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統合失調症患者の体重管理に有効な薬理学的介入は?

 著しい体重増加は、統合失調症患者が抗精神病薬の服用に伴って経験する懸念すべき有害事象である。統合失調症患者における体重増加の高い有病率と、それが心血管・代謝系疾患の罹患に大きく寄与しているという事実から、抗精神病薬誘発性体重増加および関連する併存疾患の管理について、より明確な合意を形成することが求められている。カナダ・トロント大学のNicolette Stogios氏らは、抗精神病薬治療を受けている統合失調症患者に対する薬物療法と体重変化との関連を評価するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。JAMA Psychiatry誌オンライン版2026年7月8日号の報告。 2025年12月5日までに公表された研究を、Ovid MEDLINE、Embase、PsycINFO、CENTRAL、CINAHL、ClinicalTrials.gov、ICTRP Search Portalより検索した。対象は、抗精神病薬治療を受けている統合失調症患者の体重減少を目的としたあらゆる薬物療法を検討したランダム化臨床試験であった。なお、研究期間に関する制限は設けなかった。システマティックレビューおよび頻度論的ランダム効果モデルを用いたネットワークメタ解析を実施した。エビデンスの確実性は、CINeMAツールを用いて評価した。データ解析は、初回実施期間が2025年5~11月で、同年12月に更新した。主要評価項目は、薬物療法とプラセボまたは標準的ケアとの比較における体重変化とした。副次評価項目に、その他の身体計測指標および代謝関連指標を含めた。 主な結果は以下のとおり。・本レビューには、39種類の薬物療法を検討した95件の研究が含まれた(統合サンプルサイズ:5,898例)。・ネットワークメタ解析の結果、プラセボと比較し、最も顕著な体重減少に関連していた薬剤は次のとおりであった。【セマグルチド】平均差[MD]:-10.98kg(95%信頼区間[CI]:-13.33~-8.62)、3研究、確実性:中程度【リラグルチド】MD:-5.43kg(95%CI:-8.54~-2.33)、2研究、確実性:中程度【トピラマート】MD:-3.95kg(95%CI:-5.89~-2.02)、5研究、確実性:中程度【メトホルミン】MD:-3.86kg(95%CI:-5.02~-2.70)、16研究、確実性:中程度【エキセナチド】MD:-2.97kg(95%CI:-5.83~-0.11)、3研究、確実性:中程度・ラメルテオン、ニザチジン、アリピプラゾールといった他の介入も体重減少効果が認められたが、エビデンスの確実性はきわめて低かった。・臨床的に意義のある5%以上の体重変化は、セマグルチドおよびメトホルミンで認められた。・いくつかの薬剤では、他の代謝関連アウトカムに対する有益な効果も確認され、介入間で消化器系の有害事象や試験からの早期離脱に関する重大な懸念は認められなかった。 著者らは「本システマティックレビューおよびネットワークメタ解析により、抗精神病薬治療を受けている統合失調症患者に対する薬物療法において、体重関連アウトカムに大きなばらつきがあることが明らかとなった。セマグルチド、リラグルチド、トピラマート、メトホルミン、エキセナチドは、最も大きな体重減少に関連し、最も確実性の高いエビデンスに裏付けられていた。これらの結果は、抗精神病薬に関連する体重増加を管理する臨床医にとっての指針となるものである」としている。

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AIを用いたMRI解析で従来検出困難だった多発性硬化症の皮質病変を検出

 多発性硬化症(MS)では脳の皮質に生じる病変(皮質病変)が身体機能障害や認知機能低下と深く関連しているが、従来のMRI検査では皮質病変の可視化に限界があった。しかし、新しく開発されたAI(人工知能)を活用したMRI画像解析手法により複数のMRI画像の情報を組み合わせて解析することで、従来のMRI検査では見えなかった病変を検出できる可能性が示された。 論文の筆頭著者である米バッファロー大学神経学および生物医学情報学分野のMichael Dwyer氏は、「従来のMRI画像を見ても、通常は皮質病変を確認することはできない。しかし、AIは画像間のごくわずかな違いを検出できるため、非常に強力なツールとなる。AIはこうした小さな差異を捉えることで、その部位に異常が生じており、組織の機能が健常な組織とは異なることを明らかにする」とニュースリリースで述べている。この研究の詳細は、7月7日付で「Communications Medicine」に掲載された。 今回の研究でDwyer氏らは、MRI画像処理技術として、FLAIR画像とT2強調画像を組み合わせたFLAIR2画像、T1強調画像とT2強調画像の信号比を用いたT1/T2比画像、AIを用いて一般的なMRI画像からDIR(Double Inversion Recovery)画像を生成するAI-DIR画像を評価した。その上で、これらの手法を組み合わせた病変強調画像「MMCLE(Multi-Modal Cortical Lesion Enhanced)」を開発した。さらに、トランスフォーマーを基盤とするAIを用いて皮質病変を自動検出し、専門家がその結果を確認・修正した。これらの手法を用いた皮質病変検出の有用性は、732人の患者(平均年齢44.6歳)を対象としたMS治療薬に関する第3相ORATORIO試験で取得されたMRI画像を用いて評価した。 その結果、開発用データセット(80人、平均年齢46.6歳、平均罹病期間7.0年)では、この解析法により、これまで検出できなかった皮質病変が患者1人当たり平均14.8個特定された。専門家によるブラインド評価では、MMCLE画像単独での病変検出性能が最も高く、真陽性率86.0%、偽陽性率8.4%であった。データセット全体(732人)では、専門家による評価の結果、計1万366個、1人当たり平均14.4個の病変が検出された。 論文の上席著者であるバッファロー大学ジェイコブス医学・生物医学部のRobert Zivadinov氏は、「従来型のMRIでは可視化できなかった皮質病変を検出できることは、MS研究と臨床診療の双方に大きな意義を持つ。これまで隠れていた認知機能障害や身体機能障害と関連する病変も含めたMS進行の指標を初めて可視化できるようになったことは重要な前進だ」と述べている。 この技術を活用すれば、例えば、皮質病変の形成をどの程度抑制できるかを指標として、既存および新規のMS治療薬の有効性を評価できるようになる。これまでは、従来のMRIで確認可能な白質病変に対するMS治療薬の効果しか評価できなかった。Zivadinov氏は、「脳内にこれほど多くの見えない病変が存在することを明らかにした本研究は、過去の臨床試験データの再評価だけでなく、今後実施される臨床試験にも大きな影響を与えるだろう」とコメントしている。 なお、本研究は、製薬企業Genentech社から一部支援を受けて実施された。同社は、このシステムの検証に用いられたMRIデータを収集した臨床試験にも資金を提供している。

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第307回 特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省

<先週の動き> 1.特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省 2.熊本地震で病院船が初出動 DMAT・JMATなど災害医療チームも活動/熊本県 3.OTC類似薬「薬剤費25%」が患者負担に、長期処方での配慮対象は限定的/厚労省 4.医療・介護AIに重点投資 AX・DX推進本部を設置/厚労省 5.国立大学の経営危機、東大にも波及 研究力低下への懸念強まる/東大ほか 6.正常な脳組織を誤って摘出 50代女性が自発呼吸不能の重篤状態/京大 1.特定健診は初の6割台 メタボ該当・予備群は880万人で横ばい/厚労省厚生労働省は、2024年度の特定健康診査・特定保健指導の実施状況を公表した。特定健診の対象者は約5,142万人、受診者は約3,161万人で、実施率は61.5%となり、前年度から1.6ポイント上昇した。2008年度の制度開始時は38.9%で、今回初めて6割を超えた。国は2029年度までに70%以上の実施を目標としている。性別では男性65.9%、女性57.0%で、男性が8.9ポイント高かった。年齢別では45~49歳が66.8%で最も高く、60歳未満ではおおむね6割台を維持した一方で、65~69歳は52.8%、70~74歳は47.5%まで低下した。保険者別では健康保険組合83.8%、共済組合83.3%に対し、全国健康保険協会60.6%、市町村国保38.8%と大きな差がみられた。特定保健指導は、対象者約524万人のうち約148万人が終了し、実施率は28.3%。前年度から0.7ポイント上昇し過去最高を更新したものの、2029年度目標の45%以上とはなお大きな開きがある。保険者別では単一健康保険組合が46.1%で最も高く、小規模市町村国保が45.3%で続いた。メタボリックシンドロームの該当者・予備群は約880万人で、2008年度比では17.2%減少しており、減少幅は前年度から横ばい推移となった。また、特定健診受診者の31.1%は高血圧症、糖尿病、脂質異常症の治療薬を1種類以上服用していた。受診率は着実に改善しているが、年齢や保険者による格差の縮小に加え、健診後の保健指導や必要な治療へ確実につなげることが今後の課題となる。 参考 1) 2024年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省) 2) 特定健診、実施率は61.5%に上昇 24年度、保健指導は28.3%(MEDIFAX) 3) 特定健診実施率、初の6割超え24年度 29年度までに7割以上目標 厚労省(CB news) 2.熊本地震で病院船が初出動 DMAT・JMATなど災害医療チームも活動/熊本県政府は8月5日、7月28日に発生した令和8年熊本地震で多数の医療機関が被災した熊本県八代市の八代港で、防衛省による民間船舶(PFI船)を活用した医療提供(船舶活用医療)を初めて実施した。熊本県知事が8月1日に国へ要請したもので、2021年成立の「災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律」に基づく初の船舶活用医療となる。内閣府、防衛省、熊本県に加え、日本赤十字社、DMAT、JMATなどが連携。船内では発熱などの内科診療、熱中症や軽傷への対応、薬の処方などを行い、併せて被災者への入浴支援も実施した。8月5日午後2時から医療提供を開始し、初日の医療利用者は13人、活動した医療従事者は23人だった。その一方で、「はくおうII」への乗船者は187人、うち182人が入浴支援を利用した。台風13号の接近に伴い、同船は6日午前6時に八代港を出港し、医療提供も一時中断している。被災地ではDMAT、DPAT、日赤救護班、災害支援ナース、JMATなども活動を継続している。透析は一時13施設で実施が困難となったが、8月6日時点で実施困難な2施設についても他院での透析が手配済みとなった。船舶は陸上の医療機関やライフラインが被災した際にも、医療、衛生、生活支援を一体的に提供できる新たな災害医療拠点として期待される一方で、今回の台風による中断は、気象条件に左右される運用上の課題も示した。 参考 1) 令和8年熊本地震に係る被害状況等について(内閣府) 2) 令和8年熊本地震における船舶活用医療の実施について(同) 3) 熊本の被災地にあすから「病院船」、防衛省の船舶活用し初の取り組み…内科診療や熱中症治療・薬の処方も(読売新聞) 4) 防衛省チャーター舶「はくおうII」が入浴や医療提供 断水や猛暑に苦しむ熊本の被災者支援(産経新聞) 5) 避難者支援で医療チームが相次ぎ活動 熊本地震 DMAT・DPAT・災害支援ナースなど(CB news) 3.OTC類似薬「薬剤費25%」が患者負担に、長期処方での配慮対象は限定的/厚労省厚生労働省は8月5日、「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会」で中間とりまとめを了承した。2027年3月から、市販薬と成分・投与経路が同一で1日最大用量も異ならないOTC類似薬について、薬剤費の25%相当を保険給付の対象外とし、通常の1~3割の自己負担とは別に「特別料金」として患者が負担する。8月時点の対象は77成分1,042品目で、解熱鎮痛薬、抗アレルギー薬、湿布、保湿剤など日常診療で使用頻度の高い薬剤が含まれる。ただし、一定の患者や使用場面には配慮措置を設ける。がんや指定難病の患者、公費負担医療の対象者は、原疾患や治療に関連する症状への処方であれば追加負担の対象外とする一方で、花粉症など原疾患と無関係な症状への処方は対象となる。18歳未満の子供や入院中・退院時の処方も対象外。外来・在宅でも、生検、処置、手術など侵襲的医療行為に伴い新たに処方する薬は原則14日分まで対象外とする。長期使用の扱いも焦点となる。内服薬は年間おおむね50週の処方が目安で、診療情報提供書、お薬手帳、オンライン資格確認の薬剤情報などで処方歴を確認する。初診で過去の処方歴が確認できない場合は、少なくとも6ヵ月間の症状の持続・反復と薬剤使用を確認した上で、医師が通年使用を必要と判断する。外用薬はさらに条件が厳しく、湿布などの鎮痛消炎外用薬は長期使用でも原則追加負担となる。ただし2028年度末までは、画像検査で重度の変形性膝関節症などが確認され、医師が毎日の継続使用を必要と判断する場合に限り対象外とする。アトピー性皮膚炎に対するヘパリン類似物質や尿素の通年使用は対象外となる。また、医療用薬とOTC薬で効能・効果が一致しない場合は追加負担を求めない。たとえばフェキソフェナジンは、OTCにない蕁麻疹や皮膚疾患に伴うそう痒への使用では対象外となる一方で、アレルギー性鼻炎では原則対象となる。7月にOTC薬が発売された睡眠薬ラメルテオンも対象成分に追加された。今回の制度変更は現場にも大きく影響する。医療機関には対象外と判断した根拠を診療報酬請求書などに記載することが求められる方向で、処方箋様式の変更や電子カルテ、レセコン改修も見込まれる。検討会でも、医師や薬剤師の確認業務が過度に複雑にならない簡素な運用を求める声が相次いだ。厚労省は8月6日から中間とりまとめへのパブリック・コメントを実施しており、8月20日が締め切りとなっている。全国保険医団体連合会(保団連)は、慢性疾患でも配慮対象にならないケースが多いうえ、対象外か否かを判断する医療現場の負担が大きいとして、医療関係者らに厚労省のパブコメへ意見を提出するよう呼びかけている。意見はe-Govのパブリック・コメントから提出できる。厚労省は今後、さらに医療保険部会や中医協で議論し、今秋に省令・告示、関連通知などを取りまとめる予定。 参考 1) 第4回OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた技術的検討会(厚労省) 2) 「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」について(同) 3) 入院患者は追加負担対象外 OTC類似薬で厚労省案 がんの主たる疾患や副作用の薬も(産経新聞) 4) OTC類似薬の技術的検討会が中間取りまとめ 湿布薬は慢性・重度の変形性膝関節症は除外 対象1042品目(ミクスオンライン) 5) OTC類似薬保険除外 厚労省が配慮措置(中間とりまとめ)のパブコメ募集開始 8月20日まで(保団連) 6) 湿布は長期使用でもOTC類似薬の追加負担に 厚労省検討会で了承(朝日新聞) 7) OTC類似薬の患者特別負担の詳細固まる、アトピーへの「ヘパリン類似物質・尿素」通年処方は特別負担対象外-厚労省技術的検討会(Gem Med) 8) OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」に関する意見公募の実施について(パブリック・コメント) 4.医療・介護AIに重点投資 AX・DX推進本部を設置/厚労省厚生労働省は8月5日、医療・介護・福祉分野でAIやデジタル技術の活用を推進する「厚生労働省ヘルスケアAX・DX推進本部」の初会合を開いた。本部長を務める上野 賢一郎厚労相は、従来の医療DXに加え、AIトランスフォーメーション(AX)も省を挙げて戦略的、総合的に推進する方針を示し、各部局に2027年度予算の概算要求へ必要な事業や経費を盛り込むよう指示した。推進本部は、これまで各部局で進めてきたAI・DX関連施策を一元的に把握し、全省的に加速させる司令塔として4日に発足した。本部長に厚労相、副本部長に事務次官、厚生労働審議官、医務技監などを置き、関係部局長が参加するほか、「AI for ヘルスケア成長戦略室」を新設し、迫井 正深医務技監を室長として、具体的施策の検討や関係省庁との調整を行う。背景には、政府が日本成長戦略で「AI・半導体」を17の戦略分野の1つに位置付けたことがある。医療・介護ではAIロボットなどの「フィジカルAI」、医療・介護・福祉では領域特化型の「バーティカルAI」の開発・導入を進める。政府はフィジカルAIで2040年に世界シェア3割超、市場規模20兆円、バーティカルAIでは2030年までに世界で5兆円超の市場獲得を目標に掲げる。看護記録などの文書作成や福祉相談業務を支援するAIの普及、研究開発・実証、AI活用に必要なデータ基盤の整備などが想定される。創薬・先端医療でも、AIやデータ活用による研究開発プロセスの高度化・効率化を推進する。政府は成長戦略で新設した、予算要求上限を設けない「『強く豊かな日本』投資枠」も活用し、官民投資を促す方針。厚労省は今後、8月末の概算要求に向けて施策を具体化する。 医療DXが電子化や情報連携を中心としてきたのに対し、今後は診療・看護・介護など実務そのものをAIで変革するAXへ政策領域が広がることになる。 参考 1) 第1回厚生労働省ヘルスケアAX・DX推進本部 資料(厚労省) 2) 医療や介護のAI活用を支援 厚労省が推進本部設置(日経新聞) 3) 厚労省 ヘルスケアAX・DX推進本部が初会合 上野厚労相「日本成長戦略実現に向け概算要求へ」(ミクスオンライン) 4) 政府が医療・介護分野でAI活用推進へ「ヘルスケアAX・DX推進本部」初会合(CB news) 5.国立大学の経営危機、東大にも波及 研究力低下への懸念強まる/東大ほか東京大学が2026年度に2年連続の最終赤字となる見通しであることがわかった。国立大学法人化した2004年度以降、2年連続の赤字は初めて。25年度は数十億円、26年度は約40億円の赤字を見込み、大学の「貯金」に当たる繰越金も数年で枯渇する可能性がある。財務状況が改善しなければ、研究者数の削減など研究・教育体制の縮小も避けられないという。東大の年間収入は約3,000億円で国立大学最大規模。24年度は運営費交付金や補助金が約969億円、附属病院収入が約585億円、企業との共同研究や大型研究事業などの外部資金が約1,160億円だった。その一方で、実験機器・材料などの物件費は約1,794億円、人件費は約1,105億円に上る。人事院勧告に伴う給与上昇で人件費は5年間で約100億円増加し、物価高による研究機器や資材価格の上昇も経営を圧迫している。背景には国立大学法人全体の構造問題がある。国からの運営費交付金は26年度で1兆971億円と、法人化した04年度から1,445億円減少。科研費は増えたものの、その増加は649億円にとどまり、基盤的経費の減少を補えていない。わが国の大学の研究開発費も2000年から23年までに1.2倍にとどまり、米国の2.1倍、中国の16.5倍と大きな差がある。大学病院の経営難も大学本体に影響する。国立大学病院44施設のうち25年度は31病院が赤字となる見通しで、経常赤字は計244億円。高度医療や希少疾患診療では高額医薬品・資材の使用が避けられず、診療収入だけではコスト増を吸収しにくい。東大は国際卓越研究大学への認定を目指しているが、文部科学省による審査が継続中となっており、認定見送りとなれば財政改善はさらに厳しくなる。国立大学の研究力と高度医療を維持するため、安定した基盤財源の確保が改めて問われている。 参考 1) 東大が2年連続赤字へ 「貯金」数年で枯渇、研究者の削減不可避(日経新聞) 2) 国立大学法人モデル、岐路に 東大も自立運営困難 収入増、規制が足かせ 研究開発費は20年横ばい(日経新聞) 6.正常な脳組織を誤って摘出 50代女性が自発呼吸不能の重篤状態/京大京都大学医学部附属病院は8月7日、50代女性の脳腫瘍摘出手術で、腫瘍ではない正常な脳組織を誤って摘出し、脳幹などを損傷する医療事故があったと発表した。患者は術後、自発呼吸ができず人工呼吸器による管理が続き、手足も動かない重篤な状態となっている。病院によると、患者はめまいやふらつきはあったものの、手術前は生活に大きな支障はなく通常の生活を送っていた。検査により小脳橋角部に約3cmの良性腫瘍「髄膜腫」が疑われ、7月末に全身麻酔下で開頭手術を受けた。執刀したのは40代の脳神経外科医で、医師として20年以上の経験があり、同様の手術を約100例担当していた。手術中には、摘出した組織の一部を調べる術中病理診断が行われ、「腫瘍ではない」との結果が2度示された。それでも執刀医は、腫瘍の端の組織を採取したため腫瘍成分が含まれていなかった可能性があるなどと判断し、摘出を継続したという。約10時間の手術後も患者の意識や呼吸が十分に回復しなかったためMRI検査を実施したところ、本来摘出する予定だった腫瘍は残存しており、右小脳扁桃や呼吸機能に関わる脳幹の側面から背側にかけて大きな損傷があることが判明した。脳幹には呼吸など生命維持に不可欠な機能を担う神経中枢が集まっており、患者は現在も人工呼吸器を必要としている。京大病院は医療事故として患者と家族に謝罪し、厚生労働省や京都府警など関係機関にも報告した。高折 晃史病院長は「患者と家族に心よりおわび申し上げる」と陳謝。病院側は、執刀医の判断ミスや思い込みが影響した可能性にも言及しており、今後、外部有識者を含む事故調査委員会を設置し、手術中の判断過程や安全確認体制を検証し、原因究明と再発防止を進める方針だ。 参考 1) 脳腫瘍摘出術中の誤認による摘出部位誤り事例について(京大医学部附属病院) 2) 京都大病院、正常部位摘出し脳幹損傷 患者は重篤な状態(日経新聞) 3) 京大病院で医療事故 脳腫瘍の手術で誤って正常な脳の一部摘出(NHK) 4) 京都大病院が脳腫瘍手術で誤って正常な組織摘出、50代女性患者は呼吸に関わる脳幹損傷・人工呼吸器装着つづく(読売新聞)

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多発性硬化症の再発を抑制する新規経口薬「ブメリティカプセル231mg」【最新!DI情報】第68回

多発性硬化症の再発を抑制する新規経口薬「ブメリティカプセル231mg」今回は、多発性硬化症治療薬「ジロキシメルフマラート(商品名:ブメリティカプセル231mg、製造販売元:バイオジェン・ジャパン)」を紹介します。本剤は、既存薬の消化器系副作用を回避するためにアミノエチルエステル化したプロドラッグであり、多発性硬化症の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>再発寛解型多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制の適応で、2026年6月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはジロキシメルフマラートとして1回231mg 1日2回から投与を開始し、1週間後に1回462mg 1日2回に増量します。なお、潮紅、消化器系副作用などが認められた場合には、患者の状態を慎重に観察しながら1ヵ月程度の期間1回231mg 1日2回投与に減量することができます。1回462mg 1日2回投与への再増量に対して忍容性が認められない場合は、本剤の投与を中止します。<安全性>重大な副作用として、リンパ球減少症(10.5%)、白血球減少症(2.6%)、進行性多巣性白質脳症(PML)、感染症、急性腎障害、肝機能障害、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用として、潮紅(31.9%)、下痢(10%以上)、上咽頭炎、上気道感染、尿路感染、好中球減少症、灼熱感、浮動性めまい、頭痛、錯感覚、ほてり、腹部不快感、腹痛、下腹部痛、上腹部痛、便秘、消化不良、鼓腸、胃食道逆流性疾患、悪心、嘔吐(いずれも1~10%未満)、胃腸炎、鼻漏、呼吸困難、胃炎、胃腸障害(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、再発寛解型多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制に使用します。体内でフマル酸モノメチルに変換され、細胞の抗酸化に関わるNrf2と呼ばれる経路を活性化することにより免疫の働きを調節し、神経の炎症を抑えます。2.体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。3.この薬の使用中は定期的にリンパ球を含む血液検査、肝機能検査および腎機能検査が行われます。4.吐き気や嘔吐、下痢が現れた場合は、脱水となって腎臓の働きが悪くなることがあるので、できるだけ早く医師に連絡してください。5.この薬の使用初期に顔のほてりや赤みが現れることがあります。気になる場合は医師または薬剤師に相談してください。6.妊娠する可能性がある人は、この薬を使用している間は適切な避妊を行ってください。【ここがポイント!】多発性硬化症(MS)は、免疫系の異常により神経細胞の軸索を覆うミエリン鞘が脱髄する自己免疫疾患であり、指定難病に指定されています。病変は中枢神経系の広範囲にわたり、脱髄部位に応じて、感覚障害、運動・歩行障害、視力障害、排尿・排便障害などの症状を呈します。MSの病型は、急性増悪(再発)と寛解を繰り返す再発寛解型(RRMS)、当初はRRMSの経過をたどるもののその後は再発の有無にかかわらず身体的障害が進行する二次性進行型(SPMS)、発症時から再発を伴わず機能障害が進行する一次性進行型(PPMS)に分類されます。MS患者の80~90%はRRMSとして発症し、そのうち約半数が発症15~20年でSPMSに移行するとされています。一方、PPMSでMSを発症するのは約5%にとどまります。MSの急性増悪期の治療には、第1選択として高用量のメチルプレドニゾロン静注療法(ステロイドパルス療法)が用いられ、十分な改善が得られない場合は血液浄化療法が考慮されることもあります。再発予防および進行抑制には、疾患修飾薬(DMD)が使用され、インターフェロンβ製剤、グラチラマー酢酸塩、フィンゴリモド、フマル酸ジメチル(DMF)などが代表的な薬剤として挙げられます。とくにDMFはRRMSに対する経口治療薬として広く使用されていますが、10%以上の頻度で消化器症状(下痢、腹痛、嘔気)が副作用として現れ、治療継続が困難となる場合があります。本剤は、有効成分としてジロキシメルフマラートを含むRRMSに対する経口DMDです。本剤は、DMFの主要活性代謝物であるフマル酸モノメチル(MMF)をアミノエチルエステル化した薬剤であり、経口投与後、全身循環に移行する前にエステラーゼ酵素系により速やかに加水分解されてMMFを生成します。MMFの作用機序は十分に解明されていませんが、細胞の抗酸化応答を制御するマスター転写因子であるnuclear factor erythroid-derived 2-like 2(Nrf2)転写経路を活性化することで免疫系を調節し、炎症性メディエーターの発現を抑制し、炎症性傷害に対する細胞保護作用を示すものと考えられています。臨床用量において、本剤から生成されるMMFの曝露量はDMFと同程度となります。RRMS患者を対象とした海外第III相臨床試験(ALK8700-A301試験)において、探索的評価項目である投与96週時までのMS再発患者割合は、全体集団では17.57%、デノボ被験者(本剤またはDMFが初めて投与された患者:サブグループ解析)では17.66%であり、ARRはそれぞれ0.13および0.14でした。また、日本を含む国際共同第III相臨床試験(272MS303試験)において、全体集団では、ベースラインから投与24週時までの調整したARRが0.26(95%信頼区間[CI]:0.14~0.47)、投与24週~48週時の調整したARRが0.09(95%CI:0.03~0.26)、ベースラインから投与48週時までの調整したARRが0.19(95%CI:0.11~0.33)でした(負の二項回帰モデル)。日本人集団(サブグループ解析)では、ベースラインから投与24週時までの調整したARRが0.28(95%CI:0.13~0.60)、投与24週~48週時の調整したARRが0.09(95%CI:0.02~0.39)、ベースラインから投与48週時までの調整したARRが0.18(95%CI:0.09~0.38)でした(負の二項回帰モデル)。

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高齢入院患者の睡眠薬継続使用、院内転倒リスク上昇と関連

 高齢入院患者の転倒は、骨折や身体機能の低下につながり得るため、医療現場で重要な課題となっている。日本の急性期病院に入院した高齢患者6万人超を対象とした研究で、睡眠薬の継続使用は院内転倒リスクの上昇と関連することが示された。一方、ベンゾジアゼピン系・Z薬とオレキシン受容体拮抗薬/ラメルテオンとの間で、転倒リスクに有意な差は認められなかった。研究は、日本医科大学医療管理学の西野拓也氏らによるもので、詳細は6月8日付の「PLoS One」に掲載された。 高齢入院患者の転倒は、骨折や身体機能の低下、入院期間の延長などにつながる重要な問題だ。また、入院中の高齢患者では睡眠障害が多くみられるため、睡眠薬の選択は転倒予防の観点からも重要とされている。従来から使用されてきたベンゾジアゼピン系・Z薬(非ベンゾジアゼピン系睡眠薬)は転倒リスクを高めることが知られている。一方、オレキシン受容体拮抗薬やラメルテオンは代替薬として使用が広がっているものの、院内転倒との関連については結果が一致していなかった。こうした背景から著者らは、日本の急性期病院に入院した高齢患者を対象に、睡眠薬の継続使用と院内転倒との関連を検討した。 著者らは、2018~2024年に日本の急性期病院2施設へ入院した65歳以上の患者を対象に後ろ向き解析を実施した。長期入院患者では転倒や睡眠薬使用の機会が増える可能性を考慮し、入院7日目まで転倒のなかった患者6万1,663人を対象に、その後の転倒発生を追跡した。入院4~7日目に2日以上睡眠薬を使用していた患者を、ベンゾジアゼピン系・Z薬(BZ/Zs)群、オレキシン受容体拮抗薬/ラメルテオンORA/Ram)群、両者の併用群に分類し、持続的な睡眠薬使用がなかった患者を対照群とした。その上で、入院8~37日目に発生した初回の院内転倒を評価し、患者背景や併用薬、日常生活動作(ADL)などを調整した上で各群の転倒リスクを比較した。 対象となった6万1,663人のうち、3,884人(6.3%)が入院8日目以降に転倒を経験した。睡眠薬使用群では対照群と比べて患者背景に違いがみられた。特にORA/Ram群では、高齢でADLが低下した患者が多く、炎症反応や腎機能障害を示す検査値も高かった。 30日間の追跡期間における転倒の絶対リスクは、対照群2.3%に対し、BZ/Zs群3.5%、ORA/Ram群4.9%、併用群4.4%であった。調整後解析では、対照群と比べてBZ/Zs群で転倒発生ハザードが42%高く(調整ハザード比1.42)、ORA/Ram群でも46%高かった(同1.46)。併用群でも同様の傾向が認められた(同1.42)。この関連は競合リスク解析でも一貫していた。 さらに、傾向スコアマッチングにより患者背景をそろえてBZ/Zs群とORA/Ram群を直接比較した解析では、転倒発生ハザードに有意差は認められなかった(調整ハザード比0.98)。 著者らは、高齢入院患者における睡眠薬の継続使用は院内転倒リスクの上昇と関連していた一方、BZ/Zs群とORA/Ram群との間で転倒リスクに有意差は認められなかったとしている。その上で、睡眠薬の種類を変更するだけでは転倒予防は難しく、患者の脆弱性そのものに着目した対策が重要になる可能性があると考察している。 なお、著者らは、本研究が観察研究であるため因果関係は証明できず、睡眠薬が必要となる患者の背景因子による影響を完全には除外できない点を限界として挙げている。また、本研究は薬剤クラス間の同等性を検証するように設計された研究ではなく、BZ/Zs群とORA/Ram群の転倒リスクが同等であることを示したものではないとしている。

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統合失調症と自閉スペクトラム症に共通する6つのポイント

 歴史的に、統合失調症と自閉スペクトラム症(ASD)は、一方は精神疾患、もう一方は神経発達障害として、それぞれ異なる疾患に分類されてきた。しかし近年の研究では、これら2つの疾患の間には、重複している部分が多い可能性が示唆されている。サウジアラビア・Northern Border UniversityのNahi Sabih Alruwaili氏らは、両疾患の類似点を示す疾患発症に関与する生物学的メカニズムについてのレビューを行った。Progress in Neuro-psychopharmacology & Biological Psychiatry誌オンライン版2026年6月11日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・疾患発症に関与する生物学的メカニズムには、ドパミン、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリンといった神経伝達物質系の調節不全、BDNFシグナル伝達の変化、ヒスタミン調節の異常、ミクログリアの活性化、神経炎症、補体介在性のシナプス除去、脳腸相関シグナル伝達、エンドカンナビノイド系の機能不全などが挙げられる。・重要なポイントとして、上述の生物学的メカニズムは、うつ病、アルツハイマー病、多発性硬化症などの中枢神経系疾患にも認められる。・他の多くの中枢神経系疾患についても、統合失調症やASDと共通の生物学的メカニズムを有している可能性がある。しかし、統合失調症とASDの類似性は、次の6つの理由から顕著であった。(1)統合失調症とASDにみられる生物学的メカニズムが著しく類似している(2)遺伝率のパターンが高い整合性を示す(3)発達の経過が類似している(4)神経回路レベルでの病態が類似している(5)双方向的な疫学的リスクを共有している(6)神経発達スペクトラムに沿って推移している・こうした重複を認識することは、早期診断やバイオマーカーの開発、さらには疾患横断的な治療戦略(例えばメマンチン、α7ニコチン受容体作動薬、抗炎症薬などの既存薬のリポジショニングを含む)において、重要な意義を持つ可能性がある。・ただし、共通する経路を早期にターゲットとすることが、ASDにおける長期的な精神疾患リスクに影響するかを明らかにするには、縦断的な研究が必要とされる。

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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD:Duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 定義デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、機能的ジストロフィンの欠損により、進行性の筋力低下および筋萎縮を来すX染色体潜性遺伝疾患である。小児期に発症する筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、重症型に位置付けられる。■ 疫学男児出生約3,500~5,000人に1人の割合で発症する。人種による発症頻度の明らかな差はない。女性保因者も骨格筋症状や心筋症を呈することがあり、定期的な評価が推奨される。■ 病因X染色体短腕(Xp21.2)に位置し、筋細胞膜直下に存在する細胞骨格タンパク質であるジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異(欠失、重複、微小変異など)が原因である。ジストロフィンは細胞骨格と細胞外基質を連結し、筋収縮時の機械的ストレスから細胞膜を保護する役割を担う。機能的ジストロフィンが欠損することで筋細胞膜の安定性が失われ、筋線維の壊死と再生が繰り返され、最終的に筋組織が脂肪組織や結合組織に置換される。■ 症状乳幼児期から運動発達の遅れ(定頸や歩行開始の遅延など)として認識されることが多い。幼児期には転びやすい、走れない、階段昇降が困難といった症状が顕在化する。床から立ち上がる際に、自身の膝や大腿に手をついて立ち上がる登攀性起立(ガワーズ徴候)や、腓腹筋の仮性肥大が高頻度に見られる。また、認知機能や発達特性(知的障害、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症など)を合併することがある。筋力低下は体幹および近位筋から始まり、次第に遠位筋へと進行する。従来は10歳前後で歩行を喪失することが多かったが、現在ではステロイド療法などにより歩行可能期間は延長している。歩行喪失後は車椅子の使用が必要となる。病状の進行に伴い、脊柱変形(側弯症)、呼吸筋力低下による呼吸機能障害、および拡張型心筋症に類似した心筋障害を合併する。嚥下機能障害や消化管の蠕動運動低下も生じうる。さらに、長期経過では骨粗鬆症や骨折、肥満なども重要な合併症となる。■ 分類ジストロフィン遺伝子変異に起因する疾患群は「ジストロフィノパチー」と総称される。DMDはジストロフィンがほぼ完全に欠損する重症型である。その一方で、遺伝子変異があるものの、異常なジストロフィンタンパク質が一部産生され、臨床症状がより軽度で歩行機能が長期に維持されるタイプを「ベッカー型筋ジストロフィー」(BMD)と分類する。■ 予後かつては20歳前後で呼吸不全や心不全により死亡することが多かった。しかし、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)などの呼吸管理の進歩、心筋保護薬の早期導入、ステロイド治療の普及、さらに多職種による集学的ケアの確立により、歩行可能期間および生命予後は大きく改善しており、40~50代以上まで生存する患者も増えている。2 診断 (検査、鑑別診断を含む)初めに診断のフローチャートを示す(図)。図 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の診断フローチャート画像を拡大する血液検査では、筋崩壊を反映してクレアチンキナーゼ(CK)値が著明に上昇する(数千~数万IU/L)。とくに発症初期や無症状の乳幼児期においても異常高値を示すため、スクリーニングとしてきわめて有用である。偶発的な肝酵素(AST、ALT)の上昇を契機に発見されることも多く、肝疾患との鑑別においてCK値の確認が必須である。確定診断には遺伝子検査が行われる。まず、MLPA法などによりDMD遺伝子の欠失・重複変異を検索する。これで変異が同定されない場合は、次世代シークエンサー(NGS)などを用いて点変異や微小欠失・挿入などの塩基配列解析を行う。遺伝子診断で確定できない特殊例では筋生検を考慮する。鑑別診断としては、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、先天性ミオパチー、多発性筋炎などが挙げられる。診断確定後は遺伝カウンセリングを行い、保因者診断や家族への遺伝学的情報提供についても検討する。3 治療現在、疾患を完全に治癒させる根治療法は確立していないが、病状の進行遅延を目的とした薬物療法と、合併症に対する対症療法・集学的ケアが行われる。薬物療法の基本はステロイド薬(プレドニゾロンなど)の投与である。これにより筋力低下の進行を遅らせ、歩行可能期間の延長、呼吸・心機能の低下抑制、側弯の進行防止などの効果が得られる。また、近年、特定の遺伝子変異を対象としたエクソンスキップ療法が実用化されている。これはアンチセンス核酸を用いてmRNAの成熟過程で特定のエクソンを読み飛ばし、機能は不完全ながらも一部機能するジストロフィンタンパク質を産生させる治療である。国内ではエクソン53スキッピング薬であるビルトラルセン(商品名:ビルテプソ点滴静注)が承認されている。対症療法として、関節可動域(ROM)維持、装具療法、立位保持、呼吸リハビリテーションを継続的に実施することが重要である。呼吸機能障害に対しては、早期からの呼吸機能評価とNPPVの導入、機械的咳介助が行われる。心筋障害に対しては、ACE阻害薬の早期からの投与が推奨されている。病状の進行や変化に応じて、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノンなど)の併用などが検討される。4 今後の展望(治験中、研究中の診断法や治療薬剤など)今後の有望な治療法の1つが遺伝子治療である。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、全身投与により骨格筋および心筋へのマイクロジストロフィン遺伝子の導入を図る治療法(デランジストロゲン モキセパルボベク、商品名:エレビジス点滴静注)は、国内でも2026年2月に承認された。本来のジストロフィン遺伝子は巨大でありAAVベクターに全長を搭載できないため、マイクロジストロフィンは筋細胞膜の安定化に不可欠な最重要機能ドメイン(領域)のみを残し、全長の約3分の1に小型化した人工遺伝子である。導入後の長期的な有効性評価に加え、安全性課題として急性肝障害、血小板減少、心筋障害、および重篤な免疫性筋炎への注意とモニタリングが今後の重要な課題となっている。また、筋肉の成長を阻害するミオスタチンを標的とした抗体薬や、炎症・線維化を抑える新たな低分子化合物などの臨床試験が進行しており、病態や進行段階に応じた治療の選択肢がさらに広がることが期待される。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)小児神経科、脳神経内科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、循環器内科、呼吸器内科、臨床遺伝科など※本疾患は進行に伴い全身性の合併症や認知・発達特性を伴うため、スクリーニングで疑われた段階、あるいは確定診断後は、神経筋疾患を専門とする医療機関において、リハビリテーション、循環器、呼吸器、整形外科、栄養、心理、遺伝カウンセリングなど多職種連携による集学的治療が可能な体制へ紹介することが望ましい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考となるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報NMDポータルサイト(神経筋疾患ポータルサイト):デュシェンヌ型筋ジストロフィー(国内の神経筋疾患に関する情報を集約した総合サイト。最新の診療ガイドラインやケア、研究動向に関するリソースが網羅的に提供されている)難病情報センター 筋ジストロフィー(指定難病113)(医療費助成の対象疾患であり、公的制度の概要や申請手続きに関する基礎情報が得られる)Remudy(神経筋疾患患者登録システム)(国立精神・神経医療研究センター[NCNP]が運営する患者レジストリ。疫学データと市販後調査を区別して収集・管理しており、適切な情報提供や臨床試験の強力な基盤として機能している)MDクリニカルステーション(筋ジストロフィーの臨床研究班による、医療従事者および患者・家族向けの診療ガイドラインやケアマニュアル等の情報提供サイト)患者会情報一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会(JMDA)(患者や家族への支援、情報提供、交流活動を行う代表的な患者会組織) 1) 日本神経学会ほか監修. デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014. 南江堂:2014. 2) Komaki H, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2020;7:2393-2408. 3) Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2023;388:2368-2371. 4) Nakamura H, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:60. 5) 難病情報センター. 筋ジストロフィー(指定難病113). 公開履歴初回2026年7月24日

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第322回 薬局への「ポイント付与制限」は誰のなんのため?

INDEX薬局を真剣に選ぶとき薬局選択、多くは質ではなく…ポイント規制への拭えぬ違和感年を取ったせいもあってか、私も医療機関・薬局のお世話になることが増えた。より詳細に説明すると、年ゆえにちょっと気になる症状があると、医療機関受診を選択することが増えたというのが正確だ。そのような中、先日処方箋を持って行ったある薬局で、決済にQRコード払いを選択したところ、薬剤師から次のように告げられた。「あっ、7月から現金以外の決済手段は当薬局のポイントが付かなくなったんですよ。すみません」「ははーん」と思った。医療者ならばご存じの先生も多いと思うが、6月23日に厚生労働省保険局医療課が発出した事務連絡「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2第1項に規定する経済上の利益の提供による誘引の禁止について」1)の影響であることは明らかだった。通知内容を簡単に要約すると、一部の保険薬局が保険調剤に伴う自己負担支払い時に薬局独自ポイント、あるいはVポイントなどの共通ポイントを付与する際は、決済手段で付与されるポイントと併せて1%超になるのは罷りならんというものである。この法的根拠は、通知内にもあるように保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(療担規則)で「保険薬局は、患者に対して、第四条の規定により受領する費用の額に応じて当該保険薬局における商品の購入に係る対価の額の値引きをすることその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、当該患者が自己の保険薬局において調剤を受けるように誘引してはならない」となっているからである。要は調剤技術料や薬価は公定であり、そこへのポイント付与は医療保険制度が有する公的な性格上馴染まないこと、また薬局は機能や業務の質によって選択されるべきものであり、その選択を経済的な利益で誘導してはならないという理屈だ。ただし、前出のように保険薬局でクレジットカード払いなどキャッシュレス支払いが可能な場合はそれによるポイント付与があるのはよく知られたこと。ただ、この場合のポイント付与者はあくまで決済事業会社であり、薬局側が経済的利益で誘導をしているものではないので許容されている。もっとも決済ポイントも通知内での「患者の支払いの利便性向上又は保険薬局における事務の効率化の観点から、当面、やむを得ないものとして取り扱ってきたところ」という記述からもわかる通り、「認めたくはないが、仕方がない」というのが厚生労働省のスタンスである。私のケースは、薬局独自ポイント、QRコード決済のポイントがそれぞれ1%なのでこれまでは合計2%であり、厚生労働省の「けしからんライン」を超えてしまう。この薬局で現金払いのみ、今後もポイントが付与されるのは、このラインの中に納まるからだろう。薬局を真剣に選ぶときちなみに私がこの薬局を選択したのは、とあるお薬手帳アプリの使用を開始した際、アプリに登録されている薬局で処方を受け、お薬手帳にQRコードでデータを取り込むと、ポイントが付与される仕組みに乗っかったからである。厚生労働省の見解に沿えば、最もけしからん奴だろうし、読者からもお叱りを受けるかもしれない。ただし、この選択には私なりの理由がある。実は5年ほど前まではまったく別のお薬手帳アプリを使用していたが、これが使いにくかったのである。それはアプリ上でかかりつけにする薬局(調剤報酬上のかかりつけ薬剤師とは無関係)を選ぶ際、アプリ提供企業が各薬局に対して発行していたコード番号を入力しなければならなかったのだ。これを行わないと、処方箋写真の画像送信機能などは使えない仕組みだった。そしてこの制約のために私はヒヤッとさせられたことがあった。ある時、処方箋画像を送信しようとしたところ、なぜか送信不能だった。理由はすぐに判明した。このアプリは、登録したかかりつけ薬局の休業期間と処方箋送信機能が連動しており、私がかかりつけとしていた薬局がこの時、休業中だったのだ。間の悪いことに処方箋は薬局の休業期間中に失効してしまう見込みだった。焦ってアプリでほかの薬局を検索したのだが、アプリ内だけでかかりつけ薬局の変更はできず、そのうえ新たな薬局でそこのコード番号を教えてもらって再登録しなければならなかった。しかも、この時期はあいにくほかの薬局も休業期間中。ただ、近隣の薬局で1ヵ所だけ、私の処方箋の有効期限の最終日に営業を再開するところがあり、この時はその日に朝一番に薬局に赴き、何とか事なきを得たのである。この苦い経験とコロナ禍中に起きたジェネリック医薬品の供給問題もあり、次に中長期的な処方を受ける場合は、薬局とお薬手帳アプリはより真剣に選ぼうと思っていた。たまたま今回選定するに当たって複数の候補の中から当該アプリを選んだのは、前述のようなお薬手帳への処方薬登録でポイントがもらえることも一因だった。ただ、これとて「ポイントもゲット!」などというウキウキしたものではない。医療者の皆さんには申し訳ないが、私だけでなく多くの人はなるべくなら医療機関のお世話になりたくないのが本音だ。しかし、やむを得ずそうなっているネガティブな気分を少しでも緩和できるのが、少なくとも私にとってはポイントだった。そしてそのアプリから現在の薬局を選んだのは、大手ドラッグストアの調剤部門であるため、営業日が多く、供給不安の中でも相応に在庫を確保していると思われたからである(これとて個店薬局の皆さんからは苦々しく思われるかもしれない)。それが冒頭で触れた薬局である。結果としてみれば、私にとってこの選択は当たりだった。詳しくは過去の本連載(第265回)を参考にしていただきたいが、私が椎間板ヘルニアで処方されたプレガバリンの中止後に現れた睡眠障害の副作用を必死に調べて教えてくれたのが、冒頭の薬剤師だったのだ。これ以降、今のところこの薬局・薬剤師に私は満足しており、この薬局では取り寄せが予想される薬の処方箋もすべて集約している。きっかけはポイントだが、ポイントが付与されなくなった今後も薬局・薬剤師を変えるつもりはない。ただ、こうした巡り会わせはやや珍しいかもしれない。薬局選択、多くは質ではなく…たとえば、2021年に内閣府が公表した「薬局の利用に関する世論調査」2)によると、「あなたは、薬局を一つに決め、薬剤師を一人に決めていますか」との問いに「かかりつけ薬剤師・薬局を決めている」あるいは「薬局は一つに決めているが、かかりつけ薬剤師は決めていない」を合わせた回答割合は26.0%に対し、「病院や診療所ごとにその近くにある薬局に行く」が57.7%。要は患者の薬局選択の最大の理由は「立地」である。ほかの同種調査などを見ても結果は同じであり、この点は医療者も多くが納得するだろう。逆に異なる調査結果があったら教えてほしいくらいだ。多くの人は薬局を立地で決める。私の場合はたまたまお薬手帳アプリとそのポイントが一因となった点は違うものの、結局のところ機能や提供される医療の質で薬局を選択している人のほうが少数派と言い切っても言い過ぎとは思わない。さらに言えば、患者にとって医療機関と違い、薬局を選ぶ術は多くはない。医療機関の場合はまず診療科が分かれ、加えて診断と治療方針を決めるという、ほかのどの医療提供施設にもない絶対的な“技術力”が存在する。そのため、受診前に医療機関の情報を調べる患者は多いだろう。この点で薬局はかなりディフェンシブである。薬局はどの医療機関からの処方箋でも原則応需義務があり、結果としてゼネラリストにならざるを得ない。この性格上、患者にとって薬局の差はきわめてわかりにくいのだ。たとえば「当薬局は小児科医院の近くにあるため、小児科の処方で用いられる医薬品を幅広く備蓄しています」という広告は、今の広告規制でも不可能ではないだろうが、これが患者に響くだろうか? そもそも前述のように多くの患者が“距離”で薬局を選択している中で、各薬局がそうした独自の広告・広報をホームページなどで行っても見てもらえるだろうか? それ以前に薬局に行く前にネット上で検索して調べるだろうか? おそらくどれも可能性としては低い。そもそも機能や質で薬局を選べと言われても、多くの患者はどうしていいかわからないだろう。「ならば『医療情報ネット(ナビイ)』3)があるじゃないか」との声も聞こえてきそうだ。確かに、ナビイは市区町村から薬局検索ができ、可能な調剤業務、設備、さらには駐車場・駐輪場の有無まで事細かに条件を設定して薬局を検索できる。優れモノとは言えるかもしれないが、逆に作り込み感があり過ぎるというのが個人的な感想である。患者にとっては各条件に設定されている調剤業務や設備の意味から検索して調べなければならない可能性がある。そしてこの作り込みのせいか、ページが重い。だが、最も残念なことは知名度の低さである。2021年度厚生労働科学研究「医療の質評価と医療情報の提供に関する調査研究」4)によると、一般住民での認知度はわずか11%にとどまる。厚生労働省や都道府県がその認知度向上に向けた取り組みを行っているという話も、私自身は記憶がない。さらに言うと、病院ならば日本医療機能評価機構の病院機能評価という第三者評価があるが、薬局にはない。結局、患者にとって機能や質で薬局を選ぶ方法は事実上あってないようなものなのだ。この状況で、「出る杭は打て」よろしく、ことさらポイントをあげつらうのは、やはり納得がいかないのである。ポイント規制への拭えぬ違和感そもそも患者の自己負担は患者自身の懐から拠出されるものであり、ポイント付与の原資は付与する側が負担するので、医療保険財政には悪影響は及ぼさない。さらに言えば、厚労省が渋々認めている決済事業者によるポイント付与には1.5%を超えるケースもあることは多くの人が知っているだろうし、薬局が独自ポイントや共通ポイントを付与しても1~2%に過ぎない。たかだか5%未満のポイントがそれほど問題なのだろうかと個人的には思ってしまうのだ。“放言”(少なくとも本人はそう思っていない)ついでに言えば、厚労省は決済事業者が付与するポイントも半ば苦々しいと思っているのであろうことは前述したが、にもかかわらずナビイの検索条件にはキャッシュレス決済の検索項目を設定している点にも矛盾を感じざるを得ない。いずれにせよ複数回の改正は経ているとはいえ、1957年という洗濯機の家庭普及率が約20%だった時代の療養担当規則を金科玉条にするのは、やはり時代遅れ感がありすぎる。さてここで厚労省の皆さんや薬局によるポイント付与に極めて否定的な皆さまにお伺いしたい。皆さまはどのような基準で薬局を選んでいますか? もちろんポイントということはないでしょう。まさか「距離」ではないでしょう。そして薬局が距離で選ばれるようになった遠因、つまり病院前の門前薬局はなぜ乱立することになったのでしょうか?参考1)厚生労働省保険局医療課:保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2第1項に規定する 経済上の利益の提供による誘引の禁止について(令和8年6月 23日)2)内閣府政府広報室:「薬局の利用に関する世論調査」の概要(令和3年2月)3)医療情報ネット(ナビイ)4)厚生労働科学研究成果データベース:医療の質評価と医療情報の提供に関する調査研究

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再発性多発性硬化症、リツキシマブvs. ocrelizumab/NEJM

 疾患活動性が認められる再発性多発性硬化症(MS)患者において、疾患活動性の抑制(治療開始後6~24ヵ月のMRIにおける評価)に関して、リツキシマブのocrelizumabに対する非劣性が示され、重篤な有害事象の発現頻度は同程度であった。ノルウェー・Haukeland University HospitalのOivind Torkildsen氏らOVERLORD-MS Investigatorsが、第III相無作為化二重盲検多施設共同非劣性試験「OVERLORD-MS試験」の結果を報告した。再発性MSに抗CD20モノクローナル抗体は有効だが、これまで直接比較のエビデンスは観察研究のデータに限られていた。NEJM誌2026年7月2日号掲載の報告。6~24ヵ月のMRIで新規病変/病変拡大が非検出の患者の割合で評価 OVERLORD-MS試験は、年齢18~60歳で、直近12ヵ月に再発性MSの再発を診断され、炎症性の疾患活動性の症状(直近12ヵ月に1回以上の臨床的再発、またはMRI上で認められた1つ以上の新規病変/病変拡大で定義)を示し、EDSSスコア0~4.0(スコア範囲:0~10、高スコアほど障害の程度が大きいことを示す)であった患者を対象とした。 研究グループは、被験者をリツキシマブまたはocrelizumabの投与を受ける群に3対2の割合で無作為に割り付け、6ヵ月ごとに24ヵ月間治療した。 主要エンドポイントは、治療開始後6~24ヵ月のT2強調MRIにおける新規病変または病変拡大が認められなかったこととした。非劣性の定義は、リスク群間差(リツキシマブ-ocrelizumab)の95%信頼区間(CI)下限が-10%ポイント以上とした。副次エンドポイントには、有効性および安全性などが含まれた。リツキシマブ群92.2%、ocrelizumab群94.8%で非劣性を確認 2020年11月~2022年11月に218例が無作為化され、216例が治療を受けた(リツキシマブ群132例、ocrelizumab群84例)。 治療開始後6~24ヵ月にT2強調MRIにおける新規病変/病変拡大が認められなかった患者の推定割合は、リツキシマブ群92.2%、ocrelizumab群94.8%であった。リスク群間差は-2.6%ポイント(95%CI:-9.4~4.3)であり、事前に規定した非劣性基準を満たした。 再発率、障害アウトカム、および認知機能プロファイルは、両群間で同様であった。 感染症は、リツキシマブ群(82%)でocrelizumab群(69%)より多く認められたが、重篤な有害事象の発現頻度は同程度であった(それぞれ8%と7%)。

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ASCO2026 レポート 老年腫瘍(後編)

レポーター紹介ここ数年、ASCO Annual Meetingでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)や、GAで明らかになった脆弱性に対するサポートの有用性を検証する研究が発表され、老年腫瘍学の領域を大いに盛り上げてきた。前編に続き、筆者が興味深いと感じた研究を抜粋して紹介する。AIはGAを日常診療に近付けるか - 「GAができない問題」をAIは解決できるのか前編で述べたように、高齢がん患者の治療判断においてGAは重要な情報を与える。しかし、GAの重要性が示されることと、それを日常診療で広く行えることは別問題である。外来診療では、病期、治療歴、遺伝子変異、治療選択肢、有害事象など、確認すべきことが多い。その中で、すべての高齢がん患者に十分なGAを行うことは容易ではない。会話型AIを用いてGAを行うプラットフォームGRACE(#1658)今回報告されたGRACE(Geriatric Oncology Risk and Capability Evaluation)についての研究は、この課題に対して、会話型AIを用いてGAを行うものである1)。GRACEは、自然言語で患者とやり取りしながらGAを実施するAIプラットフォームであり、手動GAとの一致度が検討された。対象は65歳以上の成人70例で、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の患者向けオンラインポータルや関連する高齢者施設を通じて登録された。さらに、15人の医療者から質的な意見も収集された。AIによる評価結果と医療者が実施した従来のGAとの一致度を示す指標(感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、Cohen’s κ、Gwet’s AC1)が評価された。GRACEは全体として感度0.73、特異度0.94、Cohen’s κ 0.63、Gwet’s AC1 0.82と、医療者が実施したGAとおおむね良好な一致度を示した。とくにポリファーマシーの評価ではκが約0.97、Gwet’s AC1が約0.98と非常に高い一致度を示した。一方、生活機能、社会支援、心理面といった領域では相対的に一致度が低かった。本研究は70例を対象とした小規模なものであり、GRACEによって治療毒性、入院、QOL、治療方針の適正化などが改善するかは示されていない。したがって、現時点でAIがGAを代替できると結論付けることはできない。むしろ、AIが得意な領域と苦手な領域を示した研究と捉えるべきだろう。薬剤数や併存症のように構造化しやすい情報はAIでも拾いやすいが、社会支援、心理面、生活機能のように患者ごとの状況や背景によって評価が変わる領域では、医療者による確認が不可欠である。それでも、本研究は興味深い。診察前にAIが患者の問題点を拾い上げ、医療者が確認すべき項目を整理することができれば、GAを日常診療に持ち込むハードルは下がる可能性がある。AIが老年腫瘍学を代替するのではなく、GAを日常診療に近付ける補助線になるのかもしれない。術後せん妄を予防できるか - 「薬を足せば防げるのか」という問いへの明確な答え(#LBA12002)最後に、ASCOらしく正統派のランダム化比較試験を紹介したい。今回、日本から高齢がん患者における術後せん妄予防を目的としたラメルテオンの多施設共同プラセボ対照二重盲検比較試験が報告された2)。術後せん妄は、高齢がん患者において臨床的に重要な合併症であり、入院期間の延長、身体機能低下、施設退院などにつながりうる。ラメルテオンはメラトニン受容体作動薬であり、睡眠覚醒リズムへの作用を介したせん妄予防効果が期待された。主な適格規準は、65歳以上、全身麻酔下でがん手術を受ける患者、術後5日以上の入院が予定されていることなどであった。患者はラメルテオン群とプラセボ群に1:1で割り付けられ、ラメルテオン群では手術4~8日前から術後4日目までラメルテオン8mgを就寝前に内服した。プラセボ群でも同様のスケジュールでプラセボが投与された。なお、全例に多職種によるせん妄予防介入が行われていた。主要評価項目は75歳以上の集団における術後5日以内のせん妄発症割合であり、主要な副次評価項目として65歳以上全体での、術後せん妄発症割合などが設定された。766例がランダム化され、ラメルテオン群383例、プラセボ群383例に割り付けられた。75歳以上のITT集団はラメルテオン群316例、プラセボ群314例であり、平均年齢はいずれも78.5歳であった。結果、75歳以上の集団における術後せん妄発症割合は、ラメルテオン群22.5%、プラセボ群22.9%であり、統計学的有意差は認められなかった(p=0.9618)。65歳以上の集団でも、術後せん妄発症割合はラメルテオン群22.5%、プラセボ群21.3%であり、ラメルテオンによる予防効果は示されなかった。安全性では、めまいがラメルテオン群16.4%、プラセボ群9.0%と、ラメルテオン群で多かった。少なくとも本試験の結果からは、がん手術を受ける高齢患者に対して、術後せん妄予防を目的にラメルテオンをルーチンに投与することは支持されない。一方で、高齢がん患者で問題になりやすい術後せん妄を、二重盲検プラセボ対照第III相試験として検証した点には大きな意義がある。また、negativeな結果であったことは、せん妄予防が薬剤を1つ追加するだけで解決するほど単純ではないことも示している。せん妄の発症には、睡眠、疼痛、感染、脱水、薬剤、認知機能、感覚障害、環境変化など多くの因子が関与する。今後は、単剤投与だけでなく、多職種による包括的な予防策の中で、どの介入が本当に有効なのかを検証していく必要があるだろう。老年腫瘍学は、高齢がん患者の脆弱性を評価するだけでなく、そこで明らかになった問題に対して、どのような介入が本当に患者の転帰を改善するのかを検証していく段階に来ているのだと思う。おわりにASCO2026の老年腫瘍に関連する演題を振り返ると、「高齢がん患者にGAを行うべきか」という議論は、少しずつ次の段階へ進んでいるように感じた。「GAは重要である、暦年齢だけで判断してはいけない」という総論を繰り返すだけなら難しくない。難しいのは、その評価を忙しい診療の中で実際に行い、患者にとって意味のある治療選択や支援につなげることである。個人的には、近年「GAを実施すること」自体がやや一人歩きし、日常診療で医療者が本当に困っていることが、置き去りにされているのではないかと感じることもあった。しかし、今回紹介した演題からは、高齢がん患者をどう分類するか、GAをどう日常診療に持ち込むか、術後せん妄をどう予防するのかという、医療者が実際に悩んでいる問いを研究として扱い、少しずつ前に進めようとする姿勢が感じられた。GAを実施しただけで患者の転帰が良くなるわけではないし、frailと分類しただけで治療方針が自動的に決まるわけでもない。術後せん妄も、薬剤を1つ追加すれば解決するほど単純ではない。それでも、こうした問いに正面から向き合う研究が積み重なっていることは、老年腫瘍学に関わる者として率直に嬉しく、非常に有意義な学会であったと感じた。1)Naeim A, et al. GRACE: A conversational AI platform for geriatric oncology risk and capability evaluation.2)Sadahiro R, et al. Ramelteon for prevention of postoperative delirium in elderly cancer patients: A randomized, double-blind, placebo-controlled multicenter trial, JORTC-PON02/J-SUPPORT2103/NCCH2103

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自殺企図と関連する睡眠薬使用、状況や時間に応じてどう変化するか?

 近年の睡眠薬の処方は、ベンゾジアゼピン系薬剤から、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)やメラトニン受容体作動薬などの非GABA作動性睡眠薬へと移行している。獨協医科大学の佐々木 太郎氏らは、自殺企図に関与する睡眠薬の影響が状況依存的、経時的に変化するかどうかを調査した。Neuropsychopharmacology Reports誌2026年6月号の報告。 本研究は、多施設共同レトロスペクティブコホート研究として実施された。日本の3つの医療機関に2020年4月〜2025年3月の間に自殺企図で受診した患者を連続して登録した。受診時に回収した空の薬剤パッケージから、自殺企図に関与した睡眠薬を特定した。ベンゾジアゼピン系薬剤および非GABA作動性睡眠薬(DORAおよびメラトニン受容体作動薬)の年間使用割合を、すべての自殺企図、過剰摂取に関連する自殺企図、睡眠薬が関与した過剰摂取に関連する自殺企図の3つの条件でコクラン・アーミテージ傾向検定を用いて分析した。さらに、DORAとメラトニン受容体作動薬を分けて、それぞれ分析した。 主な結果は以下のとおり。・自殺企図1,111件のうち、648件が過剰摂取に関連するものであった。・非GABA作動性睡眠薬の使用は、3つのすべての条件において、経時的に有意な増加を認めた。・一方、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用は、過剰摂取に関連する自殺企図においてのみ有意な減少が認められた。・非GABA作動性睡眠薬を細分化すると、DORAの関与は、過剰摂取に関連する自殺企図(χ2=7.3048、p=0.006877)およびすべての自殺企図(χ2=7.6384、p=0.005714)の両方で有意な増加傾向を示した。・メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)の関与は、いずれの分析においても有意な経時的変化を示さなかった。・全体として、非GABA作動性睡眠薬の関与の増加は主にDORAによるものであった。 著者らは「研究期間中、自殺企図に関与した睡眠薬は状況依存的に変化した。非GABA作動性睡眠薬の増加はDORAによって引き起こされたが、ベンゾジアゼピン系薬剤の関与の減少は過剰摂取関連の状況でのみ検出された。これらの結果は、睡眠薬の入手可能性の変化が、self-poisoningに関与する薬剤のプロファイルに影響を与える可能性を示唆している」と結論付けている。

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ガバペンチノイドと併用薬で薬物中毒リスクが上昇か

 ガバペンチノイド系鎮痛薬(以下、ガバペンチノイド)を他の薬剤と併用すると、薬物中毒のリスクが上昇する可能性が、新たな研究で示された。ガバペンチノイドとオピオイド系鎮痛薬(以下、オピオイド)やベンゾジアゼピン系薬剤(以下、ベンゾジアゼピン)の併用はこのリスクを高め、特に治療初期には顕著なリスク上昇が認められたという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の薬剤疫学者であるKenneth Man氏らによるこの研究は、「PLOS Medicine」に4月16日掲載された。 Man氏らは、「今回の結果は、ガバペンチノイドが安全ではない、あるいは処方すべきではないことを示すものではない。ただ、特に他の薬剤を使用中の患者に処方する際には注意が必要であり、臨床医は患者を慎重にモニタリングする必要がある」とニュースリリースで述べている。 ガバペンチノイドは、主にガバペンチンやプレガバリンミロガバリンを含む薬剤群の総称であり、てんかん、神経痛、不安などの治療に広く用いられている。近年、ガバペンチノイドは、オピオイドの代替として鎮痛目的での使用が増加しており、現在では米国では7番目に多く処方される薬となっている。世界的に見ても、その使用量は2008年から2018年の間に4倍以上に増加している。 今回の研究では、2010年1月1日から2020年12月31日の間にガバペンチノイドを処方され、薬物中毒で入院した経験がある英国の18歳以上の患者1万6,827人(女性53.5%)を対象に、ガバペンチノイドによる治療と薬物中毒との関連が検討された。解析は自己対照ケースシリーズ(SCCS)デザインを用い、同一患者内で治療開始の90日前、治療開始後0~28日、29~56日、57~84日、およびそれ以降の治療期間に分けて、期間ごとの薬物中毒リスクを比較した。薬物中毒の症状は、意識消失、呼吸困難、けいれんなどである。観察期間中のいずれかの時点で、対象者の約9割がガバペンチノイドとオピオイドを、半数以上がベンゾジアゼピンを併用していた。 その結果、薬物中毒のリスクは、ガバペンチノイド非使用期間(対照期間)と比較して、治療開始の90日前にすでに約2倍に上昇していることが示された(調整発生率比2.09、P<0.001)。治療開始後0~28日間でもリスクは約1.8倍(同1.81、P<0.001)と高く、その後は徐々に低下したものの、それ以降の治療期間でも軽度の上昇が持続した(同1.11、P<0.001)。このことは、薬物中毒のリスクを軽減するためにガバペンチノイドを使用しても、その効果は限定的である可能性を示唆している。さらに、オピオイドやベンゾジアゼピンの併用によりリスクはさらに上昇し、治療開始後0~28日間では、オピオイド併用で約2倍、ベンゾジアゼピン併用で約4倍に達した。 薬物中毒リスクが最も高かったのがガバペンチノイドによる治療開始前90日間であったことは、オピオイドやベンゾジアゼピンなどの使用に対する懸念を背景に、医師がガバペンチノイドを処方した可能性を示唆している。論文の筆頭著者であるUCLのAndrew Yuen氏は、「臨床医がガバペンチノイドを処方する判断は、オピオイドなど他の薬剤に関連した薬物中毒リスクを減らす試みである場合がある」と述べている。同氏はまた、「ガバペンチノイドによる治療開始後に薬物中毒リスクはやや低下したものの、それでもなおリスクは高い状態が続いていた。この結果は、臨床医が治療期間を通じて継続的に薬物中毒リスクへ注意を払う必要があることを示唆している」と指摘している。 なお、ガバペンチノイドが直接的に薬物中毒を引き起こすかどうかは依然として不明である。ただし、これらの薬剤がオピオイドやベンゾジアゼピンなど他の薬の鎮静作用を増強する可能性があることを示すエビデンスは存在しているという。

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神経疾患外来で患者と医師に“認識ギャップ”、機械学習モデルが予測可能性示す

 神経疾患の外来診療では、患者と医師の評価や満足度に小さなズレが生じることがある。この認識ギャップは、治療理解の不十分さや信頼関係の低下を通じて、生活の質や長期的な治療アウトカムに影響し得る。今回、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんの患者と医師のペアを対象にアンケートを実施し、認識ギャップを定量化するとともに、機械学習モデルでギャップを予測できることを明らかにした。研究は、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科の大山彦光氏(現:埼玉医科大学医学部脳神経内科)、富沢雄二氏、服部信孝氏らによるもので、詳細は2月9日付で「Scientific Reports」に掲載された。 パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんなどの神経疾患は慢性かつ症状が多様で、進行に伴い日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす。近年は共同意思決定(SDM)の重要性が強調されているが、診察時の限られた情報に基づく判断では、患者と医師の間で疾患認識や治療目標に認識ギャップが生じる可能性がある。実際、神経疾患領域でも症状の重要度や治療目標、再発評価などを巡るズレが報告されているが、患者と主治医のペアで直接比較した研究は限られている。さらに、こうした認識ギャップを予測する試みも十分ではない。そこで本研究(GAP-AI研究)は、神経疾患患者と主治医の間の認識ギャップを定量化し、その関連因子を検討するとともに、機械学習モデルによる予測可能性を評価することを目的とした。 本研究は単施設の観察研究であり、患者197人とその主治医12人を対象に、2回の外来受診時に質問票への回答を求めた。質問票には、患者満足度を評価する18項目のPatient Satisfaction Questionnaire Short Formや、患者と医師双方が回答する9項目のShared Decision Making Questionnaire、Barthel Index、SF-36の各下位尺度を用いた。主要評価項目は、患者と医師の回答を項目ごとに対応させて算出した差(すなわち認識ギャップ)とした。差は絶対値でも評価し、ギャップの大きさを中央値で「一致群」と「不一致群」に分類した。患者背景および医師の年齢・経験年数などの属性との関連を単変量解析で検討し、さらに重回帰分析により認識ギャップに影響する独立因子を同定した。 本研究は2023年1~8月に実施された。患者の平均年齢は58.1歳で、女性が60.4%を占めた。疾患はパーキンソン病が最多(69.5%)で、多発性硬化症、てんかんが続き、平均罹病期間は7.4年であった。多くは同居者がおり、介護を要しない軽~中等症例が中心であった。一方、医師の半数は35~44歳で、83.3%が男性であった。4割超が20年以上の経験を有し、多くがパーキンソン病を専門とする神経内科専門医であった。 患者と医師の回答には各質問票で一定の認識ギャップが認められ、総得点は有意に異なり、一致度(κ係数)は全体に低値であった。SF-36下位尺度の一致は19.3%にとどまった。ギャップには患者年齢、診断名、介護者の有無、通院頻度、障害度などの患者側因子に加え、医師の年齢、経験年数、専門医資格、担当患者数などの医師側因子が関連していた。重回帰分析では患者年齢や介護者の有無、医師の経験年数などが独立因子として抽出され、一部疾患では年収も関連していた。 また、研究データに基づき複数の機械学習アルゴリズムを用いて予測モデルを構築したところ、k近傍法(k-nearest neighbors)アルゴリズムが、主要評価項目で定義した患者と医師の認識ギャップの有無を予測する上で最も良好な性能を示した。 著者らは、GAP-AI研究により神経疾患患者と医師の間に認識ギャップが存在することが明らかになったと述べている。ギャップは患者背景や医師の経験など複数の因子に影響され、機械学習により予測可能であるとしている。さらに、その把握と是正が患者中心医療の向上につながる可能性があると指摘している。 なお、本研究の限界として、単施設研究であり特にてんかん症例数が少ないことから一般化に制限がある点、主観的な患者報告アウトカムを用いたことや医師用に十分検証されていない質問票の使用が結果の解釈に影響し得る点などを挙げている。

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「タリージェ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第86回

第86回 「タリージェ」の名称の由来は?販売名タリージェ®錠2.5mg、5mg、10mg、15mgタリージェ®OD錠2.5mg、5mg、10mg、15mg一般名(和名[命名法])ミロガバリンベシル酸塩(JAN)効能又は効果神経障害性疼痛用法及び用量通常、成人には、ミロガバリンとして初期用量1回5mgを1日2回経口投与し、その後1回用量として5mgずつ1週間以上の間隔をあけて漸増し、1回15mgを1日2回経口投与する。なお、年齢、症状により1回10mgから15mgの範囲で適宜増減し、1日2回投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2026年4月14日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2025年2月改訂(第14版)医薬品インタビューフォーム「タリージェ®錠2.5mg、5mg、10mg、15mg/タリージェ®OD錠2.5mg、5mg、10mg、15mg」

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日本における多剤併用の診療報酬改定が睡眠薬の長期処方に及ぼした影響

 神戸大学の木村 丈司氏らは、日本における多剤併用に関する診療報酬改定が高齢患者の睡眠薬の長期処方に及ぼす影響を評価するため、本研究を実施した。Geriatrics & Gerontology International誌2026年2月号の報告。 対象は、50歳以上の外来および入院患者。JMDC医療機関データベースを用いて分析を行った。対象とした睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD)、Z薬、ラメルテオンおよびオレキシン受容体拮抗薬(ラメルテオン/ORA)。2015~22年の各月における、外来および入院患者1万人当たりの睡眠薬新規処方率(4週間以上)を算出した。診療報酬改定が行われた2020年4月を介入点として、中断時系列分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・2015~22年までのデータベースにおける外来および入院の平均患者数は、1ヵ月当たり82万8,510例であった。・2015年1月から2022年12月にかけて、BZDとZ薬の処方率は、それぞれ210から125、111から78.6へと徐々に減少していた。しかし、ラメルテオン/ORAの処方率は、7.41から54.4へと増加していた。・介入時点では、BZDの処方率は1.08倍(95%信頼区間[CI]:1.02~1.13)、Z薬の処方率は1.12倍(95%CI:1.08~1.16)の有意な増加を認めた。しかし、介入後には傾斜の変化に有意な減少が認められた(BZD:0.990倍[95%CI:0.988~0.992]、Z薬:0.994倍[95%CI:0.993~0.996])。・ラメルテオン/ORAは、増加傾向にあった傾斜の変化が、介入後に有意な減弱を認めた(0.991倍[95%CI:0.986~0.995])。 著者らは「多剤併用に関連する診療報酬改定は、BZD、Z薬、およびラメルテオン/ORAの長期的な処方傾向を有意に減少する方向へと転換させていた」としている。

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アイトラッキング診断ツール、神経変性疾患の鑑別や評価の一助となるか

 眼球運動異常は、神経変性疾患においてよくみられる。これは、眼球運動を制御する神経経路および脳領域の変性が原因であると考えられる。背外側前頭前皮質、基底核、上丘、小脳の病理学的変化は、臨床検査では検出されない可能性のある眼球運動指標の微妙な変化を引き起こす。カナダ・Montreal Neurological InstituteのPaul S. Giacomini氏らは、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病およびその他の認知症、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患における眼球運動バイオマーカーの潜在的な用途について考察した。Journal of Neurology誌2026年2月10日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・サッカード、アンチサッカード、固視、滑動追跡などの眼球運動指標は、疾患進行の予後を予測し、診断の補助として病理学的サブタイプを鑑別することができる。そのため、臨床医が運動機能および認知機能の早期悪化を評価することを可能にすると考えられる。・医療技術のコストが、臨床現場における最適な活用とアクセスを制限している。・専門の神経科医の不足は、医療へのアクセスをさらに制限している。・スマートフォンやタブレットなどの広く普及しているデジタル機器に組み込まれた新しいアイトラッキング技術は、最小限の機器で詳細な評価を可能にし、日常の臨床現場における患者評価や治療方針の決定を支援するための、非侵襲的かつ費用対効果の高い重要な方法であると考えられる。・デジタルバイオマーカーは、かかりつけ医、看護師、薬剤師などの医療専門家がケアのギャップを埋めるために容易に活用でき、神経変性疾患の患者へのケア提供を改善するために広く採用できる強力なツールとなる可能性がある。

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多発性硬化症〔MS:multiple sclerosis〕

1 疾患概要■ 定義多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は、脳・脊髄・視神経からなる中枢神経系に炎症性脱髄が生じる慢性疾患である。病変は時間的多発性(再発)と空間的多発性(中枢神経系のさまざまな場所に病変が生じる)であることを特徴とする。自己免疫機序が病態の中心であると考えられているが、近年は神経変性機序の関与も推定されている。■ 疫学MSは若年成人に多く、20~40代で発症することが多い。女性に多く、高緯度地域で発症率が高い(わが国では北海道に多く、沖縄では少ない)。世界中で約300万人の患者が存在すると推定されている。従来は欧米に多い疾患とされてきたが、近年はアジア地域でも患者数が増加しており、わが国でも有病率は上昇している。診断技術の進歩に加え、環境因子の変化が背景にあると考えられている。■ 病因MSは遺伝的要因と環境因子が組み合わさって発症する多因子疾患である。特定の免疫関連遺伝子が発症リスクに関与する一方で、遺伝要因のみで発症が決まるわけではない。環境因子としては、ビタミンD不足、喫煙、肥満などが知られている。近年、Epstein-Barr virus(EBV)感染がMS発症と強く関連することが示され、免疫異常を引き起こす重要な因子と考えられている。■ 症状MSの症状は多彩であり、病変部位によって異なる。代表的な症状には、視力低下や眼痛(視神経炎)、手足のしびれや脱力、歩行障害、ふらつき、排尿障害などがある。また、易疲労感、疼痛、抑うつ、集中力低下など、外見からわかりにくい症状も多く、患者の日常生活や就労に大きな影響を与える。これらは看護師や薬剤師が関わるケアの場面でとくに重要な視点である。■ 分類MSは臨床経過により以下に分類される。1)再発寛解型(RRMS)再発と寛解を繰り返しながら少しずつ後遺症が蓄積する病型で、最も頻度が高い2)2次進行型(SPMS)RRMSの経過の後に、徐々に再発とは無関係の障害進行(progression independent of relapse activities:PIRA)が生じるようになった病型3)1次進行型(PPMS)発症初期からPIRAを認める病型、まれである以上の病型の理解は、治療方針を考えるうえで重要である。■ 予後現在は治療薬の進歩により、MSの長期予後は大きく改善している。しかし、PIRAの治療は開発途上にあるために、早期診断と治療介入が予後改善には重要である。近年は、治療初期から高い有効性を有する薬剤を導入する“early high-efficacy treatment(eHET)”の考え方が広まっている1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSの診断は除外診断が基本である。とくに視神経脊髄炎スペクトラム障害やMOG抗体関連疾患は臨床像が類似するため、鑑別が重要である。ほかにも鑑別すべき疾患は多岐にわたり、悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患、脳血管障害、膠原病、神経サルコイドーシスや神経ベーチェット病といった炎症性疾患、感染症(梅毒、進行性多巣性白質脳症など)、さらに頸椎症性脊髄症や脊髄空洞症などの脊髄疾患、ミトコンドリア病、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、脊髄小脳変性症などが挙げられる。診断には臨床経過、MRI検査、脳脊髄液検査を総合的に評価するMcDonald診断基準が用いられる。本基準の本質は「炎症性脱髄病変が時間的・空間的に多発していること」を確認する点にある。2024年改訂では早期診断を支援する内容が加えられたが、診断はあくまで臨床判断を補助するものであり、慎重な運用が求められる2)。3 治療MSの治療は、再発時に行う急性期治療と、再発や進行を予防する病態修飾療法に大別される。急性期には副腎皮質ステロイドの大量静注療法(ステロイドパルス療法)が行われる。効果が不十分な場合には血漿交換療法が選択されることもある。再発や障害進行を抑えるため、維持期には病態修飾薬が使用される。近年では有効性の高い薬剤が増えており、早期から治療を開始することの重要性が強調されている。わが国で承認されている主要な病態修飾薬を表にまとめる。服薬管理、副作用モニタリング、多職種による支援が治療継続に不可欠である。表 MSの主要な病態修飾薬画像を拡大する4 今後の展望現在、新しい作用機序をもつ治療薬や、より精度の高い画像診断・血液バイオマーカーの研究が進行している。また、EBVを標的とした治療やワクチン研究も注目されており、将来的には個別化医療の実現が期待される。近年、MSの診療は、再発抑制を主目的とした治療から、PIRAの抑制を含む長期的な機能予後改善を目指す方向へと大きく変化している。この流れの中で、治療および診断の両面で新たなアプローチが研究・開発されている。治療分野では、Bruton型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬が新たな病態修飾療法として注目されている。BTK阻害薬は、B細胞の活性化や抗原提示機能を抑制するだけでなく、中枢神経内のミクログリア活性化を抑制する作用を併せ持つ点が特徴である。現在、RRMSに加え、SPMSやPPMSを対象とした第III相臨床試験が進行中であり、既存治療では十分に抑制できなかった進行性病態への効果が期待されている。とくに、PIRAに対する治療選択肢としての位置付けが注目されている。診断分野においては、疾患特異性や病勢評価を高める新たなバイオマーカーの研究が進展している。MRIでは、central vein sign(CVS)やparamagnetic rim lesion(PRL)といった所見が、MSに特徴的な病態を反映する補助的画像指標として注目されている。これらは鑑別診断や慢性活動性病巣の評価に有用である可能性が示されている。一方、体液バイオマーカーとしては、血清・髄液中の神経フィラメント軽鎖(NfL)やκフリーライトチェーン(κFLC)が、疾患活動性や予後予測の指標として臨床応用に近付いている。今後は、これらの新規治療薬および診断技術を組み合わせることで、疾患活動性・進行リスクに基づく層別化医療や個別化治療がより現実的になると考えられる。MS診療は、再発を抑制する医療から、長期的な障害蓄積を最小限に抑える医療へと進化しており、今後も基礎研究と臨床研究の橋渡しが重要となる。5 主たる診療科主な診療科は脳神経内科であるが、眼科、泌尿器科、リハビリテーション科、精神科などとの連携が重要である。看護師・薬剤師を含めた多職種チーム医療が不可欠である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報難病情報センター 多発性硬化症/視神経脊髄炎  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)医薬品医療機器総合機構(PMDA)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)MSキャビン(MSCABIN)(多発性硬化症の総合情報サイト:情報共有、患者・支援者向け知識ベース)MS International Federation(国際疫学、研究動向、教育・啓発リソースなど医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本多発性硬化症協会(患者とその家族および支援者の会)1)Rotstein D, et al. Nat Rev Neurol. 2019;15:287-300.2)Montalban X, et al. Lancet Neurol. 2025;24:850-865.公開履歴初回2026年2月20日

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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重度の慢性便秘に対する手術は「最終手段」

 米国消化器病学会(AGA)が発表した新しいガイドラインにおいて、重度の慢性便秘患者に対する外科的手術は最終手段とすべきことが明示された。治療に反応しない難治性便秘の患者に対しては、結腸の一部または全てを切除する結腸切除術を検討することがある。しかし、ガイドラインの著者らは、結腸切除術は重大な健康リスクを伴い、必ずしも症状の改善につながるわけではないとしている。米マサチューセッツ総合病院(ボストン)消化器運動研究室ディレクターのKyle Staller氏らがまとめたこのガイドラインは、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に1月7日掲載された。 Staller氏は、「慢性便秘に何年も苦しんできた人にとって、手術は永続的な解決策に聞こえることがある。特に、多くの薬が効かなかった場合にはなおさらだ」と話す。同氏はさらに、「検査で、結腸の動きが極端に遅く、他の治療で何も効果が得られない場合に手術が検討されることがある。しかし、手術はほとんどの患者には適しておらず、事実上リスクを伴い、手術後も腹部膨満感、腹痛、排便コントロール困難などの症状が続く人もいる」と述べている。 米国では約8~12%の人が慢性便秘に苦しんでいると推定されている。Staller氏は、「多くの人は、生涯のどこかの時点で便秘を経験するが、食事の見直し、食物繊維や水分の摂取、市販の下剤の使用といった簡単な対策で改善する。難治性便秘はそれとは別物であり、時間をかけて処方薬やバイオフィードバック、骨盤底筋療法を試しても改善しない状態を指す」と説明している。一方、結腸切除術は、腸閉塞、持続性の腹痛、腹部膨満感、便秘の再発、下剤への継続的依存など、高い合併症率と関連しているという。 新ガイドラインでは、手術を検討する前に踏むべき複数のステップが示されている。例えば、まずは慢性便秘の原因から薬剤の副作用、神経疾患、精神的問題を除外すべきことが述べられている。オピオイド系鎮痛薬や抗精神病薬、鉄剤は便秘を引き起こすことが知られている。また、膀胱疾患、アレルギー、気分障害の治療に使われる抗コリン薬も、腸の不随意運動に関与する神経伝達物質の働きを阻害するため、便秘と関連している。さらに、パーキンソン病や多発性硬化症といった神経疾患、摂食障害や抑うつ・不安などの精神的な問題も便秘リスクに影響する。 精神的な問題が便秘に関与することもあるため、術前の心理評価も意思決定プロセスの重要な一部として推奨されている。また、米食品医薬品局(FDA)の承認薬や市販薬に加え、便秘への有効性が示されている適応外使用薬も全て試すべきだとされている。さらに、大腸通過時間検査や排便造影検査など、結腸機能に加えて腸管全体の活動を評価する検査の実施を推奨している。その上で、最終手段として、一時的人工肛門(ストーマ)の使用を推奨している。これは可逆的で、恒久的な結腸切除が有益かどうかを判断する材料になる。 以上のように、ガイドラインは、手術には慎重な個別判断が必要であることを強調している。Staller氏は、「最良の結果は、十分な準備と共有された意思決定から生まれる。手術が本当に必要な場合でも、現実的な期待を持ち、消化器内科医、外科医、精神医療専門家が連携することで最善の結果が得られる」と述べている。 Staller氏は、慢性便秘のリスクを下げるためにできることとして、1)便秘を悪化させる薬剤について、定期的に医師と見直すこと、2)食事を極端に制限するのではなく規則正しく摂取すること、3)腸の運動を促すために身体的に活発に過ごすこと、4)便意のあるときは我慢せずに排泄すること、5)症状が続く場合は自己判断で治療を強化せず、医療機関を受診すること、を挙げている。また、正常な排便習慣には個人差があり、毎日排便する必要はないことも付け加えている。さらに同氏は、「何より重要なのは、便秘はしばしば長期的な管理を要する慢性疾患であると理解することだ。それがフラストレーションを防ぎ、症状が重症化・難治化するリスクを減らすことにつながる」と述べている。

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コロナ禍で新規診断が増えた疾患・減った疾患/BMJ

 英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMark D. Russell氏らによる、OpenSAFELY-TPPを用いたコホート研究の結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、うつ病、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、乾癬、骨粗鬆症の新規診断は予測値を下回ったのに対し、慢性腎臓病は2022年以降に診断数が急増し、サブグループ解析ではとくに認知症に関して民族および社会経済的状況により新規診断数の回復パターンに差があることが示された。著者は、「本研究は、日常診療で収集される医療データを用いた疾病疫学のほぼリアルタイムのモニタリングの可能性を示すとともに、症例発見の改善や医療の不平等を検討するための戦略立案に寄与する」とまとめている。BMJ誌2026年1月21日号掲載の報告。イングランドの約3千万例対象、COVID-19パンデミック前後の慢性疾患の新規診断と有病率を解析 研究グループは、2016年4月1日~2024年11月30日に、OpenSAFELY-TPPプラットフォームにデータを提供している一般診療所に登録され、かつ診療所に対して直接の医療に関与しない組織への個人データの共有を希望しない旨の登録をしていない患者2,999万5,025例を対象として、19の慢性疾患について年齢・性別標準化発症(新規診断)率および有病率の経時推移を検討した。 19の慢性疾患は、喘息、アトピー性皮膚炎、冠動脈心疾患、慢性腎臓病(ステージ3~5)、セリアック病、COPD、クローン病、認知症、うつ病、2型糖尿病、てんかん、心不全、多発性硬化症、骨粗鬆症、リウマチ性多発筋痛症、乾癬、関節リウマチ、脳卒中/一過性脳虚血発作、潰瘍性大腸炎。 COVID-19パンデミックが、これら慢性疾患の診断に与えた影響を評価する目的で、パンデミック前のパターンから予測された期待診断率に基づく季節変動自己回帰和分移動平均(seasonal autoregressive integrated moving average:SARIMA)モデルを用い、パンデミック発生後の予測診断率と実際の観察診断率の差を比較した。パンデミック初年度に新規診断が急減、4年後もうつ病などは減少したまま パンデミック発生後の新規診断率はパンデミック前と比較し、初年度(2020年3月~2021年2月)に19疾患のすべてで急減した。ただし、その後の回復傾向は疾患ごとに異なった。 2024年11月時点でも、いくつかの疾患では新規診断数が予測値を下回っており、とくにうつ病(予測より-73万4,800件[-27.7%]、95%予測区間[PI]:-76万6,400~-70万3,100)で減少幅が最も大きく、喘息(-15万2,900件[-16.4%]、95%PI:-16万8,300~-13万7,500)、COPD(-9万100件[-15.8%]、-9万8,900~-8万1,400)、乾癬(-5万4,700件[-17.1%]、-5万9,200~-5万100)、骨粗鬆症(-5万4,100件[-11.5%]、-6万1,100~-4万7,100)も大きく減少した。 一方、慢性腎臓病の診断数は、パンデミック初期に減少したものの、2022年以降はパンデミック前の水準を上回る増加を示した(予測より35万9,000件[34.8%、95%PI:33万3,500~38万4,500]増加)。 人種および社会経済的状況で層別化したサブグループ解析の結果、パンデミック初期の減少後、白人および社会経済的困窮度が低い地域では、認知症の診断率がパンデミック前の水準を上回って増加したが、他の人種および困窮度が高い地域では増加しなかった。

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