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第137回 コロナワクチン買い占めが130万人の命を奪った/あの飲み物でコロナ予防?

COVID-19ワクチン買い占めが130万人の命を奪った去年2021年の終わりまでに世界のおよそ2人に1人(約50%)が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)ワクチンの一通り(2回)の接種を済ませました。しかしその普及率は一様ではなく、高所得国では75%近くに達しているのに対して低所得国ではわずか2%足らずです。富裕国は去年末時点でCOVID-19ワクチンを余分に貯め込み、比較的重症化し難い幼い小児への接種に取り掛かっています。かたや貧しい国はというとCOVID-19で死ぬリスクが高い人への接種も十分に行き届いていないありさまです。COVID-19ワクチン普及の世界的な格差は不必要な死をおそらくもたらしたとすでに周知されています。そのような不必要な死がどれほど生じたかを推定することは将来の不可避な疫病流行への備えの準備に役立つはずです。そこで英国ワーウィック大学の数理疫学専門家Sam Moore氏等は世界154ヵ国の死亡やワクチン普及のデータを使い、金ではなく需要に応じてCOVID-19ワクチンが隈なく世界の人々の手に渡っていたらSARS-CoV-2感染やその重症度はどうだったかを予想しました。その結果、COVID-19ワクチンが世界で完全に公平に分配されていたとしたら2021年にSARS-CoV-2感染は約3億例少なく、130万人はCOVID-19で死なずに済んだと推定されました1-4)。さらには変異株を封じる効果も期待できるようです。SARS-CoV-2オミクロン株BA.5が流行したかと思えば早くも次はBA.5から分家したBQ.1やその近縁種BQ.1.1の感染が世界的な広がりを見せており、米国では先週5日までの一週間のCOVID-19診断数のおよそ35%を占めるまでに増えています5)。その前の週のBQ.1とBQ.1.1感染の割合はおよそ23%でした。欧州でも増えており、まもなく感染の大半を占めるようになり、向こう数週間か数ヵ月の感染例増加を後押しするとみられています6)。COVID-19ワクチンをより公平に共有すれば、SARS-CoV-2感染がいっそう減少し、そのような次から次へのSARS-CoV-2変異株台頭を遅らせうることも今回の研究で示唆されました4)。金払いではなく需要に応じてワクチンを分配することで皆が恩恵を受けうるのであり1)、各国の政策決定者は今回の研究の推定結果を頼りに次の流行にもっと優れた手立てを講じることができそうです4)。コーヒーでCOVID-19予防?COVID-19ワクチンを世界に公平に広めるには各国の協力などのひと手間が今後必要ですが、すでに世界に広まるある飲み物がもしかしたらCOVID-19予防効果を担うかもしれません。その飲み物とは、それを朝飲まないことには一日が始まらないという方も多いであろうコーヒーです。その成分・5-caffeoyl quinic acid(慣用名はクロロゲン酸)がコーヒー1杯分ほどに含まれる量の濃度でSARS-CoV-2のスパイクタンパク質と細胞のACE2受容体の結合を確実に阻止し、細胞感染を防ぐことがドイツのヤーコプス大学の化学者Nikolai Kuhnert氏等の生化学実験で示されました7)。実験ではコーヒー1杯を200mLと仮定しました8)。その量のコーヒーにはクロロゲン酸がおよそ100mg含まれます。コーヒーに実際のところCOVID-19予防効果があるのかないのかの判断は化学者である自分にはできないが、疫学試験でその答えが判明するだろうとKuhnert氏は言っています8)。同氏等は社会学などの他の分野の研究者に相談する予定です。参考1)Moore S, et al. Nat Med. 2022 Oct 27. [Epub ahead of print]2)Quantifying the effect of inequitable global vaccine coverage on the COVID-19 pandemic / Nature3)Daily briefing: Vaccine hoarding might have cost 1.3 million lives / Nature 4)COVID vaccine hoarding might have cost more than a million lives / Nature 5)COVID variants BQ.1/BQ.1.1 make up 35% of U.S. cases / Reuters6)Cases of BQ.1, BQ.1.1 COVID variants double in U.S. as Europe warns of rise / Reuters7)Schmidt D, et al. Food Funct. 2022;13:8038-8046.8)Research at Jacobs University: Coffee could offer protection from catching COVID-19 / Eurekalert

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コロナワクチンの血栓症リスク、種類別比較を定量化/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンのうち、アデノウイルスベースのワクチンであるChAdOx1-S(アストラゼネカ製)はmRNAベースワクチンのBNT162b2(ファイザー製)と比較して、初回接種から28日以内の血小板減少症のリスクが30%以上高く、アデノウイルスベースのワクチンAd26.COV2.S(ヤンセン製)はBNT162b2に比べ、血小板減少症を伴う血栓症候群(TTS)の中でも静脈血栓塞栓症のリスクが高い傾向にあることが、英国・オックスフォード大学のXintong Li氏らが行った欧米6ヵ国のデータセットの解析で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年10月26日号で報告された。欧州5ヵ国と米国のネットワークコホート研究 研究グループは、COVID-19に対するアデノウイルスベースのワクチンとmRNAベースのワクチンとで、TTSまたは血栓塞栓イベントのリスクの定量的な比較を目的に、国際的なネットワークコホート研究を実施した(欧州医薬品庁[EMA]の助成を受けた)。 解析には、欧州の5ヵ国(フランス、ドイツ、オランダ、スペイン、英国)の各1つのデータセットと、米国の2つのデータセットが使用された。 対象は、2020年12月から2021年の半ばまでの期間に、2つのアデノウイルスベースのCOVID-19ワクチン(ChAdOx1-S、Ad26.COV2.S)または2つのmRNAベースのCOVID-19ワクチン(BNT162b2、mRNA-1273[モデルナ製])のいずれかの接種を少なくとも1回受け、初回接種時に年齢18歳以上の集団であった。 主要アウトカムは、ワクチン接種から28日以内のTTS(深部静脈血栓症、血栓塞栓症など)または静脈・動脈血栓塞栓イベント(深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳静脈洞血栓症、心筋梗塞など)とされた。 傾向スコアマッチング後に罹患率比が推算され、陰性コントロールのアウトカムを用いて較正が行われた。変量効果によるメタ解析で、データベースごとの推算値が統合された。今後の予防接種キャンペーンの際に考慮すべき ドイツと英国のデータの解析では、血小板減少症は、ChAdOx1-Sの初回接種を受けた集団で862件、BNT162b2の初回接種を受けた集団で520件発生した。 ドイツと英国のデータのメタ解析では、ChAdOx1-S初回接種はBNT162b2初回接種と比較して、28日後の血小板減少症のリスクが高く、較正後の統合罹患率比は1.33(95%信頼区間[CI]:1.18~1.50)であり、較正後罹患率の差は1,000人年当たり1.18(95%CI:0.57~1.8)、絶対リスク差は10万人当たり8.21(95%CI:3.59~12.82)であった。 TSSはきわめてまれであった。米国とスペインのデータのメタ解析では、Ad26.COV2.SはBNT162b2に比べ、TTSのうち静脈血栓塞栓症のリスクが高い傾向が認められ、較正後の統合罹患率比は2.26(95%CI:0.93~5.52)であった。不確実性はより高いものの、TTSの深部静脈血栓症にも同様の傾向がみられた(較正後統合罹患率比:1.83、95%CI:0.62~5.38)。 著者は、「罹患数はきわめて少ないが、アデノウイルスベースのワクチン接種後に観察された血小板減少症のリスクは、今後、予防接種キャンペーンやワクチン開発を計画する際に考慮すべきと考えられる」としている。

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既感染によるBA.4/5感染予防効果、半年で5割低下/NEJM

 現在、COVID-19感染の主流となっているオミクロン株BA.4およびBA.5について、既感染による再感染予防効果は時間経過と共に急速に減退する可能性がある。カタール・ドーハのWeill Cornell MedicineのHeba N. Altarawneh氏らによる検討がNEJM誌2022年10月27日号のCORRESPONDENCEに掲載された。 研究者らは、SARS-CoV-2の検査結果、臨床経過、ワクチン接種、人口統計学的データ、カタールの医療施設で実施されたPCRおよび迅速抗原検査の全結果のデータを、全国SARS-CoV-2データベースから抽出した。感染リスクの違いをコントロールするため、性別、年齢、国籍、併存疾患数、検査した週、検査方法、検査理由によって、試験群と対照群をマッチングさせた。さらに、過去の感染について、オミクロン株による感染の波の開始(2021年12月19日)より前(前感染)とそれ以後(後感染)に分類した。 2022年5月7日~7月28日のPCR検査におけるS遺伝子標的不全(SGTF)の判定を用いて、BA.4/5への再感染に対する既感染の有効性を推定した。6月8日~7月28日の間に診断されたSARS-CoV-2感染は、この期間に支配的な亜種であったため、すべてBA.4/5感染であると仮定して有効性を推定した。・前感染では、有症状のBA.4/5再感染に対する有効性は35.5%(95%信頼区間[CI]:12.1~52.7)、症状の有無にかかわらない感染に対する有効性は27.7%(95%CI:19.3~35.2)であった。・後感染では、有症状のBA.4/5再感染に対する有効性は76.2%(95%CI:66.4~83.1)、症状の有無にかかわらない感染に対する有効性は78.0%(95%CI:75.0~80.7)であった。 診断された感染症がすべてBA.4/5であると仮定した既感染の有効性に関する解析でも、主解析と同様の結果が得られた。また、既感染からの間隔によって層別化した有効性の解析でも、時間の経過とともに予防効果が低下することが示された。 研究者らは、「BA.4/5再感染に対する既感染の有効性は、前感染ではわずかだったが、BA.1/2含む後感染では高かった。これは、時間の経過とともに免疫防御力が低下し、BA.4/5の免疫回避力が高くなることが原因だ」とした。

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認知症患者のインフルエンザワクチン接種の抗体反応に対する光曝露の影響

 認知症受け入れ施設の照明条件を改善すると、患者の睡眠、概日リズム、健康状態の改善がみられる。スイス・Ecole Polytechnique Federale de LausanneのMirjam Munch氏らは、日中に明るい光を浴びると、認知症患者のインフルエンザワクチン接種に対する免疫応答がサポートされる可能性について報告を行った。この結果は、毎日より多くの光を浴びることで、認知症患者の免疫応答が上昇することを示唆しており、今後の研究において、定期的な光曝露がヒトの免疫系に対し直接的または安定した概日睡眠覚醒リズムを介して良い影響を及ぼすかが明らかになることが期待される。Brain, Behavior, & Immunity - Health誌2022年9月20日号の報告。 施設に入所している認知症患者80例を対象に、光曝露と休息および活動サイクルとの関係を評価するためアクティビティトラッカー活動量計を8週間使用した。毎年のインフルエンザワクチン接種前と接種4週間後に採血した血液サンプルを用いて、患者の免疫反応を分析した。3つのインフルエンザウイルス株(H3N2、H1N1、IB)に対する抗体濃度は、赤血球凝集抑制(hemagglutination inhibition)アッセイで定量化した。 主な結果は以下のとおり。・個々の光曝露プロファイル(日光を浴びるを含む)を定量化し、照度392.6ルクスを中央値として低光曝露群と高光曝露群に分類した。・両群間で、認知機能障害の重症度、年齢、性別に違いは認められなかった。・高光曝露群は、低光曝露群と比較し、ワクチン接種前の濃度が同等であったにもかかわらず、H3N2ワクチンに対する抗体価が有意に増加し、概日活動の振幅が有意に大きかった(日中の活動量が多く、夜間の活動量が少ない)。・全対象者の75%以上で、3つのインフルエンザウイルス株に対する十分な血清保護応答が確認された。

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イベルメクチン、軽~中等症コロナ患者の回復に寄与せず/JAMA

 軽症~中等症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)外来患者において、イベルメクチン400μg/kgの1日1回3日間投与はプラセボと比較し回復までの期間を改善しないことが、米国・デューク大学のSusanna Naggie氏らが実施した無作為化二重盲検プラセボ対照プラットフォーム試験「ACTIV-6試験」の結果、示された。著者は、「軽症~中等症のCOVID-19患者に対して、イベルメクチンの使用は支持されない」とまとめている。JAMA誌2022年10月25日号掲載の報告。外来患者で、持続的回復までの期間をイベルメクチンvs.プラセボで評価 ACTIV-6試験は、軽症~中等症のCOVID-19外来患者における既存治療転用を評価するようデザインされた、進行中の完全遠隔法による分散型臨床試験である。 研究グループは、米国の93施設において、SARS-CoV-2感染が確認されCOVID-19の症状発現後7日以内の30歳以上の外来患者のうち、2つ以上の症状(疲労、呼吸困難、発熱、咳、吐き気、嘔吐、下痢、体の痛み、悪寒、頭痛、喉の痛み、鼻の症状、味覚・嗅覚の異常のいずれか)を有する患者を、イベルメクチン(400μg/kgを1日1回3日間投与)群またはプラセボ群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は、持続的回復までの期間(少なくとも3日間連続して症状がないことと定義)、副次評価項目は28日目までの入院または死亡の複合を含む7項目とした。持続的回復までの期間は12日vs.13日、有意差なし 2021年6月23日~2022年2月4日の期間に、計1,800例が無作為化された(平均[±SD]年齢48±12歳、女性932例[58.6%]、SARS-CoV-2ワクチンを2回以上接種753例[47.3%])。このうち、1,591例(イベルメクチン群817例、プラセボ群774例)が試験を完遂し、解析に含まれた。 持続的回復までの期間の中央値は、イベルメクチン群12日(四分位範囲[IQR]:11~13)、プラセボ群13日(IQR:12~14)であり、持続的回復までの期間の改善に関するハザード比(HR、HR>1が有益であることを示す)は1.07(95%信用区間[CrI]:0.96~1.17、事後解析のp=0.91)であった。 28日目までの入院または死亡は、イベルメクチン群で10例、プラセボ群で9例確認された(1.2% vs.1.2%、HR:1.1、95%CrI:0.4~2.6)。 最も多く報告された重篤な有害事象は、COVID-19肺炎(イベルメクチン群5例、プラセボ群7例)と静脈血栓塞栓症(1例、5例)であった。

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モデルナのBA.4/5対応2価ワクチンを特例承認/厚労省

 厚生労働省は11月1日、モデルナのオミクロン株BA.4/5に対応した新型コロナウイルス2価ワクチン「スパイクバックス筋注」(2価:起源株/オミクロン株BA.4/5)について、承認事項の一部変更の特例承認をしたことを発表した。 一部変更申請の概要として、起源株およびオミクロン株BA.4/5のスパイクタンパク質をコードする mRNAを含む2価ワクチンが追加された。有効成分のエラソメランはSARS-CoV-2の起源株を、イムエラソメランはオミクロン株BA.1を、ダベソメランはオミクロン株BA.4/5のスパイクタンパク質をコードするmRNAだとしている。 本剤の接種対象者は、過去に初回免疫または追加免疫としてSARS-CoV-2ワクチンの接種歴のある18歳以上であり、追加免疫として、1回0.5mLを筋肉内に接種する。接種間隔は通常、前回のワクチンの接種から少なくとも3ヵ月経過した後に接種を行うことができる。

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第133回 『かかりつけ医』制度化は骨太ならぬ“骨抜き”方針か!?

『かかりつけ医』は、たぶん一般にはある程度聞き慣れた言葉になっているだろうが、その定義はかなり曖昧と言って良いかもしれない。慢性疾患を有する患者の場合は、その主治医がいわゆる『かかりつけ医』だと思っているはずだ。しかし、ここでは釈迦に説法だが、厚生労働省や日本医師会が考える「かかりつけ医」の定義は異なる。厚生労働省(以下、厚労省)では「健康に関することをなんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介してくれる、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」となる。ちなみに日本医師会の考える『かかりつけ医』は、同会ホームページで、この厚労省の定義をさらに詳しく説明したような内容になっている。というか、そもそも厚労省のホームページの説明の下にわざわざ「参考」として日医へのリンクが張られているのは、今風に言うと、なんとも「もにょって」しまう。さて、この定義に厳密に沿えば、前述の慢性疾患の主治医は実は多くの場合、かかりつけ医とは言えない。ちなみに日本医師会総合政策研究機構の「日本の医療に関する意識調査 2022 年臨時中間調査」によると、一般生活者1,152人に聴取した結果では「かかりつけ医がいる」との回答は55.7%で50代以降になると50%を超えるものの、20代では30%弱だ。前述の厚労省、日医の『かかりつけ医』の定義を見て「もにょる」を通り越して、やや言葉は悪いが「ウソつけ」と言いたくなる部分がある。それは厚労省のホームページの「『かかりつけ医』はご自身で選択できます」と日医の「『かかりつけ医』とは、患者さんが医師を表現する言葉です」である。文字上で言えばそうだろう。だが、現実にはそうなっていない。この問題を顕在化させたのは、今般の新型コロナウイルス感染症のワクチン接種開始時である。同ワクチンは超低温冷凍による保管が必要だったことから、当初は自治体主導の大規模接種会場での接種がモデルとして考えられたが、それが突如として多くの自治体で地域医師会の協力を得て個別医療機関での接種が中心となった。その先鞭が東京都練馬区の作成した「練馬区モデル」である。先日、ある自治体のワクチン接種担当の職員が、「練馬区モデルが出る前の自治体向けマニュアルを見ると、どう考えても大規模接種を前提としているようにしか読めないので、その路線での接種計画を組んでいたが、突如練馬区モデルの話が厚労省から出てきて驚いた」と聞かされた。これが全国での接種計画を一変させたのは間違いないようだ。かく言う私は練馬区民。この話を聞いた時は、「いやいや練馬区住民でよかった」と思っていたのだが、以前の本連載でも書いたように、いざ接種開始となって送付されてきた案内を見てややのけぞった。接種医療機関リストは白とオレンジの2色刷りで、色付きの医療機関は「かかりつけの患者のみ」という区分だったのである。しかも、誰でもが接種できる白色の医療機関は全体の3分の1程度。あの当時は「これは絵に描いた餅?」と思いもしたが、mRNAワクチンの接種自体が初の試みだったので、まあやむを得ないのだろうとくらいに捉えていた。後に区内在住の知人から「過去に急に体調が悪くなった時に2、3回受診した医療機関にワクチン接種の申し込み連絡をしたら、“申し訳ないですが、かかりつけは一定頻度で定期的に受診している方を指しています”と断られた」と聞かされた。ワクチンマニアを自認する私にも、先日ようやくオミクロン株対応ワクチンの4回目接種の接種券が届いた。だが、まだ接種はしていない。というのも「マニア心」で、より抗体価が上がりやすいモデルナの2価ワクチンの承認を待っていたからである。今月半ば過ぎには、たぶん安定的な供給も開始されるだろう。そして再び個別接種医療機関リストを見て、ため息が出てしまった。相変わらずオレンジ色の「かかりつけの患者のみ」が多いばかりではなく、逆にかつては誰でも受けられるはずだった白色のリスト分類だった医療機関の一部がオレンジ色に変更されていたからである。アナフィラキシーに対する懸念が今よりも強かった初期ならまだしも、もう最多では5回接種者がいる状態である。にもかかわらず、逆にかかりつけ患者のみに新たに限定してしまう理由とは何だろう? まったく意味不明である。前述の知人の体験である「医師から選ばれたかかりつけ患者」という現状も併せると、まったく納得できない。さてそんな昨今、話題になっているのは「『かかりつけ医』を制度上、どのように位置付けるか?」である。これは政府が6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022 について(骨太方針2022)」で、「かかりつけ医機能の制度整備」が謳われたからである。該当部分を抜粋する。また、医療・介護提供体制などの社会保障制度基盤の強化については、今後の医療ニーズや人口動態の変化、コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築するため、機能分化と連携を一層重視した医療・介護提供体制等の国民目線での改革を進めることとし、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うとともに、地域医療連携推進法人の有効活用や都道府県の責務の明確化等に関し必要な法制上の措置を含め地域医療構想を推進する。敢えて太字にしたが、かかりつけ医機能にかかっているのが上の太字部分である。もっと言えば、「コロナ禍で顕在化した課題を踏まえ」の意味するところが大である。端的に言ってしまえば、前述のワクチン接種問題や、政府の呼びかけにもかかわらず発熱外来が思ったように増えなかった経験を踏まえ、「もう制度的に縛っちゃいますよ」と言っているのだ。そもそも岸田 文雄首相は就任当初からコロナ対策として、非常時の診療体制整備に国が関与を明言していたので、特段驚きはない。国が考える「かかりつけ医機能の制度整備」には、ヨーロッパやオーストラリアやカナダの家庭医登録制度に近いものが念頭にあると思われる。これまでフリーアクセスを維持しつつ、患者の受診行動を変えるために選定療養費制度などの政策誘導を行ったものの、ほぼ目的を達成できていない現実を考えればさもありなんだろう。そしてこうした家庭医制度を念頭に置くなら、当然ながら最終的な診療報酬は人頭払いと疾患別包括払いが視野に入る。もちろん開業医中心の日医は経営環境が激変するため、議論の入口から反対姿勢を示している。もっともヨーロッパの家庭医制度をモデルとした場合、日本への制度導入には大きなハードルが2つある。1つは今さっき触れた診療報酬の抜本的な改定である。これはかなり難儀な話であるのだが、DPC制度の前例を踏まえれば完全に不可能なことではない。現にこれを匂わす診療所向けの診療報酬点数は現時点でも存在する。その意味では家庭医への登録に基づく人頭払いをどのように導入していくかだが、そこは行政お得意の最初は日医などが受け入れしやすい軽い縛りを設け、徐々に真綿で首を締めるが如く浸透させていくのではないだろうか?むしろ最大の問題は家庭医の質の担保だろう。日医には会員の『かかりつけ医』機能の強化に向けて生涯教育制度はあるが、これは連続した3年間の単位数とカリキュラムコード数(同一コードは加算不可)の合計数が60以上の者に「日医生涯教育認定証」を発行するというもので、一部の人にはお叱りを受けるかもしれないが、はっきり言えば形式だけ整えたようなものだ。これに対してヨーロッパの家庭医制度は、世界家庭医機構(WONCA)が認証した研修プログラムがあり、日医の生涯教育制度よりもはるかに上位レベルの研修内容である。とくにWONCAの家庭医プログラムは医師と患者・家族、地域との関係性についてはかなり重点的なプログラムがあり、この点は日医の生涯教育制度はかなり薄め。かつ、そもそも海外の家庭医とは、日本でかかりつけ医と見なされる診療所の多くを占める一般内科とは異なり、軽度の外科や産科、手術以外の耳鼻咽喉科、眼科領域までも網羅的に最新のエビデンスに基づく診療に対応できることが原則である。このWONCAの国際認証を受けた日本プライマリ・ケア連合学会の研修プログラムを終了し、家庭医療専門医として認定された医師は現時点で1,000人を超えたぐらいである。日医が生涯教育制度に変えて、こうした制度を利用してかかりつけ医機能を強化するが、その代わりに国による“過度な”介入はご免こうむりたいと言うならばまだしも、そうした妥協はこれまでの日医の姿勢からは期待できないだろう。もちろん一部の日医会員の中には日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医研修を受けたいという人もいるだろうが、すでにかかりつけ医を自認している市中の開業医の多くはむしろ敬遠するだろう。国、日医、日本プライマリ・ケア連合学会という3者を当事者として、落しどころを探ろうにしても、たぶんWONCAの国際認証を受けている日本プライマリ・ケア連合学会は過度な妥協はしないだろうし、それは国民のためにしてはならない。もし国がかかりつけ医を海外の家庭医制度に寄せていくなら、それこそ大きな政治的な決断が必要になる。しかし、日医による後ろ盾が選挙を勝ち抜く大きな武器になっている与党・自民党にとってそれは無理だろうし、それ以前にかかりつけ医の定義ですら日医への忖度丸出しの厚労省が政治へのけん制に入ってしまうのは目に見えている。とくに今、支持率低迷にあえぐ岸田首相にとってはそんな危険な決断は無理と断言しても良い。その意味では一瞬威勢が良いように読める「骨太方針2022」も間もなく「骨抜き方針2022」になるという構図が見えてくる。私たちは不幸な歴史の証人になるだけなのだろうかと暗澹たる気持ちになってしまう。

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ワクチン回数と感染歴、オミクロン感染予防効果の高い組み合わせは?/NEJM

 米国・スタンフォード大学のElizabeth T. Chin氏らは、感染ハイリスク集団である刑務所の収容者とスタッフ合計約7万6,000例を対象に行った後ろ向きコホート試験で、COVID-19のmRNAワクチン接種および既感染は、SARS-CoV-2のB.1.617.2(デルタ)変異株優勢前の感染予防効果は低かったが、B.1.1.529(オミクロン)変異株に対しては感染予防効果を有していたことを明らかにした。また、既感染者も含め、ワクチン3回接種が2回接種よりも感染保護効果が顕著に大きかったことも示されたという。NEJM誌オンライン版2022年10月26日号掲載の報告。米国カリフォルニア州刑務所の収容者・スタッフ対象に試験 研究グループは、米国カリフォルニア州立刑務所35ヵ所の収容者5万9,794例とスタッフ1万6,572例を対象に、mRNAワクチン接種と既感染のSARS-CoV-2オミクロン変異株感染への保護効果を評価した。 オミクロン変異株優勢時の2021年12月24日~2022年4月14日に集めたデータを用いて後ろ向きコホートデザインにより解析。加重Coxモデルを用いて、ワクチン接種歴(mRNAワクチンの接種回数により層別化)と感染歴(なし、またはデルタ変異株優勢前または優勢中に感染あり)の組み合わせ別にみた、ワクチン接種と既感染の有効性(1-ハザード比[HR]で算出)を比較した。 副次解析では、ローリング適合コホートデザインを用いて、ワクチン2回接種と比較した3回接種の有効性を評価した。ワクチン3回接種、2回接種に比べ有効性は25%以上増大 オミクロン変異株感染予防に関する推定有効率は、ワクチン未接種でデルタ変異株優勢前感染者では16.3%(95%信頼区間[CI]:8.1~23.7)だったが、ワクチン未接種でデルタ変異株優勢中感染者では48.9%(41.6~55.3)だった。 オミクロン変異株感染予防に関するワクチン接種の推定有効率は、感染歴で大きく違いがあり、2回接種では未感染18.6%(95%CI:7.7~28.1)~デルタ変異株優勢中感染83.2%(77.7~87.4)、3回接種では未感染40.9%(31.9~48.7)~デルタ変異株優勢中感染87.9%(76.0~93.9)にわたっていた。 ワクチン3回接種(ブースター)による有効性の推定増加幅は、未感染者の25.0%(95%CI:16.6~32.5)~デルタ変異株優勢前感染者57.9%(48.4~65.7)にわたっていた。

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妊婦へのコロナワクチン接種をメタ解析、NICU入院や胎児死亡のリスク減

 妊娠中のCOVID-19ワクチン接種による周産期アウトカムへの影響について、有効性と安全性を評価するため、筑波大学附属病院 病院総合内科の渡邊 淳之氏ら日米研究グループによりシステマティックレビューとメタ解析が行われた。本研究の結果、ワクチン接種が新生児集中治療室(NICU)入院、子宮内胎児死亡、母親のSARS-CoV-2感染などのリスク低下と関連することや、在胎不当過小(SGA)、Apgarスコア低値、帝王切開分娩、産後出血、絨毛膜羊膜炎などといった分娩前後の有害事象のリスク上昇との関連がないことが示された。JAMA Pediatrics誌オンライン版2022年10月3日号に掲載の報告。 本研究では、妊娠中のCOVID-19ワクチン接種に関連する新生児アウトカムを調査したすべての前向き研究および観察研究について、2022年4月5日にPubMedとEmbaseデータベースで包括的な文献検索を行い、(1)査読付き雑誌に掲載された研究、(2)妊娠中に少なくとも1回のワクチン接種を受けた妊婦と受けなかった妊婦を比較した研究、(3)新生児アウトカムにおいて、早産(妊娠37週未満での出産)、SGA、Apgarスコア低値(出生5分後のApgarスコアが7未満)、NICU入院、子宮内胎児死亡のうち少なくとも1つを報告する研究、という3つの条件を満たすものを対象とした。最終的に9つの研究を抽出し、妊娠中に少なくとも1回のワクチン接種を受けた妊婦8万1,349例(ワクチン接種群)と受けていない妊婦25万5,346例(ワクチン非接種群)について検証した。オッズ比(OR)はランダム効果モデルを用いて算出された。 被験者のベースラインは次のとおり。平均年齢は、ワクチン接種群:32~35歳vs.ワクチン非接種群:29.5~33歳。合併症については、妊娠前/妊娠糖尿病は、1,267例(1.6%)vs.3,210例(1.3%)。妊娠前/妊娠高血圧は、1,176例(1.4%)vs.3,632例(1.4%)。肥満は、8,420/4万8,231例(17.5%)vs.2万6,108/11万4,355例(22.8%)。喫煙歴は、4,049/8万35例(5.1%)vs.1万8,930/25万2,990例(7.5%)。ワクチン接種群では、98.2%がmRNAワクチン(ファイザー製:6万1,288例、モデルナ製:1万6,036例、規定なし:2,575例)、1.1%がウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ製:488例、ヤンセン製:425例)、0.7%が明確に記録されていなかった。6つの研究で投与回数が報告されており、5万2,295/6万1,255例(85.4%)が妊娠中にmRNAワクチンを2回投与されていた。 主な結果は以下のとおり。【新生児のアウトカム】・妊娠中のCOVID-19ワクチン接種は、NICU入院、子宮内胎児死亡のリスク低下と関連していた。NICU入院は、OR:0.88(95%信頼区間[CI]:0.80~0.97)。子宮内胎児死亡は、OR:0.73(95%CI:0.57~0.94)。・そのほかの主要アウトカムは2群間で統計的有意差を示さなかった。早産は、OR:0.89(95%CI:0.76~1.04)。SGAは、OR:0.99(95%CI:0.94~1.04)。Apgarスコア低値のOR:0.94(95%CI:0.87~1.02)。・妊娠初期に1回目のワクチン接種を受けた妊婦と、妊娠中にワクチン接種を受けなかった妊婦の間では、早産(OR:1.81、95%CI:0.94~3.46)、SGA(OR:1.09、95%CI:0.95~1.27)の発生率で有意差はなかった。一方、中期または後期のワクチン接種は、妊娠中にワクチン接種を受けなかった人と比較して、早産(OR:0.80、95%CI:0.69~0.92)、SGA(OR:0.94、95%CI:0.88~1.00)のリスクの低下と関連していた。【母親のアウトカム】・妊娠中のCOVID-19ワクチン接種は、追跡期間中の母親のSARS-CoV-2感染リスク(OR:0.46、95%CI:0.22~0.93)の低下と有意に関連した。・妊娠中のワクチン接種は、帝王切開分娩(OR:1.05、95%CI:0.93~1.20)、産後出血(OR:0.95、95%CI:0.83~1.07)、絨毛膜羊膜炎(OR:1.06、95%CI:0.86~1.31)のリスクとは関連がなかった。 本研究により、妊娠中のCOVID-19ワクチン接種は、新生児および母親の有害事象のリスク上昇と関連せず、新生児のNICU入院、子宮内胎児死亡のリスク低下と関連し、妊娠中期以降の接種で早産、SGAのリスク低下と関連したことが示され、妊婦に対するワクチン接種の安全性と有効性が裏付けられた。さらに研究チームは、集中治療を必要とするCOVID-19に罹患した妊婦のほとんどがワクチン未接種であり、また、無症状感染であっても、子癇前症や早産などのリスク上昇と関連しているとし、新生児および母親をSARS-CoV-2から保護するため、妊婦のワクチン接種率を高めることが最も重要だと指摘している。

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COVID-19に対するモデルナ製のオミクロン株対応2価ブースターワクチン(オミクロン株対応2価ワクチン[BA.1])の安全性と免疫原性について(解説:寺田教彦氏)

 本論文は、COVID-19に対するモデルナ製のオミクロン株対応2価ブースターワクチン(オミクロン株対応2価ワクチン[BA.1])の安全性と免疫原性の評価の中間解析結果を示している。 新型コロナウイルスワクチンは、当初、野生株(従来株)に対して高い感染予防効果、発症予防効果、重症化予防効果が示されていた(Baden LR, et al. N Engl J Med. 2021;384:403-416.)。しかし、デルタ株が流行した時期には新型コロナウイルス感染症の感染予防効果や発症予防効果は減衰することも指摘されるようになった(Andrews N, et al. N Engl J Med. 2022;386:1532-1546.)。その後、オミクロン株の流行下では、ワクチンの効果は比較的短期間で減衰し、また効果も低下していることが示されていた。変異株に対する戦略としては、株に対応したワクチンの作成が行われ、ベータ株対応の2価ワクチンの使用では、従来のワクチンに比較して複数の変異体に対して一貫して高い中和抗体応答とスパイク結合応答を誘導することが報告されていた(Chalkias S, et al. Nat Med. 2022 Oct 6. [Epub ahead of print])。 今回の論文で取り上げられているオミクロン株対応2価ワクチン(BA.1)は、mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンの1つで、起源株とオミクロン株の2種類のスパイク蛋白に対応している。オミクロン株は、伝播力の向上や免疫からの逃避能力の獲得により世界的に流行したが、オミクロン株対応ワクチンはこの流行の抑制に寄与することが期待されている。 本研究の結果、オミクロン株対応2価ワクチン(BA.1)は、従来のワクチンに比して中和抗体応答がBA.1のみならずBA.4/5や他の複数の変異株に対しても高かった。過去のワクチンと中和抗体価に関する研究結果を参考にすると、感染予防効果はおおよそ相関することが考えられることから、本研究の結果を考えるとオミクロン株対応2価ワクチン(BA.1)は、従来のワクチンよりも感染予防効果が高くなることが期待されるだろう。安全性に関しても、従来のモデルナワクチンと比較して有害事象はほぼ同等であり、ほとんどが軽症から中等症だった。 オミクロン株対応2価ワクチン(BA.1)のリアルワールドでの感染予防効果や発症予防効果、重症化予防効果のデータは今後の結果を待つ必要があるが、本論文の内容を参考にすると、オミクロン株も含めた多様な新型コロナウイルス株に対して旧来のワクチン(mRNA-1273)よりも高い中和抗体応答を誘導し、安全性の明らかな懸念も認められなかったことから、追加接種をする場合はオミクロン株対応2価ワクチンを接種することが良さそうである。 オミクロン株対応ワクチンの開発により、追加接種のタイミングも変更された。本論文では、オミクロン株対応ワクチンは、前回接種後3ヵ月以上経過している患者を対象に追加接種していた。本邦もこれらのデータを参考に2022年10月21日より、追加接種は前回の接種完了から3ヵ月以上経過している場合に接種と変更されている。ちなみに、米国のCDC(Centers for Disease Control and Prevention)はBA.4/5対応ワクチンを承認し、接種タイミングは最後の接種から2ヵ月以上空けてワクチン接種を追加することを推奨している(https://www.cdc.gov/vaccines/covid-19/clinical-considerations/interim-considerations-us.html#COVID-19-vaccines)。 本邦では、オミクロン株対応2価ワクチンのうち、BA.1対応ワクチンが先行して接種可能となったが、今後はBA.4/5対応ワクチンの接種も行われることになるだろう※。BA.4/5ワクチンのデータは限られているが、ファイザーは10月13日付のプレスリリースで、同ワクチンをブースター接種した7日後にオミクロン株BA.4/5に対する中和抗体応答が大幅に増加したことを報告しており、今後数週間以内にブースター接種後1ヵ月時点での中和抗体応答の結果を発表するとしている。 効果の高いワクチンが開発されることは喜ばしいことではあるが、ワクチン接種には費用がかかることや、接種に伴う副反応のリスクも伴う。今後は、2価ワクチンのリアルワールドでの感染予防効果、発症予防効果、重症化予防効果や安全性のさらなるデータを待つとともに、COVID-19に対するワクチンの追加接種の適切なタイミングを知るためにもワクチン効果の減衰に関するデータにも注目をしてゆきたい。※執筆時点において、モデルナ製のBA.1対応ワクチンは薬事承認され、BA.4/5対応の新型コロナワクチンは10月5日に薬事承認申請がなされている。ファイザー製はBA.1対応の2価ワクチンだけではなく、BA.4/5ワクチンも薬事承認されている。

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医療者ほか最前線労働者、デルタ・オミクロン株へのワクチン効果は/JAMA

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のデルタおよびオミクロン変異株に感染した米国の必須(essential)/最前線(frontline)労働者では、感染前149日以内のmRNAワクチン(BNT162b2[ファイザー製]、mRNA-1273[モデルナ製])の2回または3回接種は未接種と比較して、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の症状は軽度で、ウイルスRNA量は少なかったことが、米疾病対策センター(CDC)のMark G. Thompson氏らHEROES-RECOVERネットワークの調査で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年10月18日号に掲載された。米国6州の前向きコホート研究 本研究は、COVID-19に対するmRNAワクチンの2回または3回接種と、その症状およびSARS-CoV-2のウイルスRNA量との関連の評価を目的とする前向きコホート研究であり、2020年12月14日~2022年4月19日の期間に、米国の6州(アリゾナ、フロリダ、ミネソタ、オレゴン、テキサス、ユタ)でSARS-CoV-2に感染した患者が登録されたHEROES-RECOVERネットワークのデータが使用された(米国国立予防接種・呼吸器疾患センターなどの助成を受けた)。 HEROES-RECOVERネットワークには、医療従事者や早期対応業務従事者、その他の必須/最前線労働者から成る大規模なコホートが含まれる。このコホートは、教育、農業、食品加工、輸送、固形廃棄物収集、公共事業、政府サービス、保育、環境サービス、接客業などの分野の労働者が含まれ、他者と3フィート(約91cm)以内の距離で定期的に接触する職業であり、この環境で週に20時間以上働く人々と定義された。 主要アウトカムには、症状の発現、特異的な症状(発熱、悪寒など)、症状発現期間、医療探索行動(受診)などの臨床アウトカムと、ウイルス量(定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応[RT-qPCR]法で評価)などのウイルス学的転帰が含まれた。オミクロン変異株では、3回接種者で症候性感染症のリスクが高い COVID-19感染患者1,199例(年齢中央値41歳、女性59.5%)が解析に含まれた。14.0%が始原ウイルス株、24.0%がデルタ変異株、62.0%がオミクロン変異株に感染していた。 デルタ変異株では、感染症出現の14~149日前に2回目のワクチン接種を受けた患者は未接種患者に比べ、症状発現の確率が有意に低かった(77.8%[21/27例]vs.96.1%[74/77例]、オッズ比[OR]:0.13[95%信頼区間[CI]:0.0~0.6])。症状が発現した場合は、感染前7~149日に3回目の接種を受けた患者は未接種患者に比べ、発熱または悪寒の報告が有意に少なく(38.5%[5/13例]vs.84.9%[62/73例]、OR:0.07[95%CI:0.0~0.3])、症状発現の平均日数が短かった(10.2日vs.16.4日、群間差:-6.1日[95%CI:-11.8~-0.4])。 一方、オミクロン変異株では、症候性感染症のリスクは2回接種患者と未接種患者で差はなかったが、3回接種患者は未接種患者よりもリスクが有意に高かった(88.4%[327/370例]vs.79.4%[85/107例]、OR:2.0[95%CI:1.1~3.5])。 また、症候性オミクロン変異株感染患者では、感染前7~149日に3回目の接種を受けた患者は、未接種患者と比較して発熱または悪寒の訴えが有意に少なく(51.5%[160/311例]vs.79.0%[64/81例]、OR:0.25[95%CI:0.1~0.5])、医療を求めて受診した患者も有意に少数だった(14.6%[45/308例]vs.24.7%[20/81例]、OR:0.45[95%CI:0.2~0.9])。 感染前14~149日に2回目の接種を受けたデルタおよびオミクロン変異株感染患者は未接種患者に比べて、平均ウイルス量が有意に低値を示した(デルタ変異株:3 vs.4.1 log 10コピー/μL、群間差:-1.0 log 10コピー/μL[95%CI:-1.7~-0.2]、オミクロン変異株:2.8 vs.3.5、-1.0[-1.7~-0.3])。 著者は、「オミクロン変異株によるCOVID-19の症状は、デルタ変異株に比べ軽度で、症状発現期間も短いようであり、これはウイルスRNAの排出量が少ないことと関連した」としている。

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6ヵ月~5歳児へのモデルナワクチン、第II/III相中間解析/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNA-1273ワクチン(モデルナ製)25μgの2回接種は、生後6ヵ月~5歳の小児において安全であり、免疫原性は18~25歳の若年成人に対して非劣性であることが認められた。米国・エモリー大学医学部のEvan J. Anderson氏らが、6ヵ月~12歳未満の小児を対象に実施している第II/III相試験「KidCOVE試験」の6ヵ月~5歳児のコホートにおける中間解析結果を報告した。同試験の6~12歳未満のコホートにおける中間解析結果は、すでに報告されている。NEJM誌オンライン版2022年10月19日号掲載の報告。25μgの2回接種の有効性を18~25歳群と比較 KidCOVE試験では、米国の79施設およびカナダの8施設において、生後6~23ヵ月、2~5歳、6~12歳未満の3つの年齢コホートに分け参加者を登録し、パート1として非盲検用量漸増試験、パート2で評価者盲検無作為化プラセボ対照試験が実施された。 まずパート1において、2~5歳児224例にmRNA-1273ワクチン25μg(75例)または50μg(149例)、生後6~23ヵ月児150例には全例に25μgを28日間隔で2回接種した。その結果を受けて、パート2における接種用量は、両年齢コホートとも25μgが選択された。 パート2では、2~5歳児4,048例および6~23ヵ月児2,355例を、それぞれmRNA-1273ワクチン群(それぞれ3,040例、1,762例)またはプラセボ群(1,008例、593例)に3対1の割合で無作為に割り付け、25μgを28日間隔で2回接種した。 主要評価項目は、ワクチンの安全性と反応原性、ならびに第III相COVE試験(18歳以上、100μg×2回接種)における18~25歳の若年成人コホートと比較した免疫原性の非劣性の検証、副次評価項目はCOVID-19および新型コロナウイルス(SARS-CoV-2感染)の発生率であった。推定有効率、6~23ヵ月児50.6%、2~5歳児36.8% パート2における2回目接種後の追跡期間中央値は、2~5歳児コホートで71日、6~23ヵ月児コホートで68日であった。 有害事象の大部分は一過性のGrade1または2であり、新たな安全性の懸念は特定されなかった。データカットオフ日までに死亡、心筋炎・心膜炎・小児多系統炎症性症候群の発生はなかった。 57日時点の中和抗体幾何平均値は、2~5歳児コホートで1,410(95%信頼区間[CI]:1,272~1,563)、6~23ヵ月児コホートで1,781(1,616~1,962)であり、第III相COVE試験の若年成人コホート1,391(1,263~1,531)に対する非劣性を達成した。 COVID-19(米国疾病予防管理センターの定義)の発生は、2~5歳児コホートでワクチン群4.6%(119/2,594例)、プラセボ群7.1%(61/858例)、6~23ヵ月児コホートでそれぞれ3.4%(51/1,511例)、6.6%(34/513例)に認められ、ワクチンの推定有効率は2~5歳児コホートで36.8%(95%CI:12.5~54.0)、生後6~23ヵ月児コホートで50.6%(21.4~68.6)であった。

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第17回 COVID-19による出血性ショック脳症症候群で女児が死亡、いまだ低い小児ワクチン接種率

出血性ショック脳症症候群で亡くなった女児10月14~15日に鹿児島県で開催された日本神経感染症学会で、自治医科大学附属病院小児科の若江 惠三氏が発表した症例報告が衝撃的でした。吐血を繰り返しながら脳症で亡くなった8歳の女児のCOVID-19の報告です。子供に多い予後不良の脳症として、出血性ショック脳症症候群(Hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome)が挙げられます。COVID-19に特異的な病態ではありませんが、ウイルス感染症などによって免疫応答が過剰になり、サイトカインストーム、播種性血管内凝固(DIC)、ショック、意識障害など、あっという間に多臓器不全に至る致死的な病態です。とはいえ、急性脳症の中でも極めてまれなタイプで、国内で発症する事例は、年間10例あるかないかのようです。出血性ショック脳症症候群はライ症候群との鑑別が重要になりますが、どちらかといえばライ症候群の好発年齢よりも若く、乳幼児に多いとされています。早期に、血性下痢、吐血、DICなどを生じる点が、ライ症候群と異なります。予後は極めて不良で、生存しても重度の神経学的後遺症を残すとされています1)。成人でもこのような事例はちらほら報告されており2)、脳症とウイルス感染症は、まれながら切っても切れない関係にあるようです。日本神経感染症学会の報告について報道したニュース番組では、親御さんのコメントを発表しています。「ワクチンを接種させなかったことを悔やんでいます。子供のワクチン接種を呼びかけてほしい」と悲痛な思いが紹介されていました。世界的に低い小児のワクチン接種率新型コロナワクチンは努力義務に位置付けられながらも、小児では接種率は低いまま推移しています。10月24日公表時点で、12~19歳の2回接種率は74.9%ですが、5~11歳の2回接種率はわずか19.1%です3)。8割の子供が打っていないということを意味しています。地域差もかなり大きく、私の住んでいる大阪に至っては接種率1桁%です4)(うちの子供は接種しましたが…)。海外においても小児のワクチン接種率は低く、アメリカでは多くの州が接種率30%未満です。小児の新型コロナワクチンについては、「軽症が多いのに、そもそも接種させる必要があるのか」という意見がマジョリティのようです。各種学会5)が提言しているように、「メリット(発症予防や重症化予防など)がデメリット(副反応など)を更に大きく上回る」というのがその理由なのですが、これがうまく国民に啓発できていない現状があります。■初回(1回目・2回目)接種に関するエビデンス6)発症予防効果は中等度の有効性、入院予防効果は接種後2ヵ月間で約80%の有効性が報告されている。米国の大規模データベースによる解析で、安全性に関する懸念はないと報告され、日本での副反応疑い報告の状況からも、ワクチンの接種体制に影響を与えるほどの重大な懸念はないとされている。■3回目接種に関するエビデンス6)時間の経過とともに低下した感染予防効果が3回目接種により回復することが、近接した年齢層(12~15歳)で確認され、日本において薬事承認されている。3回目接種による局所および全身反応について、その頻度は、2回目接種と比較して有意な差がなかったことが海外で報告され、日本の薬事審査でも、そのほとんどが軽症または中等症であり大きな懸念はないとされている。インフルエンザの流行や第8波など、これからいろいろな不安因子が待ち受けています。小児ワクチン施策については、明確にリスクコミュニケーションがうまくいっていないので、後で振り返っていただきたいと思います。参考文献・参考サイト1)Pollack CV Jr, et al. Hemorrhagic shock and encephalopathy syndrome. Ann Emerg Med. 1991 Dec;20(12):1366-1370.2)Gnvir M, et al. Encephalopathy in the Setting of COVID-19: A Case Report. Curr Health Sci J. 2021 Apr-Jun; 47(2): 322-326.3)首相官邸 新型コロナワクチンについて 年齢階級別接種実績4)大阪府 ワクチン接種状況等について5)日本小児科学会 「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」に関するQ&A6)厚生労働省 新型コロナワクチンQ&A「なぜ小児(5~11歳)の接種に「努力義務」が適用されるようになったのですか。」

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ブースター接種後もコロナ重症化リスクが高い人は? /Lancet

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチンの2回接種のみと比較して、初回ブースター接種により新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院/死亡(重症COVID-19)のリスクは低下するが、高齢者、複数の疾患あるいは特定の基礎疾患を有する人は、初回ブースター接種完了後でも、重症COVID-19のリスクは高いという。英国・セント・アンドルーズ大学のUtkarsh Agrawal氏らが、前向きコホート研究の結果を報告した。著者は、「重症化リスクが高い人々には、新規最適化されたワクチンによる2回目のブースター接種を優先的に行うとともに、COVID-19治療薬を用いるべきである」としている。Lancet誌2022年10月15日号掲載の報告。英国の約3千万人のデータを解析 研究グループは、イングランド、北アイルランド、スコットランドおよびウェールズでそれぞれTrusted Research Environment(TRE)に保存されている医療データセットを用い、前向きコホート研究を実施した。これらのデータセットには、個人の臨床的・人口統計学的特性、ワクチン接種の有無と種類、RT-PCR検査によるSARS-CoV-2感染歴、重症COVID-19に関する情報が含まれている。コホートは、2020年12月8日~2022年2月28日の間に、BNT162b2(ファイザー製)またはChAdOx1 nCoV-19(アストラゼネカ製)ワクチンのみの2回接種を完了、あるいはその後BNT162b2またはmRNA-1273(モデルナ製)ワクチンのブースター接種を受けた、18歳以上の成人で構成された。 主要評価項目は、2回目接種またはブースター接種14日以上経過後の重症COVID-19(COVID-19関連入院またはCOVID-19関連死)とした。年齢、性別、社会経済的貧困状態、居住地、BMI、SARS-CoV-2感染歴等で調整されたポアソン回帰モデルを用い、人口統計学的および臨床的因子と重症COVID-19との関連について、ワクチン接種後の時間に関して調整した率比(aRR)および95%信頼区間(CI)を算出。4つの各TREで解析を行った後、固定効果メタ解析を用いて推定値をプールし評価した。 2020年12月8日~2022年2月28日の間に、1,620万8,600人が2回接種を完了し、さらに1,383万6,390人がブースター接種を受けた。これらのうち、SARS-CoV-2オミクロン株(B.1.1.529)が優勢であった2021年12月20日~2022年2月28日の期間に発生した重症COVID-19に限定して解析した。ブースター接種後も高齢者、併存疾患5つ以上、免疫抑制状態、慢性腎臓病は高リスク 重症COVID-19は2回接種群で5万9,510例(0.4%、1,000人年当たり8.8件)、ブースター接種群で2万6,100例(0.2%、7.6件)に認められ、ブースター接種により重症COVID-19のリスクは減少した。 高齢者(80歳以上vs.18~49歳のaRR:3.60[95%CI:3.45~3.75])、併存疾患数が多い人(併存疾患5つ以上vs.なしのaRR:9.51[95%CI:9.07~9.97])、男性(男性vs.女性のaRR:1.23[95%CI:1.20~1.26])で重症COVID-19のリスクが増加した。また、特定の基礎疾患を有する人も重症COVID-19のリスクが高く、とくに免疫抑制剤の投与を受けている人(ありvs.なしのaRR:5.80[95%CI:5.53~6.09])、慢性腎臓病(ステージ5 vs.なしのaRR:3.71[95%CI:2.90~4.74])で高リスクであった。 一方、SARS-CoV-2感染歴は重症COVID-19のリスク低下と関連していた(ブースター接種の9ヵ月以上前の感染vs.感染歴なしのaRR:0.41[95%CI:0.29~0.58])。

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毎日の抗原検査vs.自主隔離、感染を広げないのは?

 迅速抗原検査キットを使用した毎日の陰性確認は、新型コロナウイルス感染症拡大を最小限に抑えるため、自主隔離の代替手段となりうるのか? 英国・健康安全保障局のNicola K. Love氏らは、COVID-19接触者追跡システムで特定された成人接触者を対象とした無作為化非劣性比較試験を実施。Lancet Respiratory Medicine誌オンライン版2022年10月10日号に結果を報告した。 英国では本試験期間中(2021年4~7月)、COVID-19感染者と接触した人には10日間の自主隔離が求められていた。接触者追跡システムで特定された成人接触者のうち同意が得られた参加者は、自主隔離群(1日目のPCR検査、10日間の隔離)または毎日の抗原検査(DCT)群(1日目および最終日のPCR検査、7日間連続のラテラルフローデバイス[LFD]による抗原検査、LFDで陰性の場合は24時間隔離免除)に無作為に割り付けられた。 参加者は前向きに追跡調査され、試験期間中にPCR検査で陽性となった参加者と、彼らとの接触から生じた3次感染者(つまり2次接触者の中の感染者)について、定期的に収集したNHS Test and Traceの接触追跡データから各介入による効果を検証した。 主要評価項目は、各グループにおいて2次接触者が3次感染者となる割合である発病率とされた。発病率はHuber-White標準誤差を使用し、ベルヌーイ回帰モデルにより算出され、家庭での曝露、ワクチン接種、および在宅勤務の状況によって調整された。 主な結果は以下のとおり。・2021年4月29日~7月28日に、5万4,923人の適格者が登録され、最終的な解析には自主隔離群2万3,500人(47.4%)、DCT群2万6,123人(52.6%)が含まれた。・全体で4,694人の参加者がPCR検査でSARS-CoV-2陽性であり(2次感染者)、自主隔離群で2,364人(10.1%)、DCT群で2,330人(8.9%)だった。・2次接触者における調整後発病率(3次感染者)は、自主隔離群7.5%、DCT群6.3%(差は-1.2%[95%信頼区間:-2.3~-0.2])で、あらかじめ設定された非劣性マージンの1.9%より有意に低かった。 著者らは、抗原検査を7日間毎日実施し陰性の場合は24時間隔離を免除するこの方法は、10日間の自主隔離に劣っていないと考えられるとし、自主隔離による悪影響を最小限に抑えながら、感染拡大のリスクを軽減できることが示されたとまとめている。

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サル痘ワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第14回

新型コロナに次いで緊急事態が宣言されたサル痘周知の通り、サル痘感染が世界的に拡大している。アフリカ熱帯地方に限局した風土病であったサル痘が、ナイジェリアからの輸入例として英国から世界保健機関(以下、WHO)に報告されたのは2022年5月7日であった(発端症例はナイジェリア滞在中の同年4月29日に発症、5月4日に英国に到着)1)。以後、非常在国への輸入例およびそれらを発端とした国内感染例が続々と発見・報告されてきた。急激な世界的拡大を踏まえ、WHO事務局長は2022年7月23日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(Public Health Emergency of International Concern:PHEIC[フェイク]と発音)」を宣言した2)。PHEICとは、「緊急かつ世界的な健康問題に対して、WHO加盟各国が集中的に資源投下して早期の封じ込めまたは安定化を目指すよう」にとWHO事務局長が発する宣言である。2020年の新型コロナウイルスパンデミックへの宣言に続いて、史上7件目のPHEICとなった。PHEIC宣言後も加盟各国での発見が相次ぎ、2022年9月21現在では105ヵ国から累計6万1,753例の確定患者と23例の死亡がWHOに報告されている3)。わが国でも同9月21日までに、計5例の確定患者が厚生労働省に報告されている4)。うち3例は直近の海外渡航歴があったが、残る2例に渡航歴はない。渡航歴のない2例とも発症直前に海外渡航者との接触があり、輸入例を発端とした国内感染と推定される。ただし、諸外国のように輸入発端例を追跡できないような国内感染拡大には現時点で至っていない。サル痘とはサル痘は人獣共通感染症である。1958年にデンマークの研究所が実験用にアジアから輸入したサルが発疹性疾患を発症し、病変からサル痘ウイルスが分離発見された。これがサル痘 monkeypox の命名由来であるが、後の研究により本来の自然宿主はアフリカ熱帯地域のリス、その他の齧歯類と推定された。実験的感染も含めると、サル痘ウイルスはヒトをはじめとする40種以上の動物種に感染することがわかっている5)。アフリカ熱帯地域の野生動物間で循環しているサル痘ウイルスが、感染動物と接触したヒトにも感染する例が、1970年以降コンゴ盆地(アフリカ中央部)および西アフリカの諸国で散発的に報告されてきた。ヒト発端例から数100例に拡大したアウトブレイクも同地域で何度か発生している。サル痘ウイルスは天然痘(痘瘡)ウイルスと同じオルソポックスウイルス属に属し、クレードI(旧称:コンゴ盆地型)とクレードII(旧称:西アフリカ型)の2系統に分類される6)。クレードIによる致死率は10%前後だが、クレードIIのそれは1~数%と比較的軽症である。現在世界で拡大しているサル痘ウイルスは主としてクレードIIとされており7)、確定症例中の死亡数が少ないのはそのためと考えられる。サル痘ウイルスは主として接触感染する。ごく近距離かつ長時間の対面による飛沫感染もありうるが、大半は皮膚と皮膚、またはウイルスの付着した衣類などと皮膚の濃厚接触による感染とされる。性的接触後の感染も多く報告されているが、性的接触に伴う皮膚同士の濃厚接触が感染経路と考えられ、一般的な性行為感染とは異なる。現時点では圧倒的に男性の報告が多く、女性や小児の報告は一部である。サル痘の症状は、根絶された天然痘(痘瘡)のそれにかなり似通っている。ウイルス感染後1~2週間(最大21日間)の潜伏期を経て、発熱、リンパ節腫脹等の非特異的な前駆症状で発症する。前駆症状の1~3日後に全身に発疹が出現するが、天然痘と同じくすべての発疹が同期して丘疹→水疱→膿胞→痂皮へと進行する。類似の水疱性疾患である水痘の発疹が互いに同期せずバラバラに進行するのとは異なるが、多数のサル痘報告の中には発疹が同期しないケースも散見されるため、鑑別に注意を要する。発疹は痂皮が脱落するまでの2~4週間は感染性を保ち、その間の濃厚接触によって感染が拡がる。ほとんどが自然治癒するが、まれに発疹部への細菌2次感染、肺炎、脳炎、角膜炎などの合併症を生ずる。妊婦や小児が特に合併症を生じやすいとされる。診断は発疹病変検体からのウイルス遺伝子検出(PCR法)が有用であり、厚生労働省による届出基準でも採用されている8)。特異的治療薬として、欧州では tecovirimat が承認されている。わが国には承認済みの特異的治療薬はないが、「tecovirimat のサル痘への効果と安全性を検証する特定臨床研究」が国立国際医療研究センターにて進行中である。サル痘のより詳しい臨床情報については、他の総説記事などをご参照いただきたい。 日本の法令上の扱いサル痘はわが国では感染症法で4類感染症に指定されており、全数届出疾患である。1・2類感染症とは異なりまん延防止のための公費入院制度がないため、入院および治療の費用は患者負担となる(前述の tecovirimat の特定臨床研究の対象となれば研究費が適用される)。検疫法にはサル痘の指定がないため、海外から到着した疑い症例を検疫所が発見しても検疫法に基づく行政検査ができない。近隣自治体に知らせて感染症法に基づく検査につなげる(自治体が指定する医療機関へ移送を検討する)必要があり、患者自身のためにもまん延防止のためにも検疫所と自治体との連携が重要である。オルソポックスウイルス属と天然痘ワクチン(種痘)本稿の本題はサル痘に対するワクチンであるが、サル痘ワクチンを知るにはまず天然痘とそのワクチンを知らねばならない。1)天然痘ワクチンサル痘ウイルスは天然痘ウイルスと同じオルソポックスウイルス属に属する。天然痘は数千年にわたり人類を脅かしてきたウイルス性発疹性疾患である。WHO主導の世界的な天然痘ワクチン接種(種痘)キャンペーンにより、1980年についに世界からの根絶が宣言された。有効なワクチンがあった以外に、動物宿主がなくヒトにしか感染しない、持続感染例がないなどの好条件が重なり、人類初の根絶病原体となった。サル痘の臨床症状は天然痘と似通っている。天然痘という病名は英語で smallpox だが、病原体である天然痘ウイルスは variola virus と呼ばれる。天然痘ウイルスには variola major および variola minor の2種があった。Variola major は19世紀末まで猛威を奮い、致死率は30%前後に及んだ。Variola minor は19世紀末に登場し、majorに取って代わって世界に拡大した。Variola minor の致死率は1%前後とmajorよりは軽症であったが、それでも1%の致死率は重大であり根絶の努力がなされた。死亡は感染の1~2週後に生じたが、死に至る詳細な病態生理はわかっていない。重度のウイルス血症やそれに伴うサイトカインストームが主因だったのではと推測されている9)。2)天然痘ワクチンの歴史とワクシニア vaccinia ウイルスオルソポックスウイルス属には牛痘ウイルスも含まれる。牛痘ウイルスはその名の通り牛に感染して水疱性疾患を生ずる病原体だが、牛を扱う農夫など濃厚接触するヒトにも感染することが古くから知られていた。ヒトに限局される天然痘とは異なり、牛痘は人獣共通感染症である。そして、牛痘感染歴のある者は天然痘に感染しないことも経験的に知られており、西暦1000年ごろにはすでにインドや中国で天然痘予防目的にヒトに牛痘を感染させる手法が行われていたとされる。これを世界で初めて科学的に確立し19世紀初頭に論文として世に報告したのが、英国のエドワード・ジェンナーであった10)。ラテン語で牛を意味する vacca を語源として、接種に用いる牛痘製剤を vaccine、牛痘接種(種痘)を vaccination とジェンナーが名付けたことは広く知られている。後に種痘に限らず、病原体予防薬全般について vaccine/vaccination の語が使われるようになった。そして、ジェンナーによる論文出版後の19世紀に種痘は世界へ急速に拡大した。種痘製剤を量産するために、牛の皮膚に人為的に牛痘ウイルスを植え付けて感染させ、病変から次の原料を採取するという手法が広く行われた。驚くことに、牛以外にも羊、水牛、兎、馬なども利用され、時には牛痘ではなく馬痘ウイルスすら使われた。20世紀に近代的なワクチン製法が確立される過程で、種痘製剤に含まれるウイルスはワクシニア vaccinia と名付けられた。その時点でワクシニアウイルスは、自然界の牛痘ウイルスからは遺伝的に大きく異なっていた。ジェンナー当時の牛痘ウイルスが100年以上にわたり生体動物を用いて継代培養される過程で、変異を繰り返した上に、他のオルソポックスウイルス属との交雑も起きたと推測されている。したがって現代の種痘製剤(天然痘ワクチン)の原料は、自然界の牛痘ウイルスではなく、実験室にのみ存在するワクシニアウイルスである。3)天然痘ワクチンの世代と種類これまで実用化されてきた天然痘ワクチンは表1のように3世代に分類される。表1 天然痘ワクチンの世代と特徴画像を拡大する天然痘の根絶に向けて接種キャンペーンが実施されていた当時の天然痘ワクチンを第1世代と呼ぶ。19世紀のままの生体動物による製法で生産され、無菌処理を施して凍結乾燥されていた。この間に免疫原性が高い優良株がいくつか確立された。しかし、キャンペーン進行による自然罹患者の減少と引き換えに、ワクチンの重篤な副反応が目立つようになった。種痘性湿疹 eczema vaccinatum、進行性ワクシニア progressive vaccinia、全身性ワクシニア generalized vaccinia といった致死性の極めて高い重篤皮膚病変や、高い致死率と神経学的後遺症に至る種痘後脳炎・脳症などが報告された。いずれも数10万接種~100万接種に1件程度と低頻度ではあったが、わが国を含む各国で問題視された11)。やがて1980年に根絶が宣言されると種痘は中止され、生産済みの第1世代ワクチンは凍結保存された。その後の1987年旧ソ連崩壊に伴う天然痘ウイルス拡散懸念や、2001年の米国同時多発テロ後の炭疽菌テロなどがきっかけで、天然痘ウイルスを利用した生物テロを想定してワクチンを常備する気運が米国を中心に高まった。この時期に生産された製剤を第2世代と呼ぶ。第2世代は、第1世代で確立されたワクチン株を生体動物ではなく細胞培養やニワトリ胚培養など現代的製法で生産したものである。天然痘はすでに根絶されていたため、ワクチンの効果は被験者の免疫応答(すなわち代理エンドポイント)を第1世代ワクチン当時と比較する形で測定された。しかし、第1世代と同じウイルス株を使っていたため、安全性の懸念は払拭されなかった。米国軍人などに第2世代製剤を接種した際の複数の2000年代の研究で、接種後心筋炎が背景リスクよりも有意に高いことが示されている12-15)。第1世代で問題視された安全性問題をクリアするために、免疫原性を保ったまま副反応を減らすよう、弱毒化ワクシニアウイルス株も順次開発された(第2世代までは非弱毒株)。弱毒化ワクシニアウイルス株由来の製剤を、第3世代と呼んでいる。遡ること1950~60年代にはアンカラ株(modified vaccinia Ankara:MVA)と呼ばれる弱毒株が開発されている。トルコのアンカラで数100世代継代培養されて遺伝子の15%が変異したこの株は、既存製剤よりも免疫原性は劣るが副反応も避けられるため、根絶前のキャンペーンでは既存製剤接種に先立つ接種に用いられた。また、1970年代には、わが国の橋爪 壮氏がヒト体内での増殖能を不活性化した LC16m8株を開発している16)。現在わが国でテロ対策に備蓄されている天然痘ワクチン(痘そうワクチン LC16「KMB」)は LC16m8株由来であり、自衛隊での小規模な研究であるが免疫原性と安全性は確認されている17)。一方、欧米ではMVA由来の新たな製剤が2010年代に開発されて同じく備蓄されている(Bavarian Nordic社による開発で通称 MVA-BN、商品名は国・地域ごとに異なる)18)。ワクシニアウイルスによるワクチンとオルソポックスウイルス属の交叉抗原性上記の歴史からわかる通り、天然痘ワクチンは天然痘ウイルス自体が原料ではなく、同じオルソポックスウイルス属である牛痘ウイルス(誕生当時)またはワクシニアウイルス(現代)が原料である。同じウイルス属とはいえ異なる種のウイルスを用いたにもかかわらず、このワクチンは天然痘ウイルスを根絶するほどの効果を示した。他のワクチン予防可能疾患において、異なる種の病原体を原料としたワクチンが充分な効果を示した例はない。すなわち、オルソポックスウイルス属は種同士の交叉抗原性が非常に強いと言える。属内での交叉抗原性の強さから、天然痘ワクチンを同じくオルソポックスウイルス属であるサル痘ウイルスの予防にも応用する発想につながる。サル痘予防としての天然痘ワクチン今回の世界的流行以前にも、サル痘はアフリカでアウトブレイクを繰り返し、時に非常在国での小規模アウトブレイクも起こしてきた19)。繰り返すが、サル痘ウイルスは天然痘ウイルスや牛痘ウイルス/ワクシニアウイルスと同じオルソポックスウイルス属である。属内の交叉抗原性が強いことの証左として、アフリカでのサル痘アウトブレイクで天然痘ワクチン(種痘)が結果的に奏効した実績がある。1980年代の古い観察研究ではあるが、当時のザイール(現コンゴ民主共和国)でのサル痘アウトブレイク時に、濃厚接触者の種痘歴の有無と発症の関連を調査したものがある。これによると、種痘歴がある場合の濃厚接触後発症は、種痘歴なしでの濃厚接触後発症に比べて、相対リスク減少が85.9~87.1%であった(※データから著者算出)20)。すなわち、種痘歴があることでサル痘発症リスクが80%以上低減された可能性がある。こうした知見からサル痘コントロール目的に天然痘ワクチンの接種が検討され、各国でのアウトブレイク時には適応外使用として接触者に曝露後接種されることもあった19)。しかし、天然痘ワクチンによるサル痘ヒト感染の予防効果を直接検証した質の高い介入研究はいまだ発表されてない。また、天然痘根絶後の天然痘ワクチンに関する研究のほとんどは、接種後(種痘後)の中和抗体上昇などの免疫学的指標および安全性評価に留まる。根絶前のかなり限定的な観察から、中和抗体価と天然痘の感染阻止にはある程度の相関があることが示唆されてはいるが21)、絶対的な感染阻止指標と証明されたわけではない。ましてや、種痘後の中和抗体価がサル痘の感染阻止とどの程度関連するかも不明である。天然痘ワクチンのサル痘予防効果は、真のエンドポイントでの評価がなされていない点に留意が必要である。こうした状況ではあるが、急激な世界的拡大を踏まえてWHOをはじめ世界の各機関は複数の間接的研究結果を根拠に天然痘ワクチンをサル痘予防に用いるよう承認し、推奨接種対象者を公表している。WHOは2022年8月発表の暫定ガイダンスにおいて、第2世代および第3世代ワクチン双方を表2の対象者に、十分な意思決定の共有(shared decision-making)の下に接種するよう推奨している22)。安全性の観点では第3世代が有利といえるが、第3世代はいまだ生産量および備蓄量が少ないため、世界全体のバランスを重視するWHOの立場としては第2世代も同程度に推奨していると考えられる。表2  WHOによる天然痘ワクチンのサル痘予防使用の推奨対象者画像を拡大する米国は天然痘予防に承認済みの第2世代 ACAM2000 および第3世代 MVA-BN(商品名:JYNNEOS)の計2種をサル痘予防に緊急承認し、欧州も同じく第3世代 MVA-BN(同:IMVANEX)をサル痘予防に承認し、それぞれにWHOと類似の対象者向けに接種を推奨している23)。なお米国では第2世代 ACAM2000 は第3世代 MVA-BN(JYNNEOS)の代替品substituteの位置付けである。わが国でも2022年8月に、天然痘に承認済みの第3世代 LC16m8株「痘そうワクチンLC16『KMB』」の適応にサル痘予防が追加された24)。接種対象者の選定について同9月現在で厚生労働省からは公式な発表はないが、厚生科学審議会で議論が行われている。また、治療薬 tecovirimat の特定臨床研究と並んで、国立国際医療研究センターにおいて同ワクチンの曝露前接種および曝露後接種が共に特定臨床研究として実施されている(同ワクチンの適応追加前に計画されたため、通常の臨床研究ではなく特定臨床研究が選択された)。わが国もサル痘侵入に対して迅速に対応していると言えよう。おわりに2022年9月時点ではわが国へのサル痘侵入例は数えるほどであり、諸外国のような国内感染拡大には至っていない。一般医療機関でサル痘患者に対応したり、天然痘ワクチンを接種する状況からは、現時点では程遠い。よって現状ではワクチンの接種手技や副反応などに通暁する必要は乏しく、本稿では天然痘ワクチンの歴史とサル痘流行における現状を整理するに留めた。しかし、新型コロナウイルス同様、国内感染例がある閾値を超えれば急速に拡大する可能性が常にある。読者には最新情報を収集していただくと共に、天然痘ワクチン接種が広範囲の医療機関で実施される状況が訪れるならば筆者も情報更新に努めたい。参考となるサイト厚生労働省 サル痘について1)WHO Disease Outbreak News. Monkeypox-United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland.; 2022.(2022年8月8日閲覧)2)WHO. Second Meeting of the International Health Regulations (2005) (IHR) Emergency Committee Regarding the Multi-Country Outbreak of Monkeypox.; 2022.(2022年8月8日閲覧)3)WHO. Multi-Country Outbreak of Monkeypox --- External Situation Report 6, Published 21 September 2022.2022.(2022年9月22日閲覧)4)厚生労働省. サル痘について. Published 2022.(2022年9月21日閲覧)5)Parker S, et al. Future Virol. 2013;8:129-157.6)WHO. Monkeypox: Experts Give Virus Variants New Names.2022.(2022年8月21日閲覧)7)Benites-Zapata VA, et l. Ann Clin Microbiol Antimicrob. 2022;21:36.8)厚生労働省. サル痘 感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について.(2022年9月9日閲覧)9)Martin DB. Mil Med. 2002;167:546-551.10)Jenner E. An Inquiry into the Causes and Effects of the Variolae Vaccinae.; 1802.(2022年9月9日閲覧)11)平山宗宏. 小児感染免疫. 2008;20:65-71.12)Arness MK, et al. Am J Epidemiol. 2004;160:642-651.13)Eckart RE, et al. J Am Coll Cardiol. 2004;44:201-205. 14)Lin AH, et al. Mil Med. 2013;178:18-20.15)Engler RJM, et al. PLoS One. 2015;10:e0118283.16)橋爪 壮. 小児感染免疫. 2011;23:181-186.17)Saito T, et al. JAMA. 2009;301:1025-1033.18)Volz A, et al. Adv Virus Res. 2017;97:187-243.19)Simpson K, et al. Vaccine. 2020;38:5077-5081.20)Jezek Z, et al. Bull World Health Organ. 1988;66:465-470.21)Sarkar JK, et al. Bull World Heal Organ. 1975;52:307-311.22)WHO. Vaccines and Immunization for Monkeypox - Interim Guidance 24 August 2022.2022.(2022年9月9日閲覧)23)UKHSA. Recommendations for the Use of Pre-and Post-Exposure Vaccination during a Monkeypox Incident - Updated 26 August 2022.2022.(2022年8月26日閲覧)24)医薬・生活衛生局医薬品審査管理課. 審議結果報告書 乾燥細胞培養痘そうワクチンLC16「KMB」.2022.(2022年10月6日閲覧)講師紹介

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コロナ治療薬モルヌピラビル、早期投与で回復までの期間短縮に期待/MSD

 MSDは10月19日、一般流通を9月16日に開始した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の経口治療薬モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)について、承認後の最新情報として特定使用成績調査の中間報告などをメディアセミナーにて発表した。調査の結果、添付文書の改訂が必要になるような大きな安全性事象は認められなかったことや、外来患者に使用した際の転帰として死亡はなく、人工呼吸器の使用も低く抑えることができたとして、本剤の有効性が提示された。 同社代表取締役社長のKyle Tattle氏によると、本剤は国内にて2021年12月24日に特例承認を取得し、これまでに60万人以上に使用されたという。本剤は、承認当初は供給量が限られていたため、厚生労働省が所有したうえで、重症化リスクのある患者に、決められた流通網を通して医療機関や薬局に配分が行われていたが、供給量が増加したことで、2022年8月18日に薬価基準収載となり、9月16日には一般流通を開始した。 白沢 博満氏(同社代表取締役上級副社長兼グローバル研究開発本部長)は、リアルワールドデータを中心に、承認後の最新情報について解説した。2021年12月24日~2022年6月23日に、同剤の販売開始から6ヵ月間行った市販直後調査では、約20万1,710例に本剤が使用され、症例から安全性情報を収集した結果、添付文書の改訂が必要になるような大きな安全性事象は認められなかった。また、調査予定症例数を3,000例として、より詳細な安全性と有効性を評価する特定使用成績調査(2021年12月27日~2024年12月末日予定)において、2022年6月15日までの中間解析結果も公開された。 主な結果は以下のとおり。・安全性解析対象となった1,061例は、年齢中央値68歳、投与開始時点で外来患者696例(65.60%)、入院患者317例(29.88%)、その他(介護保健施設など)4.52%。本剤投与開始前のCOVID-19重症度では、軽症が931例(87.75%)、中等症Iは104例(9.80%)、中等症IIは23例(2.17%)であった。・主な重症化リスク因子は、65歳以上の高齢者が603例(56.83%)で最も多く、次いで高血圧が459例(43.26%)、喫煙が262例(24.69%)であった。・新型コロナワクチンの接種歴がある人は883例(83.22%)で、2回接種は668例(62.96%)であった。・安全性集計の結果、副作用が発現したのは72例(6.79%)であり、4例以上発現した副作用として、下痢(26例)、発疹(6例)、浮動性めまい(5例)、軟便(4例)が報告された。重篤な副作用の発現は4例で、発疹、肝機能異常、COVID-19増悪、間質性肺炎増悪であった。・有効性解析対象となった1,021例は、外来患者658例(うち最終アウトカム不明29例)、入院患者315例、その他(介護保健施設など)48例。・外来患者における本剤投与開始日から29日までの入院(隔離入院・検査入院などの投与前から予定していた入院を除く)は17例(2.70%)、死亡は0例であった。・入院患者における本剤投与開始日から29日までの死亡は2/254例(0.79%)、酸素投与開始あり13/247例(5.26%)、酸素投与または機械的人工換気(ECMO含む)開始あり13/247例(5.26%)であった。複合エンドポイントでは発現率は5.49%であった。 本結果に加え、白沢氏はモルヌピラビルについて海外で実施された臨床試験についても言及した。査読前論文ではあるが、英国・オックスフォード大学で実施されたPANORMIC試験の結果によると、約2万6,000例(平均年齢56.6歳、ワクチン接種済約99%)において、最初の完全回復までの期間(中央値)が、モヌルピラビル群は9日間、非モヌルピラビル群が15日となり、本剤投与によって6日間短縮されたことが認められた。 続いて登壇した相良 博典氏(昭和大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー内科学部門 主任教授)は、COVID-19の治療の現状と経口治療薬への期待について講演した。昭和大学病院における新型コロナ治療薬の使用状況について、モルヌピラビルは、軽症患者75例に対して重症化予防のために使用された結果、人工呼吸器の使用症例が0%となり、本剤は効果のある薬剤として位置付けていると述べた。また、新型コロナ感染による後遺症についても、今後はより早期に治療介入することで後遺症の症状も抑えられる可能性があるという。本剤の一般流通開始への期待として、発症早期(5日以内など)に使用できるようになるため重症化防止を促進することや、入院リスクの高い高齢者へ早期に使用することで、負担する医療費や、入院による合併症、ADLの低下といった入院に伴うリスクを低減できることを挙げた。若年者でもサイトカインストームで重症肺炎の死亡率が高くなるため、抗インフルエンザウイルス薬のように軽症者から早期に使える薬剤としても期待できると述べた。

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コロナ・インフル同時流行の際の注意点/日本感染症学会

 今冬は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に加え、季節性インフルエンザの同時流行が危惧されている。発熱や倦怠感など症状を同じくするものもあり、外来などでの鑑別で混乱を来すことが予想されている。そこで、日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏[東京大学医科学研究所附属病院長])は、10月20日に同学会のホームページで「この冬のCOVID-19とインフルエンザ同時流行の際の注意点」を発表した。 本稿では、緊急避難的な措置の一例として「COVID-19、インフルエンザ同時流行となった場合の外来診療フローチャート」を示すとともに、外来診療フローチャートについて6つのポイントを説明している。1)COVID-19(コロナ)・インフルエンザ(インフル)同時流行に備える体制の必要性・オーストラリアや東アジアの疫学情報から今冬のコロナ・インフルの同時流行の可能性を示唆。最悪の事態を想定し、対策を講じる必要。・とくにオーストラリアでは、インフルの流行が2ヵ月前倒しで生じた。・インフルの流行が起きなくても、相当に大きなコロナ第8波が来る可能性を想定。・冬季は他の呼吸器感染症の流行もみられやすい時期であり、必要な場面での適切なマスク着用、3密回避・換気対策を引き続き継続するよう依頼。2)ワクチン接種のお願い・コロナ・インフルの同時流行に備えて、両ワクチンの速やかな接種を依頼。・両ワクチンの同時接種も可能であることを周知。・コロナワクチンとしてオミクロンBA.1、オミクロンBA.4、5対応の2種類(2価ワクチン)が利用可能。従来のワクチンに比べて2価ワクチンの高い有効性が推定されている。3)診療体制の基本:重症化リスクに応じた対応・コロナ、インフルの診療の原則は対面診療。・外来診療のひっ迫が想定される場合、医療機関への受診は重症化リスクの高い人(高齢者、基礎疾患を有する人、妊婦、小学生以下の小児)を優先。・重症化リスクが低い人は、新型コロナ検査キットによる自己検査を推奨し自宅療養へ誘導。4)診断検査の基本:コロナ・インフル同時簡易抗原検査の利用・医療機関では、コロナ・インフル同時簡易抗原検査(コンボキット)を有効に活用。・コンボキットによる判定が難しい場合に備え、コロナ遺伝子検査も実施できるように準備。・流行到来前に、市販の新型コロナ検査キットを購入しておくよう説明。5)健康フォローアップセンターへの登録と相談・自己検査でコロナ陽性となった人は、健康フォローアップセンターへの登録を指導。・症状の悪化や不安を感じる場合には、健康フォローアップセンターに連絡し、医療機関の受診を相談。6)電話・オンライン診療の活用と注意点・電話・オンライン診療では、対面診療に比べて得られる情報は限定されることに注意。・電話・オンライン診療で判断に迷う場合、重症化を否定できない場合には受診をお願いする。・電話・オンライン診療で、対症療法としての解熱剤、鎮咳剤に加えて、インフルの可能性が高いと判断する場合には抗インフル薬の処方も可能。・インフルの診断は、コロナ自己検査陰性、地域でのインフル流行状況、インフル感染者との接触歴、急激な発熱・筋肉痛などの臨床症状を参考に実施。 なお、学会では、「COVID-19・インフルエンザが同時流行していない状況では、対面診察の上、早期診断・早期治療することが基本」と注意を促している。

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かかりつけ医も知っておきたい、コロナ罹患後症状診療の手引き第2版/厚労省

 厚生労働省は、2022年6月に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1.1版)」を改訂し、第2版を10月14日に発表し、全国の自治体や関係機関などに周知を行った。 主な改訂箇所としては、・第1章の「3.罹患後症状の特徴」について国内外の最新知見を追加・第3~11章の「2.科学的知見」について国内外の最新知見を追加・代表的な症状やキーワードの索引、参考文献全般の見直しなどが行われた。 同手引きの編集委員会では、「はじめに」で「現在、罹患後症状に悩む患者さんの診療や相談にあたる、かかりつけ医などやその他医療従事者、行政機関の方々に、本書を活用いただき、罹患後症状に悩む患者さんの症状の改善に役立ててほしい」と抱負を述べている。1年後に多い残存症状は、疲労感・倦怠感、呼吸困難、筋力低下/集中力低下 主な改訂内容を抜粋して以下に示す。【1章 罹患後症状】「3 罹患後症状の特徴」について、タイトルを「罹患後症状の頻度、持続時間」から変更し、(罹患者における研究)で国内外の知見を追加。・海外の知見 18報告(計8,591例)の系統的レビューによると、倦怠感(28%)、息切れ(18%)、関節痛(26%)、抑うつ(23%)、不安(22%)、記憶障害(19%)、集中力低下(18%)、不眠(12%)が12ヵ月時点で多くみられた罹患後症状であった。中国、デンマークなどからの研究報告を記載。・国内の知見 COVID-19と診断され入院歴のある患者1,066例の追跡調査について、急性期(診断後~退院まで)、診断後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月で検討されている。男性679例(63.7%)、女性387例(36.3%)。 診断12ヵ月後でも罹患者全体の30%程度に1つ以上の罹患後症状が認められたものの、いずれの症状に関しても経時的に有症状者の頻度が低下する傾向を認めた(12ヵ月後に5%以上残存していた症状は、疲労感・倦怠感(13%)、呼吸困難(9%)、筋力低下/集中力低下(8%)など。 入院中に酸素需要のあった重症度の高い患者は、酸素需要のなかった患者と比べ3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 入院中に気管内挿管、人工呼吸器管理を要した患者は、挿管が不要であった患者と比べて3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 罹患後症状に関する男女別の検討では、診断後3ヵ月時点で男性に43.5%、女性に51.2%、診断後6ヵ月時点で男性に38.0%、女性に44.8%、診断後12ヵ月時点で男性に32.1%、女性に34.5%と、いずれの時点でも罹患後症状を1つでも有する割合は女性に多かった。(非罹患者と比較した研究) COVID-19非罹患者との比較をした2つの大規模コホート研究の報告。英国の後ろ向きマッチングコホート研究。合計62の症状が12週間後のSARS-CoV-2感染と有意に関連していて、修正ハザード比で大きい順に嗅覚障害(6.49)、脱毛(3.99)、くしゃみ(2.77)、射精障害(2.63)、性欲低下(2.36)のほか、オランダの大規模マッチングコホート研究を記載。(罹患後症状とCOVID-19ワクチン接種に関する研究)(A)COVID-19ワクチン接種がCOVID-19感染時の罹患後症状のリスクを減らすかどうか(B)すでに罹患後症状を認める被験者にCOVID-19ワクチン接種を行うことでどのような影響が出るのか、の2点に分け論じられている。(A)低レベルのエビデンス(ケースコントロール研究、コホート研究のみでの結果)では、SARS-CoV-2感染前のCOVID-19ワクチン接種が、その後の罹患後症状のリスクを減少させる可能性が示唆されている。(B)罹患後症状がすでにある人へのCOVID-19ワクチン接種の影響については、症状の変化を示すデータと示さないデータがあり、一定した見解が得られていない。「5 今後の課題」 オミクロン株症例では4.5%が罹患後症状を経験し、デルタ株流行時の症例では10.8%が罹患後症状を経験したと報告されており、オミクロン株流行時の症例では罹患後症状の頻度は低下していることが示唆されている。揃いつつある各診療領域の知見 以下に各章の「2.科学的知見」の改訂点を抜粋して示す。【3章 呼吸器症状へのアプローチ】 罹患後症状として、呼吸困難は20〜30%に認め、呼吸器系では最も頻度の高い症状であった。年齢、性別、罹患時期などをマッチさせた未感染の対照群と比較しても、呼吸困難は胸痛や全身倦怠感などとともに、両者を区別しうる中核的な症状だった。【4章 循環器症状へのアプローチ】 イタリアからの研究報告では、わずか13%しか症状の完全回復を認めておらず、全身倦怠感が53%、呼吸困難が43.4%、胸痛が21.7%。このほか、イギリス、ドイツの報告を記載。【5章 嗅覚・味覚症状へのアプローチ】 フランス公衆衛生局の報告によると、BA.1系統流行期と比較し、BA.5系統流行期では再び嗅覚・味覚障害の発生頻度が増加し、嗅覚障害、味覚障害がそれぞれ8%、9%から17%に倍増した。【6章 神経症状へのアプローチ】 中国武漢の研究では、発症から6ヵ月経過しても、63%に疲労感・倦怠感や筋力低下を認めた。また、発症から6週間以上持続する神経症状を有していた自宅療養者では、疲労感・倦怠感(85%)、brain fog(81%)、頭痛(68%)、しびれ感や感覚障害(60%)、味覚障害(59%)、嗅覚障害(55%)、筋痛(55%)を認めたと報告されている。【7章 精神症状へのアプローチ】 罹患後症状が長期間(約1年以上)にわたり持続することにより、二次的に不安障害やうつ病を発症するリスクが高まるという報告も出始めている。【8章 “痛み”へのアプローチ】 下記の2つの図を追加。 「図8-1 COVID-19罹患後疼痛(筋痛、関節痛、胸痛)の経時的変化」 「図8-2 COVID-19罹患後疼痛の発生部位」 COVID-19罹患後に身体の痛みを有していたものは75%で、そのうち罹患前に痛みがなかったにも関わらず新規発症したケースは約50%と報告されている。罹患後、新規発症した痛みの部位は、広範性(20.8%)、頸部(14.3%)、頭痛、腰部、肩周辺(各11.7%)などが報告され、全身に及ぶ広範性の痛みが最も多い。 【9章 皮膚症状へのアプローチ】「参考 COVID-19と帯状疱疹[HZ]の関連について」を追加。ブラジルでは2017〜19年のCOVID-19流行前の同じ間隔と比較して、COVID-19流行時(2020年3〜8月)のHZ患者数は35.4%増加した。一方、宮崎での帯状疱疹大規模疫学研究では、2020年のCOVID-19の拡大はHZ発症率に影響を与えなかったと報告。    【10章 小児へのアプローチ】 研究結果をまとめると、(1)小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、特に複数の症状を有する場合が多い、(2)年少児は年長児と比べて少ない、(3)症状の内訳は、嗅覚障害を除くと対照群との間に大きな違いはない、(4)対照群においてもメンタルヘルスに関わる症状を含め、多くの訴えが認められる、(5)症例群と対照群との間に罹患後症状の有病率の有意差を認めない、(6)小児においてもまれに成人にみられるような循環器系・呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性があるといえる。【11章 罹患後症状に対するリハビリテーション】 2022年9月にWHOより公表された"COVID-19の臨床管理のためのガイドライン"の最新版(第5版)では、罹患後症状に対するリハビリテーションの項が新たに追加され、関連する疾患におけるエビデンスやエキスパートオピニオンに基づいて、呼吸障害や疲労感・倦怠感をはじめとするさまざまな症状別に推奨されるリハビリテーションアプローチが紹介されている。 なお、本手引きは2022年9月の情報を基に作成されており、最新の情報については、厚生労働省などのホームページなどから情報を得るように注意を喚起している。

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第131回 姑息な手より急がば回れ、塩野義コロナ薬が第II/III相で良好な成績

過去の本連載で取り上げた興和による新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)に対する抗寄生虫薬イベルメクチン(商品名:ストロメクトール)の第III相試験の記者会見があった9月最終週、実は新型コロナに関してポジティブなニュースがあった。本連載で何度も辛口で触れてきた塩野義製薬の新型コロナ3CLプロテアーゼ阻害薬エンシトレルビル(商品名:ゾコーバ)の第II/III相試験の第III相パートで、プラセボに比べて有意な症状改善が認められたという発表である。第一報に触れた時は「ようやくか」という印象だった。ちなみにこうした反応をすると、SNS上では手の平返しと言われるらしい。だが、私が従来からこの薬に辛口だったのは、承認前の塩野義製薬幹部による政治家へのロビー活動、希少疾患治療薬向けの条件付き早期承認制度の拡大解釈的利用、はたまた主要評価項目が未達の第IIb相パートのサブ解析を多用したアピールなど、あまりにもフライングが多過ぎるからである。なので、第II相パートで結果が出ないなら、その結果を踏まえて試験設定を見直し、それで良好な結果が出たら正々堂々と承認申請すれば良いという立場である。さて、塩野義製薬による第III相パート結果の速報直後、私はいつ会見が開催されるのかと手ぐすねを引いて待っていたが、あれだけ外部にアピールを続けていた同社にしては珍しく記者会見はなし。しかし、先日同社が株主・投資家向けに開催したR&D説明会で速報時よりも詳細なデータが公表されていたことを知った。まず、VeroE6T細胞を使ったin vitroの50%効果濃度(EC50[μM])を見ると、従来株が0.37、アルファ株が0.46、デルタ株が0.41で、オミクロン株関連はBA.1が0.29、BA.4が0.22、BA.5が0.40となっている。in vitroとはいえ抗ウイルス活性は悪くない印象である。また、第III相パートは、緊急承認制度の申請時に提出したデータの教訓を生かし、主要評価項目を「オミクロン株感染時に特徴的な5症状(鼻水/鼻づまり、喉の痛み、咳の呼吸器症状、熱っぽさ/発熱、けん怠感・疲労感)の消失(発症前の状態に戻る)までの時間」とし、主要解析対象集団は新型コロナ発症から無作為割付けまでが72時間未満の被験者としている。試験は申請用量のエンシトレルビル1日125mg(2~5日目の用量、1日目は375mg)と倍量の250mg(同1日目は750mg)、プラセボの各約600例の3群比較。実際の主要解析対象集団は各群とも340例前後である。ちなみにこの試験の被験者は重症化リスク因子の有無に関係ないことはよく知られているが、各群の平均年齢は35歳前後で、ワクチン接種率は92~93%であり、今の日本で発熱外来の受診者のバックグラウンドを十分に反映しているだろう。最終的な主要評価項目の中央値は、125mg群が167.9時間、 250mg群が171.2時間、プラセボ群が192.2時間。プラセボ群に比べ、125mg群は5症状消失までの時間を24時間強、有意に短縮(p=0.0407)。ただ、発症から120時間以内の集団での解析を行うと有意差は認められないという。つまり発症から3日以内に服用しないと効果が認められないとも言える。また、副次評価項目である投与4日目(3日間連続投与後)のベースラインからのウイルスRNAの平均変化量(log10[copies/mL])は125mg群が-2.737、250mg群が-2.690、プラセボ群が-1.235。対数評価なので、125mg群ではベースラインから300分の1に低下、プラセボは10分の1に低下したことになり、これもプラセボ比では有意な差となっている(p

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