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五十肩の手術治療、理学療法に対する優越性示せず/Lancet

 凍結肩(frozen shoulder[五十肩]=adhesive capsulitis[癒着性関節包炎])の治療において、麻酔下肩関節授動術(manipulation under anaesthesia:MUA)、鏡視下関節包切離術(arthroscopic capsular release:ACR)および早期構造化理学療法(early structured physiotherapy:ESP)はいずれも、1年後の患者報告による肩の痛みや機能を大きく改善するが、これら3つの治療法に、臨床的に明確な優越性を示す差はないことが、英国・ヨーク大学のAmar Rangan氏らが実施した「UK FROST試験」で明らかとなった。研究の詳細は、Lancet誌2020年10月3日号に掲載された。MUAおよびACRによる外科的介入は、高価で侵襲的な治療であるが、その実臨床における効果は明確でないという。また、ESPは、英国のガイドラインの推奨や肩専門理学療法士によるエビデンスに基づいて、本研究のために開発された関節内ステロイド注射を含む非外科的介入で、外科的介入よりも迅速に施行可能であることからこの名で呼ばれる。3群を比較する実践的無作為化試験 研究グループは、英国のセカンダリケアでの原発性凍結肩の治療において、2つの外科的介入と、非外科的介入としてのステロイド注射を含むESPの有効性を比較する目的で、実践的な無作為化優越性試験を行った(英国国立健康研究所医療技術評価計画の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、患側の肩の他動的外旋が健側肩の50%未満に制限されることで特徴付けられる片側性凍結肩の臨床診断を受けた患者であった。被験者は、MUA、ACR、ESPのいずれかを受ける群に、2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。 MUAでは、全身麻酔下に外科医が拘縮した関節包を伸張・切離し、術中に関節内ステロイド注射が行われた。ACRでは、全身麻酔下に外科医が腱板疎部(rotator interval)で、拘縮した前方関節包を分離したのち、麻酔下にマニピュレーションを行って最適な関節包切離を実施し、外科医の裁量で随意的にステロイド注射が施行された。これら2つの外科的介入後には、術後理学療法が行われた。また、ESPでは、理学療法開始前の最も早い時期に、参加施設の通常治療に基づき関節内ステロイド注射(画像ガイドの有無は問わない)が行われ、疼痛管理法、モビライゼーション手技、段階的な自宅での運動プログラムが実施された。ESPの理学療法と術後理学療法は、最長12週間で12回行われた。 主要アウトカムは、割り付けから12ヵ月後のオックスフォード肩スコア(OSS、12項目の患者報告アウトカム、0~48点、点数が高いほど肩の疼痛と機能が良好)とした。2つの外科的治療とESPでOSSの5点の差(臨床的に意義のある最小差)、または2つの外科的治療間の4点の差を目標に検討を行った。有意差はあるが、臨床的に意義のある最小差は達成できず 2015年4月~2017年12月の期間に、英国の35病院で参加者の募集が行われ、503例が登録された。MUA群に201例(年齢中央値54歳[IQR:54~60]、女性64%)、ACR群に203例(54歳[54~59]、62%)、ESP群には99例(53歳[53~60]、65%)が割り付けられた。 12ヵ月の時点で、多くの患者でほぼ完全に肩の機能が改善し、全体のOSS中央値はベースラインの20点から43点に上昇した。 12ヵ月の時点で、OSSのデータはMUA群が189例(94%)、ACR群が191例(94%)、ESP群は93例(94%)で得られた。平均OSS推定値は、MUA群が38.3点(95%信頼区間[CI]:36.9~39.7)、ACR群が40.3点(38.9~41.7)、ESP群は37.2点(35.3~39.2)であった。 ACR群は、MUA群(平均群間差:2.01点、95%CI:0.10~3.91、p=0.039)およびESP群(3.06点、0.71~5.41、p=0.011)と比較して、OSSが有意に高かった。また、MUA群はESP群よりもOSSが高かった(1.05点、-1.28~3.39、p=0.38)。臨床的に意義のある最小差(4~5点)は達成されなかった。 一方、3ヵ月の時点での平均OSS値は、ACR群がMUA群(26.9点vs.30.2点、平均群間差:-3.36点、95%CI:-5.27~-1.45、p=0.0006)およびESP群(26.9点vs.31.6点、-4.72点、-7.06~-2.39、p<0.0001)よりも不良であった。同様のパターンが、上肢障害評価票(Quick DASH)や疼痛評価尺度(Numeric Rating Scale)でも認められ、ACR群は3ヵ月の時点ではMUA群やESP群よりも劣っていたが、12ヵ月後には有意に良好であった。 重篤な有害事象が9例で10件(2%、ACR群8件、MUA群2件)、重篤でない有害事象は31例で33件(ACR群13件、MUA群15件、ESP群5件)報告された。また、1質調整生存年(QALY)当たりの支払い意思額(willingness-to-pay)の閾値を2万ポンドとした場合に、費用対効果が最も優れる確率はMUA群が0.8632と、ESP群の0.1366およびACR群の0.0002に比べて高かった。 著者は、「これらの知見は、臨床医にとって、共同意思決定(shared decision making)において患者と治療選択肢について話し合う際に有用と考えられる。また、外科医には、より安価で侵襲性の低い介入が失敗した場合に、関節包切離術を行うことが推奨される」としている。

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経口DPP-1阻害薬による気管支拡張症の増悪抑制について(解説:小林英夫氏)-1298

 本論文は気管支拡張症への経口DPP-1(dipeptidyl peptidase 1)阻害薬であるbrensocatib投与により、喀痰中好中球エラスターゼ活性のベースライン低下や臨床アウトカム(増悪)改善が得られたとする第II相試験結果である。DPP-4阻害薬なら糖尿病治療薬として市販されており耳なじみもあろうが、DPP-1阻害薬となると情報が少ないのではないだろうか。詳細説明は割愛するが、好中球エラスターゼなどの好中球セリンプロテアーゼ活性に関与する酵素(DPP-1)を阻害することで、喀痰中の酵素量や活性を低下させえるとのことである。いずれにしろ今後の第III相試験結果を待ちたい。 さて、なぜに昔の疾患と思われている気管支拡張症の検討なのであろうか。まず、気管支拡張症とは疾患名としてよりも、気管支が拡張しているという形態診断名であり、1980年代まではいまや消滅した気管支造影検査によって診断されていた。現在は高分解能CTによって気管支径が併走する肺動脈径の100%以上に拡大しているときに診断される。原因としては、先天性、肺疾患罹患後、免疫不全、アレルギー性疾患などと多岐にわたるが、原因不明(特発性)が最多とされる。気管支拡張症が一時期忘れられていた理由の一部として、筆者はびまん性汎細気管支炎(DPB)へのマクロライド療法の関与を想定する。DPBでは中葉・舌区を中心に気管支拡張合併が通常であり、さらに1980年代にはびまん性気管支拡張の大半はDPB由来ではないかとの本邦論文も発表されている。そのDPBは日本発のマクロライド療法により著減し、最近では希少疾患になろうとしていることから、気管支拡張症も追随して減少したのではと思っていた。 ところが近年、軽症例を含めると、想像以上に多数の潜在症例が埋もれているのではないかと欧米から報告され、気管支拡張症の国際的ガイドラインが刊行されている(Polverino E, et al. Eur Respir J. 2007;50:1700629.)。加えてmicrobiome(体内常在細菌叢とその遺伝情報)が多彩な慢性炎症性疾患の成立に関与しているのではないかという世界的関心の中、気管支拡張症も気道に存在するmicrobiomeが要因の1つではないかと推定されている。健康人の気道からは細菌は検出されないと教えられた世代にとって驚きの知見である。加えて、急増する非結核性抗酸菌症や、関節リウマチなどの免疫性炎症性疾患による気管支拡張症も呼吸器領域では注目の病態である。日本での罹患頻度の統計はないが、関節リウマチを母集団とすると30%もの合併があるという報告も見られ、新たな方法論の発展により気管支拡張症が見直されつつある。

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第26回 新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定

<先週の動き>1.新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定2.財政制度等審議会、高齢者の患者負担など見直しを急ぐ3.新公立病院改革ガイドライン発表延期、ただし進捗の点検・評価は必要4.安倍政権の未来投資会議を廃止、新たに成長戦略会議が発足5.健康食品会社が嘘の体験談で薬機法違反、広告会社・広告主ともに摘発1.新型コロナ入院、対象を高齢、基礎疾患のある患者らに限定菅内閣は10月9日に、新型コロナウイルス感染者のうち、入院対象者を原則65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人らに絞る法令改正について閣議決定を行った。今回の改正では、感染症法が定める「指定感染症」の位置付けに変更はなかった。これまでは新型コロナの感染者全員が入院対象だったが、インフルエンザ流行を前に医療機関の負担を減らし、重症者治療に重点を置くための施策。24日に施行となる。(参考)新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部を改正する政令(案)等について(概要)(厚生労働省健康局結核感染症課)2.財政制度等審議会、高齢者の患者負担など見直しを急ぐ8日に開催された財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会において、今後の医療や子育てに関して議論を行った。この中でわが国の社会保障の現状について、OECD加盟国と比較して、受益(給付)と負担のバランスが不均衡の「中福祉、低負担」の状況が指摘された。2022年度以降、団塊世代が75歳を超えると、社会保障関係費が急増することが予想できる。これを念頭に、社会保障制度の持続可能性を確保するための改革が急務とされ、現在の年齢が上がるほど患者負担割合が低く、保険給付範囲が広がる構造を含め、患者負担のあり方を見直していく必要があるとした。今後、11月のまとめる建議に向けてさらに議論を行うが、患者負担の増加については国民の関心も高く、医療機関や医師会などとの調整が必要になる見込み。(参考)財政制度等審議会財政制度分科会(令和2年10月8日開催)資料:社会保障について(1)(総論、医療、子ども・子育て、雇用)(財務省)3.新公立病院改革ガイドライン発表延期、ただし進捗の点検・評価は必要総務省は、5日に通知「新公立病院改革ガイドラインの取扱いについて」を各都道府県や指定都市などに向けて発出した。本年の7月までに示すとされていた新ガイドラインは発表を延期するが、今年度は「公立病院改革ガイドライン」の最終年度であることから、新改革プランの進捗状況について点検・評価を求める内容となっている。また、不採算地区の公立病院への財政措置については、地域医療構想の推進に向け、過疎地など経営条件の厳しい地域において、二次救急や災害時などの拠点となる中核的な公立病院の機能を維持する目的で、新たに特別交付税措置を講ずるなどの見直しを行うこととなった。今後の新型コロナ拡大に伴う景気・財政悪化を考えると、リスト外の病院に対してもより一層の健全な病院経営を求められることとなり、地方自治体や医療従事者への影響は避けられない。(参考)新公立病院改革ガイドラインの取扱いについて(通知)(総務省自治財政局準公営企業室長)4.安倍政権の未来投資会議を廃止、新たに成長戦略会議が発足安倍政権が2016年に内閣府に設置し、医療・介護を含むさまざまな分野について検討を重ねてきた未来投資会議が廃止され、菅政権では新たに成長戦略会議として立ち上げることを、9日の閣議後に西村 康稔経済再生担当相が明らかにした。未来投資会議が担っていた機能は縮小される。議長に加藤官房長官、副議長に西村経済再生相と梶山経済産業相がそれぞれ就任し、今後は、経済財政諮問会議が国の経済財政政策をリードし、それに沿った形で成長戦略会議が具体化を検討することとなる。(参考)未来投資会議を廃止 「成長戦略会議」に衣替え―政府(時事ドットコム)5.健康食品会社が嘘の体験談で薬機法違反、広告会社・広告主ともに摘発大阪府警は、嘘の体験談を用いて健康食品の効果をうたった広告・販売を行ったとして、広告会社と広告主の健康食品販売会社「ステラ漢方」を7月に摘発した。今年の3月上旬まで開設されていた商品サイトには「医者が絶句するほどの脂肪肝だった私が1ヵ月で正常値まで下げた『最強健康法』とは?」といった目を引く内容のほか、肝機能の数値改善など効能効果の表記がされていた。商品は健康食品会社ホームページのリンクから購入できる仕組み。なお、同社は2014年にも根拠のない宣伝をしたとして、消費者庁から景品表示法の規定に基づく措置命令を受けている。今後、悪質な広告についてはさらに規制強化が進むだろう。(参考)記事広告が薬機法違反…大阪府警、広告代理店ら6人を逮捕(通販通信)脂肪肝が1ヵ月で……。嘘の体験談で宣伝、広告主を摘発(日本経済新聞)

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アンチエイジングのためのHealthy Statement作成が始動/日本抗加齢医学会

 近年、EBM普及推進事業Mindsの掲げるガイドライン作成マニュアルが普及したこともあり、各学会でガイドラインの改訂が活発化している。さまざまな専門分野の医師が集結する抗加齢医学においても同様であるが、病気を防ぐための未病段階の研究が多いこの分野において、ガイドライン作成は非常にハードルが高い。Healthy Statement-ガイドライン作成の第一歩 そこで、日本抗加齢医学会は第20回総会を迎える節目の今年、ワーキング・グループを設立し、今後のガイドライン作成、臨床への活用を目的にコンセンサス・レポートとしてHealthy Statement(以下、ステートメント)の作成を始めた。ステートメントの現況は、9月25日(金)~27日(日)に開催された第20回日本抗加齢医学会の会長特別プログラム1「Healthy Agingのための学会ステートメント(ガイドライン)作成に向けて」にて報告された。 ステートメントは健康寿命の延伸に関して科学的なエビデンスが蓄積されつつある4つの分野(食事、運動、サプリメント、性ホルモン)が検討されており、今回、新村 健氏(兵庫医科大学内科学総合診療科)、宮本 健史氏(熊本大学整形外科学講座)、阿部 康ニ氏(岡山大学脳神経内科学)、堀江 重郎氏(順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学/日本抗加齢医学会理事長)らが、各部門の作成状況を発表した。各分野、抗加齢に特化したデータ抽出進む 『食事・カロリー制限とアンチエイジング』について講演した新村氏は、「抗加齢医学の領域において、食事療法・カロリー制限に関するエビデンスは十分と言えず、ガイドライン・診療の手引きを作成するだけの材料が揃っていないのが現状」とし、「食事療法の選択としては日本人での実行性と重要性を重視し、健常者または重篤な疾患を持たない者を対象者に想定している」と述べた。さらに今後の方針として「1つの食事療法に対して、複数のアウトカムから評価し、アンチエイジング医学の多様性を意識する」と話した。 『運動・エクササイズとアンチエイジング』については宮本氏がコメント。「運動介入と高齢者の骨密度、認知症や寿命延伸に関するデータをまとめ、CQを作成した。とくに運動介入は高齢者の骨密度の軽度の増加、認知症予防に強く推奨される。また要介護化の予防に中等度、寿命・健康寿命の延伸には弱く推奨される」など話した。 『サプリメント・機能性表示WGからの報告』について阿部氏が講演。「本ワーキング・グループは感覚器、歯科、循環器、消化器/免疫、皮膚科、脳神経の6領域において活動を行っている。サプリメントは分類上では機能性表示食品に該当するが、医薬品のように観察研究や介入研究が多くデータが豊富に揃っていた。評価文、根拠文献、評価上の要点、エビデンスグレードの各案が出揃い、完成近い品目もある」と解説した。このほか、アルツハイマー病治療において、アミロイドβの根本治療が全滅している現在、サプリメント活用のメリットにも言及した。 『テストステロン(男性ホルモン)』については堀江氏が既存のエビデンスとして、テストステロン低値の人の早逝、内蔵脂肪との関連、そのほか低テストステロンが惹起する身体機能の低下や合併症について説明。「テストステロンはメタボリックシンドローム、耐糖能異常、うつ病、フレイルなどの疾患との関連において十分なエビデンスが存在する。これらのデータを踏まえ、テストステロンは未病のための明日の健康指標になる。さらには、社会参画や運動量など人生のハツラツ度に影響するホルモンであることから、今日の健康指標にもつながる」とし、「今後、性ホルモン分野としてエストロゲン、テストステロンの両方について報告していく」と締めくくった。抗加齢医学の目標、ステートメント完成は2021年を目処 講演後、大会長の南野氏は「抗加齢医学は集団も然り、研究疾患もヘテロである。このヘテロジェナイティを認識したうえで、足りないエビデンスをわれわれで補うことが最終目標である」と述べた。これに堀江氏は「われわれは疾患ではなく、疾患に至る前段階を捉えて研究を行っている。診療ガイドラインの疾患アウトカムと異なるエビデンスが必要であり、それゆえ研究対象も従来の研究とは異なる。たとえば、高齢者の認知機能ではなく40歳くらいの若年者の機能探索がその1つである」と補足し、今後の抗加齢医学会の進むべき道について強調した。Healthy Statementは来年6月頃までにまとめられ、2021年の本学術集会にて発表される予定である。 なお、本講演は10月8日(木)~21日(水)の期間限定でケアネットYouTubeにて配信している。

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1日1杯以上の飲酒が糖尿病患者の高血圧リスクと関連?

 これまで、2型糖尿病患者における飲酒と高血圧の関連は、十分に研究されていない。今回、米国・ウェイクフォレスト大学のJonathan J. Mayl氏らのデータ分析で、2型糖尿病患者では、適度な飲酒でも高血圧リスクに関連する可能性が示された。JAHA誌オンライン版2020年9月9日号での報告。 本研究は、成人の2型糖尿病患者を対象に心血管疾患(CVD)を軽減するための介入を比較したランダム化試験(ACCORD試験)の参加者1万200人(平均年齢約63歳)のデータを利用した。参加者は、軽度の飲酒(1~7杯/週)、中程度の飲酒(8~14杯/週)、重度の飲酒(15杯以上/週)の3群に分類された。なお、“1杯”の定義は12オンスのビール、6オンスのワインまたは1.5オンスのリキュールとした。 血圧については、ACC/AHA2017高血圧ガイドラインに従って、正常(収縮期血圧[SBP]120mmHg未満かつ拡張期血圧[DBP]80mmHg未満)、血圧上昇(SBP:120~129mmHgかつDBP:80mmHg未満)、ステージ1高血圧(SBP:130~139mmHgまたはDBP:80~89mmHg)、ステージ2高血圧(SBP:140mmHg以上またはDBP:90mmHg以上)に分類された。 主な結果は以下のとおり。・年齢、性別、人種、BMI、CVDの既往、現在・過去の喫煙状態、2型糖尿病の罹患年数を考慮した多変量ロジスティック回帰モデルでは、軽度の飲酒と血圧上昇または高血圧との間に関連は見られなかった。・中程度の飲酒では、血圧上昇(オッズ比[OR]:1.79、95%CI:1.04~3.11、p=0.03)、ステージ1高血圧(OR:1.66、95%CI:1.05~2.60、p=0.03)およびステージ2高血圧(OR:1.62、95%CI:1.03~2.54、p=0.03)と関連していた。・重度の飲酒では、血圧上昇(OR:1.91、95%CI:1.17~3.12、p=0.01)、ステージ1高血圧(OR:2.49、95%CI:1.03~6.17、p=0.03)およびステージ2高血圧(OR:3.04、95%CI:1.28~7.22、p=0.01)と関連していた。 著者らは「2型糖尿病患者は心血管リスクがとくに高いため、飲酒と高血圧の関係を理解することが非常に重要だ。週に7杯以上の飲酒は、2型糖尿病患者の高血圧に関連している可能性がある」と結論している。

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コンピューターは便利だが最後は人間の力を信じたい(解説:折笠秀樹氏)-1293

 医療情報学というのは1970年代に始まった。多くの医学部に医療情報学講座が生まれた。いま、医療情報学講座は少しずつ減ってきている。これでいいのだろうか。デジタルメディスンあるいはデジタルヘルスは、今後急速に進んでいくだろうと思う。それにつけ、医療情報学は、なくなるべきではないだろう。 医療情報学の幕開けは何だったかというと、やはりオーダーエントリーシステムのように思う。Do処方などが生まれた。そして、電子カルテ(EHR:Electronic Health Record)システムで花開いた。その先にあるのが、今回のテーマである診療決定支援システム(CDSS)である。ここでは、このEHR情報といろいろな情報をリンクさせる。薬剤の添付文書情報とリンクさせることで、相互作用やアレルギーのアラートを出してくれるので、医療事故が減らせるだろう。診療ガイドラインとリンクさせることで、推奨する検査や治療法を示してくれる。文字どおり、診療を支援してくれるわけである。 リンクする情報はいわゆる文書なのに、どうやってEHRとリンクさせるのだろうか。その鍵は、近年発展したAIや自然言語処理などにある。医師が書かなくても、自動的に診断書を作ることも可能になる。ドキュメンテーションは負担だが、この支援まで行ってくれる。このようにCDSSは大変便利であり、莫大な情報量の中で働く医師を支援してくれるのは間違いない。 ここで、1970年代を思い出す。統計学を利用した計量診断が登場した。しかし、それはあまり浸透していかなかった。医師がコンピューターに支配されるという極論もあったが、コンピューターは人間を上回ることはできない。CDSSは便利には違いないだろうが、それに頼り過ぎると危険だろう。医師だからこそ可能な診断、あるいは治療選択があるはずだ。将棋でもAIをしのぐ藤井棋士に目を見張るが、医療においても最後は医師の力を信じたい。今回の研究でも、CDSSの恩恵はごくわずかという結論だった。

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KRASG12C阻害薬sotorasib、進行固形がんに有望/NEJM

 複数の前治療歴のあるKRAS p.G12C変異が認められる進行固形腫瘍の患者に対し、sotorasibは、有望な抗腫瘍活性を示したことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのDavid S. Hong氏らによる第I相臨床試験の結果、報告された。Grade3または4の治療関連毒性作用の発生は11.6%であった。sotorasibは、開発中のKRASG12Cを選択的・不可逆的に標的とする低分子薬。KRAS変異をターゲットとしたがん治療薬は承認されていないが、KRAS p.G12C変異は、非小細胞肺がん(NSCLC)では13%、大腸がんやその他のがんでは1~3%で発生が報告されているという。NEJM誌2020年9月24日号掲載の報告。sotorasibを1日1回投与し、安全性などを評価 sotorasibの第I相臨床試験は、KRAS p.G12C変異が認められる進行固形腫瘍患者を対象に行われた。被験者は、sotorasibを1日1回経口投与された。 主要評価項目は安全性。主な副次評価項目は、薬物動態および固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)バージョン1.1で評価した客観的奏効だった。治療関連有害事象は約57%で発生 被験者は計129例(NSCLC 59例、大腸がん42例、その他の腫瘍28例)で、用量漸増および拡大コホートに包含された。被験者の転移がんに対する前治療数の中央値は3(範囲:0~11)だった。 用量制限毒性や治療関連死の有害事象は認められなかった。治療関連有害事象の発生は73例(56.6%)で、そのうちGrade3または4の発生は15例(11.6%)だった。 NSCLCの患者のうち、客観的奏効(完全または部分奏効)が確認されたのは32.2%(19例)で、病勢コントロール(客観的奏効または病勢安定)が認められたのは88.1%(52例)だった。無増悪生存期間の中央値は6.3ヵ月(範囲:0.0+~14.9[+はデータカットオフ時に打ち切られた患者データが含まれていることを示す])だった。 大腸がん患者では、客観的奏効が確認されたのは7.1%(3例)、病勢コントロールは73.8%(31例)、無増悪生存期間の中央値は4.0ヵ月(範囲:0.0+~11.1+)だった。膵がん、子宮内膜がん、虫垂がん、悪性黒色腫の患者においても、奏効が認められた。

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臨床意思決定支援システムでケアは改善するか?/BMJ

 臨床意思決定支援システムを利用した介入の大半は、推奨されるケアプロセスを受ける患者の割合を小~中程度改善することが、それらを報告した研究で見いだされた臨床エンドポイントの小さな変化によって確認された。また、ごく一部の試験では、推奨されたケアの提供が大幅に増加していたが、改善に関して説得力のある予測因子は確定できなかった。カナダ・トロント大学のJanice L. Kwan氏らが、臨床意思決定支援システムによって得られた改善効果と、多様な臨床設定と介入ターゲットにわたるプール効果の不均一性を調べるために行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。電子健康記録に組み込まれている臨床意思決定支援システムは、推奨されるケアプロセスを提供するように臨床医を促すが、こうした臨床意思決定支援システムのケア改善の可能性に対する期待にもかかわらず、2010年に行われたシステマティックレビューでは、ケアが改善した患者の割合は5%未満とわずかであった。BMJ誌2020年9月17日号掲載の報告。臨床意思決定支援システムの特徴と試験特性による不均一性を分析 今回のシステマティクレビューとメタ解析は、2019年8月時点でMedlineを検索して行われた。 試験選択の適格基準は、臨床意思決定支援システムが推奨するケアを受けた患者のうち、確かな改善をみた例が何割あったかを報告した無作為化または準無作為化比較試験とした。試験内のクラスタリングを明らかにするために多層メタ解析モデルを活用し、メタ回帰分析を用いて、臨床意思決定支援システムの特徴と、効果量の不均一性を低下した試験特性を定量評価した。報告がある場合に臨床エンドポイントも評価した。改善効果は小~中程度、不均一性の改善は見通せず 108論文(無作為化試験94件、準無作為化試験14件)において、122試験が報告されており、120万3,053例の患者と1万790例の医療提供者から分析可能なデータが得られた。 臨床意思決定支援システムの利用で、希望どおりのケアが受けられた患者の割合は5.8%(95%信頼区間[CI]:4.0~7.6%)増加していた。 プール効果は明らかな不均一性(I2=76%)を示し、改善が報告されていた上位4分の1における改善患者の割合は、10~62%の範囲にわたっていた。 臨床エンドポイントが報告されていた30試験において、臨床意思決定支援システム利用による、ガイドラインに基づく目標値(血圧や脂質管理など)を達成した患者の割合の増加は、中央値0.3%(四分位範囲:-0.7~1.9)であった。 2つの研究特性(低い順守度、小児科)では、有意に大きな効果が認められたが、これら共変量を多変数メタ回帰に含めても不均一性は低下しなかった。

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TNF阻害薬・MTX服用者、COVID-19入院・死亡リスク増大せず

 COVID-19の治療法確立には、なお模索が続いている。米国・ウェストバージニア大学のAhmed Yousaf氏らは、エビデンスデータが不足している生物学的製剤および免疫抑制剤のCOVID-19関連アウトカムへの影響を、多施設共同リサーチネットワーク試験にて調べた。5,351万人強の患者の医療記録を解析した結果、腫瘍壊死因子阻害薬(TNFi)および/またはメトトレキサート(MTX)曝露のあるCOVID-19患者は非曝露のCOVID-19患者と比べて、入院や死亡が増大しないことが示されたという。結果について著者は「COVID-19と生物学的製剤の使用に関する現行ガイドラインは、厳密な統計学的解析ではなく主として専門家の見解(opinion)に基づくものである。今回のわれわれの試験結果は、TNFiやMTXの使用を継続することを支持し、COVID-19関連アウトカムが不良となる可能性の懸念による治療の中断に異を唱えるものである」とまとめている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2020年9月11日号掲載の報告。TNF阻害薬および/またはMTX治療群と非治療群を3万2,076例で比較 研究グループは、TNF阻害薬および/またはMTXを服用する患者について、COVID-19関連アウトカムのリスクが増大するかどうかを調べる大規模比較コホート試験を行った。 試験では、リアルタイム検索と解析で、COVID-19と診断された成人患者について、TNF阻害薬および/またはMTX治療群と非治療群を比較。入院および死亡の尤度を、交絡因子に関する傾向スコアマッチングの有無別群間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・5,351万1,836例の患者記録を解析した。・そのうち3万2,076例(0.06%)が、2020年1月20日以降にCOVID-19に関連する診断を受けたことが記録されていた。・214例のCOVID-19患者が、TNF阻害薬またはMTXへの最近の曝露が確認され、3万1,862例のCOVID-19患者は、TNFiまたはMTXに非曝露であった。・傾向マッチング後、入院および死亡の尤度について、TNF阻害薬および/またはMTX治療群と非治療群で有意差はなかった。入院のリスク比は0.91(95%信頼区間[CI]:0.68~1.22、p=0.5260)、死亡のリスク比は0.87(0.42~1.78、p=0.6958)であった。・本検討は、すべてのTNF阻害薬が同様の影響をもたらすとは限らない、という点で限定的である。

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第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?Q1 肥満症を合併した高齢者糖尿病ではどのような食事・運動療法を行うべきですか?食事・運動療法を行うにはまず、膝関節疾患や心血管疾患の有無をチェックし、認知機能、身体機能(ADL、サルコペニア、フレイル・転倒)、心理状態、栄養、薬剤、社会・経済状況、骨密度などを総合的に評価します。80歳以上の肥満症では治療によって血管障害や死亡のリスクを減らせるというエビデンスに乏しくなります。しかしながら、減量によって疼痛が軽減され、QOLが改善されるということも報告されていますので、膝関節痛などがある場合は減量を勧めてもいいと思います。肥満症を合併した糖尿病患者ではレジスタンス運動を含めた運動療法と食事療法を併用することが大切です。肥満症の高齢者に食事療法と運動療法の両者を併用し、減量を行うと、食事療法単独または運動療法単独と比べて、身体機能とQOLが改善します。有酸素運動とレジスタンス運動の両者を併用した方がそれぞれ単独の運動よりも歩行速度などの身体能力の改善効果が認められます。レジスタンス運動は肥満症の人は一人で行うことが困難な場合が多いので、介護保険のデイケア、市町村の運動教室などを利用し、監視下で運動することがいいと思います。また、体重による負荷を軽減する運動としてはプール歩行やエアロバイクなどを勧める場合もあります。また、高齢者の肥満では運動療法を行わず、食事療法のみで減量すると骨格筋量や骨密度が減少するリスクがあります。一方、適切なエネルギー量を設定し、運動療法を併用することにより筋肉量、身体機能、および骨密度を低下させることなく減量が可能であるとされています。Look AHEAD研究では高齢糖尿病患者を対象に運動を中心とした生活習慣改善と体重減少を行った介入群では、対照群と比べて、歩行速度が速く、SPPBスコアで評価した身体能力が有意に高いという結果が得られています。介入群は歩行速度低下のリスクが16%減少しました1)。とくに、65歳以上の高齢糖尿病患者でSPPBスコアの改善効果がみられました。食事のエネルギー摂取量に関しては、肥満があるとエネルギー制限を行うことになりますが、過度の制限によるサルコペニア・フレイル・低栄養の悪化に注意する必要があります。肥満高齢者にレジスタンス運動にエネルギー制限を併用した群では運動のみの群に比し体重減少とともに除脂肪量の減少がみられたが、歩行能力や要介護状態は改善し、筋肉内脂肪の減少を認めたという報告があります2)。この結果は減量によって筋肉内の脂肪をとることが筋肉の質を改善することにつながることを示唆しています。「糖尿病診療ガイドライン2019」においては、高齢者では[身長(m)]2×22~25で得られた目標体重に身体活動の係数をかけて総エネルギー量を計算します。J-EDIT研究では目標体重当りのエネルギー量が約25kcal/kg体重以下と35kcal/kg体重以上の群で死亡リスクの上昇がみられ、過度のエネルギー摂取もよくないことが示唆されています3)。高齢者でも肥満があり、減量が必要な場合には目標体重は[身長(m)]2に低めの係数(22~23)をかけて目標体重を求め、目標体重当たり25~30 kcalの範囲でエネルギー量を設定することが望ましいと考えています。一般のサルコペニア・フレイルに対してはタンパク質の十分な摂取(1.0~1.5㎏/㎏体重)が推奨されています。肥満やサルコペニア肥満がある場合のタンパク質摂取に関しては、まだ十分なエビデンスがありませんが、タンパク質は十分に摂取した方がいいという報告があります。膝OAがある高齢糖尿病女性の縦断研究でも、タンパク質の摂取が1.0g/㎏体重以上を摂取した群の方が膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られました(図1)4)。サルコペニア肥満がある高齢女性を低カロリーかつ正常タンパク質(0.8g/㎏体重)摂取群と低カロリーかつ高タンパク質(1.2g/㎏体重)摂取群に割り付けて3ヵ月間治療した結果、骨格筋量の指標は正常タンパク質群では減少したのに対し、高タンパク質摂取群では有意に増加していました5)。したがって、肥満症のある高齢糖尿病患者では、少なくとも1.0g/㎏のタンパク質をとることが望ましいと思われます。画像を拡大するQ2 肥満症を合併した高齢糖尿病、薬物療法は何に注意が必要ですか?個々の病態に合わせて薬物選択を行いますが、肥満があるので、インスリン抵抗性を改善する薬剤を主体に治療します。体重減少を目的にする場合にはメトホルミン(高用量)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用されます。メトホルミンはeGFR 30ml/min/1.73m2以上を確認して使用し、eGFR 60ml/min/1.73m2以上を確認できれば少なくとも1,500㎎/日以上の高用量で使用します。SGLT2阻害薬は、心血管疾患合併例で、血糖コントロール目標設定のためのカテゴリーI(認知機能正常でADL自立)で積極的に使用し、カテゴリーIIでは運動や飲水ができる場合に使用するのがいいと考えています。GLP-1受容体作動薬は消化器症状に注意して使用します。いずれの薬剤を使用する場合もレジスタンス運動を含む運動を併用し、サルコペニア肥満やフレイルを予防することが大切です。1)Houston DK, et al . J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73:1552-1559.2)Nicklas BJ, et al. Am J Clin Nutr. 2015;101:991-999.3)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20:59-65.4)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739. 5)Muscariello E, et al. Clin Interv Aging. 2016;11:133-140.

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第45回 右室肥大と右脚ブロック~似て非なる病態を嗅ぎ分けよ(後編)【Dr.ヒロのドキドキ心電図マスター】

第45回:右室肥大と右脚ブロック~似て非なる病態を嗅ぎ分けよ(後編)「右脚ブロック」と「右室肥大(RVH)」って心電図の波形が“似てるよね”という話を前回しました。基本は“似て非なる”両者ですが、この2つが合併した時に心電図はどうなると思いますか? そもそも「右脚ブロック」かつ「右室肥大」という診断を正しく下せるのでしょうか。ある程度勉強が進んだ人なら一度は気になるこの“難問”につき、Dr.ヒロが解説します。最終結論は“感動”か、はたまた“絶望”かー。では、レクチャーのスタートです!【問題1】53歳、男性。増悪傾向を示す労作時息切れの精査目的にて他院より紹介受診した。心電図所見に関して、最も適切なものを一つ選べ。(図1)53歳、男性の心電図画像を拡大する1)完全右脚ブロック2)右室肥大3)両方とも該当しない4)完全右脚ブロックかつ右室肥大5)その他解答はこちら4)解説はこちらさて、第42回からお送りしてきた右心系の“チラ見”、とくに「右室肥大」に関するレクチャーは今回で完結です。普通の教科書などではここまで詳しく説明されることはないと思うので、『もうお腹一杯~(泣)』という方もいるでしょう。このラスト1回を頑張りましょう。さて、この問題をどう考えますか? なんか選択肢がややこしいでしょ。前回に「右脚ブロック」と「右室肥大」の心電図は似ていてややこしいという話をしましたが、(図1)はどちらに見えますか? パッと見、QRS幅はかなりワイド(wide)ですし、波形的にはただの「完全右脚ブロック」のように見えます。でも、「右脚ブロック」と「右室肥大」は“似たもの同士”なので、注意が必要です。では、この心電図に「右室肥大」 所見があるかどうかを調べましょう。前々回示した「右室肥大」の診断フローチャートの項目をチェックしますか? いいえ、残念ながら、QRS幅が広い時点であのフローチャートを使っちゃダメなんです。フローチャートに「個別に条件を設定」という注意書きを入れたので、気になっていた方もおられるのではと思っています。「右脚ブロックの心電図で、右室肥大の合併をどう見抜くか?」これが今回のメインテーマです。以下のレクチャーを読む前に完璧な解答ができるのならば、既にあなたは心電図に関してセミ・プロレベルです! ただ、多くの方は悩むと予想されるので、話を続けましょう。“「右脚ブロック」はここでもクセモノ”まずは、普段通りに心電図(図1)を読みましょう。“いつも通り”が一番大事なんです(第1回)。心拍数は、最後の“見切れ”たQRS波を0.5個と数えると81/分であり(“新・検脈法”)、P波の様子から「洞調律」であることも間違いありません(“イチニエフの法則”)。ニサンエフのP波がツンッと立ってて、「右房拡大」かなぁ…「異常Q波」はなくって、次は“スパイク・チェック”で、「向き」(電気軸)は、Iが下向き、IIが上向きですね。トントン法Neoを使えば「+100°」と求まるので、「右軸偏位」で良さそうです。QRS幅はかなりワイドで、胸部誘導でV1が「rSR'型」なので、「完全右脚ブロック」と予想することができます(第44回)。残りのST部分を読めば、II、III、aVF、V1~V5誘導で「ST低下」と「陰性T波」を考えますね。そうそう、素晴らしい。皆さん、だいぶ読み“型”(第1回)が板についてきたのではないでしょうか? 拾った所見のうち「右房拡大」「右軸偏位」「完全右脚ブロック」がそろった場合、“右つながり”で「右室肥大」が気になるという方はセンス良しです。とそんな時、ほかに絶対確認すべきマスト所見がありましたよね? そう、V1誘導の「高いR波」です(第43回)。具体的な数値は「7mm」、それを確認しようとしても最初の「r波」か2番目の「R'波」のどちらで“7mm基準”を確認すべきか悩んでしまうのではないでしょうか? ここでエイヤッと割り切って後半成分の「R'波」でチェックするのは間違いです。以前、「R>S(V1)」も「高いR波」の表現の代わりになることをお伝えしましたが、これも2つのうちどちらのR(r)波を使うのかとか、後半のR波なら大概「R>S」になるので、ホントにそれでいいのかって思ってしまうのではないでしょうか。そして、まだまだ参考にすべき補助所見がありました。ただ、ストレイン型の「(2次性)ST-T変化」やR peak timeの遅れも「右脚ブロック」ではほぼ全例で満たされてしまいます。また、「時計回転」ともとれる「R<S(V5)」所見も、軸偏位を合併した場合などで高率に見られます。つまり、「右脚ブロック」なだけで、「右室肥大」の条件をほどよく満たしてしまい、通常の診断条件が“あり”というのが「右室肥大」の肯定所見とは見なせず、結局のところ「wide QRS」な時点、とくにそれが「右脚ブロック」な時点で、例のフローチャートは当てにならないのです。先般示したフローチャートに用いた診断項目は主にMyer1)や“そこのライオン”で有名な、Sokolowら2)が指摘した内容ですが、これらは2つ目の「R'波」のある「右脚ブロック」系統には適応できないのです。この点は知っておくべきです。■ポイント■「右脚ブロック」の場合は通常の「右室肥大」の診断基準は使えない!では逆に、“完全“にしても“不完全”にしても「右脚ブロック」も立派に右心系負荷を示唆するサインの一つですから、ほかの所見と併せて「右室肥大」と言っちゃいましょうか? いいえ、これも誤りです。そうするとエセ右室肥大が世の中に溢れてしまうことになります。「異常Q波」の時にもクセモノぶりを発揮していた「右脚ブロック」ですが(第32回)、ここでもまたやってくれたわけです。“絶望の淵に光はさすのか?”ここまで聞いただけで気分が暗くなりますが、現実はさらに厄介な状況があるんです。心電図の世界では“似たもの同士”な「右脚ブロック」と「右室肥大」ですが、現実問題として意外と両者の病態がバッティングするのです。これはどういうことを意味するのでしょうか? 頻度的には「右脚ブロック」のほうが多いため、普通だと「右脚ブロック」と診断した時点で安心してしまいます。そのため、まさかそこに「右室肥大」所見が“重なっている”かなど考えが及ばず、心電図の発する“RVHサイン”がうまく届かない状況が生まれてしまうんです。「右脚ブロック」が存在する場合、「右室肥大」の診断は不可能なのでしょうか? 結論だけ言うと、不可能だというのが真実に近いかもしれません。実際、主に学童を対象とした日本循環器学会ガイドライン3)には、「WPW症候群」とともに、「右脚ブロック」がある場合には「右室肥大」の診断は困難と銘記されています。ガイドラインにまで記載されてしまうと、さすがに萎えますね。ただ、やはり、人一倍、十、いや百倍、心電図を愛するボクからすると、“モッタイナイ”と感じてしまいます。ただでさえ分の悪い「肥大」の心電図診断に、またひとつ“Impossible”を作ることに抵抗感があるのかもしれません。この苦難を何とか乗り越えたい…非才のボクでは解決できない問題には“先人の知恵”をお借りしましょう。前回示したフローチャートも参考にしつつ、「右脚ブロック」の“霧”を晴らすため、「右脚ブロックに合併した右室肥大」に関して集められた代表的な知見を以下に示します。■ポイント:右脚ブロック“専用”の「右室肥大」基準■【Milnor基準】QRS幅:0.12秒(120ミリ秒[ms])以下でいずれかを満たす場合QRS電気軸:+110~+270°*1R(またはR')/S >1(V1誘導)かつ R(またはR')>5mm(0.5mV)【Barker & Valencia基準】R'V1>10mm(不完全右脚ブロック)R'V1>15mm(完全右脚ブロック)*1:原著の表現(QRS軸:+110~±180°または-90~±180°)がわかりにくいため改変して示した。意味的には「+110°以上の右軸偏位」または「高度の(右)軸偏位」を意味する。皆さんの中には、「えっ? また外人の名前? そんなのもう覚えられないよー」という方も多いと思うので、「誰の」基準かは覚えなくとも、「どんな」条件なのかを優先して覚えてください。“見るな!と言いたくなるMilnor基準”一つ目はMilnorらによる診断基準です。これは、“よりシンプルさ”を追求した研究報告で、基準中に「R'」という文字が含まれており、われわれの期待をふくらませます。…ところが、その期待はもろくも崩れ去ります。なぜなら、前提条件に「QRS duration less than 0.12 second」と表記されているからです。“使えない”とまでは言いませんが、これを適用するとしても「不完全右脚ブロック」のほうだけ。しかも、この基準は「右脚ブロック」例だともっぱら“overdiagnosis”するとされています4)。そんな訳でDr.ヒロ的には、もう“見るな!”の基準です(笑)。もちろん、今回の心電図には適用しちゃダメですよ。バッチリ「QRS幅≧0.12秒」ですから。でも、「右脚ブロック」つながりなので一応は紹介しました。“もう一つも実はイマイチ-Barker-Valencia基準”次に紹介するのは、“バッグにオレンジ”基準。これは勝手にボクが決めたゴロ合わせで、オレンジはバレンシア産(笑)。これはBarkerとValenciaらによる基準で、文献として確認できるのは「不完全右脚ブロック」を扱った1949年のものです5)。そして、実は本題でもある「完全右脚ブロック」のほうは、かなり入念に調べたのですが、原典が書籍でした6)。もし読者の方で原著論文などをご存じであれば、教えてもらえると嬉しいです。この基準は実にシンプルです。「右脚ブロック」のV1-QRS波形には「rsR'(rSR')」や「RR'」などがありますが、通常「r(R)<R'」でなくてはならないという暗黙のルールがあるので、後半の“第2波”(R'波)の高さだけで勝負する方式です。「不完全」でも「完全」でも、右脚ブロックになると、もともと「R'波」は“盛られる”傾向にあるため、通常の「7mm」ではなく、厳しめの基準で判定しましょうという考えなんだと思います。「10mm」も「15mm」も共に切りの良い数字ではありますが、やや記憶力の衰えたボクの場合、「不完全~」なら1.5倍、「完全~」なら2倍しただけの基準だと考えるようにしています。もちろん“7mm基準”をベースとしてね。早速、心電図(図1)で適用してみましょう。V1誘導に着目し、心拍ごとにやや差はありますが、小ぶりな2拍目、ないし5拍目で見ても「R'>15mm」を満たします。つまり、やはり「右室肥大」の合併を疑うべきということになり、問題の正解は4)が該当します。実際、この中年男性は、その後に「肺動脈性肺高血圧症」と診断され、心エコーでも顕著な「右室肥大」が確認されました。ですから、心電図にもやはり“暗号”が隠れていたわけです。しかし、このBarker-Valencia基準が完璧かと言うと、基本的に「右脚ブロック」と「R'波高」だけで判定するので、完璧とは言いがたいようです4)。次の心電図(図2)はどうでしょう?(図2)71歳、女性、肺高血圧症の心電図画像を拡大する71歳、女性で、肺高血圧症の診断で加療されています。「右軸偏位」(+110°)と「時計回転」(RV5<SV5)の所見はあるようですが、ワイドなQRS波で「完全右脚ブロック」に典型的な波形ですが、肝心なV1誘導ではR'波は15mmには足りません。そのためBarker-Valencia基準を適用すると、「右室肥大」ではないと判定されてしまいます。ただ、実際にはバッチリ「右室肥大」が心エコーその他で確認されていることから、この考え方は通じないということです。ちなみに“お隣”のV2誘導だと基準に合致しますが、原著にその記載はありません。さらに心電図(図2)をよく見ると、「148cm、41kg」と表示されていますが、欧米人対象の研究で得られた知見を、人種や体格差の明らかな日本人にそのまま適応していいのかという当然に疑問にぶち当たります。また、逆に“健康的な”「右脚ブロック」の一部に「右室肥大」の“濡れ衣”を着せてしまうことが少なくないというのも“バッグにオレンジ”基準の弱点でもあります。どちらかと言うと、後天性よりは先天性の心疾患の方がよく当てはまるようです。最近では、小児期に修復手術が行われた方を成人患者として迎え入れるケースも増えていると思います。そうした方の多くは今回に似た心電図であり、その場合は「右室肥大」の合併を正確に診断できる確率が高くなるわけです。“Dr.ヒロの所感と全体まとめ”上記2つ以外にも、血まなこになって教科書やガイドライン、そして文献を探し、最終的には「完全右脚ブロック」の心電図の場合、完璧な「右室肥大」診断基準はない、という考えに着地しました…。先述のガイドラインも、こうした流れを汲んでのコメントなのかもしれません。しかし、ボクは普段どうしているのか、それを最後に述べたいと思います。■ポイント:Dr.ヒロ流!右脚ブロックと右室肥大の合併病態に対する考え方■1)「右脚ブロック」を見たら一瞬でも「右室肥大」の合併を考慮2)Barker-Valencia基準:「R'>10 or 15mm」をチェック3)「右軸偏位」(できれば「+110°」以上)と「右房拡大」を確認4)臨床背景を確認する―「右室肥大」を呈する病態か?「右脚ブロック」と「右室肥大」の合併を見落とさないためには、「右脚ブロック」を見た時、ほんの一瞬でも“似たもの”な「右室肥大」に思いをはせること。そして“バッグにオレンジ”基準を割と大事にしつつ、QRS電気軸と右房の情報を取りにいきます。ズルいのかもしれませんが、最後に病歴やその他の検査所見などを総合して考えていくようにします。これがDr.ヒロ流心電図の判読法。一つの心電図だけでは勝負せず、“+α情報”を確認する意識をつけることで心電図の能力は一段と磨かれると信じているからです。ちなみに、「完全左脚ブロック」の場合には「右室肥大」と診断するための“決定打”はなく、よく言われるのは「左脚(ブロック)なのに右軸(偏位)」というものだと思います。ただ、これもかなり“ドンブリ”的な見方ですので、 あまり執着せずに、「完全左脚ブロック」なら細かな波形診断は諦めるスタンスでも良いかもしれません。現実的な話では、心電図は決して「心室肥大」の診断に長けているわけではありません。その上で、「右脚」にせよ「左脚」にせよ、QRS幅が広くなる「心室内伝導障害」では、ただでさえ不得手な「右室肥大」の診断精度をより低下させてしまうという現実を知っておくべきだと思います。今回の内容はまあまあハイレベルな内容ですので、非専門医の先生ですと必ずしも要求されない知識かもしれませんが、知っておくと診断の幅がだいぶ広がると思います。それでは、4回にわたってだいぶ詳しく扱った「右室肥大」の話題はここで終了。次回はこれまでの知識を総動員させたクイズを出しますよ。それではまた!Take-home Message「右脚ブロック」の存在は「右室肥大」の心電図診断の感度・特異度をさらに低下させる!“後半成分”(R’波)がより“強調”された「右脚ブロック」では「右室肥大」の合併を疑え―“不完全”は1.5倍、“完全”なら2倍1)Myers GB, et al. Am Heart J. 1948;35:1-40.2)Sokolow M, Lyon P. Am Heart J. 1949;38:273-294.3)日本循環器学会/日本小児循環器学会編. 2016年版学校心臓検診のガイドライン.4)Booth RW, et al. Circulation. 1958;18:169-176.5)Barker JM, Valencia F. Am Heart J. 1949;38:376-406.6)Barker JM. The Unipolar Electrocardiogram. 1st ed. Appleton-Century-Crofts;1952.【古都のこと~天ヶ瀬ダム】この連載では寺社について扱うことが多いですが、今回はダムに目を向け、天ヶ瀬ダム(宇治市)について話しましょう。平等院から宇治川沿いに車で登って10分ほどで到着します。改めて京都が山に囲まれていることを実感できます。1964年に竣工した多目的ドーム型アーチ式コンクリートダム*1で、規模は堤高73m・堤頂254m・堤体積16万4,000m3。総貯水量2,628万m3は東京ドーム20杯分です。休憩がてら下流域を散策していると、歓声が上がり、振り向くとコンジット(放流管)ゲートから放流です! その迫力の眺めにしばらく圧倒され、その後、なぜかスッキリとした気分になったのでした。当日はかないませんでしたが、次回来るときは必ず「天端(てんば)」(堤頂通路)に上がってアーチの曲線美に酔いしれようと思います。現在は「宇治川の渓谷と調和する放水設備」の再開発工事中*2ですが、皆さんも“大人の社会見学”をぜひ!*1:ダムカードに記載された「目的記号」は“FWP”。洪水調整(F:flood control)、上水道(W:water supply)、発電(P:power generation)。*2:2022年2月末まで。

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第24回 オンライン診療めぐり日医と全面対決か?菅総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(後編)

「いろんな抵抗があることはわかっているが、やった方がいい」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。菅 義偉氏が自民党総裁に選出されました。9月16日には菅総理大臣が誕生します。そこで前回に引き続き、菅政権において、医療関係者はまずどんな政策を気にしなければならないかを考えてみたいと思います。前回は、まず第1に地方、都市部含めて、公立・公的病院の再編・統合が今まで以上に強硬かつ急速に進めるのではないか、と書きました。そしてもう1 つ、確実に力を入れるであろうことがあります。それは各紙も報道しているように、医療のデジタル化、直近ではオンライン診療の推進です。新型コロナ感染症で日本のDX (デジタル・トランスフォーメーション)政策の遅れが露呈しました。そういったこともあり、医療分野では現場で定着しつつあるオンライン診療がターゲットになるはずです。9月6日付の日本経済新聞では、5日に行った菅官房長官の単独インタビューを掲載しています。その中で菅氏は、新型コロナウイルスへの対応で遅れが明らかとなったデジタル行政を加速するために、各省庁にまたがるデジタル部局を集約して「デジタル庁」を創設することを検討している、と話しました。さらにその流れで、コロナ収束までの時限的措置として特例的に規制を緩和しているオンライン診療について恒久化すると語り、「いろんな抵抗があることはわかっているが、思い切ってやった方がいい」と力説しています。“いろんな抵抗”とは、もちろん日本医師会(日医)を指していることは、誰の目にも明らかです。2016年未来投資会議の安倍氏発言がきっかけオンライン診療は、元々は安倍 晋三首相の2016年の未来投資会議の発言がきっかけとなって診療報酬の中に位置づけられた制度です。その経緯を簡単におさらいしておきましょう。2016年11月の第2回未来投資会議において、安倍首相は「ビッグデータや人工知能を最大限活用して『遠隔診療』や『予防・健康管理』を推進する」旨の発言をしました。これを受け、2017年6月には「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太方針)、「未来投資戦略2017」、「規制改革実施計画」が閣議決定され、遠隔診療推進の内容が盛り込まれ、遠隔診療推進の流れが本格化しました。その後、社会保障審議会、中央社会保険医療協議会(以下、中医協)の議論を経て、2018年度診療報酬改定での「オンライン診療(オンライン診療料、オンライン医学管理料の算定」の導入につながりました。しかし、2018年に制度化はされたものの、2020年までオンライン診療はそれほど進みませんでした。さまざまな理由が考えられますが、対面診療に比べて診療報酬が低いことや、算定対象が少なかったことなどが主なものとして挙げられます。そこには、2018年の診療報酬改定における制度設計の段階から、「医療は対面診療が原則」と強硬に主張し、一貫して慎重姿勢(つまりは反対)を貫いてきた日医の存在がありました。コロナで初診からオンライン診療が可能にところが、2020年に入ると新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、状況は一変します。2月以降、3度にわたって特例措置が発出され、医療機関受診が難しくなった患者への配慮として、オンライン診療の時限的・特例的な活用が認められたのです。最大の規制緩和は、感染拡大が進んだ4月10日、厚労省より発出された事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」によるものです。これによって、医師の判断により、初診からオンライン診療が可能になりました。対象疾患の制限もありません。この事務連絡に至るまでには紆余曲折がありました。政府と厚生労働省、日医の間での綱引きが繰り広げられたのです。3月31日の経済財政諮問会議で安倍首相がオンライン診療を拡大するよう指示しました。これを受けて、厚労省は4月2日の検討会で、限定的に初診対面原則を緩和する案を示しました。しかし、政府の規制改革推進会議が「危機的な状況なのに、いろいろなところに配慮して、なかなかクリアカットな施策が出てこない」と批判、一層の規制緩和を求めました。その結果、4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」には「初診も含め、電話や情報通信機器で医療機関へアクセスし、適切な対応が受けられる仕組みを整備する」方針が盛り込まれ、「全面解禁」の事務連絡となったのです。つまり、オンライン診療は2018年の診療報酬改定で枠組みができ、日医に配慮する形で少しずつ対象拡大をしてきたものの活用に制限があったところを、新型コロナウイルス感染拡大という緊急事態を背景に厚労省と日医の反対を押し切る形で、時限的とはいえ初診対面原則が撤廃されたのです。2020年9月16日現在も「初診・再診可能」「対象疾患制限なし」の「特例的オンライン診療」はまだ認められている状態です。「事態が収まり次第、対面診療に戻すべき」と日医4月7日の閣議決定に、当然ながら日医はよい顔をしませんでした。閣議決定後の定例記者会見で松本 吉郎常任理事は、全くの初診からのオンライン診療の実施は、情報のない中での問診と視診だけの診断や処方となるため、大変危険であると主張してきたことを改めて説明した上で、「今回の措置は、この非常事態の下、患者や医療従事者の感染を防止し、地域医療の崩壊を避けるための特例中の特例であり、例外中の例外である」として、「事態が収まり次第、速やかに、通常の診療である対面診療に戻し、安全で安心できる医療の本来の姿を取り戻すべき」と話しました。また、6月に新しく日医会長になった中川 俊男氏も7月9日に行った就任後初の記者会見で、オンライン診療について、「企業の戦略として進めるのではなく、患者も、医師も、少しでも納得感を得ながら、ゆっくり拡大していくのがあるべき姿だ」と改めて慎重姿勢を示しました。原則対面診療を主張する日医がその根拠とするのは医師法20条の規定です。同条は「医師は、自ら診察しないで治療や処方箋を出してはならない」と定めています。これを踏まえ「医療の大原則は医師と患者の信頼関係に基づく対面診療にあり、オンライン診療はあくまでも対面診療の補完である」と主張してきたわけです。もっとも、日医会員にはITに疎い中高年の診療所院長が多いことから、若手医師たちに患者を奪われることを恐れての反対、と見る向きも一部にはあるようです。成長戦略にも位置づけられる時限的・特例的な取り扱いによる「特例的オンライン診療」が、感染収束後も「新しい生活様式」の中で定着していくかどうかは、今後改めて議論を進める予定でしたが、菅総理大臣の誕生によって「特例的ではなくなる」公算が高くなってきました。2020年7月3日に開かれた未来投資会議では、オンライン医療の積極的な活用が成長戦略の中にも明確に位置づけられています。とくに新型コロナウイルス感染症の感染拡大による時限的措置は、検証の絶好の機会と捉えられており、オンライン診療の有効性・安全性等に係るデータの収集、事例の実態把握を進めて検証を進め、その結果に基づいて、ガイドラインを定期的に見直すとともに、安全性・有効性が確認された疾患については、オンライン診療料の対象への追加を検討するとしています。今後、菅総理大臣の指示いかんでは、「対象への追加」ではなく、今の時限的・特例的な取扱いを恒久化する可能性が出てきたわけです。菅氏が日医に放った“刺客”ところで、オンライン診療における厚労省の担当部署は、厚労省の医政局医事課です。その医政局長にこの8月、医系技官の迫井 正深氏が就任しました。迫井氏は保険局医療課企画官、老健局老人保健課長、医政局地域医療計画課長、保険局医療課長などを歴任した医系技官のエース中のエース。診療報酬改定や医療計画、地域医療構想など、病院の経営に関係する重要政策をとりまとめてきました。当然、歴代の日医執行部とも丁々発止の議論を行ってきたに違いありません。前回書いた、公立・公的病院リストラも地域医療構想とも関連するので医政局マターです。そう考えると、迫井氏は、“いろんな抵抗”のうちの最大勢力である日医に対し、菅氏が放つ“刺客”という見方ができるかもしれません。菅氏は総務大臣のときに自らが肝いりで創設したふるさと納税の制度について、異論を述べる官僚を更迭した、との報道もありました。また、今回の厚労省の幹部人事の背景には、新型コロナウイルス感染症への諸々の対応に対する官邸の不満があったとも言われています。9月13日に放送されたフジテレビの報道番組で菅氏は「方向を決定したのに反対するんであれば、(その官僚は)異動してもらう」と話し、中央省庁の幹部人事を決める内閣人事局という仕組みに修正すべき点はない、と明言しました。菅総理大臣が、厚労省幹部をどう掌握し、“抵抗勢力”日医と対峙していくのか。その戦いの行方が気になります。

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長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」【下平博士のDIノート】第58回

長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」今回は、「アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合錠(商品名:キャブピリン配合錠、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、アスピリンとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を配合することで、胃・十二指腸潰瘍の再発低減と服薬負担の軽減によるアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA]、脳梗塞)、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限られます。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(アスピリン/ボノプラザンとして100mg/10mg)を経口投与します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象431例中73例(16.9%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘8例(1.9%)、高血圧、下痢、末梢性浮腫各3例(0.7%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、剥脱性皮膚炎、ショック、アナフィラキシー、脳出血などの頭蓋内出血、肺出血、消化管出血、鼻出血、眼底出血など、喘息発作、肝機能障害、黄疸、消化性潰瘍、小腸・大腸潰瘍(いずれも頻度不明)が発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血小板の働きを抑えて血液が固まるのを防ぐことで、血栓や塞栓の再形成を予防します。長期服用によって胃潰瘍・十二指腸潰瘍が再発しないよう、胃酸を抑える薬も併せて配合されています。2.解熱鎮痛薬や風邪薬で喘息を起こしたことのある方、出産予定日12週以内の妊婦は使用できません。3.割ったり砕いたりせず、噛まずにそのまま服用してください。4.手術や抜歯など出血が伴う処置を行う場合は、医師に必ず本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>本剤は、低用量アスピリンとPPIの配合剤であり、アスピリン/ランソプラゾール配合錠(商品名:タケルダ)に次ぐ2剤目の薬剤です。虚血性心疾患、脳血管疾患による血栓・塞栓形成抑制には、アスピリンなどの抗血小板薬投与が有効であり、国内外の診療ガイドラインで推奨されています。しかし、アスピリンの長期投与によって消化性潰瘍が発症・再発することから、低用量アスピリン療法時には原則としてPPIが併用されます。この際に併用できるPPIとしては、ランソプラゾール(同:タケプロン)、ラベプラゾール(同:パリエット)、エソメプラゾール(同:ネキシウム)、ボノプラザン(同:タケキャブ)があります。PPI併用の低用量アスピリン投与による消化性潰瘍発生に対する予防効果については、国内第III相試験(OCT-302試験)の副次評価項目として調べられています。胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往のある患者にアスピリン100mgを投与した後の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発率は、投与12、24、52、76、104週後において、ランソプラゾール15mg併用群ではそれぞれ0.9%、2.8%、2.8%、3.3%、3.3%であったのに対し、ボノプラザン10mg併用群ではいずれも0.5%であり、ボノプラザン併用群で有意に低下していました(p=0.039)。本剤は、アスピリンを含む腸溶性の内核錠を、ボノプラザンを含む外層が包み込んだ構造となっているため、噛まずにそのまま服用する必要があります。本剤の適応には、「胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る」という制限がありますが、現在消化性潰瘍を治療中の患者さんには禁忌となっているので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 キャブピリン配合錠

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COVID-19重症化への分かれ道、カギを握るのは「血管」

 COVID-19を巡っては、さまざまなエビデンスが日々蓄積されつつある。国内外における論文発表も膨大な数に上るが、時の検証を待つ猶予はなく、「現段階では」と前置きしつつ、その時点における最善策をトライアンドエラーで推し進めていくしかない。日本高血圧学会が8月29日に開催したwebシンポジウム「高血圧×COVID-19白熱みらい討論」では、高血圧治療に取り組むパネリストらが最新知見を踏まえた“new normal”の治療の在り方について活発な議論を交わした。高血圧はCOVID-19重症化リスク因子か パネリストの田中 正巳氏(慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)は、高血圧とCOVID-19 重篤化の関係について、米・中・伊から報告された計9本の研究論文のレビュー結果を紹介した。論文は、いずれも同国におけるCOVID-19患者と年齢を一致させた一般人口の高血圧有病率を比較したもの。それによると、重症例においては軽症例と比べて高血圧の有病率が高く、死亡例でも生存例と比べて有病率が高いとの報告が多かったという。ただし、検討した論文9本(すべて観察研究)のうち7本は単変量解析の結果であり、交絡因子で調整した多変量解析でもリスクと示されたのは2本に留まり、ほか2本では高血圧による重症化リスクは多変量解析で否定されている。田中氏は、「今回のレビューについて見るかぎりでは、高血圧がCOVID-19患者の重症化リスクであることを示す明確な疫学的エビデンスはないと結論される」と述べた。 一方で、米国疾病予防管理センター(CDC)が6月25日、COVID-19感染時の重症化リスクに関するガイドラインを更新し、高血圧が重症化リスクの一因であることが明示された。これについて、パネリストの浅山 敬氏(帝京大学医学部衛生学公衆衛生学講座)は、「ガイドラインを詳細に見ると、“mixed evidence(異なる結論を示す論文が混在)”とある。つまり、改訂の根拠となった文献は、いずれも高血圧の有病率を算出したり、その粗結果を統合(メタアナリシス)したりしているが、多変量解析で明らかに有意との報告はない」と説明。その上で、「現時点では高血圧そのものが重症化リスクを高めるというエビデンスは乏しい。ただし、高血圧患者には高齢者が多く、明らかなリスク因子を有する者も多い。そうした点で、高血圧患者には十分な注意が必要」と述べた。降圧薬は感染リスクを高めるのか 高血圧治療を行う上で、降圧薬(ACE阻害薬、ARB)の使用とCOVID-19との関係が注目されている。山本 浩一氏(大阪大学医学部老年・腎臓内科学)によれば、SARS-CoV-2は気道や腸管等のACE2発現細胞を介して生体内に侵入することが明らかになっている。山本氏は、「これまでの研究では、COVID-19の病態モデルにおいてACE2活性が低下し、RA系阻害薬がそれを回復させることが報告されている。ACE2の多面的作用に注目すべき」と述べた。これに関連し、パネリストの岸 拓弥氏(国際医療福祉大学大学院医学研究科)が国外の研究結果を紹介。それによると、イタリアの臨床研究1)ではRA系阻害薬を含むその他の降圧薬(Ca拮抗薬、β遮断薬、利尿薬全般)について、性別や年齢で調整しても大きな影響は見られないという。一方、ニューヨークからの報告2)でも同様に感染・重症化リスクを増悪させていない。岸氏は、「これらのエビデンスを踏まえると、現状の後ろ向き研究ではあるが、RA系阻害薬や降圧薬の使用は問題ない」との認識を示した。COVID-19重症化の陰に「血栓」の存在 パネリストの茂木 正樹氏(愛媛大学大学院医学系研究科薬理学)は、COVID-19が心血管系に及ぼす影響について解説した。COVID-19の主な合併症として挙げられるのは、静脈血栓症、急性虚血性障害、脳梗塞、心筋障害、川崎病様症候群、サイトカイン放出症候群などである。SARS-CoV-2はサイトカインストームにより炎症細胞の過活性化を起こし、正常な細胞への攻撃、さらには間接的に血管内皮を傷害する。ウイルスが直接内皮細胞に侵入し、内皮の炎症(線溶系低下、トロンビン産生増加)、アポトーシスにより血栓が誘導されると考えられる。また、SARS-CoV-2は血小板活性を増強することも報告されている。こうした要因が重ることで血栓が誘導され、虚血性臓器障害を起こすと考えられる。 さらに、SARS-CoV-2は直接心筋へ感染し、心筋炎を誘導する可能性や、免疫反応のひとつで、初期感染の封じ込めに役立つ血栓形成(immnothoronbosis)の制御不全による血管閉塞を生じさせる可能性があるという。とくに高血圧患者においては、血管内細胞のウイルスによる障害のほかに、ベースとして内皮細胞の障害がある場合があり、さらに血栓が誘導されやすいと考えられるという。茂木氏は、「もともと高血圧があり、血管年齢が高い場合には、ただでさえ血栓が起こりやすい。そこにウイルス感染があればリスクは高まる。もちろん、高血圧だけでなく動脈硬化がどれだけ進行しているかを調べることが肝要」と述べた。 パネリストの星出 聡氏(自治医科大学循環器内科)は、COVID-19によって引き起こされる心血管疾患の間接的要因に言及。自粛による活動度の低下、受診率の低下、治療の延期などにより、持病の悪化、院外死の増加、治療の遅れにつながっていると指摘。とくに高齢者が多い地域では、感染防止に対する意識が強く、自主的に外出を控えるようになっていた。その結果、血圧のコントロールが悪くなり、LVEFの保たれた心不全(HFpEF、LVEF 50%以上と定義)が増えたほか、血圧の薬を1日でも長く延ばそうと服用頻度を1日おきに減らしたことで血圧が上がり、脳卒中になったケースも少なくなかったという。星出氏は、「今後の心血管疾患治療を考えるうえで、日本においてはCOVID-19がもたらす間接的要因にどう対処するかが非常に大きな問題」と指摘した。

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第23回 インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始

<先週の動き>1.インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始2.「厚労省では対応しきれない」菅官房長官が組織再編に言及3.中医協、2年後の診療報酬改定に向けた調査概要が定まる4.薬剤師の需給調査、2045年まで25年間の推計を実施5.医療・介護ビッグデータの外部提供について、ガイドライン整備が進む1.インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始厚生労働省は、10日に「第40回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会」「第46回厚生科学審議会感染症部会」を開催した。新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に備えるため、65歳以上の方と定期接種の対象者については10月1日からインフルエンザワクチン接種を開始し、それ以外の人は10月26日から開始する方針とした。定期接種には、65才以上の高齢者のほか、60歳から65歳未満の慢性高度心・腎・呼吸器機能不全者なども含まれる。加藤 勝信厚生労働大臣は、閣議後の記者会見にて、今年は過去5年で最大量(最大約6,300万人分)のワクチンを供給予定だと明らかにした。10月26日以降、任意接種となっている医療従事者や基礎疾患を有する方、妊婦、生後6ヵ月〜小学校2年生なども接種可能となる。(参考)季節性インフルエンザワクチン接種時期ご協力のお願い(厚労省)次のインフルエンザ流行に備えた体制整備(同)2.「厚労省では対応しきれない」菅官房長官が組織再編に言及14日の自民党総裁選に出馬した菅義偉官房長官は、6日に新聞インタビューに答え、その中で厚労省の再編について言及した。「新型コロナウイルスは厚労省(だけ)ではとても対応できない大きな問題だ」と述べ、コロナが収束した後に、組織のあり方について検証を行いたいとした。これに対し、加藤厚生労働相も「政府の組織の形は、状況に応じ変わっていくべき」とし、2001年に発足した厚生省・労働省統合のメリットを活かしつつ、今後の課題とすることに否定はしなかった。(参考)菅氏、厚労省再編に意欲 デジタル庁創設検討…総裁選あす告示(読売新聞)3.中医協、2年後の診療報酬改定に向けた調査概要が定まる厚労省は、2年後の診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会による「第1回 入院医療等の調査・評価分科会」を10日にオンラインで開催した。中医協総会に今年提出された「令和2年度診療報酬改定に係る答申書附帯意見」に基づいて、診療報酬改定の効果を検証・調査し、適切な評価の在り方について引き続き検討する。(参考)第1回 入院医療等の調査・評価分科会「令和2年度入院医療等の調査について」(厚労省)4.薬剤師の需給調査、2045年まで25年間の推計を実施厚労省は、11日に「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」を開催した。今後数年間は、薬剤師の需要と供給が均衡の状況が続くが、長期的に見ると、供給が需要を上回ることが見込まれている。さらにAIの導入、IT化、機械化などによって薬剤師の業務も変わっていくこと、将来の医療需要などの変化を含めて、今後の薬剤師の需給を検討するため、全国の薬剤師総数のほか、地域別の薬剤師数などについて調査し、2045年まで25年間の推計を行う方針を固めた。(参考)第2回 薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 資料5.医療・介護ビッグデータの外部提供について、ガイドライン整備が進む11日、厚労省保険局「レセプト情報等の提供に関する有識者会議審査分科会」と、老健局「要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議」がそれぞれ開催された。今年10月1日に施行される改正介護保険法により、介護保険総合データベースシステムに格納されたデータについて、第三者提供が可能となる。これに先立ち、「匿名要介護認定情報・匿名介護レセプト等情報の提供に関するガイドライン(案)」が了承された。すでに、研究目的などでのDPCやレセプト情報の外部提供については、非公開・審査の上、承諾されている。情報の提供に際して、これまで設けられていなかった手数料のほか、研究成果の公表後、原則として3ヵ月以内に厚労省へ実績報告が求められることとなった。(参考)医療・介護データの連結等に関する今後のスケジュールについて(厚労省)要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議(第10回)資料(同)第25回 レセプト情報等の提供に関する有識者会議審査分科会 資料(同)

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第23回 総裁選の劣勢報道に埋もれた石破・岸田両氏の有望政策とは?

安倍首相の辞任表明により、次期首相の座とイコールになる自民党総裁選が9月8日に告示された。立候補を表明したのは菅 義偉官房長官、石破 茂元自民党幹事長、岸田 文雄自民党政調会長の3氏。既に各種報道では菅官房長官の圧倒的優勢が伝えられ、もはや出来レースの感も強いが、ここはちょっと踏みとどまって考えたい。私の友人で選挙ウォッチャーとしても名高いフリーライターの畠山 理仁氏は、一見、泡沫とみられる候補(畠山氏は候補者すべてに敬意を払うという意味で「無頼派候補」と呼ぶ)が掲げる政策の中にも、きらりと光る面白いアイデアがあり、中には意識的か無意識的かは分からないが、当選した候補がこうした泡沫候補(畠山氏には申し訳ないが一般的にはこの方が分かりやすいので)の目玉政策を拝借して実行に移すこともあると主張する。そうした畠山氏の主張が詰まった著作で開高健ノンフィクション賞を受賞した「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」(集英社)を読んで以来、私は必ず選挙公報ではすべての候補の政策に目を通すようにしている。前置きが長くなったが、その意味で今回の3氏についても掲げる政策を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、社会保障に関する政策に絞り、独断と偏見ながら私が気になった点を取り上げたい。その意味ではここで掲げる評価は私個人の評価に過ぎない。なお取り上げる順番は私なりに「公平性」を期し、メディアでの露出が少ない、敢えて劣勢と伝わる順番(支持派閥の所属議員が少ない順)としたい。石破氏の「納得」政策で気になる3点先行は「納得と共感」を掲げる石破氏の政策である。新型コロナ対策で気になった点は3つだ。まず、感染症対策として「内閣官房に専任の専門職員からなる司令塔組織を創設」を謳っている。いわばこれまでちまたで言われている日本版CDCの超縮小型組織を内閣直下に設けるというもの。構想自体は悪くはないと思うが、人選次第でこうした組織がどうにでもなってしまうという点では、顔の見えない官僚が主力であったとしてもかなり厳格な人選が必要と考える。また、迅速な感染症対策としての専門性、継続性などを考えると、日本型官公庁の慣例である人事異動が馴染まない。この点をどのように克服するかも実現する際のキーになると感じる。一方、「PCR検査の抜本的拡充」と訴えているが、安倍首相の辞任表明会見で掲げた抗原検査も含めた1日最大20万件の検査能力に対する是非が不明である。そもそも秋以降、インフルエンザとの同時流行を想定した場合でも、私個人はインフルエンザワクチン接種の呼びかけ徹底、現在の新型コロナ抗原検査、インフルエンザ迅速検査、発症3日以上の症状継続を境とする臨床診断を組み合わせることで、PCR検査は最低限に抑えられると考えており、安倍首相が掲げた20万件も必要はないと思っている。その意味では石破氏のスタンスが、一部の「識者」が声高に叫ぶ、PCR検査拡大路線に影響されていないかは気になるところだ。また、「コロナうつや認知症の発症・進行、 フレイルから守るための日常生活のガイドラインを策定・周知」というのはやや驚いた。内容的にはポピュリズムを感じないわけでもない。ただ、石破氏には叱られそうだが「フレイルという言葉を知っていたんだ」という新鮮な驚きである。社会保障政策で大きく掲げているお題目は「安心と納得で現役世代・高齢世代が支え合い持続可能な社会保障制度を確立」である。私としては「現役世代・高齢世代が支え合い」が響く。従来からの社会保障制度の議論で言われる「高齢者一人を現役世代◯人で支える」的な財務省の資料などにややイラっとしてしまうからだ。既に平均寿命も健康寿命も延伸し、さらに高齢者比率が3割を超える今、「高齢者=一方的社会保障制度の受益者」的な考えは、脳内にカビが生えた考え方だと思っている。もちろん高齢になれば基礎疾患も増え、体力的にも衰えるので社会保障制度からの受益が増えるのはやむを得ない。ただ、今までの考え方では、社会全体が高齢者に活躍の場を用意しなくなる。その意味でこのお題目の下、「働きながら年金を受給でき、働き方に応じ、個人の意思で受給開始年齢を選択できる年金制度を実現」という政策を掲げているのは個人的には高評価である。その一方で、「保険外併用療養の活用で医療を活性化」と唱えている点については、有象無象の怪しい輩が湧いてきかねないので反対である。岸田氏の正当さと強制感そして2番手が「分断から協調へ」を掲げる岸田氏の政策だが、コロナ対策で私が“おっ”と感じたのは、「秋冬のインフルエンザ流行期に備え、インフルエンザワクチンの確保、無料での接種、検査体制の強化」と掲げている点である。まさか、本コラムの読者に「インフルエンザ対策は新型コロナ対策ではない」などという方はいらっしゃらないと思う。まず、今秋以降はインフルエンザの流行を最小限にすることが、新型コロナとの鑑別を含めた医療機関の負荷を下げることになる。その意味でインフルエンザワクチン接種の無償化は、どこぞの去る人が決めたマスク配布よりはるかに有効な公費投入の在り方と考える。ただ、「行政検査の枠外の PCR 検査を拡充し、必要に応じて柔軟に低負担で PCR 検査を受けられるようにします」というのは、石破氏と同じく安直なポピュリズムのように感じてしまう。また、社会保障制度全般に関しては「活力ある健康長寿社会へ ~世界に誇る国民皆保険の維持」と掲げ、「社会保障制度における縦割りの是正、民間活力の導入、デジタル技術やデータの活用による新しい予防・医療・介護、年金、地域や利用者の視点を踏まえた支えられる側から支える側を増やす徹底的な環境整備、子育て支援の充実などを通じて、活力ある健康長寿社会を実現し、持続可能な社会保障制度を構築」と訴えている。この中で「支えられる側から支える側を増やす徹底的な環境整備」はまさに石破氏が掲げた「支え合い」に近いものを感じるが、“増やす”や“徹底的な環境整備”とのキーワードにやや強制感があり、不安を覚えるところ。また、子育て支援の充実などと関連して、別の項目で「不妊治療への支援や育児休業の拡充などの『少子化対策』」と主張している。この中の不妊治療への支援は、少子化対策でよく出てくるキーワードだが、なんとなく深く考えずに付け加えているコピペ感が否めない。というのも、そもそも不妊治療の成否は、やはり年齢が鍵になり、世界的に見ると不妊治療を受けている人の中で40代は10~20%台だが、日本では40%超と突出している現実があり、こうした場合の支援をどうするかはより真剣に議論しなければならない問題だからだ。抽象的すぎて要約しづらい菅氏の政策さて最後は本命の菅官房長官の政策である。まず、新型コロナ対策は以下である。「爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守ります。その上で、感染対策と経済活動との両立を図ります。年初以来の新型コロナ対策の経験をいかし、メリハリの利いた感染対策を行いつつ、検査体制を拡充し、必要な医療体制を確保し、来年前半までに全国民分のワクチンの確保を目指します」官僚答弁ならば100点満点かもしれない。だが、日本を率いる首相になろうとする人としてはいささか物足りない。「メリハリの利いた感染対策」「検査体制の拡充」が何を意味するのかは分からない。次いで社会保障制度全般である。「人生100年時代の中で、全世代の誰もが安心できる社会保障制度を構築します。これまで、幼稚園・保育園、大学・専門学校の無償化、男性の国家公務員による最低一ヵ月の育休取得などを進めてきました。今後、出産を希望する世帯を支援するために不妊治療の支援拡大を行い、さらに、保育サービスを拡充し、長年の待機児童問題を終わらせて、安心して子どもを生み育てられる環境、女性が活躍できる環境を実現します。これまでのしがらみを排して制度の非効率・不公平を是正し、次世代に安心の社会保障制度を引き継げるよう改革に取り組みます」不妊治療に関しては岸田氏への点で触れたとおり。「しがらみを排して制度の非効率・不公平を是正」とあるが、制度の非効率・不公平とは具体的に何なのかの言及がない。それを言うのは語弊があるとするなら、“非効率”や“不公平”という言葉は使わずに、それを是正する具体策を提示してもらえないと一般人には伝わらないのではないだろうか?この大雑把さは王者の余裕というべきか怠慢というべきか。ちなみにこの菅官房長官の項目を書くのに要した時間は、前者2人部分の合計の12分の1である。「菅官房長官だけ単なるコピペで手を抜いているだろう」という方もいるかもしれないが、そもそもコピペでもしないと、石破氏、岸田氏の政策について触れた文量に追い付くという公平性を確保できないのである。私に「手を抜いた」という批判はお門違いで、それを言いたければ、むしろ菅官房長官ご本人に言っていただきたい。3氏の中でうまい政策は…この3人をたい焼きに例えると、石破氏は全長1mであんこもいっぱい詰まったたい焼き、そのせいかしっぽの部分だけを食べてお腹いっぱい、岸田氏は見慣れた標準的なたい焼きで、頭から食べるとあんこも程よいが、尻尾までくるとあんこが足りなくなる、菅氏はちょっと大きめのあんこが余り詰まっていないたい焼き、そのため食べ始めると3口くらいで飽きてしまうという感じだろうか?このようにしてみるとこの3氏から内閣総理大臣が輩出される、「自民党総裁=内閣総理大臣」という構図は国民にとっては不都合が多いのが現実ではないだろうか。最後に毒吐きついでに言うと、8年弱の最長連続在職記録の安倍首相の後に菅首相が誕生するのは、個人的には業務用スープを使ってできた伸びたラーメンの後にパラパラ感のないべチャっとした水っぽいチャーハンが出てきたかのような残念感しかないのである。

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~プライマリ・ケアの疑問~ Dr.前野のスペシャリストにQ!【糖尿病・内分泌疾患編】

第1回 【糖尿病】初療時のコツ第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患 糖尿病、内分泌疾患に関する内科臨床医の疑問をスペシャリストとの対話で解決します!糖尿病については、心血管リスクを考慮した薬剤選択、非専門医が使うべきファーストチョイスなど10テーマをピックアップ。内分泌疾患については、甲状腺機能の異常などの頻繁に見る疾患だけでなく、コモンな症状に隠れている内分泌疾患をジェネラリストが見つけ治療するためのTIPSを解説します。ここでしか聞けない簡潔明解な対談で、スペシャリストの思考回路とテクニックを盗んでください!第1回 【糖尿病】初療時のコツ初回のテーマは、糖尿病の初療時に必ず確認すべき項目。初療のキモは2型糖尿病以外の疾患の除外、そして治療方針を決定するためのアセスメントです。HbA1cだけでなく、いくつかの項目を確認することでその後の治療がグッと効果的なものになります。ポイントを短時間で押さえていきましょう。第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?食事や運動の指導では血糖コントロールがつかず、薬物療法に移行するのは医者の敗北というのは過去の話。薬剤が進歩した現在は、早めに薬物療法を開始するほうがよいケースも多いのです。HbA1cと治療期間の目安を提示し、薬物療法に切り替えるタイミングを言い切ります。第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール今回は、血圧と脂質の目標値をズバリ言い切ります。血圧、脂質をはじめとした5項目をしっかりとコントロールすれば、糖尿病であっても健常人とさほど変わらない生命予後が期待できることがわかっています。2つの目標値を確実に押えて、診療をブラッシュアップしてください。第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス糖尿病治療薬は数多く、ガイドラインには”患者背景に合わせて選択する”と記述されていますが、実際に何を選べばいいか困惑しませんか? 今回は、プライマリケアで必要十分なファーストチョイスの1剤、セカンドチョイスの2剤をスペシャリストが伝授します。第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、心血管疾患等の合併がある糖尿病患者において、重要な位置付けの薬剤になっています。それぞれの薬剤の使用が推奨される患者像や、使用に際する注意点をコンパクトに解説。この2つの薬剤を押さえて糖尿病治療の常識をアップデートしてください。第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標高齢者の治療では、低血糖を防ぐことが何より重要。患者の予後とQOLを考慮した目標値を、ガイドラインから、そしてスペシャリストが使う超シンプルな方法の2点から伝授します。SU薬などの低血糖を生じやすい薬剤を使わざるを得ない場合の注意点や、認知症がある場合の治療のポイント、在宅で有用な薬剤など、高齢者の糖尿病治療の悩みを一気に解決します。第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理糖尿病の慢性合併症は、細小血管障害と、大血管障害に分けると、進展予防のためにコントロールすべき項目がわかりやすくなります。必要な検査の間隔と測定項目をパパっと解説します。とくに糖尿病性腎症の病期ごとの検査間隔は必ず押さえたいポイント。プライマリケアでできるタンパク制限やサルコペニア傾向の高齢者に対する指導も必見です。第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入いま、インスリンは早期に開始し、やめることもできる治療選択肢の1つです。ですが、これまでのイメージから、医師も患者も抵抗を感じることがあるかもしれません。今回は、外来で最も使いやすいBOTの取り入れ方、インスリン適応の判断と投与量、そして患者がインスリン治療に抵抗を示す場合の説明、専門医に紹介すべきタイミングといった、プライマリケアで導入する際に必要な知識をコンパクトに解説します。第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導外来での食事指導では、食品交換表を使った難しい指導が上手くいかないことは先生方も実感するところではないでしょうか。今回は短い時間でできる、一歩踏み込んだ食事指導のトピックを紹介します。「3つの”あ”に注意」、「20ダイエットの勧め」、「会席料理に倣った食べる順番」など、簡単で続けられる見込みのある指導方法を身に付けましょう。第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ40歳以上の約20%には甲状腺疾患があると知っていますか?内分泌疾患は実はコモンディジーズ。とはいえ、すべての患者で内分泌疾患を疑うのは効率的ではありません。今回は発熱や倦怠感といったありふれた症候から内分泌疾患を鑑別に挙げるためのポイントと、必要な検査項目を解説します。費用の観点からスクリーニング・精査と段階を分けて優先すべき検査項目を整理した情報は必見です。第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症甲状腺機能亢進症といえばまずバセドウ病が想起されますが、診断には亜急性や無痛性の甲状腺炎との鑑別が必要。内科でパッと実施できる信頼性の高い検査をズバリ伝授します。専門医も行っている方法かつプライマリケアでできる、無顆粒球症のフォローアップは必見です。第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧初診で高血圧患者を診るときは全例でPAC/PRAを測定してください!これは高血圧患者の5~10%といわれる原発性アルドステロン症を発見するための鍵になる検査。診断の目安となる値、そして外来で測定する際に頭を悩ませる体位についても専門医がクリアカットに解答します。そのほかに知っておくべきクッシング症候群と褐色細胞腫についてもコンパクトに解説します。第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症今回は生命に関わる内分泌緊急症4つ-甲状腺クリーゼ、副腎不全、高カルシウム血症クリーゼ、粘液水腫性昏睡を取り上げます。それぞれの疾患を疑うべき患者の特徴・対応・フォローをコンパクトに10分で解説。中でも、臨床的に副腎不全を疑うポイントは該当する患者も多いので必ず押さえたいところ。甲状腺クリーゼの初期対応も必ずチェックしてください!第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患繰り返す尿管結石やピロリ菌陰性の潰瘍は、内分泌疾患を疑う所見だと知っていましたか? 見落としやすい内分泌疾患TOP5、高カルシウム血症・低カルシウム血症・中枢性尿崩症・SIADH・先端巨大症を確実に発見するために、それぞれを疑うサインと検査項目を解説します。

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第23回 実は病院経営に詳しい菅氏。総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(前編)

「地方を大切にしたい」と菅官房長官こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。菅 義偉官房長官が自民党の総裁選に出馬することを正式に表明しました。記者会見では自らの叩き上げの人生(秋田の農家に生まれ、農業を継ぎたくなくて集団就職で上京、法政大学の夜間を卒業し、サラリーマンに…)について触れた後、「地方を大切にしたいという気持ちが脈々と流れており、活力ある地方をつくっていきたいとの思いを常に抱きながら政策を実行してきた」と語りました。次いで「私自身、国の基本というのは、自助、共助、公助であると思っております。自分でできることはまず自分でやってみる、そして、地域や自治体が助け合う。その上で、政府が責任をもって対応する」とも述べました。「自助、共助、公助」については菅氏の総裁選のキーワードのようで、9月5日に自身のブログで公表した政策の中でも「自助・共助・公助、そして絆」がスローガンに掲げられています。この記者会見を聞きながら、私は約40年前、仙台の大学に入った時の教養部のクラスオリエンテーションのことを思い出しました(東北新幹線開業前です)。右隣に秋田県の大館鳳鳴高校出身のS君が座っていました。彼が私に何か質問してくるのですが、何を言っているのかまったくわかりません。同じ東北弁でも県によって難易度が大きく異なり、秋田や青森は難しい部類に入ります。S君の話が普通に理解できるようになるのに数ヵ月かかりました(ちなみに私もS君たち東北人から「おめの名古屋弁もわがんね」とからかわれていました)。菅氏は秋田県の内陸、雄勝町(現在の湯沢市)出身とのことです。高校を出て上京(もちろん、東北新幹線も山形新幹線もない時代です)して直後は、おそらくコミュニケーションには相当苦労されたのではないでしょうか。上京後、半世紀を経ての、ほぼ訛りを感じさせない日々の会見は、ある意味、田舎から東京に出てきた東北人の意地を感じさせます。440公立・公的病院リストラリストの大元それはさておき、もし菅政権になったら、医療関係者はまずどんな政策を気にしなければならないでしょうか? 安倍政権の路線を踏襲した、「新型コロナウイルスの感染拡大防止と社会経済活動の両立を図る」方針については、「まあそうだろうなあ」と、とくに意外性はありません。では何か。第1に予想できるのは、「地方、都市部含めて、公立・公的病院の再編・統合が今まで以上に強硬かつ急速に進められるのではないか」ということです。なぜならば、菅氏こそが、今、全国各地で進められようとしている公立・公的病院改革の大元とも言える存在だからです。厚労省は昨年9月、急性期病床を持つ公立・公的病院のがん、心疾患などの診療実績を分析。全国と比較してとくに実績が少ないなどの424病院(2020年1月に約440病院に修正)のリストを公表し、全国の病院経営者や自治体の首長に大きな衝撃を与えました。この時、リスト公表とともに、急性期病床の規模縮小やリハビリ病床などへの転換などを含む地域の病院の再編・統合を各地で議論を行うことを要請し、今年9月までに結論を出すよう定めていました。「公立病院改革ガイドライン」を仕切った菅総務大臣このリストラリスト公表に至るきっかけとなったのが、2015年3月に出た「新公立病院改革ガイドライン」(平成27年3月31日 総財準第59号 総務省自治財政局長通知)です。「新」となっているのは、「旧」があるからです。最初の「公立病院改革ガイドライン」(平成19年12月24日 総財経第134号 総務省自治財政局長通知)が出されたのは2007年12月のことでした。2007年の旧ガイドラインは、2007年5月に開かれた経済財政諮問会議で菅総務大臣(第一次安倍内閣で初入閣)が公立病院改革に取り組むことを表明したことをきっかけに策定されました(12月の公表時は増田寛也総務大臣)。背景には医師不足や経営悪化にあえぐ公立病院がありました。なぜ、総務大臣が?と思われる方がいるかもしれませんが、公立病院は地方公共団体が経営する病院事業という位置づけであり、その管轄は厚生労働省ではなく、総務省の自治財政局準公営企業室だからです。「民間にできることは民間に」2007年の「旧ガイドライン」の大きなポイントは、公立病院の役割を「地域において提供されることが必要な医療のうち、採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供することにある」と定義、「民間にできることは民間に任せろ」としたことです。そのうえで「経営効率化」「再編・ネットワーク化」「経営形態見直し」の3つの柱を提示、病院を開設する地方公共団体に対して改革プランの策定を要請しました。この時は、「アメとムチ」とも言える政策も取られました。とくに、経営主体の統合や病床削減をするケースには、手厚い交付税措置が行われることになったため、苦境に陥っていた公立病院は、病院統合や病床削減を選択していきました。続く2015年の「新ガイドライン」では「旧ガイドライン」によっても進まなかった公立病院改革を、前述の3つの柱を維持しつつ、厚生労働省が主導する「地域医療構想」と連携させながら進めていくために策定されました。菅氏(この時は官房長官)がよく強調する「省庁の垣根を超えた政策」ということもできます。この「新ガイドライン」では、地方公共団体に新たに新公立病院改革プランの策定を求めるとともに、病院の再編・統合に当たっての都道府県の役割・責任の強化も行われています。なお、公立病院の改革プランと地域医療構想調整会議の合意事項との間に齟齬が生じた場合は改革プランの方を修正すること、となっており、地域医療構想の実現が最優先課題とされています。地域医療構想調整会議が各地で進んでいく中、「公立病院だけでなく公的病院も対象に加えろ」という議論の流れとなり、2018年6月には「経済財政運営と改革の基本方針2018」において「公立・公的病院については、地域の民間病院では担うことのできない高度急性期・急性期医療や不採算部門、過疎地等の医療等に重点化するよう医療機能を見直し、これを達成するために再編・統合の議論を進める」と明記されました。そして、1年3ヵ月後の2019年9月に424病院のリスト公表に至ったわけです。ちなみに公的病院とは、日赤・済生会・厚生連が開設する病院や、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人地域医療機能推進機構などの公的法人が開設する病院などのことです。再編・統合についての報告期限は延期にところで、厚生労働省は8月31日、「具体的対応方針の再検証等の期限について」と題する医政局長通知(医政発0831第3号)を各都道府県知事に発出、今年9月末までに結論を出すよう定めていた全国約440の公立・公的病院を対象とする再編・統合について、都道府県から国への報告期限を今年10月以降に延期することを通知しました。新型コロナウイルス感染症の影響で議論が進んでいないことや、7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」に「感染症への対応の視点も含めて、質が高く効率的で持続可能な医療提供体制の整備を進めるため、可能な限り早期に工程の具体化を図る」と、今後の再編・統合を考えるうえで「感染症への対応」を盛り込むことが明記されたことなどが理由と見られます。徹底的に効率化してなんとか生きながらえさせるこうした延期で、ひとまずほっとした病院や自治体も多いと思いますが、新しい総理大臣からどのような指示が飛ぶかが注目されます。菅氏は9月2日、異次元金融緩和に関して聞かれた際に「地方の銀行は将来的に多すぎる。再編も1つの選択肢になる」と語り、9月5日の日本経済新聞のインタビューに対しては、中小企業について「足腰を強くしないと立ちゆかなくなってしまう。中小の再編を必要であればできるような形にしたい」とこちらも統合・再編を促進する考えを述べています。これらは、公立・公的病院改革と全く同じロジックだと言えます。こう見てくると、菅氏が出馬会見で語った「地方を大切にしたいという気持ち」とは、「地方を今までのままで大切にしていく」ことではなく、地方のあらゆるリソースを「徹底的に効率化してなんとか生きながらえさせる」ことだということがわかります。病院経営者や自治体の首長も、そのことはしっかりと頭に入れておいた方がよさそうです。新政権が第2に進めるであろうことですが、今回は長くなり過ぎましたので、来週にもう少し考えてみたいと思います(この項続く)。

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卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版発刊

 日本婦人科腫瘍学会は、「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版」を8月31日に発刊した。5年ぶりの改訂となる2020年版には、妊孕性温存や漿液性卵管上皮内癌(STIC:Serous tubal intraepithelial carcinoma)、分子標的薬、PARP阻害薬などに関する新たな情報も追加され、手術療法、薬物療法のクリニカルクエスチョン(CQ)が大幅に更新された。そのほか、推奨の強さの表記は「推奨する」「提案する」に一新され、臨床現場ですぐに役立つ治療フローチャートや全45項のCQが収載されている。 三上 幹氏(日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会委員長)は本書の序文において、「日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会が2002年に設置され、初版の『卵巣がん治療ガイドライン2004年版』が発刊されて以降、子宮頸癌治療、外陰がん・膣がん治療など、さまざまなガイドラインが臨床の現場で活用されている。今回、『卵巣がん2015年版(第4版)』を5年の歳月を経て、名前を変更し『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版(第5版)』の発刊に至った。最初のガイドライン発刊より16年が経過しており、とても感慨深く感じる」とコメント。 さらに、「今回の改訂では、“Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017”にできる限り準拠して行うことを目標にした。そのポイントは、(1)作成委員として医師以外に看護師、薬剤師、患者、一般の方(女性・男性)が参加、(2)CQにPICO形式*を導入したこと、(3)推奨グレード・エビデンスの表現法を変更したこと、(4)エビデンス総体の考え方を導入したこと、(5)参考文献は研究デザインで分類したこと、(6)一部のCQについてSystematic Reviewを施行したこと、(7)各CQ・推奨について投票を行い、合意率を推奨の後に記載したこと」と述べている。*:P(patient・対象となる患者集団)、 I(Intervention・治療や検査などの介入 )、C(Comparison・比較となる介入)、 O(Outcome・介入による影響) 主な記載内容は以下のとおり。フローチャート1:卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療フローチャート2:再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療フローチャート3:上皮性境界悪性卵巣腫瘍の治療フローチャート4:悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療フローチャート5:性索間質性腫瘍の治療本ガイドラインにおける基本事項I 進行期分類・第1章 ガイドライン総説・第2章 卵巣癌・卵管癌・腹膜癌・第3章 再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌・第4章 上皮性境界悪性腫瘍・第5章 胚細胞腫瘍・第6章 性索間質性腫瘍・第7章 資料集II 略語一覧III 日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会業績IV 既刊の序文・委員一覧

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うつ症状に対する筋力の影響~メタ解析

 ポルトガル・リスボン大学のAdilson Marques氏らは、成人の筋力と抑うつ症状との関係をシステマティックにレビューし、メタ解析を実施した。また、筋力と抑うつ症状との関係における統合オッズ比(OR)を算出した。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2020年8月6日号の報告。 PRISMAガイドラインに従って、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。電子データベース(PubMed、Scopus、Web of Science)より、2019年12月までに発表された研究をシステマティックに検索した。包括基準は以下のとおりとした。(1)横断的研究、縦断的研究、介入研究、(2)アウトカムにうつ病または抑うつ症状を含む、(3)対象は成人および高齢者、(4)英語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語で発表された研究。 主な結果は以下のとおり。・21件の研究が抽出され、対象となったのは、26ヵ国の18歳以上の成人8万7,508例であった。・システマティックレビューにおいて、筋力は抑うつ症状リスクの低下に寄与することが示唆された。・メタ解析では、筋力と抑うつ症状との有意な逆相関が認められ、ORは0.85(95%CI:0.80~0.89)であった。 著者らは「筋力の向上を目的とした介入は、メンタルヘルスを改善し、うつ病を予防する可能性が示唆された。メンタルヘルス改善とうつ病予防の戦略に、筋力の評価と向上を用いることは可能である」としている。

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