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歯と口の健康は「オーラルフレイル」を知ることから

 食事の能力は、歯と口の機能に関連するさまざまな要因に支えられており、「オーラルフレイル」(口の機能が衰えること)が注目されてきている。今回、5,000人以上の成人を対象に行われた研究により、高リスクの人ほど、オーラルフレイルについて知らないことが明らかとなった。また、オーラルフレイルを認知していることと、性別や年齢、居住地域、生活習慣などとの関連も示された。神奈川歯科大学歯学部の入江浩一郎氏、山本龍生氏らによるこの研究結果は、「Scientific Reports」に1月3日掲載された。 歯と口の健康には予防が重要だ。これまでにも例えば、80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという「8020運動」を認知していることは、定期的な歯科受診と有意に関連することが報告されている。しかし、オーラルフレイルの認知がどのような影響を持つかについては明らかになっていない。そこで著者らは、オーラルフレイルを認知しているかどうかが、そのリスクに及ぼす影響を検討した。 対象は、神奈川県の歯科クリニックを受診または訪問歯科を利用した20歳以上の人で、2020年6月から2021年3月に研究に参加した。オーラルフレイルのリスクを評価し、自記式の質問紙により年齢・性別、居住地域(神奈川県を8つの地域に区分)、運動・喫煙の習慣などを調査。さらに、オーラルフレイルの認知(その意味または言葉を知っているか)、バランスの良い食事を心掛けているか、口の健康を意識しているかどうかを調査した。 オーラルフレイルのリスク評価には、OFI-8(Oral Frailty Index-8)と呼ばれる質問紙が用いられた。OFI-8は、「半年前と比べて硬いものが食べにくくなったか」「お茶や汁物でむせることがあるか」「義歯を使用しているか」などの8項目に、「はい」「いいえ」で回答してもらい、スコア化するもの。合計スコアが4点以上で高リスクと判定される。 その結果、解析対象となった5,051人(平均年齢59.9±18.7歳、女性3,144人)のうち、オーラルフレイルの高リスクと判定されたのは1,418人(28.1%)だった。 また、オーラルフレイルを認知していたのは1,495人(29.6%)にとどまった。高リスク者の割合は、オーラルフレイルを認知していた人では18.7%だったのに対し、認知していなかった人では32.0%に上り、有意な差が認められた。 さらに、オーラルフレイルの認知度が低いのは、男性、高齢の人、川崎市・相模原市の居住者、運動習慣がない人、バランスの良い食事を心掛けていない人、口の健康を意識していない人、オーラルフレイルのリスクが高い人、そして訪問診療の患者だった。 以上から著者らは、「オーラルフレイルのリスクは、オーラルフレイルの認知と有意に関連していた」と結論。認知度が29.6%だったことに関しては、日本歯科医師会が2025年までの目標として設定した「50%」に届いていないと指摘している。また、「驚くべきことに、高リスクの人が若い年齢層にも存在した」と述べ、「今回の研究対象を65歳以上に限定しなかった理由は、若年期からのオーラルフレイル予防対策が重要であることを伝えることだった」と付言している。

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第199回 「想定外を想定せよ」が活きた恵寿総合病院の凄すぎる災害対策

同じテーマが続いて恐縮だが、今回も能登半島地震のことについて触れたいと思う。敢えてこうして連続で触れるのは、ある考えがあってのことだからだ。一言で言うと、「とかく人は熱しやすくて冷めやすいもの」と思っている。これはメディアの世界に身を置いていると痛切に感じることである。ある種の大きな災害が起きると、人は一瞬その情報に釘付けになる。ところが早ければ1ヵ月、長くとも3ヵ月も経つと、たとえどんなに大きな災害であっても当事者以外にとっては他人事になってしまう。もっとも私は大上段から「常に能登半島のことを思え」などと言うつもりは毛頭ない。被災地以外の人が常に被災地のことを考え、心理的に落ち込んでしまえば、世の中は回らない。実はこの事は被災地の人も同じである。それに関連して思い出すのが、東日本大震災の取材中、ある避難所で出会った高齢男性のことだ。ちなみに私にとって災害取材で一番苦手な取材現場が避難所である。あの場所にズケズケ入って「お話聞かせてください」はかなり気が引ける。よく「メディアは無神経に…」と言われることが多いが、被災地で出会うメディア関係者同士の雑談でも「実は自分も苦手で」という人は少なくない。ただ、やはり時間に迫られながらインタビューを取る必要がある時はそうせざるを得ない。しかし、自分にとってはいつまで経っても慣れることはない。避難所取材の時、私が屋内に入る代わりに赴く場所がある。避難所屋外に設置された喫煙所である。そこにはたいてい数人がたむろしている。報道腕章を付けていくと、結構な確率で「あんたらもご苦労さんだね」とそこにいる被災者から声がかかる。それを糸口に会話を始めると、実質的に取材となることが多いのだ。私が時折、思い出す前述の高齢男性もそのような形で出会った。その時の喫煙所には彼しかいなかった。彼は私を見るなり、独り言のように語り始めた。「俺さ、母ちゃん(妻)が津波で流されてしまってさ。んでも、避難所で若い綺麗なボランティアの女の子を見ると、ついそっち見るしな、時間が経てば腹も減るんだよな。兄ちゃん、俺は頭おかしいのかね?」一瞬戸惑ったが、避難所が地元の宮城県だったこともあり、私は地元訛りで次のように返した。「ほだごとねえんでねえの(そんなことないんじゃないの)? 津波のことばっか考えていられねえべさ」男性は一瞬目を丸くした。経験上、地方での災害取材時に被災者は「報道記者=東京の人」のような思い込みがあり、記者が訛りのある言葉を話すとは思っていないのだ。男性は丸くした目を普通に戻して、タバコをもう一度口にして煙を吐きながらこう言った。「んだがもな(そうかもしれない)」発災時ですらその場にいる人は、今起きていることが異常ではないと考えようとする「正常性バイアス」が働くもの。まして発災から時間が経てば、個人差はあっても常に災害の事だけを考えているわけにはいかない。というか、過度に気落ちしないために意図的に考えようとしないことも多い。そして被災地から離れた場所では半ば“忘れてしまう”のも無理はないと思っている。それでも私が再び能登半島地震について触れようとするのは、被災地外の人に防災対策を伝えるためには、まだ記憶が生々しい時期のほうが頭に入りやすいと思うからだ。神野 正博氏が伝える災害に負けない病院経営さて前置きが長くなってしまったが、先日、私が所属する日本医学ジャーナリスト協会で「能登半島地震~災害でも医療を止めない!病院のBCPと地域のBCP」と題して、現地の七尾市にある恵寿総合病院理事長の神野 正博氏にオンライン講演をお願いした。神野氏と言えば、全日本病院協会の副会長でもあり、医療業界では著名人である。あの大地震で426床を有する能登半島唯一の地域医療支援病院である恵寿総合病院も無傷でいられるわけもなく、本館以外に2つある鉄筋コンクリート造の病棟は物品が散乱し、本館と各病棟をつなぐ連絡通路も各所で破損した。断水は講演時点の2月13日時点でも継続中だった。しかし、発災翌日の1月2日には産科での分娩を行い、4日に通常外来、6日に血液浄化センターを再開している。マグニチュード7クラスの地震の被災地で、これが可能だったことは極めて驚くべきことである。そしてその理由は「事業継続マネジメント(BCM)」「事業継続計画(BCP)」を策定し、事前に入念な対策をしていたからだった。神野氏の口から語られた事前対策の肝は「基本は二重化」。具体例を以下に列挙する。本館で免震建築+液状化対策水道と井戸水による上水の二重化2ヵ所の変電所より受電夜間離発着設備も有した屋上ヘリポートも含めて避難経路二重化全国の病院との非常時相互協力協定全国の医療物資物流センター31ヵ所とバックアップ協定免震棟上層階にサーバー室設置震度5以上で自動発信するALSOKの職員安否確認・非常招集システム採用ゼネコン系設備管理会社24時間365日常駐神野氏によると「井戸水は平時に保健所に定期的な水質検査を実施してもらい、水道停止後ただちに井戸水に切り替え、医療用水・生活用水にいつでも利用できるようにしておいた」という念の入れようだ。もっとも120人の透析を行う別棟は、井戸水を上水利用する設備がなく、陸上自衛隊による1日15トンの給水支援を受けて再開にこぎつけている。変電所も北陸電力に依頼し2回線受電をしており、今回、実際に1つの変電所が瞬停して非常用自家発電に切り替わったものの、すぐにもう1つの正常だった変電所からの受電に切り替えて事なきを得ている。また、ゼネコン系設備管理会社24時間365日常駐は一瞬何のことかわからない人もいるかと思うが、この点について神野氏は次のように語った。「常駐者がいることで水道管の破裂などはすぐに復旧した。また、大手ゼネコンなので1月2日にはゼネコンの関係者が駆付け、復旧には大きな役割を果たした。よく病院の経営コンサルタントは、医業収益改善のためにまず清掃会社と設備管理会社をより安価なところに変更することを提案するが、私たちはそういうことは聞かずにやってきて本当に良かったと思っている」このような対策を聞くと、「いったいそのお金はどこから?」との疑問が浮かんでくるだろう。神野氏は「あくまで平時の診療報酬による収益の範囲内で準備をしてきた。災害対策を予算化したのではなく、都度都度、非常時対策を考えてのメンテナンスの一環として行ってきた」という趣旨の発言をした。これについてはかなり頷いてしまった。こうした大規模災害が起こると「いざ災害対策を!」のような掛け声があちこちから挙がる。しかし、人という生き物は概して納得尽くでないとお金は投じられない生き物でもある。災害・防災関連もテーマとする私はこうした大災害発生時に週刊誌などからコメントを求められることが多いのだが、その際にいつも言うことは「どんな小さなことでも良いから思いついたときに思いついたことに手を染め、必ずその点については完遂し、可能ならば日常化する」と伝えている。これだけだと、よくわからない人もいるかもしれないので、具体例を挙げると、自分の場合、災害現場の取材も少なくないので、がれきなどを踏んで負傷することを防止するため、平時から履いている靴には踏み抜き防止インソールを入れっぱなしにしている。たまにそのことを忘れ、空港の金属探知機でブザーが鳴ってしまうこともあるが、これは忘れるほど日常化している証でもある。また、国内の大災害ニュースに接した際、過去2年間を振り返り、破傷風ワクチンを追加接種していない場合は、現場取材に赴くか否かにかかわらず、医療機関に追加接種に行く。これ以外にも行っている対策はいくつかあるがここでは省略しておく。いずれにせよ災害対策とは、それが効果的だったかの答え合わせは、被災時にしかできない無慈悲な世界である。やはり「思い立ったが吉日」なのだと、今回再認識させられている。

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低炭水化物ダイエット、肉食だと効果が続かない?

 低炭水化物ダイエットの体重に対する影響は一律ではないことが報告された。炭水化物を減らした分のエネルギーを植物性食品主体に置き換えて摂取した場合は減量効果が長期間続く一方、動物性食品に置き換えて摂取した場合は時間の経過とともに体重が増加に転じやすいという。米ハーバード大学T. H.チャン公衆衛生大学院のBinkai Liu氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に12月27日掲載された。論文の筆頭著者であるLiu氏は、「われわれの研究では、炭水化物を摂取すべきか摂取すべきでないかという単純な疑問の範囲を超え、食事の内容の違いが数週間や数カ月ではなく数年間にわたって、健康にどのような影響を与える可能性があるかを検討した」と述べている。 この研究は、米国で医療従事者を対象に現在も行われている、3件の大規模前向きコホート研究のデータを用いて行われた。一つは30~55歳の看護師を対象とする「Nurses' Health Study;NHS」で、別の一つは25~42歳の看護師対象の「NHS II」であり、残りの一つは男性医療従事者対象の「Health Professionals Follow-up Study;HPFS」。65歳以上や糖尿病などの慢性疾患罹患者を除外し、計12万3,332人(平均年齢45.0±9.7歳、女性83.8%)を解析対象とした。 食習慣は後述の5種類の指標で評価した。研究参加者は4年ごとにこれらのスコアが評価され、そのスコアと4年間での体重変化との関連が検討された。解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・高コレステロール血症の既往、摂取エネルギー量、糖尿病の家族歴、経口避妊薬の使用、閉経後のホルモン療法の施行など)を調整した。 全体的な炭水化物摂取量が少ないことを表すスコア(total low-carbohydrate diet)のプラスの変化(炭水化物摂取量がより少なくなること)は、体重の増加と関連していた(傾向性P<0.0001)。動物性食品からのタンパク質や脂質が多いことを表すスコア(animal-based LCD)のプラスの変化も体重の増加と関連していた(傾向性P<0.0001)。植物性食品からのタンパク質や脂質が多いことを表すスコア(vegetable-based LCD)の変化と体重変化との関連は非有意だった(傾向性P=0.16)。炭水化物は精製度の低いものとして、植物性食品からのタンパク質や健康的な脂質が多いことを表すスコア(healthy LCD)のプラスの変化は、体重の減少と関連していた(傾向性P<0.0001)。全粒穀物などの健康的な炭水化物の摂取が少なく、動物性食品からのタンパク質や脂質が多いことを表すスコア(unhealthy LCD)のプラスの変化は、体重の増加と関連していた(傾向性P<0.0001)。 サブグループ解析からは、これらの関連性は、過体重や肥満者、55歳未満、身体活動量が少ない群で、より強く認められた。論文の上席著者である同大学院のQi Sun氏は、「われわれの研究結果は、低炭水化物ダイエットをひと括りにしていたこれまでの捉え方の変更につながる知見と言えるのではないか。また、全粒穀物、果物、野菜、低脂肪乳製品などの摂取を推奨する公衆衛生対策を、より強く推進していく必要があると考えられる」と述べている。

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朝食抜きや夕食後の間食、食行動の「数」が抑うつと関連

 抑うつにはさまざまな因子が関係するが、不健康な食行動が多いこともその一つと言えそうだ。朝食を抜く、夕食後に間食をするといった不健康な食行動について、その「数」に着目した研究が新たに行われた。その結果、これらの食行動の数が多い人ほど、抑うつのリスクが高かったという。福岡女子大学国際文理学部食・健康学科の南里明子氏らによる研究結果であり、詳細は「European Journal of Clinical Nutrition」に12月22日掲載された。 朝食を抜くことと抑うつリスクとの関連については、著者らの先行研究を含め、これまでにもいくつか報告されている。しかし例えば、夕食後の間食が朝食抜きに影響を及ぼす可能性などもあることから、食行動のそれぞれではなく、その積み重ねと抑うつとの関連を検討する方が現実に即している。ただ、この観点での研究はほとんど行われていなかった。そこで、これらの点を踏まえて今回、食行動の数による影響が詳細に検討された。 著者らは、栄養疫学調査に参加した製造業の従業員を対象とし、ベースライン時(2012年4月と2013年5月)と3年間の追跡期間後(2015年4月と2016年5月)に調査を実施した。抑うつ症状は自己評価尺度(CES-D)を用いて評価した。不健康な食行動は、朝食抜き、夕食後の間食、就寝前の夕食の3つについて、週に3回以上行っている行動の数を調査。その他、生活習慣や労働環境、栄養摂取の状態なども調査した。 解析対象者は19~68歳の914人(男性816人、女性98人)だった。不健康な食行動の数で分類すると、1つもない人は429人(平均43.0歳、男性87.4%)、1つの人は364人(同41.4歳、89.8%)、2~3つの人は121人(同39.6歳、94.2%)だった。不健康な食行動の数が多い人ほど、若年齢、男性・交代勤務・喫煙者の割合が高い、残業時間が長い、仕事・家事・通勤中の身体活動が多いという傾向があった。また、仕事のストレスが大きく、一人暮らしの傾向があり、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、マグネシウム、亜鉛の摂取量が少なかった。 3年間の追跡期間中、抑うつ症状(CES-D≧16)を発症したのは155人(17.0%)だった。対象者の背景因子や職業・生活習慣因子の違いによる影響を調整して解析した結果、不健康な食行動が2~3つの人は、1つもない人と比べて、抑うつのリスクが有意に高かった(調整オッズ比1.87、95%信頼区間1.10~3.21)。しかし、栄養因子による影響を加えて調整すると、抑うつリスクの差は有意ではなくなった(同1.67、0.96~2.90)。一方、重度の抑うつ症状(CES-D≧23)については、全ての因子を調整しても、不健康な食行動が2~3つの人の方がリスクは有意に高かった。 著者らは、これまでの研究との違いに関して、「抑うつの予防効果が示唆されている、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12、n-3系多価不飽和脂肪酸、マグネシウム、亜鉛の摂取量」による影響を含めて検討したと説明している。その上で、「朝食抜き、夕食後の間食、就寝前の夕食という不健康な食行動の数が抑うつのリスク上昇と関連していた」と結論付け、「この関連は、気分を改善する効果のある栄養素の摂取量が少ないことにより、部分的に説明できるかもしれない」と述べている。

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自転車通勤で糖尿病リスクに関連する慢性炎症が軽減

 自転車や徒歩で通勤している人は、2型糖尿病などのリスクと関連のある、全身の慢性炎症が軽減されていることを示すデータが報告された。ただし、有意な影響は、少なくとも45分以上の“アクティブな通勤”をしている人に限り観察されたという。東フィンランド大学のSara Allaouat氏らの研究によるもので、詳細は「European Journal of Public Health」に12月8日掲載された。 組織のダメージの治癒過程や感染症抑止のための反応として生じる短期間の炎症は、生体にとって正常なものであり欠かせない。しかし、何らかの原因で全身性の異常な炎症が続いている場合、がんや2型糖尿病、心臓病などのさまざまな疾患のリスクが上昇することが知られている。 全身の炎症反応の指標の一つに高感度C反応性タンパク質(hs-CRP)があるが、このhs-CRPは適度な運動によって低下することが、以前の研究で明らかになっている。しかし、通勤での運動とhs-CRPの関連はよく分かっていない。Allaouat氏らはこの点について、フィンランドの一般住民対象疫学研究(FINRISK)のデータを用いた横断的な解析によって検討した。 解析対象は6,208人の成人(平均年齢44±11歳、女性53.6%、BMI26±4、hs-CRP2.02±4.32mg/L)。通勤を徒歩または自転車で行っている場合を“アクティブな通勤”と定義し、それらによらず自動車や公共交通機関を利用して通勤している群を基準として、hs-CRPの値を比較した。解析に際しては、年齢や性別、喫煙・飲酒習慣、職業上の身体活動量、婚姻状況、教育歴、世帯収入など、結果に影響を及ぼし得る因子を交絡因子として調整した。 解析の結果、アクティブな通勤を毎日45分以上行っている群(全体の7.7%)は、非アクティブな通勤者群(同34.8%)に比べてhs-CRPが有意に低いことが分かった〔-16.8%(95%信頼区間-25.6~-7.0)〕。また、アクティブな通勤時間が15~29分の群(24.9%)もhs-CRPが有意に低値だった〔-7.4%(-14.1~-0.2)〕。一方、アクティブな通勤時間が15分未満の群(20.8%)、および、30~44分の群(11.7%)のhs-CRPは、非アクティブ群と有意差がなかった。 次に、交絡因子としてBMI、心血管疾患や糖尿病の既往、前記以外の生活習慣(余暇時間の身体活動量や野菜・果物・肉・魚の摂取量)、大気汚染レベル、季節性などを追加した解析を施行。アクティブな通勤時間が45分以上の群では、それらのいずれの解析でも、非アクティブな通勤者群との差の有意性は保たれていた。それに対してアクティブな通勤時間が15~29分の群では、それらのいずれの解析でも有意性が消失していた。 なお、性別の解析では、女性についてはアクティブな通勤を毎日45分以上行っている群と非アクティブな通勤者群とで、hs-CRPの群間差がより顕著だった〔−23.1%(−33.6~−10.9)〕。それに対して男性では群間差が非有意となった〔−4.4%(−19.7〜13.8)〕。 Allaouat氏らはこれらの結果に基づき、「アクティブな通勤は公衆衛生上のメリットをもたらす可能性がある。さらに、自家用車やバスを使わずに通勤することは、地球にとって良いことであり、気候変動の緩和につながるのではないか」と述べている。また、女性でのみ有意な結果であったことに関連して、「女性は男性よりも頻繁にアクティブな通勤を行っていることを反映している可能性があり、さらに、そのような女性は余暇時間にも身体活動を積極的に行っていてBMIが低いという傾向が認められた」との考察を付け加えている。

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冠動脈CT血管造影による冠血流予備量比は安定狭心症の3年転帰を予測

 安定狭心症患者において冠動脈CT血管造影から得た冠血流予備量比(FFR)は、3年間の全死亡または非致死的心筋梗塞のリスクを予測するという研究結果が、「Radiology」9月号に掲載された。 南デンマーク大学病院(デンマーク)のKristian T. Madsen氏らは、新規発症の安定狭心症の患者において、冠動脈CT血管造影から得られたFFR検査の結果による3年間の臨床転帰の予測能を評価した。解析対象は、デンマークの3 施設で2015年12月~2017年10月に登録され、30%以上の冠動脈狭窄を1カ所以上有し、冠動脈CT血管造影によるFFR検査の結果を取得できた連続症例900人(平均年齢64.4歳、男性65%)であった。 冠動脈CT血管造影から得られた狭窄部から遠位部2cmまでのFFR値が0.80以下の場合を異常と判定した。主要エンドポイントは全死亡と自然発症の非致死的心筋梗塞の複合、副次エンドポイントは心血管死亡と自然発症の非致死的心筋梗塞の複合とした。全ての対象者はFFR検査後3年間または死亡まで追跡された。エンドポイントの発生率は1標本の二項モデルにより推定し、FFRが正常だった群と異常だった群との間で相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、カイ二乗検定またはフィッシャーの直接確率検定を用いて比較した。 ベースライン時の冠動脈CT血管造影によるFFRは、対象者のうち377人が異常、523人が正常であった。追跡の結果、主要エンドポイントはFFR異常群の6.6%、正常群の2.1%で発生した(RR 3.1、95%CI 1.6~6.3、P<0.001)。副次エンドポイントはFFR異常群の5.0%、正常群の0.6%で発生した(RR 8.8、95%CI評価不能、P=0.001)。 こうしたFFR異常群におけるリスク上昇は、狭窄の重症度(50%以上または50%未満)と冠動脈石灰化(CAC)スコア(400以上または400未満)で調整後も認められた(主要エンドポイントの調整RR 2.5、95%CI 1.2~5.2、P=0.02、副次エンドポイントの調整RR 8.0、95%CI 2.1~30.2、P=0.002)。さらに、CACスコア高値(400以上)のサブグループ解析を実施したところ、主要エンドポイントはFFR異常群の9.0%、正常群の2.2%で発生し(RR 4.1、95%CI 1.4~11.8、P=0.001)、副次エンドポイントはFFR異常群の6.6%、正常群の0.5%で発生した(RR 12.0、95%CI評価不能、P=0.01)。 冠動脈CT血管造影によるFFRの予後予測能を評価したところ、ベースライン時のリスク変数(糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙)、CACスコア、狭窄の重症度にFFRを追加することにより、主要エンドポイントと副次エンドポイントの診断能が向上した〔ROC曲線下面積はそれぞれ0.62から0.74(P<0.001)、0.66から0.81(P=0.02)〕。 Madsen氏は、「本研究から、CACスコアの高い患者における冠動脈CT血管造影によるFFRの予後予測の可能性を示すエビデンスが示された。患者のベースラインリスクやCACにより測定された冠動脈疾患の程度にかかわらず、冠動脈CT血管造影によるFFRの結果が正常であれば予後良好である」と述べている。 なお、複数人の著者が医療機器企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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喫煙で男性型脱毛症リスク1.8倍、重症化も

 喫煙は、多くの場合、ニコチンを含むタバコを娯楽として摂取することを指し、男性型脱毛症(AGA)の発症および悪化の危険因子であると考えられている。その関連の程度を調べたメタアナリシスの結果が発表された。カナダ・Mediprobe ResearchのAditya K. Gupta氏らによる本研究の結果はJournal of cosmetic dermatology誌オンライン版2024 年1月4日号に掲載された。 研究者らは2023年8月4日、PubMedで「hair loss(脱毛)、alopecia(脱毛症)、bald(頭髪のない)、androgenetic alopecia(男性型脱毛症)」「tobacco(タバコ)、nicotine(ニコチン)、tobacco smoking(喫煙)」の用語で当てはまる研究を検索、その結果2003~21年に発表された8件の研究が同定された。全研究が観察研究で、症例対照または横断研究であり、対象は男性の現在喫煙者と過去に喫煙経験がある人だった。得られたデータから、男性AGAの発症と重症化(軽度:ステージI-IIIから重度:ステージIV-VII)における喫煙状態(喫煙vs.非喫煙)と喫煙強度(喫煙減少vs.喫煙増加)の影響についてメタ解析を行い、オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・喫煙経験のある男性は喫煙経験のない男性に比べ、AGAを発症する率が有意に高かった(OR:1.82、95%CI:1.55~2.14)。・1日10本以上喫煙する男性は、1日10本未満の喫煙する男性に比べ、AGA発症する率が有意に高かった(OR:1.96、95%CI:1.17~3.29)。・AGA男性では、喫煙経験のある男性は喫煙経験のない男性に比べ、疾患進行のオッズが有意に高かった(OR:1.27、95%CI:1.01~1.60)。喫煙強度と疾患進行の間には有意な関連は認められなかった。 著者らは、「男性型脱毛症の患者には、喫煙が及ぼす悪影響について教育する必要があるだろう」としている。

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セマグルチドの使用は自殺念慮と関連しない

 2型糖尿病や肥満症治療のためにオゼンピックやウゴービなどのGLP-1受容体作動薬のセマグルチドを使用していても、GLP-1受容体作動薬の非使用者に比べて自殺念慮が高まる可能性はないことが、電子健康記録(HER)のデータベースを用いた大規模レビューにより明らかにされた。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部Center for Artificial Intelligence in Drug DiscoveryのRong Xu氏らが米国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けて実施したこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に1月5日掲載された。 Xu氏は、2023年の夏にヨーロッパの規制当局が、セマグルチドに関連して自殺念慮が報告されたことを受けて調査に乗り出したことから、この問題に取り組むことを決めたと説明している。また、米食品医薬品局(FDA)も、最近公開された四半期報告書の中で、オゼンピックやウゴービを含む肥満症治療薬使用者から同様の報告があることを受けて調査中であることを明らかにしている。同氏は、セマグルチドを使用中の人では、アルコールや喫煙などの中毒性のある行動に対する興味が低下するという報告がある一方で、ヨーロッパではセマグルチドと自殺念慮の関連に関する調査が実施されたことに触れ、「一種のパラドックスとも言える状況が生じている」と話している。 Xu氏らは、全米50州、59の医療機関の患者1億人以上の電子健康記録(HER)のデータベースを用いてセマグルチド使用患者を6カ月間追跡し、同薬と自殺念慮との関連を、GLP-1受容体作動薬ではない糖尿病治療薬や肥満症治療薬の使用患者との比較で検討した。データベースには肥満または過体重の患者23万2,771人と2型糖尿病患者157万2,885人が含まれていた。傾向スコアマッチングによりセマグルチド使用者とGLP-1受容体作動薬以外の治療薬使用者として、肥満症では5万2,783人ずつ(平均年齢50.1歳、女性72.6%)、2型糖尿病では2万7,726人ずつ(平均年齢57.5歳、女性49.2%)を対象として解析を行った。肥満または過体重患者のうちの7,847人、2型糖尿病患者のうちの1万6,970人に自殺念慮歴があった。 解析の結果、セマグルチドを使用中の過体重または肥満症患者では、GLP-1受容体作動薬以外の肥満症治療薬を使用中の同患者に比べて、初めて自殺念慮を抱くリスクが有意に低く(0.11%対0.43%、ハザード比0.27、95%信頼区間0.20〜0.36)、また、自殺念慮の再発リスクについても有意に低いことが示された(6.5%対14.1%、同0.44、0.32〜0.60)。さらに、2型糖尿病患者を対象にした解析でも、セマグルチドを使用中の患者では、初めて自殺念慮を抱くリスクと(0.13%対0.36%、同0.36、0.25〜0.53)、自殺念慮の再発リスクが低かった(10.0%対17.9%、同0.51、0.31〜0.83)。 オゼンピックやウゴービは、マンジャロやZepbound(ゼップバウンド)と同様、今や何百万人もの患者に処方されている。これらの薬で生じる最も一般的な副作用は、吐き気、嘔吐、便秘などの胃腸障害だが、胃不全麻痺などより深刻な副作用が生じたとの報告もある。ウゴービもZepboundも、添付文書には自殺行動や自殺念慮のリスクに関する警告が記載されている。CNNによると、これらの薬剤よりも古くからある、同じGLP-1受容体作動薬サクセンダの添付文書でも、抑うつ、自殺念慮や自殺行動について患者を監視することが推奨されているという。研究論文の共著者である、米国立薬物乱用研究所のNora Volkow氏はさらに、「急激な減量が人を脆弱にさせることも考えられる」と指摘している。 Xu氏とVolkow氏は、今回の研究でセマグルチドが自殺念慮リスクの低下と関連することが示されたものの、「この結果は、自殺念慮に対するセマグルチドの適応外処方を正当化するものではない」と注意を促している。ただし、Volkow氏は、「うつ病の潜在的治療薬としてのセマグルチドの効果を検証することに関心が寄せられているのは事実だ」と認めている。実際に、少なくとも1件の臨床試験がまさにその目的で患者を募集しているところだという。

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思い込みが薬の効果を変える?

 薬が脳活動に与える影響の大きさは、薬の使用者がその薬の強さをどれだけ信じているかに左右される可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。電子タバコのニコチン量が低、中、または高用量であると告げられた喫煙者は、実際のニコチン量は一定であったにもかかわらず、告げられた量に一致する脳の活性化を示したという。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のXiaosi Gu氏らによるこの研究結果は、「Nature Mental Health」に1月3日掲載された。 Gu氏は、「思い込みは、われわれの行動に強い影響を及ぼす可能性があるにもかかわらず、その効果は曖昧とされており、神経科学的手法で定量化して検討されることはほとんどない」と言う。そして、「われわれは人間の思い込みが、薬と同じように用量依存的に脳活動を調節するのかどうかを調べることにした」と研究背景について説明している。 この研究でGu氏らは、ニコチン依存症の人を対象にニコチン入りの電子タバコを用いた実験を行い、思い込みが薬を投与したときと同じように用量依存的に脳の活動に影響を与えるのかどうかを調べた。用意された電子タバコには、ニコチン量が低・中・高であることを示すラベルが貼られていたが、実際には全て同じニコチン量だった。研究グループは、実験参加者が電子タバコを吸う前にそこに含まれているニコチン量を知らせることで、「思い込み」の状況を作り出した。実験参加者にこれらの電子タバコをランダムな順で与え、いずれかを吸い終わるごとに意思決定タスクに取り組んでもらい、その間の脳の機能的MRI(fMRI)検査を行った。最終的に、20人の参加者から60回分のfMRIスキャンデータが得られた。 脳活動の評価を行った結果、参加者の信じていたニコチン量の増加に伴い、睡眠や覚醒に関与する脳領域である視床の活性も高まることが明らかになった。この効果は、これまで薬によってしか得ることができないと考えられていたものだ。また、視床と、意思決定や信念状態に重要と考えられている脳領域である腹内側前頭前野の間の機能的結合においても、思い込みの用量依存的な効果が認められた。 Gu氏は、「これらの結果は、薬に対する反応に個人差がある理由の説明となる可能性がある。また、物質使用障害の治療では、個人の思い込みがターゲットになり得ることを示唆するものでもある。さらには、依存症以外のさまざまな精神疾患に対する精神療法などの認知的介入が神経生物学的なレベルで及ぼす影響についての理解も深まるだろう」と述べている。さらに同氏は、「人間の薬に対する思い込みがこれほどの影響力を持つのであれば、思い込みを利用することで患者の薬治療に対する反応を高められる可能性がある」との見方を示す。 Gu氏は、「例えば、薬の効能が、薬に対する思い込みが脳や行動に及ぼす作用にどのような影響を及ぼすのか、また、その思い込みの影響はどの程度持続するのかを調べることは、非常に興味深い」と話す。また同氏は、「われわれが得た知見は、より広い視野で健康を考えた場合に薬や治療をどうとらえるのかを大きく変える可能性がある」と述べている。

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中年期のタンパク質摂取が多いほど、健康寿命が延びる

 世界中で高齢化が進む中、健康寿命を延ばすことが求められており、栄養はその中の重要な要素である。中でもタンパク質は身体の健康維持に大きな役割を果たしているが、中年期にタンパク質を多く摂取した人ほど、疾病なく健康的に加齢する可能性があることが新たな研究でわかった。米国・タフツ大学のAndres V. Ardisson Korat氏らによる本研究の結果はThe American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2024年1月17日号に掲載された。 研究者らは、Nurses' Health Study(NHS)コホートの女性参加者を対象とし、登録時の年齢が30~55歳の12万1,700人に対し、ベースライン時およびその後2年ごとに追跡調査を実施した。初回調査の回答に不備がなく、ベースライン時に該当疾患のない4万8,762人が対象となった。 調査票から総タンパク質、動物性タンパク質、乳製品タンパク質(動物性タンパク質のサブセット)、植物性タンパク質の摂取量を調べた。「健康的な加齢」は、11の主要な慢性疾患がなく、精神状態が良好で、認知機能または身体機能のいずれにも障害がないことと定義した。ライフスタイル、人口統計学、健康状態を調整した多変量ロジスティック回帰を用いて、健康的な加齢に関連するタンパク質摂取量のオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の平均(SD)年齢は48.6(6.3)歳、38.6%がBMI値25以上、22.9%が現在喫煙者、88.2%が既婚者であった。・総タンパク質摂取量の平均値(エネルギー百分率)は18.3%であり、内訳は動物性タンパク質13.3%(うち乳製品タンパク質3.6%)、植物性タンパク質4.9%であった。・3,721/4万8,762人(7.6%)が健康的な加齢の定義に合致した。タンパク質の摂取は、健康的な加齢のORと有意に関連していた。エネルギー3%増加あたりの健康的な加齢のORは、総タンパク質1.05(95%CI:1.01~1.10)、動物性タンパク質1.07(95%CI:1.02~1.11)、乳製品タンパク質1.14(95%CI:1.06~1.23)、植物性タンパク質1.38(95%CI:1.24~1.54)であった。・植物性タンパク質の摂取は、身体機能の制限がないことや精神状態が良好であることのOR上昇とも関連していた。動物性または乳製品タンパク質、炭水化物、または脂肪を植物性タンパク質に同等のカロリーで置き換えた場合、健康的な加齢との有意な正の関連が観察された(3%のエネルギーを植物性タンパク質に置き換えた場合のOR:1.22~1.58)。・主な植物性タンパク源は、パン、野菜、果物、ピザ、シリアル、焼き菓子、マッシュポテト、ナッツ類、豆類、ピーナッツバター、パスタであった。 著者らは、女性看護師の大規模コホートにおいて、中年期の食事からのタンパク質摂取、とくに植物性タンパク質摂取は、健康的な加齢の高いORおよび健康状態のいくつかの領域と関連しているようだ、と結論付けている。

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抑うつ症状と仮面高血圧に関連あり

 大規模な横断研究から、診察室の血圧は正常でも家庭で測定した血圧は高値を示す「仮面高血圧」と抑うつ症状には関連があることが分かったと、東北メディカル・メガバンク機構予防医学・疫学部門の寳澤篤氏らが「Hypertension Research」に10月31日発表した。抑うつ症状は仮面高血圧の危険因子の一つである可能性が示されたとしている。 高血圧の中でも仮面高血圧の患者は、正常血圧の人と比べて心血管疾患リスクが高く、仮面高血圧は心血管疾患の危険因子の一つだとされている。しかし、その診断には家庭血圧測定が必要なため、見過ごされやすく、適切な治療を受けていない可能性が高い。また、これまでの研究で、仮面高血圧のリスク因子として、男性、喫煙習慣、糖尿病、治療中の高血圧、診察室血圧で正常高値などが挙げられている。さらに、不安や抑うつ、ストレスなどの精神状態も血圧に影響を与える可能性が報告されている。そこで、寳澤氏らは今回、抑うつ症状と仮面高血圧の関連を評価する横断研究を実施した。 この研究は、東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査から2013~2016年に宮城県で実施したベースライン調査データを用い、研究センターで測定した血圧が正常血圧〔収縮期血圧(SBP)140mmHg未満かつ拡張期血圧(DBP)90mmHg未満〕だった成人男女6,705人(平均年齢55.7±13.7歳、女性74.9%)を対象に行われた。参加者には、自宅で1日2回(朝・晩)血圧と心拍数を2週間測定してもらった。抑うつ症状の評価には、うつ病自己評価尺度(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale;CES-D)日本語版を用いた。仮面高血圧は、研究センターでは正常血圧かつ家庭高血圧の基準(SBP 135mmHg以上またはDBP 85mmHg以上)を満たす場合と定義した。 参加者のうち、男性では18.4%(1,685人中310人)、女性では27.7%(5,020人中1,384人)が抑うつ症状を有していた。男女別に、年齢を調整した上で抑うつ症状の有無と血圧の関連を解析したところ、抑うつ症状のあるグループでは、抑うつ症状のないグループに比べて朝および晩の家庭血圧が有意に高かった(男性:朝のSBP 129.0mmHg対127.0mmHg、晩のSBP 126.0mmHg対124.0mmHg、女性:同順に121.0mmHg対119.5mmHg、117.7mmHg対116.2mmHg)。研究センターで測定した血圧には、男女とも抑うつ症状の有無で差は見られなかった。 また、解析の結果、男女ともに、抑うつ症状のあるグループでは、抑うつ症状のないグループと比べて仮面高血圧の有病率が高いことが分かった。多変量解析によるオッズ比は、男性では1.72(95%信頼区間1.26~2.34)、女性では1.30(同1.06~1.59)と、その傾向は男性の方が強かった。 以上から、著者らは「抑うつ症状と仮面高血圧には関連があり、抑うつ症状は仮面高血圧の危険因子の一つである可能性がある。このことから、抑うつ症状がある人では、家庭血圧測定を行うことで仮面高血圧の早期発見、早期治療に有用な可能性が示唆された」と結論。ただ、今回は横断研究だったため、今後、さらなる研究で因果関係を検証していきたいと付言している。

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膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法【見落とさない!がんの心毒性】第28回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。《今回の症例》年齢・性別60代・女性既往歴虫垂炎術後服用歴テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワン配合OD錠T20)(2錠分2 朝夕食後)、クエン酸第一鉄Na錠50mg(1錠分1 朝食後)、ランソプラゾールOD錠15(1錠分1 朝食後)喫煙歴なし現病歴X年10月に食欲不振と食後嘔吐を主訴に消化器内科を受診した。腹部骨盤部造影CTで十二指腸水平脚の圧排を伴う膵鈎部がんおよび多発肝転移を認め、上部消化管内視鏡で十二指腸水平脚に腫瘍の直接浸潤に伴う潰瘍性病変を認めた(写真1、2)。画像を拡大する進行膵鈎部がん(T4,N1,M1 StageIVb)と診断し、十二指腸ステントを挿入し、同年11月に化学療法(ゲムシタビン[GEM]単剤)を開始した。その後、食欲は改善し、同年12月に退院した。外来で同化学療法計4クールを施行したが、X+1年3月にはPD判定となり、同月よりTS-1単剤での化学療法に変更となった(Performance Status[PS]3)。同年5月に、突然の呼吸困難を主訴に救急外来を受診し、バイタルは体温36.5℃、脈拍数111/分、血圧93/56mmHg、SpO2 94%(室内気)で、左下腿浮腫を認めた。血液検査でDダイマー46μg/mL、BNP 217pg/mLと上昇し、心エコー図検査で右室拡大によるD-shapeを認めた。造影CTで両側肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)、両下肢深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)と診断し、入院となった(写真3)。画像を拡大する循環器内科と連携し、入院時Hb 8.3mg/dLと貧血を認めたことから、出血リスクを考慮し、未分画ヘパリン10,000単位/日の低用量で抗凝固療法を開始した。入院2日目に明らかな吐下血は認めなかったものの、Hb 6.7mg/dLと貧血の悪化を認めた。【問題】下記のうち、この患者の静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)管理の方針や膵がん患者に合併するVTEに関する文章として正しいものはどれか。a.日本において膵がん患者におけるVTE予防目的に、低分子ヘパリン(LMWH)皮下注や直接経口抗凝固薬(DOAC)の予防投与が保険承認されている。b.本症例におけるVTEの初期治療として、DOAC単剤による抗凝固療法がより適切である。c.本症例では抗凝固療法の開始後、貧血の悪化を認めたが、明らかな出血事象が確認されない限り、抗凝固療法は継続すべきである。d.進行膵がんは診断後、3ヵ月以内のVTE発症が多く、定期的なDダイマー測定がVTEの診断に有用である。まとめ膵がん患者では予防的抗凝固療法による生存期間延長の利益について、一定の見解は得られていない。自施設の日本人の膵がん患者432名を対象とした検討では、膵がん診断後の生存期間は、VTE群と非VTE群で有意差はなかった。膵がん自体の予後が不良で、VTEの発症は予後悪化に寄与しない可能性がある5)。しかし、VTEはひとたび発症すると致命的な病態となり得ることや、他臓器のがんではVTE発症により生存期間が短縮するという研究が多いため、今後、膵がん治療・患者管理の進歩により、VTE発症の生命予後への影響が明確化する可能性ある。1)Khorana AA, et al. Cancer. 2013;119:648-655.2)Schunemann HJ, et al. Lancet Haematol. 2020;7:e746-755.3)Wang Y, et al. Hematology. 2020;25:63-70.4)Maraveyas A, et al. Eur J Cancer. 2012;48:1283-1292.5)Suzuki T, et al. Clin Appl Thromb Hemost. 2021;27:1-6.講師紹介

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北海道を舞台にマイクロRNA検査を用いた肺がん前向き観察研究を開始/Craif

 遺伝子調整機能を有し、がんの診断マーカーとして期待されるマイクロRNA(miRNA)1)を活用した肺がんのスクリーニング検査が北海道を舞台に始まる。がんの早期発見に対する次世代検査などを開発する名古屋大学発のベンチャー企業Craifが、北海道大学病院と共同研究契約を締結した。 北海道は広大な土地という条件に加え、過疎と高齢化が進むことで、検診率が全国で最も低い2)。とくに寒さの厳しい冬期は検診受診率が下がる。前向き観察研究を行う地域の1つである岩内地区は、北海道の中で、最も肺がん死亡率の高い地域である。死亡率の高さの理由として、同地区における、高い喫煙率と極端に低い検診受診率が考えられている。 このような背景の中、Craifは2023年2月に、北海道の最先端医療機関等と連携して、がん早期発見に向けたコンソーシアム「CRUSH-Cancer(クラッシュキャンサー)」を設立した。コンソーシアム活動の一環として、医療技術協力を受けている北海道大学と地域医療を担う岩内病院と共に新たなプロジェクトを行う。 プロジェクトの主要な取り組みとして、尿中miRNAをAIで分析するがんリスク検査「マイシグナル・スキャン」を用いた、今回の肺がんスクリーニングの前向き観察研究が行われる。研究では、岩内町、余市町の肺がん高リスク住民(喫煙者など)を対象に、肺がんの診断率を評価する。さらに、追跡調査を行い、肺がんの罹患率や予後に関連する因子を特定する予定。 Craifは「マイシグナル・スキャン」を100セット無償提供する。 研究責任医師である北海道大学病院呼吸器外科の加藤 達哉氏は、「尿中miRNAによる検診法は、自宅でも施行できる尿検査であることから、高齢化・過疎化がさらに進む北海道や日本全体においても、検診活動に革命を起こす可能性があると期待している」と述べる。

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初潮発来が早いと糖尿病リスクが高い

 より低年齢の時期に月経が始まった女性は、成人後の2型糖尿病リスク、および2型糖尿病に伴う65歳以前の脳卒中リスクが高くなる可能性を示すデータが報告された。米チューレーン大学のSylvia Ley氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Nutrition Prevention & Health」に12月5日掲載された。 これまでにも初潮発来(初めての月経)の早さが肥満や2型糖尿病、心血管疾患のリスクの高さと関連のあることが報告されてきているが、それらの研究は閉経後の女性のみを対象にしているなど、解釈上の限界点があった。そこでLey氏らは、1999~2018年の米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを用いて、20~65歳という幅広い年齢の女性を対象として、初潮年齢と2型糖尿病や心血管疾患(CVD)のリスクとの関係を検討した。 解析対象数は1万7,377人。糖尿病やCVDのリスクに影響を及ぼし得ることを考慮して、がん既往歴のある女性は除外されている。初潮年齢は自己申告に基づき、10歳以下、11歳、12歳、13歳、14歳、15歳以上に分類した。対象全体の10.2%に当たる1,773人が、2型糖尿病であることを報告した。年齢、人種/民族、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病家族歴、教育歴、出産歴、閉経前/後、ホルモン補充療法の施行の影響を調整後に、初潮年齢が13歳だった人を基準として2型糖尿病発症リスクを比較。すると、初潮発来が早かった女性ほど2型糖尿病発症リスクが高いという関連のあることが明らかになった(傾向性P=0.03)。 次に、糖尿病患者におけるCVDリスクと初潮年齢との関連を検討。前記と同様の手法による解析の結果、CVD全体では初潮年齢との有意な関連は認められなかった(傾向性P=0.09)。ただし、CVDを冠動脈心疾患(CHD)と脳卒中に分けて解析すると、脳卒中については初潮発来が早いほどそのリスクが高いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.02)。特に初潮年齢が10歳以下だった2型糖尿病患者では、13歳に初潮発来のあった2型糖尿病患者に比べて、65歳以前での脳卒中発症のオッズ比(OR)が2倍を超えていた〔OR2.66(95%信頼区間1.07~6.64)〕。CHDの発症に関しては、初潮年齢との関連が見られなかった(傾向性P=0.51)。 なぜ、初潮発来が早いと2型糖尿病やそれに伴う脳卒中のリスクが高いのだろうか。研究グループでは、ジャーナル発のリリースの中で、「本研究は横断研究であって、関連のメカニズムについては特定できない」としながらも、「人生のより早い時期に月経が始まった女性は、より長期間にわたりエストロゲン(女性ホルモン)に曝露されることが関係している可能性もあるのではないか」との推測を記している。また論文中に既報研究からの考察として述べられているところによると、エストロゲンの一種のエストラジオールは、インスリン受容体の切断を誘導してインスリンシグナル伝達を阻害するという、潜在的な作用を持つ可能性があるとのことだ。

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黒砂糖、がん発症を抑制か~J-MICC研究

 黒砂糖にはミネラル、ポリフェノール、ポリコサノールが多く含まれているが、黒砂糖が健康に役立つと評価した疫学研究はほとんどない。今回、鹿児島大学の宮本 楓氏らが、長寿者の割合が比較的高く黒砂糖をおやつにしている奄美群島の住民を対象としたコホート研究を実施したところ、黒砂糖摂取ががん全体、胃がん、乳がんの発症リスク低下と関連することが示された。Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition誌2023月12月号に掲載。 本研究は日本多施設共同コホート研究(J-MICC研究)の一環で、黒砂糖摂取と死亡リスクおよびがん発症率の関連を明らかにするために実施された。奄美の一般住民から参加者を募集し、5,004人(男性2,057人、女性2,947人)が参加した。追跡期間中央値13.4年の間に274例が死亡、338例でがんが発症した。糖関連およびその他の変数を調整後、Cox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)と95%信頼区間を推定した。黒砂糖の摂取頻度により低摂取群(週1回未満)、中摂取群(週1~6回)、高摂取群(1日1回以上)に分け、低摂取群を基準とした中摂取群、高摂取群の各HRとその傾向を評価した。 主な結果は以下のとおり。・交絡因子調整後、男女におけるがん全体と胃がん、女性における乳がんについて、黒砂糖の中摂取群と高摂取群のHRが低く、HRの低下傾向(がん全体:傾向のp=0.001、胃がん:傾向のp=0.017、乳がん:傾向のp=0.035)が認められた。・肺がんは非喫煙者および元喫煙者のみHRの低下傾向がみられた(傾向のp=0.039)。・全死亡、がん死亡、心血管疾患死亡におけるHRの低下は明らかではなかった。

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TG/HDL-C比は2型糖尿病発症の強力な予測因子

 中性脂肪(TG)と善玉コレステロール(HDL-C)の比が、将来の2型糖尿病の発症リスクの予測に利用できることが、12万人以上の日本人を長期間追跡した結果、明らかになった。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の弓削大貴氏、岡田博史氏、福井道明氏、パナソニック健康管理センターの伊藤正人氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiovascular Diabetology」に11月8日掲載された。2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値は、2.1だという。 TGをHDL-Cで除した値「TG/HDL-C比」は、インスリン抵抗性の簡便な指標であることが知られているほか、脂肪性肝疾患や動脈硬化性疾患、および2型糖尿病の発症リスクと相関することが報告されている。ただしそれらの報告の多くは横断的研究またはサンプルサイズが小さい研究であり、大規模な追跡研究からのエビデンスは存在せず、2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値も明らかになっていない。弓削氏、岡田氏らは、国内の企業グループの従業員を対象とするコホート研究(Panasonic cohort study)のデータを用いた縦断的解析によって、この点を検討した。 2008~2017年に健診を受けた計23万6,603人から、ベースライン時点で既に糖尿病と診断されている患者、脂質異常症治療薬を服用している患者、およびデータ欠落者などを除外し、12万613人を解析対象とした。主な特徴は、平均年齢44.2±8.5歳、男性76.0%、BMI22.9±3.4kg/m2であり、TGは110.0±85.9mg/dL、HDL-Cは60.5±15.4mg/dLで、悪玉コレステロール(LDL-C)は123.4±31.5mg/dLだった。 2018年までの追跡〔期間中央値6.0年(四分位範囲3~10年)〕で、6,080人が新たに2型糖尿病を発症した。2型糖尿病発症リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、空腹時血糖値、喫煙習慣、運動習慣、収縮期血圧)を調整後に、脂質関連検査値と2型糖尿病発症リスクとの間に、以下の有意な関連が認められた。 まず、TGは10mg/dL上昇するごとのハザード比(HR)が1.008(95%信頼区間1.006~1.010)だった。同様の解析でHDL-CはHR0.88(同0.86~0.90)、LDL-CはHR1.02(1.02~1.03)であり、TG/HDL-C比は1上昇するごとにHR1.03(1.02~1.03)となった。 次に、向こう10年間での2型糖尿病発症を予測するための最適なカットオフ値と予測能(AUC)を検討。すると、予測能が低い指標から順に、LDL-Cがカットオフ値124mg/dLでAUCは0.609、HDL-Cは54mg/dLでAUC0.638、TGは106mg/dLで0.672であり、最も高いAUCはTG/HDL-C比の0.679であって、そのカットオフ値は2.1と計算された。TG/HDL-C比の予測能は、他の3指標すべてに対して有意に優れていた(いずれもP<0.001)。 続いて、性別およびBMI別のサブグループ解析を施行。すると、男性では全体解析と同様に、TG/HDL-C比が1上昇することによる2型糖尿病発症のHRは1.03(1.02~1.03)だったが、女性は1.05(1.02~1.08)であり、より強い関連が示された。ただし交互作用は非有意だった。 BMI25kg/m2未満/以上で層別化した解析からは、25未満の群でTG/HDL-C比が1上昇するごとのHRは1.04(1.03~1.05)である一方、25以上の群ではHR1.02(1.02~1.03)であって、有意な交互作用が観察された(交互作用P=0.0001)。最適なカットオフ値は、BMI25未満では1.7、25以上では2.5だった。 著者らは本研究の特徴として、日本人を対象とする縦断的研究でありサンプルサイズも大きいことを挙げる一方、女性が少ないこと、比較的若年者が多いことなどの限界点があるとしている。その上で「TG/HDL-C比は、LDL-C、HDL-C、TGよりも10年以内の2型糖尿病発症の強力な予測因子であることが示された。この結果は、2型糖尿病発症抑制のための今後の医療政策に有用な知見となり得る」と述べている。

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潜在的食物アレルギーが心血管死リスクと関連

 急性のアレルギー症状は現れないが、検査で反応が見つかる程度の潜在的な食物アレルギーが、心血管死のリスクと関連のあることが明らかになった。米バージニア大学保健システム(UVA)のJeffrey Wilson氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に11月9日掲載された。Wilson氏らは、「将来的には、既知のリスク因子を持たない人の中から心血管疾患リスクの高い人を探し出すために、食物アレルギー検査が役立つようになるかもしれない」と話している。 食物アレルギーの症状が現れない人にも、何らかの食物に対するアレルギー反応が生じていることが、抗体検査〔免疫グロブリンE(IgE)検査〕で示唆されることがある。従来、そのような検査所見は臨床的には意味がないものと考えられていたが、赤肉を摂取した後に、アレルギー症状が現れないにもかかわらずIgE抗体レベルが上昇する人は、心血管疾患のリスクが高い可能性のあることが最近指摘されている。これを背景としてWilson氏らは、そのような潜在的な食物アレルギー反応が、心血管疾患による死亡と関連しているかどうかを検討した。 研究には、2005~2006年の米国国民健康栄養調査(NHANES)と、アテローム性動脈硬化に関する多民族研究(MESA)のデータが用いられた。MESAは2000~2002年に研究参加登録が行われ、心血管疾患危険因子のない一般住民が登録されている。なお、IgEは総IgEと、牛乳、卵、ピーナッツ、エビなどの食品に対する特異的IgEが評価された。 NHANESでは4,414人の成人のうち229人の心血管死が確認され、MESAでは960人中56人の心血管死が記録されていた。性別、年齢、人種/民族、喫煙歴、教育歴、喘息の既往を調整したCox比例ハザードモデルでの解析の結果、NHANESでは、1種類以上の食品に対する感作が心血管死リスクの高さと有意に関連していた〔ハザード比(HR)1.7(95%信頼区間1.2~2.4)、P=0.005〕。特に牛乳への感作との関連が強く認められた〔HR2.0(同1.1~3.8)、P=0.026〕。同様の関連はMESAでも確認された〔HR3.8(同1.6~9.1)、P=0.003〕。 Wilson氏はUVA発のリリースの中で、「今回の研究対象者の大半は、明らかな食物アレルギーを有していたとは考えにくく、よって示された結果は、食物に対する潜在的なアレルギー反応の影響を示すものと言える。このような反応は急性アレルギー症状を来すほど強力ではないが、それでも炎症を惹起して時間の経過とともに、心臓病などの問題を引き起こす可能性がある」と解説している。この関連のメカニズムについては、現時点では推論の域を出ない。しかし、「アレルギー反応にかかわるマスト細胞と呼ばれる細胞は、血管や心臓にも存在する」と研究グループは指摘している。 ただし、未知の遺伝的要因または環境要因が関与している可能性も否定できず、より多くの研究が必要とされる段階だ。Wilson氏は、「この領域の研究は将来的に、アレルギー反応を評価する血液検査が、心臓の健康に良い食生活のアドバイスに役立てられる可能性につながるのではないか。とは言え、そのような推奨を実際に示すことができるようになるまでには、クリアすべき課題が多く残されている」と話している。

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前糖尿病と喫煙の組み合わせは若者にとって致命的

 年齢中央値が30歳代という比較的若い集団においても、前糖尿病と喫煙習慣が組み合わさると、深刻な疾患のリスクが上昇し、特に脳卒中のリスク上昇が顕著であることを示唆するデータが報告された。米ネブラスカ大学医療センターのAdvait Vasavada氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)学術集会(AHA Scientific Sessions 2023、11月11~13日、フィラデルフィア)で発表された。Vasavada氏は、「若い喫煙者の脳卒中リスクを抑制するために、前糖尿病の早期スクリーニング体制と予防戦略を確立する必要があるのではないか」と述べている。 この研究には、米国の入院医療に関する大規模データベース(National Inpatient Sample)が用いられた。2019年の米国全土の入院患者のうち年齢が18~44歳で喫煙習慣があり、高血圧や2型糖尿病、高コレステロール血症、肥満などの心血管疾患危険因子のない101万7,540人が解析対象とされた。全員が、ニコチン依存状態または習慣的な喫煙者であって、禁煙が困難であることがカルテに記録されていた。 この集団の0.2%に当たる2,390人は前糖尿病だった。前糖尿病の入院患者は、年齢中央値36歳であり、前糖尿病でない(血糖値が正常範囲)の入院患者の31歳よりも高齢であり、また男性の割合が高かった。前糖尿病の患者は血糖値が正常範囲の患者に比べて、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の割合(19.2対11.7%)、心臓発作の既往(1.5対0.4%)、慢性腎臓病の割合(2.5対0.9%)が高く、また入院の目的が心臓発作や脳卒中または心不全の治療である割合(2.9対1.4%)が高かった。 特に脳卒中による入院の割合(1.9対0.5%)に顕著な差が認められた。年齢や性別、人種、世帯収入、飲酒習慣、薬物乱用歴、併発疾患などの影響を調整後にも、脳卒中による入院リスクが3.31倍高いことが分かった。 この結果に関連してVasavada氏はAHA発のリリースの中で、「たとえ代謝的に健康な若者であっても、喫煙者は喫煙本数を減らすことが賢明であり、できれば完全に禁煙することが理想的だ」とアドバイスしている。また、「タバコを吸わない人であっても前糖尿病に該当する場合、若いうちに脳卒中を発症するリスクが高まる可能性があることにも注意すべきだ」と付け加えている。 一方、AHAの薬物・アルコール・タバコ委員会の一員であるEsa Davis氏は、「この研究結果は、なぜタバコが若者にとっても危険であるのかを示している」と話す。加えて、「若い人は一般的に脳卒中のことを、自分たちの祖父母のような年齢の高齢者に起こる病気だという印象を持っている。しかし、そうではなく、今回の報告に見られるように、脳卒中はより若い年齢でも発生し得るということだ。さらにこの研究によって、前糖尿病に該当する場合、脳卒中や心臓病のリスクがはるかに高くなり、若いうちに発症する可能性があることが示され、できるだけ早い段階で禁煙することがより重要であることが分かった」と解説。Davis氏は、「心臓の健康を守り、そして脳卒中リスクを減らすためにできることの中で最も重要なことは、禁煙することだ」とも述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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第69回 傾向スコアマッチング法とは【統計のそこが知りたい!】

第69回 傾向スコアマッチング法とは傾向スコアマッチング法(propensity score matching methods)は、1983年に、ポール・ローゼンバウム(Paul Rosenbaum)とドナルド・ルービン(Donald Rubin)の2人が発表した解析方法です。臨床研究を行う際、目的変数と目的変数に関わる因子についての関係を調査・解析する方法として、単変量解析(1変量解析)と多変量解析(2~3つ以上の変数)があります。変数が2つの場合は2変量解析(相関分析)です。単変量解析とは、目的変数に関わる因子(説明変数または共変量)が1つの場合の解析です。基本統計量(平均値/標準偏差)、t検定、カイ2乗検定、ログランク検定(カプランマイヤー曲線)などがあります。多変量解析とは、説明変数や目的変数が2つ以上ある場合の解析です。たとえば、目的変数が「ある重篤な疾患で手術治療をした患者の生存・死亡」、説明変数が「年齢・性別・BMI・発症から手術までの時間・手術中輸血量」の5因子のような場合です。このように、多変量解析に用いるいくつかの説明変数は目的変数に直接関わるだけではなく、説明変数間同士でも影響し合っている場合が多くあります。これを「交絡因子」と言い、交絡した因子は、しばしば解析の妨げになります。この交絡因子の影響を効果的に取り除くための手法の1つに「傾向スコアマッチング法」があり、近年多く使用される解析法となっています。交絡因子は、調べようとする因子以外の因子で、結果(目的変数)に影響を与えるものであり、交絡因子であるための3つの条件としては、(1)交絡因子は問題となっている目的変数に影響を与える可能性のある因子(2)問題となっている要因(原因)と関係がある(3)問題となっている要因と結果の因果連鎖の中間変数ではないがあります。■事例で探る交絡因子簡単な事例で解説します。健康診断で肝臓機能の検査値の1つにγ-GTPがあります。γ-GTPは肝臓や胆管の細胞がどれくらい壊れたかを示す指標で、検査値が成人男性の場合100(基準は50)を超えると、肝硬変、肝がん、脂肪肝、胆道疾患の可能性があるといわれています。表1のデータは100人の成人男性について、γ-GTP、飲酒量(1ヵ月に飲酒する日数)、喫煙有無、ギャンブル嗜好(7件法)を調べたものです。表1 成人男性100人のγ-GTP、飲酒量、喫煙、ギャンブルの調査データ画像を拡大するそれでは、表1のデータを用いて以下の3つを検証してみましょう。(1)飲酒量はγ-GTPに関係があるかを検証する。(2)喫煙有無はγ-GTPに関係があるかを検証する。(3)ギャンブル嗜好はγ-GTPに無関係であることを検証する。■γ-GTPの2群間の有意差検定γ-GTPの「50以上」を群1=高群、「49以下」を群2=低群として、γ-GTP(2群)のデータを作成しました。1)飲酒量の平均は、高群16.2(日)、低群11.0(日)で高群が低群を5.2ポイント上回った。p値0.0037<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。このことから、飲酒量はγ-GTPに関係があることが検証できました。2)喫煙有無において「有り」の割合は、高群45.0%、低群18.3%で高群が低群を26.7ポイント上回った。p値0.0037<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。このことから、喫煙有無はγ-GTPに関係があることが検証できました。3)ギャンブル嗜好程度の平均は、高群4.03(点)、低群3.17(点)で高群が低群を0.86ポイント上回った。p値0.0252<0.05より高群は低群に比べ有意に高いといえます。ギャンブル嗜好程度はγ-GTPに無関係と思われていたが関係性があるという結論になりました。■相関分析(表2)(1)飲酒量とγ-GTPとの相関係数は0.6658(p値<0.05)で、飲酒量はγ-GTPへの影響要因といえます。(2)喫煙有無はγ-GTPとの相関係数0.3076(p値<0.05)で、喫煙有無はγ-GTPへの影響要因といえます。※喫煙有無は距離尺度ではないですが、「喫煙しない」を0点、「喫煙する」を1点として距離尺度に変換して相関係数を算出しました。(3)ギャンブル嗜好とγ-GTPとの相関係数は0.3580(p値<0.05)で、ギャンブル嗜好はγ-GTPへの影響要因といえます。表2 表1データの相関分析表相関関係を図1に示します。図1 変数の相関関係「γ-GTPとギャンブル嗜好」の相関は0.36、「γ-GTPと喫煙有無」は0.31で前者の方が高い。ギャンブル嗜好の方が喫煙有無より、γ-GTPに影響度が高いといえるでしょうか?「喫煙有無とギャンブル嗜好」の相関は0.37、「飲酒量とギャンブル嗜好」の相関は0.30でどちらも相関関係がみられ、喫煙する人、飲酒量が多い人ほどギャンブル嗜好程度が高いといえます。ギャンブル好きだからγ-GTPが高いのではなく、ギャンブル好きは喫煙し、飲酒量が多いからγ-GTPが高いと推察できます。「γ-GTPとギャンブル嗜好」の相関0.36は見かけの相関といい、「γ-GTPとギャンブル嗜好」の真の関係は喫煙有無や飲酒量の影響を除去したものでなければなりません。このような真の関係を把握する方法の1つに、傾向スコアマッチング分析があります。■傾向スコアマッチング分析とは高群は多量飲酒者や喫煙者が多く、低群は少量飲酒者や非喫煙者が多い。このような状況でギャンブル嗜好程度の平均について高群と低群を比較すれば「ギャンブル嗜好と飲酒量や喫煙は相関関係がある」ので、ギャンブル嗜好の程度は高群の方が低群より高くなるのは当然の結果となってしまいます(表3)。表3 高群と低群の比較と平均のまとめギャンブル嗜好程度の平均を高群と低群で比較する際、両群の飲酒量や喫煙有無が同等であれば真の比較ができるようになります。すなわち、高群と低群で飲酒量や喫煙有無が似ているサンプルだけを取り出して比較すればよいわけです。具体的には両群から似ている要素を持つデータをみつけてペアにすることです。※統計学において異なるサンプルで,似ている要素(交絡因子)をもつデータをみつけてペアにすることを「マッチング」と言います。14人について、飲酒量・喫煙有無から各サンプルがγ-GTP高群となる確率を求めてみましょう(表4)。両群から確率が似ている(同じ)サンプルをみつけてペアにします。高群6人、低群8人においてペアは3人である。選ばれた3人は、「飲酒量・喫煙有無」の状況(傾向)が似ている人であるということになります。確率を「傾向スコア」と言います。同じような傾向を持つ人をペアにする方法を「傾向スコアマッチング」と言います。表4 事例の傾向スコアマッチングの結果傾向スコアは,目的変数を高群=1,低群=0、説明変数を交絡因子である飲酒量、喫煙有無にしてロジスティック回帰を行うことで求められます。ロジスティック回帰で導かれる各サンプルの判別スコアを傾向スコアとします。マッチングされたペアデータについて、検証したい原因項目(具体例はギャンブル嗜好程度)と目的変数(γ-GTP)について相関検定や有意差検定を行います。交絡因子の傾向スコアでマッチングしペアを見つけ、ペアデータについて目的変数と原因変数の関係を検証する方法を「傾向スコアマッチング分析」と言います(図2)。図2 傾向スコアマッチング分析の整理■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問9 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その1)質問9(続き) 多変量解析を学ぶ前に知っておくべき統計の基礎を教えてください(その2)質問11 多変量解析とは何か?(その1)質問11 多変量解析とは何か?(その2)

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出勤とテレワークの反復による時差ぼけで心理的ストレス反応が強まる可能性

 出勤日とテレワークの日が混在することによって生じる時差ぼけによって、心理的ストレス反応が強くなる可能性を示唆するデータが報告された。久留米大学の松本悠貴氏らをはじめとする産業医で構成された研究チームによるもので、詳細は「Clocks & Sleep」に10月16日掲載された。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとともに、新たな働き方としてテレワークが急速に普及した。テレワークによって、仕事と私生活の区別がつきにくくなることや孤独感を抱きやすくなることなどのため、以前の働き方にはなかったストレスが生じることが報告されている。また、テレワークの日と出勤日が混在している場合には睡眠時間が不規則になり、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」が発生しやすくなるとの指摘もある。 社会的時差ぼけとは、平日と休日の睡眠時間帯が異なることによって、週明けになるとあたかも海外から帰国した直後のような身体的・精神的不調が現れること。松本氏らは、テレワークと出勤の繰り返しによって生じる社会的時差ぼけを、「テレワークジェットラグ(テレワーク時差ぼけ)」と命名。社会的時差ぼけと同様にテレワーク時差ぼけも不調を来す可能性を想定し、オンラインアンケートによる検討を行った。 2021年10~12月に、東京都内にある企業4社の従業員2,971人(日勤者のみ)にアンケートへの協力を依頼。2,032人から回答を得て、過去1カ月以内にテレワークをしていない人や休職をしていた人などを除外して、1,789人(平均年齢43.2±11.3歳、男性68.8%)を解析対象とした(有効回答率60.2%)。出勤日とテレワークの日の就寝時刻と起床時刻の中央の時刻(睡眠中央値)の差が1時間以上ある場合を「テレワーク時差ぼけ」と定義。232人(13.0%)がこれに該当した。 心理的ストレス反応の評価には、「ケスラー6(K6)」という指標を用いた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究ではK6スコアが10点以上を「心理的ストレス反応が強い」と定義したところ、265人(14.8%)が該当した。 睡眠の時間帯に着目すると、テレワーク時差ぼけでない群の起床時刻は出勤日、テレワーク日ともに6時30分で、就床時刻は出勤日が0時30分、テレワーク日が23時30分だった。一方のテレワーク時差ぼけ群は、就床時刻はどちらも0時30分で変わらないものの、起床時刻は出勤日が6時30分であるのに対してテレワーク日は8時30分と2時間遅く起床していた。 心理的ストレス反応が強いと判定された人の割合は、テレワーク時差ぼけでない群は13.7%、テレワーク時差ぼけ群では22.0%であり、有意差が認められた(P<0.001)。 次に、結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、テレワークの頻度や場所・期間、同居者の有無、職業、雇用形態、労働時間、仕事の裁量や他者からのサポート状況、通勤時間、飲酒・喫煙・運動習慣、カフェイン摂取量、睡眠時間、不眠症状(アテネ不眠尺度で評価)、仕事以外での電子端末等の使用など〕の影響を調整した上で比較。その結果、テレワーク時差ぼけと心理的ストレス反応の間には有意な関連性が示された〔オッズ比1.80(95%信頼区間1.16~2.79)〕。 著者らは本研究が横断研究であること、および交絡因子として収入や服薬状況が把握されていないことなどを限界点として挙げた上で、「出勤とテレワークが混在する『テレワーク時差ぼけ』が、心理的ストレス反応を増大させている可能性が示された」と結論付け、「労働者の健康を守りながらテレワークという新しい働き方を持続可能なものとするためにも、このトピックに関する縦断研究によって因果関係を確認することが望まれる」と述べている。 なお、時差ぼけによる不調には睡眠時間の長短自体が影響を及ぼしている可能性が考えられるが、本研究では上述のように交絡因子として睡眠時間を調整後にも有意なオッズ比上昇が観察された。この点について論文には、「テレワークの日の起床時刻が出勤日よりも遅くなることによって、起床直後に太陽光に当たる時間が遅くなり、メラトニンなどのホルモン分泌パターンが変動する。そのような変化も、テレワーク時差ぼけによってメンタルヘルス不調が生じる一因ではないか」との考察が加えられている。

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