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第318回 女子医大プロポフォール事件、元准教授に有罪、元研修医に無罪の判決。「後知恵の意見で有罪とされているよう」と元准教授がコメント

事件発生から12年、業務上過失致死罪に問われた医師2人の判決は一人は有罪、もう一人が無罪こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。診療報酬が6月1日から改定されました。本体の改定率が30年ぶりに3%超えの3.09%(その大半は物価高や賃上げ対応に充てられましたが)となり、多くの医療機関はとりあえずはひと息つけそうです。今年度改定は2040年頃を見据えた「新たな地域医療構想」を先取りする形で急性期病院などの入院基本料が大きく変わりました。この改定で、地域の医療機関の再編統合や機能分担がこれからどれくらい進むのかが注目されます。そんな中、気になることがあります。国の財政運営の動きが今年は大きく遅れているのです。いつもは5月下旬に公表される財務省の財政制度等審議会の「春の建議」(昨年は5月27日公表でした)もまだ出ていません。来年度は社会保障改革、消費税減税に加え、いわゆる「戦略17分野」への予算措置も今年度に続き行わなければならず(17分野の官民投資ロードマップの公表も遅れています)、政府も財務省もお金がなさすぎて頭を抱えているのではないでしょうか。例年6月に公表される「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」の公表も7月にずれ込むようです。今年の骨太方針は、経済・財政・社会保障を一体的に見直す内容になると言われています。医療を含めた社会保障には今まで以上に厳しい目が向けられそうです。まずは、「春の建議」(といってももう盛夏ですが)の公表を待ちたいと思います。さて、今回は事件発生から12年、東京女子医大プロポフォール事件で元准教授(66)に有罪判決が出ましたので、それについて書いてみたいと思います。業務上過失致死罪に問われた医師2人の判決は、1人は有罪、もう1人は無罪という対照的な結果となりました。書類送検されたのは麻酔科医6人、在宅起訴に至ったのはそのうち2人東京女子医大病院(東京都新宿区)で2014年2月、リンパ管腫で首の手術を受けた後に人工呼吸器を付けていた男児(当時2歳)が、鎮静剤プロポフォールの投与を受けた後に死亡した医療事故で、東京地裁は5月29日、当時、中央ICUの現場責任者で業務上過失致死罪に問われた麻酔科医の元准教授(66)に禁錮1年6ヵ月、執行猶予3年(求刑:禁錮1年6ヵ月)の判決を言い渡しました。一方、男児の容体の管理に関わった元後期研修医(44)に対しては無罪(求刑:禁錮1年)を言い渡しました。両被告とも投与と死亡に因果関係はないなどとして無罪を主張していました。2人は、2014年2月18~21日、首の腫瘍を取り除く手術を受け人工呼吸器を装着していた男児に対して鎮静剤プロポフォールを投与した際、心電図に異常がみられるなど容体に変化があったにもかかわらず投与を中止せず、男児を急性循環不全で死亡させたとして、2021年1月に起訴されました。この事件については、6年前の本連載「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」、5年前の「第44回 女子医大プロポフォール事件、阪大・国循論文不正事件に新展開」でも詳しく取り上げました。事故当時、プロポフォールはICUで人工呼吸器を装着した子供への投与は添付文書上「禁忌」でしたが、厚生労働省は「禁忌はあくまで原則」との見解を示しており、警視庁はプロポフォールの投与自体は過失とはせず、安全管理を怠ったことに焦点を当て、2020年10月に書類送検に踏み切りました。この時、起訴を求める「厳重処分」の意見も全員に付けられました。書類送検されたのは麻酔科医6人でしたが、翌2021年に在宅起訴に至ったのは2人で、ほかの4人は関与の度合いなどを考慮した結果、起訴猶予となっています。その後、2021年6月には民事裁判で東京地裁が事故に関与した麻酔科医3人と小児を執刀した耳鼻咽喉科医2人の損害賠償義務を認定、起訴された2人の医師の刑事裁判は2023年12月からスタート、公判は実に計36回を数えました。薬剤を変更せず、漫然とプロポフォール投与を続ける判断をしたことについて「元准教授の注意義務違反の程度は非常に大きい」裁判では投与と死亡の因果関係や、容体の変化を認識した時点で投与中止などの処置をしていれば事故を回避できたかなどが争われました。エムスリー(5月29日付)や日本経済新聞(5月30日付)などの報道によれば、細谷 泰暢裁判長は判決理由で、男児の死因は急性循環不全であり、その原因として小児集中治療における人工呼吸管理の鎮静には禁忌のプロポフォールを高用量・長時間使用したことを挙げました。禁忌薬の投与それ自体が注意義務違反に当たるとはしませんでした。しかし、プロポフォール注入症候群(PRIS)の症状が生じた時点でも別の薬剤に変更せず、漫然と投与を続ける判断をしたことについて、「元准教授の注意義務違反の程度は非常に大きい」と結論付けました。一方、元後期研修医に対しては、当時は研修医で麻酔の専門知識がなく、鎮静剤の選択を日常的に行っていなかった点も踏まえると、死亡を具体的に予見できたとは認められない、としました。「個々の医師の経験や立場の違いによって求められる医療水準は異なる」という観点から、有罪無罪の判断も分かれたわけです。1998年発表の「Bray論文」に示された「4mg/kg/h以上・48時間以上」の目安裁判で大きなポイントとなったのが「プロポフォールの投与量の目安」でした。検察は男児の死亡はプロポフォール注入症候群による循環不全が死亡の原因であり、プロポフォールを高用量・長時間投与し続けたなどの過失があると主張。「4mg/kg/h以上・48時間以上」がその目安であるとし、男児に対しては計70時間15分、平均で「8.1mg/kg/h」投与されたと指摘しました。これに対し弁護側は、プロポフォールについて、検察が示すような目安は当時存在しなかったことなどから、過失はないと主張していました。「4mg/kg/h以上・48時間以上」は1998年に発表された、通称「Bray論文」1)で示されたPRIS発現の目安です。Bray論文はプロポフォールの長時間・高用量持続投与に関連して、代謝性アシドーシス、横紋筋融解、心不全、不整脈などを伴う重篤な病態が起こり得ることが整理され、PRISという概念が広く知られる契機になった論文とされています。「4mg/kg/h以上・48時間以上」は「当時の標準的な医療水準として求められるものであった」と認定判決では、このBray論文がPRISの事実上の診断基準としての役割を果たしているとしたうえで、「この(4mg/kg/hを48時間以上)数値を超えると、PRISの危険性が高まることを考慮した上で、プロポフォールの投与を開始あるいはその投与を継続するかを判断すべきものであったということが言える。このことは、当時の標準的な医療水準として求められるものであった」と認定しました。その上で、術後2日目午後の時点(8.1mg/kg/hを52時間以上にわたって持続投与されており、翌朝まで投与継続した場合には70時間前後になることが見込まれていた)で「直ちに代替薬剤を投与して、プロポフォールの投与を中止するなどの適切な対処をすべき注意義務があったのに、これを怠って、漫然とプロポフォールの投与を継続した過失があったと認められる」と判断しました。「判決の言う標準的な医療水準は、当時のプロポフォールについての医学的な知見や、当時のICUの現場の実情から、かけ離れたもの」と元准教授このBray論文がPRISの事実上の診断基準になっていたとする裁判所の判断について、有罪となった元准教授は判決後にコメントを発表し、「結果が分かったところからさかのぼった後知恵の意見で有罪とされているように感じています。判決の言うプロポフォールに関する標準的な医療水準については、当時のプロポフォールについての医学的な知見や、当時のICUの現場の実情から、かけ離れたものだと感じます」と反論しています。5月30日付の日経メディカルの記事によれば、判決後に行われた医師2人の弁護人による記者会見で、元准教授の弁護人、後藤 貞人弁護士も「プロポフォールによってPRISが発症することが、当時、医学界において定着していたかというとそうではない」とコメント、元研修医の弁護人である高野 隆弁護士も「(4mg/kg/h以上・48時間以上より)何倍も多い量のプロポフォールを投与してもPRISを発症していない症例がありながら、論文の記載(4mg/kg/h以上・48時間以上)だけが独り歩きをし、あたかも当時の医療水準のように考えて起訴したことが間違いだ」と話しています。さらに後藤弁護士は、医師が業務上過失致死罪で有罪判決が出たことについて、2008年の福島県立大野病院事件の無罪判決などを契機として医療への刑事介入が下火になっていた状況が、今回の有罪判決をきっかけとして再び活発化することに対しても危機感を示したとのことです。なお、元准教授は控訴の方針とのことです。事故から12年、東京女子医大プロポフォール事件の裁判はまだまだ続きそうです。同大はこの事件をきっかけとして2015年に特定機能病院の承認を取り消され、現在も継続中です。医療事故の裁判と特定機能病院の承認は別次元の問題ではあるものの、少なからぬ影響はありそうです。元理事長逮捕など、スキャンダルに事欠かない東京女子医大の経営状態も改めて気になるところです。 1) Bray BJ. Paediatr Anaesth. 1998;8:491-499.

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第297回 改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会

<先週の動き> 1.改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会 2.診療報酬改定目前、キャンセル料を巡る混乱で厚労相が陳謝/厚労省 3.AIの悪用リスク踏まえ病院のサイバー対策強化を/厚労省 4.直近100日の薬剤情報を表示、ワクチン接種歴も/デジタル庁 5.糖尿病薬の個人間取引に警告 X投稿の7割超がマンジャロ/東京都 6.東京女子医大2歳児死亡事故、ICU責任医に有罪判決/東京地裁 1.改正健康保険法が成立、出産無償化とOTC類似薬負担増を導入/国会改正健康保険法など医療保険制度改革の関連法は5月29日の参議院本会議で、与党自民党や日本維新の会、国民民主党などの賛成多数で可決、成立した。柱は、正常分娩の実質無償化と、市販薬と成分や効能が似る「OTC類似薬」を処方された患者への追加負担の導入である。政府は給付と負担を見直し、現役世代の社会保険料負担を軽減すると説明しているが、患者団体や野党からは受診控えや家計圧迫への懸念がされている。出産費用については、現在は正常分娩が公的医療保険の対象外で、出産育児一時金50万円の支給で対応している。しかし、都市部を中心に費用が一時金を上回るケースが目立つため、厚生労働省が全国一律の基本単価を設定し、公的保険から医療機関へ全額給付する仕組みに改める。改正法の公布後2年以内、遅くとも2028年夏ごろまでの施行を目指す。すべての妊婦を対象に定額の現金給付も設ける。帝王切開は、従来通り保険診療で原則3割負担となり、正常分娩でも個室料などは自己負担となる。当面は医療機関の判断で出産育児一時金を継続できる経過措置も置き、産科経営や地域の周産期医療体制への影響に配慮する。OTC類似薬では、保湿薬、抗アレルギー薬、解熱鎮痛薬、胃腸薬など77成分、約1,100品目を対象とする案が示されている。薬剤費の4分の1を公的保険の給付対象から外し、患者の1~3割負担に上乗せする。2027年3月の開始を目指す。政府は市販薬を購入する人との公平性や、必要性の低い受診の抑制を狙う。その一方で、がんや難病の患者、子供、低所得者、医師が通年処方を必要と判断する患者などには追加負担を求めない方針であり、具体的な範囲は今後、専門家の意見を踏まえて定めるとしている。改正法には、75歳以上の後期高齢者の保険料や窓口負担の算定に、上場株式の配当など金融所得を反映させる仕組みの強化も盛り込まれた。さらに高額療養費制度について、将来の見直し時に、長期療養者の家計への影響を考慮することも明記した。参院厚生労働委員会は、OTC類似薬の対象を薬剤以外の診療行為に広げないよう検討することや、必要な受診が抑制されないよう影響を検証し、必要に応じて見直すことなど19項目の付帯決議を採択した。立憲民主党、公明党、共産党、れいわ新選組などは反対し、国民皆保険の維持と患者負担増の線引きが今後の焦点となる。 参考 1) 健康保険法等の一部を改正する法律案について(厚労省) 2) 「OTC類似薬」処方された患者に追加負担求める法律が成立(NHK) 3) 改正健康保険法が成立…OTC類似薬の患者追加負担、出産費用の実質無償化など柱(読売新聞) 4) 出産費用を無償に、改正法成立 厚労省が全国一律価格を設定へ(日経新聞) 5) 健保法等改正案 参院厚労委で賛成多数で可決 29日の参院本会議での採決を経て成立へ(ミクスオンライン) 2.診療報酬改定目前、キャンセル料を巡る混乱で厚労相が陳謝/厚労省厚生労働省は6月1日に診療報酬を改定する。物価高と賃上げへの対応が柱で、外来の初診料本体は2,910円に据え置く一方で、物価上昇分20円と職員の基本給引き上げに充てるベースアップ評価料170円が上乗せされ、初診時の患者負担は少なくとも190円引き上げられる。また、2026年3月以前からベースアップ評価料を算定していた医療機関でも、現行60円から230円へ引き上げられ、これらの上乗せは1年後にさらに拡大する予定となっている。薬局でも調剤基本料が立地や規模に応じて10~20円引き上げられ、3ヵ月に1回、物価上昇対応分として10円が加算できる。薬局版のベースアップ評価料も新設され、処方箋1回につき40円が上乗せされる。また、後発医薬品がある先発品を患者が希望する場合に、保険の窓口負担とは別に支払う選定療養費は、先発品と後発品の価格差の4分の1から2分の1へ引き上げられる。その一方で、注目された診察予約のキャンセル料について、厚労省は5月29日、「対象は『予約料』を設定し、選定療養として地方厚生局に届け出ている医療機関に限られる」と通知を訂正した。予約を受け付けていても予約料を徴収していない通常診療では、キャンセル料は取れない。対象は2024年8月時点で全国928施設にとどまる。徴収できるのは、患者都合による診察直前のキャンセルに限られ、窓口やウェブサイトなどで事前に説明し、患者の同意を得る必要がある。3月の通知では対象が選定療養に限られることが明確でなく、すべての医療機関でキャンセル料を取れるとの誤解が広がった。上野 賢一郎厚労相は「現場に混乱を生じさせた」と陳謝した。医療機関には、価格改定や人件費対応の一方で、患者説明と同意、掲示、届出の適正な運用が求められる。 参考 1) 診察予約キャンセル料 一定条件で請求可能に 厚労省が周知へ(NHK) 2) 診察キャンセル料めぐり厚労相謝罪 6月から一部医療機関で徴収可へ(朝日新聞) 3) 診察キャンセル料は一部病院のみ 厚労省が通知訂正、周知不足陳謝(共同通信) 4) 診療報酬、来月1日に改定 キャンセル料徴収可に 初診190円上げ(日経新聞) 3.AIの悪用リスク踏まえ病院のサイバー対策強化を/厚労省厚生労働省は5月27日、都道府県を通じ、医療機関に高性能AIの悪用リスクを踏まえたサイバーセキュリティ対策の再確認を求める事務連絡を発出した。AI技術の急速な進展により、脆弱性探索や攻撃手法の自動化が進み、攻撃のスピードや規模が拡大する恐れがあるための措置。医療分野は国民の生命・健康を支える重要インフラであり、電子カルテや医療機器、院内ネットワークが停止すれば診療継続に重大な支障が生じるとして、厚労省は経営層のリーダーシップによる対策強化を求めている。通知では、米Anthropic社が4月に公表した「Claude Mythos Preview」など、脆弱性の発見・修正能力を高めたフロンティアAIモデルの登場を例示。内閣官房国家サイバー統括室などが5月18日に発出した重要インフラ向け注意喚起を踏まえ、医療情報システムの安全管理ガイドラインを要約し、医療機関が優先的に確認すべき事項を整理した。重点項目では、サイバーセキュリティを経営課題に位置付け、責任者や意思決定体制、連絡系統を明確にすることを求めている。さらに、電子カルテ、医療機器、院内ネットワークなど重要システムの把握とリスク評価、ネットワーク分離やアクセス制御、外部委託・クラウド利用時の責任分担の明確化を要請するほか、機器の棚卸し、セキュリティパッチの迅速な適用、サポート終了機器の見直しも明記した。ランサムウェア対策では、オフラインを含むバックアップの取得・保管と復旧訓練、不審メール対応、感染兆候の早期検知体制を挙げた。インシデント発生時には、初動対応、影響範囲の確認、厚労省やベンダーとの連携、原因分析と再発防止策が必要とした。全職員への定期的な教育、標的型攻撃訓練、医療機器メーカーとの情報共有、調達段階からのセキュリティ要件確認も求めている。厚労省は、サイバー攻撃を想定したBCP(事業継続計画)の策定・見直しや、システム停止時の紙運用など代替手段の確保も促し、チェックリストを用いた点検を呼びかけている。 参考 1) 「高性能AIの悪用リスクを踏まえたサイバーセキュリティ対策の強化について(医療機関等向け注意喚起)」(厚労省) 2) 最新AI攻撃の対策確認を要請 医療機関に厚労省(毎日新聞) 3) 医療機関は最新AI対策の確認を サイバー攻撃悪用で厚労省(東京新聞) 4.直近100日の薬剤情報を表示、ワクチン接種歴も/デジタル庁デジタル庁は、マイナポータルの「薬」のページをリニューアルし、直近100日以内に受け取った薬の情報を確認できるようにした。従来は診療報酬明細書、いわゆるレセプト情報を基にしていたため、反映は前月分までに限られ、実臨床で使うにはタイムラグが大きかった。今回の改善により、電子処方箋に対応する薬局や医療機関で薬を受け取った場合、原則として当日中に情報が表示される。画面には「最近の薬」「最近の処方箋」が新設され、受け取った日付、薬局名、薬剤名、用法・用量が確認できる。政府によると、現在は薬局の89%が電子処方箋に対応している。その一方で、厚生労働省は6月から、ワクチン接種歴や副反応疑い事例を集約する新たな予防接種データベースの運用を始める。対象は公費助成を受けられる定期接種ワクチンで、接種したワクチンの種類や接種日などを市区町村から収集し、2028年春までに全国民の情報を集める計画である。国民はマイナポータルなどを通じて、自身の接種歴を確認できるようになる。6月以降の情報が中心で、5月以前の接種分の提供は任意となる。新データベースは、接種情報に加えて死亡情報、副反応疑い事例、レセプト情報とも連結される予定であり、2028年度から研究者らがワクチンの有効性や安全性、副反応疑い事例の発生頻度を活用し、分析しやすくする。今後、麻しん、風しんなどの流行時には、本人が接種歴を確認し、未接種であれば接種行動につながることも期待されている。医療者にとっては、問診時の服薬歴・接種歴確認の精度向上が見込まれる。救急外来、入院時、周術期、ポリファーマシー対策、ワクチン接種相談などで活用の余地は大きい。ただし、情報の反映範囲や過去接種歴の欠落、患者本人の閲覧・提示への依存といった限界もある。マイナポータル情報を補助線として使いつつ、従来の問診、お薬手帳、紹介状、薬剤師との連携を組み合わせる運用が求められる。 参考 1) 薬の画面で最近の薬や処方せんの情報を確認できるようになりました(デジタル庁) 2) 100日以内に受け取った薬の情報確認 マイナポータル改善、電子処方箋対応なら当日表示(産経新聞) 3) ワクチン接種歴、マイナポータルなどで確認可能に…新DB6月に運用開始・「効果」「副反応」分析にも活用へ(読売新聞) 5.糖尿病薬の個人間取引に警告 X投稿の7割超がマンジャロ/東京都東京都が2025年度、X(旧ツイッター)上で医薬品の不正販売が疑われる投稿に警告した497件のうち、約75%に当たる375件が、2型糖尿病治療薬チルゼパチド(商品名:マンジャロ)など糖尿病薬の取引に関するものだったことがわかった。都は公式アカウント「東京都庁薬務課」から、販売をうたう投稿に対し「医薬品であるマンジャロを許可等なく販売等することは医薬品医療機器等法に違反します。直ちに販売を中止して下さい」とリプライで警告している。マンジャロは2型糖尿病治療薬として承認されている一方で、近年は体重減少効果への関心から、ダイエットや美容目的での使用が広がっている。医療用医薬品を入手するには原則として医師の診察と処方が必要で、個人が許可なく販売する行為は、たとえ1回であっても医薬品医療機器等法に違反する恐れがある。東京都は、フリマサイトやオークションサイト、SNSでの医薬品販売に注意を呼びかけており、改善がない場合はX側に投稿削除を要請している。糖尿病薬をめぐっては、適応外使用や自己判断での使用による健康被害も懸念される。厚生労働省も、添付文書に基づく適切な使用がなされない場合、思わぬ健康被害につながる可能性があるとして注意喚起している。とくにGLP-1受容体作動薬などの使用では、消化器症状、低血糖リスク、既往歴や併用薬への配慮が必要であり、医師の管理を離れた流通は安全性の面で大きな問題となる。都による警告件数は、2023年度は62件、2024年度は78件だったが、2025年度は検索業務を外部委託したことで大幅に増えた。糖尿病薬関連に関して2023・24年度はいずれも2件にとどまっており、今回の急増はマンジャロ人気とSNS上の流通拡大を映している。Xから秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に誘導するケースも確認されており、都は2026年度からテレグラム上でも警告を始める方針。医療者には、処方時の適正使用説明に加え、患者がSNS経由で医薬品を入手しないよう啓発する役割も求められる。 参考 1) 薬の不正販売疑い投稿、糖尿病薬が7割超 昨年度 都が「X」で確認・警告(日経新聞) 2) 「直ちに販売を中止して下さい」東京都庁薬務課、「マンジャロ」めぐりXで警告 歓迎の声相次ぐ(J-CASTニュース) 6.東京女子医大2歳児死亡事故、ICU責任医に有罪判決/東京地裁東京女子医科大学病院で2014年、手術後の2歳男児に鎮静剤プロポフォールが長時間・高用量で投与され死亡した医療事故を巡り、東京地裁は5月29日、業務上過失致死罪に問われた当時ICUの現場責任者の麻酔科医に禁錮1年6月、執行猶予3年を言い渡した。その一方で、当時後期研修医だった医師については無罪とした。プロポフォールは手術麻酔や鎮静に広く使われるが、添付文書では集中治療における人工呼吸中の小児への投与が禁忌とされている。裁判では、投与と死亡の因果関係、当時の医療水準からみた注意義務違反の有無が争点となった。判決では、医師の裁量で禁忌薬を使用する余地はあり得るとしつつ、本件では「投与量・投与時間が目安を大きく超え、心電図異常も継続していたことから、副作用リスクが高まった段階で投与を中止すべきだった」と認定。「通常の専門医であれば到底行わない高用量、長時間投与」として、責任者の過失を重くみた。その一方で、後期研修医については、当時は専門医資格を持たず、鎮静薬選択を日常的に担う立場ではなかったとして、死亡を具体的に予見できたとは認められないと判断した。判決は、チーム医療において職位、専門性、権限に応じて刑事責任を分けた点でも注目される。医療現場への示唆は大きい。禁忌薬や安全性が十分確認されていない医療行為を行う場合、医学的合理性、家族への説明と同意、リスク監視、投与量・時間の記録、異常時の中止基準を組織として明確化する必要がある。女子医大は事故後、特定機能病院の承認を取り消されており、厚生労働省は2016年、特定機能病院に対し安全性未確立の薬剤使用時の院内審査体制を義務付けた。今回の判決は、個人の裁量に依存せず、病院全体で高リスク医療を管理する体制整備の重要性を改めて示したものといえる。 参考 1) 2歳児死亡、麻酔科医に有罪 元研修医は無罪、東京女子医大(東京新聞) 2) 東京女子医大病院で2歳児死亡 医師1人に無罪判決、もう1人は有罪(朝日新聞) 3) 東京女子医大の2歳児死亡、元准教授に有罪判決 元研修医は無罪(日経新聞) 4) 東京女子医大 鎮静剤投与で2歳児死亡 責任者の医師に有罪判決(NHK)

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子どもの溺水による心停止、人工呼吸の有無で生存・神経予後に差――全国データ解析

 プール監視や学校現場などで遭遇しうる子どもの溺水では、その場での初期対応が転帰を左右するとされている。今回、日本の全国データを用いた研究で、小児の溺水による心停止において、人工呼吸を伴う心肺蘇生(CPR)は胸骨圧迫のみのCPRと比べて、生存および神経予後の点で良好である可能性が示された。研究は岡山大学学術研究院医歯薬学域地域救急・災害医療学講座の小原隆史氏らによるもので、詳細は3月10日付の「Resuscitation」に掲載された。 溺水は世界的に不慮の事故死の主要な原因の一つであり、日本でも小児の事故死の上位を占める。溺水による心停止では、体に酸素が行き渡らなくなるため、人工呼吸を含むCPRが重要と考えられてきた。実際、小児や心臓以外が原因の心停止では、人工呼吸を伴うCPRが胸骨圧迫のみのCPRより良好な転帰と関連することが報告されている。一方、近年は簡便さなどから胸骨圧迫のみのCPRが広く行われるようになっているが、こうした変化が溺水による心停止の転帰に与える影響は十分に検討されていない。そこで本研究では、小児の溺水による院外心停止において、一般市民によるCPRの方法の変化と、生存および神経予後との関連を検討した。 本研究では、2012~2023年の全国データを用い、小児(17歳以下)の溺水による院外心停止のうち、一般市民によるCPRが実施された症例を解析した。データは全国の院外心停止症例を登録したデータベース(All-Japan Utstein Registry)から取得し、CPRが行われていない症例やCPRの方法が不明な症例は除外した。対象は、人工呼吸を伴うCPRと胸骨圧迫のみのCPRの2群に分類した。主要評価項目は発生から30日以内の死亡とし、副次評価項目として病院到着前に心拍が再開しなかったこと、および30日後の神経予後不良(重度障害、昏睡、または死亡と定義)を設定した。解析には多変量解析を用い、年齢や目撃の有無による層別解析も行った。 対象となった740例のうち、人工呼吸を伴うCPRは41.6%、胸骨圧迫のみのCPRは58.4%に行われていた。人工呼吸を伴うCPRの割合は、2012年の約45%から2020年以降は約30%に減少していた。人工呼吸を伴うCPRは、特に乳幼児や家族が目撃していたケースで行われることが多かった。 胸骨圧迫のみのCPRは、人工呼吸を伴うCPRと比べて、30日以内の死亡リスクが約38%高く、病院到着前に心拍再開が得られなかった割合も約22%高かった。また、神経予後も不良となる傾向がみられた。こうした差は、目撃者がいない心停止(溺水の場面を直接見ていないケース)や、1~7歳の子どもで特に顕著であった。この結果は、目撃がない症例であっても発見次第速やかに人工呼吸を開始する重要性を示唆する。一方、目撃されていたケースや8歳以上の子どもでは、死亡の差はそれほど大きくなかったが、神経予後には差が認められた。 本研究では、小児の溺水による心停止において、人工呼吸を伴うCPRが減少し、胸骨圧迫のみのCPRが増加している実態が示された。一方で、胸骨圧迫のみのCPRは、人工呼吸を伴うCPRと比べて死亡や神経予後の点で不良であった。溺水のように呼吸が保てなくなる心停止では、人工呼吸が重要な役割を果たす可能性が示唆される。こうした結果は、溺水では人工呼吸を含むCPRを推奨する海外のガイドラインとも一致しており、その重要性を裏付けるものといえる。 著者らは、小児や溺水といった医学的に人工呼吸の効果が期待されるケースにおいても、その重要性が十分に理解されていない可能性を指摘する。その上で、保護者や教職員などを対象に人工呼吸を含むCPR教育を強化することや、救急通報時のオペレーターによる口頭指導において年齢や原因に応じた対応を行うことの重要性を強調している。

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第61回 クルーズ船で広がったハンタウイルス。「アンデスウイルス」の正体と私たちが知っておきたいこと

2026年4月、アルゼンチンを出港したクルーズ船で発生したハンタウイルスの集団感染が、世界中の関心を集めています。WHOによれば、これまでに少なくとも8人が感染し、うち3人が亡くなっています。原因として同定されたのは、南米で知られる「アンデスウイルス」と呼ばれるウイルスでした。この聞き慣れないウイルスは、これまで知られているハンタウイルスの中で唯一、ヒトからヒトへの感染が確認されているという、少し特殊な存在でもあります。今回はその全体像を整理してみたいと思います。ネズミからヒトへ、そしてヒトからヒトへハンタウイルスは、Hantaviridae科Orthohantavirus属に属するRNAウイルスの総称で、世界に40種以上、そのうち22種ほどがヒトに感染することが知られています。共通しているのは、いずれも野生のげっ歯類を自然宿主としている点です。アンデスウイルスの宿主は、南米南部に生息する「コリラルゴ」と呼ばれる小型のネズミで、アルゼンチンとチリのアンデス山脈周辺に広く分布しているそうです。通常の感染ルートは、ネズミの尿・糞・唾液に含まれるウイルスがエアロゾル化し、それをヒトが吸い込むことです。換気の悪い物置や山小屋の掃除など、屋内での曝露がとりわけ危険とされています。典型的には、ネズミに咬まれたり直接触れたりした記憶がなく、知らないうちに吸入してしまっていたケースが大半のようです。ここで重要になるのが、アンデスウイルスだけが備える「ヒト-ヒト感染」の能力です。アルゼンチンで起きた大規模アウトブレイクでは34人が感染し、11人が亡くなりました。家族内、とくに性的パートナー間での感染リスクが、ほかの同居者の十数倍高いことも疫学研究から報告されています。最も感染伝播しやすいのは発症前後の初期段階で、血液・唾液・呼吸器分泌物・尿からウイルスRNAが検出されるため、症状が出る前から感染源になり得るのです。とはいえ伝播には「濃厚かつ長時間の接触」が必要とされており、新型コロナウイルスのように街中で容易に広がるものではないと報告されています。今回のクルーズ船の事例で問題になっているのも、まさに長期航海という限定された空間で乗員乗客が密に過ごしたという特殊な条件です。WHOは濃厚接触者に対して、1潜伏期分にあたる約45日間の健康監視や隔離を勧告しており、複数の国にまたがる追跡調査が現在も進められています1, 2, 3)。風邪のような症状から数時間で急変する「ハンタウイルス心肺症候群」潜伏期間は感染源への曝露から2〜3週間(中央値14〜18日、最長で7週間)と長く、初期の症状はそれほど特徴的ではありません。発熱・悪寒・激しい筋肉痛(とくに大腿や腰背部)、頭痛、悪心、嘔吐、腹痛、下痢といった、いわゆる「胃腸症状を伴うインフルエンザのような」経過をたどります。鼻水や咽頭痛など、上気道の症状をほとんど欠くというのが、いわゆる「風邪」との区別のヒントになります。この「前駆期」は2〜8日ほど続きます。問題はその後です。「ハンタウイルス心肺症候群」と呼ばれるこの病態の本質は、血管内皮の機能不全によるびまん性の毛細血管漏出にあります。ウイルスはβ3インテグリンなどを介して血管内皮細胞や血小板に侵入し、サイトカインの放出と血管透過性の亢進を引き起こします。その結果、肺胞内に大量の血漿成分が漏れ出して非心原性肺水腫を生じ、同時に心筋抑制から心原性ショックに陥ります。乾性咳嗽と呼吸困難の出現を皮切りに、数時間という単位で肺水腫、ショック、不整脈、凝固障害へと急速に進行し、亡くなる方の多くは心肺期に入ってから最初の24時間以内に命を落としてしまいます。検査では、血小板減少、白血球増多と幼若球の出現、免疫芽球の増加、血液濃縮、LDHの上昇といった所見が鋭敏な手がかりになります。確定診断は、ELISAによる血清IgM/IgG抗体検出と、PCRによるウイルスRNA検出で行います。致死率は、アンデスウイルスなどの重症型で30〜50%、軽症型でも10〜30%と非常に高いのが特徴です。生存できた場合でも、倦怠感や息切れが数ヵ月にわたって残ることがあり、急性期を乗り越えても回復には時間がかかると報告されています1, 4)。治療の鍵は「早期搬送」、そして私たちにできる予防策ハンタウイルスに対する特効薬は、残念ながらありません。リバビリンは腎症候性出血熱には有効ですが、心肺症候群に対する効果は複数の臨床試験で否定されています。ステロイドの有用性も示されていません。したがって治療の中心は、集中治療による全身管理になります。人工呼吸器、循環作動薬、そして体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた呼吸循環補助が、命を救う鍵を握ります。毛細血管漏出が進む病態のため、敗血症と異なり「輸液は控えめに、昇圧薬は早めに」というのが治療の原則です。実際、ECMOを要する重症例でも救命率は60%を超えると報告されており、「疑った段階で、ECMOが使える施設へ早く搬送する」ことが予後を左右する最重要事項のようです。予防はまず、ネズミとの接触を断つことに尽きますが、アンデスウイルス患者を診る医療従事者には、N95マスク、ゴーグル、ガウン、手袋による空気感染予防策が推奨され、濃厚接触者は1潜伏期分(約45日)の健康監視あるいは隔離が求められます。ワクチンは現時点で承認されておらず、曝露を避けることが唯一の現実解と言ってよいでしょう2, 4, 5)。パンデミックに至るリスクをどう見るかここで気になるのが、「ハンタウイルス、とくにアンデスウイルスがパンデミックを引き起こす可能性はあるのか」という点ではないでしょうか。結論からお伝えすると、現時点でその可能性は低いと考えられています。理由は大きく2つあります。1つ目は感染経路の特性です。ハンタウイルスの主たる感染経路は、あくまでネズミからのエアロゾルです。アンデスウイルスは唯一ヒト-ヒト感染を起こしますが、それも「濃厚かつ長時間の接触」が必要で、咳やくしゃみで広がる新型コロナやインフルエンザのような効率の良い飛沫感染ではありません。実際、基本再生産数(R0)は1前後と推定されており、適切な隔離下であれば速やかに収束しやすい性質を持ちます。2つ目は、「重症度の高さ」そのものが拡大の歯止めになっているという点です。30〜50%という致死率はこのウイルスの恐ろしさを示すものですが、感染者は急速に発症し、短時間で歩行すら困難な状態に陥ります。社会の中を動き回って他人に伝播させるという、パンデミックを成立させる動線がきわめて作りにくいのです。ただし、安心しきってよいわけでもありません。発症前から感染伝播する可能性があること、気候変動や森林伐採で宿主となるネズミの分布が変動していること、そして今回のように長期クルーズや国際移動によって、本来「南米南部の風土病」だったウイルスが思わぬ場所に運ばれ得ること。これらは公衆衛生上の警戒シグナルとして決して軽視できません。今後アンデスウイルスの新たな変異の獲得により、効率的な飛沫感染能を獲得すれば、状況は一変する可能性もないわけではありません。だからこそ、WHO・CDC・各国当局による監視と早期対応が欠かせないでしょう2, 3, 5)。クルーズ船という閉鎖空間で起きた今回のアウトブレイクは、本来「南米の風土病」と思われていたウイルスが、国境を越えて広がり得ることを示す出来事です。日本国内での流行リスクは依然として低いと考えられますが、流行地への渡航歴がある発熱患者さん、とくに筋肉痛と血小板減少を伴う症例では、本疾患を鑑別の片隅に置いておきたいところです。早く疑い、早く動くこと。それが、この致死率の高い感染症と向き合うために大切なアクションです。1)Vial PA, et al. Pathogenesis, epidemiology, and diagnosis of hantavirus infections. UpToDate. 2026 May 8.2)World Health Organization. Disease Outbreak News: Hantavirus cluster linked to cruise ship travel, Multi-country. 2026 May 4.3)Martinez VP, et al. "Super-Spreaders" and Person-to-Person Transmission of Andes Virus in Argentina. N Engl J Med. 2020;383:2230-2241.4)Harkins M, et al. Hantavirus cardiopulmonary syndrome. UpToDate. 2026 May 8.5)Shmerling RH. Hantavirus explained: What to know after the cruise ship outbreak. Harvard Health Publishing. 2026 May 6.

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青緑色の吐物といえば…何中毒?その対処法は?【中毒診療の初期対応】第7回

<今回の症例>年齢・性別66歳・男性患者情報3ヵ月前に長年勤務していた職場を定年退職した。1ヵ月前よりうつ状態となり、数日前より不安・焦燥が著しく、じっとしていられない状態であった。搬送当日の早朝、グルホシネートアンモニウム塩18.5%を含有する除草剤(商品名:バスタ液剤)を200cc程服用し、青緑色の吐物を嘔吐しているところを妻に発見されて、救急医療施設に搬送された。経口摂取2時間後の初診時は、呼吸数12/分、SpO2 98%(室内気)、血圧126/82mmHg、心拍数76bpm、意識レベルJCS 0、瞳孔左右3.5mm同大、対光反射 迅速、体温36.6℃であった。嘔気以外の訴えはなかった。検査値末梢血では、WBC 6.20×103/mm3、Hb 14.2g/dL、Ht 43.4%、Plt 122×103/mm3、生化学検査では、TP 7.1g/dL、AST(GOT)32IU/L、ALT(GPT)36IU/L、LDH 296IU/L、CPK 72IU/L、AMY 178IU/L、Glu 98mg/dL、BUN 16mg/dL、Cr 0.8mg/dL、Na 137mEq/L、K 4.2mEq/L、Cl 99mEq/Lであった。動脈血ガス(室内気)では、pH 7.412、PaCO2 38.8Torr、PaO2 90.6Torr、HCO3- 23.8mmol/L、BE -0.4mmol/L、乳酸値 1.4mmol/Lであった。<問題1><解答はこちら>4.気管挿管および呼吸器管理を施行し、集中治療室に入院とするフェンタニルおよびプロポフォールの静脈内投与によって鎮静し、気管挿管および人工呼吸器管理を施行した。さらに、経鼻胃管を挿入し、300mLの微温湯で懸濁した活性炭50gを胃内に注入し、集中治療室に入院とした。経口摂取28時間後に自発呼吸が消失した。経口摂取50時間後より次第に自発呼吸を認め、摂取54時間後に鎮静薬を中止した。58時間後に離握手などの指示に従うことを確認して人工呼吸器を離脱し、気管チューブを抜管した。その後の経過は順調で、入院4日目にうつ病の治療目的で精神科病棟に転棟となった。後に、初診時(経口摂取2時間後)の血清より246µg/mLのグルホシネートが検出された。上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.小山 完二ほか. 日救急医会誌. 1997;8:617-618.

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MASLD患者の心血管疾患入院、糖尿病合併で院内死亡リスク約2倍

 代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)患者が心血管疾患(CVD)で入院した場合、糖尿病併存例では院内死亡や合併症のリスクが有意に高いことが、日本の大規模レジストリ研究で明らかになった。研究は、宮崎大学医学部内科学講座循環器・腎臓内科学分野の小牧聡一氏、松浦祐之介氏らによるもので、2月15日付の「Diabetic Medicine」に掲載された。 MASLDは、従来の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に代わる新たな疾患概念として提唱されており、世界で最も頻度の高い慢性肝疾患の一つとされる。CVDとの関連が強いことから心血管リスク評価の重要性が指摘されているが、診断基準を構成する各代謝因子が予後に及ぼす影響については、十分に明らかになっていなかった。糖尿病はMASLDにおける肝関連合併症との関連が知られる一方、CVDで入院したMASLD患者の院内転帰に及ぼす影響については不明な点が多かった。そこで研究グループは、日本全国の心血管入院データを用いて、MASLD患者における糖尿病と院内転帰(死亡・合併症)との関連を検討した。 本研究は、2012年4月から2023年3月までの全国規模の日本循環器疾患レジストリ(Japanese Registry of All Cardiac and Vascular DiseasesーDiagnosis Procedure Combination:JROADーDPC)のデータを用いた後ろ向き横断研究である。解析対象は、CVDで入院したMASLD患者10,614人。MASLDは、肝脂肪化に加え、少なくとも1つの心代謝リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、関連薬剤の使用、またはBMI23kg/m2以上〔アジア人のBMI基準〕)を有する場合と定義した。主要評価項目は院内死亡、副次評価項目は主要な心血管系および非心血管系の院内合併症発生とした。統計解析では、糖尿病の有無による患者背景および転帰を比較したうえで、院内死亡との関連を検討するため多変量ロジスティック回帰解析を実施した。 対象患者の年齢中央値は66歳で、66.9%が男性だった。MASLD患者10,614人のうち、4,550人(42.9%)が糖尿病を合併していた。糖尿病非合併患者と比較して、糖尿病合併患者では虚血性心疾患(35.5% vs. 30.8%)、急性冠症候群(18.8% vs. 16.9%)、心不全(27.3% vs. 25.4%)の割合がいずれも有意に高かった(いずれもP<0.05)。 院内死亡率(5.6% vs. 3.3%、P<0.001)および全合併症発生率(23.6% vs. 19.7%、P<0.001)も糖尿病合併群で有意に高く、合併症発生率の差は主として心血管系イベント(16.8% vs. 10.5%、P<0.001)の増加によるものと考えられた。さらに心血管系イベントの内訳では、糖尿病合併例で入院後の心不全や急性冠症候群の発症が多く、大動脈内バルーンパンピング(IABP)、体外式膜型人工肺(ECMO)、人工呼吸管理などの高度治療を要する割合も高かった。 多変量ロジスティック回帰解析の結果、糖尿病は院内死亡の独立した予測因子であることが確認された(オッズ比 1.99、95%信頼区間 1.60~2.47、P<0.001)。さらに、敗血症、大出血、がんも院内死亡の独立した規定因子であった。一方、脂質異常症や虚血性心疾患は死亡リスク低下と関連し、抗血小板薬、スタチン、ACE阻害薬/ARBの使用も死亡率低下と関連していた。 著者らは、CVDで入院したMASLD患者において、糖尿病合併が院内死亡率および合併症発生率の上昇と関連していたと結論づけた。そのうえで、「MASLDの心代謝リスク因子が予後に及ぼす影響を一律に捉えるのではなく、特に糖尿病の有無といった代謝表現型に基づいて層別化して評価することが、より精度の高いリスク評価や個別化医療の推進につながる可能性がある」としている。 なお、本研究の限界として、診断が病名コードに基づくため誤分類の可能性がある点、検査値や治療詳細が含まれていない点、残余交絡の可能性や因果関係を示せない点、非MASLD対照群がない点が挙げられている。

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最適な輸液ルート選択の考え方 その壱【ケースで学ぶ輸液オーダー】第2回

最適な輸液ルート選択の考え方 その壱これから集中治療を行う患者さんに対して、「どこから、何のために、どんなルートを確保するのが安全か」ということをあまり考えずに、先輩医師のやり方を見てなんとなく慣習で選んでいたということは少なくないかもしれません。今一度、輸液ルート選択の思考回路を一緒に整理してみましょう。症例肺炎によるI型呼吸不全、敗血症性ショックでICUに入室した患者さんに対応するよう、指導医とともに緊急呼び出しされた初期研修医A君。酸素10L/分(マスク)、両側肘正中皮静脈から18Gを1本ずつ確保、両側とも細胞外液補充液を急速投与中、それでも血圧80/40mmHg、脈拍120/分、呼吸回数30回/分、SpO2 88%、ショックと低酸素血症が持続しています。迅速導入気管挿管(rapid sequence intubation)を行い、人工呼吸管理となりました。指導医は「あとは頼んだよ」と言って去っていきました。挿管後、患者さんは強い体動を認め、上肢をばたつかせています。ショックの治療と並行して持続的な鎮静・鎮痛が必要です。併存症に糖尿病があり血糖800mg/dL、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)も合併しています。さて、A君は次に何を行うべきでしょうか?考えかたの整理集中治療では、複数の薬剤・輸液を同時並行で安全に投与する必要があります。想定される投与内容は、ショックに対する細胞外液補充液・昇圧薬、人工呼吸中の鎮静薬・鎮痛薬、抗菌薬、維持輸液(将来的に栄養輸液に移行する可能性あり)、インスリンなどです。ここで大切なことが3つあります。1. 流量変動の影響を受けてはいけない薬剤がある例:昇圧薬、鎮静薬・鎮痛薬、インスリン持続投与などこれらは流量が変わると、血圧や鎮静レベル、血糖値が一気に変動するため、急速に注入するラインと同じラインにすべきではありません。2. 配合変化がありうる例:オメプラゾール、セフトリアキソン、アミオダロンなど他剤との混合で沈殿・失活が起こる薬剤があるため、不明な場合は必ず薬剤師に相談しましょう。ちなみに輸血と同一ラインで流せるのは生理食塩液のみです。3. 末梢で理論上可能でも現実的ではないことがある理論上、すべて末梢静脈から投与可能な薬剤でも、必要な薬剤が多すぎて、メイン点滴ルートの側管などを駆使しても現実的にすべて末梢から行えない場合もあります。その場合は、ルートの本数かせぎに複数のルーメンを持つトリプルやクワッドルーメンの中心静脈カテーテル挿入が必要です。中心静脈カテーテル挿入の主な適応は、(1)末梢静脈の確保困難、(2)薬剤の多剤併用、(3)刺激性、腐食性、高浸透圧性の薬剤投与(抗がん剤、昇圧薬、50%ブドウ糖、高カロリー輸液など)、(4)血行動態のモニタリング(スワンガンツカテーテル挿入、中心静脈圧測定などの圧モニター)です。本症例は、(2)多剤併用、(3)昇圧薬投与が該当します。本症例の対応本症例には以下の輸液、薬剤の投与が必要です。ショック:細胞外液補充液、ノルアドレナリン人工呼吸中の鎮静、鎮痛:プロポフォール、フェンタニル敗血症:抗菌薬維持輸液(将来的に中心静脈栄養に移行する可能性あり)インスリン(持続投与)本患者は強い体動を認めているため、現在の両側肘静脈ラインは今にも抜けそうで不安定であり、流量管理が困難かつ薬剤が組織侵襲性のある薬剤を投与すると血管外へ漏出する恐れがあります。以上から、組織侵襲性のある薬剤や一定の流量で投与すべき薬剤を複数かつ安全に投与する目的で、マルチルーメン中心静脈カテーテル挿入が必須です。中心静脈カテーテルの挿入部位はさまざまでそれぞれ長所・短所がありますが、本症例はDICを合併していることから止血の確実性が重要であり、動脈誤穿刺時の圧迫止血の容易さを考えると、内頸静脈または大腿静脈が有利です。ただし、清潔性・感染管理・将来の離床を考えると、右内頸静脈が第1選択となることも多いでしょう。もちろん、超緊急時は理想に固執せずに最も得意な部位から確実に挿入することも許容されます。図1 中心静脈カテーテル各挿入部位の利点、欠点1)画像を拡大する本症例はベテランICUナースによって図2で示す投与経路が組み立てられました。医師が投与経路の組み立てを自ら行うことはまれですが、たとえば昇圧薬、鎮静薬や鎮痛薬、時間をかけて静注する必要のある薬剤にグループ分けするなど、看護師が多くの薬剤を限られたルートからいかに工夫して投与しているか、そのオキテに着目するのは勉強になります。図2 本症例における輸液・薬剤投与経路の実際2)画像を拡大する目的に見合う最適な輸液ルートやカテーテルを選択しましょう。混ぜても大丈夫?注射薬は単独での使用を想定し開発されていますが、臨床現場では輸液バッグやルート内で配合されて投与される場合が多く、配合変化の危険が存在します。配合変化とは、2種類以上の注射薬を混合した際に生じる変化であり、物理的配合変化(例:混濁・沈殿)と化学的配合変化(例:有効成分の力価低下)に分けられます。配合変化による影響としては、力価の低下やルート閉塞、まれではありますが国外において死亡例が報告されています3)。ICUでは複数の静注薬を限られたルートの中で同時投与せざるを得ない状況があります。そのため、最適なルート選択をする上で配合変化の有無の確認は欠かせません。施設によっては配合変化表を作成し、ICUに配置していると思います。ルート選択の際に活用することにより、配合変化の頻度を下げる可能性が報告されており4)、有用なツールです。最後に、ルート管理において注射薬から内服薬への変更や不要な薬剤の中止を検討することも大事な視点になります。安易に継続処方とせず、薬剤の投与方法についても検討するようにしましょう。図3 (左)坂総合病院ICUの配合変化の問い合わせ記録集、(右)坂総合病院救急室の配合変化の有無の一覧表画像を拡大する1)Marino PL. ICUブック第4版. MEDSI;2015.p15-33.2)濱野繁. 10薬剤投与. In:道又元裕. これならわかるICU看護:照林社;2018.p.159.3)セフトリアキソンナトリウム 添付文書4)Kondo M, et al. J Nippon Med Sch. 2022;89:227-232.

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急性低酸素性呼吸不全、高流量酸素療法vs.標準酸素療法/NEJM

 急性低酸素性呼吸不全において、高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)は標準酸素療法と比較して28日死亡率を有意に低下しなかった。フランス・Centre Hospitalier Universitare de PoitiersのJean-Pierre Frat氏らが、同国42ヵ所のICUで実施した無作為化非盲検試験「SOHO試験」の結果を報告した。急性低酸素性呼吸不全患者において、標準的な酸素療法と比較したHFNCの気管挿管および死亡率に関するデータが必要とされていた。NEJM誌オンライン版2026年3月17日号掲載の報告。主要アウトカムは28日死亡率 研究グループは、急性低酸素性呼吸不全によりICUに入院した18歳以上の成人患者連続症例を、HFNC群または標準酸素療法群に無作為に割り付けた。適格基準は、呼吸数25回/分以上、胸部画像検査での肺浸潤影、10L/分以上の酸素投与下での動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入酸素濃度(FiO2)比200以下で、主な除外基準は動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)>45mmHg、慢性閉塞性肺疾患またはその他の慢性肺疾患の増悪、心原性肺水腫、抜管後または腹部・心臓胸部手術後7日以内の呼吸不全などであった。 HFNC群では、加温加湿器を介して50L/分以上、目標酸素飽和度92~96%で、48時間以上酸素を投与した。標準酸素療法群では、10L/分以上で酸素飽和度92~96%を目標に、48時間以上、回復または挿管まで継続した。 主要アウトカムは、無作為化後28日間の全死因死亡、主な副次アウトカムは無作為化後28日間の気管内挿管、無作為化から挿管までの期間、無作為化から28日間の人工呼吸器非使用日数などであった。28日死亡率は両群とも14.6%、副次アウトカムの28日挿管率は42.4%vs.48.4% 2021年1月~2024年10月に計1,116例が無作為化された。このうち、同意撤回5例を含む計6例を除く1,110例(HFNC群556例、標準酸素療法群554例)が解析に含まれた。 28日死亡率は、HFNC群14.6%(81/556例)、標準酸素療法群14.6%(81/554例)(群間差:-0.05%、95%信頼区間[CI]:-4.21~4.10、p=0.98)であった。 28日までの挿管率は、HFNC群42.4%(236/556例)、標準酸素療法群48.4%(268/554例)(群間差:-5.93%、95%CI:-11.78~-0.08)、無作為化から気管挿管までの期間の中央値はそれぞれ24時間(四分位範囲[IQR]:10~67時間)、23時間(IQR:10~47時間)(絶対群間差:0.4時間、95%CI:-6.8~6.5)、人工呼吸器非使用日数の中央値は28日(IQR:11~28日)、26日(IQR:10~28日)(絶対群間差:2.0日、95%CI:0.0~4.0)であった。 安全性については、自発呼吸中の重篤な有害事象(心停止または気胸)はHFNC群で13例(2.3%)(心停止3例、気胸10例)、標準酸素療法群で6例(1.1%)(それぞれ2例、4例)に発生した。 なお、著者は、COVID-19のパンデミック下でウイルス性肺炎患者の割合が高かったこと、挿管されなかった患者では順守状況のデータが前向きに収集されなかったことなどを研究の限界として挙げ、「今後の研究では、HFNCを対照群として、個別化された非侵襲的アプローチを含む呼吸補助戦略の評価が望まれる」とまとめている。

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第284回 終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案

<先週の動き> 1.終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案 2.全国がん登録に「死亡場所」追加、研究活用促進へ/規制改革推進会議 3.小児科・産科、総合診療の人材不足鮮明 医師確保計画の改定で/厚労省 4.美容医療の診療録記載を省令で明確化へ、監督強化でパブコメ開始/厚労省 5.出生数70.6万人で過去最少更新、推計より17年早い少子化/厚労省 6.人口減少で経営悪化の病院再編、市立病院が閉院へ/室蘭市 1.終末期医療における延命治療終了、4学会が合同ガイドライン改訂案救急・集中治療領域における生命維持治療の終了・差し控えを巡り、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会、日本緩和医療学会の4学会は、合同ガイドライン改訂案を公表した。2014年策定の指針から約11年ぶりの改訂となる。改訂案では「終末期」をあえて定義せず、人工呼吸器などの生命維持治療を開始しない、または終了する際の判断手順を具体化した点が特徴となっている。患者本人の価値観や意思を中心に、家族および医療チームが協議して方針を決定する「共同意思決定」を原則とした。また、1度治療を開始すると中止できないという臨床現場の萎縮を防ぐため、期限を区切って治療効果を評価する「タイム・リミテッド・トライアル」の考え方を明記。治療を差し控え、または終了した場合の緩和ケアについても、苦痛緩和の具体的手順や家族支援の在り方を詳細に示した。これまで、法的責任への懸念や指針のあいまいさから、患者が望まない治療が継続される事例も少なくなかった。今回の改訂案は、現場での判断を支える実践的指針として、患者の尊厳を尊重した医療の実現につながることが期待される。3月27日までパブリックコメントを実施している。 参考 1) 終末期医療の指針、救急など4学会改訂案 意思決定やケアの手順示す(朝日新聞) 2) 延命治療終了の手順具体化 学会指針案、11年ぶり改定(共同通信) 3) 延命治療終了の手順明記 4学会が指針案、患者の意思尊重 医療者・家族の協議求める(日経新聞) 4) 「救急・集中治療における生命維持治療の終了/差し控えに関する4学会合同ガイドライン」パブリックコメント募集のお知らせ(日本救急医学会) 2.全国がん登録に「死亡場所」追加、研究活用促進へ/規制改革推進会議政府の規制改革推進会議は2月26日、規制改革に関する中間答申を公表し、「全国がん登録情報および院内がん登録情報の利活用拡大」を最重要項目に位置付けた。がん登録に含まれる死亡日や死因情報は、遺族の個人情報に該当する可能性から、現行制度では第三者提供が厳しく制限されている。その一方で、多施設共同研究などでは生存確認や死亡情報の活用ニーズが高く、「研究に使えない」との指摘が相次いでいた。中間答申では、死亡日を5日単位でグループ化するなど、個人特定リスクを抑えた加工を施したうえでの第三者提供を検討すると明記。死因についても、がん死亡では部位が判別可能な情報、非がん死ではICD中間分類レベルの提供を可能とする方向性が示された。2026年の制度実施を目指す。これにあわせて、全国がん登録の届け出項目拡充も進められる。厚生労働省は、2027年診断症例から「死亡場所」を登録項目に追加する方針を了承。終末期医療や在宅看取りの実態把握に資する狙いだ。さらに、2028年以降はUICCのTNM分類(腫瘍径、リンパ節転移、遠隔転移)の追加も予定されている。また、院内がん登録とNDB(レセプト・特定健診情報)など公的データベースの連結解析を可能とし、本人同意を不要とする第三者提供の対象に院内がん登録を含める方針も示された。AYA世代や希少がんでは、国際標準分類に基づく情報提供を拡充する。その一方で、議論が続く自治体がん検診の「医師1人+AI読影」解禁は、今回の中間答申には盛り込まれなかった。政府は、今夏に規制改革実施計画を策定し、がん研究基盤の強化を急ぐとしている。 参考 1) がん登録情報の利活用、死亡日など提供方法を検討 中間答申 規制改革推進会議(CB news) 2) がん登録に「死亡場所」も 27年症例から項目追加 厚労省(同) 3) 規制改革推進に関する中間答申(規制改革推進会議) 3.小児科・産科、総合診療の人材不足鮮明 医師確保計画の改定で/厚労省厚生労働省は、2月25日に開かれた「第13回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」で、都道府県を対象に実施したアンケート結果を公表し、医師確保が特に必要な診療科として「小児科」を挙げた自治体が最多の41都道府県に上ったと明らかにした。次いで産科・産婦人科が40、総合診療科が34となり、生命予後に直結しやすく、24時間対応や当直負担の重い診療科で人材不足が深刻である実態が改めて浮き彫りとなった。特定診療科の医師確保に向けた支援策は44都道府県で実施しており、主な手法は(1)診療科を特定した地域枠の設定、(2)人件費や医師派遣費など医療機関への財政支援、(3)大学への寄附講座設置などであった。その一方で、都道府県が養成過程での対策を進めるために国に求める支援としては、財政支援の拡充、制度に関する情報提供や協議の場の設置、臨床研修・専門研修での採用上限設定など制度的関与の強化が多く挙げられた。この検討会において、第8次医師確保計画(後期、2027年度~)に反映する「医師養成過程の取組に係る議論の整理(案)」を大筋で了承した。整理案では、地域枠は原則として恒久定員内で設置する方針を明確化し、医師少数県や離島・豪雪地帯など、やむを得ない事情がある場合に限って臨時定員の活用を例外的に認めるとした。また、医学部段階だけでなく、臨床研修・専門研修を通じた偏在是正を重視し、若手医師の流出入や研修修了後の定着状況、地域枠医師の義務年限終了後の勤務実態を継続的に把握・検証することを都道府県に求めた。大学医学部・大学病院に対しては、地域医療を担う診療科への誘導や研修プログラムの魅力向上など、教育機能と地域医療政策の一体的運用がより強く求められることになる。 参考 1) 医師確保が特に必要な診療科、最多は「小児科」 厚労省の都道府県調査で(CB news) 2) 地域枠は原則「恒久定員内」に設置へ 医師多数県以外も 厚労省検討会が整理案(同) 3) 特に医師確保が必要な診療科として、41都道府県が「小児科」と回答(日経メディカル) 4) 医師確保計画策定ガイドラインの見直しに向けた医師養成過程の取組に係る議論の整理案(厚労省) 4.美容医療の診療録記載を省令で明確化へ、監督強化でパブコメ開始/厚労省厚生労働省は、美容医療を巡る健康被害や不適切な勧誘の増加を受け、医師の診療録の記載ルールを見直す省令改正案を公表し、パブリックコメントを実施している。意見募集は3月17日まで。改正案では、美容医療を提供する場合の診療録の記載事項に「患者の主訴」「患者が希望する治療内容」が含まれることを明確化し、保健所などの立入検査・指導で診療実態を確認できるようにする。これまでは医師法違反などが疑われる事案でも、診療録の記載自体が不十分で根拠が追えず、指導の実効性が上がらないケースがあったためであり、厚労省は監督強化の一環として2026年4月の施行を予定している。今回の医師法施行規則の改正は、美容医療の消費者相談の件数増加を受け、2024年に厚労省は「美容医療の適切な実施に関する検討会」での議論をもとに、同年11月の取りまとめで「診療録記載の徹底」を安全確保の柱に位置付けた経緯がある。わが国の美容医療はSNS拡散とコロナ禍の「特需」を追い風に急拡大し、推計では2024年に市場規模は6,310億円に達している。クリニック数は、2020年の1,404施設から2023年に2,016施設へと増加し、施術件数も2017年約160万件から2024年約306万件に伸長、自由診療の高収益性を背景に研修後すぐ美容医療に進む「直美」医師も2012年の16人から2022年には198人と急増している。その一方で、経験不足や合併症対応の脆弱さを不安視する声があり、国民生活センターへの相談件数も2022年度3,798件から2024年度1万736件へと急増している。自由診療は保険診療と異なり、診療内容について保険審査の枠外で、価格設定や運営の自由度が高い。クリニックによっては、カウンセラーにノルマを課して高額な施術へ誘導するほか、術後の合併症の対応能力不足、未承認の薬剤や医療機器を使用した施術での重篤な被害の発生も繰り返されている。SNSでは「痛みゼロ」「必ず小顔」など断定的表現や根拠不明の肩書が拡散しやすく、広告規制が届きにくい「グレーゾーン」も課題となっている。厚労省では、患者の「主訴」「希望する治療」の記録を明確化して、診療の妥当性や説明・同意の検証、トラブル時の事後検証を可能にし、行政指導につなげたい考え。2025年12月には美容医療機関に安全管理措置や相談先などの報告を年1回程度求める制度整備も進んでおり、今回の省令改正と併せ、統一的な指針整備、若手教育・倫理、広告監視の実効性をどう高めるかが焦点となる。厚労省は、パブリックコメントで記載項目の具体性や運用負担、立入検査での活用方法などへの意見を求めており、4月以降は現場での真摯な対応が求められる。 参考 1) 医師法施行規則及び歯科医師法施行規則の一部を改正する省令案に関する御意見の募集について(政府) 2) 美容医療の適切な実施に関する検討会 報告書(厚労省) 3) 美容医療、診療録の記載事項に「患者の主訴」「希望する治療内容」も 省令改正へ(CB news) 4) 美への欲望につけこみ高額な課金、死亡事故も…専門医は「過剰営業」を懸念(日経メディカル) 5) 「成功してるじゃん」美容医療で“しこり”も医師が失敗認めず…被害者が施術費用の返還など求めクリニックを提訴(弁護士JPニュース) 5.出生数70.6万人で過去最少更新、推計より17年早い少子化/厚労省厚生労働省が公表した人口動態統計速報(外国人を含む)によると、2025年の出生数は70万5,809人で、1899年の統計開始以降で過去最少を更新し、10年連続減少した。前年差は1万5,179人減(2.1%減)で、2022~24年の約5%減に比べ減少幅は縮小した。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の将来推計(中位推計)では出生数が70万人台となるのは2042年と見込まれており、想定よりも約17年早いペースで少子化が進んでいる。死亡数は160万5,654人で0.8%減と5年ぶりに減少へ転じたが、出生数との差である自然減は89万9,845人と過去最大に拡大した。団塊の世代が全員75歳以上となる中、人口減の加速が改めて示された。婚姻数は50万5,656組で1.1%増、2年連続の増加。ただしコロナ禍前(2019年の59万組台)には戻っていない。離婚は18万2,969組で3.7%減だった。地域別では45道府県で出生数が減少する一方、東京都は8万8,518人(1.3%増)と速報値で9年ぶりに増加し、石川県も6,515人(128人増)と増加に転じた。全国出生数の約3割を首都圏1都3県が占め、地域差も鮮明となった。東京都は、現金給付や保育料無償化の拡大、無痛分娩助成など子育て支援を進めており、周辺自治体から転居希望の増加を指摘する声もある。上野 賢一郎厚生労働大臣は、若年層の所得向上や共働き・共育て支援を進める考えを示し、「婚姻増は良い傾向」と述べている。もっとも、出生数の下振れが続けば、年金・医療・介護の前提となる人口見通しが揺らぎ、給付と負担の再設計を迫る可能性がある。なお日本人のみの出生数・合計特殊出生率は6月公表予定で、出生数は60万人台となる見通しが示されている。政府は2030年までが少子化反転の「ラストチャンス」として、こども未来戦略を推進し、財源として公的医療保険に上乗せする支援金制度を段階的に運用する方針も示している。 参考 1) 人口動態統計速報(厚労省) 2) 2025年の出生数70万人、10年連続で最少更新…東京・石川が増加に(読売新聞) 3) 出生数過去最少の70万人 推計より17年早い少子化 25年速報値(毎日新聞) 4) 2025年の出生数70.5万人 少子化は推計より17年早く、人口減も進行(日経新聞) 5) 2025年、出生数は70万5,809人で10年連続減少、死亡数が160万5,654人で、自然増減は「マイナス89万9,845人」-厚労省(Gem Med) 6.人口減少で経営悪化の病院再編、市立病院が閉院へ/室蘭市北海道室蘭市は、経営悪化が続く市立室蘭総合病院について2027年度をめどに閉院し、高度急性期・急性期機能を製鉄記念室蘭病院へ統合する方針を正式に決定した。市内3病院(市立室蘭総合病院、製鉄記念室蘭病院、日鋼記念病院)の再編を巡り、地域医療連携再編等推進協議会が最終合意に達した。背景には、室蘭市および西胆振地域で進む人口減少と急性期医療需要の縮小がある。3病院が同様の急性期機能を維持し続ければ、病床過剰や症例分散により医療の質低下や医師確保難を招き、病院経営の持続性が失われるとの判断が示された。市立病院は1872年開設、517床・22診療科を有し、約720人が勤務する基幹病院だが、2024年度末で約85億円の負債を抱え、市の一般会計からの多額の繰り出しが市の財政を圧迫していた。再編後、東室蘭地域では製鉄記念室蘭病院が2次医療圏の救命救急・高度急性期拠点を担い、蘭西地域では日鋼記念病院を中心に急性期から回復期、在宅医療までを支える体制とする。道内初の結核患者収容モデル病室の稼働など、政策医療の集約も進める。その一方で、500人超の市立病院職員は公務員の身分を失うため、再就職支援が課題となる。北海道知事の鈴木 直道氏は、患者の受け皿確保や職員雇用について市と連携し、丁寧に対応する考えを示している。今回の閉院は、人口減少地域における公立病院再編の先行事例として、全国の地域医療に大きな影響を与える可能性がある。 参考 1) 室蘭市地域医療連携・再編等推進について(室蘭市) 2) 市立室蘭総合病院、27年度めどに閉院へ 製鉄記念室蘭病院へ機能統合 3病院再編で合意(CB news) 3) 市立室蘭総合病院を閉院へ 北海道室蘭市、70億円超の財政支出も(朝日新聞) 4) 150年の歴史がある市立病院が閉院へ…新年度に23億円支出方針の室蘭市の財政は「危機的水準」(読売新聞)

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2024~25年コロナワクチンは重症化をどれくらい防いだのか?

 2024~25年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種がCOVID-19関連アウトカムの予防に及ぼした効果を推定した症例対照研究の結果、入院に対するワクチンの有効性は40%であった一方、アウトカムが重篤であるほど有効性は高く、最も重篤な人工呼吸器使用または死亡に対する予防効果は79%であることが示された。これらの重症化予防効果は、ワクチン接種後少なくとも3~6ヵ月は持続した。米国疾病管理予防センター(CDC)のKevin C. Ma氏らが、JAMA Network Open誌2026年2月3日号で報告した。 対象は、2024年9月1日~2025年4月30日に、米国20州の26病院でCOVID-19様症状により入院し、SARS-CoV-2検査を受けた成人患者(18歳以上)であった。主要評価項目は、COVID-19関連の入院および重篤なアウトカム(補助酸素療法、急性呼吸不全、集中治療室入室、侵襲的人工呼吸器の使用、死亡)とした。ロジスティック回帰を用いて、SARS-CoV-2検査陽性か陰性かをアウトカムとし、COVID-19ワクチン接種の有無との関連を評価した。解析は人口統計学的特性、臨床的特徴および地域で調整した。 主な結果は以下のとおり。・合計8,493例が登録された(年齢中央値:66歳、女性:51.1%)。SARS-CoV-2検査陽性群が1,888例、陰性群が6,605例であった。・2024~25年のCOVID-19ワクチン接種率は、陽性群11.4%(216例)、陰性群18.5%(1,224例)であった。・COVID-19関連入院に対するワクチンの有効性は40%(95%信頼区間[CI]:27~51)であった(接種後の期間中央値:陽性群80日、陰性群108日)。・経過時間別のCOVID-19関連入院に対するワクチンの有効性は、接種後7~89日で34%(95%CI:14~49)、90~179日で52%(95%CI:34~65)であった。研究グループは、接種早期の低い有効性については、ワクチン接種前の自然感染増加によって一時的に集団免疫が上昇した可能性を指摘している。・最も重篤な転帰である人工呼吸器使用または死亡に対するワクチンの有効性は79%(95%CI:55~92)とより高かった。・SARS-CoV-2系統別の入院に対するワクチンの有効性は、KP.3.1.1株では49%(95%CI:25~67)、XEC株では34%(95%CI:4~56)、LP.8.1株では24%(95%CI:-19~53)であった(接種後の期間中央値:KP.3.1.1株60日、XEC株89日、LP.8.1株141日)。・推定ワクチン効果は、スパイクタンパク質の変異がある場合であっても同様であった(S31欠失変異株:41%、T22NおよびF59S置換変異株:37%)。 これらの結果より、研究グループは「LP.8.1株については、免疫の経時的減弱と変異による免疫回避を区別することが困難であり、低い推定値がウイルスの遺伝子変化によるものか、あるいは接種後の経過時間が長かったことによるものかは不明」としたうえで、「JN.1系統の子孫株が進化し続けているため、重症COVID-19に対するCOVID-19ワクチンの有効性を評価することは、ワクチン接種戦略を導くうえで依然として重要である」とまとめた。

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第304回 両肺摘出男性の命を人工肺装置が丸2日間つなぎ留め、両肺移植を可能にした

米国のNorthwestern Medicineの外科医が開発した人工肺装置が、両肺摘出男性の両肺移植までの丸2日間の命をつなぎ留めました1,2)。インフルエンザ、肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などのさまざまな疾患が肺を脅かします。肺炎や敗血症を発端として生じる重度のARDSはとくに命に関わり、死亡率は80%を超えます。ARDSはたいてい人工呼吸や酸素投与で治療され、幸いにして危機を乗り越えられるかもしれません。しかしARDS患者の肺がもはや後戻りできないほどに損傷しているのか、それとも回復しうるのかを判断するのは非常に困難です。それに、肺損傷が不可逆的で肺移植がどうやら必要となったとしても、敗血症の持続やおぼつかない臓器の心配により肺移植に踏み切ることはめったにありません。Northwestern Medicineの胸部手術部の長であるAnkit Bharat氏らも33歳のある患者を前にしてまさにその課題に直面しました3)。その男性患者はインフルエンザをこじらせて肺が機能しなくなり、最大限の治療の甲斐なく急速に進行する壊死性細菌性肺炎と怒涛の敗血症に陥りました。悲しいかな病状は悪化し続け、体外式膜型人工肺(ECMO)を施すも心臓が停止を繰り返すようになります。最も重症のARDS患者はやがて肺が回復することを願ってしばしば長期の生命維持装置にかけられます。しかし、肺自体が間断なく続く感染や炎症の出所となって臓器不全を誘い、肺を取り除いて置き換えるしか手の打ちようがなくなることもあります。Bharat氏らが開発した人工肺は血液を酸素で満たす以上の働きを担い、生来の肺がなくても安定した血液循環を保てるようにします。取り除いた両肺に代わるその人工肺のもとで男性は感染症を克服し、1日もすると快方に向かいました。丸2日間で男性の体調は移植できるほどに回復し、28歳の男性からの両肺の移植に晴れて漕ぎ着けることができました。患者から取り除いた肺を解析したところ、免疫の仕業でほうぼうが傷んでいました。肺の修復に必要な細胞はほぼ見当たらず、瘢痕を形成する細胞がそこら中におり、肺の本来の構造がすっかり失われていました。甚大な損傷が肺全域に及ぶ様はまさに肺移植を標準の手立てとする末期の肺線維症に似ていました3)。それらの観察結果は、肺の重度感染での損傷が回復可能かもしれない段階から後戻りできない不可逆的段階に移行したかどうかを見極めるのに役立ちそうです。重度ARDSへのこれまでの手立てといえばだいたいが人工呼吸などで生命を維持して肺の回復を期待するしかありませんでした。しかし今回の患者の肺には実質的に不可逆的な重度損傷を示唆する線維化が見て取れ、回復を待つのは無駄で両肺移植する以外に回復し得ない場合があることを裏付けています。Bharat氏らの人工肺で両肺移植までの命をつなぎ留めた男性患者は、移植後2年時点ですこぶる良好な心肺機能を保っています。より標準化された装置や手順の開発が今回の経験を足がかりにして加速し、患者が移植まで安全に漕ぎ着けるようになることをBharat氏らは望んでいます2)。参考1)Yan Y, et al. Med. 2026 Jan 29. [Epub ahead of print] 2)Northwestern Medicine surgeons develop a total artificial lung system to keep a patient alive for 48 hours after removing both lungs, enabling a double-lung transplant / Northwestern Medicine3)Artificial Lungs Keep Patient Alive While Waiting for a Transplant / TheScientist

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庭で倒れていた家族から有機溶媒臭【中毒診療の初期対応】第4回

<今回の症例>年齢・性別55歳・女性患者情報 2ヵ月前に母親がクモ膜下出血で突然死した。1ヵ月前頃よりうつ状態となり、最近では「死にたい」などと家族に訴えていた。仕事から帰宅した夫に、自宅の庭で倒れているところを発見され、救急要請された。救急隊現着時は鼾様呼吸、呼吸数24回/分、SpO2 82%、血圧 94/60mmHg、心拍数 42bpm、意識レベルJCS 100、瞳孔左右 1.5mm同大、対光反射±、体温35.6℃であった。患者の着衣は吐物で汚染され、シンナーのような有機溶剤臭がした。また、気道分泌物が著明で、尿失禁および便失禁を認めた。非再呼吸式リザーバー付きフェイスマスクにて酸素10L/分を投与しSpO2 92%となった。患者は経口摂取による急性中毒を疑われて救命救急センターに搬送された。<問題1><解答はこちら>4.脱衣・シャワー浴救急車内は換気されていたが、有機溶剤臭が著しく、救急隊員は気分不快を訴えた。除染スペースで患者を脱衣させ衣類をビニール袋に密閉し、シャワーで身体を洗浄してからERに搬入した。初診時は気道分泌過多による呼吸不全、洞性徐脈、血圧低下、昏睡、縮瞳、尿失禁、便失禁を認めた。胸部の聴診では湿性ラ音を、腹部の聴診では腸蠕動音の亢進を認めた。気管挿管により気道を確保し、人工呼吸器管理とした。並行して、静脈路の確保・急速輸液、および採血を施行した。検査値・画像所見末梢血では、WBC 8.90x103/mm3、Hb 13.2g/dL、Ht 38.0%、Plt 142x103/mm3、生化学検査では、TP 7.1g/dL、AST(GOT) 14IU/L、ALT(GPT) 11IU/L、LDH 158IU/L、CPK 78IU/L、AMY 222IU/L、Glu 112mg/dL、BUN 10mg/dL、Cr 0.6mg/dL、Na 142mEq/L、K 4.1mEq/L、Cl 104mEq/L、血清コリンエステラーゼ(ChE)40IU/L未満、動脈血ガス(非再呼吸式リザーバー付きフェイスマスクにて酸素10L/分)、pH 7.362、PaCO2 42.4Torr、PaO2 64.3Torr、HCO3- 19.4mmol/L、BE -2.2mmol/L、乳酸値 3.8mmol/Lであった。<問題2><解答はこちら>3.有機リン後日、患者の夫が庭の収納棚で有機リンであるフェニトロチオンを50.0%含有する殺虫剤100mLの空ボトルを発見した。 <問題3><解答はこちら>1.アトロピン1)上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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RSV感染症とインフルの症状を比較、RSV感染症の重症化リスク因子は?

 RSウイルス(RSV)とインフルエンザウイルスはいずれも下気道感染症の主要な原因であり、冬から春にかけて流行することが多い。従来RSVは主に乳幼児の感染症として認識されてきたが、近年では、高齢者や基礎疾患を持つ人を中心に、成人においても重篤な下気道感染症や合併症を引き起こすとの報告が相次いでいる。こうした背景から、両ウイルスの臨床的特徴や予後への影響を比較した研究が行われた。中国・国立呼吸器疾患臨床研究センター(北京)のRui Su氏らによる本研究の結果は、International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2026年1月9日号に掲載された。 本研究は北京市の中日友好病院において、呼吸器疾患の流行期(2023年11月1日~2024年1月30日)に実施された。検査でRSVまたはインフルエンザA型の感染が確認され、入院した全成人患者を対象とした。RSV群、インフルエンザ群、両ウイルスの重複感染群の3群に分類し、臨床的特徴、併存疾患、治療法、合併症、転帰などを比較した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者538例の内訳は、RSV群162例(30.1%)、インフルエンザ群355例(66.0%)、重複感染群21例(3.9%)であった。重複感染群は最も高齢(中央値72歳)で喫煙者の割合が著しく高く(90.5%)、低酸素血症(71.4%)や呼吸困難(76.2%)を呈する頻度が高かった。・RSV群では痰を伴う咳の頻度が高く(62.3%)、インフルエンザ群は発熱(64.8%)および筋肉痛(14.6%)の頻度が高かった。・抗ウイルス療法の実施率はRSV群で最も低かった(24.1%)。一方で、抗ウイルス療法の実施率が最も高いインフルエンザ群において、合併症発症が最も多かった(99.2%)。・人工呼吸器の使用率は重複感染群で最も高かった(42.9%)ものの、全死亡率およびICU入院率では3群間で差を認めなかった。・RSV群の多変量解析では、喫煙(調整済みオッズ比[aOR]:2.61)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)(aOR:2.99)、慢性心不全(aOR:3.71)、肺炎(aOR:3.14)が独立した予後不良因子だった。 研究者らは「RSVおよびインフルエンザウイルス感染症は合併症の負担が大きいという共通点はあるが、臨床的特徴はそれぞれ異なっている。COPD、心不全、肺炎を伴うRSV患者はよりリスクが高く、重複感染は人工呼吸器使用頻度の増加など、重症度をさらに深刻化させる。このため、RSVワクチン接種を含む、個別化された予防・治療戦略が必要である」としている。

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乳児のRSV関連入院予防、ニルセビマブvs.RSVワクチン/JAMA

 呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染は、乳児の急性下気道感染症(LRTI)による入院の主因とされる。フランス・EPI-PHAREのMarie-Joelle Jabagi氏らは、ニルセビマブ(長期間作用型抗RSVヒトモノクローナル抗体)による受動的乳児免疫は、RSV融合前Fタンパク質(RSVpreF)ワクチン母体接種後の胎盤を介した抗体移行による乳児免疫と比較して、RSV関連入院を抑制し、重度のアウトカムのリスク低下をもたらすことを示した。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年12月22日号に掲載された。フランスのコホート研究 研究グループは、乳児のRSV関連入院の予防におけるニルセビマブによる受動免疫の有効性の評価を目的に、住民ベースのコホート研究を行った(EPI-PHAREなどの助成を受けた)。解析には、フランスのほぼ全住民の個別データを含むフランス全国保健データシステム(SNDS)のデータを使用した。 RSVpreFワクチンの母体接種は、RSV流行期である2024年9月1日~12月31日にフランス本土で出生した乳児を対象に、妊娠32~36週に実施した。ニルセビマブによる乳児への受動免疫は、退院の前に単回の筋肉内投与で行った。これら2群(RSVpreFワクチン群、ニルセビマブ群)の乳児を、産科病棟退院日、性別、在胎週数、居住地域により、1対1の比率でマッチさせ追跡評価した。 主要アウトカムは、RSV関連のLRTIによる入院とした。 合計4万2,560人の乳児(平均日齢3.7[SD 1.4]日、男児51.7%)を登録した(各群2万1,280人)。母親の出産時年齢中央値は、ニルセビマブ群でわずかに若かった(31歳vs.32歳)。追跡期間中央値は84日(四分位範囲:70~99)だった。ほとんどが細気管支炎で入院 RSV関連のLRTIによる入院(主要アウトカム)は481例で発生した。RSVpreFワクチン群が269例(55.9%)であったのに対し、ニルセビマブ群は212例(44.1%)と有意に少なかった(群間差:-11.8%、95%信頼区間[CI]:-18.1~-5.5、p<0.001、補正後ハザード比[HR]:0.74、95%CI:0.61~0.88)。 全体の入院時の平均日齢は38.9(SD 22.2)日であった。入院の原因となったRSV関連LRTIのほとんどが細気管支炎(464例、96.5%)で、気管支炎(13例)や肺臓炎(4例)はわずかだった。入院期間中央値は両群とも5日であった。 また、RSVpreFワクチン群に比べ、ニルセビマブ群は重度のアウトカムのリスクが低かった(小児集中治療室[PICU]入室:25.9%vs.37.5%、p=0.007、補正後HR:0.58[95%CI:0.42~0.80]、酸素療法:18.4%vs.28.3%、p=0.01、0.56[0.38~0.81]、人工呼吸器:24.1%vs.33.1%、p=0.03、0.57[0.40~0.81])。これは、ニルセビマブにより入院後の疾患進行が抑制されたことを示唆する。ECMO、NO吸入の使用はない 非侵襲的換気(ニルセビマブ群24.1%vs.RSVpreFワクチン群32.0%、p=0.06)や侵襲的換気(0.9%vs.1.5%、p=0.59)の頻度は、両群間に差はなかった。また、体外式膜型人工肺(ECMO)や一酸化窒素吸入療法は使用されなかった。院内死亡の報告はなかった。 サブグループ解析や感度分析は、これら主解析の結果と一貫性を示した。なお、本研究では、安全性の評価は行っていない。 著者は、「追跡期間中にニルセビマブ群で観察されたリスク低減は、RSVpreFワクチン群における母体由来抗体の減衰、あるいは初期の抗体値の不足を反映している可能性がある」「これらの結果は、RSVpreFワクチンの有効性を否定するエビデンスと解釈すべきではない。接種の条件や環境によっては、ワクチンがより現実的な場合があり得る」「本試験の知見は、フランス本土において、これらの免疫戦略を用いた最初のRSV流行期の状況を反映しており、今後の研究では、この戦略の再評価を行う必要がある」としている。

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HNRNP関連疾患

1 疾患概要2 診断3 治療4 今後の展望5 主たる診療科6 各論7 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)1 疾患概要■ 概念・定義hnRNP(ヘテロ核リボヌクレオプロテイン、Heterogeneous Nuclear Ribonucleoproteins)は、RNAのスプライシング、輸送、安定性、翻訳などに関わるRNA結合タンパク質のファミリーである。このhnRNPの異常は、さまざまな先天異常症候群、神経発達症、成人の神経筋疾患、がん、自己免疫疾患などと関係する。本稿では主に神経疾患との関連について記載する。遺伝子名の場合、HNRNPと大文字・斜体で記載する。■ HNRNP関連疾患の疫学正確な疾患頻度は不明であるが、数万出生に1人程度の希少疾患と考えられる。遺伝子別にみるとHNRNPH2、HNRNPU、HNRNPK関連疾患が多い。海外では多数の報告がある1)。筆者は10例以上の診断に関与しているが、国内未診断例も多いと思われる。■ HNRNP関連疾患の病因遺伝情報がDNA→RNA→タンパク質という経路で、DNAがRNAをコードし、RNAがタンパク質に翻訳されるという基本原則を「セントラルドグマ」と呼ぶ。生物では核内でDNAから遺伝情報を写し取ったmRNA前駆体(pre-mRNA)が、修飾を受けて成熟mRNAとなる。その後、細胞質に輸送され、適切な時期にタンパク質に翻訳される。この一連の過程には、さまざまなRNA結合タンパク質が関与している。hnRNPは、核内でmRNA前駆体やその他のRNA分子に結合するタンパク質ファミリーである。hnRNPは、mRNA前駆体のスプライシング(イントロン除去とエクソン結合)に関与する。一部のhnRNPはスプライシング部位の選択に影響を与え、選択的スプライシングを調節する。hnRNPは、核内でRNAを輸送する際に誘導する役割を持つ。とくにRNA分子が核膜を通過して細胞質に移動する際に重要である。また、hnRNPはRNA分子を安定化し、分解から保護する役割を持つ。一部のhnRNPは、mRNAの翻訳効率に影響を与え、遺伝子発現を調節する。hnRNPはRNA分子の二次構造形成や構造変化を助ける。このように、hnRNPの異常により、さまざまなレベルでRNAに異常が生じることが病態の背景にある。ヒトでは30種類以上のhnRNPが知られており、それぞれが異なる機能やRNA結合特性を持つ。■ 症状後述の「6 HNRNP関連疾患の各論」で各疾患ごとに述べる。■ 分類主なHNRNP関連疾患を表に示す。まだ、メンデル遺伝病として確立していないものも存在する。表 疾患との関連が判明しているHNRNP遺伝子画像を拡大する■ 予後遺伝子タイプで異なるが、ALSの場合は人工呼吸管理が必要になる。先天異常症候群の場合は成人期以降も精神運動発達遅滞が持続する。2 HNRNP関連疾患の診断後述するような臨床所見を持つ症例において、責任遺伝子の病的バリアントを検出することが基本である。微細欠失例が存在するので、マイクロアレイ染色体検査が最初に必要である。マイクロアレイ染色体検査で異常がない場合は、エクソーム解析などの網羅的遺伝子解析の適応となる。最初から診断を疑って遺伝子診断を行うことは難しい。ただし、筆者の経験ではHNRNPK異常(Au-Kline-Okamoto症候群)は特徴的所見により、臨床的に疑うことが可能である。遺伝形式は常染色体顕性遺伝によるが、HNRNPH2はX連鎖性である。基本的に両親にバリアントはなく、生殖細胞系列の新生突然変異である。染色体の微細欠失でHNRNP関連遺伝子が欠失する場合、近傍の遺伝子も同時に欠失することで、症状が修飾される可能性がある。3 HNRNP関連疾患の治療 現在のところ、根本的な治療方法はなく、対症療法に留まる。精神運動発達遅滞に対しては療育訓練が必要である。てんかんを合併した場合は一般的なてんかん治療を行う。4 HNRNP関連疾患の今後の展望HNRNPH2などでASO(Anti-sense Oligonucleotide)を用いた遺伝子治療が海外で研究的に実施されている。5 HNRNP関連疾患の主たる診療科HNRNPA1、HNRNPA2/B1遺伝子関連疾患は脳神経内科の領域であるが、他のものは小児科ないし小児神経科が関わる例が多い。合併症によっては多くの分野の医療が必要となる。遺伝学的検査や遺伝カウンセリングについては、臨床遺伝学の領域となる。6 HNRNP関連疾患の各論■ HNRNPA1、HNRNPA2/B1関連疾患ALS(筋萎縮性側索硬化症)、FTD(前頭側頭型認知症)、MSP(多系統タンパク質症)などの原因となる。ALSではSOD1など多くの責任遺伝子が知られているが、HNRNPA1、HNRNPA2/B1も原因の1つである。HNRNPA1は、mRNAのスプライシング、輸送、安定性調節などに関わる。ストレス顆粒(stress granule)形成にも関与する。この遺伝子のバリアントにより産生タンパク質の構造が変化し、異常な凝集(aggregation)や細胞質移行が起こることで神経細胞や筋細胞の機能障害が生じる。なお、HNRNPA2とHNRNPB1は、同じ遺伝子から由来する。家族性ALSの発症は中年期以降に多いが、若年例も報告がある。上位運動神経および下位運動神経の障害による進行性筋力低下、嚥下障害、呼吸筋障害がみられる。現時点で根治療法はない。ALS例では呼吸管理、リハビリ、栄養管理を行う。多発性筋炎様筋疾患(Inclusion Body Myopathy with early-onset Paget disease and Frontotemporal Dementia:IBMPFD)類似病態では筋力低下、骨疾患、認知症の組み合わせを呈する例がある。筋病理ではリムドボディを含む封入体筋炎の所見がみられる。筋疾患例では理学療法と補助具使用を考慮する。■ HNRNPH2異常によるBain症候群(Bain型X連鎖性知的障害)Bain症候群は、HNRNPH2遺伝子(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein H2)における機能喪失型または機能異常型バリアントによって生じる先天異常症候群である。2016年にBainらが報告した2)。X連鎖顕性であり、女性患者に多く、男性では知的障害の程度が強く、重症例は新生児期に死亡する。HNRNPH2に病的バリアントが存在すると、スプライシング制御異常やRNA代謝障害を引き起こし、神経発達に影響する。とくに神経細胞の成熟やシナプス形成が阻害される。症状として、中等度~重度の精神運動発達遅滞、知的障害を認める。言語発達は遅れ、重度の例では言語獲得ができない。自閉症スペクトラム障害や行動異常の例もある。筋緊張低下、運動発達遅滞がみられ、重度の例では独歩獲得ができない。てんかんを発症する場合があり、脳波検査や脳MRI検査が必要である。MRI検査では脳梁形成不全や大脳白質異常を認める。小頭症や軽顔貌特徴を認める場合がある。レット症候群に類似した常同運動などの症状を認める例もある。確定診断は遺伝学的検査(全エクソーム解析、遺伝子パネルなど)でHNRNPH2の病的バリアントを同定することが必要である。さまざまなバリアントの報告があるが、p.Arg206Trpが最も多い。現時点では根本的な治療方法はなく、療育訓練やてんかん治療など、対症療法が中心となる。また、能力に応じた特別支援教育が必要となる。■ HNRNPH1関連疾患“Neurodevelopmental disorder with craniofacial dysmorphism and skeletal defects”の原因疾患である。主な症状は精神運動発達遅滞、知的障害、特徴的顔貌、乳児期の哺乳栄養障害、胃食道逆流症、低身長、小頭症などである。眼科的には斜視、近視などを認める。頭部MRI検査では側脳室拡大、脳梁異常、小脳虫部低形成などを認める。■ HNRNPK関連疾患(Au-Kline-Okamoto症候群)Au-Kline-Okamoto症候群は染色体9q21にあるHNRNPK遺伝子の病的バリアントないし欠失による先天異常症候群である3)。Okamoto症候群として知られていた先天異常症候群において、HNRNPKのバリアントが同定され、Au-Kline症候群とOkamoto症候群は同一疾患であることが判明した4)。神経系の症状として精神運動発達遅滞、知的障害、筋緊張低下などを認める。頭部が長頭などの変形を認める場合、頭蓋縫合早期癒合症を鑑別する必要があり、3D-CT検査が有用である。脳MRI検査では髄鞘化遅延、脳梁低形成ないし欠損、異所性灰白質などの所見を認める。特異顔貌は診断の参考となる。眼瞼裂斜下、長い眼瞼裂、眼瞼下垂、眼球突出傾向、大きい耳、耳輪低形成、耳介低位、広い鼻梁、鼻翼低形成、鼻根部平低、開口、高口蓋、口蓋裂、軟口蓋裂、舌の中央線などを認める。歌舞伎症候群が鑑別に上がる。泌尿器系では停留精巣、膀胱尿管逆流症、水腎症、神経因性膀胱の例がある。心室中隔欠損や心房中隔欠損症など先天性心疾患の精査も必要である。骨格系では股関節脱臼、側彎症などを認める例がある。根本的な治療法はなく、合併症に合わせた治療を行う。また、精神運動発達遅滞に対しては療育が必要である。■ HNRNPU関連神経発達症染色体1q44に座位するHNRNPUの病的バリアントや欠失が原因である5)。神経発達に必要な多くの遺伝子の発現制御に関わるHNRNPUの機能喪失により、神経発生やシナプス形成に必要な多くの遺伝子の転写・スプライシング制御に異常が生じる。多くは常染色体顕性の突然変異である。精神運動の発達遅滞、中等度~重度の知的障害、筋緊張低下がみられる。言語表出の遅れもみられる。HNRNP関連疾患の中でもてんかんの合併が多いことが特徴である。乳児早期てんかん脳症の形態をとる場合がある。West症候群やLennox-Gastaut様などの報告もある。頭囲については軽度小頭症や巨頭症の報告がある。顔貌特徴(非特異的だが、やや長い顔、広い前額部など)が報告される。脳MRI検査異常として、脳梁低形成、白質異常などを認める。滲出性中耳炎や斜視にも注意が必要である。マイクロアレイ染色体検査でHNRNPUを含む、1q44領域の欠失を同定する場合もある。この場合は1q44微細欠失症候群として確立した症候群となる。根本的治療法は未確立であり、てんかんに対する治療、療育訓練が必要である。てんかんは薬剤抵抗性に経過する場合がある。7 参考になるサイト診療、研究に関する情報HNRNP Family Foundation(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報HNRNP疾患患者家族会(患者とその家族向けのまとまった情報) 1) Gillentine MA, et al. Genome Medicine. 2021;13:63. 2) Bain JM, et al. Am J Hum Genet. 2016;99:728-734. 3) Au PYB, et al. Hum Mut. 2015;36:1009-1014. 4) Okamoto N. Am J Med Genet. 2019;179A:822-826. 5) Carvill GL, et al. Nature Genet. 2013;45:825-830. 公開履歴初回2025年12月25日

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AIモデルが臓器ドナーの死亡タイミングを予測

 肝臓を提供する人(ドナー)の生命維持装置が外されてから死亡するまでの時間が30~45分を超えると、提供された肝臓が移植を受ける患者(レシピエント)の体内で良好に機能する可能性が低くなるため、移植は却下されることになる。しかし新たな研究で、人工知能(AI)モデルが、臓器が移植可能な状態を保てる時間内にドナーが死亡する可能性を医師よりも正確に予測し、ドナーが時間内に死亡せず、移植に至らなかったケースの割合(無駄な臓器取得率)を60%減らすことができたことが示された。米スタンフォード大学医学部腹部臓器移植外科臨床教授の佐々木一成氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Digital Health」に11月13日掲載された。 佐々木氏は、「このモデルは、手術の準備を始める前に臓器を使用できるかどうかを判断することで、移植プロセスをより効率的なものにする可能性がある。これにより、臓器移植を必要とするより多くの候補者が移植を受けられるようになるかもしれない」とニュースリリースの中で述べている。 佐々木氏らの説明によると、末期肝疾患患者に最善の治療法は肝移植であるという。多くの場合、ドナー肝臓は心停止を起こしたが生命維持装置によって生存が維持されている人から提供される。これは「心停止後臓器提供(donation after circulatory death;DCD)」と呼ばれている。 しかし、こうしたドナーから適合条件を満たした肝臓が見つかっても、生命維持装置を外した後の生存期間が長かった場合、約半数のケースで移植は中止されることになる。佐々木氏らによると、生命維持装置の停止後、死亡確認までの間、臓器への血液供給は変動する。特に、死に至るまでの時間が30分を超える場合、そのような変動により肝臓が損傷するリスクが高まるという。ドナーになる可能性のある人の約半数は、生命維持装置の停止から30分以内に死亡するため、移植に適したドナーとなるが、残りのケースでは、外科医がバイタルサインや血液検査、神経学的情報に基づき臓器提供が可能かどうかを判断する。 佐々木氏らは、2022年12月1日から2023年6月30日にかけて1,616人のドナーの情報を収集し、外科医が利用できるものと同じ情報を用いてドナーの死亡時刻をより正確に予測するようにAIモデルを訓練した。このAIモデルでは、性別、年齢、体重などの基本情報に加え、バイタルサイン、血液検査の結果、心疾患の既往歴、神経学的評価などを解析に使用した。また、呼吸補助の程度を反映する人工呼吸器設定も予測因子として組み込んだ。 訓練後、このAIモデルの予測精度を過去の398人のドナーのデータで検証し、さらに新たにドナーとなる可能性のある207人でも検証した。その結果、AIモデルはドナーが一定時間内に死亡するかどうかを、外科医の判断や既存のリスク評価ツールよりも正確に予測した。無駄な臓器取得率は、外科医で平均19.5%であったのがAI予測モデルでは7.8%と約60%減少した。一方、ドナーが予想よりも早く死亡したため移植準備が間に合わなかった機会損失率は、外科医で15.5%、AIで16.7%とほぼ同等であった。 佐々木氏は、「われわれは現在、こうした機会損失率を低下させる取り組みを進めている。移植を必要とする患者がそれを受けられるようにすることが、最優先されるべきだからだ」と言う。また同氏は、「われわれはさまざまな機械学習アルゴリズムを競わせることでモデルの改善を続けている。最近、死亡時刻の予測精度を維持しつつ、機会損失率を約10%に抑えられる新しいアルゴリズムを見出した」と付け加えている。研究グループは、このモデルを心臓や肺の移植に応用する方法についても検討を進めている。

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家族の録音メッセージがICU入室患者のせん妄を防ぐ

 人工呼吸器を装着している集中治療室(ICU)入室患者では、5人中4人にせん妄が生じる。せん妄とは、治療による体への負担が原因で生じる異常な精神状態のことをいい、パニック、動揺、怒りなどの症状が現れる。新たな研究で、ICU入室患者に家族からの録音メッセージを聞かせることで、患者の意識を安定させ、せん妄を予防できる可能性のあることが明らかになった。米マイアミ大学看護健康学部のCindy Munro氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Critical Care」に11月1日掲載された。 この研究でMunro氏らは、2018年4月から2020年11月にかけて(ただし、新型コロナウイルス感染症パンデミック中の3カ月間は中断)、南フロリダの2カ所の大規模病院の9つのICUで、人工呼吸器を装着している178人の患者を対象に、せん妄予防のための非薬理学的介入の有効性を検討した。 対象者は、家族からの録音メッセージを聞く群(89人)と通常のケアを受ける群(89人)にランダムに割り付けられた。計10種類の録音メッセージはいずれも2分間の長さで、午前9時から午後4時までの時間帯に、1時間ごとに再生された。内容は、医療従事者と家族が定期的に患者の様子を見に来ていることを思い出させることを意図したもので、患者の名前を呼び、今いる場所を思い出させ、人工呼吸器を装着していることや、回復を助けるためにワイヤーやチューブ類が設置されている可能性があることが伝えられた。 Munro氏は、「家族の関与がせん妄の予防と介入において重要な要素であることは、以前よりエビデンスによって示されている。しかし、家族がケアに全面的に関わるには、しばしば困難を伴うのが現状だ。そこでわれわれは、家族がそばにいなくても患者が家族の声を聞けるようにし、家族の存在感を補うための介入を考案した」と話している。 介入の結果、録音メッセージを聞いた群では通常のケアを受けた群と比べて、せん妄のない日数が有意に多いことが明らかになった。また、患者がメッセージを聞く頻度が高ければ高いほど、せん妄のない日数が有意に増えた(P<0.001)。 こうした結果を受けて研究グループは、「台本を使って家族が録音した音声メッセージは、人工呼吸器を装着しているICU入室患者のせん妄予防に役立つ、潜在的に効果が高く低コストの非薬理学的介入であることが明らかになった」と結論付けている。

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ポンペ病〔Pompe Disease〕

1 疾患概要■ 定義ポンペ病(糖原病II型)は、グリコーゲンを分解するライソゾーム酵素である酸性アルファグルコシダーゼ活性の欠損または低下によるライソゾーム病である。疾患遺伝子はGAA、遺伝形式は常染色体潜性である。ポンペ病は、「乳児型」と「遅発型」に分類され、乳児型では乳児期早期にフロッピーインファント、肥大型心筋症、呼吸不全を発症し、遅発型では幼児期以降に肢帯筋優位の筋力低下や呼吸筋の筋力低下を発症する。■ 疫学ポンペ病の発生頻度は、およそ4万人に1人と推測され、約25%が乳児型であるとされる。■ 病因GAA遺伝子の両アレル性病的バリアントにより酸性アルファグルコシダーゼが欠損または低下し、組織のライソゾーム内に分解されないグリコーゲンが蓄積し、主に心筋や骨格筋が罹患する。オートファジーの機能不全も病態に関与することが明らかにされている。■ 症状乳児型では乳児期早期にフロッピーインファント、筋力低下、肥大型心筋症、呼吸不全を発症し、進行する。肝腫大、巨舌も出現する。遅発型では発症時期は小児期から成人期までさまざまであり、肢帯筋優位の筋力低下や呼吸筋筋力低下を発症し、緩徐に進行し、歩行障害や呼吸不全を来す。鼻声、翼状肩甲、傍脊柱筋萎縮を認めることが多い。ポンペ病の症状は、多器官に及んでいることが明らかになってきており、Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群などの不整脈、脳血管障害、聴力障害、胃腸症状などを来すこともある。■ 分類酸性アルファグルコシダーゼ活性の完全欠損による乳児型と活性低下(部分欠損)による遅発型に分類される。遅発型には小児型、若年型、成人型が含まれる。■ 予後乳児型ポンペ病では、生後2ヵ月~数ヵ月に、哺乳力低下、全身の筋力低下、運動発達の遅れ、体重増加不良、心不全症状などを発症し、自然経過では、多くは1歳頃までに死亡する。酵素補充療法により生命予後が改善され、人工呼吸管理を必要とするリスクが減少している。遅発型ポンペ病の自然経過では、1歳以降に、歩行障害、運動時易疲労が出現し、運動機能障害、呼吸不全が進行し、車椅子や人工呼吸管理が必要となる。酵素補充療法により呼吸機能の悪化が抑制され、運動機能が改善されている。2 診断■ 検査所見1)乳児型ポンペ病血液検査血清CK高値(5,000IU/L程度)AST、ALT高値、BNP高値胸部X線&nbsp心拡大心電図 P波振幅増大、PR間隔短縮、QRS高電位心臓超音波検査心筋肥厚、左室駆出率低下生検筋病理所見&nbsp:生検筋病理所見ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、多数の空胞PAS染色→空胞内PAS染色陽性物質の蓄積(グリコーゲン蓄積を示す)酸ホスファターゼ染色陽性2)遅発型ポンペ病血液検査血清CK高値骨格筋CT小児型では大腿部筋の高吸収域、成人型では低吸収または筋萎縮筋電図 筋原性変化、しばしばミオトニー放電が出現呼吸機能検査肺活量と努力肺活量の低下生検筋病理所見特徴的な所見は顕著ではない。■ 確定診断酸性アルファグルコシダーゼ活性低下またはGAA遺伝子に両アレル性の病的バリアントを認めた場合に診断確定とする。酸性アルファグルコシダーゼ活性は濾紙血、リンパ球、生検筋組織などを用いて測定される。酸性アルファグルコシダーゼ活性が低下するがポンペ病を発症しない偽欠損となるバリアントc.1726G>A(p.Gly576Ser)が存在するため診断の際に注意を要する。■ 鑑別疾患乳児型ポンペ病の鑑別すべき疾患には脊髄性筋萎縮症、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、ミトコンドリア病などがある。遅発型ポンペ病では、肢帯型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、多発性筋炎などが挙げられる。他の筋疾患と比較し、遅発型ポンペ病では、歩行可能な時期に先行し、呼吸不全が出現することが特徴的とされる。3 治療■ 酵素補充療法ポンペ病に対し、2007年からヒト酸性アルファグルコシダーゼの遺伝子組み換え酵素製剤であるアルグルコシダーゼアルファ(商品名:マイオザイム)、2021年からアバルグルコシダーゼアルファ(同:ネクスビアザイム)による酵素補充療法が行われている。酵素はマンノース-6-リン酸(M6P)受容体を介し細胞内に取り込まれるが、アバルグルコシダーゼアルファは、横隔膜や骨格筋などへの酵素製剤の取り込みを増大させるため、酸化シアル酸残基にM6Pを結合させた改良型酵素製剤である。2025年からは遅発型ポンペ病に対し、高レベルのM6PやビスーM6P N-グリカンを結合させた酵素製剤シパグルコシダーゼアルファ(同:ポムビリティ)とポンペ病治療酵素安定化剤(シャペロン療法)としてミグルスタット(同:オプフォルダ)を併用する治療も行われるようになった。酵素製剤はいずれも2週間に1回静脈投与を行う。■ 呼吸機能の管理と治療ポンペ病の呼吸機能は、肋間筋や横隔膜の筋力低下を反映し、仰臥位の機能は座位に比し低下するので呼吸理学療法を行う。呼吸不全が進行した場合、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)または侵襲的陽圧換気療法(IPPV)を行う。遅発型ポンペ病では、歩行可能な時期に先行し呼吸不全が出現するため、呼吸機能を定期的に評価する。■ 心機能・不整脈の管理と治療乳児型では生後早期から心肥大が出現することが多い。酵素補充療法は、心肥大を改善させる。ポンペ病ではWPW症候群などの不整脈が高率に出現するため、不整脈に対する薬物療法やカテーテルアブレーションを必要とする症例がある。■ 脊柱側弯症の管理と治療脊柱側弯症に対し外科手術を行う。■ 理学療法関節の変形・拘縮予防のため、理学療法士の介入や、補装具を導入する。最大運動強度の60~70%までの有酸素運動が推奨されている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)ポンペ病の新生児スクリーニング検査が広く実施されるようになっている。とくに乳児型ポンペ病においては、早期治療開始が重要であり、米国でもRUSP(Recommendation Uniform Screening Panel)により新生児スクリーニングを実施する疾患として推奨されている。2025年時点では、公費助成がある自治体は少ないが、今後さらに広がることが期待されている。ポンペ病に対する遺伝子治療の開発は、海外の臨床治験として肝臓を標的としたAAV8-GAAの静脈内投与が遅発型ポンペ病に対して実施され、心筋、骨格筋、中枢神経を標的としたAAV-9-GAAの静脈内投与が乳児型ポンペ病に対して実施された。遺伝子治療の臨床現場への導入が期待されている。5 主たる診療科・紹介すべき診療科主たる診療科:小児科(小児神経、小児循環器)、脳神経内科(運動機能、脳血管障害、白質病変)紹介すべき診療科:リハビリテーション科、循環器内科、呼吸器内科、脳外科(脳血管障害)、耳鼻咽喉科(難聴)、整形外科(脊柱側弯症)、産科(母胎管理)、遺伝子診療科など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター ポンペ病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ライソゾーム病中のポンペ病 (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ライソゾーム病、ペルオキシゾーム病(副腎白質ジストロフィーを含む)における早期診断・早期治療を可能とする診療提供体制の確立に関する研究 (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会 編集. ポンペ病診療ガイドライン2018. 診断と治療社.2018.2)Ditters IAM, et al. Lancet Child Adolesc Health. 2022;6:28-37.3)Sawada T, et al. Orphanet J Rare Dis. 2021;16:516.公開履歴初回2025年11月20日

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胎児循環という神業、突貫工事の心臓が生み出す奇跡【Dr.中川の「論文・見聞・いい気分」】第90回

「オンギャー」それは新たな生命の始まりを告げる、母親にとって祝福の合図です。肺が初めて外の空気を抱きしめた瞬間の歓声でもあります。単なる泣き声ではありません。その声によって呼気に陽圧がかかり、肺の中の小さな部屋である肺胞が均一に拡がるのです。お母さんのお腹の中で沈黙していた肺は水(肺水)で満たされており、その水が空気に置き換わるために必要なのが、この「オンギャー」なのです。生命誕生の瞬間は感動に満ちていますが、その背景には驚くほど精巧でダイナミックな仕組みが隠れています。分娩に立ち会った日の感動30年ほど前に医学生として初めて分娩に立ち会った日のことを、今も忘れられません。手術室の光の下で静かな緊張が漂っています。帝王切開が始まり、産科医の手が正確に、しかし驚くほど柔らかに母体を守りながら進んでいきます。胎児の頭が見えた瞬間に、室内の空気が一変しました。手術という医療行為が、次の瞬間には生命の誕生に姿を変えたのです。自然分娩も見学する機会がありました。文字通り、「ぬるり」と赤ん坊の全身がこの世に現れ、産声が響きます。その声は思ったよりも高く、そして強かったです。母親の目に涙が浮かび、スタッフの顔がほころびます。医療の現場で、ここまで純粋な歓喜が生まれる瞬間を、自分はそれまで知らなかったのです。産科の先生が言いました。「この瞬間だけは、何度立ち会っても胸が熱くなるんですよ」その言葉の意味が少しわかる気がしました。医学生としての私が目の当たりにしたのは、人間としての最も根源的な喜びだったのです。あのとき分娩室で聞いた「オンギャー」の声は、今も私の心に響いています。いま目の前で成人先天性心疾患の患者さんの鼓動を聴くとき、私はあの産声の続きを聴いているのかもしれません。胎児循環の不思議、命が宿る初めの拍動人の心臓は、胎児の姿が豆粒のようなころ、すでに鼓動を始めています。それは、胎児の成長を支えるために血液を送り出す必要があるからです。ひとつ大きな問題があります。胎児はまだ肺呼吸をしていません。空気を吸っていないのに、血液をどうやって酸素化するのか? その答えが「胎盤」です。胎盤は、まるで人工心肺装置のECMOのように、母体の血液から酸素を取り込み、それを臍帯(へその緒)という管を通じて胎児へ送ります。母親がいわば酸素供給装置で、胎盤が人工肺、そして臍帯が回路チューブです。ECMOの回路図を、神が先に描いていたのです。胎児の脳に酸素化された血液が十分に届くように、そして未完成の肺に血液をあまり送らずに済むよう、右心房から左心房へ血液をバイパスさせる「卵円孔」と、肺動脈から大動脈への抜け道である「動脈管」があります。道路工事の仮設バイパスのように、胎児だけが使う特別ルートが設けられているのです。この神業のような仕組みを、胎児はごく短期間で完成させなければなりません。肺は、出産後から機能し始めれば良いのと対照的に、心臓は胎児期から循環を支える必要があります。受精後わずか3週間余りで、心臓は拍動を開始しています。この早さは、人間の発生のなかでも際立っており、心臓が「生命の最初の臓器」と呼ばれるゆえんです。いわば突貫工事で、胎児が、心房・心室・弁・中隔を形づくり、稼働を開始します。建築現場でも、急ぎの工事ではどうしても小さなズレや継ぎ目の不整合が生じるように、この過程で生まれる“設計上のゆらぎ”が、先天性心疾患の一因となることがあります。命を守るために早く動かさねばならない心臓が、ギリギリのバランスで仕上げた証ともいえます。生まれたあと、卵円孔や動脈管が閉じ、肺が働き始めて、赤ちゃんは独り立ちの循環系を完成させます。その瞬間、胎児循環という仮設システムは退場します。分娩・出産を集中治療室の患者に例えれば、肺水腫で人工呼吸器とV-A ECMOという補助循環装置をつけた状態から、抜管とECMO離脱を同時に行うようなものです。この荒業を成功させた赤ちゃんの雄叫びが「オンギャー」です。成人先天性心疾患へ、そしてその先に生まれつきの心臓病である先天性心疾患は、長い間、子供の病気と見られてきました。生まれつき心臓に小さな“ゆらぎ”を抱えた子どもたちは、今や成人となり、自分の人生を力強く生きています。これらを成人先天性心疾患(ACHD:Adult Congenital Heart Disease)と呼びます。心臓外科手術治療の発達、内科治療の進歩によって先天性心疾患の子供の85%以上は思春期、成人期まで到達する事が可能になってきました。複雑な先天性心疾患の子供も学校に通い社会に出ていく時代になっているのです。こうして突貫工事でつくられた心臓は、生まれた瞬間に肺呼吸へと切り替わり、そのまま何十年も鼓動を続けていきます。成人先天性心疾患の患者さんの心臓もまた、あの仮設バイパスの名残をどこかに抱えながら、けなげに働いているのです。思えば、あの胎児循環こそ、神様による究極の応急工事だったのかもしれません。もし建築基準法の審査があったら、「構造的に無理があります」と一蹴されていたことでしょう。それでも見事に稼働し、命を支え続ける。医者としてどれほど工夫を凝らしても、この“神業の設計図”にはとうていかなわないと思うのです。

20.

敗血症性ショックへの新たな蘇生戦略の提案:CRTに基づく多角的介入(解説:栗原宏氏)

Strong point・CRTという簡単な指標をフックに、その裏にある心機能や血管機能の評価を促し、治療の質を構造的に高めている点がユニーク・19ヵ国86施設、対象者1,500例でランダム化比較しており信頼性が高い・主要評価項目が実臨床に即しているWeak point・プロトコルの性質上、盲検化できない・評価項目のうち、28日死亡率単独ではCRT-PHR群と通常ケア群で有意差なし・CRTは容易に評価できるが、CRT-PHRプロトコルの実施には熟練スタッフが必要 敗血症性ショックは日本国内では年間約6.5万例程度発生し、そのうち3例に1例が死亡する重篤な疾患である。血液循環不全と肝機能を反映して乳酸値は上昇するため、乳酸クリアランスは敗血症性ショックの治療において最も重要な指標の1つとなっている。 2019年に発表された先行研究(ANDROMEDA-SHOCK試験)では、敗血症性ショックの患者を対象として、治療目標をCRTとした群は従来の乳酸クリアランスとした群に対して非劣性が示されていた。CRTという簡便な指標が、血液ガス分析や頻回の検査を必要とする乳酸クリアランスという複雑な指標に劣らないことが示された意義は大きい。 今回の研究(ANDROMEDA-SHOCK-2試験)では、先行研究を踏まえて、多角的かつ体系的な循環動態の改善介入、すなわちCRTが改善しない場合に、脈圧や心エコーなどの他の生理学的指標に基づいて血行動態の弱点を特定し、輸液、昇圧薬、強心薬投与で対応する介入(CRT-PHRプロトコル)と従来の慣習的治療(=医師の裁量や施設慣習に基づく従来の治療)との比較を行っている。 本研究の弱みとして、CRT-PHRプロトコルは生命維持療法(昇圧薬、人工呼吸器、腎代替療法)実施期間を短縮したものの、28日死亡率の有意な改善は示されなかった点が挙げられる。習慣的治療に対する優越性が「死亡を回避した」という決定的な成果ではなく、「臓器の回復を早めた」ことに大きく依存しているため、その臨床的インパクトに関しては議論の余地がある。さらに、このプロトコルの個別化の要素は熟練度を要求するため、実際に実施するとなると教育プログラムの整備が必要になると思われる。 CRTの測定は、指の腹部を10秒間圧迫し、圧迫解除後に血色が3秒以内に戻るかどうかを確認する簡便な手法で行われる。この手軽さから、本プロトコルは、今後発展次第では集中治療室だけでなく、救急外来や一般病棟などでも非常に有用なツールとなる可能性を秘めている。 本研究は、致死的な疾患に対し、より低侵襲な指標で予後改善を目指すという点で、高齢化が進む日本の医療現場での蘇生戦略の選択肢を広げる可能性がある。

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