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HER2陽性転移乳がん1次治療におけるpyrotinib(解説:下村昭彦氏)

 BMJ誌2023年10月31日号に、HER2陽性転移乳がん1次治療におけるpyrotinibによる無増悪生存期間(progression free survival:PFS)の改善を示したPHILA試験の結果が公表された。pyrotinibは中国で開発されたHER2をターゲットとしたチロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor:TKI)であり、HER2陽性転移乳がんの2次治療におけるカペシタビンへの上乗せがラパチニブと比較して、PFS(Xu B, et al. Lancet Oncol. 2021;22:351-360.)ならびに全生存期間(overall survival:OS)(SABCS2021)を改善することが示されている。 PHILA試験ではトラスツズマブ+ドセタキセルにpyrotinibまたはプラセボを上乗せし、PFSで24.3ヵ月vs.10.4ヵ月(ハザード比:0.41、95%信頼区間:0.32~0.53、片側p<0.001)と大きな改善を認めた。一方、有害事象はpyrotinib群で14%と増加し、とくに下痢の増加が著しかった。下痢はHER2TKIの一般的な有害事象であり、pyrotinibで特別増加するということではなさそうである。 pyrotinibは中国国内でのみ開発されている薬剤であるが、それ以外にもこの試験を解釈するうえでいくつか注意すべきポイントがある。まず、世界的なHER2陽性転移乳がんの1次治療はペルツズマブ+トラスツズマブ+タキサン療法であるということである(Swain SM, et al. N Engl J Med. 2015;372:724-734.)。ペルツズマブの上乗せはPFSのみならずOSも延長する。一方、PHILA試験では中国国内での承認の関係からペルツズマブは使用されていない。さらに現在、抗体薬物複合体(antibody drug conjugate:ADC)であるトラスツズマブ デルクステカンの1次治療における有用性を検証するDESTINY-Breast09試験(NCT04784715)が実施されており、この結果次第ではHER2陽性転移乳がんの1次治療が変わる。 さらに、TKIについても以前から使用されているラパチニブに加えて、3次治療においてtucatinibのトラスツズマブ+カペシタビンへの上乗せがPFS、OSを延長するのみならず、脳転移に対して有効であることが示されている(Murthy RK, et al. N Engl J Med. 2020;382:597-609.)。さらにアップフロントでのADCとの併用の有効性に関する検証も行われている(NCT03975647、NCT04539938)。pyrotinibも重要な薬剤であるが、ペルツズマブやADCとの併用の有用性について検証されなければ、私たちの実臨床への影響は大きくないといえよう。

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ESMO2023 レポート 肺がん

レポーター紹介2023年のESMOはスペインのマドリードで開催されました。昨年・一昨年以上に参加人数が多かったようで、ポストコロナ時代の学会として大変盛況でした。さて、肺がん領域においてはPractice Changeにつながる可能性の高い重要な演題が多く発表されました。とくに、ここ2年間で劇的に進歩した肺がん周術期治療やEGFR・RETなどのdriver mutation陽性の進行例に対する新たな知見が複数報告されております。今回はその中から、7つの演題を取り上げ概括したいと思います。CheckMate77T試験切除可能なIIA~IIIB(N2)期の非小細胞肺がんを対象として、術前の化学療法を標準治療として、術前のニボルマブ+化学療法および術後のニボルマブ療法の優越性を検証した無作為化比較第III相試験である。CheckMate816試験を基に現在保険承認されている術前のニボルマブ+化学療法に術後1年間のニボルマブ療法を加えた、いわゆるサンドイッチレジメンである。主要評価項目は中央判定での無イベント生存期間(EFS)で、副次評価項目は中央判定での病理学的完全奏効(pCR)、中央判定での病理学的奏効(MPR)、全生存期間(OS)、安全性プロファイルが設定されていた。患者背景として、病期やPD-L1発現などはCheckMate816試験と同様であった。主要評価項目の結果としては、CheckMate816試験やほかのサンドイッチレジメンと同様にEFSを有意に延長し(ハザード比:0.58、95%信頼区間[CI]:0.42~0.81)、副次評価項目であるpCRやMPRも化学療法と比較して有意に良好であった(pCR:25.3% vs.4.7%、MPR:35.4% vs.12.1%)。EFSのサブ解析を見ても、おおむねどの集団においてもニボルマブ併用群で良好な結果であった。また、ほかのサンドイッチレジメンと同様にpCRやMPR別でのEFSの解析も行われ、こちらも今までと同様にpCRやMPRの有無でEFSに大きな差が認められた。安全性のデータも報告されたが、目新しい有害事象(AE)の報告はなく、過去の周術期ICIのレジメンと同様であった。本レジメンも将来的に保険承認されると予想されるが、ほかのペムブロリズマブやデュルバルマブなどのサンドイッチレジメンとの差別化が図れるようなデータは今回の報告からは見られなかった。ALINA試験本年のASCOで、EGFR遺伝子変異陽性肺がん完全切除例に対するオシメルチニブによる術後補助療法が、プラセボと比較してOSを有意に延長したことが大きな話題となったが、ESMOではALK遺伝子転座陽性非小細胞肺がんに対するアレクチニブの術後補助療法の有効性が報告された。UICC-7版でのIB~IIIA期のALK陽性非小細胞肺がんが対象で、標準治療であるプラチナ併用化学療法による補助療法に対するアレクチニブを2年間内服する術後補助療法の有効性を検証する無作為化比較第III 相試験である。主要評価項目は無病生存期間(DFS)で、副次評価項目はCNSのDFS、OS、安全性であった。主要評価項目はII~IIIA期で評価された後、ITT集団を対象として階層的に評価されるデザインであった。257例が登録されており、アジア人が約半数でIIIA期が約半数登録された試験であった。主要評価項目であるII~IIIA期DFSは、標準治療と比較してアレクチニブ群のハザード比は0.24(95% CI:0.13~0.45)であり、ITT集団を対象とした解析でもハザード比は0.24(95% CI:0.13~0.43)と、ともに主要評価項目を達成した。サブ解析でもほぼすべての集団でアレクチニブ群のDFSが良好であった。副次評価項目の1つであるCNSのDFSも、アレクチニブ群は標準治療と比較してハザード比は0.22(95%CI:0.08~0.58)と良好であった。再発後の治療はアレクチニブ群の約半数、標準治療群では約75%でALK-TKIが投与されており、今回の発表のデータカットオフ時点ではOSのイベントはわずか6例しか認められなかった。安全性は、Grade3以上は30%で治療関連の死亡は認められなかった。主なAEは、CPK上昇(約40%)、便秘(約40%)、AST上昇・ALT上昇(約40%前後)と、過去のALEX試験やJ-ALEX試験と同様のプロファイルであった。今回、DFSの良好な結果が報告されたが、オシメルチニブと同様にOSの延長にも寄与するかが今後期待される。ただ、ALK陽性肺がんの予後を考えると、数年後まで結果は出てこない可能性が高い。今回の結果からは、今後バイオマーカーの結果によって周術期治療戦略も進行期と同様に細分化されると考えられる。MARIPOSA試験EGFR遺伝子変異陽性の進行・再発非小細胞肺がんに対する1次治療として確立しているオシメルチニブを標準治療とした、無作為化比較第III相試験である。試験治療群はEGFRとMETの二重特異性抗体であるamivantamabと第3世代EGFR-TKIであるlazertinibの2剤併用療法もしくはlazertinib単剤の3群の比較試験で、主要評価項目はamivantamab・lazertinib併用療法のオシメルチニブに対する中央判定によるPFSであった。 1,074例が登録され、amivantamab・lazertinib併用療法、オシメルチニブ療法、lazertinib療法に、それぞれ2:2:1に割り付けられた。EGFR変異の種別はExon19欠失が60%でL858R点変異が40%、約40%が脳転移を有していた。主要評価項目のPFSはamivantamab・lazertinib併用群で中央値23.7ヵ月、オシメルチニブ群で中央値16.6ヵ月、ハザード比0.70(95%CI:0.58~0.85)と、amivantamab・lazertinib併用群のオシメルチニブに対するPFS延長効果が証明され、主要評価項目を達成した。サブ解析では、おおむねどの集団においてもamivantamab・lazertinib併用群で良好な結果であったが、65歳以上の集団ではハザード比1.06であった。奏効率(ORR)は併用群およびオシメルチニブ群ともに約85%で、OSは今回の中間解析時点では2年時点で5%約の差(75% vs.69%)で併用群が良好であった。有効性について有望な結果が得られたamivantamab・lazertinib併用群であったが、AEが強く発現する点に注意する必要がある。Grade3以上のAEは75%で、皮膚障害・粘膜障害についてもGrade3以上がamivantamab・lazertinib併用群で強く発現していた。さらに特筆すべきは静脈血栓症(VTE)で、オシメルチニブ群の9%と比較して併用群では37%と高く、発症時期は中央値で84日と比較的早期に発症することが特徴である。現在実施されているamivantamab・lazertinib併用の治験では、治療開始後4ヵ月間は予防的抗凝固療法が推奨されているとのことであった。今回、オシメルチニブに対するPFS延長を示したamivantamab・lazertinib併用療法であるが、AEが強く発現する点から、個人的には今後オシメルチニブに完全に置き換わるよりは、使い分けが重要となってくると予想する。MARIPOSA-2試験先述したMARIPOSA試験と同じセッションで発表された本試験は、オシメルチニブに対して病勢増悪を来したEGFR遺伝子変異陽性例を対象として、カルボプラチン+ペメトレキセドによる化学療法を標準治療として、amivantamab+lazertinib+化学療法の4剤併用療法もしくはamivantamab+化学療法の3剤併用療法の3群に割り付ける無作為化比較第III相試験で、657例が登録された。主要評価項目は中央判定による4剤併用療法と化学療法を比較するPFSと、3剤併用療法と化学療法を比較したPFSである。登録前のオシメルチニブは、70%が1次治療、30%が2次治療で投与されていた。主要評価項目のPFSの結果は、4剤併用療法群の中央値が8.3ヵ月、3剤併用療法群の中央値が6.3ヵ月、化学療法群の中央値が4.2ヵ月で、それぞれハザード比が0.44(95%CI:0.35~0.56)、0.48(95%CI:0.36~0.64)と、4剤併用療法、3剤併用療法ともに化学療法に対する有意なPFS延長効果を証明した。サブ解析においても、すべての集団でPFSは良好な結果であった。ORRは両群63%程度(化学療法は36%)で頭蓋内のPFSも両群とも良好であった(4剤併用:12.8ヵ月、3剤併用:12.5ヵ月、化学療法:8.3ヵ月)。AEは先述したMARIPOSA試験同様に注意すべき点である。とくにlazertinibを加えた4剤併用療法では、Grade3以上のAEは92%、治療関連死亡は5%に認めた。3剤併用療法はGrade3以上のAEが72%であった。なかでも好中球減少や血小板減少などの血球減少は多く見られ、吐き気や倦怠感、食欲不振といった自覚症状として出てくるAEも4剤併用療法や3剤併用療法で多く認められた。血球減少が多く見られたことから、4剤併用療法のレジメンが見直され、lazertinibはカルボプラチン終了後に開始となるレジメンにmodifyされた。この修正後のレジメンの有効性・安全性データは今後評価予定となっている。今回、オシメルチニブ後の治療として有望な結果が得られたが、効果と安全性のバランスを考えると3剤併用療法がより使いやすい印象はある。先述したMARIPOSA試験と併せて、EGFR遺伝子変異陽性の最適な治療シークエンスが今後検討されることであろう。LIBRETTO-431試験本試験は肺腺がんの1~2%に認められるRET融合遺伝子陽性の非扁平上皮非小細胞肺がんを対象として、RET阻害薬であるセルペルカチニブを試験治療として、カルボプラチン+ペメトレキセド(+ペムブロリズマブ:investigator choice)療法を標準治療とした無作為化比較第III相試験である。標準治療群に割り付けられても病勢増悪後にセルペルカチニブにクロスオーバーが可能な試験である。主要評価項目は中央判定によるPFSであった。PFSはITT集団とITT-pembrolizumab(ITT-P)集団という2つの対象で評価された。261例が2:1に割り付けられた。約20%に脳転移を認め、40%強がPD-L1発現を認めた。主要評価項目であるPFSはITT-P集団でハザード比0.465(95%CI:0.309~0.699)、ITT集団で0.482(95%CI:0.331~0.700)と、規定された2つの集団でセルペルカチニブのPFSの有意な延長効果が証明された。サブ解析ではPD-L1陰性例よりも陽性例で良好な結果であった。セルペルカチニブのORRは83.7%(標準治療群:65.1%)、頭蓋内のORRも82.4%(標準治療群:58.3%)と、ともに良好な結果であった。CNS転移の累積発生率で見ても、12ヵ月時点で標準治療群が約20%であるのに対して、セルペルカチニブ群は5.5%とCNS転移をしっかりと抑えていることが示された。AEについては、セルペルカチニブの承認の元になった第I/II相試験であるLIBRETTO-001試験と同様のプロファイルであった。Grade3以上のAEは約70%に認められ、頻度の高いAEはAST上昇(Grade3以上13%)、ALT上昇(Grade3以上22%)、高血圧(Grade3以20%)、下痢(Grade3以上:1%)であった。約80%の症例でセルペルカチニブの用量変更が必要であったことも特筆すべきことである。今回の第III試験の報告で、RET融合遺伝子陽性例の1次治療としてセルペルカチニブは確立したものとなったと考える。本試験の結果は発表と同時にNew England Journal of Medicine誌にpublishされたことも報告された。TROPION-Lung01試験既治療の進行・再発非小細胞肺がんを対象として、ドセタキセル療法を標準治療としたdatopotamab deruxtecan(Dato-DXd)の優越性を検証する無作為化比較第III相試験である。Dato-DXdはTROP2を標的とした抗体薬物複合体である。EGFRやALKなどのdriver mutationを有する症例について、標的治療およびプラチナ併用化学療法(+ICI)の治療を終えた症例であれば組み込むことは可能であった。主要評価項目は中央判定によるPFSとOSであった。604例が1:1に割り付けられ、非扁平上皮がんが約80%、EGFR遺伝子変異陽性例は約15%登録されていた。主要評価項目のPFSはDato-DXd群で中央値が4.4ヵ月、ドセタキセル群で中央値が3.7ヵ月、ハザード比は0.75(95%CI:0.62~0.91)とDato-DXdの有意なPFS延長効果が示された。ORRはDato-DXd群は26.4%、ドセタキセル群では12.8%と、こちらもDato-DXd群で良好であった。PFSのサブ解析で特筆すべきは組織型での差であった。非扁平上皮がんではDato-DXd群のハザード比が0.63であったのに対して、扁平上皮がんでは1.38と組織型でDato-DXd療法の有効性が異なることが示唆された。今回の中間解析時点でのOSはDato-DXd vs.ドセタキセルで0.90(95%CI:0.72~1.13)であり、今後のフォローアップデータが待たれるところである。治療期間の中央値はDato-DXdが4.2ヵ月、ドセタキセルは2.8ヵ月であった。Dato-DXdのAEについて、Grade3以上のAEは25%、減量を要した症例の割合は20%と、どちらもドセタキセルと比較して低い傾向にあった。頻度の多いAEは口内炎(47%)、吐き気(34%)、脱毛(32%)であった。またDato-DXdに特徴的なAEとしてドライアイや流涙などの眼関連のAEが19%に発生した。また、ILDは8%で、7例(2%)にILDによる治療関連死亡が発生したことも注意すべきAEとして取り上げたい。これらの結果から、既治療の非扁平上皮がんに対してDato-DXdが重要な治療選択肢になりうると結論付けられた。ACHILLES/TORG1834試験最後に、本邦からの重要な第III相試験の報告を紹介する。TORGを中心に全国の臨床試験グループが参加して行われたインターグループスタディであるACHILLES試験の結果が、新潟県立がんセンター新潟病院の三浦 理氏より報告された。本試験は、EGFR遺伝子変異の中でExon19欠失もしくはL858R点変異を除く、いわゆるuncommon変異を有する未治療例を対象として、標準治療をプラチナ+ペメトレキセド、試験治療をアファチニブとして、PFSを主要評価項目に設定した無作為化比較試験である。109例が登録され、標準治療群とアファチニブ群に1:2に割り付けられた。変異の種類としてはG719Xが約40%と最も多く、L861Qが約18%であった。複数のuncommon変異を同時に有するcompound変異は約30%であった。ベースの脳転移は約30%に認めた。主要評価項目のPFSはアファチニブ群の中央値が10.6ヵ月、標準治療群では5.7ヵ月で、ハザード比は0.422(95%CI:0.256~0.694)であり、アファチニブの有意なPFS延長効果が示された。ORRはアファチニブで61.4%、標準治療で47.1%とアファチニブで良好であった。安全性は過去のLUX-Lung試験と同様のプロファイルであった。uncommon変異に対する初めての第III相試験であり、OSの結果が待たれるところであるが、同対象への標準治療としてアファチニブの地位はほかのEGFR-TKIよりリードしたものと考える。終わりに今回のESMOでは、取り上げた演題以外にもMini Oralやポスター発表で非常に興味深い発表が多かったです。今回のレポートが、多くの先生の臨床にお役に立てれば幸いです。

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ESMO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年、スペインのマドリードで欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)が、現地時間10月20日~24日にハイブリッド開催で行われた。日本の先生からの演題も多数報告されていたが、今回は消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。胃がん周術期の免疫チェックポイント阻害薬#LBA74Pembrolizumab plus chemotherapy vs chemotherapy as neoadjuvant and adjuvant therapy in locally-advanced gastric and gastroesophageal junction cancer:The Phase III KEYNOTE-585 study本試験は、T3以上の深達度もしくはリンパ節転移陽性と診断を受けた胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する周術期治療として、術前・術後に化学療法+プラセボを3コースずつ行った後にプラセボを3週ごと11コース行う標準治療群と、術前・術後に化学療法+ペムブロリズマブ併用を3コースずつ行った後にペムブロリズマブを3週ごと11コース行う試験治療群を比較するランダム化二重盲検第III相試験である。国立がん研究センター東病院の設楽 紘平先生により結果が報告された。化学療法は、カペシタビン+シスプラチンまたは5-FU+シスプラチンを用いたメインコホートとFLOT療法を用いるFLOTコホートがあり、主要評価項目は全体の病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存期間(EFS)、メインコホートの全生存期間(OS)、FLOTコホートの安全性であった。全体で1,254例が登録され、メインコホートのペムブロリズマブ群402例とプラセボ群402例、FLOTコホートのペムブロリズマブ群100例とプラセボ群103例が登録された。メインコホートではアジアから約50%が登録され、PD-L1のCPS1以上は約75%、MSI-Hが約10%、StageIIIが約75%およびカペシタビン+シスプラチンが約75%であった。メインコホートのpCR率は、ペムブロリズマブ群の12.9%に対しプラセボ群では2.0%と、有意にペムブロリズマブ群で良好であった(p<0.0001)。pCR率のサブグループ解析では、PD-L1のCPS1未満でペムブロリズマブ群のpCR改善率が悪い傾向があり(4.2%の上乗せ)、MSI-H群ではペムブロリズマブ群のpCR率が有意に高かった(37.1%の上乗せ)。EFS中央値はペムブロリズマブ群で44.4ヵ月、プラセボ群で25.3ヵ月であり、事前に設定された統計設定を達成できなかった(HR:0.81、p=0.0198)。OS中央値はペムブロリズマブ群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR:0.90)。メインコホート+FLOTコホートにおける解析では、EFS中央値がペムブロリズマブ群で45.8ヵ月、プラセボ群で25.7ヵ月(HR:0.81)、OS中央値はペムブロリズマブ群で60.7ヵ月、プラセボ群で58.0ヵ月であった(HR:0.93)。重篤な毒性は全体では両群に有意差はなく、Grade3~4の免疫関連有害事象とインフュージョン・リアクションはペムブロリズマブ群で多い傾向があった。#LBA73Pathological complete response (pCR) to durvalumab plus 5-fluorouracil, leucovorin, oxaliplatin and docetaxel (FLOT) in resectable gastric and gastroesophageal junction cancer (GC/GEJC): interim results of the global, phase III MATTERHORN study本試験は、StageII、IIIおよびIVAの診断を受けた胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する周術期治療として、FLOT+プラセボ療法4コース後に手術を行い、術後FLOT+プラセボ4コース施行後プラセボを4週ごと10サイクル追加する標準治療群に対し、術前および術後のFLOT療法に対するデュルバルマブを上乗せし、終了後デュルバルマブを4週ごと行う試験治療群の優越性を検証したランダム化二重盲検第III相試験である。主要評価項目はEFS、副次評価項目は中央判定のpCR率、OSであり、今回は副次評価項目であるpCR率が報告された。日本を含む20ヵ国から948例が登録され、474例がFLOT+デュルバルマブ群に、474例がFLOT+プラセボ群に登録された。デュルバルマブ群では91%で手術が行われ、87%が切除を完遂し86%が術後化学療法を施行、プラセボ群では91%で手術が行われ、85%が切除を完遂し86%が術後化学療法を施行された。患者背景は両群で偏りがなく、胃がんが約70%で食道胃接合部がんは約30%、T1~2/T3/T4が約10%/約65%/約25%、臨床的リンパ節転移陽性が約70%、病理はdiffuse typeが約20%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は≦1%が約90%であった。副次評価項目である中央判定pCR率はデュルバルマブ群で19%、プラセボ群で7%と12%の上乗せとなり、統計学的有意差を認めた(オッズ比[OR]:3.08、95%信頼区間[CI]:2.03~4.67、p<0.00001)。pCRとnear pCRを合わせた改善率はデュルバルマブ群で27%、プラセボ群で14%と、13%の上乗せがあり、統計学的に有意な改善を認めた(OR:2.19、95%CI:1.58~3.04、p<0.00001)。サブグループ解析では全体にデュルバルマブ群で良好であったが、PD-L1発現1%未満の群ではpCR率の差が少ない傾向にあった。手術の完遂率・R0切除率・術式・リンパ節郭清の割合は両群で差がなかった。安全性に関しては両群とも新規の有害事象(AE)は認められなかった。周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験がASCO2022で、中国で行われた周術期capeOX/SOXにtoripalimabの上乗せを検証する試験がASCO2023で報告され、tumor regression grade rate(TRG rate)という病理学的効果を見る指標が改善する可能性が示唆されている。今回、2つの周術期の大規模第III相試験が報告され、術前治療における免疫チェックポイント阻害薬の併用はpCR率を改善することが報告された。しかし、KEYNOTE-585試験では、ほかの主要評価項目であるEFSは統計学的に改善せず、OSもほぼ同等であった。今まで大規模第III相試験で、免疫チェックポイント阻害薬の追加でEFSやOSを改善した報告はなく、胃がん周術期の免疫チェックポイント阻害薬が予後を改善するかはまだ明らかではない。MATTERHORN試験の今後の解析や他研究を含め、PD-L1やMSIを含む、さらなるバイオマーカー研究が待たれる。HER2陽性進行胃がん1次治療へのペムブロリズマブ#1511OPembrolizumab plus trastuzumab and chemotherapy for HER2+ metastatic gastric or gastroesophageal junction (mG/GEJ) adenocarcinoma: Survival results from the phase III, randomized, double-blind, placebo-controlled KEYNOTE-811 studyKEYNOTE-811試験はHER2陽性の切除不能進行胃がんを対象に、標準治療である化学療法+トラスツズマブに対するペムブロリズマブの上乗せを検証する、プラセボ対照ランダム化二重盲検第III相試験である。2021年9月に副次評価項目の1つである奏効率(ORR)に関する報告がNature誌に掲載され、標準治療群の51.9%に対してペムブロリズマブの併用で74.4%と、22.5%の上乗せと統計学的有意差を認めていた。今回、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)とOSについて第3回中間解析(追跡期間中央値:38.5ヵ月)の報告がなされた。698例が、ペムブロリズマブ群350例、ブラセボ群348例に割り付けられた。第2回中間解析における全体集団においてペムブロリズマブ群はプラセボ群に対してPFS(10.0ヵ月vs.8.1ヵ月)に有意な改善を認めた(HR:0.73、p=0.0002)。PD-L1が≦1の症例においては、さらなる改善傾向を認めた(10.9ヵ月vs.7.3ヵ月、HR:0.71)。第3回中間解析の結果が示され、全体集団におけるOSは20.0ヵ月vs.16.8ヵ月(HR:0.84)であったが、統計学的なp値は示されなかった。PD-L1≦1の症例においては、PFSと同様にOSも改善傾向を認めた(20.0ヵ月vs.15.7ヵ月、HR:0.81)。まだイベントが少なく、OSは追加解析中である。ORRは73% vs.60%でありペムブロリズマブ群で13%の上乗せを認めた。今回の検討で、OSは全体集団で統計学的有意な改善を示さなかった。しかし、ORRの改善や、PFSは全体集団で有意な改善を認め、OSもPD-L1≦1症例では良好な結果が報告された。しかし、Lancet誌で論文化された結果を見ると、第2回中間解析でOSの延長は統計学的有意差を示せなかった。またディスカッションで述べられていたが、PD-L1がCPS1未満では、逆にペムブロリズマブ群でOSが不良であったことが示されている。以上よりEUではPD-L1 CPS1以上においてのみペムブロリズマブ併用が承認され、米国FDAも同様の基準に承認が変更されている。本邦ではまだ保険適用外であるが、治療効果が高いレジメンであり、承認されればHER2陽性胃がんの1次治療が大きく変化する。今後、本邦での承認の可否や承認された場合の適応条件を含め注目される。MSI-H胃がん1次治療のイピリブマブ+ニボルマブ#1513MOA Phase II study of Nivolumab plus low dose Ipilimumab as 1st line therapy in patients with advanced gastric or esophago-gastric junction MSI-H tumor:First results of the NO LIMIT study (WJOG13320G/CA209-7W7)本研究は本邦で行われた、MSI-High切除不能進行再発胃がんに対する1次治療としてのイピリムマブ+ニボルマブ(Ipi/Nivo)の有効性と安全性を探索した単群第II相試験である。主要評価項目はORR、副次評価項目は病勢コントロール率(DCR)、PFS、OS、奏効期間(DOR)、安全性であり、今回、主要評価項目であるORRの結果が愛知県がんセンター薬物療法部の室 圭先生より報告された。スクリーニング試験であるWJOG13320GPS試験が並行して行われており、2020年11月~2022年8月の期間に国内75施設から進行胃がん935例がスクリーニングされた。そのうちMSI-Highと診断された症例のうち29例が本試験に登録された。3例が完全奏効、15例が部分奏効を達成し、ORRは62.1%(95%CI:42.3~79.3)で事前の統計学的設定に達し、主要評価項目を達成した。DCRは79.3%、追跡期間中央値9.0ヵ月時点のPFS中央値は13.8ヵ月(95%CI:13.7~未達)、DORとOSは未到達、12ヵ月PFS率は73%、OS率は80%であった。Grade3のAEが11例、Grade4が1例発現したが、治療関連死は認めず、既存の研究と異なるAEは認めなかった。21例で治療が中止され、治療中止の最も多い理由はAE(13例)であった。進行胃がんの中でおよそ5%といわれるMSI-Highを対象にしており、スクリーニング研究を含め、本邦の多くの先生が協力して完遂されたことにまずは拍手を送りたい試験である。既報のCheckMate 649試験でもMSI-High群では免疫チェックポイント阻害薬の併用効果がきわめて高いことが知られており、MSI-Highは胃がん1次治療前の治療選択に重要なバイオマーカーであると考えられる。また、Ipi/Nivoは食道がんにおけるCheckMate 648試験でも長期生存につながる症例が他治療より多い可能性が示唆されており、胃がんにおいてもそのような対象があるかもしれない。もちろんIpi/Nivoは胃がんにおいて本邦では保険適用外であるが、本研究の長期フォローアップの結果やバイオマーカーの解析結果が期待される。RAS/BRAF野生型+左側原発大腸がんのm-FOLFOXIRI+セツキシマブ#555MOModified (m)-FOLFOXIRI plus cetuximab treatment and predictive clinical factors for RAS/BRAF wild-type and left-sided metastatic colorectal cancer (mCRC):The DEEPER trial (JACCRO CC-13)本試験は本邦で行われた大規模なランダム化第II相試験である。主要評価項目であるDpR(最大腫瘍縮小率)はASCO2021で有意な改善が報告されている。今回、聖マリアンナ医科大学腫瘍内科講座の砂川 優先生よりRAS/BRAF野生型かつ左側のサブグループ解析結果が報告された。RAS/BRAF野生型、左側の大腸がんにおいてDpRとPFSはいずれもm-FOLFOXIRI+セツキシマブ群においてm-FOLFOXIRI+ベバシズマブ群より良好であった(DpR中央値: 59.2% vs.47.5%、p=0.0017、PFS:14.5ヵ月vs.11.9ヵ月、HR:0.71、p=0.032)。またPFSにおけるサブグループ解析では男性、R0/1切除ができなかった症例、および肝限局以外の症例においてセツキシマブ群で良好な傾向があった。とくに肝限局転移例ではPFSは両群で有意差を認めなかった(14.5ヵ月vs.15.5ヵ月、HR:0.86、p=0.62)ものの、それ以外ではセツキシマブ群でPFSの改善を認めた(15.1ヵ月vs.11.4ヵ月、HR:0.63、p=0.015)。今回のサブグループ解析は、本邦の実臨床における実際と合致した対象で、期待できる効果が示された。深い奏効が期待できるため、個人的には詳細なゲノム検査が困難な、若いRAS/BRAF野生型大腸がん症例に期待したい治療である。次回のガイドラインの記載が注目される。KRAS G12C変異大腸がんへのソトラシブ+パニツムマブ#LBA10 Sotorasib plus panitumumab versus standard-of-care for chemorefractory KRAS G12C-mutated metastatic colorectal cancer (mCRC):CodeBreak 300 phase III study肺がんなどを中心に、新たに注目されているバイオマーカーであるKRAS G12Cに対する治療開発が進んでいる。大腸がんでは約3%の症例でKRAS G12C変異を認めるといわれており、ソトラシブ+パニツムマブは先行する第I相試験でORRが30%と期待できる結果を示していた。今回、1レジメン以上の治療を受けたKRAS G12C変異陽性切除不能進行再発大腸がんに対して、ソトラシブ+パニツムマブと標準治療(トリフルリジン・チピラシルもしくはレゴラフェニブ)を比較する第III相試験の結果が報告された。主要評価項目はPFS、主な副次評価項目はORRとOSで、160例がソトラシブ960mg/日+パニツムマブ(53例)と、ソトラシブ240mg/日+パニツムマブ(53例)、そして標準治療(54例)に1対1対1で割り付けられた。約90%が2レジメン以上、オキサリプラチン、フッ化ピリミジン、イリノテカン、血管新生阻害薬による治療を受けていた。主要評価項目であるPFSはソトラシブ960mg群、ソトラシブ240mg群、標準治療群でそれぞれ5.6ヵ月(HR:0.49、p=0.006)vs.3.9ヵ月(HR:0.58、p=0.03)vs.2.2ヵ月であり、ソトラシブ群で有意に改善を認めた。ORRはそれぞれ26% vs.6% vs.0%であり、ベースラインよりも腫瘍が縮小した症例の割合は81% vs.57% vs.20%であった。OSはイベント発生数がまだ約40%と未達で、8.1ヵ月vs.7.7ヵ月vs.7.8ヵ月であった。主なGrade3以上の毒性はソトラシブ群でざ瘡様皮疹(960mg群11% vs.240mg群4%)、皮疹(6% vs.2%)、下痢(4% vs.6%)、低マグネシウム血症(6% vs.8%)であり、標準治療群では好中球減少(24%)、貧血(6%)、嘔気(2%)であった。研究者らは、KRAS G12C変異を有する大腸がんに対してソトラシブ960mg/日+パニツムマブが新しい標準治療になる可能性があると結論付け、本結果はNEJM誌にも掲載された。PFSやORRは期待できる結果を示しているが、肺がんではソトラシブ単剤で28.1~37.1%のORRが報告されており、大腸がんではパニツムマブ併用ながら、やや劣る奏効である。またOSはそれほど差がなく、標準治療群でソトラシブをクロスオーバーして使用しているのかなど、後治療の影響があるのかも含めた長期フォローの結果が待たれる。いずれにせよ、希少な対象の薬剤であり、本邦でも早期にKRAS G12C変異陽性大腸がん患者に届けられるようになることが期待される。転移膵がん1次療法、ゲムシタビン+nab-パクリタキセル#1616ONab-paclitaxel plus gemcitabine versus modified FOLFIRINOX or S-IROX in metastatic or recurrent pancreatic cancer (JCOG1611, GENERATE):A multicentred, randomized, open-label, three-arm, phase II/III trial切除不能進行膵がんにおける1次化学療法の標準治療は(modified)FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+nab-パクリタキセル(GnP)療法であるが、直接比較した大規模第III相試験はいまだなかった。今回、本邦でmFOLFIRINOX療法とGnP療法およびS-IROX療法(S-1、イリノテカン、オキサリプラチン)を比較する第II/III相試験であるGENERATE試験(JCOG1611)が行われ、国立がん研究センター中央病院の大場 彬博先生より結果が報告された。主要評価項目はOS、副次評価項目はPFS、ORRおよび安全性であった。PS0~1の症例を対象に、2019年4月~2023年3月に国内45施設から527例が登録され、GnP群(176例)、mFOLFIRINOX群(175例)、S-IROX群(176例)に1対1対1で割り付けられた。主要評価項目のOSはGnP群17.1ヵ月、mFOLFIRINOX群14.0ヵ月(HR:1.31、95%CI:0.97~1.77)、S-IROX群13.6ヵ月(HR:1.35、95%CI:1.00~1.82)であった。中間解析にて最終解析における優越性達成予測確率はmFOLFIRINOX群0.73%、S-IROX群0.48%とGnP群を上回る可能性がほとんどないため、本試験は中止となった。PFSはGnP群6.7ヵ月、mFOLFIRINOX群5.8ヵ月(HR:1.15、95%CI:0.91~1.45)、S-IROX群6.7ヵ月(HR:1.07、95%CI:0.84~1.35)、ORRはGnP群35.4%、mFOLFIRINOX群32.4%、S-IROX群42.4%であった。Grade3以上のAEで多かったものは好中球減少症で、GnP群60%、mFOLFIRINOX群52%、S-IROX群39%で認められた。食欲不振(5% vs.23% vs.28%)、下痢(1% vs.9% vs.23%)は、GnP群よりもmFOLFIRINOX群、S-IROX群で多く認められた。本研究は膵がんの実臨床に対する非常に重要な試験であり、今回の結果を鑑みると本邦における切除不能膵がんに対する1次治療の標準治療はGnP療法であると考えられる。本邦の現状では1次治療でGnP療法を行い、2次治療でナノリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナートを行うことが推奨されているが、2023年のASCOでナノリポソームイリノテカンを使ったNALIRIFOX療法のGnP療法に対する優越性が報告されている。本邦ではNALIRIFOX療法は保険適用外であるが、今後本邦での承認を含めた状況が注目される。

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HER2陽性転移のある乳がんの1次治療、pyrotinib併用でPFS改善/BMJ

 未治療のHER2陽性転移のある乳がんの治療において、pyrotinib(不可逆汎HERチロシンキナーゼ阻害薬)+トラスツズマブ+ドセタキセルは、プラセボ+トラスツズマブ+ドセタキセルと比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善し、毒性は管理可能であることが、中国医学科学院北京協和医学院癌研究所のFei Ma氏らが実施した「PHILA試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2023年10月31日号で報告された。中国の無作為化プラセボ対照第III相試験 PHILA試験は、中国の40施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2019年5月~2022年1月に患者のスクリーニングを行った(中国・Jiangsu Hengrui Pharmaceuticalsなどの助成を受けた)。 年齢18~75歳、HER2陽性の再発または転移のある乳がんで、全身療法を受けていない女性患者を、トラスツズマブ+ドセタキセル(21日を1サイクルとして1日目に静脈内投与)に加え、pyrotinibまたはプラセボを1日1回経口投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要評価項目は、担当医判定によるPFS(無作為化から、画像上での最初の病勢進行または全死因死亡のうち先に発生したイベントまでの期間)とした。 590例を登録し、pyrotinib群に297例(年齢中央値52歳[四分位範囲[IQR]:46~58])、プラセボ群に293例(52歳[46~57])を割り付けた。今回の中間解析のデータカットオフ日(2022年5月25日)の時点で、追跡期間中央値は15.5ヵ月だった。二重のHER2阻害の有効性を示唆 担当医判定によるPFS中央値は、プラセボ群が10.4ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.3~12.3)であったのに対し、pyrotinib群は24.3ヵ月(19.1~33.0)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.32~0.53、片側p<0.001)。 12ヵ月の時点での推定無増悪生存率は、pyrotinib群が74.3%(95%CI:68.1~79.5)、プラセボ群が44.0%(37.5~50.3)、24ヵ月時はそれぞれ50.3%(41.9~58.1)、16.6%(10.7~23.7)であった。 また、独立審査委員会判定によるPFS中央値は、プラセボ群の10.4ヵ月(95%CI:10.2~12.2)に比べ、pyrotinib群は33.0ヵ月(19.4~未到達)と有意に優れた(HR:0.35、95%CI:0.27~0.46、片側p<0.001)。 客観的奏効は、プラセボ群では207例(71%、95%CI:65~76)で得られたのに対し、pyrotinib群では246例(83%、78~87)で達成され、有意差を認めた(群間差:12.2%、95%CI:5.4~18.9、層別片側p<0.001)。完全奏効は、pyrotinib群19例(6%)、プラセボ群8例(3%)であった。 Grade3以上の治療関連有害事象は、pyrotinib群で267例(90%)、プラセボ群で224例(76%)に発現し、好中球数の減少(pyrotinib群63%、プラセボ群65%)、白血球数の減少(53%、51%)、下痢(46%、3%)の頻度が高かった。治療関連死は、pyrotinib群では発生しなかったが、プラセボ群で1例(<1%、糖尿病性高浸透圧性昏睡)に認めた。 著者は、「これらの知見は、モノクローナル抗体と低分子チロシンキナーゼ阻害薬による二重のHER2阻害が、HER2陽性転移のある乳がんの1次治療の選択肢となる可能性を支持するものである」としている。

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日本人乳がん患者におけるHER2低発現の割合・特徴(RetroBC-HER2L)/日本癌治療学会

 HER2低発現(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)の乳がん患者に対する治療薬の臨床的ベネフィットが示され、その割合や治療パターン、転帰などについて理解を深めることが求められる。HER2陰性転移乳がんにおけるHER2低発現患者の割合を10ヵ国13施設で評価したRetroBC-HER2L試験の日本人解析結果を、昭和大学病院の林 直輝氏が第61回日本癌治療学会学術集会(10月19~21日)で発表した。日本からは3施設が参加している。・対象:2014年1月~2017年12月に切除不能および/または転移を有するHER2陰性(IHC 0、1+、2+/ISH-)乳がんと診断され治療を受けた患者・評価項目:[主要評価項目]過去のHER2固定組織スライドを実施医療機関の検査室で(ベンタナ4B5または他の検査法を用いて)再評価した結果に基づくHER2低発現の割合、ベースライン特性、治療パターン、アウトカム(治療成功期間[TTF]、最初の後治療開始または死亡までの期間[TFST]、全生存期間[OS])[副次評価項目]HER2低発現の病理組織学的・臨床病理学的特徴、過去のHER2検査と再検査結果の一致状況など 主な結果は以下のとおり。・日本人サブセットには155例が組み入れられ、ホルモン受容体陽性(HR+)が120例/陰性(HR-)が35例、HER2再検査にベンタナ4B5が用いられたのが130例/その他の検査法が25例だった。・再評価の結果、過去にHER2陰性と評価された患者におけるHER2低発現の患者の割合は61.3%(155例中95例)だった(全体集団では67.2%)。ホルモン受容体の状態ごとにみると、HR+患者の68.3%(120例中82例)、HR-患者の37.1%(35例中13例)が該当した。なお検査法別にみると、ベンタナ4B5で63.8%(130例中83例)、その他の検査法で48.0%(25例中12例)だった。・HER2低発現とHER2 IHC 0の患者の間で、年齢中央値(HR+:56.5歳vs.55.0歳、HR-:50.0歳vs.47.0歳)、閉経状態(閉経後がHR+:63.4% vs.65.8%、HR-:53.8% vs.40.9%)のほか、ベースラインでの転移箇所や転移個数について有意な差はみられなかった。・治療パターンについては、一次治療としてHR+では内分泌療法単独が53.4% vs.66.7%、HR-では単剤化学療法が45.5% vs.38.9%用いられていた。・アウトカムについて、TTF中央値(HR+:5.6ヵ月vs.6.0ヵ月、HR-:3.7ヵ月vs.3.8ヵ月)およびTFST中央値(HR+:8.3ヵ月vs.6.0ヵ月、HR-:4.1ヵ月vs.5.0ヵ月)はホルモン受容体の状況によらずHER2発現による顕著な差はみられなかったが、OS中央値はHER2 IHC 0かつHR-(トリプルネガティブ乳がん)で短い傾向がみられた(HR+:38.7ヵ月vs.32.4ヵ月、HR-:29.8ヵ月vs.14.4ヵ月)。・過去のHER2検査と再検査結果の一致率は82.6%(κ=0.636)。過去にHER2 IHC 0と診断された症例の陽性一致率は76.2%(63例中48例)、過去にHER2低発現と診断された症例の陽性一致率は87.0%(92例中80例)となり、IHC 0がHER2低発現と再評価される頻度よりもHER2低発現がIHC 0と再評価される頻度のほうが低いという点で、全体集団と同様の傾向がみられた。・ベンタナ4B5が用いられた症例についてみると、過去にHER2 IHC 0と診断された症例の陽性一致率は72.4%(54例中39例)、過去にHER2低発現と診断された症例の陽性一致率は89.5%(76例中68例)となり、過去にHER2 IHC0と診断された約3人に1人がトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の治療適応になりうるHER2低発現と再評価される可能性があり、適切な治療選択のためにHER2発現の再評価を考慮すべきことが示された。

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HER2+乳がん脳転移例、T-DXdで高い頭蓋内奏効率とCNS-PFS改善(DESTINY-Breast01、02、03プール解析)/ESMO2023

 トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)のDESTINY-Breast01、02、03試験において、ベースライン時に脳転移のあったHER2陽性乳がん患者の探索的プール解析の結果、既治療で安定した脳転移患者および未治療で活動性の脳転移患者で高い頭蓋内奏効率(ORR)が示された。また、中枢神経系無増悪生存期間(CNS-PFS)は、とくに未治療で活動性の脳転移患者において顕著な改善がみられた。米国・Fred Hutchinson Cancer Center, University of WashingtonのSara A. Hurvitz氏が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で発表した。・対象:DESTINY-Breast01、02試験(トラスツズマブ エムタンシンに抵抗性または不応例)およびDESTINY-Breast03試験(トラスツズマブおよびタキサン系抗がん剤による既治療例)で、ベースライン時に脳転移のあったHER2陽性乳がん患者・方法:ベースライン時に既治療で安定した脳転移患者と未治療で活動性脳転移患者に分け、T-DXd群と対照薬群で比較・評価項目:盲検下独立中央判定(BICR)による頭蓋内ORR(頭蓋内完全奏効[CR]/部分奏効[PR])、頭蓋内奏効期間(DOR)、BICRによるCNS-PFS、安全性 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時に脳転移のあった患者はT-DXd群148例、対照薬群83例、そのうち再発乳がんがそれぞれ85例、51例だった。脳転移患者での前治療歴の中央値は3レジメン(範囲:1.0~14.0)だった。・頭蓋内ORRは、既治療で安定した脳転移患者においてT-DXd群が45.2%(CR:17例/PR:30例)、対照薬群が27.6%(CR:2例/PR:14例)、未治療の活動性脳転移患者においてT-DXd群が45.5%(CR:7例/PR:13例)、対照薬群が12.0%(CR:0例/PR:3例)と、どちらもT-DXd群が高かった。・頭蓋内DOR中央値は、既治療で安定した脳転移患者において、T-DXd群12.3ヵ月vs.対照薬群11.0ヵ月、未治療の活動性転移患者ではT-DXd群17.5ヵ月vs.対照薬群NAだった。・CNS-PFS中央値は、既治療で安定した脳転移患者ではT-DXd群12.3ヵ月vs.対照薬群8.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.5905、95%信頼区間[CI]:0.3921~0.8895)、未治療の活動性脳転移患者で18.5ヵ月vs.4.0ヵ月(HR:0.1919、95%CI:0.1060~0.3473)と、どちらもT-DXd群で延長し、とくに未治療の活動性脳転移患者で顕著だった。・脳転移患者におけるT-DXdの安全性プロファイルは認容可能で管理可能であり、全患者集団と同等であった。 Hurvitz氏は「T-DXdは、HER2陽性で既治療で安定した脳転移患者および未治療で活動性脳転移患者に対して有効で、許容可能で管理可能な安全性プロファイルを持つ治療オプションである」と結論した。

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HER2+胃がん1次治療、ペムブロリズマブ上乗せでPFS改善(KEYNOTE-811)/Lancet

 未治療の転移のあるHER2陽性胃・食道胃接合部腺がん患者において、1次治療であるトラスツズマブおよび化学療法へのペムブロリズマブ上乗せ併用は、プラセボと比較し無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、とくにPD-L1陽性(CPS 1以上)患者で顕著であった。米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのYelena Y. Janjigian氏らが、20ヵ国168施設で実施された第III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験「KEYNOTE-811試験」の第2回および第3回の中間解析結果を報告した。KEYNOTE-811試験の第1回中間解析では、奏効率に関してペムブロリズマブ群のプラセボ群に対する優越性が示されていた。Lancet誌オンライン版2023年10月20日号掲載の報告。主要評価項目はPFSとOS 研究グループは、未治療の局所進行または転移のあるHER2陽性胃・食道胃接合部腺がんで、RECIST v1.1による測定可能病変を有しECOG PSが0または1の18歳以上の患者を、ペムブロリズマブ群またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。層別因子は、地域、PD-L1 CPSおよび医師が選択した化学療法であった。 両群とも、トラスツズマブおよび、フルオロウラシル+シスプラチンまたはカペシタビン+オキサリプラチンとの併用下で、3週ごとに最大35サイクル、または病勢進行、許容できない毒性発現、治験責任医師の判断または患者の同意撤回による中止まで投与した。 主要評価項目は、PFSおよび全生存期間(OS)で、ITT解析を行った。安全性は、無作為化され1回以上投与を受けたすべての患者を対象に評価した。ペムブロリズマブ群でPFSは有意に延長、OSは延長するも有意水準を満たさず 2018年10月5日~2021年8月6日の期間に計698例がペムブロリズマブ群(350例)またはプラセボ群(348例)に割り付けられた。564例(81%)が男性、134例(19%)が女性であった。第3回中間解析時は、投与を受けたペムブロリズマブ群350例中286例(82%)、プラセボ群346例中304例(88%)が投与を中止しており、そのほとんどは病勢進行によるものであった。 第2回中間解析(追跡期間中央値:ペムブロリズマブ群28.3ヵ月[四分位範囲[IQR]:19.4~34.3]、プラセボ群28.5ヵ月[20.1~34.3])において、PFS中央値はそれぞれ10.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:8.6~11.7)、8.1ヵ月(7.0~8.5)であり(ハザード比[HR]:0.72、95%CI:0.60~0.87、p=0.0002[優越性の有意水準:p=0.0013])、OS中央値は20.0ヵ月(95%CI:17.8~23.2)、16.9ヵ月(15.0~19.8)であった(HR:0.87、95%CI:0.72~1.06、p=0.084)。PD-L1発現がCPS 1以上の患者では、PFS中央値はペムブロリズマブ群10.8ヵ月、プラセボ群7.2ヵ月であった(HR:0.70、95%CI:0.58~0.85)。 第3回中間解析(追跡期間中央値:ペムブロリズマブ群38.4ヵ月[IQR:29.5~44.4]、プラセボ群38.6ヵ月[30.2~44.4])では、PFS中央値はそれぞれ10.0ヵ月(95%CI:8.6~12.2)、8.1ヵ月(7.1~8.6)であり(HR:0.73、95%CI:0.61~0.87)、OS中央値は20.0ヵ月(95%CI:17.8~22.1)、16.8ヵ月(15.0~18.7)であった(HR:0.84、95%CI:0.70~1.01)。OSは有意性の水準を満たさなかったが、その後の治療がOSの評価に影響を与える可能性があることから、事前に規定された最終解析計画は変更せず試験は継続されている。 Grade3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で350例中204例(58%)、プラセボ群で346例中176例(51%)に発現した。死亡に至った治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ群で4例(1%)(肝炎、敗血症、脳梗塞、肺炎が各1例)、プラセボ群で3例(1%)(心筋炎、胆管炎、肺塞栓症が各1例)に認められた。すべての治療関連有害事象で最も多く見られたのは、下痢(ペムブロリズマブ群165例[47%]、プラセボ群145例[42%])、悪心(それぞれ154例[44%]、152例[44%])、貧血(109例[31%]、113例[33%])であった。

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HER2低発現乳がんへのT-DXd、32ヵ月でのOS・PFS・安全性(DESTINY-Breast04)/ESMO2023

 化学療法歴を有するHER2低発現の切除不能または転移のある乳がん患者に対して、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)と治験医師選択による化学療法(TPC)を比較した第III相DESTINY-Breast04試験において、より長い追跡期間(中央値32ヵ月)で評価した全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、安全性を、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのShanu Modi氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で発表した。・対象:HER2低発現(IHC 1+またはIHC 2+/ISH-)で、1~2ラインの化学療法歴のある切除不能および/または転移を有する乳がん患者(HR+の場合は内分泌療法抵抗性)557例・試験群(T-DXd群):T-DXdを3週間間隔で5.4mg/kg投与 373例・対照群(TPC群):治験医師選択の化学療法(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、ナブパクリタキセルのいずれか)184例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるHR+例のPFS[副次評価項目]BICRによる全例のPFS、治験医師によるHR+例および全例のPFS、HR+例および全例のOS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・今回のデータカットオフ(2023年3月1日)時点での追跡期間中央値は32.0ヵ月だった。・OS中央値は、HR+例でT-DXd群23.9ヵ月vs.TPC群17.6ヵ月でHRが0.69(95%信頼区間[CI]:0.55~0.87)、全例で22.9ヵ月vs.16.8ヵ月でHRは0.69(95%CI:0.55~0.86)と、共にT-Dxd群で有意に改善した。・治験医師によるPFS中央値は、HR+例でT-DXd群9.6ヵ月vs.TPC群4.2ヵ月でHRが0.37(95%CI:0.30~0.46)、全例で8.8ヵ月vs.4.2ヵ月でHRは0.36(95%CI:0.29~0.45)と、共にT-DXd群で有意に改善した。・HR-例におけるOS中央値は、T-DXd群17.1ヵ月vs.TPC群8.3ヵ月でHRが0.58(95%CI:0.31~1.08)、治験医師によるPFS中央値は6.3ヵ月vs.2.9ヵ月でHRは0.29(95%CI:0.15~0.57)だった(探索的解析)。・Grade3以上の治療下での有害事象(TEAE)の発現率は、T-DXd群54.4%、TPC群67.4%だった。・治療中止関連のTEAEで多くみられたのは、T-DXd群で間質性肺疾患/肺臓炎(10.2%)、TPC群で末梢感覚神経障害(2.3%)だった。・減量関連のTEAEで多くみられたのは、T-DXd群では悪心(4.6%)および血小板数減少(3.0%)、TPC群で好中球数減少(10.5%)および手足症候群(5.2%)だった。・全GradeのTEAEの曝露調整後発現率は、T-DXd群1.2%、TPC群2.6%だった。・安全性プロファイルは初回解析結果と同様であり、薬物関連間質性肺疾患/肺臓炎は初回解析以降の新たな報告はなかった。 Modi氏は「今回の結果から、HR発現の有無にかかわらず、これまでに示されているHER2低発現の転移乳がんに対するT-DXdの持続的で臨床的に意義のある改善が確認された。治療期間が長くなっても、全体的な安全性プロファイルは忍容可能でおおむね管理可能だった」とまとめた。

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HER2陽性胃がん、トラスツズマブ+化学療法のペムブロリズマブ上乗せは3年時も有用(KEYNOTE-811)/ESMO2023

 進行胃がんにおける免疫チェックポイント阻害薬の有効性は化学療法との併用においてより効果を発揮することが示唆されており、最適なレジメンが検討されている。第III相KEYNOTE-811試験は、胃・胃食道接合部がん1次治療としてのペムブロリズマブ+トラスツズマブ+化学療法の有用性を示し、この結果を基に米国食品医薬品局(FDA)は2021年5月に本レジメンを承認している。2023年10月の欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2023)で、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのYelena Y. Janjigian氏が本試験の第3回中間解析結果を発表、同日にLancet誌に掲載された。・対象:未治療のHER2陽性胃・胃食道接合部がん、PS0~1・試験群:ペムブロリズマブ200mg+トラスツズマブ+標準化学療法(フルオロピリミジンおよびプラチナ製剤)を3週間ごと最大35サイクル(ペムブロ群)・対照群:プラセボ+トラスツズマブ+標準化学療法(プラセボ群)・評価項目:[主要評価項目]無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性 主な結果は以下の通り。・698例がペムブロ群350例、ブラセボ群348例に割り付けられた。年齢中央値62歳、81%が男性であった。・第3回中間解析(追跡期間中央値:38.5ヵ月)において、全例でペムブロ群はプラセボ群に対してPFSを有意に改善した。PFS中央値はペムブロ群10.0ヵ月(95%信頼区間[CI]:8.6~12.2)対プラセボ群8.1ヵ月(95%CI:7.1~8.6)、ハザード比(HR)0.73(95%CI:0.61~0.87、p=0.0002)であった。PD-L1<1の症例においては、この差はさらに開いた(10.9ヵ月対7.3ヵ月、HR:0.71、95%CI:0.59~0.86)。・全生存期間中央値は20.0ヵ月(95%CI:17.8~22.1)対16.8ヵ月(95%CI:15.0~18.7)、HR 0.84(95%CI:0.70~1.01)で、事前に規定された基準を満たさなかった。・Grade3以上の薬物関連有害事象はペムブロ群58%対プラセボ群50%、Grade5(死亡)は4例(1.1%)対3例(0.9%)で発現した。・ORRはペムブロ群73%対プラセボ群60%、DORは11.3ヵ月対9.5ヵ月であった。 Janjigian氏は「本試験は、切除不能でHER2陽性胃がん、とくにPD-L1高発現の患者において本レジメンによる1次療法の有用性を強く支持するものであり、毒性はこれまで報告されていたものと同様だった。OSは引き続き解析を行い、最終解析として報告予定」とした。この結果を受け、欧州医薬品庁(EMA)は PD-L1<1の患者を対象に同レジメンを承認しており、ESMOガイドラインも同日にアップデートされた。

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アントラサイクリン系薬剤による心機能障害をアトルバスタチンは抑制したがプラセボとの差はわずかであった(解説:原田和昌氏)

 近年、Onco-cardiologyが注目されており、がん化学療法に伴う心毒性を抑制できる薬剤の探索が行われている。動物実験や小規模なランダム化比較試験では、アントラサイクリン系薬剤による左室駆出率(LVEF)低下に対する、アトルバスタチンの抑制作用が報告されていたが、乳がんを中心としたPREVENT試験では効果を示せなかった(ドキソルビシン換算の中央値、240mg/m2)。 リンパ腫患者においてアトルバスタチン(40mg/日)の投与はプラセボと比較して、アントラサイクリン系薬剤に関連する心機能障害を有意に抑制し、心不全の発生には有意な差がないことが、二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験であるSTOP-CA試験で示された(同、300mg/m2)。主要評価項目はLVEFが化学療法前後で絶対値において10%以上低下し、12ヵ月後に55%未満となった患者の割合で、プラセボ群22%対アトルバスタチン群9%であった(p=0.002)。しかし、群全体としてのEF低下幅はスタチン群4.1%で、プラセボ群5.4%との差は1.3%のみであった(p=0.029)。 がん化学療法の心毒性に対する抑制効果のメタ解析では、スピロノラクトン、エナラプリルが最も有効で、スタチン、β遮断薬がこれに続いた。また、アントラサイクリン系薬剤もしくはトラスツズマブ治療を受けた患者のコホート研究では、ACE阻害薬、β遮断薬の治療にて全死亡が少なかった。さらに、アントラサイクリン系薬剤治療に関するメタ解析では、β遮断薬によって心不全の発症が有意に低下した。 スタチンによる心保護作用についてはさまざまな機序が推定されており、その意味で本試験の結果は納得のいくものである。そもそも、最近のメタ解析によるとスタチンにはHFrEF患者の入院の抑制作用も示されている。しかし、EF低下幅の差1.3%で有意差を出すことができたのは、ひとえに試験デザインの秀逸さによるものと考えられる。

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HER2変異NSCLC承認のT-DXd、第II相試験結果(DESTINY-Lung02)/WCLC2023

 第一三共は2023年8月23日、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が、本邦において「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の効能又は効果に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表している。本承認は国際共同第II相臨床試験(DESTINY-Lung02)の結果に基づくものであるが、その詳細が世界肺癌学会(WCLC2023)において、米国・ダナ・ファーバーがん研究所のPasi A. Janne氏らにより発表された。なお、本発表の結果は、2023年9月11日にJournal of Clinical Oncology誌オンライン版へ同時掲載された。・対象:プラチナ製剤による治療歴を有する18歳以上のHER2遺伝子変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者152例・5.4mg/kg群:T-DXd 5.4mg/kgを3週間ごとに点滴静注投与 102例・6.4mg/kg群:T-DXd 6.4mg/kgを3週間ごとに点滴静注投与 50例(NSCLCに対する本邦承認用量は5.4mg/kgを3週間ごとに点滴静注)・有効性評価項目:[主要評価項目]盲検独立中央判定(BICR)に基づく奏効率(ORR)[副次評価項目]治験担当医評価に基づくORR、病勢コントロール率(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)・安全性評価項目:治療下で発現した有害事象(TEAE)、重篤な有害事象、注目すべき有害事象(間質性肺疾患[ILD]、肺臓炎、左室機能不全など)など・データカットオフ日:2022年12月23日 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時点の追跡期間中央値は5.4mg/kg群11.5ヵ月(範囲:1.1~20.6)、6.4mg/kg群11.8ヵ月(同:0.6~21.0)であった。・BICRに基づくORRは、5.4mg/kg群49.0%(CR:1例[1.0%]、PR:48例[48.0%])、6.4mg/kg群56.0%(CR:2例[4.0%]、PR:26例[52.0%])であった。・DOR中央値は、5.4mg/kg群16.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:6.4~推定不能)、6.4mg/kg群未到達(同:8.3~推定不能)であった。・BICRに基づくDCRは、5.4mg/kg群93.1%(95例)、6.4mg/kg群92.0%(46例)であった。・BICRに基づくPFS中央値は、5.4mg/kg群9.9ヵ月(95%CI:7.4~推定不能)、6.4mg/kg群15.4ヵ月(同:8.3~推定不能)であった。・OS中央値は、5.4mg/kg群19.5ヵ月(95%CI:13.6~推定不能)、6.4mg/kg群未到達(同:12.1~推定不能)であった。・Grade3以上のTEAEは、5.4mg/kg群52.5%(53例)、6.4mg/kg群66.0%(33例)に認められ、主なものは好中球減少症(それぞれ18.8%、36.0%)、貧血(10.9%、16.0%)などであった。・治療薬に関連したGrade3以上の有害事象は、5.4mg/kg群38.6%(39例)、6.4mg/kg群58.0%(29例)に認められた。・薬剤性ILD/肺臓炎は、5.4mg/kg群12.9%(13例)、6.4mg/kg群28.0%(14例)に認められた。・HER2遺伝子変異の93%はexon20挿入変異であった。

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オンコマイン Dx、非小細胞肺がんHER2遺伝子変異に対するコンパニオン診断として保険適用/サーモフィッシャー

 サーモフィッシャーは2023年8月29日、次世代シーケンシング(NGS)技術を用いたコンパニオン診断システム「オンコマイン Dx Target Test マルチ CDxシステム」に関し、非小細胞肺がんを対象としたHER2遺伝子変異に対するトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)の治療適応判定の補助に対して、保険適用されたことを発表した。適応判定補助に対応するがん種ごとの遺伝子変異などと医薬品非小細胞肺がん・BRAF遺伝子V600E変異:ダブラフェニブとトラメチニブの併用投与・EGFR遺伝子変異:ゲフィチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、オシメルチニブ、ダコミチニブ・HER2遺伝子変異:トラスツズマブ デルクステカン・ALK融合遺伝子:クリゾチニブ、アレクチニブ、ブリグチニブ、ロルラチニブ・ROS1融合遺伝子:クリゾチニブ、エヌトレクチニブ・RET融合遺伝子:セルペルカチニブ甲状腺がん・RET融合遺伝子:セルペルカチニブ甲状腺髄様がん・RET遺伝子変異:セルペルカチニブ

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Guardant360 CDx、HER2変異陽性NSCLCにおけるT‐DXdのコンパニオン診断として承認/ガーダントヘルスジャパン

 ガーダントヘルスジャパンは、がん化学療法後に増悪したHER2遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対するトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ、以下 T-DXd)の適応判定補助を目的としたコンパニオン診断として、リキッドバイオプシー「Guardant360 CDx がん遺伝子パネル」(Guardant360 CDx)に対する製造販売承認事項一部変更承認を2023年8月28日付で厚生労働省から取得した。 HER2遺伝子変異は、非小細胞肺がん(NSCLC)の70%を占める、非扁平上皮NSCLCの2〜4%に認められる。 Guardant360 CDxのT-DXdに対するコンパニオン診断の適応は、2022年8月に米国食品医薬品局によって承認されており、日本においても同様に承認されたもの。 Guardant360 CDxはコンパニオン診断薬として、ペムブロリズマブの適応となるMSI-High陽性固形がん患者、ニボルマブの適応となるMSI-High陽性直腸・結腸がん患者、ソトラシブの適応となるKRAS G12C陽性非小細胞肺がん患者にも承認されている。

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トラスツズマブ デルクステカン、HER2変異陽性非小細胞肺がんに国内承認/第一三共

 第一三共は2023年8月23日、抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)が、日本において、「がん化学療法後に増悪したHER2(ERBB2)遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」の効能又は効果に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したと発表した。  同適応は、グローバル第II相臨床試験(DESTINY-Lung02)の結果に基づき、2022年12月に日本における製造販売承認事項一部変更承認申請を行い、優先審査のもとで承認された。 また、同剤は「HER2遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」を対象として希少疾病用医薬品指定を受けている。 同剤が日本で承認を取得した適応がん種は、乳がん、胃がん、肺がんの3つとなった。

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HER2+転移乳がん1次治療、抗HER2療法に抗がん剤は必要か(PERNETTA試験)

 HER2陽性の転移を有する乳がん(MBC)に対する1次治療は、ペルツズマブ+トラスツズマブ+タキサン系抗がん剤の併用療法が推奨されているが、即時に化学療法を行わないペルツズマブ+トラスツズマブのみであっても有効性が示されている。そこで、スイス・Cantonal Hospital St GallenのJens Huober氏らが化学療法を併用した場合としなかった場合の全生存(OS)率や安全性などの検討を行った結果、化学療法併用群のほうが無増悪生存期間(PFS)は長いものの、2年OS率は同等であったことを明らかにした。JAMA Oncology誌2023年8月10日号掲載の報告。 本試験は、フランス27施設、スイス20施設、オランダ9施設、ドイツ1施設で実施された多施設共同無作為化オープンラベル第II相試験の2次解析。HER2陽性のMBC患者210例を、ペルツズマブ+トラスツズマブ投与群(PT群)とペルツズマブ+トラスツズマブ+パクリタキセルまたはビノレルビン投与群(化学療法併用群)に無作為に割り付けた。両群ともに病勢進行時は2次治療としてトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)による治療を実施した。評価項目は、2年OS率、1次治療のPFS、2次治療のPFS、QOLであった。 募集は2013年5月3日~2016年1月4日に行われ、2020年5月26日に試験が終了した。データは2020年12月18日~2022年5月10日に解析された。 主な結果は以下のとおり。・解析対象210例の年齢中央値は58歳(範囲:26~85)であった。・2年OS率は、PT群79.0%(90%信頼区間[CI]:71.4~85.4)、化学療法併用群78.1%(90%CI:70.4~84.5)であった。・1次治療のPFS中央値は、PT群8.4ヵ月(95%CI:7.9~12.0)、化学療法併用群23.3ヵ月(95%CI:18.9~33.1)であった。・HER2高発現集団とHER2低発現集団でOSおよびPFSに顕著な差はみられなかった。・有害事象はPT群のほうが少なかった。・ベースラインからのQOLの改善はPT群でわずかに認められ、化学療法併用群では変化はなかった。 これらの結果より、研究グループは「化学療法を併用しない抗HER2療法は、一部のHER2陽性MBC患者の1次治療のオプションとなる可能性がある」とまとめた。

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HER2陰性の切除不能/転移乳がん、3分の2がHER2低発現/ESMO Open

 現在、乳がん患者の約8割はHER2陰性(IHC 0、1+、もしくはIHC 2+かつISH-)に分類される。これまでの研究ではその約6割がHER2低発現(IHC 1+、もしくはIHC 2+かつISH-)と報告されている。最近、HER2低発現の切除不能/転移乳がんの治療にトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が承認され、HER2低発現とIHC 0の識別が重要になっている。今回、イタリア・European Institute of OncologyのGiuseppe Viale氏らの国際多施設共同後ろ向き研究で、過去にHER2陰性の切除不能/転移乳がんを診断された患者のサンプルを、HER2検査のトレーニングを受けた病理医が再検査したところ、約3分の2がHER2低発現と判定された。ESMO Open誌2023年8月9日号に掲載。 本研究は、2014~17年にHER2陰性の切除不能/転移乳がんと診断された患者のサンプルを使用した。ベンタナ4B5およびその他アッセイを用いたHER2検査のトレーニングを受けた病理医が、IHC染色スライドについて再検査し、HER2低発現の割合、および当初のIHCスコアと再検査によるIHCスコアの一致率を調べた。さらに人口動態、患者特性、治療、臨床アウトカムとの関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・HER2陰性の切除不能/転移乳がん789例のサンプルを再検査した結果、HER2低発現例は67.2%であった(HR陽性例では71.1%、HR陰性例では52.8%)。・当初のHER2ステータスと再検査したHER2ステータスの一致率は81.3%(κ=0.583)で、低発現(87.5%)がIHC 0(69.9%)より高かった。・当初のIHC 0症例の30%以上が、全体(全アッセイ)およびベンタナ4B5による再検査で低発現であった。・患者特性、治療、臨床アウトカムに関して、HER2低発現とIHC 0で顕著な差異はなかった。 著者らは「本データは、IHC 0だった患者でのHER2再評価が、治療における患者選択の最適化に役立つ可能性を示唆している」とし、さらに「標準化されたトレーニングにより病理医がHER2低発現を正確に識別できる可能性がある」と考察している。

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転移乳がんへのT-DXd、有効性に関わる因子はあるか(DAISY)

 HER2発現レベルに従って転移乳がん患者におけるT-DXdの有効性を評価し、複数時点での腫瘍検体のバイオマーカー分析を通じて治療反応と治療耐性に関わる因子を調査することを目的とした第II相DAISY試験の結果を、フランス・Gustave RoussyのFernanda Mosele氏らがNature Medicine誌オンライン版2023年7月24日号に報告した。 参加者はベースライン時のバイオプシー結果に基づき、HER2高発現群(IHC 3+またはISH+、72例)、HER2低発現群(IHC 2+/ISH-またはIHC 1+、74例)、およびHER2陰性群(IHC 0、40例)に割り付けられた。 主要評価項目は奏効率(ORR)で、副次評価項目には安全性などが含まれた。その他探索的解析として、HER2発現パターンと治療反応、T-DXdの作用機序および耐性機序が調べられた。 主な結果は以下のとおり。・ORRはHER2高発現群では70.6%(95%信頼区間[CI]:58.3~81)、HER2低発現群では 37.5%(95%CI:26.4~49.7)、HER2陰性群では29.7%(95%CI:15.9~47)だった。・HER2陰性群の患者において、ERBB2発現が中央値未満であった患者(14例中5例[35.7%]、95%CI:12.8~64.9)は、ERBB2発現が中央値を上回っていた患者(10例中3例[30%]、95%CI:6.7~65.2)と比較して奏効率に差はみられなかった。 またベースライン検体を外部の病理学者が検査した結果、15例(48%)でHER2発現が確認された。・治療中、HER2発現腫瘍(4例)では強いT-DXd反応が示された一方、HER2陰性腫瘍(3例)ではT-DXd反応がまったくまたはほとんど示されなかった(ピアソン相関係数r=0.75、p=0.053)。・ベースライン検体におけるドライバー変異には耐性と有意に関連しているものはなかった(FDR補正p>0.54)。ただし、ベースライン時の89例中6例(7%)にERBB2ヘミ接合型欠失が検出され、うち4例はT-DXdに反応がなかった。・T-DXd耐性となった検体の21例中3例(14%)にSLX4変異が検出された。・新たな安全性シグナルは確認されていない。 著者らは、HER2発現レベルはT-DXdの有効性の決定要因と言えるが、本研究ではそれ以外のメカニズムも関与している可能性が示唆されたとまとめている。

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