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2型糖尿病の薬物療法で最適な追加オプションは?(解説:小川大輔氏)

 GLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬の登場により、近年2型糖尿病の薬物療法が大きく変わった。既存の糖尿病治療薬では認められなかった、心血管イベントや腎不全を抑制する効果が数多く報告されたからだ。さまざまな糖尿病治療薬の中からどの薬剤を選択するか、その判断の一助になるネットワークメタ解析の論文がBMJ誌に発表された1)。 この論文の背景として、2年前の2021年に同じBMJ誌に掲載された論文について少し触れたい。この当時すでにGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬のエビデンスは集積しており、これら2製剤がこれまでの糖尿病治療薬と比較して全死亡、心血管死、非致死的心筋梗塞、腎不全、体重減少などのベネフィットがあることがネットワークメタ解析により明らかになった2)。また桑島 巖先生(J-CLEAR理事長)がこの論文に対するコメントを執筆しているのでご一読いただきたい3)。 今回の論文の新しい点は、従来治療薬に追加するオプションとして、最近登場したGIP/GLP-1受容体作動薬とミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MR拮抗薬)の2製剤が加わったことである。SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、MR拮抗薬を含む13種類の薬剤の中から追加投与した場合の、死亡や心血管系および腎臓系の有害アウトカムの減少、体重減少などについてシステマティックレビューとネットワークメタ解析が実施された。 解析の結果、GLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬については全死亡、心血管死、非致死性心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全の抑制に有効であることが示されたが、これまでのRCTやネットワークメタ解析の結果と同様であり新規性はない。一方、MR拮抗薬のフィネレノンが全死亡、心不全による入院、末期腎不全の減少に効果的である可能性が示された点は新しい知見である。MR拮抗薬は糖尿病治療薬ではないが、腎臓系の有害アウトカムについてはSGLT2阻害薬より劣るものの効果がある可能性があり、心不全による入院や全死亡も低下させる可能性が示されたため、今後日常診療で使用される頻度が増えるだろう。 今回の解析で、13種類の製剤の中でGLP-1受容体作動薬とSGLT2阻害薬が心血管系および腎臓系の有害アウトカムや死亡の減少、さらにQOLの改善に最も効果があることが確認された。一方、GIP/GLP-1受容体作動薬については、体重減少効果は最も大きかったが、GLP-1受容体作動薬で認められる死亡や心血管・腎イベントの抑制効果は認められなかった。新しい薬剤のため解析対象となった試験が少ないことが影響しているのかもしれない。今後のGIP/GLP-1受容体作動薬の臨床研究に期待したい。 有害事象については、SGLT2阻害薬では性器感染症、GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬では胃腸障害、MR拮抗薬では入院を要する高カリウム血症のリスクが高かった。いずれも薬剤クラス固有のものであり、とくに目新しい有害事象の報告はなかった。 近年、ネットワークメタ解析を用いた臨床研究の論文が増えていると感じる。従来のメタ解析では2種類の治療薬の比較しかできないが、今回の論文のように3種類以上の比較を行うことができるのがネットワークメタ解析のメリットである。しかし、このネットワークメタ解析により、新たに大きなエビデンスが生み出されるというわけではないことに注意しなければならない4)。ネットワークメタ解析は、RCTよりエビデンスレベルは下がるものの、今回のように比較したい糖尿病治療薬が多数あるような場合には、治療の「次の一手」を選択する際に参考となるデータを提供してくれる手法である。

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2型DMの追加処方に有益なのは?~816試験をメタ解析/BMJ

 中国・四川大学のQingyang Shi氏らはネットワークメタ解析を行い、2型糖尿病(DM)成人患者に対し、従来治療薬にSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬を追加投与する場合の実質的な有益性(心血管系および腎臓系の有害アウトカムと死亡の減少)は、フィネレノンとチルゼパチドに関する情報を追加することで、既知を上回るものとなることを明らかにした。著者は、「今回の結果は、2型DM患者の診療ガイドラインの最新アップデートには、科学的進歩の継続的な評価が必要であることを強調するものである」と述べている。BMJ誌2023年4月6日号掲載の報告。24週以上追跡のRCTを対象に解析 研究グループは、2型DM成人患者に対する薬物治療として、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(フィネレノンを含む)とチルゼパチド(二重GIP/GLP-1受容体作動薬)を既存の治療オプションに追加する有益性と有害性の比較を目的にシステマティックレビューとネットワークメタ解析を行った。 Ovid Medline、Embase、Cochrane Centralを用いて、2022年10月14日時点で検索。無作為化比較試験で、追跡期間24週以上を適格とし、クラスの異なる薬物治療と非薬物治療の組み合わせを体系的に比較している試験、無作為化比較試験のサブグループ解析、英語以外の試験論文は除外した。エビデンスの確実性についてはGRADEアプローチで評価した。816試験、被験者総数47万1,038例のデータを解析 解析には816試験、被験者総数47万1,038例、13の薬剤クラスの評価(すべての推定値は、標準治療との比較を参照したもの)が含まれた。 SGLT2阻害薬と、GLP-1受容体作動薬の追加投与は、全死因死亡を抑制した(それぞれオッズ比[OR]:0.88[95%信頼区間[CI]:0.83~0.94]、0.88[0.82~0.93]、いずれも高い確実性)。 非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬については、慢性腎臓病を併存する患者へのフィネレノン投与のみが解析に含まれ、全死因死亡抑制の可能性が示唆された(OR:0.89、95%CI:0.79~1.00、中程度の確実性)。その他の薬剤については、おそらくリスク低減はみられなかった。 SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の追加投与については、心血管死、非致死的心筋梗塞、心不全による入院、末期腎不全を抑制する有益性が確認された。フィネレノンは、心不全による入院、末期腎不全をおそらく抑制し、心血管死も抑制する可能性が示された。 GLP-1受容体作動薬のみが、非致死的脳卒中を抑制することが示された。SGLT2阻害薬は他の薬剤に比べ、末期腎不全の抑制に優れていた。GLP-1受容体作動薬は生活の質(QOL)向上に効果を示し、SGLT2阻害薬とチルゼパチドもその可能性が示された。 報告された有害性は主に薬剤クラスに特異的なもので、SGLT2阻害薬による性器感染症、チルゼパチドとGLP-1受容体作動薬による重症胃腸有害イベント、フィネレノンによる高カリウム血症による入院などだった。 また、チルゼパチドは体重減少がおそらく最も顕著で(平均差:-8.57kg、中程度の確実性)、体重増加がおそらく最も顕著なのは基礎インスリン(平均差:2.15kg、中等度の確実性)とチアゾリジンジオン(平均差:2.81kg、中等度の確実性)だった。 SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、フィネレノンの絶対的有益性は、ベースラインの心血管・腎アウトカムリスクにより異なった。

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低炭水化物ダイエットはメタボになりやすい?

 炭水化物の摂取量について、推奨量を下回るとメタボリックシンドローム(MetS)の発症が低下するかどうか、現時点では関係性を示す一貫した証拠はない。今回、米国・オハイオ州立大学のDakota Dustin氏らが炭水化物の摂取量とMetSの有病率について研究した結果、炭水化物の推奨量を満たしている人よりも下回っている人のほうがMetSの発症率が高いことが明らかになった。Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics誌オンライン版2023年3月23日号掲載の報告。 本研究は、1999~2018年の国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey:NHANES)の回答者から、食物と栄養摂取量とMetSのマーカーに関するデータを取得。そのデータを炭水化物・総脂肪・脂肪酸(飽和脂肪酸[SFA]、一価不飽和脂肪酸[MUFA]、および多価不飽和脂肪酸[PUFA])の摂取量で層別化し、MetSとの関連性を評価した横断研究である。 食品および栄養素(サプリメントからの摂取含む)の通常の摂取量は、米国・国立がん研究所(NCI)での摂取方法から推定された。炭水化物からのエネルギーが45%未満を「炭水化物の摂取推奨量を下回る」、炭水化物からのエネルギーが45~65%を「炭水化物の摂取推奨量を満たす」と定義した。MetSの診断基準は米国の診療ガイドライン1)に基づき、参加者をMetSと判定するには、8.5時間以上断食した朝に次の状態(腹囲の拡大、TG値の上昇、HDL-C値の低下、血圧上昇、血漿グルコース濃度の上昇)のうち3つが該当した場合とした。解析には多変量ロジスティック回帰モデルを用い、食事パターンとMetSの関連性をオッズ比で評価した。 主な結果は以下のとおり。・本研究には20歳以上の妊娠・授乳していない1万9,078例の回答者が含まれ、炭水化物摂取量が推奨量を下回った群と満たした群の平均年齢はそれぞれ48歳だった。・炭水化物の摂取量が推奨量を下回ったのは女性が半数以上(53%)で、推奨量を満たしている人よりも、エネルギーの割合としてより多くのアルコールを摂取していた。・炭水化物の摂取量が推奨量を下回った人は、推奨量を満たした人に比べてMetSの有病率が1.067倍高かった(95%信頼区間[CI]:1.063~1.071、p

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女性や北国の人、ビタミンD摂取量が多いほど死亡リスクが低い

 ビタミンDの摂取量が多い女性は死亡リスクが低いことが、日本人を対象とする研究から明らかになった。福岡女子大学国際文理学部食・健康学科の南里明子氏らが、国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)のデータを解析した結果であり、詳細は「European Journal of Epidemiology」に1月31日掲載された。高緯度地域の居住者、カルシウム摂取量の多い人などでも、ビタミンD摂取量が多い群では少ない群に比べ死亡リスクが低い傾向があるという。 ビタミンDが骨の健康に重要であることは古くから知られている。しかし近年はそればかりでなく、血液中のビタミンDレベルの低さが、がんや循環器疾患、糖尿病、抑うつ、新型コロナウイルスを含む感染症など、さまざまな疾患の罹患リスクや死亡リスクの高さと関連のあることが報告されてきている。ただしビタミンDは、皮膚に紫外線が当たった時に多く産生されるため、食事からの摂取量と血液中のビタミンレベルとの相関が、ほかの栄養素ほど高くない。その影響もあり、ビタミンDの摂取量と死亡リスクとの関連についてのこれまでの研究結果は一貫性を欠いている。 今回、南里氏らは、日光を避けることの多い女性や高緯度地域に住んでいる人は、皮膚でのビタミンD産生量が少ないため、食事からのビタミンD摂取量の多寡が死亡リスクに影響を及ぼしている可能性を想定。また、ビタミンDの吸収を高めるカルシウム摂取量の多い人、何らかの疾患があり死亡リスクの高い人なども、摂取量の多寡の違いが強く現れているのではないかと考え、性別や居住地、栄養素摂取量、併存疾患などの特徴別に、ビタミンD摂取量と死亡リスクの関連を検討した。 研究対象は、1990年と1993年に、岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、茨城県水戸、東京都葛飾区、新潟県長岡、大阪府吹田、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古など11の保健所管内に居住していた40~69歳の成人のうち、研究開始5年後の食事調査に回答し、かつ、がんや循環器疾患などに罹患していなかった9万3,685人(女性54.1%)。2018年12月まで追跡して、食事調査時のビタミンD摂取量と追跡期間中の死亡リスクとの関連を解析した。 平均18.9年(176万8,746人年)の追跡で、2万2,630人が死亡。年齢、性別、研究地域で調整後、ビタミンD摂取量の第1五分位群(下位20%)に比べて、第2~第5五分位群は全死亡のハザード比が有意に低かった(傾向性P=0.021)。ただし、調整因子にBMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病や高血圧の既往、摂取エネルギー量、カルシウムやオメガ3脂肪酸の摂取量、緑茶・コーヒー・サプリメントの摂取、職業などを加えると、有意性が消失した(同0.29)。 次に、事前に作成した解析計画に沿って、性別や居住地の緯度などで層別化したサブグループ解析を実施。その結果、女性はビタミンD摂取量が多いほど全死亡リスクが低いという有意な関連のあることが明らかになった(傾向性P=0.001)。また、高緯度地域の居住者やカルシウム摂取量が中央値以上の人、高血圧の既往のある人では、摂取量の第1五分位群に比べて第2~第5五分位群は全死亡ハザード比が有意に低かった(傾向性P値は同順に、0.085、0.19、0.058)。 続いて死因に着目すると、ビタミンD摂取量が多いほど脳梗塞による死亡のリスクが低いという有意な関連が認められ(傾向性P=0.029)、肺炎も有意に近い傾向が認められた(同0.09)。脳梗塞以外の脳・心血管疾患やがんによる死亡リスクについては、ビタミンD摂取量との有意な関連が見られなかった。 これらの結果を基に著者らは、「日光にあまり当たらない人や高緯度地域に住む人は食事からのビタミンD摂取を増やすことで、早期死亡リスクが抑制される可能性がある」と結論付けている。なお、ビタミンDを多く含む食品として、青魚やキノコなどが挙げられる。 著者の1人である国立国際医療研究センター疫学・予防研究部の溝上哲也氏は、「日光を浴びる機会が少ない現代の生活様式がコロナ禍で加速しており、食事からビタミンDを摂取することの重要性が高まっている」とコメントしている。

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下剤を常用すると認知症リスクが増大する?

 便秘を緩和するために下剤を日常的に使用していると、後年の認知症発症リスクが高まる可能性があるとする研究結果が、「Neurology」に2月22日掲載された。複数のタイプの下剤を併用する人や、浸透圧性下剤(浸透圧を利用して大腸内の水分を増やし、便を柔らかくして排便を促す)を使用している人は、特にリスクが高いという。これまでの研究では、睡眠補助薬やアレルギー薬などのOTC医薬品と認知症との関連が報告されているが、下剤との関連が指摘されたのは今回が初めて。 研究論文の著者の一人で、中国科学院深セン先進技術研究院(中国)准教授のFeng Sha氏は、「しかし、現時点で慌てることはない。この結果を基に何らかの行動を起こす前に、さらに研究を重ねて、結果を確かめる必要がある」と述べている。同氏はさらに、絶対リスクが小さいことや、この研究自体が下剤の使用により認知症リスクが上昇する機序を明らかにするものではないとも述べている。ただし研究グループは、機序に関しての仮説を立てている。それは、下剤の常用により腸内細菌叢が変化することで、腸から脳への神経伝達が影響を受けたり、あるいは脳に影響を及ぼす可能性のある腸内毒素の産生が増えたりするのではないかというものだ。さらに、便秘薬は脳腸相関を妨害し、一部の微生物を脳に到達させてしまう可能性もあるという。 今回の研究では、UKバイオバンクが実施している研究プロジェクトに参加した、認知症のない40〜69歳の成人50万2,229人(平均年齢56.5歳、女性54.4%)の下剤の使用状況について検討した。試験開始時に、過去4週間、市販の下剤をほぼ毎日使用したことを報告した場合を「下剤の常用」と定義したところ、3.6%(1万8,235人)がこれに該当した。 平均9.8年の追跡期間中に認知症を発症した人の割合は、下剤を常用していない人では0.4%(1,969人)だったが、下剤を常用していた人では1.3%(218人)であった。多変量解析の結果、家族歴などのリスク因子を考慮しても、下剤を常用する人ではあらゆる原因による認知症の発症リスクが51%、血管性認知症の発症リスクが65%高いことが明らかになった。アルツハイマー病に関しては、リスク上昇は認められなかった。 あらゆる原因による認知症と血管性認知症の発症リスクに関しては、使用する下剤の種類が多いほどリスクが増加していた(1種類のみの人では28%のリスク増加、2種類以上を併用していた人では90%のリスク増加)。1種類のみを使用していた人の中では、浸透圧性下剤を使用していた人でのみ、あらゆる原因による認知症と血管性認知症の発症リスクが統計学的に有意に上昇していた〔ハザード比(95%信頼区間)はそれぞれ、1.64(1.20〜2.24)、1.97(1.04〜3.75)〕。 Sha氏は、「下剤の常用は勧められない」と述べ、「便秘の多くは、水分や食物繊維の摂取量と運動量を増やすなどの生活習慣の改善によって緩和できる。このような対策は脳の健康にも良い」と指摘する。 研究グループは今後の研究で、下剤の種類別に詳しく検討するほか、下剤と認知症の関連の原因となる機序を特定したいと話している。さらに、下剤と他の慢性疾患との関連についても調べているところだという。 アルツハイマー病創薬財団(ADDF)のYuko Hara氏は、「下剤が脳に有害な可能性もあるが、便秘で下剤を使用するような人は、果物や野菜の摂取量が十分ではないことも考えられる」と指摘。健康的な食事は心臓や脳にも有益であると助言している。また、米レノックス・ヒル病院のAditya Sreenivasan氏も、便秘の治療として、まずは食事やサプリメントによる食物繊維の摂取、適度な水分摂取と運動を試し、改善されなければ医師に相談するよう勧めている。

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アンチエイジング、未来の児を想像する力なり

第23回日本抗加齢医学会総会が2023年6月9日(金)~11日(日)の3日間、東京国際フォーラムにて開催される。今回のテーマは『老若男女の抗加齢 from womb to tomb(子宮から墓まで)』。大会長である大須賀 穣氏(東京大学大学院医学系研究科産婦人科学 教授)はこのテーマにどんなメッセージを込めたのか、話を聞いた。児の将来を見据えアンチエイジングを目指す産婦人科とは、女性患者さんの健康について広く長くお付き合いする診療科です。妊娠・出産のみならず、若年期の月経、更年期や更年期以降のホルモンに関することなど、あらゆる問題に耳を傾けるため、女性の家庭医という側面も持ち合わせています。そのため、産婦人科は抗加齢医学(アンチエイジング)に密接に関わり、診療の一部として学ぶのは当然のことだとも言えるでしょう。近年では胎児期またはそれ以前の環境がエピゲノムの変化や胎児(次世代)の健康に影響するという科学的知見も得られているため、女性や母体をケアすると同時に次世代を管理する役割が産婦人科医の中でも一層強まってきているのではないでしょうか。また、母体のやせや高齢出産の増加も合併症の増加の一つの要因になっていることは言うまでもありません。今、母になろうとしている女性の体重や血圧、血糖管理などは次世代が健康長寿になるかどうかを決める要素となるため非常に重要なんです。たとえば、内科医の皆さまには、妊娠前の健康状態が非常に重要であることを念頭に置き、若い女性を診察する場合には、妊娠する可能性を視野に入れ、やせが認められる場合には適正体重になるよう指導していただきたいのです。妊娠前の健康がご本人と未来の児のためであるということをどうかご理解ください。そして、食事から摂取用量が不足するビタミンや葉酸はサプリメントで取ることが望ましいため、その点もご指導いただきたいです。このような社会を皆で考えるべく、本大会では会長企画プログラム「妊娠出産の記憶とエイジング」「エイジングと妊娠出産」「生殖器のエイジングケア」などを予定しています。お腹にいるときからアンチエイジングを考慮する必要性、現状を科学的データよりご理解いただきたいと考えおります。今回、海外からは世界妊娠高血圧学会(ISSHP)の会長を務めるProf. Laura Magee氏(英・キングス・カレッジ・ロンドン)をお招きし、妊娠高血圧症候群と母親の将来リスクに関するご講演もお願いしています。大会長の一押しシンポジウムこのほか、招聘講演では大月 敏雄氏(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授/東京大学高齢社会総合研究機構メンバー)に高齢者に住みやすい町づくりやアンチエイジングに役立つ建築物に関するお話をしていただきます。教育講演では堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学 教授)による、アンチエイジングの視点から食に関する「選食の時代」を、田中 孝氏(田中消化器科内科クリニック 理事長)による「開業医が進めるアンチエイジング医療」の講演などを予定しています。一般演題には200を超える応募が寄せられ、盛り上がる予感です。事前参加の登録受付期間は4月21日(金)までですので、ご興味がある方はぜひご登録をお願いいたします。参考第23回日本抗加齢医学会総会

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スタチン不耐患者、bempedoic acidがCVリスクに有効か/NEJM

 スタチンの服用が困難なスタチン不耐(statin-intolerant)患者において、ATPクエン酸リアーゼ阻害薬ベンペド酸(bempedoic acid)はプラセボと比較し、LDLコレステロール値を低下し、主要有害心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建)のリスクを低下することが示された。一方でベンペド酸投与により、脳卒中、心血管死、全死因死亡のそれぞれのリスクは低減せず、また痛風や胆石症発生リスクはやや増大した。米国・クリーブランドクリニックのSteven E. Nissen氏らによる二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果で、NEJM誌オンライン版2023年3月4日号で発表された。ベンペド酸は、LDL値を低下し筋肉関連の有害事象の発生リスクは低いが、心血管アウトカムへの影響は明らかになっていなかった。“スタチン不耐”でCVD、または高リスクの患者を対象に試験 研究グループは、容認できない副作用のためにスタチン服用ができない、または困難な患者(スタチン不耐患者)で、心血管疾患が認められるか、または同リスクの高い患者1万3,970例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方(6,992例)にはベンペド酸180mgを、もう一方(6,978例)にはプラセボを、それぞれ経口投与した。 主要エンドポイントは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠動脈血行再建の4つのうちのいずれかの発生と定義した主要有害心血管イベントだった。心筋梗塞、冠動脈血行再建の発生率、ベンペド酸で各2割程度減少 追跡期間中央値は40.6ヵ月。ベースラインのLDLコレステロール値は、両群共に139.0mg/dLであり、6ヵ月後の低下幅は、ベンペド酸群がプラセボ群より29.2mg/dL大きく、減少率の群間差は21.1ポイントだった。 主要エンドポイントの発生率は、ベンペド酸群(11.7%)がプラセボ群(13.3%)より有意に低かった(ハザード比[HR]:0.87、95%信頼区間[CI]:0.79~0.96、p=0.004)。 心血管死、非致死的脳卒中、非致死的心筋梗塞の複合発生率は、8.2% vs.9.5%(HR:0.85、95%CI:0.76~0.96、p=0.006)、また心筋梗塞(致死的・非致死的)の発生率は3.7% vs.4.8%(0.77、0.66~0.91、p=0.002)、冠動脈血行再建の発生率は6.2% vs.7.6%(0.81、0.72~0.92、p=0.001)で、ベンペド酸群がプラセボ群より有意に低かった。 一方でベンペド酸は、脳卒中(致死的・非致死的)、心血管死、全死因死亡への有意な影響はみられなかった。さらに、痛風(ベンペド酸群3.1% vs.プラセボ群2.1%)、胆石症(2.2% vs.1.2%)の発生率はベンペド酸群で高く、同様に血清クレアチニン値、尿酸値、肝酵素値もベンペド酸群でわずかだが上昇が認められた。

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ビタミンDで2型糖尿病のリスクがわずかに低下

 ビタミンDを積極的に摂取することによって、2型糖尿病の発症リスクがわずかに低下する可能性を示唆する研究結果が報告された。ただし、専門家は、ビタミンD摂取が健康的な食事や運動習慣に取って代わるものではないとしている。米タフツ医療センターのAnastassios Pittas氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に2月7日掲載された。 ビタミンDは骨量減少や骨折を減らす目的で、サプリメントなどとして摂取されることがある。近年、ビタミンDには骨代謝改善以外にもさまざまな作用のあることが分かり、その中の一つとして2型糖尿病リスクを下げる可能性も示唆されている。ただし、この点についての明確なエビデンスは得られていない。そこでPittas氏らは、2型糖尿病リスクの高い人を対象に、ビタミンD投与による介入を行った研究報告を対象とするシステマティックレビューとメタ解析を行った。 PubMed、Embaseなどの文献データベースに2022年12月9日までに収載された報告を対象として、前糖尿病状態にある成人を対象に経口ビタミンDを投与し、糖尿病新規発症リスクをプラセボと比較した研究報告を検索。3件の無作為化比較試験が抽出された。 メタ解析の結果、ビタミンD投与によって糖尿病発症リスクは15%有意に低下することが明らかになった〔ハザード比(HR)0.85(95%信頼区間0.75~0.96)〕。3年間の介入期間中の絶対リスクの差は3.3%(同0.6~6.0%)とわずかではあるが有意だった。なお、介入によって血清25-ヒドロキシビタミンDレベルがより高値(50ng/mL以上)に維持されていた群でのサブグループ解析では、プラセボ群に対して糖尿病発症リスクが76%低下〔HR0.24(0.16~0.36)〕、3年間の絶対リスクは18.1%低下(11.7~24.6)と、より顕著なリスク抑制効果が認められた。また、前糖尿病状態から正常耐糖能への改善は、ビタミンD投与群の方が30%多く認められた〔率比1.30(1.16~1.46)〕。 この結果を基にPittas氏は、「2型糖尿病リスクが高い場合は、その発症抑制のためにビタミンDが有効であることが示された。ただしこの研究結果は、2型糖尿病リスクが平均的な人には当てはまらず、また糖尿病発症抑止のための至適用量もまだ不明だ」と述べている。さらに、「この結果を、ビタミンDを服用すれば、食習慣を変えたり運動を心がける必要がなくなるというメッセージとはしたくない。健康的な食事や習慣的な運動に代わるサプリメントなどは存在しない」と、拡大解釈しないよう注意を喚起している。 ビタミンDと糖尿病の関連については、赤道から離れた高緯度地域で糖尿病の有病率が高いという疫学データが発表されてから、関心が集まるようになった。ビタミンDは紫外線に当たった時に皮膚で産生されるため、高緯度地域の人ではそのレベルが低くなりやすい。その後の研究で、実際に血液中のビタミンD濃度と2型糖尿病リスクとの間に関連性のあることが報告され、また基礎的な研究からは、ビタミンDにインスリン産生を促す働きがあることも分かってきた。 本研究には関与していない、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスのIsaac Dapkins氏は、「前糖尿病状態の人の血中ビタミンDレベルを測定し、欠乏状態であればサプリメントなどによる補給が、2型糖尿病発症リスク抑制につながる可能性がある。もちろん、運動などの方がより効果的だが、前糖尿病に該当し、まだ自分の血中ビタミンDレベルを知らない人は、医師に相談して測定してもらうのも良いのではないか」と述べている。

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リチウムは自殺行動を減らし、アラキドン酸は自傷行為を増やす可能性

 薬剤としてではなく、水道水やふだんの食事などを介して血清リチウムレベルが微量ながらも高い状態にある人は、自殺リスクが低い可能性を示唆するデータが報告された。また、EPA(エイコサペンタエン酸)は自傷行為のリスクを減らし、一方、AA(アラキドン酸)はそのリスクを高める可能性があるという。大分大学医学部精神神経医学講座の泉寿彦氏、寺尾岳氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Psychiatry」に12月16日掲載された。 オメガ3脂肪酸であるEPAやDHA(ドコサヘキサエン酸)が、うつ病リスクを抑制するという研究結果が報告されている。しかし、DHAよりもEPAがうつ病に効果的であるという報告があり、さらに、いずれの効果も否定する最近の報告もある。一方、リチウムについては既に気分安定薬として使用されており、自殺リスクを抑制するというデータがある。薬剤としてではなく、食品や水から摂取する微量のリチウムが、自殺関連行動のリスクを抑制するという報告があるものの、それを否定する報告もある。このほか、オメガ6脂肪酸であるAAレベルの高さが、自殺関連行動のリスクの高さと相関するといった報告もある。 寺尾氏らは以前から、自殺関連行動とリチウムやEPA、DHA、AAレベルとの関連についての研究を続けており、今回の論文はその研究の解析対象症例を追加して新たに解析した結果の報告。サンプル数が増えたことを生かして、各評価項目の多重共線性(相互の影響)に留意した検討も行っている。 解析対象は、同大学病院や大分県立病院精神医療センターで救命救急治療を受けた患者234人。初診時に採血を行い、患者が回復後に研究参加の同意を得たのち、リチウムレベルなどの測定を行った。234人中、自殺企図患者が39人、自傷行為による患者が29人含まれており、その他の166人を比較対照群とした。統合失調症患者、リチウム製剤が処方されていた患者、オメガ3脂肪酸サプリメントなどを使用していた患者は除外されている。なお、自傷行為と自殺企図の違いは、前者には自殺する意図がなく、後者にはあるということ。 まず、3群の特徴を比較すると、自傷行為群は対照群より有意に若く(P=0.018)、女性患者の割合が高かった(P=0.011)。リチウムレベルの対数変換値は対照群より自殺企図群が有意に低く(P=0.007)、EPAレベルの対数変換値は対照群より自傷行為群で有意に低かった(P=0.004)。DHAレベルやAAレベルの対数変換値は有意な群間差がなかった。 次に、調整因子として、年齢と性別のほか、リチウムレベルとEPAレベルを加えるモデル(モデル1)、リチウムレベルとDHAレベルを加えるモデル(モデル2)、リチウムレベルとAAレベルを加えるモデル(モデル3)という3通りの多重ロジスティック回帰分析を施行した。その結果、自殺関連行動とリチウムやEPA、AAレベルとの間に、以下のような有意な関連が認められた。 モデル1では、リチウムの対数変換値が1高いごとに(以下同様に、EPA、AAについても対数変換値1当たりの差を示す)、自殺企図のオッズ比が68%低く〔OR0.32(95%信頼区間0.12~0.86)〕、EPAレベルが高いと自傷行為のオッズ比が82%低かった〔OR0.18(同0.032~0.98)〕。モデル2では、リチウムレベルの高さが、自殺企図〔OR0.29(0.11~0.77)〕と自傷行為〔OR0.31(0.10~0.96)〕双方のオッズ比の低さと関連していた。 モデル3でも、リチウムレベルの高さは、自殺企図〔OR0.30(0.11~0.81)〕と自傷行為〔OR0.32(0.10~0.98)〕双方のオッズ比の低さと関連していた。また、AAの対数変換値が1高いごとに、自傷行為のオッズ比が45倍以上高まるという関連があった〔OR45.3(1.22~1681.2)〕。このほか、女性は自傷行為のオッズ比が、全てのモデルで有意に高かった(OR3.12~3.34)。 まとめると、水道水や食事などから吸収されたリチウムは、自殺企図や自傷行動のリスクを下げ、EPAは自傷行為のリスクを抑制し、一方でAAはそのリスクを高める可能性が示唆された。なお、EPAによる自殺リスク抑制の可能性が認められなかったことに関して著者らは、「既報研究で報告されているEPAの自殺リスク抑制作用は、おそらくDHAやAAとの多重共線性に起因するものではないか」と考察している。

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黄色ブドウ球菌感染症にプロバイオティクスが有効な可能性

 プロバイオティクスサプリメントが、重度の薬剤耐性菌感染症を引き起こすことのある黄色ブドウ球菌の体内からの排除に役立つ可能性が、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のMichael Otto氏らの研究で示された。今後さらなる研究は必要だが、専門家らは、今回の研究結果は黄色ブドウ球菌の感染を予防する方法に結び付くかもしれないとの見方を示している。詳細は、「The Lancet Microbe」に1月13日発表された。 黄色ブドウ球菌は健康な人の体にも存在する常在菌で、特に鼻や皮膚に多く存在している。皮膚の感染症の原因菌となることの多い黄色ブドウ球菌だが、血流に入り込むと重度の致死性疾患を引き起こすこともある。特に懸念されるのが、数多くの抗菌薬に耐性を示し、「スーパー耐性菌」とも呼ばれるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)だ。そのため研究者らは、入院患者や透析患者などの高リスクの人たちに対しては、局所抗菌薬や消毒薬を用いて鼻や皮膚の黄色ブドウ球菌を死滅させようとしてきた。 しかしOtto氏によると、黄色ブドウ球菌の実際の「貯蔵庫」は腸であり、鼻や皮膚から黄色ブドウ球菌がいなくなっても、すぐさま腸から新たに黄色ブドウ球菌が補充されるため、このアプローチの効果は限定的であるという。この問題を解決するために、「経口抗菌薬を使用することはできない」と同氏は説明する。なぜなら、経口抗菌薬の使用は、生命に関わる身体機能の維持に寄与している腸内の善玉菌まで無差別に死滅させることにつながるからだ。こうしたことから、腸内に生息する黄色ブドウ球菌のみを標的にした感染予防のための方法が求められている。なお、Otto氏によると、理由は不明だが、黄色ブドウ球菌の永続的な「コロニー」を持っているのは、人口の3分の1程度だという。 Otto氏らは今回の研究で、土壌細菌である枯草菌(Bacillus subtilis)を利用した、これまでとは異なる方法を試した。枯草菌を選んだのは、糞便中にBacillus属細菌の存在が確認された人では、体のどこからも黄色ブドウ球菌が見つからなかったという興味深い研究結果が2018年に報告されていたことが理由の一つであるという。実際に同氏らは先行研究で、枯草菌の多くの菌株を含むほとんどの種類のBacillus属の細菌から、黄色ブドウ球菌が身体に定着するのを特異的に阻害する物質が分泌されていることを突き止めている。 Otto氏らは、鼻と糞便から採取された検体に基づき黄色ブドウ球菌の長期保有者と判定されたタイの健康な18歳以上の成人115人を、30日にわたって枯草菌のプロバイオティクスサプリメントを毎日摂取する群と、プラセボを摂取する群のいずれかにランダムに割り付けた。その結果、サプリメント摂取群では腸内の黄色ブドウ球菌が、糞便検体では平均で96.8%、鼻から採取した検体では65.4%減少したことが明らかになった。また、このプロバイオティクスサプリメントが腸内の正常な細菌叢に対して有害な影響を与えていることを示す兆候は確認されなかった。 今回の研究には関与していない感染症の専門家で、米国感染症学会(IDSA)のスポークスパーソンでもあるAaron Glatt氏は、Otto氏らの研究結果について「極めて興味深い」と話す。しかし、「このプロバイオティクスを長期間使用した場合の安全性と有効性とともに、実際に黄色ブドウ球菌の感染を予防するのか否かについて、今後さらなる研究が必要だ」と指摘している。

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第134回 全世代型社会保障制度関連法案を閣議決定、75歳以上の健康保険料引き上げへ/内閣府

<先週の動き>1.全世代型社会保障制度関連法案を閣議決定、75歳以上の健康保険料引き上げへ/内閣府2.かかりつけ医機能を制度化へ、かかりつけ医機能報告制度創設/厚労省3.新型コロナワクチン、無料接種は4月以降も継続、次回は今年の秋から/厚労省4.健康保険証廃止で「マイナ保険証」ない人には資格確認書を提供/政府5.臓器移植を無許可あっせんでNPO法人理事を逮捕、法外な料金も問題に/警視庁6.未承認薬の緊急避妊薬やイベルメクチンのアフィリエイト広告で逮捕/兵庫県警1.全世代型社会保障制度関連法案を閣議決定、75歳以上の健康保険料引き上げへ/内閣府政府は、2月10日に一定の収入(年収153万円以上)を超えるの75歳以上の高齢者の健康保険料の引き上げを含む、「全世代社会保障法案」(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案)を閣議決定した。少子高齢化で財政が厳しい中、子ども・子育て支援の拡充、高齢者医療を全世代で公平に支えあうための高齢者医療制度の見直し、医療保険制度の基盤強化、医療・介護の連携機能および提供体制などの基盤強化を柱としている。具体的には「出産育児一時金」が今年の4月から50万円に引き上げられる財源について、75歳以上の高齢者にも財源の一部を負担してもらうほか、一定の年収を超える75歳以上の高齢者の保険料を現在の66万円を2024年度に73万円、2025年度に80万円と段階的に引き上げる。さらに74歳までの前期高齢者の医療費を現役世代が支援する仕組みでも、大企業の健康保険組合の負担を増やす一方で、中小企業の従業員が加入する「協会けんぽ」の負担を軽くする。この他、都道府県に対して、医療費適正化計画の立案の段階から、保険者と協議を行うことで、医療費適正化に向けた都道府県の役割、責務を明確化する。現在開会中の通常国会に提出し、成立を目指す。施行期日は、一部を除いて2024年4月1日となる。(参考)全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案(厚労省)75歳以上医療保険料引き上げ、法案閣議決定 年収153万円超から(毎日新聞)75歳以上の医療保険料、引き上げへ 政府 全世代型法案を閣議決定(JOINT)2.「かかりつけ医機能報告」を創設、かかりつけ医機能が制度化へ/厚労省政府は2月10日、かかりつけ医機能の制度整備などを盛り込んだ「全世代社会保障法案」(全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案)を閣議決定した。現行の医療機能情報提供制度を変更して、新たに「かかりつけ医機能報告制度」が創設される。厚生労働省によれば、慢性疾患を有する高齢者や継続的に医療を必要とする患者を地域で支えるために定められた機能([1]日常的な診療の総合的、継続的実施、[2]時間外診療、[3]急変時や入院時に患者を支援、[4]在宅医療の提供、[5]介護サービスなどとの連携など)について、医療機関から都道府県に報告を求める。都道府県知事はそのデータを確認し、地域の関係者との協議の場に報告するとともに公表する。厚生労働省は、かかりつけ医機能の報告が医療機関を縛るものではないとしており、必ずしもかかりつけ医制度を義務化するものではないとの立場。厚生労働省は医療法を改正して、2025年4月1日の施行を目指す。(参考)かかりつけ医機能が発揮される制度整備について(厚労省)「かかりつけ医機能」発揮へ制度整備、法案閣議決定 厚労相「地域で機能提供できる体制構築」(CB news)自民党厚労部会 全世代社会保障法案を部会長一任で了承 かかりつけ医機能の「確認」は行政行為にあらず(ミクスオンライン)「かかりつけ医」制度化、何が論点? 武藤正樹医師に聞く(上) 政府は患者登録制は見送り(東京新聞)「かかりつけ医」制度化、何が論点? 武藤正樹医師に聞く(下) 総合診療医の育成支援を(同)3. 新型コロナワクチン、無料接種は4月以降も継続、追加接種は今年の秋に実施/厚労省厚生労働省は2月8日に厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会を開催し、今年3月末に無料接種の期限を迎える新型コロナウイルスワクチン接種について、4月以降もすべての接種対象者の無料接種を継続する方針を固め、さらに2023年度の追加接種の方針について、以下の通りとりまとめた。追加接種の対象者は高齢者などの重症化リスクがある人を優先するが、重症化リスクが高くない人であっても重症化が発生するため、引き続き無料接種を継続する。接種時期は、前回から1年が経過する今年秋から冬に実施予定だが、重症化リスクのある人については秋を前に接種を行う。また、子ども(5~11歳)や乳幼児(6ヵ月~4歳)は、接種開始から時間が短いため、接種期間を延長する。(参考)2023年度以降の新型コロナワクチンの接種の方針についての議論のとりまとめについて(厚労省)2023年度以降の新型コロナワクチンの接種の方針について(同)新型コロナワクチン、4月以降も無料接種継続へ 次回は今秋冬に(毎日新聞)新型コロナワクチン 秋から冬に次の接種 基本方針まとまる(NHK)コロナワクチン接種スケジュール「毎年秋冬が妥当」厚労省が厚科審部会に方針案提示(CB news)4.健康保険証廃止で「マイナ保険証」ない人には資格確認書を提供/政府政府は、2024年秋に行う健康保険証の廃止と、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」への切り替えを前に、「マイナ保険証」の普及に向けて、取得を呼びかける広報を行っているが、2月5日時点マイナンバーカードの保有率は68.1%だが、健康保険証としての利用登録率は59.3%とまだ低い(2023年2月5日時点)。このため政府は、2024年の健康保険証の廃止後もマイナンバーカードを紛失した人や未取得の人が保険診療を受けられるように、保険証の情報を記載した「資格確認書」を提供する方向で検討を開始した。また、新生児についても、出生届の提出時に申請を受け付け、1歳未満の乳児には顔写真がないカードを交付する方針。政府は、具体化に向けてさらに検討を行い、法案を今国会に提出する見込み。(参考)“マイナ保険証”ない人には「資格確認書」提供で調整 政府(NHK)健康保険証廃止後の保険診療で具体案取りまとめ 政府(同)マイナ保険証未取得者に資格確認書 24年保険証廃止で政府調整(毎日新聞)マイナンバーカード交付状況について(総務省)政策データダッシュボード(ベータ版)(デジタル庁)5.臓器移植を無許可あっせんでNPO法人理事を逮捕、法外な料金も問題に/警視庁ベラルーシの病院での臓器移植を無許可であっせんしたとして、警視庁生活環境課は2月9日までに、NPO法人「難病患者支援の会」(横浜市)の理事を臓器移植法違反の疑いで逮捕した。同法人も同じ容疑で書類送検となる見込み。報道によると逮捕された菊池仁達容疑者らは、厚生労働省の許可を得ずに、臓器移植を希望する患者に対して海外渡航での臓器移植を斡旋し、手術後に合併症などで死亡するなど被害が出ているほか、費用を払い込んだにもかかわらず移植が行われず、死亡した患者の遺族へ返金がなされていないなど被害が発生していた。加藤厚労大臣は、記者会見でこの事件について「事実だとすれば大変遺憾」だとして、国内でも他に同様の事案が無いか、調査していく考えを示した。さらに「同様の事案が生じないよう、臓器提供に関する正確な情報を発信していく」と強調した。日本臓器移植ネットワークによれば、日本国内のドナー数は100万人当たり0.62とアメリカの41.88やドイツの11.22など世界各国に比べて、提供件数が低いままであり、今回のように待機患者が海外を目指すケースが後を絶たない。2008年の国際移植学会で「移植が必要な患者の命は自国で救う努力をすること」という主旨のイスタンブール宣言が出されたことで、わが国でも2009年に改正臓器移植法が成立し、2010年7月に全面施行となっている。(参考)臓器あっせん、患者は徹底捜査求める「移植費用の行方解明して」(読売新聞)臓器あっせん、別の日本人患者も死亡…ベラルーシで肝臓・腎臓を同時移植(同)相場の2倍要求か 臓器移植、無許可あっせん容疑の理事(日経新聞)「不透明」な海外移植あっせん 増えぬドナー、減らぬ希望者が背景に(朝日新聞)6.未承認薬の緊急避妊薬やイベルメクチンのアフィリエイト広告で逮捕/兵庫県警兵庫県警生活経済課は2月9日、緊急避妊薬やうつ病の治療薬など未承認の医薬品のアフィリエイト広告をインターネット上に掲載したとして、医薬品医療機器法(未承認医薬品の広告禁止)違反の疑いで、群馬県高崎市の男性(39)を逮捕した。調べによると、男性は副業でアフィリエイト(ネット広告)用のウェブサイトを複数開設し、アフィリエイト仲介業者を通して、毎月10万円前後の報酬を得ていた。Webサイトには、未承認の緊急避妊薬、抗うつ薬に加え、新型コロナウイルス感染症治療薬として未承認の「イベルメクチン」も掲載されていた。厚生労働省は2021年8月に医薬品医療機器等法を改正しており、医薬品等の誇大広告の規制の強化を打ち出している。第66条の条文には「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない」とされている。規制対象は、広告主だけではなく、広告代理店・アフィリエイターなどの個人も対象となる。また、健康食品・サプリメント、健康・美容器具であっても、医療品のような効果を訴求して、薬機法に抵触する表現をすると医薬品であるとみなされ、課徴金の対象となる可能性があり、課徴金として「売上額」の4.5%を支払う必要がある。(参考)未承認の緊急避妊薬などをネット広告に 県警が群馬の男逮捕「本当に悪いのは輸入代行者」(神戸新聞)医薬品等の広告規制について(厚労省)アフィリエイト広告のしくみと法規制(国民生活センター)薬機法改正のポイントを分かりやすく解説!企業は何を対策すべき?(Letro)

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第148回 糖尿病の厄介な合併症にいとも単純な治療・アミノ酸補給が有効かもしれない

糖尿病患者のおよそ半数が主に手や足に生じる脱力、しびれ、痛みを伴う末梢神経障害を被ります。その厄介な糖尿病合併症になんとも単純な治療・アミノ酸補給が有効かもしれないことを示唆する研究成果が先週25日にNatureに掲載されました1)。米国・カリフォルニア州サンディエゴにある世界屈指の研究所・The Salk Institute(ソーク研究所)のChristian Metallo氏等のその報告によると、セリンのやりくりが不得手(恒常性異常)でセリンとグリシンが乏しいことは糖尿病マウスの末梢神経障害を生じやすくし、なんとセリンを補給するだけで糖尿病マウスの神経障害症状が緩和しました。アミノ酸は連なってタンパク質を作ります。また、神経系に豊富な特殊な脂質・スフィンゴ脂質の生成に不可欠です。アミノ酸の1つ・セリンが乏しいとスフィンゴ脂質を作るのに別のアミノ酸が使われるようになります。そうして作られるいつもと違うスフィンゴ脂質は蓄積して末梢の神経損傷にどうやら寄与します。Metallo氏が率いるチームはセリンの長期欠乏で末梢神経障害が生じるかどうかを調べるべくいつもの餌かセリン制限餌を最大12ヵ月間マウスに与えて様子を見ました。その結果、全身のセリンが乏しいことと高脂肪食の組み合わせは末梢神経障害の発生をどうやら早めると示唆され、糖尿病マウスにセリンを補給したところ末梢神経障害の進行を遅らせることができ、調子も良くなりました。また、スフィンゴ脂質の生成に使うアミノ酸をセリン以外へと切り替える酵素・セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPT)の阻害薬・マイリオシン(myriocin)も高脂肪のセリン制限食マウスの末梢神経障害症状をセリン補給と同様に減らしました。SPT活性抑制もセリン欠乏絡みの末梢神経障害を緩和する作用があるようです。マイリオシンは漢方で使われるきのこ・冬虫夏草から見つかりました。マイリオシンは西洋医学にも貢献しており、多発性硬化症(MS)の治療薬・イムセラの成分フィンゴリモドはそのマイリオシンを加工して作られた化合物です2)。余談はさておき、糖尿病患者の神経障害にどうやら加担するらしいことが今回の研究で示されたセリン欠乏はこれまでの研究で種々の神経変性疾患と関連することが知られています。たとえばMetallo氏らのチームは先立つ研究で失明疾患・黄斑部毛細血管拡張症2型(MacTel 2型)患者のセリンとスフィンゴ脂質の代謝異常を発見しています3)。マウスの実験でセリン欠乏はいつもと違うスフィンゴ脂質を増やして視力低下を招きました。そういう研究成果を背景にしてMacTel 2型患者へのセリンの効果や安全性を調べる臨床試験がすでに実施されています4)。それにアルツハイマー病へのセリンの臨床試験も進行中です5)。進行性で体を消耗させる非常にまれな末梢神経疾患・遺伝性感覚-自律神経性ニューロパチー1型(HSAN1)患者へのセリン高用量経口投与の無作為化試験では有望なことにプラセボを上回る病状指標CMTNS改善効果が示されています6)。糖尿病患者の末梢神経障害の主な手当ては血糖を減らすように食事を変えることです。それに加えて鎮痛薬、理学療法、つえや車いすなどの歩行補助具も使われます。末梢神経障害に効果があるかもしれないセリンは豆類(大豆、ひよこ豆、レンズ豆)、木の実、卵、肉、魚に豊富に含まれます。セリンのサプリメントは安価で店頭販売されていますが、神経障害を防ぐのにセリンのサプリメントを糖尿病患者に服用するように勧めることはできません。その前にヒトの体内でのセリンの振る舞いをもっと調べる必要があります。セリン補給で生じうる好ましくない作用の検討も必要です。セリン補給治療実現に向け、Metallo氏等のチームはまずはセリン負荷検査(STT)の開発に取り組んでいます7)。セリンやグリシンの欠乏を招くセリン恒常性異常を検出しうるSTTは糖尿病の診断で使われる糖負荷検査(OGTT)に似たもので、セリン摂取後のセリンの取り込みや廃棄の量を調べます。STTをすればセリンをやたら廃棄していて(elevated, postprandial serine disposal)神経障害をとくに生じやすい患者を同定できるかもしれません1)。上述のアルツハイマー病患者へのセリンの試験では体重1kg当たりセリン400 mgを摂取する負荷試験が採用されています。末梢神経障害を最も生じやすい患者をSTTで見極め、それらの患者に限って治療が施せるようになることをMetallo氏等は期待しています7)。参考1)Handzlik MK, et al. Nature. 2023 Jan 25. [Epub ahead of print]2)Chiba K. J Antibiot (Tokyo). 2020 Oct;73:666-678.3)Scerri TS, Nat Genet. 2017 Apr;49:559-567.4)SAFE試験(ClinicalTrials.gov)5)LSPI-2試験(ClinicalTrials.gov)6)Fridman V, et al. Neurology. 2019;92:e359-e370.7)Supplementation with amino acid serine eases neuropathy in diabetic mice / The Salk Institute

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服薬拒否の強いBPSD患者に適応外でブロナンセリンテープを提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第52回

 今回は、環境変化により不穏となり、服薬拒否で経口投与が困難となった認知症患者さんについてです。ブロナンセリン貼付薬を導入することで、徐々に興奮や幻覚症状などが改善し、状態を安定させることができました。患者情報90歳、男性(施設入居)基礎疾患アルツハイマー型認知症、胃がん(積極的治療は希望せず)、鉄欠乏性貧血、前立腺がん(尿閉があり尿道カテーテル留置)、腎後性慢性腎不全介護度要介護1服薬管理施設職員が管理処方内容1.ランソプラゾールOD錠15mg 1錠 分1 朝食後2.クエン酸第一鉄錠50mg 4錠 分2 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、施設入居の際に環境の変化から不穏になり、興奮や幻覚症状が現れ、帰宅願望も強くみられました。また、尿道バルーンが留置されていましたが、安静を守れず自己抜去するリスクがありました。入居当日に初回の訪問診療があったので、同行することにしました。診察前に看護師と患者さんの状況を確認しようとしたところ、患者さんはすでにベッドから転落しており、尿道カテーテルを引っ張って抜去する寸前でした。訴えを傾聴すると、「とんでもない牢獄に押し込まれた!」と大変興奮して落ちつかない状況でした。服薬・食事・移乗介助しようにも暴言と暴力行為があり介護抵抗が強かったため、看護師から不穏時の頓服薬の要望がありました。処方提案現状を踏まえると、認知症の行動・心理症状(BPSD)が強く、安静を維持できないことから治療の見直しが必要と考えました。とくに服薬拒否が強いため外用薬による治療コントロールが望ましいように思いました。そこで、抗精神病薬のブロナンセリンテープ20mgの導入を医師に提案することを検討しました。ブロナンセリンテープは、1日1回の長時間作用型の薬剤であり、抗幻覚作用も十分で、非鎮静系であることから認知機能や代謝系への影響が少ないとされている薬剤です1)。また、貼付薬ですので、内服薬の拒否・困難なケースでも安定した血中濃度を維持することができ、このような患者さんでは使いやすい薬剤です。しかし、BPSDに対する治療は保険適用外になるため、患者背景や治療適応について多職種と十分なコンセンサスを得る必要があります。<ブロナンセリンテープの提案理由>(1)ブロナンセリンテープは薬理学的プロファイルとして、ドパミンD2、D3受容体および5HT2A受容体への選択的拮抗作用を示し、それ以外のアドレナリンα1、5HT2c、ヒスタミンH1、ムスカリンM2受容体への親和性をほとんど持たない。そのため眠気、過鎮静、起立性低血圧、ふらつきなどの有害事象リスクが低いのが特徴であり2)、この患者への妥当性があると考えた。(2)貼付薬であるため、a.消化管吸収の影響による初回通過効果を回避、b.長時間作用型として安定した血中濃度を維持、c.嚥下困難、服薬拒否、経口摂取不可の患者にも投与可能、d.目視での服薬確認が容易、などの特徴がある2)。(3)有害事象としては、貼付部位の皮膚掻痒感、紅斑などに注意が必要だが、施設職員の協力を得てコントロールは可能と考えた。初診と経過初診が始まり、医師の状況考察からも環境調整のみでは対応が難しく、短期的にでも薬剤調整が必要という判断になりました。医師よりリスペリドン内用液はどうかと相談があったので、服薬拒否も介護抵抗も強く、安定した治療効果が必要なことを考えるとブロナンセリンテープ20mgがよいのではないかと提案しました。医師の承認の上、それでも発作的に症状が出るときは、リスペリドン0.5mgを頓用するという指示でまとまりました。すぐに医師より、患者および家族に今の心理状況や状態、ブロナンセリンテープの必要性の説明があり、承認が得られたため、当日届き次第の開始となりました。投与開始から3日目までは頓用のリスペリドンを使いながらですが徐々に興奮や幻覚症状などが改善し、7日目には穏やかな様子で皮膚症状もなく介護抵抗などもなくなりました。現在はリスペリドンの内服は終了し、ブロナンセリンテープ20mg単独で症状がコントロールできています。1)ブロナンセリンテープインタビューフォーム2)岩崎真三ほか. 最新精神医学, 2022;27:53-60.

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健康の大疑問

健康常識をアップデートせよNY在住・新進気鋭の専門医が、最新の知見を駆使し、健康情報の真偽を問う。白髪の原因はストレス?腸内細菌が認知機能を高める?痛風にプリン体制限は有効?高血圧の薬は一生飲み続けてOK?ウォーキングは1日何歩までがベスト?次世代エイジングケアNMNサプリの正体とは?若者の大腸がんが急増している本当の理由とは?乳酸菌は風邪予防になる?断食で長生きが可能となる?グルコサミンは変形性膝関節症の痛みを改善する?ビタミンDで骨は強くなる?音楽が健康に及ぼす影響とは? ……etc.画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    健康の大疑問定価1,100円(税込)判型新書判頁数188頁発行2023年1月著者山田 悠史

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インフルエンザへの効果を謳う不正な医薬品にFDAが注意喚起

 米国ではインフルエンザが猛威を振るっている。そのような中、米食品医薬品局(FDA)は12月13日、インフルエンザの治癒や予防、あるいは重症化防止といった名目で販売されているOTC医薬品(市販薬)に注意するよう呼び掛けた。このような製品の販売者が主張する内容は正確性や安全性に欠けている可能性があるという。 FDAはニュースリリースで、「こうした製品は有名なインターネット上のマーケットプレイスや実店舗で、栄養補助食品として、あるいは食品、手指の消毒剤、鼻スプレー、デバイスとして販売されている可能性がある」と指摘している。そのような製品の例としてFDAは、一部のハーブティーや特定のエアフィルター、インフルエンザの予防効果や治癒効果、熱や筋肉痛、鼻詰まりといった症状に対する効果を謳った光線療法を挙げている。 FDAは、これらの虚偽・誇大表示の製品を信じることは、本当に必要な治療の遅れや受診控え、治療の中断などにつながり、重篤で致死的な害がもたらされる可能性があると警鐘を鳴らしている。また、これらの製品には、副作用や他の薬剤と相互作用を起こし得る成分が含まれている可能性もあるとしている。 このような虚偽・誇大表示製品を販売しているウェブサイトは、医療用医薬品を販売するオンライン薬局のように見える場合もある。合法的なオンライン薬局も存在するが、信頼のおけるオンライン薬局のように見えても、実際には不正なウェブサイトも数多く存在する。なお、オンラインで医療用医薬品を安全に購入する方法については、FDAの“BeSafeRxキャンペーン”に関するサイトで情報を得ることができる。 ホメオパシー製品にもある程度の注意が必要だ。FDAの承認を受けたホメオパシー製品は一つもない。ホメオパシー製品は一般的に、植物や動物、ヒト由来の成分や細菌、ミネラル、化学物質などを薄く希釈した物質をごくわずかに含有していることがラベル表示されている。しかし、こうした製品の一部には、ラベル表示されている量を大幅に上回る有効成分が含まれており、特に小児には重大な害が及ぶ可能性があるとFDAは警告している。 インフルエンザから自分の身を守る最も良い方法は、毎年インフルエンザワクチンを接種することだ。米疾病対策センター(CDC)は生後6カ月以上の全ての人に対してワクチン接種を推奨している。特に、低年齢児や65歳以上の成人、慢性疾患患者などの合併症リスクが高い人ではワクチン接種が重要とされている。 またFDAは、インフルエンザの治療薬として複数の抗ウイルス薬を承認している。これらの治療薬を手に入れるには医師の処方が必要で、発症後48時間以内に使用することで最大の効果を得られる。全てのインフルエンザ治療薬は、青少年と成人に対する使用が承認されており、生後2週間以上の小児に使用可能な治療薬もある。剤形も錠剤や液剤、吸入薬、静脈注射薬など、さまざまな選択肢がある。これらの抗ウイルス薬によって、インフルエンザを軽症に抑えられる可能性がある。なお、インフルエンザの濃厚接触者、または自分がインフルエンザに感染した可能性があるときには、かかりつけ医に相談することが望ましい。

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超加工食品の食べすぎで認知機能が低下?

 超加工食品の摂取量が多いと、認知機能の低下が加速する可能性を示唆する研究結果が報告された。サンパウロ大学(ブラジル)のNatalia Gomes Goncalves氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Neurology」に12月5日掲載された。 超加工食品とは一般に、砂糖や塩、脂肪、人工着色料、防腐剤などの添加物や不健康な成分が多く含まれていて、例えば冷凍食品、清涼飲料、ファストフード、味の濃いスナックなどが該当する。これらの食品を好む習慣は、肥満やメタボリックシンドローム、心臓病などのリスク上昇と関連していることが報告されているが、新たな研究では、それらに加えて認知機能低下リスクとの関連が浮かび上がった。 この研究は、2008~2017年にブラジルの6都市で多施設共同前向きコホート研究として実施された。研究参加登録時に食物摂取頻度アンケートにより超加工食品の摂取量を含む食習慣を把握。1万5,105人の参加者から、認知機能の評価結果や交絡因子の情報が不足している人、摂取エネルギー量が極端な人(1日600kcal未満または6,000kcal以上)の人、および認知機能に影響を及ぼす可能性のある薬剤が処方されている人を除外して、1万775人(平均年齢51.6±8.9歳、女性54.6%、56.6%が大学卒以上)を解析対象とした。 中央値で8年(範囲6~10)追跡して、ベースライン時の超加工食品摂取量と認知機能の変化との関連を検討。その結果、超加工食品の摂取量(総摂取エネルギー量に占める割合)の多い第4四分位群(上位25%の群)は、包括的認知機能の低下の速度が第1四分位群(下位25%)に比較して28%早く(P=0.003)、実行機能の低下速度が25%速かった(P=0.01)。Goncalves氏によると、「実行機能とは目標を計画して実行する能力のことで、包括的認知機能とは実行機能、言語の流暢さ、記憶など、評価した全ての認知機能の総合的な評価の結果であり、包括的認知機能の低下は日常作業の妨げとなる」とのことだ。 得られた結果についてGoncalves氏は、「因果関係の証明にはならないが、認められた認知機能の低下速度の速さは、超加工食品の消費によって引き起こされる脳の微小血管障害、脳容積の減少、または全身性炎症に起因するものの可能性がある」と述べている。また、「何を食べるかという選択は、健康な脳機能の維持に重要なポイントとなる。中年期は特に、老後に向けてライフスタイルを変える重要な時期だ。ただし、食生活を改善するのに遅すぎるということはなく、高齢者であっても健康的なライフスタイルに変えることのメリットを期待できる」と話している。 なお、超加工食品の摂取量が多いことによって肥満が助長される可能性があるが、今回の研究ではそのような変化の影響を考慮しても、認知機能の低下に関連していたのは体重増加ではなく、超加工食品の摂取量だったという。これらの結果に基づきGoncalves氏は、「臨床医は患者に対して、出来合いの食品や菓子などを購入する代わりに、新鮮な食材を使って自宅で料理するよう助言すべきではないか」と提言している。また、超加工食品の大量摂取が直接的な脳のダメージとなるのかを確認するため、さらなる研究を計画中とのことだ。 この研究に関与していない、米ニューヨーク大学(NYU)ランゴン・ヘルスの臨床栄養士のSamantha Heller氏は、「食べているものではなくて、食べていないものが認知機能に影響を与えている可能性もある」と指摘する。同氏によると、習慣的に超加工食品を摂取している場合、炎症の抑制や健康の維持に重要な食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの摂取量が減る可能性が高く、それら微量栄養素の不足が影響を及ぼすとも考えられるとのことだ。さらに、超加工食品の過剰摂取は、高血圧、2型糖尿病、心臓病、肥満のリスクの増加を介して、脳の健康を妨げるように働くという。 「超加工食品は、それらに対する渇望を刺激するように作られており、製品広告があふれていることも購買意欲を高める。つまり、消費者が超加工食品を望むのは消費者のせいばかりではない。しかし、食品メーカーのそのような戦略を認識し、食べるものを決めるのは消費者自身だ」とHeller氏は注意を促している。

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心不全の補完代替療法についてAHAがステートメントを発表

 米国心臓協会(AHA)は、心不全の補完代替療法に関する科学的ステートメントをまとめ、「Circulation」に12月8日掲載した。魚油サプリメント、各種ビタミン、コエンザイムQ10、ヨガ、太極拳などについて、現時点のエビデンスを総括した上で、推奨や注意事項などを述べている。 米国の20歳以上の心不全患者数は約600万人であり、その3割程度が補完代替療法を利用していると推測されている。ステートメントの筆頭著者である米ウエスタン健康科学大学のSheryl Chow氏は、「補完代替療法に用いられている製品は、米食品医薬品局(FDA)の規制をほとんど受けないため、メーカーは有効性や安全性を実証する必要がない。医療専門職者と消費者の双方が、メリットの可能性と潜在的なリスクについて学び、最新の情報を共有した上で意思決定することが重要だ」と述べている。また消費者に対して、「多くの人が、それらの商品がFDAの規制対象外の製品であることを知らずに利用している。同じ成分名で販売されていたとしても、含有量や純度は製品によって大きく異なることもある。よって使用に際しては、まず医療チームに相談すべき」と助言している。 AHAのステートメントによると、心不全患者にメリットをもたらす可能性があるとされる補完代替療法の中で、最もエビデンスが強固なのは魚油(オメガ3脂肪酸)であり、医師との相談の上で適量を摂取することは安全だという。オメガ3脂肪酸サプリの有用性を示唆する、小規模な無作為化プラセボ対象試験の報告もあるとのことだ。ただし、高用量を摂取した場合に不整脈のリスクが上昇する可能性があるため、1日の総摂取量は4g未満とするとされている。 一方、心不全の一因としてチアミン(ビタミンB1)欠乏症が知られているため、チアミン摂取が心不全に有効な可能性がこれまで検討されてきている。ただし、いまだ明確なエビデンスがないことから、ステートメントには、欠乏に伴う臨床症状を生じていない心不全患者がチアミンを習慣的に摂取することは支持されないと記されている。コエンザイムQ10については、現時点では心不全に対する影響ははっきりしないとのことだ。 食品以外では、ヨガや太極拳の有望性に触れている。それらは安全であり、運動耐容能や生活の質(QOL)の改善、炎症マーカーの低下などの作用が報告されており、医療ガイドラインに基づく治療の補助的なアプローチとして利用可能とされている。 ステートメントでは上記のほかに、カフェイン、アルコール、甘草、L-アルギニン、グレープフルーツジュースなどを幅広く取り上げている。それらの中には、患者の状態によっては健康上のリスクになり得るものもあり、より確実な理解のためにさらなる研究が必要としている。なお、このステートメントは心不全患者に焦点を当てたものだが、Chow氏は、「心不全以外の健康上の問題を抱えている人にとっても重要な情報である」と述べている。 米シダーズ・サイナイ医療センターのMichelle Kittleson氏は、今回のAHAのステートメント発表を歓迎している。同氏は心不全治療のスペシャリストだが、そうであっても補完代替療法を利用している患者の管理にしばしば迷いが生じるとのことだ。「このステートメントには、参考文献として210報もの論文が掲げられている。著者らがそれらを吟味しまとめてくれたおかげで、われわれは同じことをしないで済む。多くの臨床医は、医薬品との相互作用の理解のために、このような情報を必要としているはずだ」とKittleson氏は語っている。

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ビタミンDが脳を老化から守る可能性

 脳内に存在するビタミンDの量が多い高齢者では、明晰な頭脳が維持されやすい可能性が、米タフツ大学ジーン・メイヤーUSDA加齢人間栄養研究センターのSarah Booth氏らの研究で示唆された。この研究では、脳組織中のビタミンD濃度が高い高齢者では記憶力や思考力の標準的な検査の成績が良い傾向があり、認知症や軽度認知障害(MCI)になる可能性の低いことが示された。この研究の詳細は、「Alzheimer's & Dementia」に12月7日掲載された。 ビタミンDと脳の老化については、これまでにも複数の研究が行われている。しかし、高齢者においてビタミンDの血中濃度の低さが認知症リスクの上昇と関連するという報告がある一方で、そのような関連は認められないとする報告もあり、意見の一致は得られていない。さらに、高齢者の記憶力や思考力に対するビタミンDサプリメントの効果を検証したいくつかの臨床試験でも、有益性に関する明確な証拠は得られていない。 そこでBooth氏らは、「ビタミンDはそもそも脳に到達するのか」という基本的な疑問に立ち返り、それを調べるために、ラッシュ大学による疫学研究Rush Memory and Aging Project(MAP)に生前、参加していた高齢者290人(死亡時の平均年齢92歳)の剖検脳組織を調べた。MAPは1990年代に開始された長期研究で、正常および異常な脳の老化についての解明を進めることを目的としている。同研究の参加者は、毎年認知機能の検査を受けることと、死後は研究のために脳組織を提供することに同意している。 その結果、アルツハイマー病に関連する異常が認められた2人の脳組織を含む、全ての分析対象の脳組織で、ビタミンDの存在が確認された。また、全体的に脳組織中のビタミンD濃度が高い高齢者は、認知機能の検査の成績が優れていた。ビタミンD濃度が2倍になるごとに、死亡する前の最後の認知機能検査時に認知症またはMCIが認められる可能性が25~33%低下していた。その一方で、脳組織中のビタミンD濃度とアルツハイマー病に関連する、アミロイド斑の蓄積などの脳の生理学的指標との間に関連は認められなかった。 研究論文の筆頭著者である、同センターのKyla Shea氏は、「この研究により、人間の脳にはある程度の量のビタミンDが存在し、それが認知機能の低下のしにくさと関連することが明らかになった。しかし、将来の介入デザインを考え始める前に、さらに研究を行い、ビタミンDが関与する脳内の神経病理を特定する必要がある」と述べている。 今回の研究には関与していない、米アルツハイマー病協会サイエンティフィック・プログラム・アンド・アウトリーチのシニアディレクターであるClaire Sexton氏は、この研究により、ビタミンDと認知症リスクの間に「興味深い関連性が存在する可能性」が示されたと話す。ただし同氏は、この研究でビタミンDそのものに認知症の予防効果があることが証明されたわけではないことを強調。また、今回の研究で評価されたアルツハイマー病に関連する脳の異常と、脳組織中のビタミンD濃度との関連は認められなかったことに言及し、ビタミンDが認知症に対して保護的に働くとしても、その機序は明らかではないと指摘している。 一部の人たちでは他の人たちと比べて、脳組織中のビタミンD濃度が高い理由も不明だ。Booth氏によると、今回の研究では、ビタミンDの血中濃度と脳組織中の濃度との間にはわずかな関連しか確認されなかったという。また、ビタミンDの血中濃度は、高齢者の認知機能検査の成績には関連していなかったという。同氏は、「今後、より多様な人種を対象にするなどして研究を重ねる必要がある」と話している。

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脱毛治療での栄養サプリ使用は、安全・有効か?

 脱毛治療のための栄養補助食品使用および食事介入は広く行われているが、安全性・有効性は不明のままである。米国・タフツ大学のLara Drake氏らはシステマティック・レビューの結果、脱毛治療における栄養補助食品使用は患者に利益をもたらす可能性があり、有害事象は報告されていないが、それらレジメンは当局の監視下にないことから、それぞれの試験デザインの条件下で安全性・有効性は解釈すべきものであるとの見解を示した。その上で、「医師は、脱毛患者にこれら治療の潜在的なリスクと利点を十分に説明して、共同意思決定をしなければならない」と述べている。また、今後の検討として、実薬比較による大規模な無作為化試験が求められると提言している。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年11月30日号掲載の報告。 研究グループは、ベースラインで栄養不足が既知ではない患者の脱毛治療における、すべての食事および栄養介入の所見を、システマティック・レビューで評価し見解をまとめた。 MEDLINE、Embase、CINAHLのデータベースを、創刊~2021年10月20日まで検索。英語で執筆され、脱毛症または脱毛を有するベースラインで栄養不足が既知ではない患者における食事・栄養介入調査の、オリジナルな所見を報告している論文を特定した。 試験の質を、Oxford Centre for Evidence Based Medicine基準で評価。注目したアウトカムは、客観的および主観的に評価した疾患経過であった。データの評価は2022年1月3日~11日に行った。 主な結果は以下のとおり。・データベースの検索で、参照リストからの11論文を加えた6,347論文の引用が得られた。総計30論文(17本が無作為化臨床試験[RCT]、11本が臨床研究[non-RCT]2本がケースシリーズスタディ)が包含された。包含基準を満たした食事ベースの介入試験はなかった。・最も質の高いエビデンスを有する栄養介入の試験では、Viviscal、Nourkrin、Nutrafol、Lamdapil、Pantogar、カプサイシンとイソフラボン、抗酸化物質を含むオメガ3と6、リンゴの栄養補助食品、シャクヤクの総グルコシド、複合グリチルリチン・タブレット、亜鉛、トコトリエノール、パンプキンシードオイルの潜在的ベネフィットが示された。・キムチとチョングクジャン、ビタミンD3、およびForti5は、疾患経過の改善に関するエビデンスの質は低かった。・有害作用は、評価を受けたすべての治療でまれで軽症であった。

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心臓に良いとされるサプリのコレステロール低下作用は否定的/JACC

 心臓に良いとされているサプリメント(サプリ)のコレステロール低下作用を検討した結果、いずれも見るべきものはなく、中には負の影響を示すものもあったとする報告が、米国心臓協会(AHA)学術集会(Scientific Sessions 2022、11月5~7日、米シカゴ/バーチャル開催)で発表されるとともに、「Journal of the American College of Cardiology(JACC)」に論文が同時掲載された。米クリーブランド・クリニックのLuke Laffin氏らの研究によるもの。 心血管疾患のリスク抑制には、血清脂質値の改善〔LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪の低下、HDL(善玉)コレステロールの上昇〕が重要であり、その手段として医師からは、主としてスタチンと呼ばれる薬剤が処方される。一方、処方箋のいらないサプリメントの中にも心臓に良いとされているものがある。ただし、それらの血清脂質改善作用は明らかでない。そこでLaffin氏らは、それら6種類のサプリの脂質改善作用をスタチンの一種であるロスバスタチンと比較するという、前向き無作為化単盲検比較試験を実施した。 研究対象は、LDL-Cが70~189mg/dLの範囲で、アテローム性動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の既往がないもののそのリスクが高い40~75歳の成人190人。ロスバスタチン5mg/日、そのプラセボ、または、魚油、シナモン、ニンニク、ウコン、植物ステロール、紅麹を摂取するいずれかの群に無作為に割り付け、28日間での血清脂質値の変化を比較検討した。主要評価項目は、LDL-Cの変化率だった。 その結果、ロスバスタチン群のLDL-C変化率は、プラセボ群や全てのサプリ群より有意に大きく(p<0.001)、対プラセボでは-35.2%(95%信頼区間-41.3~-29.1)だった。またロスバスタチン群では、総コレステロールが24.4%低下し、中性脂肪は19.3%低下した。プラセボ群とサプリ群との比較では、プラセボ群よりもLDL-C低下幅が有意に大きいサプリはなかった。さらに、ニンニクではLDL-Cが7.8%上昇し、植物ステロールではHDL-Cが7.5%低下した。有害事象の発生率は群間に有意差がなく、スタチン服用を避けたがる人がその理由として挙げることの多い、筋骨格系症状や神経学的症状、肝機能・糖代謝への影響も認められなかった。 Laffin氏によると、サプリ市場は米国で約500億ドルの規模に上り、その使用者の約5人に1人は、コレステロールの低下や心臓の健康増進を期待して使用しているという。同氏は、「それらのサプリを使用している人は、目的にかなった恩恵を受けていない。心臓専門医やプライマリケア医は、患者に対してエビデンスに基づいた情報提供を行う必要があるだろう」と語っている。 この発表に対して、業界団体(Council for Responsible Nutrition)の役員を務めているAndrea Wong氏が異議を唱えている。同氏の主張は、「医家向けの処方薬を対照とする短期間の介入では、サプリの有用性の評価はできない。特に高コレステロール血症のような多因子が関与している状態の改善には、4週間という設定は短すぎる」というものだ。さらに同氏は研究に選択されたサプリの種類にも疑問を投げかけている。「用いられたサプリはいずれも心臓の健康上のメリットがよく知られているが、コレステロール低下目的で販売されているのは3種類のみであり、ほかのサプリは糖代謝や中性脂肪へのメリットを期待して使われているものだ。LDL-Cの変化率を評価するという研究目的で、なぜそれらのサプリが選択されたのか、理由が分からない」という。 Wong氏は、「サプリは、医薬品やその他の治療に取って代わるものではない。そうではなく、健康をサポートし、健康的な食事、身体活動、および医療専門家による定期的な検査と組み合わせて使用し、疾患のリスク抑制に役立てるものである」とサプリの意義を強調している。 他方、米ジョージ・ワシントン大学のJanani Rangaswami氏は、本研究結果を、「スタチンとサプリの実際の価値を患者が理解する上で役立つ情報だ。医師が患者へ、適切な治療手段の選択を促す際に助けとなるだろう」としている。「この研究結果を患者に示し、『これが、あなたがお金を払って得ようとしている効果の実情です』と言うだけでよい。ロスバスタチンを低用量服用するだけで、他の全てのサプリやプラセボよりも、はるかに効果的なことを伝えられる」と同氏は本研究の成果を評価している。

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