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第33回 帯状疱疹ウイルスが脳を蝕む可能性? 1億人超のデータが示す結果と「ワクチン」という希望

多くの人が子供の頃にかかる「水ぼうそう」。その原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、治った後も体内に静かに潜み続け、数十年後に「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」として再活性化することはよく知られています。しかし、この身近なウイルスが、将来の認知症リスクと深く関わっているかもしれない。そんな可能性を示唆する大規模な研究結果が、権威ある医学誌Nature Medicine誌に発表されました1)。アメリカの1億人を超える医療記録を分析したこの研究は、帯状疱疹の発症やその予防ワクチンが、認知症リスクにどう影響するのかを、かつてない規模で明らかにしています。この記事では、その研究結果の内容と私たちの健康維持にどう活かせるのかを解説していきます。神経に潜むウイルス「VZV」と帯状疱疹水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、ほとんどの成人が体内に持っている非常に一般的なウイルスです。初めての感染では「水ぼうそう」として発症しますが、症状が治まった後もウイルスは神経節(神経細胞が集まる場所)に潜伏し、生涯にわたって体内に存在し続けます。そして、加齢やストレス、免疫力の低下などをきっかけに、この潜んでいたウイルスが再び活性化することがあります。これが「帯状疱疹」で、体の片側に痛みを伴う水ぶくれが現れるのが特徴です。VZVは神経を好むウイルスであるため、帯状疱疹後神経痛のような長期的な痛みを引き起こすこともあります。近年、このVZVのような神経に入り込むウイルスが、認知症の発症に関与しているのではないかという証拠が集まりつつありました。VZVが脳内で炎症を引き起こしたり、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβのような異常タンパク質の蓄積を促したりする可能性が、実験室レベルの研究で示唆されていたのです。しかし、これが実際どれほどのリスクになるのかは、はっきりとはわかっていませんでした。1億人の記録が示す「帯状疱疹と認知症」の密接な関係今回の研究チームは、この疑問に答えるため、アメリカの巨大な電子カルテデータベースに着目しました。7,000以上の病院やクリニックから集められた、1億人以上の匿名化された個人の医療記録を、2007~23年にわたって追跡調査したのです。研究チームは、最新の機械学習技術を駆使し、年齢、性別、人種、持病、服用薬、生活習慣(喫煙など)、さらには医療機関へのアクセス頻度など、認知症リスクに影響しうる約400もの因子を厳密に調整しました。これにより、「帯状疱疹(VZVの再活性化)」という要因が、他の要因とは独立して認知症リスクにどれだけ影響するかを、高い精度で評価することを試みました。その結果、驚くべき関連性が次々と明らかになりました。まず、帯状疱疹を経験した人は、そうでない人と比べて、将来的に認知症と診断されるリスクが高いことが示されました。さらに興味深いことに、帯状疱疹を1回経験した人に比べ、2回以上繰り返した人では、認知症リスクが7〜9%も高かったのです。これは、ウイルスの再活性化による体への「負担」が大きいほど、認知症リスクも高まる可能性を示唆しています。しかし、この研究はリスクだけでなく、希望の光も示しています。帯状疱疹を予防するためのワクチンを接種した人は、接種していない人と比較して、認知症リスクが明らかに低かったのです。とくに、より効果の高い不活化ワクチン(商品名:シングリックス)を2回接種した場合では、認知症リスクが27%低減していました。とくに注目すべきは、過去に使用されていた生ワクチンの効果に関する分析です。このワクチンは帯状疱疹予防効果が時間とともに薄れることが知られていますが、研究チームがワクチン接種後15年間にわたって追跡したところ、帯状疱疹予防効果の低下と、認知症リスク低減効果の消失が、見事に相関していました。これは、「ワクチンでVZVの再活性化を抑えること」こそが、認知症リスク低減のメカニズムであることを裏付ける結果と言えます。加えて、帯状疱疹になりやすいとされる高齢者や女性においては、ワクチン接種による認知症リスクの低減効果が、全体集団よりもさらに大きい傾向が見られました。これらの結果は、さまざまな角度から帯状疱疹が認知症の進行に関わる「修正可能なリスク因子」である可能性を強く示唆しています。ただし、この研究は非常に大規模で説得力がありますが、いくつかの限界点も認識しておく必要があります。最大の点は、これが「観察研究」であるということです。つまり、「帯状疱疹の予防」と「認知症リスクの低減」の間に強い関連性を示しましたが、ワクチン接種が原因となって認知症を防いだ、という因果関係を完全に証明したわけではありません。研究チームは、考えうる他の要因の影響を統計的に最大限排除しようと試みていますが、未知の因子が影響している可能性はゼロではありません。また、電子カルテのデータに依存しているため、診断の精度や記録の網羅性にも限界があります。私たちの生活にどう活かす?この研究は、認知症予防の新たな可能性を提示するものです。認知症の原因は複雑で、遺伝や生活習慣など多くの要因が絡み合っていますが、帯状疱疹もその一つとして無視できない存在である可能性があるのです。今回の研究結果は、帯状疱疹ワクチンが認知症を「直接」予防すると断定するものではありませんが、ワクチンが帯状疱疹の発症を効果的に抑えることは明らかになっており、その結果として認知症リスクを低減する可能性が強く示唆されました。とくに日本でも現在主流となっている不活化ワクチン(シングリックス)は、高い予防効果が長期間持続すると明らかになっています。そのため、50歳以上の方は、帯状疱疹そのものの予防(さらに、厄介な神経痛の予防)という観点からも、認知症リスクを下げる観点からも、ワクチン接種について相談する価値があると言えるでしょう。また、過去に帯状疱疹を経験したことがある方は、この研究結果を踏まえ、他の認知症リスク因子(高血圧、糖尿病、喫煙、運動不足など)の管理にも、より一層注意を払うことが勧められるということなのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Polisky V, et al. Varicella-zoster virus reactivation and the risk of dementia. Nat Med. 2025 Oct 6. [Epub ahead of print]

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HER2変異陽性NSCLCの1次治療、ゾンゲルチニブの奏効率77%(Beamion LUNG-1)/ESMO2025

 ベーリンガーインゲルハイムは、2025年9月19日にゾンゲルチニブについて「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)」を適応として、厚生労働省より製造販売承認を取得した。本承認は、国際共同第Ia/Ib相試験「Beamion LUNG-1試験」の既治療コホートの結果に基づくものである。本承認により、ゾンゲルチニブは既治療のHER2遺伝子変異陽性NSCLCに対する治療選択肢の1つとなったが、1次治療における有用性は明らかになっていなかった。そこで、Sanjay Popat氏(英国・Royal Marsden Hospital)が、本試験の1次治療コホートの結果を欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。HER2遺伝子変異陽性の進行NSCLCの1次治療は、免疫チェックポイント阻害薬±化学療法が標準治療であり、1次治療におけるHER2標的療法の有用性は確立していない。 本試験は第Ia相と第Ib相で構成され、第Ib相の中間解析の結果から1日1回120mgの用量が選択された。今回は、第Ib相の未治療のHER2遺伝子変異(チロシンキナーゼドメインの変異)陽性NSCLC患者コホート(コホート2)のうち、1日1回120mgの用量で投与された患者74例の結果が報告された。有効性の主要評価項目は中央判定による奏効率(ORR)とし、副次評価項目は病勢コントロール割合(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)とした(いずれも中央判定)。 主な結果は以下のとおり。・ゾンゲルチニブ 1日1回120mgによる治療を受けた患者(74例)の年齢中央値は67歳(範囲:35~88)、65歳以上75歳未満の割合は40%、75歳以上の割合は18%であった。女性の割合は50%、アジア人の割合は46%であった。元/現喫煙者の割合は35%、脳転移を有する割合は30%であった。・有効性の主要評価項目である中央判定によるORRは77%(CRは8%)であり(期待値40%に対する片側p<0.0001)、主要評価項目を達成した。DCRは96%であった。・奏効が認められた患者(57例)のうち、データカットオフ時点で47%がゾンゲルチニブによる治療を継続していた。・6ヵ月PFS率は80%、6ヵ月DOR率は79%であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は18%であった。主なTRAEは下痢(54%)、皮疹(23%)、ALT増加(18%)、AST増加(16%)、味覚異常(16%)であり、多くがGrade1~2であった。Grade4/5のTRAEは認められず、間質性肺疾患(ILD)/肺臓炎は2例に発現した(いずれもGrade2)。減量に至った有害事象(AE)の発現割合は15%、治療中止に至ったAEの発現割合は9%と低かった。 本結果について、Popat氏は「ゾンゲルチニブは、未治療のHER2遺伝子変異陽性の進行NSCLC患者において、統計学的有意かつ臨床的に意義のある治療効果を示した」とまとめた。なお、HER2遺伝子変異(チロシンキナーゼドメインの変異)陽性NSCLCの1次治療におけるゾンゲルチニブの有用性を検証する国際共同第III相無作為化比較試験「Beamion LUNG-2試験」が進行中である。

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第265回 呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省

<先週の動き> 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁 1.呼吸器感染症が同時急増 インフルエンザ8週連続増 百日咳は初の8万人突破/厚労省全国でインフルエンザ、百日咳、マイコプラズマ肺炎といった複数の呼吸器感染症が同時期に急増し、医療現場と地域社会で警戒が強まっている。厚生労働省は10月17日、2025年10月6~12日の1週間におけるインフルエンザの感染者報告数が、全国の定点医療機関当たり2.36人に達したと発表した。これは前週の約1.5倍で、8週連続の増加。総患者報告数は9,074人を超え、昨年の同時期と比較して2倍以上、流行のペースも昨年より約1ヵ月早い状況となっている。都道府県別では、沖縄県(14.38人)が突出して多いほか、東京(4.76人)、神奈川(4.21人)、千葉(4.20人)といった首都圏でも感染が拡大している。この影響で、全国の小学校や中学校など合わせて328ヵ所の学校・学級閉鎖の措置が取られ、厚労省では手洗いやマスク着用などの基本的な感染対策の徹底を呼びかけている。また、激しい咳が続く百日咳の流行も深刻である。国立健康危機管理研究機構によると、今年に入ってからの累計患者数(10月5日時点の速報値)は8万719人に達し、現在の集計法となった2018年以降で初めて8万人を突破した。これは、過去最多だった2019年の約4.8倍という異例の多さとなっている。コロナ対策中に病原体への曝露機会が減り、免疫が弱まったことが一因と指摘されている。感染は10代以下の子供を中心に広がっており、乳児は肺炎や脳症を併発する重症化リスクがあるため、とくに警戒が必要とされる。さらに、マイコプラズマ肺炎も5週連続で増加しており、9月29日~10月5日の定点当たり報告数は1.36人となっている。秋田、群馬、栃木、北海道などで報告が多く、この秋は複数の感染症が同時に拡大する「トリプル流行」の様相を呈している。 参考 1) 2025年 10月17日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザ感染者数 前週の1.5倍に 8週連続で増加 1医療機関あたり「2.36人」 厚生労働省(TBS) 3) インフル定点報告2.36人、前週の1.5倍に 感染者数は9,074人に(CB news) 4) マイコプラズマ肺炎の定点報告数、5週連続増 前週比6.3%増 JIHS(同) 5) インフルエンザ患者 昨年同期の2倍超 日ごとの寒暖差が大きいため体調管理に注意を(日本気象協会) 6) 百日ぜきが初の8万人超 2025年患者数、18年以降の最多更新続く(日経新聞) 2.がん検診指針を改正、肺がんは「喀痰細胞診」廃止し「低線量CT」導入へ/厚労省厚生労働省は10月10日、「がん検診のあり方に関する検討会」を開き、「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」を改正する方針を固めた。最新の医学的エビデンスに基づき、肺がん検診の方法を抜本的に見直すほか、乳がん検診のガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼する。最も大きな変更は、重喫煙者を対象とした「胸部X線検査と喀痰細胞診の併用法」の公費検診からの削除。これは、喫煙率の低下に伴い、喀痰細胞診で見つかる肺門部扁平上皮がんが減少し、現在ではこの検査による追加的な効果が極めて小さい(ガイドラインで「推奨しない:グレードD」)と評価されたためである。厚労省は2026年4月1日の指針改正で同検査を削除する方針。ただし、喀痰などの有症状者に対しては、検診ではなく医療機関での早期受診を促す指導を指針に追記する方向とされる。一方、「重喫煙者に対する低線量CT検査」については、死亡率を16%程度低下させるという高い有効性(グレードA)が認められたため、新たに住民検診への導入を目指す。この導入に向け、2026年度から希望する自治体でモデル事業を実施し、実施マニュアルの作成と課題整理を行う予定。その結果を踏まえ、早ければ2027年以降に指針に追加し、全国で導入される見通しである。また、乳がん検診についても、現在のガイドラインが2013年度版で古いことから、最新の医学研究成果を反映させるため、ガイドラインの更新を国立がん研究センターに依頼した。高濃度乳房で有用性が期待される「3Dマンモグラフィ」や「マンモグラフィ+超音波検査の併用」などの知見を整理し、今後の対策型検診への導入可能性が検討される。厚労省は、これらの検診方法の見直しを通じて、死亡率減少効果が高い検査に重点を置く「エビデンスに基づいたがん検診」への転換を加速させる。今後は、低線量CT導入に必要な実施体制の整備や、受診率の向上、住民への適切な情報提供などが課題となる。 参考 1) 第45回がん検診のあり方に関する検討会(厚労省) 2) 肺がん検診について(同) 3) 胸部X線と喀痰細胞診の併用法、肺がん検診から削除 指針改正へ(MEDIFAX) 4) たん検査、肺がん検診除外 喫煙率低下で効果小さく(共同通信) 5) 最新医学知見踏まえて乳がん検診ガイドライン更新へ、肺がん検診に「重喫煙者への低線量CT」導入し、喀痰細胞診を廃止-がん検診検討会(Gem Med) 3.かかりつけ医機能報告制度で「見える化」から「評価」へ/中医協厚生労働省は、中央社会保険医療協議会総会(中医協)を10月17日に開き、2026年度改定に向けて、2025年度から始まる「かかりつけ医機能報告制度」に関して、制度の背景や今後のスケジュールを説明するとともに、地域医療体制および診療報酬制度との関係を整理するための論点提示を行った。「かかりつけ医機能」の報告は、ほぼすべての医療機関(特定機能病院、歯科診療所を除く)に対して、2026年1~3月に(1)かかりつけ医機能を有するかどうか、(2)対応可能な診療領域・疾患、(3)在宅医療・介護連携・時間外対応の可否について、報告を求める。1号側(支払い側)の委員からは、「かかりつけ医機能報告制度」の項目(1次診療で対応可能な領域・疾患のカバー状況、研修医受け入れなど)と、機能強化加算などの施設基準・算定要件を整合させ、わかりやすい仕組みに再設計すべきと主張する意見が挙げられた。2号側(診療側)の委員からは、2040年像を見据えた制度を1年後の改定に直結させるのは「論外」と反発する意見が出た。改定の論点には、「大病院→地域医療機関」への逆紹介の実効性向上(2人主治医制の推進、情報連携の評価である「連携強化診療情報提供料」の要件緩和)や、外来機能分化の徹底も含まれている。厚労省の提案には、かかりつけ医側に(1)一次診療対応領域の明確化と提示、(2)地域の病院との双方向連携(紹介・逆紹介、共同管理)の定着、(3)データ提出の拡大・標準化が求められている。とくに機能強化加算は、報告制度の実績(対応疾患カバー、ポリファーマシー対策、研修体制など)とリンクした見直しが俎上に上がっており、基準の再整理や算定要件の具体化が想定される。開業医に対しては「対応可能領域・疾患の可視化」「紹介・逆紹介の運用記録」「連携書式・電子共有の整備」などの対応と提出するデータに根拠が求められる。一方で、情報連携加算の要件が緩和されれば、地域のかかりつけ医は大学病院などとの共同管理で報酬評価を得やすくなる可能性がある。全体として「報告制度による見える化」と「診療報酬での評価」をどの程度リンクさせるかで、支払側と診療側の主張が対立し、年末まで引き続き協議が続く見通し。 参考 1) 中央社会保険医療協議会 総会 議事次第(厚労省) 2) 「かかりつけ医機能」報告、診療報酬と「整合を」支払側が主張 日医委員は「あり得ない」(CB news) 3) 大病院→地域医療機関の逆紹介をどう進めるか、生活習慣病管理料、かかりつけ医機能評価する診療報酬はどうあるべきか-中医協総会(Gem Med) 4.過去最高48兆円突破、国民医療費が3年連続更新/厚労省厚生労働省は10月10日、2023年度の国民医療費が48兆915億円に達し、前年度比3.0%増で3年連続の過去最高を更新したと発表した。1人当たりの医療費も38万6,700円と過去最高を記録している。医療費増加の主な要因は、高齢化の進展と医療の高度化に加え、コロナ禍後の反動やインフルエンザなどの呼吸器系疾患が増加したことが背景にあるとされる。とくに、医療費の負担は高齢者層に集中し、65歳以上が国民医療費全体の60.1%を占め、75歳以上の後期高齢者の医療費は全体の39.8%にあたる19兆円超となった。人口の大きなボリュームゾーンである団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に到達し始めている影響が顕著となり、2025年度に向けてこの傾向は続くとみられる。財源は、保険料が24.1兆円、公費が18.3兆円、患者負担が5.6兆円で構成されているが、患者負担額が前年度から4.5%増と最も高い伸びを示した。また、1人当たりの国民医療費には依然として大きな地域格差が残っており、最高額の高知県(49.63万円)と最低額の埼玉県(34.25万円)との間で1.44倍の開きがある。医療費の高い地域ではベッド数が多い傾向が指摘され、地域医療構想に基づく病床の適正化が課題として改めて浮き彫りとなった。厚労省は、国民皆保険制度の維持・継承のため、社会経済環境の変化に応じた医療費の適正化と改革を積み重ねる重要性を訴えている。 参考 1) 令和5(2023)年度 国民医療費の概況(厚労省) 2) 国民医療費、3年連続最高 23年度3%増(日経新聞) 3) 2023年度の国民医療費、3.0%増の48兆915億円…3年連続の増加で過去最高を更新(読売新聞) 4) 2023年度の国民医療費は48兆915億円、1人当たり医療費に大きな地域格差あり最高の高知と最低の埼玉とで1.44倍の開き―厚労省(Gem Med) 5.中堅病院の倒産1.5倍に、民間主導の統合・経営譲渡が進行/北海道全国の医療機関の経営環境が急速に悪化し、地域医療に直接影響を及ぼす段階に入っている。東京商工リサーチによると、2025年1~9月の病院・クリニックの倒産は27件と高水準で推移し、とくに病床20床以上の中堅病院の倒産が前年同期比1.5倍の9件に急増した。負債10億円以上の大型倒産も増加し、地域の基幹医療を担う施設が深刻な苦境に立たされている。この経営危機は、物価高、人件費上昇、設備投資負担といったコストアップ要因に加え、理事長・院長の高齢化、医師・看護師不足という構造的な課題が重なり発生している。また、自治体が運営する公立病院も約8割が赤字であり、医療業務のコストと診療報酬のバランスの崩壊が、医療機関全体を採算悪化に追い込んでいる。再編の動きは加速し、とくに北海道では江別谷藤病院(負債25億円)が、給与未払いの事態を経て、札幌の介護大手「ライフグループ」への経営譲渡が決定し、未払い給与が肩代わりされた。また、室蘭市では、日鋼記念病院を運営する法人が、経営難の市立病院との統合協議を棚上げし、国内最大級の徳洲会グループ入りを選択した。これは、公立病院の巨額赤字(年間約20億円)と人口減がネックとなり、民間主導での集約が進んでいるとみられる。こうした倒産・統合の波は、診療科の再配置、当直体制・人事制度の統一、電子カルテや検査体制の共有など、医師や医療者の勤務環境やキャリア設計に直接的な変化をもたらす。地域の医療提供体制を維持するため、再編の移行期における診療体制の維持と、地域住民・自治体との合意形成が、医療従事者にとって重要な課題となる。診療報酬の見直しやM&Aといった手段による医療機関の存続に向けた取り組みが急務となる。また、病院再編にあたっては、移行期の診療体制の維持や、患者の混乱を避けるため、地域住民への情報提供と、自治体との合意形成が鍵となる。 参考 1) 1-9月「病院・クリニック」倒産 20年間で2番目の27件 中堅の病院が1.5倍増、深刻な投資負担とコストアップ(東京商工リサーチ) 2) 負債額約25億円の江別谷藤病院 札幌の「ライフグループ」に経営譲渡(北海道テレビ) 3) 室蘭3病院、再編協議難航 市立病院の赤字ネックに…「日鋼」、徳洲会の傘下模索(読売新聞) 4) 赤字続きの兵庫県立3病院、入院病床130床休止へ…収支改善が不十分ならさらに減床も(同) 5) 突然の来訪、室蘭市に衝撃 日鋼記念病院の徳洲会入り検討、市立総合病院との統合に黄信号(北海道新聞) 6.美容医療大手が62億円申告漏れで追徴課税、SNS豪遊アピールが引き金か/国税庁全国で100以上のクリニックを展開する「麻生美容クリニック(ABC)グループ」が、大阪国税局など複数の国税局による大規模な税務調査を受け、2023年までの5年間で計約62億円の巨額な申告漏れを指摘されていたことが明らかになった。追徴税額は、重加算税などを含め約12億円に上るとみられている。申告漏れの主な原因は、グループ内の基幹法人「IDEA」と傘下の6医療法人の間で、医療機器などの仕入れ価格を約47億円分過大に計上していたと判断されたためである。これにより、各医療法人の課税所得が不当に圧縮されていた。また、患者から受け取った前受金(手付金)約10億円の計上漏れも指摘された。さらに、基幹法人IDEAが得た収入のうち約3億円が、売上記録の偽装など悪質な仮装・隠蔽を伴う所得隠しと認定され、重加算税の対象となった。法人の資金を個人的な用途に流用したとして、グループ関係者にも約2億円の申告漏れが指摘されている。グループ側は報道機関の取材に対し、税務調査の事実を認め、「見解の相違もあったが、当局の指導により修正申告と納税は完了している」とコメントしている。背景には、SNSの普及などで美容医療の市場が急拡大する一方、新規開設費や広告費がかさみ、収益性の低い法人の倒産・休廃業が増えるなど、美容医療業界の過当競争が激化している現状がある。また、グループを率いる医師やその息子が、自家用ジェットや高級車などの豪華な私生活をSNSで積極的に公開していたことが、税務当局による異例の大規模調査のきっかけの1つになった可能性も指摘されている。 参考 1) 美容医療グループが62億円申告漏れ(朝日新聞) 2) 麻生美容クリニックグループ、60億円申告漏れ 大阪国税局など指摘(日経新聞) 3) 「19歳で3,000万円のフェラーリを乗り回し…」 62億円申告漏れの美容外科医と息子が自慢していた豪遊生活(週刊新潮)

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10月20日 頭髪の日【今日は何の日?】

【10月20日 頭髪の日】〔由来〕日付の「10=とう」「20=はつ」の語呂合わせから、髪や頭皮に関する知識を広め、髪の健康を考えてもらおうと、日本毛髪科学協会が制定。この日に合わせて多くの企業が頭髪・頭皮に関する知識や、お悩み解決のための商品をコンシェルジュするサービスやキャンペーンをリリースしている。関連コンテンツ円形脱毛症【患者説明用スライド】ブレイクダンスで頭髪が薄くなる?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】AGA治療薬ミノキシジル、経口vs.外用喫煙で男性型脱毛症リスク1.8倍、重症化もバリシチニブ、円形脱毛症の毛髪再生に有効か/NEJM

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心血管疾患は依然として世界で最多の死因

 心血管疾患(CVD)は依然として世界で最も多い死因であり、CVDによる死亡は世界中での全死亡の3分の1を占めていることが、新たな研究で明らかになった。米ワシントン大学心血管健康指標プログラムのディレクターを務めるGregory Roth氏らによるこの研究は、「Journal of the American College of Cardiology」に9月24日掲載された。 同誌の編集者である米イェール大学医学部教授のHarlan Krumholz氏は、「この報告は警鐘だ。CVDは依然として世界の主要な死因であり、その負担はCVDに対する対応力が最も低い地域で急速に増加している」と指摘している。その一方で同氏は、「ただし、CVDのリスクとその対策法については明らかになっている。各国が効果的な医療政策と制度をすぐにでも実行すれば、何百万もの命を救うことができる」と述べている。 この研究では、世界疾病負担研究(GBD 2023)で対象とされた375種類の疾患の中でCVDに焦点を当て、1990年から2023年までの間に、世界の204の国と地域におけるCVD全体の負担を評価した。また、虚血性心疾患、脳出血、脳卒中などのCVDの主要なサブ疾患や、CVDに影響を与える高血圧、喫煙、肥満、血糖異常、食事に関連するリスク(複数の食品・栄養素の不足や過剰摂取を総合した食事リスク要因)、大気汚染などの12種類の変更可能なリスク因子についても分析した。 その結果、CVDによる障害調整生存年(DALY)は、1990年の3億2000万から2023年には4億3700万と1.4倍増加した。DALYとは、早期死亡による失われた年数と障害を抱えて生きた年数を合算した、疾患によって失われた健康な年数を示す指標である。また、CVDによる死亡者数も1990年の1310万人から2023年には1920万人に達していた。CVDによるDALYの79.6%(3億4700万)は生活習慣に関連するリスク因子に起因することも判明した。内訳は、肥満や空腹時高血糖などの代謝リスク因子が67.3%、喫煙や飲酒、偏食などの行動リスク因子が44.9%、大気汚染や鉛曝露などの環境・職業リスク因子が35.8%であった。 さらに、2023年には世界でのCVD罹患者数は6億2600万人に達し、中でも虚血性心疾患(2億3900万人)と末梢動脈疾患(1億2200万人)の罹患者が多いと推定された。このほか、多くの地域で男性のCVDによる死亡率は女性よりも高いことや、リスクは50歳を過ぎると急激に上昇すること、CVDによるDALYの最も低い国と最も高い国の間には16倍の差が認められることも判明した。 Roth氏は、「最も重要で予防可能なリスク因子に焦点を当て、効果的な政策や実証済みで費用対効果の高い治療を組み合わせることで、非感染性疾患による早期死亡を減らすことができる」と指摘する。同氏はさらに、「各国はわれわれの研究結果から、心血管の健康状態を改善するための信頼できるエビデンスと政策立案に向けた一種の提言を見つけることができる」と付言している。 さらにRoth氏は、「本研究により、所得レベルだけでは説明できないCVDの負担の大きな地域差が明らかになった。こうした差を踏まえれば、地域ごとに最も関連性の高いリスク因子をターゲットにした健康政策を立てることが可能になる」と話している。

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第32回 世界の使用者1億人超…WHOが警鐘を鳴らす電子タバコの罠と、若者を蝕む「見えざる害」の正体

「紙タバコより安全」、「禁煙につながる」。そんなイメージとともに世界中で急速に普及した電子タバコ。しかし、その楽観的な見方に、世界保健機関(WHO)が公式に「待った」をかけました。WHOが初めて発表した推計によると、世界の電子タバコ使用者は1億人を突破したそうです。とくに深刻なのは若年層への普及です。13~15歳だけでも少なくとも1,470万人が使用していて、その使用率は上の年代の9倍にも達するといいます。WHOのテドロス事務局長は「タバコ業界は、新たな製品で若者を積極的にターゲットにしている」と、強い懸念を表明しました1)。これまで漠然と「害が少ない」と思われてきた電子タバコの裏側で、今、何が起きているのでしょうか。論文を基に、その深刻なリスクについて考えていきたいと思います2)。科学が暴く電子タバコの深刻なリスク電子タバコが市場に登場した際、従来の医薬品や医療機器に求められるような厳格な毒性試験や長期的な安全性試験は行われませんでした。製造基準や安全基準も確立されていないまま、「タバコ製品」の一つとして市場に広まったというのが実情なのです。しかし、その後の研究で、この「安全神話」は次々と覆されていきます。これまでよく報道されてきたのは、急性の健康被害でしょう。さまざまな急性リスクが報告されていますが、たとえば、製品の爆発による重度の火傷や顔面の外傷、ニコチン過剰摂取による急性中毒、突然の深刻な肺疾患に至るケースまで数多くの健康被害が報告されています。とくに、米国で多発した「電子タバコまたはベイピング製品使用関連肺損傷(EVALI)」は、入院や死亡例も確認されています。さらに、バター風味などを出すために使われる香料「ジアセチル」は、職業的に吸入すると閉塞性細気管支炎という重い肺の病気を引き起こすことが知られていますが、この物質が多くの電子タバコ製品に含まれていることも判明しています。長期的なリスクについても、科学は警鐘を鳴らし続けています。心臓・血管への影響毎日の電子タバコの使用が、心筋梗塞のリスクを著しく高めるという調査結果があります。使用によって心拍数や血圧が上昇し、動脈が硬くなることも確認されています。呼吸器への影響電子タバコの使用者は、気管支炎の症状を訴えるリスクが高いことがわかっています。さらに、慢性気管支炎や肺気腫(COPD)、喘息といった呼吸器疾患の新規発症との関連も指摘されています。がんのリスクがんの発症には長い年月がかかるため、人間での直接的な証拠はまだありません。しかし、研究室レベルでは不穏な兆候がみえています。電子タバコ使用者の尿からは、膀胱がんと関連する発がん物質が検出されています。さらに、マウスを電子タバコの煙に長期間さらした実験では、肺腺がんや膀胱の異常な細胞増殖が有意に多くみられました。禁煙の救世主か、依存への新たな入口か?「禁煙のため」という理由で電子タバコに切り替える人は少なくありません。しかし、WHOが「禁煙補助具として推奨しない」と明確に述べているように、その効果には大きな疑問符がついています。これまでの研究では、電子タバコの使用者は、むしろ禁煙に成功する確率が低いという結果が示されています。また、一度禁煙に成功した人が電子タバコを使い始めると、再び紙タバコに戻ってしまう「喫煙への逆戻り」のリスクが高まることも報告されています。結局のところ、電子タバコはニコチン依存からの脱却を助けるのではなく、依存を維持、あるいは別の形の依存に置き換えているに過ぎないケースが多いようなのです。若者にとっては、さらに深刻な「ゲートウェイ(入口)」となっています。実際、電子タバコを使用した経験のある若者は、そうでない若者に比べて、その後に紙タバコを吸い始める確率が3.5倍も高かったことが示されています。ニコチンには、脳の報酬系を変化させ、他の薬物への依存を促す作用があることが知られており、電子タバコがアルコールや他の薬物乱用への入口となることが懸念されているのです。巧妙化するタバコ産業の戦略WHOが指摘するように、タバコ産業が若者を新たなターゲットにしていることは、製品のデザインからも明らかです。コンピュータのUSBメモリにそっくりな製品や、ペン、パーカーの紐、さらには喘息の吸入器に見せかけた製品まで登場しています。これらは、学校や家庭など、使用が禁止されている場所で、親や教師の目を盗んで使用することを容易にするでしょう。フルーティなフレーバーやおしゃれなデザインは、タバコの有害性への警戒心を解き、若者にとっての心理的なハードルを大きく下げます。こうして、タバコ産業は、失われつつある紙タバコの顧客層を補うため、新たな世代をニコチン依存に取り込もうとしているのです。そして、依存ができれば、長期安定したサブスクリプションが完成というわけです。結論として、電子タバコは決して「安全な代替品」ではありません。科学的なエビデンスは、急性中毒や急性の肺疾患といった短期的なリスクから、心臓病、慢性気管支炎、がんといった深刻な長期的リスクまで、数多くの健康被害の可能性を示しています。禁煙効果が疑問視される一方で、若者を別の形でニコチン依存へと誘う「ゲートウェイ」としての役割が強く懸念されています。私たち一人ひとりが、巧妙なマーケティングに惑わされることなく、科学的根拠に基づいた冷静な判断を下し、とくに次代を担う若者をこの新たな脅威から守っていく必要があるのでしょう。 参考文献・参考サイト 1) NHK. 世界で電子たばこを使用する人 推計で1億人超える WHO報告書 2) Farber HJ, et al. Harms of Electronic Cigarettes: What the Healthcare Provider Needs to Know. Ann Am Thorac Soc. 2021;18:567-572.

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気管支拡張症への高張食塩水とカルボシステイン、肺増悪を改善せず/NEJM

 気管支拡張症の患者に対する高張食塩水およびカルボシステインはいずれも、52週間にわたる肺増悪の平均発生率を有意に低下させなかった。英国・Queen's University BelfastのJudy M. Bradley氏らCLEAR Investigator Teamが、同国20病院で行った非盲検無作為化2×2要因試験の結果で示された。粘液活性薬は作用機序によってさまざまであり、去痰薬(例:高張食塩水)、粘液調整薬(例:カルボシステイン)、粘液溶解薬(例:N-アセチルシステイン)、粘膜潤滑薬(例:サーファクタント)などがある。気管支拡張症ガイドラインでは、粘液活性薬の有効性に関して一貫性がなく、その使用は地域によって異なり、安全性と有効性を評価するための大規模な試験が必要とされていた。NEJM誌オンライン版2025年9月28日号掲載の報告。高張食塩水群vs.非高張食塩水群、カルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で比較 試験には、非嚢胞性線維症気管支拡張症で頻回の肺疾患増悪(過去1年間に2回以上[COVID-19パンデミック以降は1回以上])と日常的な喀痰産生を有する18歳以上の成人患者を登録した。無作為化時点で喫煙者および無作為化前30日間に粘液活性薬による治療を受けた患者は除外した。 すべての被験者は標準治療を受け、さらに(1)高張食塩水群、(2)併用群(高張食塩水とカルボシステイン)、(3)カルボシステイン群の3つの粘液活性薬群のいずれか、もしくは標準治療のみを受ける群へ均等に無作為化された。 比較は、高張食塩水群vs.非高張食塩水群、およびカルボシステイン群vs.非カルボシステイン群で行った。 主要アウトカムは、52週間における肺増悪回数。重要な副次アウトカムは、疾患特異的な健康関連QOL評価スコア(QoL-Bなど)、次の増悪までの期間および安全性であった。肺増悪の平均回数、使用群に有意な効果は認められず 2018年6月27日~2023年9月28日に、合計288例が無作為化された。ベースラインの各群の被験者特性は類似していた。高張食塩水とカルボシステインの交互作用のエビデンスは認められなかった(p=0.60)。 52週間における確定肺増悪の平均回数は、高張食塩水群0.76回(95%信頼区間[CI]:0.58~0.95)vs.非高張食塩水群0.98回(0.78~1.19)であり(補正後平均群間差:-0.25、95%CI:-0.57~0.07、p=0.12)、カルボシステイン群0.86回(95%CI:0.66~1.06)vs.非カルボシステイン群0.90回(0.70~1.09)であった(補正後平均群間差:-0.04、95%CI:-0.36~0.28、p=0.81)。 副次アウトカムおよび有害事象(重篤な有害事象を含む)は、比較グループ間で類似していた。

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青年期のデジタル依存症が健康に及ぼす影響~メタ解析

 スマートフォン、コンピュータ、ソーシャルメディアプラットフォームなどのデジタル機器の過度かつ強迫的な使用を特徴とする青年期のデジタル依存症は、世界的な懸念事項となっている。中国・Xuzhou Medical UniversityのBlen Dereje Shiferaw氏らは、デジタル依存症について包括的に捉え、それらの青年期におけるサブタイプとさまざまな健康アウトカムとの関連性を調査する目的でシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Behavioral Addictions誌2025年9月30日号の報告。 Chinese National Knowledge Infrastructure(CNKI)、Wanfang、PubMed、Web of Scienceのデータベースより、青年期のデジタル依存症に関連する健康アウトカムを報告した研究を包括的にレビューし、事前に定義された包含基準と除外基準を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・デジタル依存症の若者では、過体重または肥満(オッズ比[OR]:1.25、95%信頼区間[CI]:1.03~1.48)、自己評価による健康状態不良(OR:1.75、95%CI:1.42~2.08)を報告する傾向がより高かった。・また、不眠症(OR:1.46、95%CI:1.33~1.59)、睡眠の質の低下(OR:1.50、95%CI:1.37~1.64)などの睡眠障害を経験している傾向があった。・デジタル依存症の若者は、自殺傾向(OR:2.63、95%CI:2.36~2.90)、抑うつ症状(OR:1.76、95%CI:1.68~1.83)、ストレス(OR:2.15、95%CI:1.79~2.52)、不安(OR:2.14、95%CI:1.99~2.28)などの精神衛生上の懸念についても高いオッズを示した。・さらに、喫煙(OR:1.55、95%CI:1.41~1.68)、問題のあるアルコール摂取(OR:1.47、95%CI:1.33~1.60)、薬物使用(OR:1.94、95%CI:1.44~2.44)の傾向も高かったことが示唆された。 著者らは「青年期におけるデジタル依存症は、身体的、精神的、行動上の問題を含む、重大かつ広範な健康への悪影響をもたらすことが示唆された」としている。

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2型糖尿病患者は敗血症リスクが2倍

 2型糖尿病患者は、生命を脅かすこともある敗血症のリスクが2倍に上るとする研究結果が、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表された。西オーストラリア大学のWendy Davis氏らの研究によるもので、特に60歳未満の患者はよりリスクが高いという。 研究者らが研究背景として示したデータによると、敗血症に罹患した患者の10%以上は死に至るという。また、2型糖尿病患者は、敗血症による死亡または重篤な状態へ進行するリスクが、糖尿病でない人に比べて2~6倍高いことがこれまでにも報告されている。ただし、最新のデータは限られていた。 今回の研究では、オーストラリアの一般住民、約15万7,000人のコミュニティーで実施された縦断的観察研究(フリーマントル糖尿病研究フェーズII)の参加者の敗血症罹患率が調査された。2008~2011年の研究参加登録の時点で2型糖尿病を有していた成人患者1,430人を特定した上で、年齢、性別、居住地域をマッチングさせた2型糖尿病でない5,720人の対照群を設定。登録時点における平均年齢は66歳で、男性52%であり、2型糖尿病群では敗血症による入院歴が2.0%に見られ、対照群でのその割合は0.8%だった。 平均10年間の追跡期間中に、2型糖尿病群の169人(11.8%)と対照群の288人(5.0%)が敗血症に罹患していた。年齢、性別、敗血症による過去の入院歴、2型糖尿病以外の慢性疾患などの潜在的な交絡因子を調整した後、2型糖尿病群は敗血症を発症するリスクが対照群の2倍に上ることが明らかになった。特に、年齢が41~50歳の集団では、2型糖尿病を有している場合に敗血症リスクが14.5倍高くなることが分かった。 また、2型糖尿病患者では、喫煙習慣がある場合に敗血症リスクが83%上昇することも示された。Davis氏は、「われわれの研究により、喫煙、高血糖、糖尿病の合併症など、修正可能な敗血症のリスク因子がいくつか特定された。これは、敗血症リスクを抑えるために、患者自身でも実行可能な対策が存在していることを強調するものと言える」と話し、「2型糖尿病患者が敗血症を防ぐ最善の方法は、禁煙、高血糖の是正、そして糖尿病に伴う細小血管および大血管の合併症を予防することだ」と付け加えている。 2型糖尿病が敗血症のリスクを押し上げるメカニズムとしては、研究者らによると、高血糖が免疫機能を低下させることの影響が考えられるという。実際、2型糖尿病患者は、尿路感染症や皮膚感染症、肺炎などの感染症にかかりやすく、それらの感染症から敗血症へと進展することがある。また、糖尿病により生じていることのある血管や神経のダメージが、敗血症のリスクをより高める可能性もあるとのことだ。ただし研究者らは、今回の研究手法では2型糖尿病と敗血症の間の直接的な因果関係の証明にはならないことを、留意点として挙げている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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デジタルピアサポートアプリがニコチンガムの禁煙効果を後押し

 ニコチンガムは禁煙に一定の効果を示すものの、その禁煙成功率は十分とは言えない。今回、企業の健康保険組合加入者を対象とした非ランダム化比較試験で、ニコチンガムにデジタルピアサポートアプリを組み合わせることで、禁煙成功率が有意に向上することが示された。研究は、北里大学大学院医療系研究科の吉原翔太氏らによるもので、詳細は「JMIR mHealth and uHealth」に8月19日掲載された。 日本では禁煙治療が保険適用だが、禁煙成功率は高いとは言い難い。平成29年度の厚生労働省の調査によると、ニコチン依存症管理料を算定した患者における5回の禁煙治療完了率は全体で34.6%にとどまっていると報告されている。一方で、グループでの交流を促進し、ユーザー同士で禁煙へのモチベーションを高めるデジタルピアサポートアプリは禁煙に有益である可能性がある。しかしながら、デジタルピアサポートアプリとニコチン代替療法(ニコチンガム)を統合した禁煙プログラム効果は、これまで検討されてこなかった。このような背景から、著者らはニコチン代替療法(ニコチンガム)にデジタルピアサポートアプリを追加することで、企業の健康保険組合加入者で現喫煙者の禁煙率を高めることができるかどうかを評価するために、12週間の非ランダム化比較試験を実施した。 参加者は、健康保険組合に加入する3社(電子・保険・通信)の現喫煙者を、プログラム開始約1か月前から20日間募集した。介入期間中はデジタルピアサポートアプリ(みんチャレ、A10 Lab Inc.)に常時アクセス可能であった。このアプリでは、最大5人までの匿名グループチャットが可能で、写真やコメントを含む活動報告を共有することで交流や禁煙の取り組みを促した。参加者は自己選択で、(1)ニコチンガム単独(単独群)、または(2)デジタルピアサポートアプリとニコチンガムの併用(併用群)の2つの介入群のいずれかを選択した。単独群を基準とした禁煙のオッズ比(OR)は、人口統計学的および喫煙関連変数を調整したロジスティック回帰分析により推定した。 最終的な解析対象は451人(単独群191人、併用群260人)であった。単独群と比較して、併用群は平均年齢が高く、喫煙歴が長い傾向がみられ、また禁煙の主な動機として「家族の健康」を挙げる割合が高かった。 12週間時点での禁煙成功率は、単独群38.7%に対し併用群59.2%で有意に高かった。また、年齢、性別、喫煙歴、喫煙本数、禁煙の目的や意欲といった変数を調整し、ロジスティック回帰分析を行った結果、禁煙成功のORは2.41(95%信頼区間2.07~2.81)であった。 さらに、禁煙成功率とデジタルピアサポートアプリの使用期間およびグループチャットへの投稿頻度との関連を検討した。解析の結果、アプリの使用期間が長いほど、また投稿頻度が高いほど禁煙成功率は有意に高く、いずれも正の関連が認められた(傾向性P<0.001)。 著者らは、本研究が自己申告データに依存している点などの限界を認めつつも、「標準的なニコチン代替療法に加えてデジタルピアサポートアプリを併用した現喫煙者では、禁煙率が有意に上昇することが確認された。この知見は、禁煙介入におけるデジタルツールの実装可能性を示す予備的エビデンスである」と述べている。 なお、禁煙成功率とデジタルピアサポートアプリの使用期間・投稿頻度に正の関連が見られた理由について、著者らは、アプリをより積極的に利用し、頻繁に投稿した人は、チャット機能を通じて自身の成功体験を共有したり、周囲から承認やポジティブなフィードバックを得たりする機会が増えたことが影響しているのではないかと考察している。

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喫煙は2型糖尿病のリスクを高める

 喫煙者は2型糖尿病のリスクが高く、特に糖尿病になりやすい遺伝的背景がある場合には、喫煙のためにリスクがより高くなることを示すデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のEmmy Keysendal氏らが、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表した。Keysendal氏は、「インスリン作用不足の主因がインスリン抵抗性の場合と分泌不全の場合、および、肥満や加齢が関与している場合のいずれにおいても、喫煙が2型糖尿病のリスクを高めることは明らかだ」と語っている。 この研究では、ノルウェーとスウェーデンで実施された2件の研究のデータを統合して解析が行われた。対象は2型糖尿病群3,325人と糖尿病でない対照群3,897人であり、前者は、インスリン分泌不全型糖尿病(495人)、インスリン抵抗性型糖尿病(477人)、肥満に伴う軽度の糖尿病(肥満関連糖尿病〔693人〕)、加齢に伴う軽度の糖尿病(高齢者糖尿病〔1,660人〕)という4タイプに分類された。 解析の結果、喫煙歴のある人(現喫煙者および元喫煙者)は、喫煙歴のない人よりも前記4種類のタイプ全ての糖尿病リスクが高く、特にインスリン抵抗性型糖尿病との関連が強固だった。具体的には、インスリン分泌不全型糖尿病は喫煙によりリスクが20%上昇し、肥満関連糖尿病は29%、高齢者糖尿病は27%のリスク上昇であったのに対して、インスリン抵抗性型糖尿病に関しては2倍以上(2.15倍)のリスク上昇が認められた。また、インスリン抵抗性型糖尿病の3分の1以上は、喫煙が発症に関与していると考えられた。その他の3タイプでは、発症に喫煙の関与が考えられる割合は15%未満だった。 さらに、ヘビースモーカー(タバコを1日20本以上、15年間以上吸っていることで定義)ではより関連が顕著であり、インスリン抵抗性型糖尿病は喫煙によって2.35倍にリスクが高まり、インスリン分泌不全型糖尿病は52%、肥満関連糖尿病は57%、高齢者糖尿病は45%のリスク上昇が認められた。このほかに、遺伝的にインスリン分泌が低下しやすい体質の人でヘビースモーカーの場合は、喫煙によりインスリン抵抗性型糖尿病のリスクが3.52倍に高まることも示された。 これらの結果についてKeysendal氏は、「われわれの研究結果は2型糖尿病の予防における禁煙の重要性を強調するものである。喫煙と最も強い関連性が認められた糖尿病のタイプは、インスリン抵抗性を特徴とするタイプだった。これは、喫煙がインスリンに対する体の反応を低下させることで、糖尿病の一因となり得ることを示唆している」と述べている。また、「禁煙によって糖尿病リスクをより大きく抑制することのできる個人を特定する際に、遺伝的背景に関する情報が役立つと考えられる」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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抜管直後の「少量飲水」の効果と安全性【論文から学ぶ看護の新常識】第34回

抜管直後の「少量飲水」の効果と安全性抜管直後から「少量ずつ飲水」することの効果と安全性を検証したランダム化比較試験が行われ、「抜管直後の少量飲水は口渇と咽頭不快感を和らげる効果があり、有害事象は増加しない」ことが示唆された。Sarka Sedlackova氏らの研究で、Journal of Critical Care誌オンライン版2025年8月7日号に掲載の報告。抜管直後の「少量飲水」vs.経口水分摂取の遅延:ランダム化比較試験研究チームは、抜管後すぐに経口で水分を「少量ずつ摂取」することが、口渇と不快感を軽減し、集中治療の現場において安全であるかどうかを評価することを目的に、単施設ランダム化比較試験を行った。抜管基準を満たしたICU患者160例を、水分摂取遅延群(抜管2時間後から水分摂取を開始)と、即時少量飲水群(2時間かけて最大3mL/kgを摂取)のいずれかに1:1でランダムに割り付けた。口渇、不快感、および有害事象(吐き気、嘔吐、誤嚥)を、0分、5分、30分、60分、90分、120分後に評価した。主な結果は以下の通り。120分時点では、両群ともに80例中64例(80%、95%信頼区間[CI]:70~88%)が口渇を訴え、群間差は0.0%であった(95%CI:-12%~12%、p=1.000)。120分後までの口渇の緩和は、少量飲水群の11.3%(95%CI:5~20%)に対し、水分摂取遅延群では1.3%(95%CI:0~7%)であり、10%の有意な差が認められた(95%CI:1~19%、p=0.0338)。90分時点での咽頭の不快感は、少量飲水群の23.8%(95%CI:15~35%)に対し、水分摂取遅延群では42.5%(95%CI:32~54%)であり、-18.7%の有意な差が認められた(95%CI:-34%~-3%、p=0.0118)。有害事象(吐き気、嘔吐)はまれであり、両群で同等であった;誤嚥はどちらの群でも観察されなかった。抜管直後からの少量飲水は、安全であり、喉の渇きを和らげ、ICU患者の不快感を軽減し、有害事象を増加させることなく行えると考えられる。皆さんの施設では抜管後いつから飲水が可能になりますか?施設によっては厳密な基準はなく、「翌日から飲水可能」といった大まかなスケジュールで運用されているかもしれません。でもこれって実はエビデンスが乏しく、慣習的に決められていることが多いです。「患者さんは喉が渇いてないかな?」と気にかかりながらも、「でも吐かないかな?誤嚥して肺炎になったらどうしよう」と思う葛藤を、皆さん一度は抱いたことがあるのではないでしょうか?今回は、「抜管2時間後から飲水可能」vs.「抜管直後からの少量飲水(ちょびちょび飲み:シッピング)」を比較した研究を紹介します。研究の結果、2時間後の口渇感の有無自体には両群で差はありませんでした。しかし、口渇感と咽頭不快感の軽減については、「抜管直後からの少量飲水」群が有意に優れていました。さらに、吐き気、嘔吐、誤嚥などの有害事象の発生率は両群で同等であり、少量飲水によりリスクは増加しないことが示されました。これらの知見は、従来の画一的な2時間の絶飲食に疑問を投げかけ、より患者中心に不快感を低減するケアを考えるきっかけとなります。ただし、患者さんの不快感をとるために、無制限に飲水をしていいわけではありません。まず、この研究では一度の摂取量は5~10mL程度とごく少量で、2時間かけて最大3mL/kg(合計約200mL)を上限にする制限も設けられています。またリスクがある、上部消化管手術(食道、胃、十二指腸)、頭蓋外傷、または嚥下や意識に影響を与える神経学的障害がある患者は、事前に除外しています。あくまでも誤嚥や創部に水が入るリスクが低いと想定される患者さんに限定していることは覚えておきましょう。また実臨床で取り入れる場合には、飲水により胃内容物が溜まることでPONV(Postoperative Nausea And Vomiting:術後悪心・嘔吐)のリスクが増すため、女性、オピオイド使用、非喫煙者、乗り物酔いの既往がある患者さんでは注意が必要です。適切なリスク評価を行った上で、実施可能であれば、患者さんの不快感を減らす新たなアプローチの導入を検討してみてはいかがでしょうか。論文はこちらSedlackova S, et al. J Crit Care. 2025 Aug 7. [Epub ahead of print]

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男性の身長の高さとがんリスク、関連がみられたがん種は

 600万人以上を対象とし、性別・身長とがんの関連を検討したこれまでで最大規模の研究において、39種中27のがん種において身長の高さががんリスク増加と統計学的有意に関連し、男性では悪性黒色腫、急性骨髄性白血病、唾液腺がん、結腸がんでとくに身長の高さによる過剰がんリスクが高かった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のCecilia Radkiewicz氏らによる、International Journal of Cancer誌オンライン版2025年8月26日号への報告より。 本研究は、スウェーデンに居住する成人(18歳以上)で、身長が記録されている全例を対象とした人口ベースのコホート研究。身長データは、兵役登録、出生登録、パスポートから取得し、全国がん登録および死因登録(1960~2011年)とリンクさせた。主要アウトカムは「成人身長が男性の部位別がんリスクの上昇をどの程度媒介しているか」であり、媒介生存解析を用いて推定した。統計学的有意性は両側検定、p<0.05で評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は615万6,659人(男性313万3,783人)、追跡期間1億1,708万1,452人年において男女共通のがんは28万5,778例で確認された。・平均身長は男性179cm、女性165cmで、男女いずれにおいても教育水準が高いほど平均身長が高く、この傾向は出生年を問わず一貫していた。・男性であることは39種中33種のがんリスク増加と有意に関連し、男性で過剰がんリスクが大きかったのは(HR>2)、喫煙や飲酒と強く関連するがん種(咽頭がん、食道がん、肝がん、喉頭がん、扁平上皮肺がんなど)、職業性発がん因子と関連するがん種(尿路上皮がん、胸膜中皮腫など)であった。・男女を合わせた解析の結果、身長の高さは39種中27種のがんリスク増加と有意に関連した。・男性における身長の高さによる過剰がんリスクは、喉頭がんの0.5%から、結腸がん(128%)、唾液腺がん(140%)、急性骨髄性白血病(155%)、悪性黒色腫(802%)における100%超まで幅広かった。 著者らは、「男性における過剰がんリスクのうちかなりの割合が身長によって説明される可能性が示された。成人期の生活習慣や環境曝露の影響を超えて、身長に関連する確率論的な生物学的プロセス、さらには遺伝的要因や幼少期の成長決定因子が、がんリスクの性差に寄与していることが示唆される」とした。

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生後1週間以内の侵襲性感染症が小児てんかんリスクと関連

 てんかんは小児期に発症することの多い神経疾患で、健康や生活への影響が生涯にわたることも少なくないため、予防可能なリスク因子の探索が続けられている。オーフス大学病院(デンマーク)のMads Andersen氏らは、新生児期の侵襲性感染症罹患に伴う炎症が脳損傷を引き起こし、てんかんリスクを押し上げる可能性を想定し、全国規模のコホート研究により検証。結果の詳細が「JAMA Network Open」に7月7日掲載された。 この研究では、1997~2013年にデンマーク国内で、在胎35週以上の単胎児で重篤な先天異常がなく出生した全新生児を対象とし、2021年まで、または18歳になるまで追跡した。生後1週間以内に診断された敗血症または髄膜炎を「出生早期の侵襲性細菌感染症」と定義し、そのうち血液または脳脊髄液の培養で細菌性病原体が確認された症例を「培養陽性感染症」とした。てんかんは、診断の記録、または抗てんかん薬が2回以上処方されていた場合で定義した。 解析対象となった新生児は98万1,869人で、在胎週数は中央値40週(四分位範囲39~41)、男児51%であり、このうち敗血症と診断された新生児が8,154人(0.8%)、培養陽性敗血症は257人、髄膜炎と診断された新生児は152人(0.1%未満)、培養陽性髄膜炎は32人だった。追跡期間中に、1万2,228人(1.2%)がてんかんを発症していた。 出生早期の侵襲性細菌感染症がない子どもの追跡期間中のてんかん発症率は、1,000人年当り0.9であった。それに対して出生早期に敗血症と診断されていた子どもは同1.6であり、発症率比(IRR)は1.89(95%信頼区間1.63~2.18)だった。一方、出生早期に髄膜炎と診断されていた子どもは発症率が8.6(4.2~5.21)で、IRRは9.85(5.52~16.27)だった。 性別、在胎週数、出生体重、母親の年齢・民族・喫煙・教育歴・糖尿病などを調整したCox回帰分析の結果、出生早期に敗血症と診断されていた子どもは、追跡期間中のてんかん発症リスクが有意に高いことが示された(調整ハザード比1.85〔1.60~2.13〕)。 Andersen氏らは、「この結果は出生後早期の細菌感染の予防と治療が、小児てんかんのリスク抑制につながる可能性を示唆している」と述べている。なお、著者の1人がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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ビタミンAはがんリスクを上げる?下げる?

 ビタミンA摂取とがんリスクの関連について、メタ解析では食事性ビタミンA摂取量が多いほど乳がんや卵巣がんの罹患率が低いと報告された一方、臨床試験ではビタミンAが肺がんや前立腺がんの死亡リスクを高めることが報告され、一貫していない。今回、病院ベースの症例対照研究の結果、食事性ビタミンA摂取量とがんリスクにU字型の関係がみられたことを、国際医療福祉大学の池田 俊也氏らが報告した。Nutrients誌2025年8月25日号に掲載。 本研究は、ベトナム科学技術省と日本政府の支援を受けて実施されたプロジェクトにおける症例対照研究で、参加者をベトナム・ハノイの主要な4つの大学病院で募集した。症例は新規がん患者で、食道がん(195例)、胃がん(1,182例)、結腸がん(567例)、直腸がん(482例)、肺がん(225例)、乳がん(281例)、その他のがん(826例)の3,758例、対照はがんを罹患していない患者で、外傷、尿路結石、胆石症、ヘルニア、多汗症、良性前立腺肥大症、痔核、甲状腺結節などの非がん性疾患のための手術で新規に入院した患者2,995例であった。食事性ビタミンA摂取量は半定量食物摂取頻度調査票を用いて調査した。ビタミンA摂取量とがんリスクとの関連は、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出して評価した。制限付き3次スプライン曲線により、母集団のビタミンA摂取量の中央値(86.6μg/日)および平均値(108.4μg/日)に近い四分位である85.3~104.0μg/日が安全な範囲であると示唆され、この四分位を基準とした。 主な結果は以下のとおり。・ビタミンA摂取量とがん罹患率の間に、基準と比較してU字型の関連が認められた。・最低摂取量と最高摂取量の両方ががんリスク上昇と関連しており、OR(95%CI)値はそれぞれ1.98(1.57~2.49)と2.06(1.66~2.56)であった。・このU字型パターンは、性別、肥満度、喫煙の有無、飲酒の有無、血液型A型、食道がん、胃がん、乳がん、直腸がんで定義されたサブグループで一貫してみられたが、肺がんと結腸がんではみられなかった。

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デジタルピアサポート型禁煙プログラム、紙巻と加熱式で成功率に差

 紙巻たばこと加熱式たばこ(heated tobacco products: HTP)、どちらが禁煙に成功しやすいか?日本の職場で実施されたデジタルピアサポート型禁煙プログラムにおいて、HTP使用者は紙巻たばこ喫煙者より高い禁煙成功率を示すことが明らかになった。小グループでのサポートとスマートフォンアプリを組み合わせた介入が効果を後押ししたと考えられる。研究は北里大学大学院医療系研究科の吉原翔太氏らによるもので、詳細は「Journal of Medical Internet Research(JMIR)」に8月5日掲載された。 日本ではニコチン依存症者向けの外来禁煙プログラムが提供され、2020年からはHTP使用者も保険適用となった。このプログラムはニコチン代替療法と医師による面接や遠隔診療を組み合わせるが、完遂率は低い。一方、スマートフォンアプリなどのデジタル療法は禁煙支援に有効で、個別型アプリではHTP使用者が紙巻たばこ喫煙者より高い成功率を示すとの報告がある。さらにメタ解析では、仲間を取り入れたグループ型介入が禁煙成功率を高めることが示されている。しかし、ピアサポートを取り入れたグループ型アプリに関する研究は乏しく、タバコ製品の種類による効果差は明らかになっていない。このような背景から、著者らはニコチン代替療法とデジタルピアサポートアプリを組み合わせたグループ型禁煙プログラムに参加した現喫煙者を、使用しているたばこの種類別で分類し、禁煙成功率を比較する前向き研究を実施した。 研究は2023年6月~9月(12週間)にかけて行われ、参加者は国内の4つの企業よりリクルートされた。参加者は、禁煙プログラムに登録し、ニコチン代替療法(ニコチンパッチまたはガム)を無料で提供され、デジタルピアサポートアプリ(「みんチャレ」、A10 Lab Inc.)を併用した。このアプリでは、最大5人までの匿名グループチャットが可能で、写真やコメントを含む活動報告を共有することで交流や禁煙の取り組みを促した。参加者は紙巻たばこのみの喫煙者、HTPのみ使用者、併用(紙巻たばこ及びHTP)の3群に分類された。禁煙成功率の比較にはロジスティック回帰分析を用い、紙巻たばこのみの喫煙者を基準群としたオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)が算出された。 最終解析には435人が含まれ、内訳は紙巻37.5%、HTP 50.1%、併用 12.4%であった。参加者の平均年齢は46.6歳で、男性が大多数を占め(95.6%)、喫煙歴20年以上の者が68.1%を占めた。また、HTP使用者は、紙巻たばこ喫煙者と比べて喫煙歴が短く、禁煙補助薬の使用経験も少なかった。 禁煙成功率は、HTPのみ使用者で紙巻たばこのみ喫煙者よりも有意に高かった(63.3% vs 52.8%、調整OR 1.84、95% CI 1.57~2.16)。一方、併用者は紙巻たばこのみ喫煙者よりも成功率が低かったが、その差は統計学的に有意ではなかった(48.1% vs 52.8%、調整OR 0.96、95% CI 0.79~1.16)。 本研究について著者らは、「デジタルピアサポートアプリを用いたグループ型禁煙プログラムでは、HTPのみ使用者は紙巻たばこのみの喫煙者よりも高い禁煙成功率を示した。しかし、併用者は有意な差は認められなかった。これらの結果は、職場における禁煙プログラムにおいて、使用するたばこの種類を考慮することの重要性を示している」と述べている。 なお、著者らは、この研究結果をもって禁煙戦略として紙巻たばこからHTPへの切り替えを推奨するものではないと強調している。

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クロンカイト・カナダ症候群〔CCS:Cronkhite-Canada syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義クロンカイト・カナダ症候群(Cronkhite-Canada syndrome:CCS)は、消化管に非腫瘍性ポリポージスが分布し、高率に蛋白漏出性胃腸症を合併する非遺伝性疾患である。消化器症状と消化器外症状(色素沈着、脱毛、爪甲萎縮)がある。■ 疫学現在までおよそ500例超の症例報告がなされ世界的に希少な疾患とされるが、わが国からの報告が大半を占める。厚生労働省班会議で実施されたわが国の疫学調査では推定患者数473人、有病率3.7/10万人(男性4.0、女性3.7)1)。以前筆者らの教室で行った210例のCCS患者を対象とした全国調査では、発症平均年齢は63.5歳(31~86歳)、男女比は1.84:1と報告されている2)。■ 病因非遺伝性疾患で、家系内発症例はほとんどなく、飲酒・喫煙・食生活などの環境因子も有意なものはなく、病因はまったく明らかではない。ステロイドの高い奏効率、ポリープや介在粘膜の炎症細胞浸潤、治療によるポリープの可逆性、抗核抗体高値例、IgG4陽性細胞のポリープへの浸潤例、甲状腺機能低下症合併例、膜性腎症合併例の報告などから、免疫異常の関与が想定されている。ポリープ内のmRNAの網羅的検索ではCXCL3、CXCL1、IL1b、Lipocalin2の有意な上昇を認め、自然免疫系の亢進が示唆されている3)。薬剤内服後に発症した症例報告もあり、アレルギー反応の一種の可能性も考えられている。精神的ストレス、肉体的ストレスが発症に影響を及ぼしている可能性を示唆する報告もある。ヘリコバクター・ピロリ(HP)の関与も想定され、わが国の全国調査ではCCS患者15例でHP除菌療法を行い、8例で内視鏡的に寛解もしくは改善を認めた。また、DNA依存性プロテインキナーゼをコードしているPRKDC遺伝子の変異との関連を示唆する報告もある。患者の消化管粘膜から作成したオルガノイドは内分泌細胞を多く含み、セロトニンが増殖亢進に関与しているとの報告がある4)。■ 症状消化器症状と消化器外症状(外胚葉症状)がある。典型的な消化器症状には、慢性の下痢(多くは非血性)、腹痛、味覚鈍麻がある。消化器外症状として、皮膚に特徴的皮膚症状(Triad:脱毛、皮膚の色素沈着、爪甲萎縮・脱落)がある。診断時に認められる頻度が高い症状としては下痢、味覚鈍麻、爪甲萎縮である。味覚鈍麻は亜鉛不足が一因と想定されている。皮膚の色素沈着は重要な所見であり、頭部、手首、手掌、足底、四肢、顔、胸にみられる茶色い色素斑や非掻痒性の結節性丘疹が特徴的だが、口腔内、口唇にも色素沈着がみられることもある。皮膚の色素沈着は診断時にはおよそ半分の症例でみられる。爪の変化も特徴的な所見である。脱毛は頭髪のみならず、睫毛、眉毛、陰毛などにもみられる。脱毛の機序は、増毛期の毛根にリンパ球浸潤を認めることから免疫異常の関与が示唆されている。内視鏡所見でポリポーシスが無症状のうちに先行し、後に臨床症状が揃い確定診断された報告もある。その他の臨床症状には、蛋白漏出胃腸症、栄養吸収障害に伴う末梢の著明な浮腫、舌炎、口腔内乾燥、貧血も認められる。カルシウム、カリウム、マグネシウムなどの電解質異常に伴う痙攣やテタニー、無嗅症、白内障、血栓症、心不全、末梢神経障害、前庭神経障害、繰り返す膵炎、精神障害を来すことがある。■ 分類ポリポージスの発生部位、数、大きさ、分布形式で内視鏡的分類がされている。胃・大腸ポリープの分布様式の例を以下に挙げる5)。A)散在型(sparse)ポリープ間に健常粘膜が介在する。介在粘膜には炎症や浮腫を認めない。B)密集型(confluent)ポリープは密集し、間に介在する粘膜がほとんど確認されない。C)類密集型(close proximity)ポリープ間を介在する粘膜に、炎症や浮腫性変化を認める。D)肥厚型(thickening)ポリープの形状および大小を判別できないが、観察範囲内はすべて、炎症もしくは浮腫性変化で肥厚している。■ 予後以前は約半数が死亡との報告があったが、症例の蓄積による治療方針の進歩により、そこまでの死亡率ではないと考えられている。わが国の全国調査では、約10年間の観察期間で、3割近くの患者に胃がんまたは大腸がんを認めている2)。2 診断診断基準が、難治性疾患克服研究事業の研究班で以下のように提唱されている。【主要所見】1)胃腸管の多発性非腫瘍性ポリポーシスがみられる。とくに胃・大腸のポリポーシスがみられ、非遺伝性である。2)慢性下痢を主徴とする消化器症状がみられる。3)特徴的皮膚症状(Triad)がみられる。脱毛、爪甲萎縮、皮膚色素沈着【参考所見】4)蛋白漏出を伴う低蛋白血症(低アルブミン血症)がみられる。5)味覚障害あるいは体重減少・栄養障害がみられる。6)内視鏡的特徴:消化管の無茎性びまん性のポリポーシスを特徴とする。胃では粘膜浮腫を伴う境界不鮮明な隆起大腸ではイチゴ状の境界鮮明なポリープ様隆起7)組織学的特徴:過誤腫性ポリープ(hamartomatous polyps[juvenile-like polyps]): 粘膜固有層を主座に、腺の嚢状拡張、粘膜の浮腫と炎症細胞浸潤を伴う炎症像。介在粘膜にも炎症/浮腫を認める。【診断のカテゴリー】主要所見のうち1)は診断に必須主要所見の3つが揃えば確定診断[1)+2)+3)]1)を含む主要所見が2つあり、4)あるいは6)+7)があれば確定診断。[1)+2)+4)]、[1)+3)+4)]、[1)+2)+6)+7)]、[1)+3)+4)+6)+7)]のいずれか。1)があり、上記以外の組み合わせで主要所見や参考所見のうちいくつかの項目がみられた場合は疑診。3 治療ステロイドが唯一無二の確立した治療薬である。30mg/日以上の投与で85%以上の患者が反応し、30~50mg/日の経口投与が寛解導入に適当とされる5)。高齢の発症者が多いこともあり、60mg/日を超えた使用では、敗血症や血栓症といった重篤な副作用の頻度が増加する。治療に反応すると、2ヵ月程度で下痢、3ヵ月程度で味覚障害が軽快していく。それに続いて数ヵ月~半年で体重減少などの栄養障害および皮膚所見が改善する。内視鏡所見の改善にかかる時間は8ヵ月前後と最も遅く、数年を要する症例も存在する5)。急激な減薬は再燃を引き起こす可能性があるため、臨床症状および内視鏡所見の十分な改善を投薬の中止・減量の指標とするが、多くの場合は、寛解維持のために少量のステロイドを継続投与する5)。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)難治例に対し、カルシニューリン阻害薬、抗TNFα抗体、ソマトスタチンアナログ製剤、チオプリン製剤、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、アミノサリチル酸製剤を使用して寛解に至った例もあるが5)、いずれも有効性の検証は不十分である。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班でクロンカイト・カナダ症候群のレジストリーを実施(医療従事者向けのまとまった情報) 1) Watanabe C, et al. J Gastroenterol. 2016;51:327-336. 2) Oba MS, et al. J Epidemiol. 2021;31:139-144. 3) Poplaski V, et al. J Clin Invest. 2023;133:e166884. 4) Liu S, et al. J Rare Dis. 2024;19:35. 5) 久松理一、穂苅量太ほか. Cronkhite-Canada症候群 内視鏡アトラス. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」令和3年6月作成. 公開履歴初回2025年9月24日

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第285回 通説を覆す小細胞肺がんの起源が判明

通説を覆す小細胞肺がんの起源が判明神経内分泌がんの類いの中で最も悪性度の高い小細胞肺がん(SCLC)の主な出どころが、通説の神経内分泌細胞ではなく、肺の細胞各種の再生を担う基底細胞であることを裏付ける研究成果が報告されました1,2)。神経内分泌がんは肺、前立腺、胃腸を含む全身のあらゆるところに生じ、進行が早いことで知られます。転写因子POU2F3に依存するタフト様(tuft-like)と呼ばれる神経内分泌がんの一種は他の神経内分泌がんと遺伝子発現特徴が異なり、治療への反応も独特なようです。POU2F3は病原体を感知して相手にするタフト細胞のマーカーでもあります。肺がん全体の15%ほど3)を占めるSCLCは神経内分泌がんの類いの中で最も悪辣で、5年間生存率はI期なら4割近いものの、IV期ともなるとわずか2%です4)。分子の目印で4つに分類しうるSCLCは、神経細胞とホルモン生成細胞の両方の特徴を兼ね備える肺神経内分泌細胞を端緒とするとされています。しかしタフト様神経内分泌がんと同様にPOU2F3発現を目印とするSCLCの一種(SCLC-P)はそうともいえないようです。というのもSCLC変異を有する肺神経内分泌細胞はSCLC-Pを生み出せないからです。ただでさえ難儀なSCLCの中でも輪をかけてたちが悪いSCLC-Pは、先立つ研究によるとPOU2F3発現で共通するタフト/刷子細胞からどうやら発生するようです。幹細胞様の肺基底細胞は、損傷修復の際に転写因子PNECとタフト細胞に分化することができます。ゆえにタフト様がんを含む神経内分泌がんの各種は基底細胞を共通項とするかもしれません。そのような背景を受けて実施された新たな研究の結果、神経内分泌細胞ではなく基底細胞を変異させたときに限ってタフト様がんが生じ、基底細胞がタフト様を含むSCLCの起源となることが裏付けられました。研究では遺伝配列改変マウス、腫瘍の立体培養、SCLC患者の944の検体が使われました。時を同じくして発表された別の報告でも、どうやら基底細胞こそSCLCの主な起源らしいことが示唆されています。37のがんの起源が調べられ、大部分のSCLCがどうやら基底細胞を発端とするらしいことが示されました5)。とはいうもののSCLCはどれも基底細胞を起源とするというわけではなさそうで、喫煙と関連せず、より若くして生じうるまれな非定型(atypical)SCLCが神経内分泌細胞を起源とするらしいことがその報告では示されています。そのようなまれなSCLCも視野に入れつつ、多くのSCLCの発端と思しき基底細胞を焦点とするSCLC進展阻止手段の試みが今回の研究を契機に今後進みそうです。研究者によると、がん化する前の基底細胞に免疫系がどう絡むかを検討できるようになっており2)、SCLCを生じる前の段階での予防すら担う治療手段の道が開けています。 参考 1) Ireland AS, et al. Nature. 2025 Sep 17. [Epub ahead of print] 2) Basal stem-like cells identified as origin of small cell lung cancer in lab models / (Eurekalert 3) Rudin CM, et al. Nat Rev Dis Primers. 2021. 4) がん情報サービス:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 5) Bairakdar MD, et al. Nat Commun. 2025;16:8301. -----------------------------------------【大画像】 /files/kiji/20200326175635-sns.jpg 【サムネイル】 /files/kiji/20200326175621.png-----------------------------------------

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赤肉の摂取は腹部大動脈瘤の発症につながる?

 赤肉を大量に摂取すると、致死的となることもある腹部大動脈瘤(AAA)の発症リスクが高まる可能性があるようだ。赤肉や他の動物性食品に含まれる成分は、腸内細菌によって分解されたのち、肝臓で酸化されてTMAO(トリメチルアミンN-オキシド)となり、血液中に蓄積する。新たな研究で、血中のTMAOレベルが高い人ほどAAAの発症リスクが高いことが示された。米クリーブランド・クリニック血管医学部門長のScott Cameron氏らによるこの研究結果は、「JAMA Cardiology」に8月20日掲載された。 AAAは腹部の最も太い動脈(腹部大動脈)に瘤のような膨らみが生じる病態である。通常、大動脈の壁は、心臓から送り出される血液の圧力に耐えられる程度に強固である。しかし、動脈硬化などにより部分的に血管壁が弱くなると、そこに膨らみが生じる。このような大動脈瘤は、大きくなるにつれて破裂のリスクが高まり、破裂が病院外で発生した場合には、80%のケースで致死的になるという。 Cameron氏によると、現状ではAAAに対する治療選択肢は手術かステント留置術のみであり、動脈瘤リスクを有する人を予測できる血液検査は存在しない。また、AAA患者は通常、大動脈が破裂して体内に大量出血が起こるまで症状が現れないという。 動物実験では、TMAOはAAAの進行や破裂を促進することが報告されている。今回の研究では、大動脈の定期的な画像検査サーベイランスを受けている2つのコホートのデータを用いて、TMAOレベルとAAA発症や急速な拡大(年間4.0mm以上)、外科手術が推奨される状態(直径5.5cm以上、または急速な拡大)との関連が検討された。コホートの1つはヨーロッパ人(237人、年齢中央値65歳、男性89.0%)、もう1つは米国人(658人、年齢中央値63歳、男性79.5%)で構成されていた。 解析の結果、ヨーロッパコホートでは、血中のTMAOレベルが高いことはAAAの従来のリスク因子(喫煙、高血圧など)や腎機能とは独立してAAAリスクの上昇と関連していることが示された。また、高TMAOにより、急速に拡大するAAAのリスク(調整オッズ比2.75、95%信頼区間1.20〜6.79)、および手術が推奨される状態になるリスク(同2.67、1.24〜6.09)を予測できる可能性も示された。さらに、米国コホートでも、ヨーロッパコホートと米国コホートを統合して解析しても、同様の結果となることが確認された。 Cameron氏は、「これらの結果は、TMAOレベルを標的とすることが、手術以外の動脈瘤疾患の予防と治療に役立つ可能性があることを示唆している」と述べている。また研究グループは、今回の結果がAAAの有効な血液検査の開発につながる可能性があるとの見方も示している。 さらに研究グループは、本研究結果が、AAAリスクを有する人が赤肉の摂取量を減らすことで、自らを守るための対策を講じるのに役立つ可能性があると話している。論文の上席著者である、クリーブランド・クリニック心臓血管・代謝科学部長のStanley Hazen氏は、「TMAOの生成には腸内細菌が関与しており、動物性食品や赤肉を摂取すると、そのレベルが高くなる。TMAOの産生経路を標的とした薬剤は、前臨床モデルにおいて動脈瘤の発生と破裂を阻止することが示されているが、ヒトではまだ利用できない。本研究結果は、手術が必要になるまで経過観察する現在の臨床診療と比較して、大動脈の拡張や早期動脈瘤の予防や治療における食事療法の重要性を示唆しているため、共有する価値がある」と述べている。 ただし研究グループは、赤肉や動物性食品を多く含む食生活とAAAを直接結び付けるには、さらなる研究が必要だと指摘している。

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20歳以降の体重10kg増加が脂肪肝リスクを2倍に/京都医療センター

 20歳以降に体重が10kg以上増えた人は、ベースライン時のBMIにかかわらず5年以内に脂肪肝を発症するリスクが約2倍に上昇し、体重変動を問う質問票は脂肪肝のリスクが高い人を即時に特定するための実用的かつ効果的なスクリーニング方法となり得る可能性があることを、京都医療センターの岩佐 真代氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年8月6日号掲載の報告。 脂肪性肝疾患は、心血管疾患や代謝性疾患、慢性腎臓病のリスク増大と関連しており、予防と管理のための効果的な戦略の開発が求められている。脂肪肝に関連する質問票項目を特定することで、脂肪性肝疾患の高リスク者の早期発見につながる可能性があることから、研究グループは一般集団の健康診断データベースから収集した生活習慣情報を縦断的に分析し、脂肪肝リスクの高い個人を特定する質問票の有用性を検討した。 対象は、2011~15年にかけて、武田病院健診センターの健康診断受診者のうち、ベースライン時には脂肪肝は認められず、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肝疾患などの既往歴もない20歳以上の1万5,063人であった。ベースライン時のBMIに基づいて、BMI値22未満群、22〜25未満群、25以上群の3つのグループに分類した。食習慣と生活習慣に関する質問票項目は、厚生労働省が特定健康診査事業のために提供している標準質問票に基づいて作成され、(1)食習慣・行動、(2)喫煙・飲酒習慣、(3)運動習慣、(4)体重変動、(5)睡眠の23項目で構成されていた。Cox比例ハザードモデルを用いて、ベースライン時の質問票データと5年間の追跡期間における脂肪肝発症率との関連性について、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,063人のうち、女性は8,294人(55.1%)、平均年齢は47.1歳、平均BMIは21.4であった。・追跡期間中央値4.2年で、1,889例(12.5%)が脂肪肝を発症した。脂肪肝の発症率は、ベースライン時のBMI値が高いほど有意に高かった(傾向のp<0.001)。 -BMI値22未満群 551/9,270例(5.9%) -BMI値22〜25未満群 898/4,519例(19.9%) -BMI値25以上群 440/1,274例(34.5%)・年齢、性別、代謝性疾患および肝障害に関連する因子を調整した後、脂肪肝発症の最も強い危険因子は20歳以降の10kg以上の体重増加であり、とくにBMI値22未満群で顕著であった。 -全体集団 調整HR:2.11、95%CI:1.90~2.34、p<0.001 -BMI値22未満群 調整HR:2.33、95%CI:1.86~2.91、p<0.001 -BMI値22〜25未満群 調整HR:1.43、95%CI:1.25~1.63、p<0.001 -BMI値25以上群 調整HR:1.41、95%CI:1.12~1.77、p=0.003・すべてのBMI群に共通する脂肪肝リスクの低減に関連する質問票項目は特定されなかったが、22未満群では牛乳および乳製品の日常摂取(調整HR:0.75、p=0.001)、22〜25未満群では海藻およびきのこの日常摂取(調整HR:0.63、p=0.006)、25以上群では睡眠満足度(調整HR:0.80、p=0.039)がそれぞれ脂肪肝リスクの低減と最も強く関連していた。 これらの結果より、研究グループは「本研究は、脂肪肝発症のリスクを同定し、低減させるための質問票の潜在的な有用性を強調するものである。質問票に基づいて健診当日にリスクを伝え、生活習慣改善につなげる即日フィードバックのアプローチは、脂肪肝発症のリスクを低減させ、脂肪性肝疾患の予防に貢献する可能性がある」とまとめた。

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