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最近、疲れやすいんです…【漢方カンファレンス】第11回

最近、疲れやすいんです…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代男性主訴易疲労感、腰痛既往気管支喘息病歴1年前から易疲労感を自覚するようになった。仕事はできているが、疲れがなかなか抜けず休日はゴロゴロしている。また腰痛が悪化したこともあり趣味のゴルフがしばらくできていない。これまで健康診断や人間ドックで異常を指摘されたことはない。妻に漢方治療を勧められて受診した。現症身長174cm、体重64kg(BMI 22kg/m2)。体温36.2℃、血圧120/56mmHg、脈拍56回/分 整、呼吸数16回/分。身体所見に特記すべき異常はない。経過初診時「???」3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後調子は変わらない。2ヵ月後なんとなく調子がよい。夜間尿の回数が減った。3ヵ月後久しぶりにゴルフができた。6ヵ月後腰痛が軽減している。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?最近、寒がりになりました。下肢が冷えます。下肢はどこが冷えますか?とくに膝から下が冷えます。入浴では長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は好きですか?入浴時間は長いです。冷房は好きです。飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きませんか?1日どれくらい飲み物を摂っていますか?よくのどは渇きます。冷たい物をよく飲みます。1日およそ1.0L程度です。<ほかの随伴症状を確認>食欲はありますか?胃は弱くないですか?食欲はあります。胃は丈夫です。倦怠感はありますか?昼食後に眠くなりませんか?横になりたいほどきついですか?朝は調子が悪いですか?疲れやすいですが、いつも横になりたいほどではありません。昼食後に眠くなることはありません。朝は比較的調子がよいです。尿は1日に何回出ますか?夜間尿はありますか?便秘・下痢はありませんか?汗はよくかきますか?尿は1日7~8回で、夜間尿2~3回です。便秘・下痢はありません。汗はよくかきます。よく眠れますか?よく眠れますが、尿のために起きることが最近増えました。腰痛について教えてください。夜間安静時に痛みはありますか?入浴で温まると楽になりますか?動かすとベルトのあたりが痛みます。夜間に痛むことはありません。温まると痛みは軽減します。下肢はむくみますか?靴下の痕はつきませんか?はっきりむくむことはありませんが、夕方には靴下の痕がついています。ほかに気になるところはありませんか?最近、老眼が進んだ気がします。【診察】顔色は普通。脈診ではやや沈、強弱中間脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白苔が中等量、舌下静脈の怒張あり、腹診では腹力は中等度、心窩部に抵抗あり。下腹部の腹力の低下あり。四肢末端に明らかな冷えはない。カンファレンス今回は50代前半男性の易疲労感、腰痛が主訴の症例ですね。寒がりになった、下肢、とくに膝下が冷える、入浴時間は長い、などから陰証が示唆されます。しかし触診では冷えを認めない、冷房が好き、横になりたいほどの倦怠感はないということからと強い冷えはないようです。そうだね。少なくとも少陰病でみられるような全身の冷え、倦怠感はないね。ただし、寒がりや下肢の冷えのほか、腰痛が入浴で温まると改善するということは、冷えの関与が考えられるね。入浴で痛みが軽減するかどうかも有用な情報になるのですね。少陰病ほど強い冷えはないとすると太陰病ですね。冷えの程度が軽いことから太陰病が考えやすいですね。虚実はどうでしょう?脈は強弱中間、腹力は中等度であることから虚実間と考えられます。そうですね。では漢方診療のポイント(3)の気血水の異常を考えましょう。疲れやすいというものの、食欲があって、昼食後の眠気はないということで気虚ということではなさそうです。朝調子が悪いという気欝の特徴もありません。血の異常(瘀血)では、舌暗赤色、舌下静脈の怒張でしょうか。倦怠感の漢方医学的鑑別が上手になりましたね。あとは、浮腫はないけれども下肢に靴下の痕がつくということを軽度の水毒(第9回「今回のポイント」の項参照)と考えてもよいでしょう。排尿異常も水毒とみなしますので、夜間頻尿も水毒と考えます。本症例では、易疲労感に加えて、瘀血や水毒の異常があるということですね。そのほかには、夜間頻尿、腰痛、老眼と現代医学的には複数の科に渡る症状が並んでいます。これらはすべて加齢に伴ってよく出現するものだと思うのですが…。漢方では加齢に伴って出現する症状をまとめて、加齢とともに腎の機能が衰えてくる「腎虚」(本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)と考えて治療をするよ。そうすると本症例の夜間頻尿、下肢の冷え、腰痛、老眼などが一連の症状として考えることができますね。また、本症例の腹部の診察で、上腹部と比べて、下腹部の抵抗が弱いことを小腹不仁(しょうふくふじん)とよびます(写真)。これは腎虚を示唆する腹部の所見です。それでは本症例をまとめましょう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?寒がり、下肢(とくに膝下)が冷える、長湯できる、冷房が好き、冷水を好む、横になりたいほどの倦怠感はない脈:やや沈→陰証(太陰病)(2)虚実はどうか脈:強弱中間、腹力:中等度→虚実間(3)気血水の異常を考える疲れやすい→気虚?舌暗赤色、舌下静脈の怒張→瘀血下肢浮腫、夜間頻尿→水毒浮腫、夜間頻尿、腰痛、老眼→腎虚(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む下肢の冷え、小腹不仁解答・解説【解答】以上から本症例は、腎虚に対して用いる八味地黄丸(はちみじおうがん)を用いて治療しました。【解説】腎虚に対する治療薬が八味地黄丸です。もとの古典を参考に八味丸という名前で丸剤として製造するメーカーもあります。主に下半身の症状が多く、冷えはとくに膝下が冷えることが特徴です。腰痛、下肢痛、下肢のしびれなどのほか、排尿異常(とくに夜間頻尿)、下肢浮腫などが代表的な症状で、視力障害、聴力障害、精力減退なども含まれます。もちろん加齢に伴う症状ですから内服によりすべての症状が改善するとはいえませんが、じっくりと内服することで症状が軽減していくことはよく経験します。構成生薬では、地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)が体を栄養・滋潤する作用があるとされ、そのほか利水作用のある沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、駆瘀血作用のある牡丹皮(ぼたんぴ)に加え、体を温める附子(ぶし)などが含まれます。八味地黄丸は太陰病の虚証に適応となる漢方薬ですが、虚証の程度は軽く、虚実間からやや実証まで、幅広く適応になります。そのためひどく虚弱で胃が弱い人ではしばしば胃もたれすることがあるので注意が必要です。そのため食前ではなくあえて食後に内服する、あるいは減量して用いる場合もあります。八味地黄丸に牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)が加わったものが牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)で浮腫が強い、しびれが強いなどの場合に用います。また、腎虚はあるものの冷えが目立たない症例では桂皮(けいひ)と附子を除いた六味丸(ろくみがん)という漢方薬もあります。八味地黄丸が適応となるのは、高齢者でも倦怠感や腰痛などのひどい症状があって困っている状態や施設で寝たきりの高齢者よりも、元気に外来通院してくる人というイメージです。また、内服して短期間に効果を実感できることは少なく、数ヵ月間じっくりと内服して、少しずつ症状が改善していくことが多いため、注意深く効果判定する必要があります。そのため効果判定として、夜間尿は回数として客観的に評価できるのでお勧めです。今回のポイント「腎虚」の解説生命活動を営む根源的エネルギーである気は「先天の気」と「後天の気」に分けられます。生まれた後は、呼吸や消化によって後天の気を取り入れることができます。一方、先天の気は、生まれながらの生命力というべきもので、「腎は先天の気を主(つかさど)る」といわれ、漢方医学的な腎に宿ります。腎は成長、発育、生殖能などと関連し、腎の働きは年齢とともに弱くなります。腎の機能が衰えてくることを腎虚といい、加齢に伴って出現する排尿異常、下半身の冷えや痛み、聴力障害、視覚障害、精力減退などをまとめて腎虚による症状と考えることができます。

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医師の飲酒状況、ALT30超は何割?年齢が上がるほど量も頻度も増える?/医師1,000人アンケート

 厚生労働省は2024年2月に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」1)を発表し、国民に向けて、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を推進している。こうした状況を踏まえ、日頃から患者さんへ適切な飲酒について指導を行うことも多い医師が、自身は飲酒とどのように向き合っているかについて、CareNet.com会員医師1,025人を対象に『医師の飲酒状況に関するアンケート』で聞いた。年代別の傾向をみるため、20~60代以上の各年代を約200人ずつ調査した。本ガイドラインの認知度や、自身の飲酒量や頻度、飲酒に関する医師ならではのエピソードが寄せられた。「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度 Q1では、「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」の認知度について4段階で聞いた。全体では、認知度が高い順に「内容を詳細に知っている」が7%、「概要は知っている」が27%、「発表されたことは知っているが内容は知らない」が23%、「発表されたことを知らない」が43%であり、約60%が本ガイドラインについて認知していた。各年代別でもおおむね同様の傾向だった。診療科別でみると、認知度が高かったのは、外科、糖尿病・代謝・内分泌内科、消化器科、精神科、循環器内科/心臓血管外科、内科、腎臓内科の順だった。ALT値が30U/L超の医師は16% Q2では、医師自身の直近の健康診断で、肝機能を示すALT値について、基準値の30U/L以下か、30U/L超かを聞いた。日本肝臓学会の「奈良宣言」により、ALT値が30U/Lを超えていたら、かかりつけ医を受診する指標とされている2)。「ALT値30U/L超」は167人で、全体の16%を占めていた。年代別の結果として、30U/L超の人の割合が多い順に、50代で22%、60代以上で21%、40代で17%、30代で14%、20代で7%となり、年齢が上がるにつれて30U/L超の人の割合が多くなる傾向にあった。年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加 Q3では、1回の飲酒量について、単位数(1単位:純アルコール20g相当)を聞いた。お酒の1単位の目安は、ビール(5度)500mL、日本酒(15度)180mL、焼酎(25度)110mL、ウイスキー(43度)60mL、ワイン(14度)180mL、缶チューハイ(5度)500mL3)。 年代別では、「飲まない」と答えたのが、多い順に50代で32%、40代で30%、30代で26%、60代で22%、20代で15%だった。各年代で最も多く占めたのは、20代、30代、60代では「1単位未満」で、それぞれ36%、36%、32%であった。40代と50代では「1~2単位」が多くを占め、それぞれ32%と26%だった。 ALT値が30U/L超の人の場合では、「飲まない」と答えたのが、多い順に30代で33%、50代で23%、40代で22%、60代で9%、20代で0%だった。また、1回に「5単位以上」飲む人の割合は、30 U/L以下と30 U/L超を合わせた全体では5%だったが、30U/L超の人のみの場合では2倍以上の12%となり、顕著な差がみられた。30U/L超の人では、年齢が上がるにつれて、1回の飲酒量が増加する傾向がみられた。年齢が上がるにつれて、飲酒頻度が増加 Q4では、現在の飲酒頻度を7段階(毎日、週に5・6回、週に3・4回、週に1・2回、月に1~3回、年に数回、飲まない)で聞いた。全体で最も割合が多かったのは「飲まない」で22%であり、次いで「月に1~3回」で16%であった。ALT値が30U/L超の人の場合では、最も割合が多かったのは「週に3・4回」で19%、次いで「飲まない」と「毎日」が同率で16%だった。 全体の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「月に1~3回」で37%、次いで「週に1・2回」が20%、30代では「飲まない」が21%、「年に数回」が19%、40代では「飲まない」が25%、「週に5・6回」と「週に3・4回」が同率で15%、50代では「飲まない」が29%、「週に1・2回」が15%、60代以上では「毎日」が24%、「飲まない」が21%であった。とくに60代以上の頻度の高さが顕著だった。 ALT値30U/L超の人の年代別では、20代で最も割合が多かったのは「週に1・2回」と「月に1~3回」で同率の36%、30代では「週に3・4回」と「飲まない」が同率の23%、40代では「週に3・4回」が25%、50代では「毎日」と「飲まない」が同率で23%、60代では「毎日」が28%、次いで「週に1・2回」が21%であった。20代と60代以上では「飲まなない」の割合の低さがみられ、30代と50代では「飲まない」が23%となり節制する人の割合が比較的多く、50代と60代以上で「毎日」の人の割合が20~30%となり、飲酒頻度が上がっている状況がみられた。 ALT値30U/L超の人においてQ3とQ4の結果を総合的にみると、20代は飲まない人の割合が低いものの、飲酒量と飲酒頻度は比較的高くない。また、30代は量と頻度を共に節制している人の割合が高い。60代以上と50代で、量と頻度が共に高い傾向がみられた。30~40代は飲酒の制限に積極的 Q5では、現状の飲酒を制限しようと思うかを聞いた。全体では、「制限したい」は21%に対し、「制限しない」は49%で2倍以上の差が付いた。ALT値30U/L超の人では、「制限したい」は28%に対し、「制限しない」は53%であった。ALT値30U/L超の人で「制限したい」が高かったのは、40代で42%、次いで20代で36%だった。また、30代はすでに飲酒していない人が37%で、年代別で最も多かった。 Q6では、Q5で「飲酒を制限したい」と答えた217人のうち、どのような方法で飲酒を制限するかを4つの選択肢から当てはまるものすべてを選んでもらった。人気が高い順に、「飲酒の量を減らす」が56%、「飲酒の頻度を減らす」が55%、「ノンアルコール飲料に代える」が36%、「低アルコール飲料に代える」が27%となり、量と頻度を減らすことを重視する人が多かった。自身が経験した飲酒のトラブルなど Q7では、自由回答として、飲酒に関するご意見や、自身が経験した飲酒のトラブルなどを聞いた。多くみられるトラブルとして、「記憶をなくした」が最多で15件寄せられ、「二日酔いで翌日に支障が出た」「屋外で寝た」「転倒してけがした」「嘔吐した」「暴れた」「救急搬送された」「アルコール依存症の治療をした」などが年齢にかかわらず複数みられた。自身の飲酒習慣について、「なかなかやめられない」「飲み過ぎてしまう」といった意見も複数あった。そのほか、医師ならではの飲酒に関するエピソードや社会的な側面からの意見も寄せられた。【医師ならではのエピソード】・研修医の時に指導医と潰れた(30代、その他)・医師でアルコール依存になる人が多いため、飲まなくなりました(30代、皮膚科)・アルコール依存症の患者さんをみているととても飲む気にはなれない(30代、麻酔科)・正月の救急外来は地獄(30代、糖尿病・代謝・内分泌内科)・科の飲み会の際に病院で緊急事態が発生すると、下戸の人間がいると非常に重宝されます(40代、循環器内科)・飲酒をすると呼び出しに対応できない(60代、内科)・雨の中、帰宅途中、転倒し意識がなくなり、自分の病院に搬送され大騒ぎでした(60代、脳神経外科)・勤務医時代は飲まないと仲間が働いてくれなかったが、開業して、健康に悪いものはもちろんやめた(70代以上、内科)【社会的な側面や他人への影響】・喫煙があれだけ批判されるなら飲酒も同じぐらい批判されるべきと考える(20代、臨床研修医)・日本では以前は飲酒を強要されることがあったが、米国留学中は飲酒を強要されることはなく、とても快適な時間だった(40代、病理診断科)・日本人は酔っぱらうことが多く、見苦しいし、隙もできる。グローバルスタンダードではありえない(50代、泌尿器科)・テレビCMでアルコール飲料が放映されていることに違和感がある(60代、神経内科)アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。医師の飲酒状況/医師1,000人アンケート

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学校健診の留意点「検診項目追加は事前に打ち合わせを」/日医

 日本医師会常任理事の渡辺 弘司氏が、9月25日の定例記者会見で、文部科学大臣へ「学校保健の更なる充実のための提言と要望」を提出し、文部科学省と日本医師会の共同で「学校健康診断実施上の留意点」を作成したことを報告した。文部科学大臣への提言・要望 「学校保健の更なる充実のための提言と要望」では、将来を担う子供たちの健康を増進する学校保健の重要性を踏まえ、下記の3点について検討を要望した。1.学校健康診断のあり方に関する検討-現在実施されている健診項目は社会的状況に見合ったものとなっているか2.健康教育の推進-学習指導要領と解説の整理、管理職を含む関係教員の研修機会の充実、学校医などの外部講師の活用に係る予算の確保3.教師の働き方改革推進と教育の質向上-学校現場の教職員の処遇や定数の大幅な改善、教員養成系大学の教職員や国・地方自治体において教育行政に携わる公務員など教育に関わる人員の抜本的拡充、必要なインフラ整備 文部科学大臣からは、「学校健康診断については、時代に合わせた見直しは必要。関係省庁と連携しながら対応していくとともに、実施する側の負担軽減も図っていく必要がある」と言及があったという。学校健康診断の留意点 2024年6月に小学校で行われた健康診断において、医師が本人や保護者の同意を得ずに児童の下半身を視診していたことが大きく報道された。学校と学校医との間で共通理解が十分ではなく、学校から児童・生徒および保護者への事前の説明が不足していたことなどから、児童・生徒のプライバシーや心情への配慮が欠けていた状況を踏まえ、日本医師会と文部科学省の共同で「学校健康診断実施上の留意点」のリーフレットを作成した。 リーフレットでは、学校健康診断の目的や役割、留意すべき事項を改めて示すとともに、学校医に対して下記5点の徹底を求めている。1. 学校健康診断を行うに当たっては、その意義・目的を理解するとともに、学校の意向を十分考慮したものとすること2. 診察方法や児童・生徒などのプライバシー・心情への配慮について事前に学校と確認すること3. かかりつけ医の診療と学校医の健康診断の違いを理解すること(学校健康診断では、学校医は普段診ていない子供を学校の中でスクリーニングする)4. 法令に定めのない検査の項目を追加する場合には、その実施の目的、検査方法などについて事前に学校と十分打合せを行うこと5. 健康診断結果に基づき学校が行う事後措置について医療面から指導すること 渡辺氏は「リーフレットによって、2025年度の学校健康診断の実施に向けて学校医と学校の共通理解が深まり、より円滑に健康診断が行われることを強く期待する。リーフレット配布をきっかけに出てくる学校健康診断に対するさまざまな意見を関係者で共有し、児童・生徒の健康のために学校検診をより良いものとしたい」とまとめた。

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最近増加している好酸球性食道炎に生物学的製剤は有効か?(解説:上村直実氏)

 好酸球性消化管疾患は、食道・胃・十二指腸・小腸・大腸の消化管のいずれかに好酸球が浸潤して炎症を引き起こすアレルギー性疾患の総称であるが、確定診断が難しいことから比較的まれな疾患で厚生労働省の指定難病として告示されている。胸焼け、腹痛、下痢といったさまざまな消化器症状を引き起こすが、一般的には好酸球性食道炎と胃から大腸までのいずれかもしくは複数の部位に炎症の主座を有する好酸球性胃腸炎に大別されているが、最近の診療現場では好酸球性食道炎が増加している。つかえ感や胸焼けを慢性的に自覚する患者に対して行われる上部消化管内視鏡検査で、本疾患に特徴的な内視鏡所見である縦走溝や輪状溝および白苔を認めた際に行う生検組織を用いた組織学的検査により確定診断されるケースが多いが、健康診断や人間ドックなどで受けた内視鏡検査の際に偶然発見される無症状の症例も増加している。本疾患が気管支喘息などのアレルギー性疾患の合併率が高いことも、留意しておくべきである。 わが国における好酸球性食道炎に対する治療は、保険適用になっていないプロトンポンプ阻害薬やステロイド吸入薬の内服が使用される場合が多いが、それでも症状が改善しない場合は、全身性ステロイドの内服や原因として疑われる食材を除去する食事療法が行われている。以上の一般的治療でも症状が難治性の場合、海外では生物学的製剤の開発が進みつつある。難治性のアトピー性皮膚炎や気管支喘息および鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎の治療薬であるインターロイキンIL-4/IL-13のシグナル伝達を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体であるデュピルマブが、好酸球性食道炎に対しても承認されている。すなわち、2022年12月22日号のNEJM誌に掲載された国際共同試験の結果において、12歳以上の好酸球性食道炎患者を対象としたデュピルマブ週1回皮下投与は、組織学的寛解率を改善すると共に嚥下障害症状を軽減することが明らかとなり、さらに11歳以下の小児を対象とした第III相無作為化試験において組織学的所見の改善を認めた結果が、2024年6月27日号のNEJM誌に掲載されると同時に米国などで承認されている。 今回、好酸球を減少させる抗IL-5受容体αモノクローナル抗体であるベンラリズマブの有用性と安全性を検証した第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験「MESSINA試験」の結果も、2024年6月27日号のNEJM誌で報告された。試験の結果、好酸球性食道炎に対し、ベンラリズマブはプラセボと比較して組織学的寛解率が有意に高かったものの、嚥下障害の症状に関しては有意な改善は認められなかった。以前の報告から、ベンラリズマブは血液、骨髄、肺、胃、食道組織における好酸球のほぼ完全な減少をもたらす薬剤であり、好酸球性食道炎の治療薬としても期待されたが、浸潤好酸球の減少が症状の改善につながらなかった結果から、今後、好酸球浸潤と症状発現の機序が残された課題と思われる。 現在、国内においてPPIや生物学的製剤も含めて好酸球性食道炎に対して保険適用となっている薬剤は皆無であるが、今後、増加傾向のあるアレルギー疾患である好酸球性食道炎の新たな知見に注目しておく必要があると思われた。

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第205回 ポストコロナ時代、地域医療の存続に向けた病院の新たなアプローチとは?

毎週月曜日に先週にあった行政や学会、地域の医療に関する動きを伝える「まとめる月曜日」。今回は特別編として「すこし未来の地域医療の姿」について井上 雅博氏にご寄稿いただきました。新型コロナが医療・介護にもたらした影響とは今春、6年に1度のタイミングで医療報酬、介護報酬、障害福祉サービスの報酬が同時に改定されました。今回の改定では、医療と介護の連携の必要性を強く求めると同時に、マイナンバーカードの普及により医療情報の利活用を促進し、高血圧、脂質異常症、糖尿病を中心に診療を行っていた医療機関では「療養計画書」の作成などの対応に追われました。改定後、全国の病院関係者からは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大時に救急患者の受け入れや転院、退院支援で苦労したのが、第11波の現在では、患者不足で病床が埋まらず、病床稼働率の低下が囁かれるようになったという声が聞かれます。もちろん、COVID-19のワクチン接種による軽症化や治療薬の開発による早期治療開始による早期退院が可能となったことが大きいとは思います。しかし、それ以外の原因として、感染拡大によって定期的な健康診断やがん検診によって発見された手術適応患者の紹介の減少が目立っていることが挙げられます。さらに、後期高齢者の場合、入院しても手術適応とならない方が増えている可能性があります。私が以前勤務していた広島県福山市の脳神経センター大田記念病院では、最新の統計によれば中央値では過去5年間大きな変動はないものの、高齢者層の増加(とくに90歳以上)が報告されています。じわじわと来る診療報酬改定の影響現在、病院が直面している経営課題は、昨年秋以降、コロナ対策の医療機関への病床確保基金などの制度が廃止され、以前の診療報酬体制に戻ったにも関わらず、患者の受診行動が変化してしまい、COVID-19拡大が落ち着いても元通りにならなかったという点です。このため、病床稼働率低下に加え、今春の改定で厳しくなった重症度、医療・看護必要度の対応で、10月からの病床再編や加算の対応に頭を悩ませている病院が多いと思います。さらに、原油高やエネルギー価格高騰に加え、デフレからインフレへの転換による経営環境の変化、人件費の増加といった影響も大きく、経営環境が激変しています。診療報酬改定では医療・介護職員の処遇改善のために賃上げの財源としてベースアップ評価料の算定が可能になりましたが、目新しい加算項目は少なく、サイバーセキュリティの強化など追加支出が求められているため、医療機関にとっては厳しい状況です。また、医療機関で問題となっているのは人手不足です。介護系サービス事業者は、高齢者の増加に備え設備投資を行い、施設を増やしてきましたが、現場に投入する医療・介護人材が必要となるため、医療機関よりも賃上げを先行して実施しており、同じ職種でも介護サービス事業者の賃金が高い状態になっています。さらに都市部では、コロナ禍にサービスを縮小していたホテル、飲食業などのサービス業界での人材不足が深刻化し、異業種との人材獲得競争も厳しくなっています。医療機関に求められる新たな「医療の形」病床稼働率の低下という現状を乗り切るための唯一の解決方法は、患者のニーズに応えることです。しかし、急性期の医療機関は専門医が多く、スペシャリストとして専門診療は得意である一方、後期高齢者のように2つ以上の慢性疾患が併存し、診療の中心となる疾患の設定が難しい「Multimorbidity(多疾患併存)」の場合、診療科ごとに縦割り構造のため、患者をチームで診ていると言いながら、病院内で診療科間の連携が取れていない、かかりつけ医や介護サービス事業者との連携協力が不十分なため、退院後にも内服薬の治療中断や退院前の指導不足による病状の悪化など、同じ患者が何回も入退院を繰り返す例が少なくありません。今後は、高度な急性期の医療機関は変わる必要がありそうです。とくに、在宅医やかかりつけ医との退院前のカンファレンスの開催や紹介状の内容の充実、情報共有の進化が必要ですが、多忙な急性期病院の医師がこれらを行うのは難しいと感じています。現状の解決手段としては、医師事務補助作業者の活用による書類作成の充実、退院サマリーや紹介状の作成業務のクオリティの向上が考えられます。また、今後は電子カルテにAIを導入し、カルテ内容の要約自動化を進めることや連携医療機関とカルテの開示を進めることが求められます。さらに、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟のある医療機関から退院する場合に、退院後のケアを担当する医療、福祉職へのわかりやすい指導(たとえば体重が〇kg以上増えたら早期に専門医に受診、食事や体重が減ったらインスリンは〇単位減量など)が求められると考えます。政府が模索する「新たな地域医療構想」の時代へ厚生労働省は、社会保障制度改革国民会議報告書に基づき、団塊の世代が全員75歳以上となる2025年に向けて、地域医療構想を策定するよう各都道府県に働きかけてきました。厚労省は地域医療構想を「中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、良質かつ適切な医療を効率的に提供できる体制の確保を目的とするもの」と定義しています。現状、2025年を目指していた「地域医療構想」はほぼ完成形に近付いているように思います。高度急性期、急性期、回復期、慢性期の病床区分は、各医療機関の立ち位置を明確にし、担うべき役割と連携協力機関をはっきりさせることで、独立した医療機関が有機的に医療・介護連携を行い、全国の2次医療圏内で完結できるよう基盤整備を進めてきました。厚労省は、今後の日本が迎える「高齢者が増えない中、むしろ労働人口が減少していく」2040年を見据え、今年3月から「新たな地域医療構想等に関する検討会」を立ち上げました。地域によっては高齢化の進行によって外来患者のピークを過ぎた2次医療圏も増えています。これは国際医療福祉大学の高橋 泰教授らが作成した2次医療圏データベースシステムからも明らかになっています。これまで、医師や看護師といった人材リソースを増やすことで充実させてきた医療のあり方が変わる中、その地域でいかに残っていくのかを考える必要があります。そのために、最近読んでいる本を紹介します。今後の病院、クリニック運営を考える際の一助になりましたら幸いです。『病院が地域をデザインする』発行日2024年6月14日発行クロスメディア・パブリッシング発売インプレス定価1,738円(1,580円+税10%)https://book.cm-marketing.jp/books/9784295409861/著者紹介梶原 崇弘氏(医学博士/医療法人弘仁会 理事長/医療法人弘仁会 板倉病院 院長/日本大学医学部消化器外科 臨床准教授/日本在宅療養支援病院連絡協議会 副会長)千葉県の船橋市にある民間病院である板倉病院(一般病床 91床)の取り組みとして、救急医療、予防医療、在宅医療の提供、施設や在宅との連携を通して「地域包括ケア」の展開や患者に求められる医療機関の在り方など先進的な取り組みが、とても参考になります。ぜひ一度、手に取ってみられることをお勧めします。参考1)新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)社会保障制度改革国民会議報告書(同)3)外来医療計画関連資料(同)4)診療報酬改定2024 「トリプル改定」を6つのポイントでわかりやすく解説!(Edenred)5)2次医療圏データベースシステム(Wellness)5)医療の価格どう変化? 生活習慣病、医師と患者の「計画」で改善促す(朝日新聞)

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第223回 院内処方は例外?腑に落ちない「医薬品の自己負担の新たな仕組み」

酷暑が続く最中だが、秋に向けてさまざまな動きがスタートしている。医療界では10月から、患者の希望に基づくジェネリック(GE)医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の処方は選定療養となり、新たに自己負担が生じることになる。すでに厚生労働省は特設ページまで用意している。国民に新たな負担を強いるわけだから、この対応自体は一定の評価はできると個人的に考えている。さてこのページを見ていて、ちょっと気になったことがあった。それは「長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)」という事務連絡通知だ。余計なことを言えば、「その1」があるならば、「その2」はいつ出るのだろうとも考えているが…。私がこの通知の中で気になったのが以下の疑義解釈である。【院内処方その他の処方について】問7 院内採用品に後発医薬品がない場合は、「後発医薬品を提供することが困難な場合」に該当すると考えて保険給付してよいか。(答)患者が後発医薬品を選択することが出来ないため、従来通りの保険給付として差し支えない。なお、後発医薬品の使用促進は重要であり、外来後発医薬品使用体制加算等を設けているところ、後発医薬品も院内処方できるようにすることが望ましい。「は?」という感想しかない。念のために言っておくと、私は原則的に医薬分業を推進すべきだと思いつつ、過渡的に院内処方はありだと思っている。しかしだ、さすがにこれはないだろうと思ってしまった。まず、国が医薬分業推進とジェネリック品(私の表記はこれで統一、以下GE品)の使用促進を謳っている中で、院内処方にこだわるならば、せめてGE品も院内在庫として有するのが筋というもの。こういうと、「GE品は先発品とは医薬品添加剤などが異なるから実質的に異なるもの」という主張が出てくる。医薬品添加剤などが異なるは、その通りである。しかしながら、GE品は長期収載品との同等性試験のデータを提出して承認されるものである。実は私は会社員として専門紙記者をやっていた頃、この生物学的同等性試験(以下、同等性試験)を受けようとしたことがある。やや余談になるが、その時の話をまず記述したいと思う。同等性試験に参加したワケ当時の私は、所属していた媒体でインフォームド・コンセント(IC)に関する連載を担当しており、臨床試験でのICの実態を体験したいと考えていた。私の友人にはGE品の同等性試験を経験した人がおり、そこから試験申し込みの情報は得ていた。とはいえ、会社員の身で事実上の潜入取材となるため、直属の上司は編集局長の許可がいると言い出し、最終判断は局長一任となり却下された。だが、その直後、直属の上司が社内異動となり、社内の他媒体の編集長が私の媒体の兼任となった。私はこの間隙を縫って、兼任編集長に次ぐ、記者でもある主任に再度掛け合った。主任は私の申し出に腕組みして考えた後、「友人に迷惑かけんなよ。それと試験手前で離脱できるならしろ。その条件で認める。後は俺が責任を取る」と言ってくれた。私は友人から教えられた電話番号に連絡し、事前の採血や健康診断を受け、さらに臨床試験のICも受けた。率直に言って、この時受けたICは、臨床試験に際して求められる項目がかなり抜け落ちたものだった。結局、私は試験開始前に離脱を表明し、最終的にその状況を記事にしたのだった。記事が出た当初、社内で問題になることはなかったが(そもそも局長が社内媒体すべてには目を通していなかった)、しばらくして大問題となった。社内の広告営業部門の幹部が飛んできて「えらいことをしてくれた」と言うのだ。曰く、私と同期入社である営業担当社員が半年ほど、臨床試験受託会社の業界団体加盟社すべてから営業訪問を拒否されているとのこと。長らくその理由も明らかにされなかったが、この同期社員が「なぜ会ってもいただけないんですか?」とある会社に食い下がったところ、私の記事のコピーを差し出されたという。私が離脱した同等性試験を受託していたのは、この業界団体の加盟社だった。結局、同期の営業社員は年間で営業成績が数百万円の落ち込みとなってしまった。彼には直接詫びたが、彼は「まあ、うちら専門紙がやるかという問題はあるけど、(記事は)必要だったと思うよ」と精一杯の“やせ我慢”(と私は思っている)で応えてくれた。私が属していた会社は、いわゆる業界紙という区分にもなる専門紙だったが、私以外にもこうした誤報ではないが、読者でもあり広告出稿者の癇に障る記事を書いて、一時出稿停止になることは珍しくなかった。ちなみに私の退職時の送別会に出席した前述の営業部門幹部から、私の記事が原因で飛んだ7年間の広告料概算総額を聞かされた時は正直血の気が引いたものである。同等性試験の参加者は過酷さて同等性試験に話を戻そう。私は事前に友人が受けた同等性試験の様子は聞いていたが、それはある意味壮絶なものだった。友人の証言に基づくと、彼が受けた同等性試験では最初の6時間は1時間おき、その後は丸2日間にわたって3時間おきに採血が行われたという。これは服用薬の血中濃度測定のためだ。この頻回な採血により、後半になると採血用の注射針を刺した直後に失神する被験者もいたという。いずれにせよ、そうした犠牲を払って行われた同等性試験の結果が正しいという前提に立てば、「GE品は先発品と異なる」との主張はあまり適当ではないと思われる。確かに昨今のGE企業の相次ぐ不祥事もあるが、それでGE品を丸々否定するのはやや度が過ぎていると感じる。そのような中で、今回示された疑義解釈に沿えば、院内処方の医療機関でGE品を在庫していないというだけで選定療養の対象外とするのは、さすがに国の方針としてやや甘過ぎないだろうか? そしてこの解釈を利用すれば、院内処方を行う医療機関と医学的な必要性もなく長期収載品の処方を望む患者が手を組めば、事実上不正な処方も行えることにほかならない。院内処方はたかだか20%なのだから固いこと言うなとの意見もあるかもしれない。しかし、そもそもこの解釈そのものが今回の制度改正の主旨であるGE品の使用促進に伴う国の薬剤費負担を軽減することにすら反する。現行の制度や世の中を取り巻く環境を考えるならば、院内処方をする医療機関はそれ相当の矜持を有するべきであり、国もそれ相応の対応を取るべきである。しかし、この解釈に対しては、少なくとも私は場当たりな印象しかない。最後に申し添えておくと、ときどき保険薬局の薬剤師からは「院内処方をしている医療機関から時に在庫確保が困難だからとかの理由で処方箋が出されることがある」との話はよく耳にする。現在の医薬品供給不足で、在庫確保の困難さは薬局も同じこと。大きなお世話と言われようが、そこは互いに思いやりが必要ではと思ってしまう。

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メタボリックシンドロームとうつ病〜日本リアルワールドデータ横断的研究

 メタボリックシンドローム(MetS)とうつ病は、どちらも優先度の高い健康問題であり、とくに労働年齢層において問題となる。これまで、MetSとうつ病との関連についての研究は、数多く行われているが、そのすべてが一貫しているわけではない。帝京大学の杉本 九実氏らは、広範なリアルワールドデータを分析することにより、MetSとうつ病の関連性を判断するため、本研究を実施した。Environmental Health and Preventive Medicine誌2024年号の報告。 東京都を除くすべての都道府県の地方自治体職員の2019年度の保険請求および健康診断のデータを用いた。うつ病診断および抗うつ薬の処方月数に応じて、参加者を次の4群に分類した。確実にうつ病ではない(CN群)、うつ病でない可能性が高い(PN群)、うつ病の可能性あり(PD群)、うつ病である(CD群)。MetSおよびその構成要素である内臓肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病と各うつ病カテゴリとの関連性を分析するため、ロジスティック回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・参加対象者は13万59例(CN群:85.2%、PN群:6.9%、PD群:3.9%、CD群:4.1%)。・男性の場合、CN群を基準としたMetSの調整オッズ比(aOR)は、PN群0.94(95%信頼区間[CI]:0.86〜1.02)、PD群1.31(1.19〜1.43)、CD群1.63(1.50〜1.76)であった。・女性のaORは、PN群1.10(95%CI:0.91〜1.32)、PD群1.54(1.24〜1.91)、CD群2.24(1.81〜2.78)であった。・MetSの構成要素のうち内臓肥満、脂質異常症、糖尿病は、うつ病カテゴリと有意な関連が認められた。 著者らは「これまでの報告と同様に、MetSとうつ病との有意な関連が認められた。本調査結果は、MetSとうつ病の関連性についての確固たるエビデンスを提供するとともに、リアルワールドデータ分析が、具体的なエビデンスの提供に有用である可能性を示唆している」としている。

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学校健康診断に関する報道についての見解/日医

 2024年6月に群馬県みなかみ町の小学校で行われた健康診断において、医師が本人や保護者の同意を得ずに児童の下半身を視診していたことが明らかになり、学校健康診断に関する報道が過熱している。そこで、日本医師会常任理事の渡辺 弘司氏が、6月19日の定例記者会見で、日本医師会としての学校健康診断に関する見解を明らかにした。 まず、渡辺氏は、「学校健康診断のマニュアルである『児童生徒等の健康診断マニュアル』には、健康診断時に注意すべき疾病および異常として思春期早発症への言及がある。当該医師は小児内分泌の専門医であり、医学的に診察を行ったことの妥当性はある」としつつ、「一般的な学校健康診断では、児童・生徒全例に第2次性徴の診察を実施することは想定されていないことから、事前に保護者に説明する必要があった。学校設置者・学校・学校医の連携や共通認識が必要だったのではないか」と述べた。 学校健康診断の目的は、学校生活を送るに当たり支障があるかどうかについて疾病をスクリーニングし、健康状態を把握することであり、通常の診療とは状況も場所も異なる。そのため、「懸念される疾病などをその場で確認しなければならないという気持ちがあったとしても、子供のプライバシーにしっかりと配慮しながら学校検診を行わなければならないとあらかじめ理解する必要があった」と指摘するとともに、「法令に定める項目以外の検診項目を実施する場合やプライバシーや心情に関わるような場合では、事前に学校を介して保護者に説明し、同意を得る必要がある」と強調した。 最後に、「5月に発刊した『学校医のすすめ そうだったのか学校医』の活用を含め、学校医業務で配慮すべき内容を理解してもらえる仕組みが必要。文部科学省とも協議してできるだけ早く対応を進める」と述べ、児童・生徒、保護者が安心して学校健康診断を受けることができるよう、関係者と連携して取り組むことを明らかにした。

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疫学的な頻度を意識する【国試のトリセツ】第45回

§4 実臨床リアリティ疫学的な頻度を意識するQuestion〈104A44〉48歳の男性。動悸、頭痛および発汗を主訴に来院した。1年前の健康診断で高血圧を指摘されたが、放置していた。身長168cm、体重69kg。体温36.8℃。脈拍88/分、整。血圧168/104mmHg。血液生化学所見Na142mEq/L、K4.5mEq/L、尿中アドレナリン102μg/日(基準1~23)。腹部単純CTで副腎部に4×6cmの腫瘤を認める。検査として有用なのはどれか。2つ選べ。(a)血清Ca測定(b)副腎静脈造影(c)フロセミド負荷試験(d)デキサメサゾン抑制試験(e)131I-MIBGシンチグラフィ

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臨床留学通信、ニューヨーク最終章【臨床留学通信 from NY】第61回

第61回:臨床留学通信、ニューヨーク最終章ニューヨークからボストンのハーバード大学医学部マサチューセッツ総合病院(MGH)に移るに当たって、書類処理に追われています。まず、アメリカの病院で働く際には、健康診断がかなりきっちりしています。過去のワクチンの証明書やMMRなどの抗体価、日本人だとツベルクリン反応が陽性になってしまうので、クォンティフェロンの採血結果(3ヵ月以内)の提出などです。日本で働いてると、友達に採血オーダーしてもらってちょっとした合間に採血して、ということは簡単ですが、こちらだとそうはいきません。自身のプライマリケアにMyChartと呼ばれるウェブサイトから、その都度ラインのように担当医に連絡してオーダーしてもらい、通ってるプライマリケアまで行って採血をする形で、結構不便です。多くの場合、かかりつけの病院と自身の勤務先の病院は離れているため、勤務先の病院で採血、というわけにはいかないのです。今回、ニューヨーク州からマサチューセッツ州へ州が変わることもあり、州用のライセンス取得のために申請が必要で、過去のUSMLEの合格証明を、発行機関にお金を払って送ってもらったりします。新しい病院で働く場合多くはHIPPA(Health Insurance Portability and Accountability Act)と呼ばれる、病院で働く際の医者の守秘義務等を履行するために、オンラインコースを延々と受けなければいけません。そのほかに、もし銃撃事件に巻き込まれたら、といった恐ろしいシミュレーションを想定したオンラインコースもあります。隠れることもできず、退路を断たれたらどうする?という質問に対して、“Fight”という選択肢をどうしても選ぶことはできませんでしたが、どうやらそれが正解のようです…。ACLS/BLSも必要で、コースを受けなければいけませんが、病院側が用意してくれたコースがあるのでお金は掛かりません。引っ越しもなかなか大変で、不動産会社を経由して、古くて狭い2LDKが現在とほぼ同等の1ヵ月2800ドル、光熱費込みで約3,000ドル(45万円)です。引っ越し料金は、引っ越し業者に頼むと1,800ドル(27万円)も掛かります。米国では小学校の格差が激しく、学区の良い地域に住むと、どうしても古くて狭くても家賃が高くなってしまうのです。現在のニューヨーク郊外も、今度のボストン郊外も、そこだけはなんとか守るようにしています。なお、皇后雅子さまが住まわれたBelmontと呼ばれる地域の近くで、この地域の公立の高校からハーバード大学に入ることも多いようです。なお、6月下旬に引っ越すのですが、家賃を6月1日から払わないとなかなか良い物件は借りられないと不動産会社に言われたこともあり、6月はほぼ2倍の家賃を払うことになってしまいます。また夏休みに日本に一時帰国するのですが、ボストンから東京への直航便は、ニューヨークより便が少ないせいか高額で、エコノミークラスでも往復で3,200ドル(48万円)もして、なんじゃこりゃと言いたいところです。フェローの給料ではなかなか厳しいものです。そんなこんなで日々追われていますが、ニューヨークのNプログラム※の会合でBBQなどがあり、最後のニューヨークステイを楽しみたいと思います。アイコンの自由の女神のあるリバティ島には大学生の時に行きましたが、この6年間は行かずじまいになりそうです。7月以降は、施設を変わると最初はどうしても大変だったりしますが、comfort zoneに甘んじることなく、いろいろな施設の違いを感じ、世界最高峰の病院の1つと呼ばれるMGHを楽しんでいきたいと思います。※Nプログラムは、東京海上日動火災保険株式会社が実施する、米国の教育病院における臨床医学レジデンシー・プログラムに日系の若手医師を派遣するプログラム。

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少し高い血圧でも脳・心血管疾患のリスクは2倍/横浜市大

 わが国で心疾患は死因順位の第2位であるが、若年から中年における血圧分類と心血管疾患(CVD)イベントとの関連に関するエビデンスは乏しかった。そこで、桑原 恵介氏(横浜市立大学 医学部公衆衛生学・大学院データサイエンス研究科)らの研究グループは、関東・東海地方に本社のある企業など10数社による職域多施設共同研究“Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study”(J-ECOHスタディ)に参加した高血圧の治療中ではない就労者8万1,876人を9年間追跡調査した。その結果、「少し高い血圧」の段階から脳・心血管疾患の発症リスクが高まることが確認された。これらの結果は、Hypertension Research誌オンライン版2024年4月8日に掲載された。高値血圧が就労者の心血管リスクになり得る可能性 研究グループは、J-ECOHスタディの前向きコホートデザインによる縦断的データを用い検討を行った。参加者は、ベースライン時に降圧薬を服用していない20~64歳の就労者8万1,876人。血圧分類は、2010年度または2011年度の血圧値を『高血圧治療ガイドライン2019』に基づき、正常血圧、正常高値血圧、高値血圧、I度高血圧、II度高血圧、III度高血圧の6群に分類した。脳・心血管疾患発症の定義は、コホート内で脳・心血管疾患、疾病休業、死亡の3種類の登録制とした。追跡期間は2012~21年の最大9年間。統計解析はCox比例ハザードモデルを用いハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に334例の心血管イベント、75例の心血管死亡、322例の全死因死亡がみられた。・正常血圧を基準とした心血管イベントの多変量調整HRは、正常高値血圧が1.98(95%CI:1.49~2.65)、高値血圧が2.10(95%CI:1.58~2.77)、I度高血圧が3.48(95%CI:2.33~5.19)、II度高血圧が4.12(95%CI:2.22~7.64)、III度高血圧が7.81(95%CI:3.99~15.30)だった。・最も集団寄与危険度割合が高かったのは高値血圧で17.8%、次いでI度高血圧で14.1%、正常高値血圧で8.2%と続いた。・以上の結果から、少し高い血圧(正常高値血圧)の段階から脳・心血管疾患発症リスクに対する取り組みが必要であることが明らかとなった。 この結果を受け研究グループは「健康診断で血圧があまり高い値でなくとも、就労者本人が意識的に血圧管理に取り組んでいくことが期待される。とくに、企業や保健医療専門職は、そうした就労者の取り組みを後押ししていくことが求められる」とコメントしている。

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長引く咳や痰、新型コロナ以外で増加傾向の疾患とは

 5月9日は「呼吸の日」。これに先駆け、インスメッドは罹患者数/死亡者数が増加傾向にある肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)に関するオンラインアンケート調査を実施した1)。その結果、肺NTM症について、「知っている」と回答したのは9.3%、「聞いたことがあるが、詳しくは知らない」は22.3%と、認知率の低さが浮き彫りになった。また、肺NTM症の症状として特徴的な咳や痰の症状を有していたにもかかわらず、全回答者の半数以上(608例)は医療機関を未受診と回答していた。その理由を尋ねたところ、79.9%が「病院に行くほどではないと思っている」と回答していたことも明らかになった。 本アンケートは、肺NTM症を含む感染症および呼吸器疾患に関する一般の意識や行動を把握することを目的に、現在もしくは過去に咳/痰の症状のある/あった30~70代の男女1,092例を対象に、疾患の理解度などの実態を調査したもの。肺NTM症の課題、疾患浸透率の低さか 肺NTM症とは原因菌である非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)が肺に感染することにより発症する感染症で、土や水などの自然環境、台所や風呂場などの水回りの生活環境に常在菌として生息し、空気中に漂うNTMを吸い込むことにより感染する2)。今回、“感染症全般の感染源・原因となる可能性があるもので知っているもの”として、回答者の90%超が「人の飛沫(くしゃみ、咳など)」「ウイルス」と回答したのに対し、肺NTM症の要因となる「水(水道水など)」を挙げたのは35.3%に留まった。また、シャワーなどの水回りの掃除が肺NTM症予防には重要となるが、「水回りの掃除」を意識して行っている人は27.2%と少なかった。肺NTM症、肺結核の罹患者数をしのぐ勢いで増加 2014年の国内調査によると、人口10万人当たりの肺NTM症罹患率は2007年の全国調査と比較して約2.6倍も増加、現在では肺結核をしのぐ罹患者数となっている。肺NTM症の主な症状として、咳嗽、喀痰、血痰、倦怠感、体重減少などが挙げられるが、症状の強さや疾患の経過は患者によってさまざまといわれている。初期は無症状のことも多く、健康診断やほかの疾患の検査がきっかけとなって偶然にみつかるケース、無症状の場合にそのまま放置してしまうケースも少なくないという。また、厚生労働省の令和4年人口動態調査では、国内で肺NTM症による死亡者数が年間1,158例であったことが報告されており、罹患者数、死亡者数ともに増加の一途をたどっている深刻な疾患である。しかし、今回の調査結果によってその認知率の低さから、罹患率の高い中高年のやせ型女性を中心に啓発を行う必要があることも明らかになった。 肺NTM症と肺結核との大きな違いは、人から人へ感染しないといわれていること、前述のように、水などの自然環境、水回りなどの生活環境にいる菌を吸い込むことで感染する点である。それを踏まえた感染予防対策として、長谷川 直樹氏(慶應義塾大学医学部感染症学教室 教授)は「NTMは消毒薬にも強いという性質があり、生活環境から排除することは難しい。浴室や台所などは、日頃からなるべく清潔にすることを心掛け、排水溝だけでなく、シャワーヘッドやホースのぬめりを取り除き、よく乾燥させる。掃除の際はマスクを着用することも重要」とコメントしている。

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第209回 衆院補選、各党・各候補が掲げた医療政策を比較

先週末、全国3選挙区で同時に衆議院の補欠選挙(以下、補選)の投票が行われ、立憲民主党(以下、立憲)が3選挙区すべてで勝利したことがニュースを賑わしている。今回の補選は、東京15区と長崎3区が与党・自由民主党(以下、自民党)議員の不祥事による辞任、残る島根1区は自民党現職の死去に伴うものだ。このうち前者2選挙区は、自民党は候補を立てられずに不戦敗。唯一候補を立てた島根1区は与野党一騎打ちとなり、立憲が自民党に大差で勝利した。以前、政治記者として名高い毎日新聞社特別編集委員の故・岸井 成格氏は「自民党はどんなに凋落しても、北関東、北陸、中国、四国、南九州のローカル政党として生き残る」と評していたが、その一角を占める中国地方、中でも1994年の公職選挙法改正による小選挙区制導入以降、衆議院選で当選候補が自民党のみの牙城中の牙城である島根県で自民党が立憲に敗れたことは、自民党関係者にとって相当な衝撃だったに違いない。昨年末に明らかになった自民党の裏金問題はそれほどのインパクトがあったのだ。これで岸田 文雄首相が解散・総選挙に打って出る可能性は当面なくなったと言ってよい。9月には自民党総裁選が控えているが、今のところ岸田降ろしの動きはまったく見当たらない。それもこれも裏金問題で、かつて最大派閥だった安倍派内の次期総裁候補と目された面々が少なからず傷を負ったことが原因と言えるだろう。皮肉にも現状は低空飛行の岸田首相の独走状態で、9月の総裁選以降の続投すらささやかれている。となると、年内は大規模な国政選挙が行われることはないかもしれない。これまで本連載では国政選挙のたびに各党の政策比較などを行ってきたが、この状況を踏まえ、この補選を例に各候補・各党が掲げた医療・社会保障政策を概観してみたいと思う。もっとも3選挙区すべての話をすると、かなり話が多岐に渡るので、候補数最多だった東京15区の政党候補(推薦も含む)で、供託金没収ライン越え(得票率が有効投票数の10%以上)の候補を軸に見てみたい。ちなみに敢えて「各候補・各党」と記述したのは、政党候補は所属政党の政策を基本にしながらも各候補が独自の政策を唱えることもあるからである。各政策については、候補者個人に対する私自身の好き嫌いは可能な限り排除したうえで、時に独断と偏見の評価も加わることはあらかじめお断りしておきたい。なお取り上げる順番は確定得票数順とする。政策が具体的な当選の酒井氏、自身の経験に基づくまず、議席を獲得した立憲である。当選した酒井 菜摘氏は元江東区議。看護師・助産師としての勤務経験を持ち、手術・化学療法経験のある子宮頸がんサバイバー、かつ不妊治療経験者という略歴である。酒井氏のホームページ(HP)に記述されている医療関連政策は、▽健康診断・がん検診の受診率向上&質の向上▽ユースヘルスケアの向上(学校医制度の拡充やユースクリニックへの支援)▽医療型レスパイト施設の増設▽介護保険が使えず制度の狭間にいる若年がん患者へ終末期の在宅療養費助成の創設、の4点。前者2つについては立憲が党としての基本政策の「予防医療」の項目にある健診関連政策とかなり相似している。もっとも酒井氏自身が前述のように看護師・助産師の資格を有し、がんサバイバーであることもこれら政策を掲げる背景にあるだろうと想像できる。4つ目の若年がん患者の終末期在宅療養費助成もがんサバイバーらしい政策と言える。介護保険の場合、40歳以上65歳未満のいわゆる第2号被保険者の場合、がんを含む16種類の特定疾病を抱えている人は介護保険サービスを利用できるが、40歳以下では利用できないという制度の穴がある。しかも、おおむね若年者は相対的に経済弱者。その意味では弱者視点に立った政策としては一考に値する。一方、医療型レスパイト施設の増設は、政策として的外れではないが、レスパイトケアの一般認知度が高くない現状を考えれば、有権者への訴求力には欠けると言わざるを得ない。出馬したそのほかの議員が掲げた医療政策得票数2番手は元立憲の参議院議員の須藤 元気氏だが、前述した基準からここでは触れない。得票数3番手は日本維新の会(以下、維新)の金澤 結衣氏だが、同氏のHPでは、「社会保険料の負担軽減」を掲げている。とはいえ、HP上ではどのようにそれを実現するのかはまったく記述がない。数少ないヒントは金澤氏が「現役世代の負担軽減」を謳っていること。そうなると、これは維新が昨今掲げている「医療維新」と名付けた政策に行き着く。同政策の主な細目は、高齢者医療制度の原則3割負担化、70歳以上での高額療養費制度の負担上限額引き上げ、これらを補完するための新たな低所得者等医療費還付制度の創設など。端的に言えば、医療・介護のサービス提供者からも根強い抵抗がある高齢者の負担増により一定の財源を確保するとともに、高齢者の過度な受診を抑制し、全体として医療費増大と現役世代を中心とする社会保険料の増額抑制を意図した政策である。この提言自体は世論からは一定の賛同を得られるであろうし、いつどのように手を付けるかの差異はあるにせよ、関係各方面が将来的には避けて通れぬテーマと思っているだろう。とはいえ、先ごろのトリプル改定では介護保険での自己負担2割対象者の拡大ですら、サービス提供側の抵抗と与党自民党・公明党のポピュリズム的な姿勢により、棚上げにされた。さらに言えば、野党第1党の立憲も国民の負担増を伴う政策には一律反対の姿勢を取りがちである。こうした“四面楚歌”的な政策を実現するにはかなりの交渉力と時間を要する。この交渉力の核となるスキルの1つが「モノは言いよう」である。しかし、当の維新は今回の選挙で代表の馬場 伸幸氏が自民党の裏金問題を批判する傍ら、「立憲民主党を叩き潰す」「日本共産党は日本にいらない」と公言してしまうありさま。もちろん馬場氏や維新がいかなる考えを持とうと自由であり、野党がほかの野党を批判することも一向にかまわないが、少なくとも国政の場で求められる「モノは言いよう」のスキルは現時点では期待できない。得票数4番手は、昨年、作家の百田 尚樹氏が結党し、今回、国政初挑戦となった日本保守党の候補でイスラム思想研究者の飯山 陽氏である。ただ、同氏の場合、選挙用独自のHPが4月30日時点では存在しておらず、選挙公報にも医療・社会保障に関連する政策は記述されていない。党のHPに箇条書きされた政策で該当するのは、▽健康保険法改正(外国人の健康保険を別立てにする)▽出産育児一時金の引き上げ(国籍条項をつける)、くらいだ。徹底した日本・日本人第一主義とも言うべき理念を掲げている同党ならではと言えるかもしれないが、同党の支持層のボリュームゾーンが50~60代1)であることを考えると、より大枠の社会保障政策が欲しいものである。ここで紹介する最後の得票数5番手が著書「五体不満足」がベストセラーになって以後、メディアなどに多数登場している乙武 洋匡氏である。乙武氏は今回、国民民主党、都民ファーストの会、同会の国政バージョンのファーストの会が推薦を出している。乙武氏のHPを見ると、▽持続可能な年金・医療・介護制度の確立▽予防医療で健康寿命を伸ばし、「アクティブ長寿」を実現▽認知症患者のケアと社会参加を支援▽AIなど先端技術を活用した医療従事者の働き方改革を推進▽看護職・介護職の福利厚生・インセンティブを充実、さらなる待遇を改善▽不妊治療やAMH検査、卵子凍結に対する公費負担の創設・拡大▽子宮頸がんの撲滅に向けた検診啓発▽HPVワクチン接種の男性接種も公費助成▽感染症にも強い医療提供体制の確保、が挙げられている。乙武氏の出馬時の経緯を見る限り、都民ファーストの会・ファーストの会の影響が色濃いが、列挙された政策の中で両会の掲げる政策と類似性・相似性があるのは健康寿命延伸と看護職・介護職の福利厚生関係、感染症に関する医療体制ぐらいである。HPVワクチンの男子への接種推進は、都民ファーストの会の創設者で現在は特別顧問の小池 百合子氏が知事を務める東京都が検討し始めていることではあるが、両会の政策としては掲げられてはいない。対して国民民主党の政策とは類似性・相似性はほとんどないと言っても良い。その意味ではこれまで報じられているような自ら出馬に意欲を示した乙武氏に各党が乗っかった経緯も納得である。そのうえで概観すると、女性に向けた政策が多いことも目に付く。この辺は一部で報じられた自民党が推薦で相乗りしようとしたものの、公明党が過去の乙武氏の女性問題で難色を示したことなども意識したのかもしれないと、やや邪推してしまう。ただ、子宮頸がんの撲滅とそれに連動する男性も含めたHPVワクチン接種推進は、欧米先進国などでの方針とも一致するもので一定の評価はできるだろう。もっともこのようにしてみると、実は各党の政策の細部は一般の人がざっくりとらえているよりもかなり開きがあると言える。現在、低空飛行の岸田首相が政権運営を進めていく中では、時に野党の一部にすり寄る場面も十分に想定できる。そうした状況に機敏に反応してこれら政策をどのくらい丁々発止で与党案に刷り込めるかが、国民が野党各党を評価するメルクマールになると言えるかもしれない。参考1)第240回 選挙ドットコムちゃんねる

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英語で「健診で来院しました」は?【1分★医療英語】第126回

第126回 英語で「健診で来院しました」は?《例文1》I’m here for my annual physical.(年に1度の健康診断で来院しました)《例文2》He is here for a routine follow-up.(彼は定期受診のために来院しています)《解説》“I’m here for a check-up.”は、患者さんが医師に対して、「健康診断のために来院した」ことを伝えるフレーズです。とてもシンプルな表現ですが、主訴を明確に伝えるための重要な表現でもあります。何かを明確に伝えたいとき、表現はシンプルなほうがよく、ミスコミュニケーションを避けたい医療現場ではとくに、このようなシンプルな表現が好まれます。なお、健康診断は“check-up”と言ったり、《例文1》のように“annual physical”と表現したりしますので、これらも併せて覚えておきましょう。医師同士で患者の主訴について伝達する際には、“Mr. X presented with chest pain”のように、“present with”というフレーズもよく使いますが、そんな場面でも“Mr. X is here for chest pain”と表現してもまったく問題ありません。このような「超基本」のフレーズをしっかりマスターすることで、英語圏の医療機関でのコミュニケーションがより円滑になると思います。講師紹介

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身長低下と動脈硬化が相関~60歳以上の日本人

 動脈硬化と身長低下はそれぞれ心血管系疾患との関連が報告されているが、動脈硬化と身長低下の関連はこれまで明らかになっていない。今回、長崎大学の清水 悠路氏らによる後ろ向き研究で、高齢者において動脈硬化と身長低下が関連することが示された。Scientific Reports誌2024年4月2日号に掲載。 本研究は、年1回の健康診断を受けた60~89歳の2,435人を対象にした後ろ向き研究。動脈硬化は頸動脈内膜中膜厚(CIMT)が1.1mm以上とし、身長低下は年間の身長減少が最高五分位群にあることとした。 主な結果は以下のとおり。・参加者のうち555人がアテローム性動脈硬化症と診断された。・アテローム性動脈硬化症と身長低下には、既知の心血管リスク因子とは関係なく正相関がみられ、調整オッズ比は1.46(95%信頼区間:1.15~1.83)であった。また、男女別にみると男性1.43(同:1.01~2.04)、女性1.46(同:1.07~1.99)であった。

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第209回 コストコで肥満治療

日本で今や30店舗を超える大規模小売店のコストコが本拠地の米国で薬の処方を含むより安価な肥満治療の提供を開始しました1)。世界の女性の5人に1人ほど、男性は7人に1人ほどが肥満です。米国の肥満有病率はより顕著で、2021年の報告によると同国の成人のいまや半数近い42%、数にして1億800万人がBMI 30以上の肥満体です2)。やはりできれば痩せたいと思う人は多いらしく、体重を減らす処方薬(以下、「肥満薬」)が気になる人は増えているようです。昨夏2023年7月に実施された米国成人1,327人のアンケート調査によると半数近い45%が有効で安全な肥満薬の使用に少なくともいくらか関心があると回答しました3)。そのような関心の高まりを背景にしてコストコは肥満治療の提供を始めました。昨秋2023年9月にコストコは、医師と患者を直結させることで診察、検査、処方薬を半額に抑えることを目指す医療会社Sesameと提携し、会員が1回29ドルの遠隔診療を受けられるサービスをすでに始めています4)。加えて、標準的な臨床検査や遠隔での医師評価を含む健康診断を72ドル、メンタルヘルス治療を79ドルで受けられもします。また、対面診察などのSesameのその他の医療すべてがコストコ会員は10%引きとなります。その提携が拡大してコストコの会員はさらに肥満治療を受けることが可能となりました。加入費用(subscription)は3ヵ月あたり179ドル(1ヵ月ごとの場合は60ドル)で、食事指導や患者ごとに誂えられた治療計画が示されます。会員は自分に合った医師を選択でき、最初はビデオ面談での診察を受け、予定の診察以外にも医師に連絡できます。必要と診療で判断されたらオゼンピック、ウゴービ、マンジャロ、Zepbound、Saxendaなどの体重減少効果がある薬の処方を受けることができます。それらの薬の費用は加入費用とは別に支払う必要があります。どれだけ痩せることができるかは個人差がありますが、臨床試験での平均値に基づく体重減少の目安は3ヵ月で5%、6ヵ月で10%、1年で15%です5)。小売業の医療参入医療に参入する米国の小売業は増えており、たとえばウォルマートはプライマリケアの施設を各地に設置していますし6)、Amazonはプライマリケア会社One Medicalを買収してPrime会員への年中無休24時間営業の医療の提供を始めています7)。また、製薬会社が患者と医療を仲立ちする例もあり、この1月にLillyは患者に同社の薬剤を直接届けることを含む遠隔医療事業LillyDirectを始めました。先月3月にはそれら薬剤の配達をAmazonが担当するとの発表がありました8)。AmazonはLillyDirectを介しての肥満薬Zepboundやその他のLillyの薬のいくつかを24時間年中無休で米国の患者に配達します。参考1)Wholesale Weight Loss: Sesame Unveils Specialized Care for Weight Loss with Pricing Exclusively for Costco Members / GlobeNewswire2)CDC:National Health and Nutrition Examination Survey 2017–March 2020 Prepandemic Data Files Development of Files and Prevalence Estimates for Selected Health Outcomes3)Poll: Nearly Half of Adults Would Be Interested in Prescription Weight-Loss Drugs, But Enthusiasm Fades Based on Lack of Coverage and Risk of Regaining Weight / KFF4)Wholesale Health Care: Sesame Launches America’s Best Pricing on High Quality Doctor Visits Exclusively for Costco Members / GlobeNewswire5)Costco6)Costco teams up with Sesame to offer weight loss program to members, including GLP-1 drugs / FierceHealthcare7)Amazon Introduces Compelling New Health Care Benefit for Prime Members for Only $9 a Month (or $99 a Year) / BUSINESS WIRE8)Amazon Pharmacy now provides home delivery of select diabetes, obesity, and migraine medications to LillyDirect patients / Amazon

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低所得者、腎機能低下・透析開始リスクが1.7倍に/京都大学

 これまでの研究により、慢性腎臓病(CKD)の発症や進行には社会経済要因(所得、教育歴、居住地など)との関連がみられ、社会経済的地位の低い人ほどリスクが高いことが示されてきた。しかし、皆保険制度のある日本での状況はわかっていなかった。 京都大学の石村 奈々氏らは全国健康保険協会(協会けんぽ)の生活習慣病予防健診および医療レセプトのデータ(約560万人分)を用いて、収入と腎機能低下の関連を調査した。本研究の結果は、JAMA Health Forum誌オンライン版2024年3月1日号に掲載された。 本研究は、日本の現役世代人口の約40%(加入者数3,000万人)をカバーする協会けんぽに加入する、34~74歳の成人を対象とした全国規模の後ろ向きコホート研究だ。2015~22年に推定糸球体濾過量(eGFR)を2回以上測定した参加者を解析の対象とした。主なアウトカムは2015年度の月額収入を10分位に分けた所得水準別にみた、急速なCKD進行(年間eGFR低下量>5mL/分/1.73m2)のオッズ比、腎代替療法(透析・腎移植)開始のハザード比だった。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となった559万1,060例は平均年齢49.2[SD 9.3]歳、33.4%が女性であった。女性は最も所得の低い群の71.1%を占め、男性は最も所得の高い群の90.7%を占めた。・潜在的交絡因子を調整後、所得が最も低い群(平均月収13万6,451円)は最も高い群(平均月収82万5,236円)と比較して、急速なCKD進行のリスクが高く(オッズ比:1.70、95%信頼区間[CI]:1.67~1.73)、腎代替療法開始のリスクも高かった(ハザード比:1.65、95%CI:1.47~1.86)。・急速なCKD進行との負の関連は、男性および糖尿病のない人でより顕著であった。 研究者らは「本研究は、健康保険や毎年の健康診断など手厚い医療制度がある日本においても、所得による腎機能低下リスクの差が男女ともに存在することを明らかにしたもので、低所得労働者に対する包括的なCKD予防・管理戦略の重要な役割を強調している」としている。

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禁煙後の体重増加は将来の高血圧発症と関連する可能性

 禁煙後の体重増加は血圧の上昇につながり、将来の高血圧発症と関連する可能性があることが、鹿児島大学大学院心臓血管・高血圧内科学の二宮雄一氏らの研究グループによる研究から明らかになった。日本人の一般集団を対象に分析した結果、禁煙した群では、喫煙を継続した群と比べて体重がより増加し、血圧値も上昇することが分かったという。詳細は「Hypertension Research」に1月5日掲載された。 禁煙は、慢性疾患リスクの低減や寿命の延伸、QOLの向上など健康面にさまざまなメリットをもたらす。一方で、禁煙後には体重や肥満度が増加することが知られており、禁煙意欲を低下させる要因の一つとなっている。また、禁煙後の体重増加が引き起こす健康への悪影響については、これまで心血管疾患や2型糖尿病に焦点を当てた研究が多く、高血圧との関連は明らかになっていない。そこで、二宮氏らは、禁煙後の体重増加とその後の高血圧発症の関連を検討するため、後ろ向き研究を実施した。 2005年から2019年の間に、鹿児島厚生連病院健康管理センターで年1回の健康診断を受診した成人男女23万4,596人のうち、禁煙6年後のデータを入手し得た856人を対象に分析した。禁煙後の体重増加と高血圧発症の関連以外にも、禁煙1年後および6年後の血圧値と降圧薬処方率の変化を評価。また、傾向スコアでマッチングした禁煙群(856人)と喫煙継続群(854人)の体重と血圧値を比較した。さらに、収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)に影響を与える因子を特定するため、重回帰分析を行った。 禁煙1年後の体重増加の中央値(1.8kg)を基に、体重増加が1.8kg以上だった群(high weight gain:HWG群、428人)と1.8kg未満だった群(low weight gain:LWG群、428人)に分けて分析した(平均年齢:HWG群46.5歳、LWG群45.2歳、男性の割合:それぞれ93%、90%)。その結果、HWG群とLWG群のベースライン時の体重は同程度だったが、LWG群に比べてHWG群では禁煙1年後および6年後の体重が有意に増加した(ベースライン→禁煙1年後→6年後の平均体重:HWG群64.9±10.5kg→68.9±10.6kg→69.2±10.9kg、LWG群66.3±10.7kg→66.1±10.5kg→66.8±10.9kg)。 また、禁煙から6年後の降圧薬の処方率にはHWG群とLWG群で有意な差はなかったが、ベースラインから6年後のSBP値およびDBP値の変化には有意差が認められた(SBP:HWG群10.3±13.8mmHg、LWG群6.2±12.8mmHg、P<0.001、DBP:HWG群6.0±9.3mmHg、LWG群3.1±9.7mmHg、P<0.001)。重回帰分析の結果、SBP値の変化は年齢と大幅な体重増加の影響を受けたのに対し、DBP値の変化は大幅な体重増加の影響のみを受けていた。さらに、禁煙群と喫煙継続群の比較では、禁煙群の方が体重の増加幅が有意に大きく、6年間のSBP値とDBP値の変化も大きかった。 以上から、同氏らは「禁煙後の体重増加は、その後の血圧上昇をもたらす可能性があり、禁煙を希望する人には減量指導を行うことが有効だ」と結論。その上で、「禁煙を勧める際には、禁煙による健康へのベネフィットは、禁煙後の体重増加による悪影響を上回ることを強調すべきだ。また、診療ガイドラインでは、禁煙後の体重管理療法の時期や期間について言及する必要があるだろう」と述べている。

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内臓脂肪減少薬オルリスタット、OTCで発売/大正

 大正製薬は日本初の内臓脂肪減少薬オルリスタット(商品名:アライ)を、ダイレクトOTC薬として2024年4月8日に発売する。発売に先立ち世界肥満デーである3月4日に新発売記者会見を開催した。世界的な肥満パンデミック、日本人は小太りでも要注意 米国の若年成人の肥満(BMI30以上)は、1970年代後半には5.5%だったが、2017年には33%と6倍に増加している1)。米国だけでなく1975年当時、成人の平均BMIが25前後だった欧州、中東、オーストラリアなども2014年には30前後になっている2)。いまや肥満は世界的パンデミックと言っても過言ではない。 BMI30の白人の2型糖尿病発症率は10%強だが、日本人を含む東アジア人はBMI24〜25で同じ発症率に達してしまう。つまり、「日本人は小太りでも病気になりやすい」と日本肥満学会理事長である千葉大学の横手 幸太郎氏は述べる。 「肥満」は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、「肥満症」は肥満に伴って健康を脅かす合併症があるまたは合併症になるリスクが高い場合と定義され、肥満症は医療行為の対象である3)。 肥満における内臓脂肪の蓄積は健康障害の原因となる。積極的保健指導対象者に対する試験では、3%以上の減量で血圧、脂質、血糖、肝機能、尿酸など、内臓脂肪蓄積者における多くのリスク因子に改善がみられた。日本肥満学会でも、肥満症や高度肥満症患者に対する減量を目指した食事、運動、行動療法を提唱している3)。しかし、それらの治療には限界があり、治療薬の登場が期待されていた。そのような中、2023年、30年ぶりの抗肥満薬としてセマグルチドとオルリスタットが登場した。セマグルチドは肥満症治療薬であり、オルリスタットは内臓脂肪減少薬として、未病である肥満から肥満症への進行を抑制する。横手氏は、肥満の予防から健康寿命の延伸に寄与する薬剤として、オルリスタットに期待感を示した。16年間の開発期間を要した日本初の内臓脂肪減少薬オルリスタット オルリスタットは肪分解酵素リパーゼに結合し不活性化することで、脂肪の分解を阻害して腸からの吸収を抑える。摂取した脂肪の約25%を便とともに排出するとされる。 同剤は、海外において、1997年に医療用医薬品として承認され、2007年にはOTC医薬品としても承認されている。大正製薬は2008年に日本への導入契約を締結し、2011年から臨床試験を実施、2019年にダイレクトOTC医薬品として厚労省に承認申請して2023年に承認された。日本での開発期間は16年間におよび、「市販薬では異例といえる長期間の開発」と大正製薬マーケティング本部の宍戸 正臣氏は述べる。52週時で内臓脂肪が2割強減少 オルリスタットは1,700万人以上の使用経験、100以上の臨床プログラムなど、海外では豊富なエビデンスがある。日本人に対しては、探索試験、用量設定試験、検証試験(二重盲検)、長期投与試験、一般臨床試験(薬剤師による有効性安全性の検討)、生活習慣病治療薬併用試験が行われ、安全性と有効性が検証されている。 日本人試験の結果、投与24週時点の内臓脂肪面積は、プラセボ群-5.78%に対しオルリスタット群では-14.1%(検証試験)、52週時点ではオルリスタット群で21.52%、実測値で28.05cm2減少した。内臓脂肪蓄積の指標となる腹囲は、オルリスタット投与52週で4.89%、実測値で4.3cm減少した(長期試験)。 オルリスタットの長期投与試験における副作用発現は60.8%、主なものは油の漏れ34.2%、便を伴う放屁23.3%、脂肪便9.2%、便失禁6.7%などであった。消化管における脂肪吸収を抑えるという作用機序から起こる症状であるため、発現機序を十分に理解して、服用前は脂肪の多い食事を避けるなどの対策をとっておくべきである。症状発現時期は「臨床データ上では服薬開始14日以内が最も高く、その後は率が下がってくる傾向」と大正製薬セルフメディケーション臨床開発部の藤田 透氏は言う。研修を修了した薬剤師による対面販売 オルリスタットは要指導薬のため薬剤師の対面販売でしか購入できない。初回購入には、専用のチェックシートと生活習慣記録(購入1ヵ月前からの記録)を使用者が記入し、薬剤師が確認しなければならない。生活習慣記録については、入力の手間を省くために、LINEアプリ「STEP UP DIARY」を用意している。 一方、特別な販売方法のため薬剤師の継続的な教育は欠かせない。販売に従事する薬剤師は日本肥満学会監修の「アライ専用eラーニング研修」の修了が求められるが、すでに2万6,000人を超える薬剤師が研修を修了しているという。 また、オルリスタットは医薬品卸を介さず、大正製薬が要指導薬と第1類を取り扱う薬局・ドラックストアに直接販売する。販売店は全国で約1万店舗強あるとされるが、ほぼすべての店舗で取り扱いできる見込みだ。販売店は同剤のブランドサイトで検索できる。製品概要・製品名:アライ・効能・効果:腹部が太めな方の内臓脂肪および腹囲の減少(生活習慣改善の取り組みを行っている場合に限る)・用法・用量:年令 成人(18才以上) 1回量1カプセル 服用回数1日3回・成分:1 カプセル中 オルリスタット 60mg・価格:6日分2,530円、30日分8,800円(ともに税込み)使用条件・腹囲:男性85cm以上、女性90cm以上・健康障害*を合併していない・初回購入前3ヵ月以上生活習慣改善の取り組みを行っていること・初回購入前1ヵ月および使用中に生活習慣改善の取り組み**、体重、腹囲を記録すること*:高度肥満または糖尿病、脂質異常症、高血圧などの「肥満診療ガイドライン2016」に記載された11疾患**:定期的に健康診断を受けていること

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肝がん、乳がんが多い都道府県は?「がんの県民性」を知る

 企業でのがん対策を進めることを目的に厚生労働省が行うプロジェクト「がん対策推進企業アクション」は2月14日、プレス向けセミナーを行った。プロジェクトの推進役である東京大学特任教授の中川 恵一氏が「がんの県民性」をテーマに講演を行った。 世界中でも、国や人種によって多いがんと少ないがんがあるが、実は日本国内でも地域ごとに発生するがんの種類にバラツキがある。この要因はさまざまなものがあり、遺伝子、人口構成、食生活などが影響している。そして、最も大きな原因と考えられるのが、ウイルスの偏在と感染だ。【胃がん】 全国がん登録のデータ(2019年)を基に、人口調整後の10万人当たりの罹患率を見ると、胃がんの罹患率がもっとも高いのは、男女共に秋田県。胃がんはピロリ菌の感染が原因の9割近くを占めることがわかっており、ピロリ菌の検査と除菌するようになってから罹患者数は減少傾向にある。その中にあって秋田県の罹患率が依然として高いのは、塩分が多い食生活が大きな要因だと考えられている。マウスの実験では、ピロリ菌に感染しているマウスに塩分を過剰に摂取させると胃がんの発生率が上昇するという報告がある。秋田県に限らず、胃がんを減らすためには、減塩、胃がん検診、禁煙・節酒が有効だろう。【肝がん】 肝がんの罹患率が高いのは、佐賀県をはじめとした九州エリア。九州だけでなく、西日本全体が東日本と比べて高い傾向がある。これは肝がんの主な発症原因であるC型肝炎ウイルスが佐賀県一帯の東シナ海エリアに多いためだと考えられる。台湾なども同じ理由から罹患率が高い傾向がある。企業が行う健康診断では毎年肝機能検査を行っており、ここにウイルス性肝炎検査も加えることを要請している。【乳がん】 乳がんの罹患率が高いのは東京都などの首都圏。これは未婚で出産経験のない女性が多いことと関連している。乳がんは10万人当たりの年間罹患者数が40年で4倍と急増している。現在の日本人女性は平均して生涯に450回ほど月経があるとされるが、これは100年前の5倍超。かつては子沢山であり、妊娠・授乳期間を含めて子供1人当たり3年間ほど月経が止まる期間があった。この間、女性ホルモンによる刺激が減り、乳がんの罹患リスクが低下していた。現在の乳がんの新規罹患のピークが40代後半にある理由も閉経直前・閉経後に女性ホルモンの変化の影響を受けることが大きな理由だと考えられる。【白血病】 白血病の罹患率が高いのは沖縄県、鹿児島県など。白血病の中の成人T細胞白血病(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染によって生じることがわかっている。HTLV-1の感染経路は母乳による母子感染が多くを占め、このウイルスのキャリアが沖縄をはじめ、鹿児島、青森、岩手の一部などに多い。一方、このウイルスは中国・韓国ではほとんど見られない。この背景には、数千年前に日本に渡ってきた渡来人の遺伝子を受け継ぐ人々(弥生系)には感染者が少なく、縄文人が移行して弥生人になった人々(縄文系)には多い、という理由が考えられる。もっとも、人の移動の増加に伴い、HTLV-1感染は全国で見られるようになっており、とくに大阪などの大都市圏で増加している。【食道がんなど】 縄文系、弥生系の遺伝子は、飲酒時の分解酵素の有無にも関わる。アルコールは肝臓で「アセトアルデヒド」という物質に分解されるが、このアセトアルデヒドを分解するのが「ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)」。縄文系はこのALDH2の活性が強い「正常型」が多く、日本人の55%を占める。一方で弥生系はALDH2の活性が弱い「低活性型」が多く、日本人の40%を占める。残り約5%は「不活性型」でALDH2の働きがまったくなく、酒を飲めない体質となる。問題は「低活性型」の人が飲み過ぎることで、こうした人が飲酒を続けることで、発がんリスク、とくに大腸がんや食道がんのリスクが急激に高まるとされる。低活性型は弥生系が多い近畿・中部・中国地方に多く分布している。 中川氏は「がんは決して一様な疾患ではなく、地域や人種によってリスクに差があり、それを生む大きな要因にウイルス感染がある。自分の居住するエリアの特性を知り、対策を知っておくことが重要になる」とまとめた。

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