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高齢者HER2陽性乳がんに、安全かつ有効な化学療法を…JCOG1607(HERB TEA)【Oncologyインタビュー】第1回

抗HER2療法によってHER2陽性乳がんの生命予後は大きく改善した。しかし、高齢者のHER2陽性乳がんに対するエビデンスは少ない。そのような中、高齢の進行HER2陽性乳がんに対する毒性の軽い、新たな1次治療としてのTDM-1を評価するHERB TEA (JCOG1607)Studyが開始された。HERB TEA Studyの研究事務局である国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科 下村 昭彦氏に聞いた。試験を行った背景はどのようなものですか。日本の女性の平均寿命は87歳、乳がん患者の年齢も高くなっています。しかし、高齢者乳がんを対象とした臨床試験はとても少数です。HER2陽性乳がんは高齢者では若年と比較して少なく、高齢者を対象とした治療法の開発が行われていませんでした。HERB TEA Studyは、このHER2陽性進行乳がんを対象にしています。現在のHER2陽性乳がんの標準治療はHPD(トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル)療法で、高齢者でもこれがスタンダードです。HPDには、CLEOPATRAstudy1)という pivotal試験がありますが、この試験には65歳以上の高齢者が15%しか含まれておらず安全性が十分に評価されたとはいえません。しかし、サブ解析をみると、高齢者ではドセタキセルの投与回数や投与量が少ないことが示されています。さらに、アジア人では毒性が強く出ることが示されています。つまり、HPD療法は、アジア人の高齢者という対象に限ると、毒性面で適用しにくいケースがあるということが示唆されます。一方、2次治療以降でキードラッグになっているT-DM1には、毒性が軽いという特徴があります。高齢者はさまざまな合併症を有しており、がんだけで亡くなるわけではありません。また、有害事象の強い治療が入ることでQOLが低下することもあります。実臨床では、T-DM1を高齢者に投与した際でも、有害事象を理由に継続できない方は非常に少ないです。T-DM1が1次治療で使えるようになると、患者さんにとっては、より有害事象が軽い治療を選択しやすくなります。しかし、T-DM1とHPD療法を比較した試験はありません。このような背景から、高齢HER2陽性乳がんにおけるT-DM1とHPD療法の直接比較試験JCOG1607(HERB TEA)を開始しました。試験デザインについて教えてください。JCOG1607試験はHPD療法に対するT-DM1の非劣性を評価するランダム化比較第III相試験です。サンプルサイズは330例、対象は65~79歳の進行HER2陽性乳がん患者です。現在、年齢の上限を撤廃するプロトコール改訂を予定しています。登録患者は、試験群のT-DM1とコントロール群のHPD療法にランダムに割り付けされ、毒性中止か増悪まで治療します。なお、オリジナルのHPDのドセタキセルは75mg/m2ですが、この試験では安全を保つため、1コース目は60mg/m2でスタートし、毒性面で問題なければ2コース目から75mg/m2に増量します。実施可能な患者にはしっかりした治療が入り、毒性が強く出る患者には少ない用量の治療が入るデザインです。この試験が成功した場合、どのようことが実臨床にもたらされますか。HER2陽性乳がんの薬剤は数多く開発されています。しかし、その中で毒性が軽い薬剤は多くありません。一方、T-DM1はNCCNガイドラインではHPD療法に耐えられない、あるいは禁忌の患者さんに対するオプションとして推奨されています。HPD療法との直接比較で非劣性が証明されれば、高齢者における毒性の軽い標準治療の1つとして長く確立されることになるでしょう。読者の方にメッセージを高齢のHER2陽性乳がん患者は非常に少なく、JCOG施設であっても年間2~3例程度です。しかし、全国的にみればかなりの数の患者さんがおられると思います。JCOG参加施設は全国にありますので、HPDかT-DM1か迷う患者さんがおられる場合、ぜひJCOGの参加施設に紹介いただければと思います。臨床試験の元で治療を行っていただくことが、将来の患者さんへの貴重なエビデンスとなります。HERB TEA (JCOG1607)Study高齢者HER2陽性進行乳がんに対するT-DM1の臨床的有用性(全生存期間における非劣性)を標準療法であるHPD療法と比較する。多施設ランダム化比較第III相試験対象:69歳以上のHER2陽性進行乳がん患者(抗HER2療法未治療)試験薬:T-DM1 3.6mg/kg 3週ごと増悪まで対象薬:HPD療法(トラスツズマブ6mg/kg[初回8mg/kg]、ペルツズマブ 420mg[初回840mg]、ドセタキセル60mg/m2[増量規準満たす場合2コース目から75mg/m2]主要評価項目:全生存期間副次評価項目:無増悪生存期間、乳がん特異的死亡割合、奏効割合、安全性、高齢者機能評価など※HERB TEA (JCOG1607)Study:Shimomura A,Tamura K, Mizutani T, et al. A phase III study comparing trastuzumab emtansine with trastuzumab, pertuzumab, and docetaxel in elderly patients with advanced stage HER2-positive breast cancer (JCOG1607 HERB TEA study). Ann Oncol. 2018;29(8). doi: 10.1093/annonc/mdy272.349.1)Swain SM, eet al.N Engl J Med. 2015;372:724-734.

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術前化学療法を施行したHER2陽性乳がんにおける術後T-DM1の有効性(解説:矢形寛氏)-996

 ドイツのKATHERINE試験結果が2018年サン・アントニオ乳癌シンポジウムで報告された後、すぐに論文化されたものであり、まだ最終結果ではないものの、われわれの臨床を変える情報であった。 全体として3年無浸潤病変生存率の差が10%以上と大きな改善をみている。全生存率は境界域ではあるものの、より長期に追跡することにより十分な有意差が出てくることを期待させる内容である。現時点でも十分臨床応用するに値する結果であり、HER2陽性進行乳がんで、術前化学療法により十分な効果があったものの、浸潤がん残存が認められるもの、HR陰性例などで、とくに有用性が高いものと思われる。 注意が必要なのは、本試験の適格基準が、術前HER2標的剤治療を完遂したものとなっており、PDやSD、あるいは有害事象などで中断したものは適応とはなっていないことは知っておくべきである。さらにT-DM1群で血小板減少症を来した1例が脳内出血により死亡しており、不要な有害事象を避けるためにも適応は慎重に選択しなければならない。

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サン・アントニオ2018レポート

レポーター紹介2018年のサン・アントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)は、12月4~8日の5日間で開催された。天候は連日曇りで肌寒く、後半は雨で、会場周辺の風も強かった。最近はどのがん種においても免疫チェックポイント阻害剤の話題が花盛りであるが、乳がん領域でも報告が目立ってきた。それに伴ってTIL(Tumor Infiltrating Lymphocyte)やPD-L1の免疫染色の報告も多くなったように思う。また、原発巣と転移巣の遺伝子変化の違いが徐々に明らかにされ、CTCs (Circulating Tumor Cells)とcfDNA(cell free DNA)を同時に測定してその違いをみるような報告もあり、遺伝子検索が当たり前のように、われわれの臨床に取り込まれつつある。また、私たちの臨床に有用な発表も多くあり、かなり充実した内容であったと思う。アナストロゾール5年終了後さらに5年の追加投与の有効性を検証する本邦の臨床試験(AERAS、N-SAS BC 05)なんと言っても最初に取り上げたい報告である。日本発の大規模無作為化比較試験である。広島市民病院の大谷 彰一郎先生が素晴らしいパフォーマンスで発表され、会場が笑いで包まれていた。もちろんその内容も充実したものであった。試験名はAERAS(Arimidex Extended adjuvant RAndomized Study)であり、その意味はギリシャ語で“風”である。アナストロゾール(ANA)を約5年使用した方が対象だが、タモキシフェン(TAM)からANAに切り替えて2年以上使用した方も許容している。主要評価項目はDFSで1,697例が2群に割り付けされた。ステージはT1が約50%、N0が約78%であった。TAM→ANAは約9%と少数であった。中央観察期間4.9年でDFSはコントロール群(84.4%)と比較しANA群(91.9%)で良好であった(HR=0.548、p=0.0004)。DDFS(HR=0.514、p=0.0077)も同様であった。OSには差はなかったが(HR=1.389、p=0.665)、症例数、患者背景、観察期間が影響しているものと思われる、会場でも質問があったが、第2がん(対側乳がんを除く)の発生がANA群で1.5%(コントロール群4.3%)と低かった理由は不明である。一般的に考えられることは、他がんの発生リスクに影響するような遺伝的、環境的因子までは層別化できないので、症例数が多いといえども若干の偏りが起こりうることは否定できず、ANAの効果とは通常は考えられないだろう。有害事象も少ないが、これはANAを5年完遂した方が対象であるためであろうと推測される。私自身はとくに臨床が変わることはなく、TAM延長と同様に高リスクに対してANAを含めたAI剤の延長を提案している。EBCTCGメタアナリシス − 内分泌療法5年終了後のアロマターゼ阻害剤追加効果EBCTCGメタアナリシスで、11の比較試験で2万2,192例の女性が対象となっている。これは3つに分類され、簡単にまとめると、a)TAM5年のみ:7,500例→全再発、遠隔転移、乳がん特異的死亡率に有意差ありb)TAMからAIへのスイッチで5~10年:12,600例→全再発のみに有意差ありc)AI5年のみ:4,800例→全再発のみに有意差ありであった。当然のことながら、リンパ節転移が多いほど絶対差が大きくなっていた。AIの延長により骨折率が有意に上昇していたが、再発以外の死亡率には差がなかった。今回の解析にはAERASのデータは残念ながら含まれていなかったが、今後さらに複数の結果が統合され再解析されるだろう。AERAS試験の解説で述べたように、やはり高リスク群でAI延長の価値があるものと考えられる。乳管内新生物の再発予防のための低用量タモキシフェンこれは私にとって驚くべき臨床試験であった。タモキシフェン(TAM)に対して副作用の強い患者は決して少なくなく、アドヒアランスの低下につながっていた。そのため、どうしても副作用をマネジメントしきれない患者に対しては、実臨床上本来20mg/日のところを10mg/日に下げて使用することもあった。もちろん治療効果の低下につながる可能性も否定できないことを伝えての話である。しかし、TAMは一定の血中濃度を保たないとまったく効果がなくなるというおそらく不適切な知識をどこかで得て、10mgの使用をやめた経緯がある。あらためて『乳癌のホルモン療法4 抗エストロゲン剤(SERM)』(医学図書出版、野村 雍夫著)をひもとくと、かなり古くから10mg/日以下の低用量TAMが有効で、有害事象も少ない可能性が指摘されていた。またKi67の低下は1mg、5mg、20mgでまったく異ならなかった(Decensi A, et al. J Natl Cancer Inst. 2003;95:779-790. )。そして高リスクDCISの再発は10mgでも十分に抑制していた(Guerreri Gonzaga et al.Int J Cancer.2016;139:2127-2134.)。研究デザインはADH、LCIS、ER+のDCISでイタリア14施設から500例を集積しTAM 5mgとプラセボを無作為化割り付けし、3年の治療と少なくともさらに2年の経過観察を行った。中央観察期間は5.1年であった。その結果、乳房の全イベント、対側乳がんの発生ともに十分な抑制効果が得られていた。重篤な有害事象はほとんど差がなく、むしろプラセボ群のほうが多かったくらいである。ホットフラッシュはTAMでやや頻度が高かった。膣乾燥、筋骨格系の痛み、関節痛は有意差を認めなかった。またアドヒアランスもまったく差がなかった。本研究によりDCIS等で局所再発および対側乳がん発症抑制のための術後内分泌療法を提案しやすくなった。また、これは本研究の内容とは話がずれてしまうが、20mgで副作用が強く生活に大きな支障を来している乳がん患者にとっても10mgというオプションを提案することができる。治療は1か0ではない。1ほどでなくても0より十分高い効果が得られるのであれば、それを使用する価値が私はあると考えている。オキシブチニンによるホットフラッシュ抑制効果をみる二重盲検プラセボ対象無作為化試験(ACCRU SC-1603)オキシブチニンは尿失禁・尿意切迫感・頻尿治療剤として古くから使われている抗コリン薬であり、汗を減少させるため多汗症に有効とされている。難治性のホットフラッシュに対しても後方視的、前方視的研究で有効性が示されていた。ただし、15mg/日では毒性も無視できないものであった。本試験はTAMまたはAIを内服していて、ホットフラッシュが1週間に28回以上で30日以上持続している女性を対象に、オキシブチニン2.5mg、5mg、プラセボの3群に分けて比較している。過去の試験とともに比較するとホットフラッシュの改善度は、クロニジン、フルオキセチン、シタロプラム、ハラヴェン、ベンラファキシン、プレガバリンよりも大きかった、オキシブチニンの用量による差を正式にはみていないが、5mgの方がホットフラッシュ改善度、QOL尺度の改善度ともに大きく、毒性も許容範囲であった。本研究でよくわからないのは、過去のどの研究を比較対象にしたのか記載がないことと、詳細な有害事象の記録がないことであった。いずれにしてもオキシブチニンは本邦でも安価で低用量から使えるので、尿失禁の病名が今後増えるかもしれない。HR陽性浸潤がんに対しては、まずTAMは20mgの標準量で開始し、ホットフラッシュが強ければオキシブチニンで対応してみる。他の副作用とともにコントロールが難しくアドヒアランスが保てない状況では、低用量TAMの提案も考慮する。一方DCISであれば、最初から低用量TAM3年予定で開始するのも許容されるだろう。EBCTCGメタアナリシス−領域リンパ節照射EBCTCGメタアナリシスで、14試験、1万3,500例の女性が対象となっている。領域照射は腋窩、内胸、鎖骨上が含まれる。実際の照射は領域だけでなく、乳房や胸壁への照射もほとんどが同時に行われていたと思われる。今回の解析では古い試験(1961~78年)と最近の試験(1989~2003年)に分けて解析されたが、その理由は照射の技術が大きく異なり心臓への影響が異なると予想されるからである。最近の試験では10年の乳がん特異的死亡率はN0~3個では差がなくN4個以上で有意差(7.9%の絶対差)が認められた。ただし、Forest plotでは照射の効果は転移個数によらず一定していることから、N1~3個では症例を選択して照射を考慮するのがよいだろう。すなわち悪性度の高いタイプでは、胸壁を含めた照射の候補となろう。術前化学療法を施行している場合は、悪性度の高い浸潤がんで効果が弱く、胸壁やリンパ節に残存している症例に対して有効であろう。センチネルリンパ節生検陽性に対し、腋窩郭清群と照射群を比較した試験-AMAROS試験の10年の結果5年の結果はASCO2013 乳がん会員聴講レポートにて既に報告しているので、研究の詳細はそちらを参照して欲しい。腋窩照射の範囲はlevel I+II+III+鎖骨上内側であり、全摘症例も約20%含まれている。今回10年という長期成績であるが、結論は変わらず腋窩再発は両群ともきわめてわずかであった(郭清群0.43%[5yrs]→0.93%[10yrs] vs.照射群1.19%→1.82%)。もちろんDFS、DDFS、OSとも差はなかった。リンパ浮腫は5年で24.5% vs.11.9%であり、照射群での出現率が半分以下である。リンパ浮腫治療を要する割合も18.2% vs.6.6%であり、照射群での程度の軽さをうかがわせる。肩の機能は両群で差はなかった。このことから全摘症例でセンチネルリンパ節生検陽性でも、もはや郭清は不要で、腋窩照射の適応となろう。考慮すべき問題はZ0011と合わせて、照射範囲をどこまで行うかである。むやみやたらと鎖骨上まで照射するのも考えものである。1つの目安として腋窩リンパ節転移4個以上を予測するKatzのノモグラムが参考になる。Validationもしっかり行われている。(Katz A,et al.J Clin Oncol. 2008;26:2093-2098.)。計算式は原発巣浸潤径 (cm) x 2.6 +(センチネルリンパ節転移陽性数 x 9.2)+11 リンパ管侵襲+のとき+11 i小葉がんのとき+11 iリンパ節節外浸潤+のとき+16 iリンパ節転移相の最大径> 2mmのとき-8.6 センチネルリンパ節1個以上のとき-58であり、合計0で4個以上の確率50%である。これくらいの確率があれば、胸壁と鎖骨上まで照射する価値が十分あるかもしれない(ここは意見の違いがあるだろう)。悪性度の高いサブタイプも考慮に入れるべきである。術前化学療法が行われた場合には、リンパ節転移残存、原発巣浸潤がん残存、悪性度の高いサブタイプ、となろうか。細胞診や針生検で腋窩転移があらかじめわかっている症例はどうするか。この場合は陽性リンパ節+αのlower axillary dissectionを行い、病理結果からKatzのノモグラムと合わせて照射の範囲を決定してはどうか。これらはあくまで1つの提案であり、各施設でよく議論して決めていくべきである。トリプルネガティブ乳がんに対する標準化学療法へのカペシタビンの上乗せ効果スペインからの報告である。標準化学療法を終えた後にカペシタビンを8サイクル行うか経過観察するかの第III相無作為化比較試験であり、主要評価項目はDFSである。スペインおよび中南米の8ヵ国から876例が無作為化され、N0が約55%であった。結果として5年DFSは79.6% vs.76.8%であり、有意差は認められなかった。サブセット解析ではBasalでは差がないものの、Non-basalで82.6% vs.72.9%(HR=0.53、p=0.02)と有意にカペシタビン群で良好であった。OSもNon-basalで89.5% vs.79.6%(p=0.007)と有意であった。サブセット解析のためあくまで参考データではあり、今後の研究が待たれる。CREATE-Xでは術前化学療法でnon-PCRに対してカペシタビンが追加され、その効果が証明された(Masuda N, et al.N Engl J Med.2017;376:2147-2159.)。サブセット解析ではTNBCで差が大きかった。こちらについてもBasal vs.Non-basalで比較してみると面白そうである。いずれにしてもTNBCではなるべく術前化学療法で効果判定をして、カペシタビンの使用を考えるのが賢明であろう。トリプルネガティブ乳がんに対して術後補助化学療法の遅れが与えるインパクト2004~2014年にトリプルネガティブ乳がん(TNBC)と診断され、術後補助化学療法を行った687例を対象に、手術から最初の化学療法開始までの期間を130日以内(189例、27.5%)、31~60日(329例、47.9%)、61~90日(115例、16.7%)、91日以上(54例、7.9%)の4グループに分類して予後をみた。年齢中央値は48歳、ステージはIIが60%、化学療法はAnthracycline-Taxaneが54.6%、Anthracycline41.5%であった。OS、DFSともに、30日以内が最も良好であった。多変量解析でも独立した因子であった。10年OSは30日以内とそれ以上で10%以上の絶対差があった。化学療法の遅れと予後に関する研究を一部紹介する。Zhan QH, et al. Oncotarget.2017;9:2739-2751.システマティックレビューとメタアナリシスであり、最終的に12研究(15の解析グループ)が選択され、12グループではOS、5グループではDFSが検討された。4週間遅れるごとに、OS、DFSともに予後不良と関連していた。総合解析では、2週から18週までの間で、1週間遅れるごとにOSが低下していく傾向がみられた。2つの研究ではサブタイプについても検討され、TNBCにおいて61日以上の遅れは、30日までと比較しOSが不良であった。HER2タイプで有意差が出なかったのは、トラスツズマブの使用にばらつきがあるかもしれないと考察している。Gallagher CM, et al. Breast Cancer Res Treat.2016;157:145-156.米国国務省健康保険請求データベースから抽出された2,749例のHER2陽性乳がん患者において、診断から術後トラスツズマブ使用までの間隔が6ヵ月を超える例(552例)では、6ヵ月以下(2,197例)と比較して、再発、OS、RFSとも不良であった。Riba LA, et al. Ann Surg Oncol. 2018;25:1904-1911.米国国立がんデータベースから抽出された16万6,681例の乳がん女性患者を対象に、術後90日以上の化学療法の遅れに関連した外科的因子を解析している。4.3%が90日を超えていて、関連する因子は術後の予期しない再入院、より小さな切除量、自家組織再建を伴う全摘、断端陽性であった。また90日以上の遅れは5年のOSの低下と関連していた。予後不良因子としては、より高齢、より高い併存疾患指数、より大きい腫瘍径、より多いリンパ節転移、HR-/HER2+、TNBCであった。これらの研究は当然のことながら、すべてnon-RCTである。しかし、いずれもほぼ一貫した結果となっており、より高悪性度の腫瘍、とくにTNBCやトラスツズマブ使用を前提としたHER2陽性(HR陰性)では、できるだけ早期に化学療法が行えるよう配慮していくことが求められる。化学療法の遅れは、手術からだけではなく、初診から、さらには異常発見時からの期間も関係している可能性がある。乳がんに限らず、これらすべての流れが円滑に行えるようなシステムの構築が、病院、地域、国単位で必要であろう。6ヵ月と12ヵ月のトラスツズマブ投与を比較するPHARE試験の最終結果非劣性試験で、マージンは1.15と設定されていて、3,384例の患者が無作為化割り付けされた。3.5年の観察期間での結果は以前に論文化されており、非劣性は証明されなかった。Pivot X, et al. Lancet Oncol. 2013;14:741-748.今回は7.5年の経過観察で最終解析であり、HR=1.08、95%CI 0.93~1.25、p=0.39であった。生存率曲線はほぼぴったりとくっついているものの、やはり非劣性は証明されなかったということである。演者が語っていたのは他試験との非劣性マージンの設定の違いである。PERSEPHONE試験ではマージンを1.25に設定していたために、非劣性を証明できた。結果はほぼ同様なのに、この違いで非劣性を証明できなかったことを結論で述べていた。確かにその通りである。結局は私たち臨床家がどの程度の非劣性マージンを許容するかにかかっている。心毒性は長期投与のほうが増えることは確実である。多くの試験結果が揃ってきたので、これらの結果に基づいて臨床的にどのように対応するべきか私たちはよく話し合う必要がある。私自身のスタンスは以前から変わっておらず、ASCO 2017乳がん会員聴講レポートのShort-HER試験のところで述べた。予後良好群ではタキサンとHERの同時併用3ヵ月で終了するが、より予後の悪い群では従来通り12ヵ月使用する。現時点で6ヵ月のオプションは提示していない。トラスツズマブを受けるHER2陽性乳がん患者の心毒性予防としてのアンジオテンシン変換酵素阻害薬(リシノプリル)とβブロッカー(カルベジロール)の無作為化地域密着型試験小規模の研究からACE阻害薬とβブロッカーの心毒性予防効果が示唆されていた。本研究は無作為化二重盲検プラセボ対照多施設地域密着型試験であり、主要評価項目は52週のトラスツズマブ使用中から終了後1年以内の心毒性率である。アントラサイクリンを含むレジメンではプラセボよりもリシノプリルとカルベジロール使用群で心毒性のない生存率が良好であった。それに対してアントラサイクリンを含まないレジメンでは差がなかった。リシノプリルとカルベジロールでは有意な差はなかったが、絶対差としてカルベジロールのほうが良好な傾向であった。心毒性以外の有害事象として、疲労、めまい、頭痛、咳、低血圧ともにカルベジロールのほうが低頻度であった。本結果からカルベジロールとリシノプリルはトラスツズマブによる心毒性を抑制できることがわかり、十分に使用する価値がある。トラスツズマブを含む術前化学療法にて浸潤がんが残存した乳がんに対する術後補助療法としてのトラスツズマブとT-DM1の比較-KATHERINE試験からの初回報告本試験は、HER2陽性乳がんでHER2標的薬を含む術前化学療法により、浸潤がんが残存した場合に、T-DM1またはトラスツズマブを無作為化割り付けし、いずれも14サイクル行った場合の生存率をみたもので、発表後すぐに論文化された(Von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2018 Dec 5.)。主要評価項目はIDFSで、1,486例が無作為化割り付けされた。HR陽性が72%で、術前化学療法後のリンパ節転移陽性が46%であった。また術前に使われたHER2標的剤トラスツズマブ単独が80%であったが、残りはペルツズマブ等が併用されていた。中央観察期間は41ヵ月で、3年IDFSはT-DM1群が有意に良好であった(77.0% vs.88.3%、HR=0.50、p

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術前治療で浸潤病変残存の早期乳がん、術後T-DM1が有望/NEJM

 術前補助療法終了後に浸潤性病変が残存するHER2陽性早期乳がん患者の術後補助療法において、T-DM1(トラスツズマブ・エムタンシン)はトラスツズマブに比べ、浸潤性乳がんの再発および死亡のリスクを半減させることが、ドイツ・German Breast GroupのGunter von Minckwitz氏らが行ったKATHERINE試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2018年12月5日号に掲載された。術前補助化学療法+HER2標的治療を受けたのちに残存する浸潤性乳がんを有する患者は、残存がんのない患者に比べ予後不良とされる。T-DM1は、モノクローナル抗体であるトラスツズマブと、メイタンシン誘導体で微小管阻害薬であるエムタンシン(DM1)を結合させた抗体薬物複合体で、化学療法+HER2標的治療を受けた転移を有する乳がん患者に便益をもたらすことが知られている。残存がん例で術後補助療法の無浸潤病変生存を検討 KATHERINEは、HER2陽性早期乳がんで、タキサン系薬剤±アントラサイクリン系薬剤による術前補助化学療法とHER2標的治療を終了後の手術時に、乳房または腋窩リンパ節に浸潤性の残存病変が認められた患者を対象に、T-DM1とトラスツズマブの有用性を比較する非盲検無作為化第III相試験である(F. Hoffmann-La RocheとGenentechの助成による)。 被験者は、術後補助療法としてT-DM1(3.6mg/kg)またはトラスツズマブ(6mg/kg)を3週ごと(1サイクル)に静脈内投与する群に無作為に割り付けられ、14サイクルの治療が行われた。 主要エンドポイントは、無浸潤病変生存(同側乳房の浸潤性乳がん再発、同側乳房局所領域の浸潤性乳がん再発、対側乳房の浸潤性乳がん、遠隔再発、全死因死亡のいずれかが発現するまでの期間)であった。 2013年4月~2015年12月の期間に、28ヵ国273施設で1,486例が登録され、T-DM1群に743例、トラスツズマブ群にも743例が割り付けられた。フォローアップ期間中央値は、T-DM1群が41.4ヵ月、トラスツズマブ群は40.9ヵ月だった。遠隔再発は有意に少ない、全生存はさらなる追跡を ベースラインの年齢中央値は49歳で、72.3%がホルモン受容体陽性例であった。76.9%がアントラサイクリン系薬剤を含む術前化学療法を受けており、19.5%がトラスツズマブと他のHER2標的薬(ペルツズマブなど)を投与されていた。 今回の中間解析時に、浸潤性病変または死亡は、T-DM1群が91例(12.2%)、トラスツズマブ群は165例(22.2%)に認められた。3年無浸潤病変生存率はそれぞれ88.3%、77.0%であった。無浸潤病変生存は、T-DM1群がトラスツズマブ群に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.39~0.64、p<0.001)。 無浸潤病変生存のサブグループ解析では、ホルモン受容体陽性/陰性、術前補助療法後の病理学的リンパ節転移陽性/陰性、1cm以下の浸潤性原発巣の有無にかかわらず、T-DM1群が有意に良好であった。 初回浸潤病変イベントとしての遠隔再発は、T-DM1群が78例(10.5%)と、トラスツズマブ群の118例(15.9%)に比べ有意に少なかった(HR:0.60、95%CI:0.45~0.79)。全生存期間には差を認めなかった(HR:0.70、95%CI:0.47~1.05)。 安全性のデータは、T-DM1の既知の安全性プロファイルと一致しており、有害事象の頻度はT-DM1群のほうが高かった。Grade3以上の有害事象は、T-DM1群が25.7%、トラスツズマブ群は15.4%に発現し、重篤な有害事象はそれぞれ12.7%、8.1%、投与中止の原因となった有害事象は18.0%、2.1%に認められた。 著者は、「術後T-DM1治療の全生存への効果を決定するために、さらなるフォローアップを行う必要がある」としている。

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新たな免疫CP阻害薬《私を食べて》-さまざまながん腫に対する有用性を示唆(解説:大田雅嗣 氏)-961

 NEJM誌11月1日号に「CD47 Blockade by Hu5F9-G4 and Rituximab in Non-Hodgkin’s Lymphoma.」のタイトルで論文が掲載された1)。スタンフォード大学のWeissmanらのグループの長年にわたる基礎研究が実を結び治療薬として脚光を浴びることとなった。 CD47(インテグリン関連蛋白)はマクロファージ、樹状細胞などが介するphagocytosisの調節機能を担う蛋白で種々の細胞表面に発現している。CD47は免疫担当細胞の細胞表面膜の受容体の1つであるSIRPα(signal regulating protein α)のリガンドでもあり、双方の結合によりphagocytosisを抑制する“do not eat me”シグナルを伝達することが判明しており2)、腫瘍細胞は免疫担当細胞による捕食から身を守るシステムを有している。 この“do not eat me”シグナルをCD47に対する抗体で抑制することによりマクロファージを活性化し腫瘍細胞のphagocytosisを促進し、またT細胞を介した抗腫瘍効果が期待された。これまでリンパ腫を含む種々のがん細胞でCD47の高発現が観察されており、予後不良因子とされた。in vivoでCD47に対する抗体が急性骨髄性白血病(AML)細胞のphagocytosisを促進させることが判明 3)。さらに、AML、非ホジキンリンパ腫(NHL)や種々の固形がんの担がん免疫不全マウスモデルで、CD47抗体ががん細胞に対して殺細胞的に働くことが示された4)。また急性リンパ芽球性白血病細胞担がんマウスモデル5)、固形腫瘍担がんマウスモデル6)でも同様の抗腫瘍効果が示された。 今回の論文で用いられたヒト化抗CD47単クローン抗体はHu5F9-G4 (IgG4 isotype)と命名され、抗CD20抗体であるリツキシマブと相乗的に、リンパ腫担がんマウスモデルでリンパ腫細胞に対して殺細胞的に作用し、リンパ腫の治癒を可能にすることが示された7)。 本論文では再発または難治性B細胞性非ホジキンリンパ腫22症例を対象にHu5F9-G4とリツキシマブを投与し、全奏効率50%(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で40%、濾胞性リンパ腫で71%)、奏効例での91%が解析時点でも奏効を保ったという優れた成績が示された。有害事象としては、頭痛、疲労感、貧血、下痢、infusion reactionが多かった。とくに貧血はGrade3が半分を占めたが、これはCD47を発現している赤血球がマクロファージによって捕食されたことによる当然のon-target effectと考えられる8)。 現在NIH主導で米国内では、本論文に掲載されている再発・難治性B細胞非ホジキンリンパ腫に対するHu5F9-G4と抗CD20抗体リツキシマブとの併用療法、固形がん、進行大腸がんに対する抗EGFR抗体セツキシマブとの併用療法、再発・難治性AML、高リスクMDS(骨髄異形成症候群)に対するアザシチジンとの併用療法のトライアルが進行中である。日本では再発・難治性乳がんに対する抗HER2抗体トラスツズマブとの併用療法が臨床研究中である。 マクロファージを活性化する新たな免疫チェックポイント阻害薬の登場で、がん免疫療法はまた新たな段階を迎えることになる。今後の臨床試験の成果に注目していきたい。■参考文献1)Advani R, et al. N Engl J Med. 2018;379:1711-1721.2)Jaiswal S, et al. Cell. 2009;138:271-285.3)Majeti R, et al. Cell. 2009;138:286-299.4)Liu J, et al. PLoS One. 2015;10:e0137345.5)Chao MP, et al. Cancer Res. 2011;71:1374-1384.6)Willingham SB, et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012;109;6662-66677)Chao MP, et al. Cell. 2010;142:699-713.8)Oldenborg PA, et al. Science. 2000;288:2051-2054.

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ESMO2018レポート 消化器がん

レポーター紹介胃がんに対する後方ライン治療(1)-ATTRACTION-2試験長期成績-切除不能胃がんに対する標準治療は1次治療フルオロピリミジン+白金製剤(HER2陽性の場合にはさらにトラスツズマブ併用)、2次治療パクリタキセル+ラムシルマブである。3次(後方ライン)治療以降は、ニボルマブもしくはイリノテカンが治療選択肢である。ニボルマブは、2レジメン以上の化学療法不応の切除不能胃がん(胃食道接合部がん含む)を対象としたプラセボ群との比較第III相試験(ATTRACTION-2)で有効性が示され、本邦でも2017年9月に胃がんへと適応拡大された。ESMO2018では、ATTRACTION-2のアップデート結果が報告された。2018年2月までの2年間の長期追跡でも、ニボルマブ群はプラセボ群と比較して有意なOS延長が確認され、2年全生存(OS)割合は、ニボルマブ群10.6%、プラセボ群3.2%、2年無増悪生存(PFS)割合は、ニボルマブ群3.8%、プラセボ群0%であった。奏効例のOS中央値26.61ヵ月、2年OS割合61.3%であった。また、SD症例におけるOS中央値は、ニボルマブ群8.87ヵ月、プラセボ群7.62ヵ月(ハザード比[HR]:0.80、95%信頼区間[CI]:0.52~1.23)であり、有意差はないもののニボルマブ群で良好であった。本結果は、実施臨床でのニボルマブ使用においても実感できる。奏効例では長期奏効が得られることも多く、まさにノーベル賞受賞の最近の報道でなされる“奇跡の薬”との表現にも同意する。一方で胃がんでのニボルマブの奏効率はわずか10%程度であり、治療のメリットが実感できない場面が多いのも事実である。さらに、最近は約10%にhyperprogressionが認められ、むしろdetrimentalに働く集団の存在も示唆されている。抗PD-1抗体薬の効果予測バイオマーカーが必要であり、有効もしくは無効のバイオマーカーがないと、1次・2次治療や補助療法での抗PD-1抗体薬の使用は困難であろう。胃がんに対する後方ライン治療(2)-新たな治療選択肢の登場-TAGS試験(TAS-102 Gastric Study)は、2レジメン以上の前治療歴のある切除不能胃がんに対するTAS-102の有効性を検証したプラセボ対照第III相試験である。結果はすでに本年の世界消化器癌学会議(ESMO-GI)で発表されているが、ESMO2018ではサブグループ解析と腫瘍縮小効果の結果が追加された(TAS-102群:337例、プラセボ群:170例)。主要評価項目であるOS(中央値/12ヵ月OS割合)は、プラセボ群3.6ヵ月/13%に対して、TAS-102群5.7ヵ月/21%(HR:0.69、95%CI:0.56~0.85、p=0.0003)であり、TAS-102群が有意に良好であった。サブグループ解析でも、各サブグループにおいてTAS-102群が良好な結果であった。腫瘍縮小効果はTAS-102群で1例の完全奏効(CR)と部分奏効(PR)12例を認め、奏効割合(ORR)は4%であった。安定(SD)も含めた病勢制御割合(DCR)はTAS-102群44%であり、プラセボ群14%に比べ有意に良好であった。有害事象は、TAS-102群においてgrade 3以上の有害事象が多くみられ(TAS-102 80% vs.プラセボ58%)、好中球数減少(38% vs.0%)や白血球減少(21% vs.0%)、貧血(19% vs.7%)、血小板数減少(6% vs.0%)などの血液毒性が主であった。これら有害事象によるTAS-102の減量・休薬は58%で、13%の症例は試験治療中止となり、16%の症例でG-CSFが投与されていた。本試験より、TAS-102は胃がん後方ライン治療の新たな選択肢として、本邦においても使用可能となるだろう。位置付けはニボルマブと同様になると思われる。有害事象も大腸がんでの報告と同程度であり、胃がんでも比較的スムーズに臨床導入できるだろう。一方で、胃がんと大腸がんの病態の違いには注意が必要である。つまり、胃がんの方がよりaggressiveな病態を呈する患者が多く、経口摂取が困難となるケースも多い。本試験でもTAS-102後の後治療移行率は、TAS-102群25%、プラセボ群26%と両群ともきわめて低率であった。ニボルマブ、TAS-102、イリノテカンをすべて単剤療法として使い切るストラテジーよりも、併用療法の開発が期待される。大腸がん1次治療としてのTriplet療法の再検証-TRIBE2試験-大腸がん1次治療においてFOLFOXIRI+ベバシズマブ療法は、本邦におけるガイドラインでも推奨されるレジメンの1つである。その根拠となったTRIBE試験は、FOLFOXIRI+ベバシズマブ療法(Triplet)とFOLFIRI+ベバシズマブ療法との第III相試験であり、ORR 65% vs.53%(p=0.006)、PFS中央値12.1ヵ月vs.9.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.75、p=0.003)、OS中央値29.8ヵ月vs.25.8ヵ月(HR:0.80、p=0.030)と、いずれもTriplet群が有意に良好であった。しかし本試験では、FOLFIRI群の後治療のオキサリプラチン導入割合が低く、本邦の実地臨床への外挿に疑問の声もあった。ESMO2018では、続編としてTriplet+ベバシズマブ療法を1次治療および2次治療で使用する群(triplet群)と1次治療FOLFOX+ベバシズマブ療法→2次治療FOLFIRI+ベバシズマブ療法を逐次的に行う群(doublet群)を比較した第III相試験(TRIBE2試験)の結果が報告された。すべての治療は最大8コースの施行とされ、その後は、増悪まで5-FU+ベバシズマブ療法継続が実施された。679例が登録され、患者背景は両群に大きな差はなく、RAS変異型60%程度、BRAF変異型10%、右側結腸38%と、一般的な大腸がんのpopulationよりも多い傾向であった。主要評価項目であるPFS2(2次治療終了までの無増悪生存期間)中央値は、doublet群16.2ヵ月、triplet群18.9ヵ月(HR:0.69、95%CI:0.57~0.83、p<0.001)とtriplet群で有意に良好であった。1次治療PFSはdoublet群9.9ヵ月、triplet群12.0ヵ月(HR:0.73、p<0.001)、2次治療PFSの中央値はdoublet群5.5ヵ月、triplet群6.0ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.70~1.05、p=0.120)と有意差を認めなかった。doublet群の86%(248/288例)、triplet群の74%(194/261例)が2次治療に移行し、規定された2次治療が、doublet群では88%(FOLFIRI±Bmab)、triplet群では76%(FOLFOXIRI±Bmab)に行われていた。有害事象は既報のとおりで、1次治療における安全性は、grade 3以上の有害事象のうち、下痢(doublet群5% vs.triplet群17%、以下同様)、好中球減少(21% vs.50%)、発熱性好中球減少症(3% vs.7%)で群間差を認めた。本発表は、初回治療におけるtripletの有効性を再現したものと考えられる。doublet群の88%で2次治療に移行できているにもかかわらずtriplet群でPFS2が良好であったことはインパクトが大きいが、その理由は明らかではない。治療早期に強いレジメンを実施し、腫瘍縮小を達成することが生存延長につながっているのであろうか。とくに本試験の対象として多く含まれているRAS/BRAF変異型や右側結腸原発症例で有用である。今後発表されるOS結果にも注目したい。大腸がんに対する免疫療法の明暗-Checkmate142試験とMODUL試験-大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害剤は、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)やミスマッチ修復(mismatch repair:MMR)タンパク発現消失を示すMMR機能欠損(deficient MMR:dMMR)がんとMMR機能欠損を示さないproficient MMR(pMMR)がんに分けて治療開発が行われている。dMMR例は遺伝子変異数(tumor mutation burden:TMB)が多く、腫瘍浸潤性リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte:TIL)の強い免疫腫瘍環境を有することから、免疫チェックポイント阻害薬の効果が期待できる。CheckMate142試験は抗PD-1抗体薬ニボルマブ(NIVO)単剤療法、NIVOと抗CTLA-4抗体薬イピリムマブ(IPI)との併用療法を検討した第II相試験であり、ESMO2018では1次治療としてのNIVO+IPI併用療法コホートの結果が報告された。本コホートは、dMMR例を対象に、NIVO(3mg/kgを2週間隔)と低用量IPI(1mg/kgを6週間隔)の併用療法であり、既報の同薬剤併用の既治療コホート(NIVO 3mg/kg+IPI 1mg/kgを3週間隔×4回→その後はNIVO 3mg/kgを2週間隔)とは異なったスケジュールである。今回のコホートには45例が登録され、BRAF変異型38%、Lynch症候群18%が含まれていた。主要評価項目である担当医判定によるORRは60%(完全奏効[CR]:3例[7%]を含む)、DCRは84%であった。BRAF変異例17例でも、ORR 71%、DCR 88%と良好だった。解析時点において82%の症例が効果継続中であり、12ヵ月PFS割合77%、OS割合83%と、長期の生存延長効果が期待された。Grade 3以上の重篤な有害事象割合は16%であり、治療中止に至る有害事象も7%と低かった。今回の報告は既治療例通常用量のNIVO+IPIコホートと比較して有効性は同程度、重篤な有害事象は少ない傾向であった。これが、低用量IPIのおかげなのか、それとも初回治療例を対象としたものかはランダム化比較試験でないため確証はないが、個人的には有害事象と有効性のバランスが良い本投与法を実地臨床では使用したい。とくにBRAF変異型も含めた高い有効性は魅力的である。dMMRがんに対するpembrolizumabは本年度中に適応拡大予定であるが、NIVO+IPI療法もdMMR大腸がんに必要なレジメンと考えられる。一方でpMMR大腸がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の治療開発は、いまだ成功していない。MODUL試験は、大腸がんにFOLFOX+ベバシズマブ導入化学療法後の維持療法に関するランダム化比較試験で、バイオマーカーに基づくアンブレラ型試験である。今回、BRAF野生型コホート(コホート2)としてフッ化ピリミジン系薬剤+Bevacizumab(Bmab)とAtezolizumabの併用療法との比較パートの結果が発表された。患者背景はRAS変異型60~65%、dMMR2%であり、本試験はpMMR大腸がんへの免疫チェックポイント阻害剤の有効性を探索する試験と言える。追跡期間中央値18.7ヵ月時点におけるupdate analysisでのPFS中央値は試験治療群7.20ヵ月、標準治療群7.39ヵ月(HR:0.96、95%CI:0.77~1.20、p=0.727)、OS中央値は試験治療群22.05ヵ月、標準治療群21.91ヵ月(HR:0.86、95%CI:0.66~1.13、p=0.283)と、有意差は認められなかった。ESMO-GIでは後方ラインでのAtezolizumab(+cobimetinib)の第III相試験(COTEZO)もnegativeな結果が報告された。pMMR大腸がんへの免疫療法は、まだまだ暗い闇の中といったところである。

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「がんだけ診ていればよい時代」は終わった?日本腫瘍循環器学会開催

 2018年11月3~4日、都内にて第1回日本腫瘍循環器学会学術集会が開催され、盛んな議論が行われた。「がんだけ診ていればよい時代」は終わった 日本腫瘍循環器学会理事長の小室 一成氏は、理事長講演で以下のように述べた。 がんと心血管疾患の関係は以前からみられる。近年、がん治療の進歩が生存率も向上をもたらした。そこに、がん患者の増加が加わり、がんと心血管疾患の合併は増加している。さらに、抗がん剤など、がん治療の副作用は、心血管系合併症のリスクを高め、生命予後にも影響することから、がん患者・サバイバーに対する心血管系合併症管理の重要性が増している。実際、乳がん患者の死因は、2010年に、がんそのものによる死亡を抜き、心血管疾患が第1位である。 がん治療において重要な心血管系合併症の1つは心機能障害である。心機能障害を起こす抗がん剤は数多い。アドリアマイシンによる心筋症は予後が悪いことで知られている。また、免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎も、発症率は少ないが、いったん発症すると重篤である。もう1つの大きな問題は、がん関連血栓症(cancer associated thrombosis:CAT)として注目されている、血栓塞栓症である。がん患者では血液凝固系が活性化されているが、そこに、抗がん剤による血栓症や内皮細胞傷害のリスクが加わり、がん患者はさらに血栓塞栓症になりやすくなる。また、血栓塞栓症を合併したがん患者の予後は不良である。血栓塞栓症は、がん外来化学療法患者の死亡の10%を占め、死因の第2位となっている。 そのような中、海外では、90年代から、学会の設立、ガイドラインの発行など、さまざまな取り組みが始まっている。わが国では昨年(2017年)10月に日本腫瘍循環器学会が設立された。同学会では、がん患者・サバイバーのために、腫瘍と循環器の専門医が一緒に活動し、疫学・レジストリ研究、基礎研究・臨床研究の推進、診療指針(ガイドライン)の策定、医療体制の整備、教育研修に取り組んでいく。求められる腫瘍および循環器専門医のチームワーク 日本腫瘍循環器学会副理事長で第1回学術集会の会長である畠 清彦氏は、会長講演で以下のように述べた。 がん対策基本法が制定されて、どの地域でも標準治療が受けられるようになり、全体に底上げされて、今までになかったようなサポート体制が出来上がった。一方で、がん患者はどんどん高齢化し、心血管系合併症も増加している。しかし、がん専門施設での循環器内科医不足など、腫瘍循環器の分野は十分とは言えない。多くの薬が登場する中、心臓血管障害の問題があっても、その対策は各施設に任されている状況である。 また、最近の分子標的治療薬をはじめとする抗がん剤は、短期間の観察で承認される。長期的にどのような副作用が出るか報告が必要となる。心血管系の副作用を正確に報告するためにも、循環器と腫瘍の専門家が協調する必要がある。今後、さらに腫瘍専門医と循環器専門医のチームワークが求められるであろう。

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ASCO2018レポート 乳がん-2

レポーター紹介高齢者におけるトラスツズマブ単独治療の意義:RESPECT試験高齢のHER2陽性乳がん患者に対して術後補助療法として、トラスツズマブ単独または化学療法と併用した群とで比較した本邦からの無作為化第III相試験である。これは名古屋大学の澤木 正孝先生がPIとなって進めていた試験である。一般的に無作為化比較試験の対象から除外されている70歳以上(80歳以下)の方を対象としている点が特筆すべきポイントである。PSにもよるが高齢者ではやや化学療法を行いにくい、しかしHER2陽性乳がんは予後不良なためできるだけ治療は行いたいという臨床上のジレンマがある。もしトラスツズマブ単独でも化学療法併用と同等の効果があれば、わざわざ毒性の高い治療を選択しなくてもいいのではないかという思いは皆持っているかも知れない。また高齢化社会がますます進んでいく中で、70歳以上の割合は明らかに増加していくため、このような試験の立案はとても重要にみえる。本試験は優越性試験でも非劣性試験でもなく、主要評価項目の優劣の判定域を臨床医のアンケート結果に基づいて設定したという点もユニークである。統計学的有意性=臨床的有用性ではないことはどのような試験であっても理解しておかなければならないが、本試験ではまさに臨床上の実を取ったという訳である。計275例の患者が割り付けされ、StageIが43.6%、StageIIAが41.7%、リンパ節転移陰性が78.5%と比較的早期がんが多くを占めていた。HR陽性は45.9%とやや少なかった。3年のDFSはH+CT94.8%に対してH単独89.2%で有意差はなかった(HR:1.42、0.68~2.95、p=0.35)。いずれの群もイベント数が少なく予後良好であった。H単独でも十分な治療効果があったのか、もともと予後が良かったのかは明らかではないが、HER2陽性乳がんの性質を考えると、H単独でも高齢者において比較的良い予後改善効果があったというべきだろうか。QOLに関しては術後1年ではHのほうが良いが3年では差がなくなっていた。最近注目されているDe-escalationという考え方からすると非常に良い結果だったとは言える。PSの良い70代は、本来さらに生存が期待できるので、3年より長期の経過も知りたいところである。QOLは化学療法レジメンによっても多少異なる可能性があり、近年では3cm以下のn0では、個人的にはPTX+HER12サイクルのみのレジメンも積極的に用いていて、しびれがなければ高齢者でも比較的使いやすい印象がある。論文化されるのを待ちたいが、少なくとも早期HER2陽性乳がんの一部ではHRの状況にかかわらず、H単独のオプションを提示してもよいだろう。アントラサイクリンとタキサンの順序は重要か?局所進行HER2陰性乳がんに対してAとTの順序の違いを比較する第II相試験で、NeoSAMBA試験と呼ばれる。ブラジルからの報告である。FAC(500/50/500)3サイクルおよびドセタキセル(100)3サイクルを、A先行とT先行で比較するため118例の患者が無作為に割り付けられた。HR陽性が70%以上であった。結果は、中断、輸血、G使用は同等であったが、減量はT先行で少なかった。Grade3以上の有害事象は、T先行で急性過敏反応が多く、A先行で高血圧、感染、筋関節痛が多かった。pCRはT先行で高く、DFS(HR:0.34、1.8~0.64、p<0.001)、OS(HR:0.33、0.16~0.69、p=0.002)ともにT先行で良好であった。本試験は単施設の第II相試験であり、局所進行がんに限定されている。しかし、薬剤の送達やpCR率は、過去の試験でも一貫してT先行で良好であり、やはりT先行を術前術後の化学療法の標準と考えたほうが良さそうである。ただし、経験上注意点が1つある。増殖率のきわめて高いTNBCでは、ときにタキサンでまったく効果がなく、治療中に明らかな増大を示すものがある。そのため、T開始から1~2サイクルでそのような傾向がみられたら、ちゅうちょせずにAに変更することが勧められる。DC(ドセタキセル75/シクロホスファミド600)の有用性ドイツから、HER2陰性乳がんにおける2つの第III試験であるWSG Plan B試験(ECx4-Dx4 vs.DCx6)とSUCCESS C試験(FECx3-Dx3 vs.DCx6)の統合解析の結果が報告された。Aを含む群2,944例、DC群2,979例と大規模である。中央観察期間62ヵ月でDFSにまったく差はなかった。サブタイプ別にみても、Luminal A-like、Luminal B-like、Triple negativeともにまったく差は認められなかった。ただし、pN2/pN3ではAを含む群でDFSは良好であった(HR:0.69、0.48~0.98、p=0.04)。SABCS2016の報告で、DBCG07-READ試験(ECx3-Dx3 vs. DCx6)の結果を紹介したが、一貫したデータである。したがって、pN2/pN3以外では、もはやAは不要かもしれない。また、以前から述べていることだが、乳がん術後補助療法において、4サイクル以上行って優越性を示しているレジメンは今のところみられず、DCは4サイクルで十分なのではないかと考えている。6サイクルのTCは毒性の面からやはり相当大変だと思われる。パクリタキセル類似の微小管重合促進作用を持つutideloneの有用性アントラサイクリンとタキサン不応性の転移性乳がんに対してカペシタビン(CAP)のみとutidelone(UTD1)を追加した群を比較した中国における第III相試験で、OSの結果が報告された。utideloneはepothiloneのアナログで、微小管を安定させ、血管新生を阻害する薬剤である。UTD1+CAPがCAP単独に比べてPFS、ORRがを改善していることはすでに報告されている。対象としては化学療法レジメンが4つまでと規定している。UTD1+CAPではCAPは1,000mg/m2(CAPのみの群では1,250)であり、UTD1は30mg2を最初の5日間ivを行い3週を1サイクルとしていて、患者は2:1に割り付けられている(CAP+UTD1 270例、CAP 135例)。PFSはUTD1+CAPで著明に改善しており(HR:0.47、0.37~0.59、p<0.0001)、OSもUTD1+CAPで良好であった(HR:0.72、0.57~0.93、p<0.0093)。安全性に関してはグレード3以上の末梢神経障害の割合がUTD1+CAPで25。1%と高い(CAP0.8%)。すでにFDAで認可されているixabepiloneでは、治療終了後6週間で末梢神経障害は改善しているようだが、UTD1においてはどうだろうか。また、安全性プロファイルも限られた情報しか提示されていなかったため、もう少し詳細をみてみたい。しかし、これだけ少数例の検討にもかかわらず明確にOSに差が出ていたため紹介することとした。今後同薬剤がどのように使われていくのか見守りたい。未発症BRCA保有者における乳房MRIの重要性未発症のBRCA変異保有者に対して、乳房MRIによるサーベイランスがリスク低減手術に代わるオプションとなりうるかを検討した試験(トロントMRIスクリーニング試験)である。1997年7月~2009年6月までに乳がんや卵巣がん未発症のBRCA変異保有者380例が登録され、年1回のマンモグラフィとMRIが行われた。研究中40例(41腫瘍)に乳がんが発見された(BRCA1/2各20例、年齢中央値48[32~68]歳)。18例は以前に卵管・卵巣摘出術が行われていた。がん診断までの期間中央値は14(8~19)年であり、脱落例はなかった。発見契機はMRI 38例、マンモグラフィ6例、中間期1例でありTステージは大半が1cm以内の発見であった(2cm以上は1例のみ)。n+は4例に認められた。化学療法は13例に行われた。遠隔再発による死亡は2例、他がんによる死亡が4例(自殺1例、卵巣がん1例、腹膜がん2例)で、遠隔転移を来した2例の腫瘍の特徴はBRCA1/3cm/グレード2/ER+PR-HER2-/n1、およびBRCA2/0.7cm/グレード2/ER+PR-HER2-/n0であった。カプラン・マイヤー法による10年間の乳がん特異的生存率は94.6%と良好であり、乳房MRIスクリーニングはリスク低減手術に代わる重要なオプションであることが証明されたと結んでいる。この研究は、未発症のBRCA1/2保有者に今後の対策について話し合う際に非常に貴重な資料となる。Li-Fraumeni症候群における全身MRIによるがん早期発見の評価:LIFSCREEN試験フランスからの報告である。乳がんの約1%に認められることが知られているLi-Fraumeni症候群(TP53胚細胞変異)では、小児期からさまざまな悪性腫瘍を発症しやすく、有効なスクリーニングの手段が必要である。がん発症リスク上昇の懸念から被曝は極力避けたいため、以前から全身MRIの有用性が報告されているが、本研究は国を挙げての無作為化比較試験であり、実に素晴らしいと言わざるを得ない。アームAは身体所見、脳MRI、腹部-骨盤超音波検査、乳房MRI+乳房超音波、血算であり、アームBはアームAの検査に全身MRI(拡散強調画像)を加えたものである。計105例が無作為に割り付けられ、18歳以上が80%以上、女性が70%以上を占め、家族歴のない患者が約半数であった。少なくとも3年以上の経過観察が行われた。全身MRIでは肺がん3例、脈絡叢がん1例(肺転移)、副腎皮質がん1例(超音波でも同定)、乳がん3例(乳房MRIでも同定)、脊髄グリオーマ1例が発見され、一方、骨髄腫1例、顎の骨肉腫1例、乳がん1例が発見されなかった。3年という短期間では両群でOSに差はなかった。全身MRIではとくに肺がんの発見率が良いようである。フランスでは、本試験の結果を基に、全身MRIをスクリーニング手段としてガイドラインに追加している。しかし多くの放射線科医が全身MRIの読影に慣れていないという大きな問題が存在する。また、全身MRIのプロトコールはさまざまであり、放射線科医は見逃しを少しでも減らし疾患の鑑別をしたいがために、どうしても長い撮像時間のプロトコールを組みたがるが、腫瘍があることが前提の精密検査ではなくスクリーニングであることを十分認識し、受診者負担、撮影装置の占有時間を少しでも減らすため撮像時間を可能な限り短縮したいものである。本報告では具体的な撮像法がわからなかったため、論文化された時点で撮像法の詳細を確認したい。

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閉経前乳がん術後ホルモン療法は何を選択すべきか-SOFT+TEXT統合解析から(解説:矢形寛氏)-884

 ホルモン受容体陽性乳がんにおいて、ホルモン治療は生存率向上に重要な役割を果たしている。しかし、閉経前ではその治療法にタモキシフェン単独(TAM)、タモキシフェン+卵巣機能抑制(TAM+OFS)、そしてアロマターゼ阻害剤+卵巣機能抑制(AI+OFS)の3通りがあり、どれを選択するかは悩ましい。なぜなら、後者になるにつれて治療効果も上がりそうであるが、一方で、短期的有害事象のみならず、長期的な身体への影響も大きくなりうるからである。したがって、治療効果が高いのでなければ、有害事象の少ない治療法を選択する方向で考えることになる。 本研究では、SOFT試験とTEXT試験を統合解析したもので、今後の臨床に重要な知見を与えてくれるものである。この解釈についてはすでにケアネットの学会報告サン・アントニオ乳がんシンポジウム2017のところで述べたが、再確認しておきたい。 まず治療効果においてとくに重要なのは、遠隔再発と全生存率である。8年間の遠隔再発の差はTAM+OFSとAI+OFSで2%であり、統計学的有意差が認められた。しかし全生存率はまったく差はみられていない。サブ解析も含めてトータルに考えると、いわゆる一般的な予後因子が不良であるほど治療効果の差は開くことになる。40歳未満あるいは40代前半で化学療法を行うようなハイリスクに対して、OFSの上乗せを提案するというスタンスでよいであろう。40代後半では、化学療法によりほぼ閉経状態となり、TAM単独でも問題ないだろう。さらに腫瘍径も大きくリンパ節転移個数が多いとなれば、AI+OFSを選択する根拠となる。明確な選択基準はないが、専門医はバランスよく治療方針を決定するのが賢明である。

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ASCO2018レポート 乳がん-1

レポーター紹介2018年ASCOのテーマは、”Deliverling Discoveries:Expanding the Reach of Precision Medicine”であった。その言葉どおり、プレシジョンメディスンの言葉が随所に散りばめられていた。まさに遺伝子解析から治療を選択する時代に突入している。がん種によらず腫瘍の遺伝学的特徴から治療を決めることは当たり前の状況になっていくであろう。それに伴い、胚細胞遺伝子変異、すなわち、遺伝性腫瘍との関わりも重要視されてきており、先駆けて臨床遺伝専門医制度の指導医まで獲得しておいて良かったと思うと同時に、日本家族性腫瘍学会において家族性腫瘍専門医制度が開始されたことも時代の要請だろう。免疫療法の話題も増加している。すでにFDAが複数のがん種においてペムブロリズマブやニボルマブを認可しており、一般病院への影響についてのレクチャーもあったくらいである。乳がんというくくりでは、まだ第III相試験が行われている段階ではある。TAILORx試験最初はなんといってもプレナリーセッションからである。TAILORxは、ER+/HER2-リンパ節転移陰性乳がんに対してOncotype Dxでの中間リスクを、化学療法を追加する群としない群に分けて予後をみた大規模無作為化比較試験である。発表と同時に論文化されている(Sparano JA, et al. N Engl J Med. 2018Jun 3. [Epub ahead of print])。それ以前に低リスクでは、化学療法の追加の意義はなく、内分泌療法だけで良いことが示されている。本研究での中間リスクはリスクスコア11~25としていて、メーカーが設定しているスコアとは範囲が異なることは注意する必要がある。非劣性試験であり、全6,711名の患者が割り付けられた。化学療法はTCが56%でアントラサイクリン含むレジメンは36%であった。63%は腫瘍径1~2cm、57%は腫瘍グレードが中間であった。結果は主要評価項目である浸潤DFS、副次評価項目である遠隔RFIともまったく差はなく、非劣性が証明された。もちろんRFI、OSも非劣性である。発表の中では、探索的分析が行われており、年齢50歳以下では、リスクスコア16~25で2群間の差は浸潤DFS 9%、遠隔再発2%、21~25で浸潤DFS 6%であった。結論として、リスクスコア16~25では50歳以下で化学療法のベネフィットがあるかもしれないと要約している。しかしこれは後付けの解析であることから、さまざまな因子のサブ解析の中で、たまたま年齢だけ差が出た可能性もあり、あくまで参考程度にみておくのが良いだろう。また、化学療法群で18.4%が化学療法を受けておらず、非化学療法群で5.4%が化学療法を受けていたところが気にはなる。ASTRRA試験ASTRRA試験は化学療法後に卵巣機能が残っている方に対して、タモキシフェン(5年)に卵巣機能抑制(2年)を追加することの効果をみたもので、韓国からの報告である。化学療法後2年のうちに卵巣機能が回復したり、生理がある方をそれぞれ無作為に割り付けしている。症例数の蓄積に時間がかかったようで登録期間は2年から5年に延長された。計1,293名が割り付けされた。年齢中央値は40歳で、50%以上がn+であった。またHER2陽性が10%以上存在した。化学療法はAC-Taxaneが50%以上であった。5年DFSは有意に卵巣機能抑制群で優っていた(HR=0.686、0.483~0.972、p=0.033)。サブ解析でも一定の傾向はみられなかった。OSも卵巣機能抑制群で有意に優れていた(HR=0.310、0.102~0.941、p=0.029)。SOFT試験と比較するというより、SOFT試験と組み合わせて治療方針を練ると、卵巣機能抑制の適応をより選択的に決めることであろう。すなわち、化学療法により卵巣機能が抑制されなかった、あるいは抑制されていても2年のうちに回復したハイリスク患者に対してLHRHaを用いる価値があるものと思われる。しかし、問題点はタモキシフェンを使用していると卵巣機能の回復がわかりにくいことであるが、本試験ではFSH<30U/mLを卵巣機能ありとしている。BRCA変異を有する早期乳がん患者における術前タラゾパリブタラゾパリブはPARP阻害剤であり、第III相試験であるEMBRACA試験において、医師選択の化学療法と比較して有意にPFSを延長したことが報告されている。また初期のfeasibility試験においてタラゾパリブは腫瘍量を2ヵ月で88%減少させていた。今回は術前治療としてタラゾパリブを6ヵ月内服し、手術を行った結果が報告された。BRCA1変異が17名、BRCA2が3名であり、TNBCが15例であった。pCRは53%であり、pCRまたはほぼpCRは63%であった。BRCA1か2かにかかわらず、またTNBCかHR+かにかかわらず良い効果を示していた。安全性に関しては貧血、好中球減少が主なもので、非血液毒性はほぼ軽微であった。輸血例も8例いた。9例で減量を要していた。かなり高いnear pCR率であり、早期乳がんの補助療法におけるPARP阻害剤の役割が今後注目を集めていくであろう。本剤の至適使用期間も課題である。PERSEPHONE試験PERSEPHONE試験はHER2陽性乳がんに対して術前術後補助療法としてのトラスツズマブ6ヵ月と12ヵ月を比較する、サンプルサイズ4千例の大規模な非劣性試験である。4年DFSが12ヵ月のトラスツズマブで80%と評価され、非劣性として3%を下回らないことが条件である。片側有意差5%、検出力85%である。実際に4,089例がリクルートされ、4,088例が解析された。ER陽性が69%と高くアントラサイクリンベースが41~42%、アントラサイクリン-タキサンベースが48~49%であった。トラスツズマブのタイミングは同時が47%、逐次投与が53%であった。また、58~60%がリンパ節転移陰性であった。結果は中央値5.4年でDFSが非劣性であった(HR=1.07、0.93~1.24)。予定されていたサブ解析では目立つものはなかったが、タキサンベースまたはトラスツズマブ同時投与で12ヵ月投与が良好であった。もちろんOSも完全に非劣性である。心毒性のためにトラスツズマブを中止したのは6ヵ月投与で4%、12ヵ月投与で8%であった。今まで複数のトラスツズマブ投与期間に関する試験の結果が明らかとなっており、はじめて非劣性が証明された。しかし、今回のPERSEPHONE試験の結果をもって診療が変わるわけではない。ASCO2017の報告でトラスツズマブ1年投与の適応について詳しく述べており、またSABCS2017の報告でメタアナリシスとSOLD試験の結果をまとめているので参照してほしい。

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ASCO2018レポート 消化器がん

レポーター紹介本年度の米国臨床腫瘍学会年次総会が、2018年6月1日~5日まで例年どおり米国シカゴで開催された。消化器がん領域における注目演題についてレポートする。とくに胃がん領域においては、本邦より2人もの演者がoralで発表されており、日本人として大変誇らしく感じた。JACCRO GC-07 trial本邦の実臨床に最もインパクトがあった演題として、pStageIII胃がんにおけるドセタキセル+S-1(DS)併用療法のS-1療法に対する優越性が証明されたJACCRO GC-07 trialをまずは報告する。本邦では、pStageIII胃がんに対する術後補助化学療法として、S-1療法1年またはCapeOX療法6ヵ月を行うことが標準治療として位置付けられている。しかしながら、ACTS-GC試験のサブグループ解析では、手術単独群に対するS-1療法群の全生存期間におけるHR(ハザード比)がpStageIIIAで0.67、StageIIIBで0.86と報告されており、いずれも効果が不十分と考えられてきた。そこで、根治切除(胃切除+D2郭清)を行ったpStageIII胃腺がんを対象として、S-1療法に対するDS療法の優越性を検証したJACCRO GC-07 trialが行われた。主要評価項目は3年無再発生存(RFS)であり、S-1療法群の3年RFSを62%、HRを0.78とし、両側検定α=5%、検出力80%を確保するために、必要な症例数は1,100例と算出された。2回目の中間解析において(登録患者915例、イベント数216)、3年RFSがS-1療法群49.5%vs.DS療法群65.9%(HR=0.632、p=0.007)と、DS療法群で有意に良好であったことから、2017年9月に効果安全評価委員会において有効中止の勧告がなされた。登録された両群の患者背景には明らかな差が認められず、また明らかな交互作用は観察されなかった。再発部位は、リンパ節、腹膜、血行性転移いずれもDS療法群で少ない傾向であった。有害事象に関しては、白血球減少、好中球減少、発熱性好中球減少症がDS療法で多かったもののマネージメントは十分可能な範囲であった。演者らは、本試験の結果をもって、根治切除後のpStageIII胃がんに対して、DS療法は新たな術後補助療法の標準治療として推奨されると結論付けた。会場では、S-1療法群の成績が従来の本邦からの報告よりやや悪いことが指摘されていた。個人的には、本邦で行われた良質な第III相試験であること、昨年公表された欧州での第III相試験でFLOT療法(DTX+5FU+L-OHP)の有効性が示されていること、エビデンスレベルという点からも、術後DS療法は標準治療として位置付けられると考えられ、今後は実地臨床にも広く用いられることになるだろう。また、用量強度やOSのupdate解析などの報告にも注目したい。KEYNOTE-061試験現在、本邦では胃がん領域においても2017年9月から免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが実地臨床で用いられている。また、米国においては、ペムブロリズマブが既治療の胃がんに対してFDAで承認を受けている。本試験は、切除不能進行再発胃がん/食道胃接合部がんにおける2次化学療法として、ペムブロリズマブ療法とパクリタキセル療法をHead-to-Headで比較した第III相試験として実施された。当初は、PD-L1発現の有無にかかわらず患者が登録されたが、登録途中でPD-L1陽性(CPS≧1)のみを登録することに変更となった(CPS:combined positive score、PD-L1陽性の細胞数[腫瘍細胞、リンパ球、マクロファージ]/全生存細胞数×100)。主要評価項目は、PD-L1陽性例におけるOSとPFSとし、試験全体の片側α=0.025、OSにおける優越性を示すにはp<0.0135を達成する必要がある統計設計で実施された。登録された患者背景に両群で差は認めなかった。PD-L1陽性例における生存期間中央値(MST)は、ペムブロリズマブ療法9.1ヵ月vs.パクリタキセル療法8.3ヵ月、HR 0.82、片側p=0.042であり、両群で有意差はなかった。ただし、解析時点でペムブロリズマブ群では15例が投与継続(パクリタキセル群は0例)されており、実際に12ヵ月生存割合は39.8%vs.27.1%、18ヵ月生存割合は25.7%vs.14.8%とペムブロリズマブ群で長期生存例が多かった。PD-L1発現別の解析では、CPSが高いほどペムブロリズマブの効果が高まることが示された。また、MSI-High例(全体の5%)では、ペムブロリズマブ療法群でOS、奏効割合がともに良好であった(OSは未達、奏効割合46.7%)。主要評価項目であるPD-L1陽性例におけるOSにおいて、統計学的有意差は示せない結果となった。ただし、今後の進行胃がんの化学療法を考えるうえでは、非常に重要かつ示唆に富む結果が得られたと個人的に感じている。具体的には、先のATTRACTION-2試験(ニボルマブとプラセボを比較した、胃がんにおけるSalvage lineの第III相試験)では、PD-L1発現の有無ではニボルマブの効果予測は困難であったが、CPSというPD-L1陽性の定義を用いると免疫チェックポイント阻害薬の効果予測ができるかもしれない点や、既報と同様にやはりMSI-Hでは胃がんであっても高い奏効割合、治療効果が示される点などである。ディスカッサントからも指摘があったように、今後は、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用療法や化学療法との併用療法などの結果が注目され、胃がん化学療法の進歩に期待したいところである。なお、本結果は発表同日にLancet誌に掲載され、インパクトあふれる発表であった。PRODIGE 24/CCTG PA.6試験膵がんの術後補助化学療法は、従来はゲムシタビン療法が標準治療として位置付けられていたが、近年、本邦で実施されたJASPAC-01試験の結果から本邦ではS-1療法が、欧米ではゲムシタビン+カペシタビン療法が確立された。また、遠隔転移を有する膵がんにおいては、FOLFIRINOX療法(5-FU+LV+イリノテカン+L-OHP)が標準治療として用いられている。そこで、切除後膵がんに対する術後補助療法としてのゲムシタビン療法に対するFOLFIRINOX療法の優越性を検証する第III相試験が計画された。本試験で用いられているFOLFIRINOX療法は、毒性の点からmodified FOLFIRINOX療法(mFFX、5-FU 2,400mg/m2+ロイコボリン400mg/m2+イリノテカン180mg/m2+オキサリプラチン85mg/m2、2週ごと、12サイクル)が採用された。主要評価項目は無病生存(DFS)期間として、3年DFS率のHRを0.74、両側α=0.05、検出力80%として必要な症例数は490例と算出された。なお、開始後30例でGrade3以上の下痢を20%に認めたため、以降はイリノテカンの用量が150mg/m2に変更されている。2012年4月~2016年10月までに493例が登録され、2018年2月に効果安全評価委員会において早期結果公表が勧告されたため、今回、データが発表された。登録された患者背景では、リンパ管腫瘍塞栓のみ群間差を認めたがその他は両群に有意な差は認めなかった。DFS期間の中央値は、mFFX療法群21.6ヵ月、ゲムシタビン療法群12.8ヵ月、HR 0.58(p<0.0001)であり、mFFXで有意に良好であった。OSの中央値は、mFFX療法群54.4ヵ月、ゲムシタビン療法群35.0ヵ月、HR 0.64(p=0.003)であった。有害事象として、好中球減少、発熱性好中球減少に差はなかったが、mFFX療法群でG-SCF使用の割合が有意に高かった。また、非血液毒性として、下痢、末梢性感覚ニューロパチー、疲労、嘔吐、口内炎がmFFX群で有意に高かった。以上から、演者らは、mFFX療法は、毒性が増すものの、全身状態が良好な患者における欧米における標準治療と結論付けている。本邦で行われたという点においては、JASPAC-01試験の結果から、毒性の点から、S-1療法は本邦における標準治療としての位置付けは揺るがないだろう。しかしながら、JASPAC-01試験、本試験ともに大規模第III相試験から得られた結果という点では、同等のエビデンスとも考えられ、すでに転移性の膵がんにおいては、FOLFIRINOX療法は実地診療で行われている。とくに、本試験のサブグループ解析では、mFFX療法でR1切除、N1切除の成績が良好であったことから、予後不良な症例にはmFFXは期待できるのかもしれない。

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HER2陽性固形がんに対するDS-8201aの効果/ASCO2018

 HER2標的治療は、HER2陽性の進行乳がんおよび胃がんの生存を改善したが、さらなる改善が必要とされる。DS-8201a(トラスツズマブ・deruxtecan)は、HER2受容体をターゲットとした免疫複合体(ADC)であり、幅広い腫瘍に対して活性を示す。現在、進行固形がんの拡大コホートを用いた大規模な第I相試験が行われている。 米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO2018)では、T-DM1治療後のHER2陽性(IHC3+またはISH+)乳がん、トラスツズマブ治療後のHER2陽性(IHC3+またはIHC2+/ISH+)胃がん、HER2低発現(IHC2+/ISH-、IHC1+/ISH-)乳がん、その他のHER2陽性(IHC≧1+またはHER2増幅またはHER2変異)固形がん患者を対象に実施された、この第I相試験の中間解析結果(2018年4月18日データカットオフ)が、愛知県がんセンター 岩田 宏治氏により発表された。 HER2陽性乳がん患者111例、HER2低発現乳がん患者34例、HER2陽性胃がん患者44例、その他のHER2陽性固形がん患者51例が、DS-8201aの推奨用量である5.4または6.4 mg/kgで治療を受けた。 主な結果は以下のとおり。・患者の前治療数の中央値は、HER2陽性乳がん患者7.0、HER2陽性胃がん患者7.5、HER2低発現乳がん患者3.0、その他のHER2陽性固形がん患者3.0であった。・全体として、86.3%の患者で腫瘍縮小効果が確認され、このうち91.5%の患者が6週後の画像評価時に縮小が確認された。全奏効率(ORR)は49.3%であった。・がん種別ORRは、HER陽性乳がん54.5%、HER2低発現乳がん50.0%、HER2陽性胃がん43.2%、その他のHER2陽性固形がん38.7%であった。・病勢コントロール率は、HER陽性乳がん93.9%、HER2低発現乳がん85.3%、HER2陽性胃がん79.5%、その他のHER2陽性固形がんでは83.9%であった。・奏効期間中央値は、HER2陽性乳がんでは未到達、HER2低発現乳がんでは11.0ヵ月、HER2陽性胃がんでは7.0ヵ月、その他のHER2陽性固形がんでは12.9ヵ月であった。・有害事象(Treatment-emergent adverse events)の発現は98.8%、うちGrade3以上は50.2%であった。 DS-8201aは、高度な前治療歴のあるHER2陽性の乳がんおよび胃がん患者に対し、高い抗腫瘍活性を示し、管理可能な安全性プロファイルを示した。■参考DS-8201a第1相試験(Clinical Trials.gov)※医師限定ASCO2018最新情報ピックアップDoctors’ Picksはこちら

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乳がん検診と治療が及ぼす死亡率減少への影響をサブタイプ別に検証(解説:矢形寛氏)-807

 Cancer Intervention and Surveillance Network(CISNET)は、国立がん研究所がスポンサーとなっている組織であり、がんの予防、スクリーニング、治療が、がんの頻度や死亡率に及ぼす影響をよりよく理解するためのモデルなどを提供している。2005年のNEJMでは、CISNETモデルを用いた検討により、死亡率低下のうち46%がスクリーニング、54%が治療による影響と評価されていた(N Engl J Med. 2005;353:1784-1792. )。 今回の論文でもほぼ同様だが、乳がんサブタイプ間で死亡率低下に違いがあり、ER陽性/HER2陽性(58%)>ER陽性/HER2陰性(51%)>ER陰性/HER2陽性(45%)>ER陰性/HER2陰性(37%)であった。さらにスクリーニングと治療それぞれの影響も異なることが示され、ER陽性では治療の影響が大きく、ER陰性では検診の効果がより高かった。 さらに2000年から2012年までにHER2陽性では40%の死亡率低下がみられており、trastuzumabの影響と考えられている。ER陰性/HER2陰性以外では、検診よりも治療による影響が大きく、一方、ER陰性/HER2陰性に対しては、早期発見のためのより強力なスクリーニングアプローチと有効な分子標的薬の開発が望まれると述べられている。 ER陽性の場合は検診で発見される割合が高いことが知られているが、それによる死亡率減少効果は弱い。一方、ER陰性の場合は検診で発見される割合が低いが、早期発見された場合の有効性は高いようなので、効果的な検診プログラムが必要である。その1つが遺伝性乳がん卵巣がん症候群における乳房MRIであり、本邦でも国を挙げて真剣に取り組むべきであろう。

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米国で乳がん死減少、寄与した因子は?/JAMA

 米国女性の乳がん死亡率は2000年から2012年にかけて減少しており、乳がんの分子サブタイプで異なるものの、その減少にはマンモグラフィ検診および術後補助療法の進歩が寄与していることが示された。米国・スタンフォード大学のSylvia K. Plevritis氏らが、シミュレーションモデル研究により明らかにした。JAMA誌2018年1月9日号掲載の報告。6つのCISNETモデルで乳がん死亡率を推定、検診と治療の関連を評価 研究グループは、マンモグラフィ検診や補助療法の最近の進歩を考慮すると、分子サブタイプ別の米国乳がん死亡率に対するそれらの影響の定量化が、疾病負荷の減少につながる今後の指標になりうるとして、6つのCancer Intervention and Surveillance Network(CISNET)モデルにより、2000年から2012年の米国乳がん死亡率をシミュレーションした。シミュレーションでは、単純フィルムとデジタルマンモグラフィの様式と性能、ER/ERBB2特異的治療の普及と有効性、および非乳がん死亡率に関する全国データを用い、複数の米国出生コホートについて行った。 主要評価項目は、2000~12年における30~79歳女性の乳がん死亡率(年齢調整、全体およびER/ERBB2特異的死亡率)で、検診および治療がない場合の推定死亡率(ベースライン死亡率)と比較するとともに、検診および治療の死亡率低下に対する寄与を算出した。死亡率低下の3分の1に検診が寄与 2000年において、乳がんの全死亡率はベースライン死亡率(64例/10万人、モデル範囲:56~73例/10万人)と比較して、37%(モデル範囲:27~42%)低かった。その差のうち、検診の寄与率は44%(同35~60%)を占め、治療の寄与率は56%(40~65%)であった。 2012年では、ベースライン死亡率(63例/10万人、54~73例/10万人)と比較して、49%(39~58%)低かった。その差のうち、検診の寄与率は37%(26~51%)、治療の寄与率は63%(49~74%)であった。さらに治療の寄与率63%の内訳をみると、化学療法が31%(22~37%)、ホルモン療法が27%(18~36%)、トラスツズマブは4%(1~6%)であった。 検診と治療の推定相対寄与率を比較すると、乳がんの分子サブタイプごとに異なっており、ER陽性/ERBB2陰性例では検診36%(24~50%)vs.治療64%(50~76%)、ER陽性/ERBB2陽性例では31%(23~41%)vs.69%(59~77%)、ER陰性/ERBB2陽性では40%(34~47%)vs.60%(53~66%)、ER陰性/ERBB2陰性では48%(38~57%)vs.52%(44~62%)であった。 なお著者は、検診および治療の全死因死亡率等への影響は評価されていないことや、モデルが2012年までの推定に基づいていることなどを研究の限界として挙げている。

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ER陽性乳がん、5年内分泌療法後の再発のリスクは?/NEJM

 エストロゲン受容体(ER)陽性で5年間の内分泌療法を実施後に無病状態にあった女性患者の、5~20年の乳がん再発は、期間を通して一定の割合の発生であったことが明らかにされた。また、遠隔再発リスクは、当初の腫瘍径とリンパ節転移の状態(TN分類)と強く関連しており、10~41%の範囲にわたっていた。英国・オックスフォード大学のHongchao Pan氏らが、88試験(被験者総数6万人超)のデータに基づき行ったメタ解析の結果で、NEJM誌2017年11月9日号で発表した。これまでの検討で、ER陽性早期乳がん女性患者は5年間の内分泌療法によって、治療中および治療後の再発率が大きく低下することが示されていた。治療期間を5年以上延長すると、再発率はさらに低下するが副作用の発現も増大する。研究グループは、5年間で中断した場合のその後の遠隔再発の絶対リスクのデータを入手することは、治療を延長すべきかどうかの判断に寄与する可能性があるとして検討を行った。TN分類、腫瘍悪性度などと5~20年アウトカムの関連を分析 研究グループは、ER陽性の乳がん患者で、予定した5年間の内分泌療法を実施後、無病状態にあった6万2,923例を被験者とする88試験の結果を基にメタ解析を行った。 試験と治療による層別化を行い、Kaplan-Meier法とCox回帰分析を用いて、TN分類、腫瘍悪性度、その他の因子と、5~20年のアウトカムについての関連を分析した。腫瘍悪性度とKi-67値も中等度の予測因子として有用か 追跡した5~20年間を通して、乳がん再発は一定の割合で発生し、遠隔再発リスクは当初のTN分類と強い関連が認められた。 具体的には、T1の患者で、リンパ節転移がないT1N0の患者では、遠隔再発リスクは13%、リンパ節転移が1~3のT1N1~3の同リスクは20%、リンパ節転移が4~9のT1N4~9では34%だった。同様にT2の患者でも、T2N0患者の同リスクは19%、T2N1~3で26%、T2N4~9で41%だった。 乳がん死亡リスクも、TN分類に依存していたが、対側乳がんリスクとは関連がみられなかった。 同じTN分類では、互いに強い関連のある腫瘍悪性度(4万3,590例で確認)とKi-67値(7,962例で確認)が、遠隔再発リスクに関する中等度の独立予測因子だった。一方で、プロゲステロン受容体(5万4,115例で確認)とヒト上皮成長因子受容体2(HER2)(トラスツズマブ非使用試験の1万5,418例で確認)は、いずれも予測因子とは認められなかった。 遠隔再発絶対リスクについて乳がんの重症度別にみてみると、T1N0乳がん患者の5~20年の遠隔再発リスクは、低悪性度乳がんで10%、中悪性度乳がんは13%、高悪性度乳がんでは17%だった。また、全再発または対側乳がんの絶対リスクはそれぞれ17%、22%、26%だった。 なお研究グループは、「今回の試験の主な目的として、遠隔再発リスクが低く、5年超の内分泌療法の有益性が低いと考えられるサブグループを特定することがあった。しかしながら、T1N0乳がんの患者でも遠隔再発リスクが13%であった。確かなエビデンスは得られていないが、そのような低リスクの患者についても5年超の内分泌療法により遠隔再発リスクは数%低下する可能性が考えられた」と考察している。

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ペルツズマブはHER2陽性乳がんの再発を有意に減少させる(解説:下村 昭彦 氏)-706

 HER2陽性乳がんに対する術後薬物療法としてのトラスツズマブの有用性については広く知られており、実臨床で必須の標準治療となっている。また、ペルツズマブの上乗せはHER2陽性転移再発乳がんの1次治療として、ドセタキセル+トラスツズマブに対して有意に予後を改善させることが広く知られている1)。 今回の大規模臨床試験は、HER2陽性乳がんに対する標準術後薬物療法である化学療法+トラスツズマブに対し、ペルツズマブの上乗せを検証した二重盲検ランダム化比較第III相試験である2)。腫瘍径1cm以上、または腫瘍径0.5~1.0cmでハイリスクの条件を満たすもの(組織/核Grade3、ホルモン受容体陰性、35歳未満)を対象とした。中間解析でイベント数が少ないことが予想されたため、3,655例の症例が登録された段階で、リンパ節転移陽性のみを適格とするようプロトコール変更が行われた。主要評価項目は3年無浸潤疾患生存率(invasive disease free survival:IDFS)で、プラセボ群の89.2%に対しペルツズマブ群が91.8%(ハザード比:0.75)を仮説とし、各群379イベントが必要とされた。 2011年11月~2013年8月に2,400例がペルツズマブ群に、2,405例がプラセボ群に割り付けられた。3年IDFSはペルツズマブ群で94.1%、プラセボ群で93.2%(ハザード比:0.81、95%CI:0.66~1.00、p=0.045)であり、ペルツズマブ群で有意に良好であった。サブグループ解析では、リンパ節転移陰性では97.5% vs.98.4%(ハザード比:1.13、p=0.64)、リンパ節転移陽性では92.0% vs.90.2%(ハザード比:0.77、p=0.02)と、リンパ節転移陽性ではペルツズマブ群で有意に良好であったものの、陰性では両群に差は認めなかった。 術後薬物療法におけるペルツズマブの有効性が示されたものの、その絶対リスク減少は3年IDFSで0.9%であり、真に上乗せ効果の期待できる症例の絞り込みが必要である。

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HER2陽性乳がんの延長アジュバントにneratinib承認

 米国食品医薬品局(FDA)は2017年7月17日、早期のHER2陽性乳がんの長期アジュバント治療に、pan-HERチロシンキナーゼ阻害薬neratinibを承認した。neratinib治療は、この対象患者で初となる延長アジュバント療法であり、がんの再発リスクをさらに下げるため初回治療後に行われる。neratinibの適応患者はトラスツズマブレジメンの既治療患者である。 今回の承認は、第III相ExteNET 試験と、第II相CONTROL 試験の結果に基づくもの。ExteNET 試験の初回解析では、2年間の無浸潤無病生存率(iDFS)は、neratinib治療患者では94.2%、プラセボ患者では91.9%であった(HR:066、95% CI:0.49-0.90、p=0.008)。 neratinibの安全性と有効性は、過去2年間にトラスツズマブで治療を完了した早期HER2陽性乳がん患者2,840例の無作為化試験で研究された。neratinibの主な副作用は、下痢、悪心、腹痛、疲労感、嘔吐、皮疹、口内炎、食欲不振、筋痙攣、消化不良、肝障害(ASTまたはALT上昇)、爪障害、乾燥皮膚、腹部膨満、体重減少、尿路感染症であった。 国立がん研究所(NCI)は、本年、米国では約25万人の女性が乳がんと診断され、4万人が乳がんにより死亡すると推定している。また、HER2陽性患者は乳がんの約15%である。■参考FDAニュースリリース

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【JSMO2017見どころ】Precision medicine

 2017年7月27日(木)から3日間にわたって、第15回日本臨床腫瘍学会学術集会が開催される。これに先立ち先月、日本臨床腫瘍学会(JSMO)のプレスセミナーが開かれ、プレナリーセッションをはじめ、「免疫・細胞療法」「Precision medicine」「AYA世代のがん治療」「緩和・支持療法」の4つのテーマにおける注目トピックが紹介された。 このうち、「Precision medicine」については堀田 勝幸氏(岡山大学病院 新医療研究開発センター 教授)が登壇した。以下、堀田氏のコメントと注目演題を紹介する。【堀田 勝幸氏コメント】 がん薬物療法の歴史は1943年のリンパ腫に対するnitrogen mustard(化学兵器)にはじまり、その後DNA合成阻害を主軸とする殺細胞性抗がん剤が広く開発されてきた。一方この20~30年間で、革新的な技術の導入に伴い、正常細胞とがん細胞の分子生物学的相違を特定することが可能となった。この技術を背景として標的分子異常に対する創薬開発が行われ、1997年には乳がんに対する抗体製剤(トラスツズマブ)が、2001年には慢性骨髄性白血病に対する分子標的薬(イマチニブ)がそれぞれ登場し、がん医療に大きな変革をもたらした。以降、さまざまながん腫でさまざまながん原性分子異常が見出され、臓器単位の大きなくくりから分子異常に基づいた創薬が行われ、適正な治療戦略が構築されていく、いわゆるprecision medicineが確立し、現在に至っている。 precision medicineをさらに医療社会に実装するには、網羅的で正確、かつ、汎用性を有する分子異常診断法の確立と整備、そしてそのデータの高精度な管理が必要である。同時にこれらに携わる人材の育成と確保も求められる。今回のJSMO学術集会では上記に関するシンポジウムを複数企画し、現状と課題について検討する。加えて、国家的なprecision medicineの体制整備に関する日米欧三極のリーダーを招へいし、現状の問題点の共有と今後の国際連携についても討議していく。 また個々の患者に対して分子標的薬による最大効果・安全性を担保するために、薬剤の適正使用は必須要素である。臨床現場の目線でprecision medicineの確実な実装をしていくために、口腔支持療法・栄養などを含めた患者管理・教育に関するさまざまな最新の取り組みや工夫を多職種間で持ち合ったうえで現状の整理と問題点の抽出を行い、明日からの診療につながる実利的なセッションも企画されている。【注目演題】シンポジウム「ゲノム医療にかかわる人材育成」日時:7月29日(土)8:20~10:20 場所:Room 15(神戸国際会議場5F 504+505 会議室)「チームで取り組む分子標的薬の副作用マネジメント 患者へベネフィットをもたらす支持療法」日時:7月29日(土)10:20~12:20 場所:Room 2(神戸国際展示場2 号館1F コンベンションホール南)「次世代シークエンサーなど多遺伝子異常診断機器の医療機器として薬事承認・保険償還への道」日時:7月29日(土)15:00~17:00 場所:Room 3(神戸国際展示場2 号館1F コンベンションホール北)Special Lecture「Cancer Data Collaboratives: Requirements for Personalized Medicine」日時:7月28日(金)8:20~9:20場所:Room 10(神戸国際会議場1F メインホール)Asia & Oceania Joint Symposium「Precision medicine, its current status and possibilities for future collaborations」日時:7月28日(金)8:20~9:20場所:Room 1(神戸ポートピアホテル南館 1F ポートピアホール)International Symposium「Nation-wide basket/umbrella type study for precision medicine」日時:7月28日(金)10:20~12:20場所:Room 1(神戸ポートピアホテル南館 1F ポートピアホール)ASCO/JSMO Joint Symposium「Current status of molecular targeted therapy in lung cancer」日時:7月28日(金)17:00~19:00場所:Room 1(神戸ポートピアホテル南館 1F ポートピアホール)【第15回日本臨床腫瘍学会学術集会】■会期:2017年7月27日(木)~29日(土)■会場:神戸コンベンションセンター、Junko Fukutake Hall(岡山大学鹿田キャンパス)■会長:谷本 光音氏(岡山大学大学院 血液・腫瘍・呼吸器内科学講座)■テーマ:最適のがん医療— いつでも、何処でも、誰にでも —第15回日本臨床腫瘍学会学術集会ホームページはこちら

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早期HER2+乳がん、術後補助療法にペルツズマブ追加が奏効/NEJM

 早期HER2陽性乳がん患者に対し、術後補助化学療法+トラスツズマブに加え、ペルツズマブ(商品名:パージェタ)を投与することで、3年無浸潤疾患生存率は有意に改善したことが報告された。とくにリンパ節陽性患者で、同生存率の改善が示された。ドイツ・GBG ForschungsのGunter von Minckwitz氏らAPHINITY研究グループが、43ヵ国549ヵ所の医療機関を通じて行ったプラセボ対照無作為化比較試験で明らかにしたもので、NEJM誌オンライン版2017年6月5日号で発表した。HER2陽性乳がん患者4,805例を対象に試験 Minckwitz氏らは、リンパ節陽性、またはハイリスク・リンパ節陰性で手術可能なHER2陽性の乳がん患者4,805例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、標準補助化学療法+トラスツズマブの1年間投与に加え、一方の群にはペルツズマブを(2,400例)、もう一方の群にはプラセボを(2,405例)それぞれ投与し、臨床アウトカムを比較した。研究グループが仮定した3年無浸潤疾患生存率は、ペルツズマブ群91.8%、プラセボ群89.2%だった。リンパ節陽性では3年無浸潤疾患生存が改善 追跡期間の中央値は、45.4ヵ月だった。被験者のうち、リンパ節陽性は63%、ホルモン受容体陰性は36%だった。 追跡期間中に再発が認められたのは、プラセボ群8.7%(210例)に対し、ペルツズマブ群は7.1%(171例)だった(ハザード比:0.81、95%信頼区間[CI]:0.66~1.00、p=0.045)。推定3年無浸潤疾患生存率は、プラセボ群が93.2%に対し、ペルツズマブ群は94.1%だった。 被験者のうちリンパ節陽性グループでは、3年無浸潤疾患生存率はプラセボ群が90.2%、ペルツズマブ群が92.0%だった(浸潤疾患発症ハザード比:0.77、95%CI:0.62~0.96、p=0.02)。これに対してリンパ節陰性グループの3年無浸潤疾患生存率は、プラセボ群が98.4%、ペルツズマブ群が97.5%だった(同ハザード比:1.13、同:0.68〜1.86、p=0.64)。 なお安全性については、心不全、心臓死、心機能障害は両群ともにまれだった。一方でGrade 3以上の下痢は、化学療法実施中の発生が大半で、ペルツズマブ群9.8%と、プラセボ群の3.7%に比べ頻度が高かった。

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HER2陽性乳がん1次治療、最適レジメン選考の結果は?/ASCO2017

 2017年6月2~5日、米国シカゴにて米国臨床腫瘍学会年次大会(ASCO 2017)が行われ、HER2陽性の転移を有する未治療の乳がん(MBC)に対する1次治療レジメンを評価した第III相試験であるMARIANNE試験の最終結果が発表された。 MARIANNE試験は、上記の患者に対し3つの抗HER2レジメンが評価された。比較されたレジメンは、トラスツズマブ+タキサン(HT)、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1単独)、トラスツズマブ エムタンシン+ペルツズマブ(T-DM1/P併用)。1,095例(HT群365例、T-DM1単独群367例、T-DM1/P併用群363例)の患者が登録され、これら3つのレジメンに無作為に割り付けられた。 主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、副次的評価項目は全生存期間(OS)、奏効率(ORR)、安全性など。最初の中間解析において、T-DM1単独群のPFSはHT群に対して非劣性は証明できたものの、優越性は証明できなかった。OSについては各群で同等であった。今学会では、最終妥当性分析からのOSの結果を、ブラジルPUCRS School of MedicineのPorto Alegre氏が報告した。 2016年5月15日のデータカットオフ時点(追跡期間中央値54ヵ月)でのOS中央値は、HT群で50.9ヵ月、T-DM1単独群で53.7ヵ月、T-DM1/P併用群では51.8ヵ月であった。Grade3以上の有害事象はHT群では55.8%、T-DM1単独群では47.1%、T-DM1/P併用群では48.6%であった。T-DM1の安全性プロファイルは、長期間の観察においても当試験の初回解析や先行試験と一致していた。 本研究の結果では、3つのレジメン間でOSの差はみられなかったが、T-DM1単独群ではGrade3以上の有害事象の発現が低い。また、T-DM1単独群では発熱性好中球減少症はみられず、末梢神経障害、脱毛、下痢などの有害事象も他の3レジメンより少なかった。このことから、HER2陽性MBCにおいて、T-DM1単独治療はHTに代わる1次治療レジメンの選択肢の1つであると、発表者のAlegre氏は述べた。

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