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模擬運転プログラムで、10代ADHDの衝突事故が低減/NEJM

 注意欠如・多動症(ADHD)を持つ10代は自動車衝突事故のリスクが高く、衝突リスクの一因として、道路から長時間目をそらす行為が指摘されている。米国・シンシナティ小児病院医療センターのJeffery N. Epstein氏らは、この長時間の目そらしを少なくするためのコンピュータ化された模擬運転プログラムによる介入が、従来の自動車運転教育と比較して、模擬運転で道路から長時間目をそらす行為の回数を減少させ、車線内の中心からの位置のずれを抑制し、実社会でも衝突事故や異常接近が低下することを示した。研究の成果は、NEJM誌2022年12月1日号に掲載された。米国の単施設の無作為化対照比較試験 本研究は、単施設(米国・シンシナティ小児病院医療センター)の無作為化対照比較試験であり、2016年12月~2020年3月の期間に参加者の募集が行われた(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 年齢16~19歳、ADHDの診断基準を満たし、自動車運転免許を有する集団が、デスクトップコンピュータベースのソフトウエアである集中力・注意学習プログラムの強化版(FOCAL+)による介入を受ける群(介入群)、または従来の自動車運転教育の強化版を受ける群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、ベースライン、訓練後1ヵ月および6ヵ月の時点での、2回の模擬運転(1回15分)中に道路から長時間(2秒以上)目をそらす回数と、車線位置の標準偏差(車線の中心から側方への移動の指標)とされた。 副次評価項目は、長時間目をそらす行為の発生率と、自動車の運動量の突然の変化(Gイベント)による衝突事故または異常接近の発生率であり、訓練後1年間の車内記録で評価が行われた。薬物療法の影響は判断できない 152例が登録され、介入群に76例、対照群にも76例が割り付けられた。全体の平均(±SD)年齢は17.4±0.9歳、男性が62%であった。 訓練後の模擬運転中の長時間目をそらす行為は、介入群は1ヵ月の時点で1回の運転当たり平均16.5回、6ヵ月の時点では平均15.7回であり、対照群ではそれぞれ28.0回および27.0回であった。1ヵ月時の発生率比は0.64(95%信頼区間[CI]:0.52~0.76、p<0.001)、6ヵ月時の発生率比は0.64(0.52~0.76、p<0.001)であり、いずれも介入群で有意に低下していた。 車線位置の標準偏差(数値はフィート)は、介入群は1ヵ月の時点で0.98 SD、6ヵ月の時点でも0.98 SDであり、対照群はそれぞれ1.20 SDおよび1.20 SDであった。1ヵ月時の群間差は-0.21 SD(95%CI:-0.29~-0.13)、6ヵ月時の群間差は-0.22 SD(-0.31~-0.13)であり、いずれも介入群で良好だった(いずれも交互作用検定のp<0.001)。 訓練後1年間の実社会における運転中での、Gイベント当たりの長時間目をそらす行為の発生率は、介入群が18.3%、対照群は23.9%であった(相対リスク:0.76、95%CI:0.61~0.92)。また、Gイベント当たりの衝突事故または異常接近の発生率は、介入群3.4%および対照群5.6%であった(0.60、0.41~0.89)。 著者は、この試験の限界として「ADHDの薬物療法の影響を判断できない」ほか、シンシナティ(州境の都市圏)で行われているため「10代に段階的な免許取得などを義務付けているオハイオ州の施策を考慮すると、一般化可能性に影響を及ぼす可能性がある」などを挙げている。

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医師が選ぶ「2022年の漢字」TOP5を発表!【CareNet.com会員アンケート】

12月12日は漢字の日。毎年この日に、京都の清水寺で発表される「今年の漢字」(主催:日本漢字能力検定協会)。本家より一足先に、CareNet.com医師会員1,029名に選んでいただいた「2022年の漢字」TOP5を発表します。1年を振り返ってみて、皆さんはどの漢字をイメージしましたか?第1位「戦」第1位には、104票の圧倒的な得票数で「戦」が選ばれました。2022年2月24日にロシアがウクライナへ軍事侵攻し、全世界が戦争の終結を願っているものの、冬を迎えた今も戦禍は続いています。長引くコロナとの戦いに加え、戦争による影響もあり、世界経済も不安定になった1年でした。「戦」を選んだ理由(コメント抜粋)ウクライナの戦争が長引いて庶民は物価高騰との戦いであるから。(50代 眼科/島根)ロシアによるウクライナ侵攻が最大のニュースだった。(40代 循環器内科/東京)ウクライナのように、突如侵略戦争の犠牲になる可能性について考えた。(30代 精神科/埼玉)ウクライナ侵略に正当性はない。(50代 小児科/神奈川)ウクライナにおける惨状を目の当たりにして。(50代 その他/群馬)ワンオペ育児に奔走、コロナと戦い世界的に戦争もあったから。(20代 麻酔科/北海道)第2位「乱」第2位には、「乱」がランクイン。過去にも何度か登場していて昨年は5位でしたが、混乱の世の中は変わらず、再浮上する結果となりました。第1位と同様に、ウクライナでの戦争や、オミクロン株に悩まされたコロナ禍、国内外の経済の混乱などが理由に挙げられました。 「乱」を選んだ理由(コメント抜粋)円安に拍車がかかったり、ミサイルが幾度も飛んできたり、乱れに乱れた1年だったと思うから。(40代 循環器内科/青森)相変わらず社会全体が混乱のさなかにあると感じました。(40代 外科/岡山)ウクライナに対するプーチンの乱暴。(50代 形成外科/北海道)戦争、コロナ、資源高、円安など混乱が続いているから。(40代 精神科/広島)ロシアによるウクライナ侵攻、為替の乱高下などが印象に残っているため。(20代 臨床研修医/香川)コロナ禍やウクライナ情勢、経済的な混乱を目の当たりしたから。(40代 腎臓内科/福岡)■第3位「安」第3位は「安」。全35票のうち27票で理由に挙げられたのが「円安」。一時は32年前の水準と並ぶ1ドル150円台を記録しました。また、7月の参院選で起きた安倍元総理の銃撃事件を挙げた方も見られ、複合的な理由から「安」が上位に入る結果となりました。 「安」を選んだ理由(コメント抜粋)数十年ぶりの円安ドル高、物価上昇など印象に残ったため。(50代 泌尿器科/鹿児島)安倍元総理の事件のインパクトの大きさと安全安心な世界になってほしい気持ちを込めて。(20代 内科/東京)円安が進んでいよいよ日本の国家としての危機が強まったから。(30代 内科/東京)安倍元首相の銃撃事件、急激な円安、安全保障問題など関連することが多いと感じた。(30代 内科/福岡)第4位「禍」昨年はトップだった「禍」ですが、ここにきて第4位に転落。コロナ禍は依然として続いていますが、今年は治療薬や2価ワクチンの登場などもあり、対抗する手段が増えたことで、収束の兆しが見えてきました。 「禍」を選んだ理由(コメント抜粋)医療逼迫にて行政にも振り回される1年となった。(50代 救急科/愛知)コロナが終わらない。(50代 内科/兵庫)コロナ禍は未だ終息せず、ウクライナの戦禍もあったから。(40代 麻酔科/愛知)第5位「耐」第5位は「耐」。オミクロン株の流行の波が何度もやってきた2022年、医療者には引き続き忍耐が強いられました。全国旅行支援のキャンペーンも開始されるなど、日本も解禁ムードに向かっています。来年こそは、これまで我慢していたことをできる日常が戻ってくるといいですね。 「耐」を選んだ理由(コメント抜粋)月並みだけど、コロナ禍で外出(旅行、飲み会など)を我慢してきた。忍耐のみ。(70代以上 膠原病・リウマチ科/神奈川)まだ旅行や宿泊へ行けずに耐えているから。全面解除になったら、ぜひ政府に医療者限定特別旅行期間をもうけてもらわないと、割に合わない。(50代 精神科/石川)値上げや円安で我慢が強いられる年だから。(40代 眼科/大阪)アンケート概要アンケート名『2022年を総まとめ&来年へ!今年の漢字と来年こそ行きたい旅行先をお聞かせください』実施日   2022年11月3日~10日調査方法  インターネット対象    CareNet.com会員医師有効回答数 1,029件

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若年肥満症に対するGLP-1受容体作動薬セマグルチドの効果(解説:小川大輔氏)

 わが国では肥満症の治療としてGLP-1受容体作動薬の使用はまだ認められていないが、欧米では一般によく用いられている。これまでにリラグルチドやセマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬の有用性が多数報告されているが、主に成人を対象とした試験であった。今回、若年者(12~18歳)の肥満症を対象とした試験の結果が報告された1)。 この試験は201例の12歳から18歳未満の肥満症を対象に、セマグルチド2.4mgまたはプラセボを投与する群に2対1の割合で無作為に割り付け、週1回皮下投与を行い68週間後のBMIの変化率を評価した。また全例が食事や運動など生活様式への介入を受けた。その結果、試験開始から68週目までのBMIの平均変化量は、プラセボ群(67例)では+0.6%であったのに対し、セマグルチド群(134例)では-16.1%と有意差を認めた(p<0.001)。また5%以上の体重減少の達成割合も、プラセボ群は18%であったが、セマグルチド群は73%と有意に達成割合が高かった(p<0.001)。 肥満症は成人だけでなく小児や青少年でも増加している。高血糖や脂質異常症などの代謝疾患や肝機能障害、さらに睡眠時無呼吸症候群などを併発することが多いため早期からの対策が必要である。生活様式への介入をまず行うが、一般的に効果は弱い。欧州では薬物療法としてリラグルチドが、米国ではリラグルチドに加えて、orlistat、トピラマートが12歳以上の肥満症の治療薬として承認されている。 今回の試験で、肥満のある若年者に対し、週1回セマグルチド2.4mgの皮下投与がBMIや体重を有意に減少し、さらに糖化ヘモグロビン、脂質、肝機能などの代謝パラメーターも改善することが明らかになった。一方、有害事象として消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)はセマグルチド群のほうが多く認められたが、試験の完遂率は90%と高く、おおむね許容できる範囲と推測される。成人だけでなく若年者の肥満症の薬物治療として、セマグルチドの有用性が示されたことは意義深いと思われる。

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アナフィラキシーなどの治療を非専門医向けに/アレルギー総合ガイドライン改訂

 多くの診療科に関係するアレルギー疾患。2022年10月に刊行された『アレルギー総合ガイドライン2022』は、2019年版の全面改訂版だ。各診療ガイドラインのエッセンスを精選して幅広いアレルギー診療の基本をまとめ、前版より大幅なコンパクト化を実現した。編纂作業にあたった日本アレルギー学会・アレルギー疾患ガイドライン委員会委員長の足立 雄一氏(富山大学 小児科学講座 教授)に改訂のポイントを聞いた。重複を削る編集作業で、コンパクト化を徹底――『アレルギー総合ガイドライン』は、各分野のガイドラインや診療の手引きの短縮版を合本してつくられています。これまではそのまま合本していたため、どうしても重複箇所が多くなり、2019年版は700ページを超えました。読者から「読みにくい」「重くて持ち運べない」といった声が出ており、今回はガイドライン委員が全ページに目を通して重複を削る作業をした結果、300ページ近いコンパクト化を図ることができました。――2022年版の編集方針は「総合的に、かつ実用的に」です。章立てを変更し、すべてのアレルギーに共通する「アレルゲン検査」「アレルゲン免疫療法」「アナフィラキシー」の項目に最初の3章を割き、その後に個別疾患の解説が続く、というつくりにしました。――さらに前版の「重症薬疹の診断基準」の章を拡充して「薬物アレルギー」の章を新設しました。ここは前版まで皮膚科の医師だけが執筆していましたが、新たに内科と小児科の医師も執筆に加わり、臨床の場で実際に診ることの多い軽症・中等症の対応にもページを割いています。この1冊でアレルギー全般の診断、治療、管理について最低限知っておくべき知識を得られ、疫学的知識や病態への理解をさらに深めたい方はそれぞれ原本となるガイドラインにあたってもらう、という方針で作成しました。非専門医が主要な想定読者だが、専門医にも有用――読者として想定している層は2つです。メインは日常診療を行う非専門医です。国民の2人に1人がアレルギー性疾患を持つとされ、日常診療を行う医師は誰もがアレルギー診療を避けては通れない状況です。そうした非専門医に向け、アレルギー全般の現在の標準治療がわかる1冊としました。コンパクトにまとまっていることで利便性も増したと思います。さらに、今版からは各章の章末に「専門医への紹介のポイント」という文章を加えており、紹介に迷ったときの指針になると思います。――もう1つの読者層は、アレルギー専門医です。たとえば、私は小児アレルギーが専門ですが、他のアレルギー疾患もある程度まで診られたほうがよいと考えています。というのも、アレルギー疾患は身体の複数の部位に症状が出るケースが多く、たとえば成人喘息の患者さんであれば呼吸器内科にかかり、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎を合併していれば、それぞれ皮膚科と耳鼻科を受診するというケースは少なくないと思います。それぞれが重症であればしかたないでしょうが、いずれかが軽症であれば重症の科の医師が主治医となって他の症状も診ることで患者さんの負担を減らすことができます。本書は、こうした「総合アレルギー専門医(Total Allergist)」の指針ともなる1冊です。――今回の改訂では、これまでの合本の形式から1冊の本へ編集し直す、という大きな方針転換をしました。図表や画像、レイアウト、紙の質まで細かく見直しています。これから集まる読者の感想を聞き、また3年後の改訂につなげたいと思っています。『アレルギー総合ガイドライン2022』定価:5,060円(税込)判型:B5判頁数:419頁発行:2022年10月作成:一般社団法人日本アレルギー学会発行:協和企画https://www.carenet.com/store/book/cg003919_index.html

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気道異物を除去する意外な方法:発想の転換【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第223回

気道異物を除去する意外な方法:発想の転換Pixabayより使用気道異物は、高齢者の場合は歯牙、子供の場合は小さなおもちゃなどの無機物が多いです。気管支鏡を行う呼吸器内科医からすると、ツルツル滑ってなかなか取れない異物が本当に多いです。気道から分泌される粘液には、ムチンやら何やらが含まれていて、異物はツルンツルンになっていますので、鉗子ではまずつかめません。異物除去用の大きな鉗子やバスケット鉗子を使っても、ポロっと脱落することも多いです。Fruchter O, et al.Retrieval of various aspirated foreign bodies by flexible cryoprobe: in vitro feasibility study.Clin Respir J. 2015 Apr;9(2):176-179.さて、呼吸器内科領域には、クライオバイオプシー用の凍結生検プローブがあります。「ちょっと待てよ、異物って凍結すればプローブにくっつくんじゃね?」と考えた人がいました。素晴らしいアイデアです。こ、これは異物界における救世主になるかも…、と著者本人も興奮気味だったことでしょう。この論文はヒトではなく肺モデルを使って、いろいろな異物の凍結特性をex vivoで調べたものです。有機物9種類、無機物9種類の異物を想定して、5秒と10秒の凍結時間で、どのくらいくっつくか試してみました。すると、鶏肉や魚の骨などの有機物は、凍結しやすく、5秒でも問題なくプローブにしっかりくっついて回収できそうな感じでした。しかし、安全ピンやクリップなどの無機物については、凍結してもなかなか接着ができないため、回収が難しい異物が多かったのです。つまり、有機物ならクライオプローブで凍結させれば回収できる、ということです。無機物については課題山積ではありますが、とりあえず有機物気道異物の世界の展望が開けました。ちなみに、当院でも気道異物である豆をクライオプローブで回収したことがあります。含水率が高いものであれば、凍結すればどうにかなりそうです。ちなみに、安全ピンやクリップに対して、磁石を使って異物を除去するという手法も考案されていますが、このあたりはまだ議論の余地があって、無機物気道異物の世界はまだまだ先が長いです。ちなみに、気道異物界に燦然と輝く有名な報告は、過去にも紹介したアサガオを発芽させてしまった子供の症例かと思います。

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母子手帳アプリ『母子モ』で疾患啓発/AZ

 アストラゼネカは、11月28日付のプレスリリースで、母子手帳アプリ『母子モ』を通じた早産児やRSウイルス感染症に関する情報提供を11月11日より開始したことを発表した。 RSウイルスは、2歳までにほとんどの乳幼児が感染するといわれており、早産児や生まれつき肺や心臓などに疾患を抱える乳児では感染すると重症化しやすいとされている。また、正期産であっても生後6ヵ月未満は感染後重症化するリスクが高いため、該当する年齢の乳幼児を持つすべての保護者に疾患情報や感染対策について知ってもらうことが重要である。 今回の取り組みでは、母子手帳アプリ『母子モ』を通じて、妊娠中もしくは該当する年齢の乳幼児を持つ保護者を対象に、アストラゼネカが作成した早産児やRSウイルス感染症に関する情報を提供する。同アプリは、母子健康手帳との併用により、妊娠から子育てまで切れ目ない子育て支援サービスを受けられることが特徴で、全国47都道府県510の自治体で採用されている(2022年11月時点)。 『母子モ』は、妊婦健診など「妊娠中」メニュー、予防接種管理や乳幼児健診の記録、身体発育曲線などの「子育て」メニューを網羅した母子健康手帳機能のほか、子育てイベントやニュースなど地域の子育て情報機能を利用できる。また、本アプリの開発と運営は、生理日予測をはじめとした女性の健康情報サービス『ルナルナ』(2022年2月時点のアプリ累計ダウンロード数1,800万以上)など、モバイルサイトでヘルスケアサービスを提供するエムティーアイの子会社、母子モ株式会社が行っている。なお、今回の取り組みは、i2.JP(アイツードットジェイピー:Innovation Infusion Japan)―「患者中心」の実現に向けて、医療・ヘルスケア業界はどうあるべきか、といった難題の解決策を探るべく発足―というオープンなコミュニティで検討するなかで、『母子モ』を通じた情報提供が可能となった。 アストラゼネカは、「患者中心」の実現を目指すなか、この活動を通じてRSウイルス感染症の効果的な疾患啓発について検討するとともに、母子手帳アプリ『母子モ』で対象となる保護者へのタイムリーかつ適切な情報提供により、早産児やRSウイルス感染症に関する啓発の輪を一層広げていく、としている。

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「肥満」との違いは?肥満症診療ガイドライン改訂

 11月24日に日本肥満学会(理事長:横手 幸太郎氏[千葉大学医学部附属病院長])は、『肥満症診療ガイドライン2022』についてプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、肥満症の現況や治療に関する解説と今回刊行されたガイドラインの概要が説明された。また、本ガイドラインは12月2・3日に那覇市で開催される第43回日本肥満学会(会長:益崎 裕章氏[琉球大学大学院 医学研究科 内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座 教授])で発刊される。肥満症とはBMI25以上で何らかの健康障害がある人 はじめに理事長の横手 幸太郎氏が「わが国における肥満症の現況と肥満症診療ガイドライン2022の位置づけ」をテーマに講演を行った。 肥満とは、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態」をいい、わが国ではBMI25以上が肥満とされている。その数は、年を経て全世界で増えており、とくにアメリカやアフリカで増加している。 肥満になると糖尿病、高血圧、脂質異常症などの健康障害のほか、膝・腰・足首などへの運動器障害、睡眠時無呼吸症候群などが生じるリスクが高くなる。 そこで、BMIが25以上あり、一定の健康障害(糖尿病、高血圧、脂質異常症、痛風など11項目)がある人を「肥満症」として、医学的に治療が必要な対象者としている(BMI35以上は高度肥満症)。 肥満症の治療は、食事療法、運動療法、行動療法、薬物療法、外科療法と5つの考え方があり、他職種連携によるチーム医療がなされる必要がある。実際、一番身近な保健指導の介入により6ヵ月後のHbA1cは-0.2%減少、中性脂肪は-81.5%減少など改善効果が報告されている1)。 肥満に関して最近のトピックスとしては、若い女性にはBMI18.5未満の「やせ過ぎ」の女性がむしろ増えていることやそのやせ過ぎが将来的に骨粗鬆症や不妊のリスクとなること、高齢者の肥満ではフレイルなどとの関連も考慮し、無理な減量よりも筋肉量維持や増強に心がけることなども指摘されている。 横手氏は終わりに本ガイドラインの目的について「体重を減らすことにメリットがある。『やせるべき人』を選び出す、そして、適切に治療と予防を行うことである」と述べ講演を終えた。小児や高齢者の肥満にも言及 続いて、同学会のガイドライン作成委員会委員長の小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科 糖尿病・内分泌内科 教授)が「肥満症診療ガイドライン2022の改訂のポイント」をテーマに、今回の改訂内容や今後の展望などを解説した。 本ガイドラインは、2006年、2016年と発刊され、今回の2022年版では、主に「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」「高度肥満症」「小児の肥満」「高齢者の肥満」「肥満症の治療薬」「コラム」について改訂が行われた。 「肥満症治療の目標と学会が目指すもの」と「高度肥満症」では、肥満症治療指針について「肥満症」と「高度肥満症」とで目標、治療などの治療方針が異なることが記載された。とくに肥満の外科治療の減量・代謝改善手術では保険適用の内容などが改訂された。薬物治療についてはGLP-1受容体作動薬の治験に関して言及され、セマグルチドの68週後の体重変化率についてプラセボ-2.1%に対し、セマグルチド-13.2%と有意な体重減少があったこと、また、本試験が学会の定める肥満症の診断基準に基づいて作成されたプロトコ-ルで実施された試験であることなどが記載されている2)。 「高齢者の肥満」では、日本老年医学会のガイドラインの内容 と統一性を考慮して改訂され、 高齢者肥満症の減量目標をフレイル予防と健康障害発症予防の両者も考慮し「BMI22~25」の範囲とすることが記載され、過剰な減量には留意が必要とされている。 「小児の肥満」では、将来の成長を考慮しBMIではなく、肥満度で判定し、身体面だけでなく、肥満に伴う「いじめ」など生活面への配慮も記載されている。 「肥満症の治療薬」では、「肥満の治療」ではなく、「肥満症の治療」という基本概念のもと、記載の整備と概念を明確化したほか、改訂では製薬企業の開発担当者とも意見交換を行い、評価基準と適応基準は必ず同一ではないことが記載されている。 その他、今回の改訂では「肥満へのスティグマ」についても触れられ、肥満の原因が個人への帰責事由という偏見からくる社会的スティグマと肥満を自分自身の責任とする個人的スティグマへの配慮が述べられている。 最後に小川氏は「肥満症の課題は、認知度がまだ低く、社会的な浸透もメタボリックシンドローム(72.5%)や肥満(81.8%)と比較しても、肥満症(58.3%)は低い。このガイドラインが、診療に役立つだけでなく社会の啓発に寄与することを期待する」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。

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【特別インタビュー企画】がん教育が拓く未来~前編

【特別インタビュー企画】がん教育が拓く未来<前編>医師が行う”がん教育”、実際どのように授業を行っているのか?佐々木 治一郎氏(北里大学)、笠井 信輔氏(フリーアナウンサー)出演の特別インタビュー企画<前編>。

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【特別インタビュー企画】がん教育が拓く未来~中編

【特別インタビュー企画】がん教育が拓く未来<中編>”がん教育”で実現できること、医師が携わることの意義とは?佐々木 治一郎氏(北里大学)、笠井 信輔氏(フリーアナウンサー)出演の特別インタビュー企画<中編>。

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isCGMは低血糖予防に有効/京都医療センターほか

 低血糖予防教育に間歇スキャン式持続血糖測定器(intermittently scanned continuous glucose monitoring:isCGM)を用いることで低血糖時間や重症低血糖リスクが低減されることが、村田 敬氏(京都医療センター臨床栄養科)、坂根 直樹氏(同センター臨床研究センター 予防医学研究室長)らの19施設の糖尿病専門医と臨床研究専門家の共同研究により明らかとなった。詳細はDiabetes Research and Clinical Practice誌に11月13日掲載された。isCGMは低血糖予防に役立つツールか 低血糖は、1型糖尿病を持つ人の生活の質を悪化させ、労働生産性を損なうだけでなく、最悪の場合、重大な事故や突然死の原因となることはよく知られていた。しかし、血糖自己測定(SMBG)だけでは、低血糖を予防するには十分ではなかった。村田氏は「isCGMではグルコース値を表示するだけでなく、画面で表すトレンド矢印により血糖変動速度を表示することができる。このトレンド矢印をみて早めに対処することで低血糖時間や重症低血糖リスクが低減したのではないか」と示唆している。 村田氏らのISCHIA研究はインスリンの頻回注射を行っている成人1型糖尿病患者104例を対象に、従来の指先で測る血糖測定器で血糖マネジメントする期間(84日間)とisCGMで血糖マネジメントする期間(84日間)にランダムに割り付けるクロスオーバー試験で行われた。isCGMを使用する患者は、1日10回以上、センサーの表示を確認し、下向きの矢印が出ていて急速に血糖値が低下している状況では、実際に低血糖の症状が出現する前に補食するなどの予防対処をするよう、教育された。isCGMは低血糖リスクを有意に減少 試験を終了した93例のデータが解析され、主要評価項目である低血糖時間(70mg/dL未満)が従来の指先で測る血糖測定器と比べて1日あたり3.1時間(12.9%)から2.4時間(10.1%)に有意に減少することが立証された。また、低血糖指数(LBGI)が5以上の重症低血糖リスクの割合が23.7%から8.6%に減少することがわかった。 本研究について、坂根氏は「isCGMをどの程度活用できたかには個人差があり、センサーのスキャン回数に及ぼす要因やisCGMの費用対効果について検討する必要がある」と述べている。

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映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるって分からないの?(エピジェネティックス)】Part 2

やせになる3つの「細胞の記憶」とは?ここから、やせになる代表的な3つの「細胞の記憶」(エピジェネティックな変化)を挙げて、やせの正体を突き止めてみましょう。(1)代謝メモリーグループホームのメンバーのメーガン(神経性やせ症の排出型)は、妊娠しましたが、食べ吐きを止められずにやせ過ぎて、結局流産してしまいました。ここで、もしも彼女が何とか無事に出産したらどうなるでしょうか? 生まれた子どもは、胎児期に栄養不足であったために、低出生体重児として生まれ、その後に小柄(低身長)になることが考えられます4)。それでは、この子の食行動や代謝はどうなるでしょうか?1つ目は、代謝メモリーです。これは、とくに胎児期の栄養状態(栄養環境)が「細胞の記憶」として刻まれ、成人期の代謝能力に影響を与えることです。つまり、胎児期に栄養不足だと、その後に代謝が節約されるような体質になることです。よって、ダイエットをすれば(栄養不足になれば)、それに順応しやすいので、やせになります。その一方で、裏を返せば太りやすい体質であることから、ダイエットをしていなければ、つい食べてしまい肥満にもなります。つまり、この代謝メモリーによって、少食(やせ)か過食(肥満)かの両極端になりやすくなることがわかります。実際の疫学調査によると、第二次世界大戦でのオランダの飢饉があった時期に生まれた人たちは、成人してから肥満が著しく高かったことがわかっています。なお、生まれてすぐではなく、成人してから肥満になるというタイムラグがあるのは、子どもの時期は食行動(食習慣)が親によってある程度コントロールされていたことも考えられます。ただし、胎児期に栄養不足だったために実際に生まれた子どもが摂食障害や肥満になるという状況は、実際には少ないようです。その理由は、行動遺伝学において、神経性やせ症、神経性過食症、そして肥満における胎児環境(家庭環境)の違いの影響が0%であるからです。この解釈として、そもそも胎児期に栄養不足になるくらいなら始めから無月経となり妊娠できないからです。妊娠前に栄養が保たれていて妊娠後に栄養不足になるのは、ある時を境に起こる飢饉や食べ吐きをしたりしなかったりするメーガンのような極めて特殊な状況であると考えることができます。ちなみに、マウスの実験では、胎児期に栄養過多(妊娠糖尿病など)であった場合でも、逆の太りにくい体質になるわけではなく、栄養不足である場合と同じように太りやすいことがわかっています5)。必ずしも代謝が「浪費」されるような真逆の体質にならないのは、私たちの体が、常に飢餓との隣り合わせの原始の時代に適応するように進化しており、常に飽食で溢れる現代の社会に完全に適応するまで進化していないからであることが考えることができます。代謝メモリーによるやせと肥満の両方へのなりやすさは、食料確保が安定している現代では、結果的に肥満のリスクを高めるだけで、もちろん適応的ではありません。しかし、食料確保が不安定な原始の時代においては、不足している時期はやせてしのいで、過剰な時期は肥満になってため込むことできるため、むしろ適応的であったと言えるでしょうなお、やせ(栄養不足)で無月経になる、つまり一定レベル以上の栄養状態(栄養環境)でなければ、生殖活動は抑制される現象は、実際に多くの哺乳類で見られます。これは、適応的生殖抑制と呼ばれています6)。そのわけは、オスと違ってメスは妊娠から授乳までの一連のプロセスが一大ライフイベントであり、膨大なコストがかかる点で、栄養の確保が不可欠であるためです。だからこそ、メーガンは流産したのだと捉えることもできます。そもそも初潮をはじめとする二次性徴は、栄養不足だと現れません。まさにエレンのように小柄で子どものような体型のままになります。従来から精神医学で指摘されてきた神経性やせ症の独特の成熟拒否という心理状態は、この成熟拒否があるからやせようとすると考えられてきました。しかし、生物学的に考えれば、逆です。やせ過ぎた結果、生殖抑制が働いてしまい、無意識に成熟拒否をするという心理状態になってしまったと捉え直すことができます。(2)愛着メモリーエレンは、義母をはじめ多くの人に暴言を吐き、あまり心を許していません。お互いに好意を寄せる相手であるルークからキスをされても素直に受け止められません。そんな状況の中、エレンの実母から、エレンを生んでから「産後うつ」になり、ちゃんと面倒を見てあげられなかったと打ち明けられます。2つ目は、愛着メモリーです。これは、乳幼児期の愛着関係(保護環境)が「細胞の記憶」として刻まれ、成人期のストレス耐性に影響を与えることです。つまり、乳幼児期の抱っこやスキンシップが十分にされていないと、その後にストレスに過敏になることです。これは、親から守られていない(ストレスに曝されやすい)ため、早くから危険(ストレス)を察知して自分で逃げたり攻撃して、危険な生活環境を生き残る能力でもあります。さらに、この愛着メモリーによって、ダイエットによる減量の刺激(栄養不足のストレス)にも過敏になり、先ほどご説明した適応的生殖抑制が働きやすく(よりやせやすく)なります。実際に、古くからあるラットの実験(アクティビティモデル)でも確かめることができます7,8)。これは、ラットに決まった時間だけ少しエサを与え、それ以外の時間は回し車(活動を促す装置)に乗せることです。すると、ラットは、エサを食べる量が減ってしまう一方で運動量が増えてしまい、最終的に消費カロリーが摂取カロリーを上回って餓死します。これは、神経性やせ症の動物モデルです。そして、この傾向は、早期に母子分離したメスのラットほど早くて顕著であることがわかっています。畜産学では、もともと低脂肪種になるように交配したメスの子豚は、早く母子分離をさせられ新しい集団生活に入れられると、低カロリーのわらだけ食べて動き回ることが広く知られています。この状態は「雌豚やせ症」と呼ばれています3,8)。これも、神経性やせ症の動物モデルと言えるでしょう。ただし、乳幼児期の愛着形成がうまく行っていなかったためにその後にその子が摂食障害になるという状況は、実際には少ないようです。その理由は、行動遺伝学において、神経性やせ症、神経性過食症、さらには肥満における家庭環境の違いの影響が0%であるからです。この解釈として、やはり摂食障害の原因は複合的であり、愛着の問題はほかの原因よりも相対的に小さいと考えることができます。愛着メモリーによるストレスへの過敏さ(ストレス耐性の弱さ)は、平和な現代社会においては、人間関係をこじらせたり、心や体の病気のリスクを高めて寿命を縮めるため、もちろん適応的ではありません。しかし、常に危険な原始の時代においては、人間関係や長生きが現代ほど当てにならないため、生まれた時に守られていないならストレスを敏感に感じるという反応があるほうがその瞬間を生き抜くためにむしろ適応的であったと言えるでしょう。(3)社会性メモリーエレンは、唯一仲良くやってきた妹(異母妹)から「食べない理由を聞いてもまともに答えてくれない」と詰め寄られます。しかし、それでも平然と「コントロールできる」「悪いことは起こらない」としか答えません。エレン自身、なぜ食べられないのか自分でもよくわかっていないようです。もはや理屈ではない何かに突き動かされているように見えます。それは何でしょうか?3つ目は、社会性メモリーです。これは、思春期までの生活スタイルが「細胞の記憶」として刻まれ、成人期のアイデンティティ(社会適応能力)に影響を与えることです。つまり、人間関係のあり方をはじめ、思春期までにどう生きてきたかが、その後の自分らしさとして固まってしまうことです。たとえば、それは、外向的か内向的か、協調的か反抗的か、親分肌か子分肌かなどのさまざまな性格の違いでもあります。現代にしても原始の時代にしても、成人後に社会でどんな生き方をする(役割を果たす)かは、思春期までの生き方(人間関係)で形作られています。だからこそ、行動遺伝学でのどの性格(ビッグファイブを含む)の遺伝率も50%程度なのです。残りの50%である環境の影響が、社会性メモリーによるものであり、エピジェネティックな変化であると言えます。なお、このような社会適応能力としての性格の詳細については、関連記事2をご覧ください。さらに、この社会性メモリーによって、栄養不足(やせ)になるという生活スタイルを「やせアイデンティティ」として固定化させてしまう可能性が考えられます。たとえば、エレンは、やせたまま社会復帰しつつ、味方になってくれている妹が将来的に子どもを産んだら、その子育てを助けることです。つまり、この社会性メモリーによって、やせ(適応的生殖抑制)は維持されつつ、社会の一員として生きて、血縁者のサポート役(血縁ヘルパー)になることができます。これは、血縁者を助けることによって、間接的に子孫を残すことであり、結果的に生殖の適応度をある程度保つ生殖戦略です9)。この生殖戦略は、社会性昆虫であるミツバチでも確認できます。ミツバチが働きバチではなく女王バチになるのは、遺伝子が違うからではなく、幼虫の時にローヤルゼリーを与えられ続けてエピジェネティックな変化が起きたからであることが指摘されています。この変化によって、女王バチはどんどん卵を産んでいく一方、働きバチは卵巣が縮小してしまい生殖能力を失います。しかし、働きバチ(娘)は、女王バチ(母親)をサポートして、自分の妹(※ミツバチのオスが生まれるのはもともとごくわずか)が生まれることで、自分の遺伝子を部分的に残しています(包括適応度を高めています)。つまり、働きバチも、神経性やせ症の動物モデルと言えそうです。もちろん、 人間の社会は、ミツバチの社会より遥かに複雑である分、そのエピジェネティックな変化(性格形成)も多様であると言えるでしょう。社会性メモリーによる「やせアイデンティティ」は、飽食の現代社会においては、早死にするリスク、子どもをつくれないこと、そして見た目が目立つため、決して適応的ではありません。しかし、常に食料不足の原始の時代においては、そもそも長生きできず、やせているのが当たり前です。そんな中、運悪く飢餓状態が長く続いた女性が、適応的生殖抑制を慢性化させ(神経性やせ症になって)、食事量を少なくして、その食事の分を妊娠可能な(適応的生殖抑制が働いていない)血縁者に回すことは、部族(血縁集団)の存続としてはむしろ適応的だったと言えるでしょう。なお、エレンは、長らく生理がないくらい栄養不足なのに、逆に取り憑かれたように腹筋運動をしてカロリー消費をしようとしていました。この過活動の原因については、単純にやせていたいと本人が意識的にやっているというよりも、無意識にやっていることが考えられます。その根拠として、過活動を抑える抗肥満ホルモン(レプチン)を分泌する脂肪細胞が減ることで、結果的に過活動が促されることがわかっているからです7)。さらに進化の視点で見れば、これは過活動によって食料を探し回ろうとする体(脳)の反応と捉えることができます。それでも、見つけた食料を自分が食べるわけではないので、まさに「働きバチ」と言えるでしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるって分からないの?(エピジェネティックス)】Part 3

やせの謎の答えは?先ほどの社会性メモリー(エピジェネティックな変化)による「やせアイデンティティ」の確立が、神経性やせ症に病識がない原因であると考えることができます。つまり、エレンの根っこの心理を代弁すれば「このまま(少食のまま)でいい」です。「やせたい」ではないです。「やせたい」という気持ちは現代のダイエット文化の影響による後付けであると考えることができます。そうすれば、すでにやせ過ぎているのにあまり食べないというやせ願望(肥満恐怖)や、やせ過ぎていてもそう思わないボディイメージの障害などの症状があるのも納得がいきます。また、男性は妊娠能力がなく、適応的生殖抑制を働かせる必要がないため、そもそも神経性やせ症にはなりにくいです。これが、神経性やせ症の顕著な男女差の原因であると考えられます。一方で、女性は児童期までに妊娠能力がなく、適応的生殖抑制を働かせる必要がありません。これが、神経性やせ症の好発年齢が児童期以前ではなく思春期に多い原因であると考えられます。また、成人期以降ではアイデンティティの確立はすでに終わっています。これが、神経性やせ症の好発年齢が成人期以降ではなく思春期に多い原因であると考えられます。さらに、エレンは子どもをつくれなくても、妹の子どものサポート役になることができます。そして、その子が思春期になった時に、過激なダイエットをしてしまえば、神経性やせ症になる可能性があるでしょう。これが、神経性やせ症を発症させる遺伝子が残っている(遺伝率が高い)原因です。つまり、直接的には子孫(遺伝子)を残せませんが、血縁者をサポートすることで間接的に「やせ遺伝子」を残すことになるというわけです。真の治療とは?神経性やせ症の正体は、過激なダイエットや食べ吐きなどによる栄養不足への反応のしやすさ(代謝メモリー)、栄養不足のストレスへの過敏さ(愛着メモリー)、栄養不足(やせ)へのアイデンティティ(社会性メモリー)という3つのエピジェネティックな変化であることがわかりました。つまり、神経性やせ症は、最終的にはアイデンティティという生き方の問題であり、説教や説得をしてもあまり効果がないことがわかります。もっと言えば、食事制限は、宗教的な理由から輸血を拒否することと同じとも捉えられます。早死にするリスクがあっても本人がその生き方を望むなら、私たちは神経性やせ症を病気として特別視せず、生き方の違いとして捉え直し、静かに見守ることが必要です。逆に言えば、本人に同意のない経鼻栄養(強制栄養)は、輸血を拒否する人に輸血をするのと同じ人権侵害に発展する恐れがあります。また、過激なダイエットも、生き方の問題として止められない点で、食べ吐きと同じ行動依存(嗜癖)であると捉えることができます。それでは、この神経性やせ症の正体を踏まえたうえで、ここからその真の治療を捉え直します。エレンが生活するグループホームでの取り組みを通して、主に3つ挙げてみましょう。(1)病識を促す-集団療法グループホームでは、メンバーたちが集まって話し合うミーティングが1日に朝と夕に1回ずつあります。心理カウンセラーが「夕方は反省会。今日の悪かったことと良かったことをテーマにします」と始めています。日常生活を通して、お互いの気持ちを聞き合い、励まし合ったり、慰め合ったりしています。1つ目は、病識を促すための集団療法です。これは、本人に自分と似た人を実際に見てもらうことで、「やせアイデンティティ」を見つめ直してもらう効果があります。また、仲間と一緒にいるという集団心理によって、同調の効果もあります。アルコール依存症と同じく、自助グループとしての取り組みです。ただし、同調によって、やせとして生きるアイデンティティが逆に強化される場合もあるため、カウンセラーのような方向付けをする役割が必要です。(2)治療意欲を高める-行動療法グループホームでは、目標の体重に戻るための生活上のさまざまなルールがあり、それを守るとポイントが加算され、破ると減点されます。ポイントが貯まると、外出などの自由が増えていきます。2つ目は、治療意欲を高めるための行動療法です。これは、行動を変えていくことで、生き方(アイデンティティ)を変えていく効果があります。アルコール依存症と同じく、飲酒を誘発する行動をしないようにする取り組みです。ただし、この取り組みも、本人が同意していないと、人権侵害になるリスクがあるため、日々のコミュニケーションが必要です。(3)家族が距離感を知る-家族療法実は、エレンの家族関係は複雑でした。そんな彼女のために、主治医のベッカム先生は「誰も責めない」と言い、家族を集めて、語らせます。しかし、言い争いになって、収集がつかなくなるのでした。3つ目は、家族が本人との距離感を知るための家族療法です。これは、家族が本人や誰かを責めるのではなく、本人をほど良くサポートする効果があります。アルコール依存症と同じく、家族が関わり方を学ぶ取り組みです。なお、ラストのほうで、実母がエレンを赤ちゃんに見立てて擬似授乳するシーンがあります。うまく育まれなかった愛着形成のやり直しをすることで、遠い記憶の上書きの象徴として描かれています。しかし、愛着メモリー(エピジェネティックな変化)は基本的に不可逆であることから、模擬授乳の実際の治療的な効果は不明です。予防は?映画のストーリーのその後に、もしもエレンが回復して、ルークと結ばれて娘を生んだとしたら、どうでしょうか?もちろん、幸せな家庭になってもらいたいです。ただし、その娘はもちろん「やせ遺伝子」を色濃く引き継ぎます。なお、エレンとルークのやせのエピジェネティックな変化も、娘に引き継がれるかどうかについては、現時点でまだはっきりしたことがわかっていません。植物や動物などにおいて、いくつかの特定のエピジェネティックな変化が次の世代に引き継がれていることがすでに確認されています。人間においても、いくつか可能性の報告はあるものの、遺伝子レベルで確認されているわけではありません。この現象はあったとしても、その影響度は植物や動物と比べて小さいものであることが推定されます。その理由は、人間は、植物やほかの動物と違い、文化も引き継いでいるからです。人間においてのエピジェネティックな変化の報告はどれも、現時点で、文化について触れられていませんでした。人間は、遺伝と並んで、文化(家庭外環境)の影響が大きいことから、エピジェネティックな変化が次の世代に引き継がれる必要がないとも言えます。この点で、「(エピジェネティックな変化によって)遺伝子は後から変わる」と言い切ることには慎重になったほうが良いと思われます。以上より、神経性やせ症への予防のヒントが見いだせます。それは、過激なダイエットをすることは、エピジェネティックな変化を招き、食べ吐きと同じように止められなくなり(依存的になり)、危険であるという事実を、もっと世の中に啓発して文化的に広めていくことです。そうすることで、神経性やせ症をはじめとする摂食障害の予防を徹底することができます。そんな文化の社会になった時、エレンとルークから生まれた娘は、神経性やせ症にならないことが期待できるのではないでしょうか?3)標準精神医学(第8版)P402:医学書院、20214)進化医学P184:羊土社、20135)もっとよくわかる!エピジェネティックスP162:羊土社、20206)摂食障害の進化心理学的理解の可能性P47:日本生物学的精神医学会誌Vol. 23 No. 1、20127)摂食障害の最近の動向」P148:心身医学、日本心身医学会、20148)人間と動物の病気を一緒にみるP295:バーバラ・N・ホロウィッツ、インターシフト、20149)進化と人間行動P167:長谷川寿一ほか、東京大学出版会、2022<< 前のページへ■関連記事ちびまる子ちゃん(続編)【その教室は社会の縮図? エリート教育の危うさとは?(社会適応能力)】

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B型肝炎(HB)ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第15回

今回は、ワクチンで予防できる疾患(VPD:vaccine preventable disease)の1つであるB型肝炎を取り上げる。B型肝炎はがんの原因となりうるウイルス性疾患の1つで、わが国では2006年に定期接種に導入された。ワクチンで予防できる疾患B型肝炎ウイルス(HBV)は肝臓に感染し、一過性の感染もしくは持続性の感染を起こす。B型肝炎に感染すると20~30%が急性肝炎を発症し、そのうち1%前後が劇症化して昏睡・死亡に至ることがある。ウイルスを排除できず持続感染に至ると、慢性肝炎を発症し、さらに肝硬変、肝細胞がんを生じることがある。この持続感染の多くは出産時や乳幼児期に成立するため、ワクチンによる出生早期からの予防が望まれる1)。感染は血液や体液を介して成立する。母親がHBV保有者である場合、妊娠中あるいは出産中に、胎児もしくは新生児が母親の血液を介して感染することがある(垂直感染)。また、近年では性感染の割合も増加しており、2006~2015年に報告された急性B型肝炎のうち70%は性的接触による感染であった2)。さらに父子感染、保育園での集団感染といった汗、涙などによる感染が疑われる例も報告されている。そのほか医療従事者や清掃業者などが針刺し事故などの血液曝露で感染することがある1)(水平感染)。急性B型肝炎は感染症法において5類感染症に位置付けられており、診断から7日以内の届け出が義務付けられている1,3)。WHO(世界保健機関)による2019年の報告によると全世界の2億9,600万人がHBV持続感染者(キャリア)で、肝硬変や肝細胞がんにより年間82万人が亡くなっている4)。ワクチンの概要と接種スケジュール(表)表 B型肝炎ワクチンの概要画像を拡大する(おとなとこどものワクチンサイトより引用)開発、普及の歴史B型肝炎ワクチンは、1985年に母子感染予防事業として導入された。この事業では全妊婦で感染を確認し、HBs抗原陽性妊婦から出生した乳児に公費でワクチンおよび免疫グロブリン投与を行った。これにより94~97%と高率に母子感染が予防できるようになった5)。さらにWHOおよびUNICEF(国際連合児童基金)は、1992年にB型肝炎制圧のため、全世界の全新生児を対象にB型肝炎ワクチンの接種を行うように推奨した。これを受けて2016年10月には定期接種(A類疾病)となり、わが国においてもB型肝炎ワクチンはユニバーサルワクチンとなった1,3)。1)効果B型肝炎ウイルスの感染を予防する。2)対象定期接種(1)1歳に至るまでの年齢にある者(2)長期療養などで定期接種期間中に受けることができなかった者(治療後2年間)3)保険適応(1)HBs抗原陽性(B型肝炎ウイルスキャリア)の母親から出生した児(2)血液曝露後:事故発生からなるべく早く経静脈的免疫グロブリン療法(IVIG)と共に1回目を接種する(保険適応は7日以内)。業務上の曝露でHBs抗原が陽性なら労災保険が適応される。4)任意接種上記以外のすべての場合5)副反応ワクチン接種による一般的な副反応のみで、特異的な副反応は報告されていない。複数回の接種により、副反応の発現率が上昇することはない。6)注意点B型肝炎ワクチンによりアナフィラキシーを起こしたことがある場合は禁忌である。日常診療で役立つ接種ポイント1)どのような人に勧めるか?血液・体液に曝露する可能性のあるすべての人、つまり基本的にはすべての人に推奨される。特に医療・介護従事者、清掃業者、血液透析患者、コンタクトスポーツ(ラグビー、レスリングなど)をする人には必須である。そのほかHIV陽性者などの免疫不全者、HBs抗原陽性者のパートナーにも強く推奨される。また、海外留学の要件になることも多く、留学を考える人にとっても必須ワクチンの1つである。2)3回接種の途中で、異なる種類のワクチンを使っても良いか?問題はない。現在国内には、遺伝子型A由来のワクチン(商品名:ヘプタバックス-II[MSD社])と遺伝子型C由来のワクチン(同:ビームゲン[KMバイオロジクス社])の2種類が流通している。いずれも異なる遺伝子型に対しても有効であり、互換性がある。3)3回目接種が遅れた場合はどうすればよいか?気付いた時点で速やかに3回目を接種する。4)3回接種後の抗体確認は必要か?定期接種では不要である。ただし母子感染予防対象者、医療従事者などのハイリスク者では、3回目接種から1~2ヵ月後の抗体検査が推奨される。HBs抗体値が10mIU/mL未満の場合は1回の追加接種を行い、環境感染学会が推奨する図のアルゴリズムで対応する。被接種者の約10%が、1シリーズ(3回)接種後も抗体反応ができない(non responder)もしくは悪い(low responder)とされている。なお、若いほど抗体獲得率が高い7)ため、なるべく早期の接種が推奨される。図 ワクチン接種歴はあるが抗体の上昇が不明の場合の評価画像を拡大する(環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.より転載)今度の課題、展望従来のワクチンで十分な感染予防効果が期待できないワクチンエスケープ株が報告されており、新しいワクチンの開発が進んでいる。HBVは3種類のエンベロープ蛋白(small-S、middle-S、large-S蛋白)を持つ。従来のワクチンはsmall-S蛋白を抗原としているが、現在開発されているのはmiddle-S蛋白からなる“Pre-S2含有”ワクチンと、large-Sとsmall-S蛋白を併用するワクチンで、より多くのHBV株に対する効果が期待される1,8)。B型肝炎ワクチンはユニバーサルワクチンである。職種を問わず全世代で推奨されるワクチンの1つであり、2016年4月以前に生まれた人の多くはワクチン接種歴がなく免疫を持たないため、1度は接種を検討すると良いだろう。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)B型肝炎、海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス2019. 日本渡航医学会; 2019.p.85-86.2)国立感染症研究所. IASR.2016;37:438.3)日本ワクチン産業協会. 予防接種に関するQ&A集. 2021.(2022年9月アクセス)4)Hepatitis B. WHO.5)白木和夫. IASR. 2000;21:74-75.6)環境感染学会. 医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版. 2020.(2022年11月アクセス)7)厚生労働省. B型肝炎ワクチンに関するファクトシート(平成22年7月7日版).(2022年9月アクセス)8)Washizaki A, et al. Nature Communications. 2022;13:5207.講師紹介

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