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口内炎がつらいです【非専門医のための緩和ケアTips】第92回

口内炎がつらいですがん診療の進展に伴い、診療所の先生が基幹病院に通院中の患者さんを診察する機会が増えてきたのでは、と思います。抗がん剤治療の副作用対策は大きく進歩しましたが、まだつらい症状を訴える患者さんが多い副作用の1つが「口内炎」です。今回の質問私の外来患者が抗がん剤治療のために基幹病院に通院しています。私の外来で診察する際に、口内炎に対する対応を相談されたのですが、あまり経験がなく良いアドバイスができませんでした…。口内炎に苦しむ患者さんの様子を見ると、こっちもつらくなりますよね。口内炎は抗がん剤治療や分子標的薬の副作用として頻繁に発症します。一般的な化学療法では発症率は10%程度ですが、頭頸部がんの化学放射線療法では、さらに高頻度で見られます。ご質問にある患者さんが「すでに口内炎を発症しているのか」は不明ですが、まずは「予防」について考えてみましょう。口内炎の予防には口腔ケアが非常に重要です。口腔内の衛生を保ち、湿潤環境を維持するため、定期的に水分を口に含むことを指導しましょう。また、義歯の調整が必要な場合やその他の専門的な歯科治療が必要な場合は、歯科受診を推奨します。これらの予防策は患者さんの協力が重要ですので、がん治療の開始前から取り組むようアドバイスすると良いでしょう。口内炎ができてしまった場合には、口内炎の発症のタイミングや治療内容から、「がん治療関連の口内炎」か「その他の原因によるものか」を判断します。口内炎で問題になる症状の多くは口腔内の痛みです。多くの方は物理的刺激による口内炎を経験しているでしょう。あの痛みがさらに広範にあることを想像すると、そのつらさが想像できるかと思います。口内炎に対する薬剤は、症状や患者さんの状態に応じて選択します。内服が困難な場合には、口腔用軟膏や口腔用液が有用です。痛みが強い場合には、がん疼痛治療に準じて薬剤を調整します。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が効果を示すケースもあるため、腎機能障害や他の副作用に注意しつつ投与を検討することも1つの選択肢です。また、がん疼痛治療に用いられるオピオイドについても触れておきます。オピオイドは、口内炎の痛み緩和に一定の効果がありますが、通常、モルヒネ換算で60mg/日を超える投与が必要となることは少ない印象です。もしオピオイドの効果が乏しい場合には、カンジダなど感染症の合併として発症しているケースや、心理的要因(例:不安)が関与している可能性を考慮する必要があります。今回のTips今回のTipsがん治療に関連した口内炎、「予防」と「治療」の両方が大切です。

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RA合併肺がんに対するICI治療を考える【肺がんインタビュー】第107回

第107回 RA合併肺がんに対するICI治療を考える自己免疫疾患を合併するがん患者の治療においては、がん治療と自己免疫疾患の管理が複雑に絡み合う。とくに、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)などのがん免疫療法では、不明点が多い。そのような中、大阪南医療センターの工藤 慶太氏らがリウマチ(RA)合併肺がんのICI治療に関するリアルワールド試験を行った。自己免疫疾患合併がん、治療のジレンマ自己免疫疾患合併がんはがん治療医を悩ませる。がん治療による自己免疫疾患悪化、自己免疫抑制治療によるICIの有効性低下、自己免疫疾患の免疫亢進による免疫関連有害事象(irAE)発現といったClinical Questionに答えはない。画像を拡大する自己免疫疾患のなかでも頻度の高いRA患者は、一般集団に比べて発がんリスクが高い。とくに悪性リンパ腫、肺がんで多いと報告されており1)、肺がん患者のRA合併率は5.9%との報告もある2)。「自己免疫疾患イコールICI適用外」ではないICIは固形がんの生存予後に大きく関わり、今や治療に欠かせない。そのため、がん治療医はICIを使いたいと考える。しかし、自己免疫疾患合併がんにおけるICI治療に関しては前向きなデータがない。米国リウマチ学会(ACR)、日本リウマチ学会いずれのガイドラインにもICIの記載はない。がん免疫療法の使用を妨げるべきではなく、ベースラインの免疫抑制レジメンは可能な限り低用量にして維持する必要があるとする欧州リウマチ学会(eular)ステートメント、Annals of Oncology誌で発表された自己免疫疾患合併がんにおけるICI使用指針(レビュー)が数少ない指標だ。そういう状態の中、工藤氏は、さまざまなレトロ研究を分析し、自己免疫疾患イコールICI適用外というわけではない、という判断に至る。画像を拡大する工藤氏が所属する国立病院機構 大阪南医療センターは、年間約2,500名のRA診療が行われており、腫瘍内科医として以前からRA合併がん患者を診療する機会が多かったという。そのような中、あるIV期のリウマチ合併肺がん患者に関し、リウマチ主治医から「RAはコントロールするから、がんを何とかして欲しい」と依頼される。南大阪の5病院で後ろ向き試験を行う工藤氏は、まったくデータがない中、自施設でデータをまとめ出した。それが、南大阪の5病院でRA合併進行肺がんに対するICIの安全性と有効性を検証する後ろ向き試験に繋がった。この試験はリアルワールド研究なので、リウマチの治療内容も、ICIの治療内容も多種多様である。この試験の最も大きな特徴は、RAの疾患活動性が把握できている点である。実際に解析対象に含まれた疾患活用性のあるRAは81%にのぼる。「既報では疾患活動性のあるRAの割合は20〜30%、活動性RA合併例をこれだけ反映しているデータは貴重」と工藤氏は言う。画像を拡大する研究の結果、リウマチが急性に増悪(フレア)しても、きちんとコントロールすれば、ICI治療が継続できるICI投与後にRAのフレアを認めた症例は22例中9例(41%)。フレアはICI投与後早期に起こっている。ただ、フレアした9例中7例はICIを継続できている(ICI中止1例、一時中止1例)。工藤氏は「フレアしても、RAをきちんとコントロールすれば、ICI治療は継続できた」と結論する。画像を拡大するICIの治療効果については、少数例のレトロスペクティブ研究であるが、一般的なICIの効果と比較して劣るというようなデータではないという。治療継続期間は1年を超えており、「多くの症例で治療継続できていると示されたことには大きな意味がある」と工藤氏は指摘する。irAEについては、22例中9例(41%)に発現した。irAE発現4割程度という数値は、海外データと同等であり、免疫活動性のある日本の患者であってもirAEは必ずしも高くならないという結果だ。つまり、ICI投与によってリウマチの増悪やirAEが増えても、管理できれば、ICIの治療効果は非自己疾患非合併例と変わらないことになる。画像を拡大するがん治療医は必ずしもリウマチ治療の経験が深いとは言えない。また、リウマチ専門医も多くの方はがん治療についての知識・理解が十分とは言えない。たとえば、リウマチの場合、安定していれば3ヵ月に1回程度の外来で済むが、ICIを使う場合は短期フォローが必要である。「免疫の専門医とがん治療の専門医で治療方針についてすり合わせていくことが重要」と工藤氏は言う。 RA合併がんにおけるRA治療の方針工藤氏らは自施設の治療の方針も提案している。この方針はがん治療開前と開始後について、IC I+化学療法とICI単独に分けて作成されている。(詳細は下図)原則として、がん治療開始前・開始後ともはリウマチのステロイドはできるだけ低用量にして継続し、DMARDsを中止する。がん治療開始後にRA症状が悪化したら、ICI治療に拮抗するとされるアバタセプトと、がん発生リスクのあるJAK阻害薬を除いたDMARDsを再開。さらにコントロール不良の場合は、がん免疫に悪影響をおよぼさないとされるIL-6阻害薬を第一選択として用いる。画像を拡大する画像を拡大する自己免疫疾患合併がん患者にもICIの恩恵を十分に与えるICIは固形がんの生存予後に大きく関わり、今や治療に欠かせない薬剤である。RA合併肺がんの治療に十分なエビデンスがあるとは言えないが、「エビデンスだけを考えてしまうと、本来治療できる患者も治療を受けられない危惧がある」と工藤氏は言う。自己免疫疾患治療医と連携して、自己免疫疾患合併がん患者にもICIの恩恵を十分受けられるよう努めるべきであろう。参考1)LK Mercer, et al.Rheumatology (Oxford).2012;52:91-98.2)Khan SA, et al. JAMA Oncol.2016;2:1507-1508.

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「2024年のOncology注目トピックス」(肺がん編)【肺がんインタビュー】第106回

第106回 「2024年のOncology注目トピックス」(肺がん編)近年の肺がん薬物治療は、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)に加え、抗体薬物複合体や二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE抗体)をはじめとした二重特異性抗体などの新規薬剤の開発、さらにこれらを駆使した薬物治療の進歩は目覚ましく、より多くの肺がん患者が治癒/長期生存を目指せる時代となってきた。2024年は多くのpractice changingな臨床試験が学会/論文発表され、本邦における「肺癌診療ガイドライン2024年版」でも数多くの新規治療が推奨されている。本稿では、これらの中でも現在/将来の実臨床に直結し得る報告について整理し概説する。[目次]1.TNM分類の改訂2.早期NSCLC(EGFR/ALK陰性の場合)2-1.II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のペムブロリズマブ(KEYNOTE-671試験)2-2.II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のニボルマブ療法(CheckMate 77T試験)2-3.2025年以降の切除可能NSCLC(EGFR/ALK陰性例)に対する周術期治療の展望2-4.IB~IIIA期完全切除後ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対する術後アレクチニブ単剤療法(ALINA試験)3.切除不能III期NSCLC3-1.切除不能III期EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するCRT後のオシメルチニブ(LAURA試験)4.進行期EGFR遺伝子変異陽性NSCLC4-1.未治療進行期EGFR遺伝子変異NSCLCに対するアミバンタマブ+lazertinib併用療法(MARIPOSA試験)4-2.オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+化学療法±lazertinib(MARIPOSA-2試験)5.進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLC5-1.未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するロルラチニブ単剤療法(CROWN試験)6.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLC6-1.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するレポトレクチニブ単剤療法(TRIDENT-1試験)6-2.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するtaletrectinib単剤療法(TRUST-I試験)7.小細胞肺がん(SCLC)7-1.限局期SCLC(LS-SCLC)に対する同時CRT後のデュルバルマブ(ADRIATIC試験)1.TNM分類の改訂肺がんのTNM分類は、国際対がん連合(UICC)/米国がん合同委員会(AJCC)によって7年おきに改訂されており、第8版は2017年から施行されていた。2023年の世界肺癌学会(WCLC)で第9版のTNM分類が発表され、2024年にJournal of Thoracic Oncology誌に報告されている(Rami-Porta R, et al. J Thorac Oncol. 2024;19:1007-1027. )。本邦においても2024年12月末に「肺癌取扱い規約 第9版」が発刊となっており、2025年1月より発効されている。T/N/M各因子の主な変更点は以下のとおり。T因子変更なしN因子N2(同側縦隔かつ/または気管分岐下リンパ節への転移)がN2aとN2bに細分化N2a:単一のリンパ節stationへの転移、N2b:複数のリンパ節stationへの転移M因子M1c(胸腔外の1臓器または多臓器への多発遠隔転移)がM1c1とM1c2に細分化M1c1:胸腔外の1臓器への多発転移、M1c2:胸腔外の多臓器への多発転移これらの分類変更に伴い、病期分類も改訂(図1)がなされている。これにより、第8版と第9版でステージングが異なる可能性がある(図2)ため、注意されたい。図1 肺がんTNM分類の第9版のステージングの概要画像を拡大する(筆者作成)図2 肺がんTNM分類の第8版と第9版の相違点画像を拡大する(筆者作成)周術期治療のさまざまな治療開発が進む中で、第9版では、より切除可能性を意識した分類であると言える。ただし、欧州がん研究治療機構肺がんグループ(EORTC-LCG)によるIII期非小細胞肺がん(NSCLC)の切除可能性に関するサーベイ(図3)では、回答者によって切除可能性の考えが異なるサブセットもあり(例:multi-station N2(N2b)のIII期症例)、個々の症例ごとに多職種チーム(Multidisciplinary team)で協議することが求められる。図3 III期NSCLCにおけるTNMサブセットと切除可能性評価に関するサーベイ概要画像を拡大する(Houda I, et al. Lung Cancer. 2024;199:108061. より筆者作成)2.早期NSCLC(EGFR/ALK陰性の場合)2-1. II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のペムブロリズマブ(KEYNOTE-671試験)II~IIIB期(第8版)の切除可能なNSCLC患者に対して、抗PD-1抗体であるペムブロリズマブの術前化学療法への上乗せと術後の単独追加投与(最大1年間)による有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるKEYNOTE-671試験の中間解析(追跡期間中央値25.2ヵ月)において、無イベント生存期間(EFS)の有意な延長(ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.46~0.72、p<0.001、中央値:未到達vs.17.0ヵ月)が認められたことが2023年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表され、New England Journal of Medicine誌に同時報告された(Wakelee H, et al. N Engl J Med. 2023;389:491-503. )。この試験の主要評価項目はEFSと全生存期間(OS)のco-primaryとなっており、片側α=0.025をEFS、OS、病理学的著効(mPR)、病理学的完全奏効(pCR)に分割し、厳密に制御されたデザインである(EFS:α=0.01、OS:α=0.0148、mPR:α=0.0001、pCR:α=0.0001)。2024年にはLancet誌にフォローアップ期間を延長(追跡期間中央値36.6ヵ月)したアップデート報告がなされ(Spicer JD, et al. Lancet. 2024;404:1240-1252. )、ペムブロリズマブ群におけるOSの有意な延長が示された(HR:0.72、95%CI:0.56~0.93、中央値:未到達vs.52.4ヵ月、p=0.00517)。なお、サブグループ解析では、PD-L1発現が高い患者やステージがより進行した患者でEFSのリスク軽減が認められている。また、治療関連有害事象は両群間で差は認められなかった(重篤な有害事象の頻度:17.7% vs.14.3%)。また、2024年12月のESMO Immuno-Oncology Congress(ESMO-IO)で報告された4年フォローアップデータ(追跡期間中央値:41.1ヵ月)においても、OS延長の傾向は維持されている(HR:0.73、95%CI:0.58~0.92)。KEYNOTE-671試験の結果から、2023年10月に米国食品医薬品局(FDA)の承認が得られ、本邦では2024年8月に国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得している。「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、臨床病期II~IIIB期(第9版、N3を除く)に対して、術前にプラチナ製剤併用療法とペムブロリズマブを併用し、術後にペムブロリズマブの追加を行う治療が弱く推奨されている(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)。2-2. II~IIIB期NSCLCに対する術前・術後のニボルマブ療法(CheckMate 77T試験)II~IIIB期(第8版)の切除可能なNSCLC患者に対して、抗PD-1抗体であるニボルマブの術前化学療法への上乗せと術後の単独追加投与(最大1年間)による有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるCheckMate 77T試験の中間解析(追跡期間中央値25.4ヵ月)において、EFSの有意な延長(HR:0.58、97.36%CI:0.42~0.81、p<0.001、中央値:未到達vs.18.4ヵ月)が認められたことが2023年の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表され、New England Journal of Medicine誌に2024年に報告された(Cascone T, et al. N Engl J Med. 2024;390:1756-1769. )。副次評価項目であるpCR/mPR割合もニボルマブ群で向上が認められた(ニボルマブ群 vs.化学療法群:pCR 25.3% vs.4.7%[オッズ比:6.64、95%CI:3.40~12.97]、mPR 35.4% vs.12.1%[オッズ比:4.01、95%CI:2.48~6.49])。前述のKEYNOTE-671試験と同様に、PD-L1発現が高い患者やステージがより進行した患者でEFSのリスク軽減が認められた。これらの試験結果から、2024年10月にFDAの承認が得られている(本邦では2025年1月時点で未承認)。2024年のESMOでは、追跡期間中央値33.3ヵ月のアップデート報告が発表(ESMO2024、LBA50)され、引き続きEFSのベネフィットが示されている(HR:0.59、95%CI:0.45~0.79、中央値:40.1ヵ月 vs.17.0ヵ月)。また、2024年のWCLCでは、ニボルマブの術後投与の必要性を検討するために術前投与(CheckMate 816試験)と、術前・術後投与(CheckMate 77T試験)を両試験の患者背景を傾向スコアによる重み付け解析で調整することにより比較した研究が報告された(WCLC 2024、PL02.08)。CheckMate 77T群の患者では1回以上の術後ニボルマブを投与された患者のみが対象となっており、術後ニボルマブ投与が何らかの理由で困難であった患者は潜在的に除外されている点(CheckMate 77T群で有利な患者選択になっている可能性)には注意が必要であるが、周術期ニボルマブは術前のみのニボルマブに対して手術時点からのEFSを改善し(重み付けありのHR:0.61、95%CI:0.39~0.97)、とくにPD-L1陰性例や、non-pCR例で術後ニボルマブ投与の意義がある可能性が示唆されている。2-3. 2025年以降の切除可能NSCLC(EGFR/ALK陰性例)に対する周術期治療の展望2025年1月現在、NSCLCに対するICIを用いた周術期治療として、本邦ではCheckMate 816レジメン(術前ニボルマブ)、KEYNOTE-671レジメン(周術期ペムブロリズマブ)、IMpower010レジメン(術後アテゾリズマブ)が選択可能である(図4)。術前治療を行うレジメンにおいても、CheckMate 816レジメンとKEYNOTE-671レジメンでは術後治療の有無のみだけでなく、プラチナ製剤の種類や術前治療のサイクル数など細かな違いがあり(表1)、国内の各施設において、内科・外科双方で周術期の治療戦略方針を議論しておく必要があるだろう。また、EGFR遺伝子変異陽性例やALK融合遺伝子陽性例でもICIを用いた周術期治療が有効かどうか、PD-L1発現や術後のpCR/mPRステータス別の治療戦略など争点は未だ多く残っており、さらなるエビデンスの蓄積が求められる。さらに、IIIA-N2期のNSCLCを切除可能として周術期治療を行うか、切除不能として化学放射線療法(CRT)を行うかの判断は非常に難しい。2013~14年の国内のIIIA-N2期のNSCLCに対する治療実態調査(Horinouchi H, et al. Lung Cancer. 2024;199:108027. )では、周術期化学療法が行われたのは約25%であり、約59%はCRTが選択された。CRTが選択された患者で切除不能とされた主要な理由は、転移リンパ節数が多いことであり(71%)、周術期ICI戦略の登場によってこの勢力図が今後どのように変化していくか注視したい。図4 主要な周術期治療戦略の概略図画像を拡大する(筆者作成)表1 主要な術前ICIの臨床試験の患者背景の違い画像を拡大する(筆者作成)2-4. IB~IIIA期完全切除後ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対する術後アレクチニブ単剤療法(ALINA試験)完全切除後のALK融合遺伝子を有するIB~IIIA期(第7版)NSCLCに対して、術後補助療法としてアレクチニブ(1,200mg/日を2年間内服)とプラチナ併用療法を比較したALINA試験の結果が2023年のESMOで発表され、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Wu YL, et al. N Engl J Med. 2024;390:1265-1276. )。試験の注意点として、アレクチニブの用量が国内の進行期の承認用量(600mg/日)よりも多いことが挙げられる。主要評価項目である無病生存期間(DFS)は、II~IIIA期、IB~IIIA期の順に階層的に検証され、それぞれ有意な延長が示された(II~IIIA期のHR:0.24、95%CI:0.13~0.45、p<0.0001、IB~IIIA期のHR:0.24、95%CI:0.13~0.43、p<0.0001)。また、脳転移再発を含む中枢神経系イベントのDFSの延長も示されている(HR:0.22、95%CI:0.08~0.58)。ALINA試験の結果から、2024年4月にFDA承認が得られ、本邦では2024年8月に国内適応追加承認を取得している。また、「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、ALK融合遺伝子陽性の術後病理病期II~IIIB期(第9版)完全切除例に対して、従来の術後補助療法(プラチナ併用療法)の代わりとしてアレクチニブによる治療を行うよう弱く推奨されている(推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)。今後は術後の時点でALK(およびEGFR)のステータスを確認することが求められる。3.切除不能III期NSCLC3-1. 切除不能III期EGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するCRT後のオシメルチニブ(LAURA試験)切除不能なEGFR遺伝子変異陽性III期NSCLCでCRT終了後に病勢進行のない患者に対するオシメルチニブ地固め療法の有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるLAURA試験の主解析およびOSに関する第1回中間解析の結果が2024年のASCOで発表され、同年New England Journal of Medicine誌に報告された(Lu S, et al. N Engl J Med. 2024;391:585-597. )。試験デザインでは、オシメルチニブを永続内服する必要があった点に留意が必要である。主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)はオシメルチニブ群で有意に延長し(HR:0.16、95%CI:0.10~0.24、p<0.001、中央値:39.1ヵ月vs.5.6ヵ月)、オシメルチニブ群で脳転移や肺転移などの遠隔転移再発が少ないことが示された(脳転移:8% vs.29%、肺転移:6% vs.29%)。OSは未成熟(成熟度20%)であり、プラセボ群では約8割が再発後にオシメルチニブの投与を受けており、今後のOSでも有意な延長が確認されるかどうかは長期フォローアップデータが待たれる。有害事象面では、放射線肺臓炎はオシメルチニブ群で数値的に多い(48% vs.38%)ものの、ほとんどがGrade2以下であった。なお、本試験には日本人が30例登録されており、日本人サブセットデータが2024年の日本肺癌学会で報告され、日本人サブセットにおいてもLAURA試験の全体集団の結果と一致したことが報告されている。また、日本人では肺障害が懸念されるものの、Grade3以上の放射線肺臓炎の頻度はわずか(4%、30例中1例のみ)であった。LAURA試験の結果から、2024年9月にFDA承認されており、本邦では2025年1月時点で未承認であるが、2024年7月に国内承認申請済みであり、そう遠くない未来には本邦でも使用可能な戦略になることが期待される。4.進行期EGFR遺伝子変異陽性NSCLC4-1. 未治療進行期EGFR遺伝子変異NSCLCに対するアミバンタマブ+lazertinib併用療法(MARIPOSA試験)未治療のEGFR遺伝子変異(exon19欠失変異あるいはL858R変異)陽性NSCLCに対する、アミバンタマブ(EGFRとMETの二重特異性抗体)とlazertinibの併用療法の有効性・安全性をオシメルチニブ単剤(およびlazertinib単剤)と比較した国際無作為化第III相試験であるMARIPOSA試験の第1回中間解析結果が2023年のESMOで発表され、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Cho BC, et al. N Engl J Med. 2024;391:1486-1498. )。アミバンタマブ+lazertinib群でオシメルチニブ群と比較して有意なPFSの延長が示された(HR:0.70、95%CI:0.58~0.85、p<0.001、中央値:23.7ヵ月vs.16.6ヵ月)。2024年のASCOでは高リスクの患者背景(肝転移、脳転移、TP53変異陽性など)を持つサブグループでもアミバンタマブ+lazertinibのPFSベネフィットがあることが示され、論文化されている(Felip E, et al. Ann Oncol. 2024;35:805-816. )。OSについては未だ未成熟ではあるものの、同年のWCLCでアップデート報告(追跡期間中央値:31.1ヵ月)(WCLC 2024、OA02.03)が発表され、アミバンタマブ+lazertinib群のOS中央値は未到達、HRは0.77(95%CI:0.61~0.96、p=0.019)とアミバンタマブ+lazertinib群でこれまで絶対的な標準治療であったオシメルチニブ単剤療法を上回る可能性が示唆されている。2025年1月には、OSが統計学的有意かつ臨床的に意義のある延長を示したとのプレスリリースが出ており、2025年内の報告が期待される。もっとも、アミバンタマブを用いることで皮膚毒性や浮腫、インフュージョンリアクションや静脈血栓症など配慮すべき有害事象は増えるため、リスクベネフィットを踏まえた治療選択や、適切な毒性管理が求められる。この試験結果から、2024年8月にFDA承認が得られており、本邦では2024年4月に承認申請中である。4-2. オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+化学療法±lazertinib(MARIPOSA-2試験)アミバンタマブを用いた治療戦略は既治療例でも検討されており、オシメルチニブ耐性後のEGFR遺伝子変異(exon19欠失変異あるいはL858R変異)陽性NSCLCに対するアミバンタマブ+プラチナ併用療法±lazertinibの有効性・安全性を化学療法(カルボプラチン+ペメトレキセド)と比較した無作為化オープンラベル第III相試験であるMARIPOSA-2試験の第1回中間解析結果が2023年のESMOで発表され、2024年にAnnals of Oncology誌に報告されている(Passaro A, et al. Ann Oncol. 2024;35:77-90. )。主要評価項目であるPFSは、アミバンタマブ+化学療法およびアミバンタマブ+化学療法+lazertinibにより、化学療法のみと比較して有意に延長したことが示された(HRはそれぞれ0.48、0.44、共にp<0.001、中央値はそれぞれ6.3、8.3、4.2ヵ月)。2024年のESMOでは第2回中間解析結果が発表され、追跡期間中央値18.1ヵ月時点におけるOS中央値は、統計学的な有意差は認めなかったものの、アミバンタマブ+化学療法群で化学療法群よりも延長する傾向にあった(HR:0.73、95%CI:0.54~0.99、p=0.039、中央値:17.7ヵ月vs.15.3ヵ月)。この試験結果から、2024年9月にFDAの承認(アミバンタマブ+化学療法のみ)が得られており、本邦では2024年5月に承認申請中である。5.進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLC5-1. 未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCに対するロルラチニブ単剤療法(CROWN試験)PS0~1の未治療進行期ALK融合遺伝子陽性NSCLCを対象として、ロルラチニブ単剤療法とクリゾチニブ単剤療法を比較した国際共同非盲検ランダム化第III相試験であるCROWN試験において、ロルラチニブによって主要評価項目であるPFSの有意な延長が2020年に示されていた(HR:0.28、95%CI:0.19~0.41、p<0.001、中央値:未到達vs.9.3ヵ月)(Shaw AT, et al. N Engl J Med. 2020;383:2018-2029. )。2024年に報告された同試験の長期フォローアップ報告(観察期間中央値60.2ヵ月)でも、PFS中央値は未到達であった(Solomon BJ, et al. J Clin Oncol. 2024;42:3400-3409. )。5年時点での中枢神経イベントフリー割合はロルラチニブでクリゾチニブよりも著明に高く(92% vs.21%)、高い頭蓋内制御効果が確認された。一方、ロルラチニブによる認知機能障害や気分障害などの中枢神経関連有害事象(全Gradeで約40%)に対しては慎重なマネジメントが求められる。この試験結果から、「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、2023年から推奨度が変更となり、PS0~1のALK融合遺伝子陽性、進行NSCLCの1次治療として、ロルラチニブ単剤療法を行うよう強く推奨されている(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:B)。(※アレクチニブは推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:A、ブリグチニブは推奨の強さ:2、エビデンスの強さ:B)6.進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLC6-1. 進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するレポトレクチニブ単剤療法(TRIDENT-1試験)ROS1融合遺伝子陽性のNSCLCを含む進行固形がん患者を対象に、ROS1-TKIであるレポトレクチニブの有効性と安全性を評価した第I/II相試験であるTRIDENT-1試験の結果は、2023年のWCLCで初回報告され(WCLC 2023、OA03.06)、2024年にNew England Journal of Medicine誌に報告された(Drilon A, et al. N Engl J Med. 2024;390:118-131. )。ROS1-TKI未治療例が71例、既治療例が56例登録され、レポトレクチニブ単剤治療(1日1回160mgを14日間内服後、1回160mgを1日2回内服)により、主要評価項目であるORRは未治療例で79%、既治療例で38%、PFS中央値は未治療例で35.7ヵ月、既治療例で9.0ヵ月であったと報告された。また、この薬剤は分子量が小さいことから、ATP結合部位へ正確かつ強力に結合することができ、クリゾチニブなど従来のROS1-TKIの耐性変異として問題となるG2032R変異を有する患者においても59%に奏効が認められた。ただし、主な治療関連有害事象として、めまい(58%)など中枢神経系の有害事象には注意が必要である(治療関連有害事象による中止は3%)。この試験の結果から、2024年6月にFDA承認が得られ、本邦では2024年9月に国内製造販売承認を取得している。また、「肺癌診療ガイドライン2024年版」では、ROS1融合遺伝子陽性、進行NSCLCの1次治療として、レポトレクチニブを含むROS1-TKI単剤療法を行うよう強く推奨されている(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:C)(※ROS1-TKIの薬剤の推奨度は同列)。6-2. 進行期ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対するtaletrectinib単剤療法(TRUST-I試験)2024年のASCOでは、新規ROS1チロシンキナーゼ阻害薬であるtaletrectinib単剤療法の有効性、安全性を検証した単群第II相のTRUST-I試験の結果が報告(ASCO 2024、#8520)され、Journal of Clinical Oncology誌に同時掲載されている(Li W, et al. J Clin Oncol. 2024;42:2660-2670. )。ROS1-TKI未治療症例において奏効割合91%、頭蓋内奏効割合88%、PFS中央値23.5ヵ月と良好な成績を示した。クリゾチニブ既治療症例においても、奏効割合52%、頭蓋内奏効割合73%と良好な結果であった。主な有害事象はAST上昇(76%)や下痢(70%)であり、高い中枢神経移行性を持つ一方で、前述のレポトレクチニブと異なり中枢神経系の有害事象が比較的少ないことが特徴である。taletrectinibが神経栄養因子受容体(TRK)よりもROS1に対して酵素的選択性を示すことが起因していると考えられる。なお、TRUST-I試験は中国国内の単群試験であったが、国際共同単群第II相試験であるTRUST-II試験でも同様の結果が再現されたことが2024年のWCLCで報告されている(WCLC 2024、MA06.03)。これらの試験結果から、taletrectinibはFDAの優先審査対象となり現在審査中である。表2 主なROS1-TKIの治療成績、有害事象のまとめ画像を拡大する(筆者作成)7.小細胞肺がん(SCLC)7-1. 限局期SCLC(LS-SCLC)に対する同時CRT後のデュルバルマブ(ADRIATIC試験)I~III期の切除不能LS-SCLCに対する同時CRT後に病勢進行のない患者に対するデュルバルマブ地固め療法(最大2年間)の有効性および安全性を検証した二重盲検プラセボ対照第III相ランダム化比較試験であるADRIATIC試験の第1回中間解析の結果が2024年のASCOで発表され、同年New England Journal of Medicine誌に報告された(Cheng Y, et al. N Engl J Med. 2024;391:1313-1327. )(デュルバルマブ群の他、デュルバルマブ+トレメリムマブ群も存在するが、現時点で盲検化されている)。デュルバルマブ群はプラセボ群より有意にOS、PFS(co-primary endpoints)を延長した(OSのHR:0.73、98.321%CI:0.54~0.98、p=0.01、中央値:55.9ヵ月vs.33.4ヵ月、PFSのHR:0.76、97.195%CI:0.59~0.98、p=0.02、中央値:16.6ヵ月vs.9.2ヵ月)。肺臓炎/放射線肺臓炎はデュルバルマブ群で38.2%、プラセボ群で30.2%(Grade3/4はそれぞれ3.1%、2.6%)に発現し、免疫関連有害事象は全Gradeでそれぞれ32.1%と10.2%であった(Grade3/4はそれぞれ5.3%、1.4%)。本試験では同時CRT時の放射線照射の回数は1日1回と1日2回のいずれも許容されていた。本試験では1日1回照射を受けた患者の方が多く(約7割)、国によっては放射線照射を外来で行うことが主流であることが一因と考えられる。2024年のESMOで照射回数によるサブグループ解析結果が報告されており(ESMO 2024、LBA81)、いずれの照射回数においてもデュルバルマブ群でOS、PFSを改善することが確認されているが、1日2回照射の方がデュルバルマブ群、プラセボ群双方においてOS、PFSの絶対値が長いことも示されている。また、本試験には日本人が50例登録されており、日本人サブセットデータが2024年の日本肺癌学会で報告され、同時CRT後のデュルバルマブ地固め療法は日本人集団においても臨床的に意義のあるOSの改善が示されている。ADRIATIC試験の結果から、2024年12月にFDAで承認された。本邦では2025年1月時点で未承認であるが、LAURA試験レジメンと同時に国内承認申請済みであり、今後の承認が期待される。おわりに2024年に学会/論文発表された臨床試験のうち、国内ガイドラインで推奨された治療、および今後推奨が予想される治療を中心に解説した。2024年は切除可能な早期から進行期までさまざまな病期の肺がんにおける新知見が報告された印象的な1年であったと言える。本稿では詳しく取り上げなかったが、その他にも2024年に国内で新規承認されたレジメンは多く、表3にまとめた。2025年以降も肺がんの治療の進歩がさらに加速していくことを期待したい。表3 2024年に国内承認された、あるいは2025年内に承認が予想されるレジメン画像を拡大する(筆者作成)【2024年の学会レポート・速報】

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サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024)レポート

レポーター紹介San Antonio Breast Cancer Symposium 2024が12月10〜13日の間、ハイブリッド開催されました。100ヵ国を超える国々から計1万1,000人以上の参加者があり、乳がん治療の最適化、予防・早期発見、薬剤開発、トランスレーショナルリサーチ、バイオロジー等多岐にわたる視点から多くの発表が行われました。今年は、今後の診療に影響を与える興味深い結果も多く報告されました。話題となったいくつかの演題をピックアップして今後の展望を考えてみたいと思います。全身治療EMBER3試験(ER+/HER2-進行乳がん):NEJM掲載1)アロマターゼ阻害薬単剤またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中もしくは治療後に病勢進行が認められたER+/HER2-進行乳がん患者において、経口SERDであるimlunestrant単剤治療およびアベマシクリブとの併用治療の有用性を検討したランダム化比較第III相試験です。対象患者874例が、imlunestrant群、標準内分泌療法群(エキセメスタンまたはフルベストラント)、imlunestrant+アベマシクリブ群に、1対1対1の割合で無作為化されました。前治療として1/3が術後治療のみの治療歴、2/3が進行乳がんに対して1ライン治療後、55.5%に内臓転移があり、59.8%がCDK4/6阻害薬による治療歴を有していました。ESR1変異陽性患者は32~42%、PI3K経路変異は約40%にみられました。主要評価項目は、治験医師評価による無増悪生存期間(PFS)で、ESR1変異陽性患者および全集団においてimlunestrant群と標準内分泌療法群を比較し、また全集団においてimlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の比較が行われました。本試験の結果、ESR1変異陽性患者256例において、PFS中央値はimlunestrant群5.5ヵ月vs. 標準内分泌療法群3.8ヵ月、ハザード比(HR):0.62(95%信頼区間[CI]:0.46~0.82、p<0.001)とimlunestrant群で38%のPFS改善がみられました。全集団(Imlunestrant群と標準内分泌療法群の計661例)では、PFS中央値はimlunestrant群5.6ヵ月vs.標準内分泌療法群5.5ヵ月、HR:0.87(95%CI:0.72~1.04、p=0.12)と統計学的有意差を認めませんでした。imlunestrant+アベマシクリブ群とimlunestrant群の計426例におけるPFS中央値は、それぞれ9.4ヵ月vs.5.5ヵ月、HR:0.57(95%CI:0.44~0.73、p<0.001)とimlunestrant+アベマシクリブ群で43%のPFS改善を認めました。PFSのサブグループ解析の結果は、ESR1変異有無、PI3K経路変異有無、CDK4/6阻害薬による治療歴の有無にかかわらずimlunestrant+アベマシクリブ群で良好でした。同じSERDでもフルベストラント(筋注)とimlunestrant(経口)でなぜ効果が違うのでしょうか? ESR1変異細胞株を用いたin vitroの実験ではフルベストラントとimlunestrantの効果は変わらないことが知られています2)。この違いは投与経路によるbioavailabilityの差によるものと考えられており、臨床上効果の差はEMERALD試験、SERENA-2試験、aceIERA試験、ELAINE 1試験でも同様の傾向がみられます。本試験では2次治療でのimlunestrant±アベマシクリブの有効性を示したものですが、全生存期間(OS)の結果がimmatureであること、imlunestrant+アベマシクリブ群の40%がCDK4/6阻害薬の初回投与であること等を考慮すると慎重な解釈が必要です。経口SERDへのスイッチのタイミング、CDK4/6阻害薬・PI3K経路阻害薬のシークエンス、ESR1/PIK3CA dual mutation carrierの治療戦略構築は今後の課題といえるでしょう。PATINA試験(HR+/HER2+転移乳がん)抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+タキサンによる導入療法後に病勢進行がみられないHR+/HER2+転移乳がん患者における維持療法として抗HER2療法+内分泌療法へのパルボシクリブ追加の有用性を検討したランダム化比較第III相試験です。本試験は、サイクリンD1-CDK4の活性化が抗HER2療法の耐性に関与しており、CDK4/6阻害薬と抗HER2療法の相乗効果が前臨床モデルで認められた3)という背景をもとにデザインされています。6~8サイクルの抗HER2療法(トラスツズマブ±ペルツズマブ)+タキサン導入療法後に病勢進行がなかった対象患者518例が、トラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法+パルボシクリブ(パルボシクリブ追加群)とトラスツズマブ±ペルツズマブ+内分泌療法(抗HER2療法+内分泌療法群)に1対1に無作為化されました。患者特性として97%がペルツズマブを投与され、71%が周術期治療で抗HER2療法の治療歴を有し、導入療法の全奏効率(ORR)は69%でした。主要評価項目は治験医師評価によるPFSでした。本試験の結果、PFS中央値は、パルボシクリブ追加群44.3ヵ月vs.抗HER2療法+内分泌療法群29.1ヵ月(HR:0.74、95%CI:0.58~0.94、p=0.0074)で、パルボシクリブ追加群における有意なPFS改善がみられました。PFSのサブグループ解析では、ペルツズマブ投与や周術期治療としての抗HER2療法歴の有無、導入療法への反応や内分泌療法の種類によらず、パルボシクリブ追加群で良好でした。本試験に日本は参加していませんが、導入療法後のPFSが15.2ヵ月延長した点において、世界的にはpractice changingである結果です。本試験で注目されたのは、まずコントロール群である抗HER2療法+内分泌療法群のPFS中央値が29.1ヵ月とCLEOPATRA試験に比べ、非常に良好である点です(CLEOPATRA試験のPFS中央値18.7ヵ月)。本試験のデザインの特徴として導入療法後に病勢進行がない患者を組み入れ対象としており、この時点で早期PD症例(CLEOPATRA試験では20~25%が早期PD)が除外され、比較的予後良好症例に絞られています。また維持療法中の内分泌療法がCLEOPATRA試験では許容されておらず、本試験は対象をHR+/HER2+に絞り、内分泌療法が全例に行われた点も良好なPFSに寄与していると考えられます。またパルボシクリブ追加群ではPFS中央値が44.3ヵ月と大きく延長し、HR+/HER2+転移乳がんにおけるCDK4/6阻害薬追加の有用性が示されましたが、副次評価項目のOSはimmatureですので最終解析が待たれます。今後はHR+/HER2+転移乳がんで導入療法の化学療法を省略できるのか、導入療法がADC製剤となった場合の維持療法、その他の標的治療(PI3K阻害薬、SERDs、PARP阻害薬等)の併用等が議論の焦点となるでしょう。また、どのサブタイプにもいえることですが、治療レスポンスガイド、分子バイオマーカーによる症例選択により、治療の最適化を図るのは非常に重要なポイントとなります。ZEST試験(早期乳がん)トリプルネガティブ乳がん(TNBC)または腫瘍組織のBRCA病的バリアント(tBRCAm)を有するHR+/HER2-乳がん患者(StageI~III)を対象に標準治療終了後、血中循環腫瘍DNA(ctDNA)検査を2~3ヵ月ごとに行い、ctDNA陽性かつ画像的再発が検出されていない患者に対するPARP阻害薬ニラパリブの有効性を検討するランダム化比較第III相試験です。初めての血中の微小転移(MRD)を標的とした大規模第III相試験ということで注目を集めましたが、本試験は残念ながら無作為化に必要な十分な症例数が得られず早期終了しました。早期終了に至った経緯ですが、標準治療終了後、ctDNAサーベイランスに登録された症例1,901例のうち、147例(8%)がctDNA陽性となり、73例(ctDNA陽性症例の50%)が画像的再発を認め組み入れ対象外となりました。最終的にニラパリブ群およびプラセボ群への無作為化に進んだ症例は40例(2%)とごくわずかとなったためです。少数での解析にはなりますが、ctDNA陽性症例の中でTNBCが92%、tBRCAmを有するHR+/HER2-乳がんが8%、Stage IIIが54%でした。TNBCでctDNA陽性となった症例の約60%が標準治療終了後から6ヵ月以内にctDNA陽性となっており、かなり早い段階からMRDが検出されると同時に約半数に画像的再発を認めました。解釈には注意を要しますが、無再発生存期間(RFS)中央値は、ニラパリブ群11.4ヵ月vs.プラセボ群5.4ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.32~1.36)でした。本試験からはMRDに基づいた治療介入の有用性は示されませんでしたが、今後の試験デザインを組むうえで多くのヒントを残した試験といえます。今後は、よりハイリスク症例を組み入れる等の対象の選定、TNBCにおいてはより早期(術前化学療法直後)からのMRD評価、より感度の高いMRD検出法の確立等の課題が挙げられ、MRDを標的とした術後のより個別化された治療戦略構築が望まれます。局所治療INSEMA試験:NEJM掲載4)乳房温存療法を受ける予定の浸潤性乳がん患者で、腫瘍径≦5cmのcT1/2、かつ臨床的リンパ節転移陰性(cN0)の患者に対する、腋窩手術省略とセンチネルリンパ節生検の前向きランダム化比較試験(非劣性試験)です。対象患者5,154例が無作為化を受け、4,858例がper-protocol解析集団となりました。腋窩手術省略群とセンチネルリンパ節生検群に1対4で割り付けられました(腋窩手術省略群962例、センチネルリンパ節生検群3,896例)。主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)で腋窩手術省略群のセンチネルリンパ節生検群に対する非劣性マージンは、5年iDFS率が85%以上で、浸潤性疾患または死亡のHRの95%CIの上限が1.271未満と規定されました。患者特性は50歳未満の患者は10.8%と少なく、cT≦2cmの症例が90%、96%がGrade1/2、95%がHR+/HER2-乳がんでした。また、センチネルリンパ節生検群では3.4%に微小転移、11.3%に1~3個の転移、0.2%に4個以上の転移を認めました。本試験の結果、観察期間中央値73.6ヵ月、per-protocol集団における5年iDFS率は腋窩手術省略群91.9% vs.センチネルリンパ節生検群91.7%、HR:0.91(95%CI:0.73~1.14)であり、腋窩手術省略群のセンチネルリンパ節生検群に対する非劣性が証明されました。主要評価項目のイベント(浸潤性疾患の発症または再発、あるいは死亡)は525例(10.8%)に発生しました。腋窩手術省略群とセンチネルリンパ節生検群の間で、遠隔転移再発率に差はなく(2.7% vs.2.7%)、腋窩再発発生率は腋窩手術省略群で若干高いという結果でした(1.0% vs.0.3%)。副次評価項目の5年OS率は腋窩手術省略群98.2% vs.センチネルリンパ節生検群96.9%、HR:0.69(95%CI:0.46~1.02)と良好な結果でした。安全性については、腋窩手術省略群はセンチネルリンパ節生検群と比較して、リンパ浮腫の発現率が低く、上肢可動域が大きく、上肢や肩の動きに伴う痛みが少ないという結果でした。表:SOUND試験とINSEMA試験の比較画像を拡大する乳房温存療法におけるcN0症例の腋窩手術省略の可能性を検討したSOUND試験、INSEMA試験の結果から、閉経後(50歳以上)、cT≦2cm、HR+/HER2-、Grade1~2といった限られた対象で腋窩手術省略は検討可能であることが示唆されました。一方、閉経前、TNBC、HER2陽性乳がん、小葉がん、cT2 以上、Grade3については試験に組み入れられた症例数が少なくデータが不十分であること、腋窩のstagingが術後治療選択に関わることを踏まえるとセンチネルリンパ節生検を行うことが妥当であると考えられます。SUPREMO試験乳房全切除術を行った「中間リスク」浸潤性乳がん(pT1/2N1M0、pT3N0M0、pT2N0M0かつGrade3±リンパ管侵襲あり)の乳房全切除後放射線照射(PMRT、胸壁照射のみ)の有用性を検討する前向きランダム化比較試験です。EBCTCGのメタアナリシス(1964~1986)では腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRTにより領域リンパ節再発率、乳がん死亡率を減少させることが報告されています6)。この解析はアロマターゼ阻害薬、抗HER2療法やタキサンが普及する前の解析であり、現在の周術期薬物療法の各再発率低減への寄与が高まる中、放射線療法の相対的な意義が低下している可能性があります。一方でPMRTを安全に省略できる条件については一定の見解はなく、今回のSUPREMO試験(2006~2013)は現代の周術期薬物療法が行われた浸潤性乳がんにおけるPMRTの有用性を改めて検証した試験となります。対象患者1,679例が胸壁照射なし群と胸壁照射あり群に、1対1の割合で無作為化されました。患者特性としてpN0が25%、腋窩リンパ節転移1個陽性が40%、腋窩リンパ節転移陽性症例には腋窩郭清(8個以上腋窩リンパ節を摘出)が行われました。本試験の結果、10年OS、無病生存期間(DFS)、MDFSに関してはPMRT(胸壁照射のみ)の有用性は認めませんでした。胸壁再発に関しては腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRT(胸壁照射のみ)の有用性がわずかながら示されました(HR:0.30、95%CI:0.11~0.82、p=0.01)。局所再発率に関しては腋窩リンパ節転移1~3個陽性でPMRT(胸壁照射のみ)の有用性がわずかながら示されました(HR:0.51、95%CI:0.27~0.96、p=0.03)。本試験の結果からpT2N0M0かつGrade3±リンパ管侵襲ありの症例に対するPMRT(胸壁照射のみ)の有用性は10年の観察期間内では証明されませんでした。pT3N0M0症例は11例しか含まれておらずPMRT(胸壁照射のみ)の有用性については不明です。さらに腋窩リンパ節転移1~3個陽性症例でのPMRT(胸壁照射のみ)による絶対的リスク低減効果はわずかであり、多遺伝子解析を含めた腫瘍の生物学的リスク、リンパ節転移個数等を加味し、症例選択のうえPMRTの省略を検討できる可能性があります。また近年、腋窩リンパ節に対する縮小手術のデータが蓄積されてきているため、腋窩手術と放射線治療間でのバランスも検討が必要であり、過不足のない周術期治療戦略を練る必要があります。最後に本学会に参加して、多くの演者が“One size does not fits all.”とコメントしていたのが印象的です。早期乳がんに関しては局所療法のde-escalationが進む中、腫瘍のバイオロジー・リスクに応じた全身治療の最適化(de-escalation/escalation)が検討されており、治療選択肢も増えて混沌としてきています。転移・再発乳がんに関しては治療のラインに伴い経時的に変化しうる腫瘍の性質をいかに捉え、病勢をコントロールするかさまざまな薬剤の組み合わせ、シークエンスを含めたエビデンスの構築が必要です。安全に周術期治療、転移・再発治療の最適化を行うためにも、乳がんのバイオロジーの理解、多職種連携により包括的に患者の病態を捉え、治療を行っていく必要性があると考えられます。参考1)Jhaveri KL, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 11. [Epub ahead of print]2)Bhagwat SV, et al. Cancer Res. 2024 Dec 9. [Epub ahead of print]3)Goel S, et al. Cancer Cell. 2016;29:255-269.4)Reimer T, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 12. [Epub ahead of print]5)Gentilini OD, et al. JAMA Oncol. 2023 Nov 01;9:1557-1564.6)EBCTCG (Early Breast Cancer Trialists' Collaborative Group) . Lancet. 2014;383:2127-2135.

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高腫瘍量濾胞性リンパ腫1次治療に対するモスネツズマブ皮下注の評価(MITHIC-FL1)/ASH2024

 高腫瘍量濾胞性リンパ腫(HTB-FL)の1次治療に対する、CD20/CD3二重特異性抗体モスネツズマブ皮下注射の多施設第II相試験の結果が第66回米国血液学会(ASH2024)で発表された。 初発進行期のHTB-FLでは、抗CD20抗体併用化学療法が行われる。一方、近年の研究で、FLは深い免疫抑制状態を特徴とし、腫瘍内のT細胞の機能不全が臨床経過に影響するとの報告もある1)。そのような中、CD3陽性T細胞に、CD20陽性FL細胞を認識させ排除させるCD20/CD3二重特異性抗体が、FL治療の鍵を握る選択肢2)として期待される。・試験デザイン:第II相多施設試験・対象:未治療のCD20陽性Stege II~IVのHTB-FL(Grade1~3A)GELF規準により治療が必要とされる患者・介入:mosunetuzumab 21日サイクル(1サイクル目:day1に5mg、day8、15に45mg、2~8サイクル:45mg)→完全奏効(CR)症例:経過観察、部分奏効症例:45mgを17サイクルまで継続投与、PR未満症例:試験中止・評価項目【主要評価項目】CR割合(Lugano分類による効果判定)【副次評価項目】奏効割合(ORR)、安全性、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)など 主な結果は以下のとおり。・2022年6月~2024年7月に78例が登録された。・カットオフ(2024年11月1日)時点の追跡期間中央値は13.3ヵ月。・有効性評価対象76例のORRは96%で、CR割合は80%であった。86%(65例)の患者が最小でも80%の腫瘍量減少を示した。・12ヵ月推定PFS割合は91%であった。・12ヵ月CR割合は90%であった。・12ヵ月推定OS割合は99%であった。・頻度の多い(≧20%)治療中発現有害事象(TEAE)は、注射部位反応(70%)、感染症(56%)、サイトカイン放出症候群(CRS)(54%)、発疹、皮膚乾燥などであった。・CRSを発現した症例は42例、そのうち40例はGrade1、残りの2例はGrade2だった。CRSの48%が1サイクルのday1に発現していた。・免疫細胞関連神経毒性症候群(ICANS)、腫瘍崩壊症候群は認められなかった。

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HR+乳がん、dose-dense術後補助化学療法が有益な患者の同定/JCO

 リンパ節転移陽性のエストロゲン受容体陽性(ER+)乳がん患者の一部は化学療法による効果が小さいことを示すエビデンスが増えてきている。米国・ダナファーバーがん研究所のOtto Metzger Filho氏らは、術後補助化学療法におけるdose-dense化学療法の有用性を検討したCALGB 9741試験において、12年間のアウトカムおよび内分泌療法への感受性を示すSET2,3スコアによりdose-dense化学療法が最も有益と考えられる患者を同定した。Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年1月2日号に掲載。 CALGB 9741試験は1,973例がdose-dense化学療法群と通常化学療法群に無作為に割り付けられた。化学療法スケジュールと予後および効果予測の交互作用のハザード比(HR)は、長期の無病生存期間(DFS)と全生存期間(OS)のCoxモデルから推定した。内分泌転写活性を示すバイオマーカーであるSET2,3の検査はER+乳がん女性のRNAサンプル682個に実施した。 主な結果は以下のとおり。・dose-dense化学療法は、全集団においてDFSを23%改善し(HR:0.77、95%信頼区間[CI]:0.66~0.90)、OSを20%改善した(HR:0.80、95%CI:0.67~0.95)。・dose-dense化学療法の有益性はER+およびER-のサブセットで認められ、治療群とERの状態との間に有意な交互作用は認められなかった。・SET2,3スコアが低いと予後不良だったが、閉経状態に関係なくdose-dense化学療法による予後は改善した(交互作用のp:DFS 0.0998、OS 0.027)。具体的には、内分泌転写活性が低いことがdose-dense化学療法の有益性を予測した。しかし、分子サブタイプによる腫瘍負荷および増殖によるシグネチャーは予測しなかった。 本研究の結果、SET2,3スコアがdose-dense化学療法の有益な患者を同定し、具体的には、腫瘍負荷、分子サブタイプ、閉経状態よりも、内分泌転写活性の低さでその有益性が予測されることが示唆された。

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乳がん手術におけるセンチネルリンパ節生検の省略、全身治療選択への影響は?(解説:下村昭彦氏)

 現在、臨床的にリンパ節転移陰性(cN0)の患者の手術の際には、センチネルリンパ節生検(SNB)を実施し腋窩リンパ節郭清の要否を判断している。INSEMA試験は、腫瘍径がcT1またはcT2かつcN0(かつ画像上もN0)の乳がん患者を対象として、SNB省略がSNB実施に対して非劣性であることを検証した試験である。 対象の患者が腋窩操作省略群とSNB群に1:4にランダムに割り付けられた。SNBで陽性だった症例は、さらに腋窩リンパ節郭清実施と非実施に1:1にランダムに割り付けられた。本報告ではSNB実施、非実施の結果が報告された。主要評価項目は無浸潤疾患生存(iDFS)で、ITTではなくper-protocol解析が実施されている。対象期間に5,502例がランダム化され、うち4,858例が解析対象となった(腋窩操作省略962例、SNB 3,896例)。主要評価項目の5年iDFSは腋窩操作省略群91.9%(95%CI:89.9~93.5)、SNB群91.7%(90.8~92.6)、ハザード比(HR)0.91(95%CI:0.73~1.14)であった。非劣性マージンの1.271を下回っており、腋窩操作省略のSNBに対する非劣性が示された。 本研究の結果から、今後臨床的に低リスクと考えられる症例(50歳以上のホルモン受容体陽性HER2陰性で、腫瘍グレード1または2)の患者に対してSNB省略が実施される可能性はある。一方、かつてリンパ節郭清の代替手段として腋窩リンパ節への放射線照射の非劣性を証明したAMAROS試験では、リンパ浮腫などの有害事象が軽減するにもかかわらず世界中で広く実施されているとは言い難い。少なくとも日本国内では治療選択肢の1つと考えられてはいるが、標準治療とはなっていない。『乳癌診療ガイドライン』でもFRQの扱いである。 腋窩リンパ節郭清の省略については代替治療手段、放射線治療の場合の最適な照射野など、まだ解決しなければならない課題が多いが、腋窩操作そのものの省略は薬物療法の選択にも大きな影響を及ぼす。腋窩操作の省略は臨床的にリスクが低い患者を対象として行われるが、実臨床ではcN0と評価していても術後に多数のリンパ節転移が見つかる症例もまれではない。リンパ節転移の個数は化学療法を実施するかどうかの判断(Kalinsky K, et al. N Engl J Med. 2021;385:2336-2347.)、あるいは内分泌療法のエスカレーションの判断(Johnston SRD, et al. J Clin Oncol. 2020;38:3987-3998.、Toi M, et al. Lancet Oncol. 2021;22:74-84.)、遺伝性乳がん・卵巣がんの術後のPARP阻害薬使用の判断(Tutt ANJ, et al. N Engl J Med. 2021;384:2394-2405.)など、多くの薬物療法における重要なリスク因子となっている。腋窩操作省略が一般化されるには、エスカレーションの対象とならない患者を正確に診断できる画像診断技術の進歩が不可欠であろう。

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乳がん患者の脱毛に対するミノキシジル投与は安全かつ効果的

 発毛剤のロゲインやリアップの有効成分であるミノキシジルを化学療法の最中や治療後に服用すると、多くの乳がん患者で発毛が促され、心臓関連の重大な副作用も認められなかったとする研究結果が報告された。脱毛症の治療薬として知られるミノキシジルは、血管拡張作用により血圧を下げる効果も有することから高血圧の治療薬としても用いられている。しかし、この血管拡張作用が化学療法に伴う心臓関連の副作用を増大させ、胸痛、息切れ、体液貯留などを引き起こすのではないかと懸念されていた。米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部のDevyn Zaminski氏らが、NYUランゴン・ヘルスの資金提供を受けて実施したこの研究の詳細は、「Journal of the American Academy of Dermatology」に12月3日掲載された。 Zaminski氏らは、化学療法の副作用の一つである脱毛は、女性によっては、自信を失うほどの苦痛を引き起こすこともあり、脱毛を恐れて化学療法を思いとどまる患者もいると言う。今回の研究では、2012年から2023年までのNYUランゴン・ヘルスの電子記録システムを用いて、女性の乳がん患者に対するミノキシジル投与の安全性と有効性が検討された。対象は、脱毛症治療薬として処方された経口ミノキシジルを1カ月以上服用し、薬の忍容性に関するデータがカルテに記録されていた51人。このうちの25人は化学療法に加えて手術や放射線治療の組み合わせを、26人は手術または放射線治療のみを受けていた。 その結果、医師による評価と患者の自己報告の両方から、低用量の経口ミノキシジルを服用した全ての患者で、治療開始後3~6カ月以内に発毛の改善または脱毛の安定化が確認されたことが明らかになった。追加の治療や入院を必要とするような深刻な心臓関連の副作用が生じた患者はいなかった。NYUグロスマン医学部のKristen Lo Sicco氏は、「本研究により、ミノキシジルは患者にとって安全であり、効果的であることが明らかになった。ミノキシジルの有効性は、外見的に自分らしさを失った患者が、それを取り戻し、自分をある程度コントロールできるようになる助けとなる可能性がある」と述べている。 ただし、研究グループは、軽度の体液貯留といった心臓関連の副作用の中には、患者が気が付かない無症候性のものもあるため申告されておらず、その結果、患者の健康記録に記録されていなかった可能性があると指摘している。また、医師と患者による評価の一部が自己申告または観察によるものであることも、本研究の限界の一つであるとしている。 Lo Sicco氏は、「さらなる研究でこれらの結果を確認するとともに、ミノキシジルが他の種類のがん患者や異なる化学療法を受けている患者にも安全かどうかを確かめる必要がある」と述べている。

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早期/局所進行TNBCの術前補助療法、camrelizumab追加でpCR改善/JAMA

 早期または局所進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者の術前補助療法において、化学療法単独と比較して化学療法に抗PD-1抗体camrelizumabを追加すると、病理学的完全奏効(pCR)の割合を有意に改善し、術前補助療法期に新たな安全性シグナルは発現しなかったことが、中国・復旦大学上海がんセンターのLi Chen氏らが実施した「CamRelief試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年12月13日号に掲載された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 CamRelief試験は、早期または局所進行TNBCの術前補助療法におけるcamrelizumab追加の有益性の評価を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2020年11月~2023年5月に中国の40病院で患者を登録した(Jiangsu Hengrui Pharmaceuticalsの助成を受けた)。 年齢18~75歳、StageIIまたはIIIの浸潤性TNBCの女性(性別は自己申告)で、乳がんに対する全身治療を受けておらず、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance-status(ECOG PS、0~5点、点数が高いほど機能障害が重度)のスコアが0または1点の患者を対象とした。 これらの患者を、術前補助療法(24週間)として、化学療法(2週ごと)との併用でcamrelizumab(200mg、2週ごと)またはプラセボの静脈内投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。化学療法は、最初の16週間はnab-パクリタキセル(100mg/m2)とカルボプラチン(曲線下面積[AUC]1.5)を28日間(1サイクル)の1、8、15日目に投与し、次の8週間はエピルビシン(90mg/m2)とシクロホスファミド(500mg/m2)を2週ごとに投与した。その後、手術を行い、術後補助療法として、camrelizumab群はcamrelizumab 200mgを2週ごとに最長1年間投与+標準治療、プラセボ群は標準治療のみを受けた。 主要評価項目はpCRで、両乳房とリンパ節に浸潤性腫瘍がない状態(ypT0/Tis ypN0)と定義した。副次評価項目のデータは不十分 441例(年齢中央値48歳[範囲:22~75]、StageIII 158例[35.8%]、リンパ節転移あり331例[70.5%])を、camrelizumab群(222例)またはプラセボ群(219例)に無作為に割り付けた。camrelizumab群の198例(89.2%)とプラセボ群の200例(91.3%)が手術を受けた。無作為化後の追跡期間中央値は14.4ヵ月(範囲:0.0~31.8)だった。 pCRを達成した患者は、プラセボ群で98例(44.7%)であったのに対し、camrelizumab群では126例(56.8%)と有意に達成患者割合が高かった(達成率の群間差:12.2%、95%信頼区間[CI]:3.3~21.2、片側p=0.004)。 データカットオフ(2023年9月30日)の時点で、副次評価項目である無イベント生存、無病生存、遠隔無病生存のデータは不十分であったが、18ヵ月無イベント生存率はcamrelizumab群86.6%、プラセボ群83.6%(ハザード比:0.80、95%CI:0.46~1.42)、12ヵ月無病生存率はそれぞれ91.9%および87.8%(0.58、0.27~1.24)、12ヵ月遠隔無病生存率は91.9%および88.4%(0.62、0.29~1.33)だった。 また、手術前の画像上の奏効は、camrelizumab群が194例(87.4%)、プラセボ群は181例(82.6%)で達成された(群間差:4.7%、95%CI:-1.8~11.1)。術後補助療法期にも新たな安全性シグナルは認めない 術前補助療法期に、Grade3以上の有害事象はcamrelizumab群198例(89.2%)、プラセボ群182例(83.1%)に発現した。両群とも血液毒性が主で、白血球数の減少がそれぞれ73.4%および67.6%、好中球数の減少が80.2%および77.2%、貧血が30.2%および21.9%に認めた。また、重篤な有害事象は、それぞれ77例(34.7%)および50例(22.8%)に発現し、camrelizumab群で致死的有害事象を2例(0.9%)に認めた。 camrelizumab群では、205例(92.3%)に免疫関連有害事象を認め、21例(9.5%)がGrade3以上であった。最も頻度が高かったのはreactive capillary endothelial proliferation(195例[87.8%])で、このうちGrade3以上は5例(2.3%)だった。 また、術後補助療法期のcamrelizumabの継続投与では、Grade3以上の有害事象、重篤な有害事象、免疫関連有害事象に関して、新たな安全性シグナルは認めなかった。 著者は、「これらの結果を先行研究と統合すると、とくに高リスクの患者における強力化学療法レジメンと併用した場合のcamrelizumabの有益性が示され、早期または局所進行TNBCの新たな治療選択肢となる可能性を支持する知見と考えられる」としている。

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FGFR-TKIエルダフィチニブ、FGFR3遺伝子異常陽性の尿路上皮がんに承認/J&J

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は、2024年12月27 日、FGFRチロシンキナーゼ阻害薬エルダフィチニブ(商品名:バルバーサ)について、「がん化学療法後に増悪したFGFR3遺伝子変異又は融合遺伝子を有する根治切除不能な尿路上皮癌」を効能又は効果として、製造販売承認を取得した。 今回の承認は、1次または2次治療で病勢進行が認められた標的FGFR遺伝子異常陽性の切除不能尿路上皮がんを対象に、エルダフィチニブの有用性を評価する第III相非盲検無作為化多施設共同試験THOR試験のコホート1の結果に基づくもの。 同試験の中間解析時における全生存期間中央値は、化学療法群7.8ヵ月に対し、エルダフィチニブ群12.1ヵ月と、エルダフィチニブ群で有意に改善した(ハザード比:0.64、95%信頼区間:0.47〜0.88、p=0.005)。 この中間解析の結果に基づき、独立データモニタリング委員会は試験を中止を勧告した。本試験で観察されたエルダフィチニブの安全性プロファイルは、これまでの報告に一貫したものだった。

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ペムブロリズマブ、進行再発子宮体がんの1次治療に承認/MSD

 MSDは、2024年12月27日、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)が、進行再発子宮体がんに対する化学療法との併用療法において、国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表した。 今回の製造販売承認事項一部変更承認は、化学療法歴のない進行再発子宮体がん患者810例(日本人7例を含む)を対象に、ミスマッチ修復正常(pMMR)588例またはMMR欠損(dMMR)222例に分け、ペムブロリズマブ・化学療法(パクリタキセル+カルボプラチン)併用療法およびペムブロリズマブ単独維持療法の有用性を検討した国際共同第III相試験KEYNOTE-868/NRG-GY018試験の結果に基づいている。 同試験において、pMMRおよびdMMR、いずれの集団でもペムブロリズマブ群は、プラセボ群と比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に延長した(pMMR集団のPFSのハザード比[HR]:0.57、95%信頼区間[CI]:0.44〜0.74、p<0.0001、dMMR集団のPFSのHR:0.34、95%CI:0.22〜0.53、p<0.0001)。 安全性解析対象例382例中365例(95.5%)(日本人2例中2例を含む)に副作用が認められた。主な副作用(20%以上)は、疲労225例(58.9%)、貧血178例(46.6%)、脱毛症163例(42.7%)、悪心146例(38.2%)、末梢性感覚ニューロパチー117例(30.6%)、便秘112例(29.3%)、下痢110例(28.8%)、末梢性ニューロパチー98例(25.7%)、白血球数減少97例(25.4%)、血小板数減少93例(24.3%)、好中球数減少87例(22.8%)および関節痛80例(20.9%)であった。

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診療科別2024年下半期注目論文5選(呼吸器内科編)

Respiratory syncytial virus (RSV) vaccine effectiveness against RSV-associated hospitalisations and emergency department encounters among adults aged 60 years and older in the USA, October, 2023, to March, 2024: a test-negative design analysisPayne AB, et al. Lancet. 2024;404:1547-1559.<リアルワールドにおけるRSウイルスワクチンの有効性>:RSウイルスワクチンはRSウイルス関連の入院および救急外来受診を予防Test Negativeデザインにより、RSウイルスワクチンの60歳以上の成人におけるリアルワールドでの有効性を評価した初めての研究です。本研究により、リアルワールドにおいても、RSウイルス関連の入院や救急外来受診に対するワクチン予防効果が示されました。Cathepsin C (dipeptidyl peptidase 1) inhibition in adults with bronchiectasis: AIRLEAF®, a Phase II randomised, double-blind, placebo-controlled, dose-finding studyChalmers JD, et al. Eur Respir J. 2024:2401551.<AIRLEAF®試験>:気管支拡張症に対するカテプシンC阻害薬投与は最初の増悪までの時間を減少気管支拡張症の成人を対象に、カテプシンC阻害薬BI 1291583の有効性、安全性、および最適用量を評価した第II相無作為化比較試験です。BI 1291583は、最初の増悪までの時間に基づいて用量依存的にプラセボよりも有意な効果を示しました。今後、この薬剤の第III相試験(AIRTIVITY®)も予定されています。Neoadjuvant pembrolizumab plus chemotherapy followed by adjuvant pembrolizumab compared with neoadjuvant chemotherapy alone in patients with early-stage non-small-cell lung cancer (KEYNOTE-671): a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trialSpicer JD, et al. Lancet. 2024;404:1240-1252.<KEYNOTE-671試験>:NSCLCへの周術期ペムブロリズマブ上乗せでOS改善:KN-671長期成績切除可能な早期非小細胞肺がん患者において、周術期のペムブロリズマブ+化学療法は、プラセボ+化学療法と比較して36ヵ月全生存率(71% vs.64%)および無イベント生存期間中央値(47.2ヵ月 vs.18.3ヵ月)を有意に改善しました。Durvalumab after Chemoradiotherapy in Limited-Stage Small-Cell Lung CancerCheng Y, et al. N Engl J Med. 2024;391:1313-1327.<ADRIATIC試験>:限局型小細胞肺がん、デュルバルマブ地固め療法でOS・PFS改善Efficacy and safety of tezepelumab versus placebo in adults with moderate to very severe chronic obstructive pulmonary disease (COURSE): a randomised, placebo-controlled, phase 2a trialSingh D, et al. Lancet Respir Med. 2024 Dec 6. [Epub ahead of print]<COURSE試験>:トリプル吸入療法使用中のCOPD患者を対象としたtezepelumab投与は増悪を改善せずトリプル吸入療法使用中の中等症から最重症COPD患者を対象としたtezepelumabの第IIa相試験の結果が報告されました。主要評価項目である年間中等度/重度増悪率において、プラセボ群との有意差は認められませんでしたが、好酸球数150cells/μL以上のサブグループでは増悪抑制効果がある可能性が示唆されました。

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ダトポタマブ デルクステカン、HR陽性/HER2陰性乳がんに承認/第一三共

 第一三共は、抗TROP-2抗体薬物複合体ダトポタマブ デルクステカン(商品名:ダトロウェイ)について、2024年12月27日、「化学療法歴のあるホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」を適応として日本で製造販売承認を取得したと発表。  同剤は上記(HR陽性/HER2陰性)患者を対象とした第III相臨床試験(TROPION-Breast01)の結果に基づき、承認された。同剤の承認は世界で初めてで、日本においてHR陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳がんを対象とするTROP-2を標的とした薬剤として初めて承認された。・販売名:ダトロウェイ点滴静注用100mg・一般名:ダトポタマブ デルクステカン(遺伝子組換え)・製造販売承認日 :2024年12月27日・効能又は効果:化学療法歴のあるホルモン受容体陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌・用法及び用量:通常、成人にはダトポタマブ デルクステカン(遺伝子組換え)として1回6mg/kgを90分かけて3週間間隔で点滴静注する。初回投与の忍容性が良好であれば2回目以降の投与時間は30分間まで短縮できる。なお、患者の状態により適宜減量する。

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2024年の消化器がん薬物療法の進歩を振り返る!【消化器がんインタビュー】第15回

1)【胃がん】HER2陽性胃がん1次治療、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブの上乗せ効果KEYNOTE-811試験はHER2陽性胃がんに対する1次治療として、化学療法+トラスツズマブにペムブロリズマブ(PEMB)の上乗せ効果を検証するプラセボ使用無作為化第III相試験であり、奏効率(ORR)および無増悪生存期間(PFS)の結果より、欧米においてはすでに臨床導入されている。ESMO2024で全生存期間(OS)の最終解析結果が報告され(#1400O)、同時に論文発表もされた(Janjigian YY, et al. N Engl J Med. 2024;391:1360-1362.)。OSはPEMB群vs.プラセボ群で20.0ヵ月vs.16.8ヵ月と有意に延長し(ハザード比[HR]:0.80、p=0.0040)、PFSも10.0ヵ月vs.8.1ヵ月(HR:0.73)、ORRも72.6% vs.60.1%とPEMB群で良好であった。サブグループ解析では、PD-L1 CPS1以上の場合にはOSが20.1 vs.15.7ヵ月(HR:0.79)、PFSが10.9ヵ月vs.7.3ヵ月(HR:0.72)かつORRが73.2% vs.58.4%(奏効期間中央値:11.3ヵ月vs.9.5ヵ月)とより良好な結果であったのに対し、CPS1未満ではOSが18.2ヵ月vs.20.4ヵ月(HR:1.10)、PFSが9.5ヵ月vs.9.5ヵ月(HR:0.99)、ORRが69.2% vs.69.2%と、PEMBの上乗せ効果が弱まる傾向があった。一方、論文ではCPSのカットオフを10としたサブグループ解析も報告されており、CPS10以上ではOSが19.9ヵ月vs.17.1ヵ月(HR:0.83)、PFSが9.8ヵ月vs.7.8ヵ月(HR:0.74)に対し、CPS10未満ではOSが20.1ヵ月vs.16.5ヵ月(HR:0.83)、PFSが9.8ヵ月vs.7.8ヵ月(HR:0.75)であった。現在、欧米ではHER2陽性かつPD-L1がCPS1以上の症例に対してPEMBの併用が推奨されているが、本邦でどのような条件で保険承認されるのかが注目される。2)【大腸がん】切除不能な大腸がん肝転移に対する化学療法後の肝移植の可能性TransMet試験(NCT02597348)では、原発巣切除後、肝外病変がなく、化学療法を3ヵ月以上かつ3ライン以下投与して効果があった切除不能大腸がん肝転移の患者において、化学療法に続いて肝移植を行った場合と化学療法のみを行った場合が比較された(ASCO2024、#3500)。観察期間中央値は59ヵ月で、主要評価項目であるOSはITT解析でHR:0.37(95%信頼区間[CI]:0.21~0.65)、5年OS率は肝移植群57%、化学療法のみ群13%。per protocol解析でOSのHR:0.16(95%CI:0.07~0.33)、5年OS率は肝移植群73%、化学療法のみ群9%となっていた。切除不能な大腸がん肝転移は化学療法が標準治療だが、TransMet試験により、肝移植をすることで長期予後を得られる可能性が示唆された。日本においても先進医療が現在進行中であり、本邦からのエビデンス創出にも期待したい。3)【大腸がん】MSI-H/dMMRの再発転移大腸がん患者へのニボルマブ+イピリムマブCheckMate 8HW試験(NCT04008030)は、MSI-HまたはdMMRの再発または手術不能な進行大腸がん患者を対象に、ニボルマブ(Nivo)とイピリムマブ(Ipi)の併用投与とNivoの単剤投与、医師選択化学療法(mFOLFOX6またはFOLFILI±ベバシズマブまたはセツキシマブ)を比較した無作為化オープンラベル第III相試験である。医師選択化学療法群で増悪した患者は、Nivo+Ipi併用投与群へのクロスオーバーが認められていた。主要評価項目は、1次治療におけるNivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群のPFSの比較、およびすべての治療ラインにおけるNivo+Ipi併用投与群とNivo単剤投与群のPFSの比較である。ASCO-GI 2024(#LBA768)では、1次治療としてのNivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群のPFSが発表された。観察期間中央値24.3ヵ月でPFS中央値は、Nivo+Ipi併用投与群と医師選択化学療法群で未達(95%CI:38.4~NE)vs.5.9ヵ月(95%CI:4.4~7.8)、HR:0.21(97.91%CI:0.13~0.35、p<0.0001)と有意にNivo+Ipi併用投与群で延長した。1年PFS率は、79% vs.21%、2年PFS率は72% vs.14%と大きな差がついた(Andre T, et al. N Engl J Med. 2024;391:2014-2026.)。近々、Nivo+Ipi併用投与群vs.Nivo単剤投与群における比較の結果報告も予定されており、同対象に対するIO-IO combinationとIO単剤療法による治療成績の違いも楽しみだ。4)【直腸がん】dMMR局所進行直腸がん患者に対するdostarlimabdMMR局所進行直腸腺がん患者に対するdostarlimabは、すでに6ヵ月のdostarlimab投与が完了した最初の14例すべてで臨床的な完全奏効(cCR)が得られ、ORRは100%だったことが報告されている(Cercek A, et al. N Engl J Med. 2022;386:2363-2376.)。ASCO2024においては、投与を完了した42例の結果が追加報告された(#LBA3512)。本試験は、dMMRの臨床病期II期/III期局所進行直腸腺がん患者を対象にdostarlimab 500mgを3週おきに6ヵ月投与し、その後に画像学的な評価および内視鏡評価を行い、cCRが得られた場合は4ヵ月ごとに観察、cCRが得られなかった場合は化学放射線療法や手術を受けるというデザインで実施された。主要評価項目はORR、病理学的完全奏効(pCR)率または12ヵ月後のcCR率であり、試験に参加した48例のうち、T3~T4の患者が8割、リンパ節転移陽性も8割強を占めたが、観察期間中央値17.9ヵ月で、dostarlimabの6ヵ月投与が完了した42例すべてでcCRが得られ、cCR率は100%であった。本邦においてもdMMR局所進行結腸がん患者に対するdostarlimabの臨床試験(AZUR-2試験)が開始されており、日本人に関する治療効果にも期待したい。本邦においてもdMMR局所進行結腸がん患者に対するdostarlimabの臨床試験(AZUR-2)が開始されており、日本人に関する治療効果にも期待したい。また、dMMR局所進行直腸がん患者に対しニボルマブによる術前治療を検討する医師主導治験であるVOLTAGE-2が症例登録中である(https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031220484)。対象患者を認めた際にはぜひ、治験実施施設へご紹介ください。5)【結腸がん】NICHE-2追加報告,局所進行dMMR結腸がんに対する術前Nivo+Ipi療法MSI-High(dMMR)の直腸がんについては、先のdostarlimabをはじめ、術前免疫療法が非常に奏効することが複数報告されている。一方、転移のあるdMMR結腸がんにおいても免疫チェックポイント阻害薬の有用性が報告されており、本邦でも切除不能dMMR結腸がんの1次治療の標準治療はPEMBであり、免疫チェックポイント阻害薬未投与例には2次治療以降でNivo+Ipiも選択可能である。NICHE-2試験は局所進行dMMR結腸がんに対する術前治療としてのNivo+Ipi療法の有効性を探索する単群第II相試験であり、1コース目にNivo+Ipi療法を行い、2コース目にNivo単剤療法を行った後、手術が実施された。主要評価項目は安全性と3年無病生存(DFS)率である。すでに高い病理学的奏効率と安全性は報告されていたが、ESMO2024で3年無病生存(DFS)率とctDNAのデータが報告された(#LBA24)。115例が登録され、T4が65%でT4bが29%、リンパ節転移ありが67%と局所進行例が登録されていた。pCR率は68%、3年DFS率は100%と非常に良好な治療効果が示唆された。ctDNAは治療前の段階では92%で陽性であったが、1コース後に45%が陰性となり、2コース後には83%が陰性となった。術後のctDNAを用いたMRDの探索では、全例がctDNA陰性であった(Chalabi M, et al. N Engl J Med. 2024;390:1949-1958.)。本試験により、局所進行dMMR結腸がんに対するNivo+Ipiは非常に魅力的な治療選択肢であることが示唆された。本治療は2コースで術前治療が終わり、手術まで6週と定義されており、短期間で良好な治療効果を認めている。ESMO2024では、同様の局所進行dMMR結腸がんに対してPEMBの有効性を探索したIMHOTEP試験や、Nivo+relatlimab(抗LAG-3抗体)の併用療法の有効性を探索したNICHE-3試験も報告があった。局所進行MSI-H/dMMR結腸がんの術前治療としての免疫チェックポイント阻害薬の有効性は有望な治療法だが、至適投与期間や単剤/併用療法などについては、今後の検討が待たれる。6)【大腸がん】CodeBreaK 300最終解析KRAS G12C変異陽性の進行大腸がん患者に対する新規分子標的薬combinationCodeBreaK 300試験は、フルオロピリミジン、イリノテカン、オキサリプラチンを含む1ライン以上の治療歴があるKRAS G12C変異陽性の進行大腸がん患者を対象に、High-doseソトラシブ(960mg)とパニツムマブを投与する群、Low-doseソトラシブ(240mg)とパニツムマブを投与する群、医師選択治療群(トリフルリジン・チピラシルとレゴラフェニブから選択)が比較された。主要評価項目は盲検下独立中央判定によるRECISTv1.1に基づくPFSであり、ASCO2024における最終解析でKRAS G12C阻害薬ソトラシブと抗EGFR抗体パニツムマブの併用は、標準的な化学療法よりもOSを延長する傾向があることが報告された(#LBA3510)。High-doseソトラシブ群の医師選択治療群に対するOSのHRは0.70(95%CI:0.41~1.18、p=0.20)、Low-doseソトラシブ群の医師選択治療群に対するOSは0.83(95%CI:0.49~1.39、p=0.50)と、医師選択治療群では後治療として3割の患者がKRAS G12C阻害薬へクロスオーバーしていたにもかかわらず、高用量群で30%のリダクションを認めた。ORRもHigh-doseソトラシブ群で30%(奏効期間10.1ヵ月)、Low-doseソトラシブ群が8%、それに対して医師選択治療群は2%であり、高用量では腫瘍縮小効果が期待された。本邦においても比較的早い時期に臨床実装されることが見込まれており、新たな治療選択肢として期待される。7)【膵消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)】NETTER-2試験(NCT03972488)は、高分化型(G2およびG3)の膵消化管神経内分泌腫瘍(GEP-NET)患者において、1次治療として、従来の標準治療である高用量オクトレオチド長時間作用型(LAR)と「ルテチウムオキソドトレオチド:ルタテラ(177Lu)+低用量オクトレオチドLAR」併用療法とを比較した非盲検無作為化第III相試験である。主要評価項目はPFS、副次評価項目はORR、病勢コントロール率、奏効期間、有害事象(AE)など。対象患者はソマトスタチン受容体陽性(SSTR+)かつG2およびG3のGEP-NETと診断された患者であった。両群でバランスは取れており、原発部位は膵臓(55%)、小腸(30%)、直腸(5%)、胃(4%)、その他(7%)であった。PFS中央値はルタテラ群と対照群でそれぞれ22.8ヵ月vs.8.5ヵ月、HR:0.28(95%CI:0.18~0.42、p<0.0001)とルタテラ群で有意に延長を認め、客観的奏効率は43% vs.9.3%(p<0.0001)とルタテラ群で良好な腫瘍縮小効果を認めた。ルタテラ群と対照群との比較において最もよく見られた(20%以上)全GradeのAEは、悪心(27.2% vs.17.8%)、下痢(25.9% vs.34.2%)、腹痛(17.7% vs.27.4%)であり、Grade3以上のAE(5%以上)はリンパ球数の減少(5.4% vs.0%)であった。進行期GEP-NET(G2/G3)患者における新たな第1選択薬として期待される結果であり、今後、OSおよび長期安全性を含む副次評価項目が報告予定である。

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既治療の小細胞肺がん、承認取得のタルラタマブのアジア人データ(DeLLphi-301)/ESMO Asia2024

 腫瘍細胞上に発現するDLL3とT細胞上に発現するCD3に対する特異性を有するBiTE(二重特異性T細胞誘導)抗体タルラタマブ。既治療の小細胞肺がん(SCLC)患者を対象とした国際共同第II相試験「DeLLphi-301試験」において、タルラタマブ10mg投与例の奏効率は40%、無増悪生存期間(PFS)中央値は4.9ヵ月、全生存期間(OS)中央値は14.3ヵ月と良好な成績を示した1)。本試験の結果に基づき、本邦では2024年12月27日に「がん化学療法後に増悪した小細胞肺癌」の適応で製造販売承認を取得した。また、『肺癌診療ガイドライン2024年版』では、全身状態が良好(PS0~1)な再発SCLCの3次治療以降にタルラタマブを用いることを弱く推奨することが追加されている2)。欧州臨床腫瘍学会アジア大会(ESMO Asia2024)において、DeLLphi-301試験のアジア人集団のpost-hoc解析結果を、赤松 弘朗氏(和歌山県立医科大学 内科学第三講座 准教授)が発表した。 本試験は3つのパートで構成された。対象は、プラチナダブレットを含む2ライン以上の治療歴を有するSCLC患者とした。パート1(用量探索パート)では176例を登録し、タルラタマブ10mg群(88例)と100mg群(88例)に1対1の割合で無作為に割り付け、投与した。パート2(用量拡大パート)では12例を登録し、パート1の結果に基づいてタルラタマブ10mgを投与した。パート3(reduced inpatient monitoringパート)では34例を登録し、タルラタマブ10mgを投与した。 投与方法は、割り付けられた治療群に基づき1日目にタルラタマブ1mgを投与し、8、15日目に10mgまたは100mgを投与、その後は2週ごとに10mgまたは100mgを投与することとした。評価項目は以下のとおりであった。[主要評価項目]ORR[副次評価項目]病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、PFS、OS、安全性など 今回はタルラタマブ10mgを投与されたアジア人集団43例(有効性の解析は41例)の結果が報告された。主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は64.0歳(範囲:43~79)、男性の割合は81%であった。喫煙歴あり/なしの割合は84%/16%で、2ライン/3ライン以上の治療歴を有する割合は65%/35%であった。・ORRは46.3%(全体集団の10mg投与例:40.0%)、DCRは80.5%(同:70.0%)であった。また、DOR中央値は7.2ヵ月で、データカットオフ時点において奏効例の32%(6/19例)が1年以上治療を継続中であった。・PFS中央値は5.4ヵ月であり、6ヵ月PFS率は41.7%、12ヵ月PFS率は21.4%であった。・OS中央値は19.0ヵ月であり、12ヵ月OS率は67.4%、18ヵ月OS率は53.3%であった。・最も多く認められた有害事象は、サイトカイン放出症候群(CRS)で49%に発現したが、全例がGrade1/2であった。CRSのほとんどが1サイクル目に発現した。・免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)は、9.3%に発現したが、全例がGrade1/2であった。ICANSのほとんどが3ヵ月以内に発現した。・治療中止に至った有害事象は認められなかった。 本結果について、赤松氏は「既治療のSCLC患者に対するタルラタマブは、アジア人集団でも新たな安全性に関するシグナルは認められず、持続的な奏効と注目すべき生存成績がみられ、良好なベネフィット/リスクプロファイルを示した」とまとめた。なお、SCLCへのタルラタマブについては、再発SCLC患者を対象としてタルラタマブと化学療法を比較する国際共同第III相試験「DeLLphi-304試験」が進行中である。

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進行期低腫瘍量濾胞性リンパ腫の初回治療、watchful waiting対早期リツキシマブ(JCOG1411/FLORA)/ASH2024

 未治療の進行期低腫瘍量濾胞性リンパ腫(LTB-FL)では、診断後にすぐに治療を行わずに経過を診る、いわゆる無治療経過観察(watchful waiting、WW)が標準治療とされているが、高腫瘍量(HTB)への進行や組織学的形質転換といったリスクが懸念される。 一方、リツキシマブ単剤療法は、LTB-FLに対する初回治療の選択肢としてその有効性が示されているが、同剤を開始する最適な時期は明らかになっていない。そこで、未治療の進行期LTB-FL患者を対象に、WWに対する早期リツキシマブ導入の優越性を検証する無作為化第III相JCOG1411/FLORA試験が行われた。なお、同試験は、2024年6月に事前に計画された2回目の中間解析により、JCOG効果・安全性評価委員会から早期終了が勧告された。同試験の結果を東北大学の福原 規子氏が第66回米国血液学会(ASH2024)で発表した。・試験デザイン:無作為化第III相比較試験・対象:未治療の進行期・超低腫瘍量FL(Grade 1〜3A)※本試験では、GELF規準による低腫瘍量FLを、超低腫瘍量(腫瘍の最大長径が5cm未満、長径3cm以上の腫大リンパ節が2領域以下、胸腹水貯留なし)と、中腫瘍量(最大長径5cm以上7cm未満、長径3cm以上の腫大リンパ節3領域、重篤な胸腹水貯留なし、のうち1つ以上該当)の2つに分け、超低腫瘍量を試験の対象とし、中腫瘍量をリツキシマブ投与規準と定義した。・試験群:リツキシマブ(375mg/m2 day1、8、15、22)(RTX群、144例)・対象群:無治療経過観察 (WW群、148例) 両群とも中腫瘍量に進行した場合はリツキシマブ(375mg/m2 day1、8、15、22)投与・評価項目:【主要評価項目】無イベント生存期間(EFS)(イベント:高腫瘍量(HTB)への進行、細胞傷害性化学療法±放射線療法の開始、組織学的形質転換、または死亡)【副次評価項目】無細胞傷害性化学療法生存期間、無組織学的形質転換生存期間、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、全奏効割合(ORR)、有害事象など 主な結果は以下のとおり。・2016年12月〜2023年3月にJCOGリンパ腫グループ54施設から292例が登録された。・第2回中間解析(データカットオフ2023年12月)の観察期間中央値2.5年時点で、主要評価項目であるEFSにおいて、中央値はRTX群6.9年に対しWW群4.5年であり、有意にRTX群で改善した(HR:0.625、95%CI:0.425~0.918、片側p=0.0078)。・EFSのイベント内訳は、HTBへの進行(RTX群18.8%、WW群32.4%)、組織学的形質転換(RTX群8.3%、WW群12.8%)、化学療法の開始(RTX群11.8%、WW群8.8%)などであった。・PFS中央値はRTX群、WW群とも3.0年で両群間に差はみられなかった(HR:0.911、95%CI:0.666~1.247)。・ORRはRTX群70.8%、WW群3.4%であった。・OS中央値は両群とも未到達、3年OS割合はRTX群97.5%、WW軍98.5%で両群間に差は見られなかった(HR:0.908、95%CI:0.329〜2.506)。・無組織学的形質転換生存期間中央値は両群とも未到達、同3年割合はRTX群91.4%、WW群87.4%であった。・主なGrade2~4の非血液毒性(>5%)はインフュージョンリアクション(RTX群24.1%、WW群8.9%)、上気道感染症(RTX群6.4%、WW群2.1%)、高血圧(RTX群5.7%、WW群1.4%)であり、主なGrade3~4の血液毒性(>5%)はリンパ球減少であった(RTX群11.4%、WW群8.5%)。 以上の結果から福原氏は、未治療の進行期超低腫瘍量FL患者において、リツキシマブ早期介入は高腫瘍量への進行や化学療法の開始時期を遅らせることが示され、OSや組織学的形質転換に関しては長期のフォローアップが必要であるものの、リツキシマブ早期投与は未治療の進行期超低腫瘍量FLの初期治療に推奨されると結んだ。

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順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座【大学医局紹介~がん診療編】

九冨 五郎 氏(主任教授)佐々木 律子 氏(助教)板倉 萌 氏(専攻医)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴順天堂大学乳腺腫瘍学講座は、日本でも数少ない乳腺外科と乳腺内科で構成されている講座です。乳腺診療、とくに乳がん治療においては外科手術と薬物療法は2大治療ツールとされていますが、外科と内科が講座内で連携を取りながら日々診療・研究・教育に取り組んでいます。順天堂大学附属順天堂医院においては、2006年に大学病院では初めて乳腺センターが設立され、センターの診療において中心的な役割を果たしています。順天堂医院の乳腺センターはほかの関連診療科や診療部門と密に連携を取りながら、Patient Firstの精神で1人ひとりの患者さんに寄り添いながら最高の医療を届けられるように日々努力を続けています。当院における乳腺センターの取り組みは日本だけではなく海外からも評価を受け、毎年数多くの見学者を受け入れております。外科治療においては、最先端の機器を用いて新しい治療に取り組んでいます。縮小化にシフトしている外科治療の中でも手術で救える症例は確固たる技術で助けるというコンセプトで皆が精進しています。薬物療法に関しては、最新の臨床試験に数多く参加して最先端の治療を行っています。薬剤選択や薬剤の副作用マネージメントのみならず、再発症例においてはトータルマネージメント(治療、ACP、緩和等)を念頭に診療にあたっています。医局カンファレンス・外来カンファレンスの様子講座の研修先としての魅力 (1)豊富な症例数手術件数は本院で約500件、分院 (練馬・浦安・静岡)と併せて1,000件を超えています。年間の本院での化学療法実施数は3,864件(2023年度)で、治験も多数実施しています。(2)他科・多職種連携が充実診断から治療まで、放射線診断・治療医、病理医、形成外科医 (自家組織および人工乳房再建術)、臨床遺伝専門医 (遺伝カウンセリング外来併設)、腫瘍内科医(がん遺伝子パネル検査)、産科医 (妊孕性温存はリプロダクションセンターと連携)、認定看護師、乳腺科専属超音波技師、がん治療認定薬剤師とチーム医療を実践しています。(3)指導層の充実、各分野のエキスパートによる指導外科分野以外に腫瘍内科と遺伝診療の指導医が在籍。大学院では、幅広い基礎・臨床講座、連携研究施設との共同研究が可能です。医局の雰囲気指導医との距離が近く、相談しやすい雰囲気が特徴です。日常診療に加えて、学会発表や論文執筆の機会も積極的に提供されており、充実したサポート体制が整っています。また、最新の治療情報の共有も活発です。さらに、医師としての成長だけではなく、プライベートとの両立も重視しています。性別や年齢を問わず、ワークライフバランスのとれた勤務環境は、サステナブルな医局運営に繋がると考えています。医学生/初期研修医へのメッセージ~当科で乳腺診療医の基礎を築きませんか~乳腺診療医の魅力は多岐にわたりますが、まず強調したいことは、その社会的ニーズの高さです。乳がんは女性が最も罹患する悪性腫瘍で、年々患者数が増加している一方で、乳腺専門医は全国的に不足しています。ニーズがあるため、乳がん治療は日々進化しています。個々の患者にとって最適な治療を考え、寄り添う新たな仲間をお待ちしています。また、乳腺診療は医師自身のライフステージに合わせて柔軟に関われる点も大きな魅力です。医師のキャリアは、専門医取得を目指す最初の10年が注目されがちですが、実際には定年まで40年近い長い道のりがあります。乳腺診療は、その期間を通じて、臨床や研究など多様な形で関わる可能性を広げられる分野です。その第一歩をふみだす環境として最適な当医局で、研鑽を積み、ぜひ一緒に乳腺診療の未来を築きましょう。気軽に見学へお越しください!これまでの経歴順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属静岡病院で初期研修を2年間行いました。初期研修開始時には内科志望でしたが、ローテーションで外科を回った際に手術の楽しさを知り、外科系の診療科へ興味が出てきました。診断から手術、薬物治療、緩和治療と一貫して患者さんに関わることができる点や、女性医師の需要が高い科である点に魅力を感じ、乳腺科を志望しました。同医局を選んだ理由順天堂大学に入局を決めた理由としては、母校であることに加え、手術件数が多く外科専門医や乳腺専門医を取得するための十分な症例数があること、大学病院として治験や研究に積極的であることが魅力的でした。私は同大学出身ですが、他大学出身者の医局員も多く、学閥もなく和気藹々とした雰囲気がある点も当医局の強みと感じています。現在学んでいること入局2年目までは、初期研修先である順天堂大学医学部附属静岡病院の消化器外科で外科の基礎を学ばせていただき、3年目から乳腺に主軸をおいた診療に携わっています。症例の相談もしやすい環境にあり、外来診療や手術、病棟管理を通じて上級医の先生方のご指導のもと、研鑽を積ませていただいています。毎年の学会発表や論文執筆も熱心にご指導いただきました。現在は大学院に入学し、研究に励む日々を送っています。乳腺科にご興味がある方はぜひ見学にいらしてください!順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座住所〒113-8431 東京都文京区本郷3-1-3問い合わせ先rt-sasaki@juntendo.ac.jp(医局長 佐々木 律子)breast-office@juntendo.ac.jp(医局秘書)医局ホームページ順天堂大学医学部乳腺腫瘍学講座【乳腺腫瘍学】順天堂大学医学部附属順天堂医院乳腺科(乳腺センター)専門医・認定医取得実績のある学会日本外科学会日本乳癌学会日本癌治療学会日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会日本人類遺伝学会日本遺伝性腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)外科および乳腺専門医取得に必要な症例が十分経験できる(2)乳がんの診断から外科・薬物・放射線療法、そして緩和ケアまで網羅的に経験を積める(3)乳がん診療を提供するさまざまな領域のエキスパートが在籍しており、最新の情報を入手することができる詳細はこちら順天堂大学医学部附属順天堂医院臨床研修センター 専門研修プログラム

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サプリメントや健康食品に関する相談への対応【もったいない患者対応】第20回

サプリメントや健康食品に関する相談への対応患者さんから、サプリメントや健康食品に関する相談を受けることがよくあると思います。新聞広告や通販サイトなどを見て、「認知症の予防」「血圧が下がる」「関節痛が治る」などの効能を期待し、こうした食品を買いたいと考える人は多いようです。医療者としてどのように対応すればいいでしょうか? 意識すべきことは2点あると考えています。原則として、効果があるのは承認されたもののみ1つ目は、信頼性の高い臨床試験で効果が実証された治療は、原則、保険診療で安価に利用できるものだと伝えるべき、ということです。本当に統計学的に有意な程度に認知症が防げたり、血圧が下がったりするのであれば、とうに病院で薬として安価に処方できるようになっているはずです。逆にいえば、効果の証明が不十分であるからこそ「食品」の域を出ない、と考えるべきでしょう。むろん、妊婦に必要な葉酸サプリなど、ピンポイントで補給すべき成分を摂取するといった、目的が明確な食品もあります。乳酸菌やビフィズス菌のようなプロバイオティクスが便秘を改善するという知見も、ある程度エビデンスがあります1)。薬と混同しないよう注意を促すとともに、各専門分野のエビデンスに基づき、補助的な摂取が許容されるかを慎重に判断してください。治療を妨げない範囲であれば、理解を示すことも大事2つ目は、上記のようなことを十分理解しているのであれば、そうした食品への嗜好や期待感まで奪う権利は医療者にはないということです。医療者が「効果が確実でないものはすべて排除せよ」という姿勢を見せると、患者さんは治療への意欲を削がれてしまうかもしれません。「自分の気持ちを理解してもらえなかった」と感じ、信頼関係に傷がつく恐れもあります。医療者は「標準的な治療を妨げない範囲であれば許容する」という寛容な姿勢を見せるべきでしょう。医学的根拠の乏しい商品にお金を払いたいと考える患者さんは、時として、標準治療に不信感や疑念をもっていることがあります。そうした思いに耳を傾けることも大切です。とくにがんの治療では、こうした代替療法に注意が必要です。ある研究では、がん治療において標準治療に加えて代替療法を選択した人は、標準治療だけを選択した人に比べて有意に治療成績が悪く、手術や化学療法、放射線治療などの標準治療の一部を拒否する人の割合も有意に高いことがわかっています2)。代替療法が標準治療の妨げになっていないかどうか、担当医として必ず気にかけておく必要があるでしょう。なお、がん患者さんの場合、こうした代替療法を利用している人の61%は主治医に相談していない、というデータもあります3)。医師がすべてを把握できるとは限らないことにも、私たちは敏感であるべきでしょう。参考文献1)日本消化管学会 編. 便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症 南江堂;2023.2)Johnson SB, et al. JAMA Oncol. 2018;4:1375-1381.3)日本緩和医療学会 編. がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス2016年版 金原出版;2016.

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ASH2024レポート

レポーター紹介はじめに2024年12月6日(金)~10日(火)の5日間にわたり、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴにて、第66回米国血液学会(ASH)年次総会が開催されました。ASHは、全世界から約3万人の血液学の専門家が集う世界最大の血液学会のイベントであり、毎年、12月の初旬に開催されます。私は、2019年にフロリダ州オーランドで開催された第61回ASHに参加して以来、5年ぶりの現地参加となりました(2020年からはCOVID-19の世界的流行のため、On lineでの開催となり、以降、現地開催とともにOn lineでの参加が可能となっている)。3年前の2022年から、米国臨床腫瘍学会(ASCO)で発表された血液領域の注目演題のレポートをケアネットのDoctors'Picksのコーナーに寄稿していますが、ASCOにて口演に採択される血液がん関連の演題数は限られており、その中から10演題程度を選ぶ作業は比較的容易ですが、ASHの演題はすべて血液関連であり、口演の演題数だけでも1,000演題程度(ポスターは4,000演題程度)あり、その中から10演題選ぶのは至難の業でした。今回は、私の専門領域のリンパ系腫瘍(悪性リンパ腫と多発性骨髄腫)の演題から独断と偏見で10演題選びました。それでは、どのような演題が発表されたか各演題の概要にお目を通してください。なお、YouTubeチャンネルのEXPERT MINDでも、これらの演題を含む24演題の解説動画を2025年1月中旬から順次アップしておりますので、興味のある方は、そちらもご覧ください。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)Five-Year Analysis of the POLARIX Study: Prolonged Follow-up Confirms Positive Impact of Polatuzumab Vedotin Plus Rituximab, Cyclophosphamide, Doxorubicin, and Prednisone (Pola-R-CHP) on Outcomes. (Abstract #469)POLARIX試験(初発のびまん性大細胞型リンパ腫[DLBCL] に対し、Pola-R-CHP療法とR-CHOP療法を比較したグローバル試験であり、主要評価項目のPFSにおいて、Pola-R-CHPが有意に優った試験)の結果をもとに、2年前から日本でも保険診療でPola-R-CHPが初発DLBCL患者に対し使用可能となっている。今回、そのPOLARIX試験の5年のフォローアップデータが示された。主要評価項目のPFSは、2年時点のHR0.73(95%CI:0.57-0.95)が、5年時点でHR0.77(0.62~0.97)となり、Pola-R-CHPのR-CHOPに対する有意性が維持されていた。副次評価項目のOSについては、2年時点でHR:0.94(0.65-1.37)であったが、5年時点ではHR:0.85(0.63-1.15)とK-M曲線において少し差が開きかけているデータであった。安全性については、両治療にほぼ差を認めず、Pola-R-CHP療法は初発DLBCLの新たな標準療法とみなせるデータが示されたと思われる。本試験はあと2年フォローが継続されるようで、OSにも有意差がみられることが期待される。A Randomized Phase 2, Investigator-Led Trial of Glofitamab-R-CHOP or Glofitamab-Polatuzumab Vedotin-R-CHP (COALITION) in Younger Patients with High Burden, High-Risk Large B-Cell Lymphoma Demonstrates Safety, Uncompromised Chemotherapy Intensity, a High Rate of Durable Remissions, and Unique FDG-PET Response Characteristics. (Abstract #582)IPIや組織型でハイリスクの初発DLBCL患者(IPI≧3あるいはNCCN-IPI≧4あるいはDH/TH)に対し、CD20/CD3二重抗体薬のglofitamab(Glofit)をPola-R-CHPとR-CHOPに併用した第2相ランダム化比較試験(COALITION試験)の結果が報告された。投与法は、Glofitを2サイクル目のDay8、Day15と3~6サイクル目のDay8に投与し、さらに地固めとしてGlofitのみを2サイクル追加した。各群40例ずつの患者がエントリーされた。安全性に関しては、ほぼ同等であり、CRSはどちらも約20%の患者でみられたがG1~2であり、ICANSはゼロであった。最良効果でのCMR率はどちらも98%であり、EOIでのcfDNAを用いたMRD陰性率は88%であった。2年時点のPFSは、どちらの群とも86%と、ハイリスクDLBCL患者に対する良好な治療成績が示された。以上の結果を基に、さらに症例数を増やした試験が実施される予定である。濾胞性リンパ腫(FL) Single-Agent Mosunetuzumab Produces High Complete Response Rates in Patients with Newly Diagnosed Follicular Lymphoma: Primary Analysis of the Mithic-FL1 Trial. (Abstract #340)CD20XCD3二重抗体薬のmosunetuzumab(Mosun)を単剤で初発の濾胞性リンパ腫(FL)患者に投与した第2相Mithic-FL1試験の初めての解析結果が報告された。Mosunは、再発・難治FLに対し、海外ではすでに承認され、日本でも近々承認される薬剤である。特徴は投与スケジュールであり、1サイクル目Day1に5mg、Day8、15に45mg、2サイクル目からはDay1に45mg投与し、8サイクル終了後(6ヵ月間)にCRであればそこで治療を終了し、PRであれば9サイクル追加(約1年間)する固定期間の治療ということである。80例がエントリーされた。効果判定可能な76例のうち、ORRは96%、CRは80%であり、1年のPFSは91%という優れた治療成績が示され、免疫化学療法の成績に劣らなかった。安全性ではCRSが54%にみられ、G2は3%のみであった。初発FLに対して二重抗体薬のみで免疫化学療法と同等の治療効果が得られる可能性が示されたことでFLの今後の治療はケモフリーの方向に進んで行くと思われた。Loncastuximab Tesirine with Rituximab Induces Robust and Durable Complete Metabolic Responses in High-Risk Relapsed/Refractory Follicular Lymphoma.(Abstract #337)抗CD19抗体に抗がん剤のPBD dimer cytotoxinを結合した新規のADC薬のLoncastuximab Tesirine(Lonca)とリツキシマブによる再発・難治FLに対する臨床試験の成績である。Loncaはすでに海外で2ライン以上の治療歴のあるR/R DLBCLに対し単剤での使用が認められており、開発試験の成績では14例に対し、ORR 78.6%、CR 64.3%であった。投与スケジュールは1~2サイクル目にLonca+R、3・4サイクル目にLoncaのみを投与し、PR以上であれば、Lonca+Rを3サイクル追加し(維持療法1)、CRであればRのみ、PRであればLonca+Rを6サイクル追加する(維持療法2)。39例の患者がエントリーされ、POD24の症例は20例であり、3ライン以上の前治療歴のある症例は11例であった。最良治療効果のORR 97.4%、CR 76.9%であり、12ヵ月時点でのPFSは94.6%であった。有害事象もほとんどがG1~2であり、安全性も問題なかった。Lonca+RもR/R FLに対する新たな選択肢となりうる可能性が示された。マントル細胞リンパ腫(MCL)Ibrutinib-rituximab is superior to rituximab-chemotherapy in previously untreated older mantle cell lymphoma patients. Results from the international randomised controlled trial, Enrich.(Abstract #235)マントル細胞リンパ腫(MCL)は、難治性のリンパ腫であり、寛解・再燃を繰り返す。これまでは、初発MCLに対しリツキシマブと抗がん剤を併用する免疫化学療法(CIT)が標準療法として実施されてきたが、BTK阻害薬が登場し治療戦略が変わりつつある。本発表では、高齢の初発MCL患者に対し、BTK阻害薬のイブルチニブとリツキシマブを併用したIR療法と従来のCITを比較した第III相試験(Enrich試験)の結果が報告された。IR群:199例、免疫化学療法群(RBかR-CHOP)198例がエントリーされた。主要評価項目のPFS中央値は、IR群65.3ヵ月、免疫化学療法群42.4ヵ月であり、HRは0.69(0.52~0.90)と有意にIR療法が優れていた。ただし、免疫化学療法の治療法別では、R-CHOPとのHRは0.37(0.22-0.62)であったが、RBとのHRは0.91(0.66~1.25)と差がみられなかった。また、Blastoid-typeのMCLに対してはRBとのHRは2.33(0.83~6.52)とIRの治療成績が劣ることも示されている。IRはケモフリー治療として初発MCL患者に対する1つの選択肢となり得る。Lack of Benefit of Autologous Hematopoietic Cell Transplantation (auto-HCT) in Mantle Cell Lymphoma (MCL) Patients (pts) in First Complete Remission (CR) with Undetectable Minimal Residual Disease (uMRD): Initial Report from the ECOG-ACRIN EA4151 Phase 3 Randomized Trial.(Abstract #LBA6)若年の初発MCL患者に対しては、第一寛解期に自家移植併用大量化学療法(ASCT)が行われることが標準療法とされてきたが、リツキシマブやイブルチニブによる維持療法を追加することで、ASCTが不要となる可能性が示されてきている。本試験でも、寛解導入療法によって微小残存病変(MRD)が陰性となった患者において、リツキシマブによる3年間の維持療法を行うことで、ASCTをスキップ可能かどうかが前向きに検証された。寛解導入治療によって、MRD陰性となった患者をASCT+R-m(A)群とR-m単独(B)群にランダム化し、主要評価項目としてOSが評価された。A群257例、B群259例がエントリーされた。2.7年の追跡期間で、HR 0.984と両群にまったく差がみられず、MIPI-cでHighリスクの症例でも同様であった。このことから、寛解導入療法でMRD陰性となったMCL患者においてはASCTを行う必要はなくなったという結果が示された。これから長期のフォローが必要だが、MCLの治療においてもMRD陰性が治療目標になることが示された。慢性リンパ性白血病(CLL)Fixed-Duration Acalabrutinib Plus Venetoclax with or without Obinutuzumab Versus Chemoimmunotherapy for First-Line Treatment of Chronic Lymphocytic Leukemia: Interim Analysis of the Multicenter, Open-Label, Randomized, Phase 3 AMPLIFY Trial.(Abstract #1009)初発の慢性リンパ性白血病(CLL)に対し、BTK阻害薬アカラブルチニブ+BCL2阻害薬ベネトクラクス±抗CD20抗体薬オビヌツズマブ併用治療(AV±O)を固定期間(14ヵ月)で行う治療と従来の免疫化学療法(FCRかBRのどちらかを選択)を比較した第III相試験(AMPLIFY試験)の中間解析結果が報告された。エントリーされた患者は、AV群291例、AVO群286例、FCR群143例、BR群147例であった。主要評価項目はAV群と免疫化学療法群のPFSの比較であった。結果は、PFS中央値が、AV群未達、免疫化学療法群47.6ヵ月でHR 0.65(0.49~0.87)と有意にAV群が優った。AVO群の免疫化学療法群に対するHRは0.42(0.30~0.59)とさらに良好であり、MRD陰性化率もAVO>免疫化学療法であったが、本試験の実施中にCOVID-19のパンデミックがあり、AVO群でCOVID-19による死亡、治療中止が最も多かったということも示された。固定期間のAVあるいはAVO療法が免疫化学療法よりも有用であることが初めて示された。感染症の観点からはAV>AVOと思われるが、現在日本で使用可能なAOの固定期間治療の有用性は、これから検証する必要がある。多発性骨髄腫(MM)Sustained MRD Negativity for Three Years Can Guide Discontinuation of Lenalidomide Maintenance after ASCT in Multiple Myeloma: Results from a Prospective Cohort Study.(Abstract #361)初発多発性骨髄腫(MM)の治療では、自家移植併用大量化学療法(ASCT)を行い、レナリドミドにて維持療法を行うのが標準療法となっている。また、MRD陰性が持続することが長期のPFSを得るためには必要な条件となっているが、いつまでレナリドミドを投与すべきか、あるいはレナリドミドを中止できる条件などは明らかではない。本試験では、レナリドミドによる維持療法を3年間行い、その期間、MRD陰性を確認できた患者に対し、レナリドミドを一旦中止し、その後のMRDを6ヵ月ごとにフォローする前向き試験の結果が報告された。52例のMM患者がエントリーされた。中央値3年間のフォロー期間で、12例(23%)がMRD陰性⇒MRD陽性となり(中央値27.5ヵ月にて)レナリドミドが再開された。4例(7.6%)がPDとなった。1例がMM以外で死亡された。Treatment-free survivalは、93.9%(@1年)、91.6%(@2年)、75.8%(@3年)であった。また、7年のPFSは90.2%であった。以上より、ASCT後、レナリドミド維持療法による3年間のMRD陰性持続が治療中止の条件として妥当と考えられた。Phase 3 Randomized Study of Daratumumab Monotherapy Versus Active Monitoring in Patients with High-Risk Smoldering Multiple Myeloma: Primary Results of the Aquila Study.(Abstract #773)くすぶり型骨髄腫(MM)に対し、これまでは治療介入せずに注意深く経過観察を行うことが推奨されてきた。本試験(AQUILA試験)では、ハイリスクのくすぶり型MMに対し、ダラツムマブ皮下注単剤治療を導入する群と注意深く経過観察する群に分けて、SLiM-CRABの所見を認めるまでの期間(PFS)を比較している。Dara群:194例、観察群:196例がエントリーされた。有害事象のためDaraが中止となったのは13例(6.7%)であり、Daraが安全な治療薬であることが示された。追跡期間の中央値65.2ヵ月において、主要評価項目のPFSは、Dara群未達、観察群41.5ヵ月であり、HR 0.49(0.36~0.67)と有意にDara群でSLiM-CRABの所見に移行する患者が少なかった。また、骨髄腫の治療が開始されるまでの期間もDara群で有意に長く、さらに、骨髄腫の最初の治療の効果(PFS、OS)は観察群で有意に不良であることも示された。以上の結果から、ハイリスクのくすぶり型MMに対するDaraによる早期の治療介入が、今後の標準治療となることが示された。Previous HDM/ASCT adversely impacts PFS with BCMA-directed CAR-T cell therapy in multiple myeloma.(Abstract #79)多発性骨髄腫(MM)の初期治療は、ASCTを行うかどうかで治療方針が大きく分かれる。通常、65歳以下でPS良好の患者はASCTの適応となる。しかし、多くの患者ではやがて再発がみられ、次の治療が必要となる。再発MMに対しては、CAR-T細胞治療の有効性が示されている。本研究では、ASCT治療歴のあるMM患者に対するCAR-T治療の効果が検証されている。BCMA-CAR-T治療が行われたMM患者で、ASCT治療歴のある81例とASCT治療歴のない77例が比較された。寛解導入療法の治療効果は、両群で差を認めなかったが、CAR-T療法によるPFS中央値は9.9ヵ月(ASCT歴あり)と16.1ヵ月(ASCT歴なし)で、ASCT歴があるとCAR-T療法の効果が有意に悪いことが示された。ただし、OSへの影響は差がなかった。CAR-T療法の種類では、特に、Ide-celの効果が落ちることも示された。この結果のメカニズムの詳細は不明だが、CAR-T療法を行う可能性があるMM患者へのASCTの適応は慎重に考える必要があることが示唆された。おわりに今回、5年ぶりのASHへの現地参加であったが、これまでと変わらない参加者たちの熱気を感じ、on lineでの参加とは違う刺激を受けました。レポートしました10の演題は現地でも注目度が高く、会場が満席で、急遽、別室で中継される事態も発生していました。これらの発表を聞いていると、今後、リンパ系腫瘍の治療は、従来の化学療法剤(ケモ薬)を使用せず、分子標的薬と免疫療法(CAR-TやT細胞エンゲージャー)だけで治療する時代に変わっていくように感じました。ASHの参加費は年々高くなり、さらに円安の影響で学会参加費は、かなり高騰しています。また、アメリカは物価が高く、わずか5泊の滞在でしたが、ホテル代や食費もかなりの出費でした。今後、毎年、ASHに参加するのは難しいと思いましたが、できれば、数年後に、また、現地参加してみたいと思っています。

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オンコタイプDX再発スコア≧31のHR+/HER2ー乳がん、アントラサイクリンによるベネフィット得られる可能性(TAILORx)/SABCS2024

 21遺伝子アッセイ(Oncotype DX)による再発スコア(RS)≧31の、リンパ節転移のないホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性乳がん患者における術後療法として、タキサン+シクロホスファミド(TC)療法と比較したタキサン+アントラサイクリン/シクロホスファミド(T-AC)療法の5年無遠隔再発期間(DRFI)および無遠隔再発生存期間(DRFS)における有意なベネフィットが確認された。とくに明確にこのベネフィットが認められたのは、腫瘍径>2cmの患者であった。TAILORx試験の事後解析結果を、米国・シカゴ大学のNan Chen氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2024、12月10~13日)で報告した。 TAILORx試験では、Oncotype DXによるRSに基づき低リスク(RS:0〜10)、中間リスク(同:11〜25)、高リスク(同:26〜100)に分類している。今回の解析では中~高リスク患者のうち、T-ACまたはTCによる化学療法を受けた患者のデータが分析された。中間リスクの患者は内分泌療法のみまたは内分泌療法+医師選択による化学療法のいずれかに無作為に割り付けられ、高リスクの患者は内分泌療法+医師選択による化学療法を受けていた。 年齢、RS、腫瘍グレード、腫瘍サイズ、エストロゲン/プロゲステロン受容体の状態による調整ハザード比(aHR)を使用して、T-AC群とTC群におけるDRFI率、DRFS率、および全生存期間(OS)を比較。結果はRS<31または≧31で層別化された。 主な結果は以下のとおり。・本解析の適格条件を満たした2,549例のうち、438例がT-AC療法、2,111例がTC療法を受けていた。・患者特性は年齢中央値がT-AC群53.0歳vs.TC群55.1歳、閉経後が58.4% vs.64.4%、RS 11〜25が44.7% vs.73.6%/26〜30が15.8% vs.11.9%/31〜100が39.5% vs.14.5%であった。・T-AC療法群でのレジメンは、dose-dense AC-T療法が42.5%、標準的AC-T療法が25.1%、TAC療法が13.0%、その他のアントラサイクリン/タキサンレジメンが19.4%であった。・5年DRFI率は、RS<31の患者ではT-AC群97.0% vs.TC群97.6%(aHR:1.24、p=0.484)、RS≧31の患者では96.1% vs.91.0%(aHR:0.32、p=0.009)となり、RS≧31の患者においてT-AC群で有意に改善した。・RS≧31の患者における5年DRFS率はT-AC群95.4% vs.TC群89.8%とT-AC群で有意に改善し(aHR:0.47、p=0.031)、5年OS率は97.3% vs.93.5%とT-AC群で良好な傾向がみられた(aHR:0.546、p=0.167)。・RS≧31の患者における5年DRFI率およびDRFS率のサブグループ解析の結果、DRFI率はすべてのサブグループにおいてT-AC群で良好な傾向がみられたが、DRFS率については腫瘍径>2cmではT-AC群で良好(HR:0.23、95%信頼区間[CI]:0.08~0.69)であった一方、≦2cmではTC群で良好な傾向がみられた(HR:1.32、95%CI:0.51~3.43)。・RS≧31の患者において、閉経状態ごとに5年DRFI率をみると、閉経前の患者でT-AC群96.9% vs.TC群84.4%(aHR:0.20、p=0.032)、閉経後の患者で95.6% vs.93.4%(aHR:0.25、p=0.028)であり、閉経状態によらずT-AC群で良好な傾向がみられた。・スプライン回帰モデルによりTC療法と比較したT-AC療法のDRFIへの影響は、RS 20ではaHR:0.96(95%CI:0.53~1.75)、RS 30ではaHR:0.79(95%CI:0.45~1.39)、RS 40ではaHR:0.60(95%CI:0.34~1.05)、RS 50ではaHR:0.45(95%CI:0.21~0.96)と推定され、RSの増加に伴いアントラサイクリンによるベネフィットが増すことが示唆された。 Chen氏は、事後解析であるため今回のエンドポイントを評価するために設計されていないことなどを限界として挙げたうえで、多遺伝子アッセイで高リスク、リンパ節転移陰性のHR陽性HER2陰性乳がん患者では、アントラサイクリンの使用が検討されるべきではないかとしている。

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