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不安は治るのだろうか?(解説:岡村毅氏)-1010

 臨床経験のある方は十分におわかりだと思うが、不安症の人はさまざまな身体の症状を訴えてプライマリケアを受診する。したがって、精神科・心療内科のみならず、すべての科で不安な人に出会うと思っておいたほうがいいだろう。 本論文ではデュロキセチン、プレガバリン、ベンラファキシン、エスシタロプラムが優れているとされた。まずデュロキセチン、ベンラファキシン、エスシタロプラムは比較的新しく、また臨床でもよく使用されるSSRIあるいはSNRIであり、きわめて妥当な結論だろう。プレガバリンについてはオフラベルとなるためコメントは難しい。 次に、ここでは「良い」とされなかったベンゾジアゼピンとクエチアピンを振り返ってみよう。まずわが国では不安な人には圧倒的にベンゾジアゼピンが処方されてきた。本論文では、「効果は確かにあるが、依存などの有害事象があるのでダメ」とされている。ベンゾジアゼピン認知症の危険をも増やしてしまうのではという報告もあり、悪名しかない状態であるが、脈々と処方されてきた背景は以前書いた(「悪名は無名に勝るとはいうけれど…ベンゾジアゼピンの憂鬱」)。クエチアピンとは、いわゆる「抗精神病薬」の中で最も有害事象が少ないとされるものである。とても効いたという報告があるが、当然ながら「良薬口に苦し」で、続かない方も多いようだ。 高齢者の精神医学を専門とする筆者からすれば、不安とは未来への戦慄である。それは究極的には死の恐怖であり、誰しもが持つものだ(そしてうつは過去へのとらわれだと続くわけだが、長くなるのでこの辺りでやめときます)。研究者としては「薬物で不安がなくなるわけではない」「多剤併用はこうやって生まれるのだ」「医療モデルの限界を認識せよ」という医療批判もわからなくはない。とはいえ患者さん方もそんなことは先刻承知で、「でも不安で生活が立ち行かないから、嫌だけれども病院に来たのだ」という人も多いのである。薬物治療は、必要なときには正しく行うべきであろう。抄録では最後に「つまり、全般性不安障害に対しては多様な薬物治療が選択可能なのであり、最初の薬剤でうまくいかなくても、薬物治療を諦める理由にはならない」とあるが、これはなかなか含蓄ある言葉といえる。不安と一口に言っても、さまざまな状態があるのだ。初めの薬物が効果的でなくとも、「あなたの不安は医療では何ともならないものです」と断じる前に、謙虚に次のものを検討せよということであろう。 おまけに個人的感想を…。本論文では中国のデータベース(Chinese National Knowledge InfrastructureおよびWanfang data)も対象とし、中国語を解する研究者が精査している。中国からの報告を組み入れても、排除しても解析結果に大きな変化はなく、質は悪くはないが、かの国ではプラセボではなく対照薬を用いる傾向がある、などといろいろ考察されている。世界は英語圏と中国語圏からなるのかとしみじみ思った次第である。

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ネコ型ロボット、せん妄に有効

 せん妄は入院患者に多く発症し、入院期間、死亡率、および長期的な認知の転帰など負の予測因子に強く一貫している。せん妄に関連する症状としては、集中力の低下、睡眠障害、精神運動興奮、および情緒障害が含まれる。また、せん妄による行動障害の管理は困難であり、せん妄の持続期間または重症度を軽減するために、初期の身体離床、方向転換、自然な睡眠パターンを高めるための試み、およびベッドサイドのシッターなどの非薬理学的手段が提唱されているが、それらを超える確立された治療は限られている。今回、米国・Albany Medical CenterのJoshua S-M氏らは、ペット型ロボットによるICUでのせん妄患者による行動障害軽減の可能性を明らかにした。The American Journal of Medicine誌2月7日号掲載の報告。 近年、ペット型ロボットの使用は、認知症の特別養護老人ホームに入居する患者の興奮抑制に役立つと報告されている。認知症はせん妄の主要な危険因子であるため、病院内でこれらが役立つかどうかが推測されている。研究者らは、せん妄を持つICU患者に対し、非薬理学的行動介入としてペット型ロボットの使用に関する実現の可能性を評価するために、パイロット試験を行った。 研究者らは、2017年7~12月に、当院のICUでせん妄治療を受けている20例に対し、ICUにおけるせん妄評価法(CAM-ICU)で評価を実施。患者の代理人は、書面による同意説明後、new Joy For All robotic cat(Hasbro、RI:ネコ型ロボット)を受け取った。このネコは電池式で、触るとゴロゴロ、ニャーなどの鳴き声を発する。患者、家族、そしてベッドサイドの看護師は、このネコの使用を勧められた。ICUへ入室3日目に、患者(可能なら)とその家族(すぐに可能なら)に対して、5つの質問を行い、体系化されていないフィードバックを求めた。同じ調査をすべてのICUの看護師、サポートスタッフ、および医師に電子メールで送信した(n=400)。調査の質問事項は、リッカート尺度を用いて5段階で評価した(1:強く反対~5:強く同意する)。 主な結果は以下のとおり。・患者/家族全体のうち23件、ICUサポートスタッフから70件の結果が報告された。・患者20例の年齢中央値は73歳(26~94歳)で、50%が女性だった。・ICUでの1次診断は65%が内科的、35%が外科的であった。・調査登録前に投与された薬は、鎮静薬:85%、ベンゾジアゼピン系:55%、抗精神病薬:30%だった。・ミトンは65%、拘束は40%の患者にされていた。・全体として、患者/家族および臨床スタッフそれぞれ65%が、ネコ型ロボットの使用によって落ち着いたと回答。また、回答者の70%以上が、ネコ型ロボットによる臨床ケアの妨害はなかったと回答した。・回答者の大多数は、ネコ型ロボットがICU患者へ将来的な役割を果たす可能性があることに同意した(患者/家族:95%、スタッフ:72%)。・介入は簡潔、目立たず、安全で低コストだった。・ペット型ロボットは一般的に患者、家族、そしてスタッフに好評だった。・主な不満や参加辞退の理由は、「イヌ型ロボットがなかった」というもので、最も多かったのは、「ネコ型同様にイヌ型ロボットを提供してほしい」という声だった(コメントの20%)。 本試験の見解は研究デザインとサンプルサイズによって制限されており、実現の可能性の探索研究であったため、対照群の登録はない。しかし、これはICU環境でのペット型ロボットによる初の研究で、この研究の終了以降、せん妄のある特定の患者へペット型ロボットの利用についてICUの看護師から問い合わせが増えている。 潜在的には、ペット型ロボットの使用および同様の介入は、患者および家族の経験を改善しながら、向精神薬の使用および拘束の必要性を減らすことができる。さらに、そのような装置はほかの入院患者(小児科、脳外傷など)、または重症度が低いユニットにおいてもいっそう役立つかもしれず、今後、より大規模な検証が求められる。

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ベンゾジアゼピンの使用と濫用~米国調査

 ベンゾジアゼピンの使用率、不適正使用の特徴および年齢による変化について、米国・ミシガン大学のDonovan T. Maust氏らが、調査を行った。Psychiatric Services誌オンライン版2018年12月7日号の報告。 2015、16年のNSDUH(National Survey on Drug Use and Health)のデータより、18歳以上の成人8万6,186例およびベンゾジアゼピン使用が報告された1万290例を対象に、横断的分析を行った。過去1年間のベンゾジアゼピン使用と不適正使用(医師が指示しなかった方法)、物質使用障害、精神疾患、人口統計学的特徴を測定した。不適正使用は、若年(18~49歳)と高齢(50歳以上)において比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・前年にベンゾジアゼピン使用を報告した患者は3,060万人(12.6%)であり、そのうち処方された患者が2,530万人(10.4%)、不適正使用患者が530万人(2.2%)であった。・濫用は、全体的な使用の17.2%を占めていた。・ベンゾジアゼピンを処方された患者は、50~64歳で最も多かった(12.9%)。・濫用は、18~25歳で最も多く(5.2%)、65歳以上で最も少なかった(0.6%)。・処方されたオピオイドまたは覚せい剤の濫用や依存は、ベンゾジアゼピンの濫用と強い関連が認められた。・ベンゾジアゼピン濫用の最も一般的なタイプは、処方箋なしであった。また、最も一般的な入手先は、友人や親戚であった。・50歳以上では、それ以下と比較し、処方された以上のベンゾジアゼピンを使用する傾向があり、睡眠補助のために使用されていた。 著者らは「米国におけるベンゾジアゼピン使用は、以前に報告されていたよりも高く、濫用が全体の使用の約20%を占めていた。50~64歳のベンゾジアゼピン使用は、65歳以上を上回っていた。覚せい剤またはオピオイドを処方した患者では、ベンゾジアゼピン濫用を監視する必要がある。睡眠や不安に対する行動的介入へのアクセスが改善されることで、濫用を減少させることができる」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法はベンゾジアゼピン依存に対するラメルテオンの影響ベンゾジアゼピン使用と認知症リスク

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長期ベンゾジアゼピン使用者における認知症リスク~メタ解析

 ベンゾジアゼピン(BDZ)と認知症リスクに関する報告には、相反するエビデンスが存在する。中国・四川大学のQian He氏らは、BDZの長期使用と認知症リスクとの関連を調査するためにメタ解析を行った。Journal of clinical neurology誌オンライン版2018年10月26日号の報告。 2017年9月までの関連文献をPubMed、Embaseデータベースよりシステマティックに検索を行った。文献検索は、BDZの長期使用と認知症リスクとの関連を分析した観察研究にフォーカスした。プールされた率比(RR)および95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて評価した。結果のロバスト性は、サブグループ解析および感度分析で確認した。 主な結果は以下のとおり。・症例対照研究6件およびコホート研究4件、合計10件の研究が抽出された。・BDZ使用患者の認知症発症のプールされたRRは、1.51(95%CI:1.17~1.95、p=0.002)であった。・認知症リスクは、半減期の長いBDZを使用している患者(RR:1.16、95%CI:0.95~1.41、p=0.150)およびBDZを長期使用している患者(RR:1.21、95%CI:1.04~1.40、p=0.016)において高かった。 著者らは「10件の研究をまとめた本メタ解析では、高齢者におけるBDZ使用が認知症リスクを有意に増加させることを示唆している。そのリスクは、半減期20時間超のBDZを使用する患者およびBDZ使用期間が3年超の患者において高かった」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン使用に伴う認知症リスクに関するメタ解析ベンゾジアゼピン認知症リスク~メタ解析ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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ベンゾジアゼピン使用と認知症リスクとの関連性が示唆された

 ベンゾジアゼピンの使用は、メンタルに関連する混乱や遅延を潜在的に引き起こす可能性がある。これらのよく知られているベンゾジアゼピンの副作用は、認知症と診断されるリスクの増加と関連しているといわれている。韓国・成均館大学校のKyung-Rock Park氏らは、ベンゾジアゼピン認知症との関連について評価を行った。International Journal of Clinical Pharmacy誌オンライン版2018年10月26日号の報告。ベンゾジアゼピン使用が認知症リスク増加と関連しているかを調査 2002~13年の韓国医療データベースよりデータを抽出した。ベンゾジアゼピン使用が認知症リスク増加と関連しているかを調査するため、Sequence symmetry analysis(SSA)を行った。新規のベンゾジアゼピン使用者と新規に認知症と診断された患者(ICD-10:F00~03、G30、G318)を定義した。ベンゾジアゼピンは、作用時間に基づき長時間作用型と短時間作用型の2群に分類した。結果の非因果的解釈の可能性を除外するため、抗うつ薬、オピオイド鎮痛薬、スタチンの使用者を活性比較者とした。関連性を同定するため、時間傾向調整順序比(ASR)と95%信頼区間(CI)を用いた。主要アウトカム指標は、ASRとした。長時間作用型ベンゾジアゼピン使用者は認知症リスクが高い 主な結果は以下のとおり。・ベンゾジアゼピン使用者は、認知症との関連が認められた(ベンゾジアゼピン:4,212対、ASR:2.27、95%CI:2.11~2.44)。・長時間作用型ベンゾジアゼピン使用者(長時間作用型:3,972対、ASR:2.22、95%CI:2.06~2.39)は、短時間作用型ベンゾジアゼピン使用者(短時間作用型:5,213対、ASR:1.88、95%CI:1.77~2.00)よりも、ASRが高かった。・本SSAでは、期間と反応との関連は認められなかった。 著者らは「本研究において、ベンゾジアゼピン認知症との関連が示唆された。さらに、長時間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤使用患者は、同薬剤の短時間作用型使用患者よりも、認知症リスクが高いと考えられる。この疫学的関連性の因果関係を明らかにするためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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益と害を見極めてポリファーマシーを解消させる

 超高齢化社会に伴い多剤併用が問題視されているが、果たして何が原因なのだろうか。2018年11月6日にMSD株式会社が主催する「高齢者の多剤併用(ポリファーマシー)に関する実態と不眠症治療の課題」について、秋下 雅弘氏(東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座教授)と池上 あずさ氏(くわみず病院院長)が登壇し、ポリファーマシーの原因と不眠症治療のあり方について語った。ポリファーマシーはなぜ起こり、何が問題なのか 多剤服用でも、とくに害をなすものをポリファーマシーと呼ぶ。そして、薬物有害事象、アドヒアランス不良など多剤に伴う諸問題だけを指すのではなく、不要な処方、過量・重複投与などあらゆる不適正処方を含む概念に発展している。 ポリファーマシーが高齢者で起こる理由は、年齢とともに疾患リスクが上昇するからであり、脳心血管疾患、生活習慣病、消化器や運動器などの併存疾患、そして老年症候群に対する処方薬剤の積み上がりが原因とされている。 秋下氏は、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬が不眠症治療薬としても利用されている点を問題視しており、「患者は両者が同じ系統の薬剤であることを理解せずに、さまざまな医師に相談をもちかける。結果、重複して服用することになる」と、問題が起こる状況の例を示した。高齢者の多剤併用、どうやって何を減らすと良いのか 患者からの『なぜこれまで飲んでいた薬を減らすのか』という問いに対し、「きちんと説明できない医師が多い」と同氏は語る。こういう場合は、急性期から慢性期、外来から在宅へ移行するタイミングがチャンスだという。東大病院では、薬剤師が主導となり、入院時に“持参薬評価テンプレート”を用いて薬剤調整を実施している。6剤以上服用かつ7つの評価項目のいずれかに該当する場合は、調整対象となり、対象者の21%で薬剤の必要性が見直され、減薬に成功している。 また、さまざまな疾患で使用される抗コリン系薬剤は、認知症リスクを高める報告があるため、高齢者や認知機能が低下している患者において、同氏は「この種の薬剤の重複投与をなるべく避けるよう検討することが重要」と、注意を促した。“中止を前提”として不眠症治療薬を処方する 漫然と処方されがちな不眠症治療薬であるが、高齢者の場合は、服用時の転倒・骨折だけではなく、長期間の服用継続によるせん妄誘発や認知症リスクの増大、さらにはそれらが引き金となり、誤嚥性肺炎から死につながることもある。 不眠症には3つのタイプがあり、入眠困難が年齢と関係ないのに対し、中途覚醒や早朝覚醒は60歳以上になると増える傾向にある。これを踏まえ池上氏は、「夜間頻尿など患者の不眠原因を追求したうえで、“5時間以上眠れたらOK”、“無駄に布団にいない”よう指導する」など、服用中断への導き方を指南した。 また、糖尿病をはじめ生活習慣病に罹患している患者は、不眠症治療薬の服用率が高い。これに対し同氏は、「生活習慣病で病院に受診していると先生に不眠であることを訴えやすく、不眠症治療薬に手が届きやすい」と疾患以外の原因についても言及した。減薬には時間をかけることが大切 「ポリファーマシーに関する診療所医師と保険薬局薬剤師の意識調査」1)における、ポリファーマシーに対する減薬アプローチについて、医師は41.3%が関与していた。一方、服薬指導を行う立場である薬剤師の関与は7.2%であった。これについて秋下氏は、「ポリファーマシーの問い合わせを疑義照会と同じタイミングで行おうとしているのではないか。その場で減薬ができなくても、次やその次に減薬ができれば良いという感覚で問い合わせを行えば、もっとアプローチができるのではないか」と、医師への問い合わせにためらいをみせる薬剤師に対してアドバイスした。 池上氏は、「患者は不眠症治療薬を飲むうえで、“依存性があり止められなくなる”、“効果がなくなる(量が増える)”などの不安を抱え、本当は飲みたくない方が多い。患者一人ひとりの生活環境を把握し、コーヒーやお茶などカフェインを含む飲料は睡眠の4時間前にとるように指導するなど、患者に寄り添うことで減薬は可能である。しかし、減薬する際は、反跳性不眠などのリスクを考慮しながら、しっかり時間をかけて行ってほしい」と、減薬におけるリスクとベネフィットを説明した。 最後に、秋下氏は「レセプトデータ等の処方解析やエビデンス蓄積に努めていく」とし、池上氏は「不眠症も生活習慣病の一つと考え、睡眠衛生指導を行い、出口を見据えた不眠症薬物療法を実践する」と今後の方針や意気込みを示した。■参考日本老年学会:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015日本睡眠学会:睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン1)AMED長寿科学研究開発事業 平成28年度~29年度「高齢者の多剤処方見直しのための医師・薬剤師連携ガイド作成に関する研究」■関連記事身体能力低下の悪循環を断つ診療高齢者の処方見直しで諸リスク低減へ待望の刊行 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」

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日本人高齢者のライフスタイル活動と認知症リスク

 高齢化や慢性疾患状態の増加に伴い、認知症の有病率は上昇している。国立長寿医療研究センターの島田 裕之氏らは、日本の地域在住の高齢者における、日常生活や社会的役割を含むライフスタイル活動と認知症発症との関連について調査を行った。Geriatrics & Gerontology International誌オンライン版2018年8月21日号の報告。 65歳以上の高齢者4,564例を対象に、年齢、性別で層別化し、縦断的研究を行った。ライフスタイル活動、認知症のリスク因子、認知症の新規発症を調査した。 主な結果は以下のとおり。・平均42.6ヵ月後、認知症の新規発症は219例(4.8%)であった。・Cox比例ハザード回帰モデルを用いた生存分析において、認知症発症率が有意に低かった因子は以下のとおりであった。 ●日常的な会話(ハザード比[HR]:0.56、95%信頼区間[CI]:0.35~0.89、p=0.015) ●自動車運転(HR:0.63、95%CI:0.45~0.88、p=0.007) ●ショッピング(HR:0.57、95%CI:0.34~0.96、p=0.033) ●フィールドワークまたはガーデニング(HR:0.71、95%CI:0.54~0.94、p=0.016) 著者らは「高齢者における特定のライフスタイル活動は、認知症を予防するうえで、重要な役割を果たすと考えられる。また、認知症の予防のための活動は、年齢や性別により異なる可能性がある」としている。■関連記事認知症予防にベンゾジアゼピン使用制限は必要か魚を食べると認知症は予防できるのか脳トレーニングで認知症予防、認知機能低下リスクが20~30%減

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ベンゾジアゼピン使用に伴う認知症リスクに関するメタ解析

 ベンゾジアゼピンは高齢や壮年期の患者において一般的に使用されているが、その使用は、認知症リスクの増加と関連している可能性がある。観察研究でベンゾジアゼピンの使用が認知症リスクを増加させることが示唆されているが、これらの研究では、因果の逆転(protopathic bias)に関する重大な懸念があり、決定的な所見が見いだされていない。オーストラリア・シドニー大学のRoss Penninkilampi氏らは、protopathic biasを制御した後、高齢患者におけるベンゾジアゼピンの使用に関連する認知症リスクについて調査を行った。CNS drugs誌オンライン版2018年6月20日号の報告。 2018年6月5日までの、ベンゾジアゼピン使用の適切な評価および信頼できる認知症診断方法で確認された50例以上の観察研究を、電子データベース(MEDLINE、PubMed、EMBASE、CINAHL、LILACS、CENTRAL)を用いて検索を行った(言語制限なし)。現在または過去の短時間/長時間作用型ベンゾジアゼピン薬の使用と認知症との関連を分析した。protopathic biasの影響を評価するため、ログタイム導入によるサブグループ解析を行った。研究の質を評価するため、Newcastle-Ottawa Scaleを用いた。 主な結果は以下のとおり。・14件の論文で報告された15件の研究より、15万9,090例が抽出された。・常時、ベンゾジアゼピンを使用することで、認知症リスクは有意に増加していた(オッズ比[OR]:1.39、95%CI:1.21~1.59)。・protopathic biasを制御する可能性が最も高い5年以上の最長ログタイムによる研究では、認知症リスクはわずかに弱まったが、以前として有意な差が認められた(OR:1.30、95%CI:1.14~1.48)。・長時間作用型ベンゾジアゼピン薬(OR:1.21、95%CI:0.99~1.49)は、短時間作用型(OR:1.13、95%CI:1.02~1.26)と比較し、リスク値がわずかに高かったが、そのリスクは統計学的に有意ではなかった(p=0.059)。 著者らは「ベンゾジアゼピン使用と認知症リスクとの関連性は、protopathic biasによる人為的なものではないことが示唆された。不適切なベンゾジアゼピン使用を減少させることは、認知症リスクを低減させる可能性がある」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン認知症リスク~メタ解析アルツハイマー病に対する新規ベンゾジアゼピン使用に関連する死亡リスクのコホート研究ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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アルコール使用障害患者の認知症発症予防のためのチアミン療法

 アルコール使用障害は、認知症に寄与する最も重要な因子の1つである。台湾・高雄医学大学のWei-Po Chou氏らは、台湾の全国データベースを用いて、アルコール使用障害患者に対するチアミン療法の認知症発症予防効果について調査を行った。Clinical nutrition誌オンライン版2018年5月21日号の報告。 1995~2000年の縦断的健康保険データベースを検索し、レトロスペクティブコホート研究を実施した。アルコール使用障害の診断後にチアミン投与を受けた患者をチアミン療法(TT)群とし、年齢、性別、インデックスイヤーにマッチしたTTを行わないアルコール使用障害患者を対照(NTT)群として無作為に割り付けた。患者背景、併存疾患、向精神薬使用について評価を行った。累積の規定1日用量(DDD)を分析し、用量効果を検証した。 主な結果は以下のとおり。・各群の患者数は、5,059例であった。・TT群は、NTT群よりも、認知症のハザード比が低かった(0.76、95%CI:0.60~0.96)。・患者背景、併存疾患、向精神薬使用で調整した後、調整ハザード比は0.54(95%CI:0.43~0.69)であった。・23超の累積DDDを有するTT群において、有意な差が認められた。・カプランマイヤー分析では、NTT群よりもTT群において、認知症の累積発症率が低いことが示された。 著者らは「チアミン療法は、アルコール使用障害患者における認知症発症の予防因子であることが示唆された。アルコール使用障害患者の認知症の発症および進行を予防するための治療計画、保健政策において、チアミン療法は重要である」としている。■関連記事認知症発症に対するアルコール使用障害の影響に関するコホート研究ベンゾジアゼピン耐性アルコール離脱症状に対するケタミン補助療法アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析

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米国の長期介護における向精神薬を使用した認知症ケア改善に関する研究

 養護老人施設における認知症ケア改善のための、メディケアおよびメディケイド・サービスセンター(CMS)国家パートナーシップ(以下、パートナーシップ)は、抗精神病薬の処方の割合を測定し、認知症者のケアの質を向上させるために設立された。米国・ミシガン大学のDonovan T. Maust氏らは、長期介護を受ける高齢者への抗精神病薬および他の向精神薬の処方傾向とパートナーシップとの関連について検討を行った。JAMA internal medicine誌オンライン版2018年3月17日号の報告。 2009年1月~2014年12月までのメディケアサンプル20%の断続的な時系列分析を、パートD(処方箋薬剤給付保険)を有する長期介護のメディケア受給者63万7,426例を対象に実施した。データ分析は、2017年5月1日~2018年1月9日に行われた。主要アウトカムは、抗精神病薬と他の向精神薬(抗うつ薬、気分安定薬[バルプロ酸、カルバマゼピンなど]、ベンゾジアゼピン、他の抗不安薬、催眠鎮静薬)の四半期における使用率とした。 主な結果は以下のとおり。・対象者63万7,426例のうち、女性は44万6,538例、男性は19万888例で、養護老人施設入所時の平均年齢は79.3±12.1歳であった。・対象者における向精神薬使用は、気分安定薬を除き、パートナーシップ開始前に減少していた。・2009年の第1四半期において、14万5,841例中3万1,056例(21.3%)に抗精神病薬が処方されており、これはパートナーシップ開始まで四半期ごとに-0.53%減少していた(95%CI:-0.63~-0.44%、p<0.001)。・その時点での、四半期ごとの減少率は-0.29%であり(95%CI:-0.39~-0.20%、p<0.001)、パートナーシップ後の四半期ごとの減少率は0.24%と減速していた(95%CI:0.09~0.39%、p=0.003)。・気分安定薬の使用は、パートナーシップ開始前に増加し続けており(率:0.22%、95%CI:0.18~0.25%、p<0.001)、開始後にはそれが加速し(変化率:0.14%、95%CI:0.10~0.18%、p<0.001)、2014年の最終四半期までに35万5,716例中7万1,492例(20.1%)まで達した。・抗うつ薬は全体として最も頻繁に処方された薬剤であり、2009年初めには14万5,841例中7万5,841例(52.0%)に処方されていた。・抗精神病薬と同様に、抗うつ薬の使用は、パートナーシップ開始前後どちらでも減少していたが、減少率は減速していた(変化率:0.34%、95%CI:0.18~0.50%、p<0.001)。・認知症者に限定した場合でも、同様な結果が得られた。 著者らは「長期介護において向精神薬の処方は減少していたが、パートナーシップでこの減少は加速しなかった。パートナーシップ開始後に、長期介護者や認知症者に対する気分安定薬の使用が増加し、それが加速したことは、抗精神病薬の代替品として使用されたためであると考えられる。抗精神病薬のみの使用を評価することは、ケアの質の面では不十分であり、リスクとベネフィットのバランスが良くない代替品への処方変更に寄与している可能性がある」としている。■関連記事警告後、認知症への抗精神病薬処方は減少したのか認知症者への抗精神病薬投与の現状は日本では認知症への抗精神病薬使用が増加

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貧血と認知症の関係:韓国国民健康スクリーニング研究

 貧血が高齢者における認知症発症と関連しているか、韓国・ソウル大学のSu-Min Jeong氏らが調査を行った。Alzheimer's research & therapy誌2017年12月6日号の報告。 認知症および脳卒中でない66歳の高齢者3万7,900例を、NHIS-HEALS(韓国国民健康保険サービス-国民健康スクリーニングコホート)のデータベースを用いて抽出した。貧血(ヘモグロビン濃度:女性12g/dL未満、男性13g/dL未満)および貧血の重症度(軽度、中等度、重度)は、WHO(世界保健機構)の基準で定義した。認知症の発症は、ICD-10(国際疾病分類 第10版)の認知症診断コード(F00、F01、F02、F03、G30)で確認され、抗認知症薬を処方された患者とした。貧血による認知症発症のハザード比(HR)は、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・性別、ベースラインの認知機能状態、BMI、喫煙、世帯収入、障害、うつ病、高血圧、糖尿病、脂質異常症で調整した後、貧血と認知症との間に有意な関連が認められた(調整HR:1.24、95%CI:1.02~1.51)。・貧血の重症度に応じた認知症発症率の調整HRは、軽度の場合1.19(95%CI:0.98~1.45)、中等度の場合1.47(95%CI:0.97~2.21)、重度の場合5.72(95%CI:1.84~17.81)であり、有意なp for trendが認められた(p=0.003)。 著者らは「貧血は、認知症発症の独立したリスク因子であり、重度においては顕著なリスク増加を伴うと考えられる」としている。■関連記事婚姻と認知症リスクに関するシステマティックレビューアルツハイマー病に対する新規ベンゾジアゼピン使用に関連する死亡リスクのコホート研究認知症発症への血圧の影響、ポイントは血圧変動:九州大

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アルツハイマー病に対する新規ベンゾジアゼピン使用に関連する死亡リスクのコホート研究

 フィンランド・東フィンランド大学のLaura Saarelainen氏らは、アルツハイマー病の全国コホートにおいて、新たなベンゾジアゼピンおよび関連薬剤(BZDR)の使用に伴う死亡リスクを調査した。International journal of geriatric psychiatry誌オンライン版2017年11月15日号の報告。 2005~11年にアルツハイマー病と診断されたすべてのフィンランド住民7万718例を含むレジスタベースのMEDALZコホートを用いた。アルツハイマーの臨床的診断は、特別償還記録(Special Reimbursement Register)より得た。薬剤使用期間は、処方記録(Prescription Register)より由来したBZDR購入からモデル化された。新規BZDR使用者を調査するため、アルツハイマー病診断の前年にBZDRを使用した患者は除外した。BZDR使用を開始した使用患者群(1万380例)について、年齢、性別、アルツハイマー病診断までの期間をマッチさせた各人2人の未使用患者群(2万760例)を選出した。多変量解析では、チャールソン併存疾患指数、社会的地位、股関節骨折、精神障害、薬物乱用、脳卒中、他の向精神薬使用で調整した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に、未使用患者群と比較し、使用患者群は100人年当たり5人の超過死亡がみられた。死亡率は、使用患者群13.4%(95%CI:12.2~14.5)、未使用患者群8.5%(95%CI:7.9~9.1)であった。・BZDRの使用は、死亡リスク増加と関連しており(調整ハザード比:1.4、95%CI:1.2~1.6)、その関連は使用開始から有意であった。・ベンゾジアゼピン使用は死亡リスクの増加と関連が認められたが、ベンゾジアゼピン関連薬剤の使用はそうではなかった。 著者らは「ベンゾジアゼピンおよび関連薬剤の使用は、アルツハイマー病患者の死亡リスク増加と関連が認められた。本結果より、アルツハイマー病の対症療法の第1選択治療は、治療ガイドラインで推奨される非薬理学的アプローチであることを支持する」としている。■関連記事なぜ、フィンランドの認知症死亡率は世界一高いのか認知症予防にベンゾジアゼピン使用制限は必要かベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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BPSDに対するイチョウ葉エキスの効果~メタ解析

 イチョウ葉抽出エキスであるEGb761が認知症のBPSD(認知症の行動と心理症状)治療に有効であることが、無作為化比較試験で報告されている。スイス・チューリッヒ大学のEgemen Savaskan氏らは、これらの無作為化試験についてメタ解析を行った。International psychogeriatrics誌オンライン版2017年9月21日号の報告。 特定のBPSDに対するEGb761の効果を評価するため、臨床的に有意なBPSD(NPI総スコア6以上)が認められる(アルツハイマー病[AD]が疑われる、脳血管性認知症もしくは脳血管疾患を有するADが疑われる)認知症患者を対象とした、20週以上の無作為化プラセボ対照試験を抽出した。データをプールし、NPI single item compositeおよびcaregiver distressスコアの共同解析を、固定効果モデルのメタ解析により実施した。 主な結果は以下のとおり。・4つの研究より1,628例(EGb761群:814例、プラセボ群:814例)が抽出された。治療期間は、22~24週であった。EGb761の1日用量は、すべての研究において240mgであった。・すべての研究の全分析セットのデータを含むプールされた分析(EGb761群:796例、プラセボ群:802例)では、EGb761群はプラセボ群よりも合計スコア、10の単一症状スコアで有意な優越性が示された。・caregiver distressスコアに関しては、EGb761群はプラセボ群よりも妄想、幻覚、多幸を除くすべての症状において有意な改善が認められた。・EGb761のベネフィットは、主にベースライン時の症状改善であるが、いくつかの症状において発症率の低下が認められた。 著者らは「イチョウ葉抽出エキスEGb761を用いた22~24週の治療は、統合失調症様症状を除くBPSDと、それらの症状によって引き起こされる介護者の苦痛も改善した」としている。■関連記事BPSD治療にベンゾジアゼピン系薬物治療は支持されるか認知症になりにくい性格はなぜ、フィンランドの認知症死亡率は世界一高いのか

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脱水気味の高齢者に水分補給させるコツ

 2017年7月24日、「教えて! 『かくれ脱水』委員会」は、夏季の脱水症のシーズンを迎え、とくに高齢者の脱水を防ぐための「かくれ脱水」対策啓発プレスセミナーを開催した。高齢者の水分補給介助は難しい はじめに、同委員会が行った「高齢者の水分補給に関する意識調査」の速報が報告された。このアンケートは、65歳以上の男女高齢者(n=516)と65歳以上の親を持つ30・40代の男女(n=316)、30・40代の男女介護従事者(n=516)を対象に行われた。 高齢者への「食事に含まれる水分以外で、1日にどれくらい水分を補給していますか?」という質問では、73.6%が1日の必要量(1,000~1,500mL)未満と答え、高齢者の日常での水分不足をうかがわせた。また、高齢者の子世代に「親に水分補給を勧めても飲まなかった経験がありますか?」と質問したところ、28.6%が「経験がある」と回答。そのほか、介護従事者で「高齢者の水分補給の介助は難しいと思いますか?」との質問に「難しい」と回答したのは「非常に」と「たまに」を含めて90.6%になり、多くが難しさを感じていることが明らかとなった。 今後、調査の詳細はとりまとめられた後、あらためて発表される。高齢者の脱水で起こる負のスパイラルを断ち切る 次に「高齢者の脱水リスクとその弊害について」をテーマに、高瀬 義昌氏(たかせクリニック理事長)がレクチャーを行った。 高瀬氏は、東京・大田区で約400名の患者を訪問診療する、在宅療養支援診療所を運営している。今回は、介護者を悩ませる「せん妄」に焦点を当て、脱水との関連を説明した。 せん妄は突発的に起こる認知機能障害、行動不穏であるが、その発生については、認知症や高齢という素因に、脳神経疾患、薬剤(ベンゾジアゼピン系)、熱中症といった直接因子と、心理的ストレス、環境の大きな変化という促進因子が相まって起こる。とくに高齢者が在宅で注意すべきは、熱中症による脱水や薬剤でせん妄を起こし、転倒して骨折することであるという。転倒骨折はさらに認知機能を悪化させ療養介護を難しくさせるほか、脱水状態が認知機能を悪化させることもあり、脱水状態にしないことが負のスパイラルを断つために重要だと語る。そして、水分補給の際は水分だけでは不十分で、失われたナトリウムなども補給する必要があると、経口補水療法を例に説明した。そのためには、「診療で軽度~中等度の脱水状態を診たら、市販の経口補水液などを活用してもらいたい」とレクチャーを終えた。高齢者の脱水を防ぐ水分補給のコツ 続いて「水を向けても飲まない人へ ~誘い水としての経口補水ゼリーの効用~」をテーマに、秋山 正子氏(株式会社ケアーズ 代表取締役、白十字訪問看護ステーション統括所長ほか)が、在宅看護の視点から高齢者への水分補給のコツを説明した。 高齢者の脱水で危険な時期は、5月の大型連休明けからであり、季節の変わり目で前日が寒く、翌日気温や湿度が高い日は、とくに脱水になりやすいと指摘する。 高齢者は、加齢により喉の渇きを感じにくくなっているほか、トイレを気にして水分補給をしないこともある。また、認知症であれば、自律神経の働きが落ちるため脱水を起こしやすく、脱水状態でも自覚することがないため、周囲が観察し、気が付くことが大切だという。 そして、高齢者によっては嚥下機能の低下により、普通の水やお茶だとむせてしまい、これが水分補給をしない遠因となる場合がある。そんなときは、市販の経口補水液ゼリーが最適であり、失われた電解質も補給されることから、はじめにゼリーを使い、これを誘い水に水やお茶を飲んでもらうとスムーズな水分摂取ができると説明した。 最後に「脱水は静かに進行するので、早め早めの対応が必要」と語り、レクチャーを締めくくった。高齢者の脱水予防に水分補給の自験例 最後に介護者の視点から「五感でお声かけすること」をテーマに北原 佐和子氏(女優・介護福祉士)が、高齢者への接遇について語った。 介護で大切なことは、「高齢者が居心地いい」と感じることが大切だと語り、そのためには、介護者が豊かな明るい表情で五感に訴える(たとえば季節感などを出す)挨拶や会話をすることが求められるという。また、脱水予防では、拒水されないように被介護者の嗜好の把握や、ひと言飲み物の説明をすることで、スムーズに水分補給が進む場合があるなど自験例を述べた。さらに「介護者も脱水にならないように、こまめに休憩、水分補給することは大事」と注意を喚起し、講演を終えた。

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うつ病患者へのベンゾジアゼピン併用、リスクとベネフィットは

 ベンゾジアゼピン(BZD)は、うつ病患者に対し、より早期に抑うつ症状を改善したい場合や不安症状を軽減したい場合に短期間用いられ、抗うつ薬治療の継続を改善する。しかし、ベンゾジアゼピンは、数週間の使用でも依存性を含むリスクと関連している。米国・ノースカロライナ大学チャペルヒル校のGreta A. Bushnell氏らは、抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用の傾向を調査するため、抗うつ薬を服用しているうつ病成人を対象に、併用期間の評価、長期ベンゾジアゼピン使用の推定および、その決定要因の検討を行った。JAMA psychiatry誌オンライン版2017年6月7日号の報告。うつ病患者のベンゾジアゼピン併用処方には慎重な検討が必要 このコホート研究には、US commercial claims databaseを用いた。2001年1月~2014年12月に抗うつ薬療法を開始した成人うつ病患者(18~64歳)のうち、診断の前年に抗うつ薬またはベンゾジアゼピンを使用していなかった患者を対象とした。併用処方の定義は、新規抗うつ薬処方と同日に新規ベンゾジアゼピンの処方を行った場合とした。主要アウトカムは、抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用処方率および併用期間の6ヵ月継続率とした。 うつ病患者の抗うつ薬とベンゾジアゼピンの併用の傾向を調査した主な結果は以下のとおり。・抗うつ薬治療を開始した成人うつ病患者76万5,130例(年齢中央値:39歳、四分位範囲:29~49歳、女性:50万7,451例[66.3%])のうち、ベンゾジアゼピンの併用処方を行った患者は、8万1,020例(10.6%)であった。・2001~14年までの併用処方開始率の平均年増加率は、0.49%であった(95%CI:0.47~0.51%)。2001年の6.1%(95%CI:5.5~6.6%)から、2012年には12.5%(95%CI:12.3~12.7%)と増加したが、2014年は11.3%(95%CI:11.1~11.5%)と落ち着いていた。・同様の所見は、年齢層および医師のタイプによって明らかであった。・抗うつ薬治療期間は、併用処方患者と非併用処方患者で同様であった。・併用処方患者のうち、12.3%(95%CI:12.0~12.5%)は長期間ベンゾジアゼピンを使用していた(64.0%は初期に中止)。・長期ベンゾジアゼピン使用の決定要因は、ベンゾジアゼピン初期投与の長さ、長時間作用型ベンゾジアゼピンを初回に処方、最近のオピオイド処方であった。 著者らは「抗うつ薬治療を開始したうつ病患者では、10人に1人の割合でベンゾジアゼピン併用処方を行っていた。6ヵ月後の抗うつ薬治療に、有意な差は認められなかった。ベンゾジアゼピンに関連するリスクを考えると、抗うつ薬治療開始時のベンゾジアゼピン併用処方には、慎重な検討が必要である」としている。■関連記事ベンゾジアゼピン認知症リスク~メタ解析うつ病患者のベンゾジアゼピン使用、ミルタザピン使用で減少:千葉大ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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認知症者への向精神薬投与は死亡率を高めているか

 認知症高齢者によく用いられる向精神薬は、死亡率の上昇と関連しているといわれている。これまでの研究では、このリスクに関する性差は調査されていない。スウェーデン・ウメオ大学のJon Brannstrom氏らは、認知症高齢者における抗精神病薬、抗うつ薬、ベンゾジアゼピンの使用と2年間の死亡率との関連を分析し、性差に関する調査を行った。BMC pharmacology & toxicology誌2017年5月25日号の報告。 4つのコホート研究より抽出された、合計1,037例の認知症高齢者を2年間追跡調査した(女性:74%、平均年齢:89歳)。往診および診療記録よりデータを収集した。ベースライン薬剤使用の継続と死亡との関連を分析するため、Cox比例ハザード回帰モデルを用いた。複数の交絡因子を評価し、調整した。主な結果は以下のとおり。・すべての集団からのデータを含む完全に調整されたモデルでは、ベースラインの向精神薬使用と2年間の死亡率の増加は関連していなかった。・有意な性差は、抗うつ薬使用に関連する死亡率で認められ、男性では保護的であったが(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.40~0.92)、女性ではそうではなかった(HR:1.09、95%CI:0.87~1.38)。・性別による作用は、ベンゾジアゼピン使用の分析において有意であり、女性よりも男性で死亡リスクが高かった。 著者らは「認知症高齢者におけるベースライン時の向精神薬の継続的使用は、複数の交絡因子で調整した分析において、死亡率の増加と関連が認められなかった。抗うつ薬およびベンゾジアゼピンの使用に関連する死亡リスクに性差が認められ、性別の影響についてさらに調査する必要がある」としている。■関連記事 せん妄ケアの重要性、死亡率への影響を検証 アルツハイマー病患者へのベンゾジアゼピン使用と肺炎リスク うつ病の薬物治療、死亡リスクの高い薬剤は

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アルツハイマー病患者へのベンゾジアゼピン使用と肺炎リスク

 ベンゾジアゼピンや同様の作用を有する非ベンゾジアゼピン(Z薬)が、高齢者の肺炎リスク増加と関連しているかはよくわかっていない。フィンランド・Kuopio Research Centre of Geriatric CareのHeidi Taipale氏らは、催眠鎮静薬の使用と肺炎を有するアルツハイマー病患者を対象に、この関連性を調査した。CMAJ(Canadian Medical Association Journal)誌2017年4月10日号の報告。 対象は、Medication use and Alzheimer disease(MEDALZ)コホートより、2005~11年にフィンランドでアルツハイマー病の診断を受けた地域住民。処方箋、償還、退院、死因に関する全国登録データを用いた。ベンゾジアゼピンおよびZ薬での治療患者は、1年間のウォッシュアウト期間を用いて同定され、傾向スコアによって非使用者とマッチさせた。肺炎による入院または死亡との関連は、Cox比例ハザードモデルで分析し、時間依存的に他の向精神薬の使用により調整した。 主な結果は以下のとおり。・アルツハイマー病患者4万9,484例のうち、ベンゾジアゼピン使用患者5,232例、Z薬使用患者3,269例および、1対1でマッチしたこれらの薬の非使用患者を用い、分析を行った。・全体的には、ベンゾジアゼピンおよびZ薬の使用は、肺炎リスク増加と関連していた(調整HR:1.22、95%CI:1.05~1.42)。・個別に分析したところ、ベンゾジアゼピンの使用は、肺炎リスク増加と有意に関連していたが(調整HR:1.28、95%CI:1.07~1.54)、Z薬の使用では認められなかった(調整HR:1.10、95%CI:0.84~1.44)。・肺炎リスクは、ベンゾジアゼピン使用の最初の30日間で最大であった(調整HR:2.09、95%CI:1.26~3.48)。 著者らは「ベンゾジアゼピン使用は、アルツハイマー病患者における肺炎リスク増加と関連していた。アルツハイマー病患者に対しベンゾジアゼピンを使用する際には、ベネフィットと肺炎リスクを考慮する必要がある」としている。関連医療ニュース ベンゾジアゼピン認知症リスク~メタ解析 認知症予防にベンゾジアゼピン使用制限は必要か ベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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パプリカ【夢と精神症状の違いは?】

今回のキーワードせん妄レム睡眠行動障害ナルコレプシーデフォルトモードローカルスリープマインドフルネスEMDRオプトジェネティクスみなさんは昨夜どんな夢を見ましたか?怖い夢?追われる夢?それとも飛んでいる夢?展開が速くて突飛な夢?なんでそんな夢ばかりなのでしょうか?何か意味ありげではないでしょうか。それは予知夢?正夢?逆夢?そんなふうに考えて、現実の生活を見つめ直すこともあります。このように、夢は、とても不思議で、私たちを魅惑します。なぜ夢にはいろいろな特徴があるのでしょうか? そもそもなぜ私たちは夢を見るのでしょうか? なぜ眠るのでしょうか? 逆に起きているとはどういうことなのでしょうか? さらに、夢に似ているせん妄、解離性障害、統合失調症などの精神障害とはどんな関係や違いがあるのでしょうか? そして、夢をどう利用できるでしょうか?今回は、夢をテーマにしたSFファンタジーのアニメ映画「パプリカ」を取り上げ、これらの謎に進化医学的な視点で、みなさんといっしょに迫っていきたいと思います。主人公の敦子は、精神医学研究所の医師であり研究員。同僚の時田の発明した夢を共有する装置「DCミニ」を駆使するサイコセラピスト、またの名はパプリカです。ある日、そのDCミニが研究所から盗まれてしまいます。犯人はそれを悪用して他人の夢に勝手に入り込み、悪夢を見せて、意識を乗っ取り、支離滅裂にさせる事件が発生していきます。敦子たちは、夢の中でその犯人を見つけ出し、終わりのない悪夢から抜け出す方法を探っていきます。夢の特徴は?パプリカがクライエントの粉川警部の夢に入り込んでいる冒頭のシーン。粉川は、サーカスのショーの中で、「奴はこの中にいる」「やつは裏切り者だ」とパプリカに言い、捜査をしています。ところが、急に展開が変わり、逆に得体の知れない人たちに追いかけられます。さらに、また展開が変わって、今度は自分が追いかけようとします。しかし、そのうちに床が上下に大きくうねって、前に進みません。そして、最後には床が抜けて落ちていきます。そこで目が覚めて、パプリカに「ひどく怖かった」とつぶやきます。粉川警部の夢は、とても典型的です。その特徴は、まず、感情が強いことです。統計的には、特に「不安」「高揚感」「怒り」の3つで、70%を占めています。逆に、残念なことに楽しい夢や性的な夢は少ないです。また、体の動きが多いことです。特に、追われる夢が圧倒的に多く、その追ってくる相手は、見知らぬ人か動物がほとんどです。また、動いているのに進まない、浮遊感、そして落下も多いです。そして、何よりも、展開が突飛であることです。その他の夢の一般的な特徴としては、夢の中では夢だと気付かないことです。どんなにありえなくても当然だと思い必死になっています。また、夢の中では常にその瞬間の自分の視点だけです(現在一人称)。逆に、他人、過去、未来、仮定の視点はありません。そして、夢は見るだけがほとんどです(視覚優位)。聞こえたり、触れたり、嗅いだり、味わったりすることは稀です。粉川警部のように、同じような夢を繰り返し見ることもよくあります。その割に、夢はすぐに忘れやすいです。なぜ夢を見るの? ―レム睡眠の働きー図1パプリカは、粉川警部に「同じレム睡眠でも明け方の夢は長くて分析しやすいの。深夜の夢が芸術的な短編映画だとしたら、明け方は長編娯楽映画ってとこかな」と説明します。レム睡眠とは、睡眠中に急速眼球運動(REM)が出現している状態のことです。周期的に3、4回あり、この時に夢を見ていることが多いです。そもそもなぜ夢を見るのでしょうか? その答えを探るために、レム睡眠の主な3つの働きを整理してみましょう。1)記憶を送る1つ目は、その日の記憶を海馬から大脳皮質に送ることです。そうすることで、長期記憶として保存されていきます。この働きは、特に寝入った直後の初回のレム睡眠で高まります。その時に見える夢は、その日に見たままのものとその時の自分の体の動きです。また、寝入り端(ばな)には、夢に似たような鮮明な映像(入眠時幻覚)や幾何学模様(入眠時心象体験)が一時的に見えます。そのほとんどはその後の深い眠りで忘れてしまいます。断片的で短く、まさに「芸術的な短編映画」です。パソコンに例えると、その日に得たデータをデスクトップから、保存用の大容量のハードディスクに送っている状態です。それでは、夢に自分の体の動きが多いのはなぜでしょうか? その答えを進化医学的に考えることができます。太古の昔から、生存競争において、特に追ってくる動物から逃げ切るなど体をうまく動かすことは、最も必要な能力です。つまり、答えは、その運動の学習(手続き記憶)が次の日に生き延びるために役立つからです。そうする種がより生き残り、子孫を残したでしょう。その子孫が現在の私たちです。さらに、夢で飛ぶ、浮く、落ちることが多いのはなぜでしょうか? その答えは、レム睡眠中に体を動かす筋肉(骨格筋)が脱力しているからです(睡眠麻痺)。踏ん張れず、地に足が着いていない感覚になります。それでは、なぜ脱力しているのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、逆に脱力していなければ、見ている夢と同じ動きをしてしまい、自然界では天敵に気付かれ、生き残れないからです。実際に、パーキンソン病や加齢などによって、この脱力モードが働きにくくなると、睡眠中に夢と同じ動きをしてしまい、ベッドパートナーを叩いたり蹴ったりしてしまいます(レム睡眠行動障害)。逆に、疲労などで、この脱力モードが目覚めても残っていると、体が動かないことを自覚できてしまい、いわゆる「金縛り」になります。2)記憶をつなげる2つ目は、海馬から新しく送られた記憶と大脳皮質にすでにある古い記憶をつなぎ合わせることです。そうすることで、記憶が関連付けられ、整理されていきます。この働きは、目覚める直前の最後のレム睡眠で高まります。その時に見える夢は、先ほどの粉川の夢のように、感情的で、ストーリーが次々と展開していきます。詳細な描写があり長く、まさに「長編娯楽映画」です。パソコンに例えると、デスクトップから送られてきたデータを、ハードディスクのそれぞれのフォルダに照合し、上書きをしている状態です。それでは、夢に感情が強いのはなぜでしょうか? その答えは、レム睡眠中に、海馬と隣り合わせの扁桃体(情動中枢)も同時に活性化しているからです。だからこそ、レム睡眠中の心拍、血圧、呼吸などの自律神経は不安定になります。では、なぜ扁桃体が活性化しているのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、不安や怒りなどのネガティブで強い感情は、「逃げるか戦うか」を動機付ける心理として、生存するために、より必要だからです。扁桃体によって、より生存に有利な記憶の重み付けがなされて、優先してつなぎ合わされるからです。ちなみに、現代版の追われる恐怖は、試験勉強や仕事の締め切りなどの時間に追われることであると言えるでしょう。また、夢の展開が突飛なのはなぜでしょうか? これが最も夢らしい特徴です。その答えは、レム睡眠中はものごとを論理的に考えたり、同時並行で記憶(ワーキングメモリー)したりする前頭葉(特に背側前頭前野)の働きが弱まっているからです。では、なぜ前頭葉が働いていないのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、前頭葉は起きている時の記憶の「司令塔」であり、記憶の保存や整理をする「労働」そのものには必要がないからです。また、夢を見るレム睡眠中に特に活性化する脳の部位は、主に脳幹や大脳辺縁系です。そして、胎児期や乳児期は、レム睡眠がほとんどを占めています。つまり、解剖学的にも発生学的にも、そもそもレム睡眠はとても原始的な脳活動であることが分かります。夢とは、レム睡眠中の記憶をつなぐ脳活動をたまたま垣間見ただけの主観的な体験のつぎはぎであり、客観的なストーリーになっている必要がないということです。ちなみに、先ほど紹介した「金縛り」は、前頭葉が抑制されて、扁桃体が活性化される状態でもあり、恐怖で冷静な判断ができなくなって、霊的な意味付けをしてしまいやすくなります。同じように、統合失調症でも、前頭葉の働きが弱まっていることが分かっており、論理の飛躍から、被害妄想などが出やすくなります。まさに目が覚めていながら、夢を見ているような状態です。夢は原始的であるからこそ、見るという視覚がほとんどだということが分かります。触覚、嗅覚、味覚も原始的ではありますが、生存競争にそれほど必要がないことから、夢に出てこないと理解できます。また、言葉を聞き取る聴覚は、より知的に高い精神活動であるため、出てきにくいと言えるでしょう。ちなみに、身体的な原因で意識レベルが低下している状態(せん妄)では、夢と似たような幻視や錯覚が多く、幻聴は少ないと言えます。逆に、統合失調症では、意識は保たれているので、幻聴が多く、幻視は少ないと言えます。また、レム睡眠中に前頭葉が働いていないからこそ、夢の中では常にその瞬間の自分の視点だけになってしまいます。そのわけは、前頭葉の重要な働きであるメタ認知は、自分から離れた他人の視点、現在から離れた過去や未来の時間軸の視点、そして現実から離れた仮定の視点も同時に持つ能力だからです。この働きが夢ではないのです。さらに、メタ認知ができないからこそ、夢の中では夢だと気付かないのです。よって、そもそもメタ認知ができない動物やメタ認知が未発達の4歳未満の人間の子どもは、夢を見ても現実との区別ができないと言えます。3)記憶を繰り返す3つ目は、つなぎ合わせのバリエーションを少しずつ変えながら記憶を繰り返すことです。そうすることで、記憶が強化され、記憶の引き出しから出てきやすくなります。それは、まるで反復練習によるリハーサルです。パソコンに例えると、出力をよりスムーズにするため、ハードディスクのプログラムを日々バージョンアップしている状態です。それでは、同じような夢を繰り返し見るのはなぜでしょうか? その答えは、自分にとって気になってしまったことだからです。粉川警部にとって、それはやり残したことでした。さらに進化医学的に考えれば、次に同じ状況になったらどうするかという学習を促し、より環境に適応して生き残るために必要だからです。夢を見るレム睡眠は、安全な状況で脅威をシミュレーションする手段として進化した精神活動であるとも言えます。この働きが過剰になってしまうと、例えば、生存が脅かされる体験(トラウマ)によるストレス障害(PTSD)のように、その時の体験を悪夢として繰り返し見て、うなされます(悪夢障害)。また、白昼夢に似たフラッシュバックも出てきます。まさに花粉症を初めとする自己免疫疾患のように、本来は防御のために備わった機能が過剰になったり、誤作動を起こして、逆に自分を苦しめるというわけです。夢が繰り返されると言っても、それはすぐではありません。その日の出来事の夢はその夜の最初のレム睡眠時に記憶の断片として出てきます。しかし、その後はしばらく出てこなくなり、1週間後以降に再び出てくるようになります。この理由は、海馬から大脳皮質への転送が完了されるまでにタイムラグがあるからです(夢のタイムラグ効果)。そして、より強いインパクトやストレスを伴う場合は、より時間がかかるということです。これは、PTSDはすぐには発症しないということを説明できます。最近の研究では、トラウマ体験直後の6時間以内にコンピューターゲームのテトリスをやり続けることで、PTSDの発症を有意に予防できる可能性が示唆されています。これは、レム睡眠中にゲームの体験の学習を多く占めることで、逆にトラウマ体験の学習をある程度阻害することができるからでしょう。ここから分かることは、つらいことがあったときは、そのことばかりに思い悩まずに、代わりに別のことをやるのが悪夢の予防になるということです。夢は繰り返されることがある一方で、忘れてしまいやすいのはなぜでしょうか? その答えも進化医学的に考えれば、生存にとって覚えている必要がないからです。言い換えれば、夢を覚えていてもいなくても、生存の確率は変わらないからです。逆に、全てをはっきり覚えていたら、動物や4歳未満の人間の子どもは、夢を現実と認識するので、毎朝起きて怯えてつらい思いをして、現実の生活に差し障りがあるでしょう。むしろ、覚えていない方が適応的です。実際に、小さい子どもほど、大人よりもレム睡眠が多いにもかかわらず、夢を覚えていないことが多く、思い出せても短かったり、単純です。ここまでで分かったことは、レム睡眠には大きな意味があることです。しかし、夢を覚えておく必要がない点では、進化医学的に夢を見ることには意味がないです。つまり、「なぜ夢を見るの?」というこの章の質問には、「見えたから」と答えるのが正解でしょう。「夢」のない話だと思われたかもしれません。しかし、果たしてそうでしょうか? そうとも限らない可能性を後半に考えてみましょう。なぜ眠るの? ―睡眠の進化―グラフ1これまで、夢をよく見るレム睡眠の働きについて整理してきました。レム睡眠と交互に出てくるノンレム睡眠、特に深睡眠も含めると、そもそもなぜ眠るのでしょうか? ここからは、その答えを探るために、生物の睡眠の進化の歴史を通して、睡眠の主な3つの働きを整理してみましょう。1)夜だから眠る―概日リズム1つ目の答えは、夜だから眠るということです。約10億年前に進化した原始的な菌類などの植物からは、日中に光合成をして、紫外線のない夜に細胞分裂をして、日中と夜の活動を分けるようになりました(概日リズム)。約5億年前に進化した最初の動物の魚類からは、暗くて捕食の行動が難しくなる夜はあまり動かないようになりました(行動睡眠)。約3億年前に進化した最初の陸生動物である両生類やその後の爬虫類は、まだ気温差によって体温が変わる変温動物であったため、冷え込む夜はエネルギーが足りないためずっと動かないようになりました。このように、日中に活動して、夜に活動しないという概日リズム(体内時計)が進化しました。この概日リズムを日中の光によって調節する代表的なホルモンがメラトニンです。例えば、夜勤や時差ぼけや夜更かしなどによって起きている時間が変わった場合、ひきこもりや視覚障害によって光を浴びるのが減っている場合、もともと遺伝的(時計遺伝子)に睡眠時間がずれやすい場合は、1日の決まった時間に眠れず起きにくくなくなります(概日リズム睡眠覚醒障害)。よって、多く光を浴びたり(高照度光療法)、メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)による薬物療法が有効です。2)疲れたから眠る―恒常性2つ目の答えは、疲れたから眠るということです。約2億年前に進化した最初の恒温動物である哺乳類やその後の鳥類は、夜に脱力して筋肉を弛緩させることで産熱を抑え、深部体温や代謝を下げてカロリー消費を抑えました。同時に栄養の消化吸収や筋肉の修復などをして、体調を回復させました。実際に、日中代謝量が多い動物ほど睡眠が多いです。また、そんな睡眠中であっても、外界の脅威に瞬時に反応できるように、脳の活動レベルは起きている時に近い状態を保っていました。これがレム睡眠の始まりです。このように、夜に成長ホルモンなどの様々なホルモンが働くことで、体温を含めた体調の恒常性を維持しました。例えば、休日に平日と違って何もせずに過ごした場合は、運動不足で疲れていないので、恒常性が維持されなくなり、眠りにくくなります。よって、あえて体を動かして疲れさせるという運動療法が有効です。逆に、翌日に試験やプレゼンが控えている場合も、過度の緊張で恒常性が維持されなくなり、眠りにくくなります。よって、適量の晩酌やベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬による薬物療法が有効です。3)覚えるために眠る―学習3つ目の答えは、覚えるために眠るということです。約1億年前に進化した最初の胎生出産の哺乳類は、卵生出産よりも未熟に生まれてくる分、出生後により多くの学習をして成長する必要がありました。この時から、その記憶の学習のために、レム睡眠が利用されていました。レム睡眠中は、脳から外界への出力(運動)だけでなく、外界から脳への入力(感覚)も遮断されており、記憶の学習のためだけに脳が使われているため、とてもはかどります。例えるなら、パソコンが、インターネットに接続されていない機内モード(オフラインモード)になっている状態です。約6500万年前に進化した最初の霊長類は、脳が高度に発達していった分、脳を休める必要がありました。それが、いわゆる熟睡です。これは、ノンレム睡眠中で徐波という脳波が多く出ている深睡眠(徐波睡眠)に当たります(睡眠段階3と4)。この時、大脳皮質では神経細胞が同期して発火することが分かっています(長期増強)。これは、脳内の神経細胞のつながり(シナプス)で、強いものをますます強め、弱いものをますます弱めているものと考えられています。こうして、過剰なエネルギー消費や細胞へのストレスを抑えて、脳の神経回路を元の強度に戻しています(シナプス恒常性仮説)。つまり、不要な記憶をなくして整理することで、必要な記憶を際立たせて残し、より脳から引き出しやすくしているということです。例えるなら、パソコンが、デスクトップで入力も出力もできないスリープモード中に、重複したデータや使わないデータを消去することで最適化をしている状態です。このように、レム睡眠で脳を活性化させ、深睡眠で脳を休めることを繰り返すことで、記憶の学習の効率を上げました。つまり、最適な学習には、ぐっすり寝ることが重要であるということです。逆に言えば、睡眠時間を削った学習や、徹夜でのプレゼンの準備は、逆効果であるということです。また、加齢によって、睡眠時間は減っていきますが、中でも特にレム睡眠と深睡眠が減っていき、浅睡眠(睡眠段階1と2)だけになっていきます。この場合、もともと加齢により海馬の神経が新しく生まれ変わること(神経新生)が少なくなることで溜まった不要な脳の老廃物(アミロイドβ)を取り除ききれなくなることと相まって、記憶の学習がますます困難になっていき、反復されていない際立ちの弱い直近の記憶から徐々に失われていきます(アルツハイマー型認知症)。よって、この場合は、より若い時の記憶しか残らなくなっていくので、進行すればするほど、年齢をより若く答えるようになります(若返り現象)。よって、認知リハとして最近に注目されているのは、体を動かすなどの運動をしながらおしゃべりをするなどの学習をすることです(デュアルタスク)。これは、運動により、その刺激で神経新生が高まると同時に、より良い睡眠が得られるからでしょう。さらに、最近の研究では、起きている時にストレスのかかった脳、つまりより学習が必要な脳の領域ほど深い睡眠になることが分かってきています。また、レム睡眠以外の睡眠(ノンレム睡眠)でも夢を見ていることが分かっています。つまり、睡眠は、脳全体で一様ではなく、局所で多様に行われているということです(ローカルスリープ)。その極端な例として、イルカや渡り鳥は大脳半球を交互に眠らせることで、泳いだり飛びながら睡眠をとることができます(半球睡眠)。このローカルスリープの考え方によっても、様々な精神障害を説明することができます。例えば、脳が未発達の子どもでは、深い睡眠中に、一部の脳機能が局所的に覚醒してしまう状況が考えられます。扁桃体(情動中枢)のみ覚醒すれば、泣いたり(いわゆる夜泣き)、叫んだりするでしょう(睡眠時驚愕症)。また、運動中枢のみで覚醒すれば、寝言、歯ぎしり、おねしょをしたり、極端な場合は動き回ります(睡眠時遊行症)。同じようなことは、身体的な原因や加齢などによっても起こります(夜間せん妄)。また、てんかん発作によって、脳の活動電位が局所的に活性化すると、意識を失っていながら、動き回ります(自動症)。起きているとは? ―グラフ2これまで、「なぜ眠るの?」という問いへの答えを通して、眠っている状態について解き明かしてきました。それでは、逆に、起きているとはどういう状態なのでしょうか? ここから、その答えを探るために、起きている状態を3つの要素に分けて、整理してみましょう。1)自分と周りが分かる―意識敦子は、夢の中で見た「妄想パレード」を現実の世界で見てしまい、それに圧倒されます。もはや夢と現実の境目がなくなっていました。敦子は起きているのか寝ているのか私たちも分からなくなりかけます。1つ目は、起きているとは自分と周りが分かることです。厳密に言えば、脳が脳自体の活動を認識することです(意識)。例えば、今がいつで、ここがどこで、自分が誰かと見当を付け(見当識)、周りは何かと注意を払うことです(注意力)。つまり、周りの世界と自分の関係を認識できることです。このためには、さきほどにも触れた前頭葉の働きであるメタ認知が必要です。メタ認知が進化したのは、300、400万年前の原始の時代と考えられます。当時、ヒトは森から草原に出て、天敵から身を守り、獲物を手に入れるために、血縁の集団になって協力していくようになりました。そのために、相手の気持ちや考えを推し量る、つまり相手の視点に立つというメタ認知が生まれました。やがて、この能力は、他人だけでなく、自分自身を振り返る視点としても、そして時間軸、空間軸、仮定軸の視点としても使われるようになっていきました。逆に言えば、300、400万年前より以前のヒト、ヒト以外の動物、そして脳が未発達な4歳未満の子どもは、メタ認知ができないので、今ここでというその瞬間を、まるで夢を見ているのと同じように、反射的に生きているだけであると言えます。睡眠生理学的に言えば、起きている状態(覚醒)では、脳内の「活動ホルモン」(ノルアドレナリン)と「気分安定ホルモン」(セロトニン)であるアミン系の神経伝達物質が活発に出て、交感神経を優位にしています。また、「リラックスホルモン」(アセチルコリン)であるコリン系の神経伝達物質も出ていて、副交感神経に作用して、交換神経との綱引きをしています。体を休めている夢見状態(レム睡眠)では、アミン系が出なくなる一方、コリン系が活発に出るようになり、副交感神経が優位になります。この時にセロトニンが出ていないので、不安や恐怖の夢が出やすいことが理解できます。頭(脳)を休めている熟睡の状態(深睡眠)では、アミン系とコリン系の両方が少くなって出ています。もう1つ脳内で重要な「快感ホルモン」(ドパミン)は、覚醒時にも、レム睡眠や深睡眠などの睡眠時にも変わらず出ており、睡眠や夢と直接関係がないことが分かります。ちなみに、アミン系が増えたままだと躁病になり、眠りたくなくなります。逆に、アミン系が減ったままだとうつ病になり、眠れなくなったり眠りすぎたりして睡眠が不安定になります。また、特にアミン系のセロトニンが減れば不安障害や強迫性障害になり、やはり睡眠は不安定になります。さらに最近の研究では、この覚醒を安定化させるためには、オレキシンというホルモンが大きくかかわっていることが分かっています。オレキシンは、もともと摂食中枢(視床下部)にあることから、満腹で眠くなり、空腹で眠れなくなったり目が冴えてしまうのも納得がいきます。まさに「ハングリー精神ホルモン」とも言えます。このオレキシンが体質的(遺伝的)に足りない場合、覚醒と睡眠の切り替えが不安定になります。よって、起きている時に、急に気絶するように眠ってしまい(睡眠発作)、日常生活に支障をきたします(ナルコレプシー)。特に笑ったり喜んだりして感情の高ぶり(緊張)の後に安堵(弛緩)が起きると、副交感神経が優位となり、アセチルコリンが誘発されて、脱力してしまいます(情動脱力発作)。また、脳の覚醒が残っていて夢見状態(レム睡眠)になると、先ほどにも紹介した白昼夢(入眠時幻覚)や金縛り(睡眠発作)が出てきます。治療薬としては、覚醒作用が強いドパミン作動薬(メチルフェニデート)が適応になっています。ただし、根本治療のためには、オレキシンの作用を高めるオレキシン作動薬の開発が今後に期待されます。逆に、このオレキシンの作用を低めるオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)は、最新の不眠症の治療薬として、すでに販売されています。夜寝る前だけ、薬で「ナルコレプシー」になるわけです。より自然な睡眠作用があるので、先ほどに紹介した晩酌やベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬よりも副作用が少ないという利点があります。2)自分が自分であると分かる―自我意識現実の世界の敦子の目の前に、敦子が夢の中でなりきっていたパプリカが現れます。敦子は「時田くんを助けなきゃ」と言いますが、パプリカは「放っときなさい。あんな肥満の無責任」と挑発します。敦子が「パプリカは私の分身でしょ」と叱りつけると、パプリカは「敦子が私の分身だって発想はないわけ?」と言い返します。2つ目は、起きているとは自分が自分であると分かることです。厳密に言えば、知覚や思考などの意識が統合されていることです(自我意識)。例えば、自分は、いつでもどこでも変わらず自分であるということです。逆に、ストレスや恐怖で、起きていながらもぼんやりとしている半覚醒の状態になる場合、意識が統合されず分離している病的な状態になることがあります(解離性障害)。例えば、敦子が扮するパプリカのように、自分の心が、時間や場所によって入れ替わります(人格交代)。同時にもう1人の自分が出てきます(二重心)。敦子の上司の所長のように意識が乗っ取られた感覚になり、自分が意図せずに急に支離滅裂になります(トランス、憑依)。また、脳血管障害などの器質的な原因がある場合、例えば自分の意思とは別に手が勝手に動いてしまいます(エイリアンハンド、分離脳)。睡眠生理学的には、半覚醒の状態では脳内のアミン系が減りつつも出ていて、コリン系が活発化しています。夢見(レム睡眠)に近い状態です。アセチルコリンは、副交感神経に作用する「リラックスホルモン」であるだけでなく、脳内の視覚中枢、感情中枢、運動中枢を活性化する「夢見ホルモン」とも言えます。この時、レム睡眠に近い状態になるので、前頭葉の働きが弱まるにもかかわらず、記憶中枢(海馬)は活性化します。最近の研究では、この半覚醒の状態は、「デフォルトモード」と呼ばれます。この時に、記憶の整理や学習が進むので、もの分かりが良くなり、言われたことをすんなり受け止めやすくなります。これは、かつて「無意識」として、催眠療法や精神分析療法で「暗示」に利用されていました。3)自分の動き、感覚、想起が思いのままである―自律性3つ目は、自分の動き、感覚、想起が思いのままであることです。厳密に言えば、運動機能、感覚機能、記憶機能が全うされていることです(自律性)。逆に、ストレスや恐怖で、起きている時に、先ほど紹介したローカルスリープがある脳領域で過剰になる場合、その脳の機能が部分的に喪失している病的な状態になります(転換性障害)。例えば、立位・歩行機能の喪失なら、腰が抜けて立てなくなったり(失立)、膝が抜けて歩けなくなります(失歩)。発声機能の喪失なら、声が出なくなります(失声)。協調運動機能の喪失なら、手が震えたり(心因性振戦)、字が書けなくなったりします(書痙)。嚥下機能の喪失なら、喉の違和感が出てきます(ヒステリー球)。聴覚機能の喪失なら、突然に聞こえなくなります(突発性難聴)。視覚機能の喪失なら、突然に目が見えなくなります(心因性視力障害)。また、記憶機能の喪失なら、特定の記憶が思い出しにくかったり(抑圧)、思い出せなかったり(選択的健忘)、重度の場合は自分の生活史の全てを思い出せなかったりします(全般性健忘)。これらは、あくまで脳が局所的に「失神」をしているローカルスリープが原因であるため、現代の身体的な精密検査においては明らかな異常とならないのが特徴です。夢に何ができる?これまで、夢を見ている状態、眠っている状態、起きている状態の正体を解き明かしてきました。それでは、夢に何ができるでしょうか? ここから、夢の利用の可能性について、3つご紹介しましょう。1)夢から気付きを得る―ひらめき敦子がパプリカに「言うことを聞きなさい」と叱りつけると、「自分も他人もそうやって思い通りにできると思うなんて」と言い返されます。そこで敦子は我に返り、「時田くんを放っておけない。だって私・・・」と言い、どうしようもない時田を愛しているという自分の抑え込んでいた本当の気持ちに気付くのです。敦子が自分を抑えてクールで知性的な大人の女性であるのに対して、パプリカはまさにスパイスの利いた赤い野菜のように、無邪気で開放的な少女です。性格がとても対照的です。パプリカは、敦子が普段、意識せずに抑えていたもう1人の自分だったのです。1つ目は、夢から気付きを得ることです。それは、起きてる時には思いも付かなかった発想、生きるヒント、さらにはひらめきです。例えば、世紀の科学的な発見、商業的な発明、名曲や名画などは、夢に出てきたという逸話をよく聞きます。そのわけは、起きている時は緊張して堂々巡りの頭でっかちの脳が、前頭葉の働きが弱まることで、連想性や創造性が柔軟になり、情感、発想力、そして直感力が高まるからです。ただし、私たちが夢について話をする時に注意することは、夢はあくまでポジティブな気付きを得るきっかけとして利用するのみとすることです。かつての夢分析のように、不安などのネガティブな感情を煽ったり、性的な関心事に結び付けるなどの過剰な解釈をしないことです。なぜなら、先ほどにも説明したように、夢は突飛で、そもそも内容の解釈にエビデンスがないからです。2)夢をコントロールする―明晰夢粉川警部は、夢の中に登場するバーテンダーの質問によって、繰り返す不快な夢のわけが、過去にやり残したことであることに気付きます。そして、再び同じ夢を見た時、その夢の続きをハッピーエンドにして完成させるのです。また、敦子が犯人と直接対決をするラストシーン。敦子は、無意識の幼児の姿で立ち向かい、犯人の欲望のイメージを丸ごと飲み込み、清々しい爽やかな大人の姿へと成長します。これらは、夢の中ではネガティブな内容をポジティブな内容に変えられることを象徴的に描いています。2つ目は、夢をコントロールすることです。本来、夢を見ている時はその自覚がないので、コントロールすることはできません。そこで、自覚ができるように訓練するのです。いわゆる明晰夢です。そのために必要なのは、起きている時に夢についての意識を高めることです。例えば、夢の内容を細かく記録することです(夢日記)。そして、繰り返し見るネガティブな夢を、ポジティブな筋書きに書き変えて、起きている時に想像することです(イメージリハーサル)。これはちょうど認知行動療法で、ネガティブな思考パターンにポジティブな思考パターンを増やしてバランスを変えていくアプローチに似ています(認知再構築)。また眠る前に、「明晰夢を見る」と念じることです。これはちょうど翌朝に起きる時間を意識したら(注意睡眠)、その時間の少し前に自然に目が覚めることに通じています(自己覚醒)。また、起きている時に、普段よりも五感を研ぎ澄まして全身で世界を感じ取れるように注意力を高めることです(マインドフルネス)。これは、言うなれば「超覚醒」の状態です。そうすることで、もともと夢を見るレム睡眠時に抑制される機能である前頭葉のメタ認知が活性化される可能性があります。さらに、最近の研究では、夢を見ている時に、経頭蓋交流電気刺激(tACS)によって、前頭葉を直接刺激して、明晰夢にすることが可能になってきています。3)夢を変える―オプトジェネティックス冒頭のシーンで、パプリカは粉川警部に「DCミニ。これは夢の扉を開く科学の鍵なの」と説明します。粉川がさっきまで見ていた夢の内容は全てパソコンで映像化され、録画されています。まさにこの映画はSFファンタジーだと思いきや、近い将来にこの「DCミニ」が現実のものになる可能性があります。3つ目は、夢を変えることです。これに近い手法としては、かつて催眠療法で、クライエントに振り子を追わせてまどろみを引き起こし、半覚醒の状態で、セラピストがトラウマ体験の意味付けや解決のための指示をしていました。現在は、眼球運動脱感作再処理法(EMDR)として、クライエントに左右を往復するライトを追わせるなどして目を左右に動かさせながらトラウマ体験を語らせ、セラピストがそれに対してのポジティブな意味付けを促します。ちなみに、EMDRに、新しい技術である仮想現実(VR)を取り入れた手法も今後は可能になるでしょう。催眠療法もEMDRも、眼球運動により半覚醒の状態を引き起こします。これは、眼球運動とアセチルコリンの誘発は連動しているので、レム睡眠で急速眼球運動が出てきますが、逆に眼球運動をするとレム睡眠に近い状態になるということです。つまり、寝付きが良くない時に、眼球を動かすと眠気が来やすくなるということです。ちなみに、アセチルコリンを減らす抗コリン薬の副作用が、眼球上転という眼球が動かなくなる症状であるのも納得がいきます。催眠療法やEMDRが、セラピストのコントロールによって、覚醒状態から意識レベルを下げます。一方、先ほどの明晰夢は、自分のコントロールによって夢見状態から意識レベルを上げます。両者は、スタートは違いますが、トラウマ体験の記憶の上書きがしやすい状態になるという意味でゴールは同じです。そして、最近、人工知能による解析によって、どんな夢を見ているかまで分かるようになりました(夢の可視化)。さらに、最新の研究では、光ファイバーによる脳への刺激によって、別々の記憶をつなぎ合わせたり、引き離したりすることができる可能性が出てきました(オプトジェネティクス)。これは、夢を直接変えることに応用できそうです。例えば、トラウマ体験の夢を見ている時に、楽しい体験の記憶のパターンを刺激することで、トラウマ体験自体の辛さが緩和されるということです。さらに、近未来には、眠って夢を見ているときだけでなく、起きている時も、「DCミニ」のような装置によって、私たちの意識が仮想現実の空間で共有される日が来るかもしれません。夢には「夢」があり「夢中」になれる今回、進化医学的に夢を見ることに意味がないと説明しました。しかし、夢を利用することには限りない可能性が秘められていることが分かってきました。これこそまさに「夢」のある話です。そのことを知った今、私たちは夢についてもっと「夢中」になることができるのではないでしょうか?1)筒井康隆:パプリカ、中公文庫、19972)櫻井武:睡眠の科学、講談社、20103)三島和夫編:睡眠科学、科学同人、20164)アラン・ホブソン:ドリームドラッグストア 意識変容の脳科学、創造出版、20075)アンソニー・スティーブンズほか:進化精神医学、世論時報社、2011

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日本のDPCデータより統合失調症診断患者を分析

 QOLや社会的機能が改善された臨床的寛解を達成するためには、患者特性ごとに最適な治療を考慮する必要がある。これまでのエビデンスでは、統合失調症の再発予防に対する抗精神病薬持効性注射剤(LAI)の使用が支持されている。関西学院大学のStephane Cheung氏らは、統合失調症と診断された日本人患者の特徴を明らかにし、再入院または救急受診率についてLAIと経口抗精神病薬(AP)のアウトカムを比較した。Clinical Drug Investigation誌オンライン版2017年3月30日号の報告。 2013年7月~2015年6月におけるICD-10コードF20xの日本のDPC指定の病院データは、メディカル・データ・ビジョン社より得た。併存診断条件をフィルタリングするため、患者をサブグループに分類した。サブグループ間の差異は、カイ2乗検定またはANOVAを用いて評価した。発症率比(IRR)を計算し、退院後30日間の再入院または救急受診率について、経口APとLAIの薬物療法間の比較または定型LAIと非定型LAI患者との比較を行った。調整推定値は、年齢、性別、Charlson co-morbidity index(CCI)スコアに割り付けられた傾向スコアにより算出した。 主な結果は以下のとおり。・抗精神病薬使用リスクが報告されているにもかかわらず、データの4分の1において、認知症またはせん妄の併存診断に対し抗精神病薬が処方されていた。・年齢、性別、併存疾患で調整した後、LAIは経口APよりも再入院(IRR:0.38、95%CI:0.17~0.74)および救急受診率(IRR:0.56、95%CI:0.34~0.91)を低下させた。 著者らは「併存診断の分類に基づく統合失調症薬物療法におけるDPC病院データの利用が実証された。LAI使用は、経口APと比較して、統合失調症患者の再入院、救急受診率の低下に寄与する」としている。関連医療ニュース 統合失調症の認知機能に関連する独立因子:産業医大 統合失調症患者への抗精神病薬高用量投与、自律神経系への影響は:横浜市大 統合失調症患者の再入院、ベンゾジアゼピンの影響を検証:東医大

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65歳未満での抗うつ薬使用、認知症増加と関連

 抗うつ薬の使用がアルツハイマー病などの認知障害や認知症と関連しているかを、カナダ・サスカチュワン大学のJohn Moraros氏らは、検討を行った。Depression and anxiety誌オンライン版2016年12月28日号の報告。 Medline、PubMed、PsycINFO、Web of Science、Embase、CINAHL、the Cochrane Libraryのシステマティックな検索を行った。アブストラクトとタイトルより初期のスクリーニングを行い、関連する全文献をレビューし、その方法論的質について評価した。検索した文献より粗悪な効果推定値を除き、ランダム効果モデルを用いてプールされた推定値を算出した。 主な結果は以下のとおり。・最初にプールされた4,123件から5件の研究が抽出された。・抗うつ薬の使用は、認知障害や認知症の2倍増と関連していた(OR:2.17)。・年齢は、抗うつ薬使用と認知障害や認知症、アルツハイマー病と関連の可能性がある修飾因子であった。・65歳以上の平均年齢の参加者を含む研究では、抗うつ薬使用が認知障害のオッズの増加と関連し(OR:1.65)、65歳未満の参加者での研究では、さらに強い関連が示された(OR:3.25)。 著者らは「抗うつ薬の使用は、アルツハイマー病や認知症と関連しており、65歳未満での使用では特に顕著であった。この関連は、うつ病やその重症度により生じる可能性もある。しかし、認知症への抗うつ薬曝露を潜在的に結び付ける生物学的メカニズムが説明されているため、抗うつ薬の病因学的影響の可能性がある。この関連性の確認とともに、根底にある病因経路の明確化に緊急に注目する必要がある」としている。関連医療ニュース ベンゾジアゼピン認知症リスク~メタ解析 米国の認知症有病率が低下、その要因は 抑うつ症状は認知症の予測因子となりうるのか

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