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パーキンソン病におけるエキセナチド週1回投与の効果(解説:山本康正 氏)-736

【目的】 2型糖尿病に使用されているglucagon-like peptide-1(GLP-1)の受容体作動薬であるエキセナチドには、げっ歯類において神経毒により作成されたパーキンソン病モデルで神経保護作用・神経修復作用があることが示されている。著者らは以前に、少数例のオープンラベル試験でエキセナチドがパーキンソン病患者の運動・認知機能障害を改善した結果を得ており、今回パーキンソン病患者に対するエキセナチドの効果を、single-centre, randomized, double-blind, placebo-controlled trialによって確認する試験を行った。【方法】 25~75歳のQueen Square Brain Bank criteriaで評価された特発性パーキンソン病患者で、ドーパミン治療がなされているがwearing offを有し、治療下においてYahl分類が2.5以下の患者を対象とした。通常のドーパミン系治療に加えて、エキセナチド2mgとプラセボの週1回皮下注射を48週間行い、12週間のwash out期間の後、評価を行った。患者は12週ごとに受診し、抗パーキンソン病薬服用後8時間以上あけたoff-medication stateにおいて、運動・非運動症状や認知機能、心理テスト等の総合的評価がなされた。最初と60週目にドーパミンの働きを見る検査であるDaTscan(ダットスキャン)を行った。1次エンドポイントは、60週目にMovement Disorders Society Unified Parkinson's Disease Rating Scale(MDS-UPDRS)のmotor subscale part3を用いて評価したスコアの差である。【結果】 62例がエントリーされ、32例がエキセナチド、30例がプラセボに割り付けられた。最終60週目において、MDS-UPDRS-part3はプラセボ群で2.1点悪化し、エキセナチド群で1.0点改善した。調整後の差は-3.5点で、エキセナチド群で有意に改善した(p=0.031)。ちなみに48週目の時点では、-4.3点の差でエキセナチド群が勝っていた(p=0.0026)。認知機能、非運動症状、QOL、気分、ジスキネジア等に差はなかった。DaTscan imagingでは、1回目に比べて2回目は両群とも低下傾向にあったが、エキセナチド群で低下はより軽度であった。【考察】 48週目のみならず12週間のwash out期間の後もエキセナチドの効果が持続していたことは注目すべきであり、これはエキセナチド持続の長い症候改善作用を有するためなのか、あるいは、疾患の病態生理に影響を与えた結果なのかは今後の検討が待たれる。【解説】 パーキンソン病は年月とともに進行性で、進行期には、不随意運動、幻覚、起立性低血圧や頑固な便秘など自律神経障害も出現して難渋することが多い。ドーパミン受容体作動薬やモノアミン酸化酵素阻害薬に神経保護作用が期待されているが、さらに新規の神経保護作用を有する薬剤が待たれている。エキセナチドは2型糖尿病に使用されているGLP-1の受容体作動薬であるが、今回の試験では従来の抗パーキンソン病薬に追加することで、運動症状の改善のみならず12週間のwash out期間の後も効果が持続していた。このことは、単に持続作用が長いことを示しているのかもしれないが、疾患の病態生理に作用し神経保護作用を有する可能性があり期待される。

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機長からの手紙【Dr. 中島の 新・徒然草】(186)

百八十六の段 機長からの手紙カナダのバンクーバーで行われた国際学会に出席したことは前回紹介しました。今回は番外編、行きの飛行機の中で起こった出来事について述べましょう。飛行機の席に座って映画を見ていた時のこと。突然、イヤホンから「medical personnel はいらっしゃいませんか?」という声が聞こえてきました。「俺、英語苦手だし、知らんもんね」と思っていたら、次は日本語で「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」という呼びかけがありました。知らん顔をしているつもりでしたが、なぜか足が勝手に歩いていって男性クルーに「医師です。お手伝いしましょうか?」と声をかけていました。男性クルーは物凄く喜び、早速、機体半ばにあるギャレーに案内してくれました。ギャレーの床には日本人らしい若い女性が転がって腹を押さえて苦しんでいました。すでに褐色の肌のドクターが名乗りをあげており、別のクルーが状況を説明しているところでした。後で知ったところによると、スリランカ出身で今はカナダで働いているドクターだそうです。中島「お疲れ様です。私は医師のナカジーマです。御専門は何でしょうか?」ドクター「ファミリー・プラクティスだ」中島「(ラッキー!)私は脳神経外科医です。どうやらうまく協力できそうですね」ドクター「患者は日本人らしいからな、よろしく頼むよ」早速、苦しんでいる女性に尋ねてみました。痛みは臍の左側のようです。女性「離陸した頃から少し痛かったのですが、だんだん我慢できなくなって」中島「失礼ですが、最終月経はいつですか?」女性「今、7日目くらいです」中島「じゃあ妊娠の可能性はありませんね」女性「ええ」いつだって「女性を見たら妊娠を疑え」です。ドクター「月経はいつだって?」中島「今日が7日目だそうです」ドクター「じゃあ妊娠の可能性はないわけだな」中島「そのようです」ドクター「念の為、彼女にsexually activeかどうか訊いてくれ」中島「は?」そりゃあ若い女性だから重要な情報には違いありませんが、それ、日本語で何て訊けばいいんでしょうか? と、困っていたところにどこからともなく女房が登場して仕切り始めました。女房「こんなところで何してるの? ブランケットをもってきて床に敷きなさい。診察もなにもできないじゃない!」中島「はいっ」女房「学生さん? 引率の先生はいるの?」女性「ええ」女房「じゃあ、呼んできて」クルー「はいっ」一方、ドクターの方はクルーに診察道具をみせてもらっていました。大きなアタッシュケースにズラリと整理された薬品類、シリンジ類、各種サイズの喉頭鏡と挿管チューブ、聴診器、何でもあります。揺れる飛行機の中でガサゴソしないよう、型抜きしたウレタンシートにビシッとはめ込まれていました。聴診と触診の後にやおらドクターは私に尋ねてきました。ドクター「お前はどう思う?」中島「憩室炎とか」ドクター「そうかな」中島「貴方はどう思いますか?」ドクター「頑固な便秘か、尿路結石だろう」中島「なるほど」患者「痛みが少しマシになってきました」ドクター「目的地まであとどのくらいかな?」クルー「4時間ほどです」ドクター「あまり重症でもなさそうだし、緊急に着陸するよりもバンクーバーまで行く方が得策だろう」クルー「分かりました。ところで先生方、お名前をいただけますか?」要領よく記録をとっていたクルーに名刺を渡しました。あまり重症ではなさそうだ、という判断が出たところでクルー達の緊張も解けてきたようです。クルー「前回、機内で急病人が出たときはね、患者さんはもっと重症そうだったし、目的地まで9時間もあるし、ドクターは誰もいなかったのでどうなることかと思いました」中島「そりゃ大変でしたね」クルー「今回は目的地まで4時間だし、ドクターが3人も名乗りをあげてくれたし、本当に助かりましたよ!」一件落着の後、疲れ切って座席に引き返したら知らない間に眠ってしまいました。目的地近くになってふと目が覚めると枕元にそっと手紙が置いてありました。機長からの手紙です。我々の業界で半ば都市伝説となっている「機長からの手紙」とやらは、これか! そう思って開封してみました。「今回の御協力には心から感謝する。貴方が機内で行った医療行為については、たとえ何らかの問題があったとしても我が国の法律に照らして免責されることをお伝えする」それは有り難いですけど、それよりも続きが!「私どもの航空会社からの感謝の気持ちとして」来た来た来た! 帰りは夢のファーストクラスか?「次に利用されるときはディスカウント価格を提供する。予約の際に以下のコードナンバーを入力してくれ。30%のディスカウントだ」えええ、30%のディスカウントって。ファーストクラスじゃないわけ? 期待が大きかった分、思わず脱力してしまいました。まあ、期待する方が悪いんですけど。ともあれ、人助けってのは気持ちがいいものです。目のあったクルー達が次々に御礼を言ってくれるので、こちらも医師らしくニコヤカに振る舞いました。最後に私の体験から読者の皆さんにアドバイスを1つ。機内で診療をすることになった時に、医師に対して最も求められていることは、緊急着陸が必要か否かの判断だと思います。重症度と目的地までの所要時間を勘案して、緊急着陸か目的地まで行くべきかの2択で判断しましょう。緊急着陸の際、どの空港に降りるか或いは引き返すかは、航空会社が決めることなので我々が関知する必要はありません。うまくいくことをお祈りいたします。思わぬ仕事の後で1句機内では 降ろすか否かの 判断だ

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第11回 GLP-1受容体作動薬による治療のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第11回】GLP-1受容体作動薬による治療のキホン―どのような患者さんが良い適応になりますか?また導入の判断となる指標があれば教えてください。 食事から吸収された糖質などの刺激により、消化管から消化管ホルモンであるGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)が血中に分泌されると、血行性に膵β細胞上のGIP受容体とGLP-1受容体にそれぞれ結合し、インスリン分泌が促進されます。その作用を応用したのがインクレチン関連薬と呼ばれるDPP-4阻害薬とGLP-1受容体作動薬で、GLP-1受容体作動薬は、膵β細胞上にあるGLP-1受容体に結合して、インスリン分泌を促進させます。 インクレチン関連薬は、膵β細胞内で代謝されたグルコースによるインスリン分泌の惹起経路を増幅させることで、インスリン分泌を促進させます。つまり、グルコースによるインスリン分泌惹起経路が働いて初めて、インクレチンによる増幅作用が働くことになります。そのため、GLP-1受容体作動薬のインスリン分泌作用は、グルコース濃度依存性であり、単独では低血糖を起こさないという特徴があります。 GLP-1受容体作動薬のもう1つ大きな特徴は「体重減少」です。GLP-1受容体は食欲をつかさどる視床下部にもあり、GLP-1受容体作動薬により、食欲が抑制されることで、体重減少効果が得られます。また、胃内容物の排泄抑制作用もあり、それによる体重減少効果、さらには、食後血糖の上昇抑制も期待できます。GLP-1受容体作動薬は、非肥満、肥満のいずれでも血糖低下効果は得られますが、とくに「体重減少」については、他の薬剤を上回る効果が得られるため、肥満の患者さんが良い適応であると考えています。ただ、GLP-1受容体作動薬は注射薬であるため、抵抗を示す患者さんも少なくありません。高用量のSU薬を含むいくつかの経口薬を使用しているにもかかわらず、良好な血糖コントロールが得られない患者さんで、体重減少も期待したいような場合に検討するとよいのではないでしょうか。―DPP-4阻害薬との作用機序や適応の違いについて教えてください。 GLP-1受容体作動薬が、膵β細胞上にあるGLP-1受容体に結合してインスリン分泌を促進させる、直接的に作用する薬剤であるのに対し、DPP-4阻害薬は、GIPおよびGLP-1が分泌された後に、それらを急速に分解する酵素であるDPP-4の活性を阻害して、GIPとGLP-1の不活化を抑制する、すなわち、間接的に作用する薬剤です。いずれも、前述のように、グルコース濃度依存性であり、単独では低血糖を起こさない薬剤ですが、DPP-4阻害薬は“生理的レベル”で効果を発揮するのに対し、GLP-1受容体作動薬は“非生理的レベル”で効果を発揮するため、DPP-4阻害薬は「体重増加を来さない」という効果が得られ、GLP-1受容体作動薬は「体重を減少させる」という効果が期待できます。“体重増加を来さない”で血糖を低下させる、“体重を減少させて”血糖を低下させる、という目的で使い分けるのがよいと思います。 ただ、DPP-4阻害薬は経口薬で、GLP-1受容体作動薬は注射薬です。導入のしやすさという点でも違いはありますが、今は、週1回投与のGLP-1受容体作動薬もあります。「週に1回なら」「自分で打つのはいやだけど、医療従事者に打ってもらうのであれば」という患者さんもいらっしゃいます。週1回製剤の中には、針の取り付けが不要なものもあり、取り扱いが非常に簡便なものもありますし、「“週に1回だけ”ならどうですか?」「ご自分で打つのが難しければ、週に1回、病院に来て打つのはどうですか?」というやり方で導入するのも良い方法です。―投与量の調整方法について教えてください。 GLP-1受容体作動薬はインスリン製剤と同じ注射薬ですが、インスリン製剤のような細やかな投与量の調整をする必要はありません。ただし、副作用としてみられる下痢や便秘、嘔気などの消化器症状が投与初期に認められるため1)、1回の投与量が決められている週1回の製剤ではなく、1日1回もしくは2回注射の製剤の場合は、最小用量から始め、様子をみながら、各製剤の添付文書に従って、増量していくのがよいでしょう。―適切な併用薬について教えてください。 前述のように、GLP-1受容体作動薬では、血糖低下以外に、体重減少効果が期待できます。さらなる体重減少という点で、体重減少効果のあるSGLT2阻害薬との併用※も効果的です。 (※2017年8月現在、日本でSGLT2阻害薬との併用が認められているのは、「リラグルチド(商品名:ビクトーザ)」、「リキセナチド(商品名:リスキミア)」と「デュラグルチド(商品名:トルリシティ)」のみ。) また、SGLT2阻害薬を使っていて、体重が増加してしまう場合に、体重減少を期待して、GLP-1受容体作動薬を上乗せするのもよいでしょう。実際に、海外で行われた、GLP-1受容体作動薬「エキセナチド(商品名:ビデュリオン)」と、SGLT2阻害薬「ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)」の併用の効果をみた「DURATION-8試験」で、それぞれの単独療法よりも、血糖低下および体重減少において効果が認められたことが示されました2)。 また、GLP-1受容体作動薬には、半減期の長い長時間作用型と、半減期の短い短時間作用型があり、短時間作用型では、高濃度のGLP-1が維持されないため、胃排泄の遅延作用に対するタキフィラキシー(効果減弱)が起こりにくいという特徴があります。胃排泄の遅延作用が継続するため、体重減少に加え、「食後高血糖の抑制作用」が期待できますが、空腹時高血糖の改善は得意ではないため、空腹時血糖値を低下させるSU薬やチアゾリジン薬、ビグアナイド(BG)薬、SGLT2阻害薬との併用が効果的です。一方、長時間作用型では、高濃度のGLP-1が維持されるため、空腹時の血糖低下作用が期待できます。食後高血糖を改善する速効型インスリン分泌促進薬やα-グルコシダーゼ阻害(GI)薬との併用がよいでしょう。ただし、SU薬や速効型インスリン分泌促進薬のように、インスリン分泌を直接惹起する経路に働く薬剤とそれを増幅させるGLP-1受容体作動薬を併用することはより効果的ではありますが、SU薬や速効型インスリン分泌促進薬の効果を増幅させることで、低血糖リスクが増加する恐れがあるため、慎重に投与する必要があります。―長期使用における安全性について教えてください。 インクレチン関連薬は、SU薬など古くから使われる糖尿病治療薬に比べると比較的新しい薬剤ですので、長期の安全性を懸念される方も多いと思います。GLP-1受容体作動薬では、DPP-4阻害薬と同様、膵炎や膵がんといった膵疾患との関連がいわれていますが、現時点で、GLP-1受容体作動薬においても、これら膵疾患への関連について、前向きに検討した報告はありません。ただ、GLP-1の薬理効果について、まだ十分解明されていない部分も多いため、長期安全性を含め、今後、未知な生理作用や副作用について、みていく必要はあります。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2016-2017. 文光堂;2016.2)Frias JP, et al. Lancet Diabetes Endocrinol. 2016;4:1004-1016.

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うつ病に対するtDCS療法 vs.薬物療法/NEJM

 うつ病治療として、経頭蓋直流電気刺激(transcranial direct-current stimulation:tDCS)療法の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)エスシタロプラム(商品名:レクサプロ)に対する非劣性は示されず、有害事象はより多かったことが、ブラジル・サンパウロ大学のAndre R. Brunoni氏らによる単施設の二重盲検無作為化非劣性試験の結果、報告された。大うつ病障害治療としての電気刺激療法は、2009年に経頭蓋磁気刺激(TMS)が米国FDAに承認され、さまざまな試験で異なる結果が報告されている。TMSは、けいれんリスクは小さいがコスト高であり、より安価で安全な手法としてtDCSが開発されたが、これまでに同法と薬物療法を直接比較する試験は行われていなかった。NEJM誌2017年6月29日号掲載の報告。tDCS療法 vs.エスシタロプラム vs.プラセボで直接比較 研究グループは、サンパウロ大学関連施設にて2013年10月~2016年7月に、単極性うつ病の成人患者を集めて試験を行った。被験者を3群に3対3対2の割合で無作為に割り付けて、それぞれtDCS療法+プラセボ経口薬(tDCS群)、シャムtDCS療法+エスシタロプラム(エスシタロプラム群)、シャムtDCS療法+プラセボ経口薬(プラセボ群)を投与した。 tDCS療法は、前頭葉前部に2mAの直流電気刺激を1日30分(1セッション)、計22セッション行うというもので、最初の15セッションは週末を除く平日に連続実施し、その後7セッションは週に1回のペースで行った。エスシタロプラムは、10mg/日を3週間投与し、その後は20mg/日の用量で投与した。 主要評価項目は、17項目のハミルトンうつ病評価尺度(HDRS-17)スコア(範囲0~52:高スコアほどうつ病がより重度であることを示す)の変化とした。測定はベースライン、3週、6週、8週、10週時点で行った。 tDCSのエスシタロプラムに対する非劣性は、スコア低下の差に関する信頼区間(CI)の下限値で判定。同値が、プラセボ群とエスシタロプラム群の差の50%以上の値で示されることとした。tDCSのエスシタロプラムに対する非劣性は示されず 計245例が無作為に割り付けられた(tDCS群94例、エスシタロプラム群91例、プラセボ群60例)。 intention-to-treat解析において、ベースラインから低下したスコアの平均(±SD)点は、tDCS群9.0±7.1点、エスシタロプラム群11.3±6.5点、プラセボ群5.8±7.9点であった。 スコア低下のプラセボ群とエスシタロプラム群の差は-5.5点であった。tDCS群とエスシタロプラム群の差は-2.3点(95%CI:-4.3~-0.4、p=0.69)であり、CI下限値(-4.3)が事前規定の非劣性マージン(-5.5点の50%値:-2.75)よりも低く、tDCSのエスシタロプラムに対する非劣性は示されなかった。 なお、tDCS群とエスシタロプラム群の対プラセボ群の差は、それぞれ3.2点(95%CI:0.7~5.5、p=0.01)、5.5点(同:3.1~7.8、p<0.001)で、いずれもプラセボ群に対する優越性は示された。 有害事象は、皮膚の発赤、耳鳴り、神経過敏の発現率がtDCS群で他の2群よりも高かった。また、tDCS群でのみ躁病の新規発症が2例報告された。エスシタロプラム群では眠気と便秘が他の2群よりも多く認められた。

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統合失調症へのメマンチン追加療法のメタ解析:藤田保健衛生大

 藤田保健衛生大学の岸 太郎氏らは、統合失調症治療において抗精神病薬へのメマンチン追加療法が有用であるかを、システマティックレビューおよびメタ解析により検討を行った。Psychopharmacology誌オンライン版2017年5月15日号の報告。 抗精神病薬を投与されている統合失調症患者に対するメマンチン追加療法の二重盲検無作為化プラセボ対照試験を分析した。主要アウトカムは、陰性症状の改善、全原因による中止とした。2値アウトカムをリスク比(RR)として示し、連続アウトカムを平均差(MD)、標準化平均差(SMD)として示した。 主な結果は以下のとおり。・8件(448例)の研究が抽出された。・メマンチン追加療法は、プラセボ群と比較し、PANSS陰性症状(SMD:-0.96、p=0.006、I2:88%、7研究、367例)、総合精神病理尺度(MD:-1.62、p=0.002、I2:0%、4研究、151例)およびMMSE(MD:-3.07、p<0.0001、I2:21%、3研究、83例)において改善が認められたが、全般的(SMD:-0.75、p=0.06、I2:86%、5研究、271例)、陽性症状(SMD:-0.46、p=0.07、I2:80%、7研究、367例)、抑うつ症状(SMD:-0.127、p=0.326、I2:0%、4研究、201例)、全原因による中止(RR:1.34、p=0.31、I2:0%、8研究、448例)、グループ間における個々の有害事象(疲労、めまい、頭痛、吐き気、便秘)において統計学的に有意な差は認められなかった。・陰性症状については、リスペリドン試験で検討した場合、有意な異質性は消失した(I2:0%)。・しかし、メマンチン追加療法は、プラセボよりも優れていた(SMD:-1.29、p=0.00001)。・メタ回帰分析では、患者の年齢がメマンチンによる陰性症状改善と関連していることが示唆された(slope:0.171、p=0.0206)。 著者らは「メマンチン追加療法は、統合失調症患者の精神病理学的症状(とくに陰性症状)を治療するうえで有用である。陰性症状のエフェクトサイズは、若年成人の統合失調症患者と関連する可能性がある」としている。■関連記事 統合失調症とグルテンとの関係 せん妄治療への抗精神病薬投与のメタ解析:藤田保健衛生大 抗うつ薬治療患者に対するベンゾジアゼピン投与の安全性は:藤田保健衛生大

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もはや「秘め事」ではない!? 患者1,000万人超の慢性便秘の考え方

 排便頻度が著しく少なく、それが原因のQOL低下を自覚するものの、便秘が医師の治療や処方を必要な疾患であると認識している人はどれほどいるのだろうか。その証拠に、セルフメディケア商品の市場規模が300億円超といわれているのが慢性便秘である。3月23日、都内でこの慢性便秘をめぐる医療の現状をテーマにしたプレスセミナーが開かれた(主催:漢方医学フォーラム)。セミナーに登壇した中島 淳氏(横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室 主任教授・診療部長)は、「医師と患者の双方が、まずは便秘を『病気』として認識するとともに、適切な初療により慢性化させないことが重要だ」と述べた。 現在、国内における全人口の約14%(2~27%)が慢性便秘であるとみられている。若年~中年層では圧倒的に女性に多いが、65歳以上の高齢層になると男女共にその割合は急激に増える。ただし、排便回数が月2回以下という重症便秘は女性に多い。また近年では、小児期のトイレトレーニングが不十分などの理由で、子どもの便秘が増える傾向があるという。 旅行などの短期的な環境変化だけでなく、進学や就職、結婚などによる生活変化で排便習慣が乱れ、一過性の便秘となる人は少なくないが、この段階で適切な治療を行えば問題ない。適切な治療とは何か。食事指導や治療薬の処方もさることながら、医師の問診による原因究明が肝要である。 中島氏によると、患者が排便に関する悩みを打ち明けても、「わずかでも出ているなら問題ない」「排便回数が多いのは便秘ではないので問題ない」など、多くの医師の判断基準が「回数」にあるため、訴えの本質を見逃しがちになっているという。「たとえ毎日排便があっても、過度の怒責や排便後の残便感や不快感、頻回便なども、患者にとってはQOL低下につながる切実な悩みである。これを症状として聞く姿勢がなければ、治療へとつながっていかない」と中島氏は述べる。 先述した300億円超という膨大な便秘関連薬市場は、セルフメディケアで解消しようとする患者の多さを物語っているが、この中には医療機関で症状を打ち明けるも適切な治療を受けられず、市販薬をのみ続けた結果、慢性便秘を重症化させてしまう患者も少なくないという。 これまで、わが国における慢性便秘治療に使われてきたのは、もっぱら酸化マグネシウムと刺激性下剤の2種であったが、新規便秘薬としてルビプロストンやリナクロチド(いずれも保険適応)が発売され、治療をめぐる潮流にも変化がみられる。 中島氏は、さらなる選択肢として漢方薬の使用を挙げた。具体的には、(1)大黄甘草湯(2)麻子仁丸(3)潤腸湯(4)桂枝加芍薬大黄湯(5)防風通聖散(6)大建中湯の6種(作用の強い順に記載)を、患者の症状やニーズに合わせて使い分けることを勧めている。 中島氏は現在、慢性便秘に特化したガイドライン作成委員会メンバーとして策定に当たっており、今夏を目途に発刊を目指しているという。中島氏は、「専門医のみならず、かかりつけ医においても、初療で適切な治療を行うことの重要性をガイドランに盛り込む方針。便秘の苦しみを訴える患者の声に耳を傾け、医療機関での失望経験が慢性便秘患者を増やしている現状は改めるべき」と述べた。

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活動性潰瘍性大腸炎への糞便移植療法―無作為化試験(解説:上村 直実 氏)-650

 わが国で患者数16万人と推定されている潰瘍性大腸炎(UC)の治療に関しては、活動性UCの寛解導入および寛解維持を目的として、5-アミノサリチル酸(5-ASA)、ステロイド製剤、免疫調節薬、抗TNF製剤、血球成分除去療法などが使用されているが、最近、「腸内フローラ」の調整を目的とした抗生物質療法や糞便移植療法に関する報告が散見されるようになっている。 糞便移植療法は、再発性のClostridium difficile感染症に対する有用性が確立されているが、今回、活動性UCに対する有効性と安全性を検証した臨床研究結果がLancet誌に掲載された。オーストラリアでの多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験(RCT)の結果、非血縁者複数の糞便移植を、最初は回腸末端から施行し、その後、週に5回、8週間の自己注入した糞便移植群の有効率(41例中11例:27%)がプラセボ群(40例中3例:8%)と比較して有意に高率であった。なお、“有効”とは内視鏡的活動性の低下および症状緩和に対するステロイドの依存率の低下であった。 本邦における糞便移植療法は1回のみの糞便移植であり、数施設で臨床研究が開始されたばかりで薬事承認もされていない。この報告に対して正直にコメントすると、「有効率がもっと高率でなければ、これほど面倒な治療を日本の臨床現場ですぐには使えない」である。 一方、16S rRNA解析による腸内細菌叢の検討から、フゾバクテリウム属種の出現が活動性UCの寛解を阻害する結果が本研究でも得られたが、Ohkusa氏らによるフゾバクテリウムをターゲットとした抗菌薬治療の有用性を示す研究結果を考慮すると、今後、UCの中で腸内フローラに影響を受けるグループの亜分類が存在する可能性が示唆された。 この「腸内フローラ」に関しては、便秘や肥満、糖尿病など代謝に関係する疾患や、うつ病やアレルギーさらには悪性腫瘍との関連についても注目されており、日本における研究の推進が期待される。■「糞便移植」関連記事糞便移植は潰瘍性大腸炎の新たな治療となるか/Lancet

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少関節型若年性特発性関節炎、MTX追加で寛解期間が延長/Lancet

 少関節型若年性特発性関節炎の治療において、副腎皮質ステロイド関節内注射に経口メトトレキサート(MTX)を追加すると、寛解率はほとんど変わらないものの、再燃までの期間が延長し、毒性はさほど増加しないことが、イタリア・Istituto Giannina GasliniのAngelo Ravelli氏らイタリア小児リウマチ性疾患研究グループの検討で示された。研究の成果は、Lancetオンライン版2017年2月2日号に掲載された。若年性特発性関節炎は、国際リウマチ連盟(ILAR)によって、「16歳未満で発症し、6週間以上持続する原因不明の関節炎」と定義され、このうち少関節型は「6ヵ月間の罹患関節が1~4ヵ所の場合」とされる。本症の治療指針となるエビデンスに基づく情報はほとんどないという。MTX追加の効果を無作為化試験で評価 研究グループは、少関節型若年性特発性関節炎患者への経口MTXの追加が、副腎皮質ステロイド関節内注射の効果を増強するかを検討する非盲検無作為化試験を実施した(Italian Agency of Drug Evaluationの助成による)。 年齢18歳未満の患者が、副腎皮質ステロイド関節内注射単独または経口MTX(15mg/m2、最大20mg、週1回)+副腎皮質ステロイド関節内注射を施行する群に無作為に割り付けられた。副腎皮質ステロイドは、トリアムシノロンヘキサセトニド(肩・肘・手首・膝関節、脛距関節)またはメチルプレドニゾロン酢酸エステル(距骨下関節、足根関節)を用いた。 主要評価項目は、intention-to-treat集団における治療開始から12ヵ月後の、治療対象となった全関節の寛解率とした。 2009年7月7日~2013年3月31日に、イタリアの10施設に207例が登録され、関節内注射単独群に102例、MTX併用群には105例が割り付けられた。再燃までの期間が約4ヵ月延長 ベースラインの年齢中央値は、関節内注射単独群が4.5(IQR:2.2~10.4)歳、MTX併用群は4.1(2.4~8.9)歳、女児がそれぞれ72%、80%を占めた。発症時年齢中央値はそれぞれ2.8(1.6~6.0)歳、2.5(1.7~4.7)歳、罹患期間中央値は6.7(2.8~19.5)ヵ月、6.9(3~22.0)ヵ月だった。 注射が行われた関節が1ヵ所のみの患者は23%(48例)、2ヵ所以上の患者は77%(159例)であった。全部で490の関節に注射が行われ、膝関節と足関節が多くを占めた。 12ヵ月時の全関節寛解率は、関節内注射単独群が34%(35例)、MTX併用群は39%(41例)であり、両群間に有意な差を認めなかった(p=0.48)。 再燃の頻度が最も高かった関節は、関節内注射単独群が中手指節関節(60%)、肘関節(50%)、距骨下関節(48%)、足関節(41%)であり、MTX併用群は距骨下関節(41%)、足関節(26%)、肘関節(25%)、中手指節関節(10%)であった。膝関節の非寛解率は、それぞれ20%(23/113)、12%(13/106)だった。 再燃までの期間中央値は、関節内注射単独群の6.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.6~8.2)に比べ、MTX併用群は10.1ヵ月(7.6~>16)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.67、95%CI:0.46~0.97、log-rank検定のp=0.0321)。 MTX併用群の17%(20例)に有害事象が発現し、消化管不快感(悪心、嘔吐、便秘:14例)、肝トランスアミナーゼ上昇(8例)、疲労(2例)、易刺激性(2例)、脱毛(1例)、白血球減少(1例)が含まれた。恒久的な治療中止が2例(消化管不快感、肝トランスアミナーゼ上昇が1例ずつ)に認められた。重篤な有害事象はみられなかった。 著者は、「今後、関節炎の拡大を予防する治療介入の可能性の評価を目的とする臨床試験を行う必要がある」としている。

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クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 1

今回のキーワード試し行為子育てタイプ社会的コミュニケーション障害回避性パーソナリティ障害社会的遊び進化心理学メラビアンの法則しんちゃんはなぜお尻を出すの?ユーモアのセンスみなさんは、「人を楽しませたい」または「子どもにコミュ力をつけたい」と思うことはありますか? その方がきっと人間関係がうまく行きそうだと思いますよね。今回は、ユーモアのセンスをテーマに、国民的人気アニメ番組の「クレヨンしんちゃん」を取り上げます。主人公は、野原家長男のしんちゃん。5歳児でありながら、しんちゃんのペースに母みさえや父ひろしを初め、周りが巻き込まれ、翻弄されます。このアニメは、2012年まで日本PTA協議会主催の「小中学生と親のテレビ番組に関する意識調査」の「子どもに見せたくない番組」アンケート(2013年に廃止)では毎年上位にランクインしていました。しかし、最近は育児書として良い意味で再注目されています。さらには、ユーモアのヒントもたくさん詰まっており、コミュニケーション能力を高めるモデルとしても参考になります。それでは、「クレヨンしんちゃん」を通して、コミュニケーション能力を高める親モデル、ユーモアを初めとする遊びの起源、明日から使えるユーモアのエッセンスについていっしょに考えていきましょう。なぜしんちゃんはお尻を出すの?-コミュニケーション能力を高めるしんちゃんは、人前でよく「お尻ぶりぶり」と言いながらお尻を出してふざけます。母みさえと父ひろしを呼び捨てにすることもあります。特にみさえには「お便秘みさえ」「バキュームかーちゃんみさえ号~」「ケツでか~」「ぶよぶよお腹~」などと言い、からかいます。このように、ふざけたり人をからかったりするのは下品で不真面目だという理由で、PTAの親たちは有害番組だと思ったのでしょう。確かに大人から見ればそうです。ただ、子どもにとっては、どうでしょうか? そもそもしんちゃんはなぜお尻を出すのでしょうか?それは、しんちゃんが、コミュニケーション能力を高めようとしているからです。言い換えれば、しんちゃんはお尻を出すとどうなるか相手と状況を見極めて試しています。それが結果的に、下品で不真面目なように見えてしまっているだけです。なぜなら、よくよく見ると、しんちゃんは、知らない人しかいない状況や好きな女性の前では、むしろ過剰な良い子を演じることで笑いを誘います。しんちゃんは、お尻を出すことは下品で良くないと重々分かっているのです。しんちゃんがお尻を出すのは、圧倒的にみさえがそばにいる時です。そして、みさえのリアクションを確認して、楽しんでいます。つまり、しんちゃんは、母親が嫌がることをわざとやっているのです。心理学的に言えば、愛着理論の試し行為に当たります。「構ってほしい」「それでも構ってもらえる」という信頼関係の確認です。このようなふざけ、からかい、いたずらなどは、信頼関係を深めるためのより高度な「挨拶」であると言えます。つまり、コミュニケーション能力とは、ふざける能力、遊び心でもあります。相手にふざけた後にその出方を見て、心の間合いを探っています。そして、いろいろな心の間合いがあることに気付きます。こうして相手や状況によって、その間合いを予測できるようになっていきます。ちょうど色々な動きを通して運動能力を高めるのと同じように、ふざけることも含めて色々なやり取りを通してコミュニケーション能力を高めています。また、ちょうど運動と同じように、コミュニケーションもすればするほど心地良いと感じるようになるでしょう。みなさんの中に、尻出しに対してもっと厳しくした方が良いという意見はありますでしょうか? 確かに、誰に対してもやっている場合は知的障害や自閉症スペクトラム障害の可能性を考え、対策が必要でしょう。また、女の子であれば、男の子に対してほど世の中の寛容さがないので、禁止するべきでしょう。一方、しんちゃんのように男の子でわざとやっている場合は、とても厳しくする必要はないです。ところで、しんちゃんは小学生になっても、お尻を出すでしょうか? その答えは、ノーです。しんちゃんの発達段階の幼児期はトイレットトレーニングの時期です。この時期は「お尻」「うんち」など排泄に関する下ネタをとても意識し、過剰に反応し、大好きになります。ところが、小学生の学童期に入ると、すでにトイレットトレーニングの課題は卒業しています。幅広い学習の機会が増え、表面的で具体的な発想から、より内面的で抽象的な発想をするようになります。よって、ふざけるにしても、見た目よりも中身に目が向き、より高度になっていきます。これが、ユーモアのセンスに発展していきます。逆に言えば、尻出しなどの単純なふざけによって、ユーモアのセンスの土台を作っているとも言えます。しんちゃんがお尻を出したらどうする?-コミュニケーション能力を高める親モデルしんちゃんのように、子どもがお尻を出すなどふざけたり、からかったりしたら、どうしましょうか? 子どものコミュニケーション能力を育むためには、実は親のコミュニケーション能力が問われてきます。その親モデルとして3つの要素があげられます。母みさえを初めとする周りのリアクションから考えてみましょう。(1)分かりやすいリアクション-社会性を育むまず、みさえは「こらっ、しんのすけ!」とムキになって怒ります。また、みさえのお決まりの「グリグリ」のお仕置きが登場することもあります。どこかコミカルです。そのわけは、気持ちをストレートに伝えて、リアクションがパターン化され分かりやすいからです。お仕置きについては、感情に任せた体罰ではなく、儀式化されたものです。コミュニケーションは、心の「プロレス」です。みさえはこの「プロレス技」を通して、実はやりとりを楽しんでいるようにも見えます。こうして、やって良いことと悪いことのルールが協調されることで、世の中で生きていくためのスキル、つまり社会性が子どもに育まれていきます。やがて、その成功体験の積み重ねによって、「自分ならできる」という自信が育まれます。(2)いつもは温かくて楽しい-共感性を育むみさえはしんちゃんによく爆発していますが、安心感があります。そのわけは、すぐに普段通りの温かくて楽しいお母さんに戻っていて、メリハリがあるからです。一方、しんちゃんがお風呂上がりに、いっしょにいた父ちゃんに下半身裸で「父ちゃん、ほら、ぞうさん」と言うと、父ちゃんは「ほ~らマンモス~」と悪ノリしています。その2人のやりとりを見たみさえは恥ずかしげに「おバカ親子」とツッコミを入れています。こうして、「たとえふざけても怒られるのはその時だけ」「怒られつつも楽しい」という共感性や安心感が子どもに育まれていきます。やがて、その信頼関係が強まることで、「どんな時も自分は大丈夫(大切にされている)」という自尊心が育まれます。(3)スキがある-積極性を育むみさえは、しんちゃんがこたつのテーブルを倒して滑り台にして遊んでいるのを叱ります。しかし、その後に、つい出来心で自分も滑って楽しんでしまいます。その様子をしんちゃんとひろしに冷たい目で見られ、「ハッ」と赤面します。このように、みさえはお間抜けキャラでスキがあります。おっちょこちょいで失敗もよくしています。怠け癖もあります。言い換えれば、みさえは決して完璧な母親(パーフェクトマザー)ではないです。とても人間味溢れる、ほど良いお母さんです(グッドイナッフマザー)。そして、ツッコミ甲斐があります。これは、自信につながります。また、お間抜けという失敗のモデルを見せているので、しんちゃんには「うまく行かなくても大丈夫」というメッセージが伝わります。これは、自尊心につながります。こうして、自信と自尊心を土台として、スキなどの何かおかしな点に気付いていく観察力やそれを指摘する行動力を伸ばすことで、積極性や創造性が子どもに育まれていきます。逆に言えば、子どもの積極性を高めるには、あえてスキをつくる、不真面目を演じる、つまり親のコミュニケーション能力として「ボケる」ことも重要になってきます。野原家、風間家、桜田家の子育てタイプの違いは?-グラフ1しんちゃんの通う幼稚園の仲良しのお友達でカザマくんとネネちゃんがいます。ここから、しんちゃんの野原家、カザマくんの風間家、ネネちゃんの桜田家のそれぞれの子育てタイプを整理して、コミュニケーション能力に影響を与える要素を探ってみましょう。なぜなら、コミュニケーション能力は、家庭内での親との人間関係を基礎として、家庭外での幼稚園・保育園の先生や友達、近所の人たちとの人間関係に応用されていくからです。子育て(家族機能)を国家になぞらえて、さきほどに紹介したルールの学習である社会性を縦軸の厳しさ(父性)、共感性を横軸の優しさ(母性)として、模式的にグラフ化してみましょう。子育ては、4つのタイプに分けられます。これは、カリフォルニア大学バークレー校の研究者ダイアナ・バウムリンド氏の子育てモデルを参考にしています。(1)しんちゃんの野原家-民主国家型まず、しんちゃんの野原家は、厳しさと優しさのバランスがとれています。自分の主張をしつつ、相手の主張も配慮して、お互いの折り合いを見つけるという意味で、民主国家型です。この心理は、社会性、共感性、積極性の全てがあります。自信と自尊心の両方が安定しているため、「おらならできるし、できない時もおらは大丈夫」という発想になります。この子育てタイプのプラス面は、ユーモアを初めとするコミュニケーション能力が育まれます。一方、マイナス面としては、厳しさと優しさのバランスを意識する労力を初めとして親もコミュニケーション能力を高める努力が必要になります。(2)カザマくんの風間家-独裁国家型次に、カザマくんの風間家は、優しさよりも厳しさに偏っています。将来エリートになるために、すでに幼稚園児にして塾通いをして、家でも勉強ばかりです。カザマくん自身もエリート然として振る舞っています。しかし、ママの顔色をうかがい、実はかなりのマザコンです。風間家の子育ては、有無を言わさず決められたことをやらされるいう意味で、独裁国家型です。この心理は、社会性が高すぎて、共感性が足りなくなり、結果的に積極性が不安定になります。自信は安定していますが自尊心が安定していないため、「ボクならできるけど、それでもボクはだめだ」という発想になります。一見、エリートになるために、小さい時から努力させることは良いことのように思えます。この子育てタイプのプラス面は、実際にエリートになる可能性があることです。さらに、子どもの能力が高ければ、親の「独裁」を乗り越えて、「革命」を起こし、世の中を動かす大物になるでしょう。一方、マイナス面としては、2つの危うさがあります。a. ユーモアがよく分からない1つは、ユーモアがよく分からないことです。小学生までは親の言いつけを守って、必死にがんばるでしょう。優等生で良い子です。しかし、中学生になったらどうなるでしょうか?中学生以降の思春期は、自分で自分の行動を決めるアイデンティティ(自我)の確立の時期です。この時、友達は、小学生のように周りから配慮されてできるわけでないです。友達は自分からつくる必要があります。この時に求められる能力は、相手の気持ちを察すること、相手との上手な間合いを取ること、そして、相手を楽しませることです(共感性)。つまり、どれだけ勉強をやってきたかの学力ではなく、どれだけおふざけをやってきたかのコミュニケーション能力が重要になってきます。逆に言えば、勉強ができても、ユーモアがよく分からなければ友達をつくるのに苦労します。そして、遊び心が足りない生真面目で退屈な大人になってしまい、人間関係で苦労するでしょう。その状況が深刻な場合は、社会的コミュニケーション障害と呼ばれます。この心理は、真面目になるという社会性はありますが、あえて不真面目をいっしょに楽しむという共感性が足りないです。b. 受け身になるもう1つは、受け身になることです。本来、中学生以降の思春期は、自分で自分の行動を決め、失敗も含めてその結果を受け入れる時期です。それは、自分で選んだ道だと納得し、これからも自分はどうしたいかという自分の生き方を見つけることです(積極性)。しかし、もともと親の「独裁」によって、自分で決めるという自由が極端に抑えられていれば、いざ自分で自分の行動を決めようにも、どうして良いか分からなくなります。決められたレールに乗ってきたので、レールがないと動けない、進めないのです。また、小学校まではうまく行かなくても親が決めたことなので自分のせいにはならなかったのに、自分で決めてしまうと自分のせいになってしまいます。つまり、失敗の責任を負うことに慣れていないのです。よって、すぐに正解を求めようとしたり、マニュアルを重視するようになります。このような完璧への執着は、裏を返せば失敗への恐怖、「失敗恐怖症」です。大人になって、仕事をする時も指示待ち人間になるでしょう。また、恋愛においても臆病になるでしょう。その状況が極端な場合は、回避性パーソナリティ障害と呼ばれます。この心理は、言われたらやるという社会性はありますが、自分からやるという積極性が足りないです。また、失敗の責任を負うことに慣れていないので、実際にうまく行かないことが起きたときは、「親のせいだ」「社会のせいだ」「病気のせいだ」という発想に陥りやすくなります。「自分のせいでもある」という自分の責任として真っ正面から向き合うこと(直面化)に耐えられず、誰かのせい、何かのせいにしようとする責任転嫁の心理が働きやすくなります(認知的不協和)。(3)ネネちゃんの桜田家-ユートピア型最後に、ネネちゃんの桜田家は、厳しさよりも自由さ(優しさ)に偏っています。ネネちゃんは、ウサギのぬいぐるみを懐に忍ばせ、嫌なことがあるとそれを殴ってストレスを発散させています。そして、実は、ママも同じことをしていて、ネネちゃんはママのまねをしています。女の子がぬいぐるみを殴るという行為を母親が黙認しています。むしろ逆に、母親がその悪いお手本を示しています。それをたしなめる父親はいません。また、より健康的なストレス発散の対処法(コーピングスキル)の提案もありません。このように、桜田家の子育ては、自由気ままにすることが許される甘やかしという意味で、ユートピア型です。この心理は、社会性が足りず、共感性が高いので、結果的に積極性が不安定になります。自信は安定していないですが自尊心が安定しているため、「私はできないけど、それでも私は大丈夫」という発想になります。この子育てタイプのプラス面は、自由で独創的な発想を育むことです。しんちゃんたちが巻き込まれるネネちゃんの「リアルおままごと」は、結末が必ず離婚か実家に帰る設定になっており、独特でリアリティがあります。一方、マイナス面は、自由さの裏返しで、出しゃばりで身勝手になってしまうことです。ネネちゃんは、しんちゃんから「他人の心は読めるのに、場の空気は読めない」と言われています。残念ながら、大人の世界にユートピアは存在しません。よって、大人になっても、その状況が極端な場合は、自己愛性パーソナリティ障害と呼ばれます。この心理は、自由にする積極性はありますが、相手の自由も尊重するという社会性が足りないです。また、大人になっても衝動性のコントロールが困難な場合は、アルコール、ギャンブル、人間関係の巻き込まれ(共依存)などの嗜癖性障害のリスクが高まります。例えば、アルコール依存症の人の典型的なセリフとして、「(断酒はできないけど)自分はまだ大丈夫」という否認の心理です。この心理は、甘えるという共感性はありますが、甘えすぎないという社会性が足りないです。(4)該当なし-無法地帯型おまけとして、当てはまるしんちゃんのお友達はいませんが、厳しさも優しさもない家庭だと、どうなるでしょうか? 親が多忙であったり、子育てに無関心であったりして、子どもに衣食住の必要最低限のものは与えますが、それ以外は関わらない状況です。これは、ネグレクト(育児放棄)に当たり、もはや国家の形をなしていないという意味で、無法地帯型です。この心理は、社会性と共感性が足りず、積極性も不安定になります。自信も自尊心も安定していないため、「自分はできないし、できる時も自分はだめだ(どうもこうもならない)」という発想になります。この子育てのプラス面は、特にないです。一方、マイナス面としては、知的発達や愛着の問題から、非行(素行障害)に走りやすくなりなす。大人なれば、反社会性パーソナリティ障害のリスクが高まります。次のページへ >>

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線条体黒質変性症〔SND: striatonigral degeneration〕

1 疾患概要■ 概念・定義線条体黒質変性症(striatonigral degeneration: SND)は、歴史的には1961年、1964年にAdamsらによる記載が最初とされる1)。現在は多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)の中でパーキンソン症状を主徴とする病型とされている。したがって臨床的にはMSA-P(MSA with predominant parkinsonism)とほぼ同義と考えてよい。病理学的には主として黒質一線条体系の神経細胞脱落とグリア増生、オリゴデンドロサイト内にα-シヌクレイン(α-synuclein)陽性のグリア細胞質内封入体(glial cytoplasmic inclusion: GCI)が見られる(図1)。なお、MSA-C(MSA with predominant cerebellar ataxia)とMSA-Pは病因や治療などに共通した部分が多いので、「オリーブ橋小脳萎縮症」の項目も合わせて参照して頂きたい。画像を拡大する■ 疫学平成26年度のMSA患者数は、全国で1万3,000人弱であるが、そのうち約30%がMSA-Pであると考えられている。欧米では、この比率が逆転し、MSA-PのほうがMSA-Cよりも多い2,3)。このことは神経病理学的にも裏付けられており、英国人MSA患者では被殻、淡蒼球の病変の頻度が日本人MSA患者より有意に高い一方で、橋の病変の頻度は日本人MSA患者で有意に高いことが知られている4)。■ 病因いまだ十分には解明されていない。α-シヌクレイン陽性GCIの存在からMSAはパーキンソン病やレビー小体型認知症とともにα-synucleinopathyと総称されるが、MSAにおいてα-シヌクレインの異常が第一義的な意義を持つかどうかは不明である。ただ、α-シヌクレイン遺伝子多型がMSAの易罹患性要因であること5)やα-シヌクレイン過剰発現マウスモデルではMSA類似の病理所見が再現されること6,7)などα-シヌクレインがMSAの病態に深く関与することは疑う余地がない。MSAはほとんどが孤発性であるが、ごくまれに家系内に複数の発症者(同胞発症)が見られることがある。このようなMSA多発家系の大規模ゲノム解析から、COQ2遺伝子の機能障害性変異がMSAの発症に関連することが報告されている8)。COQ2はミトコンドリア電子伝達系において電子の運搬に関わるコエンザイムQ10の合成に関わる酵素である。このことから一部のMSAの発症の要因として、ミトコンドリアにおけるATP合成の低下、活性酸素種の除去能低下が関与する可能性が示唆されている。■ 症状MSA-Pの発症はMSA-Cと有意差はなく、50歳代が多い2,3,9,10)。通常、パーキンソン症状が前景に出て、かつ経過を通して病像の中核を成す。GilmanのMSA診断基準(ほぼ確実例)でも示されているように自律神経症状(排尿障害、起立性低血圧、便秘、陰萎など)は必発である11)。加えて小脳失調症状、錐体路症状を種々の程度に伴う。MSA-Pのパーキンソン症状は、基本的にパーキンソン病で見られるのと同じであるが、レボドパ薬に対する反応が不良で進行が速い。また、通常、パーキンソン病に特徴的な丸薬丸め運動様の安静時振戦は見られず、動作性振戦が多い。また、パーキンソン病に比べて体幹動揺が強く転倒しやすいとされる12)。パーキンソン病と同様に、パーキンソニズムの程度にはしばしば左右非対称が見られる。小脳症状は体幹失調と失調性構音障害が主体となり、四肢の失調や眼球運動異常は少ない13)。後述するようにMSA-Pでは比較的早期から姿勢異常や嚥下障害を伴うことも特徴である。なお、MSAの臨床的な重症度の評価尺度として、UMSARS(unified MSA rating scale)が汎用されている。■ 予後国内外の多数例のMSA患者の検討によれば、発症からの生存期間(中央値)はおよそ9~10年と推察される3,9)。The European MSA Study Groupの報告では、MSAの予後不良を予測させる因子として、評価時点でのパーキンソン症状と神経因性膀胱の存在を指摘している3)。この結果はMSA-CよりもMSA-Pのほうが予後不良であることを示唆するが、日本人患者の多数例の検討では、両者の生存期間には有意な差はなかったとされている9)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)GilmanらのMSA診断基準(ほぼ確実例)は別稿の「オリーブ橋小脳萎縮症」で示したとおりである。MSA-P疑い例を示唆する所見として、運動症状発現から3年以内の姿勢保持障害、5年以内の嚥下障害が付加的に記載されている11)。診断に際しては、これらの臨床所見に加えて、頭部画像診断が重要である(図2)。MRIでは被殻外側部の線状高信号(hyperintense lateral putaminal rim)が、パーキンソン症状に対応する病変とされる。画像を拡大する57歳女性(probable MSA-P、発症から約1年)の頭部MRI(A、B)。臨床的には左優位のパーキンソニズム、起立性低血圧、過活動性膀胱、便秘を認めた。MRIでは右優位に被殻外側の線状の高信号(hyperintense lateral putaminal rim)が見られ(A; 矢印)、被殻の萎縮も右優位である(B; 矢印)。A:T2強調像、B:FLAIR像68歳女性(probable MSA-P、発症から約7年)の頭部MRI(C~F)。臨床的には寡動、右優位の筋固縮が目立ち、ほぼ臥床状態で自力での起立・歩行は不可、発語・嚥下困難も見られた。T2強調像(C)にて淡い橋十字サイン(hot cross bun sign)が見られる。また、両側被殻の鉄沈着はT2強調像(D)、T2*像(E)、磁化率強調像(SWI)(F)の順に明瞭となっている。MSA-Pの場合、鑑別上、最も問題になるのは、パーキンソン病、あるいは進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症などのパーキンソン症候群である。GilmanらはMSAを示唆する特徴として表のような症状・所見(red flags)を挙げているが11)、これらはMSA-Pとパーキンソン病を鑑別するには有用とされる。表 MSAを支持する特徴(red flags)と支持しない特徴11)■ 支持する特徴(red flags)口顔面ジストニア過度の頸部前屈高度の脊柱前屈・側屈手足の拘縮吸気性のため息高度の発声障害高度の構音障害新たに出現した、あるいは増強したいびき手足の冷感病的笑い、あるいは病的泣きジャーク様、ミオクローヌス様の姿勢時・動作時振戦■ 支持しない特徴古典的な丸薬丸め様の安静時振戦臨床的に明らかな末梢神経障害幻覚(非薬剤性)75歳以上の発症小脳失調、あるいはパーキンソニズムの家族歴認知症(DSM-IVに基づく)多発性硬化症を示唆する白質病変上記では認知症はMSAを“支持しない特徴”とされるが、近年は明らかな認知症を伴ったMSA症例が報告されている14,15)。パーキンソン病とMSAを含む他のパーキンソン症候群の鑑別に123I-meta-iodobenzylguanidine(123I-MIBG)心筋シンチグラフィーの有用性が示されている16)。一般にMSA-Pではパーキンソン病やレビー小体型認知症ほど心筋への集積低下が顕著ではない。10の研究論文のメタ解析によれば、123I-MIBGによりパーキンソン病とMSA(MSA-P、MSA-C両方を含む)は感度90.2%、特異度81.9%で鑑別可能とされている16)。一方、Kikuchiらは、とくに初期のパーキンソン病とMSA-Pでは123I-MIBG心筋シンチでの鑑別は難しいこと、においスティックによる嗅覚検査が両者の鑑別に有用であることを示している17)。ドパミントランスポーター(DAT)スキャンでは、両側被殻の集積低下を示すが(しばしば左右差が見られる)、パーキンソン病との鑑別は困難である。また、Wangらは、MRIの磁化率強調像(susceptibility weighted image: SWI)による被殻の鉄含量の評価はMSA-Pとパーキンソン病の鑑別に有用であることを指摘している18)。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)有効な原因療法は確立されていない。MSA-Cと同様に、個々の患者の病状に応じた対症療法が基本となる。対症療法としては、薬物治療と非薬物治療に大別される。レボドパ薬に多少反応を示すことがあるので、とくに病初期には十分な抗パーキンソン病薬治療を試みる。■ 薬物治療1)小脳失調症状プロチレリン酒石酸塩水和物(商品名: ヒルトニン注射液)や、タルチレリン水和物(同:セレジスト)が使用される。2)自律神経症状主な治療対象は排尿障害(神経因性膀胱)、起立性低血圧、便秘などである。MSAの神経因性膀胱では排出障害(低活動型)による尿勢低下、残尿、尿閉、溢流性尿失禁、および蓄尿障害(過活動型)による頻尿、切迫性尿失禁のいずれもが見られる。排出障害に対する基本薬は、α1受容体遮断薬であるウラピジル(同: エブランチル)やコリン作動薬であるベタネコール塩化物(同: ベサコリン)などである。蓄尿障害に対しては、抗コリン薬が第1選択である。抗コリン薬としてはプロピベリン塩酸塩(同:バップフォー)、オキシブチニン塩酸塩(同:ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(同:ベシケア)などがある。起立性低血圧には、ドロキシドパ(同:ドプス)やアメジニウムメチル硫酸塩(同:リズミック)などが使用される。3)パーキンソン症状パーキンソン病に準じてレボドパ薬やドパミンアゴニストなどが使用される。4)錐体路症状痙縮が強い症例では、抗痙縮薬が適応となる。エペリゾン塩酸塩(同:ミオナール)、チザニジン塩酸塩(同:テルネリン)、バクロフェン(同:リオレサール、ギャバロン)などである。■ 非薬物治療患者の病期や重症度に応じたリハビリテーションが推奨される(リハビリテーションについては、後述の「SCD・MSAネット」の「リハビリのツボ」を参照)。上気道閉塞による呼吸障害に対して、気管切開や非侵襲的陽圧換気療法が施行される。ただし、非侵襲的陽圧換気療法によりfloppy epiglottisが出現し(喉頭蓋が咽頭後壁に倒れ込む)、上気道閉塞がかえって増悪することがあるため注意が必要である19)。さらにMSAの呼吸障害は中枢性(呼吸中枢の障害)の場合があるので、治療法の選択においては、病態を十分に見極める必要がある。4 今後の展望選択的セロトニン再取り込み阻害薬である塩酸セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)やパロキセチン塩酸塩水和物(同:パキシル)、抗結核薬リファンピシン、抗菌薬ミノサイクリン、モノアミンオキシダーゼ阻害薬ラサジリン、ノルアドレナリン前駆体ドロキシドパ、免疫グロブリン静注療法、あるいは自己骨髄由来の間葉系幹細胞移植など、さまざまな治療手段の有効性が培養細胞レベル、あるいはモデル動物レベルにおいて示唆され、実際に一部はMSA患者を対象にした臨床試験が行われている20,21)。これらのうちリファンピシン、ラサジリン、リチウムについては、MSA患者での有用性が証明されなかった21)。また、MSA多発家系におけるCOQ2変異の同定、さらにはCOQ2変異ホモ接合患者の剖検脳におけるコエンザイムQ10含量の著減を受けて、MSA患者に対する治療として、コエンザイムQ10大量投与療法に期待が寄せられている。5 主たる診療科神経内科、泌尿器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 線条体黒質変性症SCD・MSAネット 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症の総合情報サイト(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会(患者とその家族の会)1)高橋昭. 東女医大誌.1993;63:108-115.2)Köllensperger M, et al. Mov Disord.2010;25:2604-2612.3)Wenning GK, et al. Lancet Neurol.2013;12:264-274.4)Ozawa T, et al. J Parkinsons Dis.2012;2:7-18.5)Scholz SW, et al. Ann Neurol.2009;65:610-614.6)Yazawa I, et al. Neuron.2005;45:847-859.7)Shults CW et al. J Neurosci.2005;25:10689-10699.8)Multiple-System Atrophy Research Collaboration. New Engl J Med.2013;369:233-244.9)Watanabe H, et al. Brain.2002;125:1070-1083.10)Yabe I, et al. J Neurol Sci.2006;249:115-121.11)Gilman S, et al. Neurology.2008;71:670-676.12)Wüllner U, et al. J Neural Transm.2007;114:1161-1165.13)Anderson T, et al. Mov Disord.2008;23:977-984.14)Kawai Y, et al. Neurology. 2008;70:1390-1396.15)Kitayama M, et al. Eur J Neurol.2009:16:589-594.16)Orimo S, et al. Parkinson Relat Disord.2012;18:494-500.17)Kikuchi A, et al. Parkinson Relat Disord.2011;17:698-700.18)Wang Y, et al. Am J Neuroradiol.2012;33:266-273.19)磯崎英治. 神経進歩.2006;50:409-419.20)Palma JA, et al. Clin Auton Res.2015;25:37-45.21)Poewe W, et al. Mov Disord.2015;30:1528-1538.公開履歴初回2015年04月23日更新2016年11月01日

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抗PD-L1抗体atezolizumab、肺がんに承認:FDA

 米国食品医薬品(FDA)は2016年10月18日、プラチナを含む化学療法中または後に進行した転移性非小細胞肺がん(NSCLC)に対し、atezolizumab(商品名:TECENTRIQ、Genetec Oncolog)を承認した。  atezolizumabは、抗PD-L1抗体であり、プラチナを含む化学療法後に進行した局所進行または転移性尿路上皮がんに対しFDAの迅速承認を得ている。 今回の承認は、2つの無作為化オープンラベル臨床試験(OAK試験、POPLAR試験)の合計1,137例のNSCLC患者において、一貫した有効性と安全性を示した結果に基づくもの。 OAK試験での全生存期間(OS)中央値はatezolizumab群13.8ヵ月(95%CI:11.8~15.7)、ドセタキセル群9.6ヵ月(95%CI:8.6~11.2)(HR:0.74、95%CI :0.63~0.87、p=0.0004)。 POPLAR試験でのOS中央値は、atezolizumab群12.6ヵ月(95%CI:9.7~16.0)、ドセタキセ群9.7ヵ月(95%CI:8.6~12.0)(HR:0.69、95%CI:0.52~0.92)。2つの試験において、ドセタキセルと比較したOSをそれぞれ4.2ヵ月、2.9ヵ月改善した。 POPLAR試験の主要安全性評価集団においてatezolizumab群で多く見られた(20%以上の)有害事象は、疲労、食欲不振、呼吸困難、咳、悪心、筋骨格系疼痛、便秘であった。Grade3~4の有害事象で多く見られた(2%以上)ものは、呼吸困難、肺炎、低酸素血症、低ナトリウム血症、疲労、貧血、筋骨格痛、AST増加、ALT増加、嚥下障害、および関節痛であった。 atezolizumabの免疫関連有害事象は肺炎、肝炎、大腸炎、および甲状腺疾患であった。FDAのリリースはこちら

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多発性骨髄腫〔MM : multiple myeloma〕

1 疾患概要■ 概念・定義多発性骨髄腫(MM)は、Bリンパ球系列の最終分化段階にある形質細胞が、腫瘍性、単クローン性に増殖する疾患である。骨髄腫細胞から産生される単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)を特徴とし、貧血を主とする造血障害、易感染性、腎障害、溶骨性変化など多彩な臨床症状を呈する疾患である。■ 疫学わが国では人口10万人あたり男性5.5人、女性5.2人の推定罹患率であり、全悪性腫瘍の約1%、全造血器腫瘍の約10%を占める。発症年齢のピークは60代であり、年々増加傾向にある。40歳未満の発症はきわめてまれである。■ 病因慢性炎症や自己免疫疾患の存在、放射線被曝やベンゼン、ダイオキシンへの曝露により発症頻度が増加するが成因は明らかではない。MMに先行するMGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)や無症候性(くすぶり型)骨髄腫においても免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子や13染色体の異常が認められることから、多くの遺伝子異常が関与し、多段階発がん過程を経て発症すると考えられる。■ 症状症候性骨髄腫ではCRABと呼ばれる臓器病変、すなわち高カルシウム血症(Ca level increased)、腎障害(Renal insufficiency)、貧血(Anemia)、骨病変(Bone lesion)がみられる(図1)。骨病変では溶骨性変化による腰痛、背部痛、脊椎圧迫骨折などを認める。貧血の症状として全身倦怠感・労作時動悸・息切れなどがみられる。腎障害はBence Jones蛋白(BJP)型に多く、腎不全やネフローゼ症候群を呈する(骨髄腫腎)。骨吸収の亢進による高カルシウム血症では、多飲、多尿、口渇、便秘、嘔吐、意識障害を認める。正常免疫グロブリンの低下や好中球減少により易感染性となり、肺炎などの感染症を起こしやすい。また、脊椎圧迫骨折や髄外腫瘤による脊髄圧迫症状、アミロイドーシス、過粘稠度症候群による出血や神経症状(頭痛、めまい、意識障害)、眼症状(視力障害、眼底出血)がみられる。画像を拡大する■ 分類骨髄にクローナルな形質細胞が10%以上、または生検で骨もしくは髄外の形質細胞腫が確認され、かつ骨髄腫診断事象(Myeloma defining events)を1つ以上認めるものを多発性骨髄腫と診断する。骨髄腫診断事象には従来のCRAB症状に加え、3つの進行するリスクの高いバイオマーカーが加わった。これらはSLiM基準と呼ばれ、骨髄のクローナルな形質細胞60%以上、血清遊離軽鎖(Free light chain: FLC)比(M蛋白成分FLCとM蛋白成分以外のFLCの比)100以上、MRIで局所性の骨病変(径5mm以上)2個以上というのがある。したがって、CRAB症状がなくてもSLiM基準の1つを満たしていれば多発性骨髄腫と診断されるため、症候性骨髄腫という呼称は削除された1)。くすぶり型骨髄腫は、骨髄診断事象およびアミロイドーシスを認めず、血清M蛋白量3g/dL以上もしくは尿中M蛋白500mg/24時間以上、または骨髄のクローナルな形質細胞10~60%と定義された。MGUSは3つの病型に区別され、その他、孤立性形質細胞腫の定義が改訂された1)(表1)。表1 多発性骨髄腫の改訂診断基準(国際骨髄腫ワーキンググループ: IMWG)■多発性骨髄腫の定義以下の2項目を満たす(1)骨髄のクローナルな形質細胞割合≧10%、または生検で確認された骨もしくは髄外形質細胞腫を認める。(2)以下に示す骨髄腫診断事象(Myeloma defining events)の1項目以上を満たす。骨髄腫診断事象●形質細胞腫瘍に関連した臓器障害高カルシウム血症: 血清カルシウム>11mg/dLもしくは基準値より>1mg/dL高い腎障害: クレアチニンクリアランス<40mL/分もしくは血清クレアチニン>2mg/dL貧血: ヘモグロビン<10g/dLもしくは正常下限より>2g/dL低い骨病変: 全身骨単純X線写真、CTもしくはPET-CTで溶骨性骨病変を1ヵ所以上認める●進行するリスクが高いバイオマーカー骨髄のクローナルな形質細胞割合≧60%血清遊離軽鎖(FLC)比(M蛋白成分のFLCとM蛋白成分以外のFLCの比)≧100MRIで局所性の骨病変(径5mm以上)>1個■くすぶり型骨髄腫の定義以下の2項目を満たす(1)血清M蛋白(IgGもしくはIgA)量≧3g/dLもしくは尿中M蛋白量≧500mg/24時間、または骨髄のクローナルな形質細胞割合が10~60%(2)骨髄診断事象およびアミロイドーシスの合併がない(Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.)■ 予後治癒困難な疾患であるが、近年、新規薬剤の導入により予後の改善がみられる。生存期間は移植適応例では6~7年、移植非適応例では4~5年である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査血清および尿の蛋白電気泳動でβ-γ域にM蛋白を認める場合は、免疫電気泳動あるいは免疫固定法でクラス(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)とタイプ(κ、λ)を決定する。BJP型では血清蛋白電気泳動でMピークを認めないので注意する。血清FLCはBJP型骨髄腫や非分泌型骨髄腫の診断に有用である。血液検査では、正球性貧血、白血球・血小板減少と塗抹標本で赤血球連銭形成がみられる。骨髄ではクローナルな形質細胞が増加する。生化学検査では、血清総蛋白増加、アルブミン(Alb)低下、CRP上昇、ZTT高値、クレアチニン、β2-ミクログロブリン(β2-MG)の上昇、赤沈の亢進がみられる。染色体異常としてt(4;14)、t(14;16)、t(11;14)や13染色体欠失などがみられる。全身骨X線所見では、打ち抜き像(punched out lesion)や骨粗鬆症、椎体圧迫骨折を認める。CTは骨病変の検出に、全脊椎MRIは骨髄病変の検出に有用である。PET-CTは骨病変や形質細胞腫の検出に有用である。■ 診断診断には、前述の国際骨髄腫ワーキンググループ(IMWG)による基準が用いられる1)(表1、2)。また、血清Alb値とβ2-MG値の2つの予後因子に基づく国際病期分類(International Staging System:ISS)は予後の推定に有用である。最近、ISSに遺伝子異常とLDHを加味した改訂国際病期分類(R-ISS)が提唱されている2)(表3)。ISS病期1、2、3の生存期間はそれぞれ62ヵ月、44ヵ月、29ヵ月である。ただし、これは新規薬剤の登場以前のデータに基づいている。表2 意義不明の単クローン性γグロブリン血症(MGUS)と類縁疾患の改訂診断基準■非IgG型MGUSの定義血清M蛋白量<3g/dL骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%形質細胞腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)およびアミロイドーシスがない■IgM型MGUSの定義血清M蛋白量<3g/dL骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%リンパ増殖性疾患に伴う貧血、全身症状、過粘稠症状、リンパ節腫脹、肝脾腫や臓器障害がない■軽鎖型MGUSの定義血清遊離軽鎖(FLC)比<0.26(λ型の場合)もしくは>1.65(κ型の場合)免疫固定法でモノクローナルな重鎖を認めない形質細胞腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)およびアミロイドーシスがない骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%尿中のM蛋白量<500mg/24時間■孤立性形質細胞腫の定義骨もしくは軟部組織に生検で確認されたクローナルな形質細胞からなる孤立性病変を認める骨髄にクローナルな形質細胞を認めない孤立性形質細胞腫以外に全身骨単純X線写真やMRI、CTで骨病変を認めないリンパ形質細胞性腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)がない■微小な骨髄浸潤を伴う孤立性形質細胞腫の定義骨もしくは軟部組織に生検で確認されたクローナルな形質細胞からなる孤立性病変を認める骨髄のクローナルな形質細胞割合<10%孤立性形質細胞腫以外に全身骨単純X線写真やMRI、CTで骨病変を認めないリンパ形質細胞性腫瘍に関連する臓器障害(CRAB)がない(Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療方針IMWGではCRAB症状を有するMMのほか、CRAB症状がなくてもSLiM基準を1つでも有する症例も治療の対象としている。この点について、わが国の診療指針では慎重に経過観察を行い、進行が認められる場合に治療を開始することでもよいとしている3)。MGUSやくすぶり型MMは治療対象としない。初期治療は、自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(HDT/AHSCT)が実施可能かどうかで異なる治療が行われる3、4)。効果判定はIMWGの診断基準が用いられ、CR(完全奏効:免疫固定法でM蛋白陰性)達成例は予後良好であることから、深い奏効を得ることが、長期生存のサロゲートマーカーとなる5)。■ 大量化学療法併用移植適応患者年齢65歳以下で、重篤な感染症や肝・腎障害がなく、心肺機能に問題がなければHDT/AHSCTが行われる。初期治療としてボルテゾミブ(BOR、商品名:ベルケイド)やレナリドミド(LEN、同: レブラミド)などの新規薬剤を含む2剤あるいは3剤併用が推奨される3、4)(図2)。わが国では初期治療に保険適用を有する新規薬剤は現在BORとLENであり、BD(BOR、デキサメタゾン[DEX])、BCD(BOR、シクロホスファミド[CPA]、DEX)、BAD(BOR、ドキソルビシン[DXR]、DEX)、BLd(BOR、LEN、 DEX)、Ld(LEN、DEX)が行われる。画像を拡大する寛解導入後はCPA大量にG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を併用して末梢血幹細胞が採取され、メルファラン(MEL)大量(200mg/m2)後にAHSCTが行われる。BORを含む3剤併用による寛解導入後にAHSCTを行うことにより、60%以上の症例でVGPR(very good partial response)が得られる。自家移植後にも残存する腫瘍細胞を減少させる目的で、地固め・維持療法が検討されている。新規薬剤による維持療法は無増悪生存を延長させるが、サリドマイド(THAL)による末梢神経障害や薬剤耐性、レナリドミドによる二次発がんの問題が指摘されており、リスクとベネフィットを考慮して判断することが求められる3、4)。■ 大量化学療法併用移植非適応患者65歳以上の患者や65歳以下でもHDT/AHSCTの適応条件を満たさない患者が対象となる。これまでMELとプレドニゾロン(PSL)の併用(MP)が標準治療であったが、現在は新規薬剤を加えたMPT(MP、THAL)、MPB(MP、BOR)、LDが推奨されている3、4)(図3)。わが国でもLd、MPBが実施可能であり、BORの皮下投与は静脈投与と比較し、神経障害が減少するので推奨されている。画像を拡大する■ サルベージ療法初回治療終了6ヵ月以後の再発では、初回導入療法を再度試みてもよい。移植後2年以上の再発では、AHSCTも治療選択肢に上がる。6ヵ月以内の早期再発や治療中の進行や増悪、高リスク染色体異常を有する症例では、新規薬剤を含む2剤、3剤併用が推奨される3、4)。新規薬剤として、2015年にポマリドミド(同: ポマリスト)、パノビノスタット(同: ファリーダック)、2016年にカルフィルゾミブ(同: カイプロリス)が導入され、再発・難治性骨髄腫の治療戦略の幅が広まった。■ 放射線治療孤立性形質細胞腫や、溶骨性病変による骨痛に対しては、放射線照射が有効である。■ 支持療法骨痛の強い症例や骨病変の抑制にゾレドロン酸(同: ゾメタ)やデノスマブ(同: ランマーク)が推奨される。長期の使用にあたっては、顎骨壊死の発症に注意する。腎機能障害の予防には、十分量の水分を摂取させる。高カルシウム血症には生理食塩水とステロイドに加え、カルシトニン、ビスホスホネートを使用する。過粘稠度症候群に対しては、速やかに血漿交換を行う。4 今後の展望有望な新規薬剤として、第2世代のプロテアソーム阻害剤(イキサゾミブなど)のほか、抗体薬(elotuzumab、daratumumab、pembrolizumabなど)が開発中である。これらの薬剤の導入により、多くの症例で微少残存腫瘍(MRD)の陰性化が可能となり、生存期間の延長、ひいては治癒が得られることが期待される。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本骨髄腫学会(医療従事者向けの診療、研究情報)患者会情報日本骨髄腫患者の会(患者と患者家族の会の情報)1)Rajkumar SV, et al. Lancet Oncol.2014;15:e538-548.2)Palumbo A, et al. J Clin Oncol.2015;33:2863-2869.3)日本骨髄腫学会編. 多発性骨髄腫の診療指針 第4版.文光堂;2016.4)日本血液学会編. 造血器腫瘍診療ガイドライン.金原出版;2013.p.268-307.5)Durie BGM, et al. Leukemia.2006.20:1467-1473.公開履歴初回2013年12月17日更新2016年10月04日

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トルリシティ週1回注射で糖尿病患者の負担軽減

 8月31日、日本イーライリリー株式会社は、同社の持続性GLP-1受容体作動薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ皮下注0.75mgアテオス)の投薬制限期間が、9月1日に解除されることから、「新しい治療オプションの登場による2型糖尿病治療強化への影響」をテーマにプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、糖尿病治療への新しい選択肢を示すとともに、患者の注射に対する意識アンケート調査結果も公表された。トルリシティは簡単な操作で週1回の注射 じめに岩本 紀之氏(同社研究開発本部 糖尿病領域)が、トルリシティの製品概要について説明した。 GLP-1受容体作動薬は、膵β細胞膜上のGLP-1受容体に結合し、血糖依存的にインスリン分泌を促進する作用があり、グルカゴン分泌抑制作用も併せ持つ。胃内容物排出抑制作用があり、空腹時と食後血糖値の両方を低下させ、食欲抑制作用は体重を低下させる作用がある。また、単独使用では、低血糖を来す可能性は低いとされる。 トルリシティは、ヒトGLP-1由来の製剤で、血中濃度半減期は4.5日。1週間にわたり、安定した血中濃度を示すという。 26週の単独使用の国内第III相試験では、HbA1c推移はプラセボ(n=68)がベースラインから+0.14に対し、デュラグルチド(n=280)は-1.43であった。また、HbA1c 7.0未満の達成率(26週後)は、プラセボが5.9%だったのに対し、デュラグルチドは71.4%であった。また、副作用の発現率は29.7%(272/917例)で便秘、悪心、下痢の順で多く、重篤な副作用は報告されていない。低血糖症(夜間・重症含む)の発現は、プラセボ(n=70)で1例、デュラグルチド(n=280)で6例、リラグルチド(n=137)で2例だった。 なお、トルリシティのデバイスであるアテオスは、1回使い切りのデバイスで、わずか3つのステップで使用することができる。インスリンと異なり、針の付け替え、薬剤の混和、空打ちは不要で、訓練を要せずに簡単に使用できるという。 対象は2型糖尿病患者で、週1回、朝昼晩いつでも0.75mgを注射するだけで、優れた血糖低下を発揮する。DPP-4阻害薬はいい治療薬だけれど… セミナーでは、「新しい治療オプションの登場による2型糖尿病治療強化への影響~最新の研究結果から、注射に対する抵抗感の現状と未来を考える~」と題して、麻生 好正氏(獨協医科大学 内分泌代謝内科 教授)が、望まれる糖尿病治療薬の在り方と患者アンケートの概要について解説を行った。 糖尿病の概要と現状について、生活環境の変化(身体活動の低下)と食生活の変化(動物性脂肪の摂取の増加)などにより、患者数が50年前と比較し約38倍になっていること、そして、わが国では新しい血糖コントロール目標が2013年より導入され、個別化による目標血糖値に向けて治療が行われていることが説明された。 次に糖尿病の治療薬に望まれることとして、「低血糖を起さない」「治療に伴う体重増加がない」「血糖低下作用が十分ある」の3点を示すとともに、長期血糖コントロール維持と効果の持続性、膵β細胞機能低下抑制、障害のある腎・肝臓でも使用可能、心血管系に悪影響を及ぼさない、長期の安全性なども望まれると説明した。 現在、使用できる糖尿病治療薬の中でも、体重増加を避け、低血糖リスクの低い薬としては、「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」「SGLT2阻害薬」の3種が挙げられる。とくにインクレチン関連薬の「DPP-4阻害薬」はアジア人に効果が高く、わが国でも広く使用されているが、最近増えている欧米型肥満の患者には効果に限界があり、また、経口血糖降下薬だけでは約6割の患者しかHbA1cを7.0%以下に下げることができず、次の治療オプションの模索がされているという。週1回注射のトルリシティは患者のアドヒアランスを向上 もう1つのインクレチン関連薬の「GLP-1受容体作動薬」は、注射薬のために臨床現場では使用へのハードルが高いものであった。しかし、GLP-1受容体作動薬は、DPP-4阻害薬の効果に加え、食欲低下、胃排出能の低下、体重減少効果もあり、抗動脈硬化作用1)も報告されている。他剤との併用では、基礎インスリンが一番効果を発揮し、基礎インスリンの良好な空腹時血糖コントロール、低血糖リスクが少ない、体重増加が少ない、肝糖新生抑制などの特性とGLP-1受容体作動薬の特性とが相まって効果を発揮することで、優れたHbA1cのコントロールをもたらすと期待されている。 先述のように注射というハードル故に、使用に二の足を踏まれていたGLP-1受容体作動薬について、患者へのアンケート調査(糖尿病治療薬[注射製剤]に関する患者調査2))で、次のようなことが明らかになった。 「患者が重視した薬剤属性」では、投与頻度(44.1%)、投与方法(26.3%)、吐き気の頻度(15.1%)、低血糖の頻度(7.4%)と回答が寄せられた。 「投与の度に注射が必要な糖尿病の治療薬を使用したいと思うか?」については、89.5%の患者が使用したくない/あまり使用したくないと回答し、とても使用してみたい/いくらか使用してみたいと回答した患者はわずか1.7%だった。 「トルリシティをどの程度使用してみたいか?」については、37.9%の患者が依然として使用したくない・あまり使用したくないと回答し、とても使用してみたい・いくらか使用してみたいと回答した患者は42.9%となり、上記の1.7%と比較して急伸した。 週1回の注射という患者のアドヒアランスを考慮したGLP-1受容体作動薬の出現は、アンケートにみられた注射への心理的ハードルを越え、たとえば忙しい社会人や在宅治療中の高齢者には、利便性が高く、経口薬だけではない治療の選択肢の幅が拡がるという。 最後に麻生氏は、「これから注射薬の早期導入がしやすくなることで、糖尿病患者の個別化治療の促進や予後の改善が期待される」とレクチャーを終えた。【訂正のお知らせ】本文内の表記を一部訂正いたしました(2016年9月21日)。■参考日本イーライリリー(糖尿病・内分泌系の病気)■関連記事ケアネットの特集「インクレチン関連薬 徹底比較!」

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アジソン病〔Addison's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、アルドステロン(ミネラルコルチコイド)、コルチゾール(グルココルチコイド)、デヒドロエピアンドロステロンとデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(副腎アンドロゲン)の分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下した状態である。アジソン病は、副腎皮質自体の病変による原発性副腎皮質機能低下症であり、その病因として、副腎皮質ステロイド合成酵素欠損症による先天性副腎過形成症、先天性副腎低形成(X連鎖性、常染色体性)、ACTH不応症などの責任遺伝子が明らかとされた先天性のものはアジソン病とは独立した疾患として扱われるため、アジソン病は後天性の病因による慢性副腎皮質機能低下症を指して用いられる。■ 疫学わが国における全国調査(厚生労働省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会)によるとアジソン病の患者は1年間で660例と推定され、病因としては特発性が42.2%、結核性が36.7%、その他が19.3%であり、時代とともに特発性の比率が増加している。先天性副腎低形成症は約12,500人出生に1人である。副腎不全症としては、10,000人に5人程度(3人が下垂体性副腎不全、1人がアジソン病、1人が先天性副腎過形成症)の割合である。■ 病因病因としては、感染症、その他の原因によるものと特発性がある。感染症では結核性が代表的であるが、真菌性、後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併するものが増えている。 特発性アジソン病は、抗副腎抗体陽性の例が多く(60~70%)、21-水酸化酵素、17α-水酸化酵素などに対する自己抗体が原因となる自己免疫性副腎皮質炎であり、その他の自己免疫性内分泌疾患を合併する多腺性自己免疫症候群と呼ばれる。I型は特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するHAM症候群、II型は橋本病などを合併するシュミット症候群などがある。その他の原因によるものとしては、がんの副腎転移、副腎白質ジストロフィーなどがある。また、最近使用される頻度が増えている免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象(irAE)として内分泌障害があり、副腎炎によるアジソン病もみられる(約0.6%)。■ 症状コルチゾールの欠乏により、易疲労感、脱力感、食欲不振、体重減少、消化器症状(悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹痛など)、血圧低下、精神症状(無気力、嗜眠、不安、性格変化)、発熱、低血糖症状、関節痛などを認める。副腎アンドロゲン欠乏により女性の腋毛、恥毛の脱落、ACTHの上昇により、歯肉、関節、手掌の皮溝、爪床、乳輪、手術痕などに色素沈着が顕著となる。■ 分類副腎皮質の90%以上が障害されて起きる原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)と続発性副腎皮質機能低下症にまず大きく分類できる。続発性副腎皮質機能低下症には、下垂体性(ACTH分泌不全)と視床下部性(CRH分泌不全)に分けられる。■ 予後欧州の大規模疫学研究によると、原発性副腎不全症患者の全死亡リスクは、男性で2.19、女性では2.86との報告がある。長期予後が悪い理由は、グルココルチコイドの過剰投与によるQOLの低下、心血管イベントや骨粗鬆症のリスクの増加などが、生存率の低下につながると考えられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般検査では、低血糖(血糖値が70mg/dL以下)、低ナトリウム血症(135mEq/L以下)、正球性正色素性貧血(男性13g/dL以下、女性12g/dL以下)、血中総コレステロール値低値(150mg/dL以下)、末梢血の好酸球増多(8%以上)、相対的好中球減少、リンパ球増多、高カリウム血症を示す。内分泌学的検査では、非ストレス下で早朝ACTHとコルチゾール値を測定する(絶食で9時までに)。早朝コルチゾール値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、4μg/dL未満であれば副腎不全症の可能性が高いが、4~18μg/dLでは可能性を否定できない。血中コルチゾール基礎値が18μg/dL未満のときは、迅速ACTH負荷試験(合成1-24 ACTHテトラコサクチド[商品名:コートロシン]250μg静注)を施行する。血中コルチゾール頂値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、18μg/dL未満であれば副腎不全症を疑うほか、15μg/dL未満では原発性副腎不全症の可能性が高い。迅速ACTH負荷試験では、原発性と続発性副腎皮質機能低下症の鑑別ができないため、ACTH連続負荷試験、CRH負荷試験、インスリン低血糖試験などを組み合わせて行う(図)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)可能な限り、生理的コルチゾールの分泌量と日内変動に近い至適な補充療法が望まれる。コルチゾールを1日当たり10~20mg補充するのが生理的補充量の目安である。日本人は食塩摂取量が多いので、ヒドロコルチゾン(同:コートリル)10~20mg/日を2~3回に分割服用する(2分割投与の場合は、朝2:夕1、3分割投与では朝:昼:夕=3:2:1)。4 今後の展望現在、使用されているヒドロコルチゾンは放出が早く、内因性コルチゾールの日内リズムを完全に再現できない。わが国では使用できないが、欧州を中心にヒドロコルチゾン放出時間を遅らせる徐放型ヒドロコルチゾンの開発研究が進んでおり、生理的補充に近い薬理動態を再現できることが期待される。5 主たる診療科内科(とくに内分泌代謝内科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会臨床重要課題(副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断基準作成と治療指針作成)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アジソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Charmandari E, et al. Lancet.2014;383:2152-2167.2)南学正臣 総編集.内科学書 改訂第9版.中山書店; 2019. p.153-160.3)矢崎義雄 総編集.内科学 第11版.朝倉書店; 2017. p.1630-1633.公開履歴初回2015年01月08日更新2016年07月19日更新2022年02月28日

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統合失調症への抗うつ薬追加は有益なのか

 統合失調症治療において、抗精神病薬に抗うつ薬を追加した際の安全性および有効性をドイツ、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学のBartosz Helfer氏らが検討を行った。The American journal of psychiatry誌オンライン版2016年6月10日号の報告。 2015年6月までの複数のデータベースと出版物より、統合失調症に対する抗うつ薬追加とプラセボまたは未治療とを比較したすべての無作為化比較試験を抽出した。抑うつ症状と陰性症状(主要アウトカム)、全体の症状、陽性症状、副作用、精神症状の悪化、レスポンダーレートを調査した。サブグループ分析、メタ回帰分析、感度分析を実施した。また、同様に出版バイアスとバイアスリスクを調査した。 主な結果は以下のとおり。・82件の無作為化比較試験より、3,608例が抽出された。・抗うつ薬の追加は、各症状などに対しより有効であった。  抑うつ症状(SMD:-0.25、95%CI:-0.38~-0.12)  陰性症状(SMD:-0.30、95%CI:-0.44~-0.16)  全体の症状(SMD:-0.24、95%CI:-0.39~-0.09)  陽性症状(SMD:-0.17、95%CI:-0.33~-0.01)  QOL(SMD:-0.32、95%CI:-0.57~-0.06)  レスポンダーレート(RR:1.52[95%CI:1.29~1.78]、NNT:5[95%CI:4~7])・抑うつ症状と陰性症状への影響は、これら症状の最小閾値が包含基準であった際、より堅調にみられた(抑うつ症状[SMD:-0.34、95%CI:-0.58~-0.09]、陰性症状[SMD:-0.58、95%CI:-0.94~-0.21])。・精神症状の悪化、早期中止、少なくとも1つ以上の有害事象を経験した患者数については、抗うつ薬追加と対照群との間に有意な差は認められなかった。・抗うつ薬を追加した多くの患者において、腹痛、便秘、めまい、口渇が認められた。 結果を踏まえ、著者らは「主要アウトカム(抑うつ症状、陰性症状)の分析では、抗うつ薬補助療法の有用な効果は小さかった。抗うつ薬補助療法は、精神症状や副作用の悪化リスクが低いと考えられる。しかし、2次およびサブグループ解析により慎重に検討すべきである」としている。関連医療ニュース 統合失調症患者への抗うつ薬併用、効果はどの程度か 統合失調症の陰性症状に対し、抗うつ薬の有用性は示されるのか 統合失調症治療、ベンゾジアゼピン系薬の位置づけは

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絶望の外来【Dr. 中島の 新・徒然草】(119)

百十九の段 絶望の外来先日も外来で延々、便秘の話に苦しめられました。患者「便秘になって全然出ないんです」中島「それは、大変ですね。ところで…」患者「薬を出してくれませんか」中島「えっ?」患者「ぜひお願いします」中島「じゃあ、ラキソベロンでも出しておきましょう」患者「どうやってのむんですか?」中島「コップ1杯の水に何滴か入れてのんで下さい」患者「何滴入れるんですか?」中島「そんなもん適当ですよ」患者「何滴入れたらいいんですか?」中島「じゃあ…5滴入れてください」私自身、どちらかといえば緩いほうなので、ラキソベロンはのんだことがありません。ほかの系統の薬なら自分でもいろいろのんで試してみたりしているのですが、下剤のサジ加減はさっぱりわからないのです。患者「5滴入れたら便秘は治りますか?」中島「効く人もいるし、下痢になってしまう人もいるんじゃないかな?」患者「下痢するんですか?」中島「する人もいるでしょうね」患者「下痢したらどうすればいいんですか?」中島「5滴で多いということだから減らしたらいいと思いますよ」患者「4滴にするんですか?」中島「5滴が4滴になっても、あまり変わらないんじゃないかな」ここで同行してきた奥さんが一言。奥さん「お友達がなんとかマグネシウムという薬をのんでいるそうなんですけど」中島「ああ、それは酸化マグネシウムですね。われわれはカマグと呼んでいますね」患者「どっちがいいんですか?」中島「どっちがいいってアアタ、それは相性でしょう」患者「マグネシウムのほうがいいんですか?」中島「いやいやラキソベロン屋さんは『ラキソベロンこそ1番です』と言うでしょうし、カマグ屋さんは『ウチの薬はよく効きますよ』と言うでしょうし、結局、のんでみないとわかりませんよ、そんなもん」患者「マグネシウムのほうがよく効くんですか?」中島「いやいやいや、先ほどから申し上げているように、実際にのんでみないことにはですね」そこから後の記憶はあまり残っていません。下剤の話があり、浣腸の話があり、足が重いという話があったような、なかったような。ふと気がついたときには、休憩スペースのソファにへたり込んでいました。看護師「先生、お疲れですね」中島「疲れた」看護師「『ウンコの話ばかりしないでくださいよ』とか、こっちまで聞こえていましたよ」中島「僕が言いそうな台詞やな、それ」看護師「ラキソベロンって、5滴ぐらいから始めたらちょうどいいんじゃないですか」中島「そこまで聞こえていたんやったら助けてくれたらエエやんか」そこに登場したのが同僚のA先生。A医師「心中お察し申し上げます。僕なんてね、ウンコを触りたくないから脳外科医になったくらいですから」中島「奇遇やな、僕もそうなんや!」ウンコがすべてとは言いませんが、案外、こういう動機で脳外科医になった人は多いのではないでしょうか。A医師「ラキソベロン5滴なんて言わずに、20滴くらい使ったらいんじゃないですか」中島「そんな無茶な」A医師「下痢だったらね、大惨事になるかもしれんけど、とにかく決着はつきますよ」中島「それもそうやな!」A医師「延々と続く便秘のほうがタチが悪いわけです」妙に説得力のあるアドバイスでした。確かに5滴などというショボい使い方は、下痢気味の人間の発想ですね。なんだか次の再診の時にも頑張れそうな気がしてきました。最後に1句   延々と 長い質問 続くのは       溜まり溜まった 便のせいかも

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多発性骨髄腫、ixazomib追加の3剤併用療法でPFS延長/NEJM

 再発または難治性の多発性骨髄腫の治療において、標準治療にixazomibを加えた経口薬の3剤併用療法は、標準治療のみに比べ無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、毒性は許容できるものであることが、フランス・オテル・デュー大学病院のPhilippe Moreau氏らが行ったTOURMALINE-MM1試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2016年4月28日号に掲載された。ixazomibは、経口投与が可能なペプチドボロン酸型プロテアソーム阻害薬で、ボルテゾミブとは化学構造や薬理学的特性が異なる。前臨床試験でレナリドミドとの相乗効果が確認され、未治療の多発性骨髄腫の早期臨床試験ではレナリドミド+デキサメタゾンとの併用で有望な効果と安全性が報告されている。上乗せ効果をプラセボ対照無作為化試験で評価 TOURMALINE-MM1試験は、多発性骨髄腫に対する従来の標準治療へのixazomibの上乗せ効果を検討する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験(Millennium Pharmaceuticals社の助成による)。 対象は、測定可能病変を有し、全身状態(ECOG PS)が0~2、前治療レジメン数が1~3の再発、難治性、再発・難治性の多発性骨髄腫で、軽度~中等度の腎機能障害がみられる患者も含めた。 被験者は、ixazomib+レナリドミド+デキサメタゾンを投与する群(ixazomib群)またはプラセボ+レナリドミド+デキサメタゾンを投与する群(プラセボ群)に無作為に割り付けられた。両治療群とも28日を1サイクルとし、病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続することとした。 主要評価項目は、無増悪生存期間(PFS)とした。副次評価項目には、全生存期間(OS)、17p欠失例のOS、完全奏効(complete response)+最良部分奏効(very good partial response)の割合などが含まれた。 2012年8月28日~2014年5月27日までに、26ヵ国147施設に722例が登録され、ixazomib群に360例、プラセボ群には362例が割り付けられた。 PFS中央値が約6ヵ月延長、完全+最良部分奏効割合も良好 背景因子は両群間でバランスがよく取れていた。全体の年齢中央値は66歳(範囲:30~91歳)で、65歳以上が52%、男性が57%含まれた。前治療レジメン数は1が61%、2が29%、3が10%であり、再発例が77%、難治例が11%、再発・難治例は12%であった。 フォローアップ期間中央値14.7ヵ月におけるPFS中央値は、ixazomib群が20.6 ヵ月と、プラセボ群の14.7ヵ月よりも有意に延長した(ハザード比[HR]:0.74、p=0.01)。PFSの事前に規定されたサブグループ解析では、高リスクの細胞遺伝学的異常を有する患者などのすべてのサブグループにおいて、ixazomib群がプラセボ群よりも良好であった。 全奏効率はixazomib群が78%と、プラセボ群の72%に比べ有意に優れた(p=0.04)。また、完全奏効+最良部分奏効の割合は、それぞれ48%、39%であり、ixazomib群で有意に良好だった(p=0.01)。奏効までの期間中央値は、ixazomib群が1.1ヵ月と、プラセボ群の1.9ヵ月よりも短く(p=0.009)、奏効期間中央値はそれぞれ20.5ヵ月、15.0ヵ月であった。 フォローアップ期間中央値が約23ヵ月の時点におけるOS中央値は両群とも未到達で、フォローアップが継続されている。 重篤な有害事象の発現率はixazomib群が47%、プラセボ群は49%で、試験期間中の死亡率はそれぞれ4%、6%であり、いずれも両群でほぼ同じであった。また、Grade 3以上の有害事象は、それぞれ74%、69%に認められた。 Grade 3および4の血小板減少症の頻度は、ixazomib群(それぞれ12%、7%)がプラセボ群(5%、4%)よりも高かった。 発疹は、ixazomib群が36%であり、プラセボ群の23%に比べ頻度が高かった。消化器系の有害事象(下痢、便秘、悪心、嘔吐)は多くが低Gradeであったが、ixazomib群のほうが高頻度であった。また、末梢神経障害の発生率は、ixazomib群が27%,プラセボ群は22%であった(Grade3は両群とも2%)。 患者報告による健康関連QOL評価(EORTC QLQ-C30、EORTC QLQ-MY20)のスコアは、試験期間を通じて両群でほぼ同等であった。 著者は、「この経口薬3剤併用レジメンは、再発、難治性、再発・難治性多発性骨髄腫の新たな治療選択肢となるだろう」としている。

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便秘はCVD死亡リスクを高める~日本のコホート研究

 排便回数は、日本人集団でのCVD死亡リスクと関連することが、東北大学の本藏 賢治氏らによる研究で明らかになった。今後、慢性便秘とCVD死亡リスクとの関連の根底にあるメカニズムの解明を目指した研究が、ますます進むことが期待される。Atherosclerosis誌2016年3月号(オンライン版2016年1月13日号)の掲載報告。 便秘は、心血管疾患(CVD)の発症と関連することが示唆されているが、排便頻度とCVDによる死亡リスクとの関連を検討した大規模研究は、これまで報告されていない。そこで著者らは、「大崎国保コホート研究」のデータを用いて、排便頻度と13年間のCVDによる死亡との関連について分析を行った。 大崎コホート研究に参加した4万5,112人(40~79歳)に生活習慣に関するアンケートを実施し、排便頻度に関する質問への回答を検討した。排便頻度によって「1日1回以上群」「2~3日に1回群」「4日に1回以下群」の3群に分け、循環器疾患による死亡、虚血性心疾患による死亡、脳卒中による死亡との関連を検討した。ハザード比は、Cox比例ハザードモデルを用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・13.3年のフォローアップ期間中、2,028人がCVDにより死亡した。・「2~3日に1回群」、「4日に1回以下群」の全体的なCVD死亡リスクは、「1日1回以上群」と比較して、有意に高かった[多変量ハザード比はそれぞれ1.21(95%CI:1.08~1.35)、1.39(95%CI:1.06~1.81)]。

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パーキンソン病治療はどう変わっていくか

 パーキンソン病は「予後が悪い」と説明する医師もいる。しかし、パーキンソン病の予後は決して悪くなく、さらに最近の治療法の進歩によってより良い方向へ変化しつつある。 2016年4月6日、アッヴィ合同会社主催のプレスセミナー「パーキンソン病治療の現状と将来への期待」が行われた。講師は順天堂大学脳神経内科 服部 信孝氏と、全国パーキンソン病友の会常務理事の高本 久氏だ。パーキンソン病治療は今どのような課題があり、今後どう変わっていくのか。セミナーの内容から解説していく。パーキンソン病治療の抱える課題 パーキンソン病の主症状は「手足のふるえ」「筋肉のこわばり」「動作の鈍化」「バランスが取りづらさ」といった運動症状である。一方で、パーキンソン病では「便秘」「睡眠障害」「抑うつ」「関節の変性」「嗅覚障害」といった症状もみられ、これらは非運動症状と呼ばれる。非運動症状は、患者にとってパーキンソン病の症状だとわかりにくいことがある。そのため、受診先に内科・精神科・整形外科を選んでしまい、5~6年間も適切な診断・治療を受けられない患者もいるという。このような患者を「正しい受診先へと導く」ことは今後の大きな課題である。 また、治療法についても課題が挙げられる。全国パーキンソン病友の会が行ったアンケートでは、半分以上の患者が現在の治療に満足しておらず、とくに重症例ではその割合が多い(図1)。また、新しい治療法に対する意識についての質問では、90%以上の患者が「新しい治療法を試したい」という意向を示した(図2)。このことから、パーキンソン病の患者、とくに重症例の患者ではより良い治療法へのニーズが高いという現状がうかがえる。  図1画像を拡大する  図2画像を拡大するパーキンソン病治療はどう変わっていくのか では、今後どのような治療法が期待されているか。現在、薬物治療の中心はL-dopa内服療法であり、多くの患者が症状の改善を実感している。しかし、薬剤が過剰であると「ジスキネジア※1」に、薬剤が効かない・不足していると「オフ※2」になってしまうこと、そして「薬が適切に効いている時間(オン※3)」は病状の進行につれて狭まっていくことが問題になっている。そのためジスキネジアやオフ時間が出にくい薬物療法、または薬物療法以外の治療法に期待が集まっている。 ジスキネジアやオフ時間が出にくいと期待される治療法が「持続性ドパミン刺激療法」だ。ドパミン刺激が持続的になされ、ドパミンの血中濃度が安定することでジスキネジア、wearing off※4といった運動合併症を緩和・発現防止すると考えられている。現在、日本ではレボドパ/カルビドパ合剤を、携帯型注入ポンプ・チューブを介して直接的に十二指腸へ投与する「持続的十二指腸内投与」の治療薬の承認申請も進んでいる。また、薬物療法で症状の改善に限界がある場合には、「脳深部刺激療法」が治療選択肢となる。脳深部に電極を、胸部に小型刺激電源を埋め込み、両者をリード線でつないで脳の奥深くに電流を持続的に流し刺激を与える。この治療法によりジスキネジアやwearing-offの改善が期待でき、薬剤増量が困難な患者における有用な一手となりうる。 「持続的十二指腸内投与」、「脳深部刺激療法」は双方ともパーキンソン病患者のより良い症状改善につながる治療法であるが、手術が必要になるなど、患者と医師にとってはややハードルが高いといえる。服部氏は「海外では治療効果が優先されるが、日本では安全性が重要視される。これらの治療法を行う際、患者や医師のフォローをどのように充実させていくかが課題だ」と述べた。  また、その他の新規治療法として「水素水飲用」「COQ10服用」によるUPDRS※5の改善といったトピックスが注目を浴び、研究が進められている。(図3参照)  図3画像を拡大する パーキンソン病は症状が進行すると非常に多くの薬剤を服薬する必要があり、患者に大きな負担がかかる。また高齢化社会に伴い、パーキンソン病患者は増加すると予想されている。患者により良い治療の選択肢を提案していくためにも、新規治療法の研究には関心が高まっていくだろう。※1 ジスキネジア:体や手足がくねくねと勝手に動くなどの症状(不随意運動)※2 オフ:薬の効果が切れている時間※3 オン:薬が適切に効いている時間※4 wearing off:薬剤の薬効時間が短縮して、薬剤服用前に症状が悪化する現象※5 UPDRS:パーキンソン病統一スケール(Unified Parkinoson's Disease Rating Scale)、パーキンソン病の重症度を点数で表す指標

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