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統合失調症における不眠症の治療選択

 不眠症は、統合失調症に共通する特徴である。いくつかの研究において、統合失調症患者の睡眠に対する特定の薬剤の影響について報告されているが、実臨床における不眠症治療に関して十分に根拠のある推奨はない。ポルトガル・コインブラ大学のPedro Oliveira氏らは、統合失調症患者の不眠症に対する有効な治療法の経験的エビデンスを特定し、その安全性および有効性の評価を行った。Pharmacopsychiatry誌オンライン版2018年7月30日号の報告。 統合失調症患者における不眠症の治療効果を調査するため、臨床試験のシステマティックレビューを実施した。データは、MEDLINE、PubMed、Embase、PsycINFO、Cochrane Libraryより検索を行った。個々の研究において、選択バイアス、実行バイアス、検出バイアス、症例減少バイアス、報告バイアスに関するバイアスリスクを評価した。 主な結果は以下のとおり。・包括基準を満たした研究は4件であった。・その内訳は、メラトニン治療2件、パリペリドン治療1件、エスゾピクロン治療1件であった。・すべてのポジティブな結果は、以下のとおりであった。●メラトニンは、睡眠効率および総睡眠持続時間を増加させた●パリペリドンは、入眠潜時を短縮させ、総睡眠時間および睡眠効率を増加させた●エスゾピクロンは、不眠症の重症度を低下させた 著者らは「統合失調症患者の不眠症に対し、メラトニン、パリペリドン、エスゾピクロンによる治療は有効な選択肢であると考えられる」としている。■関連記事統合失調症への睡眠薬使用に関するメタ解析:藤田保健衛生大統合失調症患者の睡眠状態を検証抗精神病薬誘発性傾眠、薬剤間の違いは

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SMA患児の運動機能が大きく変わった

 2018年7月31日、バイオジェン・ジャパン株式会社は、脊髄性筋萎縮症治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注12mg)が発売から1年を超えたのを期し、「新薬の登場により、SMA治療が変わる」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、脊髄性筋萎縮症(以下「SMA」と略す)の概要、治療の効果などが説明された。「呼吸が弱い」「いつもグニャとしている」新生児がいたら 講演では、弓削 康太郎氏(久留米大学医学部 小児科学教室 助教)を講師に迎え、「SMAが変わる」をテーマに、疾患概要とヌシネルセンナトリウム処方後の効果について説明が行われた。 SMAは、進行性する運動ニューロン病として、体幹・四肢の近位部優位の筋肉が低下する難病。常染色体劣性遺伝形式で原因遺伝子はSMN1遺伝子と同定されている。SMAは発症年齢と重症度で4つに分類され、I型は重症型(生後6ヵ月までに発症)、II型は中間型(生後1歳6ヵ月までに発症)、III型は軽症型(生後1歳6ヵ月以降に発症)、IV型は成人型(20歳以降で発症)となっている。患児・患者発生は10万人当たり1~2人、年間発生は約50~60人と推定され、SMN1遺伝子の保因者は100人に1人と推定されている。現在、治療では、対症療法を主体に行われている。 主な症状としては、新生児であれば体が柔らかく、手・足・首がだらりと垂れたり、筋肉の萎縮、背骨が曲がったりする。幼児から成人まででは、歩行困難や体幹の筋肉の萎縮などが起こる。顕著な症状としては、呼吸が弱く、咳ができない、痰が出せないなどの呼吸症状がみられ、急変しやすく最悪の場合には呼吸不全となる。成人型では、側湾に障害が起こる場合もあり、骨成長が脆弱な点も特徴的であるという。そして、早期診断の重要性を強調するとともに、一般的な外来診察では気付きにくく、医師以外に患児の祖父母や保健師などからの「寝返りしない」「手指の細かい震え」などの報告や意見が診断の助けとなるというポイントを示した。SMAの治療ができるステージへの期待 つぎにヌシネルセンナトリウムの効果について、主に自院の患児症例について報告が行われた。それによると今まで押せなかったリモコンボタンが押せるようになった例、頸がしっかりとした例、痰排出が容易になった例、咀嚼の改善などの運動機能の改善例が報告された。また、呼吸機能の大きな改善はないものの、睡眠時の中途覚醒が少なくなり、患児のADLだけでなくQOLの改善も報告された。 今後のヌシネルセンナトリウムの課題について、薬価が高価であること、重症側弯症へのアプローチ、長期成績・安全性の確立、進行例へのエビデンス不足などがあるという。 最後に同氏は「SMAはヌシネルセンナトリウムの登場で治療可能な疾患となりつつある。今後は、積極的な診断、治療、評価が必要であり、患者・家族の生き方にも変化を起こすと考えられる(たとえば次子の妊娠希望や出生前診断など)。今後は、遺伝子スクリーニングや発症前治療の是非などの課題を解決しつつ、早期診断、早期治療に努めていきたい」と展望を語り、講演を終えた。ヌシネルセンナトリウムの概要 製品名:スピンラザ髄注12mg 一般名:ヌシネルセンナトリウム 効能・効果:脊髄性筋萎縮症 用法・用量:通常、1回につき決められた用量を投与する。乳児型では初回投与後、2週、4週および9週に投与し、以降4ヵ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。乳児型以外では初回投与後、4週および12週に投与し、以降6ヵ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。 副作用:発熱、頻脈、貧血母斑、蜂巣円、処置後腫脹、眼振、血管炎など 製造販売承認日:2017年7月3日 薬価:932万424円(4ヵ月毎、年3回投与における年間薬剤費は2,796万1,272円) 製造販売元:バイオジェン・ジャパン株式会社 ※なお、本年1月より全国の大学・主要病院で新生児スクリーニング研究を開始。■参考SMA特設サイト(バイオジェン・ジャパン株式会社提供)SMA患者登録システムSMART(SMARTコンソーシアム)

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ベンゾジアゼピン依存に対するラメルテオンの影響

 一般的に、ベンゾジアゼピン(BZ)系睡眠薬の減量が困難な患者では、長期間BZ系睡眠薬が処方される。ラメルテオンは、BZ受容体を介する睡眠薬とは異なる作用機序を有しており、生理的な睡眠を促す睡眠薬である。宮崎大学の長友 慶子氏らは、不眠症患者におけるラメルテオンとBZ依存について調査を行った。Asian journal of psychiatry誌オンライン版2018年6月7日号の報告。 不眠症患者42例(平均罹病期間:11.3±9.6年)を、ラメルテオン群22例(就寝前にラメルテオン8mg/日をBZに併用)と対照群20例(BZのみを継続投与)に割り付けた。データ分析には、二元配置反復測定分散分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・BZ依存および離脱症状に関するアンケートで、ラメルテオン群には、0週目と比較し、16週以上でスコアの有意な改善が認められた。・ラメルテオン群における0週目と比較した16週目の有意な改善は、ピッツバーグ睡眠質問票の抜粋版および機能の全体的評価(GAF)で観察された。・ウィルコクソンの順位和検定では、16週目以降のラメルテオン群において、BZ系睡眠薬の併用数が有意に減少していた。対照群では、このような変化は認められなかった。 著者らは「長期不眠症患者に対するラメルテオン併用療法は、BZ系睡眠薬の併用数を減少させることが可能である」としている。■関連記事2つの新規不眠症治療薬、効果の違いはメラトニン使用でベンゾジアゼピンを簡単に中止できるのか睡眠薬使用は自動車事故を増加させているのか

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糖尿病患者は日常的にしびれを感じている

 2018年5月24日から3日間、都内で第61回日本糖尿病学会年次学術集会「糖尿病におけるサイエンスとアートの探究」が開催された。5月25日のシンポジウム「神経障害の病態と治療―痛みを科学する」の概要を紹介する。半数の糖尿病患者は、外来でしびれや痛みを話さない 糖尿病性神経障害は、早期から発症する重大な合併症であり、なかでも糖尿病性多発神経障害(DPN)は、QOLを著しく低下させ、進行すると生命予後の短縮につながる疾患である。DPNは、罹病期間や血糖コントロールと関連し、5~10年単位で緩徐に進行するが、国際的に統一された診断基準はいまだ確立されていない。わが国では、「糖尿病性神経障害を考える会」の簡易診断基準とDPNの臨床病期分類(I~V期)などが用いられ、日常診療でのスクリーニングが行われている。また、ハンマーの金属部分や竹串の鋭端と鈍端を足に当てて、簡易的に神経(温痛覚)障害の初期症状をチェックする検査ができるという。 厚生労働省の「平成19年国民健康・栄養調査」によると、糖尿病と診断された患者の中で、「神経障害(手足がしびれる、感覚がにぶくなるなど)がある」と答えた人は、11.8%だった。しかし、実際の外来では半分ほどの患者しか神経症状を訴えていない。糖尿病性神経障害は、糖尿病が発覚する前から発症しているケースもあるため、なるべく早期に発見し、適切な治療と良好なコントロールを行う必要がある。医療者が、しびれや痛みを感じている患者の訴えを積極的に拾い上げることが望まれる。HbA1cの下降幅が大きいほど、治療後の神経障害が大きい 出口 尚寿氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科糖尿病・内分泌内科学)は、「有痛性糖尿病性神経障害の臨床像」をテーマに発表を行った。 痛みを伴う糖尿病性神経障害は、感覚神経(温痛覚)と自律神経により構成される小径神経の障害(small fiber neuropathy:SFN)であり、DPNのような典型的病型のほか、主にメタボリックシンドロームに起因する耐糖能障害や、急性有痛性神経障害など、多様な病態・病型を含み、脂質異常症や高血圧症など、さまざまな因子の関与が示唆される。また、長期間HbA1cが高値だった患者の治療において、期間あたりのHbA1c下降幅が大きいほど、治療後に生じる神経障害の程度と障害の分布が大きい傾向にあるという。 神経障害による痛みの治療は、「神経障害性疼痛薬物治療ガイドライン」に準じて行うが、病型に応じた疼痛へのアプローチが求められる。第1選択薬(プレガバリン、デュロキセチンなど)を少量で開始し、効果と副作用をみながら漸増するが、急性で激しい疼痛がある病型では、速やかな増量や第2選択薬(トラマドールなど)の追加などが必要となる。出口氏は、「糖尿病患者にとって、疼痛は大きなストレスとなる。初期用量で効かないからと、薬を増量せずに中止するのではなく、副作用がクリアできれば、まず常用量をしっかり使うべき。患者さんの声を聞き、根気強く痛みと向き合いケアすることが大切だ」と強調した。痛みの緩和+運動習慣でQOLの低下を食い止める 住谷 昌彦氏(東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部/麻酔科・痛みセンター)は、「糖尿病関連疼痛の治療学」をテーマに発表を行った。 糖尿病性神経障害は、無髄神経線維(C線維)から有髄神経線維へと障害が進展していくが、簡易診断基準では有髄神経障害の症状しかスクリーニングできない可能性がある。しかし、C線維の障害だけでも疼痛は発症しうる。また、神経障害の初期には神経線維が保たれていても、痛みや知覚過敏などの徴候を示すことがあり、知覚鈍麻だけが糖尿病性神経障害の特徴ではない。神経障害に伴う症状は、寛解と増悪を繰り返して進行することが知られているが、病期が進むまで無症候な例もあるという。神経障害の重症度と疼痛の重症度が必ずしも相関しないため、とくに初期のしびれや違和感の把握が重要で、肥満があると、痛みやしびれが強く出る傾向にある。 神経障害性疼痛を持つ患者は、足の痛みなどが原因で、転倒に対する恐怖が付きまとうが、家にこもりがちになることに対して住谷氏は警鐘を鳴らした。運動量の減少が招く筋肉量の低下は、ロコモティブシンドロームの入り口となる危険性がある。同氏は、「痛みの治療だけではQOLは改善されない。QOLの改善には、適切な薬物治療を行って痛みをコントロールしたうえで、運動・食事療法も並行する必要がある。痛みを緩和して、運動習慣を定着させることが、QOL低下の悪循環を止めるために重要である」と語った。■参考厚生労働省「平成19年国民健康・栄養調査報告 第4部 生活習慣調査の結果」■関連記事神経障害性疼痛の実態をさぐる

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慢性疼痛治療ガイドラインが発刊

 2018年3月、痛みに関連する7学会のメンバーが結集し作り上げた「慢性疼痛治療ガイドライン」(監修:厚生労働行政推進調査事業費補助金慢性の痛み政策研究事業「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班、編集:慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ*)が発刊された。*ペインコンソーシアム(日本運動器疼痛学会、日本口腔顔面痛学会、日本疼痛学会、日本ペインクリニック学会、日本ペインリハビリテーション学会、日本慢性疼痛学会、日本腰痛学会)より選出された委員により構成慢性疼痛に対する施策はエアポケットとなっていた これまで、種々の疾患(がん、生活習慣病、感染症、精神疾患、難病など)への対策が日本政府により行われてきたが、慢性疼痛に対する施策は、エアポケットのように抜け落ちていた。しかし、最近、慢性疼痛に対する施策も国の事業として進められるようになり、前述の研究班とワーキンググループにより、All Japanの慢性疼痛治療ガイドラインが策定された。慢性疼痛治療ガイドラインは、全6章、51CQから成る 慢性疼痛治療ガイドラインは、全6章(総論、薬物療法、インターベンショナル治療、心理的アプローチ、リハビリテーション、集学的治療)から成り、全51個のクリニカルクエスチョン(CQ)が設定されている。慢性疼痛治療ガイドラインのエビデンスレベルは4段階で評価 慢性疼痛治療ガイドラインのCQに対するAnswerの部分には、推奨度およびエビデンスレベルが記されている。推奨度は、「1:する(しない)ことを強く推奨する」「2:する(しない)ことを弱く推奨する(提案する)」の2通りで提示されている。エビデンスレベルは、「A(強):効果の推定値に強く確信がある」「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」と規定された。慢性疼痛とは 慢性疼痛は、国際疼痛学会(IASP)で「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」とされている。 慢性疼痛には「侵害受容性」「神経障害性」「心理社会的」などの要因があるが、これらは密接に関連している場合が多く、痛み以外に多彩な症状・徴候を伴っていることも多い。そのため、慢性疼痛治療ガイドラインでは、慢性疼痛の診断において最も重要なことは、正確な病態把握とされた。また、慢性疼痛の治療は、痛みの軽減が目標の1つであるが第一目標ではなく、作用をできるだけ少なくしながら痛みの管理を行い、QOLやADLを向上させることが重要であると記載されている。慢性疼痛治療ガイドラインには薬物療法の推奨度を詳細に記載 慢性疼痛治療ガイドラインでは、薬物療法の項に最も多くの紙面が割かれている。なお、本ガイドラインでは、「医療者は各項の推奨度のレベルのみを一読するのではなく、CQの本文、要約、解説を十分に読み込んだ上での試行・処方などを検討するようにお願いしたい」「一部、現在(平成30年3月現在)の保険診療上適応のない薬物や手技もあるが、薬物療法においては、添付文書などを熟読の上、治療に当たることが望ましい」と記載されている。 主な薬剤の推奨度、エビデンス総体の総括は以下のとおり。●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:2D(使用しないことを弱く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2B(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:2C(使用しないことを弱く推奨する)●アセトアミノフェン運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:2D(使用しないことを弱く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:1A(使用することを強く推奨する)線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)●プレガバリン運動器疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)神経障害性疼痛:1A(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2C(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:1A(使用することを強く推奨する)●デュロキセチン運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:1A(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2C(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:1A(使用することを強く推奨する)●抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬物)運動器疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)(エチゾラム)神経障害性疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)(クロナゼパム)頭痛・口腔顔面痛:2B(使用することを弱く推奨する)           (緊張型頭痛:エチゾラム、アルプラゾラム)           (口腔顔面痛:ジアゼパム、クロナゼパム)線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)●トラマドール運動器疼痛:1B(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:1B(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:推奨度なし線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)慢性疼痛治療ガイドラインには心理療法・集学的療法の推奨度も記載 心理療法として取り上げられた心理教育、行動療法、認知行動療法、マインドフルネス、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、慢性疼痛治療ガイドラインではいずれも推奨度1(行うことを強く推奨する)とされている。また、最近話題の集学的治療や集団認知行動療法(集団教育行動指導)も慢性疼痛治療ガイドラインでは推奨度1(施行することを強く推奨する)とされ、その重要性が示されている。

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多発性硬化症の症状は個人差が大きく確定診断まで約3年を待つ

 2018年3月29日、バイオジェン・ジャパン株式会社とエーザイ株式会社は、多発性硬化症に関するメディアセミナーを都内で共同開催した。セミナーでは、女性に多い本症について、疾患概要だけでなく、女性視点から闘病への悩みなども取り上げられた。多発性硬化症は全国で約2万人が苦しむ難病 セミナーでは、清水 優子氏(東京女子医科大学病院 神経内科 准教授)を講師に迎え、「多発性硬化症の治療選択-女性患者のアンメットニーズとライフステージ」をテーマに講演が行われた。 多発性硬化症は、中枢神経系の自己免疫性脱髄疾患であり、ミエリン(髄鞘)が障害されることで、視力障害や運動麻痺、排尿障害、感覚障害など、さまざまな症状を引き起こす。多発性硬化症の症状出現の仕方・時間は、患者の個人差も大きく、診断に苦慮する難病である。なお、多発性硬化症の診断では、一般的な問診・検査に加え、MRI検査により、ほぼ確定診断が行われる。主な診療は、神経内科が担当するが、眼科、整形外科、一般内科で気付かれる例も多いという。 多発性硬化症の発症年齢は20~30代にあり、患者は女性に多い。発症原因は不明で、わが国では患者数が年々増加しており2015年度で1万9,389例の患者が登録されている(特定疾患医療受給者証交付件数)。また、多発性硬化症の特徴として、治療が奏効しても再燃と寛解を繰り返し、徐々に症状の重症度が上がっていき(発症初期から進行性の経過をとる一次性進行型はまれ)、進行型の予測も難しいという。多発性硬化症の症状を疑ったらMRI検査へ 多発性硬化症の治療では、初発から再発寛解までの時間が、治療のゴールデンタイムと言われる。この時間に確定診断が行われ、きちんとした治療が行われるかどうかで予後が変わるという。しかしながら、初発の症状では、多発性硬化症と診断される例が少なく、確定診断まで平均3.7年かかるという報告もある(バイオジェン・ジャパンと全国多発性硬化症友の会との合同アンケート調査より)。「初発症状である温度変化による症状の悪化(ウートフ現象)、手足の突っ張り感、脱力、過労やストレス、風邪などの易感染、出産後3ヵ月間などの主訴から診断初期で、いかに本症を思い浮かべ、MRIなどの検査に送ることができるかが、治療を左右する」と清水氏は指摘する。 急性期、慢性期、再発防止の3期に分けて多発性硬化症の治療薬は使われる。急性期ではステロイド・パルス療法、血液浄化療法が、慢性期では対症療法、リハビリテーションが、再発防止ではインターフェロンβ1a/b、グラチラマー、フマル酸ジメチル、フィンゴリモド、ナタリズマブが、個々の患者病態に合わせて選択されている。しかし、完全寛解まで至る治療薬は現在ない。多発性硬化症患者の妊娠・出産の悩みに応える 続いて多発性硬化症の女性患者の出産、妊娠について解説を行った。多発性硬化症の発症時期は、こうしたイベントと重なることが多く、女性患者にとっては切実な問題だという。実際、妊娠、出産に関しては、病態が管理できているのであれば、いずれも問題はないという。ただ、妊娠中は免疫寛容が母体に働くために多発性硬化症の症状は安定または軽くなるものの、「出産後早期は、再発リスクがあり、注意が必要だ」と同氏は述べる。また、生まれてくる胎児への影響はなく、授乳も多発性硬化症の再発リスクにもならないが、「不妊治療については、悪化させる報告もあるので、妊娠を希望する場合、病態の安定化が重要だ」と同氏は指摘する。多発性硬化症の症状に周囲の理解が大事 女性患者の就労に関しては、脱力、しびれ感、目のかすみなどの症状が、外観から理解されにくく、誤解を受けやすいことから悩みを抱えている現状が紹介された。先に紹介したアンケート調査を引用し、「疾患により仕事内容の変更・異動、転職・退職を経験したことがあるか?」(n=210)との問いに複数回答ながら「退職」(34.3%)、仕事内容の変更(21.9%)、「就職をあきらめた」(19.5%)の順で回答が寄せられ、就労の難しさをうかがわせた。体が思うように動かない、多発性硬化症の症状の説明が周囲に難しいなどの理由により仕事に就きたいが就労できない状況が、さらに経済状態を悪化させ不安感を増大させるなどして、女性患者を負のスパイラルに陥らせていることを指摘した。 最後に清水氏は「女性にとって多発性硬化症の罹患年齢は、働き盛り、妊娠・出産の世代に重なる。そのため医療者をはじめとする一般社会の理解がないと、これらの問題解決は難しい。多発性硬化症の社会認識と理解・啓発、就労関係の整備が実現され、患者の社会貢献ができることを望む」と期待を述べ、レクチャーを終えた。

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siponimod、二次性進行型多発性硬化症の身体的障害の進行を抑制/Lancet

 スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体のS1P1およびS1P5サブタイプ選択的調節薬であるsiponimodは、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者において、身体的障害の進行リスクを低下させ、安全性プロファイルは他のS1P受容体調節薬と同様であることが認められた。スイス・バーゼル大学のLudwig Kappos氏らが、siponimodの無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験(EXPAND試験)の結果を報告した。SPMSは、再発とは無関係に障害が徐々に進行し続けることが特徴で、これまで身体的障害の進行を遅延させる効果を示した治療はなかった。著者は、「siponimodはSPMSの治療に役立ちそうである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年3月22日号掲載の報告。SPMS患者約1,650例で身体的障害の進行を評価 EXPAND試験は、31ヵ国の292施設で、総合障害度評価尺度(EDSS)が3.0~6.5点のSPMS患者(18~60歳)を対象に行われた。被験者を、siponimod群(1日1回2mgを経口投与)またはプラセボ群に2対1の割合で無作為に割り付け、最長3年、あるいは事前に定義した身体的障害の進行(confirmed disability progression:CDP)イベントが生じるまで投与した。 2013年2月5日~2015年6月2日に、1,651例が無作為化を受けた(siponimod群1,105例、プラセボ群546例)。 主要評価項目は、3ヵ月以上継続するCDPが認められるまでの期間。有効性は最大解析集団(無作為化と試験薬の投与を受けた全患者)で、安全性は安全性解析対象集団で評価し、Cox比例ハザードモデルを用いて解析した。3ヵ月以上継続する身体的障害の進行リスク、siponimod群21%低下 1,651例の患者背景は、多発性硬化症の罹病期間が平均(±SD)16.8±8.3年、SPMSへ移行してからの期間が平均3.8±3.5年で、1,055例(64%)は過去2年間に再発がなく、918例(56%)が歩行介助を必要とした。 解析集団には、siponimod群の同意が得られなかった1例と試験薬の投与を受けなかった5例を除く計1,645例(siponimod群1,099例、プラセボ群546例)が包含され、siponimod群903例(82%)、プラセボ群424例(78%)が試験を完遂した。 siponimod群1,096例中288例(26%)、プラセボ群545例中173例(32%)で、3ヵ月以上継続するCDPが確認された(ハザード比:0.79、95%CI:0.65~0.95、相対リスク低下21%、p=0.013)。有害事象の発現率はsiponimod群89%(975/1099例)、プラセボ群82%(445/546例)で、重篤な有害事象はそれぞれ197例(18%)および83例(15%)が報告された。リンパ球減少症、肝トランスアミナーゼ上昇、投与開始時の徐脈/徐脈性不整脈、黄斑浮腫、高血圧、帯状疱疹、痙攣に関しては、プラセボ群よりsiponimod群で多く認められた。心臓への影響は初期の漸増投与により軽減した。感染症や悪性腫瘍の頻度、および死亡率は両群に違いはなかった。

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「二次性進行型」多発性硬化症患者における身体機能障害の進行抑制に朗報(解説:森本悟氏)-837

 多発性硬化症(MS)患者の約85%が再発寛解型であり、その約25%が10年以内に、約75%以上が30年後には二次性進行型MS(secondary progressive multiple sclerosis、以下SPMS)に移行する1,2)。また、早期からの軸索障害を反映してか、比較的障害度の低い早期(EDSSスコア3程度)から障害の慢性的な進行は始まっているとされる3)。SPMSにおいては、古典的かつ優れた治療薬であるインターフェロンβ(IFNβ)製剤について、再発の重畳やガドリニウム造影病巣を伴ったりする場合でのみ有効性が期待されているが、身体機能障害の進行抑制に対して確実に有効といえる薬剤が乏しいのが現状である4)。 当該試験で使用されたSiponimod(BAF312)は、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体の特定サブタイプの選択的アゴニストであり、BAF312はリンパ球上のS1Pのサブ受容体であるS1P1に結合することで、リンパ球がMS患者の中枢神経系に移行することを阻止する5,6)。これにより、BAF312の抗炎症作用が生じると考えられている。また、同クラスの既存薬であるFingolimodと比較し、S1P1およびS1P5への選択的親和性を有し、とくにS1P3の活性化に起因する徐脈や血管収縮といった副作用が少ないとされる。また、半減期が短いことも、副作用の軽減に寄与する可能性がある7)。 当該試験は、31ヵ国、292施設、合計1,651人のSPMS患者を対象としたこれまでにない大規模臨床試験であり、登録患者のEDSSの中央値が6点と、比較的症状の重い(歩行時補助具使用レベル相当)患者を対象としている。 結果として、「再発の有無を問わず」、SPMSにおける身体機能障害の進行リスク低下効果(3-month CDPおよび6-month CDPを指標)が示された。さらには、年間の再発、脳萎縮、およびT2強調像による高信号病変容積の増加を有意に抑制した。また、Fingolimodで問題となっている徐脈などの心臓への初回投与効果については、漸増投与法を導入することで緩和された。 これらの結果は、これまでにSPMSにおける身体機能障害進行抑止の明確なエビデンスを有する薬剤に乏しかった中で、Siponimodが非常に有望な治療薬となりうる可能性を示した。■参考文献1)Multiple Sclerosis International Federation. Atlas of MS 2013. 2017.2)Tremlett H, et al. Mult Scler. 2008;14:314-324.3)Kremenchutzky M, et al. Brain 2006;129:584-594.4)Kappos L, et al. Neurology. 2004;63:1779-1787.5)Brinkmann V, et al. Nat Rev Drug Discov. 2010;9:883-897.6)Chun J, et al. Clin Neuropharmacol. 2010;33:91-101.7)Gergely P, et al. Br J Pharmacol. 2012;167:1035-1047.

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授乳中の抗てんかん薬使用に関する母親への情報提供

 さまざまな抗てんかん薬の母乳中への移行、それによる乳児に対する影響についての情報は限られている。これらの問題が明らかとなっていないため、抗てんかん薬服用中の患者には母乳による育児を推奨することができない。スイス・ローザンヌ大学のM. Crettenand氏らは、授乳中の抗てんかん薬に関する利用可能なデータを包括的にレビューし、これらの情報を添付文書(SmPC)に記載されている内容と比較し、母乳育児中の女性にこれらの薬剤を使用するための推奨を提供するため、検討を行った。Der Nervenarzt誌オンライン版2018年2月27日号の報告。 23種類の抗てんかん薬の母乳育児データに関するシステマティックレビューを行った。授乳適合性スコアを作成し、検証を行った。システマティックレビューに基づく推定スコアは、添付文書に記載された推奨に基づく推定スコアとの比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・授乳中における15種類の抗てんかん薬の投与および安全性に関するデータを含む75報を特定した。・レビューおよび添付文書に基づくスコア値の比較では、一致率が非常に低かった(重み付けκ係数:0.08)。・授乳中の抗てんかん薬として、適していると考えられる薬剤は以下5種類。 フェノバルビタール、プリミドン、カルバマゼピン、バルプロ酸、レベチラセタム・母乳育児中に、乳児の副作用を慎重に観察することができれば、推奨可能である薬剤は以下10種類。 フェニトイン、エトスクシミド、クロナゼパム、オクスカルバゼピン、ビガバトリン、トピラマート、ガバペンチン、プレガバリン、ラモトリギン、ゾニサミド・母乳育児によるリスクを適切に評価するためのデータが不十分なため、原則として推奨されないが、ケースバイケースで注意深く評価する必要がある薬剤は以下8種類。 mesuximide、クロバザム、ルフィナミド、felbamate、ラコサミド、スルチアム、ペランパネル、retigabine 著者らは「実際には、母乳育児を希望する抗てんかん薬治療を受けている母親ごとにリスクとベネフィットを分析し、患者と話し合う際には、個別のリスク要因を適切に考慮する必要がある」としている。■関連記事授乳中の気分安定薬は中止すべきか「妊娠、抗てんかん薬」検索結果は患者に役立つか?授乳中の抗精神病薬使用、適切な安全性評価が必要

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第42回

第42回:水痘/帯状疱疹、50歳以上にワクチン接種勧めますか?監修:表題翻訳プロジェクト監訳チーム 今回のテーマは水痘/帯状疱疹です。日本では2014(平成26)年10月から水痘ワクチンが定期接種化(生後12~36ヵ月)されています。先日も6歳の子が水痘で受診されましたが、接種していなくて未発症の姉は予防接種すべきか、担がん患者の祖母は接種したほうがよいか、非常に迷いました(50歳以上の接種で帯状疱疹を予防するエビデンスあり)。身近な問題ながら、わからないことが多いのが、水痘/帯状疱疹です。 以下、Am Fam Physician.11月15日号1)より帯状疱疹は、水痘ウイルスの再活性化(reactivation)で発症する。米国では年間100万人発症し、その人が生涯発症するリスクは30%程度とされている。家庭医の診療ベースでは、人口1,500人当たりで年間2~3例が発症し、体液性免疫が低下している人に関しては、そのリスクが20~100倍まで跳ね上がる。発疹の2~3日前に、全身倦怠感、頭痛、発熱、腹部の皮膚の違和感があるが、前駆症状だけで診断するのはかなり困難である。発疹は片側性に、1つのデルマトームに限局することが多く、水疱は7~10日で痂皮化する。72時間以内の抗ウイルス薬投与が勧められるが、新しい病変が発生する場合や、眼病変、神経症状が出る場合はその限りではない。アシクロビルにするか、バラシクロビル(商品名:バルトレックス)にするか迷うところである。アシクロビルは安価だが生体利用率が低く、投与回数も多い(3回と5回)。また、6ヵ月後の皮膚病変については差がないが、神経痛の改善はバラシクロビルのほうが早いと言われている2)。帯状疱疹後神経痛は5人に1人の割合で発症し、治療法はリドカイン、カプサイシン、ガバペンチン、プレガバリン、三環系抗うつ薬がある。50歳以上の人に水痘ワクチンを接種することは、帯状疱疹の減少につながる可能性がある(ちなみに抗体価を測って接種の可否を決める必要はない。年齢要件があれば、既往や抗体価の有無に関わらず適応がある)。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Saguil A, et al. Am Fam Physician. 2017;96:656-663. 2) Beutner KR, et al .Antimicrob Agents Chemother. 1995;39:1546-1553.

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てんかんとADHD合併の小児および青年における薬物療法の課題

 てんかんの小児および青年における罹病率は、3.2~5.5/1,000である。また、てんかん患者の約1/3は、ADHD症状を合併している。てんかんとADHDとの関連は、よくわかっていないが、不注意、多動、行動障害などのADHD症状は、しばしば抗てんかん薬の有害作用であると考えられる。イタリア・University of L'AquilaのAlberto Verrotti氏らは、行動に対する抗てんかん薬の影響に関するデータを検索した。Clinical drug investigation誌オンライン版2017年10月25日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・ADHD症状の誘発が最も報告されている薬剤は、フェノバルビタールであった。次いで、トピラマート、バルプロ酸であった。・フェニトインは、中程度の影響が認められるようだが、レベチラセタムは、対照的なデータが存在した。・ラコサミドは、行動に対し有益な影響をもたらし、カルバマゼピンおよびラモトリギンは、注意および行動に対し良好な影響を発揮する。・ガバペンチンおよびビガバトリンは、認知機能に対し有害作用を有する。・オクスカルバゼピン、ルフィナミド、eslicarbazepineは、ADHD症状の悪化や誘発が認められないようであるが、ペランパネルは、敵対的/攻撃的行動を高率でもたらす(これは高用量で増加する可能性がある)。・エトスクシミド、ゾニサミド、tiagabine、プレガバリン、スチリペントール、retigabineの行動への影響に関するデータは、まだ限られている。・ADHD症状は、てんかん患者のQOLに著しい影響を及ぼすため、この神経精神医学的な障害に対する臨床的管理は優先事項として取り扱うべきである。・データはまだ少数で、限られているものの、メチルフェニデートは、ADHD症状とてんかんを合併している小児や青年において、多くの場合、発作リスクを有意に増加させることなく有効である。■関連記事てんかん重積状態に対する抗てんかん薬処方の変化ADHD発症しやすい家庭の傾向ADHD児への併用療法や抗精神病治療の傾向

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アトピー性脊髄炎〔AM:atopic myelitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系が自己免疫機序により障害されることは、よく知られている。中でも最も頻度の高い多発性硬化症は、中枢神経髄鞘抗原を標的とした代表的な自己免疫疾患と考えられている。一方、外界に対して固く閉ざされている中枢神経系が、アレルギー機転により障害されるとは従来考えられていなかった。しかし、1997年にアトピー性皮膚炎と高IgE血症を持つ成人で、四肢の異常感覚(じんじん感)を主徴とする頸髄炎症例がアトピー性脊髄炎(atopic myelitis:AM)として報告され1)、アトピー性疾患と脊髄炎との関連性が初めて指摘された。2000年に第1回全国臨床疫学調査2)、2006年には第2回3)が行われ、国内に本疾患が広く存在することが明らかとなった。その後、海外からも症例が報告されている。2012年には磯部ら4)が感度・特異度の高い診断基準を公表し(表)、わが国では2015年7月1日より「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づき「指定難病」に選定されている。画像を拡大する■ 疫学平均発症年齢は34~36歳で、男女比1:0.65~0.76と男性にやや多い。先行するアトピー性疾患は、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息の順で多く、アトピー性疾患の増悪後に発症する傾向にあった。発症様式は急性、亜急性、慢性のものが約3割ずつみられ、症状の経過は、単相性のものも3~4割でみられるものの、多くは、動揺性、緩徐に進行し、長い経過をとる。■ 病因図1のようにAMの病理組織学的検討では、脊髄病巣は、その他のアトピー性疾患と同様に好酸球性炎症であり、アレルギー性の機序が主体であると考えられる。さまざまな程度の好酸球浸潤を伴う、小静脈、毛細血管周囲、脊髄実質の炎症性病巣を呈する(図1A)5)。髄鞘の脱落、軸索の破壊があり、一部にspheroidを認める(図1B)5)。好酸球浸潤が目立たない症例においても、eosinophil cationic protein(ECP)の沈着を認める(図1C)6)。浸潤細胞の免疫染色では、病変部では主にCD8陽性T細胞が浸潤していたが(図1D)6)、血管周囲ではCD4陽性T細胞やB細胞の浸潤もみられる。さらに、脊髄後角を中心にミクログリアならびにアストログリアの活性化が認められ(図1E、F)7)、アストログリアではエンドセリンB受容体(endothelin receptor type B:EDNRB)の発現亢進を確認している(図1G、H)7)。図1 アトピー性脊髄炎の病理組織所見画像を拡大する■ 臨床症状初発症状は、約7割が四肢遠位部の異常感覚(じんじん感)、約2割が筋力低下である。経過中に8割以上でアロディニアや神経障害性疼痛を認める。そのほか、8割で腱反射の亢進、2~3割で病的反射を生じ、排尿障害も約2割に生じる。何らかの筋力低下を来した症例は6割であったが、その約半数は軽度の筋力低下にとどまった。最重症時のKurtzkeのExpanded Disability Status Scale(EDSS)スコアは平均3.4点であった。■ 予後第2回の全国臨床疫学調査では、最重症時のEDSSスコアが高いといずれかの免疫治療が行われ、治療を行わなかった群と同等まで臨床症状は改善し、平均6.6年間の経過観察では、症例全体で平均EDSS 2.3点の障害が残存していた。全体的には大きな障害を残しにくいものの、異常感覚が長く持続し、患者のQOLを低下させることが特徴といえる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見末梢血所見としては、高IgE血症が8~9割にあり、ヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニに対する抗原特異的IgEを85%以上の症例で有し、約6割で末梢血好酸球数が増加していた。前述のAMの病理組織において発現が亢進していたEDNRBのリガンドであるエンドセリン1(endothelin 1:ET1)は、AM患者の血清で健常者と比較し有意に上昇していた7)。髄液一般検査では、軽度(50個/μL以下)の細胞増加を約1/4の症例で認め、髄液における好酸球の出現は10%未満とされる。蛋白は軽度(100mg/dL以下)の増加を約2~3割の症例で認める程度で、大きな異常所見はみられないことが多い。髄液特殊検査では、IL-9とCCL11(eotaxin-1)は有意に増加していた。末梢神経伝導検査において、九州大学病院症例では約4割で潜在的な末梢神経病変が合併し、第2回の全国調査では、検査実施症例の25%で下肢感覚神経を主体に異常を認めていた3)。また、体性感覚誘発電位を用いた検討では、上肢で33.3%、下肢では18.5%で末梢神経障害の合併を認めている8)。図2のように脊髄のMRI所見では、60%で病変を認め、その3/4が頸髄で、とくに後索寄りに多い(図2A)。また、Gd増強効果も半数以上でみられる。この病巣は、ほぼ同じ大きさで長く続くことが特徴である(図2B)。画像を拡大する■ 診断・鑑別診断脊髄炎であること、既知の基礎疾患がないこと、アレルギー素因があることを、それぞれを証明することが必要である。先に磯部ら6)による診断基準を表で示した。この基準を脊髄初発多発性硬化症との鑑別に適用した場合、感度93.3%、特異度93.3%、陽性的中率は82.4%、陰性的中率は97.7%であった。鑑別として、寄生虫性脊髄炎、多発性硬化症、膠原病、HTLV1関連脊髄症、サルコイドーシス、視神経脊髄炎、頸椎症性脊髄症、脊髄腫瘍、脊髄血管奇形を除外することが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)第2回の全国臨床疫学調査の結果では、全体の約60%でステロイド治療が行われ、約80%で有効性を認めている。血漿交換療法が選択されたのは全体の約25%で、約80%で有効であった。AMの治療においてほとんどの症例はパルス療法を含む、ステロイド治療により効果がみられるが、ステロイド治療が無効の場合には、血漿交換が有効な治療の選択肢となりうる。再発、再燃の予防については、アトピー性疾患が先行して発症、再燃することが多いことから、基礎となるアトピー性疾患の沈静化の持続が重要と推測される。4 今後の展望当教室ではAMの病態解明を目的とし、アトピー性疾患モデルマウスにおける神経学的徴候の評価と中枢神経の病理学的な解析を行い、その成果は2016年に北米神経科学学会の学会誌“The Journal of Neuroscience”に掲載された7)。モデル動物により明らかとなった知見として、(1)アトピー性疾患モデルマウスでは足底触刺激に対しアロディニアを認める、(2)脊髄後角ではミクログリア、アストログリア、神経細胞が活性化している、(3)ミクログリアとアストログリアではEDNRBの発現が亢進し、EDNRB拮抗薬の前投与により脊髄グリア炎症を抑制すると、神経細胞の活性化が抑えられ、アロディニアが有意に減少したというもので、AMに伴う神経障害性疼痛に脊髄グリア炎症ならびにET1/EDNRB経路が大きく関わっていることを見出している。5 主たる診療科神経内科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター アトピー性脊髄炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報アトピー性脊髄炎患者会 StepS(AM患者と家族向けの情報)1)Kira J, et al. J Neurol Sci. 1997;148:199-203.2)Osoegawa M, et al. J Neurol Sci. 2003;209:5-11.3)Isobe N, et al. Neurology. 2009;73:790-797.4)Isobe N, et al. J Neurol Sci. 2012;316:30-35.5)Kikuchi H, et al. J Neurol Sci. 2001;183:73-78.6)Osoegawa M, et al. Acta Neuropathol. 2003;105:289-295.7)Yamasaki R, et al. J Neurosci. 2016;36:11929-11945.8)Kanamori Y, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2013;4:29-35.公開履歴初回2017年11月14日

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がん治療の末梢神経障害、皮膚障害に指針/日本がんサポーティブケア学会

 Supportive care。日本では支持療法と訳されることが多い。しかし、本来のSupportive careは、心身の異常、症状の把握、がん治療に伴う副作用の予防、診断治療、それらのシステムの確立といった広い意味であり、支持療法より、むしろ支持医療が日本語における適切な表現である。2017年10月に行われた「第2回日本がんサポーティブケア学会学術集会」のプレスカンファレンスにおいて、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)理事長 田村和夫氏はそう述べた。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』発刊 JASCC神経障害部門部会長である東札幌病院 血液腫瘍科 平山泰生氏が『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』発刊について紹介した。 がん薬物療法の進化によるがんの治療成績向上と共に、抗がん剤による副作用も対処可能なものが増えてきている。しかし、本邦における4,000例以上のがん患者の追跡調査では、化学療法終了後1ヵ月以内の神経障害の発生頻度は7割、6ヵ月以降でも3割であった。神経障害はいまだに患者を苦しめているのが現状である。 この神経障害に対する有効な薬物は明らかではない。JASCCが行った調査では、がん専門医の神経障害に対する処方は、抗けいれん薬(97%)、ビタミンB12(78%)、漢方薬(61%)、その他抗うつ薬、消炎鎮痛薬、麻薬など、さまざまな薬剤を用いており、薬剤の有効性かわからない中、医療現場の混乱を示唆する結果となった。 一方、米国では2004年にASCOによる「化学療法による末梢神経障害の予防と治療ガイドライン」が発行されている。しかし、ビタミンB12、消炎鎮痛薬などの記載がないなど日本の状況とは合致していない。そのため、本邦の現状を反映した臨床指針が望まれていた。 Mindsの作成法に準じて作られた『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』では、この分野のエビデンスが少ないため、ガイドラインとは銘打たず"手引き"としている。同書には薬物の有効性に関するクリニカルクエスチョンも掲載されており、ビタミンB12、漢方、消炎鎮痛薬、麻薬など、日本でしか使われていないような薬剤についても記載がある。「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」出版を目指す JASCC皮膚障害部門部会長である国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科の山崎直也氏が「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」の出版について紹介した。 がん治療の外来への移行、抗がん剤開始時期の早期化、生存期間の延び、長期間にわたり社会と触れ合いながら治療を受けるがん患者が増えている。一方で、分子標的薬をはじめ、皮膚有害事象を発現する薬剤も増えている。このような社会で生きるがん患者にとって、アピアランスケアは非常に重要な問題である。 皮膚障害の治療に対するエビデンスは少なく、世界中が医療者の経験値で対応しているのが現状である。そのような中、昨年(2016年)がん患者の外見支援に関するガイドラインの構築に向けた研究班により「がん患者に対するアピアランスケアの手引き」が作成された。さらに、目で見てすぐわかる多職種の医療者に伝わるようなものをという考えから、JASCC皮膚障害部門を中心に「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」を作成している。 その中では、最近の分子標的薬の皮膚障害を中心に取り上げているが、治療進歩の速さを鑑み、免疫チェックポイント阻害薬についても収載。総論、発現薬剤といった基本的事項に加え、重要な重症度評価およびそれに対する診断・治療のポイントを、症状ごとに症例写真付きで具体的に説明している。年内には発売できる見込みだという。

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脊髄性筋萎縮症治療における新たな選択肢が登場

 2017年10月6日、バイオジェン・ジャパン株式会社は、メディアセミナー「日本初のアンチセンス核酸医薬品であるスピンラザ髄注12mg 最新技術の登場で変わる医療現場と治療方法」を開催した。 セミナーの前半では竹島 泰弘氏(兵庫医科大学 小児科学講座 主任教授)が「アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたスプライシング制御による遺伝性神経筋疾患治療」と題した講演を行い、後半では、バイオジェン・ジャパン社の飛田 公理氏(メディカル本部 希少疾患領域[SMA]部長)が「スピンラザ髄注12mg」の概要を解説した。 常染色体劣性遺伝性神経筋疾患である脊髄性筋萎縮症(SMA)は、5番染色体長腕内のSMN1遺伝子の欠乏・変異からSMNタンパク質の不足が起こり、脊髄前角運動ニューロンの変性によって進行性の筋萎縮や筋力低下を来す疾患であり、乳児の遺伝性疾患による主要な死因となっている。 SMNタンパク質を作る遺伝子としては、SMN1遺伝子のほかにSMN1遺伝子の重複遺伝子であるSMN2遺伝子が挙げられるが、SMN2遺伝子から作られるSMNタンパク質は約9割が非機能性であり、通常SMN2遺伝子から作られる機能性SMNタンパク質の割合は全体の約1割にすぎない。 SMAには根本的な治療法はなく、これまで対症療法として栄養、呼吸器、筋骨格系合併症に対する包括的ケアや緩和ケアが行われてきたが、今夏、新たな選択肢としてヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ)が登場した。 スピンラザはSMN2遺伝子のmRNA前駆体に結合することで、機能性SMNタンパク質の産生を増加させる日本初のアンチセンス核酸医薬品であり、乳児型SMAを対象としたENDEAR試験および乳児型以外のSMAを対象としたCHERISH試験の中間解析において、臨床的に有意な有効性と忍容可能な安全性が認められている。 今後の課題として、脊髄性筋萎縮症という疾患自体は多くの医師に知られているが、一般小児科や産婦人科では見逃されている可能性もあるという。竹島氏は「乳幼児健診等では脊髄性筋萎縮症の可能性を念頭に置き、診察していただきたい」と要望を述べて会を締めくくった。■参考医療関係者向け情報サイト:スピンラザ髄注12mg患者向け情報サイト:TOGETHER IN SMA

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既存の抗アレルギー薬が多発性硬化症の慢性脱髄病変を回復させるかもしれない(解説:森本悟氏)-752

 多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は若年成人に発症し、重篤な神経障害を来す中枢神経系の慢性炎症性脱髄性疾患である。何らかの機序を介した炎症により脱髄が起こり、軸索変性が進行する。急性炎症による脱髄病変には一部再髄鞘化が起こるが、再髄鞘化がうまくいかないと慢性的な脱髄病変となり、不可逆的な障害につながる。現在MSの治療は急性炎症の抑制、病態進行抑制が中心であり、慢性脱髄病変を回復させる治療はない。これまでの研究で、第一世代の抗ヒスタミン薬であるクレマスチンフマル酸(clemastine fumarate:CF)が、前駆細胞(oligodendrocyte precursor cell:OPC)からオリゴデンドロサイトへの分化促進、髄鞘膜の伸展、マイクロピラーの被覆、を介した再髄鞘化効果を有することが、疾患動物モデルにより証明されている1,2) 。 本研究は、CFがMSの慢性脱髄病変を回復させる可能性を示した初めての臨床報告である。単施設でのdouble-blind、randomized、placebo-controlled、crossover trialであり、MS患者50例(平均罹病期間約5年、平均年齢40歳)を25例ずつ2群に分け、CFまたはプラセボを3ヵ月間投与し、その後入れ替えて2ヵ月間投与した。主要評価項目には、視覚誘発電位(VEP)における遠位潜時を用いている。VEP検査は網膜から後頭葉の視覚野にかけての視覚経路における神経伝達を評価する検査であり、一般的にP100(一次視覚野由来の波形)の潜時が延長していると、その経路に脱髄をはじめとした障害があることが示唆される。本研究では、P100潜時の延長のある症例のみ登録され、その短縮効果を評価している。 結果、CF投与期間にはプラセボ投与期間に比べ、VEPのP100潜時が平均1.7ms短縮し、さらに6ms以上改善した例もプラセボ投与期間に比べてCF投与期間で有意に多かった。しかし、臨床的な神経症状の改善効果やMRIにおける病変の変化は証明できなかった。有害事象としては疲労感の増悪が報告されたのみであった。 本研究では、MRIによる視覚路病変の詳細な質的評価を行っていないこと、主要評価項目であるVEPの改善効果が小さく、臨床症状やMRI画像所見の改善が証明できなかったことから、脱髄病変が回復したと結論付けるには慎重を要する。さらに、MS患者における総合障害度の評価基準であるExpanded Disability Status Scale(EDSS[0:無症状~10:死亡])は、対象患者で2程度と障害の比較的軽度な患者が対象となっている点は、治療反応性の観点から(残存するOPCやオリゴデンドロサイト、神経軸索の数などが治療反応性の因子として推測されるが)留意すべきと思われる。また、CFは日本においても抗ヒスタミン薬として臨床的に使用されており、その用量は2mg/日である。しかしながら、本研究での投与量は10.72mg/日と約5倍量を使用しており、長期的に投与した場合の副作用や他の薬剤との相互作用が懸念される。 考慮すべき点は残るものの、in vitro/in vivoモデルにおいてしっかりとした有効性が確認された薬剤であり、慢性の脱髄病変が回復する可能性が見いだされた重要な臨床試験報告であるため、今後の研究が期待される。 余談だが、MSの亜型と言われ、視神経に病変が強調される視神経脊髄炎関連疾患(NMOSD:neuromyelitis optica spectrum disorder)という概念が存在する。これらは、病変の首座がオリゴデンドロサイトではなくアストロサイトにあるとされているが、二次的な脱髄を伴うため、NMOSDに対してのCFの応用なども興味深い点である。

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HTLV-1関連脊髄症〔HAM:HTLV-1-associated myelopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy:HAM)は、成人T細胞白血病・リンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma:ATL)の原因ウイルスであるヒトTリンパ球向性ウイルス1型(human T-lymphotropic virus type 1:HTLV-1)の感染者の一部に発症する、進行性の脊髄障害を特徴とする炎症性神経疾患である。有効な治療法に乏しく、きわめて深刻な難治性希少疾病であり、国の指定難病に認定されている。■ 疫学HTLV-1の感染者は全国で約100万人存在する。多くの感染者は生涯にわたり無症候で過ごすが(無症候性キャリア)、感染者の約5%は生命予後不良のATLを発症し、約0.3%はHAMを発症する。HAMの患者数は国内で約3,000人と推定されており、近年は関東などの大都市圏で患者数が増加している。発症は中年以降(40代)が多いが、10代など若年発症もあり、男女比は1:3と女性に多い。HTLV-1の感染経路は、母乳を介する母子感染と、輸血、臓器移植、性交渉による水平感染が知られているが、1986年より献血時の抗HTLV-1抗体のスクリーニングが開始され、以後、輸血後感染による発症はない。臓器移植で感染すると高率にHAMを発症する。■ 病因HAMは、HTLV-1感染T細胞が脊髄に遊走し、そこで感染T細胞に対して惹起された炎症が慢性持続的に脊髄を傷害し、脊髄麻痺を引き起こすと考えられており、近年、病態の詳細が徐々に明らかになっている。HAM患者では健常キャリアに比べ、末梢血液中のプロウイルス量、すなわちHTLV-1感染細胞数が優位に多く、また感染細胞に反応するHTLV-1特異的細胞傷害性T細胞や抗体の量も異常に増加しており、ウイルスに対する免疫応答が過剰に亢進している1)。さらに、脊髄病変局所で一部の炎症性サイトカインやケモカインの産生が非常に高まっており2)、とくにHAM患者髄液で高値を示すCXCL10というケモカインが脊髄炎症の慢性化に重要な役割を果たしており3)、脊髄炎症のバイオマーカーとしても注目されている。■ 症状臨床症状の中核は進行性の痙性対麻痺で、両下肢の痙性と筋力低下による歩行障害を示す。初期症状は、歩行の違和感、足のしびれ、つっぱり感、転びやすいなどであるが、多くは進行し、杖歩行、さらには車椅子が必要となり、重症例では下肢の完全麻痺や体幹の筋力低下により寝たきりになる場合もある。下半身の触覚や温痛覚の低下、しびれ、疼痛などの感覚障害は約6割に認められる4)。自律神経症状は高率にみられ、とくに排尿困難、頻尿、便秘などの膀胱直腸障害は病初期より出現し、初めに泌尿器科を受診するケースもある。また、起立性低血圧や下半身の発汗障害、インポテンツがしばしばみられる4)。神経学的診察では、両下肢の深部腱反射の亢進や、バビンスキー徴候などの病的反射がみられる4)。■ 分類HAMは病気の進行の程度により、大きく3つの病型に分類される(図)。1)急速進行例発症早期に歩行障害が進行し、発症から2年以内に片手杖歩行レベルとなる症例は、明らかに進行が早く疾患活動性が高い。納の運動障害重症度(表)のレベルが数ヵ月単位、時には数週間単位で悪化する。急速進行例では、髄液検査で細胞数や蛋白濃度が高いことが多く、ネオプテリン濃度、CXCL10濃度もきわめて高い。とくに発症早期の急速進行例は予後不良例が多い。2)緩徐進行例症状が緩徐に進行する症例は、HAM患者の約7~8割を占める。一般的に納の運動障害重症度のレベルが1段階悪化するのに数年を要するので、臨床的に症状の進行具合を把握するのは容易ではなく、疾患活動性を評価するうえで髄液検査の有用性は高い。髄液検査では、細胞数は正常から軽度増加を示し、ネオプテリン濃度、CXCL10濃度は中等度増加を示す。3)進行停滞例HAMは、発症後長期にわたり症状が進行しないケースや、ある程度の障害レベルに到達した後、症状がほとんど進行しないケースがある。このような症例では、髄液検査でも細胞数は正常範囲で、ネオプテリン濃度、CXCL10濃度も低値~正常範囲である。■ 予後一般的にHAMの経過や予後は、病型により大きく異なる。全国HAM患者登録レジストリ(HAMねっと)による疫学的解析では、歩行障害の進行速度の中央値は、発症から片手杖歩行まで8年、両手杖歩行まで12.5年、歩行不能まで18年であり5)、HAM患者の約7~8割はこのような経過をたどる。また、発症後急速に進行し2年以内に片手杖歩行レベル以上に悪化する患者(急速進行例)は全体の約2割弱存在し、長期予後は明らかに悪い。一方、発症後20年以上経過しても、杖なしで歩行可能な症例もまれであるが存在する(進行停滞例)。また、HAMにはATLの合併例があり、生命予後に大きく影響する。6)2 診断 (検査・鑑別診断も含む)HAMの可能性が考えられる場合、まず血清中の抗HTLV-1抗体の有無についてスクリーニング検査(EIA法またはPA法)を行う。抗体が陽性の場合、必ず確認検査(ラインブロット法:LIA法)で確認し、感染を確定する。感染が確認されたら髄液検査を施行し、髄液の抗HTLV-1抗体が陽性、かつ他のミエロパチーを来す脊髄圧迫病変、脊髄腫瘍、多発性硬化症、視神経脊髄炎などを鑑別したうえで、HAMと確定診断する。髄液検査では細胞数増加(単核球優位)を約3割弱に認めるが、HAMの炎症を把握するには感度が低い。一方、髄液のネオプテリンやCXCL10は多くの患者で増加しており、脊髄炎症レベルおよび疾患活動性を把握するうえで感度が高く有益な検査である7)。血液検査では、HTLV-1プロウイルス量がキャリアに比して高値のことが多い。また、血清中の可溶性IL-2受容体濃度が高いことが多く、末梢レベルでの感染細胞の活性化や免疫応答の亢進を非特異的に反映している。また、白血球の血液像において異常リンパ球を認める場合があり、5%以上認める場合はATLの合併の可能性を考える。MRIでは、発症早期の急速進行性の症例にT2強調で髄内強信号が認められる場合があり、高い疾患活動性を示唆する。慢性期には胸髄の萎縮がしばしば認められる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)1)疾患活動性に即した治療HAMは、できるだけ発症早期に疾患活動性を判定し、疾患活動性に応じた治療内容を実施することが求められる。現在、HAMの治療はステロイドとインターフェロン(IFN)αが主に使用されているが、治療対象となる基準、投与量、投与期間などに関する指針を集約した「HAM診療ガイドライン2019」が参考となる(日本神経学会のサイトで入手できる)。(1)急速進行例(疾患活動性が高い)発症早期に歩行障害が進行し、2年以内に片手杖歩行レベルとなる症例は、明らかに進行が早く疾患活動性が高い。治療は、メチルプレドニゾロン・パルス療法後にプレドニゾロン内服維持療法が一般的である。とくに発症早期の急速進行例は治療のwindow of opportunityが存在すると考えられ、早期発見・早期治療が強く求められる。(2)緩徐進行例(疾患活動性が中等度)緩徐進行例に対しては、プレドニゾロン内服かIFNαが有効な場合がある。プレドニゾロン3~10mg/日の継続投与で効果を示すことが多いが、疾患活動性の個人差は幅広く、投与量は個別に慎重に判断する。治療前に髄液検査(ネオプテリンやCXCL10)でステロイド治療を検討すべき炎症の存在について確認し、有効性の評価についても髄液検査での把握が望まれる。ステロイドの長期内服に関しては、常に副作用を念頭に置き、症状や髄液所見を参考に、できるだけ減量を検討する。IFNαは、300万単位を28日間連日投与し、その後に週2回の間欠投与が行われるのが一般的である。(3)進行停滞例(疾患活動性が低い)発症後長期にわたり症状が進行しないケースでは、ステロイド治療やIFNα治療の適応に乏しい。リハビリを含めた対症療法が中心となる。2)対症療法いずれの症例においても、継続的なリハビリや排尿・排便障害、疼痛、痙性などへの対症療法はADL維持のために非常に重要であり、他科と連携しながらきめ細かな治療を行う。4 今後の展望HAMの治療は、その病態から(1)感染細胞の制御、(2)脊髄炎症の鎮静化、(3)傷害された脊髄の再生、それぞれに対する治療法開発が必要である。1)HAMに対するロボットスーツHAL(医療用)HAMに対するロボットスーツHAL(医療用)のランダム化比較試験を多施設共同で実施し、良好な結果が得られている。本試験により、HAMに対する保険承認申請がなされている。2)感染細胞や過剰な免疫応答を標的とした新薬開発HAMは、病因である感染細胞の根絶が根本的な治療となり得るがまだ実現していない。HAMにおいて、感染細胞は特徴的な変化を来しており、その特徴を標的とした治療薬の候補が複数存在する。また神経障害を標的とした治療薬の開発も重要である。治験が予定されている薬剤もあり、今後の結果が期待される。3)患者登録レジストリHAMは希少疾病であるため、患者の実態把握や治験などに必要な症例の確保が困難であり、それが病態解明や治療法開発が進展しない大きな要因になっている。患者会の協力を得て、2012年3月からHAM患者登録レジストリ(HAMねっと)を構築し、2022年2月時点で、約630名の患者が登録している。これにより、HAMの自然史や患者を取り巻く社会的・医療的環境が明らかになると同時に、治験患者のリクルートにも役立っている。また、髄液ネオプテリン、CXCL10、プロウイルス量定量の検査は保険未承認であるがHAMねっと登録医療機関で測定ができる。HAMねっとでは患者向けの情報発信も行っているため、未登録のHAM患者がいたら是非登録を勧めていただきたい。5 主たる診療科脳神経内科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター HTLV-1関連脊髄症(HAM)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)HAMねっと(HAM患者登録サイト)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)HTLV-1情報サービス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)厚生労働省「HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)に関する情報」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)JSPFAD HTLV-1感染者コホート共同研究班(医療従事者向けのまとまった情報)日本HTLV-1学会(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報NPO法人「スマイルリボン」(患者とその家族および支援者の会)1)Jacobson S. J Infect Dis. 2002;186:S187-192.2)Umehara F, et al. J Neuropathol Exp Neurol. 1994;53:72-77.3)Ando H, et al. Brain. 2013;136:2876-2887.4)Nakagawa M, et al. J Neurovirol. 1995;1:50-61.5)Coler-Reilly AL, et al. Orphanet J Rare Dis. 2016;11:69.6)Nagasaka M, et al. Proc Natl Acad Sci USA. 2020;117:11685-11691.7)Sato T, et al. Front Microbiol. 2018;9:1651.8)Yamano Y, et al. PLoS One. 2009;4:e6517.9)Araya N, et al. J Clin Invest. 2014;124:3431-3442.公開履歴初回2017年10月24日更新2022年2月16日

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多発性硬化症にクレマスチンフマル酸塩は有望/Lancet

 多発性硬化症(MS)における慢性脱髄性損傷の治療として、ミエリンの修復をターゲットとする薬剤の安全性と有効性を検討した初の無作為化比較試験「ReBUILD試験」の結果が報告された。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のAri J. Green氏らが、慢性脱髄性視神経症を呈するMS患者を対象に、クレマスチンフマル酸塩について行った検討で、安全性と有効性が認められたという。MSは、ミエリンの免疫メディエーターの破壊と進行性の神経軸索損失で特徴づけられる中枢神経系(CNS)の炎症性変性疾患である。CNSのミエリンは、オリゴデンドロサイト細胞膜の伸長によるもので、クレマスチンフマル酸塩がオリゴデンドロサイトの分化を刺激する可能性が、in vitro、動物モデル、ヒト細胞の試験で示唆されていた。Lancet誌オンライン版2017年10月10日号掲載の報告。 クレマスチンフマル酸塩の有効性と安全性の分析のためクロスオーバー試験を150日間実施 ReBUILD試験は、MS患者の治療薬としてのクレマスチンフマル酸塩の有効性と安全性を分析するため、単施設プラセボ対照無作為化二重盲検クロスオーバーにて行われた。被験者は、安定的免疫抑制療法を受ける慢性脱髄性視神経症を伴う再発MS患者50例で、国際的パネル基準により診断を受けてから15年未満だった。 研究グループは、2014年1月~2015年4月にかけて被験者を無作為に2群に分け、一方には当初90日間にわたりクレマスチンフマル酸塩(5.36mg 1日2回)を投与し、その後60日間はプラセボを投与した。もう一方の群には、プラセボを90日間投与し、その後クレマスチンフマル酸塩(5.36mg 1日2回)を60日間投与した。 主要アウトカムは、全視野図形反転刺激視覚誘発電位によるP100レイテンシー延長の短縮だった。クレマスチンフマル酸塩の投与は長期的損傷後もミエリン修復の可能性を示唆 被験者全例が試験を完了した。クロスオーバー試験として分析した結果、クレマスチンフマル酸塩投与により、レイテンシー延長は1.7ミリ秒/眼(95%信頼区間:0.5~2.9、p=0.0048)の短縮が認められ、主要有効性エンドポイントの達成が認められた。 なお、クレマスチンフマル酸塩の投与は倦怠感と関連していたものの、重篤な有害事象は報告されなかった。 同研究グループは試験結果を受けて、「ミエリンの修復は、長期にわたる損傷後も可能であることが示唆された」とまとめている。

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国民病「腰痛」とロコモの関係

 2017年9月7日、日本整形外科学会は都内において、10月8日の「骨と関節の日」を前に記者説明会「ロコモティブシンドロームと運動器疼痛」を開催した。今月(10月)には、全国各地で講演会などのさまざまな関連行事が予定されている。予防にも力を入れる整形外科 はじめに理事長のあいさつとして、山崎 正志氏(筑波大学医学医療系整形外科 教授)が、学会の概要と整形外科領域の説明を行った。 わが国において整形外科医師が関わる疾患は幅広く、関節、脊髄、骨粗鬆症、外傷など運動器疾患全般を診療の範囲としている。近年では、運動器の障害から要介護となるリスクが高まることからロコモティブシンドローム(運動器症候群、略称:ロコモ)の概念を提唱し、2010年に「ロコモチャレンジ! 推進協議会」を設立、運動器障害の予防、健康寿命の延長を期している。また、この「ロコモ」の認知度の向上にも注力し、学会では2022年までに認知度80%(2017年現在46.8%)を目標として掲げている。 山崎氏は「今回の講演では、国民の有訴率で男女ともに上位にある『腰痛』を取り上げた。運動器疾患に伴う疼痛であり、愁訴も多いので理解を深めていただきたい」とあいさつを終えた。腰痛にもトリアージが肝心 続いて、山下 敏彦氏(札幌医科大学医学部整形外科学講座 教授)が「国民病・腰痛の“原因不明”の実際とは?  痛みに関する誤解と診断・治療の最新動向」をテーマに講演を行った。 まず、ロコモの要因となる疾患と痛みの関係について触れ、主な原因疾患として変形性膝関節症(患者数2,530万人)、腰部脊柱管狭窄症(同600万人)、骨粗鬆症(同1,070万人)を挙げ、これらは関節痛、下肢痛、腰背部痛を引き起こすと説明。筋骨格系の慢性痛有病率は15.4%で、およそ1,500万人が慢性痛を有し、とくに腰、頸、肩の順に多いという1)。 こうした慢性痛による運動困難は筋力低下をもたらし、これがさらに運動困難を誘引、脊椎・関節の変性を惹起して、さらなる痛みを生む。また、痛みがうつ状態を招き、引きこもりにより脳内鎮痛を低下させて痛みの除去を困難にするといった、悪循環に陥ると指摘する。 次に痛みの中でも「腰痛」に焦点を当て、その原因を探った。従来、腰痛の原因は、その85%が不明とされていたが、近年の研究では78%の原因が特定可能で、22%は非特異的腰痛だとする2)。特定できる腰痛の原因は椎間関節性、筋・筋膜性、椎間板性の順に多く、心因性腰痛はわずか0.3%にすぎないという。そして、腰痛診断ではトリアージが大切であり、重篤な順に、がんや化膿性脊椎炎などの重篤な疾患による腰痛(危険な腰痛)、腰椎椎間板ヘルニアや椎体骨折などの神経症状を伴う腰痛(神経にさわる腰痛)、深刻な原因のない腰痛(非特異的腰痛も含む)となる。とくに危険な腰痛の兆候として「安静にしても痛みがある」、「体重減少が顕著である」、「発熱がある」の3点を示し、これに神経症状(足のしびれ・痛み、麻痺)が加われば、早急に専門病院などでの受診が必要とされる。多彩な治療で痛みに対処 運動器慢性痛の治療は、現状では完全な除痛が難しい。痛みの緩和とQOL・ADLの改善をゴールとして、薬物療法、理学療法、手術療法、生活指導、心理療法(認知行動療法)が行われている。 薬物療法では、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェン、ステロイド、プレガバリン、抗うつ薬、オピオイドが使用されるが、個々の痛みの性質に応じた薬剤の選択が必要とされる。 理学療法では、温熱療法、電気療法のほかストレッチや筋力増強訓練などの運動療法があり、運動は廃用性障害による身体機能不全の改善となるだけでなく、脳内鎮痛が働くことで痛みの緩和も期待されている。 手術療法は、機能改善や痛みの軽減を目的として変形性膝関節症の人工関節置換術などが行われているが、近年では術後の痛みの少なさ、早期離床が可能、入院期間の短縮、早い職場復帰などのメリットから最小侵襲手術(MIS)が行われている。 心理療法(認知行動療法)では、運動、作業、日記療法などが行われ、「腰痛でできないことよりも、できることを探す」ことで痛みを和らげ、患者さんが願う生活が過ごせることを目指している。 腰痛の予防では、各年代に合ったバランスのとれた食事、体操、水泳、散歩などの適度な運動、正座や中腰を避けるなどの生活様式の工夫などが必要とされる。 最後に山下氏は「慢性痛では、民間療法で済ませている人が多い。しかし、先述の危険な兆候があれば早期に医療機関、整形外科への受診をお勧めする。また、痛みで仕事、家事、学業、趣味・スポーツができない、毎日が憂鬱であれば整形外科を受診し、痛みの治療をしてもらいたい」と語りレクチャーを終えた。

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2017年度 総合内科専門医試験、直前対策ダイジェスト(後編)

【第1回】~【第6回】は こちら【第7回 消化器(消化管)】 全5問消化管領域で最も出題される可能性が高いのは、(1)相次ぐ新薬の上市、(2)胃がんガイドライン改訂に向けた動き、(3)消化器がんの化学療法、である。治療の進歩が著しい炎症性腸疾患、2016年にRome IV基準が発表された過敏性腸症候群と機能性胃腸症については、必ず押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)上部消化管疾患に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)食道粘膜傷害の内視鏡的重症度と自覚症状の間には相関を認める(b)食道アカラシアは高い非同期性収縮を認めることが多い(c)食道静脈瘤出血時にバソプレシン、テルリプレシン、オクトレオチドは有効であるが、ソマトスタチンは無効である(d)好酸球性胃腸炎の診断基準の1つに、「腹水が存在し腹水中に多数の好酸球が存在している」がある(e)ボノプラザンは、ヘリコバクター・ピロリ菌除菌治療には保険適用となっていない例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第8回 消化器(肝胆膵)】 全5問肝臓の領域では、B型肝炎をはじめ、体質性黄疸、肝膿瘍、自己免疫性肝炎などのマイナー疾患からの出題も予想される。膵臓では嚢胞腫瘍、自己免疫性膵炎、膵がんの化学療法などがポイントとなる。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)HBV感染に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)B型慢性肝炎の治療対象は、HBe抗原の陽性・陰性にかかわらずALT 31U/L以上かつHBV DNA 2,000IU/mL以上である(b)本邦におけるB型肝硬変は、代償性/非代償性肝硬変にかかわらずIFN治療が第1選択となる(c)HBV持続感染者に対する抗ウイルス療法の長期目標は、ALT持続正常化・HBe抗原陰性かつHBe抗体陽性・HBV DNA増加抑制の3項目である(d)テノホビルの長期投与では、腎機能障害・高リン血症・骨密度低下に注意する必要があり、定期的に腎機能と血清リンの測定を行うことが推奨される(e)テノホビルアラフェミナド(TAF)はテノホビル(TFV)の新規プロドラッグであり、テノホビルジソプロキシル(TDF)に比べ少ない用量で同等の高い抗ウイルス効果を示すが、TDFと比較して腎機能障害および骨密度低下を来しやすいと報告されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第9回 血液】 全7問血液領域は、認定内科医試験では出題比率が低いものの、総合内科専門医試験では高い傾向がある。本試験の対策としては、個々の薬剤名とその適応をしっかり覚えることがポイントとなる。頻出テーマは、鉄過剰症、悪性リンパ腫の治療前感染症スクリーニング、特発性血小板減少性紫斑病など。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)貧血に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)鉄欠乏性貧血では、生体内鉄制御を担う血中ヘプシジン増加を認めることが報告されている(b)鉄欠乏性貧血の原因として、ヘリコバクター・ピロリ菌感染が関与している可能性が指摘されている(c)鉄欠乏性貧血の診断基準は(1)ヘモグロビン12g/dL未満(2)血清鉄30µg/dL未満(3)血清フェリチン12ng/mL未満である(d)温式自己免疫性溶血性貧血(温式AIHA)は、全例直接クームス試験陽性である(e)特発性温式AIHAの治療は、副腎皮質ステロイドを第1選択とするが、ステロイド無効の場合にはリツキシマブ(ヒト化抗CD20モノクローナル抗体)が保険適用となっている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第10回 神経】 全5問神経領域では、総合内科専門医試験特有のテーマとして、抗NMDA受容体抗体脳炎、多発性硬化症と神経脊髄炎との違い、筋強直性ジストロフィーがある。この3つのテーマは、毎年複数題出題されているので、確実に押さえておきたい。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)末梢神経障害に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)膝蓋腱反射とアキレス腱反射の反射中枢は同じである(b)起床時に手首に力が入らず、垂れてしまう。これは睡眠中の尺骨神経麻痺が原因である(c)フローマンサイン陽性は、橈骨神経麻痺の診断に有用である(d)手根管症候群の診断に有用な所見として、ファレンテスト陽性・ティネル様サイン陽性がある(e)足を組んで寝ていたら、翌朝足首(足関節)と足の指(趾)が背屈できなくなり受診。診察所見で下垂足(drop foot)を認める。脛骨神経麻痺が原因である例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第11回 循環器】 全7問循環器領域では、心筋梗塞、心不全治療に加えて、心アミロイドーシス、心サルコイドーシス、大動脈炎症候群が、本試験における特徴的なテーマといえる。また、新しいデバイスが登場すると出題される傾向がある。今年要注意なのは、リードレスペースメーカー、最近適応拡大されたループレコーダーなど。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)心不全について正しいものはどれか?1つ選べ(a)NYHA分類I度は「軽度の身体活動の制限があるが、安静時には無症状」の状態である(b)NYHA分類II度はAHA/ACC心不全ステージBに相当する(c)クリニカルシナリオ(CS)は急性心不全患者の入院早期管理に用いられる指標で、CS4は右心不全、CS5は急性冠症候群に分類されている(d)NT-proBNP(N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)は心筋細胞内のproBNPがBNPに分解される際に産生され、心不全診断の基準値はBNPと同じ値である(e)日本循環器学会/日本心不全学会のステートメント(心不全症例におけるASV適正使用に関するステートメント第2報)に、中枢型有意の睡眠時無呼吸を伴い、安定状態にある左室収縮機能低下に基づく心不全患者に対しては、ASVの導入・継続は禁忌ではないが、慎重を期する必要があると記載されている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第12回 総合内科/救急】 全3問総合内科/救急の領域で確実に出題されるのは「意識レベル」。JCSとGCSについては、どちらも確実に解答できるようにしておきたい。また、JMECCに関する問題と脳死判定基準も出題のヤマとなると思われる。例題(解答は本ページの最後に掲載しています)救急・脳死に関する記述のうち正しいものはどれか?1つ選べ(a)覚醒しているが、見当識障害を認めればJapan Coma Scale(JCS)は3とする(b)「痛み刺激で開眼・不適当な発語・指示には従えないが痛み刺激から逃避する」でGlasgow Coma Scale(GCS)は8点となる(c)病歴聴取で使用されるSAMPLE historyの「M」は「Meal(最終食事時間)」である(d)脳死判定基準の除外基準では、深昏睡および自発呼吸の消失が「低体温によるもの」「代謝/内分泌障害によるもの」とともに「急性薬物中毒によるもの」が含まれている(e)脳死判定基準の1つに「前庭反射の消失」があり、聴性脳幹誘発反応にて確認することとなっている例題の解説とその他の予想問題はこちらへ【第7回~第12回の解答】第7回:(d)、第8回:(a)、第9回:(b)、第10回:(d)、第11回:(e)、第12回:(d)【第1回】~【第6回】は こちら

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第12回 糖尿病合併症対策のキホン【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第12回】糖尿病合併症対策のキホン―眼科、腎機能、神経障害などの非専門領域の検査は、どのくらいの頻度でどこまで行うべきでしょうか。また専門医を紹介すべきタイミングと連携のコツを教えてください。 糖尿病網膜症の発症・進展抑制、早期治療のために、眼科医との連携は重要です。初診時に、眼科に行ったことがあるかを確認し、行ったことがなければ、眼科医に紹介します。1度眼科を受診すると、眼科医のほうでその後の定期検診を指示してくれますが、こちらでも、定期的に眼科を受診するように指導します。とくに問題がなければ半年に1回、網膜症がある場合は、重症度に応じた受診間隔でよいでしょう。「糖尿病治療ガイド2016-2017」(日本糖尿病学会編・著)では、眼科医への定期的診察の目安として、病期ごとに「正常(網膜症なし):1回/6~12ヵ月」「単純網膜症:1回/3~6ヵ月」「増殖前網膜症:1回/1~2ヵ月」「増殖網膜症:1回/2週間~1ヵ月」としています1)。 糖尿病腎症は、慢性透析療法の原疾患の第1位で2)、透析療法を受けている糖尿病患者さんの生命予後は非糖尿病の透析患者さんよりも不良で、心血管疾患や感染症リスクも高く重症化しやすいため3)、腎症についても、早期発見、進展抑制が求められます。腎症は、糸球体濾過量(GFR、推算糸球体濾過量:eGFRで代用)と尿中アルブミン排泄量あるいは尿蛋白排泄量によって評価できます。eGFRは、血清クレアチニン(Cr)を用いて「eGFR(mL/分/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢(歳)-0.287(女性の場合は、この値に×0.739)」で換算できるので、受診時に一般的な腎機能検査として、尿蛋白排泄量およびCr、BUNの検査は必ず行います。また、尿中アルブミン量を3~6ヵ月に一度測定し、アルブミン/クレアチニン比(ACR:Albumin Creatinine Ratio)を算出することで、尿蛋白が出現する前に腎臓の変化を発見することができます。網膜症のない場合、正常アルブミン尿であっても、eGFR<60mL/分/1.73m2の場合は、他の腎臓病との鑑別のために、また遅くとも尿中アルブミン排泄量が300mg/gクレアチニンを超えたら、専門医に紹介し、以降、定期的に腎臓専門医を受診してもらうようにします。 一般的には、糖尿病の三大合併症は神経障害→網膜症→腎症の順に進行し、神経障害は最も早く現れます。神経障害は、血糖コントロールの悪化とともに起こることが多いですが、糖尿病と診断される前、境界型の段階から存在するため、しばしば糖尿病診断の糸口になることもあります。神経障害の症状は非常に多岐にわたるため、糖尿病以外の原因による神経障害との鑑別が重要になります。足の末梢神経障害について、症状が著しく左右非対称であったり、筋萎縮や運動神経障害が強い場合は、神経内科に紹介します。 外来で注意したい糖尿病の合併症の1つに、指や爪の白癬症(水虫)や変形、胼胝(べんち、たこ)、足潰瘍・足壊疽などの「足病変」があります。神経障害および血流障害、易感染性が足潰瘍・足壊疽の主な原因になりますが、それ以外に、網膜症による視力低下で、身の回りを清潔にすることがおろそかになる、足にできた傷に気付かない、足に合わない靴を履いているなどが間接的な原因になり、足病変を悪化させることがあります。足潰瘍はひどくなると足壊疽になり、切断に至ることもあるため、まず予防をきちんとすること、できてしまった場合は、できるだけ早期に診断し対処します。予防のためには、患者さんに、毎日足を観察して異常があれば連絡するように伝えます。また、医療従事者側でも、診察の際に足を診察し、早期診断に努めるようにします。―糖尿病性神経障害の基本的な診断法と治療法について教えてください。 神経障害には、広範囲に左右対称性にみられる「多発神経障害(広汎性左右対称性神経障害)」と「単神経障害」があり、多くみられるのは多発神経障害です。 両足の感覚障害(両足のしびれや疼痛、また、足の裏に薄紙が貼りついたような感覚や砂利の上を歩いているような感覚になる知覚異常など)や穿刺痛、電撃痛、灼熱痛といった自発痛(ジンジン、ビリビリ、チリチリなど)、触覚・温痛覚の低下・欠如といった自覚症状、両側アキレス腱反射、両足の振動覚および触覚のうち、複数の異常があれば、多発神経障害の可能性があります。自覚症状については、かなりひどくならないと患者さんから訴えてくることはないため、注意が必要です。 多発神経障害の予防・治療のために、まずは良好な血糖コントロールを維持することが重要です。ただし、長期間の血糖不良例では、急激な血糖低下により、神経障害が悪化する可能性があります(治療後神経障害)。神経障害の自覚症状を改善する薬剤として、アルドース還元酵素阻害薬「エパルレスタット(商品名:キネダック)」があり、神経機能の悪化の抑制が報告されています4)。また、自発痛に対しては、Ca2+チャネルのα2δリガンド「プレガバリン(商品名:リリカ)」やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)「デュロキセチン(商品名:サインバルタ)」、抗不整脈薬「メキシレチン(商品名:メキシチール)」、抗けいれん薬「カルバマゼピン(商品名:テグレトール)」、三環系抗うつ薬などが単独、もしくは併用で使用できます。―高齢者ではどこまで合併症対策をすべきでしょうか? 高齢であっても、高血糖は糖尿病合併症の危険因子になるため、非高齢者同様、合併症の発症・進展を見据えた血糖コントロールは重要です。 しかし、高齢者の合併症は、非高齢者とは異なる特徴があります。高齢者でとくに問題になるのは認知機能の低下で、高齢患者さんでは、高血糖による認知症の発症リスクが高くなることが報告されています5,6)。また、高齢者では、高血糖によるうつ症状の発症・再発が多くなることも報告されています7)。そのほか、歯周病が増悪しやすいこと、急性合併症のうち、糖尿病ケトアシドーシスは若年者が多いのに対し、高齢者では高血糖高浸透圧症候群が多いなど1)、高齢者と非高齢者では留意すべき合併症が異なることを念頭に置く必要があります。 また、高齢者の合併症対策を考えるうえで、最も大切なのは血糖コントロールの考え方です。高齢者では、身体機能や認知機能、生理機能の低下や多くの併発症の可能性があり、個人差が非常に大きいことから、非高齢者とは異なる観点で、個別化した血糖コントロール目標および治療を検討することが求められます。高齢糖尿病は、若・壮年に発症し高齢化した患者さんと、高齢になって発症した患者さんで分けて考えます。とくに、高齢発症の糖尿病患者さんでは、生活スタイルや家族構成、身体的・精神的機能を考慮した治療戦略、さらには合併症対策を立てたほうがよいでしょう。また、高齢者では、年齢によっては余命を考慮し、できるだけQOLを損なうことなく、望ましい治療を選択することも重要です。 高齢者については、「糖尿病治療ガイド2016-2017」で初めて「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標(HbA1c値)」が掲げられました(詳細は、第1回 食事療法・運動療法のキホン-高齢者にも、厳密な食事管理・運動を行ってもらうべきでしょうか。をご参照ください)1)。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2016-2017. 文光堂;2016.2)一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会. 図説 わが国の慢性透析療法の現況. 2015年12月31日現在.3)羽田 勝計、門脇 孝、荒木 栄一編. 糖尿病最新の治療2016-2018. 南江堂;2016.4)Hotta N, et al. Diabet Med. 2012;29:1529-1533.5)Yaffe K, et al. Arch Neurol. 2012;69:1170-1175.6)Crane PK, et al. N Engl J Med. 2013;369:540-548.7)Maraldi C, et al. Arch Intern Med. 2007;167:1137-1144.

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