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受動喫煙で3歳時の虫歯リスクが倍増/BMJ

 出生後4ヵ月時にタバコの煙に曝露していた子供は、3歳時の虫歯のリスクが約2倍に上昇したが、母親が妊娠中に喫煙した場合の虫歯への影響は有意ではないことが、京都大学大学院薬剤疫学分野の田中 司朗氏らの調査で示された。先進国では乳歯の虫歯の有病率が高いが、子供の虫歯予防は砂糖の摂取制限やフッ素塗布などに限られている。横断的研究では、受動喫煙が乳歯および永久歯の虫歯に影響を及ぼすことが示唆されているが、コホート研究のデータはスウェーデンの試験が1件あるだけだという。BMJ誌オンライン版2015年10月21日号掲載の報告。受動喫煙の虫歯への影響を後ろ向きコホート研究で評価 研究グループは、日本の小児において、受動喫煙が乳歯の虫歯のリスクに及ぼす影響を検討するために、地域住民ベースのレトロスペクティブなコホート研究を行った。 2004~10年に神戸市で生まれた子供7万6,920例のデータを用いた。これらの小児は、出生時、4、9、18ヵ月、3歳時に市の健康診査を受けた。4ヵ月時に家族の喫煙状況の調査が、18ヵ月および3歳時には子供の歯の検診が行われた。 標準化質問票を用いて、母親の妊娠中の喫煙の有無および出生後4ヵ月時の子供のタバコの煙への曝露状況を調査し、「家族に喫煙者がいない」「家族に喫煙者はいるが子供のいない場所で喫煙する」「子供が2次喫煙に曝露されている」の3つのパターンに分けた。 主要評価項目は、乳歯の虫歯の発生とした。虫歯は、う歯、喪失歯、補綴歯と定義し、正規の歯科医がX線検査を用いずに判定した。 傾向スコアを臨床的および生活様式の背景因子で補正後に、Cox回帰モデルを用いて非喫煙家庭の子供と比較した喫煙者のいる家庭の子供の虫歯発生のハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。因果関係は不明だが、受動喫煙回避のための介入を支持する知見 7万6,920例の子供のうち、出生後4ヵ月時に家族に喫煙者がいた子供の割合は55.3%(4万2,525例)であり、受動喫煙が確認された子供の割合は6.8%(5,268例)であった。 7万711例(91.9%)が3年間のフォローアップを完遂した。この間に1万2,729本の虫歯が確認され、そのほとんどがう歯であった。 3歳時の虫歯の発生率は、出生後4ヵ月時に非喫煙家庭の子供が14.0%、家族に喫煙者はいるが受動喫煙は確認されていない子供が20.0%、受動喫煙の子供は27.6%であった。 非喫煙家庭との比較における傾向スコアで補正したHRは、喫煙者はいるが受動喫煙は確認されていない子供が1.46(95%CI:1.40~1.52、p<0.01)であり、受動喫煙の子供は2.14(95%CI:1.99~2.29、p<0.01)であった。 妊娠中に喫煙していた母親の子供の、非喫煙家庭の子供に対する虫歯の傾向スコア補正HRは1.10(95%CI:0.97~1.25、p=0.14)であった。 著者は、「子供の虫歯のリスクは、非喫煙家庭に比べ受動喫煙の場合は約2倍、喫煙者のいる家庭の場合は約1.5倍に上昇していたが、母親が妊娠中に喫煙しても有意な影響は認めなかった」とまとめ、「これらの知見は、子供の虫歯と家族の喫煙の因果関係を示すものではないが、受動喫煙の減少に向けた公衆衛生学的、臨床的な介入の拡大を支持するものである」と指摘している。

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わかる統計教室 第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比 セクション4

インデックスページへ戻る第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション4 “後ろ向き研究”で使える手法はオッズ比のみ!セクション1 セクション2 セクション3■コホート研究とケースコントロール研究を知る!前回までの説明で、オッズ比について何となくわかっていただけたと思います。しかし、リスク比のほうが使い勝手が良いように思われた方も多いのではないでしょうか?では、なぜオッズ比が臨床研究で使われるのかというと、それなりにオッズ比の活用法があるからです。代表的な臨床研究として、「コホート研究」と「ケースコントロール(症例対照)研究」がありますが、後者の研究で集めたデータを解析する場合、リスク比は不可、オッズ比は可だといわれています。このことを説明する前に、「コホート研究」と「ケースコントロール研究」とは何かを簡単に説明しておきましょう。臨床研究は「前向き」か「後ろ向き」か、で分けることができ、コホート研究は前向きの研究、ケースコントロール研究は後ろ向きの研究とされています。具体例で説明していきましょう。喫煙の有無と不整脈の有無の関連性を調べたいとします。1)コホート研究不整脈がない人をランダムに400人抽出し、今までに喫煙をしたことがあるかどうかを調査し、その後の2年間において、喫煙の有無別に不整脈が発生したかを追跡調査します。調査開始時点では不整脈は発生しておらず、それから2年後(未来)に不整脈の発生を調べます。このような研究をコホート研究といいます。この研究は2年後の未来へ向かって調べる研究であり、「前向き」の研究といいます。2)ケースコントロール研究不整脈があると診断された200人とランダムに選んだ健常者200人について、過去の喫煙の有無を調査します。すでに不整脈があると診断された人と健常者がいて、その時点から過去にさかのぼって喫煙をしていたかどうかを調べます。このような研究をケースコントロール研究といいます。この研究は過去へ向かって調べる研究であり、「後ろ向き」の研究といいます。この2つの研究の違いを、原因と結果という因果関係からみてみましょう。上記の例では、喫煙の有無が原因変数で不整脈が結果変数です。コホート研究は、未来の結果変数(不整脈の有無)を調べる研究であり、ケースコントロール研究は過去の原因変数(喫煙の有無)を調べる研究となります。それでは、ケースコントロール研究で集めたデータを解析する場合、リスク比は不可、オッズ比は可だということについて説明します。■ケースコントロール研究ではオッズ比が使われる!次の表11のデータを、ケースコントロール研究(後ろ向き研究)で集めたデータということにします。この分割表から、喫煙者が不整脈になるリスクは56%です。この数値から、一般的に喫煙する人が不整脈となるリスクが5割を超えているといってもよいでしょうか?この事例は、ケースコントロール研究で集めたデータという設定です。不整脈があると診断された200人とランダムに選んだ健常人200人について、過去の喫煙の有無を調査したものです。したがって、全対象者における不整脈のリスクは200÷400の50%で、調査対象者のサンプリング(抽出)に依存します。サンプリングに依存しているリスクを用いてリスク比を計算するのは、大きな間違いとなります。ただし、リスク比の値を順位で検討するだけであれば、リスク比を使用しても構いません。しかしながら、この制限の下にリスク比を使うのなら、最初からオッズ比を使えばよいということになります。このような理由から、ケースコントロール研究の場合は、オッズ比を用います。■ロジスティック回帰分析とはケースコントロール研究ではオッズ比を用いることを学習しました。さらにもう1つ、知っておいてもらいたい「ロジスティック回帰分析」について、説明していきます。下の表12をご覧ください。結果に対していくつかの原因が考えられる場合、それぞれの原因が、結果にどの程度影響を及ぼしていると思いますか?一目みただけでは、なかなかわからないですね。このデータでは、結果は「不整脈の有無」、原因は「喫煙」「飲酒」「ギャンブル嗜好」の3つを想定しています。今までの学習を思い出して、少し面倒ですが表13でこのデータの分割表、オッズ比、リスク比を求めてみましょう。では、結果を解釈していきましょう。結果をみるかぎり、不整脈に影響度の最も強いのは喫煙の有無、次にギャンブル嗜好です。飲酒の有無は3番目でした。ギャンブル嗜好のほうが飲酒の有無より影響度が高いのは、何かおかしな気がしませんか?この結果が事実かどうかは、喫煙の有無、ギャンブル嗜好、飲酒の有無のそれぞれの原因の関係をみればわかります。つまり、不整脈という結果に対する原因がいくつか考えられる、ということです。これは「不整脈を説明する変数がいくつかある」ということと同じです。では、原因同士の関係性を調べてみましょう。まず、表14の「原因要因(影響要因)相互の分割表」というものを作成し、リスク比を求めていきます。飲酒の有無と喫煙の有無、ギャンブル嗜好と喫煙の有無、ギャンブル嗜好と飲酒の有無で、原因要因相互の分割表を作ってみます。このように飲酒と喫煙、ギャンブルと喫煙、ギャンブルと飲酒のそれぞれの関係性や影響度合いをみていきます。上の表14 の結果をみて、どのようなことがいえるでしょうか?ギャンブル好きは7人中6人が喫煙者、ギャンブル嫌いは13人中11人が非喫煙者です。リスク比も5.57と高く、両者に強い関係性を感じます。飲酒の有無と喫煙の有無のリスク比は1.40、ギャンブル嗜好と飲酒の有無のリスク比は1.86とそれほど大きな値でなく、関係性は弱いようです。感覚的には、リスク比5.57というと強い関係性があるように思えますが、結論からいえば評価する際の統計学的な基準はありません。言い換えれば、「リスク比が●以上の値だから、強い相関がある」ということはありませんが、リスク比同士を比較して、“強い”“弱い”と評価することはできるということです。では表13と表14を基に、リスク比で、原因2つと結果(不整脈の有無)の関係をみてみましょう。喫煙の有無とギャンブル嗜好を原因にして、表15のように図式化してみます。喫煙するからギャンブルが好きなのか、ギャンブルが好きだから喫煙するのか、因果関係の方向はわかりませんが、両者の関係は強いことはわかります。そして、ギャンブル嗜好と不整脈の関係が強いのは、ギャンブル嗜好が喫煙の有無の影響を受けているからだと考えられます。このため、喫煙の有無の影響を除外したうえで、ギャンブル嗜好と不整脈との関係を調べる必要が出てきます。これを「真の相関関係」といいます。そして、これを解決してくれる解析手法が「ロジスティック回帰」なのです。■原因要因相互の関係で「強い相関はない」⇒ロジスティック回帰分析の必要なし!ロジスティック回帰の計算は複雑なので、残念ながらExcelなどではできません。計算方法は、別の機会にするとして、アイスタットソフトウエア「マルチ多変量」で解いてみましょう。(※ソフトウエアはアイスタット社から1ヵ月間、無料で貸し出します。詳細はこちら)では、「マルチ多変量」で解析した結果を表16に示します。このようにロジスティック回帰を行うと、オッズ比が出力されます。オッズ比から順位が把握できるので、不整脈の原因要因の1位は喫煙の有無で、次に飲酒の有無となります。ギャンブル嗜好は、不整脈にそれほど影響がないことがわかります。つまり、表16の結果と表13の結果が異なるということは、原因要因が多数あるときは、ロジスティック回帰を使わなければいけないということです。原因要因が相互に無関係と解釈できれば、分割表のオッズ比とロジスティック回帰のオッズ比の順位は同じになります。したがって、表14で示した原因要因相互の分析をして強い相関がないことがわかれば、ロジスティック回帰分析をする必要はありません。ここで、表16のp値について説明しておきます。p値が0.05以下であれば、今回のサンプル20人から、何十万人という母集団においても、その原因は不整脈に影響を及ぼすと判断されます。表16は、3要因ともp値は0.05以上なので、母集団においてこれら3要因が原因であるかどうかはわからないということです。オッズ比が14.053とかなり大きいのに、p値は0.05を下回らないのは不思議な感じがしますね。それはサンプルが25人と少ないからでしょう。統計学の解析手法では、少ないサンプルからは有意差判定ができないと判断したのです。ロジスティック回帰について、ここでは「原因要因相互の関係を考慮してオッズ比を算出する解析手法」くらいに理解いただければ、よしとしてください。ところで、分割表から求められたリスク比から、母集団についても「影響がある/ない」といえると思いますか?次回はこの内容について解説していきます。■今回のポイント1)“後ろ向き研究” で使える手法は、オッズ比のみ! リスク比は不可!!2)ケースコントロール研究では、オッズ比が使われる!3)原因要因相互の関係で「強い相関はない」⇒ロジスティック回帰分析の必要なし!インデックスページへ戻る

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タバコを吸いやすくさせる添加物

タバコを吸いやすくする添加物 メンソール粘膜への局所麻酔作用で熱感を軽減し、煙を吸いやすくする。 砂糖燃焼で生じる「アセトアルデヒド」がニコチン急性毒性による自覚症状を緩和し、ニコチン吸入をしやすくする。砂糖メンソール成分のミントココア末アンモニア ココア末燃焼で生じる「テオブロミン」による気管支拡張作用で煙を吸いやすくする。カフェインにも同様の作用があることが知られている。 アンモニアニコチンはアルカリ性環境で吸収されやすく、酸性環境では吸収されにくい。アンモニアは粘膜をアルカリ性にし、ニコチンの吸収を早くする。「タバコは、単に葉っぱを紙で巻いたものではない。死ぬまでやめられないように巧妙に開発された製品なのだ」(2000年 WHO世界禁煙デー)社会医療法人敬愛会 ちばなクリニックCopyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.清水 隆裕氏

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タバコ関連疾患のピークはこれから

タバコ関連疾患のピークはこれからやって来る!?~紙巻きタバコ販売本数から検証~ 日本の紙巻きタバコ発売本数は1996(平成8)年の3,483億本がピーク。 タバコによる疾患は、約30年ほどの時間差を経て発症します。 日本における各種タバコ病のピークはまだ来ていないと思われます。4,000億本タバコ病のピークはまだ来ていない!?紙巻きタバコ販売本数3,5003,000↑1996(平成8)年3,483億本2,500脳卒中2,0001,5001,00001920肺がんCOPD500304050年607080902000http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd070000.html胃潰瘍社会医療法人敬愛会 ちばなクリニックCopyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.清水 隆裕氏

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原発労働者のがんリスク、被爆者と同等/BMJ

 原子力発電所の労働者について、電離放射線の低線量被曝でも累積線量の増加に比例して固形がんリスクは増加することが明らかになった。また、同リスク増加量は、日本の原爆被害者を対象にした試験結果と比較して高線量被曝の場合と同等であることも示された。米国・ノースカロライナ大学のDavid B Richardson氏らが、フランス、英国、米国の原子力産業労働者を対象にした後ろ向きコホート試験「INWORKS」のデータを基に検証し明らかにした。BMJ誌オンライン版2015年10月20日号掲載の報告。原発労働者など約31万人を延べ820万人年追跡 研究グループは、フランス、英国、米国の原子力発電所の労働者など、合わせて30万8,297人について、電離放射線の累積体外被曝量と、固形がん死亡率について調査を行った。フォローアップ中央値は26年、雇用期間中央値は12年、最終フォローアップ時の年齢中央値は58歳だった。 フォローアップ総計は820万人年だった。そのうち死亡は6万6,632人、うち固形がんによるものは1万7,957人だった。白血病以外のがんリスク、累積被曝量1Gy増で48%増 結果、放射線被曝量増加に従い、がん死亡率の線形増加が認められた。 被曝労働者における大腸の累計線量の平均値は、20.9mGy(中央値:4.1mGy)だった。 白血病を除く全がん死亡率は、累積被曝量が1Gy増すごとに10年後には48%(90%信頼区間:20~79)増大すると推算された。また、すべての固形がんについて、各国において同様の関連が認められた。 累積被曝量と固形がん死亡率との関連は、被曝量が0~100mGyの場合にも、それ以外の被曝量の場合ほど正確ではないものの、同様の関連が認められた。また、喫煙やアスベストへの職業上被曝は交絡因子である可能性があるものの、肺がんと胸膜がんを除外しても、被曝量とがん発生率との関連性に影響はなかった。 なお、検討について著者は、線量計の性能についてかなり留意したが、計測誤差が生じる可能性は排除できなかったとしている。 そのうえで、「本検討では、長期間の低線量電離放射線曝露と固形がん死亡との直接的な関連を検討した。低線量被曝よりも高線量被曝のほうが危険だと考えられているが、原発労働者のリスクは、日本の被爆者研究からの推算値と同程度だった」と述べ、「長期被曝のがんリスクの定量化は、放射線防護基準を作成するのに役立つだろう」とまとめている。

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目まぐるしく進歩する、肺がん治療

 2015年10月30日都内にて、「肺癌分子標的治療の変遷と最新治療」と題するセミナーが開かれた(主催:アストラゼネカ株式会社)。演者である中西 洋一氏(九州大学大学院医学研究院臨床医学部門内科学講座呼吸器内科学分野 教授)は、肺がん治療の変遷を中心に講演。免疫チェックポイント阻害薬の登場により、免疫療法が薬物療法の表舞台に立とうとしている現状に触れ、「将来的には判定方法や副作用への対応など、学会、国の方針自体を整備していく必要がある」と述べた。 以下、セミナーの内容を記載する。「分子標的治療」そして、「免疫療法」へ 肺がんによる死亡は、2012年時点で年間7万1,518人と急増している。その背景にある要因の1つとして、若年女性の喫煙率上昇が挙げられていたことからも明らかであるように、これまで肺がんといえば、タバコに代表される多段階発がん説が基本であった。 しかし、近年たった1つの遺伝子異常が原因で起こる「driver gene mutation」が判明した。これを機にALKやEGFRといった遺伝子の異常を調べて、薬剤を選択する時代が到来。driver oncogene変異陽性患者の予後やQOLが改善したのは記憶に新しい。 さらに、がん免疫を蘇らせるPD-1阻害薬やPD-L1阻害薬といった「免疫チェックポイント阻害薬」の登場で、「免疫療法」が新しいアプローチとして脚光を浴びつつある。「免疫療法」が薬物療法の表舞台に 従来の抗がん剤治療は、がん細胞をターゲットにして攻撃力を高めてきた。これに対し、「免疫チェックポイント阻害薬」のアプローチは異なる。その作用は免疫力の向上だ。 通常、がん組織において免疫細胞は、がん細胞が伝達する「私は味方だ」という偽のシグナルにより攻撃命令を止めていた。つまり、「がんにより免疫が眠らされた」状態にあった。免疫チェックポイント阻害薬であるPD-1阻害薬やPD-L1阻害薬は、このシグナルを解除し、がん細胞を「敵」と正しく判断させて、がん細胞を攻撃する。つまり免疫力の賦活化が作用のポイントとなる。 免疫チェックポイント阻害薬は、複数の試験で有効中止に至るなど、大きな治療効果が期待されている。免疫療法が薬物療法の表舞台に立とうとしているのだ。今後の治療は? 学会、国の方針策定が必要 講演後のディスカッションでは、この免疫療法に関する質問が多数寄せられた。免疫チェックポイント阻害薬は全例調査の対象であり、がん拠点病院など、未知の副作用が起こった場合に他診療科と連携可能な病院が主な拠点となりそうだ。中西氏は「現時点で皮膚科を中心に投与されているが、今後の適応拡大に備え、副作用を積極的に拾うことや、院内に専門チームを設置するといった他診療科にわたる活動が必要だ」と述べた。実際に九州大学では、専門チームの導入にむけた活動が進んでいるようだ。 また、「PD-1阻害薬とPD-L1阻害薬との有効性、安全性の差は?」との質問には、中西氏、および2剤の開発を手掛けるアストラゼネカ株式会社 専務の益尾氏の両名が回答した。 益尾氏は「2剤とも検討段階にあり、優劣は現時点では判断しづらい。PD-1阻害薬とPD-L1阻害薬同士の併用やPD-L1阻害薬+他抗がん剤での併用など、さまざまな検討を行っている」とコメントした。中西氏は、「理屈で言うとPD-1抑制のほうが、がん細胞側のPD-L1抑制よりは危ないようにも思うが、各薬剤の用量設定、反応の強さで異なるため一概には判断できない」と述べた。また、PD-1やPD-L1の発現基準や判定方法がメーカー間でも異なっているため、フラットな状況下で比較できないのが現状課題、としたうえで「共通の判定基準を学会、国としても整えていかなければいけない」とコメントした。編集後記 分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場など、肺がん治療は目まぐるしい発展と進歩を遂げている。しかし、新しい治療に合わせて社会インフラを整備することも必要とされそうだ。 本講演を行った中西氏が委員長を務める「肺がん医療向上委員会 」では、チーム医療の推進や肺がん患者の知識向上を目指した活動を継続している。われわれも患者さんに早期にベストな医療がもたらされるよう、メディアとして活動を応援していきたい。肺がん医療向上委員会はこちら

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坐骨神経痛のリスク、喫煙で増大:メタ解析結果

 坐骨神経痛における喫煙の役割は明確ではない。フィンランド・Finnish Institute of Occupational HealthのRahman Shiri氏らは、腰部神経根痛および坐骨神経痛に対する喫煙の影響を評価する目的でメタ解析を行った。その結果、喫煙は腰部神経根痛および臨床的な坐骨神経痛のリスクを高めることが明らかとなった。また、禁煙によりそのリスクが低下することが示唆されたが、「禁煙してもリスクがゼロになることはない」と著者は指摘している。American Journal of Medicine誌オンライン版2015年9月21日号の掲載報告。 研究グループは、PubMed、Embase、Web of Science、Scopus、Google ScholarおよびResearchGateで1964年~2015年3月までの論文を検索し、ランダム効果メタ解析を行った。不均一性と出版バイアスを評価するとともに、研究デザイン、方法論的質および出版バイアスに関して感度分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・計28件(断面的研究7件・2万111例、症例対照研究8件・1万815例、コホート研究13件・44万3,199例)の研究が、メタ解析に組み込まれた。・現在喫煙者では、腰部神経根痛または臨床的な坐骨神経痛のリスクが増加した(統合調整オッズ比[OR]:1.46、95%信頼区間[CI]:1.30~1.64、n=45万9,023例)。・元喫煙者では、非喫煙者と比較してわずかにリスクが増加した(統合調整OR:1.15、95%CI:1.02~1.30、n=38万7,196例)。・現在喫煙者に関して、腰部神経根痛の統合調整オッズ比は1.64(95%CI:1.24~2.16、n=1万853例)、臨床的な坐骨神経痛1.35(95%CI:1.09~1.68、n=11万374例)、腰椎椎間板ヘルニアまたは坐骨神経痛による入院または手術1.45(95%CI:1.16~1.80、n=33万7,796例)であった。・同様に元喫煙者では、それぞれ1.57(95%CI:0.98~2.52)、1.09(95%CI:1.00~1.19)および1.10(95%CI:0.96~1.26)であった。・これらの関連は、男女間で差はなく、研究デザインから独立していた。・出版バイアスのエビデンスはなく、観察された関連は選択バイアス、検出バイアスまたは交絡因子に起因しなかった。

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青年期の運動能力と筋力は血管疾患や不整脈イベントと関連するか(解説:三浦 伸一郎 氏)-439

 Dr. Anderson氏らは、青年期の運動能力と筋力が高い群では、共に低い群に比較して、将来の血管疾患イベントが有意に減少していたという興味深い結果を報告した。従来、中高年者の中で運動能力が高い人では、心血管疾患の罹患率や死亡率がそうでない人と比べて有意に低下していることはよく知られていた。しかし、今回の報告のように、青年期の運動能力と筋力が予後に関与するかについての報告はなかったため、このことがBMJ誌に掲載された1つの理由であろう。しかし、今回の結果は、いくつかの点を熟慮しなければならない。 第一に、今回の結果は、青年期の運動能力や筋力とその後の26.3年の追跡における、血管疾患や不整脈イベントの関連性をみた研究であることに注意すべきである。青年期の運動能力などが高ければ、一般的にその後も運動習慣を心掛ける傾向にあると思われる。しかし、追跡期間にそれらの能力が保持されていたか、または、減弱したのかは検討されていないし、検討することも容易ではないであろう。もし、追跡中も能力が保たれていれば直接的な効果ということができ、そうでなければ、青年期のレガシー効果というべきであろうか。 第二に、運動習慣は、生活歴の中で重要な位置を占めているが、対象者の食習慣、喫煙・飲酒習慣、さらには、家族歴などの因子も本研究では考慮されていない。食習慣や喫煙などは、各々の臨床研究により明らかに血管疾患イベントと関連性のある因子である。したがって、青年期の運動能力や筋力よりも、さらにイベントと関連する有用な因子であるかは明らかでない。また、対象者が男性のみであったため、性別による違いも不明である。 最後に、血管疾患と不整脈イベントの結果が若干異なる点である。血管疾患の中でも心血管疾患死が運動能力の高い者では、減少していることが重要である。次に、心不全も同様に減少している。しかし、不整脈の中でも、運動能力が高いと心房粗細動や徐脈性不整脈は増加するという異なった結果となっており、その原因として迷走神経緊張、容量負荷、圧負荷、心房過伸展などとの関わり合いが指摘されている。 いずれにしても、青年期の運動能力と筋力が高い群では、血管疾患イベントが減少していたという事実には変わりがなく、どの年齢層においても適度の運動習慣は必要であろう。

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統合失調症患者にはもっと有酸素運動をさせるべき

 初回エピソードの統合失調症患者のメタボリックシンドロームおよび代謝異常の有病率は、健常対照と比較して有意に高く、また1年間の治療フォローアップ中にいずれも有意な増大が認められたことが、デンマーク・オーフス大学病院のL. Nyboe氏らによる検討の結果、示された。さらに、メタボの有意なリスク因子として、有酸素運動の不足を示唆する所見もみられたという。結果を踏まえて著者らは、「健康的なライフスタイルを、精神科治療およびリハビリテーションの一部として推進していかなくてはならない」と提言している。Schizophrenia Research誌2015年10月号の掲載報告。 研究グループは、メタボリックシンドローム(MetS)と代謝異常の有病率について、初回エピソード統合失調症患者と年齢・性別で適合した健康対照と比較すること、また、治療1年間のMetSの変化、さらにMetSの予測因子について調べた。MetSは、国際糖尿病連合(IDF)の基準に基づく腹囲、血圧(BP)、トリグリセライド(TG)、高密度リポタンパク質(HDL)、空腹時血糖値で特定した。また、被験者の、身体的活動度、有酸素運動、喫煙、食習慣、睡眠障害、抗精神病薬および向精神薬の情報についても入手。ベースライン、フォローアップ1年時点で評価した。 主な結果は以下のとおり。・被験者は、初回エピソード統合失調症(FES)患者99例、健常対照50例であった。・FES患者は健常対照と比較して、MetSのベースライン有病率が高かった(p=0.07)。・また、各代謝異常のベースライン有病率も高く、腹囲(p<0.01)、TG(p<0.01)、HDL(p=0.017)、空腹時血糖値(p=0.04)は有意に高値であった。・FES患者は試験期間中、MetS(p=0.03)の有病率、および腹囲(p=0.04)、TG(p=0.01)が有意に増大した。・抗精神病薬および身体活動度の低さが、MetS増大と有意に相関していた。・多変量解析では、有酸素運動の少なさが、代謝異常やMetSの最も強固で有意な予測因子であった。関連医療ニュース 統合失調症患者の運動増進、どうしたら上手くいくか うつ病へのボルダリング介入、8週間プログラムの成果は 子供はよく遊ばせておいたほうがよい  担当者へのご意見箱はこちら

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収縮期血圧20mmHg上昇でPADリスク63%増大/BMJ

 収縮期血圧値が標準よりも20mmHg高いと末梢動脈疾患(PAD)リスクは63%上昇することが、英国・オックスフォード大学のConnor A Emdin氏らによる大規模コホート研究の結果、示された。これまで、血圧上昇とPADリスク増大の関連に関するエビデンスは限定的なものであった。今回、研究グループは、23年間約420万人分の英国プライマリケアの電子カルテ記録を基に分析した。結果を踏まえて著者は、「血圧上昇は幅広い患者群の強いリスク因子である」と結論し、「臨床医は、PADは慢性腎臓病、虚血性心疾患、心不全、心房細動、脳卒中などその他の血管イベントのリスクを増大することを認識しなければならない」と述べている。BMJ誌オンライン版2015年9月29日号掲載の報告。英国プライマリケアデータ420万人分を分析 研究グループは、英国の1990~2013年の電子カルテ記録を基に、標準血圧値とPADリスクの特異的サブグループの関連性、またPADとその他血管疾患の関連性を調べた。 被験者は、30~90歳で、過去1年以内にプライマリケア診療所の受診記録があり、血圧測定を行っていた422万2,459例であった。 主要評価項目は、PAD新規発症を初回診断されたまでの期間、12の異なる血管イベントの初回診断までの期間であった。PAD患者ではCKDが多い 結果、収縮期血圧値が標準よりも20mmHgと、PADリスクは63%上昇することが確認された(ハザード比[HR]:1.63、95%信頼区間[CI]:1.59~1.66)。 この関連の強さは、年齢、BMIの上昇とともに低減する(相互作用のp<0.001)が、性別や喫煙状態による影響はみられなかった。 PADは、虚血性心疾患(HR:1.68、95%CI:1.58~1.79)、心不全(1.63、1.52~1.75)、大動脈瘤(2.10、1.79~2.45)、慢性腎臓病(1.31、1.25~1.38)など11の血管イベントのリスク増大と関連していた。出血性脳卒中については関連していなかった。 PAD患者で最も頻度の高い初発の血管イベントは、慢性腎臓病(初発血管イベントの24.4%)であった。次いで、虚血性心疾患(同18.5%)、心不全(14.7%)、心房細動(13.2%)であった。 今回の検討コホートにおける全推算値は、2件のメタ解析所見をプールした、従来研究の所見と一致していた。

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糖尿病患者 喫煙で総死亡リスクが1.55倍に

 能動喫煙は、糖尿病患者の総死亡および心血管イベント発症リスクの上昇と有意に関連することが、中国・華中科技大学のAn Pan氏らの研究により明らかになった。また、禁煙した群では、現在喫煙している群と比べて、これらリスクの低下が認められた。この研究結果は、糖尿病患者に禁煙を勧めるための強力なエビデンスとなると考えられる。Circulation誌オンライン版2015年8月26日号の報告。 糖尿病患者の喫煙率は依然として高く、糖尿病の管理においては、喫煙関連の超過死亡および罹患リスクを定量化することが重要である。そのため著者らは、糖尿病患者の能動喫煙による総死亡リスクおよび心血管イベントリスクを評価するため、システマティックレビューおよびメタ解析を行った。 2015年5月にMEDLINEとEMBASEを検索し、ランダム効果モデルを用いて、多変量調整後の相対リスクをプール解析した。合計 89件のコホート研究を解析対象とした。 主な結果は以下のとおり。・喫煙と関連するプール解析の結果、調整後の相対リスク(RR)は、総死亡率で1.55(95%CI:1.46~1.64、48件、被験者1,132,700例、死亡109,966例)、心血管死亡率で1.49(95%CI:1.29~1.71、13件、37,550例、死亡3,163例)であった。・また、すべての心血管疾患(16件)の相対リスクは1.44(95%CI:1.34~1.54)であり、冠動脈疾患(21件)で1.51 (95%CI:1.41~1.62)、脳卒中(15件)で1.54 (95%CI:1.41~1.69)、末梢動脈疾患(3件)で2.15 (95%CI:1.62~2.85)、心不全(4件)で1.43(95%CI:1.19~1.72)であった。・一度も喫煙したことのない生涯非喫煙群と比べた、過去に喫煙していた群の相対リスクは、総死亡率で1.19(95%CI:1.11~1.28)、心血管死亡率で1.15(95%CI:1.00~1.32)、心血管疾患で1.09(95%CI:1.05~1.13)、冠動脈疾患で1.14(95%CI:1.00~1.30)とやや上昇したが、脳卒中リスクは上昇しなかった(RR 1.04、95%CI:0.87~1.23)。

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非扁平上皮NSCLCの2次治療、ニボルマブがOS延長/NEJM

 プラチナ製剤ベースの化学療法を行っても病勢が進行した非扁平上皮非小細胞肺がん(NSQ-NSCLC)の治療において、ニボルマブはドセタキセルに比べ、全生存期間(OS)を有意に延長することが、米国・フォックスチェイスがんセンターのHossein Borghaei氏らが行ったCheckMate 057試験で示された。NSCLCの2次治療では、新規薬剤であるペメトレキセドやエルロチニブは、標準治療薬であるドセタキセルよりも副作用プロファイルが良好だがOSの優越性は確認されていない。一方、完全ヒト型IgG4 PD-1免疫チェックポイント阻害抗体であるニボルマブは、第I相試験でNSCLCの全サブタイプで持続的な抗腫瘍効果と有望なOSが確認され、多くの前治療歴のある進行NSQ-NSCLCでは奏効率17.6%、1年OS 42%、3年OS 16%、1年無増悪生存率(PFS)18%と良好な成績が報告されている。NEJM誌オンライン版2015年9月27日号掲載の報告。2次治療での有用性を582例の無作為化試験で評価 CheckMate 057試験は、NSQ-NSCLCの2次治療におけるニボルマブの有用性を評価する国際的な非盲検無作為化第III相試験(Bristol-Myers Squibb社の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、全身状態が良好(ECOG PS 0~1)で、プラチナ製剤ベースの2剤併用レジメンによる1次治療中または治療終了後に再発または病勢が進行したStage IIIB/IVのNSQ-NSCLC患者とした。 被験者は、ニボルマブ3mg/kgを2週ごとに静脈内投与する群またはドセタキセル75mg/m2を3週ごとに静脈内投与する群に無作為に割り付けられた。治療は、病勢進行または毒性による治療中止となるまで継続された。 主要評価項目はOSとし、副次的評価項目には担当医評価で確定された客観的奏効率、PFS、PD-1発現レベルによる有効性などが含まれた。 2012年11月~13年12月までに582例が登録され、ニボルマブ群に292例、ドセタキセル群には290例が割り付けられ、それぞれ287例、268例が治療を受けた。 全体の年齢中央値は62歳、男性が55%で、PS 1が69%、Stage IVが92%、喫煙者/元喫煙者が79%であり、前治療の最良の効果は完全奏効(CR)/部分奏効(PR)が24%、安定(SD)が34%、進行(PD)が39%であった。死亡リスクが27%低下、奏効期間が約1年延長 最短のフォローアップ期間が13.2ヵ月の時点におけるOS中央値は、ニボルマブ群が12.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.7~15.0)と、ドセタキセル群の9.4ヵ月(95%CI:8.1~10.7)に比べ有意に延長した(死亡のハザード比[HR]:0.73、96%CI:0.59~0.89、p=0.002)。 1年OSはニボルマブ群が51%(95%CI:45~56)、ドセタキセル群は39%(同:33~45)だった。ほとんどの事前に規定されたサブグループで、ニボルマブ群のOS中央値が良好であった。 客観的奏効率は、ニボルマブ群が19%(CR 4例、PR 52例)であり、ドセタキセル群の12%(1例、35例)よりも有意に優れた(オッズ比[OR]:1.7、95%CI:1.1~2.6、p=0.02)。奏効までの期間中央値はそれぞれ2.1ヵ月、2.6ヵ月、奏効期間中央値は17.2ヵ月、5.6ヵ月であった。 PFS中央値(2.3 vs. 4.2ヵ月、p=0.39)はニボルマブ群のほうが短かったが、1年PFS(19 vs. 8%)はニボルマブ群が良好だった。 ニボルマブ群は、事前に規定された腫瘍細胞膜上のPD-1リガンド(PD-L1)の発現レベル(≧1%、≧5%、≧10%)のいずれにおいても、すべてのエンドポイントがドセタキセル群よりも優れていた。 治療関連有害事象の発現率は、ニボルマブ群が69%、ドセタキセル群は88%、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ10%、54%であり、ニボルマブ群で頻度が低かった。ニボルマブ群で頻度の高い有害事象として、疲労(16%)、悪心(12%)、食欲減退(10%)、無力症(10%)がみられ、ドセタキセル群では好中球減少(31%)、疲労(29%)、悪心(26%)、脱毛(25%)の頻度が高かった。 著者は、「PD-L1の発現していない患者では両群間にOSの差を認めなかったが、安全性プロファイルや奏効の持続期間がニボルマブ群で良好であったことから、PD-L1発現の有無にかかわらず、ニボルマブは治療選択肢となる可能性がある」と指摘している。

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中高年高血圧症例では足関節上腕血圧比測定を考慮する必要はあるか?(解説:冨山 博史 氏)-429

概要とコメント 本研究は、英国において1990年から2013年までプライマリケアで電子媒体に登録された、30~90歳の成人422万例の医療記録データを、前向き研究(平均観察期間7年)として解析した。前向き研究開始時に、末梢動脈疾患(PAD)非合併例は420万4,190例であり、PAD合併例は1万8,296例であった。前者では、経過中に4万4,239例(1.1%)でPADを発症し、収縮期血圧20mmHg上昇に伴い、PAD発症リスクは63%高まることが示された。 これまで血圧とPADの関係は、断面研究で検討した報告が多く1)、大規模な前向き研究が少ないため、PAD発症に対する血圧上昇のリスクとしての重要性は十分明らかでなかった。422万例を対象とした本前向き研究にて、血圧上昇がPAD発症の独立したリスクであることが示された。高血圧のPAD発症リスクとしての重要性を示す結果である。 一方、PAD合併例(1万8,296例)では、7年の経過観察中に7,760例(42.5%)で心血管イベント発症を認めた。その内訳では、従来の冠動脈疾患、脳卒中に加え、慢性腎臓病(24.4%)、心不全(14.7%)、心房細動(13.2%)の発症が多いことが新たに示された。PADでは、わが国の検討も含め20~40%の症例に腎動脈狭窄を合併することが報告されている2)。今後、こうした腎動脈狭窄のCKD発症への影響を検証する必要がある。また、PADでは血管床全体が硬化しており、中心血行動態異常が生じていると推察される。中心血行動態異常は心不全発症のリスクであり3)、今後、PADで心不全が発症する機序を明確にする必要がある。研究成果の臨床応用と限界 2007年に発表されたTASC IIでは、PAD発症リスクとしての高血圧の相対危険度(オッズ比:1.5~2)は、DM/喫煙(オッズ比:3前後)より弱いと述べている4)。本研究における重要な知見は、血圧上昇に伴うPAD発症のハザード比は70歳以上では1.4であるのに対し、40~69歳では1.8前後と上昇することである。さらに、本研究ではオッズ比は算出していないが、考察においてサブグループ解析の結果より、収縮期血圧20mmHg上昇によるPAD発症のリスクは、喫煙と同等と推察している。 一般に、PAD合併を考慮する(足関節上腕血圧比測定を考慮する)症例として、70歳以上、50~69歳でかつ喫煙または糖尿病を合併する症例が挙げられる4)。2013年、日本循環器学会「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」では、高血圧症例において足関節上腕血圧比測定を考慮する症例として、65歳以上、またはJSH2009脳心血管リスク層別化で高リスクの症例を推奨している5)。しかし、最近のガイドラインを踏まえても6)、どのような病態の高血圧症例で足関節上腕血圧比測定を考慮すべきか、十分に明確ではなかった。本研究の結果は、50~69歳で未治療高血圧例および血圧コントロール不良の症例においてもPAD合併を考慮し、適切な問診、下肢動脈触診を実施し、可能であれば足関節上腕血圧比を測定することの有用性を示唆する。 TASC IIでは、PAD症例は40~50%に冠動脈疾患、20~40%に脳卒中を合併すると報告している4)。本研究では7年の経過観察中に1万8,296例中3,415例(19%)で冠動脈疾患、脳卒中または心不全の発症を認めた。本結果は、PAD診断時にほかの心血管疾患合併のない症例でも、慎重な経過観察が重要であることを支持する。 本研究の限界として以下が挙げられる。 (1)PADの診断は間欠跛行で実施されているが、無症候性PAD(足関節上腕血圧比0.90未満だが無症状)の頻度は間欠跛行を有する症例の3~4倍とされる。近年、わが国を中心に、オシロメトリック法を用いて足関節上腕血圧比が簡便に測定されるようになり、無症候性PADを診断する機会が多くなってきた7)。本研究の結果をこうした無症候性PADに応用できるかは不明であり、また、疾患診断が電子記録媒体での評価であることも研究の限界である。 (2)本研究では、収縮期血圧・拡張期血圧上昇とPAD発症の関連は、正常血圧域から認められた。本研究の著者らは、血圧低下がPAD発症を予防すると推論を述べている。しかし、研究対象症例で降圧薬服用は観察開始時9.9%、終了時28.7%であり、積極的な血圧治療がPAD発症予防に有用であるかは検証できない。参考文献はこちら1)Meijer WT, et al. Arch Intern Med. 2000;160:2934-2938.2)Endo M, et al. Hypertens Res. 2010;33:911-915.3)Chirinos JA, et al. J Am Coll Cardiol. 2012;60:2170-2177.4)Norgren L, et al. Eur J Vasc Endovasc Surg. 2007;33 Suppl 1:S1-75.5)日本循環器学会ほか.循環器病の診断と治療に関するガイドライン2013(2011-2012年度合同研究班報告)血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン(JCS 2013).6)Vlachopoulos C, et al. Atherosclerosis. 2015;241:507-532.7)Koji Y, et al. Am J Cardiol. 2004;94:868-872.

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わかる統計教室 第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比 セクション3

インデックスページへ戻る第2回 リスク比(相対危険度)とオッズ比セクション3 オッズ比の使い道セクション1 セクション2※「■オッズ比で何がわかるのか」の内容を一部加筆・修正いたしました(2015年10月16日)。セクション2では、オッズ比でよく誤解される使い方やオッズ比の解釈を学習しました。読者の皆さんの中には、オッズ比の使い道があまりないのではないか、と考えてしまう方もいるかもしれません。確かにリスク比に比べ、オッズ比は理解しにくいのですが、実際には臨床研究でよくみられます。それでは、事例に沿って説明をしていきましょう。■オッズ比で何がわかるのか不整脈になる要因はいろいろありますが、ここでは仮に、喫煙の有無、飲酒の有無、性別、年代を取り上げ、どの要因が不整脈の有無に影響を及ぼしているかを調べることにします。表8は、それぞれの要因についての分割表、リスク比、オッズ比を示したものです。最初にリスクの差を求めてみましょう。喫煙の有無は80%-30%により50%、飲酒の有無は26.7%、性別は3.3%、年代は22.2%です。そして、その差が大きい要因ほど、不整脈の影響要因といえるわけです。次に、リスク比の順位はどうなっているでしょうか? 値が高い順からみてみましょう。喫煙の有無が2.67で1位、飲酒の有無が1.67 で2位、年代が1.33で3位、性別が1.07 で4位となります。では、オッズ比の順位はどうなっているでしょう? 1位は喫煙の有無、2位は年代、3位は飲酒の有無、4位は性別です。リスク比の順位とオッズ比の順位は一致していません。リスク比の値が大きければ、オッズ比の値も大きくなるという傾向はありますが、大小関係の順位は必ずしも一致しません。つまり、不整脈に影響を及ぼす要因の順序を付ける場合、オッズ比の順位の適用は好ましくありません。ただし、リスク比、オッズ比どちらも値が大きいほど不整脈の影響要因といえるので、順位付けが必要でない場合、リスク比、オッズ比、どちらを用いても構いません。リスク比のほうが使いやすいので、リスク比で解析することが多いのですが、臨床研究ではオッズ比を用いる人のほうが多いように思います。それは、影響要因であるかがわかれば目的を達成できるからでしょう。リスク比とオッズ比について、一度、今までの内容をまとめてみましょう。不整脈の影響要因であるかは、リスク比やとオッズ比の値の大小で把握できる。リスク比とオッズ比の順位は必ずしも一致しない。複数の影響要因があり、要因間の順位を把握する目的であれば、リスク比を使いオッズ比は使わない。リスクの倍率を比較したい場合はリスク比を適用する。表8の1番上の喫煙の有無と不整脈の有無の関係性について、オッズ比で解析した場合、オッズ比の値から「喫煙者が不整脈となるリスクは、非喫煙者に比べ9.33倍である」といってはいけない。これらを一言でまとめると、「オッズ比は、影響要因であるかを把握するだけで、複数要因の順位付けやリスクの倍率の把握には適用できない」ということになります。■理解しづらい「逆相関」を理解しやすくする方法下記の表9の分割表のリスク比、オッズ比をみてみましょう。表8との違いがおわかりになるでしょうか?表9は、喫煙と非喫煙のデータを入れ替えて表にしたものです。飲酒と非飲酒、男性と女性、60代と50代も同様です。表9の一番上の表について、どのように解釈できるのか説明していきましょう。リスクは、喫煙者のほうが非喫煙者に比べて小さくなっています。喫煙者が不整脈になるリスクは30%で、非喫煙者のリスクは80%なので、喫煙者のほうが50%リスクが低い。リスク比が0.38(30%÷80%)ということから、喫煙者が不整脈となるリスクは、非喫煙者に比べ0.38倍となります。表8は「喫煙者は非喫煙者に比べ、不整脈になりやすいという事例」でした。表9は、「(実際にはあり得ないですが)喫煙者は非喫煙者に比べ、不整脈になりにくいという事例」となります。喫煙と不整脈の関連性をみると、表8は「喫煙あり→不整脈あり」、「喫煙なし→不整脈なし」と通常考えられる関連ですが、表9では「喫煙あり→不整脈なし」、「喫煙なし→不整脈あり」という、通常ではあり得ない関連となってしまうのです。前者(表8)の関連を正の相関、後者(表9)を逆相関といいます。これらの表からわかるように、リスク比、オッズ比どちらも、正の相関の場合は1より大きく、逆相関の場合は1より小さくなっています。ここまでのところをまとめてみましょう。リスク比、オッズ比ともに値が1より大きくなるほど、喫煙者は非喫煙者に比べ、不整脈になる傾向が高まるといえます。このような関連性を「正の相関関係がある」といいます。リスク比、オッズ比とも値が1より小さくなるほど、喫煙者は非喫煙者に比べ、不整脈にならないという傾向が高まるといえます。このような関連性を「逆相関」といいます。つまり、表8の場合、リスク比は2.67>1で正の相関、すなわち、喫煙する人ほど不整脈になりやすい。表9の場合、リスク比は0.38<1で逆相関、すなわち、喫煙する人ほど不整脈になりにくい、ということになります。さて、理解はできたものの、リスク比が0.38倍というのが何か気になる、わかりにくいという方もいらっしゃるのではないでしょうか? 一般にはあり得ない表9の一番上の表の喫煙と非喫煙の位置を入れ替えた表10を作り、リスク比を計算してみましょう。このように、リスク比は1を上回りました。リスク比を解釈するとどうなるでしょうか? 非喫煙者は喫煙者に比べ2.67倍、不整脈になるといえます。表9の解釈、つまり「喫煙者は非喫煙者に比べ0.38倍、不整脈になる」と同じことになりますが、表10の表現のほうがわかりやすくなりますね。リスク比が1を下回った場合は、このような対応をお勧めいたします。次回は、なぜオッズ比が臨床研究で使われるのかを学びます。■今回のポイント1)オッズ比は、影響要因であるかを把握することでのみ活用できる!2)オッズ比は、複数要因の順位付けやリスクの倍率把握には適用できない!インデックスページへ戻る

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携帯メッセージでの生活習慣支援、LDL-C値改善に有効/JAMA

 冠動脈疾患患者に対し、携帯電話を活用した生活習慣に焦点を合わせたテキストメッセージサービス介入で、大半のLDL-C値が改善し、その他の心血管疾患リスク因子も大きく改善したことが報告された。オーストラリア・シドニー大学のClara K. Chow氏らが通常ケア介入と比較した無作為化試験Tobacco, Exercise and Diet Messages(TEXT ME)の結果、報告した。ただし、示された結果について著者は、「改善効果の期間や、臨床的アウトカムに結び付くのかどうかはなお不明である」と述べ、さらなる検討の必要性を指摘している。JAMA誌2015年9月22/29日号掲載の報告より。週4通6ヵ月の介入群 vs.通常ケア群の無作為化試験で評価 研究グループは、心血管リスク因子に関するテキストメッセージを携帯電話で送るという方法で、生活習慣に焦点を合わせた半カスタマイズ化された支援プログラムの効果を調べた。 試験は、オーストラリア、シドニーの3次機能病院1施設で2011年9月~13年11月に、単盲検並行群比較にて、710例を対象に行われた。被験者の平均年齢は58(SD 9.2)歳、男性82%、現在喫煙者が53%を占め、冠動脈性心疾患(CHD)を有していた(心筋梗塞既往または血管造影でCHD確認)。 被験者は、介入群(352例)と通常ケア群(358例)に無作為に割り付けられ、介入群には、通常ケアと、毎週4つのテキストメッセージが6ヵ月間送付された。テキストメッセージの内容は、生活習慣を変えるためのアドバイス、動機付けとなるリマインダー、支援を提供するものであった。 メッセージの送付はコンピュータシステムで自動化されていたが、対象被験者のベースライン特性(喫煙状況など)に合わせて選択して送られるようになっていた(双方向システムではない)。 主要エンドポイントは、6ヵ月時点のLDL-C値とした。副次エンドポイントは、収縮期血圧、BMI、身体活動度(MET)、喫煙状況などだった。介入群のLDL-C値5mg/dL有意に低下 結果、6ヵ月時点のLDL-C値は、介入群79mg/dL、通常ケア群84mg/dLで、介入群の有意が低下が認められた(差:5mg/dL、95%信頼区間[CI]:0~9、p=0.04)。 収縮期血圧は、128.2mmHg vs.135.8mmHg(差:7.6mmHg、95%CI:5.4~9.8、p<0.001)、BMIは29.0 vs.30.3(同:1.3、0.9~1.6、p<0.001)、METは936.1分/週 vs.642.7(同:293.4、102.0~484.8、p=0.003)、非喫煙者率は26.0%(88/339例) vs.42.9%(152/354例)(リスク比:0.61、95%CI:0.48~0.76、p<0.001)と、いずれも介入群が有意に低かった。 また、被験者の報告で、大半が、テキストメッセージが有用(91%)であり、わかりやすい(97%)と回答し、また送付頻度についても適切(86%)と回答していた。

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多発性硬化症〔MS : Multiple sclerosis〕、視神経脊髄炎〔NMO : Neuromyelitis optica〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系(脳・脊髄・視神経)に多巣性の限局性脱髄病巣が時間的・空間的に多発する疾患。脱髄病巣はグリオーシスにより固くなるため、硬化症と呼ばれる。白質にも皮質にも脱髄が生じるほか、進行とともに神経細胞も減少する。個々の症例での経過、画像所見、治療反応性などの臨床的特徴や、病理組織学的にも多様性があり、単一疾患とは考えにくい状況である。実際に2005年の抗AQP4抗体の発見以来、Neuromyelitis optica(NMO)がMultiple sclerosis(MS)から分離される方向にある。■ 疫学MSに関しては地域差があり、高緯度地域ほど有病率が高い。北欧では人口10万人に50~100人程度の有病率であるが、日本では人口10万人あたり7~9人程度と推定され、次第に増加している。平均発病年齢は30歳前後である。MSは女性に多く、男女比は1:2~3程度である。NMOは、日本ではおおむねMSの1/4程度の有病率で、圧倒的に女性に多く(1:10程度)、平均発病年齢はMSより約5歳高い。人種差や地域差に関しては、大きな違いはないと考えられている。■ 病因MS、NMOともに、病巣にはリンパ球やマクロファージの浸潤があり、副腎皮質ステロイドにより炎症の早期鎮静化が可能なことなどから、自己免疫機序を介した炎症により脱髄が起こると考えられる。しかし、MSでは副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できず、一般的には自己免疫疾患を悪化させるインターフェロンベータ(IFN-ß)がMSの再発抑制に有効である。また、いくつかの自己免疫疾患に著効する抗TNFα療法がMSには悪化因子であり、自己免疫機序としてもかなり特殊な病態である。一方、NMOでは、多くの例で抗AQP4抗体が存在し、IFN-ßに抵抗性で、時には悪化することもある。また、副腎皮質ステロイドにより再発が抑制できるなど、他の多くの自己免疫性疾患と類似の病態と思われる。MSは白人に最も多く、アジア人種では比較的少ない。アフリカの原住民ではさらにまれである。さらに一卵性双生児での研究からも、遺伝子の関与は明らかである。これまでにHLA-DRB1*1501が最も強い感受性因子であり、ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではIL-7R、 IL-2RAをはじめ、100以上の疾患感受性遺伝子が報告されている。また、NMOはMSとは異なったHLAが強い疾患感受性遺伝子 (日本人ではHLA-DPB1*0501) となっている。一方、日本人やアフリカ原住民でも、有病率の高い地域に移住した場合、その発病頻度が高くなることが知られており、環境因子の関与も大きいと推定される。その他、ビタミンD不足、喫煙、EBV感染が危険因子とされている。■ 症状中枢神経系に起因するあらゆる症状が生じる。多いものとしては視力障害、複視、感覚障害、排尿障害、運動失調などがある。進行すれば健忘、記銘力障害、理解力低下などの皮質下認知症も生じる。また多幸症、抑うつ状態も生じるほか、一般的に疲労感も強い。MSに特徴的な症状・症候としては両側MLF症候群があり、これがみられたときには強くMSを疑う。その他、Lhermitte徴候(頸髄の脱髄病変による。頸部前屈時に電撃痛が背部から下肢にかけて走る)、painful tonic seizure(有痛性強直性痙攣)、Uhthoff現象(入浴や発熱で軸索伝導の障害が強まり、症状が一過性に悪化する)、視神経乳頭耳側蒼白(視神経萎縮の他覚所見)がある。再発時には症状は数日で完成し、その際に発熱などの全身症状はない。また、無治療でも寛解することが大きな特徴である。慢性進行型になると症状は緩徐進行となる。NMOでは、高度の視力障害と脊髄障害が特徴的であるが、時に大脳障害も生じる。また、脊髄障害の後遺症として、明瞭なレベルを示す感覚障害と、その部位の帯状の締め付け感や疼痛がしばしばみられる。1)発症、進行様式による分類(1)再発寛解型MS(relapsing- remitting MS: RRMS):再発と寛解を繰り返す(2)二次性進行型MS(secondary progressive MS: SPMS):最初は再発があったが、次第に再発がなくても障害が進行する経過を取るようになったもの(3)一次性進行型MS(primary progressive MS: PPMS):最初から進行性の経過をたどるもの。MRIがなければ脊髄小脳変性症や痙性対麻痺との鑑別が難しい。2)症状による分類(1)視神経脊髄型MS(OSMS):臨床的に視神経と脊髄の障害による症状のみを呈し、大脳、小脳の症状のないもの。ただし眼振などの軽微な脳幹症状はあってもよい。MRI所見はこの分類には用いられていないことに注意。この病型には大部分のNMOと、視神経病変と脊髄病変しか臨床症状を呈していないMSの両方が含まれることになる。(2)通常型MS(CMS):大脳や小脳を含む中枢神経系のさまざまな部位の障害に基づく症候を呈するものをいう。3)その他、未分類のMS(1)tumefactive MS脱髄巣が大きく、周辺に強い浮腫性変化を伴うことが特徴。しばしば脳腫瘍との鑑別が困難であり、進行が速い場合には生検が必要となることも少なくない。(2)バロー病(同心円硬化症)大脳白質に脱髄層と髄鞘保存層とが交互に層状になって同心円状の病変を形成する。以前はフィリピンに多くみられていた。4)前MS状態と考えられるもの(1)clinically isolated syndrome(CIS)中枢神経の1ヵ所以上の炎症性脱髄性病変によって生じた初発の神経症候。CISの時点で1個以上のMS様脳病変があれば、80%以上の症例で再発し、MSに移行するが、まったく脳病変がない場合は20%程度がMSに移行するにとどまる。この時期に疾患修飾薬を開始した場合、臨床的にMSへの進行が確実に遅くなることが、欧米での研究で明らかにされている。(2)radiologically isolated syndrome(RIS)MRIにより偶然発見された。MSに矛盾しない病変はあるが、症状が生じたことがない症例。2010年のMcDonald基準では、時間的、空間的多発性が証明されても、症状がなければMSと診断するには至らないとしている。■ 予後欧米白人では80~90%はRRMSで、10~20%はPPMSとされる。日本ではPPMSが約5%程度である。RRMSの約半数は15~20年の経過でSPMSとなる。平均寿命は一般人と変わらないか、10年程度の短縮で、生命予後はあまり悪くない。機能予後としては、約10年ほどで歩行に障害が生じ、20年ほどで杖歩行、その後車椅子になるとされるが、個人差が非常に大きい。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSでは「McDonald 2010年改訂MS診断基準」があり、臨床的な時間的、空間的多発性の証明を基本とし、MRIが補完する基準となっている。NMOでは、「Wingerchuk 2006年改訂NMO診断基準」が用いられる。また、MRIでの基準があり、BarkhofのMRI基準はMSらしい病変の基準、PatyのMRI基準はNMO診断基準で利用されている(図参照)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するNMOと同様の病態と考えられるが、臨床的には、NMO-IgG(抗AQP4抗体)陽性で、視神経炎のみ、あるいは脊髄炎のみの例や、抗AQP4抗体陽性で脳病変や脳幹、小脳のみで再発を繰り返す例などがあり、それらをNMO spectrum disorderと呼ぶこともある。■ 検査MSにおいては一般血液検査では炎症所見はなく、各種自己抗体も合併症がない限り異常はない。したがって、そのような検査は、各種疾患の除外、および自己免疫疾患を含めた再発抑制療法で悪化の可能性のある合併症のチェックと、再発抑制療法での副作用チェックの目的が大きい。髄液も多くは正常で、異常があっても軽微であることが特徴である。オリゴクローナルIgGバンド(OCB)の陽性率は欧米では90%を超えるが、日本人では約70%位である。MS特異的ではないが、IgG index高値は中枢神経系でのIgG産生、すなわち免疫反応が生じていることの指標となる。電気生理学的検査としては視覚誘発電位、体性感覚誘発電位、聴性脳幹反応、運動誘発電位があり、それぞれの検査対象神経伝導路の脱髄の程度に応じて異常を示す。MRIは最も鋭敏に病巣を検出できる方法である。MSの脱髄巣はMRIのT1強調で低または等信号、T2強調画像またはFLAIR画像で高信号域となる。急性期の病巣はガドリニウム(Gd)で増強される。脳室に接し、通常円形または楕円形で、楕円形の病巣の長軸は脳室に対し垂直である病変がMSの特徴であり、ovoid lesionと呼ばれる。このovoid lesionの検出には、矢状断FLAIRが最適であり、MSを疑った場合には必ず撮影するべきである。NMO病態では、CRP上昇や補体高値などの軽度の末梢血の全身性炎症反応を示すことがあるほか、大部分の症例で血清中に抗AQP-4抗体が検出される。抗体は治療により測定感度以下になることも多く、治療前の血清にて測定することが重要である。画像では、脊髄の中心灰白質を侵す3椎体以上の長大な連続性病変が特徴的とされる。また、他の自己免疫疾患の合併が多く、オリゴクローナルIgGバンドは陰性のことが多い。■ 鑑別疾患1)初発時あるいは再発の場合感染性疾患:ライム病、梅毒、硬膜外膿瘍、進行性多巣性白質脳症、単純ヘルペスウイルス性脊髄炎、HTLV-1関連脊髄炎炎症性疾患:神経サルコイドーシス、シェーグレン症候群、ベーチェット病、スイート病、全身性エリテマトーデス(SLE)、結節性動脈周囲炎、急性散在性脳脊髄炎、アトピー性脊髄炎血管障害:脳梗塞、脊髄硬膜外血腫、脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)代謝性:ミトコンドリア病(MELAS)、ウェルニッケ脳症、リー脳症脊椎疾患:変形性頸椎症、椎間板ヘルニア眼科疾患:中心動脈閉塞症などの血管障害2)慢性進行型の場合変性疾患:脊髄小脳変性症、 痙性対麻痺感染性疾患:HTLV-I関連脊髄症/熱帯性痙性麻痺(HAM/TSP)代謝性疾患:副腎白質ジストロフィーなど脳外科疾患:脊髄空洞症、頭蓋底陥入症3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性増悪期、寛解期、進行期、それぞれに応じて治療法を選択する。■ 急性増悪期の治療迅速な炎症の鎮静化を行う。具体的には、MS、NMO両疾患とも、初発あるいは再発時の急性期には、できるだけ早くステロイド療法を行う。一般的にはメチルプレドニゾロン(商品名:ソル・メドロール/静注用)500mg~1,000mgを2~3時間かけ、点滴静注を3~5日間連続して行う。パルス療法後の経口ステロイドによる後療法を行う場合は、投与が長期にわたらないようにする。1回のパルス療法で症状の改善が乏しいときは、数日おいてパルス療法をさらに1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことを考慮する。■ 寛解期の治療再発の抑制を行う。再発の誘因としては、感染症、過労、ストレス、出産後などに比較的多くみられるため、できるだけ誘引を避けるように努める。ワクチン接種は再発の誘引とはならず、感染症の危険を減らすことができるため、とくに禁忌でない限り推奨される。その他、薬物療法による再発抑制が普及している。1)再発抑制法日本で使用できるものとしては、MSに関してはIFN-ß1a (同:アボネックス)、IFNß-1b (同:ベタフェロン)、フィンゴリモド(同:イムセラ、ジレニア)、ナタリズマブ(同:タイサブリ)がある。肝障害、自己免疫疾患の悪化、間質性肺炎、血球減少などに注意して使用する。また、NMOに使用した場合、悪化させる危険があり、慎重な病態の把握が重要である。(1)IFN-ß1a (アボネックス®) :1週間毎に筋注(2)IFN-ß1b (ベタフェロン®) :2日毎に皮下注どちらも再発率を約30%減少させ、MRIでの活動性病変を約60%抑制できる。(3)フィンゴリモド (イムセラ®、ジレニア®) :連日内服初期に徐脈性不整脈、突然死の危険があり、その他、感染症、黄斑浮腫、リンパ球の過度の減少などに注意して使用する。(4)ナタリズマブ(タイサブリ®) :4週毎に点滴静注約1,000例に1例で進行性多巣性白質脳症が生じるが、約7割の再発が抑制でき、有効性は高い。NMO病態ではIFN-ßやフィンゴリモドの効果については疑問があり、重篤な再発の誘引となる可能性も報告されている。したがって、ステロイド薬内服や免疫抑制薬(アザチオプリン 50~150mg/日 など)、もしくはその併用が勧められることが多い。この場合、できるだけ少量で維持したいが、抗AQP4抗体高値が必ずしも再発と結びつくわけでなく、治療効果と維持量決定の指標の開発が課題である。最近では、関節リウマチやキャッスルマン病に認可されているトシリズマブ(ヒト化抗IL-6受容体抗体/同:アクテムラ)が強い再発抑制効果を持つことが示され、期待されている。(5)その他の薬剤として以下のものがある。ミトキサントロン:用量依存性の不可逆的な心筋障害が必発であるため、投与可能期間が限定されるグラチラマー(同:コパキソン) :毎日皮下注射(欧米で認可され、わが国でも9月に製造販売承認取得)ONO-4641:フィンゴリモドに類似の薬剤(わが国で治験が進行中)ジメチルフマレート(BG12)(治験準備中)クラドリビン(治験準備中)アレムツズマブ(抗CD52抗体/同:マブキャンパス) (欧米で治験が進行中)リツキシマブ(抗CD20抗体/同:リツキサン) (欧米で治験が進行中)デシリズマブ(抗CD25抗体)(欧米で治験が進行中)テリフルノミド(同:オーバジオ)(欧米で治験が進行中)2)進行抑制一次進行型、二次進行型ともに、慢性進行性の経過を有意に抑制できる方法はない。骨髄移植でも再発は抑制できるが、進行は抑制できない。■ 慢性期の残存障害に対する対症療法疼痛はカルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンその他抗うつ薬や抗てんかん薬が試されるが、しばしば難治性になる。そのような場合、ペインクリニックでの各種疼痛コントロール法の適用も考慮されるべきである。その他、痙性、不随意運動、排尿障害、疲労感、それぞれに対する薬物療法が挙げられる。4 今後の展望再発抑制に関しては、各種の疾患修飾療法の開発により、かなりの程度可能になっている。しかし、20~30%の患者では再発抑制効果が乏しいこともあり、さらに効果的な薬剤が求められる。慢性に進行するPPMS、SPMSでは、その病態に不明な点が多く、進行抑制方法がまったくないことが課題である。診断と分類に関して、抗AQP4抗体の発見以来、治療反応性や画像的特徴から、NMOがMSから分離される方向にあるが、今後も病態に特徴的なバイオマーカーによるMSの細分類が重要課題である。5 主たる診療科神経内科:診断確定、鑑別診断、急性期管理、寛解期の再発抑制療法、肢体不自由になった場合の障害者認定眼科:視力・視野などの病状評価、鑑別診断、治療の副作用のショック、視覚障害になった場合の障害者認定ペインクリニック:疼痛の対症療法泌尿器科:排尿障害の対症療法整形外科:肢体不自由になった場合の補助具などリハビリテーション科:リハビリテーション全般※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)公的助成情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)診療、研究に関する情報多発性硬化症治療ガイドライン2010(日本神経学会による医療従事者向けの治療ガイドライン)多発性硬化症治療ガイドライン2010追補版(上記の治療ガイドラインの追補版)患者会情報多発性硬化症友の会(MS患者ならびに患者家族の会)1)Polman CH, et al.Ann Neurol.2011;69:292-302.2)Wingerchuk DM, et al. Neurology.2006;66:1485-1489.3)日本神経学会/日本神経免疫学会/日本神経治療学会監修.「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会編.多発性硬化症治療ガイドライン2010. 医学書院; 2010.公開履歴初回2013年03月07日更新2015年10月06日

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「やめたい気持ち」を探してみよう

「やめたい気持ち」を探してみようあなたの「タバコをやめたい気持ち」は、10点満点でいうと何点くらいでしょうか?絶対に死ぬまで吸い続けたい : 0点……どんなことをしてでも今すぐにやめたい:10点「タバコをやめたい気持ち」が0点ではない方…それはなぜでしょうか?タバコをやめたい気持ちが0点ではない理由を担当医にお話しください。社会医療法人敬愛会 ちばなクリニックCopyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.清水 隆裕氏

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カフェインとアスピリンの併用は頭痛の頻度を増加させない

 カフェインとアスピリンの併用は、アスピリン単独または鎮痛薬不使用と比較して頭痛の頻度を増加させないことが、ドイツ・エッセン大学病院のSara H. Schramm氏らによるドイツ・頭痛コンソーシアム研究において示された。カフェインと鎮痛薬の併用は、頭痛慢性化のリスクがあるとして議論の的となっていた。Pain誌2015年9月号の掲載報告。 研究グループは、18~65歳の一般住民が参加したドイツ・頭痛コンソーシアム研究において、カフェイン+アスピリン併用が、アスピリン単独と比較して片頭痛、緊張型頭痛および片頭痛+緊張型頭痛の頻度を増加させるかについて検討した。 ベースライン(2003~2007年:t0)、第1回追跡調査時(1.87±0.39年後:t1)、第2回追跡調査時(3.26±0.60年後:t2)に頭痛と鎮痛薬について調査し、t0で頭痛を有し、t0およびt2においてアスピリン単独、カフェイン+アスピリン服用または鎮痛薬不使用で頭痛頻度がわかっている人について解析した。 線形回帰法にて、頭痛頻度の変化量(Δt2-t0)を95%信頼区間[CI]値とともに推算して評価した。変化量は、性別、年齢、t1時点の鎮痛薬、飲酒、喫煙、BMI、教育レベル、t0時の頭痛頻度で補正を行い、鎮痛薬服用量に応じ、頭痛サブタイプに層別化して算出した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は509例(平均42.0±SD 11.8歳、女性56.0%、)であり、45.2%がアスピリン単独服用者、11.8%がカフェイン+アスピリン服用者、43.0%が鎮痛薬不使用者であった。・アスピリン単独服用者(41.3±10.9歳、女性59.6%)の頭痛頻度は、t0で2.8±3.1日/月、t2で3.6±4.1日/月であった。・カフェイン+アスピリン服用者(46.0±9.8歳、女性73.3%)の頭痛頻度は、t0で4.8±6.1日/ヵ月、t2で5.3±5.1日/ヵ月であった。・鎮痛薬不使用者(41.6±13.1歳、女性47.5%)の頭痛頻度は、t0で3.8±6.2日/月、t2で5.3±6.6日/月であった。・カフェイン+アスピリン服用者群において、アスピリン単独服用者群または鎮痛薬不使用者群と比較して頭痛頻度の増加は認められなかった。・アスピリン単独服用者群と比較したカフェイン+アスピリン服用者群の補正後頭痛頻度変化推定値は、全頭痛:-0.34日/月(95%信頼区間[CI]:-2.50~1.82)、片頭痛:-1.36日/月(95%CI:-4.76~2.03)、緊張型頭痛:-0.57日/月(同:-4.97~3.84)、片頭痛+緊張型頭痛:2.46日/月(同:-5.19~10.10)であった。・鎮痛薬不使用者群と比較したときの同推定値は、全頭痛:-2.24日/月(95%CI:-4.54~0.07)、片頭痛:-3.77日/月(同:-9.22~1.68)、緊張型頭痛:-4.68日/月(同:-9.62~0.27)、片頭痛+緊張型頭痛-3.22日/月(同:-10.16~3.71)であった。

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本当は怖い「低タール」タバコ

本当は怖い「低タール」タバコ 低タールタバコにしても疾病リスクは下がりません。 海外では「低タールタバコは健康への影響が少ないと誤信させた」として、タバコメーカーに損害賠償を命じる判決が出ています。【表示タール値と肺がん死リスク】(海外データ)40非喫煙を1としたときの肺がん死のリスク3030.521.6リス 20ク18.319.110 たばこ規制枠組み条約(FCTC)では「低タール」「マイルド」などの表示が禁止されています。そのため「マイルドセブン」は「メビウス」と名称が変更されました。1.00非喫煙中間タール高タール超高タール低タール(15~21mg)(22mg~)(~7mg) (8~14mg)タバコに含まれるタール量Harris JE, et al. BMJ.2004;328:72 に基づいて作成社会医療法人敬愛会 ちばなクリニックCopyright © 2015 CareNet,Inc. All rights reserved.清水 隆裕氏

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双極性障害の喫煙率、うつ病や統合失調症と比較すると

 米国・ケンタッキー大学のJames G Jackson氏らは、世界規模の論文複合解析を行い、双極性障害と喫煙との関連について調べた。その結果、双極性障害では一般集団と比べて現喫煙者が多いこと、喫煙経験(開始)が多い一方で、禁煙者は少ないことが明らかになった。また、双極性障害患者の喫煙行動の頻度は、うつ病と統合失調症の中間に位置し、統合失調症で最も高頻度であったなども示された。Bipolar Disorders誌オンライン版2015年8月4日号の掲載報告。 本検討で研究グループは、(1)双極性障害患者は、一般集団と比べて喫煙行動との関連が認められる、(2)双極性障害患者の喫煙行動率は、うつ病患者と統合失調症患者の中間程度である、との2つの仮説を立て検証した。PubMed検索または上席著者の論文コレクションから、成人喫煙者に関する論文56本を複合解析に組み込み、双極性障害患者 vs.対照群の現喫煙者、現喫煙の重度喫煙者、喫煙者だが禁煙中、喫煙経験者の各オッズ比(OR)と95%信頼区間[CI]値を算出し評価した。 主な結果は以下のとおり。・双極性障害vs.一般集団の現喫煙者の複合OR(16ヵ国51試験に基づく)は、3.5(95%CI:3.39~3.54)であった。・データは限定的であったが、禁煙者のORは0.34(95%CI:0.31~0.37)、喫煙経験者のORは3.6(95%CI:3.30~3.80)であった。・双極性障害 vs.統合失調症の現喫煙者の複合OR(10ヵ国20試験)は、0.76(95%CI:0.74~0.79)であった。・喫煙経験者は、統合失調症よりも双極性障害で少ないと言える(OR:0.83、95%CI:0.75~0.91)。・双極性障害 vs.うつ病の現喫煙者の複合OR(7ヵ国18試験)は、2.05(95%CI:2.00~2.10)であった。・喫煙経験者は、うつ病よりも双極性障害で多いと言える(OR:1.5、95%CI:1.40~1.70)。一方で禁煙者は、双極性障害のほうがうつ病よりも少ない可能性がある(OR:0.51、95%CI:0.45~0.59)。関連医療ニュース 統合失調症患者は、なぜ過度に喫煙するのか 精神疾患発症と喫煙の関連性 統合失調症と双極性障害、脳の違いはどこか  担当者へのご意見箱はこちら

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