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乳がんの病理学的完全奏効は代替エンドポイントとして不適/Lancet

 乳がんの病理学的完全奏効は、無再発生存率(EFS)や全生存率(OS)との関連はほとんどなく、代替エンドポイントとしては不適であることを、米国FDAのPatricia Cortazar氏らが、12試験を対象としたプール解析の結果、報告した。Lancet誌オンライン版2014年2月14日号掲載の報告より。被験者総数約1万2,000例のデータを分析 研究グループは、PubMedやEmbaseなどを基に、術前補助化学療法を行った乳がん患者を対象にした12試験(被験者総数1万1,955例)についてプール解析を行い、病理学的完全奏効と生存率との関連や、同頻度が長期臨床アウトカムの代替エンドポイントとして適切かどうかについて分析を行った。 分析対象とした試験は、200例以上の乳がん患者を対象に術前補助化学療法後に手術を実施し、病理学的完全奏効やEFS、OSについてのデータがあり、追跡期間の中央値が3年以上のものだった。 病理学的完全奏効の定義としては、(1)ypT0 ypN0(原発巣と腋窩リンパ節の浸潤・非浸潤を含めすべてのがん消失)、(2)ypT0/is ypN0(原発巣と腋窩リンパ節の浸潤がん消失)、(3)ypT0/is(原発巣のみ浸潤がん消失)の3種を用い、EFSやOSとの関連を調べた。病理学的完全奏効の頻度の増加と生存率には関連性なし 結果、ypT0 ypN0またはypT0/is ypN0は、EFSとOSの改善に関与しており、ハザード比はEFSがそれぞれ0.44と0.48、OSが0.36と0.36だった。 ypT0 ypN0と長期アウトカムの関連が最も強かったのは、トリプルネガティブ乳がん(EFSハザード比:0.24、OSハザード比:0.16)と、HER2陽性乳がん・ホルモン受容体陰性でトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)投与を受けた人(同0.15、0.08)だった。 試験レベルの分析においては、病理学的完全奏効の頻度の増加とEFS、OSの間には、関連性はほとんど認められなかった(それぞれR2=0.03、R2=0.24)。

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BRCA遺伝子変異乳がん、両側乳房切除で死亡リスクが5割低下/BMJ

 BRCA遺伝子変異保有者で乳がんステージI・IIの患者について、対側乳房の切除を行ったほうが片側乳房切除よりも、20年死亡リスクが48%低いことが、カナダ・トロント大学のKelly Metcalfe氏らが行った後ろ向き分析の結果、示された。先行研究で、BRCA1もしくはBRCA2遺伝子に変異を有する女性の乳がんリスクは60%であり、片側乳房の診断後15年以内の対側乳房のがんリスクは34%であることが示されている。これまでの検討では、対側乳房の切除は乳がんリスクを低減するが、乳がん死の減少は示されていなかった。著者は、「BRCA遺伝子変異保有者や若年の乳がん発症患者には、両側乳房切除の選択肢が検討されるべきである」とまとめている。BMJ誌オンライン版2014年2月11日号掲載の報告より。390例を20年フォローアップし後ろ向きに分析 BRCA遺伝子を保有する乳がん女性において、対側乳房切除を受けた人と受けなかった人の生存率を比較する検討は、12のがん遺伝子専門クリニックの患者について行われた。BRCA1もしくはBRCA2遺伝子変異を有し、乳がんステージI・IIの家族歴があり、初回治療で片側または両側乳房切除を行った390例について後ろ向きに分析した。被験者は1977~2009年の間に診断を受けており、対側乳房の切除も受けていたのは181例(初回手術で両側乳房切除は44例、137例はその後診断から平均期間2.3年で対側乳房を切除)であった。 被験者について診断後20年間フォローアップし、乳がんによる死亡を主要評価項目に検討した。対側の乳房切除は乳がん死亡を48%減少 フォローアップ期間の中央値は14.3年(範囲:0.1~20.0年)、同期間中の死亡は79例(20%)であった。診断から死亡までの平均期間は7.1年(範囲:0.7~19.3年)だった。 両側乳房切除群の死亡は18例、片側乳房切除群は61例であった。 20年時点の生存率は、両側乳房切除群は88%(95%信頼区間[CI]:83~93%)に対し、片側乳房切除群は66%(同:59~73%)だった。 多変量解析(診断時年齢、診断年、治療法、他の予後で補正)の結果、対側の乳房切除は乳がん死亡を48%減少することが示された(ハザード比:0.52、95%CI:0.29~0.93、p=0.03)。傾向スコア(遺伝子、腫瘍サイズ、リンパ節への転移状態、診断時年齢、診断年、放射線療法有無、タモキシフェン投与有無、化学療法有無)適合79例との補正後分析では、死亡減少の統計的有意差は示されなかった(同:0.60、0.34~1.06、p=0.08)。 これらの結果に基づき研究グループは、「対側乳房切除を受けた患者の20年時点の生存は100例中87例であり、片側乳房切除患者は同100例中66例と予測される」と述べている。そのうえで、「今回の結果は、BRCA遺伝子変異保有者で乳がんステージI・IIの患者では、両側乳房切除を受けた患者のほうが片側乳房切除を受けた患者よりも乳がん死亡が少ないと思われることを示唆した。さらなる研究で、この集団でみられた少数のイベントについて確認することが必要である」とまとめている。

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第55回米国血液学会(ASH 2013)トレンドビュー 血液腫瘍治療の最新知見

第55回米国血液学会(American Society of Hematology 2013)が2013年12月7~10日、米国ルイジアナ州ニューオリンズにて開催された。同学会の内容から血液腫瘍治療の最新のトレンドを、がん研究会有明病院 血液腫瘍科部長/がん化学療法センター臨床部部長の畠 清彦氏に聞いた。iPS細胞研究と次世代シーケンス導入今回のASHでは、まずiPS細胞の基礎研究の広がりが印象的であった。iPS細胞の臨床応用にはまだ時間を要するが、血液系の分化・増殖という方向への展開が明確にみられた。また、次世代シーケンスの導入の活発化も最近の特徴であろう。治療の前後や治療抵抗性時における遺伝子の発現状況の比較や、急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)などにおける遺伝子異常の解析が盛んに進められている。この流れはしばらく続くと予測される。急性骨髄性白血病(AML)AMLについては、有望な新規薬剤のエビデンスの報告はほとんどなかった。印象的だったのは、米国で2010年に販売中止となったゲムツズマブオゾガマイシンの自主研究が着実に進められており、投与スケジュールの変更や減量、他剤との併用により、予想以上に良好な成績が得られていることであった。販売が継続している日本でも、使用機会は減少しているが、工夫の余地は残されていると考えられる。急性リンパ性白血病(ALL)ALLに関しては、フィラデルフィア染色体(Ph)陽性例(ABL-positive)に対するニロチニブと多剤併用化学療法(hyper-CVAD:シクロホスファミド+ビンクリスチン+ドキソルビシン+デキサメタゾン)の第II相試験で良好な成績が報告された。一方、Ph陰性例では有望な新薬は見当たらないが、B細胞性ALLに対するCD19抗体などの検討が進められている。慢性骨髄性白血病(CML)BCR-ABL遺伝子T315I変異陽性CMLの治療において、第3世代ABLキナーゼ阻害薬であるポナチニブの有効性が確認されている。米国では2012年に承認され、日本では現在申請中であるが、2次または3次治療薬として承認される見通しである。ただし、現在、T315I変異の検査が可能な施設は限られており、全国的な検査体制の構築が課題となる。慢性リンパ球性白血病(CLL)CLL領域では、プレナリー・セッションでオビヌツズマブ(GA101)+クロラムブシル(GClb)とリツキシマブ+クロラムブシル(RCbl)のhead-to-headの第III相試験(CLL11試験)の結果が報告された。GA101は糖鎖改変型タイプⅡ抗CD20モノクローナル抗体であり、B細胞上のCD20に選択的に結合し、リツキシマブに比べ抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性が強く、直接的な細胞死の誘導能も高いとされる。結果は、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)中央値が、GClb群で26.7ヵ月と、RCbl群の15.2ヵ月よりも1年近く延長し(p<0.0001)、全生存期間(OS)中央値も良好な傾向がみられた(p=0.0849)。また、経口投与が可能なBurtonチロシンキナーゼ(BTK)阻害薬であるイブルチニブとリツキシマブ+ベンダムスチン(RB)との併用に関する第Ib相試験では、良好な安全性プロフィールが確認されるとともに、奏効率が90%を超え、推定1年PFSも90%に達しており、注目を集めた。現在、イブルチニブ+RBとプラセボ+RBを比較する無作為化第III相試験が進行中である。ONO-4059は、CLLの第I相試験で有望な結果が示されており、これから第II相試験が開始される。そのほか、イデラリシブ、BAY806946、IPI-145などのPI3キナーゼ阻害薬の開発が、今後、どのように展開するかに関心が集まっている。リンパ腫前述のCLLへの有効性が確認された薬剤の多くがリンパ腫にも効果がある可能性が示唆されている。活性化B細胞(ABC)型のびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)に対するR-CHOPへのイブルチニブの上乗せ効果を評価する第III相試験が開始されている。また、イブルチニブは単剤で再発マントル細胞リンパ腫にも有効なことが示されている。前述の経口BTK阻害薬であるONO-4059は、CLLだけでなく、リンパ腫に対する有用性も示唆されている。また、リンパ腫に対するGA101の検討も進められている。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬では、RAD001やパノビノスタットの検討が進められている。DLBCLについては、胚細胞B細胞(GCB)型に有効な薬剤の開発が課題である。T細胞性リンパ腫では、CD30抗体薬であるブレンツキシマブベドチンの有効性が第II相試験で示され、日本でもまもなく承認が得られる予定である。また、ブレンツキシマブベドチンは未分化大細胞型リンパ腫やホジキンリンパ腫の治療として、多剤併用化学療法への上乗せ効果の検討が進められている。一方、BCL-2拮抗薬であるABT-199(GDC-0199)は、CLLのほか小リンパ球性リンパ腫(SLL)に有効な可能性が第I相試験で示された。骨髄異形成症候群(MDS)MDSの治療では、オーロラキナーゼ阻害薬の進歩がみられたが、その有用性を見極めるにはもう少し時間を要する状況である。多発性骨髄腫多発性骨髄腫の領域では、第2世代プロテアソーム阻害薬であるカーフィルゾミブを中心とする臨床試験が数多く行われている。カーフィルゾミブ+レナリドミド+デキサメタゾン(CRd)療法や、カーフィルゾミブ+ポマリドマイド+デキサメサゾン(CPd)療法の第II相試験で良好な成績が報告されていた。また、ダラツムマブなどいくつかの抗CD38抗体薬の開発が進められており、第I相試験で有望な成績が報告されている。さらに、経口プロテアソーム阻害薬であるMLN9708(クエン酸イクサゾミブ)とレナリドミド+デキサメタゾン(Rd)の併用療法は第I/II相試験で良好な成績が示され、現在、MLN9708+RdとRdを比較する第III相試験が進行中である。本試験は開始されたばかりであり、結果を得るには時間を要するが、有望視されている試験の1つである。最後に全体としては、BTK阻害薬のように、対象患者は限られるが有害事象が少ない薬剤を長期的に投与すると、QOLを良好に維持しつつ、徐々にCR例が増加するという状況がみられる。CML治療におけるイマチニブやダサチニブ、ニロチニブに相当する薬剤が、CLLやリンパ腫、マントル細胞リンパ腫の治療においても確立されつつあるという印象である。ただし、単剤で十分か、他剤との併用が必要となるかは、今後の検討課題である。

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末期がんの患者に告知を行わず過誤と判断されたケース

癌・腫瘍最終判決判例時報 1679号40-45頁概要約4年前から総合病院循環器外来に通院していた77歳男性が、前胸部痛を主訴に撮影した胸部X線写真で多発性の肺腫瘍を指摘された。諸検査の結果、担当医師(非常勤の呼吸器科医師)の診断は末期がん(原発は不明)で手術や化学療法の適応はないと判断した。患者本人には末期がんであることを告知しない方針をとり、家族を連れてくるように依頼したが実現しなかった。その後前胸部痛が悪化し、納得のいく説明をしない主治医に不信感を抱いた患者は約5ヵ月後に大学病院を受診、そこではじめて末期がんと告知された。詳細な経過患者情報4年前から虚血性心疾患、期外収縮、脳動脈硬化症などの診断で、総合病院循環器外来に通院していた77歳男性。病弱の妻と二人暮らしであり、いつも一人で通院していた経過1989年4月19日胸部X線写真では異常なし。1990年2月16日体重減少に対し腫瘍マーカーなどを検査したが異常なし。6月8日約1ヵ月前から続く左乳頭部の痛みを申告したが、他覚的異常所見なし。10月26日胸部X線写真で右肺野にcoin lesion、左下肺野にも小さな結節が数個と胸水を示唆する所見が認められたため院内の呼吸器内科に紹介。11月17日呼吸器専門の非常勤医師(毎週土曜日担当)が診察し、胸部CTスキャン、腫瘍マーカーなどの検査結果から扁平上皮がんあるいは重複がんではないかと考えた。気管支鏡検査は確定診断という点では有用だが、転移性、多発性の肺腫瘍で手術や化学療法の適応はないと判断し、治療には直接結びつかない気管支鏡は不要と判断した。(この時患者本人にはがんの告知せず)12月8日胸部X線写真では変化なし。12月29日前胸部痛あり。カルテには末期がんであろうと記載し、鎮痛薬(チアプロフェン〔商品名:スルガム〕)を処方。(患者本人にはがんの告知せず)1991年1月19日鎮痛薬による治療続行。患者本人から、「肺の病気はどうですか」と質問されたが、末期がんであることの告知は不適切と考え、「胸部の病気は進行している」と答えた。この時点で非常勤医師は家族への告知を考え電話連絡をしたが、家族は不在であった。そして、カルテには「転移病変につき患者の家族に何らかの説明が必要」と記載し、通院時に家族を連れてくるように勧めたが、家族関係の詳細を把握することはなかった。その後非常勤の主治医は病院を退職。2月9日別の医師を受診し鎮痛薬スルガム®の処方を受ける。前胸部痛は治まっていると申告。3月2日胸の痛みを訴えたため、スルガム®と湿布を処方。以後この病院の受診なし。結局本人および家族へはがんであることの告知は行われなかった。3月5日胸の痛みが増強したため大学病院整形外科を受診。3月11日内科を紹介され、ここではじめて末期がんであることが告知された。当事者の主張患者側(原告)の主張治療上の選択の余地がない末期がんであっても、真実の病名を知ることによって充実した余命を送ることができたのに、告知が約5ヵ月も遅れたことによって適切な治療および生活を決定できる状況を奪われた。家族にとっても肉親として接する貴重な日々を送れたはずなのに、精一杯の看護と治療を受ける機会を失い、大きな悔悟と精神的衝撃を被った。病院側(被告)の主張延命および治癒が望めない末期がんの患者およびその家族に対して、がん告知をするべきか否かは医師の広範な裁量に委ねられていて、がん告知をしなかったからといってただちに不法行為になるわけではない。裁判所の判断医師としてはがん告知の適否、告知時期、告知方法などを選択するために、できる限り患者に関する諸事情についての情報を得るよう努力する義務がある。本件では患者本人が通院治療中にがん告知を強く希望したわけではないので、本人にがん告知しなかったことは裁量の範囲内であった。しかし、家族に関する情報収集や家族との接触の努力を怠り、漫然と家族にがん告知をしなかった。その結果、患者本人が家族から手厚いケアを受けたり、より充実した日々をより多く送る可能性を奪われたことになるので、期待権侵害によって被った精神的損害を賠償するべきである。原告側合計1,600万円の請求に対し、120万円の賠償判決考察悪性腫瘍を疑う患者の場合には、外来診察である程度の絞り込みを行い、さらに検査目的の入院を指示してがんの病期分類、治療方針などを検討したのち、患者およびその家族からインフォームドコンセントを得るといった手順を踏むことになると思います。このように当初の診断過程に入院をはさむことによって、担当医師と患者、および家族とのコミュニケーションがはかれ、十分な信頼関係を構築できることが多いと思います。ところが本件では、通常であれば入院精査を行うべき状況であったと思われますが、末期がんのため治療に直接結びつかない侵襲的な検査(気管支鏡検査)は不要と判断したこと病弱な妻との二人暮らしのため入院は難しいという申告があったこと(ムンテラ対象となる長男や長女はいたものの、外来でそこまでは聞き出さなかった)担当したのが週1回外来担当の非常勤医師であったことなどの複数の要因が重なった結果、肝心な病状説明(がんの告知)が患者本人のみならず、その家族へも一切行われないまま他院へ転院することになりました。このような事態は通常の診療では考えられないことではないか、という感想を持たれる先生も多いと思いますが、昨今の総合病院のように専門分化が進んだ結果、病院内の横断的なコミュニケーションが絶対的に不足しているような状況では、けっして他人事とはいえないと思います。とくに、毎週1回の専門外来を担当する非常勤医師を雇用している施設では、遠慮(尊重?)しあう面もあって常勤医師との連携が十分にはかられず、ミスコミュニケーションにつながる危険性が常にあるように思います。今回の担当医師(非常勤呼吸器内科医)は、「家族に電話してみたけれども不在だったので、病状説明ができなかった」「転移病変につき患者の家族に何らかの説明が必要、とカルテに記載しておいたので、あとは常勤医師がやってくれるものと思っていた」と主張していますので、当時の状況からすればやむを得ないことであった、担当医師はまじめに診察していたようなので気の毒である、という見方もできると思います。ところが、家族へ連絡したことについてはカルテに一切記載しなかったため、いくら裁判で「私はきちんと連絡を取ろうとしました」と証言しても説得力不足は否めません。病院を辞める際のカルテ記載にしても、「次回来院時必ず家族へ末期がんであることを説明してください」というような申し送り内容ではなく、常勤医師に会って直接伝えたものでもありませんでした。そのためあとを引き継いだ常勤医師にしても、誰が主治医であるのか不明確な状況でしかも今までの経緯が不明であれば、あえてがん告知をすることはないと思います。そして、このような診療内容が、「がんという重大な病気にかかった患者さんを誠意を持って担当していないのではないか」、という裁判官の心証形成に大きく影響したということです。結局のところ、今回の担当医師は非常勤という身分もあってか、責任を持って患者さんを担当するという姿勢に欠けていたように思います。この場合の責任とはどのようなことか、家族が電話にでるまで延々と電話をかけ続けなければならないのか、家族を連れてくるように明言したのに連れてこないのは患者の勝手ではないか、というご意見も十分にあろうかと思います。しかし、ひとたび末期がんという重大な病気に直面した患者自身やその家族の立場に立ってみると、いくらやむを得なかったといっても真の病名がまったく告げられることなく5ヵ月も外来に通い続けたのは、到底納得できないことではないかと思います。本件のようなミスコミュニケーション予防の手段として考えられるのは、外来通院患者であっても入院患者と同じように主治医を明確にすることだと思います。もし本件でも、4年来通院していた循環器担当医師が主治医としてきちんとコミットしていれば、非常勤の呼吸器科医師がなかなか果たすことのできなかった家族とのコミュニケーションを円滑に進めることができたかもしれません。ちなみに、今回の呼吸器内科非常勤医師はその後末期がんを告知された大学病院の常勤スタッフでした。もしがん告知を行った大学病院の担当医師が問診を十分に行って、前医の総合病院(それも関連施設)で行われた診断・治療に少しでも気を遣っていれば、このような結果にならずにすんだ可能性があると思います。すなわちここでも横断的なコミュニケーションが不十分であったことを強く示唆していると思います。癌・腫瘍

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再発慢性リンパ球性白血病に新規PI3Kδ阻害薬が有効/NEJM

 合併症を有する高齢の慢性リンパ球性白血病(CLL)再発例の治療において、イデラリシブ+リツキシマブ(商品名:リツキサン)療法はリツキシマブ単独療法に比べ有効性が高く、安全性プロフィールは許容できるものであることが、米国・ワイルコーネル医科大学のRichard R Furman氏らの検討で示された。臨床的に重大な合併症を有する再発CLL例は標準的な化学療法が施行不能な場合が多いため、安全性プロフィールが許容可能で、かつ有効な治療法が求められている。イデラリシブは低分子量の選択的PI3Kδ阻害薬であり、再発・難治性CLLを対象とした第I相試験において単剤もしくはリツキシマブなどとの併用で許容しうる毒性の範囲内で有意な臨床効果が確かめられている。NEJM誌オンライン版2014年1月22日号掲載の報告。 上乗せ効果をプラセボ対照無作為化試験で評価 研究グループは、再発CLLの治療におけるイデラリシブのリツキシマブへの上乗せ効果の評価を目的とする多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を実施した。対象は、腎機能低下、前治療による骨髄抑制、重篤な合併症がみられる再発CLL患者で、イデラリシブ(150mg、1日2回、経口投与)+リツキシマブまたはプラセボ+リツキシマブを投与する群に無作為に割り付けられた。 主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)であった。本試験は、事前に計画された初回中間解析においてイデラリシブ群で顕著な効果が確認されたため、データ・安全性モニタリング委員会の勧告で早期中止となった。 PFSとともに、奏効率、OSも有意に改善 2012年5月~2013年8月までに220例が登録された。78%が65歳以上で、40%が中等度以上の腎機能障害(クレアチニンクリアランス<60mL/分)を有し、35%が骨髄機能不良(Grade 3以上の貧血、血小板減少、好中球減少)、85%が累積疾患評価尺度(Cumulative Illness Rating Scale; CIRS)のスコアが6点以上であった。イデラリシブ群に110例、プラセボ群にも110例が割り付けられた。 PFS中央値は、イデラリシブ群が未到達、プラセボ群は5.5ヵ月であり、病勢進行または死亡のハザード比は0.15(p<0.001)と、イデラリシブの追加により85%の改善が得られた。奏効率はイデラリシブ群が81%、プラセボ群は13%(死亡のオッズ比:29.92、p<0.001)、1年全生存率(OS)はそれぞれ92%、80%(死亡のハザード比:0.28、p=0.02)であり、いずれもイデラリシブ群で顕著に良好であった。 有害事象は、強力な前治療を受けた再発CLL患者で予測されたものとほぼ一致した。重篤な有害事象の発現率は、イデラリシブ群が40%、プラセボ群は35%であった。 著者は、「標準的化学療法が施行できない可能性が高い再発CLL患者の治療において、イデラリシブ+リツキシマブ療法は、リツキシマブ単独療法に比べ、PFS、奏効率、OSを有意に改善した」とまとめ、「イデラリシブは、イブルチニブ(ブルトン型チロシンキナーゼ[BTK]阻害薬)やABT-199(B細胞リンパ腫2[BCL2]蛋白阻害薬)などと共にCLLに有効な薬剤のリストに加えられる。これらの薬剤をより効果的に使用するには、さらなる検討を要する」と指摘している。

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Postneoadjuvant treatment with zoledronate in patients with tumor residuals after anthracyclines-taxane-based chemotherapy for primary breast cancer - The phase III NATAN study (GBG 36/ABCSG XX) -- von Minckwitz G, et al.

術前化学療法後の腫瘍残存例に対するゾレドロン酸の効果 ほか1題ドイツからの報告である。術前化学療法後、腫瘍が残存した症例に対して、ゾレドロン酸使用群と観察群を無作為化割付し、プライマリーエンドポイントとして無再発生存率をみた。ゾレドロン酸(4mg静注)は最初の6回は4週間毎、次の8回は3ヵ月毎、その後の5回は6ヵ月毎に投与した。サンプルサイズは、無再発率が観察群58.0%、ゾレドロン酸群67.2%、α=0.05、β=0.20、脱落5%と仮定して、654例の患者数と316のイベントが必要とされた。最終的に693例がリクルートされ、ゾレドロン酸群343例、観察群350例であった。それぞれ65例、60例が5年未満の観察であり、まだ試験継続中である。エストロゲン受容体陽性(10%以上)は約79%、HER2陽性は約17%であった。結果として無再発生存率、全生存率ともにまったく有意差はなかった。ただし、閉経後では、ゾレドロン酸群で乳癌による死亡率は改善していた(HR=0.83、SE:0.06)。閉経後の定義の記載がなかったので、おそらく術前化学療法と手術後の割付時での評価だと考えられるが、どのように基準を設けていたかは不明である。最終結果はまだであるが、今後大きな変化はなさそうにみえる。次はビスフォスフォネート治療に関するメタ分析の報告であり、こちらがより重要である。Effect of bisphosphonate treatment on recurrence and cause-specific mortality in women with early breast cancer: A meta-analysis of individual patient data from randomized trials -- Coleman R , et al.2012年ASCOでもビスフォスフォネートの術後補助療法に関するメタ分析の結果が2演題報告されていたが、今回はEarly Breast Cancer Clinical Trials Collaborative Group(EBCTCG)'s Bisphosphonate Working Groupから一般演題で採用されていた。現在まで15年にわたり、ビスフォスフォネートの術後補助療法の臨床試験データが蓄積されてきた。これらの臨床試験から、ビスフォスフォネートは局所よりも遠隔転移を主に抑制し、骨転移に対して最大の効果が期待できそうである、女性ホルモン値の低い状況でのみ有効である、閉経前では非骨転移に対しては逆効果である可能性がある、といった仮説が予想される。そこで静注および経口ビスフォスフォネートとプラセボの無作為化比較試験からのデータを収集し、メタ分析を行った。プライマリーアウトカムは再発までの期間と遠隔再発までの期間、そして乳癌関連死である。あらかじめ計画されたサブグループ解析として、再発部位、初発遠隔再発部位(骨とそれ以外)、閉経状態、ビスフォスフォネートの種類、組織学的異型度、ビスフォスフォネートのスケジュール、年齢、エストロゲン受容体、リンパ節転移、ビスフォスフォネートの投与期間、化学療法の有無、各期間毎の再発率が検討された。全36試験(22,982例)のうち、22試験(17,791例、77%)でデータを収集できた。全再発率では有意差はなかったが(p=0.08)、遠隔転移ではビスフォスフォネート使用群で再発リスクが低かった(p=0.03)。遠隔転移のうち骨転移での再発率は有意差がみられたが(p=0.0009)、非骨転移では差がなかった(p=0.71)。局所再発、対側乳癌発生率も差はなかった。閉経後に限ってみると、遠隔転移による再発率(p=0.0003)と骨転移(p

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An international study to increase concordance in Ki67 scoring -- Nielsen TO, et al.

Ki67スコアの一致率を高めるための国際的な研究 ほか1題2012年のサン・アントニオ乳癌シンポジウムでも報告された内容の続きであり、Ki67スコアの一致度を高めるための国際研究である。増殖マーカーはエストロゲン受容体陽性乳癌において予後因子と考えられている。Ki67は免疫染色にて、サブタイプ、予後、治療予測、術前化学療法の評価項目などで広く用いられている。EGAPP(Evaluation of Genomic Applications in Practice and Prevention)ワーキンググループでは、分析的妥当性が臨床的有用性の側面から重要であることを述べており、ASCO(米国臨床腫瘍学会)は再現性の面からKi67を日常臨床として用いることを推奨していない。Ki67評価に関する推奨についてはDowsett M, et al.J Natl Cancer Inst.2011; 103: 1656-1664.に記載されている。中央で染色された乳癌100症例のTMA(tissue microarrays)連続切片でのローカルのスコア法(第1相)から学んだことは、観察者内の一致率は良好(級内相関係数、ICC=0.94、95%CI: 0.93~0.97)だが、観察者間の再現性は満足すべきものではなかった(ICC=0.71、95%CI: 0.47~0.78)。Ki67の相違は主にスコアリングの方法によるものであった。正式な測定法がより一致した結果をもたらした(Polley MY, et al. J Natl Cancer Inst. 2013; 105: 1677-1683.)。第2相(a)では、トレーニングにより再現性が改善するかどうか検討された。共通の可視化スコアリング法でKi67をスコアする者を訓練できるか、臨床研究のために共通のツールを開発できるかが課題である。まずガラス上のTMAスライドで標準的なスコアリングを行い、次にWebベースで補正を行った。補正は、webベースのTMAイメージ(9のトレーニングと9の試験)で、Ki67は中央で染色され、スコアの範囲を評価している。良好な内的一致性を示す実際的なスコアリング法、陽性と陰性の核を可視化したサンプルからなるシンプルな構成、2つの関連施設を含む世界から19施設で評価を一致させるためにあらかじめ確立された特定の基準が設けられた。補正結果:施設によって茶色(陽性と判断する濃さ)の閾値が異なっていた。そのため、さらに陽性/陰性を考えるための染色サンプルイメージを追加した。スコアを行う者は、ばらつきと異常値が、あらかじめ決められた基準を満たすまでトレーニングセット分析を繰り返した。その結果、新たな症例でのテストにより17のうち12の施設で一致基準を満たした。結論として、施設はトレーニング可能であり、webベースの補正ツールを用いることで成績は改善傾向を示した。第2相(b)では、補正され、トレーニングされ、標準的な公式の可視化測定法をもった観察者により、一貫性のあるKi67インデックスを提供することは可能かどうかが評価された。第1相で用いられた50例の中央で染色された1mm TMAブロックを用いて、同一標本から3切片作成し、カナダ、英国、欧州、日本の16施設において、最初にウェブイメージで補正を完了し、同様のスコアリング法をガラス上で適応し、キーボードで入力したカウントデータを収集した。500の細胞核をカウントするまでの時間は中央値5.6分であった。ICCの目標値は0.9で有意に0.7を超えることである。結果はICC 0.92(95%CI: 0.88~0.95)であり、第1相でICC 0.75であった7施設も第2相でICC 0.90と上昇していた。施設間での個々の症例でのKi67インデックス10~20%のばらつきも、第2相ではかなり一致していた。Ki67のよく知られたカットオフ値のためのカッパ値(一致性の指標、1に近いほど一致)は、たとえば14%のカットオフ値ではカッパ0.73と良好であるにもかかわらず、17%において、ある施設でhighと判定されたものが、別の施設ではlowと判定されることになっていた。結論として、webベースの補正システムは有用なツールである。Ki67のカウント法は実臨床に適用できそうであり、研究デザインにおいてICCが0.7より有意に高いことを目標としたが、実施は0.9以上であった。これらの結果は、中央で染色されたTMAを適用したものであり、針生検(第3相)、全切片、染色の多様性の追加でも同様の成績が得られるか、が挙げられ、このスコアリング法の臨床的な妥当性はまだ確定されていない。本邦では病理医が非常に不足している。そのため病理医にかかっている負担は大変なものであり、その上に繊細な測定が求められるKi67はさらに負担を上乗せすることになろう。このような研究によって、世界的に基準が統一され、良好な一致率がみられるようになることが理想だが、一般病理医のレベルにこれらが適応されたときどうなるか、非常に疑問ではある。以下、個人的意見ではあるが、Ki67については病理医が測定部位を選定し、訓練された細胞検査士がカウントするのがよいのではないかと考える次第である。なぜなら一般的傾向として、細胞検査士は医師より基準に忠実であり、また細胞や核をよく見慣れている。臨床細胞学会などが主導で測定訓練を行い、基準を満たしたものをKi67測定認定検査士とすれば、技師の雇用にもつながり、病理医の負担軽減にもなり、Ki67測定の質も上がり、乳腺医にとっても依頼しやすくなるであろう。Ki67の染色性に関して、本邦から以下の報告があったが大切な内容であると考えられるため紹介する。Pre-analytical setting is critical for an assessment of the Ki-67 labeling index for breast cancer -- Arima N, et al.本邦からの報告である。本研究では、一般にKi-67の染色に関して組織管理の重要性についての注意が不十分であることから、組織固定の影響について検討している。(1)固定のタイプ:665例の切除標本は10%中性緩衝ホルマリンまたは15%で固定。(2)固定時間:A:固定までの時間:数時間から一晩。B:固定時間B-1.短い固定時間:腫瘍の一部を3時間ホルマリン固定後パラフィンブロックへ。48時間の固定と比較B-2.長い固定時間:腫瘍の一部を長時間固定(3)外科的に切除された腫瘍のKi-67ラベリングインデックス値への影響A:固定の前に新鮮な腫瘍組織の中央をカットした時の影響B:136例のコア針生検と外科的切除標本の比較結果:Ki-67値は15%よりも10%ホルマリン固定で有意に高かった。固定までの時間が長いと徐々に値は低下した。不十分な固定は劇的な低下の原因となった。逆に過固定は徐々に低下する原因となった。固定の直前に腫瘍の中央に割を入れた場合、コントロールと比べて有意に値が高かった。コア針生検と外科的切除標本とで有意な差はなかった。本報告ではいくつかの例を供覧し、Ki-67の染色性はエストロゲン受容体やHER2タンパクよりもはるかに固定条件の影響を受けやすいことを示していた。まとめると、最も良くないのは固定不良であり、固定の直前に腫瘍に割を入れること、標本を長時間(たとえば半日)固定しないまま放置しないことが大切である。過固定も望ましくないが、48時間くらいでは大きな変化はないようである。しかし、1週間も固定しているとやや染色性が低下してくるので注意が必要である。ホルマリンは10%の濃度が望ましいようである。意外だったのはエストロゲン受容体やHER2タンパクの染色性はかなり安定していたことであった。Ki-67は染色も評価も繊細であることを臨床医、病理医ともに肝に命じる必要がある。少なくとも記載された数値を、臨床医が盲目的に信じ臨床適応することだけはしてはならない。

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ステージ4乳がんの原発巣切除について

Surgical removal of primary tumor and axillary lymph nodes in women with metastatic breast cancer at first presentation: A randomized controlled trial -- Badwe R, et al. India転移性乳がんにおける原発巣切除の影響インドで行われた臨床試験である。従来より緩和のための外科治療としては潰瘍と出血のコントロールが挙げられる。動物実験では原発巣の切除は有害かもしれないというデータがある(Fisher B, et al. Cancer Res. 1989; 49: 1996-2001.)。一方で、最近の後ろ向きレビューでは、局所領域の治療が有効かもしれないことが示されている。本試験の目的は転移性乳癌において原発巣の切除が与える生存率への影響を評価することである。サンプルサイズはベースラインの中央生存期間が18ヵ月、生存期間の改善が6ヵ月とし、α=0.05、1-β=80%と仮定したとき、N=350が必要であると考えられた。転移性乳癌に対しアンスラサイクリン+/-タキサンを行ってCRまたはPRのとき無作為化割付を行い、局所領域治療を行う群と行わない群に割り付けた。無作為化は転移部位、転移個数、ホルモン受容体の有無で層別化した。350例のうち、手術群は173例で乳房部分切除術または乳房切除術を行い、卵巣切除を40例に行った。さらに放射線治療と内分泌療法を84例に行った。無手術群は177例で内分泌療法は96例に行い、卵巣切除は34例に行った。全生存率(中央観察期間の記載がないが5年は観察しているものと思われる)は、手術群(19.2%)、無手術群(20.5%)であり、有意差はなかった(p=0.79)。閉経状況、転移部位、ホルモン受容体の有無、HER2発現の有無でサブグループ解析を行ったが、いずれも差はみられなかった。遠隔転移の初回進行までの期間は手術群で有意に短かった(p=0.01)。以上から、局所領域治療は生存率への寄与はなく、転移性乳癌においてルーチンに行うことは控えるべきであり、局所コントロールと転移部の進行とのバランスの中で得失を考えながら行うべきと結んでいる。Early follow up of a randomized trial evaluating resection of the primary breast tumor in women presenting with de novo stage 4 breast cancer; Turkish Study (Protocol MF07-01) -- Soran A, et al.新規ステージ4乳がんにおける局所療法の評価(早期観察)トルコの臨床試験である。新規のステージ4乳癌における外科治療に関する試験のメタ分析では、外科治療を行ったほうが生存率は良好であったが、外科治療を行わなかったほうで予後不良因子が多い傾向がみられている(Harris E, et al. Ann Surg Oncol 2013; 20: 2828-2834)。すなわち選択バイアスがあるということである。本試験(MF07-01)の試験デザインとしては、新規のステージ4乳癌を全身治療群と初回局所治療(乳房+/-腋窩)+全身治療群に分け、プライマリーエンドポイントとして全生存期間、セカンダリーエンドポイントとして局所の無増悪生存期間、QOL、局所治療に伴う合併症を評価した。過去の後ろ向き研究から、3年生存率の違いが18%であることが想定され、脱落率は10%、α=0.05、β=0.9と仮定して、サンプルサイズは271例が必要であると考えられた。312例がリクルートされ、293例が適格であり、278例(局所治療群140例、全身治療のみ138例)が評価可能であった。局所治療は患者と医師の好み/癌の広がりによって乳房部分切除か乳房切除が選択され、腋窩リンパ節転移が臨床的/生検/センチネルリンパ節生検のいずれかで確認されたときには腋窩郭清が行われた。断端陰性であることが必要であり、乳房部分切除後は全乳房照射が行われ、乳房切除後は癌の進行度や施設の方針で照射が追加された。化学療法は、局所治療群ではその後に、全身治療群は割付後すぐに開始された。ホルモン受容体陽性のすべての患者は内分泌療法を受けた。C-erb-B2陽性(IHC3+ or FISH+)ではトラスツズマブが投与された。転移巣の局所治療(手術-放射線)は研究者の判断によって決められた。ビスフォスフォネートは治療する臨床医の判断によって使用された。全生存率は中央観察期間(局所治療群46ヵ月、全身治療群42ヵ月)において両群で有意差はなかった(HR=0.76、95%CI: 0.490~1.16、p=0.20)。ホルモン受容体別、HER2発現別、さらにトリプルネガティブに限ってみても差はなかった。年齢別、転移臓器1つのみ、骨転移のみに限っても差はなかったが、骨転移1ヵ所のみに限ると局所治療群のほうが有意に生存期間が長かった(p=0.02)。逆に多発肝転移/多発肺転移では局所治療群のほうが生存期間が短かい可能性がある。結論として、早期経過観察では全生存率に有意差はなく、さらに長期間の観察が必要である。サブグループの検討から、局所療法群は骨転移において生存期間が長い傾向かもしれない。とくに1つの骨転移でその傾向がより強い。55歳以下で生存期間を改善する可能性がある。進行の早いフェノタイプではベネフィットを得にくいようにみえる。多発肝転移/多発肺転移ではむしろ予後を有意に悪化させる可能性がある、ことが示唆された。TBCRC 013: A prospective analysis of the role of surgery in stage IV breast cancer -- King TA, et al.ステージ4乳がんにおける原発巣切除の役割(TBCRC 013)前向きの無作為化比較試験の結果が明らかになるまでの間、私たちはステージ4乳癌におけるマネージメントの前向きデータを集めることが求められた。TBCRC 013は、新規ステージ4乳癌の原発巣切除の役割を評価する多施設前向きレジストリー研究である。新規ステージ4乳癌をコホートA、原発巣術後3ヵ月以内に同定された転移性乳癌をコホートBとした。初回全身治療で効果があった場合には、外科治療について患者と話し合い決定され、無増悪生存期間、局所の緩和治療の必要性、生存期間が評価された。2009年7月から2012年4月までに14の施設から127例の患者がエントリーされた(コホートA:112例、コホートB:15例)。年齢中央値52歳、原発巣の腫瘍径中央値3.2cmであった。観察期間中央値は28ヵ月であった。多変量解析にて全生存期間は外科治療(p=0.01)、エストロゲン受容体陽性(p=0.01)、HER2陽性(p=0.01)で有意に予後良好であった。しかし、全身治療に反応した症例に限ると外科治療はもはや有意差はなかった。この結果は、初回またはセカンドライン以降の全身治療に反応せず、緩和的に外科治療を行った場合に予後改善効果がみられる、という解釈になると思われたのだが、その記載はなかった。いずれにしても症例数が少なく、外科治療の有効性を考えるには至らない研究であると考えられる。転移性乳癌における外科治療の役割については、以前にASCO 2012の報告で一度述べたが、それらはいずれも後ろ向きの研究結果である。今回のRCTの結果をみても、やはりやみくもに局所治療すべきはない。しかし、局所における癌の進行は患者のQOLを低下させるため、外科医と腫瘍内科がよく協議して、手術や放射線治療との組み合わせについて、そのタイミングを逸することなく、適応を考えていくべきであろう。本邦でも岡山大学の枝園忠彦先生が研究代表者として臨床試験(JCOG1017、PRIM-BC)が行われているので、それが完遂され、さらに有意義な結果が加わることを期待したい。

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切除不能大腸がんの化学療法の選択に遺伝子解析は有効か~FOLFOX or FOLFIRI

 切除不能大腸がんの一次治療における化学療法のレジメンとして、それぞれの患者さんにFOLFOXとFOLFIRIのどちらが適切なのかを化学療法開始前に知ることはできないだろうか。韓国・亜洲大学医学部のDo Yoon Kim氏らは、切除不能大腸がん患者において、従来の治療群と、治療前遺伝子解析による計画治療群とで奏効率を比較した。その結果、治療前遺伝子解析による計画治療群、とくにFOLFOX治療患者において、奏効率の改善が認められた。Journal of Surgical Oncology誌オンライン版2013年12月7日号に掲載。 登録された患者は、従来の治療か、治療前遺伝子解析に基づいて計画された治療のいずれかに無作為に分けられた。計画治療群(n=53)では、レジメン選択前に患者の血液サンプルを用いて遺伝子多型について解析した。標的遺伝子は、オキサリプラチンについてはXPD-751、GSTP-1-105、XRCC1-399、イリノテカンについてはUGT1A1であり、奏効率は化学療法3サイクル終了後にCTスキャンで測定した。 主な結果は以下のとおり。・全奏効率は、計画治療群で有意に高かった(67.9% vs 46.3%、p=0.020)。・FOLFOX治療患者では、計画治療群で奏効率が有意に高かった(77.1% vs 50%、p=0.018)。・FOLFIRI治療患者では、2群間の差は統計学的に有意ではなかった(50% vs 42.5%、p=0.776)。

1810.

第21回 処方ミスは誰の責任?主治医か薬剤師か、はたまた双方か!?

■今回のテーマのポイント1.呼吸器疾患で一番訴訟が多い疾患は肺がんであり、争点としては、健診における見落としおよび診断の遅れが多い2.薬剤師は、自らの責任において用法・用量などを含めた処方せんの内容について問題がないか確認をしなければならない(薬剤師法24条)3.医師の書いた処方箋が誤っていた場合、それを修正させなかった薬剤師も誤投与に対し責任を負う事件の概要60歳男性(X)。平成17年3月、頸部リンパ節腫脹精査目的にてA病院に入院しました。検査の結果、右中下葉間を原発とする肺腺がん(T2N3M1(膵、リンパ節転移):StageIV)と診断されました。4月13日より、Xに対し、化学療法が開始されたものの、徐々にXの全身状態は悪化していき、8月末には脳転移も認められるようになりました。10月よりXの主治医はW医師および3年目の医師(後期研修医)Yに変更となりました。Xの全身状態は悪く、10月11日には、発熱、胸部CT上両肺野にびまん性のスリガラス状陰影が認められました。Y医師は、抗がん剤(ビノレルビン)による薬剤性肺障害を疑い、ステロイドパルス療法を開始しましたが、改善しませんでした。β‐Dグルカンが79.6pg/mLと上昇していたことから、Y医師は、ニューモシスチスカリニ肺炎を疑い、18日よりST合剤(商品名:バクトラミン)を開始しました。治療によりβ‐Dグルカンは低下し、胸部CT上もスリガラス状陰影の改善が認められたものの、バクトラミン®によると考えられる嘔気・嘔吐が増悪したため、28日の回診時に呼吸器科部長Z医師よりY医師に対し、ペンタミジンイセチオン(商品名:ベナンバックス)に変更するよう指示がなされました。Y医師は、W医師に対し、ベナンバックス®の投与量を尋ねたところ、「書いてある通りでよい」旨指示されたため、医薬品集をみてベナンバックス®の投与量を決めることとしました。なお、W医師は、午後外勤であったため、上記やり取りの後、Y医師が実際に処方するのを確認せずに病院を離れました。ところが、Y医師は、ベナンバックス®の投与量(4mg/kg/日)を決定する際に、誤って医薬品集のバクトラミン®(15~20mg/kg/日)の項をみて計算してしまったため、結果として、5倍量の注射オーダーがなされてしまいました。A病院では、薬剤の処方にオーダリングシステムが導入されていたものの、過量投与への警告機能は薬剤の1回量について設定されているのみで、投与回数や1日量については設定がされていませんでした。そのために、本件のベナンバックス®の処方に対して警告が発せられなかったこともあり、調剤した薬剤師および調剤監査に当たった薬剤師は過量投与に気づきませんでした。その結果、Xは、収縮期血圧が70mmHgまで低下し、意識状態の悪化、奇異性呼吸が認められるようになり、11月10日、Xは、低血糖による遷延性中枢神経障害、肝不全、腎不全により死亡してしまいました。これに対し、Xの遺族は、病院だけでなく、主治医であった後期研修医YおよびWならびに呼吸器センター部長Z、さらに調剤した薬剤師および監査した薬剤師2名の計6名の医師・薬剤師に対し、約1億800万円の損害賠償請求を行いました。事件の判決●主治医の後期研修医Yの責任:有責「被告Y医師は、臨床経験3年目の後期研修医であったけれども、医師法16条の2の定める2年間の義務的な臨床研修は修了しており、また、後期研修医といえども、当然、医師資格を有しており、行える医療行為の範囲に法律上制限はなく、しかも、前記のとおり、被告Y医師の過失は、医師としての経験の蓄積や専門性等と直接関係のない人間の行動における初歩的な注意義務の範疇に属するものである」●主治医W医師の責任:無責「ベナンバックスへの薬剤変更が決定された10月28日、被告W医師は、外勤のため、被告病院を離れなければならないという事情があり、被告Y医師から、投与量について相談をされた際に、書いてあるとおりでよいと、概括的ながら、添付文書や医薬品集に記載されている投与量で投与する旨の指示は出している。そして、被告W医師としては、特別の事情がない限り、被告Y医師が、医薬品集などで投与量を確認し、その記載の量で投与するであろうことを期待することは、むしろ当然であるといえる。すなわち、本件事故は、被告Y医師が、医薬品集の左右の頁を見間違えて処方指示をしたという初歩的な間違いに起因するものであるが、このような過誤は通常想定し難いものであって、被告W医師において、このような過誤まで予想して、被告Y医師に対し、あらかじめ、具体的な投与量についてまで、指示をすべき注意義務があったとは直ちには認められないというべきである」●呼吸器センター部長Z医師の責任:無責「被告Z医師は、Xの主治医や担当医ではなく、呼吸器センター内科部長として、週に2回の回診の際、チャートラウンドにおいて、各患者の様子について担当医師らから報告を受け治療方針等を議論し、前期研修医を同行し、患者の回診をするなどしていた。本件でも、Xの診療を直接に担当していたわけではなく、チャートラウンドなどを通して、主治医や担当医の報告を受けて、治療方針を議論するなど、各医師への一般的な指導監督、教育などの役割を担っていたといえる。被告Z医師は、10月28日のチャートラウンドにおいて、被告Y医師からXの容態について報告を受け、薬剤をベナンバックスに変更することを指示している。その際、ベナンバックスの投与量や投与回数、副作用への注意などについては、特に被告Y医師に対して具体的な指示をしていない。しかし、被告Z医師の前示のとおりの役割や関与の在り方から見ても、10月28日当時で約95名にのぼる被告病院呼吸器センター内科の入院患者一人一人について、極めて限られた時間で行われるチャートラウンド等の場において、使用薬剤やその投与量の具体的な指示までを行うべき注意義務を一般的に認めることは難しいといわざるを得ない」●薬剤師3名の責任:有責「薬剤師法24条は、「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない」と定めている。これは、医薬品の専門家である薬剤師に、医師の処方意図を把握し、疑義がある場合に、医師に照会する義務を負わせたものであると解される。そして、薬剤師の薬学上の知識、技術、経験等の専門性からすれば、かかる疑義照会義務は、薬剤の名称、薬剤の分量、用法・用量等について、網羅的に記載され、特定されているかといった形式的な点のみならず、その用法・用量が適正か否か、相互作用の確認等の実質的な内容にも及ぶものであり、原則として、これら処方せんの内容についても確認し、疑義がある場合には、処方せんを交付した医師等に問合せて照会する注意義務を含むものというべきである。・・・(中略)・・・薬剤師はその専門性から、原則として、用法・用量等を含む処方せんの内容について確認し、疑義がある場合は、処方医に照会する注意義務を負っているといえるところ、特に、ベナンバックスは普段調剤しないような不慣れな医薬品であり、劇薬指定もされ、重大な副作用を生じ得る医薬品であること、処方せんの内容が、本来の投与量をわずかに超えたというものではなく、5倍もの用量であったことなどを考慮すれば、被告薬剤師としては、医薬品集やベナンバックスの添付文書などで用法・用量を確認するなどして、処方せんの内容について確認し、本来の投与量の5倍もの用量を投与することについて、処方医である被告Y医師に対し、疑義を照会すべき義務があったというべきである」(*判決文中、下線は筆者による加筆)(東京地判平成23年2月10日判タ1344号90頁)ポイント解説1)呼吸器疾患の訴訟の現状今回は、呼吸器疾患です。呼吸器疾患で最も訴訟となっているのは肺がんです(表1)。やはり、どの診療科においても、重篤な疾患が訴訟となりやすくなっています。肺がんの訴訟は、原告勝訴率が52.9%とやや高い一方で、認容額はそれなり(平均3,200万円)というのが特徴です(表2)。これは、肺がんが、がんの中では5年生存率が比較的低い(予後が不良)ことが原因であると考えられます。すなわち、訴訟においては、不法行為責任が認められた後に、当該生じた損害を金銭に換算し、損害額を決定するのですが、肺がんのように5年生存率が低い疾患の場合、損害額の多くを占める逸失利益があまり認められなくなるのです。逸失利益とは、「もし医療過誤がなかった場合、どれくらい収入を得ることができたか」ですので、まったく同じ態様(たとえば術後管理の瑕疵)の過失であったとしても、生命予後が比較的良好な胃がんの患者(ここ10年間の検索可能判決によると平均6,520万円)と肺がんの患者では、認められる逸失利益に大きな違いが出てくることとなるのです。肺がんの訴訟において、最も多く争われるのが第17回でご紹介した健診による見落としなどであり、その次に多いのが診断の遅れと手技ミスです(表2)。また、表2をみていて気づくかもしれませんが、福島大野病院事件医師逮捕があった平成18年の前後で原告勝訴率が66.7%(平成18年以前)から37.5%(平成18年以降)と大きく落ち込んでいる点です。これは、医療崩壊に司法が加担したことに対する反省なのか、医療訴訟ブームによる濫訴が原因なのか、負け筋は示談されてしまい判決までいかないことが原因なのかなど、さまざまな理由によると考えられますが、結果として、医療訴訟全体において原告勝訴率が低下しており、肺がんにおいても同様のトレンドに沿った形(平成18年以前 40%前後、平成18年以降 25%前後)となっているのです。2)処方ミスは誰の責任?今回紹介した事例は、肺がん訴訟の典型事例ではありませんが、チーム医療を考えるにあたり非常によいテーマとなる事例といえます。本件では、病院だけでなく、医師、薬剤師を含めた多数の個人までもが被告とされました。その結果、各専門職および専門職内における役割の責任につき、裁判所がどのように考えているかをみることができる興味深い事例といえます。チーム医療とはいえ、病院スタッフはそれぞれ専門領域を持つプロフェッションです。国家資格もあり、法律上業務独占が認められています。したがって、チーム医療とはいっても、それぞれの専門領域については、各専門家が責任を負うこととなり、原則として他の職種が連帯責任を負うことはありません。これを法律的にいうと「信頼の原則」といいます。「信頼の原則」とは、「行為者は、第三者が適切な行動に出ることを信頼することが不相当な事情がない場合には、それを前提として適切な行為をすれば足り、その信頼が裏切られた結果として損害が生じたとしても、過失責任を問われることはない」という原則で、いちいち他の者がミスをしていないか確認しなければならないとなると円滑な社会活動を行うことが困難となることから、社会通念上相当な範囲については、他人を信頼して行動しても構わないという考えで、この原則は、医療従事者間においても適用されます。それでは、本事例のような処方箋の書き間違えは、誰の責任となるのでしょうか。医師法、薬剤師法上、医薬分業が定められています。すなわち、「医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない」(医師法22条)とされ、これを受けて、「薬剤師は、医師、歯科医師又は獣医師の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない」(薬剤師法23条1項)とされています。そして、薬のプロである薬剤師は、「薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない」(薬剤師法24条)とされており、患者に投与される薬は原則として、薬剤師が防波堤として、最終的なチェックをすることとなっています。したがって、法が予定する薬の処方に関する安全は、薬剤師に大きく頼っているといえます。本判決においても、処方ミスを水際で食い止めることが薬剤師に課せられた法的義務であることから、薬剤師は医師の処方箋が正しい内容であると信頼することは許されず、自らの責任において用法・用量などを含む処方せんの内容について確認しなければならないとされたのです。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)東京地判平成23年2月10日判タ1344号90頁

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非転移性去勢抵抗性前立腺がんに対するエンザルタミドの第III相試験開始

 アステラス製薬は、12月4日、米国 メディベーション社と共同開発中の経口アンドロゲン受容体阻害剤エンザルタミドについて、非転移性去勢抵抗性前立腺がん患者を対象とした第III相臨床試験(PROSPER 試験)の患者登録を開始したことを発表した。 試験概要を下記にまとめる。 P Patient(患者) 非転移性去勢抵抗性前立腺がん患者 約1,500名 I Intervention(介入) 標準治療+エンザルタミド(160mgを1日1回投与) C Comparison(比較対照) 標準治療+プラセボ O Outcome(転帰) 無転移生存期間  なお、エンザルタミドは、ドセタキセル(日本商品名:タキソテール、ワンタキソテール)による治療歴を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん、化学療法未治療の転移性去勢抵抗性前立腺がん患者における、それぞれの全生存期間の延長が認められている。 アステラス製薬は、国内では今年5月に「前立腺癌」の効能・効果で製造販売承認申請を行っている。

1812.

StageIV大腸がんにおける原発巣切除は生存期間を延長-大規模コホート研究より

 StageIV大腸がん患者における原発巣切除のベネフィットに関して、現在報告されているエビデンスはきわめて質が低いものである。非ランダム化研究で原発巣切除のベネフィットが報告された場合、若年者で全身状態(PS)良好な患者を選択している可能性もある。カナダのShahid Ahmed氏らは、大規模な人口ベースのコホート研究において、進行大腸がんの原発巣切除による延命効果について、これまで報告されているバイアスを排除したうえで検討した。その結果、年齢、PS、合併症、化学療法などの予後変数に関係なく、原発巣切除がStageIV大腸がん患者の生存期間を延長することが示された。Cancer誌オンライン版2013年11月12日号に掲載。 本研究は、カナダ・サスカチュワン州で1992年~2005年に診断されたStageIV大腸がん患者を対象としたレトロスペクティブなコホート研究である。 適格患者1,378例が同定され、平均年齢は70歳(範囲:22~98歳)、男女比は1.3:1であり、そのうち944例(68.5%)が原発巣切除を受けた。また、1,378例のうち42.3%が化学療法を受け、19.1%が2次化学療法を受けた。生存率はカプランマイヤー法で推定し、ログランク検定で比較した。原発巣切除による生存期間延長効果については、Cox比例多変量回帰分析を用いて、ほかの予後変数を調整し評価した。 主な結果は以下のとおり。・全生存期間中央値は、化学療法単独例で8.4ヵ月(95%CI:7.1~9.7ヵ月)に対し、原発巣切除および化学療法施行例で18.3ヵ月(95%CI:16.6~20ヵ月)であった(p<0.0001)。・Cox比例分析により、化学療法施行(ハザード比[HR]:0.47、95%CI:0.41~0.54)、原発巣切除(HR:0.49、95%CI:0.41~0.58)、2次化学療法施行(HR:0.47、95%CI:0.45~0.64)、転移巣切除(HR:0.54、95%CI:0.45~0.64)が生存期間延長と相関していたことが示された。

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自家幹細胞移植、中悪性度非ホジキンリンパ腫の地固め療法として有効/NEJM

 自家幹細胞移植は、高中リスクおよび高リスクのびまん性中悪性度(aggressive)非ホジキンリンパ腫(NHL)の地固め療法として有効であることが、米国・ロヨラ大学医療センターのPatrick J Stiff氏らが行ったSWOG9704試験で示された。NHL治療は、「リツキシマブ時代」と呼ばれる状況下で、さらなる予後改善に向けさまざまな治療アプローチの探索が進められている。国際予後指標(IPI)により、診断時に持続的寛解の可能性が50%未満の患者の同定が可能となり、自家幹細胞移植の早期治療への導入が図られているが、高リスク例に対する地固め療法としての有効性は、その可能性が指摘されながらも長期にわたり確立されていなかった。NEJM誌2013年10月31日号掲載の報告。導入療法奏効例での有用性を無作為化試験で評価 SWOG9704試験は、米国のSWOG、ECOG、CALGBおよびカナダNCIC-CTGに所属する40施設が参加した無作為化試験。対象は、年齢15~65歳、生検でNHLが確認され、IPIで年齢調整リスクが高中または高と判定されたびまん性aggressive NHL患者であった。 1999年8月15日~2007年12月15日までに397例が登録され、導入療法としてシクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾン(prednisone)(CHOP)療法またはリツキシマブ+CHOP(R-CHOP)療法が5コース施行された。このうち奏効が得られた患者が、地固め療法としてさらに3コースの導入療法レジメンを施行する群(対照群)または1コースの導入療法レジメン施行後に自家幹細胞移植を行う群(移植群)に無作為に割り付けられた。 有効性に関する主要エンドポイントは、2年無増悪生存率(PFS)および全生存率(OS)であった。高リスク群では、OSも有意に改善 適格基準を満たした370例のうち、導入療法が奏効した253例が無作為割り付けの対象となった(移植群125例、対照群128例)。370例の患者背景は、年齢中央値51(18.3~65.9)歳、男性59%で、B細胞リンパ腫が89%、T細胞リンパ腫は11%であった。 追跡期間中に病態が進行または死亡した患者は、移植群が46/125例、対照群は68/128例で、推定2年PFSはそれぞれ69%、55%であった。リスクスコアで調整したCox回帰モデルによる多変量解析では、ハザード比(HR)は1.72(95%信頼区間[CI]:1.18~2.51、p=0.005)であり、移植群が有意に良好だった。 死亡例数は移植群が37例、対照群は47例で、2年OSはそれぞれ74%、71%であり、両群に差は認めなかった(HR:1.26、95%CI:0.82~1.94、p=0.30)。 探索的解析では、高中リスク例と高リスク例で治療効果が異なることが示された。すなわち、高中リスク群の2年PFSは、移植群が66%、対照群は63%と同等であった(p=0.32)が、高リスク群ではそれぞれ75%、41%であり、有意差が認められた(p=0.001)。2年OSも、高中リスク群では移植群が70%、対照群は75%と差は認めなかった(p=0.48)のに対し、高リスク群では移植群が82%と、対照群の64%に比べ有意に良好だった(p=0.01)。 予測されたように、移植群では対照群に比べGrade 3/4の有害事象が多くみられた。治療関連死は移植群が6例(5%)(肺障害3例、出血と腎不全1例、感染症1例、多臓器不全1例)、対照群は3例(2%)(心血管障害1例、感染症1例、原因不明1例)に認められた。 著者は、「自家幹細胞移植の早期導入により、導入療法で奏効が得られた高中および高リスク患者のPFSが改善された」とまとめ、「対照群の再発例62例(48%)のうち29例(47%)にサルベージ療法として化学療法や移植が行われており、これがOSに有意差がなかった理由と考えられる」と指摘している。

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進行膵がんのnab-PTX+GEM療法、新たな標準治療のエビデンス/NEJM

 局所進行・転移性膵腺がんの1次治療において、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル(ナブパクリタキセル、nab-PTX)+ゲムシタビン(GEM)併用療法は、GEM単独療法に比べ高い有効性をもたらすことが、米国・Translational Genomics Research InstituteのDaniel D. Von Hoff氏らの検討で示された。GEMは、1997年以降、切除不能な局所進行・転移性膵がんの1次治療の標準治療とされている。この間に、多くの薬剤が第2相試験で有望な結果を示したが、第3相試験で生存期間の有意な改善効果を達成したのはGEM+エルロチニブと、オキサリプラチン+イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン(FOLFIRINOX)だけであった。nab-PTX+GEM併用療法は、第1/2相試験で転移性膵がんに対する実質的な臨床効果が確認されていた。NEJM誌オンライン版2013年10月16日号掲載の報告。nab-PTX+GEM併用療法の効果を評価 研究グループは、切除不能局所進行・転移性膵がんの1次治療におけるnab-PTX+GEM併用療法とGEM単独療法の有用性を比較する無作為化第III相試験を実施した。対象は、年齢18歳以上、全身状態(PS)がKarnofskyスコア≧70で、前化学療法を受けていない局所進行・転移性膵がん患者であった。 初回コースは、nab-PTX+GEM併用群がnab-PTX 125mg/m2(体表面積当たり、30~40分で静脈内投与)+GEM 1,000mg/m2(静脈内投与)を第1、8、15、29、36、43日に投与し、GEM単独群はGEM 1,000mg/m2を週1回、8週中7週に投与した。2コース目以降は両群とも、4週を1コースとして第1、8、15日に投与した。 治療は、病態進行(PD)または許容されない有害事象が発現するまで継続され、per-protocol解析およびクロスオーバーは不可とした。主要評価項目は全生存期間(OS)、副次評価項目は無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)であった。OS中央値はnab-PTX併用群が8.5ヵ月でGEM単独群は6.7ヵ月 2009年5月~2012年4月までに、北米、欧州、オーストラリアの11ヵ国151施設から861例が登録され、nab-PTX併用群に431例(年齢中央値62歳、女性43%)が、GEM単独群には430例(63歳、40%)が割り付けられ、それぞれ421例、402例が実際に治療を受けた。 OS中央値はnab-PTX併用群が8.5ヵ月と、GEM単独群の6.7ヵ月に比べ有意に延長した(死亡のハザード比[HR]:0.72、95%信頼区間[CI]:0.62~0.83、log-rank検定のp<0.001)。1年生存率はnab-PTX併用群が35%、GEM単独群は22%で、2年生存率はそれぞれ9%、4%であった。 両群の生存曲線は治療開始から1.8ヵ月後には分離し始め、生存率25%時の生存期間中央値はnab-PTX併用群が14.8ヵ月と、GEM単独群の11.4ヵ月に比べ3.4ヵ月の延長が認められた。 独立審査委員会判定によるPFS中央値は、nab-PTX併用群が5.5ヵ月、GEM単独群は3.7ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.58~0.82、log-rank検定:p<0.001)、ORRはそれぞれ23%、7%(p<0.001)であり、いずれも有意な差が認められた。病勢コントロール率(CR+PR+16週以上持続するSD)はそれぞれ48%、33%(p<0.001)であった。nab-PTXをGEMと併用するとGEM単独に比べ有意に改善 OS、PFSに関する事前に規定されたサブグループ解析では、ほとんどのサブグループにおいてnab-PTX併用群がGEM単独群よりも良好であった。 最も頻度の高いGrade 3以上の有害事象は、好中球減少(nab-PTX併用群:38%、GEM単独群:27%)、疲労(17%、7%)、末梢神経障害(17%、1%)であった。発熱性好中球減少はnab-PTX併用群の3%、GEM単独群の1%にみられた。nab-PTX併用群におけるGrade 3以上の末梢神経障害は、いずれも29日(中央値)後までにはGrade 1以下に改善した。 著者は、「nab-PTXをGEMと併用することで、GEM単独に比べOS、PFS、ORRが有意に改善した。nab-PTX併用により末梢神経障害や骨髄抑制の頻度が上昇したが、いずれも回復した」とまとめ、「併用群では、nab-PTXの追加によりGEMの累積投与量が増加し、治療期間の延長や総投与量の増加が達成されたことが、高い有効性をもたらしたと考えられる」と考察している。

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膵がん完全切除患者へのゲムシタビン、無病生存期間2倍に延長/JAMA

 膵がん完全切除患者へのゲムシタビン(商品名:ジェムザールほか)による補助化学療法は、無病生存期間を2倍延長する可能性があることが示された。5年生存率、10年生存率も、補助化学療法により改善が示された。ドイツ・シャリテ大学病院のHelmut Oettle氏らが行った、膵がん完全切除患者に対するゲムシタビンの有効性と安全性に関する第3相治験「CONKO-001」の結果で、JAMA誌2013年10月9日号で発表された。ゲムシタビンは、進行性膵がんの標準治療であるが、補助療法としての生存への効果はこれまで明らかにされていなかった。88ヵ所の医療機関で354例を無作為化 研究グループは、1998年7月~2004年12月にかけて、ドイツ・オーストリアの88ヵ所の医療機関を通じ、膵がん完全切除患者354例を対象に、オープンラベル無作為化試験を開始した。追跡は、2012年9月まで行われた。 被験者は2群に分けられ、一方には補助ゲムシタビン療法(ゲムシタビン1g/m2を第1日、8日、15日に投与、4週間を1サイクル)を6ヵ月間、もう一方の群には経過観察のみが行われた。 主要アウトカムは、無病生存期間だった。2次アウトカムは、治療の安全性および無作為化からの全生存期間だった。無病生存期間の中央値はゲムシタビン群が13.4ヵ月、経過観察群は6.7ヵ月 2012年9月までに再発が認められたのは308例(87.0%、95%信頼区間[CI]:83.1~90.1)、死亡は316例(89.3%、同:85.6~92.1)だった。追跡期間の中央値は、136ヵ月だった。 主要アウトカムの無病生存期間の中央値は、経過観察群が6.7ヵ月(同:6.0~7.5)だったのに対し、ゲムシタビン群は13.4ヵ月(同:11.6~15.3)と、有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.55、95%CI:0.44~0.69、p<0.001)。 また全生存期間の中央値についても、経過観察群の20.2ヵ月に対し、ゲムシタビン群は22.8ヵ月と有意に延長した(同:0.76、0.61~0.95、p=0.01)。 5年生存率は、経過観察群が10.4%(95%CI:5.9~15.0)に対しゲムシタビン群は20.7%(同:14.7~26.6)、10年生存率はそれぞれ7.7%(同:3.6~11.8)と12.2%(同:7.3~17.2)だった。 結果を踏まえて著者は「今回の結果は、補助療法としてのゲムシタビン使用を強く支持するものであった」と結論している。

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新規抗VEGFR-2抗体薬、進行・再発胃がんの全生存期間を延長/Lancet

 初回化学療法後に増悪が認められた進行・再発の胃・胃食道接合部腺がん患者に対して、抗VEGFR-2抗体薬ラムシルマブ(Ramucirumab)単剤投与に生存ベネフィットがあることが報告された。米国・ハーバードメディカルスクールのCharles S Fuchs氏らが行ったプラセボ対照の無作為化二重盲検第3相国際共同試験「REGARD」の結果で、全生存期間(OS)の改善および無増悪生存期間(PFS)の延長がいずれも有意に認められたという。Lancet誌オンライン版2013年10月1日号掲載の報告より。初回化学療法後の進行例に単剤投与 胃がんの発症および進行には、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と、VEGF受容体-2(VEGFR-2)を介したシグナル伝達および血管新生が関与している可能性がある。研究グループは、モノクローナル抗体VGEFR-2拮抗薬であるラムシルマブが、進行性胃がん患者の生存を延長するかを評価することを目的とした。 REGARD試験は、2009年10月6日~2012年1月26日に、29ヵ国119医療施設で行われ、24~87歳の胃がんまたは胃食道接合部腺がんで、初回化学療法(プラチナ製剤もしくはフッ化ピリミジン系薬剤)後に疾患進行が認められた患者を対象とした。 患者は、至適支持ケア+ラムシルマブ8mg/kgまたはプラセボを2週に1回静注で受けるよう、2対1の割合で無作為に割り付けられた。なお治療割り付けについて、試験スポンサー、参加者および研究者はマスキングされた。 主要エンドポイントは、全生存期間(OS)であった。また副次エンドポイントには無増悪生存期間(PFS)などが含まれた。ラムシルマブ群の全生存期間5.2ヵ月で、プラセボ群に対し有意に延長 355例の患者が無作為化を受けた(ラムシルマブ群238例、プラセボ群117例)。 OS中央値は、ラムシルマブ群5.2ヵ月(IQR:2.3~9.9)、プラセボ群3.8ヵ月(同:1.7~7.1)で、ラムシルマブ群の有意な延長が認められた(ハザード比[HR]:0.776、95%信頼区間[CI]:0.603~0.998、p=0.047)。ラムシルマブによる生存ベネフィットは、その他の予後因子(原発部位の違い、腹膜転移有無など)による多変量補正後も変化しなかった(多変量HR:0.774、95%CI:0.605~0.991、p=0.042)。 PFSも、ラムシルマブ群2.1ヵ月、プラセボ群1.3ヵ月と、ラムシルマブ群で有意な延長が認められた(HR:0.483、95%CI:0.376~0.620、p<0.0001)。 有害事象については、ラムシルマブ群で高血圧症の割合が高かったが(16%対8%)、その他の有害事象については、ほとんど同程度であった(94%対88%)。 死亡例のうち試験薬に関連があるとみなされたのはラムシルマブ群5例(2%)、プラセボ群2例(2%)であった。 以上の結果を踏まえて著者は、「ラムシルマブは、初回化学療法後に進行した胃がん・胃食道接合部腺がん患者において単剤投与でも生存ベネフィットがある、初の分子標的薬である。今回の結果は、進行した胃がんにおいて、VEGFR-2は重要な治療ターゲットであることが確認された」と結論している。

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『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2013年版』が4年ぶりに改訂

 『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン 2013年版(第3版)』(編集:日本肝臓学会)が、10月15日より発売される。 2009年以来となる第3版の改訂では、肝癌治療を行ううえで重要な、再発に関する章が新設された。また、化学療法と放射線治療はそれぞれ独立した章として改められ、分子標的薬のソラフェニブに関する推奨などが加わった。文献については、2011年12月までを検索範囲とし新たなエビデンスを追加。57のCQ(クリニカルクエスチョン)において、21件の改訂が行われ、19件が新設された。 具体的には、全体を大きく8つの章に分け、予防、診断およびサ-ベイランス、手術、穿刺局所療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、化学療法、放射線治療、治療後のサ-ベイラインス/再発予防/再発治療についてCQ形式で解説している。肝癌診療を行う治療医必携のガイドライン。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は3,780円(本体3,600円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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造血器腫瘍領域で待望の『造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版』が発売

 『造血器腫瘍診療ガイドライン 2013年版(第1版)』(編集:日本血液学会)が、10月11日より発売された。 白血病、リンパ腫、骨髄腫などの造血器腫瘍では、従来の化学療法に加え、分子標的療法、造血幹細胞移植など治療選択肢が広がってきている。このことに伴い、現時点でのエビデンスの整理と適切な診療を行うためのガイドラインの必要性が増してきたことから、今回初めて作成された。 本書は、全体を白血病、リンパ腫、骨髄腫の大きく3つに分けたうえで、それぞれの疾患の各病型について、総論、アルゴリズム、CQという構成で解説している。巻末には、効果判定規準一覧、薬剤名一覧、治療一覧なども付録。 ガイドラインは、全国の書店、アマゾンなどで発売。定価は5,250円(本体5,000円+税5%)。詳しくは、金原出版まで

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がん患者における婚姻状況と生存率の関連

 婚姻状況(配偶者の有無)によって、がん診断時のステージや根治的治療の実施、がんによる死亡率に違いはあるのだろうか。 ハーバード大学のAyal A. Aizer氏らが、米国のがん登録システムであるSurveillance, Epidemiology and End Results(SEER)programを用いて、死亡数の多いがんについて調査したところ、配偶者のいないがん患者では、診断時における転移、治療の不足、がんによる死亡のリスクが有意に高いことが示された。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2013年9月23日号に掲載。 著者らは、SEERデータベースを用い、2004年~2008年に肺がん、大腸がん、乳がん、膵臓がん、前立腺がん、肝臓がん/肝内胆管がん、非ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、卵巣がん、食道がんと診断された126万898例の患者を同定した。そのなかから、臨床情報およびフォローアップ情報のある73万4,889例について、多変量ロジスティック回帰分析およびCox回帰分析を用いて検討した。 主な結果は以下のとおり。・配偶者がいる患者は、いない患者(別居、離婚、死別を含む)より、転移を伴って診断されることが少なく(補正オッズ比[OR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.82~0.84、p<0.001)、根治的治療を受けることが多く(補正OR:1.53、95%CI:1.51~1.56、p<0.001)、人口統計学的特性・ステージ・治療に関する因子で調整後のがん関連死亡が少ない(調整ハザード比:0.80、95%CI:0.79~0.81、p<0.001)ことが示された。・これらの関係は各がんにおいて分析した場合も有意であった(各がんのすべてのエンドポイントでp<0.05)。・配偶者がいることに関連付けられるメリットは、女性より男性のほうがすべてのアウトカムで大きかった(すべての場合でp<0.001)・前立腺がん、乳がん、大腸がん、食道がん、頭頸部がんでは、配偶者がいることに関連付けられる延命効果が、化学療法で報告されている延命効果よりも大きかった。

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早期胃がん術後の抗がん剤副作用で死亡したケース

癌・腫瘍最終判決判例タイムズ 1008号192-204頁概要53歳女性、胃内視鏡検査で胃体部大弯に4~5cmの表層拡大型早期胃がん(IIc + III型)がみつかり、生検では印環細胞がんであった。胃2/3切除およびリンパ節切除が行われ、術後に補助化学療法(テガフール・ウラシル(商品名:UFT)、マイトマイシン(同:MMC)、フルオロウラシル(同:5-FU))が追加された。ところが、5-FU®静注直後から高度の骨髄抑制を生じ、術後3ヵ月(化学療法後2ヵ月)で死亡した。詳細な経過患者情報とくに既往症のない53歳女性経過1992年3月6日背中の痛みを主訴に個人病院を受診。3月18日胃透視検査で胃体部大弯に陥凹性病変がみつかる。4月1日胃内視鏡検査にて、4~5cmに及ぶIIc + III型陥凹性病変が確認され、生検でGroup V印環細胞がんであることがわかり、本人にがんであることを告知の上、手術が予定された。4月17日胃2/3切除およびリンパ節切除術施行。術中所見では漿膜面にがん組織(のちに潰瘍瘢痕を誤認したものと判断された)が露出していて、第2群リンパ節にまで転移が及んでいたため、担当医師らはステージIIIと判断した。4月24日病理検査結果では、リンパ節転移なしと判定。4月30日病理検査結果では、早期胃がんIIc + III、進達度m、印環細胞が増生し、Ul III-IVの潰瘍があり、その周辺にがん細胞があるものの粘膜内にとどまっていた。5月8日病理検査結果では前回と同一で進行がんではないとの報告。ただしその範囲は広く、進達度のみを考慮した胃がん取り扱い規約では早期がんとなるものの、すでに転移が起こっていることもあり得ることが示唆された。5月16日術後経過に問題はなく退院。5月20日白血球数3,800、担当医師らは術後の補助化学療法をすることにし、抗がん剤UFT®の内服を開始(7月2日までの6週間投与)。6月4日白血球数3,900、抗がん剤MMC® 4mg投与(6月25日まで1週間おきに4回投与)。6月18日白血球数3,400。6月29日抗がん剤5-FU® 1,250mg点滴静注。6月30日抗がん剤5-FU® 1,250mg点滴静注。7月1日白血球数2,900。7月3日白血球数2,400、身体中の激痛が生じ再入院。7月4日白血球数2,200、下痢がひどくなり、全身状態悪化。7月6日白血球数1,000、血小板数68,000。7月7日白血球数700、血小板数39,000、大学病院に転院。7月8日一時呼吸停止。血小板低下が著しく、輸血を頻回に施行。7月18日死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.リンパ節転移のないmがん(粘膜内がん)に補助化学療法を行った過失診療当時(1992年)の知見をもってしても、表層拡大型IIc + III早期胃がん、ステージI、リンパ節、腹膜、肝臓などのへの転移がなく外科的治癒切除を行った症例に、抗がん剤を投与したのは担当医師の明らかな過失である。しかも、白血球数が低下したり、下痢がみられた状態で抗がん剤5-FU®を投与するのは禁忌であった2.説明義務違反印環細胞がん、表層拡大型胃がんについての例外的危険を強調し、抗がん剤を受け入れざるを得ない方向に誘導した。そして、あえて危険を伴っても補助化学療法を受けるか否かを選択できるような説明義務があったにもかかわらず、これを怠った3.医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務を怠った病院側(被告)の主張1.リンパ節転移のないmがんに補助化学療法を行った過失術中所見ではがん組織が漿膜面まで明らかにでており、第2群のリンパ節に転移を認めるのでステージIIIであった。病理組織では摘出リンパ節に転移の所見がなく、肝臓などに肉眼的転移所見がみられなかったが、それで転移がなかったとはいえない。本件のような表層拡大型早期胃がんはほかの胃がんに比べて予後が悪く、しかも原発病巣が印環細胞がんという生物学的悪性度のもっとも強いがんであるので、再発防止目的の術後補助化学療法は許されることである。白血球数は抗がん剤の副作用以外によっても減少するので、白血球数のみを根拠に抗がん剤投与の適否を評価するべきではない2.説明義務違反手術で摘出したリンパ節に転移がなく、進達度が粘膜内ではあるが、この結果は絶対的なものではない。しかも原発病巣が生物学的悪性度のもっとも強い印環細胞がんであり、慎重に対処する必要があるので、副作用があるが抗がん剤を投与するかどうか決定するように説明し、患者の同意を得たので説明義務違反はない3.医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務1980年以降に早期胃がんに対して補助化学療法を行わないとの考えが確立したが、担当医師ががん専門病院に勤務していたのは1970~1980年であり、この当時は抗がん剤の効果をみるために早期胃がんに対しても術後補助化学療法治療試験が盛んに行われていた。したがって、早期胃がんに対して補助化学療法を行わないとの考えを開業医レベルの担当医師に要求するのは無理である裁判所の判断1. リンパ節転移のないmがんに補助化学療法を行った過失担当医師らは肉眼所見でがん組織が漿膜面まで露出していたとするが、これは潰瘍性瘢痕をがんと誤認したものである。また、第2群のリンパ節に転移を認めるステージIIIであったと主張するが、数回にわたって行われた病理検査でがんが認められなかったことを優先するべきであるので、本件は進行がんではない。したがって、そもそも早期がんには不必要かつ有害な抗がん剤を投与したうえに、下痢や白血球減少状態などの副作用がみられている状況下では禁忌とされている5-FU®を、常識では考えられないほど大量投与(通常300~500mgのところを1,250mg)をしたのは、医師として当然の義務を尽くしていないばかりか、抗がん剤の副作用に対する考慮の姿勢がみじんも存在しない。2. 説明義務違反説明義務違反に触れるまでもなく、担当医師に治療行為上の重大な過失があったことは明らかである。3. 医療知識を獲得して適切な診断・治療を患者に施すべき研鑽義務を怠った。担当医師はがん専門病院に勤務していた頃の知見に依拠して弁解に終始しているが、がん治療の方法は日進月歩であり、ある知見もその後の研究や医学的実践において妥当でないものとして否定されることもあるので、胃がんの治療にあたる以上最新の知見の修得に努めるべきである。原告側合計6,733万円の請求を全額認定考察この判例から得られる教訓は、医師として患者さんの治療を担当する以上、常に最新の医学知識を吸収して最良の医療を提供しなければならないということだと思います。いいかえると、最近ようやく臨床の現場に浸透しつつあるEBM(evidence based medicine)の考え方が、医療過誤かどうかを判定する際の基準となる可能性が高いということです。裁判所は、以下の知見はいずれも一般的な医学文献等に掲載されている事項であると判断しました。(1)mがんの再発率はきわめて低いこと(2)抗がん剤は胃がんに対して腫瘍縮小効果はあっても治療効果は認められないこと(3)印環細胞がん・表層拡大型胃がん、潰瘍型胃がんであることは再発のリスクとは関係ないこと(4)抗がん剤には白血球減少をはじめとした重篤な副作用があること(5)抗がん剤は下痢の症状が出現している患者に対して投与するべきでないことこれらの一つ一つは、よく勉強されている先生方にとっては常識的なことではないかと思いますが、医学論文や学会、症例検討会などから疎遠になってしまうと、なかなか得がたい情報でもあると思います。今回の担当医師らは、術中所見からステージIIIの進行がんと判断しましたが、病理組織検査では「転移はないmがんである」と再三にわたって報告が来ました。にもかかわらず、「今までの経験」とか「直感」をもとに、「見た目は転移していそうだから、がんを治療する以上は徹底的に叩こう」と考えて早期がんに対し補助化学療法を行ったのも部分的には理解できます。しかし、われわれの先輩医師たちがたくさんの症例をもとに築き上げたevidenceを無視してまで、独自の治療を展開するのは大きな問題でしょう。ことに、最近では医師に対する世間の評価がますます厳しくなっています。そもそも、総務庁の発行している産業分類ではわれわれ医師は「サービス業」に分類され、医療行為は患者と医療従事者のあいだで取り交わす「サービスの取引」と定義されています。とすると、本件では「自分ががんの研修を行った10~20年前までは早期胃がんに対しても補助化学療法を行っていたので、早期胃がんに補助化学療法を行わないとする最新の知見を要求されても困る」と主張したのは、「患者に対し10~20年前のまちがったサービスしか提供できない」ことと同義であり、このような考え方は利用者(患者)側からみて、とうてい受容できないものと思われます。また、「がんを治療する以上は徹底的に叩こう」ということで5-FU®を通常の2倍以上(通常300~500mgのところを1,250mg)も使用しました。これほど大量の抗がん剤を一気に投与すれば、骨髄抑制などの副作用が出現してもまったく不思議ではなく、とても「知らなかった」ではすまされません。判決文でも、「常識では考えられないほど抗がん剤を大量投与をしたのは、抗がん剤の副作用に対する考慮の姿勢がみじんも存在しない」と厳しく批判されました。「医師には生涯教育が必要だ」、という声は至るところで耳にしますが、今回の事例はまさにそのことを示していると思います。日々遭遇する臨床上の問題についても、一つの考え方にこだわって「これしかない」ときめつけずに、ほかの先生に意見を求めたり、文献検索をしなければならないと痛感させられるような事例でした。癌・腫瘍

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