黄色ブドウ球菌感染症にプロバイオティクスが有効な可能性

プロバイオティクスサプリメントが、重度の薬剤耐性菌感染症を引き起こすことのある黄色ブドウ球菌の体内からの排除に役立つ可能性が、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のMichael Otto氏らの研究で示された。今後さらなる研究は必要だが、専門家らは、今回の研究結果は黄色ブドウ球菌の感染を予防する方法に結び付くかもしれないとの見方を示している。詳細は、「The Lancet Microbe」に1月13日発表された。
黄色ブドウ球菌は健康な人の体にも存在する常在菌で、特に鼻や皮膚に多く存在している。皮膚の感染症の原因菌となることの多い黄色ブドウ球菌だが、血流に入り込むと重度の致死性疾患を引き起こすこともある。特に懸念されるのが、数多くの抗菌薬に耐性を示し、「スーパー耐性菌」とも呼ばれるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)だ。そのため研究者らは、入院患者や透析患者などの高リスクの人たちに対しては、局所抗菌薬や消毒薬を用いて鼻や皮膚の黄色ブドウ球菌を死滅させようとしてきた。
しかしOtto氏によると、黄色ブドウ球菌の実際の「貯蔵庫」は腸であり、鼻や皮膚から黄色ブドウ球菌がいなくなっても、すぐさま腸から新たに黄色ブドウ球菌が補充されるため、このアプローチの効果は限定的であるという。この問題を解決するために、「経口抗菌薬を使用することはできない」と同氏は説明する。なぜなら、経口抗菌薬の使用は、生命に関わる身体機能の維持に寄与している腸内の善玉菌まで無差別に死滅させることにつながるからだ。こうしたことから、腸内に生息する黄色ブドウ球菌のみを標的にした感染予防のための方法が求められている。なお、Otto氏によると、理由は不明だが、黄色ブドウ球菌の永続的な「コロニー」を持っているのは、人口の3分の1程度だという。
Otto氏らは今回の研究で、土壌細菌である枯草菌(Bacillus subtilis)を利用した、これまでとは異なる方法を試した。枯草菌を選んだのは、糞便中にBacillus属細菌の存在が確認された人では、体のどこからも黄色ブドウ球菌が見つからなかったという興味深い研究結果が2018年に報告されていたことが理由の一つであるという。実際に同氏らは先行研究で、枯草菌の多くの菌株を含むほとんどの種類のBacillus属の細菌から、黄色ブドウ球菌が身体に定着するのを特異的に阻害する物質が分泌されていることを突き止めている。
Otto氏らは、鼻と糞便から採取された検体に基づき黄色ブドウ球菌の長期保有者と判定されたタイの健康な18歳以上の成人115人を、30日にわたって枯草菌のプロバイオティクスサプリメントを毎日摂取する群と、プラセボを摂取する群のいずれかにランダムに割り付けた。その結果、サプリメント摂取群では腸内の黄色ブドウ球菌が、糞便検体では平均で96.8%、鼻から採取した検体では65.4%減少したことが明らかになった。また、このプロバイオティクスサプリメントが腸内の正常な細菌叢に対して有害な影響を与えていることを示す兆候は確認されなかった。
今回の研究には関与していない感染症の専門家で、米国感染症学会(IDSA)のスポークスパーソンでもあるAaron Glatt氏は、Otto氏らの研究結果について「極めて興味深い」と話す。しかし、「このプロバイオティクスを長期間使用した場合の安全性と有効性とともに、実際に黄色ブドウ球菌の感染を予防するのか否かについて、今後さらなる研究が必要だ」と指摘している。
[2023年1月20日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら
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