サイト内検索|page:42

検索結果 合計:3039件 表示位置:821 - 840

821.

税負担が重過ぎる!どんな節税対策している?/医師1,000人アンケート

 年末調整に確定申告…。年末から春にかけては税金を意識する機会が増える。さらに、最近では定額減税や新NISAスタートなど、税金に関する話題が増加している。ケアネットでは、会員の勤務医(勤務先病床数:20床以上)1,021人を対象に、「今年行った、来年やりたい節税対策」についてアンケートを実施した(調査日:10/6~8)。 「Q1.今年(2023年)の所得について、確定申告をする予定ですか?」という設問には、9割以上の医師が「はい」と答えた。確定申告の条件である「年収2,000万円超」「年間20万円以上の副収入」にほとんどの回答者が当てはまっているようだ。 「Q2.個人の節税目的で、今年利用した・する予定のものは?(複数回答)」という設問では「ふるさと納税」が842票となり、次点の「(年末調整や確定申告で申告する)生命保険料控除」に大きく差を付けて1位となった。「ふるさと納税」は30、40、50、60代すべてにおいて最も利用者の多い節税策だった(70代以上は「生命保険料控除」が最多)。30代では「ふるさと納税」の次に多く人が行っている節税策は「NISA」、続いて「iDeCo」だったが、ほかの年代では「生命保険料控除」が続いた。若い世代ほど民間の生命保険には加入せず、その分を自分で投資・運用するという傾向があるようだ。 「Q3.個人の節税目的で、来年利用予定・利用したいものは?(複数回答)」の設問では「ふるさと納税」が変わらずトップを占めたものの、来年から始まる「新NISA」のが話題の「NISA」を選択する人が各年代とも大幅に増加した。「今年利用した」の設問では回答者がゼロだった「法人設立」「不動産投資」の項目にも、少数ながら選択者がいた。 「Q4. 節税の知識を得るために、これまでにしたことは?(複数回答)」との設問では、「節税・税金をテーマにしたWeb記事・雑誌・書籍を読む」が最多で、約半数の回答者が選択した。「節税・税金に詳しい知人・友人に話を聞く」が29%、「節税・税金をテーマにしたセミナーに出席する」は6%が選択した。「税理士に相談する・税理士を雇う」という本格的な対策を行う人も8%いる一方で、「とくになにもしていない」という人が30%いるなど、医師の節税への関心は二極化しているようだ。 最後に「節税対策をはじめ、税金への思いや意見」を聞いたところ、「勤務医にとっては、税負担が多過ぎる」(60代・内科)、「頑張って働くほど損をする、と思わせる現行制度をどうにかしてほしい」(40代・皮膚科)という声が目立った。一方で、「納税は、国民の義務」(50代・形成外科)、「社会に対する義務、度を過ぎた節税はすべきではない」(60代・血液内科)といった、節税に批判的な意見も寄せられた。 総じて、回答者からは税負担そのものよりも「所得税、住民税の割合が大きい。収入に応じた特典を増やしてほしい」(40代・精神科)、「高所得者は税負担が大きいのに、所得制限のために利用できない制度が多いことが不満」(40代・呼吸器外科)といった、多くの税金を払っているのに再配分が不公平という意見や「ふるさと納税は企業に手数料が入るので、直接自治体に寄付する仕組みがほしい」 (60代・内科)といった、制度の不備を訴える声が目立った。 さらに「信頼できる節税対策情報を、どこから得ればいいのかがわからない」(40代・消化器外科)、「仕組みからよくわからないので、体系的に学びたい」(40代・内科)といった「税金制度が複雑でよくわからない」「税金・節税について学びたい」という声も多く寄せられた。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。https://www.carenet.com/enquete/drsvoice/cg004468_index.html さらに、ケアネットの連載「医師のためのお金の話」の執筆者による「医師が取り組むべき節税対策」をテーマにした特別寄稿も公開中。https://www.carenet.com/useful/okane/cg004466_index.html

822.

第72回 中国依存型から脱して、「ペニシリン危機」を乗り越えろ!

中国への原薬依存Unsplashより使用2018年に突如セフェム系抗菌薬の供給が危ぶまれる状況になったことを覚えているでしょうか。また、呼吸器内科では、とくにカルバペネム系抗菌薬の不足が一部の抗酸菌感染症で「標準治療ができない」という事態を引き起こしました。当時、ほとんどが中国に原薬の製造を依存してしまっており、何らかのトラブルで流通が懸念されると、日本のβラクタム系抗菌薬が壊滅的な事態に陥ってしまうのです。原薬に使われている化学物質は、2000年頃までは国内の供給だったのですが、コスト削減のため安価な中国製にスイッチされています。しかし、中国における原薬価格のダンピングによって、国内の原薬工場はほとんど閉鎖となりました。2015年1月に施行された環境保護法の全面改正により、原薬の値段がこの数年間で2倍以上に高騰しています。さらに、ジェネリック医薬品の台頭や医療費抑制もあって、抗菌薬の薬価は全体的に値下げが進んでいます。そのため、現在抗菌薬は製薬会社にとって儲からない製品になりつつあるわけです。2019年に、関連4学会が政府に要望書を提出し、とくに欠かせない薬剤の安定供給を要請しています。そして、2022年12月に、国民の医療において重要な抗菌薬としてペニシリン系抗菌薬およびセフェム系抗菌薬の原薬が国産化される方向になりました1)。ようやく、といったところです。公益財団法人日本感染症医薬品協会に「βラクタム系抗菌薬原薬国産化委員会」も設置されました。これによって原薬を国内で作っていこうという方向に舵が切られました。製造可能なメーカーは限られているペニシリン系では6-APAという原薬がカギを握っていますが、この生産には、菌株、大型培養設備、大量の水、廃水処理設備が必要になります。これが可能な医薬品メーカーは限られています。また、早くても2025年くらいから6-APAの製造が本格的に稼働することになりますので、原薬が日本で恒常的に流通するのはもっと先になるかもしれません。こういった施策が可能な大きな母体のメーカーは限られていますが、日本の感染症の未来のために、今こそ中国依存型を脱するときです。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律に基づく抗菌性物質製剤に係る安定供給確保について

823.

第188回 診療報酬改定シリーズ本格化(後編) 「財務省による医療界を分断するような動きがある」と日医・松本会長、「私たちは、財務省の奴隷なのでしょうか」と都医・尾崎会長。その財務省は地域別診療報酬を提案

「診療報酬本体マイナス改定が適当」と主張する財務省への反発強まるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBの今シーズンの最優秀選手(MVP)が11月16日(現地時間)に発表され、アメリカン・リーグではロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手が2021年に続く2回目の受賞となりました。NHKのBSでもMLBネットワークの番組を生で放送していましたが、犬、可愛かったですね。この受賞番組で個人的に興味深かったのは、ナショナル・リーグのほうでした。候補のロナルド・アクーニャJr.選手(アトランタ・ブレーブス)、ムーキー・ベッツ選手(ロサンゼルス・ドジャース)、フレディ・フリーマン選手(ロサンゼルス・ドジャース)の3人がネットで同時に生出演をしていたのですが、なんとベッツ選手は「娘を迎えに行く途中」とのことで、車の運転席からスマホで出演していました。MLBのスター選手が大事なMVPの発表時に子供のお迎え……、そのシュールな状況にドジャース同僚のフリーマン選手も大爆笑で、こうしたチームの雰囲気なら大谷選手も力を発揮しやすいのでは、と思った次第です。なお、MVPは打率.337、41本塁打、106打点、73盗塁を記録したアクーニャJr.選手でした。さて、前回(「第187回 診療報酬改定シリーズ本格化(前編)『コロナで儲かったから診療報酬本体はマイナス改定』と財務省、『剰余金を取り崩せという姿勢は理不尽、医療提供体制の弱体化を招く』と日医・松本会長」)書いた、2023年11月1日に財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会において財務省が主張した、「2024年度改定においては、診療所の極めて良好な経営状況等を踏まえ、診療所の報酬単価を引き下げること等により、現場従事者の処遇改善等の課題に対応しつつ診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当」との考えに対する医療関係団体の反発が強まっています。一方、財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会は、反発どこ吹く風と11月20日に2024年度の予算編成に向けた意見書(令和6年度予算の編成等に関する建議、通称「秋の建議」)をとりまとめ、鈴木 俊一財務相に提出しました。その中で診療報酬の改定については、11月1日の主張と同様「本体マイナス改定」が適当だとし、とくに診療所に入る報酬の単価を5.5%程度引き下げるよう求めました。三師会の会長、岸田首相、武見厚労相に適切な財源確保を直訴「秋の建議」に先立って、日本医師会の松本 吉郎会長、日本歯科医師会の高橋 英登会長、日本薬剤師会の山本 信夫会長は11月14日、医療機関や薬局が医療従事者の賃上げや物価高騰などに対応するための適切な財源を2024年度の診療報酬改定に向けて確保するよう求める要望書を、武見 敬三厚生労働相に面会し直接手渡しました。三師会の会長は翌15日には岸田 文雄首相とも面会、同内容の要望書を手渡し、賃上げ原資の確保のために「大幅な(報酬の)引き上げが必要」と直訴したとのことです1)。NHKなどの報道によれば、岸田首相はこれに対し「賃上げは非常に重要だ。要望を重く受け止め、しっかり検討したい」と応じたとのことです。またこの日、日本医師会と四病院団体協議会(四病協)は合同で声明を出し、類を見ない物価高騰の下では「緊急避難的な対応だけではなく、恒常的な対応が必要」だとし、2024年度診療報酬改定での大幅な引き上げを強く求めています2)。四病院団体の幹部とともに合同記者会見に臨んだ松本会長は、「財務省による医療界を分断するような動きがある中で、診療報酬改定の大きな方向性において、医療界が一体・一丸となって声を一つに歩んでいくべきとの強い思いがあったからだ」と述べたとのことです。「皆、とても悲しくなりました。私たちは、財務省の奴隷なのでしょうか」と心情吐露した都医・尾崎会長また、東京都医師会の尾崎 治夫会長は11月14日に定例記者会見を開き、財務省が財政制度等審議会・財政制度分科会で診療所の報酬単価引き下げを主張したことについて「皆、とても悲しくなりました。私たちは、財務省の奴隷なのでしょうか」とその思いを吐露しました。記者会見で尾崎会長は東京都医師会が医師会員に意見を聞いてまとめた「会員や働いているスタッフの気持ち」と題された文書を紹介、「当時、国は、わたしたちの努力に報いたいとの思いがあって、補助金をいただけたものと… 頂いた補助金は、さらなる感染症対策と、必要とされるスタッフの増員などで、増えた収入はすぐなくなり、翌年には税金も上乗せされ、ほぼ収支は元に戻ってしまいました。それなのに、コロナで十分儲けたはずだから、物価高に伴う従業員の給料上乗せはそこから出せる筈、よって診療所の診療報酬はあげる必要なく、むしろ下げるべき。怒りを通り越して、皆、とても悲しくなりました。私たちは、財務省の奴隷なのでしょうか」と語りました。その文書の末尾は、山本 五十六の名言とされる「やってみせ 言って聞かせて させてみせ ほめてやらねば 人は動かじ」で締められていました3)。少々大時代的なパフォーマンスにも見えますが、「医療人も褒めてやらないと動かないのだよ」と尾崎会長は訴えたかったようです。ちなみに、尾崎会長は武見厚労相の後援会会長を務めています。診療所不足地域と診療所過剰地域で異なる1点当たり単価を設定して不足地域への医療資源シフトを促すこのように、次期改定に向けてさまざまな波紋を投げかけている財務省の「本体マイナス改定」の主張ですが、11月1日の財政制度等審議会・財政制度分科会の資料にはもう1点、気になる内容が盛り込まれています。かねてから財務省が主張してきた地域別の診療報酬の導入の検討です。「診療所の偏在是正のための地域別単価の導入について」と題された資料では、「診療報酬の仕組みは、報酬点数×1点当たり単価(10円)となっているが、診療所の偏在は診療コストの違いも影響していると考えられる」として、「診療所不足地域と診療所過剰地域で異なる1点当たり単価を設定し、報酬面からも診療所過剰地域から診療所不足地域への医療資源のシフトを促すことを検討する必要」を提案しています。全国一律となっている1点単価を見直し、診療所不足地域の単価を上げて診療所を呼び込もう、というわけです。「秋の建議」にも、この地域別の診療報酬導入はそのまま盛り込まれました。さらに建議の本文では、「将来的に地域別の報酬体系への移行を視野に入れつつ、当面の措置として、診療所過剰地域における1点当たり単価の引下げを先行させ、それによる公費節減等の効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化すべき」と、過剰地域で点数引き下げを先行させる考えも示されています。首相秘書官の一松 旬氏が奈良県出向時代に提案したスキーム財務省が最初に地域別の診療報酬について公の場で提言したのは、5年前、2018年4月の財政制度等審議会・財政制度分科会でした。この時財務省は「医療費適正化に向けた、地域別の診療報酬の具体的な活用可能なメニューを国としても示し、医療費適正化計画の達成に活用できるようにしていくべきだ。活用を検討する都道府県も現れている」として、地域別の診療報酬の導入可能性について言及しました。「活用を検討している」とされたのは奈良県で、そのスキームを考えたのが当時、財務省から出向し奈良県副知事を務めていた一松 旬氏、現在の首相秘書官です(「第179回 驚きの新閣僚人事、武見厚労相は日医には大きな誤算?“ケンカ太郎”の息子が日医とケンカをする日」参照)。地域別の診療報酬は、法律的には今でも実現可能です。「高齢者医療確保法(高齢者の医療の確保に関する法律)」の14条に規定があり、厚生労働大臣が都道府県知事と協議した上で都道府県別の診療報酬の単価を設定することができる、となっているからです。しかし、これまでに活用されたことはありません。2018年に財務省が提案したときは日医の猛反対もあり、議論は広がりませんでした。一松氏が首相秘書官となり、総理のブレーンとなった今年、財務省が「医療費適正化」のためではなく、今度は「診療所の偏在是正」のツールとして地域別の診療報酬を再度持ち出してきた真意はどこにあるのでしょうか。今回も単なる“打ち上げ花火”と見る向きもありますが、5年を経ても地域別の診療報酬を諦めず「秋の建議」に盛り込んできた財務省に、ある種の執念を感じます。武見厚労相は「慎重に考える必要がある」とコメントところで、メディファクス等の報道によれば、武見厚労相は地域別の診療報酬導入について11月7日の閣議決定後にコメント、被保険者間の公平性の観点から、現状診療報酬は全国一律の点数に設定しているとし、「慎重に考える必要がある」と語ったとのことです。日医寄りと見られる武見厚労相らしい発言とも言えますが、就任会見で「医療関係団体の代弁者ではない」と大見得を切った割には、医療関係団体への配慮が滲んでいる点が気になります。岸田内閣の支持率低下に歯止めがかからず、一部には「レームダック状態」「財務省も見限った」という報道もみられます。というわけで、武見厚労相の任期もいつまでかわからない状況です。例年と比べても勘案すべき要素が多過ぎることに加えて、政権が弱体化していることも診療報酬の改定率の予測を難しくしています。残すところあと1ヵ月余り、診療報酬改定シリーズから目が離せません。参考1)令和6年度診療報酬改定に向けて/日本医師会2)令和6年度診療報酬改定に向けた日本医師会・四病院団体協議会合同声明3)会員や働いているスタッフの気持ち/東京都医師会

824.

インフルエンザワクチン(1)鶏卵アレルギー【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q93

インフルエンザワクチン(1)鶏卵アレルギーQ93外来にインフルエンザの予防接種希望で56歳女性が受診した。体温は平熱で問診票上、既往などもないようだ。とくに問題ないなと問診票に目を通していくと、過去に重篤な鶏卵アレルギーがあったと記載されている。薬剤部に問い合わせたところ、今期、当院が入荷しているインフルエンザワクチンは鶏卵由来とのこと。この患者に予防接種はできる?できない?

826.

第187回 診療報酬改定シリーズ本格化(前編)「コロナで儲かったから診療報酬本体はマイナス改定」と財務省、「剰余金を取り崩せという姿勢は理不尽、医療提供体制の弱体化を招く」と日医・松本会長

次期診療報酬改定巡り財務省が強烈な先制パンチこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、今年最後のテント山行ということで、山梨・埼玉・長野県境にピークがある甲武信岳(百名山です)に、山仲間と重い荷物を背負って行ってきました。山梨県側の西沢渓谷から入り、甲武信小屋前でテント泊。翌日、甲武信岳を登頂後、三宝山、十文字峠を経て長野県側の毛木平に抜けるルートです。前の週とは打って変わって日本上空に強い寒気が入り込み、小屋前のテントサイト(標高2,360メートル)の気温は氷点下、朝はあまりの寒さに日が昇る前に目が覚めてしまいました。年齢や体力を考えると、冬山並みの装備が必要な秋のテント山行からはそろそろ引退したほうがいいかもれません…。さて、野球シーズンも終わり、来年の診療報酬、介護報酬の同時改定に向けての議論、“診療報酬改定シリーズ”が本格化してきました。今回は、財務省対日本医師会という恒例のマッチアップからスタートした、診療報酬改定を巡る動きについて書いてみたいと思います。「診療所は多額の利益剰余金が存在、取り崩して賃上げに充てるべき」と財務省財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会は2023年11月1日、社会保障予算について議論しました。財務省は、2020~2022年度における診療所の経常利益率が急増しているとの調査結果を公表。多額の利益剰余金が存在していることを踏まえ、剰余金を取り崩して賃上げに充てるべきだと指摘、診療所の初・再診料を中心に報酬単価を引き下げることなどにより、診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当だ、と主張しました。日本医師会などの医療関係者の団体は、物価高や賃上げなどを理由に診療報酬の大幅な引き上げを求めていますが、議論の初っ端から財務省が強烈な先制パンチを放った形となりました。「1,900万円の剰余金で、3%の賃上げに伴う人件費増を14年間賄える」財務省がこの日公表したのは、20〜22年度の全国38都道府県の約2万2,000の医療法人の経営状況について、財務局が調査した結果です。それによれば、病床を持たず診療所のみを運営する1万8,207の医療法人の経常利益率平均は20年度3.0%、21年度7.4%、22年度8.8%と改善が目立っていました。一方、中小企業の経常利益率は22年度では全産業3.4%、サービス産業3.1%で、医療法人の利益率はこの水準より高い結果となりました。企業の内部留保にあたる利益剰余金の平均は20年度の1億500万円から1億2,400万円へ増えました。20~22年度の増額幅は1,900万円で、18%の伸びです。さらに、財務省は現場従事者の賃金を3%上げるには年140万円が必要と試算、2年間で増えた1,900万円の剰余金を使えば3%の賃上げに伴う人件費増を14年間にわたって賄える、としました。以上を踏まえ、財務省は「2024年度改定においては、診療所の極めて良好な経営状況等を踏まえ、診療所の報酬単価を引き下げること等により、現場従事者の処遇改善等の課題に対応しつつ診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当」と提言しています。また、病院については、看護職員の賃上げにつなげる「看護職員処遇改善評価料」の成果の検証や、7対1といった看護師配置に過度に依存した診療報酬体系から、患者の重症度や救急受け入れ、手術といった実績を反映した体系に転換していくべき、としました。「診療報酬の大幅なアップなしでは賃上げは成し遂げられない」と日医会長当然、日本医師会はこうした財務省の考えにすぐさま反対を表明しました。11月2日、日本医師会の松本 吉郎会長は記者会見で、財務省の診療所の利益剰余金が積み上がっているとの指摘に対し、「この3年間はコロナ禍の変動が顕著であり、特に、コロナ特例による上振れ分が含まれている。そもそもコロナ禍で一番落ち込みが厳しかった2020年をベースに比較すること自体がミスリードであり、儲かっているという印象を与える恣意的なものである」と反論しました。そして、利益剰余金は大規模修繕等に充てるほか、法人が解散する際、最終的には国庫等に帰属するなど、医師、役員に帰属するものではないと説明、「『医療機関の賃上げは公定価格の中では対応しない』『利益剰余金を取り崩して実施しろ』という姿勢はあまりにも理不尽であり、地方の医療提供体制の弱体化を招くことを財務省はしっかりと認識すべきだ」と語りました。以上を踏まえ、松本会長は、「秋の新たな経済対策の中で、入院中の食事療養等の補助金や光熱費等の物価高騰に対する継続支援を要請しているが、あくまでも当面の対応であり、今後は報酬改定で対応すべきである。診療報酬の大幅なアップなしでは賃上げは成し遂げられない」と主張しました。診療報酬本体プラスマイナスゼロ近辺で決着か?今年の診療報酬改定は、例年と比べても勘案すべき要素が多過ぎて、なかなか先が見通せません。物価高、国からの賃上げ要請、来年から始まる医師の働き方改革などに加え、コロナ対応で必要以上に潤った医療機関の中にポストコロナになって経営が失速しているところが少なくない点も見逃せません。そんな状況下、「診療所は儲かっている。過去の利益の蓄積を元手に職員の賃上げも可能。診療報酬本体を上げる必要はない」という財務省の強烈な先制パンチが、どこまで改定率に響くのか、気になるところです。診療報酬の改定率や、実際の個々の診療報酬の中身についての議論はこれから本格化しますが、物価高、賃上げを考慮して表向きは少々プラス、肝心の本体はプラスマイナスゼロ近辺、というのが現実的な落とし所になりそうです。ちなみに日経ヘルスケア11月号の特集記事「徹底予測!2024年度診療報酬改定・介護報酬改定はこうなる」も、財務省の「巨額のコロナ補助金で積み上がった資産状況を含め、医療機関・介護施設の財務状況を見ながら、引き上げの必要性を慎重に議論すべき」という財務省の考えを紹介しつつ、「2021年以降は薬価改定が毎年実施されているため、次回の薬価改定の引き下げは小幅になると見込まれる。これらの背景から、物価や賃金高騰に対応しつつも、診療報酬本体の改定率はプラスマイナスゼロ近くでのせめぎ合いになりそうだ」と予想しています。例年使っていた「薬価を大幅に下げて財源を捻出する手法」が今回はフルに使えない点もマイナス要素です。もっとも、日医会長として初の改定に臨む松本会長と、その松本会長を会長選で推した横倉 正義・元日医会長(麻生 太郎副総裁と昵懇と言われています)、初当選以来医師会の応援を受け続けてきた武見 敬三・厚生労働大臣がどういった動きをするかで、数字は微妙に変わりそうですが……。地域別の診療報酬の導入の検討についても言及ところで、11月1日の財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会の資料には、もう1点、気になる内容が盛り込まれていました。かねてから主張してきた地域別の診療報酬の導入の検討についても言及しているのです。次期改定に関する資料の中に、再度するりと潜り込ませるあたり、財務省の地域別診療報酬導入への強いこだわりが感じられます。(この稿続く)

827.

小児・青年のうつ病に有用な運動介入とは~メタ解析

 中国・浙江師範大学のJiayu Li氏らは、小児および青年の抑うつ症状に対するさまざまな運動介入効果について評価を行った。その結果、運動介入は、小児および青年の抑うつ症状を有意に改善することが明らかとなった。とくに、有酸素運動が効果的であり、週3回、40~50分の運動介入を12週間行うとさらに有効であることが示唆された。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2023年10月11日号の報告。 2023年5月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)を4つのデータベースで検索した。バイアスリスクの評価には、Cochrane collaboration toolを用いた。ペアワイズメタ解析、ネットワークメタ解析には、Stata 16.0ソフトウェアを用いた。 主な結果は以下のとおり。・RCT35件、5,393例を分析に含めた。・抑うつ症状に対し最も有意な効果が認められた運動介入は、有酸素運動(66.2%)であり、次いで集団トレーニング(62.5%)、レジスタンスエクササイズ(59.0%)、有酸素運動とレジスタンスエクササイズの併用(57.9%)であった。・15歳未満では、抑うつ症状の有意な改善が認められた(標準化平均差[SMD]:-0.41、95%信頼区間[CI]:-0.63~-0.19、p<0.01)。・健康者(SMD:-0.25、95%CI:-0.41~-0.08、p<0.01)、肥満者(SMD:-0.15、95%CI:-0.31~-0.00、p<0.01)、うつ病患者(SMD:-0.75、95%CI:-1.32~-0.19、p<0.01)のいずれにおいても、抑うつ症状の有意な改善が認められた。・30分の運動介入において有意な効果が認められ(SMD:-0.14、95%CI:-0.81~-0.01、p<0.01)、40~50分の運動介入が最も効果的であった(SMD:-0.17、95%CI:-0.33~-0.02、p<0.01)。・運動介入の頻度は、週3回で有意な効果が認められた(SMD:-0.42、95%CI:-0.66~-0.18、p<0.01)。

828.

11月14日 世界糖尿病デー【今日は何の日?】

【11月14日 世界糖尿病デー】〔由来〕糖尿病の治療に欠かせない「インスリン」を発見したカナダの医師フレデリック・バンティングの誕生日にちなみ、2006年に国際連合は11月14日を「世界糖尿病デー」に認定。世界各地で糖尿病の予防、治療、療養について啓発活動を行っている。わが国でも全国で糖尿病啓発などに関するイベントが開催されるほか、東京タワーや大阪城などの有名建築物が糖尿病のシンボルカラーのブルーでライトアップされている。関連コンテンツ高齢者糖尿病診療のコツDr.坂根の糖尿病外来NGワードDr.坂根のすぐ使える患者指導画集 Part2日本人2型糖尿病でのチルゼパチドの効果、GLP-1RAと比較/横浜市立大チルゼパチド追加の「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」改訂版/日本糖尿病学会

829.

ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 1

今回のキーワード器用さ(協調運動)発達性協調運動症イメージ力(概念化)アート・サヴァン(サヴァン症候群)自分語り(社会性)自閉症のこだわり(反復性)創造性自己治癒皆さんは、子供の描く絵を見て、おもしろいと思ったことはありませんか? 大人の常識にとらわれない視点や発想にびっくりさせられることがありますよね。子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? そもそも私たちヒトはなぜ絵を描くようになったのでしょうか? そして、私たちは絵を見てなぜ心を動かされることがあるのでしょうか?今回は、ピカソの傑作の1つである「泣く女」を取り上げます。シネマセラピーのスピンオフバージョン、「アートセラピー」としてお送りします。この絵を通して、描く能力、描く起源、そしてアートの本質に、発達心理学、進化心理学、比較認知科学、神経美学の視点から迫ります。それらを踏まえて、医療の現場で行われるアートセラピーの効果を一緒に考えてみましょう。子供はどうやって絵を描くようになるの?ピカソの「泣く女」は、まさに子供が描くようなおもしろい絵です。彼は、もともと絵がとてもうまかったわけですが、途中からこのような絵をあえて描くようになりました。それでは、ピカソが注目したように、子供はどうやって絵を描くようになるのでしょうか? ピカソと子供の絵の共通点から、描くために必要な能力(機能)を主に3つ挙げてみましょう。(1)器用さ―協調運動ピカソの「泣く女」の絵は、輪郭がくっきりと描かれています。その太さはまばらで途切れているところもあり、滑らかではないです。よく言えば大胆不敵、悪く言えば不器用です。発達心理学的には、子供は1歳以降にペンで殴りがきができるようになり、2歳半以降に横線、縦線、円の模倣ができるようになります1)。1つ目の能力は、ペンなどで描く線の位置をコントロールする器用さ、つまり協調運動です。子供は自由に線を描くという運動遊びを通して、器用になっていきます。やがて、それが字を書く器用さにつながっていきます。逆に、いつまでも線がうまく描けず、手先が不器用なままの場合は、発達性協調運動症と呼ばれます。比較認知科学の視点では、チンパンジーをはじめ大型類人猿も絵筆で殴りがきができます1)。とくにチンパンジーは、模倣はできませんが、お手本の線に印づけをしたり、塗りつぶすことはできます。このことから、チンパンジーは1、2歳の子供と同じくらいの器用さがあることがわかります。ちなみに、ピカソは、あるチンパンジーの殴りがきの絵をオークションで買い取ってアトリエに飾っていたという逸話があり、インスピレーションのもとにしていたようです。(2)イメージ力-概念化ピカソの「泣く女」の絵は、泣いてくしゃくしゃになった表情と涙にぬれてくしゃくしゃになったハンカチがあえて連続的に描かれています。女性の顔の上半分は正面顔で下半分は横顔で、複数の視点からみたイメージを重ね合わせています(キュビズム)。よく言えば立体的で斬新、悪く言えば視点やイメージが定まっていないです。発達心理学的には、幼児の絵は、顔は真正面を向いているのに横から見た椅子に座っていたり、物が展開図のよう描かれていることがよくあります。人を描こうとすると、胴体がなく、頭からいきなり手足が生えているような絵(頭足人)になります。4歳まで、顔など上下の向きがあるものを逆さまや横向き(回転画)にして描いてしまうこともあります1)。2つ目の能力は、あるものをざっくりとした形で思い描くイメージ力、つまり概念化です。子供は、見たものではなく、知っているものを描くわけですが、絵本などからの模倣学習によって、より特徴や構図を細かく捉えることができるようになっていきます。こうして、子供の絵が、より多くの人が理解できる「普通」の絵になっていくのです。比較認知科学の視点では、ヒトの子供は2歳半以降に目がないチンパンジーの顔の絵に目を描き入れることができるようになります。しかし、チンパンジーはまったくできず、顔の絵の輪郭線をなぞるだけでした1)。このことから、チンパンジーは「ない」ものを認識できない、つまり目や口などの形のざっくりとしたイメージ(概念)がもともと頭の中になく、見たものを丸ごと捉えていることが示唆されます。だからこそ、目の前に他のチンパンジーが何頭いるかの瞬間記憶(映像記憶)において、チンパンジーはヒトよりも長けていることもわかります。逆に言えば、ヒトはチンパンジーよりも瞬間記憶が劣っているわけですが、これは、イメージ力(概念化)を進化させた代償と言えるでしょう。実際に、秀でた瞬間記憶によって写実的な絵を描く「アート・サヴァン」(サヴァン症候群)と呼ばれる人がまれにいます。しかし、彼らのほとんどは、もともと自閉症で、抽象的な話(概念化)ができません。彼らは、概念化の能力と引き換えに、瞬間記憶の能力を手に入れたと捉えることができます。ちなみに、ゾウは鼻で絵筆を持って、花の絵を描くことができます。ただし、これは、ゾウ使いが巧みに耳を引っ張るなどして、そう描くようにトレーニング(連合学習)をしただけであることがわかっています2)。ゾウは、自発的に描いているわけではなく、その絵の形を認識できているわけでもありません。つまり、形のある絵を描くことができるのは、やはりヒトだけであると言えます。(3)自分語り―社会性ピカソの「泣く女」のモデルは、ピカソの愛人の1人です。ピカソは、結婚をして子供がいながら、次々と愛人をつくっていました。この愛人ともう1人の愛人が、ピカソのアトリエで鉢合わせた時の逸話は有名です。ピカソは「どちらがこの場を出ていくかはっきりさせて」とこの2人に迫られるのですが、なんと「君たちが争って決めたらいい」と答えたのです。そして間もなく、彼の目の前で女性同士の取っ組み合いのけんかが始まったのでした。当時ピカソは、戦争を象徴する「ゲルニカ」の制作の真っ最中でした。「ゲルニカ」は、祖国スペインでの戦争だけでなく、自分のアトリエで自分をめぐっての女性同士の戦いも同時に象徴していたとも言えるかもしれません。彼は数年後、また別の愛人にこの時のエピソードを「最高の思い出の1つだったな」と面白がって語っていたのでした。この絵の背景を知れば知るほど、「泣く女」の真実が浮き彫りになってきます。そして、ピカソがいかに自分語りに長けていたのかがわかります。発達心理学的には、4歳以降でエピソード記憶が発達し、たとえば遊園地で家族が手をつないで笑っているワンシーンなど、エピソードの絵を描くようになります。そして、親などに「見て見て」と言うようになります。もちろん、親は「いいねえ」「よく描いたねえ」と褒めます。それは、写真のような正確な事実ではなく、その子が感じたその子にとっての真実です。その絵は親にとって、ピカソの絵と比べることができない宝物になります。3つ目の能力は、自分が見たものを周りに伝えようとする自分語り、つまり社会性です。子供は、ただ描くだけでなく、自分が見たものを絵にして周りと共有しようとするようになります。こうして、ピカソと同じように、絵にストーリー性やメッセージ性という価値が生まれるのです。比較認知科学の視点では、先ほどの目がない顔の絵に目を描き入れる実験において、そもそもチンパンジーは、たとえイメージ力があり目がないことを認識できていたとしても、そもそも「目がないこと(いつもと違うこと)を伝えたい」「足りない目を補って褒められたい」という発想自体がない可能性も考えられます。つまり、絵は、言葉と同じように社会性があることがわかります。逆に言えば、絵は誰かに見てもらうために描くのです。誰かに見てもらうことを想定せずに描く場合は、独り言と同じであり、自閉症のこだわり(反復性)など特殊な精神状態に限られます。次のページへ >>

830.

ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 2

ヒトはなんで絵を描くの?絵を描くために必要な能力は、器用さ(協調運動)、イメージ力(概念化)、自分語り(社会性)であることがわかりました。言い換えれば、子供が絵を描くのは、器用になりたいから、イメージしたいから、誰かに伝えたいからです。それでは、そもそもヒトはなぜ絵を描くようになったのでしょうか?ここから、絵を含むアートの起源を3つの段階に分けて迫ってみましょう。(1)きれいに石器をつくる―協調運動約300万年前に、人類は部族の集団をつくって助け合うようになりました。約250万年前には、獲物の肉を切る時に石器を使うようになりました。また、持ちやすさや丈夫さの観点から、石器(握斧)の形は、左右対称の涙型に洗練されていきました。これが、アートの起源です。1つ目の段階は、きれいに石器をつくることです。まず石器を使うためには、切る位置を見定めて指先の力を加減しながら正確に刃を打ち込む必要があります3)。そして、さらに石器をきれいにつくるためにも、同じような能力が必要になります。これは、器用さ(協調運動)の起源です。その形の美しさは、同時にその持ち主(主に男性)の生存能力として異性へのアピールになったでしょう。これは、生殖の適応度を高めます。ちなみに、ニワシドリという鳥のオスは、メスを向かい入れるために、「庭師」のように、花、木の実、貝殻、石などで巣の周りに、立派な「庭」をつくることで知られています4)。この「美的センス」は、人類の石器と同じように、メスに対してオスが適応度の高いことを示すシグナリングであると考えられています。シグナリングの詳細については、関連記事1をご覧ください。(2)ものにイメージを重ね合わせる―概念化約20万年前に、人類は言葉を話すようになり、言葉によって世界を細かく分けることができるようになりました。約9万年前に、貝の首飾りを信頼のシンボルとして見立て、一緒に埋葬するようになりました4)。約8万年前に、人類は石片に格子模様を刻むようになり、オーカ(着色剤)で顔をはじめとするボディペインティングをして、異性へのセックスアピールをするようになりました。これらは、見た目においてのシンボルの起源です。このようにシンボルを用いるようになってから、助け合うための相手の視点に立つ心理(心の理論)は、人間だけでなく、動物をはじめあらゆる自然に向けられ、それらとも協力関係を築こうとしたでしょう。これがアニミズムであり、トーテミズムです。ものに心が宿るという発想から、石片や動物の骨・角・象牙などが、形の似ている動物に見立てられて彫り込まれたでしょう。つまり、最初の彫刻アートは、最初から動物をイメージして作ったのではなく、最初はそう見えたからそれを補うように彫り込んでいったのです。2つ目の段階は、ものにイメージを重ね合わせることです。先ほど紹介したように、目がない顔の絵に目を描き入れる幼児のように、すでに「ある」ものを手がかりに「ない」ものを補ってイメージを膨らませていくことです。これは、イメージ力(概念化)の起源です。やがて、誰かが作ったものを別の誰かが真似して、より洗練されたものになったでしょう。3万数千年前には、動物の頭と人間の体を組み合わせた半人半獣の象牙アート「ライオンマン」が作られました。まさに、模倣から創造です。なお、概念化は、イメージ力(視覚的な認知能力)だけでなく、言語能力(聴覚的な認知能力)もあります。この起源については、関連記事2をご覧ください。(3)集団で共有する―社会性約5万年前に、洞窟の中で壁画が描かれるようになりました。実際の壁画には、岩肌の凸凹や亀裂を利用してウシやシカなどの輪郭がきれいに描かれています。埋まった小石は目として描かれています。このような壁画も、最初から凸凹や亀裂があえて利用されたのではなく、最初はその凸凹や亀裂があるおかげで、やっとウシやシカの形がイメージされるようになったと考えられます。その壁画を目の前にして、部族のメンバーが集まり、狩猟の場所を占ったり、狩猟の仕方などの生活の知恵や部族の掟を次の世代に伝えていったのでしょう。そして、それらの言い伝えは、より洗練された壁画としてまた描き直されていったのでしょう。3つ目の段階は、部族集団で共有することです。言葉に加えて、壁画があることによって、より具体的にイメージすることができて、やり方や仕組みの理解がしやすくなります。私たち現代人も、言葉だけでなく、イラストや図があった方がより頭に入りやすいです。これは、部族集団の適応度を高めます。そして、これが文化という社会性の起源です。実際に、壁画が描かれるようになった約5万年前から、先ほどの「ライオンマン」のようなアートをはじめ、道具、建築、音楽、文学、宗教、政治などの文化が爆発的に発展していきました。これは、「文化のビッグバン」と呼ばれています。なお、文化は、形として残る遺跡(視覚的な文化)と、言葉によって伝わる言い伝え(聴覚的な文化)に分けることもできます。言い伝えの起源の詳細については、言い伝えを噂話と置き換えて、関連記事3をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

831.

ピカソ「泣く女」【なんでこれがすごいの?だから子供は絵を描くんだ!(アートセラピー)】Part 3

なんでピカソの絵はすごいの?絵を含むアートの起源は、きれいに石器をつくる、ものにイメージを重ね合わせる、集団で共有することであることがわかりました。つまり、発達(個体発生)と進化(系統発生)の両方の視点からも、絵を描くために必要な能力(機能)は、協調運動、概念化、社会性であると言えます。それでは、最初の質問に戻ります。なぜピカソの絵はすごいのでしょうか? 神経美学の視点から、2つの要素を挙げてみましょう。(1)美しい要素がある「泣く女」の絵は、正面顔と横顔、顔のしわとハンカチのしわなどが連続的に組み合わされているなど、実は配置のバランスが驚異的にうまいと指摘されています5)。また、赤と緑、青とオレンジ、黄色と紫などお互いの色を強烈に引き立てる補色を効果的に使っており、色使いもうまいと指摘されています5)。1つ目は、美しい要素があることです。美しさは、見た目、聴き心地、道徳的行い、数理方程式などさまざまあります。これらの美の体験に共通して反応を見せる唯一の部位は、脳の眼窩前頭皮質であることがわかっています6)。絵画の美と道徳の美が、同じ脳の部位の反応であることからも、やはり絵画にはそもそも社会性があることがわかります。(2)めちゃくちゃな要素がある「泣く女」の絵は、「何これ!?」と思わせるような、普通にはありえない描線や構図です。さらに、描かれたモデルの気持ちについ思いを馳せて「ピカソは常軌を逸している!」などと私たちを思わせます2つ目は、めちゃくちゃな要素があることです。めちゃくちゃさは、間違いや無秩序などです。このように、合理的で理性的な思考に揺さぶりをかけられた時、脳の背外側前頭前皮質が反応することがわかっています6)。先ほどにご紹介した実験で、目のない顔に違和感を待つことも、まさにこの部位の反応です。つまり、ピカソの絵がすごいわけは、美しさとめちゃくちゃさの絶妙なバランスによって私たちの心を動かすからです。これは、特定の決まりごと(コンテキスト)を守りつつ、あえてそれにフィットする新しい何かを生み出しています。まさに、創造性です。当時に誕生した美術館は、このピカソの感性に目を付け、価値づけしたのでした。ちなみに、即興演奏をしている時のジャズミュージシャンの脳活動は、先ほどの背外側前頭前皮質が抑制されていることが確認されています。つまり、創造性を発揮するためには、あえてその脳の部位が抑制される必要があるわけです。そして、その創造性を理解するためには、その脳の部位が逆に刺激される必要があるというわけです。アートセラピーの効果とは?ピカソの絵のすごさの答えから、アートとは、必ずしも美しくなければならないわけではなく、私たちの心を動かす何かがあるということです。それは、一言で言えば、おもしろさであり、そのおもしろさを見出す、見る側の感性でもあるでしょう。この点で、アートセラピーとは、ただ何かを描いたりつくったりする自己満足でなく、そのできた何かに周りの人がおもしろみを見いだし相互作用する社会性が必要であることがわかります。ピカソの絵であろうと、子供の絵であろうと、そして患者さんの絵であろうと、その作品に何らかのメッセージ性を感じ取り意味づけして共有することが、つくった人の自己治癒となり、さらには見た人の自己成長となると言えるのではないでしょうか?1)「ヒトはなぜ絵を描くのか」P17、P28、P34、P59、P67:齋藤亜矢、岩波書店、20142)「チンパンジーの絵から 芸術の起源を考える」:斎藤亜矢、日本心理学会、20183)「病の起源2 読字障害/糖尿病/アレルギー」P26、NHK出版、20094)「脳は美をどう感じるか」P105、P124:川畑英明、ちくま新書、20125)「ピカソは本当に偉いのか?」P55、P162:西岡文彦、新潮新書、20126)「神経美学」P25、P130、P143:石津智大、共立出版、2019<< 前のページへ■関連記事ドラマ「ドラゴン桜」(後編)【そんなんで結婚相手も決めちゃうの? 教育政策としてどうする?(学歴への選り好み)】Part 1NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(後編)【言葉は噂をするために生まれたの!?(統語機能)】NHKドラマ「フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話」(中編)【そもそもなんで私たちは噂好きなの?じゃあこれから情報にどうする?(メディアリテラシー)】Part 1

832.

第186回 エピペンを打てない、打たない医師たち……愛西市コロナワクチン投与事故で感じた、地域の“かかりつけ医”たちの医学知識、診療レベルに対する不安

新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で事故調査委員会が報告書公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBのワールドシリーズ、NPBの日本シリーズが終わり、今年の野球シーズンも終幕を迎えました。ワールドシリーズは、テキサス・レンジャーズがアリゾナ・ダイヤモンドバックスを4勝1敗で破り、初優勝を飾りました。総じて地味で大味な戦いでしたが、かつてヤクルト・スワローズに在籍したことがあるという、ダイヤモンドバックスのトーリ・ロブロ監督の、バントや盗塁を駆使した日本の高校野球のような戦い方(「スモール・ベースボール」と呼んでいました)はなかなか興味深かったです(レンジャーズに1勝しかできませんでしたが…)。一方、第7戦までもつれた日本シリーズは、第6戦の山本 由伸投手の目が覚めるような完投劇があったものの、勢い勝った阪神タイガースの38年振りの日本一で幕を閉じました。オリックス第7戦登板の宮城 大弥投手は、立ち上がりはとてもいい出来に見えました。しかし、阪神のシェルドン・ノイジー外野手に投げたチェンジアップが少しだけ甘く入り、先制3ラン。あの失投さえなければ投手戦がそのまま続き、勝敗はどうなっていたかわかりません。いずれにせよ、山本投手はいいお土産を持って米国に渡ることになります。これから1、2ヵ月は大谷 翔平選手、山本投手のFA移籍先報道が熱くなるでしょう。さて今回は、昨年、愛知県愛西市で新型コロナワクチン接種後に女性が死亡した問題で、1ヵ月ほど前に愛西市医療事故調査委員会が公表した調査報告書について書いてみたいと思います。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論付けた報告書ですが、なぜ、アドレナリンが適切に投与されなかったのか、アナフィラキシーを起こしている患者を前にしてその判断ができなかった医師は、どんなキャリアでどれくらいの診療レベルだったのかについて、報告書には詳細に書かれていません。「かかりつけ医機能」が発揮されるための制度整備が議論されている中、地域の医師会の医師たちの医学知識、診療レベルを疑うような事例だけに、せっかく報告書を公表するならば、そのあたりまで突っ込んでもらいたいと思いました。「早期にアドレナリンが投与された場合、救命できた可能性を否定できない」と結論この事故は、昨年11月、愛西市の集団接種会場で、新型コロナワクチンを接種した女性(当時42)が直後に容体が急変し死亡した、というものです。専門家らで構成された愛西市医療事故調査委員会は9月26日、調査報告書1)を公表、「本事例は、ワクチン接種後極めて短時間に患者が急変し、死亡に至ったものである。非心原性肺水腫による急性呼吸不全及び急性循環不全が直接死因であると考えられ、この両病態の発症にはアナフィラキシーが関与していた可能性が高い。本事例は短時間で進行した重症例であることから、アドレナリンが投与されたとしても救命できなかった可能性はあるが、特に早期にアドレナリンが投与された場合、症状の増悪を緩徐にさせ、高次医療機関での治療につなげ、救命できた可能性を否定できない」と結論付けました。医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」さらに、「ワクチン接種後待機中の患者の容体悪化(咳嗽、呼吸苦の訴え)に対し、看護師らがアナフィラキシーを想起できなかったこと、問診者に接種前の患者の状態を確認することなく、患者は接種前から調子が悪かったと解釈したことは標準的ではなかった。また、その情報に影響を受け、ワクチン接種後患者の容体変化に対し、アドレナリンの筋肉内注射が医師によって迅速になされなかったことは標準的ではなかった」と、医療者たちの対応はことごとく「標準的ではなかった」と結論付けました。病態はアナフィラキシーの可能性が低いと医師が判断、アドレナリン筋肉内注射をせず報告書によれば、接種4分後から女性に咳嗽と呼吸苦が発現したにもかかわらず、看護師らは「ワクチン接種前からマスク着用の圧迫感による過呼吸発作状態にあったもの」と勝手に解釈していたとのことです。また、体調不良者が出たことで対応を依頼された医師も「接種前から体調不良、呼吸苦があったようだという看護師からの情報と、粘膜所見、皮膚所見、掻痒感、消化器症状など『アナフィラキシーで典型的な症状』がなかったことから、女性の病態はアナフィラキシーの可能性が低いと判断し、アドレナリンの筋肉内注射を第一治療選択から外し」てしまいました。そんな中、看護師の1人は「アナフィラキシーの可能性を考え、アドレナリン投与を想定し、注射器に22ゲージの針をつけ、医師の指示があればいつでも筋注できるよう準備をし」ていましたが、「医師の判断を尊重するため、アドレナリンの準備ができていることを積極的に伝えようとはしなかった」とのことです。接種14分後に心停止、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態さらに対応を依頼された医師は、「アナフィラキシーガイドライン2022」(日本アレルギー学会)の存在は認識していましたが、アナフィラキシーに比較的よくみられる所見や情報が乏しかったことに影響され、ガイドライン等に沿った対応、すなわち「0.1%アドレナリン(ボスミン1/2A)の筋肉内注射、またはアドレナリン自己注射用製剤(エピペン0.3mg製剤)の投与」を行いませんでした。なお、新型コロナウイルスワクチンの接種事業に協力する医師に対して海部医師会(医師たちが所属する医師会)は、医師たちに事前に準備された「アナフィラキシー対応マニュアル」を読んでおくよう指示していたとのことです。結局、この女性にアドレナリンが投与されることはなく、接種14分後に心停止、その後救急隊が呼ばれ、3次救急病院に搬送されるも到着時にはすでに心肺停止状態で、心肺蘇生を試みた後、死亡が確認されています。ハチ毒はアレルギーを獲得した後2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いエピペン(アドレナリン自己注射用製剤)については、私も少々苦い思い出があります。20年ほど前の秋、奥秩父の登山中にハチに刺されたことがあります。ハチ毒は、アレルギーを獲得した後の2回目に刺された時のアナフィラキシーが怖いと言われています。そこで私は近所の内科診療所を訪れ、エピペンの処方を頼みました。実は私の友人がその数年前、ハチに刺された数ヵ月後に蜂の子を食べ、アナフィラキシーで生死をさまよいました。その話を聞いていたので、「今後、山に登る時はエピペン所持が必要だ」と考えたのです。開業医にエピペン処方を断られるエピペンの日本での歴史はそう古くはありません。1995年、国有林で働く林業従事者のハチ毒対策のために米国で製造販売されていた製品を「治験扱い」で使用されたのが始まりです。その後、民有林での使用要望も出され、2003年に厚生労働省の製造販売承認が下りています。つまり、林業従事者のハチ毒対策が日本でのエピペン普及のきっかけだったのです。この時の適応は「蜂毒に起因するアナフィラキシー反応に対する補助治療(アナフィラキシーの既往のある人またはアナフィラキシーを発現する危険性の高い人に限る)」で、該当者は処方を受けて所持・使用することができるようになりました。その後、2005年には食物や薬物等によるアナフィラキシー反応および小児への適応も取得しています(ただし2011年までは保険が効かず自費)。私がハチに刺されたのは2003年の製造販売承認後だったので、内科診療所の医師は処方できたはずだったのですが、医師(60歳代)は「処方したことがない」「自分で打つのは危険だ」「全額自費だよ」などとさまざまな理由を挙げて、結局処方してもらえませんでした。「次、山で刺されたらアナフィラキシーで死ぬかもしれない」という私の切実な訴えも、まったく無視されました(その後、別の医療機関で入手し、数年間は登山時に所持)。ちなみに現在、エピペンの処方には講習受講と登録が必要となっています。アナフィラキシーを除外した医師は「内科医、医師歴5年以上10年未満」そんな経験があったため、愛西市の新型コロナワクチン接種後に女性がアナフィラキシーで死亡した事故を知った時、対応した医師は、私にエピペンを処方しなかった医師同様、比較的年配で、アドレナリン自己注射用製剤を患者に使用させた経験がなかったのではないか、さらにはアナフィラキシーというものを教科書では読んだことがあるが、自身では経験したことがなかったのではないかと思いました。しかし、私の予想は外れました。報告書によれば、最初にこの女性の対応を任され、アナフィラキシーを除外した医師は、海部医師会愛西市班に所属する医師で「内科医、医師歴5年以上10年未満」となっています。むしろ、こちらのほうが驚きです。医師になって10年未満、エピペンの使い方も一般化し、アナフィラキシー時の対応についても十分に学んでいるはずの世代が大きな判断ミスを犯したということになるからです。医学や診療技術は、日々進歩していますが、学ぼうとしない医師も一定数います。この「医師歴5年以上10年未満」の医師は、どういう経歴で、日々の診療はどういうもので、どのように最新の医学情報をアップデートしていたのでしょうか。「かかりつけ医」機能が議論される中、報告書には判断ミスを犯した医師の資質についても言及されるべきだったのではないでしょうか。「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判もところで、今回、この事故に関して、愛西市医療事故調査委員会の委員長らが記者会見し、報告書を公表、医学的評価の判断をマスコミ等に説明したことについて、「医療事故調査制度の制度趣旨に反している」との批判が一部にあるようです。公表が医師や看護師個々人への責任追及を促す危険性をはらんでいるからです。それはそれで一理あります。しかし、仮にことの原因が、個々の医療機関の安全管理体制等ではなく、医師の教育体制(卒後教育含む)にもあるとしたらどうでしょう。個々の医療機関に報告するだけで問題は解決するのでしょうか。愛西市のワクチン事故は、今の医療事故調査制度にも一石を投じたようです。参考1)新型コロナウイルスワクチン集団接種会場で発生した死亡事案について/愛西市

833.

新型コロナが小児感染症に及ぼした影響

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが小児感染症に及ぼした影響として、long COVID(罹患後症状、いわゆる後遺症)や医療提供体制の変化、感染症の流行パターンの変化などが挙げられる。これらをまとめたものが、イスラエルのネゲブ・ベン・グリオン大学のMoshe Shmueli氏らによってEuropean Journal of Pediatrics誌オンライン版2023年9月20日号に報告された。 本研究はナラティブレビューとして実施した。 主な結果は以下のとおり。既知の内容・COVID-19は通常、小児では軽度であるが、まれに重篤な症状が現れる可能性が知られている。また、一部の成人が悩まされるとされるlong COVIDは、小児においてもみられた。・COVID-19の流行による衛生管理の強化や体調不良時の行動変化により、呼吸器感染症(インフルエンザやRSウイルス、肺炎球菌)だけではなく、他の感染症(尿路感染症や感染性胃腸炎など)でも感染率の低下がみられた。・医療提供体制が大きく変化し、オンライン診療の普及などがみられた。・ワクチン定期接種の中断により、ワクチン接種を躊躇する動きがみられた。・抗菌薬の誤用や過剰処方の問題が生じた。新規の内容・COVID-19流行期間中にインフルエンザやRSウイルスの流行が減少した理由は、非医薬品介入※(non pharmaceutical intervention:NPI)措置に関連しているのではなく、むしろ生物学的ニッチ(鼻咽頭)における病原体と宿主の相互作用などの、NPI措置以外に関連していると考えられた。※非医薬品介入:マスク着用義務や外出禁止令などの医薬品以外の予防対策

834.

喘息治療で改善しない運動時の喘鳴・呼吸困難、診断に必要な検査は?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第12回

喘息治療で改善しない運動時の喘鳴・呼吸困難、診断に必要な検査は?講師福岡市立こども病院 アレルギー・呼吸器科 手塚 純一郎 氏【今回の症例】14歳の女性。これまで喘息と診断されたことはなく、陸上部で中距離走を行っている。部活動の練習にて、全力で走ると数分で急にゼーゼーして呼吸が苦しくなる。運動誘発喘息の診断により、吸入ステロイド薬(フルチカゾン換算で100μg)と長時間作用性β2刺激薬(サルメテロールキシナホ酸塩50μg)の合剤を1日2回吸入しているが、運動時の喘鳴を伴う呼吸困難が改善しない。喘鳴は吸気性で短時間作用性β2刺激薬(サルブタモール)を吸入しても良くならないが、運動を中止すると数分で改善する。

835.

小児がんの薬剤開発、何が進んだか、次に何をすべきか/日本小児血液・がん学会

 2022年11月に開催された前回の学術集会で、小児がんの薬剤開発に関する課題の共有や抜本的な制度改革への必要性が提言されて以降、さまざまな場で具体的な方策についての検討が行われてきた。その進捗について、第65回日本小児血液・がん学会学術集会の学会特別企画「『小児がんの薬剤開発を考える』何が進んだか、次に何をすべきか」にて、小川 千登世氏(国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科)と鹿野 真弓氏(東京理科大学 薬学部)から、それぞれ報告があった。国内における小児がんの薬剤開発のためには抜本的な制度改革が必要 日本における小児がんを対象とした臨床試験数は欧米と比較して圧倒的に少なく、その背景には小児に対する薬剤開発の義務化の有無が影響していると考えられている。小児がんの薬剤開発が進まない理由としては、1)市場規模が小さく、開発コストや法的義務の負担が大きいこと、2)小児治験を実施する環境が不十分であること、3)医師主導治験で開発を試みるも公的予算・研究費の確保が困難であること、4)対象患者が少なく被験者の確保も難しいといった問題等が挙げられる。 小川氏は、これらの問題解決のために「企業開発を可能とするための効果的なインセンティブや、医師主導治験に対する公的予算・研究費の十分な提供、継続的に実施できる体制強化といった抜本的な制度改革が必要である」と述べた。ゲノム医療における、小児がんドラッグラグ解消に向けた取り組み がん遺伝子パネル検査で治療候補薬が見つかった患児やその家族から、薬剤アクセス確保の要望が高まっている一方で、ゲノム医療において「小児がんドラッグラグ」の問題が「がん対策推進基本計画(第3期)」の課題として挙がっていた。この薬剤アクセス改善に向けて、治験の実施を促進する方策について検討するとともに、小児がん中央機関や拠点病院、関係学会だけでなく企業等と連携して研究開発を推進することが、第4期に取り組むべき施策として、がん対策推進基本計画(2023年3月28日に閣議決定)に明記されている。 これらの課題解決には、「小児がん治療開発コンソーシアム」を構築し、患児や家族、国内外の企業、海外アカデミアとの連携による治療薬開発促進や、小児がん患者の薬剤アクセス改善に向けた活動を目指すとしている。小川氏からは、国際共同企業治験の呼び込みとして、国際学会やACCELERATE Platformへの参加による情報収集や海外企業へのコンタクトの実施、薬剤アクセスの改善では、マスタープロトコルを用いた患者申出療養制度に基づく特定臨床試験(PARTNER試験)の実施などの紹介があった。ほかにもさまざまな検討会が立ち上げられ、小児がんのドラッグラグ解消に向けた施策が進行中である。小児がんの薬剤開発の推進には制度改革だけでなく、実施にむけた環境整備も必要 小児がんや小児の希少難治性疾患に対する薬剤開発の推進に向けて、鹿野氏から「小児がん及び小児稀少難治性疾患に係る医薬品開発の推進制度に資する調査研究」について報告があった。 欧米では、成人の医薬品開発過程における小児開発の検討が法律で義務化されて以降、小児臨床試験の割合は増加。その一方で、小児開発が免除(Waiver)または延期(Deferral)となる割合も2017年以降増加していた。米国におけるWaiverの適用理由として、小児患者が少なく治験の実施困難が全体の8割程度、Deferralの適用理由は非開示が多いものの、安全性・有効性に対する懸念、小児用製剤開発の必要性を理由とする事例が確認された。 製薬企業等を対象としたアンケート調査の結果では、欧米で小児適応を取得済み、または開発中の医薬品に対して、日本国内で小児適応に向けた具体的な開発計画がない品目があると回答した企業が半数近く存在した。その理由として、収益性や治験実施体制の整備、PMDAの審査・相談、欧米のような義務化といった問題が挙がっていた。医療機関を対象としたアンケート調査の結果でも、国内で開発が進まない理由として製薬企業の調査結果と同様の課題が挙がっていた。 この課題解決に向けて鹿野氏は、「解決に向けた取り組みは、いろいろなところで始まっている。これらが統合されて、小児がんの薬剤開発の推進を皆で盛り上げていくことが大切である」と述べた。小児がんの薬剤開発として、次に何をすべきか? 講演の後半では、今後の小児がんの薬剤開発についてパネルディスカッションが行われた。課題解決に向けて、「患者・家族の立場として、課題をもっと周知してもらうために、いろいろな場所で情報発信していく必要がある。そのためには患者リテラシーも向上していきたい」「薬剤開発の推進にはスピード・コスト・クオリティの3つのバランスが必要。日本はスピード・コストに課題があるため、この点をカバーするために現在行われている取り組み等に企業としても貢献していきたい」「インセンティブや治験の実施体制などの環境整備の問題等、課題を複合的に検討していく必要がある」など、さまざまな意見が出された。 最後に小川氏は、「昨年からの進捗状況として、いろいろなことが前進したと実感している。小児がんの薬剤開発を盛り上げていくために、患者さんの会、企業、行政と連携して、また1年後に進捗状況を共有していきたい」と締めくくった。

836.

若者のうつ病に対する孤独感の影響

 COVID-19パンデミックは、孤立の長期化や社会的関係の混乱をもたらし、それに伴って学生の孤独感は増大した。孤独は、うつ病を含むさまざまな精神疾患と関連しており、自傷行為や自殺など、重大な事態を引き起こす可能性がある。中国・広東技術師範大学のM-Q Xiao氏らは、孤独感がうつ病に影響を及ぼす要因について調査を行った。European Review for Medical and Pharmacological Sciences誌2023年9月号の報告。 COVID-19パンデミック中に中国広東省広州市の中等教育および高等教育を受けていた学生879人を対象に、アンケート調査を実施した。収集したデータは、包括的に分析した。 主な結果は以下のとおり。・データの分析により、孤独感がうつ病に対し、有意な正の予測効果を示すことが明らかとなった。・孤独感とうつ病の症状との関係に、目標思考のアプローチとレジリエンスが部分的に関連していることが示唆された。・レジリエンスや目標へのフォーカスは、表現抑制や認知的再評価のレベルとは無関係に、メディエーターとして特定された。・認知的再評価は、孤独感とうつ病とのメディエーターとして、負の緩和効果を示した。・表現抑制は、孤独感とうつ病との関係を明確に媒介しており、この関係ではレジリエンスが役割を果たしていた。 著者らは、「本調査結果により、COVID-19パンデミック中は、社交や対人関係を通じてネガティブな感情を軽減できなかったことが、孤独感の増大や、その後のうつ病発症につながっていたことが示された」とし、以下のようにまとめている。 レジリエンスについては、孤独感による低下が、好ましくない対人関係の経験を人生の他の側面に投影すること、自身は困難を克服する能力に欠けると思い込むことにつながり、それによってうつ状態を悪化させる可能性がある。また、その向上は、パンデミックにより起きた変化により良く適応し、うつ病リスクの軽減に寄与すると考えられるという。目標へのフォーカスについては、高い場合には、自身の経験からの学び、生活リズムの調整、うつ病レベルが低い傾向などが認められた。このことから、うつ病リスク軽減に、目標へのフォーカス向上を目指した介入が有用であることが示唆された。 さらに、自身の不幸の表現を抑制している場合は、うつ病レベルが上昇する可能性があるが、認知的再評価スキルが高い場合には、困難な状況に対する認知的視点を変えることで、うつ病リスクの低下につながる傾向がある、としている。

837.

11月3日 難聴ケアの日【今日は何の日?】

【11月3日 難聴ケアの日】〔由来〕「いい(11)みみ(3)」(いい耳)と読む語呂合わせと、難聴ケアを文化にしたいという思いも込め「文化の日」の今日、補聴器を中心とした聴覚関連機器の販売などを手がける株式会社岡野電気(埼玉県・大宮市)が制定。難聴が原因で起きるさまざまな障害の重大性を知る機会を作ること、難聴予備群の方に正確な情報を提供すること、そして難聴の予防、改善するきっかけの日とすることが目的。関連コンテンツ難聴と認知症【外来で役立つ!認知症Topics】コロナ禍のコミュニケーション【コロナ時代の認知症診療】耳鳴りがするときの症状チェック【患者説明用スライド】老化に伴う難聴を脳のコレステロール補強で防ぎうる高齢者における難聴とうつ病との関係~メタ解析

838.

第69回 ほとんどの成人が日本脳炎ワクチン未接種者の地域は?

静岡県で日本脳炎Unsplashより使用静岡県の医療機関に2ヵ月間入院している高齢者の抗体検査によって、この患者さんが日本脳炎ウイルスに感染していることが先日判明し、話題となりました。今年7月には、熊本県において、15頭のブタのうち1頭で日本脳炎ウイルスに直近に感染していたことを示す抗体が検出され、日本脳炎注意報が発令されています。日本脳炎ウイルスは、ヒトからヒトには感染しませんが、ウイルスに感染したブタを吸血したコガタアカイエカに刺されることで感染します。感染した場合に0.1~1%が急性脳炎を発症するやっかいなウイルス感染症です。ほとんどが無症状なのですが、発症した場合の死亡率が20~40%と高く、生存したとしても多くは後遺症を残してしまいます。日本脳炎ワクチンの予防接種は小児の定期接種に位置付けられているので、現在は取りこぼしがほとんどなく接種できています。日本脳炎ワクチンの接種時期は、基本的に3歳になってからと認識されていることが多いですが、ワクチンの接種そのものは生後6ヵ月から可能です。日本小児科学会では、日本脳炎の流行地域に渡航・滞在、最近日本脳炎の患者が発生した地域に居住、ブタの日本脳炎抗体保有率が高い地域(茨城県、千葉県、静岡県、山梨県、三重県、鳥取県、愛媛県、高知県、大分県、福岡県、佐賀県、長崎県など)に居住している子供について、生後6ヵ月からの接種を推奨しています1)。日本人における日本脳炎抗体の保有状況は、2022年のデータによると40代から急速にダウンしていることがわかると思います(図1)。小児も6ヵ月時点での接種はほとんどなく、基本的に3歳以降の接種のままになっていることがわかります。画像を拡大する図1.感染症流行予測調査グラフ(国立感染症研究所)2)北海道の定期接種は2016年から北海道では、媒介するコガタアカイエカが生息していなかったことから、日本脳炎ワクチンの定期接種は過去行われていませんでした。法定接種の対象になったのは2016年のことです。ゆえに、北海道民の成人のほとんどが日本脳炎ワクチン未接種者と考えられます。大学時代、北海道出身の友人がいたのですが、日本脳炎ワクチンを接種していないということで、慌てて接種していたのを覚えています。北海道に住んでいる人皆がそのまま北海道に住み続けるわけではありませんし、北海道の平均気温もどんどん上昇しています(図2)。なので、どの地域であっても、気温が上昇し続けている日本に住んでいる限り、日本脳炎ワクチンを接種しておいたほうがよいと考えられます。画像を拡大する図2.北海道の気温のこれまでの変化(札幌管区気象台)3)副反応を心配する声もあるかと思いますが、感染・発症したときの健康インパクトが大き過ぎるので、相対的にワクチンの重要性は増すということです。参考文献・参考サイト1)日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 日本脳炎罹患リスクの高い者に対する生後6か月からの日本脳炎ワクチンの推奨について.2)感染症流行予測調査グラフ(国立感染症研究所)3)北海道の気温のこれまでの変化(札幌管区気象台)

839.

ADHDと自閉スペクトラム症のWAIS-IVまたはWISC-Vによる認知プロファイル~メタ解析

 これまでの研究によると、神経発達の状態は、ウェクスラー式知能検査(最新版はWAIS-IV、WISC-V)における特有の認知プロファイルと関連している可能性がある。しかし、自閉スペクトラム症または注意欠如多動症(ADHD)患者の認知プロファイルをどの程度反映できているかは、はっきりしていなかった。英国・ニューカッスル大学のAlexander C. Wilson氏は、同検査による自閉スペクトラム症とADHDの認知プロファイルの評価を調査する目的でメタ解析を実施した。その結果、WAIS-IVまたはWISC-Vの成績パターンは、診断目的で使用するには感度および特異度が不十分であるものの、自閉スペクトラム症では、言語的および非言語的推論の相対的な強さと処理速度の低さの認知プロファイルと関連していることが示唆された。一方、ADHDでは、WAIS-IVまたはWISC-Vにおける特定の認知プロファイルとの関連性は低かった。Archives of Clinical Neuropsychology誌オンライン版2023年9月29日号の報告。ADHD患者のWAIS-IVまたはWISC-Vの結果は年齢で予想されるレベル 2022年10月までに公表された研究をPsycInfo、Embase、Medlineより検索した。自閉スペクトラム症またはADHDと診断された小児または成人を対象に、WAIS-IVまたはWISC-Vを用いて認知パフォーマンスを評価した研究を検索対象に含めた。検査のスコアはメタ解析を用いて集計した。自閉スペクトラム症とADHDのWAIS-IVまたはWISC-Vを用いた認知プロファイルの評価を調査した主な結果は以下のとおり。・18件のデータソースより報告された、ニューロダイバーシティ(神経多様性)1,800例超のスコアを分析した。・自閉スペクトラム症の小児および成人は、言語的および非言語的推論において典型的な範囲内のパフォーマンスを発揮していたが、処理速度スコアは平均より約1 SD低く、作業記憶スコアはわずかに低かった。これは、自閉スペクトラム症における「spiky」の認知プロファイルの根拠と考えられる。・ADHDの小児および成人のWAIS-IVまたはWISC-Vにおけるパフォーマンス結果は、ほとんどが年齢で予想されるレベルであったが、作業記憶スコアはわずかに低かった。 結果を踏まえて著者は、「自閉スペクトラム症では、自身の長所や困難を特定しサポートするための認知評価が、とくに有益である可能性がある」としている。

840.

破傷風の予防【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第8回

今回は、破傷風の予防についてです。外傷患者さんを診たとき、「傷が汚いから破傷風トキソイドを打とう」という発言をよく聞くことがありますが、「“汚い”とは何をもって“汚い”と言うのか?」と聞かれるとすぐに答えるのは難しいのではないでしょうか。前回紹介した毎日犬にかまれているおじいさんの症例をベースに、破傷風予防の必要性を考えていきましょう。<症例>72歳男性主訴飼い犬にかまれた高血圧、糖尿病で定期通院中。受診2時間前に飼い犬のマルチーズに手をかまれた。自宅にあった消毒液で消毒し、包帯を巻いた状態で定期受診。診察が終わったときに自分から「今日手をかまれて血が出て大変だったんだよ」と言い、犬咬傷が判明。既往歴糖尿病、高血圧アレルギー歴なしバイタル特記事項なし右前腕2ヵ所に1cm程度の創あり。発赤なし。破傷風の予防接種の有無を聞くと、「そのようなものは知らない」と答える。さて、この患者さんは破傷風トキソイドを打つ必要があると考えますか? 私は迷うことなく「Yes」だと思います。しかし、もし犬にかまれたのではなく、「自宅内で転倒して額に1cmの挫創を負った」「屋外で転倒して肘に擦過創ができた」であればYes/Noが分かれるかもしれません。もしくはこの患者さんが14歳だったとしたらどうでしょうか? 今回は日本の国立感染症研究所とアメリカのCenters for disease Control and Preventionの情報を基に解説します1,2)。治療に入る前に破傷風に関して復習しましょう。破傷風は、Clostridium tetani(破傷風菌)が産生する神経毒素による神経疾患です。破傷風菌は偏性嫌気性グラム陽性有芽胞桿菌で土壌などの環境に広く分布しており、ある程度どのような場所でも傷を負えば感染のリスクがあります。日本では年間100例程度が発症しており、そのうち9例程度が死亡する非常に重篤な疾患です2)。私も数例診ましたが、痙攣のコントロールに難渋するなど非常に治療が難しく、たとえ助かったとしても重篤な合併症を残してしまう危険な疾患と考えています。しかし、ワクチン接種により基礎免疫を獲得することで、ほぼゼロに近い確率まで破傷風の発症を防ぐことできます。ガイドラインでは「基本的には破傷風に対する基礎免疫を持っている状態」が望ましいとされ、「傷がきれいであったとしても、基礎免疫がないもしくはブースターが必要な場合は破傷風トキソイドの投与が推奨」されています。では症例に戻って系統立ててみていきましょう。(1)基礎免疫はあるかまず破傷風に対する基礎免疫があるかを確認しましょう。初回投与から決められた期間に2回破傷風トキソイドを投与することにより基礎免疫を獲得し、最終接種から10年ごとに再投与することで基礎免疫が維持されます。日本では1968年から百日せき・ジフテリア・破傷風の3種混合ワクチン(DPT)の定期接種が始まりましたが、全国一律で開始されたわけではないようです。国立感染症研究所の情報によると、1973年以前の出生の人では抗体保有率が低いものの、1973年より後の出生の人では基礎免疫を獲得していると考えられます。今回の患者さんは定期接種がなかった時代に出生しているため、基礎免疫がないと判断します。次いで患者さんが、破傷風トキソイドを打ったことがあるかどうかを確認しましょう。外傷を契機に破傷風トキソイドを打ったことがある人がいますが、「受傷したときに1回しか打っていない」「記憶があやふや」という人も多く、その場合も基礎免疫がないと考えます。この患者さんにトキソイドについて尋ねたところ「何それ?」と回答されたので基礎免疫はないと判断しました。(2)傷の「きれい」「汚い」破傷風を起こす可能性が高い創=汚い、破傷風を起こす可能性が低い創=きれい、と表現されることが多く、これをもって破傷風トキソイドを打つかどうか判断している医師もいると思います。しかしながら、表1のとおりガイドライン上は「汚い」「きれい」で変わるのは基礎免疫がない患者で抗破傷風免疫グロブリンを打つかどうかです。ここを注意してください。表1 破傷風トキソイド・抗破傷風免疫グロブリン(TIG)の投与基準画像を拡大するでは、きれい/汚いはどう区別するのでしょうか? これは私もかなり探してみたのですが、書籍や文献によってまちまちです。CDCでは「汚い」に関しては「土壌、汚物、糞便、または唾液(動物や人間のかみ傷など)で汚染された傷を“汚い”と判断する必要がある。また、刺し傷または貫通傷を汚染されたものとみなし、破傷風のリスクが高い傷と判断する。壊死組織(壊死性、壊疽性の傷)、凍傷、挫傷、脱臼骨折、火傷を含む傷は、破傷風菌の増殖に適しておりリスクが高い」とされています。Colombet氏らは自身の論文で「明確に破傷風リスクが低い/高い傷を定義するのは困難」と述べていて、傷の状態や性状だけで判断は難しいと思います3)。よって基礎免疫がない外傷患者に対して破傷風トキソイドの投与は必須として、抗破傷風免疫グロブリンを投与するかどうかは医師の判断になります。症例に戻りましょう。破傷風トキソイドは投与して、抗破傷風免疫グロブリンを投与するかどうかの判断が必要になります。この傷はガイドラインに沿えば、きれいな傷とはならないので抗破傷風免疫グロブリンの適応となります。私はこの傷であれば、手元に抗破傷風免疫グロブリンがあれば投与を検討しますが、すぐ投与するためにあえて高次機能病院に受診させることはありません。私が必ず抗破傷風免疫グロブリンを投与するのは、開放骨折やデグロービング損傷など重症度が高い傷で破傷風のリスクが高いと判断したときです。この患者さんは、破傷風トキソイドを投与し、基礎免疫を獲得するために1ヵ月後と半年後に予防接種を受けてもらうことにしました。今回は、破傷風の予防に関してお話ししました。救急外来では破傷風トキソイドが適切に投与されていないとの報告もあり、実際に私も「傷がきれい」という理由で破傷風トキソイドを打たれなかった症例を経験することがあります4)。そのようなこともあり破傷風の予防には思い入れがありますので、参考になれば幸いです。破傷風の豆知識(1)破傷風トキソイドと抗破傷風免疫グロブリンは受傷後いつまでに打てばよい?UpToDateの「Wound management and tetanus prophylaxis」を参考にすると5)、「なるべく早く」が答えです。ただし、その場で投与できなかったとしても破傷風の発症は受傷から3~21日後ですので、可能であれば3日以内、最長で21日まで破傷風トキソイドと抗破傷風免疫グロブリンを破傷風感染予防目的に投与することは推奨されると記載されています。ただし、破傷風トキソイドに関しては基礎免疫を獲得していることが望ましいので、21日を過ぎて、もともと基礎免疫がない患者、もしくは基礎免疫があっても最終接種からの年数と傷の状態からブースト接種が必要な場合は破傷風トキソイドの投与を勧めるべきと考えます。つまり気が付いたときにはいつでも破傷風トキソイド投与を勧める必要があります。何らかの傷を負ったときの破傷風トキソイドは傷からの破傷風予防として保険適用です。(2)基礎免疫があれば破傷風のリスクが高い傷に抗破傷風免疫グロブリンを打たなくてもよい?表1を見てもらいたいのですが、基礎免疫がある人は抗破傷風免疫グロブリンの適応になりません。では1973年より後に生まれた人はたとえ破傷風のリスクが高い傷でも抗破傷風免疫グロブリンを打たなくてよいのでしょうか? 私は必要と考えています。なぜなら本当に基礎免疫があるかどうか確認できないことが多いからです。赤ちゃんのときのワクチン接種に関しては母子手帳に記載がありますが、患者は持ち歩いておらず、本人に聞いてもわからないことがほとんどです。そのため、私は基礎免疫があると確証が持てない場合で破傷風のリスクが高い傷の場合は抗破傷風免疫グロブリンを投与しています。将来的に、ワクチン接種歴がマイナンバーで管理されてすぐに接種歴がわかるようになれば、ほとんどの症例で抗破傷風免疫グロブリンの投与はしなくなるのかなと思います。1)CDC:Tetanus2)国立感染症研究所:破傷風とは3)Colombet I, et al. Clin Diagn Lab Immunol. 2005;12:1057-1062. 4)Liu Y, et al. Hum Vaccin Immunother. 2020;16:349-357.5)UpToDate:Wound management and tetanus prophylaxis

検索結果 合計:3039件 表示位置:821 - 840