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エヌトレクチニブ発売、脳転移へのベネフィットに注目

 臓器横断的ながん治療薬として本邦で2剤目となる低分子チロシンキナーゼ阻害薬エヌトレクチニブ(商品名:ロズリートレク)が販売開始したことを受け、9月5日、都内でメディアセミナー(主催:中外製薬)が開催された。吉野 孝之氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科長)が登壇し、同剤の臨床試験結果からみえてきた特徴と、遺伝子別がん治療の今後の見通しについて講演した。 エヌトレクチニブは、2018年3月に先駆け審査指定を受け、2019年6月に「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発の固形がん」を適応症とした承認を世界で初めて取得した。すでに承認・販売されているMSI-H固形がんへのペムブロリズマブの適応が、標準的治療が困難な場合に限られるのに対し、NTRK融合遺伝子陽性固形がんであれば治療歴および成人・小児を問わないことが特徴。遺伝子検査にはコンパニオン診断薬として承認されたFoundationOne CDxがんゲノムプロファイルを用いる。がん種ごとの陽性率は? NTRK融合遺伝子陽性率をがん種ごとにみると、成人では唾液腺分泌がん(80~100%)1,2)、乳腺分泌がん(80~100%)3-6)などの希少がんで多く、非小細胞肺がん(0.2~3.3%)7,8)や結腸・直腸がん(0.5~1.5%)7,9-10)、浸潤性乳がん(0.1%)7)などでは少ない。しかし患者の絶対数を考えると、1%であっても相当数の患者がいるという視点も持つ必要があると吉野氏は指摘した。 一方、小児では、乳児型線維肉腫(87.2~100%)11-14)、3歳未満の非脳幹高悪性度神経膠腫(40%)15)など陽性率の高いがん種が多く、同氏は「小児がんへのインパクトはとくに大きい」と話した。治療開始後“早く・長く効く”こと、脳転移への高い有効性が特徴 今回の承認は、成人に対する第II相STARTRK-2試験および小児に対する第Ib相STARTRK-NG試験の結果に基づく。STARTRK-2試験は、NTRK1/2/3、ROS1またはALK遺伝子陽性の局所進行/転移性固形がん患者を対象としたバスケット試験。このうち、とくにNTRK陽性患者で著明な効果が確認され、今回の迅速承認につながった経緯がある。 NTRK有効性評価可能集団は51例。肉腫が13例と最も多く、非小細胞肺がん9例、唾液腺分泌がんおよび乳がんが6例ずつ、甲状腺がんが5例、大腸がん・膵がん・神経内分泌腫瘍が3例ずつと続く。また、何らかの治療歴がある患者が約6割を占めていた。主要評価項目である奏効率(ORR)は56.9%、4例で完全奏功(CR)が確認された。本試験結果だけでは母数が少ないが、がん種ごとに有効性の大きな差はないと評価されている。吉野氏は、とくに奏効例のスイマープロットに着目。初回検査の時点で奏効が確認された症例、治療継続中の症例が多く、「奏功例では早く長く効くことが特徴」と話した。また、ベースライン時の患者背景として、脳転移症例が11例含まれることにも言及。評価対象となった10例での成績は、頭蓋内腫瘍奏効率50%、2例でCRが確認されている。 Grade3以上の有害事象は多くが5%以下と頻度が低く、貧血が10.7%、体重増加が9.7%でみられた。同氏は、「総じて、副作用は非常に軽いといえる」と述べた。3学会合同、臓器横断的ゲノム診療のガイドラインを発行予定 小児・青年期対象のSTARTRK-NG試験においても、エヌトレクチニブの高い有効性が確認されている(ORR:100%)。5例はCNS原発の高悪性度の腫瘍で、うち2例でCRが確認された。周辺組織への浸潤が早い小児がんにおいて、非常に大きなインパクトのある治療法と吉野氏は話し、「どのタイミングで、どんな患者に検査を行い、薬を届けていくかを標準化していく必要がある」とした。 今回の承認を受け、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本小児血液・がん学会は合同で、『成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン(案)』をホームページ上で公開、パブコメの募集を行った。同ガイドラインは、今回のエヌトレクチニブ承認を受け、2019年3月公開の『ミスマッチ修復機能欠損固形がんに対する診断および免疫チェックポイント阻害薬を用いた診療に関する暫定的臨床提言』を改訂・進化させた内容となっている。「NTRK融合遺伝子の検査はいつ行うべきか?」など、NTRK融合遺伝子の検査・治療についてもCQが設けられ、実践的な診断基準として知見が整理される。 最後に、同氏はこれまで消化器がん・肺がん領域を対象として行ってきたSCRUM-Japanのがんゲノムスクリーニングプロジェクトが、2019年7月からすべての進行固形がん患者を対象に再スタートしたことを紹介(MONSTAR-SCREEN)16)。リキッドバイオプシーおよび便のプロファイリング(マイクロバイオーム)を活用しながら、臓器によらないTumor-agnosticなバスケット型臨床試験を実施していくという(標的はFGFR、HER2、ROS1)。承認申請に使用できる前向きレジストリ研究を推進させ、全臓器での治療薬承認を早めていきたいと語り、講演を締めくくった。■参考1)Skalova A, et al.Am J Surg Pathol. 2016;40:3-13.2)Bishop JA, et al.Hum Pathol. 2013;44:1982-8.3)Del Castillo M, et al. Am J Surg Pathol. 2015;39:1458-67.4)Makretsov N, et al. Genes Chromosomes Cancer. 2004;40:152-7.5)Tognon C, et al. Cancer Cell. 2002;2:367-76.6)Lae M, et al. Mod Pathol. 2009;22:291-8.7)Stransky N, et al. Nat Commun. 2014;5:4846.8)Vaishnavi A, et al. Nat Med. 2013;19:1469-1472.9)Ardini E, et al. Mol Oncol. 2014;8:1495-507.10)Creancier L, et al. Cancer Lett. 2015;365:107-11.11)Knezevich SR, et al. Nat Genet. 1998;18:184-7.12)Rubin BP, et al. Am J Pathol. 1998;153:1451-8.13)Bourgeois JM, et al. Am J Surg Pathol. 2000;24:937-46.14)Chiang S, et al. Am J Surg Pathol. 2018;42:791-798.15)Wu G, et al. Nat Genet. 2014;46:444-450.16)国立がん研究センターSCRUM-Japan/MONSTAR-SCREEN

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アテゾリズマブがTNBCに適応拡大、免疫CP阻害薬で初/中外製薬

 中外製薬株式会社(本社:東京、代表取締役社長CEO:小坂 達朗)は2019年9月20日、PD-L1陽性トリプルネガティブ乳がん(TNBC)に対する免疫チェックポイント阻害薬として国内で初めて、抗PD-L1モノクローナル抗体アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)が適応拡大されたことを発表した。PD-L1発現状況の確認は、2019年8月20日にコンパニオン診断薬として適応拡大の承認を取得した、病理検査用キットベンタナOptiView PD-L1(SP142)によって行う。 今回の適応拡大は、第III相IMpassion130試験の成績に基づく。IMpassion130試験は、全身薬物療法を受けていない切除不能な局所進行または転移のあるTNBC患者を対象に、アテゾリズマブ併用群(アテゾリズマブ+nab-パクリタキセル)とnab-パクリタキセル単独群(プラセボ+nab-パクリタキセル)を比較した多施設共同無作為化プラセボ対照の二重盲検国際共同臨床試験。 併用群では、ITT(Intent to treat)解析集団およびPD-L1陽性集団において、単独群と比較して主要評価項目であるPFS(無増悪生存期間)の延長を示した(ITT集団のPFS中央値:7.2ヵ月 vs.5.5ヵ月、ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.69~0.92、p=0.0025/PD-L1陽性集団のPFS中央値:7.5ヵ月 vs.5.0ヵ月、HR:0.62、95%CI:0.49~0.78、p<0.0001)。もう1つの主要評価項目であるOS(全生存期間)については、第2回中間解析時点では、ITT解析集団におけるOS延長について、統計学的な有意差は認められなかった(OS中央値:21.0ヵ月 vs.18.7ヵ月、HR:0.86、95%CI:0.72~1.02、p=0.078)。一方、PD-L1陽性患者において、臨床的に意義のあるOSの延長が認められたものの、階層構造に基づいて統計解析を行う試験デザインであることから、今回の PD-L1陽性患者におけるOSの解析は検証的な位置づけではない(OS中央値:25.0ヵ月 vs.18.0ヵ月、HR:0.71、95%CI:0.54~0.93)。フォローアップは次回の計画されている解析まで継続される。 併用療法による安全性プロファイルは、これまで各薬剤で認められている安全性プロファイルと一致しており、本併用療法で新たな安全性のシグナルは確認されなかった。なお、同試験におけるアテゾリズマブの用法・用量が840mgの2週間間隔での投与であるため、至適用量製剤として開発が行われ、9月20日付けで840mg製剤の剤形追加についても承認された。 また、中外製薬株式会社は同日、HER2陽性乳がん患者に対するペルツズマブ(商品名:パージェタ)とトラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)の配合皮下注製剤が、両剤の静注製剤に対して非劣性を示したことを発表。配合皮下注製剤の投与には、初回は約8分、2回目以降は約5分を要する。これに対して、両剤の静注製剤を併用投与する場合、初回は約150分、2回目以降は60~150分を要する。本結果は第III相FeDeriCa試験によるもので、詳細は今後開催される医学会で発表される予定。

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潰瘍性大腸炎の炎症の程度を便で診断

 2019年6月26日、アルフレッサ ファーマ株式会社は、体外診断用医薬品として潰瘍性大腸炎(以下「UC」と略す)の病態把握の補助に使用されるカルプロテクチンキット「ネスコートCpオート」が、6月5日に製造販売承認を取得したことを機に、都内で「潰瘍性大腸炎の治療継続における課題とは」をテーマにプレスセミナーを開催した。潰瘍性大腸炎患者に有用な診断キット セミナーは、日比 紀文氏(北里大学北里研究所病院 炎症性腸疾患先進治療[IBD]センター長)の司会により進行し、同氏は「潰瘍性大腸炎は全世界で500万人の患者が推定され、わが国はアメリカについで患者数が多い国である。潰瘍性大腸炎は現在も原因不明の疾患であり、主な症状は、持続反復する下痢、血便、頻回のトイレなどがあり、活動期と寛解期を繰り返すのが特徴。治療では、5SAS製剤、JAK阻害薬などが使用されている。潰瘍性大腸炎の適切な治療では、病態の正確な把握が必要だが内視鏡検査が広く行われている。しかし、内視鏡検査は侵襲性が高く、患者負担も大きいため、非侵襲性の検査が長らく待たれていた。今回製造販売承認されたネスコートCpオートであれば10分で測定ができ、外来でも有用だと期待しているし、患者にも身体・経済面でメリットがある」と潰瘍性大腸炎の疾患概要と本診断キット開発の意義を説明した。潰瘍性大腸炎治療の要は適切なモニタリング つぎに、講演として「潰瘍性大腸炎診療~便中カルプロテクチン測定の展望と課題~」をテーマに、久松 理一氏(杏林大学医学部 第三内科学教室 消化器内科 教授)がレクチャーを行った。 久松氏は、はじめに潰瘍性大腸炎の病態、症状を詳説し、とくに症状について、直腸に炎症があると残便感が消えず、絶えず下痢や腹痛におびやかされる状態になること、10代後半の若年から発症し、進学や就職など大切なライフイベントと重なることもあり、潰瘍性大腸炎は患者の生活の質や活動領域を著しく悪化させることを説明した。 治療では、患者の将来を見据え、大腸全摘の回避と大腸がんへのリスクを軽減する必要がある。先述の治療薬を使用して再燃する活動期の寛解導入療法と寛解期の寛解維持療法が行われる。そして、治療で重要なのが、適切なモニタリングであり、内視鏡検査が病勢評価のゴールドスタンダードとして使用されている。 しかし、内視鏡検査は、さまざまな患者負担があり、安全かつ簡易に内視鏡と相関するバイオマーカーの開発が望まれてきたと開発までの経緯を説明した。潰瘍性大腸炎の診断が外来の待ち時間でわかる こうした要望により開発されたのが「ネスコートCpオート」であり、これは便中のカルプロテクチンを測定し、検出された濃度により活動期と寛解期を把握するものである。カルプロテクチンは、主に好中球から分泌されるカルシウム結合タンパクで、腸内に炎症が起こると、腸壁から浸潤した白球血とともに糞便に入り体外に排出される。便中のカルプロテクチンは室温で5~7日程度安定し、その濃度と内視鏡的活動性は高い相関を示すという。検査は、患者より採取した便を検査することで、10分でカルプロテクチン濃度が測定できる。とくに便中のカルプロテクチン濃度は臨床症状が出現する前から上昇することから、再燃時の事前予測にも活用できる可能性もある。また、欧米ではカルプロテクチン測定は、すでにIBD(炎症性腸疾患)の診断・活動性評価に使用されているという。 今後の展望として、同氏は「外来の待ち時間で測定が完了し、医療側も新しい機器をそろえる必要のないこの診断キットは、軽症の潰瘍性大腸炎患者のモニタリングとして内視鏡検査を減らすことができる。主治医は患者と検査結果を見ながら治療方針を決めていくことができるようになる」と期待を寄せ、レクチャーを終えた。 なお、本製品は、現在保険申請の準備中である。

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元全米NFL選手におけるタウPET(解説:中川原譲二氏)-1048

 元全米フットボール・リーグ(NFL)選手において報告された慢性外傷性脳症(CTE)は、反復性の頭部衝撃の既往と関連する神経変性疾患である。神経病理学的診断は、アルツハイマー病などの他の疾患とは異なり、タウは蓄積するがアミロイドβはほとんど蓄積しない特異的なパターンに基づいて行われる。CTEのリスクがある生存人の脳内で、タウとアミロイドの蓄積の検出が実現可能かどうかは、これまで十分な研究が行われていない。R.A. Sternらは、元全米NFL選手を対象として、CTEのリスクがある生存人の脳で、タウとアミロイドの蓄積の検出が可能と報告した(Stern RA, et al. N Engl J Med. 2019 Apr 10. [Epub ahead of print])。元全米NFL選手群と対照群に対してタウPET、アミロイドβ PETを施行 認知症状・神経精神症状を有する元NFL選手と、外傷性脳損傷の既往がない無症状の男性(対照)において、脳内のタウとアミロイドβの蓄積を測定するために、それぞれflortaucipir PETとflorbetapir PETを行った。自動画像解析アルゴリズムを用いて、領域ごとのタウの標準取り込み比(SUVR:小脳における放射能を基準とする特定脳領域の放射能比)を2群間で比較し、元選手群のSUVRと症状の重症度および競技年数との関連を探索的に検討した。元選手群では、両側上前頭葉、両側内側側頭葉、左頭頂葉でタウが蓄積 元選手26例と対照31例を解析の対象とした。flortaucipirのSUVRの平均は、元選手群のほうが対照群よりも、両側上前頭葉(1.09対0.98、補正後の差の平均:0.13、95%信頼区間[CI]:0.06~0.20、p<0.001)、両側内側側頭葉(1.23対1.12、補正後の差の平均:0.13、95%CI:0.05~0.21、p<0.001)、左頭頂葉(1.12対1.01、補正後の差の平均:0.12、95%CI:0.05~0.20、p=0.002)の3領域で高かった。探索的解析では、この3領域におけるSUVRと競技年数との相関係数はそれぞれ0.58(95%CI:0.25~0.79)、0.45(95%CI:0.07~0.71)、0.50(95%CI:0.14~0.74)であった。タウの蓄積と認知機能検査および神経精神学的検査のスコアとの間に関連は認められなかった。元選手1例にのみ、アルツハイマー病患者と同程度のアミロイドβの蓄積が認められた。CTEのリスクがある生存人の脳で、タウとアミロイドの蓄積の検出が可能 生存し、認知症状・神経精神症状を有する元NFL選手群では、CTEの影響を受けている脳領域においてPETで測定されるタウの蓄積レベルが対照群よりも高く、アミロイドβの蓄積レベルは高くなかった。CTEに関連するタウの蓄積上昇が個々の人で検出できるかどうかについては、さらなる研究が必要である。神経変性疾患のPETによる神経病理学的診断の時代へ CTEの神経病理学的診断が、タウPET、アミロイドβ PETの施行により、生存人の脳で可能となる時代がやってきた。近年、多くの神経変性疾患が、タウやアミロイドβなどのmisfolded proteinsが脳内に蓄積することによって生じることが明らかにされつつある。また、これらのmisfolded proteinsを標的とするPET診断薬の開発により、多くの神経変性疾患では、PETによる生前の病理診断が可能となりつつある。しかしながら、アルツハイマー型認知症ですら、それぞれのmisfolded proteinsの脳内蓄積のパターンと、疾病の進行度との間には、必ずしも明確な関係が見いだせず、PET画像から有用な臨床指標を見いだす道は、いまだ途上にあることを忘れてはならない。

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血液1滴で13がん種を同時診断、日本発miRNA測定技術

 血液中に含まれるマイクロRNA(miRNA)をマーカーとして、13種類のがんを同時診断する検査システムの開発が進み、実用化が近づいている。2019年3月1日、都内で「1滴の血液や尿で、がんが分かる時代へ」と題したメディアセミナーが開催された(共催:日本臨床検査薬協会、米国医療機器・IVD工業会)。落谷 孝広氏(国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野)が登壇し、自身が開発のプロジェクトリーダーを務めるmiRNAによるリキッドバイオプシーの精度や、実用化に向けた動きなどについて解説した。miRNAはctDNAと何が違うのか リキッドバイオプシーの解析対象としては、米国を中心に開発の進む血中循環腫瘍DNA(ctDNA)が知られている。ctDNAなどの従来の腫瘍マーカーが、がん細胞のアポトーシスに伴って血液中で検出されることと比較し、miRNAはがん細胞の発生初期から血液中を循環するため、より早期の診断が可能だという。 本邦では、「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」が2014年から始動。国立がん研究センター(NCC)、国立長寿医療研究センター(NCGG)が保有するバイオバンクを活用し、膨大な患者血清等の検体を臨床情報と紐づけて解析、血中miRNAをマーカーとした検査システムの開発に取り組んできた。miRNA、13がん種について高い感度で診断可能なことを確認 日本人に多い13種類のがん(胃がん、大腸がん、食道がん、膵臓がん、肝がん、胆道がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、神経膠腫、肉腫)をターゲットとして、対照群を含めて約5万3,000検体(2019年2月現在)が解析された。その結果、たとえば乳がんの場合、5つのmiRNAの組み合わせによって、感度97%/特異度92%で診断できることが確認された1)。「特異度92%というのは、乳がんではない100人のうち、8人が乳がんと診断される(偽陽性)ということ」と落谷氏。「100%でない限り、もちろん過剰診断には留意しなければならない。しかし非侵襲的であることも含め、次の検査につなげる早期のスクリーニングツールとしては、非常に有力だといえる」と話した。 その他、卵巣がん(感度99%/特異度100%)2)、膵がん(98%/94%)、大腸がん(99%/89%)、膀胱がん(97%/99%)3)、前立腺がん(96%/93%)など、いずれもmiRNAのマーカーとしての高い感度が確認されている。miRNAは認知症や脳卒中のマーカーとしても有望 これらの研究成果をもとに、現在4社が実用化に向けて開発を進めている。血液検体から13種類のがんを全自動で検出するための機器、検査用試薬や測定キットなどが開発中だという。また、今回の研究結果とこれまでのmiRNA関連の研究結果を機械学習に入れ込み、全部で2,655種類あるmiRNAの中から、現状では、およそ500種類程度をチェックするがんの診断モデルが構築されている。このモデルは、判別精度をより高めるためのブラッシュアップが続けられているという。 miRNAはエクソソームに内包されており、エクソソームは分泌元となる細胞の特徴を反映することから、がん以外の疾患のマーカーとしても活用が期待される。本プロジェクトではすでに、認知症と脳卒中で有望な結果がでている。認知症では、アルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体認知症をmiRNAは高感度で判別した。また、症例数が少ないデータではあるが、軽度認知機能障害32例で、半年後の認知症への進行の有無が100%の確率で予測されている4)。さらに、これまで有力なマーカーが確認されていない脳卒中のリスクマーカーとしてもmiRNAは有用であることが確認され、近く発表が予定されている。(2019年12月25日 記事の一部を修正いたしました)

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NSCLCの4ドライバー遺伝子を同時診断、オンコマインに追加承認

 進行非小細胞肺がん(NSCLC)の一次治療の選択において、これまで多くの検査時間と検体量を用いながら1つずつ診断してきた複数のドライバー遺伝子を、一度の解析で同時診断することが可能になる。サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ(グループ本社:東京都港区、代表:室田 博夫)は2月26日、次世代シーケンシング(NGS)技術を用いた遺伝子診断システム「オンコマイン Dx Target Test CDxシステム」の対象を、NSCLCの4ドライバー遺伝子に拡大し、8種類の分子標的薬治療の適応判定を可能とする一部変更承認を厚生労働省より取得したことを発表した。 同システムはBRAF遺伝子変異を有するNSCLCに対する、ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法のコンパニオン診断薬として承認(2018年4月)・保険償還(同12月)されている。今回の一部変更承認の取得で、BRAF遺伝子変異(V600E)に加え、EGFRエクソン19欠失変異およびEGFRエクソン21 L858R変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子の検出が可能となり、コンパニオン診断システムとして下記の分子標的薬における治療適応の判定ができるようになる。EGFR遺伝子変異:ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブALK融合遺伝子:アレクチニブ、クリゾチニブROS1融合遺伝子:クリゾチニブBRAF遺伝子変異:ダブラフェニブ+トラメチニブ併用(2018年承認済) 今回、同システムの臨床性能評価はLC-SCRUM-Japanに蓄積された検体、遺伝子解析データを活用して行われ、これまでの1遺伝子1検査の検査法と同等の検出性能を有することが確認されている。今後はマルチ遺伝子診断法として、保険償還が検討される予定。 なお、今回の承認に伴い、「オンコマイン Dx Target Test CDxシステム」に製品名が一部変更されている。■参考サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループプレスリリース国立がん研究センタープレスリリース■関連記事ダブラフェニブ・トラメチニブ併用、BRAF変異肺がんに国内承認分子標的治療薬の新たな薬剤耐性メカニズム発見/LC-SCRUM-Japan

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ペムブロリズマブのMSI-H固形がんが国内承認…臓器横断的がん治療が現実に/MSD

 MSD株式会社は、2018年2月12日、抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)について、「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」の国内製造販売承認事項一部変更の承認を取得した。この適応拡大は医薬品の条件付き早期承認制度の適用を受けていた。 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)とは、傷ついたDNAを修復する機能が低下していることを示すバイオマーカー。細胞は、DNA複製時に自然に起こる複製ミスを修復する機能をもっているが、この修復機能の低下によって、DNAの繰り返し配列(マイクロサテライト)が正常な細胞と異なる状態になっていることをマイクロサテライト不安定性(MSI)と呼び、このMSIが高頻度に起きている現象を高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)と呼ぶ。 MSI-High固形がんは、大腸がん、胃がんや膵臓がんといった消化器系のがんのほか、子宮内膜がんや卵巣がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、甲状腺がんなどでも報告されている。大腸がんの約6%、子宮内膜がんの約17%にMSI-High固形がんがみられたとの報告がある。 この適応拡大にあたっては、治療歴を有するMSI-High固形がんを対象とした2つの国際共同第II相試験において、ペムブロリズマブの有効性および安全性が示された。1つは、治療歴を有するMSI-Highの結腸・直腸がん患者61名を対象にしたKEYNOTE-164試験(コホートA)。この試験での奏効率(ORR)は27.9%(95%CI:17.1~40.8)であった。対象者の57.4%に副作用が認められ、主な副作用(10%以上)は、関節痛16.4%、悪心14.8%、下痢13.1%、無力症11.5%およびそう痒症11.5%であった。もう1つは、治療歴を有するMSI-Highの結腸・直腸以外の固形がん患者94名を対象にしたKEYNOTE-158試験。この試験でORRは37.2%(95%CI:27.5~47.8)であった。対象者の61.7%に副作用が認められ、主な副作用(10%以上)は、疲労11.7%およびそう痒症11.7%であった 共通のバイオマーカーに基づいてがん種横断的に効能・効果(適応)を有するがん治療薬は、国内初となる。 なお、ペムブロリズマブの適応判定を目的としたMSI-Highを検出するためのコンパニオン診断薬として、株式会社ファルコバイオシステムズの「MSI検査キット(FALCO)」が承認されている。■関連記事ペムブロリズマブ、臓器横断的ながんの適応取得:FDA小細胞肺がんへのペムブロリズマブ単独投与、PD-L1陽性例でより高い効果(KEYNOTE-158)/ASCO2018いよいよ臨床へ、がん種を問わないMSI-H固形がんをどう診断し、治療していくかMSI-H固形がんへのペムブロリズマブ、日本人サブ解析結果(KEYNOTE-158)/癌治療学会 いよいよ臨床へ、がん種を問わないMSI-H固形がんをどう診断し、治療していくか

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いよいよ臨床へ、がん種を問わないMSI-H固形がんをどう診断し、治療していくか

 2017年の米国FDAでの承認に続き、本邦でもがん種横断的な免疫チェックポイント阻害薬による治療法が臨床現場に登場する日が近づいている。がん種によって頻度が異なる高度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)の固形がんを有する患者を、どのように診断して治療につなげていくのか。2018年11月16日、都内で「キイトルーダとがん種を横断したMSI診断薬利用の意義と今後の医療に与えるインパクト」と題したメディアセミナーが開催され(主催:株式会社ファルコホールディングス)、吉野 孝之氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科長)が講演した。MSI-Hの固形がんに強烈に効く可能性がある薬 米国で39のがん種、1万例以上を対象とした研究で、MSI-Hの固形がんは27がん種、3.8%で確認されている1)。全体でみると大きなポピュレーションとは言えないが、「これまでの試験結果から、MSI-Hの固形がん患者に対するペムブロリズマブの効果は“著効”と言えるもので、膵がんなどの一般的に予後が悪いがん種でも完全奏効する例が確認された意義は大きく2)、今までの治療体系を大きく変えるものと言える」と吉野氏。対象となる患者を確実に診断していくことの重要性を指摘した。MSI検査は腫瘍部組織のみで可能。ただし慎重になるべき症例も MSI-H固形がんに対するペムブロリズマブの適応拡大に先立ち、本邦では2018年9月10日にMSI検査キット(FALCO)がコンパニオン診断薬として製造販売承認を取得し、12月1日より保険適用されている (保険点数は2,100点)。FDAの承認ではコンパニオン診断薬の指定はなく、がん種横断的なコンパニオン診断薬が承認されたのは世界初。従来法では、正常部と腫瘍部の組織が必要だったが、本キットを使った検査では腫瘍部の組織のみで検査可能な点が特徴だという。吉野氏は、「腫瘍部の組織だけで検査可能なため、MSI検査を追加するに当たり、検体採取について現場で新たな手順を加える必要がないことは大きい」と話した。 ただし、腫瘍組織のみで判断することに慎重になるべき症例も存在する。本検査法では、マルチプレックスPCR法による電気泳動波形を目視で判定するが、特定のがん種で正常範囲として設定された波形とのズレが小さく、腫瘍組織のみでの判断が難しい場合があるという。吉野氏は「大腸がんでは正常範囲とのズレが大きく、明らかな波形の違いがみられるが、子宮がんや卵巣がん、乳がんなどではズレが小さく、判断が難しいケースが確認された。そのような場合は、正常部との比較が必要になる」と話し、特にこれらのがん種では慎重な対応を求めている。MSI-Hを有する固形がんにペムブロリズマブの適応を追加 固形がんにおけるMSI-H頻度については、子宮内膜がんや胃がん、大腸がんや膵がんなど、婦人科系・消化器系がんで高い傾向が報告されている2,3)。しかし日本人では消化器がん以外のデータがほとんどなく、まずはそのデータを蓄積していく必要性を吉野氏は指摘した。米国のデータでは、悪性リンパ腫や急性骨髄性白血病(AML)など12のがん種ではMSI-Hが確認されていない1)。「がん種横断的といってもどこまで検査すべきか、現状では世界的に指針がない。患者さんにとっては非常に大きな問題であることは間違いなく、どのように適正使用を促していくかは大変大きな問題。何らかの形で国際的なコンセンサスを取り、レコメンデーションを発出していく必要があると考えている」と同氏はコメントした。 また、「臓器横断的なゲノムスクリーニングに対する知識の習得」を目的とした医師・CRC向けのe-leaningシステム(e Precision Medicine Japan)を紹介し、MSI-H(MMR genes)を含む各ドライバー遺伝子別のエビデンスや薬剤承認状況等の把握・学習に役立ててほしいと話した。 なお、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は2018年11月29日、ペムブロリズマブの適応に、「進行・再発のMSI-Hを有する固形がん」を追加することを了承した(化学療法後に増悪しており、標準的な治療が困難な場合に限る)。近く承認が見込まれている。

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がん種横断的MSI検査キット保険適用

 株式会社ファルコバイオシステムズが製造販売を行う、局所進行性又は転移性の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)がんを検出するコンパニオン診断薬「MSI検査キット(FALCO)」を用いた検査が平成30年12月1日より保険適用となった。 「MSI検査キット(FALCO)」は、局所進行性又は転移性のMSI-Highがんに対する効能・効果について製造販売承認事項一部変更承認申請中であるペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)の適応を判定するためのコンパニオン診断薬。 本品は、5種類の1塩基繰り返しマーカー(プロメガパネル)を1本のチューブでPCR増幅を行い腫瘍組織のマイクロサテライト不安定性を検出するマルチプレックスPCR-フラグメント解析法を採用している。従来のマイクロサテライト不安定性検査では、腫瘍組織の泳動波形を正常組織の泳動波形と比較して判定する事が必須であったが、本品では腫瘍組織のみでの判定が可能。 さらに臨床性能試験において大腸がん以外の胃がん、子宮がん、乳がん、膵がんなどのMSI-Highの検出について確認をしており、世界で初めてのがん種横断的なコンパニオン診断薬である。 ・検査項目:マイクロサテライト不安定性検査(局所進行若しくは転移が認められた標準的な治療が困難な固形癌におけるマイクロサテライト不安定性検査)・保険点数:2,100 点

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添付文書改訂:ゼルヤンツ錠/トレリーフ錠/リムパーザ錠【下平博士のDIノート】第7回

ゼルヤンツ錠5mg画像を拡大する<使用上の注意>過去の治療において、ほかの薬物療法(ステロイド、免疫抑制薬または生物製剤)による適切な治療を行っても、疾患に起因する明らかな臨床症状が残る場合に投与します。<用法・用量>導入療法では、通常、成人に、トファシチニブとして1回10mgを1日2回、8週間(効果不十分な場合はさらに8週間)投与し、維持療法では1回5mgを1日2回経口投与します。なお、維持療法中に効果が減弱した患者、過去の薬物治療において難治性の患者(TNF阻害薬無効例など)では、1回10mgを1日2回投与することができます。感染症リスクの増加が予想されるので、本剤とTNF阻害薬などの生物製剤や、タクロリムス、アザチオプリンなどの強力な免疫抑制薬(局所製剤以外)との併用はできません。<Shimo's eyes>関節リウマチ治療薬として用いられてきたJAK阻害薬のトファシチニブに、国の指定難病である潰瘍性大腸炎の適応が追加されました。潰瘍性大腸炎の国内患者数は、2016年までの10年間で約1.9倍に増えました。2016年11月にメサラジン錠(商品名:リアルダ錠1200mg)、2017年12月にブデソニド(同:レクタブル2mg注腸フォーム)が相次いで発売され、海外で広く使用されているベドリズマブ(同:エンタイビオ点滴静注)も2018年7月に承認取得しています。治療選択肢が増えることにより、治療の目標となる寛解導入や寛解維持が以前より容易になることが期待されます。また、個々の患者さんの症状・生活習慣・経済状況などに合わせた治療で、より患者さんのQOL向上が見込めるでしょう。トレリーフ錠/OD錠25mg画像を拡大する<用法・用量>通常、成人にゾニサミドとして、1日1回25mgを経口投与します。<Shimo's eyes>ゾニサミドはもともと抗てんかん薬として開発され、のちにパーキンソン病治療薬として開発された薬剤です。抗てんかん薬としてはエクセグランの商品名で、パーキンソン病治療薬としてはトレリーフの商品名で、効能・効果と用法・用量を区別して発売されています。レビー小体型認知症のパーキンソニズムは、パーキンソン病のパーキンソニズムと原因や症状が同じであることから開発が進められ、追加承認となりました。ゾニサミドは、ドパミンレベルを上昇させることで、レボドパの抗パーキンソン作用を増強・延長し、レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムを改善します。通常、レボドパ含有製剤との併用療法で使用されると予想できます。レビー小体型認知症に伴うパーキンソニズムを適応症とする初めての薬なので、患者さんの新たな選択肢として治療への貢献が期待されます。リムパーザ錠100mg/150mg画像を拡大する<使用上の注意>(1)本剤の術前・術後薬物療法としての有効性および安全性は確立していません。(2)アントラサイクリン系抗悪性腫瘍薬およびタキサン系抗悪性腫瘍薬を含む化学療法歴のある患者を対象とします。(3)承認された体外診断薬などを用いた検査により、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異(病的変異または病的変異疑い)を有することが確認された患者に投与します。<用法・用量>通常、成人にはオラパリブとして300mgを1日2回、経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。100mg錠と150mg錠の生物学的同等性は示されていないため、300mgを投与する際に100mg錠を使用することはできず、100mg錠は減量時のみ使用します。<Shimo's eyes>オラパリブは、DNA損傷応答(DDR)機能を標的とした新規の作用機序を持つ、世界初のPARP阻害薬です。DNAの相同組換え修復機構が機能していないがん細胞に対して特異的に細胞死を誘導します。もともとは白金系抗悪性腫瘍薬感受性の再発卵巣がん治療薬として発売されましたが、今回の適応追加により、国内で初めて、BRCA遺伝子陽性の遺伝性乳がん治療薬として使用されることになりました。BRCA遺伝子は、アンジェリーナ・ジョリーさんが陽性であったことでも知られています。本剤は、悪心・嘔吐が高頻度で認められているため、服薬指導の際に、脱水が起こらないように水分補給や食事の工夫などのアドバイスができるとよいでしょう。

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オシメルチニブ1次治療認可に備え、コバスが国内適用拡大

 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社は2018年8月17日、ゲノムDNA中のEGFR遺伝子変異を検出する体外診断用医薬品コバス EGFR変異検出キット v2.0が、オシメルチニブメシル酸塩のEGFR変異陽性非小細胞肺がん1次治療対象者の層別を目的としたコンパニオン診断薬として7月31日に一部変更承認(適応追加)され、保険適用されたと発表した。 同製品は一次治療におけるEGFR-TKI治療対象患者の適応判定補助として、ゲフィチニブ、エルロチニブおよびアファチニブのコンパニオン診断薬として承認されている。また、2次治療におけるT790M変異陽性患者の層別のため、すでにオシメルチニブメシルのコンパニオン診断として承認されていたが、今回、オシメルチニブが1次治療にも適応申請され(8月17日時点未承認)、コバス EGFR変異検出キット v2.0の適応が拡大された。

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【JSMO2018みどころ】免疫療法とがんゲノム医療を中心に

 2018年7月19日(木)から3日間にわたって、第16回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催される。これに先立ち先月、日本臨床腫瘍学会(JSMO)のプレスセミナーが開かれ、がん治療の最新動向と、今回のJSMOで注目すべき各領域のトピックが紹介された。本稿では、「がんゲノム医療」「がん免疫療法」の注目演題をセミナーでの演者のコメントとともに紹介する。 ■がんゲノム医療 西尾 和人氏(近畿大学医学部ゲノム生物学教室 教授)が登壇。「ゲノム医療の実装に向けた体制整備が急ピッチで進む中で、既存の枠組みを超えた取り組みが必要となる」と話し、本学術集会のメインテーマ“Beyond Borders -Nation, Organ, Profession-”をキーワードに注目演題を紹介した。[がんゲノム医療の注目演題]ASCO/JSMO合同シンポジウム「Precision medicine: current status and future perspectives」 日時:7月19日(木)14:30~16:00 場所:Room 9(神戸ポートピアホテル本館 B1F 偕楽)「ASCO PresidentによるAJS-1 では、“22%の奇跡は増えるか”がキーワード。続いてのAJS-2では、JCO Precision Oncologyのチーフエディターが次世代のリスク評価と治療へのアプローチについて講演予定」合同シンポジウム1「がんゲノム医療」(日本癌学会/日本癌治療学会/日本臨床腫瘍学会) 日時:7月19日(木)9:00~11:00 場所:Room 1(神戸ポートピアホテル南館 1F ポートピアホール)「次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析システムの規制(JS1-1)や、NCCパネル検査の実装(JS1-3)、NGS検査ガイダンスの整備と海外ガイダンスとの比較(JS1-5)など、本邦における実装に向けた各取り組みが紹介される」合同シンポジウム3 「Precision medicine時代におけるがん薬物療法と放射線療法:現状と今後の戦略」(日本放射線腫瘍学会/日本臨床腫瘍学会) 日時:7月19日(木)12:30~14:30 場所:Room 6(神戸国際展示場 2 号館 3F 3A会議室)「放射線治療におけるがんゲノム解析を用いたプレシジョンメディシン(JS3-5)は、ゲノム医療が治療モダリティを超えるかという点からも注目される」シンポジウム 11「リキッドバイオプシー」 日時:7月20日(金)8:30~10:30 場所:Room 2(神戸国際展示場 2 号館 1F コンベンションホール南)「低侵襲で繰り返しの検査が可能となれば、治療しながら同時進行で後治療を決めていくことが標準的になるかもしれない。Exosome(SY11-1)やCAPP seq(SY11-4)など、新しい技術の臨床応用に向けた研究が紹介される」「病理学(特別講演2)、大腸がん(IS4)、婦人科腫瘍(IS6)、肺がん(IS10)と各領域のセッションでもゲノム医療が取り上げられる」特別講演 2 日時:7月19日(木)12:30~14:10 場所:Room 11(神戸国際会議場 3F 国際会議室) SL2-1 病理診断における人工知能の可能性 SL2-2 医療におけるAIの可能性International Symposium 4「大腸癌のmolecular subtype と新規コンパニオン診断薬の可能性」 日時:7月20日(金)8:30~10:00 場所:Room 1(神戸ポートピアホテル南館 1F ポートピアホール)International Symposium 6「Future Perspectives of PARP inhibitor」 日時:7月20日(金)8:30~10:30 場所:Room 9(神戸ポートピアホテル本館 B1F 偕楽)International Symposium 10「Future perspectives of treatment for NSCLC」 日時:7月21日(土)11:00~12:30 場所:Room 8(神戸ポートピアホテル本館 B1F 偕楽)「“職種を超えた取り組み”という観点ではSY 4、ALL JAPANでの体制整備についてはSY 10で、遺伝性腫瘍の専門家とオンコロジストがどのように協業していくかについては、SY 29で議論される予定」シンポジウム 4「がんプロフェッショナル養成プランにおけるゲノム医療教育の推進」 日時:7月19日(木)14:30~16:00 場所:Room 3(神戸国際展示場 1 号館 2F Hall A)シンポジウム 10「日本におけるがんゲノム医療の展開」 日時:7月20日(金)14:50~16:50 場所:Room 1(神戸ポートピアホテル南館 1F ポートピアホール)シンポジウム 29「遺伝性がんへの取り組み」 日時:7月21日(土)10:30~12:30 場所:Room 9(神戸ポートピアホテル本館 B1F 偕楽)■がん免疫療法 田中 謙太郎氏(九州大学病院胸部疾患研究施設 助教)が登壇し、「2018年5月現在、抗PD-1抗体は6つのがん腫(悪性黒色腫、非小細胞肺がん、胃がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頚部がん)で、抗PD-L1抗体は2つのがん腫(非小細胞肺がん、メルケル細胞がん)で、抗CTLA-4抗体と抗CTLA-4抗体/抗PD-1抗体併用は悪性黒色腫で適応となっており、免疫チェックポイント阻害薬は、多がん腫におけるキードラックとしての地位を確立しつつある。新規併用療法の開発や治療戦略についての臓器別の講演のほか、副作用管理に関するシンポジウムに注目いただきたい」と話した。[がん免疫療法の注目演題]合同シンポジウム3 「Precision medicine時代におけるがん薬物療法と放射線療法:現状と今後の戦略」(日本放射線腫瘍学会/日本臨床腫瘍学会) 日時:7月19日(木)12:30~14:30 場所:Room 6(神戸国際展示場 2 号館 3F 3A会議室) JS3-1 局所進行非小細胞肺癌に対する免疫チェックポイント阻害剤への期待 JS3-2 抗PD-1/PD-L1抗体治療と放射線治療の併用療法の確立を目指した生物学的研究「根治にむけた併用の可能性が、臨床試験結果と基礎的研究から論じられる予定」シンポジウム 23「免疫チェックポイント阻害剤の副作用とその対策」 日時:7月21日(土)14:40~16:40 場所:Room 2(神戸国際展示場 2 号館 1F コンベンションホール南)「免疫関連有害事象の管理について、最新の知見が紹介される」「腎がん(SY7-1)、悪性黒色腫(SY7-4)、頭頚部がん(ISY5-2)、悪性リンパ腫(SY15-1)、肺がん(ISY7-4)の各臓器ごとに、最適化された治療戦略についての講演が予定されている」シンポジウム7「メラノーマおよび腎癌に対する免疫療法および標的療法:治療戦略上の類似点と相違点」 日時:7月19日(木)14:30~16:00 場所:Room 6(神戸国際展示場 2 号館 3F 3A 会議室) SY7-1 腎がんに対する免疫治療:メラノーマとの相違点 SY7-4 進行期悪性黒色腫の全身療法:現状と今後の展開International Symposium 5「頭頸部がんに対する免疫療法」 日時:7月20日(金)8:30~10:30 場所:Room 5(神戸国際展示場 2 号館 2F 2A 会議室) ISY5-2 Current Status of Immune Check Point Inhibitor for Recurrent or Metastatic Head and Neck Cancerシンポジウム 15「造血器腫瘍に対する治療概念の進化」 日時:7月20日(金)8:30~10:30 場所:Room 6(神戸国際展示場 2 号館 3F 3A 会議室) SY15-1 悪性リンパ腫の治療:進歩と展望International Symposium 7「肺がん治療における免疫チェックポイント阻害剤の最新 UPDATE」 日時:7月21日(土)8:30~10:30 場所:Room 2(神戸国際展示場 2 号館 1F コンベンションホール南) ISY7-4 Driver Oncogene陽性肺がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の可能性【第16回日本臨床腫瘍学会学術集会】 会期:2018年7月19日(木)~21日(土) 会場:神戸国際展示場・神戸国際会議場・神戸ポートピアホテル 会長:中西 洋一(九州大学胸部疾患研究施設 教授) テーマ:Beyond Borders -Nation, Organ, Profession-第16回日本臨床腫瘍学会学術集会ホームページはこちら

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ダブラフェニブ・トラメチニブ併用、BRAF変異肺がんに国内承認

 ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:綱場 一成)は2018年3月23日、BRAF阻害薬ダブラフェニブ(商品名:タフィンラー)およびMEK阻害薬トラメチニブ(メキニスト)の併用療法について、BRAF遺伝子変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)の治療薬として、製造販売承認事項一部変更の承認を取得した。 今回の承認は、BRAF V600E遺伝子変異を有する切除不能な進行・再発のNSCLC患者に対する国際共同第II相臨床試験(E2201試験:第II相非盲検非対照試験)における安全性と有効性の評価に基づいている。ダブラフェニブ150mg x 2/日、トラメチニブ2mg x 1/日を投与した57例の化学療法歴のある患者の奏効率(ORR)は63.2%、化学療法歴のない患者36例のORRは61.1%であった。E2201試験においてダブラフェニブ・トラメチニブの併用投与で観察された主な副作用は、発熱(49.5%)、悪心(38.7%)、嘔吐(26.9%)、皮膚乾燥(26.9%)等であった。 ダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法には、BRAF遺伝子変異を特定するコンパニオン診断薬として、サーモフィッシャーサイエンティフィック ジャパングループ・ライフテクノロジーズジャパン株式会社の「オンコマイン Dx Target Test CDxシステム」を使用する必要がある。ノバルティスでは、同併用療法を必要とする可能性のあるNSCLC患者を対象として、一定期間、当該診断検査にかかる費用を負担する「BRAF V600E検査結果提供プログラム」の実施を準備中。詳細は決定後に改めて案内する予定とのこと。 BRAF V600変異陽性の進行NSCLC治療におけるダブラフェニブ・トラメチニブ併用療法は、米国では2017年6月に、欧州では2017年4月に承認されている。■関連記事ダブラフェニブ・トラメチニブ併用、BRAF変異肺がん1次治療で奏効率64%/ESMO2017BRAF変異肺がん、ダブラフェニブ・トラメチニブ併用が承認:FDABRAF変異肺がんダブラフェニブ・トラメチニブ併用がEUで承認

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アレクチニブ耐性の日本人進行NSCLCへのセリチニブの有効性は(ASCEND-9)/日本肺癌学会

 ALK遺伝子転座陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対する一次治療として、アレクチニブが本邦で推奨されているが、多くの患者で耐性獲得とともに、再び進行する。第58回日本肺癌学会学術集会で、国立がん研究センター中央病院の堀之内 秀仁氏が、アレクチニブ治療歴のあるALK陽性NSCLC患者における第2世代ALK-TKIセリチニブの第II相非盲検単群試験、ASCEND-9の結果について発表した。 対象は、アレクチニブ治療歴(±クリゾチニブおよび/または1レジメンの化学療法歴)があり、全身状態が良好(WHO PS 0~1)なALK陽性の局所進行・転移性NSCLC患者で、日本国内の9施設から20例が組み入れられた。28日間を1サイクルとして、セリチニブ(750mg/日)が、増悪または許容できない有害事象が発現するまで投与された。主要評価項目は、RECIST v1.1による奏効率(ORR)で、副次評価項目は、疾患制御率(DCR)、奏効までの期間(TTR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性などであった。 患者背景については、被験者の多くがStageIV (19例) で、StageIIIBが1例であった。12例で脳転移がみられた。前治療歴については、4例がクリゾチニブによる治療を受けており、14例が2レジメン以上の治療を受けていた。また、アレクチニブで完全奏効(CR)が得られていたのが3例、部分奏効(PR)が得られていたのが14例であった。 試験の結果、5例の患者で奏功が確認され(CRが1例、PRが4例)、ORRは25%(95%信頼区間[CI]:8.7~49.1)であった。DCRは70%(95%CI:45.7~88.1)、DORおよびTTRの中央値はそれぞれ6.3ヵ月(95%CI:3.5~9.2)、1.8ヵ月(1.8~2.0)。PFS中央値は、3.7ヵ月(95%CI:1.9~5.3)だった。 有害事象(AE)については、すべての患者でGrade1以上のAEが発現した。重篤な有害事象(SAE)は10例(50%)で発現した。AE発現のために投薬を中止したのが3例(15%;貧血、急性腎障害、および胸水)で、投薬中断が必要となったのは18例(90%;ALT増加、下痢、血中クレアチニン上昇など)であった。多くみられたAEは下痢(17 例[85%])、悪心(16例 [80%])および嘔吐(13 例[65%])であった。■参考NCT 02450903(Clinical Trials.gov)■関連記事セリチニブ、ALK陽性肺がん1次治療に国内適応拡大ALK阻害剤のコンパニオン診断薬発売/ロシュ・ダイアグノスティックス

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セリチニブ、ALK陽性肺がん1次治療に国内適応拡大

 ノバルティス ファーマ株式会社(代表取締役社長:綱場一成)は2017年9月22日、セリチニブ(商品名:ジカディア)について、ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん(NSCLC)に対する1次治療として、製造販売承認事項一部変更の承認を取得したことを発表。 今回の承認は、多施設共同無作為化オープンラベル国際第III相臨床試験(A2301試験)の結果に基づいている。化学療法歴のないALK陽性の切除不能な進行・再発のNSCLC患者376例(うち日本人患者12例)を対象としたこの試験では、主要評価項目である独立中央画像評価機関の判定に基づく無増悪生存期間(中央値)は、セリチニブ群で16.6カ月(95%CI:12.6~27.2)であったのに対し、化学療法群では8.1カ月(95%CI:5.8~11.1)であり、化学療法と比べてセリチニブ群において有意な延長が認められた(HR=0.55、95%CI:0.42~0.73、p<0.0001)。 さらに、測定可能な脳転移を有する患者における頭蓋内病変の奏効率は、セリチニブ群で72.7%(95%CI:49.8~89.3)であったのに対し、化学療法群では27.3%(95%CI:10.7~50.2)であり、脳転移に対する効果も認められた。 A2301試験における主な副作用は、下痢、悪心、ALT(GPT)上昇、嘔吐、AST(GOT)上昇、γ-GTP上昇などで、安全性のプロファイルにおいて、新たなリスクは特定されなかった。 なお、セリチニブのコンパニオン診断薬として、ロシュ・ダイアグノスティックス社の体外診断用医薬品ベンタナ OptiView ALK(D5F3)が、2017年8月に承認されている。■参考ノバルティスファーマ株式会社ニュースリリースA2301試験(Clinical Trials.gov)■関連記事セリチニブALK陽性肺がんの1次治療に適応拡大:FDA

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ALK阻害剤のコンパニオン診断薬発売/ロシュ・ダイアグノスティックス

 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(本社:東京都港区/代表取締役社長 兼 CEO:小笠原 信)は、非小細胞肺がん患者のうち、ALK陽性患者の判定補助に用いる体外診断用医薬品「ベンタナ OptiView ALK (D5F3)」を2017年9月15日に発売する。 「ベンタナ OptiView ALK (D5F3)」は、ALK阻害剤のうち、クリゾチニブ(商品名:ザーコリ)およびセリチニブのコンパニオン診断薬として、治療効果が見込めるALK陽性非小細胞肺がん患者の判定補助に用いる。免疫組織化学(IHC)法を測定原理とし、ベンタナ シリーズの全自動免疫染色装置を用いて検出を行う。 全自動染色のため煩雑な手技が必要なく、光学顕微鏡による確認ができるため、院内検査に取り入れやすく、効率的かつ迅速な検査が期待できるという。保険点数は2,700点。■参考ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社プレスリリース

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ROS1肺がん治療薬と診断薬の承認にLC-SCRUM-Japanの研究成果

 国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)は2017年8月18日、同センター東病院での多施設共同研究全国肺がん遺伝子診断ネットワークLC-SCRUM-Japan(研究代表者:同東病院、呼吸器内科長後藤功一氏)の成果および治療開発への貢献により、ROS1融合遺伝子陽性の切除不能進行・再発非小細胞肺がん(ROS1肺がん)に対する治療薬として、分子標的薬クリゾチニブの適応拡大が承認されたと発表。あわせて、ROS1融合遺伝子検出の体外診断用医薬品(ROS1融合遺伝子検出キット)が、この治療におけるコンパニオン診断薬として承認された。 LC-SCRUM-Japanには全国240以上の診療施設が参加し、4,000例を超える肺がん患者の遺伝子スクリーニングが行われた。2013年9月から開始されたROS1肺がんに対するクリゾチニブの承認申請のための臨床試験には、LC-SCRUM-Japanの遺伝子スクリーニングで発見されたROS1肺がん患者が多数登録され、またその診断薬の開発には、これまでの遺伝子スクリーニングのデータが活用された。ROS1肺がんは非小細胞肺がんの1~2%という希少ながんにも関わらず、臨床試験の開始から4年で治療薬、および診断薬の承認に至ったことには、LC-SCRUM-Japan参加全施設が協力して行った大規模な遺伝子スクリーニングが大きく貢献した、としている。 この試験結果をもとに、わが国では、2017年5月にROS1肺がんに対する治療薬としてクリゾチニブの適応拡大が承認された。あわせて、ROS1融合遺伝子検出のための体外診断用医薬品OncoGuide AmoyDx ROS1融合遺伝子検出キットが、ROS1肺がんに対するクリゾチニブ治療のコンパニオン診断薬として承認された。■参考国立がん研究センタープレスリリース

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肺がん治療ターゲット・セラピー、未来への系譜/アストラゼネカ 第2回【肺がんインタビュー】

第2回 肺がん治療ターゲット・セラピー、未来への系譜/アストラゼネカ肺がん治療に大きな変化をもたらしたEGFR-TKIゲフィチニブ。さらに、2016年には第1・第2世代の耐性をも克服した第3世代EGFR-TKIオシメルチニブを発売したアストラゼネカ。ターゲット・セラピーを通し、肺がん治療の発展に貢献し続ける同社だが、その道のりは平坦ではなかった。同社オンコロジー事業本部マーケティング統括部長 森田慎一郎氏に、肺がん治療と共に進んできた道のりと今後の展開を聞いた。ケアネットの調査で、すべてのがん種を通し、ドクターが最もインパクトが大きいと評価した薬剤はゲフィチニブでした。ゲフィチニブは、発売前から非常に高い期待を背負っていましたが、その後の有害事象の発現で事態が大きく変わったかと思います。その当時の状況はいかがでしたかアストラゼネカ株式会社 オンコロジー事業本部マーケティング統括部長 森田 慎一郎氏メディア報道の影響が大きいのですが、ゲフィチニブは発売前から夢の新薬として扱われました。実際に、助からない患者さんがゲフィチニブにより短期間で劇的に改善するといった、従来の抗がん剤では経験したことのない効果を治験ドクターが体験しており、それも前評判を高めた要因だと思います。しかし、発売後に間質性肺炎の有害事象が発現し、一気にネガティブな報道に変わってしまいました。報道の影響は非常に大きく、患者さんがゲフィチニブによる治療を拒否するという事態が起きました。せっかくゲフィチニブが使える可能性があっても使えないという、歯がゆい思いを、臨床現場のドクターもわれわれも経験しました。有害事象発現の後に3,000例以上を対象とした特別調査と、間質性肺炎のリスク特定のためのケースコントロール試験も実施しました。このような状況の中でも、ドクターは臨床でゲフィチニブが一定の患者さんには確実に効果があるという実感を得ていました。この薬剤は絶対に必要な薬だ、とドクターが確信されていたこともあり、全面的な協力をいただき、短期間でデータを収集できました。逆風の中にはありましたが、ドクターからは訪問するたびに、良い話を聞かせてもらえるので、弊社としても勇気づけられ、逆風に倒れることなく、活動していたことを覚えています。そのような経過を経て、EGFR-TKIの位置付けが、明らかになっていくわけですね前述のとおり、どのような患者さんに効果があり、どういう患者さんに副作用が起こるのか、早い段階で日本のドクターは掴んでおられました。そこで、奏効が期待できる臨床的背景(腺がん、非喫煙者[あるいは過去少量喫煙者]、アジア人)の患者さんを対象に、IPASS試験を実施しました。予想どおり、この患者集団では著明な効果を証明しました。その後、EGFR遺伝子変異におけるEGFR-TKIの有効性が明らかになり、以前からのドクターの勘どころが、ターゲット・セラピーとして科学的に証明されました。ゲフィチニブはグローバルな薬剤ですが、日本のドクターの熱意が育ててくれた薬剤であるといえます。画像を拡大する画像を拡大する臨床背景で選択した患者で有意なPFS延長を示し、EGFR変異によるサブグループ解析では、さらなる著明な効果を示したIPASS試験EGFR-TKIの位置付けが確立していきますが、今度は耐性の問題が浮上します。そこで、耐性を克服した第3世代EGFR-TKIオシメルチニブを臨床現場に登場させますが、その経緯について教えていただけますかEGFR-TKI耐性メカニズムにT790M遺伝子が関与することは、かなり以前から明らかになっていました。臨床現場からも耐性を克服する薬剤の開発について強い要望をいただいており、多くの製品が、耐性克服に挑戦しましたが、T790Mを抑制するまで薬剤濃度を上げると、野生型EGFRチロシンキナーゼも阻害してしまい、有害事象が強くなってしまいます。画像を拡大するT790M変異症例でオシメルチニブが著明かつ有意なPFS延長を示したAURA3試験そのような中、オシメルチニブは最新テクノロジーを活用し、野生型EGFR チロシンキナーゼへの活性を抑え、T790Mを強力に阻害するようデザインされました。従来の薬剤と根本的に異なる方法で開発されたのです。実際にAURA試験などの臨床試験で、T790M変異症例に対する著明な効果を証明しています。オシメルチニブはまた、T790Mのみならず、Exon19、21といったEGFR遺伝子変異にも良好な効果を示します。現在、T790M変異から拡大し、EGFR変異の非小細胞肺がんに対する1次治療の第III相試験FLAURA試験も進行中です。その後、オシメルチニブが承認されるわけですが、承認から薬価収載までの間、同剤の無償提供をされました。その状況について教えていただけますかT790M変異の患者さんは、治療選択肢がきわめて限られています。オシメルチニブを1日も早くに使うべき患者さんが大勢おられ、臨床現場からの強い要望がありました。そういった要望にお応えするために、薬価収載前の薬剤提供を検討しました。実際に困っている患者さんに使えるよう、さまざまな方法を検討した結果、厚生労働省の定める「保険外併用療養費制度」のもと、本剤の無償提供に踏み切りました。ただし、有害事象などの問題もありますので、提供先は、治験実施施設のうち、承認された適応、用法・用量に従ってのみ使用する、弊社が実施する市販直後調査・全例調査や適正使用推進等の各種安全対策に協力いただける、といった条件に合意いただけた施設に限定しました。オシメルチニブの使用には再生検によるT790Mの確認が必要となります。とはいえ、再生検をしてもらうというのは容易ではないと思いますが画像を拡大する第3世代EGFR-TKIオシメルチニブオシメルチニブが登場するまでは、T790Mへの治療手段がなかったため、再生検という概念はなかったわけです。いわゆるゼロからのスタートですが、EGFR-TKI耐性となった患者さんに一人でも多く、治療機会を見つけていただくため、講演会などを開催し、再生検の重要性と共に、再生検の実際について広める活動を行っています。呼吸器科の先生方は気管支鏡の専門家ですが、再生検は新たなチャレンジです。そこで、スペシャリストを招いて、組織へのアプローチ、採取のテクニックなどを紹介いただきました。また、気管支鏡メーカーとタイアップして、機械を現場に持ち込んだハンズオンセミナーを開催し、実際の手技を体験いただいています。さらに、肺外、肝臓、骨、脳といった、呼吸器科がアクセスできない部位の対策として、消化器内科、整形外科、脳外科、放射線科といった他科連携のノウハウも講演会でオピニオンリーダーから共有していただきました。このような再生検の普及活動をしていますが、オシメルチニブ上市時、40%程度だった再生検実施施設が、現在では90%を超えています。海外では50%程度ですので、日本がいかに高いかわかります。この数字は、日本の先生方が、患者さんのために非常に熱心に再生検に取り組んでいることを表しているものです。われわれも何らかの形で、ここに貢献できたのではないかと思っています。組織再生検不能な患者さんのためにリキッドバイオプシーの手段があります。リキッドバイオプシーについても、保険点数が付くまで検査結果の倫理提供をなさっていましたね再生検実施率は海外とは比較にならないほど高くなりました。とはいえ、組織生検できる症例は60%で、残りの40%は患者さんの病状や腫瘍の形状など何らかの理由で生検できないというのが現状です。治療できるかもしれない患者さんが、目の前にいるのに何もできない、というジレンマが臨床現場にもわれわれにもありました。しかし、検査の保険適用には時間がかかります。その間にT790M変異検査ができないまま、状態が悪くなっていく患者さんが大勢いらっしゃいます。そのような患者さんの緊急治療を支援する観点から、保険適用前に何かできることはないか、社内で検討し、関係各省との調整を行いました。そして、オシメルチニブのコンパニオン診断薬コバスEGFR変異検出キットv2.0(ロシュ・ダイアグノスティックス)を用いたT790M血漿検査結果の倫理提供の実施に至りました。T790M検査の結果を弊社が購入、無償提供することになるのですが、再生検不能な患者さんにアクセスしてもらう環境を作りたい、という強い思いから実現できたのだと思います。今後はどのような製品で肺がん治療に貢献する予定ですか? パイプラインについて教えていただけますかこれまでEGFR-TKIを通して肺がん医療に貢献してきました。しかし、EGFR変異は非小細胞肺がん患者さんの35%程度です。残りの65%の患者さんにも貢献したいと考えています。免疫チェックポイント阻害薬は、その目標を実現する1つの候補です。われわれは、抗PD-L1抗体durvalumabを有しており、この製品を肺がん領域でも開発しています。durvalumabでは、他の免疫チェックポイント阻害薬とは異なるアプローチをしています。代表的なものの1つとして、非小細胞肺がんStageIII患者さんの化学放射線治療後の維持療法として効果を検討した、PACIFIC試験があります。Unmet Medicalニーズの高い患者集団ですが、すでにポジティブな結果が出ており、今秋の国際学会で詳細を発表する予定です。durvalumabについては、StageIVの1次治療という、より多くの患者さんを対象とした臨床試験MYSTIC試験も進行しています。この試験では、durvalumabと弊社の抗CTLA-4抗体であるtremelimumabを併用しています。PD-L1が50%未満の症例では、PD-1阻害薬の効果はどうしても低下してしまいますが、たとえば、この患者集団に対して免疫チェックポイント薬の併用がベネフィットをもたらすことができるか、といった免疫チェックポイント阻害薬の新たな可能性を検証します。この研究も今後の国際学会で発表の予定です。そのほか、私どもには多くの作用機序の異なる肺がん治療薬のパイプラインがあり、自社品の中で併用試験を組むことも容易です。今後も、さまざまな薬剤の組み合わせにもチャレンジし、肺がん治療の研究を進めていければと思っています。

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肺がんEGFRリキッドバイオプシー保険収載

 ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(本社:東京都港区/代表取締役社長 兼 CEO:小笠原 信)は、2016年12月26日に一部変更承認(適応追加)を取得したコバスEGFR 変異検出キットv2.0のEGFR T790M血漿検査が、6月28日の中医協総会で審議され、7月1日付保険適用が承認されたと発表。 コバスEGFR変異検出キットv2.0は、ゲノムDNA中のEGFR遺伝子変異を定性的に検出するキット。非小細胞肺がん治療において、EGFR-TKI投与前の初回検査に使用するとともに、EGFR-TKI耐性患者のEGFR T790M変異の検出の際、オシメルチニブ(商品名:タグリッソ)のコンパニオン診断薬として使用する。当キットは、組織検体ですでに保険適用されているが、今回、EGFR遺伝子検査(血漿)として、新たに血漿検査が保険適用された。保険収載の内容・区分:E3(改良項目)・測定項目:EGFR 遺伝子検査(血漿)・測定方法:アレル特異的リアルタイムPCR法・主な測定目的:癌組織又は血漿から抽出したゲノムDNA中のEGFR遺伝子変異(T790M)の検出(オシメルチニブメシル酸塩の非小細胞肺癌患者への適応を判定するための補助に用いる)・保険点数:2,100点留意事項:1.本検査は、肺癌の再発や増悪により、EGFR遺伝子変異の2次的遺伝子変異が疑われ、再度治療法を選択する必要があり、血漿を用いてリアルタイムPCR 法で測定した場合に、患者1人につき1回に限り算定できる。ただし、本検査の実施は、医学的な理由により、肺癌の組織を検体として、区分番号「D004-2」悪性腫瘍組織検査の「1」悪性腫瘍遺伝子検査の「イ」EGFR 遺伝子検査(リアルタイムPCR法)又は「ロ」EGFR遺伝子検査(リアルタイムPCR法以外)を行うことが困難な場合に限る。本検査の実施にあたっては、関連学会が定める実施指針を遵守すること。2.本検査を実施した場合には、肺癌の組織を検体とした検査が実施困難である医学的な理由を診療録及び診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。3.本検査、区分番号「D004-2」悪性腫瘍組織検査の「1」悪性腫瘍遺伝子検査、区分番号「D006-2」造血器腫瘍遺伝子検査又は区分番号「D006-6」免疫関連遺伝子再構成のうちいずれかを同一月中に併せて行った場合には、主たるもののみ算定する。承認・保険適用を受けている検体種と検査・組織:EGFR-TKI投与前の初回検査、EGFR T790M変異検査(オシメルチニブメシル酸塩)・血漿:EGFR T790M変異検査(オシメルチニブメシル酸塩)■参考ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社プレスリリース中央社会保険医療協議会 総会(第354回)

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医師主導で進むプレシジョン・メディシン―第15回 肺がん医療向上委員会

 4月13日(木)、都内で日本肺癌学会主催の第15回 肺がん医療向上委員会が開催され、「肺がん領域におけるプレシジョン・メディシン:その影響と将来」をテーマに後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院 呼吸器内科)が講演を行った。自身が研究代表者を務める希少肺がん領域の遺伝子スクリーニングネットワーク「LC-SCRUM-Japan」の取り組みを中心に、日本におけるプレシジョン・メディシン(精密医療)の進展と今後の展望について論じた。希少肺がんの治療薬開発を医師主導で 患者数の多いEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子に対しては分子標的薬の開発が進んでいるが、希少な遺伝子変化に対する製薬会社主導の積極的な治療薬開発、臨床試験の実施は難しい。しかし、非小細胞肺がんの1~2%で希少といわれる遺伝子変化であっても、年間約7万人が亡くなる肺がん患者数を考えれば決して小さな数字ではない、と後藤氏。 そこで2013年2月、全国の医療機関で対象患者を集めるための遺伝子スクリーニングを行い、医師主導の臨床試験を実施して治療薬開発を目指すプロジェクト「LC-SCRUM-Japan」が発足。非扁平上皮非小細胞がん患者を対象にスタートし、2015年には扁平上皮がん、小細胞がん患者にも対象が拡大され、2017年3月時点で4千例超の肺がん患者が登録されている。 2015年2月からは、消化器がん領域の遺伝子スクリーニングネットワーク「GI-SCRUM-Japan」と統合し、アカデミアと臨床現場、企業が一体となって進める大規模プロジェクト「SCRUM-Japan」として始動。全国約240の医療機関と製薬企業15社が参加している(2017年3月時点)。 これまでに実施された臨床試験によって、RET 融合遺伝子陽性肺がんに対するバンデタニブの有効性が確認され、現在適応拡大申請の準備が進んでいる。また、マルチプレックス遺伝子診断薬の臨床応用にも取り組んでおり、複数の遺伝子を一度に解析できる診断薬の承認申請に向けて準備中だ。地域差なく臨床試験にアクセス可能 後藤氏は、希少肺がん患者がこのネットワークを活用して病院・地域を超えて自分に合った臨床試験に参加するチャンスが生まれることが非常に重要、と話す。「LC-SCRUM-Japan」に全国の参加医療機関を通じて登録した患者は、まず検体(新鮮凍結組織+プレパラートあるいは胸水のどちらか)を提供する。提供された検体は検査会社で一元的に遺伝子解析され、結果が各医療機関に報告される。併せて、診断された遺伝子変化をターゲットとした企業治験を含む臨床試験の情報が提供されるという流れで、遺伝子検査費用は企業が負担するため、遺伝子検査費用について患者の自己負担は発生しない。日本ならではの「プレシジョン・メディシン」確立に向けて 2017年4月からは、「SCRUM-Japan」の第2期として2年計画のプロジェクトを開始。遺伝子解析結果と臨床データを紐づけた臨床ゲノムデータベースの構築や、血液を用いた解析が可能なマルチプレックス遺伝子診断薬の導入、肺がん免疫療法におけるバイオマーカー探索のための観察研究などに取り組む予定だという。 最後に後藤氏は、日本ならではの良質なサンプルに基づいた効率のよい遺伝子スクリーニング、臨床試験情報・患者情報の共有による試験登録や海外との統合解析等を引き続き推進しながら、より多くの患者に有効な治療薬を届けるための仕組みを構築し、世界に先駆けてプレシジョン・メディシンを確立していきたい、と結んだ。

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