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COVID-19、ECMO導入患者の院内死亡率は?/Lancet

 体外式膜型人工肺(ECMO)を導入された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者では、装着から90日後の推定死亡率、および入院中の患者を除く最終的に死亡または退院となった患者の死亡率はいずれも40%未満であり、これは世界の多施設のデータであることから、COVID-19患者で一般化が可能な推定値と考えられることが、米国・ミシガン大学のRyan P. Barbaro氏らExtracorporeal Life Support Organization(ELSO)の検討で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年9月25日号に掲載された。いくつかの大規模な医療組織では、COVID-19関連の急性低酸素性呼吸不全患者に対してECMOによる補助が推奨されている。一方、COVID-19患者でのECMO使用に関する初期の報告では、きわめて高い死亡率が示されているが、COVID-19患者におけるECMO使用に関する大規模な国際的コホート研究は行われていなかった。36ヵ国213施設のECMO導入患者を解析 研究グループは、ELSOレジストリのデータを用いて、2020年1月16日~5月1日の期間に36ヵ国213施設でECMOが導入された年齢16歳以上のCOVID-19確定例の疫学、入院経過、アウトカムの特徴を解析した(特定の研究助成は受けていない)。 COVID-19の診断は、臨床検査で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の存在が確認された場合と定義された。フォローアップのデータは、2020年8月3日まで更新された。 主要アウトカムは、ECMO開始から90日の時点でのtime-to-event解析による院内死亡とした。多変量Coxモデルを用いて、患者因子と病院因子が院内死亡率と関連するかを評価した。ECMO導入から90日の院内死亡率は37.4% ECMOを導入されたCOVID-19患者1,035例のデータが解析に含まれた。年齢中央値は49歳(IQR:41~57)、BMI中央値は31(IQR:27~37)で、74%が男性であった。 724例(70%)がECMO導入前に1つ以上の併存疾患を有し、819例(79%)が急性呼吸促迫症候群(ARDS)、301例(29%)が急性腎障害、50例(5%)が急性心不全、22例(2%)が心筋炎を有していた。 1,035例のうち、67例(6%)が入院を継続しており、311例(30%)が退院して自宅または急性期リハビリテーション施設へ、101例(10%)が長期急性期治療(long-term acute care)施設または詳細不明の場所へ、176例(17%)が他院へ移り、380例(37%)が院内で死亡した。 ECMO導入から90日の院内死亡の推定累積発生率は37.4%(95%信頼区間[CI]:34.4~40.4)であった。また、入院中の67例を除く、最終的に院内死亡または退院した968例の死亡率は39%(380例)だった。 一時的な循環補助(静脈-動脈ECMO)の使用は、院内死亡率の上昇と独立の関連が認められた(ハザード比[HR]:1.89、95%CI:1.20~2.97)。また、呼吸補助(静脈-静脈ECMO)を受け、ARDSと診断された患者の90日院内死亡率は38.0%であった。 著者は、「世界の200ヵ所以上の施設でECMOを導入されたCOVID-19患者の検討により、ECMO導入患者における一般化可能な推定死亡率がもたらされた。これらの知見は、難治性のCOVID-19関連呼吸不全患者では、経験豊かな施設においてはECMOの使用を考慮すべきとの、これまでの推奨を支持するものである」としている。

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がん治療で心疾患リスクを伴う患者の実態と対策法/日本循環器学会

 第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院臨床薬理学 教授/早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所)が「腫瘍循環器診療の拡がりとCardio-Oncology Rehabilitation(CORE)」について発表。がんを克服した患者の心血管疾患発症リスクやその予防策について講演した。循環器医がおさえておくべき、がん治療の新たなる概念-サバイバーシップ がん医療の進歩により、がんは不治の病ではなくなりつつある。言い換えるとがん治療の進歩により生命予後が伸びる患者、がんサバイバーが増えているのである。とくに米国ではがんサバイバーの急激な増加が大きな社会問題となっており、2015年時点で1,500万人だった患者は、今後10年でさらに1,000万人の増加が見込まれる。 たとえば小児がんサバイバーの長期予後調査1)では、がん化学療法により悪性リンパ腫を克服したものの、その副作用が原因とされる虚血性心疾患(CAD)や慢性心不全(CHF)を発症して死亡に繋がるなどの心血管疾患が問題として浮き彫りとなった。成人がんサバイバーでも同様の件が問題視されており、長期予後と循環器疾患に関する論文2)によると、乳がん患者の長期予後は大幅に改善したものの「心血管疾患による死亡はその他リスク因子の2倍以上である。乳がん診断時の年齢が66歳未満では乳がんによる累計死亡割合が高かった一方で、66歳以上では心血管疾患(CVD)による死亡割合が増加3)し、循環器疾患の既往があると累計死亡割合はがんとCVDが逆転した」と佐瀬氏はコメントした。心疾患に影響するがん治療を理解する この逆転現象はがん治療関連心血管疾患(CTRCD:Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)が原因とされ、このような患者は治療薬などが原因で心血管疾患リスクが高くなるため、がんサバイバーのなかでも発症予防のリハビリなどを必要とする。同氏は「がん治療により生命予後が良くなるだけではなく、その後のサバイバーシップに対する循環器ケアの重要性が明らかになってきた」と話し、がんサバイバーに影響を及ぼす心毒性を有する薬を以下のように挙げた。●アントラサイクリン系:蓄積毒性があるため、生涯投与量が体表面積あたり400mg/m2を超えるあたりから指数関数的にCHFリスクが上昇する●分子標的薬:HER2阻害薬はアントラサイクリン系と同時投与することで相乗的に心機能へ影響するため、逐次投与が必要。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は世代が新しくなるにつれ血栓症リスクが問題となる●免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬併用による劇症心筋炎の死亡報告4)が報告されている これまでのガイドラインでは、薬剤の影響について各診療科での統一感のなさが問題だったが、2017年のASCOで発表された論文5)を機に変革を迎えつつある。心不全の場合、日本循環器学会が発刊する『腫瘍循環器系の指針および診療ガイドライン』において、がん治療の開始前に危険因子(Stage A)を同定する、ハイリスク患者とハイリスク治療ではバイオマーカーや画像診断で無症候性心機能障害(Stage B)を早期発見・治療する、症候性心不全(Stage C/D)はGLに従って対応するなど整備がされつつある。しかしながら、プロテアソーム阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新規薬剤は未対応であり、今後の課題として残されている。循環器医からがんサバイバーへのアプローチが鍵 がん治療が心機能へ影響する限り、これからの循環器医は従来型の虚血性心疾患と並行して新しい危険因子CTRCDを確認するため「がん治療の既往について問診しなければならない」とし、「患者に何かが起こってから対処するのではなく腫瘍科医と連携する体制が必要。そこでCardio-Oncologyが重要性を増している」と述べた。 最後に、Cardio-Oncologyを発展させていくため「病院内でのチームとしてなのか、腫瘍-循環器外来としてなのか、資源が足りない地域では医療連携として行っていくのか、状況に応じた連携の進め方が重要。循環器疾患がボトルネックとなり、がん治療を経た患者については、腫瘍科医からプライマリケア医への引き継ぎ、もしくは心血管疾患リスクが高まると予想される症例は循環器医が引き継いでケアを行っていくことが求められる。これからの循環器医にはがんサバイバーやCTRCDに対するCORE6)を含めた対応が期待されている」と締めくくった。■参考1)Armstrong G, et al. N Engl J Med. 2016;374:833-842.2)Ptnaik JL, et al. Breast Cancer Res. 2011 Jun 20;13:R64.3)Abdel-Qadir H, et al. JAMA Cardiol. 2017;2:88-93.4)Johnson DB, et al. N Engl J Med. 2016;375:1749-1755.5)Almenian SH, et al. J Clin Oncol. 2017;35:893-911.6)Sase K, et al. J Cardiol.2020 Jul 28;S0914-5087(20)30255-0.日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)

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事例007 在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説今回は、C006 在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料(以下「在宅リハ管理料」という)の査定です。2日にわたり実施された同管理料のうち1日分3単位が縦覧点検でD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)で査定となりました。D査定はおおむね算定ルール違反が理由です。病名不備ではないことがわかります。在宅リハ管理料は、月初めに行われており、実施単位も上限の週6単位までに収まっています。診療実日数が0日であることから、当月に医師の診療がないこともわかります。在宅リハ管理料には、「訪問診療を実施する保険医療機関において医師の診療のあった日から1月以内に行われた場合に算定する」とのルールがあります。そこで、カルテを調べたところ、前回の医師の診療は3月3日でした。レセプトチェックシステムが導入されており、「診療料の算定がありません」と注意が記録されていました。しかしながら、当月の実施は前月診療から1月以内であるとの思い込みと、前月と同一日は1月以内との思い込みが重なり、修正をせずに請求されていました。前回の診療日3月3日からみて4月3日は、1歴月+1日となり。1月を超えた日にあたります。レセプトチェックシステムの注意は煩雑に感じますが、大きな点数にかかる注意コメントには、必ず原点に立ち返って確認が必要だと教えてくれた事例でした。事例では、訪問診療がやむを得ず1月以上空いた場合には、システム上で表示され、注意が促せるように改修しています。

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精神科入院患者のリハビリテーション、マインドフルネスグループの導入効果

 精神科リハビリテーションサービスを受けている患者は、複雑な長期にわたる問題を抱えており、しばしば治療抵抗性といわれる。このような患者では、統合失調症などのメンタルヘルス診断と合わせて、複雑なトラウマ歴、アルコール依存や薬物乱用、認知障害が頻繁にみられる。治療抵抗性統合失調症の治療では、クロザピン療法以外の効果的な治療法は知られていないが、マインドフルネスがストレス体験に対処する能力を向上させることが予備的エビデンスで示されている。英国・エディンバラ大学のAudrey Millar氏らは、マインドフルネスプラクティスグループが、入院患者のリハビリ環境下で許容できる治療介入であるかについて検討を行った。また、ウェルビーイングのモニタリングも実施した。BMC Psychiatry誌2020年6月20日号の報告。 マインドフルネスプラクティスグループは、精神科病院の15床のリハビリテーション病棟で実施した。A区では3回/週、5ヵ月間実施し、B区では1回/週、18ヵ月間実施した。介入は、臨床心理士より行った。A区では、Warwick-Edinburgh well-being scaleを用いたウェルビーイングの測定も行った。介入の許容可能性に関する補足情報として、患者、グループファシリテーター、スタッフより定性的インタビューを行った。 主な結果は以下のとおり。・A、B区ともに1回以上参加した患者は約3分の2(65%および67%)、定期的に参加した患者は約3分の1であった。・ウェルビーイングへの影響は認められなかった。・質的インタビューでは、参加した患者には多くのベネフィットがあり、グループが病棟内の治療文化を強化する可能性が示唆された。 著者らは「臨床ガイドラインでは、精神疾患と診断されたすべての患者に心理療法が利用されるべきであることが示唆されているが、入院患者のリハビリテーションでの心理療法の利用は困難な場合がある。マインドフルネスプラクティスグループは、許容可能な介入であり、治療抵抗性精神疾患に対するマインドフルネスの有効性を検討するためのさらなる研究は価値がある」としている。

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セクキヌマブ、体軸性脊椎関節炎にFDA承認 /ノバルティス

 ノバルティス ファーマ株式会社は、同社が製造販売するセクキヌマブ(商品名:コセンティクス)が、X線基準を満たさない活動性の体軸性脊椎関節炎(以下「nr-axSpA」という)の治療薬として米国食品医薬品局(FDA)の効能追加承認を取得したと発表した。 体軸性脊椎関節炎(以下「axSpA」という)は、慢性炎症性背部痛を特徴とする慢性炎症性疾患。axSpAの疾患スペクトラムには、X線基準により仙腸関節の損傷が確認される強直性脊椎炎(以下「AS」という)と、X線基準により明らかな関節損傷が認められないnr-axSpAが含まれる。axSpAによる身体的な制限は、患者のADLやQOLに重大な影響を与える疾患である。安全に主要評価項目を達成し患者QOLなどを改善 セクキヌマブ(以下「本剤」という)の効能追加承認では、nr-axSpAの第III相臨床試験であるPREVENT試験の有効性および安全性に基づいて行われた。 PREVENT試験は、生物学的製剤による治療経験の無い患者もしくは以前にTNF-α阻害剤による治療で効果が不十分であったり、忍容性不良であった活動性nr-axSpAの成人患者555例が参加して行われた試験。 本剤群は、プラセボ群と比較し、生物学的製剤による治療経験の無い患者で52週目において国際脊椎関節炎評価学会が作成した指標(ASAS40)で評価したnr-axSpAの兆候と症状が統計的に有意な改善を示し主要評価項目を達成した。 本剤の導入投与有り、導入投与無しの両群において、nr-axSpA患者は、プラセボ群と比較して、強直性脊椎炎QOL(ASQoL)質問票において16週目で健康関連QOLの改善を示した(最小二乗平均変化:それぞれ16週目:-3.5および-3.6対-1.8)。 健康状態および生活の質を、Short Form Health Survey(SF−36)で評価した結果、16週目において本剤で治療された患者では、SF-36身体要素スコア(PCS)および精神要素スコア(MCS)において、ベースラインから改善を示した。 安全性では、PREVENT試験における本剤の安全性プロファイルは、以前の臨床試験と一致することが示され、新たな安全性シグナルは報告されなかった。セクキヌマブの概要 セクキヌマブは、初のヒト型生物学的製剤で、乾癬性関節炎、中等度から重度の尋常性乾癬、ASおよびnr-axSpAの炎症と発症に中心的役割をもつサイトカインであるインターロイキン17A(IL-17A)を直接阻害する。 セクキヌマブは上市以来、世界で34万人を超える患者が投与を受けており、日本では「尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、強直性脊椎炎」(いずれも既存治療で効果不十分の場合)の4つの疾患で適応を取得している。

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セルメチニブが希少疾病用医薬品に指定/アストラゼネカ

 アストラゼネカ株式会社は、セルメチニブ硫酸塩(以下「セルメチニブ」という)が希少遺伝性疾患の神経線維腫症1型(以下「NF1」という)の治療薬として、わが国で希少疾病用医薬品指定*を取得したと発表した。*希少疾病用医薬品指定とは、患者数が5万人未満で、アンメットメディカルニーズが高い疾病の治療を目的とした医薬品に対して行われている指定。通常の保険適用とは異なる。幼児期から始まり、平均余命も削る希少疾病 NF1は3,000~4,000人に1人が罹患する遺伝性疾患。NF1遺伝子の自発的あるいは遺伝的変異により発症し、皮膚あるいは皮下の柔らかい塊(皮膚の神経線維腫)、皮膚色素沈着(カフェ・オ・レ斑)、および患者の30~50%にみられる叢状神経線維腫(以下「PN」という)を含む多くの症状を伴う。これらのPNは、外見の変化、運動機能障害、疼痛、気道機能不全、視覚障害、腸や膀胱の機能不全および変形などの病的状態を引き起こす可能性がある。PNは幼児期に始まり、重症度は多岐にわたる。また、この疾患により、平均余命が8~15年短縮する可能性もある。がんの活性化を抑えるセルメチニブの特徴 治療薬として期待されるセルメチニブは、同社とMSDが共同開発、商業化を進めている薬剤で、2020年4月に「症候性かつ手術不能なPNを有する2歳以上のNF1小児患者に対する治療薬」として米国では承認されている。また、PNを有するNF1を適応症とする承認申請が欧州医薬品庁によって受理・審査中であり、その他の地域でも承認申請を検討している。なお本剤はわが国では現在未承認。 同薬剤は分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MEK1/2阻害剤)である。MEK1/2タンパクは、細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)経路の上流調節因子で、MEKとERKはともに、RASによって調節されるRAF-MEK-ERK経路の重要な構成要素であり、さまざまな種類のがんで活性化されることが多い。単剤投与で66%の客観的奏効率 米国国立がん研究所の米国癌治療評価プログラムによるSPRINT試験(手術不能なPNを有するNF1小児患者を対象にセルメチニブ単剤療法を行い、客観的奏効率や患者報告アウトカムおよび機能転機への影響を評価するもの)の第I相および第II相のStratum1における客観的奏効率(ORR)は、セルメチニブ単剤を経口投与(1日2回)したPNを有するNF1の小児患者において66%(50例中33例、部分奏効を含む)を示した。ORRは、完全奏効または20%以上の腫瘍縮小を評価基準とする部分奏効が確認された患者数から算出している。 同社では、「NF1は、ほとんどの国でその治療選択肢は限られており、今回の指定は、NF1に対する初の治療薬を日本の小児患者に提供できる重要な一歩となる」と今後の発展に期待を寄せている。■関連記事コロナワクチン接種率の違いで死亡率に大きな差/JAMA

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多発性硬化症治療に新しい治療薬シポニモド登場/ノバルティスファーマ

多発性硬化症は進行すると歩行障害と認知機能障害を起こす 多発性硬化症(以下「MS」という)は、中枢神経(脳・脊髄・視神経)のミエリンが破壊され軸索がむき出しになる「脱髄」と呼ばれる病変が多発し、視力障害、運動障害、感覚障害、言語障害など多様な症状があらわれる疾患。わが国のMS患者は、約1万5千人と推定され、年々増加している。発症のピークは20歳代で、女性に多いのが特徴。発症後に再発期と寛解期を繰り返す再発寛解型MS(以下「RRMS」という)として経過し、半数は次第に再発の有無にかかわらず病状が進行するSPMSに移行する。進行期に移行すると日常生活に影響をおよぼす不可逆的な身体的障害が徐々にみられ、主に歩行障害で車いす生活を余儀なくされる場合もある。また、認知機能障害が進み、社会生活に影響をもたらすこともある。多発性硬化症の進行を遅らせるシポニモド シポニモド(以下「本剤」という)は、S1P1およびS1P5受容体に選択的に結合するS1P受容体調整薬。シポニモドはS1P1受容体に作用することにより、リンパ球がリンパ節から移出することを防ぎ、その結果、それらのリンパ球が多発性硬化症患者の中枢神経系(以下「CNS」という)に移行することを防ぐことで本剤の抗炎症作用が発揮される。また、シポニモドはCNS内に移行し、CNS内の特定の細胞(オリゴデンドロサイトおよびアストロサイト)上のS1P5受容体と結合することで、ミエリン再形成の促進作用と神経保護作用が非臨床試験で示唆されている。 国際共同第III相臨床試験(EXPAND試験)では、1,645例のSPMS患者を対象に、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施。主要評価項目は、Expanded Disability Status Scale(EDSS)に基づく3ヵ月持続する障害進行(3m-CDP)が認められるまでの期間で、プラセボ群と比較し、シポニモド群では3m-CDPの発現リスクが21.2%有意に減少し(p=0.0134)、シポニモドが患者の障害進行を遅らせる効果が示された。また、3m-CDPが認められた患者の割合は、プラセボ群が31.7%に対し、シポニモド群では26.3%だった。また、年間再発率の負の二項回帰モデルによる推定値は、シポニモド群において、プラセボ群と比較して年間再発率が55.5%低下した(p<0.0001)。安全性について、本試験での主な副作用は、頭痛5.3%、高血圧4.5%、徐脈4.5%などが報告された。メーゼント錠の概要一般名:シポニモド フマル酸商品名:「メーゼント錠0.25mg」「メーゼント錠2mg」効能・効果:二次性進行型多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制用法・用量:通常、成人にはシポニモドとして1日0.25mgから開始し、2日目に0.25mg、3日目に0.5mg、4日目に0.75mg、5日目に1.25mg、6日目に2mgを1日1回朝に経口投与し、7日目以降は維持用量である2mgを1日1回経口投与するが、患者の状態 により適宜減量する。製造販売承認日:2020年6月29日 同社では、「MSの進行期への移行というアンメットニーズを医療現場から拾い上げ、日本で初めてとなるSPMSの適応取得に挑戦した。この承認を通じ『医薬の未来を描く』という弊社のミッションを少しでも果たせることを願う」と意欲をにじませている。なお、薬価、発売日などは未定。

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開発中の遅発型ポンペ病治療薬の有効性/サノフィ

 サノフィ株式会社は、6月16日、酵素補充療法剤として現在開発中のavalglucosidase alfa(以下「本剤」という)が、遅発型ポンペ病の患者の臨床症状(呼吸障害と運動性の低下)に対し臨床上意義ある改善をもたらしたと報告した。世界には推定5万人の患者がいるポンペ病 ポンペ病は、ライソゾーム酵素の1つである酸性α-グリコシダーゼ(GAA)の遺伝子欠損または活性低下が原因で生じる疾患。グリコーゲンが近位筋肉や横隔膜をはじめとする筋肉内に蓄積し、進行性の不可逆的な筋疾患が生じる。世界の患者数は約5万人と推定され、乳児期から成人後期のいずれの時期にも発症する可能性がある。 本症は、遅発型と乳児型に分類され、遅発型では1歳以降から成人後期までのいずれかの時期に発症する。遅発型の特徴的な症状は、呼吸機能の低下と筋力低下で、多くの場合、運動機能の低下に至る。患者は、歩行が困難となり、車椅子での生活を余儀なくされることが多く、呼吸困難が現れ人工呼吸器が必要となることもあり、主な死因は呼吸不全となっている。乳児型は生後1年以内に発症し、骨格筋の筋力低下に加え、心機能障害がみられる。 COMET試験の概要 今回報告されたCOMET試験は、無作為化二重盲検第III相試験で、20ヵ国56施設において治療経験のない遅発型ポンペ病の小児患者または成人患者100例が対象。患者を無作為化し、本剤群またはアルグルコシダーゼアルファ(標準治療薬)群に割り付け、いずれの群とも49週間にわたり1回20mg/kgの点滴静脈内投与を隔週で受ける。49週間後、非盲検の継続投与を行い、標準治療群については本剤20mg/kgによる治療に切り替える。 主要評価項目は、呼吸筋機能の変化で、立位での予測値に対する比率をパーセントで表した努力性肺活量(%FVC)に基づき評価した。本剤群の患者は、アルファグリコシダーゼの標準治療群の患者に比べ、%FVCが2.4ポイント改善し(95%信頼区間[CI]:-0.13/4.99)、試験計画で規定した非劣性の基準を上回る呼吸機能の改善を示した(p=0.0074)。ただ、主要評価項目の優越性については、本剤群は統計学的に有意な優越性を示すには至らなかった(p=0.0626)ため、試験計画で定めた解析の実施順序に従い、副次評価項目に関する正式な統計学的検討は行わなかった。主な副次評価項目は、6分間歩行試験による運動性の評価、呼吸筋力、運動機能と生活の質(QOL)を評価など。 本剤の安全性プロファイルは標準治療薬と同様で、49週間の二重盲検試験の期間中、本剤群44例、標準治療群45例に有害事象が現れた。重度の有害事象は、本剤群6例、標準治療群7例。重篤な有害事象が現れた患者数は、本剤群(8例、うち1例は投与との因果関係が否定できない重篤な有害事象)の方が標準治療群(12例、うち3例は投与との因果関係が否定できない重篤な有害事象)より少数だった。標準治療群では、4例が有害事象のため投与中止に至り、1例は急性心筋梗塞(投与との因果関係なし)のため死亡した。本剤群での投与中止や死亡はなかった。avalglucosidase alfaの概要 ポンペ病の酵素補充療法の目標は、筋細胞の中にあるライソゾームに酵素を送り届け、欠損しているか機能低下がみられる酸性α-グルコシダーゼに代わって筋肉内のグリコーゲン蓄積を防ぐことにある。本剤は、筋肉内、とくに骨格筋の細胞に酵素を送り届ける機能を高めるよう設計されていて、標準治療で用いられるアルグルコシダーゼアルファに比べ、-マンノース-6-リン酸の含量を約15倍に高めた物質で、酵素の細胞内への取り込みを向上させ、標的組織において高いグリコーゲン除去効果を得る目的で開発された。ただ、この差の臨床的意義は、まだ確認されていない。 同社では、「今回の試験結果により、avalglucosidase alfaをポンペ病の新たな標準治療薬として確立させるという目標に向けた歩みがまた一歩進んだ」と期待をにじませている。 また、今回のデータに基づき、2020年下半期に世界各国で承認申請を行う予定であり、米国食品医薬品局(FDA)は、ポンペ病と確定診断された患者に対する治療薬候補として画期的新薬として、ファストトラック審査の対象に指定している。

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著者ら自身が不満なのではないのか?(解説:野間重孝氏)-1251

 患者アドヒアランスは単純に何かの実施率(この場合リハビリテーション実施率、服薬率)で評価できるものなのだろうか。まず少し理屈っぽくなってしまうが、コンプライアンス(compliance)とアドヒアランス(adherence)の違いを考えてみたいと思う。 コンプライアンスもアドヒアランスもいずれも規則や指示に従うことを意味するが、コンプライアンスが言われたことを守るという受け身の意味合いが強いのに対して、アドヒアランスは興味を持って積極的に参加しようという意味合いが強い言葉である。近年は医師・薬剤師に言われたことを守るだけでなく、患者自身が積極的に治療に参加することが重要視されるようになり、数年前までは服薬についていえば「服薬コンプライアンス」といわれていたものが、昨今は「服薬アドヒアランス」と呼ばれるように変わってきた。 この論文評をこのような議論から始めたことには理由がある。コンプライアンスという観点からは「患者は医療従事者に対して従順でなければならない」という患者像がつくられ、結果として服薬の場合でいえば「薬をきちんと飲まないのは患者が言うことを聞かないからだ」ということになり、すべて患者が悪いという認識になってしまう。しかし、実際には患者にも薬を飲めない、あるいは飲みたくないと思う種々の事情がある場合が多いのである。したがって患者の服薬指導に当たる場合、「患者が言うことを聞かない」という視点をまず外し、患者の持つさまざまな事情を共に考えるという姿勢が重要になってくる。服薬アドヒアランスの評価は単なる服用率だけではなく、1.服薬順守度: 薬を用法・用量どおりに正しく使用しているか? つまりコンプライアンスだがこれに加え、2.医療従事者との協働性: 医療従事者と自分の思い・目標を共有できているか?3.知識・情報に対する積極性: 自分の薬に対する必要な情報を探したり、利用したりしているか?4.服薬の納得度: 薬の必要性について納得しているか?などの項目の評価が必要である。とくに心筋梗塞後の薬剤投与についてはこれから先もほぼ生涯にわたって服薬を続ける必要があるため、患者の理解・納得度が非常に重要になってくる。 リハビリテーションについても少しかたちを変えながらもまったく同様のことがいえる。つまり、リハビリテーションの実施率は確かに大きな指標ではあるが、それだけでは足りず、上記のような多面的な考察が必要とされるのである。 この研究には2つの不満が持たれる。第1はまさに上記の議論である。単なるリハビリテーション実施率や服薬率だけでアドヒアランスを評価してよいのかという問題である。冊子を送付したり、様子伺いの電話をすることが、どれだけ患者に寄り添って考えることになるかには疑問が残るからである。しかし、正直こうした患者への寄り添いというのは、言うはやすくして実際には大変難しい問題であることは評者自身十分に理解しており、著者らを責める資格はないと自覚している。 第2点は単純に効果についての疑問である。著者らは約半数の患者が12ヵ月後にはリハビリテーションも服薬も中止してしまうという現実を踏まえてこの研究をスタートさせたとしているが、達成率はリハビリテーションの完全介入例で37%、服薬で36.8%となっている。この数字は決して満足できる数字とはいえないだろう。一方のオッズ比で有意差が出たといわれても何を意味するのか説得力に欠けるといわなくてはならないと思う。この介入に効果がなかったとはいえないが、不十分であるといわなければならないのではないだろうか。コンプライアンスを超えたアドヒアランスの向上を目指しているのだとすれば、なおさらだろう。 とはいうものの、現在自分たちが行おうとしている介入にどの程度の効果があるかを、机上の議論ではなくリアルワールドで検定してみようという姿勢は高く評価されてよいと思う。本論文は冊子送付や電話連絡といった介入を行ったところ、リハビリテーション実施率では改善がみられたが服薬率では差がみられなかったといった、単純な読まれ方をされてはならない性格の論文であるのだと思う。より患者に寄り添った医療を行うためにはどうするべきか、共に考えてみようという姿勢が問い直されているのである。ただおそらく今回の結果をみて、(一応有意差は出たので論文化はできたが)これでは不十分だなと一番強く感じているのは、ほかならぬ著者ら自身なのではないだろうか。

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フレイルの健診に有用なテキスト公開/国立長寿医療研究センター

 2020年6月、健康長寿教室テキスト第2版が国立長寿医療研究センターの老年学・社会科学研究センターのホームページ上に公開された。これは同施設のフレイル予防医学研究室(室長:佐竹 昭介氏)が手がけたもので、2014年に初版が発刊、6年ぶりの改訂となる。 健康長寿教室テキストは介護予防に役立てるためのパンフレットで、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドローム(通称:ロコモ)に関する基本的概念に加え、実践編として「お口の体操」「運動」「フレイルや低栄養を予防するための食事の工夫やレシピ」などが掲載されている。このほかにも、最新の話題として、新型コロナなどによる外出制限時の対策にも応用できる内容が紹介されている。なお、健康長寿教室テキストは無料でダウンロードして使えるため、後期高齢者健康診査(いわゆるフレイルの健診)、スタッフ研修、敬老会の資料としても有用である。 健康長寿教室テキストの改訂にあたり荒井 秀典氏(国立長寿医療研究センター理事長)は、「当センターのみならず、国内外で明らかになった成果を取り入れ、お口の健康に関する内容を充実するとともに、よりわかりやすく健康的な食事のレシピや最新版の運動プログラムを含めた内容に一新した。高齢者では多くの病気を合併することが多いが、病気の適切な診断と治療を行うことはもとより、加齢とともに心身が衰えてくる『フレイル』の予防を行うことで、真の健康寿命の延伸をめざした全人的医療を行っている。病気の治療はどの医療機関でもできるが、本テキストに載っているようなフレイル予防を実践しているところはまだまだ少ないのが現状」とし、また、「新型コロナウイルス感染症の影響で外出を控えるようになり、地域での活動も制限され、『生活不活発』による身体機能の低下も懸念されている。本テキストをさまざまな現場で活用することにより、フレイルにならずにいつまでも元気で長生きしていただけることを祈念している」と述べている。<健康長寿教室テキスト目次>◆知識向上編第1章 健康寿命とフレイル第2章 フレイルに関連する状態◆実践編第3章 フレイルを予防するお口のお手入れ第4章 フレイルを予防する栄養第5章 フレイルを予防する運動第6章 フレイルを予防する生活第7章 老いと上手に付き合うために

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心臓リハビリ、冊子&電話フォローで完了率増/BMJ

 心筋梗塞発症後、2次予防のための心臓リハビリテーション実施と薬物療法について、患者に対してその重要性を示し実施と服薬を促す冊子の郵送と電話によるフォローアップを行うことで、心臓リハビリテーションの実施率は有意に増加したことが示された。一方で、服薬のアドヒアランスは増加しなかった。カナダ・Women's College HospitalのNoah M. Ivers氏らが2,632例を対象に行った無作為化比較試験の結果で、著者は、「介入を強化することで服薬アドヒアランスが改善されるのかを調べること、また心臓リハビリテーションの実施と服薬アドヒアランスとの関連を調べることが必要である」と述べている。BMJ誌2020年6月10日号掲載の報告。MI歴のある患者に、冊子を定期的に郵送し電話でフォローアップ 研究グループは2015年9月~2016年5月にかけて、カナダ・オンタリオ州9ヵ所の心臓治療センターを通じて、アウトカム評価を盲検化した無作為化比較試験を行い、心筋梗塞を発症した2,632例を対象に、2次予防治療のアドヒアランスを改善する介入とその効果を検証した。 被験者を無作為に1対1対1の3群に分け、(1)従来の治療(通常ケア群876例)、(2)心筋梗塞歴のある患者やその家族と一緒に作成した、心筋梗塞後のリハビリテーションや長期の服薬アドヒアランスを促す冊子の5回にわたる郵送(冊子のみ介入群878例)、(3)同冊子の郵送と、郵送後の電話によるフォローアップ(完全介入群878例)をそれぞれ実施した。電話によるフォローアップでは、最初に自動応答システムで治療を順守していない患者を特定し、訓練を受けた医療者が必要に応じてフォローアップを行った。介入は、調整は中央で行ったが、配信は各病院から行われた。 主要アウトカムは2つで、心臓リハビリテーションの完了と、服薬のアドヒアランス。アドヒアランスは、2次予防のための4種の推奨薬(スタチン系薬、抗血小板薬、β遮断薬、アンジオテンシン系阻害薬)の服用状況について、0~4段階(0:過去7日間で服用しなかった推奨薬なし[0種]~4:同服用しなかった推奨薬はすべて[4種])で測定・評価した。データは12ヵ月時点で、盲検化された評価者によって、患者の自己申告および医療管理データベースから集められた。リハビリテーション完了率、完全介入群37%に対し通常ケア群27% 被験者2,632例の平均年齢は66歳、男性は71%であった。 回答を得られた被験者における心臓リハビリテーションの完了率は、通常ケア群27%(643例中174例)、冊子のみ介入群32%(628例中200例)に対し、完全介入群は37%(531例中196例)だった(補正後オッズ比[OR]:1.55、95%信頼区間[CI]:1.18~2.03)。 一方で、服薬アドヒアランスは、通常ケア群、冊子のみ介入群、完全介入群でいずれも有意差はなかった。1年後の服薬アドヒアランスが0、1、2、3、4種の割合はそれぞれ、通常ケア群が12.2%、8.4%、13.1%、30.3%、36.1%、冊子のみ介入群は12.5%、6.8%、13.6%、30.2%、36.8%、完全介入群は11.7%、6.0%、14.4%、32.9%、35.0%で、冊子のみ介入群vs.通常ケア群のORは0.98(95%CI:0.81~1.19)、完全介入群vs.通常ケア群のORは0.99(0.82~1.20)だった。

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COVID-19、ヒドロキシクロロキンの使用は支持されない/BMJ

 ヒドロキシクロロキンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する有効な治療薬として期待され世界的に注目されていたが、リアルワールドで収集した観察データを用いた臨床研究の結果、酸素投与を要するCOVID-19肺炎入院患者へのヒドロキシクロロキン使用は、支持されないことを、フランス・パリ・エスト・クレテイユ大学のMatthieu Mahevas氏らが報告した。COVID-19による呼吸不全や死亡を予防する治療が緊急に必要とされる中、ヒドロキシクロロキンは、in vitroでCOVID-19の原因である新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抑制効果が報告され、小規模な臨床試験でも有効性が示唆されていた。BMJ誌2020年5月14日号掲載の報告。フランスの4施設におけるCOVID-19肺炎入院患者におけるヒドロキシクロロキンの有効性を後ろ向きに解析 研究グループは、2020年3月12日~31日の期間に、フランスの3次医療施設4施設に入院したCOVID-19肺炎患者全例について電子カルテをスクリーニングし、18~80歳で酸素投与を必要とするが集中治療室(ICU)への入室は必要としないSARS-CoV-2感染が確認された肺炎患者を適格症例として、入院48時間以内にヒドロキシクロロキン600mg/日の投与を開始した患者(治療群)と、ヒドロキシクロロキンを投与せず標準治療を行った患者(対照群)に分け比較した。 主要評価項目は21日時点でのICU入室を伴わない生存率、副次評価項目は全生存期間、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を伴わない生存率、酸素投与からの離脱、自宅退院またはリハビリテーション施設への転院である(すべて21日時点)。解析は、逆確率重み付け法により交絡因子を調整した。ヒドロキシクロロキン治療群と対照群とで生存率に有意差なし 主要解析の対象集団は全体で181例、治療群が84例、対照群が89例であり、入院後48時間以降にヒドロキシクロロキンの投与を開始した8例も追加された。 主要評価項目である21日時のICU入室を伴わない生存率は、治療群76%、対照群75%であった(加重ハザード比[HR]:0.9、95%信頼区間[CI]:0.4~2.1)。また、21日時点の全生存率は治療群89%、対照群91%(加重HR:1.2、95%CI:0.4~3.3)、ARDSを伴わない生存率はそれぞれ69%、74%(加重HR:1.3、95%CI:0.7~2.6)、酸素投与から離脱した患者の割合は82%、76%(加重リスク比:1.1、95%CI:0.9~1.3)であった。 治療群の8例(10%)に、治療の中止を要する心電図異常が認められた。

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脊髄性筋萎縮症治療に新しい治療薬登場/ノバルティス ファーマ

 5月13日、中央社会保険医療協議会は、オンラインで総会を開催し、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療用製品としてノバルティス ファーマ株式会社が3月19日に製造販売承認取得したオナセムノゲン アベパルボベク(商品名:ゾルゲンスマ点滴静注)の薬価につき1億6,707万7,222円とすることを了承した。薬価収載は5月20日に行われ、同日に発売された。 ゾルゲンスマは、SMAの根本原因である遺伝子の機能欠損を補う遺伝子補充療法で、1回の点滴静注で治療が完了する。SMAの概要とゾルゲンスマの特性 対象疾患となるSMAとは、脊髄前角細胞の変性・消失によって進行性に筋力低下と筋萎縮を呈する下位運動ニューロン病。常染色体劣性遺伝性の希少疾病であり、発症年齢と最高到達運動機能によってI~IV型の4タイプに分類される。とくにI型(乳児型)SMAは、重症かつ高頻度にみられ、0~6ヵ月で発症し、患児の90%以上が20ヵ月前に死亡または人工呼吸器による永続的な呼吸管理が必要な状態となる。そのほかII、IIIまたはIV型においても、病状の進行により歩行機能の喪失および筋力低下により、社会生活が困難となり、QOLを著しく低下させる。 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数は、平成30年度末、全国で858人(うち0~9歳は30人)と報告され、本症は遺伝性疾患による乳幼児の主な死亡原因となっている。 ゾルゲンスマは、SMAの原因遺伝子であるヒト運動神経細胞生存(Survival Motor Neuron: SMN)タンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ、野生型のアデノ随伴ウイルス9型(AAV9)を利用した遺伝子治療用ベクター製品。静脈内に投与され、SMAの根本原因であるSMN1遺伝子の機能欠損を補い、運動ニューロンでSMNタンパク質を発現させ、運動ニューロンの変性・消失を防ぎ、神経および筋肉の機能を高め、筋萎縮を防ぐことで、SMA患者の生命予後および運動機能を改善することが期待されている。また、導入したSMN遺伝子は患者のゲノムDNAに組み込まれることなく、細胞の核内にエピソームとして留まり、運動ニューロンのような非分裂細胞に長期間安定して存在するように設計されている。ゾルゲンスマの概要一般名:オナセムノゲン アベパルボベク製品名:ゾルゲンスマ点滴静注効能・効果:脊髄性筋萎縮症(臨床所見は発現していないが、遺伝子検査により脊髄性筋萎縮症の発症が予測されるものも含む)ただし、抗AAV9抗体が陰性の患者に限る。用法・用量:通常、体重2.6kg以上の患者(2歳未満)には、1.1×1014ベクターゲノム(vg)/kgを60分かけて静脈内に単回投与する。本品の再投与はしないこと。薬価:1億6,707万7,222円承認取得日:2020年3月19日薬価収載日:2020年5月20日発売日:2020年5月20日主な患者数:年間の投与対象患者数は15~20人程度

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COPD患者の退院後呼吸リハ、早期開始で死亡リスク減/JAMA

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)で入院したメディケア受給者では、退院後3ヵ月以内の呼吸リハビリテーションの開始により、1年後の死亡リスクが低減することが、米国・マサチューセッツ大学のPeter K. Lindenauer氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年5月12日号に掲載された。COPD増悪後の呼吸リハビリテーション(運動訓練、自己管理教育)が生存率を改善することはメタ解析で示唆されているが、この解析に含まれた試験は患者数が少なく、異質性が高いという。米国の現行ガイドラインでは、COPD患者に、退院後は呼吸リハビリテーションに参加するよう推奨している。90日以内と以降の開始を比較する開始コホート研究 本研究は、2014年に米国の4,446の急性期病院にCOPDで入院した出来高払い方式メディケア受給者の保険請求データを、後ろ向きに解析した開始コホート研究(inception cohort study)(米国国立心肺血液研究所[NHLBI]の助成による)。最終フォローアップ日は2015年12月31日だった。 呼吸リハビリテーションを、初回退院後90日以内に開始した患者と、90日以降(91~365日)に開始または呼吸リハビリテーションを行わなかった患者を比較した。また、傾向スコアでマッチさせた患者の比較も行った。 主要アウトカムは、1年後の全死因死亡とした。探索的解析として、呼吸リハビリテーションの開始時期と死亡率との関連、および終了した呼吸リハビリテーションの回数と死亡率との関連の評価を行った。1年死亡率:7.3% vs.19.6% 4,446病院に入院したCOPD患者19万7,376例(平均年齢76.9歳、女性11万5,690例[58.6%])が解析の対象となった。このうち、2,721例(1.5%)が退院後90日以内に呼吸リハビリテーションを開始し、3,161例(1.6%)は91~365日に開始した。 退院から1年以内に3万8,302例(19.4%)が死亡した。このうち、7.3%が90日以内に呼吸リハビリテーションを開始し、19.6%は90日以降に開始または呼吸リハビリテーションを行わなかった。90日以内開始群は、90日以内非開始群に比べ、1年死亡リスクが有意に低かった(1年死亡率:7.3% vs.19.6%、絶対群間リスク差[ARD]:-6.7%、95%信頼区間[CI]:-7.9~-5.6、ハザード比[HR]:0.63、95%CI:0.57~0.69、p<0.001)。 90日生存例(1年死亡率:90日以内開始群6.2% vs.90日以内非開始群13.4%、ARD:-5.8%、95%CI:-6.9~-4.6、オッズ比[OR]:0.54、0.46~0.63)に限定した解析でも、生存に関して同様の効果が認められた。 また、在宅酸素療法の使用例(ARD:-5.7%、95%CI:-7.4~-3.5、OR:0.60、0.49~0.75、p<0.001)と非使用例(-6.8%、-8.0~-5.4、0.43、0.34~0.54、p<0.001)、併存疾患の負担が軽度(-7.6%、-8.6~-6.2、0.27、0.19~0.39、p<0.001)、中等度(-5.0%、-6.7~-2.8、0.57、0.43~0.75、p<0.001)、重度(-3.8%、-6.7~-0.5、0.76、0.59~0.97、p=0.03)の患者のいずれにおいても、90日以内開始群で死亡リスクが低かった。 傾向スコアでマッチさせた患者(両群2,710例ずつ)でも、90日以内開始群で死亡リスクが低かった(7.3% vs.14.1%、ARD:-6.8%、95%CI:-8.4~-5.2、HR:0.50、95%CI:0.42~0.59、p<0.001)。 呼吸リハビリテーションの開始時期別の比較では、90日以内非開始群に比べ、退院後30日以内に開始した患者(ARD:-4.6%、95%CI:-5.9~-3.2、HR:0.74、95%CI:0.67~0.82、p<0.001)、31~60日に開始した患者(-10.6%、-12.4~-8.4、0.43、0.34~0.54、p<0.001)および61~90日に開始した患者(-11.1%、-13.2~-8.4、0.40、0.30~0.54、p<0.001)のいずれも死亡リスクが低かった。 退院から90日までに受けた呼吸リハビリテーションの回数の中央値は9回(IQR:4~14)であった。回数が3回(1週間の推奨回数)増えるごとに、死亡リスクが有意に低下した(HR:0.91、95%CI:0.85~0.98、p=0.01)。 著者は、「これらの知見は、COPDで入院後の呼吸リハビリテーションに関する現行ガイドラインの推奨を支持するものだが、交絡が残存する可能性があり、さらなる検討を要する」としている。

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苦情殺到!桃太郎(後編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】Part 1

今回のキーワード世間(主流秩序)集団主義不安(セロトニン不足)受け身(ドパミン不足)「グレートジャーニー促進説」「均一民族促進説」私刑発信者情報開示請求どう日本的なバッシングはユニークなの?進化心理学的に考えると、バッシングには普遍性があることが分かりました。ところが、世界的に見て、日本人によるバッシングは、実はかなりユニークです。そのユニークな点を3つあげてみましょう。キーワードは、「世間」です。(1)内向きである1つ目は、内向きであることです。日本のバッシングのターゲットのほとんどは、国内です。逆に、海外には目が向いていないです。これは、日本のウチ・ソトの文化によるものです。ウチとは、世間(主流秩序)の範囲「内」であるということです。逆に、海外であるソトは、世間(主流秩序)が通用しない別の世界であるととらえられます。この心理は、ソトに対して、良く言えば寛容ですが、悪く言えば無関心です。一方、とくに欧米のバッシングは、ターゲットが国内外を問わず、政治家、王族、ハリウッドのセレブであることが多いです。(2)情緒的である2つ目は、情緒的であることです。日本のバッシングの内容の多くは、犯罪や不倫などの分かりやすい悪に偏っています。逆に、労働、育児、介護、年金、貿易、原発などのまさに実生活にかかわることについては、善悪が分かりにくいため、あまり目が向いていないです。また、バッシングするかどうかは、同じ犯罪や不倫であっても、ターゲットやその時の世間の雰囲気によって極端に変わり、とても流されやすいです。これは、日本の和の文化によるものです。和とは、世間(主流秩序)を乱さないことです。よって、多数派という「安全な場所」から、少数派はバッシングされやすいです。逆に、多数派には逆らわないため、政権の不正へのバッシングは広がりにくいと言えます。一方、とくに欧米のバッシングの内容は、政治経済をはじめとして実生活にかかわることすべてです。また、ターゲットがどれだけズルしたか、自分たちはどれだけ損したかなど、お金についての内容が多く、現実的です。なお、不倫については、社会ではなく個人の問題であるため、そもそもバッシングのターゲットにはならないです。(3)陰湿である3つ目は、陰湿であることです。日本のバッシングのゴールは、「ご迷惑をおかけしました」「お騒がせしました」という世間への謝罪と「もう調子に乗りません」「大人しくします」という反省です。そこに至るまで、または至ったとしても、徹底的に追い詰めて、容赦がないです。親兄弟や職場にも謝罪を求めます。逆に、損害賠償など、合理的な解決を求めることについては、あまり目が向いていないです。これは、日本の疑似家族の文化によるものです。疑似家族とは、価値観が同じであることを前提に、親や兄弟、職場、さらには世間とのつながりを重んじることです。よって、本人だけでなく家族や会社が、世間様(主流秩序)に許しを乞うのは当然という発想になります。これは、バッシングの目的化に至りやすい思考回路でもあります。一方、とくに欧米のバッシングは、価値観が違うことが前提であるため、謝罪や反省ではなく、解決することが一番のゴールであり、とてもドライです。たとえば、違法ドラッグについては、謝罪や反省の是非ではなく、薬物依存症のリハビリテーションをしているかどうかが注目されます。親兄弟は、成人すれば赤の他人であるため、本人のために謝罪をすることはありません。むしろ、大変な思いをしていると周りから同情を寄せられることがあります。また、会社は、個人との単なる労働契約をしている関係にすぎないため、謝罪会見をすることはまずありえないです。なぜ日本的なバッシングはユニークなの?日本人的なバッシングのユニークな点は、ウチ・ソトの文化によって内向きである、和の文化によって情緒的である、疑似家族の文化によって陰湿であることが分かりました。これらは、欧米の個人主義とは対照的な日本独特の集団主義の文化です。それでは、なぜ日本人によるバッシングは、文化的にユニークなのでしょうか? ここから、その原因を、2つの脳内物質の国際比較を通して、脳科学的に解き明かしてみましょう。(1)不安を感じやすい―セロトニン不足1つ目は、日本人は不安を感じやすいことです。これは、先ほどにも触れた「安心ホルモン」であるセロトニンの不足との関係が指摘されています。セロトニンは、脳内でその「リサイクルポンプ」(セロトニントランスポーター)が働くことによって、常に使い回されています。「最後通牒ゲーム」を用いた研究によると、自分が損をしてでも公平性(正義)を重んじる人は、セロトニントランスポーターの密度が低い(働きが悪い)、つまりセロトニン不足であることが分かっています。この密度が低い遺伝子タイプ(SSタイプ)を持つ人の割合の国際比較において、日本人は世界で最も多いことが分かっています。つまり、日本人は不安を感じやすいからこそ、ソト(海外)へのバッシングなんて怖くてできず、内向きなのでしょう。その一方、ウチ(国内)では多数派に流されやすく、情緒的なのでしょう。また、同じ価値観を押し付けて、陰湿なのでしょう。こうして、バッシングによってとりあえず世間が乱れないようにして安心を得ようとするのです。(2)受け身になりやすい―ドパミン不足2つ目は、日本人は受け身になりやすいことです。これは、先ほどにも触れた「快感物質」であるドパミンの不足との関係が指摘されています。ドパミンは、脳内で分解酵素(カテコール-o-メチルトランスフェラーゼ)が働くことによって、溶かされてなくなります。「同調圧力実験」を用いた研究によると、意思決定が楽しいと感じにくい人(受け身になりやすい人)は、ドパミン分解酵素の活性が高い(溶かす働きが良い)、つまりドパミン不足であることが分かっています。この活性が高い遺伝子タイプを持つ人の割合の国際比較において、日本人は世界でトップレベルであることが分かっています。つまり、受け身になりやすいからこそ、文化の違うソト(海外)まで積極的に目を向けられず、内向きなのでしょう。善悪を自分で考えようとせず、情緒的なのでしょう。解決への働きかけをしようとせず、陰湿なのでしょう。そして、バッシングによって、安易な快感を得ようとするのです。次のページへ >>

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第6回 COVID-19パンデミックと“テレリハ”?【今さら聞けない心リハ】

第6回 COVID-19パンデミックと“テレリハ”?今回のポイント新型コロナウイルス感染の拡大を防ぐため、全国の病院では外来の心リハを休止せざるを得ない状況となっている心リハは運動療法だけではなく疾患管理プログラムとしての役割を担っているため、外来の心リハ休止により心疾患の再発悪化の増加が懸念される外来の心リハ休止の悪影響を最小限に抑えるためには、どのような対応が求められるか、外来再開時には何に注意すべきか現在、新型コロナウイルス感染拡大は全世界に及んでおり、その収束の見通しは立っていません。日本では都市部を中心として感染者が急増しており、政府は4月7日に東京など7都府県を対象に緊急事態宣言を発出しました。4月17日には全国都道府県に緊急事態宣言の対象が拡大。それとともに、これまでの宣言の対象であった7都府県に京都を含む6つの道府県を加えた13都道府県については、とくに重点的に感染拡大防止の取り組みを進めていくべき「特定警戒都道府県」と位置付けられました。筆者の勤務する京都大学医学部附属病院(京大病院)でも、新型コロナウイルス感染症対策として外来の心リハを4月9日より中止しています。心リハは心筋梗塞や心不全などの心疾患患者にとってとても大切な治療であることをこれまでの連載で語ってきました。今回は、『緊急事態とは言っても、心疾患患者にとって重要な心リハを中止しても大丈夫?』という疑問を持つ読者の皆様とともに、国内外の心リハの状況と対策について考えてみたいと思います。心リハ学会の指針は?4月20日に日本心臓リハビリテーション学会より、“COVID19 に対する心臓リハビリテーション指針”が公開されました。要点は以下の3つです。1)入院中の心リハは自粛せず、適切に導入・継続する2)外来の心リハは中止し、自宅での在宅リハを推奨する3)運動処方目的の心肺運動負荷試験(CPX)は実施しない補足事項として、入院患者に心リハを行う場合も、手指消毒・マスク装着・密集を避ける(患者間は2mの距離を設ける)などの感染対策を徹底する、感染患者の新規発生がみられない地域では外来の心リハ実施も許容される、と書かれています。ただし、こちらの指針が作成されたのは緊急事態宣言の対象が全国に拡大されるより前の4月13日のことであり、現時点では全国の施設での外来心リハ実施は中止することが妥当と考えられます。ヨーロッパ・アメリカでは?世界保健機構(WHO)の発表によると、4月22日時点の新型コロナウイルスの感染者数は日本では1万1,118例です。一方、ヨーロッパでは118万7,184例、アメリカでは89万3,119例と桁違いに多く、まさに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにあることがわかります。心リハの先進国でもあるヨーロッパ・アメリカですが、COVID-19パンデミックで心リハはどうなっているのでしょうか。ヨーロッパ心臓病学会(ESC)の推奨ヨーロッパ心臓病学会(ESC)は4月8日に‘Recommendations on how to provide cardiac rehabilitation activities during the COVID-19 pandemic’を公開しています。ここでは、COVID-19パンデミックにより各国での心リハの実施に障害が生じていることを述べたうえで、以下、10の推奨が示されています。1)COVID-19パンデミックの状況を定期的に確認する2)COVID-19患者を扱える準備をする3)COVID-19パンデミックが心疾患患者に与える結果について系統的に検討する4)現状で提供できる最大限の心リハを実施する5)患者の要望に対して個別の病状に配慮したうえで応じられるよう準備する6)なんらかの症状がでた際には、必要な医療を後回しにせず適切な支援を受けられるように患者に指導する7)偽情報に惑わされない8)包括的心リハのすべての要素を含む電話での遠隔リハ(telerehabilitation programmes:テレリハプログラム)を実施する9)医療および地域連携による患者の心理サポートを行う10)施設における心リハ再開の準備をする施設の状況によっては、通常通りの心リハ運営が難しくなっている場合もあります。COVID-19患者対応でスタッフが配置転換となり、心リハを完全に閉じている施設もあります。ESCは施設の状況に応じた推奨を示しています。心リハを閉じている施設に対しては、残っているスタッフまたは配置転換となったスタッフ間で連携し、COVID-19が心疾患に与える影響についての情報共有や遠隔リハの開始について検討することが推奨されています。心リハの運営ができている施設には、入院患者と回復期の外来患者は、手指消毒・マスク装着・密集を避けるなどの感染対策を実施したうえで行うこと、ただし回復期または維持期の外来患者については可能であれば対面ではなく、電話やメール、アプリなどを活用した遠隔リハ(患者評価と指導)を行うことが推奨されています。米国のほうはCOVID-19パンデミック下の心リハについてESCほどまとまったものはありませんが、AACVPR(American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation)が3月13日に公表した‘AACVPR Statement on COVID-19’には、各施設の方針に従って心リハを実施すること、外来の心リハが実施できない患者には有効な在宅運動指導を検討することが書かれています。米国ではCOVID-19パンデミック以前の昨年7月に“在宅心リハについてのステートメント”が公表されています。テレリハ、具体的にどうする?では、テレリハ、“電話やメール、アプリなどを活用した遠隔リハ”は、どのように実践すればいいでしょうか。言うは易し、行うは難し、ですね。患者さんに心リハスタッフが電話して、『運動しましょうね』と言えばそれだけでいいのでしょうか。心疾患患者さんには、運動をするにあたってメディカルチェックが必要です。テレリハであっても、そのプロセスは省けません。さらに、テレリハを行うにあたって、スタッフ間での対応も統一する必要があります。電話での患者情報聴取は何を聞けばよいか、もし患者が症状の悪化を訴えたら、どの程度で受診を促すべきなのか…。当院では、複数のメディカルスタッフが心リハに携わっています。そこで今回、心リハのメディカルスタッフで協働して「テレリハプログラム」を作成し、4月9日より運用を開始しました。(表)京大病院で活用している、テレリハ問診チェックリストPDFで拡大するこれはESCの‘Recommendations on how to provide cardiac rehabilitation activities during the COVID-19 pandemic’の公開を知る前に作成したものでしたが、ESCの推奨8)の“包括的心リハの全ての要素を含む電話でのテレリハプログラム(telerehabilitation programmes)”にほぼ相当する内容になっているようです。心リハを専門にする医療者の考えることは、日本もヨーロッパも同じようなレベルにあるということでしょうか。運動の内容についても、具体的な指導が必要です。「一人で運動してください」と言われても、どうしたらいいのか、患者の立場だったら困りますよね。単に歩けばそれでいいのでしょうか。外出を控えることが一人一人の国民に求められている現状で、どこを歩けばいいのか、街中に住んでいる患者さんには難しい問題です。具体的な運動内容を患者さんに提供するために、当科のホームページに当院の心リハで実施している体操プログラムを公開しました。外来の心リハ患者さんでインターネットアクセスが可能な方には活用していただくようお伝えしています。COVID-19パンデミックは心リハイノベーションをもたらすか?緊急事態宣言により、さまざまな企業・病院で、テレワークなどの新しい働き方が整備されました。大学での会議や授業もWebが導入されるなど、教育にも新しい仕組みが導入されています。これまで、1~2時間の会議のために京都から東京まで出張することが多かった私も、往復の交通に要する時間や費用など、無駄を省けたことにはメリットを感じています。通常の外来でも電話診療が本格的に始まりました。遠方から検査がない日に薬の処方目的に来院されていた患者さんにとっては、かなりメリットが大きいようです。心リハでも、今回を機に遠隔リハ体制が整えば、外来の心リハの一部はテレリハに移行できる可能性があります。しかし、現在のテレリハは医療者の無償奉仕に依存しており、テレリハの普及には診療報酬制度の見直しなども必要そうです。<Dr.小笹の心リハこぼれ話>今回はDr.小笹とともに当科で活躍する、鷲田 幸一氏(京大病院 慢性心不全看護認定看護師)のこぼれ話を紹介します。「テレリハを開始して」私が実際に患者さんにお電話をして感じたのは、「多くの患者さん・ご家族は先の見えない現状に不安を抱いていること」、また外出自粛などにより、身体活動度が減少するだけでなく「social distance(社会的距離)を超えて、social isolation(社会的孤立)に陥っていること」でした。これらは、とくに独居の高齢者には大きな問題のように思います。ESCの推奨9)にあるように、心理面での支援も医療者として非常に重要だと感じています。疾患管理をするための形式的な問診だけではなく、患者さん・ご家族を気遣いながらコミュニケーションを取り、不安を増大させることなく日常の生活(食事・睡眠)を続けているかを確認する。そして、その中で、疾患管理としてのモニタリングや、適切な食事・活動についてのアドバイスを行う必要があるのだと思っています。今後、多くの病院で同様の取り組みが拡がり、自宅で孤立している患者さんの疾患・生活・心理面で支援拡大を願います。

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