠かせないアブラキサン10月供給停止へ、学会、患者会が他工場製品の緊急承認要望」で取り上げました。このときは、米国の1工場の不具合により、進行膵がんの1次化学療法薬として使われるアブラキサンが供給停止となった問題を取り上げ、海外製造に依存するリスクについて書きました。しかし、今回のアナペイン注は、そうしたリスク回避のため国内生産に切り替えようとしたことが裏目に出たわけです。企業の経営戦略は間違ってはいないものの、詰めが甘かったということでしょう。「逸脱による製造遅延」の「逸脱」って?サンドの「お詫びとご案内」に出てくる「逸脱による製造遅延」の「逸脱」は日常あまり聞かない単語です。これは、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(通称GMP省令)」で定めた製造手順から「逸脱」しており、製造工場が承認されなかったことを意味します。「アナペイン注2mg/mL」と「アナペイン注7.5mg/mL」については「逸脱」は解決され、製造所の承認も得たとのことなので、現場の医療機関はあとは出荷が軌道に乗るのを待てばいい、ということになります。なお、日本麻酔科学会は「長時間作用性局所麻酔薬が安定供給されるまでの対応について」1)という告知で、日本産科麻酔学会は「理事長メッセージ」2)で、アナペイン注が安定供給されるまでの対応策として、使用の優先順位を策定することやほかの鎮痛方法の検討などを推奨しています。もうしばらくは、学会の提言に従って麻酔薬を使うしかなさそうです。麻酔科学会が配信バラエティ番組で安易にプロポフォールが使われたことを強く非難ところで、日本麻酔科学会は「アナペイン注7.5mg/mL」の製造所追加の承認取得を同学会のサイトで会員に伝えた同じ10月16日、別件の興味深い理事長声明を出しています。「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」と題されたその声明3)は、「10月14日配信開始の番組において、 プロポフォールが内視鏡クリニックを舞台に使用され、何らかの外科的処置を必要としない人物を意図的に朦朧状態にするという内容が含まれていることを知り、深い憂慮を抱いております」として、配信されたバラエティ番組で芸能人に対して安易にプロポフォールが使われたことを強く非難してしています。調べてみると、麻酔科学会が問題視したのは、Amazon Prime Videoで10月14日から配信が始まった番組「KILLAH KUTS(キラーカッツ)」中の1エピソード、「EPISODE2 麻酔ダイイングメッセージ」でした(この項続く)。参考1)長時間作用性局所麻酔薬が安定供給されるまでの対応について/日本麻酔科学会2)理事長メッセージ/日本産科麻酔学会3)静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について/日本麻酔科学会

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「どのくらいで治る?」と聞かれたら?【もったいない患者対応】第12回

「どのくらいで治る?」と聞かれたら?登場人物<今回の症例>50歳男性工事現場で作業中、機械の誤作動で右手を打撲右手背に約5cmの裂創あり<手術で裂創を縫合しました>局所麻酔で10針縫いましたよ。ありがとうございます。職場にはできる限り早く復帰するよう言われています。治るまでにどのくらいかかるでしょうか?そうですね、順調であれば1週間から10日で抜糸できます。治療期間はその程度とお考えください。わかりました。ありがとうございます。~7日後~どうやら傷口が感染を起こしているようです。少し傷を開いて膿を出す処置をしなくてはなりません。そうですか。長くても10日で治ると聞いていましたが、3日後には復帰してもいいんですよね?傷が膿んでいる状態なので、まだ難しいと思います。そんな…もっと長引くということでしょうか? 職場には10日で復帰すると伝えてしまったんです。困りますよ!【POINT】患者さんから治癒までの期間を尋ねられた唐廻先生は、抜糸までの期間として「1週間から10日」と伝えました。しかし、残念ながら創部感染が起こり、治療は長引きそうです。「長くても10日」と思い込んでいた患者さんは、予定どおりに職場復帰できなくなり、憤慨してしまいました。何が悪かったのでしょうか?“どのくらいで治るか”は明確にわかるものだと誤解されやすい外傷ではとくに、患者さんから治癒までの期間を問われることが多いでしょう。職場から正確な治療期間を伝えるよう求められているケースも多く、医師が診断書に治癒までの期間を書かねばならないこともよくあります。こうした際に患者さんに伝える“治療期間”はあくまでも目安にすぎませんが、多くの患者さんはこのことを知りません。ニュースなどではよく「全治○ヵ月の怪我」といった報道もされるため、医師は患者さんに“治癒までの期間”を比較的明確に伝えられるものだ、と信じている方は多いのです。実際には、創傷治癒にかかる時間には個人差がありますし、何より、創部感染などの合併症が起こり、予想外に治療が長引くリスクは誰にでもあります。長引く可能性についても事前に説明を治癒するまでの期間を問われた場合、患者さんには、治療期間を正確に予測することはできず、ケースバイケースであること順調なら治療期間は〇〇くらいだが、途中で何かのトラブルが起こればもっと長引く可能性はあるということを、きちんと伝えておく必要があります。とくに、職場から復帰できるまでの期間を知りたいと言われているケースでは、医師が予想した期間を超えて治療が長引くと、職場に混乱が生じるおそれがあります。患者さん自身も、一緒に働く職場の同僚も、医師が伝えたタイミングで職場復帰するつもりで準備しているためです。そこで、患者さん本人から「治療期間を予測することは難しい」という旨が職場にもきちんと伝わるよう、医師も配慮することが望ましいのです。“治癒”の意味についても共有しておくちなみに、患者さんが“治癒=まったく元のとおりに戻ること”と捉えているケースは多くあります。しかし、実際には“社会復帰はできるものの、多少の後遺症は生じる”というケースはありえます。たとえ小さな傷であっても、感染を起こして目立つ瘢痕が残るケースもあります。完全に元どおりに戻ることが難しいこともあるという点を、患者さんにはあらかじめ理解してもらう必要があるでしょう。これでワンランクアップ!局所麻酔で10針縫いましたよ。ありがとうございます。職場にはできる限り早く復帰するよう言われています。治るのにどのくらいかかるでしょうか?そうですね、もし順調であれば1週間から10日で抜糸できます※1。ただし、途中で傷が膿んだり、治りが悪かったりする患者さんもいるので、これはあくまで目安です※2。いつ職場に復帰できるかは、いまの時点でははっきりお伝えすることはできません。傷の治り方次第で変わると思っておいてください。くれぐれも、職場の方にもそのように伝えておいてくださいね※3。※1:まずは簡単に見通しを伝える※2:順調にはいかない可能性も最初に共有しておく。※3:周囲の理解を得ることも大事。わかりました。ありがとうございます。

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第191回 リドカインが苦味にまつわる仕組みでがん細胞を死なす

リドカインが苦味にまつわる仕組みでがん細胞を死なす良薬口に苦しとはよく言ったもので、苦い薬リドカインに備わると思しき別の効能がその苦味にまつわる仕組みに端を発するらしいことが米国・ペンシルバニア大学のチームの研究で示されました1)。その別の効果とは抗がん作用です。20年ほども前の観察試験で局所麻酔が乳がん手術患者の再発や転移を減らしうることが示唆されています2)。リドカインは言わずもがな局所麻酔薬の1つであり、外来での外科処置でよく使われます。乳がん以外のがんへのリドカインの検討もいくつかあり、化学療法を助けたり転移を抑制したりするなどの効果を有するらしいことが示唆されています。リドカインは電位依存性ナトリウム(Nav)チャネルを阻害して感覚神経からの痛み信号を遮断します。リドカインが担いうる抗がん作用がそのNavチャネル阻害によるのかその他の仕組みによるのかはよくわかっていませんでした。リドカインは苦いだけに、25種類ある苦味受容体T2Rの1つT2R14を活性化します。T2R14を含むいくつかのT2R受容体の活性化は核内やミトコンドリアのCaイオン上昇を介して気道上皮細胞や頭頸部扁平上皮がん(HNSCC)細胞を死なすことがわかっています。そこでペンシルバニア大学のチームはリドカインがT2R14への作用を介してHNSCC細胞、もっというとそれ以外のがん細胞を死なすのではないかと考えました。その予想はどうやら正しく、リドカインはHNSCC細胞のT2R14活性化によってCaイオンを動かしてHNSCC細胞を弱らせ、やがては死に至らしめました。ヒトパピローマウイルス(HPV)と関連するHNSCCではT2R14遺伝子の発現が盛んなことも示され、リドカインによるT2R14活性化が最も有益かもしれません。そこで研究チームはHPV関連HNSCCの標準治療に加えてリドカインも投与する試験を計画しています3)。試験はペンシルバニア大学医学部のがん治療部門Abramson Cancer Centerが担当します。ペンシルバニア大学のチームはHNSCCを題材に研究を進めていますが、乳がんへのリドカインの効果の検討はより年季が入っています。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)での昨年の発表に続いて今年4月に論文になった大規模無作為化試験の結果、乳がんの手術に際してリドカインを手術前に腫瘍に直接注射したところ非注射の対照群に比べて生存が改善しました4)。試験はリドカインがNavチャンネル阻害を介して転移促進経路を食い止めるとの想定で実施されました。実際のところ生存の改善に加えて転移の減少も認められており、仕組みがどうあれ乳がん細胞の転移手段に手出しすることでリドカインは転移を減らし、手術後の経過を改善する働きがあるらしいと試験の担当者は述べています5)。乳がんもHNSCCと同様にT2R14を発現します。よって同試験で認められたリドカイン注射の生存改善にはT2R14への作用も寄与しているかもしれません1)。参考1)Miller ZA, et al. Cell Rep. 2023 Nov 16. [Epub ahead of print]2)Exadaktylos AK, et al. Anesthesiology. 2006;105:660-664. 3)Lidocaine may be able to kill certain cancer cells by activating bitter taste receptors / Eurekalert4)Badwe RA, et al. J Clin Oncol. 2023 Apr 6. [Epub ahead of print]5)Lidocaine Presurgery May Improve Survival in Early Breast Cancer / Medscape

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083)爪まわりの処置でありがちなこと【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第83回 爪まわりの処置でありがちなことゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆皮膚科の相談で多い足トラブルの1つに、陥入爪や巻き爪があります。足の指、とくに体重を支えたり、地面を蹴ったりする動作で負担のかかる親指の爪は、なにかとトラブルが起こりがち。もともと爪自体はたいして巻いていなくても、切り方を誤ることで、爪の角が皮膚に食い込み、腫れや痛みを生じるケースが多々あります。痛みをとるために、患者さん自身が(よかれと思って)角をどんどん短く切り込んでしまっているパターンがよくあるのですが、爪の角は四角く伸ばして、外に突き出させる、いわゆる「スクエアカット」が正しい切り方。陥入爪が起こる理由を説明したのち、正しい爪の切り方、伸ばし方などを指導し、テーピングなどで経過をみていきますが、食い込みがひどく肉芽を形成している場合は、いったん食い込みの元となっている爪のわきを、部分的に切除してしまいます。腫れて痛みのある部分を処置することになるので、無痛という訳にはいきませんが、爪自体に感覚はないため、深追いしなければ麻酔をしなくても意外とすんなり処置できます。手足の指の局所麻酔は、とくに麻酔の注射の方が痛かったりするので、(私自身もやりましたが、薬液が入ってくる瞬間がかなりの激痛です…)その旨を説明し、「痛かったら言ってくださいね~」と声をかけながら、食い込みの部分だけ爪をカットします。取り除いた爪の欠片をみると、肉芽の奥で爪がトゲのような形になっており(爪棘)、本人は角を丸く切り落としているつもりでも、実は切れていなかった、ということがよくわかります。爪の角は伸ばす、そしてみえるように出しておく。やっかいな爪トラブルですが、処置で食い込みが解除されれば、1週間ほどで落ちつくことがほとんどです。爪回り、とくに陥入爪の処置についてでした~。それでは、また次の連載で。

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釣り針が刺さった【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第2回

皆さんは釣りをしますか? 私は学生時代に釣りの楽しさを知り、よく遠征していました。「魚の引き」に快感を覚えるタイプで、学生時代はカジキマグロ、福井で働いているときは玄達瀬でアジ科最大種のヒラマサを釣り上げました。地域にもよると思いますが、救急外来で働いていると釣り針が刺さった患者を診る機会がしばしばあります。一般の方は釣り針が刺さったときに何科を受診したらよいかわからないため、かかりつけ医や意外な診療科にふらっとやって来ることもあります。そういうときに対処方法やコツを知らないと本当に困ることになりますよ! 下記は私が経験した苦い経験です。指に釣り針の刺さった強面のお兄さんが受診。疑似餌を用いて釣りをしていたようで、ゴム製の疑似餌が付いたままであった。除去しようとして疲れたのか、ややイライラしながら「痛くないようにしてくださいよ!」とプレッシャーをかけてくる。String pull technique(後述)による抜去に慣れてきたころだったのでトライしてみたが、緊張のためか変な力が入って釣り針はうまく抜けない。激しい痛みが生じたようで、顔をゆがめながらものすごい目つきでこちらを見てくる…。皆さんなら初めの段階に、もしくはこの後どうされますか? このようなことにならないように、今回は釣り針が刺さったときの対処方法とそのコツを紹介します。釣り針の構造釣りをされる方であれば一度は経験すると思いますが、釣り中に釣り針が服に引っ掛かって取れなくなってしまうことがあります。服を傷つけないように取ろうとしてもなかなか難しいですよね。釣り針には下図のように「カエシ」という突起があり、釣り針を抜こうとするとカエシが引っかかって抜けない仕組みになっています。強引に抜こうとすると皮下組織を損傷してしまい、かなりの痛みが伴います。また、餌が外れにくくするための突起である「ケン」にも注意しなければいけません。これらの複雑な構造が釣り針の抜去を難しくしています。画像を拡大する釣り針の抜去方法4選一般的に指に刺さった釣り針を抜去する手法は4つあります1)。(1)Retrograde techniqueRetrograde techniqueは、釣り針を刺さった方向と逆向きにそのまま引き抜くという方法です。釣り針を指側に押して、カエシが引っかからないように抜去します。報告によると成功率は74%とありますが、私の印象ではなかなかこの方法で釣り針を抜去することは難しいです2)。魚を簡単に逃がさないための人類の工夫ですので簡単に取れても困りますもんね…。画像を拡大する(2)String pull techniqueString pull techniqueは、最も傷が小さいと言われる方法です。釣り針を糸で結び、指側に押しながら、釣り針が刺さった方向と逆向きに糸を引っ張ります。屋外でもできることが利点ですが、しっかりとした固定が必要なので耳たぶなどの固定が難しい部位では行えません。画像を拡大する(3)Needle cover techniqueNeedle cover techniqueは、釣り針の針穴に18Gの注射針を挿入し、内腔にカエシを入れ、カエシが皮下組織に引っ掛からないようにカバーしながら抜去する方法です。注射針の先端を直接見ることができないのが難点で、成功率は高くない(47%)という報告があります。私は一度トライしましたが、カエシに注射針が入っているのかよくわからず、「かぶさった」という感覚があったものの結局皮下で引っかかって断念しました。それ以降はやっていません。画像を拡大する(4)Advance and cut techniqueAdvance and cut techniqueは、釣り針を刺さった方向に押し進め、カエシを皮膚から出してペンチなどで切断する方法です。カエシの手前で釣り針を切りますが、切った瞬間に断端が飛んでしまう危険があるため、私は釣り針をガーゼなどで覆ってから切るようにしています。カエシがなくなれば釣り針は逆向きから簡単に抜けるようになります。デメリットは釣り針による穴が2ヵ所できることでしょうか。画像を拡大するケンがある釣り針の場合は注意が必要で、刺さった方向に押し進める際に最初の針穴にケンが入り込んでしまうとそこで抜けなくなります。そのため、あらかじめケンを切っておくか、釣り針の根元を切断して、そのまま刺さった方向に押し進めて針先側から釣り針を抜く方法もあります。画像を拡大する私は基本的には(1)か(2)をトライしてダメなら(4)で抜去しています。(4)で抜けないということはまずないです。鎮痛釣り針の抜去の手技には痛みが生じることが多いため、私は処置の前に局所麻酔(1%キシロカイン)で鎮痛しています。(2)の処置では鎮痛は必要ないとも言われていますが、失敗したときの痛みはかなりのものなので私は鎮痛しています。インターネットで「String pull technique, fish hook」と検索すると動画が見れますが、なかなか簡単にはいきません。なお、痛みを抑えるコツは釣り針を素早く引っ張ることです!抗菌薬と創部処置抗菌薬に関しては基本的に推奨されていません。しかし、免疫抑制状態や糖尿病、肝硬変がある場合や、釣り針が関節内や靭帯や皮下の深いところまで到達している場合は予防投与が検討されます。予防の目的の1つに最近注目を集めるようになったエロモナス・ハイドロフィラ(Aeromonas hydrophila)があります。これは淡水、河口部、海水に広く常在するグラム陰性の通性嫌気性桿菌であり、治療にはフルオロキノロンが適応となります。海や川で使用した釣り針で傷を負い、抗菌薬の予防投与が必要な場合はフルオロキノロンを検討しましょう。また、患者の予防接種歴を確認し、基礎免疫がある場合は最終接種から5年以上経過している場合は破傷風トキソイドを投与し、基礎免疫がない場合は破傷風トキソイドに加えて抗破傷風人免疫グロブリンの投与を検討します3)。創部処置では、針穴を密閉すると感染リスクが高まるので控え、軟膏を塗布もしくは通気性がよいガーゼなどで保護します1)。もし、院外で釣り針が刺さった患者に遭遇した場合、私は(2)のString pull techniqueはあまり推奨しません。冒頭の苦い経験のように、うまくいかないとどうしても強い痛みが生じるからです。院外で遭遇したら無理をせず病院受診を促し、院内ではどの手法を使うにしても鎮痛をしっかりしたほうがよいでしょう。ちなみに、冒頭の強面のお兄さんの釣り針は、結局(4)のadvance and cut techniqueで抜去しましたが、最後に一言「最初からこれでやれよ」と言われてしまいました。ものすごい目つきでにらまれた記憶が今でも残っています…。1)Gammons MG, et al. Am Fam Physician. 2001:63;2231-2236.2)McMaster S, et al. Wilderness Environ Med. 2014:25;416-424.3)Callison C, et al. In:StatPearls [Internet]. Tetanus Prophylaxis. Treasure Island(FL):StatPearls Publishing. 2022.

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073)切開しない排膿で後悔したこと【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第73回 切開しない排膿で後悔したことゆるい皮膚科勤務医デルぽんです☆皮膚科でよくある排膿処置、炎症性粉瘤など。。。局所麻酔をし、皮膚を切開してから行うことがほとんどですが、なかには麻酔や処置を拒否される患者さんもおられます。そうでなくても、すでに自壊しており、開口部から膿が出ている、というパターンも。今回の患者さんはその両方で、麻酔と切開は絶対にイヤ、とのことでしたが、かるく押せば自壊部から膿が出ている状態だったので、かんたんに圧排して、排膿することにしました。処置台に寝ていただき、無理のない範囲で軽く押すだけのつもりでしたが・・・。狭い出口から飛びだす内容物。水鉄砲をご想像いただければわかるかと思います。本当に、よく飛んだ・・・!麻酔や切開の際に、膿を浴びてしまうことはたまにありますが、メガネや前髪にまでばっちり飛び散り、その後の私のテンションが、だだ下がりだったことは言うまでもありません(遠い目)。今後、排膿処置するときは、「しっかり切開して出口を確保してからにしよう」と心に誓ったのでした。他愛もない失敗談、失礼いたしました!それでは、また〜!

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脳保護デバイスでTAVRの周術期脳梗塞は解決するか?(解説:上妻謙氏)

 重症大動脈弁狭窄症(AS)に対する経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、低侵襲かつ有効な治療のためAS単独手術患者に関して標準的な医療となった。しかし周術期脳卒中の合併率は、最近の治療技術、デバイスの進歩によってある程度低下してきたものの依然として1~2%で発生している1)。脳卒中の合併率は外科手術と同等であるが、この脳卒中の問題が克服されればASの治療としてTAVRは外科手術に対して圧倒的に安全となる。本論文は北米、欧州、オーストラリアの51施設で行われたtransfemoral TAVR施行時の脳保護デバイス(cerebral embolic protection=CEP)の有効性を検証するメーカースポンサーの前向きランダマイズスタディである2)。3,000例のASを登録して行われたが、2,100例の登録終了時点で中間解析が行われ、脳卒中の合併率がCEP群2.2%、対照群2.4%であったため、サンプルサイズは予定された3,000例と決定された。主要エンドポイントは72時間以内の脳卒中の発生率で、CEP群2%、対照群4%の脳卒中合併率で90%の検出力で計算された。CEP群の94.4%でこのデバイス留置に成功し、デバイスに起因する合併症は1例(0.1%)のみで安全に施行できることが示された。しかし結果としては対照群2.9%に対しCEP群2.3%と残念ながら脳保護デバイスの有効性を証明することはできなかった(p=0.3)。死亡率、TIA、せん妄、急性腎障害も差がなかったが、modified Rankin Scale 2点以上の後遺症を残す脳卒中だけはCEP群0.5%、対照群1.3%と有意に脳保護デバイスを使用した群で少なくなった。サブグループ解析では人工弁のタイプや局所麻酔、前拡張や後拡張の有無などすべての要素でCEPの優位性を示す患者群を同定することができなかった。 このCEPはSentinelと呼ばれる2つのフィルターを備えた6Frのデバイスで、右の橈骨動脈か上腕動脈から挿入し、腕頭動脈と左総頸動脈でフィルターを展開して留置するデバイスで、比較的簡便かつ安全に使用できるためとても期待されていたが、大規模ランダマイズスタディではnegativeな結果となった。しかしこういったフィルターはどうしても血管壁との隙間が空くので、すべてのdebrisをブロックできるわけではなく、大きなdebrisをキャッチできればよいので、大きな脳梗塞が減少したというのは妥当な結果といえる。軽症の脳梗塞を減らすものではなく、重症の脳梗塞を減少させるデバイスと捉えると有用性は高いといえる。NEJM誌は科学的に最初の仮説を立証したものしか優位性を述べることを認めないため、完全に有用性が示されない形での論文となっているが、後遺症を残す脳梗塞というのは患者さん自身にとってはきわめて重要な問題である。少なくとも自分が患者であればこのデバイスを使用してもらいたいと思える結果であった。

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英語で発表、盛り上がる!【Dr. 中島の 新・徒然草】(447)

四百四十七の段 英語で発表、盛り上がる!ついこないだまで夏だと思っていたら、急に冬が来てしまいました。日本にはもう夏と冬しかないのでしょうか?同じ二季でも春と秋だったらいいのに、と私は思います。さて、私は先週、秋の熊本に行ってきました。国立病院総合医学会という学会に参加するためです。熊本市は、城と大学と病院が近くに集まっている街でした。天気も良かったので、のんびりと路面電車に乗ります。いつの間にか、熊本城ホールや熊本駅に着くのが便利でした。学会では、毎年行われる若手医師フォーラムに、今年もディスカッサントとして参加。若手医師フォーラムというのは、レジデントや研修医が英語で発表するセッションです。症例報告と研究とに分かれて発表します。しかし、単に発表するだけだと盛り上がらないので、点数を付けて表彰することになっていました。また、あらかじめ指名されたディスカッサントが質問したり、コメントしたりします。で、このディスカッサント役に指名されたわけです。最低2演題に対して質問するように、ということでザッと抄録を読んでいきました。本番では皆さんそれぞれに練習してきたのか、かなり上手な英語での発表です。もし、1つアドバイスするとすれば、ゆっくりしゃべることが重要かと思います。というのも、早口で不明瞭な発音だと、大変聞き取りにくくなるからです。英語の上手下手を競っているわけではなく、発表の内容を競っているわけです。発表を評価してもらうためには、まず聴く人に理解してもらわなくては話になりません。日本語アクセントでもいいので、ゆっくりとわかりやすくしゃべるべきですね。次にディスカッサントとしての心得です。読者の皆さまが今回の私のような立場になった時のために、アドバイスを1つ。その場で質問を考えて英語でしゃべるのは、なかなか難しいのが現実。なので、あらかじめ質問を準備していく必要があります。1つの抄録あたり5つぐらいは考えておいたほうがいいでしょう。というのも、抄録に書いてなくても、発表の中で回答が示されてしまうことがあるからです。たとえば今回の演題では、脳外科の脳深部刺激療法がありました。定位的に視床に電極を刺入するのですが、その手術を全身麻酔でやるのか、局所麻酔でやるのか?私はそれを知らなかったので、質問候補にあげていました。もし演者が発表の中で「電極刺入は局所麻酔で行います」などと言ったら、この質問はボツです。そう考えると、準備する質問は5つくらいあったほうが無難ですね。ちなみに電極刺入は局所麻酔、刺激装置の皮下埋め込みは全身麻酔でやるのだそうです。あと、質問は紙に書いておくべきです。スマホにメモしておくという方法もありますが、電子媒体は必ずしも信用できません。やはり、物理的な手段で残しておいたほうが確実です。さて、発表後の点数集計の間、座長の先生が場つなぎの話をされました。英語の大切さについてです。この先生はある時に、楽天の三木谷社長と直接に話をする機会があったそうです。その時に、社内公用語の英語化の功罪について尋ねたのだとか。三木谷社長の答えは、公用語を英語にしたことによって、世界中から人材を集めることができた英語のコミュニケーションといっても、中学レベルで十分だ他から転職してきた人でも、4ヵ月ほどで慣れるとのことでした。社内公用語の英語化は大成功だ、と三木谷社長は考えているようです。いよいよ集計が完了し、症例発表から1演題、研究から1演題が表彰されました。それぞれ豪華な副賞あり!会場には、それぞれ演者の応援団が来ていたので、大変な盛り上がりでした。というわけで、それぞれに頑張った若手医師フォーラム。久々にハッピーな気分になることができました。最後に1句秋深し 路面電車に 身を任せ

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英語で「足がしびれています」は?【1分★医療英語】第45回

第45回 英語で「足がしびれています」は?What brought you to see us today?(今日はどうされましたか?) I’ve got pins and needles in my feet.(足がしびれています)《例文1》I felt pins and needles in my arm when I woke up this morning.(今朝、目が覚めると腕がしびれていました)《例文2》I have a tingling sensation in my feet.(足がしびれています)《解説》日本語の「しびれる」という表現、英語ではニュアンスによって複数の言い方がありますが、“pins and needles”は、糖尿病の末梢神経症による感覚障害や神経痛などのピリピリしたような、まさに「針で突かれるようなしびれ」を表現するときに使われます。また、正座した後のようなビリビリした感覚にも“pins and needles”を使うことができます。似た表現としては、“tingling sensation”や“numbness”がありますが、“tingling sensation”は「チクチクする感覚」を表現することが多い一方で、“numbness”は「感覚が麻痺している状態」を示します。たとえば“my arm became numb.”(腕の感覚がなくなった)という具合です。処置の際に用いる局所麻酔のジェルは正式には“anaesthetic gel”ですが、患者さん向けにわかりやすく“numbing jelly”と呼ぶこともあります。講師紹介

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