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第23回 インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始

<先週の動き>1.インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始2.「厚労省では対応しきれない」菅官房長官が組織再編に言及3.中医協、2年後の診療報酬改定に向けた調査概要が定まる4.薬剤師の需給調査、2045年まで25年間の推計を実施5.医療・介護ビッグデータの外部提供について、ガイドライン整備が進む1.インフルエンザワクチン、来月1日から65歳以上の定期接種開始厚生労働省は、10日に「第40回 厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会」「第46回厚生科学審議会感染症部会」を開催した。新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に備えるため、65歳以上の方と定期接種の対象者については10月1日からインフルエンザワクチン接種を開始し、それ以外の人は10月26日から開始する方針とした。定期接種には、65才以上の高齢者のほか、60歳から65歳未満の慢性高度心・腎・呼吸器機能不全者なども含まれる。加藤 勝信厚生労働大臣は、閣議後の記者会見にて、今年は過去5年で最大量(最大約6,300万人分)のワクチンを供給予定だと明らかにした。10月26日以降、任意接種となっている医療従事者や基礎疾患を有する方、妊婦、生後6ヵ月〜小学校2年生なども接種可能となる。(参考)季節性インフルエンザワクチン接種時期ご協力のお願い(厚労省)次のインフルエンザ流行に備えた体制整備(同)2.「厚労省では対応しきれない」菅官房長官が組織再編に言及14日の自民党総裁選に出馬した菅義偉官房長官は、6日に新聞インタビューに答え、その中で厚労省の再編について言及した。「新型コロナウイルスは厚労省(だけ)ではとても対応できない大きな問題だ」と述べ、コロナが収束した後に、組織のあり方について検証を行いたいとした。これに対し、加藤厚生労働相も「政府の組織の形は、状況に応じ変わっていくべき」とし、2001年に発足した厚生省・労働省統合のメリットを活かしつつ、今後の課題とすることに否定はしなかった。(参考)菅氏、厚労省再編に意欲 デジタル庁創設検討…総裁選あす告示(読売新聞)3.中医協、2年後の診療報酬改定に向けた調査概要が定まる厚労省は、2年後の診療報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会による「第1回 入院医療等の調査・評価分科会」を10日にオンラインで開催した。中医協総会に今年提出された「令和2年度診療報酬改定に係る答申書附帯意見」に基づいて、診療報酬改定の効果を検証・調査し、適切な評価の在り方について引き続き検討する。(参考)第1回 入院医療等の調査・評価分科会「令和2年度入院医療等の調査について」(厚労省)4.薬剤師の需給調査、2045年まで25年間の推計を実施厚労省は、11日に「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」を開催した。今後数年間は、薬剤師の需要と供給が均衡の状況が続くが、長期的に見ると、供給が需要を上回ることが見込まれている。さらにAIの導入、IT化、機械化などによって薬剤師の業務も変わっていくこと、将来の医療需要などの変化を含めて、今後の薬剤師の需給を検討するため、全国の薬剤師総数のほか、地域別の薬剤師数などについて調査し、2045年まで25年間の推計を行う方針を固めた。(参考)第2回 薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会 資料5.医療・介護ビッグデータの外部提供について、ガイドライン整備が進む11日、厚労省保険局「レセプト情報等の提供に関する有識者会議審査分科会」と、老健局「要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議」がそれぞれ開催された。今年10月1日に施行される改正介護保険法により、介護保険総合データベースシステムに格納されたデータについて、第三者提供が可能となる。これに先立ち、「匿名要介護認定情報・匿名介護レセプト等情報の提供に関するガイドライン(案)」が了承された。すでに、研究目的などでのDPCやレセプト情報の外部提供については、非公開・審査の上、承諾されている。情報の提供に際して、これまで設けられていなかった手数料のほか、研究成果の公表後、原則として3ヵ月以内に厚労省へ実績報告が求められることとなった。(参考)医療・介護データの連結等に関する今後のスケジュールについて(厚労省)要介護認定情報・介護レセプト等情報の提供に関する有識者会議(第10回)資料(同)第25回 レセプト情報等の提供に関する有識者会議審査分科会 資料(同)

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第23回 総裁選の劣勢報道に埋もれた石破・岸田両氏の有望政策とは?

安倍首相の辞任表明により、次期首相の座とイコールになる自民党総裁選が9月8日に告示された。立候補を表明したのは菅 義偉官房長官、石破 茂元自民党幹事長、岸田 文雄自民党政調会長の3氏。既に各種報道では菅官房長官の圧倒的優勢が伝えられ、もはや出来レースの感も強いが、ここはちょっと踏みとどまって考えたい。私の友人で選挙ウォッチャーとしても名高いフリーライターの畠山 理仁氏は、一見、泡沫とみられる候補(畠山氏は候補者すべてに敬意を払うという意味で「無頼派候補」と呼ぶ)が掲げる政策の中にも、きらりと光る面白いアイデアがあり、中には意識的か無意識的かは分からないが、当選した候補がこうした泡沫候補(畠山氏には申し訳ないが一般的にはこの方が分かりやすいので)の目玉政策を拝借して実行に移すこともあると主張する。そうした畠山氏の主張が詰まった著作で開高健ノンフィクション賞を受賞した「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」(集英社)を読んで以来、私は必ず選挙公報ではすべての候補の政策に目を通すようにしている。前置きが長くなったが、その意味で今回の3氏についても掲げる政策を新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、社会保障に関する政策に絞り、独断と偏見ながら私が気になった点を取り上げたい。その意味ではここで掲げる評価は私個人の評価に過ぎない。なお取り上げる順番は私なりに「公平性」を期し、メディアでの露出が少ない、敢えて劣勢と伝わる順番(支持派閥の所属議員が少ない順)としたい。石破氏の「納得」政策で気になる3点先行は「納得と共感」を掲げる石破氏の政策である。新型コロナ対策で気になった点は3つだ。まず、感染症対策として「内閣官房に専任の専門職員からなる司令塔組織を創設」を謳っている。いわばこれまでちまたで言われている日本版CDCの超縮小型組織を内閣直下に設けるというもの。構想自体は悪くはないと思うが、人選次第でこうした組織がどうにでもなってしまうという点では、顔の見えない官僚が主力であったとしてもかなり厳格な人選が必要と考える。また、迅速な感染症対策としての専門性、継続性などを考えると、日本型官公庁の慣例である人事異動が馴染まない。この点をどのように克服するかも実現する際のキーになると感じる。一方、「PCR検査の抜本的拡充」と訴えているが、安倍首相の辞任表明会見で掲げた抗原検査も含めた1日最大20万件の検査能力に対する是非が不明である。そもそも秋以降、インフルエンザとの同時流行を想定した場合でも、私個人はインフルエンザワクチン接種の呼びかけ徹底、現在の新型コロナ抗原検査、インフルエンザ迅速検査、発症3日以上の症状継続を境とする臨床診断を組み合わせることで、PCR検査は最低限に抑えられると考えており、安倍首相が掲げた20万件も必要はないと思っている。その意味では石破氏のスタンスが、一部の「識者」が声高に叫ぶ、PCR検査拡大路線に影響されていないかは気になるところだ。また、「コロナうつや認知症の発症・進行、 フレイルから守るための日常生活のガイドラインを策定・周知」というのはやや驚いた。内容的にはポピュリズムを感じないわけでもない。ただ、石破氏には叱られそうだが「フレイルという言葉を知っていたんだ」という新鮮な驚きである。社会保障政策で大きく掲げているお題目は「安心と納得で現役世代・高齢世代が支え合い持続可能な社会保障制度を確立」である。私としては「現役世代・高齢世代が支え合い」が響く。従来からの社会保障制度の議論で言われる「高齢者一人を現役世代◯人で支える」的な財務省の資料などにややイラっとしてしまうからだ。既に平均寿命も健康寿命も延伸し、さらに高齢者比率が3割を超える今、「高齢者=一方的社会保障制度の受益者」的な考えは、脳内にカビが生えた考え方だと思っている。もちろん高齢になれば基礎疾患も増え、体力的にも衰えるので社会保障制度からの受益が増えるのはやむを得ない。ただ、今までの考え方では、社会全体が高齢者に活躍の場を用意しなくなる。その意味でこのお題目の下、「働きながら年金を受給でき、働き方に応じ、個人の意思で受給開始年齢を選択できる年金制度を実現」という政策を掲げているのは個人的には高評価である。その一方で、「保険外併用療養の活用で医療を活性化」と唱えている点については、有象無象の怪しい輩が湧いてきかねないので反対である。岸田氏の正当さと強制感そして2番手が「分断から協調へ」を掲げる岸田氏の政策だが、コロナ対策で私が“おっ”と感じたのは、「秋冬のインフルエンザ流行期に備え、インフルエンザワクチンの確保、無料での接種、検査体制の強化」と掲げている点である。まさか、本コラムの読者に「インフルエンザ対策は新型コロナ対策ではない」などという方はいらっしゃらないと思う。まず、今秋以降はインフルエンザの流行を最小限にすることが、新型コロナとの鑑別を含めた医療機関の負荷を下げることになる。その意味でインフルエンザワクチン接種の無償化は、どこぞの去る人が決めたマスク配布よりはるかに有効な公費投入の在り方と考える。ただ、「行政検査の枠外の PCR 検査を拡充し、必要に応じて柔軟に低負担で PCR 検査を受けられるようにします」というのは、石破氏と同じく安直なポピュリズムのように感じてしまう。また、社会保障制度全般に関しては「活力ある健康長寿社会へ ~世界に誇る国民皆保険の維持」と掲げ、「社会保障制度における縦割りの是正、民間活力の導入、デジタル技術やデータの活用による新しい予防・医療・介護、年金、地域や利用者の視点を踏まえた支えられる側から支える側を増やす徹底的な環境整備、子育て支援の充実などを通じて、活力ある健康長寿社会を実現し、持続可能な社会保障制度を構築」と訴えている。この中で「支えられる側から支える側を増やす徹底的な環境整備」はまさに石破氏が掲げた「支え合い」に近いものを感じるが、“増やす”や“徹底的な環境整備”とのキーワードにやや強制感があり、不安を覚えるところ。また、子育て支援の充実などと関連して、別の項目で「不妊治療への支援や育児休業の拡充などの『少子化対策』」と主張している。この中の不妊治療への支援は、少子化対策でよく出てくるキーワードだが、なんとなく深く考えずに付け加えているコピペ感が否めない。というのも、そもそも不妊治療の成否は、やはり年齢が鍵になり、世界的に見ると不妊治療を受けている人の中で40代は10~20%台だが、日本では40%超と突出している現実があり、こうした場合の支援をどうするかはより真剣に議論しなければならない問題だからだ。抽象的すぎて要約しづらい菅氏の政策さて最後は本命の菅官房長官の政策である。まず、新型コロナ対策は以下である。「爆発的な感染は絶対に防ぎ、国民の命と健康を守ります。その上で、感染対策と経済活動との両立を図ります。年初以来の新型コロナ対策の経験をいかし、メリハリの利いた感染対策を行いつつ、検査体制を拡充し、必要な医療体制を確保し、来年前半までに全国民分のワクチンの確保を目指します」官僚答弁ならば100点満点かもしれない。だが、日本を率いる首相になろうとする人としてはいささか物足りない。「メリハリの利いた感染対策」「検査体制の拡充」が何を意味するのかは分からない。次いで社会保障制度全般である。「人生100年時代の中で、全世代の誰もが安心できる社会保障制度を構築します。これまで、幼稚園・保育園、大学・専門学校の無償化、男性の国家公務員による最低一ヵ月の育休取得などを進めてきました。今後、出産を希望する世帯を支援するために不妊治療の支援拡大を行い、さらに、保育サービスを拡充し、長年の待機児童問題を終わらせて、安心して子どもを生み育てられる環境、女性が活躍できる環境を実現します。これまでのしがらみを排して制度の非効率・不公平を是正し、次世代に安心の社会保障制度を引き継げるよう改革に取り組みます」不妊治療に関しては岸田氏への点で触れたとおり。「しがらみを排して制度の非効率・不公平を是正」とあるが、制度の非効率・不公平とは具体的に何なのかの言及がない。それを言うのは語弊があるとするなら、“非効率”や“不公平”という言葉は使わずに、それを是正する具体策を提示してもらえないと一般人には伝わらないのではないだろうか?この大雑把さは王者の余裕というべきか怠慢というべきか。ちなみにこの菅官房長官の項目を書くのに要した時間は、前者2人部分の合計の12分の1である。「菅官房長官だけ単なるコピペで手を抜いているだろう」という方もいるかもしれないが、そもそもコピペでもしないと、石破氏、岸田氏の政策について触れた文量に追い付くという公平性を確保できないのである。私に「手を抜いた」という批判はお門違いで、それを言いたければ、むしろ菅官房長官ご本人に言っていただきたい。3氏の中でうまい政策は…この3人をたい焼きに例えると、石破氏は全長1mであんこもいっぱい詰まったたい焼き、そのせいかしっぽの部分だけを食べてお腹いっぱい、岸田氏は見慣れた標準的なたい焼きで、頭から食べるとあんこも程よいが、尻尾までくるとあんこが足りなくなる、菅氏はちょっと大きめのあんこが余り詰まっていないたい焼き、そのため食べ始めると3口くらいで飽きてしまうという感じだろうか?このようにしてみるとこの3氏から内閣総理大臣が輩出される、「自民党総裁=内閣総理大臣」という構図は国民にとっては不都合が多いのが現実ではないだろうか。最後に毒吐きついでに言うと、8年弱の最長連続在職記録の安倍首相の後に菅首相が誕生するのは、個人的には業務用スープを使ってできた伸びたラーメンの後にパラパラ感のないべチャっとした水っぽいチャーハンが出てきたかのような残念感しかないのである。

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~プライマリ・ケアの疑問~ Dr.前野のスペシャリストにQ!【糖尿病・内分泌疾患編】

第1回 【糖尿病】初療時のコツ第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患 糖尿病、内分泌疾患に関する内科臨床医の疑問をスペシャリストとの対話で解決します!糖尿病については、心血管リスクを考慮した薬剤選択、非専門医が使うべきファーストチョイスなど10テーマをピックアップ。内分泌疾患については、甲状腺機能の異常などの頻繁に見る疾患だけでなく、コモンな症状に隠れている内分泌疾患をジェネラリストが見つけ治療するためのTIPSを解説します。ここでしか聞けない簡潔明解な対談で、スペシャリストの思考回路とテクニックを盗んでください!第1回 【糖尿病】初療時のコツ初回のテーマは、糖尿病の初療時に必ず確認すべき項目。初療のキモは2型糖尿病以外の疾患の除外、そして治療方針を決定するためのアセスメントです。HbA1cだけでなく、いくつかの項目を確認することでその後の治療がグッと効果的なものになります。ポイントを短時間で押さえていきましょう。第2回 【糖尿病】生活指導から薬物療法に切り替えるタイミングは?食事や運動の指導では血糖コントロールがつかず、薬物療法に移行するのは医者の敗北というのは過去の話。薬剤が進歩した現在は、早めに薬物療法を開始するほうがよいケースも多いのです。HbA1cと治療期間の目安を提示し、薬物療法に切り替えるタイミングを言い切ります。第3回 【糖尿病】糖尿病患者の血圧・脂質の管理目標と治療のゴール今回は、血圧と脂質の目標値をズバリ言い切ります。血圧、脂質をはじめとした5項目をしっかりとコントロールすれば、糖尿病であっても健常人とさほど変わらない生命予後が期待できることがわかっています。2つの目標値を確実に押えて、診療をブラッシュアップしてください。第4回 【糖尿病】内科で使うべき糖尿病薬のファーストチョイス糖尿病治療薬は数多く、ガイドラインには”患者背景に合わせて選択する”と記述されていますが、実際に何を選べばいいか困惑しませんか? 今回は、プライマリケアで必要十分なファーストチョイスの1剤、セカンドチョイスの2剤をスペシャリストが伝授します。第5回 【糖尿病】新規糖尿病薬の使い方SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、心血管疾患等の合併がある糖尿病患者において、重要な位置付けの薬剤になっています。それぞれの薬剤の使用が推奨される患者像や、使用に際する注意点をコンパクトに解説。この2つの薬剤を押さえて糖尿病治療の常識をアップデートしてください。第6回 【糖尿病】高齢者の治療目標高齢者の治療では、低血糖を防ぐことが何より重要。患者の予後とQOLを考慮した目標値を、ガイドラインから、そしてスペシャリストが使う超シンプルな方法の2点から伝授します。SU薬などの低血糖を生じやすい薬剤を使わざるを得ない場合の注意点や、認知症がある場合の治療のポイント、在宅で有用な薬剤など、高齢者の糖尿病治療の悩みを一気に解決します。第7回 【糖尿病】慢性合併症の管理糖尿病の慢性合併症は、細小血管障害と、大血管障害に分けると、進展予防のためにコントロールすべき項目がわかりやすくなります。必要な検査の間隔と測定項目をパパっと解説します。とくに糖尿病性腎症の病期ごとの検査間隔は必ず押さえたいポイント。プライマリケアでできるタンパク制限やサルコペニア傾向の高齢者に対する指導も必見です。第8回 【糖尿病】外来でのインスリン導入いま、インスリンは早期に開始し、やめることもできる治療選択肢の1つです。ですが、これまでのイメージから、医師も患者も抵抗を感じることがあるかもしれません。今回は、外来で最も使いやすいBOTの取り入れ方、インスリン適応の判断と投与量、そして患者がインスリン治療に抵抗を示す場合の説明、専門医に紹介すべきタイミングといった、プライマリケアで導入する際に必要な知識をコンパクトに解説します。第9回 【糖尿病】一歩進んだ外来食事指導外来での食事指導では、食品交換表を使った難しい指導が上手くいかないことは先生方も実感するところではないでしょうか。今回は短い時間でできる、一歩踏み込んだ食事指導のトピックを紹介します。「3つの”あ”に注意」、「20ダイエットの勧め」、「会席料理に倣った食べる順番」など、簡単で続けられる見込みのある指導方法を身に付けましょう。第10回 【内分泌疾患】内分泌疾患を見つけるコツ40歳以上の約20%には甲状腺疾患があると知っていますか?内分泌疾患は実はコモンディジーズ。とはいえ、すべての患者で内分泌疾患を疑うのは効率的ではありません。今回は発熱や倦怠感といったありふれた症候から内分泌疾患を鑑別に挙げるためのポイントと、必要な検査項目を解説します。費用の観点からスクリーニング・精査と段階を分けて優先すべき検査項目を整理した情報は必見です。第11回 【内分泌疾患】甲状腺機能亢進症・低下症甲状腺機能亢進症といえばまずバセドウ病が想起されますが、診断には亜急性や無痛性の甲状腺炎との鑑別が必要。内科でパッと実施できる信頼性の高い検査をズバリ伝授します。専門医も行っている方法かつプライマリケアでできる、無顆粒球症のフォローアップは必見です。第12回 【内分泌疾患】内分泌性高血圧初診で高血圧患者を診るときは全例でPAC/PRAを測定してください!これは高血圧患者の5~10%といわれる原発性アルドステロン症を発見するための鍵になる検査。診断の目安となる値、そして外来で測定する際に頭を悩ませる体位についても専門医がクリアカットに解答します。そのほかに知っておくべきクッシング症候群と褐色細胞腫についてもコンパクトに解説します。第13回 【内分泌疾患】内科医も知っておくべき内分泌緊急症今回は生命に関わる内分泌緊急症4つ-甲状腺クリーゼ、副腎不全、高カルシウム血症クリーゼ、粘液水腫性昏睡を取り上げます。それぞれの疾患を疑うべき患者の特徴・対応・フォローをコンパクトに10分で解説。中でも、臨床的に副腎不全を疑うポイントは該当する患者も多いので必ず押さえたいところ。甲状腺クリーゼの初期対応も必ずチェックしてください!第14回 【内分泌疾患】見落としやすい内分泌疾患繰り返す尿管結石やピロリ菌陰性の潰瘍は、内分泌疾患を疑う所見だと知っていましたか? 見落としやすい内分泌疾患TOP5、高カルシウム血症・低カルシウム血症・中枢性尿崩症・SIADH・先端巨大症を確実に発見するために、それぞれを疑うサインと検査項目を解説します。

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第23回 実は病院経営に詳しい菅氏。総理大臣になったらグイグイ推し進めるだろうこと(前編)

「地方を大切にしたい」と菅官房長官こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。菅 義偉官房長官が自民党の総裁選に出馬することを正式に表明しました。記者会見では自らの叩き上げの人生(秋田の農家に生まれ、農業を継ぎたくなくて集団就職で上京、法政大学の夜間を卒業し、サラリーマンに…)について触れた後、「地方を大切にしたいという気持ちが脈々と流れており、活力ある地方をつくっていきたいとの思いを常に抱きながら政策を実行してきた」と語りました。次いで「私自身、国の基本というのは、自助、共助、公助であると思っております。自分でできることはまず自分でやってみる、そして、地域や自治体が助け合う。その上で、政府が責任をもって対応する」とも述べました。「自助、共助、公助」については菅氏の総裁選のキーワードのようで、9月5日に自身のブログで公表した政策の中でも「自助・共助・公助、そして絆」がスローガンに掲げられています。この記者会見を聞きながら、私は約40年前、仙台の大学に入った時の教養部のクラスオリエンテーションのことを思い出しました(東北新幹線開業前です)。右隣に秋田県の大館鳳鳴高校出身のS君が座っていました。彼が私に何か質問してくるのですが、何を言っているのかまったくわかりません。同じ東北弁でも県によって難易度が大きく異なり、秋田や青森は難しい部類に入ります。S君の話が普通に理解できるようになるのに数ヵ月かかりました(ちなみに私もS君たち東北人から「おめの名古屋弁もわがんね」とからかわれていました)。菅氏は秋田県の内陸、雄勝町(現在の湯沢市)出身とのことです。高校を出て上京(もちろん、東北新幹線も山形新幹線もない時代です)して直後は、おそらくコミュニケーションには相当苦労されたのではないでしょうか。上京後、半世紀を経ての、ほぼ訛りを感じさせない日々の会見は、ある意味、田舎から東京に出てきた東北人の意地を感じさせます。440公立・公的病院リストラリストの大元それはさておき、もし菅政権になったら、医療関係者はまずどんな政策を気にしなければならないでしょうか? 安倍政権の路線を踏襲した、「新型コロナウイルスの感染拡大防止と社会経済活動の両立を図る」方針については、「まあそうだろうなあ」と、とくに意外性はありません。では何か。第1に予想できるのは、「地方、都市部含めて、公立・公的病院の再編・統合が今まで以上に強硬かつ急速に進められるのではないか」ということです。なぜならば、菅氏こそが、今、全国各地で進められようとしている公立・公的病院改革の大元とも言える存在だからです。厚労省は昨年9月、急性期病床を持つ公立・公的病院のがん、心疾患などの診療実績を分析。全国と比較してとくに実績が少ないなどの424病院(2020年1月に約440病院に修正)のリストを公表し、全国の病院経営者や自治体の首長に大きな衝撃を与えました。この時、リスト公表とともに、急性期病床の規模縮小やリハビリ病床などへの転換などを含む地域の病院の再編・統合を各地で議論を行うことを要請し、今年9月までに結論を出すよう定めていました。「公立病院改革ガイドライン」を仕切った菅総務大臣このリストラリスト公表に至るきっかけとなったのが、2015年3月に出た「新公立病院改革ガイドライン」(平成27年3月31日 総財準第59号 総務省自治財政局長通知)です。「新」となっているのは、「旧」があるからです。最初の「公立病院改革ガイドライン」(平成19年12月24日 総財経第134号 総務省自治財政局長通知)が出されたのは2007年12月のことでした。2007年の旧ガイドラインは、2007年5月に開かれた経済財政諮問会議で菅総務大臣(第一次安倍内閣で初入閣)が公立病院改革に取り組むことを表明したことをきっかけに策定されました(12月の公表時は増田寛也総務大臣)。背景には医師不足や経営悪化にあえぐ公立病院がありました。なぜ、総務大臣が?と思われる方がいるかもしれませんが、公立病院は地方公共団体が経営する病院事業という位置づけであり、その管轄は厚生労働省ではなく、総務省の自治財政局準公営企業室だからです。「民間にできることは民間に」2007年の「旧ガイドライン」の大きなポイントは、公立病院の役割を「地域において提供されることが必要な医療のうち、採算性等の面から民間医療機関による提供が困難な医療を提供することにある」と定義、「民間にできることは民間に任せろ」としたことです。そのうえで「経営効率化」「再編・ネットワーク化」「経営形態見直し」の3つの柱を提示、病院を開設する地方公共団体に対して改革プランの策定を要請しました。この時は、「アメとムチ」とも言える政策も取られました。とくに、経営主体の統合や病床削減をするケースには、手厚い交付税措置が行われることになったため、苦境に陥っていた公立病院は、病院統合や病床削減を選択していきました。続く2015年の「新ガイドライン」では「旧ガイドライン」によっても進まなかった公立病院改革を、前述の3つの柱を維持しつつ、厚生労働省が主導する「地域医療構想」と連携させながら進めていくために策定されました。菅氏(この時は官房長官)がよく強調する「省庁の垣根を超えた政策」ということもできます。この「新ガイドライン」では、地方公共団体に新たに新公立病院改革プランの策定を求めるとともに、病院の再編・統合に当たっての都道府県の役割・責任の強化も行われています。なお、公立病院の改革プランと地域医療構想調整会議の合意事項との間に齟齬が生じた場合は改革プランの方を修正すること、となっており、地域医療構想の実現が最優先課題とされています。地域医療構想調整会議が各地で進んでいく中、「公立病院だけでなく公的病院も対象に加えろ」という議論の流れとなり、2018年6月には「経済財政運営と改革の基本方針2018」において「公立・公的病院については、地域の民間病院では担うことのできない高度急性期・急性期医療や不採算部門、過疎地等の医療等に重点化するよう医療機能を見直し、これを達成するために再編・統合の議論を進める」と明記されました。そして、1年3ヵ月後の2019年9月に424病院のリスト公表に至ったわけです。ちなみに公的病院とは、日赤・済生会・厚生連が開設する病院や、独立行政法人国立病院機構、独立行政法人地域医療機能推進機構などの公的法人が開設する病院などのことです。再編・統合についての報告期限は延期にところで、厚生労働省は8月31日、「具体的対応方針の再検証等の期限について」と題する医政局長通知(医政発0831第3号)を各都道府県知事に発出、今年9月末までに結論を出すよう定めていた全国約440の公立・公的病院を対象とする再編・統合について、都道府県から国への報告期限を今年10月以降に延期することを通知しました。新型コロナウイルス感染症の影響で議論が進んでいないことや、7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」に「感染症への対応の視点も含めて、質が高く効率的で持続可能な医療提供体制の整備を進めるため、可能な限り早期に工程の具体化を図る」と、今後の再編・統合を考えるうえで「感染症への対応」を盛り込むことが明記されたことなどが理由と見られます。徹底的に効率化してなんとか生きながらえさせるこうした延期で、ひとまずほっとした病院や自治体も多いと思いますが、新しい総理大臣からどのような指示が飛ぶかが注目されます。菅氏は9月2日、異次元金融緩和に関して聞かれた際に「地方の銀行は将来的に多すぎる。再編も1つの選択肢になる」と語り、9月5日の日本経済新聞のインタビューに対しては、中小企業について「足腰を強くしないと立ちゆかなくなってしまう。中小の再編を必要であればできるような形にしたい」とこちらも統合・再編を促進する考えを述べています。これらは、公立・公的病院改革と全く同じロジックだと言えます。こう見てくると、菅氏が出馬会見で語った「地方を大切にしたいという気持ち」とは、「地方を今までのままで大切にしていく」ことではなく、地方のあらゆるリソースを「徹底的に効率化してなんとか生きながらえさせる」ことだということがわかります。病院経営者や自治体の首長も、そのことはしっかりと頭に入れておいた方がよさそうです。新政権が第2に進めるであろうことですが、今回は長くなり過ぎましたので、来週にもう少し考えてみたいと思います(この項続く)。

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卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版発刊

 日本婦人科腫瘍学会は、「卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン 2020年版」を8月31日に発刊した。5年ぶりの改訂となる2020年版には、妊孕性温存や漿液性卵管上皮内癌(STIC:Serous tubal intraepithelial carcinoma)、分子標的薬、PARP阻害薬などに関する新たな情報も追加され、手術療法、薬物療法のクリニカルクエスチョン(CQ)が大幅に更新された。そのほか、推奨の強さの表記は「推奨する」「提案する」に一新され、臨床現場ですぐに役立つ治療フローチャートや全45項のCQが収載されている。 三上 幹氏(日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会委員長)は本書の序文において、「日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会が2002年に設置され、初版の『卵巣がん治療ガイドライン2004年版』が発刊されて以降、子宮頸癌治療、外陰がん・膣がん治療など、さまざまなガイドラインが臨床の現場で活用されている。今回、『卵巣がん2015年版(第4版)』を5年の歳月を経て、名前を変更し『卵巣がん・卵管癌・腹膜癌治療ガイドライン2020年版(第5版)』の発刊に至った。最初のガイドライン発刊より16年が経過しており、とても感慨深く感じる」とコメント。 さらに、「今回の改訂では、“Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017”にできる限り準拠して行うことを目標にした。そのポイントは、(1)作成委員として医師以外に看護師、薬剤師、患者、一般の方(女性・男性)が参加、(2)CQにPICO形式*を導入したこと、(3)推奨グレード・エビデンスの表現法を変更したこと、(4)エビデンス総体の考え方を導入したこと、(5)参考文献は研究デザインで分類したこと、(6)一部のCQについてSystematic Reviewを施行したこと、(7)各CQ・推奨について投票を行い、合意率を推奨の後に記載したこと」と述べている。*:P(patient・対象となる患者集団)、 I(Intervention・治療や検査などの介入 )、C(Comparison・比較となる介入)、 O(Outcome・介入による影響) 主な記載内容は以下のとおり。フローチャート1:卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療フローチャート2:再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の治療フローチャート3:上皮性境界悪性卵巣腫瘍の治療フローチャート4:悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療フローチャート5:性索間質性腫瘍の治療本ガイドラインにおける基本事項I 進行期分類・第1章 ガイドライン総説・第2章 卵巣癌・卵管癌・腹膜癌・第3章 再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌・第4章 上皮性境界悪性腫瘍・第5章 胚細胞腫瘍・第6章 性索間質性腫瘍・第7章 資料集II 略語一覧III 日本婦人科腫瘍学会ガイドライン委員会業績IV 既刊の序文・委員一覧

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うつ症状に対する筋力の影響~メタ解析

 ポルトガル・リスボン大学のAdilson Marques氏らは、成人の筋力と抑うつ症状との関係をシステマティックにレビューし、メタ解析を実施した。また、筋力と抑うつ症状との関係における統合オッズ比(OR)を算出した。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2020年8月6日号の報告。 PRISMAガイドラインに従って、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。電子データベース(PubMed、Scopus、Web of Science)より、2019年12月までに発表された研究をシステマティックに検索した。包括基準は以下のとおりとした。(1)横断的研究、縦断的研究、介入研究、(2)アウトカムにうつ病または抑うつ症状を含む、(3)対象は成人および高齢者、(4)英語、フランス語、ポルトガル語、スペイン語で発表された研究。 主な結果は以下のとおり。・21件の研究が抽出され、対象となったのは、26ヵ国の18歳以上の成人8万7,508例であった。・システマティックレビューにおいて、筋力は抑うつ症状リスクの低下に寄与することが示唆された。・メタ解析では、筋力と抑うつ症状との有意な逆相関が認められ、ORは0.85(95%CI:0.80~0.89)であった。 著者らは「筋力の向上を目的とした介入は、メンタルヘルスを改善し、うつ病を予防する可能性が示唆された。メンタルヘルス改善とうつ病予防の戦略に、筋力の評価と向上を用いることは可能である」としている。

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「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」6年ぶりの改訂

 『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版』が7月22日に発刊された。今回の改訂は2014年版が発刊されてから6年ぶりで、ヒドロモルフォン(商品名:ナルサスほか)、トラマドール塩酸塩の徐放性製剤(商品名:ワントラム)などの新規薬物の発売や新たなエビデンスの公表、ガイドライン(GL)の作成方法の変更などがきっかけとなった。本書の冒頭では日本緩和医療学会理事長の木澤 義之氏が、「分子標的薬ならびに免疫チェックポイント阻害薬をはじめとするがん薬物療法が目覚ましい発展を遂げていることなどを踏まえて改訂した」と述べている。 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の主な改訂点については、8月9日~10日にWeb開催された「緩和・支持・心のケア 合同学術大会」での教育講演「『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2020年版)』の概要」でも発表され、馬渡 弘典氏(横浜南共済病院 緩和支持療法科)が解説した。がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインとして必要な情報に絞る まず、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの改訂版は作成方法の変更により計325ページから185ページへと大幅にボリュームダウン。大幅に絞られた臨床疑問は65項目から28項目に絞られ、Appendixには委員会で討論したが根拠が乏しく解説文に記載しなかったこと、現場の臨床疑問・現在までの研究と今後の検討課題が記載された。以前まで取り上げられていた「麻薬に関する法的・制度的知識」「がん疼痛マネジメントを改善するための組織的な取り組み」「薬物療法以外の痛み治療法(放射線療法、神経ブロック、骨セメント)」はがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインの枠組みでは扱いづらくなったとのことで2020年版では割愛されたが、「大切な事項なので書籍などで確認を」と述べた。2020年版では突出痛の定義が近年の考えを加味して変更された 馬渡氏はがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版を作成する際に生じたエビデンスと推奨のギャップについて解説した上で、疼痛強度に応じた鎮痛薬の使用方法を説明した。まず、中等~高度のがん疼痛についてはCQ3~7*を示し、「中等~高度の疼痛がある患者に対して、強オピオイド間の優劣については今回のシステマティックレビューでは認められなかったため、本ガイドラインではどの薬剤を選択しても良いと結論付けられている」と説明。CQ6(がん疼痛のある患者に対して、フェンタニルの投与は推奨されるか?)については、今年6月末にフェンタニルの貼付剤(商品名:フェントステープ)がオピオイド鎮痛剤未使用のがん疼痛患者へ適応となったことにも触れた。また、それ以前に決定稿になったことを断ったうえで、フェンタニルによる初回投与は、『投与後に傾眠、呼吸抑制の重篤な有害作用の有無を継続して観察出来るとき』の条件付き推奨となったことを述べた。さらに、「添付文書にも 増量時の注意事項が書かれているので、注意して経過観察してほしい」と述べた。*CQ3~7は、「がん疼痛のある患者に対して、各薬剤(モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドン、フェンタニル、タペンタドール)の投与は推奨されるか?」について記載。 次に、2018年のWHOのガイドライン改訂で、3段階ラダーの表現が本文から付録に相当するANNEXに移ったが、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版でも中等度のがん疼痛では「強い推奨が弱オピオイドから強オピオイドに変更された」点について説明。CQ8(がん疼痛のある患者に対して、コデインの投与は推奨されるか?)やCQ9(がん疼痛のある患者に対して、トラマドールの投与は推奨されるか?)、CQ23(がん疼痛のある患者に対して、初回投与のオピオイドは、強オピオイドと弱オピオイドのどちらが推奨されるか?)の内容に反映されている。 突出痛については、「突出痛の定義は国際的に決まったものはないが、『持続痛の有無や程度、鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強』から『定期的に投与されている鎮痛薬で持続痛が良好にコントロールされている場合に生じる、短時間で悪化し自然消失する一過性の痛み』へと、近年の考えを加味して変更された」と解説した。また、がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインにおける突出痛に投与するオピオイドの薬剤の用語の統一についても触れ、総称区分を以下のように示した。●速放性製剤:経口モルヒネ、ヒドロモルフォン、オキシコドンなど●経粘膜性フェンタニル:フェンタニル口腔粘膜吸収製剤●レスキュー薬:突出痛に投与するオピオイドの経口薬、注射剤、坐剤すべてがん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点 このほか、がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2020年版の変更点として、腎機能低下時の投与や便秘時について解説。CQ17(オピオイドが原因で、便秘のあるがん患者に対して、下剤、その他の便秘治療薬の投与は推奨されるか?)やCQ22(がん疼痛のある、高度の腎機能障害患者に対して、特定のオピオイドの投与は推奨されるか?)を示し、「高度の腎機能障害患者にフェンタニルやブプレノルフィンの“注射剤”を推奨していること。コデイン、モルヒネを投与する場合は短期間で少量から投与すること。軽度から中等度の腎障害では減量すればどのオピオイドも投与可能。ただし、ブプレノルフィンは高度の腎機能障害がある時や、ほかの強オピオイドが投与できない時に限定する」と述べた。<今回からがん疼痛の薬物療法に関するガイドラインに追加された主な新規薬剤>・ヒドロモルフォン(商品名:ナルサス、ナルラピド、ナルペイン)・オキシコドン塩酸塩水和物徐放錠(同:オキシコンチンTR錠)[オキシコンチン錠の販売中止に伴う]・トラマドール塩酸塩(同:トラマールOD錠、ワントラム)とアセトアミノフェン配合剤(同:トラムセット)[カプセル剤の販売中止に伴う]・ミロガバリン(同:タリージェ)・ナルデメジン(同:スインプロイク)とその他の便秘治療薬(ポリエチレングリコール製剤、リナクロチド[同:リンゼス]、エロピキシバット[同:グーフィス])<がん疼痛の薬物療法に関するガイドラインから削除された主な薬剤>・モルヒネ製剤の一部(同:カディアン、ピーガード)・エプタゾシン(同:セダペイン)、ジヒドロコデインリン酸塩(同:リン酸ジヒドロコデイン)、ペチジン塩酸塩(同:ペチジン塩酸塩「タケダ」) 今後の予定として、同氏は2020年版のガイドライン作成過程で用いた各種のテンプレートを掲載した詳細資料を作成し、『本ガイドライン作成の経過やより詳細な内容を知りたい読者がインターネット上で閲覧できるようにする』『CQ、ステートメントを英文化し、国際紙に掲載する』などを掲げた。また日本緩和医療学会より一般市民向けに2017年に出版されている「患者さんと家族のためのがんの痛み治療ガイド 増補版」も改訂が必要とされれば速やかに改訂を行うこととすると述べ、「教科書などとうまく使い分けて役立ててもらえれば」と締めくくった。

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第21回 検査1日20万件など、安倍首相が最後にまとめたコロナ対策

<先週の動き>1.検査1日20万件など、安倍首相が最後にまとめたコロナ対策2.経営悪化で3,500診療所、1,000病院が無利子・無担保融資を利用3.医師労働時間短縮計画策定ガイドライン案が取りまとめられた4.自民党内に国民皆保険を守る国会議員連盟が発足5.“GLP-1ダイエット”製薬メーカーからも警告1.検査1日20万件など、安倍首相が最後にまとめたコロナ対策28日、新型コロナウイルス感染症対策本部による取りまとめ結果が、安倍 晋三首相の記者会見で発表された。季節性インフルエンザとの同時流行なども踏まえ、抗原簡易キットによる検査能力を1日20万件程度まで拡充させることや病床確保を弾力的に行うことなど、トータルパッケージとして今後の対策方針を打ち出した。さらに、2類相当の指定感染症として感染症法に基づく権限の運用について、政令改正も含め、柔軟に見直しを行っていく方針を固めた。今後、国際的な人的交流を部分的・段階的に再開するため、成田・羽田・関西空港における入国時の検査能力・体制の拡充を行うことを目指し、9月までに1万人超の検査能力を確保する見込み。10月を目処にビジネス目的の出国者が市中の医療機関において検査証明を迅速に取得するのを支援目的に、インターネットで予約・マッチングすることができる仕組みを構築することが打ち出されている。(参考)新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組(新型コロナウイルス感染症対策本部)新型コロナウイルス感染症対策本部(第42回)議事次第(内閣官房)政府、検査1日20万件に拡充へ 「コロナ対策パッケージ」公表(毎日新聞)2.経営悪化で3,500診療所、1,000病院が無利子・無担保融資を利用経営が悪化した病院向けに独立行政法人 福祉医療機構が実施している、無利子・無担保融資の決定件数が明らかとなった。7月21日時点で、3,538件の診療所で1,248億円、1,077件の病院で2,779億円に上り、これは全国8,200病院の1割強に当たる。政府は新型コロナウイルスの影響で経営が悪化した医療機関を支援するため、官民ファンド「地域経済活性化支援機構(REVIC)」を活用した新たな医療機関支援を開始するとし、福祉医療機構との連携協定の締結を行った。このスキームにより、REVICの経営ノウハウ提供など、地域の医療・福祉サービスの提供体制の維持・強化を図ることが可能となる。(参考)1000病院、無利子融資活用 診療所は3500件 受診減り経営悪化(日本経済新聞)地域経済活性化支援機構との連携協定の締結について~病院等事業者に対する経営支援~(福祉医療機構)病院経営動向調査(2020年6月調査) 新型コロナウイルス感染症の影響等に関する特別調査結果(同)3.医師労働時間短縮計画策定ガイドライン案が取りまとめられた28日、厚生労働省は「医師の働き方改革の推進に関する検討会」を開催した。これまで、2024年4月の新時間外労働規制の適用に向けて、医師の時間外労働の上限規制に関して、医事法制・医療政策における措置について、8回にわたって討議を重ねてきた。これまでの議論をもとに、今回「医師労働時間短縮計画策定ガイドライン(案)」がまとまった。今後、ガイドラインに沿って実際に医師の労働時間を短縮していくために、各医療機関内で取り組める事項について作成し、PDCAサイクルを進めていくこととなる。ガイドラインによれば、年間の時間外・休日労働時間数が960時間を超える医師の勤務する医療機関については、2024年までになるべく早期の計画策定が求められることとなる。(参考)医師労働時間短縮計画策定ガイドライン(案)(厚労省)第8回 医師の働き方改革の推進に関する検討会 資料(同)4.自民党内に国民皆保険を守る国会議員連盟が発足27日、自民党有志による「国民皆保険を守る国会議員連盟」(会長・鴨下 一郎元環境相)の設立総会が自民党本部で開催された。呼びかけ人代表の鴨下一郎議員が会長として承認された。設立趣意書によると、「本議員連盟は、国民の健康を守り、安心により生活・経済を支える国民皆保険制度を、将来にわたり持続可能なものとするよう、幅広い観点から検討することを目的とする」とあり、高齢化や新型コロナウイルス対応で政府の財政悪化の状況下で、皆保険制度の持続性を高める方策を議論する方向性が打ち出されている。(参考)国民皆保険維持へ自民議連(時事ドットコム)松本純の国会奮戦記2020年8月5.“GLP-1ダイエット”製薬メーカーからも警告ダイエット目的でのGLP-1受容体作動薬の使用・処方が国内で問題になってきている。20日、製造販売元4社が共同して文書による適正使用を呼び掛け、医療機関などに周知を開始している。海外では肥満症の適応で処方可能とされているが、日本国内では適応が承認されていない。このため、日本糖尿病学会より2020年7月9日付で「GLP-1受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」が発出されている。2型糖尿病を有さない日本人における安全性と有効性は現時点では確認されておらず、低血糖による健康被害の可能性もあり、医薬品副作用被害救済制度による救済の支給対象外となるため、適正な処方が望まれる。(参考)GLP-1 受容体作動薬の適正使用に関するお知らせ(PMDA)GLP-1受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解(日本糖尿病学会)

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うつ病のアルゴリズムに基づく治療プログラムの有効性

 ランダム化比較試験(RCT)で証明された効果が、日常の臨床診療で一般化できるかどうかには疑問が残る。オランダ・フローニンゲン大学のKaying Kan氏らは、うつ病のアルゴリズムに基づく治療(AGT)プログラムの治療オプションを評価し、それらの有効性を有効性試験のアウトカムと比較した。さらに、治療継続性とアウトカムとの関係を評価した。Journal of Affective Disorders誌2020年10月1日号の報告。 オランダのメンタルヘルス医療従事者より2012年1月~2014年11月の治療データを収集し、ルーチンアウトカムモニタリング(ROM)データと関連付けた患者351例を対象とした、自然主義的研究を実施した。治療オプション(薬物療法、心理療法、薬物+心理療法)の有効性は、メタ解析で報告された有効性と比較した。バイナリ変数として治療継続性(推奨された治療セッションの早期中止患者と完了患者の比較)を含めた。 主な結果は以下のとおり。・各治療オプションの寛解率は、メタ解析の結果と比較し、以下のとおりであった。 ●心理療法:38%(95%CI:32~45)、メタ解析より低い ●薬物療法:31%(95%CI:22~42)、メタ解析と同等 ●薬物+心理療法:46%(95%CI:19~75)、メタ解析と同等・各治療オプションの治療反応率は、メタ解析の結果と比較し、以下のとおりであった。 ●心理療法:24%(95%CI:19~30)、メタ解析より低い ●薬物療法:21%(95%CI:13~31)、メタ解析より低い ●薬物+心理療法:46%(95%CI:19~75)、メタ解析と同等・治療セッションの早期中止患者と完了患者の寛解率および治療反応率は、同等であった。・本研究の限界として、ROMデータの不十分さ、選択バイアスチェックのための患者特性データが限られていた点が挙げられる。 著者らは「臨床診療において、患者の状態の不均一性が高いにもかかわらず、ガイドラインを厳格に順守したAGTプログラムの有効性は、RCTの結果と大きな違いは認められなかった。また、推奨された治療セッション数は、すべての患者に適しているとは限らない可能性がある」としている。

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がん治療で心疾患リスクを伴う患者の実態と対策法/日本循環器学会

 第84回日本循環器学会学術集会(2020年7月27日~8月2日)で佐瀬 一洋氏(順天堂大学大学院臨床薬理学 教授/早稲田大学医療レギュラトリーサイエンス研究所)が「腫瘍循環器診療の拡がりとCardio-Oncology Rehabilitation(CORE)」について発表。がんを克服した患者の心血管疾患発症リスクやその予防策について講演した。循環器医がおさえておくべき、がん治療の新たなる概念-サバイバーシップ がん医療の進歩により、がんは不治の病ではなくなりつつある。言い換えるとがん治療の進歩により生命予後が伸びる患者、がんサバイバーが増えているのである。とくに米国ではがんサバイバーの急激な増加が大きな社会問題となっており、2015年時点で1,500万人だった患者は、今後10年でさらに1,000万人の増加が見込まれる。 たとえば小児がんサバイバーの長期予後調査1)では、がん化学療法により悪性リンパ腫を克服したものの、その副作用が原因とされる虚血性心疾患(CAD)や慢性心不全(CHF)を発症して死亡に繋がるなどの心血管疾患が問題として浮き彫りとなった。成人がんサバイバーでも同様の件が問題視されており、長期予後と循環器疾患に関する論文2)によると、乳がん患者の長期予後は大幅に改善したものの「心血管疾患による死亡はその他リスク因子の2倍以上である。乳がん診断時の年齢が66歳未満では乳がんによる累計死亡割合が高かった一方で、66歳以上では心血管疾患(CVD)による死亡割合が増加3)し、循環器疾患の既往があると累計死亡割合はがんとCVDが逆転した」と佐瀬氏はコメントした。心疾患に影響するがん治療を理解する この逆転現象はがん治療関連心血管疾患(CTRCD:Cancer Therapeutics-Related Cardiac Dysfunction)が原因とされ、このような患者は治療薬などが原因で心血管疾患リスクが高くなるため、がんサバイバーのなかでも発症予防のリハビリなどを必要とする。同氏は「がん治療により生命予後が良くなるだけではなく、その後のサバイバーシップに対する循環器ケアの重要性が明らかになってきた」と話し、がんサバイバーに影響を及ぼす心毒性を有する薬を以下のように挙げた。●アントラサイクリン系:蓄積毒性があるため、生涯投与量が体表面積あたり400mg/m2を超えるあたりから指数関数的にCHFリスクが上昇する●分子標的薬:HER2阻害薬はアントラサイクリン系と同時投与することで相乗的に心機能へ影響するため、逐次投与が必要。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)は世代が新しくなるにつれ血栓症リスクが問題となる●免疫チェックポイント阻害薬:PD-1阻害薬とCTLA-4阻害薬併用による劇症心筋炎の死亡報告4)が報告されている これまでのガイドラインでは、薬剤の影響について各診療科での統一感のなさが問題だったが、2017年のASCOで発表された論文5)を機に変革を迎えつつある。心不全の場合、日本循環器学会が発刊する『腫瘍循環器系の指針および診療ガイドライン』において、がん治療の開始前に危険因子(Stage A)を同定する、ハイリスク患者とハイリスク治療ではバイオマーカーや画像診断で無症候性心機能障害(Stage B)を早期発見・治療する、症候性心不全(Stage C/D)はGLに従って対応するなど整備がされつつある。しかしながら、プロテアソーム阻害薬や免疫チェックポイント阻害薬のような新規薬剤は未対応であり、今後の課題として残されている。循環器医からがんサバイバーへのアプローチが鍵 がん治療が心機能へ影響する限り、これからの循環器医は従来型の虚血性心疾患と並行して新しい危険因子CTRCDを確認するため「がん治療の既往について問診しなければならない」とし、「患者に何かが起こってから対処するのではなく腫瘍科医と連携する体制が必要。そこでCardio-Oncologyが重要性を増している」と述べた。 最後に、Cardio-Oncologyを発展させていくため「病院内でのチームとしてなのか、腫瘍-循環器外来としてなのか、資源が足りない地域では医療連携として行っていくのか、状況に応じた連携の進め方が重要。循環器疾患がボトルネックとなり、がん治療を経た患者については、腫瘍科医からプライマリケア医への引き継ぎ、もしくは心血管疾患リスクが高まると予想される症例は循環器医が引き継いでケアを行っていくことが求められる。これからの循環器医にはがんサバイバーやCTRCDに対するCORE6)を含めた対応が期待されている」と締めくくった。■参考1)Armstrong G, et al. N Engl J Med. 2016;374:833-842.2)Ptnaik JL, et al. Breast Cancer Res. 2011 Jun 20;13:R64.3)Abdel-Qadir H, et al. JAMA Cardiol. 2017;2:88-93.4)Johnson DB, et al. N Engl J Med. 2016;375:1749-1755.5)Almenian SH, et al. J Clin Oncol. 2017;35:893-911.6)Sase K, et al. J Cardiol.2020 Jul 28;S0914-5087(20)30255-0.日本循環器学会:心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(2012年改訂版)

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予期せぬ体重減少、がん精査をすべき?/BMJ

 プライマリケアで予期せぬ体重減少を呈した成人のがんリスクは2%以下で、英国の現行ガイドラインに基づく検査対象とはならないことが明らかにされた。英国・オックスフォード大学のBrian D. Nicholson氏らによる、予期せぬ体重減少のがん予測を定量化することを目的とした診断精度研究の結果で、著者は、「しかしながら、50歳以上の男性喫煙者および臨床所見を有する患者では、がんリスクを考慮すると、侵襲的な検査受診を紹介する必要がある」と述べている。報告では、特定のがん部位と関連する典型的な臨床所見は、予期せぬ体重減少が生じた際は複数のがん種のマーカーとなることも明らかにされた。BMJ誌2020年8月13日号掲載の報告。予期せぬ体重減少を呈した患者6万3,973例で、がんの診断精度を検証 研究グループは、英国のプライマリケアにおけるNational Cancer Registration and Analysis Service(NCRAS)およびClinical Practice Research Datalink(CPRD)電子健康記録を用いて、2000年1月1日~2012年12月31日に予期せぬ体重減少が記録された成人(18歳以上)6万3,973例を特定し解析した。 主要評価項目は、最初に体重減少が記録された日(インデックス日)から6ヵ月以内のがんの診断である。インデックス日の3ヵ月前から1ヵ月後までの期間の、付加的な臨床所見についても特定された。診断精度は、陽性および陰性の尤度比、陽性予測値、診断のオッズ比(OR)で評価した。 予期せぬ体重減少を認めた成人6万3,973例のうち、3万7,215例(58.2%)が女性、3万3,167例(51.8%)が60歳以上、1万6,793例(26.3%)が喫煙者であった。予期せぬ体重減少のみでプライマリケアを受診した成人患者のがんリスクは2%以下 インデックス日から6ヵ月以内にがんと診断された人は908例(1.4%)で、このうち882例(97.1%)が50歳以上であった。がんの陽性予測値は、50歳以上の男性喫煙者では英国国立医療技術評価機構による緊急検査の推奨閾値である3%を超えていたが、女性ではどの年齢でも確認されなかった。 予期せぬ体重減少を伴う男性では10項目の臨床所見が、女性では11項目が、がんと関連していた。陽性尤度比は、男性で非心臓性胸痛の1.86(95%信頼区間[CI]:1.32~2.62)から腹部腫瘤の6.10(3.44~10.79)までの範囲、女性では背部痛の1.62(1.15~2.29)から黄疸の20.9(10.7~40.9)までの範囲であった。 がんと関連があった血液検査異常値は、アルブミン低値(4.67、95%CI:4.14~5.27)、血小板数増加(4.57、3.88~5.38)、カルシウム高値(4.28、3.05~6.02)、白血球数増加(3.76、3.30~4.28)、C反応性蛋白高値(3.59、3.31~3.89)などであった。一方で、単独でがんの否定につながる血液検査正常値はなかった。また、予期せぬ体重減少を伴う臨床所見は、複数のがん部位と関連していた。

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偶然おもしろいことに出会える、こんな学会ほかにない

2020年9月25~27日の3日間、第20回日本抗加齢医学会総会がWEB開催(一部会場開催)される。今回は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、初めてのWEB開催となるが、第18、19回総会のプログラム委員長を務め、本大会長としてプログラムの選定に携わった南野 徹氏(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科教授)に、本総会をどのように盛り上げていくのか話を聞いた。日本のアンチエイジング、老年・予防医学が主体『抗加齢』という言葉はアンチエイジングと英訳されます。その影響なのか、日本では医学的根拠のない一般向け情報と捉える方が多いようで、この印象を覆すことがわれわれの使命の1つであると考えています。たとえば、本学会の総会が今年で20回目を迎えるにあたり、診療所の医師に患者指導時に活用してもらえるようなステートメントの作成を開始します。これまで、抗加齢医学の分野において高血圧症などのように診療ガイドラインが策定されておらず、研究成果のほとんどが実臨床で活用されていなかった点もアンチエイジングのイメージを印象付けているのかもしれません。この取り組みは世界初ですが、本学会は世界の抗加齢医学の組織と比べ、各分野の枠を越えて医師たちが集い、協力し合える強みが作用しています。海外の場合、大きな美容系集団といくつかの小さな診療科系集団に分かれているため、さまざまな診療科の先生の意見を踏まえた研究を行うことが難しいと言われています。一方、本学会は老年医学と若さを保つ・美を追求する医学の間に位置し、病気や加齢から身体を守る予防医学の概念を持って活動する、世界的にもまれな学会として、この組織力を活かし、抗加齢に関するさまざまな研究を行うことで、成果を発揮しています。Healthy Agingのためのステートメントその成果の1つとして、ガイドラインの前進となるステートメントの作成を行うわけですが、まずは健康寿命の延伸に関して科学的なエビデンスが蓄積されつつある4つの分野(食事、運動、サプリメント、性ホルモン)の内容が検討されています。本総会の会長特別プログラムとして「Healthy Agingのための学会ステートメント(ガイドライン)作成に向けて」を開催し、各分野のステートメント進捗状況や今後の方針について発表する予定です。アカデミア×臨床医、内科医×歯科医…が混じり合える学会また、研究内容がとても彩り豊かな本学会の総会の一番の魅力は、面白いことが学べる機会やアイデアを見つけ出すチャンスに出会えることだと自負しています。研究範囲は基礎から臨床まで、その内容は内科領域のみならず、整形外科、皮膚科、歯科領域などと多岐にわたります。一般的な学術集会は専門医や専門領域に従事する医療者を対象として行われるため、診療科に特化した内容に絞って情報提供される傾向があります。それと比べ、つい自分の興味分野にだけ注目してしまう方でも、本総会に参加することで「興味がなかった」「考えてもみなかった」ようなワクワクする新しい関心事に、偶然遭遇するかもしれません。言うならば、新聞で医療面を読むためにページをめくっていた時にテクノロジーの記事に目が留まり、新しい発見に心が弾んだ-そんな感覚でしょうか。プログラムを選定する上では、プログラム委員長の経験を踏まえて工夫を凝らしました。臨床医とアカデミアの双方が楽しめるよう、1日目にはアカデミアの方を対象とした演題を多く盛り込みました。実地医家の方が参加しやすい3日目の日曜日には、実臨床ですぐ実践できる演題を準備しています。3密回避を確保した会場セッティングや3ハイブリッド会議(ライブ配信、オンタイム配信、オンデマンド配信)形式の導入により、これまでにないくらい多くのプログラムが受講しやすくなっています。多分野の医師、薬剤師や看護師などの医療者が垣根を超えて交流を深められるという本学会ならではの総会作りも目指していますので、ぜひ、第20回日本抗加齢医学会総会のWEB聴講へのご参加、浜松町コンベンションホールへのご来場をお待ちしております。

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重症の胆石性急性膵炎に対する緊急ERCPと保存的治療:多施設共同無作為化比較試験(解説:上村直実氏)-1277

 オランダ発の本論文は、発熱を伴う総胆管結石、総胆管の拡張、進行性の胆汁うっ滞により定義される明確な胆管炎を認めない重症の胆石性急性膵炎(以下、本症)を有する患者を対象として、6ヵ月以内の死亡または主要な合併症(多臓器不全、胆管炎、菌血症、肺炎、膵臓壊死、膵機能不全)の発症を検討し、24時間以内の括約筋切開を伴う緊急ERCPを施行するERCP/ES群と保存療法から開始する対照群を比較した結果、本症の改善に対する有用性および安全性に統計学的な差を認めなかったことから緊急ERCP/ESを施行しない保存療法を支持する結論となっている。 わが国の『急性膵炎診療ガイドライン2015』においても「胆石性急性膵炎のうち、胆管炎合併例、黄疸出現または胆道通過障害の遷延を疑う症例には早期のERCP/ESを施行すべきであるが、これに該当しない症例に対する早期のERCP/ES施行の有用性は否定的である」とされており、現時点では、胆管炎または持続的な胆汁うっ滞の患者のみ緊急ERCP/ESの適応とするのが妥当と思われる。一方、本研究では対照群の31%が経過観察中に胆管炎を認めてERCP/ESを行っており、臨床研究に当たっては胆管炎の定義と診断精度の重要性が示されている。 通常の画像診断による総胆管結石の描出感度は低い(腹部超音波:20%、CT:40%)ことが知られており、正確な診断にはMRCPないしは超音波内視鏡(EUS)が必要とされている。最も診断精度が高いEUSにより総胆管内の結石やスラッジを認めた場合にERCPを行うことが推奨されているが、このEUSについても一般診療現場では標準的診療となっていないため、実臨床の診療現場に有用なエビデンスを構築することが難しい。さらに、日本の胆膵を専門とする内視鏡医からみると、本研究における胆管挿管成功率が低い原因はERCPの技術力が十分でないことが指摘される可能性もある。内視鏡診療に関する臨床研究では常に問題となる技術格差によるバイアスを克服する研究デザインが必要である。卓越した消化器内視鏡の診療技術と大規模レジストリー(JED:Japan Endoscopy Database)を用いて精度の高い臨床研究が実践されることが待望される。

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ICDの合併症+不適切ショック、皮下vs.経静脈/NEJM

 植込み型除細動器(ICD)の適応があり、ペーシングの適応のない患者において、皮下ICDは従来の経静脈ICDに対し、デバイス関連合併症と不適切ショック作動の発生に関して非劣性であることが、オランダ・アムステルダム大学のReinoud E. Knops氏らが行った「PRAETORIAN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年8月6日号に掲載された。皮下ICDは、完全に胸腔外に留置することで、経静脈ICDでみられるリード関連合併症(気胸、心穿孔など)を回避するように設計されている。欧米のガイドラインでは、徐脈へのペーシングや心臓再同期療法、抗頻拍ペーシングの適応のない患者における皮下ICDの推奨は、主に観察研究のエビデンスに基づいているという。欧米の39施設が参加した無作為化非劣性試験 本研究は、欧米の39施設が参加した無作為化非劣性試験であり、2011年3月~2017年1月の期間に患者登録が行われた(Boston Scientificの助成による)。 対象は、年齢18歳以上、欧州または米国のガイドラインで、1次または2次予防においてICD療法が適応とされ、ペーシングの適応はない患者であった。 被験者は、皮下ICDまたは経静脈ICDを植え込む群に無作為に割り付けられた。患者は、植込み術から4ヵ月以内にフォローアップのために受診した。その後は、年2回以上のデバイスの検査が行われ、患者は年1回以上外来を受診した。 主要エンドポイントは、デバイス関連合併症(感染症、出血、塞栓症イベント、気胸、リード穿孔、心タンポナーデ、リード再留置など)と不適切ショック作動の複合であり、ハザード比(皮下ICD vs.経静脈ICD)の95%信頼区間(CI)上限1.45を非劣性マージンとした。また、非劣性が確認された場合に優越性解析を行うこととした。副次エンドポイントは、死亡および適切ショック作動などであった。主要エンドポイント:15.1% vs.15.7% 849例が解析の対象となり、皮下ICD群が426例、経静脈ICD群は423例であった。全体の年齢中央値は63歳(IQR:55~70)、女性は19.7%であった。69.1%が虚血性心筋症で、左室駆出率中央値は30%だった。 フォローアップ期間中央値49.1ヵ月の時点における主要エンドポイントのイベント発生は、皮下ICD群が68例、経静脈ICD群も68例で認められ、皮下ICD群の経静脈ICD群に対する非劣性が確認されたが、優越性は示されなかった(Kaplan-Meier法による48ヵ月累積発生率:皮下ICD群15.1% vs.経静脈ICD群15.7%、ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.71~1.39、非劣性のp=0.01、優越性のp=0.95)。 デバイス関連合併症は、皮下ICD群が31例(5.9%)、経静脈ICD群は44例(9.8%)で発生した(HR:0.69、95%CI:0.44~1.09)。また、不適切ショック作動は、それぞれ41例(9.7%)および29例(7.3%)で発生した(1.43、0.89~2.30)。 死亡は、皮下ICD群が83例(16.4%)、経静脈ICD群は68例(13.1%)で発生した(HR:1.23,95%CI:0.89~1.70)。また、適切ショック作動は皮下ICD群が83例(19.2%)で認められ、経静脈ICD群の57例(11.5%)よりも頻度が高かった(1.52、1.08~2.12)。 著者は、「デバイス関連合併症と不適切ショック作動のどちらの負担が大きいかは、医師と患者で見解が異なる可能性がある。合併症が主に身体的苦痛と関連するのに対し、ICDショックは深刻な心理的影響を及ぼす可能性がある」としている。

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双極性障害のうつ症状の適応も有する非定型抗精神病薬「ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg」【下平博士のDIノート】第56回

双極性障害のうつ症状の適応も有する非定型抗精神病薬「ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg」今回は、抗精神病薬/双極性障害のうつ症状治療薬「ルラシドン塩酸塩(商品名:ラツーダ錠20mg/40mg/60mg/80mg、製造販売元:大日本住友製薬)」を紹介します。本剤は、長期間の治療が必要な統合失調症や双極性障害のうつ症状の患者に対し、忍容性を保ちながら適切な治療効果を維持することが期待されています。<効能・効果>本剤は、統合失調症および双極性障害におけるうつ症状の改善の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年6月11日より発売されています。<用法・用量>《統合失調症》通常、成人にはルラシドン塩酸塩として40mgを1日1回、食後に経口投与します。なお、年齢、症状により適宜増減しますが、1日量は80mgを超えることはできません。《双極性障害におけるうつ症状の改善》通常、成人にはルラシドン塩酸塩として20mgから開始し、1日1回、食後に経口投与します。年齢、症状により適宜増減しますが、増量幅は20mgとして、1日量60mgを超えることはできません。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象876例中338例(38.6%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、アカシジア75例(8.6%)、悪心40例(4.6%)、統合失調症29例(3.3%)、傾眠28例(3.2%)、頭痛、不眠症各25例(2.9%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、遅発性ジスキネジア、高血糖、白血球減少(いずれも1%未満)、悪性症候群、痙攣、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡、肺塞栓症、深部静脈血栓症、横紋筋融解症、無顆粒球症(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内のドパミン、セロトニンなどのバランスを整えることで、幻覚、幻聴、妄想、不安、緊張、意欲低下などの症状を和らげ、また、双極性障害におけるうつ症状を改善します。2.薬の飲み始めや増量した時期に低血圧が起こることがあります。眠気が出たり、注意力・集中力・反射運動能力が低下したりすることもあるので、自動車の運転など危険を伴う機械の操作はしないでください。3.薬を飲み始めてから、じっとしていられない、興奮が強くなる、ちょっとしたことで怒りっぽくなるなど、普段と異なる様子がみられた場合は、医師または薬剤師に相談してください。4.血糖値が上がることがあるので、本剤を服用後に激しい喉の渇きを感じたり、尿の回数や量が増えたりしたら連絡してください。5.動きが遅い、手足の震えやこわばり、呼吸回数の減少、低血圧などが現れたらご相談ください。6.アルコールは薬の効果を強めることがあるので、本剤を服用中は飲酒を控えてください。また、グレープフルーツを含む飲食物によっても、薬の作用が強く現れることがあるので、本剤を服用中は摂取しないよう気を付けてください。<Shimo's eyes>本剤は第2世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)で、SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)に分類されます。既存のSDA内服薬としては、リスペリドン(商品名:リスパダール)、ペロスピロン(同:ルーラン)、ブロナンセリン(同:ロナセン)、パリペリドン(同:インヴェガ)の4剤があり、本剤が5番目となります。本剤は、ドパミンD2受容体、セロトニン5-HT2A受容体および5-HT7受容体に対してはアンタゴニスト、5-HT1A受容体に対してはパーシャルアゴニストとして作用する一方で、抗ヒスタミン作用や抗コリン作用は少ないと考えられています。そのため、本剤は既存のSDAにはない、統合失調症における幻聴や妄想といった陽性症状、意欲減退や感情鈍麻といった陰性症状の改善のほか、不安や落ち込みといったうつ症状の改善も期待できます。統合失調症患者もしくは双極I型障害うつ患者を対象とした国際共同第III相試験において、本剤の忍容性に関して大きな問題は認められませんでした。また、長期投与試験において、統合失調症患者の精神症状に対する効果および双極性障害患者のうつ症状に対する効果は、それぞれ52週にわたり維持されたことが確認されています。2020年5月現在、統合失調症治療薬として、欧米を含む47の国と地域で承認されており、また、双極I型障害のうつ症状治療薬としては米国を含む7つの国と地域で承認されています。海外の最新治療ガイドラインでは、体重増加、糖代謝異常などの代謝系副作用が少ないなどの観点から統合失調症に対して推奨され、双極性障害におけるうつ症状では第一選択薬の1つとして推奨されています。処方時の注意点として、中等度以上の腎機能・肝機能障害のある患者では、投与量の制限があるため、投与量を適宜減量し、慎重に投与することとされています。また、本剤は、1日1回食後に服用することで最高血中濃度が引き上げられ、効果が継続するため、食後投与を厳守する必要があります。なお、本剤と同様に「双極性障害におけるうつ症状」の適応を有するクエチアピンフマル酸塩徐放錠(商品名:ビプレッソ)は就寝前投与なので、服用時点を混同しないように注意しましょう。相互作用としては、CYP3A4の基剤であるため、クラリスロマイシン、アゾール系抗真菌薬などのCYP3A4を強く阻害する薬剤や、リファンピシンなどのCYP3A4を強く誘導する薬剤は禁忌です。アルコールやグレープフルーツ含有食品も併用注意になっており、摂取には注意が必要であることを伝えましょう。参考1)PMDA 添付文書 ラツーダ錠20mg/ラツーダ錠40mg/ラツーダ錠60mg/ラツーダ錠80mg

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第19回 炎上したLINE健康相談の件、広報からのモヤモヤ回答を一挙公開!

新型コロナウイルス感染症パンデミックの結果、日本国内の医療の中でやや前進を見せていることがあるとするならば、オンライン診療の拡大傾向である。4月7日に閣議決定された「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」では、感染拡大防止の観点から、「非常時対応」と断りながらも電話やオンラインによる診療・服薬指導の活用を促した。これに対応し、厚生労働省(以下、厚労省)の医政局医事課と医薬・生活衛生局総務課は連名で4月10日付の事務連絡を発出し、初診を含むオンライン診療・服薬指導を時限的・特例的に容認している。同事務連絡は感染拡大動向を踏まえて3ヵ月に1度の見直しを行っているが、今のところは継続されている。あくまで時限的・特例的措置だが、今後これをきっかけに診療報酬上のオンライン診療の条件緩和などが進められる可能性は否定できない。このオンライン診療は厚労省が作成した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」に基づいて行われる。そして同指針ではオンライン診療と似て非なる「遠隔(オンライン)健康医療相談」を定義している。これは、医師がパソコンやスマホなどの通信機器を利用して医学的な助言を行うもの、医師以外が一般的な医学情報の提供や受診勧奨を行い、いずれも相談者個人の状況に応じた具体的な判断を行わないものを指す。ちなみに厚労省指針では「遠隔健康医療相談」について詳細な規定はしていない。ただ、今回のコロナ禍を反映し経済産業省の主導下で「遠隔健康相談事業」が開始され、メドピアの連結子会社Mediplat社、コミュニケーションアプリLINEで有名なLINE株式会社の連結子会社LINEヘルスケアが受託し、8月末まで無料の健康相談を提供している。ところが今月2日、LINEヘルスケアの遠隔健康相談を利用した人が相談対応医師から罵倒されたというチャット内容がTwitter上に投稿され炎上。この結果、同社はこの事例が規約違反の不適切事例に当たるとしてホームページ(HP)に謝罪文を公表した。この件、端的に言うならば、ごく1人のアウトサイダー医師がやったことで終わりになるはずだが、このLINEヘルスケアのHPでの規約、医師募集の要綱などを見ると、いくつかの疑問が浮かんできた。まず、このオンライン健康相談は、対応診療科が内科、小児科、産婦人科、整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科の6診療科である。ところがこの募集要項では「これらの科目における専門医資格等は必要ございません」「相談対応可能な診療科は自己申告いただきます」とのこと。たぶん多くの利用者は、対応診療科の専門家から回答が得られると期待しているはずだ。また、利用規約では相談でのやり取りを「コンテンツ」と規定し、再利用の可能性があることを表記している。今回の不適切事例でモニタリングを強化すると同社は謝罪文に記載しているが、それがどのような形で行われるのかが想像しにくい。ということで、4点の質問を送ったところ広報部門であるPR室からは次のような回答が返ってきた。▽今回の遠隔健康相談に関して、医師募集要項では対応診療科の専門医資格などは要らない旨を明記しておりますが、これはどういう理由からそのような規定としたのでしょうか?回答LINEヘルスケア社では、医師免許および本人確認を徹底し、当社所定の基準を満たした医師に参加いただいております。さらに、参加する医師には当社ガイドライン、各種法規制の遵守する事に同意いただいております。LINEヘルスケアの健康相談サービスには医行為は含まれませんが、対応科目については、医師自身が対応可能と判断したものを標榜いただいております。▽相談内容と回答内容を「コンテンツ」として、再頒布を可能としたのはなぜでしょうか?回答利用規約7.4及び7.5については、知的財産その他のプライバシー以外の観点から、弊社が、医師と相談者の間で交わされた健康相談の内容について、本人を識別しうる情報を削除した上で二次利用を行う上で必要な許諾等を得るためのものです。同規定に基づく許諾にかかわらず、医師と相談者間の健康相談の内容については、通信の秘密であり、かつ個人情報にあたることから、個別かつ明示的な同意を相談者から取得した上で利用させていただいており、無制限に弊社が相談内容を利用しうることを予定したものではありません。▽お詫びのページに追記した、「モニタリング」とは具体的にどのように行うのでしょうか?回答厚労省のオンライン診療ガイドラインを基にLINEヘルスケア社独自の医師向けガイドラインを作成しており、24時間365日モニタリングを実施しております。しかしながら、医師と相談者の間のコミュニケーションは、電気通信事業法上の通信の秘密に当たり、また医師法上も医師の守秘義務の対象として、弊社を含む第三者がみだりに内容を閲覧することは制限されております。そのため、弊社では、双方の事前同意の範囲内で、リアルタイムでの監視については自動モニタリングを実施しております。今後は、キーワードの見直しを含むモニタリング体制等の見直しを図り、再発防止策を検討、対応してまいります。▽(健康相談で)「おすすめ医師」として推奨表示される医師は、科目×回答数の多さのようですが、回答が多い医師は専門性が高いとはいえますか?回答おすすめ医師のレコメンドのロジックについては、公表していないため、お応え出来かねます。個人的な感想を言うと、どの回答もすっきりと腹落ちはしない。ちょうどこの件については私も発起メンバーの一人でもある「医薬品産業イノベーション研究会」で8月5日に緊急オンライン講演会を開催した。演者はこれまで複数の医療者向けあるいは患者向けの医療情報サイトに携わった編集者の田中 智貴氏(元QLife編集長)だ。今回の問題の根底について田中氏は「LINEヘルスケアではB to Cのサービスとして考えているのに対し、相談者側はD(Doctor) to P(Patient)と考え、双方の期待値に差異があった」と指摘する。いわゆる診断のような医学的判断を伴うオンライン診療、オンライン受診勧奨をメディカル領域、今回のLINEヘルスケアによる健康相談をヘルスケア領域と分類した場合、田中氏は「へルスケア領域はメディカルと同等の権威付けをしたがる」との見解示す。具体的に言うと、たとえば健康食品の宣伝で「○○学会で効果に関して発表」のようなもの。今回の件で言うと、オンラインの健康相談は医師でなくとも可能だが、それを医師がやることを強調する点だ。実際、LINEヘルスケアのHPでは今回のサービスについて「さまざまな不安に医師が直接お答えします」と銘打っている。ただ、そのHPをスクロールして最後になるとようやく注意事項として「本サービスは医師による健康相談のサービスです。症状の診断や治療といった判断を医師に求めることはできません」と表記してある。結果として、この辺はサービス利用者自身の不注意・誤解も含め、期待値の齟齬を起こしてしまう可能性があるということだ。また、田中氏は前述のような回答診療科医師をあくまで自己申告制で募集している背景には、昨年12月のサービススタート以降、LINEヘルスケア公式アカウントの友だち数や相談件数の急増により、回答医師を急募して今回のような利用者に暴言を吐くような医師まで参加する質の低下を招いているのではないかと分析。さらに今回の健康相談サービス全般を見た印象としてIT系のB to C企業によくみられる、ベーシックな機能を備えた段階でとりあえずサービスをスタートさせ、その後、要所要所でユーザーの反応などを見ながら改修していくアジャイル的手法が見受けられると指摘。「医療に関しては軽微でもトラブルがあってはならない」と述べて、そもそもIT系企業お得意の手法がこの領域では馴染まないとの認識を示した。こうした田中氏の指摘、LINEヘルスケアのアカウントを友だち追加後に中を見て発見した疑問点、第一弾の問い合わせの回答に対する疑問点などを含め、再度LINEのPR室に質問を送付し、回答を受け取った。▽前回の回答で登場する厚労省のオンライン診療ガイドラインを参考にした医師向けの自社のガイドラインは、厚労省ガイドラインとどのような違いがあるのでしょうか?回答医師向けのガイドラインは一般向けに公表しておりませんので、お応えしかねます。▽健康相談の回答医師の「資格」の欄には学会しか明記されておらず、単に学会員としての登録なのか、専門医・指導医なのか、会員資格などが更新されているかどうかのチェックは御社では行われているのでしょうか?回答一部ユーザーの方に誤解を招く可能性も勘案し、ご指摘の箇所についての対応の見直しを検討いたします。▽相談可能な診療科が自己申告であり、かつ一般的な医師の専門診療科数が1~2科である中で、御社サービスのおすすめ医師として表示された32人中20人が6診療科対応となっており、御社がコンテンツと定義する医師側の相談対応内容のクオリティコントロールが適正とは言えないかと思います。回答本サービスにて健康相談を実施するのは医師であり、医師自らの責任で相談がなされるサービスです。他方、クオリティコントロールをプラットフォーム提供事業者としてどのようにしていくのかという点については検討のうえ、対応していければと思います。▽サービス利用者は各診療科の専門医に相談ができるとの期待値を持って相談しているケースは少なくないと思われます。結果として「錯覚商法」のようになっていますが、この点について御社ではどのようにお考えでしょうか?回答遠隔健康相談は、個別具体的な症状に対する診断を下すものでなく、医学的知見を用いて医師が一般的な助言をするにとどまるものであり、LINEヘルスケアとしては特段専門医とつながるサービスを標榜してはおりません。専門分野の標榜の箇所もあるので、診療科の標榜が必ずしもユーザーの誤解を招くものではないと認識しております。▽登録医師の中には医療法上広告が認められていない診療科を標榜したり、自由診療を行っている旨の記載など自院誘導ともとられかねないプロフィール表記も認められます。また、登録を禁止している海外勤務医も存在します。法令や規約に基づくチェック体制が不十分と思われますが、この点についてのご見解をお聞かせください。また、現状このチェック体制がどのようになっているかも合わせてご回答お願い致します。回答LINEヘルスケアにおける医師の表記については、医療広告ガイドラインの適用は受けないと判断しております。しかしながら、ご指摘の「自院誘導ととらえられかねないプロフィール表記」については、場合によっては同ガイドラインの適用を受けることはあるものと存じます。もっとも、このような表記は、利用規約において禁止される行為となっています。現在のプロフィールチェック体制につきましては、回答を控えさせていただきます。ただし、今後は、ユーザーの皆さまに誤解を招く可能性があることを勘案し、ご指摘いただいている内容の見直しは検討してまいります。▽今回の不適切事例は相談内容が対応診療科ではない精神科のものでしたが、これまでのモニタリングではこのようなものの検出は不可能だったのでしょうか? また、キーワードによるモニタリングを行っているようですが、モニタリングキーワードは何件くらい設定しているのでしょうか? 今後の強化でこの件数はどのくらい増加する見込みでしょうか?回答モニタリング体制については、先日ご回答をさせていただきました内容以上の開示をしておりません。今後の見直しにつきましても、詳細が確定しましたらご案内とさせていただきます。▽他の医療相談サービスでは規約に含まれていない「コンテンツ」を定義した目的を教えてください。また、コンテンツの再頒布はどのような事例を念頭に置いてのことかを具体例をお教えください。回答おそらく指摘いただいているものと思われる規定は、いわゆるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の取扱いに係るものであり、一般的な規定と考えます。現に、他社の同種サービスの規約にもUGCの取扱に係る規定があることはご指摘を受けて確認しておりますので、貴社にて改めてご確認ください。なお、繰り返しになりますが、コンテンツの利用に係る規定は、ご指摘の規定以外にもプライバシーポリシー等に従う必要があり、弊社がコンテンツを自由に扱うことを目的としたものとはならないため、ご留意ください。*注:LINEのPR室によるとUGCのユーザーに医師は該当していないとのこと▽「令和2年度補正遠隔健康相談体制強化事業」として税金補助を受けており、「オンライン遠隔健康相談サービス」において、主導的な役割を果たす立場でありながら、「回答は一般的なアドバイスであること」や「診断・治療行為ではないこと」を発見性が低い、ページ下部に表記することなど、消費者の有利誤認を誘うようなサービスデザインを行っていることについて、企業姿勢としてどのようにお考えでしょうか?回答本件につきましては、利用いただく際に誤認が生じないよう、利用開始時冒頭に注意事項の情報が必ず表示されるようになっております。残念ながら個人的なもやもや感はこの2回目の回答を受けても解消されてはいない。結局、最終的には遠隔(オンライン)健康相談そのものについても厚労省による指針作成が必要になるということだろうか?

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第19回 医師の質・能力、実はどうでもいい? LINEヘルスケア事件の先にある世界

「ガキンチョ」「死ぬのが正解」などと応じる こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。やっと関東に夏本番がやって来ました。またしても愛知の実家から「しばらく帰ってこんでええ!」と言われたので、この週末、帰省は止めにして懸案の越後駒ヶ岳に山仲間と行ってきました。自粛期間中にもかかわらず、ピーク直下の駒の小屋の狭いテントサイトはほぼ満床で、密を避けるのに苦労しました。さて、今週気になったのは、IT企業、LINE(ライン)傘下のLINEヘルスケアが展開する、医師にLINEで相談できるサービス「LINEヘルスケア」で、相談を担当した医師がユーザーに対して不適切な対応をし、その内容がSNSで拡散、炎上したというニュースです。医師はユーザーからの相談に、「リスカやOD(オーバー・ドーズ)で発散するのは低レベル」「診断なんかいくらでも付けられますよ。よくいる世間知らずの10代の女の子」「言葉にできないやつはガキンチョ」「深く考えすぎると結論としては、死ぬのが正解となりますし、たぶん正解なんでしょう」などと回答。この一連のやりとりのスクリーンショットが流出し、“事件”になってしまいました。8月2日、同社はこの事態を受けて「LINEヘルスケアに登録している医師1名において、お客様に対して、利用規約違反の行為が確認されました」とした上で、この医師を利用停止処分としたことを発表。「お客様のお心を傷つけ、多大なるご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます」と謝罪しました。同社はモニタリング体制を強化することで再発防止策を徹底していく、としています。LINEのトーク画面で医師に直接相談できる「LINEヘルスケア」は、LINEと医療情報専門サイト「m3.com」のエムスリーによる合弁会社であるLINEヘルスケアが運営する、LINE上で利用できるオンラインの健康相談サービスです。内科、小児科、産婦人科、整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科に対応しており、利用者は相談内容や診療科から医師を選んだ上で、「いますぐ相談する」か、「あとから回答をもらう」か相談方法を選択、体の不調などについてLINEのトーク画面で医師に直接相談する、という仕組みです。「いますぐ相談する」の利用料金は2000円、「あとから回答をもらう」の1000円です。昨年12月からサービスをスタートしていますが、経済産業省の「令和2年度補正遠隔健康相談事業体制強化事業」(上限1億円/件)に採択されており、2020年8月31日までは無料となっています。「遠隔健康医療相談」がカテゴライズされたのは2年前このニュース、対応した医師の”暴言”に目が向きがちですが、こうした人間はどんなプロフェッションでも一定数はいるものです。ここでは、もう一つの側面である「医師による医療相談」について少し考えてみたいと思います。そもそも、医師などが健康相談に乗る、というサービスは、カード会社や生命保険会社などの付帯サービスとして従来から行われてきました。ただ、国がこうしたサービスをきちんとカテゴライズしたのはつい最近のことです。2018年度の診療報酬改定でオンライン診療に対する評価が新設されました。これを受け厚生労働省は同年3月、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」(以下、ガイドライン)を公表しました。その中で情報通信機器を活用した健康増進や医療に関する行為を「遠隔医療」と定義し、さらに「オンライン診療」「オンライン受診勧奨」「遠隔健康医療相談」の3つに区分したのです。本ガイドラインでは「遠隔健康医療相談」について、医師が行うものと、医師以外が行うものに分けて次のように定義しています。・遠隔健康医療相談(医師)遠隔医療のうち、医師-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行い、患者個人の心身の状態に応じた必要な医学的助言を行う行為。相談者の個別的な状態を踏まえた診断など具体的判断は伴わないもの。・遠隔健康医療相談(医師以外)遠隔医療のうち、医師又は医師以外の者-相談者間において、情報通信機器を活用して得られた情報のやりとりを行うが、一般的な医学的な情報の提供や、一般的な受診勧奨に留まり、相談者の個別的な状態を踏まえた疾患のり患可能性の提示・診断等の医学的判断を伴わない行為。つまり、「遠隔健康医療相談」とは、医師など(必ずしも医師限定ではない)が遠隔地(その場にいない)の患者に対して医療・健康に関連する相談を行うもので、医療行為(診察や治療)は伴わず、相談行為だけを行うもの、という位置づけなのです。というわけで、LINEヘルスケアの事業は「遠隔健康医療相談(医師)」にあたります。ちなみに、医師法第20条は「医師は自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付」することを禁止していますが、「遠隔健康医療相談(医師)」の定義(医学的助言にとどめ、相談者の個別的な状態を踏まえた診断など具体的判断は行わない)に則った運用を守れば、医師法には抵触しないことになります。LINEで“自費診療”を受けさせてみる大実験さて、LINEヘルスケアが、従来のカード会社などが提供する限定的な特別サービスと一線を画するのは、LINEという8,400万人(2020年4月現在)のユーザー数を持つソーシャルメディアの世界での事業展開という点です。さらに、前述したように、新型コロナウイルス感染症の流行で患者の医療機関の受診控えが進む中、国民がスマートフォンやパソコンを通じて医師に手軽に相談できるよう経済産業省がスタートさせた事業に採択(同社は3月にこの事業を受託、一度途切れた後、再び5月から8月まで受託しています)された点も注目に値します。国(厚生労働省ではなく経済産業省ですが)のお墨付きをもらった事業という見方もできるからです。そう考えるとこの事業、極端なことを言ってしまえば、コロナ禍で医療機関に行きづらくなった国民のうち、軽症者や自然に治るような病気の人についてLINEで“自費診療”を受けさせてみる大実験…と解釈することもできそうです。もちろん、サービス提供者側は「医学的助言にとどめ、相談者の個別的な状態を踏まえた診断など具体的判断は行わない」ことで、医療行為ではないという厳格な線引きを守っているとは思いますが、ユーザー側から見れば、医療機関の代替機能であることは間違いありません。政府は国民に、軽度の病気や怪我の患者にOTCを用いたセルフメディケーションを勧めています。背景には医療リソースの効率的利用と医療費削減があります。同様のことは「遠隔健康医療相談」にも言えるでしょう。受診前の相談の段階で、患者(や健常者)が無駄な受診を思い留まったとしたら、国や保険者は大喜びでしょう。一部の医療機関は困るかもしれませんが…。「遠隔健康医療相談」はAIに取って代わられる仮に大実験だとしたら、この事件後ネット上でも話題となった、登録医師のクオリティや、医師の取り分が安価過ぎる(いますぐ相談/予約相談で1件あたり30分1,400円、あとから回答で1件あたり700円らしいです)ことなどは、あまり大きな問題ではなくなります。なぜならば、「遠隔健康医療相談」はやがてAIに取って代わられるに違いないからです。私はAIについては詳しくありませんが、軽症疾患やコモンディジーズを患者の訴えなどから推察し、療養のアドバイスや受診勧奨をすることは、学習を積んだAIにとっては容易いことのように思えます。ここからは全くの想像です。ひょっとしたらLINEヘルスケアは、法律と規制が許せば「遠隔健康医療相談」をAIに任せようとしているのではないでしょうか(表向きは絶対に言えないとは思いますが)。AIならば相談業務を無難にこなすのはもちろん、「ガキンチョ」とか「死ぬのが正解」と言ったセリフを吐くこともおそらくありません。顧客対応も万全で、「寄り添い、共に考える医師」のフリもしてくれるでしょう。さらに、運営企業の医師への支払いも必要なくなります。もし、利用者が増えていけば、医療財政的にもそれなりの効果が期待できるでしょう。うまく運営すれば、医療機関以外にはいいことづくしです。もっとも、法律と規制を乗り越えるのはなかなか大変です。オンライン診療の規制緩和に対して、一貫して慎重姿勢をとってきた日本医師会の存在もあります。新型コロナ感染症で「オンライン診療」が進みましたが、ポストコロナの時代の“新しい生活様式”におけるダークホースとして、「遠隔健康医療相談」の行方にも、目を配っておいたほうがいかもしれません。

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自殺予防介入とその後の自殺企図との関連~メタ解析

 自殺による死亡を予防するためには、救急医療機関において自殺リスクを有する患者へのメンタルヘルスへのアクセスを確保し、それまでの間、安全を継続できるツールが必要とされる。米国・ペンシルベニア大学のStephanie K. Doupnik氏らは、簡潔な急性期自殺予防介入とその後の自殺企図、フォローアップケア、フォローアップ時のうつ症状との関連について、調査を行った。JAMA Psychiatry誌オンライン版2020年6月17日号の報告。 2000年1月~2019年5月に公表された自殺、予防関連研究の参考文献および関連文献を特定するための臨床試験をOvid MEDLINE、Scopus、CINAHL、PsychINFO、Embaseより検索した。単発の自殺予防介入の臨床研究を説明した研究を選択に含めた。2人の独立したレビュアーがすべての文献をレビューし、適格基準を判断した。また、PRISMAガイドラインに従ってデータを抽出し、Cochrane Risk of Bias toolを用いてバイアスリスクを評価した。各アウトカムのデータは、変量効果モデルを用いてプールした。出版バイアスを含む小規模研究効果は、Peter and Egger regression testを用いて評価した。自殺予防介入後の自殺企図、フォローアップケアとの関連、フォローアップ時のうつ症状の3つの主要アウトカムについて検討した。自殺企図およびフォローアップケアとの関連は、検証済みの自己報告指標と診療情報のレビューを用いて測定した(エフェクトサイズを推定するために、オッズ比とHedges g標準平均差をプールした)。うつ症状は、介入2~3ヵ月後に、検証済みの自己報告指標を用いて測定した(エフェクトサイズを推定するために、プールしたHedges g標準平均差を用いた)。 主な結果は以下のとおり。・14研究より4,270例を研究に含めた。・プールされた効果推定値では、簡潔な自殺予防介入は、その後の自殺企図の減少(プールされたオッズ比:0.69、95%CI:0.53~0.89)およびフォローアップケアへの参加の増加(プールされたオッズ比:3.04、95%CI:1.79~5.17)と関連していたが、抑うつ症状の軽減との関連は認められなかった(Hedges g:0.28、95%CI:-0.02~0.59)。 著者らは「簡潔な自殺予防介入は、その後の自殺企図の減少と関連していた。対面で行われる単発の自殺予防介入は、その後の自殺企図を減少させ、フォローアップ時のメンタルヘルスケアを行ううえで効果的であることが示唆された」としている。

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出生前母体ステロイド治療はルーチンで行うのではなく、症例ごとに合わせた早産リスクの判断を(解説:前田裕斗氏)-1268

 周産期診療における副腎皮質ステロイドの出生前投与は、前期破水や切迫早産の胎胞脱出症例など1週間以内に分娩が強く予想される症例に対して、胎児の臓器成熟を促す目的で行われる。この治療法自体は古くから行われておりデータの蓄積も多く、2017年のメタアナリシスでは妊娠34~35週未満の症例への投与により新生児呼吸窮迫症候群を有意に低減(相対リスク:0.66)するほか、脳室内出血(相対リスク:0.55)、壊死性腸炎(相対リスク:0.50)、さらには新生児死亡率(相対リスク:0.69)をも低減すると報告された。 ステロイドの出生前投与は元々妊娠34週(肺が完成するといわれる週数)未満での使用が推奨されていたが、近年は34週以降37週未満の症例への投与でも新生児における各種呼吸器合併症の発症低減などが報告されており、投与を推奨する国が出てきている。 ステロイド投与の合併症については母体でさほど目立ったものはなく、新生児の短期予後については出生後すぐの低血糖の報告がある(低中所得国での新生児死亡率上昇の報告もあるが、この原因は判然としていない)。一方長期予後については不明瞭な部分が多く、今回の論文はその1つとして神経学的予後への影響を確かめた大規模観察研究になる。 今回の論文を解釈するにおいてはまずステロイド投与が34週まで(2006~2009年)または34週6日まで(2009~2017年)に行われており、35週以降の投与による精神・行動障害のリスク増加への影響はこの論文からは判定できないことに注意が必要だ。ただし、生物学的には副腎皮質ステロイドが34~35週以降に投与された場合に悪影響を及ぼす可能性が示唆されている。34週〜満期において胎児の脳は急速に発達するが、その過程で内因性の副腎皮質ステロイドの分泌上昇が関与する可能性が示されている。胎児の脳は過剰な副腎皮質ステロイドを分解する酵素を持っているが、その酵素は治療に用いられるステロイドを分解することができないため、投与されたステロイドが胎児の脳でなんらかの影響を及ぼす可能性がある。 さらにステロイド投与後正期産で分娩となった症例だけでなく、ステロイド投与後の早産症例でも非投与群と比較して精神・行動障害の発生率については有意な増加を認めたことに注意が必要だ。多変量解析によるリスク比の増加こそ認められなかったものの、この結果からはステロイド投与後早期に分娩となった場合でも精神・行動障害へのリスクが増加する可能性は否定できない。 最後に日本におけるこの論文の適応を考えてみたい。ステロイド投与の期間は今回の研究と日本の現状であまり変わりはない(産科ガイドライン上は34週未満の1週間以内に分娩が予測される症例で投与が推奨されている)。ただし今回の研究はフィンランドで行われたものでアジア人の割合は低いと予想されることから、日本でも同様の研究を行う必要があるだろう。一方精神・行動障害へのリスク増加はこの論文以外の観察研究でも示されていることから可能性の確からしさが示唆されるが、ステロイドの母体投与は新生児死亡率の低減についてエビデンスの蓄積が多いことから、本当に早産になりそうだと臨床医が判断した症例へのステロイド投与はためらうべきではないだろう。「1週間以内に早産になる可能性が高い」と推測することは現在でも難しいが、今回の研究結果から、34週未満の切迫早産であるから取りあえずステロイド投与を行うというのではなく、不必要なステロイド投与を回避することを念頭に置いて診療に臨む必要があることが示唆された。

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