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がん治療による放射線関連心疾患、弁膜症を来しやすい患者の特徴/日本腫瘍循環器学会

 9月17、18日に開催された第5回日本腫瘍循環器学会にて、塩山 渉氏(滋賀医科大学循環器内科)が「放射線治療による冠動脈疾患、弁膜症」と題し、放射線治療後に生じる特異的な弁膜症とその治療での推奨事項について講演した(本シンポジウムは日本放射線腫瘍学会との共催企画)。 がんの放射線治療による放射線関連心疾患(RIHD:radiation-induced heart disease)の頻度は医学の進歩により減少傾向にあるが、それでもなお、食道がんや肺がん、縦隔腫瘍でのRIHD発症には注意を要する。2013年にNEJM誌に掲載された論文1)によると、照射から20年以上経過してもなお、主要心血管イベントリスクが8.2%(95%信頼区間:0.4~26.6)も残っていたという衝撃的な報告がなされた。それ以来、RIHDは注目されるようになり、その1つに弁膜症が存在する。放射線治療時の心臓への影響予測にAMC これら放射線治療時の心臓の予後予測のために見るべき点として、「上記のような弁膜症を発症する症例にはAorto-mitral curtain(AMC、大動脈と僧帽弁前尖の接合部)に進行性の弁の肥厚や石灰化が進行しやすいという特徴がある」と同氏は述べ、「肥厚をきたしている場合は予後が悪いとの報告2)もあることから、放射線治療時の診断マーカーになるのではないかとも言われている」とコメントした。また、心臓手術による死亡率を予測する方法として用いられるEuroSCORE(European System for Cardiac Operative Risk Evaluation)は本来であればスコアが高ければ予後が悪いと判定されるが、「AMCが肥厚している症例ではスコアにかかわらず予後不良である」と汎用される指標から逸脱してしまう点についても触れた。放射線治療における心毒性に対するESCガイドラインでの推奨 先日行われた欧州心臓病学会(ESC)2022学術集会において、初となる腫瘍循環器ガイドラインが発刊された。そこでは放射線治療における心毒性に関してもいくつか推奨事項が触れられており、がん治療患者の急性冠症候群(ASC)に対するPCI施行の可否についてはその1つである。ガイドラインによれば、「STEMIまたは高リスクのNSTE-ACSを呈し、予後6ヵ月以上のがん患者には侵襲的な治療戦略が推奨される(クラスI、レベルB)」とされ、予後6ヵ月未満の方については薬物療法を検討することが記載されているが、「がん治療による血小板減少を伴う患者に対しては、抗血小板薬の使用を慎重にならざるを得ないため、“アスピリンやP2Y12阻害薬の使用は推奨されない”(クラスIII、レベルC)」と薬物療法介入時の注意点を説明した。心臓に直接影響のある放射線量やドキソルビシン投与有無で分類 次に、がんサバイバーの外科治療による予後はどうか。外科的弁置換術(SAVR)において、放射線治療を受けた重度の大動脈弁狭窄症患者では放射線治療歴のない患者と比較して長期死亡率が有意に高いことが明らかになっているため、2020年改訂版『弁膜症治療のガイドライン』(p.69)でも、TAVIを考慮する因子として“胸部への放射線治療の既往 (縦隔内組織の癒着)”と明記されている。さらに、胸部放射線照射後の予後を調査した論文3)によると、胸部放射線照射群におけるTAVIは、対照群と比較して30日死亡率、安全性、有効性が同等であるものの、1年死亡率や慢性心不全の増悪が高いことが示された。ただし、両治療法の転帰について比較した報告4)を踏まえ、TAVI群では完全房室ブロックの発症やペースメーカーの挿入率が多かったことを念頭に置いておく必要がある。 そのほか、放射線治療の平均心臓線量と関連する心毒性を確認する推奨項目としてESCガイドラインに掲載されている「ベースラインCVリスク評価とSCORE2またはSCORE-OPによる10年間の致死的および非致死的CVDリスクの推定が推奨される(クラスI、レベルB)」「心臓を含む領域への放射線治療前に、CVDの既往のある患者にはベースライン心エコー検査を考慮するべきである(クラスIIa、レベルC)」「重症弁膜症を有するがんサバイバーの手術リスクを協議し、その判定を行うために、多職種チームによるアプローチが推奨される(クラスI、レベルC)」「放射線による症候性重度大動脈弁狭窄症で、手術リスクが中程度の患者にTAVI手術を行う(クラスIIa、レベルB)」を紹介。最後に同氏は「MHD(Mean heart dose)による評価が大切であり、心臓に直接影響のある放射線量やドキソルビシン投与有無などで低リスク~超ハイリスクの4つに分類する点などもESCガイドラインに記載されているので参考にして欲しい」と締めくくった。

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せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです【非専門医のための緩和ケアTips】第37回

第37回 せん妄は緩和ケアでよく遭遇する徴候なのです「せん妄」って緩和ケアに限らず、どの分野でも遭遇しますよね。でも、緩和ケアではとくにせん妄の対応って大切なのです。今回は緩和ケアで必ず対応が必要になる、せん妄のお話です。今日の質問看取りにも対応する在宅医療を行っています。先日、終末期の患者さんが興奮した様子となり、家族が驚いてしまいました。「在宅療養の継続は難しい」と判断して緊急入院となりました。もともと家族は「自宅で最後まで過ごさせてあげたい」と言っており、「本当に入院してよかったのか」と感じます。こういった場合、どのように対応しますか?在宅緩和ケアでは、しばしばこういった難しい状況に直面します。ご質問からの推測になりますが、終末期せん妄の状態だったのでは、と感じます。入院や在宅で緩和ケアを実践していると、よく遭遇する徴候です。皆さんは終末期患者さんがどの程度、せん妄を発症するかご存じでしょうか? データにもよるのですが、「がん患者が亡くなる数日前には88%に発症する」と言われています。これ、すごく高頻度ですよね。なので、日単位の予後のがん患者さんに意識の変容が生じた場合は、せん妄である可能性が非常に高いのです。せん妄に対しては重要な点がたくさんあるのですが、その一つが「気付く」ことです。今回のように興奮が強いタイプのせん妄は気付きやすいのですが、活気がないように見えるタイプのせん妄については、気付きにくいことが知られています。せん妄に対しての介入は、まずは「原因となっている身体疾患の中で改善できるものがないか」を考えます。たとえば、高カルシウム血症のような電解質異常がせん妄を助長しているのであれば、補正を検討します。ただ、予後日単位の状況だと、現実的になかなか改善が難しいことが多いですね。薬物療法としては、ハロペリドール(商品名:セレネース)などの抗精神病薬を用います。それでも興奮が強い時には、より鎮静作用の強い薬剤を用いることもあります。さらに、せん妄は家族のつらさも助長します。「大切な家族が、人が変わったようになってしまった…」というのは、せん妄患者の家族からよく聞かれる嘆きです。死別が近いことによる悲嘆の中にある家族にとって、さらにつらさを増す状況であることは想像するに難くありません。そうした意味では、せん妄は在宅療養の継続が難しくなる徴候の一つです。興奮の強いせん妄の場合、私自身も薬物療法をしながら、入院の相談をすることがよくあります。近年、せん妄に対しては書籍やガイドラインが増えました。それだけ医療現場では切実な問題なのでしょう。どれもお薦めなのですが、日本サイコオンコロジー学会の「がん患者におけるせん妄ガイドライン2022年版」(金原出版)が2022年6月に改訂されていますので、まずはこれから読んでみてはいかがでしょうか?今回のTips今回のTipsせん妄への対応は、緩和ケアの分野でも重要なスキルです。

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10月13日 世界血栓症の日【今日は何の日?】

【10月13日 世界血栓症の日】〔由来〕国際血栓止血学会が、血栓症の認識を高め、診断、治療を促進し、最終的に血栓症による障害、死亡を低下させることを目的に制定。わが国では日本血栓止血学会が血栓症の啓発活動に取り組んでいる。関連コンテンツ咳嗽も侮れない!主訴の傾聴だけでは救命に至らない一例【Dr.山中の攻める!問診3step】動脈硬化のナレノハテ【患者説明用スライド】急性期虚血性脳卒中へのtenecteplase、標準治療となる可能性/Lancet脳梗塞の血栓除去術、発症6h以降でも機能障害を改善/Lancet脳卒中治療ガイドラインが6年ぶりに改訂、ポイントは?

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高齢者におけるポリピル(スタチン、ACE阻害薬、アスピリン)の使用が通常処方よりも心筋梗塞後の患者の予後を改善する(解説:石川讓治氏)

 高齢者においては、年齢と共にポリファーマシーが増加し、薬物有害事象や転倒のリスクが増加するだけではなく、認知機能や生活の質の低下、独居などが誘因となり、服薬アドヒアランスが低下することも問題になっている。服薬アドヒアランスの低下した患者においては、処方の単純化、合剤による服薬数の減少などが有効であるとされており、家族や訪問介護者などを介し服薬アドヒアランスを改善させることが可能になるとされている。 本研究は、心筋梗塞後(平均8日後)の65歳以上の高齢者に対して、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンといった心筋梗塞後の患者に対する推奨度の高い内服薬を、ガイドラインに沿って主治医がテーラーメードで別々に処方するよりも、ポリピル(合剤)として投与するほうがプライマリーエンドポイントを減少させたことを報告した。ポリピル群と通常投与群の間では、スタチン、心保護薬、抗血小板薬、他の薬剤の投与率や、血圧やLDLコレステロールのコントロールレベルにはまったく有意差がなかったにもかかわらず、ポリピル群のほうが服薬アドヒアランスや患者満足度が有意に高く、そのことが予後の改善につながったのではないかと推測されている。 日常臨床においては、合剤の使用時には投与量の調整が厄介になる。わが国で現在、使用可能なスタチンとカルシウムチャネル阻害薬の合剤は、番号でそれぞれの投与量の組み合わせを変更できるようになっているが、慣れるまでは投与時に番号と投与量の差を確認する必要があって、処方する側としては少しわずらわしさを感じることがある。本研究のポリピル群においても、スタチンとACE阻害薬の投与量を6つのパターンで変更しながらポリピルが調整されるプロトコールになっている。実際の臨床では、同じ配合薬の6つの投与量のパターンを覚えて使い分けることは容易ではないことが推測される。少し簡便に投与量が調整できる仕組みが、将来的にはできればいいと感じた。本研究の高齢者は、ほとんどが仕事をリタイアした患者であった。現在のわれわれの日常臨床では、服薬アドヒアランスの改善のため薬局で内服薬の一包化をしてもらうことがあるが、一包化とポリピルで差があるのか疑問が残った。「良薬は口に苦し」ということわざがあるが、内容が同じであれば、処方は数が少なく飲みやすいのがいいようである。

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手引き改訂で診断基準に変化、テストステロン補充療法/日本メンズヘルス医学会

 『加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)診療の手引き2022』が15年ぶりに改訂されるにあたり、9月17、18日にオンライン開催された第22回日本メンズヘルス医学会において、シンポジウム「LOHセッション」が開催された。本稿では検査値の改訂ポイントについて、伊藤 直樹氏(NTT東日本札幌病院泌尿器科 部長/外科診療部長)の発表内容からお伝えする(共催:株式会社コスミックコーポレーション)。 LOH症候群とは、“加齢あるいはストレスに伴うテストステロン値の低下による症候群”である。加齢に起因すると考えられる症状として大きく3つの項目があり、1)性腺機能症状(早期勃起の低下、性欲[リビドー]の低下、勃起障害など)、2)精神症状(うつ傾向、記憶力、集中力の低下、倦怠感・疲労感など)、3)身体症状(筋力の低下、骨塩量の減少、体脂肪の増加など)が挙げられる。見直された診断基準値、海外と違う理由 本手引きの改訂においてもっとも注目すべきは、主診断に用いる検査値が変わることである。2007年版の診断基準値では遊離テストステロン値(8.5pg/mL未満)のみが採用されていたが、2022年改訂版では総テストステロン値(250ng/dL未満)を主診断に用いることになる。その理由として、伊藤氏は「海外でのgold standardであること、総テストステロン値と臨床症状との関連性も認められること、健康男性のmean-2SD・海外ガイドラインも参考にしたこと」を挙げた。また、遊離テストステロン値は補助診断に用いることとし、LOH症候群が対象となり始める30~40歳代のmean-2SD値である7.5pg/mL未満とするに至った。これについて「RIA法の信頼性が問題視されていること、海外の値(欧州泌尿器学会では63.4pg/mLなど)と測定方法が異なり比較できないため」とコメントした。<LOH症候群の新たな診断基準>―――・総テストステロン値250ng/dL未満または・250ng/dL以上で遊離テストステロン値が7.5pg/mL未満※各測定値にかかわらず総合的に判断することが重要で、テストステロン補充の妥当性を考慮し、「妥当性あり」と判断すれば、LOH症候群と診断する●注意点(1)血中テストステロン分泌は午前9時頃にピークを迎え夜にかけて低下するため、午前7~11時の間に空腹で採血すること。(2)2回採血について、日本では保険適用の問題もあるため、海外で推奨されているも本手引きではコメントなし。――― また、測定時に注意すべきは、総テストステロンの4割強は性ホルモン結合グロブリン(SHBG:sex hormone brinding globulin)と強く結合しているため、SHBGに影響を与える疾患・状態にある患者の場合は値が左右される点である。同氏は「SHBGが増加する疾患として、甲状腺機能亢進症、肝硬変、体重減少などがある。一方で低下する疾患には、肥満、甲状腺機能低下症、インスリン抵抗性・糖尿病などがあるため、症状の原因となるようなリスクファクターの探索も重要であるとし、「メタボリックシンドローム(高血圧症、糖尿病、脂質異常症)から悪性腫瘍などの消耗性疾患、副腎皮質・甲状腺など内分泌疾患、そしてうつ病などの精神疾患などLOH症候群に疑わしい疾患は多岐にわたるため、すぐに断定することは危険」と強調。「自覚症状、他覚的所見を総合的に判断し、ほかの疾患の存在も常に疑うべき」と指摘した。 さらに、診断基準の“測定値にかかわらず総合的に判断する”という点について、「アンドロゲン受容体の活性効率に影響するN末端のCAGリピートがアジア人は長く、活性効率が低い可能性がある。そのため、テストステロン値が基準値以上でも補充療法が有効の可能性がある」と説明した。 測定値とは別に、症状からLOH症候群か否かを定量的に判定する方法の1つとしてAMS(Aging Males' Symptoms)スコア1)が広く用いられている。これについて、同氏は「感度は高いが特異度は低いため、スクリーニングには推奨されない」と話した。一方でホルモン補充療法による臨床効果の監視には有用という報告もあることから、「全体の合計点だけを見るのではなく、それぞれの症状をピックアップし、患者に合わせて対応することが大切」と説明した。 最後に、診断を確定する前にはLOH症候群が原発性か二次性かの確認も必要なことから、「最終的にはLHおよびFSHを測定し二次性性腺機能低下症の有無を確認するために、その原因疾患を把握し、確認して欲しい」と締めくくった。

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世界初・日本発、アトピー性皮膚炎の「かゆみ」治療薬で患者QOLの早期改善に期待/マルホ

 2022年9月15日、マルホ主催によるプレスセミナーが開催され、同年8月に発売されたアトピー性皮膚炎(AD)のかゆみの治療薬、抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブ(商品名:ミチーガ)について、京都大学医学研究科の椛島 健治氏が講演を行った。かゆみは、AD患者の生活の質(Quality of Life:QOL)を著しく低下させる。椛島氏は、「これまでADのかゆみを有効に抑えることが困難だった。かゆみを改善し、ADを早期に良くしていくことが本剤の狙いであり、画期的ではないか」と述べた。 ADは、増悪・寛解を繰り返す、かゆみのある湿疹を特徴とする慢性の皮膚疾患である。その病態は、皮膚バリア機能異常、アレルギー炎症、かゆみの3要素が互いに連動し、形成される(三位一体病態論)。国内には推計約600万人のAD患者がおり、年々増加傾向にある。このように身近な疾患であるADは、治療法も確立されているかのように見える。しかし、AD患者の悩みは深刻だ。かゆみで「眠れない」「集中できない」悩めるAD患者 AD患者は、蕁麻疹、乾癬、ざ瘡や脱毛症患者の中でQOLが最も障害されている。その要因の1つに、かゆみ症状が挙げられる。かゆみに伴う掻破行動は、皮膚症状の悪化を招くだけでなく、さらにかゆみを増強させる悪循環(イッチ・スクラッチサイクル)を引き起こす。ADのかゆみは強く、かゆみ閾値の低下、抗ヒスタミン薬が効きにくい、嗜癖的掻破行動、夜間の強いかゆみ、増悪因子が多数あるなどの特徴があり、治療に難渋する医師も多いという。実際、医師のアンケート調査において、13歳以上のAD患者の約30%はかゆみコントロールが不十分であるとされている。 AD患者にとって、治療目標の最たるものは「かゆみをなくしたい」である。AD患者は、とくに夜~就寝後の時間帯でかゆみを強く感じる。約半数がかゆみによって寝付けず、途中で目覚めるともいわれ、睡眠が大きく障害されていることがわかる。さらに、仕事への影響も深刻であり、約30%が「仕事ができない」という。それにもかかわらず、AD患者に薬物治療で不満な点を尋ねると、「かゆみが十分に改善されない」が最も多く、「皮膚症状が十分に改善されない」よりも多かった。かゆみの対策は、長く臨床上のアンメットニーズとなっていた。アトピー性皮膚炎のかゆみメディエーター IL-31の登場 IL-31は、かゆみを誘発するサイトカインであり、ADに伴うかゆみの発生に深く関与している。ADの病態において、活性化Th2細胞から産生されたIL-31は、神経細胞などに発現するIL-31受容体Aに結合し、神経伝達を介して脳にかゆみを伝える。同氏らは、十数年前よりIL-31に着目し、抗IL-31受容体A抗体ミチーガの創製元である中外製薬および、製造販売元であるマルホと共に開発を行ってきた。ミチーガは早期からかゆみを改善 ミチーガは、IL-31受容体Aを競合的に阻害することでかゆみの抑制作用を示す、世界初の抗体医薬品である。全国69施設が参加した国内第III相臨床試験において、既存治療を実施したにもかかわらず中等度以上のそう痒を有するAD患者を対象に、有効性と安全性が検討された。 主要評価項目である投与開始16週後のそう痒VAS※変化率は、プラセボ群(72例)で-21.39%、ミチーガ群(143例)で-42.84%であり、ミチーガ群で有意にかゆみが改善した。かゆみの改善は初回投与の1日後から観察され、「かゆみを抑える効果が非常に早い」(同氏)。そのほか、睡眠やQOLも有意に改善したことが示された。一方、主な副作用は、皮膚感染症(18.8%)、AD(18.5%)であった。同氏は、本剤使用時の留意点として「かゆみが治まってもしっかり塗り薬は続けてほしい」ことを患者に伝えるべき、とした。 従来の治療法は炎症抑制作用を主なターゲットとする一方、本剤は、患者の主訴であるかゆみに着目した薬剤である。かゆみに対する新たな治療選択肢が広がることにより、AD患者の早期のかゆみ改善およびQOL改善に寄与することを期待したい。 なお、本剤は最適使用推進ガイドライン対象品目となっている。※そう痒VAS(Visual Analogue Scale):0をかゆみなし、100を想像されうる最悪のかゆみとして患者が評価

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認知症患者の死亡率に対するコリンエステラーゼ阻害薬の影響~システマティックレビュー

 コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)は、神経活動だけでなく心血管系への作用も有していることから、死亡率に影響を及ぼす可能性がある。フランス・ソルボンヌ大学のCeline Truong氏らは、ChEIによる治療が認知症患者の死亡率を改善するかを検討した。その結果、認知症患者に対するChEIの長期治療とすべての原因による死亡リスク低下との関連が認められ、そのエビデンスの質は中~高であることが示唆された。著者らは、これらの調査結果は、認知症患者に対するChEI治療の決定に影響を与える可能性があるとしている。Neurology誌オンライン版2022年9月12日号の報告。 2021年11月までに公表された文献をPubMed、EMBASE、Cochrane CENTRAL、ClinicalTrials.gov、ICRTPより検索し、レビュー、ガイドライン、これらに含まれる研究の参考文献をスクリーニングした。あらゆるタイプの認知症患者を対象に、ChEIによる治療とプラセボまたは通常治療との比較を6ヵ月以上実施した、バイアスリスクのより低いランダム化比較試験(RCT)および非RCTを分析に含めた。2人の独立した研究者により、研究の包含およびバイアスリスクを評価し、事前に規定されたフォーマットに従いデータを抽出した。研究者間の不一致事項については、ディスカッションおよびコンセンサスにより解決した。すべての原因による死亡および心血管死に関するデータは、粗死亡率または多変量調整ハザード比(HR)として測定し、ランダム効果モデルを用いてプールした。集積されたデータは、逐次解析(trial sequential analysis:TSA)を用いて評価した。なお、本研究はPRISMAガイドラインに従って実施した。 主な結果は以下のとおり。・選択基準を満たした研究は、24件(7万9,153例)であった(RCT:12件、コホート研究:12件、平均フォローアップ期間:6~120ヵ月、アルツハイマー型認知症:13件、パーキンソン病認知症:1件、血管性認知症:1件、あらゆるタイプの認知症:9件)。・対照患者のプールされたすべての原因による死亡リスクは、100人年当たり15.1人であった。・ChEIによる治療は、すべての原因による死亡リスクの低下と関連が認められた(未調整RR:0.74[95%CI:0.66~0.84]、調整済みHR:0.77[95%信頼区間[CI]:0.70~0.84]、エビデンスの質:中~高)。・本結果は、いくつかの感度分析によりRCT、非RCTにおいて一貫性が認められた。・認知症のタイプ、年齢、各薬剤、認知症の重症度によるサブグループにおいても、差は認められなかった。・心血管死についてのデータは少なかったが(RCT:3件、コホート研究:2件、9,182例、エビデンスの質:低~中)、ChEIで治療された患者でリスクは低かった(未調整RR:0.61[95%CI:0.40~0.93]、調整済みHR:0.47[95%CI:0.32~0.68])。・TSAでは、すべての原因による死亡のアウトカムは確実性が高かったが、心血管死のリスクについてはそうではなかった。

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遺族にNGな声かけとは…「遺族ケアガイドライン」発刊

 2022年6月、日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会の合同編集により「遺族ケアガイドライン」が発刊された。本ガイドラインには“がん等の身体疾患によって重要他者を失った遺族が経験する精神心理的苦痛の診療とケアに関するガイドライン”とあるが、がんにかかわらず死別を経験した誰もが必要とするケアについて書かれているため、ぜひ医療者も自身の経験を照らし合わせながら、自分ごととして読んでほしい一冊である。 だが、本邦初となるこのガイドラインをどのように読み解けばいいのか、非専門医にとっては難しい。そこで、なぜこのガイドラインが必要なのか、とくに読んでおくべき項目や臨床での実践の仕方などを伺うため、日本サイコオンコロジー学会ガイドライン策定委員会の遺族ケア小委員会委員長を務めた松岡 弘道氏(国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科/支持療法開発センター)を取材した。ガイドラインの概要 本書は4つに章立てられ、II章は医療者全般向けで、たとえば、「遺族とのコミュニケーション」(p29)には、役に立たない援助、遺族に対して慎みたい言葉の一例が掲載されている。III章は専門医向けになっており、臨床疑問(いわゆるClinical questionのような疑問)2点として、非薬物療法に関する「複雑性悲嘆の認知行動療法」と薬物療法に関する「一般的な薬物療法、特に向精神薬の使い方について」が盛り込まれている。第IV章は今後の検討課題や用語集などの資料が集約されている。遺族の心、喪失と回復を行ったり来たり 人の死というは“家族”という単位だけではなく、友人、恋人や同性愛者のパートナーのように社会的に公認されていない間柄でも生じ(公認されない悲嘆)、生きている限り誰もが必ず経験する。そして皮肉なことに、患者家族という言葉は患者が生存している時点の表現であり、亡くなった瞬間から“遺族”になる。そんな遺族の心のケアは緩和ケアの主たる要素として位置付けられるが、多くの場合は自分自身の力で死別後の悲しみから回復していく。ところが、死別の急性期にみられる強い悲嘆反応が長期的に持続し、社会生活や精神健康など重要な機能の障害をきたす『複雑性悲嘆(CG:complicated grief)』という状態になる方もいる。CGの特徴である“6ヵ月以上の期間を経ても強度に症状が継続していること、故人への強い思慕やとらわれなど複雑性悲嘆特有の症状が非常に苦痛で圧倒されるほど極度に激しいこと、それらにより日常生活に支障をきたしていること”の3点が重要視されるが、この場合は「薬物治療の必要性はない」と説明した。 一方でうつ病と診断される場合には、専門医による治療が必要になる。これを踏まえ松岡氏は「非専門医であっても通常の悲嘆反応なのかCGなのか、はたまた精神疾患なのかを見極めるためにも、CG・大うつ病性障害(MDD)・心的外傷後ストレス障害(PTSD)の併存と相違(p54図1)、悲嘆のプロセス(p15図1:死別へのコーピングの二重過程モデル)を踏まえ、通常の悲嘆反応がどのようなものなのかを理解しておいてほしい」と強調した。医師ができる援助と“役に立たない”援助 死別後の遺族の支援は「ビリーブメントケア(日本ではグリーフケア)」と呼ばれる。その担い手には医師も含まれ、遺族の辛さをなんとかするために言葉かけをする場面もあるだろう。そんな時に慎みたい言葉が『寿命だったのよ』『いつまでも悲しまないで』などのフレーズで、遺族が傷つく言葉の代表例である。言葉かけしたくも言葉が見つからないときは、正直にその旨を伝えることが良いとされる。一方、遺族から見て有用とされるのは、話し合いや感情を出す機会を持つことである。 そのような機会を提供する施設が国内でも設立されつつあるが、現時点で約50施設と、まだまだ多くの遺族が頼るには程遠い数である。この状況を踏まえ、同氏は「医師や医療者には患者の心理社会的背景を意識したうえで診療や支援にあたってほしいが、実際には多忙を極める医師がここまで介入することは難しい」と話し、「遺族の状況によってソーシャルワーカーなどに任せる」ことも必要であると話した。 なお、メンタルヘルスの専門家(精神科医、心療内科医、公認心理師など)に紹介すべき遺族もいる。それらをハイリスク群とし、特徴を以下のように示す。<強い死別反応に関連する遺族のリスク因子>(p62 表4より)(1)遺族の個人的背景・うつ病などの精神疾患の既往、虐待やネグレクト・アルコール、物質使用障害・死別後の睡眠障害・近親者(とくに配偶者や子供の死)・生前の患者に対する強い依存、不安定な愛着関係や葛藤・低い教育歴、経済的困窮・ソーシャルサポートの乏しさや社会的孤立(2)治療に関連した要因・治療に対する負担感や葛藤・副介護者の不在など、介護者のサポート不足・治療やケアに関する医療者への不満や怒り・治療や関わりに関する後悔・積極的治療介入(集中治療、心肺蘇生術、気管内挿管)の実施の有無(3)死に関連した要因・病院での死・ホスピス在院日数が短い・予測よりも早い死、突然の死・死への準備や受容が不十分・「望ましい死」であったかどうか・緩和ケアや終末期の患者のQOLに対する遺族の評価 上記を踏まえたうえで、遺族をサポートする必要がある。不定愁訴を訴える患者、実は誰かを亡くしているかも 一般内科には不定愁訴で来院される方も多いだろうが、「遺族になって不定愁訴を訴える」ケースがあるそうで、それを医療者が把握するためにも、原因不明の症状を訴える患者には、問診時に問いかけることも重要だと話した。<表5 遺族の心身症の代表例>(p64より一部抜粋)1.呼吸器系(気管支喘息、過換気症候群など)2.循環器系(本態性高血圧症など)3.消化器系(胃・十二指腸潰瘍、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群など)4.内分泌・代謝系(神経性過食症、単純性肥満症など)5.神経・筋肉系(緊張型頭痛、片頭痛など)6.その他(線維筋痛症、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎など) 最後に同氏は高齢化社会特有の問題である『別れのないさよなら』について言及し、「これは死別のような確実な喪失とは異なり、あいまいで終結をみることのない喪失に対して提唱されたもの。高齢化が進み認知症患者の割合が高くなると『別れのないさよなら』も増える。そのような家族へのケアも今後の課題として取り上げていきたい」と締めくくった。書籍紹介『遺族ケアガイドライン

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動脈硬化の評価(1)【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q36

動脈硬化の評価(1)Q36動脈硬化の評価について、「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」では以前から形態学的検査法と血管機能検査法が複数あげられている。検査のモダリティ、項目の追加はないが、「超音波検査」の中に評価するべき血管として追加されたのは?

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10月7日 おなかを大切にする日【今日は何の日?】

【10月7日 おなかを大切にする日】〔由来〕気温が下がることでお腹が冷えて腸のぜん動運動が鈍くなったり、寒暖差による自律神経の乱れから便秘など腸の不調が出やすいこの時期に、腸活への関心を高めてもらいお腹の調子を良くして健康な毎日を送ってもらおうと、ビオフェルミン製薬株式会社が「重10要なおな07か」の語呂合わせから制定。関連コンテンツその腹痛、重症?【救急診療の基礎知識】腹痛患者、波があれば“管”を疑おう!【Dr.山中の攻める!問診3step】下痢症状から急性胃腸炎を診断、ゴミ箱診断を防ぐには?【Dr.山中の攻める!問診3step】お腹が痛いときの症状チェック【患者説明用スライド】新薬・エビデンス続々、心理的ケアの認知高まる―『機能性消化管疾患診療ガイドライン2020』

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10月10日 世界メンタルヘルスの日【今日は何の日?】

【10月10日 世界メンタルヘルスの日】〔由来〕メンタルヘルス問題に関する世間の意識を高め、偏見をなくし、正しい知識を普及することを目的に世界精神保健連盟が制定。世界保健機関(WHO)も協賛する国際記念日であり、「シルバーリボン運動」として啓発を行っている。関連コンテンツうつ病まとめ【クローズアップ!精神神経 7疾患】高齢者うつ病の診断・治療のためのガイドライン~日本うつ病学会旅行をしないとうつ病が悪化する?高齢者の旅行とうつ病との関係COVID-19パンデミック中の長期抑うつ症状の予測因子肉の消費とメンタルヘルス

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糖尿病性末梢神経障害性疼痛治療に新たなエビデンスが報告された(解説:住谷哲氏)

 糖尿病性末梢神経障害DPN(diabetic peripheral neuropathy)は無症状のことが多く、さらに網膜症に対する眼底撮影、腎症に対する尿アルブミンのような客観的診断検査がないため見逃されていることが少なくない。しかしDPNの中でも糖尿病性末梢神経障害性疼痛DPNP(diabetic peripheral neuropathic pain)は疼痛という自覚症状があるため診断は比較的容易である。不眠などにより患者のQOLを著しく低下させる場合もあるので治療が必要となるが、疼痛コントロールに難渋することが少なくない。多くのガイドラインでは三環系抗うつ薬であるアミトリプチリン(以下A)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬SNRIであるデュロキセチン(以下D)、電位依存性カルシウムチャネルα2δリガンドのガバペンチノイドに分類されるプレガバリン(以下P)およびガバペンチン(以下G)の4剤が有効性のある薬剤として推奨されている。疼痛をコントロールするためには十分量の薬剤を投与する必要があるが、実際にはそれぞれの薬剤の持つ特有の副作用で増量が困難となり、中断や他の薬剤の併用を必要とすることが多い。ちなみにわが国での神経障害性疼痛に対する最大投与量は、A 150mg、D 60mg、P 600mgとなっている。GはPと同様の作用機序であるが、添付文書上は抗てんかん薬としての適応のみであり神経障害性疼痛に対する保険適応はない。しかし社会保険診療報酬支払基金では最大投与量2,400mgまで認めているという不思議な状況である1)。 上記のそれぞれの薬剤のDPNPに対する有効性は明らかにされているが、どの薬剤が最も有効なのかを比較検討したhead to headのRCTはない。さらに併用療法についての有効性を検討したRCTにはPとDとの併用療法を検討した小規模のCOMBO-DN試験があるのみである2)。そこで各薬剤の有効性をhead to headで比較すること、および併用療法の有効性を検討することを目的に実施されたのが本試験であり、DPNP治療に新たなエビデンスをもたらした試験であると評価できる。 試験デザインは疼痛に関するRCTでは多用されるクロスオーバーデザインである。1コース16週とし、前半の6週は単剤治療期間、後半の10週が併用治療期間とされた。さらに単なる薬剤の組み合わせではなく、著者らはpathwayと記載しているが、投与順序も検討された。PとGは同様の作用機序なのでPが選ばれた(選択理由として、Gが1日3回投与である、Pと異なり薬物動態が線形でない、およびtitrationに時間を要する、と記載されている)。さらにAとDは両者ともに抗うつ薬であるのでこの組み合わせは除外された。したがって検討されるpathwayはA→P、P→A、D→P、P→Dの4組になる。これを1コース16週間のクロスオーバーデザインで実施すると16×4=64週で試験期間が1年以上となり、試験完遂が困難との判断からP→Dは除外された。その理由は、COMBO-DN試験の結果からP→D、D→Pの疼痛コントロール効果はほぼ同等であり、かつDは1日1回投与でありPと比較して初回投与として適切であると記載されている。このあたりがpragmatic trialとされるゆえんだろう。結果は、A、P、Dのどの薬剤から開始しても単剤での疼痛コントロール効果は同等であること、併用治療によりさらに疼痛コントロール効果が増強されること、どのpathwayでも効果は同等であること、が明らかとなった。さらに疼痛のみならず患者のQOLも同様に改善することが示された。したがって、最初にどの薬剤を投与するか、併用療法としてどの薬剤と組み合わせるかは、主として個々の薬剤による特有の副作用の程度に依存することになる。 DPNPに対しては、単剤を最大耐容量まで増量しても効果が不十分であれば躊躇せずに併用療法に進むことが疼痛コントロールのために有効であることが本試験によって明らかとなった。他の神経障害性疼痛に対しても恐らく同様の有効性が期待されるだろう。しかし腰痛などの神経障害性疼痛以外の疼痛に対しては本試験の結果が適用されないことは言うまでもない。

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血管腫・血管奇形ガイドラインが5年ぶりに改訂

 第18回日本血管腫血管奇形学会学術集会(2022年9月16~17日)において、「血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン改訂について」(科研製薬共催)と題したセミナーが開催され、秋田班ガイドライン改訂統括委員長を務める新潟大学大学院小児外科学分野の木下 義晶氏が解説した。 今回のガイドラインは、第1版である「血管腫・血管奇形診療ガイドライン2013」、第2版である「血管腫・血管奇形・リンパ管奇形診療ガイドライン2017」に次いだ第3版となり、名称は「血管腫・脈管奇形・血管奇形・リンパ管奇形・リンパ管腫症診療ガイドライン2022」となる見込みという。本ガイドラインの作成は2020年から開始され、Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017に則して作成されている。 第2版では33個のクリニカルクエスチョン(CQ)が採用されていたが、本ガイドラインでは内容が拡充され38個のCQが採用される。そのうち、第2版から継続されたCQが20個、改訂されたCQが6個、第2版以前にはなく新たに設定されたCQが12個となる。約3分の1が新しいCQであり、とくに形成外科医により設定されたCQが多く増える見込みとなる。新しいCQの中には、リンパ管奇形に対する漢方薬の有効性に関する内容や乳児血管腫に対するプロプラノロールの使用時期に関する内容などが含まれる予定となる。また、前版からの大きな違いとして、一般向けのサマリーが各CQの解説文に追加され、患者にとってもわかりやすい言葉で記載され理解を促すことができるという。 現在はパブリックコメントの募集、ガイドラインの英文化を進めており、2022年中に公開が予定されている。

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日本人双極性障害外来患者への薬物治療に対する年齢や性別の影響~MUSUBI研究

 出産可能年齢の女性および高齢の双極性障害患者において、薬理学的治療に特別な注意を払う必要があるものの、現行のガイドラインでは明確に示されていない。とくに、出産可能年齢の女性双極性障害患者に対しては、薬物療法のリスクとベネフィットのバランスに懸念が高まる。獨協医科大学の川俣 安史氏らは、双極性障害外来患者への向精神薬処方に対する年齢および性別の影響について、調査を行った。その結果、若年女性に対するバルプロ酸とリチウムのリスクおよび安全性に関する情報が偏っている可能性が示唆され、これを修正するためのさらなる研究が求められることを報告した。また、高齢患者では、ラモトリギンよりもリチウムが処方されることが多く、高齢患者に対する薬物療法の選択においても、さらなる研究の必要性が示唆された。Annals of General Psychiatry誌2022年9月12日号の報告。 日本の精神科クリニックにおける双極性障害の多施設治療調査「MUSUBI研究」において、年齢、性別、薬物療法に関する詳細なデータを収集した。 主な結果は以下のとおり。・研究対象は、双極性障害外来患者3,106例。・39歳以下の若年女性に対して、バルプロ酸が25%に処方されていた。・すべての群と比較し、若年女性に対するバルプロ酸の処方頻度および1日の投与量に、有意な差は認められなかった。・バルプロ酸の処方頻度は、若年男性では有意に低く、中年男性ではより高かった。・リチウムの処方頻度は、若年女性で有意に低く、65歳以上の高齢男性および高齢女性でより高かった。・ラモトリギンの処方頻度は、若年男性および若年女性で有意に高く、高齢男性および高齢女性ではあまり高くなかった。・カルバマゼピンの処方頻度は、若年男性で有意に低く、高齢男性でより高かった。

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動脈硬化のリスク因子【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q35

動脈硬化のリスク因子Q35脂質異常症は動脈硬化のリスクの1つとして知られており、その管理について「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」で解説されている。2017年版から2022年版への改訂の際に追加となったリスクは?

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心不全の分類とそれぞれの治療法Update【心不全診療Up to Date】第1回

第1回 心不全の分類とそれぞれの治療法UpdateKey Points心不全の分類として、まずはStage分類とLVEFによる分類を理解しよう心不全発症予防(Stage Aからの早期介入)の重要性を理解しようRAS阻害薬/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の偉大さを理解しようはじめに心不全の国際定義(universal definition)が日米欧の3つの心不全学会から昨年合同で提唱され、「器質的または機能的な心臓の異常を原因とする症候を呈し、Na利尿ペプチド上昇または肺・体うっ血の客観的エビデンスが認められる臨床症候群」とされた1)(図1)。また心不全のStage分類もそれぞれAt-risk for HF(Stage A)、Pre-HF(Stage B)、HF(Stage C)、Advanced HF(Stage D)と分かりやすく表現された(図1)。この心不全の予防、治療を理解する上で役立つ心不全の分類について、本稿では考えてみたい。画像を拡大する予防と治療を意識した心不全の分類まず覚えておくべき分類が、上記で記載した心不全Stage分類である(図1)。この分類は適切な治療介入を早期から行うことを目的にされており、とくにStage Aの段階からさらなるStage進展予防(心不全発症予防)を意識して、高血圧などのリスク因子に対する積極的な介入を行うことが極めて重要となる2)。次に、一番シンプルで有名な治療に関わる分類が、検査施行時の左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)による分類で、HFrEF(LVEF<40%、HF with reduced EF)、HFmrEF(LVEF 40~49%、HF with mildly reduced EF)、HFpEF(LVEF≧50%、HF with preserved EF)に分類される(図1)。またLVEFは経時的に変化し得るということも忘れてはならない。とくにLVEFが40%未満であった患者が治療経過で40%以上に改善した患者群は予後が良く、これをHFimpEF (HF with improved EF)と呼ぶ3)。つまり、同じLVEF40%台でも、HFimpHFは、LVEFの改善がないHFmrEFとは生物学的にも臨床的にも同義ではないのである4)。そもそもLVEFとは…と語りたいところではあるが、字数が足りずまたの機会とする。慢性心不全治療のエッセンス慢性心不全治療は大きく2つに分類される。1つはうっ血治療、もう1つは予後改善のための治療である。まず、うっ血に対しては利尿薬が必要不可欠であるが、ループ利尿薬は慢性心不全患者において神経体液性因子を活性化させる5)など予後不良因子の1つでもあり、うっ血の程度をマルチモダリティで適正に評価し、利尿薬はできる限り減らす努力が重要である6)。次に予後改善のための治療について考えていく。1. HFrEFに対する治療生命予後改善効果が示されている治療法の多くは、HFrEFに対するものであり、それには深い歴史がある。1984年に発表された慢性心不全に対するエナラプリルの有効性を検証した無作為化比較試験(RCT)を皮切りに、その後30年以上をかけて数多くのRCTが行われ(図2)、現在のエビデンスが構築された(図3)7-9)。偉大な先人達へ心からの敬意を表しつつ、詳細を説明していく。画像を拡大する画像を拡大するまず、すべてのHFrEF患者に対して生命予後改善効果が証明されている薬剤は、ACE阻害薬/ARNI、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬である(図3)。とくにARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬は、米国の映画に擬えて“the Fantastic Four”と呼ばれるようになって久しい10)。この4剤はすべて投与後早期から心不全入院抑制効果があるため、診断後早期に開始すべき薬剤である。また、一見安定しているように見える慢性心不全患者でも突然死が少なくないことをご存知だろうか11,12)。この“Fantastic Four”すべてに突然死予防効果もあり、症状がごく軽度(NYHA IIs)であってもぜひ積極的に投与を検討いただきたい13)。そして、この4剤を基本に、うっ血、心房細動、鉄欠乏、虚血、弁膜症の有無、QRS幅、心拍数に合わせて、さらなる治療を検討していくこととなる(図3)。2. HFmrEFに対する治療HFmrEFの発症機序や治療法に関する知識は、まだ完全に解明されているとはいえないが、現時点では、HFrEFにおいて予後改善効果のある4剤がHFmrEFにもある程度の効果を示すことから、この4剤を投与するという姿勢で良いと考えられる14-19)。では、LVEFがどれくらいまでこの4剤の効果が期待されるのか。HFmrEF/HFpEFを含めた慢性心不全に対するARB/ARNI、β遮断薬、MRAの有効性を検証したRCTの結果からは、LVEFが55%くらいまでは予後改善効果が期待される20)(図4)。つまり、左室収縮障害が少しでも伴えば、神経体液性因子が心不全の病態形成に重要な役割を果たしているものと考えられ、これらの薬剤が有用なのであろう。なお、SGLT2阻害薬においては、最近発表されたEmpagliflozinのLVEF>40%の慢性心不全に対する有効性を検証したEMPEROR-Preserved試験の結果、心血管死または心不全入院の複合リスク(主に心不全による入院リスク)を有意に低下させることが報告された。ただし、LVEFが65%を超えるとその効果は認めなかった19)(図4)。画像を拡大する3. HFpEFに対する治療HFpEFは、2000年代前半までは「拡張期心不全」と呼ばれ、小さな左心室に著しい左心室肥大があり、拡張機能不全が主要な病態生理学的異常であると考えられていた。しかし、2000年代初頭からHFpEFはより複雑で複数の病態生理を持ち、多臓器の機能障害があることが明らかになってきた。現在HFpEFは、高血圧性リモデリング、心室・血管の硬化、肥満、代謝ストレス、加齢、座りがちな生活習慣などが関与する多面的な多臓器疾患であり、その結果として心臓、血管、および骨格筋の予備能低下につながると考えられている21)。このことからHFpEFの治療法が一筋縄では行かないことは容易に想像できるであろう。実際、本邦の心不全ガイドラインにおいても、うっ血に対する利尿薬と併存症に対する治療しか明記されていない3)。ただ最新のACC/AHAガイドラインでは、上記EMPEROR-Preserved試験の結果も含めSGLT2阻害薬が推奨クラスIIa、ARNI、MRA、ARBが推奨クラスIIbとなっている2)。ARNI、MRA、ARBについては「LVEFが50%に近い患者でより大きな効果が期待できる」との文言付であり、その背景は上記で説明した通りである20)。よって、今後はこの潜在性左室収縮障害をいかに早期にわれわれが認識できるかが鍵となるであろう。以上の通り、HFpEFに対してはまだ確立した治療法がなく、この複雑な症候群であるHFpEFを比較的均一なサブグループに分類するPhenotypingが今後のHFpEF治療の鍵であり、これについては今後さらに深堀していく予定である。1)Bozkurt B,et al. J Card Fail. 2021 Mar 1:S1071-9164. 00050-6.2)Heidenreich PA, et al. Circulation. 2022 May 3;145:e895-e1032.3)Tsutsui H, et al. Circ J. 2019 Sep 25;83:2084-2184.4)Wilcox JE, et al. J Am Coll Cardiol. 2020 Aug 11;76:719-734.5)Bayliss J, et al. Br Heart J. 1987 Jan;57:17-22.6)Mullens W,et al. Eur J Heart Fail. 2019 Feb;21:137-155.7)Sharpe DN, et al. Circulation. 1984 Aug;70:271-8.8)Sharma A,et al. JACC Basic Transl Sci. 2022 Mar 2;7:504-517.9)McDonagh TA, et al. Eur Heart J. 2021 Sep 21;42:3599-3726.10)Bauersachs J. et al. Eur Heart J. 2021 Feb 11;42:681-683.11)Lancet.1999 Jun 12;353:2001-7.12)Kitai T, et al. JAMA Netw Open. 2020 May 1;3:e204296.13)Varshney AS, et al. Eur J Heart Fail. 2022 Mar;24:562-564.14)Vaduganathan M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2356-2362.15)Solomon SD, et al. Circulation. 2020 Feb 4;141:352-361.16)Solomon SD, et al. Eur Heart J. 2016 Feb 1;37:455-62.17)Cleland JGF, et al. Eur Heart J. 2018 Jan 1;39:26-35.18)Lund LH, et al. Eur J Heart Fail. 2018 Aug;20:1230-1239.19)Butler J, et al. Eur Heart J. 2022 Feb 3;43:416-426.20)Böhm M, et al. Eur Heart J. 2020 Jul 1;41:2363-2365.21)Shah SJ. J Cardiovasc Transl Res. 2017 Jun;10:233-244.

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認知症リスク低下に寄与する1日当たりの歩数

 認知症予防ガイドラインでは身体活動を推奨しているが、認知症の発症と歩数やその強度との関連は明らかになっていない。南デンマーク大学のBorja Del Pozo Cruz氏らは、英国成人を対象に毎日の歩数やその強度とすべての原因による認知症発症との関連を調査した。その結果、歩数が多いほどすべての原因による認知症発症リスクが低く、1日当たり1万歩を少し下回る程度の歩数が、最も効果的であることが示唆された。JAMA Neurology誌オンライン版2022年9月6日号の報告。 UK Biobankの集団ベース・プロスペクティブコホート研究(2013年2月~2015年12月)を実施し、フォローアップ期間は6.9年、データ分析は2022年5月に行った。10万3,684人中、有効な歩数データを有する40~79歳の成人7万8,430人を分析対象に含め、認知症発症はレジストリベースで2021年10月までに確認した。歩数計から得られた1日の歩数、1分当たり40歩未満の偶発的な歩数、1分当たり40歩以上の意図的な歩数、1日の最も歩数の多い30分間(ピーク30分間)における1分当たりの歩数(必ずしも連続とは限らない)を分析した。主要アウトカムは、致死的および非致死的な認知症の発症とし、入院記録またはプライマリケア記録と関連付けて収集するか、死亡記録の死因を参照した。歩数との用量反応関連を評価するため、Spline Cox回帰を用いた。 主な結果は以下のとおり。・対象者は、平均年齢61.1±7.9歳、男性3万5,040人(44.7%)、女性4万3,390人(55.3%)、アジア人881人(1.1%)、黒人641人(0.8%)、混合人種427人(0.5%)、白人7万5,852人(96.7%)、その他または特定不能629人(0.8%)。・7万8,430人中866人が認知症を発症した(フォローアップ期間中央値:6.9年[6.4~7.5年]、平均年齢:68.3±5.6歳、男性:480人[55.4%]、女性:386人[44.6%]、アジア人:5人[0.6%]、黒人:6人[0.7%]、混合人種:4人[0.4%]、白人:821人[97.6%]、その他:6人[0.7%])。・分析では、1日の歩数と認知症発症との間に非線形の関連が認められた。・最大のリスク低下が認められた歩数は9,826歩(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.39~0.62)であり、リスクの低下が認められた最小の歩数は3,826歩(HR:0.75、95%CI:0.67~0.83)で、リスク低下は最大のリスク低下の50%であった。・偶発的な歩数で最もリスク低下が認められたのは3,677歩(HR:0.58、95%CI:0.44~0.72)、同じく意図的な歩数では6,315歩(HR:0.43、95%CI:0.32~0.58)、ピーク30分間の歩数では1分当たり112歩(HR:0.38、95%CI:0.24~0.60)であった。

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低用量メトトレキサート、悪性黒色腫リスク増大と関連?

 メトトレキサート(MTX)は関節リウマチを含む炎症性疾患の治療で幅広く使用されているが、低用量MTX曝露は悪性黒色腫のリスク増大と関連することが、オーストラリア・アルフレッド病院のMabel K. Yan氏らが行ったシステマティック・レビューとメタ解析の結果、示された。ただし、著者は結果を踏まえて、「リスク増大の絶対値は取るに足らないもので、現実的な影響は無視できるものだ」としている。JAMA Dermatology誌オンライン版2022年8月31日号掲載の報告。 研究グループは、MTX曝露が悪性黒色腫のリスク増大と関連するかをシステマティック・レビューとメタ解析で調べた。 創刊~2022年5月12日のMEDLINE、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、ClinicalTrials.govを検索して、適格試験を特定。低用量MTX曝露被験者と非曝露被験者を比較して悪性黒色腫のオッズ比(OR)またはリスク比(RR)を評価していたケースコントロール試験、コホート試験、無作為化臨床試験(RCT)を適格試験とした。言語については限定しなかった。 2人のレビュアーがそれぞれ試験特性とアウトカムデータを抽出。Meta-analysis of Observational Studies in Epidemiology(MOOSE)ガイドラインを用いて解析を行い、試験の質の評価は、RCTはコクランバイアスリスクツールを用い、コホート試験とケースコントロール試験についてはJoanna Briggs Institute Checklistを用いた。 ケースコントロール試験からのオッズ比と、コホート試験またはRCTからの相対リスクまたはハザード比(HR)をプールし、ランダム効果モデルメタ解析を行った。 事前に規定したアウトカムは、低用量MTX曝露被験者と非曝露被験者を比較した悪性黒色腫のオッズ比、ハザード比、リスク比であった。 主な結果は以下のとおり。・検索により、17試験(RCT 8、コホート試験5、ケースコントロール試験4)が適格として包含された。・主要解析には、12試験・悪性黒色腫1万6,642例がプールされた。MTXの適応症は、関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患であった。残りの5試験は不明であった。・曝露群は非曝露群と比較して、悪性黒色腫のリスクがわずかに増大した(プール相対リスク:1.15、95%信頼区間[CI]:1.08~1.22)。しかし、この関連は、最大規模の試験を除外して行った感度解析では維持されなかった(1.11、1.00~1.24)。・類似のリスク推定値は、MTX曝露群vs.免疫調節薬単独群または免疫調節薬+MTX群を比較群とするサブグループ解析や、MTXの適応症が関節リウマチの場合に示唆された。・悪性黒色腫の地理的罹患率を用いて算出した有害必要数(number needed to harm:NNH)は、オーストラリアでは1万8,630例、北米では4万1,425例であった。■関連記事メトトレキサート、重症円形脱毛症に有効

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がん患者は血圧140/90未満でも心不全リスク増/東京大学ほか

 がん患者では、国内における正常域血圧の範囲内であっても心不全などの心血管疾患の発症リスクが上昇し、さらに血圧が高くなるほどそれらの発症リスクも高くなることを、東京大学の小室 一成氏、金子 英弘氏、佐賀大学の野出 孝一氏、香川大学の西山 成氏、滋賀医科大学の矢野 裕一朗氏らの研究グループが発表した。これまで、がん患者における高血圧と心血管疾患発症の関係や、どの程度の血圧値が疾患発症と関連するのか明らかではなかった。Journal of clinical oncology誌オンライン版2022年9月8日号掲載の報告。 本研究では、2005年1月~2020年4月までに健診・レセプトデータベースのJMDC Claims Databaseに登録され、乳がん、大腸・直腸がん、胃がんの既往を有する3万3,991例(年齢中央値53歳、34%が男性)を解析対象とした。血圧降下薬を服用中の患者や、心不全を含む心血管疾患の既往がある患者は除外された。主要アウトカムは、心不全の発症であった。 主な結果は以下のとおり。・平均観察期間2.6年(±2.2年)の間に、779例で心不全の発症が認められた。・米国ガイドラインに準じて分類した正常血圧(収縮期血圧120mmHg未満/拡張期血圧80mmHg未満)と比較した心不全のハザード比は、ステージ1高血圧(130~139mmHg/ 80~89mmHg)が1.24(95%信頼区間:1.03~1.49)、ステージ2 高血圧(140mmHg以上/ 90mmHg以上)が1.99(同:1.63~2.43)と血圧が上がるほど上昇した。・心不全以外の心血管疾患(心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心房細動)においても、血圧上昇に伴う発症リスクの上昇が認められた。・この影響は、化学療法などの積極的ながん治療を行っている患者においても認められた。 高血圧は、がん患者においても高頻度に認められる併存症であるが、臨床においては血圧低下(食欲不振に伴う脱水など)が問題となることも多いため、高血圧については積極的な治療が行われない場面もあったと考えられる。それを踏まえて、研究グループは、「本研究において、がん患者では、降圧治療を受けていないステージ1高血圧やステージ2高血圧においても、心不全や他の心血管疾患のリスクが高かった。がん患者においても、適切な血圧コントロールが重要である」とまとめた。

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理解されない患者の苦悩、新たなガイドライン、治療薬に期待

 2022年9月15日、アレクシオンファーマは「重症筋無力症ガイドライン改訂と適正使用に向けて」と題した重症筋無力症(以下、MG)の現状と新たなガイドラインに関するメディアセミナーを開催し、鈴木 重明氏(慶應義塾大学医学部神経内科 准教授)から「MGの現状」について、村井 弘之氏(国際医療福祉大学医学部 脳神経内科学 主任教授、国際医療福祉大学成田病院 脳神経内科 部長)から「2022年5月のMG診療ガイドラインの改訂ポイントとユルトミリス適応追加の意義」について、それぞれ講演が行われた。MGの現状と患者の負担 鈴木氏は講演で、MGの現状、症状、それに伴う患者負担などを解説した。MGは、日本全国で約30,000人の患者がいると推定される最も頻度の高い神経免疫疾患で、近年では、高齢発症の患者が増加傾向にある。患者の20%は眼症状のみの眼筋型、80%が全身型とされており、疲れやすいこと(易疲労性)と筋力低下などの症状に日内変動がみられることが本疾患の特徴とされている。MGの症状で最も代表的なのが眼瞼下垂である。これに加え、目の焦点が合わない(斜視)、物が二重に見える(複視)など目の症状は多く、最初に眼科を受診するケースも多いという。このほか、構音障害や嚥下障害、椅子から立ち上がれない、腕が上がらないなどの全身症状は、患者の日常生活をさまざまな角度から脅かし、呼吸が苦しいなどのケースでは、非常に重篤なクリーゼにつながることもある。これらの症状は、一定ではなく波があることが多い。朝は調子が良く、夜にかけて症状が悪くなる、活動によりすぐ疲れてしまうものの、休むと回復する、などである。症状の波が悪化に向かった場合、レスキュー治療が必要となってしまうことから、患者は次の症状増悪への不安や、先の予定の立てにくさなどに悩まされることになる。また、周囲から理解されない、就労が困難になる、限られた日常診療で気付かれない(症状がないように見えてしまい診断に至らない)など、患者は非常につらい状況に置かれていると鈴木氏は述べた。MG診療ガイドライン改訂のポイント 2022年5月、MG診療ガイドラインが改訂された(『重症筋無力症/ランバート・イートン筋無力症候群診療ガイドライン2022』)。今回の改訂では、(1)MGの新しい分類を示した、(2)MGの診断基準を改訂した、(3)漸増・漸減の高用量経口ステロイドは推奨しないと明記した、(4)難治性MGを定義した、(5)分子標的薬(補体阻害薬)を追加した、(6)LEMS(ランバート・イートン筋無力症候群)を初めて取り上げ診断基準を示した、(7)MGとLEMSの治療アルゴリズムを示した、の7つがポイントであると村井氏は言う。新しいMGの分類では、MGを眼筋型(OMG)と全身型(gMG)に分け、全身型をAChR抗体陽性の早期発症(g-EOMG)、後期発症(g-LOMG)、胸腺腫関連(g-TAMG)、AChR抗体陰性のMuSK抗体陽性(g-MuSKMG)、抗体陰性(g-SNMG)に分けることで全6つに分類された。また、新たな診断基準では、「支持的診断所見(血漿浄化療法によって改善を示した病歴がある)」が加わった。治療を行っていくうえでの基本的な考え方として、患者のQOLやメンタルヘルスを良好に保つことが重要視され、MM-5mg(経口プレドニゾロン5mg/日以下でminimal manifestationsレベル)の治療目標は踏襲、かつ完全寛解や早期MM-5mgに関連しないことから、漸増・漸減による高用量経口ステロイド療法は推奨されないと明記された。難治性MGについては、「複数の経口免疫治療薬による治療」あるいは「経口免疫治療薬と繰り返す非経口速効性治療を併用する治療」を一定期間行っても「十分な改善が得られない」あるいは「副作用や負担のため十分な治療の継続が困難である」場合と定義された。新たなMG診療ガイドラインと治療薬への期待 分子標的薬が加わったことで、治療戦略も変化した。現在では、胸腺摘除はあまり行われなくなり、ステロイドは初期から少量、免疫抑制薬の投与も初期から開始し、ステロイドを増量する代わりにEFT(早期速効性治療戦略)を繰り返していき、症状の波が抑えられない場合、分子標的薬を投与するといった治療の流れに変わってきた。今回の改訂版ガイドラインを参考にすることで、以前のようにステロイドを何十mgも使用することはなくなるだろうと、村井氏は強調した。 MGに対する新たな治療選択肢として加わったユルトミリスは、8週に1回の投与で症状の波を抑え、安定化が期待できることから、頻回な通院が大変な患者に対してとくに期待される薬剤である。村井氏は、今後MGに対してさまざまな分子標的薬が登場することが見込まれており、MG診療は新たなステージに入っている、だからこそMG患者を見逃さず、治療に結び付けていくことが重要だと訴え、講演を締めくくった。

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