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脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕

新たなエビデンスを加え、66項目の大改訂!最新のエビデンスを反映させるなどの目的で、例年、全面改訂の約2年後に追補版を発売してきた『脳卒中治療ガイドライン』ですが、近年の本領域の進歩は長足であり、今回は全140項目中66項目を改訂しました。エビデンスレベルの高い新しいエビデンスを加えたほか、新しいエビデンスはないものの推奨度が現実と乖離しているものなども見直したため、今回は「追補」ではなく「改訂」として発売しました。主な改訂点●抗血栓薬や血栓溶解薬などの記載変更について抗血栓薬については、その1種であるDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)の高齢者適応のほか、DOACの中和剤に関する記載も増やしました。また、血栓溶解薬は使用開始時期によって効果が左右されますが、起床時発見もしくは発症時刻不明の虚血性脳血管障害患者に対するエビデンスなどを加えました。さらに、くも膜下出血の治療後に生じる可能性がある遅発性脳血管攣縮については、新たに登場した治療選択肢にも触れるなどの変更を行いました。●危険因子としての糖尿病・心疾患・慢性腎臓病(CKD)の管理について主に糖尿病治療で使われるGLP-1やSGLT-2などの薬剤には、近年、新たなエビデンスが得られていることから、推奨度を含めて記載を見直しました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数332頁発行2023年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会

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非心房細動での心房高頻度エピソード、抗凝固薬は勧められず/NEJM

 植込み型心臓デバイスによって検出された心房高頻度エピソード(atrial high-rate episodes:AHRE)は心房性不整脈を示唆しており、心房細動と類似の病態だが、発現はまれで持続時間が短い。ドイツ・Atrial Fibrillation Network(AFNET)のPaulus Kirchhof氏らは「NOAH-AFNET 6試験」において、心房細動(通常の心電図検査で検出されるもの)のない患者におけるAHREの発現が、抗凝固薬の投与開始を正当化するかを検討した。その結果、直接経口抗凝固薬エドキサバンによる抗凝固療法はプラセボと比較して、心血管死、脳卒中、全身性塞栓症の複合の発生率を減少させず、全死因死亡または大出血の複合の発生率が有意に高いことを明らかにした。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2023年8月25日号に掲載された。欧州のイベント主導型、二重盲検ダブルダミー無作為化試験 NOAH-AFNET 6試験は、欧州18ヵ国206施設で実施されたイベント主導型の二重盲検ダブルダミー無作為化試験であり、2016年6月~2022年9月に患者の登録を行った(German Center for Cardiovascular Research[DZHK]などの助成を受けた)。 年齢65歳以上、植込み型デバイスで6秒以上持続するAHREが検出され、1つ以上の脳卒中リスク因子を有し、心電図で検出された心房細動の既往歴がない患者を対象とした。これらの患者を、ダブルダミーデザインを用いてエドキサバン(60mg、1日1回)またはプラセボを経口投与する群に無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、心血管死、脳卒中、全身性塞栓症の複合であり、イベント発生までの時間分析で評価。安全性のアウトカムは、全死因死亡または大出血の複合とした。 本試験は、安全性への懸念と、エドキサバンの有効性に関する独立した非公式の無益性評価の結果に基づき、追跡期間中央値21ヵ月の時点で早期終了となった。終了時に、予定されていた患者登録は完了していた。 解析集団は2,536例で構成された(エドキサバン群1,270例、プラセボ群1,266例)。全体の平均年齢は78歳(67.0%が75歳以上)、女性が37.4%で、AHRE持続時間中央値は2.8時間だった。心電図検査では、2,536例中462例(18.2%、8.7%/人年)が心房細動と診断された。脳卒中の発生には差がない、大出血は有意に多い 有効性の主要アウトカムは、エドキサバン群が83例(3.2%/人年)、プラセボ群は101例(4.0%/人年)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(補正後ハザード比[HR]:0.81、95%信頼区間[CI]:0.60~1.08、p=0.15)。 安全性のアウトカムは、プラセボ群が114例(4.5%/人年)で発生したのに対し、エドキサバン群は149例(5.9%/人年)と有意に多く発生した(補正後HR:1.31、95%CI:1.02~1.67、p=0.03)。 脳卒中(脳梗塞)の発生は、エドキサバン群が22例(0.9%/人年)、プラセボ群は27例(1.1%/人年)でみられ、両群で同程度であった(補正後HR:0.79、95%CI:0.45~1.39)。また、全身性塞栓症は、それぞれ14例(0.5%/人年)、28例(1.1%/人年)で認められた(0.51、0.27~0.96)。 心血管死(エドキサバン群52例[2.0%/人年]vs.プラセボ群57例[2.2%/人年]、補正後HR:0.90[95%CI:0.62~1.31])、脳卒中(脳梗塞)または全身性塞栓症(25例[1.0%/人年]vs.38例[1.5%/人年]、0.65[0.39~1.07])の発生にも、両群間に差はみられなかった。 大出血(エドキサバン群53例[2.1%/人年]vs.プラセボ群25例[1.0%/人年]、補正後HR:2.10[95%CI:1.30~3.38]、p=0.002)の発生はエドキサバン群で多かったが、全死因死亡(111例[4.3%/人年]vs.94例[3.7%/人年]、1.16[0.88~1.53]、p=0.28)は両群で同程度であった。 著者は、「本試験では、エドキサバンはプラセボに比べて脳卒中の発生を抑制せず、脳卒中の発生率そのものは低かったことから、AHREを有する患者では抗凝固療法を控えるのが適切と考えられる」としている。

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国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」【下平博士のDIノート】第129回

国内初の経口人工妊娠中絶薬「メフィーゴパック」今回は、人工妊娠中絶用製剤「ミフェプリストン・ミソプロストール(商品名:メフィーゴパック、製造販売元:ラインファーマ)」を紹介します。本剤は、国内で初めて承認された経口の人工妊娠中絶薬であり、中絶を望む女性にとって身体的にも精神的にも負担が少ない薬剤と考えられます。<効能・効果>子宮内妊娠が確認された妊娠63日(妊娠9週0日)以下の者に対する人工妊娠中絶の適応で、2023年4月28日に製造販売承認を取得し、5月16日より販売されています(薬価基準未収載)。本剤を用いた人工妊娠中絶に先立ち、本剤の危険性および有効性、本剤投与時に必要な対応を十分に説明し、同意を得てから本剤の投与を開始します。なお、異所性妊娠に対しては有効性が期待できません。<用法・用量>ミフェプリストン錠1錠(ミフェプリストンとして200mg)を経口投与し、その36~48時間後の状態に応じて、ミソプロストールバッカル錠4錠(ミソプロストールとして計800μg)を左右の臼歯の歯茎と頬の間に2錠ずつ30分間静置します。30分後も口腔内に錠剤が残っている場合は飲み込みます。ミフェプリストン投与後に胎嚢の排出が認められた場合、子宮内容物の遺残の状況を踏まえてミソプロストールの投与の要否を検討します。<安全性>国内第III相試験において1%以上に認められた副作用は、下腹部痛、悪心、嘔吐、下痢、発熱、悪寒でした。重大な副作用として、重度の子宮出血(0.8%)のほか、感染症、重度の皮膚障害、ショック、アナフィラキシー、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.本剤は、妊娠9週以下の人に対する人工妊娠中絶の薬です。妊娠の継続に必要な黄体ホルモンの働きを抑える薬剤と、子宮収縮作用により子宮内容物を排出させる薬剤を組み合わせたパック製剤です。2.この薬の投与後は下腹部痛や子宮出血が現れて一定期間継続します。まれに重度の子宮出血が生じて貧血が悪化することがあるため、自動車の運転などの危険を伴う機械操作を行う場合は十分に注意してください。3.服用後、2時間以上にわたって夜用ナプキンを1時間に2回以上交換しなければならないような出血が生じた場合、発熱、寒気、体のだるさ、腟から異常な分泌物などが生じたときは速やかに医師に連絡してください。4.授乳中に移行することが知られているので、授乳をしている場合は事前にお伝えください。5.子宮内避妊用具(IUD)またはレボノルゲストレル放出子宮内システム(IUS)を使用中の人はこの薬の投与を受ける前に除去する必要があります。<Shimo's eyes>本剤は、国内で初めて承認された人工妊娠中絶のための経口薬です。これまで妊娠初期の中絶は掻把法や吸引法によって行われてきましたが、今回新たに経口薬が選択肢に加わりました。ミフェプリストンとミソプロストールの順次投与による中絶法は、世界保健機関(WHO)が作成した「安全な中絶−医療保険システムにおける技術及び政策の手引き−」で推奨されており、海外では広く使用されています。使用方法は、1剤目としてミフェプリストン錠1錠を経口投与し、その36~48時間後にミソプロストール錠4錠をバッカル投与します。ミフェプリストンはプロゲステロン受容体拮抗薬であり、プロゲステロンによる妊娠の維持を阻害する作用および子宮頸管熟化作用を有します。ミソプロストールはプロスタグランジンE1誘導体であり、子宮頸管熟化作用や子宮収縮作用を有します。両剤の作用により妊娠の継続を中断し、胎嚢を排出します。国内第III相試験では、投与後24時間以内の人工妊娠中絶が成功した患者の割合は93.3%で、安全性プロファイルは認容できるものでした。本剤投与後に、失神などの症状を伴う重度の子宮出血が認められることがあり、外科的処置や輸血が必要となる場合があります。また、重篤な子宮内膜炎が発現することがあり、海外では敗血症や中毒性ショック症候群に至り死亡した症例が報告されていることから、異常が認められた場合に連絡を常に受けることができる体制や、ほかの医療機関との連携も含めた緊急時に適切な対応が取れる体制で本剤を投与することが求められています。併用禁忌の薬剤として、子宮出血の程度が悪化する恐れがあるため、抗凝固薬(ワルファリンカリウム、DOAC)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル硫酸塩、EPA製剤など)があります。また、ミフェプリストンの血漿中濃度が低下し、効果が減弱する恐れがあるため、中~強程度のCYP3A誘導剤(リファンピシン、リファブチン、カルバマゼピン、セイヨウオトギリソウ含有食品など)も併用禁忌となっています。本剤の承認申請が行われた2021年12月以降、社会的に大きな関心を集めました。厚生労働省が承認にあたってパブリックコメントを実施したところ1万1,450件もの意見が寄せられ、そのうち承認を支持する意見が68.3%、不支持が31.2%でした。欧米では経口薬による人工妊娠中絶法は30年以上前から行われていて、先進国を中心に主流になりつつあります。中絶を望む女性は、健康上の懸念がある、性的暴力を受けた、若すぎる、経済的に困窮している、パートナーの協力を得られないなどさまざまな背景があります。わが国では現在、薬局やインターネットで購入することはできませんが、多くの議論を経て、中絶を望む人たちにとって、医学的にも精神的にも寄り添うことのできるシステムが構築されることが望まれます。

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血尿診断で内科医も知っておきたい4つのこと―血尿診断ガイドライン改訂

 『血尿診断ガイドライン』が10年ぶりに改訂された。改訂第3版となる本ガイドラインは、各専門医はもちろんのこと、一般内科医や研修医にもわかりやすいように原因疾患診断のための手順を詳細な「血尿診断アルゴリズム」として提示した。また、コロナ禍での作成ということもあり、最終章では「新型コロナワクチンと血尿」について触れている。今回、本ガイドライン改訂委員会の事務局を務めた小路 直氏(東海大学医学部外科学系腎泌尿器科学)に、内科医が血尿時の問診や専門医への紹介を行ううえで注意すべきポイントなどを聞いた。成人の血尿診断アルゴリズム、尿沈渣検査がカギ 小路氏はまず、非糸球体性血尿の鑑別が進行速度の早い尿路上皮がんの早期発見につながることから、「一般内科医でも血尿を相談された場合などには尿沈渣検査をぜひ実施してほしい」と強調した。また、「非糸球体性血尿が検出されればその後は泌尿器科が対応し、糸球体性血尿が検出された場合には腎臓内科医が対応することになる。かかりつけ医受診の段階で、非糸球体性か糸球体性かを判断することで、患者が次の受診施設の選択で迷わずに済む」とも説明した。尿沈渣検査には遠心分離機が必要だが、それを所有するクリニックは多くはないため、外注に頼らざるを得ないのが現状だろう。もちろん、診療報酬点数(尿沈渣[鏡検法]27点)が算定できるため、尿路上皮がんの早期発見ならびに、紹介先の目星をつけるためにも「尿試験紙で血尿と判断された場合には、尿沈渣検査までは実施し、可能であれば尿細胞診や腹部超音波の実施もお願いしたい。ただし、尿細胞診は悪性度が強いがんでないと検出できないことには留意いただきたい」と話した。<内科医がおさえておきたい検査>・血液検査(血清クレアチニン異常高値)・尿沈渣検査   均一赤血球(非糸球体性血尿)   血尿に加え尿蛋白や細胞円柱/変形赤血球(糸球体性血尿)・尿細胞診 (悪性度の高い尿路上皮がんでないと検出ができないことに留意)・腹部超音波検査   尿路上皮がんや腎がんの検出感度は十分でないことに留意したうえで、適応を検討 なお、肉眼的血尿を呈する(または既往のある)患者で以下の場合には、腎臓内科への早期紹介が勧められるため、特筆すべき点としてフローチャートには赤字で示されている。・cola-like urine(コーラ色の褐色尿)・高度尿蛋白および/または進行性の腎機能低下・尿路感染症を疑う所見を欠く発熱・呼吸器症状や皮膚症状など他の全身症状・腎後性因子が否定される腎機能障害抗血小板薬や抗凝固薬服用が血尿を引き起こす可能性は低い 次に同氏は、よくある患者紹介の事例として“抗血小板薬や抗凝固薬服用患者が紹介されるケース”について言及した。本ガイドラインの「BQ12:抗血小板薬、抗凝固薬を服用している顕微鏡的血尿患者に対して通常の精査は必要か?」では、これらの薬剤を服用している患者において顕微鏡的血尿が認められた場合には、服用が原因であると判断することは困難であるため、これらの薬物を服用していない患者と同様に評価を行う必要があり、リスク分類に基づく精査を考慮する、と要約されている。これについて同氏は「抗血小板薬や抗凝固薬の“出血”という副作用が血尿を連想させやすいものの、種々の研究から鑑みても抗血栓薬に起因する血尿だと判断することは難しい。なお、この件は米国・泌尿器学会のガイドラインやリスク分類も参照している。ただし、専門医にとっては、膀胱鏡検査を実施する際のリスク因子になることはポイントで、念頭に置いておく必要がある」とコメントした。ご存じですか?ビタミンCによる偽陰性 「BQ3:血尿を診断するための採尿方法はどのようにすべきか?」において、採尿前の注意事項として(1)健診など尿試験紙でのスクリーニングではアスコルビン酸(ビタミンC)が存在すると偽陰性となることがあるため、アスコルビン酸を多く含む物の摂取を控える、と記載されている。これは健診時の常識のようだが、医療者によって注意事項として触れているか否かのバラつきがあるようだ。これについて、「結果が出た後に服用状況を確認する必要はないが、医療者としては尿試験紙に影響を及ぼす点は理解しておき、検査前の患者に対し、事前にビタミンCの服用で偽陰性になる点をインフォメーションしておく必要はあるだろう」とコメントした。コロナワクチン接種後の肉眼的血尿はIgA腎症のサインか このほか、専門医がおさえておくべきCQは以下のとおり。―――CQ1:蛋白尿を合併しない成人の顕微鏡的血尿患者において腎生検で同定される病態は何か?CQ2:顕微鏡的血尿の初回精査で異常を指摘されなかった患者に対して定期的経過観察は必要か?CQ3:成人の尿路上皮がん高リスク患者の診断においてCT urographyは推奨されるか?――― 最後に新型コロナワクチンと血尿との関係について、ワクチン接種後に腎炎が再発・再燃する症例が世界的に明らかになり、とくにIgA腎症の既往者では接種後の尿でコーラ色や紅茶色を認めるとの報告がある。これらの症例には1)全例がmRNAワクチン接種後、2)女性に多い、3)遷延する腎機能障害を認める症例はごく一部で大部分は一過性の尿所見増悪に留まる、という特徴があることが国内の調査1)や前向き観察研究からも明らかになってきている。しかし、ワクチン接種が腎症の発症を助長しているわけではなく、むしろ未診断の症例が顕在化した可能性が高いことから、同氏は泌尿器科医や一般内科医に向けて「ワクチン接種後に血尿を訴えた患者が来院した場合には、既往の確認のみならず、IgA腎症の存在を疑い、腎臓内科医への相談も視野に入れて診察に当たってほしい」と述べた。

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第179回 血液凝固タンパク質2つがコロナ感染後の脳の不調と関連

血液凝固タンパク質2つがコロナ感染後の脳の不調と関連疲労に加えて認知機能障害、いわゆる脳のもやもや(brain fog)が数ある新型コロナウイルス感染(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つとしてよく知られています。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染して認知機能障害に見舞われる人とそうでない人を隔てる仕組みへの血液凝固タンパク質2つの寄与を示唆する大規模観察試験結果が報告されました1)。試験ではCOVID-19で入院した患者約2千例(1,837例)が追跡され、入院時のそれらタンパク質2つと感染から半年と1年時点での認知機能障害の関連が認められました。その1つはフィブリノゲンです。C反応性タンパク質(CRP)に比してフィブリノゲンが入院時に多かった患者は少なかった患者に比べて記憶や注意などの認知機能の客観的検査成績や主観評価が劣りました。もう1つはDダイマーで、CRPに比してDダイマーが多かった患者は認知機能の主観評価が劣りました。たとえばDダイマーが多かった患者の6ヵ月時点の認知機能主観評価C-PSQ(0~7点)の点数は約1.5点劣りました。また、Dダイマーが多かった患者は疲労や呼吸困難の訴えや仕事への差し障りをより多く報告しました。フィブリノゲンやDダイマーとCOVID-19の関連を示した報告は今回が初めてではありません。先立つ複数の試験でCOVID-19入院患者にそれらタンパク質の増加が血栓過剰とともに認められています2)。フィブリノゲンが多いことと認知機能障害や認知症の関連を示したCOVID-19流行前の報告もあり、フィブリノゲンは認知機能欠損と何はさておき関連するのかもしれません。一方、DダイマーはCOVID-19以外で認知機能障害との関連は示されておらず、SARS-CoV-2感染に特有の指標かもしれません。フィブリノゲンやDダイマーが認知機能障害を引き起こすとしてその仕組みがいくつか想定されています。フィブリノゲンは脳の血液循環を妨げる血栓を形成するのかもしれません。あるいは神経系の受容体と直接相互作用することも想定されます。Dダイマーは肺での血栓形成をより反映していると思われ、それが呼吸困難に寄与し、酸欠による脳の不具合をもたらすのかもしれません。今回の試験結果を解釈するうえでいくつか注意点があります。1つは変異株がぼこぼこ出現する前のコロナ流行初期に募った被験者を対象にしていることであり、変異株が優勢の現在の感染患者に今回の結果が当てはまるかどうかは不明です。また、ワクチン非接種の重症の入院患者を対象としていることも注意が必要です。感染症状が軽度だったlong COVID患者は多く、そういう患者は今回の試験の対象ではありません。フィブリノゲンやDダイマー、あるいはより大まかに血栓を標的とする治療のlong COVID予防の裏付けはほとんどありません。抗凝固薬が治療手段の1つとしてみなされていますが、決定的な試験結果はまだありません2)。それに抗凝固薬は出血などの副作用と隣り合わせでもあります。抗凝固薬の検討のために必要な前段階として、認知機能障害をSARS-CoV-2感染後に被った患者の脳を画像診断して脳虚血の兆候があるかどうかを調べることを著者は提案しています1)。もし脳虚血が見つかるようなら先行きが心配な患者の感染初期のころの抗凝固薬使用の試験を実施する価値はありそうです。参考1)Taquet M, et al. Nat Med. 2023 Aug 31. [Epub ahead of print] 2)Clotting proteins linked to Long Covid’s brain fog / Science

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DOAC内服AF患者の出血リスク、DOACスコアで回避可能か/ESC2023

 心房細動患者における出血リスクの評価には、HAS-BLEDスコアが多く用いられているが、このスコアはワルファリンを用いる患者を対象として開発されたものであり、その性能には限界がある。そこで、米国・ハーバード大学医学大学院のRahul Aggarwal氏らは直接経口抗凝固薬(DOAC)による出血リスクを予測する「DOACスコア」を開発・検証した。その結果、大出血リスクの判別能はDOACスコアがHAS-BLEDスコアよりも優れていた。本研究結果は、オランダ・アムステルダムで2023年8月25日~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology 2023(ESC2023、欧州心臓病学会)で発表され、Circulation誌オンライン版2023年8月25日号に同時掲載された。 RE-LY試験1)のダビガトラン(150mgを1日2回)投与患者5,684例、GARFIELD-AFレジストリ2)のDOAC投与患者1万2,296例を対象として、DOACスコアを開発した。その後、一般化可能性を検討するため、COMBINE-AF3)データベースのDOAC投与患者2万5,586例、RAMQデータベース4)のリバーロキサバン(20mg/日)投与患者、アピキサバン(5mgを1日2回)投与患者1万1,1945例を対象に、DOACスコアの有用性を検証した。 以下の10項目の合計点(DOACスコア)に基づき、0~3点:非常に低リスク、4~5点:低リスク、6~7点:中リスク、8~9点:高リスク、10点以上:非常に高リスクに患者を分類し、DOACスコアの大出血リスクの判別能を検討した。また、DOACスコアとHAS-BLEDスコアの大出血リスクの判別能を比較した。【DOACスコア】<年齢> 65~69歳:2点 70~74歳:3点 75~79歳:4点 80歳以上:5点<クレアチニンクリアランス/推算糸球体濾過量(eGFR)> 30~60mL/分:1点 30mL/分未満:2点<BMI> 18.5kg/m2未満:1点<脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、塞栓症の既往> あり:1点<糖尿病の既往> あり:1点<高血圧症の既往> あり:1点<抗血小板薬の使用> アスピリン:2点 2剤併用療法(DAPT):3点<NSAIDsの使用> あり:1点<出血イベントの既往> あり:3点<肝疾患※> あり:2点※ AST、ALT、ALPが正常値上限の3倍以上、ALPが正常値上限の2倍以上、肝硬変のいずれかが認められる場合 主な結果は以下のとおり。・RE-LY試験の対象患者5,684例中386例(6.8%)に大出血が認められた(追跡期間中央値:1.74年)。・ブートストラップ法による内部検証後において、DOACスコアは大出血について中等度の判別能を示した(C統計量=0.73)。・DOACスコアが1点増加すると、大出血リスクは48.7%上昇した。・いずれの集団においても、DOACスコアはHAS-BLEDスコアよりも優れた判別能を有していた。 -RE-LY(C統計量:0.73 vs.0.60、p<0.001) -GARFIELD-AF(同:0.71 vs.0.66、p=0.025) -COMBINE-AF(同:0.67 vs.0.63、p<0.001) -RAMQ(同:0.65 vs.0.58、p<0.001) 本研究結果について、著者らは「DOACスコアを用いることで、DOACを使用する心房細動患者の出血リスクの層別化が可能となる。出血リスクを予測することで、心房細動患者の抗凝固療法に関する共同意思決定(SDM)に役立てることができるだろう」とまとめた。

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がん患者の血栓症再発、エドキサバン12ヵ月投与が有効(ONCO DVT)/ESC2023

 京都大学の山下 侑吾氏らは、下腿限局型静脈血栓症 (DVT)を有するがん患者に対してエドキサバンによる治療を行った場合、症候性の静脈血栓塞栓症(VTE)の再発またはVTE関連死の複合エンドポイントに関して、12ヵ月投与のほうが3ヵ月投与よりも優れていたことを明らかにした。本結果はオランダ・アムステルダムで8月25~28日に開催されたEuropean Society of Cardiology(ESC、欧州心臓学会)のHot Line Sessionで報告され、Circulation誌オンライン版2023年8月28日号に同時掲載された。 抗凝固療法の長期処方は、血栓症の再発予防にメリットがある一方で出血リスク増加が危惧されており、その管理方針には難渋することが多いが、日本国内だけではなく世界的にもこれまでにエビデンスが乏しい領域であった。とくに、比較的軽微な血栓症を有するがん患者における抗凝固薬の使用については、ガイドラインでも投与期間を含めた明確な治療指針については触れられていない現状があることから、同氏らはがん患者における下腿限局型DVTに対する抗凝固療法の最適な投与期間を明らかにする大規模なランダム化比較試験を実施した。 本研究は日本国内60施設で行われた医師主導型の多施設共同非盲検化無作為化第IV相試験で、下腿限局型DVTと新規に診断されたがん患者を、エドキサバン治療12ヵ月(Long DOAC)群または3ヵ月(Short DOAC)群に1:1に割り付けた。主要評価項目は12ヵ月時点での症候性VTEの再発またはVTE関連死の複合エンドポイントで、主な副次評価項目は12ヵ月時点での大出血(国際血栓止血学会の基準による)とした。 主な結果は以下のとおり。・2019年4月~2022年6月までの601例がITT解析対象集団として検討された。エドキサバン12ヵ月群には296例、3ヵ月群には305例が割り付けられた。・対象者の平均年齢は70.8歳で28%が男性だった。全体の20%がベースライン時点でDVTの症状を呈していた。・症候性のVTE再発またはVTE関連死は、エドキサバン12ヵ月群で296例中3例(1.0%)、エドキサバン3ヵ月群で305例中22例(7.2%)発生した(オッズ比[OR]:0.13、95%信頼区間[CI]:0.03~0.44)。・大出血は12ヵ月群では28例(9.5%)、3ヵ月群では22例(7.2%)で発生した(OR:1.34、95%CI:0.75~2.41)。・事前に指定されたサブグループは、主要評価項目の推定値に影響を与えなかった。 山下氏は、「がん患者では軽微な血栓症でもその後の血栓症悪化のリスクが高い、というコンセプトを証明した試験であり、下腿限局型DVTを有するがん患者においては、抗凝固療法による再発予防がなければ、その後の再発リスクは決して低くはないことが示された」とまとめた。一方で、「統計学的な有意差は認めなかったが、抗凝固療法に伴う出血リスクも決して無視することはできないイベント率であり、本研究の結果を日常臨床に当てはめる際には、やはり血栓症リスクと出血リスクのバランスを考慮したうえで、患者個別レベルでの検証が必要であり、とくに出血リスクの推定が重要であると考えられる。同研究からさまざまなサブ解析を含めた検討が共同研究者により開始されているが、今後それらの検討結果を含めてさらなる検証を続けたい」と述べた。 最後に、「本研究は、がん関連血栓症を専門とする数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における大きな研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、そのような貴重な取り組みに関与させていただいた1人として、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(後編)【見落とさない!がんの心毒性】第24回

※本症例は、患者さんのプライバシーに配慮し一部改変を加えております。あくまで臨床医学教育の普及を目的とした情報提供であり、すべての症例が類似の症状経過を示すわけではありません。前回は、深部静脈血栓塞栓症に対する治療選択、がん関連血栓塞栓症のリスクとして注目すべき患者背景について解説を行いました。今回は同じ症例でのDVT治療継続における問題点を考えてみましょう。《今回の症例》年齢・性別30代・男性既往歴なし併存症健康診断で高血圧症、脂質異常症を指摘され経過観察喫煙歴なし現病歴発熱と咳嗽が出現し、かかりつけ医で吸入薬や経口ステロイド剤が処方されたが改善せず。腹痛が出現し、総合病院を紹介され受診した。胸部~骨盤部造影CTで右下葉に結節影と縦隔リンパ節腫大、肝臓に腫瘤影を認めた。肝生検の結果、原発性肺腺がんcT1cN3M1c(肝転移) stage IVB、ALK融合遺伝子陽性と診断した。右下肢の疼痛と浮腫があり下肢静脈エコーを実施したところ両側深部静脈血栓塞栓症(deep vein thrombosis:DVT)を認めた。肺がんに伴う咳嗽以外に呼吸器症状なし、胸部造影CTでも肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)は認めなかった。体重65kg、肝・腎機能問題なし、血圧132/84 mmHg、脈拍数82回/min。肺がんに対する一次治療としてアレクチニブの投与を開始した。画像所見を図1に、採血データを表1に示す。(図1)中枢性DVT診断時の画像所見画像を拡大する(表1)診断時の血液検査所見画像を拡大するアレクチニブと直接作用型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant:DOAC)の内服を継続したが、6ヵ月後に心膜播種・胸膜播種の出現と肝転移・縦隔リンパ節転移の増悪を認めた。ALK阻害薬の効果持続が短期間であったことから、がん治療について、ALK阻害薬から細胞傷害性抗がん薬への変更を提案したが本人が希望しなかった。よって、ALK阻害薬をアレクチニブからロルラチニブへ変更した。深部静脈血栓症(Venous Thromboembolism:VTE)に関しては悪化を認めなかったためDOACは変更せず内服を継続した。その後、肺がんの病勢は小康状態を保っていたが、1ヵ月後に胸部レントゲン写真で左下肺野にすりガラス陰影が出現し、造影CTを実施したところ新規に左下葉肺動脈のPEを認めた(図2)。(図2)PE発症時の画像所見画像を拡大する【問題】DOAC内服中にVTEが増悪した場合、どのような対応を行うか?1)Farge D, et al. Lancet Oncol. 2022;23:e334-e347.講師紹介

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静脈血栓塞栓症での長期投与の安全性、DOAC vs.ワルファリン

 静脈血栓塞栓症(VTE)に対する経口抗凝固薬の投与期間は、海外では初回3~6ヵ月の治療期間からの延長が推奨される場合があるが、直接経口抗凝固薬(DOAC)またはワルファリンの臨床アウトカムの違いは明らかにされていない。そこで、米国・カルフォルニア大学のMargaret C. Fang氏らが急性VTE患者を対象にDOACまたはワルファリン抗凝固療法の6ヵ月以上の延長による「VTEの再発」「出血による入院」および「全死因死亡の割合」への影響を比較した。その結果、DOAC治療はVTEの再発リスク低下と関連し、臨床アウトカムの観点からVTEの長期治療にDOACの使用を支持すると報告した。JAMA Network Open誌2023年8月1日号掲載の報告。 本研究は2010~18年にVTE発症の診断を受け、6ヵ月以上の経口抗凝固薬(DOACまたはワルファリン)による治療を完了した18歳以上の成人を対象に実施したもの。対象者を最初の6ヵ月の治療期間終了後から抗凝固療法の中止、イベント発生、登録解除・研究追跡期間終了(2019年12月31日)まで追跡調査した。主要評価項目はVTEの再発、出血による入院、全死因死亡の100人年あたりの割合で、解析にはCox比例ハザードモデルが用いられた。 主な結果は以下のとおり。・6ヵ月以上の抗凝固療法を受けたVTE患者計1万8,495例(75歳以上:5,477例[29.6%]、女性:8,973例[48.5%])を解析。そのうちDOACによる治療は2,134例(11.5%)、ワルファリンによる治療は1万6,361例(88.5%)が受けていた。・未調整のイベント発生率について、VTEの再発はDOAC群のほうがワルファリン群よりも低かった(100人年あたりのイベント発生率:2.92[95%信頼区間[CI]:2.29~3.54]vs. 4.14[95%CI:3.90~4.38])。出血は1.02(95%CI:0.66~1.39)vs. 1.81(95%CI:1.66~1.97)、全死因死亡は3.79(95%CI:3.09~4.49)vs. 5.40(95%CI:5.13~5.66)だった。・多変量解析後ではDOAC群でVTEの再発リスク低下と関連していた(調整ハザード比:0.66[95%CI:0.52~0.82])。

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英語で「難しい天秤です」は?【1分★医療英語】第93回

第93回 英語で「難しい天秤です」は?I wonder if we should stop anticoagulation given recent GI bleeding.(最近あった消化管出血を考えると、抗凝固薬をやめるべきなのか悩んでいます) It is a difficult balancing act between risks and benefits.(それはリスクとベネフィットの難しい天秤ですよね)《例文1》The decision to proceed with the surgery requires a careful balancing act.(手術に進むかの決断には注意深いバランスが必要です)《例文2》We need to think about a delicate balancing act between pain control and sedation.(疼痛コントロールと鎮静の間で繊細な天秤を考える必要があります)《解説》医療現場では、相反する2つの事実を天秤に掛け、バランスを取らなければならないことはしばしばです。治療の益と害、手術をすべきかどうか。そんなときに、「対立する2つの間でバランスを取らなければならない=難しい天秤に掛けなければならない」という状況に置かれます。そういった際、患者さんへの説明、あるいは医療者同士の議論の場で有用な表現が、この“balancing act”です。“balancing act”は、本来は「曲芸における綱渡り」を意味する言葉だそうです。綱渡りは、絶妙なバランスを取りながら綱の上を渡る曲芸。医療者にも医療上の絶妙なバランスを求められることがありますが、そのようなバランスを取って決断していくことを“balancing act”という言葉で表現し、「両立させること」「バランスを取ること」という意味を持ちます。たとえば、冒頭の会話のシチュエーションはこのような感じです。心房細動の既往があり、血栓症のリスクが高い患者に消化管出血が起こった。血栓のリスクも、出血のリスクも高く、今後の抗凝固薬をどうすべきか…。この血栓リスク、出血リスクの両者は難しい天秤だと思いますが、それらを慎重に測りながら、どこかに線引きをして決断をしなければなりません。そんなシチュエーションを表現するのに、この“It is a balancing act”は最適な表現です。一般英会話の教科書で見ることは少ないかもしれませんが、医療現場ではよく登場する表現ですので、そのまま覚えてしまうとよいでしょう。講師紹介

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血栓吸引療法前のワルファリン服用は気になる?(解説:後藤信哉氏)

 血栓溶解療法、冠動脈インターベンション(PCI)などの急性期再灌流療法の普及により、急性心筋梗塞の生命予後、心不全リスクともに劇的に改善した。重要臓器の虚血性障害との意味では脳梗塞と心筋梗塞は類似性が高い。実際に脳を灌流する太い血管の閉塞による血栓を急性期に吸引・除去すれば、脳梗塞の予後も改善できる。 血管が血栓性に閉塞することにより心筋梗塞、脳梗塞は発症する。閉塞を解除すれば臓器への血流が再開する。臓器の虚血性障害は改善される。しかし、再灌流は利点だけではない。虚血臓器に血液が再灌流されると臓器の再灌流障害も起こる。脳組織は脆弱なので再灌流障害が脳出血の原因になるリスクはある。さらに、抗凝固療法を施行すると出血巣が大きくなるリスクがある。 脳卒中予防のためにワルファリンを服用している症例では、再灌流障害による出血リスクが高い可能性も想定される。本研究は後ろ向き研究ではあるが、7日以内にワルファリンを服用している症例でも血栓吸引療法後の脳出血リスクは非服用例と差がないことを示唆した。後ろ向きの観察研究ではあるが、臨床データの公開には価値があることを示した。

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オズウイルス感染症に気をつけろッ! その1【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さん、こんにちは。大阪大学の忽那です。この連載では、本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。本日のテーマは「オズウイルス感染症」です。皆さんはすでにオズウイルス感染症についてのニュースはご覧になったでしょうか。2023年6月23日、国立感染症研究所から日本初、いやむしろ世界初となるオズウイルス感染症の症例が報告されました。世界で初めて報告されたオズウイルス感染症例症例の概要は以下の通りです。2022年初夏、高血圧症・脂質異常症を基礎疾患に持ち、海外渡航歴のない茨城県在住の70代女性に倦怠感、食欲低下、嘔吐、関節痛が出現し、39℃の発熱が確認された。肺炎の疑いで抗菌薬を処方されて在宅で経過を観察していたが、症状が増悪し、体動困難となったため再度受診し、その後、紹介転院となった。身体所見上は右鼠径部に皮下出血がみられたが皮疹はなかった。血液検査では、血小板減少(6.6万/µL)、肝障害、腎障害、炎症反応高値(CRP22.82mg/dL)、CK高値(2,049U/L、CK-MB14IU/L)、LDH高値(671U/L)、フェリチン高値(10,729ng/mL)が認められた。入院時、右鼠径部に飽血に近い状態のマダニの咬着が確認されたため、マダニ媒介感染症が疑われたが、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)やリケッチア症は陰性であった。入院後、心筋炎によるものと考えられる房室ブロックが出現し、ペースメーカーが留置され、心筋炎が疑われた。入院20日目には意識障害が出現し、多発脳梗塞が確認されたため抗凝固療法を開始した。治療継続中の入院26日目、突如心室細動が生じて死亡し、病理解剖が行われた。キーワード的には、「マダニ刺咬後の発熱」「血小板減少」「肝障害」「腎障害」「CK上昇」「フェリチン高値」「心筋炎」「凝固障害」などでしょうか。マダニ媒介感染症は流行地域も重要ですので、「茨城県」というのも大事な情報です。とくに心筋炎については、他のマダニ媒介感染症でもあまり報告がなく、オズウイルス感染症に特徴的なのかもしれません。とはいえ、まだ世界で1例ですので、オズウイルス感染症の典型的な経過なのかもよくわかっていません。オズウイルス肉眼で確認この症例は、原因不明でありましたが、茨城県衛生研究所において実施した次世代シーケンサー(NGS)によるメタゲノム解析とMePIC v2.0を用いた検索で、血液、尿などの検体からオズウイルスの遺伝子断片が検出され、国立感染症研究所でウイルスが分離され、遺伝子の配列が解析された結果、オズウイルスであることが確認されました(図1)。図1 患者検体から分離されたオズウイルス粒子の電子顕微鏡写真画像を拡大する(出典:国立感染症研究所.IASR.「初めて診断されたオズウイルス感染症患者」)本症例で初めてオズウイルスがみつかったわけではなく、実は以前からオズウイルスの存在は知られていました。ヒトで世界初の感染例なのに、その前からウイルスの存在が知られており、本症例ではそのオズウイルスの遺伝子断片を検出するためのRT-PCR検査まで行われています。これはなぜかと言うと、マダニからオズウイルスからみつかっており、「いつかこのようなオズウイルスによるヒト感染例が現れるのではないか」と予想され検査体制も整えられていたためです。ぶっちゃけ、マダニ媒介感染症の世界では、SFTSがみつかって以降、ヒトでの感染例が出る前から、マダニが持っているウイルスを先回りして調べるというのがトレンドとなっており、このオズウイルスも2018年に愛媛県のタカサゴキララマダニというマダニからオズウイルスがみつかっていました1)(なお、このオズウイルスは現時点では日本以外の国ではみつかっていません)。オズウイルスの正体とは、バーボンとの関係はオズウイルス(通は「OZV」と呼ぶ)は、オルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に属するウイルスです。オルソミクスウイルス科と言えばインフルエンザウイルスが有名ですね。オルソミクスウイルスは、(1)Influenzavirus A、(2)Influenzavirus B、(3)Influenzavirus C、(4)Thogotovirus(トゴトウイルス)、(5)Isavirus(アイサウイルス)の5つの属に分類されます。トゴトウイルス属には他にもトゴトウイルス、ドーリウイルスなどがあり、とくにオズウイルスはアメリカで報告されている「バーボンウイルス」に近縁のウイルスです。えっ…バーボンウイルスを知らないッ!?バーボンウイルス感染症は、2014年にカンザス州東部のバーボン郡の住民が感染したとして初めて報告され2)、その後ミズーリ州でも観察されている感染症です。お酒のバーボンとは関係ありません。このバーボンウイルスも致死率の高い感染症であり、その類縁ウイルスということでオズウイルスもヒトが感染すれば重症度は高いのではないかと予想されていました。ではわが国で今後もオズウイルス感染症の症例が報告される可能性はあるのでしょうか?次回、その可能性を解説します!1)Ejiri H, et al. Virus Res. 2018;249:57-65.2)Kosoy OI, et al. Emerg Infect Dis. 2015;21:760-764.

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ショッピングカートで不整脈を検出できるようになる?

 スーパーマーケット(以下、スーパー)のショッピングカートが脳卒中予防に役立つ日が来るかもしれない。英リバプール・ジョン・ムーア大学教授のIan Jones氏らによる研究で、ハンドルバーに心電図センサーを内蔵したショッピングカートを用いたスクリーニングにより、脳卒中の主な原因である心房細動を持つ人を見つけ出せる可能性が示された。この研究結果は、欧州心臓病学会(ESC)の構成団体の一つであるAssociation of Cardiovascular Nursing & Allied Professions(心血管看護・および関連専門職協会)の年次集会(ACNAP 2023、6月23~24日、英エディンバラ)で発表された。 このショッピングカートを用いたスクリーニング方法は、未診断の心房細動を持つ買い物客を見つけ出すことを目的としている。米アーマンソンUCLA心筋症センターの所長を務めるGregg Fonarow氏は、「心房細動は無症状なこともあるため、脳卒中を発症して初めて心房細動の診断を受ける人もいる。複数の研究から、未診断の心房細動を持つ成人の数は、米国だけで75万~150万人に上ると推定されている」と説明する。一方、Jones氏らによると、世界の診断例と未診断例を含めた心房細動の患者数は4000万人を超えると推定されている。 こうした理由から、できるだけ早く心房細動を持つ人を見つけ出すためのスクリーニング方法に対する関心が高まりつつあるとFonarow氏は説明。「スクリーニングによって心房細動を早期の段階で診断し、脳卒中予防のために経口抗凝固薬による抗凝固療法(抗血栓療法)を開始できる可能性がある」と話す。 Jones氏らは今回、心電図センサーがハンドルに装備された10台のショッピングカートを使った実験を、2カ月にわたり、4カ所のスーパーで実施した。これらのスーパーには、薬局も併設されていた。 試験参加者が、ショッピングカートのハンドルバーを1分以上握っている間に、ハンドルバーの心電図センサーがその人の心拍リズムを評価し、問題がなければセンサーが緑色に、問題が検出された場合には赤色に点灯する。緑色に点灯した買い物客に対しては、その後、手首の脈拍測定によるスクリーニングを実施し、ハンドルバーの心電図センサーによるスクリーニング結果の正確性を確認した。一方、赤色に点灯した買い物客に対しては、施設に併設する薬局の薬剤師が手首の脈拍測定によるスクリーニングを行うとともに、ショッピングカートに装備されたものとは異なるセンサーによるスクリーニングも行った。さらに、赤色に点灯した買い物客の心電図データは循環器専門医によっても確認された。 最終的に2,155人の買い物客がこの研究に参加した。研究参加者には、1)心房細動は検出されなかった、2)心房細動が検出され、確認された(2週間以内に循環器専門医の受診を予約)、3)心房細動の有無が不確定であり、スクリーニングのやり直しも可能、のいずれかの結果が示された。 その結果、220人が、センサーが赤色に点灯するか手首の脈拍測定で不整脈が検出される、あるいはその両方が当てはまり、心房細動の疑いありと判定された。このうち、最終的に59人が心房細動と診断された。残りの参加者のうち、115人では心房細動は検出されず、46人で不確定との結果が示された。心房細動と診断された59人の平均年齢は74歳で、女性が43%を占めていた。また、59人中20人は、すでに心房細動を持っていることを把握していたが、その他の人は、今回の研究で初めて心房細動と診断された。 全体的な精度については、このショッピングカートによるスクリーニングで心房細動が検出された買い物客のうち、実際に心房細動と診断された人の割合は4分の1から2分の1程度にとどまっていた(陽性的中率0.24〜0.56)。つまり、このスクリーニング方法では、多くの人が、実際には心房細動を持っていないのに持っていると誤って診断されていたということだ。同時に、実際に心房細動を持っていた人たちの約半数で、このスクリーニング方法では心房細動が見逃されていた(陰性的中率0.55〜1.00)。 ただし、今回の研究では、無作為に選ばれた買い物客の3分の2は研究参加を快諾していたことから、この方法は一般の人たちに受け入れられやすく、精度の問題が改善されれば今後も研究を重ねていく価値があるとJones氏は主張している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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脳出血患者の収縮期血圧を1時間以内に130~140mmHgにコントロールすると通常治療と比較して6ヵ月後の神経学的予後(modified Rankin Scale)が良い(解説:石川讓治氏)

 脳出血患者の急性期の血圧をどのようにコントロールすればよいのかという問題は、徐々に変化してきた。『脳卒中治療ガイドライン』の2009年版においては、「脳出血急性期の血圧は、収縮期血圧が180mmHg未満または平均血圧が130mmHg未満を維持することを目標に管理する」ことが推奨されていたが、2015年版では、「できるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満に降下させ、7日間維持することを考慮しても良い」となり、2021年版では、「脳出血急性期における血圧高値をできるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満へ降圧し、7日間維持することは妥当であり、その下限を110mmHg超に維持することを考慮しても良い」となった。 本研究において、低および中所得国(9ヵ国)で行われた多施設共同研究で、発症6時間以内の脳出血患者を対象に、(1)1時間以内の収縮期血圧(140mmHg未満を目標、130mmHgを下限)、(2)できるだけ早期の血糖(非糖尿病患者では6.1~7.8mmol/L、糖尿病患者では7.8~10.0mmol/L)、(3)1時間以内の体温(37.5度未満)、(4)ワルファリン内服患者においては1時間以内にINR1.5未満を目標に速やかにコントロールを行うことで、6ヵ月後に評価したmodified Rankin Scaleにおける神経学的予後が、通常治療よりも良好であったことが報告された。今回の研究の結果から、脳出血急性期の積極的な降圧を「考慮しても良い」や「妥当である」といった表現から、今後は積極的な推奨にするのかどうかが議論になると思われた。 本研究は低~中所得国で行われており、それぞれの国における通常治療がどうであったのかが不明であった。収縮期血圧を140mmHgにコントロールすることが、通常治療(ガイドライン)においてすでに妥当であるとされているわが国で同様の試験が施行された場合、同じ結果が得られるのかが疑問であった。また、本研究の血圧コントロールは130~140mmHgといった非常に狭い範囲で行われている。実臨床において、とくに高齢者では、収縮期血圧の変動を10mmHgの幅に維持することは容易ではないと思われた。本研究における実際の収縮期血圧は、論文のFigureにおいては、1時間後では150mmHg程度であり、約4時間後に140mmHg未満に達していたようである。

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急性脳梗塞の血栓除去術、術前ビタミンK拮抗薬は出血リスク?/JAMA

 急性期脳梗塞で血管内血栓除去術(EVT)を受けた患者では、術前のビタミンK拮抗薬(VKA)の使用と術後の症候性頭蓋内出血(sICH)には関連がないが、国際標準比(INR)が1.7を超えるサブグループではVKAの使用はsICH発生のリスクを高めることが、米国・デューク大学医学大学院のBrian Mac Grory氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2023年6月20日号で報告された。米国594病院の後ろ向きコホート研究 研究グループは、EVTを受ける脳梗塞患者における術前のVKAの使用とアウトカムとの関連を明らかにする目的で、後ろ向きコホート研究を行った(ARAMIS registry[Daiichi Sankyo、Genentech、Janssenの助成で運営]の支援を受けた)。 解析には、米国心臓協会(AHA)のGet With the Guidelines-Stroke(GWTG-Stroke) Programの2015年10月~2020年3月のデータを用いた。対象は、米国の594の病院に入院し、最終健常確認時刻から6時間以内にEVTの施行が選択された大血管閉塞による急性期脳梗塞患者であった。VKA以外の抗凝固薬や抗凝固薬の併用療法を受けた患者は除外した。 主要エンドポイントはsICHの発生であり、病院到着前7日以内のVKAの使用の有無別に評価した。5つの副次エンドポイントにも有意差なし 3万2,715例(年齢中央値72歳[四分位範囲[IQR]:60~82]、女性50.7%)が登録された。このうち3,087例(9.4%)(INR中央値:1.5[IQR:1.2~1.9])が病院到着前にVKAを使用しており、2万9,628例(90.6%)(1.1[1.0~1.1])は使用していなかった。 sICHの発生率は、VKA使用群6.8%(211/3,087例)、非使用群6.4%(1,904/2万9,628例)であり、両群間に有意な差は認められなかった(補正後オッズ比[OR]:1.12[95%信頼区間[CI]:0.94~1.35]、補正後リスク差:0.69%[95%CI:-0.39~1.77])。 また、次の5つの副次エンドポイントにも有意差はみられなかった。(1)36時間以内の生命を脅かす重篤な全身性出血(VKA使用群1.2% vs.非使用群1.0%)、(2)その他の重篤な合併症(5.1% vs.5.0%)、(3)再灌流療法の合併症(12.8% vs.12.2%)、(4)院内死亡(16.2% vs.13.1%)、(5)院内死亡またはホスピスへの転院(27.1% vs.20.6%)。 入院時INRが記録された2,415例のうち、1,585例はINRが1.7以下(INR中央値:1.3[IQR:1.1~1.5])、830例は1.7以上(2.1[IQR:1.9~2.5])であった。sICHのサブグループ解析では、INR 1.7以上の830例におけるsICHの発生率は、VKA使用群が8.3%と、非使用群の6.4%に比べ有意に高率であった(補正後OR:1.88[95%CI:1.33~2.65]、補正後リスク差:4.03%[95%CI:1.53~6.53])のに対し、1.7以下の1,585例では、それぞれ6.7%、6.4%であり、両群間に有意差はなかった(1.24[0.87~1.76]、1.13%[95%CI:-0.79~3.04])。 著者は、「本研究では、EVTを受けることが決まった患者のみを対象としており(EVTを受ける可能性があり、VKA治療を受けている患者全体ではない)、そのため指標イベントバイアス(index event bias)や合流点バイアス(collider bias)が生じる可能性がある。したがって、試験デザインによるバイアスの影響を受けやすく、解釈には注意を要する」としている。

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脳卒中既往のある心不全患者の心血管リスク、HFrEFとHFpEFで検討

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の患者における脳卒中既往と心血管イベント(心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞)発生率を調べたところ、左室駆出率にかかわらず、脳卒中既往のある患者はない患者に比べて心血管イベントリスクが高いことが示された。英国・グラスゴー大学のMingming Yang氏らが、European Heart Journal誌オンライン版2023年6月26日号で報告。 本研究は、HFrEFとHFpEFの患者が登録されていた7つの臨床試験のメタ解析である。 主な結果は以下のとおり。・脳卒中既往があったのは、HFrEF患者2万159例中1,683例(8.3%)、HFpEF患者1万3,252例中1,287例(9.7%)であった。・左室駆出率に関係なく、脳卒中既往のある患者は血管合併症が多く、心不全も悪化していた。・HFrEF患者では、心血管死/心不全入院/脳卒中/心筋梗塞の複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり18.23(95%信頼区間[CI]:16.81~19.77)に対し、既往なしで13.12(95%CI:12.77~13.48)であった(ハザード比[HR]:1.37、95%CI:1.26~1.49、p<0.001)。・HFpEF患者では、複合アウトカム発生率は、脳卒中既往ありで100人年当たり14.16(95%CI:12.96~15.48)に対し、既往なしで9.37(95%CI:9.06~9.70)であった(HR:1.49、95%CI:1.36~1.64、p<0.001)。・脳卒中既往ありの患者では、複合アウトカムの各項目の頻度が高く、またその後の脳卒中リスクは2倍だった。・脳卒中既往ありの患者は、心房細動患者の30%が抗凝固療法を受けておらず、動脈疾患患者の29%がスタチンを服用していなかった。また、HFrEF患者の17%、HFpEF患者の38%が収縮期血圧をコントロールされていなかった(140mmHg以上)。 著者らは、「脳卒中既往のある心不全患者は心血管イベントリスクが高く、ガイドライン推奨の治療を行っていない患者をターゲットにすることが、この高リスク集団の予後を改善する方法かもしれない」と考察している。

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CAT対策は重要!(解説:後藤信哉氏)

 日本の死因の第1位は悪性腫瘍である。悪性腫瘍治療の選択肢は増えた。抗がん剤治療では体内で腫瘍細胞が壊れることになる。組織の壊れたところでは血栓ができやすい。Cancer Associated Thrombosis(CAT)対策は日本でも真剣に考える必要がある。 いわゆるDOACは使いやすい。心房細動の脳卒中治療でも、凝固異常を合併しない静脈血栓でも広く使用されている。本研究ではevidenceの豊富な低分子ヘパリンとDOACの比較試験を行った。症例数は671例と少なく、DOACでも低分子ヘパリンに劣らないことを示す試験であった。CAT対策の選択肢にDOACが増えるのは悪くない。しかし、心房細動ほどのインパクトもない。抗がん剤治療中では食欲がないかもしれない。経口摂取はむしろつらい可能性もある。本試験はDOACの可能性を示唆したが、CATの症例の状況を考えると静脈血栓症の適応のない日本の状況が心配になる。

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妊娠・出産対策を真剣に考えよう!(解説:後藤信哉氏)

 2回以上流産など妊娠の中断をした経験のある、先天性の凝固異常の症例を対象としたランダム化比較試験である。低分子ヘパリンの使用により出産に至る確率を上げられるだろうか? 血栓性素因の症例では妊娠中に静脈血栓症リスクが上昇する。妊娠を目指す時点からランダム化比較試験に参加している。低分子量ヘパリン抗血栓効果により静脈血栓症を予防できるかもしれない。凝固異常は不育症に寄与している可能性もあるかもしれない。 きわめて挑戦的な研究であった。しかし、結果として低分子量ヘパリンを使用しても安全な出産に至る確率は増加しなかった。日常臨床の疑問を解決するために簡素なランダム化比較試験を施行できる環境が日本でもできるとよい。

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心房細動の脳梗塞後、抗凝固療法開始は早いほうがよい?(解説:後藤信哉氏)

 心房細動症例の脳卒中リスクは洞調律例よりも高いとされる。しかし、脳梗塞急性期の抗凝固療法では梗塞巣からの出血が心配である。DOAC時代になって、ワルファリンの時代よりも抗凝固療法に対する心理的ハードルは低下した。心房細動があり、脳梗塞を経験した症例での早期(48時間以内)と晩期(6~7日後)のDOAC療法による30日以内の脳梗塞・全身性塞栓症・大出血・症候性頭蓋内出血の発現リスクをランダムに比較した。 本研究は、実臨床を反映したシンプルな仮説検証試験である。実臨床の中で、シンプルな仮説検証を繰り返しながら医療の質をシステム的に改善するアプローチとして価値のある研究である。 本研究はSwiss National Science Foundationなどによる助成研究である。日本でも公的資金により、CROなどを使用せずに、シンプルに仮説検証研究を安価に施行できるようになるとよいと思う。

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がん患者のVTE再発予防、DOAC vs.低分子ヘパリン/JAMA

 静脈血栓塞栓症(VTE)を有した成人がん患者のVTE再発予防に関して、追跡期間6ヵ月にわたり、直接経口抗凝固薬(DOAC)は低分子ヘパリン(LMWH)に対して非劣性であったことが、米国・ハーバード大学医学大学院のDeborah Schrag氏らによる検討で示された。著者は、「この結果は、がん患者のVTE再発予防に対してDOACの使用を支持するものである」とまとめている。VTEを有するがん患者のVTE再発予防にはLMWHの長期投与が推奨されており、DOACの有効性との比較は検討されていなかった。JAMA誌2023年6月2日号掲載の報告。VTEを呈したがん患者671例を対象に無作為化試験 研究グループは、VTEの再発予防と出血頻度に関して、DOACとLMWHの有効性を比較する非盲検非劣性無作為化試験を行った。米国のがん診療センター67施設で、臨床診断または画像診断でVTEが新規に認められた、がん(あらゆる浸潤性固形がん、リンパ腫、多発性骨髄腫、慢性リンパ性白血病)患者671例を登録した。登録期間は2016年12月~2020年4月、最終フォローアップは2020年11月。 被験者は無作為に1対1の割合でDOAC群(335例)またはLMWH群(336例)に割り付けられ、6ヵ月間または死亡まで追跡を受けた。担当医と患者は、いずれのDOACまたはいずれのLMWH(もしくはフォンダパリヌクス)を選択可能であった。担当医は用量も選択可能であった。 主要アウトカムは、6ヵ月時点のVTE再発率。DOACのLMWHに対する非劣性は、割り付け治療を1回でも投与された無作為化集団で、DOACのLMWHに対する差の片側95%信頼区間(CI)の上限値が3%未満の場合と定義した。 副次アウトカムは、大出血など6つが事前に規定され、非劣性マージンは2.5%とされた。6ヵ月時点のVTE再発率、DOAC群6.1%、LMWH群8.8%で非劣性を確認 登録期間に671例が無作為化され、638例(95%)が試験を完了した(年齢中央値64歳、女性353例[55%])。投与を1回以上受けたのは、DOAC群330例、LMWH群308例であった。 VTE再発率は、DOAC群6.1%、LMWH群8.8%であり(群間差:-2.7%、片側95%CI:-100~0.7)、事前規定の非劣性基準を満たした。 6つの事前規定の副次アウトカムは、いずれも統計学的有意差が認められなかった。大出血の発生は、DOAC群5.2%、LMWH群5.6%であり(群間差:-0.4%、片側95%CI:-100~2.5)、非劣性基準を満たさなかった。 重篤な有害事象の発生は、DOAC群33.8%、LMWH群35.1%で報告された。最もよくみられた重篤な有害事象は、Grade3以上の貧血(DOAC群3.0%、LMWH群1.0%)と死亡(21.5%、18.4%)であった。

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