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日本における小児に対する抗精神病薬処方の動向

 統合失調症は、幻覚・妄想やその他の症状を特徴とする精神疾患である。日本においても統合失調症の治療ガイドラインが確立されているが、小児患者に対する薬物療法は推奨されていない。さらに、小児統合失調症患者に対する抗精神病薬の処方傾向は、あまりよくわかっていない。東北医科薬科大学病院の菊池 大輔氏らは、2015~22年の日本における小児外来患者に対する抗精神病薬の処方動向を明らかにするため、本研究を実施した。その結果、日本では小児統合失調症に対して、主にアリピプラゾールとリスペリドンが処方されており、アリピプラゾールの処方割合が時間の経過とともに有意に増加していることを報告した。Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences誌2024年1月2日号の報告。 対象は2015年1月1日~2022年12月31日に、急性期地域医療連携病院を受診した0~18歳の統合失調症患者。2023年11月時点での日本人小児外来患者の管理データを分析した。対象薬剤は、2022年12月時点に日本で発売されている統合失調症の適応を有する薬剤とした。期間中の抗精神病薬の年間処方傾向は、その割合に応じて算出した。各抗精神病薬の処方割合の評価には、Cochran-Armitageの傾向検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・小児統合失調症患者に対して主に処方されていた抗精神病薬は、アリピプラゾールとリスペリドンであった。・男性患者では、アリピプラゾールの処方割合が21.5%(2015年)から35.9%(2022年)へ有意な増加が認められた(p<0.001)。一方、リスペリドンの処方割合は、47.9%(2015年)から36.7%(2022年)へ有意な減少が認められた(p<0.001)。・女性患者においても、男性と同様に、アリピプラゾールの処方割合が21.6%(2015年)から35.6%(2022年)へ有意に増加し(p<0.001)、リスペリドンの処方割合は、38.6%(2015年)から24.8%(2022年)へ有意に減少していた(p<0.001)。

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第175回 進行虫垂がんを宣告されたある医師の決断(前編) 医師になった子への医業継承を念頭にまず取り組んだこと

医師ががんになったらどんな行動を取るのか?こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この年齢になると、友人たちが次々とがんに罹っていきます。2年ほど前は、大学の山のクラブの先輩2人に相次いで食道がんが見つかりました。昨年は、ライブ友だちの女性が乳がんに、先月には演劇友だちの女性に子宮体がんが見つかり、先週にはやはり大学のクラブの別の先輩に大腸がんが見つかりました。仕事柄か、がんが見つかると私に連絡が来て、「何かアドバイスを」と言われます。医療機関の選び方や治療法などについて、わかる範囲でアドバイスをするのですが、「セカンドオピニオンとは」の説明から始めなければならない場合もあり、なかなか大変です。ところで、一般人ではなく、がんに詳しいはずの医師ががんになったらどんな行動を取るのでしょう。冷静にがん宣告を受けるのでしょうか、それとも…。『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』に学ぶ今年3月、ある医師が進行がんになった経緯を綴った、興味深い医療経営書が出版されました。『続“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営を超えて』(東 謙二著、日経メディカル開発)です。がん宣告を受けた医師の立ち振る舞いとして、参考になる部分もあるので、今回はこの本を紹介します。熊本で63床の病院を経営する東(あずま)謙二氏は、九州では名の知れた病院経営者です。2008年から2023年まで15年間、日経メディカルオンラインでコラム「“虎”の病院経営日記」を連載。また、熊本では若手の病院・診療所経営者の悩みごとや愚痴を聞いたりもするリーダー的存在です。ちなみに“虎”とは、お酒好きであることから付いたあだ名のようです。私も幾度か酒席に同席したことがありますが、まあ、子虎というより大虎の印象です。その東氏に進行した虫垂がんが見つかったのは2019年、51歳の時でした。虫垂炎を発症、摘出手術後に行った病理検査で、漿膜浸潤をきたした低分化腺がんと診断されたのです。虫垂がんはそもそもが珍しい病気で、大腸がん全体の1%にも満たないとされています。虫垂炎との区別が難しく、早期発見が極めて困難なため、虫垂炎として手術をして初めてがんが見つかるケースが少なくないそうです。そう言えば、昨年だか有名芸能人が似たような経緯で入院していましたが、ひょっとすると…。それはさておき、虫垂がんはご存知のように、普通の大腸がんよりもたちの悪い、予後不良のがんです。本書にはその闘病の経緯とともに、自分の死後も病院を存続させるために行った、さまざまな経営改革についても詳しく書かれています。がん宣告で迫られた病院の経営改革東氏がまず取り組んだのが、医療法人の持分放棄でした。それまでは持分ありの医療法人でしたが、がん宣告を機に、それまで持分を有していた親族の説得に取り掛かり、2021年に持分なしへの移行を実現しています。持分放棄をしたことについて東氏は同書で、「医療法人の永続性という観点に立つと、この持分が大きな足かせになるからです」と書いています。「持分のある医療法人においては、社員から出資持分の払い戻し請求が行われると、医療法人が多額のお金を用意する必要が出てきます。(中略)。ただ、当院の場合は、払い戻し請求のリスクよりも、次の世代に引き継いだときに、巨額の相続税、贈与税が発生するリスクを避けたかったという意味合いが大きい」(同書)とのことです。同族経営を行う医療法人では、今でも持分ありのところが多いと思いますが、評価額が莫大になってしまった場合、持分は時として経営の根幹を揺るがすトラブルの種ともなります。東氏はそのリスクをなくし、将来的に医師になった子への“承継”をスムーズに進めるため、持分放棄を行ったわけです。「様々な改革を行う上で、進行がんになったことはプラスに働いた」東氏はその他に、院長職を辞して理事長専任になるなど、組織の改変にも取り組みました。病院団体の支部長など、対外的な業務が増えてきたことに加え、「がんの手術後、余命もわからないし、もう手術前とは同じように働けないと考え」(同書)たからだそうです。なお、医療法人の持分なしへの移行や、理事長と院長の役割分担については、10年以上前からその必要性は認識していたそうです。東氏は「がんになり、次の世代への継承をすぐにでも考えなければならなくなったとき(中略)、これはもう本腰を入れないといけないぞと考えた」と書き、持分を持つ親族たちへの説得に取り掛かりました。親族には「俺はもういつポッと死んでもおかしくない。そうしたらまた大変な相続税がいるんだよ」と半ば脅し気味に説得したとのことです。東氏は、「様々な改革を行う上で、進行がんになったことはプラスに働いた」と本書を締めくくっています。サブタイトル、「コバンザメ医療経営を超えて」の意味なお、本書のサブタイトルが「コバンザメ医療経営を超えて」となっているのは、2017年に出版された前著『“虎”の病院経営日記 コバンザメ医療経営のススメ』へのアンチテーゼとなっているためのようです。東氏が経営する東病院は68床という小規模ながら、熊本大学病院や済生会熊本病院、熊本中央病院など数多くの基幹病院に囲まれており、医療連携が現在ほど重要視されていない2000年代初めから、それらの後方病院としての役割やサブアキュート機能を強化した経営を行ってきました。大病院との連携に重点を置き、“コバンザメ”に徹するという意味で、「コバンザメ医療経営」と言われてきました。しかし、本書で東氏は、「もはや、どんな規模の病院も連携なしにやっていけません。われわれのような中小の民間病院は基幹病院からの受け入れなしには経営できないし、基幹病院も患者を早く退院させ、中小病院に受け入れてもらわないと成り立ちません。(中略)。“コバンザメ経営”という言葉はもう死語ではないでしょうか」と書き、これからは後方病院が患者に相応しい前方(基幹病院)を選ぶ時代が来る、と主張しています。サブタイトルの「コバンザメ医療経営を超えて」にはその決意が込められているわけです。本書は、中小病院のこれからの役割、立ち位置を考える上でも参考になるでしょう。ところで、本書には「中小病院が生き残るための20箇条」という章が設けられています。次回は、中小病院だけではなく、診療所の開業医にも役立ちそうな20箇条について紹介したいと思います。(この項続く)

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アフターコロナの今、「MR不要論」を考える

 COVID‐19の拡大後、MR数は減少傾向にあり、製薬企業の営業拠点の見直し等も急速に進んだ。アフターコロナにおいて、製薬企業担当者は本当に必要なのだろうか? この疑問について、医師・製薬企業・メディカルスタッフ、それぞれの立場から率直に語り合う機会が設けられた。2023年7月22日(土)、第10回日本糖尿病協会年次学術集会のEXPERT社員シンポジウムで語られた内容を抜粋して紹介する。MRの情報提供は医師に求められていないのか? 医療用医薬品の情報提供には、厳格な法規制があることはよく知られる。具体的に、競合品との比較データや症例紹介が不可となる場合が存在する。反面、臨床現場からは、同効薬の使い分けや効果を発揮しやすい症例像への情報ニーズは高い。そのため、医薬情報担当者であるMRは、自分たちの提供する情報と医療者が求める情報に「乖離がある」と認識しているようだ。2023年6月実施のMR1,407名を対象としたアンケート調査の結果では、「求めたい情報提供に乖離はありますか?」の回答結果は「乖離がある」(17%)、「やや乖離がある」(67%)と乖離を感じるMRが大半であり、「乖離はない」と回答したMRは17%だった。また「情報提供の障壁となっているものは何ですか?(複数回答)」という質問では「面会できない」(74%)が最多で、次いで「販売情報提供ガイドライン」(54%)が挙げられた。 では、実際に医療者側はどう思っているのだろうか? 実は、まったく同じ調査が医師626名を対象に行われている。結果、「情報提供の乖離」に関しては「乖離はない」(51%)が最多で、「情報提供の障壁」に関しても「障壁はない」(57%)が最も多かった。つまり、MRが思うほど、医師にとってMRとの面会価値は低くはないことになる。医療者側の考えるMRの価値とは シンポジウムに登壇した医師からは、コロナ禍で受動的な医局説明会や文献提供がなくなり、現在は能動的なWeb経由での情報収集やWeb講演会の聴講等にシフトしたが、依然「MRによる情報提供も必要」との意見があがった。 具体的に「企業担当者がいて助かったこと」について、医師およびメディカルスタッフのエピソードが紹介された。 医師が助かった例として、臨床現場で疑問が生じた際の迅速なメール対応や地域医療連携および会合のサポート、患者差別や疾患への偏見を減らすための疾患啓発活動が挙げられた。同様に、メディカルスタッフからは添付文書のニュアンスの確認や薬物相互作用に関する論文紹介、食事・運動療法に関する患者向けの資材提供や研修会の案内が役立ったとの声があがった。その一方で、「不快なMR」として、薬の販売に躍起になって情報提供がおろそかになっている場合やレスポンスが遅いケース、周辺知識の不足等が指摘された。MRはどう振る舞うべきか 製薬企業側の代表者も登壇し、今後目指す形として、アフターコロナは、リアル面会とオンライン面会を併用し、ITツールを活用しての情報提供を行うことや、医療従事者に寄り添った活動を心掛けること、とくに自己研鑽を行い、信頼をしてもらうように務めるべき、と発言した。糖尿病協会で行っているEXPERT社員認定制度やe-ラーニング、積極的な学会参加を通じて、医療従事者のニーズを把握し、デジタルを活用しながら、ありとあらゆる形で医療者との関係構築を目指すという。 アフターコロナもMRは忙しい医療従事者の情報ニーズを埋める役割を担うと期待されているようだ。 質問すると、さっと返事が返ってきて助かるという声がある一方、添付文書改訂を知らせにしか来ないとの声もある。MRが医療者に適切な情報を提供するには、疾患への深い知識が必須となる。「患者さんの声」を企業に伝えるためにMRが必要だという意見もあり、いずれにせよ薬剤の情報を熟知し説明できる能力こそが今後の評価軸となる。 アフターコロナのMRの在り方は、EXPERT社員認定などの形で底上げを図り、医療従事者の一員であると自覚し、何より自信を失わないことが重要であるようだ。

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第168回 3年連続3回目、地域医療連携推進法人言及の背景 「骨太の方針2023」で気になった2つのこと(後編)

3年連続3回目のオールスターこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。ロサンゼルス・エンジェルスの大谷 翔平選手の打撃の勢いが止まりません。6月は27試合すべてに先発出場し、104打数41安打で打率.394、15本塁打29打点でした(投手としては2勝2敗)。全試合をテレビ観戦しているわけではありませんが、朝、NHK BSにチャンネルを合わせると大谷が打席に立っていて、ホームランを打っている印象です。「見ると打っている」、まさにそんな感じです。3年連続3回目の出場となるオールスターゲームもいよいよ来週7月11日(現地時間)に迫り、楽しみです。前日に行われるホームランダービーへは「出場しない」との下馬評ですが、「大谷のことだから」とダービー出場にほのかな期待を抱く人も少なくないようです。さて今回も前回に引き続き「骨太方針2023」について書きます。政府は16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」(骨太方針2023)を閣議決定しました1)。盛りだくさんの医療や社会保障関連の項目の中から個人的に気になったものとして、前回は「長期収載品等の自己負担の在り方」について書きました。今回は、もう一つ気になった「地域医療連携推進法人」への言及について書いてみたいと思います。地域医療連携推進法人について骨太方針が言及するのは、大谷選手のオールスターと同じく、「3年連続3回目」となります。「骨太の方針2023」では「地域医療連携推進法人制度の有効活用」「骨太の方針2023」の「第4章 中長期の経済財政運営」「2.持続可能な社会保障制度の構築」の(社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進)には、次のように書かれています。「引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度整備の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、(中略)を図る」「骨太方針2021」では「連携推進法人制度の活用等により病床機能の分化・連携を進め地域医療構想を推進」「地域医療連携推進法人」が最初に言及されたのは2年前の「骨太方針2021」でした。「第3章 感染症で顕在化した課題等を克服する経済・財政一体改革」「2.社会保障改革」の「(1)感染症を機に進める新たな仕組みの構築」には次のように書かれました。「今般の感染症対応の検証や救急医療・高度医療の確保の観点も踏まえつつ、地域医療連携推進法人制度の活用等による病院の連携強化や機能強化・集約化の促進などを通じた将来の医療需要に沿った病床機能の分化・連携などにより地域医療構想を推進する」。「骨太方針2022」では必要な法制上の措置を求める続く、「骨太方針2022」では、「第4章 中長期の経済財政運営」「2.持続可能な社会保障制度の構築」で次のように書かれました。「質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに、地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する」新類型新設などの制度変更を機に、再度有効活用をダメ押し表現は微妙に変わっていますが、「有効活用」という点は一貫しています。おおまかな流れとしては、「骨太方針2021」で、地域医療構想を推進するために地域医療連携推進法人制度の活用を謳い、「骨太方針2022」で必要な法制上の措置を求め、2023年5月成立の全世代型社会保障法(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)で新類型新設などの制度変更を実現、それを受けた今年の「骨太方針2023」でダメ押し的に「地域医療連携推進法人制度の有効活用」を再度強調した、ということになります。6月末現在の連携推進法人の数は全国で34地域医療連携推進法人(以下、連携推進法人)については、本連載でも度々書いてきました(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」、「第69回 「骨太」で気になった2つのこと(後編) 制度化4年目にして注目集める地域医療連携推進法人の可能性」)。制度がスタートして6年ですが、実際のところ、まだそれほど普及・定着していません。2023年6月末現在の連携推進法人は全国で34(累計認定数は35だが1法人解散で34)。47都道府県のうち、まだ半数以下の21道府県でしか認定されていない連携推進法人制度に、国がここまでこだわる理由は一体何でしょうか。最大の理由は地域医療構想の進捗がはかばかしくないことでしょう。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想については2040年頃を視野に入れつつ策定される予定ですが、詳細は未定)。しかし、そもそも各地の地域医療構想調整会議がほとんど機能しなかったことに加え、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編の多くが先延ばしとなってしまいました。財務省は、今年4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキング・グループで、地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。地域医療構想調整会議が機能しないならば、連携推進法人を各地でつくってもらい、“同じ法人”の中で実のある話し合いを進め、本当に実効性のある医療連携を進めてほしい、というのが国の本音というわけです。「かかりつけ医機能の制度整備」にも連携推進法人活用をもう一つの理由としては、全世代型社会保障法の成立で新たに進められる「かかりつけ医機能の制度整備」があります。これについても連携推進法人の制度の活用が期待されているわけです。昨年12月16日に公表された、全世代型社会保障構築会議の報告書では、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」の項で以下のように書かれています。「医療機関が担うかかりつけ医機能の内容の強化・向上を図ることが重要と考えられる。また、これらの機能について、複数の医療機関が緊密に連携して実施することや、その際、地域医療連携推進法人の活用も考えられる」。どう活用するかについては細かくは言及されていませんが、病院だけではなく、診療所も参加した連携法人の中で、それぞれの専門領域を補完しあいながら、面の連携を進めることでかかりつけ医機能を強化していってほしい、と読み取れます。「個人立医療機関」も参加できる類型が新設その連携推進法人の制度ですが、全世代型社会保障法(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律)が2023年5月成立したことに伴い、大幅に見直されます。医療法の一部が改正され、連携推進法人については、従来の「法人のみが参加できる」類型に加え、「個人立医療機関」も参加できる類型が新設されます。新類型では、出資、貸付は不可となる一方、外部監査等が不要になったり、一部事務手続きが簡素化されたりなど、“使い勝手”がよく、設立の敷居が低い類型となる予定です(施行は2024年4月)。これまでは、高度急性期病院から、急性期、回復期、慢性期へと退院患者の流れ(上流から下流へ)を効率化することに重点を置いた、いわゆる“垂直連携”の連携推進法人が比較的多かった印象です。そういったところでは、各病院の役割分担を明確にし、経営的にもプラスになるようなスキームを組んでいました。今後、診療所も参加した新類型の連携推進法人が増えていくと思われますが、わかりやすい“垂直連携”ではなく、医療機能が同レベルの医療機関による“水平連携”は経営的なメリットが見えづらいかもしれません。制度見直しで、連携推進法人制度が果たして順調に普及・定着していくのか、これからの動きに注目したいと思います。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023/内閣府

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第165回 案から閣議決定までに一部変更?『骨太の方針2023』の医療関連項目をピックアップ

岸田 文雄政権が考える重要課題や来年度予算編成に関する基本的な方向性を示す「経済財政運営と改革の基本方針2023」(通称・骨太の方針2023)が6月16日に閣議決定された。時々、友人・知人から「あの『骨太の方針』って何?」とよく聞かれることがある。この大枠を決めているのは、中央省庁再編が行われた2001年1月、内閣設置法に基づきスタートした「経済財政諮問会議」である。首相を議長に経済関係閣僚と民間有識者で構成され、首相の諮問を受け、構成メンバーが経済全般や財政の運営方針、予算編成の基本方針を調査審議する。経済財政諮問会議の歴史と『骨太の方針』の謂れご存じのように日本では長らく政策立案や予算編成は官僚主導、もっと踏み込んで言えば財務省(旧大蔵省)が官庁の中のキング・オブ・ザ・キングスとして強大な権限を握り、政治家は彼らの担いだ神輿に乗っかるのが慣例だった。これに対して経済財政諮問会議の設置以降、首相の音頭で同会議の経済関係閣僚と民間議員などが政策を議論し、それをまとめたものを基本方針として閣議決定。この閣議決定後に各大臣が基本方針を所轄省庁に持ち帰り、方針内に記述された関連事項を省内で具体的に政策化したうえで再度同会議に持ち帰って発表する手続きとなった。つまり政治主導の政策・予算決定というわけだ。同会議のスタート時は省庁内での政策具体化の際に骨抜きにされる可能性は残ったが、たまたま本格スタート時の首相は、郵政三事業の民営化を掲げ、総裁選では「自民党をぶっ壊す」と叫んでいた政治主導の権化とも言われる小泉 純一郎氏だったこともあり、それなりに政治主導が発揮され、今に至っている。さらに付け加えると、2014年に安倍 晋三氏(故人)の政権下で、各省庁の幹部人事を決定する内閣人事局が内閣官房に設置されたことで省庁側は人事権で首根っこを押さえられた形になり、良くも悪くも政治主導がほぼ完成されている。ちなみになぜ通称で『骨太の方針』と呼ばれているかだが、同会議発足当初、森 喜朗首相の下で財務相を務めていた元首相の宮澤 喜一氏が同会議の議論を「骨太の議論」と呼んだことが始まりとされている。さてこの『骨太の方針』のより具体的な作成プロセスだが、毎年2~4月に同会議で民間委員の提言を受け、各省庁の大臣と民間委員の間で個別テーマについて議論が行われる。そこで『骨太の方針』の骨子案が作成され、5月中旬くらいに各省庁に降りる。各省庁ではその内容が実現可能かを関係各方面との調整や表現の修正検討を行い、それらが再び同会議に意見として提出される。また、同時期には政権与党の部会や関係する議員連盟などからもさまざまな政策提言が行われ、こうしたものも盛り込まれたうえで、『骨太の方針』の案が公表される。今回の『骨太の方針2023』は6月7日に案が公表された。その後は閣議決定までの間に与党の政務調査会などによる事前審査が行われるほか、各省庁や関係団体から与党の有力議員に働き掛けも行われる。その結果、一部文言などが修正された最終案が閣議決定されるという具合だ。「医療」「看護」「薬」「介護」のキーワードで検索、案と閣議決定文を比較さて今回の『骨太の方針2023』は、公表案から閣議決定文に至るまで実に100ヵ所以上の文言が修正されたと報じられている。医療・介護関係でどんな修正があったのだろうか?ざっくりとそれを調べてみた。比較結果を記述する前に簡単に概説すると、近年の『骨太の方針』は、第1章が経済状況の現状分析、第2章が国内を意識した経済成長戦略、第3章が国際的な視野に基づく経済成長戦略、第4章が財政運営方針と次年度以降の予算政策の4章立て。医療・介護については概ね第4章で触れられることがほとんどだ。これは言わずもがな、少子高齢化に伴う社会保障費の増大をどのように抑制するかに力点が置かれているからだ。さてどんなところが変更されていたのだろうか? 最初に目についたのは、第4章:中長期の経済財政運営の2.持続可能な社会保障制度の構築の項の「社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進」の部分である。下線部分が閣議決定文に追記された。1人当たり医療費の地域差半減に向けて、都道府県が地域の実情に応じて地域差がある医療への対応などの医療費適正化に取り組み、引き続き都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進するとともに、都道府県のガバナンス強化、かかりつけ医機能が発揮される制度の実効性を伴う着実な推進、地域医療連携推進法人制度の有効活用、地域で安全に分娩できる周産期医療の確保、ドクターヘリの推進、救急医療体制の確保、訪問看護の推進、医療法人等の経営情報に関する全国的なデータベースの構築を図る。(骨太の方針 閣議決定文)周産期医療に関しては、おそらく岸田首相が唱える異次元の少子化対策を踏まえたものと考えられる。ちなみに「看護」というキーワードが骨太の方針で登場するのはここだけだ。たぶん案の段階で看護に関する言及が皆無だったことを受け、日本看護協会周辺が働きかけたのではないだろうかと予想している。すぐ後の医療DXに関する一文も軽微ながら変更が加えられている(下線部分)。医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、政府を挙げて医療DXの実現に向けた取組を着実に推進する。(骨太の方針 案)↓医療DX推進本部において策定した工程表に基づき、医療DXの推進に向けた取組について必要な支援を行いつつ政府を挙げて確実に実現する。(骨太の方針 閣議決定文)こちらは閣議決定文でより強い表現になっている。以前の本連載でも触れたが、今後の社会保障費増大を抑制するうえでデジタルヘルスの推進は必要不可欠なもの。そこに対する政府の決意の強さを表していると言えようか。今、揉めに揉めているマイナンバー関連では、マイナ保険証への一本化について否定的な世論調査結果も報じられているが、案、閣議決定文とも“2024年秋の健康保険証廃止”という一文は維持されており、それまでに現在の問題点を走りながら修正する意向なのだろう。実際、医療DXについて後に続く一文でも修正がある(下線部分)。※取り消し線部分:案にのみ記載その際、セキュリティを確保しつつ、医療DXに関連するシステム開発・運用主体の体制整備、電子処方箋の全国的な普及拡大に向けた環境整備、標準型電子カルテの整備、医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策等を着実に実施する。(骨太の方針 閣議決定文)案ではどちらかというと「従」の扱いだったセキュリティ対策が、医療DXで推進すべき各項目と並列的に記載されている。というか、個人的には「そりゃそうだろう」と言いたいところだが。さてその後の創薬などの医薬品関連でも文言の修正が見て取れた(下線部分)。創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行うため、保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置、全ゲノム解析等に係る計画の推進を通じた情報基盤の整備や患者への還元等の解析結果の利活用に係る体制整備、大学発を含むスタートアップへの伴走支援、臨床開発・薬事規制調和に向けたアジア拠点の強化、国際共同治験に参加するための日本人データの要否の整理、小児用・希少疾病用等の未承認薬の解消に向けた薬事上の措置と承認審査体制の強化等を推進する。これらにより、ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する。さらに、新規モダリティへの投資や国際展開を推進するため、政府全体の司令塔機能の下で、総合的な戦略を作成する。医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める。大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を行うほか、OTC医薬品・OTC検査薬の拡大に向けた検討等によるセルフメディケーションの推進、バイオシミラーの使用促進等、医療上の必要性を踏まえた後発医薬品を始めとする医薬品の安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直し、プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る。また、総合的な認知症施策を進める中で、認知症治療の研究開発を推進する。献血への理解を深めるとともに、血液製剤の国内自給、安定的な確保及び適正な使用の推進を図る。(骨太の方針 閣議決定文)補足することでより正確な記述にしたというのが率直な感想だが、個人的には「プログラム医療機器の実用化促進に向けた承認審査体制の強化を図る」が付け加えられたところにやや目が留まった。実は『骨太の方針』案が公表されるのと同時期に田村 憲久元厚労相らのヘルステック推進議員連盟が加藤 勝信厚労相に提言の申し入れを行っているからである。与党での法案審査をより無難に通過させるためには、こうした議連の提言が盛り込まれることがよくある。一方、血液の安定確保に関しては、確保の方向性だけでなく、医療現場ではやや使い過ぎという声もある血液製剤の適正使用に踏み込んだのは、個人的にはなかなか細かいところに気を遣ったと感じている。さて、介護に関しては本文の修正はなかった。急速な高齢化が見込まれる中で、医療機関の連携、介護サービス事業者の介護ロボット・ICT機器導入や協働化・大規模化、保有資産の状況なども踏まえた経営状況の見える化を推進した上で、賃上げや業務負担軽減が適切に図られるよう取り組む。が、実は欄外の注釈が1ヵ所修正されている(下線部分)。「介護職員の働く環境改善に向けた取組について」(令和4年12月23日全世代型社会保障構築本部決定)では、現場で働く職員の残業の縮減や給与改善などを行うため、介護ロボット・ICT機器の導入や経営の見える化、事務手続や添付書類の簡素化、行政手続の原則デジタル化等による経営改善や生産性の向上が必要であるとされており、取組を推進する。(骨太の方針 閣議決定文)注釈ゆえに大した修正ではないとも言えるかもしれないが、わざわざ最終段階で修正したわけだから一定の意味があると考えるのが自然。そしてこの修正内容を見る限り、介護業界関係団体からの与党議員への働きかけの結果というよりは、厚労省あるいは財務省、あるいはデジタル庁から与党議員への働きかけの結果と解釈するのが妥当と考える。つまり業務効率化により強く国が関与してくる可能性があり、次回の介護報酬改定にこの部分で何らかの改革が行われる可能性を念頭に置いても良いかもしれない。いずれにせよこれらの答え合わせは下半期の“お楽しみ”というところだろうか。一応、はずすのを承知で個人的な予想をすると、もし文言通りにいかないことがあるとするならば、実は政権の強い意向が示されている健康保険証の廃止時期かな、と思っていたりもする。

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第152回 新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省

<先週の動き>1.新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省2.骨太の方針を閣議決定、防衛費増額とともに子育て支援を強化へ/内閣府3.391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を決定/政府4.ドクターカーの運用に関する全国調査、人員不足が課題/厚労省5.旧優生保護法下での強制不妊手術問題、調査報告書全文が判明/国会6.医療脱毛クリニックが破産手続き、被害者は900人以上に1.新型コロナウイルス、アドバイザリーボードが夏の感染拡大の可能性を指摘/厚生労働省厚生労働省は6月16日に新型コロナウイルス対策を助言する「アドバイザリーボード」を開催した。厚労省の定点把握データに基づき、新型コロナウイルス感染者数が夏の間に一定の拡大が生じる可能性があるとの見解をまとめた。定点把握による感染者数は前週比で1.12倍増加し、全国で36都府県で感染者数は増加していた。会合では高齢者など重症化リスクのある人々に対するワクチン接種の検討を求める一方、基本的な感染対策の重要性も強調された。専門家からは、感染拡大の可能性や医療提供体制についての懸念が述べられた。また、変異ウイルスのオミクロン株の亜系統「XBB」の増加や免疫逃避性の変異などにも注意が必要とされた。これに先立ち、日本小児科学会は6月6日に、新型コロナワクチンの子どもへの接種を「すべての小児に推奨する」と発表しており、「コロナ対策の緩和によって多くの子供が感染する可能性があるため、ワクチン接種は重要であり、重症化を防ぐ手段として有効だ」と主張している。同学会側は、WHOが子供へのワクチン接種を支持しており、複数の研究でも予防効果が確認されていることを指摘している。参考1)第122回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和5年6月16日)2)コロナ感染「夏に拡大恐れ」=定点把握は前週比1.12倍-「5類」後初会合・厚労省助言組織(時事通信)3)コロナ1カ月で2倍に、沖縄注意 専門家組織「夏に拡大の可能性」(朝日新聞)4)新型コロナワクチン「すべての小児に接種推奨」日本小児科学会(NHK)5)小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方[2023.6追補](日本小児科学会)2.骨太の方針を閣議決定、防衛費増額とともに子育て支援を強化へ/内閣府政府は6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定した。少子化対策の財源について具体的な言及はなく、新たな税負担も考えていないとした。防衛費の財源については増税の実施時期を2025年以降と先送りする方針だが、具体的な財源の確保は困難であり、実現するためには安定した財源が必要とされている。政府は年末までに具体化を進める予定。骨太の方針の中で、社会保障分野については、引き続き経済・財政一体改革の強化・推進を行い、限りある資源を有効に活用して質の高い医療介護サービスを提供するために、医療の機能分化と連携のさらなる推進を行い、医療・介護人材の確保や育成にあたるほか、働き方改革の実現のために医療DXの推進、医療費適正化や地域医療構想の推進のために、地域医療連携推進法人制度の有効活用などの推進が盛り込まれた。介護の分野では、高齢者の自己負担2割の対象者を拡大するか否かを年末に判断することを正式に決めた。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~(内閣府)2)政府、骨太の方針を閣議決定 防衛増税後ろ倒し示唆、歳出増ずらり(朝日新聞)3)骨太の方針のポイント 物価安定・賃金上昇狙う 少子化対策 児童手当や育休給付拡充(日経新聞)4)終身雇用など日本の“常識”見直しへ 骨太方針閣議決定(産経新聞)3.391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を決定/政府政府が391項目の規制緩和策を盛り込んだ新たな規制改革実施計画を6月16日の閣議で決定した。この中には、医療データの個人情報を加工すれば同意が不要で研究開発に利用できる法整備や、AIを活用した契約書審査のガイドライン作成、医師の業務を一部看護師にも許可するなど、さまざまな分野での規制緩和が含まれている。また、都市部でもオンライン診療のための診療所を開設できるよう検討し、診療所管理者の常勤要件の緩和や特定行為の範囲拡充も検討する。これにより、医療のデジタル化や効率化が進む見込み。さらに、医療データの2次利用の同意不要化や、在宅患者への薬剤提供体制整備、プログラム医療機器の保険適用の検討なども行われている。この実施計画は2023年中に結論を出す予定。参考1)『規制改革実施計画』[令和5年6月16日閣議決定](内閣府)2)参考資料[内閣府規制改革推進室作成](同)3)規制緩和策 391項目盛り込んだ政府の計画 閣議決定(NHK)4)都市部でも公民館でオンライン診療、年内に結論 新たな規制改革実施計画を閣議決定(CB news)4.ドクターカーの運用に関する全国調査、人員不足が課題/厚労省厚生労働省が行なったドクターカーの運用に関する全国調査の内容が判明した。これによると、24時間体制で運用している病院は全体の約20%に過ぎず、手術可能なドクターカーは約30%、輸血可能なドクターカーは約10%であることが明らかになった。この中で人員不足が主な課題とされており、厚労省は効率的な運用のための指針を策定し、救命率の向上につなげたいと考えている。調査は厚生労働省調査研究事業「ドクターカーの運用事例等に関する調査研究事業」として全国ドクターカー協議会によって実施され、約140病院が回答した。調査によると2021年1月~2022年9月にかけて、ドクターカーで診療された患者は約5万4,800人。しかし、夜間運用や手術能力、輸血能力に関しては課題があり、運用している病院は限られていた。また、ドクターカーの購入費用は装備を含めて1台当たり1,000~4,000万円かかり、国の補助もあるが、病院の負担も大きい。全国ドクターカー協議会は、データ収集と分析を行い、ドクターカーの診療能力向上のために、車内診療の訓練コースなどを設けるなどの取り組みを行っていく考えを示している。参考1)ドクターカー「24時間」運用2割、人員不足など課題…「手術可能」は3割(読売新聞)5.旧優生保護法下での強制不妊手術問題、調査報告書全文が判明/国会旧優生保護法下で障害者らに不妊手術が強制された問題について、衆参両院がまとめた調査報告書原案の全文が判明した。調査では、手術の65%が本人の同意なしに行われ、盲腸など別の手術と偽って手術が行われたり、審査会を開催せずに書類だけで手術を決定するなど、ずさんな実態が浮かび上がった。最年少の被害者は9歳で、児童施設や福祉施設の入所条件として手術が行われた事例も認められた。報告書によれば、旧法に基づき全国で実施された手術は2万4,993件で、本人の同意なしの手術は1万6,475件だった。被害の背景には経済的な困難や家族の意向、福祉施設の入所条件などがあった。報告書の原案は衆参両院に提出され、公表される予定。この問題について、国会の議長や厚生労働委員会の委員長は謝罪の意を表明した。参考1)盲腸と偽り不妊手術、最年少9歳 同意なし65%、旧優生報告判明(東京新聞)2)強制不妊、最年少は9歳 国の報告書全文判明 旧優生保護法、衆参議長提出へ(時事通信)3)旧優生保護法 いきさつなど調べた国会の報告書案まとまる(NHK)6.医療脱毛クリニックが破産手続き、被害者は900人以上に医療脱毛クリニック「ウルフクリニック」が突如として全店舗を休業し、破産手続きの準備を進めていることが明らかになった。クリニックはコース契約を結んだ患者に対する返金も行わず、従業員の給与も未払いのままで、被害総額は約1億8,000万円と推定されている。男性の医療脱毛を扱うウルフクリニックは東京、神奈川、愛知、大阪に5店舗を展開していたが、今年4月に全店舗を休業し、先月末に突然の破産を発表した。被害者たちは、返金対応がずさんであることを、クリニックの会議の録音や返金対応マニュアルから明らかにした。運営会社の幹部の会議の録音データからは、クリニックが自転車操業に陥っており、客からの入金がなくなったために従業員への給与支払いができなくなったことが判明している。被害者は900人以上を上回っており、被害者らは集団訴訟を起こす見込み。参考1)「通い放題」トラブル相次ぐ脱毛サロン、倒産が過去最多に 年度内には業界大手「脱毛ラボ」が破綻、一般利用者3万人に被害(産経新聞)2)「マジ終わった」脱毛クリニック破産手続き準備 被害総額1億8,000万円か 集団提訴へ(テレビ朝日)

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第151回 はしか感染の拡大、ワクチン接種率低下に警鐘/国立感染症研究所

<先週の動き>1.はしか感染の拡大、ワクチン接種率低下に警鐘/国立感染症研究所2.骨太方針の原案、賃上げ継続と少子化対策を強化/経済財政諮問会議3.急性期充実体制加算未届け出の病院、手術実績が主な理由と判明/中医協4.新マイナンバーカード導入と母子健康手帳の統合を決定/内閣府5.ゲノム医療法が成立、ゲノム解析による新薬開発を促進へ/国会6.初の経口人工妊娠中絶薬、オンライン診療では処方不可、入院可能な有床施設で使用を/厚労省1.はしか感染の拡大、ワクチン接種率低下に警鐘/国立感染症研究所新型コロナウイルス感染の沈静化とともに、はしか感染が各地で相次いでいることが報じられている。国立感染症研究所などの報告によると、今年1月から6月1日までの感染者数は計11人に達しており、去年の報告者数を上回り、注意喚起を行っている。国内土着のウイルスの報告ではないため、新型コロナウイルスの水際対策の緩和により、海外から入国してきた渡航者によって持ち込まれたウイルスが広がったとされている。はしかは非常に感染力が強く、免疫がない大人でも重い症状が出ることがある。症状としては、高熱や発疹が現れ、肺炎や中耳炎を合併することもあり注意が必要。特別な治療薬はなく、先進国でも千人に1人が死亡すると言われ、感染は空気感染や飛沫感染、接触感染によって広がる。わが国ではワクチン接種が進んでおり、世界保健機関(WHO)も「排除状態」と認定しているが、入国制限の緩和に伴い、茨城、東京、神奈川、大阪、兵庫などで感染者が報告されている。専門家は接種率の低下と感染者増加の関連性を指摘し、ワクチン接種を呼びかけている。とくに1回目の接種率が93.5%、2回目の接種率が93.8%であり、前年度より減少していることが指摘され、未接種者への対応が急がれる。参考1)【医療機関のみなさまへ】麻しん発生状況に関する注意喚起[2023年5月23日現在](国立感染症研究所)2)はしか感染、各地で相次ぐ 専門家「大人でも重い症状」(日経新聞)3)大阪市で2人のはしか感染確認 2020年以来(毎日新聞)4)はしか急増中!ワクチン2回打ってる?大人世代は特に要注意!23歳~51歳に迫る危機(毎日放送) 2.骨太方針の原案、賃上げ継続と少子化対策を強化/経済財政諮問会議政府の経済財政諮問会議は7日、「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針)の原案を示した。新型コロナウイルス感染症の対応から一転して、財政健全化への姿勢を強調する内容となった。また、長年据え置かれてきた賃金の引き上げを持続的なものとし、中間層の復活を促すために、リスキリング支援や税制対応策などの具体策も含まれている。さらに子ども・子育て政策も抜本的に強化され、少子化の傾向を反転させる政策の充実を図るとしている。医療面では、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類に変更されたことに伴い、医療体制、公費支援など段階的に通常体制へ移行を進めるとともに、来年度の診療報酬と介護報酬の同時改定で、物価高騰や賃金の引き上げへの対応、患者負担の抑制を踏まえ、「必要な対応」を取る方向性を盛り込んだ。そのほか、医薬品については、革新的な医薬品の開発強化などイノベーションを推進する一方、長期収載品などの自己負担のあり方の見直し、バイオシミラーの使用促進、後発医薬品などの安定供給確保、後発医薬品の産業構造の見直しを盛り込んでいる。一方、財政の健全性を保つために黒字化目標は維持しつつ、中期的な経済財政の枠組み作りのための検証も行われる。この原案は与党との調整を経て、今月中に閣議決定される予定。参考1)経済財政運営と改革の基本方針2023(仮称)原案(経済財政諮問会議)2)物価高と患者負担抑制への対応を併記、骨太原案 24年度のトリプル改定で(CB news)3)「骨太の方針」原案 “賃上げ持続” “少子化反転へ対策強化”(NHK)4)コロナで緩んだ財政を「平時に」 骨太の原案、社会保障費減に懸念も(朝日新聞)3.急性期充実体制加算未届け出の病院、手術実績が主な理由と判明/中医協厚生労働省は、6月8日に中央社会保険医療協議会の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」を開催した。この中で、令和4年度に行われた実態調査の結果報告が行われ、2022年度の診療報酬改定で新設された施設基準の「急性期充実体制加算」を届け出ていない病院が、取得できない理由として「手術実績」が主な理由であることが明らかにされた。届け出をしていない理由について病床規模別に集計したところ、200床以上の病院で手術実績を挙げる割合が最も高かった。また、急性期充実体制加算の未取得の400床以上の病院では「門内薬局、敷地内薬局」が設置されているためと回答する施設もあった。急性期充実体制加算は、手術件数の実績や感染防止対策、早期回復などが要件とされており、加算を届け出ている病院の方が入院期間が短く、病床利用率が高い傾向もみられた。急性期充実体制加算と総合入院体制加算とは、一方の算定しか認められないため、「どちらの加算を取得すべきか」を悩む病院も少なくないが、より点数の高い「急性期充実体制加算」に移行を選択して、「総合入院体制加算」で要件となっていた分娩対応・精神科対応を廃止する病院が一部にあることが問題視されている。参考1)令和5年度 第2回 入院・外来医療等の調査・評価分科会(厚労省)2)急性期充実加算、届け出の課題「手術実績」「200-399床」「400床以上」でトップに(CB news)3)スーパーICU評価の【重症患者対応体制強化加算】、「看護配置に含めない看護師2名以上配置」等が大きなハードル-入院・外来医療分科会(2)(Gem Med)4.新マイナンバーカード導入と母子健康手帳の統合を決定/内閣府6月9日に政府はデジタル施策に関する「重点計画」を閣議決定した。重点計画では、2026年中にプライバシーに配慮した新しいマイナンバーカード(マイナカード)を導入し、今年度中に母子健康手帳とマイナカードの一体化を一部自治体で始めることが盛り込まれているほか、マイナンバー制度におけるトラブルに対応するための安全対策も取り入れられている。また、各種証明書との一体化も計画されており、健康保険証は2024年秋に廃止され、運転免許証の機能もマイナカードに統合される。今後は、マイナカードの利用機会を拡大し、トラブルに対しては万全の対策を実施する。さらに、オンラインでの本人確認にもマイナカードを使用する方針が示された。参考1)令和5年度「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(デジタル庁)2)今回の「デジタル社会の実現に向けた重点計画」の主なポイント(同)3)母子手帳、免許証…マイナとの一体化が続々 「重点計画」閣議決定(朝日新聞)4)マイナカード利用機会拡大 26年に新カード発行、閣議決定(東京新聞)5.ゲノム医療法が成立、ゲノム解析による新薬開発を促進へ/国会6月9日、遺伝情報を活用したゲノム医療の推進と差別防止を目指す「ゲノム医療法」が与野党の賛成多数により参院本会議で可決・成立した。この法律は遺伝情報に基づく治療の推進と差別の防止を目指しており、ゲノム医療の研究と開発を進め、遺伝情報や健康情報の管理・活用の基盤整備を行う。法律には、医師や研究者がゲノム情報の取得や管理に関して守るべき指針も含まれている。ゲノム医療は、個人の遺伝情報を解析し、病気の診断や最適な治療法や薬の選択に役立つ一方、保険や雇用、結婚などでの差別や不利益の懸念があり、とくにがん患者の40%以上が懸念を示しており、3%以上が遺伝情報による差別的な扱いを経験したと回答している。遺伝情報に基づく差別などに対しては、罰則のある法律が必要とする意見もあり、具体的な事例や罰則の必要性について検討が進められることが期待されている。参考1)良質かつ適切なゲノム医療を国民が安心して受けられるようにするための施策の総合的かつ計画的な推進に関する法律案(参議院)2)ゲノム医療法成立…難病治療・遺伝差別防止 国費投入(読売新聞)3)ゲノム医療法 参院本会議で可決・成立 差別防止なども掲げる(NHK)6.初の経口人工妊娠中絶薬、オンライン診療では処方不可、入院可能な有床施設で使用を/厚労省厚生労働省は、国内で初めて承認された経口の中絶薬「メフィーゴパック」(一般名:ミフェプリストン/ミソプロストール)について、母体保護法指定医師の確認下での投与が必要であり、病院や有床診療所での使用が必要であると発表した。この薬はオンライン診療では処方できず、緊急対応が可能な施設で使用する必要がある。厚労省は適正な使用体制を確立するまで、「入院可能な有床施設」での使用を求めている。また、医療現場に対しては、適切な管理と医療連携体制の確立を呼びかけている。この経口中絶薬には重大な副作用のリスクがあり、使用者は下腹部痛、嘔吐、重度の子宮出血、感染症などに注意する必要がある。厚労省は使用者向けに留意事項を示し、オンライン診療ではなく医療機関に来院する必要があることを強調している。参考1)いわゆる経口中絶薬「メフィーゴパック」の適正使用等について(厚労省)2)ミフェプリストン及びミソプロストール製剤の使用にあたっての留意事項について(同)3)初の経口人工妊娠中絶薬、厳格運用で慎重スタート(産経新聞)4)経口の中絶薬「メフィーゴパック」、母体保護法指定医師の確認下で、病院・有床診での投与が必要、オンライン診療で処方不可?厚労省(Gem Med)

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第161回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体。取り返しがつかなくなる前に決断すべきこととは…(前編)

5月の連休、北海道のテレビが放送されている下北半島で考えたことこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月の連休、私は山仲間と青森県の八甲田山に行って来ました。豪雪で有名な酸ヶ湯温泉から地獄湯の沢を登って大岳(八甲田山の主峰です)、毛無岱を経て酸ヶ湯に戻る周回コース。幸い好天で残雪の春山を堪能できたのですが、やはりここ八甲田山でも雪は例年より少なく、地元の人は「季節が変わるのが2週間は早い」と話していました。八甲田山を登った後はレンタカーで下北半島巡りをしました。恐山霊場を参拝した後、下風呂温泉の宿に泊まったのですが、その宿のテレビでは北海道の民放が普通に放送されていました。もちろんCMも北海道の企業のものばかりです。下北半島の北エリアはテレビ的には青森ではなく距離が近い函館圏内、ということなのでしょう。ちなみにマグロで有名な下北半島の先端にある大間町と函館市の距離は直線(フェリー)で約46キロ、大間町と青森間は国道を使って約150キロです。となると仕事柄、医療提供体制についても気になるので、源泉かけ流しの温泉に浸かった後、ちょっと調べてみました。下北半島が位置する下北地域には4つの病院があります。基幹病院である一部事務組合下北医療センター・むつ総合病院(454床)以外は、国民健康保険大間病院(48床)、自衛隊大湊病院(30床)、むつリハビリテーション病院(120床)と、中小病院とリハビリ病院しかありません。実質的にむつ総合病院が、この地域の急性期医療を一手に引き受けていることになります。ただし、大間町からむつ市までは陸路で48キロもあり、距離的には函館とほぼ同じです。医療、とくに救急などの急性期医療に迅速に対応するには微妙な距離です。北海道のドクターヘリが自由に使えれば、ある意味”函館医療圏”と言ってもいいくらいでしょう。翌日我々は、人口減に苦しむ僻地の医療の大変さを実感しながら、約2時間半をかけてむつ市経由で青森まで車を走らせました。日本の人口、50年後の2070年には3,900万人減少し8,700万人にということで今回は、ゴールデンウイーク直前の4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」と、日本の医療提供体制への影響について書いてみたいと思います。「将来推計人口」は国勢調査を基に5年に1度公表する日本の人口の長期予測です。今回は新型コロナウイルスの影響で2017年4月以来、6年ぶりの公表となりました1)。それによれば、最も実現性の高いとされるケースで、2020年に1億2,615万人だった日本の人口は、50年後の2070年には3,915万人減少し、8,700万人になるとのことです。女性1人が生涯に産む子供の推定人数「合計特殊出生率」は2070年に1.36と推計されました(2020年は1.33)。推計には、日本に住む外国人も含まれ、933万人で人口の約1割になるとしています。人口が1億人を割るのは2056年で、前回推計の2053年より3年遅くなりました。そして2067年には9,000万人を下回るとしています。「生産年齢人口」は人口の52.1%まで減少65歳以上の高齢者の割合である高齢化率は2020年に28.6%だったのが、今後も上昇し2070年には38.7%まで高まるとしています。高齢者数のピークは前回推計では2042年の3,935万人でしたが、今回は1年遅い2043年の3,953万人となりました。15歳から64歳までの「生産年齢人口」は2020年で7,509万人(全人口の59.5%)だったものが、2070年には4,535万人、全人口の52.1%まで減少するとしています。ただし、外国人の流入もあり、前回(4,281万人)よりは働き手を多く確保できる推計となっています。平均寿命は2020年で男性81.58歳、女性87.27歳だったものが、2070年には男性85.89歳、女性91.94歳にまで延びるとしています。人口が減れば医療・介護のマーケットは縮小、今以上の人手不足が起こる以上が、最新の「将来推計人口」の概要です。6年前の推計と比べ、人口1億人割れの時期は3年遅くなったものの、日本の人口減の勢いはまったく弱まらないようです。人口が減るということは、都道府県、市町村の人口が減り、医療・介護のマーケット(つまり患者数)が縮小、同時に、労働集約型産業の側面が大きい医療・介護の分野での人手不足が今以上に深刻になることを意味します。日本の医療の現場では現在、そうした事態に備えた準備を着実に進めていると言えるでしょうか。私は2つの側面からみて、現場の医療者の多くはまだまだ他人事として、のんきに構えているようにしか見えません。遅々として進まない病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動き1つ目の側面は医療提供体制における、病院の役割分担の明確化や再編成、病床削減などの取り組みです。将来の地域の医療提供体制(医療機関の役割分担)を形づくる国の仕組みとしては、医療法で定められた「医療計画」と「地域医療構想」があります。医療計画は現在、各都道府県で第8次医療計画(2024〜28年)の策定が進められています。地域医療構想については当面は策定された2025年の目標に向けての取り組みが進められていることになっています(次の地域医療構想は2040年頃を視野に入れつつ策定予定ですが、詳細は未定)。しかし、大規模な再編が本格化しようとした矢先、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、地域の病院再編は先延ばしとなってしまいました(「第32回 遅れに遅れた地域の病院再編、コロナに乗じた「先延ばし」はさらなる悲劇に」参照)。コロナ禍で、補助金などにより一時的に地域の公立・公的病院の経営状況が上向いたことや、地域の病院病床の必要性が”再確認”されたこともあり、病院の役割分担の明確化や再編成に向けての動きは活発化していません。実際、財務省もそんな状況にやきもきしています。4月28日に開かれた医療や介護など社会保障分野の改革を検討する政府のワーキンググループにおいて、財務省は地域医療構想について「過去の工程表と比較して進捗がみられない」「目標が後退していると言われかねない」などと指摘しています。山形県米沢市では公立、民間が病院機能を再編するケースももっとも、そんな中でも先を見越し、大胆な再編計画を進める地域もあります。厚生労働省が3月1日に開いた第11回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループでは、山形県米沢市でのユニークな取り組みが紹介されました。米沢市では、米沢市立病院(322床)と民間(一般財団法人 三友堂病院)の三友堂病院(185床)と三友堂リハビリテーションセンター(120床)の再編計画が進行中です。3つの病院の機能分化と連携強化を推し進め、急性期は米沢市立病院が、それ以外の回復期や慢性期などは三友堂病院が担うことにしたのです。また、各病院とも老朽化が進んでいたことから、現在、米沢市立病院がある敷地に三友堂病院(三友堂リハビリテーションセンターを統合)が移転し、通路を挟んでそれぞれが新病院を建設することになりました。開院予定は今年11月です。人口減と高齢化を背景に、公と民の病院が生き残りを賭けたこの計画、病床数は米沢市立病院が59床減の263床、三友堂病院が106床減の199床になる予定です。公立病院と民間病院の組み合わせということで完全な統合はせず、それぞれ経営が独立したまま「地域医療連携推進法人」を設立し、人材交流や物資の共同利用を進める方針です。この連載でも地域医療連携推進法人については度々書いてきましたが、公立・公的と民間というように、経営母体が違う法人同士の連携を進める上では、使い勝手の良い制度と言えるでしょう(「第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?」参照)。ちなみに、この米沢市のケースを想定してか、国の認定再編計画に基づいて再編を行う病院同士を併設する場合、施設や構造設備を共用できるのは「再編対象病院が同一の地域医療連携推進法人に参加していること」とする厚生労働省医制局長通知(医政発0331第10号「病院の併設について」)が今年の3月31日に発出されています。相変わらずのんきな日本医師会、日本薬剤師会「自分たちだけは大丈夫」と考え、依然再編には無関心の病院経営者も少なくないようですが、このケースのように高齢化、人口減、患者減、医師・看護師などの医療者確保難が深刻化している地域では、ドラスティックな再編に乗り出す医療機関がこれからも増えることでしょう。しかし一方で、相変わらずのんきなのは日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体のトップです。人口減が招くであろう人材難に対する危機感が希薄過ぎるのです。(この項続く)参考1)日本の将来推計人口(令和5年推計)/国立社会保障・人口問題研究所

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第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず

コロナは文字通り“普通の風邪”へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月8日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に移行しました。これに伴い、3年3ヵ月余りにわたって設置されていた政府の対策本部も廃止されました。また、WHOのテドロス事務局長は5月5日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症をめぐる世界の状況について、2020年1月に発表した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を宣言しました。これで、新型コロナウイルス感染症の流行はほぼ“終息”し、文字通り“普通の風邪”となったと言えるでしょう。ただ、日本においてこの3年間で浮き彫りになった医療提供体制や医療連携の課題がすべて解決したとは到底言えません。“喉元過ぎれば熱さを忘れる“ではないですが、次のパンデミックにおいても同じような失敗、ドタバタを繰り返さぬよう、政府や医療関係者にはこの3年間の徹底した検証とパンデミック対策の更新を行ってほしいと思います。ところで、WHOのデータによれば、これまでに世界人口(約80億人)の1%弱が新型コロナウイルス感染症に感染(診断された確定例の累積)し、0.1%弱が死亡したと報告されています(途上国などを考慮すると、実際はより多くが感染し、0.25%超が死亡したとの見方もあります)。今から100年前、世界的大流行を引き起こしたA/H1N1型のスペインインフルエンザ(いわゆるスペイン風邪)では、1918〜1920年の3年間に3度の流行の波が押し寄せたと言われています。そして、当時の世界人口(18億〜20億人と推定)の25〜30%が感染し、2〜5%が死亡したと推計されています。当時は、抗生物質やワクチンはおろか、インフルエンザウイルスの存在すらわかっておらず、医学・医療のレベルも低かったので、全人口に対する死亡率の差はこんなものだろうと思われますが、終息までに同じく約3年かかっている点がとても興味深いです。どれだけ医学が進歩しても、「新興感染症によるパンデミックの終息には3年はかかる」ということなのでしょうか。誰かにこの謎を解き明かしてもらいたいと思います。岡山大、細胞生理学分野の教授を懲戒解雇さて今回は、岡山大学医学部での論文不正について書きます。岡山大学・学術研究院医歯薬学域の神谷 厚範教授(医学部・細胞生理学分野)が2019年7月にnature neuroscience電子版に発表したがん治療に関する論文1)に実験に使ったマウスの数などの捏造や画像の使い回しが113ヵ所確認も確認された問題で、同大は4月17日、神谷教授を懲戒解雇処分とした、と発表しました(処分は4月14日付)。AMEDもプレスリリース、全国紙も大きく報道した研究この事件、たびたび発覚する医学部や生命科学系の研究者による論文不正ではあるのですが、2019年に発表したのがnature neuroscienceという一流誌であったため、研究資金を提供した日本のAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)も論文掲載当時、「がんに自律神経が影響することを発見!がんの神経医療の開発へ」と題するプレスリリース(最近までAMEDのサイトに掲載されていましたが4月27日に取り下げられました)を出し、全国紙やNHKもその成果を大きく報道しました。そうした経緯もあってか今回の懲戒解雇を報道したメディアの数も心なしか多かった印象です。研究成果を“誤報”したことへのメディア自身の反省もあったのかもしれません。全国紙各紙は、今回の懲戒解雇報道の末尾に2019年の記事を取り消す旨を記しています。たとえば読売新聞は「2019年7月9日の朝刊社会面で、神谷教授らによる論文について『乳がん 交感神経で悪化?』の見出しで報じました。岡山大などが論文不正を認定し、日本医療研究開発機構も研究費の一部返還と、神谷教授に対する新たな研究申請の停止を決めたことから、記事と見出しを取り消します」と記しました。交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを、マウスを使って確認神谷元教授が発表した論文は、交感神経をがんの中で活発に働かせたところ腫瘍が大きくなるなどがんが進行し、交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを乳がんのマウスを使った実験で確認した、という内容でした。マウスにヒトの乳がん組織を移植し、乳がん組織内の交感神経を刺激し続けると、60日後、刺激しないマウスと比較して刺激したマウスのがんの面積は2倍近く大きくなり、転移数も多かったそうです。一方、遺伝子治療で交感神経の活性化を止めると、60日経ってもがんの大きさはほとんど変化せず、転移もなかったとのことです。当時の朝日新聞の記事によれば、神谷元教授は「不安や怒りなどをうまくコントロールし、交感神経を刺激し過ぎないようにすることで、良い影響を与えられるかも知れない」と話していました。AMEDに論文に関する匿名の告発が届き不正発覚「精神の状態ががんの転移にも影響する…」。一般人にも極めてわかりやすいロジックゆえ、マスコミも飛びつきやすかったこの研究ですが、2020年9月にAMEDに対し同論文に関する匿名の告発があったことで事態は急転します。告発を受け取ったAMEDは、元教授が論文の実験を行った前任地、国立循環器病研究センターと岡山大に研究不正の予備調査実施の要請を行いました。翌2021年には、それぞれで調査委員会が立ち上げられ、本格的な調査がスタートしました。国立循環器病研究センターの調査報告書2)は2023年3月2日に、岡山大学の調査報告書3)は3月24日にそれぞれ公表されました。実験に用いたとするマウス、ラットの数と実際に使用できた数が大きく乖離それらの調査結果によれば、論文ではマウス914匹、ラット368匹を実験に用いたとしていましたが、神谷元教授が購入するなどして実際に使用できたとみられるのはそれぞれ72匹、35匹しかいなかったとのことです。こうした動物の使用数に関する捏造が108ヵ所に上り、「論文の実験は不可能」と結論付けています。ほかにも実験結果を示す画像5ヵ所の捏造も認定されました。たとえば自律神経の操作でマウスのがんの増殖が抑制されたとした実験では「0日目」と「60日目」の画像がいずれも同じ日に撮影されていました。調査報告書は、露光時間を変えることで見かけ上、がんの大きさを調整したとみられるとしています。調査委員会の調べに対し、神谷元教授は「2018年6月の大阪府北部地震でハードディスクが落下して故障し、データを失った」として実験データを提供しませんでした。捏造の指摘についても「マウスは再利用していた」「画像の取り違いがあった」などと説明し、不正を認めていないとのことです。岡山大が懲戒免職という重い処分を下したのに対し、AMEDは神谷元教授が論文執筆時に所属していた国立循環器病研究センターに対し、研究費の一部約11万8,000円の返還を求めました。AMEDによると、神谷教授が同センターで研究所室長などとして活動していた2015~2018年度、計約4,700万円の研究資金を提供。このうち、不正が確認された論文に直接関係する費用として、英文の校正費(2017年度)について返還を求めたとのことです。同センターは返還に応じる方針です。研究所時代の成果を引っさげ、教授に就任神谷元教授は1994年に浜松医科大学医学部卒業、2000年に名古屋大学大学院医学系研究科博士課程を修了しています。名古屋大学環境医学研究所助手を経て2002年より国立循環器病研究センター研究所・循環動態機能部室員となり、2017年には同循環モデル解析研究室長となっています。同研究所時代の研究成果を引っさげ、2018年に岡山大学の教授に就任しました。2019年にnature neuroscienceに発表した論文は、国立循環器病研究センター研究所の室長時代に行った実験によって得られた成果を発表したものであり、そのためもあって、同センターによる調査報告書は50ページ(岡山大学は10ページ)と長く、不正の背景や原因をより詳しく分析した内容となっています。研究姿勢が「科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった」その中で、論文不正の社会的影響については、「論文I(nature neuroscience掲載の論文)については、2019年7月5日に岡山大学をはじめ5機関の連名で記者発表され、複数の新聞で報道されるとともに、元室長により複数回学会等で発表されている。また、元室長により、この論文と関連する別の研究が開始されている。加えて、この論文の被引用回数は2022 年8月4日現在で100回を超えており、すでに相当数の論文で引用がなされている状況である。掲載された『Nature Neuroscience』は、影響力の大きな科学雑誌であり、この論文を基に、新たな研究を着想している研究者がいることも十分に想定される。以上より、患者を対象とした新たな臨床研究等がスタートしているような状況でないものの、このような論文において、極めて不適切な研究が行われた事実が当該分野の研究の進展に与える悪影響は大きいと言わざるを得ない」と書いています。さらに、発生要因については、「今回の事案が発生した要因として、まず、元室長の研究に対する姿勢が、科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった点を挙げざるを得ない。科学者として当然に備えるべき『科学界に対して真正なる結果を報告する』という意識、倫理観が欠如していたことが、今回の事案が引き起こされた最大の要因と言える。科学雑誌では、科学的根拠となる実験手法を正確に記載して、再検証ができるようにすることが求められているが、元室長による論文の記載は、それとはかけ離れたものであった」と、元室長個人の研究者としての姿勢を厳しく糾弾しています。さらに、「元室長が、調査の過程において、科学者が第三者的な立場から本実験結果を評価する上で考えもしない独自の主張を繰り返すとともに、『共著者や学術誌の査読者と編集者も気付かずに、そのまま出版されてしまいました』と他に責任を転嫁するような主張を行い、また、『大量の図の中においてこのエラーに気付くのは困難でした』と、図表が大量であれば、過失が許されるかのような主張をしたことも、上記の意識の欠如を裏付けるものである」とも書いています。2020年には別の国立循環器病研究センター室長による論文不正もそれにしても、論文不正が発覚すると、研究が行われた前職・元職の研究所や大学だけではなく、現職の職場でも調査を行わなければならないので大変です。今回は、国立循環器病研究センターの調査委員会は5人、岡山大の調査委員会では7人が調査を担当しています。数本の論文の捏造や改ざんのためにそれだけの時間と労力(外部有識者には費用も)が割かれたわけです。大変な無駄遣いと言えるでしょう。そう言えば、国立循環器病研究センターの論文不正としては、2020年8月にも別の事案が発覚し(「第22回 大阪大論文不正事件の“ナゾ” NHKスペシャル「人体」でも取り上げられた臨床研究の行方は?」参照)、大きなニュースになりました。この時も、同センターで室長を務めていた医師が発表した論文5本に捏造・改ざんが確認されています。論文を量産することでどこかの大学教授のポストをなんとか狙いたい“室長”という微妙な地位が、不正に走らせる一因となっているのでしょうか。なお、nature neuroscienceの論文について、岡山大は撤回するよう神谷元教授に対して勧告を行いましたが、まだ撤回は行われていません。参考1)Kamiya A, et al. Nat Neurosci. 2019;22:1289-1305.2)研究活動の不正行為に関する調査結果報告書/国立循環器病研究センター3)研究活動の不正行為及び倫理指針不適合に関する調査結果報告について/岡山大学

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非専門医向け喘息ガイドライン改訂-喘息死ゼロへ

 日本全体で約1,000万人の潜在患者がいるとされる喘息。その約70%が何らかの症状を有し、喘息をコントロールできていないという。吸入ステロイド薬(ICS)の普及により、喘息による死亡(喘息死)は年々減少しているものの、2020年においても年間1,158人報告されているのが現状である。そこで、2020年に日本喘息学会が設立され、2021年には非専門医向けの喘息診療実践ガイドラインが発刊、2022年に改訂された。喘息診療実践ガイドライン発刊の経緯やポイントについて、日本喘息学会理事長の東田 有智氏(近畿大学病院 病院長)に話を聞いた。喘息診療実践ガイドラインで2028年までに喘息死を0に 東田氏は、「均質な医療を提供することで、2028年までに喘息死を半減させる。できれば0にしたい」と語った。そのために「喘息の科学的知見に基づく情報提供をしたい」「非専門医の日常診療に役に立つガイドラインを作りたい」との思いから、喘息診療実践ガイドラインを作成したという。喘息診療実践ガイドラインは、新薬の登場などに合わせて、可能な限り毎年改訂を行う予定とのことである。喘息診療実践ガイドライン2022の問診チェックリスト活用を 従来のガイドラインでは、「喘息診断の目安」が記載されているものの、「診断基準」は明記されていない。また、喘息の診断には呼吸機能検査が必要とされているが、日常診療の場では難しい。そこで、喘息診療実践ガイドライン2022では、臨床現場で実際に活用できる診断アルゴリズムを作成している。ここで、重要となるのが「問診」である。東田氏らは、4千人超の喘息患者のデータをレトロスペクティブに解析した結果を基に、喘息患者の特徴を抽出した「問診チェックリスト」を作成し、喘息診療実践ガイドライン2022上に掲載している(p4、表2-1)。チェックリストは、大項目(喘鳴、咳嗽、喀痰などの喘息を疑う症状)と小項目(症状8項目、背景7項目の計15項目)からなり、「大項目+小項目(いずれか1つ)があれば喘息を疑う」とされている。 問診の結果、喘息を疑った場合には、「まず中用量のICSと長時間作用性β2刺激薬(LABA)の配合剤(中用量ICS/LABA)を最低3日以上使ってほしい」という。「中用量ICS/LABAによる治療に反応し、治療開始前から喘鳴がある場合は喘息と診断して良い」とのことである。反応しない場合は、「他疾患も疑う必要があるため、迷わず専門医に紹介してほしい」と語った。喘息診療実践ガイドライン2022には喘息治療のフローを掲載 喘息診療実践ガイドライン2022の喘息治療のフローに基づくと、日常診療では診断もかねて基本的には中用量ICS/LABAで治療を開始し、それでも症状が残ってしまう場合には、症状に応じて次のステップを考える。咳・痰が続く、呼吸困難が残る、喫煙歴がある場合などは、長時間作用性抗コリン薬(LAMA)を、鼻汁・鼻閉(鼻づまり)がある場合は、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)を追加する。LAMAを追加する場合は、「1デバイスで3成分を吸入できるICS/LABA/LAMAの3成分配合剤が登場しているため、こちらを使用してほしい」とのことだ。 また、治療効果が不十分の場合には、吸入薬をきちんと吸えていない可能性があるという。そのため、「まず、うまく吸えているかを確認してほしい。吸入指導の動画も用意しているので活用してほしい」と述べた。各種吸入デバイスの吸入指導用動画や「ホー吸入」という薬の通り道を広く保つ吸入法が、日本喘息学会HPに掲載されているので活用されたい。喘息診療実践ガイドライン2022に医療連携の可能な病院リスト 喘息治療においては、専門医との病診連携を積極的に活用してほしいという。たとえば、「中用量ICS/LABAにLAMAまたはLTRAを追加しても効果が得られない場合」「重症喘息に該当する喘息患者に遭遇した場合」「治療のステップダウンを検討しているが、呼吸機能検査ができない場合」などは検査を行う必要があるため、「専門医で治療導入や呼吸機能検査を実施し、その後はかかりつけ医の先生に診療いただくという病診連携も可能だ」と専門医との病診連携の重要性を強調した。専門医への紹介を考慮すべきタイミングについての詳細や専門医紹介時のひな型、医療連携の可能な病院のリストが喘息診療実践ガイドライン2022上に記載されているので活用されたい(p68~p71)。COVID-19流行期こそ喘息コントロールが重要 注目を集める喘息と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関係については、「喘息をきちんとコントロールできていれば、COVID-19感染リスクが高いわけではないので、必要以上に怖がることはない。ただし、喘息のコントロールが悪いと、気道に炎症が起こり感染しやすくなってしまうので、喘息をコントロールすることが最も重要である」と喘息コントロールの重要性を強調した。『喘息診療実践ガイドライン2022』定価:2,420円(税込)判型:B5判頁数:本文72頁発行:2022年7月作成:一般社団法人日本喘息学会発行:協和企画

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第138回 かかりつけ医制度の将来像 連携法人などのグループを住民が選択、健康管理も含めた包括報酬導入か?

「医療費削減」に至るスキームが見えない、かかりつけ医制度こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は昨年秋にも登った埼玉県・奥武蔵の伊豆ヶ岳に行って来ました。西武秩父線の吾野駅から子ノ権現、天目指峠を経て伊豆ヶ岳、正丸峠という少々長い低山コースです。昨年は、左手小指の骨折を抱えての登山で、結構難儀だったのですが、今年は10月の苗場山で痛めた右膝痛(おそらく膝蓋腱炎。かかりつけの整形外科医がいつも消炎鎮痛剤の処方をするだけなので受診せず自己診断)が残る中でのリハビリ登山となりました。急登では右膝をかばいながら登った結果、昨年よりも1時間近く余計に時間がかかってしまいました。ただ、膝もなんとか持ちこたえ、正丸峠にある奥村茶屋のジンギスカンもいつものように美味しく、初冬の奥武蔵を満喫して帰路につくことができました。さて、今回も前回(第137回 出揃ったかかりつけ医の制度案、医療機関や患者にそれぞれ判断を委ねる「手上げ方式」浮上[後編])、前々回(第136回 同[前編])に引き続き、かかりつけ医の制度について考えてみます。おぼろげながら輪郭が見えてきたかかりつけ医制度ですが、現段階では報酬については具体案が示されておらず、最大の目的とも言える「医療費削減」に至るスキームがクリアに見えてきません。社会保障審議会医療部会と全世代型社会保障構築会議の最終結論もまだ、ということで、これまでの情報から予想できる、かかりつけ医制度の将来像と報酬体系について考えてみます。全世代型社会保障構築会議で“地ならし”をした厚労省提案の「手上げ方式」まずは11月11日の全世代型社会保障構築会議が医療機関、患者双方による「手上げ方式」をぶち上げて“地ならし”をしました。その後、厚生労働省は11月28日の社会保障審議会医療部会において、その案に加えて、日本医師会も提案していた「医療機能情報提供制度の拡充」を組み入れた骨格案を提案しました。日本医師会への根回しもしっかり行ったとみられる今回の議論の流れは、国や厚労省にとってはおおよそシナリオ通りに進んだと言えるでしょう。2023年中に検討を行い2024年度以降に実行厚労省が示した骨格案では、現在、医療法の施行規則に定義されている「身近な地域における日常的な医療提供や健康管理に関する相談を行う」というかかりつけ医機能の定義を同法の条文に「格上げ」するとしています。具体的に整備する仕組みとしては、医療機関は診療体制、休日や夜間の対応、在宅医療の提供体制といった「かかりつけ医機能」を都道府県に報告、都道府県はそれらの情報を国民・患者にわかりやすく提供するようにするとしました。そして、患者と医療機関のかかりつけ医の関係については、1)国民・患者はそのニーズに応じてかかりつけ医機能を有する医療機関を選択して利用。2)医療機関は地域のニーズや他の医療機関との役割分担・連携を踏まえつつ、自らが担うかかりつけ医機能の内容を強化。3)医師により継続的な医学管理が必要と判断される患者に対して、患者が希望する場合に、書面交付と説明を通じて、患者と医療機関がかかりつけの関係を確認できるようにする。――などとしました。骨格案では「かかりつけ医機能報告制度の創設による機能の充実・強化」「医療機能情報提供制度の拡充」の2つの仕組みについて2023年中に検討を行い、2024年度以降に実行に移すとなっています。キーワードは「地域医療連携推進法人」はたから見て、「また面倒くさそうな報告制度をつくるのだな」とため息が出てしまいます。マイナ保険証の導入ですら、医療機関、患者双方であたふたしている状況です。高齢患者に「手上げ方式」が果たして可能なのでしょうか。住民がインターネットなどで医療機関が報告した機能を吟味して選ぶ、なんてことは普通に考えれば現実的ではありません。では、どうしてこの制度を整備しておくのでしょうか。私は、最近あちらこちらの公的文書に頻出する「地域医療連携推進法人」が、1つのキーワードではないかと考えています。地域医療連携推進法人については、2年前、「第69回 『骨太』で気になった2つのこと(後編) 制度化4年目にして注目集める地域医療連携推進法人の可能性」でも詳しく書きました。今年の「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」も、かかりつけ医機能が発揮される制度整備に関連して「地域医療連携推進法人の有効活用」を提言しています。そして、全世代型社会保障構築会議が11月24日に公表した「論点整理(各分野の改革の方向性)」の中には、かかりつけ医機能の整備・普及について、「これらの機能について、複数の医療機関が緊密に連携して実施することや、その際、地域医療連携推進法人の活用も考えられる」という一文がしっかりと入っています。医療機関のグループで一人の患者の健康管理から診療までを担うこうした一連の文章から予想される「かかりつけ医機能」の将来像について、私見を述べてみたいと思います。1つ考えられるのは、かかりつけ医の機能は、個々の医療機関もしくは1人の医師が担うのではなく、医療機関のグループで1人の患者の健康管理から診療までを担うという姿です。だから、地域全体でかかりつけ医機能を発揮できる仕組み、受け皿の候補として、既に医療法で規定されている地域医療連携推進法人に白羽の矢がたったのでしょう。日本医師会も11月2日に公表した「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」では、医療機関の役割分担や連携を進め、地域全体で「かかりつけ医機能」をカバーする仕組みを提言しています。情報共有や地域フォーミュラリで医療費削減を実現した連携法人ももちろん、現在認可されている地域医療連携推進法人のすべてが、地域の診療所から急性期病院、回復期病院、そして介護施設までの機能を全て内包しているわけではありません。しかし、日本海ヘルスケアネット(山形県酒田市)のように、そうしたモデルがいくつか存在することも事実です。それらは、地域医療連携推進法人内で地域包括ケアの仕組みが完成されているモデルと言ってもいいでしょう。それらの地域医療連携推進法人では、徹底した医療情報の共有や、地域フォーミュラリの導入によって、無駄な診療や医療費の削減も実現しています。患者の手上げは個々の医療機関ではなく診療・介護グループに対して行うそう考えてくると、医療機関の手上げは、個々の医療機関ではなく、地域医療連携推進法人などの診療・介護グループが行い、患者(住民)の手上げ(選択)はそうした診療・介護グループに対して行うというのが、最も妥当な線ではないでしょうか。報酬体系については、いろいろな考え方があると思います。私が考えたのは、健康管理・疾患フォローも含め、手を上げた患者(住民)1人につき月額いくらでグループ(法人)に支払う、という人頭払いです。あちこちドクターショッピングをして無駄な医療費が使われることを考えると、健康管理・疾患フォローに報酬を付けるのは、長い目で考えれば医療費削減につながるのではないでしょうか。そして、健康管理・疾患フォローの範囲を超えた治療については出来高の報酬とするのです。手を上げさせる患者は、65歳以上の高齢者や後期高齢者などに限定するというやり方もあるでしょう。こうした制度については、診療グループや住民それぞれに、制度への参加を促すような何らかのインセンティブを設ける必要があります。人頭払いの年額を相応の金額にすれば、診療グループは医療・介護機能の向上や連携推進に今まで以上に取り組むようになるでしょう。患者にとっては人頭払い分の自己負担が生じますが、この部分のみ1割負担にするなど、工夫の余地はいくらでもあるでしょう。介護保険との相乗りも考えられるかもしれません。連携推進法人活用と包括報酬は財政制度審議会も提案ちなみにこの考え方と似たスキームは、既に今年5月の財務省の財政制度審議会が提案しています。この時提出された資料「歴史の転換点における財政運営」は、「昨年(2021年)12月の当審議会の建議では、診療報酬体系を医療機関等相互の面的・ネットワーク的な連携・協働をより重視する『横連携』型の体系へシフトさせていくことを提言した。地域医療連携推進法人制度の普及に当たっては、そうしたシフトの一環として、患者単位でエピソードを評価し、患者の転帰に際し、地域医療連携推進法人に参加する複数の医療機関等に対し、一体として包括報酬を支払うことを含め、真に国民に寄り添う形での医療提供を『競争よりも協調』の具現を通じて後押しする手法を幅広く検討すべきである」と書いています。地域医療連携推進法人に個人立の医療機関が参加可能な新類型そうした流れの中、地域医療連携推進法人については新しい類型も創設される見込みです。11月28日に開かれた社会保障審議会医療部会において、厚労省は地域医療連携推進法人に新たな類型を創設する方針を示しました。新類型では、個人立の病院や診療所などの参加を新たに認め、病床の融通や業務連携の幅を広げるとしています。年明けに召集される通常国会への医療法改正案の提出を目指し、できるだけ早く創設したい考えとのことです。個人立の病院や診療所などの参加を新たに認めるということは、地域の医療提供体制の再構築と、将来のグループ主体のかかりつけ医制度定着に向けての布石と捉えることもできます。今年5月、財政制度審議会が「歴史の転換点における財政運営」で包括報酬を提案した段階ではそれほど注目されませんでしたが、「手上げ方式」が動き始めた今、「地域医療連携推進法人がかかりつけ医制度の受け皿となり、健康管理も含めた軽度の医療行為について人頭払いの包括報酬を導入」…、というのはなかなか理にかなったスキームだと思いますが、皆さんいかがでしょう。

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第137回 出揃ったかかりつけ医の制度案、医療機関や患者にそれぞれ判断を委ねる「手上げ方式」浮上(後編)

「手上げ方式」のより詳細な「論点整理」公表こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この日曜日はスポーツ観戦で1日が終わりました。なかなか考えさせられるシーンが多かったです。大相撲九州場所は高安の初優勝に期待したのですが、巴戦になりまたもや優勝を逃しました。あと一歩というところでいつも負けてしまう高安に妙な親近感を覚えました。夜は競輪の今年最後のG1レース、朝日新聞社杯競輪祭の決勝がありました。4車の東北ラインが絶妙の作戦(一番強い新田 祐大選手[福島]が先頭で早駆けし、番手の新山 響平選手[青森]を優勝させる。3番手の守澤 太志選手[秋田]も後ろからやって来る選手のガードに徹する)で、新山選手が初のG1優勝となりました。これで年末の競輪グランプリは、今回の恩返しとして新山選手が捨て身で引っ張るので新田選手の優勝が濃厚です。決勝レースが始まる直前には、ワールドカップの日本対コスタリカ戦でコスタリカが得点を挙げる場面を見ていました。昔の日本代表のいくつかのシーンを彷彿とさせるような吉田 麻也選手のボールのクリアに唖然としました。私はサッカーには詳しくありませんが、吉田選手のプレーについてTVメディア(日本代表OBなどの解説者たち)のほとんどが触れないのがとても気になりました。翌日のスポーツ紙は厳しく書いていました。これこそが忖度ではないかと思った次第です。さて、今回も前回に引き続きかかりつけ医の制度案について書いてみたいと思います。先週から今週にかけてもいくつかの大きな動きがありました。「手上げ方式」について、より詳細な「論点整理」の文書が公表され、厚生労働省からはそれに沿った新制度の骨格案も公表されました。これらの動きによって、おぼろげながら国が考える制度の輪郭が見えてきました。「フリーアクセスの下で緩やかなゲートキーパー機能」と権丈氏各界からさまざまな提案がなされた後、“トリ”を飾る形で登場した政府の全世代型社会保障構築会議(座長・清家 篤日本赤十字社社長)での提案1)。11月11日に開かれた同会議では、会議内でかかりつけ医について議論していたチームから、 かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けた論点の報告を受けました。具体的には構成委員の権丈 善一・慶応大学商学部教授が医療機関と患者それぞれの手上げ方式による「かかりつけ医機能合意制度」を提案しました。都道府県知事が認定し、住民は医療機関の情報を閲覧し、手上げでその医療機関のかかりつけ患者になる、という仕組みです。医療機関は継続的に患者のPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)を蓄積して、医学管理、健康増進、重症化予防等に取り組むとしています。そして、フリーアクセスの下で、いかなる医療が必要なのか、その医療はどこが最も適切な医療機関であるのかを認定医療機関よりアドバイスを受けることができる(いわゆる、緩やかなゲートキーパー機能の活用)としています。「フリーアクセスの下」という日本医師会を意識した言葉がサラリと入っている点がミソと言えそうです。「支払い方式の議論の前に機能役割を確実に実行できる条件整備を」と香取氏また、この日は構成委員の香取 照幸・上智大学総合人間科学部教授(元厚生官僚でもあります)も、かかりつけ医機能に関する論点メモを示しました。香取氏は「かかりつけ医・かかりつけ医機能の実装は医療提供体制改革の最重要課題の一つ」とした上で、かかりつけ医機能を発揮するための制度整備として「情報の一元化・PHR・医療DX」、「かかりつけ医の選択の保障」の2つの前提の重要性を指摘、費用保障のあり方については、「人頭払い・包括払いといった『医療保険での報酬の支払い方』に議論が集中するきらいがあるが、診療報酬での支払い方式や点数化の議論をする前に、求められる機能役割を確実に実行できる条件整備(制度整備と基盤整備)をまず行い、その上でその機能役割に相応しい費用保障の仕組みを検討するべき」としました。また、かかりつけ医・かかりつけ医機能の制度化は医療提供体制のあり方の問題であり、医療法体系の中で行われるべきものとの見解も示しました。これまで日医を散々刺激してきた「人頭払い・包括払い」については、現段階では議論は必要ないと言い切っている点が、こちらのミソと言えそうです。複数の医療機関が緊密に連携して実施この全世代型社会保障構築会議の案に対してはなぜか大きな反対論が出ることなく一人歩きし始めました。同会議が11月24日に公表した「論点整理(各分野の改革の方向性)」には、かかりつけ医機能が発揮される制度整備は不可欠とし、その活用は医療機関、患者それぞれの手上げ方式とすることなどが盛り込まれています2)。「論点整理」に具体的に記されたポイントは以下です。1)かかりつけ医機能の定義について、現行の省令である「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う機能」をベースに検討。2)こうした機能の一つとして、日常的に高い頻度で発生する疾患・症状について幅広く対応し、オンライン資格確認も活用して患者の情報を一元的に把握し、日常的な医学管理や健康管理の相談を総合的・継続的に行うことが考えられる。そのほか、例えば、休日・夜間の対応、他の医療機関への紹介・逆紹介、在宅医療、介護施設との連携などが考えられる。3)これらの機能について、複数の医療機関が緊密に連携して実施することや、その際、地域医療連携推進法人の活用も考えられる。4)かかりつけ医機能の活用については、医療機関、患者それぞれの手上げ方式とすること。そのため、医療機関は自らが有するかかりつけ医機能について、住民に情報提供を行うとともに、自治体がその機能を把握できるようにする仕組み。また、必要に応じ、患者の了解を前提に、医療機関が患者の状態を把握し、総合的・継続的な診療・相談に応じる旨を分かりやすく示すこと。5)特に高齢者については幅広い診療・相談に加え、在宅医療、介護との連携に対するニーズが高いことを踏まえ、これらの機能をあわせもつ医療機関を自治体が把握できるようにすること。同時に、かかりつけ医機能を持つ医療機関を患者が的確に認識できるような仕組み。6)地域全体で必要な医療が必要なときに提供できる体制が構築できるよう、自治体が把握した情報に基づいて、地域の関係者が、その地域のかかりつけ医機能に対する改善点を協議する仕組みの導入。今後は以上の論点を議論しつつ、具体的な制度の整備などについて、年末の報告書に盛り込む予定とのことです。厚労省、社会保障審議会医療部会にかかりつけ医制度の骨格案提出この論点整理が出た24日には、読売新聞など各紙が、かかりつけ医が法律で明記される方向だと報じました。読売新聞によれば、「厚生労働省は、患者に身近な『かかりつけ医』に求められる機能を法律で定め、全国の各医療機関が機能を有しているか、国民向けにわかりやすく情報公開する制度を創設する方針を固めた」とのことです。そして厚労省は、11月28日に開かれた社会保障審議会医療部会に、かかりつけ医制度の骨格案(かかりつけ医機能が発揮される制度整備について)を提出、かかりつけ医機能を「身近な地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う」と定義し、医療法に明記するとしました3)。具体的な仕組みとしては、医療機関は診療体制、休日や夜間の対応、在宅医療の提供体制といった「かかりつけ医機能」を都道府県に報告、都道府県はそれらの情報を国民・患者にわかりやすく提供するとしました。そして、患者と医療機関のかかりつけ医の関係については、1)国民・患者はそのニーズに応じてかかりつけ医機能を有する医療機関を選択して利用。2)医療機関は地域のニーズや他の医療機関との役割分担・連携を踏まえつつ、自らが担うかかりつけ医機能の内容を強化。3)医師により継続的な医学管理が必要と判断される患者に対して、患者が希望する場合に、書面交付と説明を通じて、患者と医療機関がかかりつけの関係を確認できるようにする。――としました。全体的な仕組みは全世代型社会保障構築会議が提案した「手上げ方式」を踏襲し、患者が医療機関を選択する際のツールとしては日医も提案していた「医療機能情報提供制度の拡充」を組み入れている点は、関係各方面の意見をうまく取り入れてまとめたと言えそうです。なお、年内に社会保障審議会医療部会で制度整備の基本的考え方のとりまとめを行う予定とのことです。スケジュールとしては、「かかりつけ医機能報告制度の創設による機能の充実・強化」「医療機能情報提供制度の拡充」の2つの仕組みについて2023年中に検討を行い、2024年度以降に実行に移すとしています。ということで、何となく輪郭が見えてきたかかりつけ医制度ですが、登録制、認定制が見送りとなり、現段階では報酬についての具体案も示されておらず、最大の目的とも言える「医療費削減」に至るスキームが今ひとつクリアに見えてきません。次回は私見を交えながら、もう少しかかりつけ医の制度化について考えてみたいと思います。参考1)全世代型社会保障構築会議(第8回)資料/内閣官房2)全世代型社会保障構築会議(第9回)資料/内閣官房3)第93回社会保障審議会医療部会/厚生労働省

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第136回 出揃った「かかりつけ医」の制度案、医療機関が手上げして患者が自分で選択する方式が浮上(前編)

熱を帯びる「かかりつけ医」制度化の議論こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は実家のある愛知県に中央自動車道をすっ飛ばして行ってきました。大きな目的は父親のマイナンバーカード交付申請と、マイナポイントを受け取る決済サービスを持っているかの確認。そして90歳の老人に運転免許の更新をあきらめさせることです。交付申請自体は、近所の携帯電話ショップが無料で代行(業者に補助金が入ります)してくれたので、簡単でした。ただ、実際にカードが交付されたら今度は町役場で暗証番号等の登録をしなければなりません。90歳の老人に英数字混合の暗証番号の設定や、マイナポイントの申請は相当ハードルが高い作業に思えます。運転免許更新の意向を翻すことも不調に終わりました。年内にもう1度くらいは実家に帰る必要がありそうです。さて、2023年度の予算編成が目前に迫り、11月に入って「かかりつけ医」の制度化に関する議論が今まで以上に熱を帯びてきています。日本医師会、財務省、日本病院会、健康保険組合連合会、全世代型社会保障構築会議がそれぞれの案を公表、まさに百花繚乱です。かかりつけ医制度化の方針は岸田政権も踏襲今回のかかりつけ医の制度化の議論の発端は、昨年4月15日財務省主計局が、社会保障制度の見直しについて議論する財政制度等審議会・財政制度分科会(分科会長=榊原 定征・前経団連会長)において、社会保障制度の改革についての考え方を示し、この中で診療所における「かかりつけ医機能」の制度化を提言したことです。同分科会は、「複数の慢性疾患を抱える患者が増加する超高齢化社会において、患者がその状態に合った医療を受けるためにも、有事を含め国民が必要な時に必要な医療にアクセスできるようにするためにも、緩やかなゲートキーパー機能を備えた『かかりつけ医』の推進は不可欠である」と言い切りました(「第59回 コロナ禍、日医会長政治資金パーティ出席で再び開かれる? “家庭医構想”というパンドラの匣」参照)。同年10月に岸田政権が発足するとその方針も踏襲されました。今年5月25日に公表された財務省の財政制度等審議会の「春の建議」では、「かかりつけ医機能を持つ医療機関」を認定する仕組みを設けて、「利用希望者による事前登録・医療情報登録」を促すなどの段階的な取り組みを進めていくべきであると、さらに踏み込んだ提言が行われています。こうした議論が進む中、患者の「登録制」や、英国のGP制度のような報酬の人頭払い制などの導入を何としても回避したい日本医師会は、4月20日に中川 俊男前会長が、かかりつけ医の今後のあり方にとして『国民の信頼に応えるかかりつけ医として』を取りまとめて公表、制度化を牽制しています(「第108回 「かかりつけ医」の制度化めぐり、日本医師会と財務省の攻防本格化」参照)。医療機関の役割分担や連携を進め、地域全体でカバーする仕組みを日医提言さらに日医は、前政権下での抽象的な提言だけでは不十分と感じたためか、松本 吉郎新会長下で改めて「かかりつけ機能」のあり方の検討に入りました。そして、先ごろ、11月2日に「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」を公表、医療機関の役割分担や連携を進め、地域全体で「かかりつけ医機能」をカバーする仕組みを提言しました1)。この案は、2013年8月に公表した日医と四病院団体協議会との合同提言や、各都道府県が運営する「医療機能情報提供制度」で定義されている「かかりつけ医機能」がベースとなっており、とくに新味はありません。国民にわかりやすくかかりつけ医機能を示すための方策について、「医療機能情報提供制度」における「かかりつけ医機能」を、国民の期待に応えることができる内容に改めた上で公表していく、としています。しかし、そもそも「医療機能情報提供制度」の存在自体を知る国民は少数です。そのためか、一読してもむしろわかりにくいと感じましたが、皆さんいかがでしょうか。なお、松本氏は記者会見で、「かかりつけ医は患者が選ぶものである」と強調、財務省が求めるかかりつけ医の認定制度、事前登録、包括払いの拡大に反対する姿勢を改めて示しました。財務省、かかりつけ医の認定制度や事前登録の仕組みには振れずその財務省は11月7日に財政制度等審議会・財政制度分科会を開き、地域の診療所や中小病院がカバーする「かかりつけ医機能」を明確化・法制化し、それらを発揮するための制度の整備を改めて主張しました2)。ただし、今回はかかりつけ医の認定制度や事前登録の仕組みについては触れませんでした。5月に公表した「春の建議」から若干後退した印象です。しかし、効果的で効率的な医療提供体制の実現を医療制度改革の最重要課題と位置付け、その一環として「かかりつけ医機能」を明確化・法制化する必要性を強調している点は変わりありません。この時の同分科会では、日医と四病院団体協議会との合同提言における「かかりつけ医機能」のイメージが医療関係者の間でおおむね共有されてきた、という見方を示しており、なんとなく日医への歩み寄りの気配も感じられる内容でした。うがった見方をすれば、「第125回 医療DXの要「マイナ保険証」定着に向けて日医を取り込む国・厚労省の狙いとは かかりつけ医制度の議論を目くらましにDX推進?」で書いたような、裏でなんらかの“手打ち”が行われていたのかもしれません。医師1人だけを患者が自分の「かかりつけ医」として登録する健保連案「かかりつけ医機能」についてはこの他、日本病院会、健康保険組合連合会も11月に入ってから提言を行っています。日本病院会は11月2日、「かかりつけ医機能」を規定する医療法施行規則の見直しを求める提言を厚生労働省に提出しました3)。この提言ではかかりつけ医機能は「病院も含めた医療機関」の機能と考えるべきだとし、医療法施行規則で掲げている「日常的な医学管理・重症化予防」など8項目の基準が不明確かつ基準が適切ではないと指摘、「かかりつけ医機能」の基準を、1)診療時間内外を問わず地域住民に自院で対応、もしくは他の医療機関と連携して対応、2)特定の領域に偏らない広範囲にわたる全人的医療を行う、3)総合的な医学的管理を行う、の3つに切り替えるよう求めました。そして、自主的に届け出た医療機関が「かかりつけ医機能」を果たすことにより、円滑な地域医療連携体制の構築が可能となる、としました。一方、医療費を支払う側の代表とも言える健康保険組合連合会は11月8日に英国のGP制度にも若干似た「かかりつけ医」の制度案を提言しています4)。「幅広い診療・相談」への対応など一定の機能を整備している医療機関を認定し、それらの医療機関の医師1人だけを患者が自分の「かかりつけ医」として任意で登録する、という内容です。医療機関の認定方法や診療報酬の評価については今後の検討課題としました。全世代型社会保障構築会議、「医療機関、患者それぞれの手上げ方式」を提案こうしたさまざまな提案がなされた後、“トリ”を飾る形で登場したのが、政府の全世代型社会保障構築会議(座長・清家 篤日本赤十字社社長)での提案です5)。11日に開かれた同会議では、会議内でかかりつけ医について議論していたチームから、 かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けた論点の報告を受けました。同チームは「医療機関、患者それぞれの手上げ方式とすべきではないか」と提言しました。政府の組織が登録を義務化せず、医療機関や患者にそれぞれ判断を委ねる「手上げ方式」を新たに提案したことで、かかりつけ医の制度化の議論は、新しい局面に入ったと言えるでしょう。(この項続く)参考1)「地域における面としてのかかりつけ医機能~かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて~(第1報告)」を公表/日医オンライン2)財政制度分科会(令和4年11月7日開催)資料一覧/財務省3)「かかりつけ医機能」に関する提言/一般社団法人 日本病院会4)「かかりつけ医」の制度・環境の整備について/健康保険組合連合会5)全世代型社会保障構築会議(第8回)資料/内閣官房

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非専門医が使える「糖尿病治療のエッセンス」2022年版/日本糖尿病対策推進会議

 わが国の糖尿病患者数は、糖尿病が強く疑われる予備群を含め約2,000万人いるとされているが、糖尿病の未治療者や治療中断者が少なくない。 そこで、糖尿病診療のさらなる普及を目指し、日本糖尿病学会をはじめとする日本糖尿病対策推進会議は、糖尿病治療のポイントをとりまとめて作成した『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』を制作し、日本医師会のホ-ムページより公開した。糖尿病治療のエッセンスの改訂は今回で5回目となる。 糖尿病治療のエッセンスの今改訂では、(1)かかりつけ医から糖尿病・腎臓の専門医・専門医療機関への照会基準を明確に解説、(2)最新の薬剤情報へアップデートなど、よりわかりやすい内容に見直しを行った。『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』主な内容と使用図表の一覧(主な内容)1)糖尿病患者初診のポイント2)治療目標・コントロール指標3)治療方針の立て方4)食事療法・運動療法 薬物療法のタイミングと処方の実際5)糖尿病合併症 医療連携 (使用図表)図1 糖尿病の臨床診断のフローチャート図2 血糖コントロール目標図3 高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)図4 糖尿病患者の治療方針の立て方図5 有酸素運動とレジスタンス運動図6 かかりつけ医から糖尿病専門医・専門医療機関への紹介基準図7 かかりつけ医から腎臓専門医・専門医療機関への紹介基準表1 その他のコントロール指標表2 主な経口血糖降下薬の特徴(赤字は重要な副作用)表3 GLP-1受容体作動薬 (リベルサス以外は注射薬)表4 インスリン注射のタイミング、持続時間と主な製剤の比較表5 基礎インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合注射薬表6 代表的なインスリンを用いた治療のパターン表7 糖尿病性腎症病期分類図 2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム別表 安全な血糖管理達成のための糖尿病治療薬の血糖降下作用・低血糖リスク・禁忌・服薬継続率・コストのまとめ 同会議では「糖尿病診療は新しい取り組みや薬物療法など、そのとりまく環境は大きく変化している。本書を活用し、最新の知見について理解を深め、日常診療において、糖尿病患者の早期発見、治療に役立てて、糖尿病診療に携わる医療関係者にとって医療連携のツールとして、その発展につながることを願っている」と『糖尿病治療のエッセンス(2022年版)』に期待を寄せている。

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第133回 『かかりつけ医』制度化は骨太ならぬ“骨抜き”方針か!?

『かかりつけ医』は、たぶん一般にはある程度聞き慣れた言葉になっているだろうが、その定義はかなり曖昧と言って良いかもしれない。慢性疾患を有する患者の場合は、その主治医がいわゆる『かかりつけ医』だと思っているはずだ。しかし、ここでは釈迦に説法だが、厚生労働省や日本医師会が考える「かかりつけ医」の定義は異なる。厚生労働省(以下、厚労省)では「健康に関することをなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」となる。ちなみに日本医師会の考える『かかりつけ医』は、同会ホームページで、この厚労省の定義をさらに詳しく説明したような内容になっている。というか、そもそも厚労省のホームページの説明の下にわざわざ「参考」として日医へのリンクが張られているのは、今風に言うと、なんとも「もにょって」しまう。さて、この定義に厳密に沿えば、前述の慢性疾患の主治医は実は多くの場合、かかりつけ医とは言えない。ちなみに日本医師会総合政策研究機構の「日本の医療に関する意識調査 2022 年臨時中間調査」によると、一般生活者1,152人に聴取した結果では「かかりつけ医がいる」との回答は55.7%で50代以降になると50%を超えるものの、20代では30%弱だ。前述の厚労省、日医の『かかりつけ医』の定義を見て「もにょる」を通り越して、やや言葉は悪いが「ウソつけ」と言いたくなる部分がある。それは厚労省のホームページの「『かかりつけ医』はご自身で選択できます」と日医の「『かかりつけ医』とは、患者さんが医師を表現する言葉です」である。文字上で言えばそうだろう。だが、現実にはそうなっていない。この問題を顕在化させたのは、今般の新型コロナウイルス感染症のワクチン接種開始時である。同ワクチンは超低温冷凍による保管が必要だったことから、当初は自治体主導の大規模接種会場での接種がモデルとして考えられたが、それが突如として多くの自治体で地域医師会の協力を得て個別医療機関での接種が中心となった。その先鞭が東京都練馬区の作成した「練馬区モデル」である。先日、ある自治体のワクチン接種担当の職員が、「練馬区モデルが出る前の自治体向けマニュアルを見ると、どう考えても大規模接種を前提としているようにしか読めないので、その路線での接種計画を組んでいたが、突如練馬区モデルの話が厚労省から出てきて驚いた」と聞かされた。これが全国での接種計画を一変させたのは間違いないようだ。かく言う私は練馬区民。この話を聞いた時は、「いやいや練馬区住民でよかった」と思っていたのだが、以前の本連載でも書いたように、いざ接種開始となって送付されてきた案内を見てややのけぞった。接種医療機関リストは白とオレンジの2色刷りで、色付きの医療機関は「かかりつけの患者のみ」という区分だったのである。しかも、誰でもが接種できる白色の医療機関は全体の3分の1程度。あの当時は「これは絵に描いた餅?」と思いもしたが、mRNAワクチンの接種自体が初の試みだったので、まあやむを得ないのだろうとくらいに捉えていた。後に区内在住の知人から「過去に急に体調が悪くなった時に2、3回受診した医療機関にワクチン接種の申し込み連絡をしたら、“申し訳ないですが、かかりつけは一定頻度で定期的に受診している方を指しています”と断られた」と聞かされた。ワクチンマニアを自認する私にも、先日ようやくオミクロン株対応ワクチンの4回目接種の接種券が届いた。だが、まだ接種はしていない。というのも「マニア心」で、より抗体価が上がりやすいモデルナの2価ワクチンの承認を待っていたからである。今月半ば過ぎには、たぶん安定的な供給も開始されるだろう。そして再び個別接種医療機関リストを見て、ため息が出てしまった。相変わらずオレンジ色の「かかりつけの患者のみ」が多いばかりではなく、逆にかつては誰でも受けられるはずだった白色のリスト分類だった医療機関の一部がオレンジ色に変更されていたからである。アナフィラキシーに対する懸念が今よりも強かった初期ならまだしも、もう最多では5回接種者がいる状態である。にもかかわらず、逆にかかりつけ患者のみに新たに限定してしまう理由とは何だろう? まったく意味不明である。前述の知人の体験である「医師から選ばれたかかりつけ患者」という現状も併せると、まったく納得できない。さてそんな昨今、話題になっているのは「『かかりつけ医』を制度上、どのように位置付けるか?」である。これは政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022 について(骨太方針2022)」で、「かかりつけ医機能の制度整備」が謳われたからである。該当部分を抜粋する。また、医療・介護提供体制などの社会保障制度基盤の強化については、今後の医療ニーズや人口動態の変化、コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに、地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する。敢えて太字にしたが、かかりつけ医機能にかかっているのが上の太字部分である。もっと言えば、「コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ」の意味するところが大である。端的に言ってしまえば、前述のワクチン接種問題や、政府の呼びかけにもかかわらず発熱外来が思ったように増えなかった経験を踏まえ、「もう制度的に縛っちゃいますよ」と言っているのだ。そもそも岸田 文雄首相は就任当初からコロナ対策として、非常時の診療体制整備に国が関与を明言していたので、特段驚きはない。国が考える「かかりつけ医機能の制度整備」には、ヨーロッパやオーストラリアやカナダの家庭医登録制度に近いものが念頭にあると思われる。これまでフリーアクセスを維持しつつ、患者の受診行動を変えるために選定療養費制度などの政策誘導を行ったものの、ほぼ目的を達成できていない現実を考えればさもありなんだろう。そしてこうした家庭医制度を念頭に置くなら、当然ながら最終的な診療報酬は人頭払いと疾患別包括払いが視野に入る。もちろん開業医中心の日医は経営環境が激変するため、議論の入口から反対姿勢を示している。もっともヨーロッパの家庭医制度をモデルとした場合、日本への制度導入には大きなハードルが2つある。1つは今さっき触れた診療報酬の抜本的な改定である。これはかなり難儀な話であるのだが、DPC制度の前例を踏まえれば完全に不可能なことではない。現にこれを匂わす診療所向けの診療報酬点数は現時点でも存在する。その意味では家庭医への登録に基づく人頭払いをどのように導入していくかだが、そこは行政お得意の最初は日医などが受け入れしやすい軽い縛りを設け、徐々に真綿で首を締めるが如く浸透させていくのではないだろうか?むしろ最大の問題は家庭医の質の担保だろう。日医には会員の『かかりつけ医』機能の強化に向けて生涯教育制度はあるが、これは連続した3年間の単位数とカリキュラムコード数(同一コードは加算不可)の合計数が60以上の者に「日医生涯教育認定証」を発行するというもので、一部の人にはお叱りを受けるかもしれないが、はっきり言えば形式だけ整えたようなものだ。これに対してヨーロッパの家庭医制度は、世界家庭医機構(WONCA)が認証した研修プログラムがあり、日医の生涯教育制度よりもはるかに上位レベルの研修内容である。とくにWONCAの家庭医プログラムは医師と患者・家族、地域との関係性についてはかなり重点的なプログラムがあり、この点は日医の生涯教育制度はかなり薄め。かつ、そもそも海外の家庭医とは、日本でかかりつけ医と見なされる診療所の多くを占める一般内科とは異なり、軽度の外科や産科、手術以外の耳鼻咽喉科、眼科領域までも網羅的に最新のエビデンスに基づく診療に対応できることが原則である。このWONCAの国際認証を受けた日本プライマリ・ケア連合学会の研修プログラムを終了し、家庭医療専門医として認定された医師は現時点で1,000人を超えたぐらいである。日医が生涯教育制度に変えて、こうした制度を利用してかかりつけ医機能を強化するが、その代わりに国による“過度な”介入はご免こうむりたいと言うならばまだしも、そうした妥協はこれまでの日医の姿勢からは期待できないだろう。もちろん一部の日医会員の中には日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医研修を受けたいという人もいるだろうが、すでにかかりつけ医を自認している市中の開業医の多くはむしろ敬遠するだろう。国、日医、日本プライマリ・ケア連合学会という3者を当事者として、落しどころを探ろうにしても、たぶんWONCAの国際認証を受けている日本プライマリ・ケア連合学会は過度な妥協はしないだろうし、それは国民のためにしてはならない。もし国がかかりつけ医を海外の家庭医制度に寄せていくなら、それこそ大きな政治的な決断が必要になる。しかし、日医による後ろ盾が選挙を勝ち抜く大きな武器になっている与党・自民党にとってそれは無理だろうし、それ以前にかかりつけ医の定義ですら日医への忖度丸出しの厚労省が政治へのけん制に入ってしまうのは目に見えている。とくに今、支持率低迷にあえぐ岸田首相にとってはそんな危険な決断は無理と断言しても良い。その意味では一瞬威勢が良いように読める「骨太方針2022」も間もなく「骨抜き方針2022」になるという構図が見えてくる。私たちは不幸な歴史の証人になるだけなのだろうかと暗澹たる気持ちになってしまう。

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第117回 医師法違反は手術だけではない!工学技士に手術をさせた病院が研修すべき「もう一つのこと」

安倍元首相の医療政策を振り返るこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は安倍 晋三元首相が銃撃されて亡くなったり、参議院選挙で自民党が大勝したりと、さまざまなことが起こりました。安倍元首相の政権は合計8年8ヵ月と長期に渡りましたが、医療政策の面でもいくつかのエポックメーキングな改革を行っています。大きなところでは、「医師の働き方改革」があります。2017年3月に安倍晋三元首相の肝煎りで策定された「働き方改革実行計画」が、医師の働き方改革の先鞭をつけたことは記憶に新しいところです。個人的にもう一つ挙げるとすれば「オンライン診療の定着」でしょうか。きっかけは、2016年11月の第2回未来投資会議における安倍元首相の「ビッグデータや人工知能を最大限活用して『遠隔診療』や『予防・健康管理』を推進する」という発言でした。翌2017年には「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太の方針)、「未来投資戦略2017」、「規制改革実施計画」に遠隔診療推進の内容が盛り込まれ、2018年の診療報酬改定でのオンライン診療項目の新設につながりました。とはいうものも、安倍元首相自身は自民党内でもイデオロギー的に保守的色彩がとくに強く、医療提供体制の抜本的な改革にまでは踏み込んでいなかった印象です。経済産業省の官僚を重用し、未来投資会議などで医療の産業化政策がいくつか提案されましたが、最終的に実を結んだ政策は多くはありません。あえて言えば、地域医療連携推進法人の制度ですが、これも当初の構想(非営利ホールディングカンパニー型制度)とは全く異なる制度に落ち着いています。今回の参院選で与党が改選過半数を獲得したことで、岸田 文雄首相は当面の安定的な政権運営の基盤を確保した、と言われています。本連載でも度々書いてきたように、これから財務省主導の医療政策が、医療提供体制改革の“本丸”(病院の再編や、かかりつけ医の制度化など)に、どこまで切り込んでいくかが注目されます。臨床工学技士が手術時に患者の皮膚縫合さて今回は、6月末に発覚した千葉市美浜区の市立海浜病院(吉岡 茂院長、293床)において臨床工学技士が手術時に患者の皮膚縫合を行っていた事件について書いてみたいと思います。事件は千葉市が6月29日、市立海浜病院で2021年7月に行った手術で医師資格を持たない臨床工学技士が執刀医の指示で患者の皮膚の縫合を行っていた、と明らかにしたことで発覚しました。患者に健康被害は出ていませんが、同病院は今年3月に患者に謝罪し、執刀医と臨床工学技士を訓告処分としています。千葉日報や朝日新聞などの報道によれば、同病院で昨年7月に行われたペースメーカーの交換手術において、左側胸部を縫合する際、執刀医が臨床工学技士に「少し縫合してみるか」と声を掛け、執刀医と技士が立ち位置を交代。皮膚の縫合の最後の1針分ほどを任せました。臨床工学技士はうまく縫合できず、最終的に執刀医が縫合したとのことです。臨床工学技士はペースメーカーの作動確認のために立ち会っていました。術後、看護師から報告を受けた看護師長や執刀医、心臓血管外科統括部長が話し合った結果、重大事案ではないと判断し、医療事故対策を担当する同病院の医療安全室への報告は見送っていました。しかし、今年1月、市への情報提供制度である「市長への手紙」に匿名の情報提供があり、無資格での縫合が発覚しました。同病院では外部有識者を交えた医療事故検討委員会を2月に設置し、事実関係を調査していました。その後、3月に患者に説明と謝罪を行い、4月28日付で執刀医と臨床工学技士を訓告の処分にしたとのことです。医師以外も医療行為を行うことができると勝手に誤認同病院の聞き取り調査に執刀医は、「ペースメーカーを埋め込む深さがどのくらいか学んでほしかった」と説明。医療法改正などによるタスクシフト推進策などにより、医師以外も医療行為を行うことができると勝手に思い込んでいたとのことです。29日に開かれた記者会見で吉岡茂院長は「臨床工学技士が医療行為を行ったことを重く受け止めており、市民や患者におわびする」と謝罪。その一方で「顧問弁護士らから刑事罰に当たらないとの見解をもらっている」として、今回の事案は医師法違反に該当しない旨を強調したとのことです。2021年の医療法等改正で医療関係職種の業務範囲は拡大したが執刀医は医療法改正などによるタスクシフト推進策などにより、医師以外も医療行為を行うことができると勝手に誤認していたとのことですが、もしそれが事実ならば、現場の医師は法律知識もないままに漠然と医療行為を行っていたことになります。確かに、2021年5月に成立した医療法等改正によって、タスクシフト・シェアを推進するため医療関係職種の業務範囲が拡大されてはいますが、そこにはもちろん臨床工学技士による皮膚縫合は含まれていません。本連載でも「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」で詳しく書きましたが、臨床工学技士について新たに認められた業務は以下です。手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療における▼静脈路確保と装置や輸液ポンプ・シリンジポンプとの接続▼輸液ポンプ・シリンジポンプを用いた薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る)投与▼当該装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続された静脈路の抜針・止血心・血管カテーテル治療における生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるための当該負荷装置操作手術室での鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持、術野視野を確保するための内視鏡用ビデオカメラ操作クラークなどに「予診」業務を行わせるのも医師法違反の可能性同病院は再発防止のため、5月から職員全員を対象に、医師法など法律を周知徹底するための研修を毎月実施しているそうです。この事件、「うちは手術なんて任せないので無関係」と思っている医療機関は少なくないと思いますが、実際には医師法違反スレスレの医療行為を行っているところは意外に多いようです。その背景にあるのが、診療報酬の医師事務作業補助体制加算です。この加算を取るため、全国の医療機関(病院、有床診療所)において医師事務作業補助者・クラーク体制が導入されています。医師事務作業補助体制加算における、医師事務作業補助者の業務範囲は細かく決められていますが、多くの病院できわめて「危うい」業務をさせているケースもあると聞きます。医師が行っている業務には、法律上、医師免許を持つ医師しか行えない「医行為」と、そうでないものがあります。そして、医師の業務を別の分け方で二分すると、メスや注射、薬剤、放射線などで患者の体に侵襲を加える「侵襲的業務」(今回の事件の皮膚縫合)と、診察や診断書発行など侵害を加えない「非侵襲的業務」に分かれます。体に侵襲を加えない「非侵襲的業務」、つまり、医師が行う事務的に見える行為の中にも「医行為」があります。代表的な行為が問診です。問診は「医行為」なので医師しか行えません。医師以外のものが 患者の症状について情報収集をするのは「予診」と位置付けられ、あくまでも医師の問診の前に行うものです。看護師が「予診」を行うのは法律上「診療の補助」として認められていますが、それ以外の職種については現在明確に許可されてはいません。というわけで、看護師でなくクラークなどに「予診」業務を行わせることも、医師法違反の可能性があるということになります。この他にも「あらかじめ業務規程に明記されていない代行業務は行えない」など、医師事務作業補助には細かなルールがあります。千葉海浜病院は、医師法など法律を周知徹底するための研修を行うようになった、とのことですが、どうせ研修を行うなら、医師事務作業補助体制加算における医師事務作業補助者の業務範囲についても、しっかりと研修を行っておくことをお勧めします。

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紹介状に不満がある医師は約7割!その紹介の実態は?/1,000人アンケート

 医療連携の一環として活用される紹介状。正式名称は「診療情報提供書」である。かかりつけ医が高度医療の必要があると判断して患者を紹介したり、その逆で患者の病状が安定したからとかかりつけ医などに戻ってもらう際に使用したりする。だが、この紹介状が名ばかりで実際の情報提供になっていないことがあるらしい。そこで今回、ケアネットでは会員医師1,000人を対象に『紹介状で困ったこと・良かったこと』に関するアンケートを実施した。紹介状に対する不満、開業医「紹介したのに返信がない」が1番 開業医、勤務医各500人にアンケートしたところ、大多数が紹介状の内容に不満を感じており、1番の理由は開業医では「紹介したのに返信がない」、勤務医では「紹介状が手書きで読めない」だった。実際に開業医に対して紹介状の記載ツールを伺ったところ、手書きと回答した方は31%で、年代が上がるほどその割合は増えていた。 次に不満を感じる理由として、開業医は「患者の転帰情報が送られてこない」、勤務医は「患者の丸投げと感じる」を挙げているが、それらの不満コメントをみると開業医だからといって勤務医だけに不満があるわけではなく、開業医同士、勤務医同士でも意見はあるようだ。<開業医の不満>・外科術後患者で術後診断がない(60代、消化器科)・紹介状と、受診したときの処方などの内容が違っていた(60代、外科/乳腺外科)・紹介先から初診診察医が変更になったので新たに紹介状を書くように言われた(60代、整形外科)・92歳で心不全持ちなど、どう見ても外来手術適応外の患者を外来手術目的で紹介してくる開業医の先生が困る(50代、眼科)<勤務医の不満>・かなりの重症患者を連絡なしで患者家族の運転する車で飛び込み受診された(40代、腎臓内科)・患者の希望と記載してあるが、実際は丸投げであったこと(30代、循環器内科/心臓血管外科)・広告の裏紙を使った紹介状で、しかも殴り書きで来たことがある(40代、血液内科)・手書きで判読が困難な紹介状や略語は困ります。(紹介状を)書く際には略語は使いません(60代、循環器内科/心臓血管外科) このほか、それぞれの医師が「良かったと感じた紹介状」や「書く際に心掛けていること」についてもアンケート結果を公開している。アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中『受け取った紹介状、開業医/勤務医がモヤっとする第1位は?』<アンケート概要>●タイトル:紹介状で困ったこと・マナー違反と思ったことを教えてください●内容:紹介状のやり取りで開業医/勤務医それぞれが困っていること、良かったと感じたことを調査●実施期間:2022年2月24日(木)●調査方法:インターネット●対象:30代以上の会員医師 1,000人(開業医:500人、勤務医:500人)

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肺がん2021Wrap Up (3)周術期治療【肺がんインタビュー】 第74回

第74回 肺がん2021Wrap Up (3)周術期治療出演:兵庫県立がんセンター 副院長(医療連携・医療情報担当) 兼 ゲノム医療・臨床試験センター長 呼吸器内科部長 里内 美弥子氏2021年肺がんの重要トピックを兵庫県立がんセンターの里内 美弥子氏が一挙に解説。これだけ見ておけば、今年の肺がん研究の要点がわかる。

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肺がん2021Wrap Up (2)免疫チェックポイント阻害薬【肺がんインタビュー】 第74回

第74回 肺がん2021Wrap Up (2)免疫チェックポイント阻害薬出演:兵庫県立がんセンター 副院長(医療連携・医療情報担当) 兼 ゲノム医療・臨床試験センター長 呼吸器内科部長 里内 美弥子氏2021年肺がんの重要トピックを兵庫県立がんセンターの里内 美弥子氏が一挙に解説。これだけ見ておけば、今年の肺がん研究の要点がわかる。

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肺がん2021Wrap Up (1)標的治療薬【肺がんインタビュー】 第74回

第74回 肺がん2021Wrap Up (1)標的治療薬出演:兵庫県立がんセンター 副院長(医療連携・医療情報担当) 兼 ゲノム医療・臨床試験センター長 呼吸器内科部長 里内 美弥子氏2021年肺がんの重要トピックを兵庫県立がんセンターの里内 美弥子氏が一挙に解説。これだけ見ておけば、今年の肺がん研究の要点がわかる。

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