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1.

デジタルピアサポートアプリがニコチンガムの禁煙効果を後押し

 ニコチンガムは禁煙に一定の効果を示すものの、その禁煙成功率は十分とは言えない。今回、企業の健康保険組合加入者を対象とした非ランダム化比較試験で、ニコチンガムにデジタルピアサポートアプリを組み合わせることで、禁煙成功率が有意に向上することが示された。研究は、北里大学大学院医療系研究科の吉原翔太氏らによるもので、詳細は「JMIR mHealth and uHealth」に8月19日掲載された。 日本では禁煙治療が保険適用だが、禁煙成功率は高いとは言い難い。平成29年度の厚生労働省の調査によると、ニコチン依存症管理料を算定した患者における5回の禁煙治療完了率は全体で34.6%にとどまっていると報告されている。一方で、グループでの交流を促進し、ユーザー同士で禁煙へのモチベーションを高めるデジタルピアサポートアプリは禁煙に有益である可能性がある。しかしながら、デジタルピアサポートアプリとニコチン代替療法(ニコチンガム)を統合した禁煙プログラム効果は、これまで検討されてこなかった。このような背景から、著者らはニコチン代替療法(ニコチンガム)にデジタルピアサポートアプリを追加することで、企業の健康保険組合加入者で現喫煙者の禁煙率を高めることができるかどうかを評価するために、12週間の非ランダム化比較試験を実施した。 参加者は、健康保険組合に加入する3社(電子・保険・通信)の現喫煙者を、プログラム開始約1か月前から20日間募集した。介入期間中はデジタルピアサポートアプリ(みんチャレ、A10 Lab Inc.)に常時アクセス可能であった。このアプリでは、最大5人までの匿名グループチャットが可能で、写真やコメントを含む活動報告を共有することで交流や禁煙の取り組みを促した。参加者は自己選択で、(1)ニコチンガム単独(単独群)、または(2)デジタルピアサポートアプリとニコチンガムの併用(併用群)の2つの介入群のいずれかを選択した。単独群を基準とした禁煙のオッズ比(OR)は、人口統計学的および喫煙関連変数を調整したロジスティック回帰分析により推定した。 最終的な解析対象は451人(単独群191人、併用群260人)であった。単独群と比較して、併用群は平均年齢が高く、喫煙歴が長い傾向がみられ、また禁煙の主な動機として「家族の健康」を挙げる割合が高かった。 12週間時点での禁煙成功率は、単独群38.7%に対し併用群59.2%で有意に高かった。また、年齢、性別、喫煙歴、喫煙本数、禁煙の目的や意欲といった変数を調整し、ロジスティック回帰分析を行った結果、禁煙成功のORは2.41(95%信頼区間2.07~2.81)であった。 さらに、禁煙成功率とデジタルピアサポートアプリの使用期間およびグループチャットへの投稿頻度との関連を検討した。解析の結果、アプリの使用期間が長いほど、また投稿頻度が高いほど禁煙成功率は有意に高く、いずれも正の関連が認められた(傾向性P<0.001)。 著者らは、本研究が自己申告データに依存している点などの限界を認めつつも、「標準的なニコチン代替療法に加えてデジタルピアサポートアプリを併用した現喫煙者では、禁煙率が有意に上昇することが確認された。この知見は、禁煙介入におけるデジタルツールの実装可能性を示す予備的エビデンスである」と述べている。 なお、禁煙成功率とデジタルピアサポートアプリの使用期間・投稿頻度に正の関連が見られた理由について、著者らは、アプリをより積極的に利用し、頻繁に投稿した人は、チャット機能を通じて自身の成功体験を共有したり、周囲から承認やポジティブなフィードバックを得たりする機会が増えたことが影響しているのではないかと考察している。

2.

喫煙は2型糖尿病のリスクを高める

 喫煙者は2型糖尿病のリスクが高く、特に糖尿病になりやすい遺伝的背景がある場合には、喫煙のためにリスクがより高くなることを示すデータが報告された。カロリンスカ研究所(スウェーデン)のEmmy Keysendal氏らが、欧州糖尿病学会年次総会(EASD2025、9月15~19日、オーストリア・ウィーン)で発表した。Keysendal氏は、「インスリン作用不足の主因がインスリン抵抗性の場合と分泌不全の場合、および、肥満や加齢が関与している場合のいずれにおいても、喫煙が2型糖尿病のリスクを高めることは明らかだ」と語っている。 この研究では、ノルウェーとスウェーデンで実施された2件の研究のデータを統合して解析が行われた。対象は2型糖尿病群3,325人と糖尿病でない対照群3,897人であり、前者は、インスリン分泌不全型糖尿病(495人)、インスリン抵抗性型糖尿病(477人)、肥満に伴う軽度の糖尿病(肥満関連糖尿病〔693人〕)、加齢に伴う軽度の糖尿病(高齢者糖尿病〔1,660人〕)という4タイプに分類された。 解析の結果、喫煙歴のある人(現喫煙者および元喫煙者)は、喫煙歴のない人よりも前記4種類のタイプ全ての糖尿病リスクが高く、特にインスリン抵抗性型糖尿病との関連が強固だった。具体的には、インスリン分泌不全型糖尿病は喫煙によりリスクが20%上昇し、肥満関連糖尿病は29%、高齢者糖尿病は27%のリスク上昇であったのに対して、インスリン抵抗性型糖尿病に関しては2倍以上(2.15倍)のリスク上昇が認められた。また、インスリン抵抗性型糖尿病の3分の1以上は、喫煙が発症に関与していると考えられた。その他の3タイプでは、発症に喫煙の関与が考えられる割合は15%未満だった。 さらに、ヘビースモーカー(タバコを1日20本以上、15年間以上吸っていることで定義)ではより関連が顕著であり、インスリン抵抗性型糖尿病は喫煙によって2.35倍にリスクが高まり、インスリン分泌不全型糖尿病は52%、肥満関連糖尿病は57%、高齢者糖尿病は45%のリスク上昇が認められた。このほかに、遺伝的にインスリン分泌が低下しやすい体質の人でヘビースモーカーの場合は、喫煙によりインスリン抵抗性型糖尿病のリスクが3.52倍に高まることも示された。 これらの結果についてKeysendal氏は、「われわれの研究結果は2型糖尿病の予防における禁煙の重要性を強調するものである。喫煙と最も強い関連性が認められた糖尿病のタイプは、インスリン抵抗性を特徴とするタイプだった。これは、喫煙がインスリンに対する体の反応を低下させることで、糖尿病の一因となり得ることを示唆している」と述べている。また、「禁煙によって糖尿病リスクをより大きく抑制することのできる個人を特定する際に、遺伝的背景に関する情報が役立つと考えられる」と付け加えている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

3.

抜管直後の「少量飲水」の効果と安全性【論文から学ぶ看護の新常識】第34回

抜管直後の「少量飲水」の効果と安全性抜管直後から「少量ずつ飲水」することの効果と安全性を検証したランダム化比較試験が行われ、「抜管直後の少量飲水は口渇と咽頭不快感を和らげる効果があり、有害事象は増加しない」ことが示唆された。Sarka Sedlackova氏らの研究で、Journal of Critical Care誌オンライン版2025年8月7日号に掲載の報告。抜管直後の「少量飲水」vs.経口水分摂取の遅延:ランダム化比較試験研究チームは、抜管後すぐに経口で水分を「少量ずつ摂取」することが、口渇と不快感を軽減し、集中治療の現場において安全であるかどうかを評価することを目的に、単施設ランダム化比較試験を行った。抜管基準を満たしたICU患者160例を、水分摂取遅延群(抜管2時間後から水分摂取を開始)と、即時少量飲水群(2時間かけて最大3mL/kgを摂取)のいずれかに1:1でランダムに割り付けた。口渇、不快感、および有害事象(吐き気、嘔吐、誤嚥)を、0分、5分、30分、60分、90分、120分後に評価した。主な結果は以下の通り。120分時点では、両群ともに80例中64例(80%、95%信頼区間[CI]:70~88%)が口渇を訴え、群間差は0.0%であった(95%CI:-12%~12%、p=1.000)。120分後までの口渇の緩和は、少量飲水群の11.3%(95%CI:5~20%)に対し、水分摂取遅延群では1.3%(95%CI:0~7%)であり、10%の有意な差が認められた(95%CI:1~19%、p=0.0338)。90分時点での咽頭の不快感は、少量飲水群の23.8%(95%CI:15~35%)に対し、水分摂取遅延群では42.5%(95%CI:32~54%)であり、-18.7%の有意な差が認められた(95%CI:-34%~-3%、p=0.0118)。有害事象(吐き気、嘔吐)はまれであり、両群で同等であった;誤嚥はどちらの群でも観察されなかった。抜管直後からの少量飲水は、安全であり、喉の渇きを和らげ、ICU患者の不快感を軽減し、有害事象を増加させることなく行えると考えられる。皆さんの施設では抜管後いつから飲水が可能になりますか?施設によっては厳密な基準はなく、「翌日から飲水可能」といった大まかなスケジュールで運用されているかもしれません。でもこれって実はエビデンスが乏しく、慣習的に決められていることが多いです。「患者さんは喉が渇いてないかな?」と気にかかりながらも、「でも吐かないかな?誤嚥して肺炎になったらどうしよう」と思う葛藤を、皆さん一度は抱いたことがあるのではないでしょうか?今回は、「抜管2時間後から飲水可能」vs.「抜管直後からの少量飲水(ちょびちょび飲み:シッピング)」を比較した研究を紹介します。研究の結果、2時間後の口渇感の有無自体には両群で差はありませんでした。しかし、口渇感と咽頭不快感の軽減については、「抜管直後からの少量飲水」群が有意に優れていました。さらに、吐き気、嘔吐、誤嚥などの有害事象の発生率は両群で同等であり、少量飲水によりリスクは増加しないことが示されました。これらの知見は、従来の画一的な2時間の絶飲食に疑問を投げかけ、より患者中心に不快感を低減するケアを考えるきっかけとなります。ただし、患者さんの不快感をとるために、無制限に飲水をしていいわけではありません。まず、この研究では一度の摂取量は5~10mL程度とごく少量で、2時間かけて最大3mL/kg(合計約200mL)を上限にする制限も設けられています。またリスクがある、上部消化管手術(食道、胃、十二指腸)、頭蓋外傷、または嚥下や意識に影響を与える神経学的障害がある患者は、事前に除外しています。あくまでも誤嚥や創部に水が入るリスクが低いと想定される患者さんに限定していることは覚えておきましょう。また実臨床で取り入れる場合には、飲水により胃内容物が溜まることでPONV(Postoperative Nausea And Vomiting:術後悪心・嘔吐)のリスクが増すため、女性、オピオイド使用、非喫煙者、乗り物酔いの既往がある患者さんでは注意が必要です。適切なリスク評価を行った上で、実施可能であれば、患者さんの不快感を減らす新たなアプローチの導入を検討してみてはいかがでしょうか。論文はこちらSedlackova S, et al. J Crit Care. 2025 Aug 7. [Epub ahead of print]

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男性の身長の高さとがんリスク、関連がみられたがん種は

 600万人以上を対象とし、性別・身長とがんの関連を検討したこれまでで最大規模の研究において、39種中27のがん種において身長の高さががんリスク増加と統計学的有意に関連し、男性では悪性黒色腫、急性骨髄性白血病、唾液腺がん、結腸がんでとくに身長の高さによる過剰がんリスクが高かった。スウェーデン・カロリンスカ研究所のCecilia Radkiewicz氏らによる、International Journal of Cancer誌オンライン版2025年8月26日号への報告より。 本研究は、スウェーデンに居住する成人(18歳以上)で、身長が記録されている全例を対象とした人口ベースのコホート研究。身長データは、兵役登録、出生登録、パスポートから取得し、全国がん登録および死因登録(1960~2011年)とリンクさせた。主要アウトカムは「成人身長が男性の部位別がんリスクの上昇をどの程度媒介しているか」であり、媒介生存解析を用いて推定した。統計学的有意性は両側検定、p<0.05で評価した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は615万6,659人(男性313万3,783人)、追跡期間1億1,708万1,452人年において男女共通のがんは28万5,778例で確認された。・平均身長は男性179cm、女性165cmで、男女いずれにおいても教育水準が高いほど平均身長が高く、この傾向は出生年を問わず一貫していた。・男性であることは39種中33種のがんリスク増加と有意に関連し、男性で過剰がんリスクが大きかったのは(HR>2)、喫煙や飲酒と強く関連するがん種(咽頭がん、食道がん、肝がん、喉頭がん、扁平上皮肺がんなど)、職業性発がん因子と関連するがん種(尿路上皮がん、胸膜中皮腫など)であった。・男女を合わせた解析の結果、身長の高さは39種中27種のがんリスク増加と有意に関連した。・男性における身長の高さによる過剰がんリスクは、喉頭がんの0.5%から、結腸がん(128%)、唾液腺がん(140%)、急性骨髄性白血病(155%)、悪性黒色腫(802%)における100%超まで幅広かった。 著者らは、「男性における過剰がんリスクのうちかなりの割合が身長によって説明される可能性が示された。成人期の生活習慣や環境曝露の影響を超えて、身長に関連する確率論的な生物学的プロセス、さらには遺伝的要因や幼少期の成長決定因子が、がんリスクの性差に寄与していることが示唆される」とした。

5.

生後1週間以内の侵襲性感染症が小児てんかんリスクと関連

 てんかんは小児期に発症することの多い神経疾患で、健康や生活への影響が生涯にわたることも少なくないため、予防可能なリスク因子の探索が続けられている。オーフス大学病院(デンマーク)のMads Andersen氏らは、新生児期の侵襲性感染症罹患に伴う炎症が脳損傷を引き起こし、てんかんリスクを押し上げる可能性を想定し、全国規模のコホート研究により検証。結果の詳細が「JAMA Network Open」に7月7日掲載された。 この研究では、1997~2013年にデンマーク国内で、在胎35週以上の単胎児で重篤な先天異常がなく出生した全新生児を対象とし、2021年まで、または18歳になるまで追跡した。生後1週間以内に診断された敗血症または髄膜炎を「出生早期の侵襲性細菌感染症」と定義し、そのうち血液または脳脊髄液の培養で細菌性病原体が確認された症例を「培養陽性感染症」とした。てんかんは、診断の記録、または抗てんかん薬が2回以上処方されていた場合で定義した。 解析対象となった新生児は98万1,869人で、在胎週数は中央値40週(四分位範囲39~41)、男児51%であり、このうち敗血症と診断された新生児が8,154人(0.8%)、培養陽性敗血症は257人、髄膜炎と診断された新生児は152人(0.1%未満)、培養陽性髄膜炎は32人だった。追跡期間中に、1万2,228人(1.2%)がてんかんを発症していた。 出生早期の侵襲性細菌感染症がない子どもの追跡期間中のてんかん発症率は、1,000人年当り0.9であった。それに対して出生早期に敗血症と診断されていた子どもは同1.6であり、発症率比(IRR)は1.89(95%信頼区間1.63~2.18)だった。一方、出生早期に髄膜炎と診断されていた子どもは発症率が8.6(4.2~5.21)で、IRRは9.85(5.52~16.27)だった。 性別、在胎週数、出生体重、母親の年齢・民族・喫煙・教育歴・糖尿病などを調整したCox回帰分析の結果、出生早期に敗血症と診断されていた子どもは、追跡期間中のてんかん発症リスクが有意に高いことが示された(調整ハザード比1.85〔1.60~2.13〕)。 Andersen氏らは、「この結果は出生後早期の細菌感染の予防と治療が、小児てんかんのリスク抑制につながる可能性を示唆している」と述べている。なお、著者の1人がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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ビタミンAはがんリスクを上げる?下げる?

 ビタミンA摂取とがんリスクの関連について、メタ解析では食事性ビタミンA摂取量が多いほど乳がんや卵巣がんの罹患率が低いと報告された一方、臨床試験ではビタミンAが肺がんや前立腺がんの死亡リスクを高めることが報告され、一貫していない。今回、病院ベースの症例対照研究の結果、食事性ビタミンA摂取量とがんリスクにU字型の関係がみられたことを、国際医療福祉大学の池田 俊也氏らが報告した。Nutrients誌2025年8月25日号に掲載。 本研究は、ベトナム科学技術省と日本政府の支援を受けて実施されたプロジェクトにおける症例対照研究で、参加者をベトナム・ハノイの主要な4つの大学病院で募集した。症例は新規がん患者で、食道がん(195例)、胃がん(1,182例)、結腸がん(567例)、直腸がん(482例)、肺がん(225例)、乳がん(281例)、その他のがん(826例)の3,758例、対照はがんを罹患していない患者で、外傷、尿路結石、胆石症、ヘルニア、多汗症、良性前立腺肥大症、痔核、甲状腺結節などの非がん性疾患のための手術で新規に入院した患者2,995例であった。食事性ビタミンA摂取量は半定量食物摂取頻度調査票を用いて調査した。ビタミンA摂取量とがんリスクとの関連は、オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出して評価した。制限付き3次スプライン曲線により、母集団のビタミンA摂取量の中央値(86.6μg/日)および平均値(108.4μg/日)に近い四分位である85.3~104.0μg/日が安全な範囲であると示唆され、この四分位を基準とした。 主な結果は以下のとおり。・ビタミンA摂取量とがん罹患率の間に、基準と比較してU字型の関連が認められた。・最低摂取量と最高摂取量の両方ががんリスク上昇と関連しており、OR(95%CI)値はそれぞれ1.98(1.57~2.49)と2.06(1.66~2.56)であった。・このU字型パターンは、性別、肥満度、喫煙の有無、飲酒の有無、血液型A型、食道がん、胃がん、乳がん、直腸がんで定義されたサブグループで一貫してみられたが、肺がんと結腸がんではみられなかった。

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デジタルピアサポート型禁煙プログラム、紙巻と加熱式で成功率に差

 紙巻たばこと加熱式たばこ(heated tobacco products: HTP)、どちらが禁煙に成功しやすいか?日本の職場で実施されたデジタルピアサポート型禁煙プログラムにおいて、HTP使用者は紙巻たばこ喫煙者より高い禁煙成功率を示すことが明らかになった。小グループでのサポートとスマートフォンアプリを組み合わせた介入が効果を後押ししたと考えられる。研究は北里大学大学院医療系研究科の吉原翔太氏らによるもので、詳細は「Journal of Medical Internet Research(JMIR)」に8月5日掲載された。 日本ではニコチン依存症者向けの外来禁煙プログラムが提供され、2020年からはHTP使用者も保険適用となった。このプログラムはニコチン代替療法と医師による面接や遠隔診療を組み合わせるが、完遂率は低い。一方、スマートフォンアプリなどのデジタル療法は禁煙支援に有効で、個別型アプリではHTP使用者が紙巻たばこ喫煙者より高い成功率を示すとの報告がある。さらにメタ解析では、仲間を取り入れたグループ型介入が禁煙成功率を高めることが示されている。しかし、ピアサポートを取り入れたグループ型アプリに関する研究は乏しく、タバコ製品の種類による効果差は明らかになっていない。このような背景から、著者らはニコチン代替療法とデジタルピアサポートアプリを組み合わせたグループ型禁煙プログラムに参加した現喫煙者を、使用しているたばこの種類別で分類し、禁煙成功率を比較する前向き研究を実施した。 研究は2023年6月~9月(12週間)にかけて行われ、参加者は国内の4つの企業よりリクルートされた。参加者は、禁煙プログラムに登録し、ニコチン代替療法(ニコチンパッチまたはガム)を無料で提供され、デジタルピアサポートアプリ(「みんチャレ」、A10 Lab Inc.)を併用した。このアプリでは、最大5人までの匿名グループチャットが可能で、写真やコメントを含む活動報告を共有することで交流や禁煙の取り組みを促した。参加者は紙巻たばこのみの喫煙者、HTPのみ使用者、併用(紙巻たばこ及びHTP)の3群に分類された。禁煙成功率の比較にはロジスティック回帰分析を用い、紙巻たばこのみの喫煙者を基準群としたオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)が算出された。 最終解析には435人が含まれ、内訳は紙巻37.5%、HTP 50.1%、併用 12.4%であった。参加者の平均年齢は46.6歳で、男性が大多数を占め(95.6%)、喫煙歴20年以上の者が68.1%を占めた。また、HTP使用者は、紙巻たばこ喫煙者と比べて喫煙歴が短く、禁煙補助薬の使用経験も少なかった。 禁煙成功率は、HTPのみ使用者で紙巻たばこのみ喫煙者よりも有意に高かった(63.3% vs 52.8%、調整OR 1.84、95% CI 1.57~2.16)。一方、併用者は紙巻たばこのみ喫煙者よりも成功率が低かったが、その差は統計学的に有意ではなかった(48.1% vs 52.8%、調整OR 0.96、95% CI 0.79~1.16)。 本研究について著者らは、「デジタルピアサポートアプリを用いたグループ型禁煙プログラムでは、HTPのみ使用者は紙巻たばこのみの喫煙者よりも高い禁煙成功率を示した。しかし、併用者は有意な差は認められなかった。これらの結果は、職場における禁煙プログラムにおいて、使用するたばこの種類を考慮することの重要性を示している」と述べている。 なお、著者らは、この研究結果をもって禁煙戦略として紙巻たばこからHTPへの切り替えを推奨するものではないと強調している。

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クロンカイト・カナダ症候群〔CCS:Cronkhite-Canada syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義クロンカイト・カナダ症候群(Cronkhite-Canada syndrome:CCS)は、消化管に非腫瘍性ポリポージスが分布し、高率に蛋白漏出性胃腸症を合併する非遺伝性疾患である。消化器症状と消化器外症状(色素沈着、脱毛、爪甲萎縮)がある。■ 疫学現在までおよそ500例超の症例報告がなされ世界的に希少な疾患とされるが、わが国からの報告が大半を占める。厚生労働省班会議で実施されたわが国の疫学調査では推定患者数473人、有病率3.7/10万人(男性4.0、女性3.7)1)。以前筆者らの教室で行った210例のCCS患者を対象とした全国調査では、発症平均年齢は63.5歳(31~86歳)、男女比は1.84:1と報告されている2)。■ 病因非遺伝性疾患で、家系内発症例はほとんどなく、飲酒・喫煙・食生活などの環境因子も有意なものはなく、病因はまったく明らかではない。ステロイドの高い奏効率、ポリープや介在粘膜の炎症細胞浸潤、治療によるポリープの可逆性、抗核抗体高値例、IgG4陽性細胞のポリープへの浸潤例、甲状腺機能低下症合併例、膜性腎症合併例の報告などから、免疫異常の関与が想定されている。ポリープ内のmRNAの網羅的検索ではCXCL3、CXCL1、IL1b、Lipocalin2の有意な上昇を認め、自然免疫系の亢進が示唆されている3)。薬剤内服後に発症した症例報告もあり、アレルギー反応の一種の可能性も考えられている。精神的ストレス、肉体的ストレスが発症に影響を及ぼしている可能性を示唆する報告もある。ヘリコバクター・ピロリ(HP)の関与も想定され、わが国の全国調査ではCCS患者15例でHP除菌療法を行い、8例で内視鏡的に寛解もしくは改善を認めた。また、DNA依存性プロテインキナーゼをコードしているPRKDC遺伝子の変異との関連を示唆する報告もある。患者の消化管粘膜から作成したオルガノイドは内分泌細胞を多く含み、セロトニンが増殖亢進に関与しているとの報告がある4)。■ 症状消化器症状と消化器外症状(外胚葉症状)がある。典型的な消化器症状には、慢性の下痢(多くは非血性)、腹痛、味覚鈍麻がある。消化器外症状として、皮膚に特徴的皮膚症状(Triad:脱毛、皮膚の色素沈着、爪甲萎縮・脱落)がある。診断時に認められる頻度が高い症状としては下痢、味覚鈍麻、爪甲萎縮である。味覚鈍麻は亜鉛不足が一因と想定されている。皮膚の色素沈着は重要な所見であり、頭部、手首、手掌、足底、四肢、顔、胸にみられる茶色い色素斑や非掻痒性の結節性丘疹が特徴的だが、口腔内、口唇にも色素沈着がみられることもある。皮膚の色素沈着は診断時にはおよそ半分の症例でみられる。爪の変化も特徴的な所見である。脱毛は頭髪のみならず、睫毛、眉毛、陰毛などにもみられる。脱毛の機序は、増毛期の毛根にリンパ球浸潤を認めることから免疫異常の関与が示唆されている。内視鏡所見でポリポーシスが無症状のうちに先行し、後に臨床症状が揃い確定診断された報告もある。その他の臨床症状には、蛋白漏出胃腸症、栄養吸収障害に伴う末梢の著明な浮腫、舌炎、口腔内乾燥、貧血も認められる。カルシウム、カリウム、マグネシウムなどの電解質異常に伴う痙攣やテタニー、無嗅症、白内障、血栓症、心不全、末梢神経障害、前庭神経障害、繰り返す膵炎、精神障害を来すことがある。■ 分類ポリポージスの発生部位、数、大きさ、分布形式で内視鏡的分類がされている。胃・大腸ポリープの分布様式の例を以下に挙げる5)。A)散在型(sparse)ポリープ間に健常粘膜が介在する。介在粘膜には炎症や浮腫を認めない。B)密集型(confluent)ポリープは密集し、間に介在する粘膜がほとんど確認されない。C)類密集型(close proximity)ポリープ間を介在する粘膜に、炎症や浮腫性変化を認める。D)肥厚型(thickening)ポリープの形状および大小を判別できないが、観察範囲内はすべて、炎症もしくは浮腫性変化で肥厚している。■ 予後以前は約半数が死亡との報告があったが、症例の蓄積による治療方針の進歩により、そこまでの死亡率ではないと考えられている。わが国の全国調査では、約10年間の観察期間で、3割近くの患者に胃がんまたは大腸がんを認めている2)。2 診断診断基準が、難治性疾患克服研究事業の研究班で以下のように提唱されている。【主要所見】1)胃腸管の多発性非腫瘍性ポリポーシスがみられる。とくに胃・大腸のポリポーシスがみられ、非遺伝性である。2)慢性下痢を主徴とする消化器症状がみられる。3)特徴的皮膚症状(Triad)がみられる。脱毛、爪甲萎縮、皮膚色素沈着【参考所見】4)蛋白漏出を伴う低蛋白血症(低アルブミン血症)がみられる。5)味覚障害あるいは体重減少・栄養障害がみられる。6)内視鏡的特徴:消化管の無茎性びまん性のポリポーシスを特徴とする。胃では粘膜浮腫を伴う境界不鮮明な隆起大腸ではイチゴ状の境界鮮明なポリープ様隆起7)組織学的特徴:過誤腫性ポリープ(hamartomatous polyps[juvenile-like polyps]): 粘膜固有層を主座に、腺の嚢状拡張、粘膜の浮腫と炎症細胞浸潤を伴う炎症像。介在粘膜にも炎症/浮腫を認める。【診断のカテゴリー】主要所見のうち1)は診断に必須主要所見の3つが揃えば確定診断[1)+2)+3)]1)を含む主要所見が2つあり、4)あるいは6)+7)があれば確定診断。[1)+2)+4)]、[1)+3)+4)]、[1)+2)+6)+7)]、[1)+3)+4)+6)+7)]のいずれか。1)があり、上記以外の組み合わせで主要所見や参考所見のうちいくつかの項目がみられた場合は疑診。3 治療ステロイドが唯一無二の確立した治療薬である。30mg/日以上の投与で85%以上の患者が反応し、30~50mg/日の経口投与が寛解導入に適当とされる5)。高齢の発症者が多いこともあり、60mg/日を超えた使用では、敗血症や血栓症といった重篤な副作用の頻度が増加する。治療に反応すると、2ヵ月程度で下痢、3ヵ月程度で味覚障害が軽快していく。それに続いて数ヵ月~半年で体重減少などの栄養障害および皮膚所見が改善する。内視鏡所見の改善にかかる時間は8ヵ月前後と最も遅く、数年を要する症例も存在する5)。急激な減薬は再燃を引き起こす可能性があるため、臨床症状および内視鏡所見の十分な改善を投薬の中止・減量の指標とするが、多くの場合は、寛解維持のために少量のステロイドを継続投与する5)。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)難治例に対し、カルシニューリン阻害薬、抗TNFα抗体、ソマトスタチンアナログ製剤、チオプリン製剤、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、アミノサリチル酸製剤を使用して寛解に至った例もあるが5)、いずれも有効性の検証は不十分である。5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」班でクロンカイト・カナダ症候群のレジストリーを実施(医療従事者向けのまとまった情報) 1) Watanabe C, et al. J Gastroenterol. 2016;51:327-336. 2) Oba MS, et al. J Epidemiol. 2021;31:139-144. 3) Poplaski V, et al. J Clin Invest. 2023;133:e166884. 4) Liu S, et al. J Rare Dis. 2024;19:35. 5) 久松理一、穂苅量太ほか. Cronkhite-Canada症候群 内視鏡アトラス. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」令和3年6月作成. 公開履歴初回2025年9月24日

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第285回 通説を覆す小細胞肺がんの起源が判明

通説を覆す小細胞肺がんの起源が判明神経内分泌がんの類いの中で最も悪性度の高い小細胞肺がん(SCLC)の主な出どころが、通説の神経内分泌細胞ではなく、肺の細胞各種の再生を担う基底細胞であることを裏付ける研究成果が報告されました1,2)。神経内分泌がんは肺、前立腺、胃腸を含む全身のあらゆるところに生じ、進行が早いことで知られます。転写因子POU2F3に依存するタフト様(tuft-like)と呼ばれる神経内分泌がんの一種は他の神経内分泌がんと遺伝子発現特徴が異なり、治療への反応も独特なようです。POU2F3は病原体を感知して相手にするタフト細胞のマーカーでもあります。肺がん全体の15%ほど3)を占めるSCLCは神経内分泌がんの類いの中で最も悪辣で、5年間生存率はI期なら4割近いものの、IV期ともなるとわずか2%です4)。分子の目印で4つに分類しうるSCLCは、神経細胞とホルモン生成細胞の両方の特徴を兼ね備える肺神経内分泌細胞を端緒とするとされています。しかしタフト様神経内分泌がんと同様にPOU2F3発現を目印とするSCLCの一種(SCLC-P)はそうともいえないようです。というのもSCLC変異を有する肺神経内分泌細胞はSCLC-Pを生み出せないからです。ただでさえ難儀なSCLCの中でも輪をかけてたちが悪いSCLC-Pは、先立つ研究によるとPOU2F3発現で共通するタフト/刷子細胞からどうやら発生するようです。幹細胞様の肺基底細胞は、損傷修復の際に転写因子PNECとタフト細胞に分化することができます。ゆえにタフト様がんを含む神経内分泌がんの各種は基底細胞を共通項とするかもしれません。そのような背景を受けて実施された新たな研究の結果、神経内分泌細胞ではなく基底細胞を変異させたときに限ってタフト様がんが生じ、基底細胞がタフト様を含むSCLCの起源となることが裏付けられました。研究では遺伝配列改変マウス、腫瘍の立体培養、SCLC患者の944の検体が使われました。時を同じくして発表された別の報告でも、どうやら基底細胞こそSCLCの主な起源らしいことが示唆されています。37のがんの起源が調べられ、大部分のSCLCがどうやら基底細胞を発端とするらしいことが示されました5)。とはいうもののSCLCはどれも基底細胞を起源とするというわけではなさそうで、喫煙と関連せず、より若くして生じうるまれな非定型(atypical)SCLCが神経内分泌細胞を起源とするらしいことがその報告では示されています。そのようなまれなSCLCも視野に入れつつ、多くのSCLCの発端と思しき基底細胞を焦点とするSCLC進展阻止手段の試みが今回の研究を契機に今後進みそうです。研究者によると、がん化する前の基底細胞に免疫系がどう絡むかを検討できるようになっており2)、SCLCを生じる前の段階での予防すら担う治療手段の道が開けています。 参考 1) Ireland AS, et al. Nature. 2025 Sep 17. [Epub ahead of print] 2) Basal stem-like cells identified as origin of small cell lung cancer in lab models / (Eurekalert 3) Rudin CM, et al. Nat Rev Dis Primers. 2021. 4) がん情報サービス:院内がん登録生存率集計結果閲覧システム 5) Bairakdar MD, et al. Nat Commun. 2025;16:8301. -----------------------------------------【大画像】 /files/kiji/20200326175635-sns.jpg 【サムネイル】 /files/kiji/20200326175621.png-----------------------------------------

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赤肉の摂取は腹部大動脈瘤の発症につながる?

 赤肉を大量に摂取すると、致死的となることもある腹部大動脈瘤(AAA)の発症リスクが高まる可能性があるようだ。赤肉や他の動物性食品に含まれる成分は、腸内細菌によって分解されたのち、肝臓で酸化されてTMAO(トリメチルアミンN-オキシド)となり、血液中に蓄積する。新たな研究で、血中のTMAOレベルが高い人ほどAAAの発症リスクが高いことが示された。米クリーブランド・クリニック血管医学部門長のScott Cameron氏らによるこの研究結果は、「JAMA Cardiology」に8月20日掲載された。 AAAは腹部の最も太い動脈(腹部大動脈)に瘤のような膨らみが生じる病態である。通常、大動脈の壁は、心臓から送り出される血液の圧力に耐えられる程度に強固である。しかし、動脈硬化などにより部分的に血管壁が弱くなると、そこに膨らみが生じる。このような大動脈瘤は、大きくなるにつれて破裂のリスクが高まり、破裂が病院外で発生した場合には、80%のケースで致死的になるという。 Cameron氏によると、現状ではAAAに対する治療選択肢は手術かステント留置術のみであり、動脈瘤リスクを有する人を予測できる血液検査は存在しない。また、AAA患者は通常、大動脈が破裂して体内に大量出血が起こるまで症状が現れないという。 動物実験では、TMAOはAAAの進行や破裂を促進することが報告されている。今回の研究では、大動脈の定期的な画像検査サーベイランスを受けている2つのコホートのデータを用いて、TMAOレベルとAAA発症や急速な拡大(年間4.0mm以上)、外科手術が推奨される状態(直径5.5cm以上、または急速な拡大)との関連が検討された。コホートの1つはヨーロッパ人(237人、年齢中央値65歳、男性89.0%)、もう1つは米国人(658人、年齢中央値63歳、男性79.5%)で構成されていた。 解析の結果、ヨーロッパコホートでは、血中のTMAOレベルが高いことはAAAの従来のリスク因子(喫煙、高血圧など)や腎機能とは独立してAAAリスクの上昇と関連していることが示された。また、高TMAOにより、急速に拡大するAAAのリスク(調整オッズ比2.75、95%信頼区間1.20〜6.79)、および手術が推奨される状態になるリスク(同2.67、1.24〜6.09)を予測できる可能性も示された。さらに、米国コホートでも、ヨーロッパコホートと米国コホートを統合して解析しても、同様の結果となることが確認された。 Cameron氏は、「これらの結果は、TMAOレベルを標的とすることが、手術以外の動脈瘤疾患の予防と治療に役立つ可能性があることを示唆している」と述べている。また研究グループは、今回の結果がAAAの有効な血液検査の開発につながる可能性があるとの見方も示している。 さらに研究グループは、本研究結果が、AAAリスクを有する人が赤肉の摂取量を減らすことで、自らを守るための対策を講じるのに役立つ可能性があると話している。論文の上席著者である、クリーブランド・クリニック心臓血管・代謝科学部長のStanley Hazen氏は、「TMAOの生成には腸内細菌が関与しており、動物性食品や赤肉を摂取すると、そのレベルが高くなる。TMAOの産生経路を標的とした薬剤は、前臨床モデルにおいて動脈瘤の発生と破裂を阻止することが示されているが、ヒトではまだ利用できない。本研究結果は、手術が必要になるまで経過観察する現在の臨床診療と比較して、大動脈の拡張や早期動脈瘤の予防や治療における食事療法の重要性を示唆しているため、共有する価値がある」と述べている。 ただし研究グループは、赤肉や動物性食品を多く含む食生活とAAAを直接結び付けるには、さらなる研究が必要だと指摘している。

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20歳以降の体重10kg増加が脂肪肝リスクを2倍に/京都医療センター

 20歳以降に体重が10kg以上増えた人は、ベースライン時のBMIにかかわらず5年以内に脂肪肝を発症するリスクが約2倍に上昇し、体重変動を問う質問票は脂肪肝のリスクが高い人を即時に特定するための実用的かつ効果的なスクリーニング方法となり得る可能性があることを、京都医療センターの岩佐 真代氏らが明らかにした。Nutrients誌2025年8月6日号掲載の報告。 脂肪性肝疾患は、心血管疾患や代謝性疾患、慢性腎臓病のリスク増大と関連しており、予防と管理のための効果的な戦略の開発が求められている。脂肪肝に関連する質問票項目を特定することで、脂肪性肝疾患の高リスク者の早期発見につながる可能性があることから、研究グループは一般集団の健康診断データベースから収集した生活習慣情報を縦断的に分析し、脂肪肝リスクの高い個人を特定する質問票の有用性を検討した。 対象は、2011~15年にかけて、武田病院健診センターの健康診断受診者のうち、ベースライン時には脂肪肝は認められず、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肝疾患などの既往歴もない20歳以上の1万5,063人であった。ベースライン時のBMIに基づいて、BMI値22未満群、22〜25未満群、25以上群の3つのグループに分類した。食習慣と生活習慣に関する質問票項目は、厚生労働省が特定健康診査事業のために提供している標準質問票に基づいて作成され、(1)食習慣・行動、(2)喫煙・飲酒習慣、(3)運動習慣、(4)体重変動、(5)睡眠の23項目で構成されていた。Cox比例ハザードモデルを用いて、ベースライン時の質問票データと5年間の追跡期間における脂肪肝発症率との関連性について、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・1万5,063人のうち、女性は8,294人(55.1%)、平均年齢は47.1歳、平均BMIは21.4であった。・追跡期間中央値4.2年で、1,889例(12.5%)が脂肪肝を発症した。脂肪肝の発症率は、ベースライン時のBMI値が高いほど有意に高かった(傾向のp<0.001)。 -BMI値22未満群 551/9,270例(5.9%) -BMI値22〜25未満群 898/4,519例(19.9%) -BMI値25以上群 440/1,274例(34.5%)・年齢、性別、代謝性疾患および肝障害に関連する因子を調整した後、脂肪肝発症の最も強い危険因子は20歳以降の10kg以上の体重増加であり、とくにBMI値22未満群で顕著であった。 -全体集団 調整HR:2.11、95%CI:1.90~2.34、p<0.001 -BMI値22未満群 調整HR:2.33、95%CI:1.86~2.91、p<0.001 -BMI値22〜25未満群 調整HR:1.43、95%CI:1.25~1.63、p<0.001 -BMI値25以上群 調整HR:1.41、95%CI:1.12~1.77、p=0.003・すべてのBMI群に共通する脂肪肝リスクの低減に関連する質問票項目は特定されなかったが、22未満群では牛乳および乳製品の日常摂取(調整HR:0.75、p=0.001)、22〜25未満群では海藻およびきのこの日常摂取(調整HR:0.63、p=0.006)、25以上群では睡眠満足度(調整HR:0.80、p=0.039)がそれぞれ脂肪肝リスクの低減と最も強く関連していた。 これらの結果より、研究グループは「本研究は、脂肪肝発症のリスクを同定し、低減させるための質問票の潜在的な有用性を強調するものである。質問票に基づいて健診当日にリスクを伝え、生活習慣改善につなげる即日フィードバックのアプローチは、脂肪肝発症のリスクを低減させ、脂肪性肝疾患の予防に貢献する可能性がある」とまとめた。

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きつい運動の前の減量は受傷発生を減少させる

 社会的に一番きつい運動をしているのは軍隊や警察などのグループである。こうしたグループに入隊する前の減量は、入隊後のけがや事故などに影響を与えるのであろうか。このテーマについて、米国陸軍環境医研究所軍事能力部門のVy T. Nguyen氏らの研究グループは、入隊前の体重減少と過酷な基礎戦闘訓練(BCT)中の筋骨格系損傷(MSKI)発生率との関連性を調査した。その結果、入隊のために減量した訓練生はMSKIの発生率が低いことが判明した。この結果はObesity誌オンライン版2025年7月30日号に公開された。運動前に減量するとけがを減少させる可能性 研究グループは、3,168人の訓練生から自己申告による体重減少を収集し、電子カルテを用いて追跡調査を行った。すべてのMSKIおよび地域特有のMSKIの診断を行い、Cox回帰モデルで性別とCOVID-19パンデミックの有無で層別化し、年齢、身長、過去最高BMI、人種・民族、喫煙歴、過去の身体活動、および受傷歴で調整した。 主な結果は以下のとおり。・入隊のために減量したと報告した訓練生は829人(26.16%)。・平均減量数は9.06(標準偏差[SD]:8.62)kgで、最も一般的な減量方法は運動(83.72%)だった。・入隊のために減量した訓練生は、減量しなかった訓練生と比較し、BCT期間中の全身MSKI発生率(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.74~0.99)および下肢MSKI発生率(HR:0.84、95%CI:0.72~0.98)が低かった。・減量率(平均:1.27kg/週[SD:1.06])は、MSKI全体または部位別発生率とは関連が認められなかった。

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体がだるくて横になりたい【漢方カンファレンス2】第5回

体がだるくて横になりたい以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 30代男性 主訴 全身倦怠感、頭痛、めまい、微熱 既往 特記事項なし 生活歴 医療従事者、喫煙なし、機会飲酒 病歴 X年8月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患。咽頭痛や38℃台の発熱があったが、合併症はなく2日後には解熱した。 その後、全身倦怠感、頭痛、ふらふらとするめまいが出現、夕方になると37℃台の微熱がでる日が続いた。疲労感が強く仕事に支障が出るようになり、休息をとったり、欠勤したりしないと体が動かない。 総合診療科で精査を受けたが明らかな異常なし。11月に漢方治療目的に受診。 現症 身長174cm、体重78.5kg。体温37.2℃、血圧110/60mmHg、脈拍56回/分 整 経過 初診時 「???(A)」エキス+「???(B)」エキス3包 分3で治療を開始。 2週後 少し動けるようになった。まだ仕事を休むことがある。 寒くなって体が冷えるようになった。 ブシ末エキス1.5g 分3を併用。 1ヵ月後 めまいや頭痛が改善した。まだ体が冷える。 「???(B)」を「???(C)」エキスに変更した。(解答は本ページ下部をチェック!) 2ヵ月後 冷えと全身倦怠感が軽くなった。 5ヵ月後 普通に働けるようになり、残業もできるようになった。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 体のどの部位が冷えますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 感染してから寒がりになって体が冷えるようになりました。 いつも厚着をしています。 体全体が冷えます。 きつくていつも横になりたいです。 微熱はどのくらいですか? いつ出ますか? 熱っぽさはありますか? 37℃前半です。 夕方に出ることが多いです。 体熱感はありません。 熱が出る前はぞくぞくと体が冷えます。 入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか? 入浴で温まると体は楽になりますか? 冷房は苦手ですか? 入浴時間は長いです。 温まると少し楽になるのですが、入浴後はすぐに体が冷えてしまいます。 冷房は嫌いです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどは渇きません。 温かい物を飲んでいます。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 味覚はありますか? 1日1Lくらいです。 食欲はあります。 味覚は異常ないです。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗はあまりかきません。 尿は4〜5回/日です。 布団に入ってからはトイレに行きません。 下痢気味で1日2〜3回です。 便の臭いは強いですか? 弱いですか? 嘔気はありませんか? 便の臭いは強くありません。 嘔気はありません。 <ほかの随伴症状> 頭痛やめまいはどのような感じですか? 雨や低気圧で悪化しませんか? 頭痛は頭全体が重い感じがします。 歩くとふらふらとめまいがします。 雨が降ると頭痛やめまいはひどい気がしますが、天気がよくても頭痛はあります。 全身倦怠感はとくにいつが悪いですか? とくにきついときはいつですか? 横になると楽になりますか? 日中きついですが朝がとくにぐったりします。 仕事をしたり、動いたりすると悪化します。 仕事もきつくて休みがちです。 よく眠れますか? 中途覚醒や悪夢はありませんか? 眠れますが熟睡感はありません。 中途覚醒や悪夢はありません。 咳や痰はありませんか? 昼食後に眠くなりませんか? のどのつまりはありませんか? 抜け毛が多いですか? 集中力がなかったりしませんか? 皮膚は乾燥しますか? 咳や痰はなくなりました。 昼食後は眠くなります。休みの日はほぼ1日中寝ています。 のどのつまりはありません。 抜け毛が多いです。 集中できずに、頭が働かない感じがあります。 皮膚は乾燥します。 意欲の低下や不安はありませんか? 体がきつくてやる気が出ません。 このまま治らないのではと不安です。 【診察】診察室でも厚手の上着を羽織っている。脈診では沈で反発力の非常に弱い脈。また、舌は暗赤色、湿潤した薄い白苔、舌下静脈の怒張あり。腹診では腹力はやや充実、両側胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、腹直筋緊張、両臍傍の圧痛を認めた。下肢の触診では冷感あり。カンファレンス 今回は30代男性のCOVID-19罹患後症状の症例です。 頻度は高くないものの、コロナ感染後にいわゆる後遺症といわれるような全身倦怠感を中心としたさまざまな症状が持続する方がいます。現代医学的にも確立された治療法がないので漢方という選択肢があるのはよいですね。 漢方治療でもCOVID-19罹患後症状は症状が多彩でまだ確立された治療があるとはいえませんが、こんなときこそ漢方診療のポイントに沿った治療が大事です。今回の症例は、全身倦怠感以外にも、頭痛、めまい、微熱、集中力の低下と症状がたくさんあります。 どこから手をつけるべきか悩ましいですね。全身倦怠感、めまい、頭痛ということで気虚や水毒が目立つ気がします。 漢方診療のポイントに沿って全体像を捉えていくことが大事だよ。 わかりました。では漢方診療のポイント(1)病態の陰陽ですが、本症例は37℃台前半の熱があることから陽証で、さらに夕方に熱が出るという病歴から少陽病の往来寒熱(おうらいかんねつ)が考えられます。 よく覚えていますね。胸脇苦満もありますし、少陽病の往来寒熱と合致しますね。 体温をそのまま熱ととってはいけないよ。漢方では体温計で測定した温度でなく、あくまで患者の自覚的な熱や冷えを重視するんだ。陰証で発熱するときに用いる漢方薬があるよ。覚えているかい? えっと、少陰病の麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。寒が主体の陰証の風邪に用いるのでした。 そのとおり。発熱はあってもゾクゾクと冷えて倦怠感が強いことが特徴でしたね。 ほかには?? …わかりません。 同じく少陰病の真武湯(しんぶとう)、さらに四逆湯(しぎゃくとう)でも発熱がみられることがあるんだ。陰証の最後のステージである厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあり、それを裏寒外熱(りかんがいねつ)とよぶよ。だから、一見すると陽証にみえることもあるんだ。 厥陰病でも発熱がみられることがあるのですね。アイスクリームの天ぷらのような状態ですね。 裏寒外熱がある場合は通脈四逆湯(つうみゃくしぎゃくとう)が典型だけど、真武湯や四逆湯の適応例でも発熱する場合があるとされているよ。これらは、真の熱ではなく、見せかけの熱といった意味で虚熱(きょねつ)というよ。 患者の自覚的な熱感や冷えのほかに鑑別する方法はありますか? 入浴や飲み物などの寒熱刺激に対する情報や四肢の触診などの所見も大事だけど、最終的には脈の浮沈や反発力が頼りになるね。陰証の場合の脈は沈・弱が特徴だからね。 もう一度、本症例の漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からみていきましょう。 微熱がありますが体熱感がなく、感染後から寒がりで体が冷えるようになった、厚着、入浴時間は長い、入浴後にすぐに体が冷えるなどから陰証が揃っていますね。それに脈も沈ですから少陽病とは考えにくいですね。 そうだね。入浴で温まってもすぐに冷える、下肢の触診でも冷感があり、冷えの程度が強そうだね。六病位はどうだろう? 横になりたいほどの倦怠感からは少陰病が示唆されます。本症例の微熱を裏寒外熱とすれば、厥陰病の可能性もありますか? そうですね。脈の力が非常に弱いので厥陰病で四逆湯の適応も考えられます。ですからこの症例は少陰病〜厥陰病、虚証でよいでしょう。 「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような」軟弱無力な脈は四逆湯の診断に重要だね。当科の回診でもこの脈が四逆湯の適応だ! と強調して必ず研修に来た先生に触れてもらっているよ。 本症例の虚実ですが、脈は弱ですが、腹力は中等度より充実と一致していません。どう考えたらよいでしょうか? 脈のほうが変化が早く、現在の状態を表しているといえるので、脈の所見を重視したほうがよいだろうね。それも軟弱無力な典型的な四逆湯の脈だからね。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 全身倦怠感、昼食後の眠気は気虚です。頭痛やめまいがありますが、雨天と関連があるので水毒です。 気虚と水毒がありますね。下痢や尿の回数が4〜5回と少ないのも水毒です。ほかはどうでしょうか? 抜け毛が多い、皮膚の乾燥は血虚です。 頭が働かない感じで集中できないというのも血虚を示唆するよ。血虚は皮膚、筋肉、髪だけの問題ではないからね! COVID-19罹患後症状のブレインフォグは血虚や腎虚と考えるとよい印象があるね。 覚えておきます。とくに朝調子が悪い、やる気が起きないというのは気鬱でしょうか。 そうだね。これだけきつそうだと気鬱もあるよね。ほかにはどうだろう? 舌下静脈の怒張、臍傍圧痛は瘀血です。今回の症例は気血水の異常もたくさんありますね。 なかなか手強い症例ですね。また精査で明らかな異常はなく、30代と働き盛りなのにこれだけきつがっているのは非常につらい倦怠感で煩躁(はんそう)と考えてよさそうですね。 ハンソウ? どこかで聞いたような? 非常に苦しがっている状態を煩躁というのでしたね。煩躁といえば、考えられる処方は? …。 陽証だと大青竜湯(だいせいりゅうとう)、陰証だと呉茱萸湯(ごしゅゆとう)、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)が代表でした。インフルエンザの症例で、麻黄湯(まおうとう)のように無汗、多関節痛に加えて、非常に苦しがっている場合に大青竜湯、頭痛で非常に苦しがっている場合に呉茱萸湯、冷えて非常につらい倦怠感を訴える場合に茯苓四逆湯が適応になるのでした。 ここはキモだから覚えておかないといけないね。その他エキス剤にはないけど、小青竜加石膏湯(しょうせいりゅうかせっこうとう)、乾姜附子湯(かんきょうぶしとう)、桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)などが煩躁に適応する処方だよ。 本症例をまとめます。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?厚着、寒がり、体が冷える、下肢の冷感、横になりたいほどの倦怠感、脈:沈→陰証(少陰病〜厥陰病)×微熱、往来寒熱、胸脇苦満→脈や冷えから少陽病ではなさそう(2)虚実はどうか脈:非常に弱い、腹:やや充実→虚証(脈を優先)(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気→気虚意欲の低下、朝調子が悪い→気鬱頭痛、めまい、雨天に悪化→水毒抜け毛、皮膚の乾燥、集中力の低下→血虚舌下静脈の怒張、臍傍圧痛→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む非常につらい倦怠感、脈が軟弱無力解答・解説【解答】本症例は、茯苓四逆湯の方意でA:真武湯+B:人参湯(にんじんとう)で治療開始しました。また経過中に人参湯からC:附子理中湯(ぶしりちゅうとう)に変更しました。【解説】四逆湯は少陰病〜厥陰病に用いられる漢方薬で附子(ぶし)、乾姜(かんきょう)、甘草(かんぞう)で構成されます。四逆湯を現代医学で例えると、敗血症性ショックで低体温をきたした症例に保温しながら急速補液とノルアドレナリンで昇圧するイメージです。動物実験で出血性ショックモデルに対して茯苓四逆湯を投与すると心拍出量の増加と体温保持作用を示したという研究1)や四逆湯類がエンドトキシンショックに対して、血圧上昇、好中球数の上昇の抑制などによりショック予防効果を示したとする報告2)があります。現代は四逆湯を重篤な急性疾患に用いることはまれですが、慢性疾患で冷えや全身倦怠感がともに高度な場合に活用します。通脈四逆湯も四逆湯と同じく附子、乾姜、甘草で構成されますが、乾姜の比率が多くなります。乾姜はとくに消化・呼吸に関連する臓器を温めて賦活する作用が主体で、通脈四逆湯は体の中心を温めて元気をつけていくような漢方薬です。茯苓四逆湯は四逆湯に補気作用のある茯苓(ぶくりょう)と人参(にんじん)を加えたものです。茯苓四逆湯や通脈四逆湯はエキス製剤にはありませんが、茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスで代用できます。今回のポイント「少陰病・厥陰病」の解説陰証は寒が主体の病態で、少陰病になってくると寒が強く全身に及び、陰証のまっただ中になります。新陳代謝が低下して体力が衰えていることが特徴です。そのため少陰病は、生体の闘病反応が乏しく実証(じっしょう)であることはなく虚証(きょしょう)のみになります。脈も沈んで反発力が弱くなります。疲れやすくてすぐに横になりたがることが多く、「横になるところがあれば横になりたいですか?」「座るところがあったら座りたいですか?」と問診して、少陰病でないか確認します。さらに陰証の最後のステージである厥陰病に進行すると、冷えと全身倦怠感の程度が一段と強くなり、「極度の虚寒」、「極虚(きょくきょ)」といわれます。脈は沈んで、反発力が非常に弱い軟弱無力な脈で、「しまりがなく、細い茹でうどんが水にふやけたような、緊張感のない脈」とたとえられます。厥陰病は急性感染症ではショック状態に陥ったような危篤状態ですが、慢性疾患では冷えと倦怠感がどちらも強度で極度に疲弊した状態を厥陰病と捉えて治療します。また厥陰病では「陰極まって陽」のように強い冷えがあるにもかかわらず、逆に発熱があったり、顔が赤かったりすることがあります(裏寒外熱)。そのため一見すると陽証にみえることもあります。少陰病や厥陰病の治療では、代表的な熱薬である附子(トリカブトの根を加熱処理して弱毒化したもの)を含む漢方薬を用いて治療します。少陰病では真武湯や麻黄附子細辛湯が代表です。さらに進行すると附子とともに乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)を用いて強力に体を温める治療を行います。附子、乾姜、甘草の3つの生薬から構成される漢方薬は四逆湯が基本となり、茯苓四逆湯や通脈四逆湯を用いて治療します。今回の鑑別処方附子と乾姜はそれぞれ温める力の強い熱薬といわれる生薬です。それぞれ温める部位や作用に違いがあって附子は先天の気を貯蔵する腎とかかわりが強く、そのほかに関節痛などに対する鎮痛作用があります。乾姜は消化や呼吸にかかわる消化管や肺を温める作用があります。また温め方にも違いがあり、附子はバーナーで炙ったり、電子レンジで温めたりするような急速に体全体を温めるイメージですが、乾姜は炭火でコトコトじっくり内臓を温めるイメージです。表に附子や乾姜が含まれる代表的な漢方薬を示しました。乾姜を含む漢方薬の場合、漢方薬が合っている場合は乾姜の辛みを感じずに甘く感じることがあります。逆に乾姜を含む漢方薬を必要としない症例では、辛くて飲みづらいと訴えます。人参湯には乾姜が含まれ、さらに附子を加えると附子理中湯になります。同様に大建中湯(だいけんちゅうとう)や苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)も冷えが強ければ附子を加えて治療します。四逆湯は附子と乾姜を両方とも含みます。本症例のように茯苓四逆湯は人参湯エキスと真武湯エキスを併用するとエキス製剤で代用が可能です。通脈四逆湯には乾姜が多く含まれています。ちょっと苦しいですが、エキス剤のなかで比較的乾姜の量の多い苓姜朮甘湯にブシ末を併用することで代用することもあります。また実際の附子の漸増の方法として、慎重に行う場合、(1)最も気温が低下する朝1包(0.5g)増量、(2)朝夕に1包ずつ増量(1.0g)、(3)毎食後3包 分3に増量(1.5g)と順を追ってするとよいでしょう。慣れてくれば本症例のように、常用量のブシ末を一度に3包(1.5g)分3で増量することも可能です。参考文献1)木多秀彰 ほか. 日東医誌. 1995;46:251-256.2)Zhang H, et al. 和漢医薬雑誌. 1999;16:148-154.

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肺切除後の肺瘻リスク、低侵襲開胸手術で軽減の可能性

 肺切除術は肺がん治療の要となるが、術後早期に肺瘻(空気漏れ)が生じることも少なくない。今回、手術アプローチの違いが肺瘻の発生率や転帰に影響する可能性があるとする研究結果が報告された。ILO1805試験の事後解析で、胸腔鏡手術(TS)の方が低侵襲開胸手術(MIOS)よりも肺瘻の発生率が有意に高く、その持続期間やドレーン留置期間も長くなる傾向が示されたという。研究は山形大学医学部附属病院第二外科の渡辺光氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に7月21日掲載された。 肺切除後の遷延性肺瘻は患者の5〜25%に発生し、膿胸や再手術、入院延長を招く代表的な合併症である。肺瘻のリスクを抑えるためには、術中の適切な空気漏れの修復が重要だが、TSでは視野が限られ、処置が難しい場合がある。一方、直接視野と胸腔鏡補助を組み合わせたハイブリッド胸腔鏡補助下手術(VATS)やMIOSは、空気漏れの修復を容易にする可能性がある。しかし、これらの手術アプローチと術後の肺瘻との関連は十分に検証されていない。ILO1805試験は国内21施設で実施された、肺切除後の肺瘻に対するドレーン管理法を検討する前向き観察研究であるが、手術アプローチや周術期管理に関する統一プロトコルは設けられていなかった。このような背景から著者らは、この試験の事後解析として、手術アプローチが術後転帰に及ぼす影響を検討した。 本解析には、ILO1805試験参加者2,187名のうち、皮膚切開8cm以下で解剖学的肺切除術を受けた1,168名が含まれた。患者は手術アプローチに基づき、TS群(皮膚切開5cm以下で肋骨開排なし)とMIOS群(皮膚切開5〜8cm)の2群に分類された。両群のバランスを調整するため2:1の傾向スコアマッチングを行い、最終的な解析対象はTS群284名、MIOS群142名となった。早期の術後肺瘻(E-AL)は術後0日または1日に発生した空気漏れと定義し、単変量および多変量のロジスティック回帰モデルにより、E-ALと有意に関連するリスク因子を特定した。 参加者の年齢中央値は71歳で、男性は683名(58.5%)含まれた。手術アプローチについては1022名(87.5%)がTS手術を受けていた。肺切除後のE-ALは290名(24.8%)に認められた。 E-ALのリスク因子を特定するために単変量ロジスティック回帰解析を行った結果、E-ALを認めた患者は、男性(P<0.001)、喫煙歴あり(P=0.007)、BMI<18.5 kg/m2(P=0.024)、FEV1.0%≦70%(P=0.013)、胸膜癒着あり(P<0.001)、TS(P=0.024)、およびフィブリンシーラント使用(P<0.001)である可能性が高かった。対応する多変量モデルでは、男性、BMI<18.5 kg/m2、TS、胸膜癒着、フィブリンシーラント使用がE-ALに関連する因子として同定された。 傾向スコアマッチング後の解析では、術後0日目のE-AL発生率はTS群でMIOS群より有意に高かった(33.8% vs. 16.9%、P<0.001)。この差は術後1日目でも認められた(28.2% vs. 16.2%、P=0.009)。術後の空気漏れの平均持続期間は、TS群よりMIOS群で有意に短かった(1.2±2.0日 vs. 0.6±1.7日、P=0.003)。ドレーン留置期間の平均も同様に、MIOS群で短かった(2.9±1.8日 vs. 2.4±1.9日、P=0.009)。 本研究について著者らは、「本研究は、MIOSアプローチが術中の空気漏れの修復においてより有効であり、結果として肺瘻のリスクを低下させる可能性を示唆している。ただし、E-ALの頻度低下が合併症の減少や入院期間の短縮といった臨床的な利点につながるかどうかは明らかではない。空気漏れの持続期間の差は小さいものの、E-ALを抑制することで、MIOSアプローチは術後の早期退院に寄与する可能性がある。これらの利点を検証するには、今後の前向き研究が必要である」と述べている。

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白血球増多【日常診療アップグレード】第38回

白血球増多問題52歳男性。健康診断で白血球数14,000/μLと、白血球数の増加を認めたため二次健診で受診した。昨年度の健診では白血球数12,000/μLであった。症状はない。ヘモグロビンと血小板数には異常を認めない。既往歴に脂質異常症があり、アトルバスタチンを内服中である。20歳から20本/日の喫煙歴がある。バイタルサインと身体所見は正常である。白血球増多は喫煙のためと判断した。

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第283回 B型肝炎ウイルス(HBV)への免疫と糖尿病を生じ難くなることが関連

B型肝炎ウイルス(HBV)への免疫と糖尿病を生じ難くなることが関連B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチンの糖尿病予防効果を示唆する台湾の研究者らの試験結果1)が、まもなく来週開催される欧州糖尿病学会(European Association for the Study of Diabetes:EASD)年次総会で報告されます2,3)。具体的には、HBVワクチンのおかげでHBVへの免疫が備わった人は、糖尿病全般を生じ難いことが示されました。高血糖が続いて心血管疾患、腎不全、失明などの深刻な事態を招く糖尿病の世界の患者数は昨年6億例弱を数え、このままなら2050年までに45%上昇して8億例を優に超える見込みです4)。当然ながら糖尿病治療の経済的な負担は甚大で、総医療費の12%を占めます。肝臓は体内の糖が一定に保たれるようにする糖恒常性維持の多くを担っています。空腹時にはグリコーゲン分解と糖新生により血糖値が下がりすぎないようにし、食後にはグリコーゲン合成によって余分な糖をグリコーゲンに変えて血糖値を抑えます。そのような糖恒常性をHBV感染が害するらしいことが先立つ研究で示唆されています。HBVのタンパク質の1つHBxが糖新生に携わる酵素の発現を増やして糖生成を促進し、糖を落ち着かせる働きを妨げるようです。HBV感染者はそうでない人に比べて糖尿病である割合が高いことを示す試験がいくつかありますし、約5年の追跡試験ではHBV感染と糖尿病を生じやすいことの関連が示されています5)。そういうことならワクチンなどでのHBV感染予防は糖尿病の予防でも一役担ってくれるかもしれません。実際、10年前の2015年に報告された試験では、HBVワクチン接種成功(HBsAb陽性、HBcAbとHBsAgが陰性)と糖尿病が生じ難くなることの関連が示されています6)。その糖尿病予防効果はワクチンがHBV感染を防いで糖代謝に差し障るHBV感染合併症(肝損傷や肝硬変)を減らしたおかげかもしれません。それゆえ、HBVワクチンの糖尿病予防効果がHBV感染予防効果と独立したものであるかどうかはわかっていません。その答えを見出すべく、台湾の台北医学大学のNhu-Quynh Phan氏らは、HBVに感染していない人の糖尿病発現がHBVへの免疫で減るかどうかをTriNetX社のデータベースを用いて検討しました。HBV感染を示す記録(HBsAgかHBcAbが陽性であることやHBVとすでに診断されていること)がなく、糖尿病でもなく、HBVへの免疫(HBV免疫)があるかどうかを調べるHBsAb検査の記録がある成人90万例弱の経過が検討されました。それら90万例弱のうち60万例弱(57万3,785例)はHBsAbが10mIU/mL以上(HBsAb陽性)を示していてHBV免疫を保有しており、残り30万例強(31万8,684例)はHBsAbが10mIU/mL未満(HBsAb陰性)でHBV免疫非保有でした。HBV感染者はすでに省かれているので、HBV免疫保有群はワクチン接種のおかげで免疫が備わり、HBV免疫非保有群はワクチン非接種かワクチンを接種したものの免疫が備わらなかったことを意味します。それら2群を比較したところ、HBV免疫保有群の糖尿病発現率は非保有群に比べて15%低くて済むことが示されました。さらにはHBV免疫がより高いほど糖尿病予防効果も高まることも示されました。HBsAbが100mIU/mL以上および1,000mIU/mL以上であることは、10mIU/mL未満に比べて糖尿病の発現率がそれぞれ19%と43%低いという結果が得られています。年齢、喫煙、糖尿病と関連する肥満や高血圧といった持病などを考慮して偏りが最小限になるようにして比較されましたが、あくまでも観察試験であり、考慮から漏れた交絡因子が結果に影響したかもしれません。たとえばワクチン接種をやり通す人は健康により気をつけていて、そもそも糖尿病になり難いより健康的な生活習慣をしているかもしれません。そのような振る舞いが結果に影響した恐れがあります。HBV免疫が糖尿病を防ぐ仕組みの解明も含めてさらなる試験や研究は必要ですが、HBVワクチンはB型肝炎と糖尿病の両方を防ぐ手立てとなりうるかもしれません。とくにアジア太平洋地域やアフリカなどのHBV感染と糖尿病のどちらもが蔓延している地域では手頃かつ手軽なそれらの予防手段となりうると著者は言っています1)。 参考 1) Phan NQ, et al. Diagnostics. 2025;15:1610. 2) Study suggests link between hepatitis B immunity and lower risk of developing diabetes / Eurekalert 3) Hepatitis B vaccine linked with a lower risk of developing diabetes / NewScientist 4) International Diabetes Federation / IDF Atlas 11th Edition 2025 5) Hong YS, et al. Sci Rep. 2017;7:4606. 6) Huang J, et al. PLoS One. 2015;10:e0139730.

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irAE治療中のNSAIDs多重リスク回避を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第68回

今回は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の治療でステロイド投与中の高齢がん患者に対し、NSAIDsによる多重リスクを評価して段階的中止を提案した事例を紹介します。複数のリスクファクターが併存する患者では、アカデミック・ディテーリング資材を用いたエビデンスに基づくアプローチが効果的な処方調整につながります。患者情報93歳、男性基礎疾患肺がん(ニボルマブ投与歴あり)、急性心不全、狭心症、閉塞性動脈硬化症、脊柱管狭窄症ADL自立、息子・嫁と同居喫煙歴40本/日×40年(現在禁煙)介入前の経過2020年~肺がんに対してニボルマブ投与開始2025年3月irAEでプレドニゾロン40mg/日開始、その後前医指示で中止2025年6月3日irAE再燃でプレドニゾロン40mg/日再開処方内容1.プレドニゾロン錠5mg 8錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後4.エソメプラゾールカプセル10mg 2カプセル 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後7.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 朝食後8.リナクロチド錠0.25mg 2錠 分1 朝食前9.ジクトルテープ75mg 2枚 1日1回貼付本症例のポイント本症例は、93歳という超高齢で複数の基礎疾患を有するがん患者であり、irAE治療のステロイド投与とNSAIDsの併用が引き起こす可能性のある多重リスクに着目しました。患者は肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の副作用であるirAEに対して、プレドニゾロン40mg/日という高用量ステロイドの投与を受けていました。同時に疼痛管理としてNSAIDsであるジクトルテープ2枚を使用していました。一見すると症状は安定していましたが、薬剤師の視点で患者背景を詳細に評価したところ、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいることが判明しました。第1に胃腸障害リスクです。高用量ステロイドとNSAIDsの併用は消化性潰瘍の発生率を相乗的に増加させることが知られており、93歳という高齢に加え、既往歴も有する本患者ではとくにリスクが高い状況でした。第2に心血管リスクです。患者には急性心不全や狭心症の既往があり、さらに閉塞性動脈硬化症も併存していました。NSAIDsは心疾患患者において心血管イベントのリスクを増加させるため、この併用は極めて危険な状態といえました。第3の最も注意すべきは腎臓リスク、いわゆる「Triple whammy」の状況です。NSAIDs、ループ利尿薬(フロセミド)、ARB(テルミサルタン)の3剤併用は急性腎障害の発生率を著しく高めることが報告されており、高齢者ではとくに致命的な合併症につながる可能性がありました。これらの多重リスクは単独では見落とされがちですが、患者の全体像を包括的に評価することで初めて明らかになる重要な安全性の問題です。医師への提案と経過患者の多重リスクを評価し、服薬情報提供書を用いて医師に処方調整を提案しました。現状報告として、irAE治療でプレドニゾロン40mg/日投与中であり、ジクトルテープ2枚使用で疼痛は安定しているものの、複数のリスクファクターが併存していることを伝えました。懸念事項については、アカデミック・ディテーリング※資材を用いて消化性潰瘍リスク(ステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍発生率を有意に増加)、心血管リスク(NSAIDsは既存心疾患患者で心血管イベントリスクを増加)、Triple whammyリスク(3剤併用による急性腎障害発生率の増加)について説明しました。※アカデミック・ディテーリング:コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ 。薬剤師の処方提案力を向上させ、処方の最適化を目指す。提案内容として段階的中止プロトコールを提示し、ジクトルテープ2枚から1枚に減量、2週間の疼痛評価期間を設定、疼痛悪化がないことを確認後に完全中止するという方針を説明しました。将来的な疼痛悪化時のオピオイド導入準備と疼痛モニタリング体制の強化についても提案しました。医師にはエビデンス資料の提示により多重リスクの危険性について理解が得られ、段階的中止プロトコールが採用となり、患者の安全性を優先した方針変更となりました。経過観察では1週間後にジクトルテープ1枚に減量しましたが疼痛悪化はなく、2週間後も疼痛コントロールが良好であることを確認し、3週間後にジクトルテープを完全中止しましたが疼痛の悪化はありませんでした。現在も疼痛コントロールは良好で、多重リスクからの回避を達成しています。参考文献1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南山堂;2020.2)Masclee GMC, et al. Gastroenterology. 2014;147:784-792.3)Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.

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ウォーキングはペースを速めるほど効果が大きい

 健康増進のために推奨されることの多いウォーキングだが、その効果を期待するなら、速度を重視した方が良いかもしれない。より速く歩くことで、より大きな健康効果を得られる可能性を示唆するデータが報告された。米ヴァンダービルト大学のLili Liu氏らの研究の結果であり、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に7月29日掲載された。 ウォーキングと健康アウトカムとの関係を調べたこれまでの研究は、主に白人や中~高所得者を対象に行われてきたが、本研究では主に低所得者や黒人に焦点が当てられた。データ解析の結果、1日15分の早歩きで死亡リスクが約20%低下することが示された。この結果を基にLiu氏は、「早歩きを含む、より高強度の有酸素運動を日常生活に取り入れた方が良い」と勧めている。 この研究では、2002~2009年に米国南東部12州で募集された、低所得者や黒人を中心とする約8万5,000人のデータが解析された。ベースラインでは、ゆっくりした歩行(犬の散歩、職場内での歩行、軽い身体活動など)の時間、および、速い歩行(早歩き、階段を上る、運動など)の1日当たりの平均時間が調査されていた。死亡に関する情報は2022年末まで収集され、中央値16.7年(範囲2.0~20.8)の追跡期間中に、2万6,862人の死亡が記録されていた。 年齢、性別、人種、教育歴、婚姻状況、雇用状況、世帯収入、保険加入状況などを調整後、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクは1日15分の早歩きにより19%低下し(ハザード比〔HR〕0.81〔95%信頼区間0.75~0.87〕)、1日30分の早歩きでは23%低下していた(HR0.77〔同0.73~0.80〕)。それに対してゆっくりした歩行は、1日3時間未満では全死亡リスクが有意に低下せず、3時間以上の場合にわずか4%のリスク低下が認められた(HR0.96〔0.91~1.00〕)。このような関連は、調整因子としてBMI、喫煙・飲酒習慣、余暇時間の身体活動量、座位行動時間、食事の質などを追加してもほぼ同様であった。 今回の研究結果は、主に中~高所得の白人を対象に行われた先行研究の結果と一致している。Liu氏はジャーナルのプレスリリースの中で、「人々の居住地の近隣に、早歩きができるような環境を整備するための計画立案と投資が必要ではないか」と述べている。 ところで、早歩きはどのようなメカニズムで健康を増進するのだろうか? 研究者らは、早歩きのような有酸素運動は、心臓のポンプ作用、酸素供給力などを高めるように働くと解説している。また、そればかりでなく、早歩きを習慣として続けることは、肥満や脂質異常症、高血圧の予防にもつながるという。 著者らは、「われわれの研究結果は、健康状態を改善するための実行可能性が高く、かつ効果的な戦略として、早歩きを推奨することの重要性を強調するものだ」と結論付けている。

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第26回 夏の猛暑、実はあなたの老化を「喫煙レベル」で加速させていた!今すぐできる対策とは?

うだるような暑さが続く日本の夏。「熱中症にだけ気を付ければいい」と考えていませんか? 台湾で行われた約2万5,000人を対象とした大規模な追跡調査から、私たちの常識を覆す衝撃的な事実が明らかになりました。Nature Climate Change誌に掲載された最新の研究1)によると、長期的に熱波にさらされ続けることは、私たちの体を細胞レベルで蝕み、「生物学的な老化」を著しく加速させているというのです。しかも、その影響は、健康に悪いと誰もが知っている「喫煙」や「飲酒」といった生活習慣に匹敵するレベルであることが示唆されました。これは、遠い未来の話や他人事ではありません。近年の危険な暑さが、気付かぬうちにあなたの体を内側からじわじわと老化させている可能性があるのです。この記事では、この重要な研究結果を紐解き、私たちが今日から実践できる具体的な防御策について解説していきます。見えない脅威「生物学的老化」とは? 猛暑が体に与える深刻なダメージまず、この研究が指摘する「生物学的な老化」とは何でしょうか。これは、私たちが普段使う「暦年齢(誕生日からの年齢)」とは異なります。生物学的年齢とは、肝臓や腎臓、肺の機能、血圧、炎症反応など、多数の臨床データに基づいて算出される「体の機能的な年齢」のことです。同じ40歳でも、体が若々しい人もいれば、機能が衰えている人もいる。その差を客観的に示す指標が生物学的年齢です。研究チームは、2008~22年の15年間にわたる2万4,922人の健康診断データを分析。参加者が住んでいる地域の過去2年間の熱波(この研究では、気温が上位7.5%を超える日が続く期間などと定義)への累積曝露量と、生物学的年齢の進み具合(BAA:生物学的老化加速)の関係を調査しました。その結果は驚くべきものでした。熱波への累積曝露が一定量増えるごとに、生物学的年齢が暦年齢よりも年間で0.023~0.031年、余分に進んでいたのです。「たったそれだけ?」と思うかもしれません。しかし、研究者たちはこの数値を「決して過小評価すべきではない」と警告しています。なぜなら、この老化の加速度は、喫煙、飲酒、運動不足といった、他の確立された健康リスク要因がもたらす影響と同程度だったからです。私たちは、夏の暑さをただ不快なものとして耐え忍んでいる間に、タバコを吸うのと同じくらいのペースで体を老化させていた可能性があるのです。この老化のメカニズムとして、体温の上昇が細胞のDNAを傷つけたり、細胞の寿命に関わる「テロメア」を短くしたりすることが考えられています。つまり、熱波は一時的な体調不良だけでなく、回復が難しい、不可逆的なダメージを体に与え続けているのです。あなたは大丈夫? とくに注意が必要な人と、最強の防御策この研究では、熱波による老化の加速が、すべての人に平等に起こるわけではないことも明らかにしました。とくにリスクが高い「脆弱な人」が存在したのです。それは、屋外で働く肉体労働者、地方の居住者、そしてエアコンの普及率が低い地域に住む人でした。たとえば、肉体労働者は、そうでない人と比べて老化の加速が約3倍も顕著でした。また、地方の居住者も都市部の居住者に比べて影響が大きいことが示されています。そして、この研究が私たちに示してくれた最も重要で、かつ実践的な希望。それは、最強の防御策の存在です。研究チームが参加者の住む地域を「エアコンの普及率」で二分して分析したところ、決定的な差が生まれました。エアコンの普及率が低い地域の人は、熱波による老化の加速が「0.045年」と明確にみられたのに対し、普及率が高い地域の人の老化加速は、統計上ほぼゼロ(0.000年)だったのです。この結果が意味することはきわめて明確です。エアコンを適切に使用することが、熱波による深刻な健康被害、すなわち「老化」から身を守るための最も効果的な手段である可能性が高い、ということです。「クーラーは体に悪い」「冷房病が心配」といった考えから、暑さを我慢してしまう人もいるかもしれません。しかし、この研究は、その「我慢」がもたらすリスクが、一時的な不調にとどまらない深刻なものであることを科学的に示しています。猛暑の中でエアコンを使わないという選択は、自ら老化を早める行為にほかならないのです。私たちの生活への落とし込みはシンプルです。1.躊躇なくエアコンを使うとくに熱波警報が出ているような日には、我慢せずにエアコンを使用しましょう。これは贅沢ではなく、長期的な健康を守るための「投資」です。2.とくにリスクの高い方は注意を屋外でのお仕事が多い方や、郊外・地方にお住まいの方は、より意識的に涼しい環境で体を休める時間を確保することが重要です。3.社会全体での対策も必要この研究は、エアコンへのアクセスが健康格差に直結することも示しています。公共施設や避難所の開放など、誰もが涼める環境を整備していく必要性を、私たち一人ひとりが認識することも大切です。気候変動により、猛暑はもはや「異常気象」ではなく「日常」となりつつあります。この「ニューノーマル」の中で、自分と大切な人の健康を守るために、科学的根拠に基づいた賢明な判断をしていきたいものです。参考文献・参考サイト1) Chen S, et al. Long-term impacts of heatwaves on accelerated ageing. Nat Clim Change. 2025 Aug 25. [Epub ahead of print]

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退職は健康改善と関連、とくに女性で顕著――35ヵ国・10万人規模の国際縦断研究/慶大など

 退職が高齢者の健康に与える影響は一様ではない。近年、多くの国で公的年金の受給開始年齢が引き上げられ、退職時期の後ろ倒しが進んでいる。こうした状況に対し、退職の健康影響を検討した研究は数多いが、「認知機能を低下させる」「影響はない」「むしろ有益である」と結果は分かれていた。 慶應義塾大学の佐藤 豪竜氏らの研究グループは、米国のHealth and Retirement Study(米国健康・退職調査:HRS)をはじめとする35ヵ国の縦断調査データを統合解析し、50〜70歳の10万6,927例(観察数39万6,904例)を対象に、退職と健康・生活習慣の関連を検証した。本研究の結果はAmerican Journal of Epidemiology誌オンライン版2025年6月13日号に掲載された。 本研究のアウトカムは、退職後の認知機能(単語記憶テスト)、身体的自立度(ADL/IADL)、自己評価による健康度(5段階)、生活習慣(身体的不活動[中等度~強度の運動が週1回未満]、喫煙、大量飲酒[男性1日5杯以上、女性4杯以上])の変化であった。参加者は2年ごとに調査され、平均6.7年間追跡された。各国の年金受給開始年齢を操作変数とした固定効果付きIV回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。 参加者の男女比は半々で、就労者と比較して退職者は年齢が高く、男性・既婚者・高学歴の割合が低かった。また、肉体労働や職務裁量が低い職歴の経験割合も低かった。【女性】・認知機能:+0.100標準偏差(SD)改善・身体的自立度:+3.8%改善・自己評価健康度:+0.193 SD改善・身体的不活動:-4.3%減少・喫煙:-1.9%減少【男性】・自己評価健康度:+0.100 SD改善認知機能、身体的自立度、生活習慣には有意な改善なし。 退職はとくに女性において認知機能や身体的自立を高め、生活習慣の改善を伴うことが示された。 研究者らは「なぜ退職は女性だけに有益なのか」という問いに対し「背景に退職後の生活行動に性差がある可能性がある」と指摘している。「女性は退職後に社会参加や余暇活動に積極的に関わる傾向が強く、身体活動の機会が増える。また、職場ストレスからの解放が喫煙行動の減少につながる可能性がある。これらの行動変化が、認知機能や身体機能の維持・改善に寄与していると考えられる。一方、男性は退職後にそのような生活習慣の改善が目立たず、効果は自己評価の健康度の改善にとどまった。通勤・労働負担の減少や余暇の拡大が主観的な健康感を高めたものとみられる」とした。 さらに、研究者らは「退職は健康状態を改善するが、年金受給開始年齢の引き上げによってこの効果を享受できる時期が遅れる可能性がある」と警鐘を鳴らす。「とくに女性にとっては、退職が認知症や身体機能障害のリスク低減に結び付く可能性があり、退職時期の遅延が社会的コストを増大させかねない。政策的な年金受給開始年齢引き上げの影響は慎重に検討する必要がある。また、退職後の健康的なライフスタイルを推進することは、公衆衛生全体を改善するための不可欠な取り組みとなるだろう」としている。

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