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膵がん切除後のS-1とゲムシタビンによる補助化学療法の有用性(解説:上村 直実 氏)-560

 膵がんは、最も予後の悪い悪性腫瘍の1つであり、手術可能な早期がんで発見され治癒切除術が施行された場合でも、その5年生存率は20%程度であるとされている。手術単独での再発率が高いため、治癒率を上げるために補助化学療法が必要となる。膵がん切除後の補助化学療法は、ゲムシタビンを使用したものが標準レジメンとされているが、今回、日本で胃がんや大腸がんに対する主要な経口抗がん剤であるS-1の有用性を検討するため、S-1とゲムシタビンとのRCT「JASPAC-01研究」の結果が報告された。 「JASPAC-01」は、日本人を対象に行われた無作為化非盲検多施設共同の第III相試験で、組織学的に確認された切除可能な浸潤性膵管がんで、かつ病理学的にStageI~III、肉眼的に完全切除され残存腫瘍が認められないと判定された385例を対象として、S-1群192例とゲムシタビン群193例に割り付けられた。主要評価項目である全生存期間では、5年生存率はゲムシタビン群24.4%(95%CI:18.6~30.8)に対し、S-1群は44.1%(95%CI:36.9~51.1)であり、ゲムシタビン群に対するS-1群の死亡ハザード比は0.57(同:0.44~0.72)であった。すなわち、S-1を用いた補助化学療法の死亡リスクがゲムシタビンに比べて40%以上も低下することが示されたのである。有害事象に関しては、Grade3または4の白血球減少症および好中球減少症、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの増加は、ゲムシタビン群でより高率に認められたが、S-1群で高率にみられたのは口内炎や下痢であった。 S-1は、日本で開発された経口抗がん剤であり、胃がんや大腸がんに対する化学療法の主要薬剤として頻用されているが、欧米とくに米国における臨床試験の際に有害事象発生率が高率であったことから、欧米では敬遠される傾向がある。今後、非アジア人の患者でも臨床的評価を行うべきであるという著者らの主張が通ることが期待される。

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ホジキンリンパ腫、中間PET-CT結果による治療変更は有効か?/NEJM

 進行期古典的ホジキンリンパ腫の患者に対し、ABVD(ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン)療法2サイクル後に中間PET-CTを行い、その結果を基に治療をガイドしていくことは有効なのか。英国・サウサンプトン大学のPeter Johnson氏らが、1,214例の患者を対象に無作為化比較試験にて検討した。中間PET-CTの結果が陰性例について、ブレオマイシンを除いたAVD療法に変更した場合、ABVD療法の継続例と比較して、肺毒性発生率は低下し、有効性に有意な低下は認められなかったという。NEJM誌2016年6月23日号掲載の報告。 ABVD療法2サイクル後に中間PET-CTを実施 検討は、進行期ホジキンリンパ腫患者の治療における化学療法の効果を、中間PET-CTで早期判定することの有用性を調べることが目的だった。新たに進行期古典的ホジキンリンパ腫の診断を受けた患者1,214例を対象に、ベースラインでPET-CTを行い、ABVD療法を2サイクル施行後に再度PET-CTを行い、その画像を5ポイント制で中央評価した。 その結果、陰性と判定した患者を無作為に2群に分け、3~6サイクルの治療施行について、一方の群はABVD療法を継続し、もう一方の群はブレオマイシンを除いたAVD療法とした。また、これら陰性患者には、放射線療法は推奨しなかった。 中間PET-CTの結果が陽性だった患者については、BEACOPP(ブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾン)療法を行った。 主要評価項目は、無作為化群の3年無増悪生存率の群間差とし、5ポイント以上の差を除外する非劣性試験を行った。3年無増悪生存率、ABVD群85.7%、AVD群84.4% 被験者のうち中間PET-CTを行ったのは1,119例で、そのうち937例(83.7%)が陰性だった。935例が無作為化を受けた。 追跡期間中央値41ヵ月時点で、ABVD群(470例)の3年無増悪生存率は85.7%(95%信頼区間[CI]:82.1~88.6)、全生存率は97.2%(同:95.1~98.4)だった。一方AVD群(465例)は、それぞれ84.4%(同:80.7~87.5)、97.6%(同:95.6~98.7)だった。3年無増悪生存率の絶対群間差は、1.6ポイント(同:-3.2~5.3)で、わずかだが非劣性マージンを超えていた。 また中間PET-CTの結果が陽性でBEACOPPを受けた群(172例)の74.4%が、3回目のPET-CTで陰性だった。同群の3年無増悪生存率は67.5%、全生存率は87.8%だった。 全体では、試験期間中の死亡例は62例(うちホジキンリンパ腫による死亡は24例)で、3年無増悪生存率は82.6%、全生存率は95.8%だった。 これらの結果を踏まえて著者は、非劣性マージンに達しなかったものの、AVD群はABVD群に比べ、肺毒性発生率は低下し、有効性は有意に低下しなかったと結論している。

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日本人の膵がん術後補助化学療法、S-1 vs.GEM/Lancet

 日本人膵がん患者の切除後の補助化学療法は、S-1が標準治療となりうることが示された静岡県立静岡がんセンターの上坂克彦氏らによる「JASPAC-01」の結果が、Lancet誌オンライン版2016年6月2日号に掲載された。本検討においてゲムシタビンに比べS-1補助化学療法により死亡リスクが約4割低下することなどが示された。膵がん術後の補助化学療法はゲムシタビンが標準治療とされているが、今回の試験では、死亡リスクについてS-1のゲムシタビンに対する非劣性のみならず優越性も示された。385例の患者を対象に試験 「JASPAC-01」は、日本人を対象に行われた無作為化非盲検多施設共同のフェーズ3試験。2007年4月1日~2010年6月29日にかけて、日本国内33ヵ所の医療機関で、組織学的に確認された切除可能な浸潤性膵管がんで、病理学的にStageI~III、肉眼的に完全切除され顕微鏡による残存腫瘍が認められない20歳以上の患者385例を対象に行われた。 研究グループは切除後に被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはゲムシタビン(4週1サイクルとし1,000mg/m2を1、8、15日目に投与を6サイクル、193例)を、もう一方の群にはS-1(6週1サイクルとし体表面積に応じて40、50、60mg/回・1日2回を1~28日連続投与を4サイクル、192例)を、それぞれ投与した。 主要評価項目は、全生存期間。評価はper-protocol集団で、不適格患者および割り付け治療を受けなかった患者を除外して行った。また、S-1の非劣性が確認された場合、log-rank検定で全生存期間に関するS-1の優越性も検討することが事前規定のプロトコルとされていた。 全生存および無再発生存期間は、Kaplan-Meier法を用いて算出し、S-1のゲムシタビンに対する非劣性は、Cox比例ハザードモデルを用いて評価。死亡予想ハザード比(HR)は0.87で非劣性マージンは1.25(検出力80%:片側タイプ1エラー2.5%)とした。死亡に関するS-1群のゲムシタビン群に対するハザード比は0.57 無作為化を受けた被験者のうち、不適格3例、治療を受けなかった5例を除く、ゲムシタビン群190例、S-1群187例が解析対象となった。試験は2012年9月、独立データ・安全モニタリング委員会の勧告を受け、中間解析による有効性が事前に規定した早期終了基準に適合したため、すべての治療プロトコルが終わった時点で終了となった。 2016年1月15日までの追跡データを解析した結果、5年全生存率はゲムシタビン群24.4%(95%信頼区間[CI]:18.6~30.8)に対し、S-1群は44.1%(同:36.9~51.1)と高率で、死亡ハザード比は0.57(同:0.44~0.72)であった(非劣性に関するp<0.0001、優越性に関するp<0.0001)。 Grade3または4の白血球減少症、好中球減少症、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼの増加は、ゲムシタビン群でより高率に認められた。一方でS-1群でより高率にみられたのは、口内炎、下痢であった。 今回の結果について著者は、「結果について、非アジア人の患者で評価を行うべきである」とまとめている。

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非小細胞肺がんに新たなALK阻害剤 セリチニブ発売

 ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:ダーク・コッシャ)は、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん(以下、ALK+ NSCLC)の治療薬として、本年(2016年)3月28日に製造販売承認を取得したセリチニブ(商品名:ジカディア カプセル150mg)の販売を本日開始した。 セリチニブは、受容体チロシンキナーゼであるALKの自己リン酸化を阻害し、がん細胞の増殖を抑制する、強力かつ選択的な経口ALK阻害剤。現在、ALK+ NSCLCの治療には、複数のALK阻害剤が用いられているが、既存のALK阻害剤に不耐容であったり、効果が十分ではない、耐性により増悪するケースが報告されている。またALK+ NSCLCでは脳転移のリスクが増加することが示唆されており、脳転移が治療上の大きな課題となっている。 セリチニブは、化学療法及び既存のALK阻害剤(クリゾチニブ)治療歴があるALK+ NSCLC患者を対象とした国際共同第II相臨床試験(日本人を含む)において、奏効率37.1%(95%CI:29.1-45.7%)で主要目的を達成し、高い抗腫瘍効果を示した。同様に、ALK+ NSCLC患者においても、脳転移病変に対するセリチニブの抗腫瘍効果が示唆された。なお、 セリチニブの主な副作用は、悪心(77.9%)、下痢(77.1%)、嘔吐(58.6%)、ALT(GPT)増加(37.9%)、食欲減退(35.7%)、AST(GOT)増加(28.6%)であった。ノバルティス ファーマ株式会社のプレスリリースはこちら

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妊孕性温存の選択肢となるか? 月内にも日本初の卵巣バンク開設

 できるだけ早い治療が望まれる悪性腫瘍。一方で、将来的に妊娠を望む女性にとって、化学療法などによる妊孕性の低下を受け入れることは非常に難しい問題だ。この課題に直面する女性たちの希望となりうるのか―。 4月27日、不妊治療や生殖医療を専門とする医療法人レディースクリニック京野(宮城県仙台市、京野廣一理事長)が、運営する同法人の2クリニック(仙台市、東京都港区)に、卵巣組織を凍結保存する卵巣バンクを設立することを発表した。卵巣凍結保存や再移植は、これまでにも個々の医療施設単独で行われていたが、今般の取り組みでは、凍結卵巣組織を安定的に保存する技術を有する卵巣バンク施設と、卵巣摘出や移植、原疾患の治療を行う各専門施設が連携してネットワークを構築することにより“分業化”を実現。がんの治療を必要としながらも挙児希望のある女性に対し、妊孕性温存の選択肢を提供するとともに、治療機会の地域間格差を是正する狙い。国内では初めての試みとなる。実際に卵巣バンクが稼働するのは、日本産科婦人科学会の承認後からとなるが、5月中の開設を目指している。 卵巣凍結保存の適応対象となるのは、悪性腫瘍(乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、血液がんなど)を有する患者。なかでも乳がんについては、抗がん剤治療によって閉経を早める可能性があるほか、日本人女性に多いとされるER陽性乳がんの場合、5~10年の長期にわたる内分泌療法によって、治療終了時には妊娠および出産が難しい年齢に差しかかることも、治療を受ける女性の大きな懸念材料となっている。こういった点からも、妊孕性温存の選択肢として新たに卵巣凍結が加わることはメリットと考えられる。なお白血病については、卵巣への侵襲性が高い化学療法が先行するため、適応外としている。 卵巣バンクネットワークは、卵巣摘出および移植を行う医療施設として、東京、群馬、兵庫、沖縄、青森などに計13施設、凍結保存を連携して行う卵巣バンク施設としては、前述の医療法人レディースクリニック京野の2施設を含め計4施設が提携先となっている(2016年4月27日現在)。 妊孕性温存のための生殖医療は、卵巣凍結のほかに卵子凍結と受精卵凍結(いずれも適応疾患は白血病、乳がん、悪性リンパ腫など)がある。卵巣凍結の最大のメリットは、自然妊娠が望める点だろう。卵子凍結と受精卵凍結は、ICSI(顕微授精)かIVF(体外受精)による授精・妊娠に限られるが、卵巣凍結はそれらに加え自然妊娠も可能となる。また、卵巣凍結は未婚・既婚を問わず、対象年齢が0~37歳以下で摘出可能(ただし凍結保存した卵巣の再移植は45歳未満)である。この点で、いずれも13歳以上を対象とし、未婚に限られる卵子凍結や既婚に限られる受精卵凍結よりも適応が広げられている。一方で、卵子凍結と受精卵凍結は融解後の生存率が90%と高く、この点については卵巣凍結(生存率50~80%)よりも優位である。 卵巣凍結保存をめぐっては、保存した卵巣組織にがんが転移している可能性を100%排除できないという課題があるという。京野氏は「移植の際にがん細胞の再移入を完全に排除しきれないことが今後の課題であることは十分認識している。より精度の高い検査を実施し、できる限りの安全性の担保に努めたい」と述べた。卵巣バンクについての詳しい情報はこちら。

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急性前骨髄球性白血病〔APL : acute promyelocytic leukemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia:APL)は急性骨髄性白血病の1つで、FAB分類ではM3に分類される。大部分の症例でt(15;17)(q22;q12)を認め、15番染色体q22上のpromyelocytic leukemia(PML)遺伝子と17番染色体q12上のretinoic acid receptor α(RARA)遺伝子の融合遺伝子を形成するため、WHO分類ではt(15;17)(q22;q12); PML-RARAを伴う急性前骨髄球性白血病という一疾患単位が設定されている。線溶亢進型の播種性血管内凝固症候群(DIC)を高率に合併し、脳出血など致命的な臓器出血を来しやすく、出血による早期死亡が寛解率を低下させていたが、ビタミンAの一種である全トランス型レチノイン酸(all-trans retinoic acid: ATRA、一般名:トレチノイン、商品名:ベサノイド)を寛解導入療法に用いることで、APL細胞を分化させるとともにDICが軽減され、きわめて高い寛解率が得られるようになった。また、APL細胞はP糖蛋白の発現が低く、アントラサイクリン系薬をはじめ抗腫瘍薬に対する感受性も高い。したがって十分な寛解後療法を行えば再発の危険性も低く、急性白血病の中では化学療法により完治を得る可能性が最も高い疾患と認識されている。■ 疫学わが国において白血病は、年に10万人当たり男性で約6人、女性で約4人に発症し、その約60%が急性骨髄性白血病、さらにその10~15%がAPLといわれている。世界的にみると、イタリアやスペインなど南ヨーロッパで発症率が高い。ほかの急性骨髄性白血病よりも発症年齢が若い傾向がある。■ 病因15番染色体q22上のPML遺伝子と17番染色体q12上のRARA遺伝子は、骨髄系細胞の増殖抑制、分化の調整を行うが、相互転座の結果PML-RARA融合遺伝子が形成されると、骨髄系細胞の分化が抑制され、前骨髄球レベルで分化を停止した細胞が腫瘍性に増殖することで発症すると考えられる。■ 症状1)出血最も重要な症状は出血で、主としてDICに起因する。皮膚の紫斑・点状出血のほか、歯肉出血、鼻出血などを来す。抜歯など、観血的な処置後の止血困難もしばしば診断のきっかけになる。脳出血など、致命的な出血も少なくない。2)貧血骨髄での赤血球産生低下と出血のため貧血となり、動悸、息切れ、疲れやすさなどを自覚する。3)感染、発熱正常な白血球、とくに好中球数が低下し、発熱性好中球減少症を起こしやすい。病原微生物として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌、腸球菌、緑膿菌などの細菌、カンジダやアスペルギルスなど真菌が多い。感染部位として菌血症、肺炎が多いが、起因菌や感染部位が同定できないことも少なくない。■ 予後寛解導入療法に広くATRAが用いられるようになった1990年代以後、寛解率は90%を超えている。非寛解例の多くが出血による早期死亡であり、初期にDICをコントロールできるかどうかが生存に大きく影響する。いったん寛解に入り、十分な寛解後療法を行えば再発しにくく、70%以上の患者は無再発での長期生存が可能である。とくに白血球数が少なく(≦10,000/mm3)、血小板数が比較的保たれた(>40,000/mm3)症例では再発のリスクが低い1)。一方、地固め療法後にRQ-PCR法にてPML-RARAが消失しない、あるいはいったん消失したPML-RARAが再出現する場合は、血液学的再発のリスクが高い2)。ただし、再発した場合も多くは亜ヒ酸(一般名:三酸化ヒ素、商品名: トリセノックス)が奏効し、さらに自家造血幹細胞移植も有効であるため、急性白血病の中で最も予後良好といえる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 血液検査所見白血球数は減少していることが多い。APL細胞はアズール顆粒が充満しており、アウエル小体が束状に存在するFaggot細胞として存在するものもある。貧血もほぼ必発で大部分が正球性である。産生低下およびDICにより、血小板数は著しく低下する。DICのため、プロトロンビン時間(PT)延長、フィブリン分解産物(FDP)およびD-ダイマー高値、フィブリノーゲン低値を示す。DICは線溶亢進型で、トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)、プラスミン-α2プラスミンインヒビター複合体(PIC)ともに高値となる。アンチトロンビンは正常のことが多い。■ 骨髄所見骨髄は末梢血と同様の形態をもつAPL細胞が大部分を占め、正常な造血は著しく抑制される。APL細胞は、ペルオキシダーゼに強く染まり、細胞表面マーカーはCD13、CD33が陽性、CD34、HLA-DR陰性である。染色体および遺伝子検査では90%以上にt(15;17)(q22;q12)が、約98%にPML-RARA融合遺伝子が証明される。t(15;17)(q22;q12)以外の非定型染色体転座にt(5;17)(q35;q12); NPM1-RARA、t(11;17)(q23;q12); ZBTB16(PLZF)-RARA、t(11;17)(q13;q12); NUMA1-RARAなどがある。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ATRAを中心とした初回寛解導入療法、寛解導入後の地固め療法や維持療法、再発例に対する治療、造血幹細胞移植などがある。■ 初回寛解導入療法診断が確定したら、ATRAを寛解到達まで内服する。ATRA単独の寛解導入療法はATRAと従来の化学療法剤との併用療法に比べ寛解率に差はないが、再発のリスクが高いとする報告もあり3)、とくに診断時白血球数の多い症例、ATRA投与中に白血球数増加を来した症例、APL分化症候群を合併した症例では積極的にイダルビシン(商品名: イダマイシン)などのアントラサイクリンやシタラビン(同:キロサイド)を併用する。初回寛解導入療法中の重篤な合併症として、DICに伴う出血とAPL分化症候群がある。DICに伴う致命的な出血を予防するため、最低でも血小板数は50,000/mm3、フィブリノーゲンは150mg/dLを保つように血小板および新鮮凍結血漿の輸血を行うとともに、トロンボモジュリン(同:リコモジュリン)などDICに対する薬物療法を行う。APL分化症候群は、ATRAや亜ヒ酸の刺激を受けたAPL細胞から過剰産生される、さまざまな炎症性サイトカインやAPL細胞の接着分子発現増強などにより発症する。80%以上の患者に発熱や低酸素血症による呼吸困難が認められるほか、体重増加、浮腫、胸水、心嚢水、低血圧、腎不全などを来す。両側の間質性肺炎様のX線あるいはCT所見は診断に有用である。好発時期は寛解導入療法開始後1~2週間であり、ATRAや亜ヒ酸投与期間中に白血球数の増加を伴って発症することが多い。治療にはステロイドが有効で、重篤な場合はATRAや亜ヒ酸を中止するとともに、未投与であればアントラサイクリンやシタラビンを投与する。■ 地固め療法寛解導入後には、地固め療法としてイダルビシン、ダウノルビシン(同:ダウノマイシン)などアントラサイクリンや同様の作用機序を有するミトキサントロン(同:ノバントロン)の3~5日間点滴を、約1ヵ月おきに2~4回繰り返す。シタラビンについては意見が分かれるが、診断時の白血球数が10,000/mm3未満の症例では、十分なアントラサイクリンが投与されればその意義は低く、むしろ再発を高める可能性もある一方で、10,000/mm3以上の症例では高用量での投与が有用と報告されている4)。■ 維持療法ATRAを中心とした維持療法は再発予防に有用である。通常、地固め療法終了後にATRA 14日間の内服を約3ヵ月間隔で2年間繰り返す。6-メルカプトプリン(同:ロイケリン)やメトトレキサート(同:メソトレキセート)の併用はさらに再発抑制効果を高める可能性がある5)。■ 再発例に対する治療亜ヒ酸が第1選択薬であり80%以上の再寛解が期待できる。ゲムツズマブ オゾガマイシン(同:マイロターグ)や合成レチノイド、タミバロテン(同:アムノレイク)も有用である。なお、血液学的寛解中であってもRQ-PCR法でPML-RARA陽性となった場合は再発と判断し、上記の再寛解導入療法を開始する。■ 造血幹細胞移植本症はATRAを中心とした化学療法が有効であり、通常第1寛解期には造血幹細胞移植は行わない。第2寛解期では造血幹細胞移植が推奨される。第2寛解期での自家造血幹細胞移植は、同種造血幹細胞移植に比べ再発率は高いものの治療関連死が少なく、全生存率は同種造血幹細胞移植を上回っている6)。そのため、地固め療法後にRQ-PCR法でPML-RARA陰性例には自家移植、陽性例には同種移植を考慮する。4 今後の展望今後もATRAを中心とした化学療法が治療の主体であると考えられる。診断時の白血球数や地固め療法後のPML-RARA融合遺伝子の有無など、リスクファクターによる層別化治療を寛解導入療法のみならず寛解後療法においても広く用いることにより、再発リスクと有害事象の軽減が図れると期待される。さらに寛解導入療法でのATRAと亜ヒ酸の併用や、地固め療法での亜ヒ酸の積極的使用により、治療成績はさらに向上する可能性がある。5 主たる診療科血液内科あるいは血液腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報JALSGホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がんプロ.comホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)公益財団法人先端医療振興財団 臨床研究情報センター「がん情報サイト」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報つばさの広場(血液疾患患者とその家族の会)海好き(白血病患者とその家族の会)1)Sanz MA, et al. Blood. 2000; 96: 1247-1253.2)Gallagher RE, et al. Blood. 2003; 101: 2521-2528.3)Fenaux P, et al. Blood. 1999; 94: 1192-1200.4)Adès L, et al. Blood. 2008; 111: 1078-1084.5)Adès L, et al. Blood. 2010; 115: 1690-1696.6)de Botton S, et al. J Clin Oncol. 2005; 23: 120-126.公開履歴初回2014年03月20日更新2016年04月26日

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診療の現場における安全な処方に必要なものは何か…(解説:吉岡 成人 氏)-512

薬剤をより安全に処方すること 外科医が行う手術、内科医が行う外科的なインターベンションと並んで、抗菌薬や抗がん化学療法薬などに代表される薬物治療は、内科医にとって重要な治療のツールである。臨床の現場では、作用と副作用というアンビバレンスを勘案して、慎重に処方を行うことが望まれる。一方、忙しさに紛れ、薬物の相互作用にうっかり気付かずに、副作用のリスクを高めてしまう処方が行われることもまれではない。 本論文は、スコットランドにおけるプライマリケアの診療現場で、一定の割合で副作用を引き起こす可能性のある高リスク薬の処方を、どのような臨床介入によって適正化しうるかについて検討した成績を示した論文である。教育と情報そして金銭的なインセンティブ 高リスク薬として、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗血小板薬を取り上げ、慢性腎臓病患者(CKD≧ステージ3)や、利尿薬とACE阻害薬ないしはARBを併用している患者にNSAIDsを処方した場合、胃粘膜保護薬を併用せずにNSAIDsと抗凝固薬の併用を行った場合を高リスク処方と判定し、介入によって処方行動が変容するか否かを検討している。 教育、金銭的インセンティブ、患者情報の提供という3つの介入が実施されている。まずは、薬剤師がクリニックを訪問し1時間にわたって知識の共有と確認を行い、続いて、参加登録時に350ポンド(600USドル)、高リスク薬を処方した患者の病歴を確認した際には患者1人当たり15ポンド(25USドル)のインセンティブを支払い、さらに、プライマリケア医が診療している患者の中から、病歴の確認が必要な患者を抽出し、「フラグ」を付けてアラートを行い、医師が対象薬となっている高リスク薬剤の投与を中止するか、副作用を予防する薬剤を追加処方した際に「フラグ」が消えるというシステムを構築し、医師が容易に診療内容をネット上でID、パスワードを用いて確認することができるようにするという、3つの介入を実施している。高リスク処方の減少と副作用による入院が減少 Stepped wedge designという、試験開始の時期をずらしながら順番に介入を行うという方法で介入試験を行った、33ヵ所の診療現場における3万3,000例以上の患者の結果が解析されている。 高リスク処方の割合は、3.7%(2万9,537例中1,102例)から2.2%(3万187例中674例)に有意に低下し(オッズ比0.623、95%信頼区間:0.57~0.86、p<0.001)、消化性潰瘍や消化管出血による入院も1万人年当たり55.7件から37.0件に有意に減少。心不全による入院も1万人年当たり707.7件から513.5件に有意に減少したが、急性腎不全による入院に変化はなかった(1万人年当たり101.9件から86.0件、オッズ比0.84、95%信頼区間:0.68~1.09、p=0.19)。高リスク処方の減少に何が有効だったのか それでは、知識の提供、金銭的インセンティブ、高リスク処方に注意を喚起するシステムのうち、何が最も有用であったのか…。それについては、この論文からは読み取ることができない。どのような知識を持っていても、忙しい診療の現場では、ついうっかり…という処方ミスが起こる可能性はきわめて大きい。しかし、処方を実施した後にレビューするシステムがあったとしても、習慣としてそれにアクセスするには動機(きっかけ)が必要であろう。そのために、世俗的ではあるが、少額ではあっても金銭的インセンティブが有用なのかもしれない。 処方の適正化はきわめて重要なことであり、予想しうる副作用を阻止するためのフェイルセイフ機構を構築することは喫緊の課題ともいえる。しかし、その方策をどのようにすべきか…。ひとつの回答が示されたが、この回答をどのように臨床の現場で応用していくのかは簡単ではなさそうである。関連コメント高リスク処方回避の具体的方策が必要(解説:木村 健二郎 氏)診療所における高リスク処方を減らすための方策が立証された(解説:折笠 秀樹 氏)ステップウェッジ法による危険な処方を減らす多角的介入の効果測定(解説:名郷 直樹 氏)「処方箋を書く」医師の行為は「将棋」か「チェス」か?(解説:後藤 信哉 氏)

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ALK阻害剤セリチニブ、非小細胞肺がんの治療薬として承認取得

 ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:ダーク・コッシャ)は、2016年3月28日、経口ALK阻害剤であるセリチニブ(商品名:ジカディア カプセル150mg)について、ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん(以下、NSCLC)の治療薬として、国内における製造販売承認を取得したと発表。 セリチニブは、化学療法及び既存のALK阻害剤クリゾチニブ治療歴のあるALK陽性NSCLC患者を対象とした第II相臨床試験(日本人を含む国際共同治験)において、奏効率37.1%(95%CI:29.1-45.7)で主要目的を達成し、高い抗腫瘍効果を示した。 国際共同第II相試験におけるセリチニブの主な副作用は、悪心(77.9%)、下痢(77.1%)、嘔吐(58.6%)、ALT(GPT)増加(37.9%)、食欲減退(35.7%)、AST(GOT)増加(28.6%)であった。 セリチニブは、2013年3月に米食品医薬品局(FDA)よりブレークスルー・セラピーの指定を受け、2014年4月に米国で「クリゾチニブによる治療後に疾患が進行したクリゾチニブ不耐容のALK陽性 NSCLC」の治療薬として迅速承認を得たほか、2015年5月にはEUにおいても承認を取得し、2016年3月現在、アジアを含む世界50カ国以上で承認されている。 ジカディア カプセル150mgの効能/効果は、クリゾチニブに抵抗性又は不耐容のALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発のNSCLC。ノバルティス ファーマ株式会社のプレスリリースはこちら

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抗PD-L1抗体atezolizumab、既治療NSCLCのOS延長/Lancet

 既治療の非小細胞肺がん(NSCLC)の治療において、新規免疫チェックポイント阻害薬atezolizumabは、ドセタキセル(商品名:タキソテールほか)に比べ予後が良好であることが、米国・カイザーパーマネンテ医療センターのLouis Fehrenbacher氏らが行ったPOPLAR試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2016年3月9日号に掲載された。ニボルマブやペムブロリズマブがT細胞上のPD-1を標的とするのに対し、atezolizumabは腫瘍細胞および腫瘍浸潤免疫細胞上に発現しているPD-L1(PD-1のリガンド)に対するヒト型IgG1モノクローナル抗体で、T細胞上のPD-1だけでなくB7.1(CD80)との結合を阻害する。それゆえ、T細胞活性化阻害作用の抑制効果が抗PD-1抗体よりも高い可能性があり、またPD-L2とPD-1の相互作用には影響しないことから、免疫系の恒常性への影響を回避できると考えられている。ドセタキセルと比較する無作為化第II相試験 POPLAR試験は、既治療のNSCLC患者においてatezolizumabとドセタキセルの有用性を比較し、PD-L1発現レベルを評価する非盲検無作為化第II相試験(F Hoffmann-La Roche/Genentech社の助成による)。 対象は、プラチナ製剤による化学療法後に病勢が進行したNSCLCで、全身状態(ECOG PS)が0/1、測定可能病変(RECIST ver.1.1)を有する患者であった。 被験者は、腫瘍浸潤免疫細胞上のPD-L1の状態、組織型、前治療レジメン数で層別化され、atezolizumab(1,200mg、静脈内投与)またはドセタキセル(75mg/m2、静脈内投与)を3週ごとに投与する群に無作為に割り付けられた。 免疫組織化学(IHC)検査に基づき、腫瘍細胞上のPD-L1(TC3:≧50%、TC2:5~50%、TC1:1~5%、TC0:<1%)および腫瘍浸潤免疫細胞上のPD-L1(IC3:≧10%、IC2:5~10%、IC1:1~5%、IC0:<1%)をスコア化した。 主要評価項目は全生存期間(OS)とし、探索的解析としてバイオマーカーの評価を行った。 2013年8月5日~14年3月31日までに、13ヵ国61施設に287例が登録された。atezolizumab群に144例、ドセタキセル群には143例が割り付けられ、それぞれ142例、135例が1回以上の投与を受けた。OS中央値:約3ヵ月延長、PD-L1発現率が高いほど良好 年齢中央値は両群とも62歳、男性はatezolizumab群が65%、ドセタキセル群は53%であり、喫煙者/元喫煙者がそれぞれ81%、80%、前治療レジメン数は1が65%、67%、2が35%、33%だった。 OS中央値はatezolizumab群が12.6ヵ月であり、ドセタキセル群の9.7ヵ月に比べ有意に延長した(ハザード比[HR]:0.73、95%信頼区間[CI]:0.53~0.99、p=0.04)。 また、OS中央値はPD-L1の発現率が高い患者ほど良好であった(TC3またはIC3=HR:0.49[0.22~1.07]、p=0.068/TC2/3またはIC2/3=HR:0.54[0.33~0.89]、p=0.014/TC1/2/3またはIC1/2/3=HR:0.59[0.40~0.85]、p=0.005/TC0およびIC0=HR:1.04[0.62~1.75]、p=0.871)。 既存免疫(エフェクターT細胞およびインターフェロン-γの関連遺伝子発現≧中央値で定義)を有する患者の探索的解析では、atezolizumab群のOS中央値が有意に改善された(HR:0.43、95%CI:0.24~0.77)。 atezolizumab群で頻度の高い全原因有害事象として、食欲減退、呼吸困難、悪心、下痢、発熱などが認められ、免疫関連有害事象としてAST上昇(4%)、ALT上昇(4%)、肺臓炎(3%)、腸炎(1%)、肝炎(1%)がみられた。 治療関連有害事象の発現率は、atezolizumab群が67%、ドセタキセル群は88%であった。有害事象による治療中止は、atezolizumab群が8%(11例)、ドセタキセル群は22%(30例)、Grade 3/4の治療関連有害事象はそれぞれ11%(16例)、39%(52例)であり、atezolizumab群で少なかった。治療関連死はatezolizumab群が<1%(1例:心不全)、ドセタキセル群は2%(3例:敗血症、急性呼吸窮迫症候群、原因不明)だった。 著者は、「atezolizumabはドセタキセルに比べ既治療のNSCLC患者の予後を改善した」とまとめ、「PD-L1の発現は、atezolizumabのベネフィットを予測するバイオマーカーとなる可能性が示唆される」と指摘している。

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がん免疫療法薬・安全性は「多職種連携」がカギ

 2016年2月17日、都内にて「がん免疫療法で変わる肺がん治療」をテーマにプレスセミナーが開催された(主催:小野薬品工業株式会社/ブリストル・マイヤーズ株式会社)。脚光を浴びているがん免疫療法、安全性は? ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は2014年9月に発売された、世界初の抗PD-1モノクローナル抗体で、がん免疫療法薬と呼ばれている。がん免疫療法は従来の化学療法や手術、放射線療法とはまったく異なる新たな治療法で、身体の免疫系に直接作用してがんと闘う機序を持つ。本邦において、ニボルマブは「根治切除不能な悪性黒色腫」「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の2つの疾患に適応がある。免疫系に作用するという新しいアプローチと、治験時における有害事象、とくに骨髄抑制の少なさからがん治療において大きな期待を寄せられている。 しかし、使用経験の蓄積からこれまでの薬剤では経験のない免疫関連有害事象が報告されている。注意すべき、免疫関連有害事象とは? がん免疫療法薬は全身の臓器にも働きかけるといわれており、過度の免疫反応により免疫関連有害事象が複数の臓器で報告されている。演者の中西 洋一氏(九州大学大学院 呼吸器内科学分野 教授)は、とくに注意すべき副作用として間質性肺炎、重症筋無力症、劇症1型糖尿病、甲状腺機能障害の4つを挙げた。 とくに劇症1型糖尿病は、インスリンを産生する膵島細胞の急速な破壊により急激に高血糖を来す。また、時には致死的であり、たとえ回復してもインスリン産生の枯渇により、血糖コントロール困難となり、社会生活に高度の支障を来す重大な疾患である。ニボルマブの臨床試験において、劇症1型糖尿病は報告されていなかったが、使用経験の蓄積により報告が上がってきた。2016年1月に日本腫瘍学会と日本糖尿病学会より、連名でステートメントが出たことは記憶に新しい1)。副作用に立ち向かうには? 九州大学病院の事例 上記の重症筋無力症、劇症1型糖尿病、甲状腺機能障害などの副作用は必ずしもオプジーボを使用している医師の専門であるとはいえない。このような副作用に、どのように対応していけばよいのだろうか? 対応策の一例として、中西氏は九州大学病院の「免疫チェックポイント阻害薬適正使用委員会」を挙げた。同委員会では、副作用対策において、呼吸器内科・腫瘍内科・皮膚科など免疫療法実施診療科を、他の専門科や看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどがサポートする、診療科・職域横断的なチェック体制づくりに取り組んでいる。専門外の医師をはじめとし、看護師・薬剤師などコメディカルとの連携によって、副作用の早期発見や適切な管理、細やかな対応が可能になるという。 ニボルマブは安全性の面以外にも、コストとの兼ね合い、バイオマーカーの探索、他剤との併用などさまざまな点に課題があるものの、これまで治療の選択肢に難渋していた患者にとって希望の光となりうる薬剤である。しかし、2016年2月より包括医療費支払い制度(DPC)の対象外となったため、今後さらなる使用患者数の増加が予想され、これに伴い予期せぬ副作用が生じる可能性も否定できない。治療医師のみならず、多職種が連携することで患者にとって最適な医療を行うことが望まれる。【参考】1)免疫チェックポイント阻害薬に関連した劇症 1 型糖尿病の発症について(PDFがダウンロードされます)

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第2回 東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座/ブルーリボンキャラバン~もっと知ってほしい大腸がんのこと2016 in東京~【ご案内】

 東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター、同院腫瘍化学療法外科、同院大腸・肛門外科は、NPO法人キャンサーネットジャパンと共催で、2016年3月21日(月・祝)に、無料の市民公開講座を開催する。本講座は、がんに関するさまざまなテーマを取り上げる、東京医科歯科大学「がんを考える」市民公開講座の第2回で、毎年各地で行われている大腸がん疾患啓発活動「ブルーリボンキャラバン」との共同開催となる。総合司会は、フリーアナウンサーの中井 美穂氏。当日参加者にはもれなくオリジナルの「もっと知ってほしい大腸がんのこと」冊子をプレゼント。また、ブルーを身に着けて来場した方には粗品も用意されている。 開催概要は以下のとおり。【日時】2016年3月21日(月・祝)《セミナー》11:00~16:50《ブース展示》10:00~17:00【場所】東京医科歯科大学 M&Dタワー 2階 鈴木章夫記念講堂〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45【参加費】無料(※参加申し込みは不要です)【予定内容】《セミナー》総合司会:中井 美穂氏(フリーアナウンサー)11:00-11:10 開会挨拶 小西 敏郎氏(NPO法人キャンサーネットジャパン 理事)11:10-11:30 講演(1) 大腸がんってどんな病気?~特徴と治療の全体像~ 安野 正道氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 大腸・肛門外科)11:30-12:00 講演(2) 大腸がん/大腸ポリープの診断・検査の実際 石黒 めぐみ氏(東京医科歯科大学大学院 応用腫瘍学講座)12:00-13:00 休憩13:00-13:30 講演(3) 大腸がんの外科的治療(手術) 板橋 道朗氏(東京女子医科大学 第二外科)13:30-13:45 講演(4) 大腸がん手術後の生活 金光 幸秀氏(国立がん研究センター中央病院 大腸外科)13:45-14:00 体験談(1) 直腸がん術後、私の日常生活~トイレと上手に付き合いながら~ 高垣 諭氏14:00-14:25 Q&A(1) パネルディスカッション 大腸がんの手術と手術後の生活 パネリスト:安野 正道氏/板橋 道朗氏/金光 幸秀氏/高垣 諭氏14:25-14:35 休憩14:35-15:05 講演(5) 大腸がんの薬物療法(抗がん剤・分子標的薬) 山口 研成氏(がん研有明病院 消化管化学療法科 部長)15:05-15:35 講演(6) 大腸がんの薬物療法の実際~副作用とその対策~ 篠崎 英司氏(がん研有明病院 消化器センター消化器内科)15:35-15:45 情報提供(1) RAS遺伝子検査とは? 石川 敏昭氏(東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍化学療法外科)15:45-16:00 体験談(2) 大腸がんの化学療法~「心と体」副作用と上手に付き合う方法~ 野城 郁郎氏16:00-16:25 Q&A(2) パネルディスカッション 大腸がんの薬物療法と治療中の生活 パネリスト:山口 研成氏/篠崎 英司氏/石川 敏昭氏/野城 郁郎氏16:25-16:35 情報提供(2) 治療費の負担を軽くする制度 近藤 明美氏(近藤社会保険労務士事務所 特定社会保険労務士)16:35-16:45 情報提供(3) がん相談支援センター利用のすすめ 東京医科歯科大学医学部附属病院 がん相談支援センター16:45-16:50 閉会挨拶 杉原 健一氏(大腸癌研究会 会長/東京医科歯科大学 特任教授)《ブース展示》会場では大腸がんの検査・治療に使用する機器などのブース展示を開催します。展示スペースはどなたでもご自由にご観覧いただけますのでお気軽にお越しください。[出展協力]・株式会社メディコン・アミン株式会社・ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社・オリンパスメディカルサイエンス販売株式会社・公益社団法人日本オストミー協会・ブーケ(若い女性オストメイトの会)・NPO法人がんと暮らしを考える会・東京医科歯科大学 歯学部口腔保健学科・東京医科歯科大学医学部附属病院 臨床栄養部・メルクセローノ株式会社【問い合わせ先】ブルーリボンキャンペーン事務局 NPO法人キャンサーネットジャパン〒113-0034 東京都文京区湯島1-10-2 御茶ノ水K&Kビル 2階TEL:03-5840-6072(平日10時~17時)FAX:03-5840-6073【共催】東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍センター東京医科歯科大学医学部附属病院 腫瘍化学療法外科東京医科歯科大学医学部附属病院 大腸・肛門外科NPO法人キャンサーネットジャパン【後援】東京都/文京区/東京都医師会/東京医科歯科大学医師会/日本癌治療学会/大腸癌研究会/公益社団法人日本オストミー協会/NPO法人ブレイブサークル運営委員会/NPO法人西日本がん研究機構詳細はこちら。画像を拡大する

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悪性胸膜中皮腫へのシスプラチン+ペメトレキセド+ベバシズマブ療法(解説:小林 英夫 氏)-478

 悪性胸膜中皮腫は早期発見が困難で、診断時点では進行期である症例が大多数を占める。2003年のVogelzang 氏らの報告に基づいて、ペメトレキセドが世界初の悪性胸膜中皮腫治療薬として米国で承認され、わが国でも2007年に薬価収載された。現在、悪性胸膜中皮腫標準化学療法はペメトレキセド+シスプラチン併用と認識されている。しかし、その治療成績は必ずしも満足できるレベルには到達しておらず、胸膜肺全摘除術や片側全胸郭照射などを組み合わせたマルチモダリティー療法などが検討されている。 こうした中、中皮腫において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆され、2010年以降いくつかの試験が実施された。そこで、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬ベバシズマブの上乗せ効果について、Zalcman氏らによる本検討(第III相試験)が実施された。その結果、彼らは「循環器系の有害事象が増えるものの予想範囲内のものであり、ベバシズマブ上乗せは全生存期間(OS)を有意に改善する」とまとめている。Appendixを閲覧すると循環器系有害事象のほとんどは高血圧であった。 本研究デザインは、フランスの73病院において、18~75歳の切除不能悪性胸膜中皮腫、化学療法未治療、Eastern Cooperative Oncology Group PSスコア0~2、重大な心血管疾患の併存なし、CTで評価可能病変が少なくとも1つあり、余命12週超の症例が対象である。除外基準は、脳転移、抗血小板薬使用中、ビタミンK拮抗薬・ヘパリン・非ステロイド性抗炎症薬の投与中などであった。被験者は、ペメトレキセド+シスプラチン+ベバシズマブ投与のPCB群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与するPC群に無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで投与した。主要アウトカムはOSである。 計448例が無作為化され、PCB群223例、PC群225例、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型中皮腫81%であった。6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムであるOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。なお、PFS(無増悪生存)もPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象は、PCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%]vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。 これまで進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン療法効果は、OS中央値は約12ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値は約6ヵ月、とされていた。抗血管新生治療の上乗せ効果は期待できそうだが、それでも5年生存率は20%弱であり、さらなる検討が望まれる。また、血清VEGF値により治療効果に差が生じる可能性も示唆されており、今後、中皮腫のバイオマーカーとして活用していくことも考慮される。 悪性胸膜中皮腫の臨床試験は、現在本邦で4試験が実施されている。免疫チェックポイント阻害薬トレメリムマブ、がん抑制遺伝子アデノウイルスベクター、シスプラチン+ペメトレキセド+Napabucasin、アネツマブ・ラブタンシン、の第I、II相試験であり、どのような結果が得られるのか注視していきたい。なお、胸膜腫瘍WHO分類は2015年に改訂され、Journal of thoracic oncology誌2016年2月号(オンライン版2015年12月22日号)1)で発表されている。

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術後補助化学療法が有効なStageII大腸がんのバイオマーカー/NEJM

 StageII大腸がんのうち、腫瘍細胞にcaudal-type homeobox transcription factor 2(CDX2)の発現がみられない患者は再発リスクが高く、術後補助化学療法からベネフィットを得る可能性が高いことが、米国・コロンビア大学のPiero Dalerba氏らの検討で明らかとなった。高リスクStageII大腸がんの同定は、術後補助化学療法を要する患者の選択において重要とされる。マイクロアレイによる幹細胞や前駆細胞由来の多遺伝子発現解析が期待されているが、臨床での使用は困難だという。NEJM誌2016年1月21日号掲載の報告。臨床で使用可能なバイオマーカーを探索、検証 研究グループは、臨床で使用できるStageII/III大腸がんの予後を予測するバイオマーカーを確立するための検討を行った(National Comprehensive Cancer Networkなどの助成による)。 新たなバイオインフォマティクスのアプローチを用いて、遺伝子発現アレイで結腸上皮の分化のバイオマーカーを探索し、臨床での診断検査に使用可能かを基準に、候補遺伝子を順位付けした。 独立のレトロスペクティブなStageII/III大腸がん患者コホートのサブグループ解析を行い、最上位の候補遺伝子と無病生存(DFS、転移・再発のない生存)および術後補助療法のベネフィットとの関連を検証した。陰性例は再発リスクが高く、補助化学療法の効果が高い スクリーニング検査では、転写因子CDX2が最上位であった。2,115の腫瘍検体のうち87検体(4.1%)ではCDX2の発現を認めなかった。 探索データセットは466例で、そのうちCDX2陰性大腸がんが32例(6.9%)、陽性大腸がんは434例(93.1%)であった。5年DFS率は、陰性例が41%であり、陽性例の74%に比べ有意に不良であった(p<0.001)。このうち病理所見のある216例で多変量解析を行ったところ、CDX2陰性例は陽性よりも再発リスクが有意に高かった(再発のハザード比[HR]:3.44、95%信頼区間[CI]:1.60~7.38、p=0.002)。 検証データセットは314例で、CDX2蛋白陰性大腸がんが38例(12.1%)、陽性大腸がん患者は276例(87.9%)であった。5年DFS率は、陰性例が48%と、陽性例の71%に比し有意に不良であり(p<0.001)、全生存率にも有意差がみられた(33 vs. 59%、p<0.001)。多変量解析では、陰性例は陽性例よりも再発リスクが有意に高かった(HR:2.42、95%CI:1.36~4.29、p=0.003)。 この2つのサブグループのいずれにおいても、これらの知見は患者の年齢、性別、腫瘍のStageやGradeとは独立していた。 StageII大腸がん患者に限定した5年DFS率の解析を行ったところ、探索データセットではCDX2陰性例(15例)が49%と、陽性例(191例)の87%に比べ有意に低く(p=0.003)、検証データセットでは陰性例(15例)が51%であり、陽性例(106例)の80%に比し有意に低値であった(p=0.004)。 全患者コホートの統合データベースの解析では、5年DFS率はCDX2陰性StageII大腸がんで補助化学療法を受けた23例が91%と、補助化学療法を受けなかった25例の56%よりも高値を示した(p=0.006)。 著者は「CDX2発現の欠損により、術後補助化学療法からベネフィットが得られると考えられる高リスクのStageII大腸がん患者のサブグループが同定された」とまとめ、「通常は手術のみとされるStageII大腸がんのうち、CDX2陰性例には術後補助化学療法が治療選択肢となる可能性がある。本試験は探索的でレトロスペクティブな検討であるため、さらなる検証を要する」と指摘している。

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小児がんサバイバーの晩期死亡率の改善、治療曝露量の減量が寄与/NEJM

 5年生存を達成した小児がん患者の晩期死亡率を低減する治療戦略として、治療曝露量の減量が有効であることが、米国・聖ジュード小児研究病院のGregory T. Armstrong氏らの調査で明らかとなった。米国で1970~80年代に小児がんと診断され、5年生存を達成した患者の18%が、その後の25年以内に死亡している。そのため、最近の小児がん治療の目標は、晩発性の生命を脅かす作用をいかに減じるかに置かれているという。NEJM誌オンライン版2016年1月13日号掲載の報告より。約3万4,000例で晩期死亡を治療開始年代別に検討 研究グループは、小児がんサバイバーを長期にフォローアップする病院ベースのレトロスペクティブな多施設共同コホート試験(Childhood Cancer Survivor Study[CCSS])を実施した(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 対象は、21歳以前にがんと診断され、1970~99年に治療を開始し、5年以上生存した患者であり、北米の31施設に3万4,033例が登録された。これは、試験期間中の小児がんサバイバーの約20%に相当した。 フォローアップ期間中央値は21年(範囲:5~38)であった。人口統計学的因子および健康関連死因による死亡に影響を及ぼす疾患の因子の評価を行った。疾患因子には、原発がんの再発や進行は含まないが、がん治療による晩発性の作用が含まれた。 3万4,033例の内訳は、男性が1万8,983例、女性が1万5,050例で、治療開始時期は1970年代が9,416例、80年代が1万3,181例、90年代が1万1,436例であり、診断時年齢は0~4歳が1万3,463例、5~9歳が7,826例、10~14歳が7,144例、15~20歳は5,600例であった。 診断名は、白血病(1万0,199例)、ホジキンリンパ腫(4,332例)、非ホジキンリンパ腫(2,837例)、中枢神経系腫瘍(6,369例)、ウィルムス腫瘍(3,055例)、神経芽細胞腫(2,632)、横紋筋肉腫(1,679例)、骨腫瘍(2,930例)だった。晩発性作用の早期検出や対処法の改善も寄与 サバイバーの最終フォローアップ時の年齢中央値は28.5歳(範囲:5.5~58.5)で、30~39歳が全体の30%、40歳以上が15%であった。 試験期間中に3,958例(11.6%)が死亡した(原発がんの再発、進行による死亡2,002例、外的要因による死亡338例を含む)。このうち1,618例(41%)が健康関連死因による死亡であり、2次がんが746例、心臓が241例、肺が137例、その他が494例であった。 15年死亡率は、全死因死亡が1970年代の10.7%から、80年代は7.9%、90年代には5.8%へ有意に低下した(傾向のp<0.001)。健康関連死因死亡も、3.1%から、2.4%、1.9%へと有意に減少した(傾向のp<0.001)。また、原発がんの再発、進行による死亡も、7.1%、4.9%、3.4%と有意に抑制されていた(傾向のp<0.001)。 このような死亡率の改善には、2次がん(p<0.001)、心臓(p=0.001)、肺(p=0.04)に関連する死亡率の有意な低下が反映していると考えられた。 年代別の治療の変遷としては、(1)急性リンパ性白血病に対する頭蓋内放射線照射の施行率が、70年代の85%から80年代には51%、90年代は19%に低下、(2)ウィルムス腫瘍への腹部放射線照射がそれぞれ78%、53%、43%へ、(3)ホジキンリンパ腫に対する胸部放射線照射が87%、79%、61%へと減少した。 急性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、ウィルムス腫瘍、星状細胞腫では、アンスラサイクリン系薬剤の投与量も経時的に減少していた。これら4疾患は、治療曝露量が経時的に減量された後に、健康関連死因による15年死亡率が経時的に低下していた。 著者は、「小児がんサバイバーの晩期死亡率の改善には、治療の曝露量の低減が影響しており、治療の晩発性の作用のリスクや重症度が軽減するようにデザインされた治療レジメンの有効性が確認された」とまとめ、「晩発性作用を早期に検出する戦略の促進や対処法の改善とともに、治療レジメンを修正して放射線療法や化学療法の曝露量を低減することで、多くの小児がんサバイバーの余命が延長したことを示す定量的なエビデンスが得られた」としている。

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悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)〔malignant soft tissue tumor / soft tissue sarcoma〕

1 疾患概要■ 定義全身の軟部組織(リンパ・造血組織、グリア、実質臓器の支持組織を除く)より発生し、骨・軟骨を除く非上皮性間葉系組織(中胚葉由来の脂肪組織、線維組織、血管・リンパ管、筋肉、腱・滑膜組織および外胚葉由来の末梢神経組織などを含む)から由来する腫瘍の総称で、良性から低悪性~高悪性まで100種類以上の多彩な組織型からなる軟部腫瘍のうち、生物学的に悪性(局所再発や遠隔転移しうる)のものを悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)と呼ぶ。■ 疫学人口10万人あたり約3人の発生率で、全悪性腫瘍の0.7~1.0%程度とまれな悪性腫瘍である(わが国では胃がんや肺がんの1/20程度)が、経年的には増加傾向にある。また、骨・軟部肉腫が通常のがん腫に比し、若年者に多い傾向があることから、20歳未満の小児悪性腫瘍の中では約7.4%を占める。発生部位は軟部肉腫全体の約60%が四肢に発生し、そのうち約2/3が下肢(とくに大腿部に最も好発)に発生するが、その他の部位(臀部や肩甲帯、胸・腹壁などの表在性体幹部、後腹膜や縦隔などの深部体幹)にも広く発生するのが、軟部肉腫の特徴である。■ 病因近年の分子遺伝学的解析の進歩により、軟部肉腫においても種々の遺伝子異常が発見されるようになった。なかでも、特定の染色体転座によって生じる融合遺伝子異常が種々の組織型の軟部肉腫で検出され(表1)、その病因としての役割が明らかになってきた。こうした融合遺伝子異常は、すべての軟部肉腫のうち約1/4で認められる。一方、融合遺伝子異常を示さない残り3/4の軟部肉腫においても、いわゆるがん抑制遺伝子として働くP53、RB1、PTEN、APC、NF1、CDKN2などの点突然変異や部分欠失による機能低下、細胞周期・細胞増殖・転写活性・細胞内シグナル伝達などを制御する種々の遺伝子(CDK4、MDM2、KIT、WT1、PDGF/PDGFR、VEGFR、IGF1R、AKT、ALKなど)異常が認められ、その発症要因として関与していると考えられる。また、NF1遺伝子の先天異常を有する常染色体優性遺伝疾患である多発性神経線維腫症(von Recklinghausen病)では神経原肉腫(悪性末梢神経鞘腫)やその他の悪性腫瘍が発生しやすく、乳がんなどの治療後の上肢リンパ浮腫を基盤に生じるリンパ管肉腫(Stewart-Treves症候群)、放射線照射後に発生するpostradiation sarcomaなども知られている。画像を拡大する■ 症状無痛性のしこり(軟部腫瘤)として発見されることが最も多い。疼痛(自発痛や圧痛)や局所熱感、患肢のしびれなどは時にみられるが必発ではなく、良悪性の鑑別にはあまり役立たない。腫瘤の大きさは米粒大~20cmを超えるような大きなものまでさまざまであるが、明らかに増大傾向を示すような腫瘤の場合、悪性の可能性が疑われる。ただし、一部の腫瘍(とくに滑膜肉腫)ではほとんど増大せずに10年以上を経過し、ある時点から増大し始めるような腫瘍もあるので注意が必要である。縦隔や後腹膜・腹腔内の軟部肉腫では、相当な大きさになり腫瘤による圧迫症状が出現するまで発見されずに経過する進行例が多いが、時に他の疾患でCTやMRI検査が行われ、偶然に発見されるようなケースも見受けられる。■ 分類正常組織との類似性(分化度: differentiation)の程度により病理組織学的に分類される。脂肪肉腫、平滑筋肉腫、未分化多形肉腫(かつての悪性線維性組織球腫)、線維肉腫、横紋筋肉腫、神経原肉腫(悪性末梢神経鞘腫)、滑膜肉腫などが比較的多いが、そのほかにもまれな種々の組織型の腫瘍が軟部肉腫には含まれ、組織亜型も含めると50種類以上にも及ぶ。■ 予後軟部肉腫には低悪性のものから高悪性のものまで多彩な生物学的悪性度の腫瘍が含まれるが、その組織学的悪性度(分化度、細胞密度、細胞増殖能、腫瘍壊死の程度などにより規定される)により、生命予後が異なる。また、組織学的悪性度(G)、腫瘍の大きさ・深さ(T)、所属リンパ節転移の有無(N)、遠隔転移の有無(M)により病期分類が行われ、予後とよく相関する(表2)。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)軟部腫瘤の局在・局所進展度とともに、質的診断をするための画像診断としてはMRIが最も有用であり、必須といってもよい。腫瘍内の石灰化の有無、隣接骨への局所浸潤の有無、隣接主要血管・神経との位置関係をみるにはCTのほうが有用であるが、腫瘍自体の質的診断という点ではMRIよりも劣る。したがって、まずはMRIを施行し、画像診断できるもの(皮下に局在する良性の脂肪腫、典型的な神経鞘腫や筋肉内血管腫など)の場合には、外科的腫瘍切除を含め治療方針を生検なしに決定できる。しかし、軟部腫瘍の場合には画像診断のみでは診断確定できないものも少なくなく、良悪性の鑑別を含む最終診断確定のためには、通常生検が必要となる。生検はある程度の大きさの腫瘤(最大径がおおむね3cm以上)では、局麻下での針生検(ベッドサイドで、または部位によってはCTガイド下で)を行うが、針生検のみでは診断がつかない場合には、あらためて全麻・腰麻下での切開生検術が必要となることもある。また、径3cm未満の小さな表在性の腫瘍の場合、生検を兼ねて一期的に腫瘍を切除する(切除生検)こともあるが、この場合、悪性腫瘍である可能性も考慮し、腫瘍の周辺組織を腫瘍で汚染しないよう注意する(剥離の際に腫瘍内切除とならないよう気を付ける、切除後の創内洗浄は行わない、など)とともに、後の追加広範切除を考慮し、横皮切(とくに四肢原発例)は絶対に避けるなどの配慮も必要となる。皮下に局在する小さな腫瘍の場合、良悪性の区別も考慮されることなく一般診療所や病院で安易に局麻下切除した結果、悪性であったと専門施設に紹介されることがしばしばある。しかし、その後の追加治療の煩雑さや機能予後などを考えると、診断(良悪性の鑑別も含む)に迷った場合には、安易に切除することなく、骨・軟部腫瘍専門施設にコンサルトまたは紹介したほうがよい。生検により悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の確定診断がついたら、組織型・悪性度や必要に応じて肺CT、局所CT、骨シンチグラム、FDG-PET/CTなどを行い、腫瘍の局所進展度・遠隔転移(とくに肺転移)などを検索したうえで、治療方針を決定する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療の原則は、外科的腫瘍広範切除(腫瘍を周囲の正常組織を含め一塊に切除する術式)であるが、必要に応じて術前あるいは術後に放射線治療を併用し、術後局所再発の防止を図る。組織型(とくに滑膜肉腫、横紋筋肉腫、未分化神経外胚葉腫瘍、粘液型脂肪肉腫など)や悪性度によっては、また、遠隔転移を有する腫瘍の場合には、抗悪性腫瘍薬による全身化学療法を併用する。4 今後の展望これまで長い間、軟部肉腫に対する有効な抗悪性腫瘍薬としてはドキソルビシン(商品名:アドリアシンなど)とイホスファミド(同:イホマイド)の2剤しかなかったが、近年ようやくわが国でも軟部肉腫に対する新規薬剤の国際共同臨床試験への参加や治験開発が進むようになってきた。2012年9月には、軟部肉腫に対する新規分子標的治療薬であるパゾパニブ(同:ヴォトリエント)が、わが国でもオーファンドラッグとして製造・販売承認され、保険適応となった。また、トラベクテジン〔ET-743〕(同:ヨンデリス/2015年9月に承認)やエリブリン(同:ハラヴェン/わが国では軟部肉腫に対しては保険適応外)など複数の軟部肉腫に対する新規抗腫瘍薬の開発も行われている。5 主たる診療科整形外科、骨軟部腫瘍科 など軟部肉腫は希少がんであるにもかかわらず、組織型や悪性度も多彩で診断の難しい腫瘍である。前述のMRIでの画像診断のみで明らかに診断がつく腫瘍以外で良悪性不明の場合、小さな腫瘍であっても安易に一般診療所や病院で生検・切除することなく、骨・軟部腫瘍を専門とする医師のいる地域基幹病院の整形外科やがんセンター骨軟部腫瘍科にコンサルト・紹介するよう心掛けてほしい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス(各種がんのエビデンスデータベース「軟部肉腫」の情報)日本整形外科学会(骨・軟部腫瘍相談コーナーの情報)日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)(骨軟部腫瘍グループの研究に関する情報)NPO骨軟部肉腫治療研究会(JMOG)(医療従事者向けの診療・研究情報)患者会情報日本に「サルコーマセンターを設立する会」(肉腫患者および家族の会)1)上田孝文. 癌と化学療法. 2013; 40: 318-321.公開履歴初回2013年06月06日更新2016年01月26日

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サン・アントニオ2015 レポート-2

レポーター紹介ポスターセッションに移る。ポスターでも重要な臨床試験の結果が報告されていた。FACE試験:リンパ節転移陽性ホルモン受容体陽性閉経後乳がんにおける、術後補助療法としてのレトロゾールとアナストロゾールとの第III相比較試験である。2005年12月から2008年3月までにレトロゾール2,061例、アナストロゾール2,075例が無作為に割り付けされた。レトロゾール群36.1%、アナストロゾール群38.1%が有害事象(15.1%対14.3%)や再発(9.5%対10.4%)のために継続中止となった。結果として5年無再発生存率、全生存率ともにまったく差がなかった。関節痛やホットフラッシュ、疲労感といった有害事象もまったく同等であった。試験開始当初はATAC試験とBIG1-98試験の間接的比較などから、リンパ節転移陽性例でのレトロゾールの優越性が期待されていたが、見事なまでに同等の結果となった。Neo-Shorter試験:リンパ節転移陽性乳がんに対して、FEC3サイクル→DOC3サイクルがAC4サイクル→DOC4サイクルと比較して治療効果が劣らないかを、術前化学療法で検証する第III相試験で、韓国からの報告である。フランスではPACS01試験の結果からFEC×3→DOC×3が標準化学療法の1つとなっている。しかし、多くの標準療法は4サイクル→4サイクルであり、レジメンを短縮しても良いのかという疑問があった。AC4-D4が80例、FEC3-D3が93例である。pCRはそれぞれ17.5%、12.9%であり、ほぼ同等の効果となっている。この程度の数値上の差では、生存率に差が出ることはまずないだろうと思われる。ACとFEC100は治療効果が変わらないことはすでに証明されている(参照)のでどちらでも良い。また、意見の相違はあるかもしれないが、DOCをweekly PTXに変えても何の問題もないと思われる。今後、3サイクル→3サイクルを標準治療の1つとして考えることも十分許容されるだろう。少なくとも患者にとって副作用がつらい状態のとき、3サイクル終了した時点で4サイクル頑張らないと治療効果が低下するかもしれないと言う必要はないだろう。GBG69は、weekly paclitaxel(80)とweekly nab-paclitaxel(150 or 125)に引き続くEC(90/600)の効果を比較するドイツの無作為化術前化学療法試験である。当初nab-paclitaxel(nP)を150で開始したが、減量と中止が多かったため途中から125に変更している。結局nP 150を229例に、nP 125を377例に施行した。投与中止した割合はnP 150で26.8%、nP 125で16.6%、P80で13.3%であった。最も大きな懸念事項である末梢性感覚神経障害はGrade3以上がそれぞれ14.5%、8.1%、2.7%に認められた。治療効果(pCR率)はnP 125で最も高かった。この結果からweekly nab-paclitaxel は150ではなく125が考慮されるべきである。しかし、125でもまだ毒性が強いように思う。彼らはさらにGeparX試験でレジメンの改善が可能か調べるようである。nab-paclitaxelの意義はアルコールを使わないこと、薬剤調製時間、投与時間が大きく短縮できること、アレルギーの心配が非常に少ないというところにもあるので、weekly paclitaxelと同等の効果が得られる程度でもっと減量することも考慮して良いのではないかと考える。

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サン・アントニオ2015 レポート-1

レポーター紹介はじめに2015年SABCSは12月4日から8日までの会期で開催された。外は比較的暖かく、過ごしやすい気候であった。基礎的な内容も口演で多く取り上げられ、難しい内容のものも多くあったが、私たちの臨床を変える、あるいは臨床的に意義のある発表も多く、個人的には久しぶりに充実感があった。最初の話題は何と言っても、京都大学の戸井 雅和先生が口演で発表された、日本と韓国共同で行われた第III相試験CREATE-X(JBCRG-04)の結果であろう。HER2陰性乳がんに対して術前化学療法(アントラサイクリン、タキサン、あるいはその組み合わせ)後に手術を行ってnon-pCRであった場合に、術後標準治療を行う群とカペシタビン8サイクル(2,500mg/m2/day、day1~14、repeat every 3 weeks)を上乗せする群に割り付けて、予後をみたものである。適格基準はStageI~IIIBと広く、年齢も20~74歳と幅がある。計910例を各群455例ずつに割り振り5年間経過観察した。ホルモン受容体陽性が約60%で、リンパ節転移が残存していたのは約60%であった。術前化学療法としてはA-Tを逐次投与したものが約80%を占め、5-FUは約60%の症例で使われていた。カペシタビンを8サイクル規定投与量で継続できたのは37.9%、減量し継続できたのは37.1%、中止は25%であった。カペシタビン群の有害事象として、下痢は3.0%と低く、手足症候群は全グレードで72.3%、Grade3は10.9%に認められた。5年無再発生存率はカペシタビン群74.1%、コントロール群67.7%(p=0.00524)、5年全生存率も89.2%対83.9%(p<0.01)と有意にカペシタビン群で良好であった。サブグループ解析では、どのグループでもカペシタビン群で良好な傾向であった。ホルモン受容体の有無によらなかったが、陰性でより効果が高い傾向にはあった。正式に論文化されるのを待ちたいが、術前化学療法後に腫瘍が残存しステージが高く、予後不良な乳がんに対して有効な治療であることは間違いなさそうであり、どのように実臨床に取り込んでいくか議論が必要だろう。また、毒性の程度が日本人と異なる欧米で、どの程度受け入れられるかも注目されるところである。ルミナルA乳がんは一般に予後良好で、早期であれば全身治療は内分泌療法単独で良いと一般的に考えられている。DBCG77B無作為化比較試験から、ハイリスクのルミナルA乳がんを選択し予後を比較した結果が報告された。DBCG77B試験は腫瘍径5cm以上またはリンパ節転移陽性の閉経前乳がんに対し、classic CMF(C:130mg/m2)、oral cyclophosphamide(130mg/m2、2週投与2週休薬、12サイクル)、levamisole、化学療法なしの4群に分けて予後をみたものであるが、前2群はlevamisole群や化学療法なし群と比較して25年全生存率を改善している (Ejlertsen B, et al. Cancer;116:2081-2089.)。classic CMFに関しては、2014年SABCSレポート(NSABP B-36:リンパ節転移陰性乳がんにおいて6サイクルのFECと4サイクルのACを比較する無作為化第III相試験)を参照してほしい。ルミナルAの定義は免疫染色でER陽性、PR 20%以上、Ki67 13%以上、CK5/6陰性、EGFR陰性とした。 今回の研究では、1,146例のうち633例で免疫染色結果が利用でき、165例がルミナルAに分類された。633例の特徴は1,146例全体と比べN+例の比率がやや高く、化学療法施行例がわずかに多かった。浸潤がんの10年無再発生存率は、非ルミナルAでは化学療法の効果が明らかであったのに対し、ルミナルA群ではまったく差がなかった(化学療法あり134例、なし31例)。25年全生存率も同様であった。非ルミナルAのうちHER2タイプでは浸潤がんの10年無再発生存率に全く差がなく、HER2陽性乳がんにおけるCMFの効果の弱さを裏付けるものであった。DBCG77Bはかなり古い試験であり、内分泌療法が行われていないなどいくつかの問題点はある。しかし、ルミナルAはリンパ節転移陽性であっても、化学療法のベネフィットがないということはリーズナブルな結果と考えられる。現在NCCNガイドラインによれば、オンコタイプDxもリンパ節転移陽性(1~3個)に対して適応しうることが記載されており、低リスクに対しては化学療法のベネフィットが得られないだろうと考えられるようになっている。また、乳がんサブタイプとオンコタイプDxの再発リスクの間には強い相関もあり、私自身はこの結果にとくに驚くものではない(Fan C, et al. N Engl J Med. 2006;355:560-569.)。むしろDBCG77B試験をあらためて読み、classic CMFとoral cyclophosphamideの間に差がないことのほうが驚きであった。本邦では、再発乳がんにおいてoral cyclophosphamideと5-FU系薬剤との併用の有効性が検討され、5-FU系薬剤の効果がむしろ強調されてきたが、実はoral cyclophosphamideのほうがより重要なのかもしれない。デジタルマンモグラフィが2Dであるのに対して、トモシンセシスは3Dマンモグラフィである。2D に3Dを加えることにより、2D単独と比較して浸潤がんの発見が40%増加し、疑陽性率が15%低下することが報告されており(Skaane P, et al. Radiology. 2013;267:47-56.)、他の研究も同様の結果となっている(Ciatto S, et al: Lancet Oncol. 2013;14:583-589、Friedewald SM, et al. JAMA.2014;311:2499-2507)。しかし、3Dを加えることで、被曝量の増加(約2倍)、圧迫時間の延長(ただし圧迫圧は減少)、装置のコスト、装置の耐久性、トレーニング、読影時間の延長が問題となる。そこで3Dから擬似的に合成した2D画像(合成2D)により(3Dは選択して読影)、読影時間の問題を解決するか試みた研究が英国から報告された。2,589乳房のうち280乳房のみが3D読影を必要とした。3D読影を行わないことにより、10乳房のM3と1乳房のM4を見逃したのみであり、そのうち乳がんであったのは2乳房のみであった。研究の限界としては、経験豊富な放射線科医1名の読影であり、スクリーニングの場面ではないことがある。しかし、見落としを最小限にしながら読影時間を短縮するのに、合成2Dは有用な方法と考えられる。臨床の現場では、通常のマンモグラフィ検診で要精査とされた中に疑陽性(とくにFAD)が多いことに驚く。患者はそのことにより、夜も眠れず不安を抱えて病院を受診する。超音波検診も含めて、疑陽性を極力減らすための努力が必要である。ビスホスホネート製剤は閉経後乳がんに対する遠隔再発、骨転移を減らし、乳がんによる死亡率を低下させることが、Early Breast Cancer Trialists’ Collaborative Group(EBCTCG)のメタ分析から示されている(参照)。今回は、デノスマブの生存率向上効果がABCSG-18試験(オーストリアとスウェーデン)によって示された。ホルモン受容体陽性閉経後乳がんにおいて術後補助療法として、非ステロイド性アロマターゼ阻害薬と共に6ヵ月ごとにデノスマブを60mg投与する群とプラセボ群に分け、3,425例が無作為に割り付けられた。デノスマブの投与期間は規定されていない。おそらく5年程度は使用されているのだろう。結果として、無再発生存期間はデノスマブ群でわずかに高かった(p=0.0510)。サブグループ解析では、腫瘍径2cm以上ではより明らかであった(p=0.0419)。これは、より再発率の高いグループで効果が明瞭になるということだろう。顎骨壊死は1例もなかったが、これは特筆すべきである。本試験のプロトコルには、治療開始前や治療中の予防的な口腔ケアについては何ら記載されていない。顎骨壊死がなかった理由として、投与量が少ないためか、6ヵ月ごとの投与ではほとんど問題にならないのか、あるいはオーストリアやスウェーデンでは口腔ケアが当たり前になっているのか不明である。また、治療期間中カルシウムとビタミンDの服用を強く推奨するという記載にとどまっていて規定にはなっていないようだが、重篤な低カルシウム血症も起きていないようである。ただし、このあたりも、臨床で使用する際には一応注意はしておいたほうが良いだろう。閉経後乳がんにおいては、進行度の高いほど骨標的療法の生存率への効果が高いと考えられ、実臨床でも考慮すべき時期になったといえる。

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乳がん術後化学療法中のLHRHa、卵巣機能を長期保護/JAMA

 年齢中央値39歳の早期乳がん患者の術後化学療法中に、黄体形成ホルモン放出ホルモンアナログ(LHRHa)製剤のtriptorelin併用は、化学療法単独と比べて妊娠率について統計的に有意な差はなかったが長期的な卵巣機能の回復率が高いことが、イタリア・IRCCS AOU San Martino-ISTのMatteo Lambertini氏らによる無作為化試験の結果、示された。無増悪生存(DFS)については、試験の検出力に限界があったとしたうえで、統計的有意差は認められなかったと報告している。化学療法中のLHRHa併用は卵巣機能保護戦略として信頼性が高いが、長期的な卵巣機能への影響、および妊娠に関するデータは不足していた。また、併用療法に関する安全性への懸念もあり論争の的となっていた。JAMA誌2015年12月22・29日号掲載の報告。StageI~III、年齢中央値39歳281例を対象に化学療法単独群と比較 検討は、並行群間比較無作為化非盲検の第III相優越性試験として、イタリアの16病院で行われた。2003年10月~2008年1月の間に、StageI~III、ホルモン受容体陽性または陰性の乳がんで閉経前の女性患者281例(年齢中央値39歳、範囲:24~45歳)を登録。術後/術前補助化学療法の単独を受ける群(対照群、133例)と化学療法+triptorelinを受ける群(LHRHa群、148例)に無作為に割り付け追跡評価した。 事前に計画された主要エンドポイントは、化学療法による早期閉経の発生率であった。事後エンドポイントとして、長期の卵巣機能(毎年の評価で1サイクル以上の月経があった場合に再開と定義)、妊娠、DFSを評価した。 最終フォローアップは2014年6月3日。追跡期間中央値は7.3年(範囲:6.3~8.2年)であった。月経再開5年累積発生率は併用群が1.28倍、妊娠数も有意差はないが2.56倍 結果、月経再開の5年間の推定累積発生率は、LHRHa群72.6%(95%信頼区間[CI]:65.7~80.3%)、対照群64.0%(同:56.2~72.8%)であった(ハザード比[HR]:1.28、95%CI:0.98~1.68、p=0.07、年齢補正後HR:1.48、95%CI:1.12~1.95、p=0.006)。 妊娠発生は、LHRHa群で8例(推定累積発生率:2.1%、95%CI:0.7~6.3%)、対照群は3例(同:1.6%、95%CI:0.4~6.2%)であった(HR:2.56、95%CI:0.68~9.60、p=0.14、年齢補正後HR:2.40、95%CI:0.62~9.22、p=0.20)。 5年DFSは、LHRHa群80.5%(95%CI:73.1~86.1%)、対照群83.7%(95%CI:76.1~89.1%)であった(LHRHa vs.対照のHR:1.17、95%CI:0.72~1.92、p=0.52)。

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中皮腫の初回治療、ベバシズマブ上乗せでOS延長/Lancet

 悪性胸膜中皮腫の初回治療について、標準療法であるシスプラチン+ペメトレキセドの併用療法へのベバシズマブの上乗せは、全生存期間(OS)を有意に改善することが、フランス・カーン大学のGerard Zalcman氏らによる第III相の非盲検無作為化試験の結果、示された。毒性効果として循環器系の有害事象が増えるものの、著者は、「予想の範囲内のものであり、ベバシズマブの上乗せは適切な治療と見なすべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2015年12月21日号掲載の報告。標準初回治療への上乗せ効果を無作為化試験で検討 悪性胸膜中皮腫は進行が早く予後は不良で、職業性のアスベスト曝露との関連が知られている。初回治療は、シスプラチン+ペメトレキセドの併用療法とされているが、その適用はシスプラチン単独との比較でOS中央値12.1(ビタミンB12、B9服用群では13.3) vs.9.3ヵ月、無増悪生存(PFS)中央値5.7 vs.3.9ヵ月のデータに基づく。また、進行性悪性中皮腫へのペメトレキセド+カルボプラチン併用療法の第II相の試験で示された結果は、OS中央値12.7ヵ月、PFS中央値6.5ヵ月であった。 こうした中、先行研究で、中皮腫細胞の病態生理において血管内皮増殖因子(VEGF)シグナルが重大な役割を果たすことが示唆されたことから、研究グループは、VEGFをターゲットとする抗血管新生治療薬が効果を示すのではないかと本検討を行った。 試験は、フランスの73病院から被験者を集めて行われた。18~75歳、切除不能の悪性胸膜中皮腫で化学療法未治療、全身状態はEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)スコアで0~2、重大な心血管疾患の併存はなく、CTで評価が可能な病変(胸水)または測定可能な病変(胸膜肥厚)が少なくともいずれか1つあり、余命は12週超の患者を対象とした。除外基準は、中枢神経系への転移あり、抗血小板薬(アスピリン325mg/日以上、クロピドグレル、チクロピジン、ジピリダモール)を使用、ビタミンK拮抗薬を有効量使用、低分子量ヘパリンを有効量使用、非ステロイド性抗炎症薬の投与を受けている、であった。 被験者を、ペメトレキセド(500mg/m2)+シスプラチン(75mg/m2)+ベバシズマブ(15mg/kg)の静注投与(PCB)群、またはベバシズマブの代わりにプラセボを投与する(PC)群に1対1の割合で無作為に割り付け、3週間に1回を最大6サイクル、病勢進行または毒性効果が認められるまで行った。なお、無作為化には最小化法を用い、患者を組織学的(上皮型 vs.肉腫型、または混在型)、全身状態(ECOGスコア0~1 vs.2)、試験病院、喫煙状態(非喫煙 vs.喫煙)で層別化した。 主要アウトカムはOS。intention-to-treat解析にて評価した。OSが有意に延長、18.8ヵ月 vs.16.1ヵ月 2008年2月13日~14年1月5日に、計448例の患者を無作為化した(PCB群223例[50%]、PC群225例[50%])。被験者は、男性75%、年齢中央値65.7歳、上皮型81%、ECOGスコア0~1が97%、喫煙者57%などであった。 6サイクルを完遂したのは、PCB群74.9%、PC群76.0%。フォローアップ中央値は39.4ヵ月で両群に差はなかった。 主要アウトカムのOS中央値は、PC群(16.1ヵ月、95%信頼区間[CI]:14.0~17.9)と比べてPCB群(18.8ヵ月、15.9~22.6)で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.77、95%CI:0.62~0.95、p=0.0167)。 なお、PFSもPCB群で有意な改善が認められた(9.2ヵ月 vs.7.3ヵ月、HR:0.61、95%CI:0.50~0.71、p<0.0001)。 Grade3/4の有害事象の報告は、全体ではPCB群158/222例(71%)、PC群139/224例(62%)であった。PC群と比べてPCB群では、Grade3以上の高血圧症(51/222例[23%] vs.0例)、血栓イベント(13/222例[6%] vs. 2/224例[1%])の頻度が高かった。

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皮膚T細胞リンパ腫〔CTCL : cutaneous T cell lymphoma〕

1 疾患概要■ 概念・定義皮膚T細胞リンパ腫は、菌状息肉症、セザリー症侯群、原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫など、皮膚を主座とするすべてのT細胞リンパ腫を指す。リンパ節に原発する全身性リンパ腫との鑑別が重要であるが、診断時に皮膚外病変を認めた場合でも、病歴や臨床像から皮膚T細胞リンパ腫と判断することもある。■ 疫学1)皮膚T細胞リンパ腫の発症数日本皮膚悪性腫瘍学会 皮膚がん予後統計委員会によると、2007~2011年における皮膚T細胞リンパ腫の新規発症は年間約260例であった。2)皮膚T細胞リンパ腫の病型皮膚T細胞リンパ腫の病型分類では、菌状息肉症が約50%、原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫とリンパ腫様丘疹症からなる原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症は約10%、皮膚病変が主である成人T細胞白血病・リンパ腫が約7.5%であった。■ 病因皮膚に親和性の高いTリンパ球が悪性化し、主に皮膚で増殖している状態である。成人T細胞白血病・リンパ腫は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)が発症に関与していると考えられている。菌状息肉症は、成人T細胞白血病・リンパ腫と類似した臨床・組織像を取ることが多いため、以前よりウイルス病因説があるが、今のところ原因といえるウイルスは同定されていない。それ以外の皮膚T細胞リンパ腫についても、明らかな病因は不明であるが、免疫抑制状態が病勢の増悪に寄与していると考えられている。■ 症状1)皮膚症状紅斑、局面、腫瘤、紅皮症(全身が紅斑で覆われた状態)、皮下結節、潰瘍、紫斑などを呈する。2)リンパ節腫脹表在リンパ節が腫脹する。腫瘍細胞の増殖によるものと、反応性のものがある。3)末梢血中異型細胞成人T細胞白血病・リンパ腫やセザリー症候群では、末梢血液中に腫瘍細胞が検出されることがある。4)生化学的異常LDH、可溶性IL-2受容体など、悪性リンパ腫のマーカーが高値を示す。菌状息肉症・セザリー症候群では、血清中のTARC(thymus and activation-regulated chemokine)が病勢を反映することが知られている。5)発熱・体重減少・盗汗(B症状)B症状を示すことは、皮膚T細胞リンパ腫では一般的にまれであるが、進行例で陽性になることがある。■ 分類菌状息肉症、セザリー症候群、原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症(原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫とリンパ腫様丘疹症)、成人T細胞白血病・リンパ腫、皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫(非特定)、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫、原発性皮膚CD4陽性小・中細胞型T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD8陽性進行性表皮向性細胞傷害性T細胞リンパ腫などがある。■ 予後予後は病型分類と病期によって異なる。菌状息肉症全体の5年生存率は約90%であるが、早期例(病期 IA)の疾患特異的5年生存率は98%である。一方、リンパ節病変もしくは内臓病変を有する病期IVでは、5年生存率が約20%である。セザリー症候群の5年生存率は約25%であり、成人T細胞白血病・リンパ腫、原発性皮膚γδT細胞リンパ腫では、5年生存率が算出不能なほど予後不良である。原発性皮膚CD30陽性リンパ増殖症は、5年生存率が90%以上であるという報告が多く、生命予後良好な病型である。皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫、原発性皮膚CD4陽性小・中細胞型T細胞リンパ腫なども予後良好であるが、これらは疾患概念の変遷があり、過去の論文を読む際は注意を要する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)身体診察、皮膚生検・リンパ節生検(HE染色、免疫染色、サザンブロットまたはPCRによるモノクロナリティの検索)、血液検査(血算、目視による血液像、LDH、可溶性IL-2受容体、フローサイトメトリー)、骨髄穿刺、画像検査(胸部X線、腹部エコー、胸腹骨盤部CT、FDG-PET)などから総合的に判断する。紅斑、局面が主体の皮膚T細胞リンパ腫の鑑別診断としては、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、扁平苔癬などの皮膚疾患や薬疹などが挙げられる。腫瘤や皮下結節が主体のものは、有棘細胞がんや悪性腫瘍の皮膚転移などが鑑別となる。潰瘍や紫斑を主症状とする皮膚T細胞リンパ腫では、血管炎が鑑別疾患となる。いずれも病理組織が診断の決め手となる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)治療は病型分類と病期によって異なる。一般的に予後良好な皮膚T細胞リンパ腫では、ステロイド外用、紫外線、外科的切除、放射線療法などの局所療法が主体となる。予後不良な病型では全身化学療法、骨髄移植などの治療が選択される。■ 菌状息肉症・セザリー症候群(図1)菌状息肉症とセザリー症候群が同一の疾患であるか、いまだに議論があるが、病期分類は同じものが使用されており、治療法も基本的には共通である。紅斑、局面が主体の早期の症例では、ステロイド外用、紫外線を中心に治療するが、治療抵抗例ではレチノイドやインターフェロンを併用する。局所的に放射線療法を用いることもある。腫瘤が多発している症例では、当初からこれらの治療を組み合わせた集学的治療を行う。紅皮症では体外光化学療法が推奨されるが、わが国で行っている施設はほとんどない。リンパ節や内臓病変を伴う場合は、化学療法がメインとなる。若年者の場合は同種造血幹細胞移植も考慮する。画像を拡大する■ 原発性皮膚未分化大細胞リンパ腫(図2)皮膚病変が限局している場合は、外科的切除や放射線療法を検討する。これらの治療が有効でない場合、単剤化学療法を考える。皮膚病変が広範囲に多発している場合、出現消退を繰り返しているか否かが重要となる。皮疹の出現消退があれば、リンパ腫様丘疹症と考えられるため、経過観察や紫外線照射を行う。症状が増悪する場合、単剤化学療法を考える。広範囲に多発している皮膚病変に消退傾向がなければ、最初から単剤化学療法を考える。単剤化学療法の実施が難しい場合、あるいは効果が不十分な病変に対し、放射線療法を考慮してよい。皮膚外病変がある場合は、多剤併用化学療法を行う。実施が困難な場合、あるいは効果が不十分な病変に対し、放射線療法を考慮する。画像を拡大する■ 成人T細胞白血病・リンパ腫(図3)ここでは、予後不良因子のない慢性型もしくはくすぶり型で、皮膚病変があるものに対する治療法を述べる。一般的に、紫外線もしくは放射線療法を用いる。これらが無効の場合、レチノイド、インターフェロン、単剤化学療法の併用を考慮する。定期的に採血を行い、急性転化を見逃さないように注意する。画像を拡大する■ それ以外の病型病変が皮膚に限局している場合、ステロイド外用、紫外線、外科的切除、放射線療法などの局所療法が主体となる。皮膚外病変がある場合は、全身化学療法、造血幹細胞移植などの治療が選択される。予後不良な病型では、皮膚外病変がなくても化学療法を検討してもよいが、マイナーな病型の場合は経過の予測が難しく、症例ごとに治療法を検討する姿勢が望ましい。4 今後の展望菌状息肉症に対する治療については、レチノイドの一種であるベキサロテン(商品名:タルグレチン)が臨床試験を終了し、現在承認申請中である。また、CCR4陽性の成人T細胞白血病・リンパ腫、再発または難治性の末梢性T細胞リンパ腫および皮膚T細胞リンパ腫に保険適用となっている抗CCR4抗体について、CCR4の発現の有無を問わない治験が、菌状息肉症に対して行われている。成人T細胞白血病・リンパ腫については、予後不良因子を持たない慢性型およびくすぶり型を対象に、インターフェロン-αとジドブジン(AZT 同:レトロビル)の併用療法の臨床試験が行われている。5 主たる診療科皮膚科を中心に血液内科、放射線科と相談して治療を進めていく。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報National Cancer Institute, Mycosis Fungoides and the Sezary Syndrome Treatment(PDQ®).(米国がん研究所の同疾患の診療情報)National Comprehensive Cancer Network (NCCN), NCCN Practice Guidelines in Oncology: Mycosis Fungoides/Sezary syndrome of the cutaneous T-cell lymphomas.(NCCN提供の同疾患のガイドライン: 視聴には会員登録必要)1)Swerdlow SH, et al,editors. WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues ,4th ed.Lyon:IARC Press;2008.2)Sugaya M, et al. J Dermatol.2013;40:2-14.3)日本皮膚科学会/日本皮膚悪性腫瘍学会編. 科学的根拠に基づく皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン 第2版.金原出版;2015.公開履歴初回2013年08月01日更新2016年01月05日

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