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Dr.須藤のやり直し酸塩基平衡

第1回 基本的な生理学的知識 第2回 酸塩基平衡異常の基本第3回 血液ガスの読み方とケーススタディ01&02第4回 ケーススタディ03&04 第5回 K代謝の生理学とケーススタディ05 第6回 ケーススタディ06 第7回 ケーススタディ07 第8回 ケーススタディ08 第9回 ケーススタディ09 そして低K血症の鑑別診断の手順 第10回 尿中電解質の使い方 酸塩基平衡に苦手意識を持っていませんか?酸塩基平衡は、最低限の生理学的な基本を理解したうえで、個々の患者さんに応用できるようになると、これほど面白い分野はないといっても過言ではありません。このシリーズでは、達人Dr.須藤が酸塩基平衡の基本ルールをしっかりとレクチャー。シリーズ後半には、症例を基に、実用的な応用について、解説します。これで、あなたも酸塩基平衡が好きになる!第1回 基本的な生理学的知識 まずは、酸塩基平衡の生理学的な基本知識から解説します。酸の生成や負荷に対する生体の反応そして、基本用語の整理など、これまでぼんやりと知っていたことが、すっきりと整理され、理解できます。また、覚えづらいHenderson-Hasserbalch 式など、Dr.須藤ならではの覚えるコツもお教えします。第2回 酸塩基平衡異常の基本 酸塩基平衡異常は何らかの病的プロセス(代謝性・呼吸性)、(アシドーシス・アルカローシス)が複数参加した綱引きです。正常な状態であれば、綱は地面に置かれており、中央はpH7.40であるが、何らかの異常があると綱引き開始!綱引き勝負の行方は?Dr.須藤ならではの綱引きの図を使って、詳しく解説します。まずは、代謝性アシドーシスと代謝性アルカロ―シスの機序についてしっかりと理解してください。第3回 血液ガスの読み方とケーススタディ01&02 今回は基本的な血液ガスの読み方をレクチャー。血ガスは基本的な6つのステップをきちんと踏んでいくことで、患者さんの状態を読み解いていくことができます。また、今回から症例の解析に入ります。Dr.須藤が厳選した症例で、基本ルールのマスターと臨床の応用について学んでいきましょう。第4回 ケーススタディ03&04 今回は、2症例を基に混合性の酸塩基平衡異常を解説します。“Medical Mystery”と名付けられた症例03。pHは一見正常、でも患者の状態は非常にsick。さあ、患者にいったい何が起こっているのでしょう。そして、酸塩基平衡や電解質の異常をたくさん持っているアルコール依存症の患者の症例を取り上げるのは症例04。それらをどう解読していくのか、Dr.須藤の裏ワザも交えて解説します。第5回 K代謝の生理学とケーススタディ05 カリウム代謝異常(とくに低Kを血症)合併することが多い酸塩基平衡異常。今回は、カリウム代謝に関する基本的な腎生理学から学んでいきましょう。まずは、重要な尿細管細胞について。NHE3?NKCC2?ROMK?ENAC?・・・が何だか!!!心配いりません。Dr.須藤がこのような難しいことを一切省いて、臨床に必要なところに絞って、シンプルに解説します。第6回 ケーススタディ06 ケース06は「原因不明の腎機能障害を認めたの48歳の小柄な男性」。多彩な電解質異常、酸塩基平衡異常を来した今回の症例。Dr.須藤が“浅はか”だったと当時の苦い経験を基に解説します。ピットフォールはなんだったのか?また、AG正常代謝性アシドーシスの鑑別診断に、重要な意味を持つ尿のAnion GAPについても確認しておきましょう。第7回 ケーススタディ07 「クローン病治療にて多数の腸切除と人工肛門増設がある41歳男性の腎機能障害」の症例を取り上げます。さまざまな病態、酸塩基異常、電解質異常などを呈するこの患者をどう診断し、どこからどのように治療していくのか。臨床経過-血液ガスの数値と治療(輸液)の経過-を示しながら、診断と治療について詳しく解説します。第8回 ケーススタディ08 今回の症例は「腎機能障害と原因不明の低K血症で紹介された48歳女性」検査所見は、低K血症とAG正常代謝性アシドーシス、そして、尿のAGはマイナス!そう、この組み合わせで一番に考えられるのは「下剤濫用」。しかしながら、導き出される鑑別と、患者から得られる病歴が一致しない。時間稼ぎにクエン酸NaとスローKで外来で経過をみながら考えることを選択。だが、完全に補正されない・・・。思考停止に陥ったDr.須藤。その原因と診断は?第9回 ケーススタディ09 そして低K血症の鑑別診断の手順 「著明な低カリウム血症の35歳女性」を取り上げます。Dr.須藤の初診から1週間後、診察室に訪れた患者。なんと30分間も罵倒され続けることに!!一体患者に、、Dr.須藤に何が起こったのか!そして、いくつかのケーススタディでみてきた低カリウム血症の鑑別診断を、手順に沿って、シンプルにわかりやすく解説します。これまで何度も出てきた“KISS”と“尿血血”というキーワード。ついにその全貌が明らかに!第10回 尿中電解質の使い方 「クローン病治療にて多数の腸切除と人工肛門増設がある41歳男性の腎機能障害」の症例を取り上げます。さまざまな病態、酸塩基異常、電解質異常などを呈するこの患者をどう診断し、どこからどのように治療していくのか。臨床経過-血液ガスの数値と治療(輸液)の経過-を示しながら、診断と治療について詳しく解説します。

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男性の飲酒とうつ病との関係

 一般集団における男性のうつ病と飲酒の縦断的な相互関係について、韓国・中央大学校のSoo Bi Lee氏らが、調査を行った。Alcohol and alcoholism誌2018年9月1日号の報告。 対象は、2011~14年のKorean Welfare Panelより抽出した20~65歳の成人男性2,511例。アルコール使用障害特定テスト韓国版(AUDIT-K)スコアに基づき、対照群2,191例(AUDIT-K:12点未満)、飲酒問題群320例(AUDIT-K:12点以上)に分類した。時間経過とともに連続測定された飲酒問題とうつ病との相互関係を調査するため、自己回帰的なcross-laggedモデル分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・飲酒とうつ病との関係は、時間経過とともに安定していた。・対照群では、飲酒問題とうつ病との間に有意な因果関係は認められなかったが、飲酒問題群では、前年の飲酒が2、3、4年後のうつ病に有意な影響を及ぼしていた。 著者らは「飲酒問題群では、対照群と比較し、うつ病と飲酒の4年間に及ぶ相互の因果関係が認められた。通常の飲酒では、縦断的なうつ病と飲酒との相互関係は認められなかったが、飲酒問題群では、飲酒は時間経過とともにうつ病を増強させた。飲酒問題はうつ病発症のリスク因子であり、一般集団におけるアルコール使用の問題や抑うつ症状を有する患者のアルコール使用歴には、より注意すべきである」としている。■関連記事うつ病とアルコールとの関係:2014年英国調査よりアルコール以外の飲料摂取とうつ病リスクアルコール摂取量削減のためのサービングサイズ変更効果

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“酒は百薬の長されど万病の元”という故事は飲酒の健康への利害を端的に語っており、認知症も例外にあらず!(解説:島田俊夫氏)-908

 高齢者の認知症が大きな社会問題としてクローズアップされている。2018年8月1日にBMJ誌に掲載されたフランス・パリ・サクレー大学のSeverine Sabia氏らの「Whitehall IIコホート研究」の結果は、飲酒と認知症の関連を取り上げた時宜にかなう論文で興味深く、この小稿で取り上げた。これまで過度な飲酒が身体に悪影響を及ぼすことは広く周知されている。一般的に適量の飲酒は認知症に関して低リスク1)と考えられてきたが、詳細については不明な点も多い。研究要約 本研究は英国ロンドン市の公務員を対象とした前向きコホート研究で、1985~88年の期間に35~55歳の1万308人(男/女:6,895/3,413人)を登録し、4~5年ごとに追跡調査が行われた。飲酒と認知症の関連性を評価し、心血管代謝疾患(脳卒中、冠動脈疾患、心房細動、心不全、糖尿病)を考慮の下で検討が行われた。 飲酒量は、1985~88年、1989~90年、1991~93年(中年期)の3回の調査平均値を用い、非飲酒、1~14単位/週(適度飲酒)、14単位超/週(過度飲酒)に分類した。中年期の飲酒量を調査した時点でのコホートの平均年齢は50.3歳であった。 さらに、1985~88年から2002~04年にわたる17年の期間中の調査結果を5パターン([1]長期非飲酒、[2]飲酒量減少、[3]長期飲酒量が1~14単位/週、[4]飲酒量増加、[5]長期飲酒量14単位超/週)に分けて検討した。 1991~93年の調査では、CAGE質問表(4項目2点以上でアルコール依存性あり)を用いてアルコール依存症の有無を評価、1991~2017年の期間におけるアルコール関連疾患による入院状況も併せ調査した。結果 中年期の非飲酒群は基準群(適度飲酒群)と比べ認知症のリスクが高かった(ハザード比[HR]:1.47、95%信頼区間[CI]:1.15~1.89、p<0.05)。14単位超/週群の認知症リスクは、基準群と比べ有意差を認めなかった(1.08、0.82~1.43)が、そのうち飲酒量が7単位増加/週群では認知症リスクが17%有意に増加した(1.17、1.04~1.32、p<0.05)。 非飲酒群でフォローアップ期間に認知症の高リスクを認めたことは心血管代謝疾患の関与で部分的に説明可能であり、非飲酒群全体の認知症のハザード比が1.47(1.15~1.89)であったのに対して疾患のない非飲酒群ではハザード比1.33(0.88~2.02)と基準群と比べ有意差を認めなかった。 中年期~初老期の飲酒量推移による検討では、長期飲酒では基準群と比べ長期非飲酒群の認知症リスクは74%と高く(HR:1.74、95%CI:1.31~2.30、p<0.05)、飲酒量減少群で55%増加(1.55、1.08~2.22、p<0.05)、長期14単位超/週群では40%増加(1.40、1.02~1.93、p<0.05)した。コメント 飲酒と総死亡率の関係はUまたはJ-カーブを示すと考えられている2)。昔から“酒は百薬の長されど万病の元”という故事は飲酒の影響を端的に表現している。わかりやすく言い換えると適度な飲酒は健康にとりプラスになり、過度な飲酒は命を縮め、適量飲酒に比べて非飲酒は思いのほか利益なく、かえってマイナスに作用すると言い換えできる。本論文の著者は、これまでの飲酒による知見が認知症に対して当てはまるか否かを、経時的要素を加味し、交絡因子、データエラーを最小にする工夫の下で統計解析を行い、U-カーブの存在を確認し認知症への飲酒によるこれまでの知見の適用の妥当性を確認した。しかしながら、適量飲酒の効用を過大に期待することは飲み過ぎにつながる恐れがあり慎むべきと考える。“酒は百薬の長されど万病(認知症)の元”を肝に銘じ忘れないことが大事です。

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30~50代で非飲酒でも認知症リスク上昇/BMJ

 中年期に飲酒しなかった集団および中年期以降に過度な飲酒を続けた集団は、飲酒量が適度な場合に比べ認知症のリスクが高まることが、フランス・パリ・サクレー大学のSeverine Sabia氏らが行った「Whitehall II試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2018年8月1日号に掲載された。非飲酒と過度な飲酒は、いずれも認知機能に有害な影響を及ぼすとされるが、認知症の発症予防や遅延に関する現行のガイドラインには、エビデンスが頑健ではないため、過度の飲酒は含まれていないという。また、研究の多くは、老年期のアルコール摂取を検討しているため生涯の飲酒量を反映しない可能性があり、面接評価で認知機能を検討した研究では選択バイアスが働いている可能性があるため、結果の不一致が生じている。英国公務員のデータを用いたコホート研究 Whitehall II試験は、ロンドン市に事務所のある英国の公務員を対象とした前向きコホート研究であり、1985~88年に35~55歳の1万308例(男性:6,895例、女性:3,413例)が登録され、4~5年ごとに臨床的な調査が行われている(米国国立老化研究所[NIA]などの助成による)。 研究グループは、今回、認知症とアルコール摂取の関連を評価し、この関連への心血管代謝疾患(脳卒中、冠動脈心疾患、心房細動、心不全、糖尿病)の影響を検討した。 アルコール摂取量は、1985~88年、1989~90年、1991~93年(中年期)の3回の調査の平均値とし、非飲酒、1~14単位/週(適度な飲酒)、14単位超/週(過度な飲酒)に分類した。中年期のアルコール摂取を評価した集団の平均年齢は50.3歳だった。 また、1985~88年から2002~04年の5回の調査に基づき、17年間のアルコール摂取の推移を5つのパターン(長期に非飲酒、飲酒量減少、長期に飲酒量が1~14単位/週、飲酒量増加、長期に飲酒量が14単位超/週)に分けて検討した。 1991~93年の調査では、CAGE質問票(4項目、2点以上で依存性あり)を用いてアルコール依存症の評価を行った。さらに、1991~2017年の期間におけるアルコール関連慢性疾患による入院の状況を調べた。飲酒量が減少した集団もリスク上昇 平均フォローアップ期間は23年であり、この間に397例が認知症を発症した。認知症診断時の年齢は、非飲酒群が76.1歳、1~14単位/週の群が75.7歳、14単位超/週の群は74.4歳であった(p=0.13)。 中年期に飲酒していない群は、飲酒量が1~14単位/週の群に比べ認知症のリスクが高かった(ハザード比[HR]:1.47、95%信頼区間[CI]:1.15~1.89、p<0.05)。14単位超/週の群の認知症リスクは、1~14単位/週の群と有意な差はなかった(1.08、0.82~1.43)が、このうち飲酒量が7単位/週増加した集団では認知症リスクが17%有意に高かった(1.17、1.04~1.32、p<0.05)。 CAGEスコア3~4点(HR:2.19、95%CI:1.29~3.71、p<0.05)およびアルコール関連入院(4.28、2.72~6.73、p<0.05)にも、認知症リスクの増加と関連が認められた。 中年期~初老期のアルコール摂取量の推移の検討では、飲酒量が長期に1~14単位/週の集団と比較して、長期に飲酒をしていない集団の認知症リスクは74%高く(HR:1.74、95%CI:1.31~2.30、p<0.05)、摂取量が減少した集団でも55%増加し(1.55、1.08~2.22、p<0.05)、長期に14単位超/週の集団では40%増加した(1.40、1.02~1.93、p<0.05)が、飲酒量が増加した集団(0.88、0.59~1.31)では有意な差はなかった。 中年期の非飲酒に関連する認知症の過剰なリスクは、フォローアップ期間中にみられた心血管代謝疾患によってある程度説明が可能であり、非飲酒群全体の認知症のHRが1.47(1.15~1.89)であったのに対し、心血管代謝疾患を発症しなかった非飲酒の集団では1.33(0.88~2.02)であった。 著者は、「ガイドラインで、14単位超/週のアルコール摂取を有害の閾値と定義する国があるが、今回の知見は、高齢になってからの認知機能の健康を増進するために、閾値を下方修正するよう促すもの」としている。

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ギャンブルがアルコール消費に及ぼす影響

 アルコールとギャンブルとの関連を調査した実験的研究では、主にアルコールのギャンブル行動への影響に焦点が当てられている。逆に、ギャンブルがその後のアルコール消費に及ぼす影響については、ほとんど論じられていなかった。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のJuliette Tobias-Webb氏らは、ギャンブルとその成果が、後のアルコール消費に及ぼす影響について、2つの実験を行い評価した。Journal of Gambling Studies誌オンライン版2018年7月11日号の報告。 実験1では、参加者53例には、アルコールを含む飲料を30分間要求することができる自由摂取試験(ad libitum consumption test)を実施した。実験2では、参加者29例には、ビールのテイスティング検査手順(beer taste test procedure)に従い、ビールの種類の評価を課した。両実験において、日常的にギャンブルを行う男性は、アルコールが提供される前に、30分間テレビを見る群かスロットマシーンを行う群に割り付けられた。 主な結果は以下のとおり。・実験1において、ギャンブルは、アルコール飲料の注文数、消費量、飲酒ペース、飲酒意向を有意に増加させた。・実験2では、これらの影響は確認されなかった。・両実験において、ギャンブルの成果とアルコール消費との関連は認められなかった。 著者らは「これまでの研究と関連し、特定の条件下でのギャンブルがアルコール消費を促進する点は、ギャンブルとアルコールが互いに増強する可能性のあるフィードバックループを形成していることを意味する。しかし、両実験における結果の相違は、影響の境界条件を示唆しており、今後の研究を行ううえで、ギャンブルとアルコール消費との関連を測定するためには、方法論的考察の検討が必要である」としている。■関連記事ギャンブル依存とADHD症状との関連アルコール依存症に対するバクロフェン治療に関するメタ解析アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬

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アルコール依存症に対するバクロフェン治療に関するメタ解析

 アルコール依存症(AD:alcohol dependence)治療に対するバクロフェンの有効性(とくに用量の効果)に関して、現在のエビデンスのシステマティックレビューは不十分である。オランダ・アムステルダム大学のMimi Pierce氏らは、現在利用可能なランダム化プラセボ対照試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。European neuropsychopharmacology誌オンライン版2018年6月19日号の報告。 AD患者に対するバクロフェンとプラセボを比較した、2017年9月までのRCT文献をシステマティックに検索した。バクロフェン治療効果、バクロフェン用量緩和効果(低用量[30~60mg]vs.高用量[60mg超])、治療前のアルコール消費量について検討を行った。経過時間(TTL)、禁断日数の割合(PDA)、エンドポイントで禁断となった患者の割合(PAE)の3つを治療アウトカムとした。 主な結果は以下のとおり。・39レコードから13件のRCTが抽出された。・バクロフェン群は、プラセボ群と比較し、TTLの有意な増加(8 RCT、852例、SMD:0.42、95%CI:0.19~0.64)、PAEの有意な増加(8 RCT、1,244例、OR:1.93、95%CI:1.17~3.17)、PDAの有意でない増加(7 RCT、457例、SMD:0.21、95%CI:-0.24~0.66)が認められた。・全体として、低用量で実施された研究は、高用量で実施された研究よりも、より良い有効性を示した。・また、高用量での忍容性は低かったが、重篤な有害事象はまれであった。・メタ回帰分析では、治療前の日々のアルコール消費量がより多い場合、バクロフェンの効果がより強いことが示唆された。 著者らは「バクロフェンは、AD治療、とくに大量飲酒者の治療に有効であると考えられる。高用量治療は、低用量治療よりも忍容性が低く、必ずしも優れているとは言えない」としている。■関連記事アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬アルコール使用障害患者の認知症発症予防のためのチアミン療法不眠症とアルコール依存との関連

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第3回 意識障害 その3 低血糖の確定診断は?【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+10のルールのうち低血糖に注目この症例は前回お伝えしたとおり、左中大脳動脈領域の心原性脳塞栓症でした。誰もが納得する結果だと思いますが、脳梗塞には「血栓溶解療法(rt-PA療法)」、「血栓回収療法」という時間に制約のある治療法が存在します。つまり、迅速に、そして正確に診断し、有効な治療法を診断の遅れによって逃すことのないようにしなければなりません。頭部CT、MRIを撮影すれば簡単に診断できるでしょ?! と思うかもしれませんが、いくつかのpitfallsがあり、注意が必要です。今回も“10’s Rule”(表1)にのっとり、説明していきます1)。今回は5)からです。画像を拡大する●Rule5 何が何でも低血糖の否定から! デキスタ、血液ガスcheck!意識障害患者を診たら、まずは低血糖を除外しましょう。低血糖になりうる人はある程度決まっていますが、緊急性、簡便性の面からまず確認することをお勧めします。低血糖の時間が遷延すると、低血糖脳症という不可逆的な状況となってしまうため、迅速な対応が必要なのです。低血糖によって片麻痺や失語を認めることもあるため、侮ってはいけません2)。低血糖の診断基準:Whippleの3徴(表2)をcheck!画像を拡大する低血糖と診断するためには満たすべき条件が3つ存在します。陥りがちなエラーとして血糖は測定したものの、ブドウ糖投与後の症状の改善を怠ってしまうことです。血糖を測定し低いからといって、意識障害の原因が低血糖であるとは限りません。必ず血糖値が改善した際に、普段と同様の意識状態へ改善することを確認しなければなりません。血糖低値と低血糖は似て非なるものであることを理解しておきましょう。低血糖の原因:臭いものに蓋をするな!低血糖に陥るには必ず原因が存在します。“Whippleの3徴”を満たしたからといって安心してはいけません。原因に対する介入が行われなければ再度低血糖に陥ってしまいます。低血糖の原因は表3のとおりです。最も多い原因は、インスリンやスルホニルウレア薬(SU薬)など血糖降下作用の強い糖尿病薬によるものです。そのため使用薬剤は必ず確認しましょう。画像を拡大するるい痩を認める場合には低栄養、腹水貯留やクモ状血管腫、黄疸を認める場合には肝硬変(とくにアルコール性)を考え対応します。バイタルサインがSIRS(表4)やqSOFA(表5)の項目を満たす場合には感染症、とくに敗血症に伴う低血糖を考えフォーカス検索を行いましょう(次回以降で感染症×意識障害の詳細を説明する予定です)。画像を拡大する画像を拡大する低血糖の治療:ブドウ糖の投与で安心するな!低血糖の治療は、経口が可能であればブドウ糖の内服、意識障害を認め内服が困難な場合には経静脈的にブドウ糖を投与します。一般的には50%ブドウ糖を40mL静注することが多いと思います。ここで忘れてはいけないのはビタミンB1欠乏です。ビタミンB1が欠乏している状態でブドウ糖のみを投与すると、さらにビタミンB1は枯渇し、ウェルニッケ脳症やコルサコフ症候群を起こしかねません。ビタミンB1が枯渇している状態が考えられる患者では、ブドウ糖と同時にビタミンB1の投与(最低でも100mg)を忘れずに行いましょう。ビタミンB1の成人の必要量は1~2mg/日であり、通常の食事を摂取していれば枯渇することはありません。しかし、アルコール依存患者のように慢性的な食の偏りがある場合には枯渇しえます。一般的にビタミンB1が枯渇するには2~3週間を要するといわれています。救急外来などの初療では、患者の背景が把握しきれないことも少なくないため、アルコール依存症以外に、低栄養状態が示唆される場合、妊娠悪阻を認める患者、さらにはビタミンB1が枯渇している可能性が否定できない場合には、ビタミンB1を躊躇することなく投与した方が良いでしょう。ウェルニッケ脳症はアルコール多飲患者にのみ発症するわけではないことは知っておきましょう(表6)。画像を拡大するそれでは、いよいよRule6「出血か梗塞か、それが問題だ!」です。やっと頭部CTを撮影…というところで今回も時間がきてしまいました。脳卒中や頭部外傷に伴う意識障害は頻度も高く、緊急性が高いため常に考えておく必要がありますが、頭部CTを撮影する前に必ずバイタルサインを安定させること、低血糖を除外することは忘れずに実践するようにしましょう。それではまた次回!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中!. 中外医学社;2015.2)Foster JW, et al. Stroke. 1987;18:944-946.コラム(3) 「くすりもりすく」、内服薬は正確に把握を!高齢者の多くは、高血圧、糖尿病、認知症、不眠症などに対して定期的に薬を内服しています。高齢者の2人に1人はポリファーマシーといって5剤以上の薬を内服しています。ポリファーマシーが悪いというわけではありませんが、薬剤の影響でさまざまな症状が出現しうることを、常に意識しておく必要があります。意識障害、発熱、消化器症状、浮腫、アナフィラキシーなどは代表的であり救急外来でもしばしば経験します。「高齢者ではいかなる症状も1度は薬剤性を考える」という癖を持っておくとよいでしょう。また、内服薬はお薬手帳を確認することはもちろんのこと、漢方やサプリメント、さらには過去に処方された薬や家族や友人からもらった薬を内服していないかも、可能な限り確認するとよいでしょう。お薬手帳のみでは把握しきれないこともあるからです。(次回は7月25日の予定)

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アルコール使用障害患者の認知症発症予防のためのチアミン療法

 アルコール使用障害は、認知症に寄与する最も重要な因子の1つである。台湾・高雄医学大学のWei-Po Chou氏らは、台湾の全国データベースを用いて、アルコール使用障害患者に対するチアミン療法の認知症発症予防効果について調査を行った。Clinical nutrition誌オンライン版2018年5月21日号の報告。 1995~2000年の縦断的健康保険データベースを検索し、レトロスペクティブコホート研究を実施した。アルコール使用障害の診断後にチアミン投与を受けた患者をチアミン療法(TT)群とし、年齢、性別、インデックスイヤーにマッチしたTTを行わないアルコール使用障害患者を対照(NTT)群として無作為に割り付けた。患者背景、併存疾患、向精神薬使用について評価を行った。累積の規定1日用量(DDD)を分析し、用量効果を検証した。 主な結果は以下のとおり。・各群の患者数は、5,059例であった。・TT群は、NTT群よりも、認知症のハザード比が低かった(0.76、95%CI:0.60~0.96)。・患者背景、併存疾患、向精神薬使用で調整した後、調整ハザード比は0.54(95%CI:0.43~0.69)であった。・23超の累積DDDを有するTT群において、有意な差が認められた。・カプランマイヤー分析では、NTT群よりもTT群において、認知症の累積発症率が低いことが示された。 著者らは「チアミン療法は、アルコール使用障害患者における認知症発症の予防因子であることが示唆された。アルコール使用障害患者の認知症の発症および進行を予防するための治療計画、保健政策において、チアミン療法は重要である」としている。■関連記事認知症発症に対するアルコール使用障害の影響に関するコホート研究ベンゾジアゼピン耐性アルコール離脱症状に対するケタミン補助療法アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析

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ベンゾジアゼピン耐性アルコール離脱症状に対するケタミン補助療法

 ベンゾジアゼピン(BZD)治療抵抗性アルコール離脱は、利用可能な薬剤に関するエビデンスが限定的であるため、多くの施設において課題となっている。現在、アルコール離脱に対して、NMDA受容体アンタゴニストであるケタミンを用いた研究が報告されている。米国・Advocate Christ Medical CenterのPoorvi Shah氏らは、ICU(集中治療室)におけるBZD治療抵抗性アルコール離脱患者への、症状コントロールに対する補助的なケタミン持続点滴療法の効果およびロラゼパム静注の必要性について評価を行った。Journal of medical toxicology誌オンライン版2018年5月10日号の報告。 2012年8月~2014年8月に、ロラゼパム静注に補助的なケタミン療法を追加した重度のアルコール離脱患者を対象とし、レトロスペクティブレビューを行った。アウトカムは、症状コントロールまでの時間、ロラゼパム静注の必要性、ケタミンの初日および最大日の注入速度、ケタミンの副作用とした。 主な結果は以下のとおり。・分析に含まれた対象患者は、30例であった。・ロラゼパム静注開始後のケタミンの平均開始時間は、41.4時間であった。・すべての患者において、ケタミン開始後1時間以内に初期の症状コントロールが認められた。・ケタミンの注入速度中央値は、初日で0.75mg/kg/時、最大日で1.6mg/kg/時であった。・ケタミン開始後24時間で、ロラゼパムの注入速度の有意な低下が認められた(-4mg/時、p=0.01)。・中枢神経系の副作用が報告された患者はいなかった。・高血圧が2例で報告され、ケタミン関連の頻脈の報告はなかった。 著者らは「BZD治療抵抗性アルコール離脱患者に対するケタミン併用は、症状コントロールを可能とし、ロラゼパム静注の必要性を潜在的に減少させる可能性がある。BZD治療抵抗性アルコール離脱患者のための最適な投与量、開始時期、治療場所を決定するためには、さらなる研究が必要である。NMDA受容体を介するケタミンの作用機序は、BZD治療抵抗性アルコール離脱に対し有益である可能性がある」としている。■関連記事アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬不眠症とアルコール依存との関連アルコール摂取量削減のためのサービングサイズ変更効果

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不眠症とアルコール依存との関連

 アルコールを“睡眠補助”として使用した際のリスクを評価するため、米国・ウェイン州立大学のTimothy Roehrs氏らは、睡眠前のエタノールの鎮静・催眠効果での耐性の発現、その後のエタノール用量漸増、気分の変化、エタノール“愛好”について評価を行った。Sleep誌オンライン版2018年5月12日号の報告。 対象は、不眠症以外に関しては医学的および精神医学的に健康であり、アルコール依存および薬物乱用歴のない21~55歳の不眠症患者。試験1において、24例に対し睡眠前にエタノールを0.0、0.3、0.6g/kg(各々8例)投与し、夜間睡眠ポリグラフ(NPSG)を8時間収集した。試験2において、エタノール0.45g/kgまたはプラセボによる6日間の前処置を行った後、睡眠前のエタノールまたはプラセボのどちらを選ぶか、7日以上の選択の夜にわたり評価した。 主な結果は以下のとおり。・エタノール0.6g/kg投与は、総睡眠時間および第2夜の第3~4段階の睡眠を増加させたが、これらの効果は第6夜には失われた(p<0.05)。・6日間のエタノールでの前処置は、プラセボでの前処置と比較し、選択の夜におけるエタノール自己投与が多かった(p<0.03)。 著者らは「本研究は、不眠症患者の“睡眠補助”としてのアルコール使用に伴うリスクを明示する最初の研究である。エタノール投与開始の初期には、NPSGの睡眠および鎮静作用の自己報告が改善したが、第6夜には消失した。耐性については、睡眠前のエタノール自己投与の増加と関連が認められた」としている。■関連記事アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析うつ病とアルコールとの関係:2014年英国調査よりアルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬

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アルコール関連での緊急入院後の自殺リスクに関するコホート研究

 アルコール乱用は、自殺のリスク因子として知られているが、アルコール関連の入院とその後の自殺による死亡リスクとの関連は、よくわかっていない。英国・Public Health Wales NHS TrustのBethan Bowden氏らは、アルコール関連での緊急入院後の自殺による死亡リスクを特定するため、検討を行った。PLOS ONE誌2018年4月27日号の報告。 2006年1月、10~100歳の英国・ウェールズの住民280万3,457人を対象とした電子的コホート研究を6年間フォローアップした。アウトカムイベントは、故意の自傷および自殺(ICD-10:X60-84)または不慮か故意か決定されない事件(ICD-10:Y10-34)として定義された自殺による死亡とした。主要曝露は、入院カルテにおけるアルコール関連の入院(ICD-10アルコールコードで定義)とした。入院は、精神医学的疾患の有無によりコード化された。解析では、データセット内の交絡変数の調整を伴うCox回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に、1,554万6,355人年のうち、2万8,425件のアルコール関連の緊急入院および1,562件の自殺が認められた。・125件の自殺は入院後に起こっており(人口10万人年当たり144.6例)、そのうち11例(9%)が退院4週間以内に発生していた。・入院後の自殺率の調整されたハザード比(HR)は、全体で26.8(95%CI:18.8~38.3)、男性で9.83(95%CI:7.91~12.2)、女性で28.5(95%CI:19.9~41.0)であった。・精神医学的疾患を合併していない患者においても、自殺リスクは高いままであり、男性のHRは8.11(95%CI:6.30~10.4)、女性のHRは24.0(95%CI:15.5~37.3)であった。・なお、本分析は、潜在的に重要な交絡変数のデータセットの欠如および非入院者のアルコール関連問題、精神医学的疾患に関する情報の欠如により、制限を受けた。 著者らは「アルコール関連の緊急入院は、自殺リスクの増加と関連が認められた。退院前に高リスク患者を特定することは、心理社会学的評価および自殺予防を行う機会の提供につながる」としている。■関連記事入院から地域へ、精神疾患患者の自殺は増加するのか思春期の少年少女における自殺念慮の予測アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析

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アルコール依存症患者における不眠症に関するメタ解析

 アルコール依存症患者における不眠症の有病率は、36~91%であり、アルコール離脱後も持続する可能性がある。禁酒患者の不眠症を、アカンプロサートが減少させることが示唆されている。フランス・モンペリエ大学のPascal Perney氏らは、アカンプロサートは実際に不眠症を軽減させるのか、そしてその作用機序をより理解するため、大規模臨床試験データベースを用いて有効性の評価を行った。Alcohol and alcoholism誌オンライン版2018年3月30日号の報告。 本研究の目的は、個々の患者データのメタ解析を行い、不眠症の軽減に対するアカンプロサートの有効性の評価をすることである。12件の研究より3,508例が抽出された。6ヵ月間のフォローアップ後、ベースラインからの平均不眠症減少率は、アカンプロサート群で45%、対照群で26%であった(p<0.001)。 不眠症が記録されたアカンプロサートに関するすべてのランダム化試験より、患者データを抽出してメタ解析を行った。主要評価項目は、ハミルトンうつ病・不安評価尺度より得られた短時間睡眠指数(SSI:Short Sleep Index)により測定された、6ヵ月のフォローアップ後の不眠症の変化とした。メタ解析は、ランダム化治療効果、ランダム化試験効果およびベースライン重症度の共変量の調整を伴う、2レベルマルチレベル(患者/試験)混合モデルを用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・12件の研究より3,508例が抽出された。そのうち不眠症の患者は59.8%(95%CI:58.1~61.4)であった。・精神疾患既往歴、重度の依存、独居、γ-GTレベル異常が、不眠症のリスク因子であった。・6ヵ月間のフォローアップ後、ベースラインからの平均SSI減少率は、アカンプロサート群で45%、対照群で26%であった(治療効果:19%、95%CI:12.5~25.5、p<0.001)。・単変量媒介モデルでは、不眠症に対する禁酒の媒介効果は、不眠症軽減に対するアカンプロサート全体的効果の55.7%であった。 著者らは「アルコール依存症患者では、不眠症が一般的に認められる。不眠症は、禁酒により減少するが、アカンプロサート治療で、より減少する」としている。■関連記事認知症発症に対するアルコール使用障害の影響に関するコホート研究アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬お酒はうつ病リスク増加にも関連

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認知症発症に対するアルコール使用障害の影響に関するコホート研究

 認知症は、60歳以上の5~7%に影響を及ぼす一般的な症状であり、世界的に60歳以上の人々にとって主要な障害の原因となっている。フランス・国立保健医学研究所(INSERM)のMichael Schwarzinger氏らは、若年性認知症(65歳未満)に焦点を当て、アルコール使用障害と認知症リスクとの関連について検討を行った。The Lancet Public health誌2018年3月号の報告。 2008~13年のフランス都市部における20歳以上の成人入院患者を対象とした、退院コホート研究を分析した。主要曝露はアルコール使用障害、主要アウトカムは認知症とした。いずれもICD-10(国際疾病分類第10版)診断コードで定義した。若年性認知症は、2008~13年における一般的な症例より研究を行った。認知症発症に対するアルコール使用障害および他の危険因子との関連性は、2008~10年に認知症の記録がなく2011~13年に入院した患者において、多変量Coxモデルを用いて分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・2008~13年に退院した3,162万4,156例のうち110万9,343例が認知症と診断され、分析に含まれた。・若年性認知症者5万7,353例(5.2%)のうち大部分は、アルコール関連疾患がある(2万2,338例、38.9%)、またはアルコール使用障害の診断が追加されたケース(1万115例、17.6%)であった。・アルコール使用障害は、認知症発症の最も強い修正可能なリスクファクターであり、調整ハザード比(aHR)は、女性で3.34(95%CI:3.28~3.41)、男性で3.36(95%CI:3.31~3.41)であった。・認知症症例の定義(アルツハイマー病を含む)または高齢の研究対象集団における感度分析で、アルコール使用障害は、男女ともに認知症発症と関連したままであった(aHR:1.7超)。・アルコール使用障害は、認知症発症の他のすべてのリスクファクターと有意な関連が認められた(すべてp<0.0001)。 著者らは「アルコール使用障害は、すべてのタイプの認知症、とくに若年性認知症発症の主要なリスクファクターであった。そのため、重度の飲酒をスクリーニングすることは、定期的な医療の一部であり、必要に応じて介入や治療を行うべきである。さらに、一般住民の重度の飲酒を減らすためにも、他のアルコール政策を考慮する必要がある」としている。■関連記事うつ病とアルコールとの関係:2014年英国調査よりお酒はうつ病リスク増加にも関連日本人若年性認知症で最も多い原因疾患は:筑波大学

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ちょっと今から仕事やめてくる【過労自殺を防ぐには?】

今回のキーワード働き方改革産業精神保健ストレスチェック要求度-コントロール-社会的支援モデルストレス脆弱性モデル「ワーカホリック」「時短ハラスメント」AI(人口知能)2017年に、政府は働き方改革実行計画を策定しました。その中では、「長時間労働の是正」を初めとして数か条の検討事項を挙げています。みなさんは、自分の働き方が「改革」される必要があると思いますか?特に、医師は働き過ぎていると言われています。なぜ働き過ぎるのでしょうか? 一方で、なぜ働かせ過ぎるのでしょうか? そして、なぜ働き過ぎは良くないのでしょうか? そもそも私たちはなぜ働くのでしょうか? それでは、どう働かせるのが良いでしょうか? 最終的に、私たちはどう働くのが良いのでしょうか? そして、どう生きるのが良いのでしょうか?これらの疑問を解き明かすために、今回は、2017年の映画「ちょっと今から仕事やめてくる」を取り上げます。この映画を通して、働くことを生理学的に、社会学的に、そして進化心理学的に掘り下げ、産業精神保健の理解を深めましょう。ブラック企業とは?主人公の青山は、入社して半年、営業部に勤務しています。達成不可能なノルマを課され、3か月連続で残業は150時間を超えています。しかし、残業代は出ていません。毎朝、勤務開始時間には、「有休なんていらない」などとの社訓の音読を社員全員でさせられます。急ぎの命令でタクシーを利用したのに、経費は支払われません。ミスによる減損分は給料から差し引かれます。彼の上司は、彼を「このタコ!」「おまえはクズだ」と人前で怒鳴り付け、ミスが起きると、書類ではたき、足蹴りし、鞄で叩きます。それでも気持ちが治まらない時は、「ここにいる全員に謝れ」と命令して、土下座を延々とさせて、見せしめます。このように、過剰なノルマ、長時間の時間外労働、時間外労働分の不払い、必要経費の不払い、損失分の給料からの差し引き、パワーハラスメントなど違法な労働条件が常態化している場合は、ブラック企業と呼ばれます。ちなみに、研修医や医師にとって長時間労働が常態化しているという点では、医療機関もブラック企業になりえます。仕事のストレスとは?-グラフ1青山は、過剰なノルマにより、仕事量はとても多いです(仕事の要求度)。顧客の都合や気分に合わせなければならない営業という職種柄や上司の理不尽な命令や急な呼び出しにより、裁量権や技量の活用はとても少ないです(仕事のコントロール)。さらに同僚とは競争関係にあり、仕事の横取りや足の引っ張り合いが起きています。上司や同僚のサポートはとても少ないと言えます(職場の社会的支援)。そんな極限状況の中、青山はメンタル不調に陥ります。このように、仕事の要求度、仕事のコントロール、職場の社会的支援という3つの軸による3次元モデルによって、仕事のストレス要因とうつ病との関連が指摘されています(要求度-コントロール-社会的支援モデル)。この3つのポイントは、2015年から義務化されているストレスチェックにも反映されています。今回は、グラフ1のように分かりやすく2次元でご紹介します。ちなみに、医師は、専門職として裁量権や技量があり、仕事のコントロールは良い方に思われます。しかし、実際には、治療マニュアルに従っている点、急患や急変に即座に対応しなければならない点、詳しい説明などの医療サービスが患者からますます求められている点、医療ミスへの訴訟リスクがある点で、長時間労働と相まって、仕事のストレスはかなり高いと言えるでしょう。うつ病の予兆は?-表1青山は、夜眠れなくなります(不眠)。実家には1年半以上帰っておらず、電話口で心配する母親にきつく当たります(精神運動焦燥)。このように、職場のストレスによって、行動面、体調面、メンタル面で何かしらいつもの自分にはない症状が出てきた場合、それはうつ病の予兆と言えます。どの症状が出やすいかは、人によって違い、表1のようにあらゆる症状が出てきます。うつ病の診断基準は?-表2青山は、休日はぐったりして、恋人や友人と遊びに行く元気もありません(興味・喜びの減退)。彼は、ある日の仕事の帰り道、「人は何のために働くんだろう?」「もし生きるために働くんだとしたら、おれは生きているって言えるんだろうか?」(抑うつ気分)、「体が鉛のように重い。休みたい。眠りたい。もう疲れた」(疲労感)、「明日なんて来なくていい」と思います(希死念慮)。そして、駅のホームからやって来る電車にふらっと飛び込むのです(自殺企図)。青山は、ついにうつ病を発症したのでした。うつ病は、表2のように、濃いグレーの欄が1つ以上、濃いグレーと薄いグレー両方で5つ以上の項目が同じ2週間の間で当てはまっていれば診断されます。この表は、もともと精神科医師が使用するうつ病の診断基準(DSM-5)を、一般の医療関係者にも分かりやすいように簡便な表記にしています。診断の注意点は、希死念慮以外の症状が2週間の間で持続一貫していることです。逆に、時間や場所などの状況によって症状が改善していたり、そもそも基準の項目を満たしていない場合は、適応障害と診断されます。ただし、適応障害とうつ病は厳密に区別が付けられないことも多々あります。その理由は、症状の根拠が本人からの問診に大きく頼っていて客観性が乏しいこと、症状の程度が数値化されないので診断する医師の経験や裁量などの主観が入り込んでしまうこと、症状が時間経過によって変化することもあり固定していないことなどがあげられます。よって、初回の診断では、適応障害とうつ病を合わせて、「うつ状態」とする場合もあります。なぜ急に自殺するの?ちなみに、青山がメンタル不調になり、自殺をするまで病状が悪化するスピードはかなり早いです。なぜ病状の悪化は、徐々にではなく急速になのでしょうか?言い換えれば、なぜ急に自殺するのでしょうか? その答えは、もともと私たちの脳は、ある程度のストレスへの抵抗力(脆弱性)によって恒常性を維持していますが、そのしわ寄せとしてある程度以上のストレスがたまるとその恒常性が破綻してしまい、一気に症状が出てしまうからです(ストレス脆弱性モデル)。例えるなら、骨折です。骨は、ある程度までの力には耐えられますが、ある程度以上の力で折れてしまいます。うつ病は、「心の風邪」と例えられますが、むしろ「心の骨折」です。ある時、急に心が折れてしまうということです。そして、治るのにも時間がかかるということです。過労自殺とは?青山は、過労(長時間労働)を主とする職場のストレスによって自殺をしようとしました。このような自殺は、過労自殺と社会的に定義されています。現在、労働災害における労働と過労死・過労自殺の因果関係を認める過労死ラインは、時間外労働が半年間で月80時間以上、1か月で100時間以上です。この根拠の1つとして、時間外労働が増えれば、連動して必然的に睡眠時間が減ることです。そして、睡眠不足とメンタル不調には密接な関係があることです。NHKの「国民生活時間調査」によると、時間外労働が月80時間(1日4時間)に増えると睡眠時間が6時間に減り、月100時間(1日5時間)に増えると睡眠時間が5時間に減るということが分かっています。ちなみに、2017年に報道されたある研修医の過労自殺の場合は、1か月に160時間を超えていました。なぜ働き過ぎるの?-過労の心理-表3自殺しかけた青山を間一髪で助けたのは、幼なじみのヤマモトと名乗る男でした。青山は、その男を覚えていなかったのですが、ヤマモトの強引なペースに乗せられて、その後も一緒に時間を過ごすようになります。そして、青山は、冷静になり、自身の過労を自覚するようになります。そもそも彼はなぜ働き過ぎるのでしょうか? 言い換えれば、なぜ青山は過労自殺を避けられなかったのでしょうか?本来、人間を含む動物は、働いて(動いて)、疲れが出てきたら休みます。疲れとは、痛みや発熱と同じく、生物が生命を守るために体の状態や働きを一定にする保とうとするために進化した生体アラームの1つです(ホメオスタシス)。ところが、人間は、疲れても働き続けること(動き続けること)ができるようになりました。この人間特有の過労の心理を、主に3つ挙げてみましょう。(1)恐怖感青山は、上司に怒鳴られるのが怖くて、必死になって無理して残業をしています。そんな青山にヤマモトは「仕事辞めることと死ぬことはどっちの方が簡単なん?」「仕事、変えた方がえんちゃうか?」とアドバイスしますが、青山は「とにかく仕事辞めるのってそんな簡単なことじゃないんだって」と言い張ります。青山は、職場以外の人間関係がなく、視野が狭くなっており、「迷惑をかける」「居場所がなくなる」と怯えていました。1つ目は、恐怖感による過労です。他の動物と違って、人間は、パワーハラスメント(権力)や居場所(社会)を生み出す文明を進歩させました。このパワーハラスメントや孤立への恐怖に延々とさらされることによって、脳内ではノルアドレナリンが分泌され、恐怖感が得られます。そして、自律神経の交感神経が刺激されて、疲れを奮い立たせて、働き続けることが可能になりました。ただし、恐怖心は、被害的そして罪業的な感情を高めます。「嫌なら(怖いなら)辞めれば良い」と言う人がいますが、実際はそういうふうに割り切れないほどに理性が麻痺してしまうのです。(2)達成感青山は、上司から無理難題の業務を押し付けられた後に、「がんばれよ」と肩を叩かれて、目を輝かせています。そして、残業に励むのです。2つ目は、達成感による過労です。他の動物と違って、人間は、励ましや期待、感謝などの社会的報酬を交換する社会脳を進化させました。これらの報酬を定期的に受け取ることによって、脳内ではドパミンが分泌され、達成感や満足感が得られます。そして、疲れを感じにくくなり、働き続けることが可能になりました。「疲れが吹っ飛んだ」という表現がこれを端的に表しています。疲れが起こるのは自律神経の中枢(視床下部と前帯状回)であるのに対して、疲れを感じるのは前頭葉(眼窩前頭野)であり、一体ではないです。疲れは、「吹っ飛んだ」のではなく、一時的に感じにくくなっているだけで、蓄積し続けていきます。ちなみに、特に医師は、患者を救うというやりがいや感謝されるという喜びによって、この達成感による過労の心理が高まっていく危うさがあります。(3)快感青山の上司は、部下たちを怒鳴り散らしながら、ばりばり仕事をしています。どうやら仕事好きのようです。部下たちに過剰なノルマを課すのは正しいと信じています。3つ目は、快感による過労です。人間を含む動物は、天敵による手負いの極限状況で、その状況を切り抜けて生き残るために、一時的にその痛みや疲れを緩和させる防御反応を進化させました。過労もその極限状況の1つです。過労による苦痛を感じ続けることによって、脳内ではエンドルフィンやカンナビノイドなどのいわゆる「脳内麻薬」が分泌され、快感が得られます。そして、極限状態の疲れは緩和されるばかりか逆に快感になり、働き続けることが可能になりました。「疲れが心地良い」という表現がこれを端的に表しています。厳密には、これは、「心地良い」のではなく、心地良く感じることで最後の力を振り絞らせようとしている危うい精神状態であるということです。同じ現象は、私たちの様々な精神活動にもみられます。例えば、長距離ランナーが限界を超えた時に感じる「ランナーズハイ」、ダイエット中の人や摂食障害の人が飢餓状態で感じる「ダイエットハイ」「拒食ハイ」、境界性パーソナリティ障害の患者がリストカットした後に空虚感(心の痛み)が一時的になくなることなどです。ちなみに、快感による過労は、「ワーカホリック」「仕事中毒」とも呼ばれています。「ワーカホリック」は「アルコホリック(アルコール依存症)」が語源です。快感を得るために、その摂取や行為をするという点では、アルコール、ドラッグ、ギャンブルなどの依存症や摂食障害と同じメカニズムであると言えます。さらに、もっと言えば、労働から、スポーツ、勉強、ゲーム、セックスまで、私たちのあらゆる精神活動は、コントロールができなくなれば、依存症になりうると言えます。なお、現在、「ワーカホリック」は、DSM-5に掲載されていませんが、日本で過労自殺が続くなら、今後の改訂版で正式に依存症の一種として掲載されるかもしれません。なぜ働かせ過ぎるの?-過労をさせる心理ここまで働く側の心理を主に3つ考えてきました。ここからは働かせる側の心理も考えてみましょう。なぜ働かせ過ぎるのでしょうか? その過労をさせる心理を主に3つ挙げてみましょう。(1)がんばることは良いことだから青山の上司は、最多契約賞として一番優秀な部下を全員の前で表彰し、金一封を手渡します。そして、次のノルマをつり上げます(ストレッチゴール)。1つ目は、がんばることは良いことだからです。これは、江戸時代の封建社会から洗練されてきた日本独特の文化で、「気合い」「精神力」にも通じます。自分ががんばって我慢して世間(集団)の役に立つことを良しとする集団主義の文化です。よって、「長く働く人は偉い」、逆に言えば「残業をやらない人はやる気がない」という雰囲気になりやすいです。また、顧客の都合で突発的に「呼ばれたらすっ飛んで行く」という対応の方が、好ましく思われ、顧客満足度は高いでしょう。こうして、働かせる側は、残業や突発的な仕事があることを前提にして仕事のスケジュールを組み、働かせ過ぎることができます。そして、残業を無制限にさせられるように、従来からの日本の企業は、労働法の例外事項を拡大解釈しています(サブロク協定)。ちなみに、医師は、「病気という顧客の都合」により、「呼ばれたらすっ飛んで行く」ことが義務付けられている点で(医師の応召義務)、やはり働かせられ過ぎます。(2)首切りが難しく新しい人を雇いにくいから退職を申し出る青山に対して、上司は、「懲戒解雇しかねえからな!」などと脅しています。本当でしょうか?2つ目は、首切りが難しく新しい人を雇いにくいからです。日本の労働法は、労働者に保護的であり、使用者が解雇するハードルが極めて高いです。これは、「簡単に見捨てない」という集団主義の文化が根付いているとも言えます。だからこそ、繁忙期だからと言って人を増やさずに、残業を増やします。そして、閑散期に残業を減らします。一方、欧米は、繁忙期に人を増やし、閑散期に人を減らしています。言い換えれば、欧米では首切りがしやすいということです。こうして、働かせる側は、残業を繁閑の調整弁にすることで、働かせ過ぎることができます。裏を返せば、欧米に比べて、日本の残業制度は、労働者の雇用を安定させるという役割があります。ちなみに、医師は、医師不足によって新しく雇いにくいという点で、やはり働かせられ過ぎます。(3)仕事の範囲を広げられるから青山の部署は営業部ですが、他の部署への異動も可能です。3つ目は、仕事の範囲を広げられるからです。日本の労働文化は、働かせる側の命令の権限が大きく、仕事の範囲がどこまでも広がってしまうということです。例えば、仕事の内容や求められるスキルが違っていても、部署異動があります。能力の高い人や断らない人はより多くの仕事を任せられます。仕事が終わらない同僚や部署を手伝わせることもあります。これは、「会社も家族同様」という集団主義の文化の名残とも言えます。言うなれば、日本は「人に仕事をつける」ということです(メンバーシップ型)。一方、欧米は「仕事に人をつける」、つまり、仕事の範囲が最初から詳細な労働契約で決まっていて広げられないということです(ジョブ型)。このように、仕事の範囲に融通を効かせる点でも、首切りは、日本ではしにくく、欧米ではしやすいと言えるでしょう。こうして、働かせる側は、会社のメンバーの一員であることを口実に仕事の範囲を広げていき、働かせ過ぎることができます。だからこそ、企業の人事が採用する新人に一番求めるのは、もともとのスキルや経験よりも、「コミュニケーション能力」です。言い換えれば、求めているのは、無理な残業でも断らない「企業戦士」ということです。さらに、これを悪用しているのが、昨今話題になる新手のブラック企業です。急成長する会社の知名度を利用して、新人を大量に雇用して、従順で能力のある人だけを選別します。そして、残りの人を巧妙なパワーハラスメントによって自主退職に追い込みます。いわば実質的な大量解雇です。ちなみに、日本の医師は、欧米と違い、専門外の診療行為に制限が少ないため、診る患者の範囲を広げられる点で、働かせられ過ぎます。なぜ働き過ぎは良くないの?-過労のマイナス面青山は、ヤマモトに「ちょっと今から仕事やめてくる」と宣言して、怖い上司に自分のまっすぐな気持ちをひるまずに伝えます。そして「できれば部長も少し休んでください」と言う言葉を残して、職場を後にします。その帰り道、鞄をぶんぶん振り回してスキップしながら戻ってきます。彼の開放感が、軽やかに描かれています。彼は、働き過ぎないことを選んだのでした。一方、青山の上司なら「好きで働いてなぜ悪い」と言うでしょう。それも1つの価値観です。ただし、それを周りに強要する時代ではなくなってきているということです。なぜ働き過ぎは良くないのでしょうか? その過労のマイナス面を主に3つに挙げてみましょう。(1)メンタルヘルスの危うさ1つ目は、メンタルヘルスが危うくなることです。青山が過労自殺をしそうになったように、これは、過労死とともに最低限守るべき労働安全衛生であることは明らかです。これが、現在の情報化社会によって、うやむやにはできない状況になっています。(2)ワークライフバランスの危うさ2つ目は、ワークライフバランスが危うくなることです。時代の変化によって、仕事(ワーク)よりもプライベート(ライフ)に重きを置くバランスが求められているからです。例えば、男女共働きで家事育児の分担、少子高齢化で介護の負担、趣味や資格取得のための個人の時間などです。(3)雇用の活性化の危うさ3つ目は、雇用の活性化が危うくなることです。価値観の変化により、より多くの女性や高齢者も労働に参加することが望まれています。労働者市場は一定であると考えれば、従来の労働者が働き過ぎないことで、その不足分を新規に女性や高齢者が補う形で参入できるようになるはずです。なぜ働くの?-労働の心理ある日、青山がヤマモトについて調べると、何と3年前に自殺していたことが分かります。そのヤマモトに、青山は「人生は誰のためにあると思う?」と尋ねられます。「自分のため」「他にあるのか?」と答える青山に、ヤマモトは「おまえを大切に思っている人のためや」「おまえが死んで何もかんも終わりにできると思ってるかもしれんけど、そんなんたまらんわ。残された方はほんまにたまらんわ」と語ります。ヤマモトは一体何者なのでしょうか? その答えは、この映画を見て納得していただきたいと思います。そもそも私たちはなぜ働くのでしょうか? 確かに、自分のため、生活のため、生きるためです。もっと分かりやすく言えば、お金のためです。それにしても、果たしてそうでしょうか? その答えを進化心理学的に掘り下げてみましょう。原始の時代、私たちヒトは、体と同じく心(脳)も進化させました。それが先ほどにもご紹介した社会脳です。社会脳とは、家族を中心にして村(生活共同体)の中でうまくやって行くための能力です。そのシンボルとして、当時、頼られている者が周りの者から貝の首飾りの贈り物をもらいました。感謝の印です。つまり、貝の首飾りが多ければ多いほど、みんなとうまくやっているという信頼の証が得られたのでした。これが、お金(貨幣)の起源と言われています。つまり、本来のお金とは、信頼の象徴だったのです。しかし、現在、お金は富の象徴にすり替わって、一人歩きしています。よって、「なぜ働くの?」という労働の心理への究極的な答えは、「お金のため」「自分のため」を超えて、家族のためであり、自分と信頼関係を築きたい人のためであると言えます。これは、ヤマモトの答えにもつながります。どう働かせる?-表4これまで、過労の心理、過労をさせる心理、過労のマイナス面、そしてそもそもの労働の心理を詳しく見てきました。これらを踏まえて、今後、青山の会社や上司などの働かせる側はどうすれば良いでしょうか?  その対策を主に3つ挙げてみましょう。(1)ルールに基づいて働かせる1つ目は、ルールに基づいて働かせることです。ドイツやフランスでは、時間外労働に対してペナルティを課しています。日本も、ようやく働き方改革で、罰則付きで労働時間に制限を設ける方針を打ち出しています。こうして、仕事の要求度を減らし、職場のストレスを減らすことができます。ただし、医師は、医師法に基づく応召義務などの特殊性を理由に、現時点で適用除外対象になっており、今後も議論の余地があるでしょう。(2)風通し良く働かせる2つ目は、風通し良く働かせるです。まず組織のトップが、「過労は良くない」というメッセージを自ら発信し続けることです。そして、お互いに積極的に意見が言い合える関係作りをすることです(フラット型のコミュニケーション)。まさに、青山の上司とは真逆です。トップの発言や態度が、集団の規範となり、コミュニケーションのスタイルとなり、組織文化となります。「周りが仕事をしているのに帰りづらい」という横並びの負の同調圧力を減らすことができます。そして、時短勤務や在宅勤務などの多様な働き方をより受け入れることができます。こうして、仕事のコントロール感を増やし、職場のストレスを減らすことができます。(3)見極めて働かせる3つ目は、見極めて働かせることです。これは、労働量と労働時間の関係の「見える化」です。確かに、マニュアル通りではない仕事(非定型業務)は、状況や個人によって差があり、労働量と労働時間の相関関係を決めづらい面はあります。そうだとしても、この仕事に対してこのくらいの能力の人にはこのくらいの時間がかかるという労働力や労働時間の適正な相場をあえて見極め、示すことです。そうしないとどうなるでしょうか? 働かせる側は「時短だ」「定時に帰れ」と言って表向きには労働時間を減らしておきながら、納期やノルマなどの労働量はそのままにして、時間内に仕事が終わらないのは「能力がない」という理屈を押し付けることができます。すると、働く側は、「能力がない」と思われたくないために、タイムカード通りに帰宅せずに職場に居残る「サービス残業」をしたり、職場近くのカフェに移動して仕事を続ける「持ち出し残業」をしたり、自宅に持ち帰る「持ち帰り残業」をしたりするなど、隠れて残業をさせられるはめになります。これは、「時短ハラスメント」とも呼ばれています。「プレミアムフライデー」が広がらない理由はここにあります。また、仕事のやり方と時間配分を本人の裁量に任せる労働(裁量労働制)も危ういです。なぜなら、そもそも最初から過剰な労働量が設定されてしまえば、労働時間が不透明なだけに、より働かせ過ぎることができるからです。これは、逆に、労働の「見えない化」です。この「見える化」をあえてしない組織は、つまり働き方改革を逆手に取って悪用することで、残業代を支払わなくて良くなりコストカットしたことになるので、短期的には業績(生産性)を上げるでしょう。しかし、現代の高度な情報化社会の中で、これが明るみになるのに時間はそれほどかからないでしょう。つまり、長期的にはその組織は社会的信用を失い、人が集まらなくなり、業績は下がっていくでしょう。先ほどの原始の時代の社会脳の進化でも触れましたが、信用される、信頼されることこそが働くことの原点です。それは組織においても同じだからです。働かせる側は、「見える化」によって働く側の様子を理解していることが重要です。こうして、職場の社会的支援を増やし、職場のストレスを減らすことができます。どう働く?-表4それでは、働く側はどう働ければ良いでしょうか? ヤマモトの心がけを主に3つ挙げてみましょう。(1)余裕を持って働く給料や正社員であることに固執して自分を追い詰めている青山とは対照的に、ヤマモトは、「ニートやで」「いちおうアルバイト的なことはしてるで」「就職なんかせんでも、意外と生きていけるからな」と軽く言います。1つ目は、余裕を持って働くことです。時間や体力の余裕は、心の余裕を保ちます。その余裕の中で、どれくらい働いて、どれくらい余暇や家族との時間を過ごして、そしてどれくらい稼ぐのか、つまりどんな生き方(ライフスタイル)をしたいのかということに向き合うことです。そして、そのバランスを取るために、仕事を休む、辞めるという選択肢は常にあると考えることです。これは、働く側の「見える化」とも言えます。逆に言えば、余裕がない中、やみくもに働く時代ではなくなっています。こうして、仕事の要求度を減らし、職場のストレスを減らすことができます。(2)積極性を持って働く叱られまいと萎縮して受け身になって働く青山とは対照的に、ヤマモトは、明るいネクタイを勧め、笑顔でゆっくり話すこと、営業相手に寄り添い、懐に入ることを説きます。2つ目は、積極性です。これは、自分から積極的に先回りして動くことです。こうして、仕事のコントロール感を増やし、職場のストレスを減らすことができます。(3)やりがいを持って働くヤマモトは、青山を過労自殺から救い、彼の人生を大きく変えました。そして、青山に心の底から感謝されます。ヤマモトはお金では計り知れない大きな仕事をしたとも言えます。実は、ヤマモトは、すでにある場所でやりがいを見いだし、生き生きと働いていました。3つ目は、やりがいを持って働くことです。先ほどの原始の時代の社会脳の進化でも触れましたが、感謝されるやりがいこそが働くことの原点です。そして、仕事にやりがいを見いだすことで、信頼関係が生まれ、自分の居場所が見いだせます。こうして、職場の社会的支援を増やし、職場のストレスを減らすことができます。どう生きる?ラストシーンで、ヤマモトの居場所が、なんとバヌアツという外国の小学校であることが判明します。そこを尋ねた青山は、ヤマモトに「ここで、今度はおれがおまえを助けることができないかな?」と申し出ます。すると、ヤマモトは「最初はボランティアからやで」と微笑むのです。かつての狭く息苦しい青山の職場とは対照的に、抜けるような青空、海、そして子どもたちの絶えない笑顔があるバヌアツはまさに楽園です。青山は、ヤマモトのおかげで、働き方だけでなく、生き方も変えたのでした。ボランティアとは、ラテン語の「ボランタス(自由意志)」を語源としています。まさに働くことの原点です。確かに、ボランティアだけでは、生きて行くことは難しいでしょう。組織も個人も、お金(収入)は大事です。働き方改革のマイナス面として、個人も組織も収入を減らしてしまうおそれがあります。政府の成長戦略に連動しないおそれもあるでしょう。これは、個人、組織、政府のそれぞれにとって、あまりはっきりさせたくない不都合な真実でしょう。一方で、これからはAI(人工知能)の時代です。現在、機械化によって力仕事をする必要がなくなってしまったために、逆にお金を払ってスポーツジムで運動をする人がいます。同じように、近い将来には、AI化によって仕事自体をする必要がなくなってしまうために、逆に、お金を払って働く人が現れるかもしれません。これは、究極のボランティア精神と言えるでしょう。なぜなら、社会構造の変化(環境変化)に、私たちの心(脳)の進化が追いつくには、少なくとも何万年かは必要だからです。働き方を変えて収入を減らしたとしても、働かなくても良いAIの時代になったとしても、やはり働くことは自由意志であり周りとの信頼関係を強めることであるという原点に立ち返れば、私たちは、どう働くかを超えて、どう生きるかという問いへの答えも見いだすことができるのではないでしょうか?1)北川恵海:ちょっと今から仕事やめてくる、メディアワークス文庫、20152)日本産業精神保健学会編:職場のメンタルヘルス、南山堂、20113)大室正志:産業医が見る過労自殺企業の内側、集英社新書、20174)梶本修身:すべての疲労は脳が原因、集英社新書、20165)常見陽平:なぜ、残業はなくならないのか?、祥伝社新書、2017

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うつ病とアルコールとの関係:2014年英国調査より

 うつ病とアルコール消費に関して、比較的大規模な研究で調査されており、双方の因果関係を示唆するエビデンスが報告されている。しかし、この逆の因果関係(reverse causation)から生じる内生性は、報告されていない。オーストラリア・RMIT大学のS. Awaworyi Churchill氏らは、アルコールとうつ病との関連をレビューし、この関連の内生性について調査した。Drug and alcohol dependence誌2017年11月1日号の報告。 英国の健康調査(HSE:Health Survey for England)より得られた5,828例のデータを用いて、アルコールとうつ病との関連をレビューし、この関連の内生性について調査した。自己評価により収集されたうつ病関連情報とLewbel 2段階最小二乗法(2SLS:two-staged least square)による内生性のコントロールの情報を用いた。 主な結果は以下のとおり。・アルコール摂取によりうつ病が促進されていた。・この関連は、アルコール摂取量、アルコールの強さ、アルコール依存症、依存のリスクを含む飲酒行動のいくつかの尺度において一貫して認められた。 著者らは「英国では、飲酒は文化の一部として一般的に受け入れられているが、これは無視することのできない身体的および精神的な健康の両面においてコストの問題を有する。公的政策は、主に過度のアルコール摂取による身体的側面に焦点を当てているが、QOLやウェルビーイングへのアルコール摂取低下による精神的な健康コストに対しても、よい影響を及ぼす可能性がある」としている。■関連記事たった2つの質問で、うつ病スクリーニングが可能境界性パーソナリティ障害、性行為とアルコールの関係お酒はうつ病リスク増加にも関連

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「カイジ」と「アカギ」(後編)【ギャンブル依存症とギャンブル脳】

今回のキーワードカジノを含む統合型リゾート(IR)行動経済学システム化報酬予測ニアミス効果損失回避欲求自助グループ(GA)なぜギャンブルは「ある」の? -ギャンブル脳ギャンブルをするのは男性が多いという理由について、因果関係、上下関係、契約関係を重視するという男性ならではのシステム化の心理があることが分かりました。それでは、そもそもなぜギャンブルは「ある」のでしょうか?その答えは、原始の時代に生きるか死ぬかの「ギャンブル」をして生き抜く遺伝子が現代の私たち(特に男性)に引き継がれているからです。これは、ギャンブル脳と呼ばれています。そして、これによって日常生活に支障を来している場合が、ギャンブル依存症と言えます。また、ギャンブル脳を含め人の心理行動と経済活動の関係を研究するのが、行動経済学です。ここから、このギャンブル脳を、3つの要素に分けて、その進化心理学的な起源を探ります。そして、その行動経済学的な応用を紹介しましょう。(1)「想像するだけでワクワクする」a. 報酬予測1つ目は、「想像するだけでワクワクする」という報酬予測(動機付けサリエンス)です。これが、心を奪われるという心理につながっていきます(渇望)。例えば、「勝った時の興奮が忘れられない」「あのスリルをもう一度味わいたい」「ルーレットが回っている瞬間が最も興奮する」という気持ちです。これは、ギャンブルに限らず、例えば「旅行は計画している時が一番楽しい」「遠足の前日は眠れない」など、初めてで不確定ですが、楽しいことが予測される非日常の直前の心理が当てはまるでしょう。この報酬予測の心理を引き出すには、すでにその快感(報酬)の体験をしていることが前提です。この点で、パチンコや競馬などと違い、宝くじにおいては、基本的に勝ちの快感の体験を味わうことはできません。よって、その代わりに、宝くじの当選額を億単位まで増額し射幸心を煽った上で、当選の疑似体験をCMで植え付けることが盛んに行われます。実際に、サルによる動物実験でも実証されていますが、確実な報酬よりも、不確実な報酬の「待ち時間」に、最も脳内で快楽物質(ドパミン)が放出されていることが分かっています。そして、この不確実で大きな報酬の繰り返しによって、「待ち時間」の快楽物質(ドパミン)の放出がより早く、より多くなっていきます。逆に言えば、「待ち時間」のあとの実際の快感(報酬)は、「待ち時間」の最中の快感(報酬)よりも相対的に目減りしていきます。簡単に言えば、実際に勝った喜びの快感が麻痺していき、「もっともっと」という心理が強まっていきます(耐性)。さらに、この相対的な快感の目減りにより、日常生活で他の喜びも麻痺していきます。ちなみに、パーキンソン病の患者が治療薬であるドパミン刺激薬を内服すると、8%がギャンブル依存症になることがアメリカでは報告されています。また、ドパミン部分作動薬のアリピプラゾールによってギャンブル行動が悪化したケースも報告されています。同じように、注意欠如・多動性障害(ADHD)の治療薬である精神刺激薬のメチルフェニデートも、ギャンブル行動の悪化が懸念されます。そもそも、ADHDの特徴である衝動性は、ギャンブル障害のリスク因子でもあります。b. 強めるのはこの報酬予測をより強めるには、自分がギャンブルの過程にかかわることです(直接介入効果)。例えば、スロットマシンで、3つ数字が揃うのを何もせずにじっと待っているよりも、スロットのスタートとストップのタイミングを決められるようにした方が、よりのめり込んでしまいます。また、パチンコの出玉率は、台ごとに1段階から6段階までの設定が可能で、「勝ちやすい台」「負けが込む台」という偶発性がわざと演出されています。台選びによって少しでも勝敗を左右させる余地があると、まるであたかも自分の運命を自分で選んでいる感覚になるからです。競馬予想で言えば、馬や騎手の過去の成績や現在の状態の下調べを入念にすればするほど、予想への思い入れが強くなり、期待感が増していく心理が当てはまります。よって、勝負の結果にそのまま関与できる賭け麻雀、賭けポーカー、賭けゴルフなどは、より依存性が強いギャンブルであり、ほとんど全ての国で禁止されています。c. 進化心理学的な起源原始の時代、生きるか死ぬかの最中、獲物が罠にかかる直前、獲物を仕留めようとする直前に、より興奮する種がより生き残ったのでしょう。なぜなら、その「待ち時間」に仕留めた時の喜びをすでに噛みしめていた方が、より粘るからです。農耕牧畜の安定した文明社会では、そのような生きるか死ぬかの状況はなくなりました。しかし、その興奮を求める心理は残ったままなのでした。まさに「ハンターの血」が騒ぐとも言うべき狩猟本能です。原始時代の狩猟採集社会では、獲物はとても希少で限られていました。ところが、現代のギャンブル産業では、あたかも無限の「獲物」があるかのように演出できるようになりました。そんな中、「ハンター」の心理が過剰になり、制御ができなくなった状態が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用この報酬予測の心理は、ギャンブル産業だけでなく、ビジネスの様々な場面で応用されています。例えば、それはあえて行列をつくり並ばせることです。飲食店に「行列のできる~」という触れ込みで駆け付ける人は、待っている間に、すでに想像してその味を噛みしめて、期待感を高めています。遊園地のアトラクションで並ぶ人は、その待ち時間が長ければ長いほど、その価値があると思い込んでいきます。高級デパートの買い物を楽しむ人は、あえて少ない支払い担当の店員がいる売り場で待たされてじらされたり、あえて支払いの手続きが多かったりすると、お買い上げの瞬間のテンションを上げていきます。ちなみに、このテンションの欲求が病みつきになったのが、オニオマニア(買い物依存症)です。また、部下とのコミュニケーションの場面などで、褒めるべき時に、毎回正確に褒めるよりも、何回かに1回はあえて褒めない方が、逆に褒められたい気持ちを煽ることができます。ただし、これを連発すると、気分屋に思われて、信頼関係がうまく築けなくなる危険性があります。また、これを依存的で自尊心の低い人に悪用すると、マインドコントロールに陥る危険性があります。動機付け(報酬予測)を高める直接介入効果としては、あえて選ばせる、あえて言わせることです。例えば、プレゼンテーションをする時に、選択式のクイズを設けたり、参加者にどんどん質問したり、どんどん意見を言わせたり、グループワークを取り入れて発表してもらったりするなどの参加型にした方が、より満足度(報酬)が高くなります。禁煙外来やアルコール依存症外来でも、説教や非難によって患者を受け身にさせるよりも、本人に禁煙や断酒のメリット(報酬)を考えてもらい、本人からその決意を引き出すかかわり方が効果的であることが分かります。(2)「あと少しだったのに」a. ニアミス効果2つ目は、「あと少しだったのに」というニアミス効果です。これが、「惜しい」「次こそは」「もう1回」という心理につながっていきます。実際に、ケンブリッジ大学の心理実験では、スロットマシンの「当たり」の時と同じように、「僅差のハズレ」の時も脳の報酬系の活動が高くなることが実証されています。ご褒美は、少なすぎる状況では、もちろん快感は得られにくく、やめてしまいます。逆に、多すぎる状況では、快感が鈍って飽きてきます。つまり、時々の少し足りない状況で、「もっと」という興奮が高まり、熱中するというわけです。これは、すでにパチスロ業界では応用されているようです。例えば、「7-7-7」のように同じ数字が3つ揃えば大当たりですが、あえて「7-7-6」「7-7-8」が出る頻度を30%程度に設定すると、客をその台に引き留めやすくなると言われています。当たり率は、不正がないように機器の1つ1つが厳密に審査されていますが、ハズレの数字の何が出るかの操作をするのはグレーゾーンのようです。確率論的に考えると、僅差の数字の揃いであっても、バラバラの数字の揃いであっても、ハズレはハズレであり、次に当たりが出る確率が上がることは全くないです。宝くじでも、分かりやすく応用されています。それが前後賞です。これは良心的です。ただ、例えば「6億円が出やすい土曜日」「この店で6億円の当たりが出ました」とまことしやかに宣伝されるのはどうでしょうか?「じゃあ、この曜日のこの店ならもしかして・・・」とつい思ってしまうでしょうか? これは、事実には違いないでしょうが、よくよく考えると、実はとても滑稽な宣伝文句です。なぜなら、単純な確率論なので、その事実に基づいて宝くじを買った人の当たる確率が上がることは全くないからです。そして、逆に確率が上がるとしたら、公営ギャンブルで不正が働いているわけで大問題になってしまうからです。b. 強めるのはこのニアミス効果をより強めるには、ギャンブルを何度もやりやすい状況をつくることです。例えば、カジノでは、アルコールは無料で、窓がなく昼か夜か分からず、音響効果も加わり、陶酔空間を演出させています。また、ラスベガスやマカオでは、カジノ直結の高級ホテルを格安にして、レストラン、バー、プール、エステ、劇場、遊園地、ショッピングモールなどありとあらゆる施設を気軽に利用できるようにして、お祭り気分を味わわせます。さらには、上客にはカジノまでの往復の航空チケットを無料にすることもあります。これらは、「コンプ」(complimentary)と呼ばれています。直訳すると「褒め言葉」となりますが、まさに、このようなおもてなしで気持ち良くなってもらって、カジノでたくさんお金を落としてもらうのです。そして、カジノの売り上げによって、他の不採算の施設費をカバーします。これが、カジノを含む統合型リゾート(IR)というビジネスモデルのからくりです。c. 進化心理学的な起源原始の時代、獲物を惜しくも捕り損なった時、その直後にもう一踏ん張りして、その瞬間に全てを賭ける種が生き残ったでしょう。なぜなら、獲物も追われ続けて疲れているので、次に仕留められる確率が上がるからです。しかし、現代に行われるギャンブルでは、「獲物」を仕留める確率は、当然のことながら一定です。パチンコやスロットもコンピュータで正確に制御されており、毎回完全にリセットされます。そして、この心理が発揮されることを逆手に取って、あたかもあと少しで「獲物」が仕留められるかのように演出できるようになりました。そんな中、「ハンター」の心理が過剰になり、制御できなくなった状態が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用このニアミス効果や「コンプ」(おもてなし効果)は、ギャンブル産業だけでなく、コミュニケーションの場面でも応用できます。例えば、部下を叱る時に、「仕事ができていない」「きみはだめだ」と言うよりも、「あともうちょっとで完璧な仕事ができたのに」「きみは惜しい」と言う方が、仕事への意欲を引き出せます。逆に、褒める時に、「完璧な仕事ができた」「きみはすごい」と言うよりも、「良い仕事をした」「だけどここがクリアできたら完璧だった」と言う方が、仕事への意欲を維持させます。つまり、赤点で全く褒めないのではなく、満点で全く叱らないのでもなく、どちらにしても90点程度の「惜しい」という評価をすることが有効であるというわけです。また、女性が男性からデートのお誘いを受ける時に、快諾するよりも、思わせぶりにしつつもなかなかOKを出さない方が、男性のテンションを上げ、女性への好意を増すでしょう。これは、男性が「女性を口説き落とすことに喜びを感じる」という心理も納得がいきます。さらに、「コンプ」の発想を理解すれば、どんな相手とも日々気持ち良くさせる声かけをして気に入ってもらえている方が、コミュニケーションがスムーズになると分かるでしょう。(3)「損を取り返したい」a. 損失回避欲求3つ目は、「損を取り返したい」という損失回避欲求です。前回紹介したカイジの仲間の坂崎のように、「負けた分を取り返す」ためにさらにギャンブルに深追いする心理です(負け追い行動)。もともと人間の脳は利得よりも損失に大きな反応を示し、その反応の大きさ(価値)は金額に正比例せずに緩やかに頭打ちになっていくことが分かっています(グラフ1、プロスペクト理論)。つまり、得するより損することに敏感で、さらなる大損よりも現在の損に囚われてしまいやすいということです。b. 強めるのはこの損失回避欲求をより強めるには、時間の経過によって先々の利得の価値が下がって、目先の報酬の価値が上回ることです(遅延報酬割引)。例えば、真面目にこつこつ働いて借金を返して、将来に確実にすっきりするよりも、不確実なギャンブルに賭けて手っ取り早く借金をチャラにして今すっきりしたいという心理です。そう思うのは、ギャンブルの繰り返しによる脳への影響として、理性的な報酬回路(前頭葉)よりも、衝動的な報酬回路(扁桃体)の働きが優位になってしまうからです。先ほどの報酬予測の説明でも触れましたが、ギャンブルの繰り返しによって、報酬が得られるかもしれない「待ち時間」への快感が鋭くなり、逆に、実際のその報酬や日常生活での他の報酬への快感は鈍くなります。さらには、最近の脳画像研究では、報酬だけでなく、罰にも鈍くなることが分かっています。よって、この快感への鈍さを代償するためにますますやり続け、ますます高額の賭け金を出すと同時に、負け(罰)をますます顧みなくなります。つまり、ギャンブルによる先々の大きな損には目が向きにくくなり、目先の損得にばかり目が行き、「一発逆転」や「一か八か」という心理で、より短絡的になっていくのです。c. 進化心理学的な起源原始の時代は、いつもその日暮らしです。「今ここで」という状況でぎりぎりで生きていました。このような極限状況の中、得るよりも失うことに敏感な種が生き残るでしょう。なぜなら、たくさん食料を得ても、冷蔵庫がないので、保存はできずに腐らせてしまうだけだからです。逆に、少しでも奪われたり腐らせたりして食料を失えば、その直後に自分や家族の飢餓の苦しみや死が待っています。借金のようにどこかから借りてくることはできません。つまり、食料をたくさん得れば得るほど、正比例して幸せというわけではないでしょう。逆に、食料を失えば失うほど、正比例して不幸せ(恐怖)というわけでもないでしょう。そもそも食料はたくさんあるわけではないので、失った食料が多かろうと少なかろうと飢餓の苦しみや死には変わりがないからです。こうした種の生き残りが現在の私たちです。よって、現代の「食料」であるお金の価値は、正比例せずに緩やかに頭打ちになるというわけです。実際に、収入と満足度の関係性がそうです。しかし、現代の文明社会では、ギャンブルで負ければ、限りなく「食料」を失うことができます。しかし、その損失に正比例して苦痛を感じるわけではありません。借金をして一時しのぎをすることもできます。つまり、現代の「食料」を量産できる貨幣と借金の制度による文明社会で、「ハンター」が、損を取り返そうとし続けた結果が、ギャンブル障害です。d. 行動経済学的な応用この損失回避欲求の心理は、ギャンブルだけでなく、ビジネスの様々なところで応用されています。例えば、宣伝文句では、「買ったらお得」よりも「買わなきゃ損」の方がインパクトがあります。人は、「得しますよ」と言われるより「損しますよ」と言われる方が耳を傾けます。本日限定のオマケを付けるという商法は、オマケを付けるという点では得ですが、明日に買えばオマケが付かないという点で損であり、とても有効です。子どものしつけや教育にしても健康検診にしても、「放っておくと取り返しのつかないことになります」と言われると、半分脅しのようにも聞こえるくらい効果があります。さらに、依存症の治療でも応用できそうです。例えば、禁煙促進の研究報告では、禁煙が継続できたら単純に報酬をあげるよりも、失敗したら罰金を課す方式を追加したところ、禁煙成功率が有意にあがったということです。ギャンブル依存症にはどうすれば良いの?これまで、ギャンブルの起源を、進化心理学的に解き明かしてきました。それでは、ギャンブル依存症にはどうすれば良いでしょうか?このギャンブル対策への答えも進化心理学的な視点で考えてみましょう。そもそも生物の原始的な行動パターンは、接近か回避です(図1)。食料や生殖のパートナーへの接近を動機付けるのが快感や快楽です(ドパミン)。その一方、天敵や危険な状況からの回避を動機付けるのが不安や恐怖です(ノルアドレナリン)。快感になる状況を想像して快感になることが報酬予測(動機付けサリエンス)です。その一方、不安になる状況を想像して不安になることを予期不安と言います。過剰な予期不安がパニック障害の症状の1つとして治療介入が必要であると理解できるように、過剰な報酬予測はギャンブル依存症の症状の1つとして治療介入が必要であると言えます。つまり、パニック障害と同じように、ギャンブル依存症は病気であり、単純に自己責任として切り捨てるべきではないということです。つまり、ギャンブル依存症の治療には、本人と社会の両方に責任があります。この点を踏まえると、最も重要なポイントは、できるだけギャンブルには、個人として近付かない、社会として近付かせないということです。これは、ギャンブルに限らず、アルコールや薬物など依存症の治療の全般に言えることでもあります。それでは、ここから、個人と社会の2つの視点で、その治療や対策を考えてみましょう。(1)個人―ギャンブルに近付かない個人の視点として、ギャンブルに近付かないために、主に3つの取り組みが有効です。1つ目は、ギャンブルを断つ決意をして、ギャンブル関連の情報を身近に触れない取り組みを自らすることです。例えば、ギャンブルについての雑誌、スポーツ紙、テレビ番組を見ないことです。パチンコや競馬場などの近くは避けて通ることです。2つ目は、ギャンブルに近付かない代わりに、別のより健康的な「ギャンブル」に近付く、つまり目を向けることです。例えば、それは、新しい仕事であったり、新しい人間関係です。3つ目は、近付かない状態を維持するために、自助グループ(GA)に参加し続けることです。これはアルコール依存症の自助グループ(AA)と同じように、自分と同じ仲間とつながっていることは、ギャンブルに近付くことを引き留めます。ちなみに、ギャンブル依存症への治療薬としては、日本では保険適応外ですが、ナルトレキソン(オピオイド拮抗薬)があります。ちょうどアルコール依存症への治療薬として2013年に日本で発売開始されたアカンプロサートと同じ抗渇望薬に当たります。(2)社会社会の視点として、ギャンブルに近付かせないための最も手っ取り早い方法は、全面禁止です。これは、文明社会が始まった古代から、その当時の統治者が行ってきた長い歴史があります。しかし、この問題点は、けっきょく隠れてやる人々が現れ、それにまつわるトラブルが繰り返され、取り締まりきれないということです。私たちは、その現実を歴史から学ばなければなりません。よって、落としどころは、ギャンブルを娯楽としてある程度認めつつも、厳しい制限をかけることです。その制限とは、主に3つの取り組みがあげられます。これは、個人の対策の何倍にも増して有効で重要なことです。1つ目は、ギャンブルへの行動コストを上げることです。行動コストとは、行動をするために、時間、労力、金銭などのかかる費用(コスト)です。一番分かりやすいのは、場所制限です。ギャンブルができる場所が限られている、または遠くて気軽には足を運べないという場所が望ましいです。また、ギャンブル産業への入場料の徴収も有効です。実際に、海外のカジノでは自国民が入場する場合にのみ入場料を徴収して、あえて敷居を高くして、ギャンブル依存症の対策をしています。時間制限も有効です。これは、営業時間をもともと健康的な活動時間帯の9時から5時までに限定することです。逆に、判断力が鈍る夜間にはギャンブルをさせないことです。2つ目は、ギャンブル行動の見える化です。見える化とは、その名の通り、ギャンブルをどれだけしているか本人に見えるようにすることです。そのためにも、まず個人のギャンブルを管理するため、「タスポ」(タバコ購入のための成人識別ICカード)よりもさらに厳格な身分証明書の発行が必要です。年齢制限はもちろんのこと、損失合計金額などの表示による注意喚起が有効です。また、損失金額が加速している場合は、ギャンブル依存症のリスクを警告して、ギャンブル専門の医療機関や自助グループ(GA)の紹介をすることも有効です(責任ギャンブル施策)。さらに、本人の届け出によって、ギャンブルができないようにするシステムも有効です(自己排除システム)。これは、ちょうどアルコール依存症の人が、お酒を飲むと気持ち悪くなる抗酒剤をあえて内服し続けることに似ています。3つ目は、手がかり刺激を制限することです。手がかり刺激とは、ギャンブルを想像してしまうようなきっかけの刺激です。ちなみに、ギャンブルの手がかり刺激への反応は、最近の脳画像研究によっても裏付けられています。例えば、パチンコ、宝くじ、競馬などのCMや雑誌・新聞の宣伝が分かりやすいでしょう。これほど多くのギャンブルの宣伝が日本では当たり前のようにされているのは世界的に見れば異常です。駅前にだいたい1つはある、ど派手で目立つパチンコ店もそうです。また、手がかり刺激への反応性をそもそも高めないために、未成年にはなるべく触れさせないことも有効です。なぜなら、ギャンブルも、アルコールやタバコと同じように、発達段階の未成年の脳への刺激(嗜癖性)が特に強いからです。海外では、映画の喫煙シーンがR指定になるくらいです。 最後に、ギャンブルとは?カイジの仲間の坂崎が大負けからの大当たりで大逆転になりそうでならないシーン。その瞬間に、彼は「溶ける溶ける…!」「限りなく続く射精のような…この感覚っ…!」「ある意味桃源郷…!」と叫びます。快感と恐怖が入り交じり、完全にシビれてしまいます。ここで気付かされるのは、坂崎が最高の快感を得たその場所は、本当の「桃源郷」ではなく、生死のかかったギャンブルという修羅場であったということです。本来、快感や快楽は桃源郷にあり、不安や恐怖は修羅場にあると私たちは思いがちです。しかし、これまでのギャンブル脳の心理をよく理解すれば、実は、最高の快感は桃源郷にはありません。なぜなら、桃源郷では、全てが理想的に満たされ続けており、快感(ドパミン分泌)が鈍っているからです。簡単に言うと、桃源郷には、その状態に飽きてしまって、わくわくはありません。もちろん、修羅場では、全く満たされていないため、快感(ドパミン分泌)はほとんどありません。つまり、最高の快感は、桃源郷に苦労して向かっている修羅場の中でこそ感じるものであるということです。それが、生きている実感であり、生きる原動力です。原始の時代と違い、現代は「ギャンブル」のような生活をしなくても無難に生きていけるようになりました。そうなるとそこは、桃源郷でも修羅場でもない退屈なところです。何もしなければ、わくわくして生きている実感はないでしょう。つまり、その実感を得るためには、私たちはそれぞれの「桃源郷」を目指して、必死に「修羅場」をかいくぐることをあえてすることが必要になります。ギャンブルの心理の本質を理解した時、私たちは、「カイジ」や「アカギ」から、ギャンブルのマイナス面だけでなく、生き方としてのプラス面も含めて、より多くのことを学ぶことができるのではないでしょうか? 1)福本伸行:人生を逆転する名言集、竹書房、20092)松本俊彦ほか:物質使用障害とアディクション 臨床ハンドブック、星和書店、20133)臨床精神医学、行動嗜癖とその近縁疾患、アークメディア、2016年12月号4)蒲生裕司・宮岡等編:こころの科学「依存と嗜癖」、日本評論社、2015年7月号5)帚木蓬生:ギャンブル依存症国家・日本、光文社新書、20146)岡本卓、和田秀樹:依存症の科学、化学同人、2016

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クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 1

今回のキーワード試し行為子育てタイプ社会的コミュニケーション障害回避性パーソナリティ障害社会的遊び進化心理学メラビアンの法則しんちゃんはなぜお尻を出すの?ユーモアのセンスみなさんは、「人を楽しませたい」または「子どもにコミュ力をつけたい」と思うことはありますか? その方がきっと人間関係がうまく行きそうだと思いますよね。今回は、ユーモアのセンスをテーマに、国民的人気アニメ番組の「クレヨンしんちゃん」を取り上げます。主人公は、野原家長男のしんちゃん。5歳児でありながら、しんちゃんのペースに母みさえや父ひろしを初め、周りが巻き込まれ、翻弄されます。このアニメは、2012年まで日本PTA協議会主催の「小中学生と親のテレビ番組に関する意識調査」の「子どもに見せたくない番組」アンケート(2013年に廃止)では毎年上位にランクインしていました。しかし、最近は育児書として良い意味で再注目されています。さらには、ユーモアのヒントもたくさん詰まっており、コミュニケーション能力を高めるモデルとしても参考になります。それでは、「クレヨンしんちゃん」を通して、コミュニケーション能力を高める親モデル、ユーモアを初めとする遊びの起源、明日から使えるユーモアのエッセンスについていっしょに考えていきましょう。なぜしんちゃんはお尻を出すの?-コミュニケーション能力を高めるしんちゃんは、人前でよく「お尻ぶりぶり」と言いながらお尻を出してふざけます。母みさえと父ひろしを呼び捨てにすることもあります。特にみさえには「お便秘みさえ」「バキュームかーちゃんみさえ号~」「ケツでか~」「ぶよぶよお腹~」などと言い、からかいます。このように、ふざけたり人をからかったりするのは下品で不真面目だという理由で、PTAの親たちは有害番組だと思ったのでしょう。確かに大人から見ればそうです。ただ、子どもにとっては、どうでしょうか? そもそもしんちゃんはなぜお尻を出すのでしょうか?それは、しんちゃんが、コミュニケーション能力を高めようとしているからです。言い換えれば、しんちゃんはお尻を出すとどうなるか相手と状況を見極めて試しています。それが結果的に、下品で不真面目なように見えてしまっているだけです。なぜなら、よくよく見ると、しんちゃんは、知らない人しかいない状況や好きな女性の前では、むしろ過剰な良い子を演じることで笑いを誘います。しんちゃんは、お尻を出すことは下品で良くないと重々分かっているのです。しんちゃんがお尻を出すのは、圧倒的にみさえがそばにいる時です。そして、みさえのリアクションを確認して、楽しんでいます。つまり、しんちゃんは、母親が嫌がることをわざとやっているのです。心理学的に言えば、愛着理論の試し行為に当たります。「構ってほしい」「それでも構ってもらえる」という信頼関係の確認です。このようなふざけ、からかい、いたずらなどは、信頼関係を深めるためのより高度な「挨拶」であると言えます。つまり、コミュニケーション能力とは、ふざける能力、遊び心でもあります。相手にふざけた後にその出方を見て、心の間合いを探っています。そして、いろいろな心の間合いがあることに気付きます。こうして相手や状況によって、その間合いを予測できるようになっていきます。ちょうど色々な動きを通して運動能力を高めるのと同じように、ふざけることも含めて色々なやり取りを通してコミュニケーション能力を高めています。また、ちょうど運動と同じように、コミュニケーションもすればするほど心地良いと感じるようになるでしょう。みなさんの中に、尻出しに対してもっと厳しくした方が良いという意見はありますでしょうか? 確かに、誰に対してもやっている場合は知的障害や自閉症スペクトラム障害の可能性を考え、対策が必要でしょう。また、女の子であれば、男の子に対してほど世の中の寛容さがないので、禁止するべきでしょう。一方、しんちゃんのように男の子でわざとやっている場合は、とても厳しくする必要はないです。ところで、しんちゃんは小学生になっても、お尻を出すでしょうか? その答えは、ノーです。しんちゃんの発達段階の幼児期はトイレットトレーニングの時期です。この時期は「お尻」「うんち」など排泄に関する下ネタをとても意識し、過剰に反応し、大好きになります。ところが、小学生の学童期に入ると、すでにトイレットトレーニングの課題は卒業しています。幅広い学習の機会が増え、表面的で具体的な発想から、より内面的で抽象的な発想をするようになります。よって、ふざけるにしても、見た目よりも中身に目が向き、より高度になっていきます。これが、ユーモアのセンスに発展していきます。逆に言えば、尻出しなどの単純なふざけによって、ユーモアのセンスの土台を作っているとも言えます。しんちゃんがお尻を出したらどうする?-コミュニケーション能力を高める親モデルしんちゃんのように、子どもがお尻を出すなどふざけたり、からかったりしたら、どうしましょうか? 子どものコミュニケーション能力を育むためには、実は親のコミュニケーション能力が問われてきます。その親モデルとして3つの要素があげられます。母みさえを初めとする周りのリアクションから考えてみましょう。(1)分かりやすいリアクション-社会性を育むまず、みさえは「こらっ、しんのすけ!」とムキになって怒ります。また、みさえのお決まりの「グリグリ」のお仕置きが登場することもあります。どこかコミカルです。そのわけは、気持ちをストレートに伝えて、リアクションがパターン化され分かりやすいからです。お仕置きについては、感情に任せた体罰ではなく、儀式化されたものです。コミュニケーションは、心の「プロレス」です。みさえはこの「プロレス技」を通して、実はやりとりを楽しんでいるようにも見えます。こうして、やって良いことと悪いことのルールが協調されることで、世の中で生きていくためのスキル、つまり社会性が子どもに育まれていきます。やがて、その成功体験の積み重ねによって、「自分ならできる」という自信が育まれます。(2)いつもは温かくて楽しい-共感性を育むみさえはしんちゃんによく爆発していますが、安心感があります。そのわけは、すぐに普段通りの温かくて楽しいお母さんに戻っていて、メリハリがあるからです。一方、しんちゃんがお風呂上がりに、いっしょにいた父ちゃんに下半身裸で「父ちゃん、ほら、ぞうさん」と言うと、父ちゃんは「ほ~らマンモス~」と悪ノリしています。その2人のやりとりを見たみさえは恥ずかしげに「おバカ親子」とツッコミを入れています。こうして、「たとえふざけても怒られるのはその時だけ」「怒られつつも楽しい」という共感性や安心感が子どもに育まれていきます。やがて、その信頼関係が強まることで、「どんな時も自分は大丈夫(大切にされている)」という自尊心が育まれます。(3)スキがある-積極性を育むみさえは、しんちゃんがこたつのテーブルを倒して滑り台にして遊んでいるのを叱ります。しかし、その後に、つい出来心で自分も滑って楽しんでしまいます。その様子をしんちゃんとひろしに冷たい目で見られ、「ハッ」と赤面します。このように、みさえはお間抜けキャラでスキがあります。おっちょこちょいで失敗もよくしています。怠け癖もあります。言い換えれば、みさえは決して完璧な母親(パーフェクトマザー)ではないです。とても人間味溢れる、ほど良いお母さんです(グッドイナッフマザー)。そして、ツッコミ甲斐があります。これは、自信につながります。また、お間抜けという失敗のモデルを見せているので、しんちゃんには「うまく行かなくても大丈夫」というメッセージが伝わります。これは、自尊心につながります。こうして、自信と自尊心を土台として、スキなどの何かおかしな点に気付いていく観察力やそれを指摘する行動力を伸ばすことで、積極性や創造性が子どもに育まれていきます。逆に言えば、子どもの積極性を高めるには、あえてスキをつくる、不真面目を演じる、つまり親のコミュニケーション能力として「ボケる」ことも重要になってきます。野原家、風間家、桜田家の子育てタイプの違いは?-グラフ1しんちゃんの通う幼稚園の仲良しのお友達でカザマくんとネネちゃんがいます。ここから、しんちゃんの野原家、カザマくんの風間家、ネネちゃんの桜田家のそれぞれの子育てタイプを整理して、コミュニケーション能力に影響を与える要素を探ってみましょう。なぜなら、コミュニケーション能力は、家庭内での親との人間関係を基礎として、家庭外での幼稚園・保育園の先生や友達、近所の人たちとの人間関係に応用されていくからです。子育て(家族機能)を国家になぞらえて、さきほどに紹介したルールの学習である社会性を縦軸の厳しさ(父性)、共感性を横軸の優しさ(母性)として、模式的にグラフ化してみましょう。子育ては、4つのタイプに分けられます。これは、カリフォルニア大学バークレー校の研究者ダイアナ・バウムリンド氏の子育てモデルを参考にしています。(1)しんちゃんの野原家-民主国家型まず、しんちゃんの野原家は、厳しさと優しさのバランスがとれています。自分の主張をしつつ、相手の主張も配慮して、お互いの折り合いを見つけるという意味で、民主国家型です。この心理は、社会性、共感性、積極性の全てがあります。自信と自尊心の両方が安定しているため、「おらならできるし、できない時もおらは大丈夫」という発想になります。この子育てタイプのプラス面は、ユーモアを初めとするコミュニケーション能力が育まれます。一方、マイナス面としては、厳しさと優しさのバランスを意識する労力を初めとして親もコミュニケーション能力を高める努力が必要になります。(2)カザマくんの風間家-独裁国家型次に、カザマくんの風間家は、優しさよりも厳しさに偏っています。将来エリートになるために、すでに幼稚園児にして塾通いをして、家でも勉強ばかりです。カザマくん自身もエリート然として振る舞っています。しかし、ママの顔色をうかがい、実はかなりのマザコンです。風間家の子育ては、有無を言わさず決められたことをやらされるいう意味で、独裁国家型です。この心理は、社会性が高すぎて、共感性が足りなくなり、結果的に積極性が不安定になります。自信は安定していますが自尊心が安定していないため、「ボクならできるけど、それでもボクはだめだ」という発想になります。一見、エリートになるために、小さい時から努力させることは良いことのように思えます。この子育てタイプのプラス面は、実際にエリートになる可能性があることです。さらに、子どもの能力が高ければ、親の「独裁」を乗り越えて、「革命」を起こし、世の中を動かす大物になるでしょう。一方、マイナス面としては、2つの危うさがあります。a. ユーモアがよく分からない1つは、ユーモアがよく分からないことです。小学生までは親の言いつけを守って、必死にがんばるでしょう。優等生で良い子です。しかし、中学生になったらどうなるでしょうか?中学生以降の思春期は、自分で自分の行動を決めるアイデンティティ(自我)の確立の時期です。この時、友達は、小学生のように周りから配慮されてできるわけでないです。友達は自分からつくる必要があります。この時に求められる能力は、相手の気持ちを察すること、相手との上手な間合いを取ること、そして、相手を楽しませることです(共感性)。つまり、どれだけ勉強をやってきたかの学力ではなく、どれだけおふざけをやってきたかのコミュニケーション能力が重要になってきます。逆に言えば、勉強ができても、ユーモアがよく分からなければ友達をつくるのに苦労します。そして、遊び心が足りない生真面目で退屈な大人になってしまい、人間関係で苦労するでしょう。その状況が深刻な場合は、社会的コミュニケーション障害と呼ばれます。この心理は、真面目になるという社会性はありますが、あえて不真面目をいっしょに楽しむという共感性が足りないです。b. 受け身になるもう1つは、受け身になることです。本来、中学生以降の思春期は、自分で自分の行動を決め、失敗も含めてその結果を受け入れる時期です。それは、自分で選んだ道だと納得し、これからも自分はどうしたいかという自分の生き方を見つけることです(積極性)。しかし、もともと親の「独裁」によって、自分で決めるという自由が極端に抑えられていれば、いざ自分で自分の行動を決めようにも、どうして良いか分からなくなります。決められたレールに乗ってきたので、レールがないと動けない、進めないのです。また、小学校まではうまく行かなくても親が決めたことなので自分のせいにはならなかったのに、自分で決めてしまうと自分のせいになってしまいます。つまり、失敗の責任を負うことに慣れていないのです。よって、すぐに正解を求めようとしたり、マニュアルを重視するようになります。このような完璧への執着は、裏を返せば失敗への恐怖、「失敗恐怖症」です。大人になって、仕事をする時も指示待ち人間になるでしょう。また、恋愛においても臆病になるでしょう。その状況が極端な場合は、回避性パーソナリティ障害と呼ばれます。この心理は、言われたらやるという社会性はありますが、自分からやるという積極性が足りないです。また、失敗の責任を負うことに慣れていないので、実際にうまく行かないことが起きたときは、「親のせいだ」「社会のせいだ」「病気のせいだ」という発想に陥りやすくなります。「自分のせいでもある」という自分の責任として真っ正面から向き合うこと(直面化)に耐えられず、誰かのせい、何かのせいにしようとする責任転嫁の心理が働きやすくなります(認知的不協和)。(3)ネネちゃんの桜田家-ユートピア型最後に、ネネちゃんの桜田家は、厳しさよりも自由さ(優しさ)に偏っています。ネネちゃんは、ウサギのぬいぐるみを懐に忍ばせ、嫌なことがあるとそれを殴ってストレスを発散させています。そして、実は、ママも同じことをしていて、ネネちゃんはママのまねをしています。女の子がぬいぐるみを殴るという行為を母親が黙認しています。むしろ逆に、母親がその悪いお手本を示しています。それをたしなめる父親はいません。また、より健康的なストレス発散の対処法(コーピングスキル)の提案もありません。このように、桜田家の子育ては、自由気ままにすることが許される甘やかしという意味で、ユートピア型です。この心理は、社会性が足りず、共感性が高いので、結果的に積極性が不安定になります。自信は安定していないですが自尊心が安定しているため、「私はできないけど、それでも私は大丈夫」という発想になります。この子育てタイプのプラス面は、自由で独創的な発想を育むことです。しんちゃんたちが巻き込まれるネネちゃんの「リアルおままごと」は、結末が必ず離婚か実家に帰る設定になっており、独特でリアリティがあります。一方、マイナス面は、自由さの裏返しで、出しゃばりで身勝手になってしまうことです。ネネちゃんは、しんちゃんから「他人の心は読めるのに、場の空気は読めない」と言われています。残念ながら、大人の世界にユートピアは存在しません。よって、大人になっても、その状況が極端な場合は、自己愛性パーソナリティ障害と呼ばれます。この心理は、自由にする積極性はありますが、相手の自由も尊重するという社会性が足りないです。また、大人になっても衝動性のコントロールが困難な場合は、アルコール、ギャンブル、人間関係の巻き込まれ(共依存)などの嗜癖性障害のリスクが高まります。例えば、アルコール依存症の人の典型的なセリフとして、「(断酒はできないけど)自分はまだ大丈夫」という否認の心理です。この心理は、甘えるという共感性はありますが、甘えすぎないという社会性が足りないです。(4)該当なし-無法地帯型おまけとして、当てはまるしんちゃんのお友達はいませんが、厳しさも優しさもない家庭だと、どうなるでしょうか? 親が多忙であったり、子育てに無関心であったりして、子どもに衣食住の必要最低限のものは与えますが、それ以外は関わらない状況です。これは、ネグレクト(育児放棄)に当たり、もはや国家の形をなしていないという意味で、無法地帯型です。この心理は、社会性と共感性が足りず、積極性も不安定になります。自信も自尊心も安定していないため、「自分はできないし、できる時も自分はだめだ(どうもこうもならない)」という発想になります。この子育てのプラス面は、特にないです。一方、マイナス面としては、知的発達や愛着の問題から、非行(素行障害)に走りやすくなりなす。大人なれば、反社会性パーソナリティ障害のリスクが高まります。次のページへ >>

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過剰飲酒者への治療、カウンセリング併用で改善/Lancet

 飲酒問題を抱える過剰飲酒者に対して、1次医療施設の医師による強化ケア(enhanced usual care:EUC)と、非専門カウンセラーによる飲酒問題カウンセリング(Counselling for Alcohol Problems:CAP)の併用は、EUC単独よりも有効であり、費用対効果も良好であることが示された。インド・Sangath CentreのAbhijit Nadkarni氏らが、ゴアにある1次医療機関10施設で治療を受けている過剰飲酒者を対象とした無作為化比較試験の結果を報告した。過剰飲酒(アルコールの有害な使用)に対する治療では構造化精神療法が第1選択として推奨されているが、プライマリケアでこのような専門治療をルーチンに受けることは難しく、飲酒問題に対する大きな治療格差が問題となっている。今回の結果を踏まえて著者は、「CAPが、男性の世界的な疾病負担の主要原因の1つであるアルコール使用障害の治療格差を減らす重要戦略となりうることが示された」とまとめている。Lancet誌オンライン版2016年12月14日号掲載の報告。医師による強化ケアのみ群と、カウンセリング併用群に無作為化 研究グループは、2013年10月28日~2015年7月29日に、アルコール使用障害特定テスト(AUDIT)スコアが12~19点、年齢が18~65歳の男性過剰飲酒者378例(入院等を要する者、意思疎通困難者、スクリーニング時点で酩酊者は対象から除外)を、通常の医師による診療に加え、医師へのスクリーニング結果提供および過剰摂取に対するWHOのMental Health Gap Action Programmeガイドラインの要約提供を行う強化ケア(enhanced usual care:EUC)群と、CAPを併用したEUCを行うCAP併用群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。ECU群の1例はプロトコル違反で除外となり、intention-to-treat集団はEUC群189例、CAP併用群188例、計377例であった。 主要評価項目は、3ヵ月後における飲酒問題改善(AUDITスコアが8未満)および過去14日間の1日平均アルコール消費量とした。EUCを行う医師および評価者は盲検化された。カウンセリング併用で飲酒問題改善率と過去14日間の禁酒率が有意に増加 377例中336例(89%)が3ヵ月後の主要評価を完遂した(CAP併用群164例[87%]、EUC群172例[91%])。 飲酒問題改善率は、CAP併用群36%(59/164例)、EUC群26%(44/172例)で、補正後寛解達成率比は1.50(95%信頼区間[CI]:1.09~2.07、p=0.01)、過去14日間の禁酒率はそれぞれ42%および18%で、CAP併用群のほうがECU群より有意に優れていた(補正オッズ比:3.00[95%CI:1.76~5.13]、p<0.0001)。 ただし、試験期間中に飲酒した患者においては、過去14日間の1日平均アルコール消費量に差はなかった(37.0±44.2g vs.31.0±27.8g、カウント比:1.08[0.79~1.49]、p=0.62)。 副次評価項目では、過去14日間の禁酒率への効果は認められたが(補正後平均差[AMD]16.0%[8.1~24.1]、p<0.0001)、暴飲への効果は認められず(暴飲発生日率のAMD:-0.4%[-5.7~4.9]、p=0.88)、同様に飲酒(簡易版飲酒問題リスト[Short Inventory of Problems]スコアのAMD:-0.03[-1.93~1.86]、p=0.97)、障害スコア(WHO障害評価尺度[WHO-DAS]スコアのAMD:0.62[-0.62~1.87]、p=0.32)、就労不能日数(オッズ比:1.02[0.61~1.69]、p=0.95)、自殺企図(補正後企図率比:1.8[-2.4~6.0]、p=0.25)、親しいパートナーへの暴力(補正後実施率比:3.0[-10.4~4.4]、p=0.57)への効果は示されなかった。 本研究での設定で、飲酒問題改善1例追加当たりの増分費用は217ドル(95%CI:50~1073)であり、費用対効果受容曲線での受容確率は85%であった。 重篤な有害事象は、CAP併用群6例(4%)、EUC群13例(8%)で有意差は認めれなかった(p=0.11)。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第33回

第33回:アルコール使用障害のある患者への薬物療法監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 タバコの害は国民全員が知るようになりつつありますが、アルコールの害は日本文化の中で過小評価されている印象があります。ニコチン依存症が1,800万人1) 、アルコール使用障害が593万人2) 、ギャンブル依存症が536万人3) と推定されています。 嗜好に対する行き過ぎた行為にどのように関わるか、人々の日常生活にも密接に関わっている医師にとっても大きな課題だと考えます。最近の枠組みの変化として、DSM5ではアルコール乱用とアルコール依存の区別をなくしてアルコール使用障害として統合を行い、軽度、中等度、重度という表現に変更しています4) (日本でのアルコール医療はICD-10を主に用いており、飲酒量や心身の有害性に応じて危険な飲酒、有害な飲酒、アルコール依存症の診断に分かれています)。 問診でアルコール量が多いなと感じた患者には、積極的にAUDIT(The Alcohol Use Disorders Identification Test)やCAGE(Cut down,Annoyed,Guilty feeling,Eye-opener)を用いていきたいですね。 以下、American Family Physician 3月 15 日号より5) よりUSPSTF(The U.S. Preventive Services Task Force)は、すべての成人に対してアルコール使用障害のスクリーニングと、リスクの高い人や危険な飲み方をする人に対して、アルコール摂取を減らすための簡単なカウンセリングをすることを勧めている。しかし現状は、ハイリスクなアルコール使用障害の一部の大人しか治療を受けていない。FDAに認可を受けた3つの薬は、アルコール使用障害を改善することが証明された:アカンプロサート(商品名:レグテクト:通常用量 333mg6錠分3)、ナルトレキソン(国内未承認)、ジスルフィラム(同:ノックビン:通常用量0.1~0.5g分1~3、アルコールを含む食品を含め併用禁忌)である。アカンプロサートとナルトレキソンはアルコールの消費量を減らして、断酒率を上げるが、効果は中等度である。またジスルフィラムは数十年来販売されているが、効果を裏付けるエビデンスは十分でない。ほかにアルコール使用障害を改善するのに有効かもしれない薬もある。トピラマート(同:トピラ)やガバペンチン(同:ガバペン)などの抗てんかん薬もアルコール摂取を減らすが、長期の研究がない。気分障害がある場合は抗うつ薬もよく、セルトラリン(同:ジェイゾロフト)やフルオキセチン(日本未承認)はうつ病患者のアルコール消費量を減らすかもしれない。オンダンセトロン(同:ゾフラン)は一部の人にとっては、アルコールの消費を減らすかもしれない。さらに、遺伝子を標的とした治療や、必要に応じてすぐ受けられる治療法に対する研究も進められている。※本内容にはプライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 厚生労働省研究費補助金・第3次対がん総合戦略事業 2) Osaki Y, et al. Alcohol Alcohol. 2016; 51: 465-473. 3) 厚生労働省の研究班(研究代表者=樋口進・久里浜医療センター院長) 4) DMS-5 Substance Related and Addictive Disorders(物質関連および嗜癖の障害) 5) Winslow BT, et al. Am Fam Physician. 2016;93:457-465.

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未成年の飲酒に影響を与える要因は

 2000~11年にかけての、社会経済的状況とうつ病に応じた青年期のアルコール利用に関する時間的トレンドについて、フィンランド・Kanta-Hame Central HospitalのAntti Torikka氏らが評価した。Alcohol and alcoholism誌オンライン版2016年8月9日号の報告。 14~16歳の全国サンプル61万8,084人より、2000-01年から2010-11年までの隔年で教室での自己管理アンケートを用いて、保健と保健行動、学校での経験を調査した。アルコールの利用は飲酒や酩酊の頻度を測定した。社会経済的状況は親の教育や失業を用いて測定した。うつ病はベックのうつ病調査票フィンランド修正版を用いて測定した。クロス集計とロジスティック回帰分析を適用した。 主な結果は以下のとおり。・調査期間中、頻繁な飲酒や酩酊の頻度は男女ともに減少した。・青年期のうつ病だけでなく、親の教育や失業率レベルの低さも頻繁な飲酒や酩酊の可能性を増加させた。・アルコール利用の一般的な減少傾向と異なり、頻繁な飲酒や酩酊の可能性は、うつ病青年と教育レベルの低い失業者の親を持つ青年で増加していた。このような集団の男性における頻繁な酩酊の割合は、2008~11年で75.8%(女性:41.7%)であったのに対し、高学歴の就労している親を持つうつ病でない男性では、2.3%(女性:1.4%)であった。 著者らは「頻繁なアルコール利用の全体的な減少傾向は、社会経済的に恵まれないうつ病青年では観察されなかった。このような若者を対象としたアルコール予防プログラムが必要であると考えられる」としている。関連医療ニュース 「抑うつ+過度な飲酒」その影響は アルコール依存症治療に期待される抗てんかん薬 青年期からの適切な対策で精神疾患の発症予防は可能か

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