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『がん患者におけるせん妄ガイドライン』改訂、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬など現場で多い処方を新規CQに 

 2025年9月、『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版』(日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会編、金原出版)が刊行された。2019年の初版から改訂を重ね、今回で第3版となる。日本サイコオンコロジー学会 ガイドライン策定委員会 せん妄小委員会委員長を務めた松田 能宣氏(国立病院機構近畿中央呼吸器センター心療内科/支持・緩和療法チーム)に改訂のポイントを聞いた。――「がん患者におけるせん妄」には、その他の臨床状況におけるせん妄とは異なる特徴がある。がん治療にはオピオイド、ステロイドなどの薬剤が多用されるが、それらが直接因子となったせん妄が多くみられる。さらに、近年では免疫チェックポイント阻害薬に代表されるがん免疫療法の普及に伴い、この副作用としてせん妄を発症する患者も増えている。また高カルシウム血症や脳転移など、がんに伴う身体的問題を背景としてせん妄を発症することもある。進行がん患者におけるせん妄は、その原因が複合的であることが多い。さらに、終末期におけるせん妄では身体的要因の改善が困難であり、治療目標をせん妄の回復からせん妄による苦痛の緩和に変更し、それに合わせてケアを組み立てていく必要もある。総論に7つの個別テーマを新設 2025年版は前版と比較して約40ページ増となった。総論では、「関連する病態についてより詳しく説明できるとよいのでは」という委員会の議論を経て、7つのテーマを追加した。 総論に追加したテーマは以下のようになっている。1.アルコール離脱せん妄(評価のためのスコア、薬物治療)2.術後せん妄(周術期神経認知障害、超高齢・がん外科治療の文脈も含む)3.低活動型せん妄(頻度・症状・鑑別・マネジメント)4.身体拘束に関する考え方(実態・葛藤・多職種アプローチ・法的倫理的視点)5.認知症に重畳するせん妄(頻度・リスク因子・評価・対応)6.せん妄とがん疼痛の合併(終末期、可逆的などで分岐する対応アルゴリズムなど)7.在宅におけるせん妄診療(介護者負担、投与経路制限、在宅継続の可否、在宅アルゴリズムなど) 「アルコール離脱せん妄」はがん患者に限ったものではないが、アルコールが関連するがん、たとえば頭頸部がんとの関連が深いため、別個に取り上げた。通常、せん妄治療にベンゾジアゼピン系薬を単剤で使うことはほぼないが、アルコール離脱せん妄の場合は適応となるなど、治療の独自性も高い。「術後せん妄」は、通常のがん患者におけるせん妄とはまた状況が異なり、頻度も高いため、改めて扱うこととした。 せん妄は「過活動型せん妄」「低活動型せん妄」「活動水準混合型」の3つに分類される。中でも低活動型せん妄は見逃しやすく、がん患者での頻度が高いために取り上げた。「身体拘束」は、これまで過活動型の患者に対し、安全性確保のために拘束するケースがあった。しかし、近年はその有害性が報告されるようになっており、拘束を最小限にするための多職種によるアプローチをまとめた。 高齢化社会の進行の中で「認知症」とせん妄を併発する患者が増えている。なかなか鑑別が難しいが、評価や対応についてまとめた。また、「せん妄とがん疼痛の合併」も非常に多いパターンで、中等度以上の痛みを伴うがん患者の3分の1以上がせん妄を合併している、との報告もある。ここには厚労省科研費里見班による報告があったので、そちらの治療アルゴリズムを掲載している。前版までは病院におけるせん妄治療が中心だったが、在宅医療におけるせん妄も増加していることを受け、介護者の存在や薬剤の制限など、在宅医療独自の状況を踏まえて項目を作成した。CQでは予防と併用療法の項目を追加 CQは4つ新設し、前版の12から15となった。増えたCQは以下のとおりとなっている。CQ3:ラメルテオン単独投与による予防は推奨されるか?CQ4:オレキシン受容体拮抗薬単独投与による予防は推奨されるか?いずれも「単独で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) 予防目的の薬物治療として、新規睡眠薬(ラメルテオン/オレキシン拮抗薬)を明示的に扱うようになったのが大きな変更点となる。いずれも現時点では予防に有効とのエビデンスは確立しておらず、「単独で投与しないことを提案する」との記載となった。予防には非薬物的介入が第1選択という点は前版から変わらないが、実臨床においてはせん妄予防よりも睡眠リズムをつくることを目的に新規睡眠薬を投与する医師が一定数いると予想され、こうした処方までを一概に否定するものではない。高リスク群など一部の集団においては「個々の患者の状況やリスクを適切に評価し、予防的投与の妥当性を判断することが必要」との点も明記した。CQ11:症状軽減を目的に、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与することを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:C) このCQに関する文献は1件のみで、エビデンスとして質の高い研究ではあったものの、試験対象が「すでにハロペリドールを定時投与されている終末期の重症せん妄患者」に限定されていたことには注意が必要だ。よって、どんな症例でも併用投与を推奨するわけでなく、症例ごとの見極めが重要になる。また、試験の治療薬はロラゼパム注とハロペリドール注であったが、日本ではロラゼパム注が使われることは少なく、今後は日本で汎用されているベンゾジアゼピン系薬での検討や、重症例以外の検討が求められる。CQ12:症状軽減を目的に、抗精神病薬+抗ヒスタミン薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) せん妄に認められる不穏の症状に対して、抗ヒスタミン薬や抗精神病薬を用いることがあるが、抗ヒスタミン薬はせん妄の原因ともなり得るなど安全性の懸念も残る。検討対象となった観察研究では、併用投与によるアウトカム改善は認められなかったため、「併用で投与しないことを提案する」との記載になった。 がん患者のせん妄は、臨床試験が組みにくく、エビデンスが蓄積されにくい分野だ。理由としては、患者ごとにせん妄の原因が異なっているため試験の組み入れ条件をそろえることが難しい、終末期患者が多く同意取得が困難、といった背景がある。一方、患者数は多く、医療者・患者/家族ともケアに悩むことが多い分野でもある。今後も限られたエビデンスを集め、ガイドラインのアップデートや外部評価に努めたい。患者自身や家族がケアに関わることも多いので、同じ学会で作成する『がん患者における 気持ちのつらさガイドライン』『がん医療における 患者・医療者間のコミュニケーションガイドライン』と一緒に、患者向けガイドの作成も進めている。

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疼痛治療薬の副作用が心不全の誤診を招く?

 オピオイドに代わる鎮痛薬として使用されている薬剤のせいで、医師が心不全と誤診してしまう例が少なくないことが、新たな研究で示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部教授のMichael Steinman氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月2日掲載された。 ガバペンチンやプレガバリンなどのガバペンチノイドと呼ばれる種類の薬剤は、神経痛の治療目的で処方されることが多い。しかし、これらの薬剤の副作用の一つに、下肢のむくみ(浮腫)の原因となる体液貯留がある。体液貯留は、心不全の症状としても広く知られている。そのため、この副作用が生じた患者の多くに、利尿薬のような本来は不要であるはずの薬剤が追加で処方され、その結果、腎障害やふらつき、転倒によるけがなどのリスク上昇につながっていることが、今回の研究から明らかになった。このように、ある薬の副作用が別の疾患に関わる症状と認識され、それに対してさらに薬が処方される現象は、処方カスケードと呼ばれる。 研究グループによると、オピオイド危機を背景に、ガバペンチノイドの処方はこの10年でほぼ倍増した。Steinman氏は、「ガバペンチノイドは非オピオイド系薬剤であり、比較的安全性が高いと考えられがちだ。しかし、ガバペンチノイドを使用している患者は、それがベストの治療法なのかどうかを評価するために、定期的に医師に相談し、非薬物療法を含めた、より適切な別の治療選択肢について検討すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。 Steinman氏らは今回の研究で、ガバペンチノイドとループ利尿薬の処方カスケードを経験している可能性の高い66歳以上の退役軍人120人(平均年齢73.9歳)の医療記録を調べた。120人のうち、106人(88.3%)は、5種類以上の薬を長期にわたって使用していた。73人(60.8%)では、浮腫の原因が記録されていたが、心不全(39.2%)や静脈うっ血(13.3%)を原因とする例が多く、ガバペンチノイドを考慮した医師はわずか4人(3.3%)にとどまっていた。また、116人(96.7%)にループ利尿薬が処方されていたが、そのほとんどは、下肢浮腫(86.7%)、心不全(13.3%)、呼吸困難(12.5%)の治療を目的としていた。 ループ利尿薬による治療開始から60日以内に、28人(23.3%)の患者で、腎機能の低下や起立時のめまい、低ナトリウムや低カリウムなどの電解質異常、転倒などのループ利尿薬に関連した健康問題が37件発生した。入院あるいは救急外来での治療が必要となった患者も6人(5.0%)いた。 Steinman氏らによると、下肢に浮腫が現れてからガバペンチノイドの服用を中止するよう指示した医師は1人だけだったという。一方で、浮腫の原因となり得る命に関わる疾患を除外するため、患者の約5人に1人が画像検査を受けていたことも明らかになった。 論文の筆頭著者であるUCSF医学部のMatthew Growdon氏は、「ガバペンチノイドは必要以上に高用量が処方されたり、効果が期待できない状態に対して処方されたりしている可能性がある。そのようなケースでは、医師はこれらの薬を処方しないこと、あるいは用量を減らして処方カスケードやその他の副作用のリスクを軽減することを検討すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。

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多発性硬化症と口腔内細菌の意外な関係、最新研究が示す病態理解の可能性

 多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の神経線維を包むミエリンが自己免疫反応によって障害される希少疾患で、視覚障害や運動麻痺、感覚障害などさまざまな症状を引き起こす。最新の研究で、MS患者の口腔内に存在する特定の歯周病菌、Fusobacterium nucleatum(F. nucleatum)の量が、病気の重症度や進行に関わる可能性が示された。研究は、広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学の内藤裕之氏、中森正博氏らによるもので、詳細は11月3日付で「Scientific Reports」に掲載された。 MSの発症には遺伝的素因に加え、ウイルス感染や喫煙、ビタミン欠乏などの環境因子が関与すると考えられ、近年は腸内細菌の異常も病態形成に影響することが示唆されている。また、口腔内細菌、特に歯周病菌も中枢神経疾患に影響することが報告されており、慢性的な炎症や免疫応答を介してMSの進行や重症度に関与する可能性がある。これまでに歯周病とMSの関連や、MS患者における特定菌種の増加が報告されているものの、臨床指標や再発・進行との具体的な関連や菌種ごとの差異は不明である。こうした背景を踏まえ著者らは、MSや視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)、抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)の患者の舌苔サンプルから歯周病菌量を定量し、臨床特徴やMRI所見との関連、さらに菌種ごとの影響を探索する横断的研究を実施した。 本研究は2023年5~11月にかけて実施され、広島大学病院脳神経内科を受診した15歳以上のMS、NMOSD、MOGAD患者112人が解析対象となった。患者から採取した舌苔サンプルは4種の歯周病菌種 (F. nucleatum、P. gingivalis、P. intermedia、T. denticola)を標的とした定量的PCRを用いて分析した。先行研究に倣い、細菌の総存在量に対する比率が第3四分位数を超える場合「高相対量」と定義された。患者の重症度は総合障害度評価尺度(EDSS)で評価し、スコア4をカットオフとした。 本研究の最終的な解析対象は98人(平均年齢48.6歳、女性77.6%)となった。これらのうち、56人がMS、31人がNMOSD、11人がMOGADとそれぞれ診断された。MS、NMOSD、MOGADで歯周病菌の高相対量に有意差はなく、口腔衛生習慣もほぼ同等であった。 単変量解析により、MS患者における各歯周病菌とEDSSスコアの関係を調べたところ、F. nucleatumの相対量が高いMS患者は、低い患者に比べてEDSSスコアが有意に高く、EDSS ≥4の割合も多かった(61.5% vs 18.6%、P=0.003)。多重比較補正(Benjamini-Hochberg法)を行った後も、MS患者におけるF. nucleatumの高相対量とEDSS ≥4の関連のみが有意であった(P=0.036)。一方、他の歯周病菌の相対量は、EDSS ≥4との有意な関連は認められなかった。また、NMOSDおよびMOGAD患者においても、EDSSスコアと各菌の高相対量との関連は認められなかった。 単変量解析では、MS患者の重症度(EDSS ≥4)に影響を与える要因として、F. nucleatumの高相対量に加え、年齢、MSのサブタイプ、発作回数、罹病期間も示唆された。しかし、これらの因子を考慮した多変量解析では、F. nucleatumの高相対量のみが独立して有意であった(オッズ比10.0、95%信頼区間1.45~69.4、P=0.020)。 著者らは、「本研究は、MS患者において口腔内のF. nucleatum相対量がEDSSスコアと強く関連することを示した。因果関係は示せないが、将来的な研究課題としては、サイトカイン関連機構などの免疫学的メカニズムの解明や、口腔ケアなどの介入による影響の検討が挙げられる」と述べている。 本研究の限界として、単施設の横断的観察研究であり、MS以外の疾患群やF. nucleatum陽性患者が少なくサンプルサイズが限られていたこと、歯周病の臨床評価や抗菌薬使用歴、口腔行動の影響、免疫指標測定が不十分であり、残存交絡や因果関係の推定は困難であったことを挙げている。

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第295回 「効果が乏しい医療」に新たに「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン」追加、近い将来査定の対象に

「神経障害性疼痛ではない腰痛には効かない」と国が判定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、茨城県桜川市で有機農業を営む大学の先輩宅へ農作業の支援に行ってきました。筑波大学近くの公園で落ち葉を拾い集め、軽トラックに乗せて農園まで運び、腐葉土にする準備を行いました。落ち葉を竹製の手箕(てみ)で拾い集めるという単純な作業です。しかし、落ち葉を拾う時の中腰の姿勢はつらく、目一杯落ち葉を詰めたネットの袋は15~20kgほどの重さになります。中高年にとってこうした冬の屋外での農作業は、腰痛悪化やぎっくり腰再発などと隣合わせで、それなりのリスクを伴うものです。とは言え、参加者全員なんとか無事に20袋ばかりの落ち葉を拾い集めることができ、ご褒美に茨城・大洗沖で採れたアンコウの鍋をご馳走してもらいました。さて今回はプレガバリンの話題を取り上げます。厚生労働省は11月27日に開いた社会保障審議会医療保険部会で、「効果が乏しい医療」に神経障害性疼痛ではない「非神経障害性腰痛症」に対するプレガバリン(商品名:リリカなど)の処方を追加する案を出し、同部会は了承しました。また、医療費の適正化に向け、「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」を今後も探して評価を検討していく方針も示されました。とくに整形外科で多用されており、私もかつて「四十肩」の治療で、NSAIDsに追加する形で処方されたこともあるプレガバリンですが、「神経障害性疼痛ではない腰痛には効かない」と国が判定を下したわけで、現場の診療に少なからぬ影響が出そうです。「十分な効果があるというエビデンスがない医療といったものを保険対象から外すという見直しも図っていくべき」と医療保険部会「効果が乏しい医療」とは、2023年に策定された2024~29年度の第4期医療費適正化計画の中で「新たな目標の設定」として盛り込まれた「医療資源の効果的・効率的な活用」で挙げられた「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」のことを指します。同計画策定時、「効果が乏しい医療」としては「急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方」が挙げられていました。その後、医療保険部会では「無価値医療、すなわち効果があるというエビデンスが十分ない医療や、低価値医療、これは仮に効果があるというエビデンスがあったとしても、その効果が小さく、つまり十分な効果があるというエビデンスがない医療といったものを保険対象から外すという見直しも図っていくべき」といった意見が出され、さらなる探索・検討が行われてきました。その結果、今回、「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン」が新たに追加されることになったわけです。今後、効果が乏しい医薬品として都道府県が患者や医師への周知を行うことになります。2028年度診療報酬改定での取り扱いについて中医協で審議予定医療保険部会に出された厚労省の資料には、「プレガバリン(商品名 リリカ錠)の効果・効能は神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛。薬理作用はカルシウムチャネルα2δ遮断薬。神経障害性疼痛では有効なケースもあるが、非神経障害性腰痛では効果が限定的。めまい・眠気などの副作用が比較的多い薬と一般的に言われている。先行研究では、腰痛に対するプレガバリン処方が効果が乏しい医療として指摘されている」とその理由が書かれています。この決定がすぐさま「保険診療での査定」につながるわけではありませんが、今後、関係学会と調整後、次々期、2028年度診療報酬改定での取り扱いについて中央社会保険医療協議会で審議が行われ、審議結果に即した診療報酬上の対応が決定されることになります。将来的には神経障害性疼痛ではない腰痛症には処方できなくなると考えられます。なお、医療費適正化計画基本方針は次のように変更されます(下線部追記)。第1 都道府県医療費適正化計画の作成に当たって指針となるべき基本的な事項一 全般的な事項(略)二 計画の内容に関する基本的事項1 (略)2  医療の効率的な提供の推進に関する目標に関する事項(1)~(2)(略)(3)急性気道感染症及び急性下痢症の患者に対する抗菌薬の処方、神経障害性疼痛を除く腰痛症の患者に対するプレガバリンの処方といった効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療や白内障手術及び化学療法の外来での実施状況などの医療資源の投入量に地域差がある医療については、個別の診療行為としては医師の判断に基づき必要な場合があることに留意しつつ、地域ごとに関係者が地域の実情を把握するとともに、医療資源の効果的かつ効率的な活用に向けて必要な取組について検討し、実施していくことが重要である。(略)プレガバリンの年間薬剤費は約60億円との推計、その半分の30億円が削減目標日経メディカルなどの報道によれば、プレガバリンの年間薬剤費は約60億円と推計されており、その半分の30億円が削減目標になる見込みだそうです。第4期医療費適正化計画(2024~29年度)では、急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方の適正化で約270億円、入院で行う白内障手術や化学療法の適正化で約106億円の削減を見込んでおり、プレガバリンの削減分はそれに加わる形となります。プレガバリンは、日本ではごく軽症の痛みに対しても多く処方されている薬です。神経障害性疼痛の薬となっていますが、そんなことお構いなく、整形外科などで漫然と投与されている印象です。私自身、近所の整形外科で「四十肩」に処方されたときは驚きました。「効くのかな」と思い数日飲んでみたのですが、顕著なふらつきが出て、怖くなって止めました。その後、「四十肩」は3ヵ月余りで自然と治りました。国は「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」を今後も探し出し、医療費適正化計画にも盛り込んでいく計画とのことですが、プレガバリンは、その副作用から転倒骨折や交通事故の危険性も高く、もっと早くに”適正化”が行われてしかるべきだった気がします。「効果が乏しい医療」のさらなる探索と検討に期待したいと思います。参考1)第4期医療費適正化計画における医療資源の効果的・効率的な活用について/厚生労働省

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ヌシネルセンの高用量処方はSMA患者のQOLをさらに改善する/バイオジェン

 バイオジェン・ジャパンは、2025年9月19日に脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬ヌシネルセン(商品名:スピンラザ)の高用量投与レジメンでの剤型(28mg製剤、50mg製剤)について、新用量医薬品/剤形追加の承認を取得した。わが国は世界初の両剤型の承認・販売国となり、この承認を受け、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、SMAの疾患概要、治療の変遷、患者のニーズなどに関する講演などが行われた。高用量ヌシネルセンで筋力維持などができる可能性へ 「脊髄性筋萎縮症の治療 スピンラザ高用量投与を迎えて」をテーマに、長年本疾患の研究に携わってきた齋藤 加代子 氏(東京女子医科大学名誉教授/瀬川記念小児神経学クリニック)が、SMAの疾患概要と治療の課題などを解説した。 SMAは、脊髄における前角細胞(運動神経細胞)の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病であり、発症年齢などの区分により0~IV型まで5つの型がある。 わが国の発生率は出生1万人当たり0.51例、有病率は人口10万人当たり1例とされ、8割以上の患者が2歳までに発症しているために新生児マススクリーニングが早期発見のために重要と齋藤氏は指摘する1)。 SMAの治療で使用されるヌシネルセンは、体内で生成される完全長Survival Motor Neuron(SMN)タンパクの量を継続的に増やすことで、運動ニューロン喪失の根本原因を標的にするアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)であり、運動ニューロンが存在する中枢神経系に直接投与される。 治療では開始時期により運動機能の改善効果もみられ2)、早期診断と早期治療が重要であり、現在では国の実証事業として新生児のマススクリーニング検査がほぼ全国で行われている。 こうした診療環境の中でSMAの全病型で最も多く報告されたアンメットニーズは「筋力の改善」であり、「呼吸機能と球機能(bulbar function)に関する項目(呼吸機能の改善、嚥下機能の改善など)では、I/II型のほうがIII型よりも重要である可能性が高い」と報告されている3)。また、PK/PDモデルを用いた予測では、脳脊髄液中のヌシネルセン濃度に対しニューロフィラメントの減少をはじめとする用量依存的な治療反応が示唆されていたことから高用量製剤の開発が待たれている。 そこで、高用量製剤の製品化に向け50/28mgの有効性および安全性を検討するため、3部構成のDEVOTE試験が行われた。とくにパートBでは、未治療の乳児型SMA患者(75例)および乳児型以外のSMA患者(25例)について国際共同第III相、二重盲検、並行群間比較試験が行われた。 その結果、乳児型SMA患者におけるフィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査(CHOP INTEND)総スコアについて183日目のベースラインからの変化量の最小二乗(LS)平均値は、50/28mg群15.1(95%信頼区間:12.4~17.8)、マッチングシャム処置群ー11.1(95%信頼区間:ー15.9~ー6.2)であり、LS平均値の差は26.2(95%信頼区間:20.7~31.7、p<0.0001、共分散分析および多重補完法)であったことから、優越性が検証された。 乳児型SMA患者における死亡または永続的換気までの期間について、カプランマイヤー法に基づいた期間の中央値は、50/28mg群では推定できず、12/12mg群で24.7週(95%信頼区間:14.4~NA、名目上のp=0.2775、罹患期間で層別したlog rank検定)だった。 302日目における乳児神経学的検査(HINE)第1項 哺乳/嚥下能力の低下がみられた患者の割合は、50/28mg群で6%(2/35例)、12/12mg群で33%(4/12例)であり、改善がみられた患者の割合は、50/28mg群で26%(9/35例)、12/12mg群で8%(1/12例)だった。 パートCでは日本人を含む乳児型SMA患者(2例)および乳児型以外のSMA患者18歳未満(14例)と18歳以上(24例)について、302日目における拡大Hammersmith運動機能評価スケール(HFMSE)、上肢機能モジュール改訂版(RULM)のベースラインからの変化量について評価がなされ、その結果変化量の平均値(標準誤差)は、HFMSEで1.8点(3.99点)、RULMで1.2点(2.14点)だった。 安全性は、50/28mg群では3/50例(6.0%)、12/12mg群では1/25例(4.0%)に副作用が認められ、貧血や発熱、不快などの発現が報告された一方で、本試験での死亡および投与中止に至った副作用は認められなかった。 齋藤氏はまとめとして、SMAにおいて疾患修飾治療薬3種の臨床試験が成功して実臨床で使える時代となったこと、発症抑制のための新生児マススクリーニングを拡充・推進する方針で実証事業開始されたことに触れ、最後に「ヌシネルセン高用量投与という新たな時代が今始まった」と期待を寄せた。患者の希望は「筋力アップ」 続いて「SMA家族の会」の理事長である大山 有子氏が、患者・患者家族のリアルな声と「SMA患者さん治療ニーズに関する調査結果」をテーマに講演を行った。 自身の子供がSMAI型であり、子供の日常生活を疾患介護の苦労とともに画像・動画で説明し、ヌシネルセンなどの治療薬の乳幼児期における劇的な症状改善の効果を紹介した。 次に家族会とバイオジェンが共同で行った患者・患者家族などへのアンケート内容を説明した。アンケートは、2025年9月3~14日にかけてSMA患者21人、介護者63人(計84人)に行ったもの。・「薬による治療」は96%が受けており、「治療でできるようになったこと」は「座位」、「寝返り」などの回答が多かった。・「リハビリテーション」については、「病院で実施」が69%、「自宅で実施」が76%だった。・「患者がもっとできるようになりたいこと」では、「トイレ」、「移動」などの回答が多く、「そのために必要な機能」について、「筋力」、「体幹」などの回答が多かった。

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終末期がん患者の反跳性離脱症状を発見して処方再開を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第70回

 今回は、終末期がん患者における薬剤性の反跳性離脱症状を早期に発見し、処方再開を提案した症例を紹介します。がん患者では、疼痛管理や不眠に対して複数の薬剤が併用されることがありますが、全身状態の悪化に伴い服用が困難になることがあります。服用困難という理由だけで急に中止するのではなく、離脱症状のリスクを総合的に評価し、適切な漸減・代替薬への切り替えを検討することが重要です。患者情報79歳、男性(施設入居)基礎疾患小細胞肺がん(T2aN3M1c、StageIV ED)、頸髄損傷後遺症、神経因性膀胱、狭心症(時期不明)治療経過2025年6月に小細胞肺がんと診断され、7月より薬物治療(カルボプラチン+エトポシド+デュルバルマブ)を開始した。しかし発熱性好中球減少症・敗血症性ショックにより再入院。8月に家族へ病状を説明した後、緩和ケアへ移行する方針となり、施設へ転院・入居となった。社会・生活環境ほぼ寝たきり状態、自宅受け入れ困難のため施設入居ADLほぼ寝たきり状態処方内容1.ベザフィブラート錠50mg 1錠 分1 朝食後2.アジルサルタンOD錠20mg 1錠 分1 朝食後3.エチゾラム錠0.5mg 1錠 分1 就寝前4.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後5.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 夕食後6レンボレキサント錠5mg 1錠 分1 就寝前7.トラマドール・アセトアミノフェン配合錠 3錠 分3 毎食後8.ドキサゾシン錠1mg 1錠 分1 就寝前9.トラゾドン錠25mg 2錠 分1 就寝前10.プレガバリンOD錠75mg 1錠 分1 就寝前11.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後12.ロスバスタチン錠2.5mg 1錠 分1 夕食後13.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイント施設に入居して約1ヵ月後、誤嚥リスクと覚醒(意識)レベルの低下により全内服薬が一時中止となりました。食事摂取量は0~5割とムラがあり、尿路感染症に対してST合剤内服を開始しました。その後、患者さんは右足先の疼痛を訴え、アセトアミノフェン坐剤を開始しても効果が不十分な状態となりました。傾眠傾向にはあるものの、夜間の入眠困難もありました。問題点の評価患者さんの状態から、プレガバリン(半減期約6時間)とトラゾドン(半減期約6時間)の中断により、反跳性離脱症状が出現した可能性があると考えました。プレガバリンは電位依存性Caチャネルのα2δサブユニットに結合し、神経伝達物質の放出を抑制する薬剤であり、突然の中止により不眠、悪心、疼痛の増悪などの離脱症状が出現することが報告されています。トラゾドンについても、抗うつ薬の中止後症候群として不安、不眠、自律神経症状(悪心・嘔吐)が出現することがあります。また、トラマドール・アセトアミノフェン配合錠の中断による除痛効果の喪失と、プレガバリンの中断による中枢性GABA様調節の急変が、疼痛と自律神経症状の悪化に関与している可能性もあります。頸髄損傷後遺症を有する本患者にとって、プレガバリンは神経障害性疼痛の管理に有効かつ重要な薬剤と推察しました。医師への提案と経過診察へ同行した際に、医師に以下の内容を伝えました。【現状報告】全内服薬中止後に右足先の疼痛が持続し、アセトアミノフェン坐剤では十分な除痛効果が得られていない。夜間の入眠困難が続いている。傾眠傾向はあるものの睡眠の質が低下している。【懸念事項】プレガバリンとトラゾドンの急な中止により反跳性離脱症状が出現している可能性がある。プレガバリンは神経障害性疼痛の管理に有効であり、頸髄損傷後遺症を有する患者にとって重要な薬剤である。プレガバリンの中止により中枢性GABA様調節の急変が自律神経症状の悪化に寄与している可能性がある。その上で、プレガバリン75mg 1錠とトラゾドン25mg 1錠を就寝前に再開することを提案しました。就寝前の1回投与にすることで服薬負担を最小限にしつつ、離脱症状の軽減と疼痛・睡眠の改善を図ることができるためです。また、疼痛と睡眠状態のモニタリングを継続し、効果判定を行うことも提案しました。医師に提案を採用いただき、プレガバリン75mg 1錠とトラゾドン25mg 1錠を就寝前に再開することになりました。再開後、疼痛は軽減傾向を示し、アセトアミノフェン坐剤の使用頻度も減少しました。睡眠状態も改善し、夜間の入眠が得られるようになりました。覚醒(意識)レベルについても徐々に軽快しました。振り返りと終末期がん患者での注意点本症例では、疼痛の増悪が単に疾患の進行によるものではなく、プレガバリンの離脱による反跳性の症状である可能性を考慮しました。このような薬剤性の症状を見逃さないためには、処方歴の確認と薬剤の薬理作用・半減期の理解が不可欠です。さらに、症状の原因を多角的に評価することが重要になるため、医師や施設スタッフとの密な連携により、症状の経時的変化を把握して適切なタイミングで処方調整を提案することが求められます。終末期がん患者における薬物療法の最適化では、不要な薬剤を中止することも重要ですが、必要な薬剤を適切に継続・再開することも同様に重要です。本症例では、離脱症状のリスクを評価し、患者さんのQOL維持のために必要な薬剤の再開を提案することで、服薬負担を最小限にしつつ離脱症状を回避することができました。薬剤師として、薬剤の薬理作用と離脱症状のリスクを理解し、患者さんの症状変化を注意深く観察することで、終末期患者の苦痛緩和に貢献できます。参考文献1)厚生労働省医薬食品局:医薬品・医療機器等安全性情報No.308(2013年12月)2)トラゾドン添付文書情報

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注射で脳まで届く微小チップが脳障害治療の新たな希望に

 手術で頭蓋骨を開くことなく、腕に注射するだけで埋め込むことができる脳インプラントを想像してみてほしい。血流に乗って移動し、標的とする脳の特定領域に自ら到達してそのまま埋め込まれるワイヤレス電子チップの開発に取り組んでいる米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、マウスを使った実験で、厚さ0.2μm、直径5〜20μmというサブセルラーサイズのチップが、人の手を介さずに脳の特定領域を認識し、そこに移動できることを確認したとする研究成果を報告した。詳細は、「Nature Biotechnology」に11月5日掲載された。 このチップが標的部位に到達すると、医師は電磁波を使ってチップを起動させ、パーキンソン病や多発性硬化症、てんかん、うつ病などの治療に用いられているタイプの電気刺激を神経細胞に与えることができる。こうした電気や磁気などにより神経を刺激する治療法は、ニューロモデュレーションと呼ばれる。このチップはサイズが極めて小さいため、従来の脳インプラントよりもはるかに高い精度で刺激を与えることができると研究グループは説明している。 論文の上席著者であるMITメディアラボおよびMIT神経生物工学センターのDeblina Sarkar氏は、「この超小型電子デバイスは、脳の神経細胞とシームレスに一体化し、ともに生き、ともに存在することで、他に例のない脳とコンピューターの共生を実現する」と言う。同氏は、「われわれは、薬剤あるいは標準治療では効果が得られない神経疾患の治療にこの技術を利用することで、患者の苦しみを軽減するとともに、人類が病気や生物学的な限界を超えられる未来の実現に向けて全力で取り組んでいる」とニュースリリースの中で述べている。 この微小チップは、静脈注射前に生きた生体細胞と融合させておくことで免疫系の攻撃を受けることなく血液脳関門を通過できる。また、治療対象となる疾患に応じて、異なる種類の細胞を使うことで脳の特定領域を標的に定めることも可能であるという。 Sarkar氏は、「この細胞と電子機器のハイブリッドは、電子機器の汎用性と、生きた細胞が持つ生体内輸送能力や生化学的な検知力が融合されたものだ。生きた細胞が電子機器をカモフラージュすることで、免疫システムの攻撃を受けることなく血流中をスムーズに移動することができ、さらには侵襲的な処置なしに血液脳関門を通過することも可能になる」と言う。なお、研究グループによると、従来の脳インプラントは、手術のリスクに加えて数十万ドルもの医療費がかかるのが一般的だという。 Sarkar氏は、「これはプラットフォーム技術であり、複数の脳疾患や精神疾患の治療に使える可能性がある」と述べるとともに「この技術は脳だけに限定されるものではなく、将来的には身体の他の部位にも適用を広げることができる可能性がある」と期待を示している。

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日本人不眠症患者におけるレンボレキサント切り替え後のベネフィット評価

 デュアルオレキシン受容体拮抗薬であるレンボレキサントは、成人の不眠症治療薬として日本で承認されている。久留米大学の小曽根 基裕氏らは、多施設共同SOMNUS試験のデータを用いて、日本人不眠症患者における前治療からレンボレキサントへ切り替え後の睡眠日誌に基づく睡眠パラメーター、自己申告による睡眠の質、不眠症の重症度、健康関連の生活の質(QOL)について報告を行った。Sleep Medicine X誌2025年9月25日号の報告。 SOMNUS試験は、プロスペクティブ多施設共同非盲検試験である。本試験のデータより抽出した、Z薬(単剤療法コホート:25例)、スボレキサント(単剤療法コホート:25例、併用コホート:21例)、ラメルテオン(併用コホート:19例)からレンボレキサントに切り替えた4つのコホートにまたがる90例の患者を対象に、最大14週間までのデータを解析した。 主な結果は以下のとおり。・すべての患者において、レンボレキサントへの切り替え後、睡眠日誌に基づく睡眠パラメーター(主観的入眠潜時、主観的入眠後覚醒時間、主観的総睡眠時間、主観的睡眠効率)の有意な改善が認められた。・2週、6週、14週時点において、不眠症重症度指数(Insomnia Severity Index)の合計スコアの有意な低下が認められた(2週目:-2.6±3.81、6週目:-4.4±5.13、14週目:-5.3±4.80、各々:p<0.0001)。・自己申告による睡眠の質と朝の覚醒度も、すべての時点で一貫しており、有意な改善を示した。・Short Form-8の身体項目サマリースコアと精神項目サマリースコアは良好な傾向を示し、試験終了時までにすべての患者において顕著な改善が認められた。・治療関連有害事象(TEAE)の発生率は47.8%であり、そのほとんどは軽度または中等度であった。・重篤なTEAEは発現せず、最も多く認められたTEAEは傾眠であった。 著者らは「これらの知見は、以前の不眠症治療からレンボレキサントへの切り替えが、睡眠パラメーター、不眠症の重症度、健康関連のQOLの改善に有用であり、良好な安全性プロファイルを有することを示唆している」と結論付けている。

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第271回 18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府

<先週の動き> 1.18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府 2.OTC類似薬を保険から外さず 選定療養型の負担上乗せを検討/厚労省 3.インフルエンザが記録的ペースで拡大、39都道府県で警報レベルに/厚労省 4.医師偏在是正へ、自由開業原則が転換点に 都市部抑制が本格化/政府 5.病院7割赤字・診療所も利益率半減の中、診療報酬改定の基本方針まとまる/厚労省 6.介護保険の負担見直し本格化 現役世代の保険料増に対応/厚労省 1.18.3兆円補正予算案、医療・介護1.4兆円を計上 病床削減基金と賃上げ支援を両立へ/政府政府は11月28日、2025年度補正予算案(一般会計18.3兆円)を閣議決定した。電気・ガス料金支援や食料品価格対策など物価高対応に加え、AI開発や造船業を含む成長投資、危機管理投資を盛り込んだ大型編成となった。歳入の6割超を国債追加発行で賄う一方、補正予算案は今後の国会審議で与野党の議論に付される。野党は「規模ありきで緊要性に疑問がある項目もある」とし、効果の精査を求める姿勢。厚生労働省関連では、総額約2.3兆円を計上し、その中心となる「医療・介護等支援パッケージ」には1兆3,649億円を充てる。医療現場では物価高と人件費上昇を背景に病院の67%超が赤字に陥っており、政府は緊急的な資金投入を行う。医療機関への支援では、病院に対し1床当たり計19.5万円(賃金分8.4万円・物価分11.1万円)を交付し、救急を担う病院には受入件数などに応じて500万円~2億円の加算を認める。無床診療所には1施設32万円、薬局・訪問看護にも相応の支援額を措置し、医療従事者の賃上げと光熱費上昇分の吸収を図る。介護分野では、介護職員1人当たり最大月1.9万円の「3階建て」賃上げ支援を半年分実施する。処遇改善加算を前提とした1万円に、生産性向上の取り組みで5千円、職場環境改善で4千円を積み増す仕組みで、慢性的な人材不足に対応する狙いとなっている。一方で、今回の補正予算案は「病床適正化」を強力に後押しする構造転換型の性格も持つ。人口減少に伴い全国で11万床超が不要になると見込まれるなか、政府は「病床数適正化緊急支援基金」(3,490億円)を新設し、1床削減当たり410万4千円、休床ベッドには205万2千円を支給する。応募が殺到した昨年度補正を踏まえ、今回はより広範な病院の撤退・統合を促す政策的メッセージが込められている。日本医師会は「補正は緊急の止血措置に過ぎず、本格的な根治治療は2026年度診療報酬改定」と強調するとともに、「医療機関の経営改善には、物価・賃金上昇を踏まえた恒常的な財源措置が不可欠」と訴えている。補正予算案は12月上旬に国会へ提出される予定で、与党は成立を急ぐ。一方で、野党は財源の国債依存や事業の妥当性を追及する構えで、賃上げ・病床再編など医療政策の方向性が国会審議で問われる見通し。 参考 1) 令和7年度厚生労働省補正予算案の主要施策集(厚労省) 2) 令和7年度文部科学省関係補正予算案(文科省) 3) 25年度補正予算案18.3兆円、政府決定 物価高対策や成長投資(日経新聞) 4) 補正予算案 総額18兆円余の規模や効果 今後の国会で議論へ(NHK) 5) 厚生労働省の今年度の補正予算案2.3兆円 医療機関や介護分野への賃上げ・物価高対策の「医療・介護等支援パッケージ」に約1.3兆円(TBS) 6) 令和7年度補正予算案が閣議決定されたことを受けて見解を公表(日本医師会) 7) 介護賃上げ最大月1.9万円 医療介護支援に1.3兆円 補正予算案(朝日新聞) 2.OTC類似薬を保険から外さず、選定療養型の負担上乗せを検討/厚労省厚生労働省は、11月27日に開催された「社会保障審議会 医療保険部会」において、市販薬と成分や効能が近い「OTC類似薬」の保険給付の在り方について、医療費適正化の一環として保険適用から外す方針を変更し、自己負担を上乗せとする方向を明らかにした。日本維新の会は自民党との連立政権合意書には、「薬剤の自己負担の見直しを2025年度中に制度設計する」と明記されていたため、維新側からは「保険適用から外すべき」との主張もあった。しかし、社会保障審議会・医療保険部会や患者団体ヒアリングでは、負担増による受診控えや治療中断への懸念が強く示され、11月27日の部会では「保険給付は維持しつつ、患者に特別の自己負担を上乗せする」案が厚労省から提示され、異論なく事実上了承された。追加負担の設計にあたっては、選定療養の仕組みを参考に、通常の1~3割負担に加え一定額を患者が負担するイメージが示されている。一方で、18歳以下、指定難病やがん・アレルギーなど長期的な薬物療法を要する患者、公費負担医療の対象者、入院患者などについては、特別負担を課さない、あるいは軽減する方向での配慮が必要との意見が相次いだ。低所得者への配慮と、現役世代の保険料負担抑制のバランスが論点となる。どの薬を特別負担の対象とするかも課題である。OTC類似薬といっても、有効成分が同じでも用量や効能・効果、剤形などが市販薬と異なる場合が多く、「単一成分で、用量・適応もほぼ一致し、市販薬で代替可能な医薬品」に絞るべきとの指摘が出ている。日本医師会からは、製造工程の違いによる効果の差や、個々の患者の病態に応じた代替可能性の検証が不可欠とされ、制度が複雑化して現場負担が過度に増えないよう、シンプルな設計を求める声も挙がった。同じ部会では、「効果が乏しいとのエビデンスがある医療」として、急性気道感染症の抗菌薬投与に加え、「神経障害性疼痛を除く腰痛症へのプレガバリン投与」を医療費適正化の重点として例示する案も提示された。高齢化と医療高度化で膨張する医療費のもと、OTC類似薬の特別負担導入と低価値医療の抑制を組み合わせ、保険財政の持続可能性を確保しつつ、必要な受診や治療をどう守るかが、今後の診療報酬改定・制度改革の大きな焦点となる。 参考 1) OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方について(厚労省) 2) OTC類似薬“保険給付維持 患者自己負担上乗せ検討”厚労省部会(NHK) 3) OTC類似薬、保険適用維持へ 患者負担の追加は検討 厚労省(朝日新聞) 4) OTC類似薬の保険給付維持、厚労省が軌道修正 患者に別途の負担求める方針に(CB news) 3.インフルエンザが記録的ペースで拡大、39都道府県で警報レベルに/厚労省全国でインフルエンザの流行が急拡大している。厚生労働省によると、11月17~23日の1週間に定点約3,000ヵ所から報告された患者数は19万6,895人で、1医療機関当たり51.12人と今季初めて50人を突破。前週比1.35倍と増勢が続き、現在の集計方式で最多を記録した昨年末(64.39人)に迫る水準となった。都道府県別では宮城県(89.42人)、福島県(86.71人)、岩手県(83.43人)など東北地方を中心に39都道府県で「警報レベル」の30人を超えた。愛知県で60.16人、東京都で51.69人、大阪府で38.01人など大都市圏でも増加している。学校などの休校や学級・学年閉鎖は8,817施設と前週比1.4倍に急増し、昨季比で約24倍と際立つ。流行の早期拡大により、ワクチン接種が十分に行き届く前に感染が広がった可能性が指摘されている。また、国立健康危機管理研究機構が、9月以降に解析したH3亜型からは、新たな「サブクレードK」が13検体中12検体で検出され、海外でも報告が増えている。ワクチンの有効性に大きな懸念は現時点で示されていないが、感染力がやや高い可能性があり、免疫のない層が一定数存在するとの見方がある。小児領域では、埼玉県・東京都などで入院児が増加し、小児病棟の逼迫例も報告される。インフルエンザ脳症など重症例も散見され、昨季と同様の医療逼迫が年末にかけ迫る可能性が指摘されている。専門家は、学校での換気や症状時のマスク着用、帰宅時の手洗い徹底に加え、ワクチン接種の早期検討を促している。新型コロナの感染者は減少傾向にあるが、インフルエンザの急拡大に備え、社会全体での感染対策と医療体制の確保が急務となっている。 参考 1) 2025年 11月28日 インフルエンザの発生状況について(厚労省) 2) インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) インフル全国で流行拡大、感染者は前週の1.35倍 新たな変異も(朝日新聞) 4) インフルエンザの患者数 1医療機関当たり 今季初の50人超え(NHK) 5) インフル感染19万人、2週連続で「警報レベル」 コロナは減少(産経新聞) 4.医師偏在是正へ、自由開業原則が転換点に 都市部抑制が本格化/政府政府は、深刻化する医師偏在を是正するため、医療法などを改正する法案を衆議院本会議で可決した。今国会中の成立が見込まれている。改正案では、都市部に集中する外来医師数を抑制し、医療資源の維持が難しい地域への医師誘導を強化する内容で、開業規制の導入は戦後初の本格的措置となる。背景には、2040年前後に85歳以上の高齢者人口が急増し、救急・在宅医療需要が著しく高まる一方、生産年齢人口は全国的に減少し、地域により医療提供体制の崩壊リスクが顕在化している構造的問題がある。改正案では、都道府県が「外来医師過多区域」を指定し、当該区域で新規開業を希望する医師に対し、救急・在宅などの不足機能への従事を要請できる仕組みを導入する。開業6ヵ月前の事前届出制を新設し、要請への不従事が続く場合は医療審議会で理由説明を求め、公表や勧告、保険医療機関指定期間の短縮(6年→3年)を可能とする強力な運用が盛り込まれた。一方、医師が不足する地域については「重点医師偏在対策支援区域」を創設し、診療所承継・開業支援、地域定着支援、派遣医師への手当増額など、経済的インセンティブを付与する。財源は健康保険者の拠出とし、現役世代の保険料負担の上昇が避けられない可能性も指摘されている。また、保険医療機関の管理者には、一定の保険診療経験(臨床研修2年+病院での保険診療3年)を要件化し、医療機関の質の担保を強化する。加えて、オンライン診療の法定化、電子カルテ情報共有サービスの全国導入、美容医療の届出義務化など、医療DXを基盤とした構造改革も並行して進める。今回の法改正は、「医師の自由開業原則」に制度的な調整を加える大きな転換点であり、診療所の新規開設や地域包括ケアとの連携、勤務環境整備に大きな影響を与えるとみられる。 参考 1) 医療法等の一部を改正する法律案の閣議決定について(厚労省) 2) 医師の偏在対策 医療法改正案が衆院本会議で可決 参院へ(NHK) 3) 医師偏在是正、衆院通過 開業抑制、DXを推進(共同通信) 5.病院7割赤字・診療所も利益率半減の中、診療報酬改定の基本方針まとまる/厚労省2026年度診療報酬改定に向け、厚労省は社会保障審議会医療部会を開き、令和8年度診療報酬改定の基本方針(骨子案)を明らかにした。これに加えて、医療経済実態調査、日本医師会からの要望が出そろい、改定論議が最終局面に入った。骨子案は4つの視点を掲げ、このうち「物価や賃金、人手不足等への対応」を「重点課題」と位置付ける。物価高騰と2年連続5%超の春闘賃上げを背景に、医療分野だけ賃上げが遅れ、人材流出リスクが高まっているとの認識だ。一方で、24年度医療経済実態調査では、一般病院の損益率(平均値)は-7.3%、一般病院の約7割が赤字と報告された。診療所も黒字は維持しつつ損益率は悪化し、医療法人診療所の利益率は前年度のほぼ半分に低下している。急性期ほど材料費比率が高く、物価高と医薬品・診療材料費の上昇が経営を直撃している構図が鮮明になった。日本医師会の松本 吉郎会長は、26年度改定では「単年度の賃金・物価上昇分を確実に上乗せする」対応を現実的選択肢とし、基本診療料(初再診料・入院基本料)を中心に反映すべきと主張する。ベースアップ評価料は対象職種が限定されており、現場の賃上げに十分つながっていないとの問題意識だ。さらに、改定のない奇数年度にも賃金・物価動向を当初予算に自動反映する「実質・毎年改定」を提案し、物価スライド的な仕組みの恒常化を求めているが、財源にも制約があるため先行きは不明。厚生労働省が示した骨子案には、物価・賃金対応に加え、「2040年頃を見据えた機能分化と地域包括ケア」「安心・安全で質の高い医療」「効率化・適正化による制度の持続可能性」を並列して掲げる。後発品・バイオ後続品の使用促進、OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し、費用対効果評価の活用など、負担増や給付適正化を通じた現役世代保険料抑制も明記されており、医療側が求める「救済一色」とはなっていない。医療部会では、病院団体から「過去2年分の賃上げの未達分も含めた上積み」や、医療DXとセットでの人員配置基準の柔軟化を求める声が上がる一方、保険者・経済界からは「視点1だけを重点課題とするのは違和感」「経営状況に応じたメリハリ配分を」との意見も出された。地域医療については、在宅医療・訪問看護や「治し支える医療」の評価、過疎地域の実情を踏まえた評価、かかりつけ医機能の強化などを通じ、2040年の高齢化ピークと医療人材不足に耐え得る体制構築をめざす。しかし、医療経済実態調査が示すように、一般病院も診療所もすでに利益率は薄く、「診療所の4割赤字から7割赤字の病院へ財源を振り替えても地域医療は守れない」とする日本医師会の主張も重くのしかかる。補正予算での物価・賃金対応は「大量出血に対する一時的な止血」に過ぎず、26年度本体改定でどこまで「根治療法」に踏み込めるかが焦点となる。この骨子案をもとにして、12月上旬に基本方針が正式決定され、年末の改定率、来年以降の中医協個別項目論議へと舞台は移る。医療機関の経営と人材確保に直結するため、次期改定に向けて「真水」の財源確保と、DX・タスクシフトを含む構造改革のバランスに注視する必要がある。 参考 1) 令和8年度診療報酬改定の基本方針 骨子案(厚労省) 2) 2026年度診療報酬改定「基本方針」策定論議が大詰め、「物価・人件費高騰に対応できる報酬体系」求める声も-社保審・医療部会(Gem Med) 3) 医療人材確保が困難さを増す中「多くの医療機関を対象にDX化による業務効率化を支援する」枠組みを整備-社保審・医療部会(同) 4) 日医・松本会長 26年度改定で賃金物価は単年度分上乗せが「現実的」 27年度分は大臣折衝で明確化を(ミクスオンライン) 5) 厚労省・24年度医療経済実態調査 医業費用の増加顕著 急性期機能高いほど材料費等の上昇が経営を圧迫(同) 6) 24年度の一般病院の損益率は▲7.3%、一般診療所は損益率が悪化-医療経済実態調査(日本医事新報) 6.介護保険の負担見直し本格化 現役世代の保険料増に対応/厚労省高齢化による介護給付費の増大を背景に、厚生労働省は介護保険サービス利用時に「2割負担」となる対象者の拡大を本格的に検討している。介護保険は、現在、原則1割負担で、単身年収280万円以上が2割、340万円以上が3割負担とされているが、所得基準を280万円から230~260万円へ引き下げる複数案が示され、拡大対象者は最大33万人に達する。介護保険の制度改正によって、年間で40~120億円の介護保険料の圧縮効果が見込まれ、財政面では国費20~60億円、給付費80~240億円の削減に寄与するとされる。現役世代の保険料負担が増す中で、所得や資産のある高齢者に応分の負担を求める狙いがある。一方、新たに2割負担となる利用者では、1割負担時に比べ最大月2万2,200円の負担増が生じるため、厚労省は急激な負担増を避ける「激変緩和策」として、当面は増額分を月7,000円までに抑える案を提示。預貯金額が一定額以下の利用者(単身300~700万円、または500万円以下など複数案)については申請により1割負担を据え置く仕組みも検討されている。資産要件の把握には、特別養護老人ホームの補足給付で用いられている金融機関照会の仕組みを参考に、自治体が認定証を交付する方式が想定されている。介護保険の自己負担率引き上げは、2015年の2割導入、2018年の3割導入以降も議論が続いてきたが、高齢者の負担増への反発で3度先送りされてきた。政府は、2025年末までに結論を出す方針を示し、現役世代の急速な負担増への対応は喫緊の課題となっている。26年度からは少子化対策による医療保険料上乗せも始まり、改革の遅れは賃上げ効果を相殺し国民負担をさらに押し上げる懸念が指摘される。今回の試算と緩和策の提示により、年末の社会保障審議会での議論が加速するとみられる。 参考 1) 介護保険料40~120億円圧縮 2割負担拡大巡り厚労省4案(日経新聞) 2) 介護保険料120億円減も 2割負担拡大で厚労省試算(共同通信) 3) 介護保険サービス自己負担引き上げで増額の上限を検討 厚労省(NHK)

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がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版

がん診療の現場で役立つ、せん妄に関する指針を3年ぶりに改訂!せん妄はがん医療の現場において高頻度で認められる病態であり、超高齢社会を迎えた日本では今後さらに、せん妄の予防と対策が重要となる。今版では、予防ではラメルテオンとオレキシン受容体拮抗薬に関する臨床疑問を、症状緩和では抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬・抗ヒスタミン薬の併用に関する臨床疑問を追加した。また総論の章には、臨床現場で重要となるアルコール離脱せん妄や術後せん妄をはじめとした7項目の解説が新たに追加されている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するがん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版定価3,300円(税込)判型B5判頁数264頁発行2025年9月編集日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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心不全に伴う体液貯留管理(4):症例2(79歳男性)Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第10回

心不全に伴う体液貯留管理(4):症例2(79歳男性)今回は、後縦靭帯骨化症の影響により寝たきりで、足のむくみのある79歳男性を例に、ポケットエコーの有用性を考えていきましょう。足のむくみがある79歳男性【今回の症例】79歳男性主訴足がすれて、むくんでいる現病歴意識疎通は明瞭だが、ベッド上の生活で、ほぼ全介助の状態1日30本喫煙。常に息苦しい感じがある禁煙ができないため、家族はCOPDとしての治療介入に消極的内服薬(服薬管理者:配偶者)プレガバリン75mg 1×、リマプロスト アルファデクス15μg 3×、メコバラミン1.5mg 3×、レボチロキシン62.5μg 1×、酪酸菌製剤錠3T 3×、ロキソプロフェン180mg 3×、ガバペンチン600mg 3×、L-カルボシステイン1,500mg 3×、レバミピド300mg 3×、アンブロキソール45mg 3×、ジメチコン120mg 3×、ラメルテオン8mg 1×、トラゾドン25mg 1×、クロナゼパム0.5mg 1×、スボレキサント15mg 1×併存症後縦靭帯骨化症、甲状腺機能低下症、糖尿病、C型慢性肝炎治療後バイタル体温36.0℃、血圧140/80mmHg、脈拍65回/分 整、SpO2 97%(room air)今回は79歳男性で、意思疎通は明瞭に取れますが、後縦靭帯骨化症の影響でベッド上の寝たきりの生活です。タバコが大好きで1日30本吸っていて「なんか息苦しい感じがある」と本人は言っています。家族は「タバコをやめられないんだったら治療する意味がない」と言い、家族のほうが治療に消極的でした。薬剤を見るとわかるのですが、とくに心不全の指摘はなく、肺気腫の要素があるのかもしれないといったところです。治療経過まず心エコーを見てみましょう。治療介入前の心エコー像1回当てただけでわかりますが、胸水がかなり溜まっていて、下大静脈(IVC)は27mm、呼吸性変動は消失していました。僧帽弁と三尖弁は同時に開いていたため、VMTスコアは2aでした。胸水が溜まっていて、VMTスコアから慢性心不全の非代償寄りで、右心不全の要素が強めと判断しました。そのため、治療はフロセミド20mgから開始しました。治療経過を見ていくと、治療介入から1ヵ月後にはむくみがかなり減っていました。IVCは23mmでしたが呼吸性変動が出てきていました。僧帽弁と三尖弁が開くのはほぼ同時です(図1)。少し改善が観察されているということで、フロセミド20mgはそのまま継続しました。図1 治療開始1ヵ月後のNT-proBNP・症状・VMTスコア画像を拡大する続いて、治療開始2ヵ月後のエコー像を見てみましょう。治療介入後の心エコー像最終的に、NT-proBNP値に著変はなかったですが、心エコー所見は改善しました。三尖弁と僧帽弁の開放はほぼ同時ながらも三尖弁がやや先行するようになり、胸水も初回と比べて著明に減少。VMTスコアは1点、IVCは16mmで呼吸性変動も認められました。フロセミド20mgの介入で2ヵ月後には、このような状況になりました(図2)。図2 治療開始2ヵ月後のNT-proBNP・症状・VMTスコア画像を拡大する治療介入2ヵ月後には「先生、すごく調子がいい」「よく寝られる」「タバコがうまいわ」と言っていて、タバコに対する介入はできなかったのですが、心不全を発見してQOLの向上に寄与することができたケースでした。まとめ4回にわたって、心不全に伴う体液貯留管理へのポケットエコーの応用を紹介しました。そのなかで、心不全の治療介入の判断にVMTスコアが非常に有用であることが、理解いただけたのではないでしょうか。VMTスコアは繰り返して用いることで、診断だけではなく治療効果の判定にも使えます。そして、エコーは我々だけではなく、患者やその家族も絵として見ることができます。たとえば「胸水がこんなに減っている」「心臓の動きが良くなっている」という画像を共有することで、家族も「先生のおかげで、本人も楽になっているようだ」と治療効果を視覚的に実感し、より協力的になっていただけるという利点もあります。

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ポンペ病〔Pompe Disease〕

1 疾患概要■ 定義ポンペ病(糖原病II型)は、グリコーゲンを分解するライソゾーム酵素である酸性アルファグルコシダーゼ活性の欠損または低下によるライソゾーム病である。疾患遺伝子はGAA、遺伝形式は常染色体潜性である。ポンペ病は、「乳児型」と「遅発型」に分類され、乳児型では乳児期早期にフロッピーインファント、肥大型心筋症、呼吸不全を発症し、遅発型では幼児期以降に肢帯筋優位の筋力低下や呼吸筋の筋力低下を発症する。■ 疫学ポンペ病の発生頻度は、およそ4万人に1人と推測され、約25%が乳児型であるとされる。■ 病因GAA遺伝子の両アレル性病的バリアントにより酸性アルファグルコシダーゼが欠損または低下し、組織のライソゾーム内に分解されないグリコーゲンが蓄積し、主に心筋や骨格筋が罹患する。オートファジーの機能不全も病態に関与することが明らかにされている。■ 症状乳児型では乳児期早期にフロッピーインファント、筋力低下、肥大型心筋症、呼吸不全を発症し、進行する。肝腫大、巨舌も出現する。遅発型では発症時期は小児期から成人期までさまざまであり、肢帯筋優位の筋力低下や呼吸筋筋力低下を発症し、緩徐に進行し、歩行障害や呼吸不全を来す。鼻声、翼状肩甲、傍脊柱筋萎縮を認めることが多い。ポンペ病の症状は、多器官に及んでいることが明らかになってきており、Wolff-Parkinson-White(WPW)症候群などの不整脈、脳血管障害、聴力障害、胃腸症状などを来すこともある。■ 分類酸性アルファグルコシダーゼ活性の完全欠損による乳児型と活性低下(部分欠損)による遅発型に分類される。遅発型には小児型、若年型、成人型が含まれる。■ 予後乳児型ポンペ病では、生後2ヵ月~数ヵ月に、哺乳力低下、全身の筋力低下、運動発達の遅れ、体重増加不良、心不全症状などを発症し、自然経過では、多くは1歳頃までに死亡する。酵素補充療法により生命予後が改善され、人工呼吸管理を必要とするリスクが減少している。遅発型ポンペ病の自然経過では、1歳以降に、歩行障害、運動時易疲労が出現し、運動機能障害、呼吸不全が進行し、車椅子や人工呼吸管理が必要となる。酵素補充療法により呼吸機能の悪化が抑制され、運動機能が改善されている。2 診断■ 検査所見1)乳児型ポンペ病血液検査血清CK高値(5,000IU/L程度)AST、ALT高値、BNP高値胸部X線&nbsp心拡大心電図 P波振幅増大、PR間隔短縮、QRS高電位心臓超音波検査心筋肥厚、左室駆出率低下生検筋病理所見&nbsp:生検筋病理所見ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、多数の空胞PAS染色→空胞内PAS染色陽性物質の蓄積(グリコーゲン蓄積を示す)酸ホスファターゼ染色陽性2)遅発型ポンペ病血液検査血清CK高値骨格筋CT小児型では大腿部筋の高吸収域、成人型では低吸収または筋萎縮筋電図 筋原性変化、しばしばミオトニー放電が出現呼吸機能検査肺活量と努力肺活量の低下生検筋病理所見特徴的な所見は顕著ではない。■ 確定診断酸性アルファグルコシダーゼ活性低下またはGAA遺伝子に両アレル性の病的バリアントを認めた場合に診断確定とする。酸性アルファグルコシダーゼ活性は濾紙血、リンパ球、生検筋組織などを用いて測定される。酸性アルファグルコシダーゼ活性が低下するがポンペ病を発症しない偽欠損となるバリアントc.1726G>A(p.Gly576Ser)が存在するため診断の際に注意を要する。■ 鑑別疾患乳児型ポンペ病の鑑別すべき疾患には脊髄性筋萎縮症、先天性筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、ミトコンドリア病などがある。遅発型ポンペ病では、肢帯型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、多発性筋炎などが挙げられる。他の筋疾患と比較し、遅発型ポンペ病では、歩行可能な時期に先行し、呼吸不全が出現することが特徴的とされる。3 治療■ 酵素補充療法ポンペ病に対し、2007年からヒト酸性アルファグルコシダーゼの遺伝子組み換え酵素製剤であるアルグルコシダーゼアルファ(商品名:マイオザイム)、2021年からアバルグルコシダーゼアルファ(同:ネクスビアザイム)による酵素補充療法が行われている。酵素はマンノース-6-リン酸(M6P)受容体を介し細胞内に取り込まれるが、アバルグルコシダーゼアルファは、横隔膜や骨格筋などへの酵素製剤の取り込みを増大させるため、酸化シアル酸残基にM6Pを結合させた改良型酵素製剤である。2025年からは遅発型ポンペ病に対し、高レベルのM6PやビスーM6P N-グリカンを結合させた酵素製剤シパグルコシダーゼアルファ(同:ポムビリティ)とポンペ病治療酵素安定化剤(シャペロン療法)としてミグルスタット(同:オプフォルダ)を併用する治療も行われるようになった。酵素製剤はいずれも2週間に1回静脈投与を行う。■ 呼吸機能の管理と治療ポンペ病の呼吸機能は、肋間筋や横隔膜の筋力低下を反映し、仰臥位の機能は座位に比し低下するので呼吸理学療法を行う。呼吸不全が進行した場合、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)または侵襲的陽圧換気療法(IPPV)を行う。遅発型ポンペ病では、歩行可能な時期に先行し呼吸不全が出現するため、呼吸機能を定期的に評価する。■ 心機能・不整脈の管理と治療乳児型では生後早期から心肥大が出現することが多い。酵素補充療法は、心肥大を改善させる。ポンペ病ではWPW症候群などの不整脈が高率に出現するため、不整脈に対する薬物療法やカテーテルアブレーションを必要とする症例がある。■ 脊柱側弯症の管理と治療脊柱側弯症に対し外科手術を行う。■ 理学療法関節の変形・拘縮予防のため、理学療法士の介入や、補装具を導入する。最大運動強度の60~70%までの有酸素運動が推奨されている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)ポンペ病の新生児スクリーニング検査が広く実施されるようになっている。とくに乳児型ポンペ病においては、早期治療開始が重要であり、米国でもRUSP(Recommendation Uniform Screening Panel)により新生児スクリーニングを実施する疾患として推奨されている。2025年時点では、公費助成がある自治体は少ないが、今後さらに広がることが期待されている。ポンペ病に対する遺伝子治療の開発は、海外の臨床治験として肝臓を標的としたAAV8-GAAの静脈内投与が遅発型ポンペ病に対して実施され、心筋、骨格筋、中枢神経を標的としたAAV-9-GAAの静脈内投与が乳児型ポンペ病に対して実施された。遺伝子治療の臨床現場への導入が期待されている。5 主たる診療科・紹介すべき診療科主たる診療科:小児科(小児神経、小児循環器)、脳神経内科(運動機能、脳血管障害、白質病変)紹介すべき診療科:リハビリテーション科、循環器内科、呼吸器内科、脳外科(脳血管障害)、耳鼻咽喉科(難聴)、整形外科(脊柱側弯症)、産科(母胎管理)、遺伝子診療科など※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター ポンペ病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター ライソゾーム病中のポンペ病 (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ライソゾーム病、ペルオキシゾーム病(副腎白質ジストロフィーを含む)における早期診断・早期治療を可能とする診療提供体制の確立に関する研究 (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会 編集. ポンペ病診療ガイドライン2018. 診断と治療社.2018.2)Ditters IAM, et al. Lancet Child Adolesc Health. 2022;6:28-37.3)Sawada T, et al. Orphanet J Rare Dis. 2021;16:516.公開履歴初回2025年11月20日

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SMA治療薬ヌシネルセンの高用量剤形を発売/バイオジェン

 バイオジェン・ジャパンは、脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬であるヌシネルセン(商品名:スピンラザ)の高用量投与レジメンでの剤形追加(28mg製剤、50mg製剤)について、2025年11月12日薬価収載と同時にわが国で販売を開始した。 高用量投与レジメンについては、2025年9月19日に新用量医薬品/剤形追加(28mg製剤、50mg製剤)に係る医薬品として承認を取得していた。なお、高用量投与レジメンでの剤形追加は、承認、販売ともにわが国が世界で最初となる。高用量投与で筋力の維持や呼吸機能などの改善に効果 SMAは、主に乳児期から小児期に発症する進行性の神経筋疾患で、運動神経細胞の変性・消失により筋力低下や筋萎縮を引き起こす。SMAは遺伝性疾患であり、SMN1遺伝子の欠失や変異が主な原因とされている。わが国を含む世界各国で患者が報告され、重症度や発症年齢によりI~IV型に分類される。SMAは、近年、治療法の進歩により患者さんの予後は大きく改善しているが、依然として「筋力の改善」、「呼吸・嚥下機能の改善」など、満たされていない医療ニーズが存在する。 SMA治療薬のヌシネルセンは、体内で生成される完全長Survival Motor Neuron(SMN)タンパクの量を継続的に増やすことで、運動ニューロン喪失の根本原因を標的にするアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)。SMAの発症部位に到達できるように運動ニューロンが存在する中枢神経系に直接投与される。ヌシネルセンは、最長10年間治療を受けた参加者データと他に類のないリアルワールドの経験に基づき、十分に確立された安全性プロファイルを有し、さまざまな年齢や異なるタイプのSMAに持続した有効性を示してきた。 今回発売されるヌシネルセンの高用量投与レジメンは、承認済みのヌシネルセン投与レジメンと比較し、より迅速な初期投与レジメン(50mgを14日間隔で2回投与)と、より高用量の維持投与レジメン(4ヵ月ごとに28mg投与)で構成されている。製剤は、既発売の12mg製剤に加え、28mgおよび50mgの高用量製剤を新たに加えたもので、より高い運動機能改善を期待するSMA患者さんに対する治療選択肢の拡充を目的としている。<製品概要>一般名:ヌシネルセン販売名:スピンラザ髄注 12mg/28mg/50mg効能または効果:脊髄性筋萎縮症用法および用量:・スピンラザ髄注 28mg/50mg通常、ヌシネルセンとして、初回および初回投与2週間後に50mgを投与し、以降4ヵ月の間隔で28mgの投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。・スピンラザ髄注 12mg(乳児型SMA、臨床所見は発現していないが遺伝子検査により発症が予測されるSMA)通常、ヌシネルセンとして、1回につき下記の用量(省略)を投与する。初回投与後、2週、4週および9週に投与し、以降4ヵ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。・スピンラザ髄注 12mg(乳児型以外のSMA)通常、ヌシネルセンとして、1回につき下表の用量(省略)を投与する。初回投与後、4週および12週に投与し、以降6ヵ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。薬価(いずれも1瓶):スピンラザ髄注12mg:932万424円 同28mg:966万1,483円 同50mg:977万8,481円製造販売承認日:スピンラザ髄注12mg:2017年7月3日 同28mg/50mg:2025年9月19日販売開始日:スピンラザ髄注12mg:2017年8月30日 同28mg/50mg:2025年11月12日製造販売元:バイオジェン・ジャパン株式会社

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摂食障害を誘発する9つの薬剤を特定

 摂食障害の誘発因子としての薬剤の影響は、心理社会的影響に比べ、十分に認識されていないのが現状である。中国・南昌大学のLiyun Zheng氏らは、米国食品医薬品局の有害事象報告システム(FAERS)データベースを用いて、摂食障害と関連する可能性のある薬剤を特定するため、本研究を実施した。Eating Behaviors誌2025年12月号の報告。 2004年1月~2024年12月にFAERSに報告された摂食障害に関連するデータを抽出した。不均衡なシグナルを検出するために報告オッズ比(ROR)を算出し、多重比較の調整にはフィッシャーの正確確率検定とボンフェローニ補正を適用した。100件以上の報告があり、有意な正のシグナル(RORの95%信頼区間下限値が1超、調整済みp値が0.01未満)を示した薬剤をLASSO回帰分析の対象とした。年齢、性別、報告者タイプで調整したロジスティック回帰分析を用いて、誘発因子となる薬剤を特定した。 主な結果は以下のとおり。・2万145件の報告のうち、女性の割合は62.7%であり、年齢中央値は59歳(四分位範囲:42~71歳)であった。・30種類の薬剤において有意な正のシグナルが認められた。・LASSO回帰分析とロジスティック回帰分析により、オクトレオチド、ribociclib、スニチニブ、リバスチグミン、エベロリムス、クエチアピン、パルボシクリブ、エソメプラゾール、プレガバリンを含む9種類の薬剤が潜在的な誘発因子として特定された。 著者らは「これらの薬剤は、とくに中高年層において、潜在的な摂食障害の誘発因子となる可能性が高かった。臨床医は、食欲や体重に影響を与える薬剤、乱用される可能性のある薬剤について、とくに摂食障害患者や高リスク集団においては、有害事象を防ぐためにも注意深くモニタリングする必要がある」と結論付けている。

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シンバスタチン、二次性進行型多発性硬化症への効果は?/Lancet

 先行の疫学研究により、多発性硬化症(MS)の重症度と血管合併症の関連が指摘され、第IIb相のMS-STAT試験では、HMG-CoA還元酵素阻害薬シンバスタチンはプラセボに比べ、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者の脳萎縮率を年間43%低減するととともに、総合障害度評価尺度(EDSS)の有意な改善が報告されている。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJeremy Chataway氏らMS-STAT2 Investigatorsは、第III相の「MS-STAT2試験」において、SPMS患者の障害進行の抑制に関して、シンバスタチンは有意な効果をもたらさないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年10月1日号で発表された。英国の無作為化プラセボ対照比較試験 MS-STAT2試験は、英国の31施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年5月~2021年9月に参加者の適格性を評価した(英国国立医療・社会福祉研究所[NIHR]医療技術評価プログラムなどの助成を受けた)。 McDonald診断基準でMSと確定され、EDSSのスコアが4.0~6.5であり、過去2年間に身体障害の継続的な進行がみられるためSPMSと診断された患者964例(平均年齢[±SD]54±7歳、女性704例[73%])を登録した。 被験者を、シンバスタチン80mgを経口投与する群(482例)、またはプラセボ群(482例)に無作為に割り付け、3~4.5年間投与した。 主要アウトカムは、6ヵ月後にEDSSで確定された身体障害の進行(ベースラインのEDSSスコアが6.0未満の場合は1点以上の増加、6.0以上の場合は0.5点の増加)とし、ITT解析を行った。副次アウトカムにも差はない 主要アウトカムのイベントは、シンバスタチン群で173例(36%)、プラセボ群で192例(40%)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(補正後ハザード比:1.13、95%信頼区間[CI]:0.91~1.39、p=0.26)。主要アウトカムの感度分析およびper-protocol解析でも、両群間に有意差はみられなかった。 5つの臨床的副次アウトカム(multicomponent disability progression、multiple sclerosis functional composite[MSFC]、Sloan low contrast visual acuity[SLCVA]、修正Rankinスケール[mRS]、brief international cognitive assessment for multiple sclerosis[BICAMS])については、シンバスタチン群の有益性を示すエビデンスは得られなかった。一方、multicomponent disability progressionの3つの構成要素のうち、上肢機能の指標である9-hole peg test(9HPT)はシンバスタチン群で優れた(補正後オッズ比:1.68、95%CI:1.05~2.69、p=0.031)。 4つの患者報告による副次アウトカム(multiple sclerosis impact scale-29 version 2[MSIS-29v2]、multiple sclerosis walking scale 12[MSWS-12v2]、modified fatigue impact scale 21[MFIS-21]、Chalder Fatigue Questionnaire[CFQ])は、いずれも両群間に差はなかった。 また、再発率はシンバスタチン群で有意に高かった(0.05 vs.0.07/人年、補正後発生率比:1.43、95%CI:1.01~2.01、p=0.044)が、数値そのものは低かった。SPMSの進行抑制に実質的な効果はない 追跡期間中に79例が疾患修飾薬による治療を開始した(シンバスタチン群43例[9%]、プラセボ群36例[7%])。このうち73例がシポニモドを使用した。 安全性に関する緊急の問題や、予期せぬ重篤な有害反応を疑わせる事例の報告はなかった。シンバスタチン群の1例で、重篤な有害反応が発現した(治療開始から56日後に横紋筋融解症で入院、続発症の発現なく回復)。心血管系の重篤な有害事象は、シンバスタチン群で5例(1%)、プラセボ群で12例(2%)に発生した。 著者は、「シンバスタチンは、SPMSの進行抑制において実質的な治療効果はないことが明らかとなった」「MSの疾患修飾薬としてのシンバスタチンの位置付けは確立していないが、スタチンは引き続きMS患者の血管合併症の1次および2次予防において重要な役割を担うと考えられる」としている。

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第27回 なぜ経済界トップは辞任したのか?新浪氏報道から考える、日本と世界「大麻をめぐる断絶」

経済同友会代表幹事という日本経済の中枢を担う一人、サントリーホールディングスの新浪 剛史氏が会長職を辞任したというニュースは、多くの人に衝撃を与えました1)。警察の捜査を受けたと報じられる一方、本人は記者会見で「法を犯しておらず潔白だ」と強く主張しています。ではなぜ、潔白を訴えながらも、日本を代表する企業のトップは辞任という道を選ばざるを得なかったのでしょうか。この一件は、単なる個人のスキャンダルでは片付けられません。日本の厳格な法律と、大麻に対する世界の常識との間に生じた「巨大なズレ」を浮き彫りにしているかもしれません。また、私たち日本人が「大麻」という言葉に抱く漠然としたイメージと、科学的な実像がいかにかけ離れているかをも示唆しているようにも感じます。本記事では、この騒動の深層を探るとともに、科学の光を当て、医療、社会、法律の各側面から、この複雑な問題の核心に迫ります。事件の深層 ― 「知らなかった」では済まされない世界の現実今回の騒動の発端は、新浪氏が今年4月にアメリカで購入したサプリメントにあります。氏が訪れたニューヨーク州では2021年に嗜好用大麻が合法化され、今や街の至る所で大麻製品を販売する店を目にします。アルコールやタバコのように、大麻成分を含むクッキーやオイル、チョコレートやサプリメントなどが合法的に、そしてごく普通に流通しています。新浪氏は「時差ボケが多い」ため、健康管理の相談をしていた知人から強く勧められ、現地では合法であるという認識のもと、このサプリメントを購入したと説明しています。ここで重要になるのが、大麻に含まれる2つの主要な成分、「THC」と「CBD」の違いです。THC(テトラヒドロカンナビノール)いわゆる「ハイ」になる精神活性作用を持つ主要成分です。日本では麻薬及び向精神薬取締法で厳しく規制されており、これを含む製品の所持や使用は違法となります。THCには多幸感をもたらす作用がある一方、不安や恐怖感、短期的な記憶障害や幻覚作用などを引き起こすこともあります。CBD(カンナビジオール)THCのような精神作用はなく、リラックス効果や抗炎症作用、不安や緊張感を和らげる作用などが注目されています。ただし、臨床的に確立されたエビデンスはなく、愛好家にはエビデンスを過大解釈されている側面は否めません。「時差ボケ」を改善するというエビデンスも確立していません。日本では、大麻草の成熟した茎や種子から抽出され、THCを含まないCBD製品は合法的に販売・使用が可能です。新浪氏自身は「CBDサプリメントを購入した」という認識だったと述べていますが、問題はここに潜んでいます。アメリカで合法的に販売されているCBD製品の中には、日本の法律では違法となるTHCが含まれているケースが少なくありません。厚生労働省も、海外製のCBD製品に規制対象のTHCが混入している例があるとして注意を呼びかけています2)。まさにこの「合法」と「違法」の境界線こそが、今回の問題の核心です。潔白を訴えても辞任、なぜ? 日本社会の厳しい目記者会見での新浪氏の説明や報道によると、警察が氏の自宅を家宅捜索したものの違法な製品は見つからず、尿検査でも薬物成分は検出されなかったとされています。また、福岡で逮捕された知人の弟から自身にサプリメントが送られようとしていた事実も知らなかったと主張しています。法的には有罪が確定したわけでもなく、本人は潔白を強く訴えている。にもかかわらず、なぜ辞任に至ったのでしょうか。その理由は、サントリーホールディングス側の判断にありました。会社側は「国内での合法性に疑いを持たれるようなサプリメントを購入したことは不注意であり、役職に堪えない」と判断し、新浪氏も会社の判断に従った、と説明されています。これは、法的な有罪・無罪とは別の次元にある、日本社会や企業における「コンプライアンス」と「社会的信用」の厳しさを物語っているのかもしれません。とくにサントリーは人々の生活に密着した商品を扱う大企業です。そのトップが、たとえ海外で合法であったとしても、日本で違法と見なされかねない製品に関わったという「疑惑」が生じたこと自体が、企業のブランドイメージを著しく損なうリスクとなります。結果的に違法でなかったとしても、「違法薬物の疑いで警察の捜査を受けた」という事実だけで、社会的・経済的な制裁が下されてしまう。これが、日本社会の現実です。科学は「大麻」をどう見ているのか?この一件を機に、私たちは「大麻」そのものについて、科学的な視点からも冷静に見つめ直す必要があるでしょう。世界中で医療大麻が注目される理由は、THCやCBDといった「カンナビノイド」が、私たちの体内にもともと存在する「エンドカンナビノイド・システム(ECS)」に作用するためです3)。ECSは、痛み、食欲、免疫、感情、記憶など、体の恒常性を維持する重要な役割を担っています。この作用を利用し、既存の薬では効果が不十分なさまざまな疾患への応用が進んでいます4)。がん治療の副作用緩和抗がん剤による悪心や嘔吐、食欲不振を和らげる効果。アメリカではTHCを主成分とする医薬品(ドロナビノールなど)がFDAに承認されています。難治性てんかんとくに小児の難治性てんかんにCBDが効果を示し、多くの国で医薬品として承認されています。その他多発性硬化症の痙縮、神経性の痛み、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、幅広い疾患への有効性が研究・報告されています。このように、科学の視点で見れば、大麻はさまざまな病気の患者を救う可能性を秘めた「薬」としての側面を持っています。「酒・タバコより安全」は本当か? リスクの科学的比較「大麻は酒やタバコより安全」という言説を耳にすることもあります。リスクという側面から、これは本当なのでしょうか。単純な比較はできませんが、科学的なデータはいくつかの客観的な視点を提供してくれます。依存性生涯使用者のうち依存症に至る割合は、タバコ(ニコチン)が約68%、アルコールが約23%に対し、大麻は約9%と報告されており、比較的低いとされます5)。しかし、ゼロではなく、使用頻度や期間が長くなるほど「大麻使用障害」のリスクは高まります。致死量アルコールのように急性中毒で直接死亡するリスクは、大麻には報告されていません6)。長期的な健康への影響精神への影響大麻の長期使用、とくに若年層からの使用は、統合失調症などの精神疾患のリスクを高める可能性が複数の研究で示されています。とくに高THC濃度の製品を頻繁に使用する場合、そのリスクは増大すると考えられています7)。また、うつ病や双極性障害との関連も指摘されていますが、研究結果は一貫していません。身体への影響煙を吸う方法は、タバコと同様に咳や痰などの呼吸器症状と関連します。心血管系への影響(心筋梗塞や脳卒中など)も議論されていますが、結論は出ていません8)。一方で、運転能力への影響は明確で、使用後の数時間は自動車事故のリスクが有意に高まることが示されています6)。国際的な専門家の中には、依存性や社会への害を総合的に評価すると、アルコールやタバコの有害性は、大麻よりも大きいと結論付けている人もいます。しかし、これは大麻が「安全」だという意味ではなく、それぞれ異なる種類のリスクを持っていると理解するべきでしょう。世界の潮流と日本のこれからかつて大麻は、より危険な薬物への「入り口」になるという「ゲートウェイ・ドラッグ理論」が主流でした。しかし近年の研究では、もともと薬物全般に手を出しやすい遺伝的・環境的な素因がある人が複数の薬物を使用する傾向がある、という「共通脆弱性モデル」のほうが有力だと考えられています9)。アメリカでは多くの州で合法化が進みましたが、社会的なコンセンサスは得られていません。賛成派は莫大な税収や犯罪組織の弱体化を主張する一方、反対派は若者の使用増加や公衆衛生への悪影響を懸念しています。合法化による長期的な影響はまだ評価の途上にあり、世界もまた「答え」を探している最中です。ただし、新浪氏の問題は、決して他人事ではないと思います。今後、海外で生活したり、旅行したりする日本人が、意図せず同様の事態に陥る可能性は誰にでもあります。また、この一件は、私たちに大きな問いを投げかけています。世界が大きく変わる中で、日本は「違法だからダメ」という思考停止に陥ってはいないでしょうか。もちろん、法律を遵守することは大前提。しかし同時に、大麻が持つ医療的な可能性、アルコールやタバコと比較した際のリスクの性質、そして世界の潮流といった科学的・社会的な事実から目を背けるべきではありません。今回の騒動をきっかけに、私たち一人ひとりが固定観念を一度リセットし、科学に基づいた冷静な知識を持つこと。そして社会全体で、この複雑な問題について、感情論ではなく建設的な議論を始めていくこと。それこそが、日本が世界の「ズレ」から取り残されないために、今まさに求められていることなのかもしれません。 1) NHK. サントリーHD 新浪会長が辞任 サプリメント購入めぐる捜査受け. 2025年9月2日 2) 厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部. CBDオイル等のCBD関連製品の輸入について. 3) Testai FD, et al. Use of Marijuana: Effect on Brain Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2022;53:e176-e187. 4) Page RL 2nd, et al. Medical Marijuana, Recreational Cannabis, and Cardiovascular Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2020;142:e131-e152. 5) Lopez-Quintero C, et al. Probability and predictors of transition from first use to dependence on nicotine, alcohol, cannabis, and cocaine: results of the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC). Drug Alcohol Depend. 2011;115:120-130. 6) Gorelick DA. Cannabis-Related Disorders and Toxic Effects. N Engl J Med. 2023;389:2267-2275. 7) Hines LA, et al. Association of High-Potency Cannabis Use With Mental Health and Substance Use in Adolescence. JAMA Psychiatry. 2020;77:1044-1051. 8) Rezkalla SH, et al. A Review of Cardiovascular Effects of Marijuana Use. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2025;45:2-7. 9) Vanyukov MM, et al. Common liability to addiction and “gateway hypothesis”: theoretical, empirical and evolutionary perspective. Drug Alcohol Depend. 2012;123 Suppl 1:S3-17.

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乳児の脊髄性筋萎縮症、発症前にリスジプラムが有効/NEJM

 遺伝学的に脊髄性筋萎縮症(SMA)と診断された未発症の生後6週までの乳児において、SMA発症前のリスジプラムの投与は、自然経過研究における未治療SMA乳児と比較し、12ヵ月時および24ヵ月時の機能的および生存アウトカムが良好であった。米国・St. Jude Children's Research HospitalのRichard S. Finkel氏らRAINBOWFISH Study Groupが、同国と欧州など7ヵ国で実施した第II相非盲検試験「RAINBOWFISH試験」の結果を報告した。リスジプラムは、経口投与可能なmRNA前駆体スプライシング修飾薬で、臨床症状を有するSMA患者に対する有効な治療薬であるが、無症状の患者における有効性および安全性は不明であった。今回の結果を踏まえて著者は、「リスジプラムによる症状発現前の治療の相対的な有効性と安全性をさらに理解するために、より大規模な無作為化比較試験および長期追跡調査が必要である」とまとめている。NEJM誌2025年8月14日号掲載の報告。SMAと診断されたが症状を呈していない生後6週までの乳児を対象に試験 RAINBOWFISH試験の対象は、スクリーニング時に5番染色体長腕(5q)に変異がある常染色体劣性のSMA(遺伝学的SMA)との診断を有するが、SMAを強く示唆する臨床徴候または症状が認められない、初回投与時の年齢が生後1~42日(在胎期間は単胎で37~42週、双胎で34~42週)の乳児とした。SMN2遺伝子のコピー数は問わないこととしたが、SMN2遺伝子のコピー数が2でベースラインの複合筋活動電位(CMAP)振幅が1.5mV以上の患者(主要有効性解析対象集団)を、少なくとも5例に達するまで登録を継続した。自然経過研究では、SMN2遺伝子のコピー数2を有する未治療の乳児の大半は、重症SMAの表現型(I型)で、自立座位が不可であったり、永続的な人工呼吸管理および摂食支援を要する、あるいは生後13ヵ月までに死亡することが示されている。 研究グループは、適格登録患児全例にリスジプラムを平均血漿曝露量約2,000ng×時間/mLとなるよう1日1回経口投与した。最初の3例は0.04mg/kgで投与を開始し、薬物動態データに基づき投与開始後3~8週以内に全例0.2mg/kgに調整した。投与期間は、非盲検投与期を24ヵ月としてその後は非盲検延長期に移行し、計5年間とした。 主要アウトカムは、主要有効性解析対象集団における投与12ヵ月時点での、支持なし5秒以上の座位保持可能(BSID-IIIの項目22に基づく)な患児の割合とした。副次アウトカムは全例における臨床症状を伴うSMAの発症、生存期間、呼吸支援、発達マイルストーンおよび運動機能、栄養摂取などであった。支持なし5秒以上の座位保持可能な患児の割合は80% 2019年8月7日に最初の患児が登録され、SMN2遺伝子のコピー数が2、3または4以上の患児計26例が登録された(クリニカルカットオフ日は、主要解析[投与12ヵ月時]2023年2月20日、投与24ヵ月時2024年3月27日)。 投与12ヵ月時に、21例(81%)が支持なし30秒以上座位保持が可能、14例(54%)が起立可能、11例(42%)が自立歩行可能であった。 主要アウトカム(主要有効性解析対象集団5例)については、4例(80%、95%信頼区間:28~100)が支持なし5秒以上の座位保持が可能で、事前規定の達成基準5%(未治療I型SMA患者の自然経過研究に基づく)を上回った。 投与12ヵ月時の評価後に3例が試験を中断した(親または介護者によってオナセムノゲンアベパルボベクによる遺伝子治療に切り換えたため)が、24ヵ月間の治療を完了した23例は全例が永続的な人工呼吸管理および摂食支援なしで生存していた。 24ヵ月間に、7例の乳児で9件の治療関連有害事象が報告されたが、いずれも重篤ではなかった。

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画期的AI活用法!【Dr. 中島の 新・徒然草】(593)

五百九十三の段 画期的AI活用法!8月7日の立秋を境に、厳しい暑さが少し和らいできました。まもなく迎える終戦記念日は、戦後80年の節目でもあります。太平洋戦争をアメリカ側から見れば、真珠湾への奇襲攻撃を行った日本を正義の鉄槌で無条件降伏させ、占領後に民主国家へと生まれ変わらせた……そんな「美しい物語」ではないでしょうか。しかし、日本には日本の正義があったはず。敗者になったがために戦勝国に言われ放題なのは、やはり複雑な思いがあります。とはいえ、これはあくまでも私の感じていることであり、他の人に自分の考えを押しつけるつもりは毛頭ありません。ただ一つ心掛けたいのは、あの戦争で命を落とした先祖に恥じない生き方をしなくては、ということです。さて、本題の「画期的AI活用法」に移ります。私は以前からChatGPTを利用してきましたが、最近になって臨床現場での非常に有効な使い方を見つけました。それは、薬剤処方のチェックです。高齢患者に10種類前後の薬を処方することは珍しくありません。いわゆるポリファーマシーですね。しかし多剤併用には大きく2つの課題があります。1つは薬物相互作用による副作用リスク。たとえば10種類の薬なら、2剤間の組み合わせは10C2=45通りにものぼります。もう1つは、副作用が疑われた際に原因薬を特定する難しさ。外来の限られた診察時間内でこれを突き止めるのは、きわめて困難です。ここでAIの出番!たとえば、ある80代男性(架空症例)に以下の薬を処方していたとします。アムロジピン、ワルファリン、アトルバスタチン、メコバラミン、ソリフェナシン、ゾルピデム、プレガバリン、レボドパ・ベンセラジド、ブロモクリプチン、ミコナゾールChatGPTに「この中でリスクの高い薬剤の組み合わせは?」と尋ねると瞬時に以下の回答が返ってきました(簡略化しています)。高リスクワルファリン+ミコナゾール(重篤な出血リスク)中リスクゾルピデム+プレガバリン(転倒・せん妄・呼吸抑制)、ゾルピデム+レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(認知機能悪化・転倒)、ソリフェナシン+パーキンソン薬(便秘・尿閉・せん妄)実際、私はワルファリン+ミコナゾールで口腔内出血や血尿を来した症例を経験したことがあります。次に「この患者さんの言動が急におかしくなって薬剤有害事象を疑った場合の被疑薬をリスクで順位付けしてください」と尋ねると、これまた即座に以下の結果が返ってきました。1位:ゾルピデム(せん妄・幻覚・記憶障害)2位:プレガバリン(めまい・傾眠・意識変容)3位:レボドパ・ベンセラジド/ブロモクリプチン(幻覚・妄想・衝動制御障害)4位:ソリフェナシン(せん妄・記憶障害)5位:ワルファリン+ミコナゾール(脳出血による意識変容)これらの副作用は私も実際に経験したことがあり、いずれも薬剤中止によって改善しました。プレガバリンやソリフェナシンの中枢神経症状は意外に思われるかもしれませんが、私はそれぞれ複数症例で見たことがあります。なので決して珍しいものではありません。また、このように被疑薬の候補が多い場合でも、症状出現と薬剤開始の時期を照らし合わせることによって、絞り込むことが可能かと思います。このような形でAIを使う時に注意すべきは、薬剤名を商品名でなく一般名で入力すること。商品名で試してみると、似た名称のまったく異なる薬が他国にあるためか、しばしば見当外れの答えが返ってきたからです。ということで、ポリファーマシーが避けられない現代、AIは非常に心強い味方ですね。読者の皆さまも、どうぞご活用ください。最後に一句 盆来たる AI我らの 戦友ぞ

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第278回 自己免疫疾患の電気治療を米国が初承認

自己免疫疾患の電気治療を米国が初承認自己免疫疾患の関節リウマチ(RA)を治療する迷走神経刺激(VNS)装置を米国FDAが承認しました1,2)。米国の医療機器会社SetPoint Medicalが開発し、製品名は同社の名を冠してSetPoint Systemといいます。SetPoint Systemは免疫系を調節する神経刺激(神経免疫調節)機器であり、自己免疫疾患への使用が承認された初の神経刺激装置となりました。他の自己免疫疾患と同様にRAも過剰な炎症反応を誘発する免疫の組織攻撃で生じ、痛みや腫れを引き起こし、ひどくすると内臓をも傷めます。RAの治療に使われる薬の多くは免疫系を抑制する作用があり、副作用としてがんや感染症を生じやすくする恐れがあります。治療が不十分な場合は多いらしく、米国のRA患者を調べた試験では4例に3例ほどが治療に満足していませんでした3)。治療が億劫になることも少なくないようで、多ければ2例に1例が薬物治療を2年以内に止めてしまうようです1)。既存のRA治療と異なり、SetPoint Systemは電気で迷走神経を刺激し、体にもともと備わる仕組みを活性化して炎症を鎮めて免疫を正常化します。SetPoint Systemはカプセル剤ほどの小粒な機器です。外来での手術で首の片方の迷走神経に沿わすように植え込んで使用します。長ければ10年間自動で迷走神経を1日1回電気で刺激し、迷走神経とつながる脾臓の免疫反応を調節します。SetPoint Systemの効果や安全性は中等~重度RA患者242例が参加した二重盲検無作為化RESET-RA試験で裏付けられています。SetPoint Systemが植え込まれて実際に電気刺激された患者のおよそ35%(35.2%)が12週間でACR20(20%以上のRA症状改善)を達成しました4)。SetPoint Systemを植え込みはしたものの目当ての電気刺激はしなかった偽治療群のACR20達成率は24%でした。RESET-RA試験を率いたリウマチ医のJohn Tesser氏によると、同試験でのSetPoint Systemの効果は1年後までの経過観察でも認められており、4例に3例が抗リウマチ薬なしで1年時点を迎えることができています。免疫を害さずRAを治療しうるSetPoint Systemは、免疫低下の代償と引き換えのこれまでのRA治療を刷新しうるとSetPoint Medical社は期待しています。SetPoint Systemの用途はどうやらRAにとどまらず、多発性硬化症やクローン病などの他の自己免疫疾患も治療できる可能性があります。実際、多発性硬化症患者を対象とした手始めの臨床試験の開始が昨年の10月初めまでに米国FDAに許可されており5)、Clinicaltrials.gov登録情報によると同試験は間もなく来月9月末に始まります6)。 参考 1) SetPoint Medical Receives FDA Approval for Novel Neuroimmune Modulation Therapy for Rheumatoid Arthritis / BusinessWire 2) Vagus nerve stimulation receives US approval to treat arthritis / NewScientist 3) Radawski C, et al. Rheumatol Ther. 2019;6:461-471. 4) SetPoint Medical Announces Late-Breaking Data from RESET-RA Study at ACR Convergence 2024 / BusinessWire 5) SetPoint Medical Receives FDA’s IDE Approval for U.S. Pilot Study of Neuroimmune Modulation Platform in Adults with Relapsing-Remitting Multiple Sclerosis / BusinessWire 6) The SetPoint System as a Pro-Remyelination Therapy for Relapsing-Remitting Multiple Sclerosis: A Pilot Study / Clinicaltrials.gov

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自己免疫疾患は気分障害リスクを高める

 関節リウマチ、炎症性腸疾患(IBD)、乾癬などの自己免疫疾患の罹患者は、一般集団に比べてうつ病、不安症(不安障害)、双極症(双極性障害)などの気分(感情)障害の発症リスクが約2倍高いことが、新たな研究で明らかになった。このようなリスク上昇は、男性よりも女性で顕著であることも示されたという。英エディンバラ大学臨床脳科学センターのArish Mudra Rakshasa-Loots氏らによるこの研究結果は、「BMJ Mental Health」に6月10日掲載された。 Rakshasa-Loots氏らはこの研究で、慢性炎症は抑うつ障害や不安症などの精神疾患の発症と関連していることを踏まえ、慢性炎症状態に置かれている自己免疫疾患患者では、精神的な健康問題を抱える割合が高いのではないかと考えた。この仮説を検証するために同氏らは、英国で新たに実施された大規模な健康調査(Our Future Health)に参加した18歳以上の成人156万3,155人のデータを解析した。この研究への参加にあたり、参加者は自身の身体的および精神的健康の履歴を報告していた。自己免疫疾患として、関節リウマチ、バセドウ病、IBD、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、乾癬の6つを対象としたところ、該当者は3万7,808人であった。 その結果、自己免疫疾患を有する人では、一般集団と比較して生涯に気分障害(うつ病、不安症、双極症)の診断歴を有する割合が有意に高いことが明らかになった(28.8%対17.9%、P<0.001)。気分障害の種類別に検討しても、結果は同様であった。また、自己免疫疾患を有する人では、現在抑うつ症状を有している(PHQ-9スコア≧10)割合が18.6%(一般集団10.5%)、現在不安症状を有している(GAD-7スコア≧8)割合が19.9%(同12.9%)であり、いずれも有意に高かった。 さらに、ロジスティック回帰モデルを用いた解析の結果、自己免疫疾患を有する人では一般集団と比べて気分障害を発症する可能性が有意に高く、オッズ比は1.86(95%信頼区間:1.82〜1.90)であった。この結果は、年齢、性別、気分障害の家族歴などの関連因子で調整後も維持された(オッズ比1.48、P<0.001)。 研究グループは、「これらの結果は、慢性炎症への曝露が気分障害のより大きなリスクと関連している可能性があるという仮説を裏付けている」と結論付けている。 さらに本研究では、性別ごとに気分障害の有病率を比較した結果、同じ身体疾患を有する場合でも、女性の方が男性よりも一貫して有病率が高いことも示された。具体的には、免疫疾患を有する人における生涯の気分障害の有病率は女性31.6%、男性20.7%、免疫疾患のない人では女性21.9%、男性12.7%であった。 研究グループは、「理論的には、性ホルモン、染色体因子、抗体の違いにより、これらの性差を部分的に説明できる可能性がある」と述べている。また研究グループは、うつ病の女性は血流中の炎症性化学物質のレベルが高い傾向にあることを指摘し、「これにより、女性では自己免疫疾患の有病率が高くなるとともに、免疫反応がメンタルヘルスに及ぼす影響も強まる可能性がある。こうした複合的な要因により、本研究で観察された女性での気分障害の有病率の高さが説明できる可能性がある」と述べている。 以上の結果を踏まえ研究グループは、「自己免疫疾患と診断された患者、特に女性患者に対する臨床ケアに定期的な精神疾患のスクリーニングを組み込むことで、気分障害の早期発見と、患者に合わせた精神保健介入の提供が可能になるかもしれない」と提言している。また、慢性的な痛み、疲労、睡眠障害、社会的孤立など、自己免疫疾患に関連する他の問題が気分障害のリスクに寄与しているかどうかを特定するために、さらなる研究を行う必要があると付け加えている。

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