サイト内検索|page:24

検索結果 合計:3039件 表示位置:461 - 480

461.

2050年までの早期死亡改善に必要なことは?/Lancet

 2050年までに世界の年間の早期死亡(70歳未満の死亡)の割合を半減させ、全年齢層で生活の質(QOL)を向上させることは可能と考えられるが、高パフォーマンス国と中パフォーマンス国が早期死亡の改善率を維持または加速度的に上昇させるためには、子供と成人の健康に対する多額の投資を要することが、ノルウェー・ベルゲン大学のOle F. Norheim氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年11月20日号に掲載された。10地域と人口の多い30ヵ国のクロスカントリー分析 研究グループは、2050年までの早期死亡率の半減は可能かの検証を目的に、70歳に至る前の死亡率の大きなばらつきと、過去50年間(1970~2019年)のその傾向を、世界の10の地域と最も人口の多い30ヵ国で比較するクロスカントリー分析を行った(ノルウェー開発協力局[NORAD]などの助成を受けた)。 早期死亡の割合(probability of premature death:PPD)に関するすべての分析には、国際連合(UN)世界人口推計(World Population Prospects)2024年版の生命表を用いた。これらの生命表から、1年ごとの年齢別死亡率を用いて性別、国別、年別の死亡の割合を算出した。70歳未満の死亡率は半世紀で56%から31%に減少 世界全体のPPDは、1970年の56%から2019年には31%に減少したが、紛争や社会的不安定、HIV/AIDSにより逆に増加した国もあった。また、成人と比較して子供の死亡率は、より迅速に低下していた。 1970~2019年の半世紀に、31年以内にPPDの半減を達成したのは、世界のすべての国のうちでは34ヵ国で、人口の多い上位30ヵ国のうちでは7ヵ国(バングラデシュ[半減に要した期間:1991~2022年]、イラン[1983~2006年]、中国[1970~2001年]、ベトナム[1972~1995年]、韓国[1992~2011年]、イタリア[1983~2012年]、日本[1970~2001年])であった。人口が多く、最近の改善率が良好な国は7ヵ国 人口の多い上位30ヵ国のうち、2010~2019年の期間に年平均値(2.2%)を超える改善率を達成したのは7ヵ国(韓国[3.9%]、バングラデシュ[2.8%]、ロシア[2.7%]、エチオピア[2.4%]、イラン[2.4%]、南アフリカ共和国[2.4%]、トルコ[2.3%])であった。この状況が持続すれば、2050年までにPPDが半減する可能性があると考えられた。 著者は、「早期死亡を減少させることで、より多くの人々が健康で長生きできるようになると考えられるが、寿命の延長に伴って慢性疾患の罹患期間が長期化する人々が増えるため、慢性疾患の罹患率を抑制するための投資も必要となるだろう」としている。

462.

妊娠中のビタミンD摂取は子どもの骨を強くする

 妊娠中のビタミンDの摂取は、子どもの骨と筋肉の発達に良い影響をもたらすようだ。英サウサンプトン大学MRC Lifecourse Epidemiology CentreのRebecca Moon氏らによる研究で、妊娠中にビタミンDのサプリメントを摂取した女性の子どもは、摂取していなかった女性の子どもに比べて、6〜7歳時の骨密度(BMD)と除脂肪体重が高い傾向にあることが明らかにされた。この研究結果は、「The American Journal of Clinical Nutrition」11月号に掲載された。Moon氏は、「小児期に得られたこのような骨の健康への良い影響は、一生続く可能性がある」と話している。 ビタミンDは、人間の皮膚が日光(紫外線)を浴びると生成されるため「太陽のビタミン」とも呼ばれ、骨の発達と健康に重要な役割を果たすことが知られている。具体的には、ビタミンDは、丈夫な骨、歯、筋肉の健康に必要なミネラルであるカルシウムとリン酸のレベルを調節する働きを持つ。 今回の研究では、妊娠14週未満で単胎妊娠中の英国の妊婦(体内でのビタミンDの過不足の指標である血液中の25-ヒドロキシビタミンD濃度が25~100nmol/L)を対象に、妊娠中のビタミンD摂取と子どもの骨の健康との関連がランダム化比較試験により検討された。対象とされた妊婦は、妊娠14~17週目から出産までの期間、1日1,000IUのコレカルシフェロール(ビタミンDの一種であるビタミンD3)を摂取する群(介入群)とプラセボを摂取する群(対照群)にランダムに割り付けられた。これらの妊婦から生まれた子どもは、4歳および6~7歳のときに追跡調査を受けた。 6〜7歳時の追跡調査を受けた454人のうち447人は、DXA法(二重エネルギーX線吸収法)により頭部を除く全身、および腰椎の骨の検査を受け、骨面積、骨塩量(BMC)、BMD、および骨塩見かけ密度(BMAD)が評価された。解析の結果、介入群の子どもではプラセボ群の子どもと比較して、6〜7歳時の頭部を除く全身のBMCが0.15標準偏差(SD)(95%信頼区間0.04~0.26)、BMDが0.18SD(同0.06~0.31)、BMADが0.18SD(同0.04~0.32)、除脂肪体重が0.09SD(同0.00~0.17)高いことが明らかになった。 こうした結果を受けてMoon氏は、「妊婦に対するビタミンD摂取による早期介入は、子どもの骨を強化し、将来の骨粗鬆症や骨折のリスク低下につながることから、重要な公衆衛生戦略となる」と述べている。 では、妊娠中のビタミンD摂取が、どのようにして子どもの骨の健康に良い影響を与えるのだろうか。Moon氏らはサウサンプトン大学のニュースリリースで、2018年に同氏らが行った研究では、子宮内の余分なビタミンDが、「ビタミンD代謝経路に関わる胎児の遺伝子の活動を変化させる」ことが示唆されたと述べている。さらに、2022年に同氏らが発表した研究では、妊娠中のビタミンD摂取により帝王切開と子どものアトピー性皮膚炎のリスクが低下する可能性が示されるなど、妊娠中のビタミンD摂取にはその他のベネフィットがあることも示唆されているという。

463.

喘息は子どもの記憶能力に悪影響を及ぼす

 子どもの喘息は記憶能力の低下と関連し、特に、喘息を早期発症した子どもではその影響が顕著であることが、米カリフォルニア大学デービス校心と脳センターのSimona Ghetti氏らによる研究で示唆された。この研究結果は、「JAMA Network Open」に11月11日掲載された。Ghetti氏らは、「この研究は、子どもの喘息と記憶能力の問題との関連を示した初めてのものだ」と述べている。 米国では、子どもの喘息患者数は460万人程度と見積もられている。論文の筆頭著者である同大学デービス校心理学分野のNicholas J. Christopher-Hayes氏は、「幼少期は記憶能力、より一般的には認知能力が急速に向上する時期だ。子どもに喘息があると、その向上が遅れることが考えられる」と大学のニュースリリースで述べている。 この研究では、9歳から10歳の子ども約1万1,800人を登録して2015年に開始された、思春期脳認知発達(Adolescent Brain Cognitive Development;ABCD)研究の観察データを用いて、喘息が記憶能力に及ぼす影響が縦断的および横断的に検討された。 縦断的な分析では、喘息のある子どもおよび喘息のない子ども(対照群、平均年齢9.89歳、男子51%)237人ずつが対象とされた。喘息のある子どものうち、135人(平均年齢9.90歳、男子56%)は試験開始時に、102人(平均年齢9.88歳、女子53%)は2年後の追跡調査時に、親により喘息のあることが報告されていた(それぞれ、早期発症群、後期発症群)。分析の結果、主要評価項目としたエピソード記憶(個人が経験した出来事に関する記憶)は全体的に向上していたものの、早期発症群では対照群に比べてその向上率が有意に低かったことが明らかになった。後期発症群と対照群との間に有意な差は認められなかった。 横断的な分析では、研究期間のいずれかの時点で喘息があった子ども(1,031人、平均年齢11.99歳、男子57%)と喘息歴のない子ども(1,031人、平均年齢12.00歳、女子54%)が対象とされた。分析の結果、喘息のある子どもでは喘息のない子どもに比べて、エピソード記憶、副次評価項目とした処理速度、抑制力、注意力の全ての指標において、スコアが有意に低いことが示された。 こうした結果を受けてGhetti氏は、「この研究結果は、子どもの認知能力を低下させ得る原因として喘息を考慮することの重要性を強調している」と話す。同氏はさらに、「喘息だけでなく、糖尿病や心臓病などの慢性疾患が子どもの認知能力に問題が生じるリスクを上昇させ得ることに対する認識は高まりつつある。リスクを高める要因やその保護要因について理解する必要がある」と述べている。 研究グループは、本研究で認められたような記憶能力の低下は、長期的な影響を及ぼす可能性があるとの見方を示し、高齢者の喘息が、認知症やアルツハイマー病のリスク増大と関連付けられていることを指摘する。Christopher-Hayes氏は、「喘息は、子どもが大人になってから認知症のようなより深刻な病気を発症するリスクを高める可能性がある」と話す。研究グループはまた、このような記憶能力の低下は、喘息による長期にわたる炎症、あるいは喘息発作による脳への酸素供給の度重なる中断が原因となっている可能性があると推測している。

464.

HBV母子感染予防、出生時HBIG非投与でもテノホビル早期開始が有効か/JAMA

 B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染は新規感染の主要な経路であり、標準治療として母親への妊娠28週目からのテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(TDF)投与開始と、新生児への出生時のHBVワクチン接種およびHBV免疫グロブリン(HBIG)投与が行われるが、医療資源が限られた地域ではHBIGの入手が困難だという。中国・広州医科大学のCalvin Q. Pan氏らは、妊娠16週からのTDF投与とHBVワクチン接種(HBIG非投与)は標準治療に対し、母子感染に関して非劣性であることを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年11月14日号で報告された。中国の無作為化非劣性試験 研究グループは、妊婦へのTDF早期投与開始と新生児への出生時HBIG投与省略がHBVの母子感染に及ぼす影響の評価を目的とする非盲検無作為化非劣性試験を行い、2018年6月~2021年2月に中国の7施設で参加者を募集した(John C. Martin Foundationの助成を受けた)。 年齢20~35歳、HBe抗原陽性の慢性B型肝炎でHBV DNA値>20万IU/mLの妊婦280例(平均年齢28[SD 3.1]歳、平均妊娠週数16週、HBV DNA値中央値8.23[7.98~8.23]log10 IU/mL)を登録した。 これらの妊婦を、妊娠16週目から出産までTDF(VIREAD[Gilead Sciences製]、300mg/日)を投与する群(実験群)に140例、妊娠28週目から出産までTDFを投与する群(標準治療群)に140例を無作為に割り付けた。すべての新生児は生後12時間以内にHBVワクチンの接種を受け、1ヵ月および6ヵ月後に追加接種を受けた。加えて、標準治療群の新生児のみ、出生時にHBIG(100 IU)を投与された。 主要アウトカムは母子感染とし、生後28週時の乳児における20 IU/mL以上の検出可能なHBV DNA値またはHBs抗原陽性の場合と定義した。母子感染率が、標準治療群と比較して実験群で3%以上増加しなかった場合に非劣性と判定することとし、90%信頼区間(CI)の上限値で評価した。ITT集団、PP集団とも非劣性基準を満たす 全生産児273例(ITT集団)における母子感染率は、実験群が0.76%(1/131例)、標準治療群は0%(0/142例)であった。また、per-protocol(PP)集団の生産児(プロトコールの非順守がなく28週時点のデータが入手できた)265例の母子感染率は、それぞれ0%(0/124例)および0%(0/141例)だった。 母子感染率の群間差は、ITT集団で0.76%(両側90%CIの上限値1.74%)、PP集団で0%(1.43%)と、いずれも非劣性の基準を満たした。 また、母親における分娩時のHBV DNA値<20万IU/mLの達成率は、実験群で有意に高かった(99.2%[130/131例]vs.94.2%[130/138例]、群間差:5%、両側95%CI:0.1~10.0、p=0.02)。 先天異常/奇形は、実験群で2.3%(3/131例)、標準治療群で6.3%(9/142例)に発生した(群間差:4%、両側95%CI:-8.8~0.7)。忍容性は全般的に良好 母親へのTDF治療は全般的に忍容性が高く、投与中止は吐き気による1例(0.36%)のみであった。コホート全体で最も頻度の高かった有害事象として、母親のALT値上昇が25%(実験群23.6% vs.標準治療群26.4%)、上気道感染症が14.6%(11.4% vs.17.8%)、嘔吐が12.9%(16.4% vs.9.3%)で発生した。 実験群では、妊娠中絶1件(ファロー四徴症)、胎児死亡4件(流産1件、死産3件)を認めた。新生児におけるグレード3/4の有害事象の頻度は両群で同程度だった。 著者は、「これらの結果は、とくにHBIGを使用できない地域では、HBV母子感染の予防において、妊娠16週目から妊婦へのTDFを開始し、新生児へのHBVワクチン接種を併用する方法を支持するものである」「新生児へのHBIG使用を最小限に抑えるための母親へのTDF療法の最適な期間はいまだ不明である」としている。

465.

成人ADHD患者における自殺リスク評価、発生率や関連因子は

 注意欠如多動症(ADHD)と自殺傾向との関連性は、近年ますます研究対象としての関心が高まっている。自殺傾向の評価は、一般的にカテゴリ別に評価されており、検証済みの方法が使用されていないため、不均一あるいは矛盾する結果につながっている。自殺念慮や自殺企図の発生率は大きく異なり、関連するリスク因子も明らかになっていない。イタリア・トリノ大学のGabriele Di Salvo氏らは、次元アプローチおよび国際的に認められた検証済みの方法を用いて、ADHDにおける自殺傾向を調査した。Annals of General Psychiatry誌2024年11月1日号の報告。 成人ADHD患者74例における自殺念慮、重度の自殺念慮、自殺行動、非自殺的自傷行動の発生率を評価するため、本研究を実施した。また、自殺傾向リスクの増加と関連する社会人口統計学的および臨床的特徴の検討も行った。自殺傾向の評価には、コロンビア自殺重症度評価尺度(C-SSRS)を用いた。自殺念慮、重度の自殺念慮、自殺行動、非自殺的自傷行動の予測因子を調査するため、ロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・自殺念慮、重度の自殺念慮の生涯発生率は、それぞれ59.5%、16.2%であった。・生涯にわたる自殺行動は9.5%、非自殺的自傷行動は10.8%で認められた。・生涯にわたる自殺念慮は、成人期の不注意症状の重症度、自尊心低下、社会的機能障害と関連していた。・生涯にわたる重度の自殺念慮は、小児期の不注意症状の重症度、注意衝動性、入院回数と関連し、身体活動は保護的に作用していることが示唆された。・生涯にわたる自殺行動および非自殺的自傷行動の発生率は、社会人口統計学的または臨床的特徴との有意な関連が認められなかった。 著者らは「成人ADHD患者は、自殺リスクを有していると考えるべきであり、予防的介入を行うためにも、高リスク患者を特定することが重要である。ADHDと自殺念慮との関連性は、精神疾患の併存ではなく、ADHDの中核症状である不注意症状が影響を及ぼしている可能性が示唆された」と結論付けている。

466.

第239回 「遺伝子治療」を正しく説明できる?~コロナワクチンを遺伝子組み換えと呼ぶなかれ

SNS上では相も変わらず新型コロナウイルス感染症のワクチンに関して、まあどこをどう突けばそんな話が出てくるのかと思うような言説が飛び交っている。その中で結構目立つのがmRNAワクチンを“遺伝子組み換えワクチン”と呼ぶことである。遺伝子組み換えとは、厳密に言えば「ある種の生物から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、植物などの細胞の遺伝子に組み込み、新しい性質をもたせること」ことを指すため、まったく的外れな呼称である。多くの人がご存じのように、遺伝子組み換え技術はすでに食品などで使用されている。これまで農作物などでは人にとって好ましい新品種を交配で作り出してきたが、遺伝子組み換え技術により、新品種を作り出す期間が短縮されたのである。しかし、今でもこうした食品は危険だと主張する人は一部にいる。そして最近公開されたある調査を見て、どうやら人は「遺伝子」という言葉にやや過敏に反応するのではないかと思いつつある。調査とはファイザー社が2024年9月に国内の20代以上の男女(スクリーニング調査1万人、本調査829人)に行った遺伝子治療に関する一般向け意識調査である。結果を要約すると、▽「遺伝子治療」という言葉を聞いたことのない人は30% (n=10,000)▽ 遺伝子治療への「誤解や理解不足がある人」は98.4% (n=829)▽遺伝子治療に対し、「怖い、危険、不安」というネガティブな印象を持つ人は46%(n=829)、というものだ。ちなみ2番目の「誤解や理解不足がある人」とは、アンケートで用意された遺伝子治療に関する質問6つを1つでも正答できなかった、あるいはわからなかった人を指し、これは一般向けにはなかなか厳しいと感じる。むしろ「怖い、危険、不安」が5割弱という結果がやや驚きだった。釈迦に説法は承知で、ここで遺伝子治療について簡単に整理しておきたい。遺伝子治療とは「治療用遺伝子をベクターに乗せて標的細胞内に導入する治療法」だが、概論的な作用機序は(1)治療遺伝子を病的細胞内で働かせて細胞を改変(2)治療用遺伝子が宿主細胞内に取り込まれタンパク質を発現し、それらが分泌・全身を循環して遺伝子の欠損や異常を補完、に大別される。また、この標的細胞の遺伝子導入法は、標的細胞を体外に取り出してベクターで遺伝子を導入し、品質チェックをしながら培養して患者の体内に戻す体外法(ex vivo法)、治療遺伝子を乗せたベクターを直接体内に投与して遺伝子導入を起こさせる体内法(in vivo法)の2つがある。私自身は遺伝子治療に拒否感はないが、記者2年目の1995年にアデノシンアミナーゼ(ADA)欠損症に対して北海道大学が行った日本初の遺伝子治療以降は、昨今のCAR-T細胞療法(商品名:キムリア、イエスカルタ、ブレヤンジ)や脊髄性筋萎縮症(SMA)に対するオナセムノゲンアベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ)まで知識も記憶も抜け落ちている。ということで、日本遺伝子細胞治療学会理事の山形 崇倫氏(栃木県立リハビリテーションセンター 理事長/自治医科大学小児科学講座 客員教授)に遺伝子治療の現在地について聞いてみた。医師でも「遺伝子治療が怖い」と思う理由山形氏は前任の自治医科大学小児科教授時代の2015年、小児神経難病の1種である芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症を対象にAADCを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療を国内で初めて行った経験を有する。前述のファイザーによる一般向けアンケートの結果に講評も寄せている山形氏だが、正直結果はやや意外だったようで、「十分に情報が伝わっていない現実は否定しがたいと思う。結局は『知らないから怖い』という心理ですね。実際に遺伝子治療が対象になる可能性がある患者やその家族が遺伝子治療の効果を知ると、『ぜひやってほしい』と積極的な姿勢に変わることが多い」と語る。これを裏付けるかのように、遺伝子治療について「怖い、危険、不安」と回答した人(381人)でも、「もしあなたが遺伝子が原因の疾患に罹患して、治療法の選択肢の1つとして遺伝子治療があった場合、遺伝子治療を受けてみたいと思いますか」との問いに、「ぜひ受けてみたい」「やや受けてみたい/受けてみてもよい」の回答合計は3分の1の33.6%に上る。要は背に腹は代えられぬということなのだろう。もっとも山形氏は、1990年代に遺伝子治療が行われた患者では、後に副作用として白血病の発症に至った例があることなどから、医師の中でもその時代の認識で止まっていることも少なくないと考える。「現時点で最先端の遺伝子治療の対象は小児の難病・希少疾患が多く、これらは医師でも診療経験がある人は少ない。結果的に遺伝子治療に関して教科書的な知識はあるものの、それ以上はあまり知らないことも多い。先日、医師向けに遺伝子治療の講演をしたが、反応の大半は『難しそうだね』と。私が示したAADC欠損症患者の治療後の動画を見せたら『すごいな』とは思ったようですが」と同氏はコメントした。昨今の医学部教育ではカリキュラムに組み込まれるようになっているものの、山形氏は「すべての大学がきちんとした講義を行っているかはわからない。基礎医学や病態生理学の一部で触れられる程度のところもある」との認識を示す。さて国立医薬品食品衛生研究所遺伝子治療部がまとめた日本国内での遺伝子治療薬の開発状況1)を見ると、後期開発品はin vivo法ではほぼ単一遺伝子疾患、ex vivo法では血液がんで占められている。これは標的が絞り込みやすいからだと思われる。もっとも、標的が決定しても遺伝子導入方法が今も大きな課題として残る。同氏が取り組んだAADC欠損症の場合は局所投与という形で行ったが、「ほとんどの遺伝性疾患の場合は、全身的な細胞への遺伝子導入が必要になるのが実際」と語った。現時点で明らかになっているウイルスベクターの安全性ここで問題になるのがベクターの効率性と安全性である。ベクターに関しては、使われるウイルスベクターが初期のガンマレトロウイルスからレンチウイルス、さらに現在ではAAVへと変化してきた。そもそもガンマレトロウイルスの場合、マウスで白血病を起こすウイルスということ自体が問題だったが、AAVはヒトでの病原性はないため、かなり安全性は改善されたと言える。ただ、静注での全身投与が必要な場合は要注意だという。同氏は「静注による大量投与では、細胞に取り込まれずに循環するベクターが肝細胞表面や血管内皮に結合し、そこで起きる免疫反応で肝障害・血管内皮障害などの副作用を起こすことがわかり、絶妙な投与量の調節が求められることがわかった」と指摘する。この問題を解決するため、現在では(1)遺伝子治療薬の投与時に免疫抑制薬の併用、(2)肝細胞に結合親和性の低いベクターを開発、(3)免疫発達途上の乳幼児期に発症する疾患ではできるだけ早期に治療開始、が考えられるという。とりわけ(3)は副作用だけではなく、治療効果の面からも重要なファクターだ。たとえば、前述のSMAでのオナセムノゲンアベパルボベクによる治療は、治療開始時期が早いほど健常者との運動機能発達レベルの差が少ないことがわかっている。そこでカギとなるのが、まず現時点で先天代謝異常20疾患が対象となっている新生児マススクリーニングの徹底とその拡大である。現状では新生児の親が支払う費用負担が地域によって異なることが影響してか、受診率に地域格差が存在する。また、新たに治療法が登場したSMAや造血幹細胞移植により治癒の可能性がある重症複合免疫不全症に関しては、2023年からこども家庭庁の旗振りにより国と都道府県・指定都市の折半による全額無料検査の実証事業が決定した。2024年10月時点で27都府県・10政令指定都市が事業に参加したが、「財政基盤の弱い県などは参加を控えている」(山形氏)と、ここでも地域格差が生まれている。同氏は「いっそ新生児に一律でスクリーニングの遺伝子検査をすればいいという意見もあるが、実はそれのみでは発見しにくい疾患もある。その意味ではマススクリーニングの受診率向上、対象疾患の拡大とともに、学会などの協力の下、乳幼児の健診などを担う一般内科医の知識向上に尽力して総出で臨床的な異常を早期に発見していくというアナログな対応も現状では必要」とも語る。一方で遺伝子治療に関しては、日本では必ずしも研究開発が活発ではないとの指摘もある。実際、「The Journal of Gene Medicine」の調べ2)による2023年3月時点での世界各国の遺伝子治療の臨床試験数で日本は世界第6位の55件。1位であるアメリカの2,054件、2位の中国の651件と比較して大きく水をあけられている。山形氏は自身が遺伝子治療に取り組んだ際、「高い基準を満たしたベクター製造が必要かつその費用が非常に高額で、研究費を得るために厚生労働省に何度も足を運んだ」と振り返る。この経験を踏まえ、日本での遺伝子治療の進展のためには、国が旗振り役となり、資金調達を中核としたエコシステムの構築が必要だと主張する。また、「新型コロナワクチンでは変異株対応でmRNA部分以外はプラットフォームとみなして審査を簡略化する措置が常態化しているが、これと同じように遺伝子治療では、対象疾患や導入遺伝子の違いがあってもベクターが同一の場合は、ベクター部分の審査を簡略化する仕組みは導入できるはず」と提言する。新型コロナの治療薬・ワクチンで世界に遅れをとった日本。岸田前政権の末期には日本発の創薬エコシステム確立を声高に掲げ、どうやら石破政権でもこの方針を引き継ぐと言われている。そこを基軸に遺伝子治療分野で勝ち目を見いだせるのだろうか?参考1)国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部ホームページ:国内企業あるいは日本で臨床開発中の主な遺伝子治療製品(2024年11月20日更新)2)Ginn SL, et al. J Gene Med. 2024;26:e3721.

467.

第240回 3年間で612施設、43.6%も増えた美容外科、背景にはコロナ禍での過酷な長時間労働と「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求も

“直美”の時代、もう「白い巨塔」は映像化できないこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先々週からウィークデイのお昼に、フジテレビの地上波でテレビドラマの「白い巨塔」を再放送していたので、何回か観てみました(全21回で11月26日まで放送)。1978年の田宮 二郎版ではなく、2003年に放映された唐沢 寿明版です。唐沢が演じる財前 五郎は、田宮に比べて小柄で、白衣がダブダブなのと演技の迫力が違うのはまあ玉に瑕として、今でも十分に鑑賞に耐え得るドラマだと思いました。田宮 二郎は1978年のフジテレビのドラマ以前に、1966年に映画「白い巨塔」(山本 薩夫監督)でも財前を演じていますが、それについては本連載の「181回 大学病院への“甘さ”感じる文科省『今後の医学教育の在り方に関する検討会』中間取りまとめ、“暴走”する大学病院への歯止めは?」でも書きましたので、興味のある方はそちらをお読みください。さて、唐沢版の「白い巨塔」ですが、2003年放映で医学技術や医療事情も2000年代前半に合わせているはずですが、わずか20年前なのに相当な時代のズレを感じるシーンが散見され、興味深かったです。まず驚くのは財前が助教授室でタバコを吸ってる場面です。義父で産婦人科の財前 又一(西田 敏行が怪演)が財前に高級ライターをプレゼントする場面も違和感があります。また、財前の上司の東 貞蔵教授(石坂 浩二)が「開業医は医学の世界では負け犬だ」と、開業医を強烈にディスる場面も今ではコンプライアンス的にNGかもしれません。さらに言えば、教授回診のシーンに代表される、医学部教授を頂点とする大学医局の厳然たるヒエラルキーの存在自体も、新医師臨床研修制度(2004年スタート)の定着や、今進められている医師の働き方改革などによって、相当希薄になってきてるのではないかと感じます。おそらく、今の医療界を舞台に「白い巨塔」を映像化することは、非現実的ゆえに不可能なのではないかと思います。医局入局などそっちのけで、“直美”(初期研修を終えた後、すぐに美容医療界に進むこと)を選択する医師が急増している今となっては、なおさらです。美容外科、3年間で612施設・43.6%も増え、増加率は全43科目で最も高い数字その美容外科ですが、11月22日に厚生労働省が発表した「医療施設静態調査」の2023年版1)を見ると、数字の上でも最近の急増が明らかとなっています。医療施設静態調査は3年に1度、各年10月1日時点での医療施設を対象に調査するものです。それによれば、美容外科を標榜する診療所は2023年に2,016施設と2020年調査と比較して612施設、43.6%も増えました。増加率は全43科目で最も高く、増加数も2位でした。なお、増加数1位は皮膚科で775施設、3位は内科で604施設、4位は精神科で538施設、5位は糖尿病内科(代謝内科)で451施設、6位は形成外科で324施設でした。形成外科は増加率も高く15.0%でした。ちなみに、減少数の1位は小児科で1,020施設減、2位が消化器内科(胃腸内科)で703施設減、3位が外科で632施設減でした。この調査は複数科を標榜する場合は重複計上となっています。美容外科と併せて標榜する皮膚科や、関連して標榜する形成外科が多くなるのは当然の結果と言えそうです。それにしても、2020年から3年間で美容外科が4割増とは驚くべき数字です。コロナ後の日本における美容外科需要の高まりと、並行しての“直美”トレンドの定着にはいろいろな意味で恐ろしさを感じます。実際、美容医療で起きる医療事故は急増しています。国民生活センターなどに寄せられた美容医療による合併症や施術のトラブルなどの相談件数は、2023年度に約800件と2018年度から約2倍に増えており、大きな社会問題ともなっています。「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書も公表、年1回定期的な報告を求める仕組みの導入や診療録等への記載を徹底へ医療施設静態調査の結果が公表された11月22日には、厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書も公表されています。2024年6月から開催されてきた同検討会では、美容医療の患者や医療機関を対象とした実態調査や関係学会等からヒアリングなどを踏まえて、美容医療が抱えるさまざまな課題と対応策が議論されてきました。同報告書では、具体的な対応策として、「安全管理措置の実施状況等について年1回の頻度で都道府県知事等に対して定期的な報告を求める仕組みの導入」「医師法や保助看法等への違反疑いのある事例に対する保健所等による立入検査や指導のプロセス・法的根拠の明確化」「美容医療に関して必要な内容の診療録等への記載の徹底」「関係学会によるガイドラインの策定」などが提言されました。今後、こうした対応策が講じられることで、美容医療の質や安全対策は向上していくでしょうが、いわゆる“直美”や、ある程度技術が備わってからの美容医療への転身(「逃散」と言えるかもしれません)の傾向自体を止めることはできないでしょう。そこにはもっと深い構造的な問題があるからです。医局から派遣された病院での長時間労働で疲弊し美容医療の世界に11月22付日付でYahoo!ニュースに掲載された、共同通信とYahoo!ニュースによる共同連携企画の記事「『保険診療はもう限界』追い詰められた若手医師、次々に美容整形医へ…残った医師がさらに長時間労働の『悪循環』」は、まさにそうした「逃散」の現状をレポートしており読み応えがありました。同記事には、2010年代はじめに国立大学の医学部に入学、卒業後に外科医局に入った男性医師が、医局から派遣された病院での長時間労働で疲弊し、さらには奨学金返済に追われたことも手伝って適応障害を発症、美容医療の世界に転身した経緯が書かれています。「年収は約2,000万円。以前に比べて大幅に増えた上、十分に休みも取れるようになった」というこの医師の「医師の中には毎日、残業を何時間しても大丈夫という人がいる。敬意は持っています。でも反対に、そんな人でないと医局には残れないです」という言葉からは、お金のためでもあるけれど、「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求が、美容医療選択の背景にあることがうかがい知れます。コロナ禍は美容医療のブームのきっかけともなったが、同時に若手医師たちを疲弊させる原因ともなった同様のケースは多そうです。医療関係で働く私の友人の知り合いのある若手医師も、呼吸器内科で後期研修を終えたばかりなのに、美容外科への転身を考えているそうです。友人によれば、その医師は、コロナ禍での過酷な長時間労働に心身共に疲れ切ってしまったのだそうです。結婚して子どもも生まれたのに、一家団欒とは程遠い生活が続くことに疑問を覚え、妻の勧めもあって美容外科への転職の検討に入っているとのことでした。コロナ禍は、国内の美容医療のブームのきっかけになりましたが、同時に若手医師たちを疲弊させる原因にもなっていたわけです。その友人が教えてくれたもう一つの興味深いケースは、自らの開業資金を貯めるための美容医療への一時的就職です。普通の勤務医を続けるよりはラクで、かつ貯金できる金額も多いため、一定期間、美容医療に身を置いてまとまったお金を稼ごうというわけです。一時期、体力のある若者が短期集中で大金を稼ぐため、過酷ではあるけれど高給が保証される配送ドライバーになっていたことがありましたが、若手医師にとって美容医療がそうした位置付けにもなっているわけです。永遠に美容医療の世界で働くわけではないという点では少々“救い”はあるかもしれません。ただ、後期研修も受けていない“直美”の医師がお金を貯め、内科などで開業するのであれば心配です。中学生、高校生には「医者は理数系の就職先の中では負け犬だ」くらいのアピールをして、本当に医学の道に進みたい人材を医学部に厚生労働省は今、年末公表予定の「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」立案の最後の調整に入っています。その対策パッケージには、医師が多い地域での新規開業の抑制や、公立病院長になるのに地方勤務の経験を求める要件の拡大など、規制的な手法も盛り込まれる見込みです(「第233回 40年前の“駆け込み増床”を彷彿とさせる“駆け込み開業”が起こる?診療所が多い地域で新規開業を許可制にする案を厚労省が提起」参照)。しかし、こうしたさまざまな対策をもってしても、「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求に応えることは不可能でしょう。そもそも、医療の世界に限らずあらゆる業界において、20~30代の若者の「働くこと」に対する意識は、昭和の時代にモーレツに働いてきた今の管理職の50~60代とは大きく異なっています。昼夜働くことを厭わず、自らの医療技術向上を最優先するような若者はもはや一握りですし、仕事優先で子育て含めて家庭のことは配偶者任せ、というような夫婦も絶滅しつつあります。医師偏在是正や“直美”問題解決などのためには、そうした若者の意識変化に対応した施策も必要だと言えるでしょう。また、先に紹介したYahoo!ニュースの記事も指摘していますが、高校で成績の良い生徒にとりあえず医学部受験を勧める傾向の是正も必要だと考えます。「医師は高給で、生活は安定、皆から尊敬されるし、モテる」といった旧来のイメージを取っ払い、中学生、高校生には「医者は理数系の就職先の中では負け犬だ」くらいの強烈なアピールをして、本当に医学の道に進みたい人材を医学部に送り込むことが、長い目でみたら一番重要ではないかと思います。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況/厚生労働省

468.

第218回 医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省

<先週の動き>1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連1.医師不足地域での勤務経験を管理者要件に、対象医療機関を拡大/厚労省11月20日に厚生労働省は、「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開催し、医師不足地域での開業や勤務を促すための経済的支援策と、医師過剰地域での開業規制などを検討する案を有識者検討会に提示した。医師不足地域では、開業や勤務に対する経済的支援を強化するほか、医師派遣を行う医療機関への支援も検討される。その一方で、医師過剰地域では、都道府県が必要な医療機能を要請し、応じない場合は勧告や公表を行うことができるようにする案が示された。医師不足地域での勤務経験を管理者要件とする医療機関を拡大する案も提示され、地域医療支援病院だけでなく、公立病院や公的医療機関も対象とする方針。日本病院会は、強制的な配置ではなく、医師の意欲や情熱を高める対策を重視するよう提言している。今後、医師の地域偏在是正に向け、厚労省は規制強化と経済的支援を組み合わせた総合的な対策パッケージを年内に策定する。参考1)第12回新たな地域医療構想等に関する検討会 医師偏在是正対策について(厚労省)2)医師不足地域で診療所開業支援など 医師の偏在に対策案 厚労省(NHK)3)医師過剰地域の診療所、開業に要件 厚労省案(日経新聞)4)医師少数地域での勤務要件、対象拡大を提案 厚労省、勤務期間は「1年以上」に延長(Gem Med)2.電子処方箋とマイナ保険証の普及に遅れ、医療DXに課題/厚労省厚生労働省は、11月19日に電子処方箋を導入した施設が全国で18.9%に止まっており、政府が推進する医療DXの進捗に遅れが生じていることを明らかにした。調剤薬局では導入率は5割を超えているものの、病院や診療所では導入が遅れている。電子処方箋は、薬の処方箋を電子化し、医療機関や薬局間で共有するシステム。政府は、医療情報の共有による重複投薬の防止や医療の質向上などを期待して導入を進めているが、システム改修の費用や時間などが課題となっている。福岡 資麿厚生労働大臣は、記者会見で「システム改修費の負担や周囲の施設への普及状況を様子見する医療機関が多いことが要因だ」と説明し、普及拡大に努める姿勢を示した。一方、マイナ保険証の利用率も低迷している。11月21日に開かれた社会保障審議会の医療保険部会で、今年10月の利用率は15.67%と、前月から増加したものの、目標には到達していない。12月2日には現行の健康保険証の新規発行が停止され、マイナ保険証が基本となるが、混乱を避けるために政府は、現行の健康保険証も1年間は使用できる措置を設けている。政府は、これまで電子処方箋の導入とマイナ保険証の利用を進めてきた。来年度からは介護保険証もマイナンバーカードに一体化されるなど、今後も普及を促進していく方針だが、医療・介護事業者への支援や国民への丁寧な説明など、さらなる取り組みが必要とみられる。参考1)第186回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)2)マイナ保険証の利用率 10月なのに15.67% 病院27.96%、医科診療所12.91%(CB news)3)マイナ保険証を活用 電子処方箋導入の医療機関などは18.9%(NHK)3.産婦人科・産科の減少が続く中、美容外科が急増/厚労省11月22日に厚生労働省は、2023年の医療施設(静態・動態)調査・病院報告を公表した。これによると美容外科を標榜する診療所が2,016施設となり、3年間で43.6%増加したことが明らかになった。その一方で、産婦人科・産科を有する一般病院は前年比17施設減の1,254施設、小児科を有する一般病院は29施設減の2,456施設となり、それぞれ30年以上減少が続いている。近年は少子化による需要低下に加え、出産数そのものが大幅に減少していることが背景にある。今年1~9月の出生数は前年比5.2%減の54万人で、通年で70万人を割る見通し。日本医師会総合政策研究機構(日医総研)のレポートによると、美容外科医の増加が顕著で、2020年には診療所の35歳未満の医師の15.2%が美容外科で勤務していることが明らかになった。こうした状況について、山形大学大学院の村上 正泰教授は、医局の影響力低下や給与の低さ、長時間労働などが、若手医師の美容外科流出の要因になっていると指摘している。政府は、医師の働き方改革や待遇改善、キャリア支援などを進めることで、若手医師が保険診療の現場で働き続けられる環境を整備する必要がある。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況2)産婦人科・産科が33年連続で最少更新 小児科のある一般病院も30年連続減 厚労省調査(産経新聞)3)診療所の美容外科が急増、3年間で4割増 厚労省調査、小児科は減少(朝日新聞4)美容外科3年で4割増 厚労省調査、伸び率首位 医師偏在助長の指摘も(日経新聞)5)1~9月出生数54万人 通年で70万人割れ公算大(東京新聞)4.SNS誹謗中傷対策強化で相談窓口を来年から開設/日本医師会日本医師会は、2025年1月から医療機関や医療従事者を対象とした「SNS等における誹謗中傷相談窓口」の運用を開始する。この窓口は、SNSや口コミサイト上での誹謗中傷や悪意ある書き込みに対処するための支援を目的としており、背景には医療機関に対する誹謗中傷が深刻化している状況がある。総務省は11月21日、SNS事業者に対し、誹謗中傷への対応を義務付ける改正プロバイダ責任制限法の施行に向け、月平均利用者数が1,000万人超のSNSを対象とする方針を示した。これにより、X(旧Twitter)やFacebook、Instagramなどが規制対象になるとみられる。改正法は2025年5月までに施行される予定で、SNS事業者には投稿削除の申し出に対し、迅速な判断と結果通知が義務付けられる。10月に日医が実施したアンケートでは、回答者の77%が誹謗中傷を経験し、そのうち削除を求めた投稿の8割が削除されていないことが判明。また、「相談したい」と答えた医療従事者は82%に達した。この結果を受け、相談窓口では電話とWebでの相談を受け付け、対応策を提示するほか、必要に応じて弁護士の紹介も行う。さらに、口コミサイトやSNSにおける「ペイシェントハラスメント」への関心が高まり、法的アドバイスを求める声も多い。相談窓口の開設により、医療現場の負担軽減と情報共有の場の構築が期待されている。日医の取り組みは、医療従事者と患者間の信頼関係を守る一助となるだけでなく、医療機関の社会的信用を保つ重要なステップとなる。今後の運用状況に注目が集まっている。参考1)SNS等における誹謗中傷相談窓口開設について(日本医師会)2)口コミサイトの誹謗中傷、日医が相談窓口開設へ 25年1月ごろ運用開始 法的アドバイスも(CB news)3)中傷対応義務、利用者1,000万人超のSNS対象 Xなど念頭(日経)5.病院が深刻な赤字に、補助金減と収入減で経営難/病院団体日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が合同で行った病院経営調査によると、2023年度の病院経営は、新型コロナウイルス関連の補助金減少や収入減の影響を受け、深刻な赤字に転落したことが明らかになった。調査対象となった967病院の2023年度の経常利益率は、100床当たりマイナス1.3%で、前年度のプラス4.9%から赤字に転落した。これは、新型コロナ関連の補助金などが大幅に減少したことに加え、本業の医療収入も減少したことが主な要因。2024年6月単月のデータでは、国の病院、自治体の病院、医療法人など、5つの開設主体のすべてで赤字を計上した。とくに、自治体病院の赤字幅が大きく、100床当たりマイナス9.2%に達した。病床区分別にみると、一般病院の赤字幅が最も大きく、100床当たりマイナス5.8%だった。療養・ケアミックス病院と精神科病院は黒字を維持したものの、前年同月からは悪化している。3団体では、2024年度の病院経営はさらに厳しさを増すと予想しており、病院経営の大きな転換点を迎えたと指摘している。また、医療機関の人材不足や人件費の高騰、医療材料費の高騰なども経営悪化に拍車をかけている。病院経営の悪化は、医療の質低下や医療提供体制の縮小に繋がりかねないと懸念されている。政府は、病院経営の安定化に向けた抜本的な対策を早急に講じる必要がある。参考1)2024年度 病院経営定期調査 概要版-最終報告(集計結果)-(病院3団体)2)病院の経常収支、5つの開設主体全て赤字に 6月単月、3団体の病院経営定期調査で(CB news)3)967病院の経常利益率マイナス1.3%に 23年度 3団体調査「24年度はさらに厳しさ増す」(同)6.医薬品の供給不安、問題の解消は半年先か?/日薬連近年、国内においてジェネリック医薬品を中心に医療用医薬品の供給不安が続き、とくに咳止め薬や解熱鎮痛剤の不足が深刻化し、小児科や薬局で患者対応に苦慮する現場が広がっている。中でもジェネリック(後発薬)医薬品を中心に薬局や医療機関で不足が深刻化している。日本製薬団体連合会が行った今年9月の調査では、医療用医薬品の18.5%に当たる3,103品目が出荷調整の対象となり、その6割以上がジェネリック医薬品だった。咳止め薬や解熱鎮痛剤、抗生物質の不足は、小児科や薬局ではとりわけ深刻で、代替薬への対応や粉薬が足りない場合に錠剤をすり潰す処方も行われている。冬季には、インフルエンザなど感染症の流行による患者の増加が予想され、薬不足が患者や医療現場にさらなる負担をかける懸念が高まっている。薬不足の背景には、複数のジェネリックメーカーによる品質不正がある。2020年以降、小林化工や日医工、業界最大手の沢井製薬で重大な不正が発覚した。これらの企業では、試験結果の捏造などの不正行為を防ぐ体制が機能しなかった。わが国のジェネリック市場は約1.4兆円で190社が参入しており、1社当たりの平均売上高はわずか70億円強と小規模。少量多品目生産による非効率な状態の中、シェア獲得のためにメーカーは価格競争を激化させ、さらに薬価の引き下げもあり、コスト競争がメーカーの収益を圧迫しているため、後発品の製造から撤退するメーカーも相次いでいる。安定供給のためには、医薬品の品質管理強化や生産体制の改革が急務とされているが、ジェネリック医薬品の生産効率を高めるための仕組み作りが求められている。今後の見通しとしては大手製薬会社による増産で、半年後に改善が見込まれている。薬不足は、患者や医療従事者に深刻な影響を与えており、政府と業界が一体となって安定供給に向けた取り組みを加速する必要がある。参考1)「医薬品供給状況にかかる調査(2024年10月)」 について(日薬連)2)医薬品 依然約2割が供給に支障 せき止め薬や解熱鎮痛剤も(NHK)3)薬不足はいつ終わる?ジェネリック再編#1(ダイヤモンドオンライン)4)第一三共・エーザイ・田辺三菱製薬…国内製薬大手が、処方薬の8割を占めるジェネリック市場から軒並み撤退した理由(同)

469.

生後2年間のデジタル介入で肥満リスク低下/JAMA

 小児科医による保護者への健康行動カウンセリングに加えて、ヘルスリテラシーに基づくデジタル介入を併用することで、乳児の生後24ヵ月時の体重/身長比の改善と肥満の割合の減少が認められ、さらにこの介入は、小児肥満のリスクが高い集団を含む多様な人種/民族集団に有効であることが示された。米国・バンダービルト大学医療センターのWilliam J. Heerman氏らが実施した無作為化並行群間比較試験の結果を報告した。乳児の成長は長期的な肥満と心血管疾患を予測する。先行研究では、生後2年間の肥満を予防するために多くの介入が考案されたが、ほとんどが成功していなかった。また、伝統的な人種・民族の少数派集団では肥満の有病率が高いことも問題視されていた。JAMA誌オンライン版2024年11月3日号掲載の報告。カウンセリングのみvs.ヘルスリテラシーに基づくデジタル介入併用を比較 研究グループは、2019年10月~2022年1月に、次の条件に該当する児とその保護者を対象に試験を行った。対象児の適格要件は、(1)生後0~21日、(2)在胎期間34週以上、(3)出生時体重1,500g以上、(4)試験登録時の体重がWHOの成長曲線ベースの3パーセンタイル超、(5)体重増に影響を及ぼす慢性疾患がないこと。両親の適格要件は、(1)18歳以上、(2)英語またはスペイン語が優先言語、(3)データサービスにアクセスできるスマートフォンを所持、(4)2年以内に今の小児プライマリケアを離れざるを得ない予定はない、(5)試験参加の障壁となる視力障害や神経学的疾患を有していない、(6)ベースラインデータ収集を完了していることであった。 試験は、米国内6つの大学(デューク大学、マイアミ大学、ニューヨーク大学、ノースカロライナ大学チャペルヒル校、スタンフォード大学、バンダービルト大学)の医療センターと、各系列の小児プライマリケアクリニックで行われた。 適格な900例をクリニック群(451例)とクリニック+デジタル群(449例)に無作為に割り付け、2024年1月まで追跡評価した。 クリニック群では、児の肥満予防を目的として出生時から2歳まで、小児科医が両親に対し小冊子を用いて健康行動カウンセリングを行った。 クリニック+デジタル群では、健康行動カウンセリングに加えて、テキストメッセージの送受信とウェブベースのダッシュボードを用いた。 主要アウトカムは、24ヵ月時までの児の身長別体重(体重/身長[kg/m])の推移、副次アウトカムは、身長別体重のZスコアの推移、BMIのZスコアの推移、過体重または肥満の児の割合であった。デジタル介入により、生後24ヵ月時に体重/身長比が改善し肥満の割合が減少 無作為化された900例の乳児のうち、24ヵ月時の主要アウトカムのデータがあったのは86.3%であった。対象児の特性(人種・民族)は、非ヒスパニック系の黒人が143例(15.9%)、ヒスパニック系が405例(45.0%)、非ヒスパニック系の白人が185例(20.6%)、その他の人種・民族が165例(18.3%)であった。 クリニック+デジタル群ではクリニック群と比較して、24ヵ月間を通して平均体重/身長比が低く、24ヵ月時点で推定0.33kg/m(95%信頼区間[CI]:0.09~0.57)低かった。 また、24ヵ月時の身長別体重のZスコアの補正後平均群間差は-0.19(95%CI:-0.37~-0.02)、BMIのZスコアの補正後平均群間差は-0.19(-0.36~-0.01)であった。 24ヵ月時の乳児のうち過体重または肥満(疾病管理予防センター[CDC]の基準でBMIが85パーセンタイル以上)であった児の割合は、クリニック+デジタル群23.2%、クリニック群24.5%(補正後リスク比:0.91、95%CI:0.70~1.17)、肥満([CDC]の基準でBMIが95パーセンタイル以上)の児の割合は、それぞれ7.4%、12.7%(補正後リスク比:0.56、95%CI:0.36~0.88)であった。

470.

小児がん、定期的な症状スクリーニングで苦痛な症状が改善/JAMA

 小児がん患者の多くは、非常に苦痛な症状を経験する。カナダ・Hospital for Sick ChildrenのL. Lee Dupuis氏らは、症状のフィードバックと症状管理のケアパスウェイを結び付けた定期的な症状スクリーニングの有効性をクラスター無作為化試験により評価し、症状スコアの改善と症状に特異的な介入の増加が得られたことを報告した。JAMA誌オンライン版2024年11月13日号掲載の報告。介入群vs.通常ケア群で、8週時の全SSPediスコアを評価 研究グループは、通常ケアと比較して、症状のフィードバックと症状管理のケアパスウェイを結び付ける週3回の定期的な症状スクリーニングが、小児がん患者のSymptom Screening in Pediatrics Tool(SSPedi)で測定した自己報告症状の全スコアを改善可能か調べた。 2021年7月~2023年8月に米国の小児がんセンター20施設で被験者を登録。新たにがんと診断され、あらゆる治療を受ける8~18歳を対象とした。20施設を、症状スクリーニングを受ける群(介入群、10施設)または通常ケアを受ける群(対照群、10施設)に無作為化した。介入群に221例、対照群に224例が登録された。最終追跡評価日は2023年10月18日。 介入群には、週3回の症状スクリーニングプロンプトの提供、医療ケアチームへのEメールによるアラート、施設に合わせて調整された症状管理ケアパスウェイの提供が行われた。 主要アウトカムは、8週時点の自己報告による全SSPediスコア。副次アウトカムは、Patient-Reported Outcomes Measurement Information System Fatigueスコア(平均[SD]スコアが50[10]、高スコアほど倦怠感が強い)、Pediatric Quality of Life 3.0 Acute Cancer Moduleスコア(範囲:0~100、高スコアほど健康状態が良好であることを示す)、8週時点の症状の記録と介入、および予定外の受診とした。スコアが有意に改善、苦痛な症状が減少 平均(SD)8週時SSPediスコアは、介入群7.9(7.2)、対照群11.4(8.7)であった。 症状スクリーニングは、8週時の合計SSPediスコアの有意な改善(補正後平均群間差:-3.8、95%信頼区間[CI]:-6.4~-1.2)、および個々の苦痛な症状の減少(15症状のうち12症状が統計学的に有意に減少)と関連していた。 倦怠感やQOLに差異はなかった。救急外来受診の平均(SD)回数は、介入群0.77回(1.12)、対照群0.45回(0.81)で、介入群で救急外来受診が有意に多かった(率比:1.72、95%CI:1.03~2.87)。 結果を踏まえて著者は、「今後の検討では、症状スクリーニングをルーチンケアに統合すべきである」と述べている。

471.

日本の小中高生の自殺リスク「学校に行きたくない」検索量と関連

 自殺は、日本における小児および青年期の主な死因となっている。自殺リスクの検出に、インターネットの検索量が役立つ可能性があるが、小児および青年期の自殺企図とインターネット検索量との関連を調査した研究は、これまでほとんどなかった。多摩大学の新井 崇弘氏らは、自殺者数と学校関連のインターネット検索量との関連を調査し、小児および青年期の自殺予防の主要な指標となりうる検索ワードの特定を試みた。Journal of Medical Internet Research誌2024年10月21日号の報告。 2016〜20年の警視庁より提供された日本の小中高生における自殺企図の週次データを用いて、検討を行った。インターネットの検索量は、Googleトレンドから収集した20の学校関連ワードの週次データを用いた。自殺による死亡者数と関連ワードの検索量との時間的な前後関係とタイムラグを推定するため、グレンジャー因果性検定および相互相関分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・「学校に行きたくない」「勉強」の検索ワードは、自殺発生率とのグレンジャー因果性が認められた。・相互相関分析では、「学校に行きたくない」では-2〜2(タイムラグ最高値:0、r=0.28)、「勉強」では-1〜2(タイムラグ最高値:-1、r=0.18)の範囲で有意な正の相関が認められ、自殺者数の増加に伴い検索量の増加が示唆された。・COVID-19パンデミック期間中(2020年1〜12月)では、「学校に行きたくない」の検索傾向は、「勉強」とは異なり、自殺頻度との高い関連性が認められた。 著者らは「『学校に行きたくない』のインターネット検索量のモニタリングは、小児および青年期の自殺リスクの早期発見につながり、Webベースのヘルプライン表示の最適化に役立つ可能性が示唆された」とまとめている。

472.

超低出生体重児の動脈管開存症に対するカテーテル治療の短期予後は外科手術よりわずかに良好

 米国では、出生体重700g以上の動脈管開存症(PDA)に対するカテーテルによる閉塞器具が2019年に承認され、PDAに対するカテーテル治療は2018年の29.8%から2022年の71.7%へと増加している。こうした中、カテーテル治療を受けた児の短期予後は、外科手術を受けた児よりもわずかに良好であったとする研究結果が、「Pediatrics」8月号に掲載された論文で明らかにされた。 米バーモント大学のBrianna F. Leahy氏らは、2018年1月1日から2022年12月31日の間に米国の726カ所の病院でPDAに対する侵襲的な治療(カテーテル治療または外科手術)を受けた超低出生体重(VLBW)児(体重401~1,500g、または在胎週数22~29週で出生)を対象として、これら2つの治療法それぞれの短期予後について調査した。予後は、生存、入院期間、生存者の体重Zスコアの変化、早産関連の合併症(気管支肺異形成症、遅発型感染症、未熟児網膜症、壊死性腸炎または限局性腸穿孔、脳室内出血)、および退院後に必要となる医学的処置(胃瘻チューブ、各種酸素吸入、気管切開、在宅用心肺モニター;以下「退院支援」)とした。 研究対象期間に生まれた21万6,267人のVLBW児のうち、上記基準を満たしたのは4万1,976人であった。そのほとんど(96.3%、4万428人)は薬物治療を受けていた。カテーテル治療を受け、外科手術を受けなかったのは3,393人(カテーテル治療群)、外科手術を受け、カテーテル治療を受けなかったのは2,978人(外科手術群)であった。 一般化推定方程式により在胎週数、在胎不当過小(SGA)児、母親の高血圧、院内出生児/院外出生児、病院内でのクラスタリング効果で調整して解析すると、カテーテル治療群は外科手術群に比べて、生存する可能性の高いことが示された(調整リスク比1.03、95%信頼区間1.02〜1.04)。入院期間(同1.00、0.97〜1.03)、早産関連の合併症(同1.00、0.98〜1.01)、退院支援(同0.94、0.89〜1.01)については、両群の間に有意差は認められなかった。 対象者のうち、出生体重700g以上で2020~2022年生まれの児だけについて解析を行ったところ、生存と退院支援については同様の結果であったが(生存:同1.02、1.00〜1.04、退院支援:同0.90、0.81〜1.01)、カテーテル治療群では外科手術群よりも早産関連の合併症が生じにくく(同0.95、0.93〜0.98)、入院期間も短かった(同0.95、0.90〜0.99)。 著者らは、「PDAに対するカテーテル治療を受けたVLBW児の生存、早産関連の合併症、入院期間などの短期予後は、外科手術を受けたVLBW児よりもわずかに良好であると思われる。しかし、今回の研究は後ろ向きの観察研究であって、重要な臨床の因子であっても含まれていないものが多くあることから、今回統計学的に算出された結果は、新生児の臨床的な状況に照らして慎重に解釈すべきだ」と述べている。

473.

epilepsy(てんかん)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第15回

言葉の由来「てんかん」の英名は“epilepsy”(エピレプシー)といいます。この言葉は、ギリシャ語の“epilambanein”(取りつかれる)から派生したもので、古代ギリシャの魔術的な信仰を反映しています。当時、てんかんは悪霊に取りつかれて起こると考えられていたようです1)。そして、この言葉は、ラテン語を経て現代の英語にまで引き継がれています。言葉にも現れているとおり、古代から中世にかけて、てんかんの患者は不浄や悪と見なされており、てんかんに関連した差別も生み出されました。てんかんの発作も悪霊によるものと信じられていたため、治療として儀式やおはらいが行われました。18世紀に入って、てんかんが脳の異常な電気活動によるものであるという認識が広まり、現代の医学では、てんかんは脳の神経細胞の異常な放電が原因であることが明らかになっています。併せて覚えよう! 周辺単語けいれんseizure神経内科neurology異常な電気活動abnormal electrical activity抗てんかん薬antiepileptic drugs(AED)脳波electroencephalogram(EEG)この病気、英語で説明できますか?Epilepsy is a neurological disorder characterized by recurrent seizures caused by abnormal electrical activity in the brain. Seizures can vary in intensity and frequency and may include convulsions or loss of consciousness.参考1)Patel P, et al. Epilepsia Open. 2020;5:22-35.講師紹介

474.

飛行機の換気システムでナッツアレルゲンは広がらない

 ナッツやピーナッツにアレルギーを持っている人は、「飛行機の中で誰かがナッツを食べているかもしれない」と心配する必要はないようだ。一般的に言われている、「ナッツなどのアレルゲンが機内の換気システムを通じて広がる」という説を裏付けるエビデンスは見つからなかったとする研究結果が報告された。英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)国立心肺研究所アレルギー・免疫学臨床教授のPaul Turner氏と同研究所のNigel Dowdall氏によるこの研究結果は、「Archives of Disease in Childhood」に10月16日掲載された。Turner氏は、「実際、飛行中の食物アレルギー反応の発生件数は、地上に比べて10~100倍も少ない。これは、おそらく食物アレルギーのある乗客が飛行中にさまざまな予防措置を講じているためと思われる」と述べている。 この研究でTurner氏らは、1980年1月1日から2022年12月31日までの間に発表された、民間航空機の乗客がさらされる食物アレルギーリスクや、リスクの低減方法に関する文献のシステマティックレビューを実施し、その結果をまとめた。 レビューからは、全体的に、エアロゾル化した食物粒子により呼吸器系の症状が引き起こされることはまれなことが明らかになった。ただし、魚介類と小麦粉に関しては例外であり、調理中の蒸気への曝露や職業的な曝露(パン屋での小麦粉曝露による喘息、魚市場での魚介類への曝露など)がアレルギー反応を引き起こす可能性があるという。 一般的に、特に機内では、アレルゲンを含んだエアロゾルによりアレルギー反応が引き起こされやすいと考えられているが、レビューからは、それを示すエビデンスはほぼないことが示された。例えば、ピーナッツの殻をむくと、そのすぐ上の空気中に微量のピーナッツアレルゲンが検出されるが、それらはすぐに沈降するため、殻をむいている間しか検出されないのだという。 また、飛行中は客室の換気システムにより、3分程度で空気が完全に入れ替わる。研究グループによると、機内の空気取り入れ口の半分はエアフィルターを通過した再循環空気で、残りの半分は機外から取り入れられるのだという。それゆえTurner氏らは、「ピーナッツやナッツのアレルゲンが、飛行機の換気システムを通じて拡散するというエビデンスはない」と主張。「むしろ、主なリスクは、食事からのアレルゲン摂取回避の失敗、または環境表面に残留したアレルゲンとの接触によるものだ。残留アレルゲンの問題は、便間の折り返し時間(ターンアラウンドタイム)が非常に短い多くの格安航空会社ではより顕著だ」と指摘している。 またこの研究では、飛行中にナッツを食べないように乗客に要請するアナウンスによりアレルギー反応のリスクが軽減する可能性は低いことも示された。研究グループは、「それよりも、食物アレルギーのある乗客の搭乗を早めに許可し、座席テーブルやその他の表面の徹底的な清掃を促す方が賢明かもしれない」と述べている。研究グループによると、米国運輸省はすでに、ナッツアレルギーのある乗客に対するこのような対応を航空会社に義務付けているという。 研究グループは、「航空会社は、ウェブサイトやリクエストを通じて簡単に入手できる、食物アレルギーに関する明確なポリシーを持つべきだ。食物アレルギーのある乗客とその介護者に安心感を与えるために、グランドスタッフ(地上職員)と客室乗務員の両方がこれらのポリシーを一貫して適用する必要がある」と述べている。

475.

陰茎をファスナーに挟んだ【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第20回

ジャンパーなどを着ていて、下に着ていた服や下着がファスナーに挟まれたことがある人は少なくないと思います。では、皮膚がファスナーに挟まれることはあるのでしょうか?実は、ファスナーの開閉時に陰茎が挟まれることがあり、思春期の陰茎外傷の中でファスナーによる外傷は珍しくありません。2~12歳の男児において、4,000人に1人の割合でこの外傷が生じています。年齢を重ねると頻度が下がりますが、これは年齢を重ねると包皮が亀頭を覆う頻度が下がるためです。勢いよくファスナーを上げ下げすることがなくなることも影響していると思います。なので私は、ファスナー外傷は救急外来の男児しか診たことがありません。なお、ファスナーの呼称はさまざまで、日本では「チャック」、アメリカでは「ジッパー」、一般的な名称としては「ファスナー」とされています。これらはすべて同じ物を指す言葉ですが、今回は「ファスナー」とします。<症例>5歳、男児主訴陰茎がファスナーに挟まった。経過ズボンをはき、ファスナーを上げたところ、下着と一緒に包皮を挟んで取れなくなった。男性であれば挟まれた際の激痛を想像できるでしょう。処置にあたってはとてつもない痛みと恐怖が予想されます。不用意にファスナーを動かせば痛みが生じますので、まず挟んでいる部位に局所麻酔を実施します。陰茎ブロックも適応なのですが、手技に慣れが必要であることと、ファスナーが挟んでいる範囲が狭いことから、私は局所麻酔にしています。では、どのようにしてファスナーから解放できるのでしょうか。まず、ファスナーの構造を理解することが重要です(図)。図 ファスナーとスライダーの構造スライダーの中はダイヤモンド部分で上下が繋がっていて、内部はY字形のトンネルになっています。ここを通ると務歯の隙間が押し広げられ、務歯同士がかみ合ったり離れたりします。陰茎がスライダーと歯の間に挟まれた場合、構造上、このダイヤモンド部分をニッパーなどで切断すれば上下に分離します。切断が困難な場合は、石けんなどを使用して滑りをよくしたり、マイナスドライバーを歯の間に差し込んでねじって広げたりする方法を試みます。本症例は、局所麻酔後、ニッパーを用いてスライダーを切断し、除去しました。挟まれた部位は浅い挫創程度であったので、洗浄して軟膏を塗布したガーゼで覆って帰宅としました。なかなか診る機会がないファスナー外傷ですが、いざというときのために参考にしてください。

476.

11月12日 皮膚の日【今日は何の日?】

【11月12日 皮膚の日】〔由来〕日本臨床皮膚科医会が、11月12日(いい・ひふ)の語呂合わせから1989年に制定。日本皮膚科学会と協力し、皮膚についての正しい知識の普及や皮膚科専門医療に対する理解を深めるための啓発活動を実施している。毎年この日の前後の時期に一般の方々を対象に、講演会や皮膚検診、相談会行事を全国的に展開している。関連コンテンツ事例008 蕁麻疹にダイアコート軟膏の処方で査定【斬らレセプト シーズン4】軟膏じゃなかった【Dr.デルぽんの診察室観察日記】かゆみが続く慢性掻痒【患者説明用スライド】妊娠中の魚油摂取、出生児のアトピー性皮膚炎リスクは低減する?アトピー性皮膚炎へのデュピルマブ、5年有効性・安全性は?蕁麻疹の診断後1年、がん罹患リスク49%増

477.

第216回 マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省マイコプラズマ肺炎の感染拡大が続いている。国立感染症研究所の発表によると、10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は2.49人で、5週連続で過去最多を更新した。都道府県別では、愛知県の5.4人が最も多く、次いで福井県(5.33人)、青森県(5.0人)、東京都(4.84人)、埼玉県(4.67人)と続いている。マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ細菌による呼吸器感染症で、咳や発熱が主な症状。子供や若者に多くみられるが、大人も感染する可能性がある。厚生労働省は、咳が長引くなどの症状がある場合は医療機関を受診するよう呼びかけている。また、感染拡大防止のため、手洗い、マスク着用などの基本的な感染対策を徹底するよう促している。一方、手足口病も依然として高止まりが続いている。10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は8.06人で、警報レベル(5.0人)を超えている。手足口病は、主に乳幼児がかかるウイルス性の感染症で、発熱や口内炎、手足の発疹などが主な症状。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、接触感染。厚労省は、手足口病の流行状況を注視し、引き続き予防対策の徹底を呼びかけている。参考1)全数把握疾患、報告数、累積報告数、都道府県別(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎が5週連続で過去最多 手足口病も高止まり 感染研(CB news)3)マイコプラズマ肺炎が猛威=感染者、4週連続で過去最多更新-厚労省「手洗い、マスク着用を」(時事通信)2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省2026年度から始まる新たな地域医療構想に向け、厚生労働省は病院機能報告制度の具体化を進めている。11月8日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、地域ごとに整備する4つの機能と広域的な機能を担う大学病院本院の機能が提示された。地域ごとの機能は、(1)高齢者救急等機能、(2)在宅医療連携機能、(3)急性期拠点機能、(4)専門等機能(リハビリや専門性の高い医療など)となっており、1つの医療機関が複数の機能を併せ持つこともあり得るとされた。広域的な機能を担う大学病院本院は、「医育および広域診療機能」として、医師派遣、医師の卒前・卒後教育、移植や3次救急などの広域医療を担っていくこととされた。急性期拠点機能については、全国の2次救急医療機関(3,194施設)の半数以上が、救急車の受け入れが23年度に500件未満だったことから、手術や救急など医療資源を多く要する症例を集約化し、医療の質を確保するため、報告できる病院数を地域ごとに設定する方針となった。検討会では、機能の名称や定義が分かりにくいという意見や、高齢者救急等機能と急性期拠点機能の役割分担、2次救急病院の分類などについて議論があった。厚労省は、これらの意見を踏まえ、名称や定義を明確化し、2025年度中に新たな地域医療構想の策定ガイドラインを示す予定。参考1)第11回新たな地域医療構想等に関する検討会[資料](厚労省)2)医療機関機能4プラス1案示す、検討継続 厚労省「複数報告」も想定(CB news)3)新地域医療構想で報告する病院機能、高齢者救急等/在宅医療連携/急性期拠点/専門等/医育・広域診療等としてはどうか-新地域医療構想検討会(Gem Med)3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省厚生労働省は10月30日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足の解消に向け、外科医療の集約化・重点化を検討課題として提案した。背景には、外科医の増加がほかの診療科に比べて緩慢であること、時間外・休日労働の割合が高いことなど、外科医の労働環境の厳しさが挙げられている。検討会では、外科医の減少に対する学会の取り組みとして、日本消化器外科学会と日本脳神経外科学会からヒアリングが行われ、両学会からは、症例数の多い施設ほど治療成績が向上する傾向があること、救急対応など地域医療の均てん化が必要な領域もあることなどが報告された。構成員からは、集約化の必要性や、地域や領域に応じた対応の必要性などが指摘された。一方、集約化によって医師の都市部集中が加速する可能性や、地域での専門医育成の難しさなどが課題として挙げられた。厚労省では、これらの意見を踏まえ、新たな地域医療構想等に関する検討会に報告し、医師偏在対策の総合的な対策パッケージ策定に向けて検討を進める方針。参考1)第7回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科の集約化・重点化は医師偏在対策で「喫緊の課題」、厚労省が提案(日経メディカル)3)急性期病院の集約化・重点化、「病院経営の維持、医療の質の確保」等に加え「医師の診療科偏在の是正」も期待できる-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研国立がん研究センターなどが、2023年12月に実施したアンケート調査によるとオンラインでがん情報を入手する際に困難を感じているがん患者が45%に上ることが明らかになった。この調査は、インターネット上で約1,000人のがん患者を対象に行われ、オンラインでの情報収集における課題や情報源、情報活用について尋ねたもの。回答者の45%が「オンラインでがん関連情報を得る際に困難を感じたことがある」と回答し、そのうち5%は「常に困難を感じている/感じていた」と回答した。困難を感じた理由としては、「自分に合った情報をみつけることができない」「さまざまな情報が分散して掲載されている」「専門用語が多い」といった点が挙げられた。情報の入手元としては、検索エンジンが94%と最も多く、次いで動画共有サービスが30%、SNSが17%となった。この調査結果を受け、国立がん研究センターや全国がん患者団体連合会などは、「がん情報の均てん化を目指す会」を立ち上げた。同会は、アンケート調査の結果を踏まえて、患者が理解しやすい情報発信の必要性や、科学的根拠に基づかない情報への対応など、3つの課題と提言をまとめた。情報源に関する課題では、専門用語を避け、患者が理解しやすい情報発信が求められるとともに、信頼できる情報源の活用を促進するべきだと提言している。情報へのリーチに関する課題では、患者が適切な情報にアクセスできるよう、信頼できる情報を集めたポータルサイトの作成や、優良なWebサイト同士の相互リンクによる誘導強化を提言している。情報の活用に関する課題では、医師やがん相談支援センターによるサポート体制を強化し、患者が情報の意味を理解し、自分の状況に合わせて解釈できるよう支援するとともに、患者向けオンラインユーザーガイドを作成し、情報活用力を高めるための普及啓発を行うべきだと提言している。同会は今後、これらの提言を基に、具体的な対策を検討していく。参考1)がん情報のネットでの収集 半数近くが「困難」経験 患者調査で判明(朝日新聞)2)がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~(がん情報の均てん化を目指す会)5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省厚生労働省が11月5日に発表した人口動態統計によると、2024年上半期(1~6月)の出生数は、前年同期比6.3%減の32万9,998人だった。このペースで推移すると、2024年の年間出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新する可能性が高まっている。出生数の減少は8年連続で、少子化に歯止めがかからない深刻な状況。背景には、未婚化・晩婚化の進行に加え、コロナ禍で結婚や出産を控える人が増えたことが挙げられる。出生数の減少は、労働力人口の減少や消費の冷え込みなど、経済への影響も懸念され、また、医療や年金などの社会保障制度の維持も困難になる可能性がある。政府は、少子化対策として児童手当や育児休業給付の拡充などを進めているが、今後、抜本的な対策が求められている。参考1)人口動態統計(厚労省)2)24年上半期の出生数は33万人 初の70万人割れか 人口動態統計(毎日新聞)3)ことし上半期の出生数 約33万人 年間70万人下回るペースで減少(NHK)4)今年上半期の出生数は33万人届かず 過去最低だった去年を下回る見込み 厚労省発表(テレビ朝日)6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院会計検査院は11月6日、2023年度の決算検査報告を公表し、新型コロナウイルス対策の交付金や補助金を巡り、医療機関による不正受給など、計648億円の国費の不適切な取り扱いを指摘した。報告書によると、コロナ禍で医療体制を整備するために支払われた国の補助金において、約21億円が過大に交付されていた。中には虚偽の申請や制度の理解不足によるものなど、悪質なケースも含まれていた。具体的な事例として、空き病床とコロナ診療で休止した病床を重複申請するなどした病床確保料の過大請求、トイレや洗濯機置き場を診察室としてカウントするなどした発熱外来の補助金の不正受給、オペレーターの勤務時間を水増しするなどしたワクチン接種コールセンター業務の不正請求、納入されていない設備を納入したと虚偽報告などした救急・小児科医療機関の補助金不正受給などが挙げられている。会計検査院は、事業者側の制度理解不足や行政側の審査の甘さを指摘し、再発防止を求めている。また、コロナ交付金については、総額18兆3,000億円のうち約2割の約3兆2,000億円が不要になっていたことも判明した。使途に制限がないことから、「イカのモニュメント」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」など、コロナ対策などとの関連性が不明瞭な事業に交付金が使われたケースもあり、批判が出ている。会計検査院は、自由度の高い交付金事業は、効果検証を行い国民に情報提供する必要があると指摘している。参考1)公金648億円余りが不適切取り扱いと指摘 会計検査院(NHK)2)コロナ医療支援21億円過大 トイレも「診察室」扱いで申請(日経新聞)3)今村洋史・元衆院議員の病院、新型コロナ診療体制の補助金1.6億円を不当申請…「考え甘かった」(読売新聞)

478.

絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 1

今回のキーワード象徴機能被害念慮心の理論空想上の友達(イマジナリーフレンド)三項関係サイン言語伝承の心理神の起源皆さん、お化けは怖いですか? 小さい子供は怖がりますよね。それにしても、なぜお化けは怖いのでしょうか? そして、なぜ親は小さな子供にお化けが来るぞと脅すのでしょうか?これらの答えを探るために、今回は、絵本「ねないこだれだ」を取り上げます。「シネマセラピー」のスピンオフバージョン、「絵本セラピー」としてお送りします。この絵本を通して、お化けを怖がる心理とその起源を、発達心理学と進化心理学の視点から掘り下げます。これらを踏まえて、より良いお化けの怖がり方を一緒に探ってみましょう。お化けを怖がる心理とは?絵本「ねないこだれだ」は、子供が夜になかなか寝ないでいると、お化けがその子供をさらい、一緒に夜空の闇に消えていくというシンプルかつ恐ろしいストーリーです。まず、お化けを怖がる心理を大きく2つ挙げて、発達心理学の視点から整理してみましょう。(1)姿がよくわからない絵本の表紙を見てのとおり、お化けのフォルムは、いわゆる魂のイメージのようにぼうっとしていて、全体的に白く、足がなくて宙に浮いています。まさに何かが「化け」て出てきているような、得体の知れない存在です。ちなみに、お化けに足がないのは日本独特で、世界的にはお化けに足はあります1)。1つ目の特徴は、姿がよくわからないことです。つまり、本来は見えないものです。とくに、夜はものが見えにくいので、お化けは夜に現れるという設定も納得がいきます。また、夜は眠気から意識レベル(認知機能)が下がって見間違い(錯視)が起きやすいので、同じくお化けは夜に現れるという設定は理に適っています。それでは、本来は見えないものなのに、小さな子供はどうやってお化けを認識するようになるのでしょうか? 言い換えれば、子供はいつからお化けを怖がるようになるのでしょうか?1歳までは、見知らぬ人や大きな音など、その瞬間に目の前で見えたり聞こえたものだけを怖がります。もちろん、一人ぼっちになることへの不安(分離不安)や真っ暗闇であることへの不安(暗闇恐怖)は、もともとあります。しかし、お化けと言われても怖がりません2,3)。まだ目の前にいないものを認識できず、お化けの意味がわからないからです。2歳後半からようやく、目の前にいないものを認識できるようになり、それがお化けと呼ばれることを知ります3)。このように、言葉によって目の前にない(いない)ものを含めて何かを認識する心理機能は、象徴機能と呼ばれています。この機能の始まりは、生後9ヵ月目に親が指を差した方向や視線を向けた方向と同じ方向を見ることです。この時に、自分が見えていなくて相手が意図している何かをイメージするようになります。それは最初、「ママ」「パパ」や「ご飯」「お花」など実際に存在する具体的な人や物であるわけですが、やがて目に見えない抽象的なものにも広がっていきます。その最初が、お化けでしょう。つまり、生まれて最初に想像した目に見えないものはお化けということになります。ちなみに、2歳半という年齢は、目がない顔の絵に目を描き入れることができるようになる時期と一致しています。つまり、ざっくりとした形を言葉と紐付けてイメージすること(概念化)ができるようになり、「ない」ものや「いない」ものも言葉によって認識できるようになる時期であると言えます。なお、象徴機能の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

479.

絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 2

(2)何かされそうであるこの絵本の最後の2ページは、「おばけの せかいへ とんでいけ」「おばけに なって とんでいけ」と語られ、締めくくられます。その1ページ目の絵には、子供がお化けに引っ張られて、宙に浮いており、子供の足はすでにお化けと同じく足がなくなっています。その2ページ目は、夜空に2つのお化けのシルエットが浮かび、すでにその子供は完全にお化けにされてしまったことがほのめかされています。これは正直、大人が見てもギョッとします。2つ目の特徴は、何かされそうであることです。正体がわからないからこその怖さに加えて、親から教えられたり、まさにこのような絵本から知ることで、特殊能力の使い手であるお化けは、想像上の怖いものとして刷り込まれ、実際に子供を怖がらせる存在になるわけです。幼児における恐怖の対象の研究では、お化けという存在は、一人ぼっちでいること(分離不安)や真っ暗闇の中にいること(暗闇恐怖)と並んで最上位に位置します2)。これらの恐怖には、やはり何かされるのではないかという不安(被害念慮)が結びついています。ちなみに、ある3歳児がお化けのふりをして大人たちを怖がらせているうちに、だんだん自分自身が恐くなって泣き出すという報告があります3)。この現象は、4歳以降では起こりません。そのわけは、4歳に、相手には相手の心があるとわかる心理機能(心の理論)が発達し、自分とお化け(相手)の心を分けることができるようになるからです。この心の理論の発達とあいまって、3歳から6歳にかけて、姿がわからなくて何かされそうな存在は、お化けのほかに、幽霊(ゴースト)、化け物(モンスター)、鬼(悪魔)などとより具体的となり、細分化されていきます3)。そして、良いこともしてくれる妖精や天使、さらには万物の精霊(アニミズム)、恩恵と同時に罰も与える神に発展していきます。ちなみに、話しかけてくるなど実際にいるかのような空想上の友達(イマジナリーフレンド)として現れる心理現象を引き起こす場合もあります。子供にお化けを怖がらせる効果とは?以上より、ただでさえ子供はお化けを怖がるのに、なぜ親は子供にお化けが来るぞと脅すのでしょうか?この絵本でお化けは、夜中にぬいぐるみを持って立ち歩いている子供を発見し、「あれ あれ あれれ…」と言います。そして、「よなかに あそぶこは おばけに おなり」と言い渡します。つまり、お化けはやみくもに何かしてくるわけではなく、とくに言いつけを守らなかった時にやってくることがわかります。まさに、「ねないこだれだ」というタイトルがそれを示しています。つまり、子供にお化けを怖がらせるのは、子供がお化けを怖がることを利用して、しつけをするためであることがわかります。しつけとは、生活習慣から人間関係のマナーなど、社会のルールを教えることです。これは万国共通で、英語圏だと「いい子にしないと、ブギーマン(化け物)がさらいに来るよ」と言います。<< 前のページへ | 次のページへ >>

480.

絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 3

お化けを怖がる起源とは?お化けを怖がる心理は、姿がよくわからず、何かされそうであることがわかりました。そして、親が子供にお化けを怖がらせるのは、しつけに利用できるからであることもわかりました。それでは、そもそもお化けはどうやって生まれたのでしょうか?ここで、「個体発生は系統発生を繰り返す」という考え方を体だけでなく心にも応用して、心の発達(個体発生)の順番から心の進化(系統発生)の順番を推測し、人類がお化けを怖がる起源を3つの段階に分けて迫ってみましょう。(1)目の前にいないものを認識する人類は、約700万年前に誕生してから、二足歩行をすることで手が自由になり、手に入れた獲物を余分に持ち歩けるようになりました。その余分な獲物をとくにオスがメスにプレゼントして、メスはそのお礼にセックスをして、そのオスとの間にできた子供を育てていました。これは、プレゼント仮説と呼ばれています。この時、オスとメスとの間にはプレゼントを介した関係(三項関係)が成り立ちます。たとえば、指差しや視線の向きで、「それちょうだい」「それあげる」というプレゼントのやり取りをするようになったでしょう。これが、指差し(意図共有)の起源です。人類に最も近いチンパンジーでも指差しはしないことから、これは、最初の人間らしさの1つでしょう。心の発達に置き換えると、指差しがわかるのは生後9ヵ月です。やがて、指差しや視線のやり取りは、「あのプレゼントちょうだい」「あのプレゼントあげる」のように、自分が見えていなくて相手が意図している何かをイメージするようになるでしょう。1つ目の段階は、相手のしぐさや表情によって目の前にない(いない)ものを認識することです。当時はまだ言葉を話すことができなかったため、コミュニケーションはもっぱらしぐさ(ジェスチャー)や表情などのサイン言語でした。これが、象徴機能の起源です。心の発達に置き換えると、象徴機能によって、目の前にいないもの(お化け)を認識するようになる2歳半です。つまり、人類がお化けを認識していたのは、人類の心の進化のかなり早い段階である可能性が推定できます。もちろん、当時は「お化け」という言葉はないわけですが、目に見えなくて得体の知れない何かの存在を認識はしていたでしょう。なお、プレゼント仮説の詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)目の前にいないものの意図を考える約300万年前、人類は家族そして部族をつくり、助け合うようになりました。この時、相手と意図を共有するだけでなく、その意図は自分の意図とは別々である、つまり相手には相手の心(意図)があることがわかるようになりました。これが、心の理論の起源です。その後、長い時間をかけて、目の前にいない存在(お化け)の意図も気にするようになったのでしょう。2つ目の段階は、目の前にいないものの意図を考えることです。そして、その存在に何かされそうと不安に思ったことでしょう(被害念慮)。心の発達に置き換えると、お化けにはお化けの心(意図)があると思うようになるのは、4歳です。当時に、お化けを表すジェスチャーが用いられていたかもしれません。(3)目の前にいないものを怖がり怖がらせる約20万年前に、人類が言葉(音声言語)を話すようになりました。当時から、部族で起きた出来事を語り継ぐようになったでしょう。約10万年前、人類は貝の首飾りを信頼の証(シンボル)としてプレゼントするようになり、抽象的な思考ができるようになりました。当時から、語り継ぎの中で説明ができない現象は、お化けの仕業と説明され、その物語はどんどん抽象化されていったでしょう。そして、部族が団結して秩序を安定させるため、お化けを脅威として利用もしたでしょう。これは、民間伝承という文化であり、伝承の心理です。実際に、その中の多くには教訓(モラル)が盛り込まれています。そして、その罰として登場するのは、お化けのほかに、幽霊(ゴースト)、化け物(モンスター)、鬼(悪魔)、万物の精霊(アニミズム)、そして神へと発展していったでしょう。逆に言えば、神の起源はお化けと言えるでしょう。3つ目の段階は、社会のために目の前にいないものを怖がり、周りを怖がらせることです。心の発達に置き換えると、お化けが細分化されるのは3歳から6歳です。そして、この時期にお化けと教訓を含む多くのファンタジーの絵本が親から読み聞かされるわけです。人類史において、最初の抽象的思考は、貝の首飾りを信頼の証(シンボル)とする約10万年前とされています。しかし、心の発達の視点では、お化けを怖がるのは2歳半であるのに対して、首飾りなどのシンボルがわかるのは早くても4歳ぐらいです。このことから、もしかしたらお化けを怖がる方が、抽象的思考としては貝の首飾りよりも先だったと考えることもできるでしょう。むしろ、お化けを怖がり怖がらせるという伝承の心理を通してこそ、人類の抽象的思考(概念化)が発達したと考えることもできるでしょう。なお、伝承の心理の詳細については、関連記事3をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

検索結果 合計:3039件 表示位置:461 - 480