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金子英弘のSHD intervention State of the Art 第2回

左心耳閉鎖デバイスWatchmanの真の実力を検証!!心房細動に伴う心原性脳梗塞の脳梗塞予防として左心耳閉鎖術は欧州ではすでに標準的治療として行われています。一方、PROTECT-AF試験1)、PREVAIL試験2)など抗凝固療法とのランダム化比較試験のデータはありましたが、実臨床に基づく大規模なデータの報告はありませんでした。今回、ヨーロッパ、ロシア、中東の13ヵ国47施設が参加し、左心耳閉鎖デバイスとして現在、最も広く普及しているデバイスであるWatchman(ボストン・サイエンティック社)の実臨床における手技成功率や周術期の安全性について評価したEWOLUTION試験3)がEuropean Heart Journal誌に報告されました。画像を拡大する登録された1,021症例の平均年齢は73歳で6割が男性、高血圧や糖尿病、血管疾患の既往を高率に有し、34%の症例はうっ血心不全を合併しています。そして約半数の症例で一過性脳虚血発作、脳梗塞、あるいは出血性脳梗塞の既往が存在しました。全体の62%は既存の合併症や低アドヒアランス、出血のハイリスクなどのために抗凝固療法に不適とされ、Watchman植込み術の適応となった症例でした。患者背景として、PROTECT-AF試験(CHADS2スコア平均2.2、HA2DS2-VAScスコア平均3.4)、PREVAIL試験(CHADS2スコア平均2.6、HA2DS2-VAScスコア平均4.0)と比較し、EWOLUTION試験ではCHADS2スコア平均2.8、HA2DS2-VAScスコア平均4.5であり、より脳梗塞リスクの高い症例が集まっています。さらにHAS-BLEDスコア3以上の(抗凝固療法に伴う)出血リスクの高い症例もPROTECT-AF試験では20%、PREVAIL試験では30%なのに対して、EWOLUTION試験では約40%含まれ、抗凝固療法が行いづらい患者群であることもわかります。このようにこれまでの試験と比較して、EWOLUTION試験では実臨床を反映してハイリスクの患者群を対象としました。画像を拡大する結果としてWatchmanデバイスは98.5%の症例で成功裏に植込まれました。PROTECT-AF試験での手技成功率は90.9%であったことから、植込み技術の経時的な向上によって、ハイリスク症例を対象としても高い手技成功率を達成できることがわかります。手技に伴う重大な合併症としては、心嚢液貯留が5例(そのうち1例が心タンポナーデ)報告されていますが、この頻度もPROTECT-AF試験の約5%からは大きく改善されており、経験の蓄積により手技の安全性も高まることが示唆されます。そして特筆すべき点として、本研究では上記のように抗凝固療法不適と判断されてWatchman植込み術が行われた症例が6割を超えており、術後も7割以上の症例で抗凝固療法が行われていませんでした(6%の症例では抗血小板剤を含め一切の抗血栓療法が行われていません)。しかしながら、術後30日以内の脳梗塞発症はわずか3例(0.3%)ときわめて稀であり、一方で輸血を要する大出血は19例(2%)に認められました。この結果を踏まえて今後はWatchman植込み術後の至適抗血栓療法のプロトコルを考えていく必要があります。左心耳閉鎖術に関して、実臨床の患者群を対象としては初の大規模多施設研究であるEWOLUTION試験のインパクトは大きく、この結果は「Watchmanが実臨床において安全かつ成功裏に植込めるデバイスであり、抗凝固療法が困難な心房細動症例における脳梗塞予防の標準的治療として妥当である」との見解を支持するものだと考えます。日本人を含むアジア人は欧米人と比較して人種的に出血のリスクが高く、左心耳閉鎖術の恩恵を受ける可能性がある患者さんも多いと考えられます。本治療の安全かつ迅速なわが国への導入が期待されます。1)Holmes DR, et al. Lancet. 2009;374:534-542.2)Holmes DR, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;64:1-12.3)Boersma LV, et al. Eur Heart J. 2016 Jan 27. [Epub ahead of print]

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大学内の髄膜炎集団感染における新規ワクチンの免疫原性/NEJM

 血清群B(B群)髄膜炎菌ワクチン4CMenBを接種された大学生において、B群髄膜炎菌による髄膜炎菌疾患の症例は報告されなかったが、接種者の33.9%は、2回目のワクチン接種後8週時において流行株に対する免疫原性(血清殺菌性抗体価の上昇)は認められなかったという。2013年12月、米国のある大学でB群髄膜炎菌の集団感染が発生したため、米国FDAの特別な配慮により承認前の4CMenBワクチンが使用された。本報告は、これを受けて米国・ミネソタ大学のNicole E. Basta氏らが集団感染発生中に、4CMenBにより誘導された免疫反応を定量化する目的で血清陽性率を調査し、その結果を報告したもの。集団感染の分離株が、ワクチン抗原(H因子結合タンパク質[fHbp]およびナイセリアヘパリン結合抗原[NHBA])と近縁の抗原を発現していたことから、ワクチン接種により流行を抑えることができるのではないかと期待されていた。NEJM誌2016年7月21日号掲載の報告。大学内での集団感染のため未承認時に使用された4CMenBワクチンの効果を検討 研究グループは、学生のワクチン接種状況を評価するとともに、血清検体を採取して流行株の血清陽性率ならびにヒト補体を含む血清殺菌性抗体(hSBA)の力価を測定し、ワクチン接種者と非接種者で比較した。さらに、流行株と近縁の参考株(fHbpを含む44/76-SL株)、流行株とは一致しない参考株(ナイセリアアドへシンA[NadA]を含む5/99株)の血清陽性率および力価についても同様に調査した。2つの参考株は、ワクチン開発に使用されたものである。 血清陽性は、hSBA抗体価が4以上と定義し評価した。ワクチン2回接種者の血清陽性率は66.1%、免疫原性は予想より低かった 4CMenBワクチンを推奨どおり10週間の間隔をあけて2回接種した被験者は499例であった。そのうち、流行株の血清陽性例は330例・66.1%(95%信頼区間[CI]:61.8~70.3%)で、幾何平均抗体価(GMT)は7.6(95%CI:6.7~8.5)と低かった。 ワクチンを2回接種したが血清陰性であった例(流行株に対して検出可能な予防効果なし:hSBA抗体価4未満)から無作為抽出した61例の検討で、44/76-SL株陽性は53例・86.9%(95%CI:75.8~94.2%)、GMTは17.4(95%CI:13.0~23.2)であったのに対し、5/99株陽性は100%(95%CI:94.1~100%)、GMTは256.3(95%CI:187.3~350.7)と高値であった。 流行株に対する反応性は、44/76-SL株に対する反応性と中程度の相関(ピアソン相関係数:0.64、p<0.001)が認められたが、5/99株との相関は認められなかった(ピアソン相関係数:-0.06、p=0.43)。 著者は、研究の限界として「ほとんどすべての学生がワクチンを接種することを選択した後での観察研究であったため、非接種者が少なかった」ことを挙げ、「今後さらに、さまざまなB群髄膜炎菌株に対する4CMenBの免疫原性を評価する必要がある」と指摘している。

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安定冠動脈疾患への長期DAPTの有益性・有害性/BMJ

 安定冠動脈疾患への2剤併用抗血小板療法(DAPT)の長期治療について、有益性と有害性を明らかにするCALIBER抽出患者(任意抽出集団;リアルワールド) vs.PEGASUS-TIMI-54試験の被験者(急性心筋梗塞後1~3年の患者が登録;試験集団)の検討が、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのA Timmis氏らにより行われた。結果、リアルワールドで試験集団の包含・除外基準を満たした患者は4分の1で、同集団の発症後1~3年の再発リスクは約19%であったこと、リスクは試験集団よりも倍増してみられたこと、脳卒中既往歴なしや直近の抗凝固療法歴のないハイリスク患者で、1年超のDAPTの有益性は大きくなる可能性が示唆されたという。急性心筋梗塞後の2次予防として、生涯にわたる複数併用の薬物療法が推奨されるが、最近の検討を踏まえDAPTは1年までとする勧告が直近のガイドラインで示されていた。BMJ誌オンライン版2016年6月22日号掲載の報告。CALIBER抽出患者 vs. PEGASUS-TIMI-54試験の被験者 研究グループは、試験集団のハイリスク集団でみられる急性心筋梗塞(AMI)後のDAPTの長期有益性と有害性について、リアルワールドでの大きさを推算する住民ベースの観察コホート試験を行った。CALIBER(ClinicAl research using LInked Bespoke studies and Electronic health Records)は英国プライマリケアの電子医療記録を結ぶデータベース。PEGASUS-TIMI-54試験にはAMI後1~3年の患者が登録され、ticagrelor60mg+アスピリンはアスピリン単独と比べて、心血管死、心筋梗塞、脳卒中のリスクを16%抑制する一方、大出血リスクを2.4倍増大することが示されていた。 CALIBER(2005年4月~10年3月)からAMI後生存患者を抽出(リアルワールド集団、7,238例)、そのうちPEGASUS-TIMI-54試験を満たす患者を特定し(ハイリスク集団、5,279例)、さらに試験除外基準を適用して患者を抽出し(ターゲット集団、1,676例)、PEGASUS-TIMI-54試験プラセボ群(アスピリン単独群、7,067例)と比較検討した。主要評価項目は、AMIの再発・脳卒中・致死的心血管疾患の発生(有益性エンドポイント)、致死的・重度または頭蓋内の出血(有害性エンドポイント)とした。 発症後1年を起点とした追跡期間は、中央値1.5年(範囲:0.7~2.5)であった。リアルワールドでは有益性、有害性ともに試験集団よりも大きいことが判明 リアルワールドにおける試験の包含・除外基準を満たしたターゲット集団の割合は、23.1%(1,676/7,238例)であった。同集団は試験プラセボ集団と比較して、集団年齢中央値が12歳高く、女性の比率が高かった(48.6 vs.24.3%)。 解析の結果、3年累積発生率は有益性エンドポイント(18.8%[95%信頼区間[CI]:16.3~21.8] vs.9.04%)、有害性エンドポイント(3.0%[同:2.0~4.4%] vs.1.26%[プラセボ群についてはTIMI重大出血の発生率])ともに、ターゲット集団が試験プラセボ集団と比べて大幅に高かった。致死的または頭蓋内出血についてみた場合も、プラセボ集団の約2倍であった。試算の結果、これらターゲット集団の治療にticagrelorを加えることで、年間患者1万治療当たり、虚血性イベントを101例(95%CI:87~117)予防できること、また致死的・重度または頭蓋内出血の発生過剰は75例(同:50~110)であることが示された。 リアルワールドで試算した場合も、類似の結果が得られた。有益性エンドポイント(虚血性イベント)の3年リスクは17.2%(95%CI:16.0~18.5)で、予防可能なイベント数は92例(同:86~99)であり、出血イベントは2.3%(同:1.8~2.9)、発生過剰は58例(同:45~73)であった。 著者は、「CALIBERを用いることで、“ヘルシー試験参加者”の影響を明らかにでき、AMI後1年超の代表的な患者でのDAPTの絶対的な有益性と有害性を確認することが可能であった」と述べている。

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心房細動へのNOAC3剤とワルファリンの有用性を比較/BMJ

 すべての非ビタミンK阻害経口抗凝固薬(新規経口抗凝固薬;NOACs)は、日常診療において安全かつ有効なワルファリンの代替薬になりうる。デンマーク・オールボー大学病院のTorben Bjerregaard Larsen氏らが、デンマーク国内の大規模観察コホート研究の結果、報告した。NOACsとワルファリンとで虚血性脳卒中の発症に有意差はなく、死亡・出血・大出血はワルファリンに比しアピキサバン(商品名:エリキュース)およびダビガトラン(同:プラザキサ)で有意に低いことが示されたという。NOACsの使用は導入以来増加し続けているが、リアルワールドでNOACsの有効性と安全性をワルファリンと比較した研究は限られていた。BMJ誌オンライン版2016年6月16日号掲載の報告。心房細動患者約6万例を平均約2年追跡、ワルファリンとNOACs 3剤を比較 研究グループは、デンマークの3つのデータベースを用い、弁膜症性心房細動または静脈血栓塞栓症の既往がない非弁膜症性心房細動患者で、2011年8月1日以降に初めて経口抗凝固薬(NOACsは標準用量のみ)が投与された6万1,678例について解析した。 投与薬剤は、ワルファリン3万5,436例(57%)、ダビガトラン150mg 1日2回1万2,701例(21%)、リバーロキサバン(商品名:イグザレルト)20mg 1日1回7,192例(12%)、アピキサバン5mg1日2回6,349例(10%)であった。 主要評価項目は、有効性が虚血性脳卒中、虚血性脳卒中/全身性塞栓症、死亡、または虚血性脳卒中/全身性塞栓症/死亡。安全性が全出血、頭蓋内出血および大出血で、2015年11月30日まで追跡し、Cox回帰解析を用いワルファリンを対照として治療群間のイベント発生率を比較した。 追跡調査期間は、平均1.9年(アピキサバンは他剤より発売が遅いため平均0.9年)であった。虚血性脳卒中は同程度、死亡および出血はアピキサバンとダビガトランで低下 虚血性脳卒中に限れば、NOACsとワルファリンとで有意差は認められなかった。 投与開始後最初の1年間において、虚血性脳卒中/全身性塞栓症の発症率は、ワルファリン(3.3%)との比較において、リバーロキサバン(3.0%)は低かったが(ハザード比[HR]:0.83、95%CI:0.69~0.99)、ダビガトラン(2.8%)とアピキサバン(4.9%)については有意な差はみられなかった。一方、死亡リスクは、ワルファリン(8.5%)と比較してアピキサバン(5.2%)(HR:0.65、95%CI:0.56~0.75)、ならびにダビガトラン(2.7%)(HR:0.63、95%CI:0.48~0.82)で有意に低かったが、リバーロキサバン(7.7%)では差は認められなかった。 投与開始後1年間におけるあらゆる出血の累積発生率は、ワルファリン(5.0%)よりアピキサバン(3.3%)とダビガトラン(2.4%)で有意に低かったが(HR:0.62、95%CI:0.51~0.74)、リバーロキサバン(5.3%)は同程度であった。 これらの結果について著者は、「今後、NOACs間の有効性や安全性の比較や、NOACsを減量した場合のワルファリンとの比較についてさらに検証する必要がある」と述べている。

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一神教的ランダム化比較試験と多神教的観察研究の基本的相違を理解してね(解説:後藤 信哉 氏)-557

 日本は多神教の国である。先日、興福寺、東大寺周囲を歩き、寺の境内ないし直近に複数の神社を見出して、一神教の信者が多い世界における日本の特殊性を再認識した。一神教を支えているのは、Yes/Noの明確な欧米の言語と考える。われわれは、発想Aと発想Bの成否を生命を懸けて争う宗教戦争の歴史を持たない。耶蘇教が弾圧されたのは、国の富を奪われる現実的リスクを重視した為政者の判断であった。われわれは、世界でもまれな弾力的な、現実重視の民族である。 ランダム化比較試験は、clinical trialである。trialは、英国における公開の裁判と同意である。ランダム化比較試験は、薬剤Aと薬剤Bの有効性、安全性について公開の場にて判決を下すイメージにて施行される。判決のルールは、法律と同じように事前に制定されている。ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンは、従来治療ワルファリンとの比較試験が施行され、試験の結果は従来治療ワルファリンに劣らないとされて世に出た。ランダム化比較試験に基づいて標準治療を転換するEvidence Based Medicineのルールでは、勝者と判断されたNOACがワルファリンを完全に駆逐しても不思議はない。しかし、判決は薬剤の有する複数の重要な特性の一部においてのみ下されたことを公衆は理解した。標準治療とされたワルファリンは、INR 2~3と人工的に狭められ、勝ったとはいえunfairな判決という危惧を残した。評価の対象とならなかった価格もNOACは著しく高価である。裁判のようなランダム化比較試験を行っても、標準治療を完全に転換することができない時代になったことを、NOACの試験は明確に示した。 ランダム化比較試験を無限に繰り返せば「正しい1つの医療介入」を見出せるとの欧米人の発想は、一神教的である。この一神教的発想が、現在までのEBMの世界の基本原理であった。しかし、中世の暗黒時代の徹底した宗教論争をもってしても、一神教の世界での唯一神の存在を人類の普遍原理にはできなかった。世の中には「正しい1つの医療介入」は存在せず、人類は互いに相互作用し合って決して1つに抽出することのできない「複雑な調節原理」に依存しているのかもしれない。 とりあえず、神を信じるヒトも仏を信じるヒトも、誰も信じないヒトもいるとして、実態を観察しようというのが観察研究の発想である。多神教的日本人であれば、バイアスを受けずに「実態を観察」することに抵抗がない。この論文を読むと、「実態を観察」しつつも、「正しい1つの医療介入」探索を目指したランダム化比較試験の影響を断ち切れていない。「実態を観察」結果がランダム化比較試験と大きく乖離していないようにとの配慮が見られる。やはり、一神教的欧州人には祖先崇拝と御仏を同時に受け入れる基本発想はないようだ。 一神教的原理によれば、ワルファリンとの対比ののち、NOAC間での優劣が話題となる。特許と独占的販売権が消失した後には、NOAC間のランダム化比較試験も行われるであろう。われわれ柔軟な頭の日本人からみると、EBMにこだわり過ぎる欧米人は少し原理主義的にみえる。論文を出版するサイドの、過去の結果との整合性のとれた論文を出版しがちな傾向は理解できるが、寺を作る時には、神社を祭る心のゆとりを持ち続けたいものである。

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抗凝固療法、ポリファーマシーによる影響は?/BMJ

 ポリファーマシー(多剤併用)による抗凝固療法への影響を調べるため、英国・ラドバウド大学ナイメーヘン医療センターのJeroen Jaspers Focks氏らは、ARISTOTLE試験の事後解析を行った。同試験は、心房細動患者を対象にアピキサバン vs.ワルファリンを検討したものである。解析の結果、被験者の4分の3が5剤以上のポリファーマシーを受けており、そうした患者では、併存疾患、薬物相互作用および死亡の有意な増大や、血栓塞栓症、出血性合併症の発症率が有意に高率であることが明らかになった。そのうえで、併用薬剤数に関係なく、アピキサバンのほうがワルファリンよりも有効性に優れることが認められ、安全性も大出血に対するベネフィットはアピキサバンのほうが大きかったが、併用薬剤数が多いほどワルファリンとの差は減少することが示されたという。BMJ誌オンライン版2016年6月15日号掲載の報告。ARISTOTLE試験を事後解析、併用薬剤数で患者を分類しアウトカムとの関連を評価 ポリファーマシーは、併存疾患、フレイル(高齢者の虚弱)、薬物相互作用と関連し、有害な臨床転帰のマーカーであることが示唆されている。研究グループは、「したがって、ポリファーマシー患者では抗凝固療法への反応が異なる可能性がある。心房細動患者において、アピキサバンはワルファリンよりも有効かつ安全であるとされているが、これまで複数の薬物を併用する患者においても同様の結果であるのかについては明らかになっていない」として本検討を行った。 ARISTOTLE試験は2006年に開始、2011年に終了した多施設共同二重盲検ダブルダミー試験で、心房細動患者におけるアピキサバンの脳卒中およびその他血栓塞栓イベントの低減効果について評価が行われた。追跡中央値は1.8年であった。研究グループは同試験の被験者1万8,201例について2015年時点で事後解析を行った。 ARISTOTLE試験で被験者は、アピキサバン5mgを1日2回(9,120例)またはワルファリン(目標INR範囲2.0~3.0、9,081例)に無作為に割り付けられた。事後解析では、ベースラインでの服用薬剤数によって患者を分類(0~5、6~8、≧9剤)した。 主要評価項目は、アピキサバン vs.ワルファリンの臨床転帰および治療効果で、年齢、性別、国で補正を行った。多剤併用患者でもアピキサバンのほうが有効で安全 ポリファーマシーの中央値は6剤(四分位範囲:5~9)で、5剤以上のポリファーマシー患者は1万3,932例(76.5%)であった。また、0~5剤群(6,943例)、6~8剤群(6,502例)、9剤以上群(4,756例)別にみると、より多くの併用薬が高年齢者(各群平均年齢68、69、71歳)、女性(各群男性割合67.5、63.2、62.9%)、および米国の患者(各群北米患者の割合10.6、20.8、50.1%)で用いられていた(いずれもp<0.001)。なお、アジアの患者は各群18.3、15.9、12.9%(p<0.001)。 また、併存疾患数は、併用薬剤が増えるほど増加し、アピキサバンまたはワルファリンとの相互作用を示す患者の割合も有意に増大した。 有効性アウトカムの評価についても併用薬剤増加との有意な関連がみられた。全死因死亡の発生(100患者年当たり)は0~5剤群3.01、6~8剤群3.80、9剤以上群4.70(p<0.001)であり、脳卒中/全身性塞栓症(SE)は同1.29、1.48、1.57(p=0.004)であった。安全性アウトカムも重大出血は同1.91、2.46、3.88(p<0.001)と有意な関連が認められ、ネット有益性アウトカム(脳卒中/SE/重大出血/全死因死亡)は、同5.24、6.59、8.92(p<0.001)であった。 しかし、アピキサバン vs.ワルファリンの脳卒中/SEの相対的なリスクの低下は、併用薬剤数にかかわらず認められなかった(交互作用p=0.82)。死亡についても同様であったが(p=0.81)、重大出血については、併用薬剤数が増えてもアピキサバンのほうがわずかだが有意な抑制が認められた(交互作用p=0.017)。 ワルファリンおよびアピキサバンの作用を強化する治療(CYP3A4/P-糖蛋白阻害薬)を受けていた患者において、アピキサバン vs.ワルファリンのアウトカムは類似しており、一貫した治療効果が認められた。 これらの結果を踏まえて著者は「ポリファーマシーに関係なく、心房細動患者ではアピキサバンがワルファリンよりも有効であり、少なくとも安全であるようだ」とまとめている。

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BMJは権威ある“一流”雑誌?〜大規模試験の意義を考える〜(解説:西垣 和彦 氏)-553

BMJは? 『ありがとう、センテンス・スプリング…』。今年前半にはやった“ゲスの極み”と化した大衆雑誌に掲載された記事であるが、これが信じられないほど売れた。この記事からは、何ら自身の生産性を上げるものでも、何ら知識欲を満たすものでもなく、単に時間を浪費させるだけのものに過ぎないことは明白であるが、現実として、とにもかくにもこの雑誌の当該号は売れたのである。以後、ゴシップネタはエスカレートし、ついに他誌でも都知事を辞任まで追い込み、“sekoi”という英単語を創作するまでに至った。この偏狭な営利主義とも思えることが、残念なことではあるが医学雑誌にも持ち込まれているのが現実である。 ご存じのように、BMJ誌はイギリス医師会雑誌であり、British Medical Associationが監修し、BMJ Groupから発行されている。国際的にも権威が高く、いわゆる“一流”雑誌といわれ、世界五大医学雑誌の1つなどとも呼ばれている。BMJ誌の特徴として、根拠に基づく医療(EBM)を推進していることが挙げられるが、多分に論説は英国医師会の立場を堅持した“sekoi”ものであり、アンチ製薬会社の立場から新規薬剤に対する非情なまでの批判論説が多いといわざるを得ない。 そうかと思うと、年末特集号ではイギリス的な皮肉を込めたジョーク論文を何本か載せるのが恒例であり、小学生レベルの日常ネタや夫婦生活に関するどうでも良い“ゲス”なネタなど、まさに完全に“娯楽化した雑誌”といわざるを得ない号もある。 本論文は、心房細動患者に対するダビガトランとワルファリンの無作為ランダム化比較試験を用いて新たなリスクモデルを開発し、当該薬剤の重大リスクの発生を正確に補足できるかを評価したものであるが、この論文に賛同できた人がどれだけいるのかまったく疑わしく、“またBMJか…”といったため息しか聞こえてこない。その理由を、大規模試験の意義を含めて概説する。本論文のポイントは? ダビガトランのような直接的な経口抗凝固薬(DOAC)は、ワルファリンと比較して心房細動患者の死亡率を低下させ、ワルファリンと少なくとも遜色なく安全であることが、これまでの大規模試験で示されてきた。 本論文では、試験データによって予測されるリスクが、医療で実際に観察されるリスクと類似しているかどうかを比較検討するために、市販ヘルスケア請求データベースより、心房細動のためダビガトランまたはワルファリンを処方された2万1,934例の患者の血栓症と出血のベースライン・リスクを算出した。その結果、血栓塞栓症推定発症率は、予測モデルとRCTでほぼ同等であったが、大出血の推定発症率は大規模試験では過小評価されていた。HAS-BLEDスコア高値のワルファリン服用例ではとくに顕著であり、過小評価分は最大4.0/100人年にも達するものであったと結論している。大規模試験の意義と読み方 医師個人で経験できる症例数は限られている。したがって、治療薬や治療法を選択する際には、多くの症例が組み込まれた大規模試験から得られた結果を参考にする。つまり、大規模試験の結果あるいは解釈は、医師個人で行われたわずかな症例から得られたものより尊重されるべきである。これが、根拠に基づく医療(EBM)であり、この点で大規模試験には大きな意義があるが、大規模試験のピットフォールをよく理解していないと、この論文のように誤認することがある。 大規模試験のピットフォールで最も気をつけたいことは、対象は、数々の除外項目で除かれた対象群であるということである。除外項目は、年齢制限だけでなく、基礎疾患や合併症、他の治療の有無など細かく設定されており、これら多くの除外項目で除かれたほんのわずかな、非常に特殊な症例から得られた結果であるという認識が必要となる。 したがって、大規模試験に登録された症例は、実臨床での患者母集団とまったく異なる“特別な母集団”であり、適応条件を満たす最も軽症な患者で、除外項目に引っかからない最も純粋な症例群である。このことは暗黙の了解であるが、本論文が指摘している、“実際の出血と比較し、出血の頻度を過小評価している”との結論に関しては、14日以内の脳卒中または6ヵ月以内の重症脳卒中、出血リスク上昇、クレアチニンクリアランス<30mL/分、活動性肝疾患など出血性因子の高い患者を登録時から除外している以上、当然といえば当然の結論ではないだろうか。 ダビガトラン群、ワルファリン群ともに同じ除外条件で選抜された対象群であることから、実地臨床を行っている臨床医においては、大規模試験から得られた結果を評価したうえで、実臨床にどの程度反映できるものかを吟味することが当然求められる。結論として 最近のBMJ誌を読むたびに、何か商業主義に席巻された医学雑誌という残念な印象を拭い去ることはできず、誠に遺憾である。衝撃的な、扇動的な巻頭表紙の挿絵程度ならまだしも、その本文までもとなるならば、没落の一途は否めないであろう。権威ある“一流”雑誌への復活を願うばかりである。

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Vol. 4 No. 4 心房細動患者におけるDAPTを考える

掃本 誠治 氏熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学はじめに高齢化で増加している心房細動には、抗凝固薬が必須である。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行症例、心筋梗塞、それぞれに合併する心房細動頻度は、海外では約10%、本邦では6~8%程度と報告されている1-3)。心房細動とステントを伴うPCIを合併すれば、DAPT+抗凝固薬の3剤併用と考えるが、出血リスクが上昇する4-6)。心房細動合併PCIあるいは急性冠症候群(ACS)患者に対する抗凝固薬と抗血小板薬の組み合わせは、原疾患による血栓塞栓症リスクと抗血栓薬による出血リスクの有効性と安全性を考慮することが重要である。WOEST試験WOEST試験7)は、心房細動や機械弁留置後に抗凝固薬を服用する患者で、冠動脈ステント挿入後、クロピドグレルと抗凝固薬の2剤併用群[経口抗凝固薬(ワルファリン)+クロピドグレル284例]と、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と抗凝固薬の3剤併用群(ワルファリン+クロピドグレル+アスピリン289例)で、安全性と有効性を比較した試験で、平均年齢70歳、男性80%、抗凝固薬投与の理由として、心房細動が2剤併用群で69.5%、3剤併用群では69.2%、機械弁はそれぞれ10.2%と10.7%だった。結果として、1年間の出血イベントは、3剤併用群が有意に高値だった(3剤44.4% vs. 2剤19.4%)。また心血管イベントは、2剤併用群が有意に低かった(複合エンドポイント;1次エンドポイント+脳卒中+全死亡+心筋梗塞+ステント血栓症+標的血管再血行再建術;3剤併用群17.6% vs. 2剤併用群11.1%)。抗凝固薬を服用している患者でステント留置術を受けたとき、アスピリンを止めてチエノピリジン系抗血小板薬単剤と抗凝固薬の合計2剤にするというこれまでの発想とは異なることが不可能ではないことを示した意義は大きい。また、心房細動合併のステント留置術後の患者において、CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2が日本の実情を表している3)。2005年~2007年、26施設、1,057例、退院時ワルファリン群506例(48%)、非ワルファリン群551例(52%)を5年間フォローし、脳卒中(虚血性、出血性)、全死亡、心筋梗塞、大出血を評価。非ワルファリン群は、高齢、急性心筋梗塞、頭蓋内出血、貧血が多く、男性、薬剤溶出性ステント(DES)、末梢動脈疾患(PAD)が少なかった。そもそも、心房細動があってもDAPTで上記の因子が複数あれば、臨床現場においてはワルファリンを躊躇するのかもしれない。脳卒中は、ワルファリン群と非ワルファリン群で有意差がなく、虚血性、出血性でも有意差はみられず、心筋梗塞は、ワルファリン群で少なかった。プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)治療域内時間(TTR)が65%以上群では、65%未満群に比し脳卒中発症率が低値だった。非弁膜症性心房細動(NVAF)ACSやPCI直後ではない非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象として、本邦からJAST試験においてNVAF患者へのアスピリン150~200mg/日投与は、大出血が多く、無効と報告されている8)。海外では、ACTIVE W試験において、脳卒中リスクの高い心房細動患者に対し(17.4%に心筋梗塞既往)、DAPT(クロピドグレル+アスピリン)は、OAC(経口抗凝固薬)に比し心血管イベント抑制効果を示せなかった9)。さらに、NVAFでワルファリン不適合者に対するアスピリンとクロピドグレルのDAPTはアスピリン単独に比し脳梗塞抑制効果がみられたが、心筋梗塞死、血管死は差がなく、大出血イベントが多かった10)。以上の結果は、心房細動には抗血小板薬より抗凝固薬が必要であることを示している。ワルファリンのエビデンス冠動脈疾患には低用量アスピリンを終生投与するのが現在のガイドラインであるが、ワルファリンは50年以上日常臨床で使用されている薬剤で、急性心筋梗塞後のワルファリン vs. プラセボの大規模臨床研究でワルファリンの有効性が示されている11)。さらに心筋梗塞後、アスピリン vs. ワルファリン vs. アスピリン+ワルファリンの3群での比較研究では、アスピリン+ワルファリン併用群、ワルファリン群、アスピリン群の順に心血管イベント抑制効果が優れていた12)。しかし、この試験でのPT-INRは2.8~4.2と現在の実臨床より高値で設定されており、出血合併症が多かったこともあり推奨されなかった。安定冠動脈疾患を合併した心房細動患者のデンマークでのコホート研究では、ワルファリンに抗血小板薬を追加しても心血管イベントリスクは減少せずに出血リスクが増加した13)。以上は、出血リスクが低ければ、抗凝固薬が冠動脈疾患にも有効であることを示唆するものである。実臨床においては、本来抗凝固療法の適応でありながら、あえてコントロール不要の抗血小板薬を投与して、ワルファリンが躊躇される症例が存在した。そのようななかで、脳出血が少なく、PT-INRのコントロールが不要なNOACの登場は実臨床においては魅力的である。心房細動患者におけるACS合併またはステント留置時のガイドライン欧州心臓病学会からACS合併あるいはPCI施行の心房細動患者での抗血栓薬のjoint consensus documentが2014年に発表された14)。(1)脳卒中リスク CHA2DS2-VAScスコア(2)出血リスク HAS-BLEDスコア(3)病態 安定冠動脈疾患か急性冠症候群(待機的か緊急か)(4)抗血栓療法 どの抗血栓薬をどのくらい使用するか基本的には、出血リスクの高い3剤併用(DAPT+抗凝固薬)の期間を上記の条件にしたがって層別化し、可能なら抗血小板薬単剤+抗凝固薬に減量し、12か月以上では、左冠動脈主幹部病変などを除き可能なら抗凝固薬単剤への切り替えが推奨されている。また、VKAはTTR70%以上が推奨されており、VKAとクロピドグレルand/orアスピリンの症例ではINRは2.0~2.5が推奨されている。また、アクセス部位は橈骨動脈穿刺が推奨されている。AHA/ACC/HRSの心房細動ガイドライン2014でも、PCI後CHA2DS2-VAScスコアが2点以上では、慢性期にはアスピリンを除いて、抗凝固薬+抗血小板薬単剤が合理的であると記載されている15)。現在進行中の試験ACSあるいはPCIを受けた心房細動患者に対するNOACの臨床試験が進行中である(本誌p16の表を参照)16)。 RE-DUAL PCI試験は、ステント留置を伴うPCIを受けた非弁膜性心房細動患者を対象に、ダビガトランの有効性および安全性を評価する試験である。PIONEER AF-PCI試験は、ACS合併心房細動患者において、抗血小板薬に追加するリバーロキサバンの用量を検討する試験で、アピキサバンでも同様の試験が進行している。これらはステント留置術後急性期からの試験だが、本邦ではステント留置術後慢性安定期の心房細動合併患者を対象としたOAC-ALONE試験やAFIRE試験が進行しており、結果が待たれるところである。今後現在進行中の試験から新たなエビデンスが創出されるが、個々の患者において最適な治療法を見つけ出す努力は常に必要とされる(表)。表 ステント留置AF患者における抗血栓療法画像を拡大する文献1)Kirchhof P et al. Management of atrial fibrillation in seven European countries after the publication of the 2010 ESC Guidelines on atrial fibrillation: primary results of the PREvention oF thromboemolic events--European Registry in Atrial Fibrillation (PREFER in AF). Europace 2014; 16: 6-14.2)Akao M et al. Current status of clinical background of patients with atrial fibrillation in a community-based survey: the Fushimi AF Registry. J Cardiol 2013; 61: 260-266.3)Goto K et al. Anticoagulant and antiplatelet therapy in patients with atrial fibrillation undergoing percutaneous coronary intervention. Am J Cardiol 2014; 114: 70-78.4)Toyoda K et al. Dual antithrombotic therapy increases severe bleeding events in patients with stroke and cardiovascular disease: a prospective, multicenter, observational study. Stroke 2008; 39: 1740-1745.5)Uchida Y et al. Impact of anticoagulant therapy with dual antiplatelet therapy on prognosis after treatment with drug-eluting coronary stents. J Cardiol 2010; 55: 362-369.6)Sørensen R et al. Risk of bleeding in patients with acute myocardial infarction treated with different combinations of aspirin, clopidogrel, and vitamin K antagonists in Denmark: a retrospective analysis of nationwide registry data. Lancet 2009; 374: 1967-1974.7)Dewilde WJ et al. Use of clopidogrel with or without aspir in in patients taking oral anticoagulant therapy and under going percutaneous coronary intervention: an openlabel, randomised, controlled trial. Lancet 2013; 381: 1107-1115.8)Sato H et al. Low-dose aspirin for prevention of stroke in low-risk patients with atrial fibrillation: Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial. Stroke 2006; 37: 447-451.9)Connolly S et al. Clopidogrel plus aspirin versus oral anticoagulation for atrial fibrillation in the Atrial fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for prevention of Vascular Events (ACTIVE W): a randomised controlled trial. Lancet 2006; 367: 1903-1912.10)Connolly SJ et al. Effect of clopidogrel added to aspirin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 360: 2066-2078.11)Smith P et al. The effect of warfarin on mortality and reinfarction after myocardial infarction. N Engl J Med 1990; 323: 147-152.12)Hurlen M et al. Warfarin, aspirin, or both after myocardial infarction. N Engl J Med 2002; 347: 969-974.13)Lamberts M et al. Antiplatelet therapy for stable coronary artery disease in atrial fibrillation patients taking an oral anticoagulant: a nationwide cohort study. Circulation 2014; 129: 1577-1585.14)Lip GY et al. Management of antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients presenting with acute coronary syndrome and/or undergoing percutaneous coronary or valve interventions: a joint consensus document of the European Society of Cardiology Working Group on Thrombosis, European Heart Rhythm Association (EHRA), European Association of Percutaneous Cardiovascular Interventions (EAPCI) and European Association of Acute Cardiac Care (ACCA) endorsed by the Heart Rhythm Society (HRS) and Asia-Pacific Heart Rhythm Society (APHRS). Eur Heart J 2014; 35: 3155-3179.15)January CT et al. 2014 AHA/ACC/HRS Guideline for the Management of Patients With Atrial Fibrillation: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation 2014; 130: 2071-2104.16)Capodanno D et al. Triple antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients with acute coronary syndromes or undergoing percutaneous coronary intervention or transcatheter aortic valve replacement. EuroIntervention 2015; 10: 1015-1021.

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リアルワールドの成績はどう読み解くべき?

 無作為化比較試験(RCT)の結果を基に承認された薬剤が、実臨床でも開発試験と同様の成績が得られるかを確認するためのリアルワールド・エビデンス。その特性や限界、結果を読み解く際の注意点について、井上 博氏(富山県済生会富山病院 院長/富山大学名誉教授)が、6月8日都内にて、バイエル薬品株式会社主催の会合で講演した。リアルワールド・エビデンスの特性と限界 開発試験で行われるRCTはエビデンスレベルの高い試験であり、治験薬の有効性や安全性を検証するために必要である。しかし、開発試験では重篤例や高齢者など複雑な対象は除外され、また周到な監視の下で厳密な経過観察が必要とされているため、一般人口や日常診療に常に当てはめることはできない。そこで、治験薬承認後にも、レジストリ等の前向き観察研究や後ろ向きデータベース研究などで、リアルワールドでの安全性・有効性を確認することが重要である。 リアルワールド(実臨床)で得られたエビデンスの特性として、自然歴、危険因子、治療の実施状況、長期予後、真の患者集団での治療方針のリスク、広範な患者集団でのニーズとギャップ、開発試験では見つからない低頻度の有害事象が明らかになるということが挙げられる。 一方、リアルワールド・エビデンスの限界として、年齢などの交絡因子を調整できない、単一施設であることが多い、追跡期間が比較的短い、非投与群や他の治療という対照を設定しにくい、データベース解析では得られる情報に限りがある、他のリアルワールド・エビデンスとの比較が難しいといったことのほか、研究資金提供元の影響の可能性、対象集団とRCT参加集団との差なども挙げられる。井上氏は「これらを知ったうえで成績を読み解いてほしい」と述べた。複数のリアルワールド・エビデンスで確認することが重要 井上氏は、実際のリアルワールド・エビデンスの例として、ワルファリンの実臨床における有効性と安全性を検討した2つのレジストリ研究の結果を紹介した。 1つは、参加施設の多くが一般開業医であったFUSHIMI AFレジストリで、この研究では、脳卒中または全身性塞栓症、重大出血のイベントの発生率にワルファリン投与の有無による差が認められなかった。この理由として、井上氏は、ワルファリンの投与量が十分ではなかったためではないかと考察している。もう1つの研究は、主に循環器専門医によるJ-RHYTHMレジストリで、この研究ではワルファリン投与群で有意な血栓塞栓症の低下と重大出血の増加が示された。 このように、市販後、実施される臨床研究では、さまざまな特性や限界があるため、実臨床における薬剤の安全性・有効性については、複数のリアルワールド・エビデンスで確認することが重要であると強調した。DOACにおけるリアルワールド・エビデンス 現在、心房細動患者の塞栓症予防に4剤の直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC、旧名称:NOAC)が承認されており、すでにリアルワールド・エビデンスが報告されつつある。現在も、各領域の抗凝固薬使用に関する“unmet medical needs”の解決を目的として、さまざまな臨床研究が進行中であり、井上氏は「今後、さらにDOACの位置付けが明らかになることが期待される」と結んだ。

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急性内科疾患への長期抗血栓療法は有効?/NEJM

 Dダイマー高値の急性内科疾患患者に対し、経口抗Xa薬のbetrixaban長期投与とエノキサパリン標準投与について比較検討した結果、有効性に関する有意差は認められなかった。英国キングス・カレッジ・ロンドンのAlexander T. Cohen氏らが国際多施設共同二重盲検ダブルダミー無作為化試験「APEX」の結果、報告した。急性内科疾患患者は、静脈血栓症(VT)の長期的リスクを有するが、抗血栓療法の適切な継続期間については明らかになっていない。NEJM誌オンライン版2016年5月27日号掲載の報告。エノキサパリン群 vs. betrixaban群の無作為化試験で評価 APEX試験は2012年3月~2015年11月に、35ヵ国460施設から被験者を募って行われた。8,589例がスクリーニングを受け、適格であった7,513例が無作為化を受けた。 研究グループは被験者を、10±4日間エノキサパリン皮下注(1日1回40mg)+35~42日間betrixabanプラセボを経口投与する群(エノキサパリン群)、または10±4日間エノキサパリンプラセボ皮下注+35~42日間betrixaban(1日1回80mg)を経口投与する群(betrixaban群)に無作為に割り付けた。 解析は、事前規定の漸増3コホート(コホート1:Dダイマー高値の患者を包含、コホート2:Dダイマー高値および75歳以上の患者を包含、コホート3:すべての登録患者を包含)について行った。統計的解析は、この連続3コホートのいずれかの解析で群間の有意差が示されない場合、その他の解析は探索的な解析と見なすこととした。 主要有効性アウトカムは、無症候性近位深部静脈血栓症(DVT)・症候性DVTの複合。第一安全性アウトカムは、重大出血で評価した。Dダイマー高値患者群の解析では有意差なし コホート1(betrixaban群1,914例、エノキサパリン群1,956例)の解析において、主要有効性アウトカムの発生は、betrixaban群6.9%、エノキサパリン群8.5%、betrixaban群の相対リスク(RR)は0.81(95%信頼区間[CI]:0.65~1.00、p=0.054)であった。 コホート2(2,842例、2,893例)では、それぞれ5.6%、7.1%(RR:0.80、95%CI:0.66~0.98、p=0.03)、コホート3(全集団;3,112例、3,174例)では、それぞれ5.3%、7.0%(RR:0.76、95%CI:0.63~0.92、p=0.006)であったが、コホート1で有意差が示されなかったため、他の2つの解析は探索的な解析結果とみなされた。 安全性について、全集団(コホート3)の解析において、重大出血の発生はbetrixaban群0.7%。エノキサパリン群0.6%で有意差は示されなかった(RR:1.19、95%CI:0.67~2.12、p=0.55)。 これらの結果を踏まえて著者は、「事前規定の主要有効性アウトカムについて、両群間で有意差は認められなかった。しかし事前規定の探索的解析の結果、より大きな2つの集団における解析では、betrixabanにベネフィットがあるとのエビデンスが示された」と報告をまとめている。

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抗凝固薬選択のためのリスク予測モデルを開発/BMJ

 無作為化試験でダビガトランまたはワルファリン治療を受ける人の血栓塞栓症の推定発生率は、ルーチンケアを受ける人で観察された発生率と近接しており、一方、重大出血の発生率は、過小に評価していることが、米国ハーバード・メディカル・スクールのShirley V Wang氏らが2万1,934例のデータを解析し、報告した。心房細動患者における血栓塞栓症や重大出血のリスクについては、CHADS2やHAS-BLEDという確立されたリスクスコアがあり、ベースラインでのリスク推定、および抗凝固薬治療の導入ガイドとして用いられている。しかし、これらのスコアでは、抗凝固薬の選択肢は不明である。一方で、最近の無作為化試験により、ダビガトランまたはワルファリン治療下での血栓塞栓症および重大出血の推定リスクが示されており、研究グループは、それらのデータを統合解析することで、新たなリスクモデルの開発を試みた。BMJ誌オンライン版2016年5月24日号掲載の報告。心房細動を呈した2万1,934例のデータを解析 研究グループは、無作為化試験からのイベント発生率を層別化し、観察データから開発したモデルのイベント予測率と比較すること、また同モデルが、ルーチンケアの一部としてダビガトランまたはワルファリンを受ける患者の血栓塞栓症および重大出血の発生を正確に捕捉できるかを評価した。 検討はUnited Healthのデータ(2009年10月~2013年6月)と、米国の民間医療費支払データベースを活用して、新規導入コホート研究法を用いて行われた。被験者は、心房細動を呈した2万1,934例で、ダビガトラン(用量150mgのみ)またはワルファリン治療をルーチンケアの一部として受けた。 主要評価項目は、血栓塞栓症または重大出血の年間予測発生率で、無作為化試験からの推定値に基づくもの、ルーチンケア患者群で開発したモデルに基づくもの、およびベースラインリスクスコア(CHADS2、CHA2DS2-VASc、HAS-BLED)に基づくものとした。血栓塞栓症は、虚血性または脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、肺塞栓症、深部静脈血栓症、全身性塞栓症などの複合アウトカムで評価した。重大出血は、入院中の脳出血発生コード、泌尿器等の重大出血とした。無作為化試験データでは重大出血を過小評価か ダビガトラン新規導入患者は6,516例(30%)、ワルファリン新規導入患者は1万5,418例(70%)であった。年間イベント発生率は、100患者当たり血栓塞栓症が1.7例、重大出血は4.6例であった。 血栓塞栓症について、無作為化試験からの推定値の検定結果は、予測ベースモデルの検定結果と類似していた。しかし、重大出血については、試験からの推定値は、ルーチンケア患者における出血発生率を一環して過小に見積もることを示すものであった。出血率についての過小評価は、とくにHAS-BLEDスコア高値でワルファリンを導入した場合に認められた。この場合、過小評価は、最大100人年当たり4.0件まで認められた。 Harrell's c指数で評価した、ダビガトランおよびワルファリン導入による血栓塞栓症または重大出血に関する識別能は、無作為化試験をベースにした予測では0.59、0.66、交差確認されたモデルベースの予測では0.52、0.70であった。

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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「研究」からプロの「ビジネス」への転換:ランダム化比較試験の現在(解説:後藤 信哉 氏)-542

 長らく臨床をしていると、日本にいても肺塞栓症などの経験はある。1980年代~90年代には循環器内科以外の内科の病棟管理もしていたが、一般の内科の救急入院症例に対して一般的に抗凝固療法が必要と感じたことはなかった。中心静脈カテールを内頸静脈から入れることが多かったが、内頸静脈アプローチが失敗した場合、下腿静脈アプローチとならざるを得ない場合もあった。後日、米国に友人を持つようになると、彼らにとっては下腿静脈からの留置カテーテルは血栓源として恐れられていることを知って、日米の差異に驚愕した。 本ランダム化比較試験では、肺炎、脳卒中、心不全などの内科疾患の入院例に6~14日の低分子ヘパリンは標準治療と考えられている。14日以内には低分子ヘパリン皮下注射、または抗Xa薬betrixaban、14日以降はbetrixabanなし、ありの比較となっている。14日以降の抗Xa薬の有無を比較する部分に主要な興味を置いた論文である。 日本では、内科疾患の入院時に予防的抗凝固療法を行う発想がない。安静にするだけで血栓ができる症例が、幸いにして少ない。理由の一部は、血栓性の高い活性化プロテインC抵抗性の血液凝固因子第V因子のLeiden型変異が、日本人にないことである。 本試験には、シンガポールなどのアジア地区からの症例登録もある。日本の参加がないのは標準治療と血栓イベントリスクが異なるため仕方ない。国際共同ランダム化比較試験といっても、その結果を適応できる地域に日本は含まれない。以前は、「日本人の血栓イベントリスクが欧米と同じと言えないかもしれない」ので日本が参加しない試験が多かったが、今は「日本人の血栓イベントリスクが欧米と同じでない」ことが事実として認識されている。日本人以外でも、登録症例における血栓イベントが想定より少なかったとみえて、試験の途中にてD-dimer陽性または75歳以上が登録基準に追加された。ランダム化比較試験の意味が、「標準治療を転換する手段」から「新薬の認可承認のためのチャレンジ」に転換している。統計手法も複雑化していて、筆者のような素人には理解できない。 かつては研究者の「研究」であったランダム化比較試験も、現在では薬剤開発のための高度な学術的「ビジネス」に転換しているように筆者にはみえる。誰にも理解できる単純な仮説検証研究が可能であった時代が懐かしい。

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Vol. 4 No. 4 DAPTを検証した臨床試験の数々、それらが導いた「答え」とは?

中川 義久 氏天理よろづ相談所病院循環器内科はじめに冠動脈疾患の治療においては、冠動脈血行再建を達成することが本質的に重要である。その手段として経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)が主流を占めている。冠動脈血行再建においてバルーン拡張によるPCIの有効性が報告されてから30年以上になる。バルーン拡張のみでは再狭窄率や再閉塞率が高いことが問題であり、これを解決するために金属製ステント(baremetal stent:BMS)が導入された。BMSを用いたPCIは通常治療として受け入れられるようになったが、それでも長期的には再狭窄によって再血行再建を要することが多く克服すべき問題であった。薬剤溶出性ステント(drug-eluting stent:DES)は、BMSに比較して再狭窄を減少させることが示されている。第1世代DESであるシロリムス溶出性ステント(sirolimus-eluting stent:SES)とパクリタキセル溶出性ステント(paclitaxel-eluting stent:PES)が2004年8月から本邦で保険償還が認可され、実臨床において使用可能となった。これにより冠動脈ステント留置後1年の再狭窄率を10%以下に低下させた。現在のPCIではDES留置が通常である。DESは再狭窄を強く抑制するものの、これが血管内皮の修復反応の遅延をきたし、血栓性閉塞(ステント血栓症)の可能性が高い時期が長期間にわたってつづくことが問題とされる。ステント血栓症の予防のために抗血小板薬の適切な投与が重要となっている。ステント血栓症の予防のためにアスピリンと、チエノピリジン系抗血小板薬の併用投与(dual anti-platelet therapy:DAPT)が主流となっているが、その継続すべき期間については明確な指針はない。第2世代DESが登場し、臨床成績が向上してステント血栓症は減少している。さらに、2015年末からは第3世代のDESも実臨床の現場に登場する。DAPTの期間を短縮しても安全性が保たれるという方向の報告がある一方で、DAPTの期間を延長したほうがよいとの報告もあり、議論がつづいている。DAPTを継続することは出血性合併症を増す危険性があり、血栓症予防と出血性合併症の両者のトレードオフで比較すべき問題である。ステント血栓症の予防のためにDAPTを継続すべき期間について明確な結論はない。DAPTを長期間継続することによる頭蓋内出血などの重大な出血性合併症は患者の不利益ともなり、DAPTの至適施行期間を明らかにすることは、DES留置後の患者にとって大切である。DAPT導入の背景現在は使用頻度が減少しているが、BMSの臨床試験が日本で始まったのは1990年(平成2年)であった。その当時、筆者は小倉記念病院に在籍し、その現場を体験した。当時はDAPTという概念はなく、抗血小板薬としてアスピリンを投与し、さらにワルファリンによる抗凝固療法を行っていた。そのうえ、PCI術後には数日間のヘパリンの持続点滴も加えていた。しかし3%前後という高いステント血栓症の発生率と出血性合併症に悩まされていた。この経験からも明らかなように、抗凝固療法を強化してもステント血栓症を予防できないことはみな痛感していた。チエノピリジン系薬剤とアスピリンによるDAPTをBMS留置後1か月間施行することでステント血栓症の発生を抑制することが示され、ステント留置後の標準治療となった1)。その当時はチエノピリジン系薬剤としてクロピドグレルは存在せずチクロピジンのみであった。STARS研究の結果1)をみると、アスピリン単独や、アスピリンとワルファリンによる抗血栓療法に比べて、DAPTによってステント植込み手技の安全性が高まることがわかる。このデータをもとに、現在のDES時代においてもステント術後のDAPT療法として継承されている。現在では、チエノピリジン系抗血小板薬としては、チクロピジンよりも副作用が少ないクロピドグレルが最も頻用されている。short DAPTとlong DAPTDAPT継続期間については12か月間を基準として、それよりも短い期間(3か月から6か月間)で十分とする意見をshort DAPT派、1年を超えてDAPTを継続したほうがよいという意見をlong DAPT派と総括され、両派による活発な議論がつづいている。しかし、第2世代のDESが普及しステント血栓症は減少し、DAPTの期間は短縮する方向での知見が増加している。抗凝固薬を必要とする患者における抗血小板療法については、DAPTを含む3剤の抗血栓薬は避けたほうがよいとのコンセンサスは得られつつあるが、明確な指針は未だ存在しない。明確な指針はない状況においても各担当医は実臨床の現場で方針を決定しなければならない。DES留置後のDAPT期間、short DAPTで十分か?日本循環器学会のガイドライン2, 3)では、2次予防における抗血小板療法として、禁忌がない患者に対するアスピリン(81~162mg)の永続的投与(レベルA)、DES留置の場合にはDAPTを少なくとも12か月間継続し、出血リスクが高くない患者やステント血栓症の高リスク患者に対する可能な限りの併用療法の継続(レベルB)が推奨されている。本邦でのデータとしてCREDO-Kyoto PCI/CABG Registry Cohort-2に登録されたDES(主としてシロリムス溶出性ステント)留置患者6,309例における4か月のランドマーク解析がある4)。4か月の時点でのチエノピリジン系抗血小板薬継続例と中止例でその後3年までの死亡、心筋梗塞、脳卒中の発症率に差はなく、出血性合併症の発症はチエノピリジン系抗血小板薬継続例で多いことが報告されている。これは、日本人におけるDES留置後の至適なDAPT施行期間は、現在の第2世代DESよりもステント血栓症の頻度が相対的に高かった第1世代DESの時代においてすら、4か月程度で十分である可能性を示唆しているもので貴重なデータである。第2世代DESが登場し、臨床成績が向上しステント血栓症は減少しており、DAPTの期間を短縮しても安全性が担保されるという方向の報告が多い。この至適DAPT期間を検討するために大規模なメタ解析の結果が報告された5)。無作為化試験を選択し、DAPT投与期間が12か月間である試験を標準として、12か月未満のshort DAPT試験と、12か月超のlong DAPT試験の比較を行っている。アウトカムは、心血管死亡・心筋梗塞・ステント血栓症・重大出血・全死因死亡である。10の無作為化試験から32,287例が解析されている。12か月の標準群と比較してshort DAPT群は、有意に重大出血を減少させた(オッズ比:0.58、95%CI:0.36-0.92、p=0.02)。虚血性または血栓性のアウトカムについて有意差はなかった。long DAPT群は、心筋梗塞とステント血栓症は有意に減少させたが、重大出血は有意な増大がみられた。また、全死亡の有意な増大もみられた(オッズ比:1.30、95%CI:1.02-1.66、p= 0.03)。この結果を要約すれば、short DAPTは、虚血性合併症を増大させることなく出血を減らし、ほとんどの患者においてshort DAPTで十分であることが示されたといえる。さらにDAPT期間についてARCTIC-Interruptionという無作為化比較試験の結果が興味深い6)。DESの留置後1年の間に虚血性または出血性イベントを経験しなかった患者において、1年以降のDAPT継続は1剤のみの抗血小板療法と比較し、虚血性イベントの抑制効果は示されず、重症または軽症出血のリスクの上昇が認められた。つまり、留置後1年間でイベントが起きなかった場合、その後のDAPT継続には有益性はなく、むしろ出血イベントのリスクが増大し有害であることが示されたことになる。この試験だけでなく、PRODIGY7)、DES LATE8)、EXCELLENT9)、RESET10)、OPTIMIZE11)などのshort DAPTとlong DAPTを比較した試験でも、長期間のDAPTは心血管イベントを減らすことはなく、出血性合併症を増加させるという結果が一貫性をもって示されている。本邦におけるshort DAPTを示唆する研究:STOPDAPT研究長期間のDAPT施行が抗血小板薬単独治療に比べて出血性合併症を増加させ、長期のDAPT施行をつづけても心血管イベントの発症抑制効果がないのであれば、DAPT施行期間はできるだけ短いほうが望ましいことは明確である。このためのエビデンス構築をめざして、本邦においてはSTOPDAPT研究が行われた。日本心血管インターベンション治療学会2015年学術集会(CVIT2015)においてNatsuakiらによって結果が発表された。この研究は、ステント血栓症の発生リスクが低い第2世代DESを代表するコバルトクロム合金のエベロリムス溶出ステント(CoCr-EES)が留置された患者において、チエノピリジン投与期間を3か月に短縮可能と担当医が判断した連続症例を登録し、ステント留置後3か月の時点でチエノピリジン投与を中止し、ステント留置後12か月の心血管イベント、出血イベントの発生率を評価する研究である。冠動脈にCoCr-EESの留置を受けた3,580人のうち3か月でDAPT中止が可能と判断された患者1,525人が登録された。チエノピリジン投与は4か月までに94.2%で中止され、1年追跡率は99.6%であった。definiteのステント血栓症の発生は皆無であった。選択された患者においてではあるが、CoCr-EES留置後3か月でのDAPT中止の安全性が示唆されたSTOPDAPT研究の意義は大きい。DAPT期間は延長すべき? DAPT試験2014年の第87回米国心臓協会年次集会(AHA2014)でDAPT試験の結果が発表されるまでは、short DAPTの方向に意見は収束しつつあるように思われていた。つまり、DAPT期間を延長することにより出血性合併症の発症リスクは増加し、虚血性イベントの明確な抑制は認められない、というものである。1年間または6か月間のDAPTで十分であり、むしろ論点は3か月間などいっそう短いDAPT期間を模索する方向に推移していた。この方向性を逆転するような結果が「DAPT試験」として報告されたのである12)。DES後の患者で、DAPT期間12か月と30か月というlong DAPTを比較する無作為割り付け試験である。米国食品医薬品局(FDA)の要請により実施された多施設共同ランダム化比較試験であり、冠動脈ステントを製造・販売する企業など8社が資金を提供した大規模研究である。DES後の患者9,961例を対象に、DAPT期間の長短によるリスクとベネフィットが比較検討された。その結果、30か月のlong DAPT群でステント血栓症および主要有害複合エンドポイント(死亡、心筋梗塞、脳卒中)が有意に低く、出血性合併症はlong DAPT群で有意に高かった。long DAPTのベネフィットが報告されたDAPT試験ではあるが、このDAPT試験に内在する問題点についての指摘も多い。本試験のデザインは、DES植込み直後にDAPT期間12か月と30か月に割り付けたわけではなく、植込み当初の1年間のDAPT期間に出血を含めイベントなく経過した患者のみを対象としている。背景にいるDES植込み患者は22,866人おり、そのうちの44%にすぎない9,961人が無作為化試験に参加している。この44%の患者を選択する過程でバイアスが生じている可能性がある。この除外された半数を超える56%の患者に、本試験の結果を敷衍できるのかは不明である。また、この試験の結果では30か月DAPT施行による主要有害複合エンドポイントの抑制は、心筋梗塞イベントの抑制に依存している。心筋梗塞が増えれば死亡が増えることが自然に思えるが、心臓死・非心臓死ともにlong DAPT群において有意差はないが実数として多く発生している。本試験で報告されている心筋梗塞サイズは不明であるが、心筋梗塞イベントが臨床的にもつ意味合いについても考える必要がある。PEGASUS-TIMI 54研究もlong DAPTを支持する結果であった13)。これは、心筋梗塞後1年以上の長期にわたるDAPTが有用か否かを検証する試験で、アスピリン+チカグレロルとアスピリン単独の長期投与を比較した研究である。その結果、有効性はアスピリン+チカグレロル群で有意に優れていたが、安全性(大出血)は有意に高リスクであることが示された。short DAPTかlong DAPTかの問題について決着をつけるには、さらなる研究が必要と思われる。DAPT試験の結果が発表されたあとに、DAPT期間についてのメタ解析がいくつか報告されている。その代表がPalmeriniらによって報告されたものである14)。その論文の結論は明確にDAPT期間の長短を断じたものではなく、患者個別のベネフィットとリスクを考えることを薦めるものであることに注目したい。全患者に均一のDAPT期間を明示することは現実的には困難であり、リスク層別化を考えることが大切と思われる。出血リスクが低く心血管イベントの発生するリスクが極めて高い患者でDAPT期間の延長を考慮することが現実的であろう。文献1)Leon MB et al. A clinical trial comparing three antithrombotic-drug regimens after coronaryartery stenting. Stent Anticoagulation Restenosis Study Investigators. N Engl J Med 1998; 339: 1665-1671.2)日本循環器学会ほか. 安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版).3)日本循環器学会ほか. ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版).4)Tada T et al. Duration of dual antiplatelet therapy and long-term clinical outcome after coronary drug-eluting stent implantation: landmark analyses from the CREDO-Kyoto PCI/CABG Registry Cohort-2. Circ Cardiovasc Interv 2012; 5: 381-391.5)Navarese EP et al. BMJ 2015; 350: h1618.6)Collet JP et al. Dual-antiplatelet treatment beyond 1 year after drug-eluting stent implantation (ARCTICInterruption): a randomised trial. Lancet 2014; 384: 1577-1585.7)Valgimigli M et al. Randomized comparison of 6-versus 24-month clopidogrel therapy after balancing anti-intimal hyperplasia stent potency in all-comer patients undergoing percutaneous coronary intervention. 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サブプライムローンとEBMの類似性(解説:後藤 信哉 氏)-537

 日本語と異なり、英語は決定論的、論理的言語である。日本語で考えるわれわれ日本人は、英語で考える米英人の発想法を完全には理解できない。サブプライムローンを販売した米国の金融会社は、「将来経済は成長する」という前提が正しい限り「サブプライムローンは破綻しない」と人々を説得し、その説得には論理性があったので、多くの人は自分の今の収入以上のローンを抱えた。確かに、100年の視点でみれば「経済は成長する」のかもしれないが、数年の規模では成長したり衰退したりすることを、われわれは感覚的に実感している。日本語の論理性は英語ほど精緻ではないので、日本人であれば自分の収入に見合わない借金は「なんか怖い」と感じる人が多いだろう。日本語は論理性では英語に劣るが、その分、日本語で考えるわれわれは米英人より直感力が優れている。 EBMでは、「大規模ランダム化比較試験にて検証した仮説は科学的事実である」との前提で、ランダム化比較試験に基づいた薬剤使用を推奨する。世界の患者からランダムにサンプルを抽出し、無作為化二重盲検試験にて科学的仮説を検証すれば、その試験結果が正しいと米英人は論理的に理解するであろう。 非弁膜症性心房細動を対象として、ワルファリンとダビガトランを比較したRE-LY試験はオープンラベルではあったが、世界の患者からランダムにサンプルを抽出しているのであれば、試験内で観察された脳卒中イベントと出血イベントは世界の実態を反映していると論理的には推論される。しかしながら、やわらかい日本語で育ったわれわれ日本人の脳では、ランダム化比較試験の世界と真の世界の差異を直感する。各種の新規経口抗凝固薬の試験の結果にかかわらず、われわれは論理のみにて発想を大転換することはない。 この論文では、ランダム化比較試験におけるイベントを、より一般的な米国の保険診療データと比較した。ワルファリン、ダビガトラン服用下の出血、血栓イベントは試験の時に似ているともいえるし、似ていないようにもみえる。実臨床データからみると、ランダム化比較試験では4%/年分も出血イベントリスクを過小評価しているというのが本論文の主張であるが、この論文のデータベースもたかだか2万例程度である。経験を蓄積してやわらかに日本語で考える臨床医がいる限り、日本では論理に過剰依存したサブプライムローンの悲劇は医療では起こらない。プライドを持ち、個別に考える、一見正しそうな論理に負けずに個別の患者を守る臨床医を維持し続けることが、日本ではきわめて重要である。

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