サイト内検索|page:9

検索結果 合計:2178件 表示位置:161 - 180

161.

第116回 アメリカで百日咳が急増、警告

前年比5倍で急増ペースの百日咳アメリカでは、百日咳の報告数が、前年比5倍に増加していると報道されています。え?百日咳?マイコプラズマじゃなくて?米国疾病予防管理センター(CDC)1)によると、2024年では累計1万5,661件の百日咳症例が確認されたと報告しています。昨年の同時期の3,635件と比べると「急増」と言ってもいいでしょう2)。2014年以来、10年ぶりの水準とされています。ウィスコンシン州では前年比約24倍、マサチューセッツ州に至っては前年比約51倍となっています。この理由として「ワクチン接種の忌避」があるようです。ワクチン反対の感情の高まりが感染拡大に影響していると指摘されているのです。なんか最近ワクチンネタが多いこの連載ですが、なんでもかんでもワクチンと結びつけようとまでは思っていません。ただ、そういう忌避が次の感染症を引き起こすトリガーになっているという指摘はほうぼうから上がっています。しかしまあ、さすがに百日咳ワクチンは打っておいたほうがよいでしょう。日本の4種混合ワクチン接種率はきわめて高い(2歳児の接種完了率は97%以上)ですが、実は、世界的にはジフテリア、破傷風、百日咳の混合ワクチンを受けているのは84%と低い状況です。この数値だけをみると、日本で百日咳が問題になることはそれほどないかもしれません。ただ、日本では、百日咳ワクチンの接種開始の月齢が早期化しており、実は3歳以上で百日咳ワクチンを接種される機会が多くないのです。そのため、5歳頃には抗PT抗体の保有率が20%台にまで低下するとされています。鑑別診断に入れよう若い頃は、ちらほら百日咳っぽい患者さんを診たことがあるのですが、コロナ禍以降は、そもそも咳嗽の「受診遅れ」がひどく、鑑別診断にすら挙がりにくくなりました(もしそうでも抗菌薬での介入が難しいフェーズに入っているため)。「咳で悩んでいるんです」「ほうほう、どのくらいですか?」「1年前からです」なんて会話もざらです。2018年から5類感染症(全数把握対象疾患)に定められたので、一時的に診断ムーブメントが勃興しましたが、最近は咳のセミナーなどでも百日咳という鑑別診断をとんと耳にしません。昔は、抗体価の結果が返ってくる頃に治療を始めても遅かったので、経験的治療を導入することもありました。現在の診断においては、イムノクロマト法や核酸増幅法が使用可能です。咳が強めだとマイコプラズマかもしれないということで、マクロライドが入ることも多いと思います。実際、これは百日咳にも有効なので、どちらもカバーできる優れものです。それでもなお、頭のどこかで「百日咳かもしれない」と思いながら、咳嗽診療に当たるべきでしょう。ちなみに、2024年4月1日から、これまで使われてきた4種混合ワクチンにヒブワクチンを加えた5種混合ワクチンが定期接種の対象となっています。親の立場としては非常にラクになります。参考文献・参考サイト1)CDC. Pertussis Surveillance and Trends2)Weekly cases of notifiable diseases, United States, U.S. Territories, and Non-U.S. Residents week ending September 21, 2024 (Week 38)

162.

わが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」【最新!DI情報】第24回

わが国初の経鼻弱毒生インフルワクチン「フルミスト点鼻液」今回は、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(商品名:フルミスト点鼻液、製造販売元:第一三共)を紹介します。本剤は、国内初の経鼻インフルエンザワクチンであり、針穿刺の必要がなく注射部位反応もないことから、患者負担の軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、インフルエンザの予防の適応で、2023年3月27日に製造販売承認を取得し、2024年8月13日に製造販売承認事項一部変更承認を取得しました。<用法・用量>2歳以上19歳未満の人に、0.2mLを1回(各鼻腔内に0.1mLを1噴霧)、鼻腔内に噴霧すします。医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができます。<安全性>重大な副反応として、ショックおよびアナフィラキシー(いずれも頻度不明)があります。その他の副反応として、鼻閉・鼻漏(59.2%)、咳嗽、口腔、頭痛(いずれも10%以上)、鼻咽頭炎、食欲減退、下痢、腹痛、発熱、活動性低下・疲労・無力症、筋肉痛、インフルエンザ(いずれも1~10%未満)、発疹、鼻出血、胃腸炎、中耳炎(いずれも1%未満)などがあります。本剤は安定剤として精製ゼラチンを含有していますので、ゼラチンに対してショックやアナフィラキシー(蕁麻疹、呼吸困難、血管性浮腫ほか)などの過敏症の既往のある人には注意が必要です。また、製造工程由来不純物として、卵由来の尿膜腔液成分(卵白アルブミン、タンパク質および鶏由来DNA)が混入する可能性があるため、鶏卵、鶏肉、その他鶏由来のものに対してアレルギーを呈する恐れのある人に対しても注意が必要です。本剤は弱毒化したウイルスを使った「生ワクチン」なので、妊婦や免疫抑制状態の人には使用できません。<患者さんへの指導例>1.この薬は、鼻へ噴霧するタイプのインフルエンザワクチンです。鼻へ噴霧するため、針を刺す必要がありません。2.接種の対象は、2~18歳の人です。3.この薬は、噴霧後に積極的に吸入(鼻ですする)する必要はありません。4.まれにショック、アナフィラキシーが現れることがあるので、いつもと違う体調変化や異常を認めた場合は、速やかに医師に連絡してください。<ここがポイント!>インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性呼吸器感染症であり、日本ではインフルエンザに関連した超過死亡数が年間1万例を超えると推定されています。インフルエンザワクチンの接種は、インフルエンザの発症予防やインフルエンザに関連した重度合併症を防ぐ主要な手段です。フルミスト点鼻液は、日本で初めて承認された経鼻投与型の3価の弱毒生インフルエンザワクチンであり、A型株(A/H1N1およびA/H3N2)とB型株(B/Victoria系統)のリアソータントウイルス株を含有しています。本剤の特徴は、「低温馴化」、「温度感受性」および「弱毒化」であり、噴霧された弱毒生ウイルスが鼻咽頭部で増殖し、自然感染(野生株の感染)後に誘導される免疫と類似した、局所および全身における液性免疫、細胞性の防御免疫を獲得できます。また、本剤は、針穿刺の必要がなく、注射部位反応もないことから、被接種者の心理的・身体的負担の軽減も期待されています。日本では、2024~25シーズンから使用が認められました。日本人健康小児(2歳以上19歳未満)を対象とした国内第III相試験(J301試験)において、抗原性を問わないすべての分離株によるインフルエンザ発症割合は、本剤群で25.5%(152/595例)、プラセボ群で35.9%(104/290例)であり、本剤群のプラセボ群に対する相対リスク減少率は28.8%(95%信頼区間:12.5~42.0)でした。95%信頼区間の下限は事前に設定した有効性基準(0%)を上回っており、プラセボに対する本剤の優越性が検証されました。日本小児科学会より「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方」が出され、使い分けが示されました。2〜19歳未満に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンを同等に推奨していますが、喘息患者、授乳婦、周囲に免疫不全患者がいる場合は不活化インフルエンザHAワクチンを推奨しています。また、生後6ヵ月〜2歳未満、19歳以上、免疫不全患者、無脾症患者、妊婦、ミトコンドリア脳筋症患者、ゼラチンアレルギーを有する患者、中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者に対しては、不活化インフルエンザHAワクチンのみが推奨されています。参考日本小児科学会:経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方

163.

薬剤耐性に起因する死者数、2050年までに3900万人以上に/Lancet

 微生物に対して抗菌薬が効かなくなる薬剤耐性(antimicrobial resistance;AMR)が健康上にもたらす脅威が増大している。こうした中、AMRに対する措置を早急に講じない限り、今後25年の間にAMRに起因する世界の死者数が3900万人に上るとの予測が示された。AMRに関するグローバル研究(GRAM)プロジェクトによるこの研究結果は、「The Lancet」に9月16日掲載された。 AMRは、すでに世界規模の健康問題として広く認識されており、その影響は今後数十年でさらに大きくなると予想されている。しかし、これまでAMRの歴史的傾向を評価し、AMRが今後、世界に与える影響を詳細に予測する研究は実施されていなかった。 AMRの真の規模を初めて明らかにしたのは、2022年に発表された最初のGRAM研究である。この研究では、2019年の世界におけるAMR関連の死者数は、HIV/AIDSやマラリアによる死者数を上回り、120万人の直接的な死因になるとともに、495万人の死因にも関与していることが示唆された。 今回、報告された新たなGRAM研究では、204の国と地域のあらゆる年齢の人を対象に、22種類の病原体、84種類の病原体と薬剤の組み合わせ、および髄膜炎、血流感染症などの11種類の感染症に関連する死者数が推定された。推定は、1990年から2021年までの病院の退院データ、死因データ、抗菌薬使用調査など、さまざまな情報源からの5億2000万件の個人記録に基づいて算出された。また、得られた推定値に基づき、AMRが2022年から2050年の間に健康に与える影響についても推定された。 その結果、1990年から2021年の間に、AMRを直接原因として毎年100万人以上が死亡していたものと推定された。この間のAMRによる死亡の傾向には年齢層により大きな違いが見られ、5歳以下の子どもでは、AMRを直接原因とする死者数は59.8%、AMR関連の死者数は62.9%減少していたが、70歳以上の高齢者では同順で89.7%と81.4%増加していたと推定された。 現在の傾向に基づくと、今後数十年間でAMRによる死者数は増加の一途をたどり、2050年までにAMRを直接原因とする死者数は年間191万人に達すると予測された。これは、2021年(114万人)から67.5%の増加に相当する。同様に、2050年までにAMR関連の死者数も2021年(471万人)から74.5%増の822万人に達すると予測された。2025年から2050年までの間の累計死者数は、AMRを直接原因とする死者数が3900万人以上、AMR関連の死者数で1億6900万人以上に上ると推定された。さらに、子どものAMRによる死者数は今後も減少し続ける一方で、70歳以上での死亡者数は2050年までに146%増加する可能性があると予測された。 論文の筆頭著者である、米ワシントン大学保健指標評価研究所のMohsen Naghavi氏は、「これらの結果は、AMRが何十年にもわたって世界的な健康上の重大な脅威であり、また、この脅威が今も拡大していることを浮き彫りにしている」と話す。 一方、論文の共著者の一人であるノルウェー公衆衛生研究所のStein Emil Vollset氏は、「この問題が致命的な現実となるのを防ぐためには、ワクチン接種や新薬の開発、医療の向上、既存の抗菌薬へのアクセスの改善、そしてそれらの最も効果的な使用方法に関する指導などを含む、重篤な感染症リスクを減じるための新しい戦略が緊急に必要だ」と述べている。

164.

コロナワクチン接種後心筋炎とコロナ感染後心筋炎の18ヵ月後予後〜関心はさらに長期的予後に(解説:甲斐久史氏)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、COVID-19 mRNAワクチン接種と抗SARS-CoV-2ウイルス薬の普及、さらには急性期における重症化予防と重症例治療法の確立により、パンデミックの収束を迎え、いまやCOVID-19と共生する時代“Withコロナ時代”となった。今後は、感染者の10〜20%に長期間認められる罹患後症状(PCC:post-COVID-19 condition)をはじめ、未知の後遺症など長期的・超長期的影響が大きな課題となる。その1つが、COVID-19罹患後心筋炎やCOVID-19ワクチン接種後心筋炎である。 COVID-19罹患後心筋炎は、COVID-19感染者10万人当たり約150例(0.15%)に発症する。ワクチン接種後心筋炎は、mRNAワクチン接種(初回、2回目)10万回当たり1例(0.01%)に発症するが、10〜20代男性の2回目接種では発症率0.16%である。COVID-19罹患後心筋炎およびワクチン接種後心筋炎は、ほとんどが軽症であり、対症療法により軽快する。パンデミック初期には、通常の心筋炎と比較して劇症化率が高いものの、劇症化しても適切な治療により回復すると報告された。しかしながら、長期的な心筋炎再発・慢性化、心血管疾患発症や死亡のリスクについては検討が必要である。 Laura Semenzato氏らは、フランスのNational Health Dataシステムに登録された心筋炎4,635例を、ワクチン接種後心筋炎(ワクチン接種後7日以内発症)558例、COVID-19罹患後心筋炎(COVID-19発症30日以内発症)298例とその他の通常型心筋炎3,779例に分類し、退院後18ヵ月間の心筋心膜炎による再入院、その他の心血管イベント、総死亡およびそれらの複合アウトカムと医療管理状況を検討した。標準化複合アウトカム発生率は、通常型心筋炎の13.2%と比較して、ワクチン接種後心筋炎では5.3%と有意に低く、COVID-19罹患後心筋炎では12.1%と同等であった。総死亡は、ワクチン接種後心筋炎で0.3%とCOVID-19罹患後心筋炎の1.3%、通常型心筋炎の1.3%と比較して低値であったが、心筋心膜炎による再入院とその他の心血管イベントは3群間で差は無かった。また、心筋心膜炎以外による全入院は、ワクチン接種後心筋炎12.2%で、COVID-19罹患後心筋炎21.1%、通常型心筋炎19.6%より有意に低くかった。また、退院から18ヵ月後までの画像診断検査、トロポニン検査、負荷テストなどの検査や薬剤処方の頻度は、ワクチン接種後心筋炎およびCOVID-19罹患後心筋炎と通常型心筋炎で差はなかった。 本研究は、フランス全国に及ぶ大規模で悉皆性の高いデータベースに基づき、かつ18ヵ月というこれまでで最も長期間にわたる検討である。COVID-19罹患後心筋炎では、心臓MRIを用いた検討により、退院3ヵ月後の42%に心機能低下、26%に心筋炎症所見が認められたという報告や、急性期には入院を必要としない軽症例でも1年後になんらかの自覚症状が残存しているものでは、びまん性心筋浮腫所見が多くみられるという報告があり、慢性期における心不全など心血管イベント増加が危惧された。しかしながら、本研究により、少なくとも、発症18ヵ月の時点では、COVID-19罹患後心筋炎の心筋炎再発、心血管合併症発症と死亡のリスクは通常型心筋炎と同等であり、ワクチン接種後心筋炎ではさらにリスクが低いことが明らかとなった。医療処置や薬物処方については、心筋炎発症後18ヵ月間としては、わが国でも通常診療と思われる範囲内であり、各群ともに経時的に減少傾向である点に注目したい。 COVID-19パンデミックという特殊な状況下で、無症状やきわめて軽症なCOVID-19に対しても、心臓MRIや血中トロポニン検査を用いた高感度な心筋炎スクリーニングが行われた。その結果、感染急性期のみならず数ヵ月間にわたり潜在性心筋炎症、心機能障害が持続することが明らかとなっている。これらが今後、慢性心筋炎や心不全などの発症リスクとなるかについて、さらに数年、数十年といった時間軸での長期的・超長期的観察が必要となる。COVID-19罹患後心筋炎やワクチン接種後心筋炎で得られる知見の蓄積を通じて、今後、通常型心筋炎の慢性化やHFrEFや拡張型心筋症の概念、診断や治療にも大きな変化がもたらされるかもしれない。

165.

インフルワクチンがCVD患者の予後を改善~メタ解析

 心血管疾患患者では、インフルエンザワクチンの接種は全死亡、心血管死および脳卒中の低下と関連していることが、米国・Lehigh Valley Heart and Vascular Institute のRahul Gupta氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析で明らかになった。Cardiology in Review誌2024年9・10月号掲載の報告。 これまでの研究により、インフルエンザの予防接種を受けた高齢者では急性心筋梗塞のリスクが下がる可能性1)や、急性冠症候群治療中のインフルエンザワクチン接種によって心血管転帰が改善する可能性2)が報告されるなど、インフルエンザワクチン接種による心保護効果が示唆されている。そこで研究グループは、心血管疾患患者におけるインフルエンザワクチン接種による心血管系疾患の予防効果に関するエビデンスを深めるために、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 研究グループは、インフルエンザワクチン接種の心血管転帰を評価した試験を同定するため、系統的な文献検索を行った。DerSimonian and Laird固定効果モデルおよびランダム効果モデルを用いて、すべての臨床的エンドポイントについてオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。●合計74万5,001例の患者を対象とした15件の研究が解析に含まれた。●インフルエンザワクチンを接種した群では、プラセボを接種した群と比較して、全死亡、心血管死および脳卒中のORが有意に低かった。 ・全死亡のOR:0.74、95%CI:0.64~0.86 ・心血管死のOR:0.73、95%CI:0.59~0.92 ・脳卒中のOR:0.71、95%CI:0.57~0.89●心筋梗塞と心不全による入院では有意な差は認められなかった。 ・心筋梗塞のOR:0.91、95%CI:0.69~1.21 ・心不全による入院のOR:1.06、95%CI:0.85~1.31

166.

第230回 迫る自民党総裁選、立候補者の言い分は?(後編)

自民党総裁選は本日、ついに投開票が行われ、新総裁が決定する。与党の自民党と公明党が衆参両院の過半数を占めている現状では、当然ながら自民党総裁=日本国総理大臣となる。巷の報道では、議員票や党員・党友票、都道府県連票の票読みが行われているが、今回は上位2人による決選投票が確実視されているだけに、その段階で一気に票読みの困難度が増す。とりわけ自民党の総裁選は過去から権謀術数が渦巻く世界だ。現在の推薦人制による立候補となった1972年以降、決選投票となったのは3回。初めての決選投票は、1972年の田中 角栄氏vs. 福田 赳夫氏。第1回投票では第1位の田中氏と第2位の福田氏はわずか6票差だったが、決選投票では票差が92票まで開き、田中氏が総裁に選出された。残る2回のうち1回は2012年。この時は党員・党友票の過半数を獲得した石破 茂氏が1回目で安倍 晋三氏に58票もの差をつけて1位となったが、決選投票では逆に安倍氏が石破氏を19票上回り、逆転で総裁となった。ちなみに1972年以前の自民党でも決選投票が2回あり、1956年の初の決選投票では同じく1回目の1位、2位の逆転が起きた。この時勝利したのは石橋 湛山氏、逆転負けを帰したのは“昭和の妖怪”の異名を持つ安倍氏の祖父・岸 信介氏である。最も直近の決選投票は前回2021年の総裁選で1位の岸田 文雄氏と2位の河野 太郎氏の1回目の票差はわずか1票。これが決選投票では87票差となり、岸田氏が勝利した。このように概観するだけでも自民党総裁選は魔物である。さて誰が当選するのか? 前回紹介しきれなかった自民党総裁選候補者(五十音順)である小林 鷹之氏、高市 早苗氏、林 芳正氏、茂木 敏充氏の社会保障、医療・介護政策を独断と偏見の評価も交えながら紹介する。小林氏(千葉2区)今回、真っ先に出馬表明した小林氏だが、閣僚経験があるとはいえ、最も世間的には知名度が低かったのではないだろうか? 小林氏は東大法学部卒業後、旧大蔵省に入省。2010年に退官し、自民党の候補者公募に応募して2012年の衆議院で初当選して現在に至っている。大蔵省・財務省在籍中にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、公共政策学修士号を取得している。小林氏の特設ページでは、「世界をリードする国へ」をキャッチフレーズに掲げている。政策については直ちに取り組む3本柱とこれも含めたより詳細な7項目ごとの政策を披露している。前者では“02.暮らしを明るく:中間層「ど真ん中」の所得向上を実現”として以下の2点を挙げている。地方や若者も多く従事する介護・看護・保育従事者の賃上げ(「物価を超える処遇改善ルール」導入)。若年層の保険料負担軽減を図る「第3の道」の具体化。「社会保障未来会議(仮称)」立ち上げ。介護関係者などの賃上げは、ほかの候補者も挙げているが「物価を超える処遇改善ルール」とより具体的なのは小林氏だけである。もっとも現在の物価高騰を考えれば、介護報酬改定などでは相当な引き上げが必要になる。後者については小林氏の特設ページの7項目のうちの「V. 教育・こども・社会保障」では以下のように記述している(下線は筆者によるもの)。「社会保障未来会議(仮称)では、(1)データに基づく人的物的資源の適正配分、(2)ロボット、AI、アプリ等による健康管理、(3)健診・予防・リハビリ・フレイル対策・軽度認知症対策などの「健康づくり」とその行動や成果へのインセンティブ付与、(4)DX による効果的・効率的なサービスの提供を通じた費用の抑制に資する取組、などを通した医療・介護需要の低減を進めます。あらゆるアイデアをすべて俎上に載せ、国民の皆様とともに広く社会保障制度を考え、方向性を共有して、新たな時代の社会保障制度を作り上げます」DX(Digital Transformation)、EBPM(Evidence based policy making、エビデンスに基づく政策立案)、PHR(Personal Health Record)などを通じて、まずは需要そのものを適正化したいということらしい。もっとも日本記者クラブの候補者討論会では、「若い世代の社会保険料の軽減を主張していますが、財源はどこにあるんですか。結局、一定以上の所得・資産のある高齢者に負担を求める、かなり抵抗が強い方向になると思いますが、そういった覚悟はありますか」と問われたのに対し、前述の社会保障未来会議の説明を平たく語っただけでスルーしてしまっている。高齢者の負担増に関しては今の時点で単にかわしたか、あるいは念頭にあるからこそ敢えてかわしたかのどちらかではないだろうか? (ちなみに私は高齢者の負担増に反対ではない)この項では、ほかに以下のような政策を列挙している。家族等にとって大きな不安の源となる現役世代の怪我や疾病に対しサポート体制を築き、医療サービスの面からも現役世代を支えます。また、DXやイノベーションを通じ、健康医療分野でも世界をリードします。医師の地域偏在と診療科偏在を是正し医療へのアクセスを確保していきます。また、公的サービスの安定供給を前提に、医療法人等の経営改革も進めます。医療・介護・障害福祉等の人材確保を進めます。地域特性に応じた地域包括ケア体制を確立し、住み慣れた場所で生き生きと暮らせる社会の実現を目指します。あらゆるがん対策や研究支援を分野横断で進めると共に、腎疾患、アレルギー疾患等の重症化予防、移植手術の利用推進等に努めます。このなかで個人的に注目したのは2番目である。「医師・診療科の偏在是正」「医療法人等の改革」は若さゆえに繰り出せるパワーワードだろうか? これに手を突っ込めば、医療界、とりわけ日本医師会からの最強度の抵抗を受けることを小林氏は承知して言っているのか定かではない。むしろ、具体的にこれらをどのように実現したいかの詳細があれば、ぜひ聞いてみたいものである。また、これらとは別に「II.経済」では“創薬産業の競争力強化”を掲げ、そこでは「官民の連携を強化し、創薬のエコシステムと政府の司令塔機能を強化します。医療・介護分野のヘルスケアスタートアップを大胆に支援します。『ゲノミクスジャパン』を早期に構築し、ゲノム医療で世界と伍する創薬産業にします」と記述している。これについては7月30日に岸田首相の肝入りで開催された「創薬エコシステムサミット」に酷似した政策である。同サミットは医薬品産業を成長産業と位置付け、必要な予算を確保し、国内外から優れた人材や資金を集結させることで、日本を世界の人々に貢献できる『創薬の地』としていくというものだ。政策の大枠について異論はないが、現行では国際レベルと大きく差が開いた日本の創薬力を引き上げるのは容易ではない。また、コロナ禍中に開催された2020年4月3日の衆議院厚生労働委員会での小林氏の質疑を読むと、新型コロナウイルス感染症のワクチン、治療薬の国産を強く促しているが、失礼ながら製薬業界の現在地に対する理解はやや甘いようである。高市氏(奈良2区)意外と知られていないようだが、高市氏はもともと野党出身の政治家である。神戸大学経営学部経営学科卒業後、松下政経塾に入塾し、その資金提供を受けて米・民主党下院議員のもとで研修を積み、帰国後は日本経済短期大学(後の亜細亜大学短期大学部)助手に就任するとともに、テレビ朝日、フジテレビの番組でキャスターを務めた。テレビ朝日の番組では立憲民主党の前参院議員の蓮舫氏、フジテレビでは日本維新の会の参院議員の石井 苗子氏も同じ番組のキャスターだったのは、今となればなんと因果な巡り合わせかと思う。1992年の参院選・奈良県選挙区で自民党に公認申請をするも公認は得られず、無所属で出馬して落選。翌1993年には中選挙区時代の衆院選奈良全県区から再び無所属で出馬して初当選した。高市氏の当選時は折しも自民党が下野し、細川 護熙政権が発足した時期である。その後高市氏は、自民党を離党した柿澤弘治氏らが結党した自由党に参加。さらに非自民の自由改革連合(代表:海部 俊樹元首相)、新進党を経て、96年に新進党を離党して自民党に入党している。これまで衆院選は9選しているが、自民党入党以降は小選挙区で2度落選している(うち1度は比例復活)。さて安倍 晋三氏の秘蔵っ子とも言われるほど、自民党内でも保守色の強い政治家として知られる高市氏だが、特設サイトでは「日本列島を、強く豊かに。」とのスローガンを掲げている。このスローガンの下、総合的な国力を強化するための6項目のポリシーを掲げており、全体として経済、安全保障に関する高市氏の思考が背骨となっている印象だ。このため社会保障、医療・介護に関する政策もいくつかの項目に散らばっている。政策集を読むと、明らかにもっとも注力しているのは、ポリシー01の「大胆な『危機管理投資』と『成長投資』で、『安全・安心』の確保と『強い経済』を実現。」である。端的に言うと、積極的な財政出動で経済浮揚を図るという考え。そもそもご本人は昨今の日本銀行による利上げを「アホやと思う」とまでこき落としているほど積極財政論者である。そしてポリシー01では、さらに6つの詳細プランを提唱。プラン05の「健康医療安全保障の構築」では、以下のような政策が箇条書きで示されている。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が実施している「革新的がん医療実用化研究事業」「スマートバイオ創薬等研究支援事業」「医療機器開発推進研究事業」を促進します。AMEDが支援してきたiPS細胞由来の心筋細胞移植の臨床試験が大きく前進しました。「再生・細胞医療、遺伝子治療分野」における研究開発を推進し、その成果を早期に患者の皆様にお届けできるよう、取り組んでまいります。今後のパンデミックに備えるべき「重点感染症」の見直しと医薬品等の対応手段確保のための研究開発支援、有事において大規模臨床試験を実施できる体制の構築、緊急承認については新たな感染症発生時の薬事承認プロセスの迅速化に資する準備を進めます。CBRNEテロ(化学・生物・核・放射線兵器や爆発物を用いたテロ)の対策を検討する専門家組織を創設します。テロに悪用された微生物・化学物質などの特定と拮抗薬やターニケット(止血用の緊縛バンド)の使用が迅速に行われる体制の構築方法を検討します。「国民皆歯科健診」の完全実施に加え、PHRの活用と、「予防医療」や「未病」の取組へのインセンティブを組み込んだ制度設計を検討します。また、プラン06「成長投資の強化」では“工業製品、環境、エネルギー、食料、健康・医療など適用分野が広く、経済安全保障の強化にもつながる『バイオ分野の事業化・普及』に向けた取組を促進します”と謳っている。概観すると、成長が見込めそうな分野への財政出動を通じた徹底投資とそれに伴う製品の国産強化という方針だ。実はこの政策を列挙する前に「ワクチンや医薬品の開発・生産は、海外情勢に左右されてはならず、安全保障に関わる課題です。原材料・生産ノウハウ・人材を国内で完結できる体制を構築します」との基本的考えを示している。この辺は高市氏の保守色の強さを如実に表している。現在、世界水準からはかなり立ち遅れつつある創薬・バイオを安全保障の観点から捉えて強化する方針そのものに異論はない。むしろ日本に欠けているのは、安全保障の観点である。ただ、創薬・バイオは消費・貢献対象の多くが民生分野であり、安全保障視点が過度だと、逆に産業発展を阻害する面もある。また、コロナ禍での国政選挙の際の各政党の政策でも批判してきたことだが、創薬・バイオ技術のグローバル化が進展する今、国産にこだわり過ぎれば、国内での技術開発や社会還元はスピーディーさを欠く結果となる。ポリシー02「『全世代の安心感』を、日本の活力に。」で掲げているのは以下。私は、生涯にわたってホルモンバランス変化の影響を受けやすい女性の健康をサポートする施策の検討に平成25年に着手し、ようやく令和6年度新規事業として「『女性の健康』ナショナルセンター機能の構築」が開始されました。女性特有の疾患や不調について、予防・病態解明・治療・社会啓発の取組を推進します。人手不足の中でも就労時間調整の一因となっている「年収の壁」と「在職老齢年金制度」を大胆に見直し、「働く意欲を阻害しない制度」へと改革します。高齢者だけではなく、現役世代も将来に年金を受け取ることを踏まえ、年金に対する課税の見直しを検討します。物価が上昇する中で年金の手取りが減らないよう、公的年金等控除額の拡大を提案します。国民年金受給額と生活保護受給額の逆転現象を解消するため、低年金と生活保護の問題を一体的に捉えた新たな制度の在り方を検討します。ここに見える年金政策では、既存の制度内で負担と給付のバランスを取るというよりは、給付の拡充とそれによる消費拡大のほうに重点を置いているようだ。その意味で、高市氏は社会保障制度改革も経済政策の一環として捉える思考がほかの候補と比べても極度に強い「経済バカ一代」のような印象である。林氏(山口3区)旧大蔵相・旧厚生相を務めた林 義郎氏の長男。祖父・高祖父も衆院議員歴がある政治一家育ち。東大法学部卒業後、三井物産、サンデン交通(林家のファミリー企業)、山口合同ガスを経てハーバード大学ケネディ・スクールに入学、米・下院議員のスタッフや米・上院議員のアシスタントを経験した。父・義郎氏の大蔵相就任に伴い大学院を休学して帰国し、大臣秘書官を務めた(後に復学、修了した)。1995年の参院選で自民党公認として山口県選挙区で初当選し、同選挙区で連続5回当選。2021年の衆院選で鞍替えして当選。衆院議員としてはまだ1期目である。特設サイトでは「人にやさしい政治。」のキャッチフレーズの下で3つの安心を掲げる。このうちの1つ「底上げによる格差是正と、生活環境の改善・地域活性化を通じた、少子化対策」として「医療・介護DXの推進や医療・介護・福祉人材の処遇改善、医薬品の安定供給、医師の偏在是正、大学病院の派遣機能強化、歯科保健医療提供体制の構築、看護師確保対策などを推進します」と謳っている。概ねほかの候補と共通する政策だが、石破氏と同じく数少ない医薬品安定供給を掲げているほか、林氏の政策にのみ見られるのが「大学病院の派遣機能強化」である。もっとも後者に関して、そのためにどのようにするのかはわからない。また、日本記者クラブでの討論会では、林氏が出馬表明時にマイナ保険証に関して「皆さん納得の上でスムーズに移行してもらうための必要な検討をしたい」と述べたことの意味を問われた。以下は林氏の回答の要約である。林氏廃止という言葉でお伝えをしていたが、実際は新しい切り替えがなくなるということ。紙の保険証は12月3日以降、次の期限までは使え、その期限後は希望すれば資格確認書が発行される。聞くところによると、(資格確認証は)今の保険証とほぼ同じようなものであるとのことなので、私は廃止と言わずに新規発行がなくなることを丁寧に説明するだけで、かなりの不安は解消するのではないかと思っている。いや果たしてそうだろうか? デジタル慣れしていない高齢者などはそうかもしれないだろうが、若年者でマイナ保険証を躊躇する層は、これまでに明らかになったずさんな個人情報管理を問題視しているのが多数のように感じるのだが。この辺はやや危機感に欠けている印象は拭えない。茂木氏(栃木5区)東大経済学部卒業後、丸紅、読売新聞、マッキンゼー社を経て政界入りした茂木氏。政界入り前にはハーバード大学ケネディ行政大学院に留学し、行政学修士号も取得している。以前の立憲民主党代表選の時も触れたが、政界入りは政治改革を掲げた元熊本県知事の細川 護熙氏が立ち上げた日本新党を通じてであり、この時の当選同期が今回の立憲民主党代表に選出された元首相の野田 佳彦氏、野田氏と同代表選で決選投票を戦った枝野 幸男氏である(ほかに日本新党の当選同期は東京都知事の小池 百合子氏、名古屋市長の河村 たかし氏など)。日本新党が解党して新進党に合流した時に無所属となり、その後、自民党に入党して現在に至る。世間的には必ずしも知名度は高くないが、閣僚経験数は実は石破氏や高市氏よりも多い(もっともその多くは内閣府特命担当大臣ではあるが)。今回は「経済再生を、実行へ」をキャッチフレーズに掲げ、その下で6つの実行プランを掲げている。特設サイトを見ると、実行プラン3として「『人生100年時代』の社会保障改革 年齢ではなく経済力に応じた公平な負担へ」を謳っている。茂木氏の各実行プランは「何をする?」「具体的にどうする」の順で目指す政策の概念と具体的な施策を開示している点が特徴だ。実行プラン3の「何をする?」では、デジタル化で個々人の立場に応じた負担と給付へ。“余力のある人には払ってもらい、困難な人への負担軽減と支援拡大”。あらゆる世代が活躍し、生きがいを実感できる社会へ」とし、「具体的にどうする」では以下の3項目を列挙している。社会保障分野にデジタルを完全導入。“標準世帯”から“個々人のデータ”に基づく、負担と給付へ(標準報酬月額の上限も見直し)。在職老齢年金制度の見直しによる中高年層の労働意欲向上。給付手段の簡素化(スマホ搭載のマイナンバーカードにキャッシュレス決済機能を付与し、ここへの給付を可能に)。要はデジタル化で国民個々人の所得状況をガラス張りにし、そのデータを基に応分の負担を求めるということ。カッコ内でさらりと標準報酬月額上限の見直しに触れているが、前段で「余力のある人には払ってもらい」と書いている以上、上限見直しとは上限の引き下げ、すなわち高額所得者や高齢者を中心に保険料負担の引き上げを想定していると思われる。同時に年金の見直しの「中高年層の労働意欲向上」も聞こえを良くしただけで、素直に解釈すれば、給付開始年齢の引き上げや給付水準の引き下げで“労働意欲を持たざるを得ない”状況にするということではないだろうか?いずれにせよある程度“物は言い様”は確かだが、総理総裁を目指そうとするならば、それなりに意図していること臆せず表現する度胸も必要だと思うのだが…。さてさて9候補も紹介するとなると、なかなか骨が折れる。現時点での各社報道によると、上位3人は石破氏、小泉氏、高市氏だという。いずれにせよこの記事公開後、半日も経たずに日本の首相が決まることになる。

167.

第115回 レプリコンワクチンの誹謗中傷、許されるのか?

炎上する「レプリコンワクチン」10月から始まる新型コロナワクチン接種。その中でも注目を集めているのが、Meiji Seika ファルマが開発した次世代mRNAワクチン、通称「レプリコンワクチン」です。しかし、このワクチンを巡り、SNSではさまざまな議論が巻き起こっています。立場を明確にしておきますが、エビデンスもしっかりそろえたうえで承認となっているので、個人的には懸念していません。気になる点があるとすれば、このワクチンは1瓶で16人分の設定になっているため、個人接種よりも集団接種に向いている仕様だということです。さて、「レプリコン」というなじみのない名前が原因なのか、SNSではフルボッコで叩かれているように思います。思い出してみてください、メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンが登場したときも、RNAという言葉に対して「遺伝子が改変されるのでは?」といった誤解や不安が広がったことがありました。この手の不安や誤解に敏感な人たちが、コロナ禍を通して浮かび上がってきました。私がかつて尊敬していた医師でさえも、いつの間にか反ワクチン派に転じ、「ワクチン後遺症にイベルメクチンを」という主張を繰り返すようになりました。また、大学時代の恩師も、今年に入ってから「ワクチンはむしろ薬害だ」という発言をするようになり、驚きを隠せません。とくに懸念すべきは、こうした陰謀論を広めるのがただのSNSインフルエンサーではなく、政治家もその一部にいるということです。彼らはワクチンの仕組みを十分に理解していなくても、人々に納得感を与える発信力を持っています。販売元への誹謗中傷レプリコンとは「自己増幅能」と言う意味です。細胞内でRNAが増殖するため、少量投与によって新型コロナの免疫が引き出されるという仕組みです。タンパクを作り出すのであって、ウイルスそのものが増殖するわけではありません。そもそも、これを言い出すと、じゃあ生ワクチンはどうなるんだということになりますので…。いずれにしても生ワクチンとはまったく異なるもので、従来のmRNAワクチンよりも少ない成分量で高い中和抗体価を維持できる次世代型のmRNAワクチンと言えます。注射部位のmRNAは投与してから8日以降で急速に低下することから、安全性にはほとんど問題ないとされています。レプリコンワクチンによってウイルスが体外に放出されることに反対するコメントを出している団体もありますが、医学的にはワクチンを接種したことで他者に何か影響が起こるということは、起こりません。Meiji Seika ファルマも明確にこの現象を否定しています。「もう薬害」「周囲へ感染を広げる兵器」「原爆と同じ人を殺すもの」といった販売元に対する度が過ぎた誹謗中傷は、個人的には訴訟されるリスクを天秤にかけたほうがよいのでは…とも感じます。

168.

第233回 コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024

コロナワクチンとがん免疫治療患者の生存改善が関連/ESMO2024がん患者は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を生じ易いことが知られます。幸い、がん患者の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン接種の安全性はおおむね良好です。いまや可能な限り必要とされるがん患者のSARS-CoV-2ワクチン接種が、その本来のCOVID-19予防効果に加えて、なんとがん治療の効果向上という思わぬ恩恵ももたらしうることが、今月13~17日にスペインのバルセロナで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2024)での報告で示唆されました1)。報告したのは米国屈指のがん研究所であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターのAdam J. Grippin氏です。Grippin氏らは今回の報告に先立ち、mRNAワクチンがその標的抗原はどうあれ、腫瘍のPD-L1発現を増やして抗PD-L1薬などの免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の効果を高めうることを、げっ歯類での検討で見出していました。そこでGrippin氏らはCOVID-19予防mRNAワクチンがPD-L1発現を促すことでICIが腫瘍により付け入りやすくなるのではないかと考え、StageIII/IVの進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者2,406例や転移黒色腫患者757例などの記録を使ってその仮説を検証しました。予想どおり、SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種から100日以内のNSCLC患者の腫瘍では、PD-L1がより発現していました。また、5千例強(5,524例)の病理報告の検討でもSARS-CoV-2 mRNAワクチン接種とPD-L1を擁する腫瘍細胞の割合の55%上昇が関連しました。SARS-CoV-2 mRNAワクチンとICI治療効果の関連も予想どおりの結果となりました。ICIが投与されたNSCLC患者群のうち、その開始100日以内にSARS-CoV-2 mRNAワクチンを接種していた患者は、そうでない患者に比べて全生存期間(OS)がより長く(それぞれ1,120日と558日)、より多くが3年間を生きて迎えることができました(3年OS率はそれぞれ57.2%と30.7%)。一方、ICI非治療の患者の生存へのSARS-COV-2 mRNAワクチン接種の影響はありませんでした。黒色腫患者でも同様の結果が得られており、ICI治療開始100日以内のSARS-COV-2 mRNAワクチン接種はOS、無転移生存期間、無増悪生存期間の改善と関連しました。SARS-COV-2 mRNAワクチンはPD-L1発現亢進と黒色腫やNSCLC患者のICI治療後の生存改善と関連したとGrippin氏らは結論しています。Grippin氏らの研究はmRNAワクチンに的を絞ったものですが、昨年9月に中国のチームが報告した解析結果では、mRNA以外のSARS-CoV-2ワクチン接種とICI治療を受けたNSCLC患者の生存改善の関連が認められています2)。不活化ワクチン2種(BBIBP-CorVとCoronaVac)を主とするSARS-CoV-2ワクチンを接種してICI治療を受けたNSCLC患者は非接種群に比べてより長生きしました。中国からの別の2つの報告でもmRNA以外のSARS-CoV-2ワクチンのICIの効果を高める作用が示唆されています。それらの1つでは抗PD-1抗体camrelizumab治療患者2,048人が検討され、BBIBP-CorV接種と全奏効率(ORR)や病勢コントロール率(DCR)が高いことが関連しました3)。ただし年齢、性別、がんの病期や種類、合併症、全身状態指標(ECOG)を一致させたBBIBP-CorV接種群530例と非接種群530例のORRやDCRの比較では有意差はありませんでした。同じ研究者らによる翌年の別の報告では、抗PD-1薬で治療された上咽頭がん患者1,537例が調べられ、CoronaVac接種とORRやDCRの向上が関連しました4)。参考1)Association of SARS-COV-2 mRNA vaccines with tumor PD-L1 expression and clinical responses to immune checkpoint blockade / ESMO Congress 20242)Qian Y, et al. Infect Agent Cancer. 2023;18:50.3)Mei Q, et al. J Immunother Cancer. 2022;10:e004157.4)Hua YJ, et al. Ann Oncol. 2023;34:121-123.

169.

HPV感染は男性の生殖機能を損なう可能性

 HPV(ヒトパピローマウイルス)は、ほぼ全例(95%)の子宮頸がんの原因であることから、これまで女性の健康問題と考えられてきた。しかし、男性にもHPVを恐れる理由と予防接種を受けるべき理由のあることが新たな研究で明らかになった。男性が高リスク型のHPVに感染すると、生殖機能が障害される可能性のあることが示されたのだ。国立コルドバ大学(アルゼンチン)化学学部教授のVirginia Rivero氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Cellular and Infection Microbiology」に8月23日掲載された。 HPVは高リスク型と低リスク型に分類され、前者は、子宮頸がんや陰茎がん、肛門がんなどのリスクを上昇させ得る。米疾病対策センター(CDC)は、性的に活発になってウイルスに曝露するリスクが高まる前にHPVワクチンを接種する方が効果が高いことから、9〜14歳の小児へのワクチン接種を推奨している。しかし、男子でのワクチン接種率は女子よりも低く、2022年の米国での接種率は、女子で約65%であったのに対し男子では約61%にとどまっていたという。 この研究では、205人の男性(年齢中央値35歳)を対象に、生殖器系での高リスク型または低リスク型HPV感染と精液の質、酸化ストレス、炎症との関連が検討された。Rivero氏らが対象者の精液サンプルを調べたところ、19.0%(39/205人)でHPV感染が確認された。陽性サンプルからHPVの遺伝子型を割り出すことができたのは27人で、うち20人(74.0%)は少なくとも1種類の高リスク型HPVに、7人(26.0%)は低リスク型HPVに感染していることが確認された。対象者のうち、HPVも含め尿路病原菌が確認されず、膿精液症のなかった43人を対照とした。 解析の結果、高リスク型HPV感染者でも低リスク型HPV感染者でも、WHOのガイドラインに基づいて評価した精液の質に有意な低下は認められなかった。しかし、高リスク型HPV感染者では低リスク型HPV感染者や対照と比べて、精子のアポトーシスや壊死が有意に多く、活性酸素種(ROS)陽性精子の割合も高いことが確認された。また、高リスク型HPV感染者と低リスク型HPV感染者の精液に顕著な炎症は認められず、さらに前者では予想外にも、対照と比べて精液中の白血球と炎症性サイトカイン(IL-6およびIL-1β)レベルが低いことも観察された。 Rivero氏は、「高リスク型HPVに感染した男性は、酸化ストレスと尿生殖器の局所的な免疫反応の低下により、死滅する精子が増加することが示された。この結果は、これらの男性では生殖機能が障害を受けている可能性があることを示唆している」と話している。 Rivero氏は、「われわれの研究は、高リスク型HPVが精子のDNAの質にどのように影響し、それが生殖機能と子孫の健康とどのように関わってくるのかについて、重要な問題を提起している」との考えを示す。その上で、「これらの影響の根底にある生物学的メカニズムの解明が必要だ。また、性感染症(STI)は極めて一般的であることから、われわれは、HPV感染と他のSTIの併発がこれらの結果に影響を及ぼすかどうかを調査することを計画している」と話している。

170.

インフルワクチン接種と急性腎障害の関連~高齢者での検討

 インフルエンザワクチン接種後に急性腎障害(AKI)を発症した症例が報告されているが、その関連を示す集団レベルのエビデンスはない。韓国・Ewha Womans UniversityのHaerin Cho氏らによる大規模データベースを用いた自己対照ケースシリーズ研究の結果、インフルエンザワクチンの接種は65歳以上の高齢者のAKIリスク低下と関連することが明らかになった。Pharmacoepidemiology and Drug Safety誌2024年9月号掲載の報告より。 本研究では、韓国疾病管理庁の予防接種登録データと国民健康保険サービスの請求データを組み合わせた大規模データベースが使用された。ワクチン接種時に65歳以上で、2018~19年または2019~20年インフルエンザシーズン(それぞれ9月1日~翌4月30日まで)に、インフルエンザワクチンを1回以上接種し、接種後にAKIで入院した患者が対象。腎疾患の既往がある症例は除外された。 リスク期間をワクチン接種後1~28日、観察期間をインフルエンザの各流行シーズン、対照期間を接種前14日間およびリスク期間を除く観察期間として、自己対照ケースシリーズ研究を実施した。補正後発生率比(aIRR)は、条件付きポアソン回帰モデルを使用して、腎毒性を有する薬剤の使用とインフルエンザ感染による補正後、計算された。 主な結果は以下のとおり。・2018~19年と2019~20年のシーズンにインフルエンザワクチンを接種した722万2,439人が特定された。このうち、5万8,023例がAKIにより入院していた。・AKI入院患者のうち、腎疾患の既往がある症例、9月1日以前の発症例などが除外され、解析対象となったのは2018~19年:1万6,713例、2019~20年:1万6,272例であった。・リスク期間におけるaIRRは、2018~19年シーズン(aIRR:0.83、95%信頼区間[CI]:0.79~0.87)および2019~20年シーズン(aIRR:0.86、95%CI:0.82~0.90)のいずれにおいても、対照期間と比較して統計学的に有意に減少していた。 著者らは、今回の結果は台湾で行われた研究結果1)と一致しており、インフルエンザワクチン接種が高齢者のAKI予防に役立つ可能性が示唆されるとともに、高齢者への毎年のインフルエンザ予防接種推奨が裏付けられたとしている。一方、インフルエンザワクチンとAKIを関連付ける生物学的メカニズムを明らかにするには、さらなる研究が必要と指摘している。

171.

第114回 10月からの新型コロナワクチンの値段がヤバイ

10月から定期接種次の新型コロナワクチンの案内はいつ来るのかと待ちわびていたら、秋冬のインフルエンザワクチン接種と時期を合わせるかのように定期接種が開始されることになりました。「2,000~3,000円なら余裕で打つっしょ!」と思っていたら、われわれ非高齢者の医療従事者の自己負担額は…1万5,300円!!!グハッ!鉄板焼の高級店のカウンターで、神戸牛フィレ肉をカットしてもらうくらい高いでんがな!もともと新型コロナワクチンというのは、1回接種すると原価で1万5,300円かかるのです。そもそもが高い。65歳以上の高齢者や、60~64歳の重度の疾患がある場合には定期接種が適用され、安い値段で接種できるような仕組みになっています。この負担軽減は、国と自治体の両方が頑張ってくれていて、渋谷区や足立区のように、高齢者の場合は無料で接種できるところもあるようです。問題はわれわれ任意接種世代です。過去には医療従事者にも新型コロナワクチンの接種費用が減免された時代もありましたが、今やもう一般の方々と同じ扱いです。当院のスタッフに聞いたところ、打たない人のほうが多かったです。子供についても、何らかの助成があってしかるべきと思いますが、今のところ自治体に委ねられているようです。ワクチン流通量は?これまで圧倒的なシェアを得ていたmRNAワクチンが流通量のほとんどを占め1)、おそらく主にこれが選択されるでしょう(表)。SNSで炎上気味のレプリコンワクチンについては400万回程度の流通です。画像を拡大する表. 10月以降流通する新型コロナワクチン(筆者作成)レプリコンワクチンについては、mRNAを自己複製できるという意味ですが、この言葉が独り歩きして、周囲にシェディングをもたらすなどというデマが広まっているようです。生物学の知識があれば、誤ったことであることは読者の皆さんもおわかりかと思いますが…。レプリコンワクチンは、1本16人分なので、集団接種とかそういうことになったら使いやすいかもしれませんが、クリニックや医療機関では外来用に使いづらいかもしれません。外来で聞かれることが増えた最近外来で、「10月以降、新型コロナワクチンを接種すべきかどうか」という質問を患者さんからよくいただきます。個人的には、「これまでインフルエンザワクチンを接種していたなら検討いただく形でよい」と返しています。ただ、この値段だと、全員に強くお勧めするとは簡単に言えなくなりました。最近だと、帯状疱疹ワクチンもそれなりに高いですが、今後ワクチンの原価は上がってくる時代なのかもしれません。参考文献・参考サイト1)厚生労働省 健康・生活衛生局 感染症対策部 予防接種課. 2024/25シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について(2024年9月2日)

172.

JN.1系統対応の次世代mRNA(レプリコン)コロナワクチン、一変承認取得/Meiji Seika

 Meiji Seikaファルマは9月13日のプレスリリースにて、同社の新型コロナウイルス感染症に対するオミクロン株JN.1系統に対応した次世代mRNA(レプリコン)「コスタイベ筋注用」について、製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 同社は、2024年5月29日に開催された「第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会」にて、2024/25シーズン向けの新型コロナワクチンの抗原構成がJN.1系統に取りまとめられたことを受け、同年5月31日に本剤のJN.1系統に対応したワクチンの日本における一部変更承認申請を行った。 本剤は、新規のmRNA技術を使用した次世代mRNAワクチンであり、既承認mRNAワクチンよりも少ない有効成分量で高い中和抗体価を示し、その抗体価が長く維持されることを特徴としている。 また、忍容性も高く、安全性については既承認mRNAワクチンと同様であり、有害事象の多くが軽度または中等度であることが国内外の臨床試験で示されている。 本剤は、年1回の定期接種に適したプロファイルを有すると考えられ、とくにリスクの高い高齢者に、新型コロナウイルス感染症の予防における新たな選択肢を提供すると期待されている。 同社は、本剤を2024/25シーズンに1バイアル(16回接種分)のJN.1系統対応ワクチンとして、近日中に供給を開始する予定。

173.

わが国初のダニ媒介性脳炎予防ワクチン「タイコバック水性懸濁筋注」【最新!DI情報】第23回

わが国初のダニ媒介性脳炎予防ワクチン「タイコバック水性懸濁筋注」今回は、組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチン(商品名:タイコバック水性懸濁筋注0.5mL/小児用水性懸濁筋注0.25mL、製造販売元:ファイザー)を紹介します。本剤はわが国初のダニ媒介性脳炎の予防ワクチンであり、致死的な経過および後遺症の予防が期待されています。<効能・効果>本剤は、ダニ媒介性脳炎の予防の適応で、2024年3月26日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>初回免疫の場合、16歳以上には1回0.5mL、1歳以上16歳未満には1回0.25mLを3回、筋肉内に接種します。2回目接種は1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は2回目接種の5~12ヵ月後に接種します。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができます。追加免疫の場合、16歳以上には1回0.5mL、1歳以上16歳未満には1回0.25mLを筋肉内に接種します。<安全性(0.5mL製剤の場合)>重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、多発性硬化症、急性散在性脳脊髄炎、ギラン・バレー症候群、脊髄炎、横断性脊髄炎、脳炎(いずれも頻度不明)があります。その他の頻度の高い副反応として、注射部位疼痛(35.0%)、下痢(10%以上)があります。10%未満の副反応には、注射部位出血、注射部位腫脹などの局所症状、上気道感染、浮動性・回転性めまい、悪心、嘔吐、腹痛、皮膚そう痒症、発疹などがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、ダニ媒介性脳炎を予防するためのワクチンです。2.ワクチン接種したすべての人で、ダニ媒介性脳炎ウイルスへの感染が完全に予防されるわけではありません。マダニに咬まれるリスクが高い環境下では、虫よけ剤の使用や皮膚の露出を少なくするなど、基本的な感染リスク低減対策をとってください。3.接種は、3回の接種を行う「初回免疫」と必要に応じて接種を行う「追加免疫」があります。初回免疫1回目の接種のみでは、発症の予防を期待することはできません。4.ショック、アナフィラキシーが現れることがあるので、医師の監視下で接種を行います。接種後、少なくとも15分間は座って安静にしてください。<ここがポイント!>ダニ媒介性脳炎(tick-borne encephalitis:TBE)は、TBEウイルスを保有するマダニに咬まれることで感染・発症します。TBEは重度の急性臨床経過をたどり、日本に多い極東亜型ウイルスの感染では、7~14日の潜伏期間後に頭痛、発熱、悪心、嘔吐が現れ、進行すると精神錯乱や昏睡、痙攣などの脳炎症状が生じることがあります。致死率は20%以上で、生存者であっても30~40%に後遺症が残るとされています。TBEに対する抗ウイルス治療はなく、対症療法が中心となります。本剤はTBEを予防するためのワクチンで、TBEリスク地域でレクリエーションや農業・林業などの野外活動でマダニに咬まれるリスクがある人に接種が推奨されます。ただし、接種したすべての人で感染が予防されるわけではないので、マダニに咬まれるリスクが高い場合には、虫よけ剤の塗布や防護服の着用または皮膚露出を避けるなど、感染リスク低減のための基本的な対策が重要です。本剤は、TBEウイルスをSPF発育鶏卵から採取したニワトリ胚初代培養細胞で増殖させ、得られたウイルスをホルムアルデヒドで不活化した後、精製し、安定剤およびアジュバント(水酸化アルミニウム懸濁液)を加えたものです。TBEウイルスに感染歴のない日本人健康成人および健康小児を対象とした国内第III相試験(B9371039試験:初回免疫)において、本剤を3回接種した4週間後にTBEウイルス中和抗体陽性率は成人および小児とも90%以上に達しました。また、追加免疫における海外第IV相試験(223試験)や免疫持続性における海外第IV相試験(690701試験、691101[B9371010]試験)で本剤の有効性が確認されています。なお、ダニ媒介性脳炎ワクチンは、医療上の必要性が高いワクチンとして厚生労働省からの要請を受けて開発されました。

174.

国内初承認のダニ媒介性脳炎ワクチンを発売/ファイザー

 ファイザーは9月13日付のプレスリリースにて、成人および小児におけるダニ媒介性脳炎の発症を予防する国内初の承認ワクチン「タイコバック(R)水性懸濁筋注0.5mL」および「タイコバック(R)小児用水性懸濁筋注0.25mL」(一般名:組織培養不活化ダニ媒介性脳炎ワクチン)を、同日より発売したことを発表した。 本剤は、1970年代にIMMUNO社が開発した不活化ダニ媒介性脳炎ウイルスワクチンで、最初に市販された組織培養由来ダニ媒介性脳炎ワクチン。その後の改良を経て、ダニ媒介性脳炎の流行国を中心に使用されている。ファイザーは、2015年にバクスターから本剤の製造販売承認を承継した。 ダニ媒介性脳炎は、ダニ媒介性脳炎ウイルス(tick-borne encephalitis virus:TBEV)を保有するマダニに刺咬されることで感染する疾患だ。急性ダニ媒介性脳炎の経過や長期的転帰は、感染したTBEVの亜型により異なる。日本では、北海道で極東亜型ウイルスが分布していると報告されており、感染すると徐々に頭痛、発熱、悪心、嘔吐などの髄膜炎症状が現れ、脳脊髄炎などを発症すると、精神錯乱、昏睡、痙攣、麻痺などの中枢神経症状を呈する。極東亜型の致死率は20%以上で、生存者の30~40%に神経学的後遺症がみられるなど、最も重篤な経過をたどると報告されている1)。しかし、有効な治療法がなく、本ワクチンによる予防が重要な役割を担うと見込まれている。 海外では、英国、ノルウェー、フランス、ドイツ、ロシアを含むヨーロッパ、東アジアなどで毎年1万~1万5,000件の発生が報告されているものの、日本では2018年に発生した国内5例目以降の報告はなかった。しかし、2024年6月に札幌市で6例目、7月に函館市で7例目の発生が報告された2)。これまでに国内で報告された7例はすべて北海道で発生しているが、原因不明の中枢神経系疾患患者の血液を後方視的に調査した報告では、東京都、岡山県、大分県でTBEV抗体陽性例が示されている3,4)。また、栃木県、島根県、長崎県などにおいても抗TBEV抗体を保有する動物が確認されていることから、これらのウイルスが国内に広く分布していることが示唆されている4,5)。ダニ媒介性脳炎は、疾患認知や検査体制が十分に整っていないなどの理由から、急性脳炎などを発症しても診断に至っていない可能性が示唆されており、本邦におけるダニ媒介性脳炎の実態は十分に把握されていない。 本剤は1970年代から欧州を中心に広く使用されており、本邦では「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」にて医療上の必要性が高い医薬品と評価され、2019年9月19日にファイザーが厚生労働省から本剤の開発要請を受けた。この開発要請を受け同社が実施した国内第III相試験の結果などに基づき、2024年3月26日に承認された。本剤の接種により、TBEVに感染する可能性のある地域居住者や、ダニ媒介性脳炎の流行地域への渡航者の感染を予防することが期待される。<用法及び用量>タイコバック(R)水性懸濁筋注0.5mL・接種対象者:16歳以上の者・初回免疫の場合、1回0.5mLを3回、筋肉内に接種する。2回目接種は、1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は、2回目接種の5~12ヵ月後に接種する。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができる。・追加免疫の場合、1回0.5mLを筋肉内に接種する。[用法及び用量に関連する注意]・追加免疫について、必要に応じて3回目接種の3年後に追加免疫を行い、以降は16~60歳では5年ごと、60歳以上では3年ごとの追加免疫を行うこと。・0.25mL接種対象者には使用しないこと。タイコバック(R)小児用水性懸濁筋注0.25mL・接種対象者:1歳以上16歳未満の者・初回免疫の場合、1回0.25mLを3回、筋肉内に接種する。2回目接種は、1回目接種の1~3ヵ月後、3回目接種は、2回目接種の5~12ヵ月後に接種する。免疫の賦与を急ぐ場合には、2回目接種を1回目接種の2週間後に行うことができる。・追加免疫の場合、1回0.25mLを筋肉内に接種する。[用法及び用量に関連する注意]・追加免疫について、必要に応じて3回目接種の3年後に追加免疫を行い、以降は5年ごとの追加免疫を行うこと。・0.5mL接種対象者には使用しないこと。水性懸濁筋注0.5mL、小児用水性懸濁筋注0.25mL共通事項・2回目接種意向に接種が中断された場合は、できるだけ速やかに接種し、以降の接種を継続すること。・医師が必要と認めた場合には、他のワクチンと同時に接種することができる。・初回免疫完了前にダニ媒介性脳炎ウイルスに感染するリスクがある場合(ダニ媒介性脳炎流行時期における流行地域への渡航等)は、その前に本剤を2回接種すること。

175.

第113回 経鼻インフルワクチン「フルミスト」を使いますか?

フルミスト登場私は子供の頃、注射されるのが恐怖だったのですが、「全然怖くないやい!」と言いつつ強がっていました。インフルエンザワクチンは例外なく腕に注射されるため、とくに小さな子供ではなかなか大変なことがあります。さて、鼻に噴霧するタイプのインフルエンザワクチン「フルミスト®」が今年から使用されます。2003年にアメリカで、2011年にヨーロッパで認可されたもので、世界から10年以上遅れて日本でようやく認可されました。めっちゃ遅いやんけ!と思いましたが、しばらくH1N1株に対する有効性が疑問視されてきて、中央で揉まれていた時期があるようです。保存状態も含めていろいろと改善点が判明し、その後国際的にも推奨されたことが、承認の後押しとなっています。このフルミスト、針を刺さないため、「痛くない」というメリットが期待されています。対象年齢は?フルミストの対象年齢は、2歳以上19歳未満です。2歳未満の子供に対しては喘鳴のリスクが増加したという報告があり、使用が認められていません。また、国際的には49歳まで使用可能ですが、日本の薬事承認は上限19歳未満で、これも注意が必要です。要は、子供のためのワクチンなのですよ、これは。フルミストは、不活化ワクチンではなく、弱毒化したウイルスを使った「生ワクチン」なので、妊婦や免疫不全状態にある方には使用できません。もちろん、注射で用いられてきた従来の不活化ワクチンは、2歳未満でも妊婦でも接種可能です。フルミストの効果は?鼻粘膜の表面に直接免疫を成立させることから、高い感染防御効果が期待できます。とくに小さな子供に対しては、従来の注射不活化ワクチンと効果は同等で、感染の成立を約7割減らすとされています。また、重症化リスクを軽減する効果が示されています。「接種しても感染した」とおっしゃる人が一定割合いますが、全員に効果があるわけではなく、コミュニティ全体でリスクを低減する効果を期待して接種することになります。フルミストの注意点は?これも上述したように、2歳未満、妊婦、免疫不全のある人には使えないことです。需要が一番高い層には不適なので、従来の注射不活化ワクチンを使用ください。注意点としては、生ワクチンなので、経鼻接種後に鼻水や咳などの風邪症状がみられる場合があることです。そのため、喘息や鼻詰まりが強い子供では、接種を避けたほうがよいでしょう。副反応で風邪症状が出現した場合、生ワクチンなので接種から2週間程度、インフルエンザ抗原検査が「陽性」になってしまう可能性があります。この解釈には注意が必要でしょう。その他、卵アレルギーやゼラチンアレルギーのある人も避けたほうがよいとされています。費用が確定すれば、すぐにでも接種が始まるでしょうね。

176.

mRNAコロナワクチン後の心筋炎、心血管合併症の頻度は低い/JAMA

 従来型の心筋炎患者と比較して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後に心筋炎を発症し入院した患者は心血管合併症の頻度が高いのに対し、COVID-19のmRNAワクチン接種後に心筋炎を発症した患者は逆に心血管合併症の頻度が従来型心筋炎患者よりも低いが、心筋炎罹患者は退院後数ヵ月間、医学的管理を必要とする場合があることが、フランス・EPI-PHAREのLaura Semenzato氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年8月26日号で報告された。フランスのコホート研究 研究グループは、COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎および他のタイプの心筋炎に罹患後の心血管合併症の発生状況と、医療処置や薬剤処方などによる疾患管理について検討する目的でコホート研究を行った。 フランス国民健康データシステムを用いて、2020年12月27日~2022年6月30日にフランスで心筋炎により入院した12~49歳の患者4,635例のデータを収集した。 これらの患者を、ワクチン接種後心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種から7日以内、558例[12%])、COVID-19罹患後心筋炎(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2[SARS-CoV-2]感染から30日以内、298例[6%])、従来型心筋炎(COVID-19 mRNAワクチン接種やSARS-CoV-2感染とは関連のない心筋炎、3,779例[82%])に分類した。 主要アウトカムは、初回入院から18ヵ月間における心筋心膜炎による再入院、心筋心膜炎以外の心血管イベント、全死因死亡と、これらのイベントの複合アウトカムとし、退院後の医療管理(心臓画像検査、心血管治療[β遮断薬、レニン-アンジオテンシン系作用薬]、冠動脈検査[冠動脈造影、CT検査]、トロポニン検査、ストレス検査など)についても評価を行った。再入院と他の心血管イベントにも差はない ワクチン接種後心筋炎群は、COVID-19罹患後心筋炎群および従来型心筋炎群に比べ年齢が若く(平均年齢25.9[SD 8.6]歳、31.0[10.9]歳、28.3[9.4]歳)、男性が多かった(84%、67%、79%)。 18ヵ月時の複合アウトカムの標準化発生率は、従来型心筋炎群が13.2%(497/3,779例)であったのに比べ、ワクチン接種後心筋炎群は5.7%(32/558例)と低く(重み付けハザード比[wHR]:0.55、95%信頼区間[CI]:0.36~0.86)、COVID-19罹患後心筋炎群は12.1%(36/298例)であり同程度だった(1.04、0.70~1.52)。 心筋心膜炎による再入院(ワクチン接種後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:wHR 0.75[95%CI:0.40~1.42]、COVID-19罹患後心筋炎群と従来型心筋炎群の比較:1.07[0.53~2.13])および心筋心膜炎以外の心血管イベント(0.54[0.27~1.05]、1.01[0.62~1.64])は、いずれも差を認めなかった。 全死因死亡は、ワクチン接種後心筋炎群が1例(0.2%)、COVID-19罹患後心筋炎群が4例(1.3%)、従来型心筋炎群は49例(1.3%)でみられた。医療処置、薬剤処方の頻度は従来型心筋炎群と同様 ワクチン接種後心筋炎群およびCOVID-19罹患後心筋炎群の退院から18ヵ月間の医療処置(心臓画像検査、トロポニン検査、ストレス検査)および薬剤処方の標準化された頻度は、従来型心筋炎群と同様の傾向を示した。 著者は、「これらの知見は、現時点および将来にmRNAワクチンを推奨する際に考慮すべきと考えられる」としている。

177.

ヘルスリテラシー世界最低国の日本、向上のカギは「がん教育」

 現在、小・中・高等学校で子供たちが「がんの授業」を受けていること、そしてその授業を医師などの医療者が担当する可能性があることをご存じだろうか。 2024年8月27日、厚生労働省プロジェクト「がん対策推進企業アクション」メディアセミナーで、中川 恵一氏(東京大学大学院医学系研究科 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「がん教育の意味」をテーマに、ヘルスリテラシーから考えるがん教育、授業の効果、医療者による授業などについて解説した。ヘルスリテラシーの欠如と学校がん教育 ヘルスリテラシーとは「健康情報を入手し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、能力」を指すが、先進国以外も含む調査において、日本のヘルスリテラシーは最低レベルであることが報告されている1)。 がんはヘルスリテラシーを高めることでコントロールできる側面があるが、日本においては、予防につながる生活習慣の理解や早期発見のためのがん検診受診率などに課題が多い。また、受動喫煙対策やワクチン接種など、がん対策の遅れの背景にも、ヘルスリテラシーの欠如があるという。 中川氏は、がん予防に関わる費用を他国と比較した場合、日本では教育や情報提供に占める割合が少ないことを示したうえで、今後国民のヘルスリテラシーを向上させうる「学校がん教育」への期待を語った。がん教育の効果の検証 がん教育は、教育カリキュラムの基準となる学習指導要領に2017年から明記されており、全国の小・中・高等学校で授業が始まっている。がん教育の一般認知度はまだ高いとはいえない状況だが、子供が授業で学んだことを親と話したり、がんについて学ぶ授業があることを親が知ったりすることで、大人のヘルスリテラシー向上も期待されている。 実際に、香川県の中学校におけるがん教育授業開始後に、町内の大腸がん検診受診率が向上したという報告もある。また、授業を受けた子供の知識やリテラシーが向上したことも報告されている2)。ただし、授業を受けた子供の成人後の検診受診意向の変化などについてはまだ調査が不十分であり3)、がん教育の長期的な効果の検証が求められる。高知県では、がん教育授業を受けた卒業生を対象に、子宮頸がんワクチン接種の有無などを含む行動変容について今後調査する予定である。医療者のがん教育参画への期待 がん教育をより効果的なものとするために、医療者やがんサバイバーなど、外部講師の授業への参画が期待されている。しかし、令和5年度の調査4)では、がん教育授業を実施した学校のうち、外部講師が授業を実施した割合は中学校で16.4%、高等学校で11.3%にとどまっており、この向上が課題の1つとなっている。 中川氏は「がん教育は、(死のイメージが強い)がんを題材とすることで、子供たちが命の大切さや死について考える大事な機会になる」としたうえで、医療者やがんサバイバーなどの参画の重要性を語った。さらに、学校医はがん検診受診促進やがんの緩和ケアに関わる機会もあるため、外部講師としての活動も期待されると述べた。 東京都で多くのがん教育授業を実施している南谷 優成氏(東京大学医学部附属病院 放射線科 助教)は、医学生にも授業を担当してもらっているという。授業を行うことは、患者教育やヘルスコミュニケーションについて学ぶ機会となるため、医療者にもメリットがあると語った。また、授業のインパクトを残すことは重要であり、そのためにも学校の教師ではなく外部講師が授業を実施する意義があると述べた。 高いヘルスリテラシーを持つ医療者ががん教育に参画することで、国民全体のヘルスリテラシーのさらなる向上が期待される。

178.

ファイザー肺炎球菌ワクチン「プレベナー20」一変承認取得、高齢者にも適応

 ファイザーは8月28日付のプレスリリースにて、同社の肺炎球菌ワクチン「プレベナー20(R)水性懸濁注」(一般名:沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン[無毒性変異ジフテリア毒素結合体])について、「高齢者又は肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者における肺炎球菌(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、8、9V、10A、11A、12F、14、15B、18C、19A、19F、22F、23F及び33F)による感染症の予防」に対する国内の医薬品製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。今回の承認取得は、60歳以上の成人を対象とした国際共同第III相試験1)および海外第III相試験2)の結果に基づく。 本剤は、同社の従来の沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン「プレベナー13(R)」に7血清型を加えたことにより、さらに広範な血清型による肺炎球菌感染症を予防することが期待される。プレベナー20の「小児における肺炎球菌(血清型1、3、4、5、6A、6B、7F、8、9V、10A、11A、12F、14、15B、18C、19A、19F、22F、23F及び33F)による侵襲性感染症の予防」の適応については、2024年3月26日に承認を取得している。 なお、プレベナー20の発売日は8月30日で、プレベナー13は今後市場から引き上げ、9月30日をもって販売を終了する。現在日本でも、プレベナー13には含まれない血清型による肺炎球菌感染症罹患率の絶対的増加が認められているという。<製品名>プレベナー20(R)水性懸濁注<一般名>日本名:沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)英名:20-valent Pneumococcal Conjugate Vaccine adsorbed(Mutated diphtheria CRM197 conjugate)<用法及び用量>・高齢者又は肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる6歳以上の者:肺炎球菌による感染症の予防:1回0.5mLを筋肉内に注射する。・肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる6歳未満の者:肺炎球菌による感染症の予防:1回0.5mLを皮下又は筋肉内に注射する。・小児:肺炎球菌による侵襲性感染症の予防 初回免疫:通常、1回0.5mLずつを3回、いずれも27日間以上の間隔で皮下又は筋肉内に注射する。 追加免疫:通常、3回目接種から60日間以上の間隔をおいて、0.5mLを1回皮下又は筋肉内に注射する。

179.

新型コロナの経鼻ワクチン、動物実験で感染を阻止

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の次世代経鼻ワクチンは、従来の注射型のワクチンにはできなかった、人から人へのウイルスの伝播を阻止できる可能性のあることが、動物実験で示された。この経鼻ワクチンが投与されたハムスターは、ウイルスに感染しても他のハムスターにそれを伝播させることはなく、感染の連鎖を断ち切ったと米セントルイス・ワシントン大学医学部分子微生物学および病理学・免疫学分野のAdrianus C. M. Boon氏らが報告した。詳細は、「Science Advances」8月2日号に掲載された。研究グループは、今回の動物を用いた研究によって、鼻や口へのワクチン投与がインフルエンザやCOVID-19といった呼吸器感染症の感染拡大を抑えるカギになる可能性があることを支持するエビデンスが増えたと話している。 注射型のCOVID-19のワクチンは重症化例や死亡例を減らすことはできたが、感染拡大を防ぐことはできなかった。ワクチン接種済みの軽症患者でも、ウイルスを他の人にうつす可能性はあったからだ。Boon氏らによると、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、RSウイルスなどは鼻の中で急速に増殖するため、咳やくしゃみ、さらには呼吸するだけでも、人から人へと広がっていくのだという。 注射型のワクチンは、血流中と比べると鼻の中での効果が大幅に低いため、鼻の中は急速に増殖して広がっていくウイルスに対して無防備な状態になりやすい。そのため、研究者らは長年、スプレーや滴下によって鼻や口にワクチンを投与すれば、最も必要とされる場所で免疫反応が引き起こされ、感染症の伝播を抑えることができると考えてきた。 Boon氏らは今回、ハムスターを用いて、インドで使用されているCOVID-19の経鼻ワクチン(iNCOVACC)をファイザー社の注射型のワクチンと比較する2段階のプロセスから成る実験を行った。 まず、一群のハムスターに2種類のワクチンを投与した後、十分な免疫応答が誘導されるまで数週間待った上で、新型コロナウイルスを感染させた他のハムスターとともに8時間にわたって同じ空間に置いた。その結果、経鼻ワクチンが投与された14匹中12匹(86%)、注射型ワクチンが投与された16匹中15匹(94%)の鼻と肺からウイルスが検出された。しかし、経鼻ワクチンが投与されたハムスターでは、注射型ワクチンが投与されたハムスターと比べて、気道から検出されたウイルス量が10万分の1~100分の1にとどまっていることが明らかになった。 さらに、次の段階の実験で、ウイルスに感染した、経鼻または注射型ワクチン接種済みのハムスターを他のワクチン接種済みまたは未接種の健康なハムスターと同じ空間で8時間一緒に過ごさせた。その結果、経鼻ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、ワクチン接種済みか未接種かにかかわらず1匹も感染していなかった。一方、注射型ワクチンが投与されたハムスターに接した健康なハムスターは、約半数が感染していた。 こうした結果を受けてBoon氏らは、「鼻からのワクチン接種によってウイルス伝播のサイクルが断ち切られた」と結論付けた。またBoon氏は、「粘膜ワクチンは呼吸器感染症に対するワクチンの未来の姿だ」と期待を示し、「これまで、このようなワクチンの開発は困難だった。われわれが必要とする免疫応答はどのようなものなのか、それを誘導するにはどうすればよいのか、まだ不明なことがたくさんある。今後数年のうちに、呼吸器感染症用ワクチンの大幅な改良につながるような刺激的な研究が続々と出てくるだろう」と述べている。

180.

モデルナのJN.1対応コロナワクチン、一変承認を取得

 モデルナは2024年8月23日付のプレスリリースにて、オミクロン株JN.1に対応する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン「スパイクバックス筋注(1価:オミクロン株JN.1)」の承認事項の一部変更承認を厚生労働省より取得したことを発表した。 厚生労働省は2024年5月に、2024/2025秋冬シーズンの定期接種に使用する新型コロナワクチンの製造株として、JN.1系統および下位系統に中和抗体を誘導する抗原を採用することを決定していた。このガイダンスは、世界保健機関(WHO)のTAG-CO-VACの勧告と一致している1)。 この秋冬に自治体により行われる新型コロナワクチンの定期接種の対象は65歳以上または、60~64歳で心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される人、およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能であるなど一定の健康状態にある人が対象だ。ただし、対象外でも任意で接種を受けることができる。 また同社は7月に、田辺三菱製薬と、日本におけるモデルナのmRNA呼吸器ワクチンポートフォリオのコ・プロモーション契約を締結したことを発表した。同社のリリースによると、当初契約期間は2029年3月31日までであり、本契約の締結に基づき、モデルナのmRNA呼吸器ワクチンの製造、販売、メディカル活動および流通をモデルナ・ジャパンが行い、日本における公衆衛生のためのプロモーション活動を両社が実施する。このポートフォリオには、モデルナのCOVID-19ワクチンであるスパイクバックスも含まれるという。

検索結果 合計:2178件 表示位置:161 - 180