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潰瘍性大腸炎患者の大腸がんリスク、時間の経過で変化?/Lancet

 潰瘍性大腸炎(UC)患者は非UC者に比べて、大腸がん罹患のリスクが高く、大腸がん診断時の進行度は低いが、大腸がんによる死亡リスクは高いことが示された。一方で、それらの過剰なリスクは時間の経過とともに大幅に低下することも認められたという。スウェーデン・カロリンスカ研究所のOla Olen氏らによる、UC患者9万6,447例を対象とした住民ベースのコホート試験の結果で、著者らは、「国際的なサーベイランスガイドラインを改善する余地がまだあるようだ」と述べている。Lancet誌2020年1月11日号掲載の報告。デンマークとスウェーデンのUC患者9万6,447例を対象にコホート試験 研究グループは、1969年1月1日~2017年12月31日に、デンマークのUC患者3万2,919例と、スウェーデンのUC患者6万3,528例の計9万6,447例を対象に、住民ベースのコホート試験を行った。一般住民コホートから対照群として94万9,207例をマッチングし、大腸がん罹患と大腸がん死亡について比較した。 UC患者は、国内患者登録名簿の中に2つ以上の適切な国際疾病分類(ICD)記録がある場合、または、ICD記録が1つと大腸生検レポートに炎症性腸疾患(IBD)を示す形態診断コードが認められた場合を解析対象とした。また、UC患者全員について、性別、年齢、出生年、居住地でマッチングした個人をデンマークおよびスウェーデンの全住民登録から適合参照として選出した。 Cox回帰分析を行い、腫瘍ステージを考慮したうえで、大腸がん罹患、大腸がんによる死亡のハザード比(HR)を求めた。UCにより大腸がんリスクは増大、ただし直近5年ではリスクが低減 追跡期間中の大腸がん罹患者は、UC群1,336例(1.29/1,000人年)、対照群9,544例(0.82/1,000人年)だった(HR:1.66、95%信頼区間[CI]:1.57~1.76)。また、大腸がんによる死亡は、UC群639例(0.55/1,000人年)、対照群4,451例(0.38/1,000人年)だった(HR:1.59、95%CI:1.46~1.72)。 大腸がんのステージ分布を比較したところ、UC群は対照群に比べ進行度は低かったが(p<0.0001)、腫瘍ステージを考慮に入れても、UCで大腸がんの患者は、大腸がんによる死亡リスクが高かった(HR:1.54、95%CI:1.33~1.78)。 しかし、そうした過剰なリスクは、追跡期間中に低減していることが認められた。スウェーデン・コホートの直近5年の追跡期間(2013~17年)において、UC群の大腸がん罹患HRは1.38(95%CI:1.20~1.60、5年間でUC患者1,058例につき1件追加)で、大腸がんによる死亡HRは1.25(同:1.03~1.51、5年間でUC患者3,041例につき1件追加)だった。

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short DAPT vs.standard DAPTの新展開:黄昏るのはアスピリン?クロピドグレル?(解説:中野明彦氏)-1170

はじめに 本邦でBMSが使えるようになったのは平成6年、ステント血栓症予防には抗凝固療法(ワルファリン)より抗血小板剤:DAPT(アスピリン+チクロピジン)が優れるとわかったのはさらに数年後だった。その後アスピリンの相方が第2世代のADP受容体P2Y12拮抗薬:クロピドグレルに代わり、最近ではDAPT期間短縮の議論が尽くされているが、DAPT後の単剤抗血小板薬(SAPT)の主役はずっとアスピリンだった。そして時代は令和、そのアスピリンの牙城が崩れようとしている。 心房細動と異なり、ステント留置後の抗血栓療法には虚血リスク(ステント血栓症)と出血リスクの交差時期がある。薬剤溶出性ステント(DES)の進化・強化、2次予防の浸透などによる虚血リスク減少と、患者の高齢化に代表される出血リスク増加を背景に、想定される交差時期は前倒しになってきている。最新の欧米ガイドラインでは、安定型冠動脈疾患に対するDES留置後の標準DAPT期間を6ヵ月とし、出血リスクに応じて1~3ヵ月のshort DAPTをオプションとして認めている。同様に急性冠症候群(ACS)では標準:12ヵ月、オプション:6ヵ月である。もちろん日本循環器学会もこれに追従している。 しかし2018年ごろから、アスピリンに代わるSAPTとしてP2Y12拮抗薬monotherapyの可能性を模索する試験が続々と報告されている。・STOPDAPT-21):日本、3,045例、1 Mo(→クロピドグレル)vs.12 Mo、all comer(ACS 38%)、心血管+出血イベント・出血イベントともにshort DAPTに優越性・SMART-CHOICE2):韓国、2,993例、3 Mo(→クロピドグレル)vs.12 Mo、all comer(ACS 58%)、MACCEは非劣性、出血イベントはshort DAPTに優越性・GLOBAL-LEADERS3):EUを中心に18ヵ国、1万5,968例、1 Mo(→クロピドグレル、ACSはチカグレロル)vs.12 Mo DAPT→アスピリン、2年間、all comer(ACS 47%)、総死亡+Q-MI・出血イベントともに非劣性チカグレロルのmonotherapy チエノピリジン系(チクロピジン、クロピドグレル、プラスグレル)とは一線を画するCTPT系P2Y12拮抗薬であるチカグレロルは、代謝活性化を経ず直接抗血小板作用を発揮するため、作用の強さは血中濃度に依存し個体差がない。またADP受容体との結合が可逆的なため薬剤中断後の効果消失が速い。DAPTの一員としてPEGASUS-TIMI 54・THEMIS試験などで重症安定型冠動脈疾患への適応拡大が模索されているが、現行ガイドラインではACSに限定されている。 今回のTWILIGHT試験はPCI後3ヵ月間のshort DAPT(アスピリン+チカグレロル)とstandard DAPTの比較試験で、SAPTとしてチカグレロルを残した。前掲試験と異なる特徴は、・虚血・大出血イベントを合併した症例を除外し、3ヵ月後にランダム化したランドマーク解析であること・all comerではなく、虚血や出血リスクが高いと考えられる症例・病変*に限定したこと・3分の2がACSだがST上昇型心筋梗塞は含まれていないなどである。*:年齢65歳以上、女性、トロポニン陽性ACS、陳旧性心筋梗塞・末梢動脈疾患、血行再建の既往、薬物療法を要する糖尿病、G3a以上の慢性腎臓病、多枝冠動脈病変、血栓性病変へのPCI、30mmを超えるステント長、2本以上のステントを留置した分岐部病変、左冠動脈主幹部≧50%または左前下行枝近位部≧70%、アテレクトミーを要した石灰化病変 結果、ランダム化から1年間の死亡+虚血イベントは同等(short DAPT:3.9% vs.standard DAPT:3.9%)で、BARC基準2/3/5出血(4.0% vs.7.1%)・より重症なBARC基準3/5 出血(1.0% vs.2.0%)はほぼダブルスコアだった。 筆者らは「PCI治療を受けたハイリスク患者は、3ヵ月間のDAPT(アスピリン+チカグレロル)を実施した後、DAPT継続よりもチカグレロル単剤に切り替えたほうが総死亡・心筋梗塞・脳梗塞を増やすことなく出血リスクを減らすことができる」と結論付けた。日本への応用、そしてその先は? しかしどこか他人事である。 第1に、ACSに対するクロピドグレルvs.チカグレロルのDAPT対決(PLATO試験4))に参加できず別に施行したブリッジ試験(PHILO試験5))が不発に終わった日本では、チカグレロルの適応が大幅に制限されている。したがって、われわれが日常臨床で本試験を実感することはできない。 第2に出血イベントの多さに驚く。3ヵ月のDAPT期間内に発生した死亡+虚血イベントが1.2%だったのに対し、BARC 3b以上の大出血は1.5%だった。出血リスクの高い対照群や人種差のためかもしれないが、本来なら虚血イベントが上回るはずのPCI後早期に出血イベントのほうが多かったのでは本末転倒である。ランダム化後の出血イベント(上記)も加えると、さらに日本の臨床試験とかけ離れてくる。PHILO試験が出血性イベントで失敗したことを考えれば、プラスグレルのように日本人特有の用量設定が必要なのでは、と感じる。 とはいえ、脳出血や消化管出血のリスクが付きまとうアスピリンに代わるP2Y12拮抗薬monotherapyは魅力的なオプションではある。PCI後の抗血小板療法は血栓症予防と出血性合併症とのトレードオフで論ずるべき問題であり、症例や使用薬剤によって虚血リスクと出血リスクの交差時期(至適short DAPT期間)は変わるに違いない。さらに、どのP2Y12拮抗薬がmonotherapyとして最適なのか? 2次予防としても有効なのか? アスピリンのように「生涯」継続するのか? 医療経済的に釣り合うのか? 最初からmonotherapyではダメなのか? …検討すべき問題は山積するが、新しい時代に本試験が投じた一石は小さくない。

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マイコプラズマ市中肺炎児、皮膚粘膜疾患が有意に多い

 かつて、その流行周期から日本では「オリンピック肺炎」とも呼ばれたマイコプラズマ肺炎について、ほかの起炎菌による市中肺炎(CAP)児と比べた場合に、皮膚粘膜疾患が有意に多く認められることを、スイス・チューリッヒ大学小児病院のPatrick M. Meyer Sauteur氏らが明らかにした。現行の診断検査では、肺炎マイコプラズマ(M. pneumoniae)の感染と保菌を区別できないため、皮膚粘膜疾患の原因としてマイコプラズマ感染症を診断することは困難となっている。今回の検討では、M. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患は、全身性の炎症や罹患率および長期にわたる後遺症リスクの増大と関連していたことも示されたという。JAMA Dermatology誌オンライン版2019年12月18日号掲載の報告。 研究グループはCAP児を対象に、改善した診断法を用いてM. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患の頻度と臨床的特性を調べる検討を行った。 2016年5月1日~2017年4月30日にチューリッヒ大学小児病院で登録されたCAP患者のうち、3~18歳の152例を対象に前向きコホート研究を実施。対象児は、英国胸部疾患学会(British Thoracic Society)のガイドラインに基づきCAPと臨床的に確認された、入院または外来患者であった。 データの解析は2017年7月10日~2018年6月29日に行われた。主要評価項目は、CAP児におけるM. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患の頻度と臨床特性とした。マイコプラズマ肺炎の診断は、口咽頭検体を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で行い、ほかの病原菌によるCAPキャリアとM. pneumoniae感染患者を区別するため、酵素免疫測定法(ELISA)で特異的末梢血中IgM抗体分泌細胞の測定を行い、確認した。 皮膚粘膜疾患は、CAPのエピソード中に発生した、皮膚および/または粘膜に認められたあらゆる発疹と定義した。 主な結果は以下のとおり。・CAP児として登録された152例(年齢中央値5.7歳[四分位範囲:4.3~8.9]、84例[55.3%]が男子)において、PCR法でM. pneumoniae陽性が確認されたのは44例(28.9%)であった。・それら44例のうち、10例(22.7%)で皮膚粘膜病変が認められ、全例が特異的IgM抗体分泌細胞の検査結果で陽性であった。・一方、PCR法でM. pneumoniae陰性であったケースのうち、皮膚症状が認められたのは3例(2.8%)であった(p<0.001)。・M. pneumoniae誘発皮膚粘膜疾患は、発疹および粘膜炎(3例[6.8%])、蕁麻疹(2例[4.5%])、斑点状丘疹(5例[11.4%])であった。・2例に、眼粘膜症状(両側性前部ぶどう膜炎、非化膿性結膜炎)が認められた。・M. pneumoniaeによる皮膚粘膜疾患を有する患児は、M. pneumoniaeによるCAPを認めるが皮膚粘膜症状は認めない患児と比べ、前駆症状としての発熱期間が長く(中央値[四分位範囲]:10.5[8.3~11.8]vs.7.0[5.5~9.5]日、p=0.02)、CRP値が高かった(31[22~59]vs.16[7~23]mg/L、p=0.04)。また、より酸素吸入を必要とする傾向(5例[50%] vs.1例[5%]、p=0.007)、入院を必要とする傾向(7例[70%]vs.4例[19%]、p=0.01)、長期後遺症を発現する傾向(3例[30%]vs.0、p=0.03)も認められた。

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第36回 本物?ニセモノ?下壁誘導Q波を見切るエクセレントな方法(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

本物?ニセモノ?下壁誘導Q波を見切るエクセレントな方法(後編)だいぶ遅くなりましたが、皆さま、新年明けましておめでとうございます。2018年8月末から隔週で続けていた本連載を2020年1月からは1回/月ペースでお届けすることになりました。引き続き“価値ある”レクチャーを展開していく所存ですので、今年も“ドキ心”をよろしくお願いします。さて、今回も 昨年に引き続き、下壁誘導(II、III、aVF)のQ波をどう考えるか、Dr.ヒロと一緒に心電図の“技巧的”な記録法を学びましょう。第35回と同じ症例を用いて解説し「異常Q波」のレクチャーを終えたいと思います。では張り切ってスタートです!症例提示48歳、男性。糖尿病にてDPP-4阻害剤を内服中。泌尿器科より以下のコンサルテーションがあった。『腎がんに対して全身麻酔下で左腎摘除術を予定しています。自覚症状はとくにありませんが、術前心電図にて異常が疑われましたので、ご高診下さい』174cm、78kg(BMI:25.6)。血圧123/72mmHg、脈拍58/分・整。喫煙:15~20本×約30年(現在も喫煙中)。術前検査として記録された心電図を示す(図1)。(図1)術前外来の心電図画像を拡大する【問題1】心エコーでは左室下壁領域の壁運動低下があった(第35回参照)。本症例の「陳旧性下壁梗塞」の有無について、Q波の局在、ST-T変化の合併以外に、心電図上の注目ポイントを述べよ。解答はこちら平常時と深吸気時記録の比較解説はこちら症例は前回と同じ、腎がんに対して摘除術が予定された中年男性です。“ニ・サン・エフ”のいわゆる下壁誘導に「異常Q波」ありと読むのでした。“周囲確認法”的にはST-T異常も伴わず、本人に問診しても強い胸痛イベントの記憶もないため、フェイクQ波だと思いたいところではあります。しかし、心エコーで局所壁運動異常、背景に糖尿病もあるため、「無症候性心筋虚血(梗塞)」の線も捨てきれないという悩ましい状況なわけです。あくまでも術前ですから、冠動脈CT、心臓MRI(CMR)や核医学(RI)などの“大砲検査”に無制限に時間をかければいいというものでもありません。あくまでも腎がんの手術をつつがなく終えてもらうことが当座の目標です。大がかりでコストもかさむ検査をする前に、実は“一手間”かけて心電図をとるだけで、下壁Q波が本物かニセモノかを見抜ける場合があるのです。“深呼吸でQ波が消える?”いつか、皆さんにこの“ドキ心”レクチャーで紹介しようと思っていた論文*1があります。イタリアからの報告で、既知の冠動脈疾患(CAD)がない50人(平均年齢68歳、男性54%)を対象としています。これらの男女は見た目“健康”ですが、複数の冠危険因子、脳梗塞や末梢動脈疾患(PAD)の既往があり、下壁誘導にQ波が見られるという条件で選出されています(II:18%、III:98%、aVF:100%)。ちなみに、海外ではこうした“下壁Q波”は、一般住民でも1%弱(0.8%)に認められるそうです*2。全例に心エコーとCMRを行い、下壁にガドリニウム(Gd)遅延造影が見られた時に“本物”の下壁梗塞と認定されました。と、ここまでは至極普通なのですが、この論文がすごいのは、以前からささやかれていた「ニセモノの下壁Q波は深呼吸で“消える”」という、いわば“都市伝説”レベルの話が検証されているのです! 皆さん、こんな話って聞いたことありますか?方法はとても簡単です。安静時と思いっきり息を吸った状態(deep inspiration)の2枚、心電図を記録します。深吸気時でも変わらずQ波なら、それこそ真の「異常Q波」と見なし、下壁梗塞のサインと考えるのです。ちなみにQ波が“消える”とは、完全に消失することではなく、診断基準(第33回)を満たさなくなるという意味とご理解ください。このシンプルなやり方に“アダ名”をつけるのが、Dr.ヒロの得意技(笑)。言いやすい“深呼吸法”と名付けました。“本物なQ波の確率を高める所見はあるか?”この研究、実際の結果はどうだったのでしょうか? CMRで本当に下壁梗塞が検出されたのは50人中10人(20%)でした。単純にQ波が3つの誘導中2つ以上、それもほとんどサンエフ(III、aVF)だけなら、 “打率”は2割と低いわけです。単純に下壁梗塞の有無で各種因子が比較されましたが、有意なものはありませんでした。「有意」(p<0.05)に届かなかったものの“おしい”感じだったのは、1)男性、2)II誘導にQ波あり、3)ST-T所見の合併ありの3つです。性別(男性)は確かに冠危険因子の一つですし、背景疾患も含めて意識したいところです。ただ、これは“決定打”にはなりません。残りの2つも大事です。その昔「II誘導にQ波があったら高率に下壁梗塞あり」と習った記憶がありますが、この論文では半数弱(40%)にとどまりました(「なし」の場合の13%より確かに高率でしたが)。もう一つのST-T所見の合併、これは「ST上昇」や「陰性T波」であることが多いです。以前取り上げた心筋梗塞の「定義」を述べた合意文書でも、「幅0.02~0.03秒」の“グレーゾーン”でも、「深さ≧1mm」かつ「同誘導で陰性T波」なら本物の可能性が高まると述べられています。常日頃から漏れのない判読を心がけている立場としては、Q波「だけ」で考えないのは当然で、“周囲確認法”として多面的に考えることで“打率”が向上すると思っています(有意にならなかったのは、サンプル数が少ないためでしょうか)。“深呼吸法の実力やいかに”さて、いよいよ“深呼吸法”のジャッジです。次の図2をご覧ください。(図2)“深呼吸法”の識別能力画像を拡大する図中の「IQWs」とは、「下壁Q波」(Inferior Q-waves)の意味で、「MI」は「心筋梗塞」(myocardial infarction)です。“深呼吸法”で異常Q波が「残った」10人中、本物が8人。 なんと“打率”が8割にアップしました。よく見かける2×2分割表を作成し、感度、特異度を求めるとそれぞれ80%、95%になるわけです。しかも、特筆すべきは心エコーでの局所壁運動異常(asynergy)は各50%、88%であったこと。あれっ? 深吸気した心電図のほうが心エコーより“優秀”ってこと?…そうなんです。もちろん、単純に感度・特異度の値だけで比較できるものではありませんが、論文中ではいくつかの検討が加えられ、最終的に「“深呼吸法”は心エコーよりも下壁梗塞の診断精度が良かった」というのが、本論文の結論です。どうです、皆さん! “柔よく剛を制す”ではないですが、心電図を活用することで心エコー以上の芸当ができるなんて気持ちいいですよね。“判官贔屓”(はんがんびいき)と言われそうですが(笑)。ここで下壁誘導のQ波についてまとめておきましょう。■下壁誘導Q波の“仕分け方”■心筋梗塞の既往(問診)、冠危険因子の確認は必須III誘導「のみ」なら問題なし(お隣ルール)II誘導のQ波、ST-T所見の有無も参考に(周囲確認法)深吸気で“消える”Q波はニセモノの可能性大(深呼吸法)“実際に深呼吸法やってみた”心電図に限りませんが、新しい事柄を知った時、すぐに“実践”してみることで、その知識は真に定着するというのがボクの信条の一つです。早速、症例Aと症例Bを用いて“深呼吸法”を試してみました。【症例A】68歳、男性。他院から転医。糖尿病、脂質異常症、高血圧症あり。既往に心筋梗塞あり。【症例B】63歳、男性。術前心電図異常で紹介。高血圧症あり。以前から階段・坂道で息切れあり。臨床背景からは、【症例A】は本物な感じがしますが、【症例B】は、にわかに判断は難しいような気がします。皆さんはどう思いますか? 実際に“深呼吸法”も含めて行った心電図の様子を示します(図3)。(図3)自験例で“深呼吸法”やってみた画像を拡大するまず、安静時の心電図を見てみましょう。【症例A】では、II誘導を含めて下壁誘導すべてにQ波がありますが、陰性T波の随伴はありません(a)。一方の【症例B】は、Q波はIII、aVF誘導のみですが(QS型)、III誘導に陰性T波ありという状況です(c)。さて、“深呼吸法”の結果はどうでしょうか。息を深く吸うことで、幅・深さともに若干おとなしくなることにご注目ください。しかも、「息こらえ」のためか筋電図ノイズが混入して見づらくなるという特徴がありますよ。【症例A】ではII、III、aVF誘導ともQ波が残るので、がぜん”本物”度が増します。一方の【症例B】はどうでしょう?…III誘導は「QS型」のままですが、aVF誘導ではQ波がほぼ消えて「qr型」となったではありませんか! こうなると、もはや“お隣ルール”に該当せず、III誘導のみの“問題がない”パターンであることが露呈しました。実際の“正解”をまとめます。【症例A】は50歳時に右冠動脈中間部を責任血管とする急性下壁梗塞の既往があり、一方の【症例B】では、心エコーはほぼ正常で冠動脈CTでも有意狭窄はありませんでした。何度か述べているように、心電図だけですべてを判断するのは危険ですし、【症例B】のように一定のリスク、胸部症状や本人希望などに沿った総合的な判断から冠動脈精査を行うことは決して悪くないです。ただ、“深呼吸法”は実ははじめから“大丈夫”の太鼓判を押してくれていたことになります。ウーン、改めてすごいな。“おわりに”話を冒頭の症例に戻します。この方は心エコーとRI検査で左室下壁に異常があり、 “深呼吸法”でもII、III、aVFそれぞれでQ波は顕在でした。この患者さんの冠動脈造影(CAG)の結果 (図4)を見ると、左冠動脈には狭窄はありませんでしたが、右冠動脈の中間部で完全閉塞(図中赤矢印)、いわゆる“CTO”(Chronic Total Occlusion)と呼ばれる「慢性閉塞性病変」でした(左冠動脈造影で側副血行路を介して右冠動脈末梢が造影されています[図中黄矢印])。つまり、今回の中年男性は“本物”の下壁梗塞だったのです。(図4)48歳・男性のCAG画像を拡大するところで話は変わりますが、皆さんは「ブルガダ心電図」*3をご存じでしょうか。多くの臨床検査技師さんは、V1~V3誘導で「ST上昇」を見たら、「第1肋間上」での記録も残してくれ、これはだいぶ浸透しています。そこで提案。「下壁、とくにIII・aVF誘導にQ波があったら“深吸気”時の記録を追加する」をルーチンにしませんか?…とまぁ、とかく“欲張り”なDr.ヒロなのでした。Take-home Message下壁誘導の「異常Q波」を見たら、本物かニセモノか考えよう!冠危険因子、既往歴、II誘導のQ波やST-T変化の随伴とともに深呼吸法が参考になるはず。*1Nanni S, et al. J Electrocardiol. 2016;49:46-54.*2Godsk P, et al. Europace. 2012;14:1012-1017.*3『遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)』【古都のこと~智積院~】令和2年最初の『古都のこと』は、智積院(ちしゃくいん)から始めます。ここは「東山七条」と呼ばれるゾーンで、有名な三十三間堂や京都国立博物館のすぐ近くです。「あれっ、~寺じゃないの?」…そうなんです。ボクもそう思いました。正式名称は五百仏山根来寺(いおぶさん ねごろじ)智積院。一時退廃していた真言宗の「中興の祖」とされる興教大師が修行の場を根来山に移してから「学山」として栄え*1、室町時代後期(南北朝時代)に創建された学頭寺院の名称が「智積院」です。いわゆる「お坊さんの“学校”」なんですね。でも、これは和歌山県の話です。現在の東山の地に移ったのは、「根来衆」の“黒歴史”*2が関係しています。徳川家康から秀吉を祀る豊国神社と祥雲禅寺*3の地を拝領してからは、江戸時代以降「学問寺」としての位置を取り戻しました。さらに、明治時代の廃仏毀釈や根本道場(勧学院)・金堂*4の火難など不幸の歴史を辿りながら明治33年(1900年)に智山派総本山となった歴史を知ると、“学問”がつなぐ絆の強さに感動します。広大な敷地にボクは大学のキャンパスに漂う“自由”の気風をイメージし、既に離れた母校を懐かしみました。また、素敵な庭園とともに、敷地内にある宝物館には、国宝である長谷川等伯らによる障壁画『桜図』『楓図』(国宝)*5が拝める特典もありますよ。勧行体験のできる宿坊がリニューアル(2020年夏頃)したらまた来たいなぁと思うDr.ヒロなのでした。*1:弘法大師入定(高僧の死)後300年、荒廃した高野山に大伝法院(学問所で学徒の寮も兼ねた)を創建、宗派内の対立で同じ和歌山県内の根来山に修行の場を移し、教学「新義(真言宗)」を確立した。*2:いつしか“書物”を“火縄銃”に持ち替えた僧兵は種子島伝来の鉄砲を操ったという。天正13年(1585年)、豊臣秀吉による“根来攻め”により山内の堂塔が灰燼に帰し、当時の智積院住職であった玄宥(げんゆう)僧正が難を逃れたのが京都東山であった。*3:秀吉が夭逝した愛児鶴松(棄丸)の菩提を弔うため建立した。*4:宗祖弘法大師(空海)の生誕1200年の記念事業として昭和50年(1975年)に再建された。*5:中学・高校時代に誰しも一度や二度は図説で見たであろう“金ピカ”の障壁画に出会える。安土桃山時代らしい絢爛豪華さで、自分が想定したよりもスケールが大きくビックリ!

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統合失調症患者の代謝機能に対する18種類の抗精神病薬の比較

 抗精神病薬による治療は、代謝異常と関連しているが、各抗精神病薬によりどの程度代謝の変化が起こるのかはよくわかっていない。また、代謝調節不全の予測因子や代謝の変化と精神病理学的変化との関連も不明である。英国・キングス・カレッジ・ロンドンのToby Pillinger氏らは、抗精神病薬による代謝系副作用の比較に基づきランク付けを行い、代謝調節不全の生理学的および人口統計学的予測因子の特定を試み、抗精神病薬治療による精神症状の変化と代謝パラメータの変化との関連について調査を行った。The Lancet Psychiatry誌2020年1月号の報告。 MEDLINE、EMBASE、PsycINFOより、2019年6月30日までに報告された統合失調症の急性期治療に対する18種類の抗精神病薬とプラセボを比較した盲検ランダム化比較試験を検索した。体重、BMI、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド、グルコースの濃度に関して、治療誘発性の変化を調査するため、ランダム効果ネットワークメタ解析を実施した。代謝の変化と年齢、性別、民族性、ベースライン時の体重、ベースライン時の代謝パラメータレベルとの関連を調査するため、メタ回帰分析を実施した。症状の重症度変化と代謝パラメータの変化との相関を推定することで、代謝の変化と精神病理学的変化との関連を調査した。 主な結果は以下のとおり。・6,532件の引用のうち、ランダム化比較試験100件(2万5,952例)が抽出された。・治療期間の中央値は、6週間であった(四分位範囲:6~8)。・プラセボと比較した各パラメータの平均差は以下の範囲であった。 ●体重増加:ハロペリドール:-0.23kg(95%CI:-0.83~0.36)~クロザピン:3.01kg(95%CI:1.78~4.24) ●BMI:ハロペリドール:-0.25kg/m2(95%CI:-0.68~0.17)~オランザピン:1.07kg/m2(95%CI:0.90~1.25) ●総コレステロール:cariprazine:-0.09mmol/L(95%CI:-0.24~0.07)~クロザピン:0.56mmol/L(95%CI:0.26~0.86) ●LDLコレステロール:cariprazine:-0.13mmol/L(95%CI:-0.21~-0.05)~オランザピン:0.20mmol/L(95%CI:0.14~0.26) ●HDLコレステロール:ブレクスピプラゾール:0.05mmol/L(95%CI:0.00~0.10)~amisulpride:-0.10mmol/L(95%CI:-0.33~0.14) ●トリグリセライド:ブレクスピプラゾール:-0.01mmol/L(95%CI:-0.10~0.08)~クロザピン:0.98mmol/L(95%CI:0.48~1.49) ●グルコース:lurasidone:-0.29mmol/L(95%CI:-0.55~-0.03)~クロザピン:1.05mmol/L(95%CI:0.41~1.70)・グルコース増加の予測因子は、ベースライン時の多い体重(p=0.0015)および男性(p=0.0082)であった。・民族性においては、非白人は、白人と比較し、総コレステロールのより大きな増加と関連していた(p=0.040)。・症状重症度の改善は、以下のパラメータ変化との関連が認められた。 ●体重増加:(r=0.36、p=0.0021) ●BMI増加:(r=0.84、p<0.0001) ●総コレステロール増加:(r=0.31、p=0.047) ●HDLコレステロール減少:(r=-0.35、p=0.035) 著者らは「代謝性副作用に関して抗精神病薬間で顕著な差が認められた。プロファイルが良好であった薬剤は、アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール、cariprazine、lurasidone、ziprasidoneであり、不良であった薬剤は、オランザピンとクロザピンであった。抗精神病薬誘発性の代謝変化に関する予測因子は、ベースライン時の多い体重、男性、非白人であり、精神病理学的改善は代謝障害との関連が認められた。本知見を考慮し、治療ガイドラインを更新する必要があるが、抗精神病薬を選択する際には、患者、介護者、主治医の臨床状況を鑑み、個別に治療選択肢を検討すべきである」としている。

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尿酸値を本気で下げる方法とは?

高尿酸血症の治療には食生活を中心とした生活習慣改善が欠かせないが、無症状の場合も多く、継続的に取り組むことは容易ではない。患者を“本気にさせる”尿酸値を下げる方法や、乳酸菌による尿酸値の上昇抑制効果とは? 2019年11月29日、「疾病リスクマーカーとして注目すべき尿酸値に関する新知見」と題したメディアセミナー(主催:明治)が開催された。久留 一郎氏(鳥取大学大学院医学系研究科)、野口 緑氏(大阪大学大学院医学系研究科)、藏城 雅文氏(大阪市立大学大学院医学研究科)が登壇し、高尿酸値と疾病リスクの関係や患者指導のポイント、生活習慣改善にまつわる新旧のエビデンスについて講演した。高尿酸値で怖いのは痛風より合併症、尿酸値を下げないと全身で臓器障害を引き起こす 尿酸値が7.0mg/dLを超える高尿酸血症患者のうち、痛風発作を起こすのは約1割。残り9割は無症候性だが、痛風以上に心配すべきは合併症で、高尿酸値は心血管代謝疾患発症のリスク因子となる。高尿酸値と各疾患の関連は数多く報告されているが、合併症のない日本人の無症候性高尿酸血症患者を対象とした5年間のコホート研究では、男女問わず高血圧、脂質異常症、CKDの発症リスクと関連したほか、男性の肥満、女性の糖尿病の発症リスクと関連したことが明らかになっている1)。久留氏は「症状のない場合でも、5年間でこれらの疾患発症リスクが増加してしまうことは見逃せない」と指摘した。 同時に、尿酸はヒトにとって必要不可欠な物質でもある。血中に存在し、生理的濃度(5.0mg/dL程度)で血管内皮機能の維持に働いているとされ、2.0mg/dL以下の低尿酸血症の状態は避けなければならない。しかし、尿酸が血中に溶けることができる限界濃度は7.0mg/dLで、それ以上に尿酸値が高まると関節だけでなく、全身の細胞内に取り込まれて臓器障害を引き起こす。その機序としては、細胞内に蓄積した尿酸により活性酸素が産生されるルート、体内での尿酸合成に伴いキサンチンオキシダーゼ(XO)が活性化されて活性酸素が増加するルートの2つが考えられるという。患者を本気で尿酸値を下げる気にさせる“具体的で実感が湧く”情報とは 続いて登壇した野口氏は、尼崎市に保健師として在任中、独自の指導方法などによって毎年数例あった職員の脳・心血管疾患での在職死亡を“0”にした経験を持つ。尿酸値を下げる方法として、健診結果の数値を見せて、ただ「減らしてください」と言っても行動にはつながりにくく、いかに具体的なイメージを持ってもらうかが重要と強調した。 たとえば高尿酸血症の場合は、「痛風発作につながる可能性がある」と言われても患者は想像がつかないことが多い。しかし「血管をどう傷つけるか」を説明すると反応があるといい、そもそも尿酸はどんな物質で、体内のどこをどうめぐり、最終的に痛みにつながる可能性があることを図示した指導用資料を活用しながら、「何が原因となって体内でどうダブついてしまうのか」を説明するという。 米国でスタチン服用経験のある1万例以上を対象に、尿酸値を下げる治療を中断しないための条件を調査した研究では、「食事や運動の相談」「web情報」といった方法論の伝達だけでは継続者は少なく、「治療の説明に対する満足」「治療コントロール目標の説明に対する同意」「心臓や動脈に対する影響の説明」といった項目で、中断が継続を上回っていた2)。尿酸値上昇にサウナ+ビールはてきめん、尿値値を下げるには豆乳よりも牛乳? 尿酸値を下げるための具体的な生活指導の方法としては、高プリン食(肉類・魚介類など)を極力控えること、十分な水分摂取(尿量2,000mL/日以上)、アルコール(特にビール)の制限、軽い有酸素運動などが推奨されている3)。藏城氏は、関連のエビデンスをメカニズムと併せていくつか紹介。自転車エルゴメーターと尿酸値の関連を調べた研究では、実施時間が長くなるほど尿酸値が上昇し4)、激しい運動は尿酸値を下げるのとは真逆の効果をもたらすと説明した。アルコール摂取に関しては、低プリン発砲酒でも尿酸値は上昇するものの、その幅は通常のものよりも低く抑えられる5)、サウナ+ビールの組み合わせは脱水とプリン体摂取とにより大きく尿酸値が上昇する6)といったデータが紹介された。 逆に摂取が推奨されるものの1つが乳製品で、痛風の発症抑制に有効であることが報告されている7)。手軽に摂取できる牛乳は有用だが、豆乳では血中尿酸値を下げる効果が確認されなかったという8)。同氏はこの背景として、牛乳にはプリン体が含まれないが、豆乳には含まれることが影響しているのではないかと話した。乳酸菌が腸内でプリン体を栄養源として利用か 最後に藏城氏は、乳酸菌による尿酸値の上昇抑制効果について、新たなデータを紹介。プリン体の吸収抑制効果に着目して選定された乳酸菌(Lactobaccillus gasseri PA-3;以下PA-3株)を含むヨーグルトと、通常のヨーグルトの抑制効果を比較した結果について解説した。20歳以上の健康な男性14人対象のプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験の結果、ともに1日1パック(112g)のヨーグルトを摂取した場合、食後(プリン体摂取後)30分、60分時において、PA-3株を含むヨーグルトが、通常のヨーグルトと比較して尿酸値の上昇量を有意に抑制した9)。 同氏は、同じ乳製品でも、牛乳と乳酸菌による尿酸値抑制メカニズムが異なる可能性を指摘。牛乳の場合は、摂取後の尿中の尿酸排泄量が増加するが、PA-3株では尿中排泄量の変化はみられなかった。しかし血清尿酸値は抑制されていることから、「乳酸菌は消化管からのプリン体吸収抑制に寄与し、腸管内でプリン体を取り込み、増殖のための栄養源として利用している可能性がある」と話した。■参考1)Kuwabara M, et al. Hypertension. 2017 Jun;69:1036-1044.2)Cohen JD, et al. J Clin Lipidol. 2012 May-Jun;6:208-15.3)日本痛風・核酸代謝学会. 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版.診断と治療者;2018.4)Yamamoto T, et al. Horm Metab Res. 1994 Aug;26:389-91.5)Yamamoto T, et al. Metabolism. 2002 Oct;51:1317-23.6)Yamamoto T, et al. Metabolism. 2004 Jun;53:772-6.7)Choi HK, et al. N Engl J Med. 2004 Mar 11;350:1093-103.8)Dalbeth N, et al. Ann Rheum Dis. 2010 Sep;69:1677-82.9)Kurajoh M, et al. Gout and Nucleic Acid Metabolism. 2018;42:31-40.

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高出血リスク重症例への予防的PPI・H2RAは有用か/BMJ

 出血リスクの高い成人重症患者において、プロトンポンプ阻害薬(PPI)およびH2受容体拮抗薬(H2RA)の予防的投与は非投与群と比較して、消化管出血について臨床的に意味のある減少をもたらす可能性が示された。中国・首都医科大学のYing Wang氏らがシステマティックレビューとメタ解析を行い明らかにしたもので、リスクの低い患者ではPPIおよびH2RAの予防的投与による出血の減少は意味のないものであり、また、これらの予防的投与は、死亡率や集中治療室(ICU)滞在期間、入院日数などのアウトカムとの関連は認められなかった一方、肺炎を増加する可能性が示されたという。消化管出血リスクの高い患者の大半が、ICU入室中は胃酸抑制薬を投与されるが、消化管出血予防処置(多くの場合ストレス性潰瘍の予防とされる)については議論の的となっている。BMJ誌2020年1月6日号掲載の報告。システマティックレビューとメタ解析、GRADEシステムでエビデンスの質も評価 研究グループは、重症患者に対するPPI、H2RA、スクラルファートの投与、または消化管出血予防(あるいはストレス潰瘍予防)未実施のアウトカムへの相対的影響を患者にとって重要であるか否かの観点から明らかにするため、Medline、PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、試験レジスタおよび灰色文献を2019年3月時点で検索し、システマティックレビューとメタ解析を行った。 成人重症患者に対し、PPI、H2RA、スクラルファートあるいはプラセボまたは予防的投与未実施による消化管出血予防について比較検討した無作為化試験を適格とした。2人のレビュアーがそれぞれ適格性について試験をスクリーニングし、データの抽出とバイアスリスクの評価を行った。また、パラレルガイドライン委員会(BMJ Rapid Recommendation)がシステマティックレビューの監視を行い、患者にとって重要なアウトカムを同定するなどした。 ランダム効果ペアワイズ/ネットワークメタ解析を行い、GRADEシステムを用いて、各アウトカムに関するエビデンスの質を評価。バイアスリスクが低い試験と高い試験の間で結果が異なった場合は、前者を最善の推定であるとした。高出血リスク群では、患者に恩恵をもたらす? 72試験、被験者合計1万2,660例が適格として解析に組み込まれた。 出血リスクが最高リスク(8%超)の患者と高リスク(4~8%)の患者については、PPIおよびH2RAの予防的投与は、プラセボまたは非予防的投与に比べて、臨床的に意味のある消化管出血を減少する可能性が示された。PPIのオッズ比(OR)は0.61(95%信頼区間[CI]:0.42~0.89)で、最高リスク患者では同リスクは3.3%減少、高リスク患者では2.3%減少した(確実性・中)。また、H2RAのORは0.46(0.27~0.79)で、最高リスク患者では4.6%減少、高リスク患者では3.1%減少した(確実性・中)。 一方でPPI、H2RA投与はいずれも、非予防的投与と比べて肺炎リスクを増加する可能性が示された(PPIのOR:1.39[95%CI:0.98~2.10]、5.0%増加)(H2RAのOR:1.26[0.89~1.85]、3.4%増加)(いずれも確実性・低)。また、死亡率との関連は認められないと考えられた(PPIのOR:1.06[0.90~1.28]、1.3%増加)(H2RAのOR:0.96[0.79~1.19]、0.9%減少)(いずれも確実性・中)。 そのほか予防的投与による、死亡率、クロストリジウム・ディフィシル感染症、ICU滞在期間、入院日数、人工呼吸器装着期間への影響を支持する結果は、エビデンスがばらついており示されなかった。

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消化管間質腫瘍〔GIST : Gastrointestinal Stromal Tumor〕

1 疾患概要■ 概念・定義消化管間質腫瘍(Gastrointestinal Stromal Tumor: GIST)は、主に消化管に発生し、紡鐘型(spindle)または類上皮型(epithelioid)の形態の腫瘍細胞からなる間葉系腫瘍である。多くの場合(95%)、KITとDOG1タンパク質を発現する。■ 疫学一般に日常診療で遭遇する臨床的GISTの頻度は、洋の東西を問わず年10万人に1人程度である。発症・発見年齢の中央値は60歳で、中高年に好発し、発生頻度に性差はない。※ただし、“GISTの芽”ともいわれる顕微鏡的GIST(microGIST)は、中高年の約1/3の人の胃に認められ、内視鏡検診を行うと成人の約1,000人に1人程度の頻度で胃粘膜下腫瘍(SMT)を認め、その約半数がGISTと考えられている。すなわち、microGISTや数mmのGISTのほとんどは、臨床的に問題となるGISTになることはない。■ 病因KIT遺伝子(80%)、PDGFRA遺伝子(10%)の活性化型突然変異が主な原因。それぞれの変異のhot spotは、KITはエクソン 11、9、17、13、PDGFRAはエクソン18、12、14である。KIT・PDGFRA以外に、NF-1遺伝子やSDH遺伝子群(コハク酸脱水素酵素を構成する4つの遺伝子)の失活でも生じ、KITやPDGFRAの下流の蛋白質の遺伝子(RAS、BRAF、PI3KCA)変異でも生じる。また、非常にまれではあるが、NTRK fusionsなどのいくつかの融合遺伝子変異でもGISTは発生する。GISTの遺伝子変異検索は、KIT陰性のGISTの確定診断、ならびにイマチニブなどの分子標的治療薬の効果予測バイオマーカーとして有用である。■ 症状GISTは粘膜下に存在し、浸潤性増殖を示さないため、進行するまでほとんど症状を示すことがない。わが国では半数の患者が、がん検診で無症状のまま「消化管粘膜下腫瘍」として発見される。三大症状は、貧血・消化管出血、腹痛、腫瘤触知である。部位特異的には、食道GISTでは嚥下障害、直腸GISTでは排便・排尿障害がみられる。■ 分類臨床的分類としては表1に示すいくつかのリスク分類が用いられる。これらリスク分類は、いずれも外科手術術後の再発リスクをよく反映しており、術後フォローの頻度や術後アジュバント治療の選択指針として用いられる。画像を拡大する画像を拡大する■ 予後完全切除後の予後は、世界規模の疫学調査から、5年無再発生存率70%、生涯再発リスクは40%程度と見込まれる。切除不能、再発、転移GISTの予後(全生存の中央値)は、無治療で1.5年、イマチニブ(商品名:グリベック)やスニチニブ(同:スーテント)、レゴラフェニブ(同:スチバーガ)を適切に用いると5~7年である。術後再発に関連する因子は、次のとおりである。1)腫瘍細胞分裂像数(mitosis/50HPF)2)腫瘍径(cm)3)腫瘍発生部位(予後の良い順に、胃>小腸・大腸・食道>消化管外)4)腫瘍破裂(腫瘍破裂の定義は文献5を参照)2 診断 (検査・鑑別診断も含む)初診時、GISTは多くの場合、消化管粘膜下腫瘍あるいは腹部腫瘤として発見される。発見時には消化管造影検査(バリウム検査)や内視鏡検査が行われていることが多い。精密検査では、超音波内視鏡検査(EUS)や針生検を行うEUS-FNAは胃、食道、近位十二指腸、直腸のSMTの組織学的確定診断には有用である。MDCT(multi-detector CT)は、腫瘍の進展範囲を診断し、悪性度を推定する上で有用で、MRIは食道や直腸のGIST診断に有用である。なお、GISTの最終診断は組織採取の上、病理組織学的に行われる。病理診断には、HE染色に加え、KIT、DOG1蛋白質の発現確認が重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)切除可能なGISTの治療第1選択は外科的完全切除である。完全切除不能(局所進行、転移、再発)GIST治療の第1選択は、標的治療(first lineはイマチニブ〔商品名:グリベック〕、second lineはスニチニブ〔同:スーテント〕、third lineはレゴラフェニブ〔同:スチバーガ〕)である(図1)。画像を拡大する1)外科治療肉腫の外科治療の原則は、次のとおり。(1)肉眼的に安全なマージン(肉眼的断端陰性)を確保(2)偽被膜損傷を回避した外科的完全切除(3)予防的あるいは系統的リンパ節郭清術は不要(4)臓器機能温存を考慮した部分切除を推奨肉腫の外科治療の原則と手術の安全性を守る限り、開腹・腹腔鏡手術の別は必ずしも問わない。術後、再発抑制目的で、高リスクGIST(あるいは腫瘍破裂を伴うGIST)の場合は、イマチニブアジュバント治療を3年間行うことが推奨される(推奨度B)。原発GISTで切除可能ではあるものの、他臓器合併切除が必要と予想される場合や大きな侵襲で術後合併症が予想される場合は、組織検査でGISTであることを確認後、術前に6ヵ月程度のネオアジュバント治療が行われることもある(推奨度C)。ネオアジュバント治療症例の完全切除後には、アジュバント治療が推奨される。2)標的治療(1)イマチニブ標準投与量は400mg/日で、中断や減量は病勢進行を招く可能性があり、重篤な有害事象がない限り避ける。イマチニブ治療では6ヵ月以上続くSDもPRとほぼ同等の予後改善効果を持ち、腫瘍進行(PD)を認めない限り治療を継続する。イマチニブの無増悪生存期間(PFS)の中央値は2年で、約80%の進行GISTに治療効果を認める。有害事象で多いものは、浮腫、皮膚炎、消化器症状、血液毒性である。(2)スニチニブイマチニブ耐性GISTに用いられる。スニチニブはマルチターゲット阻害薬で、50mg/日を4週間服用後、2週間休薬を1サイクルとして治療を行い、有害事象によっては、適宜減量ないし休薬する。PFSの中央値は約8ヵ月で、clinical benefit rate (CBR)は40%である。有害事象で、高血圧、手足症候群、全身倦怠感、血球減少(好中球と血小板)、消化器症状が認められ、とくに第1サイクルは重篤な有害事象に注意を要する。(3)レゴラフェニブレゴラフェニブもマルチターゲット阻害薬で、160mg/日を3週間服用後、1週間休薬を1サイクルとして治療を行う。PFSの中央値は約5ヵ月で、CBRは50%である。同じマルチターゲット阻害薬のスニチニブと同様の有害事象を認める。(4)治療効果判定GISTで用いられるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による標的治療の治療効果判定には、造影CTが有用である。判定基準は、基本的にRECIST基準を用いる。イマチニブ治療効果に関しては、GISTで時に用いられるChoi基準を参考に早期に効果判定ができる(図2)。PETやPET-CTは、造影CTでの判断の補助として用いられることがあるが、PETの効果判定への保険適応は、現時点では認められていない。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する4 今後の展望現時点で、薬事承認を目指した第III相試験は、欧米ではforth-lineでripretinibとavapritinibの治験が行われており、わが国ではTAS-116の治験が行われている。TRK fusion遺伝子陽性のGISTに対してはエヌトレクチニブ(同:ロズリートレク)が承認され、また他のTRK阻害剤の治験も行われている。5 主たる診療科消化器内科(とくに粘膜下腫瘍と診断されたとき)、消化器外科、腫瘍内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関する情報NPO法人 稀少腫瘍研究会(一般利用者向け、医療従事者向けにまとまった情報)特定非営利法人 GISTERS(一般利用者向け、医療従事者向けにまとまった情報)European Reference Networks(医療従事者向けにまとまった情報)患者会(日本)GIST・肉腫患者と家族の会「GISTERS.net」患者会(海外)The European Network of Sarcoma Patient Advocacy GroupsThe Life Raft Group1)Corless CL, et al. Nat Rev Cancer. 2011; 11: 865-878.2)日本癌治療学会、日本胃癌学会、GIST研究会編.GIST診療ガイドライン.第3版.金原出版;2014.p.1-68.3)Demetri GD, et al. J Natl Compr Canc Netw. 2010; 8(suppl 2): S1-41.4)Casali PG, et al. Ann Oncol. 2018;29:iv68-iv78.5)Nishida T, et al. Ann Surg Oncol. 2019;26:1669-1675.公開履歴初回2013年02月28日更新2020年01月14日

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海外渡航者へのワクチンの勧め

 11月30日・12月1日に「第23回 日本ワクチン学会学術集会」(会長:多屋 馨子〔国立感染症研究所〕)が開催された。「国際化とワクチン」をテーマに開催されたシンポジウムでは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで多数の来日外国人が持ち込む可能性がある感染症への備えとしてのワクチンの重要性などが語られた。 本稿では、「渡航医学におけるワクチン」を取り上げる。予防接種では目の前の接種希望者のリスクとベネフィットを考える シンポジウムでは、田中 孝明氏(川崎医科大学 小児科学 講師)が「海外渡航者のためのワクチン」をテーマに、インバウンドの逆、日本人が海外渡航する場合(アウトバウンド)における予防接種の対応や現在の問題点などを講演した。 アウトバウンドの予防接種では、厚生労働省検疫所(FORTH)やアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の予防接種情報が有用と紹介し、トラベル・クリニックでの対応を例に説明した。来院した予防接種希望者には、「行き先、滞在期間、渡航目的、既往歴、接種歴など」を問診し、ワクチンを考慮し、選択する必要がある。また、先ごろ発行された『海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス 2019』にも触れ、海外渡航時のワクチン接種の指針が示されたことを説明した。 多くのワクチンは複数回の接種が必要だが、渡航までの期間が十分でないため、渡航先で接種を継続する場合が多い。しかし、製薬会社が異なるワクチンの互換性が確認されていないことが問題となっており、これらのエビデンスが極めて乏しいという。 そのほか、腸チフスワクチンを例に、多くの渡航者に必要であるにもかかわらず国内では希少疾患のため、ワクチンが承認されておらず、本ワクチンの接種は自己輸入して扱っている施設に限られている。しかも、接種後に健康被害が起こっても「(手厚い)予防接種法や医薬品医療機器総合機構法による救済制度の補償外であり、接種する側・される側の負担が大きい」と接種現場での悩みを語った。現状では、疾病予防効果と副反応の可能性などを衡量し、接種希望者に情報を伝え、接種をするかどうか決定することが接種の現場で行われている。 最後に同氏は、「こうした未承認ワクチンの問題や渡航ワクチンのエビデンス不足はもちろん、渡航分野の臨床研究の進展が今後の課題」と述べ、講演を終えた。

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統合失調症の維持療法における抗精神病薬使用ガイドラインのレビュー

 慶應義塾大学の下村 雄太郎氏らは、統合失調症の維持期における抗精神病薬治療に関する臨床ガイドラインおよびアルゴリズムについて、臨床実践に導くために、これまでのシステマティックレビューに、最新の知見を含めて更新した。Schizophrenia Research誌オンライン版2019年11月26日号の報告。 統合失調症の維持期における抗精神病薬治療に関する臨床ガイドラインおよびアルゴリズムを特定するため、MEDLINE、Embaseよりシステマティックに文献検索を行った。ガイドライン/アルゴリズムの全体的な品質をAGREE IIに従って評価し、治療推奨事項に関する情報を抽出した。 主な結果は以下のとおり。・2012年のシステマティックレビュー以降に新たに報告された11件を含む20件のさまざまな地域におけるガイドライン/アルゴリズムを特定した。・すべてのガイドライン/アルゴリズムは、一定レベルの品質を満たしていた。・推奨、部分的推奨、非推奨に分類した。・抗精神病薬の中止戦略に関するガイドライン/アルゴリズムの6件中5件において、複数エピソードの統合失調症に対する抗精神病薬の中止戦略は非推奨であった。・一方で、統合失調症全般(13件中7件、2013年以降では8件中7件)および初回エピソード統合失調症(11件中10件、2013年以降では7件中7件)においては、抗精神病薬の中止戦略は、非推奨から部分的推奨へ移行する傾向が認められた。・抗精神病薬使用における断続的/標的戦略は、減少していた(9件中9件)。・抗精神病薬の中止戦略と同様に、すべての更新または新規のガイドライン/アルゴリズムでは、抗精神病薬の減量/低用量戦略を推奨していた(6件中6件)。 著者らは「統合失調症の維持期における抗精神病薬治療に関する最近の臨床ガイドラインおよびアルゴリズムでは、抗精神病薬の中止、減量、低用量戦略にシフトしていることが示唆された。しかし、臨床医は、これらの戦略のリスクとベネフィットを個々の患者に応じてよく考える必要がある」としている。

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脳梗塞、一過性脳虚血発作発症後の脂質管理はどの程度まで(解説:吉岡成人氏)-1164

脳卒中治療ガイドライン2015 脳梗塞は適切な内科治療が行われなければ、最初の1年で10人に1人が再発する。一方、TIAも発症後90日以内の脳卒中発生率は15~20%である。脳梗塞、TIAの再発予防においては、抗血栓療法と内科的リスク(血圧、脂質、血糖)の管理が重要である。日本における『脳卒中治療ガイドライン2015』においても、脳梗塞患者の慢性期治療における脂質異常のコントロールが推奨されており、高用量のスタチン系薬剤は脳梗塞の再発予防に有用であると記されている(グレードB:行うように勧められる)。また、低用量のスタチン系薬剤で治療中の患者においてはEPA製剤の併用が脳卒中の再発予防に有効であることも併記されている(グレードB)。LDL-Cを70mg/dL未満に管理することの有用性と問題点 脳梗塞、TIA発症後の患者におけるLDL-Cの管理をどの程度にすべきかについての臨床研究が、NEJM誌オンライン版(2019年11月18日号)に掲載された。 3ヵ月以内に脳梗塞ないしは15日以内にTIAを発症した成人患者を対象として、フランスの61施設、韓国の16施設が参加した無作為化並行群間試験で2,860例が登録されている。LDL-Cを90~110mg/dLに管理する高目標群と70mg/dL未満に管理する低目標群の2群に分け、主要エンドポイントを複合心血管イベント(脳梗塞、心筋梗塞、冠動脈ないしは頸動脈の緊急血行再建術を要する新たな徴候、心血管死)として治療の有用性を検討した結果が示されている。追跡期間の中央値は3.5年(フランス5.3年、韓国2.0年)で、期間中に高目標群では平均LDL-C値が136mg/dLから96mg/dLとなり、低目標群では135mg/dLから65mg/dLとなった。追跡期間においてLDL-C値が目標域に維持されていた割合は高目標群で32.2%、低目標群で52.8%であった。 主要エンドポイントの発症率は高目標群で10.9%(2.98/100人・年)、低目標群で8.5%(2.27/100人・年)であり、厳格に脂質管理を行う群でのリスクの低下が示された(補正後ハザード比HR:0.78、95%信頼区間:0.61~0.98)。 サブグループ解析では、フランスの施設では低目標群で優位なリスク減少が認められ(HR:0.73、95%信頼区間:0.57~0.95)、韓国の施設ではHR 1.11と群間における差がなかった。また、既往に脳梗塞があった群では低目標群で有意にリスクが減少した(HR:0.67、95%信頼区間:0.52~0.87)が、TIA群ではリスクの減少は認められなかった(HR:2.06、95%信頼区間:1.03~4.12)。さらに、頻度は少なく、有意差はないものの、頭蓋内出血は低目標群で多く(1.3% vs.0.9%、HR:1.38、95%信頼区間:0.68~2.82)、観察期間中の糖尿病の発症率も低目標群で高かった(7.2% vs.5.7%、HR:1.27、95%信頼区間:0.95~1.70)。厳格なLDL-C管理は有用なのか 脳梗塞患者の再発予防に、厳格なLDL-C管理はどの程度有用なのであろうか。観察期間の長短がフランスと韓国での脂質管理の有用性に差異をもたらしたのであろうか、人種差は関連がないのであろうか。また、脂質の管理が示す再発予防の効果に関して、脳梗塞の患者とTIAの患者で異なっているのは、基礎となる病態が脳梗塞とTIAとで違ったものだからなのだろうか。LDL-Cを厳格に管理することと頭蓋内出血や新規の糖尿病の発症は統計学的に有意ではないが、臨床の現場では、どのように対応すべきなのであろうか。 主要エンドポイントが385例に達するまで継続する予定のevent-driven試験であったが、運営資金の不足により277例で早期中止となってしまったようである。日本人の脳梗塞患者、TIA患者における再発予防のためのLDL-C値はいかにあるべきか、その指針となる新たな臨床試験が必要なのかもしれない。

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万引き家族(後編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 1

今回のキーワード等級のイメージ等級判定ガイドライン「障害年金認定医」監査機能虚偽診断書等作成罪認定調査前回では、精神障害年金の不正受給が起きる原因を、患者、社会保険労務士(以下、社労士)、精神科医の3つの立ち位置に分けて、ぞれぞれの「ブラックボックス」を明らかにしました。そして、「障害年金ビジネス」の問題点を整理しました。それでは、一体どうすれば良いでしょうか? 今度は、精神科医、年金制度、社会の3つの立ち位置に分けて、それぞれの対策を一緒に考えてみましょう。 精神科医はどうすれば良いの?まず、年金の等級判定に責任を持つ精神科医は、どうすれば良いでしょうか? その対策を大きく3つ挙げてみましょう。(1)年金の等級判定の根拠を増やす1つ目は、年金の等級判定の根拠を増やすことです。等級判定の根拠は、患者が訴える日常生活能力についての「出来ないこと」だけではありません。ここで、根拠を増やす具体的な方法を3つ挙げてみましょう。a. ポジティブな発言も1つ目は、毎回の診察の中で、患者のネガティブな訴えだけでなく、ポジティブな発言も聞き出しておくことです。これは、ストレートに質問すると、なかなか出てきません。あくまで雑談の体裁で引き出すのです。たとえば、最近出来るようになったこと、好きでやっていること、やっていて楽しいこと、大事にしていること、最近感じた小さな幸せ、将来の目標や夢などです。これらは、プラス思考を促す認知行動療法的なかかわりです。と同時に、年金診断書を作る際の「出来ること」の根拠にもなります。これらの情報をきっちりカルテに記載しておくことが重要です。すると、等級判定は、「出来ないこと」だけでなく、「出来ること」も含めたそのバランスを見極めることで、ブレなくなります。b. 発言の様子や行動も2つ目は、発言内容だけでなく、発言の様子や行動もカルテに記載することです。たとえば、話し方や表情、服装、化粧、ヘアスタイル、ヘア染めなどの変化、げっそりしているかふっくらしているかの変化、場合によってはタバコ臭、香水臭、体臭などの特徴です。また、毎回の通院で、1人で交通機関を利用して来院するか、医療費の支払いが出来ているか、診察が終わった後に何をする予定かなどをさりげなく確認するのも重要です。c. 長期的で総合的な評価を3つ目は、短期的でエピソード的な評価ではなく、長期的で総合的な評価をすることです。たとえば、社労士が作成する「病状報告書」にありがちなのが、「○○が出来なくなることがあります」という言い回しの羅列です。これには、期間や頻度が記載されていません。障害がない人でも、風邪をひくなどの体調不良や心理的なストレスでエピソード的に「○○が出来なくなる」ことはあります。それなのに、期間や頻度に触れていないために、あたかも長期的に「出来ないこと」があるように印象付けられ、惑わされるわけです。つまり、訴えに一貫性は確認出来ないです。また、既往の身体障害や好き嫌いや甘え(依存)などの性格(パーソナリティ特性)による「出来ないこと」は除外することです。あくまで、その精神障害によって、言い換えれば、その精神障害ならではの典型症状によって「出来ないこと」を評価します。一方、社労士は、とにかく「出来ないこと」なら何でもカウントして、病状が重い内容の「病状報告書」を作ります。つまり、典型性が不明です。さらに、患者が毎回不調を訴えるわりに薬の調整をまったく望まないのは、合理性がないです。入院レベルの訴えをするわりに入院に抵抗する場合、その理由が合理的かを確認する必要があります。このように、病状に一貫性、典型性、合理性があるかを見極め、日常生活能力を総合的に判定します。(2)年金の等級判定をあらかじめ出しておく2つ目は、年金の等級判定をあらかじめ出しておくことです。つまり、患者が1級、2級、3級、等級なしのどのレベルなのかあらかじめ見極めておくことです。そうすると、更新前の本人の急な訴えや社労士からの「病状報告書」などの「後出しじゃんけん」の情報で、揺さぶられてもブレなくなります。逆に言えば、社労士が介入していることが分かった時点で、転医が年金目当てだと分かった時点で、より慎重にそしてより厳正に診断書を書く必要があるでしょう。なぜなら、それだけ患者があおられている可能性があるからです。ここで、それぞれの等級のイメージを押さえましょう。a. 1級表1のように、1級は、日常生活で出来ないことがほとんど(=×)、つまり身辺自立が出来ない(=×)、ほぼ寝たきりのイメージです。活動範囲は室内かベッド上で、外出には付き添いが必要です。知的障害なら、最重度から重度の知的障害に該当します。つまり、日常生活能力は、乳幼児のレベルです。日常生活能力の程度については、「常時(ほぼ100%)の援助」が必要になります。これは、年金診断書の(5)を○で囲むことになります。また、日常生活能力の判定については、表2のように、「食事管理」「清潔管理」「金銭管理」「病状管理」「対人関係」「安全管理」「社会生活」として個別に7項目あります。「出来る」(1点)、「出来るが時に援助」(2点)、「援助があれば出来る」(3点)、「援助があっても出来ない」(4点)として、それぞれ○で囲みます。なお、これらは、「単身で生活をするとしたら」という前提で判定します。ここが、社労士の「攻め所」です。診断書に「独り暮らしを想定していない」と患者に吹き込み、「出来ないこと」を上乗せして、等級判定を上げようともくろむのです。だからこそ、精神科医は、最初から着地点を見据えることが重要と言えるでしょう。表3の障害等級の目安に従うと、その合計した平均点は、3.5点以上で、4点に近くなります。なお、この障害等級の目安については、厚生労働省から公表されている「精神の障害に係わる等級判定ガイドライン」を基にしています(資料1)。このように、1級は、障害レベルがとても重く、判定は明らかで分かりやすいです。b. 2級表1のように、2級は、日常生活で出来ないことが多い(=△)イメージです。活動範囲は基本的に自宅内です。知的障害なら、中等度知的障害に該当します。つまり、日常生活能力は、小学1年生~3年生のレベルです。日常生活能力の程度については、「多く(50%以上)の援助」が必要になります。これは、年金診断書の(4)を○で囲むことになります。また、日常生活能力の判定については、先ほどと同じように、表2の個別7項目のそれぞれのレベルを○で囲みます。表3の障害等級の目安に従うと、その合計した平均点は、2.0点以上で、3点前後になります。c. 3級表1のように、3級は、日常生活で出来ないことが少ない(=△~○)イメージです。活動範囲は習慣化された外出なら可能です。知的障害なら、軽度知的障害に該当します。つまり、日常生活能力は、小学4年生~6年生のレベルです。日常生活能力の程度については、「時に(50%未満)援助」が必要になります。これは、年金診断書の(3)を○で囲むことになります。また、日常生活能力の判定については、先ほどと同じように、表2の個別7項目のそれぞれのレベルを○で囲みます。表3の障害等級の目安に従うと、その合計した平均点は、1.5点以上で、2点前後になります。3級は、2級との線引きが難しいことがあります。ここが、社労士の狙い目です。社労士は、この3級レベルを2級に仕立てようと働きかけてきます。と言うのも、正社員が加入出来る厚生年金の場合は、3級がありますが、基礎年金だけの場合は、3級がなく、社労士にとってビジネスにならないからです。d. 等級なし表1のように、等級なしは、日常生活で出来ないことがほぼない、つまり普通に出来るイメージです。活動範囲は問題ないです。知的レベルは、境界域知能から正常知能に該当します。つまり、日常生活能力は、中学生~大人のレベルです。日常生活能力の程度については、「普通に出来る」になります。ただ、就労などの社会生活には援助が必要な場合があります。これは、年金診断書の(2)を○で囲むことになります。また、日常生活能力の判定については、先ほどと同じように、表2の個別7項目のそれぞれのレベルを○で囲みます。表3の障害等級の目安に従うと、その合計した平均点は、1.5未満点で、1点に近くなります。等級なしは、3級との線引きが難しいことがあります。しかし、2級とはさすがにレベルが違います。それでも、社労士は、この等級なしのレベルでも何とか2級に仕立てようと働きかけてきます。なぜなら、先ほどと同じように、等級なしのレベルを3級に仕立て上げたとしても、基礎年金だけの場合は、そもそも3級がなく、社労士にとってビジネスにならないからです。これが、前回ご紹介した「万引き家族」の治と信代に指南する社労士の描くシナリオです。(3)年金の等級判定について患者にオープンにする3つ目は、年金の等級判定について患者にオープンにすることです。精神科医がオープンにして説明していないからこそ、患者に不信感を抱かれ、社労士につけ込まれるのです。ここで、オープンにすべきポイントを3つ挙げてみましょう。a. 等級レベル1つ目は、等級レベルです。これは、患者から障害年金の話が出た時点で、何級レベルか、または等級なしのレベルかをあらかじめ伝えることです。そして、その等級レベルの具体的なイメージを説明し、患者に納得してもらうことです。たとえば、2級だと主張する患者に、「一人暮らしで助けてもらうことが日常生活の半分以上ですか?」「数ヵ月にわたってほぼ外出していないと言えますか?」「日常生活で出来ることは小学校低学年並だと思いますか?」と尋ね、まず考えてもらうことです。また、病状が良くなれば障害年金が得られにくくなるのは制度として当然のこと、その一方でそれはリハビリや就労に積極性を生み出すきっかけになり、長期的には患者のためになることも伝える必要があります(心理教育)。さらには、キーパーソンとなる家族に同席してもらい、理解を得るのも良いでしょう。b. 等級判定の根拠2つ目は、判定の根拠です。とくに患者がなかなか納得しない場合、その根拠として、カルテに記載された「出来ること」の発言内容やその時々の患者の様子を伝えることが出来ます。そして、カルテに書かれていることがすべてであり、もともと3級レベルの記載内容のカルテなのに、2級レベルの病状を年金診断書に書くのは虚偽記載になる可能性を説明することです。c. 3級3つ目は、判定の妥当性です。これは、判定には根拠があり、妥当だからこそ、社労士が作成した「病状報告書」「診断書原案・訂正案」に影響を受けないことを先に患者に説明することが出来ます。もっと言えば、診断書について社労士に取り合うことは最初からないと伝えることも出来ます。これは、持久戦の罠に引っかからないためです。さらに、そもそも等級判定が覆らないので、最初からインターネットなどでの障害年金の相談先(社労士)にかかわらないこと、またはすでに相談していたとしても着手のステップに進まないことを推奨することが出来ます。なぜなら、相談費用は0円ですが、着手されたら、等級は変わらなくても、「成功報酬」が発生するからです。この分が年金受給金額から引かれることで、患者が損することを説明することが出来ます。そして、このようなビジネスのあり方は、年金制度のあり方として不適切であると説明することも出来ます。もちろん、セカンドオピニオンを推奨することも出来ます。ビジネスに染まった社労士ではなく、ほかの精神科医が見ても妥当か判断してもらえれば、より客観性が生まれるでしょう。 次のページへ >>

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万引き家族(後編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 2

年金制度はどうすれば良いの?これまで、「障害年金ビジネス」への精神科医の取り組みをまとめました。しかし、これだけでは限界があります。なぜなら、言いなりになる精神科医がどうしてもいるからです。それでは、年金制度そのものは、どうすれば良いでしょうか? その対策を3つ挙げてみましょう。(1)診断書を手渡しから郵送にする社労士が、精神科医の書いた年金診断書を見る方法は、患者が医療機関から手渡しで受け取った厳封の診断書を、年金事務所に提出する前に、患者に開封させることであると前回説明しました。そして、これは、信書開封罪に当たると説明しました。それにしても、ずいぶん強引です。実は、これが唯一の方法だからです。そうしないと、彼らのビジネスが成り立たなくなってしまうからです。それでは、年金制度として、どうすれば良いでしょうか?1つ目は、診断書を医療機関から年金事務所へ直接郵送して提出する手続きに変更することです。これだけで、社労士は診断書を見ることが出来なくなります。そして、診断書が一度年金事務所に郵送されてしまえば、その時点で、転医して思い通りの診断書を別の精神科医に書いてもらうというこれまでの手口が使えなくなります。これで、社労士の診断書への介入は実質的になくなります。診断書の内容について裁量があるのは、社労士ではなく、精神科医です。そして、繰り返しになりますが、その診断書の作成の責任を負っているのは、社労士ではなく、精神科医です。社労士の本来の役目は、診断書への介入ではなく、患者が必要な書類を準備するサポートです。これまでの年金制度は、厳封された診断書が社労士の指示によって開封されたり破棄されることを想定していませんでした。よって、郵送への手続きの変更は当然であると言えるでしょう。そして、これからのITの時代、年金診断書を年金事務所のウェブサイト上で提出することが可能になることが期待されます。 (2)「障害年金認定医」を作る精神科医のための年金診断書の書き方については、厚労省が「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」を公表しています(資料2)。このマニュアルに忠実に従って診断書を書いている精神科医がいる一方、マニュアルに重きを置いていない精神科医が一部いるのも現実です。彼らは、診断書の書き方が自己流になり、恣意的に独自判断をするため、等級判定が不安定になってしまうのも現実です。この状況は、社労士の診断書への介入を正当化する根拠になってしまっています。それでは、年金制度として、どうすれば良いでしょうか?2つ目は、障害年金の診断書を書くための認定医制度、つまり「障害年金認定医」を作ることです。この制度の目的は、等級判定の安定化、診断書の書き方の標準化、患者への対応の統一化です。そのために必要な規定を主に3つ挙げてみましょう。1つ目は、この「障害年金認定医」でなければ、障害年金の診断書を書けないことです。2つ目は、この「障害年金認定医」になるためには、研修を受けることです。研修と言っても、eラーニングによる講義1時間と等級判定の小テストで十分でしょう。ちょうど、精神神経学会の「精神科薬物療法研修会」や「認知症診療医」と同じイメージです。ハードルが高すぎると、「障害年金認定医」になれない精神科医が現れ、混乱を招くからです。3つ目は、年金診断書への怠慢行為や不正行為に対して、注意、警告、罰則を設けることです。悪質な場合には、認定停止や認定取り消しを可能にします。ここが一番大事なポイントになります。なぜなら、精神科医に診断書の作成に責任があるとは言いながらも、現時点では怠慢行為や不正行為の罰則が明確ではないからです。これまでの年金制度は、患者や社労士に精神科医が言いなりになることを想定していませんでした。よって、「障害年金認定医」を作ることは必要であると言えるでしょう。(3)年金診断書への監査機能を強化する「障害年金認定医」の制度により、精神科医が診断書を適切に書く意識は、高まるでしょう。ただし、いくら罰則があっても、その監視の目がないと、見透かされてしまい、この「障害年金認定医」が形骸化してしまうおそれがあります。それでは、年金制度として、どうすれば良いでしょうか?3つ目は、年金診断書への監査機能を強化することです。ちょうど、保険診療の監査と同じです。もともと精神科医に障害年金の判定の権限が集中している危うさがあるのは確かです。すでに2級を連発している精神科クリニックには、年金事務所からカルテ開示請求が行われているという話もあります。具体的には、このようなカルテ開示請求を増やして、抜き打ちでランダムに定期的に行うことです。とくに、5年前までさかのぼった年金の請求(遡及請求)をする場合は、100万円単位のお金が動きますので、より厳しいチェックを行う必要があります。カルテとの整合性がない場合は、虚偽記載、つまり虚偽診断書等作成罪(刑法第160条)にあたります。これは、社労士ではなく、精神科医がかぶることになります。この取り締まりは、精神科医だけでなく、患者にもすることが必要だと考える人もいるでしょう。確かに、就労状況や給与の有無を所得税などから確認することは可能です。しかし、たとえば、調査員が日常生活能力を確認するために自宅に尋ねる認定調査は、実際には現実的ではないでしょう。その理由は、大きく3つあります。1つ目は、精神障害による日常生活能力の低下は分かりにくく、精神科医ではない調査員が一時的に見ただけでは、その程度を見極めるのは難しいからです。2つ目は、本当に「障害がある」場合、調査員の訪問が精神的な負担になり、病状が不安定になるおそれがあるからです。抜き打ちならなおさらです。3つ目は、「障害がある」ふりをしている場合、その時だけ出来ないふりをすることは出来るからです。抜き打ちなら、居留守を使われる可能性もあります。ちなみに、介護保険の認定調査の場合は、患者は認知症であり、逆に「出来るふり」(取り繕い反応)はしますが、「出来ないふり」はしないです。また、認定されることで得られるのは、お金ではなく、必要なサービスなので、家族も「出来ないふり」を推し進めることはありません。社会はどうすれば良いの?これまで、「障害年金ビジネス」に対しての年金制度の改善点をまとめました。しかし、これでも、最初から障害年金を得ることを目的に医療機関を受診する人に対しては限界があります。なぜなら、彼らは、精神障害について「勉強」して来院するからです。社労士の指南を受けていれば、なおさらです前回の「障害年金ビジネス」の説明で触れたひきこもりの症例のように、その「患者」の訴えは、無駄がなく、教科書的な「うつ病」の典型例になるからです。逆に病状がきれいすぎて、違和感を抱くくらいです。ちょうど、休職診断書を手に入れたい「患者」が、医療機関を渡り歩くうちに、訴えが洗練されていくのと同じです。そして、実際には内服しているか分からない抗うつ薬の処方を希望し続けるのです。さすがに、ここまで「患者」に徹底的にやられると、精神科医は年金診断書を書かないわけにはいかなくなります。これは、医療の限界です。いえ、もはや医療ではないです。このような状況に、社会はどうすれば良いでしょうか?それは、この「障害年金ビジネス」の社会的な認知を高めることでしょう。つまり、不正に年金を手に入れたい患者、それを指南する社労士、それに言いなりになる精神科医の存在をより多くの人が知ることです。そして、たとえば、「受給成功率を上げる」「完全成功報酬制」などの文句が踊るネット広告を見て、まずは違和感を抱くことでしょう。 「本当の社会」とは?「万引き家族」の登場人物の刑事が祥太に「あの人たち(治と信代)ねえ、私たちが家に着いた時、荷物まとめて逃げようとしてるところだったんだよ。あなたを置いて。本当の家族だったらそういうことしないでしょ」と言うシーンがありました。祥太は「本当の家族」ではなかったと気付かされ、はっとします。と同時に、私たちもはっとします。同じように考えれば、「本当の社労士」だったら、「障害年金ビジネス」に手を染めないでしょう。「本当の精神科医」だったら、「障害年金ビジネス」に巻き込まれないようにするでしょう。なぜなら、患者の病状がより良くなってほしいと願うからです。そして「本当の社会」だったら、「障害年金ビジネス」に厳しい目を向けるでしょう。なぜなら、社会がより良くなってほしいと願うからです。 << 前のページへ■関連記事こうして私は追いつめられた【新型うつ病】サイレント・プア【ひきこもり】ツレがうつになりまして。【うつ病】■参考スライド【精神障害の年金診断書の作成のポイント】2019年1)障害年金請求に必要な精神障害の知識と具体的対応:宇佐見和哉、日本法令、20142)精神疾患にかかる障害年金請求手続完全実務マニュアル:塚越良也、日本法令、20163)あなたの障害年金は診断書で決まる!:白石美佐子、中川洋子、中央法規、20194)資格を取ると貧乏になります:佐藤留美、新潮新書、20145)「精神の障害に係わる等級判定ガイドライン」: 国民年金・厚生年金保険6)「障害年金の診断書(精神の障害用)記載要領」 : 厚生労働省、日本年金機構

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てんかん重積状態が止まらないときの薬剤選択(解説:岡村毅氏)-1162

 精神科医をしていると、世界はいまも謎に満ちていると感じる。ほかの科ではどうであろうか? 教科書だけ見ていると、多くのことが既知になり、予測可能になったように思われる。でも臨床現場はいまだにわからないことだらけだ。医師になって17年が過ぎたが、闇の中で意思決定をし続けなければならない臨床医学に、私はいまだに戦慄することがある。 精神医学の例を挙げだすと深みにはまるので、神経学の例を挙げよう。たとえば、てんかん重積状態である。ベンゾジアゼピンが効かない場合どうすればよいのだろうか? 日本神経学会のガイドラインでは、ホスフェニトインあるいはフェノバルビタールあるいはミダゾラムあるいはレベチラセタムとある。要するに、どれが優れているかわからないのだ。 いま、てんかん重積状態の患者がいるとしよう。初めにベンゾジアゼピンを使うところまでは、自信を持って進める。それでも止まらない場合…そこから先は闇の中を歩まねばならない。 本研究は、米国で一般的に使われるホスフェニトイン、レベチラセタム、バルプロ酸の静脈投与を救命救急科において多施設ランダム化二重盲検試験で比較したものである。連邦規則21 CFR 50.24に基づき、本人の同意は取られることなく試験が行われた。てんかん重積が止まらない状態では生命の危険があり、何が最も効くかはわかっておらず、意識消失しているので同意は取れないため、同意を集めていては研究のしようがないからである。また、現状でも3つの薬剤のどれを使うかは、その施設や担当医の裁量に任されており、患者サイドの体験(何が最も効くかはわからないが何かを投与される)は変わらない。 さて結果は、3剤の優劣は見いだされなかった(いずれも45~47%の効果)。この結果はこれまでの観察研究などの結果とも整合する。 本研究こそは、臨床医が日々接している謎(あるいは闇)を照らすものだ。いま再び、てんかん重積状態の患者がいるとして、初めにベンゾジアゼピンを使うところまでは自信を持って進める。しかし止まらない。この論文が出るまでは、この時点でもはや見える世界の端に到達してしまっていた。しかしこの論文を知ったいま、どれを使ってもほぼ同じ効果が見込めることがわかったので、闇を前にしたときの戦慄は多少抑えられることだろう。人間を相手にしているのだから、私たち臨床医は永久に闇に囲まれてはいるのだけれど。

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肺がん患者の血栓症の実態を探る大規模前向き試験「Rising-VTE」【肺がんインタビュー】 第30回

第30回 肺がん患者の血栓症の実態を探る大規模前向き試験「Rising-VTE」がん患者では静脈血栓塞栓症(VTE)リスクが高い。がん患者の生命予後の改善に伴い、VTE発症も増加している。しかし、いまだに日本人がん患者におけるVTEの大規模研究はない。そのような中、肺がん患者を対象にした、日本初の大規模前向き観察試験「Rising-VTE」試験が進行中である。試験責任者である島根大学の津端 由佳里氏に試験の背景と狙いを聞いた。「この患者さんが出血で亡くなったら…」データがない日本人がん患者のVTEこの試験を行おうと考えられたきっかけは何ですか。国立がん研究センターでの研修時、両側下肢のVTEの患者さんを診たことがきっかけです。当時、指導医と相談して、その患者さんにワルファリン療法を開始しました。ところが、カンファレンスで「もしこの患者さんが出血で亡くなったらどうするの?」と、当時の上司に指摘されました。がん患者のVTEのデータは海外の研究しかなかったのです。その後、島根大学に戻ると、肺がん患者さんの生命予後の延びに伴ってVTEの患者さんも多くなっていると実感しました。「こういう治療をするなら、津端先生自身が日本人のデータを出さなければいけない」。研修当時の上司の言葉が、ずっと心に残っていました。がん患者さんにVTEが多いのはなぜですか。また、VTEの合併はどの程度ですか。がん患者さんのVTEリスクが高いのは、がん細胞が凝固促進因子を積極的に作り出して凝固傾向を招いているからです。KhoranaのVTEリスクスコア*を用いた海外の報告では、入院がん患者の20%にVTEが存在するとあります。*Khorana VTEリスクスコア:がんの部位、血小板数、ヘモグロビン値、赤血球造血刺激因子製剤の使用、白血球数、BMIをリスク因子とし、合計点からVTE発症を予測するスコアDOACの登場で臨床試験実現この試験ではDOAC(direct oral anticoagulant:直接作用型経口抗凝固薬)をお使いですが、試験の実現に至った経緯との関係はありますか。まず、ワルファリンでの臨床試験を考えましたが、抗がん剤とワルファリンは相性が良くありません。ワルファリンの代謝はCYPに影響されるため、抗がん剤との併用が問題になることが多くあります。さらに、ワルファリンの効果はビタミンなど食事の内容に影響されます。化学療法を受けている患者さんは摂食に障害が出ることも多く、ワルファリンがコントロールしにくいのです。また、がん患者さんは出血リスクも高いため、出血傾向の問題になりえます。このようなことから、ワルファリンで研究するのは難しいと思っていました。そのような中、DOACが下肢VTEに承認されました。DOACであれば、出血リスクも少なく、食事の影響も受けにくいので、がん患者さんのVTE試験ができると思いました。そこで、医師主導で臨床試験をやりたいのでご支援いただけないかと、第一三共株式会社に相談しました。ちょうど同社にも、がん患者さんのデータに対するニーズがあり、ご了承いただき、医師主導臨床試験が実現しました。試験の概要について教えてください。Rising-VTEは多施設前向き観察試験です。国内の35施設から根治的な治療を行わない肺がん患者さんを登録し、診断時にVTE合併の有無を確認します。VTE合併のある患者さんには、エドキサバン(商品名:リクシアナ)の投与を行い、VTEの再発状況と治療の安全性を観察します。VTE合併のない患者さんには通常の治療を行い、2年間観察し、症候性および無症候性のVTEの発症を観察します。“医師の知りたい”に応える試験この試験で注目すべきことは何ですか?日本では、がん患者の血栓塞栓症の大規模な研究はまったくありませんでした。前向きの観察研究として、そして4期の肺がんを対象としたものとしては、初めてかつ最大規模であると考えています。医師主導臨床試験ですので、医師が知りたいと思うことをClinical Questionとして取り上げています。メーカーが考えたプロモーションのための試験ではなく、医師が知りたいと思ったことを提案し、それに関して企業からサポートを受けた試験ですので、日常診療に即した結果を大いに期待していただけると思います。「医師が知りたいと思うこと」とは、どのようなことですか。VTEの診療は、基本的にはASCO(米国臨床腫瘍学会)のガイドラインに準じて行います。この試験により、欧米人との発症の差や日本人としてのリスクをみることができます。また、がんの臨床経過とVTE発症の関係がみられると思います。がん細胞が血栓塞栓因子を出しているため、がんが良くなると血栓塞栓も良くなり、がんが悪くなると血栓塞栓も悪くなります。がんの臨床経過とVTE発症の関係をみることで、VTE治療の開始時期、中断と再開のタイミングなども検討できます。そして、4期の肺がんに特化することで、臨床に有益な細かな情報が得られます。肺がんでは、分子標的治療薬、免疫CP阻害薬、細胞障害性抗がん剤という3種の薬剤を使います。また、遺伝子変異検査を行っています。どの薬剤でどれくらい血栓塞栓が出るか、どの遺伝子変異でどれくらい血栓塞栓が出るか、そのほか、組織型などの患者背景によるリスクが明らかになってくると思います。試験のスケジュールはどのようなものですか。2016年6月から登録を開始し、2018年8月に登録は完了しました。登録症例数は1,000例を目標としましたが、最終的には1,021例の登録を頂きました。経過観察期間である2020年8月まで、VTEがどれだけ発症したか、最初にVTEがあった人の結果はどうだったかを調査します。最終結果は2021年になる予定です。最後に読者の方にメッセージをお願いします。がんとVTEは昔から非常に注目されていましたが、腫瘍を治療する医師と循環器内科医師の連携の機運も高まる中、最近はさらに注目を浴びています。当試験のベースラインのデータでも、肺がん診断時に6.4%の患者さんがVTEを合併し、そのうち80%の方が無症候性でした。目の前の患者さんにもVTE合併の可能性があることを念頭に置いて、積極的なVTEスクリーニングを心掛けていただければと思います。Rising-VTE試験世界肺癌学会(WCLC2019)での発表はこちら

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本態性血小板血症〔ET : essential thrombocythemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義本態性血小板血症(essential thrombocythemia: ET)は、多能性造血幹細胞の腫瘍性増殖により、骨髄巨核球の過形成を来し、血小板増加をもたらす疾患である。WHO分類では、慢性骨髄増殖性腫瘍に分類されている。■ 疫学正確な発症頻度は不明であるが、ETの発症率は10万人あたり1~2.5人/年程度と推定されている。平均年齢は50~60歳。年齢の第1のピークは60歳にあり、性差はないが、第2のピークは30歳で、女性に多い1)。■ 病因ET症例の骨髄細胞において、トロンボポエチンのシグナル伝達を担うJAK2キナーゼの遺伝子変異(JAK2V617F)が約50%の症例で認められ、JAK2キナーゼが恒常的に活性化していることが、病因の1つと考えられている2)。また、約1%の症例でトロンボポエチン受容体をコードする遺伝子c-MPL遺伝子に変異がみられ(MPLW515L/K)、受容体の下流シグナルの恒常的な活性化が認められることも、病因の1つと考えられている3)。そのほか20%程度の症例でCALR遺伝子exon 9に挿入または欠失を認めるとの報告もある4)。■ 症状約半数の症例では無症状である。主な症状1)は以下のとおりである。(1)脾腫:約10%の症例で中等度の脾腫を認める(2)血管運動性症状:約20%の症例に微小循環不全によるものと考えられる、頭痛、失神、めまい、耳鳴、一過性視覚異常が認められる(3)血栓症:約17%の症例で認められる。血栓症は、静脈血栓より動脈血栓が多く、冠動脈血栓や四肢末端虚血の肢端紅痛症(erythromelalgia)がある(4)出血症状:約4%の症例で認められ、消化管や気道粘膜の出血が多い■ 分類ETは骨髄増殖性腫瘍に分類される。2次性骨髄線維症へ病型移行することがある。■ 予後ET の予後を規定するのは、血栓症や出血の合併である。また、一部の症例で骨髄線維症への移行や急性骨髄性白血病(AML)への移行が認められる。通常、ETの5年生存率は74~93%、10年生存率は61~84%と報告されている。骨髄線維症への移行は5年で2.7%、10年で8.3%、15年で15.3%と報告されている。AMLや骨髄異形成症候群(MDS)への移行は、発症後1.7~16年で認められると報告されており、頻度は0.6~5%と報告されている。ヒドロキシカルバミド(HU)〔商品名:ハイドレア〕単独投与例では、AMLやMDSへの移行率は低い。AML/MDSへの移行症例は化学療法抵抗性であることが多く、生存期間中央値は2~7ヵ月で、きわめて予後不良である。ETの主な死因は血栓症であり、とくに心血管系合併症である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)持続する45万/μL以上の血小板増加を認めた際に本疾患を疑う。本疾患は除外診断が重要であり、反応性血小板増加症、および他の骨髄増殖性腫瘍(真性多血症、骨髄線維症、慢性骨髄性白血病など)を除外することにより診断する。ETの診断基準はさまざまなものがあるが、現在WHO(2016)の診断基準が多く使用されている(表1)。鑑別診断を含めた診断のアプローチを図1に示す4)。画像を拡大する画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ETの予後に大きく影響するのは、血栓症や出血の合併である。そのため、血栓症や出血をいかに予防するかが重要となってくる。そのため、治療は血栓症の既往、年齢などにより血栓症のリスク分類がなされ、血栓症のリスクとJAK2遺伝子変異の有無に応じた治療法が選択される(図2)5)。画像を拡大する■ 血栓症のリスク分類低リスク群: 年齢5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本血栓止血学会(医療従事者向けのまとまった情報)日本血液学会 造血器腫瘍診療ガイドライン(2018年度版)(医療従事者向けのまとまった情報)1)Dan K, et al. Int J Hematol. 2006;83:443-449.2)Campbell PJ, et al. N Engl J Med. 2006;355:2452-2466.3)Beer PA, et al. Blood. 2008;112:141-149.4)Rumi E, et al. Blood. 2016;128:2403-2414.5)日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン2018年度版. 金原出版株式会社;2018.6)Harrison CN, et al. N Engl J Med.2005;353:33-45.7)Gisslinger H, et al. Blood.2013;121:1720-1728.公開履歴初回2013年05月09日更新2019年12月24日

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コララン:新たな作用機序を有する慢性心不全治療薬

2019年11月19日、過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル遮断薬、コララン錠(一般名:イバブラジン塩酸塩)が販売開始となった。現在、日本以外では124の国または地域で承認となっている。患者数の増加が続く「心不全」現在、日本では、諸外国と比較して例をみないスピードで高齢化が進み、「心不全パンデミック」の時代を迎えている。患者数は、2030年に130万人を超えると推計される。心不全は、心臓のポンプ機能が低下して全身に十分量の血液を送り出せないため、その代償として心拍数が上昇することがある。心拍数の上昇は、心臓への負担となるだけでなく、心不全の予後にも悪影響を及ぼすため、既存治療薬を服用しても心拍数が下がらない心不全患者への治療は課題の1つとなっていた。従来とは異なる心拍数のみを減少させるメカニズム心筋細胞や神経細胞には活動電位を発生させるHCNチャネルが存在し、中でも心臓の洞結節(洞房結節)にはHCN4チャネルが発現している。イバブラジンは、このHCN4チャネルを遮断することで、過分極活性化陽イオン電流(If)を抑制し、拡張期脱分極相における活動電位の立ち上がり時間を遅延させることによって、心拍数を特異的に減少させる作用を有している。慢性心不全患者の心血管系死又は心不全悪化による入院を減少させるイバブラジンの承認は、主にSHIFT試験とJ-SHIFT試験の臨床試験結果に基づいている。海外で実施されたSHIFT試験は、最善の既存治療下にある外国人慢性心不全患者(NYHA心機能分類II~IV度、洞調律下での安静時心拍数70回/分以上、左室駆出率が35%以下)を対象に、イバブラジンを追加した群(イバブラジン群)とプラセボを追加した群(プラセボ群)を比較した。主要評価項目である「心血管系死又は心不全悪化による入院の発現割合」は、プラセボ群28.7%に対してイバブラジン群24.5%で、イバブラジン群で有意に低く、ハザード比は0.82、イベント発現リスクは18%の軽減であった。このSHIFT試験の結果を受けて、2016年欧州心臓学会の心不全ガイドラインではイバブラジンの推奨が記載されている。一方、国内で実施されたJ-SHIFT試験は、最善の既存治療下にある日本人慢性心不全患者(NYHA心機能分類II~IV度、洞調律下での安静時心拍数が75回/分以上、左室駆出率が35%以下)を対象に、イバブラジン群とプラセボ群を比較した。主要評価項目である「心血管系死又は心不全悪化による入院の発現割合」は、プラセボ群29.1%、イバブラジン群20.5%で、ハザード比は0.67であった。心不全治療における今後の展望イバブラジンは上記の試験以外にも、いくつかの試験が実施されており、ACE阻害薬服用の心不全患者における運動耐容能の改善(CARVIVA試験)や入院中の心不全患者における全死亡と再入院の減少(OPTIMIZE試験)などが示唆されている。心拍数のみを減少させる作用機序に加えて、さまざまな試験結果を有するイバブラジンの登場によって、心不全患者のさらなる予後の改善が図られることが期待される。

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HIV患者のがん治療、免疫モニタリングが有益/JAMA Oncol

 抗ウイルス療法を受ける成人HIV患者のがん治療について、免疫モニタリングの有益性が、がん治療後の死亡率に関する定量化研究により明らかにされた。米国・ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のKeri L. Calkins氏らによる検討で、化学療法および/または放射線療法は、手術またはその他の治療を受けた場合と比べて、施術後早期のCD4細胞数を有意に減少させること、その数値の低さと死亡率増大は関連することが示されたという。JAMA Oncology誌オンライン版2019年12月5日号掲載の報告。 研究グループは、がん治療を受けるHIV患者の免疫低下とがん治療との関連は十分に特徴付けられていないことに着目し、がん治療ガイドラインに反映させうる検討として、がん治療に関連した免疫抑制と過剰死亡率の関連性の定量化を試みた。HIV患者のがん治療とCD4細胞数およびHIV RNA値の関連性、治療後CD4細胞数およびHIV RNA値の推移と全死因死亡との関連を推算した。 検討は観察コホート試験にて、1997年1月1日~2016年3月1日にジョンズ・ホプキンズHIVクリニックの治療を受けていた成人HIV患者で、初発のがんを有し、がん治療のデータを入手できた196例を対象に行われた。 試験では、化学療法および/または放射線療法は、手術またはその他の治療と比べて、(1)忍容性の問題によりHIV RNA値を増大する、(2)CD4細胞数の初期の減少幅が大きい、(3)減少したCD4細胞数の回復に時間がかかる、さらに(4)CD4細胞数の減少は、ベースラインのCD4細胞数、抗ウイルス薬の使用、罹患したがんのリスクとは独立して、高い死亡率と関連するとの仮説を立てて検証した。 被験者は、がん種別の初期治療(化学療法および/または放射線療法vs.手術またはその他の治療)を受けた。主要評価項目は、がん治療後のCD4細胞数の推移、HIV RNA値の推移、全死因死亡率であった。 データ解析は2017年12月1日~2018年4月1日に行われた。 主な結果は以下のとおり。・被験者196例は、男性135例(68.9%)、年齢中央値50歳であった。・化学療法および/または放射線療法について、ベースラインCD4細胞数が500個/μL超の患者では、治療後の初期細胞数が203個/μL(95%信頼区間[CI]:92~306)減少した。・一方、ベースラインCD4細胞数が350個/μL以下の患者における減少は、45個/μLであった(相互作用推定値:158個/μL[95%CI:31~276])。・化学療法および/または放射線療法は、HIV RNA値に有害な関連は示さなかった。・初期のがん治療後、CD4細胞数100個/μL低下につき、死亡率は27%増大することが示された(ハザード比:1.27、95%CI:1.08~1.53)。

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字体にまでこだわった患者ガイドブック発刊~日本肺癌学会【肺がんインタビュー】 第34回

第34回 字体にまでこだわった患者ガイドブック発刊~日本肺癌学会出演:岐阜市民病院 診療局長(がんセンター) 日本肺癌学会患者向けガイドライン小委員会委員長 澤 祥幸氏日本肺癌学会が患者向けガイドブックを発刊した。肺がんの専門家が蓄積された学術的見解を基に患者目線で作成したその内容とは?作成委員長の澤祥幸氏に聞いた。参考患者さんのための肺がんガイドブック 2019年版 悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍

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超悪玉脂肪酸はコントロールできるのか?/日本動脈硬化学会

 超悪玉脂肪酸の別名を持つトランス脂肪酸。この摂取に対し、動脈硬化学会が警鐘を鳴らして早1年が経過したが、農林水産省や消費者庁の脂肪酸の表示義務化への姿勢は、依然変わっていないー。2019年12月3日、日本動脈硬化学会が主催するプレスセミナー「飽和脂肪酸と動脈硬化」が開催され、石田 達郎氏(動脈硬化学会評議員/神戸大学大学院医科学研究科循環器内科学)が「食事由来(外因性)の脂質を考える」について講演。脂質過多な患者と過少な患者、それぞれの対応策について語った。脂質コントロールの落とし穴 日本人の血中コレステロール上昇の原因は“食生活の欧米化”で片付けられがちである。そこで、石田氏は食事による血中コレステロール濃度の変動に影響する因子(1:飽和脂肪酸の過剰摂取、2:トランス脂肪酸の摂取、3:不飽和脂肪酸の摂取不足、4:コレステロールの摂取量と吸収効率、5:植物ステロールや食物繊維などによる影響)を提示。「これまでの指導は卵など単独食品の摂取制限を強調するものだった」とし、「食事による種々の因子があるなかで、医療者は血中コレステロール値の変動をさまざまな角度で見ることが大切。以前のようにLDL-CやHDL-Cなどのコレステロールにだけ着目して指導するのは理想的ではない」と、述べた。また、「脂質の種類(コレステロール、中性脂肪、脂肪酸[飽和、不飽和])の区別がつかない患者には、何にどんな成分がどのくらい含まれているのかを含めた丁寧な指導が必要」と、説明した。 たとえば、飽和脂肪酸は過剰摂取すると血中LDL-C値の上昇や炎症を惹起する作用があり、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』第4章の包括的リスク管理の食事療法のCQにおいて、“適正な総エネルギー摂取量のもとで飽和脂肪酸を減らすこと、または飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置換することは血清脂質の改善に有効で、冠動脈疾患発症予防にも有効である(エビデンスレベル:1+、推奨レベル:A)”と、記載されているが、 “飽和脂肪酸摂取を極度に制限することは、脳内出血の発症と関連する可能性がある”と併記されている。また、厚生労働省が策定し来年発刊予定の『食事摂取基準2020年版』1)では、飽和脂肪酸の目標量は18歳以上では7%未満(エネルギー比率として)と設定されている。 この目標量を達成するために有用なのが、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版』である。このガイドではコレステロールと飽和脂肪酸の含有比率の表が掲載され、コレステロール含有量は低いが飽和脂肪酸含有量が高い食品としてチーズやバラ肉など、コレステロール含有量も飽和脂肪酸含有量も低いものとして赤肉や牛乳などが記されている。しかし、ここで問題なのは、日本の加工食品には脂肪酸の含有量が明記されていないこと、コレステロール含有量の低い食品を摂取しても、トランス脂肪酸摂取によりコレステロールが上昇してしまうことである。これに対し同氏は、「食品1つ1つに脂肪酸含有量が明記されていないため、摂取過多・過少に関する問題は医療者と患者だけでは解決できない」と、国民の力だけでは基準順守が不可能なことを言及した。結局、誰の仕事?脂肪酸摂取の適正化 では、誰が脂肪酸摂取の適正化を行うべきなのか。本来は身体に良い不飽和脂肪酸も工場での加工段階でトランス脂肪酸(超悪玉脂肪酸)に変化してしまうのだから、製造・販売過程での適正化がなされなければ、医療者や患者の努力は水の泡である。同氏は「日本の現状では個人の意思に関係なく摂取してしまう。食品産業全体が責任を持って減少に取り組むべき。何らかの法規制も必要」と、主張した。 海外では脂肪酸の表記は当たり前となっており、国全体で摂取を避ける取り組みが行われている。近年、日本人においても超悪玉脂肪酸の心血管疾患へのリスクが報告されている2)。そして、つい先日発表された日本の久山町研究でも、認知症リスクへ超悪玉脂肪酸の影響が示され3)、海外メディアに取り上げられ脚光を浴びた。この研究では、超悪玉脂肪酸の血中濃度が高い人ではアルツハイマー病リスクが75%も上昇することが明らかとなった。同氏によると、この研究は古典的な食事内容調査ではなく、トランス脂肪酸の血中濃度に注目した点が科学的信頼性を高めたと評価されたのだという。実際に、マーガリン、コーヒークリーム、アイスクリーム、せんべい類などのように超悪玉脂肪酸を多く含む食品を摂取している人では、超悪玉脂肪酸の血中濃度が高くなる傾向があった。  一方で、飽和脂肪酸自体はエネルギー源としても重要であり、適度に摂取することに問題はない。同氏は「食事摂取量が少なくなる高齢者はフレイルリスクも高いため、若者と同じような脂肪の摂取制限だけの指導を行ってはいけない」とし、患者対応時には以下の点に留意し、複合的に指導するよう求めた。・飽和脂肪酸は、血中コレステロールを増やすため、動物性脂肪の食べ過ぎに注意する。・トランス脂肪酸(超悪玉脂肪酸)は、飽和脂肪酸よりさらにコレステロール増加作用が強い。・不飽和脂肪酸のなかでもオリーブ油、サフラワー油、高オレイン酸紅花油は血清脂質の改善作用が報告されている。・青魚に含まれるEPAやDHAは最も身体に良い。・2型糖尿病患者、腎不全/透析患者、スタチン長期服用患者、高コレステロール血症患者、冠動脈疾患患者などではコレステロール吸収が亢進しており、血中コレステロールが上がりやすい。・高齢者のように脂肪の摂取量が極めて少ない方もいる。 最後に同氏は、「脂質異常治療戦略のあり方には、欧米化する食生活の中で国民全体の摂取量を適正化することと、個々の患者の脂質値を改善することの2つ視点を分けて考え、臨床現場ではリスクに応じたきめ細やかな指導を心がけるべき」と、締めくくった。

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