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高齢者の転倒対策、現場は何をすべきか?【外来で役立つ!認知症Topics】第29回

「縛るな!」――身体拘束ゼロへの取り組み病院・施設の高齢者における訴訟は増加しているが、訴訟の2大原因は、転倒と誤嚥だそうだ。いずれであれ、その判決内容、賠償金額によっては病院・施設の死活問題になりかねない。そこで誰もが転倒の予防対策として考えるのは身体抑制だろうが、これは人の尊厳を損なう最たるものである。さて「身体拘束ゼロ」、わが国のいわゆる老人病院で始まった高齢者医療・ケアの改革運動である。2001年には厚生労働省が『身体拘束ゼロへの手引き』を作成し、また、2024年には診療報酬改定で身体拘束最小化の基準が設けられた。とくに慢性期病院や介護施設は、身体拘束の最小化に向けて懸命に取り組んできた歴史がある。この流れの源流は、今年4月に亡くなられた吉岡 充医師にある。彼は、東大病院と都立松沢病院の勤務を経て、ご尊父が営む八王子の精神科病院に移られた。そこには数十年の入院生活で高齢化した統合失調症の患者さんたちがいた。これが彼の高齢者医療への取り組みの始まりだったと思う。1980年代に、この病院でアルバイトをさせてもらっていた私はこの当時、彼と初めて会った。「患者さんを縛っちゃいけないよ!」「どうして病院ではすぐに患者を縛るんだ? 朝田、おかしいと思わないか」という会話をした。正直、「理想はそう、病院では安静を守れない患者も、すぐに転んで骨折する患者もいます、必要悪ですよ」が私の本音だった。しかしその後、吉岡医師は類まれな意志力・行動力で「抑制廃止」(彼はいつも「縛るな!」と言っていた)を全国展開していった。転倒による死亡は交通事故の3倍こうした抑制廃止の裏面が、転倒である。今日、高齢者の転倒・転落は、広く高齢者医療の大きな課題として一般の人にもよく知られている。転倒による大腿骨骨頭骨折などの骨折はもとより、死亡例も驚くほど多い。2023年の資料では、こうした事故による死亡者数は全国で1万2,000例弱にも上り、交通事故死の3倍以上だというから恐ろしい1)。ところで老年医学は、1950年代からイギリス、北欧で芽生え成長してきた。この分野では、イギリスのバーナード・アイザックス(Bernard Isaacs)が1965年に提唱した「老年医学の4巨人」、すなわち転倒、寝たきり、失禁、認知症が今日に至るまで主要テーマである。筆者は1980年代にイギリスの大学老年科に留学して、老年医学の病棟のみならず患家にも立った。その影響で、帰国後は精神科領域における転倒を臨床研究のテーマにし、この領域の進歩に努めて触れてきた。そのポイントをまとめると、まずは転倒の危険因子、転倒予防、予後、そして手術と手術適応である。個人の転倒危険因子では、より高齢であること、転倒既往、認知症、パーキンソン病などの神経疾患、身体機能・ADLの低下、向精神薬など薬剤、飲酒などがある。また施設の住宅設備面から段差の解消、手すりや常夜灯の設置がある。一方で床にこぼれた水分や尿などを可及的速やかに拭き取ったり、落ちた紙などの障害物を除いたりすることも極めて重要である。というのは転倒の直接原因では、滑る・躓くが最多とされるからである。次に予後では、認知症者では、身体機能はもちろん、生命予後もよくない。アメリカのナーシングホームのデータ2)では、大腿骨頸部骨折の手術がなされた者では、6ヵ月以内に35~55%が、2年以内に64%が亡くなったとされる。また手術をしてもこうした患者の機能レベルは容易に転倒前まで戻らないこともわかっている。それだけに手術適応の決定も簡単ではない。これまで転倒予防として繰り返し強調されたのは、脚力を中心とした体力増強の運動である。もっともこの運動や薬剤の調整で発生リスクを2割ほど低減したとの数少ない論文はあるが、リスク低減のエビデンスは乏しい。今のところ、予防の決め手はないというのが現実だ。病院・施設はどのような対策をすべきか?さて訴訟に関し、転倒を含めた事故で病院・施設に過失があるとされるのは、「結果予見義務」と「結果回避義務」が尽くされなかった場合である。転倒・転落が起こるかもしれないという「結果予見義務」だが、裁判の論点にならなくなってきている。なぜなら今日では、認知症の有無、転倒歴、睡眠薬の使用などの転倒・転落リスクは、ほぼしっかり確認されているからである。そこで論点になるのが転倒・転落を防ぐための備え・工夫をしたかという「結果回避義務」になる。もっとも既述のように、転倒・転落は完全には防ぎ難いことはわかっている。それだけに事情通の弁護士によれば、転倒は予見の可能性が難しいだけに、判決として「病院・施設に責任ありとするが、賠償額を低く抑えることでバランスをとる」のが主流ではないかとの由。以上をまとめると、病院・施設側として転倒リスクの評価はまず入院時に不可欠である。そして計画した予防策は明文化し、たとえば定時の見守り・チェックなどは必ず記入する。また濡れた床拭き、靴の履き方直しなど臨機応変に対応したことの記録を残し、結果回避義務を強く意識した努力を記録として蓄積すべきだろう。参考1)厚生労働省「不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」(e-Stat). 2)Berry SD, et al. Association of Clinical Outcomes With Surgical Repair of Hip Fracture vs Nonsurgical Management in Nursing Home Residents With Advanced Dementia. JAMA Intern Med. 2018;178:774-780.

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入院させてほしい【救急外来・当直で魅せる問題解決コンピテンシー】第6回

入院させてほしいPointプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をACSCsという。ACSCsによる入院の割合は、プライマリ・ケアの効果を測る指標の1つとされている。病診連携、多職種連携でACSCsによる入院を減らそう!受け手側は、紹介側の事情も理解して、診療にあたろう!症例80歳女性。体がだるい、入院させてほしい…とA病院ERを受診。肝硬変、肝細胞がん、2型糖尿病、パーキンソン病などでA病院消化器内科、内分泌内科、神経内科を受診していたが、3科への通院が困難となってきたため、2週間前にB診療所に紹介となっていた。採血検査でカリウム7.1mEq/Lと高値を認めたこともあり、幸いバイタルサインや心電図に異常はなかったが、指導医・本人・家族と相談のうえ、入院となった。内服薬を確認すると、消化器内科からの処方が診療所からも継続されていたが、内容としてはスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されており、そこにここ数日毎日のバナナ摂取が重なったことによるもののようだった。おさえておきたい基本のアプローチプライマリ・ケアの適切な介入により入院を防ぐことができる状態をAmbulatory Care Sensitive Conditions(ACSCs)という。ACSCsは以下のように大きく3つに分類される。1:悪化や再燃を防ぐことのできる慢性疾患(chronic ACSCs)2:早期介入により重症化を防ぐことのできる急性期疾患(acute ACSCs)3:予防接種等の処置により発症自体を防ぐことのできる疾患(vaccine preventable ACSCs)2010年度におけるイギリスからの報告によると、chronic ACSCsにおいて最も入院が多かった疾患はCOPD、acute ACSCsで多かった疾患は尿路感染症、vaccine preventable ACSCsで多かった疾患は肺炎であった1)。実際に、高齢者がプライマリ・ケア医に継続的に診てもらっていると不必要な入院が減るのではないかとBarkerらは、イギリスの高齢者23万472例の一次・二次診療データに基づき、プライマリ・ケアの継続性とACSCsでの入院数との関連を評価した。ケアが継続的であると、高齢者において糖尿病、喘息、狭心症、てんかんを含むACSCsによる入院数が少なかったという研究結果が2017年に発表された。継続的なケアが、患者-医師間の信頼関係を促進し、健康問題と適切なケアのよりよい理解につながる可能性がある。かかりつけ医がいないと救急車利用も増えてしまう。ホラ、あの○○先生がかかりつけ医だと、多すぎず少なすぎず、タイミングも重症度も的確な紹介がされてきているでしょ?(あなたの地域の素晴らしいかかりつけ医の先生の顔を思い出してみましょう)。またFreudらは、ドイツの地域拠点病院における入院患者のなかで、ACSCsと判断された104事例をとりあげ、紹介元の家庭医にこの入院は防ぎえたかというテーマでインタビューを行うという質的研究を行った。この研究を通じてプライマリ・ケアの実践現場や政策への提案として、意見を提示している(表)。地域のリソースと救急サービスのリンクの重要性、入院となった責任はプライマリ・ケアだけでなく、病院なども含めたすべてのセクターにあるという合意形成の重要性、医療者への異文化コミュニケーションスキル教育の重要性など、ERの第一線で働く方への提言も盛り込まれており、ぜひ一読いただきたい。ACSCsは高齢者や小児に多く、これらの提言はドイツだけでなく、世界でも高齢者の割合がトップの日本にも意味のある提言であり、これらを意識した医師の活躍が、限られた医療資源を有効に活用するためにも重要であると思われる。表 プライマリ・ケア実践現場と政策への提言<プライマリ・ケア実践チームへの提言>患者の社会的背景、服薬アドヒアランス、セルフマネジメント能力などを評価し、ACSCsによる入院のリスクの高い患者を同定すること処方を定期的に見直すこと(何をなぜ使用しているのか?)。アドヒアランス向上のために、読みやすい内服スケジュールとし、治療プランを患者・介護者と共有すること入院のリスクの高い患者は定期的に症状や治療アドヒアランスの電話などを行ってモニタリングすること患者および介護者にセルフマネジメントについて教育すること(症状悪化時の対応ができるように、助けとなるプライマリ・ケア資源をタイミングよく利用できるようになるなど)患者に必要なソーシャルサポートシステム(家族・友人・ご近所など)や地域リソースを探索することヘルステクノロジーシステムの導入(モニタリングのためのリコールシステム、地域のリソースや救急サービスのリンク、プライマリ・ケアと病院や時間外ケアとのカルテ情報の共有など)各部署とのコミュニケーションを強化する(かかりつけ医と時間外対応してくれる外部医師間、入退院支援、診断が不確定な場合に相談しやすい環境づくりなど)<政策・マネジメントへの提言>入院となった責任はプライマリ・ケア、セカンダリ・ケア、病院、地域、患者といったすべてのセクターにあるという合意を形成すべきであるACSCsによる入院はケアの質の低さを反映するものでなく、地理的条件や複雑な要因が関係していることを検討しなければならないACSCsに関するデータ集積でエキスパートオピニオンではなく、エビデンスデータに基づいた改善がなされるであろう医療者教育において異文化コミュニケーションスキル教育が重視されるだろう落ちてはいけない・落ちたくないPitfalls紹介側(かかりつけ医)を、責めない!前に挙げた症例のような患者を診た際には、「なぜスピロノラクトンとカリウム製剤が処方されているんだ!」とついつい、かかりつけ医を責めたくなってしまうだろう! 忙しいなかで、そう思いたくなるのも無理はない。でも、「なんで○○した?」、「なんで△△なんだ?」、「なんで□□になるんだよ」などと「なんで(why)」で質問攻めにすると、ホラあなたの後輩は泣きだしたでしょ? 立場が違う人が安易に相手を責めてはいけない。後医は名医なんだから。前医を責めるのは医師である前に人間として未熟なことを露呈するだけなのである。まずは紹介側の事情をくみ取るように努力しよう。この症例でも、病院から紹介になったばかりで、関係性もあまりできていないなかでの高カリウム血症であった。元々継続的に診療していたら、血清カリウム値の推移や、腎機能、食事の状況など把握して、カリウム製剤や利尿薬を調節できたかもしれない。また紹介医を責めると後々コミュニケーションが取りにくくなってしまい、地域のケアの向上からは遠ざかってしまう。自分が紹介側になった気持ちになって、診療しよう。Pointかかりつけ医の事情を理解し、診療しよう!起きうるリスクを想定しよう!さらにかかりつけ医の視点で考えていきたい。この方の場合はまだフォロー歴が短いこともあって困難だったが、前医からの採血データの推移の情報や、食事摂取量や内容の変化でカリウム値の推移も予測可能だったかもしれない。糖尿病におけるsick dayの説明は患者にされていると思うが、リスクを想定し、かつ対処できるよう行動しよう。いつもより体調不良があるけど、なかなかすぐには受診してもらえないときには、電話を入れたり、家族への説明をしたり、デイケア利用中の患者なら、デイケア職員への声掛けも有効だろう! そうすることで不要な入院も避けられるし、患者家族からの信頼感アップも間違いなし!!「ERでは関係ない」と思わないで、患者の生活背景を聞き出し、患者のサポートシステム(デイケア・デイサービスなど)への連絡もできるようになると、かっこいい。かかりつけ医のみならず、施設職員への情報提供書も書ける視野の広い医師になろう。Point「かかりつけ医の先生とデイケアにも、今回の受診経過と注意点のお手紙を書いておきますね!」かかりつけ医だけに頑張らせない!入院のリスクの高い患者は、身体的問題だけでなく、心理的・社会的問題も併存している場合も少なくない。そんな場合は、かかりつけ医のみでできることは限られている。患者に必要なソーシャルサポートシステムや地域リソースを患者や家族に教えてあげて、かかりつけ医に情報提供し、多職種を巻き込んでもらうようにしよう! これまでのかかりつけ医と家族の二人三脚の頑張りにねぎらいの言葉をかけつつ(頑張っているかかりつけ医と家族を褒め倒そう!)、多くの地域のリソースを勧めることで、家族の負担も減り、ケアの質もあがるのだ。「そんな助けがあるって知らなかった」という家族がなんと多いことか。医師中心のヒエラルキー的コミュニケーションでなく、患者を中心とした風通しのよい多職種チームが形成できるように、お互いを尊重したコミュニケーション能力が必要だ! 図のようにご家族はじめこれだけの多職種の協力で患者の在宅生活が成り立っているのだ。図 永平寺町における在宅生活を支えるサービス画像を拡大するPoint多職種チームでよりよいケアを提供しよう!ワンポイントレッスン医療者における異文化コミュニケーションについてERはまさに迅速で的確な診断・治療という医療が求められる。患者を中心とした多職種(みなさんはどれだけの職種が浮かぶだろうか?)のなかで、医師が当然医療におけるエキスパートだ。しかし、病気の悪化、怪我・事故は患者の生活の現場で起きている。生活に目を向けることで、診断につながることは多い。ERも忙しいだろうが、「患者さんの生活を普段支えている人たち、これから支えてくれるようになる人たちは誰だろう?」なんて想像してほしい。ERから帰宅した後の生活をどう支えていけばよいかまで考えられれば、あなたは超一流!職能や権限の異なる職種間では誤解や利害対立も生じやすいので、患者を支える多職種が風通しのよい関係を築くことが大事だ。医療者における異文化コミュニケーション、つまり多職種連携、チーム医療は、無駄なER受診を減らすためにも他人ごとではないのだ。病気や怪我さえ治せば、ハイ終わり…なんて考えだけではまだまだだ。もし多職種カンファレンスに参加する機会があれば、積極的に参加して自ら視野を広げよう。ACSCsへの適切な介入とは? ─少しでも防げる入院を減らすために─入院を防ぐためには、単一のアプローチではなかなか成果が出にくく、複数の組み合わせたアプローチが有効といわれている2)。具体的には、患者ニーズ評価、投薬調整、患者教育、タイムリーな外来予約の手配などだ。たとえば投薬調整に関しては、Mayo Clinic Care Transitions programにおいても、皆さんご存じの“STOP/STARTS criteria”を活用している。なかでもオピオイドと抗コリン薬が再入院のリスクとして高く、重点的に介入されている3)。複数の介入となると、なかなか忙しくて一期一会であるERで自分1人で頑張ろうと思っても、入院回避という結果を出すまでは難しいかもしれない。そこで先にもあげたように多職種連携・Team Based Approachが必要だ4)。それらの連携にはMSW(medical social worker)さんに一役買ってもらおう。たとえば、ERから患者が帰宅するとき、患者と地域の資源(図)をつないでもらおう! MSWと連絡とったことのないあなた、この機会に連絡先を確認しておこうね!ACSCsでの心不全の場合は、専門医やかかりつけ医といった医師間の連携はじめ、緩和ケアチームや急性期ケアチーム、栄養士、薬剤師、心臓リハビリ、そして生活の現場を支える職種(地域サポートチーム、社会サービス)との協働も必要になってくる。またACSCsにはCOPDなども多く、具体的な介入も提言されている。有症状の慢性肺疾患には、散歩などの毎日の有酸素トレーニング30分、椅子からの立ち上がりや階段昇降、水筒を使っての上肢の運動などのレジスタンストレーニングなどが有効とされている。家でのトレーニングが、病院などでの介入よりも有効との報告もある。「家の力」ってすごいよね。理学療法士なども介入してくれるとより安心! 禁煙できていない人には、禁煙アドバイスをすることも忘れずに。ERで対応してくれたあなたの一言は、患者に強く響くかもしれない。もちろん禁煙外来につなぐのも一手だ! ニコチン補充療法は1.82倍、バレニクリンは2.88倍、プラセボ群より有効だ5)。勉強するための推奨文献Barker I, et al. BMJ. 2017:84:356-364.Freud T, et al. Ann Fam Med. 2013;11:363-370.藤沼康樹. 高齢者のAmbulatory care-sensitive conditionsと家庭医. 2013岡田唯男 編. 予防医療のすべて 中山書店. 2018.参考 1) Bardsley M, et al. BMJ Open. 2013;3:e002007. 2) Kripalani S, et al. Ann Rev Med. 2014;65:471-485. 3) Takahashi PY, et al. Mayo Clin Proc. 2020;95:2253-2262. 4) Tingley J, et al. Heart Failure Clin. 2015;11:371-378. 5) Kwoh EJ, Mayo Clin Proc. 2018;93:1131-1138. 執筆

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β遮断薬やスタチンなど、頻用薬がパーキンソン病発症を抑制?

 痛みや高血圧、糖尿病、脂質異常症の治療薬として、アスピリン、イブプロフェン、スタチン系薬剤、β遮断薬などを使用している人では、パーキンソン病(PD)の発症が遅くなる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。特に、PDの症状が現れる以前からβ遮断薬を使用していた人では、使用していなかった人に比べてPDの発症年齢(age at onset;AAO)が平均で10年遅かったという。米シダーズ・サイナイ医療センターで神経学副部長兼運動障害部門長を務めるMichele Tagliati氏らによるこの研究結果は、「Journal of Neurology」に3月6日掲載された。 PDは進行性の運動障害であり、ドパミンという神経伝達物質を作る脳の神経細胞が減ることで発症する。主な症状は、静止時の手足の震え(静止時振戦)、筋強剛、バランス障害(姿勢反射障害)、動作緩慢などである。 この研究では、PD患者の初診時の医療記録を後ろ向きにレビューし、降圧薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スタチン系薬剤、糖尿病治療薬、β2刺激薬による治療歴、喫煙歴、およびPDの家族歴とPDのAAOとの関連を検討した。対象は、2010年10月から2021年12月の間にシダーズ・サイナイ医療センターで初めて診察を受けた1,201人(初診時の平均年齢69.8歳、男性63.5%、PDの平均AAO 63.7歳)の患者とした。 アテノロールやビスプロロールなどのβ遮断薬使用者のうち、PDの発症前からβ遮断薬を使用していた人でのAAOは72.3歳であったのに対し、β遮断薬非使用者でのAAOは62.7歳であり、発症前からのβ遮断薬使用者ではAAOが平均9.6年有意に遅いことが明らかになった。同様に、その他の薬剤でもPDの発症前からの使用者ではAAOが、スタチン系薬剤で平均9.3年、NSAIDsで平均8.6年、カルシウムチャネル拮抗薬で平均8.4年、ACE阻害薬またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)で平均6.9年、利尿薬で平均7.2年、β刺激薬で平均5.3年、糖尿病治療薬で平均5.2年遅かった。一方で、喫煙者やPDの家族歴を持つ人は、PDの症状が早く現れる傾向があることも示された。例えば、喫煙者は非喫煙者に比べてAAOが平均4.8年早かった。 Tagliati氏は、「われわれが検討した薬剤には、炎症抑制効果などの共通する特徴があり、それによりPDに対する効果も説明できる可能性がある」とシダーズ・サイナイのニュースリリースで話している。 さらにTagliati氏は、「さらなる研究で患者をより長期にわたり観察する必要はあるが、今回の研究結果は、対象とした薬剤が細胞のストレス反応や脳の炎症を抑制することで、PDの発症遅延に重要な役割を果たしている可能性が示唆された」と述べている。

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第241回 ナーシングホームが支える終末期ケアの実態と危うさ-医師が知っておくべき地域医療の変質

地域医療構想を揺るがすナーシングホームの隆盛と不正請求問題ナーシングホームに関連した不正請求の問題が相次いで明るみに出ています。2023年9月、パーキンソン病患者などを対象にした「PDハウス」を運営するサンウェルズ社に関する不正請求の疑惑が報じられたのを皮切りに、2024年3月には同業大手のアンビスホールディングスが、複数拠点において診療報酬の過剰・不正請求を行っていたとする報道が共同通信などよりなされました。これを受けて同社は外部弁護士を含む特別調査委員会を設置し、社内調査を進めています。ナーシングホームは、医療ニーズの高い高齢者や神経難病患者を受け入れる体制を整えた施設で、訪問看護ステーションを併設し、医療機関との連携が密なことから、急性期病院からの退院先として急速に普及しました。とくに独居高齢者や高齢世帯にとっては、低価格かつ、看取りまで可能な医療体制が整っているという点で歓迎されてきました。ナーシングホームの制度的盲点ナーシングホームの制度設計には大きな盲点があります。多くのナーシングホームは「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」という住まいの枠組みで整備されており、厚生労働省所管の医療施設とは異なり、夜間の看護体制などの人員配置基準が実質的に存在しません。さらに、訪問看護を医療保険で請求できる仕組みを悪用することで、高い利益率を叩き出している実態もあります。実際、サンウェルズ社の営業利益率は11.1%、アンビス社にいたっては24.9%と異常に高い利益率です。不正内容としては、難病指定の患者に対して訪問看護師が1日3回以上訪問することで7,200円の加算を受ける仕組みを利用し、実際には数分の滞在にも関わらず30分相当の看護行為をしたと偽り請求するケースが疑われています。こうした行為は制度上の「隙間」をついた不正であり、厚労省による是正が急がれます。ナーシングホームが急拡大する一方で、減少する病床ナーシングホームが急拡大する一方で、従来の慢性期病院や有床診療所は衰退傾向にあります。有床診療所の病床数は全国的に減少しており、これは看護人材の引き抜きや収益性の低下による影響が大きいと考えられます。さらに、ナーシングホームの普及は、高度急性期病院にも影響を与えています。従来であれば、がんの終末期患者は在宅療養を経て、緩和ケア病棟での看取りが行われる流れがありましたが、ナーシングホーム入居後はそのまま施設内で看取りまで完結するケースが増加しています。その結果、全国のがん拠点病院における緩和ケア病棟の入院患者数や死亡数は減少傾向にあります(※日本ホスピス緩和ケア協会の資料より)。ナーシングホームが果たしている役割自体は否定できません。実際、大手4社(サンウェルズ、アンビス、日本ホスピスHD、シーユーシー)の総定員は1.2万人を超えています。この他にも筆者が働く尾張西部医療圏では合計200床以上を有する独立系法人によるナーシングホームが6施設存在し、他にも複数の施設が地域の医療需要を一部担っています。しかし、これらは地域医療構想における病床数にはカウントされておらず、「住まい」としての扱いのまま、実質的には病院や有床診療所と同等の医療行為を担っているのが実態です。愛知県の病床整備計画では、尾張西部で457床の不足とされているものの、ナーシングホームが実質的にその代替を果たしているとすれば、むしろ「供給過剰」とも言えます。近い将来心配される病院の不採算今後、各都道府県が進める第8次地域医療構想において、基準病床数をもとに整備が進められますが、実態と乖離した病床数計画のままでは、地域の中小病院が経営不振に陥り、「病院倒産」が相次ぐ可能性も否めません。制度の「隙間」を突いて拡大してきたナーシングホームは、確かに患者や家族にとって新たな選択肢を提供してきましたが、その一方で、医療制度全体の持続性を脅かす構造的問題も孕んでいます。これからは、訪問看護ステーションの過剰請求に対する監視体制の強化や、医療・介護の適正な連携体制の整備が急務です。来年の診療報酬改定では、これらの問題への是正措置が期待されます。 参考 1) 老人ホームのサンウェルズ、ほぼ全施設で不正請求 調査委が報告書(毎日新聞) 2) 東証プライム上場サンウェルズが老人ホームほぼ全てで介護報酬不正請求!社長の「インサイダー取引」疑惑に発展か(ダイヤモンドオンライン) 3) 難病向け老人ホームで不正か 訪問看護、過剰請求指摘も(共同通信) 4) ホスピス最大手で不正か 全国120カ所「医心館」(同) 5) 老人ホーム紹介業者が病院側接待 倫理綱領や業務指針に違反か(同) 6) 「疑問を持ってはいけない会社」ホスピス住宅最大手で私が見たもの 「社会課題の解決」どころか地域医療が壊れる?(同) 7) 医心館、調査委員会を設置 診療報酬の不正請求報道で(同) 8) 高額請求の事業者に適正な指導監督を要望へ 訪問看護2団体 厚労省に(CB news) 9) 令和5年(2023年)有床診療所の現状調査(日医総研ワーキングペーパー No.479) 10) 第2回 有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(厚労省)

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整形外科における術後せん妄、幅広い20のリスク因子が明らかに~メタ解析

 術後せん妄(POD)は、外科手術を受けた患者によくみられる術後合併症である。発症率は診療科によって異なるが、とくに整形外科患者のPOD発症率は一般病棟入院患者と比較し大幅に高い。せん妄は、患者の転帰と医療システムの両方に重大な影響を及ぼす可能性があるため、PODのリスク因子を特定し、予防することが重要である。三重大学医学部附属病院のRio Suzuki氏らは、下肢整形外科手術後におけるPODのリスク因子を特定したことを報告した。PLoS One誌2025年4月1日号掲載の報告。 本研究では、人工股関節全置換術や人工膝関節全置換術といった下肢整形外科手術後の患者におけるPODのリスク因子を調査した観察研究を、主要な医学データベース(CINAHL、MEDLINE)から網羅的に収集した。適格基準を満たす2つ以上の研究で解析されたせん妄に関する変数を抽出し、ランダム効果モデルを用いて、プールされたオッズ比(OR)、標準化平均差(SMD)を算出した。データはp<0.05の場合に統計学的に有意と見なされた。データベースの検索期間は1975~2024年7月までとした。 主な結果は以下のとおり。・データベース検索では、あらかじめ定義された検索キーワードを用いて2,599件の記録が同定され、最終的に27件の研究が適格基準を満たした(11件が前向きコホート研究、16件が後ろ向きコホート研究)。・この27件の研究の中で計9,044例の参加者データを統合し、システマティックレビューとメタ解析を行った結果、PODの発症に関連する以下の20の因子が特定された。【患者側の因子】 高齢(SMD:0.8、95%信頼区間[CI]:0.56~1.03)、ポリファーマシー(OR:1.47、95%CI:1.19~1.82)【合併症】 入院前の認知機能低下(OR:3.76、95%CI:1.57~9.02)、認知症(OR:4、95%CI:2.09~7.67)、一過性脳虚血発作(OR:1.69、95%CI:1.22~2.32)、パーキンソン病(OR:2.32、95%CI:1.56~3.44)、心血管疾患(OR:1.4、95%CI:1.16~1.68)、心筋梗塞(OR:1.4、95%CI:1.01~1.95)、せん妄歴(OR:12.64、95%CI:8.75~18.27)【術前因子】 認知機能検査(MMSE)のスコア(SMD:-0.59、95%CI:-1.05~-0.13)、血清Alb低値(SMD:-0.69、95%CI:-1.09~-0.29)、CRP高値(SMD:0.47、95%CI:0.05~0.88)、TSH異常値(SMD:-1.83、95%CI:-2.66~-1.01)、FT3異常値(SMD:-0.37、95%CI:-0.62~-0.12)【術中因子】 入院期間の延長(SMD:0.47、95%CI:0.18~0.76)、長時間の手術(SMD:0.53、95%CI:0.16~0.90)、長時間の麻酔(SMD:0.16、95%CI:0.05~0.28)、全身麻酔(OR:1.28、95%CI:1.04~1.58)、脊髄麻酔(OR:0.79、95%CI:0.65~0.97)、輸血(OR:2.03、95%CI:1.02~4.08) 著者らは「術前および術後のデータを収集することは、PODの高リスク患者を同定するために非常に重要である。本研究の結果が整形外科手術後のPODの予測および予防に役立つ可能性がある」と結論付けている。

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第263回 パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望

パーキンソン病の幹細胞治療の2試験の結果がひとまず有望幹細胞から作った神経細胞によるパーキンソン病治療の2試験の待望の結果が、時を同じくして先週16日にNature誌に報告されました1-4)。それら試験の被験者はおよそ安全に経過観察の2年間を過ごすことができ、移植された神経細胞はパーキンソン病で失われるドーパミン生成/放出神経細胞(DA神経)に成り代わって十分長く存続してドーパミンを作りうると示唆されました。2つのチームがめいめい実施したそれらの試験はともに小規模で、主な目的は安全性の検討です。被験者数は2試験合わせて19例ばかりで、震えがはっきりと減った被験者もいますが、プラセボ群がないことなどもあって効果の判定には不十分で、より大規模な試験での検討が今後必要です5,6)。両試験で神経を作るのに使われた幹細胞はおよそ無限に増え続けることができ、心身を形成するあらゆる細胞に分化しうる特別な能力を有します。2試験で移植された神経細胞の起源は幹細胞ですが、その出所が異なります。一方では受精後の胚から得られるヒト胚性幹細胞(hES細胞)、もう一方では成人の体細胞から人工的に生み出される人工多能性幹細胞(iPS細胞)から神経細胞が作られました。パーキンソン病はDA神経が失われることによる進行性の神経病態で、振戦、こわばり、動作緩慢を引き起こします。残念ながら根治療法はなく、2050年までに世界のパーキンソン病患者数はおよそ2,500万例に達すると予想されています7)。失われたDA神経をそれに代わる細胞の移植で補充してパーキンソン病治療を目指す取り組みの先駆けの報告は1980年代にさかのぼります8)。試されたのはDA神経が豊富とされる胎児の中脳腹側の細胞のパーキンソン病患者への移植です。胎児由来細胞が移植された脳領域では幸いにしてドーパミンの量が回復し、運動機能の改善が長続きしました。それらの結果はパーキンソン病の細胞移植の治療効果を裏付けるものですが、胎児脳組織はそう簡単に手に入るものではありませんし、手に入ったとしてその質はまちまちかもしれません。それに倫理的な懸念もあります。そういう課題の解決手段の1つとして幹細胞からDA神経を大量に作る試みが始まり、しばらくすると世界の多くのチームがヒト幹細胞からDA神経を生み出せるようになりました。研究はさらに進んでパーキンソン病を模す動物への移植実験で症状や動作の改善効果が示されるようになり、2020年にはパーキンソン病患者の初のiPS細胞治療例が報告されるに至ります9)。その1例の患者には自身の皮膚細胞由来のiPS細胞を分化させて作った前駆DA神経が2017~18年に脳の左側と右側に2回に分けて移植されました10)。移植細胞の存続がPET写真で確認され、移植後18ヵ月と24ヵ月時点での患者の症状は安定か改善していました。実用に堪える細胞を作る技術は原料がiPS細胞とhES細胞の場合のどちらでもその後改善し、今や複数例を集めての臨床試験が実施されるようになっています。今回発表された2試験の1つはわが国の京都大学医学部附属病院で実施された第I/II相試験で、iPS細胞から作った前駆DA神経がパーキンソン病患者7例の脳の両側の被殻に移植されました。移植細胞が拒絶されないように免疫抑制薬が15ヵ月間投与されました。2年間(24ヵ月)の経過観察で幸いにも重篤な有害事象は生じておらず、効果検討対象の6例のうち4例は薬の効果がない状態での運動症状検査値(MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコア)の改善を示しました。もう1つはBayerの子会社のBlueRock Therapeutics社が米国とカナダで実施した第I相exPDite試験で、パーキンソン病患者12例が参加し、京都大学の試験とは違ってhES細胞由来の前駆DA神経が脳に移植されました。移植場所は被殻で、京都大学での試験と同じです。やはり免疫抑制薬が投与されました。投与期間は1年間です。exPDite試験の18ヵ月間の安全性経過は日本での試験と同様におよそ問題はなく、移植細胞と関連する有害事象は生じていません。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアは高用量群でより下がっており、18ヵ月時点ではもとに比べて平均23点低くて済んでいました。脳の写真を調べたところドーパミン生成の上昇が認められ、免疫抑制薬の使用停止後も含む18ヵ月間の観察期間のあいだ、少なくともいくらかの移植細胞は存続したようです5)。京都大学での試験でも同様にドーパミン生成の増加を示す結果が得られています。昨年2024年9月にBlueRock社はexPDite試験のさらに長い24ヵ月(2年間)の経過を速報しています11)。安全性は引き続き良好で、移植細胞と関連する有害事象はありませんでした。MDS-UPDRSパートIIIによるOFFスコアの低下もおよそ維持されており、高用量投与群は24週時点を22点低下で迎えています。BlueRock社の前駆DA神経はbemdaneprocelと名付けられて開発されており、exPDite試験での良好な結果を頼りに早くも本年前半、すなわちこの6月末までに第III相試験が始まる見込みです12)。 参考 1) Tabar V, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 2) Sawamoto N, et al. Nature. 2025 Apr 16. [Epub ahead of print] 3) 「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」において安全性と有効性が示唆 / 京都大学医学部附属病院 4) Potential Treatment for Parkinson’s Using Investigational Cell Therapy Shows Early Promise / Memorial Sloan Kettering Cancer Center 5) ‘Big leap’ for Parkinson’s treatment: symptoms improve in stem-cell trials / Nature 6) Clinical trials test the safety of stem-cell therapy for Parkinson’s disease / Nature 7) Su D, et al. BMJ. 2025;388:e080952. 8) Lindvall O, et al. Arch Neurol. 1989;46:615-631. 9) Schweitzer JS, et al. N Engl J Med. 2020;382:1926-1932. 10) Novel Treatment Using Patient's Own Cells Opens New Possibilities to Treat Parkinson's Disease / PRNewswire 11) BlueRock Therapeutics’ Investigational Cell Therapy Bemdaneprocel for Parkinson’s Disease Shows Positive Data at 24-Months / BUSINESS WIRE. 12) BlueRock Therapeutics announces publication in Nature of 18-month data from Phase 1 clinical trial for bemdaneprocel, an investigational cell therapy for Parkinson’s disease / GlobeNewswire

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iPS細胞移植、パーキンソン病患者の脳内でドパミン産生を確認/京大

 京都大学医学部附属病院と京都大学iPS細胞研究所とが連携して実施した、パーキンソン病患者を対象に、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻に両側移植する第I/II相臨床試験において、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞は生着し、ドパミンを産生することが確認され、腫瘍形成などの重篤な有害事象は認められなかった。本結果により、パーキンソン病に対する安全性と臨床的有益性が示唆された。本結果はNature誌オンライン版2025年4月16日号に掲載された。 パーキンソン病では、中脳黒質のドパミン神経細胞が減少し、それによって動作緩慢、筋強剛、静止時振戦を特徴とする運動症候群を発症する。薬物療法は、初期の段階では運動症状を効果的に緩和するが、長期経過により運動合併症や薬剤誘発性ジスキネジア(不随意運動)など対応が困難な問題が生じる。そのため、失われたドパミン神経細胞を補充する細胞治療が代替治療法として検討されてきた。欧米では、ヒト中絶胎児の脳を移植する治験が行われてきたが、倫理的問題や安定した供給の困難さが指摘されてきた。 京都大学iPS細胞研究所の高橋 淳氏らの研究グループは、これまでにヒトiPS細胞からドパミン神経細胞を誘導する方法を開発し、サルのパーキンソン病モデルにおいて脳内でドパミンを産生し、運動症状を改善することを確認してきた。 2018年8月より開始した本試験「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療に関する医師主導治験」では、50~69歳の7例のパーキンソン病患者を対象に、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を脳内の被殻に両側移植した。主要評価項目は安全性および有害事象の発生とし、副次評価項目は運動症状の変化およびドパミン産生として、24ヵ月にわたって観察した。3例の患者は低用量移植(片側半球当たり2.1~2.6×106個の細胞)を受け、4例の患者は高用量移植(片側半球当たり5.3~5.5×106個)を受けた。安全性の評価は7例、有効性の評価は1例がCOVID-19感染のため6例で行われた。 主な結果は以下のとおり。・重篤な有害事象は発生しなかった。軽度~中等度の有害事象は73件発生した。・治療上の調整が必要でない限り、患者の抗パーキンソン病治療薬の投与量は維持されたが、その結果ジスキネジアが増加した。・MRIによる評価では、移植組織の異常増殖は認められなかった。・国際パーキンソン病・運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度(MDS-UPDRS)パートIIIによる評価において、OFFスコアの改善が6例中4例、ONスコアの改善が5例に認められた。6例全体の平均変化量は、OFFスコアが-9.5(-20.4%)、ONスコアが-4.3(-35.7%)であった。・ホーエン・ヤールの重症度分類では4例の患者が改善した。・18F-DOPA PETでは、被殻のドパミン取り込み(Ki値)が平均44.7%増加し、高用量移植群でより顕著に認められた。 本結果は、iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞のパーキンソン病患者への移植が安全かつ有効である可能性を示した初の報告となる。著者らは「将来的には、細胞移植と遺伝子治療、薬物療法、リハビリテーションを組み合わせることで、有効性を高める戦略が考えられる。さらに、iPS細胞を用いた自家移植も有望な選択肢となる可能性がある」とまとめている。

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第7回 コーヒーの淹れ方が心臓の健康を左右する?ディテールがモノを言うかもしれないという話

コーヒーは多くの方にとって、朝の目覚めから仕事の合間の息抜きまで、幅広い場面で登場する身近な存在でしょう。健康への影響についてはさまざまな研究があり、「適量であれば体に良い」という話を耳にされたことがあるかもしれません。実際、コーヒーの摂取と2型糖尿病1)やパーキンソン病2)のリスク低下との関連を示した研究がこれまで報告されています。しかし、最近スウェーデンの大学の研究者が公表した研究3)によれば、ただコーヒーを飲むかどうかだけではなく、コーヒーの「淹れ方」にも注目する必要があるかもしれないということです。今回は、この研究の内容と結果をお伝えしたいと思います。フィルターの有無が生む意外な差今回ご紹介する研究では、いわゆる「悪玉」コレステロールであるLDLコレステロールの値を上昇させる可能性があるジテルペンがコーヒーに含まれる量を、職場や公共施設などに設置されているコーヒーマシンで抽出したコーヒーやドリップコーヒーなどを対象に測定しています。すると、紙フィルターを通すドリップ式と比べて、構造上フィルターの機能が弱いコーヒーマシンでは、ジテルペンが高い濃度で残る傾向がみられたのです。図. 各種コーヒー抽出液のジテルペン(カフェストール)含有量Orrje E, et al. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2025 Feb 20. CC BY 4.0画像を拡大する以前から、トルコ式コーヒーやフレンチプレスなど「湯で煮出す」タイプ、あるいはフィルターを通さない抽出法ではジテルペンが多く含まれることが知られていました。これを踏まえ、一部の北欧諸国では「紙フィルターを用いてコーヒーを淹れる習慣」を推奨するガイドラインが示されています。実際、研究チームも「1日に何杯もコーヒーを飲む人が、紙フィルターを通さない淹れ方ばかりを選択すると、LDLを押し上げるリスクが高まるかもしれない」と指摘しています。日本人の日常にどう影響するのか日本ではコンビニやカフェ、自動販売機などから手軽にコーヒーを購入する機会が多いですが、これらがどのような抽出法かを常に意識する人は少ないかもしれません。とりわけ、職場にあるコーヒーメーカーで何杯も飲む方は、マシンが紙フィルターを使うドリップ方式なのか、それとも濃縮液をお湯で割るリキッド方式なのかなどを一度確認してみるのもよいかもしれません。研究では、リキッド方式のマシンではジテルペンが抑えられる傾向がある一方、抽出型のマシンではジテルペン濃度が高めになる可能性が示唆されています。また、エスプレッソのように短時間で高圧抽出する場合、特に高いジテルペン量が検出されたと報告されているため、日常的に何杯もエスプレッソまたはカフェラテなどを飲まれる方は注意が必要かもしれません。ただし、断定的に「エスプレッソは危険だ」とするものでもありません。実際の健康への影響がこの研究で測定されているわけではないため、一概に「どの淹れ方でどれほど健康リスクが高い」という話はできないからです。また、仮に健康リスクとの関連があったとしても、量も物をいうでしょう。しかし「フィルターをしっかり通したコーヒーの方が、余計なコレステロール上昇リスクを抑えやすい」という認識は持っていてもいいのかもしれません。コーヒーは香りや風味、リラックス効果など、多くの人を魅了する存在です。その一方で、こうした研究をきっかけに、淹れ方や飲み方にも少し目を向けてもいいのかもしれません。コーヒーに関する研究は無数にありますが、その淹れ方で分けると、研究結果が変わってくるのかもしれません。そうした視点は著者の私にもなかったので新しい発見で、体に良いイメージのあるコーヒーだからこそ、抽出法のようなディテールにも今後の研究で目を向けていく必要があるのでしょう。総じて、今回の研究結果だけをもとに「絶対に紙フィルターを使うべき」などと極端に捉える必要はないでしょう。あくまで自分の生活に合ったスタイルを保ちつつ、もしコーヒーをよく飲まれる方は適切なフィルターを選んだり、飲む頻度を一度見直してみたりしてもいいのかもしれません。今後さらに健康への直接的な影響を評価した研究が行われれば、この「淹れ方」による違いが実際問題どの程度の影響をもたらすのかが明確になるでしょう。いずれにせよ、同じコーヒーでも 「抽出方法の違い」が健康上の意味を持つかもしれないという鋭い視点は、コーヒーのみならずさまざまな食事、飲料にも応用が効きそうな話だったのではないでしょうか。 1) Huxley R, et al. Coffee, decaffeinated coffee, and tea consumption in relation to incident type 2 diabetes mellitus: a systematic review with meta-analysis. Arch Intern Med. 2009;169:2053-2063. 2) Zhang T, et al. Associations between different coffee types, neurodegenerative diseases, and related mortality: findings from a large prospective cohort study. Am J Clin Nutr. 2024;120:918-926. 3) Orrje E, et al. Cafestol and kahweol concentrations in workplace machine coffee compared with conventional brewing methods. Nutr Metab Cardiovasc Dis. 2025 Feb 20. [Epub ahead of print] ■新着【大画像】/files/kiji/20250304132940-sns.png【サムネイル】/files/kiji/20250304133008.png

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ビタミンBが影響を及ぼす神経精神疾患〜メタ解析

 最近、食事や栄養が身体的および精神的な健康にどのような影響を及ぼすかが、注目されている。多くの研究において、ビタミンBが神経精神疾患に潜在的な影響を及ぼすことが示唆されているが、ビタミンBと神経精神疾患との関連における因果関係は不明である。中国・Shaoxing Seventh People's HospitalのMengfei Ye氏らは、ビタミンBと神経精神疾患との関連を明らかにするため、メンデルランダム化(MR)メタ解析を実施した。Neuroscience and Biobehavioral Reviews誌2025年3月号の報告。 本MRメタ解析は、これまでのMR研究、UK Biobank、FinnGenのデータを用いて行った。ビタミンB(VB6、VB12、葉酸)と神経精神疾患との関連を調査した。 主な内容は以下のとおり。・MR分析では、複雑かつ多面的な関連性が示唆された。・VB6は、アルツハイマー病の予防に有効であったが、うつ病および心的外傷後ストレス障害(PTSD)のリスク上昇の可能性が示唆された。・VB12は、自閉スペクトラム症(ASD)の予防に有効であったが、双極症リスクを上昇させる可能性が示唆された。・葉酸は、アルツハイマー病および知的障害に対する予防効果が示唆された。・メタ解析では、ビタミンBは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの特定の神経精神疾患の予防に有効であるが、不安症や他の精神疾患のリスク因子である可能性が示唆された。・サブグループ解析では、VB6は、てんかんおよび統合失調症の予防に有効であるが、躁病リスク上昇と関連していた。・VB12は、知的障害およびASDの予防に有効であるが、統合失調症および双極症のリスク上昇と関連していた。・葉酸は、統合失調症、アルツハイマー病、知的障害の予防に有効である可能性が示唆された。 著者らは「これらの知見は、ビタミンBのメンタルヘルスに対する影響は複雑であり、さまざまな神経精神疾患に対して異なる影響を及ぼすことが示唆された。このような複雑な関連は、神経精神疾患に対する新たな治療法の開発において、パーソナライズされた治療サプリメントの重要性を示している」と結んでいる。

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パーキンソン病患者数、30年後には約2倍か/BMJ

 パーキンソン病の患者数は、2050年には2021年の2.1倍となる2,520万人に達し、この増加傾向は世界疾病負担研究(Global Burden of Disease:GBD)の地域分類で規定する東アジア地域の、社会人口統計学的指数(SDI)が中程度の国の男性でより顕著になると予測されることを、中国・首都医科大学のDongning Su氏らがGBD 2021のデータを解析し報告した。著者は、「パーキンソン病は、2050年までに患者とその家族、介護者、地域、そして社会にとって大きな公衆衛生上の課題となると予測され、今回の結果はヘルスリサーチの推進、政策決定への情報提供およびリソース配分の一助となるだろう」とまとめている。BMJ誌2025年3月5日号掲載の報告。1990~2021年の195の国・地域のデータを解析 研究グループは、GBD 2021から1990~2021年の195の国と地域におけるパーキンソン病の年齢、性別、暦年および地域別の有病率データを用い、2022~50年のパーキンソン病の年齢・性別有病率を推計した。予測有病率の時間的傾向を調べるため平均年間変化率を算出し、2021~50年の間の人口増、高齢化、有病率の変化がパーキンソン病患者数の変化に与える相対的な影響を分解分析で評価した。また、曝露レベルと有病率比を用い、パーキンソン病の修正可能なリスク因子に関する人口寄与割合(PAF)と潜在的影響割合(PIF)を推定した。 GBD 2021では、パーキンソン病は安静時振戦、無動、筋強剛および姿勢反射障害の4つの主要症状のうち2つ以上を有することと定義された。2021年から112%増加、寄与要因は高齢化が89% 2050年には、世界のパーキンソン病患者数は2,520万人(95%不確実性区間[UI]:2,170万~3,010万)となり、2021年から112%(95%UI:71~152)増加すると予測された。患者数増加に最も寄与する要因は高齢化(89%)であり、次いで人口増(20%)、有病率の変化(3%)と予測された。 2050年におけるパーキンソン病の有病率は、2021年から76%(95%UI:56~125)増加し10万人当たり267例(95%UI:230~320)、年齢標準化有病率は2021年から55%(50~60)増加し10万人当たり216例(168~281)になると予測された。 最も大きな増加を示すと予測されたのはSDI分類で中程度(五分位の中央)の国で、全年齢有病率が144%(95%UI:87~183)増加、年齢標準化有病率が91%(82~101)増加すると予測された。 GBDの地域分類では、2050年のパーキンソン病患者数は東アジアが1,090万人(95%UI:900万~1,330万)で最も多く、2021年からの増加率が最も高いのはサハラ以南のアフリカ西部で292%(95%UI:266~362)増加すると予測された。 年齢層では、80歳以上で最も増加する(196%、95%UI:143~235)と予測された。また、パーキンソン病の年齢標準化有病率の男女比は、世界全体で2021年の1.46から2050年には1.64に増すと予測された。

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認知症の臨床診療ガイドライン―韓国認知症協会の推奨事項

 韓国・江原大学校のYeshin Kim氏らが、エビデンスに基づく推奨事項をまとめた韓国認知症協会の臨床診療ガイドラインについて、アルツハイマー病およびその他のタイプの認知症に対するコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)およびN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬に関する推奨事項に焦点を当て、Dementia and Neurocognitive Disorders誌2025年1月号に発表した。また同誌にて、同国・カトリック大学校のGihwan Byeon氏らは本ガイドラインについて、患者のQOLや介護者の負担に影響を及ぼす認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する、抗精神病薬、抗うつ薬、抗認知症薬など薬理学的治療に関する臨床実践ガイドラインとして提示した。 PICOフレームワークを用いて主要な臨床上の疑問を作成し、システマティックに文献レビューを実施した。韓国認知症協会が組織した多分野の専門医パネルにより、ランダム化比較試験および観察研究の評価を行った。推奨事項には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment Development and Evaluation)ツールを用いて、エビデンスの質および強度に基づき等級付けを行った。 ChEIおよびNMDA受容体拮抗薬に関する主な推奨事項は以下のとおり。・アルツハイマー病では、認知機能および日常機能の改善にChEI(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン)が強く推奨される(エビデンスの質:中)。・ChEIは、血管性認知症およびパーキンソン病性認知症に条件付きで推奨され、レビー小体型認知症には強く推奨される。・中等度~重度のアルツハイマー病には、NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が強く推奨され、認知機能および日常機能の有意な改善が実証されている。・いずれの薬剤クラスにおいても副作用のマネジメントは可能であり、良好な安全性プロファイルが認められた。 BPSDに対する薬理学的治療に関する主な推奨事項は以下のとおり。・薬剤の種類および症状の重症度により推奨事項は異なる。・リスペリドンやブレクスピプラゾールなどの抗精神病薬は、認知症の攻撃性や精神症状のコントロールに条件付きで推奨され、抗うつ薬、とくにcitalopramはアルツハイマー病の興奮に推奨される。・ChEIおよびNMDA受容体拮抗薬などの抗認知症薬は、レビー小体型認知症の一般的なBPSDの改善および急速眼球運動睡眠行動障害に中程度の有効性を示した。・pimavanserinなどの特定の薬剤は、アルツハイマー病患者の精神症状に対する有効性が認められた。 著者らは本ガイドラインについて、「ChEIおよびNMDA受容体拮抗薬に関する具体的なガイダンスと共に、認知症マネジメントに関する標準化されたエビデンスに基づく推奨事項を提案している」「認知症のBPSDに対する薬理学的マネジメントにおける構造化されたアプローチを提供している」「リスクを最小限にしながら治療アウトカムを最適化するための個別化された治療計画を強調している」とし、「本ガイドラインは認知症ケアにおける患者アウトカムの改善を目的としている。認知症マネジメントの進歩を反映し、アミロイド標準療法などの新たな治療法について、さらに更新されるだろう」とまとめている。

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認知症の急速悪化、服用中の薬剤が引き金に?【外来で役立つ!認知症Topics】第27回

認知症の急速進行性患者(Rapid Decliner)少なからぬ認知症の患者さん、とくにアルツハイマー病(AD)患者の外来治療は長期にわたりがちで、2年や3年はざら、時には10年ということもある。そうした中で、この病気が進行していくスピード感というものがだんだんとわかってくる。ところが、「なぜこんなにも急速に悪化するのか」という驚きと、主治医としての後ろめたさを感じてしまうような症例を少なからず経験する。こうした患者さんは、医学的には急速進行性患者(Rapid Decliner:RD)と呼ばれる。急速進行性認知症とは、本来プリオン病をプロトタイプとするが、プリオン病との鑑別で最も多いのは急速進行性のADだとされる。このようなケースでは、本人というよりも主たる介護者が、そのことを嘆かれ、治療の変更や転医などを相談されることもある。しかし担当医として容易にはお答えができず、忸怩たる思いを経験する。また新薬の治験のようにADの経過を評価する際にもRDはしばしば問題になる。というのは、こうした新薬の効果は、多くの場合、わずかなものである。そこに一般的な患者の経過から飛び抜けて悪化を示すケースがあると、「結果解析ではこうしたRDを例外として対象から除外するのか?」などの統計解析上の取り扱いが問題になると聞く。急速進行性アルツハイマー病(RD AD)の定義さて急速進行性AD(RD AD)の定義では、MMSEのような認知機能評価尺度の点数悪化や発症から死亡に至るまでの時間により示されることが多い。RD ADの定義として、MMSEの年間点の得点低下が6点以上とするものが多い1)。一般的には年間低下率は、2~3点とされるから、その倍以上である。また普通は7~8年とされるADの生存期間だが、RD ADでは、それが2年以内とされることも多い2)。つまり約3~4分の1程度も短命である。このようなRD ADを予測する要因としては、合併症として、血管性要因、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などがある。また慢性的な心不全や閉塞性肺疾患の関与も注目されてきた。しかしいずれも確立していない。さらに一般的には若年性が悪いと思われがちだが、必ずしもそうではない。バイオマーカーでは、脳脊髄液中の総タウ、リン酸化タウの高値は予測要因の可能性があるとされる。多くの遺伝子多型も研究報告されてきた。最もよく知られた遺伝子多型のAPOEだが、この役割については賛否両論ある。以上をまとめると、RD ADの予測要因として確立したものはなさそうである。RD ADの症状:体力低下、BPSD、IADLの障害もっとも実臨床の場面でRD ADが持つ意味は上記のような医学的な定義とは少し異なる。つまり体力低下、認知症にみられる行動および神経心理学的な症状(BPSD)や道具的ADL(Instrumental Activity of Daily Living:IADL)の障害などが急速に進んで日常生活の維持が困難になって、急速進行が事例化するケースが多いと思う。たとえば、大腿骨頸部骨折や各種の肺炎後に衰弱が急に進むという訴えがある。IADLでは、排泄の後始末ができない・汚れたおむつで便器を詰まらせる、着衣失行など衣類が着られなくなった、などが多い。またBPSDでは、多くの介護者にとって、幻視や幻聴、そして妄想の出現はショックが大きい。つまり家族介護者は、認知機能の低下というよりは、衰弱やIADLの低下、衰弱や幻覚妄想による言動のように、目に見える変化が急速な悪化と感じやすい。服用中の薬剤が急速悪化の引き金にさて問題は、こうしたケースへの対応である。これには2つのポイントがある。まず診断の見直しという基本の確認である。ここでは必要に応じてセカンドピニオンも考慮すべきである。次にRDの危険因子とされた要因を点検することである。とくに注目すべきは、服用薬剤の副作用だろう。診断の見直しでは、まずビタミンB群、梅毒やHIVを含む血液検査はしておきたい。新たな脳血管障害などが加わった可能性もあるからCTやMRI等の脳画像の再検査も考慮する。また脳脊髄液検査や脳波検査も、感染症やプリオン病などの可能性を踏まえてやっておきたい。高度検査では、遺伝学的な検査、また悪性腫瘍の合併を考慮してWhole body PET-CTが必要になるケースもあるだろう。さらに炎症系の関りも視野に入れて、専門医との相談に基づいて、抗炎症治療による治療的診断として、イムノグロブリン、高用量ステロイドなどの投与もありうる。いずれにせよこれらでは、躊躇なくセカンドオピニオンが求められる。危険視の中でも、服用薬剤が重要である。まず向精神薬がある程以上に長期間にわたって投与されていれば、これらが心身の機能にも生命予後にも悪影響を及ぼす可能性がある。なお向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬のほかに、抗てんかん薬、抗パーキンソン薬などが含まれる。とりわけ、他科から処方されている薬剤は案外盲点かもしれない。他科の担当医はご自分の領域の治療薬に精通されていても、それが認知症に及ぼす影響まではあまり注意されていないかもしれない。それだけに「おくすり手帳」などを見せてもらう必要がある。さまざまな薬剤の中でも、とくに抗コリン薬は要注意である。これは過活動性膀胱の治療薬など泌尿器科用薬剤、循環器用薬剤に多い。またヒスタミンH2受容体拮抗薬、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、循環器系治療薬、抗菌薬などにも目配りが求められる。参考1)Soto ME, et al. Rapid cognitive decline in Alzheimer's disease. Consensus paper. J Nutr Health Aging. 2008;12:703-713. 2)Harmann P, Zerr I. Rapidly progressive dementias – aetiologies, diagnosis. Nat Rev Neurol. 2022;18:363-376.

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介護が必要となった主な原因(男女別)

介護が必要となった主な原因(男女別)視覚・聴覚障害1.1%呼吸器疾患3.4%視覚・聴覚障害 1.0%呼吸器疾患 1.3%脊髄損傷 1.6%その他11.4%脳卒中25.2%脊髄損傷3.4%男性がん3.9%認知症13.7%パーキンソン病5.4%n=3万4,777人パーキンソン病2.5%女性骨折・転倒17.8%脳卒中11.2%関節疾患12.7%高齢による衰弱8.7%骨折・転倒6.6%認知症18.1%がん 2.1%心臓病4.4%糖尿病5.2%関節疾患 心臓病5.4% 6.5%その他10.0%糖尿病 1.7%高齢による衰弱15.6%n=6万5,223人厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査」第023表「介護を要する者数、介護が必要となった主な原因・通院の有無・性・年齢階級別」を基に作成Copyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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GLP-1受容体作動薬はパーキンソン病全般にも有効か?(解説:内山真一郎氏)

 パーキンソン病患者に対するGLP-1受容体作動薬の効果を検討する第III相無作為化比較試験が英国で行われた。25~80歳でドーパミン治療を行っているHoehn & Yahrステージが2.5以下のパーキンソン病患者に、徐放型エキセナチド2mgかプラセボを96週間にわたって週1回皮下注射し、1次評価項目としてパーキンソン病の運動障害スケールであるUPDRS Part IIIを評価したところ、エキセナチド群とプラセボ群の悪化度には有意差がなく、疾患修飾薬としてのエキセナチドの有効性は証明されなかった。このエキセナチドの臨床効果の欠如は、DATスキャンの画像所見上の効果の欠如とも一致していた。 この試験結果が否定的だったのは、中枢神経へのエキセナチドの移行が不十分であったことが原因である可能性も否定できないが、2型糖尿病患者ではパーキンソン病の進行がGLP-1受容体作動薬により抑制されたという強力なエビデンスがあることを考えると、GLP-1受容体作動薬はインスリン抵抗性による神経炎症反応を抑制して効果を発揮している可能性があり、HbA1cが比較的高いサブグループのパーキンソン病患者に標的を絞った臨床試験を行う価値があるように思われる。

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GLP-1薬エキセナチド、パーキンソン病進行を抑制せず/Lancet

 パーキンソン病患者に対して、GLP-1受容体作動薬エキセナチドの安全性および忍容性は確認されたが、疾患修飾薬として支持するエビデンスは示されなかった。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのNirosen Vijiaratnam氏らが、第III相の多施設共同プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験の結果を報告した。GLP-1受容体作動薬は、in vitroおよびin vivoのパーキンソン病モデルにおいて神経栄養特性を有することが示され、疫学研究や小規模無作為化試験でパーキンソン病のリスクおよび進行を抑制する可能性が示唆されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「パーキンソン病ヘのGLP-1受容体作動薬使用を支持するエビデンスの確立には、より優れた標的結合を示す薬剤を用いた試験や、特定のサブグループを対象とした研究が必要である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年2月4日号掲載の報告。対プラセボ試験、96週時点のMDS-UPDRS III-ドーパミン作動薬中止スコアを評価 研究グループは、英国の6つの研究病院で、GLP-1受容体作動薬エキセナチドのパーキンソン病に対する進行抑制効果を明らかにする目的で試験を行った。 パーキンソン病と診断され、ドーパミン治療を受けている時点でホーン・ヤール重症度分類が2.5以下であり、登録前に少なくとも4週間ドーパミン治療を受けていた25~80歳の患者を対象とした。被験者は、ホーン・ヤール重症度分類と研究施設で最小化されたウェブベースシステムにより、徐放性エキセナチド2mgを皮下ペン注射にて週1回96週間投与、視覚的に同一のプラセボ投与のいずれかを受けるよう、1対1の割合で無作為に割り付けられた。全患者、全研究施設の研究チームメンバーが、無作為割り付けを盲検化された。 主要アウトカムは運動障害疾患学会・パーキンソン病統一スケール(MDS-UPDRS)Part IIIスコアとし、96週時点でドーパミン作動薬を中止した患者にて、線形混合モデリング法を用いてITT集団を対象に解析した。エキセナチド群5.7ポイント、プラセボ群4.5ポイント、スコアが悪化 2020年1月23日~2022年4月23日に215例が適格性のスクリーニングを受け、194例がエキセナチド群(97例)またはプラセボ群(97例)に無作為化された。56例(29%)が女性で、138例(71%)が男性であった。 エキセナチド群92例およびプラセボ群96例が、少なくとも1回のフォローアップを受け解析に含まれた。 96週時点で、MDS-UPDRS III-ドーパミン作動薬中止スコアは、エキセナチド群で平均5.7ポイント(SD 11.2)、プラセボ群では同4.5ポイント(11.4)上昇(悪化)し、エキセナチドの効果に関する補正後係数は0.92(95%信頼区間:-1.56~3.39、p=0.47)であった。 少なくとも1件以上の重篤な有害事象を発現したのは、エキセナチド群9例(9%)に対しプラセボ群は11例(11%)であった。

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第229回 高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府

<先週の動き>1.高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府2.医療存続のためJA県厚生連に19億円支援、経営改革が課題/新潟県3.東京女子医大元理事長を再逮捕 不正支出1.7億円、還流の疑い/警視庁4.若手医師の過労死、甲南医療センターの院長ら不起訴処分に/神戸地検5.維新の会、医療費4兆円削減と社保料6万円減を提案/国会6.28億円の診療報酬不正請求発覚、訪問看護で虚偽記録横行/サンウェルズ1.高額療養費制度の自己負担の引き上げ案、政府が修正を検討/政府政府は、高額な医療費の自己負担を軽減する「高額療養費制度」の見直し案について、修正を検討している。政府案では、2025年8月から3段階に分けて自己負担の上限額を引き上げる方針だったが、長期治療を必要とするがん患者などから「受診抑制につながる」との懸念が相次ぎ、負担軽減に向け、見直し案の修正が求められていた。高額療養費制度は、医療費が一定額を超えた場合に、患者の自己負担額に上限を設ける仕組み。政府の見直し案では、70歳未満の年収約370~770万円の層で、1ヵ月の自己負担限度額が現行の8万100円から最終的に13万8,600円に引き上げられる予定だった。さらに、12ヵ月以内に3回以上限度額を超えた場合、4回目以降は負担を軽減する「多数回該当」制度についても、上限額が4万4,400円から7万6,800円に引き上げられることになっていた。この見直し案に対し、全国がん患者団体連合会などの患者団体が強く反発し、12ヵ月以内に6回以上限度額を超えた場合、7回目以降の負担を現行水準に据え置く案を提案。政府はこれを参考に、長期治療を受ける患者の負担増を抑える方向で修正を検討している。また、患者団体からの意見聴取が行われなかったことも問題視され、国会では見直し案の凍結や再検討を求める声が上がった。これを受け、石破 茂首相は「患者の理解を得ることが必要」とし、福岡 資麿厚生労働大臣が患者団体との意見交換を行う方針を示した。野党側も見直し案に強く反対し、立憲民主党は高額療養費の負担引き上げを凍結する修正案を国会に提出予定。新型コロナウイルスワクチンの基金や予備費を財源に充当できると主張している。一方、政府は「制度の持続可能性を確保するために負担増は必要」との立場を維持しており、今後の調整が注目される。全国保険医団体連合会の調査では、がん患者の約半数が自己負担増による「治療の中断」を検討し、6割以上が「治療回数の削減を余儀なくされる」と回答。生活面では、8割以上が「食費や生活費を削る」とし、子供の教育への影響も懸念されている。政府は今後、長期治療を受ける患者の負担軽減を含めた修正案をまとめるが、財源確保の問題もあり、与野党の調整は難航する可能性が高い。高額療養費制度の持続性と患者負担のバランスをどう取るか、引き続き議論が続く見通し。参考1)「治療諦めろというのか」子育て中のがん患者 高額療養費見直し案に(毎日新聞)2)高額療養費引き上げ凍結を 立民、財源はコロナ基金(日経新聞)3)高額療養費の負担増なぜ見直し? 政府・与党、患者に配慮(同)4)高額療養費、負担引き上げで「治療断念」検討も がん患者ら調査(朝日新聞)5)子どもを持つがん患者さんに高額療養費アンケート 記者会見で中間報告(保団連)2.医療存続のためJA県厚生連に19億円支援、経営改革が課題/新潟県新潟県内で11病院を運営するJA県厚生連が経営危機に直面し、2025年度中にも運転資金が枯渇する恐れがあることを受け、県と病院所在の6市が総額19億円の財政支援を行う方針を決定した。6日に県庁で開かれた会合で、新潟県は国の交付金を活用しながら10億円程度を負担し、6市は約9億円を拠出することを表明。これにより、当面の資金不足は回避される見込みとなった。県厚生連は、人口減少に伴う患者数の減少が影響し、2023年度決算で35億9,000万円の赤字を計上。2024年度は職員の賞与削減など緊急対策を実施しているが、12月時点で45億6,000万円の赤字が見込まれている。病院運営に必要な運転資金は月額90億円に上るため、早急な財政支援が求められていた。会合では、県の花角 英世知事が「持続可能な経営には抜本的な改革が必要」と述べ、病院再編を含めた地域医療の効率化を求めた。6市を代表して糸魚川市の米田 徹市長は、「県として3ヵ年の財政支援を継続して欲しい」と要望し、国に対しても診療報酬制度の見直しを求める姿勢を示した。県厚生連の塚田 芳久理事長は「さらなる経営改革を進め、県民に安心できる医療を提供しながら安定経営の確保に努める」と表明。年度内に2025年度から3年間の経営計画を策定し、経営改善を図る方針という。しかし、長期的な経営安定には根本的な改革と継続的な財政支援が不可欠であり、今後の動向が注目されている。参考1)県厚生連へ19億円支援 県と6市方針 病院運営危機受け(読売新聞)2)JA県厚生連に19億円 25年度分 県と6市が支援表明(毎日新聞)3)新潟県、病院経営危機のJA県厚生連への支援を10億円規模で調整 2025年度の運転資金枯渇は回避できる見通し(新潟日報)3.東京女子医大元理事長を再逮捕 不正支出1.7億円、還流の疑い/警視庁東京女子医科大学の建設工事を巡る背任事件で、警視庁は3日、元理事長の岩本 絹子容疑者(78)を再逮捕した。岩本容疑者は2020年から翌年にかけて、足立区に新設された大学付属病院「足立医療センター」の建設工事に関連し、「建築アドバイザー報酬」名目で約1億7,000万円を大学から1級建築士の男性に支払わせ、損害を与えた疑いが持たれている。うち約5,000万円が岩本容疑者に還流されていたとみられる。岩本容疑者は1月、新校舎建設を巡る背任容疑で逮捕されていた。警視庁の調べによると、同様の手口で1億1,700万円の不正支出が行われ、そのうち約3,700万円が還流されたとされる。これにより、架空の「建築アドバイザー報酬」による大学の損害は総額3億円超に上る可能性がある。捜査関係者によると、建築士の男性は大学から受け取った資金の一部について元女子医大職員を通じて岩本容疑者に現金で渡していた。元職員の女性は岩本容疑者の直轄部署に所属しており、容疑者の指示の下、資金移動を担っていたとみられる。大学側が承認した建設に関係する稟議書によると、建築士への支払いは施工費(約264億円)の0.7%に相当し、理事会で承認されていた。しかし、実際には業務実態が乏しく、大学関係者からは「理事会での異議申し立てが困難な状況だった」との証言も出ている。さらに、内部文書の解析から、理事長自らが申請者兼承認者となっていたことも判明し、不正の組織的な側面が浮かび上がっている。警視庁は、還流資金がブランド品購入など私的な用途に充てられた可能性もあるとみており、資金の流れや関係者の役割について捜査を進めている。岩本容疑者の認否は明らかにされていないが、背任の疑いは一層強まっている。参考1)本日2/3(月)元理事長の再逮捕について(女子医大)2)東京女子医大元理事長、背任容疑で再逮捕…業務実態ない男性への報酬で1・7億円の損害与えた疑い(読売新聞)3)東京女子医大の女帝再逮捕 内部文書で明らかになった“デタラメやりたい放題”の仕組み「女子医大には元理事長の手足となって動いた人間たちがたくさんいる」(文春オンライン)4.若手医師の過労死、甲南医療センターの院長ら不起訴処分に/神戸地検2022年に神戸市の甲南医療センターで勤務していた専攻医・高島 晨伍さん(当時26歳)が長時間労働を苦に自殺した問題で、神戸地検は4日、労働基準法違反の疑いで書類送検されていた病院運営法人「甲南会」と院長ら2人を不起訴処分とした。検察は不起訴の理由を明らかにしていない。西宮労働基準監督署の調査では、高島さんの亡くなる直前の1ヵ月間の時間外労働が113時間を超えていたと認定されていた。高島さんの母は「非常に残念。この結果が若手医師の労働環境改善を阻むものであってはならない」とコメント。病院側は「事実に基づく捜査を経ての判断」と述べるにとどまった。この問題は、医師の働き方改革とも密接に関係し、2024年4月から医師の時間外労働に上限規制が導入され、基本的には年間960時間(月80時間)が上限とされた。しかし、研修医や特定の医療機関では、最大で年間1,860時間(月155時間)までの時間外労働が認められており、現場の実態との乖離が指摘されている。また、医療現場では「自己研鑽」として学会準備や研究活動が労働時間に含まれず、事実上の無償労働が横行しているとの批判もある。厚生労働省の通達では「上司の指示がある場合は労働」とされるが、実際には上司の関与が曖昧なケースも多く、勤務時間の過少申告につながる恐れがあると指摘されている。さらに、病院側は「宿日直許可制度」を利用し、夜間の長時間勤務を労働時間に含めない運用を行っている。この制度の適用件数は2020年の144件から2023年には5,000件を超え、病院経営の抜け道として使われているのが実情である。若手医師の過重労働は、医療の安全性や医師不足の深刻化にも影響を及ぼす。すでに「地域医療の維持よりも働きやすさを求め、美容医療などに転職する若手医師が増えている」との指摘もあり、医療界全体のモラルハザードが懸念さている。医師の長時間労働は、単なる労働問題ではなく、患者の安全にも直結する。自己犠牲を前提とした医療制度の見直しが急務となっている。参考1)甲南医療センター若手医師の過労自死 労基法違反疑いの院長ら不起訴処分 神戸地検(神戸新聞)2)若手医師の過労死、労基法違反疑いの病院運営法人や院長ら不起訴 神戸地検、理由明かさず(産経新聞)3)医師不足に拍車をかける「偽りの働き方改革」(東洋経済オンライン)5.維新の会、医療費4兆円削減と社保料6万円減を提案/国会日本維新の会は2月7日、政府の2025年度予算案への賛成条件として、医療費の年間約4兆円削減と国民1人当たりの社会保険料を約6万円引き下げる改革案を提示した。これにより、高校授業料無償化と並び、社会保障制度の見直しを求める構え。自民・公明両党は慎重な対応をみせており、今後の協議の行方が注目されている。維新の青柳 仁士政調会長は、自民・公明両党の政調会長との会談で、医療費削減策として「市販薬と類似する医薬品(OTC類似薬)の保険適用除外」「医療費窓口負担の見直し」「高額療養費の自己負担限度額の判定基準再検討」などを提案。さらに、社会保険加入が義務付けられる「年収106万円・130万円の壁」問題への対応も要請した。維新は、これらの改革を2025年度から実施すれば、年間4兆円の医療費削減が可能であり、国民の社会保険料負担を1人当たり年間6万円減らせると主張している。とくに、OTC類似薬の保険適用除外については、湿布や風邪薬など、処方薬として購入すれば1~3割の自己負担で済むが、全額自己負担とすることで約3,450億円の医療費削減が見込まれると試算。さらに、窓口負担割合の見直しでは、所得に加え、預貯金や株式などの金融資産を考慮する仕組みを導入し、資産の多い高齢者の負担を増やすことを提案した。また、電子カルテと個人の健康情報を統合する「パーソナル・ヘルス・レコード(PHR)」の普及促進も掲げ、医療コストの効率化を狙う。一方、維新は医療費削減策だけでなく、社会保険料負担軽減のための年収の壁問題にも言及。現在、51人以上の企業に勤めるパート労働者は年収106万円を超えると社会保険加入が義務付けられ、130万円を超えると企業規模に関係なく加入が求められる。この制度が労働時間の抑制を生み、人手不足を助長しているとの指摘もあり、維新は政府に対策を求めた。自民党は、まずは高校授業料無償化の議論を優先し、維新の予算案への賛成を取り付けたい考えだが、維新は「高校無償化と社会保険料引き下げの両方が必要条件」と主張し、交渉は難航する可能性がある。自民・公明両党は改革案の具体的な影響を精査するとして回答を留保しており、維新の提案が実現するかは不透明だ。政府は社会保障費の増大に対応するため、医薬品の公定価格(薬価)引き下げによる財源捻出を続けている。しかし、薬価改定による削減効果は限界に達しつつあり、新たな医療費抑制策が求められる状況。維新の提案がこの課題にどう影響を与えるのか、今後の国会審議に注目が集まる。参考1)維新が医療費4兆円削減、社会保険料は6万円引き下げ提案 新年度予算案賛成の条件に(産経新聞)2)「市販品類似薬を保険外に」維新、社保改革で具体案 自公に提案、予算賛成の条件(日経新聞)3)高額療養費の「自己負担の上限引き上げ」見直しへ…政府・与党、がん患者らに反発広がり(読売新聞)4)少数与党国会、厚労省提出法案の「熟議」を注視(MEDIFAX)6.28億円の診療報酬不正請求発覚 訪問看護で虚偽記録横行/サンウェルズパーキンソン病専門の有料老人ホーム「PDハウス」を運営する東証プライム上場のサンウェルズ(金沢市)が、全国のほぼ全施設で診療報酬の不正請求を行っていたことが、7日に公表された特別調査委員会の報告書で明らかになった。調査の結果、不正請求額は総額28億4,700万円に上ると試算されている。報告書によると、サンウェルズは全国14都道府県で約40ヵ所の「PDハウス」を運営。訪問看護事業において、実際には数分しか訪問していないにもかかわらず、30分間訪問したと虚偽の記録を作成し、診療報酬を請求するなどの不正が横行していた。また、実際には1人で訪問しているにもかかわらず、2人で訪問したと装い、加算報酬を請求するケースも確認された。さらに、特定の入居者に対し、必要がないにもかかわらず毎日3回の訪問を行い、過剰な請求を行っていたことも判明。現場の職員の間では「訪問回数を減らせばペナルティーが科される」という認識が広まり、不正が慣例化していた可能性が高い。経営陣はこうした問題について複数回の内部通報を受けていたものの、実態把握に動かなかったとされる。サンウェルズは当初、不正の疑惑を全面否定していたが、昨年9月の報道を受けて特別調査委員会を設置。今回の調査結果を受け、「多大なご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。再発防止策を速やかに策定し、信頼回復に努める」と謝罪のコメントを発表した。一方で、同社の経営陣にはインサイダー取引の疑惑も浮上している。昨年7月、サンウェルズは不正の指摘を受けながらも、東証プライム市場へ移行し、野村證券を主幹事とする株式の売り出しを実施。社長の苗代 亮達氏は個人で34億円の売却益を得ていた。市場関係者からは「不正を認識したまま株式を売却した可能性がある」として、金融商品取引法違反の疑いも指摘されている。今回の不正請求問題は、サンウェルズだけでなく、業界全体にも波紋を広げる可能性がある。ホスピス型老人ホームの需要が高まる中で、制度の見直しや行政のチェック体制の強化が求められている。参考1)特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ(サンウェルズ社)2)約28億4,700万円の不正請求と調査委が試算…金沢市に本社の「サンウェルズ」の訪問看護事業めぐり(石川テレビ)3)老人ホームのサンウェルズ、ほぼ全施設で不正請求 調査委が報告書(毎日新聞)4)ほぼ全施設で不正請求 PDハウス運営サンウェルズ 調査委報告書 過剰訪問看護で28億円(中日新聞)5)東証プライム上場サンウェルズが老人ホームほぼ全てで介護報酬不正請求!社長の「インサイダー取引」疑惑に発展か(ダイヤモンドオンライン)

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加齢黄斑変性は関節リウマチの発症リスクを高める

 加齢黄斑変性(AMD)患者は関節リウマチ(RA)の発症リスクが高いとする、成均館大学校(韓国)のJe Moon Yoon氏らの研究結果が「Scientific Reports」に9月9日掲載された。 AMDは、加齢、遺伝、喫煙、食生活などのほかに、慢性炎症がリスク因子の一つと考えられている。また近年の研究では、AMDとパーキンソン病やアルツハイマー病リスクとの間に関連があり、慢性炎症や酸化ストレスがその関連の潜在的なメカニズムと想定されている。一方、RAは滑膜の炎症を特徴とする全身性疾患であることから、RAもAMDのリスクと関連している可能性がある。以上を背景としてYoon氏らは、韓国の国民健康保険データを用いて、AMDとRAリスクとの関連を検討した。 2009年に健診を受け、RAと診断されていない50歳超の成人353万7,293人を2019年まで追跡し、多変量補正Cox回帰モデルを用いた解析を行った。RAの発症は、保険請求の診断コードと薬剤の処方で定義した。ベースライン時において、4万1,412人(1.17%)がAMDに罹患しており、このうちの3,014人(7.28%)は視覚障害を有していた。 平均9.9年の追跡期間中に4万3,772人(1.24%)がRAを発症していた。AMD群では4万1,412人中567人がRAを発症し、1,000人年当たりの罹患率は1.43であり、対照群は349万5,881人中4万3,205人がRAを発症し、罹患率は1.25であった。交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病、高血圧、脂質異常症、チャールソン併存疾患指数、収入など)を調整後、AMD群は対照群に比しRA発症リスクが有意に高いことが明らかになった(調整ハザード比〔aHR〕1.11〔95%信頼区間1.02~1.21〕)。 次に、AMD患者をベースライン時の視覚障害の有無で二分して検討。視覚障害を有していなかった群は、3万8,398人中535人がRAを発症し罹患率は1.46であり、前記の交絡因子を調整後に有意なリスク上昇が認められた(aHR1.13〔同1.03~1.21〕)。一方、ベースライン時に視覚障害を有していた群は、3,014人中32人がRAを発症し罹患率は1.14であって、aHR0.90(0.64~1.27)と、有意なリスク上昇は観察されなかった。 なお、年齢や性別、併存疾患の有無で層別化したサブグループ解析では、AMDとRA発症リスクとの関連に有意な交互作用のある因子は特定されなかった。 著者らは、「AMDはRA発症リスクの高さと関連していた。この関連のメカニズムの理解のため、さらなる研究が必要とされる」と総括している。また、視覚障害を有するAMD患者では有意なリスク上昇が認められなかった点について、「視覚障害がある場合にRAが過小診断されている可能性も考えられる」との考察を付け加えている。

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第248回 GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連

GLP-1薬とてんかん発作を生じにくくなることが関連セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬(GLP-1 RA)とてんかん発作を生じにくくなることの関連が新たなメタ解析で示されました1)。たいてい60~65歳過ぎに発症する晩発性てんかん(late-onset epilepsy)を生じやすいことと糖尿病やその他いくつかのリスク要因との関連が、米国の4地域から募った45~64歳の中高年の長期観察試験で示されています2)。近年になって使われるようになったGLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬を含む新しい血糖降下薬は多才で、糖尿病の治療効果に加えて神経保護や抗炎症作用も担うようです。たとえば血糖降下薬とパーキンソン病を生じ難くなることの関連が無作為化試験のメタ解析で示されており3)、血糖降下薬には神経変性を食い止める効果があるのかもしれません。米国FDAの有害事象データベースの解析では、血糖降下薬と多発性硬化症が生じ難くなることが関連しており4)、神経炎症を防ぐ作用も示唆されています。晩発性てんかんは神経変性と血管損傷の複合で生じると考えられています。ゆえに、神経変性を食い止めうるらしい血糖降下薬は発作やてんかんの発生に影響を及ぼしそうです。そこでインドのKasturba Medical CollegeのUdeept Sindhu氏らはこれまでの無作為化試験一揃いをメタ解析し、近ごろの血糖降下薬に発作やてんかんを防ぐ効果があるかどうかを調べました。GLP-1 RA、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬の27の無作為化試験に参加した成人20万例弱(19万7,910例)の記録が解析されました。血糖降下薬に割り振られた患者は半数強の10万2,939例で、残り半数弱(9万4,971例)はプラセボ投与群でした。有害事象として報告された発作やてんかんの発生率を比較したところ、血糖降下薬全体はプラセボに比べて24%低くて済んでいました。血糖降下薬の種類別で解析したところ、GLP-1 RAのみ有益で、GLP-1 RAは発作やてんかんの発生率がプラセボに比べて33%低いことが示されました(相対リスク:0.67、95%信頼区間:0.46~0.98、p=0.034)。発作とてんかんを区別して解析したところ、GLP-1 RAと発作の発生率の有意な低下は維持されました。しかし、てんかん発生率の比較では残念ながらGLP-1 RAとプラセボの差は有意ではありませんでした。試験の平均追跡期間は2.5年ほど(29.2ヵ月)であり、てんかんの比較で差がつかなかったことには試験期間が比較的短かったことが関与しているかもしれません。また、試験で報告されたてんかんがInternational League Against Epilepsy(ILAE)の基準に合致するかどうかも不明で、そのことも有意差に至らなかった理由の一端かもしれません。そのような不備はあったもの、新しい血糖降下薬が発作やてんかんを防ぎうることを今回の結果は示唆しており、さまざまな手法やより多様で大人数のデータベースを使ってのさらなる検討を促すだろうと著者は言っています1)。とくに、脳卒中患者などのてんかんが生じる恐れが大きい高齢者集団での検討を後押しするでしょう。参考1)Sindhu U, et al. Epilepsia Open. 2024;9:2528-2536.2)Johnson EL, et al. JAMA Neurol. 2018;75:1375-1382.3)Tang H, et al. Mov Disord Clin Pract. 2023;10:1659-1665.4)Shirani A, et al. Ther Adv Neurol Disord. 2024;17:17562864241276848.

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口の中でグミを細かくできないと要介護や死亡のリスクが高い―島根でのコホート研究

 口の中の健康状態が良くないこと(口腔の不健康状態)が、要介護や死亡のリスクの高さと関連のあることを示すデータが報告された。また、それらのリスクと最も強い関連があるのは、グミを15秒間咀嚼してどれだけ細かく分割できるかという検査の結果だという。島根大学研究・学術情報本部地域包括ケア教育研究センターの安部孝文氏らが、島根県歯科医師会、国立保健医療科学院と共同で行ったコホート研究によるもので、詳細は「The Lancet Healthy Longevity」に10月17日掲載された。 近年、口腔機能の脆弱状態を「オーラルフレイル」と呼び、全身の健康に悪影響を及ぼし得ることから、その予防や改善の取り組みが進められている。また75歳以上の高齢者に対しては、後期高齢者歯科口腔健康診査が全国的に行われている。安部氏らは島根県内でのその健診データを用いて、口腔機能の脆弱を含めた口腔の不健康状態と要介護および死亡リスクとの関連を検討した。 2016~2021年度に少なくとも1回は後期高齢者歯科口腔健康診査を受けた島根県内在住の後期高齢者から、ベースライン時点で介護保険を利用していた人とデータ欠落者を除外した2万2,747人(平均年齢78.34±2.89歳、男性42.74%)を死亡リスクとの関連の解析対象とした。介護保険を利用することなく死亡した人も除外した2万1,881人(同78.31±2.88歳、男性41.93%)を、要介護リスクとの関連の解析対象とした。なお、要介護の発生は、要介護度2以上と判定された場合と定義した。 ベースライン時に、13項目の指標(残存歯数、主観的および客観的咀嚼機能、歯周組織の状態、嚥下機能、構音障害、口腔乾燥など)により、口腔の不健康状態を評価。このうち、客観的咀嚼機能については、グミを口に含んで15秒間でできるだけ細かく咀嚼してもらい、分割できた数の四分位数により4段階に分類して評価した。22個以上に分割できた最高四分位群(上位4分の1)を最も咀嚼機能が優れている群とし、以下、13~21個の群、4~12個の群の順に、咀嚼機能が低いと判定。3個以下だった最低四分位群(下位4分の1)を最も咀嚼機能が低い群とした。 要介護または死亡の発生、もしくは2022年3月31日まで追跡した結果(平均追跡期間は死亡に関しては42.6カ月、要介護に関しては41.4カ月)、1,407人が死亡し、1,942人が要介護認定を受けていた。口腔の不健康状態との関連の解析に際しては、結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、疾患〔高血圧、歯周病、脳血管疾患、肺炎、骨粗鬆症・骨折、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病など〕の既往歴、およびそれらに基づく傾向スコア)を統計学的に調整した。 その解析の結果、口腔の不健康状態に関する13項目の評価指標の全てが、死亡リスクと有意に関連していることが明らかになった。例えば残存歯数が28本以上の群を基準として、0本の群は63%リスクが高く(ハザード比〔HR〕1.63〔95%信頼区間1.27~2.09〕)、客観的咀嚼機能の最高四分位群を基準として最低四分位群は87%ハイリスクだった(HR1.87〔同1.60~2.19〕)。要介護リスクについても、口腔乾燥と口腔粘膜疾患を除く11項目が有意に関連していた。例えば残存歯数が0本ではHR1.50(1.21~1.87)、客観的咀嚼機能の最低四分位群はHR2.25(1.95~2.60)だった。 13項目の口腔の不健康状態の指標ごとの集団寄与危険割合を検討したところ、グミで評価した客観的咀嚼機能の低下が、要介護および死亡の発生との関連が最も強いことが分かった。例えば客観的咀嚼機能の最低四分位群の場合、死亡リスクに対する寄与割合が16.47%、要介護リスクに対する寄与割合は23.10%だった。 本研究により、口腔の不健康状態のさまざまな評価指標が要介護や死亡リスクと関連のあることが明らかになった。著者らは、「高齢者の口の中の健康を良好に保つことが、要介護や死亡リスクを抑制する可能性がある。研究の次のステップとして、歯科治療による介入効果の検証が求められる」と述べている。

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便失禁を起こしやすい患者とは?便失禁診療ガイドライン改訂

 日本大腸肛門病学会が編集を手掛けた『便失禁診療ガイドライン2024年版改訂第2版』が2024年10月31日に発刊された。2017年に発刊された初版から7年ぶりの改訂となる。今回、便失禁の定義や病態、診断・評価法、初期治療から専門的治療に至るまでの基本的知識がアップデートされ、新たに失禁関連皮膚炎や出産後患者に関する記載が拡充された。また、治療法選択や専門施設との連携のタイミングなど、判断に迷うテーマについてはClinical Question(CQ)で推奨を示し、すべての医療職にとっての指針となるように作成されている。 便失禁の定義とは「無意識または自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状」である。このほかに「無意識または自分の意思に反して肛門からガスが漏れる症状」をガス失禁、便失禁とガス失禁を合わせて肛門失禁と定義される。国内での有病率について、65歳以上での便失禁は男性8.7%、女性6.6%である。一方、ガス失禁を含む肛門失禁は34.4%であるが、男性15.5%に対して女性42.7%と性差が見られる。主な便失禁の発症リスク因子として、年齢・性別などの身体的条件や産科的条件に加え、BMIが30を超える肥満、全身状態不良、身体制約などが報告されている。また、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患、糖尿病、過活動膀胱、骨盤臓器脱、認知症や脊髄損傷といった疾患もリスク因子となる。直腸がんも便失禁の原因になりうるが、とくに直腸がんに対する肛門温存手術後の排便障害である低位前方切除後症候群の発生率は高率で、主訴の直腸がんが根治した後に排便障害を抱えて生活している患者は増加傾向であるという。 このような病態背景があるなか、本診療ガイドラインは「便失禁診療・ケアを普及することで、便失禁症状を改善し、便失禁を有する患者の生活の質の改善」を目的として、便失禁の診断・治療とともに便失禁の程度とその状態の評価、便失禁に伴う皮膚症状や生活の質への評価と対応、寝たきりとなっている患者への介護などの側面からも捉え、8つの重要臨床課題と5つのClinical Question(CQ)が設定されている。<重要臨床課題>(1)便失禁の臨床評価(2)特殊病態の臨床評価(3)治療方針決定に必要な検査(4)食事・生活・排便習慣指導の有用性(5)薬物療法の適応と有用性(6)骨盤底筋訓練・バイオフィードバック療法の適応と有用性(7)洗腸療法の適応と有用性(8)手術療法の適応と有用性<Clinical Question>CQ1:便失禁の薬物療法において、ポリカルボフィルカルシウムとロペラミド塩酸塩はどのように使い分けるか?CQ2:出産後に便失禁が発症した場合、専門施設への最適な紹介時期はいつか?CQ3:分娩時肛門括約筋損傷の既往を有する妊婦の出産方法として、経腟分娩と帝王切開のどちらが推奨されるか?CQ4:肛門括約筋断裂による便失禁に対して、肛門括約筋形成術と仙骨神経刺激療法のどちらを先行すべきか?CQ5:脊髄障害を原因とする便失禁の治療法として、仙骨神経刺激療法は有用か? なお、日本大腸肛門病学会は本ガイドラインの使用について、便失禁を診療する医師だけではなくケアを行う介護者や一般市民も想定しており、便失禁診療の一助となることを願っているという。

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