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化学物質を扱う労働者のがんリスクの実態

 国内で化学物質を取り扱う職業に就いている労働者は、がんに罹患するリスクが有意に高く、勤務歴が長いほどそのリスクが上昇する可能性を示すデータが報告された。東海大学医学部衛生学公衆衛生学の深井航太氏らの研究によるもので、詳細は「Occupational & Environmental Medicine」に6月9日掲載された。 がんリスクを高める因子として加齢や遺伝素因のほかに、喫煙や飲酒、運動不足といった生活習慣が知られており、がん予防のため一般的には後者のライフスタイル改善の重要性が強調されることが多い。一方、複数の先進国から、全てのがんの2~5%程度は職業に関連するリスク因子が関与して発生しているという研究結果が報告されている。それに対してわが国では、労災認定される職業がんは年間1,000件ほどにとどまり、約100万人とされる1年当たりの全国のがん罹患数に比べて極めて少ない。さらに、労災認定されるがんはアスベスト曝露による肺がんや中皮腫が大半を占めていて、多くの職業がんが見逃されている可能性がある。深井氏らはそのような職業がんの潜在的リスク因子として、化学物質への曝露の影響に着目し、以下の検討を行った。 この研究は、国内最大級の入院患者レジストリである、労働者健康安全機構の労災病院グループ34施設の「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータを用いた多施設症例対照研究として実施された。2005~2020年度に同グループ病院に入院した20歳以上の男性がん患者から、化学物質を取り扱うために特殊健康診断が義務付けられている職業に従事している労働者12万278人を「症例群」として設定。一方、がん以外の入院患者の中から、がんの既往がなく、年齢カテゴリー(5歳ごと)、入院した年、医療機関が症例群に一致する、特殊健康診断の対象でない職業に従事している労働者21万7,605人を「対照群」とした。なお、女性は特殊健康診断を受けていたサンプル数が少数であったため、解析から除外している。 症例群と対照群を比較すると、前者の方が喫煙者・前喫煙者および習慣的飲酒者の割合が高かった。前記のデータセット作成時にマッチングさせた因子(年齢、入院年度、入院医療機関)と、喫煙、飲酒、および職歴(就業年数が最長の職種)を交絡因子として調整したロジスティック回帰分析の結果、化学物質の取り扱い期間(職業的曝露年数)が1年以上の労働者は、以下に記すように、化学物質の取り扱いがない労働者に比べ、全がんと複数の部位のがんの罹患率が有意に高いことが明らかになった。全がんはオッズ比(OR)1.05(95%信頼区間1.01~1.10)、肺がんはOR1.87(同1.66~2.11)、食道がんOR1.63(1.21~2.21)、膵臓がんOR1.80(1.35~2.41)、膀胱がんOR1.38(1.16~1.65)。胃がん、大腸がん、肝臓がん、胆道がんの罹患率には有意差がなかった。 次に、職業的曝露年数の三分位で3群に分類してがんリスクを検討。その結果、全がん、肺がん、食道がん、膵臓がん、膀胱がんについては、曝露年数が長いほど罹患リスクが高いという有意な相関が認められた(全て傾向性P<0.01)。曝露年数を、1~10年、11~20年、21年以上の3群で層別化した検討の結果も同様だった。 続いて、喫煙習慣の有無と職業的曝露年数(曝露なし、20年以下、21年以上)とで全体を6群に分類。喫煙歴と職業的曝露がともにない群を基準としてがん罹患リスクを検討した。すると、喫煙歴がなければ曝露年数が21年以上の場合に肺がんのオッズ比上昇が認められたが、曝露年数20年以下では非有意であり、かつ、肺がん以外のがんは曝露年数にかかわらず、有意なオッズ比上昇は見られなかった。それに対して喫煙者では、曝露年数にかかわらず、全がん、肺がん、食道がん、胃がん、膵臓がん、膀胱がん罹患のオッズ比が有意に高かった。 以上の結果を基に著者らは、「化学物質の取り扱いに従事する期間が長いほど、がんリスクが高い可能性が示され、特に喫煙習慣が重なった場合にはよりハイリスクとなると考えられる」と結論付けている。ただし、入院患者対象の症例対照研究であるためサンプリングバイアスが存在すること、残余交絡の存在を否定できないことなどの限界点を挙げた上で、「労働安全衛生法施行令の一部改正により、2023年4月より新たな化学物質規制の制度がスタートしている。今後、他のコホート研究などでの追試や、化学物質への職業的曝露を抑制するアプローチが、がん予防につながるのかの検証が求められる」と付言している。

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夜型生活は糖尿病リスクを高める

 生活パターンが夜型の女性は、糖尿病になりやすいことを示すデータが報告された。生活習慣関連リスク因子の影響を調整しても、有意な差が認められるという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のSina Kianersi氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に9月12日掲載された。 この研究は、米国で行われている看護師対象研究(Nurses’ Health Study II)のデータを用いて行われた。2009年時点で、がん、心血管疾患、糖尿病の既往歴のなかった45~62歳の女性看護師6万3,676人を2017年まで追跡。アンケートで把握したクロノタイプは、35%が朝型、11%が夜型で、その他は朝型でも夜型でもないと判定されていた。 46万9,120人年の追跡で1,925人が糖尿病を発症した。朝型の人に比べて夜型の人の糖尿病発症リスクは72%高く〔ハザード比(HR)1.72(95%信頼区間1.50~1.98)〕、朝型でも夜型でもない人は21%ハイリスクだった〔HR1.21(同1.09~1.35)〕。ただ、この関連の大部分は生活習慣によって説明できることも分かった。Kianersi氏は、「夜型の人は概して不健康な生活習慣であることが多い。彼らは、食事が非健康的で身体活動量は少なく体重が重くて、喫煙や飲酒習慣のある割合が高く、さらには睡眠時間が短い人が多かった」と解説している。 具体的には、朝型の人に比べて夜型の人は、そのような不健康な生活習慣の人が54%(49~59)多かった。また、最も健康的な生活習慣と判定された群に占める夜型の人の割合は6%だったが、最も非健康的な生活習慣と判定された群では25%を夜型の人が占めていた。しかし、年齢やBMI、交代勤務、糖尿病の家族歴などのほかに、身体活動量や食事の質などの生活習慣関連因子の影響を調整してもなお、朝型の人を基準とする夜型の人の糖尿病リスクは19%高かった(HR1.19(1.03~1.37)〕。 一方で、勤務時間帯がその人のクロノタイプと一致している場合は、夜型生活であることによる糖尿病リスクの上昇は顕著でないことも分かった。Kianersi氏は、「朝型か夜型かの違いの一部は遺伝的素因によって決まる可能性があり、その傾向に逆らおうとすると、健康に悪影響が生じることを意味していると考えられる」と述べている。なお、夜型生活による糖尿病リスクの上昇は、夜間の勤務歴の経験が10年未満の場合により高かった。 Kianersi氏によると、「ヒトのクロノタイプは約350の遺伝子マーカーとの関連が解明されている」とのことで、「今回の研究はそのような遺伝的素因の影響を理解することが、夜型生活の人の健康を守るのに役立つ可能性を示唆している。この知見は、勤務時間を柔軟に設定可能とするなどの制度設計の立案につながるのではないか」と語っている。ただし、「クロノタイプに関連している遺伝的素因が、糖尿病の発症にも関与しているのか否かということについては、さらなる研究が必要だ」としている。 なお、本報告に対する付随論評を寄せた、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のKehuan Lin氏は、「この研究結果は、生活習慣がクロノタイプと糖尿病との関連を媒介している可能性を示しているのかもしれない」としながらも、「ただし、依然として不明点が多く残されている」と指摘している。

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10代前半男子の喫煙、将来の子どものDNAに悪影響

 10代前半での男児の喫煙は、将来の子どものDNAに悪影響を与え、子どもの喘息、肥満、肺機能低下のリスクを高めることが、新たな研究で明らかにされた。英サウサンプトン大学のNegusse Kitaba氏らによるこの研究の詳細は、「Clinical Epigenetics」に8月31日掲載された。 この研究では、RHINESSA試験参加者875人(7〜50歳、男性457人、女性418人)を対象にエピゲノムワイド関連研究(EWAS)を実施してDNAメチル化パターンを調べ、参加者の母親が妊娠する前の父親の喫煙との関連を検討した。参加者のうちの328人では、父親が母親の妊娠前(参加者の出生年より2年以上前)に喫煙を開始しており、うち64人では、父親の喫煙開始年齢が15歳未満だった。なお、DNA分子にメチル基が付加されるDNAメチル化は、DNAの配列を変更せずに遺伝子の機能を制御するプロセス(エピジェネティクス)の主要素であり、主に遺伝子の発現を抑制する役割を果たす。 その結果、15歳未満で喫煙を開始した父親の子どもでは、14種類の遺伝子にマッピングされた19カ所のCpGサイトでのメチル化が確認された。また、これらのメチル化は、喘息、肥満、および喘鳴と関連していることも示された。さらに、19種類のメチル化のうちの16種類は、過去の研究では母親や当人の喫煙歴とは関連付けられていないものであった。この結果について、論文の共著者であるベルゲン大学(ノルウェー)のGerd Toril Morkve Knudsen氏は、「このことは、これらの新しいメチル化バイオマーカーが、思春期初期に喫煙を開始した父親の子どもに特有のものである可能性を示唆している」と語る。 Kitaba氏は、「このエピジェネティックなマーカーの変化は、思春期初期に喫煙を開始した父親の子どもでは、時期を問わず母親が妊娠する前に喫煙を開始した父親の子どもよりもはるかに顕著だった」と話す。そして、「思春期初期は、男児の生理的変化の重要な時期なのかもしれない。なぜなら、幹細胞が生涯にわたり精子を作り続けるための基盤を築くのがこの時期にあたるからだ」と同大学のニュースリリースで説明している。 一方、論文の共同上席著者であるベルゲン大学のCecilie Svanes氏は、「子どもの健康は、若者の今の行動にかかっている。特に重要なのは、思春期初期の男児(将来の父親)と、妊娠前および妊娠中の母親と祖母の行動だ」と話す。 英国での若年喫煙者の数は減少傾向にあるが、論文の共同上席著者であるサウサンプトン大学のJohn Holloway氏は、電子タバコの人気の高まりに懸念を示している。Holloway氏は、「動物実験の中には、紙巻きタバコの煙に含まれているニコチンが、喫煙者の子どもにエピジェネティックな変化を引き起こす可能性を示唆するものもある。そのため、今のティーンエイジャー、特に男児が、電子タバコを通じて非常に高レベルのニコチンにさらされているのは、深く憂慮すべきことだ」と述べている。 Holloway氏は、今回の研究は、タバコの使用が今よりはるかに一般的であった1960〜1970年代に10代であった父親の子どもを対象にしたものであることを指摘する。その上で、「電子タバコが世代を超えて同様の影響を及ぼすと断言することはできない。しかし、ティーンエイジャーの電子タバコ使用がもたらす影響を明らかにするのに数世代を待つべきではない。われわれは、今行動する必要がある」と強調している。

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過去30年で50歳未満のがん患者が大幅に増加

 50歳未満のがん患者が世界的に急増しているとの研究結果が報告された。過去30年間で、この年齢層の新規がん患者が世界で79%増加しており、また、若年発症のがんによる死亡者数も28.5%増加したことが明らかになったという。英エディンバラ大学のXue Li氏らによるこの研究の詳細は、「BMJ Oncology」に9月5日掲載された。 研究グループによると、がんは高齢者に多い疾患であるが、1990年代以降、世界の多くの地域で50歳未満のがん患者の数が増加していることが複数の研究で報告されているという。Li氏らは、2019年の世界の疾病負担(Global Burden of Disease;GBD)研究のデータを用いて、若年発症のがんの世界的な疾病負担について検討した。GBD 2019から、204の国と地域における14〜49歳の人での29種類のがんの罹患率や死亡率、障害調整生存年(DALY)、リスク因子に関するデータを抽出し、1990年から2019年の間にこれらがどのように変化したかを推定した。 その結果、2019年に50歳未満でがんの診断を受けた患者は326万人に上り、1990年と比べると79.1%も増加していたことが明らかになった。29種類のがんの中で、乳がんは発症率と死亡率ともに最も高かった(発症率:13.7/10万人、死亡率:3.5/10万人)。1990年から2019年の間に発症率の伸びが最も大きかったのは上咽頭がんと前立腺がんであり、それぞれ年平均2.28%と2.23%ずつ増加したと推定された。 2019年の50歳未満でのがんによる死亡者数は106万人以上に上り、1990年から27.7%増加していた。10万人当たりの死亡率とDALYが高かった上位4種のがんは、乳がん、気管・気管支・肺のがん、胃がん、大腸がんであり、また、腎臓がんと卵巣がんは死亡率が急上昇していた。 2019年に若年発症のがん症例が最も多く認められたのは、北米(273.2/10万人)、オーストラリア(157.7/10万人)、西ヨーロッパ(125.6/10万人)であった。一方、年齢調整死亡率(ASDR)が最も高かったのは、オセアニア(39.1/10万人)、東欧(33.7/10万人)、中央アジア(31.8/10万人)であり、若年発症のがんが低・中所得国にも大きな影響を及ぼしていることがうかがわれた。 このような世界的な傾向を考慮に入れた上で研究グループは、2030年までに若年発症のがんの新規患者数は31%、それによる死亡者数は21%増加し、特に40代でのリスクが高まると予測している。 なぜ若年発症のがんが急増しているのだろうか。研究グループは、遺伝的要因はもちろんのこと、それ以外にも、赤肉と塩分の摂取が多く果物や牛乳の摂取が不足した食生活、飲酒、喫煙、運動不足、肥満、高血糖も、がん患者の増加に影響している可能性があるとの見方を示している。 この論文の論説を執筆した英クイーンズ大学ベルファストのAshleigh Hamilton氏らは、「予防と早期発見のための対策を講じることが、若年発症のがんに対する最適な治療戦略の特定とともに喫緊に必要とされている」と述べている。同氏らは、「どのような治療法であれ、若年発症のがん患者に対する治療では、患者の特定のニーズに合わせた総合的なアプローチを取るべきだ」と強調している。

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糖尿病教育入院後の血糖管理に性格特性の一部が独立して関連

 糖尿病教育入院患者を対象として、性格特性と退院後の血糖コントロール状況との関連を検討した結果が報告された。ビッグファイブ理論に基づく5因子のうち、神経症傾向のスコアと、退院3カ月後、6カ月後のHbA1c低下幅との間に、独立した負の相関が見られたという。宮崎大学医学部血液・糖尿病・内分泌内科の内田泰介氏、上野浩晶氏らの研究によるもので、詳細は「Metabolism Open」6月発行号に掲載された。 糖尿病は患者の自己管理が治療(血糖管理)の良し悪しを大きく左右する疾患であり、その自己管理をどの程度徹底できるかは、個々の患者の性格特性によってある程度左右される可能性が考えられる。ただし、過去に行われたこのトピックに関する研究結果は一貫しておらず、議論の余地が残されている。また、それらの研究は主として外来患者を対象に実施されてきている。 一方、糖尿病と診断されてから間もない患者や、外来治療を継続しても血糖管理不良が続く患者に対して、短期間入院してもらい、糖尿病治療に必要な知識や方法を集中的に指導する「教育入院」が行われる。その教育入院の効果にも、性格特性が関係している可能性が想定されるが、これまでのところ明らかにされていない。内田氏らは本研究を、「糖尿病教育入院患者の性格特性と退院後の血糖管理状況との関連を検討した、初の縦断的研究」と位置付けている。 研究対象は、2021年の1年間に同大学附属病院や古賀総合病院で糖尿病教育入院を受けたHbA1c7.5%以上の患者のうち、退院後6カ月間追跡可能だった117人。性格特性は、ビッグファイブ理論の5因子をそれぞれ1~7点のスコアで評価し、入院時のHbA1c、および退院1、3、6カ月後時点のHbA1c低下幅との関連を解析した。 対象者の入院時点の主な特徴は、平均年齢60.4±14.5歳、男性59.0%、2型糖尿病82.9%、罹病期間11.4±10.5年、BMI24.9±5.1で、性格特性を表すスコアは、神経症傾向3.9±1.4、外向性4.0±1.4、開放性3.9±1.0、協調性5.3±1.0、勤勉性3.8±1.3。HbA1cは、入院時が10.2±2.1%であり、退院1カ月後は8.3±1.4%、3カ月後7.6±1.4%、6カ月後7.7±1.5%と、有意に改善していた。 入院時のHbA1cや退院後のHbA1c低下幅を目的変数とし、年齢、性別、病型、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、治療内容(1日当たりの経口・注射薬の投与回数)、および性格特性を説明変数とする重回帰分析の結果、性格特性は入院時のHbA1c、および退院1カ月後時点のHbA1c低下幅との有意な関連は認められなかった。また、性格特性の各因子のスコアの中央値で高値群と低値群に二分した上で、退院1カ月後時点のHbA1c低下幅を比較した結果も、群間に有意差はなかった。 それに対して、退院3、6カ月後時点のHbA1c低下幅は、神経症傾向のスコアと独立した負の関連がある(神経症傾向が強いほどHbA1cが大きく改善している)ことが明らかになった。具体的には、退院3カ月後時点のHbA1c低下幅との関連はβ=-0.192(P=0.025)、退院6カ月後時点はβ=-0.164(P=0.043)だった。また、神経症傾向のスコアの中央値で二分して比較すると、退院3カ月後時点のHbA1c低下幅はスコア高値群の方が有意に大きく(P=0.034)、退院6カ月後時点も境界域の有意差が認められた(P=0.050)。なお、神経症傾向以外の性格特性は、いずれの時点のHbA1c低下幅とも有意な関連がなかった。 これらの結果は、教育入院期間中に行われる集中的な療養指導が、患者の性格特性にかかわらず有意なHbA1c改善効果をもたらすこと、および、神経症傾向が強い性格特性の患者では、教育入院の効果が長期間持続しやすいことを意味している。著者らは、「患者の性格特性は容易には変えられないが、性格特性に応じて治療アプローチをアレンジすることは可能である。今後の研究により、そのようなアレンジの手法を確立することが期待される」と述べている。

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がん遺伝子パネル検査、もっと多く、もっと早く/イルミナ

 イルミナは2023年8月31日に、都内でプレスセミナー「がんゲノム医療とがん遺伝子パネル検査の現状と課題」を開催した。演者からは、がん遺伝子パネル検査(包括的がんゲノムプロファイリング[CGP]検査)のさらなる活用と、早期適用についての要望が発せられた。一般大衆のがんゲノム医療への認知度は低い 同社メディカルアフェアーズ本部長である猪又 兵衛氏は、2023年5月に同社が一般成人1,000人を対象に行った「がんゲノム医療に対する意識調査」の結果を紹介した。 がんの根本的な原因について問う質問に対し、「喫煙」「遺伝」「飲酒、偏食」という回答が上位を占め、「遺伝子異常」と認識していた人の割合はそれ以下で5割強にとどまった。また、がんゲノム医療を知っているか、との質問に対し、知っていたと回答した割合は7%であった。 猪又氏は、「がん患者やその家族など、がんに関わっている方でさえ、がんゲノム検査の認知度とがんへの正しい理解度はまだ低く、さらなる向上の余地がある」と総括した。今以上に増やせる日本の遺伝子パネル検査の活用機会は 同社ゼネラルマネジャーのArjuna Kumarasuriyar氏は、世界と日本のCGP活用に関する統計データを示した。 日本ではCGP検査が保険承認されているものの、希少がんを除き、標準治療終了後という制限がある。制限の中でCGP検査を受けているがん患者は約1万7,000例で、日本における年間の新規がん罹患数の約100万人から換算すると、58対1の比率である。この比率は韓国では10対1、ドイツでは13対1で、CGP検査を受けているがん患者の比率は日本の4〜5倍多い。Kumarasuriyar氏は、「日本では今以上にCGPの活用機会がある」と述べた。CGPをさらに治療に結び付けるために必要な、基礎・臨床研究の増加 国立がん研究センターがんゲノム情報管理センター(C-CAT)センター長の河野 隆志氏は、C-CATの実績について紹介した。 2019年6月以降のC-CATの登録累計は6万人に達する。登録者は増加傾向で、現在は月2,000件程度が新たに登録されている。CGP検査により治療薬が提示された患者は44.5%(1万3,713例)、CGP検査で提示された標的治療薬が投与された患者は9.4%(2,888例)であるという。 河野氏は、「多くの患者で遺伝子変異が見つかっているが、必ずしも薬剤に紐付いているわけではない。今後は遺伝子と薬剤の関係を導き出す基礎研究と、治療につなげる治験の増加が必要だ」と訴えた。CGP活用拡大に欠かせない、医師からの提案と診断初期からの適用 NPO法人パンキャンジャパン理事長の眞島 喜幸氏からは、希少がんと膵臓がん患者のアンケート結果が紹介された。 希少がんでは治療初期からCGP検査が認められている。しかし、医師からがんゲノム医療の説明を受けた希少がん患者は22.5%しかいない。結果、CGP検査を受けた希少がん患者は12%だった。CGP検査を受けなかった理由の第1位は「医師からの説明がなかった」である。眞島氏は、「患者から検査の要望を切り出せる状況には至っていない。医師からの提案が重要」と述べた。 また、同氏はCGPの活用時期についても言及した。膵がんではKRASやBRCAなど代表的な遺伝子変異が多い。米国のNCCNガイドラインでは、進行膵がんに対し治療初期からCGP検査が推奨されているが、日本では、膵がんでのCGP検査適用は標準治療後である。眞島氏は、「膵がんの治療は待ったなし。現在の制限を解除し、米国のように診断時からCGP検査を活用してゲノム医療につなげたい」と訴えた。

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漫画『王の病室』がリアル!【Dr. 中島の 新・徒然草】(495)

四百九十五の段 漫画『王の病室』がリアル!「暑さ寒さも彼岸まで」と言いますが、本当に彼岸を過ぎたらこの暑さが和らぐのでしょうか? 外来受診をしたタイ人の患者さんが「日本のほうが暑い!」と言っていたくらいですから、まだまだ続くのかもしれません。さて、前々回は『響~小説家になる方法』という漫画を紹介しましたが、今回は『王の病室』(講談社、原作:灰吹 ジジ、漫画:中西 淳)という医療漫画を紹介したいと思います。医学部を卒業して新しく研修医になった赤城くんが主人公。彼が研修をしながら、医療の現実の中で悩みながら成長する物語です。漫画の中の登場人物のセリフがリアル。我知らず感心してしまいました。以下、いくつかの例を紹介させていただきます。ここがリアル! その1まず、赤城くんが担当患者さんのご家族に「少しお伺いしたいことが」と呼び止められる場面。ご家族が赤城くんに尋ねます。「父が治るまでに一体いくらぐらい用意しておけばよろしいのでしょうか」これに対して赤城くんの答えが笑えます。「さあ」何ですか、「さあ」って!でも、開業医の先生はともかく、私を含めて勤務医はあまり医療費のことを考えていません。ましてや赤城くんは卒業したばかりの研修医ゆえ、「さあ」以外の答えがないのは当然です。それにしても、もう少しマシな答えはなかったものでしょうか?ここがリアル! その2先輩の獄門院 聖(ごくもんいん ひじり)先生が赤城くんを慰める場面。「安心しろ赤城。この世に絶対の名医なんて存在しねェ。だから潔く泥仕合に励むんだな」赤城くんはグッドパスチャー症候群に対して血漿交換で挑もうとしていたのですが、いくら繰り返しても改善しない、という経過を予想できていません。泥仕合とは言い得て妙です。ここがリアル! その3指導医の高野 孝太郎(たかの こうたろう)先生に血漿交換の許可をもらいに行ったときのこと。すでに負け戦が見えている高野先生にとって、血漿交換は貴重な医療資源の浪費にしか思えません。でも一生懸命な赤城くんを見てこう言います。「赤城先生のためと思って今回は大目にみましょう…(略)…ここで血漿交換療法を経験した赤城先生が未来で誰かを救うかもしれない」大金をドブに捨てるみたいな治療ではあるけれども若者の教育のため、と思って自分を無理に納得させているのでしょう。ここがリアル! その4腎臓内科の松下 優音(まつした ゆね)先生は獄門院先生や高野先生とは別の考えを持っています。彼女のセリフが私にとっては一番腑に落ちるものでした。ちょっと長いけど引用させてもらいます。「この世で最も平等なものは『病』だと思うんだ…(略)…平等という言葉を使うとき我々は少し歪んだ認識をしてると思うんだけど。『善人が救われる』『悪人が罰を受ける』どこかそんな勧善懲悪をイメージしてない?」見事に我々が無意識に持っている考えを言い当ててくれます。そして松下先生はこう続けました。「本当の平等はもっと残酷だよ。老いも若きも金持ちも貧乏人も善人も悪人も区別なくただただ病は降り注ぐ」まさしく、その通り!「だからこそ私は信じてるんだよね。病と闘う者もまた同じくらい平等が許されると。若者を助けるべきとか誰を優先すべきとか、そういう小賢しい判断は国のお偉いさんにお任せ。与えられた手段全部使って誰でも治すのが私のやり方だから」飲酒喫煙しながら長生きする人が大勢いる一方、清く正しい生活で早死にしてしまう人も少なくありません。まさしく病は平等、そして理不尽です。だからこそ、自分のほうも理不尽に振る舞い、使えるものは何でも使って治療する、という松下先生の考え方には頷かされてしまいます。この漫画には、ほかにも示唆に富むセリフが沢山出てきました。読者の皆さまには、是非ともこの漫画を買って読んでいただきたく思います。きっと「あるある」と笑えることでしょう。ということで最後に1句彼岸すぎ リアルな漫画に 感心す

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男性での加齢に伴うテストステロン減少に影響し得る要因とは

 男性のテストステロンの分泌量は、70歳まではかなり安定しているが、その後は減少し始めることが新たな研究で示された。このことから「高齢者でのテストステロンの減少は正常な老化のプロセスの一つなのか、それとも、高齢男性が直面するさまざまな健康問題を反映したものなのか」という疑問が浮上する。この研究結果を報告した西オーストラリア大学医学部教授でオーストラリア内分泌学会元会長のBu Yeap氏らは、これらの疑問に対する答えは、いずれも「イエス」ではないかとの見方を示し、肥満や高血圧、糖尿病のほか、婚姻状況までもが、加齢に伴うテストステロン減少の要因になり得るとしている。この研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に8月29日掲載された。 テストステロンの減少は、脆弱性や倦怠感を増大させるほか、性機能の衰えや筋肉量の減少、糖尿病や認知症のリスクを上昇させる可能性がある。加齢に対してできることはないが、生活習慣の是正が男らしさの維持に役立つ可能性はある。 Yeap氏らのグループは今回、オーストラリア、ヨーロッパ、北米で2019年7月までに実施された11件の研究のデータを解析した。解析に組み入れた対象者は合計2万5,149人の男性で、いずれの研究でも、質量分析法と呼ばれる方法で対象者の総テストステロン値が複数回にわたって測定されていた。 その結果、70歳超の男性では、テストステロンの平均値が70歳以下(18〜70歳)の男性よりも低いことが明らかになった。ただし、解析からは、テストステロンの分泌を促す黄体形成ホルモン(LH)の濃度が70歳以降に上昇することも示された。Yeap氏はまた、「老化を直接の原因としたテストステロン値の低下度は、比較的軽度と考えられた」とも説明している。 一方で、さまざまな要因が70歳以降のテストステロン値の低下を促していることも明らかになった。具体的には、心疾患や喫煙歴、がん、糖尿病、高血圧、過体重または肥満(高BMI)、運動不足、既婚が要因として示された。「特に過体重または肥満は、高年齢と比較してテストステロン値低下との関連がより強かった」とYeap氏は付け加えている。結婚しているか長期にわたるパートナーがいることが、高齢男性でのテストステロン値の低下に関連している点について、Yeap氏は、「結婚して家族のいる男性はストレスが多く、そのことがテストステロン値の低下をもたらしている可能性がある。ただし、われわれの研究は、この結果の詳細を明らかにできるようデザインされたものではなかった」と話している。 その上でYeap氏は、さまざまな社会人口学的要因や生活習慣要因、医学的要因が男性のテストステロン値に影響を与えているということが、今回の研究から得られた主な知見であると説明。「医師はこれらの要因を考慮した上で男性のテストステロン値の検査結果を解釈すべきだ。検査結果が予測値よりも低い場合、それは必ずしも年齢が原因であるわけではなく、これらの要因が影響している可能性も考えられる」と付け加えている。 米国心臓協会(AHA)の元会長であるRobert Eckel氏は、今回の報告を受けて、テストステロンの分泌動態は、解明が進むにつれ「どんどん複雑になっていくようだ」と話す。また、テストステロン値の低下をもたらすさまざまな要因を正確に把握するのは難しいとしながらも、2つの重要な潜在的要因として、テストステロンを全身に運ぶ働きを担っているLHと性ホルモン結合グロブリン(SHBG)と呼ばれるタンパク質を挙げている。LHとSHBGのいずれかが、健康上の問題がある場合や加齢に伴い減少すると、テストステロン値あるいは利用可能なテストステロンの量が減少する可能性があるのだとEckel氏は言う。 テストステロンの減少は、究極的にはQOLの低下につながるが、それに対して高齢男性は何をすべきなのだろうか。Eckel氏やYeap氏は、テストステロン補充療法の適切さや有用性について医師に相談するべきだと主張している。Yeap氏は「テストステロンを用いた治療は、明確な医学的理由がある場合にのみ、必ず医学的管理下で実施する必要がある」と強調している。

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脳梗塞の疾病負荷は今後も増大するとの予測

 脳梗塞の疾病負荷は1990~2019年にかけて増加しており、今後も増加が続くと予測されるとの研究結果が、「Neurology」に5月17日掲載された。 上海第四人民医院(中国)のJiahui Fan氏らは、GBD2019データベースに基づく年齢調整死亡率(ASMR)および障害調整生存年(ASDR)を用いて、1990~2019年における脳梗塞の世界的疾病負荷の地理的分布と傾向を示した。また、7つの主要リスク因子で説明可能な脳梗塞の死亡数を解析し、2020~2030年の死亡数を予測した。 解析の結果、世界の脳梗塞による死亡者数は1990~2019年に204万人から329万人に増加し、2030年までに490万人に増加すると予測された。脳梗塞のASMRとASDRは経時的に一貫した減少傾向を示し、女性、若者、社会人口統計学的特性指数(SDI)が高い地域ではこの傾向がより顕著であった。現在確認されている脳梗塞の疾病負荷の増加と、将来予測されるさらなる増加の主な寄与因子は、2つの行動因子(喫煙および高塩分の食事)と5つの代謝因子(収縮期血圧高値、LDLコレステロール高値、腎機能障害、空腹時血糖高値、BMI高値)である。 共著者の1人は「脳梗塞による世界的な死亡者数の増加と、将来のさらなる増加の予測は懸念すべきものである。しかし脳梗塞は、予防できる可能性が高い疾患である」と述べている。

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日本人NAFLD患者のCVDリスクはBMI23未満/以上で有意差なし

 痩せている非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)患者の心血管疾患(CVD)リスクは、痩せていないNAFLD患者と同程度に高いことが明らかになった。武蔵野赤十字病院の玉城信治氏、黒崎雅之氏、泉並木氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Gastroenterology」に6月17日掲載された。 NAFLDはメタボリックシンドローム(MetS)の肝臓における表現型と位置付けられており、世界人口の25%が該当するとされる主要な健康問題の一つ。NAFLD患者の多くは肥満だが、一部の患者は痩せているにもかかわらずNAFLDを発症する。欧米ではBMI25未満、アジアでは23未満のNAFLDが「痩せ型NAFLD」と定義されている。肥満併発NAFLDはCVDリスクが高いことは知られているが、痩せ型NAFLDもCVDハイリスクなのか否かは、これまでのところ十分明らかになっていない。黒崎氏らは同院の健診データを用いて、この点に関する後方視的研究を行った。 2017年1月~2022年5月に同院で健診を受け脂肪肝と診断され、3年以上追跡が可能だった人から、習慣的飲酒者(エタノール換算で男性は30g/日以上、女性は20g/日以上)、ベースライン時点でのCVD既往者、データ欠落者などを除外した581人のNAFLD患者を解析対象とした。このうち219人(37.7%)がBMI23未満の痩せ型NAFLDだった。 痩せ型/非痩せ型NAFLDのベースラインデータを比較すると、年齢は有意差がなく(58±12対59±11歳)、性別は後者に男性が多いという有意差が見られた〔50.2対60.8%(P=0.02)〕。BMIは21.5±1.1対26.2±2.8(P<0.01)であり、そのほかに高血圧、糖尿病の有病率、AST、ALT、GGT、中性脂肪は非痩せ型の方が高く、HDL-Cは痩せ型の方が高いという有意差があった。喫煙者率、脂質異常症有病率、LDL-C、血小板数、アルブミンには有意差がなかった。なお、高血圧や糖尿病、脂質異常症患者は、比較的良好に管理されていた(血圧は中央値128/81mmHg、HbA1cは同6.8%、LDL-Cは同143mg/dL)。 3年間のCVD(虚血性心疾患、心不全、脳血管疾患、末梢動脈疾患)発症率は、痩せ型群2.3%、非痩せ型群3.9%で、有意差がなかった(P=0.3)。 次に、年齢、性別(男性)、高血圧、糖尿病、脂質異常症、痩せ型/非痩せ型NAFLDを説明変数、CVD発症を目的変数とする単変量解析を施行。すると、年齢、高血圧、糖尿病と、CVD発症との有意な関連が認められた。続いて行った多変量解析の結果、CVD発症と独立した関連のある因子として、年齢のみが抽出された〔10歳ごとのオッズ比が2.0(95%信頼区間1.3~3.4)〕。 著者らは、単一施設での後方視的解析でありサンプル数が少なく、追跡期間も十分とは言えないことなどを本研究の限界点として挙げた上で、「われわれの研究結果は、痩せ型NAFLDでも非痩せ型NAFLDと同等のCVDリスクを有していると見なし、予防介入すべきであることを示している」と結論付けている。 また、CVDリスクに差がないことの背景としては、「非痩せ型NAFLDでは高血圧や糖尿病が多かったが、血圧、血糖値、およびLDL-Cが良好にコントロールされていたことが、CVDリスク低下に寄与していた可能性がある」との考察が述べられている。なお、本研究で示された痩せ型NAFLDの割合が37.7%という値は、国内の既報研究より高い。その理由として、「3年以上連続して健診を受けた対象での検討結果であり、既報研究に多い患者または一般集団での横断研究とは異なるためではないか」としている。

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心筋梗塞後の痛みで死亡リスクが上昇か

 心筋梗塞後の痛みは、胸痛に限らず、長期生存の予測因子となるようだ。新たな研究によると、心筋梗塞から1年後に痛みがある人では、その後の死亡リスクが上昇する可能性のあることが示唆された。ダーラナ大学(スウェーデン)保健福祉学分野のLinda Vixner氏らによるこの研究の詳細は、米国心臓協会(AHA)が発行する「Journal of the American Heart Association」に8月16日掲載された。 Vixner氏は、「痛みは重大な機能喪失を引き起こし、身体障害をもたらす可能性がある。これらの問題は、いずれも世界的な公衆衛生問題につながっている。しかし、心筋梗塞後に生じる痛みが死亡リスクに与える影響について、これまで大規模な研究で検討されたことはない」と述べる。 この研究でVixner氏らは、スウェーデンの心疾患のデータベース(SWEDEHEART)から、2004年から2013年の間に心筋梗塞を起こした75歳未満の患者1万8,376人(平均年齢62.0歳、男性75%)のデータを分析した。患者は、退院から12カ月後の時点の追跡調査において、痛みも含めた健康に関する質問票に回答していた。痛みについては、「痛みや不快感はない」「中等度の痛みや不快感がある」「非常に強い痛みや不快感がある」の3つの選択肢が用意されていた。この追跡調査から最長8.5年間(中央値3.4年間)のあらゆる原因による死亡(全死亡)に関するデータを集めて、心筋梗塞から1年後の痛みの重症度と全死亡との関連について検討した。 対象者の4割以上が、退院から12カ月後の追跡調査時に中等度または非常に強い痛みのあることを報告していた(中等度の痛み:7,025人、非常に強い痛み:834人)。年齢や性別、胸痛、BMIなどの関連因子を調整して解析した結果、中等度の痛みがあった患者では、その後、最長8.5年間における全死亡リスクが、痛みのない患者よりも35%高いことが明らかになった(ハザード比1.35、95%信頼区間1.18〜1.55)。また、非常に強い痛みのある患者での同リスクは、痛みのなかった患者の2倍以上だった(同2.06、1.63〜2.60)。心筋梗塞後の痛みについては、退院から2カ月後にも調査が行われたが、この際に痛みを経験していた患者の65%は12カ月後の追跡調査時にも痛みを訴えており、痛みが慢性的なものであることが示唆された。 Vixner氏は、「心筋梗塞後には、将来の死亡の重要なリスク因子として痛みの有無を評価し、認識することが重要だ。また、激しい痛みは、リハビリテーションや定期的な運動などの心臓を保護する重要な活動への参加を妨げる可能性がある」と指摘。「痛みのある患者においては、喫煙、高血圧、高コレステロール値など、他のリスク因子を減らすことが特に重要だ」と話している。さらに研究グループは、「医師は、治療を勧めたり予後を判断したりする際に、患者が中等度または非常に強い痛みを経験しているかどうかを考慮すべきだ」と述べている。ただし、この研究はスウェーデンに住んでいる人だけを対象としているため、他の国に住んでいる人には当てはまらない可能性がある。 なお、AHAによると、米国では40秒に1件の割合で心筋梗塞が生じているという。

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血液中のビタミンK濃度は肺の健康と関連

 ビタミンDほど有名ではないかもしれないが、葉物野菜に含まれているビタミンKは、肺の健康を促進する可能性のあることが、新たな大規模研究で示された。この研究では、血液中のビタミンK濃度が低い人では肺の機能が低下しており、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘鳴を訴える人が多いことも明らかにされた。コペンハーゲン大学病院およびコペンハーゲン大学(デンマーク)のTorkil Jespersen氏らによるこの研究の詳細は、「ERJ Open Research」に8月9日掲載された。 ビタミンKは、緑葉の野菜のほか、食物油、穀物粒に含まれており、血液凝固に関与し、傷の治癒を助ける。しかし、肺の健康における役割についてはほとんど知られていない。Jespersen氏らは今回、24〜77歳のコペンハーゲン市民4,092人を対象に、血液中のビタミンK濃度の低い状態が肺の機能や疾患・症状に関連するのかどうかを検討した。対象者は、肺機能検査(スパイロメトリー)を受け、血液と尿のサンプルを提出していた。スパイロメトリーでは、息を最大まで吸い込んだ状態から一気に吐き出す際の最初の1秒間の呼出量〔1秒量(FEV1)〕と、最大まで吸い込んだ息を一気に全て吐き出した際の呼出量〔努力肺活量(FVC)〕を調べる。対象者には、健康全般と、慢性疾患、喫煙や飲酒、運動、食事などのライフスタイル因子に関する調査も行われた。 その結果、血液中のビタミンK濃度の低い人は、FEV1とFVCが減少している傾向があり、また、COPD、喘息、喘鳴があると回答する可能性の高いことも判明した(オッズ比は、それぞれ2.24、1.81、1.44)。ただし、この結果は、ビタミンK濃度と肺機能との間の関連を示しているに過ぎず、両者の因果関係が証明されたわけではない。 Jespersen氏は、「この結果は、ビタミンKが肺の健康維持に一役買っている可能性を示唆するものだ」と話す。その上で、「この結果だけで、現行のビタミンK摂取に関する推奨事項が変更されるわけではない。しかし、肺疾患を持つ人など一部の人においてビタミンKの補充が有益であるかどうかについて、さらなる研究で検討するべきことを示唆する結果であることに間違いはない」との考えを示している。 この研究には関与していない、カロリンスカ研究所(スウェーデン)のApostolos Bossios氏は、「この研究において、血液中のビタミンK濃度が低い人では、肺機能が低下している可能性が示唆された。さらなる研究により、ビタミンK濃度を上昇させることで肺機能が改善するかどうかを確認し、ビタミンK濃度と肺機能の関連に対する理解を深めるのが有益だろう」との見方を示している。 Bossios氏はさらに、「その一方で、われわれは健康的でバランスの取れた食生活を心がけて全身の健康をサポートするとともに、禁煙、運動、大気汚染に対する対策を通じて肺の健康を守ることができる」と話している。

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健康な人でも少量の習慣的な飲酒で血圧上昇

 高血圧でない人が少量のアルコールを習慣的に飲み続けていると、血圧が上昇する可能性のあることが明らかになった。モデナ・レッジョ・エミリア大学(イタリア)のMarco Vinceti氏らの研究によるもので、詳細は「Hypertension」に7月31日掲載された。 アルコール摂取が血圧を高めることが知られているが、摂取量がわずかな場合にもそのような影響が生じるのか否かは明確になっていない。そこでVinceti氏らは、飲酒量と血圧との関連を縦断的に調査した過去の研究のデータを用いた用量反応メタ解析によって、この点を検討した。PubMedまたはEmbaseに、2023年5月9日までに収載された論文から、研究参加者が健康な成人であることなどの包括基準を満たす、日本、米国から各3件、韓国から1件、計7件の研究報告を抽出。研究参加者数は合計1万9,548人、追跡期間は中央値5.3年(範囲4~12)だった。 アルコールを全く飲まない場合を基準として、1日の摂取量が12gの場合は追跡期間中に、収縮期血圧(SBP)に1.25mmHg、拡張期血圧(DBP)には1.14mmHgの差が生じていた。アルコール12gとは、12オンス(約350mL)の缶ビールに含まれる量よりもやや少ない量に過ぎない。また、1日のアルコール摂取量が48gの場合は、SBPに4.90mmHg、DBPに3.10mmHgの差が生じていた。Vinceti氏は「結論として、飲酒と血圧管理は両立しない。つまり、習慣的な飲酒によって高血圧のリスクが上昇し、心臓病や脳卒中のリスクが増加する」と総括している。 では、リスクを高めない飲酒量とはどのくらいだろうか?Vinceti氏は、「少なければ少ないほうが良いことは間違いなく、さらに良いのは飲まないことだ。われわれの研究結果は、たとえわずかであってもアルコールを摂取していれば、時間の経過とともに血圧が高くなるという直線的な正の関連を示している」と解説。ただし同氏は、「飲酒が高血圧の唯一の原因というわけではない。また、少量の飲酒と血圧上昇リスクとの関連は、大量飲酒ほどには明確でないことも確かなことだ」と付け加えている。なお、飲酒以外の高血圧の原因として、米疾病対策センター(CDC)は、非健康的な食事、肥満、運動不足、喫煙などを挙げている。 論文共著者の1人で世界高血圧連盟の会長でもある米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のPaul Whelton氏は、飲酒によって血圧が上昇する理由について、「完全に明らかにされているわけではないが、最も可能性の高い理由は、アルコールによって交感神経が活性化することではないか」と解説。また同氏は飲酒に関してシンプルなアドバイスも述べている。それは、「現在、習慣的に飲酒していない場合は、飲み始めないことだ。飲酒の習慣がある場合は、断酒または節酒すべきた」というもの。同氏はこのアドバイスを、「高血圧患者ばかりでなく、血圧が正常範囲内ながらも高いという人に対して、特に強く伝えたい。なぜなら、そのような人が飲酒習慣を続けた場合、血圧上昇の経時的変化がより強く現れるからだ」と話している。 また、本研究には関与していない、米国心臓協会(AHA)のボランティアスタッフで米ニューヨーク大学グロスマン医学部のNieca Goldberg氏は、「重要なメッセージは、飲酒は高血圧や心臓病の予防にはならないという点だ」と述べ、地中海食などの健康的な食事と減塩、運動の励行、睡眠時間の確保を勧めている。

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第180回 エビやキノコなどの食物繊維キチンは肥満を生じ難くする/GLP-1薬セマグルチドが1型糖尿病にも有効らしい

エビやキノコなどの食物繊維キチンは肥満を生じ難くする食物繊維の摂取は代謝を好調にし、肥満などの代謝疾患が生じ難くなることと関連します。とはいうものの食物繊維の代謝への恩恵をわれわれの体が引き出す仕組みはあまりわかっていません。不溶性の多糖繊維のほとんどは哺乳類の酵素で消化されず、腸の微生物による分解もごく限られています。しかしエビやカニなどの甲殻類、昆虫、真菌(キノコ)などの外骨格や細胞壁の主成分であるキチンは例外的で、ほかの食物繊維と一線を画します。マウスやヒトはキチンを作れませんが、キトトリオシダーゼ(Chit1)と酸性哺乳類キチナーゼ(AMCase)と呼ばれるキチン分解酵素2つを作ることができます。摂取したキチンがその消化を促す胃でのAMCase発現亢進を導くまでの免疫反応絡みの回路が新たな研究で同定され、AMCase欠如マウスにキチンを与え続けると高脂肪食にもかかわらずあまり太らずに済むことが示されました1)。キチンとともに高脂肪食が与えられたAMCase欠如マウスは、キチンを与えなかったマウスやキチンを与えたけれどもそれを分解できるマウスに比べて体重増加や脂肪量が少なくて済み、肥満になりにくいという結果が得られています。今後の課題として研究チームはヒトではどうかを検討する予定です2)。食事にキチンを含めることで肥満を予防できるかどうかを調べることを目標としています。また、胃のキチン分解酵素の阻害とキチン補給を組み合わせることでAMCase欠如マウスのキチン摂取と同様の最大の効果を引き出せそうと研究チームは考えています。チームのリーダーSteven Van Dyken氏によると胃のキチン分解酵素を阻害する手段はいくつか存在するとのことです。GLP-1薬セマグルチドが1型糖尿病にも有効らしい肥満治療といえば2型糖尿病(T2D)治療薬として出発したノボ ノルディスク ファーマのGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)セマグルチドが大人気ですが、同剤がT2Dのみならず1型糖尿病(T1D)にも有効らしいことを示す米国・バッファロー大学のチームによる症例解析がNEJM誌に先週掲載されました3)。T1Dになったばかりの患者のほとんどはまっとうなβ細胞を有しています。そういう初期段階であればインスリン分泌を促すセマグルチドが効くかもしれず、バッファロー大学の研究者はT1D診断後3ヵ月後以内に同剤投与が始まった患者10例の1年間の経過を調べました。10例とも食事の際のインスリンと基礎インスリンを使っていましたが、セマグルチド開始から3ヵ月以内に全員が食事時のインスリンを使わずに済むようになりました。また、10例中7例は6ヵ月以内に基礎インスリンも不要となってその後もそうして過ごせました。血糖値も落ち着き、もとは12%ほどもあった糖化ヘモグロビン値はセマグルチド使用開始後半年時点では5.9%、1年時点では5.7%に落ち着きました。セマグルチドの用量を増やしている期間に軽い低血糖が生じましたが、投与量が一定になって以降の発生は認められませんでした。T1D診断後すぐからのセマグルチド投与をより大人数の無作為化試験で検討する価値があると著者は言っています。T1Dへの有効性が示唆されたことが示すようにセマグルチドなどのGLP-1薬は代謝疾患の領域で手広い用途がありそうです。もっと言うと、その域を超えて依存症分野でも活躍できる可能性を秘めています。そういう可能性の臨床検討はすでに始まっており、たとえばセマグルチドと飲酒や喫煙量の変化の関連がノースカロライナ大学主催の試験で調べられています4,5)。参考1)Kim DH, et al. Science. 2023;381:1092-1098.2)Fiber from crustaceans, insects, mushrooms promotes digestion / Eurekalert3)Dandona P, et al. N Engl J Med. 2023;389:958-959.4)ClinicalTrials.gov(NCT05520775)5)ClinicalTrials.gov(NCT05530577)

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第65回 ロジスティック回帰分析のオッズ比?【統計のそこが知りたい!】

第65回 ロジスティック回帰分析のオッズ比?今回はロジスティック回帰分析(Logistic regression analysis)におけるオッズ比(Odds ratio)について解説します。ロジスティック回帰分析のオッズは、回帰式の回帰係数から算出されます。前回の事例で求められた回帰式を示します。図1回帰係数は、変数が1変化したときの目的変数に及ぼす影響の程度を表します。値が大きいほど目的変数への影響度が高くなりますが、この事例の場合、データの単位が飲酒は日数、喫煙は本数というように、異なる場合は変数相互の比較はできません。この回帰係数を変換した数値を「調整したオッズ比」と言います。統計学の基礎オッズ比と結果は異なります。(第11回を参考にしてください)オッズは競馬などのギャンブルで使われている確率を示す数値であり、「ある事象が起こる確率P/ある事象が起こらない確率P」で定義されます。割合と似ていますが、以下の点で違いがあります。【割合】割合=任意の数/全体:(0~1)例:がんである人25人/調査した全体人数100人=0.25【オッズ】オッズ=起こる確率/起こらない確率:(0~∞)例:がんが起こる確率0.25/がんが起こらない確率0.75=0.333そして、2つのオッズを比較して示す尺度が統計学の基礎「オッズ比」です。図2調整したオッズ比はロジスティック回帰で求められるもので、統計学の基礎オッズ比と結果は異なります。オッズ比は2群データ、調整したオッズ比は数量データに適用され、調整したオッズ比は回帰係数を変換した数値になります。調整したオッズ比は、説明変数の値が1つ増加した場合のオッズ比を表します。図3オッズ比が1より大きい場合は事象が第1群で起こりやすく、1より小さい場合は第2群で起こりやすいということになります。図4この事例では、飲酒日数のオッズ比は1.11で、飲酒日数が1ヵ月間で1日増えたときのがんになる危険度は1.11倍で、オッズ比は1より大きく、飲酒量が多いほど「がんである」が起こりやすいと言えます。喫煙本数のオッズ比は1.2で、喫煙本数が1日で1本増えたときのがんになる危険度は1.2倍で、オッズ比は1より大きく、喫煙本数が多いほど「がんである」が起こりやすいといえます。ここで注意したいことに、データの単位が異なる場合、オッズ比の比較はできません。オッズ比は飲酒日数(日/1ヵ月間)は1.11、喫煙本数(本/1日)は1.20で、がんへの影響度は飲酒日数の方が喫煙本数より低いと言えません。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問5 リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その1)質問5(続き) リスク比(相対危険度)とオッズ比の違いは?(その2)質問18 ロジスティック回帰分析とは?質問21 ロジスティック回帰分析の説明変数の選び方は?質問22 ロジスティック回帰分析の事例

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慢性呼吸器疾患の世界的負荷を定量化

 慢性呼吸器疾患(CRD)は、2019年の全世界における死因の第3位で、死亡者数は400万人に上った、とする研究結果が「eClinicalMedicine」5月号に掲載された。 内分泌・代謝人口科学研究所(イラン)のSara Momtazmanesh氏らによる慢性呼吸器疾患の国際共同研究グループは、204カ国・地域における、1990年から2019年までのCRDの死亡者数、有障害年数、損失余命年数、障害調整生存年数(DALY)、有病者数、新規発症者数を、性別、年齢、地域、社会人口統計学的指標で分けて推定した。CRDは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、じん肺、間質性肺炎、サルコイドーシス、その他と定義した。 解析の結果、CRDは2019年の全世界における死因の第3位で、死亡者数は400万人、有病者数は4億5460万人であった。1990年から2019年にかけて、CRDの総死亡者数と有病者数はそれぞれ28.5%、39.8%増加したが、年齢調整後の総死亡者数と有病者数はそれぞれ41.7%、16.9%減少した。CRDによる死亡の主要原因はCOPDで、有病者数は2億1230万人、死亡者数は330万人であった。CRDの中で最も有病者数が多かったのは喘息で、2億6240万人であった。1990年から2019年にかけて、COPD、喘息、じん肺の年齢調整後の負荷指標は世界的に減少したが、同期間に間質性肺炎とサルコイドーシスの年齢調整後の新規発症者数と有病者数は上昇した。CRDによる死亡とDALYに最も寄与した要因は喫煙であり、次いで大気汚染と職業的リスクであった。 著者らは「CRDによる疾病負荷を軽減するためには、タバコ規制対策と大気の質改善戦略を世界的に完全に遵守することが重要である。社会人口統計学的指標が低度または低中度の国での死亡者数やDALYの高さは、予防、診断、治療の改善策の緊急的必要性を強調している」と述べている。 なお複数人の著者が、バイオ医薬品業界との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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シスタチンC/クレアチニン比で骨粗鬆症性骨折のリスクを予測可能

 腎機能の指標であるシスタチンCとクレアチニンの比が、骨粗鬆症性骨折の発生リスクの予測にも利用可能とする研究結果が報告された。吉井クリニック(高知県)の吉井一郎氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of General and Family Medicine」に4月20日掲載された。 骨粗鬆症による骨折は、生活の質(QOL)を大きく低下させ、生命予後を悪化させることも少なくない。骨粗鬆症による骨折のリスク因子として、高齢、女性、喫煙、飲酒、糖尿病などの生活習慣病、ステロイドの長期使用などが知られているが、近年、新たなリスクマーカーとして、シスタチンCとクレアチニンの比(CysC/Cr)が注目されつつある。 シスタチンCとクレアチニンはいずれも腎機能の評価指標。これらのうち、クレアチニンは骨格筋量の低下とともに低値となるために腎機能低下がマスクされやすいのに対して、シスタチンCは骨格筋量変動の影響を受けない。そのため骨格筋量が低下するとCysC/Crが上昇する。このことからCysC/Crはサルコペニアのマーカーとしての有用性が示されており、さらに続発性骨粗鬆症を来しやすい糖尿病患者の骨折リスクも予測できる可能性が報告されている。ただし、糖尿病の有無にかかわらずCysC/Crが骨折のリスクマーカーとなり得るのかは不明。吉井氏らはこの点について、後方視的コホート研究により検討した。 解析対象は、2010年11月~2015年12月の同院の患者のうち、年齢が女性は65歳以上、男性は70歳以上、ステロイド長期投与患者は50歳以上であり、腰椎と大腿骨頸部の骨密度およびシスタチンCとクレアチニンが測定されていて、長期間の追跡が可能であった175人(平均年齢70.2±14.6歳、女性78.3%)。追跡中の死亡、心血管疾患や肺炎などにより入院を要した患者、慢性腎臓病(CKD)ステージ3b以上の患者は除外されている。 平均52.9±16.9カ月の追跡で28人に、主要骨粗鬆症性骨折〔MOF(椎体骨折、大腿骨近位部骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折で定義)〕が発生していた。MOF発生までの平均期間は15.8±12.3カ月だった。 単変量解析から、MOFの発生に関連のある因子として、MOFの既往、易転倒性(歩行障害、下肢の関節の変形、パーキンソニズムなど)、生活習慣病(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、心不全、COPD、不眠症など)、ステージ3a以上のCKDとともに、CysC/Cr高値が抽出された。年齢や性別、BMI、骨密度、飲酒・喫煙習慣、骨粗鬆症治療薬・ビタミンD・ステロイドの処方、ポリファーマシー、関節リウマチ、認知症などは、MOF発生と有意な関連がなかった。 多変量解析で有意性が認められたのは、易転倒性と生活習慣病の2項目のみだった。ただし、単変量解析で有意な因子についてROC解析に基づく曲線下面積(AUC)を検討したところ、全ての因子がMOFの有意な予測能を有することが確認された。例えば、易転倒性ありの場合のAUCは0.703(P<0.001)、生活習慣病を有する場合は0.626(P<0.01)であり、CysC/Crは1.345をカットオフ値とした場合に0.614(P<0.01)だった。また、カプランマイヤー法によるハザード比はCysC/Crが6.32(95%信頼区間2.87~13.92)と最も高値であり、易転倒性が4.83(同2.16~10.21)、MOFの既往4.81(2.08~9.39)、生活習慣病3.60(1.67~7.73)、CKD2.56(1.06~6.20)と続いた。 著者らは、本研究が単施設の比較的小規模なデータに基づく解析であること、シスタチンCに影響を及ぼす悪性腫瘍の存在を考慮していないことなどの限界点を挙げた上で、「CysC/Crが1.345を上回る場合、MOFリスクが6倍以上高くなる。CysC/CrをMOFリスクのスクリーニングに利用できるのではないか」と結論付けている。

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喫煙者/喫煙既往歴者でスパイロメトリー測定値がCOPD基準を満たさないTEPS群の中で呼吸器症状有群(FEV1/FVC<0.7かつCAT≧10)は臨床の視点からCOPD重症化予備群として対応すべき?―(解説:島田俊夫氏)

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)と喫煙に関する研究は、これまで数多くの研究が行われている。しかしながら、スパイロメトリー測定値がCOPDの定義を満たさない対象者に関する研究はほとんどなく、治療法も確立されていない1,2)。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のWilliam McKleroy氏らによる多施設共同長期観察試験(SPIROMICS II試験)の結果が、JAMA誌2023年8月1日号に掲載された。 対象者はSPIROMICS I試験登録後5~7年に、対面受診を1回実施。呼吸器症状はCOPD Assessment Test(CAT、スコア範囲:0~40重症ほど高値)で評価した。TEPS(tobacco exposure and preserved spirometry)群は、これまでCOPD治験対象から除外されており、治療のエビデンスは確立されていない。本研究はTEPS群の自然経過に照準を絞った研究として行われた。TEPS群のスパイロメトリー測定は気管支拡張薬投与後のFEV1/FVC>0.70でCATスコア10≧を有症状群、10<を無症状群の2群に分類した。 研究対象は1,397例で内訳は226例が有症状TEPS群(平均年齢60.1歳、女性59%)、269例が無症状TEPS群(平均年齢63.1歳、女性50%)、459例が有症状COPD(平均年齢65.2歳、女性47%)、279例が無症状COPD(平均年齢67.8歳)、164例が非喫煙対照群から構成。呼吸器症状の増悪は4ヵ月ごとに電話で自己申告。 主要アウトカム:FEV1の低下。副次アウトカム:COPD発症、呼吸器症状増悪頻度、CT検査での気道壁肥厚、気腫肺。 追跡期間中央値5.76年でTEPS両群にCOPDの発生を認めたが、両群間に差はなかった。TEPS群は非喫煙対照群よりも有意にCOPDの発生率が高かった。一方でTEPS有症状群はTEPS無症状群に比べ、症状増悪率は有意に高かった(0.23 vs.0.08件/人・年、率比:2.38、95%CI:1.71~3.31[p<0.001])。論文へのコメント TEPS両群に対して禁煙は最優先で行うべき治療である。喫煙者でスパイロメトリー正常範囲の対象者は通常は治験対象から除外されていたために治療法は確立されていない。COPDの診断基準を満たさないTEPS群を症状有群と無群に分け、経時的に追跡の結果、TEPS各群共にCOPD発生の増加を認めたが、有/無症状群の比較ではCOPD発生率に差はなかった。しかし、呼吸器症状の増悪は有症状群が無症状群に比べ顕著に症状が増悪した。臨床の視点から症状増悪は軽視できず、有症状TEPS群はCOPD重症化予備群として治療を行い、適正治療確立は喫緊の課題である。 COPD予備群に対する気管支拡張剤、抗コリン剤、ステロイド剤らの使用法は確立していない。近頃、注目を集めているPRISm(preserved ratio impaired spirometry)はFEV1/FVC≧0.7かつ%FEV1(FEV1/FEV1予測値)<80%を満たす予後不良の病態である3,4)。この病態も含めてCOPD近縁疾患相互の絡み解明が必要と考える。

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心血管疾患や死亡のリスクの低さと関連のある6種類の食品

 世界80カ国の人々の食事関連データを解析した研究から、野菜、果物、魚などの摂取量が多いほど、全死亡(あらゆる原因による死亡)や心筋梗塞・脳卒中などの心血管疾患(CVD)発症のリスクが低いことが明らかになった。マクマスター大学(カナダ)のSalim Yusuf氏らの研究によるもので、詳細は「European Heart Journal」に7月6日掲載された。 この研究ではまず、21カ国の35~70歳の一般住民16万6,762人が参加し現在も進行中の大規模疫学研究「PURE研究」のデータを用いて、新たな食事スコアを開発。そのスコアを、5件の疫学研究(80カ国、24万4,597人)に適用し、全死亡およびCVDリスクとの関連が検討された。なお、論文の上席著者であるYusuf氏によると、「これまでにも地中海食スコアなどを用いた同様の検討が行われているが、それらのスコアは主に欧米の高所得国のデータを基に作られたものである」という。それに対してPURE研究は、「低・中・高所得国が含まれていることが特徴だ」としている。 新たに開発された食事スコアは、野菜、果物、ナッツ、豆類、魚、乳製品という6種類の食品について、対象全体の摂取量の中央値以下の場合は「0」、中央値より多い場合は「1」として、合計6点のスコアで評価するというもの。PURE研究の参加者の平均は2.95±1.50点であり、国民1人当たり所得と正相関していた(傾向性P<0.0001)。 PURE研究では、中央値9.3年(四分位範囲7.5~10.8)の追跡で全死亡1万76件、CVDイベント8,201件が記録されていた。食事スコアと全死亡およびCVDリスクとの関連の解析に際しては、交絡因子〔年齢、性別、喫煙・運動習慣、摂取エネルギー量、ウエスト・ヒップ比、糖尿病、教育歴、経済状態、スタチン・降圧薬の使用、居住環境(都市部か否か)など〕の影響を統計学的に取り除いた。その結果、スコアが1点以下の群(17.6%が該当)と比較して5点以上の群(17.0%が該当)は、全死亡〔ハザード比(HR)0.70(95%信頼区間0.63~0.77)〕、CVD〔HR0.82(同0.75~0.91)〕ともに有意に低リスクだった。 PURE研究とは別の血管障害を有する患者を対象とする3件の研究、および2件の症例対照研究のデータを用いた解析からも、同様の結果が示された。 また、PURE研究を通じて、以下のような健康的な食事パターンが明らかになった。それは、スコアが5点以上の人が摂取しているものであり、野菜と果物は毎日それぞれ2~3食分(サービング)摂取し、そのほかに1週間で豆類を3~4サービング、ナッツを7サービング、魚を2~3サービング、乳製品を14サービング摂取するというもの。ただしYusuf氏によると、これら以外にも「精製されていない全粒穀物や未加工の肉であれば、適量の範囲内である限り、健康上のメリットは変わらない」としており、それぞれ1日に1サービング程度はほかの食品と置き換えてもよいという。 なお、世界保健機関(WHO)によると、2019年には世界中で約1800万人がCVDにより死亡しており、これは全死亡者数の約32%に相当する。またCVD死の約85%は、心筋梗塞と脳卒中によるものだった。

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ASCVDリスク評価、タンパク質リスクスコアが有望/JAMA

 アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスク評価において、プロテオミクスに基づくタンパク質リスクスコア(protein risk score)は、1次および2次予防集団の双方で優れた予測能を示し、1次予防集団で臨床的リスク因子にタンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、統計学的に有意ではあるもののわずかな改善が得られたことが、アイスランド・deCODE genetics/AmgenのHannes Helgason氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年8月22・29日合併号に掲載された。3つのリスク評価法を比較するアイスランドの研究 研究グループは、1次および2次予防集団において、ASCVDのリスクを予測するタンパク質リスクスコアを開発し、臨床的リスク因子モデルおよび多遺伝子リスクスコアと比較した。 主解析は1次予防集団の後ろ向き研究であり、募集時にプロテオミクスのデータを有し、主要なASCVDイベント既往のない年齢40~75歳のアイスランド居住者1万3,540人を対象とした。募集期間は2000年8月23日~2006年10月26日で、2018年まで追跡調査を行った。 2次予防集団の解析では、スタチン治療を受けている安定期のASCVD患者を対象とした二重盲検無作為化試験(FOURIER試験、2013~16年)の参加者で、プロテオミクスのデータを有する6,791人を対象に含めた。 4,963人の血漿タンパク質の値に基づき、1次予防集団の訓練セットを用いてタンパク質リスクスコアを開発し、冠動脈疾患と脳卒中の多遺伝子リスクスコア、および血漿採取時の年齢、性別、スタチン使用、高血圧治療、2型糖尿病、BMI、喫煙状況などを含む臨床的リスク因子のモデルと比較した。 主要アウトカムは、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈性心疾患死、心血管死の複合とした。Cox生存モデルと、非ASCVD死の競合リスクを考慮した判別および再分類の指標(C index)を用いて、3つのリスク評価法の性能を解析した。アフリカ/アジア系の2次予防で、MACEと有意な関連 1次予防集団のテストセット(白人4,018人[女性59.0%]、イベント発生数465件、追跡期間中央値15.8年)では、タンパク質リスクスコアの1標準偏差(SD)当たりのハザード比(HR)は1.93(95%信頼区間[CI]:1.75~2.13)であった。 また、臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアを加えると、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.022、95%CI:0.007~0.038)。臨床的リスク因子モデルに、タンパク質リスクスコアのみを追加した場合も、C indexの有意な上昇を認めた(群間差:0.014、95%CI:0.002~0.028)。 2次予防集団(白人6,307人、イベント発生数432件、追跡期間中央値2.2年)では、タンパク質リスクスコアの1SD当たりのHRは1.62(95%CI:1.48~1.79)であり、臨床的リスク因子モデルにタンパク質リスクスコアを加えた場合、C indexが有意に上昇した(C indexの変化量:0.026、95%CI:0.011~0.042)。 また、2次予防集団のアフリカ系およびアジア系の人種では、タンパク質リスクスコアが主要有害心血管イベント(MACE:心筋梗塞、脳卒中、心血管死の複合)と有意な関連を示した(アフリカ系の1SD当たりのHR:1.82、p=0.001、アジア系の同HR:1.82、p=0.008)。 著者は、「タンパク質リスクスコアと多遺伝子リスクスコアが、スクリーニングを目的とした場合に臨床的に有用かを明らかにするために、さらなる検討を要する」としている。

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