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デュシェンヌ型筋ジストロフィー〔DMD:Duchenne muscular dystrophy〕

1 疾患概要■ 定義デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、機能的ジストロフィンの欠損により、進行性の筋力低下および筋萎縮を来すX染色体潜性遺伝疾患である。小児期に発症する筋ジストロフィーの中で最も頻度が高く、重症型に位置付けられる。■ 疫学男児出生約3,500~5,000人に1人の割合で発症する。人種による発症頻度の明らかな差はない。女性保因者も骨格筋症状や心筋症を呈することがあり、定期的な評価が推奨される。■ 病因X染色体短腕(Xp21.2)に位置し、筋細胞膜直下に存在する細胞骨格タンパク質であるジストロフィン遺伝子(DMD遺伝子)の変異(欠失、重複、微小変異など)が原因である。ジストロフィンは細胞骨格と細胞外基質を連結し、筋収縮時の機械的ストレスから細胞膜を保護する役割を担う。機能的ジストロフィンが欠損することで筋細胞膜の安定性が失われ、筋線維の壊死と再生が繰り返され、最終的に筋組織が脂肪組織や結合組織に置換される。■ 症状乳幼児期から運動発達の遅れ(定頸や歩行開始の遅延など)として認識されることが多い。幼児期には転びやすい、走れない、階段昇降が困難といった症状が顕在化する。床から立ち上がる際に、自身の膝や大腿に手をついて立ち上がる登攀性起立(ガワーズ徴候)や、腓腹筋の仮性肥大が高頻度に見られる。また、認知機能や発達特性(知的障害、注意欠如・多動症、自閉スペクトラム症など)を合併することがある。筋力低下は体幹および近位筋から始まり、次第に遠位筋へと進行する。従来は10歳前後で歩行を喪失することが多かったが、現在ではステロイド療法などにより歩行可能期間は延長している。歩行喪失後は車椅子の使用が必要となる。病状の進行に伴い、脊柱変形(側弯症)、呼吸筋力低下による呼吸機能障害、および拡張型心筋症に類似した心筋障害を合併する。嚥下機能障害や消化管の蠕動運動低下も生じうる。さらに、長期経過では骨粗鬆症や骨折、肥満なども重要な合併症となる。■ 分類ジストロフィン遺伝子変異に起因する疾患群は「ジストロフィノパチー」と総称される。DMDはジストロフィンがほぼ完全に欠損する重症型である。その一方で、遺伝子変異があるものの、異常なジストロフィンタンパク質が一部産生され、臨床症状がより軽度で歩行機能が長期に維持されるタイプを「ベッカー型筋ジストロフィー」(BMD)と分類する。■ 予後かつては20歳前後で呼吸不全や心不全により死亡することが多かった。しかし、非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)などの呼吸管理の進歩、心筋保護薬の早期導入、ステロイド治療の普及、さらに多職種による集学的ケアの確立により、歩行可能期間および生命予後は大きく改善しており、40~50代以上まで生存する患者も増えている。2 診断 (検査、鑑別診断を含む)初めに診断のフローチャートを示す(図)。図 デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の診断フローチャート画像を拡大する血液検査では、筋崩壊を反映してクレアチンキナーゼ(CK)値が著明に上昇する(数千~数万IU/L)。とくに発症初期や無症状の乳幼児期においても異常高値を示すため、スクリーニングとしてきわめて有用である。偶発的な肝酵素(AST、ALT)の上昇を契機に発見されることも多く、肝疾患との鑑別においてCK値の確認が必須である。確定診断には遺伝子検査が行われる。まず、MLPA法などによりDMD遺伝子の欠失・重複変異を検索する。これで変異が同定されない場合は、次世代シークエンサー(NGS)などを用いて点変異や微小欠失・挿入などの塩基配列解析を行う。遺伝子診断で確定できない特殊例では筋生検を考慮する。鑑別診断としては、ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)、肢帯型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、先天性ミオパチー、多発性筋炎などが挙げられる。診断確定後は遺伝カウンセリングを行い、保因者診断や家族への遺伝学的情報提供についても検討する。3 治療現在、疾患を完全に治癒させる根治療法は確立していないが、病状の進行遅延を目的とした薬物療法と、合併症に対する対症療法・集学的ケアが行われる。薬物療法の基本はステロイド薬(プレドニゾロンなど)の投与である。これにより筋力低下の進行を遅らせ、歩行可能期間の延長、呼吸・心機能の低下抑制、側弯の進行防止などの効果が得られる。また、近年、特定の遺伝子変異を対象としたエクソンスキップ療法が実用化されている。これはアンチセンス核酸を用いてmRNAの成熟過程で特定のエクソンを読み飛ばし、機能は不完全ながらも一部機能するジストロフィンタンパク質を産生させる治療である。国内ではエクソン53スキッピング薬であるビルトラルセン(商品名:ビルテプソ点滴静注)が承認されている。対症療法として、関節可動域(ROM)維持、装具療法、立位保持、呼吸リハビリテーションを継続的に実施することが重要である。呼吸機能障害に対しては、早期からの呼吸機能評価とNPPVの導入、機械的咳介助が行われる。心筋障害に対しては、ACE阻害薬の早期からの投与が推奨されている。病状の進行や変化に応じて、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(エプレレノンなど)の併用などが検討される。4 今後の展望(治験中、研究中の診断法や治療薬剤など)今後の有望な治療法の1つが遺伝子治療である。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて、全身投与により骨格筋および心筋へのマイクロジストロフィン遺伝子の導入を図る治療法(デランジストロゲン モキセパルボベク、商品名:エレビジス点滴静注)は、国内でも2026年2月に承認された。本来のジストロフィン遺伝子は巨大でありAAVベクターに全長を搭載できないため、マイクロジストロフィンは筋細胞膜の安定化に不可欠な最重要機能ドメイン(領域)のみを残し、全長の約3分の1に小型化した人工遺伝子である。導入後の長期的な有効性評価に加え、安全性課題として急性肝障害、血小板減少、心筋障害、および重篤な免疫性筋炎への注意とモニタリングが今後の重要な課題となっている。また、筋肉の成長を阻害するミオスタチンを標的とした抗体薬や、炎症・線維化を抑える新たな低分子化合物などの臨床試験が進行しており、病態や進行段階に応じた治療の選択肢がさらに広がることが期待される。5 主たる診療科(紹介すべき診療科)小児神経科、脳神経内科、小児科、リハビリテーション科、整形外科、循環器内科、呼吸器内科、臨床遺伝科など※本疾患は進行に伴い全身性の合併症や認知・発達特性を伴うため、スクリーニングで疑われた段階、あるいは確定診断後は、神経筋疾患を専門とする医療機関において、リハビリテーション、循環器、呼吸器、整形外科、栄養、心理、遺伝カウンセリングなど多職種連携による集学的治療が可能な体制へ紹介することが望ましい。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考となるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報NMDポータルサイト(神経筋疾患ポータルサイト):デュシェンヌ型筋ジストロフィー(国内の神経筋疾患に関する情報を集約した総合サイト。最新の診療ガイドラインやケア、研究動向に関するリソースが網羅的に提供されている)難病情報センター 筋ジストロフィー(指定難病113)(医療費助成の対象疾患であり、公的制度の概要や申請手続きに関する基礎情報が得られる)Remudy(神経筋疾患患者登録システム)(国立精神・神経医療研究センター[NCNP]が運営する患者レジストリ。疫学データと市販後調査を区別して収集・管理しており、適切な情報提供や臨床試験の強力な基盤として機能している)MDクリニカルステーション(筋ジストロフィーの臨床研究班による、医療従事者および患者・家族向けの診療ガイドラインやケアマニュアル等の情報提供サイト)患者会情報一般社団法人 日本筋ジストロフィー協会(JMDA)(患者や家族への支援、情報提供、交流活動を行う代表的な患者会組織) 1) 日本神経学会ほか監修. デュシェンヌ型筋ジストロフィー診療ガイドライン2014. 南江堂:2014. 2) Komaki H, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2020;7:2393-2408. 3) Mendell JR, et al. N Engl J Med. 2023;388:2368-2371. 4) Nakamura H, et al. Orphanet J Rare Dis. 2013;8:60. 5) 難病情報センター. 筋ジストロフィー(指定難病113). 公開履歴初回2026年7月24日

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第322回 薬局への「ポイント付与制限」は誰のなんのため?

INDEX薬局を真剣に選ぶとき薬局選択、多くは質ではなく…ポイント規制への拭えぬ違和感年を取ったせいもあってか、私も医療機関・薬局のお世話になることが増えた。より詳細に説明すると、年ゆえにちょっと気になる症状があると、医療機関受診を選択することが増えたというのが正確だ。そのような中、先日処方箋を持って行ったある薬局で、決済にQRコード払いを選択したところ、薬剤師から次のように告げられた。「あっ、7月から現金以外の決済手段は当薬局のポイントが付かなくなったんですよ。すみません」「ははーん」と思った。医療者ならばご存じの先生も多いと思うが、6月23日に厚生労働省保険局医療課が発出した事務連絡「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2第1項に規定する経済上の利益の提供による誘引の禁止について」1)の影響であることは明らかだった。通知内容を簡単に要約すると、一部の保険薬局が保険調剤に伴う自己負担支払い時に薬局独自ポイント、あるいはVポイントなどの共通ポイントを付与する際は、決済手段で付与されるポイントと併せて1%超になるのは罷りならんというものである。この法的根拠は、通知内にもあるように保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則(療担規則)で「保険薬局は、患者に対して、第四条の規定により受領する費用の額に応じて当該保険薬局における商品の購入に係る対価の額の値引きをすることその他の健康保険事業の健全な運営を損なうおそれのある経済上の利益を提供することにより、当該患者が自己の保険薬局において調剤を受けるように誘引してはならない」となっているからである。要は調剤技術料や薬価は公定であり、そこへのポイント付与は医療保険制度が有する公的な性格上馴染まないこと、また薬局は機能や業務の質によって選択されるべきものであり、その選択を経済的な利益で誘導してはならないという理屈だ。ただし、前出のように保険薬局でクレジットカード払いなどキャッシュレス支払いが可能な場合はそれによるポイント付与があるのはよく知られたこと。ただ、この場合のポイント付与者はあくまで決済事業会社であり、薬局側が経済的利益で誘導をしているものではないので許容されている。もっとも決済ポイントも通知内での「患者の支払いの利便性向上又は保険薬局における事務の効率化の観点から、当面、やむを得ないものとして取り扱ってきたところ」という記述からもわかる通り、「認めたくはないが、仕方がない」というのが厚生労働省のスタンスである。私のケースは、薬局独自ポイント、QRコード決済のポイントがそれぞれ1%なのでこれまでは合計2%であり、厚生労働省の「けしからんライン」を超えてしまう。この薬局で現金払いのみ、今後もポイントが付与されるのは、このラインの中に納まるからだろう。薬局を真剣に選ぶときちなみに私がこの薬局を選択したのは、とあるお薬手帳アプリの使用を開始した際、アプリに登録されている薬局で処方を受け、お薬手帳にQRコードでデータを取り込むと、ポイントが付与される仕組みに乗っかったからである。厚生労働省の見解に沿えば、最もけしからん奴だろうし、読者からもお叱りを受けるかもしれない。ただし、この選択には私なりの理由がある。実は5年ほど前まではまったく別のお薬手帳アプリを使用していたが、これが使いにくかったのである。それはアプリ上でかかりつけにする薬局(調剤報酬上のかかりつけ薬剤師とは無関係)を選ぶ際、アプリ提供企業が各薬局に対して発行していたコード番号を入力しなければならなかったのだ。これを行わないと、処方箋写真の画像送信機能などは使えない仕組みだった。そしてこの制約のために私はヒヤッとさせられたことがあった。ある時、処方箋画像を送信しようとしたところ、なぜか送信不能だった。理由はすぐに判明した。このアプリは、登録したかかりつけ薬局の休業期間と処方箋送信機能が連動しており、私がかかりつけとしていた薬局がこの時、休業中だったのだ。間の悪いことに処方箋は薬局の休業期間中に失効してしまう見込みだった。焦ってアプリでほかの薬局を検索したのだが、アプリ内だけでかかりつけ薬局の変更はできず、そのうえ新たな薬局でそこのコード番号を教えてもらって再登録しなければならなかった。しかも、この時期はあいにくほかの薬局も休業期間中。ただ、近隣の薬局で1ヵ所だけ、私の処方箋の有効期限の最終日に営業を再開するところがあり、この時はその日に朝一番に薬局に赴き、何とか事なきを得たのである。この苦い経験とコロナ禍中に起きたジェネリック医薬品の供給問題もあり、次に中長期的な処方を受ける場合は、薬局とお薬手帳アプリはより真剣に選ぼうと思っていた。たまたま今回選定するに当たって複数の候補の中から当該アプリを選んだのは、前述のようなお薬手帳への処方薬登録でポイントがもらえることも一因だった。ただ、これとて「ポイントもゲット!」などというウキウキしたものではない。医療者の皆さんには申し訳ないが、私だけでなく多くの人はなるべくなら医療機関のお世話になりたくないのが本音だ。しかし、やむを得ずそうなっているネガティブな気分を少しでも緩和できるのが、少なくとも私にとってはポイントだった。そしてそのアプリから現在の薬局を選んだのは、大手ドラッグストアの調剤部門であるため、営業日が多く、供給不安の中でも相応に在庫を確保していると思われたからである(これとて個店薬局の皆さんからは苦々しく思われるかもしれない)。それが冒頭で触れた薬局である。結果としてみれば、私にとってこの選択は当たりだった。詳しくは過去の本連載(第265回)を参考にしていただきたいが、私が椎間板ヘルニアで処方されたプレガバリンの中止後に現れた睡眠障害の副作用を必死に調べて教えてくれたのが、冒頭の薬剤師だったのだ。これ以降、今のところこの薬局・薬剤師に私は満足しており、この薬局では取り寄せが予想される薬の処方箋もすべて集約している。きっかけはポイントだが、ポイントが付与されなくなった今後も薬局・薬剤師を変えるつもりはない。ただ、こうした巡り会わせはやや珍しいかもしれない。薬局選択、多くは質ではなく…たとえば、2021年に内閣府が公表した「薬局の利用に関する世論調査」2)によると、「あなたは、薬局を一つに決め、薬剤師を一人に決めていますか」との問いに「かかりつけ薬剤師・薬局を決めている」あるいは「薬局は一つに決めているが、かかりつけ薬剤師は決めていない」を合わせた回答割合は26.0%に対し、「病院や診療所ごとにその近くにある薬局に行く」が57.7%。要は患者の薬局選択の最大の理由は「立地」である。ほかの同種調査などを見ても結果は同じであり、この点は医療者も多くが納得するだろう。逆に異なる調査結果があったら教えてほしいくらいだ。多くの人は薬局を立地で決める。私の場合はたまたまお薬手帳アプリとそのポイントが一因となった点は違うものの、結局のところ機能や提供される医療の質で薬局を選択している人のほうが少数派と言い切っても言い過ぎとは思わない。さらに言えば、患者にとって医療機関と違い、薬局を選ぶ術は多くはない。医療機関の場合はまず診療科が分かれ、加えて診断と治療方針を決めるという、ほかのどの医療提供施設にもない絶対的な“技術力”が存在する。そのため、受診前に医療機関の情報を調べる患者は多いだろう。この点で薬局はかなりディフェンシブである。薬局はどの医療機関からの処方箋でも原則応需義務があり、結果としてゼネラリストにならざるを得ない。この性格上、患者にとって薬局の差はきわめてわかりにくいのだ。たとえば「当薬局は小児科医院の近くにあるため、小児科の処方で用いられる医薬品を幅広く備蓄しています」という広告は、今の広告規制でも不可能ではないだろうが、これが患者に響くだろうか? そもそも前述のように多くの患者が“距離”で薬局を選択している中で、各薬局がそうした独自の広告・広報をホームページなどで行っても見てもらえるだろうか? それ以前に薬局に行く前にネット上で検索して調べるだろうか? おそらくどれも可能性としては低い。そもそも機能や質で薬局を選べと言われても、多くの患者はどうしていいかわからないだろう。「ならば『医療情報ネット(ナビイ)』3)があるじゃないか」との声も聞こえてきそうだ。確かに、ナビイは市区町村から薬局検索ができ、可能な調剤業務、設備、さらには駐車場・駐輪場の有無まで事細かに条件を設定して薬局を検索できる。優れモノとは言えるかもしれないが、逆に作り込み感があり過ぎるというのが個人的な感想である。患者にとっては各条件に設定されている調剤業務や設備の意味から検索して調べなければならない可能性がある。そしてこの作り込みのせいか、ページが重い。だが、最も残念なことは知名度の低さである。2021年度厚生労働科学研究「医療の質評価と医療情報の提供に関する調査研究」4)によると、一般住民での認知度はわずか11%にとどまる。厚生労働省や都道府県がその認知度向上に向けた取り組みを行っているという話も、私自身は記憶がない。さらに言うと、病院ならば日本医療機能評価機構の病院機能評価という第三者評価があるが、薬局にはない。結局、患者にとって機能や質で薬局を選ぶ方法は事実上あってないようなものなのだ。この状況で、「出る杭は打て」よろしく、ことさらポイントをあげつらうのは、やはり納得がいかないのである。ポイント規制への拭えぬ違和感そもそも患者の自己負担は患者自身の懐から拠出されるものであり、ポイント付与の原資は付与する側が負担するので、医療保険財政には悪影響は及ぼさない。さらに言えば、厚労省が渋々認めている決済事業者によるポイント付与には1.5%を超えるケースもあることは多くの人が知っているだろうし、薬局が独自ポイントや共通ポイントを付与しても1~2%に過ぎない。たかだか5%未満のポイントがそれほど問題なのだろうかと個人的には思ってしまうのだ。“放言”(少なくとも本人はそう思っていない)ついでに言えば、厚労省は決済事業者が付与するポイントも半ば苦々しいと思っているのであろうことは前述したが、にもかかわらずナビイの検索条件にはキャッシュレス決済の検索項目を設定している点にも矛盾を感じざるを得ない。いずれにせよ複数回の改正は経ているとはいえ、1957年という洗濯機の家庭普及率が約20%だった時代の療養担当規則を金科玉条にするのは、やはり時代遅れ感がありすぎる。さてここで厚労省の皆さんや薬局によるポイント付与に極めて否定的な皆さまにお伺いしたい。皆さまはどのような基準で薬局を選んでいますか? もちろんポイントということはないでしょう。まさか「距離」ではないでしょう。そして薬局が距離で選ばれるようになった遠因、つまり病院前の門前薬局はなぜ乱立することになったのでしょうか?参考1)厚生労働省保険局医療課:保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則第2条の3の2第1項に規定する 経済上の利益の提供による誘引の禁止について(令和8年6月 23日)2)内閣府政府広報室:「薬局の利用に関する世論調査」の概要(令和3年2月)3)医療情報ネット(ナビイ)4)厚生労働科学研究成果データベース:医療の質評価と医療情報の提供に関する調査研究

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再発性多発性硬化症、リツキシマブvs. ocrelizumab/NEJM

 疾患活動性が認められる再発性多発性硬化症(MS)患者において、疾患活動性の抑制(治療開始後6~24ヵ月のMRIにおける評価)に関して、リツキシマブのocrelizumabに対する非劣性が示され、重篤な有害事象の発現頻度は同程度であった。ノルウェー・Haukeland University HospitalのOivind Torkildsen氏らOVERLORD-MS Investigatorsが、第III相無作為化二重盲検多施設共同非劣性試験「OVERLORD-MS試験」の結果を報告した。再発性MSに抗CD20モノクローナル抗体は有効だが、これまで直接比較のエビデンスは観察研究のデータに限られていた。NEJM誌2026年7月2日号掲載の報告。6~24ヵ月のMRIで新規病変/病変拡大が非検出の患者の割合で評価 OVERLORD-MS試験は、年齢18~60歳で、直近12ヵ月に再発性MSの再発を診断され、炎症性の疾患活動性の症状(直近12ヵ月に1回以上の臨床的再発、またはMRI上で認められた1つ以上の新規病変/病変拡大で定義)を示し、EDSSスコア0~4.0(スコア範囲:0~10、高スコアほど障害の程度が大きいことを示す)であった患者を対象とした。 研究グループは、被験者をリツキシマブまたはocrelizumabの投与を受ける群に3対2の割合で無作為に割り付け、6ヵ月ごとに24ヵ月間治療した。 主要エンドポイントは、治療開始後6~24ヵ月のT2強調MRIにおける新規病変または病変拡大が認められなかったこととした。非劣性の定義は、リスク群間差(リツキシマブ-ocrelizumab)の95%信頼区間(CI)下限が-10%ポイント以上とした。副次エンドポイントには、有効性および安全性などが含まれた。リツキシマブ群92.2%、ocrelizumab群94.8%で非劣性を確認 2020年11月~2022年11月に218例が無作為化され、216例が治療を受けた(リツキシマブ群132例、ocrelizumab群84例)。 治療開始後6~24ヵ月にT2強調MRIにおける新規病変/病変拡大が認められなかった患者の推定割合は、リツキシマブ群92.2%、ocrelizumab群94.8%であった。リスク群間差は-2.6%ポイント(95%CI:-9.4~4.3)であり、事前に規定した非劣性基準を満たした。 再発率、障害アウトカム、および認知機能プロファイルは、両群間で同様であった。 感染症は、リツキシマブ群(82%)でocrelizumab群(69%)より多く認められたが、重篤な有害事象の発現頻度は同程度であった(それぞれ8%と7%)。

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ASCO2026 レポート 老年腫瘍(後編)

レポーター紹介ここ数年、ASCO Annual Meetingでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)や、GAで明らかになった脆弱性に対するサポートの有用性を検証する研究が発表され、老年腫瘍学の領域を大いに盛り上げてきた。前編に続き、筆者が興味深いと感じた研究を抜粋して紹介する。AIはGAを日常診療に近付けるか - 「GAができない問題」をAIは解決できるのか前編で述べたように、高齢がん患者の治療判断においてGAは重要な情報を与える。しかし、GAの重要性が示されることと、それを日常診療で広く行えることは別問題である。外来診療では、病期、治療歴、遺伝子変異、治療選択肢、有害事象など、確認すべきことが多い。その中で、すべての高齢がん患者に十分なGAを行うことは容易ではない。会話型AIを用いてGAを行うプラットフォームGRACE(#1658)今回報告されたGRACE(Geriatric Oncology Risk and Capability Evaluation)についての研究は、この課題に対して、会話型AIを用いてGAを行うものである1)。GRACEは、自然言語で患者とやり取りしながらGAを実施するAIプラットフォームであり、手動GAとの一致度が検討された。対象は65歳以上の成人70例で、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の患者向けオンラインポータルや関連する高齢者施設を通じて登録された。さらに、15人の医療者から質的な意見も収集された。AIによる評価結果と医療者が実施した従来のGAとの一致度を示す指標(感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率、Cohen’s κ、Gwet’s AC1)が評価された。GRACEは全体として感度0.73、特異度0.94、Cohen’s κ 0.63、Gwet’s AC1 0.82と、医療者が実施したGAとおおむね良好な一致度を示した。とくにポリファーマシーの評価ではκが約0.97、Gwet’s AC1が約0.98と非常に高い一致度を示した。一方、生活機能、社会支援、心理面といった領域では相対的に一致度が低かった。本研究は70例を対象とした小規模なものであり、GRACEによって治療毒性、入院、QOL、治療方針の適正化などが改善するかは示されていない。したがって、現時点でAIがGAを代替できると結論付けることはできない。むしろ、AIが得意な領域と苦手な領域を示した研究と捉えるべきだろう。薬剤数や併存症のように構造化しやすい情報はAIでも拾いやすいが、社会支援、心理面、生活機能のように患者ごとの状況や背景によって評価が変わる領域では、医療者による確認が不可欠である。それでも、本研究は興味深い。診察前にAIが患者の問題点を拾い上げ、医療者が確認すべき項目を整理することができれば、GAを日常診療に持ち込むハードルは下がる可能性がある。AIが老年腫瘍学を代替するのではなく、GAを日常診療に近付ける補助線になるのかもしれない。術後せん妄を予防できるか - 「薬を足せば防げるのか」という問いへの明確な答え(#LBA12002)最後に、ASCOらしく正統派のランダム化比較試験を紹介したい。今回、日本から高齢がん患者における術後せん妄予防を目的としたラメルテオンの多施設共同プラセボ対照二重盲検比較試験が報告された2)。術後せん妄は、高齢がん患者において臨床的に重要な合併症であり、入院期間の延長、身体機能低下、施設退院などにつながりうる。ラメルテオンはメラトニン受容体作動薬であり、睡眠覚醒リズムへの作用を介したせん妄予防効果が期待された。主な適格規準は、65歳以上、全身麻酔下でがん手術を受ける患者、術後5日以上の入院が予定されていることなどであった。患者はラメルテオン群とプラセボ群に1:1で割り付けられ、ラメルテオン群では手術4~8日前から術後4日目までラメルテオン8mgを就寝前に内服した。プラセボ群でも同様のスケジュールでプラセボが投与された。なお、全例に多職種によるせん妄予防介入が行われていた。主要評価項目は75歳以上の集団における術後5日以内のせん妄発症割合であり、主要な副次評価項目として65歳以上全体での、術後せん妄発症割合などが設定された。766例がランダム化され、ラメルテオン群383例、プラセボ群383例に割り付けられた。75歳以上のITT集団はラメルテオン群316例、プラセボ群314例であり、平均年齢はいずれも78.5歳であった。結果、75歳以上の集団における術後せん妄発症割合は、ラメルテオン群22.5%、プラセボ群22.9%であり、統計学的有意差は認められなかった(p=0.9618)。65歳以上の集団でも、術後せん妄発症割合はラメルテオン群22.5%、プラセボ群21.3%であり、ラメルテオンによる予防効果は示されなかった。安全性では、めまいがラメルテオン群16.4%、プラセボ群9.0%と、ラメルテオン群で多かった。少なくとも本試験の結果からは、がん手術を受ける高齢患者に対して、術後せん妄予防を目的にラメルテオンをルーチンに投与することは支持されない。一方で、高齢がん患者で問題になりやすい術後せん妄を、二重盲検プラセボ対照第III相試験として検証した点には大きな意義がある。また、negativeな結果であったことは、せん妄予防が薬剤を1つ追加するだけで解決するほど単純ではないことも示している。せん妄の発症には、睡眠、疼痛、感染、脱水、薬剤、認知機能、感覚障害、環境変化など多くの因子が関与する。今後は、単剤投与だけでなく、多職種による包括的な予防策の中で、どの介入が本当に有効なのかを検証していく必要があるだろう。老年腫瘍学は、高齢がん患者の脆弱性を評価するだけでなく、そこで明らかになった問題に対して、どのような介入が本当に患者の転帰を改善するのかを検証していく段階に来ているのだと思う。おわりにASCO2026の老年腫瘍に関連する演題を振り返ると、「高齢がん患者にGAを行うべきか」という議論は、少しずつ次の段階へ進んでいるように感じた。「GAは重要である、暦年齢だけで判断してはいけない」という総論を繰り返すだけなら難しくない。難しいのは、その評価を忙しい診療の中で実際に行い、患者にとって意味のある治療選択や支援につなげることである。個人的には、近年「GAを実施すること」自体がやや一人歩きし、日常診療で医療者が本当に困っていることが、置き去りにされているのではないかと感じることもあった。しかし、今回紹介した演題からは、高齢がん患者をどう分類するか、GAをどう日常診療に持ち込むか、術後せん妄をどう予防するのかという、医療者が実際に悩んでいる問いを研究として扱い、少しずつ前に進めようとする姿勢が感じられた。GAを実施しただけで患者の転帰が良くなるわけではないし、frailと分類しただけで治療方針が自動的に決まるわけでもない。術後せん妄も、薬剤を1つ追加すれば解決するほど単純ではない。それでも、こうした問いに正面から向き合う研究が積み重なっていることは、老年腫瘍学に関わる者として率直に嬉しく、非常に有意義な学会であったと感じた。1)Naeim A, et al. GRACE: A conversational AI platform for geriatric oncology risk and capability evaluation.2)Sadahiro R, et al. Ramelteon for prevention of postoperative delirium in elderly cancer patients: A randomized, double-blind, placebo-controlled multicenter trial, JORTC-PON02/J-SUPPORT2103/NCCH2103

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自殺企図と関連する睡眠薬使用、状況や時間に応じてどう変化するか?

 近年の睡眠薬の処方は、ベンゾジアゼピン系薬剤から、デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)やメラトニン受容体作動薬などの非GABA作動性睡眠薬へと移行している。獨協医科大学の佐々木 太郎氏らは、自殺企図に関与する睡眠薬の影響が状況依存的、経時的に変化するかどうかを調査した。Neuropsychopharmacology Reports誌2026年6月号の報告。 本研究は、多施設共同レトロスペクティブコホート研究として実施された。日本の3つの医療機関に2020年4月〜2025年3月の間に自殺企図で受診した患者を連続して登録した。受診時に回収した空の薬剤パッケージから、自殺企図に関与した睡眠薬を特定した。ベンゾジアゼピン系薬剤および非GABA作動性睡眠薬(DORAおよびメラトニン受容体作動薬)の年間使用割合を、すべての自殺企図、過剰摂取に関連する自殺企図、睡眠薬が関与した過剰摂取に関連する自殺企図の3つの条件でコクラン・アーミテージ傾向検定を用いて分析した。さらに、DORAとメラトニン受容体作動薬を分けて、それぞれ分析した。 主な結果は以下のとおり。・自殺企図1,111件のうち、648件が過剰摂取に関連するものであった。・非GABA作動性睡眠薬の使用は、3つのすべての条件において、経時的に有意な増加を認めた。・一方、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用は、過剰摂取に関連する自殺企図においてのみ有意な減少が認められた。・非GABA作動性睡眠薬を細分化すると、DORAの関与は、過剰摂取に関連する自殺企図(χ2=7.3048、p=0.006877)およびすべての自殺企図(χ2=7.6384、p=0.005714)の両方で有意な増加傾向を示した。・メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)の関与は、いずれの分析においても有意な経時的変化を示さなかった。・全体として、非GABA作動性睡眠薬の関与の増加は主にDORAによるものであった。 著者らは「研究期間中、自殺企図に関与した睡眠薬は状況依存的に変化した。非GABA作動性睡眠薬の増加はDORAによって引き起こされたが、ベンゾジアゼピン系薬剤の関与の減少は過剰摂取関連の状況でのみ検出された。これらの結果は、睡眠薬の入手可能性の変化が、self-poisoningに関与する薬剤のプロファイルに影響を与える可能性を示唆している」と結論付けている。

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ガバペンチノイドと併用薬で薬物中毒リスクが上昇か

 ガバペンチノイド系鎮痛薬(以下、ガバペンチノイド)を他の薬剤と併用すると、薬物中毒のリスクが上昇する可能性が、新たな研究で示された。ガバペンチノイドとオピオイド系鎮痛薬(以下、オピオイド)やベンゾジアゼピン系薬剤(以下、ベンゾジアゼピン)の併用はこのリスクを高め、特に治療初期には顕著なリスク上昇が認められたという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の薬剤疫学者であるKenneth Man氏らによるこの研究は、「PLOS Medicine」に4月16日掲載された。 Man氏らは、「今回の結果は、ガバペンチノイドが安全ではない、あるいは処方すべきではないことを示すものではない。ただ、特に他の薬剤を使用中の患者に処方する際には注意が必要であり、臨床医は患者を慎重にモニタリングする必要がある」とニュースリリースで述べている。 ガバペンチノイドは、主にガバペンチンやプレガバリンミロガバリンを含む薬剤群の総称であり、てんかん、神経痛、不安などの治療に広く用いられている。近年、ガバペンチノイドは、オピオイドの代替として鎮痛目的での使用が増加しており、現在では米国では7番目に多く処方される薬となっている。世界的に見ても、その使用量は2008年から2018年の間に4倍以上に増加している。 今回の研究では、2010年1月1日から2020年12月31日の間にガバペンチノイドを処方され、薬物中毒で入院した経験がある英国の18歳以上の患者1万6,827人(女性53.5%)を対象に、ガバペンチノイドによる治療と薬物中毒との関連が検討された。解析は自己対照ケースシリーズ(SCCS)デザインを用い、同一患者内で治療開始の90日前、治療開始後0~28日、29~56日、57~84日、およびそれ以降の治療期間に分けて、期間ごとの薬物中毒リスクを比較した。薬物中毒の症状は、意識消失、呼吸困難、けいれんなどである。観察期間中のいずれかの時点で、対象者の約9割がガバペンチノイドとオピオイドを、半数以上がベンゾジアゼピンを併用していた。 その結果、薬物中毒のリスクは、ガバペンチノイド非使用期間(対照期間)と比較して、治療開始の90日前にすでに約2倍に上昇していることが示された(調整発生率比2.09、P<0.001)。治療開始後0~28日間でもリスクは約1.8倍(同1.81、P<0.001)と高く、その後は徐々に低下したものの、それ以降の治療期間でも軽度の上昇が持続した(同1.11、P<0.001)。このことは、薬物中毒のリスクを軽減するためにガバペンチノイドを使用しても、その効果は限定的である可能性を示唆している。さらに、オピオイドやベンゾジアゼピンの併用によりリスクはさらに上昇し、治療開始後0~28日間では、オピオイド併用で約2倍、ベンゾジアゼピン併用で約4倍に達した。 薬物中毒リスクが最も高かったのがガバペンチノイドによる治療開始前90日間であったことは、オピオイドやベンゾジアゼピンなどの使用に対する懸念を背景に、医師がガバペンチノイドを処方した可能性を示唆している。論文の筆頭著者であるUCLのAndrew Yuen氏は、「臨床医がガバペンチノイドを処方する判断は、オピオイドなど他の薬剤に関連した薬物中毒リスクを減らす試みである場合がある」と述べている。同氏はまた、「ガバペンチノイドによる治療開始後に薬物中毒リスクはやや低下したものの、それでもなおリスクは高い状態が続いていた。この結果は、臨床医が治療期間を通じて継続的に薬物中毒リスクへ注意を払う必要があることを示唆している」と指摘している。 なお、ガバペンチノイドが直接的に薬物中毒を引き起こすかどうかは依然として不明である。ただし、これらの薬剤がオピオイドやベンゾジアゼピンなど他の薬の鎮静作用を増強する可能性があることを示すエビデンスは存在しているという。

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神経疾患外来で患者と医師に“認識ギャップ”、機械学習モデルが予測可能性示す

 神経疾患の外来診療では、患者と医師の評価や満足度に小さなズレが生じることがある。この認識ギャップは、治療理解の不十分さや信頼関係の低下を通じて、生活の質や長期的な治療アウトカムに影響し得る。今回、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんの患者と医師のペアを対象にアンケートを実施し、認識ギャップを定量化するとともに、機械学習モデルでギャップを予測できることを明らかにした。研究は、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科の大山彦光氏(現:埼玉医科大学医学部脳神経内科)、富沢雄二氏、服部信孝氏らによるもので、詳細は2月9日付で「Scientific Reports」に掲載された。 パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんなどの神経疾患は慢性かつ症状が多様で、進行に伴い日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす。近年は共同意思決定(SDM)の重要性が強調されているが、診察時の限られた情報に基づく判断では、患者と医師の間で疾患認識や治療目標に認識ギャップが生じる可能性がある。実際、神経疾患領域でも症状の重要度や治療目標、再発評価などを巡るズレが報告されているが、患者と主治医のペアで直接比較した研究は限られている。さらに、こうした認識ギャップを予測する試みも十分ではない。そこで本研究(GAP-AI研究)は、神経疾患患者と主治医の間の認識ギャップを定量化し、その関連因子を検討するとともに、機械学習モデルによる予測可能性を評価することを目的とした。 本研究は単施設の観察研究であり、患者197人とその主治医12人を対象に、2回の外来受診時に質問票への回答を求めた。質問票には、患者満足度を評価する18項目のPatient Satisfaction Questionnaire Short Formや、患者と医師双方が回答する9項目のShared Decision Making Questionnaire、Barthel Index、SF-36の各下位尺度を用いた。主要評価項目は、患者と医師の回答を項目ごとに対応させて算出した差(すなわち認識ギャップ)とした。差は絶対値でも評価し、ギャップの大きさを中央値で「一致群」と「不一致群」に分類した。患者背景および医師の年齢・経験年数などの属性との関連を単変量解析で検討し、さらに重回帰分析により認識ギャップに影響する独立因子を同定した。 本研究は2023年1~8月に実施された。患者の平均年齢は58.1歳で、女性が60.4%を占めた。疾患はパーキンソン病が最多(69.5%)で、多発性硬化症、てんかんが続き、平均罹病期間は7.4年であった。多くは同居者がおり、介護を要しない軽~中等症例が中心であった。一方、医師の半数は35~44歳で、83.3%が男性であった。4割超が20年以上の経験を有し、多くがパーキンソン病を専門とする神経内科専門医であった。 患者と医師の回答には各質問票で一定の認識ギャップが認められ、総得点は有意に異なり、一致度(κ係数)は全体に低値であった。SF-36下位尺度の一致は19.3%にとどまった。ギャップには患者年齢、診断名、介護者の有無、通院頻度、障害度などの患者側因子に加え、医師の年齢、経験年数、専門医資格、担当患者数などの医師側因子が関連していた。重回帰分析では患者年齢や介護者の有無、医師の経験年数などが独立因子として抽出され、一部疾患では年収も関連していた。 また、研究データに基づき複数の機械学習アルゴリズムを用いて予測モデルを構築したところ、k近傍法(k-nearest neighbors)アルゴリズムが、主要評価項目で定義した患者と医師の認識ギャップの有無を予測する上で最も良好な性能を示した。 著者らは、GAP-AI研究により神経疾患患者と医師の間に認識ギャップが存在することが明らかになったと述べている。ギャップは患者背景や医師の経験など複数の因子に影響され、機械学習により予測可能であるとしている。さらに、その把握と是正が患者中心医療の向上につながる可能性があると指摘している。 なお、本研究の限界として、単施設研究であり特にてんかん症例数が少ないことから一般化に制限がある点、主観的な患者報告アウトカムを用いたことや医師用に十分検証されていない質問票の使用が結果の解釈に影響し得る点などを挙げている。

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「タリージェ」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第86回

第86回 「タリージェ」の名称の由来は?販売名タリージェ®錠2.5mg、5mg、10mg、15mgタリージェ®OD錠2.5mg、5mg、10mg、15mg一般名(和名[命名法])ミロガバリンベシル酸塩(JAN)効能又は効果神経障害性疼痛用法及び用量通常、成人には、ミロガバリンとして初期用量1回5mgを1日2回経口投与し、その後1回用量として5mgずつ1週間以上の間隔をあけて漸増し、1回15mgを1日2回経口投与する。なお、年齢、症状により1回10mgから15mgの範囲で適宜増減し、1日2回投与する。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2026年4月14日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2025年2月改訂(第14版)医薬品インタビューフォーム「タリージェ®錠2.5mg、5mg、10mg、15mg/タリージェ®OD錠2.5mg、5mg、10mg、15mg」

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日本における多剤併用の診療報酬改定が睡眠薬の長期処方に及ぼした影響

 神戸大学の木村 丈司氏らは、日本における多剤併用に関する診療報酬改定が高齢患者の睡眠薬の長期処方に及ぼす影響を評価するため、本研究を実施した。Geriatrics & Gerontology International誌2026年2月号の報告。 対象は、50歳以上の外来および入院患者。JMDC医療機関データベースを用いて分析を行った。対象とした睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZD)、Z薬、ラメルテオンおよびオレキシン受容体拮抗薬(ラメルテオン/ORA)。2015~22年の各月における、外来および入院患者1万人当たりの睡眠薬新規処方率(4週間以上)を算出した。診療報酬改定が行われた2020年4月を介入点として、中断時系列分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・2015~22年までのデータベースにおける外来および入院の平均患者数は、1ヵ月当たり82万8,510例であった。・2015年1月から2022年12月にかけて、BZDとZ薬の処方率は、それぞれ210から125、111から78.6へと徐々に減少していた。しかし、ラメルテオン/ORAの処方率は、7.41から54.4へと増加していた。・介入時点では、BZDの処方率は1.08倍(95%信頼区間[CI]:1.02~1.13)、Z薬の処方率は1.12倍(95%CI:1.08~1.16)の有意な増加を認めた。しかし、介入後には傾斜の変化に有意な減少が認められた(BZD:0.990倍[95%CI:0.988~0.992]、Z薬:0.994倍[95%CI:0.993~0.996])。・ラメルテオン/ORAは、増加傾向にあった傾斜の変化が、介入後に有意な減弱を認めた(0.991倍[95%CI:0.986~0.995])。 著者らは「多剤併用に関連する診療報酬改定は、BZD、Z薬、およびラメルテオン/ORAの長期的な処方傾向を有意に減少する方向へと転換させていた」としている。

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アイトラッキング診断ツール、神経変性疾患の鑑別や評価の一助となるか

 眼球運動異常は、神経変性疾患においてよくみられる。これは、眼球運動を制御する神経経路および脳領域の変性が原因であると考えられる。背外側前頭前皮質、基底核、上丘、小脳の病理学的変化は、臨床検査では検出されない可能性のある眼球運動指標の微妙な変化を引き起こす。カナダ・Montreal Neurological InstituteのPaul S. Giacomini氏らは、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病およびその他の認知症、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患における眼球運動バイオマーカーの潜在的な用途について考察した。Journal of Neurology誌2026年2月10日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・サッカード、アンチサッカード、固視、滑動追跡などの眼球運動指標は、疾患進行の予後を予測し、診断の補助として病理学的サブタイプを鑑別することができる。そのため、臨床医が運動機能および認知機能の早期悪化を評価することを可能にすると考えられる。・医療技術のコストが、臨床現場における最適な活用とアクセスを制限している。・専門の神経科医の不足は、医療へのアクセスをさらに制限している。・スマートフォンやタブレットなどの広く普及しているデジタル機器に組み込まれた新しいアイトラッキング技術は、最小限の機器で詳細な評価を可能にし、日常の臨床現場における患者評価や治療方針の決定を支援するための、非侵襲的かつ費用対効果の高い重要な方法であると考えられる。・デジタルバイオマーカーは、かかりつけ医、看護師、薬剤師などの医療専門家がケアのギャップを埋めるために容易に活用でき、神経変性疾患の患者へのケア提供を改善するために広く採用できる強力なツールとなる可能性がある。

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多発性硬化症〔MS:multiple sclerosis〕

1 疾患概要■ 定義多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は、脳・脊髄・視神経からなる中枢神経系に炎症性脱髄が生じる慢性疾患である。病変は時間的多発性(再発)と空間的多発性(中枢神経系のさまざまな場所に病変が生じる)であることを特徴とする。自己免疫機序が病態の中心であると考えられているが、近年は神経変性機序の関与も推定されている。■ 疫学MSは若年成人に多く、20~40代で発症することが多い。女性に多く、高緯度地域で発症率が高い(わが国では北海道に多く、沖縄では少ない)。世界中で約300万人の患者が存在すると推定されている。従来は欧米に多い疾患とされてきたが、近年はアジア地域でも患者数が増加しており、わが国でも有病率は上昇している。診断技術の進歩に加え、環境因子の変化が背景にあると考えられている。■ 病因MSは遺伝的要因と環境因子が組み合わさって発症する多因子疾患である。特定の免疫関連遺伝子が発症リスクに関与する一方で、遺伝要因のみで発症が決まるわけではない。環境因子としては、ビタミンD不足、喫煙、肥満などが知られている。近年、Epstein-Barr virus(EBV)感染がMS発症と強く関連することが示され、免疫異常を引き起こす重要な因子と考えられている。■ 症状MSの症状は多彩であり、病変部位によって異なる。代表的な症状には、視力低下や眼痛(視神経炎)、手足のしびれや脱力、歩行障害、ふらつき、排尿障害などがある。また、易疲労感、疼痛、抑うつ、集中力低下など、外見からわかりにくい症状も多く、患者の日常生活や就労に大きな影響を与える。これらは看護師や薬剤師が関わるケアの場面でとくに重要な視点である。■ 分類MSは臨床経過により以下に分類される。1)再発寛解型(RRMS)再発と寛解を繰り返しながら少しずつ後遺症が蓄積する病型で、最も頻度が高い2)2次進行型(SPMS)RRMSの経過の後に、徐々に再発とは無関係の障害進行(progression independent of relapse activities:PIRA)が生じるようになった病型3)1次進行型(PPMS)発症初期からPIRAを認める病型、まれである以上の病型の理解は、治療方針を考えるうえで重要である。■ 予後現在は治療薬の進歩により、MSの長期予後は大きく改善している。しかし、PIRAの治療は開発途上にあるために、早期診断と治療介入が予後改善には重要である。近年は、治療初期から高い有効性を有する薬剤を導入する“early high-efficacy treatment(eHET)”の考え方が広まっている1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSの診断は除外診断が基本である。とくに視神経脊髄炎スペクトラム障害やMOG抗体関連疾患は臨床像が類似するため、鑑別が重要である。ほかにも鑑別すべき疾患は多岐にわたり、悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患、脳血管障害、膠原病、神経サルコイドーシスや神経ベーチェット病といった炎症性疾患、感染症(梅毒、進行性多巣性白質脳症など)、さらに頸椎症性脊髄症や脊髄空洞症などの脊髄疾患、ミトコンドリア病、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、脊髄小脳変性症などが挙げられる。診断には臨床経過、MRI検査、脳脊髄液検査を総合的に評価するMcDonald診断基準が用いられる。本基準の本質は「炎症性脱髄病変が時間的・空間的に多発していること」を確認する点にある。2024年改訂では早期診断を支援する内容が加えられたが、診断はあくまで臨床判断を補助するものであり、慎重な運用が求められる2)。3 治療MSの治療は、再発時に行う急性期治療と、再発や進行を予防する病態修飾療法に大別される。急性期には副腎皮質ステロイドの大量静注療法(ステロイドパルス療法)が行われる。効果が不十分な場合には血漿交換療法が選択されることもある。再発や障害進行を抑えるため、維持期には病態修飾薬が使用される。近年では有効性の高い薬剤が増えており、早期から治療を開始することの重要性が強調されている。わが国で承認されている主要な病態修飾薬を表にまとめる。服薬管理、副作用モニタリング、多職種による支援が治療継続に不可欠である。表 MSの主要な病態修飾薬画像を拡大する4 今後の展望現在、新しい作用機序をもつ治療薬や、より精度の高い画像診断・血液バイオマーカーの研究が進行している。また、EBVを標的とした治療やワクチン研究も注目されており、将来的には個別化医療の実現が期待される。近年、MSの診療は、再発抑制を主目的とした治療から、PIRAの抑制を含む長期的な機能予後改善を目指す方向へと大きく変化している。この流れの中で、治療および診断の両面で新たなアプローチが研究・開発されている。治療分野では、Bruton型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬が新たな病態修飾療法として注目されている。BTK阻害薬は、B細胞の活性化や抗原提示機能を抑制するだけでなく、中枢神経内のミクログリア活性化を抑制する作用を併せ持つ点が特徴である。現在、RRMSに加え、SPMSやPPMSを対象とした第III相臨床試験が進行中であり、既存治療では十分に抑制できなかった進行性病態への効果が期待されている。とくに、PIRAに対する治療選択肢としての位置付けが注目されている。診断分野においては、疾患特異性や病勢評価を高める新たなバイオマーカーの研究が進展している。MRIでは、central vein sign(CVS)やparamagnetic rim lesion(PRL)といった所見が、MSに特徴的な病態を反映する補助的画像指標として注目されている。これらは鑑別診断や慢性活動性病巣の評価に有用である可能性が示されている。一方、体液バイオマーカーとしては、血清・髄液中の神経フィラメント軽鎖(NfL)やκフリーライトチェーン(κFLC)が、疾患活動性や予後予測の指標として臨床応用に近付いている。今後は、これらの新規治療薬および診断技術を組み合わせることで、疾患活動性・進行リスクに基づく層別化医療や個別化治療がより現実的になると考えられる。MS診療は、再発を抑制する医療から、長期的な障害蓄積を最小限に抑える医療へと進化しており、今後も基礎研究と臨床研究の橋渡しが重要となる。5 主たる診療科主な診療科は脳神経内科であるが、眼科、泌尿器科、リハビリテーション科、精神科などとの連携が重要である。看護師・薬剤師を含めた多職種チーム医療が不可欠である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報難病情報センター 多発性硬化症/視神経脊髄炎  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)医薬品医療機器総合機構(PMDA)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)MSキャビン(MSCABIN)(多発性硬化症の総合情報サイト:情報共有、患者・支援者向け知識ベース)MS International Federation(国際疫学、研究動向、教育・啓発リソースなど医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本多発性硬化症協会(患者とその家族および支援者の会)1)Rotstein D, et al. Nat Rev Neurol. 2019;15:287-300.2)Montalban X, et al. Lancet Neurol. 2025;24:850-865.公開履歴初回2026年2月20日

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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重度の慢性便秘に対する手術は「最終手段」

 米国消化器病学会(AGA)が発表した新しいガイドラインにおいて、重度の慢性便秘患者に対する外科的手術は最終手段とすべきことが明示された。治療に反応しない難治性便秘の患者に対しては、結腸の一部または全てを切除する結腸切除術を検討することがある。しかし、ガイドラインの著者らは、結腸切除術は重大な健康リスクを伴い、必ずしも症状の改善につながるわけではないとしている。米マサチューセッツ総合病院(ボストン)消化器運動研究室ディレクターのKyle Staller氏らがまとめたこのガイドラインは、「Clinical Gastroenterology and Hepatology」に1月7日掲載された。 Staller氏は、「慢性便秘に何年も苦しんできた人にとって、手術は永続的な解決策に聞こえることがある。特に、多くの薬が効かなかった場合にはなおさらだ」と話す。同氏はさらに、「検査で、結腸の動きが極端に遅く、他の治療で何も効果が得られない場合に手術が検討されることがある。しかし、手術はほとんどの患者には適しておらず、事実上リスクを伴い、手術後も腹部膨満感、腹痛、排便コントロール困難などの症状が続く人もいる」と述べている。 米国では約8~12%の人が慢性便秘に苦しんでいると推定されている。Staller氏は、「多くの人は、生涯のどこかの時点で便秘を経験するが、食事の見直し、食物繊維や水分の摂取、市販の下剤の使用といった簡単な対策で改善する。難治性便秘はそれとは別物であり、時間をかけて処方薬やバイオフィードバック、骨盤底筋療法を試しても改善しない状態を指す」と説明している。一方、結腸切除術は、腸閉塞、持続性の腹痛、腹部膨満感、便秘の再発、下剤への継続的依存など、高い合併症率と関連しているという。 新ガイドラインでは、手術を検討する前に踏むべき複数のステップが示されている。例えば、まずは慢性便秘の原因から薬剤の副作用、神経疾患、精神的問題を除外すべきことが述べられている。オピオイド系鎮痛薬や抗精神病薬、鉄剤は便秘を引き起こすことが知られている。また、膀胱疾患、アレルギー、気分障害の治療に使われる抗コリン薬も、腸の不随意運動に関与する神経伝達物質の働きを阻害するため、便秘と関連している。さらに、パーキンソン病や多発性硬化症といった神経疾患、摂食障害や抑うつ・不安などの精神的な問題も便秘リスクに影響する。 精神的な問題が便秘に関与することもあるため、術前の心理評価も意思決定プロセスの重要な一部として推奨されている。また、米食品医薬品局(FDA)の承認薬や市販薬に加え、便秘への有効性が示されている適応外使用薬も全て試すべきだとされている。さらに、大腸通過時間検査や排便造影検査など、結腸機能に加えて腸管全体の活動を評価する検査の実施を推奨している。その上で、最終手段として、一時的人工肛門(ストーマ)の使用を推奨している。これは可逆的で、恒久的な結腸切除が有益かどうかを判断する材料になる。 以上のように、ガイドラインは、手術には慎重な個別判断が必要であることを強調している。Staller氏は、「最良の結果は、十分な準備と共有された意思決定から生まれる。手術が本当に必要な場合でも、現実的な期待を持ち、消化器内科医、外科医、精神医療専門家が連携することで最善の結果が得られる」と述べている。 Staller氏は、慢性便秘のリスクを下げるためにできることとして、1)便秘を悪化させる薬剤について、定期的に医師と見直すこと、2)食事を極端に制限するのではなく規則正しく摂取すること、3)腸の運動を促すために身体的に活発に過ごすこと、4)便意のあるときは我慢せずに排泄すること、5)症状が続く場合は自己判断で治療を強化せず、医療機関を受診すること、を挙げている。また、正常な排便習慣には個人差があり、毎日排便する必要はないことも付け加えている。さらに同氏は、「何より重要なのは、便秘はしばしば長期的な管理を要する慢性疾患であると理解することだ。それがフラストレーションを防ぎ、症状が重症化・難治化するリスクを減らすことにつながる」と述べている。

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コロナ禍で新規診断が増えた疾患・減った疾患/BMJ

 英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMark D. Russell氏らによる、OpenSAFELY-TPPを用いたコホート研究の結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、うつ病、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、乾癬、骨粗鬆症の新規診断は予測値を下回ったのに対し、慢性腎臓病は2022年以降に診断数が急増し、サブグループ解析ではとくに認知症に関して民族および社会経済的状況により新規診断数の回復パターンに差があることが示された。著者は、「本研究は、日常診療で収集される医療データを用いた疾病疫学のほぼリアルタイムのモニタリングの可能性を示すとともに、症例発見の改善や医療の不平等を検討するための戦略立案に寄与する」とまとめている。BMJ誌2026年1月21日号掲載の報告。イングランドの約3千万例対象、COVID-19パンデミック前後の慢性疾患の新規診断と有病率を解析 研究グループは、2016年4月1日~2024年11月30日に、OpenSAFELY-TPPプラットフォームにデータを提供している一般診療所に登録され、かつ診療所に対して直接の医療に関与しない組織への個人データの共有を希望しない旨の登録をしていない患者2,999万5,025例を対象として、19の慢性疾患について年齢・性別標準化発症(新規診断)率および有病率の経時推移を検討した。 19の慢性疾患は、喘息、アトピー性皮膚炎、冠動脈心疾患、慢性腎臓病(ステージ3~5)、セリアック病、COPD、クローン病、認知症、うつ病、2型糖尿病、てんかん、心不全、多発性硬化症、骨粗鬆症、リウマチ性多発筋痛症、乾癬、関節リウマチ、脳卒中/一過性脳虚血発作、潰瘍性大腸炎。 COVID-19パンデミックが、これら慢性疾患の診断に与えた影響を評価する目的で、パンデミック前のパターンから予測された期待診断率に基づく季節変動自己回帰和分移動平均(seasonal autoregressive integrated moving average:SARIMA)モデルを用い、パンデミック発生後の予測診断率と実際の観察診断率の差を比較した。パンデミック初年度に新規診断が急減、4年後もうつ病などは減少したまま パンデミック発生後の新規診断率はパンデミック前と比較し、初年度(2020年3月~2021年2月)に19疾患のすべてで急減した。ただし、その後の回復傾向は疾患ごとに異なった。 2024年11月時点でも、いくつかの疾患では新規診断数が予測値を下回っており、とくにうつ病(予測より-73万4,800件[-27.7%]、95%予測区間[PI]:-76万6,400~-70万3,100)で減少幅が最も大きく、喘息(-15万2,900件[-16.4%]、95%PI:-16万8,300~-13万7,500)、COPD(-9万100件[-15.8%]、-9万8,900~-8万1,400)、乾癬(-5万4,700件[-17.1%]、-5万9,200~-5万100)、骨粗鬆症(-5万4,100件[-11.5%]、-6万1,100~-4万7,100)も大きく減少した。 一方、慢性腎臓病の診断数は、パンデミック初期に減少したものの、2022年以降はパンデミック前の水準を上回る増加を示した(予測より35万9,000件[34.8%、95%PI:33万3,500~38万4,500]増加)。 人種および社会経済的状況で層別化したサブグループ解析の結果、パンデミック初期の減少後、白人および社会経済的困窮度が低い地域では、認知症の診断率がパンデミック前の水準を上回って増加したが、他の人種および困窮度が高い地域では増加しなかった。

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指先からの採血による血液検査でアルツハイマー病の兆候を正確に評価

 指先から採取した血液を郵送して行う血液検査によって、アルツハイマー病に関連するマーカーを正確に検出できることが、新たな研究で示された。これによって脳の変性疾患であるアルツハイマー病の診断や研究がより容易になる可能性があるという。米バナー・ヘルス、フルイド・バイオマーカー・プログラムのシニアディレクターであるNicholas Ashton氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に1月5日掲載された。 この検査は、指先に針を刺して少量の血液を採取するフィンガー・プリック・テストと呼ばれるもので、リン酸化タウタンパク質(p-tau217)やグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)の血中濃度を正確に測定できるという。これらはいずれもアルツハイマー病に関連する脳損傷の指標である。p-tau217は、アルツハイマー病に特徴的なタウ病理を反映するリン酸化タウタンパク質の一種、GFAPは、中枢神経系の支持細胞であるアストロサイトに由来し、脳損傷や神経疾患の指標となるタンパク質、NfLは脳神経細胞軸索に由来し、神経細胞の損傷や神経変性を反映するタンパク質である。 Ashton氏らは、7つのコホートに属する337人を対象に、指先から採取した少量の血液をカード上で乾燥させたサンプルの解析を行い、そのうちの304人については静脈血漿サンプルを用いた測定結果と比較した。その結果、指先採血サンプル中のp-tau217値は静脈血漿サンプル中のp-tau217値と強く相関し、疾患重症度の進行や脳脊髄液バイオマーカー陽性を良好に反映していた。また、GFAPおよびNfLについても、指先採血サンプルと静脈血漿サンプルの測定値との間に強い相関が認められた。 Ashton氏らは、この簡便な検査法によって遠隔地からも研究に参加できるようになり、大規模なアルツハイマー病研究を実施しやすくなる可能性があるとの期待を示している。同氏らは、この検査が一般の患者に対して臨床で使用できるようになるのは、まだ何年も先のことではあるが、現時点でも、アルツハイマー病研究を加速させる一助になる可能性はあると話している。Ashton氏は、「最終的にわれわれは、症状が現れる前段階でアルツハイマー病を治療する方向へと移行しつつある。この流れが続くのであれば、定期的に医療機関を受診しない適格者を特定するための革新的な方法が必要になるだろう。今回の研究は、その方向性における一つのアプローチを示すものであり、さらなる検証が必要だ」とニュースリリースの中で述べている。 共著者の1人である英エクセター大学のAnne Corbett氏は、「私にとっても最も楽しみなのは、この技術によってバイオマーカー研究の民主化が可能になることだ。誰でも、どこにいても、脳疾患の解明に貢献できる未来に向かって、われわれは進んでいる。これは単なる技術的な進歩ではなく、神経科学研究のあり方を変えるパラダイムシフトである」とニュースリリースの中で話している。 研究グループによると、この方法はパーキンソン病や多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳損傷などアルツハイマー病以外の脳疾患に関する研究にも役立つ可能性があるという。

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『がん患者におけるせん妄ガイドライン』改訂、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬など現場で多い処方を新規CQに 

 2025年9月、『がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版』(日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会編、金原出版)が刊行された。2019年の初版から改訂を重ね、今回で第3版となる。日本サイコオンコロジー学会 ガイドライン策定委員会 せん妄小委員会委員長を務めた松田 能宣氏(国立病院機構近畿中央呼吸器センター心療内科/支持・緩和療法チーム)に改訂のポイントを聞いた。――「がん患者におけるせん妄」には、その他の臨床状況におけるせん妄とは異なる特徴がある。がん治療にはオピオイド、ステロイドなどの薬剤が多用されるが、それらが直接因子となったせん妄が多くみられる。さらに、近年では免疫チェックポイント阻害薬に代表されるがん免疫療法の普及に伴い、この副作用としてせん妄を発症する患者も増えている。また高カルシウム血症や脳転移など、がんに伴う身体的問題を背景としてせん妄を発症することもある。進行がん患者におけるせん妄は、その原因が複合的であることが多い。さらに、終末期におけるせん妄では身体的要因の改善が困難であり、治療目標をせん妄の回復からせん妄による苦痛の緩和に変更し、それに合わせてケアを組み立てていく必要もある。総論に7つの個別テーマを新設 2025年版は前版と比較して約40ページ増となった。総論では、「関連する病態についてより詳しく説明できるとよいのでは」という委員会の議論を経て、7つのテーマを追加した。 総論に追加したテーマは以下のようになっている。1.アルコール離脱せん妄(評価のためのスコア、薬物治療)2.術後せん妄(周術期神経認知障害、超高齢・がん外科治療の文脈も含む)3.低活動型せん妄(頻度・症状・鑑別・マネジメント)4.身体拘束に関する考え方(実態・葛藤・多職種アプローチ・法的倫理的視点)5.認知症に重畳するせん妄(頻度・リスク因子・評価・対応)6.せん妄とがん疼痛の合併(終末期、可逆的などで分岐する対応アルゴリズムなど)7.在宅におけるせん妄診療(介護者負担、投与経路制限、在宅継続の可否、在宅アルゴリズムなど) 「アルコール離脱せん妄」はがん患者に限ったものではないが、アルコールが関連するがん、たとえば頭頸部がんとの関連が深いため、別個に取り上げた。通常、せん妄治療にベンゾジアゼピン系薬を単剤で使うことはほぼないが、アルコール離脱せん妄の場合は適応となるなど、治療の独自性も高い。「術後せん妄」は、通常のがん患者におけるせん妄とはまた状況が異なり、頻度も高いため、改めて扱うこととした。 せん妄は「過活動型せん妄」「低活動型せん妄」「活動水準混合型」の3つに分類される。中でも低活動型せん妄は見逃しやすく、がん患者での頻度が高いために取り上げた。「身体拘束」は、これまで過活動型の患者に対し、安全性確保のために拘束するケースがあった。しかし、近年はその有害性が報告されるようになっており、拘束を最小限にするための多職種によるアプローチをまとめた。 高齢化社会の進行の中で「認知症」とせん妄を併発する患者が増えている。なかなか鑑別が難しいが、評価や対応についてまとめた。また、「せん妄とがん疼痛の合併」も非常に多いパターンで、中等度以上の痛みを伴うがん患者の3分の1以上がせん妄を合併している、との報告もある。ここには厚労省科研費里見班による報告があったので、そちらの治療アルゴリズムを掲載している。前版までは病院におけるせん妄治療が中心だったが、在宅医療におけるせん妄も増加していることを受け、介護者の存在や薬剤の制限など、在宅医療独自の状況を踏まえて項目を作成した。CQでは予防と併用療法の項目を追加 CQは4つ新設し、前版の12から15となった。増えたCQは以下のとおりとなっている。CQ3:ラメルテオン単独投与による予防は推奨されるか?CQ4:オレキシン受容体拮抗薬単独投与による予防は推奨されるか?いずれも「単独で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) 予防目的の薬物治療として、新規睡眠薬(ラメルテオン/オレキシン拮抗薬)を明示的に扱うようになったのが大きな変更点となる。いずれも現時点では予防に有効とのエビデンスは確立しておらず、「単独で投与しないことを提案する」との記載となった。予防には非薬物的介入が第1選択という点は前版から変わらないが、実臨床においてはせん妄予防よりも睡眠リズムをつくることを目的に新規睡眠薬を投与する医師が一定数いると予想され、こうした処方までを一概に否定するものではない。高リスク群など一部の集団においては「個々の患者の状況やリスクを適切に評価し、予防的投与の妥当性を判断することが必要」との点も明記した。CQ11:症状軽減を目的に、抗精神病薬+ベンゾジアゼピン系薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与することを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:C) このCQに関する文献は1件のみで、エビデンスとして質の高い研究ではあったものの、試験対象が「すでにハロペリドールを定時投与されている終末期の重症せん妄患者」に限定されていたことには注意が必要だ。よって、どんな症例でも併用投与を推奨するわけでなく、症例ごとの見極めが重要になる。また、試験の治療薬はロラゼパム注とハロペリドール注であったが、日本ではロラゼパム注が使われることは少なく、今後は日本で汎用されているベンゾジアゼピン系薬での検討や、重症例以外の検討が求められる。CQ12:症状軽減を目的に、抗精神病薬+抗ヒスタミン薬の併用投与は推奨されるか?「併用で投与しないことを提案する」(推奨の強さ:2、エビデンスの確実性:D) せん妄に認められる不穏の症状に対して、抗ヒスタミン薬や抗精神病薬を用いることがあるが、抗ヒスタミン薬はせん妄の原因ともなり得るなど安全性の懸念も残る。検討対象となった観察研究では、併用投与によるアウトカム改善は認められなかったため、「併用で投与しないことを提案する」との記載になった。 がん患者のせん妄は、臨床試験が組みにくく、エビデンスが蓄積されにくい分野だ。理由としては、患者ごとにせん妄の原因が異なっているため試験の組み入れ条件をそろえることが難しい、終末期患者が多く同意取得が困難、といった背景がある。一方、患者数は多く、医療者・患者/家族ともケアに悩むことが多い分野でもある。今後も限られたエビデンスを集め、ガイドラインのアップデートや外部評価に努めたい。患者自身や家族がケアに関わることも多いので、同じ学会で作成する『がん患者における 気持ちのつらさガイドライン』『がん医療における 患者・医療者間のコミュニケーションガイドライン』と一緒に、患者向けガイドの作成も進めている。

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疼痛治療薬の副作用が心不全の誤診を招く?

 オピオイドに代わる鎮痛薬として使用されている薬剤のせいで、医師が心不全と誤診してしまう例が少なくないことが、新たな研究で示された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部教授のMichael Steinman氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に12月2日掲載された。 ガバペンチンやプレガバリンなどのガバペンチノイドと呼ばれる種類の薬剤は、神経痛の治療目的で処方されることが多い。しかし、これらの薬剤の副作用の一つに、下肢のむくみ(浮腫)の原因となる体液貯留がある。体液貯留は、心不全の症状としても広く知られている。そのため、この副作用が生じた患者の多くに、利尿薬のような本来は不要であるはずの薬剤が追加で処方され、その結果、腎障害やふらつき、転倒によるけがなどのリスク上昇につながっていることが、今回の研究から明らかになった。このように、ある薬の副作用が別の疾患に関わる症状と認識され、それに対してさらに薬が処方される現象は、処方カスケードと呼ばれる。 研究グループによると、オピオイド危機を背景に、ガバペンチノイドの処方はこの10年でほぼ倍増した。Steinman氏は、「ガバペンチノイドは非オピオイド系薬剤であり、比較的安全性が高いと考えられがちだ。しかし、ガバペンチノイドを使用している患者は、それがベストの治療法なのかどうかを評価するために、定期的に医師に相談し、非薬物療法を含めた、より適切な別の治療選択肢について検討すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。 Steinman氏らは今回の研究で、ガバペンチノイドとループ利尿薬の処方カスケードを経験している可能性の高い66歳以上の退役軍人120人(平均年齢73.9歳)の医療記録を調べた。120人のうち、106人(88.3%)は、5種類以上の薬を長期にわたって使用していた。73人(60.8%)では、浮腫の原因が記録されていたが、心不全(39.2%)や静脈うっ血(13.3%)を原因とする例が多く、ガバペンチノイドを考慮した医師はわずか4人(3.3%)にとどまっていた。また、116人(96.7%)にループ利尿薬が処方されていたが、そのほとんどは、下肢浮腫(86.7%)、心不全(13.3%)、呼吸困難(12.5%)の治療を目的としていた。 ループ利尿薬による治療開始から60日以内に、28人(23.3%)の患者で、腎機能の低下や起立時のめまい、低ナトリウムや低カリウムなどの電解質異常、転倒などのループ利尿薬に関連した健康問題が37件発生した。入院あるいは救急外来での治療が必要となった患者も6人(5.0%)いた。 Steinman氏らによると、下肢に浮腫が現れてからガバペンチノイドの服用を中止するよう指示した医師は1人だけだったという。一方で、浮腫の原因となり得る命に関わる疾患を除外するため、患者の約5人に1人が画像検査を受けていたことも明らかになった。 論文の筆頭著者であるUCSF医学部のMatthew Growdon氏は、「ガバペンチノイドは必要以上に高用量が処方されたり、効果が期待できない状態に対して処方されたりしている可能性がある。そのようなケースでは、医師はこれらの薬を処方しないこと、あるいは用量を減らして処方カスケードやその他の副作用のリスクを軽減することを検討すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。

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多発性硬化症と口腔内細菌の意外な関係、最新研究が示す病態理解の可能性

 多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の神経線維を包むミエリンが自己免疫反応によって障害される希少疾患で、視覚障害や運動麻痺、感覚障害などさまざまな症状を引き起こす。最新の研究で、MS患者の口腔内に存在する特定の歯周病菌、Fusobacterium nucleatum(F. nucleatum)の量が、病気の重症度や進行に関わる可能性が示された。研究は、広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学の内藤裕之氏、中森正博氏らによるもので、詳細は11月3日付で「Scientific Reports」に掲載された。 MSの発症には遺伝的素因に加え、ウイルス感染や喫煙、ビタミン欠乏などの環境因子が関与すると考えられ、近年は腸内細菌の異常も病態形成に影響することが示唆されている。また、口腔内細菌、特に歯周病菌も中枢神経疾患に影響することが報告されており、慢性的な炎症や免疫応答を介してMSの進行や重症度に関与する可能性がある。これまでに歯周病とMSの関連や、MS患者における特定菌種の増加が報告されているものの、臨床指標や再発・進行との具体的な関連や菌種ごとの差異は不明である。こうした背景を踏まえ著者らは、MSや視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)、抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)の患者の舌苔サンプルから歯周病菌量を定量し、臨床特徴やMRI所見との関連、さらに菌種ごとの影響を探索する横断的研究を実施した。 本研究は2023年5~11月にかけて実施され、広島大学病院脳神経内科を受診した15歳以上のMS、NMOSD、MOGAD患者112人が解析対象となった。患者から採取した舌苔サンプルは4種の歯周病菌種 (F. nucleatum、P. gingivalis、P. intermedia、T. denticola)を標的とした定量的PCRを用いて分析した。先行研究に倣い、細菌の総存在量に対する比率が第3四分位数を超える場合「高相対量」と定義された。患者の重症度は総合障害度評価尺度(EDSS)で評価し、スコア4をカットオフとした。 本研究の最終的な解析対象は98人(平均年齢48.6歳、女性77.6%)となった。これらのうち、56人がMS、31人がNMOSD、11人がMOGADとそれぞれ診断された。MS、NMOSD、MOGADで歯周病菌の高相対量に有意差はなく、口腔衛生習慣もほぼ同等であった。 単変量解析により、MS患者における各歯周病菌とEDSSスコアの関係を調べたところ、F. nucleatumの相対量が高いMS患者は、低い患者に比べてEDSSスコアが有意に高く、EDSS ≥4の割合も多かった(61.5% vs 18.6%、P=0.003)。多重比較補正(Benjamini-Hochberg法)を行った後も、MS患者におけるF. nucleatumの高相対量とEDSS ≥4の関連のみが有意であった(P=0.036)。一方、他の歯周病菌の相対量は、EDSS ≥4との有意な関連は認められなかった。また、NMOSDおよびMOGAD患者においても、EDSSスコアと各菌の高相対量との関連は認められなかった。 単変量解析では、MS患者の重症度(EDSS ≥4)に影響を与える要因として、F. nucleatumの高相対量に加え、年齢、MSのサブタイプ、発作回数、罹病期間も示唆された。しかし、これらの因子を考慮した多変量解析では、F. nucleatumの高相対量のみが独立して有意であった(オッズ比10.0、95%信頼区間1.45~69.4、P=0.020)。 著者らは、「本研究は、MS患者において口腔内のF. nucleatum相対量がEDSSスコアと強く関連することを示した。因果関係は示せないが、将来的な研究課題としては、サイトカイン関連機構などの免疫学的メカニズムの解明や、口腔ケアなどの介入による影響の検討が挙げられる」と述べている。 本研究の限界として、単施設の横断的観察研究であり、MS以外の疾患群やF. nucleatum陽性患者が少なくサンプルサイズが限られていたこと、歯周病の臨床評価や抗菌薬使用歴、口腔行動の影響、免疫指標測定が不十分であり、残存交絡や因果関係の推定は困難であったことを挙げている。

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第295回 「効果が乏しい医療」に新たに「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン」追加、近い将来査定の対象に

「神経障害性疼痛ではない腰痛には効かない」と国が判定こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、茨城県桜川市で有機農業を営む大学の先輩宅へ農作業の支援に行ってきました。筑波大学近くの公園で落ち葉を拾い集め、軽トラックに乗せて農園まで運び、腐葉土にする準備を行いました。落ち葉を竹製の手箕(てみ)で拾い集めるという単純な作業です。しかし、落ち葉を拾う時の中腰の姿勢はつらく、目一杯落ち葉を詰めたネットの袋は15~20kgほどの重さになります。中高年にとってこうした冬の屋外での農作業は、腰痛悪化やぎっくり腰再発などと隣合わせで、それなりのリスクを伴うものです。とは言え、参加者全員なんとか無事に20袋ばかりの落ち葉を拾い集めることができ、ご褒美に茨城・大洗沖で採れたアンコウの鍋をご馳走してもらいました。さて今回はプレガバリンの話題を取り上げます。厚生労働省は11月27日に開いた社会保障審議会医療保険部会で、「効果が乏しい医療」に神経障害性疼痛ではない「非神経障害性腰痛症」に対するプレガバリン(商品名:リリカなど)の処方を追加する案を出し、同部会は了承しました。また、医療費の適正化に向け、「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」を今後も探して評価を検討していく方針も示されました。とくに整形外科で多用されており、私もかつて「四十肩」の治療で、NSAIDsに追加する形で処方されたこともあるプレガバリンですが、「神経障害性疼痛ではない腰痛には効かない」と国が判定を下したわけで、現場の診療に少なからぬ影響が出そうです。「十分な効果があるというエビデンスがない医療といったものを保険対象から外すという見直しも図っていくべき」と医療保険部会「効果が乏しい医療」とは、2023年に策定された2024~29年度の第4期医療費適正化計画の中で「新たな目標の設定」として盛り込まれた「医療資源の効果的・効率的な活用」で挙げられた「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」のことを指します。同計画策定時、「効果が乏しい医療」としては「急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方」が挙げられていました。その後、医療保険部会では「無価値医療、すなわち効果があるというエビデンスが十分ない医療や、低価値医療、これは仮に効果があるというエビデンスがあったとしても、その効果が小さく、つまり十分な効果があるというエビデンスがない医療といったものを保険対象から外すという見直しも図っていくべき」といった意見が出され、さらなる探索・検討が行われてきました。その結果、今回、「腰痛症(神経障害性疼痛を除く)に対するプレガバリン」が新たに追加されることになったわけです。今後、効果が乏しい医薬品として都道府県が患者や医師への周知を行うことになります。2028年度診療報酬改定での取り扱いについて中医協で審議予定医療保険部会に出された厚労省の資料には、「プレガバリン(商品名 リリカ錠)の効果・効能は神経障害性疼痛、線維筋痛症に伴う疼痛。薬理作用はカルシウムチャネルα2δ遮断薬。神経障害性疼痛では有効なケースもあるが、非神経障害性腰痛では効果が限定的。めまい・眠気などの副作用が比較的多い薬と一般的に言われている。先行研究では、腰痛に対するプレガバリン処方が効果が乏しい医療として指摘されている」とその理由が書かれています。この決定がすぐさま「保険診療での査定」につながるわけではありませんが、今後、関係学会と調整後、次々期、2028年度診療報酬改定での取り扱いについて中央社会保険医療協議会で審議が行われ、審議結果に即した診療報酬上の対応が決定されることになります。将来的には神経障害性疼痛ではない腰痛症には処方できなくなると考えられます。なお、医療費適正化計画基本方針は次のように変更されます(下線部追記)。第1 都道府県医療費適正化計画の作成に当たって指針となるべき基本的な事項一 全般的な事項(略)二 計画の内容に関する基本的事項1 (略)2  医療の効率的な提供の推進に関する目標に関する事項(1)~(2)(略)(3)急性気道感染症及び急性下痢症の患者に対する抗菌薬の処方、神経障害性疼痛を除く腰痛症の患者に対するプレガバリンの処方といった効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療や白内障手術及び化学療法の外来での実施状況などの医療資源の投入量に地域差がある医療については、個別の診療行為としては医師の判断に基づき必要な場合があることに留意しつつ、地域ごとに関係者が地域の実情を把握するとともに、医療資源の効果的かつ効率的な活用に向けて必要な取組について検討し、実施していくことが重要である。(略)プレガバリンの年間薬剤費は約60億円との推計、その半分の30億円が削減目標日経メディカルなどの報道によれば、プレガバリンの年間薬剤費は約60億円と推計されており、その半分の30億円が削減目標になる見込みだそうです。第4期医療費適正化計画(2024~29年度)では、急性気道感染症・急性下痢症に対する抗菌薬処方の適正化で約270億円、入院で行う白内障手術や化学療法の適正化で約106億円の削減を見込んでおり、プレガバリンの削減分はそれに加わる形となります。プレガバリンは、日本ではごく軽症の痛みに対しても多く処方されている薬です。神経障害性疼痛の薬となっていますが、そんなことお構いなく、整形外科などで漫然と投与されている印象です。私自身、近所の整形外科で「四十肩」に処方されたときは驚きました。「効くのかな」と思い数日飲んでみたのですが、顕著なふらつきが出て、怖くなって止めました。その後、「四十肩」は3ヵ月余りで自然と治りました。国は「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」を今後も探し出し、医療費適正化計画にも盛り込んでいく計画とのことですが、プレガバリンは、その副作用から転倒骨折や交通事故の危険性も高く、もっと早くに”適正化”が行われてしかるべきだった気がします。「効果が乏しい医療」のさらなる探索と検討に期待したいと思います。参考1)第4期医療費適正化計画における医療資源の効果的・効率的な活用について/厚生労働省

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ヌシネルセンの高用量処方はSMA患者のQOLをさらに改善する/バイオジェン

 バイオジェン・ジャパンは、2025年9月19日に脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬ヌシネルセン(商品名:スピンラザ)の高用量投与レジメンでの剤型(28mg製剤、50mg製剤)について、新用量医薬品/剤形追加の承認を取得した。わが国は世界初の両剤型の承認・販売国となり、この承認を受け、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、SMAの疾患概要、治療の変遷、患者のニーズなどに関する講演などが行われた。高用量ヌシネルセンで筋力維持などができる可能性へ 「脊髄性筋萎縮症の治療 スピンラザ高用量投与を迎えて」をテーマに、長年本疾患の研究に携わってきた齋藤 加代子 氏(東京女子医科大学名誉教授/瀬川記念小児神経学クリニック)が、SMAの疾患概要と治療の課題などを解説した。 SMAは、脊髄における前角細胞(運動神経細胞)の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病であり、発症年齢などの区分により0~IV型まで5つの型がある。 わが国の発生率は出生1万人当たり0.51例、有病率は人口10万人当たり1例とされ、8割以上の患者が2歳までに発症しているために新生児マススクリーニングが早期発見のために重要と齋藤氏は指摘する1)。 SMAの治療で使用されるヌシネルセンは、体内で生成される完全長Survival Motor Neuron(SMN)タンパクの量を継続的に増やすことで、運動ニューロン喪失の根本原因を標的にするアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)であり、運動ニューロンが存在する中枢神経系に直接投与される。 治療では開始時期により運動機能の改善効果もみられ2)、早期診断と早期治療が重要であり、現在では国の実証事業として新生児のマススクリーニング検査がほぼ全国で行われている。 こうした診療環境の中でSMAの全病型で最も多く報告されたアンメットニーズは「筋力の改善」であり、「呼吸機能と球機能(bulbar function)に関する項目(呼吸機能の改善、嚥下機能の改善など)では、I/II型のほうがIII型よりも重要である可能性が高い」と報告されている3)。また、PK/PDモデルを用いた予測では、脳脊髄液中のヌシネルセン濃度に対しニューロフィラメントの減少をはじめとする用量依存的な治療反応が示唆されていたことから高用量製剤の開発が待たれている。 そこで、高用量製剤の製品化に向け50/28mgの有効性および安全性を検討するため、3部構成のDEVOTE試験が行われた。とくにパートBでは、未治療の乳児型SMA患者(75例)および乳児型以外のSMA患者(25例)について国際共同第III相、二重盲検、並行群間比較試験が行われた。 その結果、乳児型SMA患者におけるフィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査(CHOP INTEND)総スコアについて183日目のベースラインからの変化量の最小二乗(LS)平均値は、50/28mg群15.1(95%信頼区間:12.4~17.8)、マッチングシャム処置群ー11.1(95%信頼区間:ー15.9~ー6.2)であり、LS平均値の差は26.2(95%信頼区間:20.7~31.7、p<0.0001、共分散分析および多重補完法)であったことから、優越性が検証された。 乳児型SMA患者における死亡または永続的換気までの期間について、カプランマイヤー法に基づいた期間の中央値は、50/28mg群では推定できず、12/12mg群で24.7週(95%信頼区間:14.4~NA、名目上のp=0.2775、罹患期間で層別したlog rank検定)だった。 302日目における乳児神経学的検査(HINE)第1項 哺乳/嚥下能力の低下がみられた患者の割合は、50/28mg群で6%(2/35例)、12/12mg群で33%(4/12例)であり、改善がみられた患者の割合は、50/28mg群で26%(9/35例)、12/12mg群で8%(1/12例)だった。 パートCでは日本人を含む乳児型SMA患者(2例)および乳児型以外のSMA患者18歳未満(14例)と18歳以上(24例)について、302日目における拡大Hammersmith運動機能評価スケール(HFMSE)、上肢機能モジュール改訂版(RULM)のベースラインからの変化量について評価がなされ、その結果変化量の平均値(標準誤差)は、HFMSEで1.8点(3.99点)、RULMで1.2点(2.14点)だった。 安全性は、50/28mg群では3/50例(6.0%)、12/12mg群では1/25例(4.0%)に副作用が認められ、貧血や発熱、不快などの発現が報告された一方で、本試験での死亡および投与中止に至った副作用は認められなかった。 齋藤氏はまとめとして、SMAにおいて疾患修飾治療薬3種の臨床試験が成功して実臨床で使える時代となったこと、発症抑制のための新生児マススクリーニングを拡充・推進する方針で実証事業開始されたことに触れ、最後に「ヌシネルセン高用量投与という新たな時代が今始まった」と期待を寄せた。患者の希望は「筋力アップ」 続いて「SMA家族の会」の理事長である大山 有子氏が、患者・患者家族のリアルな声と「SMA患者さん治療ニーズに関する調査結果」をテーマに講演を行った。 自身の子供がSMAI型であり、子供の日常生活を疾患介護の苦労とともに画像・動画で説明し、ヌシネルセンなどの治療薬の乳幼児期における劇的な症状改善の効果を紹介した。 次に家族会とバイオジェンが共同で行った患者・患者家族などへのアンケート内容を説明した。アンケートは、2025年9月3~14日にかけてSMA患者21人、介護者63人(計84人)に行ったもの。・「薬による治療」は96%が受けており、「治療でできるようになったこと」は「座位」、「寝返り」などの回答が多かった。・「リハビリテーション」については、「病院で実施」が69%、「自宅で実施」が76%だった。・「患者がもっとできるようになりたいこと」では、「トイレ」、「移動」などの回答が多く、「そのために必要な機能」について、「筋力」、「体幹」などの回答が多かった。

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