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第68回 ゴールを守るか、頭を守るか。W杯でも活躍するサッカー選手の「その後」が教えてくれること

サッカーワールドカップがアメリカで開幕し、こちらニューヨークでも街のあちこちで歓声が上がっています。選手たちの華麗なプレーに見とれながら、医師という立場からはこんなことにも気が向いてしまいます。ピッチの上で輝いた選手たちは、その後の人生を健康に過ごせているのだろうか。実は近年、この問いに真正面から答えようとした大規模な研究が複数発表され、少し意外な、そして考えさせられる結果が明らかになっています。まず朗報から。選手はむしろ「長生き」だったまず、最初にお伝えしたいのは、明るいニュースです。英国スコットランドの元プロサッカー選手7,676人を、年齢や社会的背景をそろえた一般の人2万3,028人と比べた研究では、選手たちは70歳になるまでの死亡率がむしろ低い、という結果が出ています1)。とくに「虚血性心疾患」で亡くなるリスクは2割ほど低く、肺がんによる死亡に至っては約半分でした。若い頃から体を鍛え、走り続けてきた人生が、心臓や血管を守ってくれたのでしょう。運動が健康に良いという、私たちがよく知る事実はここでも裏付けられたわけです。ところが、認知症などの脳の病気に目を向けると、風向きが変わります。同じ研究で、神経変性疾患が主な死因となった人の割合は、一般の人が0.5%だったのに対し、元選手では1.7%。統計的に調整すると、そのリスクはおよそ3.5倍に上りました。病気の種類ごとに見ると差はさらにはっきりし、アルツハイマー病では約5倍、パーキンソン病でも約2倍でした。認知症の治療薬が処方される頻度も、元選手では約5倍多かったのです。長生きした先で、脳という別の臓器が思わぬ代償を払っていた。そう読み取れる結果でした。興味深いのは「守備位置による差」ではなぜ、脳にだけこうした影響が出るのでしょうか。ここで多くの方が「なるほど」と膝を打つのが、続いて発表された研究です。同じ選手たちをポジションごとに分けて調べたところ、神経変性疾患のリスクはポジションによってはっきり異なっていました2)。最もリスクが高かったのはディフェンダーで一般の人の約5倍、ミッドフィルダーが約4.6倍と続き、フォワードは約2.8倍でした。一方で、ゴールキーパーはわずか約1.8倍にとどまり、統計的には一般の人と差があるとは言い切れないレベルだったのです。この違いを説明する最有力の候補が「ヘディング」です。ボールを頭で受ける回数は、フィールドを走り回る選手ほど多く、ゴールキーパーではごくまれです。実際、プロとしての現役期間が15年を超える選手では、リスクが約5倍まで高まっていました。つまり、頭部への衝撃を繰り返し受けた「量」がカギを握っている可能性があるのです。ボールを頭で受けるか、それとも手でキャッチするか。その差が、何十年も先の脳の健康につながっているのかもしれません。私たちがここから学べること誤解しないでいただきたいのは、これは「サッカーは危険だからやめましょう」という話では決してない、ということです。運動がもたらす心臓や血管への恩恵は本物ですし、これらはあくまでトップレベルで長年プレーした選手を対象にした観察研究で、原因を確定できたわけでもありません。それでも、こうしたエビデンスを考えると、選手たちの繰り返す頭部への衝撃を減らす工夫(たとえば育成年代でのヘディング制限など)には、十分な意味がありそうです。1)Mackay DF, et al. Neurodegenerative disease mortality among former professional soccer players. N Engl J Med. 2019;381:1801-1808.2)Russell ER, et al. Association of field position and career length with risk of neurodegenerative disease in male former professional soccer players. JAMA Neurol. 2021;78:1057-1063.

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prasinezumabはパーキンソン病の運動症状悪化の抑制に有効か?(解説:内山真一郎氏)

 prasinezumabはPASADENA試験により、未治療やMAO-B阻害薬の治療を受けている初期のパーキンソン病患者において運動症状の進行を遅くする効果を有する可能性が示されている。PADOVA試験は、安定的な維持療法を受けている、より幅広いパーキンソン病患者においてprasinezumabの有効性と安全性を検討した第II相試験であった。 1次評価項目は運動症状がMDS-UPDRS Part III off-medication scoreで5点以上増加するまでの時間であったが、1次エンドポイントはprasinezumab群とプラセボ群で有意差はなかったものの、運動症状の進行はprasinezumab群で遅くなる傾向が認められた(ハザード比:0.84、95%信頼区間:0.69~1.01、p=0.066)。サブグループ解析では、L-ドーパ投与例では両群の差は有意であり、MAO-B阻害薬投与例では有意ではなかった。また、付随研究として行われたMRIの解析により、prasinezumab群ではプラセボ群と比べて黒質の変性と基底核の鉄沈着が少なかったことが示された。これらの結果を併せて考えると、凝集したαシヌクレインのC末端を標的とした治療は期待できそうであり、第III相試験(PARAISO)の結果が注目される。

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パーキンソン病へのiPS細胞由来「ラグネプロセル」薬価収載、最適使用推進ガイドライン発出

 パーキンソン病に対する再生医療等製品「ラグネプロセル(商品名:アムシェプリ)」について、住友ファーマが日本における製造販売承認(条件及び期限付承認)を2026年3月6日に取得し、5月20日に薬価収載された。本品の使用に当たっては、厚生労働省より5月19日に「最適使用推進ガイドライン」が発出された。 ラグネプロセルは、世界初となる日本発のiPS細胞由来製品で、京都大学iPS細胞研究財団が提供するiPS細胞ストックを原材料とした、「非自己(他家)iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」を有効成分とする再生医療等製品に分類される。本品の効能、効果又は性能として、レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善とされている。本品は1回当たりの薬価が5,530万6,737円となるが、公的医療保険の対象となり、高額療養費制度や難病医療費助成制度も適用される。製造販売後のスケジュールと流通 ラグネプロセルは「条件及び期限付承認」の品目であり、製造販売後承認条件評価として製造販売後臨床試験(第IV相試験)および使用成績調査の実施が義務付けられている。住友ファーマの3月6日付のリリースによると、2026~29年頃までは、第IV相試験に参加する患者のみが移植対象となる。登録患者数は計35例(18歳以上65歳以下が30例、30例の移植完了後に65歳超が5例)を予定しており、実施施設は選定中の7施設となる見込みである。第IV相試験の終了後にあらためて申請を行い、本承認を取得した後に施設や対象患者の範囲が拡大される見込みとなっている。移植対象となる患者の選択基準 「最適使用推進ガイドライン」に定められた患者選択における主な適格基準は以下のとおり。・パーキンソン病と診断され、罹病期間が5年以上の者。・既存の薬物療法ではパーキンソン病の運動症状のコントロールが十分に得られていない者。・MDS-UPDRS Part III及び/又は症状日誌からオンとオフの状態を有する者。・オフ時のH&Y重症度分類が2度以上の者。・オン時のH&Y重症度分類が3度以下の者。・抗パーキンソン病薬休薬時(practically defined off)のレボドパ反応性が30%以上である者。 なお、臨床試験において70歳超の患者への移植経験がないことなどから、70歳超の患者への移植については有益性と危険性をより慎重に評価した上で判断することが求められている。ガイドラインに基づく施設要件 本品は定位脳手術による局所投与を行うため、以下の厳格な施設要件が規定されている。・対象施設:特定機能病院、大学附属病院(脳神経外科に係る診療科を有する場合に限る)、日本脳神経外科学会の基幹・連携施設、若しくは日本定位・機能神経外科学会の認定施設。・人員配置:適切な患者選択および術後管理が実施できる日本脳神経外科学会認定専門医、および日本神経学会認定神経内科専門医がそれぞれ1名以上配置されていること。また、随伴する免疫抑制療法(タクロリムス)に関連する有害事象発現時に適切に対応できる医師が配置されていること。・診療体制:重篤な不具合・副作用が発生した際に、24時間診療体制の下、当該施設または連携施設において当日中に入院管理および必要な検査結果が得られ、直ちに対応可能であること。・検査体制:自施設または連携施設で[18F]FDOPA PET検査の実施体制を有し、かつオフ時のMDS-UPDRSスコアを評価できること。有効性および安全性の評価 承認の根拠となった第II相試験の非盲検非対照国内試験(IACT16049-01試験)(有効性解析対象集団6例)における、移植後24ヵ月時の主な成績は以下のとおり。・有効性について、オフ時でのMDS-UPDRS Part III合計スコアのベースラインからの平均変化量は-9.5±13.8であり、6例中4例で著効(5点以上の改善)と判断された。また、6例全例で移植後12ヵ月および24ヵ月時点で被殻への細胞生着が確認された。・安全性について、本品の副作用発現割合は14.3%(1/7例)であった。タクロリムスの副作用発現割合は42.9%(3/7例)であり、2例以上に認められた副作用は軽度の腎機能障害(2例)であった。左右それぞれで3cm3を超える脳内の移植片の増大は全例で認められなかった。 ただし、本品はiPS細胞由来の製品であり、移植片の増大や腫瘍形成の理論的リスクを完全には否定できないため、投与後は定期的なMRI観察(移植翌日、12週、6ヵ月、12ヵ月、16ヵ月、18ヵ月、24ヵ月、その後は定期的に実施)を行うことが留意事項として挙げられている。【製品概要】商品名:アムシェプリ(18瓶1組)一般名:ラグネプロセル対象となる効能、効果又は性能:レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善薬価:55,306,737円対象となる用法及び用量又は使用方法・本品の移植 通常、成人には、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞として片側あたり5.4×106個を目標として、定位脳手術により、両側の被殻に移植する。頭蓋骨の小孔1箇所を通る3つの投与経路から、1投与経路あたり約1.8×106個を1〜2mm間隔で6〜9箇所に分けて移植する。注入速度は約0.1μL/秒とする。・本品に対する免疫反応の抑制を目的とした本品移植前後のタクロリムス水和物の投与方法 通常、初期にはタクロリムスとして1回0.03~0.15mg/kgを1日2回、移植日の朝から経口投与する。以後、目標血中トラフ濃度を5~10ng/mLとし、血中トラフ濃度をモニタリングしながら投与量を調節する。 拒絶反応が認められた場合は、目標血中トラフ濃度を10~20ng/mLとする。 投与開始後1年を目安に、以後12週間かけて漸減し投与を中止するが、必要に応じて投与期間を延長する。製造販売業者:住友ファーマ株式会社

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高齢者認知症の2割に「ADとDLB併存」、見極めのポイントは?【外来で役立つ!認知症Topics】第42回

新規個別指導での「痛いところを突く」一言新規開業した院長なら誰もがビクビクと気になるものに「新規指定の個別指導」がある。これは保険医療機関として新たに指定を受けた後、保険診療や診療報酬請求が適切に行われているか否かを確認するための指導だ。筆者の場合、長く印象に残る指導者の一言があった。「診療録の診断名に、アルツハイマー病(AD)疑いとレビー小体型認知症(DLB)疑いと2つあるけど、今でも鑑別できないんですか? 長年認知症の医療をやっているんでしょう?」当初「うーん?」と思ったが、「ああそうか、普通の内科医には、両者の微妙な関係は知られていないんだ」と気付いた。とはいえ、筆者も実は鑑別が難しいとわかったのは、てっきりADと思っていたケースに幻視や寝ぼけ、そしてパーキンソン症候などが加わって「ありゃ! DLBだったよ、見誤った」と内心忸怩の思いを抱く、といった体験を重ねた末のことである。このような経験は、認知症の臨床に携わってきた人であれば、ときにあるのではないだろうか。ADとDLBの「併存」は決して珍しくないこの両者の併存に関するレビューを読んだので、今回はその概要を紹介しよう。「α-シヌクレインシード増幅アッセイ」は、DLBやパーキンソン病(PD)の革新的な診断法として知られる。これを用いて診断した研究報告を、このレビューが総括している1)。疫学的には、認知機能障害のある高齢者の20~25%で、また障害のない高齢者でも8%に両者の共存が見られるとされる。症状では、両者が併存すると、単独の例に比べて認知機能低下の速度が速く、記憶のみならず、注意や遂行機能という前頭葉機能、さらに視空間機能や運動機能まで広範に悪化しやすいと述べている。「知れば知るほどわかってくる」多様な臨床スペクトラムもっとも、病理が併存する症例の臨床症状のスペクトラムは広い。経験的にも、典型的なADと典型的なDLBの混合したような形態になることもある。しかし、早期からの記憶障害、また言語や視空間の機能障害も目立つ「AD寄り」のケースもある。こうした症状は一般的なDLBやPDでは初期からあまり出ない。逆に「DLB寄り」ケースの症状としては、症状の変動、幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害などが比較的初期から見られる。画像を拡大するしかし注意すべきは、初期からこれらがすべてそろっていることはまれだということだ。よく診ると、「どれか1つか2つかをはらんでいるな」というレベルが多いと思う。DLBの最初の報告者である故・小阪 憲司先生がよく「知れば知るほどわかってくるDLB」とおっしゃっていたが、以上のような広いスペクトラムを指しておられたのだろう。3つの異常蛋白が絡み合うメカニズムと新たな治験さて、こうしたAD+DLBの症例に既存の抗アミロイドβ抗体薬を投与する治験が始まると聞いた。患者数の多さからいっても重要なのだが、病気のメカニズムに迫る視点からも興味深い。というのは、アミロイドβとタウ、α-シヌクレインと3つある異常蛋白のうち、「アミロイドβを叩けば、その分、症状の悪化が抑えられるのだろうか?」あるいは「3者が影響し合って相乗的な効果がもたらされるのだろうか?」という意味である。ADならアミロイドβとタウ、DLBではα-シヌクレインと、主要な異常蛋白は異なっても、共通する点はシナプス障害やネットワークレベルの異常である。ADではアミロイドβとタウの蓄積が進行するに伴ってシナプス機能の障害が拡大していくとされる。DLBではα-シヌクレインからなるレビー小体、レビー神経突起と、その前段階とされるオリゴマーが神経ネットワークを障害する。画像を拡大する既述したように、併存例では単独例よりも認知機能の低下速度が速いとされる。その背景について、病理学的観点からは、AD+DLB例ではアミロイドβ、タウ、α-シヌクレインが互いに影響し合って、シナプスレベルあるいは神経回路レベルでの障害が増幅するのではないかと言われている。連鎖する「ドミノ倒し」をどう防ぐかADの悪役アミロイドβだが、その生理的機能として、神経の成長と修復に欠かせない役割を果たしている。また、本来タウは軸索にあって物質輸送に重要な微小管の安定性を調節している。一方でDLBのα-シヌクレインは生理的に、神経終末において神経伝達物質の放出の制御に関わっていると考えられている。ところが、過剰なα-シヌクレインはGSK3βを介してタウのリン酸化を促進する。さらに神経終末の過剰なα-シヌクレインはexocytosis(開口放出)によってシナプス間隙に放出され、後シナプスに取り込まれる。するとドミノ倒しのように神経細胞への障害が連鎖していくと考えられている。今回の治験によって、こうした仮説の是非、新たな創薬の端緒や方向性などが見つかるのではないかと期待される。臨床での気付き:ADと思ってもDLBを頭の片隅に終わりに、このような合併例への気付きを述べる。とくに第一印象で「ADかな?」と思った例でも、DLBも頭の片隅に置くことが大切だろう。上記したような症状の特徴(幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害、症状の変動)がまずポイントになる。また脳画像では、PETやSPECTでの帯状回島兆候(cingulate island sign:CIS)が重要である。ADでは周囲と比較して、後部帯状回から楔前部・楔部の循環・代謝が低下しやすいが、DLBでは比較的保たれるため、それを反映するCIS値は鑑別上役立つ。さらに大脳MRIにおける脳幹背側の萎縮も大切だ。これら2つは、通常、読影レポートにも記載されている。 1) Baiardi S, et al. In vivo detection of Alzheimer's and Lewy body disease concurrence: Clinical implications and future perspectives. Alzheimers Dement. 2024;20: 5757–5770.

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早期パーキンソン病へのprasinezumab、レボドパ併用で進行遅延の可能性/Lancet

 安定した対症療法を受けている早期段階のパーキンソン病患者の治療において、prasinezumab(αシヌクレイン凝集体のC末端に結合するヒト化モノクローナル抗体)を追加しても運動症状の進行の有意な遅延をもたらさないが、探索的解析の結果などから有望な疾患修飾治療となる可能性が示唆されることが、スイス・F. Hoffmann-La RocheのTania Nikolcheva氏らが実施した「PADOVA試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2026年5月30日号で報告された。9ヵ国の第IIb相無作為化プラセボ対照比較試験 PADOVA試験は、欧州と北米の9ヵ国110施設で実施した第IIb相二重盲検無作為化プラセボ対照比較優越性試験(F. Hoffmann-La Rocheの助成を受けた)。2021年5月~2023年3月に、年齢50~85歳、パーキンソン病の診断後3ヵ月~3年が経過し、Hoehn-Yahr重症度分類の1または2度で、レボドパまたはMAO-B阻害薬による対症療法(単剤)を3ヵ月以上受けている患者586例(平均年齢64.2[SD 7.3]歳、女性214例[37%])を登録した。 被験者を、対症療法に加え、prasinezumab(1,500mg、4週ごと)を静脈内投与する群(293例)またはプラセボ群(293例)に無作為に割り付け、76週間以上投与した。 主要エンドポイントは、確認された運動症状の進行イベントまでの期間(運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度[MDS-UPDRS]パートIIIによる休薬時スコアの5点以上の上昇)とし、最大の解析対象集団で評価した。主要エンドポイントは達成されず、安全性/忍容性プロファイルは良好 550例(prasinezumab群277例、プラセボ群273例)が二重盲検下の治療を完了した。ベースラインで586例中435例(74%)がレボドパ、151例(26%)はMAO-B阻害薬の投与を受けていた。 主要エンドポイントは達成されなかった。主解析では、プラセボ群との比較において、prasinezumab群で運動症状の進行の遅延は認めなかった(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.69~1.01、p=0.066)。 また、prasinezumab群における確認された運動症状の進行までの期間中央値は61.1週間(95%CI:52.3~71.9)であったのに対し、プラセボ群は49.7週間(95%CI:40.1~58.1)であった。 一方、事前に規定された探索的解析では、レボドパによる対症療法を受けているサブグループにおいて、prasinezumab群で運動症状の進行の遅延がみられた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、名目上のp=0.044)。 prasinezumab群の安全性および忍容性プロファイルは良好であった。最も頻度の高い有害事象(器官別大分類[SOC])は、感染症/寄生生物(prasinezumab群58%[169/292例]、プラセボ群54%[157/290例])だった。 1件以上の重篤な有害事象の発生率は両群で同程度であった(prasinezumab群12%[34/292例]、プラセボ群12%[34/290例])。prasinezumab群で2例が重篤な有害事象(急性心筋梗塞1例、心内膜炎1例)により投与中止に至り、このうち心内膜炎はprasinezumab関連と判定された。試験期間中に3例が死亡したが、いずれも試験薬とは関連がなかった(prasinezumab群1例[<1%]、プラセボ群2例[1%])。 著者は、「主要エンドポイントは達成されなかったものの、本試験のエビデンスからは、prasinezumabを効果的な対症療法と併用することで、早期パーキンソン病患者において進行を遅らせる可能性があることが示唆される」「第III相試験(PARAISO)におけるprasinezumabの継続的な検討が正当化される」としている。

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レビー小体型認知症の発症率は考えられているよりも高い可能性

 米CNN創業者テッド・ターナー(Ted Turner)氏の命を奪った進行性の脳疾患であるレビー小体型認知症(DLB)の発症率は10万人年当たり約4.8例と、これまで考えられていたよりも高い可能性が、新たなエビデンスレビューで示唆された。この発症率は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、一部の認知症や非定型パーキンソン症候群(非定型パーキンソニズム)などのより広く知られている神経変性疾患の発症率よりも高いという。バーリ大学(イタリア)のDaniele Urso氏らによるこの研究結果は、「JAMA Neurology」に5月11日掲載された。Urso氏らは、「DLBは、主に高齢になってから発症する認知症であり、他のいくつかの比較的まれな神経変性疾患よりも発症頻度が高い」と結論付けている。 米国立衛生研究所(NIH)によると、DLBの発症には、脳内でタンパク質のα-シヌクレインが異常に蓄積することが関与していると考えられている。この異常な蓄積物はレビー小体と呼ばれ、脳内の神経伝達を障害し、思考、運動、行動、気分などにさまざまな症状を引き起こす。DLB自体はよく知られた疾患ではあるものの、研究グループによると、その世界的な発症率や有病率を評価した研究は、これまで実施されていないという。 今回のレビューでは、2024年10月までに発表された、一般住民を対象にDLBの発症率や有病率を調査した研究を選定し、12件の研究データを統合してメタアナリシスを実施した。その結果、DLBの発症率は10万人年当たり4.79例であることが明らかになった。研究グループによると、前頭側頭型認知症の発症率は10万人年当たり約2.3例、ALSは約1.6例、非定型パーキンソニズムは0.3〜0.8例程度であるとされている。 また、解析対象を65歳以上に限定すると、発症率は10万人年当たり46.85例となり、高齢になるほど発症率が急増することが示唆された。性別ごとに検討すると、男性の方が女性よりも発症率が高かった(5.45例対4.32例)。全年齢での有病率を報告した研究は1件のみで、10万人当たり19.13例であった。 こうした結果から研究グループは、DLBが臨床的に診断される症例は少なく、これは診断漏れや診断感度の低さを反映していると考えられると結論付けている。その上で、「標準化された診断方法と専門的な評価への公平なアクセスを確立して、過少診断や誤診を減らす必要性が浮き彫りになった」と述べている。 この研究について、米ノースウェル・ヘルス傘下ファインスタイン医学研究所のJeremy Koppel氏は、「この研究は、DLBの発症率や有病率がこれまで考えられていた以上に高く、前頭側頭型認知症よりも一般的である可能性を示している」とコメントしている。同氏はまた、「少なくとも、ターナー氏の死をきっかけに、特に認知機能障害と精神症状が混在する患者を診察する医師の間で、DLBへの認識が高まることを願っている。正確な診断は極めて重要だ」と話している。 Koppel氏によると、DLBの特徴的な点は、多くの精神症状を伴うことだという。同氏は、「DLBの中核症状の一つに、実際には存在しないものが見える“幻視”がある。また、意識レベルが劇的に変動することも珍しくない。認知機能障害がまだ目立たない段階では、急性の精神病状態や精神疾患のように見えることもある。しかし最終的には、重度の認知障害へと進行していく」と説明する。 さらに、DLB患者は、他の認知症患者によく使われる薬に対して異なる反応を示すことがあるという。Koppel氏は、「DLB患者は、抗精神病薬に対して重篤な副作用を示すことがある。そのため、DLB患者に薬を投与する際には、細心の注意が必要だ」と述べている。

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パーキンソン病患者を支援する遠隔診療への期待/アボット

 アボットは、2025年7月に発売したパーキンソン病(PD)などの治療に使用される脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)の治療機器、充電式脳深部刺激システム「Liberta RC DBSシステム」が、2026(令和8)年の診療報酬改定で「遠隔プログラミング」として新たに算定が追加されたことに寄せ、都内でPDの診療に関するメディアセミナーを開催した。 DBSはジスキネジア(自分の意思に反する身体の動き)などにより日常生活に支障がある患者に対し、前胸部の皮下に植え込んだ刺激装置から脳深部に電気刺激を与えることで、異常な神経信号を中断し、運動症状の改善を図る治療法。DBSの認定医は脳神経外科医の約3%程度であり、普及が進まず、遠方などの患者の通院負荷などが課題とされていた。今回のDBSの遠隔プログラミングに対する診療報酬算定追加を機に、DBSへのアクセス向上が期待される。 セミナーでは、「パーキンソン病治療の新たなフェーズ:令和8年診療報酬改定で変わる脳深部刺激療法」をテーマに、PDの診療の概要、DBS遠隔プログラミングが今後のPDの治療へもたらすメリットや臨床での使用知見、患者にもたらされる恩恵などが講演された。パーキンソン病の治療での課題は克服できるか 「失われた動きを取り戻す治療を目指して:パーキンソン病と向き合う最新テクノロジー」をテーマに服部 信孝氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 特任教授)が、PDの病態と診療の現状を講演した。 PDは、国際パーキンソン病・運動障害学会(MDS)の診断基準により診断される。絶対条件としては、「パーキソニズムがある」ことであり、支持基準として「ドパミン補充療法が有効」「レボドパ誘発性ジスキネジア」「静止時振戦」「嗅覚障害とMIBG心筋シンチ異常」の中で2つ満たすと確定診断となる。 患者数は増加しており、とくに加齢はPDのリスク因子の1つであり、加齢とともに患者数は増えていく。2015年時点で世界には690万人の患者がいるが、2040年には1,400万人になると予測されている。 PDの症状は、うつ、認知症、睡眠障害、パーキソニズム、嗅覚障害、自律神経障害、便秘など多岐にわたり、脳だけの疾患ではなく、全身疾患であると認識される。 PDの治療では、ドパミン補充療法、ドパミンアゴニスト、ドパミン放出促進薬などさまざまな治療薬がある。多くの治療薬が使える一方で、 Lドパ製剤では、大量に内服するとジスキネジアの出現、進行すると効果の時間が短くなるウェアリング・オフが課題となってくる。 また、薬物療法以外では、DBSの手術、神経栄養因子補充療法、リハビリテーション療法などもある。DBSでは、ジスキネジアをターゲットとする淡蒼球内節と薬物量減量をターゲットとする視床下核(STN)への手術がある。とくにSTNへのDBSが多く施行され、10年生存率は77%と高く、その長期治療成果が報告されている1)。 こうした手術の適応要件としては、PDと診断されていること、レボドパ反応が良好であること、適切かつ十分な内服治療を行っても、ジスキネジアやウェアリング・オフなど日内変動が大きいこと、患者本人や介護者がデバイス操作に精通できること、各治療の外科的禁忌事項(脳病変、胃瘻増設が可能かどうかなど)がないことが条件とされる。 今後の治療法では、2026年中盤以降に条件及び期限付承認でiPS治療が開始される。これは、iPS細胞をドーパミン放出神経細胞に変化させ、患者の脳に注射。ドーパミン分泌が増えて症状が改善することを目指す治療である。 おわりに服部氏は「iPS治療で治療薬不要の患者も出てくる。その一方でDBSでも治療薬不要の人もいるので、どちらが適切か、その見極めが今後重要となる」と語り、講演を終えた。患者と医師をつなぐDBSの遠隔プログラミングの有用性 「脳深部刺激療法の重要性」をテーマに波田野 琢氏(順天堂大学附属順天堂医院 脳神経内科 主任教授)が、薬物療法の限界とDBS導入のポイントを講演した。 先の服部氏の講演内容をたどりつつ、PDの治療の中心はLドパ製剤であり、患者からの薬剤の効果の話題ではLドパ製剤であることが多いという。Lドパ製剤は、PDの症状改善や生命予後の延長など恩恵もある一方で、患者の日内変動で予測不能なオフ、突然のオフ、無効化、投与終末リバウンド、オン・オフ現象など治療には限界があることが知られている。 こうした課題に対しDBSがあり、“INTREPID Study”によると登録されたPD患者313例のうち、196例がDBSを受け、191例がランダムに割り付けられた。中間解析に含まれた160例のうち、121例がアクティブ群に、39例がコントロール群に割り付けられ、盲検期間3ヵ月(その後全例open-labelへ)の観察を行った。その結果、DBSは難しいジスキネジアのないオン時間を延長することが判明した2)。 しかし、DBSの普及は進んでいないと波田野氏は現状を指摘する。その理由として適応となる運動機能障害の患者数、患者家族の有無、専門の医療機関の数・地域差・専門医の数など課題があるという。こうした課題、とくに専門医や医療機関の地域偏在などの差を埋めるものとして、遠隔プログラミングによる患者フォローが期待されている。 遠隔診療による自験例として、手術後遠隔診療をした38例についてアンケート調査を行ったところ、患者の回答として「病院へ行く負担が減った」「費用が節約できた」「医師とのコミュニケーションが増えた」という声があった。また、医師の回答として「患者とのコミュニケーションが増えた」「患者の不安を取り除けた」など双方によい結果だった3)。 同時に進行期PD患者のQOLを上げるためには、かかりつけの専門医、専門の看護師、薬剤師、理学療法士を巻き込んだ専門的なチーム治療が必要だと提言を行った。おわりに波田野氏は、「こうした遠隔診療が導入されることで、1人でも多くの患者の治療障壁が取り除かれることに期待したい」と抱負を述べ、講演を終えた。PDへの遠隔プログラムの期待 「DBS 遠隔プログラミングの実際」をテーマに梅村 淳氏(順天堂大学附属順天堂医院 脳神経外科運動障害疾患病態研究・治療講座 教授)が、遠隔プログラミングの実際や見えてきた課題について講演した。 PDにおけるDBSは、脳への電気刺激により神経回路の機能を調整してパーキンソン症状を改善させることにある。最初に外科手術を行い、術後は薬物療法とともに相補的に使用される。DBSでは症状に合わせて刺激の調整を行うことで症状を緩和する。その際に電気の強弱を合わせることを「プログラミング」といい、電極の左右で調整を変えることができる。 近年では遠隔プログラミングができるDBSデバイスも登場し、遠隔プログラミングでは、患者とビデオチャットができるスマホやタブレット端末を通じて、患者と医師が会話しながら調整する。 実際、DBSを受けたPD患者を対象とした無作為化多施設共同試験では、遠隔プログラミングは院内プログラミング(対面)のみの場合と比較し、臨床的改善までの期間を有意に短縮し、有害事象もないことが報告されている4)。 遠隔プログラミングは以前、医師のボランティアで行われていたが、今回の診療報酬改定で保険点数がついたことで拡大することが期待されている。その一方で、現状の課題として遠隔診療では神経学的診察に限界があること、通信環境やデバイスの操作能力の差があること、緊急時の対応、適応患者の選定などがあると梅村氏は指摘する。 また、梅村氏は、遠隔プログラミングの将来的な期待として以下の7項目を掲げる。1)通院負担の軽減とアクセス改善2)患者ごとの生活状況に合わせた柔軟な調整3)専門医療の地域格差の是正4)緊急時・副作用発現時の迅速な対応5)家族・介護者を含めた治療参加の促進6)医療資源の効率化7)将来的な「在宅型・個別化DBS管理」への発展 最後に梅村氏は、「DBS管理によりPDの治療は継続的に個別化・患者中心型に変わっていく可能性がある」と展望を語り、講演を終えた。

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ライフスタイル関連の認知症危険因子――Lancetの14の危険因子を読み解く(その4)【外来で役立つ!認知症Topics】第41回

前回は、病理の進行を直接抑える「表街道」と、脳の予備能を高める「援護射撃」という視点で各因子を紐解いてきた。「Lancetの14の危険因子を読み解く」シリーズの完結編となる今回は、日常の選択が脳の未来を左右する6つの因子を整理する。脳の「炎症」を助長する因子今回取り上げる6つの因子のうち、肥満、喫煙、過度な飲酒、そして大気汚染の4つは、主に神経炎症や酸化ストレスを介して認知症の悪化を加速させる危険因子である。肥満:伝統的な食事で予防中年期の肥満は、認知症のリスクを最大3倍も増加させる。肥満の原因は、高カロリーやジャンクフードといった不適切な食生活、運動不足、睡眠不足、慢性ストレスなどである。脳への悪影響のメカニズムとして、運動不足やストレスに加え、睡眠時無呼吸症候群に伴う低酸素刺激、さらにはミクログリア炎症などの脳内炎症との関連も注目されている。計画的な体重減少は認知機能を改善させる。減量には食事や運動が基本だが、最近ではセマグルチドなど、いわゆる「痩せ薬」の有用性も注目されている。ただし、筋肉喪失と骨の脆弱化を防ぐために、年間3~4kg程度の緩やかな体重減少に留めるのが望ましい。ここで興味深いデータがある。先進諸国の肥満率を比較すると、アメリカが42.9%と最高であるのに対し、日本は最低の4.9%というものである1)。その背景には、伝統的な食生活と活動的なライフスタイルが指摘されている。前者は、日本食が地中海食と同様に生活習慣病予防食である事と関連するだろう。後者については勤勉を尊ぶ日本人の伝統的な価値観が関わっているのかもしれない。喫煙:禁煙5年でリスクをリセット今現在の喫煙者は非喫煙者に比べて、認知症リスクが30~50%高い。やはり喫煙は「やめるしかない」のである。以前からCOPD予防の文脈で、禁煙すれば呼吸器系がクリーニングされると知られていた。認知症に関しても、禁煙の効果を示す報告がある。印象的なのは、禁煙の5~7年以内に、吸わない者と同程度まで認知症のリスクが低下するという報告だ2)。なお禁煙による体重の増加には留意したい。禁煙しても体重が増加すればリスク低減効果は相殺されてしまう。治療では、薬理学的治療と行動療法が組み合わされる。最近では電子タバコが良いとも言われるが、実は酸化ストレスと脳の慢性炎症をもたらす点では、従来のタバコとあまり変わらない。過度な飲酒:不定期の大量飲酒に注意飲酒については適切な基準の把握が欠かせない。純アルコール10g (ビールで200mL 日本酒で0.5合、焼酎で40mL)を1単位とした場合、1週間に14単位を超える飲酒は認知症リスクを大幅に増加させる。飲酒の安全基準には男女差があり、男性は1日2単位、女性では1日1単位である。過度の飲酒は、記憶関連の大脳領域を萎縮させ、脳内のメッセージ伝達能力を障害する。さらに高血圧や心臓病、脳卒中のリスクを増加させる。注意すべきは、定期的な飲酒以上に、不定期に大量飲酒するほうが脳への悪影響が大きいことである。飲酒の認知機能への影響について、興味深い大規模なコホート研究がある3)。軽度~中等度の継続的な飲酒者は、ずっと非飲酒者より認知症のリスクが低減する。さらに、飲酒量を多量から中等量へと節酒することで、ずっと飲まない者に比べて認知症のリスクがさらに低下するという。もっとも、認知症予防のために、わざわざ飲酒を開始すべきではないことは言うまでもない。大気汚染:PM2.5とレビー小体型認知症大気汚染、とくにPM2.5は、認知症の危険因子だと認識される。それが脳に到達するのに3つの経路が考えられる。まず肺から血液吸収され脳に至るもの、次に鼻から直接脳に到達するもの、そして血流を通して脳に至って血液脳関門(BBB)を破壊するものである。PM2.5は高齢者にとってとくに危険だが、この濃度は交通量の多い道路周辺で最高である。しかし主要道路から100メートル離れるごとに曝露量は10~15%軽減し、300メートルで30~40%低減する。大通りを避けて住宅街の裏道の利用が望ましい。また室内で空気清浄機を活用すると、PM2.5を半分以下にできる。ところでPM2.5について斬新な最近の報告がある5)。PM2.5がレビー小体型認知症(DLB)の病理学的特徴であるαシヌクレインの異常な折り畳みを引き起こし、PM2.5の曝露量が多いとDLBやパーキンソン病発症リスクが高まるという。脳への「インプット」を阻害する因子残る2つの孤独と視力障害は、脳へのインプットを阻害する因子であり、これらへの対策は認知予備能を高める側面が強い。孤独:脳の萎縮を防ぐ「社会との接点」孤独とは主観的な感覚であり、社会的孤立は交流のない状態だが、いずれも認知機能低下と強く関連する。孤独感は全認知症リスクを31%増加させる。アルツハイマー病で14%、血管性認知症で17%、軽度認知障害で12%の増加をもたらす。また社会的孤立は孤独とは独立に26~50%の増加をもたらす。孤独感が単なる「気持ちの持ちよう」というレベルではないことを示す脳画像研究がある4)。前頭前野背外側部などの大脳部位は、共感や思いやりとの関連が知られているが、これらの脳部位の萎縮と、孤独が相関するという。つまり、共感・思いやりと孤独は表裏一体をなす脳活動なのだろう。対策としては、共通の関心事に基づくグループ参加が最も効果的だとされる。筆者が経験的に良いと思うのは、ペット(ペットロボットも含む)、趣味(読書、ガーデニング、手作業)のグループを探すこと。あるいは図書館や学校(登校・放課後の見守り)などのボランティア、地域で日常的に行われているラジオ体操などもいいだろう。視力低下:認知負荷を強いる「見えにくさ」の罠視力障害のある高齢者は正常視力の人と比べ、認知症発症リスクが1.5~2.3倍高い。想定されるメカニズムとして、視覚障害により脳への感覚入力が減少し、視覚処理領域の神経萎縮が起こり、脳刺激の減少、神経細胞の消失と連鎖していくことが考えられる。また視力障害と認知低下は、基礎的なプロセスに共通性があるかもしれない。たとえば脳血管障害、アミロイドβ蓄積、慢性炎症や神経変性である。さらに、視力低下により他の認知的リソースを使って情報を得なければならないため、本来の認知能力がその分減るとする「認知負荷仮説」も考えられる。目というと視力と考えがちだが、最近では「コントラスト感度」、つまり明暗を判別する能力が重要だとされる6)。たとえば夜間の活動には、高いコントラスト感度が必要だ。また照度が低い状態や、霧、眩しさのある状況ではその感度が鈍り、転倒・転落や交通事故のリスクが高まる。視力障害への対応は、白内障手術や眼鏡処方、低視力リハビリテーションが代表的である。これらにより、臨床リスクを30%低減できる可能性がある。今回をもって「Lancetの14の危険因子を読み解く」シリーズは終了となる。繰り返しになるが、この危険因子とはアルツハイマー病のみならず、すべての認知症に対するものである。また危険因子は、古典的なアミロイド仮説に関連するもののみならず、認知予備能仮説のように最大限に脳を守る・活用していくという方向に大別される。 1) WorldAtlas. The Most Obese Countries In The World In 2024. 2) Chen H, et al. Smoking Cessation, Weight Change, and Risk of Dementia: A Prospective Cohort Study. medRxiv. 2025 Nov 6. [preprint] 3) Jeon KH, et al. Changes in Alcohol Consumption and Risk of Dementia in a Nationwide Cohort in South Korea. JAMA Netw Open. 2023;6:e2254771. 4) Lam JA, et al. Neurobiology of loneliness: a systematic review. Neuropsychopharmacology. 2021;46:1873-1887. 5) Zhang X, et al. Lewy body dementia promotion by air pollutants. Science. 2025;389:eadu4132. 6) Risacher SL, et al. Visual contrast sensitivity in Alzheimer's disease, mild cognitive impairment, and older adults with cognitive complaints. Neurobiol Aging. 2013;34:1133-1144.

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パーキンソン病患者は腎機能低下リスクが約1.9倍/慶應義塾大

 わが国の全国規模の医療保険請求データと健康診断データを用いた疫学コホート研究の結果、パーキンソン病はその後の腎機能低下リスク上昇と関連していることが、慶應義塾大学の満野 竜ノ介氏らによって示された。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2026年4月15日号掲載の報告。 近年、慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全(ESKD)などの腎機能低下がパーキンソン病の発症リスク上昇と独立して関連していることが示されているが、パーキンソン病発症後の腎転帰については十分に検討されていない。そこで研究グループは、大規模集団ベースコホートを用いて、パーキンソン病患者とパーキンソン病のない成人の間で腎機能低下のリスクを比較した。 研究ではDeSCデータベースを用いて、2014年4月~2024年8月に少なくとも1回の健康診断を受けた18歳以上の成人200万793人を特定した。すでにESKD既往歴または腎代替療法導入歴のある患者などを除外した165万9,421人(年齢中央値68歳、男性41.9%)を解析対象とした。 主要評価項目は、ESKDへの進行(追跡時のeGFRが15mL/分/1.73m2未満)、腎代替療法の開始、ベースラインからのeGFRの30%以上低下を含む複合腎アウトカムとした。初回健康診断から複合腎アウトカムの発生、保険制度からの脱退(死亡を含む)、2024年8月のいずれか早い時点まで追跡した。 主な結果は以下のとおり。・コホート全体で1万1,497例(0.7%)がベースライン時点でパーキンソン病を有していた。・中央値1,092日(四分位範囲:631~1,520)の追跡期間中、複合腎アウトカムが発生したのは、パーキンソン病群361例、非パーキンソン病群3万2,974例であった。・Kaplan-Meier解析では、パーキンソン病群は非パーキンソン病群に比べて複合腎アウトカムのリスクが有意に高かった(log-rank検定のp<0.001)。・年齢、性別、高血圧、糖尿病、ベースラインのeGFRなどを調整した多変量Cox比例ハザードモデルでは、パーキンソン病は複合腎アウトカムと独立して関連していた(ハザード比:1.91[95%信頼区間:1.72~2.12])。・女性およびパーキンソン病治療薬投与群では、腎機能低下との関連がより顕著であった。・この関連性は、認知症や起立性低血圧、排尿障害などを除外した複数の感度分析でも一貫していた。 研究グループは、「今回の研究結果は、パーキンソン病が腎機能低下の臨床的に重要なリスク因子である可能性を示唆している。パーキンソン病の長期的な管理の一環として腎機能をモニタリングすることは、リスクの高い患者の特定に役立つ可能性がある」とまとめた。

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進行期パーキンソン病で昇圧薬を中止したら意識消失を繰り返す事態に…【うまくいく!処方提案プラクティス】第72回

 今回は、進行期パーキンソン病(以下「PD」)における起立性低血圧の管理に介入した症例を紹介します。血圧が安定しているから昇圧薬を中止しようという判断が、結果として患者さんに意識消失を繰り返させてしまうことになり、私自身の反省を踏まえた事例です。進行期PDにおける自律神経障害の理解と、降圧薬・昇圧薬の適切な管理について、一緒に整理していただければ幸いです。患者情報79歳、男性(施設在宅)介護度要介護2基礎疾患パーキンソン病(発症70歳)、レビー小体型認知症、前立腺がん(既往)、陳旧性脳梗塞(既往)ADL歩行・食事は一部介助、排泄はオムツ使用(一部介助)、両下肢の筋力低下あり服薬管理施設スタッフが管理薬学的管理開始時の処方内容1.レボドパ・ベンセラジド配合錠 4錠 分3 毎食後(朝2・昼1・夕1)2.ドロキシドパOD錠100mg 3錠 分3 毎食後3.ミドドリン錠2mg 3錠 分2 朝夕食後(朝2・夕1)4.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後5.ソリフェナシンOD錠5mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイント介入当初、レボドパ・ベンセラジド配合錠とドロキシドパ、ならびに昇圧薬のミドドリンが処方されていました。起立性低血圧の既往があるとの情報は得ていたものの、血圧は安定(110~140/60~80台で推移)していると施設職員から報告を受けていました。血圧が落ち着いているなら、ミドドリンは継続する必要がないのではないかと考え、担当医師にミドドリンの中止を提案しました。医師も同意して中止となりましたが、これが誤りの始まりでした。見落とした進行期PDと起立性低血圧の関係パーキンソン病は運動症状だけでなく、さまざまな非運動症状も呈します。進行期には自律神経障害が高頻度に出現し、とくに起立性低血圧は約3分の1の患者に認められるとされています1)。起立性低血圧の背景には、パーキンソン病の神経変性がノルアドレナリン系にも及び、心臓交感神経の脱落が関与していることが知られています。ドロキシドパは生体内でノルアドレナリンに変換されることで、進行期PDにおけるすくみ足・無動・姿勢反射障害だけでなく、起立性低血圧の改善にも有効とされています2)。本症例では、「現在の血圧が安定している=昇圧薬は不要」と表面的に判断してしまい、昇圧薬がその安定を支えていた可能性を考慮できていませんでした。連鎖した処方変更ミドドリン中止から2週間後、血圧の乱高下が出現しました。朝の収縮期血圧が170mmHg台まで上昇することもあると施設の看護師から相談があったので、今度は降圧薬のオルメサルタン10mgを提案・追加しました。しかし、その約1週間後から食後を中心に起立性低血圧が頻発するようになりました。施設の看護師から「血圧がずっと低くなっている」「何度も意識消失を繰り返している」と緊急の相談が入り、事態の深刻さを初めて認識しました。問題の整理ミドドリン中止により昇圧作用が喪失し、血圧が不安定化(とくに食後の低下)。朝の高血圧を起立性低血圧の代償反応として読めず、降圧薬を追加。進行期PDでは臥位高血圧と起立性低血圧が共存しやすい病態であるにもかかわらず、その特性を理解していなかった。医師への提案と経過施設看護師から相談を受けたのち、速やかに医師に状況を報告し、以下を報告しました。(1)ミドドリン中止後から血圧が不安定となり、食後の低血圧が顕著(2)オルメサルタン追加後から起立性低血圧が頻発、意識消失が複数回発生(3)進行期PDにおける自律神経障害(食後低血圧・起立性低血圧)が主因と考えられるそのうえで、オルメサルタンの中止&フルドロコルチゾン0.5錠(0.05mg)の追加を提案しました。パーキンソン病診療ガイドライン2018によれば、起立性低血圧の非薬物療法として塩分摂取の増加や急激な体位変換の回避などが挙げられており、薬物療法としてはミドドリンやフルドロコルチゾンが用いられます1)。とくに臥位高血圧を認める患者では、半減期の短いミドドリンを日中に使用することが推奨されています。しかし、本患者は薬を増やしたくないという希望があり、施設職員の服薬管理の負担軽減の観点からも1日1回朝食後の投与で済むフルドロコルチゾンを提案しました。医師への提案はすぐに採用され、フルドロコルチゾン0.5錠(0.05mg)を朝食後に追加することになりました。その後、施設の看護師から血圧が安定し、意識消失がなくなったとの報告があり、患者さんは落ち着いた経過をたどっています。考察:この事例から学んだこと1.進行期PDにおける起立性低血圧は「管理すべき症状である」起立性低血圧は進行期PDの非運動症状の代表です。進行期にはほぼ必発ともいえる重要な症状であり、転倒・失神・QOL低下の大きな要因となります。「今は血圧が安定している」という状況だけで薬剤を中止するのではなく、なぜ安定しているのか(=薬が効いているから安定している)という視点を持つことが欠かせません。2.臥位高血圧と起立性低血圧の共存進行期PDでは、自律神経障害により臥位では血圧が高く、立位では低くなるという、相反する病態が共存することがあります。朝の高収縮期血圧をみて安易に降圧薬を追加すると、日中の体動時や食後に重篤な低血圧を招くリスクがあります。3.処方変更は1つずつ丁寧に本症例では、ミドドリン中止→血圧乱高下→降圧薬追加→低血圧悪化という連続した処方変更が事態を複雑にしました。変更の際は1つずつ、十分なモニタリング期間を設けることが原則です。4.施設職員・看護師との連携の重要性施設看護師からの速やかな報告がなければ、意識消失の連発に気付くのが遅れていました。日常的に施設スタッフとの情報共有の関係を築いておくことが、重大な有害事象の早期発見につながります。1)日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」作成委員会. パーキンソン病診療ガイドライン2018. 医学書院;2018.2)大村友博ほか. パーキンソン病薬. In:薬局:南山堂;2021.p.138-165.

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神経疾患外来で患者と医師に“認識ギャップ”、機械学習モデルが予測可能性示す

 神経疾患の外来診療では、患者と医師の評価や満足度に小さなズレが生じることがある。この認識ギャップは、治療理解の不十分さや信頼関係の低下を通じて、生活の質や長期的な治療アウトカムに影響し得る。今回、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんの患者と医師のペアを対象にアンケートを実施し、認識ギャップを定量化するとともに、機械学習モデルでギャップを予測できることを明らかにした。研究は、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科の大山彦光氏(現:埼玉医科大学医学部脳神経内科)、富沢雄二氏、服部信孝氏らによるもので、詳細は2月9日付で「Scientific Reports」に掲載された。 パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんなどの神経疾患は慢性かつ症状が多様で、進行に伴い日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす。近年は共同意思決定(SDM)の重要性が強調されているが、診察時の限られた情報に基づく判断では、患者と医師の間で疾患認識や治療目標に認識ギャップが生じる可能性がある。実際、神経疾患領域でも症状の重要度や治療目標、再発評価などを巡るズレが報告されているが、患者と主治医のペアで直接比較した研究は限られている。さらに、こうした認識ギャップを予測する試みも十分ではない。そこで本研究(GAP-AI研究)は、神経疾患患者と主治医の間の認識ギャップを定量化し、その関連因子を検討するとともに、機械学習モデルによる予測可能性を評価することを目的とした。 本研究は単施設の観察研究であり、患者197人とその主治医12人を対象に、2回の外来受診時に質問票への回答を求めた。質問票には、患者満足度を評価する18項目のPatient Satisfaction Questionnaire Short Formや、患者と医師双方が回答する9項目のShared Decision Making Questionnaire、Barthel Index、SF-36の各下位尺度を用いた。主要評価項目は、患者と医師の回答を項目ごとに対応させて算出した差(すなわち認識ギャップ)とした。差は絶対値でも評価し、ギャップの大きさを中央値で「一致群」と「不一致群」に分類した。患者背景および医師の年齢・経験年数などの属性との関連を単変量解析で検討し、さらに重回帰分析により認識ギャップに影響する独立因子を同定した。 本研究は2023年1~8月に実施された。患者の平均年齢は58.1歳で、女性が60.4%を占めた。疾患はパーキンソン病が最多(69.5%)で、多発性硬化症、てんかんが続き、平均罹病期間は7.4年であった。多くは同居者がおり、介護を要しない軽~中等症例が中心であった。一方、医師の半数は35~44歳で、83.3%が男性であった。4割超が20年以上の経験を有し、多くがパーキンソン病を専門とする神経内科専門医であった。 患者と医師の回答には各質問票で一定の認識ギャップが認められ、総得点は有意に異なり、一致度(κ係数)は全体に低値であった。SF-36下位尺度の一致は19.3%にとどまった。ギャップには患者年齢、診断名、介護者の有無、通院頻度、障害度などの患者側因子に加え、医師の年齢、経験年数、専門医資格、担当患者数などの医師側因子が関連していた。重回帰分析では患者年齢や介護者の有無、医師の経験年数などが独立因子として抽出され、一部疾患では年収も関連していた。 また、研究データに基づき複数の機械学習アルゴリズムを用いて予測モデルを構築したところ、k近傍法(k-nearest neighbors)アルゴリズムが、主要評価項目で定義した患者と医師の認識ギャップの有無を予測する上で最も良好な性能を示した。 著者らは、GAP-AI研究により神経疾患患者と医師の間に認識ギャップが存在することが明らかになったと述べている。ギャップは患者背景や医師の経験など複数の因子に影響され、機械学習により予測可能であるとしている。さらに、その把握と是正が患者中心医療の向上につながる可能性があると指摘している。 なお、本研究の限界として、単施設研究であり特にてんかん症例数が少ないことから一般化に制限がある点、主観的な患者報告アウトカムを用いたことや医師用に十分検証されていない質問票の使用が結果の解釈に影響し得る点などを挙げている。

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第313回 臨床試験でデクスメデトミジンがアルツハイマー病関連タンパク質除去を促進

脳の老廃物処理機能を後押しして、アルツハイマー病と関連するタンパク質がより除去されるようにする薬の組み合わせの効果が臨床試験で裏付けられました1,2)。「一線を画す進歩であり、神経変性疾患患者を助けうることに留まらず、健康な人が脳の機能を最大限にするのにも役立つかもしれない」とアミロイドβ(Aβ)検出化合物を研究するハーバード大学の准教授Shiju Gu氏は今回の成果を評しています。脳は代謝で生じる老廃物を血管に沿って流れるグリンパティック系を介して排出します。グリンパティック系からリンパ系へと運ばれた老廃物は、次に血液に至って処分されます。グリンパティック系はアルツハイマー病関連タンパク質のAβやタウの除去を促すことがげっ歯類の検討で示されています。その働きは睡眠中にとくに盛んで、睡眠不足はAβやタウの除去を滞らせます。ヒトの脳にもグリンパティック機能があり、やはり睡眠中に活動し、睡眠中にAβやタウが脳から排出されることに一役買っていることが神経画像解析で判明しています。残念なことにグリンパティック系は老化で衰え、アルツハイマー病ではとくに不調になるようです。一方幸いにも、脳の青斑核(LC)から伸びる神経のノルアドレナリンの働きを制するいくつかの手段で、睡眠中のグリンパティック機能を高めうることも示されています。たとえば、外科処置の際の鎮静によく使われるα2アドレナリン作動薬デクスメデトミジンは、LCの活動を抑制することでグリンパティック機能を高めることがげっ歯類の検討で示されています3)。デクスメデトミジンにはアルツハイマー病を模すマウスの認知機能低下を遅らせる効果もあります4)。そこで米国の製薬会社Applied Cognitionに勤めるPaul Dagum氏らは、ヒトではどうかを試すべく臨床試験でデクスメデトミジンのグリンパティック機能やAβとタウの除去への作用を調べることにしました。試験には平均年齢60歳の19人が参加し、試験室で寝ないで1晩を過ごした後にデクスメデトミジンと同剤につきものの副作用である低血圧を防ぐα1アドレナリン作動薬ミドドリンの投与を受けました。Applied社はその組み合わせをACX-02という名称を付けて開発しています。被験者には1週間後に再び試験室で一晩を寝ないで過ごしてもらいます。しかしその後が1回目の徹夜とは違い、ACX-02ではなくプラセボが投与されました。プラセボ投与との比較の結果、喜ばしいことにげっ歯類での検討と同様の効果が示されました。すなわちACX-02はグリンパティック機能を高めてAβとタウが脳から血液へと排出されるのを促す効果がありました。アルツハイマー病治療として承認済みのアミロイド除去抗体と違って、ACX-02ならAβとタウの両方の除去を促せそうであり、認知機能により有益かもしれません。Dagum氏らのチームは初期アルツハイマー病患者を募る試験でACX-02に一層の取り柄があるかどうかを調べるつもりです。パーキンソン病などの異常に折りたたまれた(ミスフォールド)タンパク質の蓄積による他の脳疾患にもACX-02は役立つかもしれません。もっというと、寝不足後の注意欠如の解消にも使えるかもしれない、と研究チームの1人は言っています2)。 参考 1) Dagum P, et al. Pharmacological enhancement of glymphatic function in humans increases the clearance of Alzheimer’s disease-related proteins. medRxiv. 2026 Mar 12. 2) The brain's cleaning system can be boosted to rid Alzheimer's proteins / NewScientist 3) Hablitz LM. et al. Sci Adv. 2019;5:eaav5447. 4) Ma K, et al. Drug Des Devel Ther. 2024;18:5351-5365.

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日本人統合失調症外来患者における抗精神病薬の多剤併用パターンを調査

 統合失調症治療において抗精神病薬単剤療法が推奨される標準療法であるにもかかわらず、2種類以上の抗精神病薬の併用と定義される多剤併用は、臨床現場で依然として一般的に行われている。佐賀大学の祖川 倫太郎氏らは、日本の統合失調症外来患者における抗精神病薬の多剤併用率とその要因について調査するため、全国横断調査を実施した。International Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2026年2月18日号の報告。 2024年10月21~25日に、医療機関36施設より3,657例の外来患者データを収集した。患者は、抗精神病薬の単剤療法群と多剤併用群に分類され、年齢、性別、薬剤投与頻度、長時間作用型注射剤(LAI)、クロザピン、併用向精神薬の使用状況などの人口統計学的および臨床的特徴を比較した。抗精神病薬の投与量はクロルプロマジン換算量に標準化し、性別および年齢層別に解析した。 主な内容は以下のとおり。・抗精神病薬の多剤併用は、40.8%の患者で認められた。・多変量解析では、抗精神病薬の多剤併用は、男性、高齢、LAIの使用、抗パーキンソン病薬、抗不安薬/睡眠薬、気分安定薬の併用と有意な関連が認められた。一方、クロザピンの使用とは逆相関が認められた。・クロルプロマジン換算量は、処方された抗精神病薬の数に応じて増加し、40~59歳の患者でピークに達し、その後減少していた。・全体として、第2世代抗精神病薬が優勢であったが、第1世代抗精神病薬の使用は多剤併用に伴い増加が認められた。 著者らは「これらの知見は、性別および年齢に関連した処方パターンを考慮した抗精神病薬のマネジメントが重要であることを示唆している」とまとめている。

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アイトラッキング診断ツール、神経変性疾患の鑑別や評価の一助となるか

 眼球運動異常は、神経変性疾患においてよくみられる。これは、眼球運動を制御する神経経路および脳領域の変性が原因であると考えられる。背外側前頭前皮質、基底核、上丘、小脳の病理学的変化は、臨床検査では検出されない可能性のある眼球運動指標の微妙な変化を引き起こす。カナダ・Montreal Neurological InstituteのPaul S. Giacomini氏らは、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病およびその他の認知症、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患における眼球運動バイオマーカーの潜在的な用途について考察した。Journal of Neurology誌2026年2月10日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・サッカード、アンチサッカード、固視、滑動追跡などの眼球運動指標は、疾患進行の予後を予測し、診断の補助として病理学的サブタイプを鑑別することができる。そのため、臨床医が運動機能および認知機能の早期悪化を評価することを可能にすると考えられる。・医療技術のコストが、臨床現場における最適な活用とアクセスを制限している。・専門の神経科医の不足は、医療へのアクセスをさらに制限している。・スマートフォンやタブレットなどの広く普及しているデジタル機器に組み込まれた新しいアイトラッキング技術は、最小限の機器で詳細な評価を可能にし、日常の臨床現場における患者評価や治療方針の決定を支援するための、非侵襲的かつ費用対効果の高い重要な方法であると考えられる。・デジタルバイオマーカーは、かかりつけ医、看護師、薬剤師などの医療専門家がケアのギャップを埋めるために容易に活用でき、神経変性疾患の患者へのケア提供を改善するために広く採用できる強力なツールとなる可能性がある。

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「スマートウェア」がフィットネストラッキングの次の最前線に

 健康意識の高い人は、ウォーキングやジョギングの前に手首にFitbitを装着したり、ベルトに歩数計を付けたりすることが習慣になっている。しかし、追加の装置を用意しなくても歩数の測定や身体の動きの追跡が可能な「スマートウェア」の実現につながる新たな研究結果が明らかになった。現在使用されている肌に密着させるセンサーよりも、ゆったりとした衣服に取り付けた小型センサーの方が、身体の動きを正確に記録できることを突き止めたという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)工学分野のMatthew Howard氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に1月20日掲載された。 Howard氏は、「手首に付けるFitbitや、コンピューターで生成された映像のキャラクターを演じる俳優が着るスーツのような、動作追跡技術で最も正確な結果を得るには、センサーを身体に密着させる必要があると考えられてきた。センサーが密着していないとデータにノイズが含まれる、あるいは雑然としたものになるというのが一般的な考え方だった」と話す。 Howard氏らは今回の研究で、ゆったりとした衣服にセンサーを取り付け、人間とロボットに多様な動作を行わせて得られたデータを解析し、その動作認識能力および動作予測能力を、従来のようにセンサーを腕や脚に直接装着する方式と比較した。その結果、ゆったりとした衣服に取り付けられたセンサーでは、体に装着されたセンサーと比べて最大40%迅速かつ高い精度で身体の動きを捉え、そのために必要なデータ量は約80%削減できることが明らかになった。 Howard氏らによると、ゆったりした布地は動きを検知しやすくする「機械的増幅器」のように機能し、気付くのが難しいレベルのかすかな動きの違いも識別できることが分かったという。Howard氏は、「腕を動かし始めると、腕を緩やかにまとう袖は、一定の形が維持されずに、折れ曲がったり、波打ったり、複雑に揺れ動いたりする。身体に密着したセンサーよりも動きに対して繊細に反応するのだ」と同氏は説明する。 KCL解剖学・生体力学分野のIrene Di Giulio氏は、「手首にしっかりと巻き付けたリストバンドの場合、患者の動きが小さ過ぎて捉えられないことがある。そのため、パーキンソン病などの疾患が患者の日常生活にどのような影響を与えているのかについて、常に最も正確なデータが得られるわけではない。今回検討したアプローチでは、人の動きを『増幅』させることができるため、通常の障害のない身体の動きと比べて小さな動きでも検知できるようになる」とニュースリリースの中で述べている。 Di Giulio氏はまた、「この技術によって、自宅や介護施設などの慣れた環境の中で、普段着で過ごしている人の動きを追跡することができるようになるだろう。それにより、医師が患者をモニタリングしやすくなるだけでなく、医学研究者によるパーキンソン病などの疾患の解明や、こうした障害に対応するウェアラブル技術を含む新たな治療法の開発に不可欠なデータを収集しやすくなる可能性がある」と期待を示している。 さらにHoward氏は、「こうした動作追跡装置は、より高性能のロボットの開発にも活用できる。ロボット工学研究の多くは、人間の行動を学習し、それをロボットが模倣することを目的にしている。そのためには、普段の人間の動きから膨大なデータを収集する必要がある。しかし、伸縮性のある素材でできたボディスーツを着て日常生活を送りたいと思う人は多くはないだろう」と同氏は述べている。 その上でHoward氏は、「今回の研究は、普段着に目立たないセンサーを取り付けることで、ロボット工学の領域に革命をもたらすために必要な、世界中の人の動作データを収集できる可能性を示している」と述べている。

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脳インプラントがパーキンソン病の歩行をリアルタイムで把握

 新たな脳インプラントにより、キッチンまで歩く、公園を散歩するなど、日常生活の中で何らかの動作をしているパーキンソン病患者から歩行に関連する脳信号をリアルタイムで記録し、その場で歩行中か否かを判定できることを示した研究結果が報告された。この完全埋め込み型のインプラントを使用することで、医師はパーキンソン病患者の運動機能をより効果的に改善できる可能性がある。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のDoris Wang氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に2月13日掲載された。 Wang氏は、「完全埋め込み型の脳インプラントを用いて、実世界で活動している間の特定の動作状態を検出できたのは、今回が初めてだ。われわれが得た結果は、実験室の外でも意味のある神経信号を特定できることを示している。これは、より個別化され、応答性の高いニューロモジュレーション(神経調節)療法への重要な一歩だ」と述べている。 パーキンソン病では、歩幅の狭いすり足のような歩行、硬直、バランス機能の低下、震え、不随意運動などの運動障害が主要な症状として現れる。今回の研究では、脳深部刺激療法(DBS)のためのインプラントを受ける予定だった4人のパーキンソン病患者を対象に、日常生活における歩行状態を脳信号から推定できるかを検証した。対象者の脳の運動野と淡蒼球内節に埋め込まれたインプラントは、電気刺激を送るだけでなく、脳活動を記録し、リアルタイムで解析する機能も備えていた。このインプラントを通じて、日常生活での自然な行動が合計80時間以上記録された。この間、患者の足首には歩行センサーも装着され、歩行データも測定された。 その結果、患者が歩行中か歩行していない状態かを脳波だけで区別できることが明らかになった。また、その脳波パターンは、患者ごとに異なっていることも判明した。研究グループは、こうした患者ごとの脳波フィードバックを基に、患者が「歩いているのか」「座っているのか」「その他の動作をしているのか」に合わせてDBSの刺激を調整できる可能性があるとしている。 Wang氏は、「われわれは、歩行に関連する個別の神経バイオマーカーを特定し、埋め込み型デバイスという制約下においても、それらの信号からリアルタイムで歩行状態を分類できることを示した。これは、患者の活動状態に応じて刺激を調整できる将来の適応型DBSシステムの基盤となる」と述べている。 ただし、脳波を活用し、インプラントを動作に応じて適応させる方法を確立するには、さらなる研究が必要である。Wang氏は、「自然な行動中の脳活動を研究できるようになれば、ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)や適応型ニューロモジュレーションの適用範囲が、実験室の枠を越えて日常生活へと広がっていくだろう」と述べている。

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第304回 iPS細胞治療の心筋シートとドパミン神経前駆細胞に「仮免許」、承認期限7年、待ち受ける有効性証明の高くて険しい壁

マスコミの多くは「世界初」を喧伝、心臓病やパーキンソン病の患者を登場させて「期待感」を語らせるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。冬季オリンピックが終わってしまいましたね。日本時間では深夜から早朝にかけての競技が多く、テレビ観戦するにはなかなか大変でしたが、スピードスケートの高木 美帆選手の試合を中心にいくつかの競技をライブで観ました。個人的に興味があり応援していたのは女子のチームパシュート(団体追い抜き)です。3人で走る姿が競輪のラインに似ているのと、1周ごとに相手チームとの差が目視できてハラハラするのがこの競技の魅力です。準決勝でオランダにわずか0.11秒差で負けましたが、3位決定戦では米国に完勝、「銅だ!すごい!」とマスコミはこぞって高木選手らを祝福しました。しかし、そうした祝福の陰で厳しい批評もありました。2月20日付の日本経済新聞朝刊スポーツ面のコラム「透視線」で日体大教授の青柳 徹氏(高木選手の日体大時代の恩師)は銅メダルについて「もっといい色にできるはずだし、やれることがあったのではないか」と書き、「最後の3人目のライン通過時が記録となるため、縦一列に並ぶより、最後の直線で後ろの選手が横に出て先頭に詰めた方がわずかでもタイムは縮まるはずだ」と縦一列ゴールに疑問を投げ掛けていました(優勝したカナダは確かにこの方式でした)。メダルを取っても厳しい言葉を掛けられるのは、恩師だからこそと言えそうです。それにしても、後ろの2人の選手が前の選手のお尻を押すプッシュ戦術や、ゴール前にバラける戦術など、チームパシュートという競技の面白さの一端を知ることができた冬のオリンピックでした。さて、今回は先週、製造販売が了承されたiPS細胞製品について書いてみたいと思います。厚生労働省の薬事審議会再生医療等製品・生物由来技術部会は2月19日、iPS細胞から作った心臓病とパーキンソン病の再生医療製品2製品について、条件及び期限付きで製造販売を承認することを了承しました。2製品は近日中(1〜2ヵ月以内)に厚労相が正式に承認する予定です。承認されればiPS細胞として世界初、ES細胞を含む多能性幹細胞としても世界初の承認となるそうです。マスコミの多く(とくに民放のニュース)は、「世界初」を喧伝、心臓病やパーキンソン病の患者を登場させて「期待感」を語らせるなど、まるで金メダルを取ったかのような大騒ぎぶりでした。果たして、そんなに大きな期待を抱いてもよい「承認」なのでしょうか。左室駆出率が移植前と比較して改善していると評価された患者数は8例中2例のリハート製造販売が了承されたのは、大阪大学発のベンチャー、クオリプスが重症心不全を対象に承認申請していた他家iPS細胞由来心筋細胞シートの「リハート」と、住友ファーマがパーキンソン病を対象に承認申請していた他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」です。リハートは京都大学iPS細胞研究財団が提供している他家iPS細胞株を心筋細胞に分化誘導し、未分化細胞を除去した上でシート状に成形した製品。標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全の治療を効能・効果または性能としています。開胸手術によって、シート3枚を患者の心臓表面に移植して使います。大阪大学大学院医学系研究科の澤 芳樹名誉教授の研究成果を基にしており、昨年の大阪・関西万博での展示でも大きな話題となりました。条件及び期限付承認の根拠となった臨床試験の成績では、主要評価項目である、移植後26週時点の心エコー図検査によるLVEF(左室駆出率)が移植前と比較して改善していると評価された患者数は8例中2例でした。その他の項目も踏まえ有効性を評価した結果、「有効性が示唆されると判断された」ものの、被験者が少なかったことから条件及び期限付承認となりました。承認期限は7年で、「正式承認を申請するまでの期間、リハートを使用する全症例に対する製造販売後承認条件評価を行うこと」、「正式承認を申請するまでの期間、リハートの作用機序を反映する生物学的特性に関して情報収集すること」などの条件が付けられ、「リハート群75例と対照群150例を比較する臨床研究として使用成績調査を行う」などの市販後調査も求められました。6例について主要評価項目でパーキンソン病の重症度を示すスコアが改善したアムシェプリ一方、アムシェプリは京都大学iPS細胞研究財団の髙橋 淳所長が開発を主導した薬剤です。同財団が提供している他家iPS細胞株からドパミン神経前駆細胞を誘導して作製します。「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」を効能・効果または性能としています。ドパミン神経前駆細胞を定位脳手術により、両側の被殻に移植(大脳被殻片側あたり5.4×10^6個を目標)して使います。ドパミン神経前駆細胞が患者の脳に生着し、ドパミンを産生して治療効果を示すことが期待されています。条件及び期限付承認の根拠となった臨床試験の成績では、7例を対象とし、片側にしか投与しなかった患者を除いた6例について、主要評価項目でパーキンソン病の重症度を示すスコアが改善したとのことです。また、6例全例で、移植後12ヵ月・24ヵ月時点で他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞が大脳被殻に生着していました。こちらも被験者が少なかったことから条件及び期限付承認となりました。承認期限も同じく7年で、「正式承認申請までの期間、アムシェプリを使用する全症例に対する製造販売後承認条件評価を行うこと」などの条件が付けられ、「既存の薬物治療で十分な効果が得られなかったパーキンソン病患者に対してアムシェプリの有効性と安全性を評価する製造販売後臨床試験」、「アムシェプリが移植された全ての患者に対する使用成績調査」などの市販後調査も求められました。なおリハートと異なり、ドパミンの作用がすでに明確であることから、作用機序の解明は承認条件に含まれませんでした。日本独自の再生医療等製品の条件及び期限付承認制度のおかげ日本経済新聞や朝日新聞などの報道では、記事の見出しに「仮免許」という言葉が使われています。リハート、アムシェプリともに被験者は1桁と少なく、「症状が改善した」と言っても比較対象試験が行われているわけではないので「効果あり」と科学的に判定されたわけではありません。7年以内にそこを証明しないと「仮免許」は取り上げられてしまいます。「承認」とは言え、なかなかに厳しい「条件及び期限」と言えます。そんな不十分な成績なのに「承認」されたのは、日本独自の再生医療等製品の条件及び期限付承認制度のおかげと言えます。2014年11月、薬事法が改正されて薬機法となった際に新たに導入された同制度は、対象患者が少なかったり対照群の設定が難しかったりなどで一般的な規模の第III相臨床試験を実施できない場合などに活用される仕組みです。有効性の確認前でも、早期の臨床試験データから有効性が推定されれば、条件や期限付きで承認が与えられますが、7年を超えない範囲で有効性、安全性を検証した上で、再度承認申請して正式承認を取得する必要があります。条件及び期限付承認を取得した製品はこれまで6つ、正式承認に至った製品はなく2つは撤退資金、労力、時間がかかる第III相臨床試験を実施しなくても製品を販売できる仕組みとして、再生医療等製品の開発に取り組む製薬メーカーは大きな期待をかけ、活用してきた同制度ですが、10年以上を経てその結果は芳しくありません。条件及び期限付承認を取得した製品はこれまで6つあるものの、有効性を確認して正式承認に至った製品はゼロです。「厚労省部会、他家iPS細胞由来のクオリプスの心筋細胞シートと住友ファーマのドパミン神経前駆細胞の条件及び期限付承認を了承」のタイトルで2月22日、今回の期限付承認を報じた日経バイオテクは、同制度について「近年は、条件及び期限付承認を取得しても、開発企業は安心できない実情が浮き彫りになってきた。というのも、条件及び期限付承認を取得して本承認を目指していた、アンジェスの『コラテジェン』(ベペルミノゲンペルプラスミド)とテルモの『ハートシート』(ヒト[自己]骨格筋由来細胞シート)が、それぞれの承認期限近くの2024年6~7月、相次いで市場から撤退したためだ。(中略)2製品が撤退したのは、市販後調査で良好なデータを示せなかったことの影響が大きい」と書いています。国としては、今のタイミングでiPS細胞治療の芽を摘んでしまうという選択肢はなかったのかもiPS細胞治療については、本連載の「第282回 なかなか実用化にこぎつけられないiPS細胞治療、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療について『先進医療』とするのは『不適』の判断」で、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療が昨年8月、厚生労働省の先進医療技術審査部会において「先進医療」とするのは「不適」であると判断されたというニュースを取り上げました。この時は、「治っているかどうか患者が実感できない高額な治療法に、先進医療とは言え、保険診療を併用させることはNG」という判断だったわけですが、今回については「治っているかどうかよくわからないが、とりあえず承認しておくから7年で有効性をちゃんと証明しろ」ということのようです。随分無責任な「仮免許」と言えますが、うがった見方をすれば、これも高市政権の成長戦略の影響ということができるかもしれません。政府の「日本成長戦略会議」において「直ちに実行すべき重要施策」として挙げられた17項目の戦略分野の中には「合成生物学・バイオ」と「創薬・先端医療」が入っており、「さあこれから」という時に、iPS細胞治療の芽を摘んでしまうという選択肢は国としてはなかった、と見る向きもあります。テルモのハートシートに比べ、リハートの市販後調査のエンドポイントはなぜだか緩いiPS細胞治療の業界に詳しい知人に、リハート・アムシェプリの正式承認の可能性について尋ねたところ、「リハートと類似の製品で、骨格筋由来細胞シートだったテルモのハートシートが良好なデータを示せず撤退を余儀なくされた理由の1つは、市販後調査において心臓疾患関連死までの期間など、かなりハードなエンドポイントを課せられていたためだ。リハートの市販後調査のエンドポイントは、なぜかそこまでハードに設定されておらず、とても緩い印象だ。本当に効くかどうかは別にして、ハートシートに比べると承認のハードルは低いと言える。一方、アムシェプリは、パーキンソン病の重症度を評価する国際尺度がエンドポイントに課せられているので、そこそこハードルは高い印象だ」と話していました。エンドポイントを低くして、承認を容易くしたとしても、実際の効きが悪ければ医師は使用しませんし、世界でも売れないでしょう。オリンピックと同様、世界標準で戦う必要がある製品だとしたら、手心(かどうかはわかりませんが)は結局はマイナスに働くのではないでしょうか。iPS細胞治療の実用化に向けては、長く険しくゴールが見えないレースがまだまだ続きそうです。

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コーヒーや紅茶、認知症リスク低下と関連した摂取量は/JAMA

 カフェイン入りコーヒーおよび紅茶の摂取量の多さは、認知症リスクの低下、認知機能の軽度改善と関連しており、その関連性は摂取量が中程度レベルで最も顕著であったという。米国・Harvard T.H. Chan School of Public HealthのYu Zhang氏らが、大規模前向きコホート研究のデータを用いた解析結果を報告した。コーヒーや紅茶と認知機能との関連を示すエビデンスはまだ決定的ではなく、また、ほとんどの研究でカフェイン入りコーヒーとデカフェコーヒーを区別できていなかった。JAMA誌オンライン版2026年2月9日号掲載の報告。約13万人を最長43年(中央値37)追跡 研究グループは、米国の1976年に開始されたNurses’ Health Study(NHS)に参加した30~55歳の女性看護師と、1986年に開始されたHealth Professionals Follow-Up Study(HPFS)に参加した40~75歳の男性医療従事者のデータを用いた前向きコホート研究を行った。本解析では、研究期間をNHSは1980~2023年、HPFSは1986~2023年とし、いずれもベースラインでがん、パーキンソン病、認知症の既往歴がなく、カフェイン含有飲料の摂取量が報告されている参加者(NHS:8万6,606人、HPFS:4万5,215人)を対象として、コーヒー・紅茶の摂取と認知症リスクおよび認知機能との関連性について解析した。 カフェイン入りコーヒー、デカフェコーヒー、紅茶の摂取量は、2~4年ごとの食物摂取頻度調査票(FFQ)を用いて評価した。 主要アウトカムは認知症とし、死亡記録と2年ごとの質問票から得た自己報告による医師の診断に基づいて特定した。 副次アウトカムは、主観的認知機能低下(質問票の一般的な記憶、実行機能、注意力などに関する6~7項目のスコア[範囲:0~7、高得点は認知機能低下の程度が大きいことを示し、スコアが3以上の症例と定義])である。また、NHSコホートのみ、1995~2008年に4回の電話による認知機能検査(Telephone Interview for Cognitive Status[TICS、範囲:0~41]、East Boston Memory Test[EBMT]、言語流暢性検査、逆唱検査を含む6つの検査)を実施して客観的認知機能を評価し、3つの認知スコアを算出した。 解析対象は、計13万1,821例(ベースライン平均年齢はNHSコホート46.2[SD 7.2]歳、HPFSコホート53.8[SD 9.7]歳、65.7%が女性)、追跡期間は最長43年(中央値:36.8年、四分位範囲:28~42年)であった。1日にカフェイン入りコーヒー2~3杯、または紅茶1~2杯で認知症リスク低下 追跡期間中に認知症を発症した参加者は1万1,033例(NHSコホート7,975例、HPFSコホート3,058例)であった。 2つのコホートを統合し交絡因子を調整した結果、カフェイン入りコーヒーの摂取量が多いほど、認知症リスクの低さ(10万人年当たりの認知症発症頻度:摂取量の最多四分位群141例vs.最少四分位群330例、ハザード比:0.82、95%信頼区間[CI]:0.76~0.89)、ならびに主観的認知機能低下有病率の低さ(それぞれ7.8%vs.9.5%、有病率比:0.85、95%CI:0.78~0.93)と有意に関連していた。 NHSコホートでは、カフェイン入りコーヒーの摂取量が多いほど客観的認知機能がわずかに良好であることが示された。最多四分位群は最少四分位群と比較して、平均TICSスコアが有意に高く(平均群間差:0.11、95%CI:0.01~0.21、p=0.03)、全般的認知機能も有意ではないものの高値であった(平均群間差:0.02、95%CI:-0.01~0.04、p=0.06)。 紅茶の摂取量でも、同様の関連がみられた。一方で、デカフェコーヒーの摂取量と認知症リスクの低下または認知機能の向上との関連はみられなかった。 用量反応解析では、カフェイン入りコーヒーおよび紅茶の摂取量と、認知症リスクおよび主観的認知機能低下の間に非線形の逆相関が認められ、最も顕著な関連はカフェイン入りコーヒーを1日当たり約2~3杯、または紅茶を1日当たり約1~2杯摂取した場合に観察された。

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義1817年、英国の外科医であり地質学者であったJames Parkinsonは“Essay on The Shaking Palsy”として6症例のパーキンソン病患者の症状を詳細に報告した。その後、神経学の祖であるJean-Martin Charcotがこのエッセイに着目し「パーキンソン病」と名付け、疾患概念が確立された。本疾患はドパミン神経細胞が脱落するため、動作緩慢、振戦、筋強剛などが出現する。進行すると姿勢保持障害、歩行障害なども顕著になり、転倒のリスクが高まる。さらに、運動症状以外にも睡眠障害、嗅覚低下、自律神経障害、認知症、精神症状など多彩な非運動症状を合併する。そのため日常生活動作が低下し、介護度が高くなり、患者本人の生活の質を悪化させるのみならず、介護者にも多大な影響が及ぶ疾患である。病理学的所見としては、黒質緻密部を中心としたドパミン神経細胞の変性・脱落とレビー小体の形成が特徴である。■ 疫学有病率は10万人当たり100~180人とされているが、65歳以上では1,000人程度存在するといわれている。海外で行われた年齢別有病率を調査した研究では、40~49歳では10万人当たり約40人であるのに対し、80歳以上では約1,900人と報告されており、加齢に伴い急激に増加することがわかる。発症頻度には地域差があり、欧州や北米では高く、アジアやアフリカでは低い傾向がある。また、海外では男性に多いとされる一方で、わが国では女性の有病率が高いと報告されている。■ 病因本疾患の病因は長らく不明とされてきたが、近年の分子病理学的・遺伝学的研究の進展により、その中核にはαシヌクレインの異常凝集と蓄積があることが明らかとなっている。αシヌクレインは、本来シナプス前終末に豊富に存在する可溶性タンパク質であるが、異常構造へ変化するとオリゴマー、プロトフィブリル、フィブリルへと段階的に凝集し、神経毒性を獲得する。これらの凝集体は、神経細胞内でレビー小体やレビー神経突起を形成し、ドパミン神経を中心とした神経変性を引き起こすと考えられている。さらに、病的αシヌクレインは細胞間を伝播する性質を有し、特定の神経回路に沿って病理が拡大することが示唆されている。その一方で、パーキンソン病は単一の原因で発症する疾患ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡む多因子疾患である。αシヌクレインをコードするSNCAは最初に発見された家族性パーキンソン病の原因遺伝子である。さらに常染色体顕性遺伝性パーキンソン病に頻度が高いLRRK2、重大なリスク遺伝子であるGBAなどが同定されており、これらはαシヌクレインの凝集に関与している。また、孤発例においても、複数の感受性遺伝子が発症リスクに寄与することが明らかとなっており、遺伝的背景が病態形成に重要な役割を果たす。そのほか農薬曝露、頭部外傷、腸内細菌叢などの環境因子も発症リスクとして報告されており、遺伝要因と環境要因の相互作用が発症の引き金となる可能性が考えられている。さらに近年では、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、神経炎症、タンパク質分解系の破綻など、複数の細胞内異常が相互に関連しながら神経変性を進行させることが示唆されている。とくにリソソーム・オートファジー系の障害は、異常αシヌクレインの蓄積を促進し、分解不能になるという悪循環を形成する重要な病態基盤と考えられている。このようにパーキンソン病の病因は、αシヌクレイン凝集を中心とした分子病態を軸に、多層的・連続的な異常が重なり合うことで発症すると考えられる。2 診断臨床診断は主に症候学的所見に基づいて行われる。2015年に国際パーキンソン病・運動障害学会が診断基準を策定した(表)。この診断基準では、寡動を中心に、振戦と筋強剛のどちらか1つがあるとパーキンソン症状があると判断し、特異的な所見である、レボドパ製剤に対する良好な反応性、レボドパ誘発性ジスキネジア、四肢の静止時振戦、嗅覚低下および123I-MIBG心筋シンチグラフィによる心臓交感神経脱落の証明を支持的診断基準としている。除外基準のみならず、パーキンソン病でも認められるが非典型的な症状や経過をレッドフラッグとして挙げている。支持的基準を2つ以上満たし、除外基準およびレッドフラッグが認められない場合は“clinically established”であり、支持的基準を満たしていてもレッドフラッグを認める場合や、レッドフラッグがなくても十分に支持的基準を満たさない場合は“probable”と診断される。診断基準の特異度は高いが感度は低く、類縁疾患である多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といったParkinson-like disorderとの鑑別は難しい。また、運動症状が発症する前より、便秘、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症が認められる場合がある。ビデオ睡眠ポリグラフでレム睡眠行動異常障害認められる場合、パーキンソン病を発症するリスクが高まる。採血や画像診断は補助的な診断である。採血では特異的な変化はないが、パーキンソン症状を来す疾患(甲状腺機能亢進症や低下症、ウィルソン病、抗リン脂質抗体症候群など)の鑑別は必要である。神経画像は診断に有用であり、頭部MRIやCTなどの構造画像は除外診断目的で行われる。とくにMRIは被殻の萎縮と被殻外側のスリット、脳梁の萎縮、中脳背側(中脳被蓋部)の萎縮、上/中小脳脚の萎縮、橋の萎縮などに注目し、Parkinson-like disorderと鑑別する。また、DATスキャンを行うことで、パーキンソン症状が黒質線条体のドパミン機能障害により引き起こされていることが確認できる。薬剤性パーキンソニズム、本態性振戦、ジストニア、錐体路障害などによるパーキンソン様症状は正常であり除外できる。123I-MIBG心筋シンチグラフィは心臓交感神経の脱落を確認できるが、認める場合はパーキンソン病に特異的な所見であり、重要な診断の手掛かりとなる。最近、髄液に存在する微量な凝集型αシヌクレインを増幅することで診断できる可能性が示されているが、研究レベルであり実用化はされていない。表 国際パーキンソン病・運動障害学会の診断基準画像を拡大する診断のフローを以下に示す。【パーキンソン病の診断基準(MDS)】■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。3)相対的除外基準に抵触しない。■臨床的にほぼ確実なパーキンソン病(clinically probable Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在しさらに、1)絶対的除外基準に抵触しない。2)相対的除外基準と同数以上の支持基準がみられる。ただし、2つを超える相対的除外基準がみられてはならない。■支持的基準(Supportive criteria)1)明白で劇的なドパミン補充療法に対する反応性がみられる。この場合、初期治療の段階では正常かそれに近いレベルまで改善がみられる必要がある。もし、初期治療に対する反応性が評価できない場合は以下のいずれかで判断する。用量の増減により、顕著な症状の変動(UPDRS partIIIでのスコアが30%を超える)がみられる。または患者または介護者より治療により顕著な改善がみられたことが確認できる明らかに顕著なオン/オフ現象がみられる2)L-ドパ誘発性のジスキネジアがみられる。3)四肢の静止時振戦が診察上確認できる。4)ほかのパーキンソニズムを示す疾患との鑑別診断上、80%を超える特異度を示す検査法が陽性である。現在この基準を満たす検査として以下の2つが挙げられる。嗅覚喪失または年齢・性を考慮したうえで明らかな嗅覚低下の存在MIBG心筋シンチグラフィによる心筋交感神経系の脱神経所見■絶対的除外基準(Absolute exclusion criteria)1)小脳症候がみられる。2)下方への核上性眼球運動障害がみられる。3)発症5年以内に前頭側頭型認知症や原発性進行性失語症の診断基準を満たす症状がみられる。4)下肢に限局したパーキンソニズムが3年を超えてみられる。5)薬剤性パーキンソニズムとして矛盾のないドパミン遮断薬の使用歴がある。6)中等度以上の重症度にもかかわらず、高用量(>600mg)のL-ドパによる症状の改善がみられない。7)明らかな皮質性感覚障害、肢節観念運動失行や進行性失語がみられる。8)シナプス前性のドパミン系が機能画像検査により正常と評価される。9)パーキンソニズムを来す可能性のある他疾患の可能性が高いと考えられる。■相対的除外基準(Red flags)1)5年以内に車椅子利用となるような急速な歩行障害の進展がみられる。2)5年以上の経過で運動症状の増悪がみられない。3)発症5年以内に重度の構音障害や嚥下障害などの球症状がみられる。4)日中または夜間の吸気性喘鳴や頻繁に生じる深い吸気*注など、吸気性の呼吸障害がみられる。5)発症から5年以内に以下のような重度の自律神経障害がみられる。起立性低血圧:立位3分以内に少なくとも収縮期で30mmHgまたは拡張期で15mmHgの血圧低下がみられる発症から5年以内に重度の尿失禁や尿閉がみられる6)年1回を超える頻度で繰り返す発症3年以内の転倒。7)発症から10年以内に、顕著な首下がり(anterocollis)や手足の関節拘縮がみられる。8)5年の罹病期間の中で以下のようなよくみられる非運動症候を認めない。睡眠障害:睡眠の維持障害による不眠、日中の過剰な傾眠、レム睡眠行動障害の症状自律神経障害:便秘、日中の頻尿、症状を伴う起立性低血圧嗅覚障害精神症状:うつ状態、不安、幻覚9)他では説明のできない錐体路症状がみられる。10)経過中一貫して左右対称性のパーキンソニズムがみられる。*注:inspiratory sighs;多系統萎縮症で時にみられる呼吸障害の1つで、しばしば突然不規則に生じる深いため息様の吸気。(文献1より引用)3 治療本疾患はドパミン神経変性により運動症状および多彩な非運動症状を呈するため、ドパミン補充療法が治療の中心である。L-ドパ製剤は最も有効性が高く中心的薬剤であるが、吸収に食事の影響を受けやすいこと、phasicな刺激によりL-ドパ誘発性ジスキネジアが生じやすく、半減期が短いためウェアリングオフを誘発することが課題となる。MAO-B阻害薬はドパミン分解を抑制することで効果を発揮する。すくみ足に効果があることが示されている。ドパミン受容体作動薬は半減期が長く、continuous dopaminergic stimulation(CDS)に近い刺激が可能で、ジスキネジア発現を遅らせる一方、眠気、衝動制御障害、精神症状に注意を要する。ウェアリングオフ出現時には、L-ドパ頻回投与やCOMT阻害薬併用により血中濃度の安定化を図る。また、アマンタジンを早期から始めることで、ジスキネジアの発現抑制が可能であることが示されている。経口治療で調整困難な場合にはデバイス補助療法を考慮する。経腸的L-ドパ持続療法や皮下持続投与製剤はオフ時間を短縮し、運動の日内変動を大きく改善する。さらに、L-ドパ製剤への反応性を有し、重度の認知症や精神症状を伴わない症例では脳深部刺激療法(DBS)も考慮される。主なターゲットは視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)であり、STN刺激は薬剤減量効果が期待できる一方、GPi刺激はL-ドパ誘発性ジスキネジアの抑制に有効である。効果は同等とされるが、薬剤減量ができるSTNがfirst choiceである。強い振戦が主体の場合には視床Vim核が選択される。DBSは運動症状を安定化させ、薬物治療の限界を補完する治療オプションであり、適応がある症例の場合、必ず考慮すべきである。4 今後の展望近年、分子病理学的研究やバイオマーカー研究の進展により、パーキンソン病は従来の臨床症候に基づく疾患概念から、αシヌクレイン病理を中核とした生物学的疾患概念へと大きく変容しつつある。とくに、微量な病的αシヌクレインを検出可能とする種増幅アッセイ(seed amplification assay:SAA)は、発症前・前駆期から疾患を同定しうる技術として注目されている。また、脳に蓄積するαシヌクレインを可視化するPET検査も開発されている。これらのバイオマーカーの確立は、早期診断のみならず、疾患の生物学的病期分類や層別化を可能とし、疾患修飾療法(disease-modifying therapy:DMT)の研究を推進する際に適切な対象集団の選定に直結する。現在までに、αシヌクレイン病理、神経変性、遺伝背景を統合した新たな分類・病期分類の枠組みが提唱されており、今後の臨床試験や治療戦略の基盤となることが期待される。5 主たる診療科脳神経内科脳深部刺激療法を行う場合は脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター パーキンソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Bloem BR, et al. Lancet. 2021;397:2284-2303. 2) Armstrong MJ, et al. JAMA. 2020;323:548-560. 3) Ben-Shlomo Y, et al. Lancet. 2024;403:283-292. 4) Hatano T, et al. J Mov Disord. 2024;17:127-137. 5) Postuma RB, et al. Mov Disord. 2015;30:1591-1601. 公開履歴初回2026年2月13日

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