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CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制か

 高尿酸血症は慢性腎臓病(CKD)患者で高頻度にみられる。高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法については、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』では、腎機能を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることが条件付きで推奨されている1)。また、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、保存期CKD患者に対する尿酸低下療法について、「腎機能悪化を抑制する可能性があり、行うことを考慮してもよい」とされている2)。しかし、CKD患者における血清尿酸値の管理目標に関する無作為化比較試験は存在しない。中国・中南大学のYilun Wan氏らの研究グループは、英国のデータベース(IQVIA Medical Research Data[IMRD])を用いて、痛風を有するCKDステージ3の患者への尿酸低下療法について、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成の有無別に腎機能への影響を検討した。その結果、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成群は、非達成群と比較して腎機能障害の進展が増加せず、むしろ抑制される可能性が示された。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年11月25日号で報告された。 本研究の対象は、IMRDに登録された40~89歳の痛風を有するCKDステージ3(eGFR 30~60mL/min/1.73m2が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ3の診断記録を有する)で、尿酸降下薬による治療を受けた患者1万4,792例であった。対象患者を尿酸降下薬開始から1年以内の血清尿酸値6.0mg/dL未満の達成の有無で分類し(達成群/非達成群)、腎機能への影響を検討した。両群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。target trial emulationの手法として、cloning-censoring-weighting法を用いて、達成群と非達成群を比較した。評価項目は腎機能高度低下または末期腎不全(eGFR 30mL/min/1.73m2未満が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ4/5、血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかの診断記録を有する)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢(平均値±標準偏差[SD])は73.1±9.5歳で、男性は62.3%(9,215例)であった。ベースライン時の血清尿酸値、eGFR(いずれも平均値±SD)は、それぞれ8.9±1.6mg/dL、49.9±12.3mL/min/1.73m2であった。・尿酸降下薬の内訳は、アロプリノールが98.8%(1万4,615例)、フェブキソスタットが1.2%(177例)であった。・尿酸降下薬開始から1年以内に血清尿酸値6.0mg/dL未満を達成した割合は31.8%(4,706例)であった。・追跡開始から5年間の腎機能高度低下または末期腎不全の発生率は、達成群が10.32%、非達成群が12.73%であり、調整リスク差は-2.41%(95%信頼区間[CI]:-4.61~-0.21)、ハザード比(HR)は0.89(95%CI:0.80~0.98)であった。・末期腎不全の発生率は、達成群が0.6%、非達成群が1.2%であり、調整リスク差は-0.63%(95%CI:-0.94~-0.32)、HRは0.67(95%CI:0.46~0.97)であった。 本研究結果について、著者らは「痛風を有するCKD患者において、血清尿酸値6.0mg/dL未満を目標とする尿酸低下療法は、忍容性が良好であり、CKDの進展を抑制する可能性も示された」と考察し、「痛風を有するCKD患者の治療において、血清尿酸値の目標値を達成するために、尿酸降下薬による治療を最適化することを支持するものである」とまとめた。

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自覚症状に乏しい糖尿病性腎症に早く気付いて/バイエル

 バイエルは、11月14日の「糖尿病の日」に合わせ、糖尿病と合併症に関する啓発イベントを開催した。イベントでは、糖尿病専門医による糖尿病に関するプレスセミナーとお笑いコンビ「ガンバレルーヤ」をゲストに迎えての市民向けの疾患啓発が行われた。糖尿病の合併症の腎臓病では透析導入になりやすい 「糖尿病と合併症ってどんな病気? 患者さん中心の医療について考える」をテーマに坊内 良太郎氏(国立国際医療研究センター 糖尿病研究センター/糖尿病内分泌代謝科)が、糖尿病の病態、診療、合併症を抑えるポイントを解説した。 わが国の糖尿病と疑われる人の数は約2,000万人にのぼり、国民の5~6人に1人は糖尿病の危険があるとされる国民病となっている。 糖尿病は「インスリンの作用不足により起こる血糖値が高い状態が続く疾患」であり、診断では空腹時血糖値が126mg/dL以上、食後血糖値、ブドウ糖負荷試験2時間値が200mg/dL以上あれば糖尿病が強く疑われ、再度の検査で確定診断となる。また、健康診断などでよく話題になるHbA1cも6.5%以上は糖尿病が強く疑われる指標となる。 糖尿病にはI型、II型、妊娠、そのほか(薬剤性、肝臓疾患など)の4種類があり、その症状として「のどの渇き、水分の多飲」「日中・夜間の頻尿」「疲れやすい」「体重減少」などがある。そして、これらの症状は自覚症状に乏しく放置しがちであり、医療機関を受診しないことで合併症のリスクが高まる。 糖尿病合併症では、脳卒中、心筋梗塞、壊疽(神経障害)などの大血管障害と網膜症、腎症、神経障害などの細小血管障害がある。また、併存症として肺炎などの感染症、肝臓・膵臓などの悪性腫瘍、歯周病なども糖尿病患者では起こりやすく、重症化しやすい。 とくに糖尿病性腎症は、慢性腎臓病(CKD)の代表的な疾患であり、病期がかなり進行するまで自覚症状に乏しいために、診断がされたときには腎不全で透析導入になるケースが多い。実際、日本透析医学会の調査では、糖尿病性腎症は透析導入の約4割を占めていると報告されている。糖尿病合併症の抑制には血糖、血圧、脂質の厳格な管理が求められる 現在、日本糖尿病学会では、診療ガイドラインなどで糖尿病治療の目標として、「健康な人と変わらない寿命と生活の質(QOL)の達成」を示している。糖尿病の根治が難しい以上、合併症を抑えることが重要となる。 糖尿病治療の基本は、食事療法と運動療法だが、これでも効果が不十分な場合に薬物療法が追加される。いずれも患者の自主的な取り組みなしには成功しない治療である。また、HbA1cを7%未満に抑えれば網膜症や腎症の悪化リスクを抑えことができるという研究報告1)のほか、血圧を130/80mmHg未満に抑えたり、LDLコレステロールを適切に管理したりすれば合併症のリスク低減が期待できるため、ガイドラインなどで推奨されている。そのほか、わが国のJ-DOIT3の研究結果から血糖、血圧、脂質の厳格な管理が糖尿病の合併症予防につながり、とくに脳血管合併症や腎症に効果があるとされている2)。 最後に坊内氏は、糖尿病やCKDの治療において大切なこととして、「医師やメディカルスタッフとのコミュニケーションが重要である。共同意思決定(SDM)として治療のゴールを決めるために、患者さんが価値観や好みをきちんと医師などに伝えることで、患者さん個々に合った治療法の提案をすることができる」と語り、講演を終えた。 この後開催された疾患啓発イベント「体験型ボードゲームで学ぶ糖尿病と合併症 ~腎臓の声に耳を傾けよう~ in 丸の内」のオープニングイベントでは、先の講演者の坊内氏が糖尿病の3大合併症として、網膜症、腎症、神経障害を挙げたうえで、糖尿病性腎症はかなり進行するまで自覚症状に乏しいことに言及。「定期的な検査、とくに尿検査を行い、このイベントのタイトルにもなっている『腎臓の声』にしっかり耳を傾けよう」と呼びかけ、ゲストのガンバレルーヤの2人は「自覚症状が出にくいからときちんと病院に行って定期的に検査を受けることが大事なんですね」と早期発見の大切さに納得していた。また、会場では、特大サイズのボードゲームが人気で、多くの参加者が糖尿病とその合併症について学んでいた。

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虚血性心筋症の心室頻拍、カテーテルアブレーションは有効か/NEJM

 虚血性心筋症で心室頻拍を有する患者において、抗不整脈薬治療と比較してカテーテルアブレーションによる初期治療は、複合エンドポイント(全死因死亡、心室頻拍発作、適切な植込み型除細動器[ICD]ショック、内科的治療を受けた持続性心室頻拍)のイベントリスクを有意に低下したことが、カナダ・ダルハウジー大学のJohn L. Sapp氏らVANISH2 Study Teamが実施した「VANISH2試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年11月16日号で報告された。欧米3ヵ国の医師主導型無作為化試験 VANISH2試験は、3ヵ国(カナダ、米国、フランス)の22施設で実施した医師主導の非盲検(エンドポイントのイベント判定は盲検下)無作為化試験であり、2016年11月~2022年6月に患者を登録した(カナダ健康研究所[CIHR]などの助成を受けた)。 心筋梗塞の既往があり、臨床的に重要な心室頻拍(心室頻拍発作、適切なICDショックまたは抗頻拍ペーシングの実施、緊急治療により停止した持続性心室頻拍と定義)を有する患者416例を登録した。これらの患者を、カテーテルアブレーションを受ける群に203例(平均[±SD]年齢67.7±8.6歳、男性95.1%)、抗不整脈薬治療を受ける群に213例(68.4±8.0歳、92.5%)を無作為に割り付けた。 全例がICDを装着していた。カテーテルアブレーションは無作為化から14日以内に施行し、抗不整脈薬治療は事前の規定に従ってソタロールまたはアミオダロンを投与した。 主要エンドポイントは、追跡期間中の全死因死亡と、無作為化から14日以降の心室頻拍発作・適切なICDショック・内科的治療を受けた持続性心室頻拍の複合とした。死亡、心室頻拍発作、ICDショックには差がない 追跡期間中央値4.3年の時点で、主要エンドポイントのイベント発生率は、抗不整脈薬群が60.6%(129/213例)であったのに対し、カテーテルアブレーション群は50.7%(103/203例)と有意に低かった(ハザード比[HR]:0.75、95%信頼区間[CI]:0.58~0.97、p=0.03)。 追跡期間中の全死因死亡(カテーテルアブレーション22.2% vs.抗不整脈薬群25.4%、HR:0.84[95%CI:0.56~1.24])、無作為化から14日以降の心室頻拍発作(21.7% vs.23.5%、0.95[0.63~1.42])、無作為化から14日以降の適切なICDショック(29.6% vs.38.0%、0.75[0.53~1.04])には両群間に差を認めず、無作為化から14日以降の内科的治療を受けた持続性心室頻拍(4.4% vs.16.4%、0.26[0.13~0.55])はカテーテルアブレーション群で少なかった。重篤な非致死的有害事象の頻度は同程度 重篤な非致死的有害事象は、カテーテルアブレーション群28.1%(57例)、抗不整脈薬群30.5%(65例)で発現した。また、カテーテルアブレーション群では、術後30日以内の有害事象として死亡が2例(1.0%)で発生し、非致死的有害事象は23例(11.3%)に認めた。抗不整脈薬群では、抗不整脈薬に起因する有害事象として肺毒性による死亡が1例(0.5%)で発生し、非致死的有害事象は46例(21.6%)に発現した。 著者は、「これまでの研究で、カテーテルアブレーションと抗不整脈薬治療は心室頻拍の再発とICDショックのリスクを減少させることが知られているが、両方とも有害事象を伴い、有効性は完全ではないため、これらの治療法をいつ使用するかが重要な臨床的判断となる」「初期治療として薬物を使用し、薬物療法が無効であればアブレーションを行うというのが一般的な方法であり、現行のガイドラインにも合致する」としている。

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第219回 外科医確保へ処遇改善、長時間労働是正など包括的な対策を検討/厚労省

<先週の動き>1.外科医確保へ処遇改善、長時間労働是正など包括的な対策を検討/厚労省2.医療機関の経営危機に緊急支援、1,311億円の対策パッケージ/政府3.ED治療薬のスイッチOTC化を検討、意見募集を開始/厚労省4.美容医療の規制強化の対策案公表、情報公開と行政指導を強化/厚労省5.マイナ保険証対応の義務化は「適法」医師らの訴え棄却/東京地裁6.建設費高騰で新病院建設を断念、埼玉県の医師不足解消に暗雲/順天堂大1.外科医確保へ処遇改善、長時間労働是正など包括的な対策を検討/厚労省厚生労働省は11月29日、「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」を開き、外科医不足が深刻化する中、外科医の業務負担軽減と処遇改善に取り組む方針を固めた。外科医は長時間労働や休日出勤が多く、私生活との両立が難しいことから、若手の医師などに敬遠されがちな診療科となっている。厚労省は、外科医のなり手を増やすため、業務負担の軽減、報酬の引き上げ、研修制度の見直しなどを検討する。具体的な対策としては、手術支援ロボットの導入や医師事務作業補助者の配置による業務効率化、外科医の給与増額などが考えられている。また、若手医師の外科離れを防ぐため、研修制度の見直しも検討される。医師の偏在対策を議論する有識者検討会では、外科医の処遇改善に向けた「手厚い評価」について議論が行われた。この中で、病院経営の観点から外科医の給与増額を提案する意見や、大学病院の医局制度の見直しを求める意見などが出された。厚労省は、これらの意見を踏まえ、年末に取りまとめる医師偏在対策の総合的な対策パッケージに反映させる方針。参考1)第8回医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会(厚労省)2)外科医確保へ処遇改善 厚労省方針、負担軽減や報酬増(日経新聞)3)医師偏在是正に向け「外科医の給与増」・「総合診療能力を持つ医師」養成・「広域連携型の医師臨床研修」制度化等が重要-医師偏在対策等検討会(Gem Med)4)広域連携型プログラムの検証制度、早期検討を 医師偏在対策で複数意見 厚労省検討会(CB news)2.医療機関の経営危機に緊急支援、1,311億円の対策パッケージ/政府高齢化やコロナ禍による受診行動の変化で経営状況が悪化している医療機関に対し、政府は2024年度補正予算案で1,311億円規模の緊急支援パッケージを盛り込んだ。この支援策は、医療機関の賃上げ支援、病床削減を実施する医療機関への支援、医師不足地域への支援、医療DX推進などが柱となっている。賃上げ支援では、病院や有床診療所には1床当たり4万円、無床診療所と訪問看護ステーションには1施設に付き18万円の給付金を支給するほか、病床削減を進める医療機関には、1床当たり410万4,000円の給付金を交付し、診療体制の変更を支援する。また、医師不足地域に対しては、診療所の承継や開業、医師の派遣、専門医に対するリカレント教育などを支援する。医療DX関連では、全国医療情報プラットフォームの構築や電子処方箋の普及促進、マイナ保険証の利用促進などに予算が計上された。一方、財務省は11月29日に財政制度等審議会を開き、2025年度予算編成に向けた建議をまとめ、医療費総額の伸びを抑制するため、不断の制度改革を求めた。福祉医療機構の調査によると、今年春の診療報酬改定による施設基準の厳格化の影響が大きく、急性期病院の約45%が2024年度診療報酬改定後に減益となっていることが明らかになっており、財務省側は補助金による財政措置に歯止めを求めている。政府の緊急支援パッケージは、医療機関の経営安定化に一定の役割を果たすと期待される一方、財政状況の悪化や高齢化に伴う医療ニーズの変化に対応した抜本的な改革も求められている。参考1)医療・介護の賃上げに1,800億円 24年度補正予算案(日経新聞)2)賃上げ支援1床当たり4万円、病院と有床診 無床診と訪看は1施設18万円 補正予算案(CB news)3)急性期163病院の45%が減益 24年度報酬改定後 増収分を費用が上回る 福祉医療機構(同)4)令和7年度予算の編成等に関する建議(財務省)3.ED治療薬のスイッチOTC化を検討、意見募集を開始/厚労省厚生労働省は11月25日、勃起不全(ED)治療薬のタダラフィル(商品名:シアリス)について、医師の処方箋なしで購入できる一般用医薬品(OTC)への転用(スイッチOTC化)を検討するため、意見募集を開始した。ED治療薬がOTC化されれば、国内では初めてのケースとなる。現在、ED治療薬は医療用医薬品として医師の処方箋が必要となっている。しかし、医師への受診をためらい、インターネットなどを利用して個人輸入で海外から薬を購入するケースが増加し、偽造薬のリスクなどが懸念されている。タダラフィルがOTC化されれば、薬局やドラッグストアで購入できるようになり、正規品の入手機会の拡大と、偽造薬による健康被害の防止が期待される。厚労省は、意見募集の結果を踏まえ、専門家による検討会で課題や対応策を議論し、最終的には薬事審議会の部会で承認を判断する。参考1)候補成分のスイッチOTC化に関する御意見の募集について(厚労省)2)スイッチOTC医薬品の候補となる成分の検討結果について(同)3)タダラフィルなど3成分、スイッチで意見募集 厚労省、「時短スキーム」第1弾(日刊薬業)4)ED治療薬、処方箋不要に 厚労省検討、正規品入手しやすく(日経新聞)5)医療用医薬品から要指導・一般用医薬品への転用(スイッチOTC化)の促進(日本OTC医薬品協会)4.美容医療の規制強化の対策案公表、情報公開と行政指導を強化/厚労省厚生労働省は、11月28日に社会保障審議会医療部会を開き、美容医療のトラブル増加を受け、規制強化に向けた対策案を公表した。この対策案は、6月から開催されてきた「美容医療の適切な実施に関する検討会」で議論されてきた内容をまとめたもの。背景には、美容医療に関するトラブル相談が急増している現状があり、国民生活センターの報告によると、美容医療に関する相談件数は2023年度に5,507件となり、5年間で3倍以上に増加した。厚労省は、美容医療を提供する医療機関に対し、安全管理体制や医師の専門医資格の有無、相談窓口の設置状況などを都道府県へ報告することを義務付けるほか、保健所による指導の明確化のほか、診療録の記載の徹底、オンライン診療のルール整備、関係学会によるガイドライン策定、医療広告規制の強化のほか、国民へ美容医療についてのリスクの情報提供の強化を行うこととした。さらに、一般社団法人が開設する医療機関に対し、安全管理体制や医師の専門医資格の有無、相談窓口の設置状況などを都道府県に事業報告書などの書類提出を義務付ける方針を固めた。一般社団法人は、医師が代表となる医療法人と異なり、管理者となる医師がいれば異業種でも医療に参入できる。近年、美容クリニックを中心に、一般社団法人が開設する医療機関が増加しており、2023年には780ヵ所に達している。しかし、一般社団法人は医療法人と比べて規制が緩く、営利目的での運営や医療の質の低下などが懸念されてきているため対応が急がれていた。厚労省は、一般社団法人に対しても医療法人と同等の報告を義務付けることで、経営実態の把握を強化し、非営利性の徹底を図る考え。参考1)美容医療の適切な実施に関する検討会報告書(厚労省)2)「一般社団法人」クリニック 経営や事業の内容確認 厳格化へ(NHK)3)一般社団法人の医療機関、報告対象に 美容医療が念頭(日経新聞)5.マイナ保険証対応の義務化は「適法」医師らの訴え棄却/東京地裁医師らがマイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」への対応を義務付ける厚生労働省の省令は違法だとして、国に義務がないことの確認を求めた訴訟で、東京地裁は11月28日、医師側の請求を棄却した。判決は、マイナ保険証への対応義務化について「制度運営の効率化や、正確なデータに基づいたより良い医療のためと認められる」と指摘。医療機関への経済的負担が生じても「事業継続を困難にするとは言えず、医療活動の自由に重大な制限を課すものではない」として、国側の主張を認めた。原告の医師らは、機器導入費用や維持費、情報漏えいのリスクなどを訴えたが、判決では、システム導入には財政的な補助があり、廃業を余儀なくされるほどの負担ではないと判断した。この判決を受け、原告団は控訴する意向を示している。一方、政府は12月2日に現行の健康保険証の新規発行を停止し、マイナ保険証への移行を進める方針。平 将明デジタル相は、マイナ保険証は医療費適正化や新たな価値創出に不可欠であり、移行を予定通り進める必要があると強調した。マイナ保険証の導入を巡っては、医療現場の混乱や患者情報の取り扱いなど、さまざまな課題が指摘されている。政府は、これらの課題に対応しながら、マイナ保険証の普及促進を目指していく考え。参考1)マイナ保険証対応の義務化は適法、医師らの訴えを退ける 東京地裁(朝日新聞)2)マイナ保険証導入義務化 違法と言えず 医師ら訴え退ける判決(NHK)3)マイナ保険証システム義務化は適法 医師の違法確認を棄却 東京地裁(毎日新聞)6.建設費高騰で新病院建設を断念、埼玉県の医師不足解消に暗雲/順天堂大埼玉県さいたま市への新病院建設を計画していた順天堂大学は、11月29日、計画を中止すると埼玉県に伝えた。2015年に埼玉県が公募した病院誘致計画で、順天堂大学は800床規模の新病院建設を提案し、採択されていた。しかし、建設費や資材費の高騰により、総事業費が当初の834億円から2,186億円に膨れ上がったこと、コロナ禍以降の病院経営の悪化、医師の働き方改革への対応などを理由に、計画を断念するにいたった。埼玉県の公募に応える形で、新病院の建設が決まったのは2015年3月。当初は2020年度に開院としていたが、その後、何度もその時期が先送りされてきた。大学側は、事業費を抑えるために看護系学部の開設や宿舎の整備・大学院棟の建設を先送りにし、病院の規模も当初予定していた800床から500床程度に縮小する計画案を検討した。しかし、建築費の高騰や医療を取り巻く厳しい環境を鑑みると、計画の見直しなどによっても、埼玉県民に貢献できる最先端医療機能を備え、かつ、DXを活用した未来型基幹病院の開設は困難と判断した。埼玉県の大野 元裕知事は、「大変遺憾」と述べ、「県民の期待が大きかっただけに残念だ」と語っている。順天堂大学は、計画中止をさいたま市にも報告し、清水 勇人市長は「大変残念」とコメントした。新病院の建設予定地は、県有地とさいたま市有地で、約7万7,000平方メートル。県は土地取得に55億5,000万円を投じていた。今後の土地活用については、埼玉県は「病院誘致の可能性も含め、総合的に判断する」としている。順天堂大学の新病院は、埼玉県が抱える医師不足の課題解決に向けても期待が寄せられていた。埼玉県は、人口10万人当たりの医師数が全国で最も少なく、医師不足が課題となっていた。このため、埼玉県は新病院の公募の条件に、医師不足の地域に大学が医師を派遣することを挙げており、現在、順天堂大学からは県北部と西部の病院に2人の医師が派遣されている。新病院の開院後は段階的に人数を増やし、年間20人の医師が派遣される予定だった。今回の計画中止は、埼玉県の医師不足解消に大きな影響を与える可能性がある。参考1)埼玉県浦和美園地区病院の整備計画中止について(順天堂大学)2)順天堂大学 800床の病院整備計画を中止 埼玉県に伝える(NHK)3)順天堂大、さいたま市への新病院建設を断念 資材高騰で資金不足(毎日新聞)4)順天堂大の新病院、建設決定から9年半で計画中止に…「青天の霹靂」「裏切られた気持ちだ」(読売新聞)

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修理代、たったの300円!【Dr. 中島の 新・徒然草】(557)

五百五十七の段 修理代、たったの300円!寒くなりましたね。ついにコートの必要な季節になってしまいました。外に出かけるときにはマフラーと手袋も欠かせません。さて先日のこと。親戚の叔父から、長年乗り続けている古い車についての話を聞かされました。最近になって「カタカタ」という異音がするようになったとのこと。叔父はすぐにディーラーに持ち込み、「音の感じから、どこかのネジが緩んでいるのではないか」と自分の考えを伝えました。しかし、ディーラーからは「どこも悪くない」と言われただけで、さらに「古い車なので買い替えを検討したほうがいい」と勧められたそうです。納得できなかった叔父は、ネットで調べてみました。すると、自宅から5キロほど離れた修理屋の評判が良いことを知り、そこに車を持ち込んだのです。修理屋のおやじさんに事情を説明した際も「音の感じからネジが緩んでいるのではないか」と自身の考えを伝えたのだとか。おやじさんは「なるほど」と頷くと、さっそく車の下に潜り込んで点検開始。そして、3ヵ所のネジが劣化して緩んでいることを突き止め、それらを新品に交換してくれました。その結果、異音は完全になくなり、叔父はようやく安心できたそうです。修理代として請求されたのはネジ代だけの300円。叔父はそれでは申し訳ないと、無理に3,000円を渡して帰ってきました。修理の合間、おやじさんが漏らした言葉が印象的だったそうです。「最近は何でもマニュアル頼りだよ。ディーラーですら、チェックリストしか見ていないんじゃないかな」とのこと。この話を聞いて、私は医療にも通じるものを感じました。たとえば脳卒中の患者さんを診るときに用いるNIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)は非常に有用な評価スケールです。この評価スケールは頭部外傷やめまいの診療にも活用されています。しかし、それだけでは見逃されることも多々あるのではないでしょうか。たとえば、後頭部を打った場合には、嗅覚障害の有無を確認することが重要だと私は思っています。解剖学的に、嗅神経が断裂しやすい方向に力が加わるためですね。私の体感では、20人に1人くらいは嗅覚障害が出るような印象があります。以前、ある頭部外傷の患者さんに「先生、いつになったら鼻のほうは治るの?」と言われて驚いたことがありました。この人は車の荷台から落ちて頭を打ったのですが、この質問をされたときには、もう事故から1ヵ月ほど経っていたからです。嗅覚障害について、自分がまったく注意を払っていなかったことに肝を冷やしました。また、BPPV(良性発作性頭位めまい症)を疑う患者さんの診療では、NIHSSで中枢性のめまいを否定するだけでは不十分です。やはり末梢性のめまいであることを裏付けるために、ディックス・ホールパイク法を用いて眼振やめまい感の有無を確認するべきではないでしょうか。確かに医療において、マニュアルやガイドラインが重要なのは言うまでもありません。でも、それだけで良しとせず、個々の患者さんの状態に合わせた丁寧な診察を心掛けたいものですね。最後に1句300円 冷えた硬貨が 冬告げる

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mavacamtenの長期使用で中隔縮小療法を回避/AHA2024

 症候性閉塞性肥大型心筋症(HCM)患者を対象としたVALOR-HCM試験において、mavacamtenにより中隔縮小療法(septal reduction therapy:SRT)の短期的な必要性を低下させ、左室流出路(LVOT)圧較差などの改善をもたらすことが報告されていた。今回、米国・クリーブランドクリニックのMilind Y Desai氏らが治療終了時128週までのmavacamtenの長期的な効果を検討し、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表、Circulation誌オンライン版2024年11月18日号に同時掲載された。 今回の結果によると、症候性閉塞性HCM患者の約90%において、128週時点でSRTを実施せずにmavacamtenを長期継続していた。 本研究は米国の19施設で行われた多施設共同プラセボ対照ランダム化二重盲検試験で、SRTを紹介された症候性閉塞性HCM患者を対象とした。最初にmavacamtenにランダム化されたグループは128週間にわたってmavacamtenを継続、プラセボを投与されたグループは16週目から128週目までmavacamtenを継続した(112週間の曝露)。用量漸増は、心エコー図によるLVOT勾配と左室駆出率(LVEF)の測定結果を基に行った。主要評価項目は、128週目にSRTに進む患者またはガイドラインの適格性を維持している患者の割合であった。 主な結果は以下のとおり。・128週目に、全対象者108例中17例(15.7%)が複合エンドポイントを達成した(7例がSRTを受け、1例がSRT適格、9例がSRT状態評価不能)。・128週までに87例(80.5%)がNYHAクラスI以上の改善を示し、52例(48.1%)がクラスII以上の改善を示した。また、安静時およびバルサルバ手技によるLVOT圧較差がそれぞれ38.2mmHgおよび59.4mmHgと持続的に低下した。・95例(88%)が上市されているmavacamtenに切り替えられた。・15例(13.8%、100患者年あたり5.41例)はLVEFが50%未満(LVEF≦30%が2例、死亡が1例)で、このうち12例(80%)が治療を継続した。・新たに心房細動を発症した患者は11例(10.2%、100患者年あたり4.55例)であった。

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オンラインで受けるバーチャルヨガは腰痛軽減に効果的

 腰痛に関する臨床ガイドラインでは、鎮痛薬を使用する前に理学療法やヨガを試すことが推奨されているが、痛みがひどくてヨガスタジオに通うのが困難な場合もある。こうした中、オンラインでバーチャルヨガを受けても痛みの緩和に有効な可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米クリーブランド・クリニック、ウェルネス・予防医学のRobert Saper氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に11月1日掲載された。 この研究では、中等度の慢性腰痛を抱える18〜64歳の成人140人(平均年齢47.8歳、女性80.7%)を対象に、ライブ配信で実施されるバーチャルヨガ(以下、バーチャルヨガ)クラスへの参加が、慢性腰痛の強度や腰に関連する機能、睡眠の質、鎮痛薬の使用にもたらす効果を検討した。対象者は、バーチャルヨガに参加する群(バーチャルヨガ群、71人)と、同クラスの受講待機群(対照群、69人)にランダムに割り付けられた。バーチャルヨガ群は、腰痛患者を治療するために特別に設計された1回60分のバーチャルヨガプログラムを、インストラクターの指導下で週に1回、12週間受けた。対象者の腰痛の強度は腰痛強度尺度(0〜11点で評価、高スコアほど痛みが強い)で、腰に関連する機能については修正版Roland Morris Disability Questionnaire(RMDQ、23点満点でスコアが高いほど機能が低下している)で評価した。 その結果、バーチャルヨガ群では対照群に比べて、12週間後には腰痛強度の平均スコアが大幅に低下し(−1.5点、95%信頼区間−2.2〜−0.7、P<0.001)、また、腰に関連する機能についても大きく改善したことが明らかになった(RMDQスコアの平均変化量−2.8点、同−4.3〜−1.3、P<0.001)。こうした改善効果は24週間後も維持されていた(腰痛強度の平均スコア−2.3点、同−3.1〜−1.6、P<0.001、RMDQスコア−4.6点、同−6.1〜−3.1、P<0.001)。さらに、バーチャルヨガ群では、12週間後の時点で過去1週間の鎮痛薬の使用量が対照群よりも21.4%少なく、睡眠の質も有意に改善していることが確認された。 論文の筆頭著者である、クリーブランド・クリニックのHallie Tankha氏は、「この研究は、バーチャルヨガが慢性腰痛の軽減に効果のある安全な治療法となり得ることを示している」と同クリニックのニュースリリースの中で述べている。同氏は、「腰痛に対する従来の治療法は、効果が不十分なことが多かった。ヨガは腰痛の管理における包括的なアプローチとなり得る。われわれは今後、この安全で効果的な治療法へのアクセスを増やすよう努めるべきだ」と付言している。

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第240回 3年間で612施設、43.6%も増えた美容外科、背景にはコロナ禍での過酷な長時間労働と「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求も

“直美”の時代、もう「白い巨塔」は映像化できないこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先々週からウィークデイのお昼に、フジテレビの地上波でテレビドラマの「白い巨塔」を再放送していたので、何回か観てみました(全21回で11月26日まで放送)。1978年の田宮 二郎版ではなく、2003年に放映された唐沢 寿明版です。唐沢が演じる財前 五郎は、田宮に比べて小柄で、白衣がダブダブなのと演技の迫力が違うのはまあ玉に瑕として、今でも十分に鑑賞に耐え得るドラマだと思いました。田宮 二郎は1978年のフジテレビのドラマ以前に、1966年に映画「白い巨塔」(山本 薩夫監督)でも財前を演じていますが、それについては本連載の「181回 大学病院への“甘さ”感じる文科省『今後の医学教育の在り方に関する検討会』中間取りまとめ、“暴走”する大学病院への歯止めは?」でも書きましたので、興味のある方はそちらをお読みください。さて、唐沢版の「白い巨塔」ですが、2003年放映で医学技術や医療事情も2000年代前半に合わせているはずですが、わずか20年前なのに相当な時代のズレを感じるシーンが散見され、興味深かったです。まず驚くのは財前が助教授室でタバコを吸ってる場面です。義父で産婦人科の財前 又一(西田 敏行が怪演)が財前に高級ライターをプレゼントする場面も違和感があります。また、財前の上司の東 貞蔵教授(石坂 浩二)が「開業医は医学の世界では負け犬だ」と、開業医を強烈にディスる場面も今ではコンプライアンス的にNGかもしれません。さらに言えば、教授回診のシーンに代表される、医学部教授を頂点とする大学医局の厳然たるヒエラルキーの存在自体も、新医師臨床研修制度(2004年スタート)の定着や、今進められている医師の働き方改革などによって、相当希薄になってきてるのではないかと感じます。おそらく、今の医療界を舞台に「白い巨塔」を映像化することは、非現実的ゆえに不可能なのではないかと思います。医局入局などそっちのけで、“直美”(初期研修を終えた後、すぐに美容医療界に進むこと)を選択する医師が急増している今となっては、なおさらです。美容外科、3年間で612施設・43.6%も増え、増加率は全43科目で最も高い数字その美容外科ですが、11月22日に厚生労働省が発表した「医療施設静態調査」の2023年版1)を見ると、数字の上でも最近の急増が明らかとなっています。医療施設静態調査は3年に1度、各年10月1日時点での医療施設を対象に調査するものです。それによれば、美容外科を標榜する診療所は2023年に2,016施設と2020年調査と比較して612施設、43.6%も増えました。増加率は全43科目で最も高く、増加数も2位でした。なお、増加数1位は皮膚科で775施設、3位は内科で604施設、4位は精神科で538施設、5位は糖尿病内科(代謝内科)で451施設、6位は形成外科で324施設でした。形成外科は増加率も高く15.0%でした。ちなみに、減少数の1位は小児科で1,020施設減、2位が消化器内科(胃腸内科)で703施設減、3位が外科で632施設減でした。この調査は複数科を標榜する場合は重複計上となっています。美容外科と併せて標榜する皮膚科や、関連して標榜する形成外科が多くなるのは当然の結果と言えそうです。それにしても、2020年から3年間で美容外科が4割増とは驚くべき数字です。コロナ後の日本における美容外科需要の高まりと、並行しての“直美”トレンドの定着にはいろいろな意味で恐ろしさを感じます。実際、美容医療で起きる医療事故は急増しています。国民生活センターなどに寄せられた美容医療による合併症や施術のトラブルなどの相談件数は、2023年度に約800件と2018年度から約2倍に増えており、大きな社会問題ともなっています。「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書も公表、年1回定期的な報告を求める仕組みの導入や診療録等への記載を徹底へ医療施設静態調査の結果が公表された11月22日には、厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」の報告書も公表されています。2024年6月から開催されてきた同検討会では、美容医療の患者や医療機関を対象とした実態調査や関係学会等からヒアリングなどを踏まえて、美容医療が抱えるさまざまな課題と対応策が議論されてきました。同報告書では、具体的な対応策として、「安全管理措置の実施状況等について年1回の頻度で都道府県知事等に対して定期的な報告を求める仕組みの導入」「医師法や保助看法等への違反疑いのある事例に対する保健所等による立入検査や指導のプロセス・法的根拠の明確化」「美容医療に関して必要な内容の診療録等への記載の徹底」「関係学会によるガイドラインの策定」などが提言されました。今後、こうした対応策が講じられることで、美容医療の質や安全対策は向上していくでしょうが、いわゆる“直美”や、ある程度技術が備わってからの美容医療への転身(「逃散」と言えるかもしれません)の傾向自体を止めることはできないでしょう。そこにはもっと深い構造的な問題があるからです。医局から派遣された病院での長時間労働で疲弊し美容医療の世界に11月22付日付でYahoo!ニュースに掲載された、共同通信とYahoo!ニュースによる共同連携企画の記事「『保険診療はもう限界』追い詰められた若手医師、次々に美容整形医へ…残った医師がさらに長時間労働の『悪循環』」は、まさにそうした「逃散」の現状をレポートしており読み応えがありました。同記事には、2010年代はじめに国立大学の医学部に入学、卒業後に外科医局に入った男性医師が、医局から派遣された病院での長時間労働で疲弊し、さらには奨学金返済に追われたことも手伝って適応障害を発症、美容医療の世界に転身した経緯が書かれています。「年収は約2,000万円。以前に比べて大幅に増えた上、十分に休みも取れるようになった」というこの医師の「医師の中には毎日、残業を何時間しても大丈夫という人がいる。敬意は持っています。でも反対に、そんな人でないと医局には残れないです」という言葉からは、お金のためでもあるけれど、「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求が、美容医療選択の背景にあることがうかがい知れます。コロナ禍は美容医療のブームのきっかけともなったが、同時に若手医師たちを疲弊させる原因ともなった同様のケースは多そうです。医療関係で働く私の友人の知り合いのある若手医師も、呼吸器内科で後期研修を終えたばかりなのに、美容外科への転身を考えているそうです。友人によれば、その医師は、コロナ禍での過酷な長時間労働に心身共に疲れ切ってしまったのだそうです。結婚して子どもも生まれたのに、一家団欒とは程遠い生活が続くことに疑問を覚え、妻の勧めもあって美容外科への転職の検討に入っているとのことでした。コロナ禍は、国内の美容医療のブームのきっかけになりましたが、同時に若手医師たちを疲弊させる原因にもなっていたわけです。その友人が教えてくれたもう一つの興味深いケースは、自らの開業資金を貯めるための美容医療への一時的就職です。普通の勤務医を続けるよりはラクで、かつ貯金できる金額も多いため、一定期間、美容医療に身を置いてまとまったお金を稼ごうというわけです。一時期、体力のある若者が短期集中で大金を稼ぐため、過酷ではあるけれど高給が保証される配送ドライバーになっていたことがありましたが、若手医師にとって美容医療がそうした位置付けにもなっているわけです。永遠に美容医療の世界で働くわけではないという点では少々“救い”はあるかもしれません。ただ、後期研修も受けていない“直美”の医師がお金を貯め、内科などで開業するのであれば心配です。中学生、高校生には「医者は理数系の就職先の中では負け犬だ」くらいのアピールをして、本当に医学の道に進みたい人材を医学部に厚生労働省は今、年末公表予定の「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」立案の最後の調整に入っています。その対策パッケージには、医師が多い地域での新規開業の抑制や、公立病院長になるのに地方勤務の経験を求める要件の拡大など、規制的な手法も盛り込まれる見込みです(「第233回 40年前の“駆け込み増床”を彷彿とさせる“駆け込み開業”が起こる?診療所が多い地域で新規開業を許可制にする案を厚労省が提起」参照)。しかし、こうしたさまざまな対策をもってしても、「医師であっても人間らしい生活がしたい」という根源的な欲求に応えることは不可能でしょう。そもそも、医療の世界に限らずあらゆる業界において、20~30代の若者の「働くこと」に対する意識は、昭和の時代にモーレツに働いてきた今の管理職の50~60代とは大きく異なっています。昼夜働くことを厭わず、自らの医療技術向上を最優先するような若者はもはや一握りですし、仕事優先で子育て含めて家庭のことは配偶者任せ、というような夫婦も絶滅しつつあります。医師偏在是正や“直美”問題解決などのためには、そうした若者の意識変化に対応した施策も必要だと言えるでしょう。また、先に紹介したYahoo!ニュースの記事も指摘していますが、高校で成績の良い生徒にとりあえず医学部受験を勧める傾向の是正も必要だと考えます。「医師は高給で、生活は安定、皆から尊敬されるし、モテる」といった旧来のイメージを取っ払い、中学生、高校生には「医者は理数系の就職先の中では負け犬だ」くらいの強烈なアピールをして、本当に医学の道に進みたい人材を医学部に送り込むことが、長い目でみたら一番重要ではないかと思います。参考1)令和5(2023)年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況/厚生労働省

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統合失調症に対して最も良好なシータバースト刺激プロトコールは

 反復経頭蓋外磁気刺激(rTMS)の1つであるシータバースト刺激(theta burst stimulation:TBS)は、頭蓋上のコイルから特異的なパターン刺激を発生することで、短時間で標的脳部位の神経活動を変調させる。TBSには、間欠的な刺激パターンであるintermittent TBS(iTBS)による促通効果と持続的な刺激パターンであるcontinuous TBS(cTBS)による抑制効果がある。現在までに、統合失調症に対するTBSプロトコールがいくつか検討されているが、その有効性に関しては、一貫した結果が得られていない。藤田医科大学の岸 太郎氏らは、成人統合失調症患者に対し、どのTBSプロトコールが最も良好で、許容可能かを明らかにするため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。JAMA Network Open誌2024年10月1日号の報告。 2024年5月22日までに公表された研究を、Cochrane Library、PubMed、Embaseデータベースより検索した。包括基準は、TBS治療に関する公開済み、未公開のランダム化臨床試験(RCT)および統合失調症スペクトラム、その他の精神疾患またはその両方の患者を含むRCTとした。Cochraneの標準基準に従ってデータ抽出および品質評価を行い、報告には、システマティックレビューおよびメタ解析の推奨報告項目ガイドラインを用いた。研究間のバイアスリスクは、Cochrane Risk of Bias Tool ver.2.0で評価し、ネットワークメタ解析の信頼性アプリケーションを用いて、メタ解析結果のエビデンスの確実性を評価した。文献検索、データ転送精度、算出については、2人以上の著者によるダブルチェックを行った。主要アウトカムは、陰性症状に関連するスコアとした。頻度論的ネットワークメタ解析では、ランダム効果モデルを用いた。連続変数または二値変数の標準平均差(SMD)またはオッズ比は、95%信頼区間(CI)を用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・9つのTBSプロトコールを含む30件のRCT(1,424例)が抽出された。・左背外側前頭前野に対するiTBSのみが、シャム対照群と比較し、陰性症状を含む各症状の改善を認めた。【陰性症状スコア】SMD:−0.89、95%CI:−1.24〜−0.55【全体的な症状スコア】SMD:−0.81、95%CI:−1.15〜−0.48【PANSS総合精神病理スコア】SMD:−0.57、95%CI:−0.89〜−0.25【抑うつ症状スコア】SMD:−0.70、95%CI:−1.04〜−0.37【不安症状スコア】SMD:−0.58、95%CI:−0.92〜−0.24【全般的認知機能スコア】SMD:−0.52、95%CI:−0.89〜−0.15・陽性症状スコア、すべての原因による中止率、有害事象による中止率、頭痛の発生率、めまいの発生率は、いずれのTBSプロトコールおよびシャム対照群の間で有意な差は認められなかった。 著者らは「左背外側前頭前野に対するiTBSのみが、統合失調症患者の陰性症状、抑うつ症状、不安症状、認知機能改善と関連しており、忍容性も良好であった。統合失調症治療におけるTBSの潜在的な効果を評価するためには、さらなる研究が求められる」と結論付けている。

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『糖尿病治療ガイド2024』発刊、GIP/GLP-1受容体作動薬を追加/糖尿病学会

 日本糖尿病学会は、糖尿病診療で頻用されている『糖尿病治療ガイド』の2024年版を11月に発刊した。本書は、糖尿病診療の基本的な考え方から最新情報までをわかりやすくまとめ、専門医だけでなく非専門の内科医、他科の医師、医療スタッフなどにも、広く活用されている。今回の改訂では、GIP/GLP-1受容体作動薬の追加をはじめ、2024年10月現在の最新の内容にアップデートされている。【主な改訂のポイント】・「糖尿病診療ガイドライン2024」に準拠しつつ、診療上必要な専門家のコンセンサスも掲載。・GIP/GLP-1受容体作動薬の追加など、最新の薬剤情報にアップデート。・「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(第2版)」に基づいた経口薬療法および注射薬療法の解説。・緩徐進行1型糖尿病の診断基準や糖尿病患者の脂質管理目標値、糖尿病性腎症の病期分類など、最新の基準・目標値の内容を反映。※アドボカシー活動の進展による言葉の変更は、いまだ適切な基準がないため、全面的な変更は見送った。 編集委員会は序文で「日々進歩している糖尿病治療の理解に役立ち、毎日の診療に一層活用されることを願ってやまない」と期待を述べている。

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進行乳がん1次内分泌療法、フルベストラント+CDK4/6iの有用性は?/日本癌治療学会

 HR+/HER2-の進行・再発乳がんに対する1次内分泌療法としてのフルベストラント+CDK4/6阻害薬は、アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬と同等の有効性であり、リンパ球数(ALC)は独立した予後予測因子ではなかったことを、市立四日市病院の豊田 千裕氏が第62回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)で発表した。 ガイドラインでは、HR+/HER2-の進行・再発乳がんに対する1次内分泌療法は、アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬が推奨されている。内分泌療法歴のない進行・再発乳がんにおいてアロマターゼ阻害薬とフルベストラントを比較したFALCON試験の結果から、1次内分泌療法としてのフルベストラント+CDK4/6阻害薬の有効性が期待されている。また、CDK4/6阻害薬で治療したHR+/HER2-の転移・再発乳がんでは、ALCが独立した予後予測因子であることも報告されている。そこで研究グループは、進行・再発乳がんの1次内分泌療法としてフルベストラント+CDK4/6阻害薬を投与した場合の無増悪生存期間(PFS)と安全性を評価することを目的として前向き研究を実施した。 主な結果は以下のとおり。・2021年4月~2024年4月に、HR+/HER2-の進行・再発乳がん患者23例が登録された。年齢中央値は64.0(範囲:38~83)歳、de novo StageIVが13例、再発が10例、ベースライン時のALC中央値は1,667(範囲:541~5,176)μLであった。CDK4/6阻害薬は、パルボシクリブが16例、アベマシクリブが7例に用いられた。観察期間中央値は20(範囲:7~36)ヵ月であった。・全奏効率は91.3%(PR:21例[91.3%]、SD:2例[8.7%])、病勢コントロール率および臨床的有用率は100%であった。・PFSは未到達であるが、データカットオフ時点の中央値は19(範囲:7~36)ヵ月であった。・ベースライン時のALCが1,500μL以上の群でも1,500μL未満の群でもPFSに有意差は認められなかった(p=0.721)。・ALCの変化率が高い群(36%以上)と低い群(36%未満)でもPFSは同等であった(p=0.878)。・23例中3例に薬剤性間質性肺疾患が発現した。 これらの結果より、豊田氏は「フルベストラント+CDK4/6阻害薬によるHR+/HER2-の進行・再発乳がんの1次内分泌療法の有効性は、アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬と同等の結果であることが示された。しかし、ベースライン時のALCおよびALC変化率は、フルベストラント+CDK4/6阻害薬による治療の予後予測因子とはならなかった」とまとめた。

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心筋梗塞後の待機的手術はいつ実施すべきか

 最も一般的なタイプの心筋梗塞(MI)である非ST部分上昇型心筋梗塞(NSTEMI)を発症した67歳以上の患者に対する待機的非心臓手術は、NSTEMI発症から3~6カ月の期間を置いて実施すべきであることが、新たな研究で示唆された。性急な待機的非心臓手術は、脳卒中や新たな心筋梗塞などの命を脅かす合併症の発症リスクを約2倍、死亡リスクを約3倍に高めることが示されたという。米ロチェスター大学医療センター(URMC)麻酔科・周術期医学・公衆衛生科学教授のLaurent Glance氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Surgery」に10月30日掲載された。 米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)が2014年に発表したガイドラインは、経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受けていない患者に対するMI後の待機的非心臓手術は、60日以上の待機期間を設けることを推奨している。しかし研究グループによると、これらのガイドラインは1999年から2004年にかけて50万人の患者を対象に実施された研究から得られた20年以上も前のデータに基づいているという。Glance氏は、「現在、医師が患者の治療の決定に使用しているデータは時代遅れだ。治療の進歩と患者の絶え間ない変化を考えると、臨床医には最新の情報が必要だ」と指摘する。 今回の研究では、2015年から2020年の間のメディケア請求データを用いて、2017年11月1日から2020年11月30日の間に非心臓手術のために入院した67歳以上の患者に対する522万7,473件の手術(待機的手術362万675件、非待機的手術160万6,798件)を対象に、データの解析を行った。対象患者の平均年齢は75.7歳で、女性が57.0%を占めており、4万2,278人(0.81%)は手術に先立つ2年の間にNSTEMIを発症していた。主要評価項目は、主要心脳血管イベント(MACCE;30日死亡率、入院中のMI、心不全、または脳卒中の発症)、および、あらゆる原因による30日死亡率とし、多変量ロジスティック回帰分析により、NSTEMI発症からの経過時間とこれらのアウトカムとの関連を評価した。 解析の結果、NSTEMI発症から30日以内に待機的非心臓手術を受けた場合、NSTEMI歴のある患者ではNSTEMI歴のない患者に比べて、冠動脈血行再建術を受けたかどうかにかかわりなく、MACCEリスクが有意に上昇することが明らかになった。MACCE発生の調整オッズ比(aOR)は、冠動脈血行再建術を受けていた患者で2.15(95%信頼区間1.09〜4.23、P=0.03)、受けていなかった患者で2.04(同1.31〜3.16、P=0.001)であった。冠動脈血行再建術を受けた患者では、NSTEMI発症から30日以降(薬剤溶出性ステント留置患者では90日以降)にMACCEリスクが横ばいになったが、180日を過ぎるとリスクが再上昇する傾向が認められた。冠動脈血行再建術を受けていない患者では、MACCEリスクは一貫して増加傾向を示した。 一方、NSTEMI発症後に冠動脈血行再建術が施行され、発症後30日以内に待機的非心臓手術を受けた患者での30日以内の死亡のaORは2.88(95%信頼区間1.30〜6.36、P=0.009)で、リスクが約3倍に上昇していた。しかし、発症後61~90日後に待機的非心臓手術を受けた場合にはaORが1.03(同0.57〜1.86、P=0.92)となり、リスクは横ばいになった。同様の条件の患者に対する非待機的心臓手術での30日以内の死亡のaORは1.91(同1.52〜2.40、P<0.001)、91~120日後で1.00(同0.73〜1.37、P=0.99)だった。 こうした結果を受けて研究グループは、「冠動脈血行再建術を受けたNSTEMI発症患者に対する待機的非心臓手術は、発症後90日から180日の間に行うのが合理的かもしれない」との見方を示している。

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家庭内のインフル予防、手指衛生やマスクは効果ある?~メタ解析

 インフルエンザの感染対策では、手指衛生やマスク着用などの非薬物介入が推奨されることが多いが、家庭における対策は比較的研究が進んでいない分野である。今回、中国・香港大学のJessica Y. Wong氏らによるシステマティックレビューおよびメタ解析により、非薬物介入は家庭内感染には影響を及ぼさなかったことが明らかになった。International Journal of Infectious Diseases誌オンライン版2024年11月4日号掲載の報告。 インフルエンザウイルス感染は、主に人と人との濃厚接触によって広がり、伝播の多い環境の1つが家庭である。そのため、家庭内で実施可能な非薬物介入はインフルエンザの制御において重要な役割を果たす可能性がある。そこで研究グループは、多くの国で推奨されている9つの非薬物介入(手指衛生、咳エチケット、マスク、フェイスシールド、表面の清掃、換気、加湿、感染者の隔離、物理的距離の確保)が家庭内のインフルエンザ感染予防として有効かどうかを評価するために調査を実施した。 2022年5月26日~8月30日にMedline、PubMed、EMBASE、CENTRALを検索してシステマティックレビューを実施した。「家庭」は血縁に関係なく2人以上で暮らしている集団とし、学生寮や老人ホームなどで実施された研究は除外した。メタ解析では、非薬物介入の有効性のリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。全体的な効果は、固定効果モデルを使用したプール解析で推定した。 主な結果は以下のとおり。・手指衛生については、5,118例の参加者を対象とした7件のランダム化比較試験を特定し、そのうち6件をメタ解析に含めた。マスク着用については、4,247例の参加者を対象とした7件のランダム化比較試験を特定してメタ解析に含めた。・手指衛生はインフルエンザの家庭内感染に有意な予防効果をもたらさなかった(RR:1.07、95%CI:0.85~1.35、p=0.58、I2=48%)。・マスク着用は家庭内感染予防に効果がある可能性があるものの、統計的に有意ではなかった(RR:0.59、95%CI:0.32~1.10、p=0.10、I2=16%)。・手指衛生とマスクの併用でも、統計的に有意な家庭内感染の減少は認められなかった(RR:0.97、95%CI:0.77~1.22、p=0.24、I2=28%)。・プール解析でも、手指衛生やマスク着用が家庭内感染に有意な効果をもたらすことは確認されなかった。・初発患者の症状発現早期に手指衛生やマスク着用を開始することは、家庭内における感染予防に効果的である可能性が示唆された。・上記以外の7つの非薬物介入の有効性に関する公表されたランダム化比較試験は確認されなかった。 これらの結果より、研究グループは「家庭内でのインフルエンザ感染を制御するための個人防護策、環境対策、病人の隔離または物理的距離の確保が大きな予防効果を持つことを裏付けるエビデンスは限られていたが、これらの対策はインフルエンザの人から人への感染に関するメカニズムとして妥当性がある。インフルエンザの感染に関する今後の調査は、家庭内感染に対するガイドラインやエビデンスに基づく推奨事項を準備するうえで役立つだろう」とまとめた。

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エンパグリフロジン投与終了後もCKDの心・腎保護効果が持続、レガシー効果か?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか EMPA-KIDNEY試験では、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(エンパ)の心・腎保護作用が、糖尿病性腎症(DKD)のみならず非糖尿病CKD(CKD)においても示された(The EMPA-KIDNEY Collaborative Group. N Engl J Med. 2023;388:117-127.)。今回の報告は、同試験の終了後の追跡評価(post-trial follow-up)である。その結果、エンパの投与終了後、少なくとも1年間は心・腎保護作用が持続した。この成績が先行治療終了後も臓器保護作用が持続する、いわゆるレガシー(遺産)効果の初期像を観察しているとすれば、SGLT2阻害薬の新知見の可能性がある。EMPA-KIDNEY試験終了後の追跡研究 本研究では、EMPA-KIDNEY試験で無作為化された6,609例のうち、同意が得られた4,891例(74%)を登録し追跡評価の対象とした。EMPA-KIDNEY試験開始から追跡評価終了までを統合期間(4年間)とし、オーバーラップ期間を経て2年間を追跡観察期とした。全体での主要アウトカムイベントの発生は、エンパ群で865/3,304例(26.2%)、プラセボ群で1,001/3,305例(30.3%)であり(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.72~0.87)、統合期間中のエンパの有用性が示唆された。追跡期間の主要アウトカムは、腎疾患進行または心血管死の2つであった。その追跡評価期間の主要アウトカムイベントのHRは0.87(95%CI:0.76~0.99)であり、エンパ群で投与終了後も最長12ヵ月間、心・腎保護作用をもたらし続けることが示された。また、統合期間における腎疾患進行の発生率はエンパ群23.5%、プラセボ群27.1%、死亡または末期腎不全(ESKD)の複合の発生率はエンパ群16.9%、プラセボ群19.6%、心血管死の発生率はエンパ群3.8%、プラセボ群4.9%で、いずれもエンパ群で改善がみられた。一方、非心血管死への影響は両群とも5.3%で差異は認められなかった。なお、追跡期間中のエンパを含めたSGLT2阻害薬投与は治験担当医の判断に委ねられており、EMPA-KIDNEY試験終了後2年でエンパ群の45.4%、プラセボ群の42.0%がSGLT2阻害薬治療を受けていた。DKD/CKDにおけるSGLT2阻害薬の腎保護機序 DKD/CKDの進行性機序は多因子である。SGLT2阻害薬の腎保護作用は、Tubulo-Glomerular Feedback(TGF)機構を介した糸球体過剰濾過軽減が主な機序である。また、血圧改善、Na利尿、ブドウ糖尿とNa排泄による浸透圧利尿なども腎保護に寄与する。SGLT2阻害薬による代謝系改善は、血糖降下作用、尿酸値低下、脂質代謝改善、体重減少、Hb値上昇、ケトン体形成などがある。SGLT2阻害薬は、これらの複合的機序により、腎虚血改善、抗炎症作用、抗酸化作用、腎線維化抑制作用などを惹起する(Dharia A, et al. Annu Rev Med. 2023;74:369-384.)。CKDでは血糖低下による効果は期待されないため、腎保護にはTGFなど、他の機序が複合的に関与している。本論文のレガシー効果の信ぴょう性 2型糖尿病において早期から集中的に良好な血糖管理を行うと、全死亡リスク減少や糖尿病合併症を抑制するとの「レガシー効果」はUKPDS 91で報告された(1型糖尿病のDCCT研究のMetabolic Memoryも同義)。今回の所見が、エンパによる心・腎保護作用のレガシー効果の初期像を見ている可能性は否定できない。25万人の2型糖尿病治療のコホート研究において、SGLT2阻害薬を治療開始2年で早期導入することでCVD発症が減少するとのレガシー効果の報告はある(Ceriello A, et al. Lancet Reg Health Eur. 2023;31:100666.)。本研究は、観察期間がエンパ投与終了後2年と短期であることや、EMPA-KIDNEY試験終了後のエンパ群とプラセボ群とのSGLT2阻害薬投与率がほぼ同程度であることなどから、レガシー効果は(仮にあるとして)検出しにくい条件であった。それにもかかわらず、追跡期間に心・腎保護効果を認めたことは、レガシー効果を観察している可能性はある。DKD/CKDにおける心・腎保護療法の未来展望 DKDにおけるSGLT2阻害薬の心・腎保護作用は、EMPA-REG OUTCOME、CANVAS Program、DECLARE-TIMI 48、CREDENCEなどで確認され腎保護療法として確立してきた。その後、DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYにおいてCKDにも腎保護作用が報告された。これらの試験の結果を踏まえ、2024年KDIGOガイドラインのDKD/CKD治療のアルゴリズムでは、SGLT2阻害薬とRAS阻害薬が第1選択とされ、病態に応じGLP-1受容体作動薬、非ステロイド型MRAを選択すべきことが推奨されている (Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. Kidney Int. 2024;105(4S):S205-S254.)。ここでRAS阻害薬とSGLT2阻害薬の腎複合エンドポイント(EP)のリスク減少度(RR)に注目すると、 RAS阻害薬であるARBを使用したRENAAL試験での腎複合EPのRRは16%、IDNT試験では19%であったが、SGLT2阻害薬を使用したDAPA-CKD試験ではRRは39%と著しい改善がみられた。また、EMPA-KIDNEY試験は、RR 28%の時点で有効性のエビデンスが明白であるとの理由で、独立データモニタリング委員会の勧告で早期中止となった。両薬剤間のRRは直接比較することはできないが、SGLT2阻害薬の優れた腎保護作用は明白である。 実臨床の問題として、DKDは低レニン性低アルドステロン血症によって、RAS阻害薬投与による高K血症のリスクは少なからず危惧される(Sousa AG, et al. World J Diabetes. 2016;7:101-111.)。その点、SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのSGLT2抑制とそれに伴う浸透圧利尿によりK喪失的に作用するため高K血症は少ない。これらの両剤の相違から、今後、「SGLT2阻害薬をDKD/CKDの早期から使用することにより、さらなる腎予後改善が望めるかもしれない」との治療上の作業仮説が注目される。たとえば、EMPA-KIDNEY試験の試算では、エンパを腎機能軽度低下の早期(eGFR 60mL/分/1.73m2)に開始すると、中等度に低下した晩期(eGFR 30mL/分/1.73m2)に開始することに比較し、末期腎不全への移行を9年ほど延長することが期待される(腎生存期間:早期群17.8年vs.晩期群8.9年)(Fernandez-Fernandez B, et al. Clin Kidney J. 2023;16:1187-1198.)。SGLT2阻害薬のメタ解析からも、将来的に同剤がDKD/CKD治療において、Foundational drug therapy(基礎治療薬)となりうる可能性が注目されている(Mark PB, et al. Lancet. 2022;400:1745-1747.)。

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低リスク肺塞栓症がん患者のVTE再発、リバーロキサバン18ヵ月vs. 6ヵ月(ONCO PE)/AHA2024

 低リスク肺塞栓症(PE)を発症したがん患者を対象に、直接経口抗凝固薬(DOAC)であるリバーロキサバンの投与期間を検討したONCO PE試験の結果が、京都大学循環器内科の山下 侑吾氏らにより、11月16~18日に米国・シカゴで開催されたAmerican Heart Association’s Scientific Sessions(AHA2024、米国心臓学会)のFeatured Scienceで発表され、Circulation誌2024年11月18日号に同時掲載された。 本研究より、リバーロキサバンの18ヵ月間の投与は6ヵ月間の投与に比べ、静脈血栓塞栓症(VTE)の再発リスクを有意に低下させ、一方で出血リスクは有意な上昇を認めず、「がん患者の低リスクPEに対するDOACを用いた抗凝固療法は、血栓症予防の観点から18ヵ月間のより長期的な投与が望ましい」との結果が得られた。 ONCO PE試験は、国内32施設による多施設非盲検判定者盲検ランダム化比較試験(RCT)である。対象は、低リスクPEとして肺血栓塞栓症の重症度評価の簡易版PESIスコアが1点(がんの因子のみ)のPEと、新しく診断されたがん患者で、2021年3月~2023年3月に登録された179例をリバーロキサバンの18ヵ月投与群または6ヵ月投与群に1対1の割合でランダムに割り付けた。同意を途中撤回した症例を除外し、18ヵ月投与群89例、6ヵ月投与群89例をITT集団とした。主要評価項目は18ヵ月後までのVTEの再発。副次評価項目は18ヵ月後までの国際血栓止血学会(ISTH)の基準による大出血などであった。 主な結果は以下のとおり。・対象患者は平均年齢65.7歳、男性47%で、症候性のPEは12%だった。がんの罹患部位は、多い順に大腸がん12%、子宮がん12%、卵巣がん11%であった。・主要評価項目である18ヵ月後までのVTE再発は、18ヵ月投与群5.6%(89例中5例)、6ヵ月投与群19.1%(89例中17例)と有意に抑制された(オッズ比[OR]:0.25、95%信頼区間[CI]:0.09~0.72、p=0.01)。・大出血は、18ヵ月投与群7.8%(89例中7例)、6ヵ月投与群5.6%(89例中5例)に発生し、18ヵ月投与群で多い傾向にあったが、統計学的に有意な増加ではなかった(OR:1.43、95%CI:0.44~4.70)。・年齢、性別、体重、VTEの既往、腎機能、血小板数、貧血の有無、大出血の既往、がんの遠隔転移の有無、化学療法の有無などのサブグループ解析でも、18ヵ月投与群における主要評価項目のリスク抑制傾向は一貫して認められた。 これらの結果から研究グループは「簡易版PESIスコア1点の低リスクPEを発症したがん患者に対するVTE再発予防を目的としたリバーロキサバンの投与期間は、6ヵ月間よりも18ヵ月間のほうが優れていた」と結論付けた。低リスク肺塞栓症がん患者のVTE再発予防、国内での普及目指す がん患者の腫瘍の評価のためにCT検査が実施されることは多いが、その際に偶発的な軽症のPEを認めることも多い。国際的なガイドラインでは、このようながん患者に併発した比較的軽症のPEに対しても、通常のPEと同様に扱うことを弱く推奨している。しかしながら、このような低リスクPEを発症したがん患者を対象とした抗凝固療法の投与期間を検討したRCTは過去に報告されておらず、そのエビデンスレベルは低い状況であった。 この現況を踏まえて行われた本解析について、同氏は「本研究結果は、がん患者では低リスクPEでも血栓症リスクを軽視すべきではないという現行の国際ガイドラインの考え方を支持する結果であった。一方で、統計学的に有意ではないものの、大出血を起こした患者数が18ヵ月投与群で多かったことは注意を要する点である。RCTは確実性の高いエビデンスを提供する有用な研究デザインであるが、目の前の患者ごとの治療の最適解を提供することは困難である。臨床現場では、これらの研究結果も参考に、血栓リスクと出血リスクのバランスを患者ごとに慎重に検討することが重要である。また、今後RCTの弱点を克服するような新しい臨床研究の発展も望まれる」とコメントした。 最後に、「本研究は、数多くの共同研究者が日本全体で集結し、その献身的な姿勢による多大な尽力により成り立っている。日本の腫瘍循環器領域における重要な研究成果が、今回日本から世界に情報発信されたが、すべての共同研究者、事務局の関係者、および本研究に参加いただいた患者さんに何よりも大きな感謝を示したい」と締めくくった。

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肺動脈性肺高血圧症治療剤ユバンシ配合錠が発売/ヤンセン

 Johnson & Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は2024年11月20日、肺動脈性肺高血圧症治療薬として、エンドセリン受容体拮抗薬マシテンタン10mgとホスホジエステラーゼ5阻害薬タダラフィル40mgとの配合薬「ユバンシ配合錠」を発売した。 マシテンタン/タダラフィルは、国際共同第III相ピボタル試験(A DUE試験)の結果1)に基づき、9月24日に肺動脈性肺高血圧症を効能または効果として国内の製造販売承認を取得した、1日1回服用の配合錠である。 現在、肺動脈性肺高血圧症の治療については、欧州心臓病学会(ESC)および欧州呼吸器学会(ERS)による肺高血圧症治療ガイドライン2022において、エンドセリン受容体拮抗薬とホスホジエステラーゼ5阻害薬の併用療法が推奨されている。本薬剤は有効性・安全性プロファイルが示されているマシテンタンおよびタダラフィルの2つを配合錠にすることで、疾患管理の最適化や患者の服薬時の負担軽減などを期待できる可能性がある。<製品概要>商品名:ユバンシ配合錠一般名:マシテンタン/タダラフィル剤形:フィルムコーティング錠効能又は効果:肺動脈性肺高血圧症 用法及び用量:通常、成人には1日1回1錠(マシテンタンとして10mg及びタダラフィルとして40mg)を経口投与する。薬価:1万3,334.90円/錠製造基準収載日:2024年11月20日製造販売元:ヤンセンファーマ株式会社販売提携先:日本新薬株式会社

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冠動脈にワイヤーを入れて行う心筋虚血評価は、もうちょっと簡単にならないのか?(解説:山地杏平氏)

 QFR(Quantitative Flow Ratio、定量的冠血流比)とFFR(Fractional Flow Reserve、冠血流予備量比)の有効性と安全性を比較したFAVOR III Europe試験が、2024年のTCT(Transcatheter Cardiovascular Therapeutics)で発表され、Lancet誌に掲載されました。 FFRは、圧測定ワイヤーを狭窄遠位まで進め、最大充血を得るために薬剤投与が必要な侵襲的な検査です。一方で、QFRは冠動脈造影の画像をもとに冠動脈の3次元モデルを再構築し、数値解析を行うことで心筋虚血の程度を推定します。FAVOR III China試験などで、QFRが一般的な冠動脈造影検査のみの評価よりも優れていることが示され、欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインにおいてQFRはクラス1Bとして推奨されています。 本試験では、複合エンドポイントである死亡、心筋梗塞、緊急血行再建の発生率はQFR群で6.7%、FFR群で4.2%と報告され、QFR群でのイベント発生率がFFR群より高く、ハザード比は1.63(95%信頼区間:1.11~2.41)でした。イベント発生率の差は、非劣性マージンである3.4%を超えており、FFRが利用可能な場合にはQFRは推奨されないことが示唆されました。 イベント内訳を見ると、死亡は1.4% vs.1.1%、心筋梗塞は3.7% vs.2.0%、緊急血行再建は3.3% vs.2.5%と、一貫してQFR群での発生率が高い傾向でした。また、本試験の症例の約3分の2が安定狭心症であり、残り3分の1が非ST上昇型急性冠症候群またはST上昇型心筋梗塞の残枝でしたが、サブグループ解析ではいずれの群でもQFR群でイベント発生率が高いという結果でした。 FAME試験やFAME 2試験では、中等度の動脈硬化病変に対してFFRを用いた心筋虚血の評価後にPCIを行うことが有効とされています。しかし、FLOWER-MI試験などで示されたように、心筋梗塞の非責任病変においてFFRによる虚血評価が困難であることが示唆されており、適応疾患によって今回の試験結果が変わる可能性もありましたが、そういうわけではないようです。 また、QFR群では54.5%に治療が行われ、FFR群では45.8%に治療が行われました。治療が施されたことで周術期心筋梗塞のリスクが高まる可能性が懸念されますが、治療の影響を除外した1ヵ月以降のランドマーク解析においても、QFR群でイベントが多い傾向が続いていました。 本研究では残念ながらQFRはFFRより劣性であることが示されましたが、実際のところQFRで治療が行われた症例でイベントが多かったのか、それとも逆にFFRで治療が行われなかった症例でイベントが少なかったのかは興味があるところであり、今後の報告が期待されます。 QFR評価は手動での調整が必要であり、トレーニングを受けた評価者でも観察者間および観察者内の測定誤差が問題となる可能性が指摘されています。まだまだ発展途上の技術と考えられ、ソフトウェアの改善により今後の精度向上が期待されます。さらにはFAST III試験やALL-RISE試験など、同様の試験の結果も待たれます。

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腫瘍循環器学と不易流行【見落とさない!がんの心毒性】第30回(最終回)

連載終了にあたりある日、医療・医学情報サイトCareNet.comの編集者から腫瘍循環器学に関する連載をしませんかという企画をいただきました。そしてその内容はインターネット情報サイトを活用して、腫瘍循環器専門医のみならず一般の循環器医や腫瘍医の先生、メディカルスタッフの皆さんに腫瘍循環器学をわかりやすく理解していただくため、というものでした。この頃は、大阪府立成人病センター循環器内科において腫瘍循環器外来が開始して以来10年が経過した時点であり、日本腫瘍循環器学会が発足したばかりの時期でもありました。タイムリーな企画だなと考え、腫瘍循環器医として第一線で活躍されておられる大倉 裕二先生、草場 仁志先生、志賀 太郎先生をお誘いして本連載を開始することにいたしました。当初は2年間の予定でしたので、最初の1年は総論(第1回~第11回)、その後は症例中心に連載を行うことにいたしました(第12回~第28回)。途中CareNet.com読者の皆さまにアンケートを行う試みも行いました1,2)。症例報告については、当初の4名に加え多くのエキスパートの先生にご参加いただき、実際に先生方がご経験された症例などを元に原稿を作成していただきました。その結果、3年半、合計30回の連載企画になりました。今回は、最終回としてこれまでの3年間を振り返りながら腫瘍循環器学の現在と将来についてまとめさせていただきます。古くて新しいアントラサイクリン系抗がん剤まず取り上げたのは、最も古くから存在する抗がん剤の一つであるアントラサイクリン系抗がん剤でした。1970年代に報告されたアントラサイクリン心筋症こそが、腫瘍循環器領域で最初に報告された心血管合併症(心血管毒性)であり、大倉先生に第2回『見つかる時代から見つける時代へ』で執筆いただきました。それは「アントラサイクリン心不全は3回予防できる」と名言を残した素晴らしい内容でした。循環器医なら全員が知っているはずのアントラサイクリン心筋症ですが、その病態や管理については意外と知られておりません。第15回 化学療法中に心室期外収縮頻発!対応は?第17回 造血幹細胞移植後に心不全を発症した症例第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?さらにアントラサイクリン系抗がん剤と同様に、以前から投与されている殺細胞性抗がん剤について、以下の回で取り上げられました。第22回 フッ化ピリミジン系薬剤投与による胸痛発作症例第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第26回 増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法この古くて新しい抗がん剤については、第17回で取り上げましたように、がん治療が終了した後もがんサバイバーにおける晩期合併症としても大変注目されています。そして、乳がん領域で最も予後が不良であったトリプルネガティブ症例に対する最も新しい治療の一つとしてその有効性が明らかとなっています3)。腫瘍循環器学の始まりは分子標的薬から腫瘍循環器学は2000年になり登場した分子標的薬とそれに伴い出現する心血管毒性が報告されてから急激な発展を遂げています。第3回『HER2阻害薬の心毒性、そのリスク因子や管理は?』で取り上げたHER2阻害薬は、米国・MDアンダーソンがんセンターにおいて世界最初に開設されたOnco-Cardiology Unitのきっかけになったがん治療薬です。当時は副作用が少なく有効性の高い夢のような薬として登場いたしましたが、アントラサイクリンとの併用により高頻度で心毒性が出現(HERA試験)4)したことで、腫瘍循環器領域に注目が集まりました。HER2阻害薬は第3回で解説があるように、その可逆性には二面性があり腫瘍循環器的にも注意が必要な薬剤です。そして、現在最も多く投与されている分子標的薬である血管新生阻害薬について、以下の回で触れています。第4回 VEGFR-TKIの心毒性、注意すべきは治療開始○ヵ月第14回 深掘りしてみよう!ベバシズマブ併用化学療法このほか、第12回、第19回 と本連載でも多く取り上げられています。血管新生阻害薬は高血圧、心不全、血栓症など多くの心血管毒性に注意が必要な薬剤であり、Onco-Hypertension領域におけるがん治療関連高血圧の原因薬剤としても注目されています5)。古くて新しいがん関連血栓症がんと血栓症は、1800年代にトルーソー(Trousseau)らにより「がんと血栓症」が報告されて以来、トルーソー症候群という概念で古くから存在しています。そして現在は血管新生阻害薬などのがん治療薬の進歩に伴い、がん治療に伴う血栓症の頻度が急速に増加してきたことで、がん関連血栓症(CAT:cancer associated thrombosis)という新しい概念が生まれてきました(図1)6)。(図1)画像を拡大する本企画では第8回 がんと血栓症、好発するがん種とリスク因子は?第20回 静脈血栓塞栓症治療中の肺動脈塞栓を伴う右室内腫瘤の治療方針第21回 がん化学療法中に発症した肺塞栓症、がん治療医と循環器医が協力して行うべき適切な管理は?第23回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(前編)第24回 静脈血栓塞栓症の治療に難渋した肺がんの一例(後編)第25回 膵がん治療中に造影CTで偶然肺塞栓を発見!適切な対応は第28回 膵がん患者に合併する静脈血栓塞栓症への対応法で、症例クイズとして数多く取り上げています。また、本疾患概念などについては、第9回『不安に感じる心毒性とは?ー読者アンケートの結果から』や第26回『増加する化学療法患者-機転の利いた専攻医の検査オーダー』でも触れられています。そのほかのがん治療古くて新しいがん治療には、放射線療法そしてホルモン療法が挙げられます。第7回『進化する放射線治療に取り残されてる?new RTの心毒性対策とは』、そして第11回『免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?』に放射線関連心機能障害(RACD:Radiation Associated Cardiovascular diseases)が取り上げられました。さらに、ホルモン療法は第16回 がん患者に出現した呼吸困難、見落としがちな疾患は?第27回 アンドロゲン遮断療法後に狭心症を発症した症例にて症例提示がなされています。一方、最も新しいがん治療である免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の登場はがん診療にパラダイムシフトを起こしています。ICIに関連した連載は、第5回 免疫チェックポイント阻害薬:“予後に影響大”の心筋炎を防ぐには?第11回 免疫チェックポイント阻害薬、放射線治療の心毒性、どう回避する?第18回 免疫チェックポイント阻害薬の開始後6日目に出現した全身倦怠感第29回 irAE心筋炎の原因の一つに新たな知見が!!と計4回に登場します。また、第6回『新治療が心臓にやさしいとは限らない~Onco-Cardiologyの一路平安~』には、副作用に関するコメントとして、心毒性と腫瘍循環器医が知っておかねばならない副作用情報の読み方がまとめられており、ぜひとも再読してみてください。今後の腫瘍循環器学ニッチな学際領域であった腫瘍循環器学はいまや世界的に多くの研究がなされるようになり、各学会でステートメントやガイドラインが作成されています。本邦では、本連載が始まった後Onco-Cardiologyガイドラインが作成され、現在もトランスレーショナルリサーチや臨床研究がなされており、多くのエビデンスが明らかとなってきています。このような背景の元で、2025年10月に大阪千里ライフサイエンスセンターにおいて第8回日本腫瘍循環器学会学術集会(大会長 向井 幹夫)が開催されます。テーマを「不易流行* がんと循環器:古くて新しい関係」としており、本連載をお読みになられた方にはぜひ学術集会にご参加いただき、一緒に討論いたしましょう。*精選版 日本国語大辞典 第二版より:蕉風俳諧の理念の一つ。新しみを求めてたえず変化する流行性にこそ永遠に変わることのない不易の本質があり、不易と流行とは根元において一つであるとし、それは風雅の誠に根ざすものだとする。芭蕉自身が説いた例は見られないが向井 去来、服部 土芳らの門人たちの俳論において展開された。今回、連載の編集にご協力いただきました3名の先生、そして連載をお願いした腫瘍循環器医の先生方に御礼申し上げます。そして、本連載を読んでいただきました読者の皆さまと共に更なるご発展を祈念いたします。最後にCareNet.com連載について最初から担当いただき、適切なアドバイスをいただきましたケアネット社ならびに担当された土井様に深謝いたします。監修向井 幹夫(大阪がん循環器病予防センター 副所長)編集大倉 裕二(新潟県立がんセンター腫瘍循環器科 部長)草場 仁志(国家公務員共済組合連合会 浜の町病院 腫瘍内科部長)志賀 太郎(がん研究会有明病院腫瘍循環器・循環器内科 部長)向井 幹夫著者大倉 裕二、加藤 浩、北原 康行、草場 仁志、塩山 渉、志賀 太郎、鈴木 崇仁、竹村 弘司、田尻 和子、田中 善宏、田辺 裕子、津端 由佳里、深田 光敬、藤野 晋、向井 幹夫、森山 祥平、吉野 真樹(50音順、敬称略)1)向井幹夫ほか. がん診療医が不安に感じる心毒性ーCareNet.comのアンケート調査よりー. 第5回日本腫瘍循環器学会学術集会.2)志賀太郎ほか. JOCS創設7年目の今、腫瘍医、循環器医、それぞれの意識は〜インターネットを用いた「余命期間と侵襲的循環器治療」に対するアンケート調査結果〜. 第7回日本腫瘍循環器学会学術集会.3)Schmid P, et al. N Engl J Med. 2022;386:556-567.4)Piccart-Gebhart MJ et al. N Engl J Med. 2005;353:1659-1672.5)Minegishi S et al. Hypertension 2023;80:e123-e124.6)Mukai M et al. J Cardiol. 2018;72:89-93.講師紹介

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改訂GLに追加のNSCLCへのニボルマブ+化学療法+ベバシズマブ、OS・PFS最終解析結果(TASUKI-52)/日本肺癌学会

 非扁平上皮非小細胞肺がん(Non-Sq NSCLC)の1次治療における、プラチナ製剤を含む化学療法+ベバシズマブへのニボルマブ上乗せの有用性を評価した国際共同第III相試験「TASUKI-52試験」の最終解析の結果が、第65回日本肺癌学会学術集会で中川 和彦氏(近畿大学病院 がんセンター長)により報告された。すでにニボルマブ上乗せにより無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が改善することが報告されており1)、この結果を基に『肺癌診療ガイドライン2024年版』のCQ64~66に本試験のレジメンが追加されていた2)。試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験(日本、韓国、台湾で実施)対象:EGFR遺伝子変異、ALK融合遺伝子、ROS1融合遺伝子がいずれも陰性で、StageIIIB/IVの未治療Non-Sq NSCLC患者550例(日本人:371例)試験群(ニボルマブ群):ニボルマブ(360mg)+カルボプラチン(AUC 6)+パクリタキセル(200mg/m2)+ベバシズマブ(15mg/kg)を3週ごと最大6サイクル→ニボルマブ+ベバシズマブ 275例(日本人:188例)対照群(プラセボ群):プラセボ+カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブを3週ごと最大6サイクル→プラセボ+ベバシズマブ 275例(日本人:183例)評価項目:[主要評価項目]独立画像判定委員会(IRRC)判定によるPFS[副次評価項目]OS、奏効割合(ORR)、治験担当医師評価によるPFS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・両群間の患者背景はバランスがとれており、年齢中央値は66歳、女性の割合は約25%であった。・OS中央値は、ニボルマブ群31.6ヵ月、プラセボ群24.7ヵ月であり、ニボルマブ群が有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.88、p=0.0013)。4年OS率は、それぞれ34.7%、22.1%であった。・OSのサブグループ解析において、骨転移を有する集団(HR:1.01)以外はニボルマブ群が良好な傾向にあった。・PD-L1発現状況別にみた各群のOS中央値(HR、95%CI)は以下のとおりであった。 -PD-L1<1%:28.5ヵ月vs.23.8ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.58~1.06) -PD-L1 1~49%:31.2ヵ月vs.22.7ヵ月(HR:0.63、95%CI:0.43~0.91) -PD-L1≧50%:33.4ヵ月vs.26.6ヵ月(HR:0.73、95%CI:0.48~1.10)・ベースライン時の脳転移の有無別にみた各群のOS中央値(HR、95%CI)は以下のとおりであった。 -脳転移あり:41.8ヵ月vs.25.3ヵ月(HR:0.77、95%CI:0.42~1.39) -脳転移なし:31.2ヵ月vs.24.7ヵ月(HR:0.71、95%CI:0.57~0.88)・4年追跡時の治験担当医師評価によるPFS中央値は、ニボルマブ群9.9ヵ月、プラセボ群8.2ヵ月であり、ニボルマブ群が有意に良好であった(HR:0.61、95%CI:0.50~0.74、p<0.0001)。4年PFS率は、それぞれ13.7%、3.3%であった。・4年生存の有無別に背景因子を比較すると、ニボルマブ群における4年生存の因子として、年齢65歳以下、骨転移なしが挙げられた。・ニボルマブ群の4年生存例におけるORRは87.3%、4年奏効持続割合は43.9%であった。・ニボルマブ群の4年生存例では、後治療を受けていない割合が41.8%であった。ニボルマブ群の後治療を受けた患者のうち、放射線療法を受けた割合は39.1%、手術を受けた割合は6.5%であった。・Grade3/4の治療関連有害事象はニボルマブ群76.2%、プラセボ群74.9%に発現した。安全性に関する新たなシグナルはみられなかった。

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酒さ〔Rosacea〕・鼻瘤〔Rhinophyma〕

1 疾患概要■ 定義酒さは20歳代以降に好発し、顔面中央部の前額・眉間部、鼻部、頬部(中央寄り)、頤部に、紅斑・潮紅や毛細血管拡張による赤ら顔を来す疾患である。■ 疫学白人(コーカソイド)では5~10%程度までとする報告が欧米の地域からなされている。アジア人(モンゴロイド)では数~20%程度までの報告がある。日本人の酒さの罹患率の正確なデータはないが、自覚していない軽症例を含めると0.5~1%程度の罹患率が見込まれる。■ 病因酒さに一元的な病因は存在しない。酒さの病理組織学的病変の主体は、脂腺性毛包周囲の真皮内にあり、脂腺性毛包を取り囲む炎症と毛細血管拡張を来す。コーカソイドを祖先に持つ集団でのゲノムワイド関連解析(GWAS)調査では酒さ発症に遺伝的背景の示唆がある1)。後天的要因として、環境因子からの自然免疫機構・抗菌ペプチドの過活性化2,3)や肥満細胞の関与する皮膚炎症の遷延化4)、末梢神経応答などの関与する知覚過敏や血管拡張反応などが病態形成に関与することが示されている。■ 症状・分類酒さの皮疹は眉間部、鼻部・鼻周囲、頬部、頤部の顔面中央部に主として分布する。まれに頸部や前胸部、上背部の脂腺性毛包の分布部に皮疹が拡大することもある。酒さは主たる症候・個疹性状に基づいて、紅斑血管拡張型酒さ、丘疹膿疱型酒さ、瘤腫型酒さ・鼻瘤、眼型酒さの4病型・サブタイプに分類される。1)紅斑血管拡張型酒さ脂腺性毛包周囲の紅斑と毛細血管の拡張を主症候とし、酒さの中で最も頻度が高い病型である。寒暖差などの気温変化、紫外線を含む日光曝露、運動や香辛料の効いた食餌などの顔面血流が変化する状況で、火照りや顔の熱感などの自覚症状が悪化する。2)丘疹膿疱型酒さ尋常性ざ瘡と類似の丘疹や膿疱が頬部、眉間部、頤部などに出現する。背景に紅斑血管拡張型酒さにみられる紅斑や毛細血管拡張を併存することも多い。尋常性ざ瘡と異なり、丘疹膿疱型酒さには面皰は存在しないが、酒さと尋常性ざ瘡が合併する患者もあり得る。尋常性ざ瘡との鑑別には面皰の有無に加えて、寒暖差による火照り感や熱感などの外界変化による自覚症状の変動を確認するとよい。3)瘤腫型酒さ・鼻瘤皮下の炎症に伴って肉芽腫形成や線維化を来す病型である。とくに、鼻部に病変を来すことが多く、「鼻瘤」という症候名・病名でも知られている。頬部の丘疹膿疱型酒さを合併することがまれではない。紅斑毛細血管拡張型酒さや丘疹膿疱型酒さは女性患者の受診者が多いが、瘤腫型酒さ・鼻瘤では男女比は1対1である5)。4)眼型酒さ眼瞼縁のマイボーム腺周囲炎症・機能不全を主たる病態とし、初期症状は、眼瞼縁睫毛部周囲の紅斑と毛細血管拡張、そして眼瞼結膜の充血や血管拡張である。自覚症状として眼球や眼瞼の刺激感や流涙を訴えることが多い。眼型酒さのほとんどは、他の酒さ病型に併存しており、酒さの眼合併症という捉え方もされる。■ 予後生命予後は良い。紅斑血管拡張型酒さの毛孔周囲炎症と毛細血管拡張の改善には数年を要する。丘疹膿疱型酒さの丘疹・膿疱症状は、3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。瘤腫型酒さ・鼻瘤は鼻形態の変形程度に併せて、抗炎症療法から手術療法までが選択されるが、症候の安定には数年を要する。眼型酒さの炎症症状(結膜炎や結膜充血)は3~6ヵ月程度の治療で改善が期待できる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)酒さの診断のための特定の検査方法はなく、皮疹性状や分布、臨床経過から総合的に酒さを診断する。酒さ患者にはアトピー素因やアレルギー素因を有する患者が20~40%ほど含まれており、特異的IgE検査(VIEW39など)を行い、増悪因子の回避に努める5)。アレルギー性接触皮膚炎の併存が疑われる場合にはパッチテスト(貼布試験)を考慮する。酒さ病変部では、毛包虫が増えていることがあり、毛包虫の確認には皮膚擦過試料の検鏡検査を行う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)酒さの治療では、主たる症候を見極めて治療計画を立てる。一般的には、抗炎症作用を有する治療薬で酒さの脂腺性毛孔周囲の紅斑、丘疹、膿疱の治療を3~6ヵ月程度行う。炎症性皮疹のコントロールの後に、器質的変化による毛細血管拡張や、瘤腫や鼻瘤にみられる線維化と形態変形に対する治療を計画する。酒さ症候は、生活環境や併存症によっても症状の増悪が起こる5,6)。酒さの再燃や増悪の予防には、患者毎の増悪因子や環境要因に沿った生活指導と肌質に合わせたスキンケアが重要である。■ 丘疹膿疱型酒さに対する抗炎症外用薬・内服薬1)メトロニダゾール外用薬欧米では、メトロニダゾール外用薬(商品名:ロゼックスゲル)が酒さの抗炎症薬として1980年代から使用されている7,8)。わが国でも2022年に国際的酒さ標準治療薬の1つであるメトロニダゾール外用薬0.75%が酒さに対して保険適用が拡大された9)。メトロニダゾール外用薬は、その炎症反応抑制効果から丘疹膿疱型酒さにみられる炎症性皮疹の丘疹と膿疱の抑制効果、脂腺性毛包周囲の炎症による紅斑に対して改善効果が期待できる。2)イオウ・カンフルローションイオウ・カンフルローションは、わが国では1970年代から発売されざ瘡と酒さに対して保険適用がある。ただ、イオウ・カンフルローションの保険適用は、わが国での酒さ患者を対象とした臨床試験に基づいた承認経過の記録が見当たらず、現代のガイドライン評価基準に則した本邦での良質なエビデンスはない。イオウ・カンフルローションは、エタノールを含んでおり、皮脂と角層内水分の少ない乾燥肌の患者に用いると、乾燥感や肌荒れ感が強くなる場合がある。イオウ・カンフルローション懸濁液は、淡黄色で塗布により肌色調が黄色調となることがある。肌色調が気になる患者には、上澄み液だけを用いるなどの工夫をする。3)テトラサイクリン系抗菌薬ドキシサイクリンは、丘疹膿疱型酒さの炎症性皮疹(丘疹、膿疱)に有効である。酒さ専用内服薬としてドキシサイクリンの低用量徐放性内服薬が欧米では承認されている。ミノサイクリンは、ドキシサイクリン低用量徐放性内服薬と同等の効果が示されているが、間質性肺炎や皮膚色素沈着などの副作用から、長期服用時に留意が必要である10)。■ 紅斑毛細血管拡張型酒さに対する治療紅斑毛細血管拡張型酒さの主たる症候は、毛細血管の拡張に伴う紅斑や一過性潮紅である。治療には拡張した毛細血管を縮小させる治療を行う。パルス色素レーザー(pulsed dye laser:PDL)[595nm]、Nd:YAGレーザー[1,064nm]、Intense pulsed light (IPL)が、酒さの毛細血管拡張と紅斑を有意に減少させることが報告されている。これらのレーザー・光線治療は酒さに対しては保険適用外である。4 今後の展望2022年にメトロニダゾールが酒さに対して保険適用となり、わが国でも酒さ標準治療薬が入手できるようになった。酒さの診断名登録が増えており、医療関係者と患者ともに酒さ・赤ら顔に対する認知度の増加傾向が感じられる。しかしながら、潮紅や毛細血管拡張を主体とする紅斑毛細血管拡張型酒さに対する保険適用の治療方法は十分ではなく、今後の治験や臨床試験が期待される。5 主たる診療科皮膚科顔面の丘疹・膿疱を主たる皮疹形態とする疾患の多くは皮膚表面の表皮の疾患ではなく、真皮における炎症、肉芽腫性疾患、感染症、腫瘍性疾患である可能性が高い。皮膚炎症性疾患に頻用されるステロイド外用薬は、これらの疾患に効果がないばかりか、悪化させることがしばしば経験される。酒さは、ステロイドで悪化する代表的な皮膚疾患であり、安易なステロイド使用が患者と医療者の双方にとって望ましくない経過につながる。顔面に赤ら顔や丘疹や膿疱をみかける症例は、ステロイドなどの使用の前に鑑別疾患を十分に考慮する必要があるし、判断に迷う場合には外用薬を処方する前に速やかに皮膚科専門医にコンサルタントすることをお勧めする。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報酒さナビ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)National Rosacea Society(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)American Acne and Rosacea Society(医療従事者向けのまとまった情報、米国の本症の診療サイト)1)Aponte JL, et al. Hum Mol Genet. 2018;27:2762-2772.2)Yamasaki K, et al. Nat Med. 2007;13:975-980.3)Yamasaki K, et al. J Invest Dermatol. 2011;131:688-697.4)Muto Y, et al. J Invest Dermatol. 2014;134:2728-2736.5)Wada-Irimada M, et al. J Dermatol. 2022;49:519-524.6)Yamasaki K, et al. J Dermatol. 2022;49:1221-1227.7)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;109:63-66.8)Nielsen PG. Br J Dermatol. 1983;108:327-332.9)Miyachi Y, et al. J Dermatol. 2022;49:330-340.10)van der Linden MMD, et al. Br J Dermatol. 2017;176:1465-1474.公開履歴初回2024年11月14日

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