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貧血/鉄欠乏の心臓手術患者、術前日の薬物治療で輸血量減少/Lancet

 鉄欠乏または貧血がみられる待機的心臓手術患者では、手術前日の鉄/エリスロポエチンアルファ/ビタミンB12/葉酸の併用投与により、周術期の赤血球および同種血製剤の輸血量が減少することが、スイス・チューリッヒ大学のDonat R. Spahn氏らの検討で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2019年4月25日号に掲載された。貧血は、心臓手術が予定されている患者で高頻度に認められ、赤血球輸血量の増加や、死亡を含む有害な臨床アウトカムと関連する。また、鉄欠乏は貧血の最も重要な要因であり、鉄はエネルギーの産生や、心筋機能などの効率的な臓器機能に関与する多くの過程で中心的な役割を担っている。そのため、貧血と関連がない場合であっても、術前の鉄欠乏の治療を推奨する専門家もいるという。術前の超短期間の薬物併用治療による、輸血量削減効果を評価 本研究は、術前の超短期間の薬物併用投与による、周術期の赤血球輸血量の削減と、アウトカムの改善の評価を目的に、単施設(チューリッヒ大学病院臨床試験センター)で実施された二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較試験であり、2014年1月9日~2017年7月19日に患者登録が行われた(Vifor Pharmaなどの助成による)。 対象は、貧血(ヘモグロビン濃度が、女性は<120g/L、男性は<130g/L)または鉄欠乏(フェリチン<100mcg/L、貧血はない)がみられ、待機的心臓手術(冠動脈バイパス術[CABG]、心臓弁手術、CABG+心臓弁手術)が予定されている患者であった。 被験者は、手術の前日(手術が次週の月曜日の場合は金曜日)に、カルボキシマルトース第二鉄(20mg/kg、30分で静脈内注入)+エリスロポエチンアルファ(40,000U、皮下投与)+ビタミンB12(1mg、皮下投与)+葉酸(5mg、経口投与)を投与する群(併用治療群)またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、手術施行日から7日間の赤血球輸血とした。赤血球輸血コストは低いが、総コストは高い 修正intention-to-treat集団は484例であった。243例(平均年齢69歳[SD 11]、女性35%)が併用治療群に、241例(67歳[12]、34%)はプラセボ群に割り付けられた。 手術日から7日間の赤血球輸血中央値は、併用治療群では0単位(IQR:0~2)であり、プラセボ群の1単位(0~3)に比べ、有意に低かった(オッズ比[OR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.50~0.98、p=0.036)。また、術後90日までの赤血球輸血も、併用治療群で有意に少なかった(p=0.018)。 輸血された赤血球の単位が少なかったにもかかわらず、併用治療群はプラセボ群に比べ、術後1、3、5日のヘモグロビン濃度が高く(p=0.001)、網赤血球数が多く(p<0.001)、網赤血球ヘモグロビン含量が高かった(p<0.001)。 新鮮凍結血漿および血小板輸血量は、術後7日および90日のいずれにおいても両群で同等であったが、同種血製剤の輸血量は術後7日(0単位[IQR:0~2]vs.1単位[0~3]、p=0.038)および90日(0[0~2]vs.1[0~3]、p=0.019)のいずれにおいても併用治療群で有意に少なかった。 術後90日までの赤血球輸血の費用は、併用治療群で有意に安価であったが(中央値0スイスフラン[CHF、IQR:0~425]/平均値370 CHF[SD 674]vs.231 CHF[0~638]/480 CHF[704]、p=0.018)、薬剤費を含む総費用は、併用治療群で有意に高額であった(682 CHF[682~1,107]/1,052 CHF[674]vs.213 CHF[0~638]/480 CHF[704]、p<0.001)。 副次アウトカムは、重篤な有害事象(併用治療群73例[30%]vs.プラセボ群79例[33%]、p=0.56)および術後90日までの死亡(18例[7%]vs.14例[6%]、p=0.58)を含め、そのほとんどで両群に有意差はみられなかった。 著者は、「待機的心臓手術を受ける患者では、ヘモグロビンと鉄のパラメータをルーチンに測定し、手術前日であっても貧血/鉄欠乏への併用薬物治療を考慮する必要がある。この点は、急性心イベントから数日以内に行われる待機的心臓手術の割合が増加している現状との関連で、とくに重要と考えられる」としている。

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応援歌で前向きに生きる乾癬の患者

 2019年4月9日、アッヴィ合同会社は、ミュージシャン・音楽プロデューサーとして人気を博すヒャダインこと前山田 健一氏とのコラボレーションにより完成した乾癬患者への応援ソング『晴れゆく道』の発表を記念し、都内においてメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、最新の乾癬診療の概要や今回の応援ソング制作の経緯などが説明された。なお、前山田氏も乾癬患者として現在、治療を受けている。患者は身体だけでなく心にもダメージ はじめに「乾癬を取り巻く社会問題と乾癬治療のパラダイムシフト」をテーマに多田 弥生氏(帝京大学医学部皮膚科学講座 主任教授)が乾癬の診療について説明した。 乾癬は、紅斑、皮膚の肥厚、鱗屑を主症状とする慢性の炎症性疾患で、時に皮膚の痒みや痛みを伴うほか、関節の腫れ、関節破壊を合併することもある。わが国には、約43万人の患者が推定され、初診時の平均年齢は56.7歳、男性に多いとされる。好発部位は、被髪頭部、四肢伸側、腰臀部で、紫外線が当たる顔面には症状が現れにくいとされる。また、本症は外見に関わる身体症状から多くの患者は、精神的なQOLの障害も抱えているという。 重症度の評価では、BSA(Body Surface Area)などの評価基準で重症度が判定され、治療が行われる。広く、長く効果が持続するリサンキズマブ 本症の治療では、活性型ビタミンD、ステロイドなどの外用療法を基本に、重症度に応じて光線療法、シクロスポリン(カルシニューリン阻害薬)、アプレミラスト(PDE4阻害薬)、レチノイドなどの内服療法、インフリキシマブ、アダリムマブ、ウステキヌマブなど7つの生物学的製剤による注射・点滴薬の治療が現在行われている。その一方で、アドヒアランス不良、効果の持続性、経済的な負担などの問題から、安全に長期間効果が持続する治療薬の登場が患者から望まれていた。 そうした声をうけ、本年3月にリサンキズマブ(商品名:スキリージ皮下注)が登場した。リサンキズマブは、既存治療で効果不十分な尋常性乾癬、関節症性乾癬、膿疱性乾癬、乾癬性紅皮症を対象に、1回150mgを初回に、4週後、以降12週間隔で皮下投与する治療薬である(患者の状態に応じて1回75mgを投与することができる)。広い対応疾患と長い効果、皮下注という短時間の治療という特徴をもつ。 その効果について国際共同第III相臨床試験(UltIMMa-2試験)でリサンキズマブ(n=294)、ウステキヌマブ(n=99)、プラセボ群(n=98)を16週と52週時のPASI(乾癬の活動性・重症度評価)90の達成率で比較した場合、16週時点でリサンキズマブでは75%、ウステキヌマブでは47%、プラセボ群では2%だった。また、52週ではリサンキズマブは81%、ウステキヌマブでは51%とリサンキズマブは有意に改善を示した。安全性につき有害事象として、上気道感染などがみられたが、死亡にいたる重篤なものは報告されなかった。 同氏は今後の乾癬治療について「PASIのさらなる達成を実現するともに、治療薬の用法の改善、患者の要望の実現を目指したい」と展望を語った。患者会が患者の孤立を救う 後半では、「患者からの声」ということで「乾癬患者さんの精神的負担とアンメットニーズ」をテーマに2名の患者が登壇し、乾癬発症から現在までの悩みや医療者への要望を語った。 乾癬にかかると「自己肯定感」が低くなり、前向きに人生を歩もうという気がなくなるという。しかし、こうした気持ちが改善されるきっかけとなったのが患者会であり、「診療情報の共有化や孤立しないことで、患者が前向きになれる」と語る。最後に今後の診療への要望として、生物学的製剤の副作用、治療抵抗性への対応、薬価改善などを挙げ、「とくにコストに見合った効果を望む」と希望を述べた。 つづいて前山田氏が乾癬患者さんから募集した「夢ツイート」を基に制作した、乾癬患者さん応援ソング『晴れゆく道』を発表し、自身の疾患の体験談や楽曲に込めた想いを語った。

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第14回 コンビニの3連豆腐で栄養バランスアップ!【実践型!食事指導スライド】

第14回 コンビニの3連豆腐で栄養バランスアップ!医療者向けワンポイント解説タンパク質摂取の必要性と手軽に食べられる高タンパク質の食品について、前2回(第12回、第13回)でお伝えしてきました。食事バランスの中で、摂取が最も過多になりがちな栄養素は、手軽に食べられる米飯、パン、麺類などの「炭水化物」です。一方で、不足しがちな栄養素の中で多くの方が意識しているのは、ビタミンやミネラル、食物繊維が摂取できる「野菜」です。しかし、タンパク質が豊富な肉や魚、卵、大豆製品などは、食べる習慣のある方とない方に大きく分かれるため、食習慣によって摂取を進めるのか、脂質過多に気をつけてもらうべきかが分かれてきます。それほど不足していない場合でも、「肥満があり、摂取量を調整したい」など、ダイエットを目的とする場合でも、良質なタンパク質を見直すことは、食欲を正常化させ、脂質量を抑えることにも役立ちます。今回は、コンビニやスーパーなどで手軽に買える豆腐の簡単アレンジについて、ご紹介します。種類豊富な豆腐の中でも、コンビニなどで多く見かける3連パックの豆腐は、水切り不要なものが多く、手軽にサラダなどとも組み合わせることができる便利で良質なアイテムです。しかし、豆腐というと、そのまま冷奴として食べることが多くなり、毎日は飽きる、冷たいのでカラダが冷えるという意見もよく聞かれます。豆腐や納豆などは良質なタンパク質であるほか、大豆ペプチドには、血圧を下げる効果や大豆ファースト(食事の最初に大豆を食べること)により血糖値の上昇を抑制する効果があることもわかっていますので、積極的に食べたい食品です。「コンビニ食材のみで作ることができ、1)調理不要、2)器1つ、3)レンチン*でできる」手軽で満足感のある上手な豆腐の食べ方を3つご紹介しますので、ぜひ、毎日のメニューに加えてみてください(*電子レンジでチンするという意)。大きなポイントは、豆腐を温める「温奴」にすることです。これは、湯豆腐ではなく、電子レンジなどで温めるだけで大丈夫です。温かい食材は、冷たい食材よりも同じカロリーでも食べた満足度がぐっと上がります。◎スープ耐熱カップに、豆腐、市販のスープのもと(今回は、お吸い物のもと)、刻み青ネギ、レトルトのもち麦を加え、湯を注ぎ入れる。電子レンジで30秒ほど加熱すると、満足度の高いスープ雑炊の完成です。スープのもとはお好みで変えてもらうことで、毎日でも飽きずに食べることができます。◎副菜耐熱皿に、豆腐、冷凍野菜、チーズや明太子、しらすなどをふりかけて電子レンジで50秒ほど加熱します。ボリュームアップでき、食べたときの満足度が上がります。低脂肪にしたいけれど、ボリュームが欲しい方にもオススメです。◎デザート深めの耐熱皿に、豆腐、豆乳をかけ、電子レンジで30秒加熱をします。あんこをのせれば、ヘルシーなデザートのでき上がりです。黒蜜やシロップ、バニラアイスなどでも美味しく食べることができます。いかがでしたでしょうか? 手軽に購入できる3連豆腐パックを活用して、手軽に栄養バランスアップをしてみましょう。

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家族性アミロイドポリニューロパチー〔FAP: familial amyloid polyneuropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、代表的な遺伝性全身性アミロイドーシスである1,2)。組織の細胞外に沈着したアミロイドは、コンゴレッド染色で橙赤色に染まり、偏光顕微鏡下でアップルグリーンの複屈折を生じる。電子顕微鏡で観察すると、直径8~15nmの枝分かれのない線維状の構造物として観察される。現在までに、36種類以上の蛋白質がヒトの体内でアミロイド沈着を形成する蛋白質として同定されている3)。FAPを生じるアミロイド前駆蛋白質として、トランスサイレチン(TTR)、ゲルソリン、アポリポ蛋白質A-Iが知られているが、大部分のFAP患者は、TTRの遺伝子変異によるため、以下はTTRを原因とするFAP(TTR-FAP)に関して概説する。近年、国際アミロイドーシス学会は、TTR-FAPに代わる病名として「遺伝性TTR(ATTRv)アミロイドーシス」の使用を推奨しているが3)、わが国ではFAPの病名が現在も使用される場合が多いため、本稿ではFAPの病名を用いて概説する。本疾患の原因分子であるTTRは、主に肝臓から産生され血中に分泌される血清蛋白質である。その他のTTR産生部位として、脳脈絡叢、眼の網膜色素上皮、膵臓ランゲルハンス島のα細胞が知られている。血中に分泌された本蛋白質は、127個のアミノ酸から構成されるが、豊富なβシート構造を持つことにより、アミロイド線維を形成しやすいと考えられている。TTR遺伝子には150種類以上の変異型が報告されており、その大部分がFAPの病原性変異として同定されてきた。TTRの30番目のアミノ酸であるバリンがメチオニンに変異するVal30Met型が、最も高頻度に認められる1,2)。生体内では、通常TTRは四量体として機能し、四量体の中心部には1分子のサイロキシン(T4)が強く結合し、T4の運搬を担っている。また、TTRはレチノール結合蛋白質との結合を介して、ビタミンAの輸送も担っている。■ 疫学以前はFAP ATTR Val30Metの大きな家系が、ポルトガル、スウェーデン、日本(熊本県と長野県)に限局して存在すると考えられていたが、近年、世界各国からFAP ATTR Val30Met患者の存在が確認されている1,2)。また、明確な家族歴がなく高齢発症のFAP が日本各地から報告されており4)、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、糖尿病性ニューロパチー、手根管症候群、腰部脊柱管狭窄症などの非遺伝性末梢神経障害の鑑別疾患として本症を考えることが重要である。スウェーデンでは、FAP ATTR Val30Met遺伝子保因者の3~10%しか発症しないことが知られているが、わが国においても、TTR遺伝子に変異を持ちながら、終生FAPを発症しない症例も存在する。Val30Met以外の変異型TTRによるFAPもわが国から多く報告されている(図1)。わが国の疫学調査の結果では、国内の推定患者数は約600人であるが、的確に診断されていない症例が多く存在する可能性がある。画像を拡大する■ 病因TTRに遺伝子変異が生じると、TTR四量体が不安定化し、単量体へと解離することが、アミロイド形成過程に重要であると、in vitroの研究で示されている。しかし、アミロイドがなぜ特定の部位に沈着するのか、どのように細胞や臓器の機能を障害するのかは、明らかにされていない。アミロイド線維を形成するTTRの一部は断片化されており、アミロイド線維形成への関与が議論されている。■ 症状1)神経症状末梢神経障害は、軸索障害が主体で神経軸索が細胞体より最も遠い両下肢遠位部の症状が初発症状となる場合が多い。また、神経症状は一般に自律神経、感覚(温痛覚低下)、運動(両側末梢優位)の順で症状が出現することが多い。これは、アミロイド沈着により小径無髄線維から大径有髄線維の順に障害が進行するためと考えられている。病初期には、下肢末梢部である足首以下で、温痛覚の低下を認めるが触覚は正常である解離性感覚障害を認める場合が多い。温痛覚障害のため、足の火傷や怪我に患者本人が気付かない場合がある。筋萎縮、筋力低下など運動神経障害は、感覚障害より2~3年遅れて出現する場合が多いが、まれに運動神経障害が主体で感覚障害が軽い症例もある。進行期には、高度の末梢神経障害による四肢の感覚障害と筋力低下や呼吸筋麻痺などを呈する。アミロイド沈着による手根管症候群を呈する場合がある。とくに家族歴が明らかでない症例では、病初期にCIDP、糖尿病性ニューロパチー、腰部脊柱管狭窄症などと誤診されることが多く、注意が必要である。症例によっては、脳髄膜や脳血管のアミロイド沈着による意識障害や脳出血など中枢神経症候を呈する場合がある。2)消化器症状重度の交代性下痢便秘や嘔気などの消化管症状が出現する。末期には持続性の下痢となり、吸収障害や蛋白質の漏出も生じる。3)循環器系障害早期より自律神経障害による起立性低血圧や、アミロイド沈着による房室ブロック、洞不全症候群、心房細動などの不整脈が生じる。心筋へのアミロイド沈着により心不全を生じ、心室の拡張障害が収縮障害に先行すると考えられている。TTR変異型により心症候が主体で、末梢神経障害が目立たないタイプがある。4)眼症状変異型TTRは肝臓のみならず網膜からも産生されており、アミロイド沈着による硝子体混濁はFAP患者に多く認められる。硝子体混濁が本症の初発症状である症例もある。前眼部へのアミロイド沈着による緑内障を来し、進行すると失明の原因となる。また、涙液分泌低下によるドライアイも生じる。5)腎障害アミロイド沈着によるネフローゼ症候群や腎不全を呈するが、症例によりその程度は異なる。病初期には目立たない場合が多い。■ 分類TTR変異型により症候が異なる場合がある。アミロイドポリニューロパチー(末梢神経障害)が主体となるタイプ(Val30Metなど)、心アミロイドーシスにより不整脈や心不全が主体となるタイプ(Ser50Ile、Thr60Alaなど)、脳髄膜・眼アミロイドーシスにより一過性の意識障害や脳出血、白内障や緑内障が強く生じるタイプ(Ala25Thr、Tyr114Cysなど)がある。また、同じATTR Val30Metを持つFAP患者でも、ポルトガルでは若年発症(20~30代で発症)が多く、スウェーデンでは高齢発症(50歳以降)が多い。わが国でも、本疾患の集積地である熊本や長野のFAP患者は若年発症が多いが、他の地域では高齢発症で家族歴が確認できない症例が多く、70歳以降の発症も少なくない。■ 予後未治療の場合は、発症からの平均余命は若年発症のFAP ATTR Val30Metは約10~15年1)、高齢発症のFAP ATTR Val30Metは約7年4)である。進行期には、呼吸筋麻痺、重度の起立性低血圧、心不全、致死的な不整脈、ネフローゼ症候群、腎不全、蛋白漏出性胃腸症、重度の緑内障などを呈する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症の診断基準を表に示す。病初期に各治療法の効果が高いため、早期診断、早期治療が重要である。臨床症候や各種の臨床検査により本症が疑われる場合には、生検によりアミロイド沈着を検索すること、および専門施設に依頼し、免疫組織化学染色や質量分析法でTTRがアミロイドの構成成分であることを確認する必要がある(図2)。生検部位は、侵襲度の比較的低い消化管(胃、十二指腸、直腸)、腹壁脂肪、口唇の唾液腺、皮膚などが選択されるが、病初期にはアミロイド沈着が検出されない場合もある。本症の疑いが強い場合は、繰り返し複数部位からの生検を行うことが重要である。また、前述の部位からアミロイド沈着が確認できない場合は、障害臓器である末梢神経や心筋からの生検も考慮する必要がある。TTRがアミロイド原因蛋白質として同定された場合は、野生型TTRが非遺伝性に生じる老人性全身性アミロイドーシス(SSA)(野生型TTR[ATTRwt]アミロイドーシス)との鑑別のため、遺伝子検査や血液中TTRの質量分析によりTTR変異の解析を必ず行う(図3)。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FAPに対する治療は、近年、劇的に進歩している。長く実施されてきた肝移植療法に加えて、TTR四量体の安定化剤であるタファミジス(商品名: ビンダケル)が、国内でも2013年9月に希少疾病用医薬品として承認され、現在、本疾患に対し広く使用されている。また、核酸医薬によるTTR gene silencing療法の国際的な臨床試験が終了し、良好な結果が得られている。図4にFAPに対する治療法を研究中のものを含めて示した。画像を拡大する■ 肝移植療法本疾患の病原蛋白質である変異型TTRの95%以上が肝臓で産生されていることから、1990年にスウェーデンで本疾患に対する治療法として肝移植が初めて行われ、その有効性が示されてきた5)。FAP患者の血液中の変異型TTRは、正常肝が移植された後に速やかに検出感度以下まで低下する。しかし、肝移植で本疾患が完全に治癒するわけではなく、末梢神経障害を含めて、症候の大部分は移植後も残存する。また、発症から長期間経過し、病態が進行した症例や、高齢患者、BMIが低値(低栄養状態)であると、移植後の予後が不良であるため、肝移植が実施できない場合も少なくない。そして、症例によっては、肝移植後も症候(とくに心アミロイドーシス)が進行するケースもある。眼の網膜色素上皮細胞や脳脈絡叢からは、肝移植後も継続して変異型TTRが産生され続けているため、眼や脳・脊髄では、肝移植後も変異型TTRによるアミロイドが形成され、症候も悪化する症例が報告されている。他の治療法が開発されたことにより、本症に対する肝移植の実施数は減少傾向にある。■ TTR四量体安定化剤(タファミジス)TTR四量体が不安定となり単量体へと解離することが、TTRのアミロイド形成過程に重要な過程と考えられている。TTR四量体の安定化作用を持つ薬剤が、本症の新たな治療薬として研究開発されてきた。非ステロイド系抗炎症薬の1つであるジフルニサルなどにTTR四量体の安定化作用が確認され、本症の末梢神経障害に対する進行抑制効果が確認された6)。ジフルニサルには、非ステロイド系抗炎症薬が元来持つCOX阻害作用があり、腎障害などの副作用が出現する可能性が想定されたため、COX阻害作用を持たずにTTR四量体のより強い安定化作用を示す新規化合物としてタファミジスが新たに開発された。本薬剤の国際的な臨床治験が実施され、生体内でもTTR四量体を安定する作用が確認されるとともに、末梢神経障害の進行を抑制する効果が確認されている7)。また、心症候に対する効果も報告された8)。わが国では2013年9月に本症による末梢神経障害の進行抑制目的で承認されている。■ 核酸医薬(TTR gene silencing療法)9, 10)Small interfering RNA(siRNA)9) やアンチセンスオリゴ(ASO)10) を用いて、肝臓におけるTTRの発現抑制を目的としたgene silencing療法の開発が行われ、強いTTR発現抑制効果と良好な治療効果が確認されている9, 10)。これらのgene silencing療法では、変異型TTRに加えて、野生型TTRの発現抑制も標的としている。これらの治療法は、今後、本疾患に対する標準的な治療法となることが期待されている。■ その他の研究段階の治療法前述のごとく、肝移植療法の実施やTTR四量体安定化剤の臨床応用、gene silencing療法によるTTR発現抑制法の開発など、本疾患に対する治療法は近年急激に発展しているが、いずれもアミロイド原因蛋白質であるTTRの発現抑制および安定化を標的としており、沈着したアミロイドを除去する治療法は確立していない。さらなる治療法の改善を目指して、図4に示した方法をはじめとした多くの治療法の開発が精力的に行われている。■ 対症療法本症では、心伝導障害の進行は必発であるため、I度房室ブロックの段階でペースメーカーの植え込みを考慮する場合がある。致死的な不整脈が発生する場合には、植込み型除細動器を積極的に検討する必要がある。起立性低血圧に対して、弾性ストッキングや腹帯の使用を考慮する。手根管症候群に対しては、手術療法を考慮する。眼アミロイドーシスによる白内障や緑内障に対しても手術療法が必要となる。そのほかにも、自律神経症状や消化管症状、心不全などに対して内服薬による対症療法を試みるが、十分な効果が得られない場合が少なくない。4 今後の展望肝移植療法がFAPに対して実施され始めて28年以上が経過し、その有効性とともに治療法としての限界や関連する問題点が明らかになってきた。TTR四量体の安定化剤が臨床応用され、広く使用されるにつれて、本症に対する肝移植実施数は減少傾向にある。また、肝臓でのTTR発現抑制を目的とした核酸医薬によるgene silencing療法の臨床治験で良好な結果が得られ、わが国でも承認が待ち望まれる。これらの治療法の長期的な効果に関しては、まだ不明な点が多く残されているため、長期予後に関する調査が必要である。さらに、すでに組織に沈着したアミロイド線維を除去できる根治療法の研究開発が必要である。5 主たる診療科脳神経内科、循環器内科、眼科、移植外科、消化器内科、腎臓内科、整形外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドライン(日本神経学会)(医療従事者向け診療情報)難病情報センター:全身性アミロイドーシス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 大学院生命科学研究部 脳神経内科学分野(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)熊本大学 医学部附属病院 アミロイドーシス診療センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)信州大学 医学部第3内科 アミロイドーシス診断支援サービス(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)GeneReviews(Pub Med)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)GeneReviews(日本語版)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)FAP WTR(FAPに対する肝移植に関する国際的レジストリ)(医療従事者向けの診療、研究のまとまった情報)THAOS(TTRアミロイドーシスの自然経過に関する国際的調査)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)The Registry of Mutations of Amyloid Proteins(TTR変異の国際的レジストリ)(医療従事者向けの研究情報)OMIM(医療従事者向けの診療・研究のレビュー情報)日本アミロイドーシス学会(医療従事者向けの研究情報)国際アミロイドーシス学会(ISA)(医療従事者向けの研究情報)厚生労働省 難治性疾患政策研究事業「アミロイドーシスに関する調査研究」班(医療従事者向けの研究情報)患者会情報道しるべの会 second step あゆみ ブログ(患者のブログ)1)Ando Y, et al. Arch Neurol. 2005;62:1057-1062.2)Ueda M, et al. Transl Neurodegener. 2014;3:19.3)Benson MD, et al. Amyloid. 2019 [Epub ahead of print]4)Koike H, et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2012;83:152-158.5)Yamashita T, et al. Neurology. 2012;78:637-643.6)Berk JL, et al. JAMA. 2013;310:2658-2667.7)Coelho T, et al. Neurology. 2012;79:785-982.8)Maurer MS, et al. N Engl J Med, 2018;379:1007-1016.9)Adams D, et al. N Engl J Med. 2018;379:11-21.10)Benson MD, et al. N Engl J Med. 2018;379:22-31.公開履歴初回2013年08月08日更新2019年04月23日

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大腸がん治療へのビタミンD補充、高用量 vs.標準用量/JAMA

 切除不能大腸がんの治療における標準化学療法へのビタミンD3補充療法の併用では、高用量は標準用量と比較して無増悪生存を改善しないことが、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のKimmie Ng氏らが行ったSUNSHINE試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年4月9日号に掲載された。転移を有する大腸がんの前向き観察研究により、血漿25ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)値が高いほうが、生存は良好と報告されている。この知見を確証するための無作為化試験の実施が求められていた。高用量のPFS改善効果を評価する米国の無作為化第II相試験 本研究は、米国の11施設で行われた多施設共同二重盲検無作為化第II相試験であり、2012年3月~2016年11月の期間に患者登録が行われた(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。 対象は、病理学的に確認された切除不能な局所進行または転移を有する大腸腺がんの患者139例(平均年齢56歳、女性43%)であった。全例に、修正FOLFOX6(mFOLFOX6)+ベバシズマブが、14日(1サイクル)ごとに投与された。これらの患者が、ビタミンD3の高用量(69例)または標準用量(70例)を投与する群に無作為に割り付けられた。 高用量群には、1サイクル目に8,000IU/日(4,000IUカプセルを2つ)を投与し、その後のサイクルでは4,000IU/日を投与した。標準用量群には、全サイクルで400IU/日(400IUカプセル1つとプラセボカプセル1つ)を投与した。治療は、病勢進行、耐用不能な毒性、同意撤回のいずれかが発生するまで継続した。 主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)とした。副次エンドポイントには、客観的奏効率(ORR)、全生存期間(OS)、血漿25(OH)D値の変化が含まれた。25(OH)D値は高用量群で有意に高い 全体のフォローアップ期間中央値は22.9ヵ月であった。両群とも、ビタミンD3の服用率の中央値は98%で、アドヒアランスは高かった。 PFS期間中央値は、高用量群が13.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:10.1~14.7)、標準用量群は11.0ヵ月(9.5~14.0)であり、有意な差は認めなかった(非補正log-rank検定p=0.07)。多変量ハザード比(HR)は0.64(0~0.90、p=0.02)であり、有意差が認められた。 ORR(高用量群58%vs.標準用量群63%、差:-5%、95%CI:-20~100、p=0.27)およびOS期間中央値(24.3 vs.24.3ヵ月、log-rank検定p=0.43)にも、両群に有意差はみられなかった。 ベースラインの25(OH)Dの中央値は、高用量群が16.1ng/mL、標準用量群は18.7ng/mLであり、有意差はなかった(差:-2.6ng/mL、95%CI:-6.6~1.4、p=0.30)。1回目の病期再評価時(4サイクル終了時、約8週後)には、高用量群で有意に高値となり(32.0ng/mL vs.18.7ng/mL、差:12.8ng/mL、95%CI:9.0~16.6、p<0.001)、2回目の病期再評価時(8サイクル終了時、約16週後、35.2ng/mL vs.18.5ng/mL、16.7ng/mL、10.9~22.5、p<0.001)および治療終了時(34.8ng/mL vs.18.7ng/mL、16.2ng/mL、9.9~22.4、p<0.001)も、高用量群で有意に高い値を示した。 化学療法+ビタミンD3による最も頻度の高いGrade 3以上の有害事象は、両群とも好中球減少(高用量群35% vs.標準用量群31%)と高血圧(13% vs.16%)であった。Grade 3以上の下痢は高用量群で少なかった(1% vs.12%)。ビタミンD3関連の可能性がある有害事象として、高リン血症(高用量群の1例)と腎臓結石(標準用量群の1例)がみられたが、高カルシウム血症は認めなかった。 著者は、「これらの知見は、より大規模な多施設共同無作為化臨床試験によって、さらに検討を進めることを正当化するものである」としている。

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消化管がんの2次予防にビタミンD補充は有効か/JAMA

 消化管がんの2次予防において、ビタミンD補充はプラセボと比較して、5年無再発生存率を改善しないことが、東京慈恵会医科大学の浦島 充佳氏らが実施したAMATERASU試験で示された。研究の詳細は、JAMA誌2019年4月9日号に掲載された。消化管がんの2次予防では、ビタミンD補充の有用性を示唆する観察研究の報告があり、無作為化試験の実施が求められていた。術後ビタミンD3補充の有用性を評価する日本の無作為化試験 本研究は、消化管がんにおける術後ビタミンD3補充療法の有用性の評価を目的に、単施設(国際医療福祉大学病院)で行われた二重盲検プラセボ対照無作為化試験である(国際医療福祉大学病院と東京慈恵会医科大学の助成による)。 対象は、年齢30~90歳、Stage I~IIIの消化管がん(食道から直腸まで)の患者であった。被験者は、ビタミンDカプセル(2,000IU/日)またはプラセボを経口投与する群に、3対2の割合で無作為に割り付けられた。投与は、術後の初回外来受診時(術後2~4週)に開始され、試験終了まで継続された。 主要評価項目は、無再発生存期間(割り付けからがんの再発または全死因死亡までの期間)とした。また、ベースラインの25-ヒドロキシビタミンD(25[OH]D)値で3群(<20ng/mL、20~40ng/mL、>40ng/mL)に分けてサブグループ解析を行った。 患者登録は2010年1月~2016年4月に行われ、フォローアップは2018年2月に終了した。417例が登録され、ビタミンD群に251例、プラセボ群には166例が割り付けられた。5年無再発生存率:77% vs.69%、年齢で補正すると有意に良好 患者はすべて日本人であった。フォローアップ率は99.8%で、フォローアップ期間中央値は3.5年(四分位範囲[IQR]:2.3~5.3)、最長7.6年であった。ベースラインの全体の年齢中央値は66歳で、34%が女性であった。がんの部位は、食道が9.6%、胃が41.7%、小腸が0.5%、大腸が48.2%で、StageはIが44%、IIが26%、IIIは30%だった。 再発または死亡は、ビタミンD群が50例(20%)、プラセボ群は43例(26%)で発生し、死亡はそれぞれ37例(15%)、25例(15%)だった。 5年無再発生存率は、ビタミンD群が77%、プラセボ群は69%であり、両群に有意な差は認めなかった(再発または死亡のハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.50~1.14、p=0.18)。また、5年全生存率は、それぞれ82%、81%であり、有意差はなかった(死亡のHR:0.95、0.57~1.57、p=0.83)。 サブグループ解析では、ベースラインの25(OH)D値が20~40ng/mLの集団において、5年無再発生存率がプラセボ群に比べビタミンD群で有意に優れた(85% vs.71%、再発または死亡のHR:0.46、95%CI:0.24~0.86、p=0.02、交互作用のp=0.04)。 また、ベースラインの年齢中央値がビタミンD群で高かった(67歳vs.64歳)ため、事後解析として年齢の四分位でHRを補正したところ、再発または死亡の累積ハザードが、ビタミンD群で有意に良好だった(補正HR:0.66、95%CI:0.43~0.99、p=0.048)。 骨折が、ビタミンD群3例(1.3%)、プラセボ群5例(3.4%)で、尿路結石が、ビタミンD群2例(0.9%)で発現した。また、入院を要した有害事象はビタミンD群19例(8.4%)、プラセボ群9例(6.1%)で、原発がんの部位以外の臓器に新たに発現したがんは、それぞれ15例(6.6%)、8例(5.4%)で認められた。 著者は、「ビタミンD補充は、ベースライン25(OH)D値20~40ng/mLの集団で有効であったが、これは探索的な検討であるため解釈には注意を要する」と指摘し、「生存に関して、至適な25(OH)D値の範囲はがん種によって異なる可能性がある。また、2,000IU/日という用量は、低25(OH)D値のサブグループでは、ビタミンD値を十分に上昇させるには不十分だった可能性もある」と考察している。

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原発性硬化性胆管炎〔primary sclerosing cholangitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)は、小胆管周囲にonion-skin様の結合織に囲まれる炎症により特徴付けられる肝の慢性炎症である。結合織の増加により胆管は狭窄、閉塞を起こし、胆汁うっ滞を来し、閉塞性黄疸となり、最終的には肝硬変、肝不全に進展する。PSCの発症・進展には、自己免疫機序が深く関わることが推定されているものの、血清学的に特異的な免疫指標は残念ながら同定されておらず、病因は現在も不明である。■ 疫学2012年の全国疫学調査によると、国内症例数は2,300名前後、人口10万人当たりの有病率は0.95程度と推測されている。しかし、欧米諸国で近年発症率の増加が報告されていること、画像検査の進歩により診断率が向上していることにより、実際の患者数はもう少し多いことが推察される。患者は、男性にやや多く、20代と60代の二峰性を示す。わが国では肝内・肝外胆管両者の罹患症例が多く、潰瘍性大腸炎の罹患合併が34%で、とくに若年者に高率である。また、胆管がんの合併を7.3%に認めている。■ 病因PSCには炎症性腸疾患との関連が認められており、欧米ではPSC患者の80%で合併がみられるが、わが国ではその頻度は低く、とくに高齢者では合併例は少ない。潰瘍性大腸炎患者の約5%とクローン病患者の約1%がPSCを発症する。こうした関連性といくつかの自己抗体(例:抗平滑筋抗体、核周囲型抗好中球抗体[pANCA])の存在から、免疫を介した発生機序が示唆されている。T細胞が胆管の破壊に関与するとみられることから、細胞性免疫の障害が示唆されている。家系内で集積傾向がみられ、自己免疫疾患との相関もしばしば報告され、HLAB8およびHLADR3を有する人々での頻度がより高いことから、遺伝的素因の存在が示唆されている。遺伝的素因のある人々では、おそらく原因不明の誘因(例:細菌感染、虚血性の胆管傷害など)によってPSCが引き起こされると考えられている。■ 症候病初期には無症状で、偶然の機会に胆道系酵素の上昇などで発見されることもある。発症は通常潜行性で、進行性の疲労や掻痒感が認められる場合が多い。約10~15%の症例では、右上腹部痛と発熱を認める。診断時の症状についての全国アンケート調査では、黄疸28%、掻痒感16%が認められるとの報告がある。病態が進行すれば、脂肪便、脂溶性ビタミン欠乏を来す場合があり、持続性の黄疸により病態は進行し、肝硬変の症状を呈する。約75%の症例で症状を伴う胆石や総胆管結石症を伴うことが報告されている。なお、一部の症例では晩期まで無症状のまま経過し、肝脾腫、肝硬変の状態で診断される場合もあるが、本疾患は緩徐ながら確実に進行し、末期には非代償期肝硬変に至る。診断から肝不全に至るまでの期間は、約12年とされている。なお、合併が多い炎症性腸疾患とは独立した経過をたどり、潰瘍性大腸炎はPSCに数年遅れて発現するケースがあり、合併が認められた場合、潰瘍性大腸炎は比較的軽症の経過をとる傾向があるとされている。結腸全摘術を施行された場合でも、PSCの経過には変化がないことが報告されている。そのほか、PSCと炎症性腸疾患両者が存在すると大腸がんのリスクが上昇し、このリスクはPSCに対して肝移植を施行しても変わらないことが報告されている。■ 予後わが国の全国調査によれば、肝移植なしの5年生存率は75%とされている。肝移植症例では、とくに近親者からの移植症例で再発が高頻度であるとの報告がある。早期症例では、肝硬変に至るまでの期間は15~20年とされているが、8~10%の症例では胆管がんの合併があるので注意が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)確定診断に至る臨床的特異的マーカーは存在せず、また、肝生検でも確定診断は困難である。診断は、肝内外胆管病変の画像診断によるが、類似の画像所見を示す疾患、とくに自己免疫性膵炎(AIP)に伴う胆管炎との鑑別が重要である。診断に当たっては、以下の臨床像に十分留意する。(1)胆汁うっ滞に基づく腹痛、発熱、黄疸などの症状、(2)炎症性腸疾患、とくに潰瘍性大腸炎の存在、(3)6ヵ月以上持続する胆道系酵素、AlPの正常上限2~3倍以上の持続上昇。 また、画像所見や超音波検査では、(1)散在する胆管内腔の狭窄と拡張、(2)散在する胆管壁肥厚に留意が必要となる。そして、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では(1)肝内外胆管の散在する輪状、膜状、帯状狭窄および憩室様突出、数珠状狭窄、(2)肝内外胆管の毛羽立ち、刷子縁様の不整像、(3)肝内胆管分枝像の減少、(4)肝外胆管狭窄に符合しない肝内胆管拡張、などの特徴的所見が認められ、ERCP施行によりこれら所見はより明確になる(図1、2)。(図1、2入る)画像を拡大する画像を拡大するなお、診断確定に当たっては、以下の(1)~(9)の疾患の除外が重要であり、IgG4関連硬化性胆管炎の鑑別も重要である(下に挙げた厚生労働省研究班の診断基準を参照)。(1)IgG4関連硬化性胆管炎、(2)胆道感染症による胆管炎、(3)胆道悪性腫瘍、(4)胆管結石、(5)腐食性硬化性胆管炎、(6)先天性胆道異常、(7)虚血性胆管狭窄、(8)胆道外科手術後状態、(9)floxuridine動注による胆管障害。病変の広がりにより、1)肝内型、2)肝外型、3)肝内外型に分類される。2016年原発性硬化性胆管炎診断基準厚生労働省難治性肝・胆道疾患に関する調査研究班(滝川班)【原発性硬化性胆管炎の疾患概念】原発性硬化性胆管炎は病理学的に慢性炎症と線維化を特徴とする慢性の胆汁うっ滞を来す疾患であり、進行すると肝内外の胆管にびまん性の狭窄と壁肥厚が出現する。病因は不明である。胆管上皮に強い炎症が惹起され、胆管上皮障害が生ずる。診断においてはIgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、悪性腫瘍を除外することが重要である。わが国における原発性硬化性胆管炎の診断時年齢分布は2峰性を呈し、若年層では高率に炎症性腸疾患を合併する。持続する胆汁うっ滞の結果、肝硬変、肝不全に至ることがある。有効性が確認された治療薬はなく、肝移植が唯一の根治療法である。【原発性硬化性胆管炎の診断基準】IgG4関連硬化性胆管炎*、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎**、胆管がんなどの悪性腫瘍を除外することが必要である。A.診断項目I.大項目A. 胆管像1)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認める。2)原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認めない。B. アルカリフォスファターゼ値の上昇II.小項目a. 炎症性腸疾患の合併b. 肝組織像(線維性胆管炎/onion skin lesion)B.診断上記による確診・準確診のみを原発性硬化性胆管炎として取り扱う。*IgG4関連硬化性胆管炎は、“Clinical diagnostic criteria of IgG4-related sclerosing cholangitis 2012”(Ohara H,et al. J Hepatobiliary Pancreat Sci. 2012;19:536-542.)により診断する。**2次性硬化性胆管炎は以下の通りである(Nakazawa T, et al. World J Gastroenterol. 2013;19:7661-7670.)。先天性カロリ病Cystic fibrosis慢性閉塞性総胆管結石胆管狭窄(外科手術時の損傷によるもの、慢性膵炎によるもの)Mirizzi症候群肝移植後の吻合狭窄腫瘍(良性、悪性、転移性)感染性細菌性胆管炎再発性化膿性胆管炎寄生虫感染(cryptosporidiosis、microsporidiosis)サイトメガロウイルス感染中毒性アルコールホルムアルデヒド高張生理食塩水の胆管内誤注入免疫異常好酸球性胆管炎AIDSに伴うもの虚血性血管損傷外傷後性硬化性胆管炎肝移植後肝動脈塞栓肝移植後の拒絶反応(急性、慢性)肝動脈抗がん剤動注に関連するもの経カテーテル肝動脈塞栓術浸潤性病変全身性血管炎アミロイドーシスサルコイドーシス全身性肥満細胞症好酸球増加症候群Hodgkin病黄色肉芽腫性胆管炎通常、肝生検は診断に必須ではないが、施行した場合には、胆管増生、胆管周囲の線維化、炎症、および胆管の消失が認められる。疾患が進行するにつれて、胆管周囲の線維化が門脈域から拡大していき、最終的には続発性胆汁性肝硬変に至る。なお、小児症例では、自己免疫性肝炎との鑑別が困難な症例が多数存在することに、注意が必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)確立された治療法は現在なく、進行した場合は、肝移植が唯一の治療法となる。通常、無症状の患者はモニタリング(身体診察と肝機能検査を年2回など)のみで経過観察する。ウルソデオキシコール酸(商品名:ウルソ[5mg/kg、1日3回、経口、最大15mg/kg/日])は、掻痒を緩和し、生化学マーカー値を改善し、現在第1選択薬となっており、2012年の全国調査でも81%の症例で投与されているが、残念ながら、生存率は改善できない。脂質異常症の治療薬であるベザフィブラート(同:ベザトール)のPSCに対する有効性も報告されているが、報告では胆道系酵素の改善のみで、組織学的な改善や画像診断上の改善を促すものではないが、ウルソデオキシコール酸治療で十分な効果が得られなかった症例でも一定の改善効果がある点が注目されている。慢性胆汁うっ滞および肝硬変に至った場合には、支持療法が必要である。細菌性胆管炎の発症時には、抗菌薬が必要であり、必要に応じて治療的ERCPも施行する。単一の狭窄が閉塞の主な原因と考えられる場合(優位な狭窄、約20%の患者にみられる)は、ERCPによる拡張術(腫瘍の確認のための擦過細胞診も行う)とステント留置術により症状を緩和することができる。PSC患者では、肝移植が期待余命を延長する唯一の治療法であり、治癒も可能である。繰り返す細菌性胆管炎または肝疾患末期の合併症(例:難治性腹水、門脈大循環性脳症、食道静脈瘤出血)には、肝移植が妥当な適応である。脳死肝移植が少ない本邦では生体肝移植が主に行われているが、生体肝移植後PSCの再発率が高い可能性が、わが国から報告されている。4 今後の展望診断に有用な臨床マーカーの確立、病態の解明とそれに基づいた治療法の確立が大きな課題である。5 主たる診療科消化器科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 原発性硬化性胆管炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Nakazawa T, et al. J Gastroenterol. 2017;52:838-844.2)Chapman R,et al. Hepatology. 2010;51:660-678.公開履歴初回2019年4月9日

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骨吸収抑制作用と骨形成促進作用を併せ持つ骨粗鬆症薬「イベニティ皮下注105mgシリンジ」【下平博士のDIノート】第22回

骨吸収抑制作用と骨形成促進作用を併せ持つ骨粗鬆症薬「イベニティ皮下注105mgシリンジ」今回は、世界に先駆けて日本で承認・発売されたヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体「ロモソズマブ(商品名:イベニティ皮下注105mgシリンジ)」を紹介します。本剤は、骨吸収抑制作用と骨形成促進作用の2つの作用で骨密度を高め、骨折の危険性が高い骨粗鬆症患者の骨折リスクを低減することが期待されています。<効能・効果>本剤は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症の適応で、2019年1月8日に承認され、2019年3月4日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはロモソズマブとして210mg(シリンジ2本分)を1ヵ月に1回、12ヵ月皮下投与します。なお、投与は病院、診療所などで行われます。<臨床効果>プラセボと比較した臨床試験では、閉経後骨粗鬆症患者7,180例(うち日本人492例)において、投与開始12ヵ月後に新規椎体骨折リスクを73%低減し、その効果は24ヵ月まで持続しました。<副作用>骨粗鬆症患者を対象としたプラセボ対照国際共同第III相試験で、本剤の投与を受けた3,744例中615例(16.4%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、関節痛(1.9%)、注射部位疼痛(1.3%)、注射部位紅斑(1.1%)、鼻咽頭炎(1.0%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として低カルシウム血症、顎骨壊死・骨髄炎(頻度不明)が認められています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、骨形成を促すとともに骨吸収を抑えることで、骨密度を高めて骨折を予防します。2.本剤を投与中は、ブラッシングなどで口腔内を清潔に保ち、定期的に歯科検診を受けてください。顎の痛み、歯の緩み、歯茎の腫れなどを感じた場合は、主治医に連絡してください。3.本剤を使用中に歯の診察を受ける場合は、この薬を使っていることを必ず歯科医師に伝えてください。4.この薬により、低カルシウム血症が現れることがあります。指先や唇のしびれ、痙攣などの症状が見られた場合、すぐに医師・薬剤師に相談してください。<Shimo's eyes>本剤は、国内初の抗スクレロスチン抗体製剤です。スクレロスチンは、破骨細胞による骨吸収を促進し、骨芽細胞による骨形成を抑制する糖タンパク質です。本剤はこのスクレロスチンを阻害することで骨量を増加させ、骨折リスクを低下させます。本剤は、骨折の危険性の高い骨粗鬆症に対して月1回皮下投与します。投与中は、副作用である低カルシウム血症の発現リスクを軽減するために、カルシウムおよびビタミンDの補給を行います。とくに重度の腎機能障害や透析を受けている患者さんでは、低カルシウム血症が発現しやすいので、積極的に検査値などを確認するようにしましょう。本剤による治療を終了・中止する場合、骨吸収が一過性に亢進する懸念があるため、原則として骨吸収抑制薬が使用されます。なお、海外で実施されたアレンドロン酸ナトリウムを対照とした比較試験では、本剤投与群における虚血性心疾患または脳血管障害の発現割合が高い傾向にありました。使用に関しては、脆弱性骨折の有無、骨密度値や原発性骨粗鬆症の診断基準などを目安として、投与が適切かどうか判断することが望ましいとされています。骨粗鬆症による高齢者の骨折は、要介護・要支援の原因となり、健康寿命の延伸、QOLの維持などを妨げることから、本人・家族だけでなく社会にも大きな影響を及ぼします。本剤は、著しく骨密度が低い場合やすでに骨折部位がある場合など、数年以内に骨折するリスクが高い患者さんの新たな治療選択肢となるでしょう。なお、2019年4月時点において、本剤は米国と欧州では審査中であり、海外で承認されている国および地域はありませんので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。

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第19回 スタチンに片頭痛の予防効果はあるか【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 スタチン系薬はコレステロールを降下させるための薬であることは言うまでもありませんが、片頭痛の予防にも有効なのではないかという説があります。脂質異常症も片頭痛も有病率が高いため、意図して、もしくは意図せずコレステロール値の高い片頭痛患者さんにスタチンが処方されていることもあるのではないかと思います。慢性頭痛の診療ガイドライン2013には、片頭痛発作が月に2回以上あるいは6日以上ある場合は片頭痛の予防療法を検討するという記載があり、第1選択薬としてバルプロ酸やトピラマートなどの抗てんかん薬、プロプラノロールやメトプロロールなどのβ遮断薬、アミトリプチリンなどの抗うつ薬が推奨されています(保険適用外含む)。予防療法の効果判定には少なくとも2ヵ月を要し、有害事象がなければ3〜6ヵ月継続し、コントロールが良好になれば薬を漸減・中止するというのがガイドラインの推奨です。私が調査した限りにおいては、現時点で日米英のガイドラインにスタチンについて特段の言及はありません。実際のところ、スタチンは片頭痛に有用なのでしょうか? 片頭痛が月6回以上生じる女性を対象に、プロプラノロール60mg群またはシンバスタチン20mg群に割り付け、比較したオープンラベルの試験では、いずれの群においても有効性が示されています。プラセボ効果が寄与した可能性も考慮しなければなりませんが、50%の頭痛発作減少のアウトカムを達成したのはプロプラノロール群で88%、シンバスタチン群で83%といずれも高率でした1)。またアトルバスタチンとプロプラノロールのランダム化比較試験でも、反復性片頭痛の予防効果は同等でした2)。二重盲検ランダム化比較試験もありますので紹介します。月に4日以上、反復性片頭痛がある成人患者57例をシンバスタチン20mg1日2回+ビタミンD3(コレカルシフェロール)1000IU群(実薬群)またはプラセボ群に割り付け、24週間フォローアップした研究です3)。なお、ビタミンDが併用されているのは、血漿中ビタミンD濃度が高いほうが、重度頭痛または片頭痛発作の発生が少ないという報告があるためです4)。この試験では、プライマリアウトカムとして、1ヵ月間に片頭痛を認めた日数のベースラインからの変化を観察しています。実薬群では、服用12週時点では8例(25%)で50%の頭痛発作減少のアウトカムが達成され、24週時点では9例(29%)で同様の結果が得られています。対して、プラセボ群ではそれぞれ1名(3%)のみでした。なお、以前から用いている片頭痛予防薬の使用は制限しておらず、有意差はなかったものの実薬群で予防薬の使用が多い傾向にあるので解釈に注意が必要です。また、24週以降は検討外であることから、長期的効果については判断できません。当初予定したサンプルサイズを下回る症例数で試験されていますが、実際の試験どおり介入群28例、プラセボ群29例の事後分析で85%の検出力(α=5%)ですので、症例数が増えればより確かなことが言えそうです。スタチンの抗酸化作用や抗炎症作用が片頭痛に影響かスタチンで頭痛が改善しうる理由の仮説として、スタチンのプレイオトロピック効果が挙げられています。スタチンには本来の脂質低下作用とは別に、抗酸化作用、血管内皮機能改善、血小板凝集抑制、血管の緊張や炎症の抑制など多面的な作用があるのではないかと考えられており、それがなんらかの形で片頭痛発作の減少に寄与したのかもしれないというものです。私が調査した限りにおいては、スタチンの種類によって効果が異なるのか、十分な根拠は見つけることができませんでした。いずれにしても、ビタミンD欠乏症だと片頭痛頻度が多いという説もありますから5)、まず十分な血清ビタミンD濃度が確保されているか確認することも大切です。あくまでもスタチンは片頭痛への効果を期待して処方されるものではありませんが、片頭痛の頻度に影響があるかもしれないということを知っていると、服薬指導で役に立つかもしれません。1)Medeiros FL, et al. Headache. 2007;47:855-856.2)Marfil-Rivera A, et al. Neurology. 2016;86:P2.2163)Buettner C, et al. Ann Neurol. 2015;78:970-981.4)Buettner C, et al. Cephalalgia. 2015;35:757-766.5)Song TJ, et al. J Clin Neurol. 2018;14:366-373.

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ACS発症またはPCI施行のAF患者、アピキサバンは有益か/NEJM

 直近に急性冠症候群(ACS)を発症または経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けP2Y12阻害薬を投与される心房細動患者において、アピキサバン(商品名:エリキュース)を含む抗血栓療法(アスピリンは非併用)は、ビタミンK拮抗薬+アスピリン療法またはアスピリン単剤療法と比べて、出血および入院が減少し、虚血イベントの発生において有意差はみられないことが示された。米国・デューク大学のRenato D. Lopes氏らによる2×2要因デザイン法の国際多施設共同無作為化試験「AUGUSTUS試験」の結果で、NEJM誌オンライン版2019年3月17日号で発表された。ACS発症またはPCIを受けた心房細動患者に対し、適切とされる抗血栓療法は明確にはなっていない。大出血または臨床的に重要な非大出血を主要アウトカムとして検証 試験では、ACS発症またはPCIが施行され、P2Y12阻害薬服用が予定されている心房細動患者を、アピキサバンまたはビタミンK拮抗薬の投与を受ける群、およびアスピリンまたは適合プラセボの投与を受ける群に無作為化し6ヵ月間治療した。 主要アウトカムは、大出血または臨床的に重要な非大出血とした。副次アウトカムは、死亡、入院、および複合虚血イベントなどであった。アピキサバンのビタミンK拮抗薬に対する主要アウトカムの発生ハザード比は0.69 33ヵ国から4,614例が登録された。主要または副次アウトカムに関して、2つの無作為化要因間に有意な相互作用はみられなかった。 大出血または臨床的に重要な非大出血の発生率は、アピキサバン群10.5%、ビタミンK拮抗薬群14.7%であった(ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.58~0.81、非劣性および優越性ともにp<0.001)。アスピリン群は16.1%、プラセボ群は9.0%であった(HR:1.89、95%CI:1.59~2.24、p<0.001)。 アピキサバン群の患者はビタミンK拮抗薬群よりも、死亡および入院の発生率が低率であった(23.5% vs.27.4%、HR:0.83、95%CI:0.74~0.93、p=0.002)。虚血イベントの発生率は同程度であった。 なおアスピリン群の患者の死亡、入院および虚血イベントの発生率は、プラセボ群と同程度であった。

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日本人の食事摂取基準2020年版、フレイルが追加/厚労省

 2019年3月22日、厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の報告書とりまとめを了承した。昨年4月より策定検討会にて議論が重ねられた今回の食事摂取基準は、2020年~2024年までの使用が予定されている。策定検討会の構成員には、日本糖尿病学会の理事を務める宇都宮 一典氏や日本腎臓学会理事長の柏原 直樹氏らが含まれている。日本人の食事摂取基準(2020年版)の主な改定ポイントは? 日本人の食事摂取基準(2020年版)の改定では、2015年版をベースとしつつ、『社会生活を営むために必要な機能の維持および向上』を策定方針とし、これまでの生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎臓病)の重症化予防に加え、高齢者の低栄養・フレイル防止を視野に入れて検討がなされた。主な改定点として、・高齢者を65~74歳、75歳以上の2つに区分・生活習慣病における発症予防の観点からナトリウムの目標量引き下げ・重症化予防を目的としてナトリウム量やコレステロール量を新たに記載・フレイル予防の観点から高齢者のタンパク質の目標量を見直しなどが挙げられる。日本人の食事摂取基準(2020年版)、まずは総論を読むべし 報告書やガイドラインなどを活用する際には、まず、総論にしっかり目を通してから、各論や数値を理解することが求められる。しかし、メディアなどは総論を理解しないまま数値のみを抜粋して取り上げ、問題となることがしばしばあるという。これに対し、策定検討会のメンバーらは「各分野のポイントが総論だけに記載されていると、それが読まれずに数値のみが独り歩きし、歪んだ情報が流布されるのではないか」と懸念。これを受け、日本人の食事摂取基準(2020年版)の総論には、“同じ指標であっても、栄養素の間でその設定方法および活用方法が異なる場合があるので注意を要する”と記載し、総論以外にも各項目の目標量などがどのように概算されたのかがわかるように『各論』を設ける。メンバーらは「各指標の定義や注意点はすべて総論で述べられているため、これらを熟知したうえで各論を理解し、活用することが重要である」と、活用方法を強調した。 以下に日本人の食事摂取基準(2020年版)の各論で取り上げられる具体的な内容を抜粋する。タンパク質:高齢者におけるフレイルの発症予防を目的とした量を算定することは難しいため、少なくとも推奨量以上とし、高齢者については摂取実態とタンパク質の栄養素としての重要性を鑑みて、ほかの年齢区分よりも引き上げた。また、耐容上限量は、最も関連が深いと考えられる腎機能への影響を考慮すべきではあるが、基準を設定し得る明確な根拠となる報告が十分ではないことから、設定しなかった。脂質:コレステロールは、体内でも合成される。そのために目標量を設定することは難しいが、脂質異常症および循環器疾患予防の観点から過剰摂取とならないように算定が必要である。一方、脂質異常症の重症化予防の目的からは、200mg/日未満に留めることが望ましい。炭水化物:炭水化物の目標量は、炭水化物(とくに糖質)がエネルギー源として重要な役割を担っていることから、アルコールを含む合計量として、タンパク質および脂質の残余として目標量(範囲)を設定した。ただし、食物繊維の摂取量が少なくならないように、炭水化物の質に留意が必要である。脂溶性ビタミンビタミンDは、多くの日本人で欠乏または不足している可能性があるが、摂取量の日間変動が非常に大きく、摂取量の約8割が魚介類に由来し、日照でも産生されるという点で、必要量を算出するのが難しい。このため、ビタミンDの必要量として、アメリカ・カナダの食事摂取基準で示されている推奨量から日照による産生量を差し引いた上で、摂取実態を踏まえた目安量を設定した。ビタミンDは日照により産生されるため、フレイル予防を図る者を含めて全年齢区分を通じて可能な範囲内での適度な日照を心がけるとともに、ビタミンDの摂取については、日照時間を考慮に入れることが重要である。日本人の食事摂取基準(2020年版)改定の後には高齢化問題が深刻さを増す 日本では、2020年の栄養サミット(東京)開催を皮切りに、第22回国際栄養学会議(東京)や第8回アジア栄養士会議(横浜)などの国際的な栄養学会の開催が控えている。また、日本人の食事摂取基準(2020年版)改定の後には団塊世代が75歳以上になるなど、高齢化問題が深刻さを増していく。 このような背景を踏まえながら1年間にも及ぶ検討を振り返り、佐々木 敏氏(ワーキンググループ長、東京大学大学院医学系研究科教授)は、「理解なくして活用なし。つまり、どう活用するかではなく、どう理解するかのための普及教育が大事。食事摂取基準ばかりがほかの食事のガイドラインよりエビデンスレベルが上がると、使いづらくなるのではないか。そうならないためにも、ほかのレベルを上げて食事摂取基準との繋がり・連携を強化するのが次のステージ」とコメントした。また、摂取基準の利用拡大を求めた意見もみられ、「もっと疾患を広げるべき。次回の改定では、心不全やCOPDも栄養が大事な要素なので入れていったほうがいい。今回の改定では悪性腫瘍が入っていないが、がんとともに長生きする時代なので、実際の現場に合わせると病気を抱えている方を栄養の面でサポートすることも重要(名古屋大学大学院医学系研究科教授 葛谷 雅文氏)」、「保健指導の対象となる高血糖の方と糖尿病患者の食事療法のギャップが、少し埋まるのではと期待している。若年女性のやせ、骨粗鬆症も栄養が非常に影響する疾患なので、次の版では目を向けていけるといい(慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授 勝川 史憲氏)」、など、期待や2025年以降の改定に対して思いを寄せた。座長の伊藤 貞嘉氏(東北大学大学院医学系研究科教授)は、「構成員のアクティブな発言によって良い会・良いものができた」と、安堵の表情を浮かべた。 なお、厚労省による報告書(案)については3月末、パブリックコメントは2019年度早期に公表を予定している。

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偽性副甲状腺機能低下症〔PHP:pseudohypoparathyroidism〕

1 疾患概要■ 概念・定義副甲状腺ホルモン(PTH)に対する不応性のために、低カルシウム血症、高リン血症などの副甲状腺機能低下症と同様な症状を呈する疾患である。血中PTH濃度は異常高値となる。ホルモン受容機構を構成するオルブライト遺伝性骨ジストロフィー(Albright’s hereditary osteodystrophy:AHO)と呼ばれる症候を合併する病型をIa型、合併しないものをIb型と呼ぶ。■ 疫学わが国における本症の患者数は約400人と推計されている。性差はない。■ 病因PTH受容体はG蛋白カップリング型受容体である。その細胞内シグナルはα、β、γのサブユニットから構成されるGsタンパク質を介して、アデニル酸シクラーゼの活性化によりサイクリックAMP(cAMP)を生成する系に伝えられる。偽性副甲状腺機能低下症のPTH不応性の原因はGsαタンパク質の機能低下である。Gsαタンパク質の発現は組織特異的インプリンティングを受けており、腎近位尿細管、下垂体、甲状腺、性腺などでは母由来アレル優位となっている。一方、骨、脂肪組織を含む他の大部分の組織では、父由来アレルと母由来アレルから同量のGsαタンパク質が産生される。Gsαタンパク質はGNAS遺伝子によってコードされている。組織特異的インプリンティングの維持にはGNAS遺伝子の転写調節領域のCpGメチル化状態が重要であり、アレルの親由来によってその状態が異なっていることが知られている。Ia型は、母由来のGNAS遺伝子アレルに変異が生じて正常なタンパク質が産生されない場合に起こる、常染色体顕性の母系遺伝である。すなわち、PTHの主たる標的組織である腎近位尿細管では、母由来の変異が主に発現するためにPTH不応となって低カルシウム血症、高リン血症を呈している。同様に、母由来アレル優位である甲状腺、下垂体、性腺においても甲状腺刺激ホルモン(TSH)不応による原発性甲状腺機能低下症、ゴナドトロピン不応による原発性性腺機能障害、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)不応による成長ホルモン分泌不全などが発症することがある。AHOは骨や脂肪組織などの非インプリンティング組織の異常であるが、正常Gsαタンパク質発現量の半減(ハプロ不全)によるものと考えられる。実際、父由来のGNAS遺伝子アレル変異の場合、血清カルシウム濃度は正常であるが、AHOを呈し、偽性偽性副甲状腺機能低下症と呼ばれている。Ib型では、組織特異的インプリンティングに重要なGNAS遺伝子の転写調節領域のメチル化状態における異常(エピジェネティック変異)が関連している。母由来アレルにこの異常が生じると、インプリンティング組織ではGsαタンパク質発現が減少するが、非インプリンティング組織ではこの影響を受けないので、AHOを合併しない。■ 症状1)低カルシウム血症に伴う症状口周囲や手足のしびれ、テタニー、痙攣、意識障害を呈することがある。これらの症状は、小児期以降から成人期に出現することが多く、Ib型の主訴として受診することが多い。2)AHOIa型では、低身長、円形顔貌、肥満、短指趾症、軟部組織の異所性骨化、歯牙低形成、知的障害を特徴とするAHOを認める症例が多く、診断のきっかけになる。3)他のホルモン異常TSH不応性は最も多く認められるホルモン異常で、Ia型の80~90%、Ib型の約40%にみられる。先天性甲状腺機能低下症として、偽性副甲状腺機能低下症より先に診断されることがある。ゴナドトロピン不応性による月経異常、不妊症、GHRH不応性による成長ホルモン分泌不全を呈することがある。以上のホルモン異常は、Ia型での報告が多いが、Ib型でも認められる。■ 予後基本的に低カルシウム血症の治療は、生涯、活性型ビタミンD製剤の服用を必要とする。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)本症は指定難病に認定されており、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「ホルモン受容機構異常に関する調査研究」班によって作成された診断基準と重症度分類(表)が使用されている。表 診断基準と重症度分類A.症状1.口周囲や手足などのしびれ、錯感覚2.テタニー3.全身痙攣B.検査所見1.低カルシウム血症、正または高リン血症2.eGFR 30mL/min/1.73m2以上3.Intact PTH 30pg/mL以上C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。ビタミンD欠乏症*血清25水酸化ビタミンD(25[OH]D)が15ng/mL以上であってもBの検査所見であること。25(OH)Dが15ng/mL未満の場合には、ビタミンDの補充などによりビタミンDを充足させた後に再検査を行う。D.遺伝学的検査1.GNAS遺伝子の変異2.GNAS遺伝子の転写調節領域のDNAメチル化異常<診断のカテゴリー>Definite:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dのいずれかを満たすもの。Probable:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。Possible:Aのうち1項目以上+Bのすべてを満たすもの。<重症度分類>下記を用いて重症を対象とする。重症:PTH抵抗性による低カルシウム血症に対して薬物療法を必要とすることに加え、異所性皮下骨化、短指趾症、知能障害により日常生活に制約があるもの。中等症:PTH抵抗性による低カルシウム血症に対して薬物療法を必要とするもの。軽症:とくに治療を必要としないもの。※診断基準および重症度分類の適応における留意事項1.病名診断に用いる臨床症状、検査所見などに関して、診断基準上に特段の規定がない合には、いずれの時期のものを用いても差し支えない(ただし、当該疾病の経過を示す臨床症状などであって、確認可能なものに限る)。2.治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6ヵ月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。3.なお、症状の程度が上記の重症度分類などで一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする。原発性副甲状腺機能低下症との鑑別が必要な場合や、ビタミンD欠乏症との鑑別が困難な場合にはEllsworth-Howard試験を行う。同試験はPTHに対する腎の反応性(尿中リン酸増加反応とcAMP増加反応)を指標にするものである。尿中cAMP増加反応が正常にもかかわらず尿中リン酸増加反応の低下がある場合、Gタンパク質より下流のシグナル伝達障害に起因するII型偽性副甲状腺機能低下症とする考えがあるが、ビタミンD欠乏症、尿細管障害でも同様の所見がみられるため論議のあるところである。Ia型でAHOを欠いたり、Ib型でもAHOを認めたりする症例があるので、臨床像のみから分子遺伝的異常を断定することは困難である。遺伝学的検査は、指定難病の認定に必須ではないが、両者の分子生物学的診断にはきわめて有用である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 薬物療法低カルシウム血症に対しては、Ca補充と活性型ビタミンD製剤投与を行う。血清カルシウム正常化と高カルシウム尿症を来さないようにする。TSH不応性による甲状腺機能低下症を合併する場合には甲状腺ホルモン薬の補充療法、ゴナドトロピン不応症には性ホルモン補充療法、GHRH不応性による成長ホルモン分泌不全を合併する場合には成長ホルモン投与を行う。■ 手術療法異所性皮下骨化は運動制限、生活制限の原因となる場合、外科的切除の適応になることがあるが、同一部位に再発することもある。4 今後の展望臨床的にも分子遺伝学的にも大変興味深い疾患である。インプリンティングの組織特異性を規定する因子、機序は不明である。また、GNAS遺伝子メチル化異常を来す孤発例のエピジェネティック変異の大部分は原因が不明である。さらに、II型の実態は不明で概念的なものにとどまっている。以上の課題に関して、今後の研究の進展が期待される。5 主たる診療科小児科、内分泌内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 偽性副甲状腺機能低下症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)皆川真規. 最新医学. 2016;71:1930-1935.2)佐野伸一朗. 医学のあゆみ. 2017;263:307-312.公開履歴初回2019年3月26日

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日本人うつ病に対するω3脂肪酸と心理学的介入

 勤労者における軽度~中等度のうつ病に対し、心理教育とω3多価不飽和脂肪酸(PUFA)の併用療法が有用であるかについて、長崎大学の田山 淳氏らが検討を行った。Journal of Affective Disorders誌2019年2月15日号の報告。 二重盲検並行群間ランダム化比較試験として実施した。対象患者は、ω3脂肪酸を投与する介入群またはプラセボを投与する対照群に割り付けられた。介入群には、15×300mgカプセル/日を12週間投与した。ω3PUFAの1日の総投与量は、ドコサヘキサエン酸(DHA)500mg、エイコサペンタエン酸(EPA)1,000mgであった。治療後のうつ病重症度評価には、ベック抑うつ質問票(BDI-II)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・治療12週間後のBDI-IIスコアは、介入群(t=-7.3、p<0.01)および対照群(t=-4.6、p<0.01)のいずれにおいてもベースラインと比較し有意に低かった。・しかし、両群間の有意な差は認められなかった(0.7、95%CI:-0.7~2.1、p=0.30)。・本研究の限界として、血中ω3脂肪酸濃度が測定されておらず、脱落率も高かった。また、他の地域で一般化できない可能性があった。 著者らは「軽度~中等度のうつ病に対する心理教育とω3脂肪酸の併用療法は、症状改善に寄与するものの、心理教育単独療法と比較し、うつ症状の改善に違いが認められなかった」としている。■関連記事EPA、DHA、ビタミンDは脳にどのような影響を及ぼすかうつ病にEPAやDHAは有用なのかうつ病補助療法に有効なのは?「EPA vs DHA」

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第12回 毎日簡単! 料理をしないでちょい足し「お手軽タンパク質」【実践型!食事指導スライド】

第12回 毎日簡単! 料理をしないでちょい足し「お手軽タンパク質」医療者向けワンポイント解説日本の総人口1億2,671万人(平成29年10月1日現在)のうち、65歳以上人口は、3,515万人で、総人口の27.7%を占めています。また、65歳以上人口は、平成37年(2025年)には、3,677万人に達し、平成54年(2042年)に3,935万人でピークを迎え、そのあとは減少に転じると推計されています。さらに、平成48年(2036年)には、3人に1人が、平成77年(2065年)には、2.6人に1人が65歳以上の社会になると推測されています*。高齢化に向けて問題になっているのが、サルコペニア、フレイルです。サルコペニアは加齢に伴って生じる骨格筋量と骨格筋力の低下、フレイルは高齢期におけるさまざまな生理的予備能が低下したことで健康障害が起こりやすい状態のことを示します。サルコペニアは、フレイルの要因の一つでもあり、この状態に繋がる原因として、栄養不良、タンパク質不足などが挙げられます。1日のタンパク質の摂取量について、日本人の食事摂取基準(2015年版・最新版)によると、18〜70歳以上のタンパク質の推奨量は、男性:60g、女性:50gと明記されています。また、平成29年国民健康・栄養調査の結果では、たんぱく質の摂取量は60歳代で最も多いことが明らかになりました。65歳以上の低栄養傾向の者(BMI≦20kg/m2)の割合は、全体:16.4%、男性:12.5%、女性:19.6%であり、ここ10年間での有位な増減は見られません。しかし、人口全体が高齢化に向かっていくことや、年齢と共に食事量が減ること、嗜好によるタンパク質不足、吸収率の低下などを考慮すると、元気なうちからタンパク質を意識することが大切です。今回は、栄養不足の方、高齢者の方が元気に過ごすために、意識してもらいたい「簡単にちょい足しできる調理不要のタンパク質」についてご紹介します。まずは、タンパク質の意識・取り入れ方法について説明します。1)食事にプラスしてタンパク質を意識しようタンパク質の摂取が不足する要因として、a)食事量が少ない b)欠食 c)嗜好がご飯やパン、麺類などの炭水化物に偏る、などがあります。普段からタンパク質が不足しているような患者さんには、『お手軽タンパク質』をプラスして摂取するよう伝えてみましょう。2)調理しなくていい「お手軽タンパク質」を常備しようタンパク質をプラスするには献立に取り入れることも大切ですが、普段から食べているものにプラスする意識を持つと、摂取量を安定的に増やすことができます。ほかの栄養素を合わせて摂るメリットも伝え、常備を心がけてもらいましょう。3)分けて食べようタンパク質は、消化に負担がかかること、エネルギー不足と共に少しずつ分解されていくことをふまえ、まとめて食べるのではなく、こまめに取り入れることがオススメです。三度の食事のほか、間食、飲み物、夜食などに加えると良いでしょう。【調理をしないでとりやすい「お手軽タンパク質」】卵茹でる、炒める、味噌汁に加えるなど、調理が簡単で、手軽に食べられるタンパク質源。アミノ酸バランスも理想的なタンパク質。ツナ缶マグロやカツオの油煮または水煮。米、パン、麺など何にでも相性がよい。サバ缶安くて、栄養価が豊富と大人気のタンパク質源。オメガ3系脂肪酸のDHA、EPAが豊富であり、血管の炎症などを抑える働きがある。イワシ缶サバ缶より脂質が少なく、タンパク質も豊富。サバと同じくDHA、EPAが豊富。納豆低脂肪、発酵食品。腸内環境を整えるほか、骨粗鬆症の予防効果が期待できるビタミンKが豊富に含まれている。チーズおやつとしても手軽に食べられることが魅力的なタンパク質源。豆腐木綿のほうがタンパク質はやや多い。絹ごし豆腐は、コンビニなどでも多く扱っているため購入しやすいタンパク質。低脂肪であり、柔らかい食感は、どの世代にも取り入れやすい。ヨーグルト発酵食品であり、ヨーグルトによって菌の種類、働き、味わいが異なるため、いろいろなヨーグルトで変化をつけられる。間食としても良い。パルメザンチーズチーズの中で一番タンパク質の含有量が高い。パスタや炒め物にかけるだけではなく、味噌汁やサラダなどに簡単に加えることができる。◆きな粉1回に食べられる量は少ないが、大豆の粉なのでタンパク質は豊富。ヨーグルトやアイスなどのデザート類にかけたり、料理に加えても美味しい。*:平成30年版高齢者社会白書

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第18回 花粉症患者に使える!こんなエビデンス、あんなエビデンス【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 インフルエンザがやっと落ち着いてきたと思ったら、花粉症が増える季節になりました。症状がひどい方は本当につらい季節で、身の回りでも花粉症の話題でもちきりとなっています。今回は、服薬指導で使える花粉症に関するお役立ち情報をピックアップして紹介します。アレルゲンを防ぐには?アレルギー性疾患では、アレルゲンを避けることが基本です1)。花粉が飛ぶピークタイムである昼前後と日没後、晴れて気温が高い日、空気が乾燥して風が強い日、雨上がりの翌日や気温の高い日が2~3日続いた後は外出を避けたり、マスクやメガネ、なるべくツルツルした素材の帽子などで防御したりしましょう。それ以外にも、鼻粘膜を通したアレルゲンの吸入を物理的にブロックするために、花粉ブロッククリームを直接鼻粘膜に塗布するという方法もあります。この方法は、ランダム化クロスオーバー試験で検証されており、アレルギー性鼻炎、ダニおよび他のアレルゲンに感受性のある成人および小児の被験者115例を、花粉ブロッククリーム群とプラセボ軟膏群に割り付けて比較検討しています。1日3回30日間の塗布で、治療群の鼻症状スコアが改善しています。ただし、必ずしも花粉ブロッククリームでないといけないわけではなく、プラセボ群でも症状改善効果が観測されています2)。ほかにも小規模な研究で鼻粘膜への軟膏塗布で有効性を示唆する研究3)がありますので、やってみる価値はあるかもしれません。症状を緩和する食材や栄養素は?n-3系脂肪酸大阪の母子健康調査で行われた、サバやイワシなどの青魚に多く含まれるn-3系脂肪酸の摂取量とアレルギー性鼻炎の有病率に関する研究で、魚の摂取量とアレルギー性鼻炎の間に逆の用量反応関係があることが指摘されています4)。ただし、急性の症状に対して明確な効果を期待できるほどの結果ではなさそうです。ビタミンEビタミンEがIgE抗体の産生を減少させる可能性があるとして、アレルギー性鼻炎患者63例を、ビタミンE 400IU/日群またはプラセボ群にランダムに割り付け、4週間継続(最初の2週間はロラタジン/プソイドエフェドリン(0.2/0.5/mg/kg)と併用)した研究があります。しかし、いずれの群も1週間で症状が改善し、症状スコアにも血清IgEにも有意差はありませんでした5)。カゼイ菌アレルギーは腸から起こるとよく言われており、近年乳酸菌やビフィズス菌が注目されています。これに関しては、カゼイ菌を含む発酵乳またはプラセボを2~5歳の未就学児童に12ヵ月間摂取してもらい、アレルギー性喘息または鼻炎の症状が改善するか検討した二重盲検ランダム化比較試験があります。187例が治療群と対照群に割り付けられ、アウトカムとして喘息/鼻炎の発症までの時間、発症数、発熱または下痢の発生数、血清免疫グロブリンの変化を評価しています。通年性の鼻炎エピソードの発生は治療群でやや少なく、その平均差は―0.81(―1.52~―0.10)日/年でした。鼻炎にわずかな効果が期待できるかもしれませんが、喘息には有効ではないとの結果です6)。薬物治療の効果は?薬物治療では、抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン薬、アレルゲン免疫療法が主な選択肢ですが、抗ヒスタミン薬にフォーカスして見ていきましょう。比較的分子量が小さく、脂溶性で中枢性の副作用を生じやすい第1世代よりも、眠気など中枢性の副作用が少ない第2世代の抗ヒスタミン薬がよく用いられています。種々の臨床試験から、第2世代抗ヒスタミン薬は種類によって効果に大きな差はないと思われます。たとえば、ビラスチンとセチリジンやフェキソフェナジンを比較した第II相試験7)では、効果はほぼ同等でビラスチンは1時間以内に作用が発現し、26時間を超える作用持続を示しています。なお、ルパタジンとオロパタジンの比較試験では、ルパタジンの症状の改善スコアはオロパタジンとほぼ同等ないしやや劣る可能性があります8)。また、眼のかゆみなど症状がない季節性のアレルギー性鼻炎であれば、抗ヒスタミン薬よりもステロイド点鼻薬の有効性が高いことや、ステロイド点鼻薬に抗ヒスタミン薬を上乗せしても有意な上乗せ効果は期待しづらいことから、点鼻薬を推奨すべきとするレビューもあります9)。副作用は?抗ヒスタミン薬の副作用で問題になるのがインペアード・パフォーマンスです。インペアード・パフォーマンスは集中力や生産性が低下した状態ですが、ほとんどの場合が無自覚なので運転を控えるようにすることなどの指導が大切です。フェキソフェナジン、ロラタジン、またそれを光学分割したデスロラタジンなどはそのような副作用が少ないとされています10)。口渇、乏尿、便秘など抗コリン性の副作用は、中枢移行性が低いものでも意識しておくとよいでしょう。頻度は少ないですが、第1世代、第2世代ともに痙攣の副作用がWHOで注意喚起されています11)。万が一、痙攣などが起こった場合には被疑薬である可能性に思考を巡らせるだけでも適切な対応が取りやすくなると思います。予防的治療の効果は?季節性アレルギー性鼻炎に対する抗ヒスタミン薬の予防的治療効果について検討した二重盲検ランダム化比較試験があります12)。レボセチリジン5mgまたはプラセボによるクロスオーバー試験で、症状発症直後の早期服用でも花粉飛散前からの予防服用と同等の効果が得られています。予防的に花粉飛散前からの服用を推奨する説明がされがちですが、症状が出てから服用しても遅くはないと伝えると安心していただけるでしょう。服用量が減らせるため、医療費抑制的観点でも大切なことだと思います。鼻アレルギー診療ガイドラインでも、抗ヒスタミン薬とロイコトリエン拮抗薬は花粉飛散予測日または症状が少しでも現れた時点で内服とする主旨の記載があります1)。以上、花粉症で服薬指導に役立ちそうな情報を紹介しました。花粉症対策については環境省の花粉症環境保健マニュアルによくまとまっています。また、同じく環境省による花粉情報サイトで各都道府県の花粉飛散情報が確認できますので、興味のある方は参照してみてください13)。1)鼻アレルギー診療ガイドライン2016年版2)Li Y, et al. Am J Rhinol Allergy. 2013;27:299-303.3)Schwetz S, et al. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2004;130:979-984.4)Miyake Y, et al. J Am Coll Nutr. 2007;26:279-287.5)Montano BB, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2006;96:45-50.6)Giovannini M, et al. Pediatr Res. 2007;62:215-220.7)Horak F, et al. Inflamm Res. 2010;59:391-398.8)Dakhale G. J Pharmacol Pharmacother. 2016 Oct-Dec 7:171–176.9)Stempel DA, et al. Am J Manag Care. 1998;4:89-96.10)Yanai K, et al. Pharmacol Ther. 2007 Jan 113:1-15.11)WHO Drug Information Vol.16, No.4, 200212)Yonekura S, et al. Int Arch Allergy Immunol. 2013;162:71-78.13)「環境省 花粉情報サイト」

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andexanet alfa、第Xa因子阻害薬による大出血に高い止血効果/NEJM

 andexanet alfaは、第Xa因子阻害薬の使用により急性大出血を来した患者において、抗第Xa因子活性を著明に低下させ、良好な止血効果をもたらすことが、カナダ・マックマスター大学のStuart J. Connolly氏らが行ったANNEXA-4試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2019年2月7日号に掲載された。andexanet alfaは、第Xa因子阻害薬の中和薬として開発された遺伝子組み換え改変型ヒト第Xa因子不活性体で、2018年、米国食品医薬品局(FDA)の迅速承認プログラムの下、アピキサバンまたはリバーロキサバン治療中に出血を来し、抗凝固薬の中和を要する患者への投与が承認を得ている。本試験は2016年に中間解析の結果が発表され、現在、エドキサバン投与例を増やすために、継続試験としてドイツで患者登録が続けられ、2019年中には日本でも登録が開始される予定だという。andexanet alfa投与後の抗第Xa因子活性の変化と止血効果を評価 本研究は、北米および欧州の63施設が参加した非盲検単群試験であり、2015年4月~2018年5月の期間に、中間解析の対象となった67例を含む352例が登録された(Portola Pharmaceuticalsの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、第Xa因子阻害薬投与から18時間以内に急性大出血を発症した患者であった。被験者には、andexanet alfaが15~30分でボーラス投与され、その後2時間をかけて静脈内投与された。 主要アウトカムは2つで、(1)andexanet alfa投与後の抗第Xa因子活性の変化率、(2)静脈内投与終了から12時間後の止血効果が、事前に規定された基準で「きわめて良好」または「良好」と判定された患者の割合であった。 andexanet alfaの有効性の評価は、大出血が確認され、ベースラインの抗第Xa因子活性が75ng/mL以上(エノキサパリン投与例では0.25IU/mL以上)のサブグループで行った。andexanet alfaの止血効果は82%で良好以上、活性低下は効果を予測せず 対象の平均年齢は77歳で、48例(14%)が心筋梗塞、69例(20%)が脳卒中、67例(19%)が深部静脈血栓症、286例(81%)が心房細動、71例(20%)が心不全、107例(30%)が糖尿病の病歴を有していた。 また、128例(36%)がリバーロキサバン、194例(55%)がアピキサバン、10例(3%)がエドキサバン、20例(6%)がエノキサパリンの投与を受けていた。主な出血部位は、頭蓋内が227例(64%)、消化管が90例(26%)だった。254例(72%)が有効性評価の基準を満たした。 有効性評価では、アピキサバン群(134例)は抗第Xa因子活性中央値がベースラインの149.7ng/mLからandexanet alfaのボーラス投与終了時には11.1ng/mLへと、92%(95%信頼区間[CI]:91~93)低下し、リバーロキサバン群(100例)は211.8ng/mLから14.2ng/mLへと、92%(88~94)低下した。また、エノキサパリン群(16例)は0.48IU/mLから0.15IU/mLへと、75%(66~79)低下した。3剤とも、この効果が静脈内投与終了時まで、ほぼ維持されていた。 andexanet alfaの静脈内投与終了から4、8、12時間後の抗第Xa因子活性中央値のベースラインからの変化率は、アピキサバン群がそれぞれ-32%、-34%、-38%、リバーロキサバン群が-42%、-48%、-62%だった。 andexanet alfaの止血効果の評価は249例で行われた。このうち204例(82%)が、「きわめて良好」(171例)または「良好」(33例)と判定された。これには、アピキサバン群の83%、リバーロキサバン群の80%、エノキサパリン群の87%が含まれ、頭蓋内出血の80%、消化管出血の85%が該当した。 30日以内に49例(14%)が死亡し、34例(10%)に血栓イベントが認められた。全体として、抗第Xa因子活性の低下は止血効果を予測しなかった(AUC:0.53、95%CI:0.44~0.62)が、頭蓋内出血の患者ではある程度の予測因子であった(0.64、0.53~0.74)。 著者は、82%というandexanet alfaの止血効果は、ビタミンK拮抗薬治療に伴う大出血に対するプロトロンビン複合体製剤の試験で観察された72%に匹敵するとした。一方、抗第Xa因子活性低下は頭蓋内出血での臨床効果を予測したとはいえ、抗第Xa因子活性の測定は難しく、実臨床において有用となる可能性はほとんどないだろうと指摘している。

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血友病〔Hemophilia〕

血友病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■概要血友病は、凝固第VIII因子(FVIII)あるいは第IX因子(FIX)の先天的な遺伝子異常により、それぞれのタンパクが量的あるいは質的な欠損・異常を来すことで出血傾向(症状)を示す疾患である1)。血友病は、古代バビロニア時代から割礼で出血死した子供が知られており、19世紀英国のヴィクトリア女王に端を発し、欧州王室へ広がった遺伝性疾患としても有名である1)。女王のひ孫にあたるロシア帝国皇帝ニコライ二世の第1皇子であり、最後の皇太子であるアレクセイ皇子は、世界で一番有名な血友病患者と言われ、その後の調査で血友病Bであったことが確認されている2)。しかし、血友病にAとBが存在することなど疾患概念が確立し、治療法も普及・進歩してきたのは20世紀になってからである。■疫学と病因血友病は、X連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)による遺伝形式を示す先天性の凝固異常症の代表的疾患である。基本的には男子にのみ発症し、血友病Aは出生男児約5,000人に1人、血友病Bは約2万5,000人に1人の発症率とされる1)。一方、約30%の患者は、家族歴が認められない突然変異による孤発例とされている1)。■分類血友病には、FVIII活性(FVIII:C)が欠乏する血友病Aと、FIX活性(FIX:C)が欠乏する血友病Bがある1)。血友病は、欠乏する凝固因子活性の程度によって重症度が分類される1)。因子活性が正常の1%未満を重症型(血友病A全体の約60%、血友病Bの約40%)、1~5%を中等症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)、5%以上40%未満を軽症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)と分類する1)。■症状血友病患者は、凝固因子が欠乏するために血液が固まりにくい。そのため、ひとたび出血すると止まりにくい。出産時に脳出血が多いのは、健常児では軽度の脳出血で済んでも、血友病児では止血が十分でないため重症化してしまうからである。乳児期は、ハイハイなどで皮下出血が生じる場合が多々あり、皮膚科や小児科を経由して診断されることもある。皮下出血程度ならば治療を必要としないことも多い。しかし、1歳以降、体重が増加し、運動量も活発になってくると下肢の関節を中心に関節内出血を来すようになる。擦り傷でかさぶたになった箇所をかきむしって再び出血を来すように、ひとたび関節出血が生じると同じ関節での出血を繰り返しやすくなる。国際血栓止血学会(ISTH)の新しい定義では、1年間に同じ関節の出血を3回以上繰り返すと「標的関節」と呼ばれるが、3回未満であれば標的関節でなくなるともされる3)。従来、重症型の血友病患者ではこの標的関節が多くなり、足首、膝、肘、股、肩などの関節障害が多く、歩行障害もかなりみられた。しかし、現在では1回目あるいは2回~数回目の出血後から血液製剤を定期的に投与し、平素から出血をさせないようにする定期補充療法が一般化されており、一昔前にみられた関節症を有する患者は少なくなってきている。中等症型~軽症型では出血回数は激減し、出血の程度も比較的軽く、成人になってからの手術の際や大けがをして初めて診断されることもある1)。■治療の歴史1960年代まで血友病の治療は輸血療法しかなく、十分な凝固因子の補充は不可能であった。1970年代になり、血漿から凝固因子成分を取り出したクリオ分画製剤が開発されたものの、溶解操作や液量も多く十分な因子の補充ができなかった1)。1970年代後半には血漿中の当該凝固因子を濃縮した製剤が開発され、使い勝手は一気に高まった。その陰で原料血漿中に含まれていたウイルスにより、C型肝炎(HCV)やHIV感染症などのいわゆる薬害を生む結果となった。当時、国内の血友病患者の約40%がHIVに感染し、約90%がHCVに感染した。クリオ製剤などの国内製剤は、HIV感染を免れたが、HCVは免れなかった1)。1983年にHIVが発見・同定された結果、1985年には製剤に加熱処理が施されるようになり、以後、製剤を経由してのHIV感染は皆無となった1)。HCVは1989年になってから同定され、1992年に信頼できる抗体検査が献血に導入されるようになり、以後、製剤由来のHCVの発生もなくなった1)。このように血友病治療の歴史は、輸血感染症との戦いの歴史でもあった。遺伝子組換え型製剤が主流となった現在でも、想定される感染症への対応がなされている1)。■予後血友病が発見された当時は治療法がなく、10歳までの死亡率も高かった。1970年代まで、重症型血友病患者の平均死亡年齢は18歳前後であった1,4)。その後、出血時の輸血療法、血漿投与などが行われるようになったが、十分な治療からは程遠い状態であった。続いて当該凝固因子成分を濃縮した製剤が開発されたが、非加熱ゆえに薬害を招くきっかけとなってしまった。このことは血友病患者の予後をさらに悪化させた。わが国におけるHIV感染血友病患者の死亡率は49%(平成28年時点のデータ)だが、欧米ではさらに多くの感染者が存在し、死亡率も60%を超えるところもある5)。罹患血友病患者においては、感染から30年を経過した現在、肝硬変の増加とともに肝臓がんが死亡原因の第1位となっている5)。1987年以後は、輸血感染症への対策が進んだほか、遺伝子組換え製剤の普及も進み、若い世代の血友病患者の予後は飛躍的に改善した。現在では、安全で有効な凝固因子製剤の供給が高まり、出血を予防する定期補充療法も普及し、血友病患者の予後は健常者と変わらなくなりつつある1)。2 診断乳児期に皮下出血が多いことで親が気付く場合も多いが、1~2歳前後に関節出血や筋肉出血を生じることから診断される場合が多い1)。皮膚科や小児科、時に整形外科が窓口となり出血傾向のスクリーニングが行われることが多い。臨床検査でAPTTの延長をみた場合には、男児であれば血友病の可能性も考え、確定診断については専門医に紹介して差し支えない。乳児期の紫斑は、母親が小児科で虐待を疑われるなど、いやな思いをすることも時にあるようだ。■検査と鑑別診断血友病の診断には、血液凝固時間のPTとAPTTがスクリーニングとして行われる。PT値が正常でAPTT値が延長している場合は、クロスミキシングテストとともにFVIII:CまたはFIX:Cを含む内因系凝固因子活性の測定を行う1)。FVIII:Cが単独で著明に低い場合は、血友病Aを強く疑うが、やはりFVIII:Cが低くなるフォン・ヴィレブランド病(VWD)を除外すべく、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)活性を測定しておく必要がある1)。軽症型の場合には、血友病AかVWDか鑑別が難しい場合がある。FIX:Cが単独で著明に低ければ、血友病Bと診断してよい1)。新生児期では、ビタミンK欠乏症(VKD)に注意が必要である。VKDでは第II、第VII、第IX、第X因子活性が低下しており、PTとAPTTの両者がともに延長するが、ビタミンKシロップの投与により正常化することで鑑別可能である。それでも血友病が疑われる場合にはFVIII:CやFIX:Cを測定する6)。まれではあるが、とくに家族歴や基礎疾患もなく、それまで健康に生活していた高齢者や分娩後の女性などで、突然の出血症状とともにAPTTの著明な延長と著明なFVIII:Cの低下を認める「後天性血友病A」という疾患が存在する7)。後天的にFVIIIに対する自己抗体が産生されることにより活性が阻害され、出血症状を招く。100万人に1~4人のまれな疾患であるがゆえに、しばしば診断や治療に難渋することがある7)。ベセスダ法によるFVIII:Cに対するインヒビターの存在の確認が確定診断となる。■保因者への注意事項保因者には、血友病の父親をもつ「確定保因者」と、家系内に患者がいて可能性を否定できない「推定保因者」がいる。確定保因者の場合、その女性が妊娠・出産を希望する場合には、前もって十分な対応が可能であろう。推定保因者の場合にもしかるべき時期がきたら検査をすべきであろう。保因者であっても因子活性がかなり低いことがあり、幼小児期から出血傾向を示す場合もあり、製剤の投与が必要になることもあるので注意を要する。血友病児が生まれるときに、頭蓋内出血などを来す場合がある。保因者の可能性のある女性を前もって把握しておくためにも、あらためて家族歴を患者に確認しておくことが肝要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)従来は、出血したら治療するというオンデマンド、出血時補充療法が主体であった1)。欧米では1990年代後半から、安全な凝固因子製剤の使用が可能となり、出血症状を少なくすることができる定期的な製剤の投与、定期補充療法が普及してきた1)。また、先立って1980年代には自己注射による家庭内治療が一般化されてきたこともあり、わが国でも1990年代後半から定期補充療法が幅広く普及し、その実施率は年々増加してきており、現在では約70%の患者がこれを実践している5)。定期補充療法の普及によって、出血回数は減少し、健康な関節の維持が可能となって、それまでは消極的にならざるを得なかったスポーツなども行えるようになり、血友病の疾患・治療概念は大きく変わってきた。定期補充療法の進歩によって、年間出血回数を2回程度に抑制できるようになってきたが、それぞれの因子活性の半減期(FVIIIは10~12時間、FIXは20~24時間)から血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回の投与が推奨され、かつ必要であった1)。凝固因子製剤は、静脈注射で供給されるため、実施が困難な場合もあり、患者は常に大きな負担を強いられてきたともいえる。そこで、少しでも患者の負担を減らすべく、半減期を延長させた製剤(半減期延長型製剤:EHL製剤)の開発がなされ、FVIII製剤、FIX製剤ともにそれぞれ数社から製品化された6,8)。従来の凝固因子に免疫グロブリンのFc領域ではエフラロクトコグ アルファ(商品名:イロクテイト)、エフトレノナコグ アルファ(同:オルプロリクス)、ポリエチレングリコール(PEG)ではルリオクトコグ アルファ ペゴル(同:アディノベイト)、ダモクトコグ アルファ ペゴル(同:ジビイ)、ノナコグ ベータペゴル(同:レフィキシア)、アルブミン(Alb)ではアルブトレペノナコグ アルファ(同:イデルビオン)などを修飾・融合させることで半減期の延長を可能にした6,8)。PEGについては、凝固因子タンパクに部位特異的に付加したものやランダムに付加したものがある。付加したPEGの分子そのもののサイズも20~60kDaと各社さまざまである。また、通常はヘテロダイマーとして存在するFVIIIタンパクを1本鎖として安定化をさせたロノクトコグ アルファ(同:エイフスチラ)も使用可能となった。これらにより血友病AではFVIIIの半減期が約1.5倍に延長され、週3回が週2回へ、血友病BではFIXの半減期が4~5倍延長できたことから従来の週2回から週1回あるいは2週に1回にまで注射回数を減らすことが可能となり、かつ出血なく過ごせるようになってきた6,8)。上手に製剤を使うことで標的関節の出血回避、進展予防が可能になってきたとともに年間出血回数ゼロを目指すことも可能となってきた。■個別化治療以前は<1%の重症型からそれ以上(1~2%以上の中等症型)に維持すれば、それだけでも出血回数を減らすことが可能ということで、定期補充療法のメニューが組まれてきた。しかし、製剤の利便性も向上し、EHL製剤の登場により最低レベル(トラフ値)もより高く維持することが可能となってきた6,8)。必要なトラフ値を日常生活において維持するのみならず、必要なとき、必要な時間に、患者の活動に合わせて因子活性のピークを作ることも可能になった。個々の患者のさまざまなライフスタイルや活動性に合わせて、いわゆるテーラーメイドの個別化治療が可能になりつつある。また、合併症としてのHIV感染症やHCVのみならず、高齢化に伴う高血圧、腎疾患や糖尿病などの生活習慣病など、個々の合併症によって出血リスクだけではなく血栓リスクも考えなければならない時代になってきている。ひとえに定期補充療法が浸透してきたためである。ただし、凝固因子製剤の半減期やクリアランスは、小児と成人では大きく異なり、個人差が大きいことも判明している1)。しっかりと見極めるためには個々の薬物動態(PK)試験が必要である。現在ではPopulation PKを用いて投与後2ポイントの採血と体重、年齢などをコンピュータに入力するだけで、個々の患者・患児のPKがシミュレートできる9)。これにより、個々の患者・患児の生活や出血状況に応じた、より適切な投与量や投与回数に負担をかけずに検討できるようになった。もちろん医療費という面でも費用対効果を高めた治療を個別に検討することも可能となってきている。■製剤の選択基本的には現在、市場に出ているすべての凝固因子製剤は、その効性や安全性において優劣はない。現在、製剤は従来型、EHL含めてFVIIIが9種類、FIXは7種類が使用可能である。遺伝子組換え製剤のシェアが大きくなってきているが、国内献血由来の血漿由来製剤もFVIII、FIXそれぞれにある。血漿由来製剤は、未知の感染症に対する危険性が理論的にゼロではないため、先進国では若い世代には遺伝子組換え製剤を推奨している国が多い。血漿由来製剤の中にあって、VWF含有FVIII製剤は、遺伝子組換え製剤よりインヒビター発生リスクが低かったとの報告もなされている10)。米国の専門家で構成される科学諮問委員会(MASAC)は、最初の50EDs(実投与日数)はVWF含有FVIII製剤を使用してインヒビターの発生を抑制し、その後、遺伝子組換え製剤にすることも1つの方法とした11)。ただ、初めて凝固因子製剤を使用する患児に対しては、従来の、あるいは新しい遺伝子組換え製剤を使用してもよいとした11)。どれを選択して治療を開始するかはリスクとベネフィットを比較して、患者と医療者が十分に相談したうえで選択すべきであろう。4 今後の展望■個々の治療薬の開発状況1)凝固因子製剤現在、凝固因子にFc、PEG、Albなどを修飾・融合させたEHL製剤の開発が進んでいることは既述した。同様に、さまざまな方法で半減期を延長すべく新規薬剤が開発途上である。シアル酸などを結合させて半減期を延長させる製剤、FVIIIがVWFの半減期に影響されることを利用し、Fc融合FVIIIタンパクにVWFのDドメインとXTENを融合させた製剤などの開発が行われている12)。rFVIIIFc-VWF(D’D3)-XTENのフェーズ1における臨床試験では、その半減期は37時間と報告され、血友病Aも1回/週の定期補充療法による出血抑制の可能性がみえてきている13)。2)抗体医薬これまでの血液製剤はいずれも静脈注射であることには変わりない。インスリンのように簡単に注射ができないかという期待に応えられそうな製剤も開発中である。ヒト化抗第IXa・第X因子バイスペシフィック抗体は、活性型第IX因子(FIXa)と第X因子(FX)を結合させることによりFX以下を活性化させ、FVIIIあるいはFVIIIに対するインヒビターが存在しても、それによらない出血抑制効果が期待できるヒト型モノクローナル抗体製剤(エミシズマブ)として開発されてきた。週1回の皮下注射で血友病Aのみならず血友病Aインヒビター患者においても、安全性と良好な出血抑制効果が報告された14,15)。臨床試験においても年間出血回数ゼロを示した患者の割合も数多く、皮下注射でありながら従来の静脈注射による製剤の定期補充療法と同等の出血抑制効果が示された。エミシズマブはへムライブラという商品名で、2018年5月にインヒビター保有血友病A患者に対して認可・承認され、続いて12月にはインヒビターを保有しない血友病A患者においてもその適応が拡大された。皮下注射で供給される本剤は1回/週、1回/2週さらには1回/4週の投与方法が選択可能であり、利便性は高いものと考えられる。いずれにおいても血中濃度を高めていくための導入期となる最初の4回は1回/週での投与が必要となる。この期間はまだ十分に出血抑制効果が得られる濃度まで達していない状況であるため、出血に注意が必要である。導入時には定期補充を併用しておくことも推奨されている。しかし、けっして年間出血回数がすべての患者においてゼロになるわけではないため、出血時にはFVIIIの補充は免れない。インヒビター保有血友病A患者におけるバイパス製剤の使用においても同様であるが、出血時の対応については、主治医や専門医とあらかじめ十分に相談しておくことが肝要であろう。血友病Bではその長い半減期を有するEHLの登場により1回/2週の定期補充により出血抑制が可能となってきた。製剤によっては、通常の使用量で週の半分以上をFIXが40%以上(もはや血友病でない状態「非血友病状態」)を維持可能になってきた。血友病Bにおいても皮下注射によるアプローチが期待され、開発されてきている。やはりヒト型モノクローナル抗体製剤である抗TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)抗体はTFPIを阻害し、TF(組織因子)によるトロンビン生成を誘導することで出血抑制効果が得られると考えられ、現在数社により日本を含む国際共同試験が行われている12)。抗TFPI抗体の対象は血友病AあるいはB、さらにはインヒビターあるなしを問わないのが特徴であり、皮下注射で供給される12)。また、同様に出血抑制効果が期待できるものに、肝細胞におけるAT(antithrombin:アンチトロンビン)の合成を、RNA干渉で阻害することで出血抑制を図るFitusiran(ALN-AT3)なども研究開発中である12)。3)遺伝子治療1999年に米国で、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療のヒトへの臨床試験が初めて行われた15)。以来、ex vivo、in vivoを問わずさまざまなベクターを用いての研究が行われてきた15)。近年、AAVベクターによる遺伝子治療による長期にわたっての安全性と有効性が改めて確認されてきている。FVIII遺伝子(F8)はFIX遺伝子(F9)に比較して大きいため、ベクターの選択もその難しさと扱いにくさから血友病Bに比べ、遅れていた感があった。血友病BではPadua変異を挿入したF9を用いることで、より少ないベクターの量でより副作用少なく安全かつ高効率にFIXタンパクを発現するベクターを開発し、10例ほどの患者において1年経た後も30%前後のFIX:Cを維持している16-18)。1回の静脈注射で1年にわたり、出血予防に十分以上のレベルを維持していることになる。血友病AでもAAVベクターを用いてヒトにおいて良好な結果が得られており、血友病Bの臨床開発に追い着いてきている16-18)。両者ともに海外においてフェーズ 1が終了し、フェーズ 3として国際臨床試験が準備されつつあり、2019年に国内でも導入される可能性がある。5 主たる診療科血友病の診療経験が豊富な診療施設(診療科)が近くにあれば、それに越したことはない。しかし、専門施設は大都市を除くと各県に1つあるかないかである。ネットで検索をすると血友病製剤を扱う多くのメーカーが、それぞれのホームページで全国の血友病診療を行っている医療機関を紹介している。たとえ施設が遠方であっても病診連携、病病連携により専門医の意見を聞きながら診療を進めていくことも十分可能である。日本血栓止血学会では現在、血友病診療連携委員会を立ち上げ、ネットワーク化に向けて準備中である。国内においてその拠点となる施設ならびに地域の中核となる施設が決定され、これらの施設と血友病患者を診ている小規模施設とが交流を持ち、スムーズな診療と情報共有ができるようにするのが目的である。また、血友病には患者が主体となって各地域や病院単位で患者会が設けられている。入会することで大きな安心を得ることが可能であろう。困ったときに、先輩会員に相談でき、患児の場合は同世代の親に気軽に相談することができるメリットも大きい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク(National Hemophilia Network of Japan)(血友病患者と家族の会)1)Lee CA, et al. Textbook of Hemophilia.2nd ed.USA: Wiley-Blackwell; 2010.2)Rogaev EI, et al. Science. 2009;326:817.3)Blanchette VS, et al. J Thromb Haemost. 2014;12:1935-1939.4)Franchini M, et al. J Haematol. 2010;148:522-533.5)瀧正志(監修). 血液凝固異常症全国調査 平成28年度報告書.公益財団法人エイズ予防財団;2017. 6)Nazeef M, et al. J Blood Med. 2016;7:27-38.7)Kessler CM, et al. Eur J Haematol. 2015;95:36-44.8)Collins P, et al. Haemophilia. 2016;22:487-498.9)Iorio A, et al. JMIR Res Protoc. 2016;5:e239.10)Cannavo A, et al. Blood. 2017;129:1245-1250.11)MASAC Recommendation on SIPPET. Results and Recommendations for Treatment Products for Previously Untreated Patients with Hemophilia A. MASAC Document #243. 2016.12)Lane DA. Blood. 2017;129:10-11.13)Konkle BA, et al. Blood 2018,San Diego. 2018;132(suppl 1):636(abstract).14)Shima M, et al. N Engl J Med. 2016;374:2044-2053.15)Oldenburg J, et al. N Engl J Med. 2017;377:809-818.16)Swystun LL, et al. Circ Res. 2016;118:1443-1452.17)Doshi BS, et al. Ther Adv Hematol. 2018;9:273-293.18)Monahan PE. J Thromb Haemost. 2015;1:S151-160.公開履歴初回2017年9月12日更新2019年2月12日

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第11回 風邪を予防する5ヵ条【実践型!食事指導スライド】

第11回 風邪を予防する5ヵ条医療者向けワンポイント解説風邪やインフルエンザについての流行時期や感染経路などがニュースになる時期です。食生活への意識は、これらに対する予防効果として期待できますし、体調管理にもつながります。そこで、風邪を予防するための5つのポイントをまとめました。1)喉などの粘膜を保護するためにビタミンAを摂取するビタミンAは、体内で免疫機能、視覚、生殖、細胞情報伝達に関与している栄養素です。皮膚や粘膜の保護、健康を維持する働きがあるため、ウイルスや菌の予防に対しても効果があると考えられています。ビタミンAは2種類あり、肉や魚、乳製品、卵などに含まれるレチノールなどの既成ビタミンAと、野菜や果物などに含まれるβ−カロテンなどのプロビタミンAカロテノイドがあります。多く含まれる食品として、牛乳やチーズなどの乳製品、緑黄色野菜(色の濃い野菜:ニンジン、パセリ、ほうれん草、春菊、ブロッコリー、水菜など)があります。脂溶性ビタミンなので、「油で炒める」、「ドレッシングをかける」、「肉や魚と一緒に食べる」ことで効率的な吸収が期待できます。2)免疫を高めるためにビタミンDを摂取するビタミンDは、骨を丈夫にする働き、免疫機能を調整する働きがあり、ウイルスや菌などに対して予防効果が期待されています。ビタミンDは、サケ、イワシ、サバなどの魚類、キクラゲ、干し椎茸などのキノコ類に多く含まれます。なかでも、イワシ缶やサバ缶は手軽にとれる食品です。また、キクラゲや干し椎茸を意識して料理に加えるのも良いでしょう。ビタミンDは、太陽光に含まれる紫外線を浴びることで、皮膚で生合成されるビタミンです。しかし、最近では、日焼け止めクリーム、UVカットガラスの普及に伴い、30歳以上の約半数がビタミンD不足の状態であるという報告もあります。また、冬場は日照時間も少なくなるため、食べ物からのビタミンD摂取を意識することが大切です。3)果物や葉物野菜からビタミンCを摂取するビタミンCは、コラーゲンの生成、抗酸化作用、栄養素の吸収など様々な働きがあるため、免疫力を高め、風邪予防に対しても効果が期待されます。ただし、一度に大量摂取しても、尿へ排泄されてしまいます。こまめに摂取しましょう。ビタミンCは、レモンやオレンジ、みかんなどの果物からの摂取が一般的ですが、実は野菜に多く含まれ、赤ピーマン、かいわれ大根、カリフラワー、ミニトマト、キャベツなどに豊富に含まれます。熱に弱く、水溶性ビタミンのため、生での摂取が効率的です。ただし、オレンジジュースなどの大量摂取は、ビタミンCよりも糖の摂取過多が懸念されるので、野菜からのビタミンC摂取をすすめすると良いでしょう。4)のど飴や温かい飲み物で口の乾燥を予防する冬は、室内、野外ともに乾燥していることがほとんどです。乾燥により粘膜が乾燥すると、ウイルスや菌が侵入しやすくなるため、口腔内の保湿が重要です。口の中にのど飴などを入れておくと、唾液が出て乾燥予防になります。温かい飲み物は、水分補給によりカラダ全体の乾燥を予防するだけではなく、カラダを直接温め、胃腸の動きを活性化し、代謝を高める働きが期待できます。5)肉や魚などのタンパク質を摂取して体力を増強する免疫力を高めるためには、体力の増強が大切です。肉や魚をはじめとする動物性タンパク質は、筋肉になりやすく、日常的に意識して摂取することが大切です。大豆製品などの植物性タンパク質は、脂質が少なく、食欲がないときにも摂取しやすい良質なタンパク源です。しっかりと噛んで食べることは、胃腸への負担を減らし、消化の助けになります。また、噛むことは副交感神経を刺激します。副交感神経が優位になると、リンパ球が増え、免疫力の強化も期待できます。

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第9回 意識障害 その7 AKAって知ってる?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)バイタルサイン、とくに呼吸数に着目し、重篤な病態を見逃すな!2)アルコール性ケトアシドーシスを知ろう!3)ビタミンB1は「不足しているかも?」と思った段階で忘れずに投与しよう!【症例】60歳男性の意識障害:これまた良く出会う症例60歳男性。アルコール性肝硬変、2型糖尿病、慢性腎臓病で内服治療中の方。来院前日から労作時の呼吸困難を認めた。自宅で様子をみていたが、大好きなお酒も飲むことができなくなった。病院にいこうと家を出たが、路上で嘔吐を認め、動けなくなり、目撃した通行人が救急要請。●搬送時のバイタルサイン意識3/JCS血圧132/98mmHg脈拍118回/分(整)呼吸30回/分SpO294%(RA)体温35.0℃瞳孔3/3mm+/+今回の意識障害の原因は何でしょうか。救急外来で診療していると、しばしば出会う病態です。アルコール関連の意識障害は、単純な酩酊から外傷、痙攣などなど、さまざまです。では、明らかな外傷を認めない場合、アルコール多飲患者で考えておくべき病態はどのようなものがあるでしょうか?その場で判断ができないことも多く、具体的な着眼点を追って解説していきます。頻呼吸に出会ったらこの患者さんのように、呼吸回数が上昇している患者さんをみたら、どのような病態、病気を考えるべきでしょうか。「過換気」とまず考えてしまうのは御法度です。もちろんその可能性もありますが、それよりも急を要する状態である「代謝性アシドーシスの代償」の可能性を、まずは考えましょう。ヘンダーソンの式(pH=6.1+log[HCO3−]/0.03×[PaCO2])からもわかるように、代謝性アシドーシス(HCO3−が低下)となれば、それを代償しようと(PaCO2を低下させようと)呼吸回数が上昇するのです。表の10’s Ruleでも、まずは具体的な疾患よりもABCの安定、バイタルサイン、病歴、身体所見の重要性を強調してきました。バイタルサインの中でも呼吸数は軽視されがちです。とくに意識障害患者が頻呼吸を認めた場合は、いわゆる「まずい」状態です。qSOFA(意識、呼吸、収縮期血圧の3項目)の2項目満たしているわけですからね。画像を拡大する代謝性アシドーシス?と思ったら血液ガスを確認しましょう。10’s Ruleでは「5)何が何でも低血糖の否定から!」の部分で、簡易血糖測定(デキスタ)とともに確認するとよいでしょう。その場で血液ガスが測定できれば、数分以内に確認可能ですね。血液ガスは動脈から採取する必要があるでしょうか? 具体的な酸素・二酸化炭素分圧を確認する場合には、動脈血で確認しますが、静脈血でもわかることがたくさんあります。pHやHCO3−は静脈血でも動脈血でも大きな差がないことがわかっており、静脈血で代謝性アシドーシスを認める場合には、その時点でまずいことがわかります。と同時に血糖値、カリウムなどの電解質、CO-Hb(カルボキシヘモグロビン)、MetHb(メトヘモグロビン)、そして乳酸値もわかる血液ガスは、緊急性、重症度の判断にきわめて有用な検査です。実際にこの症例では、pH7.15、HCO3−12.1mmol/L、base excess-16.6mmol/L、乳酸9.8mmol/Lと著明なアシドーシスを認めていました。血糖値は100mg/dL、電解質異常は認めませんでした。原因は何でしょうか? どのように対応するべきでしょうか?乳酸アシドーシスに出会ったら乳酸が上昇していたら焦りましょう。正常値は2mmol/L(18mg/dL)以下です。4mmol/L(36mg/dL)以上を一般的に上昇と捉え、その場合には必ず原因を考えましょう。乳酸アシドーシスの鑑別は、「(1)ショック、(2)腸管虚血、(3)けいれん、(4)ビタミンB1欠乏、(5)薬剤、(6)その他」と覚えておきましょう1)。とくに本症例のような、アルコール関連疾患が想起される場合には、必ずビタミンB1欠乏を鑑別の上位に挙げ、対応する必要があります。ビタミンB1欠乏の症状と対応ビタミンB1の欠乏というとウェルニッケ脳症や末梢神経障害が有名ですが、その他に乳酸アシドーシス、脚気心(高拍出性心不全:wet beriberi)も重要です。原因がよくわからない乳酸アシドーシスや心不全では、ビタミンB1の欠乏を意識して対応する癖を持つとよいと思います。ビタミンB1は即結果が出るわけではなく、その場で欠乏の有無を判断することはできませんが、安価で副作用もほとんどないため、「必要かな?」と思ったら投与しましょう。欠乏のリスクが少しでもあると判断した段階でビタミンB1は100mg静注、アルコール多飲や妊娠悪阻、担がん患者などで寝たきり・低栄養状態でリスクが高いと判断した場合には200mgは静注しましょう。また、ウェルニッケ脳症の可能性があると判断した場合には、初回500mgの投与(1,500mg/日)が推奨されています。(意識障害 その3参照)本症例では、心機能評価目的にエコーを行うと、心収縮力の低下を認めました。乳酸アシドーシス、心機能低下からビタミンB1の欠乏が考えられます。DKAだけでなくAKAも覚えておこう!DKAは糖尿病ケトアシドーシス(diabetic ketoacidosis)として有名ですが、AKAはご存じでしょうか? アルコール性ケトアシドーシス(alcoholic ketoacidosis:AKA)です。アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスをみたら鑑別に挙げ、患者が慢性アルコール依存患者(アルコール多飲者)であった場合には、積極的に鑑別に挙げ介入する必要があります。「体調が悪く、お酒すら飲むことができなくなった」という病歴が「らしい」ことを示唆しています。ただ、AKAの確定診断をその場で行うことは難しく、疑い症例に対して介入し、その後の経過やβ-ヒドロキシ酪酸などのケトン体分画の結果で診断します。初療において重要なことは、AKAの治療として細胞外液・ビタミンB1の投与、血糖が低めの場合にはブドウ糖の投与を行い、それとともにAKA以外のアシドーシスの原因となりうる病態がないかを検索することです。急性膵炎、消化管出血はAKA同様にアルコール関連疾患として頻度も高く、合併していることもあります。また、アルコール離脱によって痙攣し、乳酸値が上昇することもあります。いろいろと考えることがあるのです。アルコール?と思ったら病歴や既往から、意識障害の原因としてアルコールの影響を考えた場合には、具体的にどうするべきでしょうか?いつ何時でもABCの安定が大切であるため、原因をアルコールによる酩酊とは決めつけず、バイタルサインや血液ガス所見から重症度を判断し、対応します。●Rule8 電解質異常、アルコール、肝性脳症、薬物、精神疾患による意識障害は除外診断!アシドーシスや低血糖を伴う場合には、迷わず検体採取後に速やかにビタミンB1を静注し、細胞外液を投与しつつ全身管理を行いながら、鑑別を進めます。本症例では、初療時には敗血症、AKA、ビタミンB1欠乏などを考え対応しました。集中治療を要しましたが、数日後には状態は改善しました。後日判明したビタミンB1値は著明に低下していました。確定診断することは大切です。しかし、初療時にすべてが判明するわけではありません。疑い、そして否定できなければ、あるものとして対応することが必要な場合もあるのです。“AIUEOTIPS”の“S”にSupplementを追加し、ビタミン欠乏を見逃さないように心掛けましょう!(意識障害 その2参照)次回は、「AIUEOTIPS」の活用法を学びましょう。1)Kraut JA,et al. N Engl J Med. 2014;371:2309-2319.

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