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アルツハイマー病に対する新規ベンゾジアゼピン使用に関連する死亡リスクのコホート研究

 フィンランド・東フィンランド大学のLaura Saarelainen氏らは、アルツハイマー病の全国コホートにおいて、新たなベンゾジアゼピンおよび関連薬剤(BZDR)の使用に伴う死亡リスクを調査した。International journal of geriatric psychiatry誌オンライン版2017年11月15日号の報告。 2005~11年にアルツハイマー病と診断されたすべてのフィンランド住民7万718例を含むレジスタベースのMEDALZコホートを用いた。アルツハイマーの臨床的診断は、特別償還記録(Special Reimbursement Register)より得た。薬剤使用期間は、処方記録(Prescription Register)より由来したBZDR購入からモデル化された。新規BZDR使用者を調査するため、アルツハイマー病診断の前年にBZDRを使用した患者は除外した。BZDR使用を開始した使用患者群(1万380例)について、年齢、性別、アルツハイマー病診断までの期間をマッチさせた各人2人の未使用患者群(2万760例)を選出した。多変量解析では、チャールソン併存疾患指数、社会的地位、股関節骨折、精神障害、薬物乱用、脳卒中、他の向精神薬使用で調整した。 主な結果は以下のとおり。・フォローアップ期間中に、未使用患者群と比較し、使用患者群は100人年当たり5人の超過死亡がみられた。死亡率は、使用患者群13.4%(95%CI:12.2~14.5)、未使用患者群8.5%(95%CI:7.9~9.1)であった。・BZDRの使用は、死亡リスク増加と関連しており(調整ハザード比:1.4、95%CI:1.2~1.6)、その関連は使用開始から有意であった。・ベンゾジアゼピン使用は死亡リスクの増加と関連が認められたが、ベンゾジアゼピン関連薬剤の使用はそうではなかった。 著者らは「ベンゾジアゼピンおよび関連薬剤の使用は、アルツハイマー病患者の死亡リスク増加と関連が認められた。本結果より、アルツハイマー病の対症療法の第1選択治療は、治療ガイドラインで推奨される非薬理学的アプローチであることを支持する」としている。■関連記事なぜ、フィンランドの認知症死亡率は世界一高いのか認知症予防にベンゾジアゼピン使用制限は必要かベンゾジアゼピン系薬の中止戦略、ベストな方法は

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侍オンコロジスト奮闘記~Dr.白井 in USA~ 第50回

第50回:免疫チェックポイント阻害薬はアジュバントに使えるか?キーワード非小細胞肺がんdurvalumabメラノーマニボルマブイピリムマブ動画書き起こしはこちら こんにちは。ダートマス大学腫瘍内科の白井 敬祐です。僕が担当している肺がんとメラノーマの領域で最近話題になったのはスペインのマドリードで行われた欧州臨床腫瘍学会ESMOですね。肺がんでは2つ、メラノーマでも同じように大きな話題がありました。PACIFIC trial。StageIIIの肺がん…縦郭リンパ節が陽性になると自動的にStageIIIになるのですが…は、現在5年生存率が15~25%。良くても25%程度で、根治は望めるけれど頻度が非常に低いという病期なのですが、そこでchemo-radiationが終わったあとに、効果があった患者さん、あるいはSDの患者さんに対し、アストラゼネカの抗PD-L1抗体durvalumabを2週間おきに12ヵ月使った群とプラセボ群を使った結果が発表されました。そこではPFSが16ヵ月以上と6ヵ月程度とほぼ3倍に延びたという結果でした。StageIIIの肺がんというのは、いろいろな抗がん剤を使ったり、chemo-radiationが終わった後にドセタキセルなどをconsolidationとして使ったり、エルロチニブを使ったり、あるいは放射線の照射の量や仕方を変えるなど工夫されたものの、ぱっとした結果が出ていなかったなか、ここ20年で初めてStageIIIの肺がん治療が大きく変わる可能性があるという結果が発表されました。なかには「コントロールアームのPFSが5.6ヵ月と非常に悪い」と、言う人もいますが、これはランダマイズドの、しかもプラセボコントロールの試験なので、やはり陽性なのでしょうね。早いことに、NCCNのガイドラインには既にdurvalumabのことが載っています。FDAにはまだ認可されていないのですが、僕も2人ほどchemo-radiationが終わった患者さんがいて、その患者さんに、こういう治療があるので、保険会社がオーケーしてくれるかどうか申請してみましょうかと、申請を始めたばかりです。ちょっと下世話な話になるのですが、MYSTIC試験…StageIVの肺がんで同じアストラゼネカの抗CTLA-4抗体tremelimumabとdurvalumabを組み合わせてどうなるかというPhaseIII試験…が残念ながらネガテイブな結果だったんですね。アメリカの医者の中に、ブログでその時に株価が一気に下がったと言うことを書いている人がいました。株価が下がってから、ESMOでポジティブな結果の2つの臨床試験が発表されて、株価がどうなったか書いているんです。本当にいろいろなことを、いろいろな観点から発信する人がいるんだな、と思いながら面白く読んでいました。彼によると、「アストラゼネカの株価自体はMYSTICで下がる前のレベルには戻っていないが、回復しています」ということです。臨床試験が株価に反映される。Conflict of Interest、COIとはもう離れられない世界であることは確実ですね。それ以外には、僕が担当しているメラノーマの領域でイピリムマブとニボルマブをStageIIIB、StageIIIC、resected StageIVのアジュバントの患者さんに使った試験の結果が発表されました。それもNew England of Journalに載りましたが、ニボルマブを使ったほうがイピリムマブを使うよりもRelapse Free Survivalが有意に改善しました。StageIIIのchemo-radiation後の肺がん患者さんと同じように、アジュバントで使うというのは、この患者さんのがんが残っているか残ってないかわからない状況で、がん抗原の発現がはっきりしない時にimmune checkpointを使うということで、意味があるのが非常に議論の対象になっていました。面白いことに今回、2つのstudyのどちらもアジュバントで再発生存期間を伸ばしたということが報告されたのは、臨床的にあるいはscienceとしても面白いことだと思います。実際そういう治療後の患者さんで、circulating tumor cellあるいはがん抗原がどのように、どういう場所で発現しているか、というのは非常に興味のあるところです。Antonia SJ, et al.Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage III Non–Small-Cell Lung Cancer.N Engl J Med.2017;377:1919-1929.durvalumab維持療法、Stage III肺がんのPFSを有意に改善(PACIFIC)/ESMO2017J Weber, et al. Adjuvant Nivolumab versus Ipilimumab in Resected Stage III or IV MelanomaN Engl J Med.2017; 377:1824-1835.

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シェイクスピア答えてくれ!「IIb or not IIb, that is a question!」(中川義久 氏)-784

 シェイクスピアの名文句と言えば「To be or not to be, that is a question !」です。この解釈をめぐっては議論があるようですが、一般的には「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ!」と訳されています。循環器領域でシェイクスピアの言葉通りの危機に直面しているのが、心原性ショックを伴う多枝病変AMI患者です。この最重症カテゴリーの患者706名に対して、責任病変のみにPCIを施行する責任病変単独PCI群(段階的に非責任病変の血行再建術も許容)と、責任病変と同時に非責任病変に対してもPCIを施行する多枝PCI群にランダマイズしたCULPLIT-SHOCK試験の結果が、米国のデンバーで開催されたTCT2017で報告され、同時にNEJM誌に掲載されました。 30日以内の死亡・腎不全(腎代替療法)と定義された主要エンドポイントは、責任病変単独PCI群344例中158例(45.9%)に対して多枝PCI群341例中189例(55.4%)に認められました(相対リスク:0.83、95%信頼区間[CI]:0.71~0.96、p=0.01)。要約すれば、責任病変単独PCI群で死亡・腎不全リスクが有意に17%減少していました。つまりは、「AMI急性期のPCIは責任病変だけにしろ!」という教えが正しいとされたわけです。 ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)患者において、梗塞の責任血管のみへのPCI施行に比べて、引き続いて責任血管以外の狭窄への予防的PCIを施行することによって、心血管イベントを有意に低下させるとPRAMI研究は報告しています。本論文に対して小生は、『「AMI急性期のPCIは責任病変だけにしろ!」と私は教えられました』とのタイトルでコメントさせていただきました。コメントの趣旨はPRAMI研究の結論が循環器内科医に受け継がれてきた常識とは異なる方向性を持っていることを表現したものです。 PRAMI試験に加えてDANAMI3-PRIMULTI試験、そしてCvLPRIT試験と多枝同時介入の有効性を示唆した試験結果が報告されました。米国では、これらの一連の報告を受けて2015年の ACC/AHA/SCAI のSTEMI治療のガイドラインでは、多枝同時介入について推奨の度合いをClass IIIからClass IIbにアップデートしています。Class IIIは「Harm: 有害」であり、Class IIbは「may be considered: 考慮可」です。今回のCULPLIT-SHOCK試験の結論は、この変更を揺り戻す内容といえます。このCULPLIT-SHOCK試験は常識的な治療方針を強調しているものでガイドラインの方向性としては、よりふさわしいのではないかと筆者は考えます。次回のACC/AHA/SCAI のSTEMI治療のガイドラインでは、どのような扱いになるのか興味深いところです。おそらくガイドライン執筆担当者はこのようにつぶやくことでしょう。 「IIb or not IIb, that is a question!」

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「わかりにくさ」が招く誤解と混乱(解説:今中和人氏)-783

 古今東西の常識として、わかりにくい情報提示では物事を正しく伝えることは難しいが、このわかりにくい論文は以下の4つを検討している。(1)2009~2015年のnon-randomizedな大動脈弁置換(約1/4で冠動脈バイパス[CABG]を併施)症例を、午前手術した群と午後手術した群に分け、短期・中期成績を検討(2)2016年の単独大動脈弁置換 88例を午前群と午後群の各44例にrandomizeし、短期成績を検討(3)上記(2)の88例中30例程度で術中に心房組織を採取し、虚血・再灌流後の収縮力の実験的検討と、多数の遺伝子の発現程度の検討(4)マウスのLangendorffモデルにおける、虚血・再灌流と遺伝子Rev-Erbαの検討 preliminary な検討のはずの(1)が大々的に、また(1)~(3)は渾然と記載されており、(1)の結果なのか(2)・(3)の結果なのか、相当わかりにくい。 本論文を一層わかりにくくしているのは、(1)、(2)とも短期のイベントの大多数が周術期心筋梗塞(PMI)なのだが、ガイドラインにあっても大多数の読者に馴染みがないtype 5 AMIという、本来はCABG後のPMIを若干modifyして定義している。この定義は曲者で、バイオマーカーとして用いた高感度トロポニンTは、CABGでは術前から上昇している症例があるので、閾値が「変動係数の10倍以上の上昇」と数値が明示されず、並列要件である「退院時の心エコー図での壁運動異常」の内容も定義されていないので、PMIと言われても実情が把握し難いことがひとつ。もうひとつは(2)でトロポニンを72時間後まで6回測定し、数値としてはそのarea under the curve(AUC)しか提示されておらず、普通はそんなデータの取り方はしないので、PMIを自分の経験と対照して把握できない。いずれの手法も先例があったり、ガイドラインに記されていたり、論文内でPMIの定義を使い分けるのもヘンだ、などと理由付けはしうるが、ともかく結果的に実にわかりにくい。 そもそもタイトルが、手術症例でRev-Erbαなる遺伝子を操作したかのような錯覚を招く、わかりにくいものである。 ちなみに最重要な(2)の結果は、死亡は両群ゼロで在院日数も同じ12日で臨床的には同等だが、72時間のトロポニンのAUCは午後群が有意に低く、PMIは午後群が有意に少なく(16% vs. 4%)、退院時駆出率45%未満症例も午後群が有意に少なかった(11% vs. 4%)--なお、術前はこの比較はなく、術前後の変化でもない。 ただ、トロポニンのAUC値は午後群が午前群の80%で、統計学的に有意でも臨床的意義は大いに疑問である。極端な高値でなければ(例えばCKMBの50と40)臨床的には枝葉末節だが、著者の主張どおりこの差は概日リズムの影響なのかもしれない。 ところが、この「わかりにくさ」と有名誌のゆえか、困った展開になっているのである。 手術患者は誰しも予後に大いに関心があるので、この論文はLancetの本国イギリスはもとより日本でも一般向けのメディアにも多数とり上げられ、論旨を忠実に反映した記事もあるが、多くはパッとしないrandomized study の(2)を黙殺し、(3)と実は直接の関係がないnon-randomizedの(1)とを密に関係付け、著者らがPMIとする症例の実態が把握し難いことも無視して、概日リズムのおかげで午後の手術はイベントが半分に減ると報じている。ひどいのになると「午後は生存率が2倍になる」とか「手術するなら午後にしてくれと担当医に頼みなさい」などと、意図的な曲解や扇動のようなことが書かれているのだ。こんな記事を読んだ患者さんや御家族に説明するなんて、想像するだけでうんざりするのは私だけではあるまい。 なお、この論文には他にも気になる点はいくつかあるが、何よりもまず、多くの心臓外科医に尋ねてみると、案の定、結論が大多数の現場の臨床医の感覚に合致せず、多数の追試は必須である。個人的には、患者の概日リズムより医療者の概日リズムの方がはるかに影響が大きいように思う(本論文では所要時間だけを根拠に否定している)が、いかがであろうか?

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EGFR遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん治療にオシメルチニブをどう用いるのか?(解説:小林 英夫 氏)-781

 切除不能な非小細胞肺がんの治療は近年大きく進歩し、上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異を示す肺がんの治療にEGFR-チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の有効性が確立された。本邦では、4薬のEGFR-TKIが肺がんに使用可能である。その中でオシメルチニブ(商品名:タグリッソ)は第3世代に位置付けられ、以前のEGFR-TKIに耐性であるEGFR T790変異を呈す肺がんにも効果があることを特徴とする。日本での保険適用はこのEGFR T790変異を確認した症例だけであり、2017年12月時点では1次(初回)治療の適応は取得していない。 今回のFLAURA試験は、未治療EGFR変異肺がんに対する、第1世代EGFR-TKIでありすでに標準治療と位置付けられているゲフィチニブまたはエルロチニブ投与群と、オシメルチニブ投与群との、第III相無作為化二重盲検試験である。主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)で、オシメルチニブ群18.9ヵ月、標準EGFR-TKI群10.2ヵ月と有意差が示された。またGrade3以上の有害事象は、標準EGFR-TKI群(45%)よりオシメルチニブ群(34%)が低かった。EGFR-TKIの効果には人種差があることが知られ、今回の症例の約6割は日本人を含むアジア人であった。 さて、本試験に示されたPFS延長と有害事象減少はある程度予想された結果で、今後も同様の成績が確認されると思われる。そしてこの試験に基づき、2017年11月末にアストラゼネカ社は日本での1次治療適応承認を目指したいとプレス発表している。次の課題は、もしオシメルチニブが切除不能肺がんの1次治療に適応を取得したら、1次治療としてただちに投与するのか、それとも第2世代までのEGFR-TKIを先行し無効になった時点で切り替えるのか、いずれの選択が適切なのかをこれから検討しなければならない。本試験発表前ではあるが、日本肺癌学会肺癌診療ガイドライン2017年案(暫定版)では、保険適用を遵守しオシメルチニブを2次治療に位置付けている。現在の保険適用をクリアするには肺がんを再生検しT790陽性を証明しなければならないが、その証明はなかなか難しい。生検以外にリキッドバイオプシーと称される血液検査も普及しつつあるが、まだ精度不十分な状況にとどまっている。医療経済的にはタグリッソは1日約2万4千円、イレッサの4倍弱、タルセバの約2倍である。EGFR-TKIは肺がん診療に不可欠であるが、各薬剤をどう使い分けるのかについてはまだ十分な結論が得られていないように思われる。

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魔法のパッチで子供の注射の怖さを軽減

 2017年12月5日、佐藤製薬株式会社は、外用局所麻酔剤のリドカイン・プロピトカイン配合貼付剤(商品名:エムラパッチ)の発売を前に、「注射の痛みに我慢は必要ですか?」をテーマとしたメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、「痛み」の概要と小児の痛みのケアについてディスカッションが行われた。なお、同貼付剤は12月13日に発売された(薬価251.60円/1枚)。子供のころの痛みは記憶として大きくなる はじめに同社代表取締役社長の佐藤 誠一氏があいさつし、医薬マーケティング部による製品説明の後、基調講演が行われた。 基調講演では、加藤 実氏(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授)が、「その『医療の痛み』は本当に必要ですか?~痛みが無くなっても痛みの影響は終わらない~」をテーマに、主に小児における「痛み」の診療について現状や課題を語った。 痛みとは、組織の実質的あるいは潜在的な傷害に結びつくか、このような傷害を表す言葉を使って述べられる不快な感覚、情動体験と定義される。それは主観的な体験であり、患者本人にしかわからない。しかし痛みは、たとえば手術前の麻酔のように、予防することもできる。それにもかかわらず、1980年代までは新生児や小児への痛みの対応はなおざりだったという。 それは、新生児は痛みを感じにくいと思われていたからであり、1980年代後半に報告された論文以降、大きく変化した。すなわち新生児は、痛みの抑制系が未発達ゆえに痛みを感じやすく、新生児の外科的処置時には、成人同様、局所麻酔薬や全身麻酔薬を使用し、減量および中止も成人と同じ基準で行うべきという考えに変化した1)。 さらに小児期での痛みの体験は、一時的なものではなく成長後にも影響を与え、中枢性感作、不安・恐怖など記憶を介した認知を獲得する。たとえば、小児期の機能的な腹痛は、成人後の慢性痛リスクを増加させるという報告もあるという2)。局所麻酔を行い、痛みを中枢神経に伝えないようにすることは、痛みや恐怖から脳を守ることにつながると同氏は説明する。小児の痛みをマネジメントする時代へ 小児の痛みの予防について、まず小児が怖がる痛みの代表に、予防接種、採血、点滴などの注射が挙げられる。現在わが国では、こうした痛みを医療者も患者も「仕方がない」「一時的」「我慢できる」などの理由で、まだ看過しているのが現状だと、加藤氏は問題を指摘する。一方、欧米では、先述の理由から積極的に痛みのマネジメントについて取り組みが行われ、たとえばカナダでは「小児のためのワクチン摂取の痛みのマネジメント(Pain Management During Immunizations for Children)」が作成され、ガイドラインによって痛みの軽減が図られている3)。また、世界保健機関(WHO)も「ワクチン接種時の痛みの軽減についての提言」を2015年に発表するなど、世界的な動きが示されている。 加藤氏は講演のまとめとして、「小児の医療における痛みへの対応が向上するには時間がかかるかもしれないが、防げる痛みを防ぎ、子供を痛みから守る医療を一緒に目指そう」と、小児医療に関わる人々へ向け抱負を述べた。痛みの軽減だけではない患児へのメリット 引き続き、「子どもたちが怖がらずに済む医療へ」をテーマに、先の演者の加藤氏に加え、富澤 大輔氏(国立成育医療研究センター 小児がんセンター 血液腫瘍科 医長)、平田 美佳氏(聖路加国際病院 小児総合医療センター 小児看護専門看護師)によるディスカッションが行われた。 「小児期の疼痛対策の必要性」について、医療者だけでなく患児の親も持つ「痛みは仕方がない」という思い込みから、ケアがされていない現状であるという。わが国は我慢の文化であり、薬も使わない、痛みの弊害に目が向けられない状態が続いている。海外(英国)を例に平田氏は、「10年以上前から子供の痛みのケアが行われ、エムラクリームのような局所麻酔クリームを日常的に使用し、子供たちの間では『マジック・クリーム』の愛称で親しまれ、注射などの処置の前に塗布する習慣ができていた」と説明した。また、「病院での工夫」としては、「患児の疑問に答え、希望に沿うようにしているほか、事前におもちゃの注射器を見せて、準備をさせることも不安軽減に大事だと考えている。注射などの際は、患児の集中力を分散させる環境作りや処置後のフォローを行い、ケースによっては、エムラクリームなどの情報提供をしている」と同氏は付け加えた。 次に、「小児がんの治療の現場」を富澤氏が語った。「診療の中で、患児に痛みを伴う検査や治療が多いのが現状。痛みへのケアがないと、患児は診療に消極的になってしまうので、親を良いサポーターにする努力が医療者側には必要であり、同時に痛みに対する親の意識を変える必要性もある。注射への配慮としては、不必要な検査は避け、患児に痛みを除く方法もあることを説明しておく必要がある。急性リンパ性白血病(ALL)でのエムラクリームを使用したコントロール研究では、局所麻酔下だと患児の動きがなく、心拍数も変わらないという報告もある4)。これは大事な点で、ALL治療の予後にも影響することなので、治療時の患児の動きを抑えることは重要だと考える」と、同氏は実臨床をもとに説明した。患児の痛みのケアには医療者と社会の認知が必要 最後に、各演者が医療者へのメッセージを述べた。平田氏は「血友病の患児がエムラクリームのおかげで、治療を在宅で行えるようになり、表情が明るくなった。患児の感じる痛みを今後もマネジメントしていきたい」と事例を挙げて語り、富澤氏は「小児科は比較的患児の痛みケアが進んでいる分野だが、一般的に多くの医療者は患児の痛みのケアやこうした製剤を知らない。患児の親が医療者に適用を依頼するケースもあり、わが国も欧米並みに知識の普及と診療使用を考え、実践する必要がある」と見解を述べた。 最後に加藤氏は、「痛みをなくすには、体と心の両方の治療が必要で、エムラクリームのように痛みを軽減するツールがあるのに使われていないのが問題。医師への啓発だけではなく、いかに一般社会に広く浸透させるかが今後の課題」と問題を提起し、ディスカッションを終えた。■参考佐藤製薬株式会社 ニュースリリース「エムラパッチ」新発売のご案内(PDF)

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2型糖尿病、集中的食事療法による減量で46%が寛解/Lancet

 減量により12ヵ月で、試験に参加した2型糖尿病患者の約半数が糖尿病治療薬から離脱し、非糖尿病状態すなわち寛解(remission)に達したことが、英国・グラスゴー大学のMichael EJ Lean氏らが行ったプライマリケアでの集中的な体重管理の効果を検証した非盲検クラスター無作為化試験「DiRECT試験」の1年目の結果で示された。2型糖尿病は生涯にわたり治療を要する慢性疾患とされる。これまでの研究で、罹患期間が短い2型糖尿病患者は10~15kgの減量により血糖値が正常化することが示されていたが、食事療法による糖尿病の持続的な寛解を評価したものはなかった。結果を踏まえて著者は、「2型糖尿病の寛解は、プラリマリケアのプラクティカルな目標である」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年12月5日号掲載の報告。1日約850kcalの調整食を3~5ヵ月摂取する体重管理プログラムと標準ケアを比較 DiRECT(Diabetes Remission Clinical Trial)試験は、スコットランドとタインサイド地域(北東イングランド)のプライマリケア49施設で実施された。対象は、過去6年以内に2型糖尿病と診断され、BMIが27~45で、インスリン治療歴のない20~65歳の患者であった。 施設を、地域と施設規模で層別化し、体重管理プログラム実施群(介入群)とガイドラインに沿った最善のケアを行う群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。体重管理プログラムは、糖尿病治療薬および降圧薬の中止、食事全置換(825~853kcal/日の調整食を3~5ヵ月)、段階的な食物再導入(2~8週)、長期減量維持の構造化された支援により構成された。 主要アウトカムは2つで、ベースラインから12ヵ月までにおける15kg以上の減量と、糖尿病の寛解(すべての糖尿病治療薬を中止して2ヵ月以降のHbA1cが6.5%未満と定義)であった。 2014年7月25日~2016年8月5日に、49施設(介入群23施設、対照群26施設)にて306例(それぞれ157例および149例)が登録され、このうち同意撤回や脱落を除く各群149例をintention-to-treat集団とした。介入群の15kg以上減量達成率は24%、そのうち86%が寛解 12ヵ月時点で、15kg以上の減量を達成したのは、介入群で36例(24%)、対照群はなし(p<0.0001)、糖尿病の寛解達成は介入群68例(46%)、対照群6例(4%)であった(オッズ比:19.7、95%信頼区間[CI]:7.8~49.8、p<0.0001)。寛解達成は減量の程度によって異なり、体重が増加した76例では寛解達成者はおらず、0~5kg減量を維持している89例では6例(7%)、5~10kg減量した56例中19例(34%)、10~15kg減量した28例中16例(57%)、15kg以上減量を達成した36例中31例(86%)が寛解を達成した。 平均(±SD)体重は、介入群で10±8.0kg、対照群で1.0±3.7kg減少した(補正後差:-8.8kg、95%CI:-10.3~-7.3、p<0.0001)。EQ-5Dで測定したQOLスコアは、介入群で7.2±21.3点改善したのに対し、対照群では2.9±15.5点悪化した(補正後差:6.4点、95%CI:2.5~10.3、p=0.0012)。 重篤な有害事象は、介入群で157例中7例(4%)に9件、対照群で149例中2例(1%)に2件が報告された。介入群のうち2件(胆石疝痛と腹痛)は同一患者で生じており、介入に関連したものと考えられた。試験の中止に至る重篤な有害事象は認められなかった。 なお、著者は研究の限界として、人種や民族の特徴として白人が多い地域であったこと、プライマリケアに限定しており、体組成の詳細は評価されていないことなどを挙げている。

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DOACエドキサバン、がんの血栓症で低分子ヘパリンに非劣性

 第一三共株式会社(本社:東京都中央区)は2017年12月13日同社のニュースリリースで、抗凝固薬エドキサバン(商品名:リクシアナ)による、がん合併静脈血栓塞栓症(VTE)患者を対象としたHokusai-VTE CANCER試験の結果において、エドキサバンが標準治療薬である低分子量ヘパリンのダルテパリン(国内未承認)に対して有効性および安全性に係わる主要評価項目において非劣性を達成したと発表。 本試験の結果は、米国ジョージア州アトランタで開催した第59回米国血液学会(ASH)年次総会のlate breaking sessionで発表されると共に、New England Journal of Medicineにオンライン掲載された。  Hokusai-VTE CANCER試験は、欧米を中心とする海外13ヵ国において、がんを合併したVTE患者1,050名を対象に、1日1回経口投与のエドキサバンまたは1日1回皮下注射のダルテパリンを12ヵ月間投与し、両剤の有効性(VTEの再発)および安全性(重大な出血)を比較したもの。  本試験の主要評価項目(VTEの再発および重大な出血の複合発現率)において、エドキサバン群は12.8%(522名中67名)、ダルテパリン群は13.5%(524名中71名)、リスク差(エドキサバン群の発現率-ダルテパリン群の発現率)は-0.7%となり、エドキサバンのダルテパリンに対する非劣性が検証された。リスク差(-0.7%)の内訳は、VTEの再発のリスク差は-3.4%、重大な出血のリスク差は2.9%であった。特に重篤度の高い重大な出血(重篤度カテゴリー3~4)の発現数はエドキサバン群で12名、ダルテパリン群で12名であった。 VTEは、がん患者において2番目に多い死亡原因となっている。現在、がんを合併したVTE患者の欧米における治療ガイドラインは、標準治療として低分子量ヘパリン(皮下注射)の6ヵ月以上の投与を推奨しているが、服薬アドヒアランス上の未充足ニーズがある。■関連記事リクシアナ効能追加、静脈血栓症、心房細動に広がる治療選択肢DOAC時代のVTE診療の国内大規模研究、再発リスクの層別化評価と出血リスク評価の重要性が明らかに/日本循環器学会

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シェーグレン症候群〔SS:Sjogren's syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義眼・口腔乾燥を主症状とし、多彩な全身臓器症状を呈し、慢性に経過する全身性自己免疫疾患である。疾患名は1933年に報告したスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレン(Henrik Sjogren *oはウムラウト)に由来する。■ 疫学中年以降の女性に好発(女性 vs.男性 14 vs.1)し、国内に少なくとも数万人(厚生労働省研究班推定)の罹患数とされ、潜在例はさらに多いと推定されている。■ 病因病理学的には、涙腺・唾液腺などの外分泌腺にリンパ球浸潤とそれに伴う腺構造破壊、線維化が認められる。免疫学的には、リンパ球・サイトカイン・ケモカイン異常、高IgG血症、多彩な自己抗体産生が認められる。■ 症状1)腺症状ドライアイ(眼乾燥)、ドライマウス(口腔乾燥)が二大症状である。気道粘膜、胃腸、膣、汗腺などの分泌腺障害に起因する乾燥症状を認める例もある。2)全身症状・腺外臓器病変(1)全身:微熱、倦怠感(2)甲状腺:慢性甲状腺炎(3)心血管:肺高血圧症(4)肺:間質性肺疾患(5)消化器:慢性胃炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変(6)腎臓:間質性腎炎、腎尿細管性アシドーシス(7)神経:末梢神経障害(三叉神経障害)、中枢神経障害(無菌性髄膜炎、横断性脊髄炎)(8)関節:多関節炎(9)皮膚:環状紅斑(疾患特異性が高い)、高ガンマグロブリン性紫斑(下腿点状出血斑)、薬疹(10)リンパ:単クローン性病変、悪性リンパ腫(11)精神:うつ病■ 分類本疾患のみを認める一次性(原発性)とほかの膠原病を合併する二次性(続発性)に分類される。■ 予後腺症状のみであれば生命予後は一般に良好である。腺外症状、とくに悪性リンパ腫を認める例では予後が不良である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見1)血液検査異常(1)腺障害:血清唾液腺アミラーゼ上昇(2)免疫異常:疾患標識自己抗体(抗SSA抗体、抗SSB抗体)・リウマトイド因子・抗核抗体陽性、高ガンマグロブリン血症、末梢リンパ球数減少を認める。2)腺機能検査異常涙液分泌低下は、シルマーテスト、涙液層破壊時間(BUT)により評価する。乾燥性角結膜炎は、ローズベンガル染色、フルオレセイン染色、リサミングリーン染色を用いて評価する。唾液分泌低下は、ガムテスト、サクソンテストにより評価、より客観的には唾液腺シンチグラフィーが用いられる。涙腺、唾液腺の形態は、超音波あるいはMRI検査により評価される。3)腺外臓器病変に応じた各種検査肺野およびリンパ節の評価についてはCT検査が有用である。また、間質性腎炎の評価には尿検査が行われる。● 診断で考慮すべき点潜在例も多く、その可能性を疑うことが診断への第一歩である。ドライアイ、ドライマウスの有無を問診し、典型例では問診のみで診断がつくこともある。本疾患が疑われた際は、診断基準に沿って確定診断を行うことが望ましい。しばしば、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)などの他の自己免疫疾患を合併する。診断のための検査が困難である場合には、専門施設への紹介を考慮する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 腺症状1)眼点眼薬(人工涙液、ムチン/水分分泌促進薬、自己血清)、涙点プラグ挿入術、ドライアイ保護眼鏡装用2)口腔催唾薬(M3ムスカリン作動性アセチルコリン受容体刺激薬)、唾液噴霧薬がそれぞれ用いられる。■ 腺外症状 全身症状に対しては非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられる。免疫学的な活動性が高く、臓器障害を呈する症例では、ステロイドおよび免疫抑制薬が用いられる。● 治療で考慮すべき点眼症状に対しては治療が比較的奏功する一方で、口腔乾燥症状は改善が乏しい例も多い。腺症状に対するステロイドの有用性は否定的である。リンパ増殖性疾患、悪性リンパ腫を含む腺外症状もまれではないため、注意深く経過観察する。腺外臓器病変、ほかの膠原病を有する例は、リウマチ内科専門医へのコンサルトを考慮する。不定愁訴が多い例もあるが、本疾患を正しく理解をしてもらえるようによく患者に説明する。4 今後の展望欧米では、抗CD20モノクローナル抗体の臨床試験が報告されているが、その有用性については十分確立されていない。リンパ球などの免疫担当細胞を標的とした新規治療薬の臨床試験が国際的に進められている。5 主たる診療科リウマチ科(全身倦怠感、関節痛、リンパ節腫脹)、眼科(眼乾燥症状)耳鼻咽喉科(リンパ節腫脹、唾液腺症状)、歯科・口腔外科(口腔・乾燥症状)、小児科(小児例)6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働省難病情報センター シェーグレン症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本シェーグレン症候群学会(医療従事者向けのまとまった情報)シェーグレン症候群財団ホームページ(米国)(医療従事者向けのまとまった情報)Up to date(医療従事者向けのまとまった情報)1)Firestein GS, et al. Kelley and Firestein’s Textbook of Rheumatology 10th edition.Philadelphia;Elsevier Saunders:2016.2)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班 編集. シェーグレン症候群診療ガイドライン2017年版.診断と治療社;2017.3)日本シェーグレン症候群学会 編集.シェーグレン症候群の診断と治療マニュアル 改訂第2版.診断と治療社;2014.公開履歴初回2017年12月12日

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1型糖尿病の臓器障害に、RA系阻害薬は有効か?(解説:石上友章氏)-776

 糖尿病は、特異的な微小血管障害をもたらすことで、腎不全、網膜症、神経障害の原因になる。糖尿病治療のゴールは、こうした合併症を抑制し、健康長寿を全うすることにある。RA系阻害薬に、降圧を超えた臓器保護効果があるとされた結果、本邦のガイドラインでは、糖尿病合併高血圧の第1選択にRA系阻害薬が推奨されている。しかし、臨床研究の結果は、必ずしもRA系阻害薬の降圧を超えた腎保護効果を支持しているわけではない。ONTARGET試験・TRANSCEND試験1,2)を皮切りに、最近ではBMJ誌に掲載された報告3)(腎保護効果は、見せかけだった~RA系阻害薬は『万能の妙薬』ではない~)も、観察研究ではあるが、否定的な結果に終わっている。 1型糖尿病の腎保護については、ミネソタ大学のMauerらのRASS試験4)が、決定的な結果を報告している。本研究では、ARB(ロサルタン)、ACEI(エナラプリル)とplaceboの3群に分けた対象で、腎保護作用を検討している。本研究の特筆すべき点は、腎保護効果について、腎生検標本を用いて、厳密に評価していることにある。その結果は、メサンギウム分画容積をはじめとした、すべての病理学的評価指標に、3群間で差が認められなかった。 この結果を受けて、NKF(米国腎臓財団)によるKDOQI Clinical Practice Guideline For Diabetes And CKD/2012 Updateには、6章の6.1として、“We recommend not using an ACE-I or an ARB for the primary prevention of DKD in normotensive normoalbuminuric patients with diabetes.(1A)”とされた5)。この一文には、RA系阻害薬の糖尿病性腎障害抑制作用は、病理学的な変化をもたらすほどの効果はなく、微量アルブミン尿のような不正確な指標で評価された、見かけ上の効果でしかないとの意味が込められている。 英国・ケンブリッジ大学のM Loredana Marcovecchioらが行い、NEJM誌2017年11月2日号に掲載されたAdDIT試験は、スタチンとACE阻害薬を試験薬とし、2×2要因デザインで行われたRCTである。結果は、両試験薬ともに、primary endpointを達成することはできなかった。副次評価項目である、微量アルブミン尿の累積発症率には有意差が認められたが、EBMの原則に従って、著者らはこの結果を採用しなかった。しかしながら、“Many secondary outcomes in the published protocol were exploratory but considered to be clinically relevant in this population of adolescents.”とは、「夢の続きを見ていたい」という著者らの率直な心情の吐露なのかもしれない。

1931.

双極性障害における混合状態の急性期および長期治療に関するWFSBPガイドライン

 最近のガイドラインでは、双極性混合状態の認知や治療は、臨床的に関連性が高いものの、十分に評価されていない。WFSBP(生物学的精神医学会世界連合)ガイドラインでは、成人の双極性混合状態の急性期および長期治療に関するすべての科学的エビデンスのシステマティックレビューが行われた。本検討に関して、英国・ニューカッスル大学のHeinz Grunze氏らが報告を行った。The world journal of biological psychiatry誌オンライン版2017年11月3日号の報告。 ガイドラインに使用した資料は、さまざまなデータベースを用いてシステマティックに文献検索を行い、抽出した。エビデンスは6つのレベル(A~F)に分類され、実行可能性を保証するため異なる推奨グレードが割り当てられた。著者らは、双極性混合状態患者における躁症状およびうつ症状の急性期治療に関するデータ、躁症状またはうつ症状エピソード後の混合エピソード再発予防に関するデータ、混合エピソード後の躁症状またはうつ症状の再発に関するデータを調査した。主な結果は以下のとおり。・双極性混合状態における躁症状は、いくつかの非定型抗精神病薬による治療に反応しており、オランザピンによる治療において最も良いエビデンスが認められた。・うつ症状では、通常治療にziprasidoneを追加することが有用であると考えられる。しかし、躁症状の治療よりも限定されたエビデンスしか存在しなかった。・オランザピン、クエチアピンに加え、バルプロ酸、リチウムも再発予防のために考慮すべきである。本研究の限界として、混合状態の概念は時とともに変化しており、最近のDSM-5では包括的に扱われている。結果として、双極性混合状態患者における研究は、若干異なる双極性亜集団を対象としている。さらに、近年では急性期および維持治療の試験デザインが進歩している。 著者らは「現在推奨されている双極性混合状態への治療は、限られたエビデンスに基づいており、混合機能コンセプトを用いたDSM-5に準じた研究が求められる」としている。■関連記事双極性障害に対するアリピプラゾールの評価~メタ解析日本人双極性障害患者のリチウム治療反応予測因子:獨協医大双極性障害、リチウムは最良の選択か

1932.

初のCDK4/6阻害薬イブランス、進行乳がん治療をどう変える?

 2017年11月20日、都内にて「進行乳がん治療におけるパラダイムシフトとは」と題したセミナー(主催:ファイザー株式会社)が開催された。演者として中村 清吾氏(昭和大学医学部 乳腺外科学 教授)、岩田 広治氏(愛知県がんセンター中央病院 乳腺科 部長)が登壇し、2017年9月に本邦で承認されたサイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害薬イブランス(一般名:パルボシクリブイブランス)を中心に、転移・再発乳がん治療の今後の展望について語った。パルボシクリブは新たな治療戦略となりうる はじめに登壇した中村氏は、転移・再発乳がん治療の特徴とその変遷について講演した。I期およびII期乳がんの5年生存率が90%以上あるのに対し、IV期(転移・再発乳がんはIIIC期およびIV期を指す)では約34%に留まる。それでも、他のがん腫と比較するとIV期の5年生存率は前立腺がんに次いで高く、中村氏は「がんと付き合いながら治療を続ける期間」が長いことを指摘。転移・再発乳がんの治療では、初期乳がんのように治癒を目指すのではなく、患者一人ひとりの個別性や希望に応じて「QOLを維持しながら延命する治療」を選択していく必要性があると語った。 パルボシクリブの適応となるホルモン受容体陽性(HR+)HER2陰性(HER2-)の患者は、乳がん患者全体の約70%を占める。ホルモン療法に感受性があり、比較的予後が良いとされているが、2002年のフルベストラントのFDA承認以降、2012年のエベロリムス+エキセメスタンの登場まで、約10年間新しい治療薬が出てこない状況が続いていた。そのような状況の中で、「パルボシクリブはCDK4/6を直接的に阻害し、細胞増殖を抑制するという新しい作用機序で無増悪生存期間(PFS)延長の効果を証明しており、新たな治療戦略となりうる」と中村氏は期待を示した。患者にパルボシクリブによる治療法を説明するとしたら? 続いて登壇した岩田氏は、パルボシクリブの承認に用いられた2つの国際共同第III相試験(PALOMA-2、PALOMA-3試験)の結果を交えながら、患者とどのように情報共有し、治療法の1つとして活用していくかについて解説した。PALOMA-2試験は、日本人46例を含む全身治療歴のないHR+HER2-閉経後手術不能または再発乳がん患者666例を対象に、パルボシクリブ+レトロゾールの有効性と安全性について検討した試験。PFSはレトロゾール単剤と比較して10.3ヵ月延長(ハザード比[HR]:0.58、95%信頼区間[CI]:0.46~0.72、p<0.000001)し、奏効率(42.1% vs.34.7%、p=0.0310)、臨床的有用率(84.9% vs.70.3%、p<0.0001)についても改善された。本試験の結果から、岩田氏は再発後の1次治療にレトロゾール併用でパルボシクリブを使用する場合の患者への説明として、・次の治療までの期間は平均2年(ただし、術後早期の再発の場合は約16ヵ月)・パルボシクリブを併用しても効果のない場合が、全体の15%程度ある・副作用は好中球減少、倦怠感に注意が必要だが、重篤なものはなく、QOLもレトロゾール単剤と比べて大きく変わらないとまとめた。 PALOMA-3試験は、日本人35例を含むホルモン療法後に疾患進行を認めたHR+HER2-手術不能または再発乳がん患者521例を対象に、パルボシクリブ+フルベストラントの有効性と安全性について検討した試験。主要評価項目のPFSはフルベストラント単剤と比較して6.6ヵ月延長(HR:0.497、95% CI:0.398~0.620、p<0.000001)し、奏効率(21.0% vs.8.6%、p=0.0001)、臨床的有用率(66.3% vs.39.7%、p<0.0001)についても改善がみられた。また、患者報告によるQOLの評価でも、パルボシクリブ併用群で改善されていた。これらの結果から、岩田氏は2次または3次治療にフルベストラント併用でパルボシクリブを使用する場合の患者への説明として、・約1年投与が継続できる・再発1次治療でホルモン療法に効果を示さなかった場合、無再発期間(DFI)が短い(12ヵ月以内)場合では、効果は7ヵ月程度になる・再発後に抗がん剤を1度使用している場合でも、9ヵ月程度の効果が期待できる・QOLの低下はない・副作用は好中球減少、倦怠感などとまとめている。「閉経前」の患者でもパルボシクリブ使用可能 最後に岩田氏は、本邦では今回の承認で、閉経前の転移・再発乳がん患者に関しても、卵巣機能抑制剤のLH-RHアゴニスト併用という条件の下、パルボシクリブ+フルベストラントの投与が可能になったことに言及。一方で手術の補助療法としては本剤の有効性は現状確立されていないことに触れたうえで、「臨床医には臨床試験のデータ、ガイドラインなどを基に、適応の患者に対して正確な情報を提供し、患者と共に治療法を決定していくことが求められている」と述べた。 なお、イブランスは、25mg(1カプセル):5576.4円、125mg(1カプセル):2万2560.3円として11月22日に薬価基準に収載された。12月15日の発売が予定されている。

1933.

人工弁選択のLabyrinth(解説:今中 和人氏)-774

 人工弁選択は、要するに抗凝固合併症の可能性と劣化・再手術の可能性の選択である。古いテーマゆえ膨大な論文があるが、生体弁の改良をはじめ多くのconfounding factorで見解は一定せず、2014年にAHA/ACCが「大動脈弁置換(AVR)65歳、僧帽弁置換(MVR)70歳」とのガイドラインを発行した後も未決着の感が強い。本論文はカリフォルニア州の142施設が18年間に初回の単弁置換をした症例の追跡調査で、個々のデータは、とくに日本胸部外科学会の全国集計と比較すると興味深い。 たとえばこの期間にAVRは130%に増加、MVRは65%への減少だが、日本はAVRが450%と激増した一方、MVRは90%と微減に留まっている(ちなみに僧帽弁形成は370%に激増)。また、生体弁の比率は米国でもAVRで12%→52%、MVRで17%→54%と著増しているが、日本はもっと極端で、AVRは11%→81%、MVRで9%→57%と、日本人の残念な気質が端的に表れている(しかもすべて輸入品!)。というのも再AVRの30日死亡率は7.1%、再MVRは14.0%とかなり高い。日本の統計は、僧帽弁については交連切開の術後を大量に含むので参考にならないが、再AVRは30日死亡5.4%、在院死亡9.4%と、本論文と大差ない由々しき数字であり、再弁置換は極力避けたい事態だからである。「TAVRがあるさ」と楽観していてよいだろうか? 結果のほうは、50歳未満の生体弁MVRの30日死亡率が高かったこと以外は凡庸(若い人は機械弁、年配者は生体弁)なのだが、実にモヤモヤ感が残る。最も目立つのは年齢区分で、AVRは45~54歳と55~64歳の2群、MVRは40~49歳、50~69歳、70~79歳の3群で検討しているが、区分の食い違いに結局は根拠がなく、65歳以上のAVRの検討がない点も言及がない。COIは明示されていないが、これでは何らかの恣意を感じずにはおれない。 さらに、より本質的なのは、研究の限界ではあろうが、15年という経過観察期間である。観察期間の中央値は機械弁では8年前後だが、生体弁は実は4~5年で、15年時点のpatient at riskが4%未満の群もある。これを「ありがちなこと」と容認するとしても、グラフをよく見ると、10年過ぎあたりから多くの群で両者の生存曲線はじわっと乖離しはじめている。昨今の生体弁は、10年ほどはかなり成績が良いがそれ以降に不具合が増えるので、観察期間が延びれば大差がつく可能性が高い。ところが55~64歳の10年後は65~74歳、15年後でも70~79歳で、日本人だと男性の平均寿命にも満たないのに、この論文の結論だけをうのみにすると、高齢の再手術(TAVRを含む)患者が大量生産されかねない。当然、成績は上記よりさらに悪い。それでよいだろうか? ガイドラインにも言及したい。日本独自のRCTが乏しく、同じ参考文献に基づくせいで、日本のガイドラインは欧米のコピーに近い。しかし2015年の日本の平均寿命は83.7歳、米国79.3歳と5年近く、女性に限定すれば5年以上も日本のほうが長寿なのに、人工弁選択の推奨年齢が米国と同じでよいだろうか? エビデンスとは言えないが、寿命差を加味するよう付記すべきではないか?(さらには5年以上違う性差についても) 治療方針は最終的には患者さんの自己決定ではあるが、その自己決定はわれわれ医療者の説明に大幅に依存している。われわれは周到に学び、賢明に判断し、親身に助言する必要がある。

1934.

クローン病に対するタイトな管理の有用性-多施設共同RCT(解説:上村直実氏)-772

 クローン病(CD)は原因不明で根治的治療が確立していない慢性炎症性腸疾患であり、わが国の患者数は現在約4万人で、医療費補助の対象である特定疾患に指定されている。本疾患に対する薬物療法の目的は、活動期CDに対する寛解導入および寛解状態の維持であり、一般的には、罹患部位や症状および炎症の程度によって、5-ASA製剤、ステロイド、代謝拮抗薬、抗TNF拮抗薬と段階的にステップアップする薬物療法が行われている1,2)。 CDの活動性について、便中カルプロテクチン(FC)やC反応性蛋白(CRP)など腸炎症のバイオマーカーを用いて治療方針を決定することが、患者の予後を改善するかどうかは不明であった。本論文は、一般的なクローン病活動指数(CDAI)に基づく評価法と比較して、CDAIと上記の炎症マーカーおよびステロイドの使用量による厳密な活動性評価により抗TNF療法を含む治療方針を変更するほうが、1年後の内視鏡的粘膜治癒率の向上に結び付く研究結果を初めて示したものである。 わが国におけるCDの重症度を評価する方法は、CDAIスコア、CRP値による炎症、腸閉塞や膿瘍などの合併症の有無等を考慮した総合的判断により、軽症、中等症、重症と分類するのが一般的である1,2)。本研究で炎症のバイオマーカーを加えた厳密な活動性の評価が有用とされているが、わが国におけるFCの測定は潰瘍性大腸炎の活動性評価に保険適用を取得したものの、現状ではCDの病態把握に対しては承認されていない。一般の保険診療現場でCD患者に対しても使用できるように、本論文や過去の研究結果を参考にして、日本人の臨床エビデンスを構築するとともに、公知申請などを用いた企業や学会からの要望などが期待されるところである。■参考1)日本消化器病学会編. クローン病診療ガイドライン. 南江堂;2010.2)日本消化器病学会編. 炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2016. 南江堂;2016.

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腫瘍変異負荷は小細胞がん免疫治療のバイオマーカーとなるか(CheckMate-032)/WCLC

 再発小細胞肺がん(SCLC)の治療選択肢は限られており、生命予後も不良である。固形がんにおけるニボルマブ±イピリムマブの第I相試験CheckMate-032の初回報告では、ニボルマブ・イピリムマブの併用はSCLCに対し、良好かつ持続的な効果を示し、この結果をもって、NCCNガイドラインに推奨されている。しかし、非小細胞肺がん(NSCLC)のバイオマーカーであるPD-L1は、この試験において治療効果との関連性は示しておらず、SCLCにおける免疫治療の明らかな効果予測バイオマーカーは明らかでない。SCLC免疫治療のバイオマーカーとしての腫瘍変異負荷(tumor mutation burden:TMB)の可能性 TMBは、ニボルマブによるNSCLCの1次治療試験であるCheckMate026試験において、ニボルマブの効果予測因子としての可能性を示しており、SCLCにおいてもバイオマーカーとして期待される。そのような中、SCLCのバイオマーカーを検討するために行われたCheckMate032試験の探索的研究の結果が、第18回世界肺癌会議(WCLC)で発表された。 この研究では、腫瘍および血液サンプルで全エクソンシークエンス(WES)を行い、TMBを高、中、低の3段階のコホートに分け評価した。TMB評価可能な患者は、合計211例でニボルマブ単独群133例、ニボルマブ・イピリムマブ併用群79例であった。ニボルマブ単独、イピリムマブ併用ともに高TMB患者で良好な予後示す ニボルマブ単独群全体の奏効率(ORR)は11.3%、低・中・高TMB患者ではそれぞれ、4.8%、6.8%、21.3%であった。ニボルマブ・イピリムマブ併用群のORRは全体で28.2%、低・中・高TMB患者ではそれぞれ、22.2%、16.0%、46.2%であった。 ニボルマブ単独群における1年無増悪生存(PFS)率の結果は、低・中・高TMB患者でそれぞれ、3.1%、NC、21.2%(PFSは1.3ヵ月、1.3ヵ月、1.4ヵ月)であった。ニボルマブ・イピリムマブ併用群における1年PFS率は低・中・高TMB患者ではそれぞれ、6.2%、8.0%、30.0%(PFSは1.5ヵ月、1.3ヵ月、7.8ヵ月)であった。 ニボルマブ単独群おける1年全生存(OS)率の結果は、低・中・高TMB患者でそれぞれ、22.1%、26.0%、35.2%(OSは3.1ヵ月、3.9ヵ月、5.4ヵ月)であった。ニボルマブ・イピリムマブ併用群における1年OS率は低・中・高TMB患者でそれぞれ、19.6%、23.4%、62.4%(OSは3.4ヵ月、3.6ヵ月、22.0ヵ月)であった。 低・中TMBコホートに比べ、高TMBコホートでは、ニボルマブ単独群、ニボルマブ・イピリムマブ併用群ともに、ORR、PFS、OSが改善した。高TMBコホートにおける効果の増加は、ニボルマブ・イピリムマブ併用患者で顕著に見られた。また、いずれのTMBコホートにおいても、ニボルマブ・イピリムマブ併用群が優れていた。この試験結果は、高TMBはSCLC患者におけるニボルマブ±イピリムマブの効果予測バイオマーカーとなる可能性を示唆しており、カットオフ値の設定など今後の研究が必要となるであろう。■参考CHECKMATE032試験(Clinical Trials.gov)■関連記事ニボルマブの恩恵を受けるのは腫瘍変異が高い症例?:CheckMate026探索的研究

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新型インフルエンザ対策の最前線

 2017年11月5日、厚生労働省は都内において、「新型インフルエンザ対策に関する研修」を開催した。当日は、新型インフルエンザの疫学、治療ガイドライン、感染対策、行政の動向について4名の演者による講演が行われた。急がれるH7N9ワクチン はじめに「鳥インフルエンザの疫学について」をテーマに小田切 孝人氏(国立感染研インフルエンザウイルス研究センター WHOインフルエンザ協力センター センター長)が、鳥インフルエンザの動向、最新の知見を解説した。 インフルエンザAタイプは人獣共通感染症であり、野生のツルやカモなどの水禽類が宿主となっている。このタイプは、ヒト、トリ、ブタ間でも感染し、現在トリではH5N1、H5N6、H7N9、H9N2が、ブタではH1N2v、H3N2vがヒトに感染することがわかっている。とくに患者数が多かったH5N1は、その数が減少する傾向にあるものの、高病原性ゆえに致命率は53%と高いという。 問題は、突然変異によるパンデミックポテンシャルをウイルスが持っていることであり、トリがこうしたウイルスを獲得していないかどうか、常に監視する必要があると警告する。 ワクチンについては、世界保健機関(WHO)がインフルエンザウイルスのリスト化とワクチン株の保存を行い、日本、米国、英国の施設で新型インフルエンザワクチン製造株を作製・提供を実施しており、中国でも開発中であるという。 その中国では、2013年より鳥インフルエンザ H7N9が流行。2017年8月31日時点で、1,531例の感染例(うち死亡604例)と高い致命率(39.5%)が報告された。また、旅行など人の移動が感染拡大を助長したこと、高齢者の感染例が多いことも報告された(H5N1は青年に多かった)。 H7N9は、飛沫感染する例も動物実験で報告され、ワクチンの開発が急がれているが、予防接種の免疫獲得が低いことや免疫細胞に認識されないなどの問題があり、現在も研究が続けられている。 最後に、日本で中国のようなアウトブレイクが起きるかどうかについて、「わが国の検疫対応をみると発生しないだろう」と現状からの予測を語り、レクチャーを終えた。新型インフルエンザには抗ウイルス薬の使用をためらわない 次に川名 明彦氏(防衛医科大学校 感染症・呼吸器内科 教授)が、「成人の新型インフルエンザ治療ガイドライン改訂の方向性について」をテーマに解説を行った。 2014年3月に現在の治療ガイドラインが発行され、現在は改訂(第2版)の最終段階であり、12月中には最新のガイドラインが発行されるとの見通しを述べた。 ガイドラインで示される治療の範囲は、入院診療の治療がメインとなり、とくに意識障害、肺炎の有無別による治療にページが割かれるという。また、予想される新型インフルエンザの臨床像は、過去のインフルエンザの事例、鳥インフルエンザの重症例、季節性インフルエンザの重症例などから検討され、インフルエンザ肺炎の中でも原発性、混合性、二次性の大きく3つに分けた治療が記されるという。 現在、日本で使用できる抗ウイルス薬には、オセルタミビル(商品名:タミフル)、ザナミビル(同:リレンザ)、ラニナミビル(同:イナビル)、ペラミビル(同:ラピアクタ)の4種がある。治療では、米国疾病管理予防センター(CDC)の原則に沿い、早期投与が勧められているほか、入院患者、2歳以下の小児、65歳以上の高齢者、循環器や代謝異常などの既往症、免疫抑制状態、妊婦(出産後2週間以内も含む)、病的肥満(BMI 40以上)、長期療養施設に入所など、ハイリスク患者には可能な限り早期に投与するとしている。 症状が、軽症、中等症、肺炎合併がない場合の新型インフルエンザの治療では、季節性インフルエンザと同じ治療としつつ、肺炎を合併した場合は、できるだけ早く抗ウイルス薬の投与を示している。とくに重症例ではペラミビルの選択、増量や投与期間の延長、ファビピラビル(同:アビガン)との併用も考慮するとしている(ただしファビピラビルは妊婦または妊娠している可能性のある婦人へは投与しない)。 新型インフルエンザ肺炎への細菌感染の合併例については、頻度の高いものとして肺炎球菌、黄色ブドウ球菌などのウイルス細菌混合性肺炎と、緑膿菌、アシネトバクターなどの二次性細菌性肺炎を挙げ、入院を要する症例ではただちに抗菌薬療法を開始する。そして抗菌薬の選択はガイドラインを参考に行い、病原体確定後に、より適切な抗菌薬へde-escalationすることとしている。その他の薬物療法として副腎皮質ステロイド薬は、ウイルス性肺炎では喘息合併に限り重症化を抑制するほか、細菌性肺炎では敗血症性ショック時の相対的副腎不全に低容量で有効とされている。また、マクロライド系薬は、細菌性肺炎の重症化例で予後を改善するとの報告がある。 肺炎時の呼吸管理では、人工呼吸を躊躇しないで使用するほか、悪化または改善がみられない場合は、特殊な人工呼吸法(ECMO)の導入やより専門的な施設への転送をするとしている。 インフルエンザ肺炎の重症度評価では、PSI、A-DROP、CURB-65などの市中肺炎の重症度評価法よりも、重症度が過小評価されることに注意が必要と指摘する。 最後に、川名氏は「“新型インフルエンザ”の病態は未知であるが、病原性の高いインフルエンザの出現を想定し、準備する必要がある。ガイドラインも、出現時にはウイルスの特徴に応じてただちに再検討する必要がある」とまとめ、レクチャーを終えた。感染対策は手指衛生と予防接種が大事 次に加藤 康幸氏(国立国際医療研究センター 国際感染症センター国際感染症対策室 医長)が、「感染対策について」をテーマに解説を行った。 インフルエンザの院内感染の特性は、新型も季節性も、新生児、骨髄移植患者、長期療養型病棟で致死率の高い流行を起こすことがあり、医療従事者においては患者からの感染と患者の感染源になるという2つのリスクがあると説明する。そして、新型インフルエンザ流行時には、感染被害の軽減と封じ込めの同時進行が必要であり、過去の拡大例を検証すると、医療従事者から患者への飛沫感染対策は重要であるという。 そして、医療機関における具体的な感染対策としては、「感染源対策」「患者・職員の健康管理」「感染経路の遮断」の3つが必要とされ、CDCの推奨でも予防接種、患者との接触を減らす、標準予防策の順守、飛沫予防策の順守、訪問者の制限なども掲げられ、実践されることが期待される。 とくに飛沫感染対策・咳エチケットとして、医療機関の入口での注意の掲示、1m以上の距離を隔てた待合用の座席、待合室の手近な場所への手指衛生設備の設置などが必要となる。同様に、医療スタッフへの指導では、個人防護具(手袋、ガウン、シールド付きサージカルマスクなど)の装着・脱着の研修は有効であるという。 最後に加藤氏は「院内感染対策では、手指衛生と(患者、医療従事者の)予防接種の2つが有効とされている。新型インフルエンザの対策も、季節性インフルエンザの延長にあると考え、流行に備えてもらいたい」と語り、解説を終えた。新型インフルエンザではWeb情報も活用を! 最後に、厚生労働省の海老名 英治氏(健康局結核感染症課 新型インフルエンザ対策推進室 室長)が「行政動向について」をテーマに、新型インフルエンザ対策の法令、ワクチンの備えに関して説明を行った。 新型インフルエンザへの対策は、水際での侵入阻止と早期封じ込めによる感染拡大の抑制と流行規模の平坦化、それと同時にワクチンの開発、生産、接種によって流行のピークを下げること、医療への負荷を減らすことであるという。 2012年5月に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」が公布され(施行は2013年6月)、流行時の各種対策の法的根拠が明確化された。具体的には、体制整備として国・地方公共団体の行動計画や訓練、国民への啓発のほか、流行発生時の対策本部の設置、特定接種の指定などが決められ、「新型インフルエンザ等緊急事態」発生の際の措置では、外出自粛要請、興行場等の制限などの要請・指示、住民への予防接種の実施、医療提供体制の確保、緊急物資の運送の要請・指示などの規定が挙げられる。 また、国のインフルエンザ対策として、時間軸で海外発生期、国内発生早期、国内感染期、小康期の4つに区切り、各段階で(1)実施体制、(2)サーベイランス・情報収集、(3)情報提供・共有が行われると説明を行った。 現行の被害想定はいずれも最大数で、罹患者を人口の25%、医療機関受診者を約2,500万人、入院者を約200万人、死亡者を約64万人、欠勤者を従業員の約40%とし、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄は人口の45%を目標としている(2017年7月時点の有識者会議で、全人口の25%が罹患するとして再検討されている)。また、「これら抗ウイルス薬の備蓄方針、季節性インフルエンザとの同時流行時の規模や重症患者への倍量・倍期間治療、予防投与についても、省内の厚生科学審議会で継続的に審議されている」と説明する。 最後に海老名氏は、「審議会などの新しい情報も厚生労働省のウェブサイトなどを通じて日々発信しているので、新型インフルエンザの対策ではこれらも参考に準備をしていただきたい」と述べ、説明を終えた。■参考厚生労働省 インフルエンザ(総合ページ)内閣官房 新型インフルエンザ等対策厚生労働省 セミナー当日の配布資料

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派手さはないが重要な研究(解説:野間 重孝 氏)-767

 急性心筋梗塞患者の急性期の治療において、酸素の使用が初めて報告されたのは古く1900年までさかのぼり、以来今日までごく当たり前のように行われてきた。血液酸素飽和度を上昇させることにより、より効率的に虚血心筋に酸素を供給することができるだろうという発想から生まれた治療法で、この理屈には大変説得力があったことから、疑われることなく長く行われ続けた。80年代になってパルスオキシメータによるモニターが容易に行えるようになっても、この考え方の根本が見直されることはなかった(パルスオキシメータの発明は1974年で、わが国で行われた)。 実際JCS 2008でも心筋梗塞発症後6時間以内の酸素投与が積極的に勧められており、救急現場の対応の項ではMONAなどという懐かしい言葉が現在も登場している(ちなみにM:モルヒネ、O:酸素、N:nitrate、A:アスピリン)。これはわが国だけのことではなく、2012年のESCガイドラインでも酸素投与は推奨されており、2016年の改訂でも大きく改められてはいない。つまりガイドラインの世界では程度の差こそあれ、急性心筋梗塞患者の急性期治療に酸素を用いることにはまだ疑義が呈されていないといえる。 しかし実際の臨床の現場では、低酸素血症、心不全のない急性心筋梗塞の患者に対して酸素投与が行われる機会は、かなり減っているという印象を受けている。このような問題に対するアンケート調査が行われたことはないので、評者自身、学会の運営委員会などで各施設の先生方に片っ端から質問してみたのだが、低酸素血症のない患者に対する酸素投与は確かにいつのころからか行われなくなっているというのが大勢だった。読者は「いつのころから」とか「何となく」といった表現に対し「何といい加減な」と反発される向きも多いのではないかと推察するが、これこそが医学界の現実であり、EBM運動が起こった理由なのである。なお付け加えれば、そうした先生方も酸素飽和度が95%を切るような症例に対しては酸素を投与すると答えており、これには急性心不全治療のプロトコールの影響があるのではないかと推察した。 一方で今世紀に入るころから、低酸素血症のない急性心筋梗塞患者に対する酸素投与には、疑義が呈されるようにもなっていた。それらは、不必要な酸素投与は冠動脈抵抗を上げることにより、かえって血液供給の効率を悪くするのではないか、酸素投与による酸化ストレスが考慮されるべきではないかなど、確かに考慮されるべき疑義だった。現在最も信頼されているEBMレビューの1つであるCochrane reviewが、初めて急性心筋梗塞に対する酸素投与には確かな研究的根拠がないのではないかと疑義を呈したのは2010年のことであり、2016年のreviewでははっきり根拠薄弱と断じるに及んだ。そんな中、はっきり反対とのデータを提出したのが2015年に発表されたAVOID studyだった。対象患者は638名と小さな研究ではあったが、低酸素血症のない急性心筋梗塞患者に酸素を投与することは、かえって梗塞サイズを大きくするのではないかとのデータを提出し、波紋を呼んだ。 このような流れの中で、大規模data baseを使用して行われた調査研究が本研究である。彼らはスウェーデンの全国レジストリデータを用いて、低酸素血症のない急性心筋梗塞患者6,629名を酸素投与群と非酸素投与群により分けた。低酸素血症の定義はSpO2 90%未満としたから、かなり思い切った振り分けといえる。SpO2 90%が酸素分圧60Torrに当たるからだ。この結果彼らは、酸素投与が1次エンドポイントである1年以内の全死亡に影響を与えないだけでなく、再入院率にも影響を与えないことを示した。この研究は非盲検研究ではあるが、酸素投与という問題がそれほど臨床医の関心や利害の対象ではない以上、盲検研究とほぼ同じ信頼性があるとしてよいものであると考えられる。この研究結果は、ガイドラインに訂正を迫るのに十分な重みのあるものであったと評価されよう。 評者は、こうした派手さはないが、誰もが疑問に感じつつもはっきりした根拠が得られない分野に確かな一歩を進める研究こそが、医師主導型研究の有るべき姿であると考えているものであり、今回の研究を高く評価するものである。実際、この研究はこの分野の静かなmilestoneとなる研究ではないかと考える。

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日本の肺がん患者さんを一人でも多く助けたい 第9回【肺がんインタビュー】

第9回 日本の肺がん患者さんを一人でも多く助けたい近年の肺がん治療の分野で大きな変化をもたらしてている企業の1つであるアストラゼネカ。肺がんにおける世界の開発状況も含め、アストラゼネカ・グローバル医薬品開発担当エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフメディカルオフィサー Sean Bohen氏に単独インタビューした。FLAURA試験の結果について、欧米の臨床医の反響はどのようなものですか?アストラゼネカ・グローバル医薬品開発担当エグゼクティブバイスプレジデント兼チーフメディカルオフィサー Sean Bohen氏臨床医および治験担当医は、FLAURA試験によって示された、主要評価項目であるPFSの50%リスク減という結果を説得力あるものと受け取ったようです。興味深いことに、副次的評価項目のOSは、イベント到達率は現時点まだ25%にもかかわらず、生存曲線は2群間で既にはっきりと離れています。ESMOでの発表からあまり時間が経っていないにもかかわらず、米国NCCNのガイドラインでは、FLAURA試験結果を基に、最近、オシメルチニブをEGFR変異肺がんの1次治療に組み入れました。エビデンスレベルの分類はカテゴリー2Aと、高く評価されています。FLAURA試験OSデータ発表の予定は?OSデータの取得はイベントの蓄積状況によりますので、今のところ時期は定かではありませんが、2019年中に発表できることを期待しています。FLAURAは1次治療の試験ですので、PD後の治療がOSデータに大きなインパクトを与えます。後治療への適格患者さんは非常に多くおり、幸いにもオシメルチニブ群の患者さんは長期生存する方が多くみられます。一方で、この有効性がOSに到達するまでの期間を長くしています。オシメルチニブは1次治療で有望な結果が出ました。しかし、一方でオシメルチニブが耐性になると現在は手段がありません。オシメルチニブの耐性対策として他剤併用などの試験は行っていますか?画像を拡大するsavolitinib関連のトライアルが発表された第18回世界肺癌学会当社のパイプラインにはsavolitinibというMET阻害薬があります。MET増幅はEGFR阻害薬の耐性に特徴的なメカニズムですので、オシメルチニブとsavolitinibの併用は科学的に合理性があります。今回の世界肺癌学会では、オシメルチニブとこのsavolitnibuをEGFR変異陽性でMET増幅を有する患者さんを対象にした第I相b試験のTATTON trialの結果が発表され、期待できる有効性が示されました。また、savolitinibとの併用は、同様の患者さんを対象にゲフィチニブでも行われています。EGFR-TKIとMET-TKIの併用がオシメルチニブによる獲得耐性を治療できるのか、あるいはこの2剤の併用が、耐性獲得そのものを抑制できるのか、この試験には2つの問いがあります。まだ答えは出ていませんが、発展的なテーマだといえます。そのほかのオシメルチニブの試験について教えていただけますか?手術可能なEGFR変異NSCLC患者さんの術後補助療法として、ADAURA試験が進行中です。Stage IIIでは、術後補助療法を行っても多くの患者さんが再発してしまうという問題がありますが、腫瘍を切除したEGFR変異の患者さんにオシメルチニブを加えることで、再発を防ぐ、あるいは遅らせることができるかを検討しています。そうすることができれば、患者さんの貴重な時間をより延長できます。また、このセッティングでは治療が長期にわたる患者さんもおられます。そういった患者さんはQOLの維持が非常に重要な課題となってきますので、忍容性の高い薬剤を用いることが重要です。つまり、オシメルチニブの特性を生かせる分野だと思います。貴社の抗PD-L1抗体durvalumabのPACIFIC試験の結果が大きな反響を呼んでいます。この試験の対象となった手術不能なStage IIIのNSCLCでの問題はどのようなものでしょうか?画像を拡大するPACIFIC試験が発表されたESMO2017切除不能Stage III NSCLCにおける標準療法は化学放射線同時併用療法(CCRT)です。しかし、この治療法の成績は芳しくなく、治癒または長期生存が得られる患者さんは15%程度です。CCRTについては、強化放射線療法、化学療法の強化、放射線と化学療法の逐次投与など、幾多の研究がなされたものの、生存率向上につながる成果は得られず、過去約20年間にわたり、ほとんど進展はありませんでした。このため、CCRTの終了後の標準療法(SOC)は経過観察に留まっています。観察だけなのであれば、患者さんの再発までの期間をできるかぎり延長する治療を提供することができないか、との考えから実施したのがPACIFIC試験です。CCRT後のSOCである経過観察に対し、durvalumabによる維持療法が生命予後を改善するか、。というテーマに対し、試験結果はご存じのとおりで、durvalumab群は、進行と死亡のリスクを有意に減らしました。OSデータはまだ未到達ですが、良好な傾向が見られており、今後も試験を継続していきます。PACIFIC試験からは多くの学びがありました。durvalumabの安全性についても評価を行い、高い忍容性と毒性の低さを確認することができました。治療が長期におよぶセッティングにおいては、これらの要素は重要です。今回の試験で確認できたdurvalumabの安全性プロファイルは、durvalumabがより幅広い状況下で使用される可能性を示しています。durvalumabは今後どのような試験が行われる予定ですか? 他薬剤との併用などを含め教えていただけますか?非小細胞肺がんではMYSTIC試験があります。この試験はStage IVの1次治療で、durvalumabまたはdurvalumab+抗CTLA-4抗体tremelimumabと標準化学療法であるプラチナダブレットの治療成績を比較したものです。本年(2017年)、主要評価項目の1つであるPFSの結果を発表しました。エンドポイントを達成することはできませんでしたが、免疫チェックポイント阻害薬ではより重要視されるOSを別の主要評価項目として試験を継続中であり、来年の上半期には結果を発表できる予定です。また、Stage IVの1次治療では、durvalumab単独またはdurvalumab+tremelimumabと標準化学療法の併用と、標準化学療法単独を比較したPOSEIDON試験も進行中です。さらに、中国を中心にStage IVのPD-L1発現患者の1次治療としてdurvalumab単独と標準化学療法を比較したPEARL試験が進行中です。一方、腫瘍を切除した患者さんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果も検討しています。durvalumabの術後補助療法の有効性についてNational Cancer Institute of Canadaが主体となって研究を行っています。この試験はdurvalumabまたはdurvalumab±tremelimumab術後アジュバントと化学療法によるアジュバントの比較をみるもので、現在患者登録中です。小細胞肺がんでは、進展型の1次治療でdurvalmab単独またはdurvalmab+tremelimumabと標準化学療法(エトポシド+シスプラチン/カルボプラチン)の併用と標準化学療法単独を比較したCASPIAN試験が進行中です。肺がん治療薬の開発計画について教えていただけますか?AstraZenecaにとってオンコロジーは戦略的に非常に重要な疾病領域であり、とくに、肺がん領域は、durvalumab、tremelimumab、前述のsavolitinibをはじめ多くのパイプラインが控えています。また、重要な開発基盤の1つにがん細胞のDNA損傷修復不全をもたらすPARP阻害薬があり、まだ早期開発段階ながら、今後、肺がんにおいても臨床化の機会があるかも知れません。抗PD-1、PD-L1薬で多くの患者さんを助けられるようになりましたが、まだ十分とは言えません。免疫腫瘍の分野でも、免疫システムをより有効に活用する抗CD-73抗体、TLR7、アデノシンをターゲットとした小化合物などの多くのパイプラインがあります。貴社にとって日本市場の重要性は?日本は、アストラゼネカが持続的な成長を維持していくうえで、非常に重要な国です。当社にはオンコロジーをはじめ、5つの成長基盤があり、その1つを日本としています。日本は、5つの成長基盤に掲げられている唯一の国です。日本の重要性はビジネス観点からも多くあげられますが、サイエンスの観点からも示すことができます。たとえば、オシメルチニブの対象となるEGFR変異NSCLCは、欧米よりも日本をはじめとするアジアではるかに多く患者さんがおり、当社が果たす貢献が大きい地域といえます。以前は、患者さんのリクルートがネックとなり、日本がグローバル試験に参加できないことがありました。しかし、最近のFLAURAやPACIFICでは、日本も主要国の1つとしてグローバル試験に組み込まれるようデザインされており、以前のようにローカルで別の試験を行う必要はなくなりました。実際、日本はオシメルチニブのグローバル第I相・第II相試験から参加し、その結果、日本は米国での承認からわずか4ヵ月の差で承認を取得しました(米国2015年11月、日本2016年3月)。また、オシメルチニブは、第I相試験から承認まで4年未満と非常に短期間での開発を実現しましたが、その過程において、日本から多くの患者さんがリクルートされ、開発を後押ししました。当社のゴールはグローバルと日本の申請を同時に行うことですが、そのゴールに限りなく近付いています。当社は、新たな治療を待ち望む日本の患者さんを待たせてはいけないと思っています。そして、より多くの患者さんを助けることができるよう、1日も早い申請を目指して開発を進めていきます。参考MYSTIC試験(Clinical Trials.gov)TATTON試験(Clinical Trials.gov)ADAURA試験(Clinical Trials.gov)POSEIDON試験(Clinical Trials.gov)CASPIAN試験(Clinical Trials.gov)Canadian Cancer Trials Group IFCT1401試験(Clinical Trials.gov)

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ビプレッソは「双極性障害のうつ症状」の新しい治療選択肢

 2017年11月7日、共和薬品工業株式会社主催のプレスセミナーが開催され、双極性障害治療の課題と双極性障害のうつ症状に対する新たな治療選択肢であるビプレッソ徐放錠(一般名:クエチアピンフマル酸塩徐放錠)について、赤坂クリニック・うつ治療センター長の坂元 薫氏が講演を行った。坂元氏は、「双極性障害を大うつ病エピソードで発症した場合、単極性うつ病との鑑別が困難で見逃されやすい。ようやく診断されても、日本うつ病学会のガイドライン1)で推奨されている双極性うつ病の薬剤は、ほとんどが適応外であった。ビプレッソ徐放錠が登場し、治療選択肢が増えたのは大変喜ばしいこと。双極性障害患者のうつ症状改善に期待したい」と述べた。双極性障害は大うつ病性障害との鑑別が困難 双極性障害はかつて、躁病エピソードと大うつ病エピソードの両方を伴う精神病性気分障害(現在の双極I型障害)とされていたが、近年の臨床研究により、完全な躁病エピソードの代わりに、より軽症で持続期間も短い軽躁病エピソードと大うつ病エピソードが入れ替わる双極II型障害の存在が広く認知され始めた。再発率と自殺率が著しく高く、社会機能の障害が著明となる。 双極性障害を大うつ病エピソードで発症した場合、大うつ病性障害(単極性うつ病)との鑑別が困難であり、見逃されることが多い。双極性II型障害の患者は、軽躁病エピソード時に「いつもより調子がいい」と思うくらいで、生活に困難を感じない。そのため、医師に躁症状を訴えることもなく、大うつ病性障害と診断されたまま治療を受けることになる。このような状況では、正しい診断・治療に出会うまで発病から10年以上を要する患者も多いというのもうなずける。「双極性障害のうつ症状」の適応を持つ薬剤は1剤しかなかった 双極性障害の治療は、大うつ病性障害の治療とは大きく異なる。大うつ病性障害の治療の中心が抗うつ薬であるのに対し、双極性障害は、「躁症状の治療」、「うつ症状の治療」、「維持的予防」の3つのアプローチが必要である。気分安定薬をベース薬として、患者の症状にあわせて抗精神病薬を併用する。 しかし、双極性障害の治療に用いられる薬剤は、「双極性障害(躁うつ病)における躁病・躁状態」に対する適応症を持つものがほとんどで、「双極性障害におけるうつ症状」に対する適応を持つのは、これまでオランザピン1剤のみであった。実際、日本うつ病学会のガイドライン1)における「双極性障害の大うつ病エピソード」の推奨薬剤には、クエチアピン、リチウム、ラモトリギンなどの薬剤が並んでいるが、オランザピン以外すべて適応外となっている。抗うつ薬はどうかというと、同じうつ症状でも大うつ病性障害に対するそれと異なり、躁転あるいは急速交代化のリスクがあるため適応がなく、慎重な投与が必要であるという。ビプレッソ徐放錠は双極性障害におけるうつ症状を改善 そのような中、ガイドラインでも高く推奨されていたクエチアピンが、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、医療上の必要性が高いと判断され、厚生労働省の要請2)に基づいて開発・承認された。そして、2017年10月27日、「双極性障害におけるうつ症状の改善」を効能・効果とする1日1回投与のビプレッソ徐放錠が発売となった。ビプレッソ徐放錠の有効成分は、統合失調症に用いる非定型抗精神病薬セロクエル錠(一般名:クエチアピンフマル酸塩)と同じであるが、適応症、用法・用量が異なるため、別名称で承認申請されたということである。承認時までの臨床試験では、投与1週目よりうつ症状の改善が認められ、投与52週目まで維持された3)。主な副作用は、傾眠、口渇、倦怠感、体重増加、アカシジア、便秘、血中プロラクチン増加であった。また、九州大学の三浦 智史氏らによるメタ解析4)では、双極性障害のうつ症状に対する再発予防効果は、ラモトリギン、リチウム、オランザピンよりもクエチアピンで高いことが示されている。 双極性障害の治療は簡単ではない。しかし、今回のビプレッソ徐放錠の登場で治療選択肢が広がったことにより、双極性障害のうつ症状に苦しむ患者が少しでも減少することを期待するばかりである。

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がん治療の末梢神経障害、皮膚障害に指針/日本がんサポーティブケア学会

 Supportive care。日本では支持療法と訳されることが多い。しかし、本来のSupportive careは、心身の異常、症状の把握、がん治療に伴う副作用の予防、診断治療、それらのシステムの確立といった広い意味であり、支持療法より、むしろ支持医療が日本語における適切な表現である。2017年10月に行われた「第2回日本がんサポーティブケア学会学術集会」のプレスカンファレンスにおいて、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)理事長 田村和夫氏はそう述べた。『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』発刊 JASCC神経障害部門部会長である東札幌病院 血液腫瘍科 平山泰生氏が『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』発刊について紹介した。 がん薬物療法の進化によるがんの治療成績向上と共に、抗がん剤による副作用も対処可能なものが増えてきている。しかし、本邦における4,000例以上のがん患者の追跡調査では、化学療法終了後1ヵ月以内の神経障害の発生頻度は7割、6ヵ月以降でも3割であった。神経障害はいまだに患者を苦しめているのが現状である。 この神経障害に対する有効な薬物は明らかではない。JASCCが行った調査では、がん専門医の神経障害に対する処方は、抗けいれん薬(97%)、ビタミンB12(78%)、漢方薬(61%)、その他抗うつ薬、消炎鎮痛薬、麻薬など、さまざまな薬剤を用いており、薬剤の有効性かわからない中、医療現場の混乱を示唆する結果となった。 一方、米国では2004年にASCOによる「化学療法による末梢神経障害の予防と治療ガイドライン」が発行されている。しかし、ビタミンB12、消炎鎮痛薬などの記載がないなど日本の状況とは合致していない。そのため、本邦の現状を反映した臨床指針が望まれていた。 Mindsの作成法に準じて作られた『がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引き』では、この分野のエビデンスが少ないため、ガイドラインとは銘打たず"手引き"としている。同書には薬物の有効性に関するクリニカルクエスチョンも掲載されており、ビタミンB12、漢方、消炎鎮痛薬、麻薬など、日本でしか使われていないような薬剤についても記載がある。「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」出版を目指す JASCC皮膚障害部門部会長である国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科の山崎直也氏が「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」の出版について紹介した。 がん治療の外来への移行、抗がん剤開始時期の早期化、生存期間の延び、長期間にわたり社会と触れ合いながら治療を受けるがん患者が増えている。一方で、分子標的薬をはじめ、皮膚有害事象を発現する薬剤も増えている。このような社会で生きるがん患者にとって、アピアランスケアは非常に重要な問題である。 皮膚障害の治療に対するエビデンスは少なく、世界中が医療者の経験値で対応しているのが現状である。そのような中、昨年(2016年)がん患者の外見支援に関するガイドラインの構築に向けた研究班により「がん患者に対するアピアランスケアの手引き」が作成された。さらに、目で見てすぐわかる多職種の医療者に伝わるようなものをという考えから、JASCC皮膚障害部門を中心に「がん薬物用法に伴う皮膚障害アトラス&マネジメント」を作成している。 その中では、最近の分子標的薬の皮膚障害を中心に取り上げているが、治療進歩の速さを鑑み、免疫チェックポイント阻害薬についても収載。総論、発現薬剤といった基本的事項に加え、重要な重症度評価およびそれに対する診断・治療のポイントを、症状ごとに症例写真付きで具体的に説明している。年内には発売できる見込みだという。

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