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白血病治療薬が高リスク骨髄異形成症候群にも効果を発揮

 最近承認された白血病治療薬が、致命的な骨髄疾患と診断された一部の患者にも有効である可能性が、パイロット試験で示された。骨髄異形成症候群(MDS)患者の約5人に3人が、米食品医薬品局(FDA)が2022年に、急性骨髄性白血病(AML)患者向けに承認したオルタシデニブ(商品名レズリディア)による治療に反応を示したという。米マイアミ大学シルベスター総合がんセンター白血病部門主任のJustin Watts氏らによるこの研究結果は、「Blood Advances」に7月16日掲載された。 オルタシデニブは、腫瘍の発生に関与する変異型イソクエン酸脱水素酵素1(IDH1)を選択的に阻害する薬である。FDAは、IDH1遺伝子変異陽性の再発または難治性AML成人患者に対してオルタシデニブを承認している。Watts氏らによると、AML患者の約10%にIDH1遺伝子変異が見られるという。しかし、この変異はMDS患者の約3〜5%にも見られるため、同氏らは、オルタシデニブがこの疾患の治療においても有効なのではないかと考えた。 米国がん協会(ACS)によると、前白血病またはくすぶり型白血病とも呼ばれるMDSは、骨髄内の造血細胞に異常が生じて血球が正常に成熟できなくなって発症し、貧血や感染症、出血傾向、免疫機能の低下などが生じる。MDSはAMLへ進行することが多いという。 Watts氏らは、IDH1遺伝子変異陽性で中等度から極めて高リスクのMDS患者22人(年齢中央値74歳、男性59%)を対象に、オルタシデニブの単剤療法と、AMLやMDSに対する標準的な抗がん薬であるアザシチジンとの併用療法の有効性を検討した。対象者のうち6人が単剤療法(再発/難治性4人、初回治療2人)、16人が併用療法(再発/難治性11人、初回治療5人)を受けた。 その結果、全奏効率(ORR)は全体で59%(完全寛解率27%〔6/22人〕、骨髄における完全寛解率32%〔7/22人〕)、治療に対する反応の評価が可能だった19人では68%(完全寛解率32%〔6/19人〕、骨髄における完全寛解率37%〔7/19人〕)であった。治療法別のORRは、単剤療法群で33%(2/6人)、併用療法群で69%(11/16人)であった。奏効に至るまでの期間(TTR)は中央値2カ月、奏効期間(DOR)は中央値14.6カ月、全生存期間(OS)は中央値27.2カ月であった。さらに、ベースライン時に輸血依存だった患者のうち、62%が赤血球輸血非依存(56日間)に、67%が血小板輸血非依存に到達したことも示された。 Watts氏は、「非常に高リスクのMDS患者集団において、奏効率だけでなく、血球数の改善、DORの延長、OSの改善など、実に注目すべき成果が得られた」とマイアミ大学のニュースリリースで述べている。また、研究グループは、「以前の研究では治療抵抗性MDS患者の生存期間は6カ月未満だったことを考えると、本研究結果は心強い」と述べている。 研究グループによると、この研究結果はすでに治療基準の変更につながっており、国立総合がんセンターネットワークのガイドラインにおいて、IDH1遺伝子変異陽性のMDS患者に対してオルタシデニブによる治療が推奨されている。研究グループは現在、どのAML患者とMDS患者がオルタシデニブに長期的に反応する可能性があるかを検討しているところだという。

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小児心停止における人工呼吸の重要性、パンデミックで浮き彫りに

 「子どもを助けたい」。その一心で行うはずの心肺蘇生だが、コロナ流行期では人工呼吸を避ける傾向が広がった。日本の最新研究が、この“ひと呼吸”の差が小児の救命に大きな影響を与えていたことを明らかにした。コロナ流行期では、胸骨圧迫のみの心肺蘇生が増加し、その結果、死亡リスクが高まり、年間で約10人の救えるはずだった命が失われていた可能性が示唆されたという。研究は岡山大学学術研究院医歯薬学域地域救急・災害医療学講座の小原隆史氏、同学域救命救急・災害医学の内藤宏道氏らによるもので、詳細は「Resuscitation」に7月4日掲載された。 子どもの院外心停止はまれではあるが、社会的に大きな影響を及ぼす。小児では窒息や溺水などの呼吸障害が心停止の主な原因であることから、人工呼吸を含む心肺蘇生(Cardiopulmonary resuscitation:CPR)の実施が強く推奨されてきた。一方、成人では心疾患が主な原因であることに加え、感染対策や心理的・技術的ハードルの高さから、蘇生の実施率を高める目的で「胸骨圧迫のみ」のCPR(Compression-only CPR:CO-CPR)が広く普及している。また、成人においては、新型コロナウイルス感染症の流行下では、たとえ講習やトレーニングを受けた市民であっても、感染リスクを理由に人工呼吸の実施を控えるよう促される状況が続いていた。しかしながら、こうした行動変化が小児の救命にどのような影響を及ぼしたかについては、これまで十分に検証されてこなかった。このような背景をふまえ著者らは、全国データを用いて、コロナ流行前後における小児の院外心停止に対する蘇生法の変化と、それが死亡や後遺症に与えた影響を検証した。 解析のデータベースには、総務省消防庁が管理し、日本全国で発生した院外心停止の事例を記録・収集する「All-Japan Utstein Registry(全国ウツタイン様式院外心停止登録)」が用いられた。解析には、2017~2021年にかけて発生した17歳以下の小児の院外心停止7,162人が含まれた。主要評価項目は30日以内の死亡率とした。 2017~2021年の間に、目撃者によってCPRが実施されたのは3,352人(46.8%)だった。そのうち人工呼吸を含むCPRが実施された割合は、コロナ流行前(2017~2019年)には33.0%だったが、コロナ流行期(2020~2021年)には21.1%と、11.9%の減少が認められた。 次に、CO-CPRと臨床転帰(30日以内の死亡など)との関連を評価するため、交絡因子を調整したうえで、ロバスト分散付きPoisson回帰モデルによる多変量解析を実施した。解析の結果、CO-CPRは30日以内の死亡(調整後リスク比〔aRR〕1.16、95%信頼区間〔CI〕1.08~1.24)や不良な神経学的転帰(aRR1.10、95%CI 1.05~1.16)と有意に関連していた。この傾向は、呼吸原性心停止(呼吸の停止が原因で心臓が停止する状態)で顕著だった(aRR1.26、95%CI 1.14~1.39)。 また、コロナ流行期にCO-CPRが増加したことによる影響を、過去のリスク比をもとに概算したところ、人工呼吸の実施率の低下によって、2020年~2021年の2年間で計21.3人(年間換算で10.7人)の小児が救命されなかった可能性があると推定された。 本発表後に行われた追加解析では、この人工呼吸の実施率の低下は緊急事態宣言解除後の2022年(16.1%)から2023年(15.0%)にかけても維持されていた。これは、コロナ流行期に人工呼吸を伴うCPRからCO-CPRへの移行が加速し、流行後もその傾向が続いていることを示唆している。 本研究について著者らは、「本研究は、小児の心停止患者に対して、人工呼吸が極めて重要であることをあらためて裏付けるものであり、今後の小児向け蘇生教育のあり方、感染対策を講じた安全な人工呼吸法の手技の確立、人工呼吸補助具(例:ポケットマスクなど)の開発や普及啓発など、社会全体で取り組むべき課題が多々あることを示している」と述べている。 さらに、人工呼吸の実施については、「国際蘇生連絡委員会(ILCOR)や欧州蘇生協議会(ERC)などでは、小児に対する最適なCPRとして胸骨圧迫と人工呼吸の両方を行うことが強調されている。しかしパンデミック以降、人工呼吸に対する心理的・技術的なハードルが一層高まり、ガイドラインを周知するだけでは実施が進みにくい状況にある。そのため、安心して子どもを救える社会を実現するには、CPRトレーニングプログラムを活用するなど、平時からの準備と理解の促進に取り組むことが重要である」と付け加えた。

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第257回 新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省新型コロナウイルスの感染者が全国的に増加している。厚生労働省によると、8月11~17日に約3,000の定点医療機関から報告された感染者数は2万2,288人で、1医療機関当たり6.3人となり、9週連続で前週を上回り、入院患者も1,904人と増加した。例年、夏と冬に流行のピークがあり、今年もお盆や夏休みの人の移動を背景に感染拡大が続いている。流行の中心はオミクロン株の派生型「NB.1.8.1」で、俗称「ニンバス」と呼ばれる株。国立健康危機管理研究機構によれば20日時点で国内検出の28%を占め、同系統を含めると全体の8割以上になる。感染力は従来株よりやや強いが、重症化リスクは大きく変わらないとされている。症状は、発熱や咳に加え「カミソリを飲み込んだような強い喉の痛み」が特徴で、筋肉痛や関節痛を伴う例も報告されている。ワクチンは重症化予防に有効と考えられており、WHOも監視下の変異株に指定している。都道府県別では、宮崎が最多の14.7人、鹿児島12.6人、埼玉11.5人と続き、東京や大阪など大都市圏では比較的低水準に止まっている。厚労省は「手洗いや咳エチケット、エアコン使用時の換気など基本的な感染対策を徹底してほしい」と呼びかけている。新学期開始で人の動きが再び活発化する9月中旬ごろまで増加が続く可能性が指摘される。一方、百日咳も同時流行しており、8月10日までの週に3,211人が報告され、年初からの累計は6万4千人超となった。子供を中心に長引く咳を呈し、乳児では重症化するリスクが高い。国内外で増加傾向にあり、厚労省は原因を分析中。コロナと百日咳が並行して拡大する中、専門家は体調不良時には早めに医療機関を受診し、感染拡大防止に努めるよう求めている。 参考 1) 変異ウイルス「NB.1.8.1」“感染力やや強い”(NHK) 2) 新型コロナ感染者、全国平均で9週続けて増加 例年夏に流行 厚労省(朝日新聞) 3) “カミソリをのみ込んだような強烈な喉の痛み” 新型コロナ「ニンバス」感染拡大 百日せきも流行続く(読売テレビ) 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」は、2040年にがん手術を担う消化器外科医が約5,000人不足するとの推計をまとめた。需要側では初回手術を受ける患者数が2025年の約46万5千人から40年には約44万人へ微減する一方、供給側の減少が急速に進む。外科医の約7割を占める消化器外科では、日本消化器外科学会の所属医師(65歳以下)が25年の約1万5,200人から40年に約9,200人へ39%減少し、需給ギャップは5,200人規模に拡大すると見込まれている。背景には若手医師の敬遠がある。消化器外科は10時間を超える食道がん手術や夜間・休日の救急対応など負担が大きい一方、給与水準は他科と大差がない。修練期間も長く、労働と報酬のバランスが「割に合わない」とされ、2002年から20年間で医師数は2割減少した。他方、麻酔科や内科は増加しており、診療科間での偏在が深刻化している。こうした現状に、学会や大学病院は人材確保策を模索する。北里大学は複数医師で患者を担当し、緊急時の呼び出しを減らし、富山大学は長時間手術の交代制を導入、広島大学は若手の年俸を1.3倍に引き上げた。学会は拠点病院への人材集約により休暇確保や経験蓄積を両立させたい考えを示している。報告書はまた、放射線治療では、装置の維持が難しくなる可能性や、薬物療法では地域格差が生じやすい点にも言及。今後は都道府県単位で医療機関の集約化やアクセス確保を検討し、効率的な医療提供体制を整える必要があるとしている。高齢化が進み85歳以上のがん患者は、25年比で45%増えると見込まれる中、医師不足は治療継続に直接影響し得る。厚労省は、就労環境や待遇改善に報酬面での配慮を進め、がん医療の持続可能性確保に向けた施策を急いでいる。 参考 1) 2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(厚労省) 2) がん手術担う消化器外科医、2040年に5000人不足 厚労省まとめ(毎日新聞) 3) 消化器外科医の不足深刻…厳しい勤務で若手敬遠、「胃や腸のがん患者の命に関わる」学会に危機感(読売新聞) 4) 消化器外科医「5,000人不足」 がん診療「病院集約を」厚労省検討会、40年推計(日経新聞) 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁こども家庭庁は8月、保護者の思想や信条を理由に子供に必要な医療を拒否される「医療ネグレクト」について、緊急時に医療機関が保護者の同意なく治療を実施した場合でも、刑法や民法上の責任は基本的に問われないと定め、7日付の事務連絡で明示するとともに、法務省とも協議済みとしている。救命手術などで同意が得られなくても「社会的に正当と認められる医療行為」であれば刑事責任は生じず、急迫の危害を避ける行為であれば悪意や重大な過失がない限り、民事責任も免れると解説している。背景には医療現場からの実態報告がある。こども家庭庁が救命救急センターを有する88医療機関を対象に行った調査では、2022年4月~24年9月までに24機関から計40件の医療ネグレクト事例が報告された(回答施設の3割弱に相当)。多くの事例では保護者への説明を尽くし同意を得る努力が行われたが、同意取得が不可能または時間的猶予がない場合、医療機関の判断で治療が行われていた。調査では対応の工夫として「児童相談所と事例を共有」が75%、「日頃から顔の見える関係作り」が59%と挙げられた。一方で、児相との「切迫度認識の差」や「帰宅可否を巡る判断の齟齬」など課題も指摘された。児相のノウハウ不足を補うため、具体的事例や対応方法を管内で共有することの重要性も強調されている。こども家庭庁は、平時からの地域ネットワーク構築や事例共有を通じ、迅速かつ適切な対応体制の整備を自治体に要請。現場の医師にとっても、緊急時に同意がなくとも治療に踏み切れる法的整理は大きな後押しとなるが、児相との連携強化や判断基準の共有が今後の課題となる。 参考 1) 令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業の報告書の内容及びそれを踏まえた取組(こども家庭庁) 2) 緊急時の保護者同意ない医療「法的責任負わず」こども家庭庁(MEDIFAX) 3) 救命救急センターの3割弱で医療ネグレクトの報告 思想などに起因する事例、22年4月-24年9月に40件(CB news) 4) 令和6年度 保護者の思想信条等に起因する医療ネグレクトに関する調査研究報告書(三菱UFJ) 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省厚生労働省の統計によると、医師が自宅を訪ねる往診が過去5年で1.4倍に増加した。2024年は月27万5,001回と前年比11.2%増で、とくに75歳以上の高齢者が利用の8割を占め、前年比19.6%増の23万件超となった。在宅高齢者の急変時対応や有料老人ホームなどでの需要が増え、夜間・休日対応を外部委託する医療機関の広がりが背景とみられる。一方、コロナ禍では15歳未満の往診が急増。外来受診制限や往診報酬の特例引き上げにより、2023年には月1万7,000件を超えた。深夜の乳幼児往診では1回5万円弱の報酬が得られるケースもあり、自治体の小児医療無償化と相まって都市部で利用が拡大した。しかし、2024年度の報酬改定で特例は縮小され、15歳未満の往診は63.8%減少した。往診の拡大は救急搬送の抑制につながる利点がある一方、診療報酬目的で必要性の低い往診を増やす事業者がいるとの指摘もある。厚労省もこの問題を把握しており、必要に応じて中央社会保険医療協議会(中医協)で、在宅医療報酬の見直しを議論する考えを示している。訪問診療は計画的に実施される在宅医療の柱で、2024年は月208万回、患者数110万人。これに対し往診を受けた患者は約20万人に止まる。往診の増加が高齢社会に不可欠な在宅医療の充実につながるのか、それとも過剰提供の温床となるのか、制度の在り方が問われている。 参考 1) 令和6年社会医療診療行為別統計の概況(厚労省) 2) 医師の往診5年で4割増 高齢者の利用拡大、過剰提供の懸念も(日経新聞) 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省厚生労働省と環境省は8月22日、東京都渋谷区の「北青山D.CLINIC」(阿保 義久院長)に対し、カルタヘナ法に基づく措置命令を出した。自由診療に対する同法の命令は初めて。同院は2009年以降、末期がん患者らに「CDC6shRNA治療」と称する遺伝子治療を提供してきたが、必要な承認を得ていなかった。治療には遺伝子を組み込んだレンチウイルスが用いられ、製剤は院長が中国から個人輸入していた。これまでに3千件以上行われたが、有効性や安全性は科学的に確認されていない。患者への同意文書では「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去する遺伝子を投与する」と説明されていた。両省は製剤の不活化・廃棄と再発防止策の報告を命じた。現時点で健康被害や外部漏洩は確認されていないという。クリニックは6月以降治療を中止しており、今後は法に基づき申請するとしている。厚労省によると、自由診療での遺伝子治療は、科学的根拠が不十分なまま患者が全額自費で受けるケースが国内で広がっている。昨年の法改正で「再生医療等安全性確保法」の対象にも加わったが、今回の事例は十数年にわたり違法状態が続いていたことを示している。厚労省は今後、医療機関に法令順守の徹底を求めている。 参考 1) 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に基づく措置命令について(厚労省) 2) 未承認「がん遺伝子治療」に措置命令 カルタヘナ法、自由診療で初(毎日新聞) 3) がん自由診療に措置命令 都内クリニック手続き怠り(東京新聞) 4) がんに対する自由診療の遺伝子治療めぐり、厚労省などが措置命令(朝日新聞) 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市8月21日、神戸市立西神戸医療センターは、70代男性患者が医療事故で死亡したと発表した。男性は2023年10月に悪性リンパ腫と診断され、B型肝炎ウイルスを保有していることを自ら申告していた。化学療法にはB型肝炎ウイルスを再活性化させる作用を持つ薬が含まれるため、予防目的で核酸アナログ製剤が併用処方されていた。しかし、2024年に悪性リンパ腫が完全寛解した後、担当医が患者のB型肝炎感染を失念し、薬の処方を中止。継続されていたウイルス量の検査でも増加傾向を見落とし、2025年1月に男性は急性肝炎を発症し、入院から18日後に死亡した。男性の担当医は免疫血液内科の医師で、B型肝炎治療を専門とする消化器内科ではなかった。事故後、病院は消化器内科以外の医師が核酸アナログ製剤を処方できない仕組みを導入するなど再発防止策を取っている。北垣 一院長は会見で「重大な結果を招いたことは大変残念で、深く反省している」と謝罪、遺族にも経緯を説明し、理解を得たとしている。B型肝炎の再活性化をめぐっては、化学療法や免疫抑制療法の患者における発症リスクが広く知られており、定期的な検査と予防的投薬の継続が学会ガイドラインでも推奨されている。今回の事故は、がん治療後も必要な薬の中止と検査結果の見落としが重なり、致死的転帰を招いた典型例となった。同様の事故は他施設でも発生しており、今年5月には名古屋大学医学部附属病院で、リウマチ治療を受けていた70代女性が検査不備によりB型肝炎再活性化で死亡していたことが公表されている。専門家は、複数診療科にまたがる患者管理における情報共有とチェック体制の徹底が再発防止に不可欠だと指摘している。 参考 1) B型肝炎ウイルス感染を失念、投薬を誤って中止し患者死亡…西神戸医療センターが遺族に謝罪(読売新聞) 2) 薬剤処方を誤って中止、患者死亡 神戸の市立病院が謝罪(共同通信) 3) 「担当医が患者の申告を失念」 70代男性が急性肝炎で死亡 神戸(朝日新聞)

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転移乳がんへのCDK4/6阻害薬、1次治療と2次治療でOSに差なし~メタ解析

 CDK4/6阻害薬は、HR+/HER2-転移乳がんに対して、1次治療での使用が2次治療での使用より無増悪生存期間(PFS)の改善が認められたことから、1次治療としてガイドラインで推奨されている。一方、1次治療からの使用は累積毒性とコストの増加に関連することがSONIA試験で示唆されており、1次治療と2次治療の生存期間を比較したデータは少ない。今回、ブラジル・サンパウロ大学のLis Victoria Ravani氏/米国・マサチューセッツ総合病院のZahra Bagheri氏らがメタ解析を行った結果、2次治療での使用は1次治療からの使用と比べ、PFS2(無作為化から2次治療で進行するまでの期間)は悪化したが、全生存期間(OS)は同等であることが示唆された。Breast Cancer Research誌2025年8月13日号に掲載。 本研究は、PubMed、Embase、Cochrane、学会プロシーディングを検索し、CDK4/6阻害薬による1次治療と2次治療の両方もしくはどちらかを受けた患者を含む観察研究および無作為化試験の系統的レビューおよびメタ解析を行った。1次治療からCDK4/6阻害薬を投与された患者は1次治療群に、1次治療でCDK4/6薬を投与されず2次治療から投与された患者は2次治療群に割り付けた。PFS2とOSをプール解析し、さらに試験デザインによる感度分析も行った。 主な結果は以下のとおり。・7,602例を対象とした9件の研究(無作為化試験5件、観察研究4件)が組み入れられ、6,475例(85.1%)が1次治療からCDK4/6阻害薬を投与され、1,127例(14.8%)が2次治療で投与された。・1次治療群は2次治療群より有意にPFS2が長かったが(ハザード比[HR]:2.08、95%信頼区間[CI]:1.90~2.27)、RCTのみの感度分析では有意差は認められなかった(HR:1.10、95%CI:0.94~1.30)。・OSは、1次治療群と2次治療群で有意差は認められず(HR:1.09、95%CI:1.00~1.18)、RCTのみの感度分析でも有意差は認められなかった(HR:1.03、95%CI:0.84~1.26)。 著者らは「本結果は、2次治療から1次治療への治療シフトは毒性とコストは増加するが普遍的に転帰を改善する、という想定に異議を唱えるものである」と結論している。

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症例報告の類似事例の誤診・見落とし?【医療訴訟の争点】第14回

症例本稿では、診療における画像所見の解釈や疾患の鑑別の適否が争点となった一例として、プロラクチノーマ(下垂体腺腫)を嗅神経芽細胞腫と誤診し、放射線・抗がん剤治療を受けた結果、重篤な後遺障害が残った事案についての東京高裁令和2年1月30日判決を紹介する。なお、本件の争点は多岐にわたるため、本稿では鑑別診断に関係する部分を取り上げるものとする。<登場人物>患者43歳(初診時)・男性原告患者、患者の配偶者被告A大学病院、B大学病院、C放射線治療専門病院、Dがん専門病院事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成19年12月18日患者は、慢性副鼻腔炎の症状(鼻出血・鼻漏・鼻閉・眼の奥の痛みなど)を訴えて、A大学病院の耳鼻咽喉科を受診(初診)。12月22日A大学病院にてCT検査。放射線科医の報告は以下のとおり。「篩骨洞と蝶形骨洞に軟部組織陰影を認める。蝶形骨洞の病変は頭蓋内への進展が疑われるが、MRIによる精査が望まれる。両側の上顎洞、左篩骨洞、前頭洞に軟部組織陰影や液体貯留像はない。慢性副鼻腔炎。」平成20年1月8日A大学病院にて、MRI検査。放射線科医の読影報告は以下のとおり。「蝶形骨洞を中心に篩骨洞領域に広がる軟部陰影を認める。T2強調像で中等度高信号を呈し、一部高信号域も認められる。斜台は腫瘤により圧排を受けており、下垂体も下方から押されており、境界が不明瞭となっている。腫瘤性病変を疑う。強い浸潤傾向ではないと思われるが、下垂体機能などはチェックが必要であると思われる。脳実質や眼窩方向への進展は現時点ではあまりはっきりしない。脳の浮腫性変化は不明瞭。内耳道の拡張・腫瘤形成像は特に認められない。出血・水頭症なども特に認められない。」1月12日「慢性副鼻腔炎又は副鼻腔腫瘍」との病名でA大学病院に入院。1月15日A大学病院耳鼻咽喉科にて、本件患者の右慢性副鼻腔炎に対し、右内視鏡下鼻内副鼻腔開放術を施行。中鼻甲介鼻中隔側から総鼻道にかけて本件腫瘍を認め、これを切除し、病理検査を依頼。病理検査の結果は、以下のとおり。「組織学的には既存の粘膜構造は消失し、出血壊死あるいは肉芽様変化を伴った組織内への浸潤性増殖を呈する腫瘍を認める。腫瘍細胞は比較的小型で円形~類円形核を有し、細胞質は淡明あるいはわずかに微細顆粒状であり、細胞境界の不明瞭な腫瘍細胞巣を形成している。一部にはロゼット様配列も認められる。また、腫瘍細胞の血管内への侵襲もみられる。synaptophysin/NSEが陽性であり、chromogranin Aも一部陽性反応を認める。S-100蛋白は腫瘍細胞巣の辺縁の支持細胞の一部に陽性像をみる。右副鼻腔の嗅神経芽細胞腫として矛盾しない所見であり、腫瘍細胞及び増殖形態などからグレード2~3に相当する状態と考えられる。」1月22日A大学病院の担当医は、原告ら(本件患者及びその妻)に対し、本件腫瘍につき嗅神経芽細胞腫と診断されること及び当該疾病の概要等を説明の上、当該疾病の治療にはB大学病院が優れているとして、「病名又は症状」を「嗅神経芽細胞腫」、「目的」を「加療のお願い」とするB大学病院の専門医宛の診療情報提供書を作成してこれを交付し、その際、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピーを添付した。1月29日A大学病院の担当医は、原告らの要望を受け、Dがん専門病院頭頸科宛の診療情報提供書を作成してこれを交付し、その際、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピー、病理標本のプレパラートを添付した。2月4日原告は、診療情報提供書、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピーを持参し、B大学病院頭頸部腫瘍センターを受診。診察した専門医は、MRI画像等を踏まえ、本件腫瘍につき嗅神経芽細胞腫であると考え、本件患者に対し、サイバーナイフ(ロボット誘導型定位的放射線治療装置)による治療が適当ではないかと勧めた。また、本件患者の持参したMRIの画質が悪かったため、本件腫瘍について精査する目的で、外部検査機関にてMRIを取り直すことを指示するとともに、A大学病院における病理標本のプレパラートも持参するよう求めた。2月5日原告は、外部検査機関にて副鼻腔造影MRI検査を受けた。同検査機関医師の報告は以下のとおり。「両側海綿静脈洞、トルコ鞍内、右篩骨洞後部及び右中頭蓋窩にかけて約43×35×30mm大の良好に造影される腫瘍を認める。両側内頚動脈内には良好な血流を認めるが、狭窄の有無は不明。右篩骨洞粘膜は肥厚しているが、同部に腫瘍性病変が存在するかは不明。腫瘍は右中頭蓋窩に進展しているが、側頭葉への浸潤の有無ははっきりしない。嗅神経芽細胞腫。」2月6日原告は、A大学病院の診療情報提供書、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピー、プレパラート標本を持参し、Dがん専門病院を受診。同病院にてプレパラート標本の病理検査が行われ、病理医の報告は以下のとおり。「線維性結合織の中に胞巣状をとり浸潤する腫瘍を認める。胞巣内部は比較的均一な類円形核を有する腫瘍細胞からなり、神経細線維様基質はほとんどみられないが、Abortiveなrosette構造がみられる。嗅神経芽細胞腫、鼻副鼻腔未分化がん、内分泌がん(小細胞型/未分化型)、未分化神経外胚葉性腫瘍/ユーイング肉腫などが鑑別上挙がるが、嗅神経芽細胞腫を最も考える。」Dがん専門病院の医師は、病理検査の結果やMRI画像等を踏まえ、本件腫瘍につき、嗅神経芽細胞腫と診断し、本件患者に対し、B大学病院の医師の勧めているサイバーナイフによる治療を選択することでよいと思われる旨を伝えた。2月8日本件患者は、プレパラート標本を持参してB大学病院を受診。B大学病院の病理医の報告は以下のとおり。「組織学的には円い核と比較的淡明な胞体を持つ腫瘍細胞のシート状の増殖がみられる。Rosetteの形成は必ずしも明瞭でないが、免疫組織化学的に腫瘍細胞は神経内分泌マーカーに陽性を示す。嗅神経芽細胞腫に合致する所見。」2月9日B大学病院の担当医は、外部検査機関で撮影したMRIや同院の病理診断の結果等を踏まえ、本件腫瘍について嗅神経芽細胞腫と診断した。担当医は、本件患者に対し、同人に神経症状がなく腫瘍も限局していることなどから、治療法としてはサイバーナイフ治療が適当と考えられることなどを説明したところ、本件患者が同治療を受けることを希望したため、C放射線治療専門病院を紹介し、同病院宛の診療情報提供書を作成、交付した。2月12日本件患者は、B大学病院の診療情報提供書及び外部検査機関MRIを持参のお上、C放射線治療専門病院を受診し、放射線を正確に病変部に照射できるように位置を決めるための造影CT及び単純MRI(MRA含む)撮影を実施。2月18日同日から22日までの間、5日間連続でサイバーナイフ治療を受けた。その後本件患者は、B大学病院を数回受診したが、なお腫瘍は残存しており、その大きさはサイバーナイフ治療前から不変であった。7月23日B大学病院の担当医は、本件患者に対し、現状ではサイバーナイフ治療による有意な効果が得られていないことや化学療法等について説明。本件患者が化学療法を受けることを希望したため、Dがん専門病院を紹介し、同病院宛の診療情報提供書を作成し、交付した。その後本件患者は、Dがん専門病院に入院し、抗がん剤治療を受けた。12月21日MRI検査の結果、本件腫瘍は、同年7月と比較して明らかに縮小していた。平成21年3月16日本件患者は、鼻から鼻水とは違うねばねばした透明の液体が出てくるようになったことから、Dがん専門病院の医師に相談したところ、耳鼻科受診を勧められた。4月20日本件患者は、A大学病院の耳鼻科を受診。4月24日A大学病院にて、副鼻腔CT撮影。4月27日A大学病院の医師は、副鼻腔CTを踏まえ、鼻漏が認められ、蝶形骨洞周囲の骨の破壊像はあるが、これについてはDがん専門病院でフォローされているはずであり、同病院で治療を行ったほうがよい旨説明し、同院宛の診療情報提供書を作成。その後Dがん専門病院を複数回受診し、たびたび鼻水を訴える。9月9日Dがん専門病院の医師は、髄液漏ではないかと疑い、頭頚科へコンサルトし、10月6日に頭頸科を受診。10月12日不穏状態や39度以上の発熱がみられ、救急搬送され、E基幹病院に入院。髄液や血液培養から肺炎球菌が検出され、肺炎球菌を起因菌とする急性細菌性髄膜炎と診断。その後B大学病院、別のF基幹病院での診療加療を受けた後、さらに別のG基幹病院にて、血液検査の結果、プロラクチン(PRL)が660と高値(正常値:4.4~31.2ng/mL)を示したことから、プロラクチン産生腺腫が疑われた。G基幹病院にてA大学病院のプレパラート標本を取り寄せて病理診断をしたところ、本件腫瘍は、嗅神経芽細胞腫ではなく、良性の下垂体腺腫であるプロラクチノーマであることが判明した。平成23年1月24日G基幹病院にて髄液瘻閉鎖手術を実施。なお、以上の経過の中で行われた治療の副作用により、記憶障害や視力障害、嗅覚・味覚の喪失などの後遺症が残った。実際の裁判結果本件の裁判では、大きくは、誤診(プロラクチノーマを嗅神経芽細胞腫と誤認)と、髄液鼻漏の見落としが問題となったが、本稿では、前者を取り上げることとする。本件患者らは、浸潤性の下垂体腺腫の存在については、複数の大学医学部で学生の教科書として使用されている脳外科領域の成書に記載があるから、本件診療当時の耳鼻科医においても、その存在についての知見を有することが医療水準(過失=注意義務違反の有無の判断基準)となっていた旨を主張した。これに対し、まず、裁判所は、医療水準の判断基準につき、「医療訴訟において、医師の有すべき注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるところ…上記医療水準については、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等のほか、医師の専門分野を考慮すべきであり、診療当時、ある地域の大学病院の脳外科医においては、知悉していてしかるべき知見であっても、同病院の耳鼻科医においては、これが困難な知見については、その知見を有していなかったとしても、これをもって、上記耳鼻科医に過失があるということはできないというべき」とした。その上で、裁判所は、以下の点などを指摘し、「脳外科領域の成書に浸潤性の下垂体腺腫の存在についての記載があることをもって、本件診療当時の耳鼻科医において、その存在についての知見を有することが医療水準となっていたと直ちに認めることはできない」とした。本件患者らの調査した大学医学部7校のうち、脳外科領域の科目において、本件患者らの指摘する成書を教科書として指定しているのは、1校だけであり、教科書・参考書として指定しているのも1校に留まり、他校は参考書の一例として指定しているにすぎないこと。A大学病院、B大学病院、Dがん専門病院の耳鼻科医師は、証人尋問にて、いずれも浸潤性の下垂体腺腫の存在についての知見を有していなかった旨の証言をしていること。原告の診療に当たった医師らは、下垂体原発の腫瘍であれば、通常は下垂体を中心として腫大し、軟らかい脳実質や視神経の交差部の方向(上方)に進展するものであるが、本件腫瘍にそのような進展はみられず、下垂体腫瘍に特徴的な所見はない旨の意見を述べていること。また、本件患者らは、耳鼻咽喉科領域においても、大学病院からだけでなく、地方の医療機関等からも、浸潤性の下垂体腺腫の診断をすることができたとの多数の症例報告(約90件)が昭和年代からされており、これは、本件診療当時(平成20年頃)、浸潤性の下垂体腺腫が存在するとの知見に基づく診療が地方の医療機関においても相当程度普及し、実施されていることを示すものである旨主張した。これに対し、裁判所は、以下の点などを指摘し、「数例の報告があるからといって、直ちに、同様又は類似の症例において浸潤性の下垂体腺腫を疑い鑑別診断を行うことが臨床医学の実践における医療水準として確立されていたと認めることはできない」と判断した。「症例報告は、一般に、特殊な疾患の発見や治療法の確立のために有用なものということができるものの、医学的証拠の階層では下位に位置付けられるものであるから、症例報告があることをもって、直ちに臨床医学の実践における医療水準となっていたということはできず、この点は、仮に症例報告が相当数にのぼっていたとしても、同様というべきである」「医学的証拠の階層の上位に位置付けられると考えられる「日本頭頸部癌学会編 頭頸部癌診療ガイドライン2009年版」には、頭頸部のがんの原発巣の診断に関し、浸潤性の下垂体腺腫の存在について言及した部分はない」本件患者らの指摘する症例報告は、脳外科ないし内分泌科等、耳鼻咽喉科以外の領域の医学雑誌に掲載されたものであり、耳鼻咽喉科領域の医学雑誌に掲載されたものではない。本件患者らの指摘する症例報告には、浸潤性の下垂体腺腫について、まれと報告するものが多いこと。なお、本件において、A大学病院の耳鼻咽喉科医師が、プロラクチノーマと嗅神経芽細胞腫の鑑別が問題となった平成10年の症例の症例報告をしているとして、浸潤性の下垂体腺腫が存在するとの知見があったとの主張がなされた。これに対し、裁判所は、「医師が過去に経験した特殊な症例によって得られた知見が診療当時の医師の有すべき知見とはいえない場合において、医師がその後、当該知見を失念したり、当該知見が現に診療中の患者に当てはまるか否かの検討が必ずしも十分でなかったりしたとしても、これをもって、当該医師に過失があったと直ちにいうことはできない」とし、以下の点などを指摘し、過失があったとは言えないと判断した。医師が過去に経験した特殊な症例やその際に得た知見をすべて記憶しておくべきであるとはいえない。症例報告をした医師は、本件患者の主治医ではなかったこと。過去の症例報告事例では、左上顎洞がんの疑いで紹介を受け、病理医から小細胞がんと診断された事例であったのに対し、本件では、慢性副鼻腔炎の疑いで紹介され、病理医から嗅神経芽細胞腫と診断された事例であったこと。本件では、他院である大学病院Bにおいて、本件腫瘍が嗅神経芽細胞腫であるかについて改めて診断することが予定されていたと考えられること。注意ポイント解説本件は、大学病院を含む複数の医療機関において診療が行われるも、結果として、良性の腫瘍を悪性腫瘍と誤信して診療していたことが判明し、それまでの治療において後遺症が残存した事案である。そのため、当時の各医療機関の医療水準のもとで、良性腫瘍であると診断することができたかが問題となった。具体的には、本件では、患者の主訴は耳鼻科領域のものであったが、真実は脳外科領域のものであったことから、他の診療科において知己していて然るべき知見が医療水準を構成するかが問題となった。そして、本裁判所の判断のうち「医療訴訟において、医師の有すべき注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」とするのは判例上確立された基準であるため、特に目新しいところはない。他方で、本裁判所が「医療水準については、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等のほか、医師の専門分野を考慮すべきであり、診療当時、ある地域の大学病院の脳外科医においては、知悉していてしかるべき知見であっても、同病院の耳鼻科医においては、これが困難な知見については、その知見を有していなかったとしても、これをもって、上記耳鼻科医に過失があるということはできないというべき」とし、医師の専門分野を考慮すべきとした判断は、必ずしも明言されてこなかったところであり、注目に値する。また、併せて、医療水準の判断において、本裁判所が成書、症例報告、ガイドラインの位置付けなどに関し、「症例報告は、…医学的証拠の階層では下位に位置付けられるものであるから、症例報告があることをもって、直ちに臨床医学の実践における医療水準となっていたということはできず、この点は、仮に症例報告が相当数にのぼっていたとしても、同様」「医学的証拠の階層の上位に位置付けられると考えられる「日本頭頸部癌学会編 頭頸部癌診療ガイドライン2009年版」には、…」として、医学的知見の掲載された文献等の医療水準判断における位置付けを明示している点も、必ずしも明言されてこなかったところであり、注目に値する。本件においては、結果として、良性の腫瘍を悪性腫瘍と誤信して診療していたことが過失ではないと判断されたものの、それは、患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)において、各医療機関において然るべき検査が行われていたこと。いずれの検査においても、患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)の悪性腫瘍を指摘する一方、真実の疾患の可能性をうかがわせる読影レポートなどがなされていないこと。本件腫瘍が、真実の疾患の典型的な例とは異なり、鑑別が困難なものであったこと。患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)において、真実の疾患に関する症例報告はほとんどない上、症例報告があるものにおいても本件腫瘍の発生頻度が稀とされているものであったこと。等の事情があったためと考えられる。このため、然るべき検査が行われていなかったり、検査において真実の疾患を疑わせるレポートがあったり、他診療科でも知っていて然るべき疾患であったりする場合(診療科を問わない医学書やガイドラインに記載されている等)には、本件と異なる判断がされる可能性があるものであり、本裁判所の判断は必ずしも一般化できないことに留意して診療にあたる必要がある。医療者の視点本件は、自らの専門領域の疾患との鑑別が問題となる他科の疾患にどう向き合うかという、実臨床でしばしば遭遇する課題について、司法の判断が示された重要な事例です。裁判所が「医師の専門分野」を考慮し、耳鼻科医が脳神経外科領域の稀な疾患である「浸潤性の下垂体腺腫」の知見を有していなかったとしても、直ちに注意義務違反(過失)にはあたらないと判断した点は、臨床現場の実感に近いものと言えます。患者さんの主訴(鼻出血や鼻閉など)から耳鼻咽喉科を受診し、担当医がその専門領域の疾患を念頭に鑑別診断を進めることは、ごく標準的な診療プロセスだからです。しかし、実臨床の現場では、診断に少しでも迷う点や非典型的な所見があれば、専門分野に固執せず、他科へコンサルテーションを行うことが極めて重要です。本件でも、初期のMRI検査の放射線科レポートには「下垂体機能などはチェックが必要であると思われる」との記載がありました。このようなサインをどう受け止め、脳神経外科や内分泌内科といった他科へ相談するアクションを起こせたかどうかが、患者さんの診断結果を左右した可能性があります。この判決は、専門外の知識不足が直ちに法的責任に問われるわけではないことを示しており、臨床医の過度な萎縮を防ぐ意義があります。一方で、私たちは「医療水準」という基準だけでなく、常に患者さんにとっての最善は何かを考えなければなりません。非典型的な症例に対しては、専門の壁を越えて柔軟に他科の専門医の知見を求める姿勢が、これまで以上に重要になると考えさせられる事例です。Take home message自身の診療科領域の疾患との鑑別が問題となる他科の疾患(成書やガイドラインに記載のあるもの、比較的頻度の高いもの)については、知見をアップデートしておく必要がある。患者の主訴から疑われる疾患の鑑別に必要な検査を行い、他科の専門疾患が疑われれば速やかにコンサルトする必要がある。キーワード他科領域の知見、成書、症例報告、ガイドライン、医療水準

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片頭痛予防に有効な食事パターンは?

 片頭痛は、患者の生活の質に重大な影響を及ぼす一般的な神経疾患である。食事パターンは、片頭痛の予防とマネジメントにおいて、潜在的に重要な因子として認識されている。イラン・Kerman University of Medical SciencesのVahideh Behrouz氏らは、地中海式ダイエット、高血圧予防のための食事療法DASH食、神経発生遅延のための地中海-DASH食介入(MIND)、ケトジェニックダイエット、低脂肪食、低血糖食、グルテンフリーダイエット、断食ダイエットなど、さまざまな食事パターンを比較分析し、片頭痛の予防とマネジメントにおける有効性を評価し、その根底にあるメカニズムを明らかにするため、システマティックビューを実施した。Brain and Behavior誌2025年7月号の報告。 2023年8月までに公表された観察研究および介入研究をPubMed、Web of Science、Scopusデータベースよりシステマティックに検索した。 主な結果は以下のとおり。・地中海式ダイエット、DASH食、MIND、ケトジェニックダイエット、低脂肪食、低血糖食、グルテンフリーダイエットなどの特定の食事パターンに従うことは、とくにグルテン過敏症の患者において、片頭痛の症状改善に有望な結果が示された。・地中海式ダイエット、DASH食、MINDといった植物性食事パターンに多く含まれる植物性ポリフェノール、野菜、食物繊維、脂肪分の多い魚、豆類、低脂肪乳製品の摂取量増加は、片頭痛の症状改善との関連が認められた。・片頭痛の臨床的特徴は、食事の脂肪の種類と量の変化に伴って改善することが示唆された。・ケトジェニックダイエットとω3脂肪酸の摂取を重視した低脂肪食は、いずれも片頭痛の臨床的特徴に対する有望な介入である可能性が示された。・断食や食事を抜くことは、片頭痛発作の悪化と関連が認められた。・全体として、これらの食事療法は、ミトコンドリア機能の改善、神経保護、血管緊張の調節、酸化ストレス/神経炎症の抑制、片頭痛の病因に関与するカルシトニン遺伝子関連ペプチドのレベルの低減など、さまざまな細胞経路において主要な役割を果たす可能性が示唆された。 著者らは「特定の食事療法を選択することは、片頭痛患者にとって実行可能なアプローチとなる可能性があり、明確なガイドラインを確立するためにもさらなる研究が求められる」と結論付けている。

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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ChatGPTで英語革命! 生成AI、Chat GPTとは?【タイパ時代のAI英語革命】第2回

Generative AI(生成AI)とは生成AIとそれにまつわる言葉が、ここ数年で急速に一般化しつつありますが、それと同時に混乱しやすい状況も起こっています。似た概念の多くの用語が飛び交うので、多くの人が「AIって具体的に何?」「機械学習とディープラーニングは何が違うの?」「生成AIとLLMの違いは?」といった疑問を抱くのも無理はありません。医療英語という専門分野でAIを活用するためには、皆が用語を正しく理解しておくことで混乱や誤った使い方を防ぐことができます。本章では、ChatGPTをはじめとする「Generative AI(生成AI)」の位置付けを明確にするために、周辺の用語を階層構造にして、整理しながら解説します。画像を拡大する人工知能(AI:Artificial Intelligence)人工知能とは、「人間のように知的にふるまうことを目指す技術」の総称です。最も広義な概念です。AIと聞くとつい最近のことかと思われますが、AIという言葉自体は1956年に生まれており、実は70年もの歴史があります。特化型AI(Narrow AI)AIには大きく「汎用型AI(Strong AI とSuper AI)」と「特化型AI(Narrow AI)」というカテゴリーがありますが、現在実用化されているAIは特定のタスクに特化した特化型AIといわれます。人間が指示したことに対して応えてくれる画像解析、音声認識、チャットボットなどがこれに当たります。汎用型AIとは、いわゆる人間と同じく自分で考え動き、宗教観や価値観などの複雑な感情を持つことができるものですが、まだ実現化されていません。機械学習(Machine Learning)Narrow AIのカテゴリーの中でテクノロジーの中核を担うのが機械学習です。人間がルールを一つひとつ書くのではなく、データからパターンを学習させて判断や予測を行う仕組みです。ディープラーニング(Deep Learning)機械学習の中でも、とりわけ人工ニューラルネットワーク(ANN)を構成したモデルがディープラーニングです。簡単にいうと、より複雑な機械学習のモデルです。たとえば、画像を読み込む、パターンを認識して解析する、それを音声で伝えるといった、目、脳、言語という人間のさまざまな感覚を組み合わせたような複雑な処理を指します。ディープラーニングは、昨今のAIの性能が大幅に向上するきっかけとなりました。生成AI(Generative AI)ディープラーニングのサブカテゴリーに当たる生成AI(Generative AI)は、与えられた情報を基に新しいコンテンツ(文章、画像、音声など)を生成するものです。従来のAIは「分類」や「予測」が主でしたが、Generative AIは「創造する」という点で大きく異なります。名前の知られたChatGPTやGemini、Copilotといったチャットボットはすべて生成AIに当たります。大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)Generative AIの中でも、とくに言語(テキスト)を扱うモデルがLLM(日本語では大規模言語モデル)です。膨大なテキストデータを基に文脈を理解し、自然な文章を生成することができます。ChatGPTの中核はLLMです。GPT(Generative Pre-trAIned Transformer)GPTとは、OpenAIという会社が開発したLLMのうちの1つです。LLMを「クルマ」という大きなカテゴリーだとすると、Open AIはそのうちの超大手会社「トヨタ自動車」、GPTはその会社が作っているクルマに当たります。ChatGPTようやく皆さんが最も身近に聞き慣れているものが出てきましたが、多くの人が日常的に使用しているChatGPTは、先ほどのGPTという頭脳(最新バージョンはGPT-4)を使って作られた対話型アプリのことです。この図と説明でAIに関わるさまざまな用語を階層的に整理できたのではないでしょうか。最後に、ChatGPTを含む「生成AI」でできることを確認しておきましょう。生成AIの力前段で生成AIとは、「コンテンツを創造するAI」であると説明しました。しかし、具体的に何ができるのかを理解するには、実際の分類を見ていくことが重要です。本章では、Generative AIの機能を人間の能力に例えて、以下の3つに大別してご紹介します。1)言語能力これはChatGPTが最も得意とする分野で、人間でいえば「読む」「話す」「書く」といった言語力(脳)、発声(口)、筆記(手)を司ります。自然言語を理解し、意味のある文章として出力するタスクです。以下のような応用が含まれます。質問応答例:医師が「COVID-19の現在の治療指針は?」と尋ねると、ガイドラインを基に要約された回答が返ってきます。感情分析例:自分の打った文章の内容やSNSの投稿から、「満足」「不満」「怒り」といった背後にある人間の感情を読み解くことができます。指示応答例:「5歳の子供にもわかるように糖尿病を説明して」と入力すれば、年齢に応じた表現で文章を生成します。2)感覚・知覚能力生成AIは人間でいう目、耳といった感覚器官の働きも司ります。画像の説明例:病理画像やX線画像を入力すると、「肺の右下葉に浸潤影が見られます」などと自動で解説を生成することができます。視覚質問への応答例:画像と質問を同時に入力し、「このMRI画像に異常はあるか?」と聞くと、それに対して回答を返すことが可能です。知的処理これは人間の「考える」「要約する」といった知能(脳)を司るものです。情報抽出例:カルテ内の大量のデータから患者の病名・検査値だけを自動抽出します。要約例:論文やガイドラインの長文を、数行に簡潔に要約できます。構造化データ解析例:データから傾向を読み取り、「この患者群におけるA薬の副作用発現率は?」といった分析を行います。このように生成AIは、人間が生み出せるもののほとんどの機能を、人間からの的確な指示によって代替します。医療英語分野では生成AIの「言語機能」の面で主にサポートを受けますが、「知的処理」に関しても触れていきます。それでは、今までの知識を踏まえながら、次回から医療英語のためのChatGPTの使い方を見ていきましょう!

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死亡診断のために知っておきたい、死後画像読影ガイドライン改訂

 CT撮影を患者の生前だけではなく死亡時に活用することで、今を生きる人々の疾患リスク回避、ひいては医師の医療訴訟回避にもつながることをご存じだろうか―。2015年に世界で唯一の『死後画像読影ガイドライン』が発刊され、2025年3月に2025年版が発刊された。改訂第3版となる本書では、個人識別や撮影技術に関するClinical Questionや新たな画像の追加を行い、「見るガイドライン」としての利便性が高まった。今回、初版から本ガイドライン作成を担い、世界をリードする兵頭 秀樹氏(福井大学学術研究院医学系部門 国際社会医学講座 法医学分野 教授)に、本書を活用するタイミングやCT撮影の意義などについて話を聞いた。死亡診断にCTを活用する 本書は全55のClinical Question(CQ)とコラムで構成され、前版同様に死後変化や死因究明、画像から得られる状態評価に関する知見を集積、客観的評価ができるよう既発表論文の知見を基に記述が行われている。また、「はじめに」では死後画像と生体画像の違いを解説。死後画像では生体画像でみられる所見に加え、血液就下、死後硬直、腐敗などの死体特有の所見があること、心肺蘇生術による変化、死後変化などを考慮する点などに触れている。また、本ガイドラインに係る対象者は、院外(在宅)での死亡例、救急搬送後の死亡例、入院時の死亡例であることが一般的なガイドラインと異なっている。以下、実臨床における死亡診断に有用なCQを抜粋する。―――CQ2 死後CT・MRIで血液就下・血液凝固として認められる所見は何か?(p.7)CQ10 死後CT・MRIは死因推定に有用か?(p.34)CQ11 死後CTは院外心肺停止例の死因判定に有用か?(p.38)CQ14 死後画像を検案時に用いることは有用か(p.49)CQ33 死後CTで死因となる血性心タンポナーデの読影は可能か?(p.119)CQ35 死後画像で肺炎の判定に有用な所見は何か?(p.127)―――死者の身体記録を行う意義と最も注意すべきポイント 日本における死後画像読影や本書作成については、2012年の「医療機関外死亡における死後画像診断の実施に関する研究」に端を発する。死後画像読影が2014年に「死因究明等推進計画」の重要施策の一環となり、2020年に「死因究明等推進基本法」が施行されたことで、本格的に稼働しはじめた。現在、院外死亡例の死後画像読影は法医学領域に限定すると全国約50ヵ所での実施となるが、CT画像装置があれば解剖医や放射線診断医の在籍しない病院やクリニックでも行われるようになってきている。その一方で、本書の対象に含まれる“入院中に急変などで亡くなった方”については、「“CT撮影から解剖へ”という理解が進んでいない」と兵頭氏は指摘する。「解剖を必要としないような例であっても、亡くなった段階の身体の様子を記録に残すことは医療訴訟の観点からも重要」と強調。「ただし、全例を撮ることが実際には可能だが、CTを撮れば必ず死因がわかるわけではない」ことについても、過去に広まった誤解を踏まえて強調した。 撮影する意義について、「死後画像読影は、その患者にどのような治療過程があったのかを把握するために実施する。生前は部位を特定する限定的な撮影を行うが、死後は全体を撮影するため見ていなかった点が見えてくる。併せて死後の採血や採尿を実施することで、より死因の確証に近づいていく」と説明した。そのうえで、死後画像読影の判断を誤らせる医療行動にも注意が必要で、「救急搬送された患者にはルート確保などの理由で生理食塩水(輸液)を投与することがあるが、その生理食塩水の投与量がカルテに入力されていないことがよくある。輸液量は肺に影響を及ぼすことから、海外では医療審査官が来るまでは、点滴ルートを抜去してはいけないが、国内ではすぐにエンゼルケアを実施してしまう例が散見される。そうすると、適切な医療提供の是非が不明瞭になってしまう。家族へ患者を対面させることは問題ないが、エンゼルケア後の死後画像を実施すると真の死因解明に繋がらず、医療訴訟で敗訴する可能性もある」と強調した(CQ19:心肺蘇生術による輸液は死後画像に影響するのか?」)。 そして、多くの遺族は亡くなった患者のそばにいたい、葬儀のことも考えなくてはいけないといった状況にあるため、懲罰的なイメージを連想させる解剖を受け入れてもらうのはなかなか難しい。だからこそ「遺族には死後画像読影と解剖を分けて考えてもらい、一緒に死因を確認する方法として提案することが重要である。入院患者の死亡原因を明らかにするためと話せば、撮影に協力してもらいやすい」とコメントした。実際に解剖に承諾してくださる方が減少する一方で、画像読影のニーズは増加しているという。他方、在宅など院外で亡くなった方においては、「感染症リスクなどを排除する観点からも、CT撮影せずに解剖を行うのは危険を伴う」とも指摘している。医師も“自分の身は自分で守る”こと 医療者側のCT撮影・読影のメリットについて、「万が一、遺族が医療訴訟を起こした場合、医療施設がわれわれ医師を守ってくれるわけではない。死後画像読影は死者や遺族のためでもあるが、医師自らを守るためにも非常に重要な役割を果たす。遺族に同意を得てCT画像として身体記録を残しておくことは、医療事故に巻き込まれる前段階の予防策にもつながる」と強調した。このほかのメリットとして、「医師自身が予期できなかった点を発見し、迅速に家族へ報告することもできる。きちんとした医療行為を行ったと胸を張って提示できるツールにもなる」と話した。 なお、撮影技術に関しては、放射線技師会において死後画像撮影に関するトレーニングが実施されており、過去のように、生きている人しか撮らないという医療者は減っているという。死後画像撮影の課題、院外では診療報酬が適用されず 同氏は本ガイドライン作成のもう1つの目的として「都道府県ごとの司法解剖の均てん化を目指すこと」を掲げているが、在宅患者の死後画像撮影を増やしていくこと、警察とかかりつけ医などが協力し合うことには「高いハードルがある」と話す。近年では、自宅での突然死(院外での死亡)の場合には、各都道府県の予算をもって警察経由で検視とともに画像撮影の実施が進み、亡くなった場所、生活環境・様式(喫煙、飲酒の有無など)を把握、病気か否かの死因究明ができる。ところが、「かかりつけの在宅患者が亡くなった際に実施しようとすると、死者には診療報酬が適用されないのでボランティアになってしまう。CT撮影料以外にも、ご遺体の移動、読影者、葬儀会場へのご遺体の持ち込み方法など、画像撮影におけるさまざまな問題点が生じる」と現状の課題を語った。死後画像が生きる人々の危険予測に 本書の作成経緯や利用者像について、同氏は「2015年、2020年と経て、項目の整理ができた。エビデンスが十分ではないため、新たな論文公開を基に5年ごとの更新を目指している。法医学医はもちろんのこと、放射線技師や病理医など読影サポートを担う医療者に対して、どこまで何を知っておくべきかをまとめるためにガイドラインを作成した」とし、「ガイドラインの認知度が上がるにつれて利用者層が増え、今回は救急科医にも作成メンバーとして参加してもらった」と振り返る。 最後に同氏は「本書は他のガイドラインとは趣が少々異なり、読影の現状を示すマイルストーンのような存在、道しるべとなる書籍だと認識いただきたい。エビデンスに基づいた記述だけでは国内の現状にそぐわないものもあるため、それらはコラムとして掲載している。今年、献体写真がSNSで大炎上したことで、死後画像読影に関する誤った情報も出回ってしまったが、海外をリードする立場からも、死後画像読影によって明らかになっていない点を科学的に検証し、今を生きる人々の危険回避に役立つ施策を広めていきたい」と締めくくった。

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週末にまとめて行う運動でも糖尿病患者の死亡リスク低下

 平日は多忙などの理由で運動できず、週末にまとめて運動を行う、いわゆる“週末戦士”と呼ばれる身体活動パターンであっても、糖尿病患者の死亡リスク抑制につながることを示すデータが報告された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のZhiyuan Wu氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に7月22日掲載された。 糖尿病でない一般集団においては、週末戦士のような身体活動パターンも死亡リスクの低下と関連していることが既に示されている。しかし糖尿病患者でも同様の関連があるのかは、これまで不明だった。そこでWu氏らは、前向きコホート研究により、週末戦士に該当するパターンを含む成人糖尿病患者のさまざまな身体活動パターンと、死亡リスクとの関連を検討した。 研究には、1997~2018年の米国国民健康面接調査(NHIS)のデータを利用。成人糖尿病患者5万1,650人を身体活動の頻度と量に基づき、中~高強度運動(MVPA)を行っていない「非運動群」、MVPAが週150分未満の「運動不足群」、MVPAの頻度が週1~2回で150分以上の「週末戦士群」、MVPAの頻度が週3回以上で150分以上の「習慣的運動群」の4群に分類して、中央値9.5年間追跡した。 追跡期間中に1万6,345人の死亡(心血管死5,620人、がん死2,883人を含む)が記録されていた。非運動群を基準として比較すると、週末戦士群も含めて他の3群はいずれも全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが低かった(多変量調整後のハザード比〔HR〕と95%信頼区間が、運動不足群0.90〔0.85~0.95〕、週末戦士群0.79〔0.69~0.91〕、習慣的運動群0.83〔0.78~0.87〕)。心血管死のリスクについては、運動不足群を除く2群で有意なリスク低下が認められた(運動不足群0.98〔0.89~1.07〕、週末戦士群0.67〔0.52~0.86〕、習慣的運動群0.81〔0.74~0.88〕)。 つまり、週末戦士は全死亡リスクが21%、心血管死リスクが33%低いことが示された。なお、がん死に関しては、習慣的運動群でリスク低下が認められた(運動不足群0.88〔0.78~1.00〕、週末戦士群0.99〔0.76~1.30〕、習慣的運動群0.85〔0.75~0.96〕)。 この結果についてWu氏らは、「示されたデータは、毎日ではなく柔軟にアレンジしたパターンで行う運動であっても、糖尿病患者に好ましい影響を及ぼすことを示している。運動を習慣として日々実践するのが困難な人にとって、この知見は重要である」と述べている。 著者らは研究背景の中で、「運動ガイドラインでは健康維持のために、毎週少なくとも150分の中強度運動を行うことを推奨している。中強度運動には、早歩き、ゆっくりした速度でのサイクリング、アクティブなヨガ、社交ダンス、庭仕事などが含まれる。しかし、これらの運動を実施する時間を確保することは、必ずしも容易ではない」とし、週末戦士の意義を指摘。また、「今後の研究では、仕事中や通勤での移動による運動なども含め、人々の日常の身体活動をより包括的に評価する必要がある」と付け加えている。

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運動ベースの心臓リハビリは心房細動患者にも有効

 医師は、心筋梗塞や心不全を発症した患者にしばしば運動ベースの心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を処方する。新たな研究で、そのような心臓リハビリプログラムは心房細動(AF)と呼ばれる一般的な不整脈を有する患者にも適しており、症状の改善にも役立つ可能性のあることが示された。英リバプール心臓血管科学センターのBenjamin Buckley氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Sports Medicine」に7月29日掲載された。 運動ベースの心臓リハビリには、運動トレーニングに加えて、個別化された生活習慣リスクの管理、心理社会的介入、医学的リスク管理、健康行動に関する教育が含まれている。こうしたリハビリは、心筋梗塞を起こした患者や心不全と診断された患者、あるいは冠動脈ステント留置術を受けた患者に用いられるが、AF患者に適しているかどうかは不明なため、国際的なAF治療ガイドラインには含まれていない。 AFは、心房が機能不全を起こしてけいれんするように震えることで心拍リズムが乱れる疾患であり、動悸、胸痛、疲労、めまい、息切れなどの症状を引き起こす。AFがあると、脳卒中の原因となる血栓も形成されやすくなる。現行のAFに対する治療法は、薬物療法とアブレーションと呼ばれる電気治療である。AFは心筋梗塞や心不全と同時に起こることが多いが、運動ベースの心臓リハビリがAFを引き起こすのか否かは不明である。 Buckley氏らは今回、CENTRALやMEDLINEなどの論文データベースと臨床試験登録情報を用いて、AF患者に対する運動ベースの心臓リハビリの効果を、運動をしない場合と比較したランダム化比較試験を20件(対象者の総計2,039人)抽出し、メタアナリシスを実施した。平均追跡期間は11カ月であった。心臓リハビリプログラムのほとんどは中強度の運動(通常は有酸素運動)を取り入れており、実施期間は8週間から24週間で、1セッション当たりの時間は15〜90分だった。  解析の結果、全死因死亡は、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で8.3%、リハビリを受けなかった群で6.0%(相対リスク1.06、95%信頼区間〔CI〕0.76〜1.48)、有害事象の発生率はそれぞれ2.9%と4.1%(同1.30、0.66〜2.56)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。一方、AFの症状の重症度(平均差−1.61、95%CI −3.06〜−0.16)、AFの負担(同−1.61、−2.76〜−0.45)、発生頻度(同−0.57、−1.07〜−0.07)、持続時間(同−0.58、−1.14〜−0.03)、再発(相対リスク0.68、95%CI 0.53〜0.89)、運動能力(最大酸素摂取量;平均差3.18、95%CI 1.05〜5.31mL/kg/分)については、運動ベースの心臓リハビリを受けた群で有意な改善が認められた。さらに、健康関連の生活の質(QOL)の精神的側面も向上した。  こうした結果を受けて研究グループは、「AFの治療ガイドラインには、薬物療法やアブレーション療法との併用で運動ベースの心臓リハビリを推奨する内容を盛り込み、この最新のエビデンスを反映させるべきだ」と述べている。 付随論評の著者である英ロンドン心臓血管細胞科学研究所のSarandeep Marwaha氏とSanjay Sharma氏は、「本研究結果は、運動ベースの心臓リハビリがAF患者に大きな利益をもたらすことを裏付ける説得力あるエビデンスである。特に基礎疾患のあるAF患者は、運動がAFを誘発するのではないかと不安を抱くことがあり、医師も、運動とAF発生との関連が不確実であることから運動の指導や処方を軽視しがちだ。しかし、AF患者における中等度の運動を評価するほとんどの研究は、有害事象のリスクが非常に低く、安全性を実証している」と述べている。

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薬物療法【脂肪肝のミカタ】第9回

薬物療法Q. 併存疾患に対する薬物療法は?併存疾患に対する薬物療法として、糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)、肥満症治療薬(GLP-1受容体作動薬、GIP/GLP-1受容体作動薬)、脂質異常症治療薬(スタチン、ぺマフィブラート)が肝臓の採血所見、画像所見、組織所見の改善に繋がるという報告は複数発表されている。チアゾリジン誘導体やビタミンEの肝臓の組織改善作用に関しては、近年は賛否両論がある1-3)。いずれの薬剤もMASLDに対する治療薬ではないことを把握した上で処方する必要がある。将来的な治療方針として、MASLD最大のイベントである心血管イベントの抑制まで視野に入れた治療が期待される。心血管イベント抑制作用における高いエビデンスを有する糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬)の併用を視野に入れた薬剤開発が期待される(図1)4,5)。(図1)心血管系イベントにおける糖尿病治療薬の長期インパクト(2型糖尿病を対象とした海外データ)画像を拡大するQ. 今後期待される薬物療法は?最近の臨床試験の対象は、肝硬変(Stage 4)を除外した線維化進行例(Stage 2~3)である1,2)。主要評価項目も以前は肝臓の線維化改善を重視していたが、最近は活動性改善も同時に重視する傾向にある。2024年3月、経口の甲状腺ホルモン受容体β作動薬(resmetirom)がStage 2~3の線維化が進行したMASHを対象に初の治療薬として米国食品医薬品局で承認されたが2)、本邦では臨床試験が行われておらず、現時点では使用することができない。2024年11月、米国肝臓学会で、Stage 2~3の線維化が進行したMASHを対象としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドの72週の第III相プラセボ対照試験(ESSENCE Study)の成績が報告された。肝炎活動性と線維化を共に改善し、主要評価項目を達成したことが報告された(図2)6)。本臨床試験は本邦でも行われており、今後の上市が期待されている。(図2)MASH(Stage 2~3)を対象としたGLP-1受容体作動薬の治療効果[ESSENCE Study]画像を拡大する最後に、MASLDの新薬開発における将来の展望として、まずはメタボリックシンドローム由来の心血管イベントを抑制することが課題である。よって、食事/運動療法や糖代謝改善薬は肝臓の線維化進行度に関わらず重要である。さらに、肝臓の炎症や線維化が進行してくると肝疾患イベントが抑制されることも課題となる。肝臓の脂肪化、炎症、線維化を改善する薬剤を開発し、併用していく時代になると考えている(図3)。(図3)MASLD新薬開発における将来の展望画像を拡大する 1) Rinella ME, et al. Hepatology. 2023;77:1797-1835. 2) European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542. 3) 日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂. 4) Marso S, et al. N Engl J Med. 2016;375;311-322. 5) Zinman B, et al. N Engl J Med. 2015;373:2117-2128. 6) Sanyal AJ, et al. N Engl J Med. 2025;392:2089-2099.

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高齢者がん診療で悩ましいこと【高齢者がん治療 虎の巻】第1回

(1)「何歳まで治療すべきか」に明確な答えはあるのか?<今回のPoint>「何歳まで治療すべきか」に明確な答えはない高齢者は臨床試験で過小評価されており、エビデンスの外にいることが多い構造化された意思決定プロセスはSDMの質を高める<症例>88歳、女性。進行肺がんと診断され、本人は『できることがあるなら治療したい』と希望している。既往に高血圧症、糖尿病と軽度の認知機能低下があり、パフォーマンスステータス(Performance Status:PS)は1〜2。診察には娘が同席し、『年齢的にも無理はさせたくない。でも本人が治療を望んでいるなら…』と戸惑いを見せる。遺伝子変異検査ではドライバー変異なし、PD-L1発現25%。cancer silver tsunamiが到達する前に解決すべき課題標準的な薬物療法を勧めるべきか、毒性の少ない治療にとどめるべきか。あるいは支持療法を中心とした方針とするか――。どの選択肢にも正解・不正解があるわけではなく、医師としての判断が問われる場面です。しかも、こうしたケースは珍しくありません。むしろ、今、多くの医師が、日々の診療の中で「何歳まで治療をすべきか?」という問いと向き合っているのではないでしょうか。日本は世界有数の長寿国であり、すでに65歳以上の人口割合(高齢化率)は世界最高水準に達しています。2023年時点でその割合は29.1%、2050年には37.1%に上ると推計されており1)、今後も高齢化のさらなる進行が見込まれます。がんは高齢化とともに増加する代表的な疾患であり、都市部を除く多くの地域で「高齢のがん患者が当たり前」という時代がすでに到来しています。現場の臨床医は、いわば“cancer silver tsunami”への対応を迫られているのが現状です。各種がんの診療ガイドラインでは、「暦年齢のみを理由に治療を控えるべきではない」と明記されており、患者の身体的・認知的背景や併存疾患、フレイルの有無などを総合的に判断することが求められています2,3)。たとえば大腸がんの診療ガイドラインでは、年齢にかかわらず適応となる(fit)/問題がある(vulnerable)/適応とならない(frail)の層別化を行うための評価フローも提示されています(図1)4)。(図1)一次治療の方針を決定する際のプロセス画像を拡大するとはいえ、実際の臨床では「何歳まで手術や薬物療法を提案すべきか」「治療リスクはどう見積もるのか」といった問いに、明確に答えてくれるガイドラインはほとんどありません。さらに、薬物療法を選択するとしても、レジメンの選定・投与量・期間の調整など、悩ましい判断は尽きません。臨床試験データは“選ばれし高齢者”のものこの難しさの背景には、高齢者が臨床試験で過小評価されている現実があります。多くのpivotal studyでは年齢制限は設けられていないものの、実際に登録される高齢者は非常に少数に留まっています。米国では65歳以上のがん罹患率は全体の約42%を占めますが、FDA登録試験で高齢者の登録割合は24%、NCI主導試験では10%未満に過ぎないと報告されています5)。たとえ高齢者に限定した第III相試験が行われたとしても、登録されるのは臓器機能が良好でPSも問題ない“選ばれた高齢者”です。つまり、目の前の患者が試験対象者と同じかどうか判断するための“物差し”が、われわれの手元にも臨床試験報告の中にも存在しない、という現実があるのです。米国・National Comprehensive Cancer Network(NCCN)の高齢者がん診療ガイドラインでは、治療を始めるにあたっての意思決定プロセスがフローチャートで示されており、その中でShared Decision-Making(SDM)の重要性が段階的に整理されています(図2)。(図2)意思決定プロセスのフローチャート画像を拡大する多くの臨床医は、日々の診療の中で個々の患者に応じた判断を経験的に行っていると思われますが、このような構造化されたプロセスを意識的に辿ることで、GA(Geriatric Assessment)の実施や、その結果の解釈にも自然とつながっていきます。そしてそれは、最終的にSDMの質を高めることにも寄与するはずです。とくに、治療開始前(あるいは診断時点)から「治療の目標」と「患者の価値観」をすり合わせておくことは、がん診療における極めて重要なステップです。私自身の経験からも、たとえ緩和的治療であっても、患者が「治る」と期待していたことで、医師との間で治療のゴールに齟齬が生じるケースを数多く見てきました。本連載では、高齢者がん診療における実際の“悩みどころ”を共有しながら、そのヒントや手がかりをお届けしていきます。次回は「高齢者がん診療のキホン」として、治療開始前の評価、とくにGAの実践方法について取り上げる予定です。高齢者機能評価(GA)とは高齢がん患者においては、暦年齢やPerformance Status(PS)だけでは捉えきれない身体的・精神的・社会的な多様性が、治療の選択や予後に大きく影響する。高齢者機能評価(GA:Geriatric Assessment)は、身体機能、認知機能、併存疾患、栄養状態、社会的支援などを多面的に把握するツールであり、がん治療に伴うリスクの評価や治療方針の決定に活用される。老年医学の領域で用いられるCGA(Comprehensive Geriatric Assessment)は、医師・看護師・リハビリスタッフなど多職種による包括的介入を前提とし、継続的な評価を通じてケアプランを策定することを目的とする。一方、がん領域におけるGAは、薬物療法開始前に脆弱性をスクリーニングし、治療強度の調整や必要な介入を検討する「意思決定支援のツール」として位置付けられる。近年では、GAの実施とそれに基づく介入が患者に利益をもたらすことを示す無作為化比較試験(RCT)の結果が多数報告され、国内外のガイドラインにおいても、高齢者のがん薬物療法前にGAを実施することが強く推奨されている。さらに、短時間で実施可能な簡易GAツールの普及や、iPadなどを活用した電子化も進み、臨床現場での実践が広がりつつある。1)内閣府:令和6年版高齢社会白書(全体版)2)日本肺癌学会編. 肺癌診療ガイドライン2024年版 ver.1.1. 2024.3)日本乳癌学会編. 乳癌診療ガイドライン2022年版. 金原出版. 2022.4)大腸癌研究会編. 大腸癌治療ガイドライン 医師用 2024年版. 金原出版. 2024.5)Sedrak MS et al, CA Cancer J Clin. 2021;71:78-92.6)NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines): Older Adult Oncology Version 2.2025 — May 13, 2025講師紹介

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新たなエビデンス踏まえ薬物療法・ゲノム検査など改訂「膵癌診療ガイドライン」/日本膵臓学会

 2025年7月、「膵癌診療ガイドライン」が改訂された。2022年から3年ぶりの改訂で、第7版となる。Minds診療ガイドライン作成マニュアルに基づいて作成され、Background Question、Clinical Question(CQ)のほか、エビデンスが足りないなどでシステマティック・レビューができない項目はFuture Research Question(FRQ)として新設された。 7月25~26日に行われた第56回日本膵臓学会大会では、「膵癌診療ガイドライン 2025―改訂のポイント」と題したセッションが開催され、外科的治療、薬物療法、放射線治療、支持・緩和療法など、9つの専門グループから改訂点が発表された。同学会の教育セミナー「がん薬物療法・ゲノム医療」において森實 千種氏(国立がん研究センター中央病院)が紹介した内容と合わせ、薬物療法を中心に、本ガイドラインの主な改訂点を紹介する(文中下線は編集部)。【診断】 全体の治療アルゴリズムに大きな変更点はない。ほかのがん種と比較すると、StageIIIの中に「切除可能境界(BR)」カテゴリがあり、化学療法・化学放射線療法を行ってから再評価し、次の治療法を選択するというのが膵がんアルゴリズムの特徴だ。重複箇所を整理して総論でCQ5、各論でCQ16、FRQ4、コラム2つが新設または内容が変更されている。前版のコラムにあった病診連携、バイオマーカー、CTによるスクリーニングについては、今後期待される課題としてFRQに移した。CQ D4 膵癌リスクとなる生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント保有者や家族性膵癌の近親者に対して、膵癌を考慮した精査・経過観察は推奨されるか?A.膵癌リスクとなる生殖細胞系列遺伝子の病的バリアント保有者や家族性膵癌の近親者に対して、膵癌を考慮した精査・経過観察を提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] サーベイランスを行った群のほうが5年生存率、生存期間共に有意な延長を認めたというエビデンスの蓄積を受けて本CQを新たに追加した。【補助療法】CQ RA1 切除可能膵癌に対して術前補助療法は推奨されるか?A.切除可能膵癌に対する術前補助療法としてゲムシタビン塩酸塩+S-1併用療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:D(非常に弱い)] 日本で行われたPrep 02/JSAP05試験の結果から、術前補助療法の有用性が2019年に示され、本ガイドラインでも2019年版で初めて切除可能膵がんに対する術前治療を提案することが明記された。前版でもこの記載は変わらなかったが、今版の作成時点ではPrep-02/JSAP05試験が論文化されていなかったことを踏まえ、エビデンスの確実性(強さ)をC(弱)からD(非常に弱い)に一段階下げた。今版作成後に論文化されたため、次版ではこれを精読した上で改めて推奨度・エビデンスレベルを決定することになるだろう。【薬物療法】CQ LC1 局所進行切除不能膵癌に対して一次化学療法は何が推奨されるか?A.局所進行切除不能膵癌に対する一次化学療法として、1)FOLFIRINOX療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]2)ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]上記が行えない場合、3)ゲムシタビン塩酸塩単独療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)]4)S-1単独療法を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] 今版で大きく内容が変わったCQとなる。FOLFIRINOX療法とゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法(GnP療法)は、Prodige4-ACCORD11試験およびMPACT試験においてゲムシタビン単剤と比較して優越性を示したが、どちらも遠隔転移膵がんのみを対象とした試験だった。国内で行われたJCOG1407試験は、局所進行膵がん患者を対象としてmFOLFIRINOX療法とGnP療法の有効性と安全性を検討した試験であり、いずれもゲムシタビン単剤と比べて優越性を示した。この結果を踏まえ、FOLFIRINOXとGnP療法を標準治療とし、忍容性などの問題でこれらが使えなかった場合にゲムシタビン単剤またはS-1単剤を提案するとした。CQ MC1 転移性膵癌の一次化学療法として、何が推奨されるか?A. 遠隔転移を有する膵癌に対する一次化学療法として、1)ゲムシタビン塩酸塩+ナブパクリタキセル併用療法を行うことを推奨する。[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]2)FOLFIRINOX療法を行うことを推奨する。[推奨の強さ:強い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]3)NALIRIFOX療法(日本では適応外)を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):B(中)]ただし、全身状態や年齢などから上記治療が適さない患者に対しては、4)ゲムシタビン塩酸塩単独治療を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)]5)S-1単独治療を行うことを提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性(強さ):A(強)] 転移のある膵がんに対して複数の治療選択肢が存在し、患者の年齢や体調などの諸条件により、標準治療の推奨度は変化する。未治療の転移を有する膵がんを対象に行われたJCOG1611試験では、GnP療法をmFOLFIRINOX、S-IROX療法(S-1、イリノテカン、オキサリプラチン)と比較した結果、GnP療法が3剤併用の他レジメンより有用との結果だった。この結果から、今版ではGnP、FOLFIRINOXの順に推奨とした。 さらに近年には、新たなレジメンであるNALIRIFOX(ナノリポソーム型イリノテカン+フルオロウラシル+ロイコボリン+オキサリプラチン)がGnPを上回ったというNAPOLI-3試験の結果が報告されている。この結果を受け、遠隔転移例ではGnP療法とFOLFIRINOXに加え、NALIRIFOX療法も提案に入れている。NAPOLI-3試験は日本が参加しておらず、NALIRIFOX療法は現時点では未承認だが、本レジメンの国内承認を目指すブリッジングスタディが行われ、今学会で有効性と安全性が報告されており、承認が待たれる状況だ。【プレシジョン・メディシン】CQ D1(P) 切除不能膵癌に対して、生殖細胞系列のBRCA検査は推奨されるか?A.切除不能膵癌に対して、生殖細胞系列のBRCA検査を提案する。[推奨の強さ:弱い、エビデンスの確実性:C(弱)] BRCA変異例はプラチナレジメンの治療効果が高く、かつPARP阻害薬オラパリブによる維持療法が有用との報告があり、このコンパニオン診断になるという点を踏まえ「提案する」とした。膵がんとしてはこれが初の承認されたゲノム診療となる。FRQ DI(P) 切除不能膵癌患者に対して、がん遺伝子パネル検査は推奨されるか?A.1)がん遺伝子パネル検査は治療選択肢を増やす可能性があるが、現時点でエビデンスは不十分である。2)検査を企図した時点で腫瘍組織を利用できない場合、腫瘍組織を新たに採取すべきか、血液検体を用いたがん遺伝パネル検査を実施すべきかについては今後明らかにされるべき課題である。3)標準治療終了を待たずに早めのタイミングで遺伝子パネル検査を実施することは治療アクセスの観点から妥当で、膵癌を含む臓器横断的研究で臨床的有用性が示されているが、膵癌においてのデータの蓄積が今後の課題である。 前版ではがん遺伝子パネル検査を「やるか・やらないか」というシンプルなクエスチョンだったものを、今版では膵がん固有の臨床課題に落とし込んで作成した。前版ではCQだったものを今回はFRQに押し戻すかたちとなったが、エビデンスの蓄積が足りず、検査の種類などについても、まだ明確な推奨を出すには至らないと判断した。 エビデンスを重視しながらも利益や不利益、医療費など実地診療にも配慮して作成したガイドラインだ。ぜひ一読いただき、膵がんの早期発見・治療の向上に活かしていただきたい。

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終末期介護施設入居者の救急搬送や入院、多くは回避可能

 入院や救急外来(ED)受診は、介護施設入居者、特に重度の障害を抱えているか終末期にある人にとっては大きな負担となり費用もかさむ。しかし、介護施設入居者が病院へ搬送されることは少なくない。このほど新たな研究で、このような脆弱な状態にある介護施設入居者によるED受診の70〜80%、また入院の約3分の1は回避可能であった可能性のあることが示された。米フロリダ・アトランティック大学シュミット医科大学老年医学教授のJoseph Ouslander氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Directors Association(JAMDA)」7月7日号に掲載された。 Ouslander氏らは、終末期の介護施設入居者が入院に至った原因として多かったのは、肺炎、尿路感染症、敗血症であったが、介護施設での医療と管理の質がもっと良ければ、それらの入院は必要なかったはずだと主張している。同氏は、「これらの健康問題は、施設でのケアを改善するために実行可能な手段があることを明示している。既存のガイドライン、ケアパス、予防戦略を用いれば、これらの問題は適切に管理できる。適切なツールと人員を整えることでED受診や入院の多くは回避可能であり、入居者の苦痛と不必要な医療費の両方を減らすことができる」と述べている。 今回の研究は、264カ所の介護施設において12カ月間の質改善プログラムを実施することで潜在的に回避可能な入院(possibly avoidable hospitalization;PAH)やED受診を減らせるかを検討した研究データを二次解析したもの。対象は、重度の障害を持つ6,011人(重度障害群)と終末期状態にある5,810人(終末期群)の介護施設入居者であった。 解析の結果、重度障害群の34%はあらゆる原因による入院を1回以上経験しており、その3分の1はPAHの基準を満たすことが明らかになった。また、18%はEDを1回以上受診しており、そのうちの70%は潜在的に回避可能性だったと判断された。一方、終末期群の14%があらゆる原因による入院を1回以上経験しており、そのうちの31%はPAHの基準を満たしていた。また、8%はEDを1回以上受診しており、そのうちの80%は潜在的に回避可能だったと判断された。 PAHと関連した診断として多かったのは、肺炎やその他の感染症、息切れや呼吸不全、精神状態の変化であった。一方、潜在的に回避可能なED受診で多かった診断は、重度障害群では経管栄養チューブに関する問題、終末期群では転倒による外傷であった。 Ouslander氏らは、より明確な治療プロトコルとタイムリーな症状管理によって、こうした入院の多くは防ぐことができる可能性があると述べている。同氏らはまた、家族や入居者と医療に関する希望を伝えることも大きな違いを生む可能性があり、ケアに関する希望を文書化しておくことで危機的な状況下での意思決定を回避し、不必要な搬送を減らすのに役立つとしている。 Ouslander氏は、「PAHやED受診を減らすためには、介護施設スタッフの能力を強化し、熟練した医療責任者や臨床医の積極的な関与を確保しなければならない。これは、個人の努力だけで解決できるものではなく、介護施設、介護や医療の提供団体、そして政策立案者からの支援が欠かせない。実際的な国家レベルの人員配置基準、複雑なケアに対応できるより充実した施設のリソース、さらに最も脆弱な入居者に対する質の高い、患者中心のケアを支えるための報酬制度の構築など、大胆な改革が必要だ」と述べている。

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第256回 新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研ほか 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省 1.新型コロナ感染者8週連続増 「ニンバス株」拡大とお盆の人流が影響/厚労省新型コロナウイルスの感染が全国で再び拡大している。厚生労働省によると、8月4日~10日の1週間に全国約3,000の定点医療機関から報告された新規感染者数は2万3,126人で、1医療機関当たりの平均患者数は6.13人となり、8週連続の増加となった。前週比は1.11倍で、40都道府県で増加。宮崎県(14.71人)、鹿児島県(13.46人)、佐賀県(11.83人)と、九州地方を中心に患者数が多く、関東では埼玉、千葉、茨城などで上昇が顕著だった。増加の背景には、猛暑による換気不足、夏季の人流拡大に加え、オミクロン株派生の変異株「ニンバス」の流行がある。国内の感染者の約4割がこの株とされ、症状として「喉にカミソリを飲み込んだような強い痛みを訴える」のが特徴。発熱や咳といった従来の症状もみられるが、強烈な喉の痛みで受診するケースが多い。医療機関では、エアコン使用で喉の乾燥と勘違いし、感染に気付かず行動する患者もみられる。川崎市の新百合ヶ丘総合病院では、8月14日までに陽性者70人を確認し、7月の100人を上回るペース。高齢者の入院も増加しており、熱中症と区別が付きにくいケースもある。都内の感染者数も8週連続で増加し、1医療機関当たり4.7人。東京都は、換気の徹底や場面に応じたマスク着用などの感染対策を呼びかけている。厚労省は「例年、夏と冬に感染者が増える傾向がある」として、基本的な感染対策の継続を求めている。とくに高齢者や持病のある人は重症化リスクが高いため、早期の受診や感染予防の徹底が重要とされる。 参考 1) 2025年8月15日 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生状況について(厚労省) 2) 新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移(同) 3) 新型コロナ 東京は8週連続で患者増加 医師「お盆に帰省した人が発熱し感染広がるおそれも」(NHK) 4) 新型コロナウイルス 1医療機関当たり平均患者数 8週連続で増加(同) 5) 新型コロナ「ニンバス」流行 カミソリを飲んだような強烈な喉の痛み(日経新聞) 6) 新型コロナ変異株「ニンバス」が流行の主流、喉の強い痛みが特徴…感染者8週連続増(読売新聞) 2.SFTS感染、全国拡大と過去最多ペース 未確認地域でも初報告/厚労省マダニ媒介感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の国内感染者数は、2025年8月3日時点で速報値で124人に達し、すでに昨年の年間120人を超え、過去最多の2023年(134人)を上回るペースで増加している。感染報告は28府県に及び、高知県14人、長崎県9人など西日本が中心だが、北海道、茨城、栃木、神奈川、岐阜など従来未確認だった地域でも初感染が報告された。SFTSはマダニのほか、発症したイヌやネコや患者の血液・唾液からも感染する。潜伏期間は6~14日で、発熱、嘔吐、下痢を経て重症化すると血小板減少や意識障害を起こし、致死率は10~30%。2024年には抗ウイルス薬ファビピラビル(商品名:アビガン)が承認されたが、治療は主に対症療法である。高齢者の重症例が多く、茨城県では70代男性が重体となった事例もあった。感染拡大の背景には、里山の消失による野生動物の市街地進出でマダニが人の生活圏に侵入していること、ペットから人への感染リスク増大がある。とくにネコ科は致死率が約60%とされる。富山県では長袖・長ズボン着用でも服の隙間から侵入した事例が報告された。専門家や自治体は、草むらや畑作業・登山時の肌の露出防止、虫よけ剤の使用、ペットの散歩後のブラッシングやシャンプー、マダニ発見時の医療機関受診を呼びかけている。SFTSは全国的な脅威となりつつあり、従来非流行地域でも警戒が必要。 参考 1) マダニ対策、今できること(国立健康危機管理研究機構) 2) マダニ媒介の感染症 SFTS 全国の患者数 去年1年間の累計上回る(NHK) 3) 感染症SFTS 専門医“マダニはわずかな隙間も入ってくる”(同) 4) 致死率最大3割--“マダニ感染症”全国で拡大 「ダニ学者」に聞く2つの原因 ペットから人間に感染する危険も…対策は?(日本テレビ) 3.AI医療診断を利用した大腸内視鏡検査、システム活用によるデメリットも明らかに/国立がん研などポーランドなどの国際チームは、大腸内視鏡検査でAI支援システムを常用する医師が、AI非使用時に前がん病変(腺腫)の発見率を平均約20%低下させることを明らかにした。8~39年の経験を持つ医師19人を対象に、計約2,200件の検査結果の調査によって、AI導入前の腺腫発見率は28.4%だったが、導入後にAI非使用で検査した群では22.4%に低下し、15人中11人で発見率が下がったことが明らかになった。AI支援システムへの依存による注意力・責任感低下など「デスキリング」現象が短期間で起きたとされ、とくにベテラン医師でも回避ができなかった。研究者はAIと医師の協働モデル構築、AIなしでの定期的診断訓練、技能評価の重要性を強調している。一方、国立がん研究センターは、新たな画像強調技術「TXI観察法」がポリープや平坦型病変、SSL(右側結腸に好発する鋸歯状病変)の発見率を向上させると発表した。全国8施設・956例の比較試験では、主解析項目の腫瘍性病変発見数で有意差はなかったが、副次解析で発見率向上が確認された。TXIは明るさ補正・テクスチャー強調・色調強調により微細な変化を視認しやすくする技術で、見逃しがんリスク低減と死亡率減少が期待される。ただし、恩恵を受けるには検診受診が前提で、同センターは便潜血検査と精密内視鏡検査の受診率向上を強く訴えている。両研究は、大腸内視鏡の質向上におけるAI・新技術の有用性とリスクを示すものであり、機器性能の進化と医師技能の維持を両立させる体制構築が今後の課題となる。 参考 1) AI利用、 医師の技量低下 大腸内視鏡の質検証(共同通信) 2) AI医療診断の落とし穴:医師のがん発見能力が数ヶ月で低下(Bignite) 3) Study suggests routine AI use in colonoscopies could erode clinicians’ skills, warns/The Lancet Gastroenterology & Hepatology(Bioengineer) 4) 大腸内視鏡検査における「TXI観察法」で、ポリープや「見逃しがん」リスクとなる平坦型病変の発見率が向上、死亡率減少に期待-国がん(Gem Med) 5) 大腸内視鏡検査の新規観察法の有効性を前向き多施設共同ランダム化比較試験で検証「見逃しがん」のリスクとなる平坦型病変の発見率改善に期待(国立がん研) 4.医療DX推進体制整備加算、10月から基準引き上げへ/厚労省厚生労働省は8月7日付で、2024年度診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」について、2025年10月と2026年3月の2段階でマイナ保険証利用率の実績要件を引き上げる通知を発出した。小児患者が多い医療機関向けの特例や、電子カルテ情報共有サービス参加要件に関する経過措置も2026年5月末まで延長する。改正後の施設基準では、マイナ保険証利用率の基準値は上位区分で現行45%から10月に60%、来年3月に70%へ、中位区分で30%から40%・50%へ、低位区分で15%から25%・30%へ段階的に引き上げる。小児科特例は一般基準より3ポイント低く設定され、10月以降22%・27%となる。いずれも算定月の3ヵ月前の利用率を用いるが、前月または前々月の値でも可とする。加算はマイナ保険証利用率と電子処方箋導入の有無で6区分に分かれ、電子処方箋導入施設には発行体制や調剤結果の電子登録体制の整備を新たに求める。未導入施設は電子処方箋要件を課さないが、加算区分によっては算定不可となる場合がある。電子カルテ情報共有サービスは本格稼働前のため、「活用できる体制」や「参加掲示」を有しているとみなす経過措置を来年5月末まで延長。在宅医療DX情報活用加算についても同様の延長措置が適用される。通知では、これらの要件は地方厚生局長への届出不要で、基準を満たせば算定可能と明記。厚労省は、マイナ保険証利用率向上に向けた患者への積極的な呼びかけや掲示の強化を医療機関・薬局に促している。 参考 1) 「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」及び「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」の一部改正について(医療 DX 推進体制整備加算等の取扱い関係)(厚労省) 2) 医療DX推進体制整備加算、マイナ保険証利用率基準を「2025年10月」「2026年3月」の2段階でさらに引き上げ-厚労省(Gem Med) 5.医師・歯科医師20人に行政処分 強制わいせつ致傷で免許取消/厚労省厚生労働省は8月6日、医道審議会医道分科会の答申を受け、医師12人、歯科医師8人の計20人に行政処分を決定した。発効は8月20日。別途、医師8人には行政指導(厳重注意)が行われた。処分理由は刑事事件での有罪確定や重大な法令違反が中心で、医療倫理や信頼を揺るがす事案が目立った。免許取り消しは三重県松阪市の58歳医師。2015年、診察室で製薬会社MRの女性に対し胸を触る、額にキスをする、顔に股間を押し付けようとするなどの強制わいせつ行為を行い、逃れようとした被害者が転落して視神経損傷の重傷を負った。2020年に懲役3年・執行猶予5年の有罪判決が確定していた。医師の業務停止は最長2年(麻薬取締法違反)から2ヵ月(医師法違反)まで幅広く、過失運転致傷・救護義務違反、児童買春、盗撮、迷惑行為防止条例違反、不正処方などが含まれた。戒告は4人に対して行われた。歯科医師では、最長1年10ヵ月(大麻取締法・麻薬取締法・道交法違反)から2ヵ月(詐欺幇助)までの業務停止が科され、診療報酬不正請求や傷害、廃棄物処理法違反も含まれた。戒告は2人だった。厚労省は、これら不正行為は国民の医療への信頼を損なうとし、再発防止と医療倫理向上を求めている。 参考 1) 2025年8月6日医道審議会医道分科会議事要旨(厚労省) 2) 医師と歯科医20人処分 免許取り消し、業務停止など-厚労省(時事通信) 3) 医師、歯科医師20人処分 厚労省、免許取り消しは1人(MEDIFAX) 4) 医師12名に行政処分、MRに対する強制わいせつ致傷で有罪の医師は免許取消(日本医事新報) 6.人口30万人以下の地域の急性期は1拠点化? 医療機能の再編議論が本格化/厚労省厚生労働省は8月8日、第2回「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を開催し、2026年度からの新たな地域医療構想の柱として「医療機関機能報告」制度の導入を提案した。各医療機関は、自院が地域で担うべき4つの機能(急性期拠点、高齢者救急・地域急性期、在宅医療連携、専門など)について、救急受入件数や手術件数、病床稼働率、医師・看護師数、施設の築年数といった指標をもとに、役割の適合性を都道府県へ報告する。中でも議論を呼んだのが、救急・手術を担う「急性期拠点機能」の整備基準である。厚労省は人口規模に応じた整備方針を示し、人口100万人超の「大都市型」では複数の医療機関の確保、50万人規模の「地方都市型」では1~複数、30万人以下の「小規模地域」では原則1ヵ所への集約化を目指すとした。しかし、専門病院や大学病院がすでに存在する中核都市などでは、1拠点に絞るのは非現実的との声も上がっている。また、医療機関の築年数も協議指標として活用する案に対しては、公的病院と民間病院の間で資金力に格差がある中、基準化すれば民間病院の淘汰を招く恐れがあるとして、慎重な検討を求める意見も出た。実際、病院建築費は1平米当たり2011年の21.5万円から2024年には46.5万円と倍増し、全国には築40年以上の病棟が約1,600棟(16万床分)存在する。このほか、在宅医療連携機能には訪問診療・看護の実績や高齢者施設との協力体制、高齢者救急機能には診療所不足地域での外来1次救急や施設搬送の体制が求められる。人材面では、医師の地域偏在や診療科偏在だけでなく、今後10年で最大4割減少も予測される看護師不足が最大の制約要因として指摘された。 参考 1) 新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(厚労省) 2) 急性期拠点機能の指標に「築年数」厚労省案 救急・手術件数や医療従事者数も(CB news) 3) 人口規模に応じた医療機関機能の整備を提示(日経ヘルスケア)

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アルツハイマー病予防に必要な最低限の運動量が判明

 これまでの研究では、身体活動とアルツハイマー病リスクとの逆相関関係が示唆されている。多くの研究において身体活動の健康効果が報告されているが、高齢期における身体活動の具体的な効果は依然として不明であり、高齢者では激しい身体活動が困難な場合も少なくない。さらに、身体活動の評価方法には、実施時期やその種類など、ばらつきも大きい。米国・Touro UniversityのAmy Sakazaki氏らは、高齢期における身体活動の効果および高齢者にとっての最低限の身体活動レベルを明らかにするため、既存の文献を評価するシステマティックレビューを実施した。Journal of Osteopathic Medicine誌オンライン版2025年7月16日号の報告。 PRISMAプロトコールに従ってMEDLINE、CINAHLデータベースを用いてシステマティックレビューを実施した。最終評価は2023年7月。対象研究は、英語のプロスペクティブコホート研究または介入研究で、ベースライン時に認知症、アルツハイマー病または認知機能低下を呈していないコホートを対象に身体活動を測定した研究とした。レトロスペクティブコホート研究、横断研究、ケースレポートおよび包括基準を満たさない研究は除外した。バイアスリスクは、ROBINS-Eツールを用いて、7つのバイアス領域で評価した。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングした2,322件の研究のうち17件が包括基準を満たした。これには、前回のシステマティックレビューに含まれていなかった6件の研究が新たに含まれた。・北米(米国、カナダ)、欧州(デンマーク、フィンランド、イタリア、スウェーデン、英国)より20万6,463人の参加者が対象となった。・本研究では、スクリーニング中の重複研究を効果的に削減することができ、前回レビューでは3,580件だったのに対し、92件の重複であった。・エビデンスの質についてのバイアスリスク評価は、低リスクが13件、やや懸念ありが4件であった。・中年期の身体活動を評価した研究は4件(平均年齢:49歳、平均フォローアップ期間:29.2年)、高齢期の身体活動を評価した研究は11件(平均年齢:75.9歳、平均フォローアップ期間:5.9年)、成人期の身体活動を詳細に規定せず評価した研究は2件。・統計学的に有意な結果が得られた研究の件数は、中年期の研究で4件中2件(50%)、高齢期の研究で11件中8件(75%)、時期を特定していない研究で2件中2件(100%)であった(各々、p<0.05)。・高齢期におけるアルツハイマー病の予防には、最低でも週3回以上、1回15分以上の身体活動が必要であることが示唆された。・潜在的な生物学的メカニズムについても議論された。 著者らは「本結果は、身体活動がアルツハイマー病発症リスクを有意に予防することを示す既存のエビデンスを裏付けるものであり、高齢期における身体活動の必要量は、現行ガイドラインの推奨よりも少ない可能性が示唆された。家庭内活動を含め、検証されたあらゆる身体活動がアルツハイマー病の発症予防につながる可能性があり、より多様な身体活動が高齢期に適している可能性がある。とくに職業、家庭/交通、年齢層別の身体活動のメリットおよび最適な身体活動の閾値を明らかにするために、より標準化された詳細な研究が求められる」としている。

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ペスト治療、経口治療は注射+経口治療に非劣性/NEJM

 ペストの症例数は過去100年にわたり着実に減少し、2018年にWHOに報告された症例数は248件である(うち98%はマダガスカルとコンゴ)。しかし、ペストは広範囲に分布するげっ歯類を媒介としてエピデミックとなる可能性やバイオテロに利用される可能性があり、頻度は低いが重大な被害を引き起こす感染症である。マダガスカル・パスツール研究所のRindra Vatosoa Randremanana氏らIMASOY Study Groupは、現行の治療ガイドラインでは複数の治療レジメンが推奨されているが、裏付けとなるエビデンスは弱く、成功裏に完了した重要な(pivotal)無作為化対照試験はないことから、2つの治療選択肢を比較する無作為化対照試験を実施した。NEJM誌2025年8月7日号掲載の報告。シプロフロキサシン単独vs.アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン マダガスカルにおける2018年の腺ペスト成人治療ガイドラインでは、アミノグリコシド系注射薬(第1選択薬ストレプトマイシン、第2選択薬ゲンタマイシン)の3日間投与に次いで経口シプロフロキサシンの7日間投与が推奨され、第3選択薬として経口シプロフロキサシンの10日間投与が推奨されている。これら治療レジメンを支持する質の高いエビデンスの不足と、アミノグリコシド系薬の短所(注射投与であること、許容できない副作用、細胞膜透過性不良など)から、研究グループはこれらを比較する無作為化対照試験を行った。 2020年2月~2024年3月にマダガスカルで腺ペストと臨床的に疑われた人(妊婦は除外)を登録した。非盲検非劣性デザインを用いて、経口シプロフロキサシンの10日間投与(シプロフロキサシン単独)とアミノグリコシド系注射薬3日間投与+経口シプロフロキサシン7日間投与(アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン)の2つのガイドライン推奨治療を比較した。 主要エンドポイントは11日時点の治療失敗とし、死亡、発熱、2次性肺ペストまたはペスト治療の変更または長期化の複合エンドポイントとして定義した。 感染を検査で確認またはほぼ確実とされた患者におけるシプロフロキサシン単独治療の非劣性マージンは、リスク群間差の95%信頼区間(CI)の上限が15%ポイント未満とした。ITT感染集団における治療失敗、シプロフロキサシン単独群の非劣性を確認 933例がスクリーニングを受け、腺ペストが疑われた450例が登録・無作為化された。220例(各群110例)で感染が確認され、2例(各群1例)で感染がほぼ確実とされた。これら222例のITT感染者集団において、男性は53.2%、年齢中央値は14歳(範囲:2~72)であった。 ITT感染集団における治療失敗は、シプロフロキサシン単独群9.0%(10/111例)、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群8.1%(9/111例)であり、シプロフロキサシン単独群のアミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群に対する非劣性が示された(群間差:0.9%ポイント、95%CI:-6.0~7.8)。 非劣性は、その他の事前規定の解析集団(per-protocol感染集団[ITT感染集団のうち重要なプロトコール逸脱基準に該当したシプロフロキサシン単独群1例を除く]、ITT集団[ペスト感染状態を問わない全被験者]、per-protocol集団[ペスト感染状態を問わず、重要なプロトコール逸脱基準を満たした患者を除く全被験者]など)でも一致していた。 死亡は、シプロフロキサシン単独群5例、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群4例で報告され、2次性肺ペストは両群とも3例で発症が報告された。 ITT感染集団における有害事象の発現頻度は両群で同程度であり、全有害事象の発現率はシプロフロキサシン単独群18.0%、アミノグリコシド系薬+シプロフロキサシン群18.9%であり、重篤な有害事象の発現率はそれぞれ7.2%と5.4%であった。

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糖尿病女性の診察では毎回、妊娠希望の意思確認を

 糖尿病既往のある女性の妊娠に関する、米国内分泌学会と欧州内分泌学会の共同ガイドラインが、「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に7月13日掲載された。糖尿病女性患者には、診察の都度、子どもをもうけたいかどうかを尋ねるべきだとしているほか、妊娠前のGLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)の使用中止などを推奨している。 ガイドラインの筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校のJennifer Wyckoff氏はガイドライン策定の目的を、「生殖年齢の女性の糖尿病有病率が上昇している一方で、適切な妊娠前ケアを受けている糖尿病女性はごくわずかであるため」とした上で、「本ガイドラインは、計画的な妊娠の方法に加え、糖尿病治療テクノロジーの進歩、出産の時期、治療薬、食事・栄養についても言及したものだ」と特色を強調している。 ガイドラインの推奨には、以下のような内容が含まれている。・出産可能年齢の糖尿病女性全員に妊娠の意思があるかどうかを尋ねる。・糖尿病妊婦では妊娠継続に伴うリスクが早産に伴うリスクを上回ることがあるため、39週より前に出産を計画する。・妊娠前にGLP-1RAの使用を中止する。・すでにインスリンを使用している妊婦では、メトホルミンの使用を避ける。・1型糖尿病の妊婦には、連続血糖測定(CGM)機能を備えたハイブリッド・クローズドループのインスリンポンプを使用する。アルゴリズムを利用していないCGM対応インスリンポンプや、CGMに基づく頻回のインスリン注射は推奨しない。・2型糖尿病の妊婦には、CGMまたは血糖自己測定(SMBG)のいずれかの使用を推奨する。・糖尿病の女性が妊娠を希望する場合、妊娠の準備が整うまでは避妊を継続する。 著者の1人であるパドヴァ大学(イタリア)のAnnunziata Lapolla氏は、「われわれはランダム化比較試験から得られたエビテンスに基づいて、これらの推奨事項を策定した。現在、世界中で肥満に関連する2型糖尿病が増加し、2型糖尿病を持つ妊婦が増加しているが、本ガイドラインの推奨事項は、そのような女性に対する適切な栄養と治療アプローチに関する課題にも対処している」と述べている。 なお、本ガイドラインの策定には、前記2団体のほかに、米国糖尿病学会、米国産科婦人科学会、母体胎児医学会、国際糖尿病・妊娠研究グループ、欧州糖尿病学会、糖尿病ケア・教育専門家協会、米国薬剤師会などが関与した。

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鼻水が止まりません…【漢方カンファレンス2】第3回

鼻水が止まりません…以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】20代後半女性主訴水様性鼻汁既往気管支喘息(小児期)、アレルギー性鼻炎病歴3日前、帰宅途中に雨に濡れた。翌朝、寒気がして咽頭痛と水様性鼻汁が出現。市販の感冒薬を飲んで様子をみたが、37.5℃の発熱、さらに翌日には咳嗽も出現したため受診した。水様性鼻汁が止まらずに困っている。現症身長169cm、体重56kg。体温37.4℃、血圧108/70mmHg、脈拍70回/分 整、SpO2 98%、咽頭発赤なし、扁桃肥大なし、白苔なし、頸部リンパ節腫脹なし、呼吸音異常なし。経過受診時「???」エキス2包を外来で内服。15分後水様性鼻汁が軽減「???」エキス3包 分3で処方。(解答は本ページ下部をチェック!)(帰宅して安静にし、2〜3時間おきに内服するように指導)翌日帰宅後、2回目を内服して布団に入った。悪寒がなくなり体が温かくなり解熱した。2日後咽頭痛と咳嗽が改善した。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 悪寒がありますか? 体熱感がありますか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 普段は寒がりです。 少し寒気があって上着を1枚羽織っています。 体熱感はありません。 横になりたいほどの倦怠感はありません。 のどは渇きますか? いま、飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを飲みたいですか? のどは渇きません。 温かい飲み物が飲みたいです。 <鼻汁の性状> 鼻水はどのような性状ですか? 色はついていますか? 無色で水のようにタラッと垂れてきます。 <ほかの随伴症状> のどの痛みは強いですか? 体の節々が痛みますか? 汗をかいていますか? 口の苦味や食欲低下はありませんか? 咳はひどいですか? 痰は絡みますか? のどは少し痛いくらいです。 体の痛みはありません。 汗は少しかいています。 口の苦味はなく、食欲もあります。 咳はそこまでひどくありません。 痰は絡みません。 普段から冷え症でむくみやすいですか? 冷え症で夕方に足がむくみます。 【診察】顔色はやや蒼白。脈診は、やや浮で、反発力は中程度、幅の細い脈であった。舌は淡紅色で腫大と歯痕があり、湿潤した白苔が少量、腹診では腹力は中等度より軟弱で、心窩部に振水音あり。胸脇苦満(きょうきょうくまん)は認めなかった。触診では、皮膚はわずかに湿潤傾向、四肢の冷感はなし。カンファレンス 今回は風邪の症例ですね。風邪の治療は漢方治療の基本ですからしっかり押さえておきましょう。 感冒(風邪)では、咳、鼻、のどの症状が同程度に現れるのが典型です。本症例でも咳嗽と咽頭痛もありますが、水様性鼻汁が目立つことから、鼻型の風邪(急性鼻炎)といえそうです。 風邪の漢方治療では、発症直後で悪寒のある太陽病(たいようびょう)、その後、生体内に病邪が侵入した少陽病(しょうようびょう)として治療するのでした。 よく覚えていますね。一般的には太陽病は発症2~3日で、それ以降は少陽病に移行することが多いです。 本症例は発症3日目ですからどちらか判断は難しいですね。 そうだね。脈が浮で自覚症状として寒気があるから太陽病でいいだろう。診断では、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントだ(太陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 本症例は、脈はやや浮、上着を羽織りたくなるような寒気があるということで太陽病と診断できそうです。 そうですね。さらに問診で少陽病の特徴である口の苦味や食欲低下がないこと、そして診察で舌の厚い舌苔や腹部の胸脇苦満がないことを確認して、少陽病を除外していますね。少陽病の特徴も覚えておきましょう。 太陽病ということは漢方診療のポイント(1)の「陰陽(いんよう)」は陽証ということになりますか? 今回は、寒がり、温かい飲み物を好む、顔面蒼白とあまり熱が主体の陽証とは考えにくいですね。太陽病の葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)では、悪寒と同時かその後に、熱を示唆する所見、顔面紅潮や強い咽頭痛など熱があるのでしたよね? いいところに気付いたね。今回は太陽病だけど、陽証らしくないというのがポイントだよ。では質問だけど、陰証の風邪によく用いる漢方薬を覚えているかい? えっと… 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)です。麻黄附子細辛湯は全身に冷えと強い倦怠感がある陰証、少陰病(しょういんびょう)に用います。麻黄附子細辛湯の風邪は、水様性鼻汁、チクチクとした咽頭痛、倦怠感といった症状が特徴で、脈が沈でした。さらに風邪のひき始めが少陰病から始まる場合を「直中少陰(じきちゅうのしょういん)」(直(ただ)ちに少陰に中(あ)たる)とよびます。漢方カンファレンス第5回「風邪で冷えてきつい…」で学びました。 しっかり復習しておきます。本症例では「横になりたいほどの倦怠感がありますか?」と問診し、さらに四肢の冷えを触診で確認しています。本症例ではどちらも該当せず少陰病ではないようです。やはり陽証・太陽病らしいですね。 脈がやや浮ということから太陽病と診断できるけれど、脈診は初学者には難しいこと、麻黄附子細辛湯でも例外的に脈が浮いている場合があるからね1)。必ず全身倦怠感の程度と触診などで冷えの有無を確認して、少陰病の麻黄附子細辛湯の風邪でないか、常に考える必要があるね。 漢方診療のポイント(2)である「虚実」はどうでしょう? 脈は強弱中間、触診で汗をかいているようなので、虚証でしょうか? そうですね。ただし、脈の力は強弱中間と弱ではなく、発汗の程度も軽度なので虚実間としましょう。太陽病・虚証では発汗が自他覚的にも明らかなことが多いです。陰陽・六病位・虚実の判定まできました。漢方診療のポイント(3)気血水の異常に移りましょう。 水様性鼻汁は水毒ですね。 下肢が浮腫みやすいことや腹診の振水音も水毒です。本症例は、太陽病だけど熱はあまり目立たず、水毒があるといえますね。まとめてみましょう。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?悪寒がある。横になりたいほどの倦怠感はない、脈がやや浮温かい飲み物を好む、顔面蒼白(陽証:太陽病、熱よりも冷えが目立つ)(2)虚実はどうか脈:強弱中間、軽度の発汗傾向→虚実中間(3)気血水の異常を考える水様性鼻汁、下肢浮腫、振水音→水毒(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む水様性鼻汁、振水音解答・解説【解答】本症例は太陽病・虚実間証で、水毒がある場合に用いる小青竜湯(しょうせいりゅうとう)で治療しました。【解説】小青竜湯は太陽病・虚実間に分類されますが、特殊な位置付けです。太陽病で陽証といいながらも、体内に冷え(寒)がある病態に用いられます。ちょっと冷えがあって水っぽいイメージです。そのため小青竜湯は、太陽病でありながらその病態の一部は太陰病にまたがっているとも解説されています。構成生薬は、葛根湯や麻黄湯などと同様に発汗作用のある麻黄(まおう)と桂皮(けいひ)が含まれることは共通ですが、熱薬である乾姜(かんきょう)、細辛(さいしん)に加え、利水作用や鎮咳作用のある半夏(はんげ)・五味子(ごみし)を含みます。そのためあまり熱感が目立たない水様性鼻汁を伴う風邪やアレルギー性鼻炎によい適応です。日頃からむくみやすい、振水音があるなどの水毒の傾向をもつ人が風邪をひいたり、寒さにあたって鼻汁が出たりする場合に、小青竜湯の適応となることが多いようです。なお、小青竜湯は、通年性アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の効果を示した二重盲検RCT2)が存在し、『鼻アレルギー診療ガイドライン 2024年版』にも掲載されている漢方薬です。ほかの太陽病の漢方薬と趣が異なるため悪寒のある急性期に限定せず、より幅広い時期に用いることができます。今回のポイント「太陽病」の解説風邪のひき始めのように、悪寒に加え、脈が浮である時期を太陽病(陽の始まりという意味)といいます。太陽病の病位は表(ひょう:体表)で闘病反応が起こっている時期で、葛根湯や麻黄湯などの発汗作用のある漢方薬で治療します。太陽病は図(太陽病のチェックリスト)の順に診断、虚実の判定、漢方薬の選択を行います。診断には、悪寒の有無に加えて、脈診で脈が浮であることが大事なポイントです。橈骨動脈を橈骨茎状突起の高さに第2~4指をそろえて触知します。軽く置いたときに表在性に触れることができれば浮(ふ:浮いている)と表現します。指を沈めていって初めてはっきり触れてくれば沈(ちん:沈んでいる)になります。発症からの時期(多くは2~3日以内)も参考にして診断します。次に虚実の判定を行います。脈を押しこんで全体から受ける反発力をみて脈の「強弱」の判定をします。少しの力でペシャンとつぶれて触れなくなるような脈は「弱」、反発力が充実していれば「強」と診断します。さらに太陽病の虚実の判定には、汗の有無を参考にします。悪寒があるにもかかわらず皮膚のしまりがなくて、発汗している状態は闘病反応が弱い(虚)、汗がなく皮膚がサラッと乾いている場合は闘病反応が強い(実)と判定します。また虚実の判定には咽頭痛などの上気道炎症状の強さも参考になります。最後に、漢方薬ごとの特異的徴候として、項(うなじ)のこわばり(葛根湯)、多関節痛(麻黄湯)、水様性鼻汁(アレルギー性鼻炎)などを確認して処方を決定します(図)。太陽病は漢方薬をクリアカットに選択できるため、しっかりマスターしてください。今回の鑑別処方水様性鼻汁は冷えと水毒と考えますが、膿性鼻汁では炎症(熱)が強い病態と考えて治療します。葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)は太陽病の葛根湯に川芎(せんきゅう)と辛夷(しんい)が加わった処方で、頭痛や項のこわばりに加えて、鼻閉・前頭部の圧迫感が目立つ場合に適応になります。太陽病ですから副鼻腔炎の急性期がよい適応です。越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)は、アレルギーによる粘膜の炎症や浮腫(漢方医学的には熱と水毒)を改善させる効果があり、鼻閉が強い場合や目や鼻のかゆみを訴える場合にも有効です。葛根湯加川芎辛夷、越婢加朮湯とも麻黄が含まれるため、内服期間が長くなる場合は胃もたれ、不眠、動悸などの副作用の出現に注意する必要があります。辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)は石膏(せっこう)・黄芩(おうごん)・知母(ちも)といった清熱作用のある生薬が含まれ、炎症(熱)の強い急性期の副鼻腔炎で、副鼻腔に熱感を感じる場合によい適応です。荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)は中耳炎・副鼻腔炎・ニキビなど頭頸部に炎症を繰り返しやすい体質で、慢性化した副鼻腔炎に用います。皮膚が浅黒く乾燥傾向のある場合がよい適応になります。参考文献1)藤平健, 中村謙介 編著. 傷寒論演習 緑書房. 1997;577-584.2)馬場駿吉 ほか. 耳鼻臨床. 1995;88:389-405.

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