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ASCO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年も世界最大級の腫瘍学学会の1つであるASCO2023が、6月2日から6日に現地米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催された。消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。ATTRACTION-5: A phase 3 study of nivolumab plus chemotherapy as postoperative adjuvant treatment for pathological stage III (pStage III) gastric or gastroesophageal junction (G/GEJ) cancer. #4000本試験は胃切除術+D2郭清以上の手術を受けたStageIIIの胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する術後治療として、化学療法に対するニボルマブの上乗せを検証した第III相試験であり、本邦の静岡県立がんセンターの寺島先生より報告された。主要評価項目は中央判定の無再発生存期間、副次評価項目は研究者判定の無再発生存期間、全生存期間(OS)および安全性であった。日本、韓国、台湾、中国の東アジアの4ヵ国から755例が登録され、377例が化学療法+ニボルマブ群に、378例が化学療法群に登録された。患者背景は65歳以上が約40%、男性が約70%、PS0が約80%、StageIIIA〜Cが3分の1ずつ、胃全摘が43%、病理diffuse typeが56%、日本からの登録が48%あった。化学療法の内訳はS-1が35%でcapeOXが65%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は1%以上が10%程度で、両群の患者背景に偏りは認められなかった。主要評価項目である中央判定の3年無再発生存率は、化学療法+ニボルマブ群で68.4%、化学療法群で65.3%と統計学的な有意差を認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.69〜1.18、p=0.4363)。サブグループ解析ではニボルマブの上乗せ効果はPS0、食道胃接合部/噴門部、StageIIIA/IIIB、intestinal typeおよびS-1群で乏しい傾向があった。副次評価項目である研究者判定の3年無再発生存率は64.9% vs.59.3%(HR:0.87、95%CI:0.69〜1.11)、3年生存率が81.5%vs.78.0%(HR:0.88、95%CI:0.66〜1.17)であった。新規の有害事象は認められなかった。Perioperative PD-1 antibody toripalimab plus SOX or XELOX chemotherapy versus SOX or XELOX alone for locally advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer: Results from a prospective, randomized, open-label, phase II trial.  #4001前述のATTRACTION-5試験に続き、中国から周術期化学療法における抗PD-1抗体薬の上乗せを探索したランダム化第II相試験が報告された。本研究ではcT3a-4aでN因子陽性かつM0の胃がんおよび食道胃接合部がんを対象にして、SOXもしくはcapeOXに抗PD-1抗体薬であるtoripalimabを上乗せする試験であった。通常治療群は術前治療としてcapeOX/SOXを3コース、術後にcapeOX/SOXを5コース行った。試験治療群は周術期capeOX/SOXにtoripalimabを上乗せした後に、6ヵ月間toripalimab単剤が継続された。主要評価項目はtumor regression grade rate(TRG rate)でTRG0(腫瘍細胞なし)もしくはTRG1(1細胞もしくは小グループの腫瘍細胞残存)の割合であり、副次評価項目は原発巣の病理学的完全奏効率、完全切除率、無再発生存率、event free survival、全生存期間および安全性であった。各群54例、108例が登録され、今回、主要評価項目のTRG rateと安全性が報告された。化学療法+toripalimab群と化学療法群の割合は、食道胃接合部がんでは31%と37%、diffuse typeでは33%と37%、cT3では39%と31%、cN3では22%と11%、SOX治療群では61%と46%であった。TRG rateは試験治療群44%、通常治療群20%であり、試験治療群で統計学的に有意な改善を認めた(p=0.01)。また、化学療法+toripalimab群でのTRG rateの上乗せは、腫瘍部位や病理Lauren分類にかかわらず認められた。術後の病理学的評価を見ると、ypT0~2の割合は、化学療法+toripalimab群46%、化学療法群22%と、化学療法+toripalimab群で良い傾向を認めたが、yp0~1の割合は57% vs.59%と大きな差は認められなかった。周術期合併症や治療強度は両群に有意差はなかった。有害事象について見ると、免疫関連有害事象は化学療法群に比べ、化学療法+toripalimab群で多く認めたが(全Gradeでは13% vs.2%、Grade3以上では2% vs.0%)、重篤な治療関連有害事象に関しては大きな差がなかった(Grade3/4で36% vs.30%)。胃がんにおける今学会の注目演題は周術期の試験である。ATTRACTION-5は胃がんにおいて最も注目されていた発表だったが、StageIII胃がんにおける術後化学療法へのニボルマブの上乗せ効果は認められなかった。現在、周術期の免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は多数行われている。この試験では、術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬toripalimabの上乗せによって、TRG rateは改善を認めた。しかし本研究はまだ観察期間が短く、無再発生存期間や全生存期間のデータはない。欧米では周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験、FLOT療法にデュルバルマブの上乗せを検証するMATTERHORN試験などが行われている。DANTE試験は2022年のASCOで中間解析が報告され、副次評価項目であるTRG rateはPD-L1がCPSで高値の群やMSI-High集団で、アテゾリズマブの上乗せ効果が強く認められた。またMSI-Highの胃がんの術前治療としてイピリムマブ+ニボルマブの有効性を探索した第II相試験(GERCOR NEONIPIGA)も行われており、pCR率58.6%、TRG1は73%で認められている。今回の両研究ではバイオマーカー解析の結果はないため、今後の解析が待たれる。また、周術期化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ効果を検証するKEYNOTE-585試験において、病理学的完全奏効率は有意に改善したものの、主要評価項目であるevent free survivalは統計学的有意な改善が示されなかったことが、MSD社のプレスリリースで報告された。現在進行中の試験も、いまだ全生存期間や無再発生存期間のデータはないため、今後、周術期治療の免疫チェックポイント阻害薬が胃がん患者の本当の予後改善につながるのかも含め、いずれの試験においても慎重な検討が必要であると考えられる。Liposomal irinotecan + 5-fluorouracil/leucovorin + oxaliplatin (NALIRIFOX) versus nab-paclitaxel + gemcitabine in treatment-naive patients with metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC): 12- and 18-month survival rates from the phase 3 NAPOLI 3 trial. #40062023年のASCO-GI で発表されたNAPOLI-3試験において、リポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート療法のNALIRIFOX療法は、主要評価項目の全生存期間中央値11.1ヵ月vs.9.2ヵ月と、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法に対する統計学的に有意な改善が報告された。今回、追加解析の結果がASCO2023で報告された。主要評価項目である全生存期間は11.1ヵ月vs.9.2ヵ月(HR:0.83、p=0.04)であり、12ヵ月生存率は45.6% vs.39.5%、18ヵ月生存率は26.2% vs.19.3%と、いずれもNALIRIFOX群で良好な結果であった。事前に設定されたサブグループ解析結果も報告され、PS、肝転移の有無、年齢にかかわらず無増悪生存期間と全生存期間の双方でNALIRIFOX療法の有効性が示された。重篤な有害事象については骨髄抑制には大きな差はないものの、Grade3/4の有害事象で下痢(20.3% vs.4.5%)、嘔気(11.9% vs.2.6%)、低K血症(15.1% vs.4.0%)などがNALIRIFOX群で多い傾向であった。本研究よりNALIRIFOX療法はGnP療法への優越性が示されているが、ディスカッサントも触れていたように、有効性はFOLFIRINOX療法の第III相PRODIGE/ACCORD試験と同等で(全生存期間11.1ヵ月、12ヵ月生存率48.4%および18ヵ月生存率18.6%)、下痢はNALIRIFOXでより高率であった。NALIRIFOX療法の有効性と安全性に関する本邦のデータはないが、使用対象は全身状態良好な症例になると思われる。本邦における現状を考えると、全身状態の良好な膵がん症例にはGnP療法およびFOLFIRINOX療法(もしくはリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート)を使い切る戦略を考慮することが肝要と考える。NALIRIFOX療法については、今後、QOLやバイオマーカー解析の結果も待たれる。Tucatinib and trastuzumab for previously treated HER2-positive metastatic biliary tract cancer (SGNTUC-019): A phase 2 basket study.  #4007Results from the pivotal phase (Ph) 2b HERIZON-BTC-01 study: Zanidatamab in previously-treated HER2-amplified biliary tract cancer (BTC).  #4008今回、HER2陽性の胆道がんに対して2つの研究が発表された。1つ目のSGNTUC-019試験は、国立がん研究センター東病院の中村先生より報告された。本研究は、HER2陽性例に対するHER2 チロシンキナーゼ高選択的経口阻害薬であるtucatinibとトラスツズマブの併用療法の有効性を探索する、臓器横断的なバスケット試験(第II相試験)における胆道がんコホートの報告である。対象は、抗HER2療法の既往がない1レジメン以上の全身化学療法を受けた、病理組織でIHC/FISHでHER2陽性症例もしくは組織か血液におけるNGS検査でHER2増幅を認めた症例であり、30例が登録された。奏効率は46.7%、病勢制御率は76.7%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月で、全生存期間中央値は15.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は嘔気、食欲不振および胆管炎であった。zanidatamabはHER2タンパクの細胞外ドメインであるECD2とECD4の2ヵ所に結合するbispecific antibodyで、前臨床研究ではトラスツズマブとペムブロリズマブの併用療法よりも期待される有効性を示した。HERIZON-BTC-01試験はゲムシタビンを含むレジメンに不応となり、中央判定で組織学的にHER2陽性と判定された胆管がんを対象にzanidatamabの有用性を探索した第II相試験である。80例が登録され、奏効率は41.3%、病勢制御率は68.8%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は下痢、心機能低下および貧血であった。HER2高発現の胆道がんは5~30%程度といわれており、注目される治療標的の1つである。バスケット型試験であるMyPathway試験のHER2陽性胆道がんコホートでは、ペルツズマブ+トラスツズマブで奏効率が23.1%と報告されている。また、昨年のASCO2022では、本邦からトラスツズマブ デルクステカンの第II相試験(HERB試験)も報告され、奏効率は36.4%であった。今回の新たな2つの治療もHER2陽性例に対し有用性を示したことから、胆道がんにおける抗HER2療法の一日も早い臨床導入が期待される。PROSPECT: A randomized phase III trial of neoadjuvant chemoradiation versus neoadjuvant FOLFOX chemotherapy with selective use of chemoradiation, followed by total mesorectal excision (TME) for treatment of locally advanced rectal cancer (LARC) (Alliance N1048). #LBA2ASCO2023消化器がんにおける、唯一のplenary session発表である。欧米では遠隔転移を伴わない進行直腸がんに対する標準治療は、術前化学放射線療法、Total Mesorectal Excision(TME:直腸間膜全切除)を伴う手術、そして術後補助化学療法である。しかし、術前化学放射線療法に伴う晩期毒性(腸管・膀胱・性機能障害、骨盤骨折、2次発がんなど)も問題となっていた。今回、cT2でN因子陽性もしくはcT3の直腸がんに対する術前治療として、骨盤内化学放射線療法(50.4Gy)群に対するFOLFOX±選択的化学放射線療法群の非劣性を検証するランダム化第III相試験(PROSPECT試験)が報告された。主要評価項目は無再発生存期間、副次評価項目は局所再発率、全生存期間、R0切除率、病理学的完全奏効率、PROによる毒性、QOLであった。非劣性マージンは片側α0.049、power85%で、1.29と設定された。対象群では術前化学放射線療法後に手術と術後補助化学療法が施行された。試験治療群では、FOLFOX6サイクル施行後20%以上の腫瘍縮小が得られた症例には、手術と術後化学療法が、腫瘍縮小20%未満およびFOLFOX不耐例には、術前化学放射線療法が施行され、その後手術と術後補助化学療法が行われた。FOLFOX±選択的化学放射線療法群に585例、化学放射線療法群に543例が登録された。患者背景に大きな偏りはなく、術前MRI施行例は84%、cT3N(+)症例が約50%、肛門縁から腫瘍までの距離は中央値で8cmであった。5年無再発生存率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で80.8%、化学放射線療法群で78.6%であり、非劣性マージンの1.29を95%信頼区間の上限が超えず、統計学的有意に非劣性が証明された(HR:0.92、95%CI:0.74〜1.14)。また、年齢とN因子の有無で調整しても同様に非劣性が証明された。局所再発なしに5年生存した症例の割合は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で98.2%、化学放射線療法群で98.4%、5年生存率は89.5%と90.2%であった。病理学的完全奏効率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で22%、術前化学放射線療法群で24%であった。術後化学療法も両群とも約80%で施行された。また、FOLFOX±選択的化学放射線療法で化学放射線療法を受けた症例は9%であった。術前治療における毒性は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で倦怠、嘔気、食欲不振などが多く、化学放射線療法群では下痢が多かった。QOLに関する有意差はなく、腸管機能や性機能に関してはFOLFOX±選択的化学放射線療法群で良好であった。以上の結果より、cT2N(+)、cT3N(-)、cT3N(+)症例に対してFOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢の1つとなりうると報告された。今回の報告では、FOLFOX±選択的化学放射線療法群では、約90%の症例で術前化学放射線療法を回避できた。腸管機能や性機能への影響も軽減されている。本研究の適格基準を満たす直腸がんの術前治療として、FOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢となりうる。ただ、cT4症例、リンパ節転移が本試験の基準より高度であるなど、さらに進行した局所直腸がんでの有効性は明らかではない。より進行した局所進行直腸がんに対しては放射線療法も含めたTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)が注目されている。本邦でも、T3〜4/N(-)もしくはTanyN(+)の局所進行直腸がんに対して、short courseの放射線治療(5Gy×5回)からcapeOXを行う群とcapeOXIRIを行う群を比較するランダム化第III相試験(ENSEMBLE試験)が進行している。TNTでは、化学療法と放射線療法を組み合わせて行うことにより手術を避けるNon Operative Management(NOM)も注目されており、局所進行直腸がんに対する、さらなる治療開発が期待される。Efficacy of panitumumab in patients with left-sided disease, MSS/MSI-L, and RAS/BRAF WT: A biomarker study of the phase III PARADIGM trial. #3508最後に、本邦で行われたPARADIGM試験のバイオマーカー解析について報告する。RAS/BRAFのみならずMSIのステータスも含めて解析された結果であり、より実臨床に近い対象に絞った報告であった。MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異を認める症例は、左側で10.3%、右側で43.2%と、右側で多く認められ、治療開始前のctDNAのBRAF V600E変異も左側4.3%、右側31.3%と、右側で多く認められた。左側のMSSかつRAS/BRAF変異野生型の全生存期間は、FOLFOX+パニツムマブ群40.6ヵ月に対しFOLFOX+ベバシズマブ群34.8ヵ月と、パニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では15.4ヵ月 vs.25.2ヵ月と、ベバシズマブ群で良好であった。右側でもMSSかつRAS/BRAF野生型では全生存期間37.9ヵ月 vs.30.9ヵ月および奏効率70.7% vs.63.6%とパニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では全生存期間13.7ヵ月 vs.17.9ヵ月および奏効率37.8% vs.69.4%と、ベバシズマブ群で良好であった。PFSも左側、右側にかかわらず、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型ではベバシズマブ群で良好な傾向があった。奏効率もMSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では左側、右側にかかわらず、ベバシズマブ群で統計学的有意に高かった。本結果より、抗EGFR抗体薬を使用する前にRAS/BRAF変異のみならずMSIを測定することが重要であることが示唆される。また本研究を含め複数の研究で、組織検査のRASは野生型であっても、ctDNAでRAS変異を認める症例が10%程度存在することが示唆され、このような症例では抗EGFR抗体薬の効果が乏しいことが、PARADIGM試験を含め報告されている。将来的には組織だけでなく、ctDNAによるゲノム検査が治療前に行えるようになることが期待される。

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de novo StageIV乳がんの初期薬物療法、サブタイプ・薬剤別の効果(JCOG1017副次的解析)/日本乳癌学会

 治療歴のない(de novo)StageIV乳がんに対する初期薬物療法の効果は術後再発乳がんより良好とされるが、その効果について詳細なデータはない。今回、JCOG1017(薬物療法非抵抗性StageIV乳がんに対する原発巣切除の意義に関するランダム化比較試験)の副次的解析として、de novo StageIV乳がんに対する初期薬物療法の効果と効果予測因子を検討した結果、サブタイプにより治療効果が異なり、とくにPgR、HER2発現の有無および内臓転移の状況が影響している可能性が示唆された。岡山大学の枝園 忠彦氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。 JCOG1017では、1次登録されたde novo StageIV乳がん患者に対し、サブタイプと転移の状況に応じて、以下のいずれかの初期薬物療法を約3ヵ月実施している。(1)ホルモン療法:ER+かつ生命を脅かす転移なし(2)weekly パクリタキセル(PTX)療法:ER-/HER2-または生命を脅かす転移あり(3)トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル(HPD)療法またはトラスツズマブ+パクリタキセル(HPTX)療法:ER-/HER2+またはER+/HER2+かつ生命を脅かす転移あり 本解析では、レジメンごとの薬物療法の開始3ヵ月後の治療効果(non-PD割合、奏効割合)、初期薬物療法の効果予測因子を検討した。 主な結果は以下のとおり。・約3ヵ月の初期薬物療法を受けた569例におけるnon-PD割合は77.2%で、閉経後およびPgR+で効果が高かった。サブタイプ別にみると、トリプルネガティブ(TN)を基準としたオッズ比(OR)は、ER+/HER2-が0.434(p=0.0439)、ER-/HER2+が3.374(p=0.0201)、ER+/HER2+が0.345(p=0.0153)であった。・薬剤別のnon-PD割合は、ホルモン療法では、タモキシフェン+LH-RHが68.2%、レトロゾールが75.2%、全体では72.8%であり、内臓転移なし、PgR+、HER2-で効果が高かった。weekly PTX療法では76.1%で、有意な効果予測因子はなかった。HPD療法/HPTX療法では92.7%で、内臓転移ありで効果が高かった。・569例における奏効割合(CR+PR)は29.0%で、内臓転移ありで効果が高かった。サブタイプ別にみると、TNを基準としたORは、ER+/HER2-が0.368(p=0.0121)、ER-/HER2+が6.499(p<0.0001)、ER+/HER2+が1.428(p=0.3793)であった。・薬剤別の奏効割合は、ホルモン療法では、タモキシフェン+LH-RHが10.9%、レトロゾールが12.0%、全体では11.6%で、有意な効果予測因子はなかった。weekly PTX療法では36.4%で、有意な効果予測因子はなかった。HPD療法/HPTX療法では81.8%で、内臓転移ありで効果が高かった。・原発巣と転移巣のcCR割合は、ホルモン療法とweekly PTX療法ではほぼゼロであったが、HPD療法/HPTX療法では原発巣で16.4%、転移巣で11.8%であった。 本解析の結果から、枝園氏は「サブタイプによって初期薬物療法の治療効果および効果予測因子は異なっていた。PgR、HER2発現の有無および内臓転移の状況が治療効果に影響している可能性があり、これらを考慮した治療戦略構築が必要」とし、「とくにER+/HER2+ではホルモン療法単独の効果は低く、初期薬物療法から分子標的薬の併用が必要」と考察を述べた。

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T-DXd、脳転移や髄膜がん腫症を有するHER2+乳がんに有効(ROSET-BM)/日本乳癌学会

 わが国における実臨床データから、脳転移や髄膜がん腫症(LMC)を有するHER2陽性(HER2+)乳がんにトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が有効であることが示唆された。琉球大学の野村 寛徳氏が第31回日本乳癌学会学術総会で発表した。T-DXdはDESTINY-Breast01/03試験において、安定した脳転移を有するHER2+乳がんに対して有望な効果が報告されているが、活動性脳転移やLMCを有する患者におけるデータはまだ限られている。 本研究(ROSET-BM)はわが国における多機関共同レトロスペクティブチャートレビュー研究である。2020年12月31日時点でHER2+乳がんの治療にT-DXdを使用した医療機関から、2020年5月25日~2021年4月30日にT-DXd治療を受けた脳転移またはLMCを有するHER2+乳がん患者(20歳以上、臨床試験でT-DXd治療を受けた患者は除外)の実臨床データおよび脳画像データを収集した(データカットオフ:2021年10月31日)。評価項目は、治療成功期間(TTF)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、脳画像による頭蓋内病変(IC)-ORR、IC-臨床的有用率(CBR)など。 主な結果は以下のとおり。・国内62施設からの適格基準を満たした104例を解析対象とした。うち89例が評価可能な脳画像データを有していた。・前治療レジメン数の中央値は4.0(Q1:3.0、Q3:7.0)であった。・脳転移の随伴症状があった患者は30.8%で、随伴症状に対する薬剤はステロイドが14.4%、抗てんかん薬が10.6%であった。・脳転移は、LMCを伴わない活動性脳転移が73例、LMCを伴う活動性脳転移が17例、安定した脳転移が6例、LMCのみが2例、判定不能が6例だった。・全体でのPFS中央値は16.1ヵ月(95%信頼区間[CI]:12.0~NA)、OSは中央値に達しておらず、12 ヵ月OS率は74.9%(同:64.5~82.6)であった。・脳転移のサブグループ別にみた生存率は、活動性脳転移(T-DXd投与前30日以内に全脳照射を受けた患者を除く)において、PFS中央値が13.4ヵ月、OS中央値は未達だった。また、LMC患者においても、12ヵ月PFS率が60.7%、12ヵ月OS率が87.1%と持続的な全身性疾患のコントロールを示した。・TTF中央値は9.7ヵ月、間質性肺疾患/肺障害による投与中止は18.3%であった。・IC-ORRは62.7%、IC-CBR(6ヵ月時点)は70.6%であった。 野村氏は最後に、転移性脳腫瘍の増大で昏睡状態になった40代の乳がん女性が、T-DXd投与によって昏睡状態の回復および脳転移の改善がみられ、驚愕したという経験を紹介し、「脳転移やLMCを有するHER2+乳がん患者に対して、T-DXdは既報と同様の有効性と臨床的有用性を示した」とまとめた。

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転移乳がんへのカペシタビン、固定用量vs.標準用量(X-7/7)/ASCO2023

 転移を有する乳がん(MBC)患者を対象としたX-7/7試験において、カペシタビンの固定用量(1,500mg 1日2回 7日間投与後7日間休薬)は、体表面積に基づく用量(1,250mg/m2 1日2回 14日間投与後7日間休薬)と比較して、無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)に差はなく、手足症候群などの有害事象の発生率が低かったことを、米国・カンザス大学がんセンターのQamar J. Khan氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で発表した。 MBCは継続的な治療が必要となるため毒性の少ない治療が望まれているが、FDAに承認されているカペシタビンの用量では忍容性が低く、中止率が高いという懸念がある。そこで研究グループは、体表面積に関係なく固定用量のカペシタビンを投与した場合の有効性と安全性を、標準用量と比較するランダム化試験を実施した。・対象:内分泌療法または化学療法の治療歴のある転移を有する乳がんの女性(HER2+患者ではトラスツズマブを併用)・試験群(固定7/7群):カペシタビン1,500mg 1日2回 7日間投与→7日間休薬 80例・対照群(標準14/7群):カペシタビン1,250mg/m2 1日2回 14日間投与→7日間休薬 73例・評価項目[主要評価項目]3ヵ月PFS率[副次評価項目]PFS、OS、奏効率(ORR)、安全性 主な結果は以下のとおり。・2015年10月~2021年4月にMBC患者153例を固定7/7群と標準14/7群に1対1に無作為に割り付けた。ベースライン時の患者特性は同等で、年齢中央値60歳、内臓転移ありが44%、HR+HER2-が78%、HER2+が11%、トリプルネガティブが11%、化学療法の前治療歴なしが65%、測定可能な病変を有していたのは67%であった。・PFS中央値は、固定7/7群で8.7ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.4~11.6)、標準14/7群で12.1ヵ月(同:8.9~16.3)であった(p=0.98)。・固定7/7群および標準14/7群のPFS率はそれぞれ下記のとおりであった。 -3ヵ月PFS率:76%、76%、p=0.99 -6ヵ月PFS率:39%、50%、p=0.23 -24ヵ月PFS率:25%、23%、p=0.77 -36ヵ月PFS率:11%、0%、p=0.24・ORRは固定7/7群8.9%、標準14/7群19.6%であった(p=0.11)。・OS中央値は、固定7/7群19.8ヵ月(95%CI:12.9~28.3)、標準14/7群17.5ヵ月(同:12.5~34.0)であった(p=0.17)。・固定7/7群および標準14/7群のOS率はそれぞれ下記のとおりであった。 -3ヵ月OS率:94%、85%、p=0.16 -12ヵ月OS率:56%、63%、p=0.59 -24ヵ月OS率:30%、33%、p=0.85 -36ヵ月OS率:23%、23%、p=1.00 -48ヵ月OS率:17%、14%、p=0.82・Grade3~4の有害事象は、固定7/7群で11.3%、標準14/7群で27.4%に生じた(p=0.02)。Grade2~4の有害事象のうち、下痢は2.5%/20.5%(p=0.0008)、手足症候群は3.8%/15.1%(p=0.0019)、口内炎は0%/5.5%(p=0.0001)、好中球減少は21.3%/27.4%(p=0.68)であった。 これらの結果より、Khan氏は「MBCの治療で有効性を維持しながら毒性を最小化するために、カペシタビン1,500mg 1日2回 7日間投与後7日間休薬する固定用量は有用なオプションとなる可能性がある」とまとめた。

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TN乳がんのHER2発現状況、生検時期によって変動/ASCO2023

 HER2の発現状況は変動的であり、HER2低発現ではないIHC 0のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者が病勢進行時に生検を繰り返し行うことでHER2低発現となる可能性があることを、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で、米国・マサチューセッツ総合病院のYael Bar氏が発表した。 第III相DESTINY-Breast04試験サブグループ解析において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はTNBCを含むHER2低発現で転移を有する乳がん患者の無増悪生存期間と全生存期間を有意に改善した。しかし、T-DXdのFDA承認はHER2低発現であってTNBCではないため、HER2低発現かどうかを特定することは臨床的に重要である。 先行研究では、TNBCにおけるHER2発現状況は不均一で時間の経過とともに変動することが示唆されているが、TNBC患者がHER2低発現の結果を得るために繰り返し生検を受ける意義があるかどうかは不明である。そこで研究グループは、TNBC患者における生検の実施回数とHER2発現状況の相関、生検を繰り返して行う意義、生検時期によるHER2発現状況の変動の評価を行った。 研究グループは、2000~22年に単一施設で治療を受けたTNBC(ER/PR<10%、HER2陰性)患者512例のデータを後方視的に解析した。HER2の発現状況が不明または不確定の患者は除外された。HER2低発現は、IHCスコア1+またはIHCスコア2+かつISH-と定義された。生検は実施時期や実施方法に基づいて分類された。 患者の年齢中央値は52歳(範囲:25~97歳)、50歳以上が46%、ER低発現(1~10%)が13%、術前化学療法実施が54%であった。StageIが28%、StageIIが48%、StageIIIが14%、StageIVが8%、不明が1%で、生検の実施回数は1回が38%、2回が45%、3回が9%、4回が6%、5回以上が2%であった。 主な結果は以下のとおり。・生検の合計実施回数が増えるにつれて、HER2低発現の結果を少なくとも1回示した患者の割合が増加した。生検を計1回実施した患者では59%、計2回では73%、計3回と計4回では83%、計5回以上では100%であった。・以前の生検でHER2ゼロだった患者は、次の生検を受けるたびにその3分の1が新たにHER2低発現の結果を示した。・同一患者の異なるタイミングの生検を分析した結果、HER2ゼロ→HER2低発現、HER2低発現→HER2ゼロの変動が主に認められ、その変動の可能性は早期に実施した生検と転移が進んだ状態で実施した生検の間で最も大きかった。転移が進んだ状態の生検は、HER2ゼロ→HER2低発現となる割合が高かった。・術前化学療法の有無はHER2発現状況の変動に影響を与えなかった。 これらの結果より、Bar氏は「TNBC患者においてHER2発現状況は変動的であった。T-DXdの適応がない患者でも、生検を繰り返すことで新たにHER2低発現の結果を得られる可能性があるため、実施可能かつ安全であるのであれば検討してもよいと考える。また、何らかの理由で生検を行った場合は再検査を行うべきである」とまとめた。

46.

転移乳がんへのADC後のADC投与、交差耐性の可能性/ASCO2023

 米国では転移を有するHR+/HER2-およびトリプルネガティブ(TN)乳がんにsacituzumab govitecan(SG)が、またHER2低発現乳がんにトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が承認され、複数の抗体薬物複合体(ADC)が適応となる患者が増えている。しかし、ADCは抗体標的やペイロードにより交差耐性の可能性があるため、最適な投与順序は不明である。今回、転移を有するHER2-乳がんに対して調査したところ、2剤目のADCに対して交差耐性を示す患者がいる一方、1剤目と抗体標的が異なる場合など、2剤目でも持続的な奏効を示す患者もいることがわかった。米国・Massachusetts General Hospital Cancer CenterのRachel Occhiogrosso Abelman氏が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で報告した。 本試験の対象は、HER2+を除いた転移を有する乳がんに対して ADCを2剤以上投与された患者とした。なおトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)はADCに含めていない。2剤目のADCにおける最初の病期再分類時もしくはその前に病勢進行(PD)となった場合に「交差耐性」と定義し、1剤目と2剤目の抗体標的およびペイロードの違いによる交差耐性を調べた。また、サブグループ別に各状況での無増悪生存期間(PFS)を調べた。 主な結果は以下のとおり。・2014年8月~2023年2月に193例にADCが投与され、うち35例が2剤以上投与されていた(HR+/HER2-:15例、TN:20例、HER2低発現:24例)。抗体標的の種類は、1剤目はHER2が8例、Trop2が26例、その他が1例で、2剤目はHER2が14例、Trop2が19例、その他は2例だった。ペイロードの種類は、1剤目は35例すべてがトポイソメラーゼ阻害薬、2剤目はトポイソメラーゼ阻害薬31例、微小管阻害薬とその他がそれぞれ2例だった。・交差耐性は、1剤目と2剤目が同じ抗体標的でペイロードが異なる場合は12例中8例(66.7%)、抗体標的もペイロードも異なる場合は19例中8例(42.1%)に認められた。・PFS中央値は、HR+/HER2-乳がんでは1剤目が6.9ヵ月、2剤目が2.4ヵ月(p=0.051)、TN乳がんでは1剤目が8.2ヵ月、2剤目が3.0ヵ月(p=0.004)と2剤目が短かった。・T-DXdとSGの投与順別のPFS中央値は、HR+/HER2-乳がんでは、SG→T-DXdの場合、SGが4.9ヵ月、T-DXdが2.8ヵ月、T-DXd→SGの場合、T-DXdが7.1ヵ月、SGが2.4ヵ月だった。TN乳がんでは、SG→T-DXdの場合、SGが9.1ヵ月、T-DXdが2.6ヵ月、T-DXd→SGの場合、T-DXdがNA、SGが2.2ヵ月だった。 Abelman氏は「最適なADC投与順序を導くために、これらの結果を検証して耐性機序を調べるさらなる研究が必要」と述べた。

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HER2陽性の転移のある大腸がんに対するトラスツズマブ デルクステカンの有用性(DESTINY-CRC02)/ASCO2023

 HER2陽性大腸がんに対するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の2つの用量による治療成績が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)において、米国・MDアンダーゾンがんセンターのKanwal Raghav氏より発表された。日本も参加した国際共同盲検化第II相試験のDESTINY-CRC02試験の初回解析結果報告である。対象:中央判定で確認されたHER2陽性(IHC3+またはIHC2+/ISH+)でBRAF野生型の切除不能または再発大腸がん・試験群1:T-DXd 5.4mg/kgを3週ごと投与(5.4mg群:82例)・試験群2:T-DXd 6.4mg/kgを3週ごと投与(6.4mg群:40例)・評価項目:[主要評価項目] 盲検独立中央判定による奏効率(ORR)[副次的評価項目] 治験担当医評価によるORR、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、安全性など 主な結果は以下のとおり。・5.4mg群と6.4mg群に各40例が割り付けられたが、5.4mg群には追加で42例が登録された。・患者背景としては、両群間にばらつきはなく、年齢中央値は58~62歳、アジア人が半数以上、RAS野生型が8割以上を占めた。・前治療のライン数中央値は3.5、抗EGFR抗体、抗HER2薬、抗VEGF抗体などが使用されていた。・ORRは5.4mg群では37.8%、6.4mg群では27.5%であった(両群ともすべてPR)。5.4mg群、6.4mg群ともにRAS変異型にも奏効が認められた。・DCRは5.4mg群で86.6%、6.4mg群で85%であった。DOR中央値は5.4mg群で5.5ヵ月、6.4mg群でも5.5ヵ月であった。・PFS中央値は5.4mg群で5.8ヵ月、6.4mg群では5.5ヵ月であった。OS中央値は5.4mg群で13.4ヵ月、6.4mg群では未到達であった。・Grade3以上の治療下発現有害事象(TEAE)は、5.4mgの49.4%、6.4mgの59.0%に認められた。そのなかでも頻度が高い好中球減少、貧血、血小板減少の発現は、5.4mg群と6.4mg群で、それぞれ16.9%と28.2%、9.6%と23.1%、6.0%と12.8%で、いずれも6.4mg群で多かった。・間質性肺疾患/肺炎は全Gradeで5.4mg群の8.4%(5.4mg群はGrade1~2のみ)、6.4mg群の12.8%に発現した。Grade5は6.4mg群で1例報告されている。 Raghav氏は、「本試験は、5.4mg群と6.4mg群の有用性を比較できる統計学的パワーは持たせていない」とした上で、「HER2陽性の切除不能または再発大腸がんに対しては、T-DXdは有効性と安全性の面から、5.4mg/kgが単剤での至適用量と思われる」と結んだ。

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HER2+胆道がんに対するtucatinibとトラスツズマブの併用療法の有用性/ASCO2023

 数ラインの治療歴のあるHER2陽性の転移のある胆道がんに対し、チロシンキナーゼ阻害薬のtucatinibとトラスツズマブの併用療法が有効であるという報告が、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)において国立がん研究センター東病院の中村 能章氏よりなされた。 これは、泌尿器がんなどのHER2陽性固形がんを含む9つのコホートからなるオープンラベル第II相バスケット試験であるSGNTUC-019試験の中の、胆道がんコホートの結果である。・対象:1ライン以上の化学療法治療歴のある進行または転移を有するHER2陽性胆道がん症例(HER2陽性:HER2高発現[IHC 3+]またはHER2遺伝子増幅あり[FISH/NGS]と定義)・介入:tucatinib 300mg×2/日+トラスツズマブ6mg/kg(初回8mg/kg)3週ごと・評価項目:[主要評価項目]主治医判定による奏効率(ORR)[副次評価項目]安全性、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS) 主な結果は以下のとおり。・2021年6月~2022年5月に30例が胆道がんコホートに登録され、追跡期間中央値は10.8ヵ月であった。・患者の年齢中央値は68.5歳、アジア人が76.7%、胆嚢がんが50%、StageIVが60.0%、前治療のライン数中央値は2であった。・ORRは46.7%で、CRは1例(3.3%)、PRは13例(43.3%)であった。DCRは76.7%で、DOR中央値は6.0ヵ月であった。・腫瘍縮小効果発現までの中央値は2.1ヵ月であった。・PFS中央値は5.5ヵ月で、6ヵ月PFS率は49.8%、12ヵ月PFS率は16.1%であった。・OS中央値は15.5ヵ月で、6ヵ月OS率は73.0%、12ヵ月OS率は53.6%であった。・治療関連有害事象は全例に認められ、主なものは発熱43.3%、下痢40.0%、インフュージョンリアクション26.7%、血中クレアチニン増加26.7%、ALT上昇26.7%などであった。Grade3以上の有害事象は、悪心10%、胆管炎10%、食欲不振10%などであり、治療関連死はなかった。・HER2検査の中央判定と施設判定での陽性一致率は、IHC、FISH共に87.5%であり、血液検体を用いたNGSでは75.9%であった。中央判定でHER2陰性と判定された症例に、奏効例はなかった。

49.

HER2+早期乳がん、化学療法なしのde-escalationで3年iDFS良好(PHERGain)/ASCO2023

 HER2+早期乳がん患者を対象とした第II相PHERGain試験において、化学療法を含まないトラスツズマブ+ペルツズマブ(PH)併用療法の3年無浸潤疾患生存(iDFS)率は、ドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ+ペルツズマブ(TCHP)併用療法と同等で、とくに18F-FDG PET/CT(以下「PET」)を指標とした反応例かつ病理学的完全奏効(pCR)例(一度も化学療法を行わない群)では98.8%と最も高かったことを、米国臨床腫瘍学会年次総会(2023 ASCO Annual Meeting)で、スペイン・International Breast Cancer CenterのJavier Cortes氏が発表した。 本試験の先行解析において、HER2+早期乳がん患者の術前治療としてトラスツズマブ+ペルツズマブ併用のpCR率が37.9%であったことが、2021年のLancet Oncology誌に掲載されている。今回は、手術を受けた患者を対象に、3年iDFS率の結果が発表された(データカットオフ:2023年2月24日)。PET反応例の判断基準はベースラインのSUVmax値から40%以上の減少であった。・対象:腫瘍径が1.5cm以上で、初回治療としてトラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)併用療法を受けたStageI~IIIAのHR+早期乳がん患者・試験群(PH群):PHを2サイクル→PET→PET反応例はPHを6サイクル/無反応例はTCHPを6サイクル→手術→pCR例はPHを10サイクル/非pCR例はTCHPを6サイクルとPHを4サイクル/PET無反応例はPHを10サイクル 285例・対照群(TCHP群):TCHPを2サイクル→PET→TCHPを4サイクル→手術→PHを12サイクル 71例・評価項目:[主要評価項目]試験群におけるPET反応例のpCR(ypT0/isN0)、試験群における3年iDFS[副次評価項目]全患者のpCR、対照群における3年iDFS、遠隔無病生存期間(DDFS)、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間(OS)、安全性 など 主な結果は以下のとおり。・2017年6月26日~2019年4月24日に、356例をPH群とTCHP群に4:1の割合で無作為に割り付けた。追跡期間中央値は3.5年(範囲:0~5.3)で、手術を受けたのはTCHP群63例(88.7%)、PH群267例(93.7%)であった。・PH群のPET反応例は79.6%(227例)、PET無反応例は20.4%(58例)であった。pCR率は37.9%であった(95%信頼区間[CI]:31.6~44.5、p<0.001)。・3年iDFS率は、TCHP群が98.3%、PH群全体が95.4%、PH群のPET反応例かつpCR例が98.8%であった。iDFSイベントは、PH群全体で4.5%、PH群のPET反応例かつpCR例で1.2%に生じた。・3年DDFS率は、TCHP群が98.3%、PH群全体が96.5%、PH群のPET反応例かつpCR例が100%であった。・3年EFS率は、TCHP群が98.4%、PH群全体が93.5%、PH群のPET反応例かつpCR例が98.8%であった。・3年OS率は、TCHP群が98.4%、PH群全体が98.5%、PH群のPET反応例かつpCR例が100%であった。・Grade3以上の治療関連有害事象および重篤な有害事象の発現は、TCHP群が61.8%/27.9%、PH群全体が32.9%/13.8%、PH群のPET反応例かつpCR例が1.2%/0%であった。治療に関連する死亡例はなく、予期しない安全性上の所見は認められなかった。 これらの結果より、Cortes氏は「本試験において、PH群の3年iDFS率は95.4%で、とくにPET反応例かつpCR例では98.8%であった。多くのHER2+早期乳がん患者が、化学療法を含まないトラスツズマブ+ペルツズマブ(±内分泌療法)で治療できる可能性がある」とまとめた。

50.

進行乳がんへのHER3-DXd、効果予測因子は?(ICARUS-BREAST01)/ESMO BREAST 2023

 HR+/HER2-の進行乳がん患者に対し、HER3を標的としたpatritumab deruxtecan(HER3-DXd)を投与した第II相ICARUS-BREAST01試験において、ベースライン時のHER3+の血中循環腫瘍細胞(CTC)数が多い患者、または1サイクル目でHER3+のCTC数が大きく減少した患者では、治療反応が早期に得られやすい傾向にあったことを、フランス・Gustave RoussyのBarbara Pistilli氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 これまで、HER3+の再発/転移乳がん患者(HR+/HER2-、HER2+、トリプルネガティブ)に対する第I/II相U31402-A-J101試験において、HER3-DXdの有効性と安全性が示されている。この有用性はすべてのサブタイプで同様であり、HER3-DXdはHER3の発現量にあまり依存しない可能性が示唆されており、HER3-DXdに対する反応性/抵抗性のバイオマーカーは不明である。 そこで、本試験は複数治療歴のあるHR+/HER2-進行乳がん患者におけるHER3-DXdの予測因子を明らかにすることを目的として現在行われている。データカットオフは2023年2月15日で、今回は3ヵ月奏効率と安全性データが報告された。なお、IHCでのHER3発現状況の登録は、2022年4月21日より削除された。・対象:CDK4/6阻害薬+内分泌療法歴、1ラインの化学療法歴のあるHR+/HER2-またはHER2低発現の進行乳がん(切除不能の局所進行もしくは転移を有する乳がん)患者・試験群:HER3-DXd 5.6mg/kg 3週間ごとに静脈内投与(治療前、治療中、治療終了時に腫瘍生検) ・評価項目:[主要評価項目]奏効率[副次評価項目]無増悪生存期間、奏効期間、クリニカルベネフィット率、全生存期間、安全性 主な結果は以下のとおり。・データカットオフの時点で85例の患者が試験に参加し、うち56例が評価可能であった。・ベースライン時の患者特性は、年齢中央値56歳(範囲:28~82歳)、全例が女性、HER3+が51.8%、前治療のライン数中央値2(範囲:1~4)、HER3-DXdのサイクル数中央値8(範囲:1~20)であった。・3ヵ月奏効率は、部分奏効が28.6%(16例)、病勢安定が53.6%(30例)、進行が17.8%(10例)であった。・HER3-DXd投与1~2サイクル後に、主にHER3+のCTC数の中央値が減少した。・HER3-のCTC数と治療効果に関連はなく、病勢進行時もHER3-のCTC数の増加はみられなかった。・ベースライン時のHER3+のCTC数が多い患者、または1サイクル目でHER3+のCTC数が大きく減少した患者では、治療反応が早期に得られやすい傾向にあったが、統計学的な有意差は認められなかった。・治療関連有害事象(TRAE)は100%に生じ、多かったものは疲労89.3%、悪心75.0%、下痢46.4%、脱毛44.6、便秘26.8%であった。Grade3以上のTRAEは48.2%で、疲労14.3%、悪心3.6%、下痢3.6%、便秘5.3%であった。間質性肺疾患は1例(1.8%)報告された。 ICARUS BREAST01試験は現在も進行中であり、さらなる有効性と効果予測因子の解析が行われる予定である。

51.

HER2低発現進行乳がんへのT-DXd、ER低発現でもPFS・OS延長(DESTINY-Breast04)/ESMO BREAST 2023

 第III相DESTINY-Breast04試験のサブグループ解析の結果、HER2低発現(IHC法でER陽性細胞が1~10%)で、エストロゲン受容体(ER)低発現の切除不能または転移のある乳がん患者(MBC)において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が医師選択化学療法(TPC)よりも無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を有意に改善し、その結果はER陰性(IHC法でER陽性細胞が0%)患者と同様であったことを、英国・エディンバラ大学のDavid A. Cameron氏が欧州臨床腫瘍学会乳がん(ESMO Breast Cancer 2023、5月11~13日)で報告した。 ASCO2022のプレナリーセッションで、HER2低発現のMBC患者に対するDESTINY-Breast04試験の結果が報告されており、ホルモン受容体(HR)の発現状況にかかわらずT-DXd群ではPFSおよびOSが有意に延長したことが示されている。今回のサブグループ解析では、ER低発現の患者における有効性と安全性の探索的解析が行われた(データカットオフ:2022年1月11日)。<DESTINY-Breast04試験 サブグループ解析>・対象:1~2ラインの化学療法歴があり、HER2低発現(IHCスコア1+またはIHCスコア2+かつISH-)のMBC患者110例(ER陰性[0%]58例、ER低発現[1~10%]52例)・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 75例・対照群(TPC群):カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセルから選択 35例・評価項目:[主要評価項目]HR陽性患者の盲検下独立中央評価委員会(BICR)によるPFS[副次評価項目]全患者のBICRによるPFS、HR陽性患者および全患者のOSなど 主な結果は以下のとおり。●サブグループ解析には110例が組み込まれた(括弧内は順に年齢中央値、化学療法歴が1ラインの割合、CDK4/6阻害薬による治療歴ありの割合)。- ER陰性:T-DXd群40例(58.9歳、40.0%、5.0%)、TPC群18例(55.9歳、27.8%、0%)- ER低発現:T-DXd群35例(57.6歳、60.0%、62.9%)、TPC群17例(47.1%、52.9%)●PFS中央値は、T-DXd群がTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群8.5ヵ月(95%信頼区間[CI]:4.3~11.7)vs.TPC群2.9ヵ月(95%CI:1.4~5.1)、ハザード比[HR]:0.46(95%CI:0.24~0.89)- ER低発現:T-DXd群8.4ヵ月(95%CI:5.6~12.2)vs.TPC群2.6ヵ月(95%CI:1.2~4.6)、HR:0.24(95%CI:0.12~0.48)●OS中央値も、T-DXd群ではTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群18.2ヵ月(95%CI:13.6~NE)vs.TPC群8.3ヵ月(95%CI:5.6~20.6)、HR:0.48(95%CI:0.24~0.95)- ER低発現:T-DXd群20.0ヵ月(95%CI:13.5~NE)vs.TPC群10.2ヵ月(95%CI:7.8~14.5)、HR:0.35(95%CI:0.16~0.75)●確定奏効率も、T-DXd群ではTPC群よりも良好であった。- ER陰性:T-DXd群50.0%(95%CI:33.8~66.2)vs.TPC群16.7%(95%CI:3.6~41.4)- ER低発現:T-DXd群57.1%(95%CI:39.4~73.7)vs.TPC群5.9%(95%CI:0.1~28.7)●T-DXd群においてGradeを問わず多く発現した治療関連有害事象(TRAE)は、悪心(77.3%)、嘔吐(40.0%)、疲労(37.3%)、食欲低下(34.7%)、脱毛(33.3%)、便秘(33.3%)、貧血(30.7%)、下痢(29.3%)、トランスアミナーゼ値上昇(26.7%)などで、これまで得られていた結果と一致していた。Grade3以上のTRAEは、T-DXd群では53.3%(40例)、TPC群では75.0%(24例)に生じた。

52.

T-DXd、T-DM1不応または抵抗性乳がんに有効/Lancet

 トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)に対して不応または抵抗性を示すHER2陽性転移のある乳がん患者の治療において、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は医師が選択した治療と比較して、無増悪生存期間(PFS)が有意に延長し、安全性プロファイルはすでに確立されたものと一致し、新たな安全性シグナルは観察されなかったことが、フランス・パリ・サクレー大学のFabrice Andre氏らが実施した「DESTINY-Breast02試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年4月19日号で報告された。227施設の無作為化第III相試験 DESTINY-Breast02試験は、北米、欧州、アジア(日本を含む)、オーストラリア、ブラジル、イスラエル、トルコの227施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2018年9月~2020年12月の期間に患者のスクリーニングと無作為割り付けが行われた(Daiichi SankyoとAstraZenecaの助成を受けた)。 年齢18歳以上、病理学的に切除不能なHER2陽性転移のある乳がんが確認され、T-DM1による治療歴があり、画像所見で病勢の進行が認められ、全身状態が良好な患者(ECOG PSスコア0/1)が、T-DXd(5.4mg/kg、3週ごとに静脈内投与)、または医師の選択による治療を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けられた。 医師の選択による治療は、カペシタビン+トラスツズマブまたはカペシタビン+ラパチニブとされ、いずれも21日スケジュールで投与された。 主要評価項目はPFSであり、最大の解析対象集団(FAS)において盲検下に独立の中央判定で評価が行われた。OSも良好、14%で完全奏効 608例が登録され、T-DXd群に406例、医師選択治療群に202例が割り付けられた。それぞれ2例および7例が実際には治療を受けなかったが、608例すべてがFASに含まれた。 年齢中央値は、T-DXd群が54.2歳(四分位範囲[IQR]:45.5~63.4)、医師選択治療群は54.7歳(48.0~63.0)であり、男性がそれぞれ3例および2例、白人が63%ずつ、アジア人が30%および28%含まれた。フォローアップ期間中央値は、21.5ヵ月および18.6ヵ月だった。 盲検下独立中央判定によるPFS中央値は、T-DXd群が17.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:14.3~20.8)と、医師選択治療群の6.9ヵ月(5.5~8.4)に比べ、有意に延長した(ハザード比[HR]:0.36、95%信頼区間[CI]:0.28~0.45、p<0.0001)。 全生存期間(OS)中央値は、T-DXd群が39.2ヵ月(95%CI:32.7~評価不能[NE])であり、医師選択治療群の26.5ヵ月(21.0~NE)に比し、有意に延長した(HR:0.66、95%CI:0.50~0.86、p=0.0021[統計学的有意性の境界値:p=0.0040])。また、奏効率は、それぞれ70%(283/406例)および29%(59/202例)であり、内訳は完全奏効が14%(57例)および5%(10例)、部分奏効は56%(226例)および24%(49例)だった。抗体-薬物複合体による逐次治療の可能性 頻度の高い治療関連有害事象として、悪心(T-DXd群73%[293/404例]、医師選択治療群37%[73/195例])、嘔吐(38%[152例]、13%[25例])、脱毛(37%[150例]、4%[8例])、疲労(36%[147例]、27%[52例])、下痢(27%[109例]、54%[105例])、手掌・足底発赤知覚不全症候群(2%[7例]、51%[100例])が認められた。 Grade3以上の治療関連有害事象は、T-DXd群が53%、医師選択治療群は44%で発現し、薬剤関連の間質性肺疾患がそれぞれ10%(42例、Grade5[死亡]の2例を含む)および<1%(1例)でみられた。 著者は、「われわれの知る限りこの研究は、抗体-薬物複合体が、別の抗体-薬物複合体による治療で病勢が進行した患者において有意な有益性を示した初めての無作為化試験であり、HER2陽性転移のある乳がんや他の患者集団における抗体-薬物複合体の逐次治療に関して、明るい展望をもたらすものである」としている。

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添付文書改訂:フォシーガが左室駆出率にかかわらず使用可能に、アセトアミノフェンが疾患・症状の縛りなく使用可能に ほか【下平博士のDIノート】第119回

フォシーガ:左室駆出率にかかわらず使用可能に<対象薬剤>ダパグリフロジン(商品名:フォシーガ錠5mg/10mg、製造販売元:アストラゼネカ)<承認年月>2023年1月<改訂項目>[削除]効能・効果に関連する注意左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること。[追加]臨床成績左室駆出率の保たれた慢性心不全患者を対象とした国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果を追記。<Shimo's eyes>これまで、本剤は「左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること」とされていましたが、この記載は削除され、左室駆出率を問わず使用可能となりました。これは、左室駆出率が40%超の慢性心不全患者を対象に行われた国際共同第III相試験(DELIVER試験)の結果に基づいた変更です。なお、SGLT2阻害薬のエンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)も、2022年4月に左室駆出率にかかわらず使用可能となっています。アセトアミノフェン:疾患や症状の縛りなく「鎮痛」で使用可能に<対象薬剤>アセトアミノフェン製剤(商品名:カロナールほか)<承認年月>2023年2月<改訂項目>[削除]効能・効果下記の疾患ならびに症状の鎮痛頭痛、耳痛、症候性神経痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、捻挫痛、月経痛、分娩後痛、がんによる疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛、変形性関節症[追加]効能・効果各種疾患および症状における鎮痛<Shimo's eyes>アセトアミノフェン製剤(カロナールほか)について、疾患や症状の縛りなく「鎮痛」の目的での使用が認められました。厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」を踏まえた変更です。欧米の先進諸国で使用できる医療用医薬品がわが国では保険診療において使用できない「ドラッグラグ」解消の1つであり、効能または効果は疾患名の列挙ではなく「各種疾患および症状における鎮痛」とすることが適切とされました。シルガード9:2回接種が追加され、接種無料に<対象薬剤>組換え沈降9価ヒトパピローマウイルス様粒子ワクチン(酵母由来)(商品名:シルガード9水性懸濁筋注シリンジ、製造販売元:MSD)<承認年月>2023年3月<改訂項目>[追加]用法・用量9歳以上15歳未満の女性は、初回接種から6~12ヵ月の間隔を置いた合計2回の接種とすることができる。[追加]用法・用量に関連する注意9歳以上15歳未満の女性に合計2回の接種をする場合、13ヵ月後までに接種することが望ましい。なお、本剤の2回目の接種を初回接種から6ヵ月以上間隔を置いて実施できない場合、2回目の接種は初回接種から少なくとも5ヵ月以上間隔を置いて実施すること。2回目の接種が初回接種から5ヵ月後未満であった場合、3回目の接種を実施すること。この場合、3回目の接種は2回目の接種から少なくとも3ヵ月以上間隔を置いて実施すること。<Shimo's eyes>本剤は、わが国で3番目に発売されたHPVワクチンです。既存薬の1つである2価ワクチン(商品名:サーバリックス)は、子宮頸がんの主な原因となるHPV16型と18型の感染を、もう1つの既存薬である4価ワクチン(同:ガーダシル)は上記に加えて尖圭コンジローマなどの原因となる6型と11型の感染を予防します。本剤は、これら4つのHPV型に加えて、31型・33型・45型・52型・58型の感染も予防する9価のHPVワクチンです。本剤について、9歳以上15歳未満の女性に対する計2回接種の用法および用量を追加する一変承認が取得されました。これまでは計3回接種となっていましたが、接種回数が減ることで、ワクチン接種者や医療者の負担軽減が期待できます。また、既存の2価/4価ワクチンは定期接種の対象で、小学6年生~高校1年生相当の女子は公費助成によって無料で接種を受けることができますが、これまで本剤は任意接種で自費での接種でした。2023年3月7日の厚生労働省の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、小学校6年生~15歳未満までに対する9価HPVワクチンの2回接種も、4月1日から定期接種化することが決定され、自費から公費接種に移行する準備が進められます。エンハーツ:HER2低発現乳がんにも使用可能に<対象薬剤>トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ点滴静注用100mg、製造販売元:第一三共)<承認年月>2023年3月<追記項目>[追加]効能・効果化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能または再発乳癌<Shimo's eyes>HER2低発現乳がんを標的にしたわが国初の治療薬となります。HER2低発現乳がんとはHER2陰性乳がんの新たな下位分類で、細胞膜上にHER2タンパクがある程度発現しているものの、HER2陽性に分類するほどの量ではない乳がんのことを指し、再発・転移のある乳がんの約50%を占めるとされます。本剤はこれまで有効な治療選択肢のなかったHER2低発現乳がんに対する薬剤となります。化学療法による前治療を受けたHER2低発現の乳がん患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(DESTINY-Breast04)の結果に基づく申請となりました。この試験では、再発・転移のあるHER2低発現乳がん患者557例(494例はホルモン受容体[HR]陽性、63例人はHR陰性)が、3週間ごとにT-DXdを投与する群(373例)と、医師の選択した化学療法を受ける群(184例)にランダムに割り付けられました。その結果、エンハーツ投与群では、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)のいずれにも改善が認められました。PFSとOSの中央値は、T-DXd投与群で9.9ヵ月と23.4ヵ月、医師の選択した化学療法群で5.1ヵ月と16.8ヵ月でした。なお、本適応追加に関連して、ロシュ・ダイアグノスティックスのがん組織または細胞中のHER2タンパク検出に用いる組織検査用腫瘍マーカーキット「ベンタナultraView パスウェーHER2(4B5)」が3月3日に一変承認され、HER2低発現の乳がん患者を対象とした本剤のコンパニオン診断薬として使用できることになりました。

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大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第5版 2023年3月

これからの大腸がん診療、遺伝子検査の実施に必須!最新の大腸がん診療における遺伝子関連検査(RAS変異・BRAF変異検査、HER2検査、ミスマッチ修復機能欠損の判定、包括的ゲノムプロファイリング検査、リキッドバイオプシーなど)について、適切な実施と治療への反映を解説。さらに、現在開発中の血管新生因子、DNAメチル化と多遺伝子アッセイ、腫瘍微小環境についても詳細に掲載し、これからの大腸がん診療に欠かせないガイダンスとなっています。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第5版 2023年3月定価2,420円(税込)判型B5判頁数116頁(図数:11枚)発行2023年3月編集日本臨床腫瘍学会

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HER2低発現乳がんへのT-DXd、アジア人集団でも有効性・安全性を確認(DESTINY-Breast04)/日本臨床腫瘍学会

 化学療法歴を有するHER2低発現の切除不能または転移のある乳がん患者(MBC)に対して、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択の化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast04試験のアジア人サブグループ解析において、T-DXd群では全体集団と同様にアジア人集団でも有意に無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が延長し、管理可能な安全性プロファイルであったことを、昭和大学の鶴谷 純司氏が第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。 ASCO2022のプレナリーセッションで、HER2低発現のMBC患者に対するDESTINY-Breast04試験の結果が報告されており、T-DXd群ではTPC群と比較してPFSおよびOSを有意に延長し、安全性プロファイルも管理可能であったことが示された。一方、HER2陽性のMBC患者を対象としたDESTINY-Breast03試験のアジア人サブグループ解析では、アジア人においてもT-Dxdの有用性が示され安全性プロファイルも全体集団と一致していたものの、日本人集団においては全体集団およびアジア人集団と比較して薬剤性肺障害(ILD)の報告が多い傾向がみられていた。[DESTINY-Breast04試験]・対象:1~2ラインの化学療法歴があり、HER2低発現(IHCスコア1+またはIHCスコア2+かつISH-)のMBC患者557例(うちアジアの国または地域からの登録は213例[38%])。・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 373例・対照群(TPC群):カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、nab-パクリタキセルから選択 184例・評価項目:[主要評価項目]HR+患者の盲検下独立中央評価委員会(BICR)によるPFS[副次評価項目]全患者のBICRによるPFS、HR+患者および全患者のOSなど 今回のサブグループ解析における主な結果は以下のとおり。・2022年1月11日までに557例が無作為化され、うち213例(38%)がアジアからの参加者であった(日本85例、中国62例、韓国57例、台湾9例)。・アジア人集団における追跡期間中央値は、T-DXd群16.8ヵ月、TPC群15.4ヵ月であった(全体集団はそれぞれ16.1ヵ月、13.5ヵ月)。・アジア人集団のベースライン時の患者特性は両群でバランスがとれていた(括弧内は全体集団)。 -T-DXd群:年齢中央値56.6歳(57.5歳)、IHCスコア1+が61.2%(57.4%)、IHCスコア2+かつISH-が38.8%(42.6%)、HR+が87.1%(89.3%)、HR-が12.9%(10.7%)、中枢神経系転移あり10.2%(6.4%)、肝転移あり68.0%(71.3%)、肺転移あり36.1%(32.2%) -TPC群:年齢中央値55.3歳(55.9歳)、IHCスコア1+が57.6%(58.2%)、IHCスコア2+かつISH-が42.4%(41.8%)、HR+が91.0%(90.2%)、HR-が9.1%(9.8%)、中枢神経系転移あり4.5%(4.3%)、肝転移あり59.1%(66.8%)、肺転移あり36.4%(34.2%)・主要評価項目であるHR+患者のPFS中央値は、アジア人集団ではT-Dxd群10.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:8.4~14.7) vs.TPC群5.3ヵ月(4.2~6.8)、ハザード比[HR]:0.41(0.28~0.58)であった(全体集団では10.1ヵ月[9.5~11.5] vs.5.4ヵ月[4.4~7.1]、HR:0.51[0.40~0.64]、p<0.0001)。・全患者(HR+およびHR-)のPFS中央値は、アジア人集団ではT-Dxd群10.9ヵ月(95%CI:9.0~13.8) vs.TPC群4.6ヵ月(2.8~6.4)、HR:0.38(0.27~0.53)であった(全体集団では9.9ヵ月(9.0~11.3) vs.5.1ヵ月[4.2~6.8]、HR:0.50[0.40~0.63]、p<0.0001)。・HR+患者のOS中央値は、アジア人集団ではT-Dxd群NE(95%CI:20.8~NE) vs.TPC群19.9ヵ月(16.7~NE)、HR:0.69(0.42~1.11)であった(全体集団では23.9ヵ月[20.8~24.8] vs.17.5ヵ月[15.2~22.4]、HR:0.64[0.48~0.86]、p=0.0028)。・全患者(HR+およびHR-)のOS中央値は、アジア人集団ではT-Dxd群NE(95%CI:21.7~NE) vs.TPC群19.9ヵ月(15.7~NE)、HR:0.61(0.39~0.95)であった(全体集団では23.4ヵ月[20.0~24.8] vs.16.8ヵ月[14.5~20.0]、HR:0.64[0.49~0.84]、p=0.0010)。・T-Dxd群の治療中に発現したGrade3以上の有害事象は、全体集団で52.6%、アジア人集団で59.2%であった。アジア人集団で多かったものは、好中球減少症16.3%、貧血12.9%、白血球減少症11.6%などであった(全体集団ではそれぞれ13.7%、8.1%、6.5%)。・T-Dxd群におけるILDは、全体集団で45例(12.1%)、アジア人集団で21例(14.3%)、日本人集団で15例(26.8%)報告された。アジア人集団においてはGrade4/5の報告はなく、日本人集団においてはGrade3以上の報告はなかった。 これらの結果より、鶴谷氏は「HER2低発現の乳がん患者を対象としたDESTINY-Breast04試験のアジア人サブグループ解析において、全体集団と同様にT-DXd群ではTPC群と比較して臨床的に意義のあるPFSおよびOSの延長が認められた」としたうえで、安全性については「両群の安全性プロファイルも全体集団と一致していた。ILDはアジア人集団ではGrade4/5の報告はなかったものの、日本人集団では頻度が高い傾向にあり、注意深いモニタリングが必要」とまとめた。

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T-DXd、HER2低発現乳がんに適応拡大/第一三共

 第一三共は2023年3月27日、HER2に対する抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)について、「化学療法歴のあるHER2低発現の手術不能又は再発乳癌」の効能又は効果に係る国内製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 本適応は、2022年6月開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO2022)で発表された、化学療法による前治療を受けたHER2低発現の乳がん患者を対象としたグローバル第III相試験(DESTINY-Breast04)の結果に基づくもので、2022年6月に国内製造販売承認事項一部変更承認申請を行い、優先審査品目に指定されていた。国内において初めてHER2低発現の乳がんを対象に承認された抗HER2療法となる。 なお、ロシュ・ダイアグノスティックスは、がん組織または細胞中のHER2タンパク検出に用いる組織検査用腫瘍マーカーキット「ベンタナ ultraView パスウェーHER2 (4B5)」の一部変更承認を2023年3月3日に取得している。HER2低発現の乳がん患者を対象としたT-DXdのコンパニオン診断薬として使用することができる。

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ICIの継続判断にも有用、日本初のOnco-cardiologyガイドライン発刊

 本邦初となる『Onco-cardiologyガイドライン』が第87回日本循環器学会学術集会の開催に合わせて3月10日に発刊された。これまで欧州ではESC(European Society of Cardiology、欧州心臓病学会)などがガイドラインを作成・改訂しており、国内でもガイドライン発刊が切望されていたことから、日本臨床腫瘍学会と日本腫瘍循環器学会が協働しMindsに準拠したものを作成した。今回、学術集会の会長企画シンポジウム6「OncoCardiology:診断と治療Up-to-Date」において、Onco-cardiologyガイドラインのポイントについて発表された。Onco-cardiologyガイドラインは重要臨床課題10項目を選定 Onco-cardiologyガイドラインの目的は、(1)がん診療において心機能を正確に評価し、心血管疾患を適切に管理すること、(2)がん治療を中断することなく可能な限り継続することで、本ガイドラインの利用によってがん患者の全生存率とQOL改善が期待される。 Onco-cardiologyガイドラインは重要臨床課題を以下のように10項目を選定し、がん患者が薬物治療を行う過程からその後のがん治療関連心血管毒性(静脈血栓塞栓症、肺高血圧症、心不全)発現時の対応方法に関するquestionが盛り込まれている(p.9 総説1-9参照)。<重要臨床課題>1)がん薬物療法中の心機能のモニター2)心血管イベントを発症した患者に対する薬物療法の選択3)トラスツズマブのマネジメント4)血管新生阻害薬のマネジメント5)プロテアソーム阻害薬のマネジメント6)免疫チェックポイント阻害薬のマネジメント7)がん薬物療法における静脈血栓塞栓症のマネジメント8)がん薬物療法における肺高血圧症のマネジメント9)心毒性を有するがん薬物療法のマネジメント10)がん薬物療法における心血管イベントの予防 上記の2)を担当した矢野 真吾氏(東京慈恵会医科大学腫瘍・血液内科 診療部長/教授)は、「がん薬物療法中の心血管イベントを理由にがん薬物療法を中止することは再発率の増加や全生存期間の短縮につながることから、『Background question(BQ)2:がん薬物療法中に心血管イベントを発症した患者に対して、がん薬物療法を継続することは推奨されるか?』を設定した」とコメント。また、「欧米のガイドラインと比較して、Onco-cardiologyガイドラインはエビデンスのあるquestionはシステマティックレビューを行いCQとしたが、エビデンスのないquestionはBQまたはfuture research question(FRQ)にした点に注目してほしい」と述べ、「がん薬物療法が有効でかつ治療継続が可能と判断できる場合は、モニタリングと対症療法を行いながらがん治療の継続を検討する。治療継続が困難な場合は代替療法について検討することをこのBQのステートメントにした」と説明した。Onco-cardiologyガイドラインにICIと心筋炎の関係性 Onco-cardiologyガイドラインで、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)と心筋炎の関係性について解説した庄司 正昭氏(国立がん研究センター中央病院総合内科・循環器内科)は、「ICIによる心筋炎は直接的なものと間接的なものがあるが、いずれもスクリーニングにはトロポニンや心電図などが重要」と話し、「トロポニンはICI心筋炎患者の94%で上昇を認めたが、トロポニンが上昇しても臨床的な心筋障害を認めないケースも報告されている。また、心電図異常はICI心筋炎患者の89%で認められた1)」と述べた(FRQ6-1:ICI投与中の心筋障害診断のスクリーニングは有用か?)。 さらに、心筋障害発生時のステロイドの使用(BQ6-2:ICIによる心筋障害発生時、その治療としてステロイド療法は有用か?)について、「使用すべき種類・投与経路・用量は定まっていないが有用な可能性があるため、ステロイドを選択しない手はない」とコメントし、座長ならびに演者を務めた阿部 純一氏(MDアンダーソンがんセンター 教授)からの“ICIで発症リスクの高い虚血性心疾患との鑑別”に関する問い対して、同氏は「虚血性心疾患では胸痛などの症状が見られることから、それらの患者の訴えにしっかり耳を傾けることがスクリーニング検査とともに重要」と回答した。Onco-cardiologyガイドラインにがん患者の高血圧治療 高血圧の視点からOnco-cardiologyについて解説した赤澤 宏氏(東京大学医学部付属病院 循環器内科)によると、がん患者における高血圧の管理や治療に関するエビデンスがほとんどない状況だという。実際に、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では『第7章:他疾患を合併する高血圧』にも項目立てられておらず、『第13章:二次性高血圧-薬剤誘発性高血圧 4)その他』の1つとして、がん分子標的薬、主として血管新生阻害薬(抗VEGF抗体医薬あるいは複数のキナーゼに対する阻害薬など)により高血圧が誘発される。発症率については薬剤、腫瘍の種類などにより異なるが、これらの薬剤使用時には血圧変化に注意する。通常の降圧薬を用いた治療を行うと、ESCのポジションペーパー同様の記載がなされている。このような現状を踏まえ、「JSH2025年改訂版には腫瘍循環器としてのCQを提案していきたい」と意気込んだ。なお、Onco-cardiologyガイドラインでは、『BQ4:血管新生阻害薬投与中の患者に対し、血圧管理が必要か?』が設定されており、血管新生阻害薬投与中の患者においても、非がん患者と同等の血圧コントロールをすることが望ましく、「がん患者における高血圧治療のエビデンスは乏しく、降圧治療の適応や強度は、がんの治療内容や予後、パフォーマンスステイタス、年齢や併存疾患、臓器障害、脳心血管リスクなどのさまざまな背景を考慮して、個別に対応する必要がある」と強く訴えた。

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HER2・リキッド検査追加「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス」改訂/日本臨床腫瘍学会

 2023年3月、「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス:第5版」が刊行され、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)上で改訂のポイントが発表された。 最初に坂東 英明氏(国立がん研究センター東病院 消化管内科)が全体的な説明を行った。 大腸がんにおける遺伝子検査は2010年にKRAS変異検査が登場したことを契機に、2018年にはRASKET-B(RAS/BRAF変異検査)、2020年には血液を用いたRAS変異検査が保険適用となり、2022年にはHER2検査(免疫染色、FISH)、MMR検査(免疫染色)、そして2023年にはBRAF V600E検査(免疫染色)が保険適用となるなど、目まぐるしく新たな検査が登場している。 大腸がんの診療指針としては、大腸癌研究会より発刊されている「大腸癌治療ガイドライン」が2022年に改訂され広く用いられているが、こちらは日本と海外との診療の質や考え方に違いを吟味した上で日本独自の臨床データを重視して治療指針を策定することを目的としている。一方、本ガイダンスは「現在保険適用されている検査をどのように実施し治療に反映するのが適切か」「新規検査技術の現状と今後の展望について情報を提供する」ことを目的に作成されており、ガイドライン作成の手順や形式にとらわれ過ぎることなく、今後の展望や提言なども織り込んでいるという。 「体外診断用医薬品(IVD)とコンパニオン診断薬(CDx)を中心として、多くの検査を分類して整理した概念図はとくに自信作である。新たな診断薬が薬事承認・保険適用される過程をご理解いただくことで、ガイダンスで推奨することの重要性もおわかりいただけると考えている」(坂東氏)。 続いて、今回の大きな改訂ポイントとして「HER2検査」「包括的ゲノムプロファイリング検査・リキッドバイオプシー」が解説された。改訂ポイント1:HER2検査 「大腸がんにおけるHER2検査」については、澤田 憲太郎氏(釧路労災病院 腫瘍内科)が発表した。 今回追加されたのは、新たに保険承認されたHER2陽性大腸がんに対する抗HER2療法とその検査に関する内容。この承認は、HER2陽性の切除不能な進行・再発大腸がんに対し、抗HER2抗体ペルツズマブとトラスツズマブの併用療法の有効性・安全性を評価した医師主導治験・TRIUMPH試験の結果に基づくもので、併用療法は奏効率26.6%、病勢制御率 66.7%という結果を示し、血液を用いたリキッドバイオプシー検査でも高い有効性が示された。 ガイダンスにおける関連事項の記載は以下のとおり。・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、抗HER2療法の適応判定を目的として抗HER2療法前にHER2検査を実施する→強く推奨する・切除不能進行再発大腸がんにおけるHER2検査において、IHCを先行実施し、2+と判定された症例に対してはISH検査を施行する。→強く推奨する HER2検査実施のタイミングは、「抗HER2療法の施行前の適切なタイミング」とされ、「大腸癌治療ガイドライン2022年版」においては一次治療前のRAS/BRAF遺伝子検査およびMSI検査が推奨されていることから、「複数回の薄切が主要検体の損失につながることを考慮すると、HER2検査もこれらの検査と合わせて一次治療開始前に行うことも妥当と考える」と記載された。現在2種類あるHER2の検査方法については、まずはコストの低いIHC法を試み、IHC 2+と判定された場合にFISHで検証する手順が推奨されている。改訂ポイント2:ゲノム検査・リキッドバイオプシー 2つめの改訂ポイントとして「包括的ゲノムプロファイリング検査・リキッドバイオプシー」について山口 享子氏(九州大学病院 血液・腫瘍・心血管内科)が、今回新たに承認されたリキッドバイオプシーによるゲノム検査を中心に、ポイントを解説した。 ガイダンスにおける関連事項の記載は以下のとおり。・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として組織検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。→強く推奨する・切除不能進行再発大腸がん患者に対し、治療薬適応判定の補助として、血漿検体を用いた包括的ゲノムプロファイリング検査を実施する。→強く推奨する・治癒切除が行われた大腸がん患者に対し、再発リスクに応じた治療選択を目的として、微小残存腫瘍(MRD)検出用のパネル検査を実施する。→強く推奨する 「解析対象遺伝子、各遺伝子異常に対する薬事承認の有無、生殖細胞系列変異の解析可能性など、パネル検査ごとで異なる点が留意する必要がある。リキッド検査の優位点は侵襲が少ないこと、現時点でのゲノムプロファイルが得られること、結果判明までの時間が短いことが挙げられる。一方、欠点としては腫瘍量が十分でない場合は検出できない可能性がある、CHIP(クローン性造血)による偽陽性の頻度が高まる、がん種や病態による偽陰性の可能性があることだ」(山口氏)。 また、MRD(微小残存病変)検出用のパネル検査については、その有用性をみる臨床試験が現在多数進行中であること紹介したうえで、「現時点では保険承認されたMRD検出用パネル検査はないものの、臨床応用の可能性を発信するため、ガイダンスでは強い推奨とした」と述べた。「大腸がん診療における遺伝子関連検査等のガイダンス 第5版」編集:日本臨床腫瘍学会定価:2,420円発行日:2023年3月20日B5判・116頁・図数:11枚金原出版

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HER2+再発/転移乳がんへのT-DXd、予後予測に有望なバイオマーカー/日本臨床腫瘍学会

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)はHER2陽性再発/転移乳がんの2次治療以降に承認されているが、信頼できる予後予測バイオマーカーは十分に確立されていない。今回、T-DXdへの反応と予後を予測する血中炎症マーカーを探索すべく後ろ向きに調査した結果、全身免疫-炎症指数(SII)が全生存期間(OS)と有意に関連し、またリンパ球数(ALC)高値と血小板-リンパ球比(PLR)低値が臨床的有用性と関連する可能性が示された。国立がん研究センター中央病院の大西 舞氏が、第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で発表した。 本研究では、2020年3月~2022年8月に国立がん研究センター中央病院でT-DXdを投与されたHER2陽性再発/転移乳がん患者21例のカルテデータを後ろ向きにレビューした。T-DXd投与前の血液検査データを用いて、好中球-リンパ球比(NLR)、ALC、PLR、リンパ球-単球比(LMR)、単球-リンパ球比(MLR)、SIIを算出した。なお、NLR≧3、ALC≧1,500、PLR≧210、MLR≧0.34、SII≧836を高値とした。 主な結果は以下のとおり。・T-DXd投与開始時の年齢中央値は55歳(37~80歳)、追跡期間中央値は350日(69~1,126日)であった。・エストロゲン受容体(ER)陽性が11例(52%)、ER陰性が10例(48%)とほぼ半数ずつで、内臓転移が20例(95%)、脳転移が8例(38%)に認められた。・48%の患者が再発/転移乳がんへの5次治療以降に投与されていた。・臨床的有用性が得られた患者は16例(75%)で、ALC高値(p=0.068)、PLR低値(p=0.0583)と関連する傾向がみられた。・ALC高値のすべての患者(7例)で臨床的有用性が得られた。・治療成功期間(TTF)については、ERの有無、脳転移の有無、治療ライン、各炎症マーカーにおける各サブグループ解析で有意差はみられなかった。・OSは5次治療以降に投与された患者で悪い傾向がみられ、SII高値の患者では有意に悪かった。 大西氏は、本研究の限界として、後ろ向き研究であり、症例数が少なく多変量解析ではないこと、HER2陽性再発/転移乳がんにおけるカットオフ値が検証されていないことを挙げ、「大規模集団での研究が必要」とした。

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EGFR-TKI抵抗性NSCLC、HER3-DXd最新データ(U31402-A-U102)/日本臨床腫瘍学会

 EGFRチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)抵抗性のEGFR変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、抗HER3抗体薬物複合体patritumab deruxtecan(HER3-DXd)を投与したU31402-A-U102試験について、最新の結果が報告された。2023年3月16日~18日に開催された第20回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2023)で近畿大学病院の林 秀敏氏が発表した。 HER3はHERファミリーに属する受容体型チロシンキナーゼ(RTK)であり、ホモダイマーを形成することはできず、ヘテロダイマーを形成することにより、対となるRTKを活性化するとされている。主にHER2とヘテロダイマーを形成する1-3)。HER3は、NSCLCでは腫瘍組織の83%に発現し、転移や無再発生存期間(RFS)の短縮に関与していることが報告されている4)。また、EGFR-TKIに対する耐性を獲得すると、HER3の発現量が増加することも示されている5)。なお、抗HER3抗体薬物複合体HER3-DXdは、国内で製造販売承認を取得しているトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)と同じリンカーとペイロードを用いた製剤である。 U31402-A-U102試験6)は、EGFR-TKIによる治療後に病勢進行が認められた進行・転移EGFR変異陽性NSCLC患者を対象とした第I相試験。用量漸増パートと用量拡大パートから構成されている。用量拡大パートでは、第II相試験の推奨用量となったHER3-DXd 5.6mg/kgが3週ごとに投与された(コホート3bを除く)。用量拡大パートは、コホート1~4で構成され、今回はコホート1と3aを統合し、2022年1月28日をデータカットオフ日として解析した結果が報告された。コホート1~3の主要評価項目はRECIST 1.1に基づく客観的奏効率(ORR)であった。各コホートの対象患者とレジメンは以下のとおり。・コホート1:EGFR変異陽性NSCLC(腺がん)、5.6mg/kgを3週ごと・コホート2:EGFR変異陽性(EGFR ex19del、L858R、L861Q、G719Xは除外)NSCLC(扁平上皮がん、非扁平上皮がん)、5.6mg/kgを3週ごと・コホート3a:EGFR変異陽性NSCLC(組織型は問わない。ただし、小細胞がんは除外)、5.6mg/kgを3週ごと・コホート3b:EGFR変異陽性NSCLC(組織型は問わない。ただし、小細胞がんは除外)、3.2~6.4mg/kgの用量で漸増投与・コホート4:EGFR変異陽性NSCLC(組織型は問わない。ただし、小細胞がんは除外)、5.6mg/kgを3週ごと(試験薬は商業生産施設で生産) 主な結果は以下のとおり。・解析対象患者は102例(日本人16例)で、投与期間中央値は5.5ヵ月(範囲:0.7~27.5)であった。前治療として第3世代EGFR-TKIとプラチナ療法の併用療法を受けた患者(前治療サブグループ)は78例(日本人10例)で、投与期間中央値は5.5ヵ月(範囲:0.7~27.5)であった。・主要評価項目のORRは、解析対象患者全体では40.2%(95%信頼区間[CI]:30.6~50.4)、奏効期間中央値は7.6ヵ月(95%CI:6.9~14.7)であった。前治療サブグループでは、ORRが41.0%(95%CI:30.0~52.7)、奏効期間中央値が11.2ヵ月(95%CI:7.0~推定不能)であった。・全生存期間(OS)中央値は、解析対象患者全体では15.8ヵ月(95%CI:10.8~21.5)、前治療サブグループでは16.2ヵ月(95%CI:11.2~21.9)であった。・無増悪生存期間(PFS)中央値は、解析対象患者全体では6.4ヵ月(95%CI:5.3~8.3)、前治療サブグループでは6.4ヵ月(95%CI:4.4~10.8)であった。・中枢神経系(CNS)転移のある患者(55例)におけるORRは36.4%(95%CI:23.8~50.4)、CNS転移のない患者(47例)では44.7%(95%CI:30.2~59.9)であった。・奏効と治療開始前のHER3の発現量には明確な関連はみられなかった。・Grade3以上の有害事象は76.5%、副作用は56.9%に認められた。重篤な有害事象は50.0%、重篤な副作用は19.6%に認められた。・副作用としての間質性肺疾患(ILD)は8例(7.8%)に認められた(Grade1/2が5例、Grade3が1例、Grade5が2例)。日本人集団では、16例中3例(18.8%)に認められた(Grade1/2が2例、Grade5が1例)。 林氏は「HER3-DXdは複数の前治療を有する進行・転移EGFR変異陽性NSCLC患者において有望な抗腫瘍活性を示した。抗腫瘍活性はHER3の発現量、CNS転移の有無、EGFR-TKI耐性の種類にかかわらず認められた。安全性解析の結果は過去の報告と同様で、管理可能かつ許容可能なプロファイルが確認された」とまとめた。なお、進行・転移EGFR変異陽性NSCLC患者を対象としたHER3-DXdの臨床試験として、第II相試験(HERTHENA-Lung01、NCT04619004)、第III相試験(HERTHENA-Lung02、NCT05338970)が進行中である。■参考文献1)Lyu H, et al. Acta Pharm Sin B. 2018;8:503-510.2)Haikala HM, et al. Clin Cancer Res. 2021;27:3528-3539.3)Tzahar E, et al. Mol Cell Biol. 1996;16:5276-5287.4)Scharpenseel H, et al. Sci Rep. 2019;9:7406.5)Yonesaka K, et al. Clin Cancer Res. 2022;28:390-403.6)U31402-A-U102試験(Clinical Trials.gov)

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