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レポーター紹介2021年のESMOは、9月16日から21日まで、フランスのパリで開催されましたが、いまだCovid-19感染が世界的に終息していない状況を反映し、完全バーチャルの形式でした。発表形式は、Presidential Symposium、Proffered Paper session、Mini Oral session、e-Posterとして発表され、泌尿器領域からも各セッションで注目演題が並びました。LBA5 mHSPCにおけるUp frontアビラテロン療法の第III相試験:PEACE-1試験A phase III trial with a 2x2 factorial design in men with de novo metastatic castration-sensitive prostate cancer: Overall survival with abiraterone acetate plus prednisone in PEACE-1. Fizazi K, et al. Presidential Symposium 2.PEACE-1試験は、フランスを中心として実施された国際共同第III相試験で、転移性去勢感受性前立腺がん(mHSPC)に対する初回治療として標準治療にアビラテロン(Abi)1,000mg+プレドニゾロン10mgを加えることと、局所放射線照射74Gy/37frを加えることの効果を検証する2×2のFactorial designで計画されました。2013年から2018年まで登録を行った試験であり、途中の2015年にUpfrontでのドセタキセル(DTX)のエビデンスが報告されるという大きなパラダイムシフトがありました。そのため試験デザインは、標準治療が2015年まではアンドロゲン除去療法(ADT)のみであったのに対し、2015年からはADT+DTX 75mg/m2×6回が追加できることに、変更されました。Abiを加えた群とAbiなしの群を比較したデータの報告は、6月に行われた米国臨床腫瘍学会(ASCO)で無増悪生存期間(PFS)が報告されましたが、今回のESMOでは全生存期間(OS)の結果が初めて報告されました。標準治療がADT+DTXであった症例の患者背景は、各群バランスよく臓器転移が10%強、High burdenは60%強でした。PFSはすでに報告があったとおり、radiologic PFSは中央値4.5年と2.0年、ハザード比[HR]: 0.50、95%信頼区間[CI]: 0.40~0.62、p<0.0001であり、あらかじめ設定された両側α=0.001を下回り、有意にAbiの追加が優れていました。OSの解析には両側α=0.049が設定され、全体集団でのAbiあり群とAbiなし群の中央値は5.7年と4.7年、HR:0.82、95%CI:0.69~0.98、p=0.030でした。また、標準治療がADT+DTXであった集団でのAbiあり群とAbiなし群の中央値は到達せずと4.4年、HR:0.75、95%CI:0.59~0.95、p=0.017であり、OSでも優越性が示されました。興味深いことに、サブグループ解析ではHigh volume症例においては、HR:0.72、95%CI:0.55~0.95、p=0.019と差が維持されるのに対し、Low volume症例においては、HR:0.83、95%CI:0.50~1.38、p=0.66と差がなくなる方向にシフトしていました。Low volumeではとくにイベント数が少ないため解釈には注意が必要ではありますが、少なくともHigh volumeでのADT+DTX+Abiは、既報の中で最も長いOS中央値を報告しており、もはやこれが標準治療ではないかと演者は締めくくりました。日本では、UpfrontでのDTXに関し本年8月に添付文書の改訂が行われ、ようやく保険上使用可能になりました。Abiを併用することが可能かどうかは未知数ですが、High volume症例へのUpfront療法の有用性は強く意識せざるを得ない結果だと思います。652O 筋層浸潤性膀胱がんに対する周術期化学療法dd-MVAC vs. GCの第III相試験:VESPER試験Dose-dense methotrexate, vinblastine, doxorubicin and cisplatin(dd-MVAC)or gemcitabine and cisplatin(GC)as perioperative chemotherapy for patients with muscle-invasive bladder cancer(MIBC): Results of the GETUG/AFU VESPER V05 phase III trial.Pfister C, et al. Proffered Paper session - Genitourinary tumours, non-prostate 1.dd-MVAC療法は、メトトレキサート30mg/m2 day1、ビンブラスチン3mg/m2 day2、ドキソルビシン30mg/m2 day2、シスプラチン70mg/m2 day2を2週間ごとに繰り返す、顆粒球コロニー形成刺激因子 (G-CSF)を用いたIntensiveなレジメンであり、転移性膀胱がんではGC療法と同等の効果が報告されています。GC療法は転移再発の膀胱がんにおいては4週サイクルで用いられますが、Intensiveなレジメンとしてゲムシタビン1,250mg/m2 day1、8、シスプラチン70mg/m2 day1を3週ごとに繰り返すレジメンも海外では用いられています(日本のゲムシタビンの保険承認用量は1,000mg/m2であることに注意)。周術期治療は、強度を上げることで生存の改善が望まれていますが、VESPER試験はそれに一定の答えを与えてくれる、重要なランダム化比較第III相試験です。2013年から2018年にかけてフランスの28施設で登録された試験であり、Primary endpointは3年PFSでした。術前治療の場合はT2以上N0M0、術後治療の場合はpT2以上かpN+でM0の症例を対象とし、dd-MVAC療法 6サイクルとGC療法4サイクルに1:1に割り付けました。GC群(N=245)とdd-MVAC群(N=248)の患者背景は、おおよそ同じではありましたが、術後化学療法ではN+がGC群に若干多く73%と60%でしたが、T3/4は27%と40%でありdd-MVAC群に多いようでした。また術前化学療法ではT2は95%と90%でGC群に若干多く、T4は1.8%と4.1%でdd-MVAC群に若干多いという偏りが見られました。有意差があったかどうかは言及がありませんでした。3年PFSは両群とも中央値に達さず、HR:0.77、95%CI:0.57~1.02、p=0.066でdd-MVAC群が上回るKaplan-Meier曲線でした。術前化学療法例に限ると、HR:0.70、95%CI:0.51~0.96、p=0.025と、dd-MVAC群の効果が際立つ結果でした。また今回の報告で初めてOSのデータが提示されました。全体集団ではOSのHRは0.74、95%CI:0.55~1.00、術前化学療法例ではHR:0.66、95%CI:0.47~0.92でdd-MVAC群が上回っていました。試験全体のPrimary endpointがPFSであることを鑑みると、Negativeな結果であり、周術期治療においてdd-MVAC療法のGC療法に対する優越性は示せなかったという結論になると思います。しかしながら、演者の論調もDiscussantの話しぶりも、術前化学療法にはdd-MVAC療法がより優れているのが明らかになったと解釈しており、論点はdd-MVAC療法を6サイクル行うか4サイクルで手術に行くか? という別の次元の問題がトピックになっていました。術前治療の効果を最大限高めることを目標にする場合は、明日からの診療はdd-MVAC療法となると思います。個人的な感想ですが、今回の報告からは安全性の情報は省かれていたことや、統計設定とその解釈についての情報はなかったことから、論文化を待って再度吟味したいと考えています。LBA29 転移性腎細胞がん1次治療のイピリムマブ+ニボルマブ療法の投与スケジュール変更の安全性と効果を検討するランダム化第II相試験:PRISM試験Nivolumab in combination with alternatively scheduled ipilimumab in first-line treatment of patients with advanced renal cell carcinoma: A randomized phase II trial (PRISM).Vasudev N, et al. Proffered Paper session - Genitourinary tumours, non-prostate 2.CheckMate-214試験において、転移性淡明腎細胞がんのIntermediate/Poorリスク例におけるイピリムマブ+ニボルマブ療法は、スニチニブ単剤と比較しOSの延長が報告され、現在標準的な治療となっています。イピリムマブとニボルマブの併用により、重篤な免疫関連有害事象は47%で発生し、22%は治療中止に至ると報告されています。PRISM試験は、英国で行われた多施設共同ランダム化第II相試験であり、イピリムマブ+ニボルマブの投与スケジュールを3週間ごとと3ヵ月ごとに1:2に割り付け比較しました。標準治療群(N=64)は、イピリムマブ1mg/kgとニボルマブ3mg/kgを3週ごとで4回投与後、ニボルマブ480mgを4週ごとで継続します。試験治療群(N=128)は、イピリムマブ1mg/kgとニボルマブ3mg/kgを3ヵ月ごとで4回投与、ニボルマブ240mgを最初の3ヵ月は2週ごと、次の3ヵ月以降は480mgを4週ごとで投与します。Primary endpointは、12ヵ月以内のGrade 3/4有害事象の比較であり、Secondary endpointはその他の有害事象、PFS、客観的奏効率(ORR)、OS、Quality of life;QOLでした。両群の患者背景は、バランスが取れており、追跡期間中央値は19.7ヵ月でした。Primary endpointのGrade 3/4の治療関連有害事象は、試験治療群で32.8%、試験治療群で53.1%、オッズ比0.43、90%CI:0.25~0.72、p=0.0075であり、試験治療群で安全性が上回っていました。とくに両群に違いが見られた有害事象は、関節痛(1.6% vs.7.8%)、大腸炎(3.9% vs.6.3%)、リパーゼ上昇(1.6% vs.9.4%)、下垂体機能低下症(0.8% vs.3.1%)であり、治療中止に至った症例はそれぞれ22.7%と39.1%でした。PFS中央値はmodified Intention to Treat;ITT(1回以上の治療を行った患者)では、試験治療群で10.8ヵ月、標準治療群で9.8ヵ月であり、Kaplan-Meyer曲線はほぼ重なっていました。Intermediate/Poorリスク群でのPFS曲線や、全体集団でのOS曲線も同様であり、2群の治療の効果は互角と読み取れました。本研究により、イピリムマブを3ヵ月ごとに投与するスケジュールは、効果を損なわず安全性が向上することが示されました。イピリムマブ+ニボルマブ療法の最適な治療のスケジュールはまだ探索の余地があることが示唆されます。654MO 集合管がんに対するカボザンチニブの第II相試験:BONSAI試験A phase II prospective trial of frontline cabozantinib in metastatic collecting ducts renal cell carcinoma: The BONSAI trial (Meeturo 2)Procopio G, et al. Mini Oral session - Genitourinary tumours, non-prostate.イタリアのがんセンターで行われた単施設の単群第II相試験で、標準治療のない転移性集合管がんに対する1次薬物療法として、カボザンチニブ60mg連日内服を実施しその効果と安全性を報告しました。統計設定はSimonの2ステージデザインで行われ、1stステージでは2/9例、2ndステージでは6/14例の奏効で有効性を判断することになっていました。2018年1月から2020年11月にかけて25例を登録し23例で治療が行われました。年齢中央値は66歳、19例が男性でした。追跡期間中央値8ヵ月時点において、奏効は8/23例で認められORR 35%、PFS中央値は6ヵ月でした。有害事象は全例でGrade 1/2の毒性が見られ、頻度の高いものは倦怠感43%、甲状腺機能低下症28%、口腔粘膜炎28%、食思不振26%、手足症候群13%などでした。DNAシークエンスを行った結果、奏効例には脱ユビキチン関連遺伝子、細胞間伝達関連遺伝子、TGF-βシグナル伝達関連遺伝子が認められていました。本研究の結果、集合管がんにおいてカボザンチニブは有効な治療選択肢であることが示されました。演者のProcopio氏はさらに、これら遺伝子プロファイルの結果、カボザンチニブのような血管新生阻害薬や、免疫チェックポイント阻害薬、あるいは化学療法が適しているのかを個別に治療選択する臨床試験(CICERONE試験)も始めていると報告しました。日本において腎細胞がんに対するカボザンチニブは、保険適用となっています。集合管がんの治療は、尿路上皮がんとして治療されたり腎細胞がんとして治療されたりしていますが、本研究の報告は治療選択の参考になるものと思われます。