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副作用編:悪心(抗がん剤治療中の食欲不振対応)【かかりつけ医のためのがん患者フォローアップ】第1回

抗がん剤治療中に悪心を生じた患者さんが、食欲不振などを主訴に紹介元であるかかりつけ医を受診する、というのはときに経験されるかと思います。今回は、診察の際に有用な抗がん剤治療中の悪心の鑑別のポイントや患者さんへの対応について紹介します。症例78歳、女性主訴食欲不振病歴1ヵ月前より進行胃がん(StageIV)に対して大学病院で緩和的化学療法が開始された。数日前から悪心が強く、1日の食事摂取量が半分程度となり、食欲不振を主訴にかかりつけ医(クリニック)を受診。ステップ1 悪心・嘔吐の原因は?がん患者の悪心の原因は多岐にわたります。抗がん剤治療中であれば、「抗がん剤のせいかも?」とすぐに考えてしまいがちですが、他の要因も含めて押さえておきたいポイントを挙げます。(1)CINV:Chemotherapy Induced Nausea and Vomiting薬物療法に起因する悪心は患者が最も苦痛と感じる代表的な副作用の1つです。軽度の悪心でも食欲不振につながり、QOLは著しく低下します。悪心・嘔吐の発現時期や状態により以下の定義があり、機序や背景を考慮した制吐療法が行われます。最近はガイドライン1)に沿ってリスクに応じた予防薬や頓服の制吐薬を処方されていることが多くなっています。画像を拡大する(2)腫瘍に起因する悪心腫瘍の局所進展による消化管閉塞(腹膜播種など)、幽門狭窄、胆汁逆流なども悪心・嘔吐の原因となります。これらは機械的刺激により胃内容物の排出障害を来し、食後悪心や胆汁性嘔吐を呈することがあります。とくに胃がんでは胃壁内伸展などによる胃の拡張不良を引き起こすことで、悪心・嘔吐を呈することがあります。鑑別にあたり、嘔吐の有無や吐物の性状、排便排ガスの有無が重要な所見となります。(3)電解質異常による悪心がん患者では、腫瘍随伴症候群、化学療法、脱水、腎機能障害などにより電解質異常を来しやすく、中枢性あるいは消化器機能の異常を介して悪心・嘔吐を引き起こすこともあります。とくに高Ca血症はがん患者の最大15~20%に認められる重要な腫瘍随伴症候群であり、しばしば「原因不明の悪心」の背景に潜んでいます2-4)。血清Ca値が11.0mg/dLを超えると症状が出やすくなり、13~14mg/dL以上では悪心、意識障害、脱水などの症候が顕著となります。画像を拡大する(4)中枢性要因(脳転移・頭蓋内圧亢進)による悪心がん患者における悪心の中で、中枢神経系の病変によるものは見逃されやすいものの、迅速な対応が必要な病態です。とくに、脳転移や髄膜播種は頭蓋内圧亢進や嘔吐中枢の直接刺激を介して、持続性の悪心や突発的な嘔吐を引き起こします。悪心以外にも頭痛やめまい、痺れや麻痺などの神経症状が伴うことがあり問診や身体診察が重要となります。ステップ2 評価ポイントは?前述のように、さまざまな要因が悪心・嘔吐の原因となります。クリニックなどの限られた検査環境では精緻な診断を行うことは難しいと思います。「これ!」といった正解はありませんが、私は以下のポイントで診察しています。画像を拡大するステップ3 対応は?では、冒頭の患者さんの対応を考えてみましょう。内服抗がん剤を中止してよいか?診察時に患者さんより「つらいけど内服の抗がん剤を継続したほうがよいか?」と相談がある場合、基本的に内服を中止しても問題ありません。当院でも「食事が半分以上食べられない場合は、その日はお休みして大丈夫です」と説明しています。抗がん剤の再開については受診翌日に治療機関(大学病院や高次医療機関)へ問い合わせるよう、患者さんへ説明いただければ助かります。悪心に伴う食欲不振に対して輸液や制吐薬を投与してもよいか?軽度の悪心・食欲不振であれば輸液やメトクロプラミドの投与での支持的な治療を行っていただいて問題ありません。軽度の悪心のみでも十分な食事を数日間摂取できていない場合は電解質異常を来している可能性もあるため治療機関へご紹介ください。また、輸液を実施する場合、翌日も症状が改善しない場合は治療機関への受診を勧めてください。最後に患者さんの心理として、軽い症状で治療機関を受診することはハードルが高いと感じる方が多くいらっしゃいます。要因としては自宅から治療施設への移動距離や長い待ち時間があると思います(主治医に相談しにくいなどもあるかもしれませんが…)。今後、高齢化が進むことで交通手段が限られる患者さんが増え、抗がん剤治療も地域との連携が不可欠になってきます。当院においても地域のクリニックと医療連携を実施して軽症の副作用対応を実施いただくことで、うまく治療を継続できた症例やスムーズな緩和ケア移行に繋がるケースも少しずつ増えてきました。そのため、がん治療医である私達も詳細な診療情報の提供や綿密な医療連携を心がけています。かかりつけ医の先生にサポートしていただける「安心感」は闘病中のがん患者さんにとって大きな支えになります。抗がん剤の副作用症状を訴える患者さんの受診時にこのコラムが少しでも参考になれば幸いです。1)日本癌治療学会編. 制吐薬適正使用ガイドライン 2023年10月改訂 第3版. 金原出版. 2023.2)Lafferty FW. J Bone Miner Res. 1991;6:S51-59.3)Ratcliffe WA, et al. Lancet. 1992;339:164-167.4)Stewart AF. N Engl J Med. 2005;352:373-379.

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閉経前HR+乳がんの術後補助療法、EXE+OFSとTAM+OFSの15年追跡結果(SOFT/TEXT)/ASCO2025

 閉経前のHR+早期乳がんにおいて、術後補助内分泌療法+卵巣機能抑制(OFS)による再発抑制の持続および再発リスクが高い患者における全生存期間(OS)の改善が、SOFT試験とTEXT試験ですでに報告されている。今回、これらの試験の最終報告として、SOFT試験(追跡期間中央値:15年)およびSOFT試験とTEXT試験の統合解析(同:16年)の結果について、オーストラリア・Peter MacCallum Cancer CentreのPrudence A. Francis氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。<各試験の概要>■SOFT試験(登録期間:2003年11月~2011年1月、3,066例)閉経前のHR+乳がん患者を対象に、5年間の術後補助化学療法としてタモキシフェン(TAM)単独群、TAM+卵巣機能抑制(OFS)群、エキセメスタン(EXE)+OFS群に無作為に割り付け ■TEXT試験(登録期間:2003年11月~2011年4月、2,672例)閉経前のHR+乳がん患者を対象に、5年間の術後補助療法としてTAM+OFS群、EXE+OFS群に無作為に割り付け■TEXT試験とSOFT試験の統合解析(4,670例) TEXT試験とSOFT試験のEXE+OFS群とTAM+OFS群を統合して比較 主な結果は以下のとおり。■SOFT試験・浸潤性乳がん無発症期間(BCFI)は、TAM単独群に対するTAM+OFS群のハザード比(HR)が0.82(95%信頼区間[CI]:0.69~0.98)、EXE+OFS群では0.70(95%CI:0.58~0.84)だった。15年BCFI率は、TAM単独群に比べ、TAM+OFS群で3.7%高く、EXE+OFS群で6.5%高かった。 ・化学療法を受けていない低リスク患者における15年BCFI率は、TAM単独群(79.4%)に比べてTAM+OFS群(84.8%)、EXE+OFS群(87.8%)で改善した一方、15年無遠隔再発(DRFI)率は、TAM単独群(94.7%)、TAM+OFS群(94.7%)、EXE+OFS群(96.8%)でほぼ同様だった。 ・35歳未満で診断されたHER2-患者において、OFSを追加された群でBCFI(15年BCFI率:TAM単独群51.3%、TAM+OFS群64.1%、EXE+OFS群69.6%)、OS(15年OS率:TAM単独群68.1%、TAM+OFS群77.9%、EXE+OFS群82.5%)が大きく改善していた。■TEXT試験およびSOFT試験の統合解析(HER2-患者のみを解析)・EXE+OFS群のほうがTAM+OFS群より、DRFI(HR:0.75、95%CI:0.63~0.90)およびOS(HR:0.89、96%CI:0.74~1.06)ともに改善していた。 ・年齢別の解析では、40歳未満でEXE+OFS群とTAM+OFS群の差が大きかった。・腫瘍グレード別の解析では、15年BCFI率がグレード1/2の患者に比べてグレード3の患者で差が大きかった(EXE+OFS群73.1%、TAM+OFS群61.0%)。 この長期追跡の結果、内分泌療法にOFSを追加することで高い再発抑制効果が示され、その効果はEXE+OFSでより高かったが、OSにおける臨床的に意味のある改善は若年者や高グレードの高リスク患者に限られていた。35歳未満ではOFSの併用により再発を大幅に減少させ、持続的なOS延長につながることが示唆された。

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食道がんへの術後ニボルマブ、長期追跡でもベネフィット示す(CheckMate 577)/ASCO2025

 日本も参加するCheckMate 577試験は、術前化学放射線療法(CRT)+手術後に残存病理学的病変を有する食道がん/胃食道接合部がん(EC/GEJC)患者における、術後ニボルマブ投与の有用性をみた試験である。すでにプラセボと比較して無病生存期間(DFS)を有意に延長したことが報告されている(22.4ヵ月対11.0ヵ月、ハザード比[HR]:0.69)1)。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、ベイラー大学医療センター(米国・ダラス)のRonan J. Kelly氏が、本試験の副次評価項目である全生存期間(OS)の最終解析結果およびDFSの長期追跡結果を報告した。・試験:多施設共同無作為化二重盲検第III相試験・対象:CRT後にR0切除、病理学的完全奏効とならなかったStageII/IIIのEC/GEJC患者・試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ240mg(2週ごと16週間)→ニボルマブ480mg(4週ごと最長1年)532例・対照群(プラセボ群):プラセボ(2週ごと16週間、その後4週ごと最長1年)262例・評価項目:[主要評価項目]DFS[副次評価項目]OS、無遠隔転移生存期間(DMFS)、安全性など・データカットオフ:2024年11月7日 主な結果は以下のとおり。・794例がランダム化され、ニボルマブ群とプラセボ群に2対1で割り付けられた。・追跡期間中央値78.3ヵ月におけるDFS中央値は、ニボルマブ群21.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:16.6~29.7)に対しプラセボ群10.8ヵ月(95%CI:8.3~14.3)であり、有意差のある改善を長期にわたって維持していた(HR:0.76)。・OS中央値はニボルマブ群51.7ヵ月(95%CI:41.0~61.6)に対しプラセボ群35.3ヵ月(95%CI:30.7~48.8)であり、ニボルマブ群で良好な傾向だったものの、統計学的有意差はなかった(HR:0.85、p=0.1064)。サブグループ解析ではPD-L1 CPSが1以上の群のHRは0.79だった一方、1未満の群ではニボルマブの優越性は示されなかった。・ニボルマブ群とプラセボ群の3年OS率は57%対50%、5年OS率は46%対41%だった。・DMFS中央値はニボルマブ群27.3ヵ月、プラセボ群14.6ヵ月だった(HR:0.75)。・有害事象は既報どおりであり、新たな安全性シグナルは確認されなかった。 Kelly氏は「術後ニボルマブは、プラセボと比較して持続的な長期DFSのベネフィットとOSの改善を示した。安全性も長期にわたって耐容されるものだった。これらの結果は、この患者集団における術後ニボルマブの使用をさらに支持するものだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「すでにDFSの結果が発表されており、日本食道学会ガイドライン委員会からコメントも出されている2)。今回の発表でも、有意差はないものの著明なOSの延長がみられた。一方、本邦ではJCOG1109試験の結果から術前化学療法が標準治療とされており、術前CRT後のエビデンスである本試験をどのように外挿するかは議論のあるところだ。JCOG2206試験(術前化学療法後に根治手術が行われ、病理学的完全奏効とならなかった食道扁平上皮がんにおける術後無治療/ニボルマブ療法/S-1療法を比較する第III相試験)の結果に注目したい」とコメントした。

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NSCLCの術前ニボルマブ追加、最終解析でOS延長(CheckMate-816)/NEJM

 切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者における術前補助療法について、3サイクルのニボルマブ+化学療法併用療法は、化学療法単独と比較し全生存期間(OS)を有意に延長したことが、アイルランド・Trinity College DublinのPatrick M. Forde氏らによる第III相無作為化非盲検試験「CheckMate 816試験」のOSに関する最終解析結果で報告された。CheckMate 816試験では、ニボルマブ+化学療法併用療法により、病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存期間(EFS)を有意に改善したことが示されており、OSの最終解析が待たれていた。NEJM誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。重要な副次評価項目であるOSの最終解析 CheckMate 816試験では、IB期からIIIA期の切除可能なNSCLC患者(ECOG PS 0~1、EGFR遺伝子変異陰性/ALK転座なし、がんに対する全身療法歴なし)を、ニボルマブ+プラチナ製剤を含む化学療法併用群またはプラチナ製剤を含む化学療法単独群に無作為に割り付け、それぞれ3週(1サイクル)ごとに3サイクル投与した後、術前補助療法終了後6週間以内に手術を行った。 主要評価項目はEFSおよびpCR、重要な副次評価項目がOSであった。 2017年3月~2019年11月に、計358例がニボルマブ+化学療法併用群(179例)または化学療法単独群(179例)に割り付けられた。5年OS率、ニボルマブ+化学療法併用群65.4%vs.化学療法単独群55.0% OS最終解析のデータカットオフ時点において、追跡期間中央値は68.4ヵ月(範囲:59.9~85.2)で、150例が死亡した(information fraction:81%、ニボルマブ+化学療法併用群66例、化学療法単独群84例)。 5年OS率はニボルマブ+化学療法併用群65.4%(95%信頼区間[CI]:57.8~71.9)、化学療法単独群55.0%(47.3~62.0)、OSの中央値はそれぞれ未到達と73.7ヵ月であり、化学療法単独群と比較しニボルマブ+化学療法併用群でOSが有意に延長した(ハザード比:0.72、95%CI:0.523~0.998、p=0.048)。 探索的解析の結果、ニボルマブ+化学療法併用群における5年OS率は、pCRが得られた患者(43例)で95.3%(95%CI:82.7~98.8)、得られなかった患者(136例)で55.7%(46.9~63.7)、ベースラインで循環腫瘍DNA(ctDNA)が陽性で術前にctDNAが消失した患者(24例)では75.0%(95%CI:52.6~87.9)、消失しなかった患者(19例)では52.6%(28.7~71.9)であった。 安全性に関する新たな懸念は認められなかった。

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早期TN乳がんの術前療法、SG+ペムブロリズマブでpCRが32%(NeoSTAR)/ASCO2025

 早期トリプルネガティブ乳がん(TNBC)への術前サシツズマブ ゴビテカン(SG)+ペムブロリズマブ併用療法を評価した初の試験である第II相NeoSTAR試験において、SG+ペムブロリズマブ 4サイクルによる病理学的完全奏効(pCR)率は32%であり、非アントラサイクリン系レジメンを用いた術前化学療法が追加された患者を含めると50%がpCRを達成した。米国・Massachusetts General Hospital Cancer CenterのRachel Occhiogrosso Abelman氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。 SGは転移TNBCおよびHR+HER2-転移乳がんに承認されており、ペムブロリズマブは早期TNBCおよびPD-L1陽性転移乳がんに承認されている。本試験のArm A1では、早期TNBCへのSG単剤療法4サイクルにより、30%のpCR率が得られたことが確認されている。今回は、Arm A2において早期TNBCへのSG+ペムブロリズマブ併用を評価した結果が報告された。・対象:T2以上もしくはリンパ節転移陽性の早期TNBC患者・方法:SG(1、8日目に投与、開始用量10mg/kg)+ペムブロリズマブ(1日目に200mg)を21日ごと4サイクル投与→ 画像診断で残存病変が疑われなかった患者は手術を実施、疑われた患者は生検を実施し、担当医の裁量で術前化学療法を追加し手術を実施→ pCRを達成した患者は術後補助療法としてペムブロリズマブ+タキサン/カルボプラチンを4サイクル投与し、達成しなかった患者は担当医の裁量で術後補助化学療法を実施・評価項目:[主要評価項目]術前SG+ペムブロリズマブ後のpCR[副次評価項目]術前化学療法追加の必要性、放射線学的奏効、安全性および忍容性、無イベント生存期間(EFS)など 主な結果は以下のとおり。・2023年5月19日~2024年8月13日に50例(年齢中央値:57歳)が登録された。診断時、96%がStageIIで、生殖細胞系列BRCAの病的バリアントが5例(10%)に認められた。・50例がSG+ペムブロリズマブを完了し、うち24例が完了後に残存病変が疑われず、16例はSG+ペムブロリズマブのみでpCRを達成した。26例は残存病変が疑われ、術前化学療法が追加された。うち9例はSG+ペムブロリズマブおよび追加の術前化学療法(アントラサイクリン含有レジメンなし)後にpCRを達成した。・SG+ペムブロリズマブのみでの術後のpCR率は32.0%(95%信頼区間[CI]:19.5~46.7)であり、術前化学療法を追加した患者を含めると50%(50例中25例)であった。・BRCAの病的バリアントを有する5例のうち、3例がSG+ペムブロリズマブ後にpCRが得られ(pCR率60%)、1例が術前化学療法追加後にpCRが得られた。・18ヵ月EFS率は90.6%(95%CI:89.2~100)で、放射線学的奏効(完全または部分奏効)率は66%(95%CI:50~78)であった。・予期せぬ毒性や新たな毒性は認められず、88%が試験レジメンを完了した。  現在、SGとペムブロリズマブへの反応に関連するメカニズムとバイオマーカーを同定するため、本試験のトランスレーショナル解析が進行中という。

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非小細胞肺がん、術後アテゾリズマブの5年成績(IMpower010)/JCO

 切除後の非小細胞肺がん(NSCLC)患者における化学療法+アテゾリズマブ術後補助療法の5年追跡結果が発表され、ベストサポーティブケア(BSC)に対する無病生存期間(DFS)と全生存期間(OS)の改善が示された。DFSは最終解析、OSは2回目の中間解析の結果で、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年5月30日号での報告。・対象:StageIB~IIIA(AJCC7)で手術後にシスプラチンベースの補助化学療法(最大4サイクル)を受けたNSCLC・試験群:アテゾリズマブ1,200mgを3週ごと16サイクルまたは1年 (507例)・対照群:BSC(498例)・評価項目[主要評価項目]治験医師評価による階層的DFS:(1)PD-L1≧1% StageII~IIIA集団、(2)StageII~IIIA全集団、(3)ITT(StageIB~IIIA全無作為化)集団[副次評価項目]ITT集団のOS、PD-L1≧50% StageII~IIIA集団のDFS、全集団の3年・5年DFS 主な結果は以下のとおり。[DFS]・ITT集団のDFS中央値はアテゾリズマブ群65.6ヵ月、BSC群47.8ヵ月と、有意差は認められなかったもののアテゾリズマブ群で良好な傾向であった(ハザード比[HR]:0.85、95%信頼区間[CI]:0.71~1.01、p=0.07)。・StageII~IIIA全集団のDFS中央値はアテゾリズマブ群57.4ヵ月、BSC群40.8ヵ月であった(HR:0.83、95%CI:0.69~1.00)。・StageII~IIIAでPD-L1≧1%集団のDFS中央値はアテゾリズマブ群68.5ヵ月、BSC群37.3ヵ月とアテゾリズマブ群で良好であった(HR:0.70、95%CI:0.55~0.91)。・StageII~IIIAでPD-L1≧50%集団のDFS中央値はアテゾリズマブ群未到達、BSC群42.9ヵ月とアテゾリズマブ群で良好であった(非層別HR:0.48、95%CI:0.32~0.72)。[OS]・ITT集団でのDFSが有意な差に至らなかったため、OS検証は公式とはならなかった。・ITT集団のOS中央値はアテゾリズマブ群、BSC群とも未到達でHRは0.97(95%CI:0.78~1.22)、StageII~IIIA全集団のOS中央値はアテゾリズマブ群、BSC群とも未到達でHRは0.94(95%CI:0.75~1.19)、StageII~IIIAでPD-L1≧1%集団のOS中央値はアテゾリズマブ群未到達、BSC群87.1ヵ月でHRは0.77(95%CI:0.56~1.06)、StageII~IIIAでPD-L1≧50%集団のOS中央値はアテゾリズマブ群未到達、BSC群87.1ヵ月で非層別HRは0.47(95%CI:0.28~0.77)であった。・5年以上の長期追跡調査においても新たな安全性シグナルは報告されなかった。 これらの結果から、アテゾリズマブを加えた術後補助療法は化学療法のみに比べ、PD-L1陽性のStageII~IIIAの切除後NSCLCに持続的な臨床的ベネフィットをもたらすことが示された。

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プラチナ抵抗性卵巣がん、relacorilant+nab-PTXでPFS・OS改善(ROSELLA)/Lancet

 プラチナ製剤抵抗性卵巣がん患者において、relacorilant+nab-パクリタキセル併用療法はnab-パクリタキセル単独療法と比べて無増悪生存期間(PFS)を延長し、中間解析において全生存期間(OS)の改善も示された。米国・ピッツバーク大学のAlexander B. Olawaiye氏らが第III相非盲検無作為化試験「ROSELLA試験」の結果を報告した。relacorilantはファーストインクラスの選択的グルココルチコイド受容体拮抗薬であり、コルチゾールのシグナル伝達を抑制することで化学療法に対する腫瘍の感受性を高める。著者は、「示されたPFS、OSの結果は、プラチナ製剤抵抗性卵巣がん患者において、relacorilant+nab-パクリタキセル併用療法が新たな標準治療として有望であることを支持するものである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年6月2日号掲載の報告。nab-パクリタキセル単独と比較、主要評価項目は2つでPFSとOS ROSELLA(GOG-3073/ENGOT-ov72)試験は、14ヵ国(オーストラリア、欧州、中南米、北米および韓国)の117施設(病院および地域のがん治療センター)で行われた。18歳以上、プラチナ製剤抵抗性(最終投与から6ヵ月未満で病勢進行と定義)の上皮性卵巣がん(高悪性度の漿液性がん、類内膜がんまたはがん肉腫が上皮組織の30%以上)、原発性腹膜がんまたは卵管がんの確定診断を受けており、1~3ラインの抗がん剤治療歴およびベバシズマブ投与歴あり、病勢進行または直近の治療不耐、病変はRECIST 1.1に基づく測定が可能で、ECOG performance status 0または1、および十分な臓器機能を有する患者を対象とした。 被験者は、relacorilant(nab-パクリタキセルの投与前日、当日、翌日に150mgを経口投与)+nab-パクリタキセル(28日サイクルで1日目、8日目、15日目に80mg/m2を静脈内投与)併用群またはnab-パクリタキセル単独(併用群と同一スケジュールで100mg/m2を静脈内投与)群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は2つで、RECIST 1.1に基づく盲検下独立中央判定で評価したPFSとOSであり、無作為化された全患者(ITT集団)を対象に評価した。安全性は、割り付け治療を少なくとも1回受けた全患者を解析対象集団として評価した。PFS、OSとも併用群が有意に改善、有害事象はnab-パクリタキセルで既知のもの 2023年1月5日~2024年4月8日に、381例が無作為化された(併用群188例、単独群193例)。 PFSに関して、併用群(中央値6.54ヵ月[95%信頼区間[CI]:5.55~7.43])は単独群(5.52ヵ月[3.94~5.88])と比較して、統計学的に有意な改善が示された(ハザード比[HR]:0.70[95%CI:0.54~0.91]、層別log-rank検定のp=0.0076)。 事前に規定されたOSの中間解析で、併用群(中央値15.97ヵ月[95%CI:13.47~未到達])は単独群(11.50ヵ月[10.02~13.57])と比較して、臨床的に意義のある差が示された(HR:0.69[95%CI:0.52~0.92]、層別log-rank検定のp=0.0121)。 有害事象は、nab-パクリタキセルについて補正後は両群間で同等であった。Grade3以上の有害事象、すべての重篤な有害事象、Grade3以上の好中球減少症、貧血、疲労の全体的な発現頻度は併用群のほうが数値的には高かったが、併用群は単独群と比べてnab-パクリタキセルの投与期間中央値が30%長かった。また、併用群で多くみられた有害事象(好中球減少症、貧血、疲労、悪心)は、nab-パクリタキセルの既知の有害事象であり、モニタリングおよび管理が容易で可逆的であった。 安全性に関する新たな懸念は観察されなかった。

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HRR関連遺伝子に病的バリアントを有するmCSPCへのニラパリブ+AAP、rPFS改善(AMPLITUDE)/ASCO2025

 相同組換え修復(HRR)関連遺伝子に病的バリアントを有する転移去勢感受性前立腺がん(mCSPC)患者において、PARP阻害薬ニラパリブ+AAP(アビラテロン+prednisone)併用療法は、プラセボ+AAP療法と比較して、画像上の無増悪生存期間(rPFS)を有意に改善した。英国・ロンドン大学のGerhardt Attard氏が、ヨーロッパ・北米など32ヵ国で実施された第III相AMPLITUDE試験の中間解析結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。・試験デザイン:無作為化二重盲検プラセボ対照試験・対象:HRR 関連遺伝子(BRCA1、BRCA2、BRIP1、CDK12、CHEK2、FANCA、PALB2、RAD51B、RAD54L)に病的バリアントを有するmCSPC患者(ECOG PS 0~2)・試験群:ニラパリブ(200mg 1日1回)+AAP(アビラテロン1,000mg 1日1回+prednisone5mg 1日1回)+アンドロゲン除去療法(ADT) 348例・対照群:プラセボ+AAP+ADT 348例・評価項目:[主要評価項目]試験担当医師評価によるrPFS[副次評価項目]症状進行までの期間(TSP)、全生存期間(OS)、安全性・層別因子:病的バリアント有無(BRCA2 vs.CDK12 vs.その他)、ドセタキセル投与歴(ありvs.なし)、腫瘍量(高vs.低) 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時点における患者特性は両群でバランスがとれており、年齢中央値は試験群68(40~88)歳vs.対照群67(40~92)歳で、最初の診断時のPSA中央値が112ng/mL vs.102ng/mL、最初の診断時のGleasonスコア8以上が79%vs.75%、診断時M1の患者が86%vs.87%、高腫瘍量の患者が77%vs.78%、ドセタキセル投与歴ありの患者がともに16%、BRCA2病的バリアントを有する患者は55%vs.56%であった。・追跡期間中央値30.8ヵ月(データカットオフ:2025年1月7日)におけるrPFS中央値は、ITT集団では試験群NE vs.対照群29.5ヵ月で、試験群で有意に改善した(ハザード比[HR]:0.63、95%信頼区間[CI]:0.49~0.80、p=0.0001)。また事前に規定されたサブグループであるBRCA2病的バリアントを有する患者においても、rPFS中央値は試験群で有意に良好であった(NE vs.26.0ヵ月、HR:0.52、95%CI:0.37~0.72、p<0.0001)。その他のサブグループにおいても、試験群で良好な傾向がみられた。・TSP中央値は、ITT集団では試験群NE vs.対照群NE(HR:0.50、95%CI:0.36~0.69、p<0.0001)、BRCA2病的バリアントを有する患者ではNE vs.NE(HR:0.44、95%CI:0.20~0.68、p=0.0001)となり、ともに試験群でリスクを有意に低減した。・OS中央値(3回予定されている中間解析のうち初回解析結果)は、ITT集団では試験群NE vs.対照群NE(HR:0.79、95%CI:0.59~1.04、p=0.10)、BRCA2病的バリアントを有する患者ではNE vs.NE(HR:0.75、95%CI:0.51~1.11、p=0.15)となり、ともに試験群で良好な傾向がみられたが有意差には至っていない。・疾患進行による治療の中止は試験群27%vs.対照群43%で発生し、次治療は77%vs.43%で行われていた。次治療は化学療法が83%vs.76%、アンドロゲン受容体経路阻害薬(ARPI)が26%vs.23%、PARP阻害薬が11%vs.36%であった。・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)は試験群75%vs.対照群59%で発現し、試験群で多くみられたのは貧血(29%)、高血圧(27%)であった。 Attard氏は今回の結果について、「早期の遺伝子検査と、HRR関連遺伝子に病的バリアントを有するmCSPC患者における新たな治療オプションとしてのニラパリブ+AAP併用療法を支持するもの」とまとめている。

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2025年版 心不全診療ガイドライン改訂のポイント(後編)【心不全診療Up to Date 2】第2回

2025年版 心不全診療ガイドライン改訂のポイント(後編)Key Point予防と早期介入の重視:心不全リスク段階(ステージA)に慢性腎臓病(CKD)を追加し、発症前の予防的アプローチを強化薬物療法の進展:SGLT2阻害薬が左室駆出率を問わず基盤治療薬となり、HFpEF/HFmrEFや肥満合併例への新薬(フィネレノン、インクレチン関連薬など)推奨を追加包括的・患者中心ケアへの転換:地域連携・多職種連携、急性期からのリハビリテーション、患者報告アウトカム評価、併存症管理を強化し、より統合的なケアモデルを推進前回は、改訂の背景、心不全の定義の変更、薬物治療について解説した。今回は、新規疾患概念とその治療や評価法にフォーカスして改訂ポイントを紹介する。4. 原疾患(心筋症)に対する新たな治療心不全の原因となる特定の心筋症に対して、近年の治療の進歩を反映した新たな推奨が追加された。とくに、肥大型心筋症(Hypertrophic Cardiomyopathy:HCM)、心アミロイドーシス、心臓サルコイドーシスに関する記載が更新されている1)。肥大型心筋症(HCM)症候性(NYHAクラスII/III)の閉塞性HCM(HOCM)に対して、心筋ミオシン阻害薬であるマバカムテンが新たな治療選択肢として推奨された。日本循環器学会(JCS)からはマバカムテンの適正使用に関するステートメントも発表されており、投与対象(LVEF≥55~60%、有意な左室流出路圧較差)、注意事項(二次性心筋症除外など)、投与中のモニタリング(LVEF低下時の休薬基準など)、併用薬(β遮断薬またはCa拮抗薬との併用が原則)、処方医・施設の要件が詳細に規定されている。マバカムテンはHCMの病態生理に直接作用する薬剤であり、その導入には厳格な管理体制が求められる。トランスサイレチン型心アミロイドーシス (ATTR-CM)ATTR-CMに対する新たな治療薬として、ブトリシラン(RNA干渉薬)およびアコラミジス(TTR安定化薬)の推奨が追加された。これらの推奨は、HELIOS-B試験(ブトリシラン)2)やATTRibute-CM試験(アコラミジス)3)などの臨床試験結果に基づいたものである。これらの新しい治療法の登場は、特定の心筋症に対して、その根底にある分子病理に直接介入する標的療法の時代の到来を告げるものである。マバカムテンはHCMにおけるサルコメアの過収縮を、ブトリシランはTTR蛋白の産生を抑制し、アコラミジスはTTR蛋白を安定化させる。これらは、従来の対症療法的な心不全管理を超え、疾患修飾効果が期待される治療法であり、精密医療(Precision Medicine)の進展を象徴している。この進展は、心不全の原因精査(特定の心筋症の鑑別診断)の重要性を高めるとともに、これらの新規治療薬の適正使用とモニタリングに関する専門知識を有する医師や施設の役割を増大させる。遺伝学的検査の役割も今後増す可能性がある。表2:特定の心筋症に対する新規標的治療薬(2025年版ガイドライン追記)画像を拡大する5. 特殊病態・新規疾患概念心不全の多様な側面に対応するため、特定の病態や新しい疾患概念に関する記述が新たに追加、または拡充された1)。心房心筋症心房自体の構造的、機能的、電気的リモデリングが心不全(とくにHFpEF)や脳卒中のリスクとなる病態概念であるため追加中性脂肪蓄積心筋血管症細胞内の中性脂肪分解異常により心筋や血管に中性脂肪が蓄積する稀な疾患概念であり、診断基準を含めて新たに記載高齢者/フレイル高齢心不全患者、とくにフレイルを合併する患者の評価や管理に関する配慮が追加腫瘍循環器学がん治療(化学療法、放射線療法など)に伴う心血管合併症や、がんサバイバーにおける心不全管理に関する記述が追加これらの項目の追加は、心不全が単一の疾患ではなく、多様な原因や背景因子、そして特定の患者集団における固有の課題を持つことを反映している。6. 診断・評価法の強化心不全の診断精度向上と、より包括的な患者評価を目指し、新たな診断・評価法に関する推奨が追加された。遺伝学的検査特定の遺伝性心筋症や不整脈が疑われる場合など、適切な状況下での遺伝学的検査の実施に関する推奨とフローチャートが追加ADL/QOL/PRO評価日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)、生活の質(QOL)、患者報告アウトカム(Patient-Reported Outcomes:PROs)の評価が、単なる生活支援の指標としてだけでなく、予後予測因子としても重要であることが位置付けられた。Barthel Index、Katz Index(ADL評価)、Kansas City Cardiomyopathy Questionnaire(KCCQ)、Minnesota Living with Heart Failure Questionnaire(MLHFQ[PRO評価の1つ])などの具体的な評価ツールの活用を推奨リスクスコア予後予測のためのリスクスコアの活用に関する項目が追加BNP/NT-proBNPスクリーニングステージAからステージBへの進展リスク評価のためのBNP/NT-proBNP測定を推奨これらの診断・評価法の強化は、従来の心機能評価(LVEF、バイオマーカーなど)に加え、遺伝的背景、実際の生活機能、そして患者自身の主観的な評価を取り入れた、より多面的で患者中心の評価へと向かう流れを示している。とくにADL、QOL、PROの重視は、心不全治療の目標が単なる生命予後の改善だけでなく、患者がより良い生活を送れるように支援することにある、という考え方を反映している。臨床医は、これらの評価法を日常診療に組み込み、より個別化された治療計画の立案や予後予測に役立てることが求められる。7. 社会的側面への対応:地域連携・包括ケアの新設心不全患者の療養生活を社会全体で支える視点の重要性が増していることを受け、「地域連携・地域包括ケア」に関する章が新たに設けられた。これは今回の改訂における大きな特徴の1つである。この章では、病院完結型医療から地域完結型医療への移行を促すため、以下のような多岐にわたる内容が盛り込まれている。多職種連携医師、看護師(とくに心不全療養指導士1))、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士、ソーシャルワーカーなど、多様な専門職が連携し、患者中心のケアを提供する体制の重要性を強調4)。地域連携病院、診療所(かかりつけ医)、訪問看護ステーション、薬局、介護施設、行政などが緊密に連携し、情報共有や役割分担を通じて、切れ目のないケアを提供するネットワーク構築の必要性を明示4)。デジタルヘルス・遠隔モニタリングスマートフォンアプリ、ウェアラブルデバイス、植込み型デバイスなどを活用した遠隔モニタリングやオンライン診療が、患者の状態のリアルタイム把握、早期介入、再入院予防、治療の最適化、医療アクセス向上に貢献する可能性のあるツールとして正式に位置付け1)社会復帰・就労支援患者の社会生活への復帰や就労継続を支援するための情報提供や体制整備の必要性についても言及この新設された章は、心不全管理が単なる医学的治療に留まらず、患者の生活全体を地域社会の中で包括的に支えるシステムを構築する必要があるという、パラダイムシフトを明確に示している。これは、心不全を慢性疾患として捉え、急性期治療後の長期的な安定維持とQOL向上には、医療、介護、福祉、そしてテクノロジーが一体となった支援体制が不可欠であるとの認識に基づいている。8. 急性非代償性心不全の管理急性非代償性心不全(Acute Decompensated Heart Failure:ADHF)の病態評価と治療に関して、より精緻な管理を目指すための改訂が行われた。WHFとDHFの定義追加心不全の悪化に関する用語として、心不全増悪(Worsening Heart Failure:WHF)と非代償状態(Decompensation:DHF)の定義が明確化。WHF既知の心不全患者において、症状や徴候が悪化する状態。LVEF低下やBNP上昇などの客観的所見を伴う場合もある。慢性心不全の進行や治療反応性の低下を示唆する。DHF慢性的に代償が保たれていた心不全が、何らかの誘因により急激に代償不全に陥り、体液貯留や低心拍出症状が顕在化する状態。緊急治療を要することが多い。ADHFは、このDHFの中でもとくに緊急性の高い重症病態(呼吸不全、ショックなど)を指す。移行期管理の推奨追加ADHFによる入院治療後、安定した代償状態へと移行する期間(移行期)の管理に関する知見と推奨が新たに追加。とくに、退院後90日間は再入院リスクが非常に高い「脆弱期(vulnerable phase)」と定義され、この期間における多職種による集中的な介入(心臓リハビリテーション、服薬指導、栄養指導、訪問看護、ICT活用など)の重要性を強調する。これらの改訂は、急性増悪時の病態をより正確に把握し(WHF/DHF/ADHFの区別)、とくに退院後の不安定な時期(脆弱期)における管理を強化することで、再入院を防ぎ、長期的な予後改善を目指す戦略を明確にしている。これは、急性期治療の成功を入院中だけでなく、退院後のシームレスなケアへと繋げることの重要性を示唆しており、後述する急性期リハビリテーションや前述の地域連携・多職種連携の強化と密接に関連している。臨床現場では、標準化された定義に基づいた病態評価と、脆弱期に焦点を当てた構造化された退院後支援プログラムの導入が求められる。9. 急性期リハビリテーションの推奨強化心不全診療におけるリハビリテーションの重要性が再認識され、とくに急性期からの早期介入に関する包括的な記述と推奨が大幅に強化された。早期介入の意義入院早期からの運動療法を含む心臓リハビリテーションが、「切れ目のないケア」の中核として位置付けられた。ACTIVE-ADHF試験などの国内エビデンスも引用され4)、早期介入が運動耐容能、ADL、認知機能、QOLの改善に寄与し、予後を改善する可能性が示されている。この改訂は、リハビリテーションを、従来の外来での安定期患者向けサービスという位置付けから、急性期入院時から開始されるべき心不全治療の不可欠な構成要素へと転換させるものである。心不全による身体機能低下やフレイルの進行を早期から抑制し、円滑な在宅復帰と地域での活動性維持を支援する上で、リハビリテーション専門職(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)の役割が極めて重要であることを示している。今後は、急性期医療チームへのリハビリテーション専門職の積極的な参画、早期離床・運動療法プロトコルの標準化、そして退院後の継続的なリハビリテーション提供体制(遠隔リハビリ含む)の整備が課題となる。10. 併存症管理の重点化心不全患者においては多くの併存疾患が存在し、それらが予後やQOLに大きな影響を与えることから、主要な併存症の管理に関する記載と推奨が強化された。とくに重要視される併存症として、以下のものが挙げられ、それぞれの管理戦略に関する最新の知見が盛り込まれている。慢性腎臓病(CKD)・心腎症候群心不全とCKDは密接に関連し、相互に悪影響を及ぼす。腎機能に応じた薬物療法(用量調節)の必要性とともに、SGLT2阻害薬やフィネレノンなど心腎保護効果を有する薬剤の積極的な活用を推奨。肥満とくにHFpEFにおいて、肥満は重要な治療ターゲットであり、GLP-1受容体作動薬などの抗肥満薬が症状改善に寄与する可能性が示唆。糖尿病SGLT2阻害薬は心不全と糖尿病の両方に有効な治療選択肢である。GLP-1受容体作動薬も考慮される。血糖管理だけでなく、心血管リスク低減を考慮した薬剤選択が重要となる。高カリウム血症RAS阻害薬やMRA使用時に問題となりうるため、モニタリングと管理(食事指導、カリウム吸着薬など)に関する注意喚起がなされている。貧血・鉄欠乏鉄欠乏は心不全症状や運動耐容能低下に関与し、診断と治療(経静脈的鉄補充療法など)が推奨される。抑うつ・認知機能障害・精神心理的問題これらの精神神経系の併存症はQOL低下やアドヒアランス不良につながるため、スクリーニングと適切な介入(精神科医との連携含む)の重要性が指摘されている。おわりに2025年版心不全診療ガイドラインは、近年のエビデンスに基づき、多岐にわたる重要な改訂が行われた。とくに、心不全発症前のリスク段階(ステージA/B)からの予防的介入、CKDの重要性の強調、LVEFによらずSGLT2阻害薬が基盤治療薬となったこと、特定の心筋症に対する分子標的治療の導入、急性期から慢性期、在宅までを見据えたシームレスなケア体制(急性期リハビリテーション、移行期管理、地域連携、多職種連携、デジタルヘルス活用)の重視、そして併存症や患者報告アウトカム(PRO)を含めた包括的・患者中心の管理へのシフトは、本ガイドラインの根幹をなす変化点と言える。全体として、本ガイドラインは、心不全診療を、より早期からの予防に重点を置き、エビデンスに基づいた薬物療法を最適化しつつ、リハビリテーション、併存症管理、患者のQOLや社会的側面にも配慮した、包括的かつ統合的なモデルへと導くものである。本邦の高齢化社会という背景を踏まえ、実臨床に即した指針を提供することを目指している。心不全管理は日進月歩であり、今後も新たなエビデンスの創出が期待される。臨床現場の医療従事者各位におかれては、本ガイドラインの詳細を熟読・理解し、日々の診療にこれらの新たな知見を効果的に取り入れることで、本邦における心不全患者の予後とQOLのさらなる向上に貢献されることを期待したい。 1) Kitai T, et al. Circ J. 2025 Mar 28. [Epub ahead of print] 2) Fontana M, et al. N Engl J Med. 2025;392:33-44. 3) Gillmore JD, et al. N Engl J Med. 2024;390:132-142. 4) Kamiya K, et al. JACC Heart Fail. 2025;13:912-922.

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既治療のEGFR exon20挿入変異NSCLCへのzipalertinib(REZILIENT1)/ASCO2025

 EGFR exon20挿入変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対し、2024年にアミバンタマブが使用可能となった。しかし、アミバンタマブで病勢進行が認められた場合や有害事象などによって中止となった場合、アミバンタマブが使用できない場合の治療選択肢は確立していない。そこで、新規EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)のzipalertinibが開発されている。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Helena Alexandra Yu氏(米国・メモリアルスローンケタリングがんセンター)が、EGFR exon20挿入変異を有する既治療のNSCLC患者を対象とした国際共同第I/II相試験「REZILIENT1試験」の第IIb相の結果を報告した。本試験において、zipalertinibはプラチナ製剤を含む化学療法±アミバンタマブによる治療歴のあるNSCLC患者においても有効であることが示唆された。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌オンライン版2025年6月1日号に同時掲載された1)。・試験デザイン:国際共同第I/II相非盲検試験・対象:EGFR exon20挿入変異を有するNSCLC患者で、プラチナ製剤を含む化学療法±EGFR exon20挿入変異標的療法(アミバンタマブまたはmobocertinib)による治療歴のある患者・投与方法:zipalertinib 100mg、1日2回・第II相コホート1(化学療法既治療コホート):プラチナ製剤を含む化学療法による治療歴があり、EGFR exon20挿入変異標的療法による治療歴のない患者 143例・第II相コホート2(化学療法+標的療法既治療コホート):プラチナ製剤を含む化学療法およびEGFR exon20挿入変異標的療法による治療歴のある患者 101例・評価項目:[主要評価項目]RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)による奏効率(ORR)および奏効期間(DOR)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性など・解析計画:有効性の解析は、zipalertinib 100mgを少なくとも1回以上投与され、8ヵ月以上の追跡期間を有する患者を対象とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は65歳(化学療法既治療コホート66歳、化学療法+標的療法既治療コホート62歳)、脳転移を有する割合は42%(それぞれ34%、55%)であった。・有効性解析対象(176例)の追跡期間中央値9.3ヵ月時点におけるORRは、化学療法既治療コホート40%(全例PR)、化学療法+標的療法既治療コホート24%(CR 1例、PR 11例)であった。なお、化学療法+標的療法既治療コホートのうち、標的療法がアミバンタマブのみの集団ではORRは30%であった。・DOR中央値は、化学療法既治療コホート8.8ヵ月、化学療法+標的療法既治療コホート8.5ヵ月であった。・有効性解析対象のうちベースライン時に脳転移を有する集団(68例)におけるORRは31%、DOR中央値は8.3ヵ月であった。・PFS中央値は、化学療法既治療コホート9.5ヵ月、化学療法+標的療法既治療コホート7.3ヵ月であった。12ヵ月PFS率は、それぞれ32.0%、24.8%であった。・12ヵ月OS率は、化学療法既治療コホート73.4%、化学療法+標的療法既治療コホート59.8%であった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)は29.5%に発現した。治療中止に至ったTRAEは8.2%に発現した。治療関連死が2例報告され、内訳は肺臓炎、低酸素症であった。・主なTRAE(20%以上に発現)は、爪囲炎(38.5%)、発疹(30.3%)、ざ瘡様皮膚炎(24.6%)、皮膚乾燥(24.6%)、下痢(21.7%)、口内炎(20.1%)であった。主なGrade3以上のTRAEは貧血(7.0%)、発疹(2.5%)、下痢(2.0%)であった。 本結果について、Yu氏は「プラチナ製剤を含む化学療法±アミバンタマブで病勢進行が認められたEGFR exon20挿入変異を有するNSCLC患者において、zipalertinibが有望な治療選択肢であることを支持するものである」とまとめた。なお、EGFR exon20挿入変異を有するNSCLCの1次治療におけるzipalertinibの有用性を検証する国際共同第III相試験「RELILIENT3試験」も進行中である。

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III期dMMR大腸がん、術後補助療法にアテゾリズマブ上乗せでDFS改善(ATOMIC)/ASCO2025

 III期大腸がんの標準的な補助化学療法は、フッ化ピリミジンまたはオキサリプラチン併用療法である。ATOMIC試験は、StageIIIでミスマッチ修復機能欠損(dMMR)を有する患者において、補助療法として5-フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン(mFOLFOX6)に抗PD-L1抗体アテゾリズマブを追加投与することで、患者予後を改善できるかを評価するために実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)のプレナリーセッションにおいて、米国・メイヨークリニックのFrank A. Sinicrope氏が本試験の2回目の中間解析結果を発表した。・試験:多施設共同無作為化第III相試験・対象:術後StageIIIのdMMR大腸がん患者(化学療法、放射線療法未治療)・試験群:mFOLFOX6とアテゾリズマブ(840mgを2週ごと)を12サイクル(6ヵ月)投与後、アテゾリズマブ単剤を13サイクル(計12ヵ月)投与(アテゾ群)355例・対照群:mFOLFOX6を12サイクル(6ヵ月)投与(mFOLFOX6群)357例・評価項目:[主要評価項目]無病生存期間(DFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性 主な結果は以下のとおり。・2017年9月~2023年1月、712例がランダム化され、アテゾ群またはmFOLFOX6群に1対1で割り付けられた。患者年齢の中央値は64歳、55.1%が女性だった。腫瘍の分類では、83.8%が近位部、53.9%が高リスク(T4および/またはN2)だった。治療期間中央値はアテゾ群で10.9ヵ月、mFOLFOX6群で5.4ヵ月だった。・追跡期間中央値は37.2ヵ月で、124例のDFSイベントが観察された。3年DFS率は、アテゾ群で86.4%(95%信頼区間[CI]:81.8~89.9)、mFOLFOX6群で76.6%(95%CI:71.3~81.0)を示し、試験群で有意な改善が認められた(ハザード比:0.50、95%CI:0.35~0.72)。アテゾ群の有効性は、70歳以上および低リスク群と高リスク群を含むサブグループで一貫していた。・追跡期間中央値42.5ヵ月におけるOSは未成熟だった。・Grade3以上の治療関連有害事象は、アテゾ群の72.3%、mFOLFOX6群の59.2%で発現した。Grade3/4で多くみられたのは好中球数減少(43%と30%)末梢神経障害(19%と15%)だった。 Sinicrope氏は「アテゾリズマブをmFOLFOX6に追加することは、dMMRのStageIII大腸がん患者におけるDFSを有意に改善した。このレジメンを新たな補助療法の標準治療として検討すべきだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「3年DFS率が有意差をもって改善し、プラクティスチェンジとなる発表だった。一方、実臨床に用いる際には、アテゾリズマブとの併用は広く使われるCAPOXレジメンではダメなのか、MMR/MSI検査を行うタイミングなどの点が議論になりそうだ」とコメントした。

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進行尿路上皮がん1次治療、EV+ペムブロリズマブによるCR・PR症例の探索的解析結果(EV-302/KEYNOTE-A39)/ASCO2025

 局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者の1次治療において、エンホルツマブ ベドチン(EV)+ペムブロリズマブ併用療法と化学療法の有効性を比較したEV-302/KEYNOTE-A39試験の探索的解析の結果、EV+ペムブロリズマブ群で完全奏功(CR)を達成した患者の割合は化学療法群の約2倍であり、レスポンダー(CR+部分奏功[PR]症例)では適切な用量調整のもとで長期間治療を継続していることが明らかとなった。米国・Cleveland Clinic Taussig Cancer InstituteのShilpa Gupta氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。 EV-302/KEYNOTE-A39試験では、EV+ペムブロリズマブ併用療法が化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を有意に延長したことが報告されている。・対象:未治療の局所進行/転移を有する尿路上皮がん患者(GFR≧30mL/分、ECOG PS≦2)・試験群:EV(1.25mg/kg、3週ごと1・8日目に静脈内投与)+ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと1日目に静脈内投与) 437例・対照群:ゲムシタビン+シスプラチン(シスプラチン不適格例ではゲムシタビン+カルボプラチン) 441例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS、OS[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など・層別因子:シスプラチン適格性、PD-L1発現状況、肝転移の有無 主な結果は以下のとおり。・本探索的解析のデータカットオフは2024年8月8日、追跡期間中央値は29.1ヵ月であった。・confirmed ORRは試験群67.5%(295例)vs.対照群44.2%(195例)、confirmed CRは30.4%(133例)vs.14.5%(64例)であった。・試験群のCR+PR症例のベースライン特性はITT集団とおおむね一致しており、年齢中央値が69(37~87)歳、ECOG PS1/2が43.7%/2.0%、肝転移ありが20%、シスプラチン不適格が41.7%であった。・CR+PR症例におけるDOR中央値は、試験群23.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:17.8~NE)vs.対照群7.0ヵ月(95%CI:6.2~9.0)であった。・CR+PR症例におけるDOR中央値をシスプラチン適格性ごとにみると、シスプラチン適格患者では試験群24.4ヵ月(95%CI:17.8~NE)vs.対照群8.3ヵ月(95%CI:5.9~10.8)、シスプラチン不適格患者では21.9ヵ月(95%CI:15.7~NE)vs.6.6ヵ月(95%CI:5.5~9.3)であった。・CR+PR症例におけるOS中央値は、試験群39.3ヵ月(95%CI:36.5~NE)vs.対照群32.1ヵ月(95%CI:26.8~NE)で(層別ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.44~0.79)、24ヵ月時点での試験群のCR+PR症例の生存率は76.3%であった。・試験群における治療サイクル中央値は、EVが全体集団:9(1~54)サイクル/CR+PR症例:12(1~54)サイクル/CR症例:13(1~50)サイクル、ペムブロリズマブが全体集団:11(1~35)サイクル/CR+PR症例:17(1~35)サイクル/CR症例:27(1~35)サイクルであった。・試験群におけるGrade3以上の治療関連有害事象(TRAE)発生率は、全体集団:57.3%、CR+PR症例:61.4%、CR症例:61.7%であった。・EVの安全性プロファイルは、全体集団とCR+PR症例でおおむね一致しており、Grade3以上のTRAEとして多くみられたのは、皮疹(全体集団:15.2%、CR+PR症例:17.3%)、高血糖(6.4%、7.5%)、末梢性感覚ニューロパチー(4.8%、6.4%)などであった。・ペムブロリズマブの安全性プロファイルは、全体集団とCR+PR症例でおおむね一致しており、Grade3以上のTRAEとして多くみられたのは、重度の皮膚障害(全体集団:12.3%、CR+PR症例:12.9%)、肺臓炎(3.9%、4.1%)、肝炎(2.0%、2.4%)などであった。・用量調整は全体集団と比較してCR+PR症例でより多く実施されており、CR+PR症例では休薬がEV:69.2%/ペムブロリズマブ:62.4%、EVの減量が53.9%で行われていた。 Gupta氏は「今回のデータは、局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者の1次治療として、シスプラチン適格性を含むベースライン特性によらずEV+ペムブロリズマブ併用療法が標準治療であることを支持するものである」とまとめている。

73.

胃がん周術期、FLOTにデュルバルマブ上乗せでEFS改善(MATTERHORN)/ASCO2025

 欧米において、化学療法FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)は切除可能な胃がんにおける術前術後の標準治療だが、再発率は依然として高い水準にある。胃がんにおける免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、切除不能例において化学療法との併用で承認されているが、術前術後療法では承認されていない。 MATTERHORN試験は切除可能な胃がん患者を対象に、術前術後療法としてFLOTにICIであるデュルバルマブ上乗せの有用性をみた試験である。すでに病理学的完全奏効(pCR)率を有意に改善したことが報告されているが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)プレナリーセッションにおいてYelena Y. Janjigian氏(米国・メモリアルスローンケタリングがんセンター)が、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)を含む第2回中間解析の結果を報告した。この結果はNEJM誌オンライン版2025年6月1日号に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同二重盲検ランダム化第III相試験・対象:切除可能なStageII~IVA期局所進行胃がん/食道胃接合部腺がん 948例・試験群:術前術後にFLOT+デュルバルマブ1,500mgを4週ごと2サイクル、術後にデュルバルマブ1,500mg 4週ごと10サイクル(デュルバルマブ群)474例・対照群:術前術後にFLOT+プラセボを4週ごと2サイクル、術後にプラセボを10サイクル(プラセボ群)474例・評価項目:[主要評価項目]EFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、pCR、安全性など・データカットオフ:2024年12月20日 主な結果は以下のとおり。・計948例がデュルバルマブ群474例、プラセボ群474例にランダム化された。追跡期間中央値は31.5ヵ月だった。・デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して、EFSで統計学的に有意な改善を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。EFS中央値はデュルバルマブ群では未到達(95%CI:40.7~未到達)、プラセボ群で32.8ヵ月(95%CI:27.9~未到達)だった。2年EFS率は、デュルバルマブ群でプラセボ群よりも高かった(67%対59%)。・OS中央値は、デュルバルマブ群で未到達、プラセボ群で47.2ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)であった。・pCR率はデュルバルマブ群で19%、プラセボ群で7%だった。・Grade3/4の有害事象の発生率は両群で類似していた。デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して手術や補助療法の開始を遅らせなかった。 Janjigian氏は「デュルバルマブ+FLOTは、プラセボ+FLOTと比較してEFSで統計学的に有意な改善を示し、OSの有望な傾向を示した。これらの結果は、デュルバルマブを切除可能な胃がん周術期の新たな標準治療として支持するものだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「EFS、OSが改善したポジティブな結果だった。一方で、日本におけるStageII/III胃がんの術後化学療法はS-1が中心でFLOTレジメンは使われていない。また、サブグループ解析ではアジア人においては両群に有意差がなかった。こうした点から、この治療戦略を日本の臨床に取り入れるべきかどうかは意見の分かれるところであり、さらなるデータが必要となりそうだ。今年のASCOの消化器がん演題の中で、最も議論を呼ぶ結果ではないか」とコメントした。

74.

EGFR-TKI既治療のNSCLC、HER3-DXdの第III相試験結果(HERTHENA-Lung02)/ASCO2025

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)による治療歴を有するEGFR遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、patritumab deruxtecan(HER3-DXd)は、無増悪生存期間(PFS)を改善したものの、全生存期間(OS)を改善することはできなかった。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Tony S. K. Mok氏(中国・香港中文大学)が、国際共同第III相試験「HERTHENA-Lung02試験」の結果を報告した。すでに主要評価項目のPFSが改善したことが報告されており、OSの結果が期待されていた。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:第3世代EGFR-TKIによる治療歴を有するEGFR遺伝子変異(exon19欠失変異またはL858R変異)陽性の進行NSCLC患者・試験群(HER3-DXd群):HER3-DXd(5.6mg/kg、3週ごと) 293例・対照群(化学療法群):プラチナ製剤を含む化学療法(シスプラチン[75mg/m2、3週ごと4サイクル]またはカルボプラチン[AUC5、3週ごと4サイクル]+ペメトレキセド[500mg/m2、3週ごと])※ 293例・評価項目:[主要評価項目]RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[主要な副次評価項目]OS[副次評価項目]頭蓋内PFS、安全性、HER3発現状況と有効性の関係など※:クロスオーバーは許容されなかった。 主な結果は以下のとおり。・患者背景は両群でバランスがとれており、脳転移を有する割合はHER3-DXd群43.3%、化学療法群45.1%であった。また、第3世代EGFR-TKIを1次治療で使用した割合は、それぞれ77.1%、77.5%であった。第3世代EGFR-TKIの内訳は、オシメルチニブがそれぞれ90.8%、89.8%を占めた。・主要評価項目のBICRによるPFS中央値は、HER3-DXd群5.8ヵ月、化学療法群5.4ヵ月であり、HER3-DXd群が有意に改善した(ハザード比[HR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.63~0.94、p=0.011)。9ヵ月PFS率は、それぞれ29%、19%であった。・PFSのサブグループ解析では、おおよそ一貫した傾向がみられたが、EGFR遺伝子変異の種類によって治療効果が異なる傾向もみられた。HER3-DXd群の化学療法群に対するHRは、exon19欠失変異を有する集団では0.69であったのに対し、L858R変異を有する集団では0.94であった。・主要な副次評価項目のOS中央値は、HER3-DXd群16.0ヵ月、化学療法群15.9ヵ月であり、両群間に有意差は認められなかった(HR:0.98、95%CI:0.79~1.22)。・奏効率は、HER3-DXd群35.2%、化学療法群25.3%であった。・BICRによる頭蓋内PFS中央値は、HER3-DXd群5.4ヵ月、化学療法群4.2ヵ月であった(HR:0.75、95%CI:0.53~1.06)。・Grade3以上の治療関連有害事象は、HER3-DXd群57.9%、化学療法群46.1%に発現した。治療中断に至った有害事象は、それぞれ11.4%、9.6%に発現し、減量に至った有害事象は、それぞれ32.4%、21.1%に発現した。・独立判定委員会により判定された治療に関連した間質性肺疾患は、HER3-DXd群の4.8%(14例)に発現した(化学療法群は0例)。 本試験のOSの結果に基づき、第一三共は米国におけるHER3-DXdのEGFR遺伝子変異陽性NSCLCに関する承認申請を取り下げたことを発表している。なお、Mok氏は「HER3発現状況などのバイオマーカーと有効性の関係に関する解析は引き続き実施する」と述べた。

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進行尿路上皮がん維持療法、アベルマブ+SGがPFS改善(JAVELIN Bladder Medley)/ASCO2025

 1次化学療法後に病勢進行のない切除不能の局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者の維持療法として、アベルマブ+サシツズマブ ゴビテカン(SG)併用療法はアベルマブ単剤療法と比較して無増悪生存期間(PFS)を改善した。米国・Johns Hopkins Greenberg Bladder Cancer InstituteのJeannie Hoffman-Censits氏が、第II相国際共同無作為化非盲検比較試験(JAVELIN Bladder Medley試験)の中間解析結果を米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。なお、この内容はAnnals of oncology誌オンライン版5月30日号に同時掲載された。・対象:切除不能の局所進行/転移を有する尿路上皮がん患者(≧18歳、プラチナペースの1次化学療法4~6サイクル後に病勢進行[PD]なし、ECOG PS0/1)・試験群:アベルマブ(800mg、2週ごと)+SG(21日サイクルで1・8日目に10mg/kg) 74例・対照群:アベルマブ単剤 37例・評価項目:[主要評価項目]RECIST 1.1による治験担当医師評価に基づくPFS※、安全性※有効性の境界値はHR≦0.60[副次評価項目]全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)など・層別因子:1次化学療法開始時の内臓転移の有無 主な結果は以下のとおり。・ベースラインにおける患者特性は、年齢中央値が試験群70(42~85)歳vs.対照群67(53~89)歳、男性が82.4%vs.75.7%、アジア(台湾・韓国)からの参加がともに27.0%、ECOG PS1が31.1%vs.54.1%、PD-L1陽性が27.0%vs.35.1%、1次化学療法開始時の転移部位は内臓転移が50.0%vs.51.4%、1次化学療法レジメンはシスプラチン+ゲムシタビンが55.4%vs.67.6%(そのほかはカルボプラチン+ゲムシタビン)であった。・データカットオフ時点(2024年9月16日)において、試験群では51.4%、対照群では27.0%が試験治療を継続中であった。・治験担当医師評価に基づくPFS中央値は、試験群11.17ヵ月(95%信頼区間[CI]:7.43~NE)vs.対照群3.75ヵ月(95%CI:3.32~6.77)であった(層別ハザード比[HR]:0.49、95%CI:0.31~0.76)。・OS中央値は未成熟なデータであるが、試験群NR(95%CI:15.51~NE)vs.対照群23.75ヵ月(95%CI:18.79~30.82)であった(層別HR:0.79、95%CI:0.42~1.50)。・ORRは試験群24.3%(CR:6.8%、PR:17.6%) vs.対照群2.7%(CR:2.7%、PR:0%)、DORは11.9ヵ月vs.NEであった。・Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発生は、試験群69.9%vs.対照群0%であった。試験群におけるGrade3以上のTRAEで多くみられたのは、アベルマブ関連が疲労(4.1%)、下痢(2.7%)、SG関連が好中球減少症(39.7%)、好中球数減少(23.3%)、下痢(12.3%)などであった。試験群において、SG関連AE(敗血症および汎血球減少によるくも膜下出血)による死亡が1例確認された。 Hoffman-Censits氏は今回の結果から、「アベルマブと抗Trop-2抗体薬物複合体の組み合わせは、進行尿路上皮がんの転帰を改善する有望な戦略となる可能性がある」としている。

76.

局所進行膵腺がん、腫瘍治療電場療法(TTフィールド)の上乗せでOS延長(PANOVA-3)/ASCO2025

 切除不能局所進行膵腺がん(LA-PAC)患者において、腫瘍電場治療(TTフィールド)と化学療法の併用が全生存期間(OS)の改善を示した。 LA-PAC患者を対象にTTフィールドとゲムシタビン+nabパクリタキセル(GnP)の有用性を評価する第III相PANOVA-3試験の結果が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、米国・Virginia Mason Medical CenterのVincent Picozzi氏から発表された。 LA-PACは5年生存率8%と予後不良であり、現在の治療法ではアンメットニーズが高い。LA-PACの30〜35%は局所進行だが根治切除対象は10〜15%にとどまり、残りの患者は治癒不能で消耗性の痛みを訴える。TTフィールドはさまざまな機序で腫瘍細胞の分裂を阻害する電場療法。化学療法、放射線、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、PARP阻害薬などとの併用により、一部の固形がんで抗腫瘍効果を高めることが認められていた。米国と欧州では膠芽腫、悪性胸膜中皮腫、非小細胞肺がんに承認されている(日本では膠芽腫のみ)。膵腺がんでは、進行ステージにおいてGnPレジメンとの併用で、有効性と忍容性が示されている。試験デザイン:無作為化非盲検第III相試験対象:局所進行膵腺がん試験群:TTフィールド+GnPレジメン(TTFields+GnP群)285例対照群:GnPレジメン(GnP群)286例評価項目[主要評価項目]OS[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、無痛生存期間、奏効率(ORR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・OS中央値は、TTFields+GnP群16.2ヵ月、GnP群で14.2ヵ月と、TTFields+GnP群で有意に延長した(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.68~0.99、p=0.039)。・PFS中央値はTTFields+GnP群10.6ヵ月、GnP群9.3ヵ月であった(HR:0.85、95%CI:0.68〜1.05、p=0.137)。・無痛生存期間中央値はTTFields+GnP群15.2ヵ月、GnP群9.1ヵ月であった(HR:0.74、95%CI:0.56〜0.97、p=0.027)。・有害事象(AE)はTTFields+GnP群の97.8%、GnP群の89.9%に発現し、重篤なAE発現は、TTFields+GnP群53.6%、GnP群47.6%であった。・TTFields+GnP群の機器関連AEは81.0%に発現した。主なものは皮膚障害であるが、ほとんどがGrade1/2であった(Grade3は7.7%)。TTフィールドに起因する死亡例はなかった。 PANOVA-3試験は、切除不能LA-PACにおけるTTフィールドとGnPの併用療法が、OSおよび無痛生存期間において有意なベネフィットを示すことを初めて実証した。同レジメンが新たな標準治療となる可能性を示す結果となった。 この試験結果はJournal of Clinical Oncology誌2025年5月31日号に掲載された。

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HER2陽性胃がん2次治療、T-DXdがラムシルマブ+パクリタキセルを上回る(DESTINY-Gastric04)/ASCO2025

 切除不能または転移のあるHER2陽性胃がんに対する標準的な1次治療は、トラスツズマブ+化学療法の併用である。最近のKEYNOTE-811試験の結果に基づき、CPS 1以上であればペムブロリズマブ併用も推奨される。その後の2次治療の標準治療はラムシルマブ+パクリタキセルまたはペムブロリズマブだが、ペムブロリズマブは今後1次治療で使われることが見込まれ、ラムシルマブ+パクリタキセルが実質的な標準治療の位置付けとなる。 DESTINY-Gastric04試験は、現在は切除不能HER2陽性胃がんの3次治療以降に承認されているADC・トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)を、2次治療としてラムシルマブ+パクリタキセル併用療法と直接比較した試験である。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で国立がん研究センター東病院の設楽 紘平氏が本試験の結果を発表し、この内容はNEJM誌オンライン版2025年5月31日号に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同無作為化第III相試験・対象:前治療歴のあるHER2陽性の切除不能胃がんまたは胃食道接合部腺がん・試験群:T-DXd 6.4mg/kgを3週ごと(T-DXd群)・対照群:ラムシルマブ+パクリタキセル(RAM+PTX群)・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS)[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・494例がT-DXd群に246例、RAM+PTX群に248例に1対1に割り付けられた。中間解析のデータカットオフ日(2024年10月24日)時点で、T-DXd群18.9%、RAM+PTX群の18.5%が治療を継続していた。アジアからの参加者は23%だった。・OS中央値はT-DXd群で14.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.1~16.6)、RAM+PTX群で11.4ヵ月(95%CI:9.9~15.5)、ハザード比(HR)は0.70(95%CI:0.55~0.90)でT-DXd群が有意に延長した。設定されたいずれのサブグループでも同様の傾向だった。・PFS中央値はT-DXd群で6.7ヵ月(95%CI:5.6~7.1)、RAM+PTX群で5.6ヵ月(95%CI:4.9~5.8)、HRは0.74(95%CI:0.59~0.92)で、こちらも有意な延長を示した。ORRはT-DXd群44.3%対RAM+PTX群29.1%で、こちらも有意な結果が示された。・治療期間の中央値は、T-DXd群5.4ヵ月、RAM+PTX群で4.6ヵ月だった。薬剤関連有害事象の発現率はT-DXd群で93.0%、RAM+PTX群で91.4%、うちGrade3以上は50.0%と54.1%だった。・Grade3以上でよくみられたのは、T-DXd群では好中球減少症(28.7%)と貧血(13.9%)、RAM+PTX群では好中球減少症(35.6%)、貧血(13.7%)、白血球減少症(12.4%)であった。薬剤関連間質性肺疾患または肺臓炎はT-DXd群の13.9%、RAM+PTX群の1.3%に認められた。 設楽氏は「HER2陽性胃がんにおいて、T-DXdはラムシルマブとパクリタキセルの併用療法と比較してOSを有意に延長し、PFS、ORR、DORにも改善が見られた。有害事象は両群で多く認められたが、既知の重大なリスクであるT-DXd投与に伴う間質性肺疾患または肺臓炎は低レベルであった。本試験の結果はT-DXdが切除不能HER2陽性胃がんの2次治療の標準治療となることを示すものだ」とした。 現地で発表を聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「HER2陽性胃がんの2次治療が変わる、まさにプラクティスチェンジとなる発表だった。OSのHRをはじめ、PFS、ORRとも申し分のないデータだ。T-DXdはすでに実臨床で使われており、有害事象も既知の範囲であり、今後の承認が見込まれる」とコメントした。

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DLBCLの予後予測、1次治療後のPhasED-Seqを用いたctDNAによるMRDが有用~前向き多施設共同研究/ASCO2025

 1次治療を受けるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者の予後予測に、治療終了時におけるPhasED-seq(phased variant enrichment and detection sequencing)を用いた循環腫瘍DNAによる測定可能残存病変(ctDNA-MRD)検出が有用であることが、全国規模の前向き多施設共同研究で示された。オランダ・Amsterdam UMC Location Vrije UniversiteitのSteven Wang氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。 本研究では、オランダとベルギーの50施設を超える医療機関で1次治療を受けるDLBCL患者の前向きリアルワールドコホートにおいてctDNA-MRDを評価した。患者は根治目的の1次治療(R-CHOPまたはDA-EPOCH-R)を受け、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)におけるMRDの有無の予後予測的意義を評価した。フェーズドバリアントはベースラインのサンプル(FFPE検体または治療前の血漿サンプル)から同定し、ctDNA-MRD検出には治療終了時の血漿サンプルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・登録された172例のうち評価可能な患者は163例で、うち160例(98%)でフェーズドバリアントの同定に成功した。年齢中央値は67歳(範囲:18~88歳)、男性が64%であった。DLBCLが90%、高悪性度B細胞リンパ腫/変異型低悪性度非ホジキンリンパ腫が9%、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫/血管内大細胞型B細胞リンパ腫が2%であった。90%がR-CHOP療法を受け、免疫化学療法の6サイクルを完了した。 ・治療終了時のctDNA-MRD陽性は、PFS(ハザード比[HR]:11.03、95%信頼区間[CI]:6.27~19.40、p<0.0001)およびOS(HR:7.38、95%CI:3.72~14.62、p<0.0001)の予後不良を予測した。・Ann Arborステージが進行期もしくはIPIスコアが高い患者は、治療終了時にctDNA-MRD陽性となる可能性が高かった。・標準的な予測因子であるIPIスコアと治療終了時のPET-CTとの比較において、IPIスコア(HR:1.61、95%CI:0.93~2.79、p=0.086)、PET-CT(HR:5.31、95%CI:2.87~9.82、p<0.0001)に比べ、ctDNA-MRD(HR:11.03、95%CI:6.27~19.40、p<0.0001)が最もPFSの予後を予測した。・治療終了時にPETで完全代謝寛解(CMR)を達成していない患者における3年PFSは、ctDNA-MRD陰性で64%、陽性で4%であった。CMRを達成した患者の3年PFSは、ctDNA-MRD陰性で89%、陽性で36%で、再発の大部分が1次治療後1年以内であった。・治療終了時のctDNA-MRDと1次治療後の再発時期との相関関係をみたところ、1年以内に再発した患者の80%はctDNA-MRDが陽性であるのに対し、1年を超えて再発した患者のうち陽性は22%だった。 Wang氏は「これらの結果は1次治療中のDLBCL患者におけるctDNA-MRDの予後予測の価値を明らかにし、ctDNA-MRDがPET-CTを超える残存病変のエビデンスを提供することが示された」とし、「本研究は1次治療中のDLBCL患者における奏効評価の標準的な構成要素として、PhasED-seqによるctDNA-MRDの統合を支持するもの」と結論した。

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ED-SCLCへのアテゾリズマブ+化学療法、維持療法にlurbinectedin上乗せでPFS・OS改善(IMforte)/ASCO2025

 PS0/1の進展型小細胞肺がん(ED-SCLC)の標準治療は、プラチナ製剤+エトポシド+PD-L1阻害薬であり、維持療法としてPD-L1阻害薬単剤での投与を継続する。カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブによる治療の維持療法に、lurbinectedinを上乗せすることで、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が改善することが示された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)において、Luis Paz-ares氏(スペイン・Hospital Universitario 12 de Octubre)が、海外第III相無作為化比較試験「IMforte試験」のOSの中間解析およびPFSの主解析の結果を報告した。本結果は、Lancet誌オンライン版2025年6月2日号に同時掲載された1)。・試験デザイン:海外第III相無作為化比較試験(13ヵ国96施設で実施)・対象:1次治療としてカルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブを4サイクル実施後に病勢進行がみられず、維持療法への移行が可能であったED-SCLC患者・試験群(lurbinectedin+アテゾリズマブ群):維持療法としてlurbinectedin(3.2mg/m2、3週ごと)+アテゾリズマブ(1,200mg、3週ごと) 242例・対照群(アテゾリズマブ群):維持療法としてアテゾリズマブ(同上) 241例・評価項目:[主要評価項目]独立判定委員会(IRF)評価によるPFS、OS[副次評価項目]治験担当医師評価によるPFS、奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢中央値は、lurbinectedin+アテゾリズマブ群65歳(範囲:38~85)、アテゾリズマブ群67歳(同:35~85)であり、65歳未満の割合は、それぞれ48.8%、37.3%であった。導入療法開始時に肝転移を有していた割合は、それぞれ41.3%、39.0%であった。・導入療法(カルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ)のORRは、lurbinectedin+アテゾリズマブ群87.3%、アテゾリズマブ群88.6%であった。・無作為化後のIRF評価によるPFS中央値は、lurbinectedin+アテゾリズマブ群5.4ヵ月、アテゾリズマブ群2.1ヵ月であり、lurbinectedin+アテゾリズマブ群が有意に改善した(ハザード比[HR]:0.54、95%信頼区間[CI]:0.43~0.67、p<0.0001[有意水準α=0.001])。12ヵ月PFS率は、それぞれ20.5%、12.0%であった。・IRF評価によるPFSのサブグループ解析では、いずれのサブグループにおいてもlurbinectedin+アテゾリズマブ群が優位な傾向がみられた。・無作為化後のOS中央値は、lurbinectedin+アテゾリズマブ群13.2ヵ月、アテゾリズマブ群10.6ヵ月であり、lurbinectedin+アテゾリズマブ群が有意に改善した(HR:0.73、95%CI:0.57~0.95、p=0.0174[有意水準α=0.0313])。12ヵ月OS率は、それぞれ56.3%、44.1%であった。・OSのサブグループ解析でも、ほとんどのサブグループにおいてlurbinectedin+アテゾリズマブ群が優位な傾向がみられた。・無作為化後のベースライン時を基準としたORRは、lurbinectedin+アテゾリズマブ群19.4%(CRは4例[2.3%])、アテゾリズマブ群10.4%(CRは1例[0.5%])であった。DOR中央値は、それぞれ9.0ヵ月、5.6ヵ月であった。・Grade3/4の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は、lurbinectedin+アテゾリズマブ群25.6%、アテゾリズマブ群5.8%であり、lurbinectedin+アテゾリズマブ群で多い傾向にあった。ただし、試験薬の中止に至ったTRAEの発現割合はそれぞれ6.2%、3.3%であり、大きな増加はみられなかった。また、安全性に関する新たなシグナルは認められなかった。・lurbinectedin+アテゾリズマブ群では、発熱性好中球減少症(1.7%vs.0%)やGrade3/4の感染症および寄生虫症(6.6%vs.5.0%)が多い傾向にあった。 本結果について、Paz-ares氏は「IMforte試験は、ED-SCLC患者への1次治療の維持療法において、PFSおよびOSを改善した初の第III相試験である。1次治療の維持療法において、lurbinectedin+アテゾリズマブが新たな標準治療となる可能性を強調するものであった」とまとめた。 本試験に日本は参加していないが、SCLC患者の治療選択肢の向上に向けて、メルクバイオファーマは日本におけるlurbinectedinのライセンス、開発、商業化に関する契約をPharmaMarと締結したことが、2025年4月に発表されている。

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第266回 一般消費者向けDTC検査サービスに新ガイドライン、医師資格を持たない事業者が検査結果に基づき個人の疾患の罹患可能性を通知するのは医師法違反

厚生労働省と経済産業省が「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」を改正こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、八ヶ岳山麓にリタイア後住んでいる大学時代のクラブの先輩宅で開かれた麻雀大会に参加するため、長野県原村まで車を飛ばして行って来ました。大学卒業後、40年以上たって老年となった人間たちが11人集まり、麻雀卓2卓で2日間、メンバーを適当に変えながら各人半荘5~6回戦ってトータル点数を競うというものです。集まったメンツは学年にして4学年の幅があり、皆、それなりの年齢ということで健康状態もさまざまでした。がんについて言えば、参加した11人中4人が罹患していました。2人がこの3年ほどの間に食道がんの手術を受けて、1人は大腸がんの放射線治療と化学療法を昨年経験済みでした。さらにもう1人は、胃がんを5年前に内視鏡手術で取っていました。この人数、多いのか少ないのかはよくわかりませんが、最近、高校時代の同級生など同世代と飲むと大体3人中1人はがんの経験者ですから、ほぼ平均的と言えるでしょう。ただ、私のクラブ、食道がんがやや多過ぎますね。ちなみに、この4学年の幅の中のクラブの在籍者総数は大体40人ほどで、自殺者1人、ALSによる死亡1人、山での遭難死(落石が頭部直撃)1人です。コホート研究ではないですが、ある大学クラブの卒業生の“その後”としては、それなりに平均的な結果と言えるのではないでしょうか。ま、いずれにせよ、これから、今回のメンバーの中からもがん患者は出てくるでしょう。がんはエイジングの結果ですから仕方ありません。なお、麻雀大会の私の成績は2位でした。優勝は逃しましたが、親で「リーチ、ツモ、ドラ8」の倍満を上がったのはいい思い出になりました。ということで今回は、公表から少々時間が経ってしまいましたが、3月末に厚生労働省と経済産業省が改正した「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」について書いてみたいと思います。今回の改正では、非臨床の一般消費者向け(Direct to Consumer:DTC)検査サービスについての記載が大幅に追加、医師法に違反しないようにとの注意喚起が行われました。いい加減なエビデンスしかないのに「がんが見つかる」などと喧伝し、多くの問題点が指摘されてきたDTC検査サービスはこれで駆逐されるのでしょうか?厚労省のヘルスケアスタートアップPT報告書を機にガイドライン改正へ非臨床のDTC検査サービスとは民間事業者が検体(血液、尿、唾液など)をもとに病気のリスクなどを判定する検査サービスを指します。本連載でも「第88回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(前編)」「第89回 がんが大変だ! 検診控え依然続き、話題の線虫検査にも疑念報道(後編)」などでその問題点を繰り返し指摘してきました。昨年7月の「第223回 厚労省ヘルスケアスタートアップPT報告書を読む(後編) あの一般向けがんリスク判定会社もターゲットか?消費者向けの各種検査サービス、医師法に照らし合わせて総点検へ」では、厚生労働省の「ヘルスケアスタートアップ等の振興・支援策検討に関するプロジェクトチーム」が公表した最終報告書の内容を紹介、「医師法違反という観点から法令違反の恐れがある事例がまとめられ、検査の結果(リスク判定)を消費者にフィードバックする際の表現についてもガイドラインが設けられる可能性があります」と書きました。それが実行に移されたのが、今回の「健康寿命延伸産業分野における新事業活動のガイドライン」の改正というわけです。「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めた医師法第17条との関係について法解釈同ガイドラインにはさまざまな関連法令と照らし合わせて、DTC検査サービスはどこまで行っていいのかについての法解釈が記されています。最重要と考えられる「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めた医師法第17条との関係については次のように記されています。「医師法第 17 条により、民間事業者は、医業に該当しない範囲で検体採取や検査(測定)後のサービス提供を実施する必要があり、採血等の医行為に該当する行為や、検査(測定)結果に基づく疾患の罹患可能性の提示や診断等の医学的判断を行うことはできない。このため、採血等の検体採取については、民間事業者ではなく、利用者自らによって行われる必要がある。また、民間事業者は、検査(測定)結果に基づく疾患の罹患可能性の提示や診断等の医学的判断を行うことはできないため、検査(測定)後のサービス提供については、検査(測定)結果の事実や検査(測定)項目の一般的な基準値、検査(測定)項目に係る一般的な情報を通知することに留めなければならず、利用者から見て事実や一般的な基準値・情報が示されているということが客観的に認識可能な程度に医学的・科学的根拠が示された通知内容としなければならない」つまり、「医師資格を持たない事業者が検査結果に基づいて個人の疾患の罹患可能性を通知することは医師法違反」と明確に位置付けたわけです。さらに、医師などではない民間事業者が行う検査後のサービス提供は、「検査結果の事実や検査項目の一般的な基準値、検査項目に係る一般的な情報を通知することに留め、客観的に認識可能な程度に医学的・科学的根拠が示された通知内容としなければならない」点についても明文化しました。「一般的な情報の通知に留めよ」というルールは非常に重いと考えられます。ガイドラインではさらに突っ込んで、「検査結果の事実と検査項目の基準値やリスク分類との相対的な位置付けのように、一見すると客観的な事実を提示しているかのような内容であったとしても、当該基準値や当該リスク分類の設定について、なんらの医学的・科学的根拠が通知内容に示されていない場合や、一般的な基準値と言えない値に基づいている場合には、客観的な事実を提示しているとは評価できない」「検査項目が基準値内にあることをもって、利用者が健康な状態であることを断定するといった利用者個人の健康状態の医学的評価は行ってはならない」「検査項目が基準値外にあることをもって、利用者個人の疾患の罹患可能性を提示してはならない」とも記述しています。それだけDTC検査サービス事業者の検査結果の通知に関する不適切事例が多かったということなのでしょう。医師法17条に違反する4例示す、「一般的な情報提供である」等の注意書きをしていたとしても個人の疾患の罹患可能性を通知することは違法なお、同ガイドラインには医師法17条に違反する例として、次の4つを例示しています。1.検体を採取する際に、無資格者である民間事業者が利用者から検体を採取する場合。2.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、個別の検査(測定)結果を用いて、利用者の健康状態を評価する等の医学的判断を行った上で、食事や運動等の生活上の注意、健康増進に資する地域の関連施設やサービスの紹介、利用者からの医薬品に関する照会に応じたOTC医薬品の紹介、健康食品やサプリメントの紹介、より詳しい健診を受けるように勧めることを行う場合。3.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患の罹患可能性を通知する場合。なお、形式的に「これは一般的な情報提供である」等の注意書きをしていたとしても、利用者の個別の検査(測定)結果を用いて、当該利用者個人の疾患の罹患可能性を通知することは違法となる。4.無資格者である民間事業者が、利用者に対して、利用者の個別の検査(測定)結果が、疾患の罹患や健康状態の医学的評価に係るリスク分類のいずれに属するかを通知する場合で、当該リスク分類の根拠となる基準値について、実質的になんらの医学的・科学的根拠が示されていない場合や、民間事業者等が恣意的に設定している場合。冷静さを装うDTC検査サービス事業者同ガイドラインの改正は今後、DTC検査サービス事業者にどんな影響を及ぼすでしょうか。4月18日付けの日経バイオテクは「厚労省と経産省、DTC検査ガイドラインでは 『医学的診断と誤解させない情報提示を』」と題する記事を発信、「同ガイドラインは大幅に改正されたものの、DTC検査ビジネスへの影響は大きくはなさそうだ」と書いています。同記事は、同ガイドライン に対するDTC検査サービスを提供する複数の事業者のコメントを紹介しています。「明確に論拠が示され、誤認を防ぐ対策が加えられたと理解している」(ジーンサイエンス、東京都千代田区)、「ジーネックスでは一般的な情報提供としての疾患の罹患リスクに言及することはあるが、事業者側の目線だけではなく、社会的・法的・論理的な観点を重視して、利用者の健康維持に関して望まれているサービスを提供していきたい」(ジーネックス、東京都港区)、「今回の改正でサービスの内容に大きな変更は予定していない」(Craif、東京都文京区)と一見冷静な対応に見えます。また、一般社団法人の遺伝情報取扱協会も、同協会のウェブサイトで同ガイドラインの改正に対する見解を公表、同協会が策定する「個人遺伝情報を取扱う企業が遵守すべき自主基準」と合致する内容であるとコメントしています。どの事業者も、「われわれはきちんとやってきているので、動揺していない」と冷静さを装っているようです。「事実上の『野放し』状態から一歩進んだ」ものの「課題はまだ残されている」「23種類のがんを判定できる」などと宣伝して全国展開しているHIROTSUバイオサイエンス(東京都千代田区)の線虫がん検査キット「N-NOSE」に対し、厳しい批判報道を行ってきたNewsPicksは、4月18日付で「厚労省ガイドライン改定で検査ビジネス『野放し』終えんか」と題する記事を発信しています。同記事は、ガイドライン改正に対する識者の評価やDTC検査サービス事業者へのアンケートを紹介、「結果報告書の通知に関するルールが明確化されたことで、検査ビジネスは、事実上の『野放し』状態から一歩進んだ。利用者の保護やサービスの健全な発展に向けた土台が整い始めたと言える。 だが、ガイドラインの解釈が事業者により分かれる可能性があるうえ、検査自体の有効性という『本丸』には踏み込んでいないという点でも、課題はまだ残されている」と記事を結んでいます。医師法違反の実際の事例が出てくれば、「野放し」状態は一掃に向かうのではおそらく、法律での規定ではなく、強制力が弱いガイドライン(指針)である点が、まだ事業者にある種の余裕を生んでいるのかもしれません。今後、ガイドラインに基づいて、医師法違反の実際の事例が摘発されれば、「野放し」状態は一掃に向かうのではないでしょうか。そう言えば、一時、テレビや東京の地下鉄の車内掲示などでよく目にした線虫がん検査のCMや広告を最近目にしません。やはり少なからぬ影響が出ているのかもしれません。ちなみに、冒頭に書いた麻雀大会に参加したクラブの仲間たちの中に、DTC検査サービスを利用した人間は誰もいませんでした。おそらく、今彼らにがん関連のDTC検査サービスを受けさせ、仮に“陽性”が出て精密検査を受けさせれば、何人かでがんが見つかることでしょう。また、“陰性”だった人間にも精密検査を受けさせれば、やはり何人かでがんが見つかるでしょう。なにせ、みんなもう老人なのですから。

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