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喫煙、1日30分以上の運動など、健康的な生活習慣が多い女性ほど心臓突然死リスク低下

女性における非喫煙、1日30分以上の運動、BMI<25といった健康的な生活習慣について、実行項目が多い人ほど心臓突然死リスクが低下することが、大規模前向きコホート試験の結果、示された。米国・ブリガム&ウィメンズ病院不整脈予防センターのStephanie E. Chiuve氏らが、8万人超の女性看護師を対象とするNurses’ Health Studyのデータを分析し明らかにしたもので、JAMA誌2011年7月6日号で発表した。非喫煙、BMI、運動、地中海式ダイエット、いずれも心臓突然死の独立リスク低減因子研究グループは、Nurses’ Health Studyの被験者に対し、1984年6月から生活習慣に関する調査を行い、2010年6月までの26年間追跡し、心臓突然死リスクとの関連を調べた。健康的な低リスク生活習慣の定義は、非喫煙、BMI<25、1日30分以上の運動、地中海式ダイエット(野菜、果物、ナッツ、豆、全粒穀物、魚、適度なアルコール)スコア上位40%の4点とし、十分な回答が得られた8万1,722人について、結果を分析した。被験者の試験開始時点の平均年齢は50~51歳だった。結果、追跡期間中の心臓突然死は321人で、発症時の平均年齢は72(標準偏差:8)歳だった。また定義した低リスク生活習慣の4点いずれもが、心臓突然死の独立リスク低減因子であることが認められた。心臓突然死リスク、低リスク生活習慣実行1点で0.54倍に、4点では0.08倍に低リスク生活習慣にまったく該当しない人の心臓突然死の絶対リスクは22人/10万人・年、同習慣1点の人は17人/10万人・年、同習慣2点では18人/10万人・年、同習慣3点では13人10万人・年、同習慣4点すべてを行う人は16人/10万人・年だった。低リスク生活習慣にまったく該当しない人に対する、同習慣を1点行う人の、心臓突然死発症に関する多変量相対リスクは0.54(95%信頼区間:0.34~0.86)とおよそ半分近くに減少し、また、同習慣2点の人では0.41(同:0.25~0.65)、同習慣3点では0.33(同:0.20~0.54)と準じ低下し、同習慣4点の人では0.08(同:0.03~0.23)と大幅に低下が認められた。低リスク生活習慣の死亡に対する寄与を試算した結果、被験者全員が4点すべてを行っていた場合は心臓突然死の81%が予防可能だったと試算され、冠動脈心疾患が未診断の人では79%が予防可能と試算された。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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携帯電話メールへの禁煙支援メッセージ自動送信は禁煙の継続に有効

携帯電話メールへの禁煙支援メッセージの自動送信による禁煙支援プログラムは6ヵ月後の禁煙継続率を有意に改善することが、イギリス・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のCaroline Free氏らが実施したtxt2stop試験で示された。タバコは予防可能な死亡の主要原因であり、喫煙が原因の死亡は毎年、世界で500万人以上に上ると推算されている。イギリスでは喫煙者の3分の2が禁煙の意思を表明しており、禁煙支援の効果的な介入法の確立が急務とされる。携帯電話のメッセージ送信機能を利用した禁煙支援は、短期的には自己申告による禁煙を増加させることが示されている。Lancet誌2011年7月2日号(オンライン版2011年6月30日号)掲載の報告。禁煙支援メッセージと行動変容支援から成るプログラムの禁煙継続効果を評価txt2stop試験の研究グループは、携帯電話のメール機能による禁煙支援メッセージの自動送信が禁煙の継続に及ぼす効果を評価する単盲検無作為化試験を実施した。2007年10月15日~2009年6月1日までに、16歳以上の禁煙の意思のある喫煙者で、携帯電話の所持者が登録され、禁煙の動機付けを促すメッセージと行動変容の支援から成る禁煙支援プログラム(txt2stop)を受ける群、あるいは禁煙とは無関係のメッセージを受信する群(対照群)に無作為に割り付けられた。アウトカムの評価を行う者には介入割り付け情報は知らされなかった。主要評価項目は、自己申告による禁煙の継続とし、6ヵ月の時点で生化学的検査(ニコチンの代謝産物であるコチニンの唾液中濃度を測定)による確認が行われた。6ヵ月禁煙継続率:txt2stop群10.7%、対照群4.9%適格基準を満たした1万1,914人のうち5,800人が無作為化の対象となり、介入群に2,915人が、対照群には2,885人が割り付けられた。重複して無作為化された8人を除く、それぞれ2,911人、2,881人が解析の対象となった。主要評価項目の評価は5,524人(95%)で可能であった。6ヵ月の時点で生化学的検査によって禁煙の継続が確認されたのは、txt2stop群が10.7%と、対照群の4.9%に比べ2倍以上に達していた(相対リスク:2.20、95%信頼区間:1.80~2.68、p<0.0001)。フォローアップができなかった者を喫煙者とした場合の禁煙継続率は、txt2stop群が9%(268/2,911人)、対照群は4%(124/2,881人)で(相対リスク:2.14、95%信頼区間:1.74~2.63、p<0.0001)、これらの集団を除外した場合はそれぞれ10%(268/2,735人)、4%(124/2,789人)であり(相対リスク:2.20、95%信頼区間:1.79~2.71、p<0.0001)、双方ともにtxt2stop群で有意に良好な結果が得られた。事前に規定されたいずれのサブグループの解析でも不均一性は認められず、年齢35歳以上/35歳未満、ファガストローム・ニコチン依存度指数≦5/>5、無作為化割り付け時の禁煙製品・サービスの使用の有無にかかわらず、txt2stopは有効であった。著者は、「txt2stop禁煙支援プログラムは6ヵ月後の禁煙継続率を有意に改善したことから、禁煙サービスに加えることを考慮すべき」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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長期的ダイエットを成功または失敗させる食事、生活習慣とは?

体重安定には摂取カロリーと消費カロリーのバランスを要することから、長期的な体重増加を予防するには、「食事量を減らし、運動量を増やす」というアドバイスが単純明快な戦略にみえる。これに対して、米国・ブリガム&ウィメンズ病院循環器部門のDariush Mozaffarian氏らは、「特定の食事や生活習慣が成功の可否に影響する可能性がある」として、食事や生活習慣の詳細と体重増加との関係を調査した。NEJM誌2011年6月23日号掲載より。異なる3つのコホートで前向き研究研究グループは、12万877例の米国人男女(ベースラインで慢性疾患も肥満もない)が参加した3つの独立したコホート集団を対象に前向き研究を実施した。追跡調査期間はそれぞれ、1986~2006年、1991~2003年、1986~2006年だった。生活習慣の各因子と体重変化との関係は、年齢、各調査期間のベースラインBMI、すべての生活習慣を同時に多変量補正して、4年間隔で評価を行った。コホート特異的、性特異的な結果は類似しており、分散逆数重み付けメタ解析を用いて統合した。「カウチポテト」はやはり体重増加をもたらす?4年の間に、参加者の体重は平均3.35 lb*(5~95パーセンタイル:-4.1~12.4)増加した。食品ごとの1日の摂取量増加と4年間の体重変化をみてみると、ポテトチップス(1.69 lb)、ジャガイモ(1.28 lb)、加糖飲料(1.00 lb)、未加工の赤肉(0.95 lb)、加工肉(0.93 lb)については正の相関が最も強く認められ、野菜(-0.22 lb)、全粒穀物(-0.37 lb)、果物(-0.49 lb)、ナッツ(-0.57 lb)、ヨーグルト(-0.82 lb)では逆相関が認められた(それぞれの比較のP<0.005)。食事変化の集積は、体重変化の差と大きく関係していた(食事変化の五分位範囲にわたる体重変化は3.93 lb)。その他、身体活動(五分位範囲で-1.76 lb)、アルコール摂取(1日1杯につき0.41 lb)、喫煙(新規禁煙者5.17 lb、過去の喫煙者0.14 lb)、睡眠(6時間未満と8時間超で体重増加)、テレビ視聴(1日1時間につき0.31lb)などの生活習慣の各因子にも、体重変化と独立した関連が認められた(P

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抗悪性腫瘍剤 クリゾチニブ

世界初の未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)阻害剤であるクリゾチニブが、ALK融合遺伝子陽性の進行非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬として、米国FDAに新薬承認申請し、2011年5月受理され、優先審査対象に指定された。また、わが国でも厚生労働省への申請が行われ、外資系製薬企業では初の日米新薬承認同時申請となった。NSCLCの現状と課題NSCLC患者の約75%は診断時に進行や転移が認められ、その時点からの5年生存率は、わずか6%とされている1)。進行NSCLCに対する現在の標準治療の奏効率は15~35%程度である2)。手術不能の進行NSCLCは完治が困難であり、予後が悪いのが現状である。この状況はここ10年において、さほど大きく変わっていない。ALK融合遺伝子陽性の進行NSCLCに新たな可能性ALK遺伝子は、NSCLCの腫瘍発現における重要な遺伝子であると考えられている3)。2007年、自治医科大学教授の間野博行氏によって、肺がんにおけるALK融合遺伝子の存在が初めて報告されたが、NSCLC患者の約3~5%がALK融合遺伝子陽性であるとされている。こうした状況を背景に、ファイザー社はALK融合遺伝子陽性患者にフォーカスした世界初のALK阻害剤となる経口製剤クリゾチニブを開発した4)。ターゲット遺伝子を先に特定し、そのターゲット遺伝子を持つ患者を対象に薬剤開発を行ったのは、肺がん領域ではクリゾチニブが最初の薬剤となる。また、クリゾチニブは経口製剤であるため、患者にとって使いやすい薬剤といえる。高い奏効率、高い忍容性2011年にASCOで発表されたデータによると、ALK融合遺伝子陽性の進行NSCLC患者116例にクリゾチニブを連続経口投与したところ、完全奏効(CR)が2%(2例)、部分奏効(PR)が59%(69例)、不変 (SD)6週間以上が27%(31例)であり、奏効率(CR+PR)は61%、臨床的ベネフィットが見られた割合(CR+PR+SD)は88%に上った5)。大半の患者は、すでに他治療を受けており、そのうち44%の患者は3レジメン以上の治療を受けていた。また、最も多かった副作用は、視覚障害、悪心、下痢、嘔吐などであり、程度は、軽度(グレード1または2)のものが多かった。ALK融合遺伝子陽性の進行NSCLC患者の特徴現段階ではALK融合遺伝子陽性の進行NSCLC患者の特徴は明確ではないが、傾向としては、腺がん患者であること、喫煙歴がない、もしくはライトスモーカー患者が比較的多いことが挙げられる。また、患者の年齢層としては、高齢者だけではなく、若い年齢層の患者が多いこともその特徴といえる。まとめ腫瘍発現における重要な遺伝子であるALK遺伝子をターゲットとし、奏効率が高く、忍容性が高いという本剤の特徴は、患者の身体的負担の軽減など、多くのメリットにつながり、今後、ALK融合遺伝子陽性の進行NSCLC治療においてパラダイムシフトをもたらすことが期待される。

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前立腺がん患者、現喫煙者の再発率、死亡率、喫煙未経験者と比べ増大

前立腺がんで現喫煙者は、喫煙未経験者に比べ、再発率と死亡率(全死亡率、心血管疾患死亡率、前立腺がんによる死亡率)がいずれも増大することが明らかにされた。現喫煙者は喫煙未経験者より、前立腺がんによる死亡率は約1.6倍、心血管疾患死亡率や全死亡率は、いずれも2倍超に増大するという。米国・ハーバード大学公衆衛生校のStacey A. Kenfield氏らが、全米の男性医療従事者を対象とした前向きコホート疫学研究「Health Professionals Follow-Up Study(HPFS)」から、前立腺がんの診断を受けた5,366人超について分析を行い明らかにしたもので、JAMA誌2011年6月22・29日号で発表した。臨床ステージT1~T3の現喫煙者、前立腺がんによる死亡は喫煙未経験者の1.8倍HPFSは、1986年までに郵送質問票に回答した男性医療従事者5万1,529人を対象とする前向きコホート試験。Kenfield氏らは、その中から1986~2006年に前立腺がんの診断を受けた5,366人について前向き観察研究を行った。主要評価項目は、全死亡、前立腺がん特異的死亡、心血管疾患死亡と生化学的再発のハザード比とした。追跡期間中の死亡は1,630人で、前立腺がんによる死亡は524人(32%)、心血管疾患による死亡は416人(26%)だった。また、生化学的に再発が認められたのは、878人だった。補正前の前立腺がんによる死亡率は、喫煙未経験者が9.6人/1000人・年に対し、現喫煙者は15.3人/1000人・年、全死亡率はそれぞれ27.3人/1000人・年と53.0人/1000人・年と、いずれも現喫煙者で高率だった。多変量解析の結果、現喫煙者の喫煙未経験者に対する、前立腺がんによる死亡に関するハザード比は1.61(95%信頼区間:1.11~2.32)、現喫煙者で臨床ステージT1~T3の前立腺がんの人では、同ハザード比は1.80(同:1.04~3.12)だった。禁煙後10年経過で前立腺がん死亡リスクは未経験者と同等に現喫煙者は、喫煙未経験者に比べ、生化学的再発リスクも大きく、ハザード比は1.61(同:1.16~2.22)、全死亡のハザード比は2.28(同:1.87~2.80)、心血管疾患死は2.13(同:1.39~3.26)だった。前立腺がんの臨床ステージとグレードレベルについて補正後も、現喫煙者の前立腺がん死亡リスクは、喫煙未経験者に比べ大きく、ハザード比は1.38(同:0.94~2.03)、臨床ステージT1~T3の前立腺がんの人の同ハザード比は1.41(同:0.80~2.49)、生化学的再発に関するハザード比は1.47(同:1.06~2.04)だった。年間40パック以上の喫煙者は、喫煙未経験者に比べ、前立腺がんによる死亡のハザード比は1.82(同:1.03~3.20)だった。また、現喫煙者との比較で、禁煙をしてから10年以上経過している人の前立腺がん死亡に関するハザード比は0.60(同:0.42~0.87)、喫煙してから10年未満かつ年間20パック未満喫煙者の同ハザード比は0.64(同:0.28~1.45)で、喫煙未経験者の同ハザード比0.61(同:0.42~0.88)と同等だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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睡眠不足の小児、体脂肪量増加による過体重のリスク増大

睡眠時間が短い小児は過体重となるリスクが増大していることが、ニュージーランド・オタゴ大学のPhilippa J Carter氏らが行ったFLAME試験で示され、BMJ誌2011年6月4日号(オンライン版2011年5月26日号)で報告された。体重増加の原因としては、除脂肪体重の増加ではなく、むしろ脂肪蓄積の増大の影響が大きいという。子どもの睡眠不足が体重増加を招くとの指摘は多いが、最近の縦断的研究は睡眠時間や身体活動の客観的な反復測定を行っておらず、交絡変数の調整にもばらつきがみられるなどの限界があり、成長期の睡眠不足と体脂肪量、除脂肪量の変化の関連を評価した検討はないという。睡眠、身体活動、体脂肪量、除脂肪量を客観的に反復測定FLAME(Family Lifestyle, Activity, Movement and Eating)試験は、小児における睡眠時間の短縮と体格指数(BMI)、体脂肪量との関連の評価を目的に、反復測定に基づいて行われた縦断的研究である。ニュージーランド、ダニーデン市で、2001年7月19日~2002年1月19日までに出生した新生児コホートから選択基準を満たした413人が選出され、そのうち244人(59%)が参加した(女児44%、白人83%、3歳時の平均身長:95.5cm、平均体重:15.7kg、平均BMI:17.1)。3歳から7歳となるまで、6ヵ月ごとに大学のクリニックで診察を行った。BMI、生体電気インピーダンス法および二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)による体脂肪量、除脂肪量の測定、加速度測定法による身体活動と睡眠時間の測定、質問票を用いて食事の摂取状況(果物や野菜、非主要食品)、テレビ視聴時間、家族因子(母親のBMIや教育歴、出生時体重、妊娠中の喫煙)の測定を行った。睡眠1時間延長でBMIが0.48減少多数の交絡因子を調整したところ、3~5歳時に睡眠時間が1時間延長するごとにBMIが0.48(95%信頼区間:0.01~0.96)ずつ減少し、7歳時の過体重(BMI≧85パーセンタイル)リスクが0.39(同:0.24~0.63)ずつ低下することが示された。3歳時のBMIについてさらなる調整を行うと、これらの相関関係はいっそう強化された。このようなBMIの変化が生じる理由として、除脂肪量インデックス(-0.21、95%信頼区間:-0.41~0.00)よりも体脂肪量インデックス(-0.43、同:-0.82~-0.03)の変化の影響が大きかった。著者は、「睡眠が十分でない小児は、多数の交絡因子で調整後も過体重となるリスクが増大しており、その原因は男女とも、除脂肪体重の増加よりも、むしろ脂肪蓄積の増大によると考えられた」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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妊娠高血圧腎症の検出モデルの検出能は中等度

イギリス・キングス・カレッジ・ロンドンのRobyn A North氏らによって開発された臨床的リスク因子に基づく妊娠高血圧腎症の検出モデルの検出能は中等度であり、今後、さらなる検討が必要なことが、同氏が行った検証試験で示された。妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降に高血圧に蛋白尿を伴って発症し、母体のみならず胎児にも重大な影響を及ぼす多臓器合併症であり、炎症性反応および血管内皮機能障害による子宮胎盤循環障害で特徴づけられる。多くの臨床的なリスク因子が確認されているが、複合的なリスク因子を有する未経産婦における発症リスクはほとんど知られておらず、健康な未経産婦のリスクを正確に評価する方法は確立されていないという。BMJ誌2011年4月23日号(オンライン版2011年4月7日号)掲載の報告。検出モデルの開発、高リスク例の同定を目的とするコホート試験研究グループは、未経産婦を対象に、臨床的リスク因子に基づく妊娠高血圧腎症の検出モデルを開発し、専門医への紹介の必要性が示唆される高リスクのサブグループを同定するためのプロスペクティブな多施設共同コホート試験を実施した。2004年11月~2008年8月までに、4ヵ国(ニュージーランド、オーストラリア、イギリス、アイルランド)の5施設から単胎妊娠の健康な未経産婦3,572人が登録され、このうち3,529人(99%)から妊娠の転帰に関するデータを入手した。妊娠高血圧腎症は、妊娠20週以降から陣痛発現前まで、あるいは産後に、2回以上の測定(各測定の間隔を4時間以上開ける)で収縮期血圧≧140mmHg、拡張期血圧≧90mmHgのいずれか一方、あるいは両方を満たし、蛋白尿(24時間尿:尿中蛋白≧300mg/日、随時尿:蛋白/クレアチニン比≧30mg/mmolクレアチニン、試験紙法≧2+)あるいは多臓器合併症を伴う場合と定義した。妊娠期間37週未満で出産した場合は、早産性妊娠高血圧腎症とした。9%が専門医への紹介を要し、そのうち21%が妊娠高血圧腎症を発症すると予測妊娠高血圧腎症の発生率は5.3%(186/3,529人)、早産をきたした妊娠高血圧腎症は1.3%(47/3,529人)であった。妊娠期間14~16週における臨床的リスク因子として、年齢、平均動脈血圧、BMI、妊娠高血圧腎症の家族歴、冠動脈心疾患の家族歴、出産時の妊婦体重、5日以上持続する性器出血が検出された。リスクを軽減する因子としては、妊娠10週以内の流産(1回、同一パートナー)の既往、妊娠に要した期間≧12ヵ月、頻回の果物摂取(≧3回/日)、喫煙、妊娠1~3ヵ月における飲酒が確認された。受信者動作特性(ROC)曲線下面積(AUC)は0.71であった。子宮動脈のドップラー検査の指標を追加しても、検出能は改善されなかった(AUC:0.71)。単一のリスク因子を有する妊婦のサブグループにおける子宮動脈ドップラー検査の異常値のモデルで予測された妊娠高血圧腎症の可能性に基づいて、専門医紹介のフレームワークを構築した。その結果、未経産婦の9%が専門医への紹介を要し、そのうち21%が妊娠高血圧腎症を発症すると考えられた。標準治療との比較における専門医へ紹介した場合の疾患発症の相対リスクは、妊娠高血圧腎症が5.5、早産性妊娠高血圧腎症は12.2であった。著者は、「健康な未経産婦における臨床的表現型を用いたモデルによる妊娠高血圧腎症の検出能は中等度であり、今後、別の集団における検証が求められる」と結論し、「このモデルの妥当性が確認された場合は、さらにバイオマーカーを加えて個別化された臨床的リスク・プロフィールが得られる可能性がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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高所得国の死産予防で優先すべきリスク因子が明らかに

高所得国の死産予防では、効果的な介入を優先すべき修正可能なリスク因子として妊婦の過体重/肥満、高齢出産、妊娠時の喫煙などが重要なことが、オーストラリアMater Medical Research InstituteのVicki Flenady氏らの調査で明らかにされた。高所得国では、1940年代以降、死産数が著明に減少したが、最近20年間はほとんど改善されていないことが示されている。死産のリスク因子の研究は増加しているものの、予防において優先すべき因子の同定には困難な問題も残るという。Lancet誌2011年4月16日号(オンライン版2011年4月14日号)掲載の報告。5つの高所得国のデータを解析研究グループは、高所得国の死産の予防において、有効な介入を優先的に進めるべき項目を同定するために系統的なレビューを行い、メタ解析を実施した。データベースを検索して、死産のリスク因子を検討した地域住民ベースの試験を選出した。ライフスタイルへの介入や医学的介入による改善の可能性を基準に、報告頻度の高い因子を同定した。高所得国の中でも死産数が多く、解析に要するデータをすべて備えた5ヵ国のデータを用いて、修正可能なリスク因子に起因する死産の数を算定し、人口寄与リスク(PAR)を算出した。効果的な介入法を認識してその実践を促進することが重要6,963試験中、13の高所得国から報告された96の地域住民ベースの試験(アメリカ29件、スウェーデン16件、カナダ9件、オーストラリア12件、イギリス9件、デンマーク6件、ベルギー5件、ノルウェー3件、イタリア2件、ドイツ2件、スコットランド1件、ニュージーランド1件、スペイン1件)が選出された。そのうち76試験がコホート試験(前向き試験6件、後ろ向き試験70件)、20試験が症例対照試験であった。文献のレビューにより、死産の修正可能なリスク因子として、妊婦の体重、喫煙、年齢、初産、胎内発育遅延、胎盤早期剥離、糖尿病、高血圧が示された。死産の修正可能リスク因子の最上位は妊婦の過体重/肥満(BMI>25kg/m2)であり、5ヵ国(オーストラリア、カナダ、アメリカ、イギリス、オランダ)のPARは7.7~17.6%、高所得国全体の妊娠期間≧22週の予防可能な年間死産数は8,064件であった。次いで、出産年齢≧35歳の高齢出産(5ヵ国のPAR:7.5~11.1%、全体の年間死産数:4,226件)、妊娠時の喫煙(同:3.9~7.1、2,852件)の順であった。5ヵ国の高所得国の中でも、先住民など恵まれない状況に置かれた集団では、死産した妊婦における喫煙のPARは約20%と高い値であった。また、5ヵ国の死産のPARの約15%を初産婦が占めた。胎内発育遅延のPARは23%、胎盤早期剥離のPARも15%と高値を示し、死産において胎盤の病理が重要な役割を担っていることが浮き彫りとなった。糖尿病と高血圧も死産の重要な原因であった。著者は、「高所得国における死産の予防では、過体重、肥満、出産年齢、喫煙などの修正可能なリスク因子に対する効果的な介入法を認識し、その実践を促進することが優先事項である」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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米国ヘビースモーカー、1965年から2007年の間に大幅減少

米国(カリフォルニア州を除く)でタバコを1日に20本以上喫煙する重度喫煙者の割合は、1965年当時の約23%から2007年には約7%へと大幅に減少していることが調査の結果、明らかにされた。カリフォルニア州ではさらに大幅な減少(約23%から3%)がみられた。背景には喫煙を始める人の減少と禁煙する人の増加があるようだという。米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校Moores UCSDがんセンターのJohn P. Pierce氏らの調べで明らかになったもので、JAMA誌2011年3月16日号で発表された。重度喫煙者の喫煙者に占める割合も減少研究グループは、1965~1994年のNational Health Interview Surveysと、1992~2007年のCurrent Population Survey Tobacco Supplementsの2つの調査結果で得られた、カリフォルニア州以外の米国内166万2,353人と、カリフォルニア州の13万9,176人の回答を基に分析を行った。その結果、1965年に1日20本以上喫煙する重度喫煙者は、米国カリフォルニア以外の地域では22.9%(95%信頼区間:22.1~23.6)だったのに対し、2007年には7.2%(同:6.4~8.0)に減少した。カリフォルニア州の同割合については、1965年の23.2%(同:19.6~26.8)から、2007年の2.6%(同:0.0~5.6)へとより減少幅は大きかった(p<0.001)。また、同期間の重度喫煙者の、喫煙者全体に占める割合は、カリフォルニア州を除く全米で56%から40%へと減少した。近年の出生コホートで、中程度~重度喫煙者の割合は減少1920~1929年の出生コホートでは、1日10本以上を喫煙する中程度~重度喫煙者の割合は、1965年時点で、カリフォルニア州以外の地域の割合で40.5%、カリフォルニア州で39.2%だった。同割合はその後の出生コホートでは減少した。1970~79年出生コホートでは高くなったが、カリフォルニア州以外の地域が18.3%、カリフォルニア州では9.7%だった。全コホートでみると、高齢者での中程度~重度喫煙者の割合の大幅な減少が認められた。特にカリフォルニア州でその割合は大きかった。また1970~79年出生コホートの35歳での同率は、カリフォルニア州以外の地域で13.5%、カリフォルニア州で4.6%だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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肥満を加味しても、心血管疾患リスク予測能は向上しない:約22万人の解析

欧米、日本などの先進国では、心血管疾患の従来のリスク因子である収縮期血圧、糖尿病の既往歴、脂質値の情報がある場合に、さらに体格指数(BMI)や腹部肥満(ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比)のデータを加えても、リスクの予測能はさほど改善されないことが、イギリス・ケンブリッジ大学公衆衛生/プライマリ・ケア科に運営センターを置くEmerging Risk Factors Collaboration(ERFC)の検討で明らかとなった。現行の各種ガイドラインは、心血管疾患リスクの評価における肥満の測定は不要とするものから、付加的な検査項目とするものや正規のリスク因子として測定を勧告するものまでさまざまだ。これら肥満の指標について長期的な再現性を評価した信頼性の高い調査がないことが、その一因となっているという。Lancet誌2011年3月26日号(オンライン版2011年3月11日号)掲載の報告。58のコホート試験の個々の患者データを解析研究グループは、BMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比と心血管疾患の初発リスクの関連性の評価を目的にプロスペクティブな解析を行った。58のコホート試験の個々の患者データを用いて、ベースラインの各因子が1 SD増加した場合(BMI:4.56kg/m2、ウエスト周囲長:12.6cm、ウエスト/ヒップ比:0.083)のハザード比(HR)を算出し、特異的な予測能の指標としてリスク識別能と再分類能の評価を行った。再現性の評価には、肥満の指標の測定値を用いて回帰希釈比(regression dilution ratio)を算出した。むしろ肥満コントロールの重要性を強調する知見17ヵ国22万1,934人[ヨーロッパ:12万9,326人(58%)、北米:7万3,707人(33%)、オーストラリア:9,204人(4%)、日本:9,697人(4%)]のデータが収集された。ベースラインの平均年齢は58歳(SD 9)、12万4,189人(56%)が女性であった。187万人・年当たり1万4,297人が心血管疾患を発症した。内訳は、冠動脈心疾患8,290人(非致死性心筋梗塞4,982人、冠動脈心疾患死3,308人)、虚血性脳卒中2,906人(非致死性2,763人、致死性143人)、出血性脳卒中596人、分類不能な脳卒中2,070人、その他の脳血管疾患435人であった。肥満の測定は6万3,821人で行われた。BMI 20kg/m2以上の人では、年齢、性別、喫煙状況で調整後の、心血管疾患のBMI 1 SD増加に対するHRは1.23(95%信頼区間:1.17~1.29)であり、ウエスト周囲長1 SD増加に対するHRは1.27(同:1.20~1.33)、ウエスト・ヒップ比1 SD増加に対するHRは1.25(同:1.19~1.31)であった。さらにベースラインの収縮期血圧、糖尿病の既往歴、総コレステロール、HDLコレステロールで調整後の、心血管疾患のBMI 1SD増加に対するHRは1.07(95%信頼区間:1.03~1.11)、ウエスト周囲長1 SD増加に対するHRは1.10(同:1.05~1.14)、ウエスト/ヒップ比1 SD増加に対するHRは1.12(同:1.08~1.15)であり、いずれも年齢、性別、喫煙状況のみで調整した場合よりも低下した。従来のリスク因子から成る心血管疾患リスクの予測モデルにBMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比の情報を加えても、リスク識別能は大幅には改善されず[C-indexの変化:BMI -0.0001(p=0.430)、ウエスト周囲長 -0.0001(p=0.816)、ウエスト/ヒップ比 0.0008(p=0.027)]、予測される10年リスクのカテゴリーへの再分類能もさほどの改善は得られなかった[net reclassification improvement:BMI -0.19%(p=0.461)、ウエスト周囲長 -0.05%(p=0.867)、ウエスト/ヒップ比 -0.05%(p=0.880)]。再現性は、ウエスト周囲長(回帰希釈比:0.86、95%信頼区間:0.83~0.89)やウエスト/ヒップ比(同:0.63、0.57~0.70)よりもBMI(同:0.95、0.93~0.97)で良好であった。ERFCの研究グループは、「先進国では、心血管疾患の従来のリスク因子である収縮期血圧、糖尿病の既往歴、脂質値に、新たにBMI、ウエスト周囲長、ウエスト/ヒップ比の情報を加えても、リスクの予測能はさほど改善されない」と結論したうえで、「これらの知見は心血管疾患における肥満の重要性を減弱させるものではない。過度の肥満は中等度のリスク因子の主要な決定因子であるため、むしろ心血管疾患の予防における肥満のコントロールの重要性を強調するものだ」と注意を促している。(菅野守:医学ライター)

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中等症~最重症COPD患者の増悪予防に有効なのは?

中等症~最重症の慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の増悪予防には、LABA(長時間作用性β2刺激薬)のサルメテロール(商品名:セレベント)よりも、長時間作用性抗コリン薬のチオトロピウム(商品名:スピリーバ)のほうが有効であることが、7,300例超を対象とした1年間の無作為化二重盲検ダブルダミー並行群間比較試験の結果示された。COPD治療ガイドラインでは、同患者の症状軽減と増悪リスク低下に対して長時間作用性の吸入気管支拡張薬が推奨されているが、LABAもしくは長時間作用性抗コリン薬のいずれが推奨されるかは明らかではない。ドイツ・Giessen and Marburg大学病院Claus Vogelmeier氏ら「POET-COPD」研究グループは、長時間作用性抗コリン薬がLABAよりも優れているのかどうかを検討するため、25ヵ国725施設共同で本試験を行った。NEJM誌2011年3月24日号掲載より。チオトロピウム群とサルメテロール群に無作為化、初回増悪発生までの期間を主要エンドポイントに試験は、中等症~最重症COPD(40歳以上、喫煙10箱・年以上、GOLD II~IVなど)で前年に増悪の既往がある患者を対象とし、無作為に、チオトロピウム18μg・1日1回投与群もしくはサルメテロール50μg・1日2回投与群に割り付け、中等度~重度の増悪発作に対する治療効果を比較した。主要エンドポイントは、初回増悪発生までの期間とした。被験者は2008年1月から2009年4月の間、計7,376例(チオトロピウム群3,707例、サルメテロール群3,669例)が登録された。基線での両群被験者の特徴は均衡しており、おおよそ75%が男性、平均年齢63歳、現喫煙者48%、COPD歴8年などだった。チオトロピウム群のほうが42日間遅く、17%のリスク低下結果、初回増悪発生までの期間は、チオトロピウム群187日、サルメテロール群145日で、チオトロピウム群の方が42日間遅く、17%のリスク低下が認められた(ハザード比:0.83、95%信頼区間:0.77~0.90、P<0.001)。またチオトロピウム群のほうが、初回重度増悪の初回発生までの期間も延長(ハザード比:0.72、95%信頼区間:0.61~0.85、P<0.001)、中等度または重度増悪の年間発生回数の減少(0.64対0.72、発生率比:0.89、95%信頼区間:0.83~0.96、P=0.002)、重度増悪の年間発生回数の減少(0.09対0.13、発生率比:0.73、95%信頼区間:0.66~0.82、P<0.001)も認められた。なお重篤な有害事象、治療中止となった有害事象の発現率は、総じて両群で同程度だった。死亡例は、チオトロピウム群64例(1.7%)、サルメテロール群78例(2.1%)だった。(武藤まき:医療ライター)

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価値交換としての原発(なぜ医者の僕が原発の話をするか)

神戸大学感染症内科の岩田健太郎先生より、今回の原発事故について書かれた「価値交換としての原発(なぜ医者の僕が原発の話をするか)」を、先生のご厚意により転載させていただきました。僕は、感染症を専門にする内科医で原発の専門性はカケラほどもない。で、僕が原発についてなぜ語るのかをこれから説明する。池田信夫氏の説明は明快で傾聴に値する。たしかに、日本における原発の実被害は人命でいうとゼロ東海村事故(核燃料加工施設)を入れても2名である。自動車事故で死亡するのが年間5千人弱である。これは年々減少しているから、過去はもっと沢山の人が「毎年」交通事故で命を失ってきた。タバコに関連した死者数は年間10万人以上である。原発に比べると圧倒的に死亡に寄与している。今後、福島原発の事故が原因で亡くなる方は出てくる可能性がある(チェルノブイリの先例を考えると)。しかし、毎年出しているタバコ関連の死者に至ることは絶対にないはずだ。今後どんな天災がやってきて原発をゆさぶったとしても、毎年タバコがもたらしている被害には未来永劫、届くことはない(はず)。1兆ワット時のエネルギーあたりの死者数は石炭で161人、石油で36人、天然ガスで4人、原発で0.04人である。エネルギーあたりの人命という観点からも原発は死者が少ない。池田清彦先生が主張するように、ぼくも温暖化対策の価値にはとても懐疑的だが、かといって石炭に依存したエネルギーではもっとたくさんの死者がでてしまうので、その点では賛成できない。池田氏のようにデータをきちんと吟味する姿勢はとても大切だ。感傷的でデータを吟味しない(あるいは歪曲する)原発反対論は、説得力がない。しかし、(このようなデータをきちんと吟味した上で)それでも僕は今後日本で原発を推進するというわけにはいかないと思う。池田氏の議論の前提は「人の死はすべて等価である」という前提である。しかし、人の死は等価ではない、と僕は思う。人は必ず死ぬ。ロングタームでは人の死亡率は100%である。だれも死からは逃れられない。もし人の死が「等価」であるならば、誰もはいつかは1回死ぬのだから(そして1回以上は死なないのだから)、みな健康のことなど考えずに自由気ままに生きれば良いではないか(そういう人もいますね)。自動車事故で毎年何千人も人が死ぬのに人間が自動車を使うのを止めないのは、人間が自動車事故による死亡をある程度許容しているからだ。少なくとも、自動車との接触をゼロにすべく一切外出しないという人か、自動車にぶつかっても絶対に死なないと「勘違いしている」人以外は、半ば無意識下に許容している。少なくとも、ほとんどの自宅の隣に原発ができることよりもはるかに、我々は隣で自動車が走っていることを許容している。それは自動車があることとその事故による死亡の価値交換の結果である。原発は、その恩恵と安全性にかかわらず、うまく価値交換が出来ていない。すくなくとも311以降はそうである。我々は(たとえその可能性がどんなに小さくても)放射線、放射性物質の影響で死に至ることを欲していない。これは単純に価値観、好き嫌いの問題である。医療において、「人が死なない」ことを目標にしても人の死は100%訪れるのだから意味がない。医療の意味は、人が望まない死亡や苦痛を被らないようにサービスを提供する「価値交換」であるとぼくは「感染症は実在しない」という本に書いた。このコンセプトは今回の問題の理解にもっとも合致していると思う。喫煙がこれだけ健康被害を起しているのに喫煙が「禁止」されないのは、国内産業を保護するためでも税収のためでもないと僕は思う(少なくともそれだけではないと思う)。多くの国民はたばこが健康に良くないことを理解している。理解の程度はともかく、「体に悪くない」と本気で思っている人は少数派である。それでも多くの人は、タバコによる健康被害とタバコから受ける恩恵を天秤にかけて、そのリスクを許容しているのである。禁煙活動に熱心な医療者がその熱意にもかかわらず(いや、その熱意ゆえに)空回りしてしまうのは、医療の本質が「価値交換」にあることを理解せず、彼らが共有していない、自分の価値観を押し売りしようとしてしまうからくる不全感からなのである。僕たち医療者も案外、健康に悪いことを「許容」していることに自覚的でなければならない。寝不足、過労、ストレス、栄養過多、車の運転、飲酒、セックスなどなどなど。これらを許容しているのは僕らの恣意性と価値観(好み)以外に根拠はない。自分たちが原理的に体に良くないことをすべて排除していないのに、他者に原理的にそうあることを強要するのは、エゴである。僕は、医療者は、あくまでも医療は価値の交換作業であることに自覚的であり、謙虚であるべきだと思う。こんなことを書くと僕は「喫煙推進派である」とかいって責められる(かげで書き込みされる)ことがあるが、そういうことを言いたいのではない。もし日本の社会がタバコによる健康被害を価値として(好みとして)許容しなくなったならば、そのときに日本における喫煙者は激減するだろう。それはかつて許容されていたが今は許容されないリスク、、、例えばシートベルトなしの運転とか、お酒の一気飲みとか、飲酒運転とか、問診表なしの予防接種とか、、、の様な形でもたらされるだろう。禁煙活動とは、自らの価値観を押し付けるのではなく、他者の価値観が自主的に変換されていくことを促す活動であるべきだろう。かつては社会が許容したお酒の一気飲みや飲酒運転が許容されなくなったように。そんなわけで、原発もあくまでも価値の交換作業である。原発反対派の価値観は共有される人とされない人がいる。原発推進派も同様だ。そのバランスが原発の今後を決めると僕は思う。原発反対派も推進派も、究極的には自分たちの価値観を基準にしてものごとを主張しているのだと認識すべきだ。そして、自分の価値観を押し付けるのではなく、他者の価値観に耳を傾けるべきである。なぜならば、原発の未来は日本の価値観の総意が決めるのであり、総意は「聴く」こと以外からは得られないからである。おそらくは、今の価値観(好み)から考えると、原発を日本で推進していくことを「好む」人は少なかろう。かといって電気がない状態を好む人も少ないと思う(他のエネルギーに代えることが必ずしも解決策ではなさそうなのは、先に述べた通り)。その先にあるのは、、、、ここからは発電の専門家の領域なので、僕は沈黙します。 《関連書籍》 感染症は実在しない―構造構成的感染症学 《その他の岩田健太郎氏の関連書籍》リスコミWORKSHOP! ― 新型インフルエンザ・パンデミックを振り返る第3回新型インフルエンザ・リスクコミュニケーション・ワークショップから

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心血管疾患ガイドラインの多くが、リスク因子のモニタリングに十分に言及せず

心血管疾患のガイドラインの中には、主要なリスク因子である脂質値、高血圧、喫煙に関するセクションを欠くものが多く、記述があっても十分でない場合が高率に及ぶことが、イギリス・オックスフォード大学プライマリ・ケア科のIvan Moschetti氏らによる調査で示された。心血管疾患の3つのリスク因子のモニタリングは、患者の予後、臨床的な判断、医療コストに大きな影響を及ぼす可能性がある。臨床ガイドラインの目的は、診断、患者管理、治療法の決定過程を標準化するために、最良のエビデンスに基づいてケアの質を全体的に向上させることだが、心血管疾患管理のガイドラインのほとんどがモニタリングを十分には取り扱っておらず、モニタリングの勧告について系統的になされた検討はないという。BMJ誌2011年3月19日号(オンライン版2011年3月14日号)掲載の報告。リスク因子のモニタリングの記述を系統的にレビュー研究グループは、心血管疾患の予防や治療に関するガイドラインで勧告されているモニタリングの記述の妥当性を評価するために系統的なレビューを行った。Medline、Trip database、National Guideline Clearinghouseなどのデータベースを検索し、2002年1月~2010年2月の間に新規に、あるいは改訂版が公表されたガイドラインのうち、心血管疾患の主要リスク因子である脂質値、高血圧、喫煙に関する記述を含むものを抽出した。主要評価項目は、ガイドラインにおけるリスク因子のモニタリングの取り扱い頻度とした。また、モニタリング勧告の完全性を評価するために、モニタリングすべき項目やその時期、異常値を示す場合の対処法、さらにエビデンスレベルが明記されているか否かについて検討した。エビデンスがない場合はその旨を明記し、必要な研究を示すべき選択基準を満たした117のガイドラインのうち、脂質値に関するセクションを設けていたのは84(72%)だった。そのうち44(53%)にはモニタリングすべき項目に関する情報や具体的な勧告の記述がなく、43(51%)はいつモニタリングすべきかの情報を記述しておらず、54(64%)は正常値でない場合に実施すべき対処法に関する指針を記載していなかった。高血圧に関するセクションを設定していたガイドラインは79(68%)、喫煙については65(56%)にすぎず、それぞれ50(63%)、35(54%)のガイドラインにはモニタリングすべき項目の記述がなかった。エビデンスのレベルを明記したガイドラインは少なく、ほとんどの勧告がレベルの低いエビデンスに基づいていた。著者は、「心血管疾患のガイドラインの多くにはモニタリングすべき項目や、異常値が検出された場合の指針の記述がなかった」とし、「特定のモニタリングを支持するエビデンスがない場合は、その旨をガイドラインに明記すべきであり、この欠落を埋めるために必要とされる新たな研究について記述すべき」と指摘する。(菅野守:医学ライター)

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50歳以上の乳がんリスク、喫煙者で有意に増大、間接喫煙者でも増大示唆

閉経後女性における喫煙と侵襲性乳がんリスクとの関連について、直接喫煙者では有意なリスク増大が認められ、間接喫煙者でも増大が示唆されることが、米国・ウエスト・バージニア大学Mary Babb RandolphがんセンターのJuhua Luo氏らによる前向きコホート試験「Women's Health Initiative Observational Study」の結果、明らかにされた。BMJ誌2011年3月5日号(オンライン版2011年3月1日号)掲載より。乳がんリスク、非喫煙者と比べ元喫煙者1.09倍、現喫煙者1.16倍試験には、米国内40ヵ所のクリニックセンターから、1993~1998年の間に50~79歳の女性7万9,990例の被験者が登録した。主要評価項目は、自己報告による能動的または受動的喫煙状況、病理学的に診断された侵襲性乳がんとした。平均10.3年の追跡期間で、侵襲性乳がんと診断されたのは3,520例だった。非喫煙者と比べ、乳がんリスクは、元喫煙者は9%高く(ハザード比:1.09、95%信頼区間:1.02~1.17)、現喫煙者は16%高かった(同:1.16、1.00~1.34)。子どもの時から間接喫煙に曝露された最大曝露群、非間接喫煙群の1.32倍喫煙本数が多く、喫煙歴も長い能動的喫煙者、また喫煙開始年齢が10代であった人における乳がんリスクが有意に高かった。乳がんリスクが最も高かったのは、50歳以上の喫煙者で、生涯非喫煙者と比べ1.35倍(同:1.35、1.03~1.77)、生涯非喫煙者で非間接喫煙者と比べると1.45倍(同:1.45、1.06~1.98)だった。禁煙後も20年間、乳がんリスクは増大した。非喫煙者では、潜在的交絡因子補正後、間接喫煙曝露が最も多かった人(子どもの時に10年以上、成人後家庭内で20年以上、成人後職場で10年以上)の乳がんリスクは、間接喫煙曝露がなかった人に比べて32%超過(ハザード比:1.32、95%信頼区間:1.04~1.67)が認められた。しかし、その他の低曝露群との有意な関連は認められなかった。間接喫煙の累積に対するレスポンスも不明であった。

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糖尿病は独立リスク因子として血管疾患以外にも、がん、感染症などの早期死亡に関連する

糖尿病や高血糖が、がんやその他非血管系の疾患による死亡リスクと、どの程度関連しているのか明らかではなく、たとえば米国糖尿病学会、米国がん学会の共同コンセンサス・ステートメントでも不明であるとしている。英国ケンブリッジ大学のSeshasai SR氏らThe Emerging Risk Factors Collaboration(ERFC)は、糖尿病、空腹時血糖値と特異的死亡との関連について信頼たり得る評価を提供することを目的とした研究グループで、成人における糖尿病の寿命に対する影響を前向きに調査した結果を報告した。NEJM誌2011年3月3日号掲載より。糖尿病者の全死因死亡リスクは、非糖尿病者と比べ1.8倍ERFCが解析したのは、97件の前向き研究に参加した82万900例の被験者(平均年齢55±9歳、女性48%、ヨーロッパで登録58%、北米で登録36%)のうち、12万3,205例の死亡例(死亡までの期間中央値13.6年)に関するデータで、ベースラインの糖尿病の状態、空腹時血糖値に従い、死因別死亡のリスク(ハザード比)を算出した。結果、年齢、性、喫煙状況とBMIで補正後、糖尿病を有さない人(非糖尿病者)と比較した糖尿病を有する人(糖尿病者)のハザード比は、全死因死亡が1.80(95%信頼区間:1.71~1.90)、がんによる死亡1.25(同:1.19~1.31)、血管系の疾患による死亡2.32(同:2.11~2.56)、その他の原因による死亡1.73(同: 1.62~1.85)であった。50歳の糖尿病者、非糖尿病者より平均6年短命糖尿病者は非糖尿病者と比較して、肝臓、膵臓、卵巣、大腸、肺、膀胱、乳房のがんによる死亡と中程度の関連がみられた。また、がん、血管系疾患以外の、腎疾患、肝疾患、肺炎、その他感染症による死亡や、精神疾患、肝臓以外の消化器疾患、外因、意図的な自傷行為、神経系障害、さらに慢性閉塞性肺疾患による死亡とも関連していた。ハザード比は、血糖値による補正後は大幅に低下したが、収縮期血圧、脂質レベル、炎症マーカー、腎機能マーカーの値による補正では低下しなかった。一方、空腹時血糖値については、同値が100mg/dL(5.6mmol/L)を上回る場合は死亡との関連がみられたが、70~100mg/dL(3.9~5.6mmol/L)では死亡との関連はみられなかった。また、50歳の糖尿病者は非糖尿病者より平均6年早く死亡していた。その差の約40%は非血管系の疾患に起因していることも明らかになった。これらから研究グループは、「糖尿病は、いくつかの主要な危険因子とは独立して、血管疾患に加えて、いくつかのがん、感染症、外因、意図的な自傷行為、変性疾患による相当な早期死亡と関連する」と結論づけた。(朝田哲明:医療ライター)

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増税でもやっぱりタバコはやめられない?!

楽天リサーチ株式会社は24日、たばこ税増税に関する継続調査の結果を発表した。2010年10月にたばこ税増税が実施され、たばこの価格は大幅な値上げとなった。増税から3ヵ月が経過したが、喫煙者に変化はみられるのかどうか、同社では、2010年9月末時点での喫煙者に対し、増税後1ヵ月ごとに喫煙状況を調査した。たばこ税増税後の喫煙状況を比較してみたところ、9月末時点での喫煙者については3ヵ月後も大きな変化はみられなかった。9月末時点では喫煙していたが「増税をきっかけに禁煙を検討」した人のうち、実際に禁煙している人は約13%で推移している。しかしながら、9月末時点ですでに「増税をきっかけに喫煙を中止した」人については、3ヵ月後には18.9%の人が喫煙をしており、16.3ポイントも増加した。また、9月末の時点で増税をきっかけに「たばこをやめる」との意向があった人でも、喫煙率は徐々に上昇しているという。各調査時点での喫煙者に対し、たばこ税増税前後で比較して喫煙本数が減ったかどうかを聞いたところ、9月末時点から継続して喫煙している人では、一貫して約40%が本数を減らしていることがわかった。やめるつもりはないが増税は負担であり、節約しながら喫煙を継続している様子がうかがえる。一方、増税を機に禁煙を検討、もしくはその意向があった人については、喫煙本数が「減った」と回答した人は徐々に増加の傾向にある。禁煙しようと試みたものの禁煙できず、本数を減らして喫煙を復活していることが考えられるとのこと。各調査時点での喫煙者に今後の喫煙意向を聞いたところ、増税後3ヵ月間でたばこを「やめる」ことをあきらめている傾向にあるようだという。特に、9月末時点ですでに禁煙していた人、禁煙を検討していた人ではいずれも16.3ポイントも減少している。ただし、9月末時点での喫煙者全体をみてみると、各調査時点で「今後やめる」「やめた」を選択した人は、増税後3ヵ月間で「今まで通りの本数を吸う」と、元に戻っているのに対し、9月末時点で「たばこを吸うのをやめる」と回答した禁煙意向者は、禁煙を継続できなかった後ろめたさからか、喫煙しつつも、今まで通りの本数は吸わずに「吸う本数を減らす」ことに転換していることがうかがえるという。詳細はこちらへhttp://research.rakuten.co.jp/report/20110124/

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βアミロイド42/40濃度が低いと、認知機能低下が促進

血漿中のβアミロイド42/40濃度が低い人は、高い人に比べ、認知機能の低下が促進することが明らかにされた。その傾向は、認知的予備力の低い人ほど強いことも示された。米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校精神科部門のKristine Yaffe氏らが、地域在住の高齢者997人について調べ明らかにしたもので、JAMA誌2011年1月19日号で発表した。βアミロイド42/40濃度と認知症発症との関連は知られているが、否定的な報告もあり、また認知症ではない高齢者における検討はほとんどされていなかった。βアミロイドβアミロイド42、42/40濃度と3MSスコアとの関連を検討Yaffe氏らは、1997~1998年に地域在住の高齢者997人について試験を開始し、2006~2007年まで10年間前向きに追跡した。被験者はメンフィス、テネシー、ピッツバーク(ペンシルベニア州)に住む70~79歳の黒人および白人の高齢者で「Health ABC Study」の登録者だった。試験開始時点の被験者の平均年齢は74.0歳、うち女性は550人(55.2%)だった。試験開始後、初回の追跡調査時点(中央値:53.4週後)で採血し保存していたサンプルを用い、血漿中のβアミロイド42とβアミロイド42/40を測定した。試験開始後1年、3年、5年、8年、10年の時点で、改定ミニメンタルステート検査(3MS)を行い認知能力の低下について分析した。βアミロイド42/40濃度の最低三分位範囲で、3MSスコア低下幅が有意に増大結果、βアミロイド42/40濃度が最も高い三分位範囲の群では、9年間の3MSスコアの低下幅は-3.60ポイント(95%信頼区間:-2.27~-4.73)だったのに対し、同濃度の最も低い三分位範囲の群では、同低下幅は-6.59ポイント(同:-5.21~-7.67)、中間の三分位範囲の群では-6.16ポイント(同:-4.92~-7.32)と、有意な関連が認められた(p<0.001)。この関連は、年齢や人種、教育程度、糖尿病、喫煙、アポリポ蛋白Ee4の有無で補正し、認知症の認められた72人を除いた後も、変わらなかった。しかし関連は、高校卒業者、6年制卒以上の教養がある、アポリポ蛋白Ee4対立遺伝子がない、といった認知的予備力の高い群では弱まった。たとえば、高校を卒業していない人の同スコア低下幅は、βアミロイド42/40の最も高い三分位範囲群が-4.45ポイントに対し、最も低い三分位範囲群は-8.94ポイントだったが、一方で高校卒業以上の学歴のある人の同スコア低下幅は、βアミロイド42/40の最も高い三分位範囲群が-2.88ポイントに対し、最も低い三分位範囲群は-4.60ポイントで格差はより小さかった(相互作用p=0.004)。教養の有無(p=0.005)、アポリポ蛋白Ee4対立遺伝子の有無(p=0.02)でも同様の関連が認められた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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心血管疾患の生涯リスクを予測する新たなQRISKモデル

新たに開発されたQRISKの心血管疾患に関する生涯リスクスコア(http://www.qrisk.org/lifetime/)は、従来のQRISKモデルの10年リスクスコアでは確認し得ない、より若い年齢層における高リスク例の同定を可能にすることが、イギリス・Nottingham大学プライマリ・ケア科のJulia Hippisley-Cox氏らの検討で示された。QRISK2などのリスク予測アルゴリズムは、通常、心血管疾患の10年絶対リスク≧20%の場合に高リスク例と判定しているが、この20%という閾値では、若年者のうち10年絶対リスクは低いものの相対的に高リスクな例を見逃す懸念がある。生涯リスクによる予測は、特に若年例についてより多くの情報をもたらし、マネジメントの決定やライフスタイルの改善に役立つ可能性があるという。BMJ誌2011年1月8日号(オンライン版2010年12月9日号)掲載の報告。ルーチンのプライマリ・ケア・データを用いた前向きコホート試験研究グループは、心血管疾患の生涯リスクを予測する新たなQRISKモデルを開発し、その妥当性を検証、評価するためのプロスペクティブなコホート試験を実施した。解析には、イングランドとウェールズの一般医(GP)563名からルーチンに登録されたQResearchデータベースのプライマリ・ケア・データを用いた。対象は、1994年1月1日~2010年4月30日までに登録された30~84歳の患者で、心血管疾患の既往歴がなく、スタチンの処方歴がない例とした(導出コホート:234万3,759例、検証コホート:126万7,159例 )。生涯リスクの推算に用いた因子は、喫煙状況、人種、収縮期血圧、総コレステロール/HDLコレステロール比、BMI、冠動脈心疾患の家族歴(60歳未満で発症した一親等内の親族の有無)、Townsend貧困スコア、治療中の高血圧、関節リウマチ、慢性腎疾患、2型糖尿病、心房細動であった。生涯リスクに基づく介入が有益か否かは、さらなる検討を要する検証コホート126万7,159例のデータセットの解析では、生涯リスクが50パーセンタイルの場合の心血管疾患の生涯リスクは31%であり、75パーセンタイルの場合は39%、90パーセンタイルでは50%、95パーセンタイルでは57%であった。検証コホートにおいて生涯リスクモデルあるいは10年リスクモデルのいずれかでリスクが最上位の10%に相当すると判定された例のうち、双方のモデルのどちらもが高リスクと判定した例は14.5%(1万8,385例)にすぎなかった。10年リスクモデルで高リスクと判定された例に比べ、生涯リスクモデルで高リスクと判定された患者は、より若く、少数民族に属する例が多く、冠動脈心疾患の家族歴を有する傾向が強かった。著者は、「新たなQRISKの生涯リスクスコアを用いれば、QRISKモデルの10年リスクスコアでは確認し得ない、より若い年齢層における高リスク例の同定が可能になる」と結論する一方で、「より若い年代でのライフスタイルへの介入は有益な可能性があるが、65歳未満ではその恩恵は小さく、薬物による介入には薬物そのもののリスクが伴う。今後、生涯リスクスコアに基づく介入の費用効果や、このアプローチが許容可能か否かにつき、詳細な検討を行う必要がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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低用量アスピリンの常用、がん死リスクを長期に抑制

低用量アスピリンの毎日服用により、食道がん、膵がん、肺がん、胃がん、結腸・直腸がん、前立腺がんなどの主要ながんによる死亡が有意に抑制されることが、イギリス・オックスフォード大学脳卒中予防研究部門のPeter M Rothwell氏らが実施した血管イベント予防に関する無作為化試験のメタ解析で示された。すでに、アスピリンを5年以上毎日服用すると結腸・直腸がんのリスクが低減することが無作為化試験などで示されている。加えて、アスピリンは他臓器のがん、特に消化管のがんのリスクを抑制する可能性を示唆するエビデンスがあるが、ヒトでは確証されていないという。Lancet誌2011年1月1日号(オンライン版2010年12月7日号)掲載の報告。アスピリン治療が平均4年以上の無作為化試験が対象研究グループは、血管イベントの予防効果に関してアスピリンと対照を比較した無作為化試験の、試験期間中および試験後のがん死について調査を行った。平均治療期間が4年以上にわたるアスピリン常用(毎日服用)例とアスピリン非服用例を比較した無作為化試験の個々の患者データを用い、予定治療期間との関連において消化器がんまたは非消化器がんによる死亡のリスクに及ぼすアスピリンの効果を評価した。イギリスの3つの大規模試験では、死亡診断書およびがんレジストリーから、個々の患者の試験終了後の長期フォローアップ・データが得られ、これを用いて20年がん死リスクの評価を行った。日本のJPAD試験を含む8試験、約2万5,500例の解析で、がん死リスクが21%低下適格基準を満たした8つの試験(BDAT、UK-TIA、ETDRS、SAPAT、TPT、JPAD、POPADAD、AAA試験に参加した2万5,570例、がん死674例)では、アスピリン群でがん死が有意に低下していた[オッズ比:0.79(95%信頼区間:0.68~0.92)、p=0.003]。SAPAT試験を除く7試験(2万3,535例、がん死657例)から得られた個々の患者データの解析では、明確なアスピリンのベネフィットはフォローアップ期間が5年を経過した後に認められた[全がんのハザード比:0.66(95%信頼区間:0.50~0.87)、p=0.003、消化器がんのハザード比:0.46(95%信頼区間:0.27~0.77)、p=0.003]。20年間にがんで死亡するリスク(3試験の1万2,659例、死亡1,634例)はアスピリン群が対照群に比べて有意に低く[全固形がんのハザード比:0.80(95%信頼区間:0.72~0.88)、p<0.0001、消化器がんのハザード比:0.65(同:0.54~0.78)、p<0.0001]、ベネフィットは治療期間が長くなるに従って増大した[治療期間≧7.5年における全固形がんのハザード比:0.69(95%信頼区間:0.54~0.88)、p=0.003、消化器がんのハザード比:0.41(同:0.26~0.66)、p=0.0001]。死亡リスクの抑制効果が現れるまでの治療期間は、食道がん、膵がん、脳腫瘍、肺がんが約5年であったが、胃がん、結腸・直腸がん、前立腺がんではさらに長期間を要した。肺がんと食道がんではベネフィットは腺がんに限られ、全体の20年がん死リスクの抑制効果は腺がんで最も大きかった[ハザード比:0.66(95%信頼区間:0.56~0.77)、p<0.0001]。ベネフィットはアスピリンの用量(75mg超)、性別、喫煙状況とは関連しなかったが、無作為割り付け時の年齢が高いほど改善され、20年がん死の絶対リスクの低下率は55歳未満が1.41%、55~64歳が4.53%、65歳以上は7.08%に達しており、全体では3.49%であった。著者は、「低用量アスピリンの毎日服用により、試験期間中および終了後において、いくつかの主要ながんによる死亡が抑制された。ベネフィットは治療期間が長くなるほど増大し、個々の試験を通じて一貫していた」と結論し、「これらの知見は、アスピリンの使用ガイドラインや、発がんおよび薬剤に対するがんの感受性のメカニズムの解明において重要である」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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高齢者の余命予測に歩行速度が有効

 歩行速度が高齢者の余命予測に有効であるとの研究結果が示された。歩行速度と生存率に有意な相関が認められたという。米国ピッツバーグ大学老年医学部門のStephanie Studenski氏らが、高齢者約3万5,000人について行った研究で明らかにしたもので、JAMA誌2011年1月5日号で発表した。高齢者の歩行速度と生存率について追跡・解析を行った 同研究グループは、65歳以上の高齢者を対象に1986~2000年に行われた9コホート試験について、歩行速度と生存率について追跡・解析を行った。被験者は地域で暮らす合計3万4,485人で、追跡期間は6~21年だった。 被験者の平均年齢は73.5歳(SD 5.9)、うち59.6%が女性、79.8%が白人で、平均歩行速度は0.92m/秒だった。 追跡期間中に死亡したのは、1万7,528人であった。5年生存率は84.8%(95%信頼区間:79.6~88.8)、10年生存率は59.7%(同:46.5~70.6)だった。高齢者の余命予測、歩行速度の正確性はほかの予測法と同等だった 高齢者の歩行速度と生存率との関連についてみたところ、すべての試験で歩行速度が増加するにつれて生存率が有意に上昇しており、0.1m/秒増加による年齢補正後余命ハザード比は試験により0.83~0.94(p<0.001)であった。試験全体の統合ハザード比は、0.88(同:0.87~0.90、p<0.001)だった。 75歳時点での10年予測生存率は、歩行速度によって男性は19%~87%、女性は35~91%を示した。 年齢、性別と歩行速度による余命予測は、年齢、性別と歩行補助具使用、自己申告による身体機能を基にした余命予測や、年齢、性別、慢性疾患、喫煙歴、血圧、BMI、入院歴を基にした余命予測のいずれと比較しても予測の正確性は同等だった。

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