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【GET!ザ・トレンド】原因不明の多臓器症状に潜む「ミトコンドリア病」と創薬の最前線

はじめに:早期診断の鍵は、ミトコンドリアの「SOS」を見抜く力にかかっている「少しの運動による著しい疲弊(運動不耐症)」「若年期からの難聴や糖尿病」「発熱や代謝負荷に伴う急激な症状悪化」など、日常外来で単なる「原因不明の慢性疲労」や不定愁訴、あるいは個別の臓器疾患として片付けられがちな症状の背景には、エネルギー代謝の根幹を担うミトコンドリアの機能異常「ミトコンドリア病」が隠れている可能性がある。こうした希少神経筋疾患や先天性代謝異常症の診療・研究の第一線で長年患者と歩んできた、自治医科大学小児科学講座の小坂 仁氏に話を伺った。同氏によれば、ミトコンドリア病は多臓器にまたがる複雑な病態で主訴も多岐にわたるため、一般外来で診断に至らず長年苦しむ患者が少なくないという。そして彼らを早期診断・適切な医療へとつなぐ鍵は、「多臓器症状を細胞のエネルギー不足という共通軸で捉え直す視点」にあると指摘する。なお、毎年9月の第3週は「世界ミトコンドリア病啓発週間(World Mitochondrial Disease Week)」として、International Mito Patients(IMP)を中心に、世界規模で疾患の認知向上と研究推進に向けたキャンペーンが展開されている。この機会に、日常診療の背後に潜むミトコンドリアからの「SOS」にあらためて目を向けてみたい。1. 疲れやすさの影に潜む多臓器症状:「個別の不調」を線でつなぐ視点「細胞のエネルギー不足」という診断の共通軸ミトコンドリア病診療において、小坂氏がまず強調するのは、単なる「疲れ」として見過ごされがちな症状の質だ。「ミトコンドリア病はウルトラレア(超希少)と思われがちですが、決して診る機会のない疾患ではありません。ただ、病態が複雑なため『どう疑うか』が難しいと感じる先生も多いようです。もちろん、単に『疲れやすい』という主訴だけで本症を疑うのは現実的ではありません。重要なのは、疲労感の質と多臓器症状の合併です」と同氏は語る。軽微な労作で著しく体力を消耗する運動不耐症や進行性の筋力低下に加え、エネルギー需要の高い心筋、耳(内耳)、内分泌系(膵臓)などの障害、具体的には若年発症の難聴、糖尿病、心筋症、片頭痛などが複数併存している場合、それらを個別の疾患として捉えるのではなく、細胞のエネルギー不足という共通軸で評価することが診断の第一歩になるという。「増悪のタイミング」を問診するさらに小坂氏が注意を促すのが、過度の代謝負荷がかかった局面に現れる「急激な症状の顕在化」だ。「普段は静かに順応して生活していても、体に急激なエネルギー需要が発生すると、一気に症状が表出する特徴があります」と同氏は指摘する。小児期のリー(Leigh)症候群などでは、発熱や感染症、激しい運動などを契機に、突然の痙攣や意識障害、呼吸不全などが引き起こされる。また成人期のミトコンドリア脳筋症・乳酸アシドーシス・脳卒中様発作症候群(MELAS)などにおいても、過食や過度な運動、精神的ストレスが誘因となり、脳卒中様発作や激しい頭痛として顕在化するケースがあるという。「日常外来において『症状が急激に悪化したとき』の問診を丁寧に拾い上げること、そして小児例であれば脳MRIで脳血管支配に一致しない脳卒中様病変や、両側基底核や脳幹に左右対称性の病変がないかを確認することが、きわめて強力な診断の手掛かりになる」と同氏は語る。「母系遺伝」という固定観念からの脱却診断の過程で留意したいもう1つのポイントが、遺伝形式に対する理解だという。「『ミトコンドリア病=母系遺伝』という印象が強いかもしれませんが、実際には常染色体遺伝やX連鎖遺伝など多様な遺伝形式が存在します。とくに小児発症例では核DNA上の病的バリアントによるものも多く、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)では両親が無症状であることも少なくありません」と同氏は説明する。一方で、成人期に多いMELASなどのミトコンドリアDNA変異では母系遺伝を認める。そのため、「母系親族における若年性の難聴、糖尿病、片頭痛、筋力低下、腎障害などの集積がないか」を問診することは、病型を見抜くうえできわめて有効な鍵になると同氏は強調する。こうした問診や観察のポイントを踏まえ、一般外来でミトコンドリア病を疑うための臨床チェックリストを下表にまとめた。表 一般外来で疑うための臨床チェックリスト疲れの質:少しの労作で極端に疲弊する「運動不耐症」はあるか?多臓器症状:若年難聴、糖尿病、心筋症、片頭痛、腎障害などが「複数」重なっていないか?増悪の契機:発熱・感染・過食・激しい運動・精神的ストレスなどで「急激に増悪」したエピソードはあるか?遺伝形式の解釈:「母系遺伝=すべてのミトコンドリア病」ではない。家族歴がなくても、小児発症例では核DNA上の病的バリアントによるものも多いことを念頭に置く。2. 対症療法から根本病態への介入へ:最新創薬が拓く未来と意外な広がり着実に進む臨床応用への歩み長らく対症療法に限られてきたミトコンドリア病だが、近年は国内外で新薬開発の動きが大きく加速している。小坂氏はその最前線について次のように語る。「現在、世界中で低分子化合物や遺伝子治療など多様なアプローチによる創薬が進んでいます。国内においても、東北大学で見いだされ、第II相臨床試験中であるMitochonic acid-5(MA-5)は、ミトコンドリア病の幅広い遺伝的背景の患者由来細胞でATP産生を促進することが示されている化合物であり、臨床現場からの期待も非常に大きい『希望の星』です。また、パーキンソン病治療薬アポモルフィンの化学構造を出発点に、ドパミン作用を抑え、ミトコンドリア機能改善作用に着目した誘導体を開発しています。現在、安全性の向上を目指しながら前臨床研究を進めています」。さらに、MELASの脳卒中様発作抑制薬としてタウリンが世界に先駆けて日本で承認・実用化された実績もある。「病態の解明から臨床応用まで日本人が主導したこの成功体験は、希少疾患研究における誇るべき足跡なのです」と同氏は強調する。パーキンソン病や老化現象の未来を変えるポテンシャルなぜ、希少疾患とされるミトコンドリア病の創薬にこれほどの期待が寄せられるのか。小坂氏は、その影響範囲が希少疾患にとどまらず、臨床医が日常で遭遇する加齢性疾患や神経変性疾患にまで及ぶ点を示唆する。「ミトコンドリアの機能低下は、パーキンソン病などの神経変性疾患や老化現象とも密接に関与しています。ミトコンドリア病研究から得られた知見が、パーキンソン病などの神経変性疾患や加齢に伴う病態の理解、新たな治療標的の発見につながる可能性があります。希少疾患研究は、私たちが日常的に診ている疾患の治療をも大きく変えるポテンシャルを秘めているのです」と同氏は語る。3. 「患者の熱意が、医師と研究者を突き動かす」:二人三脚の歩み「共に治療法を創るパートナー」へインタビューの終盤、小坂氏が最も熱を込めて語ったのは、長年共に歩んできた患者やその家族との深い絆であった。ミトコンドリア病における患者用ハンドブックの作成や診療マニュアルの編集は、単なる医師主導のプロジェクトではない。かつて患者・家族と医師たちが合宿形式で膝を突き合わせ、情熱を注ぎ込みながら形作られてきた歴史がある。「患者さんや、『わが子を救いたい』というご家族の切実な声に接したとき、私たち医師や研究者のエンジンが一気に掛かるのです」と同氏は振り返る。実際、国内で進む創薬プロジェクトの多くも、患者・家族とアカデミアの強い結びつきから生まれている。患者である「七海(ななみ)ちゃん」のご家族と一般社団法人こいのぼりが主体となり、自ら研究資金を募りアカデミアと連携して治療薬開発を推し進めた「7 SEAS PROJECT(セブン・シーズ・プロジェクト)」はその象徴的な例だ。「こうした動きは、もともと海外で先行して活発に行われてきたものでもあります。海外では患者会が自ら巨額の研究費を募り、米国食品医薬品局(FDA)や世界の研究機関を動かして開発を牽引する活動が行われています。希少疾患の医療においては、患者と医師・研究者が対等なパートナーとして手を取り合い、新たな治療法を一緒に創り出していくという側面が非常に強いと感じています」と同氏は語る。おわりに:日常外来の「1つの選択肢」が患者の未来を変える最後に小坂氏は、一般外来で日々多様な病態と向き合う医師たちに向けて、次のようなメッセージを寄せた。「多臓器にまたがる原因不明の不調を訴える患者さんを前にしたとき、頭の片隅に『ミトコンドリア病かもしれない』という選択肢が存在するかどうか。その可能性への思いが、長年原因がわからず診療科を転々としてきた患者さんを早期の専門医療へとつなぐ鍵となります」。日常診療の背後に潜むミトコンドリアのSOSに耳を傾け、希少疾患領域から発信される最新の知見に目を向ける。そのアプローチは、ミトコンドリア病の克服にとどまらず、多様な疾患の治療法を切り拓く未来の医療への第一歩となる。(ケアネット 三浦 愛子)

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「震え」と「振るえ」、どっちを使う?【脳がととのう 神経内科学講座】第4回

<今回のモヤっとPoint>どんな「ふるえ」なら、パーキンソン病を疑うの?震えと振るえ、違いがあるの?はじめに日常診療では「ふるえていた」と報告を受けることがしばしばあります。あまり意識せずに使っているこの「ふるえ」という言葉ですが、医学的には何をさしているのでしょうか? 日本語として「ふるえ」は、国語辞典を引いてみると「ぶるぶると揺れ動くこと」や「身震いすること」といった意味を持っています。たとえば、寒さや恐怖、興奮などによって、自分の意思とは関係なく体の一部または全身が小刻みに揺れ動く現象をさすようですが、皆さんが臨床で使っている「ふるえ」もこれと同じでしょうか? 今回は、この用語の定義や臨床的な意義について整えていきましょう。「振るえ」と「震え」ふるえの漢字表記には「振るえ」と「震え」があります。脳神経内科医の視点で「振るえ」と聞けば、それは「振戦(tremor)」なのだろうと想起します。一方で、「震えていました」と聞けば、それはきっと「シバリングなのかな?」とか「ミオクローヌス」「もしかして痙攣発作?」などと脳裏に浮かびます。ちなみに、前者の振戦を呈する代表的な神経疾患にパーキンソン病があるのはご存じでしょう。もちろん、ふるえがあるからといって、パーキンソン病とは限りません。だからこそ、非専門医の先生にとってふるえの評価は悩みどころの一つではないでしょうか?臨床でのふるえ、まずは「振るえ」と「震え」でどう使い分けるか―このモヤモヤを解決してみましょう。そのためには、言葉の定義やどういった病態を想定しているのかを先に整理できるようになることが不可欠です。その観点では、振戦、ミオクローヌス、シバリングの3つを押さえておきましょう。振戦とは「リズム」と「反復」まず、臨床で大事なことは、ふるえ=すべて振戦ではないという点です。なぜなら、振戦には少なくとも次の3要素が必要だからです。【振戦の3要素】不随意involuntary本人の意図しない律動性rhythmic一定のリズムで(ある程度規則的で)振動性oscillation一定の軸を中心に反復するつまり、単に「体が勝手に動いている」とか「突然ピクっとなる」といった類の動きは、震えているように見えても振戦とは言いません。必要なのは一定のリズムであること、そしてそれが往復する運動として繰り返されていることです。この“リズムが一定”の例えとして、「貧乏ゆすり」が近いものとして挙げられます。一定のリズムで足や膝を揺らしていますよね。ほかのたとえでいえば、あの「高橋名人のボタン連打」のような動きも、一定のサイクルで繰り返される動きですね(ベテラン世代の先生なら共感!?)。逆にリズムが不規則なのは振戦ではありません。イメージとしては、雨が降り出した時に「雨粒が屋根や窓に当たる、パラ、パラパラッ、パ、パラパララ…」のようなものをさし、後述するミオクローヌスなどがこれに該当しえます。―Step1. 振戦かな? まずはリズムがあるかどうかというわけで、ふるえをみたら、まずは「振戦」らしさである「一定のリズム感」があるかどうかをチェックしましょう。不随意運動にはいろんな種類がありますが、非専門医の場合には振戦とミオクローヌスの判断が付けば十分だと思います(下図)。画像を拡大する―Step2. 振戦だと思ったら振戦にはたくさんの鑑別疾患があるのですが、コモンなものでは本態性振戦があり、そのほかには薬剤性、アルコール離脱、小脳性、機能性などもあります*1。よって、家族歴の確認、新規処方された薬剤、アルコール摂取歴などの臨床背景を確認することで、ある程度は振り分けることができます。臨床では、まずは服薬歴と飲酒歴を確認して、問題ないようなら次に、その振戦が静止時に出ているのか、動作時に出ているのかをチェックするとよいでしょう。*1甲状腺機能亢進症、低血糖、カフェイン、β刺激薬、薬剤関連(リチウム、バルプロ酸Na、SSRI/SNRI、ドパミン遮断薬)なども重要な鑑別材料―Step3. その振戦は本当に「静止時」ですか?そして、「振戦かな?」と診察中に感じた際には、静止時振戦かどうかを確認することがとても大事です。なぜなら真の静止時振戦は、パーキンソン病を疑う根拠になるからです*2。*2ただしパーキンソン病を考える前提として、寡動や無動が必須で、そこに静止時振戦または筋強剛を伴うことが重要ですでは、静止時の振戦とはどのようなものか、ポイントは以下の3つです。随意的に賦活されておらず重力に抗して保持されていない完全に支持された身体部位に生じる振戦なんだか、とても難しく感じたかもしれませんが、要は完全に脱力した無意識の状態であることが前提であり、「意図して筋肉を収縮させておらず、重力に抗した姿勢を保ってもいない身体部位に出る振戦」を静止時振戦と呼ぶのです。よく間違えやすいのが、「じっとしていてくださいね」と呼びかけて、安静を指示して確認する方法ですが、これだと完全に本人が静止しているかわかりません。なぜなら、じっとしていようと意識することで余計に力が入ってしまう人がいるからです。なお、注意を逸らしたときに振戦が消失したり、逆にリズムが変化したり、動きに変化があったり、奇妙な変動がある場合には、機能性振戦(心因性)も考えます。―Step4. 注意をそらすとよい本人が意識すればするほど力が入ることがあるため、振戦が「静止時」なのかを確認するには、本人に、ふるえのことを忘れてもらう必要があります。もちろん、「忘れてください」なんて野暮なことは言ってはいけません。その掛け声によりむしろ意識して振るえが止まらなくなったりします。要はほかのことに注意をそらせばよいわけで、「眼球運動」の神経診察がこれに該当します。「しっかり追ってくださいね」と指示しながらゆっくり指先を追視させます。そうすると、本人は手のことを忘れて真面目に追視をするのですが、この際に、無意識に本人の手先に振るえが出現していないかを検者は周辺視野で確認しましょう。このように無意識に、動かしていない身体の部位に出現する振戦を「静止時振戦」と呼びます*3。*3昔は「安静時振戦」とよく呼んでいましたが、現在は、静止時振戦が正しい神経学的な用語です。英語ではresting tremor<脳がととのう具体例>「じっとしていてもふるえているので、静止時振戦と考えます」「MMSEの検査で100から順に7を引く計算をさせているときに、右手がリズミカルにふるえていて、静止時振戦のようでした」不規則なふるえでは、リズムが一定ではない、つまりイレギュラーな不随意運動に該当するものに何があるかというと、代表的な不随意運動の1つとしてミオクローヌスがあります。これは、自分の意思と無関係に瞬発的な筋収縮が生じる症候をさします(第1回:無意識に使う「ピクつき」)*4。*4ミオクローヌスには陰性ミオクローヌスというのがあり、持続している筋活動が一瞬途切れることで生じるもので、後述するアステリクシスがそれに該当しますなおミオクローヌスが不規則に、かつ高頻度で出現していれば、あたかもブルブルと「震えている」ように見えることがあります。実際に「ふるえていました」と報告を受けて診に行くと「ミオクローヌスだった」ということも少なくありません。急性期診療であれば、代謝性脳症や薬剤性のミオクローヌス、蘇生後脳症の症例などで、頻発するミオクローヌスに遭遇することがあるので、文脈を意識すると病態を把握しやすいでしょう。続いて、「震え」という表現がしっくりくる病態には、シバリングやTMA(Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients)などがあります。前者は時に振戦様に見えることがありますが、発熱、悪寒戦慄、低体温、敗血症、輸血・輸液反応、薬剤反応などの全身状態と関連して出現するので、臨床的な病歴やバイタルサインが重要でしょう。一方、後者は高齢者で急性に起こる「身震い様の不随意運動」で、内訳としてはミオクローヌスとアステリクシス(固定姿勢保持の障害)です。ベンゾジアゼピンの投与で反応性が良好になることが多いです。今回のスッキリ同じ「ふるえ」でも「振るえ」と「震え」はニュアンスが異なる違いの一つにリズムがあり、「振戦」は一定のリズム静止時振戦はパーキンソン病を疑うけれど、本当に静止時なのか確認が必要

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心・脳血管疾患の既往やNSAIDs使用はパーキンソン病リスクを高めるか?

 心・脳血管疾患の既往はパーキンソン病(PD)のリスク増加と関連することが示されているが、逆の因果関係による可能性が疑われていた。一方、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はPDリスクを低減させると考えられてきたが、過去のエビデンスは一貫しておらず、背景にある血管疾患による交絡の可能性も懸念されていた。 英国・University of OxfordのClare Wotton氏らは、女性約82万例を対象とした大規模前向きコホート研究「Million Women Study」のデータを用いて解析を行った。その結果、虚血性心疾患および脳血管疾患の既往はPD発症リスクの有意な上昇と関連しており、逆の因果関係だけでは説明できないことが示された。一方、NSAIDsの使用とPD発症リスクとの関連はみられなかった。本結果はAnnals of Clinical and Translational Neurology誌オンライン版2026年7月24日号に掲載された。 本研究では、1996~2001年に募集された英国の「Million Women Study」のデータが用いられた。ベースライン時(中央値2001年)の質問票でNSAIDs(アスピリン、イブプロフェン)の過去4週間の大半における使用(定期的な使用)の有無に回答し、かつPDの既往がない女性81万9,575例を対象とした。ベースライン時の自己申告および入院記録から、虚血性心疾患および脳血管疾患の既往を特定した。主要評価項目は、PDの診断を伴う初回入院またはPDを原死因とする死亡とし、Cox比例ハザードモデルを用いて調整ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。なお、本研究における「逆の因果関係」とは、運動症状が顕在化する前のPD前駆期において、病態の初期発現として血管疾患が生じた可能性や、初期症状に反応してNSAIDsの使用状況が変化した可能性を指す。この逆の因果関係の影響を評価するため、ベースラインから10年未満と10年以上の追跡期間別にも解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象者81万9,575例において、平均18.2年(SD 4.3)の追跡期間中に、1万364例(1.3%)のPD発症が確認された。・虚血性心疾患の既往がある人は、既往がない人と比較してPD発症リスクの有意な増加を示した(HR:1.45、95%CI:1.35~1.54)。・脳血管疾患の既往がある人も同様に、PD発症リスクの有意な増加を示した(HR:1.51、95%CI:1.32~1.73)。・これらの血管疾患とPD発症リスクの関連は、ベースラインから10年以上経過した期間においても依然として顕著であった(10年以上のHRは虚血性心疾患で1.39、脳血管疾患で1.35)。・アスピリンの定期的な使用は、未調整モデルではPDリスク上昇と関連していたが(HR:1.20、95%CI:1.14~1.27)、血管疾患の既往で調整するとその関連はほぼ消失した(aHR:1.06、95%CI:1.00~1.13)。・イブプロフェンの定期的な使用は、調整の前後にかかわらず、PD発症リスクとの関連を示さなかった(調整前HR:1.03、95%CI:0.96~1.10、aHR:1.04、95%CI:0.97~1.11)。 著者らは、10年以上の追跡調査でも血管疾患がPD発症リスクの大幅な増加と関連していたことから、これらは単なる逆の因果関係だけでは説明できないと指摘している。背景として、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、炎症の関与が示唆された。これらは血管疾患のリスクを高めるアテローム性動脈硬化症の発症・進行に寄与する一方で、PDの特徴であるレビー小体を形成するα-シヌクレインの凝集にも関与している可能性がある。また、アスピリンやイブプロフェンの使用はPD発症リスクと直接的な関連がないことも示された。

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第71回 脳の“ゴミ出し”は鼻の奥から? 加齢でつまる「排水路」は再生できるのか

私たちの脳には、老廃物を処理して捨てる仕組みが備わっています。脳の周囲を満たす脳脊髄液と呼ばれる流動的な液体が、アミロイドβやリン酸化タウ、αシヌクレインといった、アルツハイマー病やパーキンソン病に関わるとされるタンパク質など、老廃物を洗い流しているのです。これまでの研究で、この脳脊髄液のおよそ半分が、最終的に首のリンパ節(頸部リンパ節)へと運ばれて処理されることがわかっていました。しかし、脳を包む空間から、どのようにして脳の外のリンパ管へ老廃物が「出ていく」のか、その出口ははっきりしていませんでした。排水路の出口は嗅球のそばそこで、研究チームは、蛍光を発する微粒子をマウスの脳脊髄液に注入し、その流れを立体的に追跡しました。すると脳脊髄液は、嗅球(鼻の奥の上側、脳の前下部にあり、においの情報を最初に受け取る神経の一部)のそばにある小さな穴を通り抜けて、リンパ管へ入り込むことがわかりました1)。このリンパ管は、やがて鼻の中のリンパ管とつながり、最終的に首のリンパ節へと流れていました。同様の「小さな穴」はサルでも確認され、ヒトにも通じる仕組みである可能性が示されています。実際に、大きめの微粒子でこの穴をふさぐと、首のリンパ節への流れが減ることも確認されました。この経路が排水に本当に使われていることが裏付けられたのです。加齢でつまり、点鼻で若返る?さらに研究チームは、加齢の影響を調べました。すると、高齢のマウスでは、くも膜の穴が少なく小さくなり、リンパ管そのものも大きく萎縮していました。その結果、首のリンパ節への脳脊髄液の流れも低下していました。つまり、加齢とともに脳の「排水路」が全体的に目詰まりしていくのです。注目すべきは、この目詰まりが元に戻せた点です。リンパ管を増やす働きを持つ「VEGF-C」という因子を、遺伝子のかたちで鼻から投与したところ、萎縮していたリンパ管が若い個体並みに回復し、脳脊髄液の排出量も若いマウスと同じレベルまで戻りました。興味深いことに、くも膜の穴の数や大きさは元に戻らなかったにもかかわらず、排出量は回復しました。これは、リンパ管を増やすだけでも、排水機能を取り戻せる可能性を示しています。私たちが知っておきたいことこの研究は、脳の老廃物処理が「鼻の奥のリンパ管」という具体的な出口を通っていること、そしてそれが加齢で衰えるものの回復させうることを示した点で重要です。ただし、これはあくまでマウス(と一部のサル)を用いた基礎研究であり、ヒトの治療として薬がすぐに使えるという段階ではありません。とはいえ、認知症などの背景にあると考えられる「脳のゴミ出しの衰え」に対して、新しい対策の糸口を示した成果として注目すべき研究結果と言えるでしょう。今後の進展に期待です。1)Hong SP, Jin C, Yang MJ, et al. CSF clearance through arachnoid fenestrations to olfactory meningeal lymphatics. Cell. 2026 Jul 21. [Epub ahead of print]

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第68回 ゴールを守るか、頭を守るか。W杯でも活躍するサッカー選手の「その後」が教えてくれること

サッカーワールドカップがアメリカで開幕し、こちらニューヨークでも街のあちこちで歓声が上がっています。選手たちの華麗なプレーに見とれながら、医師という立場からはこんなことにも気が向いてしまいます。ピッチの上で輝いた選手たちは、その後の人生を健康に過ごせているのだろうか。実は近年、この問いに真正面から答えようとした大規模な研究が複数発表され、少し意外な、そして考えさせられる結果が明らかになっています。まず朗報から。選手はむしろ「長生き」だったまず、最初にお伝えしたいのは、明るいニュースです。英国スコットランドの元プロサッカー選手7,676人を、年齢や社会的背景をそろえた一般の人2万3,028人と比べた研究では、選手たちは70歳になるまでの死亡率がむしろ低い、という結果が出ています1)。とくに「虚血性心疾患」で亡くなるリスクは2割ほど低く、肺がんによる死亡に至っては約半分でした。若い頃から体を鍛え、走り続けてきた人生が、心臓や血管を守ってくれたのでしょう。運動が健康に良いという、私たちがよく知る事実はここでも裏付けられたわけです。ところが、認知症などの脳の病気に目を向けると、風向きが変わります。同じ研究で、神経変性疾患が主な死因となった人の割合は、一般の人が0.5%だったのに対し、元選手では1.7%。統計的に調整すると、そのリスクはおよそ3.5倍に上りました。病気の種類ごとに見ると差はさらにはっきりし、アルツハイマー病では約5倍、パーキンソン病でも約2倍でした。認知症の治療薬が処方される頻度も、元選手では約5倍多かったのです。長生きした先で、脳という別の臓器が思わぬ代償を払っていた。そう読み取れる結果でした。興味深いのは「守備位置による差」ではなぜ、脳にだけこうした影響が出るのでしょうか。ここで多くの方が「なるほど」と膝を打つのが、続いて発表された研究です。同じ選手たちをポジションごとに分けて調べたところ、神経変性疾患のリスクはポジションによってはっきり異なっていました2)。最もリスクが高かったのはディフェンダーで一般の人の約5倍、ミッドフィルダーが約4.6倍と続き、フォワードは約2.8倍でした。一方で、ゴールキーパーはわずか約1.8倍にとどまり、統計的には一般の人と差があるとは言い切れないレベルだったのです。この違いを説明する最有力の候補が「ヘディング」です。ボールを頭で受ける回数は、フィールドを走り回る選手ほど多く、ゴールキーパーではごくまれです。実際、プロとしての現役期間が15年を超える選手では、リスクが約5倍まで高まっていました。つまり、頭部への衝撃を繰り返し受けた「量」がカギを握っている可能性があるのです。ボールを頭で受けるか、それとも手でキャッチするか。その差が、何十年も先の脳の健康につながっているのかもしれません。私たちがここから学べること誤解しないでいただきたいのは、これは「サッカーは危険だからやめましょう」という話では決してない、ということです。運動がもたらす心臓や血管への恩恵は本物ですし、これらはあくまでトップレベルで長年プレーした選手を対象にした観察研究で、原因を確定できたわけでもありません。それでも、こうしたエビデンスを考えると、選手たちの繰り返す頭部への衝撃を減らす工夫(たとえば育成年代でのヘディング制限など)には、十分な意味がありそうです。1)Mackay DF, et al. Neurodegenerative disease mortality among former professional soccer players. N Engl J Med. 2019;381:1801-1808.2)Russell ER, et al. Association of field position and career length with risk of neurodegenerative disease in male former professional soccer players. JAMA Neurol. 2021;78:1057-1063.

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prasinezumabはパーキンソン病の運動症状悪化の抑制に有効か?(解説:内山真一郎氏)

 prasinezumabはPASADENA試験により、未治療やMAO-B阻害薬の治療を受けている初期のパーキンソン病患者において運動症状の進行を遅くする効果を有する可能性が示されている。PADOVA試験は、安定的な維持療法を受けている、より幅広いパーキンソン病患者においてprasinezumabの有効性と安全性を検討した第II相試験であった。 1次評価項目は運動症状がMDS-UPDRS Part III off-medication scoreで5点以上増加するまでの時間であったが、1次エンドポイントはprasinezumab群とプラセボ群で有意差はなかったものの、運動症状の進行はprasinezumab群で遅くなる傾向が認められた(ハザード比:0.84、95%信頼区間:0.69~1.01、p=0.066)。サブグループ解析では、L-ドーパ投与例では両群の差は有意であり、MAO-B阻害薬投与例では有意ではなかった。また、付随研究として行われたMRIの解析により、prasinezumab群ではプラセボ群と比べて黒質の変性と基底核の鉄沈着が少なかったことが示された。これらの結果を併せて考えると、凝集したαシヌクレインのC末端を標的とした治療は期待できそうであり、第III相試験(PARAISO)の結果が注目される。

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パーキンソン病へのiPS細胞由来「ラグネプロセル」薬価収載、最適使用推進ガイドライン発出

 パーキンソン病に対する再生医療等製品「ラグネプロセル(商品名:アムシェプリ)」について、住友ファーマが日本における製造販売承認(条件及び期限付承認)を2026年3月6日に取得し、5月20日に薬価収載された。本品の使用に当たっては、厚生労働省より5月19日に「最適使用推進ガイドライン」が発出された。 ラグネプロセルは、世界初となる日本発のiPS細胞由来製品で、京都大学iPS細胞研究財団が提供するiPS細胞ストックを原材料とした、「非自己(他家)iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」を有効成分とする再生医療等製品に分類される。本品の効能、効果又は性能として、レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善とされている。本品は1回当たりの薬価が5,530万6,737円となるが、公的医療保険の対象となり、高額療養費制度や難病医療費助成制度も適用される。製造販売後のスケジュールと流通 ラグネプロセルは「条件及び期限付承認」の品目であり、製造販売後承認条件評価として製造販売後臨床試験(第IV相試験)および使用成績調査の実施が義務付けられている。住友ファーマの3月6日付のリリースによると、2026~29年頃までは、第IV相試験に参加する患者のみが移植対象となる。登録患者数は計35例(18歳以上65歳以下が30例、30例の移植完了後に65歳超が5例)を予定しており、実施施設は選定中の7施設となる見込みである。第IV相試験の終了後にあらためて申請を行い、本承認を取得した後に施設や対象患者の範囲が拡大される見込みとなっている。移植対象となる患者の選択基準 「最適使用推進ガイドライン」に定められた患者選択における主な適格基準は以下のとおり。・パーキンソン病と診断され、罹病期間が5年以上の者。・既存の薬物療法ではパーキンソン病の運動症状のコントロールが十分に得られていない者。・MDS-UPDRS Part III及び/又は症状日誌からオンとオフの状態を有する者。・オフ時のH&Y重症度分類が2度以上の者。・オン時のH&Y重症度分類が3度以下の者。・抗パーキンソン病薬休薬時(practically defined off)のレボドパ反応性が30%以上である者。 なお、臨床試験において70歳超の患者への移植経験がないことなどから、70歳超の患者への移植については有益性と危険性をより慎重に評価した上で判断することが求められている。ガイドラインに基づく施設要件 本品は定位脳手術による局所投与を行うため、以下の厳格な施設要件が規定されている。・対象施設:特定機能病院、大学附属病院(脳神経外科に係る診療科を有する場合に限る)、日本脳神経外科学会の基幹・連携施設、若しくは日本定位・機能神経外科学会の認定施設。・人員配置:適切な患者選択および術後管理が実施できる日本脳神経外科学会認定専門医、および日本神経学会認定神経内科専門医がそれぞれ1名以上配置されていること。また、随伴する免疫抑制療法(タクロリムス)に関連する有害事象発現時に適切に対応できる医師が配置されていること。・診療体制:重篤な不具合・副作用が発生した際に、24時間診療体制の下、当該施設または連携施設において当日中に入院管理および必要な検査結果が得られ、直ちに対応可能であること。・検査体制:自施設または連携施設で[18F]FDOPA PET検査の実施体制を有し、かつオフ時のMDS-UPDRSスコアを評価できること。有効性および安全性の評価 承認の根拠となった第II相試験の非盲検非対照国内試験(IACT16049-01試験)(有効性解析対象集団6例)における、移植後24ヵ月時の主な成績は以下のとおり。・有効性について、オフ時でのMDS-UPDRS Part III合計スコアのベースラインからの平均変化量は-9.5±13.8であり、6例中4例で著効(5点以上の改善)と判断された。また、6例全例で移植後12ヵ月および24ヵ月時点で被殻への細胞生着が確認された。・安全性について、本品の副作用発現割合は14.3%(1/7例)であった。タクロリムスの副作用発現割合は42.9%(3/7例)であり、2例以上に認められた副作用は軽度の腎機能障害(2例)であった。左右それぞれで3cm3を超える脳内の移植片の増大は全例で認められなかった。 ただし、本品はiPS細胞由来の製品であり、移植片の増大や腫瘍形成の理論的リスクを完全には否定できないため、投与後は定期的なMRI観察(移植翌日、12週、6ヵ月、12ヵ月、16ヵ月、18ヵ月、24ヵ月、その後は定期的に実施)を行うことが留意事項として挙げられている。【製品概要】商品名:アムシェプリ(18瓶1組)一般名:ラグネプロセル対象となる効能、効果又は性能:レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善薬価:55,306,737円対象となる用法及び用量又は使用方法・本品の移植 通常、成人には、非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞として片側あたり5.4×106個を目標として、定位脳手術により、両側の被殻に移植する。頭蓋骨の小孔1箇所を通る3つの投与経路から、1投与経路あたり約1.8×106個を1〜2mm間隔で6〜9箇所に分けて移植する。注入速度は約0.1μL/秒とする。・本品に対する免疫反応の抑制を目的とした本品移植前後のタクロリムス水和物の投与方法 通常、初期にはタクロリムスとして1回0.03~0.15mg/kgを1日2回、移植日の朝から経口投与する。以後、目標血中トラフ濃度を5~10ng/mLとし、血中トラフ濃度をモニタリングしながら投与量を調節する。 拒絶反応が認められた場合は、目標血中トラフ濃度を10~20ng/mLとする。 投与開始後1年を目安に、以後12週間かけて漸減し投与を中止するが、必要に応じて投与期間を延長する。製造販売業者:住友ファーマ株式会社

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高齢者認知症の2割に「ADとDLB併存」、見極めのポイントは?【外来で役立つ!認知症Topics】第42回

新規個別指導での「痛いところを突く」一言新規開業した院長なら誰もがビクビクと気になるものに「新規指定の個別指導」がある。これは保険医療機関として新たに指定を受けた後、保険診療や診療報酬請求が適切に行われているか否かを確認するための指導だ。筆者の場合、長く印象に残る指導者の一言があった。「診療録の診断名に、アルツハイマー病(AD)疑いとレビー小体型認知症(DLB)疑いと2つあるけど、今でも鑑別できないんですか? 長年認知症の医療をやっているんでしょう?」当初「うーん?」と思ったが、「ああそうか、普通の内科医には、両者の微妙な関係は知られていないんだ」と気付いた。とはいえ、筆者も実は鑑別が難しいとわかったのは、てっきりADと思っていたケースに幻視や寝ぼけ、そしてパーキンソン症候などが加わって「ありゃ! DLBだったよ、見誤った」と内心忸怩の思いを抱く、といった体験を重ねた末のことである。このような経験は、認知症の臨床に携わってきた人であれば、ときにあるのではないだろうか。ADとDLBの「併存」は決して珍しくないこの両者の併存に関するレビューを読んだので、今回はその概要を紹介しよう。「α-シヌクレインシード増幅アッセイ」は、DLBやパーキンソン病(PD)の革新的な診断法として知られる。これを用いて診断した研究報告を、このレビューが総括している1)。疫学的には、認知機能障害のある高齢者の20~25%で、また障害のない高齢者でも8%に両者の共存が見られるとされる。症状では、両者が併存すると、単独の例に比べて認知機能低下の速度が速く、記憶のみならず、注意や遂行機能という前頭葉機能、さらに視空間機能や運動機能まで広範に悪化しやすいと述べている。「知れば知るほどわかってくる」多様な臨床スペクトラムもっとも、病理が併存する症例の臨床症状のスペクトラムは広い。経験的にも、典型的なADと典型的なDLBの混合したような形態になることもある。しかし、早期からの記憶障害、また言語や視空間の機能障害も目立つ「AD寄り」のケースもある。こうした症状は一般的なDLBやPDでは初期からあまり出ない。逆に「DLB寄り」ケースの症状としては、症状の変動、幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害などが比較的初期から見られる。画像を拡大するしかし注意すべきは、初期からこれらがすべてそろっていることはまれだということだ。よく診ると、「どれか1つか2つかをはらんでいるな」というレベルが多いと思う。DLBの最初の報告者である故・小阪 憲司先生がよく「知れば知るほどわかってくるDLB」とおっしゃっていたが、以上のような広いスペクトラムを指しておられたのだろう。3つの異常蛋白が絡み合うメカニズムと新たな治験さて、こうしたAD+DLBの症例に既存の抗アミロイドβ抗体薬を投与する治験が始まると聞いた。患者数の多さからいっても重要なのだが、病気のメカニズムに迫る視点からも興味深い。というのは、アミロイドβとタウ、α-シヌクレインと3つある異常蛋白のうち、「アミロイドβを叩けば、その分、症状の悪化が抑えられるのだろうか?」あるいは「3者が影響し合って相乗的な効果がもたらされるのだろうか?」という意味である。ADならアミロイドβとタウ、DLBではα-シヌクレインと、主要な異常蛋白は異なっても、共通する点はシナプス障害やネットワークレベルの異常である。ADではアミロイドβとタウの蓄積が進行するに伴ってシナプス機能の障害が拡大していくとされる。DLBではα-シヌクレインからなるレビー小体、レビー神経突起と、その前段階とされるオリゴマーが神経ネットワークを障害する。画像を拡大する既述したように、併存例では単独例よりも認知機能の低下速度が速いとされる。その背景について、病理学的観点からは、AD+DLB例ではアミロイドβ、タウ、α-シヌクレインが互いに影響し合って、シナプスレベルあるいは神経回路レベルでの障害が増幅するのではないかと言われている。連鎖する「ドミノ倒し」をどう防ぐかADの悪役アミロイドβだが、その生理的機能として、神経の成長と修復に欠かせない役割を果たしている。また、本来タウは軸索にあって物質輸送に重要な微小管の安定性を調節している。一方でDLBのα-シヌクレインは生理的に、神経終末において神経伝達物質の放出の制御に関わっていると考えられている。ところが、過剰なα-シヌクレインはGSK3βを介してタウのリン酸化を促進する。さらに神経終末の過剰なα-シヌクレインはexocytosis(開口放出)によってシナプス間隙に放出され、後シナプスに取り込まれる。するとドミノ倒しのように神経細胞への障害が連鎖していくと考えられている。今回の治験によって、こうした仮説の是非、新たな創薬の端緒や方向性などが見つかるのではないかと期待される。臨床での気付き:ADと思ってもDLBを頭の片隅に終わりに、このような合併例への気付きを述べる。とくに第一印象で「ADかな?」と思った例でも、DLBも頭の片隅に置くことが大切だろう。上記したような症状の特徴(幻視、パーキンソニズム、レム睡眠行動障害、症状の変動)がまずポイントになる。また脳画像では、PETやSPECTでの帯状回島兆候(cingulate island sign:CIS)が重要である。ADでは周囲と比較して、後部帯状回から楔前部・楔部の循環・代謝が低下しやすいが、DLBでは比較的保たれるため、それを反映するCIS値は鑑別上役立つ。さらに大脳MRIにおける脳幹背側の萎縮も大切だ。これら2つは、通常、読影レポートにも記載されている。 1) Baiardi S, et al. In vivo detection of Alzheimer's and Lewy body disease concurrence: Clinical implications and future perspectives. Alzheimers Dement. 2024;20: 5757–5770.

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早期パーキンソン病へのprasinezumab、レボドパ併用で進行遅延の可能性/Lancet

 安定した対症療法を受けている早期段階のパーキンソン病患者の治療において、prasinezumab(αシヌクレイン凝集体のC末端に結合するヒト化モノクローナル抗体)を追加しても運動症状の進行の有意な遅延をもたらさないが、探索的解析の結果などから有望な疾患修飾治療となる可能性が示唆されることが、スイス・F. Hoffmann-La RocheのTania Nikolcheva氏らが実施した「PADOVA試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2026年5月30日号で報告された。9ヵ国の第IIb相無作為化プラセボ対照比較試験 PADOVA試験は、欧州と北米の9ヵ国110施設で実施した第IIb相二重盲検無作為化プラセボ対照比較優越性試験(F. Hoffmann-La Rocheの助成を受けた)。2021年5月~2023年3月に、年齢50~85歳、パーキンソン病の診断後3ヵ月~3年が経過し、Hoehn-Yahr重症度分類の1または2度で、レボドパまたはMAO-B阻害薬による対症療法(単剤)を3ヵ月以上受けている患者586例(平均年齢64.2[SD 7.3]歳、女性214例[37%])を登録した。 被験者を、対症療法に加え、prasinezumab(1,500mg、4週ごと)を静脈内投与する群(293例)またはプラセボ群(293例)に無作為に割り付け、76週間以上投与した。 主要エンドポイントは、確認された運動症状の進行イベントまでの期間(運動障害学会統一パーキンソン病評価尺度[MDS-UPDRS]パートIIIによる休薬時スコアの5点以上の上昇)とし、最大の解析対象集団で評価した。主要エンドポイントは達成されず、安全性/忍容性プロファイルは良好 550例(prasinezumab群277例、プラセボ群273例)が二重盲検下の治療を完了した。ベースラインで586例中435例(74%)がレボドパ、151例(26%)はMAO-B阻害薬の投与を受けていた。 主要エンドポイントは達成されなかった。主解析では、プラセボ群との比較において、prasinezumab群で運動症状の進行の遅延は認めなかった(ハザード比[HR]:0.84、95%信頼区間[CI]:0.69~1.01、p=0.066)。 また、prasinezumab群における確認された運動症状の進行までの期間中央値は61.1週間(95%CI:52.3~71.9)であったのに対し、プラセボ群は49.7週間(95%CI:40.1~58.1)であった。 一方、事前に規定された探索的解析では、レボドパによる対症療法を受けているサブグループにおいて、prasinezumab群で運動症状の進行の遅延がみられた(HR:0.79、95%CI:0.63~0.99、名目上のp=0.044)。 prasinezumab群の安全性および忍容性プロファイルは良好であった。最も頻度の高い有害事象(器官別大分類[SOC])は、感染症/寄生生物(prasinezumab群58%[169/292例]、プラセボ群54%[157/290例])だった。 1件以上の重篤な有害事象の発生率は両群で同程度であった(prasinezumab群12%[34/292例]、プラセボ群12%[34/290例])。prasinezumab群で2例が重篤な有害事象(急性心筋梗塞1例、心内膜炎1例)により投与中止に至り、このうち心内膜炎はprasinezumab関連と判定された。試験期間中に3例が死亡したが、いずれも試験薬とは関連がなかった(prasinezumab群1例[<1%]、プラセボ群2例[1%])。 著者は、「主要エンドポイントは達成されなかったものの、本試験のエビデンスからは、prasinezumabを効果的な対症療法と併用することで、早期パーキンソン病患者において進行を遅らせる可能性があることが示唆される」「第III相試験(PARAISO)におけるprasinezumabの継続的な検討が正当化される」としている。

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レビー小体型認知症の発症率は考えられているよりも高い可能性

 米CNN創業者テッド・ターナー(Ted Turner)氏の命を奪った進行性の脳疾患であるレビー小体型認知症(DLB)の発症率は10万人年当たり約4.8例と、これまで考えられていたよりも高い可能性が、新たなエビデンスレビューで示唆された。この発症率は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、一部の認知症や非定型パーキンソン症候群(非定型パーキンソニズム)などのより広く知られている神経変性疾患の発症率よりも高いという。バーリ大学(イタリア)のDaniele Urso氏らによるこの研究結果は、「JAMA Neurology」に5月11日掲載された。Urso氏らは、「DLBは、主に高齢になってから発症する認知症であり、他のいくつかの比較的まれな神経変性疾患よりも発症頻度が高い」と結論付けている。 米国立衛生研究所(NIH)によると、DLBの発症には、脳内でタンパク質のα-シヌクレインが異常に蓄積することが関与していると考えられている。この異常な蓄積物はレビー小体と呼ばれ、脳内の神経伝達を障害し、思考、運動、行動、気分などにさまざまな症状を引き起こす。DLB自体はよく知られた疾患ではあるものの、研究グループによると、その世界的な発症率や有病率を評価した研究は、これまで実施されていないという。 今回のレビューでは、2024年10月までに発表された、一般住民を対象にDLBの発症率や有病率を調査した研究を選定し、12件の研究データを統合してメタアナリシスを実施した。その結果、DLBの発症率は10万人年当たり4.79例であることが明らかになった。研究グループによると、前頭側頭型認知症の発症率は10万人年当たり約2.3例、ALSは約1.6例、非定型パーキンソニズムは0.3〜0.8例程度であるとされている。 また、解析対象を65歳以上に限定すると、発症率は10万人年当たり46.85例となり、高齢になるほど発症率が急増することが示唆された。性別ごとに検討すると、男性の方が女性よりも発症率が高かった(5.45例対4.32例)。全年齢での有病率を報告した研究は1件のみで、10万人当たり19.13例であった。 こうした結果から研究グループは、DLBが臨床的に診断される症例は少なく、これは診断漏れや診断感度の低さを反映していると考えられると結論付けている。その上で、「標準化された診断方法と専門的な評価への公平なアクセスを確立して、過少診断や誤診を減らす必要性が浮き彫りになった」と述べている。 この研究について、米ノースウェル・ヘルス傘下ファインスタイン医学研究所のJeremy Koppel氏は、「この研究は、DLBの発症率や有病率がこれまで考えられていた以上に高く、前頭側頭型認知症よりも一般的である可能性を示している」とコメントしている。同氏はまた、「少なくとも、ターナー氏の死をきっかけに、特に認知機能障害と精神症状が混在する患者を診察する医師の間で、DLBへの認識が高まることを願っている。正確な診断は極めて重要だ」と話している。 Koppel氏によると、DLBの特徴的な点は、多くの精神症状を伴うことだという。同氏は、「DLBの中核症状の一つに、実際には存在しないものが見える“幻視”がある。また、意識レベルが劇的に変動することも珍しくない。認知機能障害がまだ目立たない段階では、急性の精神病状態や精神疾患のように見えることもある。しかし最終的には、重度の認知障害へと進行していく」と説明する。 さらに、DLB患者は、他の認知症患者によく使われる薬に対して異なる反応を示すことがあるという。Koppel氏は、「DLB患者は、抗精神病薬に対して重篤な副作用を示すことがある。そのため、DLB患者に薬を投与する際には、細心の注意が必要だ」と述べている。

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パーキンソン病患者を支援する遠隔診療への期待/アボット

 アボットは、2025年7月に発売したパーキンソン病(PD)などの治療に使用される脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation:DBS)の治療機器、充電式脳深部刺激システム「Liberta RC DBSシステム」が、2026(令和8)年の診療報酬改定で「遠隔プログラミング」として新たに算定が追加されたことに寄せ、都内でPDの診療に関するメディアセミナーを開催した。 DBSはジスキネジア(自分の意思に反する身体の動き)などにより日常生活に支障がある患者に対し、前胸部の皮下に植え込んだ刺激装置から脳深部に電気刺激を与えることで、異常な神経信号を中断し、運動症状の改善を図る治療法。DBSの認定医は脳神経外科医の約3%程度であり、普及が進まず、遠方などの患者の通院負荷などが課題とされていた。今回のDBSの遠隔プログラミングに対する診療報酬算定追加を機に、DBSへのアクセス向上が期待される。 セミナーでは、「パーキンソン病治療の新たなフェーズ:令和8年診療報酬改定で変わる脳深部刺激療法」をテーマに、PDの診療の概要、DBS遠隔プログラミングが今後のPDの治療へもたらすメリットや臨床での使用知見、患者にもたらされる恩恵などが講演された。パーキンソン病の治療での課題は克服できるか 「失われた動きを取り戻す治療を目指して:パーキンソン病と向き合う最新テクノロジー」をテーマに服部 信孝氏(順天堂大学医学部附属順天堂医院 脳神経内科 特任教授)が、PDの病態と診療の現状を講演した。 PDは、国際パーキンソン病・運動障害学会(MDS)の診断基準により診断される。絶対条件としては、「パーキソニズムがある」ことであり、支持基準として「ドパミン補充療法が有効」「レボドパ誘発性ジスキネジア」「静止時振戦」「嗅覚障害とMIBG心筋シンチ異常」の中で2つ満たすと確定診断となる。 患者数は増加しており、とくに加齢はPDのリスク因子の1つであり、加齢とともに患者数は増えていく。2015年時点で世界には690万人の患者がいるが、2040年には1,400万人になると予測されている。 PDの症状は、うつ、認知症、睡眠障害、パーキソニズム、嗅覚障害、自律神経障害、便秘など多岐にわたり、脳だけの疾患ではなく、全身疾患であると認識される。 PDの治療では、ドパミン補充療法、ドパミンアゴニスト、ドパミン放出促進薬などさまざまな治療薬がある。多くの治療薬が使える一方で、 Lドパ製剤では、大量に内服するとジスキネジアの出現、進行すると効果の時間が短くなるウェアリング・オフが課題となってくる。 また、薬物療法以外では、DBSの手術、神経栄養因子補充療法、リハビリテーション療法などもある。DBSでは、ジスキネジアをターゲットとする淡蒼球内節と薬物量減量をターゲットとする視床下核(STN)への手術がある。とくにSTNへのDBSが多く施行され、10年生存率は77%と高く、その長期治療成果が報告されている1)。 こうした手術の適応要件としては、PDと診断されていること、レボドパ反応が良好であること、適切かつ十分な内服治療を行っても、ジスキネジアやウェアリング・オフなど日内変動が大きいこと、患者本人や介護者がデバイス操作に精通できること、各治療の外科的禁忌事項(脳病変、胃瘻増設が可能かどうかなど)がないことが条件とされる。 今後の治療法では、2026年中盤以降に条件及び期限付承認でiPS治療が開始される。これは、iPS細胞をドーパミン放出神経細胞に変化させ、患者の脳に注射。ドーパミン分泌が増えて症状が改善することを目指す治療である。 おわりに服部氏は「iPS治療で治療薬不要の患者も出てくる。その一方でDBSでも治療薬不要の人もいるので、どちらが適切か、その見極めが今後重要となる」と語り、講演を終えた。患者と医師をつなぐDBSの遠隔プログラミングの有用性 「脳深部刺激療法の重要性」をテーマに波田野 琢氏(順天堂大学附属順天堂医院 脳神経内科 主任教授)が、薬物療法の限界とDBS導入のポイントを講演した。 先の服部氏の講演内容をたどりつつ、PDの治療の中心はLドパ製剤であり、患者からの薬剤の効果の話題ではLドパ製剤であることが多いという。Lドパ製剤は、PDの症状改善や生命予後の延長など恩恵もある一方で、患者の日内変動で予測不能なオフ、突然のオフ、無効化、投与終末リバウンド、オン・オフ現象など治療には限界があることが知られている。 こうした課題に対しDBSがあり、“INTREPID Study”によると登録されたPD患者313例のうち、196例がDBSを受け、191例がランダムに割り付けられた。中間解析に含まれた160例のうち、121例がアクティブ群に、39例がコントロール群に割り付けられ、盲検期間3ヵ月(その後全例open-labelへ)の観察を行った。その結果、DBSは難しいジスキネジアのないオン時間を延長することが判明した2)。 しかし、DBSの普及は進んでいないと波田野氏は現状を指摘する。その理由として適応となる運動機能障害の患者数、患者家族の有無、専門の医療機関の数・地域差・専門医の数など課題があるという。こうした課題、とくに専門医や医療機関の地域偏在などの差を埋めるものとして、遠隔プログラミングによる患者フォローが期待されている。 遠隔診療による自験例として、手術後遠隔診療をした38例についてアンケート調査を行ったところ、患者の回答として「病院へ行く負担が減った」「費用が節約できた」「医師とのコミュニケーションが増えた」という声があった。また、医師の回答として「患者とのコミュニケーションが増えた」「患者の不安を取り除けた」など双方によい結果だった3)。 同時に進行期PD患者のQOLを上げるためには、かかりつけの専門医、専門の看護師、薬剤師、理学療法士を巻き込んだ専門的なチーム治療が必要だと提言を行った。おわりに波田野氏は、「こうした遠隔診療が導入されることで、1人でも多くの患者の治療障壁が取り除かれることに期待したい」と抱負を述べ、講演を終えた。PDへの遠隔プログラムの期待 「DBS 遠隔プログラミングの実際」をテーマに梅村 淳氏(順天堂大学附属順天堂医院 脳神経外科運動障害疾患病態研究・治療講座 教授)が、遠隔プログラミングの実際や見えてきた課題について講演した。 PDにおけるDBSは、脳への電気刺激により神経回路の機能を調整してパーキンソン症状を改善させることにある。最初に外科手術を行い、術後は薬物療法とともに相補的に使用される。DBSでは症状に合わせて刺激の調整を行うことで症状を緩和する。その際に電気の強弱を合わせることを「プログラミング」といい、電極の左右で調整を変えることができる。 近年では遠隔プログラミングができるDBSデバイスも登場し、遠隔プログラミングでは、患者とビデオチャットができるスマホやタブレット端末を通じて、患者と医師が会話しながら調整する。 実際、DBSを受けたPD患者を対象とした無作為化多施設共同試験では、遠隔プログラミングは院内プログラミング(対面)のみの場合と比較し、臨床的改善までの期間を有意に短縮し、有害事象もないことが報告されている4)。 遠隔プログラミングは以前、医師のボランティアで行われていたが、今回の診療報酬改定で保険点数がついたことで拡大することが期待されている。その一方で、現状の課題として遠隔診療では神経学的診察に限界があること、通信環境やデバイスの操作能力の差があること、緊急時の対応、適応患者の選定などがあると梅村氏は指摘する。 また、梅村氏は、遠隔プログラミングの将来的な期待として以下の7項目を掲げる。1)通院負担の軽減とアクセス改善2)患者ごとの生活状況に合わせた柔軟な調整3)専門医療の地域格差の是正4)緊急時・副作用発現時の迅速な対応5)家族・介護者を含めた治療参加の促進6)医療資源の効率化7)将来的な「在宅型・個別化DBS管理」への発展 最後に梅村氏は、「DBS管理によりPDの治療は継続的に個別化・患者中心型に変わっていく可能性がある」と展望を語り、講演を終えた。

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ライフスタイル関連の認知症危険因子――Lancetの14の危険因子を読み解く(その4)【外来で役立つ!認知症Topics】第41回

前回は、病理の進行を直接抑える「表街道」と、脳の予備能を高める「援護射撃」という視点で各因子を紐解いてきた。「Lancetの14の危険因子を読み解く」シリーズの完結編となる今回は、日常の選択が脳の未来を左右する6つの因子を整理する。脳の「炎症」を助長する因子今回取り上げる6つの因子のうち、肥満、喫煙、過度な飲酒、そして大気汚染の4つは、主に神経炎症や酸化ストレスを介して認知症の悪化を加速させる危険因子である。肥満:伝統的な食事で予防中年期の肥満は、認知症のリスクを最大3倍も増加させる。肥満の原因は、高カロリーやジャンクフードといった不適切な食生活、運動不足、睡眠不足、慢性ストレスなどである。脳への悪影響のメカニズムとして、運動不足やストレスに加え、睡眠時無呼吸症候群に伴う低酸素刺激、さらにはミクログリア炎症などの脳内炎症との関連も注目されている。計画的な体重減少は認知機能を改善させる。減量には食事や運動が基本だが、最近ではセマグルチドなど、いわゆる「痩せ薬」の有用性も注目されている。ただし、筋肉喪失と骨の脆弱化を防ぐために、年間3~4kg程度の緩やかな体重減少に留めるのが望ましい。ここで興味深いデータがある。先進諸国の肥満率を比較すると、アメリカが42.9%と最高であるのに対し、日本は最低の4.9%というものである1)。その背景には、伝統的な食生活と活動的なライフスタイルが指摘されている。前者は、日本食が地中海食と同様に生活習慣病予防食である事と関連するだろう。後者については勤勉を尊ぶ日本人の伝統的な価値観が関わっているのかもしれない。喫煙:禁煙5年でリスクをリセット今現在の喫煙者は非喫煙者に比べて、認知症リスクが30~50%高い。やはり喫煙は「やめるしかない」のである。以前からCOPD予防の文脈で、禁煙すれば呼吸器系がクリーニングされると知られていた。認知症に関しても、禁煙の効果を示す報告がある。印象的なのは、禁煙の5~7年以内に、吸わない者と同程度まで認知症のリスクが低下するという報告だ2)。なお禁煙による体重の増加には留意したい。禁煙しても体重が増加すればリスク低減効果は相殺されてしまう。治療では、薬理学的治療と行動療法が組み合わされる。最近では電子タバコが良いとも言われるが、実は酸化ストレスと脳の慢性炎症をもたらす点では、従来のタバコとあまり変わらない。過度な飲酒:不定期の大量飲酒に注意飲酒については適切な基準の把握が欠かせない。純アルコール10g (ビールで200mL 日本酒で0.5合、焼酎で40mL)を1単位とした場合、1週間に14単位を超える飲酒は認知症リスクを大幅に増加させる。飲酒の安全基準には男女差があり、男性は1日2単位、女性では1日1単位である。過度の飲酒は、記憶関連の大脳領域を萎縮させ、脳内のメッセージ伝達能力を障害する。さらに高血圧や心臓病、脳卒中のリスクを増加させる。注意すべきは、定期的な飲酒以上に、不定期に大量飲酒するほうが脳への悪影響が大きいことである。飲酒の認知機能への影響について、興味深い大規模なコホート研究がある3)。軽度~中等度の継続的な飲酒者は、ずっと非飲酒者より認知症のリスクが低減する。さらに、飲酒量を多量から中等量へと節酒することで、ずっと飲まない者に比べて認知症のリスクがさらに低下するという。もっとも、認知症予防のために、わざわざ飲酒を開始すべきではないことは言うまでもない。大気汚染:PM2.5とレビー小体型認知症大気汚染、とくにPM2.5は、認知症の危険因子だと認識される。それが脳に到達するのに3つの経路が考えられる。まず肺から血液吸収され脳に至るもの、次に鼻から直接脳に到達するもの、そして血流を通して脳に至って血液脳関門(BBB)を破壊するものである。PM2.5は高齢者にとってとくに危険だが、この濃度は交通量の多い道路周辺で最高である。しかし主要道路から100メートル離れるごとに曝露量は10~15%軽減し、300メートルで30~40%低減する。大通りを避けて住宅街の裏道の利用が望ましい。また室内で空気清浄機を活用すると、PM2.5を半分以下にできる。ところでPM2.5について斬新な最近の報告がある5)。PM2.5がレビー小体型認知症(DLB)の病理学的特徴であるαシヌクレインの異常な折り畳みを引き起こし、PM2.5の曝露量が多いとDLBやパーキンソン病発症リスクが高まるという。脳への「インプット」を阻害する因子残る2つの孤独と視力障害は、脳へのインプットを阻害する因子であり、これらへの対策は認知予備能を高める側面が強い。孤独:脳の萎縮を防ぐ「社会との接点」孤独とは主観的な感覚であり、社会的孤立は交流のない状態だが、いずれも認知機能低下と強く関連する。孤独感は全認知症リスクを31%増加させる。アルツハイマー病で14%、血管性認知症で17%、軽度認知障害で12%の増加をもたらす。また社会的孤立は孤独とは独立に26~50%の増加をもたらす。孤独感が単なる「気持ちの持ちよう」というレベルではないことを示す脳画像研究がある4)。前頭前野背外側部などの大脳部位は、共感や思いやりとの関連が知られているが、これらの脳部位の萎縮と、孤独が相関するという。つまり、共感・思いやりと孤独は表裏一体をなす脳活動なのだろう。対策としては、共通の関心事に基づくグループ参加が最も効果的だとされる。筆者が経験的に良いと思うのは、ペット(ペットロボットも含む)、趣味(読書、ガーデニング、手作業)のグループを探すこと。あるいは図書館や学校(登校・放課後の見守り)などのボランティア、地域で日常的に行われているラジオ体操などもいいだろう。視力低下:認知負荷を強いる「見えにくさ」の罠視力障害のある高齢者は正常視力の人と比べ、認知症発症リスクが1.5~2.3倍高い。想定されるメカニズムとして、視覚障害により脳への感覚入力が減少し、視覚処理領域の神経萎縮が起こり、脳刺激の減少、神経細胞の消失と連鎖していくことが考えられる。また視力障害と認知低下は、基礎的なプロセスに共通性があるかもしれない。たとえば脳血管障害、アミロイドβ蓄積、慢性炎症や神経変性である。さらに、視力低下により他の認知的リソースを使って情報を得なければならないため、本来の認知能力がその分減るとする「認知負荷仮説」も考えられる。目というと視力と考えがちだが、最近では「コントラスト感度」、つまり明暗を判別する能力が重要だとされる6)。たとえば夜間の活動には、高いコントラスト感度が必要だ。また照度が低い状態や、霧、眩しさのある状況ではその感度が鈍り、転倒・転落や交通事故のリスクが高まる。視力障害への対応は、白内障手術や眼鏡処方、低視力リハビリテーションが代表的である。これらにより、臨床リスクを30%低減できる可能性がある。今回をもって「Lancetの14の危険因子を読み解く」シリーズは終了となる。繰り返しになるが、この危険因子とはアルツハイマー病のみならず、すべての認知症に対するものである。また危険因子は、古典的なアミロイド仮説に関連するもののみならず、認知予備能仮説のように最大限に脳を守る・活用していくという方向に大別される。 1) WorldAtlas. The Most Obese Countries In The World In 2024. 2) Chen H, et al. Smoking Cessation, Weight Change, and Risk of Dementia: A Prospective Cohort Study. medRxiv. 2025 Nov 6. [preprint] 3) Jeon KH, et al. Changes in Alcohol Consumption and Risk of Dementia in a Nationwide Cohort in South Korea. JAMA Netw Open. 2023;6:e2254771. 4) Lam JA, et al. Neurobiology of loneliness: a systematic review. Neuropsychopharmacology. 2021;46:1873-1887. 5) Zhang X, et al. Lewy body dementia promotion by air pollutants. Science. 2025;389:eadu4132. 6) Risacher SL, et al. Visual contrast sensitivity in Alzheimer's disease, mild cognitive impairment, and older adults with cognitive complaints. Neurobiol Aging. 2013;34:1133-1144.

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パーキンソン病患者は腎機能低下リスクが約1.9倍/慶應義塾大

 わが国の全国規模の医療保険請求データと健康診断データを用いた疫学コホート研究の結果、パーキンソン病はその後の腎機能低下リスク上昇と関連していることが、慶應義塾大学の満野 竜ノ介氏らによって示された。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2026年4月15日号掲載の報告。 近年、慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全(ESKD)などの腎機能低下がパーキンソン病の発症リスク上昇と独立して関連していることが示されているが、パーキンソン病発症後の腎転帰については十分に検討されていない。そこで研究グループは、大規模集団ベースコホートを用いて、パーキンソン病患者とパーキンソン病のない成人の間で腎機能低下のリスクを比較した。 研究ではDeSCデータベースを用いて、2014年4月~2024年8月に少なくとも1回の健康診断を受けた18歳以上の成人200万793人を特定した。すでにESKD既往歴または腎代替療法導入歴のある患者などを除外した165万9,421人(年齢中央値68歳、男性41.9%)を解析対象とした。 主要評価項目は、ESKDへの進行(追跡時のeGFRが15mL/分/1.73m2未満)、腎代替療法の開始、ベースラインからのeGFRの30%以上低下を含む複合腎アウトカムとした。初回健康診断から複合腎アウトカムの発生、保険制度からの脱退(死亡を含む)、2024年8月のいずれか早い時点まで追跡した。 主な結果は以下のとおり。・コホート全体で1万1,497例(0.7%)がベースライン時点でパーキンソン病を有していた。・中央値1,092日(四分位範囲:631~1,520)の追跡期間中、複合腎アウトカムが発生したのは、パーキンソン病群361例、非パーキンソン病群3万2,974例であった。・Kaplan-Meier解析では、パーキンソン病群は非パーキンソン病群に比べて複合腎アウトカムのリスクが有意に高かった(log-rank検定のp<0.001)。・年齢、性別、高血圧、糖尿病、ベースラインのeGFRなどを調整した多変量Cox比例ハザードモデルでは、パーキンソン病は複合腎アウトカムと独立して関連していた(ハザード比:1.91[95%信頼区間:1.72~2.12])。・女性およびパーキンソン病治療薬投与群では、腎機能低下との関連がより顕著であった。・この関連性は、認知症や起立性低血圧、排尿障害などを除外した複数の感度分析でも一貫していた。 研究グループは、「今回の研究結果は、パーキンソン病が腎機能低下の臨床的に重要なリスク因子である可能性を示唆している。パーキンソン病の長期的な管理の一環として腎機能をモニタリングすることは、リスクの高い患者の特定に役立つ可能性がある」とまとめた。

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進行期パーキンソン病で昇圧薬を中止したら意識消失を繰り返す事態に…【うまくいく!処方提案プラクティス】第72回

 今回は、進行期パーキンソン病(以下「PD」)における起立性低血圧の管理に介入した症例を紹介します。血圧が安定しているから昇圧薬を中止しようという判断が、結果として患者さんに意識消失を繰り返させてしまうことになり、私自身の反省を踏まえた事例です。進行期PDにおける自律神経障害の理解と、降圧薬・昇圧薬の適切な管理について、一緒に整理していただければ幸いです。患者情報79歳、男性(施設在宅)介護度要介護2基礎疾患パーキンソン病(発症70歳)、レビー小体型認知症、前立腺がん(既往)、陳旧性脳梗塞(既往)ADL歩行・食事は一部介助、排泄はオムツ使用(一部介助)、両下肢の筋力低下あり服薬管理施設スタッフが管理薬学的管理開始時の処方内容1.レボドパ・ベンセラジド配合錠 4錠 分3 毎食後(朝2・昼1・夕1)2.ドロキシドパOD錠100mg 3錠 分3 毎食後3.ミドドリン錠2mg 3錠 分2 朝夕食後(朝2・夕1)4.酸化マグネシウム錠330mg 3錠 分3 毎食後5.ソリフェナシンOD錠5mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイント介入当初、レボドパ・ベンセラジド配合錠とドロキシドパ、ならびに昇圧薬のミドドリンが処方されていました。起立性低血圧の既往があるとの情報は得ていたものの、血圧は安定(110~140/60~80台で推移)していると施設職員から報告を受けていました。血圧が落ち着いているなら、ミドドリンは継続する必要がないのではないかと考え、担当医師にミドドリンの中止を提案しました。医師も同意して中止となりましたが、これが誤りの始まりでした。見落とした進行期PDと起立性低血圧の関係パーキンソン病は運動症状だけでなく、さまざまな非運動症状も呈します。進行期には自律神経障害が高頻度に出現し、とくに起立性低血圧は約3分の1の患者に認められるとされています1)。起立性低血圧の背景には、パーキンソン病の神経変性がノルアドレナリン系にも及び、心臓交感神経の脱落が関与していることが知られています。ドロキシドパは生体内でノルアドレナリンに変換されることで、進行期PDにおけるすくみ足・無動・姿勢反射障害だけでなく、起立性低血圧の改善にも有効とされています2)。本症例では、「現在の血圧が安定している=昇圧薬は不要」と表面的に判断してしまい、昇圧薬がその安定を支えていた可能性を考慮できていませんでした。連鎖した処方変更ミドドリン中止から2週間後、血圧の乱高下が出現しました。朝の収縮期血圧が170mmHg台まで上昇することもあると施設の看護師から相談があったので、今度は降圧薬のオルメサルタン10mgを提案・追加しました。しかし、その約1週間後から食後を中心に起立性低血圧が頻発するようになりました。施設の看護師から「血圧がずっと低くなっている」「何度も意識消失を繰り返している」と緊急の相談が入り、事態の深刻さを初めて認識しました。問題の整理ミドドリン中止により昇圧作用が喪失し、血圧が不安定化(とくに食後の低下)。朝の高血圧を起立性低血圧の代償反応として読めず、降圧薬を追加。進行期PDでは臥位高血圧と起立性低血圧が共存しやすい病態であるにもかかわらず、その特性を理解していなかった。医師への提案と経過施設看護師から相談を受けたのち、速やかに医師に状況を報告し、以下を報告しました。(1)ミドドリン中止後から血圧が不安定となり、食後の低血圧が顕著(2)オルメサルタン追加後から起立性低血圧が頻発、意識消失が複数回発生(3)進行期PDにおける自律神経障害(食後低血圧・起立性低血圧)が主因と考えられるそのうえで、オルメサルタンの中止&フルドロコルチゾン0.5錠(0.05mg)の追加を提案しました。パーキンソン病診療ガイドライン2018によれば、起立性低血圧の非薬物療法として塩分摂取の増加や急激な体位変換の回避などが挙げられており、薬物療法としてはミドドリンやフルドロコルチゾンが用いられます1)。とくに臥位高血圧を認める患者では、半減期の短いミドドリンを日中に使用することが推奨されています。しかし、本患者は薬を増やしたくないという希望があり、施設職員の服薬管理の負担軽減の観点からも1日1回朝食後の投与で済むフルドロコルチゾンを提案しました。医師への提案はすぐに採用され、フルドロコルチゾン0.5錠(0.05mg)を朝食後に追加することになりました。その後、施設の看護師から血圧が安定し、意識消失がなくなったとの報告があり、患者さんは落ち着いた経過をたどっています。考察:この事例から学んだこと1.進行期PDにおける起立性低血圧は「管理すべき症状である」起立性低血圧は進行期PDの非運動症状の代表です。進行期にはほぼ必発ともいえる重要な症状であり、転倒・失神・QOL低下の大きな要因となります。「今は血圧が安定している」という状況だけで薬剤を中止するのではなく、なぜ安定しているのか(=薬が効いているから安定している)という視点を持つことが欠かせません。2.臥位高血圧と起立性低血圧の共存進行期PDでは、自律神経障害により臥位では血圧が高く、立位では低くなるという、相反する病態が共存することがあります。朝の高収縮期血圧をみて安易に降圧薬を追加すると、日中の体動時や食後に重篤な低血圧を招くリスクがあります。3.処方変更は1つずつ丁寧に本症例では、ミドドリン中止→血圧乱高下→降圧薬追加→低血圧悪化という連続した処方変更が事態を複雑にしました。変更の際は1つずつ、十分なモニタリング期間を設けることが原則です。4.施設職員・看護師との連携の重要性施設看護師からの速やかな報告がなければ、意識消失の連発に気付くのが遅れていました。日常的に施設スタッフとの情報共有の関係を築いておくことが、重大な有害事象の早期発見につながります。1)日本神経学会「パーキンソン病診療ガイドライン2018」作成委員会. パーキンソン病診療ガイドライン2018. 医学書院;2018.2)大村友博ほか. パーキンソン病薬. In:薬局:南山堂;2021.p.138-165.

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神経疾患外来で患者と医師に“認識ギャップ”、機械学習モデルが予測可能性示す

 神経疾患の外来診療では、患者と医師の評価や満足度に小さなズレが生じることがある。この認識ギャップは、治療理解の不十分さや信頼関係の低下を通じて、生活の質や長期的な治療アウトカムに影響し得る。今回、パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんの患者と医師のペアを対象にアンケートを実施し、認識ギャップを定量化するとともに、機械学習モデルでギャップを予測できることを明らかにした。研究は、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科の大山彦光氏(現:埼玉医科大学医学部脳神経内科)、富沢雄二氏、服部信孝氏らによるもので、詳細は2月9日付で「Scientific Reports」に掲載された。 パーキンソン病、多発性硬化症、てんかんなどの神経疾患は慢性かつ症状が多様で、進行に伴い日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす。近年は共同意思決定(SDM)の重要性が強調されているが、診察時の限られた情報に基づく判断では、患者と医師の間で疾患認識や治療目標に認識ギャップが生じる可能性がある。実際、神経疾患領域でも症状の重要度や治療目標、再発評価などを巡るズレが報告されているが、患者と主治医のペアで直接比較した研究は限られている。さらに、こうした認識ギャップを予測する試みも十分ではない。そこで本研究(GAP-AI研究)は、神経疾患患者と主治医の間の認識ギャップを定量化し、その関連因子を検討するとともに、機械学習モデルによる予測可能性を評価することを目的とした。 本研究は単施設の観察研究であり、患者197人とその主治医12人を対象に、2回の外来受診時に質問票への回答を求めた。質問票には、患者満足度を評価する18項目のPatient Satisfaction Questionnaire Short Formや、患者と医師双方が回答する9項目のShared Decision Making Questionnaire、Barthel Index、SF-36の各下位尺度を用いた。主要評価項目は、患者と医師の回答を項目ごとに対応させて算出した差(すなわち認識ギャップ)とした。差は絶対値でも評価し、ギャップの大きさを中央値で「一致群」と「不一致群」に分類した。患者背景および医師の年齢・経験年数などの属性との関連を単変量解析で検討し、さらに重回帰分析により認識ギャップに影響する独立因子を同定した。 本研究は2023年1~8月に実施された。患者の平均年齢は58.1歳で、女性が60.4%を占めた。疾患はパーキンソン病が最多(69.5%)で、多発性硬化症、てんかんが続き、平均罹病期間は7.4年であった。多くは同居者がおり、介護を要しない軽~中等症例が中心であった。一方、医師の半数は35~44歳で、83.3%が男性であった。4割超が20年以上の経験を有し、多くがパーキンソン病を専門とする神経内科専門医であった。 患者と医師の回答には各質問票で一定の認識ギャップが認められ、総得点は有意に異なり、一致度(κ係数)は全体に低値であった。SF-36下位尺度の一致は19.3%にとどまった。ギャップには患者年齢、診断名、介護者の有無、通院頻度、障害度などの患者側因子に加え、医師の年齢、経験年数、専門医資格、担当患者数などの医師側因子が関連していた。重回帰分析では患者年齢や介護者の有無、医師の経験年数などが独立因子として抽出され、一部疾患では年収も関連していた。 また、研究データに基づき複数の機械学習アルゴリズムを用いて予測モデルを構築したところ、k近傍法(k-nearest neighbors)アルゴリズムが、主要評価項目で定義した患者と医師の認識ギャップの有無を予測する上で最も良好な性能を示した。 著者らは、GAP-AI研究により神経疾患患者と医師の間に認識ギャップが存在することが明らかになったと述べている。ギャップは患者背景や医師の経験など複数の因子に影響され、機械学習により予測可能であるとしている。さらに、その把握と是正が患者中心医療の向上につながる可能性があると指摘している。 なお、本研究の限界として、単施設研究であり特にてんかん症例数が少ないことから一般化に制限がある点、主観的な患者報告アウトカムを用いたことや医師用に十分検証されていない質問票の使用が結果の解釈に影響し得る点などを挙げている。

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第313回 臨床試験でデクスメデトミジンがアルツハイマー病関連タンパク質除去を促進

脳の老廃物処理機能を後押しして、アルツハイマー病と関連するタンパク質がより除去されるようにする薬の組み合わせの効果が臨床試験で裏付けられました1,2)。「一線を画す進歩であり、神経変性疾患患者を助けうることに留まらず、健康な人が脳の機能を最大限にするのにも役立つかもしれない」とアミロイドβ(Aβ)検出化合物を研究するハーバード大学の准教授Shiju Gu氏は今回の成果を評しています。脳は代謝で生じる老廃物を血管に沿って流れるグリンパティック系を介して排出します。グリンパティック系からリンパ系へと運ばれた老廃物は、次に血液に至って処分されます。グリンパティック系はアルツハイマー病関連タンパク質のAβやタウの除去を促すことがげっ歯類の検討で示されています。その働きは睡眠中にとくに盛んで、睡眠不足はAβやタウの除去を滞らせます。ヒトの脳にもグリンパティック機能があり、やはり睡眠中に活動し、睡眠中にAβやタウが脳から排出されることに一役買っていることが神経画像解析で判明しています。残念なことにグリンパティック系は老化で衰え、アルツハイマー病ではとくに不調になるようです。一方幸いにも、脳の青斑核(LC)から伸びる神経のノルアドレナリンの働きを制するいくつかの手段で、睡眠中のグリンパティック機能を高めうることも示されています。たとえば、外科処置の際の鎮静によく使われるα2アドレナリン作動薬デクスメデトミジンは、LCの活動を抑制することでグリンパティック機能を高めることがげっ歯類の検討で示されています3)。デクスメデトミジンにはアルツハイマー病を模すマウスの認知機能低下を遅らせる効果もあります4)。そこで米国の製薬会社Applied Cognitionに勤めるPaul Dagum氏らは、ヒトではどうかを試すべく臨床試験でデクスメデトミジンのグリンパティック機能やAβとタウの除去への作用を調べることにしました。試験には平均年齢60歳の19人が参加し、試験室で寝ないで1晩を過ごした後にデクスメデトミジンと同剤につきものの副作用である低血圧を防ぐα1アドレナリン作動薬ミドドリンの投与を受けました。Applied社はその組み合わせをACX-02という名称を付けて開発しています。被験者には1週間後に再び試験室で一晩を寝ないで過ごしてもらいます。しかしその後が1回目の徹夜とは違い、ACX-02ではなくプラセボが投与されました。プラセボ投与との比較の結果、喜ばしいことにげっ歯類での検討と同様の効果が示されました。すなわちACX-02はグリンパティック機能を高めてAβとタウが脳から血液へと排出されるのを促す効果がありました。アルツハイマー病治療として承認済みのアミロイド除去抗体と違って、ACX-02ならAβとタウの両方の除去を促せそうであり、認知機能により有益かもしれません。Dagum氏らのチームは初期アルツハイマー病患者を募る試験でACX-02に一層の取り柄があるかどうかを調べるつもりです。パーキンソン病などの異常に折りたたまれた(ミスフォールド)タンパク質の蓄積による他の脳疾患にもACX-02は役立つかもしれません。もっというと、寝不足後の注意欠如の解消にも使えるかもしれない、と研究チームの1人は言っています2)。 参考 1) Dagum P, et al. Pharmacological enhancement of glymphatic function in humans increases the clearance of Alzheimer’s disease-related proteins. medRxiv. 2026 Mar 12. 2) The brain's cleaning system can be boosted to rid Alzheimer's proteins / NewScientist 3) Hablitz LM. et al. Sci Adv. 2019;5:eaav5447. 4) Ma K, et al. Drug Des Devel Ther. 2024;18:5351-5365.

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日本人統合失調症外来患者における抗精神病薬の多剤併用パターンを調査

 統合失調症治療において抗精神病薬単剤療法が推奨される標準療法であるにもかかわらず、2種類以上の抗精神病薬の併用と定義される多剤併用は、臨床現場で依然として一般的に行われている。佐賀大学の祖川 倫太郎氏らは、日本の統合失調症外来患者における抗精神病薬の多剤併用率とその要因について調査するため、全国横断調査を実施した。International Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2026年2月18日号の報告。 2024年10月21~25日に、医療機関36施設より3,657例の外来患者データを収集した。患者は、抗精神病薬の単剤療法群と多剤併用群に分類され、年齢、性別、薬剤投与頻度、長時間作用型注射剤(LAI)、クロザピン、併用向精神薬の使用状況などの人口統計学的および臨床的特徴を比較した。抗精神病薬の投与量はクロルプロマジン換算量に標準化し、性別および年齢層別に解析した。 主な内容は以下のとおり。・抗精神病薬の多剤併用は、40.8%の患者で認められた。・多変量解析では、抗精神病薬の多剤併用は、男性、高齢、LAIの使用、抗パーキンソン病薬、抗不安薬/睡眠薬、気分安定薬の併用と有意な関連が認められた。一方、クロザピンの使用とは逆相関が認められた。・クロルプロマジン換算量は、処方された抗精神病薬の数に応じて増加し、40~59歳の患者でピークに達し、その後減少していた。・全体として、第2世代抗精神病薬が優勢であったが、第1世代抗精神病薬の使用は多剤併用に伴い増加が認められた。 著者らは「これらの知見は、性別および年齢に関連した処方パターンを考慮した抗精神病薬のマネジメントが重要であることを示唆している」とまとめている。

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アイトラッキング診断ツール、神経変性疾患の鑑別や評価の一助となるか

 眼球運動異常は、神経変性疾患においてよくみられる。これは、眼球運動を制御する神経経路および脳領域の変性が原因であると考えられる。背外側前頭前皮質、基底核、上丘、小脳の病理学的変化は、臨床検査では検出されない可能性のある眼球運動指標の微妙な変化を引き起こす。カナダ・Montreal Neurological InstituteのPaul S. Giacomini氏らは、多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病およびその他の認知症、筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患における眼球運動バイオマーカーの潜在的な用途について考察した。Journal of Neurology誌2026年2月10日号の報告。 主な内容は以下のとおり。・サッカード、アンチサッカード、固視、滑動追跡などの眼球運動指標は、疾患進行の予後を予測し、診断の補助として病理学的サブタイプを鑑別することができる。そのため、臨床医が運動機能および認知機能の早期悪化を評価することを可能にすると考えられる。・医療技術のコストが、臨床現場における最適な活用とアクセスを制限している。・専門の神経科医の不足は、医療へのアクセスをさらに制限している。・スマートフォンやタブレットなどの広く普及しているデジタル機器に組み込まれた新しいアイトラッキング技術は、最小限の機器で詳細な評価を可能にし、日常の臨床現場における患者評価や治療方針の決定を支援するための、非侵襲的かつ費用対効果の高い重要な方法であると考えられる。・デジタルバイオマーカーは、かかりつけ医、看護師、薬剤師などの医療専門家がケアのギャップを埋めるために容易に活用でき、神経変性疾患の患者へのケア提供を改善するために広く採用できる強力なツールとなる可能性がある。

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「スマートウェア」がフィットネストラッキングの次の最前線に

 健康意識の高い人は、ウォーキングやジョギングの前に手首にFitbitを装着したり、ベルトに歩数計を付けたりすることが習慣になっている。しかし、追加の装置を用意しなくても歩数の測定や身体の動きの追跡が可能な「スマートウェア」の実現につながる新たな研究結果が明らかになった。現在使用されている肌に密着させるセンサーよりも、ゆったりとした衣服に取り付けた小型センサーの方が、身体の動きを正確に記録できることを突き止めたという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)工学分野のMatthew Howard氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に1月20日掲載された。 Howard氏は、「手首に付けるFitbitや、コンピューターで生成された映像のキャラクターを演じる俳優が着るスーツのような、動作追跡技術で最も正確な結果を得るには、センサーを身体に密着させる必要があると考えられてきた。センサーが密着していないとデータにノイズが含まれる、あるいは雑然としたものになるというのが一般的な考え方だった」と話す。 Howard氏らは今回の研究で、ゆったりとした衣服にセンサーを取り付け、人間とロボットに多様な動作を行わせて得られたデータを解析し、その動作認識能力および動作予測能力を、従来のようにセンサーを腕や脚に直接装着する方式と比較した。その結果、ゆったりとした衣服に取り付けられたセンサーでは、体に装着されたセンサーと比べて最大40%迅速かつ高い精度で身体の動きを捉え、そのために必要なデータ量は約80%削減できることが明らかになった。 Howard氏らによると、ゆったりした布地は動きを検知しやすくする「機械的増幅器」のように機能し、気付くのが難しいレベルのかすかな動きの違いも識別できることが分かったという。Howard氏は、「腕を動かし始めると、腕を緩やかにまとう袖は、一定の形が維持されずに、折れ曲がったり、波打ったり、複雑に揺れ動いたりする。身体に密着したセンサーよりも動きに対して繊細に反応するのだ」と同氏は説明する。 KCL解剖学・生体力学分野のIrene Di Giulio氏は、「手首にしっかりと巻き付けたリストバンドの場合、患者の動きが小さ過ぎて捉えられないことがある。そのため、パーキンソン病などの疾患が患者の日常生活にどのような影響を与えているのかについて、常に最も正確なデータが得られるわけではない。今回検討したアプローチでは、人の動きを『増幅』させることができるため、通常の障害のない身体の動きと比べて小さな動きでも検知できるようになる」とニュースリリースの中で述べている。 Di Giulio氏はまた、「この技術によって、自宅や介護施設などの慣れた環境の中で、普段着で過ごしている人の動きを追跡することができるようになるだろう。それにより、医師が患者をモニタリングしやすくなるだけでなく、医学研究者によるパーキンソン病などの疾患の解明や、こうした障害に対応するウェアラブル技術を含む新たな治療法の開発に不可欠なデータを収集しやすくなる可能性がある」と期待を示している。 さらにHoward氏は、「こうした動作追跡装置は、より高性能のロボットの開発にも活用できる。ロボット工学研究の多くは、人間の行動を学習し、それをロボットが模倣することを目的にしている。そのためには、普段の人間の動きから膨大なデータを収集する必要がある。しかし、伸縮性のある素材でできたボディスーツを着て日常生活を送りたいと思う人は多くはないだろう」と同氏は述べている。 その上でHoward氏は、「今回の研究は、普段着に目立たないセンサーを取り付けることで、ロボット工学の領域に革命をもたらすために必要な、世界中の人の動作データを収集できる可能性を示している」と述べている。

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