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大腸がん手術後の患者さんへの説明

手術のあと大腸がんの手術を受けられた方へ編著:東京医科歯科大学大学院 応用腫瘍学 助教 石黒 めぐみ氏監修:東京医科歯科大学大学院 腫瘍外科学 教授 杉原 健一氏Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.あなたの受けた手術手術を行った日手術で切除した範囲年月日術式名(受けた手術の名称)きずお腹の創Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.2病理検査の結果深達度□□□□□□大腸癌取扱い規約【第8版】←粘膜大腸(断面)←粘膜下層Tis(粘膜まで)T1(粘膜下層まで)T2(固有筋層まで)T3(漿膜下層まで)T4a(漿膜に露出)T4b(ほかの臓器に浸潤)←固有筋層←漿膜下層←漿膜リンパ節リンパ節転移□ なし□ あり ➡個(□N1 □N2 □N3)以上の結果を総合するとあなたの大腸がんの病理学的進行度(ステージ)はほかの臓器への転移0□ 術前の検査では認めていません□ ほかの臓器への転移が疑われます➡(臓器)ⅠⅡⅢaⅢbⅣと診断されます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.3【参考】大腸がんの進行度(ステージ)ステージ0粘膜・がんが粘膜の中にとどまっているステージⅠ・がんが粘膜下層あるいは固有筋層までにとどまっている・リンパ節転移がないステージⅡ粘膜下層固有筋層・がんが固有筋層を超えている・リンパ節転移がない漿膜下層漿膜・リンパ節転移があるステージⅢステージⅣⅢa:リンパ節転移が1~3個Ⅲb:リンパ節転移が4個以上・ほかの臓器への転移や腹膜播種がある肝転移Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.リンパ節転移肺転移早期がん進行がん腹膜播種4今後の治療について☑:あなたに当てはまるもの① 大腸がんの「再発」とは?② 大腸がん手術後の定期検査③ 術後補助化学療法④ 一時的人工肛門の閉鎖⑤その他のがんの検診についてCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.5①大腸がんの「再発」とは?a)大腸がんの「再発」とは?・手術でがんをすべて取りきったと思っても一定の割合で再発が起こります。大腸から離れた場所に❝飛び火❞した目に見えない大きさのがん徐々に増えてきて画像に写る大きさのしこりになったもの1cmくらい手術前手術後Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.再発6①大腸がんの「再発」とは?b)大腸がんの再発率・手術のときのステージが進んでいるほど再発する確率(再発率)は高くなります。(%)5030.8%43.240再発率302010013.3%3.7%2.712.124.3結腸がん直腸がん16.75.7ステージⅠステージⅡステージⅢ大腸癌研究会・プロジェクト研究 1991~1996年症例大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.7【参考】大腸がんの5年生存率(%)10094.091.68084.877.760.0604018.8200ステージ0ステージⅠステージⅡ ステージⅢa ステージⅢb ステージⅣ大腸癌研究会・大腸癌全国登録 2000~2004年症例大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.8①大腸がんの「再発」とは?c)大腸がんの主な再発形式・大腸がんの再発には、以下のようなものがあります。遠隔再発ほかの臓器に再発・肝再発腹膜再発吻合部再発(腹膜播種)お腹の中(腹腔内)に種をまいたように散らばって再発腸をつなぎ合わせた部分に再発局所再発・肺再発もともとがんがあった周囲に再発・その他:脳や骨などCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.9②大腸がん手術後の定期検査a)定期検査はなぜ必要?・大腸がんの再発は、手術で取りきれれば治る可能性があります。・再発が起こっていないかどうかをチェックするために手術後には定期的な検査が大切です。・手術のあと、5年間は定期検査を行います。大腸がんの再発のうち、96%が手術後5年以内に起こります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.10②大腸がん手術後の定期検査b)定期検査のスケジュール(例)・以下のようなスケジュールに従って定期検査を行います。※ステージや患者さんのからだの状態によって多少異なります。1年2年問診・診察3ヵ月ごと直腸指診【直腸がん】3ヵ月ごと4年5年6ヵ月ごと腫瘍マーカー3年胸部・腹部CT6ヵ月ごと6ヵ月ごと骨盤CT【直腸がん】6ヵ月ごと6ヵ月ごと大腸内視鏡検査1~2年ごと大腸癌治療ガイドライン医師用2014年版. 大腸癌研究会編(金原出版)より改変Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.11③術後補助化学療法a)術後補助化学療法とは?・からだの中に残っているかもしれない見えないがん細胞を攻撃し、再発を防ぐ あるいは 再発を遅らせることを目的として、手術のあとに行う抗がん剤治療のことを「術後補助化学療法」といいます。【術後補助化学療法の対象となる患者さん】・ステージⅢの患者さん・ステージⅡのうち再発する危険性が高いと思われる患者さん・原則として術後1~2ヵ月を目安に開始し、6ヵ月行います。・通常は2~3週おきの外来通院で治療します。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.12③術後補助化学療法b)術後補助化学療法で使用されるレジメン・大腸がんの術後補助化学療法で使用されるレジメンには、以下のようなものがあります。※レジメンとは、使用する薬剤とその組み合わせ、投与する量やスケジュールなど治療の「レシピ」のようなものです。レジメン剤型投与方法投与スケジュール・5-FU+LV療法注射薬2時間かけて点滴週1回×6回その後2週間休む・UFT+LV療法飲み薬内服(1日3回)4週間内服その後1週間休む・カペシタビン療法飲み薬内服(1日2回)2週間内服その後1週間休む・FOLFOX療法注射薬48時間かけて点滴2週間おき・CapeOX療法飲み薬+注射薬点滴は約2時間カペシタビンは内服(1日2回)点滴+2週間内服その後1週間休むCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.13④一時的人工肛門の閉鎖・今回の手術では、以下のような目的で、一時的な人工肛門を造設しました。□腸のつなぎ目を安静に保ち、縫合不全*を予防するため。□ 術後、縫合不全*が起こったため。*縫合不全:腸のつなぎ目がほころびること・腸のつなぎ目が落ち着いたころを見計らって人工肛門を閉鎖する(もとに戻す)手術を行います。・1~2時間程度の手術です。・今回の手術と同様、全身麻酔で行います。・おおよその入院期間:日程度・手術を行う時期の目安:年お腹の壁(腹壁)月ころCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.口側の腸管皮膚筋層腹膜肛門側の腸管14⑤その他のがんの検診についてa)ほかの臓器のがんの検診について・大腸がんにかかったあとも、ほかの臓器のがんにかかる可能性があります。※大腸がん手術後の患者さんがほかの臓器のがんにかかる頻度は1~5%と報告されています。・大腸がんの手術後には、再発のチェックを目的とした定期検査を行いますが、ほかの臓器のがんの検査としては必ずしも十分ではありません。・自治体などで実施されるがん検診は、積極的に受けましょう。大腸がん手術後の定期検査では見つかりにくいがん・胃がん・食道がん・乳がん・子宮がん・前立腺がん大腸がん手術後の定期検査で見つかりやすいがん・肺がんCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.・肝臓がん15⑤その他のがんの検診についてb)別の大腸がんができる可能性があります・大腸がんの手術を受けたあとも、大腸の別の部分に別の大腸がん/大腸ポリープができる可能性があります。※大腸がん手術後の患者さんで、大腸の別の部分に別の大腸がんができる頻度は1~3%と報告されています。これは一般集団に比べておよそ1.5倍高い頻度です。・5年間の「手術後の定期検査」が終了したあとも、2~3年に1回の大腸内視鏡検査を受けることが勧められます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.16退院後の生活について① 退院後の食生活② 退院後の日常生活③ 退院後の仕事復帰④ 退院後のスポーツやレジャーCopyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.17①退院後の食生活・原則として食事の内容に制限はありません。・「ゆっくり、よく噛んで、腹八分目」を心がけましょう。【食事のとり方の基本】➊ 規則正しく食事をとりましょう。➋ ゆっくり、よくかんで食べましょう。➌ 一度にたくさん食べすぎないようにしましょう。➍ バランスよく、消化の良いものを中心にとりましょう。➎ 水分をしっかりとりましょう。➏ アルコールはほどほどに。➐ 腸閉塞のサインを知っておきましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.詳しくは24ページ18【参考】一度にたくさん食べ過ぎるとよくない食品・原則として食事の内容に制限はありません。・ただし、以下のような消化されにくい食べ物を一度にたくさん食べると、つまったり流れにくくなったりして、腸閉塞を起こすことがあります。詳しくは24ページ食べ方や調理法を工夫して適量を食べるようにしましょうこんぶ・わかめなどの海藻類ごぼう・れんこんなど繊維質の根菜類きのこ類こんにゃく・よく噛む・こまかく刻む(繊維と垂直に切る)・やわらかく煮込む などまめ類Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.19②退院後の日常生活・退院後2ヵ月ほどはあまり無理をしないほうがよいですが自分の体力の回復に合わせて、徐々に行動範囲を広げていきましょう。・適度に体を動かしましょう。きずおとなしくして創を大事にしていたからといって、きず創の治りやがんの治りがよいわけではありません。適度な運動は体力や筋力を回復させ、胃腸の活動を活発にします。血行をよくし、手術の傷跡の治りもよくします。・まずは散歩や、軽い家事などがよいでしょう。疲れ具合に応じて、出かける時間や距離、作業の量や程度を増やしたりしてみましょう。病院への通院もよいリハビリになります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.20③退院後の仕事復帰・デスクワーク中心の仕事であれば、手術後1ヵ月程度・からだを動かす仕事であれば、手術後2~3ヵ月程度が復帰の目安です。・軽めの仕事から徐々に始めていくのがよいでしょう。いきなりもとの仕事の内容・量を目指すのではなく、時短勤務や、一時的に仕事の内容を変更すること(外回り→内勤)なども考慮しましょう。・ご家族や職場の人たちのサポートが心身ともに大切です。ひとりで悩まずに、周りの人たちと協力して、手術後の回復期を乗り切りましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.21④退院後のスポーツやレジャー・体を鍛え上げるような激しい運動をする必要はありません。自分の体力に合わせて、好きな運動を生活に取り入れて楽しみましょう。・お腹に力が入るような運動は、手術後2~3ヵ月は控えましょう。腹筋運動、重いものを持ち上げる、ゴルフ、相撲、柔道など。腹壁瘢痕ヘルニアの原因になることがあります。詳しくは25ページ2~3ヵ月は…・もちろん旅行だって楽しめます。とくに制限はありません。はじめのうちはあまり無理のない範囲で楽しみましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.22今後起こりうる手術の影響☑:あなたに当てはまるもの① 腸閉塞(イレウス)② 腹壁瘢痕ヘルニア③ 排便習慣の変化□【結腸がん】□【直腸がん】□【人工肛門】④ 排尿機能障害【直腸がん】⑤ 性機能障害【直腸がん】Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.23①腸閉塞(イレウス)・お腹の手術を受けた後は、癒着などにより、何らかのきっかけで便の通りが突然悪くなることがあります。これを「腸閉塞(イレウス)」といいます。便やガス(おなら)の出が悪くなり、お腹が張ったり、お腹が痛くなったり、嘔吐したりします。・軽い場合は食事をしばらくお休みすれば改善します。それで改善しない場合は、鼻から管を入れて腸の内容物を吸い出したり、手術が必要になる場合もあります。軽いお腹の張りを感じても、便やガス(おなら)が出ている場合は、食事の量を減らして様子を見てください。強い腹痛、嘔吐、排便・排ガスがない などがある場合は、飲食はせずに、ただちに病院に連絡してください。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.24②腹壁瘢痕ヘルニア・お腹の壁(腹筋)を縫い合わせた部分のうち、筋肉に弱いところがあると、そこから腸がお腹の外に脱出することがあります。これを「腹壁瘢痕ヘルニア」といいます。皮膚筋層腹膜小腸・大腸きずお腹に力を入れたり長時間立っていたりすると、お腹の創の付近がポコッと盛り上がり、押すとペコペコします。あおむけに寝たり、お腹の力を抜くことによって、簡単に腸がお腹の中に戻る場合は、日常生活に支障がなければ、治療を急ぐ必要はありません。脱出した腸がねじれて血行が悪くなったりした場合には、強い痛みが起こります。この場合はただちに手術が必要ですので、すぐに病院に連絡してください。・腹壁瘢痕ヘルニアを予防するため、✔ 手術後2~3ヵ月は、腹圧のかかる作業は避けてください。腹筋運動、重いものを持ち上げる、ゴルフ、相撲、柔道など。✔ 太りすぎないように気を付けてください。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.25③排便習慣の変化【結腸がん】・結腸がんの手術では、日常生活に支障が出るような変化はほとんどありません。手術後2~3ヵ月は、やや便通が落ち着かないと感じることもあると思います。時間の経過とともに、少しずつ落ち着いてくるのが一般的です。規則正しい食生活が大切です。とくに朝食はきちんととりましょう。散歩などの適度な運動も効果的です。・便秘・下痢が続くなど、便通にお悩みのときは主治医に相談してください。便を柔らかくする薬や下痢止めなど、いろいろなお薬で改善する場合があります。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.26③排便習慣の変化【直腸がん】・直腸がんの手術では、肛門が残っても、直腸の大部分が切り取られているので、十分に便をためられないために、以下のような排便習慣の変化が見られます。・便の回数が増える・残便感がある・便意をがまんできない・寝ている間やお腹に力を入れたときに便やガスが漏れてしまう※程度には個人差があります。・半年~1年くらいの経過で、徐々に改善してきます。・排便のパターンをつかんで、上手に付き合っていきましょう。対策・夜間や外出時の漏れが心配な場合は、生理用品や尿取りパットを使う。(トイレットペーパーはお尻が荒れてしまうので避ける!)・外出直前の食事は避ける。・駅や外出先では、あらかじめトイレの場所を確認しておく。・シャワートイレがおすすめ(携帯用のものもあります)。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.27③排便習慣の変化【人工肛門】・人工肛門に関する悩みやトラブルがあるときは、「ストーマ外来」で専門の医師・看護師に相談してみましょう。【ストーマ外来のリスト】「日本創傷・オストミー・失禁管理学会」ホームページhttp://www.etwoc.org/stoma.html・人工肛門・人工膀胱をもつ患者さんの会もあります。「日本オストミー協会」ホームページ http://www.joa-net.org/日常生活に役立つさまざまな情報が得られます。・永久人工肛門になった患者さんでは、「直腸膀胱機能障害」(通常は4級)として身体障害者手帳を取得できます。・装具の給付、税の控除などのサービスを受けることができます。・患者さん自身(またはご家族)による申請が必要です。・申請以降に助成が開始されるので、早めに申請の手続きを。・詳しくは、市区町村の福祉担当窓口や、病院の社会福祉士(ソーシャルワーカー)に問い合わせてみましょう。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.28④排尿機能障害【直腸がん】・手術操作による一時的な自律神経のダメージや、がんを取りきるために一部の自律神経を切除したことにより排尿機能に障害が出ることがあります。尿道括約筋対策膀胱● 膀胱のセンサーの障害・尿意がよくわからない・膀胱に尿がたまりすぎてあふれる● 膀胱が収縮する機能の障害・膀胱の壁が固くなって伸びが悪い→あまり尿をためられずにあふれてしまう・押し出す力が弱く、“残尿”が増える・尿意がなくても、一定の時間ごとにトイレに行く。・男性の小用も座ってゆっくりと。・排尿時に下腹部を圧迫する(手で押す+前かがみ)。・症状に応じたお薬で症状が改善する場合があります。・自己導尿(自分で尿道に管を入れて尿を出す)Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.泌尿器科の医師に相談29⑤性機能障害【直腸がん】・手術操作による一時的な自律神経のダメージや、がんを取りきるために一部の自律神経を切除したことにより性機能に障害が出ることがあります。下大静脈腹部大動脈上下腹神経叢下腹神経骨盤神経叢(下下腹神経叢)骨盤内臓神経(勃起神経)直腸への神経枝膀胱への神経枝【男性の場合】・勃起障害・射精障害※女性の場合の性機能への影響はよくわかっていません。・手術の影響による症状です。恥ずかしがらずに主治医に相談しましょう。対策・お薬で改善する場合があります。・専門の医師への相談もできます。Copyright © 2014 CareNet,Inc. All rights reserved.泌尿器科の医師に相談30

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うつ病治療に対する、電気けいれん療法 vs 磁気けいれん療法

 電気けいれん療法(ECT)は、うつ病の治療において有効性が高く、確立された治療法である。一方、磁気けいれん療法(MST)は最近開発され、ECTと同等の有効性を示し、かつ副作用が少ないことが示されている。ドイツ・ボン大学のM. Soehle氏らは、うつ病の治療に使用されるECTとMSTについて、全身麻酔における覚醒時間を比較検討した。その結果、同程度の麻酔深度において、けいれん誘発後の覚醒は、ECTよりもMSTのほうが早いことが判明した。British Journal of Anaesthesia誌オンライン版2013年12月3日号の掲載報告。 本研究は、ECTとMSTにおいて、覚醒時間、左側BIS、BISの左右差などを比較することを目的に行われた前向き観察研究であった。いずれの療法も全身麻酔を必要とし、覚醒状態は、二波長指数(BIS)により定量化可能であった。検討は、ECTを実施した10例、MSTを実施した10例を登録して行われた。プロポフォール麻酔を行い、両側BISセンサーでモニターした。BISが50~60の範囲内でけいれんを誘発し、覚醒までの時間を測定し、けいれん誘発後10分間にわたり両側BISを記録した。 主な結果は以下のとおり。・ECT群、MST群とも麻酔深度は同程度であった(ベースライン時の平均BIS値[SD]:各々 94.1[4.1]、95.5[3.0]、けいれん誘発前の同BIS値:各々 52.3[9.6]、55.2[10.3])。・けいれん誘発後、覚醒時間はMST群(3.0[1.0]分)が、ECT群(6.7[1.3]分)に比べて有意に早かった(p<0.001)。・MST群の患者は、けいれん誘発2分後において、有意に高いBIS値を示した(69.2[10.1] vs. 50.9[15.9]、p=0.003)。この差はけいれん誘発10分後においても維持されていた(81.5[6.5] vs. 68.0[16.4]、p<0.001)。・ECT群、MST群ともに、左側BISと右側BIS間の有意差は認められなかった。 ・以上のように、同程度の麻酔深度において、MSTはけいれん誘発後の回復という点でECTよりも優れていた。そのことは、けいれん誘発後のBIS値に正確に反映されていた。・これらを踏まえて著者は、「ECTおよびMST施行例の麻酔深度をモニターするにあたっては、片側のBISモニタリングで十分だと考えられる」とまとめている。 関連医療ニュース ECTが適応となる統合失調症患者は? 精神病性うつ病に、抗うつ薬+抗精神病薬は有効か ヨガはうつ病補助治療の選択肢になりうるか

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第20回 診療ガイドライン その3:望まれる診療ガイドラインのかたち

■今回のテーマのポイント1.検察官には診療ガイドラインの「行間」を読むことはできない2.したがって、素人が読んでも理解できるようなガイドラインを作成することが肝要である3.システムエラー型であることを明記した事故報告書を作成しても、刑事訴追されるのがわが国の現状である。速やかにWHOドラフトガイドラインに即した事故調査制度に変更しなければならない事件の概要44歳女性(X)。乳がんと診断されたため、平成20年4月、左乳房部分切除術実施目的にてA病院に入院しました。手術当日午前8時55分。Xに対し、麻酔科医であるY医師が麻酔導入を行いました。その結果、Xは、人工呼吸器管理下に置かれ、自発呼吸のできない意識消失・鎮痛・筋弛緩状態となりました。Y医師は、Xに対する麻酔導入が終わり、バイタルサインも安定したことから、インチャージ(責任者)として別の手術室で後期研修医の麻酔導入を指導・補助するため、9時7分頃、手術室を出ました。なお、Y医師は、連絡用のPHSを携帯しており、手術室を出る際、看護師に対し、「インチャージのため退室するが、何かあったら知らせてほしい」と告げていました。9時15分頃、執刀医であるZ医師は、Y医師が不在のまま、看護師に手術台の高さおよび角度の調整をさせ、手術を開始しました。9時16分頃、Xに酸素を供給していた蛇管が麻酔器の取付口から脱落し、Xへの酸素供給が遮断されてしまいました。しかし、蛇管の脱落あるいはそれによるXの状態の異変に気が付く者はいませんでした。9時31分頃、看護師が、モニター上にSpO2の表示がないことに気付き、執刀医であるZ医師に伝えるとともに、PHSでその旨をY医師に伝えました。連絡を受けたY医師は、直ちに手術室に引き返したところ、蛇管が麻酔器から脱落しているのを発見しました。9時34分頃、直ちに用手換気に切り替えるなど応急措置を行いましたが、9時37分頃、Xは心肺停止となりました。Z医師や応援に駆け付けた医師らによる蘇生措置により、心拍の再開は得られたものの、Xには、低酸素脳症による高次脳機能障害および四肢不全麻痺が残ることとなりました。これに対し、横浜区検は、Y医師を「Xの身体の状態を目視するほか、同人に装着されたセンサー等により測定・表示された心拍数・血圧・酸素飽和度等を注視するなどの方法で同人の全身状態を絶え間なく看視し、異変があれば適切に対処すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、同日午前9時7分頃、漫然と同室から退室して約27分間にわたって前記手術室を不在にし、その間、同人の全身状態を看視するなどせずに放置した過失により、Xに完治不能の低酸素脳症に基づく高次脳機能障害及び四肢不全麻痺の傷害を負わせた」として、起訴(刑事訴追)しました。事件の判決検察官は、(1)麻酔担当医である被告人は、Xに全身麻酔を施したことにより、Xを自発呼吸のできない意識消失・鎮痛・筋弛緩状態にしたのであるから、Xの生命維持のため、呼吸管理をするなどして、Xの全身状態を適切に維持・管理することが不可欠となった、(2)したがって、被告人には、Xの身体の状態を目視するほか、Xに装着されたセンサー等により測定・表示された心拍数等を注視するなどの方法で、Xの全身状態を絶え間なく看視すべき業務上の注意義務があると主張するので、これについて付言する。(1)の点は、一般論としては、全くそのとおりである。しかも、(1)でいう、患者の全身状態を適切に維持・管理することが、麻酔担当医の役割であることも、異論はない。ここまでは、弁護人も認めるところである。しかし、そうであるからといって、(2)のように、麻酔担当医が、常時、手術室にいて、患者の全身状態を絶え間なく看視すべきであるとして、具体的な注意義務を導くのは、余りにも論理が飛躍しているというほかない。(1)のような事情は、別に本件に特有のものではなく、他の全身麻酔が行われる場合にも、共通していえることである。それでは、我が国の麻酔担当医が、当該医療機関での職務の体制や患者の容態、麻酔や手術の進行状況を問わず、全身麻酔をした患者に対し、手術室にいて絶え間ない看視をしているかといえば、決してそうではない(少なくとも、そうであるとの立証は、本件では全くされていない。)。確かに、検察官が援用する日本麻酔科学会作成の「安全な麻酔のためのモニター指針」によると、麻酔中の患者の安全を維持確保するため、「現場に麻酔を担当する医師が居て、絶え間なく看視すること。」という指針の記載がある。しかし、このモニター指針は、モニタリングの整備を病院側に促進させようという目的から作成されたものであり、麻酔科学会として目標とする姿勢、望ましい姿勢を示すものと位置づけられている(甲医師証言)。すなわち、この指針に適合せず、絶え間ない看視をしなかったからといって、許容されないものになるという趣旨ではない。なお、乙医師及び丙医師は、麻酔科医は絶え間ない看視を行うべきであるとの見解を、証人として述べているが、これは、麻酔科医が専門家として追求すべき手術中の役割は何かといった観点からの見解であって、我が国での麻酔科医の実情を述べるものではない。以上みてきたところによると、手術室不在という被告人の行動は、その不在時間の長さ(手術室に戻るまでに約27分間、蛇管が外れたときまででも、約9分間)からして、インチャージの担当として後期研修医の指導・補助をしていたという事情があったとはいえ、いささか長過ぎたのではないかとの問題がなくはないが、被告人の置かれた具体的状況、更には当時の我が国の医療水準等を踏まえてみたとき、刑事罰を科さなければならないほどに許容されない問題性があったとは、到底いいがたい。したがって、本件事故について、被告人には、検察官が主張するような、常時在室してBの全身状態を絶え間なく看視すべき業務上の注意義務を認めることはできない。以上のとおりであるから、被告人には、本件事故について過失は認められないから、本件公訴事実については、犯罪の証明がないことに帰着し、刑訴法336条により、被告人には無罪の言渡しをする。(*判決文中、下線は筆者による加筆)(横浜地判平成25年9月17日)ポイント解説予定では、各論の4回目となるところでしたが、診療ガイドラインに関する重要な判決が出ましたので、今回は「診療ガイドライン その3」として紹介させていただきます。本事例では、日本麻酔科学会が作成した「安全な麻酔のためのモニター指針」に、麻酔中の患者の安全を維持確保するため、「現場に麻酔を担当する医師が居て、絶え間なく看視すること」と記載されていたことから、検察は、Y医師を刑事訴追したものと考えられます。しかしながら、判決にも記載されているように、医師不足が問題となっているわが国の医療現場において、同ガイドラインが勧告する「麻酔科医が絶え間なく看視すること」をすべての医療機関・手術室において実施することが不可能であることはご存じのとおりです。したがって、少しでも医療現場を知っている者が本ガイドラインを読めば、このガイドラインが述べているのは「あるべき理想的な姿」であって、将来的にそれに近づくことが望まれるものの、現在の医療現場においてそれを義務づけると、行える手術件数が著しく低下する結果、手術が受けられず死亡する患者が多数生じてしまうことから、現状における本ガイドラインの記載は、あくまで「目標」、「道標」に過ぎないと読み取ることができます。ですが、検察は、医療の素人ですし、医療現場を知りませんので、この医療従事者ならば当然把握できる「行間」を読むことができません。その結果、検察は、本ガイドラインの字面だけを捉え、Y医師を刑事訴追してしまったのです。裁判の結果、Y医師は無罪となりましたが、裁判中のY医師の心労は計り知れないものであったと思われます。このような不幸な事態が生じないよう、ガイドラインの作成に当たっては、その記載内容が医療従事者以外の者、特に検察官、弁護士に読まれることを十分に意識して作成する必要があるといえます。なお、報道によると、「毛利晴光裁判長は、言い渡しの後、『捜査が十分ではないのに起訴した疑いが残る。このような捜査処理がないことを望む』と検察側に注文をつけた」(読売新聞 2013年9月17日)と報道されており、現在でも裁判所が、医療現場に対する刑事司法の介入に謙抑的な姿勢を持っていることがうかがえます。本事例では、院内事故調査が行われ、事故調査報告書が公表されています。平成20年12月に作成された事故調査報告書では、「7.再発防止に向けた提言」において、1麻酔科医、外科医、看護師間の役割分担、連携が十分でなかったこと。さらに、麻酔科医不在時における全身管理の取り決めがないこと2麻酔器及び生体情報モニターに関する教育が不足していたこと3医師は経験を優先し、マニュアル等を重要視しないことがあること以上3つの根本原因を前提に、次のとおり再発防止策を提言する。と示しており、「8.終わりに」において、「今回の事故は、技術の巧拙の問題ではなく、それぞれの職種間あるいは個人の間の連携や意思疎通が十分でなかったこと、麻酔器モニターなど機器への慣れや過信等が根本的な原因であると考え、再発防止策を提言した。今後、病院をあげてこうした取組を進め、安全で安心な医療を確立しなければならない。特に医師は、指針やマニュアルが継続して遵守され、質の高い医療を提供していくよう、その中心となって取り組むよう要請する」と示し、本事例は、システムエラー型の事案であり、誰か特定の個人の責任に帰せしめることは適当ではない旨を示していたものの、残念ながら刑事訴追がなされてしまいました。本事故調査報告書に記載されているように、今後、同種事例が発生しないためにも、医療機関において改善すべき点はいくつもあります。したがって、本事例は広く知識として共有されるべきものと思われます。しかしながら、当事者が正直に話した結果、刑事訴追されるとすれば、だれも事故調査において正直に話せなくなってしまいます。本事例のような事故調査報告書の記載でも、刑事訴追がなされるのであれば、現状の事故調査システム自体に欠陥があると言わざるを得ません。「WHO draft guidelines for adverse event reporting and learning systems」にも明記されているとおり、報告制度によって処罰されないこと(non-punitive)、そのためには情報が秘匿(confidential)されなければならないことという世界標準に沿った事故調査システムが、速やかに構築されなければいけません。裁判例のリンク次のサイトでさらに詳しい裁判の内容がご覧いただけます。(出現順)横浜地判平成25年9月17日

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人工股関節術後死亡、過去8年で半減(英国)/Lancet

 変形性股関節症で人工股関節全置換術を受けた患者の術後90日死亡率は、8年間で半減(2003年0.56%から2011年0.29%)と大きく低下したことが示された。英国・ブリストル大学のLinda P Hunt氏らが、イングランドとウェールズのレジストリデータを、後ろ向きに解析し報告したもので、低下に寄与した因子についても分析を行い、術後アプローチ、機械的および薬物的な血栓予防処置、脊椎麻酔の4つを特定した。結果を踏まえて著者は「これらシンプルな臨床処置戦略を広く普及することで、それが要因となっている場合は、さらなる死亡率の低下が可能となるだろう」と述べている。Lancet誌2013年9月28日号掲載の報告より。術後90日以内の死亡率の変化を調べ、関与している因子を分析 人工股関節全置換術後の90日以内の死亡は、まれではあるが、研究グループは、患者・治療因子が原因になっている死亡例についてはさらに回避できる可能性があるとして、近年、同手術に起因する死亡率が減少しているかを調べ、減少しているとしたらその要因は何かを明らかにすることを目的に本検討を行った。 イギリスとウェールズの関節レジストリデータから、2003年4月から2011年12月の人工股関節置換例のデータを入手し、全国死亡データベース、Hospital Episode Statisticsデータベースと結びつけ、各患者の死亡、社会人口統計学的特性、併存症を特定した。Kaplan-Meier法で術後90日以内の死亡を評価し、Cox比例ハザードモデルを用いて、患者・治療因子の影響を評価した。死亡率低下に寄与した4つの修正可能な臨床因子が明らかに 同期間中に40万9,096例が、変形性股関節症治療のためにプライマリな人工股関節置換を受けていた。 8年間で1,743例が、術後90日以内に死亡していたが、2003年の0.56%から2011年は0.29%と、大きく持続的に減少していた。その傾向は、年齢、性、併存症で補正後も変わらなかった。 補正モデルによって、死亡率低下と関連する修正可能な臨床因子がいくつか明らかになった。すなわち、「術後アプローチ」(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.73~0.92、p=0.001)、「機械的血栓予防」(同:0.85、0.74~0.99、p=0.036)、ヘパリンとアスピリンの併用またはヘパリン単独による「薬物的血栓予防」(同:0.79、0.66~0.93、p=0.005)、「脊椎麻酔」(全身麻酔との比較によるHR:0.85、95%CI:0.74~0.97、p=0.019)だった。 人工股関節のタイプは、死亡とは無関係であった。また、過体重は、死亡率が低いことと関連していた(HR:0.76、95%CI:0.62~0.92、p=0.006)。

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ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合で死亡した乳児のケース

小児科最終判決平成15年3月20日 東京地方裁判所 判決概要生後3ヵ月乳児の気管切開術後に、a社製のジャクソンリース回路とT社製の気管切開チューブを接続して用手人工呼吸を行おうとしたところ、接続不具合のため回路が閉塞して換気不全に陥り、11日後に死亡した事故について、企業の製造物責任ばかりでなく、担当医師の注意義務違反が認定された。詳細な経過経過2000年12月8日体重1,645gで出生、呼吸障害がみられ、しばらく気管内挿管による人工呼吸器管理を受けた。2001年3月13日声門・声門下狭窄および気管狭窄を合併したため、手術室で気管切開術を施行。術後の安静を目的として筋弛緩薬が静脈注射され、自発呼吸がないままNICU病棟へ帰室することになった。その際、患児を病棟へ搬送するために、気管切開部に装着された気管切開チューブ(T社シャイリー気管切開チューブ小児・新生児用)にa社ジャクソンリース小児用麻酔回路を接続して用手人工呼吸を行おうとした。ところが、使用したジャクソンリースは新鮮ガス供給パイプが患者側接続部に向かってTピースの内部で長く突出したタイプであり、他方、シャイリー気管切開チューブは接続部の内径が狭い構造になっていたため、新鮮ガス供給パイプの先端が気管切開チューブの接続部の内壁にはまり込んで密着し、回路の閉塞を来した。そのため患児は換気不全によって気胸を発症し、全身の低酸素症、中枢神経障害に陥った。3月24日消化管出血、脳出血、心筋脱落・線維化、気管支肺炎などの多臓器不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張1.企業の責任a社のジャクソンリースは、T社のシャイリー気管切開チューブに接続した時に呼吸回路が閉塞され、患者が換気不全に陥るという危険性を有していたにもかかわらず、適切な指示・警告を出さなかった。さらに1997年に愛媛大学医学部附属病院で、ジャクソンリースの新鮮ガス供給パイプとT社販売の人工鼻の閉塞による換気不全事故が2件発生している。人工鼻とジャクソンリース回路の接続の仕組みと、T社シャイリー気管切開チューブとジャクソンリース回路の接続の仕組みは同じであるから、a社、T社は閉塞の危険性を認識し得なかったとはいえない2.病院側の責任担当医師がジャクソンリースとシャイリー気管切開チューブの構造や特徴を理解し、組合せ使用時の構造や特徴に関心を持ち、呼吸回路の死腔量や換気抵抗を理解することに努めていれば、接続部の目視点検を行うことで接続部で閉塞していることを発見するのは可能かつ容易である。さらに今回使用したジャクソンリースとシャイリー気管切開チューブ以外の器具を選択する余地も十分にあったので、死亡という最悪の結果を回避することは可能であった本件事故と同一のメカニズムにより生じた接続不具合は、過去に麻酔科の専門誌や学会で発表され、ジャクソンリースの添付文書にも、不充分な内容ではあるが注意喚起がなされている。これらの情報を集約すれば、接続不具合は予見できない事象ではない。また、ジャクソンリース回路であればどれでも同じという発想で、医療器具の安全性よりも数を優先して導入したことが、被告病院の医療従事者らがジャクソンリースの構造や特徴を理解しないままに使用することにつながった医療器具製造業者側の主張a社の主張a社ジャクソンリースは、呼気の再吸入を防止するために新鮮ガス供給パイプを長くしたもので、昭和50年代終わり頃から同一仕様で販売されて10年以上も経過し、医療機関に広く採用されている。そのような状況で被告T社がシャイリー気管切開チューブを「標準型換気装置および麻酔装置と接続できる」と説明して販売したのであるから、a社ではなくT社がジャクソンリースとの不具合の発生回避対策を講じるべきであった。さらに病院が医療機関に通常要求される注意義務を尽くせば、不具合は容易に確認できたはずであるので、a社の過失はないT社の主張シャイリー気管切開チューブの接続部は、日本工業規格(JIS規格)に準拠し通常の安全性は満たしているから欠陥はない。シャイリー気管切開チューブは汎用性が高く、本国内はもとより世界中で数多く使用されている。また、当製品は接続する相手を特定して販売していたものではなく、a社ジャクソンリースのような特殊な形状を有した製品との接続は想定されていなかったまた愛媛大学の事故については、T社人工鼻と同様の接続部の形状をもつ製品はきわめて多いからその中のひとつにすぎないシャイリー気管切開チューブについて接続不具合を予見することは不可能であったさらに、医療現場において医療器具を創意工夫して使用することは医療従事者の裁量に任されており、その場合リスク管理上の責任も医療現場に委ねられるべきである。本件事故は、担当医師が基本的注意義務を怠り発生させたものであるから、医療器具の製造業者には責任がない。病院側(被告)の主張ジャクソンリース回路に気管切開チューブ類を接続して安全性を確認する点検方法は、一般には存在せず、いかなる医学専門書にもその方法に関する記載はない。また、気管切開チューブなどを接続した状態で点検を行えるテスト肺のような器具自体も存在しないうえ、器具を口に咥えて確認する方法も感染などの問題から行い得ない。したがって、ジャクソンリースと気管切開チューブとの組合せによる接続不具合を確認することは不可能であった。また、本件と類似の接続不具合事故についての安全情報は、企業からも厚生労働省からも医療機関に対し一切報告されなかった。また本件事故発生以前に、別の患児に対して同様の器具の組合せによる換気を600回以上行っているが、原疾患に起因すると考えられる気胸が2回発生した以外は何のトラブルもない。したがって担当医師は本件事故の発生を予見できなかった。裁判所の判断企業側の責任小児・新生児に対しジャクソンリース回路を用いて用手人工換気を行う場合、マスク、気管内チューブ(経口・経鼻用)、気管切開チューブなどの呼吸補助用具にジャクソンリース回路を組み合わせ、相互に接続して使用することが通常の使用形態であり、a社およびT社は、医療の現場においてジャクソンリース回路に他社製の呼吸補助用具が組み合わされて接続使用されている実態を認識していた。ところがa社の注意書には、換気不全が起こりうる組合せにつき、「他社製人工鼻など」と概括的な記載がなされているのみで、そこにシャイリー気管切開チューブが含まれるのか判然としないうえ、換気不全のメカニズムについての記載がないために、医療従事者が個々の呼吸補助用具ごとに回路閉塞のおそれを判断することは困難で、組合せ使用時の回路閉塞の危険を告知する指示・警告上の欠陥があったと認められ、製造物責任を負うべきである。同様にT社も、シャイリー気管切開チューブを販売するに当たり、その当時医療現場において使用されていたジャクソンリースと接続した場合に回路の閉塞を起こす危険があったにもかかわらず、そのような組合せ使用をしないよう指示・警告しなかったばかりか、使用説明書に「標準型換気装置および麻酔装置に直接接続できる」と明記し、小児用麻酔器具であるジャクソンリースとの接続も安全であるかのごとき誤解を与える表示をしていたので、シャイリー気管切開チューブには指示・警告上の欠陥があった。医療器具の製造・輸入販売企業には、医療現場における医療器具の使用実態を踏まえて、医療器具の使用者に適切な指示・警告を発して安全性を確保すべき責任があるので、たとえ医療器具を使用した医師に注意義務違反が認められても、企業が製造物責任を免れるものではない。病院側の責任小児科領域の呼吸管理においては、呼吸回路の死腔が大きいと換気効率が低下するため、死腔が小さい器具が用いられることが多いが、回路の死腔を小さくすると吸気・呼気の通り道が狭くなって換気抵抗が増加する関係にあることが知られている。そのため小児科医師は、ジャクソンリース回路と気管切開チューブを相互接続するに当たり、それぞれの器具につき死腔と換気抵抗に注意を払うのが一般的である。もし担当医師が、死腔を減らすために接続部内径が狭くなっているというシャイリー気管切開チューブの構造上の基本的特徴、および死腔を減らすために新鮮ガス供給パイプが患者側接続部に向かって長く伸びているというジャクソンリースの構造上の基本的特徴を理解していれば、両器具を接続した場合に、新鮮ガス供給パイプの先端が上記接続部の内壁にはまり込んで呼吸回路の閉塞を来し事故が発生することを予見することが可能であった。たとえ医学専門書に接続不具合の点検方法について記載がないからといって、ただちに結果回避の可能性がなかったということはできない。担当医師は、両器具が相互に接続された状態でその本来の目的に沿って安全に機能するかどうかを事前に点検すべき注意義務に違反したために起きた事故である。医師は人間の生命身体に直接影響する医療行為を行う専門家であり、その生命身体を委ねる患者の立場からすれば、医師にこの程度の知識や認識を求めることは当然であって、医師に理不尽や不可能を強いるものとは考えられない。原告側合計8,204万円の請求に対し、企業と連帯して合計5,063万円の支払い命令考察ジャクソンリースと気管切開チューブ接続不具合による死亡事故は、われわれ医療関係者からみて、当然医療器具を製造・販売した企業側がすべての責任を負うべきもの、と考えていたと思います。担当医師はミスとされるような間違った医療行為はしていませんし、どの医師が担当しても事故は避けられなかったと考えられます。もう一度経過を振り返ると、気管内挿管を継続していた生後3ヵ月の低出生体重児に、声門・声門下狭窄および気管狭窄がみられたため、全身麻酔下で耳鼻科医師が気管切開を行いました。手術後は安静を保つため筋弛緩薬を投与してNICUで管理することになり、小児科担当医師がNICUに常備していたジャクソンリースを携えて手術室まで出迎えにいきました。ところが、ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合で気胸を起こしてしまい、最終的には死亡に至ったというケースです。ご遺族にとってはさぞかし無念であり残念な事故とは思いますが、出迎えにいった小児科医にとっても衝撃的な出来事であったと思います。あとから振り返ってみても、どこをどうすれば患児を助けることができたのか、という反省点を挙げにくいケースであると思います。小児科担当医師の立場では、筋弛緩薬により自発呼吸がない状態で帰室するため、用手人工喚気をする必要があり、となればNICUに常備していたジャクソンリースを用いるのが当然、ということになります。ジャクソンリースを携行する段階で、よもやこのジャクソンリースと気管切開チューブが接続不具合を起こすなど、100%考えていなかったでしょう。なぜなら、この医師がこの病院に勤務する以前から購入されていたジャクソンリースであったと思われるし、手術では耳鼻科医師がこの乳児に最適と思って選んだ気管切開チューブを装着したのですから、「接続がうまくいくのが当然」という認識であったと思います。まさか、接続がうまくいかない医療器具をメーカー側が作るはずはないし、製品として世に登場する前に、数々の臨床試験をくり返して安全性を確かめているはずだ、という認識ではないでしょうか。もし、この担当医師(小児科医師)がジャクソンリースを選定・購入する立場であったとしたら、院内で使用する呼吸器関連の器具との接続がうまくいくかどうか配慮する余地はあったと思います。しかし、もともとNICUに常備されているジャクソンリースに対し、「接続不具合が発生する気管切開チューブが存在するかどうか事前にすべて確認せよ」などということは、まったく医療現場のことを理解していない法律専門家の考え方としか思えません。ましてや、事故発生当時に企業や厚生労働省から、ジャクソンリースと気管切開チューブの接続不具合に関する情報は一切提供されていなかったのですから、事故前に確認する余地はまったくなかったケースであると思います。にもかかわらず、「医師は人間の生命身体に直接影響する医療行為を行う専門家であり、その生命身体を委ねる患者の立場からすれば、医師にこの程度の知識や認識を求めることは当然であって、医師に理不尽や不可能を強いるものとは考えられない」などという判断は、いったいどこに根拠があるのでしょうか、きわめて疑問に思います。本件のように、医師の過失とは到底いえないような医療事故でさえ、医師の注意義務違反を無理矢理認定してしまうのは、非常に由々しき状況ではないでしょうか。このような判決文を書いた裁判官がもし医師の道を選んで同様の事故に遭遇すれば、必ずや今回のような事態に発展したと思います。ただし本件ほどの極端な事例ではなくても、人工呼吸器関連の医療事故には、病院側に対して相当厳しい判断が下されるようになりました。なぜなら、呼吸器疾患などにより人工換気が必要な患者では、機器の不具合が生命の存続を直接脅かすような危険性を常に秘めているから思われます。たとえば、人工呼吸器が知らないうちにはずれてしまったがアラームを消音にしていた、人工呼吸器の回路にリークがあるのに気づくのが遅れた、あまりアラームがうるさいので警報域を低めにしておいたら呼吸が止まっていた、加湿器のなかに蒸留水以外の薬品を入れてしまった、などという事故が今までに報告されています。個々のケースにはそれなりに同情すべき点があるのも事実ですが、患者が病院というハイレベルの医療管理下にある以上、人工呼吸器に関連したトラブルのほとんどは過失を免れない可能性が高いため、慎重な対応が必要です。なお今回のような事故を防ぐためにも、院内で使用している医療機器(人工呼吸器、各種カテーテル類、輸液ポンプ、微量注入器など)については、なるべく一定のフローに沿って定期的な点検・確認を行うことが望まれます。同じメーカーの製品群を使用する場合にはそれほどリスクは高くないと思いますが、本件のように他社製品を組み合わせて使用する場合には、細心の注意が必要です。今回の事例を教訓として、ぜひとも院内での見直しを検討されてはいかがでしょうか。■日本麻酔科学会 麻酔機器・器具故障情報,薬剤情報,注意喚起 情報 より故障情報2001年2月28日都立豊島病院におけるジャクソンリース回路およびシャイリー気管切開チューブの組み合わせ使用による死亡事故に関して3月24日付きの毎日新聞およびインターネットの記事で紹介されました、a製ジャクソンリース回路(旧型)とマリンクロット社製シャイリー新生児用気管切開チューブを併用しての人工呼吸による患児の死亡事故について、現在まで判明した情報は次の通りです。a製旧型ジャクソンリース回路(現在まで新型と並行販売していた)では、フレッシュガス吹送用ノズルが、Lコネクターの中央湾曲部から気管チューブ接続口へ向けて深く挿入されています。一方、M社が発売しているシャイリー気管切開チューブの新生児用(NEO)と小児用(PED)はチューブの壁厚が厚く(従って内径が狭く)、この両者を併用すると、ジャクソンリース回路のノズルが気管切開チューブに嵌入して、フレッシュガスが肺のみへ送り続けられ、呼気および換気が不可能となったことが今回のおよび昨年11月の死亡事故の原因です。2001年4月6日ジャクソンリース回路と気管切開チューブの接続についてa製ジャクソンリース回路とM製シャイリーの気管切開チューブによる事故の続報をお知らせします。厚生労働省は日本医療器材工業会(代表 テルモ株式会社 山本章博氏)に対して、上記以外のジャクソンリース回路と気管切開チューブのあらゆる組み合わせについての危険性の調査を命じました。日本医療器材工業会は3月30日の時点で、リコーと小林メディカルを除く他社の製品の組み合わせについてチェックを終了しております。その結果、ジャクソンリースとしてはa製に加えて五十嵐医科工業製、気管切開チューブとしてはマリンクロット製に加えて泉工医科工業製、日本メディコ製の一部のものを組み合わせた時に、危険性のあることが判明しました。2001年5月2日ジャクソンリース回路と気管切開チューブの接続についてa製ジャクソンリース回路とM製シャイリー気管切開チューブによる事故後の日本医療器材工業会のその後の調査で、アネス(旧アイカ)取扱のデュパコ社製ノーマンマスクエルボに関しても、問題の生じる可能性があるということで、回収が開始されました。小児科

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鎖骨下静脈穿刺後の無気肺で死亡したケース

感染症最終判決判例時報 1589号106-119頁概要金属プレス機に両手を巻き込まれた19歳男性。救急搬送された大学病院にて、手袋の繊維、機械油で汚れた手をガーゼ、ブラシで洗浄し、消毒、デブリードマンを施行した。左手には有茎植皮術、右手には一時的な創縫合手術を施行し、術後抗菌薬を投与した。投与後、創部から黄緑色の浸出液と刺激臭があり、緑膿菌感染を疑い硫酸ゲンタマイシンンなどを追加。その後、浸出液と刺激臭は消失し、壊死部の除去を含めた右手皮弁切離術、左手小指端形成術を施行した。さらに右手では左胸部有茎植皮術、左手では腹部有茎植皮術を行った。約1週間後に41.1℃の発熱があり、敗血症疑いから血液培養を施行(結果は陰性)。しかし、翌日に軽度の呼吸困難があり、突然の痙攣発作と意識障害が出現したことからエンドトキシンショックを疑い、血管確保の目的で鎖骨下静脈穿刺が行われた。穿刺中に患者が上体を起こしたことから中止し、身体拘束後に再度右鎖骨下静脈にラインを確保した。しかし、胸部X線写真で右鎖骨下に血腫を認めたため、再度右そけい部からカテーテルを挿入した。その後、瞳孔散大傾向、対光反射喪失、嘔吐もみられたので気管内挿管を施行。諸検査を行おうとしたところ、心肺停止状態となり、蘇生が開始されたが、死亡した。詳細な経過患者情報19歳男性経過1990年8月17日12:10金属プレス機のローラーに両手を挟まれて受傷した19歳男性。某大学病院に救急搬送された時には、受傷時につけていた手袋の繊維、機械油などで両手の傷は著しく汚染されていた。13:30頃創洗浄開始。14:45緊急手術のための麻酔開始。同時にガーゼ、ブラシを用いた洗浄、消毒、デブリードマン施行。洗浄用の生食水(500mL)40本使用。左手:手掌皮膚は手関節から基節骨までグローブ状に剥離:有茎植皮術施行右手:手背の皮膚欠損および筋挫滅、一部では骨にまで達する:一時的な創縫合手術施行術後抗菌薬としてセフメタゾールナトリウム(商品名:セフメタゾン)、硫酸ジベカシン(同:パニマイシン)を使用。8月30日はじめて創部から黄緑色の浸出液と刺激臭があり、緑膿菌感染が疑われたため、硫酸ゲンタマイシン(同:ゲンタシン軟膏)、セフタジジム(同:モダシン)を投与。9月4日黄緑色浸出液と刺激臭はほとんど消失。9月10日右手皮弁切離術、左手小指断端形成術(壊死部の除去も行う)。9月26日浸出液が消失する一方、壊死部もはっきりとしてきたので、右手は左胸部有茎植皮術、左手は腹部有茎植皮術施行。術後から38~39℃の発熱が持続。10月1日41.1℃の発熱があり、敗血症を疑って血液培養施行(結果は陰性)。10月2日15:20軽度の呼吸困難出現。15:30突然痙攣発作と意識障害が出現。血圧92mmHg、脈拍140、呼吸回数22回。内科医師の往診を受け、エンドトキシンショックが疑われたため、血管確保目的で鎖骨下静脈穿刺が行われた。ところが穿刺中に突然上体を起こしてしまったため、いったん穿刺を中止。その後身体を拘束したうえで再度右鎖骨下静脈にラインを確保した。ところが、胸部X線写真で右鎖骨下に血腫を認めたため、カテーテルを抜去、右そけい部から再度カテーテルを挿入した。16:30瞳孔散大傾向、対光反射がなくなり、嘔吐もみられたため気管内挿管施行。腰椎穿刺にて採取した髄液には異常なかった。そこで頭部CTを施行しようと検査室に移動したところで心肺停止状態となる。ただちに蘇生が開始されたが反応なし。19:57死亡確認。病理解剖の結果、両肺無気肺(ただし左肺は一部換気)、(敗血症性)脳内小血管炎、脳浮腫、感染脾、全身うっ血傾向、右鎖骨下血腫、右胸水が示された。当事者の主張患者側(原告)の主張生命の危険性、あるいは手指の切断についての説明がないのは説明義務違反がある適切な感染症対策を行わず、敗血症に罹患させたのは注意義務違反である鎖骨下静脈穿刺により、無気肺を生じさせたのは注意義務違反である緑膿菌などに感染し、敗血症性の呼吸困難が生じていたことに加え、鎖骨下静脈穿刺の際に生じた鎖骨下血腫および血性胸水が無気肺をもたらしたことが原因となり、呼吸不全から心停止にいたり死亡した病院側(被告)の主張容態急変する前の9月26日までは順調に経過しており、手術前にその急変を予測して説明を行うのは不可能であった創は著しく汚染されていたので、無菌化することは困難であった。感染すなわち失敗という考え方は妥当ではない鎖骨下静脈穿刺により、無気肺を生じたとしても、患者が突然寝返りを打つなどして動いたことが原因である。患者救命のための緊急事態下で行われた措置であることを考慮すれば、不可抗力であった病理解剖所見では、突然の呼吸停止とまったく蘇生不能の心停止が同時に生じるという臨床的経過と符合しないため、結局突然死と診断されており、死亡原因の特定はできない裁判所の判断1.病院側は原因不明の突然死というが、病理解剖の結果心臓には心停止をもたらすような病変は確認されておらず、敗血症性の感染症および無気肺の存在以外には死亡に結びつく病変は確認されていないので、原告の主張通り、緑膿菌などに感染し、敗血症性の呼吸障害ないしは呼吸機能の低下、ならびに鎖骨下静脈穿刺の際に生じた鎖骨下血腫および血性胸水が無気肺をもたらしたことによる換気能力の低下、呼吸不全から心停止にいたり死亡した2.ゴールデンアワー内に十分な洗浄、消毒、デブリードマンなどを徹底して行い、その後も十分な洗浄、消毒、デブリードマンを行うべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠った。その結果、敗血症性の重篤な感染症に罹患させたものである3.鎖骨下静脈穿刺の時にはいつ痙攣や不穏状態が生じるか予測できない状態であったので、穿刺時の不測の体動を予見することは十分に可能であった。そのため、身体を拘束したうえで鎖骨下静脈穿刺を行うべき注意義務を違反した4.説明義務違反は十分な洗浄や消毒を行わなかった過失に含まれる原告側合計7,077万円の請求に対し、5,177万円の判決考察この判決内容を熟読してみて、臨床を熱心に実践されている先生方のご苦労と、ひとたび結果が悪かった時に下される司法の判断との間には、大きな相違があると感じずにはいられませんでした。まず、最大の誤解は、「手の開放創からの感染は、十分な洗浄、消毒、デブリードマンを徹底して施行すれば、ほぼ確実に防止できるものである」と断定していることだと思います。いくら抗菌薬が発達した現代であっても、本件のような難治性の感染症を完全に押さえ込むのが難しいことは、われわれが常日頃感じているジレンマのような気がします。本件で不十分と判断されてしまった創の消毒・洗浄方法をもう一度みてみると、12:40(受傷後30分)救急搬入、バイタルサインが安定していることを確かめた後、両手に付着していた線維などを取り除いたうえで、ポビドンヨード(商品名:イソジン)、クロルヘキシジングルコン酸(同:ヒビテン)で消毒。13:30(受傷後1時間20分)抗菌薬を静注しながら、両腋窩神経、および腕神経叢ブロックを施行したうえで、ただちに創洗浄を開始。14:45(受傷後2時間35分)全身麻酔下の手術が必要と考えたため麻酔導入。麻酔完了後、ガーゼ、ブラシを用いながらヒビテン®液で軟部組織、骨、皮膚に付着した油様のものなどをよく洗浄したうえで消毒し、壊死組織、挫滅組織を切除、さらに生理食塩水でブラッシングしデブリードマンを完了。この間に使用した生食は20L。とあります。裁判ではしきりに、受傷後6時間以内のゴールデンタイムに適切な処置が行われなかったことが強調されましたが、このような病院側の主張をみる限り、けっして不注意があったとか、しなければならない処置を忘れてしまったなどという、不誠実なものではなかったと思います。少なくとも、受傷6時間の間に行った処置は、他人から批判を受けなければならないような内容とはいえないのではないでしょうか。にもかかわらず、「きちんと洗浄、消毒をすれば菌は消える」などと安易に考え、「菌が消えないのならば最初の処置が悪かったに決まっている」と裁判官が即断してしまったのは、あまりにも短絡しすぎていると思います。あくまでも過誤があると主張するのならば、洗浄に用いた生食が20Lでは足りなくて、30Lだったらよかったのでしょうか?そこまで医師の措置を咎めるのであれば、当時の医師たちのどこに不適切な点があって、どのような対策を講じたら敗血症にまでいかずにすんだのか、つまり今回と同様な患者さんが来院した場合には、どうすれば救命することができるのか、(権威ある先生にでも聞いたうえで)示すべきだと思うのですが、裁判官はその点をまったく考慮せず、一方的な判決となってしまいました。それ以外にも、容態急変時の血液ガスで酸素分圧が137.8mmHg(正常値は85~105)という数値をみて、「酸素分圧が正常値を大きく越えるものであり、無気肺により換気能力の低下を来した」と判断している点は、裁判官の勉強不足を如実に示しています。この当時、当然酸素投与がなされているはずですから、酸素分圧が137.8mmHgとなっても不思議に思わないし、それをもって換気障害があるとは判断しないのが常識でしょう。にもかかわらず、ことさら「酸素分圧が正常値を越えた」というだけで「注意義務違反に該当する医療行為があった」と短絡しているのは、どうも最初から「医者が悪い」という結論を導くために、こじつけた結果としか思えません。少なくとも、そのような間違った見解を判決文に載せる前に、専門家に確認するくらいの姿勢はみせるべきだと思います。鎖骨下静脈穿刺についても、同じようなことがいえると思います。当時の内科医師は、鎖骨下静脈穿刺前の局所麻酔の時に、患者がとくに暴れたり痛がったりしなかったので、あえて押さえつけながら穿刺を行わなかったと証言しています。これはごく当たり前の考え方ではないでしょうか。この裁判官の判断が正しいとするならば、意識がもうろうとしている患者さんに注射する時には、全員身体を拘束せよ、という極端な結論となります。実際の臨床現場では、そのようなことまであえてしないものではないでしょうか。病院側は不可抗力であったと主張していますが、そのように考えるのももっともであり、すべてが終わった後で判断する立場でこのような判決文を書くのは、少々行き過ぎのような気がしてなりません。ただ一方で、前途ある19歳の若者が命を落としてしまったのも事実です。その過程では、よかれと思った医療行為が裏目に出て、敗血症に至ったり、鎖骨下血腫を形成して死亡に少なからず寄与しました。しかし、ではどこでどのような反省をして、今後どのような対処をするべきかという、前向きの考え方がなかなかこのケースでは検討しにくいのではないでしょうか。つまり、本ケースのように医療行為の結果が悪くて裁判に発展してしまい、本件のような裁判官に当たると、医師にとって不利な判決にならざるを得ないという、きわめて釈然としない「医療過誤」になってしまうと思います。感染症

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脊椎大手術における硬膜外麻酔および持続硬膜外鎮痛の有用性

 硬膜外麻酔は、術後硬膜外鎮痛の有無にかかわらず手術侵襲反応を軽減する可能性があることが示唆されているが、脊椎大手術を受ける患者については十分な研究がされていなかった。今回、ロシア・Nizhny Novgorod Research Institute of Traumatology and OrthopedicsのAnna A.Ezhevskaya氏らによる前向き無作為化試験の結果、硬膜外麻酔/全身麻酔+術後硬膜外鎮痛の併用は、全身麻酔+麻薬性鎮痛薬の全身投与と比較して、疼痛をより良好にコントロールでき、出血量ならびに手術侵襲反応も少ないことが示された。Spine誌オンライン版2013年3月19日の掲載報告。 本研究の目的は、脊椎再建手術における臨床転帰と手術侵襲反応に対する麻酔ならびに鎮痛法の有効性を比較検討することであった。 85例が次の2群に無作為に割り付けられた。 ・E群(45例):セボフルラン(商品名:セボフレンほか)による硬膜外麻酔と気管内麻酔+術後ロピバカイン(同:アナペイン)、フェンタニル(同:フェンタニルほか)およびエピネフリン(同:ボスミンほか)による持続硬膜外鎮痛 ・G群(40例):セボフルランによる全身麻酔+術後フェンタニルおよびオピオイド全身投与 術中および術後にコルチゾール、グルコース、IL-1β、IL-6およびIL-10濃度を測定するとともに、術後の疼痛、悪心、運動性および満足度を評価した。 主な結果は以下のとおり。・E群ではG群と比較して、疼痛、悪心が有意に少なく、より早期に運動を開始することができ、満足度も有意に高かった。・E群は、術中および術後の出血量が有意に少なく、術後のグルコース、コルチゾール、IL-1β、IL-6およびIL-10濃度も低値であった。~進化するnon cancer pain治療を考える~ 「慢性疼痛診療プラクティス」連載中!・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」痛みと大脳メカニズムをさぐる・「痛みの質と具体性で治療が変わる?!」神経障害性疼痛の実態をさぐる・「不適切なオピオイド処方例(肩腱板断裂手術後難治性疼痛)」ケースレポート

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地域とともに歩むドクターの魅力。“Generalist”という選択肢を学ぶ!

「医師のキャリアパスを考える医学生の会」主催(代表:秋葉春菜氏〔東京女子医科大学医学部4年〕)の第18回勉強会が、2012年9月23日(日)、東京大学・本郷キャンパスにおいて開催された。当日は医師、医学生、社会人を中心に約50名超が参加した。今回は、家庭医として診療に携わる一方で、地域コミュニティ「みんくるカフェ」の主宰として、また東京大学医学教育センターの講師として活躍されている孫 大輔氏を講師に迎え、「家庭医・総合医がなぜ今注目される? 社会が求める医療の変化」と題し、講演を行った。なぜ家庭医・総合医になったのか?はじめに講師の孫氏が、自身の自己紹介もかねて「なぜ、家庭医・総合医の道を選んだのか」を述べた。孫氏は、東京大学医学部を卒業後に、医師としてのキャリアを腎臓内科からスタートした。当時は、医局講座制の臨床研修制度の中で次第に自分が「『医師なのか』、『研究医なのか』わからなくなり、自分の理想とする医師像とのギャップに悩む時期があった」と当時を述懐した。そんな時に出会ったのが、「家庭医・総合医」であり、患者の疾患を診るだけでなく、患者のバックグランドも見なくてはいけない役割に魅力を感じ、家庭医の臨床プログラムを経て、資格を取得。現在地域の家庭医として「充実した毎日を過ごしている」と述べた。次に家庭医の魅力として、「さまざまな疾患を診療できること」と語り、ある1日の外来記録を資料として示しながら「下は0歳の幼児から上は99歳の高齢者まで診療し、その疾患の種類も胃痛、うつ、喘息、健診と非常に多岐にわたっている」と説明した。もちろん訪問診療もしばしばで、「患者家族とのコミュニケーションにより、疾患のバックグラウンドを探りながらの診療は興味深い」と述べるとともに、「家庭医は守備範囲が広く大変だが、臨床医としてやりがいはある。とくに地域住民を家族ぐるみで、患者の生活の場で診療することは新鮮であり、かつて診療したことがなかった小児科や婦人科の診療をすることは新たな発見の連続」と家庭医の魅力を伝えた。いまなぜ家庭医・総合医なのか?孫氏が「わが国では、患者は軽症でも大きな病院へ最初に行く傾向にあり、その結果、不適切診療やたらい回しなどの弊害も発生している」と現行の問題点を指摘するとともに、「超高齢化社会が進む2030年には、自宅で最期を迎える人も大勢でてくる(看取り難民47万人という試算もある)。その受け皿はどこにあるのか、これは病院だけでは難しい。こうした事態に対応するのが家庭医・総合医だと考える」と今後の役割の重要性を述べた。さらに、従来わが国の医学教育課程では、こうした家庭医・総合医を専門とする医師を養成するカリキュラムやプログラムがなかったことを指摘し、「社会にも存在意義を働きかけてこなかったために、日本は先進国の中でも家庭医・総合医の後進国になってしまった」と説明した(例:欧州では医師の3~4割が家庭医・総合医)。そして、「今、家庭医・総合医に興味を持ってもらったり、家庭医・総合医を増やすために3つの取り組みを行っている」とその内容を説明した。具体的には、(1)市民参加型のイベントの実施 → 「みんくるカフェ」(2010年~)(2)若手家庭医・総合医の育成  → 一般社団法人Medical Studio (2012年~)(3)全国的な議論の場作り    → Generalist Japan 2012(2012年~)の3つであり、(1)では市民と医師の距離を縮めることで市民の医療への参加を促し、(2)では若手の医師に家庭医・総合医の魅力をWebのレクチャーを通じて伝え、(3)では全国の家庭医・総合医の連帯、情報交換の場作りとして活動していると説明した。「みんくるカフェ」とは?次に孫氏は、市民と医師の距離を縮める活動として行っている「みんくるカフェ」の活動を説明した。元々この活動を始めた動機は、「患者の気持ちが汲めないドクター」と「医師に本音がいえない患者」との溝を埋めることが目的であり、誰もがフラットに対話できる場として2010年から始めたものである。「みんくるカフェ」は、「ワールドカフェ※」という手法を使い、テーマに「医療と健康に関すること」を選択。月1回のペースで過去32回開催され、延べ700名以上が参加している。現在では、市民講座的な「みんくる大学」や学生に限定した「みんくる学生部会」などの活動もあり、その動きはFacebookなどSNSを通じて、全国に拡大している。「みんくるカフェ」の一例として、2012年6月に松本市(長野県)で開催された会では、テーマに「悲嘆学(グリーフケア)」を取り上げ、「医師や市民だけでなく宗教家(僧侶)も参加し、さまざまな意見交換が活発に行われた」と説明した。「みんくるカフェ」を通して、「患者にヘルスリテラシーの変容が起き、より賢く自分自身や家族の健康のために受診行動ができるようになればよい。今後もっと医療コミュニケーションのインフラができ、『みんくるカフェ』のファリシテーターができるもっと多くの医療人を育てていきたい」と抱負を述べ、レクチャーを終えた。質疑応答次のような質問が、孫氏に寄せられ、一つ一つの質問に丁寧に回答された。家庭医・総合医が修得しておかなくてはならない診療範囲はどのくらいか?代表疾患100くらいに対応できるようになれば家庭医になれる。いわるコモンディジーズの疾患家庭医・総合医になるための流れについて全国で158ある日本プライマリ・ケア連合学会認定の後期研修プログラムに入ると専門医の受験資格が得られる。プログラムは基本3~4年間。以降は生涯教育で補う外科の知識・能力はどのくらい必要か?全身麻酔での手術までは必要とされないが、縫合や切開、爪のケア程度の治療レベルは必要まれな疾患の診療も家庭医・総合医が行う必要があるか?まれな疾患は、家庭医・総合医ではなく、病院の総合診療医が得意であり、治療は専門医にお渡しする。病院総合医のプログラムも存在する地域を巻き込むコツについてその地域のNPOや中心となる人物を巻き込むと展開しやすい。テーマも、ポジティブなテーマ(例「医療過誤を減らすためには」ではなく「上手な病院の受診のしかた」など)で興味を持たれそうなものを選択する家庭医・総合医になって注意することは?のめりこみすぎて燃え尽きる場合が多いので、グループ診療でローテートするなどの工夫が必要。イギリスの家庭医はそのように連携しているこの後、実際に「ワールドカフェ体験」ということで、「家庭医・総合医を10年後までに10万人増やすためには?」をテーマに、グループ毎に分かれ、孫氏をファシリテーターとして遅くまでディスカッションが行われた。※ワールドカフェとは、カフェのようなリラックスした雰囲気の中で、テーマに集中した会話を行う「対話法」。5~6人単位で1つのテーマを一定時間話し合い、終わったらメンバーを取り替えて、また同一テーマで話し合うことを繰り返すことで、参加者全員で話し合っているような効果が得られる。講演者略歴関連リンクみんくるプロデュース(HP)みんくるカフェ(ブログ)みんくるカフェ(Facebook)みんくるカフェ(Twiitter)医師のキャリアパスを考える医学生の会※スタッフ募集中です。興味のある方はご連絡ください!

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レミフェンタニルの使用は脳腫瘍切除または直腸がんの術後早期アウトカムに影響するか?

 レミフェンタニル(商品名:アルチバ)は脳神経外科麻酔にとって重要な特徴があるが、術後回復と死亡率に及ぼす影響に関するデータが不足している。そこで、東京大学の内田氏らは、2007年のDPCデータを用いて、術後の院内死亡率や入院期間に対するレミフェンタニルの効果を検討した結果を、Journal of anesthesia誌オンライン版に5月4日に報告した。 対象は、レミフェンタニルまたはフェンタニル(商品名:フェンタニルなど)を使用し全身麻酔下で開頭脳腫瘍切除を受けた患者で、レミフェンタニル群と非レミフェンタニル群に分け、潜在的交絡因子に対する傾向スコアマッチングの後、2群間の院内死亡率と術後入院期間を比較した。比較対象として、硬膜外麻酔を伴う全身麻酔下で直腸がん手術を受けた患者を同じエンドポイントで評価した。 この比較検討により、開頭神経外科手術を受けている患者にとって、レミフェンタニルの投与がより良好な早期術後回復に寄与する可能性が示唆された。 主な結果は以下のとおり。・脳腫瘍切除(936対)を受けた患者において、レミフェンタニル群は非レミフェンタニル群に対し、有意に低い院内死亡率を示した(1.5% vs 3.0%、p=0.029)。・ロジスティック回帰分析で、院内死亡率とレミフェンタニルのオッズ比は0.47であった(95%信頼区間:0.25~0.91、 p=0.025)。・レミフェンタニル群は非レミフェンタニル群と比較し、退院も早かった(入院期間の中央値 17日 vs 19日、ハザード比:1.19、95%信頼区間:1.08~1.30、 p

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術中覚醒予防モニタリングでのBIS使用、優越性立証されず

術中覚醒予防のモニタリングについて、前向き無作為化試験の結果、脳波から派生するバイスペクトラル・インデックス(BIS)を組み込んだプロトコルは、呼気終末麻酔薬濃度(ETAC)を組み込んだ標準的モニタリングプロトコルよりも優れていることは立証されなかったとの報告がNEJM誌2011年8月18日号に掲載された。米国・ワシントン大学医学部麻酔学科のMichael S. Avidan氏らによる。「予想に反して、BIS群よりもETAC群のほうが覚醒した患者は少なかった」と結論している。予期せず起こる術中覚醒は、全身麻酔が得られないか維持されない場合に起こり、そうした患者における覚醒発生率は1%近く、米国では毎年推定2~4万人が術中覚醒を経験している。また術中覚醒患者の約70%がPTSDになる可能性があるという。6,041例をBISプロトコルとETACプロトコルに無作為割り付け研究グループは2008年5月~2010年5月の25ヵ月間にわたり全米3ヵ所の医療センターから、覚醒リスクが高い18歳以上の患者6,041例を登録し、BIS指標麻酔群またはETAC指標麻酔群に割り付け前向き無作為化評価者盲検試験を行った。BISは、検出可能な脳電気的活性を指標とし、0~100のスケールで示され0は抑制された状態、100は覚醒した状態を示し、モニタリングでは<40または>60になると警告音が鳴るようになっていた。一方ETACは、最小肺胞内濃度を指標とし、<0.7または>1.3になると警告音が鳴るようになっていた。これらの警告音に加えてプロトコルには、モニタリングに関する教育およびチェックリストが組み込まれた。術中覚醒の評価は術後72時間以内と抜管後30日に患者への面接調査にて行われた。いずれかの面接調査を完了した5,713例(98.3%)が解析対象に含まれ、BISプロトコルの優位性について、Fisherの正確確率検定の片側検定を用いて評価された。覚醒可能性例を含んでもBISプロトコルの優越性示されず明確な術中覚醒を経験したのは、ETAC群2,852例中2例(0.07%)、BIS群2,861例中7例(0.24%)だった。両群差は0.17ポイント(95%信頼区間:-0.03~0.38、P=0.98)で、BISプロトコルの優越性は示されなかった。明確な術中覚醒が起きた可能性があった例も含んでも、BIS群19例(0.66%)、ETAC8例(0.28%)であり、この場合もBISプロトコルの優越性は示されなかった(差:0.38ポイント、同:0.03~0.74、P=0.99)。麻酔投与量や重大な術後有害転帰の発生率において群間差は認められなかった。(朝田哲明:医療ライター)

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麻酔による合併症リスクが高い患児をいかに同定するか?

手術時の麻酔施行前に、International Study Group for Asthma and Allergies in Childhood(ISAAC)の改訂質問票で評価を行えば、周術期の呼吸器合併症のリスクが高い患児を同定可能なことが、オーストラリア、プリンセス・マーガレット小児病院(パース)麻酔科のBritta S von Ungern-Sternberg氏らが行ったコホート研究で示された。小児における麻酔に起因する疾患や死亡の主要な原因として、周術期の呼吸器系の合併症が挙げられる。これまでに合併症のリスク因子の報告はあるが、臨床における高リスク患児の同定法は確立されていないという。Lancet誌2010年9月4日号掲載の報告。単一施設における前向きコホート研究研究グループは、家族歴、麻酔法と周術期呼吸器合併症の関連を評価するプロスペクティブなコホート研究を実施した。2007年2月1日~2008年1月31日までにプリンセス・マーガレット小児病院で外科的あるいは内科的介入、待機的あるいは緊急処置として全身麻酔を施行された全患児を前向きに登録した。手術当日に、担当麻酔医がISAACの改訂質問票を用いて喘息、アトピー、上気道感染症、受動喫煙などの既往について調査した。麻酔法および周術期にみられたすべての呼吸器合併症が記録された。呼吸器疾患の既往歴、上気道感染症などがあると合併症リスクが増大12ヵ月後までに1万496人の患児から得られた9,297の質問票が解析の対象となった。患児の平均年齢は6.21(SD 4.8)歳であった。周術期の呼吸器合併症として気管支攣縮、喉頭痙攣、咳嗽/酸素飽和度低下/気道閉塞について解析した。呼吸器疾患の既往歴(夜間乾性咳嗽、運動時喘鳴、過去12ヵ月で3回以上の喘鳴、現在あるいは過去の湿疹の病歴)は、気管支攣縮(相対リスク:8.46、95%信頼区間:6.18~11.59、p<0.0001)、喉頭痙攣(同:4.13、同:3.37~5.08、p<0.0001)、周術期の咳嗽、酸素飽和度低下、気道閉塞(同:3.05、同:2.76~3.37、p<0.0001)の発現と有意な関連が認められた。上気道感染症は、症状がみられる場合には周術期の呼吸器合併症のリスクを増大させた(相対リスク:2.05、95%信頼区間:1.82~2.31、p<0.0001)。上気道感染症が手術前の2週間以内にみられた場合は周術期呼吸器合併症のリスクが有意に増大した(同:2.34、同:2.07~2.66、p<0.0001)のに対し、感染が手術前2~4週の場合は有意に低下していた(同:0.66、同:0.53~0.81、p<0.0001)。家族の2人以上に喘息、アトピー、喫煙の既往歴があると、周術期の呼吸器合併症のリスクが増大した(いずれも、p<0.0001)。麻酔の導入は吸入薬よりも静注薬の方が合併症のリスクが低く(いずれも、p<0.0001)、麻酔の維持は静注薬に比べ吸入薬が低リスクであった(いずれも、p<0.0001)。気道の確保は、研修医に比べ小児麻酔専門医が行う方が合併症リスクは低く(いずれもp<0.0001)、気管内挿管よりもマスクを使用する方が低リスクであった(いずれもp<0.0001)。著者は、「手術時の麻酔施行前の評価により、周術期の呼吸器合併症のリスクが高い患児を系統的に同定することが可能であり、それゆえターゲットを定めた特異的な麻酔法がベネフィットをもたらす可能性がある」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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教授 中村正人先生の答え

循環器内科での後期研修について初期研修1年目の者です。循環器内科に興味を持ち始めたのですが、循環器内科といっても幅が広く、心臓血管カテーテル以外にも多くの専門領域があると思います。大橋病院ではどのような体制で診療や研究を行うのでしょうか?入局してくるレジデントは、ある程度専門領域を決めて来るのでしょうか?少し場違いな質問ですが御教授願います。ご指摘のごとく、循環器の診療はカテーテル検査のみでなく、心臓超音波、心臓CT、核医学など画像評価、不整脈、心不全、リハビリテーションなど幅広い知識、経験が必要です。このため我々の診療科では初年度1年間は、画像診断、不整脈、心臓血管カテーテルをローテーションで勉強するシステムを構築しています。その間は、当該領域専門の医師の指導下で関係する検査、関係する疾患の診療を行います。その後に、自分の専門領域を決定します。従って、最初から自分の専門を決めてこられる人は多くありません。ローテーションで回っている間に興味を覚えさらに勉強したいと思った領域を選択する人が多いと言えます。大学では、主として自分の専門領域の診療、研究を行いますが、大学からの出張先ではオールラウンドな診療を行うこととなります。なお、近年自分の専門領域と他科との関わりの中での研究の必要性も高まっています。なお、我々の診療科は循環器として勉強を始める前に消火器科、腎臓内科、呼吸器科を研修するシステムを採用しています。他診療科との連携について先生のコメントの中に「他診療科との連携も重要となります。」とありますが、最近ではどのような科との連携が増えてきたのでしょうか?また、先生が他診療科との連携において最も重視されていること、ご苦労などございましたら教えて下さい。今日、診療はどんどん専門に特化していく方向ですが、複雑化、重症化すればするほど、また長期成績を見据えた治療を考えれば考えるほど他科の先生との連携は避けられなくなってきます。緊急で冠動脈バイパス術をお願いすることはほとんど皆無となりましたが、大動脈弁疾患、大動脈疾患の合併が増加、心臓血管外科の先生との連携は必須です。冠動脈インターベンションの40%以上は糖尿病症例です。糖尿病における冠動脈インターベンションの成績改善には糖尿病の管理は不可欠です。また、数%は透析症例であり、造影剤を用いる検査であるため、造影剤腎症の問題は避けて通ることはできません。今日、アテローム血栓症の概念が提唱されるようになりました。冠動脈と同様な病変は脳血管、頸動脈、腎動脈、下肢動脈と全身に及び、冠動脈の管理のみでは不十分であると考えられています。冠動脈インターベンションの経験はこれら動脈病変の治療において非常に有益です。しかし、頸動脈の治療においては脳外科の先生との連携が重要ですし、下肢閉塞性動脈硬化症の治療において、とくに重症虚血肢の症例では創傷治癒の診療をお願いする形成外科の先生、foot careチームとの連携が必須となります。たとえ、下肢の血流を再開のみでは本病態の改善が得られないからです。TASCにおいても多診療科の連携の重要性が述べられています。しかし、大学病院など大きな病院ではこれら診療科が縦割であり、横の連携が機能しにくい傾向があると指摘されています。専門化の弊害といえます。幸い、当院ではその垣根が低く、多くの先生に協力を得ながら診療を行っています。研修について記事拝見しました。研修で全国を回っていらっしゃることを初めて知りました。研修の内容をもう少し詳しくお聞きしたいです。(研修日程や内容、参加者数、参加者層、講師の先生のことなど。)また、先生の研修に参加することは可能でしょうか?このような機会はあまりないかと思いますので是非教えて頂きたいと思っております。年2回春と秋に土、日曜日の2日間行っています。場所は、郡山、神奈川、神戸、宮崎の4か所を持ち回りで行っています。井上直人先生、村松俊哉先生、横井宏佳先生、私の4名で実施しています。当初4名で実施しましたが、2回目以降は各地域の近隣の経験豊かな先生方に講師として協力していただき実施しています。これまでに7回行われ、次回は神戸で10月に実施予定です。対象は初心者の先生方。これから冠動脈形成術を始める、始めたばかりの先生方であり、基本的、標準的な実技をトレーニングしようとするものです。開催地区近隣の先生の参加が多いのが実情ですが、全国から参加可能です。参加者は20‐30名程度で4つのグループに分かれていただき、ローテーションで動物を用いたカテーテルのトレーニング(ガイドワイヤーの曲げ方、挿入、ステントの留置、バルーンの挿入、抜去、IVUSの操作)。コンピューターによるシィミレーション、モデルを用いたロータブレーターの手技などのトレーニングが行われます。実技を中心とした研修ですが、講義による座学も行われます。また、夜には困った、悩んだ症例をもちよりみなで議論、親交を深めております。アドバンスコースは年2回、土曜日の一日コースで及川先生、矢島先生、小川先生、濱崎先生と東京の先生に協力していただき、動物モデルで実施しています。10名前後の少数の研修で、人数の関係もあり東京限定で実施しています。これら研修は非常に体力を要し疲労しますが、若い先生の情熱を感じ、昔の自分達を思い出し、終了するたびにやめられないと企画者一同実感しております。薬剤溶出ステントの副作用について以前、薬剤溶出ステントの副作用について話題になったかと思いますが、現在はどのようになっているのでしょうか?欧米に比べると日本の副作用発生率は少ないとの発表もあったようですが、最前線にいらっしゃる先生のお考えをお聞きしたいです。宜しくお願いします。本邦でも、この種のステントが登場して5年を経過しました。この間、多くの成績が報告され、薬剤溶出ステントは揺るぎないものとなっています。しかし、現在のステントの問題点も指摘され、さらなる改善が望まれています。このデバイスの最大の利点は再狭窄を著しく軽減させたことにあります。ステントにても克服できなかった再狭窄の問題が解決に向け大きく前進しました。糖尿病、小血管など従来のステントで成績に限界があった病変、病態におけるインパクトが最大です。一方、従来のステントでは経験しないような留置後1年以降に生じるステント血栓症が新たな問題として浮かび上がりました。このため、チエノピリジン系の抗血小板薬、アスピリンの2剤の抗血小板薬を長期に服薬することが推奨されています。一方、これら薬剤による出血性リスクの懸念もあり、長期服薬の是非が問われています。この合併症の原因は依然として不詳ですが、解決すべく新たなデバイス開発がなされています。薬剤溶出ステントはステント、コーティング、薬剤の3者で構成されていますが、コーティング、最終的にはステントが溶けてなくなるようなデバイスもすでに臨床で試みられています。先生が指摘されたように、上記の合併症は幸いなことに諸外国に比し本邦では極めて低率であることが報告されています。この理由も定かではありません。幾つかの要因が指摘されています。人種差による血小板機能の差異、薬剤コンプライアンスの差異、血管内超音波を用いた治療手技の差異などです。実臨床では個々の症例で原因は異なっているものと考えられ、本邦の成績が良いのは複合的な作用の結果であろうと推測されます。いずれにしても、デバイスは有効性、安全性の両面が重要であり、このテーマは永遠に追求されていくものと思われます。カテーテルを極めるには?医大に通っています。心臓を悪くして亡くなった者がいるので、心臓血管カテーテルに大変興味があります。先生のように、カテーテルを極めるには、どのような進路や経験を積めば良いのでしょうか?心臓血管カテーテルは急速な進歩であり、これは我々の予想を大きく上回るものでした。まさに、成熟期を迎えたと言えます。幸いなことにこれら進歩を眼のあたりにしながら今日まで診療をすることができました。これらかの先生は今日の診療が当たりまえの位置からスタートするわけですから大変であろうと思います。まず、実技に入る前に清書を読むことをお勧めします。歴史を知ることは、今日の問題点が何故あるのか、どのような模索がされてきたかを理解することにつながります。広い視野が重要で、今後非常に参考になるでしょう。絶対的なルールはありませんが、次に大切なポイントはカテーテル検査を好きになることです。この領域は経験がものをいうことは否めませんから一歩、一歩、着実に前進するしかありません。手技は感覚的な要素も含まれるため、見て盗むといった古典的な手法が依然として必要になります。助手、または聴講者としてみているときも、つねに何故?その理論的背景は、自分ならどうするといった心構えが重要と思います。漠然と時間が過ぎていくのではなく、一例一例が重要です。その意味で色々なオプション、引きだしをもつことができるか、それを実践できるかが重要です。良い上司、環境は重要でしょうが、入ってみないと現状はわからないものです。多くの施設を訪問し、多くの先生の意見を聞いてみるのがよいと思います。その中で何か感じるものがあれば、あとは自分の努力で前進は可能です。昔より、勉強する機会、環境は非常に増えたと思います。狭心症患者に「カテーテル治療」と「バイパス手術」の選択について説明する時の注意点私はクリニックに勤めている医師ですが、近隣に住む、狭心症で大学病院にかかっている方から「カテーテル治療」と「バイパス手術」の選択について相談を受けました。患者の状態によって違うとは思いますが、せめて一般的なメリット、デメリット、再発率などを説明してあげたいと思っております。教科書通りの説明は本を読めばできるのですが、先生の御経験に基づいた注意点やポイントなどありましたら教えて頂ければと思います。両治療の差異は侵襲性と再血行再建の必要性にあります。両者に生命予後の点では差がないことが示されています。冠動脈形成術は、侵襲性が低く1-2時間で手技が終了、2-3日で退院可能です。死亡リスクは1%未満で、社会復帰も早期に可能です。最大のアキレス腱は再狭窄がある一定の頻度で生じることです。しかし、この問題も薬剤溶出ステントが登場して著しく軽減、数%となっています。このため、薬剤溶出ステントが汎用されていますが、この種のステントで治療した場合ステント血栓症を防止するためアスピリン、チエノピリジン系抗血小板薬2剤長期服薬が必須です。服薬アドヒアランスが低い患者さんには不向きと言えます。また、冠動脈形成術は局所の治療であるため、治療部位以外のイベントは回避困難であり、厳格なリスク管理が重要です。一方、冠動脈バイパス術は全身麻酔を要し、初期の侵襲性は高く、死亡リスクは1-3%、脳卒中、開胸に伴う合併症、麻酔に伴いトラブルなどのリスクが若干あります。一回で治療を完結できる可能性が高く、グラフトされた末梢での心血管事故防止効果も期待できます。初期に開存が得られ長期的な開存が期待できます(グラフトの種類により差異がある)。他に両治療戦略を選択する重要なポイントに病変形態、合併疾患の有無があります。病変形態が冠動脈インターベンション治療に向いているか否かの判断が極めて重要です。この事実は最近の臨床試験でも示されています。また、腎機能障害があれば複数回のカテーテル治療は腎機能を悪化させるリスクとなります。高齢者では合併症のリスクが高く、最も重要な病変のみ治療を行い薬物で補完することも戦略となります。穿刺部合併症心臓カテーテル検査を始めて3年目なのですが、穿刺部合併症を最近数例件しました。具体的には浅腸骨回旋動脈の穿孔や、血腫、仮性動脈、動静脈瘻を経験しました。 こういった合併症を防ぐために、普段どういったところに注意されていますか? Femoral Punctureでは穿刺部位は透視で大腿骨頭の位置を確認して刺していますが、シースを挿入する前のワイヤー操作はやはりほとんど透視しながらやった方が良いのでしょうか?仮性動脈瘤はlower punctureで合併しやすく、逆にhigher punctureは腹腔穿刺になるため大腿動脈穿刺において穿刺部位は極めて重要です。これは比較的狭い範囲です。先生が実施しているように透視で大腿骨頭の位置を確認することは重要です。当院では全例実施しています。今後も必ず実施してください。大腿骨頭の下縁以下、上縁以上は避けることになります。穿刺はsingle wall punctureが良いとされています。すなわち、血管の後壁を突き抜けないように動脈の前壁のみを穿刺する手法です。当院では外筒のないアルゴンニードルを使用しています。なお、この穿刺針とラジフォーカスは相性が悪く、スプリングワイヤーを用います。その後穿刺針にガイドワイヤーを挿入します。透視を見ながらの挿入は行っておりませんが、ゆっくり挿入し、抵抗を感じた場合必ず透視で確認を行います。この際にラジフィーカスを用いないのは、迷入しても気づきにくいからです。透視で迷入が確認された場合、検査後造影にて確認を行えば確実です。上記の理由でラジフォーカスを用いる場合は透視下で挿入する方が安全でしょう。静脈は動脈の内側に伴走していますが、血管の蛇行などで上下に重なっていることもあります。止血手技も重要です。Learning curveがあり、ある程度の経験が必要です。とくに高度肥満の人、高齢者、大動脈弁閉鎖不全症など脈圧が高い人は要注意です。皮膚の穿刺点と血管の穿刺点は高さが異なること、拍動を感じながら圧迫することなどが重要であり、single wall punctureが望ましく, lower punctureは止血困難な要因となります。どこに問題があったか、自問してみましょう。しかし、実際には動脈穿刺に伴う合併症はある一定の頻度で合併し得るものです。合併症は早期に見つけること、そのためには疑うことが肝要です。PCIにおけるステントの選択に関してPCIにおけるステントの選択ですが、私は、3mm以上の血管に対してはエンデバースプリント、2mm代の小血管に対してはCypher select、AMIに関してはDriver stentという選択をしております。ザイエンスが登場し、遠隔期の成績の良さはよくわかるのですが、メリットである通過性に関してもエンデバースプリントでことたりますし、ザイエンスのデリバリーバルーンのドッグボーン、コンプライアンスが良すぎるバルーン、ウイギング現象を考えるといまいちザイエンスの使い勝手が悪い気がします。中村先生は、ステント選択に関して何かいいポイントはありませんか?ぜひ教えてください。ステントの成績に関する報告は多数ありますが。これらの報告を実臨床にどのように生かすかが個々の医師に託された仕事であろうと思います。比較試験は限られた対象における検討であり、レジストリーデータは実臨床に近い対象になりますが、バイアスのかかった対象であり、近年はやりのマッチングを行っても比較試験と同等の意味をもたせるには限界があります。最近の臨床試験における各デバイスの差異は数%以内のものであり、基本的に大きな差異はないと言えるでしょう。薬剤の臨床試験と極めて類似して来ました。従って、どのステントを選ぶかは、そのステントの何を生かそうとして選択したかという点に尽きます。抗血小板薬長期服薬困難であるか、ステントのプラットフームが重要な病変であるか、通過性が重要な病変であるかなど個々に適したものを選択すればよいと思います。大切な点は、適切な拡張術で良好なステント拡張を得ることです。この点で、使いなれたステントを用いると予想された結果が得られやすいということは言えるでしょう。さてザイエンスです。ご指摘のごとくコンプライアンスが高く、留意が必要です。特に2.5mmはコンプライアンスが高く、サイズを間違えないことが重要です。また、taper vesselでは近位に合わせたサイズを選択すると危険です。この点先生の意見に賛成です。私は高圧をかけず、低圧で長時間拡張後にステント内を高圧拡張行うようにしています。ステントの特徴はむしろマウントされているバルーンの性能とステントの相性によって決定されるといって過言でありません。従って各ステントにあった拡張を行うことが重要です。それは個々の先生の流儀と相性があるかもしれません。以上のごとく、病変、病態にあったステントを選択し、そのステントにあった拡張術(edge損傷なくステント面積を得る)を行うのが良いと考えています。予後50歳男性心筋梗塞発症15時間後に心カテ施行。1枝は凝固が強く、完全閉塞だが微小な側副血行あり。ヘパリン治療にて24時間経過、バイタルは安定、軽度左室肥大あり。今後の予後予測は?外科適応の指標などあればご教示下さい。ポイントは50歳と若年、1枝病変完全閉塞の2点にあります。本例の梗塞部位は不明ですが、初回梗塞の1枝病変で血行動態が安定しており、高齢でない点から予後は良好、機械的合併症発生のリスクは低いものと予想されます。本例は15時間経過した梗塞例で、側副路の発達が不良な完全閉塞であったとのことから、壊死はすでに完成しているものと推測され、このためこの時点で再灌流による心筋救済のメリットは小さいものと推測されます。結果としての梗塞サイズ、残存心機能が予後を規定します。再灌流が得られていないので梗塞後のリモデリング防止が重要となります。さて、慢性期に1枝完全閉塞であった場合の血行再建の適応は残存虚血の有無、病変部位によって決定されます。虚血がない、または小さい場合は薬物で管理。虚血が残存する場合、バイパス術、PCIなどの血行再建が必要になります。両者の別は病変形態、部位によって決定されます。冠動脈バイパス術は本例が主幹部、LADの近位部にあり、病変形態がPCIに不向きな場合に考慮されます。なお、急性期に完全閉塞であっても自然に再疎通し開存していることが少なくありません。従って、退院前に再造影することをおすすめします。教授 中村正人先生「カテーテルの歴史とともに30年、最先端治療の場で」

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准教授 小早川信一郎先生「白内障手術の光と影」

日本眼科学会眼科専門医。医学を志す中で、自分の専門分野を持ちたいと眼科を志望。微生物・免疫学を米国で研究。現在、東邦大学医療センター大森病院にて眼科・白内障及び感染症の分野を担当している。直径3cmの天体観測白内障手術は高齢化社会の進行により、症例数が年々増加傾向にあります。白内障手術は、安全簡単なイメージが定着しつつありますが、決して100%安全な手術ではありません。医療従事者としても術前術後の患者さんケアは必須であり、手術適応の決定から術後フォローまでが手術治療であると考えています。術後フォローは、患者さん個々の症状に左右され、また患者さん一人ひとりの病気に対する意識も違うので、対応も異なります。高齢化社会の進行に伴い、以前と比較して、手術を受ける患者さんの年齢層が上がってきています。そういった患者さんでは、全身の免疫機能が落ちていることも考えられ、術後感染症など合併症の増加が予測されます。白内障手術は安全簡単なイメージが先行していますが、現場では決してそのような意識はありません。眼球の内部には痛覚が乏しいとされています。圧迫感は感じても、痛さを感じない場合が多くあります。たとえば、白内障の術後感染症が起きた場合、痛みを感じない症例が半分程度存在します。もちろん、患者さんからの見えないという情報があれば心強いですが、発症初期など自覚に乏しい場合、感染症の進行予測を診察や検査で得る情報のみで判断する場合もあります。眼球は直径3cm、それを顕微鏡で診察しているわけです。眼球は小宇宙であると、たとえられる場合がありますが、毎日我々眼科医は天体観測をしているのかもしれません。医師の満足と患者の満足にギャップ眼科手術はその殆どが局所麻酔で行われます。そのため医師間あるいは看護師との会話、看護師の動きなどが手術を受けている患者さんにも知られてしまうこととなります。手術指導の場合は、特に神経を使います。術後、医師の満足と患者の満足にギャップが生じる時があります。医師は患者さんが本当のところ、どう見えているかがわかりません。見えているはずと判断しても見えていなかったり、その逆であったりと、視点の違いを常に感じています。患者さんの中には、手術をすれば若い時の視力や見え方が取り戻せると考える人もいらっしゃいますので、術前の説明に注意が必要なケースもあります。ただ10年前と比較しますと、白内障手術の際に埋め込む代用水晶体、一般的に眼内レンズと呼ばれていますが、眼内レンズはかなりの技術革新がなされました。もちろん手術技術も進歩しました。当センターでは、遠近両用眼内レンズの使用における先進医療の認可を受けていますが、こういった新しい眼内レンズの登場は、これまでよりも確実に患者さんの満足度を高めていると思われます。白内障手術の光 -ここまで直せる白内障手術-白内障の手術は、この5年ほどで使用できるレンズの種類が多くなりました。1、遠近両用眼内レンズ'08年4月より全国で開始、当センターでも手術が可能です。'10年1月当センターでは先進医療認定を受けたため費用は36万円程度となっています。現在我が国で使用できる遠近両用眼内レンズは3種類で、屈折型1種類、回析型2種類となります。ただし、一番注意して頂きたいことは、全ての患者さんに適応があるわけではないということです。先程の話ではないですが、遠近両用眼内レンズを用いても老視が始まる前、若い頃の視覚、見え方に戻るわけではないのです。どちらかといえば、遠方と近方二つの異なる距離にピントが合うレンズとイメージして頂いた方がよいと思います。中間距離ではピントが合う場合も合わない場合もあります。遠近両用眼内レンズの挿入は、基本的に通常の手術と変わりませんが、より丁寧な手術操作が必要となります。次に、患者さんの選択に関してですが、角膜乱視が1D以上ある人は適応になりませんし、白内障以外の眼の病気がある人はもちろん適応になりません。当センターでは、まだ症例数がそれほど多くないですが、比較的術後成績の良い、回析型のレンズを中心に手術を行っています。2、乱視矯正用眼内レンズ'09年夏頃より乱視度数が加わったレンズが使用可能となりました。乱視が一定以上ある眼とそうでない眼との実際の見え方については、未知の部分もありますが、少なくとも乱視が少ない眼の方が見え方の質は高いはずです。現在、乱視矯正用眼内レンズでは矯正度数が3種類(1.0D, 1.5D, 2.0D)用意されています。すなわち、2.0D以上の乱視は残ることになりますが、このことからも眼鏡のようにきっちりと乱視を矯正するというよりは、乱視を減らすことに重点が置かれています。これまでの乱視矯正は、主に角膜切開術が行われてきました。しかし、術後の戻り(再び乱視となる)や再現性(定量性)が低いなどの理由で広く行われるまでには到りませんでした。我々も昨年末よりこのレンズを用いておりますが、同程度の乱視が残った症例と比較すると明らかに裸眼視力の向上が得られており、患者さんからの評判も上々です。手術は、乱視軸の決定などの操作が加わるため、従来と比較すると、やや煩雑ではありますが、そのために手術時間が何倍にも伸びるということはありません。3、難症例対策、特殊な眼内レンズ労働災害などによる穿(せん)孔性眼外傷により、角膜のみならず虹彩や水晶体まで広範囲に障害をうけた症例に対し、昨年、虹彩付きの眼内レンズを用いた手術を行いました。虹彩付き眼内レンズはヨーロッパを中心に用いられていますが、残念なことに我が国では医療材料として認められていません。こういったレンズは、個人輸入により我々術者の裁量のもとに使用せざるを得ないのです。眼科のみならずどこの科においても共通の問題点とは思いますが、こういった数の多くない症例に対し、欧米で普及しつつある治療法が、我が国においては保険制度の縛りによりスムーズに行えないという現実があります。難しい問題とは思いますが、今後少しでも改善されればと思います。白内障手術の影 -手術に潜む落とし穴-現代の白内障手術は、技術的にほぼ完成の域に達したといわれています。しかし、まだ解決されていない問題点は存在します。一つは「術後感染症」です。外科的処置に術後感染症は一定頻度で必ず起こります。眼科手術の術後感染症は、外科などと異なり、感染による全身への影響は少ないですが、視機能の喪失に直結します。当医療センターにおける12年間の白内障術後感染症の症例を見ると約1/3の症例が最終視力0.1以下でした。0.1は社会的な失明ラインとされていますので、この成績からも決して予後の良い疾患ではないことがわかります。現在、術後感染症の頻度は約0,05%とされており、年間100万眼行われている白内障手術では、1年に500眼この術後感染症が発生し、そのおおよそ3分の1、160眼に社会的失明が起こっていると予測されます。もちろん、両眼同時に感染症を起こすということはほとんどありませんので、160人の患者さんが全く生活できなくなるというわけではないのですが、手術前に多少なりとも見えていた眼が手術により見えなくなる、というのは大変恐ろしいことです。白内障手術といえども100%安全ではない、ということを是非知っていただきたいと思います。次に強調したいことは、「短時間で終了する手術は優れた手術ではない」ということです。白内障の手術は眼科専門医全ての医師が経験しています。指導者のもとで行われる経験の少ない術者の手術でも平均20~30分程度で終了し、術後の仕上がりも熟練者と大差ありません。もちろん熟練者であれば、難症例でなければ約10分程度で終了する場合が多いのですが、この約10-20分程度の差による違いは術翌日になればほとんどないのが現状です。一部の眼科医が4~5分で手術が終了するとマスコミを用いて宣伝していますが、とても違和感を覚えます。実際に4-5分で終了する術者を知っていますが、その先生方は決して自ら手術が人よりも早いことを宣伝しません。つまり、手術時間が早いことと優れた手術であることは一致するものでなく、自分の術式を追求した結果がその時間となっているだけであって、時間の早いことに白内障手術の価値を置いているわけではないからです。手術時間が早いことのメリットは、患者さん側よりも医療側にあると考えます。なぜなら、1日当たりに執刀できる症例数が増え、それに伴い手術による収入が増えるからです。私たちにとって理想の白内障の手術とは、短時間で終わる手術ではなく、丁寧な手術、眼に対する侵襲や合併症の少ない手術です。それは、結果的に患者さんの利益になると考えています。眼科医という選択眼科医という道は、何か手に職をつけたい、手術も面白そうだ、と考えたからです。父が眼科を開業していたことも大きかったですね。ただ、いざ始めてみると専門性がとても高く自分には向いていたかなと思います。眼科の検査はその殆どを外来で行っていますので、診療していく中で疑問に思ったことを自分自身で確かめることができます。専門的に活躍したい方には向いていると思います。私が医師になってから最初の10年は、白内障手術が劇的に変化した10年でした。技術革新も目覚ましいものがあり、1年たつともう古いといったことがしょっちゅうありました。自分自身はその変動を外野席から眺めていただけにすぎないのですが、その場所にいたこと、雰囲気を味わえたことはとても幸運だったと思います。人間が外界から得る情報の約8割は視覚、眼からといわれています。先日、認知症の患者さんの白内障手術を全身麻酔で行いました。術後、認知症が治ったとは思えないのですが、行動は術前とあきらかに変化していました。そんな姿を拝見すると、この仕事にやりがいを感じますね。質問と回答を公開中!

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米国で鎮静剤「LUSEDRA注射剤」新発売

エーザイ株式会社は17日、鎮静剤「LUSEDRA(一般名:fospropofol disodium)注射剤」について、米国にて発売を開始したと発表した。同剤は全身麻酔についての訓練を受けた医療従事者によって使用されることになるという。LUSEDRA注射剤は、プロポフォールの水溶性プロドラッグで、静脈注射後、体内で酵素(アルカリ・フォスファターゼ)によりプロポフォールに変換され、鎮静効果を発現する。同剤は、監視下鎮静管理(monitored anesthesia care: MAC)による、成人患者の検査もしくは処置における鎮静の適応について、2008年12月に米国食品医薬品局(FDA)より承認された。なお、同剤は、FDAよりスケジュールIV医薬品に規制分類指定されている。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.eisai.co.jp/news/news200948pdf.pdf

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頸動脈内膜剥離術では全身麻酔と局所麻酔のいずれを選択すべきか?

アテローム動脈硬化性の頸動脈狭窄に対する頸動脈内膜剥離術施行時の麻酔法として、全身麻酔と局所麻酔では周術期の脳卒中やその他の合併症の抑制効果に差はないことが、イギリスWestern General Hospital臨床神経科学科(エディンバラ市)のSteff C Lewis氏らが行ったGALA(General anaesthesia versus local anaesthesia for carotid surgery)試験の解析結果から明らかとなった。今後、いずれの麻酔法を選ぶかは、患者の好みや他の医学的な理由に委ねられることになりそうだ。Lancet誌2008年12月20/27日合併号(オンライン版2008年11月27日号)掲載の報告。主要評価項目、QOL、入院期間に有意差なし頸動脈内膜剥離術は、重篤な動脈硬化性の頸動脈狭窄による同側の脳卒中発症リスクを低下させるが、術中あるいは術後の合併症がその効果を相殺することが知られている。周術期の脳卒中を予測してそれを回避するには、全身麻酔下よりも局所麻酔下のほうが容易である可能性が示唆されている。GALA試験の研究グループは、これらの麻酔法のイベント抑制効果の比較を目的に、多施設共同無作為化対照比較試験を実施した。1999年6月~2007年10月までに、24ヵ国95施設から症候性あるいは無症候性の頸動脈狭窄患者3,526例が登録された。全身麻酔群に1,753例が、局所麻酔群には1,773例が割り付けられた。主要評価項目は、無作為割り付け時から術後30日までの脳卒中(網膜梗塞を含む)、心筋梗塞、死亡の発生率とした。主要評価項目の発生率は、全身麻酔群が4.8%(84例)、局所麻酔群は4.5%(80例)であり、局所麻酔による1,000例あたりのイベント抑制数は3例にすぎなかった(リスク比:0.94、95%信頼区間:0.70~1.27)。QOL、入院期間は両群間に有意な差はなく、事前に規定されたサブグループ(年齢、対側頸動脈閉塞の有無、ベースライン時の手術リスク)における主要評価項目の解析でも有意差は認めなかった。以上により、GALA試験の研究グループは「頸動脈内膜剥離術においては全身麻酔と局食麻酔で有用性は同等であった」と結論し、「麻酔科医と外科医は、患者コンサルテーション時に、個々の患者の病態に応じていずれの麻酔法を選択するかを決めるべきである」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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LUSEDRA注射剤、FDAより承認を取得

エーザイ株式会社は15日、同社の米州統括会社であるエーザイ・コーポレーション・オブ・ノース・アメリカが、成人患者の検査もしくは処置における鎮静を目的とした鎮静剤「LUSEDRA(一般名:fospropofol disodium)注射剤」について、FDA(米国食品医薬品局)より承認を取得したことを発表した。なお、この承認においてFDAは、全身麻酔についての訓練を受けた医療従事者が投与すること、本剤を投与された全ての患者を検査・処置中および鎮静からの回復まで医療従事者の観察下におくこととしている。詳細はプレスリリースへhttp://www.eisai.co.jp/news/news200861.html

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手術の世界的な年間施行数はどれくらい?

 世界全体では毎年、膨大な数の手術が行われ、大手術(major surgery)の手技に起因する高い死亡率および合併症発生率ゆえに、いまや手術の安全性は国際的な公衆衛生学の実質的な懸案事項とすべきことが、「WHO患者安全プログラム」の一環として実施された調査で明らかとなった。手術のニーズは工業化に伴う疾病パターンの転換に伴って医療資源の多寡にかかわらず急激に増加した。この、いわゆる「疫学的な過渡期」ゆえに公衆衛生における手術の役割も増大してきたが、その安全性の改善やサービスの不足を補うためにも、手術的介入の総数、配分状況を把握する必要があるという。米国Harvard大学公衆衛生学部のThomas G Weiser氏がLancet誌2008年7月12日号(オンライン版2008年6月24日号)で報告した。WHO加盟192ヵ国を対象に手術の総量を計算 研究グループは、世界で施行されている大手術の数を推定してその配分状況を記述し、公衆衛生学の国際的な施策における手術の重要度を評価するための検討を行った。 WHO加盟192ヵ国の人口、健康、経済データを収集。手術施行率のデータは、政府機関、統計や疫学の研究機関、既報の研究、手術に関する施策を主導する個人などに当たることで集めた。また、2004年に行われた解析から、国民一人当たりの医療費データを入手した。 大手術は、「病院の手術室で行われる切開、切除、操作、組織の縫合からなる介入で、一般に局所あるいは全身麻酔もしくは鎮静を要するもの」と定義した。データがない国の大手術の施行率を推計するモデルを作成し、人口学的な情報を使用して世界的な手術の総数を計算した。世界的な大手術の年間施行数は2億3,420万件、医療費の高低で格差が 手術データは56ヵ国(29%)から得られた。世界では毎年、2億3,420万件(95%信頼区間:1億8,720~2億8,120万件)の大手術が実施されていると推算された。10万人当たりの大手術の年間平均施行率は、一人当たりの医療費が100ドル以下の国(47ヵ国)では295件(SE 53)であったのに対し、1,000ドル以上の国(38ヵ国)では平均1万1,110件(SE 1,300)であった(p<0.0001)。 2004年の手術件数は、人口が世界の30.2%に当たる医療費が平均点な国(401~1,000ドル)と高額な国(1,000ドル以上)が1億7,230万件(73.6%)を占めたのに対し、人口が34.8%に相当する低額の国(100ドル以下)は810万件(3.5%)にすぎなかった。 Weiser氏は、「世界では毎年、膨大な数の手術が行われており、その安全性は国際的な公衆衛生学の実質的な懸案事項とすべき」と結論し、「低収入国における手術へのアクセス機会の過度な不足が示唆するのは、対策が講じられていない世界的な疾病負担の大きさである。手術に対する公衆衛生学的な戦略の確立は最優先事項である」と指摘している。

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遺伝子治療でレーバー先天性黒内障患者は失明から救われる?

 レーバー先天性黒内障(LCA)は幼児期に発症し重度の視力障害から青年期には失明に至る一群の遺伝性疾患。異常な眼振を主症状とし網膜電図検査と対光反射で診断が行われるが、治療は現在のところない。ペンシルベニア大学Scheie Eye InstituteのAlbert M. Maguire氏らは、同疾患のうちLCA2の患者に対して遺伝子治療を行い、正視には至らなかったが有害事象もなく視力改善に成功したことを報告した。NEJM誌2008年5月22日号(オンライン版4月27日号)に掲載されたブリーフレポートより。組み換え型アデノウイルスベクターを網膜下に注入 LCA2は網膜色素上皮特有の遺伝子RPE65の突然変異によって発症することから、RPE65相補DNAを含む組み換え型アデノウイルスベクターであるAAV2.hRPE65v2を網膜下に注入する遺伝子治療が行われた。本手法についてはすでにイヌモデルでの長期の視覚機能回復の実証データがあり、ヒトでの安全性が検討された。 患者は2007年9月~2008年1月の間に治験登録した19歳女性と26歳男女の計3人。フィラデルフィア小児病院で生成された最新のベクターが全身麻酔下で、右眼にのみ注射された。 術後6ヵ月間、主観的な視力テスト、対光反射および眼振テストが行われ安全性および有効性が評価された。 臨床的ベネフィットは6ヵ月経っても継続 患者は3人とも術後2週時点で主観的な視力テストで網膜機能に適度の改善が認められた。対光反射も改善し、治療を受けた右眼は術前より約3倍、光に対する感度が増していた。眼振については治療後、右眼だけでなく左眼ともに減少が認められた。 障害物コースの操縦テストについては、治療前は大きな困難があったにもかかわらず治療後は可能となった患者が1人いた。 視力の改善について、6週時点まで向上し続けその後改善率は鈍化したことが観察されている。また1人の患者について、治療を受けていない左眼の視力も改善していたが、これはイヌモデルでも報告されたように、眼振の改善に伴うものではないかとしている。 ベクター曝露に関連した有害事象は局所性・全身性ともに認められなかった。患者のうち1人に無症候性黄斑円孔が発症したが、炎症性あるいは急性の網膜毒性の徴候は認められなかった。また無症候性黄斑円孔を発症した患者も、網膜機能は治療前より回復している。 患者に対する臨床的ベネフィットは6ヵ月経っても継続。Maguire氏は安全性と有効性を評価するため、より長期および大規模な試験が必要であること、また「弱視と網膜変性が確定される前、すなわち小児期に治療を行えばより有効性が向上するのでは」と述べ、「追跡期間が短く正視には至っていないが、今回の治験結果はLCAおよび一連の他網膜変性疾患への遺伝子治療のアプローチの可能性を示すものとなった」とまとめた。

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