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原発性胆汁性胆管炎(PBC)に対するelafibranorの有用性と安全性(解説:上村直実氏)

 原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、自己免疫学的機序による肝内小葉間胆管の破壊を特徴とする慢性胆汁うっ滞性肝疾患であり、徐々に肝硬変から肝不全へ移行するとともに肝がんをも引き起こすことのある疾患で、わが国の難病に指定されている。最近の診断技術や治療の進歩により肝硬変まで進展する以前に胆管炎として診断されるケースが多くなり、2016年にそれまで使用されていた原発性胆汁性肝硬変から原発性胆汁性胆管炎と病名が変更されている。進行期の症状としては掻痒感や黄疸が特徴的であるが、その前には無症状であることが多く、日本における患者数は中年の女性を中心として約5~6万人に上ると推定され、稀な疾患というわけではない。 治療法としてはウルソデオキシコール酸(UDCA)が標準治療薬で、肝硬変が進み肝不全になった場合には肝移植が究極の救命法であったが、最近、病気の進行を抑制するために高脂血症の治療薬であるベサフィブラートとUDCA併用療法の有効性が報告され、厚生労働省研究班による『PBC診療ガイドライン2023』にも推奨されている。ただし、わが国でベサフィブラートは高脂血症にのみ保険適応があるため、高脂血症を合併しないPBCに対しては、臨床研究として投与することが適切となっている。 今回は、UDCAに不応性のPBCに対してペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)α、およびδのデュアルアゴニストであるelafibranorの有効性を検証した国際共同RCTの結果が、2023年10月のNEJM誌に報告された。プラセボと比較して投与52週目には、胆道系酵素やビリルビンなどの血清学的異常が有意に改善していた。長期投与により、さらなる改善が期待される結果である。ちなみにelafibranorはインシュリン抵抗性を改善して、糖尿病、高脂血症および非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に対する有用性が示されて、今後の臨床応用が期待されている薬剤である。 このようにUDCAのみでなく胆管炎から肝硬変への進展を抑制する薬剤が次々と開発され、PBCの予後が大幅に改善されることが切望される。最後に、ベサフィブラートやelafibranorは米国のFDAで承認されており、いまだにPBCに対して保険適用となっていない日本においても、迅速な承認が期待される。

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肺がん遺伝子検査、マルチ検査の普及に課題(REVEAL)

 『肺癌診療ガイドライン−悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む−2023年版』では、進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)の場合、8種類のドライバー遺伝子(EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、KRAS、HER2)について、遺伝子検査を行うことが推奨されている。しかし、複数遺伝子に対するコンパニオン診断機能を有するマルチ遺伝子検査は、測定のための検体が多く必要であるため患者に負担がかかる、検査結果の返却に時間を要するといった課題が指摘されている。そのため、十分に普及していない可能性が考えられている。そこで、高濱 隆幸氏(近畿大学医学部)、阪本 智宏氏(鳥取大学医学部附属病院)、松原 太一氏(北九州市立医療センター)らを中心とした研究グループは、全国29施設のNSCLC患者1,479例を対象に、遺伝子検査の実施状況を調査するREVEAL(WJOG15421L)試験を実施した。その結果、86.1%の患者が遺伝子検査を受けていたが、マルチ遺伝子検査を受けた患者は47.7%にとどまっていたことが明らかになった。本研究結果は、阪本氏らによってJAMA Network Open誌12月15日号で報告された。 研究グループは、西日本がん研究機構(WJOG)登録の全国29施設で進行・再発NSCLCと診断された1,500例を登録し(登録期間:2020年7月1日〜2021年6月30日)、1,479例を後ろ向きに調査した。 主な結果は以下のとおり。・遺伝子検査が実施された患者の割合は86.1%(1,273例)であり、内訳は以下のとおりであった。 -単一遺伝子検査:57.3%(847例) -マルチ遺伝子検査:47.7%(705例) -単一およびマルチ遺伝子検査:18.9%(279例)・ドライバー遺伝子別の検査実施率は以下のとおりであった。 -EGFR:84.2%(1,245例) -ALK:78.8%(1,165例) -ROS1:72.8%(1,077例) -BRAF:54.3%(803例) -MET:54.4%(805例)・ドライバー遺伝子の検査陽性率は以下のとおりであった。 -EGFR:腺がん34.0%、扁平上皮がん3.7% -ALK:腺がん3.2%、扁平上皮がん1.6% -ROS1:腺がん2.1%、扁平上皮がん0.3% -BRAF:腺がん1.2%、扁平上皮がん0.8% -MET:腺がん1.6%、扁平上皮がん2.1%・追跡期間中央値10.3ヵ月時点において、ドライバー遺伝子検査結果および分子標的治療の有無別に全生存期間(OS)を検討した結果、OS中央値は以下のとおりであった。 -ドライバー遺伝子陽性+分子標的治療あり:24.3ヵ月 -ドライバー遺伝子陽性+分子標的治療なし:15.2ヵ月 -ドライバー遺伝子陰性または遺伝子検査なし:11.0ヵ月・多変量解析において、マルチ遺伝子検査が実施されないことの独立した予測因子として、PS 3または4(オッズ比:0.47、95%信頼区間:0.32~0.70、p<0.001)、合併症あり(同:0.54、0.44~0.67、p<0.001)、扁平上皮がん(同:0.70、0.56~0.87、p<0.001)の3つが同定された。 本研究結果について、研究グループは「本邦において、マルチ遺伝子検査が十分に実施されていない可能性が示された。希少なドライバー遺伝子変異の見逃しを避けるため、扁平上皮がんやPS不良の患者であっても、マルチ遺伝子検査の実施を検討すべきである」とまとめた。

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精度の低いAIは臨床医の誤診を増やす?/JAMA

 臨床医の診断精度は、標準的な人口知能(AI)モデルと一般的に用いられている画像ベースのAIモデルを提供された場合は向上するが、系統的に偏ったAIモデルを提供された場合は低下し、その影響は画像ベースのAIモデルで補うことはできなかったことが、米国・ミシガン大学のSarah Jabbour氏らによる検討で示された。AIは入院患者を診断する際に臨床医の助けになる可能性があるが、AIモデルの系統的な偏りは臨床医の診断精度を悪化させる可能性が示唆されており、最近の規制ガイドラインでは、AIモデルに、モデルによる誤りを軽減するための判断根拠の説明(AI explanations)を組み込むことを求めている。しかし、この戦略の有効性は確立されていなかった。JAMA誌2023年12月19日号掲載の報告。急性心不全のビネットをみて、肺炎、心不全、COPDの可能性を判断 研究グループは無作為化臨床ビネット調査研究により、臨床医の診断精度に及ぼす系統的に偏ったAIモデルの影響を評価し、画像ベースのAIモデルがモデルの誤りを軽減可能かどうかについて調べた。2022年4月~2023年1月に、米国の13州から、急性呼吸不全患者のケアに携わる機会が多い病院医とナースプラクティショナー、フィジシャンアシスタントを募り行われた。 研究グループは、ミシガン大学に2017年に急性呼吸不全で入院した患者情報(症状、身体所見、臨床検査結果、胸部X線写真など)に基づき、45の臨床ビネットを作成した。試験参加者は、そのうち9つの臨床ビネットを提示され、各患者(臨床ビネット)の急性心不全の根底にある原因として肺炎、心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の可能性を判断するよう問われた。次に、ベースライン診断の精度を確認するためにAIモデル入力(AI model input)なしの2つの臨床ビネットを提示された。続いてAIモデル説明のある/なしの6つの臨床ビネットをみるように無作為化された。これら6つのうち3つのAIモデルは標準予測モデルであり、3つは系統的に偏った予測モデルであった。 主要アウトカムは、肺炎、心不全、COPDの臨床診断精度であった。系統的に偏ったAIモデルを参照すると診断精度は低下 1,024例が研究インフォメーションページを閲覧し、572例(56%)が研究に参加し無作為化された。457例の参加者が1回以上臨床ビネットを完了し、主要解析に含まれた(231例が標準予測+説明なしAIモデル[標準的AIモデル]群、226例が標準予測+説明ありAIモデル[説明ありAIモデル]群)。9つの臨床ビネットを完了したのは、418例であった。年齢中央値は34歳(四分位範囲[IQR]:31~39)、241例(57.7%)が女性。 臨床医のベースライン診断精度は、3疾患に関して73.0%(95%信頼区間[CI]:68.3~77.8)であった。 標準的AIモデルを提示された際の臨床医の診断精度は、ベースラインよりも2.9ポイント(95%CI:0.5~5.2)上昇し、説明ありAIモデルを提示された場合も同様に4.4ポイント(2.0~6.9)上昇した。 しかしながら、系統的に偏った予測AIモデルを提示された場合、臨床医の診断精度はベースラインと比べて11.3ポイント(95%CI:7.2~15.5)低下した。説明ありの系統的に偏った予測AIモデルを提供しても9.1ポイント(4.9~13.2)低く、系統的に偏った予測AIモデル単独を提示された場合と比べても2.3ポイント(-2.7~7.2)の有意ではない改善にとどまった。 結果を踏まえて著者は、「前例のないペースでAI開発が進んでいるが、臨床業務フローにAIを組み込むことには慎重な検証が不可欠である。研究結果は、不備のあるAIのバックストップとして臨床医が機能できない可能性を示す一方で、AIの限界を理解するうえで重要な役割を果たす可能性を示唆するものであった」とまとめている。

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食塩摂取量はどこまで減らせばいいのだろうか?(解説:石川讓治氏)

 食塩摂取量がきわめて少ない民族においては高血圧の有病率が低いことが報告されてから、食塩摂取量の減少を試みる介入研究が幾つかされてきた。DASH研究において食塩6g/日以下にすることで有意に血圧低下が認められることが示され、現在の各国の高血圧治療ガイドラインにおいては食塩摂取量を1日6g以下にすることを推奨している。しかし、わが国の食塩摂取量は1日12~13g程度で、まだまだ目標レベルに程遠いのが現実である。本研究は、ナトリウム摂取量2,200mg(食塩として5.59g)/日の1週間継続、ナトリウム摂取量500mg(食塩として1.27g)/日の1週間継続をクロスオーバーデザインで行い、24時間平均自由行動下血圧の違いを評価した研究である。結果として、低ナトリウム食によって4mmHgの平均血圧低下が認められた。低ナトリウム食で73.4%の参加者で平均血圧が低下しており、食塩感受性が46%の参加者に認められている。低ナトリウム食の降圧効果は、対象者の年齢、性別、人種、高血圧の有無、ベースラインの血圧値、糖尿病、肥満度には影響を受けなかった。わずか1週間の減塩で血圧低下が起こることは非常に驚きであり、今後の患者指導で有用なデータであると考えられた。 本研究のナトリウム摂取量から換算した食塩摂取量は各群5.59g/日と1.27g/日である。日常臨床における高ナトリウム(食塩)摂取量ではなく、ガイドラインに沿った食塩摂取量と極端に少ない食塩摂取量の比較試験であることに注意が必要である。食塩摂取量の目標値6g/日以下も難しいわが国の現状で、この目標値を達成することは至難の業であると思われた。本研究の参加者の平均年齢は61歳であり、64%が黒人であった。本研究では両群に有害事象の有意差は認められなかったが、非高齢者を中心に行われた研究で、食塩感受性が高いとされる黒人を多く含む研究であったことにも注意が必要である。後期高齢者の動脈スティフネス亢進を背景とした高血圧患者において、1.27g/日の食塩摂取を安全に行うことができるのか今後の検討が必要であると思われた。

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2023年、読んでよかった!「この医学書」/会員医師アンケート

2023年も多くの医学書が刊行されました。CareNet.comでは、会員医師1,000人(内科、循環器科、呼吸器科、消化器科、精神科/心療内科・各200人)に、「今年読んでよかった医学書」についてアンケートを実施しました(今年刊行された本に限らず、今年読んだ本であればOK)。アンケートでは「ご自身の専門分野でよかった本」「専門分野以外でよかった本」を1冊ずつ、理由も添えて挙げてもらいました。本記事では、複数の医師から名前の挙がった書籍を、お薦めコメントと共に紹介します(アンケート実施日:12月5日)。ぜひ、年末年始の読書の参考にしてください。内科幅広いテーマの書籍が「専門分野」として挙げられた内科。『今日の治療薬』(南江堂)、『ハリソン内科学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、『当直医マニュアル』(医歯薬出版)といった「ド定番」のほか、糖尿病治療に関する書籍と「日本内科学会雑誌」を挙げる人が目立ちました。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』(金城 光代ほか[編]、医学書院、2023年)内科外来のトップマニュアルが6年ぶりの改訂。内科医以外からも多くの推薦がありました。●推薦コメント「外来診療に役立った」「疾患別に緊急性や重症度などを考えさせるように導く内容となっていて面白い」『胃炎の京都分類 改訂第3版』(春間 賢[監修]、日本メディカルセンター、2023年)多くの画像で胃炎を解説する定番書の改訂第3版。●推薦コメント「慢性胃炎に対する内視鏡的・肉眼的考察により、これまでの慢性胃炎の概念を体系化した書物」「臨床に生かせる」『内科学 第12版』(矢崎 義雄・小室 一成[編]、朝倉書店、2022年)初版は1977年、病態生理を中心に内科的疾患の最新の知見を集大成した改訂12版。●推薦コメント「鉄板です」「ザ・定番と思われるため」循環器科内科医からも多くの推薦があった『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』のほか、個別テーマでは心電図、PCIを扱った書籍が多く挙げられました。『循環とは何か? 虜になる循環の生理学』(中村 謙介[著]、三輪書店、2020年)難解な循環の生理学を、深くかつわかりやすく解説。●推薦コメント「面白い」「知識の整理になった」『PCIで使い倒す IVUS徹底活用術 改訂第2版』(本江 純子[編]、メジカルビュー社、2020年)「もっとこうしたらIVUSをより有効に活用できる」という手順・方法などを、実例と共に解説。●推薦コメント「IVUSの基本的な読影やトラブルシューティングなど、理論的にわかりやすかった」「説明がわかりやすく、実践的」『心不全治療薬の考え方,使い方 改訂2版』(齋藤 秀輝ほか[編]、中外医学社、2023年)心不全治療薬の整理のほか、使い分けや未知の事柄も追記した実践的な書の改訂版。●推薦コメント「いつも参考にしています」「心不全治療薬の“革命”を経て…、U40新世代が作り上げるバイブル」呼吸器科「間質性肺炎」「肺がん」「喘息」「気管支鏡」「人工呼吸」「咳」など、「専門」とする書籍テーマのバリエーションが多様だった呼吸器科。回答者によってさまざまな疾患に対応していることが垣間見える結果となりました。『ポケット呼吸器診療2023』(倉原 優[著]、シーニュ、2023年)CareNet.comの連載でもおなじみの倉原氏による定番の一冊の最新版。●推薦コメント「毎年非常に詳しく書かれているから」「ガイドラインや最新の治療薬のアップデートを記憶するのに役立つ」「呼吸器診療のtipsがコンパクトにまとめられている」『誤嚥性肺炎の主治医力』(飛野 和則[監修]、吉松 由貴[著]、南山堂、2021年)飯塚病院 呼吸器内科の著者らによる誤嚥性肺炎診療の実践書。●推薦コメント「気を付けるポイントを再認識した」「読みやすく、わかりやすかった」『抗菌薬の考え方,使い方 ver.5』(岩田 健太郎[著]、中外医学社、2022年)未曽有のコロナ禍を経て、新たに刊行された改訂版。●推薦コメント「大学の授業で習うべき重要な内容」「基本的な抗菌薬の知識を臨床の面から解説してある」「普段何気なく使用している抗菌薬の使用方法を見直すきっかけになった」消化器科内科医からも多く挙げられた『胃炎の京都分類 改訂第3版』のほか、医学誌「胃と腸」や『胃と腸アトラス』を「基本知識、専門知識がよくわかる」「読影の参考になる」「症例問題集が面白く勉強になる」と推薦する声が目立ちました。『専門医のための消化器病学 第3版』(下瀬川 徹ほか[監修]、医学書院、2021年)消化器専門医が知っておきたい最新知見を各領域のエキスパートが解説。●推薦コメント「内容が新しくてよい」「専門医として知っておくべき内容がまとめてあり、わかりやすい」「網羅的に消化器病の知識が記されており、教科書兼辞書として重宝している」『カール先生の大腸内視鏡挿入術 第2版』(軽部 友明[著]、日本医事新報社、2020年)内視鏡手技をテーマとした書籍が多いなか、内視鏡挿入のテクニックを動画付きで解説した本書を挙げる人が目立ちました。●推薦コメント「図が豊富」「基本的な内容が理解できた」「わかりやすく、新しい発見があった」『患者背景とサイトカインプロファイルから導く IBD治療薬 処方の最適解』(杉本 健[著]、南江堂、2023年)炎症性腸疾患(IBD)の治療薬について、著者独自の観点から患者ごとの最適解の考え方を提供。●推薦コメント「目から鱗でした」「わかりやすく、的確な具体例もある」精神科/心療内科他科と比較して同じ本を選択した回答者が多く、刊行から時間が経過した本も多く選ばれる傾向がありました。『精神診療プラチナマニュアル 第2版』(松崎 朝樹[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2020年)精神診療に必要かつ不可欠な内容をハンディサイズに収載。●推薦コメント「ノイヘレン(新人)時代にこういった入門書があればよかった。今でも復習に役立つ」「内容がわかりやすくまとまっている」「最新の話題が記載されている」『[新版]精神科治療の覚書』(中井 久夫[著]、日本評論社、2014年)「医者ができる最大の処方は希望である」。精神科医のみならず、すべての臨床医に向けられた基本の書。●推薦コメント「読みやすい」「改めて読み直してみて、初心を思い出せた」『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』(井上 令一[著・監修]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2016年)DSM-5準拠、高評と信頼を得た最高峰のテキストの改訂版。●推薦コメント「精神科医が学ぶことがおおむね網羅されている」「DSM-5に準じ体系化されていて、たくさんの疾患が網羅されている」「精神科専門医試験もここから多く出ていた」専門も専門外も!「信頼のシリーズ」アンケートの設問では「事典やガイドライン、医学雑誌以外の本を推薦ください」と条件を付けたものの、医師にとって最も身近であるこれらの書籍や、医学生・研修医、非専門医、コメディカルを対象とした定番シリーズを挙げる方も多くいました。「極論で語る」シリーズ(丸善出版)●推薦コメント「循環器疾患についてメカニズムと対応方法をわかりやすく解説してくれる」(『極論で語る循環器内科』/循環器科)、「体液コントロールにおける腎臓の視点を取り入れることができる」(『極論で語る腎臓内科』/循環器科)「病気がみえる」シリーズ(メディックメディア)●推薦コメント「看護学校の講師をしていますが、初心に返ることができた」(循環器科)、「基礎の確認になった」(循環器科)「レジデントのための」シリーズ(日本医事新報社)●推薦コメント「内科診療の疑問をEBMの側面でまとめてくれている」(『レジデントのための 内科診断の道標』/精神科)、「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(『レジデントのための これだけ輸液』/呼吸器科)どの科も必須「このテーマ」新型コロナウイルス感染症が収まり切らないなか、「専門外」の良書としてどの科の医師からも名前が挙がった本には、感染症をテーマとするものが多数ありました。『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(青木 眞[著]、医学書院、2020年)初版から20年。読み継がれてきた「感染症診療のバイブル」の最新版。●推薦コメント「抗菌薬の選択に参考となる」(呼吸器科)『感染症プラチナマニュアル Ver.8 2023-2024』(岡 秀昭[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2023年)2015年初版、ベストセラー「感染症診療マニュアル」の改訂第8版。●推薦コメント「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(呼吸器科)キラリと光る「新定番」絶対数としてはさほど多くないものの、最近刊行された注目の書籍が、複数の科の医師から「専門外の好著」として名前が挙がりました。『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(松田 光弘[著]、医学書院、2022年)皮膚科疾患のロジックが身に付く、フローチャートを用いた解説が好評の一冊。●推薦コメント「皮膚科が苦手だったが、まさに目からウロコ」(内科)、「皮疹を診る際の皮膚科医の思考過程がよくわかる」(内科)、「他科の医師でも皮疹診療についての基本がわかる」(呼吸器科)『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(きまた りょう[著]、KADOKAWA、2023年)100点以上のオールカラーイラストで筋肉のつながり・仕組みを平易に解説した一般書のベストセラー。●推薦コメント「筋肉の解剖学的特徴がわかりやすい」(内科)、「イラストがよい、わかりやすい」(消化器科)『心電図ハンター 心電図×非循環器医』(増井 伸高[著]、中外医学社、2016年)非循環器医をターゲットに、即座に判断できない微妙な症例を集め、心電図判読のコツを紹介。●推薦コメント「実際の臨床の場面を想定した形での判断基準などがわかりやすい」(内科)、「知りたいことがコンパクトにまとめてある」(呼吸器科)こんな本も! 医師ならではの一冊医学書以外でも、医師ならではの視点から、熱のこもったコメントと共に寄せられた本がありました。『蘭学事始』(杉田 玄白[著]、緒方 富雄[校註]、岩波文庫、1959年)江戸後期、杉田 玄白が著した蘭学創始期の回想録。●推薦コメント「印象に残った」(呼吸器科)『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹 文雄・平井 啓[編著]、東洋経済新報社、2018年)●推薦コメント「インフォームドコンセントからSDMになり、なんとなく感じていた違和感が、行動経済学的な考え方によりすっきりした」(消化器科)『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健[著]、ダイヤモンド社、2013年)アドラー心理学を解説する、100万部突破のベストセラー。●推薦コメント「承認欲求に気付くことができた」(循環器科)『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』(中村 佑子[著]、医学書院、2023年)●推薦コメント「一体ヤングケアラーとは誰なのか。世界をどのように感受していて、具体的に何に困っているのか。取材はドキメンタリーを読むようだ」(消化器科)

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食塊による食道完全閉塞、コーラで改善するか/BMJ

 オランダ・アムステルダム大学医療センターのE G Tiebie氏らは、多施設共同無作為化非盲検比較試験において、コーラの摂取は食塊による完全な食道閉塞の改善率を高めないことを報告した。食塊による完全な食道閉塞に対しては、現在、侵襲的で高額な医療費を伴う緊急内視鏡治療が望ましいとされ、ガイドラインでは内視鏡の施行が遅れないとの前提で内視鏡前の内科的治療が認められている。一方で、コホート研究や症例シリーズで、コーラの摂取により59~100%の患者で食塊による食道閉塞が改善したことが報告されていた。BMJ誌2023年12月11日クリスマス特集号「FOOD AND DRINK」掲載の報告。介入(コーラ摂取)群vs.対照(自然通過)群の無作為化試験で評価 研究グループは、2019年12月22日~2022年6月16日に、オランダの2次および3次救急病院5施設において、食塊による完全な食道閉塞(食物摂食後に突然唾液を飲み込めなくなることと定義)で受診した18歳以上の成人51例を、介入群と対照群に1対1の割合に無作為に割り付けた。骨を含む肉を食べた患者、および米国麻酔学会(ASA)による全身状態分類がIV以上の患者は除外した。 介入群(28例)にはコーラを1分間隔で25mL、最大合計200mLまで摂取するように指示し、対照群(23例)では自然通過を待った。いずれも、閉塞が完全に消失しなかった場合、現行ガイドラインに従い、完全閉塞の場合は6時間以内、部分閉塞の場合は24時間以内に内視鏡による食塊の除去を実施し、症状が完全に消失した場合は待機的な診断内視鏡検査を行った。 主要アウトカムは、患者報告の食塊による食道閉塞の改善(完全通過と一部通過の合計)、および完全通過。副次アウトカムは介入に関連した有害事象とした。食道閉塞の改善率は両群で同じ 食塊による食道閉塞の改善は、介入群で61%(17/28例)、対照群で61%(14/23)に認められ、食塊による食道閉塞の改善にコーラは有意な効果を示さなかった(オッズ比[OR]:1.00[95%信頼区間[CI]:0.33~3.1]、相対リスク低下:0.0[95%CI:-0.55~0.36]、p>0.99)。 介入群では完全通過を報告した患者の割合が高かったが、有意差はなかった(介入群43%[12/28例]vs.対照群35%[8/23例]、OR:1.4[95%CI:0.45~4.4]、相対リスク低下:-0.23[95%CI:-1.5~0.39]、p=0.58)。 重篤な有害事象は報告されなかったが、介入群の6例(21%)でコーラ摂取後の一時的な不快感を認めた。 著者は、盲検化されなかったこと、症例数が非常に少ないことなどを研究の限界として挙げたうえで、「介入群では有害事象がなく、治療後に消失した症状もあることから、第1選択の治療法としてコーラを考慮するかもしれないが、内視鏡的治療の選択肢は用意しておくべきである」とまとめている。

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アトピー性皮膚炎の治療総論

アトピー性皮膚炎の治療戦略アトピー性皮膚炎の治療では「寛解」という目標が重要です。それは「症状がない、もしくは症状があっても軽微で、かつ日常生活に支障がない状態」つまり「寛解」を目指すことが大切です。寛解が達成できると、患者さんのQOL(生活の質)などは大きく改善されますので、その目標をしっかり医師と患者さんの二人三脚で達成していきたいものです。寛解維持に向けて多くの患者さんは、外用薬を塗ったら良くなるけど、やめたらすぐ再燃する、ということを外来で話されます。「寛解、再燃」のスパイラルに陥ってしまうと、「やはり良くならない」「治療しても意味がない」と思われてしまい、治療を中断してしまう患者さんがいます。よく知られているように「よくなった」と感じた時点でも、皮膚の奥ではまだ炎症がくすぶっていることが多いのです。患者さんが自己判断で外用薬塗布の頻度を減らしてしまうと、皮膚症状が再燃してしまいがちです。そうならないためにも、私は、アトピー性皮膚炎の中等症~重症の患者さんに対しては、プロアクティブ療法と同時にかゆみの物質を血液で検査する「TARC検査」(保険適応あり)を希望される方に施行しています。これはアトピー性皮膚炎の症状に応じて増減することが知られていますので、TARCが正常範囲内にあることが寛解に向けた1つの数字での「見える化」となるかもしれません。治療方法の3本柱は「薬物療法」「スキンケア」「悪化因子の検索と対策」です。1)外用薬ステロイド、タクロリムス、デルゴシチニブ、ジファミラストの外用薬を用います。外用薬はFTU(finger tip unit)を考えて使用します。やさしく、すりこまないように塗るのが大切です。私はステロイド外用薬を使わなくても良い状態まで改善させることを治療目標の1つにしています。2)経口薬抗ヒスタミン薬をかゆみ止めとして使うことが多いです。経口JAK阻害薬であるバリシチニブ、ウパダシチニブ、アブロシチニブがアトピー性皮膚炎の治療薬として使用できるようになりました。多くの治療薬が登場して、重症な方にも治療が届きやすくなりました。時にシクロスポリンを用いることもありますが、長期間の使用で血圧上昇や腎臓への負担がかかりますので短期間の使用が望ましいです。3)注射薬(生物学的製剤)デュピルマブやネモリズマブ、トラロキヌマブなどが使用できます。これらの治療薬でかゆみや皮膚症状はかなりコントロールしやすくなりました。デュピルマブは、2021年のガイドラインで維持療法(寛解を維持するための治療)としても推奨されるようになりました。4)光線療法私はナローバンドUVB照射装置やエキシマランプを用いて光線療法を行っています。かゆみの強い部分にとくに効果を発揮してくれます。ステロイドなど外用薬の使用量を減らすことにも役立ちます。5)スキンケア皮膚のバリア機能および保湿因子を回復させることがスキンケアの大切な目的です。私は、スキンケアを重視しています。とくに出生直後から保湿外用剤によるスキンケアを行うことは、アトピー性皮膚炎の発症リスクを下げることも知られています1)。アトピー性皮膚炎の治療を実践していく上で、スキンケアはどの状態のアトピー性皮膚炎であっても大切です。1)Horimukai K. et al. J Allergy Clin Immunol. 2014;134:824-830.プロアクティブ療法とはアトピー性皮膚炎の治療では、炎症を抑える治療で寛解となった後、外観上ほとんど異常がないように見えても潜在的な炎症が皮膚の奥で残っている状態がしばらく続いています。ここで治療をいったん止めてしまう患者さんが多いのですが、この状態で治療を中止してしまうと、すぐに炎症が再燃してしまいます。プロアクティブ療法とは、皮膚炎が軽快した後もステロイド外用薬などの使用を中止せず、しばらくの間お薬を継続する方法です。それにより、皮膚炎やかゆみの改善状態を長期間維持することができ、再発・再燃の頻度や重症化が減ることが期待できます。プロアクティブとは「先を見越した」「予防的な」という意味で捉えられています。反対に、「かゆいときに塗る、かゆくなくなったら薬を止める」というのが「リアクティブ療法」です。軽症のアトピー性皮膚炎では、リアクティブ療法でも十分なこともあります。『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』においても、プロアクティブ療法は「湿疹病変の寛解維持に有用かつ比較的安全性の高い治療法である」と記載され、推奨度1、エビデンスレベルAと高く推奨されています。プロアクティブ療法のやり方第1段階として、一番大切なことは「寛解導入」すなわち皮膚をツルツルの状態にしてしまうことです。そこではステロイド外用薬を1日2回、きっちりFTUを守って塗っていくことが大切です。光線療法をやる、デュピルマブの注射やJAK阻害薬の内服も重要です。ゴールはかゆみが止まることではなく、寛解することですから、しっかりツルツルの状態を作るまで頑張っていきます。寛解導入のためにはバックグラウンドとして保湿外用薬やスキンケアの継続を行ってくことも大切です。1)プロアクティブ療法を行う上で大切なことプロアクティブ療法はかゆみのあったところ、皮膚が荒れていたところにもステロイド外用薬をはじめとしたお薬を塗ることが大切です。長い期間ステロイドを塗ることへの不安もあると思いますが、20週間実施しても目立った副作用はなかったことも示されています。今はステロイド以外の治療薬もたくさんありますから、副作用が気になった場合は治りにくいところに光線療法を足す、デルゴシチニブやジファミラストなどの薬剤にスイッチするなどの対応が可能になります。2)プロアクティブ療法は患者さんには面倒くさい皮膚症状が寛解していると、お薬を塗るのは面倒くさいと患者さんは思います。ただ、プロアクティブ療法の目的は寛解を維持することですから、皮膚が荒れていたところにも塗っていくことは、再発防止のためには大切です。なお、アトピー性皮膚炎ガイドラインにはこのようにも記載されています。「外来での外用療法が主体となるアトピー性皮膚炎では、患者やその家族は治療の主体である」たしかに、プロアクティブ療法は面倒くさいですし、早く「塗らなくてもいい状態」になりたいはずの患者さんが頑張って毎日塗ることには、とても根気がいるはずですので医療従事者が、その頑張りを少しでも後押しできたらと思います。〔プロアクティブ療法FAQ〕プロアクティブ療法のメリットは?ステロイドの使用量をなるべく少なくして寛解を維持すること。プロアクティブ療法をやっていても痒い場合の対処は?まだ寛解に至っていない状況です。まず寛解導入をやり直しましょう。プロアクティブ療法を行っているとき、保湿も行ったほうが良いか?毎日行ってください!プロアクティブ療法では、いつまでステロイドを使う必要があるか?実は明確な答えがないのです。寛解導入が成功したあと、ステロイドを徐々にタクロリムスやデルゴシチニブなどの抗炎症外用薬にシフトしていき、結果としてステロイドを卒業していく、つまり「卒ステ」というのが目標になると思います。ずっと落ち着いていたのに、急にかゆくなってきた場合の対処は?再び寛解導入を目指してステロイド外用薬をしっかり塗る、光線療法を行う、などの治療を行います。かゆくなくなっても乾燥している部位への対処は?皮膚炎が治りきっていないところも多い可能性があります。しっかり治ると皮膚がツルツルとした柔らかい質感になってきます。ステロイドを終わらせることができましたが、治療薬はいつまで塗ったら良いか?しっかり治った状態をどう維持するか、明確な答えはありません。タクロリムス、デルゴシチニブ、ジファミラストは長期に外用することに伴う副作用は知られていません。寛解がしっかり維持されていれば、少しずつお薬を塗る間隔をあけながら保湿のみに移行していくのをお勧めします。佐伯秀久ほか. 日皮会誌. 2021:131;2691-2777.

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経口薬【アトピー性皮膚炎の治療】

経口JAK阻害薬では、ウパダシチニブ、バリシチニブ、アブロシチニブがアトピー性皮膚炎の治療薬として使用できるようになり、重症の患者さんにも治療が届きやすくなりました。時にシクロスポリンを用いることもありますが、長期間の使用で血圧上昇や腎臓への負担がかかりますので短期間の使用が望ましいです。ウパダシチニブ(商品名:リンヴォック)ウパダシチニブはJAK1を阻害する薬剤です。通常は15mg錠を1日1回1錠、毎日服用しますが、患者さんの状態によっては7.5mgへの減量が可能です。アトピー性皮膚炎に限って倍量の30mgを処方することができます。ウパダシチニブの薬価7.5mg:2594.6円/錠15mg:5089.2円/錠30mg:7351.8円/錠バリシチニブ(商品名:オルミエント)バリシチニブはJAK1/JAK2を阻害する薬剤で、皮膚科領域ではアトピー性皮膚炎と円形脱毛症(ただし、脱毛部位が広範囲に及ぶ難治の場合限定)に適応があります。用量は4mgを1日1回経口投与する。状態に応じ適宜減量となっています。相互作用がありますので、プロベネシドを内服している患者さんは減量が望ましいとされています。バリシチニブの薬価2mg:2705.9円/錠4mg:5274.9円/錠アブロシチニブ(商品名:サイバインコ)アブロシチニブはウパダシチニブと同じくJAK1を阻害する薬剤です。50mg、100mg、200mgの3剤形があり、通常用量の100mgから増やしたり減らしたりできます。状況に応じて柔軟な処方ができるのは利点です。適応はアトピー性皮膚炎のみになります。アブロシチニブの薬価50mg:2587.4円/錠100mg:5044円/錠200mg:7566.1円/錠〔アトピー性皮膚炎でのJAK阻害薬処方の注意点〕診療ガイドラインでは、次のように定められています。JAK阻害薬の内服は、「事前に十分な外用薬などの治療を行っていても難治であった方」が対象となります。今まで何もやっていない方であれば6ヵ月程度はガイドラインに沿った外用薬による治療を行い、それでも改善しない場合に使用します。投与の要否にあたっては、以下に該当する患者であることを確認する必要があります。(1)アトピー性皮膚炎診療ガイドラインを参考に、アトピー性皮膚炎の確定診断がなされている。(2)抗炎症外用薬による治療では十分な効果が得られず、一定以上の疾患活動性を有する、または、ステロイド外用薬やカルシニューリン阻害外用薬に対する過敏症、顕著な局所性副作用もしくは全身性副作用により、これらの抗炎症外用薬のみによる治療の継続が困難で、一定以上の疾患活動性を有する成人アトピー性皮膚炎患者である。a)アトピー性皮膚炎診療ガイドラインで、重症度に応じて推奨されるステロイド外用薬(ストロングクラス以上)やカルシニューリン阻害外用薬による適切な治療を直近の6ヵ月以上行っている。b)以下のいずれにも該当する状態。IGAスコア3以上EASIスコア16以上、または顔面の広範囲に強い炎症を伴う皮疹を有する(目安として頭頸部のEASIスコアが2.4以上)体表面積に占めるアトピー性皮膚炎病変の割合が10%以上同時に、投与できる施設も決められております。次に掲げる医師要件のうち、本製剤に関する治療の責任者として配置されている者が該当する施設です。ア)医師免許取得後2年の初期研修を終了した後に、5年以上の皮膚科診療の臨床研修を行っていること。イ)医師免許取得後2年の初期研修を終了した後に6年以上の臨床経験を有していること。うち、3年以上は、アトピー性皮膚炎を含むアレルギー診療の臨床研修を行っていること。また、日本皮膚科学会でも届出制度を作っています。乾癬の生物学的製剤のように承認制度は設けていませんが、薬剤の特性上、下記の要件を満たした上で届出した上で、使用することになっています。1)皮膚科専門医が常勤していること2)乾癬生物学的製剤安全対策講習会の受講履歴があること3)薬剤の導入および維持において近隣の施設に必要な検査をお願いできること

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サイバーセキュリティーで保健所が立入検査!?やっておくべき対策とは【サイバー攻撃の回避術】第7回

厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(以下、厚労省GL)1)が2023年5月に第6.0版に改訂されました。2022年3月の第5.2版から1年強での大幅改訂ですが、さらに従来のルールベースの記載方法から、リスクベースの記載方法に変更されており、読む側にとっては解釈方法の変更に当たるためインパクトは大きいと言えます。本稿では厚労省GL改訂に際して、医療機関が理解すべき基本的な考え方と、重要ポイントについて解説します。電子メールを含む情報系システムやSNSもGLの対象GLのQ&A2)の概Q-5の「医療情報システムとは具体的に何を指すのか」の問いに対して、「A 医療機関等のレセプト作成用コンピュータ(レセコン)、電子カルテ、オーダリングシステム等の医療事務や診療を支援するシステムだけでなく、何らかの形で患者の情報を保有するコンピュータ、遠隔で患者の情報を閲覧・取得するようなコンピュータや携帯端末も範ちゅうとして想定しています。また、医療情報が通信される院内・院外ネットワークも含まれます」との回答があります。さらに、概Q-8の「SNS(Social Networking Service)等のWebサービスを利用して医療情報をやり取りする場合、考慮するべきことはあるか」との問いに対して、「SNS等のWebサービスを利用して患者の医療情報を取り扱う場合、当該サービスは医療情報システムに該当し、ガイドラインの基準を満たす必要があります」との回答があります。多くの医療機関がガイドラインの対象は電子カルテ等の業務系システムのみと考えている可能性がありますが、実際には電子メールを含む情報系システムやSNSもGLの対象となっている点を再確認することが重要です。たとえば、電子メールの利用に当たっては、まずは、なりすましメール対策として国際標準であるDMARCを導入すること(第2回参照)、パスワード付きZIPファイル添付メール(いわゆるPPAP)を用いないことが、重要な対策です。SNSの利用では、アクセス権限の設定や個人情報の取り扱いなどについて、施設としてリスク評価を行い、運用上のルールを定めた上で利用することが好ましいでしょう。厚労省GLの歴史的経緯と2023年改訂の意義厚労省GL第1版は、情報化の流れの中で、媒体上の安全管理要件を示す「e文書法」3)、保管場所上の安全管理要件を示す厚労省の「外部保存通知」4)、データそのものの安全管理要件を示す「個人情報保護法」5)の3つの法的要請を満たすための実際の対策を記載した文書として2005年に公表され、今回の改訂は10回目にあたります。2022年3月改訂の第5.2版までは、ルールベースの記載で書かれており、各セキュリティー要件に関して、必ず行わなければならない項目と、行ったほうが好ましい項目が提示されていました。今回の改訂からリスクベースの記載に変更しました。これは、自施設のリスクアセスメント実施を前提に、各々の施設の実情に合った対策を講じて、それを患者に対して説明できるようにすることを求めています。GLの経営管理編の第2章にはリスク評価に基づいた対応法が示されていますが、一般的なリスク低減(セキュリティーシステムの導入や運用変更等)以外にも、リスク移転(他社にセキュリティー対策および責任を転嫁する、サイバー保険に加入するなど)、リスク回避(情報流を変更するなどにより、リスクが発生する可能性を排除)、リスク受容・(保有)(リスク評価の結果、敢えて何も対策をしないことを選択)の選択肢が提示されています。また第5章には、システム事業者との役割分担の明確化(VPN装置の脆弱性対策など、詳細は第6回参照)が指示されています。実は事業者が守るべきガイドラインとして経済産業省・総務省の「医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン」5)において、事業者側のリスクアセスメントの結果をユーザに情報提供して、合意形成を行った上で契約を締結することが求められています。このプロセスはリスクコミュニケーションと呼ばれますが、この過程で責任分界点を明確化し文書に記載することにより、継続したセキュリティー対策を行うことが可能となります。たとえば、医療機関側から事業者に対して保守契約更新のタイミングでリスクコミュニケーションを求めることが有効と思われます。もう一点、厚労省GLで医療機関が事業者に対してプライバシーマークまたはISMS6)を取得していることを確認することを求めています。現在契約している各事業者に対して早急に確認を行ってください。サイバーセキュリティー対策で保健所の立ち入りも!?2023年3月に医療法施行規則第14条に第2項が追加され、医療機関に対してサイバーセキュリティー対策の法的な義務を規定しました7)。これに伴い医療法第25条第1項を根拠とする保健所の立ち入り検査の際の検査項目としてサイバーセキュリティー対策が追加されました。検査項目については厚生労働省から令和5年度分、令和6年度分のそれぞれについて、医療機関用および委託事業者確認用のチェックリスト8)が公表されています。画像を拡大する立入検査は既に2023年7月から開始されており、令和5年度はサイバーセキュリティー担当者の決定やインシデント発生時の連絡体制、委託事業者に対するSDS/MDS9)の提出要請など、比較的に軽めのタスクが要求されましたが、令和6年度に関しては端末・サーバーの脆弱性体制やサイバー事故を想定した事業継続計画(BCP)の提示など、本腰を入れて行うべきタスクが要求されています。厚生労働省は、病院・診療所に加えて、薬局に対しても薬機法の施行規則の一部改正を行い、来年度からの立入検査を予定10)しています。この立入検査をすべての医療機関において、“サイバーセキュリティー対策を考える良い機会”と捉えて、具体的なリスクアセスメントを行い、対策を講じることが肝要と思われます。最後に医療機関は患者の機微な個人情報を扱って医療という事業を行っています。従って患者に対する説明責任が発生します。さらに電子カルテなどの委託事業者が提供するITツールを用いて、個人情報の保管や編集などの作業を行うので、委託事業者に対する管理責任も発生します。とくに重要なのが、セキュリティー対策における役割分担の明確化です。一昨年来の医療機関におけるサイバー被害の多発に伴い、厚労省によるGL改訂や医療法施行規則の一部改正など、法的な対応が急ピッチで進んでおり、従来のように「医療機関は人・予算・知識がないため、対応が難しい」といった言い訳は通用しなくなっています。セキュリティー対策を自分事として捉えて、対応していただくことが、医療機関が今後生き残る前提条件になる可能性が高いと思われます。ルールベース人間が設定したルールを基に状況を判断する分析技術。ここではユーザ医療機関の状況(規模、人材、運用方法、予算感など)を考慮せずに画一的なルールの遵守を求めるコンセプトを指す。リスクベースそれぞれのユーザ医療機関の状況に応じて、リスクの特定を行い、それぞれのリスク評価を行った上で、対応を設定するコンセプトを指す。リスクアセスメントリスクを評価すること。リスクコミュニケーション一般には社会を取り巻くリスクに関する正確な情報を、行政、専門家、企業、市民などのステークホルダーである関係主体間で共有し、相互に意思疎通を図ることをいう。ここでは医療機関とシステム事業者・ネットワーク事業者などでの、情報共有に基づく責任分界点などを含む合意形成の過程を指す。ISMS(Information Security Management System)組織における情報セキュリティーを管理するための仕組みや枠組みであり、ISO 27001、JISQ 27001として標準が規定されている。ISMSに則った活動として、ISMSに関する方針の決定や計画の策定、対策に必要なリソースの確保、計画の運用と有効性の評価、継続的な改善などが求められる。プライバシーマーク個人情報の保護体制に対する第三者認証制度。個人情報保護体制の基準への適合性を評価し、一般財団法人日本情報経済社会推進協会 (JIPDEC) が使用を許諾するもの。参考1)厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(令和5年5月)2)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版」に関するQ&A(令和5年9月)3)e-GOV法令検索:民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律4)医療法:診療録等の保存を行う場所について(平成14年3月29日)5)経済産業省:医療情報を取り扱う情報システム・サービスの提供事業者における安全管理ガイドライン6)厚生労働省:医療情報システムの安全管理に関するガイドライン 第6.0版(企画管理編)7)厚生労働省:医療法の施行規則の一部改正する省令8)厚生労働省:医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストと立入検査の実施について(報告)9)JAHIS:JAHIS「製造業者/サービス事業者による医療情報セキュリティ開示書」ガイドVer.4.010)厚生労働省:薬局におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストマニュアル~薬局・事業者向け~

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腎移植患者に対する帯状疱疹ワクチン接種の推奨/日本臨床腎移植学会

 日本臨床腎移植学会は、2023年11月7日付の「腎移植患者における帯状疱疹予防に関するお知らせ」にて、腎移植患者に対する帯状疱疹発症予防のための乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(商品名:シングリックス筋注用、製造販売元:グラクソ・スミスクライン)の接種を積極的に検討するよう同学会の会員に向けて通達した。 米国疾病予防管理センター(CDC)の勧告や海外の最新のガイドラインにおいて、固形臓器移植患者に対するワクチンの接種は、原則、移植前に接種するよう推奨されており、移植前にワクチン接種が不可能な場合は、移植後少なくとも6~12ヵ月後に接種することが望ましいとされている1,2)。 2023年6月に本ワクチンの適応が「帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の者」へ拡大された。本ワクチンは、50歳以上を対象とした臨床試験において、2回の接種による帯状疱疹への高い予防効果と、約10年間にわたる予防効果の持続が確認されている3-5)。 接種対象者拡大の追加承認は、腎移植患者や自家造血幹細胞移植患者における臨床試験結果6,7)に基づいており、本ワクチンは不活化ワクチンのため生ワクチンが禁忌となる免疫抑制剤使用中の患者でも接種が可能とされる。現時点で、腎移植患者における帯状疱疹発症予防を検証したデータはないが、腎移植患者を対象とした臨床試験6)において免疫原性が確認されている。問題となる副反応や、拒絶反応を増加させる報告はない。また、同学会は通達の中で、自家造血幹細胞移植患者を対象とした臨床試験7)で検証された予防効果(約2年間の観察期間において68.2%)は、腎移植患者においても参考になりうるデータと考えている、としている。■参考文献・参考サイト1)CDC, Clinical Considerations for Use of Recombinant Zoster Vaccine (RZV, Shingrix) in Immunocompromised Adults Aged ≧19 Years. Last Reviewed: January 20, 2022.2)カナダ・アルバータ州予防接種方針|予防接種の特別な状況(2023年12月4日改訂)3)Lal H, et al. N Engl J Med. 2015;372:2087-2096.4)Cunningham AL, et al. N Engl J Med. 2016;375:1019-1032.5)Strezova A, et al. Open Forum Infect Dis. 2022;9:ofac485.6)Vink P, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:181-190.7)Bastidas A, et al. JAMA. 2019;322:123-133.

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ヘムライブラ、重症血友病Aの乳児に対する早期予防投与でベネフィット/中外

 中外製薬は、未治療または治療歴の短い血液凝固第VIII因子に対するインヒビター非保有の重症血友病Aの乳児を対象とした第III相HAVEN 7試験の主要解析において、へムライブラ(一般名:エミシズマブ)の有効性および安全性が裏付けられたことを発表した。生後12ヵ月までの乳児において、ヘムライブラが臨床的意義のある出血コントロールを達成し、忍容性も良好であったことが示されたこの新しいデータは、2023年12月9日~12日にカリフォルニア州サンディエゴで開催された第65回米国血液学会(ASH:American Society of Hematology)年次総会で発表され、プレスプログラムにも採択された。 重症血友病Aによる乳児とその保護者や介護者への負担は大きい。これまでに複数の臨床試験により、早期からの出血抑制を目的とする治療が、長期にわたり転帰を改善し、かつ頭蓋内出血のリスクを低下させることが示されている。このことから、世界血友病連盟(WFH:World Federation of Hemophilia)の治療ガイドラインでは、定期的な出血抑制を目的とする治療を低年齢で開始することが血友病の標準治療とされている。ところが、多くの血友病Aの乳児では、生後1年までは出血抑制を目的とする治療が開始されていない。ヘムライブラは、すでに乳児に対しても承認、使用されており、出生時から皮下投与が可能である。また、維持投与においては複数のさまざまな投与間隔レジメンにより柔軟な治療選択が可能な薬剤である。 本剤の有効性、安全性、薬物動態および薬力学を評価する記述的な第III相単群試験であるHAVEN 7試験は、血液凝固第VIII因子に対するインヒビターを保有しない重症血友病Aの乳児を対象として、血友病Aコミュニティと協働して実施された。55例のデータを含む本解析結果において、追跡調査101.9週間(中央値)の時点で、治療を要する出血が認められなかった被験者の割合は54.5%(30例)、治療の要否にかかわらずすべての出血が認められなかった被験者の割合は16.4%(9例)であった。いずれの被験者でも治療を要する自然出血は認められず、治療を要した出血はすべて外傷性であった(46例[83.6%]で合計207件の出血が認められ、そのうち87.9%が外傷性)。治療を要する出血のモデルに基づく年間出血率(ABR:annualized bleeding rate)は0.4(95%信頼区間:0.30~0.63)であった。新たな安全性シグナルは認められず、本剤と関連のある重篤な有害事象、頭蓋内出血または死亡は報告されなかった。血液凝固第VIII因子インヒビター陽性となった被験者は3.6%(2例)であり、これは本剤の投与により第VIII因子製剤の使用が少なかったことが理由と推察された。また、抗薬物抗体陽性となった被験者はおらず、中間解析およびこれまでに実施された第III相HAVEN試験群の肯定的な結果と一致していた。 ASHでは、HAVEN 7試験におけるバイオマーカーの追加研究の結果も発表され、本試験の有効性に関する主要解析を支持するものであった。この追加研究により、乳児におけるヘムライブラの薬力学プロファイルは、これまでに、より年長の小児および成人の血友病Aで観察されたものと同様であることが示された。また、この年齢層においては本剤が結合する凝固因子の存在量が少ないものの、想定される薬力学的反応を示すことが明らかにされた。HAVEN 7試験の結果は、より広範に実施されたピボタルなHAVEN試験群から得られたデータを補完し、乳児における血友病A治療の進展、および出生時から予防投与を開始することの影響に関する洞察を提供するものである。主要解析後には7年間の追跡調査期間が設けられている。 中外製薬 代表取締役社長 CEOの奥田 修氏は、「重症血友病Aに対する出血抑制を目的とした治療において、静脈内投与が困難な乳児に対し、皮下投与可能なヘムライブラは治療負担を軽減する選択肢となります。今回の試験では、乳児に対して初めて、ヘムライブラが有効な出血コントロールを示しました。これは、これまでに実施された臨床試験において示された幅広い年齢層におけるデータを補完し、ヘムライブラによる乳児における出血抑制を目的とした治療をより早期に開始することを支持するものです。本剤を必要とする方々により安心してお使いいただけるよう、長期データの収集をはじめ、引き続きエビデンスの構築に努めてまいります」と語っている。

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僧帽弁形成術後の心房細動は転帰不良や生存率低下と関連

 多くの心臓手術では術後に不整脈の一種である心房細動が生じることが珍しくなく、医師もこれを一過性で無害なものと見なす傾向がある。しかし、心臓弁の修復術に関しては、無害ではない可能性があるようだ。新たな研究で、僧帽弁形成術後に生じた心房細動は、転帰不良や生存率の低下と関連することが示唆された。論文の筆頭著者である米ミシガン大学アナーバー校心臓外科部門のWhitney Fu氏らによるこの研究の詳細は、「The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery」に9月12日掲載された。 この研究では、2011年から2022年の間に僧帽弁形成術を受けた922人の患者の転帰を中央値で4.9カ月にわたって追跡し、術後心房細動の発症率、脳卒中などの神経学的イベントの発生率、永続性心房細動の発症率、および死亡率について調査した。対象患者の中に、手術前に不整脈の既往があった者はいなかった。僧帽弁は左心房と左心室の間に位置する弁で、左心室から大動脈へ血液が送り出される際に弁を閉じることで、血液が左心房へ逆流しないようにする働きを持つ。 追跡期間中に、対象患者の39%が術後心房細動を発症した。多変量ロジスティック回帰分析で術後心房細動のリスク因子を検討したところ、糖尿病(オッズ比2.2、95%信頼区間1.2〜4.1、P=0.01)と加齢(同1.1、1.0〜1.1、P<0.001)がリスク因子であることが明らかになった。また、術後心房細動は、永続性心房細動のリスク因子であり(同3.2、1.9〜5.4、P<0.001)、永続性心房細動は神経学的イベントの発生リスク増加と関連することも示された(同3.8、1.5〜9.7、P=0.004)。さらに、術後心房細動を発症した患者では、長期死亡率も高かった(ハザード比1.8、95%信頼区間1.1〜3.1、P=0.03)。 こうした結果を受けてFu氏は、「この結果は、術後心房細動が、これまで考えられていたよりも有害な可能性を示唆するものだ」と指摘。さらに、「術後心房細動が生存に悪影響を及ぼすという結果は、過去の研究結果とも一致する」とミシガン大学のニュースリリースで述べている。 一方、論文の上席著者である、米Frankel心臓血管センターの心臓外科医でミシガン大学医学部外科分野のSteven Bolling氏は、「この研究により、僧帽弁形成術の後には心房細動の発生頻度が高いこと、また、術後心房細動は重篤な転帰をもたらし得ることが明らかになった。こうした結果は、術後心房細動の原因と予防法を解明するさらなる研究と、この病態を管理するためのガイドラインの開発を促すものだと言えるだろう」と述べている。

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第175回 研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院

<先週の動き>1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府1.研修医がGLP-1受容体作動薬を不正処方/東大病院東京大学医学部付属病院の臨床研修医2人が、病気ではないにも関わらず、互いに処方箋を発行し、GLP-1受容体作動薬を入手していたことが明らかになった。この報道に対して、病院側は「自己使用目的であって転売目的ではなく、常習性もなかった」と判断し、病院長から厳正な指導を行ったことを明らかにした。GLP-1受容体作動薬は、インターネット上で「やせ薬」として紹介されており、自由診療目的で処方を行う医療機関が急増している。一方、日本糖尿病学会は、11月28日に「2型糖尿病治療薬であるGLP-1受容体作動薬及びGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する見解」を発表しており、本来は糖尿病治療薬であるのに、美容、痩身、ダイエット目的での自由診療による処方が一部のクリニックで行われており、需要増加による供給不足が生じている。糖尿病治療薬の適切使用は重要であり、医療専門家による不適切な薬剤使用は、専門医の信頼を損なう行為であり、日本糖尿病学会はこれを厳しく警告している。参考1)GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解(日糖会)2)研修医、病気装い糖尿病薬入手=供給不足の「やせ薬」-東大病院(時事通信)3)東大病院の研修医2人、病気装って糖尿病薬を入手 「やせ薬」と話題(朝日新聞)2.5シーズンぶりのインフルエンザ警報、早期対策を/厚労省厚生労働省は、2023年12月15日に全国約5,000の定点医療機関から報告されたインフルエンザの感染者数が1医療機関当たり33.72人となり、警報レベル(30人超)に達したことを発表した。警報は2019年1月以来、5シーズンぶりの事態で、とくに北海道では60.97人と最多。全国で33道県が警報レベルを超え、1週間で6,382ヵ所の保育所や学校が休校や学級閉鎖に追い込まれた。慶應義塾大学の菅谷 憲夫客員教授は、「新型コロナウイルス感染症の流行中にインフルエンザの流行が抑えられたことで、とくに子どもを中心に免疫が落ちている」と指摘。基本的な感染対策の継続と、症状があれば早期受診を呼びかけている。また、菅谷教授は、2つのタイプのA型インフルエンザウイルスが同時に流行していることや、約3年間に大規模な流行がなかったことを、早期警報の要因として挙げている。高齢者や妊婦、基礎疾患を持つ人は、とくに注意が必要であり、発熱などの異常を感じたら早期受診が推奨されている。冬休みに小児のピークが過ぎる可能性があるが、年末年始の休暇シーズンで全国的な感染拡大の恐れもあるため、手洗い、うがい、マスク着用などの基本的な感染対策の徹底が求められている。参考1)インフルエンザ、全国で「警報レベル」…コロナ禍の感染対策で識者「免疫落ちている」(読売新聞)2)インフルエンザ、今季初の警報レベル 1医療機関33.72人 厚労省(毎日新聞)3.オンライン診療、メリットあるも要件の厳格化へ/厚労省厚生労働省は、12月15日に中央社会保険医療協議会(中医協)総会を開き、オンラインで患者を診療した際に医療機関が算定する初・再診料の要件を2024年度の診療報酬改定で厳格化する案を了承した。新たな要件には、「初診では向精神薬を処方しないこと」を医療機関のホームページに掲示することが含まれている。さらに、遠方の患者を多く診療する医療機関に対しては、対面診療の連携先を報告させることも検討されている。厚労省は、新型コロナウイルス禍を経て、オンライン診療は重要であるとして、保険診療だけでなく自由診療も対象にガイドラインを策定し、規制緩和を行なってきたが、初診時に向精神薬の処方を行ったり、メールやチャットだけで診察や薬の処方を行うなど、ガイドラインで認めていない方法で診療を行っている医療機関が問題視されてきた。今後、厚労省では、オンライン診療を行っている医療機関がガイドラインを遵守しているか実態調査を行うため、スケジュールや調査方法などを検討するほか、患者がオンライン診療を適切に行っている医療機関を選択できるよう、情報発信の強化に乗り出すことにした。一方、慶應義塾大学などの研究グループは、うつ病や不安症などの精神科診療において、オンライン診療が対面診療と同等の治療効果があることを発表した。この研究結果は、オンライン診療の普及に向けた政策的議論に貢献するもので、さらに、オンライン診療は、通院に要する時間の短縮や費用の削減といった副次的効果もあり、今後もデジタルトランスフォームを通して医療現場に浸透していくとみられる。参考1)オンラインの初・再診料要件、厳格化案を了承「向精神薬初診で処方せず」の掲示必須に(CB news)2)オンライン診療 不適切な医療機関の実態調査へ 厚労省(NHK)3)オンライン診療、対面と遜色なし 普及に弾み(日経新聞)4.処方箋なしで医薬品を販売する「零売薬局」、規制強化へ/厚労省厚生労働省は、処方箋なしで医療用医薬品を販売する「零売薬局」に対する規制を強化する方針を固めた。不適切な販売方法や広告が増加していることに対応するために打ち出されたもの。2022年時点で60店舗以上の零売薬局が存在し、例外的に処方箋なしで医療用医薬品を販売できるが、これまで大規模災害時など「正当な理由」がある場合に限られていた。しかし、一部の薬局が通知を逸脱し、やむを得ない状況ではないにも関わらず日常的に医療用医薬品を販売する薬局が増加していることや、不適切な広告などが確認されており、重大な疾患や副作用が見過ごされるリスクが高まっていた。厚労省は、処方箋に基づく販売を原則とし、やむを得ない場合に限って認めることを法令で明記する方針。また、医療用医薬品の販売を強調する広告も禁止する方向で調整している。厚労省は12月18日に開かれる医薬品の販売制度に関する検討会で取りまとめを行い、医薬品医療機器制度部会に報告した後、厚生労働省から正式に通知が発出される見込み。参考1)医薬品の販売制度に関する検討会(厚労省)2)「零売薬局」の販売規制へ 処方箋なしで医療用医薬品-認める条件明確化・厚労省(時事通信)3)特例のはずが…処方箋なし薬「零売」横行 副作用や疾患見逃す恐れ(毎日新聞)5.レカネマブが保険適用、1年間で298万円/厚労省厚生労働省は、アルツハイマー病の新薬「レカネマブ(商品名:レケンビ)」を公的医療保険の適用対象とし、体重50kgの患者の1回当たりの価格を約11万4千円、年間約298万円と設定した。この薬は、アルツハイマー病の原因物質「アミロイドβ(Aβ)」を取り除くことを目的とした初の治療薬で、軽度認知障害や軽度の認知症の人が対象。投与は2週に1度の点滴で行われる。レカネマブの投与は、副作用のリスクを考慮し、限られた医療機関でのみ行われる予定で、副作用には脳内の微小出血やむくみが含まれ、安全性を重視するため、認知症専門医が複数いる施設でMRIやPETを備えていることなどの条件に合致する限られた医療機関で処方される。臨床治験では、レカネマブを1年半投与したグループは、偽薬を投与したグループより病気の悪化を27%抑える結果が得られた。レカネマブの市場規模は、ピーク時に年間986億円に上ると予測されており、医療保険財政への影響が懸念されている。また、薬価の決定に際しては、社会的価値の反映が議論されたが、最終的には製造費や薬の新規性を考慮した通常の算定方法で算出された。専門家や関係者からは、新薬の保険適用により治療が前進することへの期待とともに、検査費用や治療に関する不安の意見も上がっている。また、効果が見込める患者の適切な選別や、新しい治療薬に対応できる認知症医療システムの構築が今後の課題とされている。参考1)新医薬品の薬価収載について(厚労省)2)認知症薬エーザイ「レカネマブ」 年298万円 中医協、保険適用を承認(日経新聞)3)見えぬ全体像、処方可能な医療機関は限定的 アルツハイマー病新薬(毎日新聞)4)アルツハイマー病新薬 年間約298万円で保険適用対象に 中医協(NHK)6.来年度診療報酬改定、医療従事者の賃上げに本体は0.88%引き上げ/政府政府は来年度の診療報酬改定において、医療従事者の人件費に相当する「本体」部分を0.88%引き上げる方針を固めた。今回の診療報酬の改定をめぐっては、各医療団体から物価高騰や医療従事者の賃上げに対応する意見が上がっていた。一方、薬の公定価格である「薬価」は約1%引き下げとなり、全体としてはマイナス改定となる見通し。岸田 文雄首相は、財務省と厚生労働省の間での議論を経て、賃上げ方針を医療従事者にも波及させるために、最終的に引き上げを決定した。診療報酬改定は原則2年に1度行われ、今回の改定は前回2022年度の0.43%引き上げを上回る水準となる。今回の改定により、医療従事者の処遇改善が期待される一方で、国民の保険料負担の増加が懸念される。また、診療所の利益剰余金の増加や医療費の抑制が課題となっており、国民負担の抑制が今後の大きな課題になっている。参考1)「本体」0.88%引き上げ=賃上げ対応、全体ではマイナス-24年度診療報酬改定(時事通信)2)診療報酬「本体」0.88%上げ、政府方針…「薬価」は1%引き下げで調整し全体ではマイナス改定(読売新聞)3)診療報酬改定 人件費など「本体」0.88%引き上げで調整 政府(NHK)

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レカネマブついに発売、押さえておきたい4つのポイント【外来で役立つ!認知症Topics】第12回

レカネマブついに発売:4つのポイントアルツハイマー病の新薬レカネマブについて、12月20日に薬価収載されることが、12月13日の厚生労働省の中央社会保険医療協議会(中医協)で了承された。薬価収載と同日から発売となる。薬剤価格は、患者の体重にもよるが、基本は年間約298万円と決まった。また、最適使用推進ガイドライン1)についても了承された。使用に当たって4つのポイントをここに紹介する。1.治療ができる医療機関実際に治療対象となる患者さんの多くを治療しているクリニックや小さな病院の認知症専門医の多くが、レカネマブで治療できそうにないことは大きな注目点である。なぜなら、まずMRI機器が自施設にあり、ARIA(Amyloid-related imaging abnormalities)の読影ができることが求められるからである。以前に述べたように、ARIAは本剤の投与開始から数ヵ月間、多くは6ヵ月以内に発生する。その間、定期的にMRI画像を撮像することによってARIAの発生を的確に見いださなければならない。なお血管周囲の浮腫であるARIA-Eについては、薬剤の投与をやめると数ヵ月以内にほぼ消失することがわかっている。けれども原則として出血であるARIA-Hについては治らない。それだけに認知症の関連学会では、ARIA読影の講習会なども積極的に実施している。こうしたものを修了していることが治療者の条件に求められる。しかし実際には、ARIAの出現・消失の読影はそう簡単なものではない。事実、脳神経関連の放射線科医といえども読影の責任を負うことについては、慎重な態度を示す人が少なくない。ところで、レカネマブの治療の対象になるには、MMSEが22点以上であること、アミロイドPET陽性であることが求められる。このPET撮像に関しては、1つの医療機関だけではなく協力体制のもとでの実施も可能とされる。なおPETのみならず脳脊髄液の測定によって、アミロイドβの減少を証明することも可能である。2.医療保険、高額療養費制度が適用本剤の発売に当たって、患者数をもとに推計される10年間の市場規模予測がなされた。年度別では、9年度目の2031年が最大となり、投与患者数が3万2,000人で986億円と予測されている。薬剤価格は患者の体重にもよるが、体重50kgの場合、年間約298万円となる。幸いにして、従来の医療保険制度の適用が可能であることも決まり、患者負担は1~3割となる。加えて、医療費が高額になった場合の自己負担に上限を設ける高額療養費制度も利用できる。それだけにこの決定は患者にとって大きな福音である。3.アミロイドPETにも保険が利くこれまでアミロイドPETには保険が利かなかった。市価では30~50万円とされ、普通の患者さんにはなかなか手の届かない検査法であった。今回のレカネマブ発売に備えて、アミロイドPETの保険収載に関する検討もなされた。その結果、13万円台で保険が利く検査法になったと聞く。しかも一般的にはこうした保険関連の変更は、年度初めの4月より執行されるのだが、今回はレカネマブの発売と同時に保険収載になる。4.原則18ヵ月の投与世界規模の本剤の治験では18ヵ月間にわたって月に2回の点滴投与が行われた。これからの承認後の投与においても、月2回、18ヵ月間の原則が順守されるようだ。実際にこの治験に参加した経験として、筆者はactiveドラッグ(本物)が当たった人は、ほぼ皆アミロイドベータが減少したり、消えたりしていることを経験している。けれどもそのことと、臨床的な効果とが相関したという印象は乏しい。いずれにしてもさまざまな面で貴重な薬剤であるだけに、その臨床効果の厳密な測定は不可欠である。6ヵ月以降はクリニックでも治療可に最後に課題について言及したい。多くの課題があるのだが、最大の懸念は、おそらくこうした治療を実施する医療機関は、当面は限られた数になるだろうということである。全国的にみると、100万人もの治療希望者がいる可能性がある。けれども治療をしてくださる医療機関の数を考えた時、実際に治療ができるのは、どれぐらいの人数になるのだろうか、きわめて心細い。しかも18ヵ月間の治療期間にわたって、月2回の点滴を行わなければならない。いかに大病院といえども、すぐにキャパオーバーのパンク状態に陥ってしまうことが目に見えている。ここに対する対策は、今すぐに考えておきたい。本剤が持つ危険性や効果を考えた時、確かに安直な治療はしてはならない。最大の懸念は、やはりARIA、とくにARIA-Hであろう。これについては既述したように、投与開始から6ヵ月以内に、そのほとんどが発生する。だからARIAの発生がほぼ終わると思われる6ヵ月以降は、クリニックや小規模の病院の専門医でも医療機関との連携体制があれば、本治療を行ってもよいということになった。参考1)厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第572回)議事次第(令和5年12月13日)

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臍帯結紮を遅らせることが早産児の救命につながる可能性

 早産児では、出産後に母子をつないでいるへその緒(臍帯)を固定した上で切断する「臍帯結紮(けっさつ)」を、出生の30秒後以後、なるべく遅らせて行うと、出生直後に臍帯結紮を行った場合と比べて退院までに死亡するリスクが低下することを示した2つの解析結果が、「The Lancet」に11月14日掲載された。これらの論文の筆頭著者で、シドニー大学(オーストラリア)のAnna Lene Seidler氏は、「われわれの解析結果は、臍帯結紮を遅らせることで一部の早産児の命を救える可能性を示した最良のエビデンスだ」と話している。 Seidler氏によると、早産で生まれる子どもの数は世界全体で年間約1300万人に上り、そのうち100万人近くが生後間もなく死亡しているという。研究者らは、臍帯結紮を遅らせることで胎盤から赤ちゃんへ血液が流れ、その間に赤ちゃんの肺が空気で満たされて呼吸に移行しやすい状態になる可能性があると述べている。また、血流が延長されることで、乳児の鉄欠乏症のリスクが低下する可能性もあるという。 1つ目の解析では、20件の臨床試験に登録された合計3,260人の早産児を対象に、出生後30秒以上経過してから臍帯結紮が行われた早産児(臍帯遅延結紮群)と出生後すぐ(10秒以内)に臍帯結紮が行われた早産児(臍帯早期結紮群)の間で院内死亡リスクが比較された。臍帯遅延結紮群での臍帯結紮のタイミングには、出生の30秒後から3分以上後までが含まれていた。解析の結果、院内死亡率は臍帯早期結紮群の8%に対して臍帯遅延結紮群では6%と低かった。臍帯早期結紮群に比べて臍帯遅延結紮群での院内死亡のオッズ比は0.68(95%信頼区間0.51〜0.91)であった。 2つ目の解析では、47件の臨床試験に登録された合計6,094人の早産児を対象に、臍帯結紮のタイミング別に院内死亡リスクが比較された。臍帯結紮のタイミングは、1)早期結紮群(出生直後)、2)短期遅延結紮群(出生後15秒以上から45秒未満の間)、3)中期遅延結紮群(出生後45秒以上から120秒未満の間)、4)長期遅延結紮群(出生後120秒以上経過後)の4群に分類した。その結果、臍帯結紮のタイミングが遅ければ遅いほど、院内死亡リスクは低下することが明らかになった。早期結紮群に比べて長期遅延結紮群での院内死亡のオッズ比は0.31(95%信頼区間0.11〜0.80)だった。 論文の共著者で統計解析を主導したシドニー大学のSol Libesman氏は、「われわれの解析から分かったのは、出生後早期に臍帯結紮を行うべき理由はなく、現時点で入手できるエビデンスに基づけば、出生後2分以上経過してからの臍帯結紮が、早産児が出生から間もない時期に死亡するリスクを下げる最良の戦略であることだ」と話している。 研究グループによると、現在、正期産で生まれた乳児に対しては1分あるいは2分経過してからの臍帯結紮が推奨されている。しかし、早産児に対しても臍帯遅延結紮が有用であるかどうかについては先行研究では明確に示されておらず、米国のガイドラインや国際ガイドラインでも相反する推奨が示されていた。今回報告された2つの研究は、これまでの医学的なエビデンスを網羅的に分析した最も包括的な解析だと研究グループは述べている。 ただし研究グループは、「早産児がすぐに蘇生を必要とする場合、臍帯結紮を行わないままの状態で呼吸のサポートが可能な病院でない限り、今回の研究結果を適用すべきではない」と注意を促している。Seidler氏は「臍帯結紮を行わないまま、どうすれば最も状態の悪い早産児に対して最善の出生直後ケアを行えるのかを、今後さらなる研究で検討する必要がある」と話している。

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第190回 レカネマブの投与対象者、合理的な絞り込みに感服

中央社会保険医療協議会(中医協)総会が12月13日に開催され、軽度認知障害、軽度のアルツハイマー病を適応とする抗アミロイドβ抗体レカネマブ(商品名:レケンビ)の薬価が決定した。原価計算方式を用いて算出された薬価は、200mgが4万5,777円、500mgが11万4,443円。適応に従って体重50kgの人に500mg製剤を使用した場合、年間1人当たりの推計薬剤費は298万円となる。この薬価に個人的には特段驚きはなく、想定の範囲内である。メーカー側が公表しているピーク時売上予測は2031年の986億円(投与患者3.2万人)。以前、本連載で投与対象患者数を粗く予測してみたが、まあ当たらずとも遠からずという感じだろうか? もっともこの予測は医療提供体制の変化などによって容易に変わり得る。改めて今回の中医協総会で了承されたレカネマブの最適使用推進ガイドライン(以下、GL)に目を通してみた。目を通す際、とくに注目したのは医師・施設要件である。そもそも、薬剤がどれだけ使われるのかを考える場合、患者要件もさることながら、医師・施設要件のほうが大きなファクターであることは改めて議論をするまでもないだろう。処方を決定するのは医師だからだ。一応、患者要件も念のため目を通してみると、ほぼ目新しいことはないが、1.5テスラ以上のMRI検査が実施可能※という項目はやや目を引く。ちなみに国内のMRI保有施設数は5,000施設強で、1.5テスラ以上のMRI保有施設はその半数強。もちろん大都市圏ならば、ほぼ該当する施設は存在するだろうが、これだけでも診断できる施設、診断を受ける患者は絞られそうである。※金属を含む医療機器(MR装置に対する適合性が確認された製品を除く)を植込み又は留置した患者は不可また、投与施設の条件を見ると、これがなかなかに厳しい。まず、初回投与から6ヵ月までは同一施設での投与とし、その施設に必要な体制を「施設における医師の配置」「検査体制」「チーム体制」に分けて記述している。医師の配置に関する記述を原文通り引用すると「認知症疾患の診断及び治療に精通する医師として、以下のすべてを満たす医師が本剤に関する治療の責任者として常勤で複数名配置されていること」と定められている。「以下のすべて」を要約・箇条書きにすると、こんな感じである。アルツハイマー病の診療に関連する日本神経学会、日本老年医学会、日本精神神経学会、日本脳神経外科学会の専門医医師免許取得後2年の初期研修修了後、10年以上の軽度認知障害の診断、認知症疾患の鑑別診断などの専門医療を主たる業務とした臨床経験を有している画像所見からARIA(アミロイド関連画像異常)の有無を判断したうえで、臨床症状の有無と併せて本剤の投与継続・中断・中止を判断し、かつ必要な対応ができる製造販売業者が提供するARIAに関するMRI読影研修を受講日本認知症学会または日本老年精神医学会が実施するアルツハイマー病の病態、診断、本剤の投与対象患者及び治療に関する研修を受講すでに冒頭の各学会の専門医資格を持ち、かつMCI、認知症診療経験を10年以上有するという時点でかなりの医師がふるい落とされるだろう。しかも複数名の配置が必要なのである。実はこの前段では「認知症疾患医療センター等の、アルツハイマー病の病態、経過と予後、診断、治療を熟知し、ARIAのリスクを含む本剤についての十分な知識を有し、認知症疾患の診断及び治療に精通する医師が…」、後段では「認知症疾患医療センター以外の施設で本剤を使用する場合、認知症疾患医療センターと連携がとれる施設で実施すること」との記述がある。要は認知症に関する超高度医療機関のみに限るということだ。そして、なぜ複数名の医師を配置するのかは、後段の「チーム体制」のところを見ると、おぼろげながら推測ができる。要約すると、「投与対象患者の選定、投与期間中の有効性・安全性の評価、投与継続・中止の判断のために」ということのようだ。ちなみにGLでは有効性について、半年おきにミニメンタルステート検査(MMSE)、臨床的認知症尺度(CDR)を実施したうえでのスコア推移、患者・家族・介護者から自他覚症状の聴取などで評価をし、有効性が期待できないと考えられる場合に投与中止を求めている。もちろんこれ自体はとくに不思議はなく当然のことではあるが、MMSE、CDRのような定性的なものを定量化した評価は、単独の医師での評価よりも複数の医師での評価を突き合せるほうが妥当性は高まることが多い。つまり、より踏み込んだ解釈をするならば、“有効性・安全性は単独の医師ではなく、複数の医師で判断せよ”ということではないだろうか?その意味では前述の基準はある意味妥当とも言えるが、同時に私見ながら「よくもここまで論理的に治療開始対象患者を絞り込んだものだ」とも思ってしまう。治療開始対象患者を“公費負担”と入れ替えても良いかもしれない。ちなみに初回から6ヵ月以降の投与施設では、この「複数名」の記載はなく、縛りがやや緩和される。そして今回、投与期間は原則18ヵ月とされた。治験でこの投与期間しかデータがないことが最大の理由だろうが、既存の承認薬剤を考えれば、この点もかなり厳格に対応したと言えるだろう。もっとも前述のような有効性やARIAなどの有害事象を踏まえた総合的な評価で医師が継続の必要性があると判断した場合は投与継続が可能である。また、ご存じのように中等度以上は治験対象になっておらず、投与開始時は適応がない。ただ、投与開始後に中等症となった場合は一旦投与を中止して再評価を行い、この場合も医師が投与を必要と判断すれば再開は可能だ。ただし、中医協に提出された「保険適用上の留意事項」の案では、投与継続理由を具体的にレセプトに明記しなければならない。この点は世間が注目する高額薬剤だけに医師側もそこそこ以上にハードルの高い作業だろう。このようにして見ると、再度の私見になってしまうが、よくぞここまでと言いたくなるくらい、合理的に患者絞り込みを行ったものだと半ば感心してしまっている。参考厚生労働省:中央社会保険医療協議会 総会(第572回)議事次第

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レカネマブ薬価決定、アルツハイマー病治療薬として12月20日に発売/エーザイ

 エーザイとバイオジェンは12月13日付のプレスリリースにて、アルツハイマー病の新たな治療薬であるヒト化抗ヒト可溶性アミロイドβ凝集体モノクローナル抗体のレカネマブ(商品名:レケンビ点滴静注200mg、同500mg)について、薬価基準収載予定日である12月20日より、日本で発売することを発表した。米国に次いで2ヵ国目となる。薬価は200mgが4万5,777円/バイアル、500mgが11万4,443円/バイアル。用法・用量は、10mg/kgを2週間に1回、約1時間かけて点滴静注で、患者が体重50kgの場合、年間約298万円になる。保険適用となり、さらに、治療費が高額になった場合は高額療養費制度も利用できる。 本薬は、2023年9月25日に「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」の効能・効果で製造販売承認を取得し、12月13日の中央社会保険医療協議会総会において、薬価基準収載および最適使用推進ガイドラインが了承された1)。エーザイが本剤の製造販売元として販売を行い、エーザイとバイオジェン・ジャパンが共同販促を行う。 本薬の承認は、エーザイが実施した大規模グローバル臨床第III相試験であるClarity AD試験のデータに基づく。主要評価項目の全般臨床症状の評価指標であるCDR-SBにおいて、18ヵ月時点の臨床症状の悪化をプラセボと比較して27%抑制した。副次評価項目として、患者が自立して生活する能力を介護者が評価する指標のADCS MCI-ADLにおいて、プラセボと比較して37%の統計学的に有意なベネフィットが認められた。なお、投与群で最も多かった有害事象(10%以上)は、Infusion reaction、ARIA-H(ARIAによる脳微小出血、脳出血、脳表ヘモジデリン沈着)、ARIA-E(浮腫/浸出)、頭痛および転倒であった。本結果は、NEJM誌2023年1月5日号に掲載2)。 本薬の承認条件に従い、一定数の症例データが集積されるまでの間は、投与されたすべての患者を対象に特定使用成績調査(全例調査)が実施される。また両社は、医療関係者に対するアミロイド関連画像異常(ARIA)の管理とモニタリングの推進に向けた研修資材の提供をはじめ、添付文書や最適使用推進ガイドラインに則した適正使用を推進する。 本薬の概要は以下のとおり。製品名:レケンビ点滴静注200mg、レケンビ点滴静注500mg一般名:レカネマブ(遺伝子組換え)効能又は効果:アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制用法及び用量:通常、レカネマブ(遺伝子組換え)として10mg/kgを、2週間に1回、約1時間かけて点滴静注する。薬価(12月20日収載予定):200mg 4万5,777円/バイアル、500mg 11万4,443円/バイアル

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小児インフルエンザ治療でのタミフル使用の実態とは

 米国では、インフルエンザに罹患した小児にはタミフルなどの抗ウイルス薬を処方することが推奨されているにもかかわらず、その処方率は低く、特に2歳未満の小児では5人に3人が同薬を処方されていないことが新たな研究で明らかになった。米ヴァンダービルト大学モンロー・カレル・ジュニア小児病院の小児科医であるJames Antoon氏らによるこの研究の詳細は、「Pediatrics」に11月13日掲載された。 この研究は、IBM MarketScan Commercial Claims and Encounters Databaseを用いて、米国の50州での民間保険に関連する取引データの中から2010年7月1日から2019年6月30日の間の外来または救急外来での18歳未満の小児に対する処方箋の請求データを収集し、小児インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬処方の動向を調査したもの。抗ウイルス薬の処方は、オセルタミビル(商品名タミフル)、バロキサビル(商品名ゾフルーザ)、またはザナミビル(商品名リレンザ)が処方された場合と定義された。主要評価項目は、小児インフルエンザ患者での抗ウイルス薬の処方箋受取率(抗ウイルス薬の薬局請求数を対象小児の総数で割ったもの)、副次評価項目は、インフルエンザの診断を受けた患者のうち抗ウイルス薬による治療を受けた患者の割合と、物価の上昇を考慮した抗ウイルス薬のコストとした。 その結果、研究対象期間中における治療用・予防用を合わせた抗ウイルス薬の処方件数は141万6,764件であり、そのほとんど(99.8%)がオセルタミビルであることが明らかになった。研究対象期間全体で、1インフルエンザシーズン当たりの抗ウイルス薬の平均処方件数は小児1,000人当たり20.6件であり、インフルエンザシーズンにより4.35件から48.6件の変動が見られた。 抗ウイルス薬により治療された患者の割合は、年齢層では12歳以上、インフルエンザシーズンでは2017/2018年シーズン、地理別では東南中央地域で特に高かった。これに対して、インフルエンザ合併症のリスクが高い2歳未満のインフルエンザ患者のうち、ガイドラインに則った抗ウイルス薬による治療を受けた患者の割合は40%未満(1,000人当たり367件の処方)と低かった。 物価の上昇を考慮した抗ウイルス薬の総コストは2億845万8,979ドル(1ドル150円換算で312億6884万6,850円)であり、1処方当たりのコスト(中央値)は111ドル(同1万6,650円)から151ドル(同2万2,650円)の間であった。 Antoon氏は、「ガイドラインでは、インフルエンザの小児患者に対しては、年齢を問わず抗ウイルス薬による治療が推奨されているにもかかわらず、われわれの研究から、2歳未満の小児で同治療が施されたのは40%に満たないことが明らかになった。また、全ての年齢層で抗ウイルス薬の使用率が低かったことも気に掛けるべき重要な結果だ」と話す。 また、インフルエンザ患者に対する抗ウイルス薬の使用状況は、地域により大きく異なることも示された。この点についてAntoon氏は、「この結果は、特に最も弱い立場にある小児でのインフルエンザの予防と治療に改善の余地があることを浮き彫りにするものだ」との見方を示す。研究グループは、このような地域差が生じる原因として、小児に対する抗ウイルス薬の使用を推奨する国のガイドラインが周知されていない可能性や、副作用への懸念、あるいは薬効に対する信頼不足が存在する可能性があると推測している。 研究グループは、「今回の研究結果は、小児患者でのインフルエンザの管理の質を向上させる必要性を強調するものだ」と結論付けている。Antoon氏は、「外来で小児のインフルエンザ患者を治療することで、症状の持続期間、家庭内感染、抗菌薬の使用、中耳炎などのインフルエンザ関連の合併症が減少することが報告されている」と補足している。

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高K血症の治療は心腎疾患患者のRAASi治療継続に寄与するか?/AZ

 アストラゼネカは2023年11月24日付のプレスリリースにて、リアルワールドエビデンス(RWE)の研究となるZORA多国間観察研究の結果を発表した。本結果は、2023年米国腎臓学会(ASN)で報告された。 世界中に、慢性腎臓病(CKD)患者は約8億4,000万人、心不全(HF)患者は6,400万人いるとされ、これらの患者における高カリウム血症発症リスクは2~3倍高いと推定されている1-4)。レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬(RAASi)治療は、CKDの進行を遅らせ、心血管イベントを低減させるためにガイドライン5-7)で推奨されているが、高カリウム血症と診断されると、投与量が減らされる、あるいは中止されることがある6-9)。このことが患者の転帰に影響を与えることは示されており、RAASiの最大投与量で治療を受けている患者と比較して、漸減または中止されたCKDおよびHF患者の死亡率は約2倍であった10)。7月の同社の発表では、米国および日本の臨床現場において、高カリウム血症発症後にRAASi治療の中止が依然として行われていることが示されている。 ZORA研究は、現行の高カリウム血症管理およびその臨床的影響について検証している世界規模のRWEプログラムである。ZORA研究「高カリウム血症発症後におけるジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC)によるRAASi治療継続に関する研究」では、高カリウム血症発症後にRAASi治療を受けたCKDおよび/またはHFの患者を対象とし、ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物(SZC、商品名:ロケルマ)の投与を120日以上受けた患者565例(米国)、776例(日本)、56例(スペイン)がSZC投与コホートに組み入れられ、カリウム吸着薬なしコホートには、カリウム吸着薬の処方を受けなかった患者2,068例(米国)、2,629例(日本)、203例(スペイン)が組み入れられた。2つ目のZORA研究「高カリウム血症を発症したCKD患者におけるRAASiの減量とESKDへの進行との関連性」では、CKDステージ3または4で、ベースライン時にRAASiを使用しており、高カリウム血症を発症した患者1万1,873例(米国)および1,427例(日本)が組み入れられた11)。高カリウム血症発症の前後3ヵ月におけるRAASiの処方状況に基づき、患者はRASSi減量群、中止群、維持群に分類された12)。 主な結果は以下のとおり。・高カリウム血症に対してSZCによる治療を行ったCKDまたはHFの患者は、治療されなかった患者と比較して、高カリウム血症の発症から6ヵ月後において、RAASi治療を維持できるオッズ比が約2.5倍となった(オッズ比:2.56、95%信頼区間:1.92~3.41、p<0.0001)11)。・末期腎不全(ESKD)※への進行リスクは、RAASi治療の維持群と比較し、中止群では73%増加、減量群で60%増加した12)。これらの結果は、高カリウム血症発症によるRAASi投与量の減量により、CKDまたはHFの患者における心腎イベントおよび死亡のリスクが増加することを示す過去のデータを裏付けた。・国別にみると、中止群におけるESKDへの進行リスクは維持群と比べて、米国では74%増加、日本では70%増加していた。なお、米国の対象患者(24.8%)に比べて日本の対象患者(62.6%)ではCKDステージ4の割合が高かったという違いがあったが、本研究により示されたRAASi治療が中止された患者におけるESKDへの進行リスクは、国によらず一貫していた。※高カリウム血症発症後6ヵ月以内に、CKDステージ5として診断あるいは透析開始と定義した。 UCLA HealthのAnjay Rastogi氏は、「高カリウム血症を積極的に管理することにより、ガイドライン5-7)で推奨されているRAASi治療を最適用量で維持することが可能となり、CKDまたはHFの患者の転帰を改善できることが明らかになった。しかし、本研究は、臨床現場で高カリウム血症発症後の心腎疾患患者に実際に起きていること、また、RAASiの減量や中止により重大な結果がもたらされ、転帰の悪化と死亡率の増加につながりうることについて、直視すべき実態を提示している」とコメントした。 AstraZeneca(英国)のエグゼクティブバイスプレジデント兼バイオファーマビジネスユニットの責任者であるRuud Dobber氏は、「今回のデータは、高カリウム血症が適切に管理されなければ、RAASiの減量や中止により、心血管疾患や腎疾患の転帰が悪化したり死亡率が増加したりする可能性があるという、過去に発表したエビデンスをさらに裏付けるものである。ロケルマは、高カリウム血症というしばしば緊急処置を要することのある疾病負荷に対応するための重要な治療戦略となる可能性がある。AstraZenecaは、ガイドライン5-7)で推奨されているRAASi治療を実施できるよう、また、より強力な心腎保護効果を患者に届けられるよう、引き続き医療従事者と協力していく」と述べている。■参考文献1)Jain N, et al. Am J Cardiol. 2012;109:1510-1513.2)Sarwar, CM. et al. J Am Coll Cardiol. 2016;68:1575-1589.3)Jager KJ, et al. Nephrol Dial Transplant. 2019;34:1803-1805.4)GBD 2016 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators. Lancet. 2017; 390:1211-1259.5)Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2020;98:S1-S115.6)Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) Diabetes Work Group. Kidney Int. 2022;102:S1-S127.7)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021;42:3599-3726.8)Heidenreich PA, et al. J Am Coll Cardiol. 2022;79:e263-e421.9)Collins AJ, et al. Am J Nephrol. 2017;46:213-221.10)Epstein M, et al. Am J Manag Care. 2015;21:S212-S220.11)Rastogi A, et al. ZORA: Maintained RAASi Therapy with Sodium Zirconium Cyclosilicate Following a Hyperkalaemia Episode: A Multi-Country Cohort Study, presented at American Society of Nephrology Kidney Week, 1-5th November 2023, Philadelphia, PA, USA.12)Rastogi A, et al. ZORA: Association between reduced RAASi therapy and progression to ESKD in hyperkalaemic CKD patients, presented at American Society of Nephrology Kidney Week, 1-5th November 2023, Philadelphia, PA, USA.

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二重特異性抗体エプコリタマブ、LBCL3次治療以降の大きな選択肢に/ジェンマブ・アッヴィ

 2023年11月、二重特異性抗体エプコリタマブ(商品名:エプキンリ皮下注4mg、同48mg)の販売が開始された。適応は、再発又は難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)のうち、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、高悪性度B細胞リンパ腫(HGBCL)、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫(PMBCL)、および再発又は難治性の濾胞性リンパ腫(FL)。 販売開始に伴い、同薬剤を共同開発するジェンマブとアッヴィは11月28日にメディアセミナーを行った。本薬剤の承認根拠となったEPCORE NHL-3試験の治験責任者である国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科長 伊豆津 宏二氏が、「再発・難治性LBCLの治療戦略とアンメットメディカルニーズ」と題した講演を行い、疾患と治療の現状と薬剤の作用機序を解説し、メディアからの質問に答えた。――LBCLはリンパ系に発生するがんである非ホジキンリンパ腫(NHL)の1つ。日本において悪性リンパ腫の90%以上を占めるNHLの総患者数は約12.4万人と推定されており、NHLのうち30%強をDLBCLが占めるとされる。好発年齢は65~75歳と高齢者に多い疾患だ。――LBCLの標準初回治療は、多剤併用の化学療法(R-CHOP療法、Pola-R-CHP療法)であり、6割程度の患者はこれで治癒するが、残りは再発難治となる。2次以降の治療戦略は自家移植の適応があるかで異なるが、移植で治癒に至る患者は限られ、1)再発難治後は多剤併用化学療法が奏効しにくい、2)移植後の再発が多い、3)年齢等の要因で自家移植適応の患者自体が限られる、といった要因から、2次治療不応例の効果的な治療選択肢がないことが問題となっていた。――2019年にDLBCL 3次治療にCAR-T療法が承認され、国内では3剤が使えるようになっているが、CAR-T療法にも1)実施できる施設が限られる、2)製剤と治療開始までに時間を要する、3)CAR-T療法後でも半数以上が再発難治となる、といった課題が残されている。――こうした状況で登場したエプコリタマブは、T細胞上のCD3とB細胞上のCD20に同時に結合する二重特異性抗体薬であり、海外第I/II相臨床試験(EPCORE NHL-1/GCT3013-01試験)および国内第I/II相臨床試験(EPCORE NHL-3/GCT3013-04試験)の結果に基づいて承認された。――EPCORE NHL-3試験の奏効率は55.6%、完全奏効率は44.4%だった。主な有害事象はサイトカイン放出症候群(CRS)で全体の83%で発生し、Grade3はうち8%であったが、治療中止に至った例はなかった。初回、2回目までごく少量を投与し、3回目にfull doseを投与するステップアップ投与を行い、有害事象の多くが3回目の治療直後に起こるためマネジメントがしやすい。 講演後の質疑応答では、CAR-T療法との使い分けに関する質問が多く出た。伊豆津氏は「エプコリタマブは承認直後でエビデンスに乏しく、現時点ではガイドラインも含め、CAR-T療法が優先される。しかし、CAR-T療法が実施できない施設、CAR-T療法の実施を待てないケースなどでは、エプコリタマブも選択肢となりうるだろう。また、エプコリタマブ承認に至った治験にはCAR-T療法治療歴のある患者も含まれており、奏効率に大きな差はなかったことから、CAR-T療法不応例への治療選択肢となりうる点も魅力だ」とした。さらに「二重特異性抗体の単剤投与、あるいは化学療法やCAR-T療法との併用戦略は今後の大きなテーマであり、長期データの蓄積が待たれる」とした。

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