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弘前大学医学部 腫瘍内科学講座【大学医局紹介~がん診療編】

佐藤 温 氏(教授)斎藤 絢介 氏(助教)陳 豫 氏(助手)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴がんを抱える患者という「ひと」に目を向けた診療を行うことを大切にしています。医学知識の習得と、研究開発といった科学力はもちろん、患者の社会背景から生じる課題への対応力、そしてケアのための対話力といったさまざまな視点からの医療を統合して提供することを大切にしています。先進的医療の実践と同時に、がんを抱える患者の人生に深く関わり、さらには、小中高等学校におけるがん教育など、社会活動にも積極的に取り組んでいます。臨床開発から本質的医療の実践までの広範な領域を、こんな小さな医局がこの広大な地域で展開している、そんな一生懸命な姿勢が特徴です。地域のがん診療における医局の役割全診療科と連携して、全領域のがん症例に対する治療方針の検討のため、週2回のキャンサーボードを開催しています。また、がんゲノム医療拠点病院としての指定を受け、がんゲノム外来を通して全圏内からゲノムパネル検査を受け、毎週エキスパートパネルを開催しています。幅広い領域の医療者が集う多職種カンファレンスも定期開催しています。また、地域の病院に赴き、治療困難症例や希少がん症例などの相談を含めた診療を積極的に行っています。地域全体において腫瘍内科医がかなり不足する中、院内の横断的連携から、圏内医療施設でのがん医療連携までの幅広い領域で中心的役割を担っています。今後医局をどのように発展させていきたいか家族みたいな医局です。仕事は楽しく、患者を含めたひとには謙虚に、そして学問には貪欲に、をモットーにして、わたしも含めた教室員全員の総力で日々の診療・教育・研究に向き合っています。正直なところ、仲間を増やすことが最重要課題です。各診療科からも切望されている需要過多の医局です。活躍の場は、医療現場に留まらず一般社会にも広げていきたいと思います。生命が満ち溢れるこの地だからこそ、医療の本質を見極めることができ、それを臨床で展開することができる医局です。医師の育成方針地域全体での医師不足の状況の中、専門性を備えた専門医師不足はかなり切実な問題です。専門性を高めるのみでは地域医療貢献にはまったく不十分です。予防医療からゲノム医療そして終末期医療までの幅広い臨床過程を患者/家族の視点からコーディネートして、がん医療のリーダーとして活躍できる、次世代の医療人材を育成します。研修はOn-the-Job Trainingが中心となりますが、がん医療におけるprofessional playerとしてだけではなく、total coordinatorとしての両能力を遺憾なく発揮できるよう個別に丁寧な指導をします。医局でのがん診療のやりがいと魅力弘前市は青森県第3の人口を有する地方都市であり、地理的には津軽平野の中央に位置します。春は桜、夏はねぷた祭り、秋はリンゴ、冬は雪まつりと四季折々を堪能できることが魅力です。青森県は農業、漁業といった第1次産業に従事される方々が多いのも特徴です。一方、少子高齢化、人口減少が最も進んでいる県の1つでもあり、紹介されるがん患者さんの多くが高齢者であることも事実です。交通手段は、鉄道網の整備が悪いため、自家用車移動が中心となる地方都市ならではの生活環境を有しています。さらに、自然環境の影響も大きく、冬期は雪のため交通手段が閉ざされてしまうことさえもあります。ただし、一見問題の多い地域としてだけに見られがちですが、この少子高齢化と人口減少は、日本全体の問題であり、単に青森県が先進県であるだけです。この地域での学びと経験は、今後の日本の高齢社会を考えるうえにおいて1つの強みになります。困難な問題ではありますが、最も重要な課題に立ち向かう魅力は大きいです。医学生/初期研修医へのメッセージ医師として最先端医療に関わり続けることはとても魅力的です。教室では、臨床試験に積極的に参加しています。でも、地方に根付いた医療を経験し、患者一人ひとりの生き方や生活環境に触れ、十分な会話を通して、その人らしいがん治療を行うことができることが当科の強みだと思います。一緒にがん医療をしましょう。同医局を選んだ理由出身は中国河南省です。腫瘍内科を志した動機は、抗がん剤治療を受けながらがんと戦った母親の苦しみを深く痛感し、そしてがんで家族を失うという辛い経験をしたことから萌え出ました。あの時から、がんで闘病している人の苦しみを和らげる医者になることを決断しました。弘前大学を卒業して、長男が生まれました。初期研修を終え、腫瘍内科に入局後長女が生まれ、子供は2人となりました。子育ても家事も苦労の連続でしたが、家族や両親のおかげもあって臨床一筋に取り組むことができ、無事がん薬物療法専門医を取得し、腫瘍内科医として充実した日々を送っています。現在学んでいること教室のスタッフ、病棟/外来の看護師、薬剤師、さらに心理士、栄養士、理学療法士等々たいへん多くのメディカルスタッフらと真摯にかつとても楽しく仕事に取り組んでいます。がん化学療法はもちろん緩和医療を含め、さまざまな有害事象から合併症まで、内科全般的な診療が行えることが日々勉強になっています。「答えは患者にある」の教えをもとに、初心を忘れず謙虚な姿勢で多くのことを学び、人の苦しみを和らげる医者になるため日々精進しています。弘前大学大学院医学研究科 腫瘍内科学講座住所〒036-8562 青森県弘前市在府町5問い合わせ先shuyo@hirosaki-u.ac.jp医局ホームページ弘前大学大学院医学研究科 腫瘍内科学講座専門医取得実績のある学会日本内科学会日本臨床腫瘍学会日本肉腫学会日本消化器病学会日本消化器内視鏡学会日本がん治療認定医機構研修プログラムの特徴(1)弘前大学医学部附属病院内科専門研修プログラム 腫瘍内科重点コース地域医療を含めた幅広い研修を通じて、標準的かつ全人的な内科領域全般にわたる医療の実践に必要な知識と技能とを修得する。詳細はこちら(トップページ/医科後期研修 専門研修)(2)東北広域次世代がんプロ養成プラン 地域がん医療 次世代リーダー育成コース地域がん医療のリーダーとなり、次世代の医療人の育成ができる人材を育成する。詳細はこちら(東北広域次世代がんプロ養成プラン・弘前大学)

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副作用編:悪心(抗がん剤治療中の食欲不振対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第1回

抗がん剤治療中に悪心を生じた患者さんが、食欲不振などを主訴に紹介元であるかかりつけ医を受診する、というのはときに経験されるかと思います。今回は、診察の際に有用な抗がん剤治療中の悪心の鑑別のポイントや患者さんへの対応について紹介します。症例78歳、女性主訴食欲不振病歴1ヵ月前より進行胃がん(StageIV)に対して大学病院で緩和的化学療法が開始された。数日前から悪心が強く、1日の食事摂取量が半分程度となり、食欲不振を主訴にかかりつけ医(クリニック)を受診。ステップ1 悪心・嘔吐の原因は?がん患者の悪心の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、「抗がん剤のせいかも?」とすぐに考えてしまいがちですが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)CINV:Chemotherapy Induced Nausea and Vomiting薬物療法に起因する悪心は患者が最も苦痛と感じる代表的な副作用の1つです。軽度の悪心でも食欲不振につながり、QOLは著しく低下します。悪心・嘔吐の発現時期や状態により以下の定義があり、機序や背景を考慮した制吐療法が行われます。最近はガイドライン1)に沿ってリスクに応じた予防薬や頓服の制吐薬を処方されていることが多くなっています。画像を拡大する(2)腫瘍に起因する悪心腫瘍の局所進展による消化管閉塞(腹膜播種など)、幽門狭窄、胆汁逆流なども悪心・嘔吐の原因となります。これらは機械的刺激により胃内容物の排出障害を来し、食後悪心や胆汁性嘔吐を呈することがあります。とくに胃がんでは胃壁内伸展などによる胃の拡張不良を引き起こすことで、悪心・嘔吐を呈することがあります。鑑別にあたり、嘔吐の有無や吐物の性状、排便排ガスの有無が重要な所見となります。(3)電解質異常による悪心がん患者では、腫瘍随伴症候群、化学療法、脱水、腎機能障害などにより電解質異常を来しやすく、中枢性あるいは消化器機能の異常を介して悪心・嘔吐を引き起こすこともあります。とくに高Ca血症はがん患者の最大15~20%に認められる重要な腫瘍随伴症候群であり、しばしば「原因不明の悪心」の背景に潜んでいます2-4)。血清Ca値が11.0mg/dLを超えると症状が出やすくなり、13~14mg/dL以上では悪心、意識障害、脱水などの症候が顕著となります。画像を拡大する(4)中枢性要因(脳転移・頭蓋内圧亢進)による悪心がん患者における悪心の中で、中枢神経系の病変によるものは見逃されやすいものの、迅速な対応が必要な病態です。とくに、脳転移や髄膜播種は頭蓋内圧亢進や嘔吐中枢の直接刺激を介して、持続性の悪心や突発的な嘔吐を引き起こします。悪心以外にも頭痛やめまい、痺れや麻痺などの神経症状が伴うことがあり問診や身体診察が重要となります。ステップ2 評価ポイントは?前述のように、さまざまな要因が悪心・嘔吐の原因となります。クリニックなどの限られた検査環境では精緻な診断を行うことは難しいと思います。「これ!」といった正解はありませんが、私は以下のポイントで診察しています。画像を拡大するステップ3 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「つらいけど内服の抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談がある場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも「食事が半分以上食べられない場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関(大学病院や高次医療機関)へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただければ助かります。悪心に伴う食欲不振に対して輸液や制吐薬を投与してもよいか?軽度の悪心・食欲不振であれば輸液やメトクロプラミドの投与での支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の悪心のみでも十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため治療機関へご紹介ください。また、輸液を実施する場合、翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。最後に患者さんの心理として、軽い症状で治療機関を受診することはハードルが高いと感じる方が多くいらっしゃいます。要因としては自宅から治療施設への移動距離や長い待ち時間があると思います(主治医に相談しにくいなどもあるかもしれませんが…)。今後、高齢化が進むことで交通手段が限られる患者さんが増え、抗がん剤治療も地域との連携が不可欠になってきます。当院においても地域のクリニックと医療連携を実施して軽症の副作用対応を実施いただくことで、うまく治療を継続できた症例やスムーズな緩和ケア移行に繋がるケースも少しずつ増えてきました。そのため、がん治療医である私達も詳細な診療情報の提供や綿密な医療連携を心がけています。かかりつけ医の先生にサポートしていただける「安心感」は闘病中のがん患者さんにとって大きな支えになります。抗がん剤の副作用症状を訴える患者さんの受診時にこのコラムが少しでも参考になれば幸いです。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版. 2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.

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全医師が遭遇しうる薬剤性肺障害、診断・治療の手引き改訂/日本呼吸器学会

 がん薬物療法の領域は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場し、目覚ましい進歩を遂げている。しかし、これらのなかには薬剤性肺障害を惹起することが知られる薬剤もあり、薬剤性肺障害が注目を集めている。そのような背景から、2025年4月に『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版2025』が発刊された。本手引きは、2018年以来の改訂となる。本手引きの改訂のポイントについて、花岡 正幸氏(信州大学病院長/信州大学学術研究院医学系医学部内科学第一教室 教授)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。いま薬剤性肺障害が注目される理由 花岡氏は、「いまほど薬剤性肺障害が注目を集めているときはない」と述べ、注目される理由として以下の5点を挙げた。(1)症例数の増加ICIなどの新規薬剤の登場に伴って薬剤性肺障害の報告が増加している。(2)人種差国際比較により、日本人で薬剤性肺障害の発症率が高い薬剤が存在する。(3)予後不良な病理組織パターン重症化するびまん性肺胞傷害(DAD)を呈する場合がある。(4)多様な病型非常に多くの臨床病型が存在し、肺胞・間質領域病変だけでなく気道病変、血管病変、胸膜病変も存在する。(5)新たな病態ICIによる免疫関連有害事象(irAE)など、新規薬剤の登場に伴う新たな病態が出現している。改訂のポイント8点 本手引きでは、改訂のポイントとして8点が挙げられている(p.viii)。これらについて、花岡氏が解説した。(1)診断・検査の詳説 今回の改訂において「図II-1 薬剤性肺障害の診断手順」が追加された(p.13)。薬剤性肺障害の疑いがあった場合には、(1)しっかりと問診を行って、原因となる薬剤の使用歴を調査し、(2)諸検査を行って他の原因疾患(呼吸器感染症、心不全、原病の悪化など)を否定し、(3)原因となる薬剤での既報を調べ、(4)原因となる薬剤の中止で改善するかを確認し、(5)再投与試験によって再発するか確認するといった流れで診断を実施することが記載されている。 肺障害の発症予測や重症化予測に応用可能なバイオマーカーの確立は喫緊の課題であり、さまざまな検討が行われている。そのなかから国内で報告されている3つのバイオマーカー候補分子(stratifin、lysophosphatidylcholine[LPC]、HMGB1)について、概説している。(2)最新の画像所見の紹介 薬剤性肺障害の画像所見が「表II-3 薬剤性肺障害の一般的なCT所見」にまとめられた(p.21)。薬剤性肺障害の代表的な画像パターンは、以下の5つに分類される。・DADパターン・OP(器質化肺炎)パターン・HP(過敏性肺炎)パターン・NSIP(非特異性間質性肺炎)パターン・AEP(急性好酸球性肺炎)パターン なお、今回の改訂において、特定の薬剤の肺障害としてALK阻害薬、ADCに関する画像所見が追加された。(3)薬物療法の例の追加 薬物療法のフローについて「図III-2 薬剤性肺障害の薬物療法の例」が追加された(p.50)。重症度別にフローを分けており、すべての症例でまず被疑薬を中止するが、無症状・軽症の場合は中止により改善がみられれば経過観察とする。被疑薬の中止による改善がみられない場合や中等症の場合は、経口プレドニゾロン(0.5~1.0mg/kg/日)を投与する。これで改善がみられる場合はプレドニゾロンを漸減し、2~3ヵ月以内に中止する。経口プレドニゾロンで改善がみられない場合や重症・DADパターンでは、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日×3日)を行い、経口プレドニゾロンに切り替える。改善がみられる場合は漸減し、改善がみられない場合はステロイドパルスを繰り返すか、免疫抑制薬の追加を行う(ただし、免疫抑制薬に薬剤性肺障害に対する保険適用はないことに注意)。(4)予後不良因子の追加 薬剤性肺障害の予後を規定する要因として報告されているものを以下のとおり列挙し、解説している。・背景因子(高齢、喫煙歴、喫煙指数高値、既存の間質性肺炎、喘息の既往[ICIの場合]など)・発症様式(低酸症血症、PS2~4など)・胸部画像所見(DADパターンなど)・血清マーカー(KL-6、SP-D、stratifinなど)・気管支肺胞洗浄液(BALF)所見(剥離性の反応性II型肺上皮細胞)・ICIによる肺障害と抗腫瘍効果 ICIについては、irAEがみられた集団で抗腫瘍効果が高いこと、ニボルマブによる肺障害が生じた症例のうち、腫瘍周囲の浸潤影を呈した症例は抗腫瘍効果が高かったという報告があることなどが記されている。(5)患者指導の項目の追加 薬剤の投与中に新たな症状が出現した場合は速やかに医療機関や主治医に報告するよう指導すること、とくに抗悪性腫瘍薬や関節リウマチ治療薬を使用する場合には、既存の間質性肺疾患の合併の有無を十分に検討することなどが記載された。また、抗悪性腫瘍薬の多くは医薬品副作用被害救済制度の対象外である点も周知すべきことが示された。(6)抗悪性腫瘍薬による肺障害を詳説 とくに薬剤性肺障害の頻度が高いチロシンキナーゼ阻害薬、ICI、抗体製剤(とくにADC)について詳説している。(7)irAEについて解説 ICIによって生じた間質性肺炎では、BALF中のリンパ球の増加や制御性Tリンパ球の減少、抗炎症性単球の減少、炎症性サイトカインを産生するリンパ球・単球の増加など、正常分画とは異なる所見がみられることが報告されている。このようにirAEに特異的な所見がみられる場合もあることから、irAEの発症機序について解説している。(8)医療連携の章の追加 本手引きについて、花岡氏は「非専門の先生や診療所の先生にも使いやすい手引きとなることを目指して作成した」と述べる。そこで今回の改訂で「第VI章 医療連携」を新設し、非呼吸器専門医が薬剤性肺障害を疑った際に実施すべき検査について、「図VI-1 薬剤性肺障害を疑うときの検査」にまとめている(p.123)。また、専門医への紹介タイミングや、かかりつけ医・非呼吸器専門医と呼吸器専門医のそれぞれの役割について「図VI-2 かかりつけ医と専門医の診療連携」で簡潔に示している(p.124)。すべての薬剤が肺障害を引き起こす可能性 花岡氏は、薬剤性肺障害の定義(薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの)を紹介し、そのなかで「薬剤性肺障害の『薬剤』には、医師が処方したものだけでなく、一般用医薬品、生薬、健康食品、サプリメント、非合法薬などすべてが含まれることが、きわめて重要である」と述べた。それを踏まえて、薬剤性肺障害の診療の要点として「多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、薬剤性肺障害は必ず鑑別しなければならない。すべての薬剤は肺障害を引き起こす可能性があることを念頭において、まず疑うことが重要であると考えている」とまとめた。

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40%の患者が過小診断される心不全疾患とは/アレクシオン

 新たなトランスサイレチン型心アミロイドーシス治療薬アコラミジス(商品名:ビヨントラ)が2025年5月21日に発売された。これに先駆け、アレクシオンファーマが4月16日にメディアセミナーを開催し、北岡 裕章氏(高知大学医学部 老年病・循環器内科学 教授)が『心アミロイドーシスを取り巻く環境と治療の現状と課題』、田原 宣広氏(久留米大学病院 循環器病センター 教授)が『新薬アコラミジスがもたらすATTR-CMに対する新たな治療』と題して講演を行った。最大の課題は“疑われない”こと トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は、TTR(トランスサイレチン)四量体が単量体に解離し、アミロイド線維を形成し、心臓に沈着することで心機能が障害される疾患で、野生型(加齢)と変異型(遺伝性)に分類される。遺伝性ATTR-CMは長野県や熊本県で患者が多く存在することが知られている一方で、加齢によって発症する野生型ATTR-CMの診断・治療が喫緊の課題であることはあまり知られていない。さまざまな研究報告から野生型ATTR-CMは「60歳以上の男性」に多いことが示されているが、その性差や加齢に伴う発生機序は明らかになっていない。北岡氏は「心アミロイドーシスは非常にありふれた心不全症状を呈するが、心不全の基礎疾患となる虚血性心疾患、拘束性心筋症、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症などと比べ、疾患認知度の低さが一番の問題」と述べ、「患者の39~44%は初診時に過小診断を受け、17%は診断までに5人以上の医師の診察を受けたとの報告がある。その結果、3~4年の診断遅れに伴う機能的・生命的予後への影響が問題となっている」と指摘した。 診断のポイントとして、「まずは血液検査、心電図検査、心臓超音波検査の3つの実施を検討してほしい。心臓超音波検査は専門的であり、実施施設が限られる。心電図検査は早期診断するには向いていないが、血液検査によるNT-proBNP、トロポニンの測定は簡便であり、実施施設を選ばず早期診断にも有用である。これらの検査でATTR-CMが疑われた場合には、次のステップとして、シンチグラフィを実施してほしい。生検の実施は確定診断の上では有用であるが、高齢者へ行う検査としてはハードルが高いので、まずはシンチグラフィの実施が望まれる」と説明した。ただし、「トロポニン測定は保険適応外である点に注意してほしい」ともコメントした。アコラミジスの有効性・安全性 続いて田原氏は、海外第III相ATTRibute-CM試験(AG10-301)結果を踏まえたアコラミジスの有効性・安全性ついて解説。ATTRibute-CM試験は症候性ATTR-CM患者632例を対象にアコラミジスの有効性及び安全性を評価するために行われた第III相無作為化二重盲検比較試験1)。本研究より、有用性をプラセボ群と比較し、1)アコラミジス群では1.8倍良好な結果が得られた、2)心血管症状に関連する入院頻度が50.4%低下した、3)死亡と入院についてのカプランマイヤー曲線では3ヵ月以降から両群に開きが観察され、30ヵ月まで持続した、4)アコラミジス群では血清TTRレベルが投与28日時点で有意に上昇し、試験期間完了まで長期に継続、5)有害事象(いずれかの群で発現割合が20%以上)はアコラミジス群、プラセボ群それぞれについて、心不全(24.0%.vs 39.3%)、心房細動(16.6%.vs 21.8%)などの結果が認められたことを説明した。 なお、アコラミジスの作用機序は既存製品のタファミジス(商品名:ビンダケル/ビンマック)と同様で、TTR四量体のサイロキシン結合部位を安定化させ、四量体の分解を抑制する。同氏は試験開始12ヵ月後からプラセボまたはアコラミジスにタファミジスを併用する補足的解析を示しながら、「アコラミジスには強いトラスサイレチン安定化作用を有する可能性がある」とコメントした。 また、両氏によると、心アミロイドーシスの診断には「手根管症候群の発症から5~6年後に心アミロイドーシスが発症する可能性がある」「神経系に蓄積する」などの特徴を踏まえ、整形外科、神経内科、循環器内科の3診療科による医療連携が全国的に進んできているという。ーーーーーーー<製品概要>製品名:ビヨントラ錠400mg一般名:アコラミジス塩酸塩効能又は効果:トランスサイレチン型心アミロイドーシス(野生型及び変異型)用法及び用量:通常、成人にはアコラミジス塩酸塩として1回800mgを1日2回経口投与する。薬価:400mg1錠 8,995.90円製造販売承認日:2025年3月27日薬価基準収載日:2025年5月21日発売日:2025年5月21日製造販売元:アレクシオンファーマ合同会社

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造血幹細胞移植後のLTFUを支える試み/日本造血・免疫細胞療法学会

 2025年2月27日~3月1日に第47回日本造血・免疫細胞療法学会総会が開催され、2月28日のシンポジウム「未来型LTFU:多彩なサバイバーシップを支える次世代のケア」では、がん領域におけるデジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics:DTx)の有用性および造血幹細胞移植治療におけるDTx開発の試みや、移植後長期フォローアップ(Long Term Follow Up:LTFU)の課題解決のためのICT(Information and Communication Technology)活用と遠隔LTFUの取り組み、さらに主に小児・思春期・若年成人(Children, Adolescent and Young Adult:CAYA)世代の造血幹細胞移植における妊孕性温存と温存後生殖補助医療についての話題が紹介された。造血器腫瘍は多彩なサバイバーシップケアの重要性が増しており、次世代ケアの試みが着々と進められている。同種造血幹細胞移植後のDTx DTxは、治療用アプリによるデジタル技術を用いて、個々の患者の病状に見合った情報をリアルタイムで提供し、患者の行動変容を促して医療効果や医療プロセスの改善を得ることである。新たな介入手段であり情報薬ともいわれ、次回の外来受診までの治療空白をアプリの使用によりフォローし、治療効果を狙う考え方である。 DTxアプリの使用は、QOL、全生存期間(OS)の改善効果が多数報告されており、ドイツではヘルスリテラシーや家族の負担軽減などの改善効果も認められれば薬事承認される。日本では2020年ごろからニコチン依存症や高血圧症、アルコール依存症などを対象疾患としたDTxアプリの使用効果が認められ、薬事承認されている。 固形がん領域では患者の健康状態をアンケート方式で電子的に収集するelectronic Patient Reported Outcome(ePRO)アプリの使用が疾患再発の早期発見・治療につながり、QOL・生命予後の改善が複数のランダム化試験で報告されている。欧州臨床腫瘍学会では2022年のガイドラインでePROアプリのがん診療への導入をGrade 1Aで推奨し、重症や悪化症状に対する臨床医への自動アラート機能を有するePROシステムの使用も推奨している。 岡村 浩史氏(大阪公立大学大学院 医学研究科 血液腫瘍制御学/臨床検査・医療情報医学)らは、2021年に移植患者用アプリを開発し、同種造血幹細胞移植(allogeneic Hematopoietic stem Cell Transplantation:allo-HCT)後の外来通院中患者99例にHCTアプリを導入し、和歌山県立医科大学と共にPilot Studyを実施した。その結果、体温、脈拍数、SpO2、体重、修正Leeスコア(ePRO)、およびこれらの最近の悪化傾向などが移植後重症合併症を早期に予測しうる因子であった。移植後合併症での緊急入院例では入院約10日前から脈拍、SpO2、修正Leeスコアが悪化する体調の変化がみられ、早期探知が可能と考えられた。岡村氏らはHCTアプリのsecond stepとして重症化モデルの精度改善を行い、データ入力1週以内の合併症緊急入院予測モデルの開発を構築する多施設移植後見守りアプリ研究(第II相)を行っている(2025年9月まで約200例を登録する見込み)。患者が装着しているスマートウォッチで収集された身体情報およびePRO(22項目・週1回)への入力データと、医療機関からの診療情報(今後マイナポータルから提供の予定)を集約し、患者の同意の下にデータを解析している。 岡村氏は患者入力によるePROに基づき、将来的には個別症状に合わせた生成AIの利用や、電子カルテとの情報連携、地域医療連携ネットワーク(Electronic Health Record:EHR)、パーソナルヘルスレコード(Personal Health Record:PHR)としての情報連携の強化(病診連携や成人移行時の病院間の連携など)も可能であると考えており、「病院診療情報やePRO、ウエアラブルデバイスによる情報を研究利用し、HCT診療の質を向上させる連携を深めたい」と述べた。医療情報連携、PHRを用いた遠隔LTFUの未来 allo-HCT後の長期生存者の増加に伴い、LTFUの重要性が高まっている。しかし移植実施施設への通院や、非移植実施施設の医療スタッフ教育、移植後合併症に対する総合的な診療体制の構築、小児からのトランジションと継続的フォローアップなど課題は多い。ICTアプローチはLTFUの課題解決において不可欠であり、遠隔医療、およびEHR、PHRをいかに活用するかが重要である。 遠隔医療はICTを用いたリアルタイムのオンライン診療を活用した医療であり、Doctor to Doctor(D to D:専門医→主治医)、Doctor to Patient(D to P:主治医→患者)、Doctor to Patient with Nurse(D to P with N:主治医→患者・看護師)、Doctor to Patient with Doctor(D to P with D:専門医→患者・主治医)の4つのカテゴリーがある。 EHRは、患者同意の下に、患者の基本情報、処方・検査・画像データ等を電子的に共有・閲覧できる。病院間での診療情報の共有が可能になれば、近医での検査結果をあらかじめ医療情報連携で参照してもらい、自宅でD to PのオンラインLTFU受診が可能になる。また紹介先の医療機関から移植実施施設の診療情報にアクセスできることで転医や就職で他県に引っ越す場合、成人科へのトランジションでも切れ目のない医療が提供できる。 全県単位の医療情報ネットワークとして、和歌山県では2013年から、きのくに医療連携システム「青洲リンク」を運用している。平時は、参加病院の電子カルテ、参加診療所の検査結果、参加薬局の調剤情報、画像をインターネットで情報共有し診療を支援する。災害時は、県外にバックアップしている共有情報を活用し災害医療を支援する。参加医療機関は2024年12月25日現在、病院11施設、診療所49施設、同意患者数は約2,700例であり、青洲リンクを利用して相互にデータを参照しながら医療連携を取っている。 和歌山県立医科大学では2020年から紀南病院(和歌山県)とテレビ会議システムで接続する遠隔LTFU外来を開始した。患者は、紀南病院(地域基幹病院)で診察を受け、問診票の記入やバイタルサイン測定、各種検査を行い、その結果を診療情報提供書と共に和歌山県立医科大学(移植実施施設)にFAXで送付する。大学病院の医師はFAXの情報、および青洲リンク活用による紀南病院の診療情報(検査結果、処方、画像)を参照したうえで診療を行う。EHRで診療情報を共有するこの形式は、D to P with Dに該当する。連携先にも医師がいることで対面と遜色ない診察ができ、患者満足度も高く、質の高い遠隔LTFU達成が可能となる。 PHRはスマートウォッチなどデバイスから収集できる日常的な医療情報(脈拍、体重、運動量など)と医療機関での診療情報(検査結果、処方、画像など)、および患者自身が入力する健康情報(血圧、食事量など)を一元化し、デジタルデータとして患者が管理するものである。 青洲リンクではEHRに加えPHRの取り組みも進めており、参加医療機関の診療情報を提供し、患者がスマートフォンで病院の検査結果や処方情報をいつでも見ることが可能なアプリを導入した。PHRを利用した情報提供は、スマートフォンにダウンロードした近隣クリニックでの診療データを、移植実施施設への通院時に見てもらうことができ、またオンライン診療でデータを共有することで遠隔LTFUも可能になる。 西川 彰則氏(和歌山県立医科大学附属病院 医療情報部)は今後、自治体の医療情報連携を基盤としたPHR、移植後ePRO、医療情報、バイタル情報を統合的に集約提供するプラットフォームの構築が望ましいと考えており、allo-HCT後の患者にとっては、利便性が高く連続的なLTFUの体制構築が必須であり、ICTの活用は未来のLTFUにつながる可能性があるとした。妊孕性温存から次のステップへ―がん・生殖医療との協働で目指す造血幹細胞移植後の妊娠・出産 造血器腫瘍は小児がんの約40%を占め、AYA世代では約7%と、成人がんの増加に伴い全体の割合が低下する。CAYA世代の造血器腫瘍の生命予後は改善傾向にあり、長期生存例が増えることで、相対的に妊孕性を含むサバイバーシップケアの重要性が増している。 LTFUのテーマでもある晩期合併症(Late effects)としての性腺障害や不妊はAYA世代にとってがん治療中・治療後の大きな課題であり、2023年の「第4期がん対策推進基本計画」では取り組むべき施策として、CAYA世代の妊孕性温存療法を取り上げている。 がん治療前の妊孕性温存については、2022年8月から対象となる患者への情報提供や意思決定支援ががん診療連携拠点病院の必須要件となった。2024年12月に改訂された『小児・AYA世代がん患者等の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』でも造血器腫瘍治療前のすべての患者に情報提供・意思決定支援を行うことが推奨され、GnRHアゴニストによる卵巣保護や未授精卵子の体外成熟、移植前処置の全身放射線治療時の卵巣・精巣遮蔽についても記載されている。 妊孕性温存における患者の負担は大きく、2021年・2022年には妊孕性温存・温存後生殖補助医療を対象とする助成金制度が全国で均てん化され、研究助成事業も運用されている。全国レジストリである日本がん・生殖医療登録システム(Japan OncoFertility Registry:JOFR)では、本邦におけるがん生殖医療の有効性や実態を調査する目的で、スマートフォン向け患者用アプリFSリンク(Fertility & Survivorship Linkage)をPatient Reported Outcome(PRO)として用い、パートナーシップの状況や挙児の状況を患者自身に提供・更新してもらっている。ただ、AYA世代は身体的・心理的・社会経済的に未自立であり、温存した生殖子の管理やFSリンクの管理は、子供の成長過程のさまざまなトランジションの一環として、成人を迎える頃合いを見計らい親から子へ移行する必要があり、生殖医療担当医と小児がん治療に携わる医師が協働して移行を支援している。妊孕性温存やFSリンクの周知はYouTubeで解説動画を配信し、AYA世代にはLINEを用いて情報提供を行っている。 がん治療後の妊娠可能時期については、厚生労働省から抗がん剤など遺伝毒性のある医薬品の最終投与後の避妊期間に関してのガイダンスが発出されている。造血幹細胞移植後のさまざまな薬剤も妊娠・出産に関わるため、妊娠可能時期についてがん専門薬剤師と共に症例ごとに情報提供している。 移植後の安全な妊娠・出産を検討する際には、胎児や母体のリスクへの対処として適切なワクチン接種と共に移植片対宿主病(Graft Versus Host Disease:GVHD)の管理が必要である。治療薬や放射線治療による合併症にも注意し、妊娠希望例ではLTFUからプレコンセプションケア(妊娠前相談)外来につなげることが重要である。妊孕性喪失後のケアでは、看護師、心理士など多職種による心理・社会的支援を行う。近年、雄のマウスiPS細胞からの卵子生成、またヒトiPS細胞由来の受精卵作製など、生命倫理学的な課題も含め生殖子生成研究の進展が注目されている。 セクシュアリティとパートナーシップ、性機能障害など、患者のさまざまなニーズや悩みに対応するには、地域や院内で患者・家族と生殖医療をつなぐ窓口の一元化が必要である。大阪国際がんセンターではAYA世代サポートチームが妊孕性温存や温存後生殖補助医療の相談窓口になり、効率的な意思決定の支援を行っている。意思決定支援にたけた医療従事者の配置や育成も必要であり、日本がん・生殖医療学会認定ナビゲーター制度も開始された。多田 雄真氏(大阪国際がんセンター 血液内科・AYA世代サポートチーム)は、「日進月歩の生殖医療や移植を受けたサバイバーのアンメットニーズにつなげるために、生殖医療の医師との連携は血液内科移植医やLTFUの看護師にとって重要であり、全国のがん・生殖医療ネットワークを通して顔の見える関係を構築していきたい」と述べた。 allo-HCTではLTFUが不可欠であり、ICTのアプローチをいかに活用するかが重要である。また、移植を受けたサバイバーのニーズはより高度になり、QOLを保ち生きることを目標とした治療が求められている。

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第255回 “撤退戦”が始まっていることに気付かない人々(前編)病院6団体が経営の苦境訴えるも「病床利用率8割」が示す医療マーケット縮小の現実

「コロナ禍が明けても、外来患者数、入院患者数とも以前のレベルまでには戻っていない」と西日本の病院経営者こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、西日本で100床規模の病院を経営している友人(医師)が上京したので、文京区千石にある卵料理屋で一杯飲みながら情報交換をしました。友人によれば、「コロナ禍が明けても、外来患者数・入院患者数とも以前のレベルまでには戻っていない」とのこと。「大病院からの転院患者などでなんとか持ちこたえているが、連携が不得手な病院は厳しいだろう」と話していました。医療機関を訪れたり入院したりする患者数の減少は、単純に人口減少だけが原因とは言えず、医療機関の機能分化を推し進める診療報酬や、在宅医療の普及・定着などさまざまな要因がからまりあって起こっていると考えられます。しかもこの状況、この先改善していくとは考えられず、医療経営はますます難易度が増すと思われます。それでもこの友人、「子供は医者にする」とのたまっていました。彼の子供が病院を継ぐことになるだろう約20年後、まだ病院が生き残っていればいいのですが……。さて、今回は、日本において医療需要の減少が顕著となってきているにもかかわらず、そのことに気付いていない、あるいは気付こうとしない人々について書いてみたいと思います。ただ、その前に、日本病院会など病院関係6団体が2024年度の診療報酬改定後に病院がより深刻な経営難に陥っているとする緊急調査の結果を公表したので、その内容を紹介しておきます。経常利益で赤字の病院は2023年度の50.8%から2024年度は61.2%に拡大、病床利用率は2024年度80.6%とわずかながら上昇傾向日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会の病院関係6団体が合同で行った「2024年度診療報酬改定後の病院経営状況」の調査結果が3月10日に公表され、12日には東京で6団体と日本医師会が合同会見を開き、病院経営の窮状を訴えました。調査では、全国1,700余りの病院を対象に去年6月から11月までの経営状況を調べました。それによれば、経常利益で赤字の病院は2023年度の50.8%から2024年度は61.2%に拡大しました。また、補助金などを除いた医業利益をみると69%の病院が赤字で、2023年より4.2ポイント増加していました。全体の経常利益率はマイナス3.3%、赤字病院に限るとマイナス7.4%でした。こうした背景には物価高などによる経費の増加が大きいとの分析結果でした。病院給食などの「委託費」は2023年に比べて4.2%上昇、「給与費」も2.7%増えていました。なお、病床利用率については6ヵ月平均で2023年度が79.6%、2024年度が80.6%とわずかながら上昇傾向にありました。両年度の6~11月の病床利用率はいずれも6~8月に増加し、9~10月に減少、11月にやや増加に転じる傾向でした。しかし、上昇傾向とは言うものの約8割であることに変わりはありません。端的に言えば全国の病院の20%の病床は空いてしまっているわけです。この合同会見で6団体と日本医師会は合同声明を発表、「病院をはじめとする医療機関の経営状況は、現在著しく逼迫しており、賃金上昇と物価高騰、さらには日進月歩する医療の技術革新への対応ができない。このままでは人手不足に拍車がかかり、患者さんに適切な医療を提供できなくなるだけではなく、ある日突然、病院をはじめとした医療機関が地域からなくなってしまう」と訴え、2026年度診療報酬改定に向けて「社会保障予算の目安対応の廃止」「診療報酬等について賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入」を求めました。患者が来ない、ベッドが埋まらないことが経営悪化の主因とすれば、それは診療報酬上の手当とは別次元の問題賃金上昇と物価高騰に対して診療報酬上の手当を行うことは当然必要でしょう。しかし、患者が来ない、ベッドが埋まらないことが経営悪化の主因とすれば、それは診療報酬上の手当とは別次元の問題となります。病床を減らすか、病院を閉じて診療所化するかといった撤退戦略を立てなければなりません。今年1月30日、一般社団法人医療介護福祉政策研究フォーラム主催の新春座談会「医療提供体制改革の展望―医療機関の機能分化と連携、医師偏在対策を中心に―」が都内で開催されましたが、演者の多くが撤退戦略の必要性を強調していました。中でも、医師で弁護士でもある古川 俊治参議院議員は「人口減少社会と医療の撤退戦略」というそのものズバリのタイトルで講演、「日本の医療は拡充で進めてきたが、撤退戦は初めて。大きな地域差があるが、10年以内に撤退戦略を検討すべき二次医療圏が多い」と話していたのが印象的でした。古川氏よりも早い時期から講演などで「撤退戦」という言葉を用いて危機感を訴えていたのが山形県の地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネットの代表理事である栗谷 義樹氏です。酒田市の地方独立行政法人山形県・酒田市病院機構日本海総合病院を中心として14の参加法人による地域医療連携推進法人を作り上げた栗谷氏は、日経ヘルスケアの2023年8月号の特集記事「活用広がる地域医療連携推進法人」のインタビューで、「医療需要は2015年をピークに既に縮小していますが、第1次団塊の世代が寿命を迎える2030年辺りを境に急激に縮小し、介護需要もこれに遅れて同様の経過を辿ると予想されます。こうした地域全体の未来図を関係者が共有して、需要減と担い手不足にどう対応するかを考えると、事業の再編・統合は不可欠です。(中略)今後は事業をどう畳んでいくかの“撤退戦”になります。地域にとって最適化された医療・介護資源、仕組みを次の世代に渡すためのツールが連携推進法人だと考えています」と語っています。このインタビューで栗谷氏は、病院単独で撤退戦略を考えるのではなく、地域のほかの医療機関や介護施設、介護事業所とともに撤退戦略を立てることの重要性を説いています。急性期病院だけが生き残っても意味はなく、そこから退院してくる患者を受け入れる慢性期の病院や在宅医療の機能、介護施設なども必要だからです。そうした視点は、これからの地域の基幹病院の経営者には欠かせないものと言えるでしょう。広島県で1,000床規模の大病院計画、建設前から運営資金不足で県が運営法人に65億円貸し付け医療界でこうした“撤退戦”論議が本格化し、実際、撤退に向けた動きも出てきている一方で、そのことに気付かない人々も少なからずいるようです。相変わらず大きな新病院を作ろうとしたり、あるいは病院の再編・統合に反対したり……。たとえば広島県では、県立広島病院(712床)、JR広島病院(275床、2025年度からは二葉の里病院)、中電病院(248床、企業立)の3病院と、広島がん高精度放射線治療センター(HIPRAC、広島県医師会運営)を加えた4施設を統合して新病院を作る計画が進んでいます。計画では、新病院は地上16階、地下1階で1,000床規模。JR広島病院の隣接地に全面新築予定で、総事業費は約1,300~1,400億円を見込んでいるそうです。県は4月に先行して新病院を経営する地方独立行政法人を設立、当初は県立広島病院や安芸津病院などの運営を移し、2030年度から新病院の経営を行うことになっています。しかし、3月1日付の中国新聞などの報道によれば、この地方独立行政法人は2病院の資金を引き継ぐ結果、最初から18億円の赤字になる見込みだそうです。そうした理由から広島県は2025年度の一般会計当初予算案に計65億円の貸付金を計上する計画です。新病院開設前から運営資金が不足する事態に、県議会では「見通し」の甘さを指摘する声が相次いだようです。さらに、1,300~1,400億円と試算していた総事業費も世界的な資材価格高騰に伴って大幅な増額となる可能性もあり、計画の抜本的な見直しが避けられない状況となっています。大風呂敷を広げて、結局頓挫してしまった順天堂大の埼玉新病院計画大風呂敷を広げて、結局頓挫してしまった病院計画ということでは、本連載の「第242回 病院経営者には人ごとでない順天堂大の埼玉新病院建設断念、『コロナ禍前に建て替えをしていない病院はもう建て替え不可能、落ちこぼれていくだけ』と某コンサルタント」で書いた、順天堂大の埼玉新病院建設計画が記憶に新しいところです。このケースは800床の新病院計画でした。順大のWebサイトによれば、2015年時点の総事業費は建設費709.5億円、機器・備品・システム124.3億円で計834億円。それが2024年時点では建設費1640.3億円、機器・備品・システム546.2億円で計2,186億円に膨らんでいました。9年余りで建設費は2.3倍、機器・備品・システムは4.4倍です。ちなみに建設費は昨年2023年11月予想では936.2億円と漸増程度でしたが、その後8ヵ月余で704億円も増加しています。順天堂大の埼玉新病院は800床規模で事業費が当初予定の2.6倍、2,000億円超まで総事業が膨らんでいまい、計画断念に追い込まれたわけです。建設費、機器・備品・システム費の高騰ぶりを考えると、広島県の新病院計画の行く末が案じられます。聞こえがいい超急性期機能の充実ばかりに焦点を絞った計画が相変わらず各地で頻出首長や行政の人間はなぜ財政的に大赤字になることが見えているのに、立派な病院を作りたがるのでしょうか。また、せっかく再編・統合する計画を採用したのに、なぜまた身分不相応と思われる大病院を作ろうとするのでしょうか。高度成長期やまだ人口が増加傾向だった時代ならともかく、今となっては首都圏ですらそんな計画は自殺行為です。今後、10年、20年間に地域の医療・介護マーケットがどう変化していくかは、人口統計などを見れば明らかです。地域においてどんな機能がどれくらい必要か、あるいはどんな施設、機能を残していけばいいのかも、冷静に考えればわかるはずです。にもかかわらず、聞こえがいい(あるいは住民受けが良い)超急性期機能の充実ばかりに焦点を絞った計画が各地で相変わらず頻出しているのは、県・市町村の首長や行政職が日本の医療マーケットの現状や、国が進めてきた施策「地域医療構想」を理解していないためとも言えます。ただ、そうした現実無視だった地方の現場にも少しは変化の兆しが見え始めているようです。(この項続く)

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日本における片頭痛診療の現状、今求められることとは

 日本では、片頭痛を治療する医療機関および医師の専門分野における実際の治療パターンに関する調査は十分に行われていない。慶應義塾大学の滝沢 翼氏らは、日本の片頭痛患者の実際の臨床診療および治療パターンを医療機関や医師の専門分野別に評価するため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。PLoS One誌2024年12月19日号の報告。 2018年1月〜2023年6月のJMDC Incより匿名化された片頭痛患者のレセプトデータを収集した。片頭痛を治療する医療機関および医師の専門分野別に患者の特性や治療パターンを評価した。 主な内容は以下のとおり。・対象は、片頭痛患者23万1,156例(平均年齢:38.8±11.8歳、女性の割合:65.3%)。・クリニックで初回処方を受けた患者は81.8%、画像検査を行った患者は42.5%、初回診断時に一般内科を受診した患者は44.4%、脳神経外科を受診した患者は25.9%。・画像検査の実施率は、専門医のいるクリニックで59.4%、専門医のいる病院で59.1%、専門医のいない病院で32.9%、専門医のいないクリニックで26.9%。・全体として、急性期治療を受けた患者は95.6%、予防治療を受けた患者は21.8%。・専門医のいる施設といない施設を比較すると、専門医のいる施設ではトリプタンの処方頻度が高く(67.9% vs.44.9%)、アセトアミノフェンおよびNSAIDsの処方頻度が低かった(52.4% vs.69.2%)。・予防治療の頻度は、専門医がいる施設(27.4%)のほうがいない施設(15.7%)より高く、医療機関の種類を問わず年々増加していた。 著者らは「日本の片頭痛患者のうち、初回診断時に専門医のいる施設を受診した患者は半数のみであり、専門医は非専門医よりも、片頭痛特有の薬剤および予防薬を使用する傾向が高かった」とし「片頭痛患者に対し専門医受診の必要性を広め、専門医と非専門医の医療連携を強化することが求められる」と結論付けている。

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第243回 広がるCGP検査だが、コンパニオン診断薬として使う場合の診療報酬の低さゆえ、乳がんの治療薬トルカプが患者に使用されない事態に

メガバンクの行員の所業も“闇バイト”並の世の中にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。最近、証券会社や金融機関など、犯罪からは縁遠そうな企業の社員などによる悪質な犯罪が次々と表沙汰になっています。金融庁や東京証券取引所などでインサイダー取引の疑惑が明るみになったり、野村証券の元社員が強殺未遂罪で起訴されたり、三菱UFJ銀行の元行員が貸金庫から顧客の現金や貴金属を盗んだりと、もはや一流大出の大企業のエリートだからと言って、信用できる時代ではなくなってきています。野村証券は12月3日、元社員が強盗殺人未遂と放火の罪で起訴された事件を受けて、奥田 健太郎社長らが記者会見を開き、経営幹部10人が役員報酬を自主返上すると明らかにしました。12月6日には三菱UFJ銀行の新たな不祥事が明るみに出ました。同日付の日経バイオテクは、「三菱UFJ銀行の管理職の元行員、カルナバイオへの脅迫などで起訴」というニュースを発信、バイオベンチャー、カルナバイオサイエンスに誹謗中傷や脅迫をしていたなどとして、11月7日に神戸地検に強要未遂罪で起訴された50代の被告人が、三菱UFJ銀行の管理職の元行員(起訴後に懲戒解雇)だったと報じています。同記事によれば、「カルナバイオサイエンス役員の写真を貼り付けて『無能な経営者』と誹謗中傷したり、『死ね』と脅迫したりなど悪質性が高いことから、同社は警察に相談。2024年8月1日に兵庫県警は威力業務妨害や脅迫の容疑で元行員を逮捕した。その後、2024年11月7日に神戸地検は、脅迫罪よりも重く、罰金刑が設けられていない強要未遂罪で元行員を起訴した」とのことです。また、この元行員は三菱UFJ銀行の内規に違反する株取引を行っていたとも書かれています。貸金庫から顧客の現金や貴金属を盗んだり、顧客を脅迫したりと、もはや日本を代表するメガバンクとは思えない行員たちの所業の数々。同行の頭取は12月16日に記者会見を開き、被害額が10数億円に上るという貸金庫窃盗について謝罪しましたが、頭取や担当役員の発言には“個人の犯罪”として収束させようという意図が見え隠れし、行員の管理や教育というところまでは目が届いていないようでした。いずれにせよ、「銀行員は信用できる」(あるいは、銀行員の悪行を隠蔽できていた)時代の終焉を感じさせます。皆さんも重々お気を付けください。さて今回は、診療報酬の仕組みの不備から、乳がん治療薬「トルカプ」の使用に医療現場で制限がかかり、本来、同薬の恩恵が受けられるはずの患者が使用できない事態になっているというニュースを取り上げます。こちらも先月、日経バイオテクが報じたものです。銀行員の不祥事のスクープから乳がん治療薬の最新動向まで、実に幅広い取材領域で頭が下がります。保険適用から5年超が経過したCGP検査日経バイオテクの11月18日号の特集記事「保険診療下でのがんゲノム医療に課題が露呈」は、2019年6月の保険適用から5年超が経過した包括的がんゲノムプロファイリング検査(以下、CGP検査)について現状と課題をまとめており、とても参考になりました。CGP検査は、がんの組織を使って多数の遺伝子を同時に調べる検査のことです。標準治療がない固形がん患者と、標準治療が終了(または終了見込み)となった固形がん患者が対象で、実施できる医療機関はがんゲノム医療中核拠点病院、がんゲノム医療拠点病院、がんゲノム医療連携病院に限られており、全国で273施設あります。このように全国に広がってきたCGP検査ですが、同記事によれば、「CGP検査をコンパニオン診断の目的で使用するのが難しく、一部の抗がん薬が使えない状態が生じている」とのことです。コンパニオン診断とは、ある治療薬が患者さんに効果があるかどうかを治療の前にあらかじめ検査することで、その診断のために使う薬はコンパニオン診断薬と呼ばれます。最近では、抗がん薬が新たに承認される際、その薬の効果を判定するためのコンパニオン診断薬として、CGP検査がセットで承認されるケースが増えています。標準治療がない固形がん患者らへのCGP検査は計5万6,000点だが…コンパニオン診断薬としてCGP検査を実施する場合、少なからぬ金銭的問題が生じます。それは、「標準治療がない固形がん患者と、標準治療が終了(または終了見込み)となった固形がん患者を対象」にがんゲノム医療中核拠点病院等がCGP検査を実施する場合と、一般の病院がコンパニオン診断薬としてCGP検査を実施する場合とで診療報酬が大きく異なるためです。具体的には、がんゲノム医療中核拠点病院等が、標準治療がない固形がん患者らにCGP検査を実施する場合、「がんゲノムプロファイリング検査」として4万4,000点、「がんゲノムプロファイリング評価提供料」として1万2,000点の合計5万6,000点(つまり56万円)を算定できるのに対し、一般の病院が通常のがん治療の一環でコンパニオン診断薬としてCGP検査を実施する場合は、「悪性腫瘍組織検査」の2,500点〜1万2,000点や、「BRCA1/2遺伝子検査」の2万200点しか算定できないのです。そうなると、得られる診療報酬がCGP検査で検査会社に支払う費用(相場は56万円の8割強程度の模様)よりも下回り、医療機関にとっては「持ち出し」となってしまうのです。日経バイオテクはこうした状況から、「PCR検査などCGP検査以外の検査が保険適用されていれば問題にはならないが、コンパニオン診断薬がCGP検査しか無い抗がん薬では、赤字覚悟でCGP検査を実施する医療機関はほぼ無く、患者にとっては死活問題になる」と書いています。トルカプが承認されたことで問題が顕在化もっとも、これまでもコンパニオン診断薬がCGP検査しかない抗がん薬は複数あったものの、まれな遺伝子変異を対象とした薬が主で、問題が大きくなることはありませんでした。しかし、2024年3月に乳がんの治療薬、トルカプ(一般名:カピバセルチブ)が承認されたことでこの問題が顕在化、「持ち出し」を避けたい医療機関が、同薬を本来使うべき患者の初回治療で使わない事態が生じているのです。トルカプは「内分泌療法後に増悪したPIK3CA、AKT1またはPTEN遺伝子変異を有するホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術切除不能または再発乳がん」を効能・効果とした薬剤です。手術不能の患者や再発した患者が初回治療で使える薬剤なので、投与対象の患者は多数に上るとみられています。ところが、トルカプのコンパニオン診断薬として認められているのは、「FoundationOne CDX がんゲノムプロファイル」というCGP検査のみです。医療機関がトルカプを初回治療で乳がん患者に使おうとした場合、この検査を行わなければなりませんが、その場合算定できる診療報酬は「悪性腫瘍組織検査」などで数千点、複数のコンパニオン診断を併せて実施したとしても最大1万6,000点程度に留まります。これでは、一般の医療機関がトルカプ使用に二の足を踏むのは当然と言えます。使えば患者1人当たり数十万円の赤字になってしまうのですから。日経バイオテクは「トルカプは標準治療が終了した乳がん患者にしか使われていない。臨床試験で効果が確認されている治療ラインとは異なるタイミングでの処方になっている」という同薬メーカーのアストラゼネカ担当者の言葉も紹介しています。今後もトルカプのようなケースは増えていく“本来使える人が使えていない”という状況を厚生労働省も認識はしているようですが、日経バイオテクの取材に対して保健局医療課の担当者は「専門家の意見を聞きながら引き続き検討していく」と答えるのみです。一方、アストラゼネカはCGP検査を用いないコンパニオン診断薬の開発に着手しているとのことです。日経バイオテクは、抗がん薬の臨床試験においてCGP検査が広く活用されており、結果、承認される際にCGP検査がコンパニオン診断薬として紐づけられることから、「今後もトルカプのようなケースは増えていくとみられる」と書いています。CGP検査がコンパニオン診断薬として使われる際の診療報酬体系については、次期改定を待たず、早急な見直しが必要だと考えられます。

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第216回 マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院1.マイコプラズマ肺炎5週連続で過去最多更新、厚労省が注意喚起/厚労省マイコプラズマ肺炎の感染拡大が続いている。国立感染症研究所の発表によると、10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は2.49人で、5週連続で過去最多を更新した。都道府県別では、愛知県の5.4人が最も多く、次いで福井県(5.33人)、青森県(5.0人)、東京都(4.84人)、埼玉県(4.67人)と続いている。マイコプラズマ肺炎は、肺炎マイコプラズマ細菌による呼吸器感染症で、咳や発熱が主な症状。子供や若者に多くみられるが、大人も感染する可能性がある。厚生労働省は、咳が長引くなどの症状がある場合は医療機関を受診するよう呼びかけている。また、感染拡大防止のため、手洗い、マスク着用などの基本的な感染対策を徹底するよう促している。一方、手足口病も依然として高止まりが続いている。10月21~27日の1週間における定点医療機関当たりの患者報告数は8.06人で、警報レベル(5.0人)を超えている。手足口病は、主に乳幼児がかかるウイルス性の感染症で、発熱や口内炎、手足の発疹などが主な症状。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、接触感染。厚労省は、手足口病の流行状況を注視し、引き続き予防対策の徹底を呼びかけている。参考1)全数把握疾患、報告数、累積報告数、都道府県別(国立感染症研究所)2)マイコプラズマ肺炎が5週連続で過去最多 手足口病も高止まり 感染研(CB news)3)マイコプラズマ肺炎が猛威=感染者、4週連続で過去最多更新-厚労省「手洗い、マスク着用を」(時事通信)2.新たな地域医療構想で、2次救急病院はどう分類? 定義が課題に/厚労省2026年度から始まる新たな地域医療構想に向け、厚生労働省は病院機能報告制度の具体化を進めている。11月8日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」では、地域ごとに整備する4つの機能と広域的な機能を担う大学病院本院の機能が提示された。地域ごとの機能は、(1)高齢者救急等機能、(2)在宅医療連携機能、(3)急性期拠点機能、(4)専門等機能(リハビリや専門性の高い医療など)となっており、1つの医療機関が複数の機能を併せ持つこともあり得るとされた。広域的な機能を担う大学病院本院は、「医育および広域診療機能」として、医師派遣、医師の卒前・卒後教育、移植や3次救急などの広域医療を担っていくこととされた。急性期拠点機能については、全国の2次救急医療機関(3,194施設)の半数以上が、救急車の受け入れが23年度に500件未満だったことから、手術や救急など医療資源を多く要する症例を集約化し、医療の質を確保するため、報告できる病院数を地域ごとに設定する方針となった。検討会では、機能の名称や定義が分かりにくいという意見や、高齢者救急等機能と急性期拠点機能の役割分担、2次救急病院の分類などについて議論があった。厚労省は、これらの意見を踏まえ、名称や定義を明確化し、2025年度中に新たな地域医療構想の策定ガイドラインを示す予定。参考1)第11回新たな地域医療構想等に関する検討会[資料](厚労省)2)医療機関機能4プラス1案示す、検討継続 厚労省「複数報告」も想定(CB news)3)新地域医療構想で報告する病院機能、高齢者救急等/在宅医療連携/急性期拠点/専門等/医育・広域診療等としてはどうか-新地域医療構想検討会(Gem Med)3.外科医不足解消へ集約化・重点化を検討 厚労省が提案/厚労省厚生労働省は10月30日に「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足の解消に向け、外科医療の集約化・重点化を検討課題として提案した。背景には、外科医の増加がほかの診療科に比べて緩慢であること、時間外・休日労働の割合が高いことなど、外科医の労働環境の厳しさが挙げられている。検討会では、外科医の減少に対する学会の取り組みとして、日本消化器外科学会と日本脳神経外科学会からヒアリングが行われ、両学会からは、症例数の多い施設ほど治療成績が向上する傾向があること、救急対応など地域医療の均てん化が必要な領域もあることなどが報告された。構成員からは、集約化の必要性や、地域や領域に応じた対応の必要性などが指摘された。一方、集約化によって医師の都市部集中が加速する可能性や、地域での専門医育成の難しさなどが課題として挙げられた。厚労省では、これらの意見を踏まえ、新たな地域医療構想等に関する検討会に報告し、医師偏在対策の総合的な対策パッケージ策定に向けて検討を進める方針。参考1)第7回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科の集約化・重点化は医師偏在対策で「喫緊の課題」、厚労省が提案(日経メディカル)3)急性期病院の集約化・重点化、「病院経営の維持、医療の質の確保」等に加え「医師の診療科偏在の是正」も期待できる-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4.信頼できるがん情報はどこに? 半数近くの患者はがん情報が入手困難/国立がん研国立がん研究センターなどが、2023年12月に実施したアンケート調査によるとオンラインでがん情報を入手する際に困難を感じているがん患者が45%に上ることが明らかになった。この調査は、インターネット上で約1,000人のがん患者を対象に行われ、オンラインでの情報収集における課題や情報源、情報活用について尋ねたもの。回答者の45%が「オンラインでがん関連情報を得る際に困難を感じたことがある」と回答し、そのうち5%は「常に困難を感じている/感じていた」と回答した。困難を感じた理由としては、「自分に合った情報をみつけることができない」「さまざまな情報が分散して掲載されている」「専門用語が多い」といった点が挙げられた。情報の入手元としては、検索エンジンが94%と最も多く、次いで動画共有サービスが30%、SNSが17%となった。この調査結果を受け、国立がん研究センターや全国がん患者団体連合会などは、「がん情報の均てん化を目指す会」を立ち上げた。同会は、アンケート調査の結果を踏まえて、患者が理解しやすい情報発信の必要性や、科学的根拠に基づかない情報への対応など、3つの課題と提言をまとめた。情報源に関する課題では、専門用語を避け、患者が理解しやすい情報発信が求められるとともに、信頼できる情報源の活用を促進するべきだと提言している。情報へのリーチに関する課題では、患者が適切な情報にアクセスできるよう、信頼できる情報を集めたポータルサイトの作成や、優良なWebサイト同士の相互リンクによる誘導強化を提言している。情報の活用に関する課題では、医師やがん相談支援センターによるサポート体制を強化し、患者が情報の意味を理解し、自分の状況に合わせて解釈できるよう支援するとともに、患者向けオンラインユーザーガイドを作成し、情報活用力を高めるための普及啓発を行うべきだと提言している。同会は今後、これらの提言を基に、具体的な対策を検討していく。参考1)がん情報のネットでの収集 半数近くが「困難」経験 患者調査で判明(朝日新聞)2)がん情報の均てん化に向けて~がん患者がオンライン上でがん情報を入手・活用する際の課題と提言~(がん情報の均てん化を目指す会)5.出生数減少、過去最少を更新 社会保障制度への影響も懸念/厚労省厚生労働省が11月5日に発表した人口動態統計によると、2024年上半期(1~6月)の出生数は、前年同期比6.3%減の32万9,998人だった。このペースで推移すると、2024年の年間出生数は70万人を割り込み、過去最少を更新する可能性が高まっている。出生数の減少は8年連続で、少子化に歯止めがかからない深刻な状況。背景には、未婚化・晩婚化の進行に加え、コロナ禍で結婚や出産を控える人が増えたことが挙げられる。出生数の減少は、労働力人口の減少や消費の冷え込みなど、経済への影響も懸念され、また、医療や年金などの社会保障制度の維持も困難になる可能性がある。政府は、少子化対策として児童手当や育児休業給付の拡充などを進めているが、今後、抜本的な対策が求められている。参考1)人口動態統計(厚労省)2)24年上半期の出生数は33万人 初の70万人割れか 人口動態統計(毎日新聞)3)ことし上半期の出生数 約33万人 年間70万人下回るペースで減少(NHK)4)今年上半期の出生数は33万人届かず 過去最低だった去年を下回る見込み 厚労省発表(テレビ朝日)6.コロナ禍の補助金、不正受給21億円 会計検査院が厳正な対応を要求/会計検査院会計検査院は11月6日、2023年度の決算検査報告を公表し、新型コロナウイルス対策の交付金や補助金を巡り、医療機関による不正受給など、計648億円の国費の不適切な取り扱いを指摘した。報告書によると、コロナ禍で医療体制を整備するために支払われた国の補助金において、約21億円が過大に交付されていた。中には虚偽の申請や制度の理解不足によるものなど、悪質なケースも含まれていた。具体的な事例として、空き病床とコロナ診療で休止した病床を重複申請するなどした病床確保料の過大請求、トイレや洗濯機置き場を診察室としてカウントするなどした発熱外来の補助金の不正受給、オペレーターの勤務時間を水増しするなどしたワクチン接種コールセンター業務の不正請求、納入されていない設備を納入したと虚偽報告などした救急・小児科医療機関の補助金不正受給などが挙げられている。会計検査院は、事業者側の制度理解不足や行政側の審査の甘さを指摘し、再発防止を求めている。また、コロナ交付金については、総額18兆3,000億円のうち約2割の約3兆2,000億円が不要になっていたことも判明した。使途に制限がないことから、「イカのモニュメント」や「ゆるキャラの着ぐるみ代」など、コロナ対策などとの関連性が不明瞭な事業に交付金が使われたケースもあり、批判が出ている。会計検査院は、自由度の高い交付金事業は、効果検証を行い国民に情報提供する必要があると指摘している。参考1)公金648億円余りが不適切取り扱いと指摘 会計検査院(NHK)2)コロナ医療支援21億円過大 トイレも「診察室」扱いで申請(日経新聞)3)今村洋史・元衆院議員の病院、新型コロナ診療体制の補助金1.6億円を不当申請…「考え甘かった」(読売新聞)

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漫然使用のツロブテロールテープの処方意図を探って中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第61回

 今回は、長期使用されていたLABA貼付薬について疑問を抱き、スタッフ間の情報共有および医療連携を通じて中止を提案した事例を紹介します。患者さんが使用している薬剤の服用理由や開始の経緯が不明瞭な場合、改めて確認することが重要です。そうすることで、思わぬ漫然使用が明らかになることがあります。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患アルツハイマー型認知症、高血圧、前立腺肥大症、糖尿病介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.アムロジピン錠2.5mg 1錠 分1 朝食後2.ジスチグミン錠0.5mg 1錠 分1 朝食後3.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 朝食後4.ダパグリフロジン錠10mg 1錠 分1 朝食後5.テネリグリプチン錠20mg 1錠 分1 朝食後6.メマンチン錠20mg 1錠 分1 夕食後7.レンボレキサント錠5mg 1錠 分1 就寝前8.ツロブテロールテープ2mg 1枚 14時貼付本症例のポイントこの患者さんは、約3ヵ月前に施設に入居しました。薬剤の自己管理能力が乏しく、投薬や管理は施設職員が行っていました。嚥下機能に問題はなく、食事量もムラがなかったため、経口血糖降下薬のシックデイに関する懸念もない状況でした。2週間に1回の施設訪問の際に服用状況のモニタリングを実施したところ、ツロブテロールテープの使用に疑問を感じました。ツロブテロールテープは、気管支喘息や急性・慢性気管支炎、肺気腫を適応疾患1)としていますが、この患者さんにはこれらの既往がなく、夜間の咳や呼吸困難感などの症状も認められませんでした。そこで、初回介入した担当薬剤師の記録を確認したところ、施設入居前にCOVID-19関連肺炎で入院していたことが判明しました。COVID-19関連肺炎の急性期症状緩和のために処方されたツロブテロールテープが、退院後も漫然と継続されていた可能性があります。現状の呼吸機能や自覚症状から治療負担を検討し、テープの中止を提案することにしました。医師への相談と経過医師の訪問診療に同席し、ツロブテロールテープが3ヵ月間使用されていることを伝え、気管支疾患の既往や症状緩和の目的があるかどうかを確認しました。医師からも該当疾患がないことを聴取し、やはりCOVID-19関連肺炎の急性期治療の一環として使用されていたと推察されました。長期的なLABA貼付薬の使用は適切ではないという医師の判断により、当日の昼からテープが中止となりました。介護士には意図を説明するとともに、念のため昼夜の症状モニタリングを依頼しました。その後、夜間の呼吸困難感や咳症状は現れずに1週間が経過しました。長期的な観察でも気道症状の変化はなく、ツロブテロールテープの完全中止に成功しました。1)ホクナリンテープ添付文書

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第201回 医師多数県で医学部定員を削減、医師多数区域の開業要件も検討へ/厚労省

<先週の動き>1.医師多数県で医学部定員を削減、医師多数区域の開業要件も検討へ/厚労省2.コロナ後遺症、半年後も8.5%に深刻な影響/厚労省3.かかりつけ医機能、新たな報告制度で地域医療連携を強化へ/厚労省4.特定機能病院の要件、医師派遣機能も考慮して見直しへ/厚労省5.協会けんぽ、2023年度の黒字は4,662億円、高齢化で財政不安も/協会けんぽ6.旧優生保護法の違憲判決で国に賠償命令/最高裁1.医師多数県で医学部定員を削減、医師多数区域の開業要件も検討へ/厚労省厚生労働省は7月3日、第5回「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、2025年度の医学部定員について、医師が多い地域から医師が少ない地域に「臨時定員地域枠」を移行する方針を示した。医師多数県では2024年度の191枠が154枠に減少し、16都府県で計30枠減少する見込み。この調整により、医師少数県での地域医療の充実が期待されている。さらに、厚労省は「医師多数区域での開業要件」の検討も示唆し、医師偏在対策を総合的に進める方針で、無床診療所の開業制限や医師多数区域での保険医定員制などが議論の対象となるとみられている。地域枠の活用については、日本私立医科大学協会の小笠原 邦昭氏が、異なる診療科間での地域枠の交換を提案したほか、広域連携型プログラムの導入も評価されたが、調整のための時間が必要だという意見も出された。総合診療専門医の育成については、リカレント教育の重要性が指摘され、経済的インセンティブの必要性も強調された。さらに、サブスペシャリティ専門医の取得を容易にするための制度設計が求められている。新専門医制度について、日本専門医機構はシーリング制度の効果を検証中であり、制度改革の必要性を認識している。とくに、地域や診療科による偏在の是正に向けた取り組みが進められている。今後、厚労省は、各論点に関する議論を深め、年末までに「医師偏在対策の総合的なパッケージ」を策定する予定。これにより、地域間の医師の偏在が是正され、地域医療が向上することを期待しているが、偏在の是正が進むよう引き続き検討を重ねていくとみられる。参考1)第5回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)医学部臨時定員、医師多数県で25年度は30枠減へ 厚労省検討会(CB news)3)医学部地域枠を削減へ 厚労省、医師過剰の16都府県で(日経新聞)2.コロナ後遺症、半年後も8.5%に深刻な影響/厚労省厚生労働省の研究班は、7月1日に新型コロナウイルス(COVID-19)感染後の後遺症患者のうち、8.5%が感染から約半年後も日常生活に深刻な影響を受けていることを発表した。この調査は、2022年7~8月にオミクロン株流行期に感染した20~60代の8,392人を対象に行われた。アンケート結果では、感染者の11.8%にあたる992人が後遺症として長引く症状を報告。その中でも84人が「日常生活に重大な支障を感じている」と回答した。主な症状としては、味覚障害、筋力低下、嗅覚障害、脱毛、集中力低下、そして「ブレインフォグ」と呼ばれる頭に霧がかかったような感覚などが含まれる。とくに女性や基礎疾患のある人、感染時の症状が重かった人で後遺症の割合が高かった一方、ワクチン接種を受けた人ではその割合が低かった。この結果は、COVID-19の後遺症が長期間にわたり日常生活に大きな影響を及ぼす可能性を示しており、全国での他の医療機関でも同様の後遺症報告があり、医療体制や患者支援の改善が急務とされる。また、研究班が、一般住民を対象に感染者と非感染者を比較し、後遺症の頻度や関連要因を調査した結果、感染者の罹患後症状の頻度が非感染者に比べて約2倍高いことが確認された。今後、後遺症のリスク要因や長期的な影響についての詳細な研究が求められるために、厚労省では引き続き、COVID-19の後遺症に対する対応策を進める予定。参考1)コロナ後遺症8.5%「半年後も」日常生活に深刻な影響 厚労省研究班(日経新聞)2)コロナ後遺症患者、半年後も日常生活に深刻な影響8.5% 厚労省(毎日新聞)3)オミクロン株(BA.5系統)流行期のCOVID-19感染後の罹患後症状の頻度とリスク要因の検討(NCGM)3.かかりつけ医機能、新たな報告制度で地域医療連携を強化へ/厚労省2024年7月5日、厚生労働省が病院や診療所による「かかりつけ医機能」の発揮を促進するために「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を開催し、これまでの議論をまとめた整理案を提示した。かかりつけ医機能については、2025年4月に施行される新たな報告制度を中心に据え、地域ごとに病院や診療所の役割を協議し、地域の医療機能の底上げを図ることを目的としている。整理案によれば、病院や診療所は「日常的な診療を総合的・継続的に行う機能」(1号機能)と、時間外診療や在宅医療、介護連携などの「2号機能」について、毎年1~3月に都道府県へ報告する。都道府県はこれらの報告を公表し、地域の「協議の場」で共有する。この「協議の場」には、都道府県や医療関係者だけでなく、市町村、介護関係者、住民・患者も参加し、地域の医療課題について協議するものとしている。厚労省は、1号機能として「専門を中心に総合的・継続的に実施」や「幅広い領域のプライマリケアを実施」などのモデルをガイドラインで示す予定。また、地域の医療連携を強化するため、複数医師による診療所の配置や、複数診療所によるグループ診療の推進も提案している。厚労省は、来年4月の報告制度発足に向け、自治体向けにガイドライン(GL)を作成する方針で、今月中に取りまとめを目指すとしている。参考1)第7回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会[資料](厚労省)2)かかりつけ医機能報告制度の詳細が概ね固まる、17診療領域・40疾患等への対応状況報告を全医療機関に求める-かかりつけ医機能分科会(Gem Med)3)かかりつけ医機能、対応可能な一次診療について「診療領域」で報告へ(日経ヘルスケア)4)「かかりつけ医機能」データ活用して役割協議 厚労省が「議論の整理案」示す(CB news)4.特定機能病院の要件、医師派遣機能も考慮して見直しへ/厚労省厚生労働省は、7月3日に特定機能病院の承認要件の見直しを議論する検討会を5年ぶりに開催した。特定機能病院とは、高度な医療の提供、高度医療技術の開発、および研修を行う能力を備えた病院とされ、現在、全国には特定機能病院が88施設あるが、うち79施設は大学病院。今回の検討会は、社会保障審議会の医療分科会が3月に提出した意見書を受け、特定機能病院の要件を現代の医療ニーズに合致させるための見直しを目指す。この日の会合では、以下の論点が示された。(1)高度な医療の提供の方向性、(2)医療技術の開発・評価の方向性、(3)医療に関する研修の在り方、(4)医師派遣機能の承認要件への組み込みなど。とくに大学病院からの医師派遣機能を承認要件に加えるべきだとの意見が出されたほか、論文発表の質の確保、特定機能病院の機能や役割を明確化する必要性も議論された。特定機能病院の承認要件は、病床数や診療科数、紹介率、逆紹介率、論文発表数など多岐にわたっており、これらの要件を満たすことで、高度な医療提供能力が証明される仕組みとなっている。一方、現行の承認要件は時代に合わない部分もあり、特定機能病院と一般病院との違いが曖昧になってきているという指摘もされている。検討会では、特定機能病院の機能をさらに細かく分類し、承認要件を見直す方向で議論が進められる見込み。たとえば、「特定領域型」の特定機能病院の承認要件を明確化し、地域医療への貢献や医師派遣機能も承認要件に加えることが検討されているほか、承認要件には医療の質や研究の質も考慮されるべきだとの意見も出されている。今後、厚労省は各論点に関する議論を深め、年内に取りまとめを行う予定で、これをもとに特定機能病院の承認要件が見直される。参考1)第20回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会(厚労省)2)特定機能病院の要件見直し、年内をめどに取りまとめ 厚労省検討会 医師派遣機能の要件化求める声も(CB news)3)特定機能病院に求められる機能を改めて整理、類型の精緻化・承認要件見直しなどの必要性を検討-特定機能病院・地域医療支援病院あり方検討会(Gem Med)5.協会けんぽ、2023年度の黒字は4,662億円、高齢化で財政不安も/協会けんぽ中小企業の従業員やその家族が加入する全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)は、2023(令和5)年度の決算見込み(医療分)について公表した。それによると、2023年度の決算では、4,662億円の黒字を見込んでいる。黒字は14年連続で、賃上げによる保険料収入の増加が主な要因とみられる。協会けんぽの収入は前年度比2.7%増の11兆6,104億円で、賃金の伸びに伴い保険料収入が増えたことが背景にあり、とくに月額賃金が平均30.4万円と過去最高を記録したことが収入増に寄与した。一方、支出は11兆1,442億円で、前年度比2.5%増となった。支出の増加要因として、新型コロナウイルス禍後の社会活動再開に伴うインフルエンザなどの呼吸器系疾患の患者増加や75歳以上の後期高齢者医療制度への拠出金の増加が挙げられている。また、医療給付費は6兆4,542億円に達し、前年度に続いて過去最高を更新した。しかし、全国健康保険協会は、今回の決算の発表と同時に、今後の財政状況について楽観視できないとしている。その理由として、今後、加入者の高齢化や医療の高度化に伴い、団塊の世代が後期高齢者になる時期に支援金の急増が見込まれているためであり、財政の健全化と持続可能な運営が求められていく。参考1)2023(令和5)年度協会けんぽの決算見込みについて(協会けんぽ)2)「協会けんぽ」賃上げによる保険料増などで4,600億円余の黒字(NHK)3)協会けんぽ黒字、23年度4,662億円 賃上げで保険料増(日経新聞)6.旧優生保護法の違憲判決で国に賠償命令/最高裁旧優生保護法に基づく強制不妊手術を受けた被害者が国に損害賠償を求めた裁判で、最高裁判所大法廷は7月3日に「旧優生保護法が憲法違反である」と判断し、国に賠償を命じる判決を下した。旧優生保護法は、1948~1996年まで施行され、障害者を対象に強制的な不妊手術を認めていた。これにより約2万5,000人が手術を受けたとされる。最高裁は、旧優生保護法が「不良な子孫の淘汰」を目的にしており、障害者を差別的に扱い、生殖能力を奪うことは憲法13条および14条に違反するとした。また、不妊手術が当時の社会状況を考慮しても正当化できないとし、本人の同意があった場合も含めて手術の強制性を指摘した。さらに、国会議員の立法行為自体が違法であるとも断じた。国は20年以上前の不法行為について賠償請求権が消滅する「除斥期間」を理由に訴えを退けるよう主張したが、最高裁はこの主張を認めず、被害者の権利行使が困難であったことや旧法廃止後も補償を行わなかった国の姿勢を問題視し、除斥期間の適用を否定した。今回の判決で、国には被害者1人当たり1,100~1,650万円(その配偶者には220万円)の賠償責任が確定した。この判決は、全国の被害者救済に道を開くものであり、旧優生保護法の被害者の全面救済が期待される。政府は判決を重く受け止め、早期の対応を行う必要に迫られている。参考1)旧優生保護法は「違憲」 国に賠償命じる 最高裁、除斥期間適用せず(朝日新聞)2)旧優生保護法は憲法違反 国に賠償命じる判決 最高裁(NHK)3)旧優生保護法「違憲」、強制不妊で国に賠償命令…最高裁が「除斥期間」不適用で統一判断(読売新聞)

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「糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024」発行/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17~19日に東京国際フォーラムなどで開催された。 2024年1月1日に石川県をはじめとする北陸地方を襲った「能登半島地震」は記憶に新しい。災害時に糖尿病患者やその家族へのサポートなどはどのようにあるべきであろう。 本稿では「災害時の糖尿病診療支援と糖尿病対策推進会議の活動」より「災害時糖尿病診療マニュアル2024の概要 総論」(講演者:荒木 栄一氏[熊本大学名誉教授/菊池郡市医師会立病院/熊本保健科学大学健康・スポーツ教育研究センター 特任教授])をお届けする。災害で糖尿病患者は簡単に弱者になる 地震、洪水などわが国は災害が多く、1,000人以上の犠牲者が発生した災害が多数ある。現在では南海トラフ地震や首都直下型地震、線状降水帯による水害などへの備えがなされている。しかし、それでもこうした災害時には、糖尿病患者は容易に代謝失調やインスリンの不足などにより災害弱者となりうる。 とくに食事療法での栄養の偏りや治療薬の確保が懸念されている。そこで、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の2つの学会は『糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024』を制作し、発行した。これは2014年に日本糖尿病学会「東日本大震災から見た災害時の糖尿病医療体制構築のための調査研究」委員会が作成した災害時の診療マニュアルを10年ぶりに改訂したもので、熊本地震での知見の追加のほか、新規糖尿病治療薬など最新の診療状況にも対応し、「糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)」についても触れたもので、今回日本糖尿病協会も参画し、広く知見が記述されている。4章立てで災害時の糖尿病診療、平時の準備を説明 本マニュアルは大きく4章立てで構成され、荒木氏が説明した総論部分は下記のとおりである。〔I 総論 災害に対する備え〕「1 ライフラインと情報の整備」では、ライフラインの確保、災害時の連絡体制、バックアップを記載している。「2 食量や医薬品の備蓄」では、平時からの備蓄食料のローテーション消費や主治医と医薬品の備蓄や調達方法の相談を記載している。「3 医療機関の災害対応マニュアル、訓練」では、マニュアル整備とその見直し、災害時の人材の確保、院内の備品や食品の管理、地域との連携や訓練などを記載している。「4 地域の医療連携」では、連携の問題点と課題、災害時の医療連携を記載している。「5 災害時糖尿病医療従事者の教育」では、医療者への教育、平時の備えの指導(とくにシックデイ)、薬の調整や防災教育を記載している。「6 糖尿病患者への啓発」では、平時からの備えの啓発としてリーフレットの活用や正しい情報を得るための教育が記載されている。 また、総論以降の内容は次のとおりである。〔II 害時の糖尿病医療者の役割〕 災害派遣医療チーム(DMAT)、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)や医師やそのほかの医療従事者の役割などが記されている。〔III 個々の糖尿病病態への対応〕 全体的な注意事項、各治療(インスリン、経口薬、食事・運動療法のみ)での注意事項、合併症のある患者での対応、特別な配慮が必要な患者(妊婦、高齢者など)へのサポートが記されている。〔IV 患者の備え〕 避難所の確認や薬剤の備蓄、妊婦・高齢者などの特殊な患者への対応などが記されている。 その他コラムでは「シックデイ対策/インスリンポンプ使用者/COVID-19」などが記されている。 将来発生が危惧される大災害に対応するためにも、一読し、今できることから備えておきたい。

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第218回 2040年に向けさまざまな改革が本格始動、「骨太の方針2024」から見えてくる医療提供体制の近未来像

日本医師会会長選、松本氏大勝で2期目に突入こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。任期満了に伴う日本医師会の会長選は6月22日に投開票が行われ、現職の松本 吉郎氏が元副会長の松原 謙二氏を破り、再選を果たしました。投票総数378票で、松本氏334票、松原氏38票という、前回を上回る圧勝でした。エムスリーなどの報道によれば、選挙後に都内で開いた報告会で松本氏は、「財務省などから本当に強大な圧力がかかっており、多くの課題を抱えている。それに打ち勝つには、これまで以上に私ども役員がもっとしっかりと頑張って、先生方とも共闘して事に当たらなければ、本当に日本の医療が壊れてしまうと思う」と述べたとのことです。本連載の前回「第217回 迫る日医会長選、『もう日医の力は昔ほどではない』と元自民党医系議員、松本会長は再選後も“茨の道”か?」でも書いたように、財務省が提案してくるさまざまな政策に加え、秋にかけて激しさを増す政局にも翻弄される、まさに“茨の道”のスタートと言えそうです。2040年ころまでの医療政策の中心課題が盛り込まれた「骨太の方針2024」さて、今回は、6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」(骨太の方針2024)1)について書いてみたいと思います。今国会で成立した改正政治資金規制法を巡る与野党の激しい攻防の陰に隠れる形となり、例年に比べ、一般紙の報道は地味な印象でした。しかし、診療報酬・介護報酬の同時改定も終わり、新たな地域医療構想の検討も進む中、今回の「骨太」には、2040年頃までの医療政策の重点課題が盛り込まれています。ここでは医療提供体制関連の項目を中心に見てみたいと思います。かかりつけ医機能が発揮される制度整備と地域医療連携推進法人に言及、連携推進法人は4年連続で記述「骨太の方針2024」において医療や社会保障関連の内容は、主に「第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現」の「主要分野ごとの基本方針と重要課題(1)全世代型社会保障の構築」に書かれています。医療提供体制については、「国民目線に立ったかかりつけ医機能が発揮される制度整備、地域医療連携推進法人・社会福祉連携推進法人の活用、救急医療体制の確保、持続可能なドクターヘリ運航の推進や、居住地によらず安全に分べんできる周産期医療の確保、都道府県のガバナンスの強化を図る。地域医療構想について、2025年に向けて国がアウトリーチの伴走支援に取り組む」と、かかりつけ医機能が発揮される制度整備と地域医療連携推進法人に言及。本連載の「第214回 岸田首相、初夏の山形・酒田へ。2024年度から制度テコ入れの地域医療連携推進法人に再び脚光」でも予想したように、地域医療連携推進法人については4年連続の記述となり、同制度に対する国の期待を改めて感じ取ることができます。2040年頃を見据えた新たな“地域医療構想”の概要を年末までに現在検討が進む次なる地域医療構想については、「2040年頃を見据えて、医療・介護の複合ニーズを抱える85歳以上人口の増大や現役世代の減少等に対応できるよう、地域医療構想の対象範囲について、かかりつけ医機能や在宅医療、医療・介護連携、人材確保等を含めた地域の医療提供体制全体に拡大するとともに、病床機能の分化・連携に加えて、医療機関機能の明確化、都道府県の責務・権限や市町村の役割、財政支援の在り方等について、法制上の措置を含めて検討を行い、2024年末までに結論を得る」と明記、2040年頃を次の目標年に置いて、かかりつけ医機能や医療・介護連携についても盛り込んだ新たな”地域医療構想”(仮称)の概要を2024年末までに決めるとしています。かかりつけ医機能が発揮される制度整備に加え、次なる地域医療構想も2024年中にその概要が固まるわけで、医療関係団体にとって、今年がとても重要な年となることがこうした記述からも見て取れます。医師の偏在解消に向けた総合的な対策のパッケージも年末までに策定昨年の「骨太の方針」と比べた大きな変化は、医師の偏在解消対策についての記述が以下のような長文で入ったことでしょう(昨年は「実効性のある医師偏在対策」という文言のみ)。「医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在の是正を図るため、医師確保計画を深化させるとともに、医師養成過程での地域枠の活用、大学病院からの医師の派遣、総合的な診療能力を有する医師の育成、リカレント教育の実施等の必要な人材を確保するための取組、経済的インセンティブによる偏在是正、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法を組み合わせた取組の実施など、総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定する」。医師偏在については、本連載の「第208回 『地域ごとの医師の数の割り当てを、本気で考えなければならない時代に入ってきた』と武見厚労大臣、地域偏在、診療科偏在の解消に向け抜本策の検討スタート」で、武見 敬三厚生労働大臣が、規制の導入も視野に入れて医師偏在解消の具体策をまとめる方針を示した、と書きましたが、その意気込みがそのままこの長文につながった感じです。「骨太」に書かれた対策は“ごった煮”感もありますが、とにかくあらゆる手立てを尽くして医師偏在を解消するということのようです。これもまた「2024年末までに策定する」となっているのもポイントです。なお、1点気になったのは、「経済的インセンティブによる偏在是正」の文言が入っていることです。こちらは、本連載の「第209回 これぞ財務省の執念?財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も」で書いた、診療報酬への地域別単価導入と思われますが、財務省が(言葉を少し変えて)するりと潜り込ませたのでしょう。2024年末までにまとめられるという「総合的な対策のパッケージ」の内容に注目したいと思います。医療・介護DXについてはマイナ保険証を柱とする従来方針を改めて強調その他の医療関連の重要項目としては「DX」があります。「第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現」の中の「3.投資の拡大及び革新技術の社会実装による社会課題への対応」の「(1)DX」で、医療・介護DXについて言及、「政府を挙げて医療・介護DXを確実かつ着実に推進する。このため、マイナ保険証の利用の促進を図るとともに現行の健康保険証について2024年12月2日からの発行を終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する。『医療DXの推進に関する工程表』に基づき、『全国医療情報プラットフォーム』を構築するほか、電子カルテの導入や電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX、PHRの整備・普及を強力に進める。調剤録等の薬局情報のDX・標準化の検討を進める」と、マイナ保険証をベースとして、全国医療情報プラットフォームを構築するという従来方針を改めて強調しています。今年の「骨太の方針」は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)を2025年度に黒字化するという目標を盛り込みつつも、具体的な数値目標は設けられておらず、踏み込みが甘いとの見方がもっぱらです。また、岸田 文雄首相は「骨太の方針」を閣議決定した直後の記者会見で、物価高対策として電気・ガス代の補助や年金世帯への給付金支給を表明、「政府の歳出改革は一貫性を欠く」(6月22日付日本経済新聞)との批判もあります。とは言え、医療提供体制に関する項目については、「かかりつけ医機能」「次期地域構想」「医師偏在対策」「医療介護DX」とそれぞれの整合性が取れており、近未来を俯瞰する上では参考になる内容となっています。時間があれば、ご一読をお勧めします。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2024/内閣府

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第214回 岸田首相、初夏の山形・酒田へ。2024年度から制度テコ入れの地域医療連携推進法人に再び脚光

日本海総合病院と日本海ヘルスケアネットを視察こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。来週からはや6月、いよいよ夏本番です。新緑が映える6月の山は、紅葉の秋山よりも瑞々しく、1年の中で一番美しいと思います。初夏の山で私がとくに好きなのは、山形県の鳥海山です。6月の鳥海山は、それなりの装備が必要なため登山者もまだそれほど多くはなく、新緑と残雪の白のコントラストを存分に楽しむことができます。深田 久弥はその著書『日本百名山』で「名山と呼ばれるにはいろいろの見地があるが、山容秀麗という資格では、鳥海山は他に落ちない」と書くほどです。ただ、難点はあります。山が大きく、日帰りするには少々行程が長過ぎる点です。私も何度か登っているのですが、北西側の鉾立山荘から登る象潟口コースでは、スタート時間が遅かったこともあって頂上に辿り着けず、途中で敗退しています。来年あたりこのコースをリベンジしようかと考えているところです。さて、そんな鳥海山を眺望できる庄内平野に位置する山形県酒田市を、5月19日に岸田文雄首相が訪れました。目的は地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院の視察です。山形県の庄内地方では、日本海総合病院が中心となって、12の法人、1自治体で構成された地域医療連携推進法人・日本海ヘルスケアネットが組織され、様々な連携業務、共同事業を行っています。岸田首相は、日本海ヘルスケアネットの医療・介護連携の実際と共に、普及が遅々として進まず依然批判も多いマイナ保険証や電子処方箋が活用されている姿を自分の目で確かめるため、酒田を訪れたようです。「“連携推進法人”の制度普及に今後も努める」と言明日本海総合病院が中心となって運営されている日本海ヘルスケアネットは、人口減少が進む地方における地域医療連携推進法人の成功事例の一つです。また、複数の医療施設及び介護事業所が診療情報を共有する「ちょうかいネット」も医療DXの先駆けとして有名です。視察後の記者会見で岸田首相は、医療・介護の連携の強化、医療従事者の交流、職員の共同研修、医療機器の共同利用、医薬品の共同交渉、地域フォーミュラリ、「ちょうかいネット」といった日本海ヘルスケアのさまざまな取り組みについて言及した後、「患者の目線に立って、地域の医療提供体制が効率的で質の高いものになるよう、実効的な仕組みを構築していきたい」と述べるとともに、地域医療連携推進法人について、「今、全国で39法人、認定を受けています。そして、昨年、利用拡大を図る医療法の改正も行いました。あわせて、介護・福祉分野においても、類似の仕組みがあります。すなわち、社会福祉連携推進法人という21の法人が認定を受けている。これらを合わせて、普及に努めていきたい」と、“連携推進法人”の制度普及に今後も力を入れると語りました。今年の「骨太の方針」に4年連続で記述される可能性も地域医療連携推進法人については、本連載でも、「第168回 3年連続3回目、地域医療連携推進法人言及の背景」、「第138回 かかりつけ医制度の将来像」、「第69回 制度化4年目にして注目集める地域医療連携推進法人の可能性」などで度々取り上げて来ました。2017年4月に制度がスタートし、7年経ったわりには、現状39法人と数的には今ひとつですが、政府が毎年6月に公表する「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」において3年連続で地域医療連携推進法人が記述されたことからも、国(厚生労働省というより財務省)が医療・介護連携や機能分担の切り札になると今でも考えていることは間違いありません。今回、岸田首相が地域医療連携推進法人を実際に視察したことで、「医療・介護連携や機能分担の切り札」という位置付けはますます強固なものとなり、まもなく公表される「骨太の方針」にも4年連続で記述されるかもしれません。浜松医科大学と浜松医療センターとの連携など新しい動きもその地域医療連携推進法人ですが、各地で新しい動きもあります。今年3月には、静岡県浜松市が運営する浜松医療センターと国立大学法人の浜松医科大学が県西部の医療体制を充実させてより高度な医療を提供するため、地域医療連携推進法人を2025年4月に設立する計画が明らかになっています。大学病院本院が地域医療連携推進法人に参画するケースとしては、藤田医科大学(愛知県豊明市)が中心となってつくられた地域医療連携推進法人・尾三会(愛知県)、関西医科大学(大阪府枚方市)が中心となってつくられた地域医療連携推進法人・北河内メディカルネットワーク(大阪府)がありますが、お互いに基幹病院同士、しかも一方は国立大学法人というケースははじめてです。また、2025年4月に岐阜県で設立された地域医療連携推進法人・美濃国地域医療リンケージは、岐阜県笠松市で松波総合病院を経営する社会医療法人 蘇西厚生会、美濃市立美濃病院、一般社団法人 海津市医師会で構成されており、それぞれの所在地の医療圏が岐阜医療圏、中濃医療圏、西濃医療圏と異なっているのが大きな特徴です。その「理念」には「医療圏の垣根を越え、お互いに補完し合うことで、急速に進む少子高齢化の中で、安定性と持続性を併せもった効率的な医療提供体制を構築し、それぞれの地域住民の暮らしの安心を実現する」と書かれており、地方における広域の地域医療連携推進法人の可能性を探るユニークな試みとして注目を集めています。成功事例という“追い風”や制度変更による“使い勝手”の向上などで、今後、加速度的に増えていくかも2024年4月からは、医療法の一部が改正され、地域医療連携推進法人に個人立の医療機関も参加できるようになりました(それまでは医療法人など非営利法人に限られていました)。個人立が参加する場合は、従来は認められていた参加法人への出資、貸付はできなくなりますが、外部監査等が不要になったり、一部事務手続きが簡素化されたりするなど、“使い勝手”が良くなり、設立の敷居も低くなります。7年間で39法人とそれほど増えてこなかった地域医療連携推進法人ですが、各地での成功事例という“追い風”や制度変更による“使い勝手”の向上などによって、今後、加速度的に増えていくかもしれません。

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日本における小児に対する抗精神病薬処方の動向

 統合失調症は、幻覚・妄想やその他の症状を特徴とする精神疾患である。日本においても統合失調症の治療ガイドラインが確立されているが、小児患者に対する薬物療法は推奨されていない。さらに、小児統合失調症患者に対する抗精神病薬の処方傾向は、あまりよくわかっていない。東北医科薬科大学病院の菊池 大輔氏らは、2015~22年の日本における小児外来患者に対する抗精神病薬の処方動向を明らかにするため、本研究を実施した。その結果、日本では小児統合失調症に対して、主にアリピプラゾールとリスペリドンが処方されており、アリピプラゾールの処方割合が時間の経過とともに有意に増加していることを報告した。Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences誌2024年1月2日号の報告。 対象は2015年1月1日~2022年12月31日に、急性期地域医療連携病院を受診した0~18歳の統合失調症患者。2023年11月時点での日本人小児外来患者の管理データを分析した。対象薬剤は、2022年12月時点に日本で発売されている統合失調症の適応を有する薬剤とした。期間中の抗精神病薬の年間処方傾向は、その割合に応じて算出した。各抗精神病薬の処方割合の評価には、Cochran-Armitageの傾向検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・小児統合失調症患者に対して主に処方されていた抗精神病薬は、アリピプラゾールとリスペリドンであった。・男性患者では、アリピプラゾールの処方割合が21.5%(2015年)から35.9%(2022年)へ有意な増加が認められた(p<0.001)。一方、リスペリドンの処方割合は、47.9%(2015年)から36.7%(2022年)へ有意な減少が認められた(p<0.001)。・女性患者においても、男性と同様に、アリピプラゾールの処方割合が21.6%(2015年)から35.6%(2022年)へ有意に増加し(p<0.001)、リスペリドンの処方割合は、38.6%(2015年)から24.8%(2022年)へ有意に減少していた(p<0.001)。

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第175回 進行虫垂がんを宣告されたある医師の決断(前編) 医師になった子への医業継承を念頭にまず取り組んだこと

医師ががんになったらどんな行動を取るのか?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この年齢になると、友人たちが次々とがんに罹っていきます。2年ほど前は、大学の山のクラブの先輩2人に相次いで食道がんが見つかりました。昨年は、ライブ友だちの女性が乳がんに、先月には演劇友だちの女性に子宮体がんが見つかり、先週にはやはり大学のクラブの別の先輩に大腸がんが見つかりました。仕事柄か、がんが見つかると私に連絡が来て、「何かアドバイスを」と言われます。医療機関の選び方や治療法などについて、わかる範囲でアドバイスをするのですが、「セカンドオピニオンとは」の説明から始めなければならない場合もあり、なかなか大変です。ところで、一般人ではなく、がんに詳しいはずの医師ががんになったらどんな行動を取るのでしょう。冷静にがん宣告を受けるのでしょうか、それとも…。『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』に学ぶ今年3月、ある医師が進行がんになった経緯を綴った、興味深い医療経営書が出版されました。『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』(東 謙二著、日経メディカル開発)です。がん宣告を受けた医師の立ち振る舞いとして、参考になる部分もあるので、今回はこの本を紹介します。熊本で63床の病院を経営する東(あずま)謙二氏は、九州では名の知れた病院経営者です。2008年から2023年まで15年間、日経メディカルオンラインでコラム「“虎”の病院経営日記」を連載。また、熊本では若手の病院・診療所経営者の悩みごとや愚痴を聞いたりもするリーダー的存在です。ちなみに“虎”とは、お酒好きであることから付いたあだ名のようです。私も幾度か酒席に同席したことがありますが、まあ、子虎というより大虎の印象です。その東氏に進行した虫垂がんが見つかったのは2019年、51歳の時でした。虫垂炎を発症、摘出手術後に行った病理検査で、漿膜浸潤をきたした低分化腺がんと診断されたのです。虫垂がんはそもそもが珍しい病気で、大腸がん全体の1%にも満たないとされています。虫垂炎との区別が難しく、早期発見が極めて困難なため、虫垂炎として手術をして初めてがんが見つかるケースが少なくないそうです。そう言えば、昨年だか有名芸能人が似たような経緯で入院していましたが、ひょっとすると…。それはさておき、虫垂がんはご存知のように、普通の大腸がんよりもたちの悪い、予後不良のがんです。本書にはその闘病の経緯とともに、自分の死後も病院を存続させるために行った、さまざまな経営改革についても詳しく書かれています。がん宣告で迫られた病院の経営改革東氏がまず取り組んだのが、医療法人の持分放棄でした。それまでは持分ありの医療法人でしたが、がん宣告を機に、それまで持分を有していた親族の説得に取り掛かり、2021年に持分なしへの移行を実現しています。持分放棄をしたことについて東氏は同書で、「医療法人の永続性という観点に立つと、この持分が大きな足かせになるからです」と書いています。「持分のある医療法人においては、社員から出資持分の払い戻し請求が行われると、医療法人が多額のお金を用意する必要が出てきます。(中略)。ただ、当院の場合は、払い戻し請求のリスクよりも、次の世代に引き継いだときに、巨額の相続税、贈与税が発生するリスクを避けたかったという意味合いが大きい」(同書)とのことです。同族経営を行う医療法人では、今でも持分ありのところが多いと思いますが、評価額が莫大になってしまった場合、持分は時として経営の根幹を揺るがすトラブルの種ともなります。東氏はそのリスクをなくし、将来的に医師になった子への“承継”をスムーズに進めるため、持分放棄を行ったわけです。「様々な改革を行う上で、進行がんになったことはプラスに働いた」東氏はその他に、院長職を辞して理事長専任になるなど、組織の改変にも取り組みました。病院団体の支部長など、対外的な業務が増えてきたことに加え、「がんの手術後、余命もわからないし、もう手術前とは同じように働けないと考え」(同書)たからだそうです。なお、医療法人の持分なしへの移行や、理事長と院長の役割分担については、10年以上前からその必要性は認識していたそうです。東氏は「がんになり、次の世代への継承をすぐにでも考えなければならなくなったとき(中略)、これはもう本腰を入れないといけないぞと考えた」と書き、持分を持つ親族たちへの説得に取り掛かりました。親族には「俺はもういつポッと死んでもおかしくない。そうしたらまた大変な相続税がいるんだよ」と半ば脅し気味に説得したとのことです。東氏は、「様々な改革を行う上で、進行がんになったことはプラスに働いた」と本書を締めくくっています。サブタイトル、「コバンザメ医療経営を超えて」の意味なお、本書のサブタイトルが「コバンザメ医療経営を超えて」となっているのは、2017年に出版された前著『“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営のススメ』へのアンチテーゼとなっているためのようです。東氏が経営する東病院は68床という小規模ながら、熊本大学病院や済生会熊本病院、熊本中央病院など数多くの基幹病院に囲まれており、医療連携が現在ほど重要視されていない2000年代初めから、それらの後方病院としての役割やサブアキュート機能を強化した経営を行ってきました。大病院との連携に重点を置き、“コバンザメ”に徹するという意味で、「コバンザメ医療経営」と言われてきました。しかし、本書で東氏は、「もはや、どんな規模の病院も連携なしにやっていけません。われわれのような中小の民間病院は基幹病院からの受け入れなしには経営できないし、基幹病院も患者を早く退院させ、中小病院に受け入れてもらわないと成り立ちません。(中略)。“コバンザメ経営”という言葉はもう死語ではないでしょうか」と書き、これからは後方病院が患者に相応しい前方(基幹病院)を選ぶ時代が来る、と主張しています。サブタイトルの「コバンザメ医療経営を超えて」にはその決意が込められているわけです。本書は、中小病院のこれからの役割、立ち位置を考える上でも参考になるでしょう。ところで、本書には「中小病院が生き残るための20箇条」という章が設けられています。次回は、中小病院だけではなく、診療所の開業医にも役立ちそうな20箇条について紹介したいと思います。(この項続く)

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アフターコロナの今、「MR不要論」を考える

 COVID‐19の拡大後、MR数は減少傾向にあり、製薬企業の営業拠点の見直し等も急速に進んだ。アフターコロナにおいて、製薬企業担当者は本当に必要なのだろうか? この疑問について、医師・製薬企業・メディカルスタッフ、それぞれの立場から率直に語り合う機会が設けられた。2023年7月22日(土)、第10回日本糖尿病協会年次学術集会のEXPERT社員シンポジウムで語られた内容を抜粋して紹介する。MRの情報提供は医師に求められていないのか? 医療用医薬品の情報提供には、厳格な法規制があることはよく知られる。具体的に、競合品との比較データや症例紹介が不可となる場合が存在する。反面、臨床現場からは、同効薬の使い分けや効果を発揮しやすい症例像への情報ニーズは高い。そのため、医薬情報担当者であるMRは、自分たちの提供する情報と医療者が求める情報に「乖離がある」と認識しているようだ。2023年6月実施のMR1,407名を対象としたアンケート調査の結果では、「求めたい情報提供に乖離はありますか?」の回答結果は「乖離がある」(17%)、「やや乖離がある」(67%)と乖離を感じるMRが大半であり、「乖離はない」と回答したMRは17%だった。また「情報提供の障壁となっているものは何ですか?(複数回答)」という質問では「面会できない」(74%)が最多で、次いで「販売情報提供ガイドライン」(54%)が挙げられた。 では、実際に医療者側はどう思っているのだろうか? 実は、まったく同じ調査が医師626名を対象に行われている。結果、「情報提供の乖離」に関しては「乖離はない」(51%)が最多で、「情報提供の障壁」に関しても「障壁はない」(57%)が最も多かった。つまり、MRが思うほど、医師にとってMRとの面会価値は低くはないことになる。医療者側の考えるMRの価値とは シンポジウムに登壇した医師からは、コロナ禍で受動的な医局説明会や文献提供がなくなり、現在は能動的なWeb経由での情報収集やWeb講演会の聴講等にシフトしたが、依然「MRによる情報提供も必要」との意見があがった。 具体的に「企業担当者がいて助かったこと」について、医師およびメディカルスタッフのエピソードが紹介された。 医師が助かった例として、臨床現場で疑問が生じた際の迅速なメール対応や地域医療連携および会合のサポート、患者差別や疾患への偏見を減らすための疾患啓発活動が挙げられた。同様に、メディカルスタッフからは添付文書のニュアンスの確認や薬物相互作用に関する論文紹介、食事・運動療法に関する患者向けの資材提供や研修会の案内が役立ったとの声があがった。その一方で、「不快なMR」として、薬の販売に躍起になって情報提供がおろそかになっている場合やレスポンスが遅いケース、周辺知識の不足等が指摘された。MRはどう振る舞うべきか 製薬企業側の代表者も登壇し、今後目指す形として、アフターコロナは、リアル面会とオンライン面会を併用し、ITツールを活用しての情報提供を行うことや、医療従事者に寄り添った活動を心掛けること、とくに自己研鑽を行い、信頼をしてもらうように務めるべき、と発言した。糖尿病協会で行っているEXPERT社員認定制度やe-ラーニング、積極的な学会参加を通じて、医療従事者のニーズを把握し、デジタルを活用しながら、ありとあらゆる形で医療者との関係構築を目指すという。 アフターコロナもMRは忙しい医療従事者の情報ニーズを埋める役割を担うと期待されているようだ。 質問すると、さっと返事が返ってきて助かるという声がある一方、添付文書改訂を知らせにしか来ないとの声もある。MRが医療者に適切な情報を提供するには、疾患への深い知識が必須となる。「患者さんの声」を企業に伝えるためにMRが必要だという意見もあり、いずれにせよ薬剤の情報を熟知し説明できる能力こそが今後の評価軸となる。 アフターコロナのMRの在り方は、EXPERT社員認定などの形で底上げを図り、医療従事者の一員であると自覚し、何より自信を失わないことが重要であるようだ。

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第168回 3年連続3回目、地域医療連携推進法人言及の背景 「骨太の方針2023」で気になった2つのこと(後編)

3年連続3回目のオールスターこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手の打撃の勢いが止まりません。6月は27試合すべてに先発出場し、104打数41安打で打率.394、15本塁打29打点でした(投手としては2勝2敗)。全試合をテレビ観戦しているわけではありませんが、朝、NHK BSにチャンネルを合わせると大谷が打席に立っていて、ホームランを打っている印象です。「見ると打っている」、まさにそんな感じです。3年連続3回目の出場となるオールスターゲームもいよいよ来週7月11日(現地時間)に迫り、楽しみです。前日に行われるホームランダービーへは「出場しない」との下馬評ですが、「大谷のことだから」とダービー出場にほのかな期待を抱く人も少なくないようです。さて今回も前回に引き続き「骨太方針2023」について書きます。政府は16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」(骨太方針2023)を閣議決定しました1)。盛りだくさんの医療や社会保障関連の項目の中から個人的に気になったものとして、前回は「長期収載品等の自己負担の在り方」について書きました。今回は、もう一つ気になった「地域医療連携推進法人」への言及について書いてみたいと思います。地域医療連携推進法人について骨太方針が言及するのは、大谷選手のオールスターと同じく、「3年連続3回目」となります。「骨太の方針2023」では「地域医療連携推進法人制度の有効活用」「骨太の方針2023」の「第4章 中長期の経済財政運営」「2.持続可能な社会保障制度の構築」の(社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進)には、次のように書かれています。「引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、(中略)を図る」「骨太方針2021」では「連携推進法人制度の活用等により病床機能の分化・連携を進め地域医療構想を推進」「地域医療連携推進法人」が最初に言及されたのは2年前の「骨太方針2021」でした。「第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」「2.社会保障改革」の「(1)感染症を機に進める新たな仕組みの構築」には次のように書かれました。「今般の感染症対応の検証や救急医療・高度医療の確保の観点も踏まえつつ、地域医療連携推進法人制度の活用等による病院の連携強化や機能強化・集約化の促進などを通じた将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携などにより地域医療構想を推進する」。「骨太方針2022」では必要な法制上の措置を求める続く、「骨太方針2022」では、「第4章 中長期の経済財政運営」「2.持続可能な社会保障制度の構築」で次のように書かれました。「質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに、地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する」新類型新設などの制度変更を機に、再度有効活用をダメ押し表現は微妙に変わっていますが、「有効活用」という点は一貫しています。おおまかな流れとしては、「骨太方針2021」で、地域医療構想を推進するために地域医療連携推進法人制度の活用を謳い、「骨太方針2022」で必要な法制上の措置を求め、2023年5月成立の全世代型社会保障法(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)で新類型新設などの制度変更を実現、それを受けた今年の「骨太方針2023」でダメ押し的に「地域医療連携推進法人制度の有効活用」を再度強調した、ということになります。6月末現在の連携推進法人の数は全国で34地域医療連携推進法人(以下、連携推進法人)については、本連載でも度々書いてきました(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」、「第69回 「骨太」で気になった2つのこと(後編) 制度化4年目にして注目集める地域医療連携推進法人の可能性」)。制度がスタートして6年ですが、実際のところ、まだそれほど普及・定着していません。2023年6月末現在の連携推進法人は全国で34(累計認定数は35だが1法人解散で34)。47都道府県のうち、まだ半数以下の21道府県でしか認定されていない連携推進法人制度に、国がここまでこだわる理由は一体何でしょうか。最大の理由は地域医療構想の進捗がはかばかしくないことでしょう。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想については2040年頃を視野に入れつつ策定される予定ですが、詳細は未定)。しかし、そもそも各地の地域医療構想調整会議がほとんど機能しなかったことに加え、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編の多くが先延ばしとなってしまいました。財務省は、今年4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキング・グループで、地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。地域医療構想調整会議が機能しないならば、連携推進法人を各地でつくってもらい、“同じ法人”の中で実のある話し合いを進め、本当に実効性のある医療連携を進めてほしい、というのが国の本音というわけです。「かかりつけ医機能の制度整備」にも連携推進法人活用をもう一つの理由としては、全世代型社会保障法の成立で新たに進められる「かかりつけ医機能の制度整備」があります。これについても連携推進法人の制度の活用が期待されているわけです。昨年12月16日に公表された、全世代型社会保障構築会議の報告書では、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」の項で以下のように書かれています。「医療機関が担うかかりつけ医機能の内容の強化・向上を図ることが重要と考えられる。また、これらの機能について、複数の医療機関が緊密に連携して実施することや、その際、地域医療連携推進法人の活用も考えられる」。どう活用するかについては細かくは言及されていませんが、病院だけではなく、診療所も参加した連携法人の中で、それぞれの専門領域を補完しあいながら、面の連携を進めることでかかりつけ医機能を強化していってほしい、と読み取れます。「個人立医療機関」も参加できる類型が新設その連携推進法人の制度ですが、全世代型社会保障法(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)が2023年5月成立したことに伴い、大幅に見直されます。医療法の一部が改正され、連携推進法人については、従来の「法人のみが参加できる」類型に加え、「個人立医療機関」も参加できる類型が新設されます。新類型では、出資、貸付は不可となる一方、外部監査等が不要になったり、一部事務手続きが簡素化されたりなど、“使い勝手”がよく、設立の敷居が低い類型となる予定です(施行は2024年4月)。これまでは、高度急性期病院から、急性期、回復期、慢性期へと退院患者の流れ(上流から下流へ)を効率化することに重点を置いた、いわゆる“垂直連携”の連携推進法人が比較的多かった印象です。そういったところでは、各病院の役割分担を明確にし、経営的にもプラスになるようなスキームを組んでいました。今後、診療所も参加した新類型の連携推進法人が増えていくと思われますが、わかりやすい“垂直連携”ではなく、医療機能が同レベルの医療機関による“水平連携”は経営的なメリットが見えづらいかもしれません。制度見直しで、連携推進法人制度が果たして順調に普及・定着していくのか、これからの動きに注目したいと思います。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023/内閣府

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第165回 案から閣議決定までに一部変更?『骨太の方針2023』の医療関連項目をピックアップ

岸田 文雄政権が考える重要課題や来年度予算編成に関する基本的な方向性を示す「経済財政運営と改革の基本方針2023」(通称・骨太の方針2023)が6月16日に閣議決定された。時々、友人・知人から「あの『骨太の方針』って何?」とよく聞かれることがある。この大枠を決めているのは、中央省庁再編が行われた2001年1月、内閣設置法に基づきスタートした「経済財政諮問会議」である。首相を議長に経済関係閣僚と民間有識者で構成され、首相の諮問を受け、構成メンバーが経済全般や財政の運営方針、予算編成の基本方針を調査審議する。経済財政諮問会議の歴史と『骨太の方針』の謂れご存じのように日本では長らく政策立案や予算編成は官僚主導、もっと踏み込んで言えば財務省(旧大蔵省)が官庁の中のキング・オブ・ザ・キングスとして強大な権限を握り、政治家は彼らの担いだ神輿に乗っかるのが慣例だった。これに対して経済財政諮問会議の設置以降、首相の音頭で同会議の経済関係閣僚と民間議員などが政策を議論し、それをまとめたものを基本方針として閣議決定。この閣議決定後に各大臣が基本方針を所轄省庁に持ち帰り、方針内に記述された関連事項を省内で具体的に政策化したうえで再度同会議に持ち帰って発表する手続きとなった。つまり政治主導の政策・予算決定というわけだ。同会議のスタート時は省庁内での政策具体化の際に骨抜きにされる可能性は残ったが、たまたま本格スタート時の首相は、郵政三事業の民営化を掲げ、総裁選では「自民党をぶっ壊す」と叫んでいた政治主導の権化とも言われる小泉 純一郎氏だったこともあり、それなりに政治主導が発揮され、今に至っている。さらに付け加えると、2014年に安倍 晋三氏(故人)の政権下で、各省庁の幹部人事を決定する内閣人事局が内閣官房に設置されたことで省庁側は人事権で首根っこを押さえられた形になり、良くも悪くも政治主導がほぼ完成されている。ちなみになぜ通称で『骨太の方針』と呼ばれているかだが、同会議発足当初、森 喜朗首相の下で財務相を務めていた元首相の宮澤 喜一氏が同会議の議論を「骨太の議論」と呼んだことが始まりとされている。さてこの『骨太の方針』のより具体的な作成プロセスだが、毎年2~4月に同会議で民間委員の提言を受け、各省庁の大臣と民間委員の間で個別テーマについて議論が行われる。そこで『骨太の方針』の骨子案が作成され、5月中旬くらいに各省庁に降りる。各省庁ではその内容が実現可能かを関係各方面との調整や表現の修正検討を行い、それらが再び同会議に意見として提出される。また、同時期には政権与党の部会や関係する議員連盟などからもさまざまな政策提言が行われ、こうしたものも盛り込まれたうえで、『骨太の方針』の案が公表される。今回の『骨太の方針2023』は6月7日に案が公表された。その後は閣議決定までの間に与党の政務調査会などによる事前審査が行われるほか、各省庁や関係団体から与党の有力議員に働き掛けも行われる。その結果、一部文言などが修正された最終案が閣議決定されるという具合だ。「医療」「看護」「薬」「介護」のキーワードで検索、案と閣議決定文を比較さて今回の『骨太の方針2023』は、公表案から閣議決定文に至るまで実に100ヵ所以上の文言が修正されたと報じられている。医療・介護関係でどんな修正があったのだろうか?ざっくりとそれを調べてみた。比較結果を記述する前に簡単に概説すると、近年の『骨太の方針』は、第1章が経済状況の現状分析、第2章が国内を意識した経済成長戦略、第3章が国際的な視野に基づく経済成長戦略、第4章が財政運営方針と次年度以降の予算政策の4章立て。医療・介護については概ね第4章で触れられることがほとんどだ。これは言わずもがな、少子高齢化に伴う社会保障費の増大をどのように抑制するかに力点が置かれているからだ。さてどんなところが変更されていたのだろうか? 最初に目についたのは、第4章:中長期の経済財政運営の2.持続可能な社会保障制度の構築の項の「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」の部分である。下線部分が閣議決定文に追記された。1人当たり医療費の地域差半減に向けて、都道府県が地域の実情に応じて地域差がある医療への対応などの医療費適正化に取り組み、引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、地域で安全に分娩できる周産期医療の確保、ドクターヘリの推進、救急医療体制の確保、訪問看護の推進、医療法人等の経営情報に関する全国的なデータベースの構築を図る。(骨太の方針 閣議決定文)周産期医療に関しては、おそらく岸田首相が唱える異次元の少子化対策を踏まえたものと考えられる。ちなみに「看護」というキーワードが骨太の方針で登場するのはここだけだ。たぶん案の段階で看護に関する言及が皆無だったことを受け、日本看護協会周辺が働きかけたのではないだろうかと予想している。すぐ後の医療DXに関する一文も軽微ながら変更が加えられている(下線部分)。医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、政府を挙げて医療DXの実現に向けた取組を着実に推進する。(骨太の方針 案)↓医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、医療DXの推進に向けた取組について必要な支援を行いつつ政府を挙げて確実に実現する。(骨太の方針 閣議決定文)こちらは閣議決定文でより強い表現になっている。以前の本連載でも触れたが、今後の社会保障費増大を抑制するうえでデジタルヘルスの推進は必要不可欠なもの。そこに対する政府の決意の強さを表していると言えようか。今、揉めに揉めているマイナンバー関連では、マイナ保険証への一本化について否定的な世論調査結果も報じられているが、案、閣議決定文とも“2024年秋の健康保険証廃止”という一文は維持されており、それまでに現在の問題点を走りながら修正する意向なのだろう。実際、医療DXについて後に続く一文でも修正がある(下線部分)。※取り消し線部分:案にのみ記載その際、セキュリティを確保しつつ、医療DXに関連するシステム開発・運用主体の体制整備、電子処方箋の全国的な普及拡大に向けた環境整備、標準型電子カルテの整備、医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策等を着実に実施する。(骨太の方針 閣議決定文)案ではどちらかというと「従」の扱いだったセキュリティ対策が、医療DXで推進すべき各項目と並列的に記載されている。というか、個人的には「そりゃそうだろう」と言いたいところだが。さてその後の創薬などの医薬品関連でも文言の修正が見て取れた(下線部分)。創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置、全ゲノム解析等に係る計画の推進を通じた情報基盤の整備や患者への還元等の解析結果の利活用に係る体制整備、大学発を含むスタートアップへの伴走支援、臨床開発・薬事規制調和に向けたアジア拠点の強化、国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理、小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化等を推進する。これらにより、ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する。さらに、新規モダリティへの投資や国際展開を推進するため、政府全体の司令塔機能の下で、総合的な戦略を作成する。医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める。大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を行うほか、OTC医薬品・OTC検査薬の拡大に向けた検討等によるセルフメディケーションの推進、バイオシミラーの使用促進等、医療上の必要性を踏まえた後発医薬品を始めとする医薬品の安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直し、プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る。また、総合的な認知症施策を進める中で、認知症治療の研究開発を推進する。献血への理解を深めるとともに、血液製剤の国内自給、安定的な確保及び適正な使用の推進を図る。(骨太の方針 閣議決定文)補足することでより正確な記述にしたというのが率直な感想だが、個人的には「プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る」が付け加えられたところにやや目が留まった。実は『骨太の方針』案が公表されるのと同時期に田村 憲久元厚労相らのヘルステック推進議員連盟が加藤 勝信厚労相に提言の申し入れを行っているからである。与党での法案審査をより無難に通過させるためには、こうした議連の提言が盛り込まれることがよくある。一方、血液の安定確保に関しては、確保の方向性だけでなく、医療現場ではやや使い過ぎという声もある血液製剤の適正使用に踏み込んだのは、個人的にはなかなか細かいところに気を遣ったと感じている。さて、介護に関しては本文の修正はなかった。急速な高齢化が見込まれる中で、医療機関の連携、介護サービス事業者の介護ロボット・ICT機器導入や協働化・大規模化、保有資産の状況なども踏まえた経営状況の見える化を推進した上で、賃上げや業務負担軽減が適切に図られるよう取り組む。が、実は欄外の注釈が1ヵ所修正されている(下線部分)。「介護職員の働く環境改善に向けた取組について」(令和4年12月23日全世代型社会保障構築本部決定)では、現場で働く職員の残業の縮減や給与改善などを行うため、介護ロボット・ICT機器の導入や経営の見える化、事務手続や添付書類の簡素化、行政手続の原則デジタル化等による経営改善や生産性の向上が必要であるとされており、取組を推進する。(骨太の方針 閣議決定文)注釈ゆえに大した修正ではないとも言えるかもしれないが、わざわざ最終段階で修正したわけだから一定の意味があると考えるのが自然。そしてこの修正内容を見る限り、介護業界関係団体からの与党議員への働きかけの結果というよりは、厚労省あるいは財務省、あるいはデジタル庁から与党議員への働きかけの結果と解釈するのが妥当と考える。つまり業務効率化により強く国が関与してくる可能性があり、次回の介護報酬改定にこの部分で何らかの改革が行われる可能性を念頭に置いても良いかもしれない。いずれにせよこれらの答え合わせは下半期の“お楽しみ”というところだろうか。一応、はずすのを承知で個人的な予想をすると、もし文言通りにいかないことがあるとするならば、実は政権の強い意向が示されている健康保険証の廃止時期かな、と思っていたりもする。

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第152回 新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省

<先週の動き>1.新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省2.骨太の方針を閣議決定、防衛費増額とともに子育て支援を強化へ/内閣府3.391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を決定/政府4.ドクターカーの運用に関する全国調査、人員不足が課題/厚労省5.旧優生保護法下での強制不妊手術問題、調査報告書全文が判明/国会6.医療脱毛クリニックが破産手続き、被害者は900人以上に1.新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省厚生労働省は6月16日に新型コロナウイルス対策を助言する「アドバイザリーボード」を開催した。厚労省の定点把握データに基づき、新型コロナウイルス感染者数が夏の間に一定の拡大が生じる可能性があるとの見解をまとめた。定点把握による感染者数は前週比で1.12倍増加し、全国で36都府県で感染者数は増加していた。会合では高齢者など重症化リスクのある人々に対するワクチン接種の検討を求める一方、基本的な感染対策の重要性も強調された。専門家からは、感染拡大の可能性や医療提供体制についての懸念が述べられた。また、変異ウイルスのオミクロン株の亜系統「XBB」の増加や免疫逃避性の変異などにも注意が必要とされた。これに先立ち、日本小児科学会は6月6日に、新型コロナワクチンの子どもへの接種を「すべての小児に推奨する」と発表しており、「コロナ対策の緩和によって多くの子供が感染する可能性があるため、ワクチン接種は重要であり、重症化を防ぐ手段として有効だ」と主張している。同学会側は、WHOが子供へのワクチン接種を支持しており、複数の研究でも予防効果が確認されていることを指摘している。参考1)第122回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年6月16日)2)コロナ感染「夏に拡大恐れ」=定点把握は前週比1.12倍-「5類」後初会合・厚労省助言組織(時事通信)3)コロナ1カ月で2倍に、沖縄注意 専門家組織「夏に拡大の可能性」(朝日新聞)4)新型コロナワクチン「すべての小児に接種推奨」日本小児科学会(NHK)5)小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方[2023.6追補](日本小児科学会)2.骨太の方針を閣議決定、防衛費増額とともに子育て支援を強化へ/内閣府政府は6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。少子化対策の財源について具体的な言及はなく、新たな税負担も考えていないとした。防衛費の財源については増税の実施時期を2025年以降と先送りする方針だが、具体的な財源の確保は困難であり、実現するためには安定した財源が必要とされている。政府は年末までに具体化を進める予定。骨太の方針の中で、社会保障分野については、引き続き経済・財政一体改革の強化・推進を行い、限りある資源を有効に活用して質の高い医療介護サービスを提供するために、医療の機能分化と連携のさらなる推進を行い、医療・介護人材の確保や育成にあたるほか、働き方改革の実現のために医療DXの推進、医療費適正化や地域医療構想の推進のために、地域医療連携推進法人制度の有効活用などの推進が盛り込まれた。介護の分野では、高齢者の自己負担2割の対象者を拡大するか否かを年末に判断することを正式に決めた。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~(内閣府)2)政府、骨太の方針を閣議決定 防衛増税後ろ倒し示唆、歳出増ずらり(朝日新聞)3)骨太の方針のポイント 物価安定・賃金上昇狙う 少子化対策 児童手当や育休給付拡充(日経新聞)4)終身雇用など日本の“常識”見直しへ 骨太方針閣議決定(産経新聞)3.391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を決定/政府政府が391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を6月16日の閣議で決定した。この中には、医療データの個人情報を加工すれば同意が不要で研究開発に利用できる法整備や、AIを活用した契約書審査のガイドライン作成、医師の業務を一部看護師にも許可するなど、さまざまな分野での規制緩和が含まれている。また、都市部でもオンライン診療のための診療所を開設できるよう検討し、診療所管理者の常勤要件の緩和や特定行為の範囲拡充も検討する。これにより、医療のデジタル化や効率化が進む見込み。さらに、医療データの2次利用の同意不要化や、在宅患者への薬剤提供体制整備、プログラム医療機器の保険適用の検討なども行われている。この実施計画は2023年中に結論を出す予定。参考1)『規制改革実施計画』[令和5年6月16日閣議決定](内閣府)2)参考資料[内閣府規制改革推進室作成](同)3)規制緩和策 391項目盛り込んだ政府の計画 閣議決定(NHK)4)都市部でも公民館でオンライン診療、年内に結論 新たな規制改革実施計画を閣議決定(CB news)4.ドクターカーの運用に関する全国調査、人員不足が課題/厚労省厚生労働省が行なったドクターカーの運用に関する全国調査の内容が判明した。これによると、24時間体制で運用している病院は全体の約20%に過ぎず、手術可能なドクターカーは約30%、輸血可能なドクターカーは約10%であることが明らかになった。この中で人員不足が主な課題とされており、厚労省は効率的な運用のための指針を策定し、救命率の向上につなげたいと考えている。調査は厚生労働省調査研究事業「ドクターカーの運用事例等に関する調査研究事業」として全国ドクターカー協議会によって実施され、約140病院が回答した。調査によると2021年1月~2022年9月にかけて、ドクターカーで診療された患者は約5万4,800人。しかし、夜間運用や手術能力、輸血能力に関しては課題があり、運用している病院は限られていた。また、ドクターカーの購入費用は装備を含めて1台当たり1,000~4,000万円かかり、国の補助もあるが、病院の負担も大きい。全国ドクターカー協議会は、データ収集と分析を行い、ドクターカーの診療能力向上のために、車内診療の訓練コースなどを設けるなどの取り組みを行っていく考えを示している。参考1)ドクターカー「24時間」運用2割、人員不足など課題…「手術可能」は3割(読売新聞)5.旧優生保護法下での強制不妊手術問題、調査報告書全文が判明/国会旧優生保護法下で障害者らに不妊手術が強制された問題について、衆参両院がまとめた調査報告書原案の全文が判明した。調査では、手術の65%が本人の同意なしに行われ、盲腸など別の手術と偽って手術が行われたり、審査会を開催せずに書類だけで手術を決定するなど、ずさんな実態が浮かび上がった。最年少の被害者は9歳で、児童施設や福祉施設の入所条件として手術が行われた事例も認められた。報告書によれば、旧法に基づき全国で実施された手術は2万4,993件で、本人の同意なしの手術は1万6,475件だった。被害の背景には経済的な困難や家族の意向、福祉施設の入所条件などがあった。報告書の原案は衆参両院に提出され、公表される予定。この問題について、国会の議長や厚生労働委員会の委員長は謝罪の意を表明した。参考1)盲腸と偽り不妊手術、最年少9歳 同意なし65%、旧優生報告判明(東京新聞)2)強制不妊、最年少は9歳 国の報告書全文判明 旧優生保護法、衆参議長提出へ(時事通信)3)旧優生保護法 いきさつなど調べた国会の報告書案まとまる(NHK)6.医療脱毛クリニックが破産手続き、被害者は900人以上に医療脱毛クリニック「ウルフクリニック」が突如として全店舗を休業し、破産手続きの準備を進めていることが明らかになった。クリニックはコース契約を結んだ患者に対する返金も行わず、従業員の給与も未払いのままで、被害総額は約1億8,000万円と推定されている。男性の医療脱毛を扱うウルフクリニックは東京、神奈川、愛知、大阪に5店舗を展開していたが、今年4月に全店舗を休業し、先月末に突然の破産を発表した。被害者たちは、返金対応がずさんであることを、クリニックの会議の録音や返金対応マニュアルから明らかにした。運営会社の幹部の会議の録音データからは、クリニックが自転車操業に陥っており、客からの入金がなくなったために従業員への給与支払いができなくなったことが判明している。被害者は900人以上を上回っており、被害者らは集団訴訟を起こす見込み。参考1)「通い放題」トラブル相次ぐ脱毛サロン、倒産が過去最多に 年度内には業界大手「脱毛ラボ」が破綻、一般利用者3万人に被害(産経新聞)2)「マジ終わった」脱毛クリニック破産手続き準備 被害総額1億8,000万円か 集団提訴へ(テレビ朝日)

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