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急性期全般不安症に対する第1選択薬の有効性、受容性比較~メタ解析

 全般性不安症(GAD)の第1選択薬としては、SSRIやSNRIがガイドラインで推奨されている。中国・西安交通大学のHairong He氏らは、これら第1選択薬の有効性、受容性を比較するため、ネットワークメタ解析を用いて、エビデンスのアップデートを行った。Journal of Psychiatric Research誌2019年11月号の報告。 成人GADの急性期治療に使用された11種類の薬剤のプラセボ対照および直接比較試験について、1980~2019年1月1日のエビデンスを電子データベースより検索した。各研究より、人口統計、臨床、治療に関するデータを抽出した。主要アウトカムは、有効性(ハミルトン不安尺度の合計スコアのベースラインからの変化)および受容性(すべての原因による治療中止)とした。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たしたランダム化比較試験は、41件であった。・有効性に関しては、fluoxetineとボルチオキセチンを除くすべての薬剤において、プラセボよりも有効であった。ハミルトン不安尺度スコアの加重平均差は、エスシタロプラムの-3.2(95%信頼区間[CI]:-4.2~-2.2)からvilazodoneの-1.8(95%CI:-3.1~-0.55)の範囲であった。・受容性については、vilazodone(オッズ比:1.7、95%CI:1.1~2.7)のみがプラセボよりも悪化が認められており、その他の薬剤では有意な差は認められなかった。・直接比較試験では、ボルチオキセチンは、受容性および忍容性が優れていたが、有効性と奏効率が悪かった。・全体として、デュロキセチンとエスシタロプラムは有効性が高く、ボルチオキセチンは受容性が良好であった。

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がん悪液質のステージと診断基準「知っている」~医師の3割/日本癌治療学会

 がん悪液質は食欲不振・体重減少・筋肉減少・疲労などを主な症状とし、進行がん患者の50~80%に発症する重大な合併症であり、がん患者のQOL低下、全生存期間や治療効果にも影響する原因として問題視されている。しかしながら、がん悪液質は治療対象として十分に認識されていない可能性があり、医療従事者(医師・メディカルスタッフ)のがん悪液質に対する疾患理解度や、食欲不振・体重減少に対する問題意識の程度、がん患者自身が食欲不振や体重減少でどのくらい困っているのか、といった実態は明らかとなっていない。そのような中、小野薬品工業メディカルアフェアーズ統括部の森本 貴洋氏は、がん悪液質への疾患理解度とがん悪液質の症状(食欲不振、体重減少など)に対する認識の実態を明らかにすることを目的としてWebアンケート調査を行い、第57回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日、福岡)で報告した。 Webアンケート調査は2019年7月に行われた。対象は、肺・胃・食道・大腸・肝臓・胆道・膵臓がんのいずれかのがん患者を直近3ヵ月以内に5例以上診療した医師500名、がん治療に携わるメディカルスタッフ(看護師、薬剤師、栄養士など)500名、そして、前記がん腫のいずれかのがんを罹患し1年以内にがん治療のために医療機関に入院・通院経験がある20歳以上のがん患者500名、前記がん種のいずれかのがん患者に対し、生活を共にする家族500名であった。質問は、(1)がんに伴う食欲不振・体重減少に関する日常の評価・測定状況、(2)食欲不振・体重減少に対する治療介入状況、(3)がん悪液質の診断基準に対する理解と治療介入状況について合計30問で構成された。本学会では、(3)がん悪液質の診断基準に対する理解と治療介入状況について報告された。 主な結果は以下のとおり。・「がん悪液質という言葉をご存じですか」の質問に対して、「よく知っている」または「ある程度知っている」と回答した割合は、医師ではそれぞれ51.6%と43.6%、メディカルスタッフでは33.0%と43.8%、患者では3.2%と5.0%、家族では2.3%と12.2%であった。これらの結果より、がん悪液質という言葉の認知度は、医療従事者では高いものの、治療対象となる患者・家族では低いことが明らかとなった。・「EPCRC(European Palliative Care Research Collaborative)による『がん悪液質のステージと診断基準』をご存じですか」の質問に対して、「知っている」と回答した医師は33.1%、メディカルスタッフは33.9%であった。これらの結果から、医療従事者のがん悪液質という言葉自体の認知度は高いものの、診断基準の認知度は低いことが明らかとなった。・「がん悪液質という言葉からどのような状態を連想されますか」の質問に対する回答では、「PS不良」が医師で75.2%、メディカルスタッフは70.6%と最も多く、続いて「栄養不良」「がんの末期症状」が多かった。これらの結果から、医療従事者はがん悪液質という言葉からは、がん患者の終末期の状態を連想していることが明らかとなった。・『EPCRCがん悪液質のステージと診断基準』の提示前後で、医師が想起するがん悪液質患者数がどのように変化するかを質問した。提示前ではその割合(がん悪液質を想起する患者の割合)は28.1%(8,366例中2,354例)であったのに対し、提示後は51.5%(8,366例中4,309例)に増加した。この結果は、終末期の状態として想起されていたがん悪液質が、診断基準の提示によってより早期から発症する合併症であると認識されたためだと考えられる。・「がん悪液質の診断と治療に関する課題は何ですか」の質問に対して医師の回答は、「治療選択肢がない」52.8%、「明確な診断基準がない」40.2%、「治療ガイドラインがない」27.6%であった。 上記の結果から、医療従事者(医師・メディカルスタッフ)だけでなく、がん患者やその家族に対しても、がん悪液質の診断基準と治療の重要性の啓発・教育活動をしていくこの必要性が示唆された。

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欧州のICU終末期医療、延命治療めぐる実態は?/JAMA

 欧州のICUにおける終末期(エンドオブライフ)の方針決定について、16年前の調査時と比べて、延命治療の制限が有意に増大しており、延命治療の制限を受けなかった死亡は有意に減少していたことが判明した。イスラエル・ヘブライ大学のCharles L. Sprung氏らが、1999~2000年に行ったICUにおける終末期医療に関する研究「Ethicus-1」対象の欧州22ヵ所のICUについて、2015~16年に前向き観察研究「Ethicus-2」を行い明らかにし、JAMA誌オンライン版2019年10月2日号で発表した。ICUにおける終末期の方針決定は世界中で日々起きているが、ここ10年間で欧州での終末期医療に関する考え方、法律、勧告・ガイドラインに変化が生じており、ICUでの方針決定が変化している可能性が示唆されていた。1999~2000年調査対象施設を2015~16年に調査し比較 Ethicus-2研究は、1999年1月~2000年7月に行ったEthicus-1研究で対象とした欧州ICUの22ヵ所を対象に行われた。2015年9月~2016年10月の、継続する6ヵ月の期間中に、各ICUで死亡または延命治療の制限を行った患者について調べた。 患者を死亡まで、または初回の延命治療制限に関する決定から2ヵ月後まで追跡し、終末期アウトカムを(1)心肺蘇生(CPR)を含む延命治療を開始しない、(2)延命治療を中断、(3)死亡までの経過を積極的に短縮、(4)CPR失敗、(5)脳死の5つの相互排他的カテゴリーに分類。アウトカムはシニア集中治療専門医によって確定された。 主要アウトカムは、患者が(1)~(3)の治療制限を受けたかどうかで、Ethicus-1研究とEthicus-2研究の結果を比較し、その変化を検証した。延命治療を開始しないが50%に、中断も38.8%に増加 Ethicus-2研究では、対象期間中にICUに入室した1万3,625例のうち、死亡または延命治療の制限を行った1,785例(13.1%)を解析に包含した。Ethicus-1研究の被験者(2,807例)の年齢中央値は67歳(IQR:54~75)に対し、Ethicus-2研究の被験者の年齢中央値は70歳(59~79)で有意差があった(p<0.001)。女性の割合は、それぞれ38.7%、39.6%で類似していた(p=0.58)。 延命治療の制限を受けた患者は、Ethicus-1研究1,918例(68.3%)に対し、Ethicus-2研究は1,601例(89.7%)と有意に増大していた(群間差:21.4%、95%信頼区間[CI]:19.2~23.6、p<0.001)。「延命治療を開始しない」を選択した患者は、Ethicus-1試験1,143例(40.7%)に対し、Ethicus-2試験は892例(50%)と有意に増大しており(群間差:9.3%、95%CI:6.4~12.3、p<0.001)、「延命治療を中断」を選択した患者の割合も、それぞれ695例(24.8%)、692例(38.8%)と有意に増大していた(群間差:14.0%、95%CI:11.2~16.8、p<0.001)。 一方で、「CPRの失敗」はEthicus-1研究628例(22.4%)に対し、Ethicus-2研究は110例(6.2%)と有意に減少し(群間差:-16.2%、95%CI:-18.1~-14.3、p<0.001)、「脳死」もそれぞれ261例(9.3%)、74例(4.1%)と有意に減少した(群間差:-5.2%、95%CI:-6.6~-3.8、p<0.001)。また、「死亡までの経過を積極的に短縮」もそれぞれ80例(2.9%)、17例(1.0%)と有意に減少した(群間差:-1.9%、95%CI:-2.7~-1.1、p<0.001)。 研究グループは試験の結果を踏まえて、欧州のICUにおける終末期医療の実態には経年的変化が認められるとしながら、ICU入室中に治療制限を受けなかったが容態が改善して生存退院した患者を除外しており、示された所見については限定的だと述べている。

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「酸化コレステロール」を含んだ食品は食べないのが一番/日本動脈硬化学会

 メタボリックシンドロームにしばしば合併する脂肪肝だが、実は動脈硬化リスクも伴う。自覚症状に乏しいことから、一般メディアでは“隠れ脂肪肝”などと呼ばれ、患者から質問されることも珍しくない。しかし、脂肪肝だからと言って、ただ“脂モノ”を控えるという対処は正しくないという。 先日、日本動脈硬化学会(理事長:山下 静也)が開催したセミナーにて、動脈硬化と関連の深い「脂肪肝/脂肪肝炎」と「酸化コレステロール」について、2人の専門医が解説した。脂肪肝/脂肪肝炎は、肝硬変・肝がんだけでなく心血管疾患リスクにも はじめに、小関 正博氏(大阪大学大学院 医学系研究科循環器内科)が、脂肪肝の病態とリスクについて講演を行った。アルコールの影響を受けていない脂肪肝は、脂肪が肝臓に蓄積した「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」と、さらに炎症や線維化を伴った「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」に分類される。しかし、区別が難しいため、NAFLとNASHの総称として「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」とも呼ばれる。 NASHは、炎症を繰り返すうちに線維化が進み(肝硬変)、肝がんに至るケースもあるとわかってきた。20年ほど前は、「脂肪肝は、がんにならない」と言われていたが、ウイルス性肝炎由来の肝細胞がんが治療法の進歩により減り、相対的に、脂肪肝炎由来のがん症例の増加が浮き彫りになっているという。 小関氏は、「NASHがウイルス性肝炎と決定的に違うのは、虚血性心疾患のリスクを伴う点。米国において、NAFLD患者は肝がんより心血管疾患で死亡する例のほうが多いという報告1)もある。脂肪肝と脂肪肝炎は、今後さまざまな診療科が連携して診療していくべき疾患だ」と強調した。線維化の段階を評価し、NASHが疑われる場合は専門医へ NAFLDは、肥満や糖尿病をはじめとする生活習慣病と高率に合併し、国内の有病率は、男性では40~59歳の40%以上、女性では60~69歳の30%以上との報告がある。また、NAFLD患者の生存率は、肝線維化と強く関連することがわかっている。 脂肪肝は、腹部エコーで腎皮質よりも白く映る(肝腎コントラスト陽性)所見により、健診などで発覚し、その後は『NAFLD/NASH診療ガイドライン20142)』のチャートに従って診断される。線維化の段階を評価するためには、FIB-4 index(肝線維化の進行度を非侵襲的に推測するためのスコアリングシステム/日本肝臓学会)や、MR Elastographyを用いた画像化による方法があり、NASHが疑われる場合は、専門医の受診が勧められる。動脈硬化性疾患のリスクに潜む“隠れ脂肪肝”を、今後見過ごすわけにはいかない。酸化コレステロールが「超悪玉コレステロール」のプラーク形成促進 次に、的場 哲哉氏(九州大学病院 循環器内科)が、酸化コレステロールと動脈硬化の関連性について説明した。動脈硬化は、高血圧、脂質異常症、糖尿病などによってダメージを受けた血管壁に、LDLが入り込むことで進行する。 通常、LDLはコレステロールを肝臓から末梢に運んでいるが、生活習慣病の人には、血管壁に入り込みやすい、小型で密度の高いLDL(small dense LDL)が存在するという。これは、“超悪玉コレステロール”とも呼ばれ、近年注目を集めている。このsmall dense LDLが、動脈硬化を強力に誘発すると考えられ、血清脂質値が正常にもかかわらず、動脈硬化を引き起こした例も報告されている。 血管壁に入り込んだLDLは、「酸化」されることで白血球のターゲットとなり、プラークの形成をもたらす。LDLの酸化反応は、身近な食品中にも含まれる「酸化コレステロール」によって促進され、とくに、small dense LDLは酸化しやすい。 つまり、動脈硬化を防ぐためには、酸化コレステロールが多く含まれる食品を避けたほうがよい。例えとして、焼き鳥の皮の部分、インスタントラーメンの麺、マーガリンやマヨネーズの変色した部分、二度揚げされた揚げ物、漬け込み保存された魚卵、加工肉食品、するめやビーフジャーキーなどUV照射を受けた食品などが挙げられた。酸化コレステロールを含んだ食品は食べないのが一番 続いて的場氏は、酸化コレステロールと心血管疾患との関連を裏付ける研究結果を紹介した。経皮的冠動脈インターベンション後の治療薬による効果をスタチン単独とスタチン+エゼチミブでランダム比較した「CuVIC Trial3)」では、冠動脈疾患患者において、血中酸化コレステロール高値が、LDL-コレステロール高値とともに冠動脈内皮機能障害と関連することが明らかになった。この内皮機能障害は、エゼチミブのコレステロール吸収阻害作用によって軽減されることが示された。 酸化コレステロールについてはさまざまな研究が行われているが、まだ解明できていない点も多く、現行のガイドラインには記載されていない。酸化コレステロールをバイオマーカーや治療標的として利用するためには、引き続き研究を重ねる必要がある。 同氏は、「酸化コレステロールを特異的に下げる薬はまだない。まずは酸化コレステロールの摂取を避け、食事療法と運動療法を組み合せた生活習慣の改善が重要」と締めくくった。

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肺結核の家庭内接触、多剤耐性菌の感染リスクは?/BMJ

 肺結核患者の家庭内接触者では、多剤耐性菌は薬剤感受性菌に比べ結核感染リスクが高いが、結核症の発病リスクは両群に差はないことが、米国・ハーバード大学医学大学院のMercedes C. Becerra氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年10月24日号に掲載された。既報の分子疫学研究では、薬剤耐性結核菌株は感染可能であり、耐性株のクラスターは長期に存続可能であることが示されている。また、いくつかの研究では、家庭内接触による結核の感染リスクは薬剤耐性菌と感受性菌で差はないとされるが、最近の研究では、多剤耐性菌に曝露した家庭内接触者は薬剤感受性菌への曝露に比べ、結核症の発現の可能性が半減すると報告されている。ペルーのリマ市内106施設が参加した前向きコホート研究 研究グループは、肺結核患者の家庭内接触者における、薬剤耐性菌と結核感染/結核症発病リスクの関連を評価する目的で、前向きコホート研究を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成による)。 患者登録は、2009年9月~2012年9月の期間に、ペルーのリマ市内106ヵ所の健康センターで行われた。初発結核患者3,339例の家庭内接触者1万160例のうち、6,189例は薬剤感受性の結核菌株に曝露し、1,659例はイソニアジドまたはリファンピシンのいずれか一方に耐性の結核菌株、1,541例はこれら2剤の双方に耐性の結核菌株に曝露していた。 主要アウトカムは、結核感染(ツベルクリン反応検査陽性)と、12ヵ月後の活動性結核症の発病(喀痰塗抹陽性または胸部X線検査で診断)とした。多剤耐性菌は、感染リスクが8%高い 微生物学的に結核症と確定され、薬剤感受性検査を受けた初発患者3,339例のうち、1,274例(38%)が1剤以上に対し耐性で、538例(16%)が1剤のみに耐性(単剤耐性)、478例(14%)がイソニアジドとリファンピシンの双方に耐性(多剤耐性)、258例(7%)は複数の薬剤に耐性だが多剤耐性ではなかった(polyresistant、イソニアジドとリファンピシンの双方は含まない)。 登録時に、家庭内接触者のうち4,488例(44%)が結核菌に感染していた。イソニアジド単剤耐性結核の初発患者の家庭内接触者は、薬剤感受性結核に曝露した家庭内接触者に比べ、12ヵ月後までの感染リスクが16%(95%信頼区間[CI]:8~24)高かった。また、多剤耐性結核に曝露した家庭内接触者は、薬剤感受性結核に曝露した家庭内接触者と比較して、12ヵ月後までの感染リスクが8%(95%CI:4~13)高かった。 薬剤耐性結核に曝露した家庭内接触者と、薬剤感受性結核に曝露した家庭内接触者の間に、新規結核症の発病の相対ハザードに差は認められなかった(イソニアジド単剤耐性結核:補正後ハザード比:0.17、95%CI:0.02~1.26、多剤耐性結核:1.28、0.9~1.83)。 著者は、「これらの知見は、ガイドライン策定者に対し、感染および発病の早期発見と効果的な治療などにより、薬剤耐性と感受性の結核を標的とする行動を取るよう促すエビデンスをもたらす」としている。

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TNM分類と取扱い規約は統合可能か?/日本癌治療学会

 本邦では、臓器別に各学会が作成する取扱い規約が使われてきたが、世界中の日本以外の国で主に使用されるのは国際対がん連合(UICC)/米国がん合同委員会(AJCC)によるTNM分類である。国際的な臨床試験への参加時や、論文投稿時に生じる齟齬への対応策はあるのか。第57回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)で、がん研究会有明病院消化器外科の佐野 武氏が、「日本の取扱い規約とUICC/AJCC TNM分類は統合可能か? 」と題した講演を行った。TNM分類の用語や分類を混同するケースが問題 はじめに佐野氏は、取扱い規約とTNM分類の本質的な違いについて解説。取扱い規約が日本人患者のみを対象に、臓器ごとのルールに則り、病期・病理・治療・効果判定を扱っているのに対し、TNM分類はグローバルな使用を目的に、全臓器共通の原則に則り、臓器ごとの病期のみを扱うものである。両者の目的や枠組みの違いを混同すべきではなく、「TNM分類に従った治療などというものはない。日本の臨床医にとって、取扱い規約は目の前の患者に最も適した診断・治療法を探るための規約であり、独自の分類があることはメリットといえる」と話した。 問題は、TNM分類への正確な翻訳ができない、あるいは一部が似ているために用語や分類を混同するケースがある点だと同氏は指摘。胃がん領域では、2010年に国内で取扱い規約とガイドラインの改訂が行われ、同時期にTNM分類も改訂が予定されていた。両者を比較すると、例えば“M1”は胃癌取扱い規約では腹腔外転移を表すが、TNM分類では領域リンパ節転移以外の転移すべてを表していた。また領域リンパ節(N)の扱いや、深達度(T)で表す対象としてリンパ管侵襲(Ly)と静脈侵襲(V)を含むかどうか、なども異なっていた。TNM分類に翻訳可能な形に整理された胃癌取扱い規約 そこで、胃癌取扱い規約(第13版→第14版)および治療ガイドライン(第2版→第3版)の改訂にあたって、大規模な整理が行われた。最も大きな問題とされたのは、領域リンパ節の扱い。TNM分類では単純に転移リンパ節個数のみを評価するが、取扱い規約では各リンパ節に番号が振られ、どのリンパ節への転移かによってグルーピングし、病期を評価してきた歴史がある。表記としては同じN1~N3が、指し示す内容としては全く異なるものとなっていた。胃癌取扱い規約の第14版では、このグルーピングをなくし、ステージングについてはTNM分類と一致させる方向で改訂を行った。従来のリンパ節番号や肝転移(H)、腹膜転移(P)の考え方は残しつつも、TNM分類に翻訳可能な形に整理されている。 治療についてはガイドラインに移行させ、紙面上では規約独自のものは黒字、TNM分類と共通のものは青字と区別できるようにした。一方、同時期に行われていたTNM第6版から第7版への改訂過程において、AJCCは食道がんのみのデータに基づいて食道と胃でステージングを統一しようと動いていた。これに対し、日本側は日本と韓国のデータベースに基づく新たな胃がんのステージングを提案し、実際に採用された経緯がある。さらに、国際胃癌学会(IGCA)を通じて、世界中から2万例以上のデータを集めて解析した結果をもって提案した新たなステージングが、取扱い規約第15版およびTNM分類第8版に採用されている。 佐野氏は「日本が長年にわたり蓄積してきた詳細で正確なデータベースは国際的な分類の改訂にも貢献できるもの」と話し、UICC/AJCCに対する積極的な働きかけも必要であることを強調した。「両者を統合することはできないし、する必要はない」とし、「ただし、ステージングに関しては日本の規約がTNMを受け入れることで国際的な齟齬はなくなるであろう。わが国は、診断、病理、治療の分野で独自性を維持すればよいのではないか」として講演を締めくくった。TNM分類と読み替えできる「領域横断的がん取扱い規約」 国内に目を向けると、各取扱い規約の間で臓器別に異なる用語・記載法・記載順が採用され、改訂時期もバラバラな状態が続いてきた。国際的・臓器横断的なバスケット試験も増加する中、日本癌治療学会では日本病理学会と共同で、日本におけるがんの病期分類の標準化をめざして、「領域横断的がん取扱い規約 第1版」を刊行した。 本規約は、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんなど22領域を網羅。病理医や腫瘍科医にとって大きなフラストレーションとなっていた「臓器によって情報の掲載順・掲載方法が異なる」点を改善し、臨床情報→原発巣→組織型→病期分類と記載順と形式を統一している。記号や用語の違いについても、本書における「総則」を冒頭で定義し、それとは異なる点については側注で解説している。また、TNM分類と共通の記述については青字で区別し、適宜側注で解説が加えられて、読み替えができるよう構成されている。

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ありそうでなかった市中肺炎の教科書【Dr.倉原の“俺の本棚”】第24回

【第24回】ありそうでなかった市中肺炎の教科書呼吸器内科医が毎日のように出合う疾患が、市中肺炎。もちろん、かぜ症候群もコモンかつ大事な疾患ですが、両者の大きく違うところは、市中肺炎には適切な抗菌薬が必要であるという点です。病院では抗菌薬適正使用支援チーム(Antimicrobial Stewardship Team:AST)活動がさかんになって、不適切な処方をしていると第三者からの指摘が入る時代になりました。外来市中肺炎にとりあえずレスピラトリーキノロンを処方していたら、「ちょww、おまww」と言われます。『亀田流 市中肺炎診療レクチャー 感染症医と呼吸器内科医の視点から』黒田 浩一/著. 中外医学社. 2019市中肺炎については、研修医~若手医師向けに多大なニーズがあるにも関わらず、これに特化した医学書ってほとんどありません。どういう患者さんに市中肺炎を疑い、診断した後どのように重症度を評価し、そしてどの抗菌薬を使うか。全部きれいにまとまっているのがこの本です。私は、自身の著書で結構“チャラさ”を出してしまう性格なのですが、本書筆者の黒田浩一先生はロジカル&インテレクチュアル&トラストワージーです。私よりも3学年若い新進気鋭の感染症科医で、呼吸器内科医もやっておられるというから、親近感爆発尊敬マックス。この本が出版された直後、アメリカ胸部学会(ATS)/アメリカ感染症学会(IDSA)の市中肺炎ガイドライン1)が刊行されたのですが、黒田先生は近年のエビデンスもしっかり拾われているため、最新のガイドラインとほぼ相違ない内容になっていたのには驚かされました。ちなみに、くだんのガイドラインには「外来の市中肺炎でイチイチGram染色なんてやらなくてもいいよ」と書いてあるのですが、ちょっと暴論かなぁと思っています。みなさん、やりますよね?この本の帯には、ちょっと面白いことが書かれています。「呼吸器内科医は『画像』に強いが『微生物』に弱い?感染症医は『微生物』に強いが『画像』に弱い?」。これってまさにその通りで、私たち呼吸器内科医はあまりGram染色の向こう側にある微生物のキャラクターには注目せず、画像所見に重きを置いて重症度を判断してしまいがちです。反面、感染症医は、相手にしている微生物がどういうヤツらなのか、その顔色や見た目を観察することに没入してしまう。もちろん、両者の長所を融合させてこそ、適切な市中肺炎診療と言えるわけですが、2職種を経験している黒田先生だからこそ、バランスのとれた本書が完成したのだと確信しています。エビデンスベースドの市中肺炎診療をてっとり早く学びたい人には、オススメの一冊。『亀田流 市中肺炎診療レクチャー 感染症医と呼吸器内科医の視点から』黒田 浩一/著出版社名中外医学社定価本体3,600円+税サイズA5判刊行年2019年1)Metlay JP, et al. Diagnosis and Treatment of Adults with Community-acquired Pneumonia. An Official Clinical Practice Guideline of the American Thoracic Society and Infectious Diseases Society of America Am J Respir Crit Care Med. 2019 Oct 1;200(7):e45-e67.

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「日本版敗血症治療ガイドライン2020」の改訂ポイントを公開

 2019年10月2~4日に行われた第47回日本救急医学会総会・学術集会において、2020年夏に向け2回目の改訂作業が進む「日本版敗血症治療ガイドライン2020(J-SSCG2020)」の編集方針と改訂ポイントをテーマにしたパネルディスカッションが行われた。日本版敗血症治療ガイドライン2020改訂のポイント 冒頭に、2016年の日本版敗血症治療ガイドライン(J-SSCG2016)の作成委員会委員長を務めた藤田医科大学教授の西田 修氏が前回改訂を振り返った。「敗血症のガイドラインとしては『敗血症診療国際ガイドライン(SSCG)』があり、2004年に初版が刊行され、2020年には4回目の改訂が予定される同ガイドラインは国際的評価も高い。作成当初はこれを訳せばいいのでは、という声も多かった」と振り返った。敢えて日本版敗血症治療ガイドラインを作成した意義については、「日本独自の視点も大切にしながら、国際ガイドラインに劣らない質を追求し、それを人材育成につなげることを目指した」と述べた。日本版敗血症治療ガイドラインは当初は日本集中治療医学会が作成し、1回目の改訂にあたる日本版敗血症治療ガイドライン2016からは、同学会と日本救急医学会の合同作成となっている。 続いて、日本版敗血症治療ガイドライン2020作成委員会共同委員長を務める大阪大学准教授の小倉 裕司氏が、今回の改訂のポイントを述べた。「J-SSCG2016から委員は4割が入れ替わり、一般臨床の場で役立つ、SSCGにはない斬新な内容を取り入れる、時間的要素を取り入れ見せ方を工夫する、若手医師の積極的な参加を促して次世代育成を目指す、という4点を重視した」と述べた。 日本版敗血症治療ガイドライン2020の作成における特徴は以下のとおり。日本版敗血症治療ガイドライン2016から引き継がれた点も多い。・広い普及を目指す…一般の臨床家に使いやすく、質の高いガイドラインとする・適切な判断をサポート…臨床上必要なクリニカルクエスチョン(CQ)であれば、質の高いエビデンスの有無にかかわらず、すべてを取り上げる・質の担保/透明性の向上…若手メンバー中心に各領域を横断してサポートや査読を行う独立組織「アカデミックガイドライン推進班」を設置/パブリックコメントを複数回募集敗血症治療ガイドライン日本版独自の内容 日本版敗血症治療ガイドライン2020から新たに加わった内容・変更点は以下のとおり。・CQが89→117(予定)と約1.5倍に・神経集中治療・ストレス潰瘍・Patient-and family-centered care・Sepsis Treatment Systemの4領域を新たに追加・8領域の作成に多職種のワーキング・グループが参加・CQを24のバックグラウンドクエスチョン(BQ)と92のフォアグラウンドクエスチョン(FQ)に分け、FQはさらにエビデンスの強固さによって3つのグレードに分類 体温管理・ICU-AW、PICS、小児、神経集中治療の領域は、敗血症診療国際ガイドラインに含まれない日本版独自の内容となる。改訂ごとに増える内容を臨床の現場で有効に使ってもらうため、ダイジェスト版・電子版の発行とあわせ、今回新たにアプリ開発を進めるなど、多様な手段で新ガイドラインを提供する計画だ。また、ガイドライン策定にあたってのシステマティックレビューから複数の論文が生まれる、診療報酬改定に影響を与えるなど、副次的な効果も出ているという。また、敗血症に世間の関心が高まる中、日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本感染症学会の3学会合同で一般向け情報サイト「敗血症.com」を設置・運営し、積極的な情報提供も行っている。 日本版敗血症治療ガイドライン2020は2020年春の公開、夏の刊行が予定されており、ダイジェスト版、英語版も続いて出版される。

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高血圧の第1選択薬、単剤での有効性を比較/Lancet

 降圧治療の単剤療法を開始する際、サイアザイド(THZ)系/THZ系類似利尿薬はACE阻害薬に比べて優れており、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は、その他の第1選択薬4クラスの降圧薬に比べ有効性が劣ることが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のMarc A. Suchard氏らが行った系統的な国際的大規模解析の結果、示された。残余交絡や出版バイアスなども補正した包括的フレームワークを開発し、米国、日本、韓国などの490万例の患者データを解析して明らかにしたもので、その他の第1選択薬については、現行ガイドラインに合わせて降圧治療の単剤療法を開始した場合の有効性は同等であったという。高血圧に対する至適な単剤療法については曖昧なままで、ガイドラインでは、並存疾患がない場合はあらゆる主要な薬剤を第1選択薬に推奨されている。この選択肢について無作為化試験では精錬がされていなかった。Lancet誌オンライン版2019年10月24日号掲載の報告。高血圧の第1選択薬による治療の有効性と安全性に関する55のアウトカムを比較 研究グループは、数百万の患者の観察データを含む多くの薬剤の有効性アウトカムおよび安全性評価を比較可能とする、残余交絡、出版バイアス、p値ハッキングなどを最小限に補正したリアルワールドの包括的フレームワークを開発した。同フレームワークを用いて、6つの診療報酬請求データベースと、3つの電子診療録データベースについてシステマティックに解析を行い、高血圧の第1選択薬の降圧薬について治療の有効性と安全性に関する55のアウトカムを比較した。 有効性に関する主要アウトカムは3つ(急性心筋梗塞、心不全による入院、脳卒中)、副次アウトカムは6つ、安全性に関するアウトカムは46で、相対リスクを算出して比較した。高血圧の第1選択薬のうち、THZ系利尿薬はACE阻害薬に比べ良好 患者データ490万例の解析において、全クラスおよびアウトカムを比較した2万2,000の補正後・傾向スコア補正後ハザード比を得た。 高血圧の第1選択薬による単剤療法を開始する際、ほとんどの比較推算値は治療薬クラス間に差は認められないことを示すものだった。しかし、THZ系/THZ系類似利尿薬は、ACE阻害薬に比べ、主要有効性アウトカムが有意に高かった。初回治療におけるリスクは、急性心筋梗塞のハザード比(HR)0.84(95%信頼区間[CI]:0.75~0.95、p=0.01)、心不全による入院が0.83(0.74~0.95、p=0.01)、脳卒中が0.83(0.74~0.95、p=0.01)だった。安全性プロファイルも、THZ系/THZ系類似利尿薬はACE阻害薬よりも良好だった。 また、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬の有効性は、その他の高血圧の第1選択薬4クラスの降圧薬(THZ系/THZ系類似利尿薬、ARB、ACE阻害薬、ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬)に比べ有効性は有意に劣っていた。

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膀胱がん、ガイドライン4年ぶりに改訂/日本泌尿器腫瘍学会

 膀胱癌診療ガイドラインが2015年から4年ぶりに改訂された。日本泌尿器腫瘍学会第5回学術集会では、パネルディスカッション形式で膀胱癌診療ガイドラインの改訂ポイントについて解説した。 聖マリアンナ医科大学の菊地 栄次氏はStage IV膀胱がんの治療について、改訂された膀胱癌診療ガイドラインの6個のCQから一部を紹介した。・「局所進展例または骨盤内リンパ節転移を有する症例に対して膀胱全摘術は推奨されるか?(CQ19)」については、推奨の強さ2、エビデンス確実性Cで、「化学療法が有効であった症例には考慮することが推奨される」となっている。・「転移を有する膀胱がんに対する転移巣切除は推奨されるか?(CQ20)」については、推奨の強さ2、エビデンスの確実性Cで、「全身状態が良好な症例、病巣が単発で完全切除が可能な症例、化学療法が有効であった症例、病勢の進行が急速ではない症例等で転移巣切除を考慮することが推奨される」となっている。・「切除不能または転移を有する症例の1次治療としてGC療法は推奨されるか?(CQ21)」 については、推奨の強さ1、エビデンスの確実性Aで、「1次治療としてGC療法は推奨される」となっている。なお、2015年版の膀胱癌診療ガイドラインではM-VACとの比較であったが、今回はdose-dense M-VACとの比較である。・「1次治療抗がん化学療法後に再発または進行した局所進行性または転移性膀胱がんに対する免疫チェックポイント阻害薬使用は推奨されるか?(CG23)」については、「推奨の強さ1、エビデンスの確実性A で、「ペムブロリズマブを使用することが推奨される」となっている。なお、ESMO2019ではKEYNOTE-045の長期成績の結果が発表され、全生存期間(OS)は依然として有意差を示し、10%の完全奏効(CR)を得ている。 菊地氏は、今後のStage IV膀胱がん治療の展望として、外科的治療に対する臨床的意義の検証、さらなる新規薬物療法の登場、CDDP unfit例に対する新たな治療戦略への期待を挙げた。 高知大学の井上 啓史氏は、今回の膀胱癌診療ガイドラインにおける筋層非浸潤性膀胱がん(NIMBC)の腫瘍可視化技術の位置付けについて紹介した。・「膀胱がんの診断に腫瘍可視化技術(Photodynamic Diagnosis :PDD、narrow band imaging:NBI)は推奨されるか?(CQ1)」については、PDDは推奨の強さ1、エビデンスの確実性Aで、NBIは推奨の強さ1で、エビデンスの確実性Bで、「がん検出頻度が高まることから推奨される」となっている。・「NIMBCの治療の際にPDDやNBIは推奨されるか?(CQ4)」については、PDDは推奨の強さ1、エビデンスの確実性Aで「膀胱再発率の低下につながることから推奨される」、NBIは推奨の強さ2、エビデンスの確実性Bで「検出率を改善させるが、膀胱内再発率の低下につながるかは未確定である」となっている。 井上氏は、治療の始まりであるTUR-BTにおいては確実な切除と共に正確な診断が後治療に影響することから、今回の膀胱癌診療ガイドラインの改訂のなかでも腫瘍可視化技術の位置付けは、重要な項目の1つであるとしている。

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心臓手術後の輸血、フィブリノゲン製剤はクリオ製剤に非劣性/JAMA

 心肺バイパス手術後に臨床的に重大な出血と後天性低フィブリノゲン血症を呈する患者において、フィブリノゲン製剤投与はクリオプレシピテート投与に対し、バイパス手術後24時間に輸血された血液成分単位に関して非劣性であることが示された。カナダ・Sunnybrook Health Sciences CentreのJeannie Callum氏らによる無作為化試験「FIBRES試験」の結果で、著者は「フィブリノゲン製剤は、心臓手術後に後天性の低フィブリノゲン血症を呈する患者の輸血療法において使用可能と思われる」と述べている。大量出血は心臓手術では一般的な合併症であり、出血の重大な原因として後天性の低フィブリノゲン血症(フィブリノゲン値<1.5~2.0g/L)がある。後天性低フィブリノゲン血症に対してガイドラインでは、フィブリノゲン製剤もしくはクリオプレシピテートによるフィブリノゲン補充療法が推奨されているが、両製剤には重大な違いがあることが知られており、臨床的な比較データは不足していた。JAMA誌オンライン版2019年10月21日号掲載の報告。827例を無作為化、術後24時間以内の輸血単位を比較 研究グループは、心臓手術後の低フィブリノゲン血症に関連した出血の治療について、フィブリノゲン製剤がクリオプレシピテートに対して非劣性か否かを確認する無作為化試験を行った。カナダにある11病院で、心臓手術後に臨床的に重大な出血と低フィブリノゲン血症を呈する成人患者827例を登録。2群に無作為化し、心臓手術後24時間以内に、フィブリノゲン製剤4g(415例)またはクリオプレシピテート10単位(412例)をそれぞれ手順に沿って投与した。 主要アウトカムは、バイパス手術終了後24時間に投与された血液成分(赤血球、血小板、血漿)。平均単位比率の非劣性について2標本・片側検定により評価した(非劣性の比率の閾値<1.2)。 本試験は、計画された被験者数1,200例のうち827例が無作為化を受けた後の中間解析で、非劣性について演繹的な試験中止基準に達した。フィブリノゲン製剤群16.3単位、クリオプレシピテート群17.0単位 無作為化を受けた827例のうち735例(フィブリノゲン製剤群372例、クリオプレシピテート群363例)が輸血療法を受け、主要解析に包含された。735例の年齢中央値は64歳(四分位範囲:53~72)、女性が30%、72%が複合手術を受け、95%が中等度~重度の出血、処置前のフィブリノゲン値は1.6g/L(四分位範囲:1.3~1.9)であった。 バイパス手術後平均24時間の同種血輸血は、フィブリノゲン製剤群16.3単位(95%信頼区間[CI]:14.9~17.8)、クリオプレシピテート群17.0単位(95%CI:15.6~18.6)であった(比率:0.96[片側97.5%CI:-∞~1.09、非劣性のp<0.001][両側95%CI:0.84~1.09、優位性のp=0.50])。 血栓塞栓イベントは、フィブリノゲン製剤群26例(7.0%)、クリオプレシピテート群35例(9.6%)で発生した。

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第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?Q1 ABIだけで十分? それとも他の検査も行うべき?頸動脈エコーや足関節上腕血圧比(ABI)は簡便であり、後述の通り冠動脈スクリーニングの意味もあるので、糖尿病の患者であれば一度は行っておくとよいと思います。頸動脈狭窄やABI低下はいずれも冠動脈疾患とよく合併します1)。頸動脈内膜剥離術(CEA)を行った頸動脈狭窄症例での冠動脈疾患合併は約40%みられるとの報告があります2)。ABI低下がなくても無症候頸動脈狭窄と冠動脈狭窄を呈する症例もあるので、やはり頸動脈エコーは行っておくべきでしょう。また頸動脈エコーを行うとQ2で述べる不安定プラークの有無を知ることができるので有意義です。Q2 頚動脈エコーの結果と治療法選択の判断について教えてくださいIMT肥厚がその後の心血管疾患の発症予測に使えることが知られていますが、軽度のIMT肥厚は糖尿病患者では高頻度で認められるため、これらの患者においては一般的な動脈硬化のリスク因子の介入を行っています。すなわち、禁煙の他、適切な血糖・血圧・脂質のコントロールです。この段階での抗血小板薬の投与は行いません。高度の肥厚があるものについては、冠動脈病変をスクリーニングしています(後述)。無症候頸動脈狭窄の患者への抗血小板薬の投与で、脳梗塞一次予防の介入エビデンスはありません。しかし観察研究では、≧50%あるいは≧70%狭窄のある患者で抗血小板薬投与が同側の脳卒中発症抑制に関連したという報告があり、2015年の脳卒中ガイドラインでも、中等度以上の無症候頸動脈狭窄では他の心血管疾患の併存や出血性合併症のリスクなどを総合的に評価した上で、必要に応じて抗血小板療法を考慮してよいとしています3)。われわれもこれに準じ、通常50%以上(NASCET法)の狭窄例では抗血小板薬を投与していることが多いです。一方、無症候頸動脈狭窄や高度のIMT肥厚は冠動脈疾患を合併していることが多いので、これらの症例では通常の12誘導心電図だけでなく、一度循環器内科を紹介し、心エコーの他、冠動脈CTや心筋シンチグラムなどを考慮しています(高齢者ではトレッドミルテストが困難なことが多いため)。2型糖尿病患者で冠動脈インターベンションやバイパス術を必要とするような、高度な冠動脈病変を伴う患者を検出するために適正なIMT最大値(Max IMT)のカットオフ値としては2.45mmという報告があり、参考になると思います4)。冠動脈病変が疑われれば、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレル)を投与する意義はさらに大きくなります。抗血小板薬による消化管出血リスクは年齢リスクとともに増加し、日本人では海外の報告より高いといわれます。胃十二指腸潰瘍の既往があるものや、NSAIDs投与中の患者ではとくに消化管出血に注意を払わなければなりません。冠動脈疾患をともなわない無症候頸動脈狭窄でとくに出血リスクが高いと考えられる症例には、患者に説明のうえ投与を行わないこともあります。あるいは出血リスクが低いといわれているシロスタゾールに変更することもありますが、頭痛や頻脈などの副作用がありえます。とくに頻脈には注意が必要で、うっ血性心不全患者には禁忌であり、冠動脈狭窄のある患者にも狭心症を起こすリスクがあることから慎重投与となっています。このため必ず冠動脈病変の評価を行ってから投与すべきと考えます。なお、すでに他の疾患で抗凝固薬を投与されているものでは、頸動脈狭窄に対しての抗血小板薬の投与は控えています。なお、無症候性の頸動脈狭窄が認知機能低下5)やフレイル6) に関連するという報告もみられます。これらの患者では認知機能やフレイルの評価を行っておくことが望ましいと考えられます。頚動脈エコー所見で低輝度のプラークは、粥腫に富んだ不安定プラークであり脳梗塞のリスクとなります7)。潰瘍形成や可動性のあるものもリスクが高いプラークです。このような不安定プラークが観察されれば、プラーク安定化作用のあるスタチンを積極的に投与しています。糖尿病治療薬については、頸動脈狭窄症のある患者に対し、とくに有効だというエビデンスをもつものはありません。SGLT2阻害薬は最近心血管イベントリスクを低下させるという報告がありますが、高齢者では脱水をきたすリスクがあるので、明らかな頸動脈狭窄症例には慎重に投与すべきと考えます。Q3 専門医への紹介のタイミングについて教えてください脳卒中ガイドラインでは高度無症候性狭窄の場合、CEAやその代替療法としての頸動脈ステント留置術(CAS)を考慮してよいとされています3)。脳神経外科に紹介し、手術になることは高齢者では少ないように思いますが、内科治療を十分行っていても狭窄が進展したり、不安定プラークが残存したりする症例などはCASを行うことが多くなっています。また、TIAなどの有症状症例で50%以上狭窄の症例では紹介しています。手術は高齢者のCEAやCASに熟練した施設で行うことが望まれます。最近、CEAやCASを行った症例において認知機能の改善が認められたという報告がみられており、エビデンスの蓄積が期待されます8)。末梢動脈疾患では跛行や安静時痛のある患者や、ABIの低下があり下肢造影CTを撮影して狭窄が疑われる場合に血管外科に紹介しています。腎機能が悪い患者については下肢動脈エコーや非造影MRAで代用することが多いですが、エコーは検査者の技量に左右されることが多く、またいずれの検査も造影CTよりは精度が劣ると考えられます。最近炭酸ガスを用い、造影剤を使用しない血管造影がありますが9) 、施行している施設は限られます。このような施設で検査を受けるか、透析導入のリスクを説明のうえ造影剤検査を行うか、しばらく内科治療で様子をみるかは、外科医と患者さんで相談のうえ、決めていただいています。 Q4 頚動脈エコー検査の頻度は? 何歳まで検査を行うべき?頚動脈エコーのフォロー間隔についてのエビデンスはありませんが、われわれは通常1年に1回フォローしています。無症候の頸動脈狭窄や不安定プラークが出現した場合、内科治療の強化や冠動脈のスクリーニングの検討が必要と考えますので、80~90代でも冠動脈インターベンションを行う今日では、このような高齢の方でも評価を行っています。IMTは年齢とともに健常者でも肥厚しますが、平均IMTは90歳代でも1mmを超えないという報告もあり10)、高度の肥厚は異常と考えます。また上述のように、無症候頸動脈狭窄に対して内科治療を十分行っていても病変が進展した際には、外科医に紹介する判断の一助となります。一方、頸動脈狭窄あるいは冠動脈CTで石灰化がある方でも、すでにしっかり内科的治療が行われており、かつ冠動脈検査やインターベンションの希望がない場合は検査の頻度は減らしてもよいかもしれません。 1)Kawarada O. et al. Circ J .2003;67; 1003-1006. 2)Shimada T et al. J Neurosurg. 2005;103: 593-596.3)日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017対応].pp88-89.協和企画;2017.4)Irie Y, et al. Diabetes Care. 2013;36: 1327-1334.5)Dutra AP. Dement Neuropsychol. 2012;6:127-130.6)Newman AB, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56: M158–166.7)Polak JF, et al. Radiology. 1998;208: 649-654.8)Watanabe J, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2017;26:1297-1305.9)Merz CN, et al. Angiology. 2016;67:875-881.10)Homma S, et al. Stroke. 2001; 32: 830-335, 2001.

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遠隔オリゴ転移再発乳がんの予後および予後因子/日本癌治療学会

 進行乳がん(ABC)のガイドラインの定義によるオリゴ転移がん(OMD)がNon-OMD(NOMD)と比べて有意に予後良好であり、通常の再発乳がんの予後因子である「遠隔転移巣の根治切除の有無」「転移臓器個数」「転移臓器部位」「無病期間(DFI)」「周術期の化学療法の有無」がOMDにおいても予後因子であることが示唆された。がん研有明病院/隈病院の藤島 成氏が第57回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)で発表した。 一部の進行乳がんにおいて長期予後が得られる症例があり、そのような症例としてOMDやHER2陽性乳がんが挙げられる。ABCのガイドラインにおけるOMDの定義は、転移個数が少なくサイズが小さい腫瘍量の少ない転移疾患とされており、その転移個数は5個以下となっているが、転移臓器の個数は定義されていない。OMDの転移臓器の個数は1つにすべきというドイツのグループからの意見もあり、その定義について議論されている。今回、藤島氏らはABCのガイドラインの定義によるOMDの予後を評価し、さらにOMDの予後因子を検討した。 対象は、がん研有明病院で原発性乳がんの手術を受け2005~14年に遠隔再発を来した患者612例のうち、重複がん、両側乳がん、追跡不能例を除いた437例。ABCのガイドラインに基づき分類したOMDとNOMDの予後を比較し、さらにOMDの予後因子を分析した。脳転移および転移個数5個以下でも根治切除不能と判断した症例はNOMDに分類した。 主な結果は以下のとおり。・OMDは133例、NOMDは304例であった。・再発時年齢中央値、DFI中央値、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体、HER2の発現は両群に有意差はなかった。・サブタイプ別では全体として両群に有意差はなかったが、トリプルネガティブ(TN)についてOMDが10.5%、NOMDが20.4%と、OMDのほうが少なかった。・転移部位について、肝転移、肺転移では両群に差はなかったが、骨転移、遠隔リンパ節転移はNOMDよりOMDで少なかった(どちらもp<0.01)。・再発後の初回全身療法はNOMDで化学療法が有意に多く(p<0.01)、OMDは内分泌療法が有意に多かった(p<0.01)。・OMD症例の14例(10.5%)に遠隔転移巣の根治切除術が実施されており、14例中13例が1臓器のみの転移であった(肺転移:9例、肝転移:3例、骨転移:1例、子宮・卵巣:1例)。・追跡期間中央値は40ヵ月(範囲:0~150)、遠隔再発後の全生存期間(OS)中央値は、OMD(76ヵ月)がNOMD(33ヵ月)よりも有意に予後が良好だった(p<0.01)。・OMDにおけるサブタイプ別のOS中央値は、luminalが92ヵ月、luminal/HER2が126ヵ月と、HER2の59ヵ月、TNの52ヵ月より予後良好な傾向が認められた。・OMDにおけるOSに関する単変量比例ハザードモデル解析によると、ER陽性(p=0.02)、周術期の化学療法なし(p=0.01)、遠隔転移巣の根治切除あり(p=0.04)、1臓器のみの転移(p<0.01)、DFI 2年以上(p<0.01)、肝転移なし(p=0.04)、サブタイプがluminalもしくはluminal/HER2(p=0.03)が有意な予後良好因子であった。再発時年齢が50歳未満も予後良好な傾向がみられた(p=0.07)。・多変量比例ハザードモデル解析によると、周術期の化学療法なし(p=0.04)、遠隔転移巣の根治切除あり(p=0.03)、1臓器のみの転移(p<0.01)、DFI 2年以上(p<0.01)、肝転移なし(p=0.05)が有意な予後良好因子であった。・予後良好因子が2個以下と3個以上で分類すると、遠隔転移後のOS中央値は3個以上が106ヵ月で、2個以下の34ヵ月に比べて有意に予後が良好であった(p<0.01)。 藤島氏は、「ABCのガイドラインに基づいてOMDとNOMDに分類すると、OMDは有意に予後良好である。しかし、OMD患者の予後は臨床的因子によって異なるため、OMD患者の中でも臨床的因子を考慮した異なる治療戦略が必要ではないか」と述べた。

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万引き家族(前編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 1

今回のキーワード年金不正受給社会保険労務士疾病利得詐欺罪モラルハザード信書開封罪ノーリスクハイリターンシックロール「年金2000万円問題」が話題になりました。かつての「消えた年金」のように、年金政策は、一歩間違えれば、政権を揺るがす大問題に発展します。それだけ年金にまつわる不祥事は、国民にとって敏感な社会問題です。そんな中、皆さんは、精神障害年金というものがあるのを知っていますか? それが今、危うい「ビジネス」になっているかもしれないということも? そして、それが年金の財源を食いつぶすかもしれないということも? 実際に、インターネットで「障害年金」と検索すると、「受給成功率を上げる」「完全成功報酬制」などとのうたい文句が並ぶ精神障害年金の相談の広告があふれ出てきます。今回のテーマは、精神障害年金の不正受給です。これは一体、何なんでしょうか?不正受給はどうやって起きるのでしょうか? そして、どうすれば良いでしょうか?これらの問いへの答えを探るために、映画「万引き家族」の登場人物を再び取り上げます。以前は「万引き」を精神医学的に解説しました。今回は、社会医学的な視点で、精神障害年金にまつわる「ブラックボックス」を明らかにします。そして、障害年金が「ビジネス」として悪用されることなく、本当に必要な人に行き届く運用のあり方とその限界について一緒に考えていきましょう。年金の不正受給とは?「万引き家族」の登場人物の1人の初枝は、月に6万円近くの年金を得ていました。これは、65歳を目安とする老齢(高齢)の時期から支給される老齢年金です。その後に、初枝は急死します。しかし、同居している治と信代はその遺体を床下に埋めて、本人が「生きている」ことにして、初枝の年金の支給を代わりに受け続けます。これが、年金の不正受給です。年金の不正受給は、老齢年金だけでなく、障害年金でもありえます。障害年金とは、その障害によって、日常生活や就労に制限が生じている場合に支給されます。この障害年金の不正受給は、本人が「障害がある」ふりをして、可能になります。なお、この記事で「障害がある」とは、日常生活や就労に制限が生じるレベルとします。ただし、身体障害の場合、その認定には、客観的な検査による根拠が必要になるため、不正受給は起こりにくいです。一方、精神障害の場合、その認定には、必ずしも客観的な検査は必要ありません。患者の訴えをもとに、精神科医が「障害がある」と判断すれば、ほぼ認定されます。ここに、不正受給の「ブラックボックス」があります。さらに、昨今ではインターネットによる精神障害年金の相談対応で、障害年金に詳しい社会保険労務士(以下、社労士)が介入することが増えています。ここに、不正受給がビジネスになりうる「ブラックボックス」があります。なお、紹介する事例については、精神科医や患者からの聞き取り調査に基づいています。不正受給はなぜ起きるの?ここから、精神障害年金の不正受給が起きる原因を、患者、社労士、精神科医の3つの立ち位置に分けて、ぞれぞれの「ブラックボックス」を明らかにしてみましょう。ただし、ここで誤解がないようにしたいのは、これから解き明かす「ブラックボックス」はすべての患者、社労士、精神科医に当てはまるわけでは決してないということです。あくまで彼らの一定数に当てはまるということです。そして、その数が今後に増えていく危うさがあるということです。 患者の「ブラックボックス」治と信代は初枝の老齢年金を不正受給する際に、葛藤ありません。その原因については、以前すでに説明しました。これは、障害年金の不正受給をする心理にも当てはまります。この心理を前回の原因の状況に重ね合わせながら、まず患者の「ブラックボックス」を3つに分けてみましょう。(1)もらえるものはもらいたい-過剰な権利主張精神障害年金の受給金額は、基礎年金2級で月に6万5千円程度です。5年前までさかのぼった請求(遡及請求)をすれば、390万円が一気に手に入ります。これは、収入としてはかなりの額です。精神障害によって日常生活能力が下がっている場合には、非常にありがたく、この経済的なサポートによって、安心が得られ、病状を安定させる一因になることもあるでしょう。しかし、問題は、薬やリハビリなどの治療により病状が改善し、日常生活への制限がなくなった場合です。さらには、就労を始めた場合です。次の更新の時に、その状況を精神科医に報告できるでしょうか? 正直に報告してしまうと、「障害がある」と判断されず、受給が減額されたり、停止してしまいます。本人は、この事実に気付きます。すると、本人にはどういう心理が芽生えるでしょうか?1つ目は、お金を減らされたくない、もらえるものはもらいたいという心理です(過剰な権利主張)。つまり、「障害がある」ままにしておこうという心理です。この心理は、意識的ではありますが、無意識的な疾病利得の心理にもつながっています。これを強めるのは、以前解説した「やってはいけないことの意味がよく分かっていない」という状況です。うそをつくことは良くないことだというモラルが働かなくなっていることです。たとえば、障害年金の診断書の更新日が近付くと、急に不調を訴えます。「お金が減らされないように書いてください」と最初から本音を言う人もいます。また、正直に病状の改善を報告してしまい、実際に受給が減額されたり停止した場合には、その時になって、本人は不調を再度訴えます。実は具合が悪すぎて、そのことすら言えなかったと苦しい理屈を言う人もいます。怒り出す人もいます。せっかく始めた就労を中断するという実力行使に出る人もいます。そして、診断書の再作成を要求します。これは、ちょうど生活保護を受給している人がなかなか就労しようとしない心理に似ています。ちなみに、2016年に障害年金の等級判定ガイドラインが改定されてから、それ以前と同じ診断書の内容でも等級が下がったり、受給期間が短くなることで次回更新が早まるようになりました。本人たちがますます警戒する事態になっています。(2)自分だけ損したくない-損失回避障害年金を受給する前はどうでしょうか? 本人は、すでに受給している知人、インターネットの案内や個人のブログなどから、障害年金についての「裏ワザ」情報を得ます。そして、自分も病状を大げさに言えば、障害年金を得ることができることに気付きます。すると、本人にはどういう心理が芽生えるでしょうか?2つ目は、みんなやっている、自分だけ損したくないという心理です(損失回避)。つまり、「自分も障害者になったんだから、もらって当然だ」という心理です。これを強めるのは、以前解説した「やってはいけないことをする親(周り)がいた」という状況です。たとえば、「自分と同じ病気の友達はもらっているのに、なんで自分はもらえないんですか?」と精神科医に迫ります。これは、ちょうど給食費の未納問題やNHKの受信料問題にも通じる心理です。(3)バレても損しない-モラルハザード障害年金を受給しながら、実は「障害がある」ふりをしていたことや、就労の事実を隠していたことがバレた場合、どうなるでしょうか? 実際は、現時点で摘発されるということはないです。また、バレたとしても、それまでの受給金額の返金は求められる場合はありますが、よほど悪質でない詐欺罪(刑法246条)には問われないでしょう。本人は、この事実に気付きます。すると、本人にはどういう心理が芽生えるでしょうか?3つ目は、バレない、バレても損しないという心理です(モラルハザード)。つまり、「言ったもん勝ち」という心理です。これを強めるのは、以前解説した「やってはいけないことを刺激する社会がある」という状況です。世の中は、格差が開くのと相まって、価値観が多様化しました。これは、個人の権利意識が強まることであり、その分、他者(社会)への配慮が弱まることでもあります。それは、周り(社会)からどう思われるかを気にしなくなり、「やってはいけない」という心理が希薄になることでもあります。本来、障害年金は、障害が原因で働けない人のためにある制度です。それが、「障害」を理由に働かない人によって悪用されるという事態が起きています。 次のページへ >>

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ESMO2019レポート 消化器がん

レポーター紹介胃がんに対する術前化学療法の意義―PRODIGY試験とRESOLVE試験切除可能な進行胃がんに対する治療は本邦では、S-1、CapeOx、SOX、S-1+ドセタキセル(DS)による術後補助化学療法が標準的治療の位置付けである。欧州では、FLOT4試験の結果、術前術後に3剤併用療法を行うことが標準となった。今回、アジアから2つの術前治療に関する第III相試験が発表された。PRODIGY試験は、韓国で実施されたcT2-3N+M0またはcT4NanyM0に対する術前DOS療法+手術+術後S-1療法(以下、CSC群)の、手術+術後S-1療法(以下、SC群)に対する優越性を検証する第III相無作為化比較試験である。計530例が登録され、最終的な解析対象(FAS)は484例であった。年齢中央値は両群とも58歳、食道胃接合部原発が5%程度含まれていた。CSC群におけるGrade3以上の治療関連有害事象として、好中球減少12.6%、発熱性好中球減少9.2%、下痢5.0%を認め、術前治療中の治療関連死は0.8%であった。手術におけるR0切除割合は、CSC群(238例)96.4% vs.SC群(246例)85.8%(p<0.0001)であった。CSC群では病理学的完全奏効(CR)が10.4%(p<0.0001)で認められた。主要評価項目の3年無増悪生存期間(PFS)は、CSC群66.3% vs.SC群60.2%(HR:0.70、95%CI: 0.52~0.95、p=0.0230)であった。ITT解析でもHR:0.69、6ヵ月のランドマーク解析でもHR:0.71と一貫した結果であった。RESOLVE試験は、中国で行われたcT4a/N+M0またはcT4bNanyM0に対する、術後XELOX、術後SOX、術前SOX+手術+術後SOXの3群比較試験である。計1,094例が登録され、年齢中央値は59~60歳、食道胃接合部原発が35~38%含まれていた。術後化学療法実施割合は、各群66~70%であった。3年無病生存(DFS)は、術後XELOX群と比較して、術前術後SOX群で優越性が示され(54.78% vs.62.02%、HR:0.79、95%CI:0.62~0.99、p=0.045)、術後SOX群の非劣性が示された(54.78% vs.60.29%、HR:0.85、95%CI:0.67~1.07、Non-Inferiority margin:1.33)。以上、中国および韓国から2つの第III相試験が報告され、術前化学療法の優越性が検証された。試験の質も大きな問題はないと考えられ、本邦の実地臨床にも外挿できる可能性が高いと考えられる。ただ、中国の試験はcT4と局所進行症例の中でもより進行した集団が対象であること、韓国の試験は優越性を示すも、PFS曲線はほぼR0切除率の差がPFSの差につながっていることが示唆されることを考慮すれば、すべての切除可能胃がんで術前化学療法が必要とは言い切れないだろう。ただ、発表からは術前化学療法の有害事象も許容範囲内で、術後合併症の発生割合も同程度であったことから、大きなデメリットが感じられない。本邦では、JCOG1509試験、JCOG1704試験の2つの胃がんにおける術前化学療法を検討する前向き試験が実施中である。前者はcT3-4N+M0(肉眼型大型3型および4型を除く)を対象に術前S-1+オキサリプラチン(OX)療法の優越性を無治療群と比較する第III相試験、後者はBulky Nがあるものを対象にしたDOS療法を評価する第II相試験である。これらの試験の結果を待つか、中国・韓国のエビデンスを外挿するか、もう少し国内での議論が必要かもしれない。BRAF V600E変異型大腸がんに対する新規分子標的治療―BEACON試験切除不能BRAF V600E変異陽性大腸がんは、大腸がんの約5%に認められ、きわめて予後不良である。大腸がん治療ガイドラインでは、1次治療においてFOLFOXIRI+ベバシズマブ療法が推奨レジメンの1つとなっているが、2次治療以降には有効な治療が乏しいのが現状である。BRAF変異陽性メラノーマや非小細胞肺がんではBRAF阻害薬+MEK阻害薬の有効性が示されており、同様の治療戦略が大腸がんでも期待されていた。BEACON試験は、BRAF V600E変異を有する切除不能・進行再発大腸がんにおいて、1次治療もしくは2次治療後に腫瘍進行を認めた患者を対象とした無作為化第III相試験である。対象患者665例は、エンコラフェニブ+ビニメチニブ+セツキシマブの3剤併用療法群、エンコラフェニブ+Cmabの2剤併用療法群、FOLFIRI+Cmab療法またはIRI+Cmab療法のコントロール群の3群に、1:1:1で無作為に割り付けられた。OS期間中央値は、3剤併用療法群vs.コントロール群で9.0ヵ月vs.5.4ヵ月(p<0.0001)、2剤併用療法群vs.コントロール群で8.4ヵ月vs.5.4ヵ月(p<0.0003)、最初の331例のORRは3剤併用療法群vs.コントロール群で26% vs.2%(p<0.0001)、2剤併用療法群vs.コントロール群で20% vs.2%(p<0.0001)であり、主要評価項目を達成した。相対用量強度(RDI)は3剤併用療法群では、エンコラフェニブ 91%、ビニメチニブ 87%、Cmab 91%、2剤併用療法群では、エンコラフェニブ 98%、Cmab 93%、コントロール群では74~85%であった。Grade3以上の有害事象割合は、3剤併用療法群58%、2剤併用療法群50%、コントロール群61%であり、3剤併用療法群で下痢10%、貧血11%が高く、全Gradeの有害事象において2剤併用療法群で筋肉痛(13%)、関節痛(19%)、頭痛(19%)などの頻度がやや高かった。QOLに関してはQLQ-C30、FACT-Cにおいては差を認めなかった。以上から、3剤併用療法群において良好な有効性を認め、高いRDIを維持しながらも、管理可能な有害事象のプロファイルとQOLの維持を認めた。以上から、今後切除不能BRAF V600E変異陽性大腸がんにおいて、本併用療法は2次治療以降の標準治療として臨床導入されることが期待される。3剤併用療法で有効性がやや高く、有害事象も2剤併用療法とプロファイルが異なるだけでQOLに差がないことからまずは3剤併用でトライしてみることが勧められる。Grade3以上の消化器毒性は3剤併用療法で高いことから、その場合には2剤併用療法もオプションとなりえるだろう。今後メラノーマ同様に1次治療や補助療法での有効性にも期待したいところである。現状、臨床現場でも困っている患者さんのために、早急な薬事承認に期待したいが、まだ1年程度先になるだろう。それまでは、拡大治験の実施や患者申出制度の利用に活路を見いだしたいところである。ハイリスクStageII結腸がんに対する補助療法―ACHIEVE-2試験リンパ節転移のないStageII結腸がんでは、臨床病理学的な再発ハイリスク因子を持つ場合にのみ術後補助化学療法が推奨され、レジメンはCAPOX/FOLFOX療法やフルオロピリミジン単独療法が6ヵ月間行われる。StageIIIにおいて、IDEA collaborationの結果から、CAPOX/FOLFOX療法の3ヵ月投与が治療選択肢として確立されたことからハイリスクStageII結腸がんでも同様の検討が行われた。2019年ASCOでIDEA collaborationに参加した6つの臨床試験のうち、4つの試験(SCOT、TOSCA、ACHIEVE-2、HORG)の統合解析が発表され、主要評価項目である5年無病生存率(DFS)は非劣性が証明されず、negative studyであった。しかし、CAPOX群では3ヵ月と6ヵ月で大きな差を認めず、ハイリスクStageII症例の術後補助化学療法を行う場合でも、CAPOXなら3ヵ月への短縮が可能と結論付けていた。今回のESMOでは、本邦での試験であるACHIEVE-2試験の結果が発表された。514例が登録され、ハイリスク因子はT4 36%、低分化腺がん10~13%、郭清リンパ節転移個数不十分13%、腸閉塞発症19~20%、脈管侵襲陽性87~88%であった。観察期間中央値約36ヵ月の時点で、3年DFSは3ヵ月群88.2% vs.6ヵ月群87.9%であった(HR:1.12、95%CI:0.80~1.57)。レジメン別解析では、FOLFOX群(n=82)3ヵ月群88.6% vs.6ヵ月群85.7%、CAPOX群(n=432)3ヵ月群88.2% vs.6ヵ月群88.4%であった。サブグループ解析では、T4群では3ヵ月群76.2% vs.6ヵ月群79.7%(HR:1.28、95%CI:0.84~1.95)であった。本試験結果の解釈は非常に悩ましい。もともとIDEA collaborationは、統合解析が主体となっていることから、個々の試験の解釈をするときは、統合解析の結果と合わせて評価することが必要である。3年DFSで大きな差はないが、HRが1.12と少し1を超えている点は気になるところである。とくに、T4集団での解析では少数例の検討とはいえ、HR:1.28と1を大きく超えている。全体の3年DFSがlow risk StageIIIよりも悪いことも鑑みると、T4集団ではCAPOX 6ヵ月を選択することが妥当という印象を持った。スペシャルセッションの最後には、登壇者からStageII CCの補助療法のアルゴリズムが提案されたが、私自身はあまり納得のいくものではなかった。国内でのコンセンサス形成には少し時間がかかると思われた。まとめ今回のESMOでも、多くの新しいエビデンスに巡り合うことができた。胃がん、大腸がんでは肺がんなどに比べ新薬の登場が遅れており、その間に周術期治療の開発がトピックスとなっている印象を受けた。日本人の発表やディスカッサント登壇も多く、世界と一緒に新しい治療方針を議論している実感が得られた。腫瘍医としての矜持を持ち、目の前の患者さんにこの新しいエビデンスをどう適用させるかが肝要である。その過程で、また新たなクリニカルクエスチョンが生じ、それに答えるべく臨床試験に取り組む…この繰り返しの結果が今日までのがん治療の進歩であり、令和の時代にも継続していかねばならないだろう。

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CABG後のグラフト不全の予防に、抗血小板薬2剤併用が有効/BMJ

 冠動脈バイパス術(CABG)を受けた患者では、アスピリンへのチカグレロルまたはクロピドグレルの追加により、アスピリン単独に比べ術後の大伏在静脈グラフト不全の予防効果が大きく改善されることが、カナダ・ウェスタン大学のKarla Solo氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2019年10月10日号に掲載された。アスピリンは、CABG後の大伏在静脈グラフト不全の予防に推奨される抗血小板薬である。一方、アスピリンへのP2Y12阻害薬または直接経口抗凝固薬の追加の利点については不確実性が残るという。グラフト不全と出血を評価するネットワークメタ解析 研究グループは、CABGを受けた患者の大伏在静脈グラフト不全の予防における経口抗血栓薬の有用性を評価する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(特定の研究助成は受けていない)。 2019年1月25日現在、医学関連データベース(Medline、Embase、Web of Science、CINAHL、the Cochrane Library)に登録された文献を検索した。 対象は、CABG後の大伏在静脈グラフト不全の予防として、経口抗血栓薬(抗血小板薬または抗凝固薬)の投与を受けた年齢18歳以上の患者が参加する無作為化対照比較試験であった。 有効性の主要エンドポイントは大伏在静脈グラフト不全、安全性の主要エンドポイントは大出血とされた。副次エンドポイントは、心筋梗塞と死亡であった。2種の抗血小板薬2剤併用で、中等度の確実性を有するエビデンス 1979~2019年に発表された20件の無作為化対照比較試験に関する21編の論文が、ネットワークメタ解析に含まれた(4,803例、9種の介入[8種の実薬とプラセボ])。8種の実薬は、クロピドグレル、アスピリン、ビタミンK拮抗薬、チカグレロル、リバーロキサバン、アスピリン+チカグレロル、アスピリン+リバーロキサバン、アスピリン+クロピドグレルであった。 アスピリン単独と比較して、アスピリン+チカグレロル(オッズ比[OR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.31~0.79、治療必要数[NNT]:10例)、アスピリン+クロピドグレル(0.60、0.42~0.86、19例)の2種の併用療法は、大伏在静脈グラフト不全を有意に抑制することを支持する、中等度の確実性を有するエビデンスが得られた。 大出血、心筋梗塞、および死亡については、アスピリン単独と個々の抗血栓療法の差に関して、強力なエビデンスは認められなかった。 非推移性(intransitivity)の可能性を排除できないものの、試験間の異質性(heterogeneity)と非整合性(incoherence)は、すべての解析で低かった。また、グラフトごとのデータを用いた感度分析では、有効性の推定値に変化はなかった。 著者は「CABG後の抗血小板薬2剤併用療法は、重要な患者アウトカムへの安全性と有効性プロファイルのバランスをみながら、患者に合わせて調整する必要がある」とし、「今後のガイドラインの改訂では、CABGを受けた患者の抗血栓療法による管理を最適化する必要があり、2種の抗血小板薬2剤併用療法は、多くの患者で考慮されるべきであろう」と指摘している。

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SGLT2阻害薬は糖尿病薬から心不全治療薬に進化した(解説:絹川弘一郎氏)-1125

 ESC2019にはPARAGON-HF目当てで参加を決めていたが、直前になってDAPA-HFの結果が同じ日に発表されることとなり、パリまでの旅費もむしろ安いくらいの気持ちになった。もう少し発表まで時間がかかると思っていたのでESCでの発表は若干驚きであったが、プレスリリースで聞こえてきたprimary endpoint達成ということ自体は想定内であったので、焦点は非糖尿病患者での振る舞い一点といってもよかった。 なぜ、HFrEFに有効であることに驚きがなかったか、それはDECLAREのACC.19で発表された2つのサブ解析による。1つが陳旧性心筋梗塞の有無による層別化、もう1つがHFrEF/HF w/o known EF/no history of HFの3群間の比較である。ともに心血管死亡と心不全再入院というDECLAREのco-primary endpointに対する解析である。陳旧性心筋梗塞を有する群で明らかに早期からイベント抑制効果が認められ、EMPA-REG OUTCOMEやCANVASで心血管疾患の既往を有する患者で知られてきたSGLT2阻害薬の心不全予防効果が投与早期から現れるということは、言い換えると大半が虚血性心疾患であり、そしてそれは陳旧性心筋梗塞の患者であるということである。 心筋梗塞からHFrEFへ至る遠心性リモデリングは以前から研究された心不全モデルであり、β遮断薬やRAS阻害薬、MRAの有効性の根拠を与えるものである。そして、それはもう1つのサブ解析でHFrEFの患者だけ取り出すとより明確な形で示された。HFrEF患者のイベント発生数は他と比較して群を抜いて多く、そしてダパグリフロジンはHFrEF患者でやはり早期からきわめて明確にイベント抑制を果たした一方で、HFrEF以外の群では早期からカプランマイヤーが分離することはなかった。 この2つのサブ解析を見ると、今まで報じられてきたSGLT2阻害薬の投与初期からのイベント抑制は、実は大半陳旧性心筋梗塞またはHFrEFあるいはその両方を有する患者からの導出とすら言えるのではないかと思われる。DECLAREのサブ解析ではno history of HFの患者の、すなわちstage A/Bの患者ではほとんどイベントが起きておらず、また(とてもたくさんの患者がエントリーされて比較的長期間フォローされているにもかかわらず)ダパグリフロジンの効果は目に見えないほどである。EMPA-REG OUTCOMEでは心不全の既往がある患者でエンパグリフロジンの有効性が有意でなかったが、その後のCANVASではむしろ心不全の既往がある患者のほうでカナグリフロジンがはっきり有効であった。DECLAREの結果を合わせたメタ解析の結果を見れば、心不全患者に対する治療効果はすでに異論のないところであろう。 ここまで見てくると、SGLT2阻害薬はβ遮断薬やRAS阻害薬と同じカテゴリーで論じる必要がある薬剤と考えるべきであるし、そのメカニズムについていまだ明確ではないものの心筋梗塞から虚血性心筋症に至るHFrEFモデルでの解析が待たれる。こうして、ESC2019の前からHFrEFでは間違いなくダパグリフロジンが効くという確信があった。そして事実そうなったのであるが、これが糖尿病患者に限定した効果でないことも今回DAPA-HFで示されたことの意義は絶大である。非糖尿病患者でもSGLT2は近位尿細管に存在するわけで、とくにup-regulateされていない状況でもSGLT2阻害薬による浸透圧利尿効果は有用であるということのようである。 一方で、これまでの結果からやや予想し難いデータがあり、それは腎保護作用である。DAPA-HFにおいてはworsening renal functionについてプラセボより少なめではあったが有意差がなかった。これまでSGLT2阻害薬による腎保護作用は一貫して認められてきたところであり、ここは糖尿病性腎症の進展予防という観点で腎保護作用があると考えれば非糖尿病患者ではその有効性が認め難いのかもしれず、この辺りに関しては今後出てくるサブ解析を待ちたい。いずれにせよ、わが国の心不全ガイドラインのHFrEF治療薬にsacubitril-バルサルタンとイバブラジンと、そしてSGLT2阻害薬を書き加える日が近い。この余勢を駆ってHFpEFまで攻め込めるかどうか、今までのデータからは微妙であるが、これも今後続々と出てくる結果に期待したい。陳旧性心筋梗塞を有するEF<60%くらいまでは、PARAGON-HFと同様にSGLT2阻害薬が有用であろうと予想する。

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第31回 先入観に負けずに心電図を読め!~非典型的STEMIへの挑戦~【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第31回:先入観に負けずに心電図を読め!~非典型的STEMIへの挑戦~連載をはじめた当初、“2週に1回”の連載タイミングで、心電図の話題をいつまで続けられるかなぁ?…正直そう思っていましたが、気づけば前回で30回の“壁”を越えました。心電図って、本当に話題が尽きないんです(笑)。今回は、一見“なんてことない”状況が心電図と真正面から向かい合うことで一変する…そんな共体験をDr.ヒロとしましょう!症例提示89歳、女性。高血圧などで通院中。20XX年6月末、食事や入浴も平素と変わりなく、22時頃に就寝した。深夜1:30に覚醒し、強い悪心を訴え数回嘔吐した。下痢なし。嘔吐後、再び床に着くも喉元のつかえ感と悪心がおさまらず、早朝5:00に救急要請した(病着5:20)。前日の晩は家族と自宅でお好み焼きやキムチ、チャンジャを食べたが、同居家族に同様の症状の者はいない。来院時バイタルサイン:意識清明、顔色不良、体温36.2℃、血圧107/38mmHg、脈拍50~80拍/分・不整、酸素飽和度98%。来院時心電図を示す(図1)。(図1)救急外来時の心電図画像を拡大する【問題1】心電図所見として正しくないものを2つ選べ。1)心室内伝導障害2)ST低下3)ST上昇4)低電位(肢誘導)5)第1度房室ブロック解答はこちら1)、5)解説はこちら今回の症例は、悪心と嘔吐を主訴にやって来た高齢女性です。救急外来では“よくある状況”で、「感染性胃腸炎」や「食中毒」と判断してもおかしくない病歴かもしれません。でも、問題は心電図の読みです(笑)。救急外来の“ルーチン”か、はたまた「吐いた後にも喉のつかえ感が残る」という訴えがあったためか、いずれにせよ記録した以上はきちんと読む-これを徹底してください。もちろん「系統的判読」(第1回)を用いてね。1)×:「心室内伝導障害」(IVCD*1)とは「脚ブロック」をはじめ、QRS幅が幅広(wide)となる波形異常の総称です。後述するST-T部分が紛らわしいですが、今回はQRS幅としては正常(narrow)です。2)○:ST部分のチェックは、基線(T-P/T-QRS/Q-Qライン)とJ点(QRS波の切れ目)の比較でしたね。肢誘導ではI、aVL、そして胸部誘導ではV1~V5で1mm以上の「ST低下」が見られます。目を“ジグザグ運動”させることができたら、異常を漏れなく抽出できるはずです(第14回)。ちなみに自動診断では誘導が正しく拾い上げられていないことにも注目してください。3)○:この心電図では、広汎な誘導で「ST低下」が目立ちますが、ニサンエフ(II、III、aVF)では「ST上昇」が見られます。これも見逃してはなりません。4)○:「低電位(差)」は肢誘導と胸部誘導とで診断基準が異なります*2。「すべての肢誘導で振幅≦0.5mV」これが肢誘導の基準です。QRS波が5mm四方の太枠マスにすっぽり入れば該当し、今回は満たしています。5)×:これは、ボクの語呂合わせでは“バランスよし!”の部分に該当します。「PR(Q)間隔」とはP波とQRS波の“つかず離れず”の適度な距離感、これが“バランス”と表記した意味になります。上限値は200ms(0.2秒)ですが、「第1度房室ブロック」と診断するのは240ms(0.24秒)以上、すなわち小目盛り6個以上で、とボクは推奨しています。ただし、「P:QRS=1:1」である必要があり、普通、R-R間隔は整ですので、今回は該当しません。詳細は次問で解説します。*1:Intraventricular Conduction Disturbance*2:胸部誘導では2倍の1.0mV(1cm)がカットオフ値だが、肢誘導よりも圧倒的に少ない。【問題2】自動診断では「心房細動」となっている。これは正しいか?解答はこちら正しくない解説はこちらまた出た! Dr.ヒロの“自動診断いじり(笑)最近の心電計の診断精度は上がっているんですよ。ただ、時に機械は間違います。そんな時に信じられるのはただ一つ。そう、自分、人間の目です。“目立つ所見だけ言えてもダメ”心電図(図1)を見て目に飛び込んでくる華々しい「ST変化」…これだけに気をとられて、「調律」が何かを意識できなかった人はいますか? それじゃ、帽子をかぶって上着を着て、ズボンもはかずに外出するようなもの(下品な例えでスイマセン)。目立つものだけ指摘して、ほかの心電図所見を見落とすということは、それくらい“不十分”なことなんです。“レーサー(R3)・チェック”を活用すれば不整脈のスクリーニングにもなるんです*3。*3:1)R-R間隔:整、2)心拍数:50~100/分、3)洞調律のいずれか1つでも満たさなければ、その心電図には「不整脈」があると認識するのだった。R-R間隔は不整、心拍数は新・検脈法で60/分(第29回)。そして残りは“イチニエフの法則”ですね(第2回)。P波に注目です。QRS波ちょっと手前の“定位置”にP波がいない…?P波が「ある」ように見える部分と「ない」部分が…?「PR(Q)間隔」も伸びたり縮んだりしている…?イチニエフ…と見ていく過程で、こう感じた人は少なくないのではと思います。こういう時、まず当たりをつけるのに適した誘導はV1誘導です。右房に正対する位置で、距離的にも前胸壁で一番近くP波が見やすいです。さらに、この特徴に加え、二相性(陽性-陰性)のことが多く波形的にも目を引きやすいのもオススメな理由です。“P波探し”は不整脈の解析の肝であり、ちょっと慣れたら、次のようにビシッと指摘できるでしょう(図2)。(図2)V1誘導のみ抽出画像を拡大する大事なことですので、ぜひ拙著などでご確認ください(笑)。P波がコンスタントにある時点で「心房細動」ではないですよね? 実は、P波の間隔はほぼ一定で、1個目や5個目で「P-QRS」の順番が途切れており、これだけで「第2度房室ブロック」の「ウェンケバッハ(Wenckebach)型」と呼ばれるタイプだと指摘できる人は素晴らしい。5秒だと短いので、こういう時には、「手動(マニュアル)記録モード」にして長く記録すると良いでしょう。R-R不整が強く、心電計は「心房細動」と考えましたが、われわれはそれに釣られてはいけませんね。【問題3】来院後、再び嘔吐した。混血はなく、食物残渣・胃液様であった。心筋トロポニンT(cTnT):陰性、ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP):陽性であった。対応について正しいものを選べ。1)消化器症状が強いため、「“おなかの風邪”か“食あたり”でしょう」と説明して帰宅させる。2)制吐剤を含む点滴と内服処方を行い、後日外来での上部消化管内視鏡を薦める。3)H-FABPは偽陽性と考え、cTnTが陰性なことから急性冠症候群(ACS)は否定的と考える。4)救急外来で数時間待ってから採血と心電図を再検し、日中の通常業務の時間帯に入ってから循環器科にコンサルトする。5)自院で緊急心臓カテーテル検査が可能なら循環器医をコール、不可能なら即座に専門施設へ転送する。解答はこちら5)解説はこちら今回の高齢女性の主訴は悪心・嘔吐です。来院直後にベッドの上で嘔吐しました。90歳近い高齢であることを除けば“あるある”的な救急患者ですし、症状だけならば胃腸疾患と思えなくもありません。ただし、心電図を見てしまったらそうはならないはずです。「ST上昇」と「ST低下」が特定のコンビネーションで認められたら、何を考えますか? また、心筋バイオマーカーはどうでしょう?「ラピチェック® H-FABPなどの検査では偽陽性も多いし、トロポニン陰性だから大丈夫でしょ」そう考えるのもまたアウト。「何のために心電図をとったの!」ということになってしまいますね。“心電図をどう解釈するか”われわれ人間の性か、現行の心電図教育の関係かはわかりませんが、症状ごとに胸痛ならST変化に一点集中とか、心疾患っぽくなかったら心電図は見なくていいとか…さまざまな“決め打ち”や先入観が“心電図の語る真実”を見逃す原因になります。“とるなら見よ”、しかもきちんと―これがボクからのメッセージです*4。心電図を眺める時、いったんすべて忘れ去り、真っ白な心で読むのでしたね(第10回)。心電図(図1)で最も目立つのはST変化で、肢誘導ではII、III、aVF誘導の「ST上昇」、そしてI、aVL誘導の「ST低下」が認められます。ここで久しぶりに“肢誘導界”の円座標を登場させましょう。まずスタートは、aVLとIIIとが正反対に近い位置関係にあるということ(図3)。(図3)位置的に対側関係にある誘導は?画像を拡大する“大きな心”でとらえてくださいね。ST上昇のあるニサンエフ(II、III、aVF)とイチエル(I、aVL)って、心臓をはさんで反対の位置関係にありますよね? こうした真逆の2方向の組み合わせでST上昇・低下が見られた場合*5、“発言力”があるのは「ST上昇」のほうで、ほぼ確実にSTEMI(ST上昇型急性心筋梗塞)の診断となります。もちろん、できたら以前の心電図と比較して、過去にない「変化」が起きているのを確認できれば、なお確実性が高まります。今回の例は「下壁梗塞」疑いです。エフ(aVF)は“foot”ですから、何も覚えることなく「下壁」ですよね。加えて右冠動脈の近位部閉塞に伴う下壁梗塞の場合、時に房室ブロック(今回は第2度)を伴うという事実とも合います。ですから、心電図をとってDr.ヒロ流でキチンと読みさえすれば選択肢の5)が正しいとわかるでしょう。「STEMI=即、心カテ」はガイドラインでも銘記されています。ちなみに、選択肢3)は心筋バイオマーカーに関するものですが、汎用されるcTnTが陰性だから、ACSの可能性を否定してしまう選択肢4)のような対応もよくある誤りです(心電図を苦手にする人ほどこうしたミスを犯しがち)。STEMIでも発症後数時間のごく初期の段階ではトロポニン陰性も珍しくないんです。*4:その逆で“見ないならとるな”は間違い。さらに“見られないからとらない”は厳禁!…ちまたでは見かけるのも事実だが。*5:V1~V5の「ST低下」についても、V5はイチエルと“ご近所”(側壁誘導)、V1~V4は心臓の“前”で、II・III・aVFは“下≒後”と考えると対側性変化の一環として説明・理解できる。“「読めるか」より「とれるか」”心電図(図1)は波形異常と不整脈が混在し、それなりに読み甲斐のある心電図だと思います。ただ、この症例で一番難しいのは、心電図を「読めるか」より「とれるか」という点です。「気持ち悪い、吐きそう、吐いた、ノドのあたりがむかむか…」そんな訴えから胃腸疾患と決めつけてしまったり、看護師さんに「先生、これで心電図とるの?」と言われて“場の雰囲気”を重視したりすると痛い目にあいます。心筋梗塞の患者は、皆が皆、「強い前胸部痛」という典型症状で来院される方ばかりではありません。非典型例をいかに漏らさず拾えるかが、“できる”臨床医の条件の一つだとボクは思います。代表的な非典型的症状は、肩や歯の痛みですよね。また、今回の症例のように悪心や嘔吐なんかの消化器症状が目立って、心筋梗塞でテッパンの胸部症状がかすんでしまうこともあります。下壁梗塞の多くは、灌流域に迷走神経終末の多い右冠動脈の閉塞が原因であることから、胃部不快や嘔吐が多いと説明されています。心筋梗塞と嘔吐の関係を調べた古い文献によると、貫壁性(transmural)心筋梗塞の43%に嘔吐を伴い、前壁:下壁=6:4*6だったとのこと。時代やお国の違いこそあれ、さすがに普段の印象には合わない感じもしていますが…どうでしょう、皆さま?*6:重症の前壁梗塞によるショック状態で嘔吐が見られることがある。■非典型症状をきたす3大要因■(1)高齢者(2)女性(3)糖尿病今回の症例が難しいのは“何でもあり”の「高齢者」であること以外に「女性」であるわけです。女性の心筋梗塞は男性よりもわかりにくい症状なのは有名で、この連載でも扱ったことがあります(第6回)。“救急では心電図のハードルを下げよ”以上、消化器症状が強く出た高齢者の非典型的STEMI症例でした。『患者さんの訴えが心窩部より上のどこかで、それに対して“深刻感”を感じたならば心電図をとる』これをルーチンにすれば“見落とし”が少しでも減ると思います。とは言え、多忙な救急外来ではとかく“ハイ、胃腸炎ね”と片付けてしまい、ボク自身も反省すべき過去がないとは言えません。12誘導心電図は保険点数130点ですから、『3割負担の方でも“ほか弁”ないし“スタバのコーヒー”くらいの値段で大事な検査が受けられますよ』、と患者さんにも普段から説明するようにしています。多少は手間ですが、患者さんには無害な検査です。“空飛ぶ心電図”で谷口先生にお話を伺った際、「顎と心窩部にはさまれた部分」で一定の症状があったら、心電図を“とりにいく”姿勢の大事さを学びましたよね(第27回)。とくに救急現場では心電図はバイタルサインの次くらいに軽い気持ちでとるほうが無難です。くれぐれも心電図の苦手意識から「心電図をとるの、やめとこかな…」は“なし”にしましょう!! Take-home Message1)対側性変化で説明できるST上昇・低下が共存したらSTEMIと診断せよ。2)非典型症状に潜む“隠れ心筋梗塞”に注意せよ!~時に悪心・嘔吐が前面に出ることも~3)下壁梗塞では房室ブロックを合併することあり。1)杉山裕章. 心電図のはじめかた. 中外医学社;2017.p.128~137.【古都のこと~勧修寺雪見灯篭~】山科区の勧修寺(山号:亀甲山)は、前回・前々回と紹介した随心院からも徒歩10分圏内です。お恥ずかしながら、最近訪れるまでは「かんしゅうじ」と呼んでいましたが、実は「かじゅうじ」です*1。真言宗山階派の大本山で、醍醐天皇の母、藤原胤子(ふじわらの たねこ/いんし)の菩提を弔うため、平安中期の昌泰3年(900年)に創建されました。母方の実家である宮道(みやじ)家邸宅を寺に改め、父・藤原高藤*2の諡(おくりな)から「勧修寺」と命名されました。白壁の築地塀を横目に歩き山門から入って程なく、書院の庭には水戸光圀*3の寄進とされる「雪見灯籠」*4があります。周囲が樹齢約700年とも言われるハイビャクシンの枝葉に覆われているので、ボクは二、三度通り過ぎてようやくどれかわかりました(笑)写真はちょうど真裏から眺めた様子で、本当に前からは見えない! この灯籠のフォルムは「勧修寺型」と呼ばれ、灯籠の代表的パターンの一つらしいです。「京都へ来られたら見て通(トオ)ろう」というジョークが書かれた看板に微笑したのでした。*1:この辺りの住所は「かんしゅうじ○○町(ちょう)」というからややこしい。*2:高藤が山科で鷹狩りをした際、偶然雨宿りに訪れた宮道弥益(いやます)宅で娘の宮道列子を見初め、一夜の契りを交わした。後に列子を正室(妻)として迎え、娘の胤子は宇多天皇の女御(后)となって後醍醐天皇を産んだ。当時、中下流一家から皇族に入ることはあり得ず、『今昔物語』に記されたこの列子(「たまこ」とも読む)の成功譚が“玉の輿”の語源の一つともされる。ちなみに藤原高藤は紫式部の祖先であり、『源氏物語』に登場する光源氏と“明石の君”との恋バナは列子と高藤の話がモチーフだという話も。どれだけ奥深いんだ!…歴史って。*3:TVなどでお馴染みの“水戸黄門”とはその人。*4:「笠に積もった雪を鑑賞して楽しむためのもの」「笠の形に雪が積もった傘ように見える」「灯りを点すと(近江八景の)浮見堂に似ており、それが訛った」など諸説あるよう。

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悪い芽は早めに摘んでとりあえずコンプリートしておきますか!?:多枝病変を有するSTEMIへの戦略(解説:中野明彦氏)-1123

【背景】 STEMIにおける多枝病変の確率は40~50%で、STEMI責任病変のみの一枝疾患に比べ予後不良かつその後の非致死性心筋梗塞が多いことが報告されている。心原性ショックを合併していないSTEMI急性期に責任病変以外の“病変”に手を加えるべきかどうか、一定の見解は得られていても明確な回答が得られていない命題である。急性期介入の期待される利点は、STEMIによる血行動態の悪化が他病変灌流域の局所収縮性を障害することへの予防的措置、あるいはhibernation(冬眠心筋)を来している領域の心機能改善が結果としてSTEMIの予後を改善する可能性、などが挙げられる。一方その弊害として想定されるのは、他枝へのPCIが側枝閉塞や遠位塞栓を合併した場合の余計な心筋障害や造影剤増量による心負荷、腎障害などであろう。 これまでこの命題に挑んだランダム化試験は、知る限り2013年から2017年に報告されたPRAMI(n=465)、CvLPRIT(n=296)、DANAMI-3-PRIMULTI(n=627)、Compare-Acute(n=885)の4つである。多くの試験で観察期間中の再血行再建術が有意に減少、これらを包括した最新の日本循環器学会・ESCガイドラインでは入院中の非梗塞責任血管へのPCIをクラスI~IIaに設定している。しかし期待された予後改善効果は全試験で否定され、また多くの試験で新規MI発症も抑制されなかった。【COMPLETE試験について】 本試験は同じ命題に取り組んだ最新かつ最大規模(n=4,041)、さらに最長の観察期間(約3年)を設定したランダム化試験で、議論決着への期待も大きかった。残枝PCIの適応は虚血の有無にはこだわらず視覚的な70%狭窄以上に設定(70%未満+FFR≦0.80でのエントリーは1%以下とわずか)、PCIのタイミングはad-hoc(single-stage)やimmediate(multi-stage)だったこれまでの試験と異なり、入院中および45日以内までのdelayed PCIを許容し、サブ解析で両者の差異も検証した。 主たるエンドポイントの結果は、心血管死亡に差はなく、MI発症・虚血による血行再建(IDR)は血行再建群で有意に抑制された。懸念された大出血や腎障害などの弊害は増えなかった。 これらの結果をどう解釈すべきか:少し単純化して考えてみる。心血管死亡(2.9% vs.3.2%、HR:0.93)を「STEMIの重症度」、MI(自然発症は3.9% vs.7.0%)を「非責任病変以外の不安定プラーク」、IDR(1.4% vs.7.9%、HR:0.18)を「残存病変の重症度」に置き換えてみると…。・予後への影響:今回もまた他枝へのPCIがSTEMIの重症度を覆すほどのインパクトはないことが示された。immediateでもdelayed PCIでも差がなかったことが象徴的である。・MI発症抑制:ACS症例ではほかにも多くの不安定プラークを有し、特に急性期は内皮障害や炎症が亢進しやすいこと、他方でMIは非有意狭窄から発症する確率が高いことは以前から指摘されている。本試験では有意差はついたものの、70%以上の狭窄性病変を処理してもMI発症が半減すらしなかったことは、lesion severityとlesion instabilityが別物と改めて印象付けた。一方、有意差がつかなかった他の試験(CvLPRIT、Compare-Acute)でのHRは実は本試験より小さい。少ない症例数が影響した可能性が大きく、狭窄病変を潰しておけばある程度のMIは予防できるとも言える。・IDR:非血行再建群で多いのは当然だが、基準がさほど厳しいとも思えないのに非血行再建群のIDRが年率3%に満たない理由は不明である。他試験と比較しても明らかに低率で「そもそもホントに多枝病変?」と突っ込みたくもなる。やはり血管造影では残存病変の重症度を規定するのは難しいと言わざるを得ない。【議論に決着は着いたのか?】 一方は“yes”である。やはり予後は変えないのである。 他方、MI発症抑制・IDR予防についてはどうだろうか? 多枝病変を血管造影で定義した本試験において、完全血行再建が防いだのは1年間で1%のMIと2.3%のIDA…。果たしてコンプリートを目指す“preventive-PCI”は許容されるかどうか。 次のガイドラインはこの試験をどう解釈するだろう?

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日本で広域抗菌薬が適正使用されていない領域は?

 抗菌薬の使用量は薬剤耐性と相関し、複数の細菌に作用する広域抗菌薬ほど薬剤耐性菌の発生に寄与する。日本の抗菌薬使用量は他国と比べ多くはないが、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドといった経口の広域抗菌薬の使用量が多い。AMR臨床リファレンスセンターは9月24日、11月の「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」を前にメディアセミナーを開催。日馬 由貴氏(AMR臨床リファレンスセンター 薬剤疫学室室長)、具 芳明氏(同 情報・教育支援室室長)らにより、最新の使用量データや市民の意識調査結果が報告された。2020年までに“経口の広域抗菌薬半減”が目標 国主導の「AMR対策アクションプラン」は、2013年比で2020年までに(1)全体で抗菌薬を33%減少、(2)経口の広域抗菌薬を半減、(3)静注薬を20%減少、を目標として掲げている1)。実際の使用量データをみると、人口千人当たりの1日抗菌薬使用量は、2013年と比較して2018年で10.6%減少している。このうち、セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドはそれぞれ17~18%ほど減少がみられる。 一方で、内服用抗菌薬と静注用抗菌薬に分けてみると、この減少は内服用抗菌薬によるもので、静注用抗菌薬の使用量は全く減っていない。日馬氏は、「全体として目標達成にはさらなる努力が必要だが、とくに静注用抗菌薬の使用削減については今後の課題」とし、その多くが高齢者で使用されていることを含め、効果的な介入方法を探っていきたいと話した。本来不要なはずの処方にかかる費用の推計値は年10億円超 非細菌性急性上気道炎、いわゆるかぜには本来抗菌薬は不要なはずだが、徐々に減少しているものの、2017年のデータでまだ約3割の患者に処方されている。セファロスポリン、フルオロキノロン、マクロライドがその大部分を占め、費用に換算すると年10億円を超えると推定される2)。非細菌性急性上気道炎への抗菌薬処方率を患者の年齢別にみると、19~29歳で43.26%と最も高く、次いで30~39歳が42.47%であった。日馬氏はまだ推測の域を出ないとしたうえで、「就労世代でとくに使われがちということは、仕事を休めないなどの事情から患者側からの求めがあるのかもしれない」と話した。 もう1領域、課題として挙げられたのが急性膀胱炎に対する抗菌薬使用だ。2016年のデータで、急性膀胱炎に対する抗菌薬処方はフルオロキノロンが52.4%と最も多く、第3世代セファロスポリンが38.9%と、広域抗菌薬がほとんどを占める2)。実際、日本のガイドラインではフルオロキノロンが第1選択になっている。しかし、欧米ではST合剤などが第1選択で、フルオロキノロンは耐性への懸念から第1選択薬としては推奨されていない。同氏は、「使用期間は長くないものの患者数が多いため、広域抗菌薬全体の使用量に対する寄与が大きい」とし、「必ずしも欧米との単純比較ができるものではないが、日本でも広域抗菌薬から狭域抗菌薬にスイッチしていく何らかの方策が必要ではないか」と話した。薬剤耐性=体質の変化? 患者との認識ギャップを埋めるために AMR臨床リファレンスセンターでは、毎年市民を対象とした抗菌薬に関する意識調査を行っている。2019年はEU諸国でのデータとの比較などが行われ、具氏が最新の調査結果を解説した。「抗菌薬・抗生物質はかぜに効果がある」という項目に対して「あてはまらない」と正しく回答した人は35.1%、「あてはまる」と誤った認識を持っている人が45.6%に上った。EU28ヵ国で同様の質問をした結果は正しい回答が66.0%となっており、日本では誤った認識を持つ人が多いことが明らかとなった。 「今後かぜで医療機関を受診した場合にどんな薬を処方してほしいですか?」という問いに対しては、31.7%の人が「抗菌薬・抗生物質」と回答。「だるくて鼻水、咳、のどの痛みがあり、熱は37℃、あなたは学校や職場を休みますか?」という問いには、24.4%が「休まない」、38.5%が「休みたいが休めない」と答えており、働き方改革が導入されたとはいえ、休みたくても休めない実情が明らかになっている。 また、薬剤耐性という言葉の認知度について聞いた質問では、50.4%が「薬剤耐性、薬剤耐性菌という言葉を聞いたことがない」と回答している。「薬剤耐性とは病気になる人の体質が変化して抗菌薬・抗生物質が効きにくくなることである」という誤った回答をした人も44.3%存在した。具氏は、AMR臨床リファレンスセンターのホームぺージ上で患者説明用リーフレットの公開がはじまったことを紹介。「抗菌薬は必要ないと判断した急性気道感染症の患者に、医師が診察室で説明に用いることを想定したリーフレットなどを公開しているので活用してほしい」と話して講演を締めくくった。

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