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知っていますか?年齢で使用薬剤が異なる疾患【スーパー服薬指導(5)】

スーパー服薬指導(5)知っていますか?年齢で使用薬剤が異なる疾患講師:近藤 剛弘氏 / 元 ファイン総合研究所 専務取締役動画解説「薬が変更になった」と、B型肝炎の治療を受けている患者が、不安げに来局。薬剤師はガイドラインに沿った変更だと説明し、患者は安堵の表情を浮かべたのだが…

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『敗血症診療ガイドライン2020年』の完成版が発刊

 昨年、ダイジェスト版が先行発表されていた日本集中治療医学会・日本救急医学会の合同作成による「日本版敗血症診療ガイドライン2020」の正式版が、3月に発刊された。本ガイドラインは、小児から成人まで敗血症・敗血症性ショック患者およびその疑いのある患者の診療において、医療従事者が患者の予後改善のために適切な判断を下す支援を行うことを目的に作成されている。また、敗血症診療に従事または関与する専門医、一般臨床医、看護師、薬剤師、理学療法士、臨床工学技士、管理栄養士などのすべての医療従事者への利用を促している。 今回の改定版は、敗血症疾患の予後改善のために適切な判断を下すことを目的に、一般臨床医にもわかりやすく作成されている。.新たな項目として4領域(神経集中治療、Patient-and Family-Centered Care、Sepsis Treatment System、ストレス潰瘍)を追加し、敗血症診療を計22領域で構成、CQ:118題について解説されている。<Clinical Question―全22領域>CQ1:敗血症の定義と診断CQ2:感染の診断CQ3:画像診断と感染源のコントロールCQ4:抗菌薬治療CQ5:免疫グロブリン(IVIG)療法CQ6:初期蘇生・循環作動薬CQ7:ステロイド療法CQ8:輸血療法CQ9:呼吸管理 CQ10:痛み・不穏・せん妄の管理CQ11:急性腎障害・血液浄化療法CQ12:栄養療法CQ13:血糖管理CQ14:体温管理CQ15:DIC診断と治療CQ16:静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)対策CQ17:Post-intensive care syndrome(PICS)と ICU-acquired weakness(ICU-AW)CQ18:小児CQ19:神経集中治療CQ20:Patient- and Family-Centered Care CQ21:Sepsis treatment systemCQ22:ストレス潰瘍 制作委員長を務めた江木 盛時氏(神戸大学大学院医学研究科外科系講座麻酔科学分野)と小倉 裕二氏(大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター)らは、「集中治療室に限らず、一般病棟や救急外来で、診断・治療を受ける患者を包括するが、敗血症患者は高度な全身管理を必要とすることから、敗血症およびその疑いの強い患者では、状況が許す限り、速やかに集中治療室へ移送しての管理が望ましい」と強調している。

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特発性門脈圧亢進症〔IPH:Idiopathic portal hypertension〕

1 疾患概要■ 概念・定義特発性門脈圧亢進症(idiopathic portal hypertension:IPH)とは、肝硬変、肝外門脈閉塞、肝静脈閉塞、およびその他の原因となるべき疾患を認めずに門脈圧亢進症を呈するもので、肝内末梢門脈枝の閉塞、狭窄により門脈圧亢進症に至る症候群をいう。なお、門脈圧亢進症とは門脈系の血行動態の変化により、門脈圧(正常値100~150mmH2O)が常に200mmH2O(14.7mmHg)以上に上昇した状態である。■ 疫学IPHは比較的まれな疾患で、年間受療患者数(2004年)は640~1,070人と推定され、人口100万人当たり7.3人の有病率と推定されている(2005年全国疫学調査)。男女比は約1:2.7と女性に多く、発症のピークは40~50歳代で平均年齢は49歳である。欧米より日本にやや多い傾向があり、また都会より農村に多い傾向がある。■ 病因本症の病因はいまだ不明であるが、肝内末梢門脈血栓説、脾原説、自己免疫異常説などがある。中年女性に多発し、血清学的検査で自己免疫疾患と類似した特徴が認められ、自己免疫疾患を合併する頻度も高いことからその病因として自己免疫異常、特にT細胞の自己認識機構に問題があると考えられている。■ 症状重症度に応じ食道胃静脈瘤、門脈圧亢進症性胃腸症、腹水、肝性脳症、汎血球減少、脾腫、貧血、肝機能障害などの症候、つまり門脈圧亢進症の症状を呈す。通常、肝硬変に至ることはなく、肝細胞がんの母地にはならない。■ 予後IPH患者の予後は静脈瘤(出血)のコントロールによって規定され、コントロール良好ならば肝がんの発生や肝不全死はほとんどなく、5年および10年累積生存率は80~90%と極めて良好である。また、長期観察例での肝実質の変化は少なく、肝機能異常も軽度である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ IPH診断のガイドラインIPHの診断基準は、厚生労働省特定疾患:門脈血行異常症調査研究班の定めた「門脈血行異常症ガイドライン2018年改訂版」1)のIPH診断のガイドラインに則る。1)一般検査所見(1)血液検査 1つ以上の血球成分の減少を示し、特に血小板数減少は顕著である。(2)肝機能検査正常または軽度異常が多い。(3)内視鏡検査食道胃静脈瘤を認めることが多い。門脈圧亢進症性胃腸症や十二指腸、胆管周囲、下部消化管などにいわゆる異所性静脈瘤を認めることもある。2)画像検査所見(1)超音波、CT、MRI、腹腔鏡検査a)巨脾を認めることが多い。b)肝臓は病期の進行とともに、辺縁萎縮と代償性中心性腫大となる。c)肝臓の表面は平滑なことが多いが、全体に波打ち状(大きな隆起と陥凹)を呈するときもある。d)結節性再生性過形成や限局性結節性過形成などの肝内結節を認めることがある。e)脾動静脈は著明に拡張している。f)著しい門脈・脾静脈血流量の増加を認める。g)二次的に門脈に血栓を認めることがある。(2)上腸間膜動脈造影門脈相ないし経皮経肝門脈造影肝内末梢門脈枝の走行異常、分岐異常を認め、その造影能は不良で、時に門脈血栓を認めることがある。(3)肝静脈造影しばしば肝静脈枝相互間吻合と「しだれ柳様」所見を認める。閉塞肝静脈圧は正常または軽度上昇にとどまる。(4)Scintiphotosplenoportography (SSP)SSPは経皮的に脾臓より放射性物質を注入し、その動態で最も生理的に近い脾静 脈血行動態のdynamic imageが得られるだけではなく、そのデータ処理にてさまざまな情報が得られる検査法である。SSPにより門脈血に占める脾静脈血の割合を求めると、正常では18.6%、慢性肝炎では48.0%、肝硬変では47.8%、IPHでは73.8%であった2)。つまりIPHでは、脾静脈血流が著明に増加している。3)病理検査所見(1)肝臓の肉眼所見時に萎縮を認める。表面平滑な場合、波打ち状や凹凸不整を示す場合、変形を示す場合がある。割面は被膜下の実質の脱落をしばしば認める。門脈に二次性の血栓を認める例がある。また、過形成結節を認める症例がある。肝硬変の所見はない。(2)肝臓の組織所見肝内末梢門脈枝の潰れ・狭小化、肝内門脈枝の硬化症および側副血行路を呈する例が多い。門脈域の緻密な線維化を認め、しばしば円形の線維性拡大を呈する。肝細胞の過形成像がみられ結節状過形成を呈することがあるが、周囲に線維化はなく、肝硬変の再生結節とは異なる。(3)脾臓の肉眼所見著しい腫大を認める。(4)脾臓の組織所見赤脾髄における脾洞(静脈洞)の増生、細網線維や膠原線維の増加、脾柱におけるGamna-Gandy結節を認める。本症は症候群であり、また病期により病態が異なることから、一般検査所見、画像検査所見、病理検査所見によって総合的に診断されるべきである。確定診断は肝臓の病理組織学的所見の合致が望ましい。除外疾患は肝硬変症、肝外門脈閉塞症、バッド・キアリ症候群、血液疾患、寄生虫疾患、肉芽腫性肝疾患、先天性肝線維症、慢性ウイルス性肝炎、非硬変期の原発性胆汁性胆管炎などが挙げられる。■ 重症度分類「門脈血行異常症ガイドライン2018年改訂版」1)ではIPHの重症度分類も定められている。重症度I  診断可能だが、所見は認めない。重症度II 所見は認めるものの、治療を要しない。重症度III所見を認め、治療を要する。重症度IV身体活動が制限され、介護も含めた治療を要する。重症度V 肝不全ないし消化管出血を認め、集中治療を要する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療適応IPHの治療対象は、門脈圧亢進症に伴う食道胃静脈瘤、脾機能亢進に伴う汎血球滅少症、脾腫である。治療法としては、食道胃静脈瘤症例では内視鏡的治療、塞栓術、手術療法など、内科的治療が難しい脾腫・脾機能亢進症例では塞栓術または手術療法を施行する。■ 食道静脈瘤1)食道静脈瘤破裂では輸血、輸液などで循環動態を安定させながら、内視鏡的静脈瘤結紮術(または内視鏡的硬化療法)にて一時止血を行う。内視鏡的治療が施行できない場合や止血困難な場合はバルーンタンポナーデ法を施行し、それでも止血できない場合は緊急手術も考慮する。2)一時止血が得られた症例では、全身状態改善後、内視鏡的治療や待期手術を考慮する。3)未出血の症例(予防例)では、「門脈圧亢進症取扱い規約【第3版】」3)に従って静脈瘤所見を判定し、F2、3またはRC陽性の場合、内視鏡的治療や手術を考慮する。4)手術療法としては、選択的シャント手術として選択的遠位脾腎静脈吻合術(DSRS)や、直達手術として下部食道離断+脾摘+下部食道・胃上部血行郭清を加えた食道離断術または内視鏡的治療と併用して脾摘術+下部食道・胃上部の血行郭清(ハッサブ手術)を行う。■ 胃静脈瘤1)食道静脈瘤と連続して存在する噴門部静脈瘤に対しては食道静脈瘤の治療に準じて対処する。2)孤立性胃静脈瘤破裂例では輸血、輸液などで循環動態を安定させながら、内視鏡的硬化療法にて一時止血を行う。内視鏡的治療が施行できない場合や止血困難な場合はバルーンタンポナーデ法を施行し、それでも止血できない場合はバルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術(balloon-occluded retrograde transvenous obliteration:B-RTO)などの塞栓術や緊急手術も検討する。 3)一時止血が得られた症例では、全身状態改善後、内視鏡的治療追加やB-RTO などの塞栓術、待期手術(DSRSやハッサブ手術)を検討する。4)未出血症例(予防例)では、胃内視鏡所見を参考にして内視鏡的治療、塞栓術、手術(DSRSやハッサブ手術)を検討する。■ 脾腫、脾機能亢進症巨脾に合併する症状(疼痛、圧迫)が著しい場合および脾機能亢進症(汎血球減少)による高度の血球減少(血小板5×104以下、白血球3,000以下、赤血球300×104以下のいずれか1項目)で出血傾向を認める場合は部分的脾動脈塞栓術(PSE)または脾摘術を検討する。PSEは施行後に血小板数は12~24時間後に上昇し始め、ピークは1~2週間後である。2ヵ月後に安定し、長期的には前値の平均2倍を維持する。4 今後の展望IPHの原因はいまだ解明されていない。しかし、静脈瘤のコントロールが良好ならば、予後は良好であるため静脈瘤のコントロールが重要である。予後が良いため長期的に効果が持続する手術療法が施行されている。近年、低侵襲手術として腹腔鏡下手術が行われており、食道胃静脈瘤に対する手術も腹腔鏡下手術が中心となっていくであろう。5 主たる診療科消化器外科、消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病センター 特発性門脈亢進症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 門脈血行異常症ガイドライン 2018年改訂版. 2018.2)吉田寛. 日消誌. 1991;88:2763-2770.3)日本門脈圧亢進症学会. 門脈圧亢進症取扱い規約 第3版. 金原出版.2013.公開履歴初回2021年03月29日

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リサーチ・クエスチョンのブラッシュアップー関連研究レビュー 診療ガイドラインの活用 その3【「実践的」臨床研究入門】第6回

「観察研究」と「介入研究」CQ 慢性腎臓病(CKD) の進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することは推奨されるか?推奨CKD の進行を抑制するためにたんぱく質摂取量を制限することを推奨する。ただし、画一的な指導は不適切であり、個々の患者の病態やリスク、アドヒアランスなどを総合的に判断し、腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理の下で行うことが望ましい (推奨グレード B 1)。前回までに、設定したCQに類似する上記のCQの記載と回答(推奨)を、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」で見つけ、本文の解説を読み込みました。解説文(筆者がまとめた概要)では、下記のように先行研究を引用して、CKD患者における食事療法(低たんぱく食)に関するエビデンスが述べられています。CKD患者におけるたんぱく質制限による腎保護効果は、これまで多くのランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)1-11)や、それらを統合(メタ解析)した、いくつかのシステマティック・レビュー12-18)で検討されている。CKD患者(とくに糖尿病非合併例)に対するたんぱく質制限は、腎機能低下抑制に有効な可能性がある。RCTやシステマティック・レビューといった臨床疫学用語が出てきたので、ここでは臨床研究の「型」について簡単に解説してみたいと思います。臨床研究の「型」は「観察研究」と「介入研究」に大別されます。「観察研究」では研究目的を意識した介入(I)は加えずに、ある疾患やそれに対する診療の実態をありのままに観察します。一方、「介入研究」は、研究者が研究の対象(P)に対して意図した介入(I)を加えたうえでアウトカム(O)を追跡します。「介入研究」は介入(I)をP(対象)にランダム(無作為)に割り付けるか否かによって、RCTとnon-RCTに分類されます。「介入」の効果を科学的に検証するためには介入(I)群と対照(C)群の「比較の妥当性」をできる限り担保する必要があります。「ランダム割付」によって、介入(I)群と対照(C)群の間でアウトカムに影響する可能性のある背景因子を揃えることが期待でき、高い「比較の妥当性」を得ることができます(non-RCTはこの「ランダム割付」という「介入研究」の最大の「強み」を活かしていないので、「介入研究」≒RCTと捉えて良いのではないか、と筆者は考えています)。「内的妥当性」と「外的妥当性」また、前回まとめたように、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018」では、上記のCQに対する推奨(回答)が根拠とするこれまでのエビデンスのひとつの限界として、以下のように言及されています。これらのエビデンスはほとんどが適格基準が厳しいRCTで示されたものである。また、腎臓専門医ならびに管理栄養士の指導の遵守率が高い状態の研究結果でもあり、CKD診療一般にあてはめることは難しい可能性がある。われわれが行おうとしている研究は「観察研究」です(連載第1回冒頭のダイアローグ参照)。「ランダム割付」した「介入研究」、いわゆるRCTは、介入(I)群と対照(C)群を公平に比較できることが期待されます。したがって、前述したとおりRCTは「比較の妥当性」が高く(別の言い方で、「内的妥当性」が高い、とも言います)、エビデンスレベルも「観察研究」より高く位置づけられています。それでは、「観察研究」の価値はRCTと比べて著しく低いのでしょうか、そんなことはありません。「内的妥当性」に対して「外的妥当性」という臨床疫学用語があります。「外的妥当性」とは、ざっくり言うと、ある特定の臨床研究で得られた結果を、その臨床研究で対象としたサンプル(研究対象集団)以外の集団に対しても当てはめることができるか、ということです(別の言い方で、「一般化可能性」、とも言います)。確かにRCTは前述したとおり「内的妥当性」には優れています。しかしRCTの適格基準を満たし、かつRCTの参加に同意する患者集団は、現実の一般的な診療で対象としている患者集団とかけ離れているかもしれません。なぜなら、RCTでは高齢者や重篤な併存疾患があるようなリスクの高い患者さんは適格基準を満たさず除外されてしまうことが多いからです。また、RCTへの参加に同意する患者さんは、そうでない患者さんに比べて健康意識が高く、日常の診療でも治療遵守の程度も高いかもしれません。このようなことから、一般にRCTは「内的妥当性」は高いけれども「外的妥当性」が低いことが多い、と言われます。「内的妥当性」と「外的妥当性」のバランスの観点から、われわれが行う「観察研究」でも新たなエビデンスを積み上げる余地(ニッチ)がはあると判断して、研究デザインの検討を前に進めて行きます。もちろん「観察研究」はRCTと比較して「内的妥当性」が低いことは否めません。研究デザインや統計解析計画で「観察研究」の「内的妥当性」を高める工夫についても、おいおい、解説して行きたいと思います。1)Ihle BU et al. N Engl J Med 1989;321:1773-7.2)Brouhard BH et al. Am J Med 1990;89:427-31.3)Zeller K et al. N Engl J Med 1991;324:78-84.4)Williams PS et al. Q J Med 1991;81:837-55.5)Klahr S et al. N Engl J Med 1994;330:877-84.6)Hansen HP et al. Kidney Int 2002;62:220-8.7)Pijls LT et al. Eur J Clin Nutr 2002;56:1200-7.8)Meloni C et al. J Ren Nutr 2004;14:208-13.9)Koya D et al. Diabetologia 2009;52:2037-45.10)Cianciaruso B et al. Am J Kidney Dis 2009;54:1052-61.11)Garneata L et al. J Am Soc Nephrol 2016;27:2164-76.12)Kasiske BL et al. Am J Kidney Dis 1998;31:954-61.13)Pan Y et al. Am J Clin Nutr 2008;88:660-6.14)Fouque D et al. Cochrane Database Syst Rev 2009:CD001892.15)Robertson L et al. Cochrane Database Syst Rev 2007:CD00218116)Nezu U et al. BMJ Open 2013;3:e002934.17)Rughooputh MS et al. PLoS One 2015;10:e0145505.18)Jiang Z et al. Int Urol Nephrol 2016;48:409-18.1)福原俊一. 臨床研究の道標 第2版. 健康医療評価研究機構;2017.2)木原雅子ほか訳. 医学的研究のデザイン 第4版. メディカル・サイエンス・インターナショナル;2014.3)矢野 栄二ほか訳. ロスマンの疫学 第2版. 篠原出版新社;2013.4)中村 好一. 基礎から学ぶ楽しい疫学 第4版. 医学書院;2020.5)片岡 裕貴. 日常診療で臨床疑問に出会ったときに何をすべきかがわかる本 第1版.中外医学社;2019.

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心血管リスク因子のないSTEMIは死亡リスクが高い/Lancet

 標準的な心血管リスク因子(SMuRFs:高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙)のないST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者は、少なくとも1つのSMuRFsを有する患者と比較して全死因死亡のリスクが有意に高く、とくに女性で顕著である。オーストラリア・Royal North Shore HospitalのGemma A. Figtree氏らが、スウェーデンの心疾患登録研究であるSWEDEHEART研究を用いた後ろ向き解析結果を報告した。心血管疾患の予防戦略はSMuRFsを標的とすることが重要であるが、SMuRFsのない心筋梗塞はまれではなく、SMuRFsを有していない患者の転帰についてはよく知られていなかった。著者は、「早期死亡リスクの上昇は、ガイドラインで示された治療を追加することで弱まる。今回得られた所見は、ベースラインでのリスク因子や性別にかかわらず、心筋梗塞発症直後のエビデンスに基づいた薬物療法の必要性を強調するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2021年3月9日号掲載の報告。STEMI患者約6万2千例を対象にSMuRFsの有無別で死亡率を解析 研究グループはSWEDEHEART研究のデータを用い、SMuRFsの有無にかかわらずSTEMI成人患者の臨床特性と転帰について、全体および性別ごとに解析した。冠動脈疾患の既往歴がある患者は除外された。 主要評価項目は、STEMI発症後30日以内の全死因死亡、副次評価項目は30日以内の心血管死、心不全および心筋梗塞であった。各評価項目は、退院まで、ならびに12年間の追跡終了時まで調査。多変量ロジスティック回帰モデルを用いて院内死亡率を比較し、Cox比例ハザードモデルおよびカプランマイヤー法により長期転帰を比較した。 解析対象は、2005年1月1日~2018年5月25日の期間に登録されたSTEMI患者6万2,048例であった。このうち、診断を要するSMuRFsを認めなかったのは9,228例(14.9%)で、年齢中央値はSMuRFsあり群68歳(四分位範囲:59~78)、SMuRFsなし群69歳(60~78)であった。SMuRFsなしで30日死亡リスクは約1.5倍、とくに女性は一貫して死亡率が高い SMuRFsなし群はあり群と比較して、経皮的冠動脈インターベンション実施率は類似していたが(71.8% vs.71.3%)、退院時におけるスタチン、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)/アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬の投与率は有意に低かった。 発症後30日以内の全死因死亡リスクは、SMuRFsなし群で有意に高かった(ハザード比:1.47、95%信頼区間[CI]:1.37~1.57、p<0.0001)。30日以内の全死因死亡率が最も高かったのはSMuRFsがない女性(17.6%、381/2,164例)で、次いでSMuRFsあり女性(11.1%、2,032/1万8,220例)、SMuRFsなし男性(9.3%、660/7,064例)、SMuRFsあり男性(6.1%、2,117/3万4,600例)の順であった。 SMuRFsなし群における30日以内の全死因死亡リスクの上昇は、年齢、性別、左室駆出率、クレアチニン、血圧で補正後も有意であったが、退院時の薬物療法(ACEI/ARB、β遮断薬、スタチン)を組み込んだ場合は減弱した。 さらに、SMuRFsなし群はあり群と比較して、院内の全死因死亡率が有意に高かった(9.6% vs.6.5%、p<0.0001)。30日時点の心筋梗塞および心不全は、SMuRFsなし群で低かった。全死因死亡率は、男性では8年強、女性では追跡終了時である12年後まで、SMuRFsなし群が一貫して高いままであった。

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第49回 日本の科学者が見いだしたイベルメクチンは、コロナ治療の新たな希望か

新型コロナウイルスのワクチンを巡り、不安材料が浮上してきた。世界的なワクチン争奪戦の影響などで、米ファイザー製のワクチンが計画通りに供給されない可能性が出てきたり、英アストラゼネカ製のワクチンにおける副反応疑いが報じられたりしているからだ。翻って、ノーベル医学生理学賞受賞者(2015年)の大村 智氏(北里大学特別栄誉教授)の研究を基にした抗寄生虫薬「イベルメクチン」について、日本発の新型コロナウイルス感染症治療薬として期待する声が上がっている。新型コロナ治療薬としては未承認だが、中南米やアフリカ、中東でオンコセルカ症(河川盲目症)や類縁の感染症の治療薬として毎年約3億人が服用し、約30年間、副作用の報告がほとんどないという。イベルメクチンは2012年から、さまざまなウイルスに対する効果が多数報告されている。ヒトの後天性免疫不全症候群(AIDS)やデング熱ウイルス、インフルエンザウイルス、仮性狂犬病ウイルスなどだ。世界25ヵ国が新型コロナ治療薬に採用北里大学では2020年9月から、新型コロナウイルスに対する治療効果を調べる臨床試験を行っている。すでに医薬品として承認されているため、第I相を飛ばし、第II相の治験が実施されている。日本を含め、世界27ヵ国で91の臨床試験が行われており(2021年1月30日現在)、25ヵ国がイベルメクチンを新型コロナ感染症対策に採用している(2021年2月26日現在)。米国FLCCC(Front-Line COVID-19 Critical Care)アライアンスの会長Pierre Kory氏が2020年12月8日、上院国土安全保障と政府問題に関する委員会に証人として登壇した際は、イベルメクチンを新型コロナに対する「奇跡の薬」と評し、「政府はイベルメクチンの効果を早急に評価し、処方を示すべきだ」と訴えた。強力な支持、一方で効果を問う最新論文も…FLCCCは、2020年春以降、新型コロナ治療薬としてのイベルメクチンに関する臨床試験情報を収集・分析し、Webに公開している。これまでの臨床試験から可能性が示唆されているのは以下の通りだ。(1)患者の回復を早め、軽~中等症の患者の悪化を防ぐ。(2)入院患者の回復を早め、集中治療室(ICU)入室と死亡を回避させる。(3)重症患者の死亡率を低下させる。(4)イベルメクチンが広く使用されている地域では、新型コロナ感染者の致死率が著しく低い。さらにKory氏は、WHOがイベルメクチンを「必須医薬品リスト」に入れたことを強調。NIHやCDC、FDAに対し、イベルメクチンの臨床試験結果を早急に確認のうえ、医療従事者らに処方ガイドラインを示すように求めた。一方で、イベルメクチンが新型コロナ軽症患者に対して改善効果が認められなかったという無作為化試験の結果が今月、JAMA誌に掲載された1)。新型コロナを巡っては、ワクチンも治療薬も現在進行形で研究・開発が進み、エビデンスの蓄積と医療者や世間の期待とのバランスが非常に難しい。イベルメクチンが、コロナ治療における新たな希望になり得るのか、今後の研究の行方を注視したい。参考1)イベルメクチン、軽症COVID-19の改善効果見られず/JAMA

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非コンセンサスTIAの脳卒中リスクは典型症例と同等/Lancet

 一過性神経症状のうち典型的な症状(運動麻痺、失語症、片側視野欠損、単眼視力低下)を伴う一過性脳虚血発作(TIA)ではなく、単独の複視、構音障害、めまいや運動失調、感覚消失、両眼視力低下といった「非コンセンサス」TIAの発症も、その後の短期・長期の脳卒中リスクが典型的TIAと同等に高いことが明らかにされた。10年主要血管イベントリスクについても同等だった。英国・オックスフォード大学のMaria A. Tuna氏らが、人口9万人超のコミュニティーを対象に前向きコホート試験を行い明らかにした。TIAの診断は困難を伴い、非コンセンサスの症状については、調査や治療に大きなばらつきがあった。結果を踏まえて著者は「非コンセンサスTIAを明確に脳血管イベントとすることで、全体的にTIA診断率はおよそ5割増しになるだろう」と述べている。Lancet誌2021年3月6日号掲載の報告。軽度虚血性脳卒中、典型的TIA、非コンセンサスTIAに分け追跡 研究グループは2002年4月1日~2018年3月31日に、英国オックスフォードシャーの住民(9万2,728人、年齢問わず)で一過性神経症状を呈し、プライマリケア診療所、またはJohn Radcliffe病院で診察を受けた患者を対象に前向きコホート試験を行った。 対象患者は、軽度虚血性脳卒中(NIHSS<5)、典型的TIA、非コンセンサスTIAに分類され、2次予防を目的としたガイドラインに沿った治療を受けた。 脳卒中リスク(7日、90日、10年リスク)と、すべての主要血管イベントリスク(初回イベントからの期間、医師の診察を受けた時からの期間)を対面による追跡で判定し、試験対象集団における年齢・性別の脳卒中罹患率に基づく予測リスクと比較した。90日脳卒中リスク、典型的TIA群11.6%、非コンセンサスTIA群10.6% 対象患者は2,878例で、うち軽度虚血性脳卒中は1,287例、典型的TIAは1,021例、非コンセンサスTIAは570例だった。追跡は、2018年10月1日まで行われた(追跡期間中央値5.2[IQR:2.6~9.2]年)。 1万7,009人年の追跡期間中、初回の脳卒中再発は577件発生した。 非コンセンサスTIA群の90日脳卒中発症リスクは、典型的TIA群と同等だった(10.6%[95%信頼区間[CI]:7.8~12.9]vs.11.6%[9.6~13.6]、ハザード比[HR]:0.87、95%CI:0.64~1.19、p=0.43)。また、非コンセンサスTIA群の90日脳卒中発症率は、一過性黒内障発症後の同発症率(4.3%[95%CI:0.6~8.0])より高率だった(p=0.042)。 一方で、症状発症時点で医療サービスを受けた患者の割合は、典型的TIA群は75%(768/1,021例)だったのに対し、非コンセンサスTIA群は59%(336/570例)と低率だった(オッズ比[OR]:0.47、95%CI:0.38~0.59、p<0.0001)。医療サービスを受ける前に脳卒中再発が起こる割合も、典型的TIA群5%(47/1,021例)に対し非コンセンサスTIA群8%(45/570例)と増大する傾向がみられた(OR:1.77、95%CI:1.16~2.71、p=0.007)。 これらの再発脳卒中を除外後、非コンセンサスTIA群の受診後の7日脳卒中リスク(発症率2.9%、95%CI:1.5~4.3)も、予測リスクと比べてきわめて高かった(相対リスク[RR]:203、95%CI:113~334)。とくに、発症当日に受診した患者で高かった(発症率5.0%[95%CI:2.1~7.9]、RR:300[137~569])。 10年主要血管イベント発生リスクも、非コンセンサスTIA群と典型的TIA群で同等だった(27.1%[95%CI:22.8~31.4]vs.30.9%[27.2~33.7]、p=0.12)。 心房細動、卵円孔開存、および動脈狭窄のベースライン有病率も、非コンセンサスTIA群と典型的TIA群で同等だったが、後方循環狭窄は非コンセンサスTIA群で頻度が高かった(OR:2.21、95%CI:1.59~3.08、p<0.0001)。

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非情動性精神疾患に対する持続性注射剤抗精神病薬~ネットワークメタ解析

 非情動性精神疾患の成人患者に対する長時間持続性注射剤(LAI)抗精神病薬による維持療法の再発予防および受容性について、イタリア・ベローナ大学のGiovanni Ostuzzi氏らは、検討を行った。The American Journal of Psychiatry誌オンライン版2021年2月18日号の報告。 MEDLINE、Embase、PsycINFO、CINAHL、CENTRALなどより、2020年6月までに公表されたランダム化比較試験を検索した。相対リスクと標準化平均差は、ランダム効果ペアワイズおよびネットワークメタ解析を用いてプールした。主要アウトカムは、再発率およびすべての原因による中止(受容性)とした。研究の質はCochrane Risk of Bias toolを、プールされた推定値の確実性はGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)を用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした研究86件のうち、78件(1万1,505例)をメタ解析に含めた。・再発予防に関しては、12種類のLAIのほとんどにおいて、プラセボを上回っていた。・プラセボと比較したLAIの最大推定値および最高ランキングであった薬剤は、パリペリドン(3ヵ月製剤)とアリピプラゾールであった。・リスペリドン、pipothiazine、オランザピン、パリペリドン(1ヵ月製剤)についても、プラセボと比較し、順に優れた再発予防を有していた(GRADEの確実性:中~高程度)。・LAI同士の直接比較では、ハロペリドールのみが、アリピプラゾール、フルフェナジン、パリペリドンよりも劣っていた。・受容性に関しては、ほとんどのLAIがプラセボを上回っており、zuclopenthixol、アリピプラゾール、パリペリドン(3ヵ月製剤)、オランザピン、flupenthixol、フルフェナジン、パリペリドン(1ヵ月製剤)は、順に優れた受容性を有していた(GRADEの確実性:中~高程度)。・LAI同士の直接比較では、アリピプラゾールのみが、他のLAI(ブロムペリドール、フルフェナジン、パリペリドン[1ヵ月製剤]、pipothiazine、リスペリドン)よりも優れた受容性を示した。 著者らは「パリペリドン(3ヵ月製剤)、アリピプラゾール、オランザピン、パリペリドン(1ヵ月製剤)のLAI抗精神病薬は、再発予防と受容性において、最高のエフェクトサイズとエビデンスの確実性を有していた。このネットワークメタ解析の結果は、最前線で治療にあたっている臨床医やガイドラインの作成に役立つであろう」としている。

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1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第70回

1日1回服用の卵巣がんPARP阻害薬「ゼジューラカプセル100mg」今回は、ポリアデノシン5'二リン酸リボースポリメラーゼ(PARP)阻害薬「ニラパリブトシル酸塩水和物(商品名:ゼジューラカプセル100mg、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、BRCA遺伝子変異の有無にかかわらず、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後維持療法として、1日1回の服用で腫瘍細胞の増殖を抑制することが期待されています。<効能・効果>本剤は、「卵巣癌における初回化学療法後の維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の再発卵巣癌における維持療法」「白金系抗悪性腫瘍剤感受性の相同組換え修復欠損を有する再発卵巣癌」の適応で、2020年9月25日に承認され、同年11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはニラパリブとして1日1回200mgを経口投与します。ただし、本剤初回投与前の体重が77kg以上かつ血小板数が15万/μL以上の成人には、1日1回300mgを経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量し、本剤投与により副作用が発現した場合は、添付文書の基準を参考にして休薬、減量、中止します。<安全性>国内第II相試験(Niraparib-2001試験、Niraparib-2002試験)において、副作用は39例中39例(100%)で報告されました。主なものは、悪心25例(64.1%)、血小板数減少23例(59.0%)、貧血17例(43.6%)、好中球数減少14例(35.9%)、嘔吐13例(33.3%)、食欲減退11例(28.2%)、白血球数減少10例(25.6%)でした。なお、国内外の臨床試験(上記とNOVA試験、QUADRA試験、PRIMA試験)において、本剤が投与された937例で発現した重大な副作用として、骨髄抑制(78.8%)、高血圧(9.8%)、間質性肺疾患(0.6%)、可逆性後白質脳症症候群(頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.卵巣がんの初回化学療法後や再発時の維持療法に使われる薬です。1日1回、連日服用します。2.薬によって血液を作る機能が低下するため、あざができやすくなる、鼻をかんだときに血が出る、顔色が悪くなる、心拍数が増える、立ちくらみや息切れ、めまいが起こることがあります。定期的に血液検査が行われますが、気になる症状があったらすぐにご連絡ください。3.血圧が高くなることがあります。自覚症状はほとんどないため、定期的に血圧や心拍数を測定しましょう。4.吐き気や嘔吐、便秘、疲労感などが現れることがあります。小まめに水分を摂り、消化の良い食事を心掛け、疲れを溜めないようにするなど、生活に工夫を取り入れることで対処できる場合もあります。強い症状が続く場合はご相談ください。5.妊娠中の方や妊娠している可能性がある方は服用できません。また、本剤服用中や服用を中止してから一定の期間は適切な方法で避妊を行い、授乳中の方は授乳を中止する必要があります。<Shimo's eyes>卵巣がんは主に閉経後の女性に多く発症するがんですが、初期段階では症状に乏しく、早期の検出が困難であるため、女性生殖器の悪性腫瘍の中では最も死亡者数の多い疾患です。一般的な卵巣がんの治療では、まず手術で可能な限りがんを取り除いてから抗がん剤による化学療法を行い、その後、再発リスクを下げるための維持療法を実施することが多いです。PARP阻害薬は、白金系抗悪性腫瘍剤を含む初回化学療法後もしくは再発時の化学療法後の維持療法として用いられます。本剤は、卵巣がんに適応のあるPARP阻害薬として、国内ではオラパリブ(商品名:リムパーザ)に次ぐ2剤目であり、BRCA遺伝子変異の有無によらず使用できます。1日1回の経口投与で食事の影響を受けにくいため、生活リズムに合わせて服用タイミングを選択できるなどのメリットもあります。副作用としては、一般的な抗がん剤と同様に、骨髄抑制、血小板減少、好中球減少などが発現することが多いため、血液検査などによるモニタリングが求められます。また、『NCCN制吐ガイドライン2020年版』において、中等度~高度の嘔吐リスク(頻度30%以上)に分類されており、嘔吐を予防するため、服用前に5-HT3受容体拮抗薬の連日経口投与が推奨されています。重大な副作用として、高血圧クリーゼを含む高血圧などが報告されており、とくに降圧薬を服用中の患者さんは投与前に血圧が適切に管理されていることを確認する必要があります。本剤の貯法は、2~8℃で遮光保存です。患者さんにはPTPシートを冷蔵庫で保管するように指導しますが、持ち運ぶ必要がある場合は専用の保冷遮光ポーチがあるので、MRに相談しましょう。参考1)PMDA 添付文書 ゼジューラカプセル100mg

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肝内胆管癌診療ガイドライン2021年版発刊

 日本肝癌研究会が肝内胆管癌診療ガイドライン2021年版を2020年12月に発刊した。これまで胆道癌診療ガイドラインが発刊されてきたが、肝外胆管癌、胆嚢癌、十二指腸乳頭部癌が対象とされ、肝内胆管癌に対するガイドラインは存在していなかった。肝内胆管癌診療ガイドラインは腫瘤形成型およびその優越型を対象として作成 今回初版となる肝内胆管癌診療ガイドラインは、肝内胆管癌の分類、患者数や治療法などを踏まえ肝内胆管癌のうち腫瘤形成型およびその優越型を対象として作成されている。構成は総論・各論からはじまり、アルゴリズム、Background Statements/Clinical Topics、Clinical Questionsの枠組みで記載されている。 肝内胆管癌診療ガイドラインの主な内容は以下のとおり。<Background Statements/Clinical Topics> BS1:全世界における肝内胆管癌の罹患率の変動と地域特性 BS2:肝内胆管癌発生の危険因子 BS3:本邦と欧州における肝内胆管癌の進行度(Stage)分類の相違点 BS4:肝内胆管における前癌・早期癌病変 BS5:肝内胆管における腫瘍類似病変 CT1:肝門部胆管癌と肝内胆管癌の肝門部浸潤の区別は可能か?<Clinical Questions> CQ1:有効なスクリーニング法はあるか? CQ2:診断に有用な臨床検査は何か? CQ3:診断に有用な画像検査は何か? CQ4:腫瘍の進展範囲(T因子)の診断に有用な検査は何か? CQ5:リンパ節転移の診断に有用な画像検査は何か? CQ6:遠隔転移の診断に有用な画像検査は何か? CQ7:腫瘍生検はどのような症例に行われるべきか? CQ8:腫瘍条件からみた外科治療の適応は? CQ9:安全で合理的な手術術式は? CQ10:リンパ節郭清に意義はあるのか? CQ11:穿刺局所療法の適応となる症例は? CQ12:切除不能肝内胆管癌に推奨される薬物療法は何か? CQ13:術前化学療法は推奨されるか? CQ14:術後補助化学療法は推奨されるか? CQ15:切除不能肝内胆管癌に定位放射線治療は推奨されるか? CQ16:切除不能肝内胆管癌に粒子線治療は推奨されるか?

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片頭痛へのガルカネズマブ承認、既存薬との使い分けは

 「片頭痛発作の発症抑制」を効能・効果として、ヒト化抗CGRPモノクローナル抗体薬ガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)が1月22日に製造販売承認を取得した。2月25日にオンラインメディアセミナーが開催され(主催:日本イーライリリー)、平田 幸一氏(獨協医科大学 副学長)、坂井 文彦氏(埼玉精神神経センター・埼玉国際頭痛センター長)が登壇。同薬の片頭痛治療における位置づけと臨床試験結果について講演した。片頭痛発生メカニズムと鍵となるCGRP 現在、片頭痛の発生メカニズムとしては「三叉神経血管説」が広く受け入れられている。ストレス・ホルモン等の内因性の刺激、あるいは天候・匂いや光といった外因性の刺激を受けることによって三叉神経終末からCGRPなどの神経ペプチドが放出される。神経ペプチド放出により血管拡張、血漿タンパクの漏出、肥満細胞の脱顆粒などの神経原性炎症が発生し、疼痛シグナルが中枢へと伝達して大脳皮質で痛みとして知覚される。 実際に片頭痛の発作中には、血中および唾液中のCGRPレベルが上昇し、非発作時には低下することが確認されている。三叉神経からCGRPが放出されるとセロトニン1B・D受容体が受け入れ、血管が急速に拡張する。その結果血管周辺の組織に炎症が起こり、頭痛が発現してしまう。片頭痛の慢性化・難治化を防ぐには 片頭痛の治療において重要なのは、何より発作回数を減らすこと、と平田氏。誘因となる音や光といった純粋な外部刺激には、サングラスや耳栓が有効なケースもあるし、内因的要因に対しては、簡単な認知行動療法の有用性も知られている1)。 「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」では片頭痛の薬物療法として、アセトアミノフェンやNSAIDsなど、重症の場合はトリプタンを使うという層別治療が推奨されている。しかし、同氏らが実施した片頭痛発作に対するトリプタンの有効性に対する患者満足度調査の結果では、およそ半数で満足が得られていないという結果であった2)。 とくにひどい片頭痛症状を起こす病態では、薬物の使用過多による頻度の増加や、中枢感作が生じることによる慢性化、難治化につながってしまうケースがある。そうなると既存薬の効果は限定的となり、「慢性化・難治化してしまう前に、片頭痛発生の大元であるCGRPを阻害することが重要となる」と平田氏は話した。ガルカネズマブ投与で発症日数が有意に減少 ガルカネズマブはCGRP に選択的な結合親和性を有し、三叉神経から放出されたCGRPが受容体と結合する前に阻害することを作用機序とする。他剤(2~4種類)で効果不十分な片頭痛患者(日本人患者を含む)を対象とした国際共同第III相試験(CGAW/CONQUER試験)において、ガルカネズマブ投与群では1ヵ月当たりの片頭痛発症日数(3ヵ月平均)が4.1日減少し、プラセボ群(1.0日減少)と比較して有意に減少していた3)。その効果は3ヵ月間持続し、持続期間についてもプラセボ群と比較して有意な差がみられた。これらの効果は、反復性片頭痛および慢性片頭痛患者における部分集団解析においても確認されている。 同様に、反復性片頭痛患者を対象とした国内第II相試験(CGAN試験)においても、ガルカネズマブ投与群では1ヵ月当たりの片頭痛発症日数(6ヵ月平均)が3.6日減少し、プラセボ群(0.6日減少)と比較して有意に減少、その効果は6ヵ月持続していた4)。また、投与1週間目からすでに、片頭痛日数が有意に低下しており、坂井氏は「持続性に加えて即効性も確認されたといえるだろう」と話した。 50%反応率(1ヵ月当たりの片頭痛日数がペースライン値より50%以上減少した患者割合)はガルカネズマブ投与群で49.8%。坂井氏は「患者さんたちは皆さん、片頭痛が半分になるということは大きな意味があると話される」とし、“自分が取り戻せた”という声もあったという。 安全性については、CGAW/CONQUER試験とCGAN試験でともに最も多くみられた副作用は注射部位紅斑であった。CGAN試験でその詳細をみると、ガルカネズマブ投与群で17例(14.8%)、プラセボ群で5例(2.2%)発生し、多くが投与当日に発現した。 なお、ガルカネズマブは初回に2本(240ml)、2カ月目から1ヵ月ごとに1本(120ml)皮下投与を行う。初回のローディングドーズ投与により、初回投与後速やかに血中濃度に到達させる設計となっている。トリプタンや他の予防薬との併用、使い分けは? 急性期片頭痛の治療薬として使われるトリプタンの半減期が約2時間なのに対し、ガルカネズマブは約1ヵ月となっている。坂井氏は、「おのずとそれぞれ急性期治療と予防と、使い方は違ってくる」と説明。「ガルカネズマブで発症を約半分にできるということは、トリプタンを使うタイミングが減って、より上手に使えるようになるのではないか」と期待感を示した。 予防薬としては、現在日本で使われているものは4種類。しかし、効果のある人・ない人の差が大きい。また、これまでの予防薬は脳全体の機能をコントロールするあるいは低下させるというものであったが、ガルカネズマブは片頭痛のメカニズムそのものに作用するという新しい機序を持った薬となる。坂井氏は、状況に応じて併用・使い分けはありうるとの認識を示した。

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高齢者肺炎寿司本【Dr.倉原の“俺の本棚”】第40回

【第40回】高齢者肺炎寿司本おいしそうな寿司が表紙になっているこの本を電車で読んでいて、誰が医学書だと思うでしょうか。よいですね、この装丁。編者のブログ(「南砺の病院家庭医が勉強記録を始めました」)にも書かれていましたが、雑誌『dancyu(ダンチュウ)』みたいです。『終末期の肺炎』大浦 誠/編. 南山堂. 2020年私が医師になった頃は、終末期の肺炎が起こっても、言語聴覚士、栄養士、MSWなどがどんどん現場に入ってくることはなくて、とにかく絶飲食にして抗菌薬を投与するというのが当たり前でした。そもそも口から食べられないのだから、仕方がないと思い込んでいた節もあります。治してもまた肺炎を繰り返す。現場の徒労感。それゆえ、高齢者の肺炎はどうしても医師が主導権を握りがちで、看護師と言語聴覚士が指示を受けてケアしていることが多いです。理想はpatient-orientedな輪っかができることですが、そうなっていないシーンはいまだによく見ます。2017年に成人市中肺炎ガイドラインが刊行され、ようやく終末期の肺炎について記述されました。近年、アドバンスケアプランニング(ACP)が叫ばれるようになり、終末期の肺炎について議論されることが増えてきました。高齢者の肺炎マネジメントの変革期を代表するような本で、個人的には医師以外の職種にも読んでほしいと思っています。編者は決して終末期の肺炎に特化したものではない、あくまで病院で遭遇する肺炎について書いたものだとおっしゃっていますが、誤嚥を繰り返す高齢者に対して打つ手がないと思っている医療従事者は騙されたと思って読んでみてください。この本は、成年後見人が医療行為への同意権がないというところから、じゃあ意思決定はどうすればよいのかというデリケートなところまで踏み込んで書かれています。BATNAやZOPAなど、医学書には出てこないような交渉術の用語も登場してきて、あざます、勉強になります!『終末期の肺炎』大浦 誠 /編出版社名南山堂定価本体3,600円+税サイズB5判刊行年2020年

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救急でのてんかん重積状態に対するベンゾジアゼピン投与戦略の評価

 全身痙攣重積状態(GCSE)の治療に特定のベンゾジアゼピンを投与することがガイドラインで推奨されているが、一般的には少用量で投与されている。米国・サウスカロライナ大学のKyle A. Weant氏らは、救急受診したGCSE患者の初期マネジメントにおけるベンゾジアゼピン投与戦略について、評価を行った。The American Journal of Emergency Medicine誌オンライン版2021年2月6日号の報告。 GCSE治療のために救急科でベンゾジアゼピン投与を受けた患者を対象に、レトロスペクティブにレビューした。初回ベンゾジアゼピン治療後に発作の改善を達成した患者の特徴を評価した。救急受診した患者222例に対し、ベンゾジアゼピンは403回投与されていた。そのうち、推奨事項を順守していた割合は1.5%であった。 主な結果は以下のとおり。・1次治療では、ベンゾジアゼピン平均投与量1.6mg(0.02mg/kg)であり、患者の86.8%に良好な反応が認められた。・早期に発作が改善した患者とそうでない患者との間に、投与量の差は認められなかった(p=0.132)。・早期に発作が改善した患者では、以下の割合が有意に低かった(各々、p<0.05)。 ●ベンゾジアゼピン追加投与 ●挿管 ●集中治療室または病院への入院・早期に抗てんかん薬治療を受けた患者では、以下の割合が有意に低かった(各々、p<0.05)。 ●ベンゾジアゼピンの追加投与 ●挿管 ●集中治療室または病院への入院 著者らは「入院前や救急受診環境におけるベンゾジアゼピン投与は、ガイドラインで推奨されているよりも少用量であった。早期の発作改善や早期に抗てんかん薬を投与された患者では、いくつかの重要な臨床アウトカムと関連していることが明らかとなった。今後は、ベンゾジアゼピンの最適な投与戦略や早期の抗てんかん薬投与の影響を調査する必要性がある」としている。

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副腎白質ジストロフィー〔ALD:adrenoleukodystrophy〕

1 疾患概要■ 概念・定義副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy:ALD)は、1923年に副腎萎縮を伴う進行性脱髄疾患として報告された。X連鎖性遺伝形式をとり、臨床的には男性患者で大脳半球の進行性の炎症性脱髄を特徴として、5〜10歳に発症して数年で寝たきりになる小児大脳型や、思春期以降に痙性歩行で発症するadrenomyeloneuropathy(AMN)など、遺伝子型と相関しない複数の臨床型を有している。大脳型の唯一の治療法は発症早期の造血幹細胞移植であり、予後改善には早期診断が極めて重要である。また、女性保因者でも加齢とともにAMN類似の脊髄症を発症することがある。■ 疫学2016年度に厚生労働省難治性疾患政策研究班において実施した全国調査で260人程度の国内患者の存在が推測されている。一方、米国・ニューヨーク州の3年間の新生児スクリーニングからは男女15,000出生に1人の患者が報告されている。■ 病因ペルオキシソーム膜に存在するトランスポータータンパク質をコードするABCD1の遺伝子異常によるX連鎖性の遺伝性疾患である。ABCD1タンパクは飽和極長鎖脂肪酸のペルオキシソーム内への輸送に関与し、患者では極長鎖脂肪酸のβ酸化が障害され、全身の臓器に蓄積を認める。しかし、病態はほとんど解明されておらず、脱髄の発症機序や飽和極長鎖脂肪酸蓄積による病態への関与も不明である。■ 病型分類と症状男性患者では遺伝子型や極長鎖脂肪酸値と相関しない複数の臨床病型を有している。また女性保因者発症も相関せず、いずれも同一家系内であっても発症前の予後の予測は難しい。1)小児大脳型(CCALD)発症年齢は3~10歳で、6、7歳にピークがある。性格・行動変化、視力・聴力低下、知能の障害、歩行障害などで発症し、数年で寝たきりに至ることが多い。最も多い臨床病型である。2)思春期大脳型(AdolCALD)発症年齢は11~21歳。小児大脳型に類似も、やや緩徐に進行する傾向にある。3)adrenomyeloneuropathy(AMN)10代後半~成人。痙性対麻痺で発症し、緩徐に進行する。軽度の感覚障害を伴うことがある。軽度の末梢神経障害、膀胱直腸障害、陰萎を伴うこともある。4)成人大脳型(ACALD)性格変化、認知機能低下、精神症状で発症し、小児型と同様に急速に進行して植物状態に至る。精神病、脳腫瘍、他の白質ジストロフィー、多発性硬化症などの脱髄疾患との鑑別が必要。AMNや小脳・脳幹型からACALDに進展する場合もある。5)小脳・脳幹型小脳失調、下肢の痙性などを示し、脊髄小脳変性症様の臨床症状を呈する。6)アジソン型無気力、食欲不振、体重減少、皮膚の色素沈着など副腎不全症状のみを呈する。神経症状は示さない。大脳型やAMNに進展する場合もある。7)女性発症者女性保因者の一部は加齢とともにAMNに似た臨床症状を呈する場合があり、下肢の痙縮、痛みから歩行障害を来すこともある。また、末梢神経障害や尿・便失禁の症状を呈することもある。8)発症前男性生下時より極長鎖脂肪酸は増加しており、診断は可能であるが、予後予測は不可能である。■ 予後男性大脳型患者では無治療の場合、急速に進行して数年で寝たきりになることもあるため、早く疑い、診断して、速やかに移植を実施することがその後のQOLの向上につながる。一方、AMNは緩徐に進行するが一部で大脳型に進展して急速に進行する。すべての男性ALD患者では、副腎機能を定期的に評価し、早期にステロイド補充計画を進めることは生命予後に重要である。女性保因者では、加齢とともに脊髄症状を来すことがあり、オランダの報告では軽微な症状を含めると60歳以上では80%の女性保因者で神経症状を来しているとの報告もある。一方で、副腎不全や大脳型を来すことはほとんどまれである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)男性患者では病型ごとに発症時期や症状も多彩であるため、以下の臨床所見に留意した上で、早期に診断検査を行うことが重要である。■ 臨床所見1)高次脳機能障害小児・思春期大脳型では幼稚園や学校等での落ち着きのなさや行動異常、成績低下、書字やしゃべり方の異常から注意欠陥/多動性障害(ADHD)や学習困難として対応されている症例がみられる。成人大脳型では社会性の欠如や性格変化、行動異常、認知機能低下などの症状で発症する。2)眼科的症状(視知覚異常)小児大脳型では途中から気付く斜視や、見づらそうな様子から眼科を受診する症例もみられる。斜視や視線が合わない、見えにくそうにしている以外に、物や人にぶつかりやすい、転びやすいなどの視覚性注意障害としての症状がみられることもある。3)耳鼻科的症状(聴覚異常)聞き返しが多い、電話などでは会話が理解できないなどの症状から耳鼻科を受診する症例もみられる。4)歩行障害歩行障害は大脳型やAMN、女性発症者など比較的広くみられる。錐体路症状としての痙性麻痺以外に、視覚性注意障害として転びやすいなどの症状や小脳・脳幹型では両下肢の痙性歩行や小脳失調によるふらつき歩行がみられる。5)自律神経障害AMNや女性発症者では排尿・排便障害、AMNでは陰萎がみられることがある。6)副腎不全症状非特異的な症状である易疲労感、全身倦怠感、脱力感、筋力低下、体重減少、低血圧などさまざまな症状を訴える。■ 検査1)脳MRI検査大脳型では脳MRIで異常が検出される。典型例ではT2強調、またはFLAIR法にて後頭葉の側脳室周囲の白質から脳梁膨大部に左右対称の病変が確認される。また、ガドリニウム造影にて病変境界部が線状に造影される。一方、前頭葉から後方に進展する例も10%程度みられる。2)副腎機能検査副腎不全症状がなくても男性ALD患者の80%に副腎皮質機能不全を認めるとの報告もあり、非ストレス刺激下での早朝ACTH、コルチゾール値と迅速ACTH負荷試験を行う。3)血中極長鎖脂肪酸検査(保険収載)副腎白質ジストロフィー男性患者では血中極長鎖脂肪酸の増加を認める。一方、女性保因者では10%程度は正常範囲に入るため、極長鎖脂肪酸検査が正常だけでは保因者を否定することはできず、発端者で同定されたABCD1遺伝子変異の有無を確認する必要がある。2020年度の保険診療の改定により衛生検査所でも保険診療による検査が可能である。4)ABCD1遺伝子検査(保険収載)2020年度より副腎白質ジストロフィー遺伝学的検査が保険収載されている。かずさ遺伝子検査室などの衛生検査所以外に、岐阜大学でも「ALDペルオキシソーム病ホームページ」にて極長鎖脂肪酸検査とABCD1遺伝学的検査を病的意義などのコメントを添えて保険診療で受託しており、大脳型発症早期疑い例では数日で解析結果を提供して迅速な治療に繋げている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)大脳型の唯一の治療法は発症早期の造血幹細胞移植で、移植の可否や時期は知的・生命予後を左右する。また、アジソン型でも早期のステロイド補充療法が予後に繋がるため早期介入が重要である。1)ステロイド補充療法副腎不全は病状や生命予後にも深くかかわるため、負荷試験も実施して定期的に副腎機能を評価しながら治療を管理していく必要がある。これは移植施行後も含めたすべてのALD男性患者に対して必要である。2)造血幹細胞移植現在、大脳型ALDに対して、唯一有効な治療法は発症早期の造血幹細胞移植で、小児・思春期以外に成人大脳型にも有効との報告がある。また、骨髄非破壊的前処置による低リスクの移植や、臍帯血による移植例も比較的良好な治療成績を挙げている。その機序はドナー由来の単球から分化したマクロファージ系細胞が脳内で機能する可能性が示唆されている。3)遺伝子改変造血幹細胞移植2009年にフランスのグループが、適合する移植ドナーが得られなかった2例の大脳型ALD患者に対して、患者本人から血液幹細胞を採取して、レンチウィルスベクターにより正常ABCD1遺伝子を導入した自己造血幹細胞移植を施行し、その後の観察にて進行停止を確認し、従来の造血幹細胞移植と同等の効果を得たことを報告した。その後、米国Bluebird bio社の支援により治験が実施されている。4 今後の展望■ 新生児スクリーニングの導入大脳型や副腎不全の進行を阻止して予後改善に繋げるにはできる限り早期の診断が望まれる。海外では新生児スクリーニングがすでに実施されており、米国・ニューヨーク州では2013年末から新生児スクリーニングが開始され全米に広がりつつあり、オランダも2019年10月より男児のみのパイロット研究が開始されている。国内でも令和3年度より一部の自治体で有償での選択的スクリーニングがパイロット研究として開始が検討されている。■ 予後予測法の開発大脳型発症の病態はほとんど解明されておらず、発症前患者の予後予測が不可能なため、定期的なMRI検査で異常を確認してから治療を施行している現状にあり、確実な発症阻止に繋げるためには、大脳型発症因子の探索から発症予測法の開発、さらには大脳型発症動物モデルの開発が重要になる。5 主たる診療科小児科、神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報ALD info(医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学ALD&ペルオキシソーム病ホームページ(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 副腎白質ジストロフィー(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)ALDの未来を考える会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)日本先天代謝異常学会編. 副腎白質ジストロフィー(ALD)診療ガイドライン2019. 診断と治療社.東京.2019.2)Kato K, al. Mol Genet Metab Rep. 2018;18:1-6.3)Cartier N, et al. Science. 2009;326:818-823.公開履歴初回2021年03月08日

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妊娠28週時の母親の心血管状態が子供の心血管リスクと関連/JAMA

 妊娠28週時の母親の良好な心血管系の健康状態(CVH)は、その子供の10~14歳時のCVHが良好であることと関連することが、米国・ノースウェスタン大学のAmanda M. Perak氏らが実施した「HAPO Follow-Up試験」で明らかとなった。研究の成果は、JAMA誌2021年2月16日号で報告された。妊娠は、母親のCVHを最適化し、子供の生涯にわたるCVHに影響を及ぼす重要な機会とされる。また、母体の劣悪な健康状態への胎内曝露は、たとえば心臓代謝調節遺伝子のエピジェネティックな修飾を介して、子供に継続的に心血管疾患(CVD)のリスクが高い状態をもたらす可能性があるという。9地域2,302組の母子のコホート研究 研究グループは、妊娠中の母親のCVHと子供のCVHの関連を評価する目的で、国際的なコホート研究を行った(米国ユーニス・ケネディ・シュライバー国立小児保健発達研究所[NICHD]などの助成による)。 Hyperglycemia and Adverse Pregnancy Outcome(HAPO)試験(2000年7月~2006年4月)と、HAPO Follow-Up試験(2013年2月~2016年12月)のデータを使用した。解析には、補助的なCVH研究として、HAPO Follow-Up試験の参加者の48%に相当する2,302組の母子が含まれた。 参加者は、米国(ベルフラワー、シカゴ、クリーブランド)、バルバドス(ブリッジタウン)、英国(マンチェスター、ベルファスト)、中国(香港)、タイ(バンコク)、カナダ(トロント)の9地域で登録された。 妊娠28週時の母親のCVHが、5つの評価基準(BMI、血圧、総コレステロール値、血糖値、喫煙)に基づいて評価された。個々の評価基準は、妊娠ガイドラインを用いて、「良好」「中間的」「不良」の3つに分類された。総CVHスコアは、「すべて良好」「中間的が1つ以上で不良がない」「不良が1つ」「不良が2つ以上」の4つに分類された。 主要アウトカムは、子供の10~14歳時のCVHとし、4つの評価基準(BMI、血圧、総コレステロール値、血糖値)で評価された。総CVHスコアは、母親と同様に分類された。母親のCVH分類の悪化とともに、子供の「すべて良好」の割合が低下 2,302組の母子の平均年齢は、母親が29.6(SD 2.7)歳、子供は11.3(1.1)歳であった。妊娠期間中の母親の平均CVHスコアは10点満点の8.6(1.4)点で、32.8%が「すべて良好」であったのに対し、6.0%は「不良が2つ以上」であった。子供の平均CVHスコアは8点満点の6.8(1.3)点で、37.3%が「すべて良好」、4.5%が「不良が2つ以上」だった。 母親のCVH分類が悪化するに従って、子供のCVH分類が「すべて良好」の割合が低くなった。すなわち、母親が「すべて良好」の子供が「すべて良好」の割合は42.2%であったが、母親が「不良が2つ以上」の子供が「すべて良好」の割合は30.7%に低下した。また、母親が「すべて良好」の子供が「不良が1つ」の割合は18.4%で、母親が「不良が2つ以上」の場合に子供が「不良が1つ」の割合は30.7%に増加し、母親が「すべて良好」の子供が「不良が2つ以上」の割合は2.6%で、母親が「不良が2つ以上」になると子供が「不良が2つ以上」の割合は10.2%に増加した。 補正済みのモデルでは、母親のCVH分類が「すべて良好」と比較して悪化するほど、子供のCVH分類が「不良が1つ」「不良が2つ以上」となる相対リスクが高かった。すなわち、母親のCVH分類が「すべて良好」の場合に比べ、母親が「不良が1つ」の子供が「不良が1つ」の相対リスクは1.66、母親が「不良が2つ以上」の子供が「不良が1つ」の相対リスクは2.02であり、母親が「不良が1つ」の子供が「不良が2つ以上」の相対リスクは3.32、母親が「不良が2つ以上」の子供が「不良が2つ以上」の相対リスクは7.82だった(これらの相対リスクはいずれも包括検定でp<0.001)。 一方、明確な出生因子(妊娠高血圧腎症など)で追加補正を行っても、これらの有意な関連は十分には説明できなかった。たとえば、拡大された出生因子で補正後の、母親の「不良が2つ以上」と子供の「不良が2つ以上」の関連の相対リスクは6.23(95%信頼区間[CI]:3.03~12.82)だった。 著者は、「われわれの知る限り、これは母親の妊娠中のCVHとその後の子供のCVHの関連を評価した初めての研究である」としている。

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膝OAの高強度筋トレ、1年半後のアウトカムは?/JAMA

 変形性膝関節症(膝OA)の患者への介入として、高強度筋力トレーニングは低強度筋力トレーニングや注意制御と比較して、膝痛や膝関節圧縮力の長期的な改善効果をもたらさないことが、米国・ウェイクフォレスト大学のStephen P. Messier氏らが実施した「START試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年2月16日号で報告された。大腿筋の筋力低下は、膝の痛みや変形性関節疾患の進行と関連するため、米国の診療ガイドラインは変形性膝関節症患者に筋力トレーニングを推奨している。高強度筋力トレーニングは、関節への圧迫力が大きいため変形性膝関節症の症状を悪化させる可能性があるものの、短期であれば安全で、高齢患者にも十分に忍容可能とされる。一方、長期の高強度の運動による筋力の向上は、変形性膝関節症の臨床アウトカムを改善する可能性も示唆されているという。3群を比較する米国の単施設無作為化試験 本研究は、18ヵ月間(長期)の高強度筋力トレーニングは低強度トレーニングや高度な注意制御と比較して、変形性膝関節症患者の膝痛や膝関節圧縮力を改善するかを評価する無作為化臨床試験であり、2012年7月~2016年2月の期間に米国の単施設(ウェイクフォレスト大学)で患者登録が行われた(米国国立関節炎・骨格筋・皮膚疾患研究所[NIAMS]などの助成による)。 対象は、年齢50歳以上、BMIが20~45で、膝痛がみられ、X線所見で軽症~中等症の変形性膝関節症(Kellgren-Lawrenceスコア:2~3点)と診断された患者であった。被験者は、高強度筋力トレーニング、低強度筋力トレーニング、注意制御(対照)を受ける群に無作為に割り付けられた。 筋力トレーニングは、1回につき5分の準備運動、40分のトレーニング、15分の整理運動から成り、週3回、18ヵ月間行われた。高強度群は、個々の運動の最大反復回数(RM)の75%を3セット、その8回反復を2週間行い、その後は2週ごとに、1RMの80%を3セット/8回反復、同85%/6回反復、同90%/4回反復を行い、9週目は強度を緩和して別の運動を行うとともに、個々の運動の新たな1RMを設定し、この9週の筋力トレーニングを8回(18ヵ月)繰り返した。低強度群は、同様の9週間のパターンで、1RMの30~40%の運動を3セット、15回反復した。対照群は、1回60分の研修(健康教育、社会的交流)を、2週ごとに6ヵ月間受け、以降は1ヵ月ごとに、合計24回受けた。 主要アウトカムは、18ヵ月の時点におけるWestern Ontario McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)膝痛スコア(0[最良]~20[最悪]点、臨床的に意義のある最小変化量[MCID]2点)および膝関節圧縮力(歩行中の脛骨の長軸に沿って生じる脛骨大腿骨の最大圧迫力、MCIDは不明)とした。短期の評価では、低強度群で膝痛の改善が良好 377例(平均年齢65歳、女性151例[40%])が登録され、320例(85%)が試験を完遂した。127例が高強度群、126例が低強度群、124例は対照群に割り付けられた。 18ヵ月時の平均WOMAC膝痛スコアは、高強度群は5.1点であり、対照群の4.9点(補正後群間差:0.2点、95%信頼区間[CI]:-0.6~1.1、p=0.61)、および低強度群の4.4点(0.7、-0.1~1.6、p=0.08)と比較して、いずれも有意な差は認められなかった。 膝関節圧縮力にも、高強度群と対照群(2,453N vs.2,512N、補正後群間差:-58N、95%CI:-282~165、p=0.61)、および高強度群と低強度群(2,453N vs.2,475N、-21N、-235~193、p=0.85)のいずれの比較においても有意差はみられなかった。 6ヵ月(短期)の時点では、低強度群は高強度群に比べ、WOMAC膝痛スコア(高強度群5.6点vs.低強度群4.4点、補正後群間差:1.2点、95%CI:0.5~1.9、p=0.001)およびWOMAC機能障害スコア(20.8点vs.16.1点、4.8点、2.4~7.2、p<0.001)が有意に優れていた。膝関節圧縮力には有意差がなかった。 重篤でない有害事象は87件(高強度群53件、低強度群30件、対照群4件)発生し、このうち29件が試験関連であった(20件、9件、0件)。頻度の高い有害事象として、体の痛みが20件(12件、7件、1件)、転倒が19件(11件、6件、2件)、筋挫傷が10件(8件、2件、0件)報告された。試験に関連しない重篤な有害事象は13件(5件、3件、5件)みられた。 著者は、「これらの知見は、成人の変形性膝関節症患者への高強度筋力トレーニングを支持しない」とまとめ、「高強度群と対照群でアウトカムに差がなかった理由の1つとして、対照群で変形性膝関節症による痛みが33%(既報の試験では1~17%)と大幅に改善されたことが挙げられる」と指摘している。

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がん臨床医は地方でこそ育つ! 長年の思いの転身と1年の成果【Oncologyインタビュー】第29回

2020年4月、肺がん診療を専門とする野上 尚之氏は長く務めた四国がんセンターを辞し、愛媛大学呼吸器内科の教授に着任した。新天地での挑戦を決意した背景には、医師になった時から抱えていた地域医療と後進育成への思いがあったという。エリア画像を拡大する―2020年、四国がんセンターから愛媛大学に移られました。転身の理由は?「地域医療をやらなければ」という長年の思いからです。私の生まれは岡山県の県北で、地方の医療事情の大変さを痛感して育ち、そこに関わりたいと思って医者になりました。しかし、卒業後は都市部の勤務が多く、地域医療への思いはいったん脇に置いてキャリアを積んできました。それが、2003年に愛媛県の四国がんセンターに赴任してから、地域医療の問題をなおさら痛感するようになったのです。そして、今治市医師会と愛媛大学の山口 修教授からのご支援があり、地域胸部疾患治療学講座を開講する機会を頂きました。―地域医療の問題とは、具体的にどんなものなのでしょうか?何より私の専門である呼吸器内科医が、全国的にも、愛媛県下でもあまりにも少ないのです。さらに県庁所在地である松山市に大病院と呼吸器内科専門医が集中し、東予と南予には数名しかいない状況でした。愛媛県は喫煙率が高く、肺気腫や肺がんなどの呼吸器疾患の患者さんが多いのですが、松山市外の患者さんは車で何時間もかけて専門医のいる病院へ通ってくるわけです。若い方は仕事を休み、高齢の方は付き添いも必要となり、あまりに負担が大きいと感じました。この地域に何とか呼吸器内科医を増やし、遠くから通院しなくても地域で呼吸器医療を完結させたい。50歳を超え、退職までの残された10年余りを長年の思いである地域医療と後進育成に使おうと思ったのです。良性呼吸器疾患や専門の胸部悪性腫瘍について、診断から治療・緩和ケアまでをサテライト施設である今治の地で完結するシステムをつくり、それを愛媛県下のほかの地域にも広げていく、という理想を持っています。―なぜ、愛媛県には呼吸器内科医が少ないのでしょうか?地方大学の共通の課題として、そもそも他府県出身の学生が多く、卒業後に地元に帰ってしまうという問題があります。また、地元の卒業生も県内外の都市部の医療機関に初期研修で出て、そのまま帰ってこないこともあります。これに加え、これまで呼吸器という領域が若い先生たちに人気がなかった、という点もあるでしょう。肺がんや重症肺炎、肺線維症など呼吸困難に苦しむ患者さんを診る機会が多かったり、かつての肺がんが非常に予後の悪いがんだったり…。そうした「苦しそうな患者さんを見るに忍びない」「自分がしてあげられることが少ない」「つらい死にたびたび立ち会わねばならない」といったイメージや一種の無力感から、専門として選んでもらいにくい、という面があったと思います。呼吸器内科・外科・腫瘍内科・放射線科による合同カンファレンス―呼吸器内科医を増やすため、具体的にどんなことをされているのでしょうか?私の役割は「“みこし”になること」だと思っています。あの大学にはあの先生がいてあんなことをやっているという、いわば看板・旗の役割です。「愛媛大学呼吸器内科ではこんなことをやっている」ということが目に見えないと興味を持ってもらえません。これまでも、愛媛大学呼吸器内科は、呼吸器内科医、いや内科医であれば皆が知っているだろう間質性肺炎のマーカーの開発など、立派な業績が多々あるのですが、奥ゆかしい性格ゆえ(笑)か、学内外であまりアピールしていませんでした。私は大した医者ではありませんが、機会あって四国がんセンターに長く務め、国際共同治験に関わった経験や全国の大学や施設の先生と共同研究をした経験があるので、そうしたことを発信し、呼吸器診療の可能性を学生や若い医師に伝え、この領域に明るい未来があることを知ってもらいたいのです。大学の授業では、肺がん診療を劇的に変えた免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の治験の裏話を紹介するなど、呼吸器診療の歴史や現在に興味を持ってもらえるよう工夫しています。もはや呼吸器内科の治療は無力ではないし、皆を待っている愛媛の患者さんがたくさんいる、ということをしっかり伝えようと思っています。―学生や若手医師の反応はいかがですか?今年(2021年)4月には、5人が呼吸器内科を選択し、入局してくれます。例年1~2人でゼロの時もあった、と聞いているので画期的ではないですか? きっとこれまでの呼吸器内科の先生方の熱意や努力がやっと若い先生たちに伝わりだしたのだ、と思います。実習時、肺がん患者さんに新しい薬剤を投与して劇的に症状が改善する経験をし、呼吸器診療に興味を持ってくれた学生もいます。「肺がん診療は嫌いでしたが、こんなに効いてびっくりです」と言われました。呼吸器疾患の半分は肺がんですから、勉強のしがいもあるでしょう。肺がんは治療の進歩が非常に速く、ここ20年ほどで診療方法も治療も、寿命さえも様変わりしました。そうした部分を的確に伝えれば興味を持ってくれる人がいる。まだ私が就任して1年弱ですが、やるべきことの方向は間違っていない、という手応えがあります。5人入局を10年続ければ、50人の呼吸器内科医が生まれます。夢みたいですが、それだけいれば、県内のあちこちに専門医を派遣し、どこでも呼吸器内科診療を完結できるようになるでしょう。それが今の私の大きな夢です。ポリクリ学生向けの座学講座の様子―若手医師が都市部を目指す理由として「地方では専門的な医療が学べない」という点があるのではないでしょうか。実は、呼吸器診療においては、「都会でないと学べない」といった新しい治療法や技術というものはなくなってきています。この点は他科の先生ともよく話をするのですが、呼吸器内科にかかわらず、すべての内科系の領域でそうした傾向です。がん診療に限っても、治験は日本中のどの施設でも参加できますし、本学には内視鏡技術に優れた先生もいます。肺がんは診療ガイドラインがしっかりできてきたので、遺伝子変異を特定してそれに合った薬を処方する、という基本診療の流れは、地方でもまったく問題なく行えます。よほど特殊な専門を目指すのでない限り、地方にいるハンデはないですし、むしろ都市部のがんセンターなどよりも、臨床に即した多様な症例を診られると思います。―若手医師にどんなキャリアパスを勧めているのでしょうか。まずは呼吸器疾患全般を診るスキルを身に付けるため、県内の呼吸器専門医のいる施設で研修をします。その後、希望に応じて専門性の高い施設にも行ってもらっています。気を付けているのは研修医や若い先生を孤立させないことです。必ず1施設に2人以上、指導環境の整った施設に派遣することがポイントだと思います。指導医も満足にいない施設に1人で派遣され、疲弊して辞めてしまう若手医師を今まで多く見てきました。「今困っているんだから、早く人を派遣してくれ!」と言われることもあるのですが(笑)、若手は派遣する施設と人数を集約し、チームで育てる。それも愛媛県全体で大切に育てる意識でいます。「人は城で、人は財産」という強い意識が、指導側の人間が少ない今だからこそ、大切だと思います。研修修了後は、個々人の希望に合わせた施設で専門性を磨いてほしいと思います。免疫学のこの先生、国立がん研究センターのこの先生に学びたい、といった希望があれば、私がつなぐこともできます。かつて大学が医局員を外部施設に出すことを嫌がる風潮もありましたが、もはや今はそんな時代ではないですよ。どんどん外に出てスキルアップし、いずれ学びを大学に還元してもらえればいいと思っています。第二内科に入局した先生たちと(前列左端は山口 修教授)―若手医師を引き付け、育てるポイントは何でしょうか?それがあるなら私が知りたいです(笑)。実際、島根大学の礒部 威教授に若手の勧誘と育成について聞きに行ったことがありますが、「こつなんてないよ」と笑われてしまいました。でも、礒部先生のお人柄と共に、同大には津端 由佳里先生という素晴らしい女性講師の方がいらして女性の入局者も多い。そうした若手の憧れとなるロールモデルの存在・育成がとても大切なのだろうと感じました。若手には目の前の診療技術を身に付けると同時に「3~5年先の未来も一緒に見よう」と言っています。具体的には国際共同治験に参加し、最新の治療や研究に関わる機会をつくっています。新型コロナの影響で勉強会や学会もオンライン化が進み、地方からの発信が容易になった面もあると思います。愛媛大では以前からオンラインで授業やカンファレンスを行っていますし、画像診断なども地域の施設とオンライン相談を行っています。―あらためて、呼吸器内科という専門の魅力とは?今では1年目が1人当直なんてあり得ないでしょうが、私の時代では普通でした。地方の病院で1人当直をしていた時、喘息の患者さんが救急車で来院し、チアノーゼを起こしていて本当に危ない状態でした。今でも普通に行われているステロイド点滴静注をしたところ、瞬く間に症状が改善したのです。「医師として人を助けることができた。1年目のこんな自分でも人の役に立てる」と実感した体験でした。喘息は吸入治療薬が進歩して重症な患者さんは減ってきているので、今であれば肺がん患者さんかもしれません。新しい治療が続々出て、以前なら助けられなかった患者さんを助けられるようになっています。若手もそうした劇的に変わる治療の最前線に立てる、未来の医療を変える一助になると実感できる。それがこの専門の魅力ではないでしょうか。

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