1.
歯磨きに明確な効果。院内肺炎、そしてICU死亡率が低下歯磨き(歯ブラシを用いた口腔ケア)を行うことで、院内肺炎(HAP)のリスクが約33%、集中治療室(ICU)での死亡率が約19%低下することが、Selina Ehrenzellerらの研究により示された。JAMA Internal Medicine誌2024年2月号に掲載された。毎日の歯磨きと院内肺炎の関連性:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、毎日の歯磨きが、院内肺炎(HAP)の発生率低下およびその他の患者関連アウトカムと関連しているかを明らかにすることを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。入院中の成人患者を対象に、歯ブラシによる毎日の口腔ケアと、歯ブラシを用いない口腔ケアを比較したランダム化比較試験を分析対象とした。PubMed、Embaseを含む6つの主要医学文献データベースと、3つの臨床試験登録システムを、各データベース創設時から2023年3月9日まで検索した。メタアナリシスには、ランダム効果モデルを用いた。主要アウトカムをHAPとし、副次アウトカムには、院内および集中治療室(ICU)の死亡率、人工呼吸器装着期間、ICU滞在期間および入院期間、ならびに抗菌薬の使用を含めた。サブグループ解析の項目には、侵襲的人工呼吸管理を受けた患者と受けなかった患者、1日2回の歯磨きとそれ以上の頻度の歯磨き、歯科専門職による歯磨きと一般看護スタッフによる歯磨き、電動歯ブラシと手用歯ブラシ、そしてバイアスリスクが低い研究と高い研究が含まれた。主な結果は以下の通り。合計15件の研究(対象患者10,742例)が選択基準を満たした(ICU患者2,033例、非ICU患者8,709例であり、非ICU患者における1件のクラスターランダム化試験を考慮して統計的に調整した有効サンプルサイズは2,786例)。歯磨きの実施は、HAPリスクの有意な低下(リスク比 [RR]:0.67 、95%信頼区間[CI]:0.56~0.81)、およびICU死亡率の低下(RR:0.81 、95%CI:0.69~0.95)と関連していた。肺炎発生率の減少は、侵襲的人工呼吸管理を受けている患者において有意であったが(RR:0.68、95%CI:0.57~0.82)、侵襲的人工呼吸管理を受けていない患者では有意な差を認めなかった(RR:0.32、95%CI:0.05~2.02)。ICU患者における歯磨きは、人工呼吸器装着日数の短縮(平均差:−1.24日、95%CI:−2.42~−0.06)、およびICU滞在期間の短縮(平均差:−1.78日、95%CI:−2.85~−0.70)と関連していた。1日2回の歯磨き(RR:0.63)と、それ以上の頻度で歯磨きを行った場合(1日3回歯磨きRR:0.77、1日4回歯磨きRR:0.69)では、効果の推定値は同程度であった。これらの結果は、バイアスリスクの低い7つの研究(1,367例)に限定した分析でも一貫していた。非ICUの入院期間および抗菌薬の使用については、歯磨きとの関連は認められなかった。毎日の歯磨きが、とくに人工呼吸器管理を受けている患者におけるHAPの発生率の大幅な低下、ICU死亡率の低下、人工呼吸器装着期間の短縮、およびICU滞在期間の短縮と関連している可能性が示唆された。毎日の歯磨きは効果的ですね!とくに人工呼吸器を使用している患者では、その効果が大きいようです。ただ、「リスク比」って何?と思う方もいらっしゃると思います。この論文の結果では、リスク比が0.67と報告されています。これは、「歯磨きをすることでHAPの発生リスクが0.67倍になる」言い換えれば「HAPの発生リスクを約33%減少させる」と解釈できます。また計算すると人工呼吸器関連肺炎(VAP)を予防するために必要な治療数(治療必要数[NNT])は12人でした。つまり、人工呼吸器を使用している患者12人に歯磨きを実施することで1例のVAPを予防できる計算になります。12人歯磨きしたらVAPを予防できたと考えると、自分の業務のやりがいが一層感じられるかもしれません。推奨される口腔ケアの頻度は報告によってさまざまですが、少なくとも1日1~2回は必要とされています。多くの施設では、ケアの目標として食事に合わせて1日3回以上を設定しているかもしれません。しかし、多忙な業務の中でこの目標を常に達成するのが難しい現状もあるのではないでしょうか。目標が高すぎると、達成できなかった際にネガティブな印象が残り、ケアへの負担感につながってしまう可能性も考えられます。ここで大切なのは、無理なく継続できる目標を設定し、確実に実施することです。例えば、まずは「人工呼吸器を使用している患者さんには、1日1~2回歯ブラシを用いた口腔ケアを実施する」ことをチームの共通目標にしてみてはいかがでしょうか。日勤帯での実施が難しければ、夜勤帯や早朝など、部署の状況に合わせて実施できる時間帯を検討し、職場内で実現可能なルール作りや手順の見直しを行うことが大切です。このような論文の知見を参考に、この機会に現実的で継続可能なケア方法について、一度チーム内で話し合ってみるのもよいかもしれませんね。論文はこちらEhrenzeller S, et al. JAMA Intern Med. 2024;184(2):131-142.