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第51回 コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に

<先週の動き>1.コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に2.医師の働き方改革が衆議院通過、日医の見解は?3.接触確認アプリの杜撰な運用実態、業者が1,200万円を返納4.初の費用対効果評価で薬価引き下げ、類似品目も適用5.健康保険証の交付廃止、マイナンバーカード一体化を提案/財務省1.コロナワクチンの最新版手引き、1瓶から6回接種が前提に厚生労働省は、16日に新型コロナウイルス感染症にかかわる予防接種について、医療機関向け手引きの改訂版(2.1版)を公開した。今後、医療従事者の優先接種用として、1バイアルから6回分接種可能な注射針およびシリンジを配布する。また高齢者の優先接種についても、調整が順調に進めば、5月中には同注射器の配布が可能になることが明記された。優先接種順位については、居宅・訪問サービス事業所等の従事者も、高齢者以外で基礎疾患を有する患者と同じ優先対象とされた。なお、医療機関がワクチンを入手するためには、V-SYS(ワクチン接種円滑化システム)を導入しなければならない。(参考)資料 新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する医療機関向け手引き(2.1版)(厚労省)新型コロナワクチンの供給の見通し(同)「1瓶6回」の注射器、5月10日から供給 河野氏(日経新聞)2.医師の働き方改革が衆議院通過、日医の見解は?現在開催されている通常国会で、医師の働き方改革を含む医療法等の改正案が衆議院を通過し、参議院での法案審議が始まる。これを踏まえ、日本医師会は14日に記者会見を行った。大学病院・基幹病院における地域医療支援については、地方への医師派遣は「地域医療提供体制の観点からは必須である」とするとともに、「全国医学部長病院長会議とも連携し、継続されている大学病院からの医師派遣が妨げられることのないよう取り組んでいく」との考えを表明。医師の労働時間短縮計画については、各医療機関に対して「労働時間の把握など、36協定の締結、健康診断の実施などの基本的事項からしっかりと取り組んで欲しい」としたほか、評価機能の仕組みについては、医療機関を取り締まったり、罰則を与えたりするものではなく、体制が整備されていない医療機関に対し、取り組みの支援を行っていくものであることに理解を求めた。なお、4月14日の参議院本会議では医療法改正案について趣旨説明と質疑が行われ、その様子が川田 龍平参議院議員のブログに掲載されている。(参考)医師の働き方改革の進捗状況について(全国医学部長病院長会議との連携)(日本医師会)川田 龍平参議院議員ブログ3.接触確認アプリの杜撰な運用実態、業者が1,200万円を返納厚労省は、新型コロナウイルス感染者と濃厚接触した可能性を知らせるアプリ(COCOA)について、不具合の発生要因や再発防止策について、報告書を公開した。陽性者との接触通知が届かない状態のまま放置されたのは、アプリを管理する事業者と厚労省の間で認識が共有できていなかったと説明。また、短期スケジュールの中、アプリの開発ならびに保守運用を受託していたパーソルプロセス&テクノロジーが他社に再委託、再々委託することを容認し、事業者間の役割分担が不明確になったことや、厚労省の人員体制も不十分だったことが今回の不具合につながったと考えられる。厚労大臣は事務次官らを厳重注意処分しており、再発防止が求められる。また、パーソルプロセス&テクノロジーは、昨年8月以降の業務対価の1,200万円を自主返納することを発表した。(参考)接触確認アプリ「COCOA」の不具合の発生経緯の調査と再発防止の検討について(報告書)(厚労省)厚労省、COCOA不具合の検証結果を公表 業者任せ、多重下請けなどの課題が浮き彫りに(ITmedia)コロナ接触アプリ業者が対価返納 1200万円、COCOA不具合(共同通信)4.初の費用対効果評価で薬価引き下げ、類似品目も適用14日に行われた中央社会保険医療協議会総会において、費用対効果評価専門組織からの報告をもとに、CAR-T細胞療法(患者由来T細胞の遺伝子組み換えを行い、がん細胞を攻撃しやすくして患者の体内に戻す免疫細胞療法)に使われるチサゲンレクルユーセル(商品名:キムリア点滴静注)の価格調整が行われた。現行薬価3,411万3,655円から約146万円(約4.3%)引き下げられ、3,264万7,761円となる。なお、医療機関における在庫への影響などを踏まえ、調整後価格は7月1日付で適用。同日に、CAR-T細胞製品2番手のアキシカブタゲン シロルユーセル(商品名:イエスカルタ点滴静注)が薬価3,411万3,655円で承認されたが、21日の収載と同時に価格調整が適用され、保険償還価格は1番手と同じ3,264万7,761円となることが報告された。同様に、フルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロール(商品名:テリルジー)の価格調整を受けて、類似品目のブデソニド/グリコピロニウム/ホルモテロール(同:ビレーズトリ)、インダカテロール/グリコピロニウム/モメタゾン(同:エナジア)も引き下げを受けた。(参考)中医協総会 イエスカルタの保険償還価格は3264万円 収載日に費用対効果評価結果を反映(ミクスonline)中医協総会 キムリアとテリルジーの薬価引下げを了承 初の費用対効果評価で7月1日から(同)資料 キムリアの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(厚労省)資料 テリルジーの費用対効果評価結果に基づく価格調整について(同)5.健康保険証の交付廃止、マイナンバーカード一体化を提案/財務省13日に、首相が議長を務める経済財政諮問会議が総理大臣官邸で開催された。参加した民間議員からは、マイナンバーカードを健康保険証として使えるようにするため、単独交付を取りやめ、マイナンバーカードへの完全な一体化を実現すべきとの提案が示された。ほかにも、企業が希望する従業員に対して「選択的週休3日制」の導入を求める提言が出された。従業員のスキルアップや多様な働き方を支援し、育児や介護との両立を後押しするのが目的で、これらを「骨太の方針」に盛り込む見込み。ただし、マイナンバーカードとの一体化により、従来の健康保険証と異なり、受領には顔写真付きの身分証明書の提示が必須になるため、認知症や身体障害者などにも対応できる自治体の体制整備が必須となる。(参考)健康保険証の交付廃止を マイナンバーカードと一体化―民間議員が提言へ・諮問会議(時事通信)経済財政諮問会議 健康保険証の単独交付取りやめ マイナンバーカードへの一体化を民間議員が提案(ミクスonline)週休3日制、環境整備議論 諮問会議(日経新聞)資料 令和3年第4回経済財政諮問会議(内閣府)

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「肝機能異常?すぐに薬を中止しないと危険?」~薬物毒性による副作用~【ダイナミック服薬指導(1)】

ダイナミック服薬指導(1)「肝機能異常?すぐに薬を中止しないと危険?」~薬物毒性による副作用~講師佐藤 ユリ氏 / 株式会社プリスクリプション・エルムアンドパーム 企画統括部部長、特定非営利活動法人どんぐり未来塾代表理事麻生 敦子氏 / 株式会社オオノ薬局業務部教育課課長、特定非営利活動法人どんぐり未来塾副理事動画解説健康診断で肝機能異常があったという高齢の女性患者さん。内服中の薬の副作用である可能性があると薬剤師に言われ、急に取り乱してしまう。

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医者にかかる10箇条に見る新たな医師と患者の関わり方

 インフォームド・コンセント(IC)の場において、医師の努力もさることながら患者にも自発性を促す必要がある。ではどのような方法が有力なのだろうかー。3月12日に開催された「カルテコいきいきPHRウェブセミナー」にて、山口 育子氏(NPO法人ささえあい医療人権センター[COML]理事長)が『新・医者にかかる10箇条』について解説し、病院受診する患者が持つべき心構えや責任について語った(主催:メディカル・データ・ビジョン[MDV])。医者にかかる10箇条で山口育子氏が挙げた項目 『新・医者にかかる10箇条』発刊の基盤は1998年に発表された小冊子『医者に聞こう10箇条』の作成にまで遡る。当時、厚生労働省はインフォームド・コンセントを普及させるため“患者から医師への質問内容・方法に関する研究”研究班を発足。医療者の立場、患者の立場の双方が集まり、本書にまとめ上げる予定だった。ところが、患者の状況や場面(初診か再診、薬のことか手術のことか など)によって患者の聞きたい内容はさまざまで、山口氏は「10個に絞り込むことに苦慮した」と当時を振り返った。そこで、研究班メンバーは患者の聞きたいことを想定するのではなく、“心構えであれば10にまとめることができるのでは”と着想を変え、作成されるに至った。 そしてリニューアルを迎えた『新・医者にかかる10箇条』は項目ごとにイラスト解説されており、巻末には実践編として、検査・治療・くすり・入院など具体的な質問内容33項目が収載されている。現在は同氏が理事長を務めるCOMLが『新・医者にかかる10箇条』発刊に関わり、厚生労働省経由で4万冊が無料配布された。あまりの人気ぶりに3ヵ月で在庫が底をついてしまったという。そこで、COLMが独自で『新・医者にかかる10箇条』の配布を開始し、現時点で延べ21万人が手にとっている。<新・医者にかかる10箇条> 1. 伝えたいことはメモして準備 2. 対話の始まりはあいさつから 3. よりよい関係づくりはあなたにも責任が 4. 自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報 5. これからの見通しを聞きましょう 6. その後の変化も伝える努力を 7. 大事なことはメモをとって確認 8. 納得できないときは何度でも質問を 9. 医療にも不確実なことや限界がある 10. 治療方法を決めるのはあなたです 医者にかかる10箇条のなかでも同氏は4項目(3、4、9、10)を挙げ、「医療者や相談者も人間であるため、相談する際の責任は自分にもあることを理解してもらうことが大切。また、自覚症状は患者しか知り得ないこと。これを医師が当てたら占いの館のよう」と話し、「どんなことができるか、どこまで回復することができるのかと考えることが大切」と述べた。また、「“患者は病院を修理工場と間違えている”とお話しされた医師がいた。実際、病気になる前の状態より良くすることはできない。“私のこの病気は医療の力でどこまで回復することができますか”という視点が、冷静に医療を受けることに繋がる」と持論を述べた。 治療選択肢が増えた今も、医師からみて最適な治療法ばかりではない。甲乙つけ難い選択肢がある一方で、生活や仕事、考え方、その人の基準によって選択が変わってくる。患者も治療を選択できる時代としつつ、「ただし、一人で悩まない。かかりつけ医、相談できる機関や周囲の人を見つけておくことが重要」と締めくくった。 このほか、MDVがカルテコ利用者に対して実施した“パーソナルヘルスレコード(PHR)をどのように活用しているか”に関するアンケートの結果を紹介。このアンケートは1月27日~2月8日までの13日間、同社が開発したPHRのカルテコ利用者を対象にWebで実施、110人から回答を得た。その結果、血液検査などの結果の確認(25.5%)が最も多く、健康診断結果の確認(12.7%)、検査画像の確認(11.8%)と続いた。カルテコ利用者はPHRを自身の病気・健康管理に生かしていることに加え、診察を受けた後に医師の説明や治療内容への理解を深めたり、家族やほかの医師に情報共有したりするために活用しているという。

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第46回 デジタル庁新設しても追い付けない?韓国の「医療IT化」のすごさ

菅政権が国のデジタル化を重要政策に位置付け、今年9月に新設される見通しのデジタル庁。コンピュータネットワークやデータベース技術を利用した電子政府の取り組みは、過去20年間、歴代政権が進めてきたものの、成果は思わしくない。元大蔵官僚で“霞が関文化”を知る田中 秀明氏(明治大学公共政策大学院教授)は、企業セミナーで行った講演で、デジタル化を阻む要因を「3つの岩盤」に例えて分析。デジタル庁が機能するための問題点を浮き彫りにした。電子政府は医療にも大きく関わるので紹介したい。行政のデジタル化を阻む“岩盤”とは? 田中氏が指摘したのは、以下の3点である。(1)結果検証に問題これまでの戦略や施策の評価、問題と原因の分析がない。安倍政権下の「世界最先端デジタル国家創造宣言」(2013年)など計画ばかりで、重要成果指数(KPI)による目標設定は「研修回数」などのプロセスが中心だった。(2)システム化に問題システムは間違いを見つけて改善していくものだが、これは無謬性を重視する行政文化に反する。行政は、現在の業務をそのままにしてシステム化しようとする。また、国と地方自治体のシステムが異なっており、自治体間もバラバラである。連携には、国・自治体間の「標準化」が不可欠だが、、時間が掛かるうえに不具合も生じるだろう。(3)組織に問題2013年に、電子政府推進の司令塔としてIT総合戦略本部に内閣情報通信政策監(CIO)が設けられたが、権限は総合調整で、省庁間の縦割りを打破できない。また、政府CIO室は公務員と民間企業からの出向者で構成され、いずれも約2年で交代する。役所では、ITなどの専門性は軽視され、キャリアが発展しない。デジタル庁が抱える問題点一方、政府が発表したデジタル庁の概要に対しては、4つの問題点を指摘した。まず、人材採用の問題がある。職員約500人のうち、民間から専門性の高い人材を30~40人、週3日勤務の非常勤職員として採用する方針だが、年俸は最高で本省課長並み(約1,300万円)。民間のIT専門職にデジタル庁に行きたいか尋ねると、多くは行きたがらない。人数は集まっても、「優秀な人材が来るのか」疑問である。2つ目は組織の問題点。デジタル庁に「各府庁等に対する総合調整権限(勧告権等)」を有する司令塔機能を持たせる方針だが、2001年に設置された「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)」の本部長である首相がすでに権限を持っており、さらに強化するような権限がないことである。3つ目の問題は、デジタル化に向けた国と地方の温度差だ。主な業務に対しては「デジタル化で重要なのは地方の問題」(田中氏)である。住民票の発行など地方のデジタル化が進まなければ意味がない。4つ目は予算の問題である。国の情報システム予算はデジタル庁に一括計上した上で各府庁に配分する方針だが、8,000億円(2020年度)の予算のうち5,000億円は各府庁に付いているので、依然として各府庁の独自システムが残ることが挙げられる。電子政府で日本をリードする韓国電子政府に関しては、行政制度が日本と似ている韓国が参考になるという。国連の電子政府ランキングにおいて、韓国は2010年1位(日本17位)、14年1位(同6位)、18年3位(同10位)、20年2位(同14位)と、世界的にも首位の座にある。韓国は、1997年の通貨危機を契機に国家再生のための改革としてIT化戦略を推進した。司令塔の情報通信省や実働部隊の関連機関を設立。国レベルで統一的に地方自治体のシステムを構築したり、運用・維持保守も統合運用したりしている。関連機関には、ITだけでなく法律や医療などさまざまな分野で博士号を持つ職員を多数配置。公務員制度改革により幹部ポストの2割は官民公募、3割は政府内公募で採用、専門性や能力で選抜している。国民は電子政府ポータル(国・地方が一体)により、自宅やオフィスから24時間365日、各種の申請手続きや証明書の発行が可能だ。約30種類の手続きを1回で処理できる。国や地方では各種証明書の発行が激減。2005年は4.5億枚だったのが、15年には1.5億枚まで減ったという。また、診療報酬請求は住民登録番号に紐付けられ、ITでチェックするので、保険財政は黒字になっている。日本では考えられない医療関連サービス田中氏は、これまでに韓国を3回訪れ、電子政府に関する視察を行ってきた。病院や駅にも証明書発行機が置かれ、住民票や高校・大学の成績証明書などが発行されていた。北朝鮮によるスパイ活動防止のため、発行にはマイナンバーを入力した上で、指紋認証が必要だ。病床数約4,000床のセブランス病院では、受付にほとんど人がいなかった。高齢者を含め患者はスマホで予約しているからだ。患者は診療科の機器にカードを差し込むと、診療の順番が掲示板に表示される。診療終了後、会計はクレジットカードで済ます。薬が処方される場合、画面上でどこの薬局で薬を受け取るかを患者自身が選ぶ。選択した薬局に行けば、薬が用意されている仕組みだ。院内には医療関連サービスを提供する機械が置いてある。例えば、セカンドオピニオンなどに必要なMRIやCTの画像を無料で出力してくれる。病院には火葬場が隣接しており、クレジットカードで香典を払える機械も置かれている。日本人からすると「そこまでやるか」という感覚だが、病院はまさにITが威力を発揮できる分野であることを見せていたという。韓国は保険制度もすべて電子化されており、過去20年の国民の治療や健康診断に関するデータが蓄積されている。それらを基に、10年後にその人がどういう病気になったかトレースできる。そのようなデータを活用し、検査結果から将来胃がんなどを発症する確率を教えるサービスが、韓国政府とベンチャー企業とのタッグで始まるという。利用者目線の「プッシュ型社会保障」を実現韓国では、国民が受けられる社会保障サービスがパソコンに示される。日本と同様、手当は所得に連動している。例えば、出産届を出せば所得に応じた関連手当が示されるので、受けるかどうかをクリックすればいい。自分の所得について、役所に行って説明する必要はない。「プッシュ型社会保障」であり、利用者目線の行政サービスを提供している。田中氏の講演を聞き、日本はまず、これまでの電子政府を巡る失敗を検証しないことには、デジタル庁を設立しても成功はおぼつかないないと感じた。日韓関係はいま決して良好ではないが、この政策に関しては先行している韓国に学ぶことが多いのではないだろうか。

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糖尿病患者は自殺死のリスクが○倍?

 糖尿病は、正常血糖と比較して自殺死のリスクが高かったことが、国立国際医療研究センターの福永 亜美氏らによって報告された。Journal of Psychosomatic Research誌2020年11月号に掲載。 本研究は、日本の労働人口における糖尿病および境界型糖尿病と自殺の関連を調査する目的で、労働衛生研究のデータを使用し実施された。 8年間の追跡調査中に、自殺前の過去3年間の健康診断で、空腹時血糖値またはHbA1cに関する情報があった56例の自殺死の症例を特定。年齢、性別、職場が一致する5つのコントロールをランダムに選択。分析には最新の健康診断データを使用した。米国糖尿病学会の基準に基づき糖尿病の状態を定義し、条件付きロジスティック回帰モデルを使用して関連を調査した。 正常血糖と比較した糖尿病と境界型糖尿病における自殺死の関連性については以下のとおりである。・正常血糖と比較した自殺死は、境界型糖尿病で0.67倍、糖尿病で3.53倍であった。・糖尿病の状態を空腹時血糖値またはHbA1cで定義した場合でも、自殺の関連性は同様の結果であった。

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COVID-19、エクソソームによる予防と治療の可能性/日本癌治療学会

 10月に行われた第58回日本癌治療学会学術集会において、医療のさまざまな場面で活用されることが急増するリキッドバイオプシーの現状について、「目を見張る進歩をきたしたリキッドバイオプシー」とのテーマでシンポジウムが行われた。この中で東京医科大学の落谷 孝広氏(分子細胞治療研究部門)は「エクソソームによる新型コロナウイルス感染症の予防と治療」と題し、発表を行った。エクソソームがCOVID-19重症化の予測因子として使える可能性 エクソソームとは、細胞から分泌される直径50~150nm程度の物質で、表面には細胞膜由来の脂質やタンパク質、内部には核酸(マイクロRNA、メッセンジャーRNA、DNAなど)やタンパク質など細胞内の物質を含み、細胞間の情報伝達の役割を担うとされる。近年の研究においては、がん細胞由来のエクソソームが、がんの転移に深く関わることも明らかになっている。 落谷氏は、がん領域を中心に、エクソソームに関する研究が数多く行われている状況を紹介。膀胱がんにおける早期発見と再発検出、前立腺がんにおける診断マーカーや骨転移の診断、乳がんにおける早期発見や薬剤の副反応や予後予測などに使った研究などを紹介した。落谷氏は「がんの早期発見、層別化、個別科医療の実現と、エクソソームはがん治療のあらゆるフェーズで使える可能性を持っている」と述べつつも、現状は研究上での成果が出た段階であり、「健康診断や臨床の現場で使われ、がんの死亡率を下げ、医療費削減に貢献することが最終目標。そのためには今後の大規模治験が欠かせない」と強調した。 続けてエクソソームを介した情報伝達のシステムはすべての細胞・生物に共通するものだとし、COVID-19のウイルス(SARS-CoV-2)とエクソソームは非常に形状が似通っており、大きさも同等であると指摘。特定のエクソソームのクラスターがCOVID-19重症化の予測因子として使える可能性がある、という研究結果を紹介した。エクソソームやRNAを補充あるいは除去することがCOVID-19治療につながる 落谷氏らの研究チームは、PCR検査でCOVID-19陽性と判定され、入院となった軽症患者31例と健常者10例を対象とし、エクソソームのタンパク質と血液中RNAの2種類に関して網羅的な解析を行い、その後重症化した9例において高値となった複数のRNAを同定した。 軽症のままだった患者は、陽性判明時点で抗ウイルス応答関連のエクソソームタンパク質が高発現していた。重症化した患者はそれがない一方で、凝固関連エクソソームタンパク質およびRNAと肝障害関連RNAが高発現していた(抗ウイルス応答関連エクソソームタンパク質COPB2の重症化予測因子としてのAUC=1.0、感度・特異度共に100%)。 落谷氏は、「新型コロナウイルス感染症の重症化の特効薬は存在しない現状では、陽性判定時に重症化リスクによって層別化し、ハイリスク群を徹底管理することが重要。軽症者は早期退院・自宅療養として医療崩壊を食い止めるとともに、経済への影響も最小限にできるはず」とする。 現在、この研究結果をもとに別の患者集団による検証解析が行われているが、今回同定された分子のいくつかはSARS-CoV-2の治療標的分子や病態との関連が報告されており、単なる血液バイオマーカーとしてだけでなくCOVID-19の重症化メカニズムに関与している可能性が示唆される。このエクソソームやRNAを補充あるいは除去することが新たなCOVID-19治療法の開発につながることも期待されている。関連サイト【プレスリリース】東京医科大学医学総合研究所の落谷孝広教授が参画する研究チームが、リキッドバイオプシーを用いたCOVID-19における重症化予測因子の同定/東京医科大学

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第46回 祝2周年!心電図クイズで腕試し(前編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第46回:祝2周年!心電図クイズで腕試し(前編)この“Dr.ヒロのドキドキ心電図”の開始は2018年8月末。ということは…2020年9月で連載丸2年を迎えました! パチパチパチ(笑)。“サスティナブル”は昨今よく用いられるキーワードですが、環境保全も経済も「持続する・させる」は容易ではありません。ボクにとっての連載もまさにそうでありました。さまざまな障壁や困難に直面し、もうダメだと諦めそうになったことが一度ならずありました。それでも続けてこれたのは、ひとえに、読者の皆さま、そしてやはり心電図や不整脈の持つ尽きせぬ魅力のおかげかと思っています。話のネタはまだまだありますが、ひとまず2年の“区切り”としてクイズを出そうかと思います。では、どうぞ!症例提示150歳、男性。健診にて来院。交通事故による骨折以外には特別な既往もなし。内服薬もなし。草野球チームに所属している。以下に心電図を示す(図1)*。*:クイズの性格上、自動診断結果の一部を非表示にしている。(図1)健康診断の心電図画像を拡大する【問題1】 心拍数に関して、最も近いものを選べ。1)32/分2)42/分3)52/分4)62/分5)72/分解答はこちら2)解説はこちら1問目はジャブで始めましょう。“ドキ心”読者なら、どんな心電図を見ても心拍数を自分で計算できるはず。単純にQRS個数をカウントする“検脈法”、あるいは「QRS-T」を一塊で認識し、欠如した部分があるときは「0.5個」とする“新・検脈法”のいずれでもOKです。Dr.ヒロの系統的判読法の最初は『レーサーが…』ですが、この“レーサー(R3)”部分、「R-R間隔:整」「心拍数:50~100/分」「洞調律(イチニエフの法則)」のいずれか1つでも満たさない場合は、10秒間でQRS波をカウントすると良いでしょう。かなりの徐脈が予想されますから、端から端まで数えて、“検脈法”ならシンプルに7×6/分です。“新・検脈法”の場合は肢誘導の最後と胸部誘導の最初が「0.5個」ですから、結局、(肢3.5+胸3.5)×6/分となり、どちらの方法で求めても「42/分」と求まりますね。こうした徐脈の時には“新・検脈法”が有利と述べましたが、今回は“同点引き分け”でしたね(笑)参考レクチャー:第3回、第29回【問題2】基本調律に関して正しいものをすべて選べ。1)異所性心房調律2)洞徐脈3)洞不整脈4)徐脈性心房細動5)ペースメーカ調律解答はこちら2)、3)解説はこちら2問目は“レーサー・チェック”からの出題です。心拍数は約40/分で、QRS波の手前にはコンスタントにP波があって、I/II/aVF/V4~V6で陽性(上向き)、aVRで陰性(下向き)ですから、立派な“洞調律”と考えれば、めでたく「洞徐脈」の診断ができるでしょう。でも、油断してそれで終わるのはいけません。R-R間隔はどうでしょうか? 整ですか?…「No」ですよね。肢誘導の最後などは、ずいぶんとR-R間隔が空いているように見えます。これでは単純な「洞徐脈」で説明がつきませんよ。全体を見渡し、R-R間隔が一番短いところと一番長いところとを比べて、3目盛り(ミリ[mm])以上*1違ったら、その時は「洞不整脈」と診断できます。ですから、2)だけでなく、忘れずに3)も選んでくださいね。「洞調律」は徐脈になるほどR-R間隔に“ゆらぎ”、すなわち洞不整が起こりやすい傾向にあるようです。「洞不整脈」には、小児や若年者で多く見られる「呼吸性洞不整脈」と、そのほか高齢者や薬物の影響などで認められる「非呼吸性~」もあります。呼吸サイクルとの関連性を見るのであれば、10秒と言わずにもう少し長く観察する必要があるでしょうか。*1:3目盛り(mm)は0.12秒(120ミリ秒[ms])に相当する。0.16秒(160ミリ秒[ms])以上とする基準もある。参考レクチャー:第2回【問題3】この心電図所見は「左室肥大」と言えるか?解答はこちら言えない解説はこちら『左室肥大』に関しては、第38回、第39回のレクチャーで扱いました。そこで強調したことの一つは、側壁誘導を中心に、ただ単にQRS波の増高(increased QRS voltage)を「左室肥大」と言うなかれということ。よく“ハイ・ボル”(high voltage)と言ってしまうアレです。これは、正式には「(左室)高電位」と表現すべき所見でした。「高電位」の基準に関しては、「そこのライオン」でも「こなれた男女3L」でも「浪費エステ」いずれでもかまいません。あるいは、ボクがとくにお薦めする“ブイシゴロ密集法”でもいいんです。ただ、「左室肥大」かどうかは、プラスαが大事で、典型的な「ストレイン・パターン」(ventricular strain)の有無と、加えて“補助所見”として「左房拡大」、「左軸偏位」や、やや謎の表現「intrinsicoid deflection」の遅れなどをいくつ満たすかで、どれくらい疑わしいか付記すれば良いのでした。基本、「左室肥大」かどうかは、“合わせ技”と言える所見の個数で決まるというわけです。 あ、項目自体は『浪費エステはポイント制 高いスタート 前半はジックリ』(図2)でしたね(笑)。Dr.ヒロ独自のモノですが、第39回でご紹介したフローチャート(図2)もまあまあの出来ではありますので、もう一度見直してみてください。■Romhilt-Estesポイントスコア“覚え書き”■(1):Romhilt-Estes(2):左室高電位(3):ST-T変化(4):QRS波の前半成分“もたつき”[+幅](5):軸偏位[左軸](6):心房負荷[左房拡大]心電図(図1)では、側壁誘導などに有意なST-T変化も見られず、電気軸も正常(推定値:+60~+70°)、V1にやや深いP波はあっても、IIのほうで幅が狭く(むしろ「右房拡大」的な様相)、QRS前半成分の“もたつき”もありませんから、単なる「左室高電位(差)」と言えるでしょう。若い人だとこの判断に微妙な時もありますが、これくらいの年齢の男性なら胸を張って波高異常を指摘して良いです。(図2)左室肥大の心電図診断フローチャート[再掲]画像を拡大する参考レクチャー:第38回、第39回症例提示275歳、男性。約3年前に急性冠症候群に対して冠動脈インターベンション(PCI)が施行され、3ヵ月前に発作性心房細動に対するカテーテルアブレーションを受けた。脳梗塞既往(右不全麻痺)あり、高血圧症、糖尿病などで投薬中。血圧112/74mmHg、脈拍119/分・不整。定期診察で来院した際の心電図を示す(図3)。患者コメント:「自転車で20分かけて来ました。ちょっと食欲がないくらいかな。ほかはあまり変わりませんね」(図3)定期外来時の心電図画像を拡大する【問題4】基本調律に関して正しいものを選べ。1)異所性心房調律(心房頻拍)2)洞頻脈3)洞不整脈4)心房細動5)心房粗動解答はこちら 2)解説はこちら正常な基本調律は何かと言えば「洞調律」なので、心電図を見たら、 “レギュラー度”の高い部分を見つけることから始めます。ときどき認めるいびつなQRS波は「期外収縮」なので、それ以外の部分に着目しましょう。この心電図(図2)では、“P-QRS”のセットは互いの距離感も含めて一定のようです。あとは…そう、“イチニエフの法則”ですね。これもバッチリ満たします。「洞調律」とわかったら、次の4つのどれかを考えましょう。■おさらい~4つの「洞調律」■(1)洞徐脈 (2)洞頻脈 (3)(いわゆる)洞調律 (4)洞不整脈鑑別ポイントは、もちろん「R-R間隔」と「心拍数」で、いずれも“レーサー・チェック”で確認するものです。期外収縮以外のR-R間隔はおおむね整、かつ3マス(太枠)未満なので、「洞頻脈」と診断できます。ちなみに、具体的な心拍数は、Dr.ヒロ流“はさみうち等分足し引き法”なら、胸部誘導2~4拍の“2拍”で見れば「108/分」くらいとなります。参考レクチャー:第3回【問題5】このような周期的な心収縮様式の表現として、最も適切なものはどれか選べ。1)心房二段脈2)心房三段脈3)心室二段脈4)心室三段脈5)心室四段脈解答はこちら 5)解説はこちらこれはオマケ問題です。この「~段脈」という表現は、絶対に必要な心電図診断ではありません。ボクなりの表現を使えば心臓の“従順さ”を示す特徴的な振舞いの一つです。 “しゃっくり”が起きると、定期的に起きてなかなか止まらないですよね。同様に、いったん期外収縮が生じると心臓はなるべくそのサイクルを維持しようと振る舞うことが多いんです。先頭の「心房」か「心室」かは、心房期外収縮(PAC)か心室期外収縮(PVC)かで決めれば良く、『線香とカタチと法被(はっぴ)が大事よね』を思い出してください。“お祭りガール”のイラストでしたね(図4)。これを踏まえると、今回はPVCでいいですよね。(図4)期外収縮のポイント[再掲]画像を拡大する残りの「~段脈」の部分に関しては、「~拍ごと」とほぼ同義でした。より本質的には、(洞収縮も含めて)全部で~個の心拍たちが“チーム”(セット)を形成するという意味でした。今回は「四段脈」で、英語表記は“quadrigeminy”となります。文献的な裏付けがあるわけではないのですが、「心房細動」を有していて、とくに本症例のようにカテーテルアブレーションを受けた一部の例でPVCが目立ってくる方が多い印象があります(皆さんの感覚ではいかがですか?)。参考レクチャー:第16回、第21回【問題6】そのほかの心電図所見として正しいものをすべて選べ。1)QRS電気軸:+60°2)ST上昇3)異常Q波4)左房拡大5)反時計回転解答はこちら1)解説はこちらこの心電図(図3)は波形異常に関しても賑やかです。QRS電気軸に関しては、肢誘導に着目し、とくにaVL誘導がほぼ“(上下)トントン”ですから、I誘導QRS波の向きと合わせて「+60°」と数値で言える能力は大事です(トントン法)。2)の「ST上昇」は有意なものはなく、むしろII、III、aVF、V4~V6で「ST低下」が目立ちます。今アクティブかは別として、病歴的にも虚血性心疾患の存在を念頭に置くべき心電図ではあります(問診をしっかりとる必要があります!)。3)「異常Q波」については、はじめにV1~V3、続いてaVRを除く「それ以外」の誘導順に見ていきますが、今回は1つもありません。「心房拡大」は右房と左房の2つ。主にII(III、aVF)とV1誘導でP波形に着目するのでした。注目は「左房拡大」のほうではなく、下壁誘導でP波がホッソリ尖鋭化―そう、「右房拡大」ですが、あいにく基準(2.5mm以上)には足りないので、これもNOです。最後に「回転」については、胸部誘導のR波に関してです。V4~V6誘導あたりでS波が深く、「時計回転」風に見えるのはPVC波形です。洞収縮のQRS波形では、R波の増高は調子良く、R/S比の逆転もV3~V4誘導の間で起きており、これも正常です。もちろん、5)「反時計回転」ではありません。参考レクチャー:第9回、第29回さて、今回の2症例はどうだったでしょうか。レクチャーで扱った事項がちょくちょく登場したはずです。できなかった箇所については、参考レクチャーで振り返りをしてみてくださいね。では、また次回!【古都のこと~無鄰菴~】さて、今回は素敵なカフェ「無鄰菴」(むりんあん)をご紹介しましょう。「鄰」という字は「隣」と“左右逆”ですが、同じ意味です。ですから、「隣の無い庵(いおり)」という意味で、“名付け親”は山縣 有朋(やまがた ありとも)*1です。無鄰菴は山縣の別荘で、場所的には南禅寺、平安神宮のすぐ近くです。先日、在任期間が歴代最長と報道された安倍 晋三氏は2006~07年、2012~20年の計2回総理大臣を務めましたが、山縣も時を隔てて2度の内閣総理大臣を経験しています。いわば、明治日本の方向性が決められた*2この無鄰菴ですから、もちろんただのカフェ*3ではないんです。山縣が七代目小川 治兵衛に作庭を命じた“近代日本庭園の傑作”と評されるステキなお庭があるんです(名勝指定:1951年[昭和26年])。どこが素晴らしいか、素人のボクが“付け焼き刃”的に述べる必要はないでしょう。是非、直接ご覧あれ。東山をバックに母屋から眺める庭園には、近代日本の歩んだ“歴史”が染み込んでいます。もちろん、抹茶や茶菓子もアルコールもいただけますから、相当にオシャレな休憩場所と言えるでしょう。*1:山縣有朋には東京にも素敵な庭のあるお屋敷を有していた。それは、現在はフォーシーズンズホテルとなっている「椿山荘」である。*2:1903年(明治36年)、日露開戦へ向けて、山縣、伊藤 博文、小村 寿太郎、桂 太郎ら四者が協議した。現在も残る明治風の洋館2階でイス四脚とテーブルが見学可能。*3:1941年(昭和16年)、京都市が山縣家より譲り受け、現在は植彌加藤造園が委託管理しており、業務の一環としてカフェ運営が行われている。

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心房細動治療が変わるEAST-AFNET 4試験(解説:高月誠司氏)-1294

 心房細動に対する治療方針として、リズムコントロールとレートコントロールを比較したランダム化試験が約20年前にいくつか行われ、リズムコントロールの優位性は示せなかった。その後心房細動のリズムコントロールの手段としてカテーテルアブレーションが発達したが、こちらも薬物療法と比較して予後を改善したという結果は、低心機能の心不全例を対象としたランダム化比較試験でのみ得られている。結局症状のない心房細動に対しては、レートコントロールで良いという根拠になっている。 本EAST-AFNET 4試験は、1年以内に発症した心房細動に対する治療方針をリズムコントロールとレートコントロールに分けて比較したランダム化比較試験である。対象は2,789人、年齢70.3歳、CHA2DS2-VAScスコア3.3点と比較的ハイリスクの患者を対象とした。結果的に主要エンドポイントである心血管死、脳卒中、心不全や急性冠症候群による入院の複合エンドポイントは、リズムコントロール群で3.9%/人年、レートコントロール群で5.0%/人年で有意にリズムコントロール群で少なかった(ハザード比:0.79、96%信頼区間:0.66~0.94、p=0.005)。 本試験は心房細動治療の臨床に大きな影響を及ぼす可能性がある。とくに日本では健康診断が盛んに行われており、そこで見つかった心房細動に対してどのように治療すべきかの指針はなく、心房細動のまま放置されるケースもあった。本試験ではそのような発症1年以内の心房細動に対しては、予後の改善を期してリズムコントロールをすべきであることを示した。心房細動は予後不良な疾患であるが、症状にかかわらずそれは早期に治療介入すべきであるということが示されたのである。

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第15回 「戦時と平時の医療体制」支えられる?国の危うい台所事情

政府の2020年度第2次補正予算では、新型コロナウイルス対策の医療提供体制の整備に1兆6,279億円が計上された。「大盤振る舞い」との声もあるが、新型コロナの感染第2波・第3波に備え、「コロナ対応の医療体制」と「通常の医療体制」の両方の整備が急務となっている中、第2次補正予算だけでは不十分であることが明らかになってきた。その根拠となるのが、健康保険加入者の6割をカバーする社会保険診療報酬支払基金が7月1日に公表した4月分の診療報酬請求件数だ。総計は7,432万件で、前年同月比22.9%減、金額は9,460億円で同10.2%減となった。金額で言うと、1,070億円のダウンだ。内訳は、いずれも前年同月比で、入院が6.3%・203億円、入院外が16.0%・645億円、歯科が12.7%・125億円それぞれ減少した。とりわけ入院外と歯科の落ち込みが大きく、医科・歯科診療所が大きく減収していることだろう。都道府県別に金額ベースで見ると、入院外では東京(23%)、福井(22%)、埼玉(21%)、神奈川(20%)などで落ち込み幅が大きく、歯科では東京(26%)、神奈川・福井(20%)、埼玉(19%)の落ち込みが目立った。しかし、第2次補正予算による医科・歯科診療所への支援は限定的だ。感染拡大防止対策への支援(2020年4月1日~21年3月31日の実費補填)の上限は、無床診療所(医科・歯科)が100万円、有床診療所(医科・歯科)が200万円にすぎない。医療従事者への慰労金は1人5万円だ。持続化給付金、家賃補助もあるが、減収5割超などと要件が厳しい。国民健康保険団体連合会はまだ発表していないが、同様の傾向が予想される。その場合、両団体を合わせると、4月だけで2,000億円ほどダウンしているのではないだろうか。4月7日~5月24日の緊急事態宣言の期間を踏まえると、7月までに1兆円近いダウンが予想される。これほどの赤字が累積し、経営が危機的な状況にある中、交付金が支払われるとはいえ、“戦時”と“平時”の医療体制を並行して整えるのは簡単な話ではない。問題は、医療機関の減収だけではない。全国保険医団体連合会(保団連)では、「受診抑制、乳幼児の予防接種・健康診断控えによって、慢性疾患の悪化、重大疾患の見落としなど、国民の健康への悪影響が危惧される」と警鐘を鳴らす。このような状況が続く先には事業縮小や廃業、倒産による医療崩壊が懸念される中、自民党の「新型コロナウイルス関連肺炎対策本部」(本部長=田村 憲久・政調会長代理)は7月6日、厚生労働省に対し、国民が従前の受診行動に戻るための方策と、それまでの間の医療機関の減収への対策を講じるように求めた。また、超党派の「コロナと闘う病院を支援する議員連盟」(幹事長=増子 輝彦・国民民主党参議院議員)が翌7日、設立総会を開いた。病院だけでなく、診療所や歯科、薬局など医療関係施設を対象に、長期的な支援体制の構築を目的としている。事の重大さに気付いていないのか、あるいは知らないふりをしているのか、政府の対応にはいまひとつ危機感が感じられない。コロナ禍は一向に収まる気配がなく、地域によっては激甚災害級の豪雨に見舞われダブルパンチの状態だ。政府には、「これまで経験がない」ことを盾にせず、前例や慣例にとらわれない医療機関に対する一層の支援を求めたい。

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企業発の取り組み その1 ピジョン株式会社【風疹ゼロチャレンジ~医師2020人の会~】

その1 ピジョン株式会社2018年より、厚生労働省は現時点で41~58歳の男性を対象に、「風しんの追加的対策」として抗体検査とワクチン接種を公費で助成している。しかし、対象世代の認知度は低く、受診者は狙い通りには増えていないのが現状だ。そうした中で期待されるのが、企業発の取り組みだ。ターゲット世代の男性は働き盛りであり、勤務先からの要請があれば高い受診率が期待できる。すでに複数の企業が、定期健康診断へ抗体検査を盛り込む、社員に抗体検査を呼びかけるなどの活動をはじめている。その中で、社業とのシナジーを生み出しつつ、多角的な活動を行っているのが育児用品メーカーのピジョンだ。同社は2019年秋から「ピジョン風疹ゼロアクション」と銘打ったプロジェクトを立ち上げ、活動を開始している。担当者の一人である、コーポレートコミュニケーション室 広報・ESGグループの半澤 ふみ江氏は、「ピジョンが社会に存在している意義である『赤ちゃんいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にする』を体現する具体的なアクションを検討していました。社会課題は数多くありますが、先天性風疹症候群 (CRS)は直接に赤ちゃんに関係する課題なので、風疹ゼロに向けた活動に取り組むことを決めました。また、社員とその家族の健康を守るという健康経営のためにも意義がある活動だと考えました」と活動のきっかけを語る。事業内容との親和性が高いことから経営陣の理解も早く、疑問や反対の声は全く出なかったという。ピジョン・コーポレートコミュニケーション室 広報・ESGグループの半澤 ふみ江氏(新型コロナウイルス感染拡大を鑑み、オンラインにて取材)具体的には、2019年秋から2020年春までに3つの活動を行った。1)会社の費用負担での抗体検査・ワクチン接種全従業員約500名を対象に、抗体検査・ワクチン接種を会社負担とし、受診を呼びかけた。前年度から妊婦と接する機会のある職種の社員を対象に同様の取り組みを行っており、それを一歩広げた。「風しんの追加的対策」のターゲット世代の男性社員にはクーポンの使用を呼びかけつつ、世代や性別を限定せず全員を対象とした。2)風疹撲滅の活動を行う団体への募金活動風疹撲滅の活動をサポートするため、CRSの子供を持つ保護者を中心に風疹撲滅の啓蒙を行う団体「風疹をなくそうの会 hand in hand」への募金活動を行った。各フロアに募金箱を置き、活動内容を伝えるチラシやポスターを掲示したところ、期待以上の金額が集まったという。 3)社内講演会募金活動とあわせ、なぜ風疹ゼロアクションに取り組むのかを社員に周知し、理解を深めるために、「風疹をなくそうの会 hand in hand」の役員3名を招き、講演会を開催した。全社員を対象に希望者が参加する形式にしたところ、約60名が参加した。「年齢・性別関係なく、幅広い層の社員が集まりました。強いて言えば若手が多く、社会問題への関心の高さを感じました」(半澤氏)。2019年年末に開催された社内講演会活動を進める中で、課題も浮かび上がった。1つは、活動の意義を伝える難しさだ。赤ちゃんとその家族を顧客とするピジョンでも、全社員に風疹撲滅の意義を自分ごととして理解してもらうことは簡単ではなかったという。身近な病気で怖さが伝わりにくい面もあり、「自分が加害者になるかもしれない」など、いろいろな伝え方を工夫した。もう1つは、抗体検査やワクチン接種をどこまで推奨すべきか、という点だ。医療・社会的に推奨されることではあっても、最終的には個人の身体や信条に関わることでもあり、そのメッセージの強さをどの程度にするべきか、悩むことも多いという。2019年秋から開始したプロジェクトは複数のメディアで紹介され、2020年2月には日本産婦人科医会などが主催する「風疹ゼロ”プロジェクト」から風疹対策を積極的に行った企業として表彰されるといった実績も出た。風疹ゼロ”プロジェクト表彰式の様子半澤氏は「活動開始から日も浅く、今後の継続こそが大事だと考えています」とし、息の長い活動にすべく、今年度の活動内容を詰めているという。参考サイトピジョン株式会社|風疹ゼロアクション日本産婦人科医会|2020年“風疹ゼロ”プロジェクト宣言!!風疹をなくそうの会『hand in hand』

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血圧変動と認知症リスク~コホート研究

 血圧の来院時変動と一般集団における認知症発症率および認知症サブタイプとの関連を調査するため、韓国・Seoul National University HospitalのJung Eun Yoo氏らは、人口ベースのレトロスペクティブコホート研究を実施した。Hypertension誌2020年4月号の報告。 韓国国民健康保険データベースを用いて、2005~12年に3回以上の健康診断を受けた認知症既往歴のない784万4,814例を対象とした。血圧変動性(BPV)は、平均、変動係数、SDとは独立した変動性を用いて測定した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間の中央値6.2年間で、認知症の発症は以下のとおりであった。 ●すべての認知症:20万574例(2.8%) ●アルツハイマー病:16万5,112例(2.1%) ●血管性認知症:2万7,443例(0.3%)・高BPVとアウトカム測定値との間に、線形の関連が認められた。・多変量調整モデルでは、すべての認知症発症における、平均とは独立したBPVの最高四分位のハザード比は、最高四分位以外と比較し、以下のとおりであった。 ●拡張期血圧のみ:1.06(95%CI:1.04~1.07) ●収縮期血圧のみ:1.09(95%CI:1.08~1.11) ●収縮期血圧、拡張期血圧の両方:1.18(95%CI:1.16~1.19)・他の変動性の指標、さまざまな感度分析、サブグループ解析において、アルツハイマー病と血管性認知症で、一貫したアウトカムが認められた。 著者らは「BPVは、認知症およびそのサブタイプの発症を予測する独立した因子であった。より高いBPVと認知症発症率との間に、用量反応関係が認められた。BPVの低減は、一般集団が認知症を予防するための目標となりうる可能性がある」としている。

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新型コロナで7都府県の健診中断へ/日本人間ドック学会

 2020年4月10日、日本人間ドック学会(理事長 篠原 幸人氏)は健診現場での感染拡大を防ぐため、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言を踏まえた人間ドック健診等における対応について」を通知した。 7都府県を対象とした「緊急事態宣言」が4月7日~5月6日まで発出されたことにより、国の定める法定健診(特定健康診査・特定保健指導、労働安全衛生法に基づく一般健康診断、学校保健安全法に基づく児童生徒等及び職員の健康診断)は、4月中の実施が見送られる。通知には以下の協力事項が記載されている。<人間ドック・健診施設へのご協力のお願い事項> 1)緊急事態宣言の対象地域内にある人間ドック・健診施設 人間ドック・健診等を受診される皆様に受診の延期をお願いし、少なくとも緊急事態宣言の期間中は、特定健康診査等は実施しないこと。2)緊急事態宣言の対象地域以外の人間ドック・健診施設 人間ドック・健診等を受診される皆様に対しては、受診の延期をお願いするか、もしくは新型コロナウイルスの感染拡大の防止策を徹底し、受診者(保険者)のご理解を得、充分な安全策を確認した上で実施されること。 *なお、緊急事態宣言の対象地域、対象地域外に関係なく、公的保険者以外が行う人間ドック・健診等は自粛対象事業には含まれておりませんが、自粛は当然必要とされております。また、対面形式や集合形式では行わない事が強調されております。従って受診者数、時間帯その他を十分考慮して戴き、呼吸機能検査などは後日施行して戴く、さらに結果説明や生活指導は工夫する事が成されれば実施は可能かもしれません。しかし、これは受診者・健診施設双方の自己責任で行われる場合に限ります。結論として当学会としては公的保険者以外が行う人間ドック・健診等に関しては一律の中止要請はしない事とします。3)本宣言が5月はじめに終了するとは限りません。当学会といたしましても今後を見据え、学会内に対策委員会を至急設置する予定です。

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動脈硬化リスクの早期発見、見過ごしがちな値とは/日本動脈硬化学会

 動脈硬化と悪玉コレステロール増加の結びつきをよく知っている患者でも、TG(トリグリセライド、中性脂肪)値の増加は肥満者だけのものと捉えてはいないだろうかー。2020年2月21日、日本動脈硬化学会はプレスセミナー「食後高脂血症と動脈硬化」を開催。増田 大作氏(りんくうウェルネスケア研究センター センター長)が「食後高脂血症」について、矢作 直也氏(筑波大学医学医療系 准教授)が「糖尿病と動脈硬化」について講演した。TG値の増加をリポ蛋白で知る 動脈硬化に影響を及ぼす脂質の値は、健康診断を受ける人にとって気になる項目だ。増田氏によると「企業健診受診者の3分の1になんらかの脂質異常症が存在している」という。この脂質異常症の有無が動脈硬化リスクの判定材料となるわけだが、近年はコレステロール値だけではなくTG値の上昇が心血管疾患の増加因子として問題視されている。実際、将来の冠動脈疾患や脳梗塞発症の死亡予測に重要なことが、日本動脈硬化学会が発表した2017年版動脈硬化性疾患予防ガイドライン1)にも記されている。 TG値は、通常食後3時間程でピークとなり、徐々に低下して6~8時間で空腹時の値へ戻る。しかし、冠動脈疾患患者や糖尿病患者などでは、食後TG値の上昇が緩やかに続きピークが後ろ倒しとなり、8時間経過してもまだ高いことから、空腹時のTG値上昇につながる。この非空腹時(食後)TGが高値な病態は“食後高脂血症”と呼ばれ、動脈硬化を惹起するリポ蛋白の増加にもつながる。これを踏まえ同氏は「食後TG値が高くなるのは、食後にTGの多いレムナントリポ蛋白(とくに小腸からのカイロミクロンレムナント)が残っている証拠」と、話した。また、空腹時のみならず食後TG値にも心血管疾患イベントリスクとの相関が存在し、「空腹時TG値がほぼ正常でも非空腹時TG値が高い人は、レムナントリポ蛋白が蓄積している」と述べた。 次に同氏は動脈硬化リスク評価に有力なレムナントリポ蛋白の測定方法として、1)non-HDL-C、2)レムナントコレステロール3)アポB-48濃度測定の3つを挙げた。同氏はこれらの測定法について、「Non-HDLコレステロール測定はもっとも簡易的な反面、LDLコレステロールの上昇も反映するのでレムナント単独の変動がわかりにくい。レムナントコレステロール測定(RemL-C法など)は直接的定量的な評価が可能だが3ヵ月に1回しか算定ができないなどのデメリットがあり、対象者や測定タイミングに悩む医師が多い。アポB-48濃度測定は空腹時のカイロミクロンレムナントを測定するので、食生活や食材の影響を評価できる可能性があるが、まだ保険収載されていない」とそれぞれの長短について説明した。 最後に食後高脂血症を防ぐ方法として「薬物治療も重要だが、まずはThe Japan Dietのような動脈硬化を抑える食事の導入や定期的な運動が極めて重要」とコメントした。脂質異常症治療は糖尿病患者の血管に恩恵与える 糖尿病は動脈硬化性疾患の重要な危険因子であり、前述のガイドライン1)で動脈硬化性疾患の高リスクに分類されている。さらに、糖尿病患者では発症早期から血糖値のみならず脂質値、血圧値の厳格な管理を包括的に行う必要がある、とも記載されている。これらを踏まえ、矢作氏は糖尿病と動脈硬化の関係について解説した。 代表的な脂質異常症治療薬であるスタチン系薬剤では投与後早期に糖尿病に伴う心血管イベントの抑制が報告されている。一方で、インスリンを含む血糖降下薬の場合、投薬期間が5~10年程度では大血管障害に対する治療効果は乏しい。これについて同氏は「血糖降下薬の場合は、10年以上の長期経過の中でlegacy effectがみられる」と指摘した。 このような糖尿病治療の現況を前提として、同氏は指先検査を活用した糖尿病疑い症例の早期発見に努めている。東京都足立区と徳島県で、2010年10月~2017年9月に総計4,865名(希望者;ただし糖尿病治療中の人は対象外)に対して薬局での指先HbA1c検査(検体測定室)を導入したところ、糖尿病予備群疑い:701名、糖尿病疑い:515名を発見した。同氏はこの検体測定室での検査実績や既知のエビデンスを通し、「糖尿病患者の動脈硬化リスクは耐糖能異常などの前糖尿病状態から既に上昇していることが示されている。動脈硬化を予防するためには、前糖尿病の段階から早期発見、早期介入が必要である」と、締めくくった。

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前糖尿病状態から糖尿病にならないために

 前糖尿病者において、肥満かどうかにかかわらず体重を増やさないことで糖尿病発症リスクを最小限にできることが、国立国際医療研究センターのHuan Hu氏らの研究で示唆された。体重を減らすことは肥満者が前糖尿病状態から正常血糖に戻るのに役立つ一方、体重を維持することは非肥満者が正常血糖に戻るのに役立つ可能性があるという。Clinical Nutrition誌オンライン版2019年12月25日号に掲載。 本研究では、最大8年間、毎年健康診断を受けた2万2,945人の前糖尿病者のデータを使用し、糖尿病に進行した人、前糖尿病のままの人、正常血糖に戻った人におけるBMIと腹囲の変化を調査した。糖尿病の発症は、米国糖尿病学会(ADA)の基準により定義した。観察期間中に糖尿病に進行しなかった人は、最後の健康診断データに基づいて、「前糖尿病のまま」または「正常血糖に戻った」と分類された。BMIと腹囲の変化は、広範囲の共変量を調整して、反復測定の線形混合モデルを使用して評価した。 主な結果は以下のとおり。・研究期間中、2,972人が糖尿病に進行し、4,706人が正常血糖に戻り、1万5,267人が前糖尿病のままであった。・糖尿病に進行した人の平均BMIは、糖尿病診断の7年前から1年前に大きく増加し(年間変化率:0.20 [95%信頼区間:0.15~0.24] kg/m2/年)、前糖尿病のままであった人(0.06 [0.04〜0.08] kg/m2/年)の約3倍(p<0.001)で、最初の健康診断時のBMIとは関係なかった。・正常血糖に戻った人における平均BMIの変化率は-0.04(-0.09〜0.002)kg/m2/年で、肥満者(-0.16 [-0.28〜-0.05] kg/m2/年)を除いてほぼ変化がなかった。・糖尿病を発症した人の腹囲の年間変化率は0.38(0.32〜0.45)cm/年で、前糖尿病者(0.05 [0.03〜0.08] cm/年)の約7倍だった(p<0.001)。・正常血糖に戻った人のうち、中枢性肥満ではない人は平均腹囲が変わらず(-0.02 [-0.06〜0.03]cm/年)、中心性肥満の人は減少がみられた(-0.40 [-0.47〜-0.32] cm/年)。

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血液1滴で13種のがん検出、2時間以内に99%の精度で―東芝

 東芝は11月25日、血液中のマイクロRNAを使ったがん検出技術を開発したと発表した。同社によると、独自のマイクロRNA検出技術を使った健康診断などの血液検査により、生存率の高いStage 0の段階でがんの有無を識別することが期待できるという。早期の社会実装に向け、来年から実証試験を進めていく。 リキッドバイオプシーの解析対象となるマイクロRNAを巡っては、2014年に「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」が始動。国立がん研究センターや国立長寿医療研究センターが保有するバイオバンクを活用し、膨大な患者血清などの検体を臨床情報と紐づけて解析。血中マイクロRNAをマーカーとした検査システムの開発が進んでいる。この研究成果をベースに、国内メーカー4社が、日本人に多い13種のがんについて、血液検体から全自動で検出するための機器や検査用試薬、測定器キットなどの開発に取り組んでいる最中だ。 東芝も本プロジェクトに当初より参画。東京医科大学と国立がん研究センターとの共同研究において、このほど膵臓がんや乳がんなど13種類のがん患者と健常者について、独自の電気化学的なマイクロRNA検出技術を活用し、2時間以内に99%の精度で網羅的に識別することに成功した。この中には、Stage 0の検体も含まれていたという。本研究により、13がん種いずれかのがんの有無について、簡便かつ高精度に検出するスクリーニング検査の実現が期待される。独自のマイクロRNAチップと専用の小型検査装置を用いることで、検査時間を2時間以内に短縮し、即日検査も可能になるという。 東芝は、本技術の詳細を12月3~8日に福岡で開催される日本分子生物学会で発表する。

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第33回 「異常Q波」アップデート~最近の考え方~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第33回:「異常Q波」アップデート~最近の考え方~ここ何回かのレクチャーで扱った「異常Q波」。これまでの右前胸部誘導(V1~V3)は「存在」確認で診断できましたが、そのほかの誘導ではどうでしょうか? ちまたの教科書などではさまざまな「定義」が述べられ、やや混沌としている印象です。「心筋梗塞」の反映という観点から、波形の特徴はもちろん、誘導同士の組み合わせや個数まで、Dr.ヒロが最新の考え方を解説します。さぁ、知識をアップデートしましょう!【問題】陳旧性心筋梗塞を反映する「異常Q波」に関する診断条件のうち正しいものを2つ選べ。1)深さ:2mm以上2)深さ:同一誘導のR波高の1/3以上3)隣接する誘導グループのうち、3つ以上で認める4)QS型5)幅:0.03秒以上解答はこちら4)、5)解説はこちら心筋梗塞の診断に役立つ「異常Q波」の定義に関する問題です。今回は症例問題がありませんが、次回に扱おうと思います。選択肢として挙げたものは、いずれも教科書などで取り上げられるものを題材としています。2000年代に入ってから、「Q波」を用いた心筋梗塞の診断法はいくつか改良がなされました。少し前までの“当たり前”が、今は“そうじゃない”ってこともあるんです。今後も微修正される可能性はありますが、目下、最新の診断基準を共有したいと思います。“「異常Q波」な人ってどれくらいいる?”労働衛生協会のデータによると、2017年に健康診断で心電図検査を受けた13万6,000人のうち、「有所見」(要経過観察・受診・精査)とされたのは8.5%、そのうち「異常Q波」は5.4%(男性6.3%、女性3.5%)に認められました。つまり、「心電図異常」を理由に二次健康診断として医療機関を紹介された人は、20人に1人の確率で「異常Q波」の所見が認められるわけです。残念ながら、受診しない方もいますから、受け手側のわれわれが抱くイメージと若干ズレている可能性はありますが、「異常Q波」は割とコモンな所見だってことです。健康診断でこんな状況なのですから、心血管疾患の患者さんが集まる病院では「異常Q波」の出現頻度がもっと高いでしょう。“時代とともに変わる異常Q波の定義”ところで、「異常Q波」を指摘する意味は何だったでしょうか? それは死んで機能しなくなった心筋の反映で、その“代表選手”は「心筋梗塞」です。冠動脈閉塞により心筋梗塞が起こり「異常Q波」が記録された様子のイメージを、図1からつかんでみましょう。(図1)異常Q波と心筋梗塞の関係画像を拡大するところで、心筋梗塞のすべての患者さんが「強い胸痛」を発症し、カテーテル治療を受けて、自身の病名をその後も忘れずに完全に把握しているとしたら…心電図でQ波を探すよりもご本人に問診すれば済むはずです。しかし、患者さんの多くはメディカル・プロフェッショナルではありませんし、記憶があいまいなケースも多々あります(第32回)。それよりもっと重要なのは、自分の知らないうちに心筋梗塞を起こしている人がいるということです。まったく症状がなかったり、心筋梗塞だと思わずにガマンしてしまったり…後者は別にして、「無症候性」(silent)心筋梗塞が全体の1/3を占めるなんていうショッキングな論文1)、2)もあります。こうした “いつの間にか心筋梗塞”を見抜く術として心電図検査があり、とくに「異常Q波」がその役割を果たすと言えます。このへんで少し昔話。心電図が苦手でキライだった “ダメ医学生”の時代(第24回、第25回)、当時のボクが習った「異常Q波」の定義は、A) R波高≦1mm(0.1mV)なら「Q波」とみなして良い、B) 幅≧0.04秒(40ミリ秒[ms])、C) 深さ≧同一誘導でのR波高の25%(1/4)、でした。A)は「1mmなかったら、陽性波が“ない”のと同じ」ってこと。ごくごく小さいR波がわずかにあり「Q波」かな?と悩む場合には、今でも時おり参考にしています。B)は心電図波形の方眼紙では、横1mmが「0.04秒(40ミリ秒[ms])」に相当するので、これも“1mmつながり”です。最後のC)については、問題の選択肢2)のように「1/3」と記載している本もありました。『1/3とか1/4って言うけど、いちいちR波が何ミリ、Q波が何ミリとかって測るのが面倒だなぁ…』と思った記憶があります。一つずつR波高と比べるのも確かに大変ですし、早期にPCIがなされてR波の減高が軽度にとどまる場合、相当な深さのQ波でないと“異常”とはならず、現実をうまく説明できません。そんな“現場の声”が届いたのか、2000年に心筋梗塞の定義が見直されました。その後、約20年間に何度か改訂がなされ、現在の異常Q波の定義は次のものです。一昔前の定義がまったくダメというわけではありませんが、目下“最新版”というものをお示しします。■過去の心筋梗塞を示唆する心電図所見3)(左室肥大、左脚ブロックを除く)■V2~V3誘導:幅>0.02秒のQ波あるいはQS型それ以外:幅≧0.03秒 かつ 深さ≧1mmのQ波あるいはQS型(I、II、aVL、aVF、V4~V6誘導*1)が隣接する誘導グループ*2のうち2つ以上で認められる。V1~V2誘導:R波幅>0.04秒 かつ そろってR/S>1で陽性T波*1:V2、V3は別に定義されており、その心は「III、aVR、V1を除く」ということ(正常でも「異常Q波」様の波形が出る代表的なIII誘導)。*2:(1)I、aVL、(2)V1~V6、(3)II、III、aVFの3つ。“「V1~V3」と「それ以外」で考えよ”一見して気づくのは「V2、V3」と「それ以外」で分けている点でしょう。前回までは「V1~V3」で扱ったのに? 個人的には、この定義のようにV1誘導だけを“のけ者”にするような定義は好みません。現在の定義でV1誘導が除かれているのは、V1誘導では健常者でも「Q波」が出ることがあるためで、単独ではもちろん、人によっては「V1、V2にQ波あり」でも、心エコーなどでは左室「前壁」含めて何にも異常がない方もいます。ただ、同じパターンでホンモノの心筋梗塞の既往がある人もいます。なので、たとえV1誘導単独でもQRS波が陰性波から始まっていたら「Q波」と指摘して欲しいですし、その「異常」基準はV2、V3誘導と同じで結構です。“例外・特殊”、“~だけ”という言葉は、漏れのない判読を推奨するDr.ヒロ流の教えに反します。ちなみに「0.02秒」の条件はあまり気にしないでOKですよ。横幅で言ったら0.5mmですし、それ以下なら正常と言えるわけでもなく(「q波」としての指摘はすべき)、ひとまず「V1」も含めて“あるだけで異常“のスタンスは崩さないほうが良いでしょう。ですから、本質的な理解としては「V1~V3」と「それ以外」で良いと思います。そして、定義ではQS型が「あるいは」で並列しています。これは陽性(r/R)波がまったくないため、「Q波」とも「S波」とも決めがたいという意味で、実質的には「(異常な)Q波」と同義として扱って良いのでした(第17回)。次に、深さの「1/4(ないし1/3)以上」が「1mm」になったのはいいとして、幅はどうでしょう? 「0.03秒(30ms)」って、横1mmが0.04秒(40ms)なのに…って思いませんか? 個人的には、人の目を引くくらい“幅広”なら、ほぼ1mmでアウト、厳密に1mm以上じゃなくていいよっていう解釈です。このように「V1~V3“以外”」では深さも幅も「1mm」がキーワードですから、これをDr.ヒロは“1mm基準”ないし“1ミリの法則”と呼んでいます。ほかにも冒頭で紹介した一昔前の基準も含めて、「異常Q波」の世界では「1mm」が頻発するのです。では、もう一つの「隣接する」(contiguous)ってどういうことでしょう? 一見“n”と“g”を打ち間違えたように見えますが、“g”でOKです。意味的には“continuous”と似ていますがね。この「contiguous」という単語って、あまり英語が得意でないボクにはここ以外ではあまり使われない気がしますが、皆さんはどうでしょうか?胸部誘導の場合、電極を貼る位置が“隣同士”あるいは“お隣さん”、たとえば「V2、V3、V4」とか「V5、V6」とか。いずれにせよ2つ以上が大事。Dr.ヒロ流では“お隣ルール”という名称で解説しています。胸部誘導は、電極位置がそのまま左室壁の「どこ」に対応していましたし(第17回)、心筋梗塞は同じ血管で灌流される一定のゾーンがやられるわけで、「単独」とか「飛び飛び」のような誘導にはならないんです。これはわかりやすいですね。“肢誘導での「隣」に注意すべし”一方の肢誘導では、“お隣ルール”の理解に注意が必要です。標準様式の心電図では、用紙の左半分の上からI、II、III、aVR、aVL、aVFと並んでいますが、見た目通りの“IはIIの隣”や“aVRとaVLは隣同士”というのは間違いです。ややこしいことに、肢誘導では波形の並び順ではなく、「空間的・位置的」に、お隣なんです。『へ…?この人、何言ってんの?どういうこと?』と、思われる方がいるかもしれませんが、大丈夫。全然難しいことではないんです。ボクはすでに何度もレクチャーで扱っています。肢誘導の空間的な位置を示すものと言えば…そう、「肢誘導界」の円座標の世界です(第5回)。ここでは、「IとaVL」、そして「II・aVF・III」の組み合わせが“隣接誘導”*3になります。*3:Dr.ヒロ流では“仲良し誘導”という言い方をすることもある。■“お隣ルール”での隣接誘導群の考え方■胸部誘導は電極の貼り位置そのまま肢誘導は“円座標”の世界での話であることに注意!そして最後。気をつけていないと見過ごしてしまいそうですが、「異常Q波」の定義のはずが、3つ目にV1、V2誘導の「R波」が述べられています。なぜ「R波」が心筋梗塞なのか、聞いたことがあるでしょうか? こちらは“裏”ないし“鏡”の世界と言える、左室「後壁」という「前壁」の真反対の話です。「Q波」の話題から少しズレるので、今回は扱うのをやめておきます(軽く目をやる程度で済ませてください)。以上が最近の「異常Q波」の考え方のトレンドですので、しっかり理解しておきましょう。次回は、具体的な症例でこれらの知識を用いてみようと思いますので、ご期待あれ!Take-home Message異常Q波の診断基準をアップデートしよう。V1~V3誘導では「存在」ないし「QS型」、それ以外の誘導では“1mm”がキーワード(幅・深さ)単独ではなく、“お隣ルール”で「2つ以上」が本当の「異常Q波」杉山裕章. 心電図のみかた・考え方(応用編). 中外医学社;2014.p.80-124.1)Kannel WB, et al. N Engl J Med. 1984;311:1144–1147.2)De Torbal A, et al. Eur Heart J. 2006;27:729–736.3)Thygesen K, et al. Circulation. 2018;138:618-651.【古都のこと~鈴虫寺(華厳寺)】人生の岐路に立ったり悩んだりしたとき、われわれは神や仏に願うでしょう。“鈴虫寺*1”として有名な西京区の華厳寺(山号:妙徳山)*2は、京都でも有名な“ご祈願スポット”で、嵐山エリアで松尾大社や西芳寺(苔寺)のすぐ近くです。長めの石段を上ると、山門の左手に“幸福のお地蔵さま”*3に並ぶ行列が…。受付で志納料を払い、大書院に通されると周囲に鈴虫が飼育された木枠のガラスケース*4が! そして部屋中に響く鈴虫の音! 録音かと疑ってしまうくらいの見事な“大合唱”でした。当寺オリジナルスイーツ茶菓“寿々むし”とおいしいお茶をいただきながら*5、僧侶の“鈴虫説法”に耳を傾けます。自らの来し方を振り返り、行く末を思案するー妙に説得感があり、随所にシャレを効かせた“プレゼン”の上手さに脱帽しました。鈴虫の音はオスの求愛行動によるもので、メスが一緒にいることで初めて鳴くそうです。鈴虫の寿命は約100日。成虫となり最後の1ヵ月に精一杯鳴き、産卵後ほどなくオス・メスとも亡くなっていく話は“無常”ともリンクしたなぁ。受験合格、婚活、出世、起業…利己的な願いを胸に寺を訪れたとしても涙がちょっと出てきましょう。30分ほど話を伺い、鈴虫ケースをもう一周眺め、本尊である大日如来に手を合わせました。そして、最後にちゃっかりお地蔵さまにもお願いをして帰るDr.ヒロなのでした(笑)*1:鈴虫の英語表記は「bell(-ringing) cricket」で、欧米ではコオロギの一種と扱われている。石碑には「鈴蟲の寺 華厳禅寺」と書かれている。*2:鳳潭上人が華厳宗の復興のため享保8年(1723年)に開山。その後、臨済宗に改宗(明治元年[1868年])され、現在に至る。*3:「幸福地蔵大菩薩」。わらじスタイルは日本で唯一。たった一つだけ願い事を聞いてくれる(一願成就)。黄色の幸福御守を両手に挟み、心の中でお願い事を言うのがお約束。住所、氏名を先に言うのを忘れずに(お地蔵さまが家まで歩いて来てくれる)。*4:当日は約4,000匹とのことだったが、多い時はケース数が2倍(7,000~8,000匹)になることも。*5:禅宗の教えの一つに「茶礼」がある。

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AIは洞調律の心電図から発作性心房細動を診断できるのか(解説:高月誠司氏)-1114

 本研究は、発作性心房細動患者の洞調律の心電図と心房細動ではない患者の洞調律の心電図を人工知能(AI)に学習させ、洞調律の心電図からその患者が発作性心房細動か否か認識できるかを検証した。畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network)という画像や動画認識に多く用いられる方法を使った、AIによる10秒間の標準12誘導心電図解析の研究である。 メイヨー・クリニックの45万4,789枚の心電図で自己学習させ、6万4,340枚の心電図で自己検証、そして13万802枚の心電図でテストが行われた。結果は感度82.3%(真陽性/[真陽性+偽陰性])、特異度83.4%(真陰性/[偽陽性+真陰性])、正確度83.3%([真陽性+真陰性]/全体)で、発作性心房細動を識別することに成功した。 これには驚きを隠さざるを得ない。人間の目には見えない何かをAIは見ていることになる。これが実用化されると、健康診断の洞調律の心電図から心房細動患者が検出できるようになるということである。実用化の前には外部データを使っての検証は必須である。また、本研究ではテスト用心電図の8.4%が心房細動患者のものであったが、実際の有病率は1%程度である。そうなると偽陽性の割合が増えることが予想され、心エコーやほかの指標と組み合わせて判断する必要が出てくるだろう。また、隠れ心房細動の検出にどのようなモダリティーを用いるべきか、議論になるであろう。

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2004年新潟県中越地震後の心理的苦痛と認知症リスクとの関連

 大地震は極度のストレスを引き起こし、認知機能に悪影響を及ぼす可能性がある。新潟大学の中村 和利氏らは、2004年新潟県中越地震後の心理的苦痛と認知症との関連について検討を行った。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2019年8月19日号の報告。 本研究は、10~12年フォローアップを行ったレトロスペクティブコホート研究である。対象者は、2004年新潟県中越地震後に年次健康診断を行った40歳以上の小千谷市民(2005年6,012人、2006年5,424人、2007年5,687人)。Kessler Psychological Distress Scale(K10)を用いて心理的苦痛を評価し、K10スコアが10以上を心理的苦痛ありと定義した。フォローアップ期間中の地方自治体からの介護保険データベースより、認知症発症を特定した。毎年の認知症発症に対する心理的苦痛のハザード比(HR)は、性別、年齢、職業、BMI、住居の物理的破損などの共変量について未調整および調整後に評価した。 主な結果は以下のとおり。・平均年齢は、2005年64.6歳、2006年64.6歳、2007年65.2歳であった。・心理的苦痛を有する人は、対照群と比較し、調整HRが有意に高かった(HR:1.20~1.66)。・とくに、2005~07年のすべての年において、心理的苦痛を有する人は、調整HRが高かった(HR:2.89)。 著者らは「心理的苦痛、とくに持続的な苦痛は、大災害の犠牲者において認知症発症のリスク因子である」としている。

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医療ベンチャーバブルが弾けたとき、本物だけが残る【Doctors' Picksインタビュー】第2回

自治医科大学から地域医療の現場を経て米国・スタンフォード大学に渡り、研究と教育に携わってきた池野 文昭氏。本拠地を米国に置きつつ、日本において医療アントレプレナー育成プログラムの普及、政府系研究開発機関の支援、医療ベンチャーキャピタルの経営など、八面六臂の活躍を見せる。さらに、業務の合間を縫って日本全国の医学部、工学部、文系学部に赴き、起業を志す学生を鼓舞する。精力的な活動の根底にあるのは「医療という切り口で日本をデザインしたい」との思い。米国から見た日本の起業家教育・医療ベンチャーの現状と問題点を鋭く語る。――日本の医療ベンチャーに多方面から関わっていらっしゃいますが、現状をどうご覧になりますか?日本の医療ベンチャー界隈は、完全に「バブル」の様相を呈しています。これまで、コンシューマ系、ソーシャル・ネットワーク系の企業に投資されていた資金が「医療系なら有望では」といった曖昧な基準で流れ込み、会社の価値に対して時価総額が上がり過ぎているベンチャーが多数あります。医療は、医師などの資格を持った人間が購入し使用する「医業領域」、健康人が購入し使用する「ウェルネス領域」、そして、その中間に位置する「患者が購入し、使用する領域」(介護、福祉関連など)に分けられます。このうち、「ウェルネス領域」は、当局の許可を得る必要がないため参入障壁は低いですが、その分、レッド・オーシャンかつ新しい市場なので、なかなか持続性のあるビジネスモデルをつくることができません。逆に「医業領域」は、その専門性により、参入障壁は非常に高いですが、一度壁を乗り越えれば国の制度にのっとり、それなりの市場獲得が期待できます。しかし、ここでも、昨今の医療費高騰のあおりを受けて保険償還価格は下がっており、決してバラ色の未来が待っているわけではありません。こうした状況にもかかわらず、医療ベンチャーに資金が集まる理由はいくつかあります。1つ目は、医療ベンチャーの目利きをするベンチャーキャピタル(VC)が、その役割を果たせていないこと。その原因は「人材」です。米国では医療VCにはM.D.やPh.D.保有者が一定の割合で在籍しています。医療・科学の専門家とビジネス・投資の専門家、ときにはその両方の専門性を持つ人材が判断するからこそ筋の良いものだけが残る。しかし、日本はまだそうなっていません。2つ目は、プレーヤーの変化です。これまでの医療機器開発は「医業領域から患者・健康人向け領域へ」という道筋をたどってきました。たとえば、かつて医療者しか使えなかった血圧計は、患者・健康人向けの製品として普及しました。つまり、専門家向け製品を作るプレーヤーしか市場にいなかったのです。それが、今はスマホアプリやゲームをはじめ、健康人向けを起点としたプロダクトが多数あります。プレーヤーが多様になったのと同時に、これらのIT企業への投資で利益を得てきたVCも一緒に市場に入ってきた。これは非常に良いことではあるのですが、市場規模を誤って判断し、本来の市場規模を無視した投資も行われるようになったと感じます。3つ目は、国策です。2018年に経済産業省が「世界で戦い、勝てるスタートアップ企業を生み出す」ことをうたって「J-Startup」プログラムを開始しました。ここでは「2023年までに企業価値または時価総額が10億ドル以上となる未上場・ベンチャー企業(ユニコーン)または上場ベンチャー企業を20社創出」という目標を検討しているそうです。官の後ろ盾を得てさらに資金が集まりやすくなっている、という構造です。ここで思い出すのが、2001年に小泉 純一郎内閣の「骨太の方針」の一環として掲げられた「大学発ベンチャー1000社計画」です。実際、2006年までに1,600近いベンチャーが立ち上がったのですが、その多くは立ち消えとなりました。国策としてのベンチャー支援は重要ですが、数だけを追っても意味がないことを学んでいないのです。「数」とともに「規模」目標も疑問です。ソーシャル・ネットワーク系、ゲーム系、シェアエコノミー、自動運転などの領域では、企業価値10億ドル超の「ユニコーン」輩出も十分ありうると思いますが、医療系でこの規模を目指せ、というのは無理があります。国内の医療市場を考えるとおかしな企業価値になってしまい、結局ベンチャー自身の首を絞めることを危惧しています。――こうした状況は続くのでしょうか?市場の実態に見合っていないバブルですから、いつかは弾けます。米国でもTheranos(セラノス)の例がありました。2003年、19歳の若手創業者による「指先から採取した一滴の血液で200種もの疾病を検査できる」という画期的なプロダクトアイデアを基に登場した同社は大きな注目を集め、一時は時価総額が90億ドル(約1兆円)にもなりました。しかし、2015年に検査技術に疑念を呈す報道が出て、過去の検査結果を偽造していたことがわかり、創業者は不正に市場から資金を調達した罪で有罪となる見込みです。上がり続ける期待と集まり過ぎた資金に、技術力が付いていかなかったがための悲劇です。日本でもこうした例が出て市場が一気に冷え込んでしまうのでは、と懸念しています。ただ、バブルは悪いことばかりではありません。大型の株式上場や資金調達は国内外の注目を集めますし、資金が集まることで研究開発の裾野も広がるでしょう。大切なのはバブルが弾けた後、きちんと「本物」が残ることです。そのために、本当に画期的なアイデアと技術力のあるベンチャーを見極め、適切な規模の資金を調達し、身の丈に合った成長を支援していかねばなりません。私自身が関わる会社は、そうした本当のVCの役割を果たしてきたつもりです。――残る「本物」とは、どういったベンチャーでしょうか?私自身は、高い研究開発力を基盤とし、資金も時間もかけてプロダクトを開発する、医業領域の「ディープテック」を応援したいと考えています。製薬などもここに含まれるでしょう。これらの事業は開発に時間もお金もかかり、投資的な妙味は薄いかもしれません。しかし、成功すれば治らなかった病気が治るなど本当に世界を変えることができます。加えて、これからはAI技術を使って開発精度やスピードが格段に向上する可能性があることも大きなプラス材料です。一方、ウェルネス領域のアプリなどのビジネスは初期投資が少なく、専門性や技術力もそこまでは要しない。米国でもダイエットアプリを手掛ける企業が数え切れないほど登場しています。同国ではBMIが30%超の人が3割もいて「痩せ」は巨大な市場です。でも、実際の効果はどうでしょう? 1つのアプリでは効果が出ないので、次々にアプリを乗り換え、結果的に複数の会社のビジネスが成り立っている、というのが現状ではないでしょうか。これでは、ビジネスとしては成り立っていても、何ら社会に変化を与えていません。医療分野でビジネスをするなら、人を健康にし、社会を良い方向に変えることに寄与すべきだと思うのです。――日本でも多くのベンチャー支援や起業家教育に関わっていらっしゃいますね。日本のベンチャーを巡る環境に変化は出ていますが、米国とはまだ比べものになりません。例えるならば、オリンピック金メダリストと中学生代表くらいのレベル差がまだある。教育は非常に重要ですが成果が出るまで時間がかかりますし、ビジネスにも選挙の票にもなりにくいので後回しにされがちですが、今踏ん張って取り組めば、後からじわじわと効果が出てくるはずです。今、日本の15大学で客員教授を務め、帰国のたびに各地を回ってイノベーションにまつわる講義をしています。私が学生の頃は「起業」という選択はまったく現実味がありませんでしたし、ましてや「医師の起業」は、正気の沙汰ではないとされた時代です。しかし、今の学生は違います。起業を現実的な選択肢として捉える人が増えたことを実感します。ただ、起業は「手段」であって「目的」ではない。そこを勘違いしている方も多いので、「何の社会問題を解決するために起業するのか」と絶えず問い掛けるようにしています。――現役の医師に伝えたいことは?起業に興味がある方がいれば、ぜひトライしてみてほしい。もちろん向き不向きがありますから、皆にやれとは言いません。でも、皆さんは国内のトップライセンス、医師免許を持っています。仮に起業に失敗したとしても、食べてはいけるでしょう。その恵まれた立場を活かさない手はないと思うのです。このインタビューに登場する医師は医師専用のニュース・SNSサイトDoctors’ PicksのExpertPickerです。Doctors’ Picksとは?著名医師が目利きした医療ニュースをチェックできる自分が薦めたい記事をPICK&コメントできる今すぐこの先生のPICKした記事をチェック!私のPICKした記事Apple, Microsoft and Google to test new standard for patient access to digital health data – TechCrunch7月末に発表された「Apple、Google、Microsoftがヘルスデータに関する新標準規格をテストする」というニュース。日本でも健康診断結果や検査データを医療機関が共有したり、患者本人に閲覧・管理権限を与えたり、という試みは多く行われているが、規格統一やセキュリティの問題から、広がりに欠けるのが実情。巨大IT企業と米政府の推進で実用化にどこまで近づくか。関連サービスの広がりも期待できる。医師から関心も高く、多くのコメントが付いた。

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