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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 1

今回のキーワード規律協調性忍耐力同調圧力ダブルバインドモラルハラスメント相互監視スケープゴート海外の人から見ると、日本の電車がいつも時間どおりに来ること、日本人が礼儀正しく穏やかであること、責任感が強く残業してまで仕事を終えようとすることなど、私たちが当たり前と思うことがどうやらすごいことと思われているようです。そして、そのメンタリティを育んだのは日本の小学校ではないかと指摘され始めています。今回は、ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」を取り上げます。2021年のコロナ禍、東京のとある公立小学校を1年間密着取材しています。ジャケットに書かれている“The making of a Japanese”(日本人のつくり方)というサブタイトルからわかるように、「外国から見た日本の小学校とは」という視点で、私たちが当たり前に思っていた学校の日常から、学校の内情、生徒と先生の喜怒哀楽にまで迫ってます。日本人ならではの規律、協調性、忍耐力を育む学校の取り組みを明らかにして、生徒たちの成長をドラマチックに捉えており、日本の教育の良さが伝わり、海外の教育関係者から注目されています。と同時に、日本の教育関係者から見ると、そのあり方は何やら時代遅れになってきているのではないかという危うさも、監督が意図してなのか、さりげなくもひしひしと伝わってきます。それではまず、この映画のいくつかのシーンを通して、日本の学校教育の良さと危うさをそれぞれ整理しましょう。なお、この映画はドキュメンタリーであり、実在する人物が登場しますが、この記事で教師個人を批判する意図はまったくありません。あくまでその教師たちすら巻き込む文化としての日本の学校教育の危うさを指摘しています。また、この映画の短編バージョンは、以下のThe New York Timesの公式チャンネルから視聴できます。Instruments of a Beating Heart【Youtube】日本の学校教育の良さとは?日本の学校教育は、単に勉強だけでなく、生活指導を通して社会性を高めることにも重きを置いていると説明されます。それでは、具体的にどんな良さがあるのでしょうか? 実際に撮影されたシーンを通して、大きく3つ挙げてみましょう。(1)ルールを守る―規律生徒は、校則という細かいルールに従って、学校生活を送っています。たとえば、当然ながら「廊下は歩く」という張り紙があります。授業が始まる時と終わる時は、私たちにとっては当たり前の「起立、気をつけ、礼」の儀式が毎回行われます。1年生の教室で、発言したい時は、腕をピンと真っすぐにして手を挙げ、大きな声で元気に「はい」と言うようにと発言のルールを細かく指導されます。とくにコロナ禍のさなかであったこともあり、生徒たちは、全員マスクをしています。ソーシャルディスタンスを守るため、廊下に並ぶときは、床に張られた足跡のシールの上に足を合わせて並びます。1つ目の良さは、ルールを守る、規律です。このおかげで、私たちは、大人になってもルールに忠実であろうとする規範意識がとても強いです。たとえば、外国の観光客から、町にごみが落ちていなくて清潔だとびっくりされます。並ぶ時は、当たり前のようにきれいな列を作ります。犯罪率は、世界トップレベルで低いです。実際に、財布を落とした場合、外国ではまず見つかりませんが、日本では警察に届けられていることが多いという話はよく聞きます。(2)周りに合わせる―協調性学校では、給食当番が決まっており、自分が当番の時は白衣を着て、当番のメンバーで連携して食事を取り分けます。その際にぶつかってお盆を落とした生徒は、先生から「周りをよく見てね」と指導されていました。掃除もみんなで手分けして行います。ほうきを掃く時は、「ほうきは膝下まで」と指導されていました。このように、クラスメートと協力する場面が多いことから、必然的に仲間意識が強くなります。クラスメート同士で、持ち物がなくなった生徒や、悲しんでいる生徒がいたら、すぐに気遣っていました。2つ目の良さは、周りに合わせる、協調性です。このおかげで、私たちは、集団で周りとうまくやっていこうとする謙虚な気持ちがとても強いです。たとえば、接客は、礼儀正しく丁寧です。「おもてなし」の精神から、お店やホテルなどでは、サービスが行き届いています。電車が時刻どおりに動いているだけで世界的にはすごいことなのに、3分遅れただけでお詫びのアナウンスが流れます。(3)努力する―忍耐力ある生徒は、縄跳びの二重飛びができませんでしたが、根気強く練習を続けて、最後にはできるようになり、運動会の晴れ舞台で披露します。ある1年生の女子は、音楽会でシンバル演奏に選ばれたのですが、練習に来なかったためにうまく演奏できず、先生に怒られます。しかし、周りの支えもあって、やがて自分から練習して演奏会を見事やりきります。3つ目の良さは、努力する、忍耐力です。このおかげで、私たちは個人や集団で何かを達成することへの思い入れがとても強いです。たとえば、PISA(国際学習到達度調査)の成績は毎回トップレベルの成績です。世界的にも、日本人は責任感が強く、自分の仕事は頑張って成し遂げようとします。そして、災害が起きても、忍耐強く冷静でパニックになりません。次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 2

日本の学校教育の危うさとは?日本の学校教育の良さは、ルールを守る規律、周りに合わせる協調性、努力する忍耐力であることがわかりました。一方で、その危うさは何でしょうか?実際に撮影されたシーンを通して、大きく3つ挙げてみましょう。(1)周りと同じことをやらせすぎる―同調圧力この映画のなかで、たびたび生徒たちの靴箱のワンカットが映し出されます。上靴に履き替えるという海外の人にとっては珍しい文化をわかりやすく捉えています。あるシーンでは、その靴箱の前で高学年の生徒3人が、「〇〇さん花丸、△△さんは三角」と言って靴の揃え方をチェックしていました。靴のかかとの部分が靴箱のふちに揃っているか、向きが真っすぐかどうかで判定し、記入用紙に点数化しています。さらに、その靴箱の写真まで撮っていました。おそらく、あとでそれぞれの教室のモニターに映し出し、ダメ出しをするのでしょうか? それともクラス別のランキングでもするのでしょうか。別のワンシーンでは、生徒たちは、教室に入る時、いったんドアの手前で足を揃えて入っていました。これも、指導されているようです。また、ある1年生の男子が廊下をふざけて飛び跳ねるように歩いていると、通りがかった先生が「普通に歩いて!」と注意していました。確かに、規律を厳しくすることは規範意識を高めるためには良いことのように思われます。武道と同じように、靴をきれいに靴箱に入れること、教室の前でいった足を揃えること、廊下を姿勢良く歩くことなどの行動は、1つのルーチンとして癖にすることで心が落ち着きます。しかし、これらはどれもそれぞれの生徒にお勧めすべきことではありますが、生徒全員に強いることに合理的な理由がありません。なぜなら、そうしないと周りに迷惑をかける(権利を侵害する)わけではなく、そうすることが大人になって社会生活を送るうえで必要でもないからです。簡単に言えば、やりたい人だけが選んでやればいいだけの話です。それなのに、やりたいわけではない人を巻き込んでいます。さらに、授業中のワンシーンで、ある先生が生徒に「(できるからって)先に進んだりしたらいけないんだ」と言っていました。また、別の先生は、ある生徒に成績表を渡すのですが、すべての項目で高い評価だったので先取り学習をしていると察して、「(すでに答えがわかってても)一つひとつ丁寧にやってね」と先生は伝えています。つまり、勉強ができるからといって、授業中に先に進むことは禁止されているのです。いくら丁寧にやれと言われても、答えはもうわかってしまっているので、授業が退屈でしかありません。逆に、できない生徒は先生がある程度フォローしてくれますが、できたことにして授業は進みます。つまり、できない生徒にとってはわからないので、授業が苦痛でしかありません。つまり、どっちにしても、無理やり足並みを揃えさせられているのです。1つ目の危うさは、周りと同じことをやらせすぎる、同調圧力です。これによって、周りに合わせなければならない、みんなと同じでなければならないという意識が強くなり、自分はこうしたいという「自分らしさ」(アイデンティティ)が育まれにくくなります。そもそも自分らしさは、選ぶ自由があり、多様性があってこそ豊かになります。逆に、同調圧力のなかで選ぶ自由も多様性もなく、自分らしさは削がれていきます。皮肉にも、映画の中では、先生たちはたびたび「自分らしさ」という言葉を口にして、その大切さを強調していました。そのわりに彼らは「普通に(しろ)」という言葉を使って真逆のことを強いており、その矛盾に気付いていないのでした。先生たちの意味する「自分らしさ」とは、生徒が望んだ多様なものではなく、あくまで先生たちが望む限定されたものなのでした。それでは、どうすれば良かったのでしょうか? たとえば、靴箱の取り組みや教室の前で足を揃える取り組みは、あくまでお勧めとして個人的に褒めることにとどめて、全員に強要しないことです。先ほどの飛び跳ねるように歩く生徒は、確かにちょっと危なっかしいかもしれませんが、「普通に」という言葉は、「みんなと同じように」という意味合いになるので使わないようにして、代わりに「ぶつからないように気をつけて」と具体的に言うべきでしょう。むしろ、飛び跳ねるように歩くことは、ユーモアの素質があるという自分らしさと言えます。なお、同調圧力(同調性)の心理の詳細については、関連記事1をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 3

(2)言いなりにさせるーモラルハラスメント避難訓練のシーン。生徒たちが教室からいっせいに校庭に出ていきます。そんななか、ある先生がいきなり「行動が遅い! なんでそんなにゆっくりしてんだよ!」と声を張り上げます。この声のトーンは、一般の社会で昨今あまり聞かれることのない、恫喝のレベルでした。おそらくその先生は、生徒たちの気を引き締めるために必要だと判断したからでしょう。しかし、訓練であるため、パニックにならないために慎重さも必要です。もしかしたら、毎回の訓練でタイムを計っており、前回よりも速い記録を出して、教師としての評価を上げたいという意図があり、最初から用意されたセリフかもしれません。また、引き締めの意図があるなら、逆に生徒が急いで転びそうになったら、今度は「あわてるな!」と声を張り上げることが予測されます。つまり、どっちにしても、何をしても、生徒たちは怒られるのです。心理学では、これをダブルバインド(板挟み)と呼んでいます。6年生の卒業式の練習シーン。卒業証書の授与で生徒が呼ばれた時の返事の仕方の見本を見せようと、ある先生が「はい!」と大声で返事をします。その声はびっくりするくらい大声であったため、一部の生徒たちから笑いが起こります。その瞬間、その先生は「なんで笑った!? おかしい!? 私は気持ちを込めていった。気持ちを込めて何が悪いんだ!」と言って、語気を強めます。確かに言っていることはわかるのですが、生徒によってはあえてのお笑いのボケだと受け取られるので、笑いが起こるのは避けられません。彼はただナメられたくなかったからなのか、最初からこの流れを予定して怒ったふりをしていたのか、どちらにしても強い口調で言うのは不適切です。一般社会の職場で、それをやったらモラルハラスメントに当たります。しかし、子供が相手なら、指導という建前でやっても良いと考えているのでしょう。生徒からして見れば、笑いが起きる状況で笑っていいのか笑ってはいけないのか混乱します。これも、ダブルバインドの心理です。この先生は、「終わっちゃうんだな、一緒にすごした時間も」とつい涙を流してもいました。そして、「なんで泣いちゃうかって、好きだからです。おれは君たちが好きです」と言い出します。このシーンだけを切り取ると、「感動シーン」のように見えるわけですが、よくよく考えると、「好きだから」「相手のためだから」と理由をつけることで、たとえハラスメントであっても自分は許されると正当化しようとしています。実はこれは、典型的なモラルハラスメントの加害者の心理です。ちなみに、このシーンを見て、自分の子育てに重なった親御さんもいるでしょう。「愛しているから」「子供のためだから」という決めゼリフを使って、つい独りよがりになって、子供を言いなりにさせてしまう可能性には、私たちも意識する必要があります。また、この先生が言った「気持ちが大事」のほかに、別のシーンで別の先生たちは「殻を破れ」「気持ちが乗ってない」「強い心」などと抽象的な言葉を多用していることに気付きます。これらは、かつての「根性が足りない」「精神力を鍛えろ」の新しい言い回しでもあります。これらの言葉かけは、一見生徒たちの注意を引くわけですが、具体的な改善点を先生が指摘しているわけではない(実は指摘できない)ので、結局ダブルバインドと同じように、生徒たちはどうしていいかわからないまま先生の顔色をうかがうばかりになります。2つ目の危うさは、教師の言いなりにさせる、モラルハラスメントです。これによって、上の立場の人(権威)が望む答えを探す意識が高まり、自分からこうしたいという「自主性」(勤勉性)は育まれにくくなります。そもそも自主性は、自分が自由に行動を選び、その行動を温かく受け入れる環境があってこそ高まります。逆に、先生たちによるモラルハラスメントが横行する学校のなかでは受け身になり、自主性が削がれていきます。皮肉にも、映画の中では、先生たちはたびたび「自主性を育む」という言葉を口にして、その大切さを強調していました。そのわりに彼らは受け身にさせることばかりしており、その矛盾に気付いていないのでした。先生たちの意味する「自主性」とは、生徒が望む自由な行動ではなく、あくまで先生たちが喜ぶ行動を「自主的」にやることなのでした。それでは、どうすれば良かったのでしょうか? たとえば、避難訓練で声かけするとしたら、せめて「急いで」と冷静に言うことです。また、卒業式の練習でびっくりするくらいの大声で返事をした先生は「ちょっとおかしかったかな? でも、これぐらい元気よく返事をすることをお勧めするよ」と答えることです。なお、モラルハラスメントの心理の詳細については、関連記事2をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ドキュメンタリー映画「小学校~それは小さな社会~」(その1)【当たり前すぎて気づかなかった!?(学校教育の良さと危うさ)】Part 4

(3)吊し上げをする―スケープゴート1年生の生徒たちが音楽会の練習をするシーン。ある先生は生徒たちに「練習してる時に、心が揃い、音が揃うようになってきていると思います。練習に来ない人は、その心が揃うのを壊しています。台無しです」と練習の大切さを強調します。「台無し」という言葉に語気を強めており、何やら嫌な予感がします。すると、やはりです。先ほどにも登場した1年生の女子は、シンバル担当に選ばれていたのですが、なかなかうまくできていないようで、彼は心配します。彼からの「練習に来てね」という手紙が彼女の靴箱に添えてあるシーンが映し出されます。しかし、彼女は来ません。そして案の定、彼女はみんなで演奏の練習をするなかでミスを繰り返します。すると、彼は「タイミング違ったね」「そこ(のタイミング)あったっけ?」「あなた1人しか(シンバルは)いないんです。その責任があなたにあります」ときつい口調で問い詰めます。彼女は「楽譜忘れた…」と小声で答えるのですが、彼は「ちょっと待って、今楽譜ないとできないよって人いますか? 手を挙げてごらん」と他の生徒たちに聞きますが、誰も手を挙げません。そして彼は「なんでみんな楽譜なくてもできるんですか?」とあえて生徒たちにたずねます。すると、生徒たちが「練習しているから」といっせいに答えます。先生は「そうだよね。…一生懸命練習を続けてるんだよね。それをあなたはやってるんですか?」と言って迫ります。彼女が泣き出すと、いったん休憩させるかと思いきや、なんと彼は「オーディションに受かったらそれでおしまいなの? それがゴールなの?…泣いたら上手になるの?…どうしますか? 変わってもらいますか? どうしますか?」と畳みかけます。そして、この一連のやり取りをみんなが静かに見ています。そして、彼女は半ば無理やり練習の約束をさせられて、彼女がまだ泣いているのに、彼は非情にもそのまま演奏を再開するのです。もちろん、彼女は演奏どころではなく、他の生徒たちの楽器から奏でられる音の中に、彼女の泣き声が響いているのでした。彼女があまりにも気の毒で、私たちは胸が張り裂けそうな思いになります。と同時に、これは俳優たちが演技したフィクションではなく、実在する人物たちが実際にやり取りしたドキュメンタリーだったと我に返ると、この先生のやり方には疑問が沸いてきます。一般社会の職場で、上司が部下にこれをやったら明らかなモラルハラスメントで、一発アウトです。しかし、子供が相手なら、指導という建前でやっても良いと考えているのでしょう。さらに、巧妙なのは、その翌日くらいあと、再度のみんなでの練習の時、彼女は演奏するのですが、練習が終わった後、先生は彼女に駆け寄り、笑顔で「できたじゃん!あなたができるところはちゃんと音が鳴ってたよ」と今度は笑顔でベタ褒めするのです。彼女はその間に練習をしておらず、しかもこの時は楽譜を真横に置いていたのにです。彼の褒め叱りには、実は一貫性がないのでした。最初に叱ったのも、あとに褒めたのも最初から予定していたように見えてきます。予定していなかったとしたら、彼は単なる気分屋で、先ほどと同じくモラルハラスメントであり、それはそれで問題です。最も問題なのは、どっちにしても、結果的に彼女は見せしめのために利用されたということです。つまり、「練習しないとこうなるぞ」という他の生徒への裏メッセージです。また、別のワンシーンでは、1年生の教室で、先生がある生徒を教壇に立たせ、「姿勢係」の役割を与えていました。彼を教壇に立たせ、教室に座っている生徒を名指しで「姿勢がいいのは〇〇さんです」「姿勢がいいのは△△さんです」と無邪気な笑顔で言わせるのです。この取り組みは、姿勢を良くしようとする意識を高め、一見良いように思われます。しかし、今度は別のシーンで、同じく1年生の生徒たち数人が休み時間に教室から校庭で遊んでいる他の生徒たちを見下ろして、「あ、マスクしてない。」「よくないねー」「よくないねー」と言い合い、自主的に「マスク警察係」として審判を始めるのです。これは、生徒が生徒を監視する、相互監視です。仲間同士なのに監視役という権力を与える指導によって、仲間外れを見つける練習をさせてしまっていることがわかります。再び6年生の卒業式の練習のシーン。生徒たち全員が体育館のステージの階段状の足場に並ぶ時、混んでて身動きが取りづらく、きれいな整列にはなっていないようです。その時、ある先生が全員に向けて「きょろきょろしてる人、目立ちます」と注意します。これは、「保護者席から見て1人だけ違うとかっこ悪いよ」という否定的なニュアンスがあります。ここにも、先ほどの「普通に」と同じように「みんなと違う人=目立つ人=良くない」という仲間外れにする裏メッセージが読み取れます。先ほどの靴箱のシーンにしても、靴をきれいに入れていない生徒は、悪目立ちすることになります。つまり、これらの取り組みによって注意された生徒は、残りの生徒たちを引き締めて学校の規律を高めるための「生贄」と言えます。3つ目の危うさは、吊し上げをする、スケープゴートです。これによって、上の立場の人(権威)に従わない人や周り(主流秩序)と違うことをする人を差別する意識が高まり、見た目や考え方の違う人を排除しようとする「いじめ」(排他性)が育まれます。これまであれほど学校ではいじめ対策をしてきたのに、実は日本の教育文化そのものがいじめの温床であったという衝撃の事実です。皮肉にも、教員のための研修に招待された大学の教授が、「たとえば『ビー玉貯金』が有名です。クラス全員が忘れ物をしなかったら、大きなビー玉がもらえる。でも、もらえなかったら、『おまえのせいでこうなった』というふうになる。実はいじめの原因をつくるのは教員だった」「我々にも責任がある」と説明し、連帯責任の危うさを講義していました。確かに、集団として罰(正の弱化によるオペラント条件づけ)を与えるというあからさまな連帯責任はなくなりました。しかし、靴箱、演奏会の練習、「姿勢係」(相互監視)などのエピソードを見ると、集団としてご褒美(正の強化によるオペラント条件づけ)をもらえない可能性がある点で、これらは「ビー玉貯金」と同じように指示に従ってない人を悪目立ちさせ全員に対して責任を感じさせる新手の連帯責任と言えます。つまり先生たちは、すでに研修で危ういと指摘されている連帯責任を利用した取り組みを、相変わらずやり続けているという矛盾に気付いていないのでした。それでは、どうすれば良かったのでしょうか? たとえば、音楽会の先生は、いきなりみんなの前で叱責するのではなく、まずその女子を個別に呼んで気軽に話し合うことです。そして、楽譜を見れば間違えないなら、まずは楽譜を見て演奏するよう本人に合わせた指導をすることです。確かに、全員が楽譜を見ないで完璧な演奏をすることはすばらしいことです。しかし、いくらオーディションで選ばれた責任があるからといって、それをプロの大人ではない1年生の子供に強要するのは酷です。結果的には、彼女は褒められた気分の良さから、その後に自主的に練習をするようになり、演奏会の本番を見事まっとうして、「少女の成長物語」という美談になっていました。そして、この先生は優秀な教師と評価されるのでしょう。しかし、彼女のように頑張れる生徒、できる生徒ばかりではありません。もしも、もともと頑張れない生徒やもともとできない生徒にこんなやり方を繰り返していたら、どうなるでしょうか? 不登校のリスクが高まるのは明らかでしょう。また、「姿勢係」などの相互監視は即廃止です。靴箱のシーンでも触れたように、良い姿勢はお勧めすべきことではありますが、競わせるものでも取り締まられるものではないからです。この多様性の時代、インクルーシブ教育の時代、もしも脳性麻痺の生徒がいたらどうなるのでしょうか? 先生たちは明らかに時代遅れなことをやっています。卒業式の練習のシーンでは、せめて「真っすぐに向いているとすてきだよ」とポジティブに言うことです。ただ、スケープゴートのリスクを考えると、そもそも卒業式でステージの上に生徒全員を整列させることをはじめとして同調圧力を高める取り組み自体を止める時代に来ているでしょう。なお、スケープゴートの心理の詳細については、関連記事3をご覧ください。ここで、再度誤解がないようにしたいのは、これまで取り上げた教師たちの指導方法には改善点が多々ありますが、教師個人は批判されるべきとは思われません。なぜなら、実は生徒たちだけでなく教師たちもまた、この日本の危うい教育文化から抜け出せない学校という職場環境に身を置いているからです。それは、いったいどういうことでしょうか?(次回に続く)<< 前のページへ■関連記事告白【いじめ(同調)】Part 1美女と野獣【実はモラハラしていた!? なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】泣かないと決めた日(続)【パワーハラスメント(差別)】

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25年度の「骨太の方針」に要望する3つの事項/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、定例の記者会見を3月5日に開催した。会見では、先般衆議院を通過した令和7(2025)年度の予算案について内容に言及するとともに、5月31日の「世界禁煙デー」での取り組みなどが説明された。全産業との差が広がる医療業の賃金格差は問題 はじめに松本氏が、「令和7年度予算案の衆議院通過を受けて」をテーマに、今回の予算内容や医療全般、医師会とのかかわり、今後さらに要望していくべき事項などを説明した。 今回の予算案には、医療提供体制の整備・強化に必要な予算として、「入院時食事療養費の1食当たり20円引上げ」、「周産期・救急医療体制などの充実」、「地域医療構想・医師偏在対策・かかりつけ医機能などの推進のための支援」などが盛り込まれたと評価し、「かかりつけ医機能の推進」についても、これまで議論した方向に進んでいるとの認識を示した。 また、診療報酬改定にも触れ、今年度は非改定年であるが、「令和6年の診療報酬改定でベースアップ評価料が新設されたものの、他の産業の賃上げに、まったく追い付いていないこと」、「2012年を100とした場合、2024年の全産業と医療業の賃金の伸びには5%以上の開きがあり、時間を追うごとにその差は開いている」と指摘し、「まずは補助金での迅速な対応が必要だが、令和8年度診療報酬改定の前に、期中改定も視野に入れて対応していく必要がある」と主張した。 次に「高額療養費制度」について、「本制度は、高額治療を要する際に経済的な不安に対処するために非常に重要な制度であり、維持するためにも見直しが必要なことに理解を示しつつも、患者さんに過度な負担を強いることがないよう、一貫して丁寧な制度設計を求めてきた」と述べ、日本医師会が従来から患者の自己負担の軽減を主張し続けてきたこと、限度額の引き上げで受診控えなどを招来しないように、丁寧な議論を重ねることを求めてきたことを改めて強調した。 おわりに松本氏は、「骨太の方針2025」にも言及し、その取りまとめに向けては、(1)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」社会保障予算の目安対応の廃止(財政フレームの見直しが必要など)、(2)診療報酬などについて、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入、(3)小児医療・周産期体制の強力な方策の検討という3つの対応が必要だと語った。すすめよう禁煙!コンテストで川柳募集中 続いて広報担当常任理事の黒瀨 巌氏(医療法人社団慶洋会グループ 理事長)が、5月31日の「世界禁煙デー」に開催されるイベントなどの説明を行った。 イベントの目的は、「毎年19万人が喫煙に関連する病気で亡くなっていると推定され、喫煙者本人だけでなく、周囲の人も副流煙で被害を受けている。とくに若年層では、電子たばこのような新型たばこについて、健康被害が少ないとの誤解から使用が増加傾向にある。そこで、新型たばこを含む喫煙による健康への影響や受動喫煙防止の必要性について啓発を行うもの」である。5月31日~6月6日を「禁煙週間」として、全国各地でライトアップや啓発活動が行われる。東京では、日本医師会と東京都医師会の主催で下記のイベントが開催される。【イベント概要】開催日:5月31日(土)「世界禁煙デー」場所:東京タワー メインデッキ1階(展望台)内容:「すすめよう禁煙!川柳コンテスト」の実施、中学生への新型たばこの害に関する勉強会、点灯式など開催。「すすめよう禁煙!川柳コンテスト」では、一般部門(高校生以上)とジュニア部門(中学生以下)に分かれ、入賞者には賞金や景品が贈呈される。募集締切は4月13日(日)まで。詳細は参考のリンクを参照のこと。

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小児ADHDの作業記憶に対して最も好ましい運動介入は〜ネットワークメタ解析

 注意欠如多動症(ADHD)は、小児によくみられる神経発達障害であり、作業記憶障害を伴うことが多い疾患である。最近、小児ADHDの認知機能改善に対する潜在的な戦略として、運動介入が注目されている。しかし、さまざまな運動介入が作業記憶に及ぼす影響は、明らかとなっていない。中国・北京師範大学のXiangqin Song氏らは、さまざまな運動介入が小児ADHDの作業記憶に及ぼす影響を評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。Frontiers in Psychology誌2025年1月27日号の報告。 関連する研究を、各種データベース(PubMed、Cochrane、Embase、Web of Science)より包括的に検索した。包括基準および除外基準に従ってスクリーニングした後、17件の研究が分析対象に特定された。ネットワークメタ解析を実施してデータを統合し、認知有酸素運動、球技、心身運動、インタラクティブゲーム、一般的な有酸素運動が小児ADHDの作業記憶に及ぼす影響を評価した。 主な結果は以下のとおり。・小児ADHDに対するさまざまな種類の運動介入効果には、有意な違いが認められた。・最も有意な効果を示した運動介入は、認知有酸素運動(標準化平均差[SMD]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.44〜1.00)、次いで球技(SMD:0.61、95%CI:−0.12〜1.35)であった。・心身運動とインタラクティブゲームは、中程度の効果を示したが、一般的な有酸素運動の効果は比較的小さかった。 【認知有酸素運動】SMD:0.72、95%CI:0.44〜1.00 【球技】SMD:0.61、95%CI:−0.12〜1.35 【心身運動】SMD:0.50 【インタラクティブゲーム】SMD:0.37 【一般的な有酸素運動】SMD:0.40、95%CI:0.19〜0.60・SUCRA分析では、作業記憶の改善に対し、認知有酸素運動が最も有用であることが確認された。・メタ回帰分析では、介入頻度および総介入期間は、認知有酸素運動の効果に有意な影響を及ぼすことが示唆された。他の変数の影響は認められなかった。 著者らは「認知有酸素運動は、小児ADHDの作業記憶改善に最も効果的である運動介入であることが示唆された。介入頻度を上げ、介入期間を長くするほど、その介入効果は高まる可能性がある。今後の研究において、これらの因子の影響を調査し、調整因子の役割を検証するためにも、より大きなサンプルサイズによる検討が必要とされる」と結論付けている。

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若年性特発性関節炎に伴うぶどう膜炎、アダリムマブは中止できるか/Lancet

 アダリムマブによりコントロールされている若年性特発性関節炎に伴うぶどう膜炎の患者において、アダリムマブの投与を中止すると、ぶどう膜炎、関節炎、あるいはその両方の再発率が高くなるが、投与を再開すると、治療失敗の全例で眼炎症のコントロールが回復することが、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のNisha R. Acharya氏らADJUST Study Groupが実施した「ADJUST試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年1月25日号に掲載された。3ヵ国の無作為化プラセボ対照比較試験 ADJUST試験は、若年性特発性関節炎に伴うぶどう膜炎における治療中止の有効性と安全性の評価を目的とする二重マスク化無作為化プラセボ対照比較試験であり、2020年3月~2024年2月に、米国、英国、オーストラリアの20の眼科またはリウマチ科の施設で患者を登録した(米国国立衛生研究所[NIH]眼病研究所[NEI]の助成を受けた)。 年齢2歳以上で、16歳に達する前に慢性若年性特発性関節炎に伴うぶどう膜炎または慢性前部ぶどう膜炎と診断され、少なくとも1年間、アダリムマブにより関節炎とぶどう膜炎がコントロールされていた患者を対象とした。これらの患者を、アダリムマブの投与を継続する群またはアダリムマブの投与を中止してプラセボを投与する群に1対1の割合で無作為に割り付け、2週ごとに48週目の受診または治療失敗まで皮下投与した。 主要アウトカムは、治療失敗(ぶどう膜炎または関節炎の再発と定義)までの期間とし、すべての患者を主解析および安全性解析の対象とした。治療失敗時にマスク化を解除し、患者は48週まで非盲検下にアダリムマブの投与を受けた。投与中止例の68%で再発、再投与で全例が回復 87例を登録した時点で、事前に規定された中間解析で中止基準を満たしたため、それ以降の登録を中止した。アダリムマブ群に43例(年齢中央値12.56歳[四分位範囲[IQR]:9.44~15.81]、女性74%)、プラセボ群に44例(12.26歳[9.39~13.42]、73%)を割り付けた。各群1例ずつが脱落したが、そのデータは解析に含めた。 治療失敗は、アダリムマブの投与を中止したプラセボ群で44例中30例(68%)に発生したのに対し、投与を継続したアダリムマブ群では43例中6例(14%)と有意に少なかった(ハザード比:8.7[95%信頼区間[CI]]:3.6~21.2、p<0.0001)。治療失敗の多くは追跡期間24週までに発生した。また、プラセボ群の治療失敗までの期間中央値は119日(IQR:84~243)だった。 治療失敗例のうち、プラセボ群の30例全例がアダリムマブの投与を再開し、アダリムマブ群の6例中4例がアダリムマブを継続投与し、いずれの患者も眼炎症のコントロールの回復に成功した。治療失敗後に、眼炎症が最初にコントロールされるまでの期間中央値は、アダリムマブ群が91日、プラセボ群は63日であった。また、眼炎症の持続的コントロールが達成されるまでの期間中央値は両群とも105日で、治療失敗から持続的コントロール達成までの期間中央値はそれぞれ98日および105日だった。重篤な有害事象4件はいずれもアダリムマブ群 非重篤な有害事象は、アダリムマブ群で226件(7.5件/人年[95%CI:6.5~8.5])、プラセボ群で115件(6.8件/人年[5.6~8.1])発現した。最も頻度の高い有害事象は胃腸関連イベント、頭痛、疲労感であった。COVID-19感染症は、アダリムマブ群で多かった(100人年当たり、50件vs.6件)。重篤な有害事象は4件発現し、いずれもアダリムマブ群であった。 著者は、「米国リウマチ学会による、2年間のコントロールが得られた場合は治療を中止してもよいとの推奨は、慎重に考慮する必要がある」「治療中止を試みる場合は、とくに最初の6ヵ月間は再発の有無を注意深く観察すべきである」「今後は、アダリムマブの投与中止の成功を予測する臨床的特性やバイオマーカーについて検討を進める予定である」としている。

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急性呼吸器感染症の5類位置付けに関するQ&A

2025年4月7日より急性呼吸器感染症が5類感染症に位置付けられます急性呼吸器感染症って何? インフルエンザや新型コロナウイルス感染症とは違う?⚫ 急性呼吸器感染症とは、急性の上気道炎(鼻炎、副鼻腔炎、中耳炎、咽頭炎、喉頭炎)や下気道炎(気管支炎、細気管支炎、肺炎)など、細菌やウイルスによる症候群の総称。⚫ インフルエンザ、新型コロナウイルス、RSウイルス、咽頭結膜熱、A群溶血性レンサ球菌咽頭炎、ヘルパンギーナなども含まれる。なぜ、急性呼吸器感染症が5類感染症に位置付けられるのか?⚫ 急性呼吸器感染症は飛沫感染などにより周囲の人にうつしやすい。新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、流行しやすい急性呼吸器感染症の流行の動向を把握すること、未知の呼吸器感染症が発生し増加し始めた場合にすぐに探知することができるように、平時からサーベイランスの対象とするため。患者さんには影響がある? 風邪のために病院に行く際の負担などが変わる?⚫ 影響はなく、診療上の扱いも変わらない。医療機関や高齢者施設などにおける面会制限は変わる?⚫ 変更はない。風邪も就業制限や登校制限の対象となる?⚫ 対象にはならない。インフルエンザなど個別の感染症について定められている運用についても変更はない。厚生労働省ホームページ「急性呼吸器感染症(ARI)に関するQ&A」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ari_qa.htm)より抜粋Copyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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抱腹絶倒!? “クセ強め”なお見合い相手たち〜第2弾【アラサー女医の婚活カルテ】第9回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆前回は、結婚相談所(以下、相談所)でのお見合いで遭遇した、“クセ強め”なお相手たちを振り返りました。今回も引き続き、お相手との面白エピソードをお届けしたいと思います。気楽にお楽しみいただけると幸いです。(※個人の特定を防ぐため、大筋に影響しない程度の脚色を加えています)“距離感が近過ぎ”の安村さん1人目は、34歳の銀行員、安村さん(仮名)です。お見合い当日、待ち合わせ時刻を過ぎてもなかなか現れず、(場所を間違えたかなぁ)と私が不安になったころ……。 「こん野さん、お待たせしました!」 大きな笑顔を浮かべながら、安村さんが登場しました。格式あるホテルラウンジでのお見合いだというのに、どういうわけか、洗濯洗剤のCMに出てきそうな真っ白な半袖Tシャツに身を包み、足元はスニーカーという服装でした。髪からは汗が滴っています。「趣味のビーチバレーの試合が長引いてしまって! 試合が終わってから急いで車を飛ばしてきました」 (いや、お見合いより趣味優先なんかい) 心の中でツッコミながら、お見合いは波乱の幕開けとなりました。お見合い中は、趣味のスポーツについて楽しそうに語る安村さんのペースにのまれ、私は完全に聞き役に回ることとなりました。安村「あれぇ〜。こん野さん、もしかしてちょっと人見知り? 口数少なめですね」こん野「あぁ、はい……(心の声:あなたばかりしゃべってるから、しゃべりたくてもしゃべれないんですよ)」安村「やっぱり人見知りなんだねー! 人見知りなのに、お医者さんの仕事は大丈夫なの?診察とか、ちゃんとできてる?(笑)」聞き役に徹していた私ですが、この“上から目線”の発言には、さすがに「あなたに心配される筋合いはないです!」と言い返したくなりました。女性医師であるが故に男性から敬遠されるのは悲しいですが、安村さんのようにズカズカ無遠慮に距離を詰めてこられるのも、それはそれでいら立たしいものだなぁと気付きました。こちらの気持ちにお構いなしで“とにかく明る過ぎた”のと、ホテルラウンジでのお見合いにしては服装の布面積が足りなかった(半袖白Tシャツ1枚)ことから、「安村さん」と命名しました(パンツ一丁の芸が大人気の、あの芸人さんです)。“節約上手(?)”な前田さん2人目は前田さん(仮名)です。36歳、自営業。お見合いのために素敵なカフェの席を押さえてくださったのですが、「婚活を始めてから、このカフェに来るのはもう3回目です」初っ端のセリフがこれでした。……それ、たぶん私の前では言わないほうがいいやつー!そしてお会計のときには、レジの方にすかさず一言。「領収書ください。ボク自営業なので、経費で落とします」節税のために、お見合いでのカフェ利用を、仕事の打ち合わせという名目になさったのでしょうが……。うーん、それもたぶん、お見合い相手の前では言わないほうがいいやつー!戦国時代に“どケチ”な武将として有名だった前田利家にちなんで、前田さんと命名しました。“見付けづら過ぎる”ウォーリーさん 3人目はウォーリーさん(仮名)です。私の利用していた連盟では、お見合いで待ち合わせをする際には、お互いを見付けるための“目印”として、持ち物や服装を事前に登録する仕組みになっていました。たとえば「紺色のワンピースに白いカーディガンを羽織っています」「緑色のバッグを持っています」といった具合です。“目印”ですから、周りの人とかぶりづらく、目立つものであることは大前提なのですが、ある小雨の日のお見合い相手だったウォーリーさんの “目印” はなんと……「黒い傘を持っています」 ……うーん、今日みたいな天気の日には、世の男性の大半は、黒い傘を持っていると思うんですけどー!さらに言うと、このウォーリーさんが持っていたのは、傘は傘でも“黒い折り畳み傘“、しかも傘の下半分は鞄のサイドポケットに隠れていたので、見つけるのは至難の業でした。似た格好の人々の中からただ1人を見つけ出す有名な絵本『ウォーリーをさがせ!』にちなんで、ウォーリーさんと名付けました。余談ですが、このウォーリーさんが後の夫です。後々尋ねてみると、相談所で活動を始めてまだ間もなかったため、どんな “目印”を書けば良いのか、勝手がわからなかったそうです。 難易度高めの“目印”でしたが、なんとか探し出せて、つくづく良かったです(笑)。一定数いる“ヘンな人”、気持ちの切り替えが成功のカギ前回と今回の2回連続で、私が相談所で出会った印象的な男性たちをご紹介しました。お楽しみいただけたでしょうか。婚活の世界も実社会と同じで、やはり一定数“ヘンな人”はいるものです。そういうお相手と出会って嫌な気持ちになると、「相談所にはロクな男性がいない」というふうに、過度に一般化して捉えてしまうこともあると思います。しかし、そうするとほかのお相手と会うのにも腰が引けて、婚活に良くない影響を及ぼしてしまいます。ここはあまり引きずり過ぎず、「はい、次!」と気持ちを切り替えるのがオススメです。次回は、相談所で“仮交際”や“真剣交際”をする際に気を付けると良いことなどを、私自身の経験を交えながら書きたいと思います。お楽しみに。

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食物アレルギーの原因、直近10年の変化

食物アレルギーの原因として“木の実類”が増加◆“木の実類”の内訳は…◆調査年ごとの上位5品目の症例数比率(%=各品目の症例数/解析対象症例数)(%=各品目の症例数/解析対象症例数)40%16%39.0%15.2%鶏卵34.7%14%33.4%35.0%30%くるみ12%牛乳21.8%22.3%木の実類26.7%24.6%22.0%18.6%20%12.5%10.6%10%落花生5.1%2.3%13.5%13.4%8.8%5.6%3.6%8.2%5.1%6%8.1%7.0%6.1%n=6,033人2.9%20202023 [年]1.7%1.6%1.1%0.6%2017カシューナッツ4.6%2% 1.4%0%20145.2%4%0%20117.6%8%小麦11.7%10%0.1% 0.2%0%0%20112014マカダミア1.1%0.7%0.4%0.8%0.6%0.1% 0.4%201720202023 [年]アーモンドピスタチオ消費者庁「第7回食物アレルギー表示に関するアドバイザー会議(2025年1月25日開催)」資料「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」から「上位品目の症例数比率の推移」・「木の実類の症例数比率の推移」を基に作成Copyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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米国、中絶禁止法施行の州で乳児死亡率が上昇/JAMA

 米国において中絶禁止法を導入した州では、施行後の乳児死亡率が、施行前の乳児死亡率に基づく予測値と比べて上昇したことが明らかにされた。乳児死亡の相対増加率は、先天異常による死亡で大きく、黒人や南部の州などベースラインの乳児死亡率が平均より高い集団でも大きかったという。米国・ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のAlison Gemmill氏らが報告した。最近の中絶禁止法の施行が乳児死亡率に及ぼす影響については十分に理解されておらず、また、中絶禁止法が乳幼児の健康における人種的・民族的格差とどのように相互作用するかについてはエビデンスが限られていた。JAMA誌オンライン版2025年2月13日号掲載の報告。2012~23年の全米データを解析 研究グループは、2012年1月~2023年12月までの全米50州およびコロンビア特別区(ワシントン)の出生および死亡証明書のデータから、生後28日未満の新生児および生後1年未満の乳児の死亡数、ならびに出生総数を半年ごとに集計した。 主要アウトカムは乳児死亡率(1,000出生当たり)で、全集団および人種/民族別、死亡時期別(新生児期vs.それ以外)、死因別(先天異常vs.それ以外)に算出した。 曝露要因は完全な中絶禁止または妊娠6週目以降の中絶禁止で、ベイズパネルモデルを用いて、それら中絶禁止を法的に導入した14州の乳児死亡率を、中絶禁止を法的に導入していない州の乳児死亡率ならびに当該14州の中絶禁止法施行前の乳児死亡率に基づく予測値と比較した。乳児死亡は中絶禁止法施行前より5.6%増加 中絶禁止法を導入した州では、施行後の乳児死亡率が予測値よりも高かったことが判明した(予測値5.93 vs.実測値6.26[/1,000出生]、絶対増加:0.33[95%信用区間[CrI]:0.14~0.51]、相対増加率:5.60%[95%CrI:2.43~8.73])。この結果、中絶禁止法が導入された14州において、中絶禁止が影響した期間の乳児の過剰死亡は478例と推定された。 非ヒスパニック系黒人集団では他の人種/民族集団と比較して乳児死亡率の上昇が大きく、乳児死亡数(/1,000出生)は予測値10.66に対して実測値11.81で、絶対増加は1.15(95%CrI:0.53~1.81)、相対増加率は10.98%(95%CrI:4.87~17.89)であった。 先天異常による乳児死亡(/1,000出生)は、予測値1.24に対して実測値1.37(絶対増加0.13[95%CrI:0.04~0.21]、相対増加率:10.87%[95%CrI:3.39~18.08])、先天異常以外の原因による乳児死亡(/1,000出生)は、予測値4.69に対して実測値4.89(絶対増加:0.20[95%CrI:0.02~0.38]、相対増加率:4.23%[95%CrI:0.49~8.23])であった。 テキサス州の動向が全体的な結果に大きな影響を及ぼしていることが認められ、南部の州のほうがそれ以外の州より大きな増加がみられた。

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医薬品供給不足の現在とその原因は複雑/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、「医薬品供給等の最近の状況」をテーマに、メディア懇談会を2月19日に開催した。懇談会では、一般のマスメディアを対象に現在問題となっている医薬品の安定供給の滞りの原因と経過、そして、今後の政府への要望などを説明した。 はじめに松本氏が挨拶し、「2020年夏頃より医薬品供給などに問題が生じてきたが、4年経過しても解決していない。後発医薬品だけではない、全体的な問題であり、その解消に向けて医師会も政府などに要望してきた。複合的な問題であるが、早く解消され、安心・安全な医薬品がきちんと医師、患者さんに届くことを望む」と語った。安定供給に立ちはだかる内的要因と外的要因 「医薬品供給等の最近の状況について」をテーマに同会常任理事の宮川 政昭氏(宮川内科小児科医院 院長)が、長引く医薬品供給停滞について、その現状と問題点を説明した。 医薬品の安定供給問題には、採算性の低下、国の関与不足、トレーサビリティの問題・情報開示などの内的要因と地政学リスク、材料の特定国への依存、日本独自の品質要求などの外的要因が交錯し、問題を複雑化している。 2025年2月18日時点での厚生労働省医療用医薬品供給状況の発表でも、通常出荷されていない割合は約21.9%、そのうち後発医薬品の割合が約60%、先発医薬品や長期収載医薬品なども12.7%という状況。 医薬品の供給不足に関しては、供給体制を強化する必要があるが、安定供給は国民の健康を守るために重要な課題であり、安全保障の観点からも重要と述べるとともに、医療用医薬品不足の原因としては、「品質問題」「海外依存リスク」「国内生産基盤の強化」の3つがあると提示した。(1)品質問題 2020年頃より顕在化するようになった後発医薬品メーカーの品質問題の不祥事による厚生労働省の行政処分。厚労省、日本ジェネリック製薬協会が何度も自主点検を行っても、こうした事態が解消されずにいる。2023年の先発医薬品メーカーも含めた日本製薬団体連合会主導の自主点検でも、「一部承認書との相違の整理あり」の案件が3,281件(37.6%)と、いまだ約4割に相違があることは非常に問題だという。実際、自主点検で報告された代表事例として、製造方法の改変、規格の齟齬、承認書と関連文書の矛盾、承認書からの追加・省略事例、文書化されていない口頭伝承などがあった。今後の対応としては、とくに「組織ガバナンス」の問題として、「経営レベルでのガバナンス強化」「品質管理システムの徹底」「従業員の意識改革」などが期待されると説明した。(2)海外依存のリスク 厚労省が、サプライチェーン調査を実施したところ、安定確保医薬品カテゴリーAの21成分の原薬原材料の供給経路につき、8成分が単一国、5成分が2ヵ国、8成分が3ヵ国以上だった。仕入先国では、中国、韓国、インドが多く、特定の国への集中は考慮する必要があると問題を提起した。厚労省の対策会議などでは、供給が単一国の場合はその供給の複数国化や、医薬品メーカーの代替供給源の探索を行う際の補助事業、供給リスク管理のためのマニュアル作成事業などが提案され、これらを推進することで、材料などの安定的な供給を進めていると紹介した。(3)国内生産基盤の強化 医薬品の安定供給確保には、国内の製造基盤を維持・強化することが不可欠であり、GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品の製造管理および品質管理)基準適合の設備導入や、政府支援による生産拠点整備が求められる。一方で、後発医薬品メーカーによっては工場の老朽化が進んでおり、懸念材料となっている。建て替えには数百億円の費用が必要とされるが、政府などの支援がないのが現状。また、単純に薬価を上げれば安定供給になるわけでもないので、安定供給のために製薬企業全体として国に対策を協力してもらい、国家の安全保障としての枠組み作りを国に要望したいと語った。医薬品流通体制の3つの課題 次に「医薬品の流通体制」について、現状、インフルエンザ治療薬、局所麻酔薬、テオフィリン徐放性製剤が不足しており、地域医師会などから悲痛な声が医師会に届いていることを報告した。そして、医薬品の流通体制の問題点として「共同開発」「委受託製造」「1社流通」の3つの問題を上げた。 「共同開発」では、後発医薬品メーカーの開発コスト削減などメリットがある一方で、製造販売承認では開発各社が安定性試験などの資料をそろえ、申請をしなければならない煩雑さがある。「委受託製造」では、品質管理のばらつき、コスト削減による品質低下、緊急対応の難しさなどがあると指摘する。「1社流通」では、効率的な流通、コスト削減、品質管理の保持ができる一方で、従来からある医薬品供給の遅れ、価格の固定化、安定供給への懸念などさまざまな課題が提起されている。実際、日本保険薬局協会の調査でも「製薬企業・卸から理由の説明を受けたことがある薬局」は約7%で、丁寧な情報提供がないなど流通改善のガイドラインなどが順守されていないという。 終わりに宮川氏は、「医薬品に関連するさまざまな問題を説明した。今後、マスメディアにはこうした現状を理解してもらい、適切な報道をしていただきたい」と述べ、懇談会を終えた。

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 後編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第8回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。今回は、ワクチンで予防できる疾患、生ワクチンの概要の前編に引き続き、不活化ワクチンなどの概要、接種スケジュール、接種で役立つポイントなどを説明する。ワクチンの概要(効果・副反応・不活化・定期または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。そこで、以下にインフルエンザ、百日咳、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、RSウイルス(生ワクチン以外)の生ワクチン以外のワクチンの概要を述べる。これら生ワクチン以外のワクチン(不活化ワクチン、mRNAワクチンなど)は妊娠中に接種することができる。ただし、添付文書上、妊娠中の接種は有益性投与(予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められていること)と記載されているワクチンもあり注意が必要である。いずれも妊娠中に接種することで、病原体に対する中和抗体が母体の胎盤を通じて胎児へ移行し、出生児を守る効果がある。つまり、妊婦のワクチン接種が母体と出生児の双方へ有益ということになる。(1)インフルエンザ妊婦はインフルエンザの重症化リスク群である。妊婦がインフルエンザに罹患すると、非妊婦に比し入院率が高く、自然流産や早産だけでなく、低出生体重児や胎児死亡の割合が増加する。そのため、インフルエンザ流行期に妊娠中の場合は、妊娠週数に限らず不活化ワクチンによるワクチン接種を推奨する1)。また、妊婦のインフルエンザワクチン接種により、出生児のインフルエンザ罹患率を低減させる効果があることがわかっている。生後6ヵ月未満はインフルエンザワクチンの接種対象外であるが、妊婦がワクチン接種することで、胎盤経由の移行抗体による免疫効果が証明されている1,2)。接種の時期はいつでも問題ないため、インフルエンザ流行期の妊婦には妊娠週数に限らず接種を推奨する。妊娠初期はワクチン接種の有無によらず、自然流産などが起きやすい時期のため、心配な方は妊娠14週以降の接種を検討することも可能である。流行時期や妊娠週数との兼ね合いもあるため、接種時期についてはかかりつけ医と相談することを推奨する。なお、チメロサール含有ワクチンで過去には自閉症との関連性が話題となったが、問題がないことがわかっており、胎児への影響はない2)。そのほか2024年に承認された生ワクチン(経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:フルミスト点鼻薬)は妊婦には接種は禁忌である3)。また、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、飛沫または接触によりワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する4)。(2)百日咳ワクチン百日咳は、成人では致死的となることはまれだが、乳児(とくに生後6ヵ月未満の早期乳児)が感染した場合、呼吸不全を来し、時に命にかかわることがある。一方、百日咳含有ワクチンは生後2ヵ月からしか接種できないため、この間の乳児の感染を予防するために、米国を代表とする諸外国では、妊娠後期の妊婦に対して百日咳含有ワクチン(海外では三種混合ワクチンのTdap[ティーダップ]が代表的)の接種を推奨している5,6)。百日咳ワクチンを接種しても、その効果は数年で低下することから、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は2回目以降の妊娠でも、前回の接種時期にかかわらず妊娠する度に接種することを推奨している。百日咳は2018年から全数調査報告対象疾患となっている。百日咳感染者数は、コロナ禍前の2019年は約1万6千例ほどであったが、コロナ禍以降の2021~22年は、500~700例前後と減っていた。しかし、2023年は966例、2024年(第51週までの報告7))は3,869例と徐々に増加傾向を示している。また、感染者の約半数は、4回の百日咳含有ワクチンの接種歴があり、全感染者のうち6ヵ月~15歳未満の小児が62%を占めている8)。さらに、重症化リスクが高い6ヵ月未満の早期乳児患者(計20例)の感染源は、同胞が最も多く7例(35%)、次いで母親3例(15%)、父親2例(10%)であった9)。このように、百日咳は、小児の感染例が多く、かつ、ワクチン接種歴があっても感染する可能性があることから、感染源となりうる両親のみならず、その兄弟や同居の祖父母にも予防措置としてワクチン接種が検討される。わが国で、小児や成人に対して接種可能な百日咳含有ワクチンは、トリビック(沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン)である。本ワクチンは、添付文書上、有益性投与である(妊婦に対しては、予防接種上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種が認められている)10)が、上記の理由から、丁寧な説明と同意があれば、接種する意義はあるといえる。(3)RSウイルスワクチン2024年より使用可能となったRSウイルスワクチン(組み換えRSウイルスワクチン 商品名:アブリスボ筋注用)11)は、新生児を含む乳児におけるRSウイルス感染症予防を目的とした妊婦対象のワクチンである(同時期に承認販売開始となった高齢者対象のRSウイルスワクチン[同:アレックスビー筋注用]は、妊婦は対象外)。アブリスボを妊娠中に接種すると、母体からの移行抗体により、出生後の乳児のRSウイルスによる下気道感染を予防する。そのため接種時期は妊娠28~36週が最も効果が高いとされている12)(米国では妊娠32~36週)。また、本ワクチン接種後2週間以内に児が出生した場合は、抗体移行が不十分と考えられ、モノクローナル抗体製剤パリミズマブ(同:シナジス)とニルセビマブ(同:ベイフォータス)の接種の必要性を検討する必要があるため、妊婦へ接種した日時は母子手帳に明記することが大切である13)。乳児に対する重度RSウイルス関連下気道感染症の予防効果は、生後90日以内の乳児では81.8%、生後180日以内では69.4%の有効性が認められている14)。これまで、乳児のRSウイルス感染の予防には、重症化リスクの児が対象となるモノクローナル抗体製剤が利用されていたが、RSウイルス感染症による入院の約9割が、基礎疾患がない児という報告もあり15)、モノクローナル抗体製剤が対象外の児に対しても予防が可能となったという点において意義があるといえる。一方で、長期的な効果は不明であり、わが国で接種を受けた妊婦の安全性モニタリングが不可欠な点や、他のワクチンに比し高額であることから、十分な説明と同意の上での接種が重要である。(4)COVID-19ワクチンこれまでの国内外の多数の研究結果から、妊婦に対するCOVID-19ワクチン接種の安全性は問題ないことがわかっており16,17)、前述の3つの不活化ワクチンと同様に、妊婦に対する接種により胎盤を介した移行抗体により出生後の乳児が守られる。逆にCOVID-19に感染した乳児の多くは、ワクチン未接種の妊婦から産まれている17)。妊婦がCOVID-19に罹患した場合、先天性障害や新生児死亡のリスクが高いとする報告はないが、妊娠中後期の感染では早産リスクやNICU入室率が高い可能性が示唆されている17)。また、酸素需要を要する中等症~重症例の全例がワクチン未接種の妊婦であったというわが国の調査結果もある17)。妊婦のCOVID-19重症化に関連する因子として、妊娠後期、妊婦の年齢(35歳以上)、肥満(診断時点でのBMI30以上)、喫煙者、基礎疾患(高血圧、糖尿病、喘息など)のある者が挙げられており、これらのリスク因子を持つ場合は産科主治医との相談が望ましい。一方で、COVID-19ワクチンはパンデミックを脱したことや、インフルエンザウイルス感染症のように、定期的流行が見込まれることから、2024年度から第5類感染症に変更され、ワクチンも定期接種化された。よって、定期接種対象者である高齢者以外は、妊婦や、基礎疾患のある小児・成人に対しても1回1万5千円~2万円台の高額なワクチンとなった。接種意義に加え、妊婦の基礎疾患や背景情報などを踏まえた総合的・包括的な相談が望ましい。また、COVID-19ワクチンについては、いまだにフェイクニュースに惑わされることも多く、医療者が正確な情報源を提供することが肝要である。接種のスケジュール(小児/成人)妊婦と授乳婦に対するワクチン接種の可否について改めて復習する。ワクチン接種が禁忌となるのは、妊婦に対する生ワクチンのみ(例外あり)であり、それ以外のワクチン接種は、妊婦・授乳婦も含めて禁忌はない(表)。表 非妊婦/妊婦・授乳婦と不活化/生ワクチンの接種可否についてただし、ワクチンを含めた薬剤投与がなくても流産の自然発生率は約15%(母体の年齢上昇により発生率は増加)、先天異常は2~3%と推定されており、臨界期(主要臓器が形成される催奇形性の感受性が最も高い時期)である妊娠4~7週は催奇形性の高い時期である。たとえば、ワクチン接種が原因でなくても後から胎児や妊娠経過に問題があった場合、実際はそうでなくても、あのときのあのワクチンが原因だったかも、と疑われることがあり得る。原因かどうかの証明は非常に困難であるため、妊娠中の薬剤投与と同様に、医療従事者はそのワクチン接種の必要性や緊急性についてしっかり患者と話し、接種する時期や意義について理解してもらえるよう努力すべきである。※その他注意事項生ワクチンの接種後、1~2ヵ月の避妊を推奨する。その一方で、仮に生ワクチン接種後1~2ヵ月以内に妊娠が確認されても、胎児に健康問題が生じた事例はなく、中絶する必要はないことも併せて説明する。日常診療で役立つ接種ポイント1)妊娠可能年齢女性とその周囲の家族について妊孕性(妊娠する可能性)が高い年代は10~20代といわれているが、妊娠可能年齢とは、月経開始から閉経までの平均10代前半~50歳前後を指す。妊娠可能年齢の幅は非常に広いことを再認識することが大切である。また、妊婦や妊娠可能年齢の女性を守るためには、その周囲にいるパートナーや同居する家族のことも考慮する必要があり、その年齢層もまちまちである(同居する祖父母や親戚、兄弟など)。患者の家族構成や背景について、かかりつけ医として把握しておくことは、ワクチンプラクティスにおいて、非常に重要であることを強調したい。2)接種を推奨するタイミング筆者は下記のタイミングでルーチンワクチン(すべての人が免疫を持っておくと良いワクチン)について確認するようにしている。(1)何かしらのワクチン接種で受診時(とくに中高生のHPVワクチン、インフルエンザワクチンなど)(2)定期通院中の患者さんのヘルスメンテナンスとして(3)患者さんのライフステージが変わるタイミング(進学・就職/転職・結婚など)今後の課題・展望妊娠可能年齢の年代は受療行動が比較的低く、基礎疾患がない限りワクチン接種を推奨する機会が限られている。また、妊娠が成立すると、基礎疾患がない限り産科医のみのフォローとなるため、妊娠中に接種が推奨されるワクチンについての情報提供は産科医が頼りとなる。産科医や関連する医療従事者への啓発、学校などでの教育内容への組み込み、成人式などの節目のときに情報提供など、医療現場以外での啓発も重要であると考える。加えて、フェイクニュースやデマ情報が拡散されやすい世の中であり、妊婦や妊娠を考えている女性にとっても重大な誤解を招くリスクとなりうる。医療者が正しい情報源と情報を伝える重要性が高いため、信頼できる情報源の提示を心掛けたい。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)妊娠可能年齢の女性と妊婦のワクチン(こどもとおとなのワクチンサイト)妊娠に向けて知っておきたいワクチンのこと(日本産婦人科感染症学会)Pregnancy and Vaccination(CDC)参考文献・参考サイト1)Influenza in Pregnancy. Vol. 143, No.2, Nov 2023. ACOG2)産婦人科診療ガイドライン 産科編 2023. 日本産婦人科学会/日本産婦人科医会. 2023:59-62.3)経鼻弱毒生インフルエンザワクチン フルミスト点鼻液 添付文書4)経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会(2024年9月2日)5)Tdap vaccine for pregnant women CDC 6)海外の妊婦への百日咳含有ワクチン接種に関する情報(IASR Vol.40 p14-15:2019年1月号)7)感染症発生動向調査(IDWR) 感染症週報 2024年第51週(12月16日~12月22日):通巻第26巻第51号8)2023年第1週から第52週(*)までに 感染症サーベイランスシステムに報告された 百日咳患者のまとめ 国立感染症研究所 実地疫学研究センター 同感染症疫学センター 同細菌第二部 9)全数報告サーベイランスによる国内の百日咳報告患者の疫学(更新情報)2023年疫学週第1週~52週 2025年1月9日10)トリビック添付文書11)医薬品医療機器総合機構. アブリスボ筋注用添付文書(2025年1月9日アクセス)12)Kampmann B, et al. N Engl J Med. 2023;388:1451-1464.13)日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドライン Q&A(第2版)(2024年9月2日改訂)14)Kobayashi Y, et al. Pediatr Int. 2022;64:e14957.15)妊娠・授乳中の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種について 国立感染症成育医療センター16)COVID-19 Vaccination for Women Who Are Pregnant or Breastfeeding(CDC)17)山口ら. 日本におけるCOVID-19妊婦の現状~妊婦レジストリの解析結果(2023年1月17日付報告)講師紹介

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第255回 低酸素の高地で過ごしているようにする薬がミトコンドリア病を治療

低酸素の高地で過ごしているようにする薬がミトコンドリア病を治療酸素とヘモグロビンの親和性を高め、標高4,500mの高地で過ごしているかのようにする低分子薬HypoxyStatがマウスのミトコンドリア病を治療しました1,2)。酸素はヒトが生きていくのに不可欠で、200を超える生化学反応に携わります。しかし過剰な酸素は有害であり、ミトコンドリアの不調で生じるミトコンドリア病は酸素のそういった負の側面と関連します。ミトコンドリア病は全身の酸素消費を損なわせ、電子伝達系の複合体Iサブユニットを欠くNdufs4欠損マウスが示すように組織内の酸素を過剰にします。Ndufs4欠損マウスは小児ミトコンドリア病の中で最も一般的なリー症候群の病状を呈します。組織の酸素摂取が不得手で静脈酸素濃度の上昇を示すミトコンドリア病患者もNdufs4欠損マウスと同様の酸素過剰を示します。注目すべきことに、富士山より高い標高4,500mにいるときと同等の低酸素吸入を続けることでNdufs4欠損マウスの組織酸素過剰が減って寿命が延長し、病気が進行した時点での神経病変さえ回復させうることが示されています3)。また、ミトコンドリアのタンパク質フラタキシン欠損で生じるフリードライヒ運動失調症を模すマウスの運動障害が低酸素で緩和しています4)。酸素が少ない高地で人類が何世紀にもわたって住み続けていることから火を見るよりも明らかですが、ヒトが低酸素環境に容易に順応しうることが最近完了した第I相試験で確認されています5)。試験には健康な5人が参加し、動脈血酸素飽和度(SaO2)がおよそ85%になるまで徐々に低酸素環境に馴染んでもらうことが無理なく受け入れられました。リー症候群やフリードライヒ運動失調症のようなミトコンドリア病患者が高地に住まずとも、絶えず低酸素環境で過ごすことはやろうと思えばできなくもありません。たとえばアスリートが高地環境でのトレーニングを模すための低酸素構築システムが販売されています。しかし閉鎖空間で過ごさなければならず、生きづらさといったら半端ないでしょう。鼻カニューレやマスクを介して低酸素ガスを届ける携帯装置ならより自由に動けますが、動作不良で著しい低酸素になる恐れがあり、下手したら死んでしまうかもしれません。どうやら、ミトコンドリア病患者が常に低酸素の状態に居続けられるようにすることは今のところ大変な手間です。そこで米国・サンフランシスコのグラッドストーン研究所のチームは、体内組織を低酸素状態にするより安全で現実的な手段に取り組み、経口投与のHypoxyStatを生み出しました。HypoxyStatはヘモグロビンの酸素結合親和性を高め、S字型の酸素ヘモグロビン解離曲線(ODC)を左にずらして組織で酸素が解離し難くなるようにします。Ndufs4欠損マウスに明確な発病前からHypoxyStatを投与したところ、生存期間が3倍超も延び、体重が増え、体温も上がり、振る舞いや神経病変が改善しました。また、病気がだいぶ進行して広範囲に及ぶ神経病変、体温低下、行動異常が明確となる時点からの投与でも生存が有意に延長し、それら病変が緩和しました。HypoxyStatはミトコンドリア病のみならず低酸素環境が有益な脳や心血管の疾患の治療にも役立ちそうです。HypoxyStatを作ったチームの先立つ研究では、低酸素治療が有益かもしれない75を超える単一遺伝子起源疾患が見つかっています。低酸素順応は血糖値を下げるなどの全身代謝への効果があり、原因が生まれつき以外の代謝疾患にも有益かもしれません。高地に住むヒトに心血管疾患、肥満、糖尿病が少ないことは低酸素治療の有益さを物語っており、どうやら低酸素はまれな遺伝疾患から一般的な慢性疾患までを含む多種多様な疾患の治療法となりうるようです。さらには、ODCを左ではなく右にずらして組織に酸素がより届くようにするHypoxyStatとは真反対の作用の薬が今回の成果を手がかりにして生み出せるかもしれません2)。参考1)Blume SY, et al. Cell. 2025 Feb 12. [Epub ahead of print]2)Daily drug captures health benefits of high-altitude, low-oxygen living / Eurekalert 3)Ferrari M, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2017;114:E4241-E4250. 4)Ast T, et al. Cell. 2019;177:1507-1521.5)Berra L, et al. Respir Care. 2024;69:1400-1408.

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コロナ関連の小児急性脳症、他のウイルス関連脳症よりも重篤に/東京女子医大

 インフルエンザなどウイルス感染症に伴う小児の急性脳症は、欧米と比べて日本で多いことが知られている。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症においても、小児に重篤な急性脳症を引き起こすことがわかってきた。東京女子医科大学附属八千代医療センターの高梨 潤一氏、東京都医学総合研究所の葛西 真梨子氏らの研究チームは、BA.1/BA.2系統流行期およびBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症とそれ以外のウイルス関連脳症の臨床的違いを明らかにするために全国調査を行った。その結果、新型コロナ関連脳症は、他のウイルス関連脳症よりもきわめて重篤な脳症の頻度が高く、27%の患者が重篤な神経学的後遺症または死亡という転帰であったことが判明した。Journal of the Neurological Sciences誌2025年2月15日号に掲載。 本研究では、日本小児神経学会会員を対象としたWebアンケートを用い、2022年1~5月のBA.1/BA.2系統流行期と2022年6~11月のBA.5系統流行期において、新型コロナ関連脳症を発症した18歳未満の103例の患者を対象に臨床症状について調査した。 主な結果は以下のとおり。・全103例のうち、BA.1/BA.2系統流行期の患者は32例(0~14歳、中央値5歳)、BA.5系統流行期の患者は68例(0~15歳、中央値3歳)だった。103例中95例(92.2%)が新型コロナウイルスワクチンを接種していなかった。・オミクロン株BA.1/BA.2系統流行期とBA.5系統流行期で新型コロナ関連脳症の臨床症状に有意差は認められないものの、BA.5系統流行期は新型コロナ関連脳症の発症時にけいれん発作を起こす患者が多く、68例中50例において、発症時にけいれん発作が認められた。・急性脳症症候群のタイプとして、けいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)が最も多く、103例中27例(26.2%)を占めた。・103例中6例が劇症脳浮腫型脳症(AFCE)、8例が出血性ショック脳症症候群(HSES)という最重度の急性脳症症候群であり、他のウイルス関連脳症と比べて高頻度だった。AFCEおよびHSESの患者はすべて新型コロナワクチンを接種していなかった。・新型コロナ関連脳症の転帰は、完全回復が45例、軽度から中等度の神経学的後遺症は28例、重度の神経学的後遺症は17例、死亡は11例であった。新型コロナ関連脳症は他のウイルス関連脳症と比べて予後不良の転帰となる患者が多かった。 著者らは本結果について、「AFCEやHSESは脳浮腫が急速に進行し致死率が高い疾患である一方、発症がきわめてまれであるため診断法や治療法が十分に解明されていない。今後は、新型コロナ関連脳症の中でもこれら2つに注目し、詳細な臨床経過を把握し、迅速診断のためのバイオマーカーや有効な治療開発に向けてエビデンスを構築していきたい。小児に対する新型コロナワクチンの接種が急性脳症の予防につながるかどうかも確かめる必要がある」としている。

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第231回 高額療養費制度の行方、医療現場はどう変わる?

今年2月になって突然、飛び込んできた「高額療養制度の見直し」について多くの方はなぜそんなに急に? と疑念を抱かれたと思います。わが国はバブル景気の後の「失われた30年」の間、経済が停滞していた間も少子化と高齢人口の増加が続いてきました。リーマンショック後の安倍政権をきっかけに、日本経済も回復したとはいえ、2040年まで高齢化が続く中、増大する医療費や介護費のため、社会保障制度の持続可能性について検討が続いています。社会保障改革の経過の振り返り令和元(2019)年から開かれていた全世代型社会保障検討会議の最終報告からまとめられた「全世代型社会保障改革の方針」(令和2年)でも、少子化対策の子育て支援とともに、医療提供体制の改革や後期高齢者の自己負担割合の在り方について検討をすることが盛り込まれていました。これらについて政策の実際の発動は、新型コロナウイルス感染症の拡大で延期され、令和4年1月から開催された「全世代型社会保障構築会議」で、すべての世代が安心できる「全世代型社会保障制度」を目指し、働き方の変化を中心に据えながら、社会保障全般にわたる改革を検討しました。この会議の中で「給付と負担のバランス・現役世代の負担上昇の抑制」について、「高額療養費制度の見直しも併せてしっかり取り組んでいただきたい。厚生労働省からはそれを検討するという報告があったわけで、これはぜひ1つでも2つでもできるものをどんどん実現してほしい」という発言がなされていました(【第20回全世代型社会保障構築会議議事録】)。このような発言を反映してか、令和6年1月26日の社会保障審議会で「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」の中で、経済情勢に対応した患者負担などの見直し(高額療養費自己負担限度額の見直し/入院時の食費の基準の見直し)が入っていました。2月に入り厚労省の社会保障審議会医療保険部会の「令和7年8月~令和9年8月にかけて段階的に実施高額療養費制度の見直し」を行うという資料【高額療養費制度の見直しについて】をもとに国会の予算審議で大きく取り上げられたのをきっかけに大きな話題となりました。画像を拡大する当然ながら、高額療養費の対象となるがんや難病の患者さんの団体から反対の声が上がり、2月7日に厚労省で鹿沼 均保険局長と患者団体が面会を行い、いったん凍結を求められました。厚労省側から改革案を部分修正する意向を示されたものの、患者団体はこれを反対するなどしばらく予算審議を進めていく中、予定通り令和7年8月からの引き上げは難しくなっています。Financial toxicityがクローズアップされている高額療養費制度はわが国の保険診療のセーフティネットとして必要なもので、これが十分に機能しているため患者さんは安心して高額な抗がん剤や先進的な治療を受けることができますが、一方で、諸外国ではこのようなシステムがないため、すでに2000年代になって画期的な新薬の承認とともに問題となっていました。高額療養費制度の見直しが必要になったのは高額な新薬の登場です。近年登場する抗がん剤は非常に高額なため、公的な保険で十分にカバーできない問題が諸外国で話題になっていました。筆者も以前、製薬企業で勤務していたときに有害事象として報告された用語に“financial toxicity”という言葉を目にしたことがあります。Financial Toxicity(ファイナンシャル・トキシシティ:経済毒性)とは、国際医薬用語集にも掲載されている用語で、医療費による経済的負担が患者さんや家族に与える悪影響を指します。高額な新薬によって医療費が増大するのを抑制するため、欧米諸国では保険制度で新薬については、適応とする患者さんの症状によっては処方制限するなどしてアクセス制限をしています。新薬が使えない場合は、患者団体がメーカー側に働きかけて医薬品価格を引き下げさせたり、欧州では医療経済学者を中心に費用対効果を審査して、薬価と効果の面で医薬品を経済評価するようになっており、新薬として承認されても保険償還について別個で審査してアクセス制限をしています。実際にイギリスでは2009年から、新規の抗がん剤への患者アクセスを改善するためにNICE(国立保健医療研究所)によって「非推奨」とされた抗がん剤を中心に対象とする薬剤を評価後にリスト収載し、それらに対する費用をCDF(Cancer Drugs Fund:英国抗がん剤基金)から拠出してきましたが、財政負担の著しい増加に対して、2016年からは新CDFを含むNICEの抗がん剤評価に関する新スキームの運用が開始され、新薬として承認を取得するすべての新規抗がん剤は、NICEにより評価され、「推奨」とされた場合には、英国国民保健サービス(NHS)から償還を受けることができますが、「非推奨」の場合には、Individual Funding Request(IFR)による1件ごとの審議となり、使用は大きく制限されています。わが国でも2014年に承認されたニボルマブ(商品名:オプジーボ)をきっかけに、主に高額な薬価をめぐって国内で大きく取り上げられました。ニボルマブの承認時の償還薬価は100mg1瓶72万8,029円と高額でしたが、その後、適応症の拡大と処方患者の増加で急速に売り上げが伸びたため、厚労省が新たに設けた特例拡大再算定などの薬価引き下げ策で、新薬承認からわずか4年で75%も安くなり【「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価収載時から76%安く】、その後も薬価は低下し、現在は当初の価格から13万1,811円(2024年4月以降)と18.1%の価格になっています。過剰な薬価抑制策にはネガティブな側面もわが国では承認された新薬の保険償還の価格を引き下げることはよくありますが、国際的にみて、新薬の価格は特許がある間は開発費を回収して、さらに画期的な新薬開発への投資を行う原資を得るために保証されているのが通常で、わが国のように日本発の新薬ですら大きく価格を抑制することは、新薬を開発する製薬会社からみて市場としては魅力的には映りません。さらに日本では薬価制度で対応しつつ、同時に新薬の承認・審査するPMDA(医薬品医療機器総合機構)は「新規作用機序を有する革新的な医薬品については、最新の科学的見地に基づく最適な使用を推進する観点から、承認に係る審査と並行して最適使用推進ガイドラインを作成し、当該医薬品の使用に係る患者及び医療機関等の要件、考え方及び留意事項を示すこととしています」とあり、また、「症例ごとに適切な処方を求めるようになっています」として、処方する専門医に対して、学会や製薬企業から情報提供がなされるようになっています。現実問題として、わが国では以前、ドラッグラグ(承認の遅れ)が目立っていましたが、薬事審査に当たってのさまざまな障壁(日本人データの要求など)が業界側や患者側からの働きかけで短縮していました。一方、最近問題となっているのはドラッグロスと言って、そもそも日本市場に参入がないことです。これについては企業側の努力不足もあるとは思いますが、大手製薬企業としては日本の薬価制度がハードルになっている以外にも、近年ベンチャー創薬によって開発されているオーファンドラッグ(希少薬品)のようにニーズはあるが売り上げが大きくない医薬品の場合、企業側の体力がないため日本での薬事承認申請まで辿り着けないなどの問題も発生しています。わが国もこのままでは新規医薬品の開発力が低下してしまうのを避けるため、日本人データを必ずしも必須としないなど条件緩和を進めていますが、医療分野でのイノベーションに見合うだけの収益が得られないため、日本の製薬企業でも海外での開発や販売を優先するケースが近年目立っています。国民の生活にかかわる政策決定には透明化も必要わが国の製薬市場が欧州やアメリカより小さいながらも、中小の製薬企業がそれぞれ得意分野で活躍して開発競争を行ってきましたが、21世紀に入った今、低分子薬を中心とした生活習慣病の開発競争から、抗がん剤など中分子~高分子の医薬品に競争分野が変化し、より高い薬価の医薬品を開発する必要があります。薬価引き下げで多くの製薬企業は特許切れの長期収載品による安定した収益を失い、より新薬開発競争を国際的に進めねばならず厳しい状態が続いています。今回の見直しのように薬価は高いけれど、効果の高い新薬を使用して治療を受けたいという国民の声に政府は応える必要があり、薬価引き下げではなく、患者自己負担を増やすことで一定のバランスを得ようとしたことはある意味正しいと考えます。しかし、高薬価の新薬の開発は続いており、続々と新薬が承認されています。ニボルマブのような強制的な薬価引き下げを続けることは、国際的にみても日本の製薬市場の縮小、ひいてはわが国の制約産業の衰退を招く可能性もあり、薬価引き下げだけでは持続可能性は乏しいと考えます。医療費用の増加は高齢化もあり、やむを得ない事情があり、経済成長に見合った形であれば社会保障費の経済的な負担増大にはつながらないのですが、今回のように患者数の増加や治療費の増加をどう抑えるかは国の中でも結論がでておらず、2024年の国政選挙でもこの話題はまったく討論されず、話の持って行き方にかなり問題があったと感じています。高額療養費の引き上げについて、厚労省の審議会では「既定路線」であったものの、患者さんやその家族にとって貧困を理由に治療が中断することは、国民のコンセンサスを得ていたとは考えにくいです。今後も増え続けるキャンサーサバイバーの患者さんのニーズに応えるためには、財源を用意する必要があります。政府の中できちんと討論した上で、患者自己負担をなるべく広く薄くなるのか、それとも患者自己負担を一定の割合で求めるか、すでに問題となっている多重受診の患者さんの自己負担や軽症疾患のビタミン剤や湿布をOTC化の促進で医療費を抑制した分を回すか、あるいは別のタバコ税や酒税のような形で財源を調達するか、何らかの形で国民に問う必要があったと考えています。すでに津川 友介氏のような一部のオピニオンリーダーからは解決策を提示する意見【「国民の健康を犠牲にすることなく、2.3~7.3兆円の医療費削減が実現可能な『5つの医療改革』」】も出ていますが、他にもさまざまな方策を考えるには絶好のタイミングだと思います。今回のように国民に知らされないまま、審議会という密室で大事な政策が決められるようなやり方を日本人は好みません。わが国は民主主義国家ですから、今年の夏から患者さんの高額療養費を引き上げるのであれば、参議院議員選挙で各政党から意見を出してもらい、どういう形をとるかを決めるべき時期かと考えています。参考1)高額療養費制度の見直しについて(厚労省)2)全世代型社会保障改革の方針[令和2年](同)3)社会保障審議会(同)4)「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」、「こども未来戦略」について(同)5)Financial Toxicityおよびがん治療[PDQ](がん情報サイト)6)「オプジーボ」続く受難 用量変更でまたも大幅引き下げ…薬価 収載時から76%安く(Answers News)7)最適使用推進ガイドライン(PMDA)8)レカネマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインについて(日本精神神経学会)

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事例018 外来感染対策向上加算の算定【斬らレセプト シーズン4】

解説2025年4月から急性呼吸器感染症(ARI:風邪症候群、急性上気道炎など)が感染症法上の5類に位置付けられて、定点サーベイランスの対象となるとのニュースが報道されました。定点サーベイランス対象の医療機関数は増やさないとされていますが、受診データの作成が必要になるのか、初診料または再診料の注の「外来感染対策向上加算」の届出をしたほうが良いのかと相談を受ける事例が増えています。日常的に感染防護体制をとられて発熱外来を提供しているにもかかわらず、「外来感染対策向上加算」を算定されていない診療所もみかけます。また、「届出要件がわからない」との声も聞きます。この加算には届出た後、施設基準維持にかかる研修会などの出席や複数の記録が継続的に必要になるというデメリットがあります。メリットは、新しい感染対策や地域の感染症対応状況などの情報が手に入りやすくなります。熱発に対応されている診療所にお勧めです。届出には「新型コロナウイルス感染症をはじめとする発熱感染症に適切に対応する」と申し出て、第二種協定指定医療機関(発熱外来の実施)の指定を受けることが必須となります。この指定は、診療所であれば「発熱外来の(適切な)実施」のみで受けられます。現状の発熱患者対応とほぼ同じように、通常患者との動線の分離(時間差、駐車場車内待機など)があれば認められています。施設基準の届出は様式1の4を使用します。感染対策にかかる必要書類の見本は地域医師会に整備されていますし、連携先も相談いただけます。いまだ要件解釈が揺れているところもありますので、届出前には必ず所在地医師会と都道府県感染症対策課にメールでご相談を願います。そして、相談をいただくと届出用の資料が届きます。次回は本加算の届出書類記載にかかる留意事項をお届けします。

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抱腹絶倒!? “クセ強め”なお見合い相手たち〜第1弾【アラサー女医の婚活カルテ】第8回

アラサー内科医のこん野かつ美です☆前回は、結婚相談所(以下、相談所)でのお見合いに望む際、筆者なりに心掛けていたことについて書きました。今回は、筆者がお見合いで遭遇した、“クセ強め”な男性の皆さんを振り返ってみます。肩の力を抜いて、読み物としてお楽しみいただけると幸いです。(※個人の特定を防ぐため、大筋に影響しない程度の脚色を加えています)“瓶底メガネ”の丸尾さん1人目は、丸尾さん(仮名)です。32歳、会社員。収入、学歴、居住地などが私の希望条件と合っていたことから、お見合いの申し込みをお受けしました。写真を見ると、取り立てて特徴のない、善良そうなお顔立ちでした。プロフィールの中で、とくに私の目を引いたのは丸尾さんの学歴でした。某有名中高一貫校から一流の大学へ進んでおり、私が医師であることに対して、変に身構えることはなさそうな気がしました。話が合うといいな、と期待が膨らみました。しかし……「こん野さんですか?」当日、私より遅く待ち合わせ場所に現れたご本人を目にして、衝撃を受けました。分厚いレンズのメガネを掛け、さらにその上から、花粉症対策なのかゴーグルまで掛けていて、お顔を見通すのが難しいほどだったのです(そういう訳で、瓶底メガネがトレードマークの『ちびまる子ちゃん』のキャラクターにちなんで、丸尾さんと命名しました)。しかも、髪は伸ばしっぱなしのクセ毛で、使い込まれたジャンパーに、毛玉の目立つセーターという服装でした。清潔感という言葉とは対極です。(見た目はちょっとアレだけど、中身はいい人かもしれないし……)早々に回れ右して帰りたくなった気持ちにフタをして、お見合いのためのカフェに入りました。席に着くなり話し始めた丸尾さん。その内容がまたぶっ飛んでいたのです。「3年間同棲していた彼女と先月別れたばかりなんです。別れた理由は……」初対面でいきなり、元交際相手との生々しいエピソードを延々と聞かされた私は、いったいどういう顔をしていれば良かったのでしょうか…。「お見合いは1時間を目安に」というルールがあったので耐えましたが、人生で最も長く感じた1時間だったかもしれません。丸尾さんは、終始メガネもゴーグルも着けたままだったので、素顔はついぞ拝めずじまいでした。ちなみに、相談所のお見合いでは“お茶代は男性負担”というやや前時代的なルールがあるのですが、丸尾さんとのお見合いは10円単位の割り勘でした(「6円、負けときますね!」と言われました)。お別れしてすぐに、相談所にお断りの連絡を入れたのは言うまでもありません。いろいろな意味で“ハジケ過ぎ”なコーさん2人目はコーさん(仮名)です。35歳、年収1,000万超(私の住む地方ではかなり高いほうです)、肩書は「会社経営者」となっていました。プロフィール写真は、ビジネススーツに黒髪をビシッとセットした、硬派な雰囲気でした。しかし、お見合い当日、待ち合わせ場所にコーさんらしき人はなかなか姿を見せません。私のほかにその場にいたのは、DJ KOOさんのような金髪の男性ただ1人。腹回りが少々ぽっちゃり気味なため、茶色いジャケットのボタンが弾け飛ばんばかりになっています。あれ?まさか……「こん野さんですか?」写真とかなり印象の違うその方こそが、コーさんご本人だったのです(DJ KOOの「KOO」からとって、「コー」さんです)!私の職業について、「いやぁ、お姉さん、この地方の女性会員の中で、年収ぶっちぎりトップだったからさぁ。聞く前から、絶対医者だろって思っていたよ」と、なんともまあフランクな感想を頂きました。お見合い相手から「お姉さん」呼ばわりされたのは初めてでした(笑)。「お姉さん、いいね! お姉さんみたいな人と結婚したら、人生もっと楽しめそう!」ご縁はありませんでしたが、刺激的な1時間で、これも人生経験と思えば、なかなか面白かったです。番外編:個性的過ぎるプロフィールの2人番外編として、お見合いはしなかったものの印象に残ったお相手を2人ご紹介して、締めくくりたいと思います。番外編その1は、某県在住の開業医の先生です。おそらく私のプロフィールから、同業者であることを察して申し込んでくださったのだろうと思うのですが……なんと御年60代。実に2倍以上の年齢差があったので、丁重にお断りさせていただきました。近隣の県にお住まいだったので、もしかしたら今後いつか、患者さんを紹介したりされたりすることがあるかもしれません。番外編その2は、30代のイケメンサラリーマン。年収や学歴など申し分のないプロフィールをお持ちでしたが、自己PRの最後の1文が強烈でした。「ワクチンを一度も打っていない、清らかな女性と巡り合いたいです」これを読んで、プロフィールページをそっと閉じたのは言うまでもありません。世の中には、多種多様な価値観をお持ちの方がいらっしゃるものですね。お見合いに真の“ハズレ”なし以上、相談所での活動で出会った、パンチの効いた男性の皆さんをご紹介しました。ただ、こんなふうに一見“ハズレ”にみえるお見合いも、実は決して無駄ではない……と、思うようにしていました。(私は、こういう男性とは合わないんだな)ということが浮き彫りになるので、自分が求める結婚相手像を改めて確認することができたからです。つくづく、面白い経験をさせてもらったなぁと思います。なお、ここに挙げた“クセ強め”男性陣はほんの一握りで、大多数は礼儀正しい方々だったことを付け加えておきます。次回も引き続き、印象深かったお見合い相手を振り返りたいと思います。お楽しみに。

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テレビドラマ「説得」【親が輸血だめなら子供もだめ!?(医療ネグレクト)】Part 1

皆さんは、宗教上の理由で、輸血を拒む人をどう思いますか? 輸血自体にウイルス感染症などのリスクもあるため、たとえ輸血しなければ死んでしまうとしても、最終的には患者の自己決定権が優先されます。しかし、親が自分の子供への輸血を拒んでいる場合はどうでしょうか? そして、輸血しなければ死んでしまう場合はどうでしょうか?今回は、医療ネグレクトをテーマに、かつてのテレビドラマ「説得」を取り上げます。このドラマは、実際の事件をドラマ化しており、そのやり取りにはリアリティがあります。そして、この輸血拒否に対しての学会の対応ガイドラインと2023年までに出された厚労省の指針もご紹介します。さらに、輸血をどうするかという医療倫理としてだけでなく、子供にはどうするかという「子育て倫理」としても一緒に考えてみましょう。なんで輸血がだめなの?主人公は荒木。脱サラして小さな書店を妻と一緒に営んでいます。3人の子供にも恵まれ、ごく普通の家庭生活を送っていました。そんななか、ある日、2番目の子供の健が交通事故に遭います。荒木夫妻は医師から複雑骨折をして出血多量であるため、輸血して手術をすれば助かると言われます。ところが、荒木夫妻は輸血を頑なに拒みます。荒木は「宗教上の問題です」「私たちの宗教は輸血を禁じているんです」と説明します。代わる代わるに医師たちが説得を試みるのですが、荒木夫妻は一貫して「輸血しないで手術してください」と懇願するのです。別室での待機中、荒木夫妻は聖書の教えを唱え始めます。「あらゆる肉なるものの魂は、その血であり、魂がその内にあるから、いかなる肉なるものの血も食べてはならない。すべて、それを食べるものは断たれる」と。そして、妻が「私たちは委ねたんじゃない。あなたも私も健も、神の教えに従うって。それでいいって」と言います。荒木が「だけど、健にもしものことがあったら?」と戸惑っていると、妻は「わかってくれると思う、あの子は」と言い切ります。そしてとうとう救急車で運ばれてから数時間後、健は、目の前に輸血の点滴が準備されている手術台の上で、輸血されることのないまま、手術されることのないまま、息を引き取ります。荒木夫妻が悲しみに暮れていると、中学生の長女が駆けつけてきて、「健ちゃんかわいそうよ。大丈夫よ。健ちゃんは天国に行って必ず復活するんだもの。永遠の命を授かるんだもの」とたしなめるのでした。輸血拒否の論理は、血=命である。肉を食べることはできるが、その血は地に注いで神に返さなければならない。血を食べてしまうと、神から見放されてしまい、死んで天国に行けなくなるということです。そして、輸血も血を食べることになり禁じられます。ただし、自己血輸血や、主要成分ではないアルブミンや免疫グロブリンは受け入れる信者もいて、解釈が分かれています1)。それにしても、苦悩しながらも自分の子供の命よりも信仰を優先する言動には、あまりにも不合理に思われます。一方で、説得する医師の1人は「人間は信仰のためには死にもするし、殺しもするんです。今世界中で宗教上の違いから、どれだけの紛争や戦争が起こっているか」と述べ、理解を示そうとします。このセリフから、信仰とはそもそも不合理なものであり、それを文化的に受け入れられているかどうかの問題であることがわかります。そして、文化的に受け入れられない場合、精神医学的には妄想と呼ばれます。つまり、信仰と妄想は紙一重であり、表裏一体であることもわかります。実際の画像研究においても、信仰(宗教体験)と妄想状態(統合失調症)は、同じ脳領域が過活動になっていることがわかっています2)。なお、信仰と妄想の類似性の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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テレビドラマ「説得」【親が輸血だめなら子供もだめ!?(医療ネグレクト)】Part 3

輸血拒否に医療はどうすればいいの?健が死んで1ヵ月後、担当していた医師が、荒木に再会し、言います。「心臓外科が専門なんですが、手術しても社会に復帰できない子がたくさんいるんです。宗教的に言えば、神がそういうふうにつくったとしか…それを手術して、神の意思に反してるんじゃないかって気がする時も。そう言いながらも、やはり今手術しないと死んでしまうと言えば、やはり…あの直後、うちの病院では、今後(子供には)承諾が取れなくても、医師の判断で輸血をするという決定をしました」と。実際に、2008年に日本輸血・細胞治療学会と日本小児科学会は合同でガイドラインを出しました。そして、2022年と2023年に厚労省は、このガイドラインを踏まえて、宗教的虐待と医療ネグレクトに関する指針を出しました3,4)。なお、医療ネグレクトとは、医師が必要と判断した医療を親が子供に受けさせないことです。このガイドラインでは、年齢を3つの時期に区切り、場合分けをしています。まず、18歳以上は当然ながら、本人の意思が尊重されます。逆に、14歳以下は、拒否が親や本人にあったとしても、なるべく輸血しないとしつつも、最終的には輸血は可能になります。注目すべきは、15歳から17歳の年齢です。本人と親がどちらも拒否した場合のみ、輸血は不可になります。たとえば、長女は「教えを守れば天国に行ける」と確信していたので、中3で15歳になっているとすると、彼女に輸血することはできません。逆に、どちらかしか拒否しなかった場合は、なるべく輸血しないとしつつも、最終的には輸血は可能になります。なお、15歳で分けている理由は、15歳が民法で遺言の効力が生まれる年齢と定められているからです。また、知的障害などによって医療に関する判断能力がない場合は、14歳以下と同じく、輸血は可能になります。さらに、輸血を含めて治療が親によって阻害される場合は、児童相談所に虐待通告し、児童相談所で一時保護のうえ、家庭裁判所による親権停止の審判を受けて、治療を行うことができます。緊急性がある場合は、審判確定までの間に権利を保護する暫定的な処分(保全処分)を申し立てることで、すぐに効力が発生する措置がとられます。実際に、2021年に親権停止が認められたのは107件で、医療ネグレクトが原因とされるものは21件でした1)。また、輸血拒否をする教団(「エホバの証人」)の広報によると、2017年から2022年の5年間で、親権停止などの法的措置がとられたのは13件でした1)。「説得」とは?このドラマは、親の信仰によって子供の命が救えなくなるという、宗教と医療の衝突を生々しく描いていました。そして、信仰とは、妄想と同じく不合理で訂正不能であるため、いくら理屈をこねたり情に訴えたりして説得しようとしても、納得が得られないものであることもわかりました。学会のガイドラインや厚労省の指針のおかげで、親の信仰によって子供の命が救えなくなることはなくなりました。しかし、まだ問題が残っています。それは、命にかかわる急性疾患とは違い、すぐに命にかかわらない慢性疾患や、担当した医師が言っていたように手術しても必ずしも治るとは限らない疾患についてです。たとえば、実際に、子供が精神的に不調でも親が偏見やいわゆる根性論から児童精神科を受診させないケースは、時々見受けられます。このような場合は、司法が親権停止の判断を出すのが難しくなります。つまり、どこまでが医療ネグレクトでどこまでが親の裁量とするかという線引きの問題がまだ残っています。これは、医療を含む子育て全般にも言えることです。この線引きのために、信仰を押し付けるのはもっての外ですが、経験則や自分の思い入れ、思い込みではなく、アカデミックな視点が必要です。それは何より、子供の不利益にならないようにするためだからです。これからは、医療だけでなく、子育てにも倫理観が必要な時代になってきます。これは、医療倫理を超えて、子育てのあり方にも広がる「子育て倫理」と呼べるでしょう。なお、今回は治療をさせない親がテーマでしたが、逆に治療をさせすぎる親については、関連記事3をご覧ください。1)宗教と子供p.106、p.118、p.122、pp.124-125、pp.149-153:毎日新聞取材班編、明石書店、20242)宗教の起源p.246:ロビン・ダンバー、白揚社、20233)宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A:厚生労働省子供家庭局長通知、20224)宗教の信仰等を背景とする医療ネグレクトが疑われる事案への対応について:厚生労働省子供家庭局長、2023虐待についての関連記事教育虐待そして父になる(続編・その1)【英才教育で親がハマる「罠」とは?(教育虐待)】教育ネグレクト映画「かがみの孤城」(その2)【実は好きなことをさせるだけじゃだめだったの!?(不登校へのペアレントトレーニング)】Part 1<< 前のページへ■関連記事映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その1)【宗教体験と幻覚妄想は表裏一体!?(統合失調症の二面性)】Part 1Mother(続編)【虐待】映画「ラン」(前編)【なんで子供を病気にさせたがるの?(代理ミュンヒハウゼン症候群)】Part 1

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