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安定冠動脈疾患の診断と治療~JCSガイドラインフォーカスアップデート版発表/日本循環器学会

 2022年3月11~13日に開催された第86回日本循環器学会学術集会で、中埜 信太郎氏(埼玉医科大学国際医療センター 心臓内科)が3月11日に発行された『2022年JCSガイドラインフォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療』について概要を説明した。本フォーカスアップデート(FU)は、2019年に発表された「慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)」と「安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)」の2つから新たな知見をまとめて作成。最近の大規模研究のエビデンスに基づき、安定冠動脈疾患(CAD)の管理全般に求められる指針の提供を主たる目的としている。英語版も同時に発行された。 近年、「ISCHEMIA試験」を含めた保存的治療や血行再建に関する大規模試験によるエビデンスの創出がきっかけとなり、欧州や米国、さらには本邦の冠動脈疾患診療ガイドラインが次々と改訂された。これらのエビデンスがとりわけ「安定した中等度以上の心筋虚血を呈する冠動脈疾患」に与えた影響は甚大である。しかしながら、中埜氏はこれら大規模試験の結果の一部だけを切り取り「一人歩きさせてはいけない」と注意を促した。 試験で除外された病態(左室収縮障害、重度の心不全、急性冠症候群に近い状態、進行した慢性腎臓病、左冠主幹部病変等)には、臨床的に問題となる多くの症例が含まれているため、注意が必要だ。同様に、複雑化した冠動脈疾患に対するガイドラインを活用するためには、「どのような患者のどのようなフェイズ(急性vs慢性、安定vs不安定など)に適用されるべきか」を強く意識して、該当する患者に適用することが求められる。 本FUは第1~5章で構成される。主な対象疾患は「閉塞性安定CAD(無症状を含む)」であり、1年以上前にACSや血行再建がある例も考慮している。各章では、診断ワークアップや経過観察中における不安定狭心症などのACSに近い病態への監視について繰り返し注意喚起している。なお、心不全・左室機能障害、高度CKDなどのサポートするエビデンスの少ない高イベントリスク群に関しては、特別な考慮が必要な疾患として第5章にまとめて記載されている。 以下に各章のポイントを示す。《第1章》ベースラインの系統的評価・CADが疑われる患者の年齢、性別、症状から検査前確率(PTP)をまず評価。続いて臨床的尤度(CL)を加味した修正PTPを推測して、次の最適な検査を導く。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・きわめて低いPTPならさらなる検査を保留してもよい。・患者報告アウトカム(PRO)を評価し、リスク層別化と重症度変化の一助とする。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)※定期的な評価にも推奨される《第2章》非侵襲的画像検査の選択・非侵襲的検査の選択は、PTPと施設における検査の使用状況の二軸で考える。・PTPが中等度以上では冠動脈CT(CCTA)または機能的イメージング(SPECT、負荷CMR、負荷心エコー)を施行する。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・CCTAはCADの診断(主に非閉塞性CAD、LMCAの否定)に有用。確定的な所見が得られない場合は、補完的に機能的イメージングやFFR-CTを考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)・機能的イメージングは(主にPTPが高い患者の)虚血や心筋生存能、イベントリスクの評価に有用。・無症状に近い低PTP患者へのオプションは、運動耐容能・運動反応性の評価を目的とした負荷心電図、またはイベントリスクの予測を目的とした冠動脈カルシウム(CAC)スキャンを考慮する。(推奨クラスIIb、エビデンスレベルB)・非侵襲的画像検査でLMCA/LMCA相当の病変が示唆された場合、あるいは診断過程で症状増悪がある、または薬剤抵抗性の症状が続く場合は侵襲的冠動脈造影(CAG)を考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)《第3章》CAGと血行再建の適応とタイミング・CAGは、非侵襲的検査を経た後の血行再建を行う可能性を視野に入れて検討する。フレイル度が高い、認知機能が低い患者など、血行再建が不向きな患者にはリスク評価目的のみのCAGは行うべきでない。(推奨クラスIII Harm、エビデンスレベルB)・非侵襲的検査とCAG所見が合致しない場合、確認のためFFR/NHPRs測定を考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルB)・非侵襲的検査で結論が得られない場合、もしくは心不全でCADを疑う所見があり、血行再建によるベネフィットが得られる可能性がある場合はCAGを考慮する。(推奨クラスIIa、エビデンスレベルC)・広範な心筋虚血をもたらす冠動脈病変に対し、共同意思決定(SDM)に基づく血行再建を行う。(推奨クラスI、エビデンスレベルB)・至適内科治療(OMT)のみだと薬の量や数が増えてしまうケースもあり、血行再建のリスク・ベネフィットに関しては十分な情報提供と議論を要する。安定CADでは必ずしも緊急的に行う必要はないことから、患者個々の価値観や趣向と合うように共同で意思決定を行う。《第4章》OMT・診断過程の早期(侵襲的検査の検討前)に、症状緩和・イベント予防に必要な薬剤を投与し、並行して生活習慣の是正にも取り組む。・血行再建の有無にかかわらず、診断確定後は薬物治療の最適化を継続する。・心血管イベントを避けるため、低用量アスピリンによる抗血栓療法と、目標値を明確にした脂質低下療法を行う。(推奨クラスI、エビデンスレベルA)・LDL-コレステロールは初期値から50%以上の低下かつ絶対値として70mg/dL未満を目標とする。《第5章》高リスク患者に対する特別な考慮・高リスク群は現場で問題になるが、エビデンスが圧倒的に不足しており、個別対応が求められる。大きな課題として残っている現状。・心不全・左室機能不全に対しては「STICH長期成績」「ISCHEMIAサブ解析」などの臨床試験がアップデートされた。治療は、『2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療』を参考に、通常の心不全治療に順守する。・高度CKD患者への血行再建のベネフィットは未確立だが、予後予測には核医学検査が有用。「SHARP」「ISCHEMIA-CKDサブ解析」の臨床試験がアップデートされた。・フレイル・高齢者では、余命やQOL等を総合的に判断して血行再建を決定する。PCI関連の臨床試験がアップデートされ、経橈骨動脈アプローチ(TRA)が推奨されている。

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ADHD治療に対するカフェインの影響

 注意欠陥多動性障害(ADHD)は、不注意および/または多動性・衝動性の持続的なパターンを特徴とする神経発達障害である。ADHDは、主に前頭前野のドパミン(DA)およびノルエピネフリン(NE)回路の異常から発生すると考えられている。ADHD治療薬の副作用に対する懸念やADHDの診断率の向上により、薬理学的アプローチの代替/補完的な介入が求められている。ここ数年、ADHD治療に対するカフェイン摂取の潜在的な影響に関する動物実験レベルの研究は蓄積されているが、最新のエビデンスに基づくシステマティックレビューは十分に行われていなかった。スペイン・カタルーニャオベルタ大学のJavier C. Vazquez氏らは、前臨床レベルでのADHD治療に対するカフェインの影響について、システマティックレビューを実施した。Nutrients誌2022年2月10日号の報告。カフェイン摂取はADHD治療で注意力の向上や学習に対する改善が期待できる 2021年9月1日時点で入手可能な前臨床レベルでのADHD治療に対するカフェインの影響を検討したエビデンスを抽出し、PRISMAガイドラインに基づくシステマティックレビューを実施した。 ADHD治療に対するカフェインの影響についてのシステマティックレビューの主な結果は以下のとおり。・カフェイン摂取はADHD治療で、血圧や体重に影響を及ぼすことなく、注意力の向上、学習、記憶、嗅覚の識別に対する改善が期待できる。・これらの結果は、神経・分子レベルで支持されている。・しかし、多動性・衝動性の調整に対するADHD治療のカフェインの影響に関しては、矛盾した結果が得られており、さらなる解明が必要とされる。 著者らは「これら動物実験レベルで確認されたADHDに対するカフェインの影響は、とくに青年期ADHD治療に流用される可能性が示唆された」としている。

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エルドハイム-チェスター病〔ECD:Erdheim-Chester disease〕

1 疾患概要■ 定義エルドハイム-チェスター病(Erdheim-Chester disease:ECD)は、1930年にJakob ErdheimとWilliam Chesterによって初めて報告された組織球症の一病型である。類縁疾患としてランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis:LCH)が挙げられる。対称性の骨病変と特徴的な画像所見を有し、骨、心臓・大血管、皮膚、中枢神経、内分泌系、腎・後腹膜などの多臓器に浸潤しさまざまな症状を起こす全身疾患である。■ 疫学ECDはまれな疾患であり2004年の時点で報告数は世界で100例にも満たなかったが、ここ15年ほどで認知度が上昇したことにより報告数が増加した。2020年の報告では世界で1,500例以上とされており、国内でも2018年時点で81例が確認されている。好発年齢は40~70歳で、男性が約7割を占める。小児例はまれで、その多くがECDとLCHを合併する混合型組織球症に分類される。 ECDの1割に骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍を合併していたとの報告があり、これらの症例は非合併例と比べて高齢で混合組織球症の割合が多いとされている。■ 病因ECDが炎症性の疾患か、あるいは腫瘍性の疾患かは長らく不明であったが、近年の研究でMAPK(RAS-RAF-MEK-ERK)経路に関連した遺伝子変異が細胞の増殖や生存に関与していることが報告され、腫瘍性疾患と考えられるようになってきている。変異の半数以上はBRAF V600Eの異常である。■ 症状ECDの症状および臨床経過は侵襲臓器と広がりによって症例ごとに大きく異なってくる。病変が単一臓器に留まり無症状で経過する例もある一方、多発性・進行性の臓器障害を起こし診断から数ヵ月で死亡する例もある。最も一般的な症状は四肢の骨痛(下肢優位)で、全体の半数にみられる。そのほか、尿崩症・高プロラクチン血症・性腺ホルモン異常などの内分泌異常、小脳失調症・錐体路症状などの神経症状、冠動脈疾患、心膜炎、心タンポナーデなどの循環器系の異常に加え、眼球突出、黄色腫などの局所症状など非常に多彩である。その他、発熱・体重減少・倦怠感などの非特異的な全身症状がみられることもある。一人の患者がこれらの症状を複数併せ持つことも多く、その組み合わせもさまざまである(図、表1、2)。図 ECDの主要症候(Goyal G, et al. Mayo Clin Proc. 2019;94:2054-2071.より改変)表1 わが国におけるECD症例の臓器病変(出典:Erdheim-Chester病に関する調査研究)画像を拡大する表2 わが国におけるECD症例の症状(出典:Erdheim-Chester病に関する調査研究)画像を拡大する■ 分類WHO分類の改定第4版ではリンパ系腫瘍のうち、組織球および樹状細胞腫瘍に分類されている。また、2016年改定の組織球学会分類では「L」(ランゲルハンス)グループに分類されている。■ 予後ECDの予後はさまざまで、主に病変の部位と範囲に左右される。高齢患者、心病変、中枢神経病変を有する患者ではがいして予後不良である。2000年代前半の報告では3年生存率50%程度であったが、近年では診断と治療の進歩によって5年生存率80%程度にまで上昇してきている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ECDは症状が極めて多彩であることから診断が困難であり、過去の報告でも発症から診断までの中央期間は数ヵ月から数年と言われている。診断の主体は組織診断だが、症状や画像所見を含めて総合的に判断することになる。形態学的所見としては、泡沫状(黄色腫様)細胞質を持つ組織球の増殖と背景の線維化を認め、ほとんどの症例で好酸性細胞質を有する大型組織球やTouton型巨細胞が混在する。免疫組織学的所見としてCD68、CD163、CD14、FactorXIIIa、Fascinが陽性、CD1a、 CD207(Langerin)は陰性である。S-100蛋白は通常陰性だが陽性のこともある。ECD患者の約10~20%にLCHを合併し、同一生検組織中に両者の病変を認めることもある。画像所見としては、単純X線撮影における長管骨骨端部の両側対称性の骨硬化や99Tc骨シンチグラフィーにおける下肢優位の長管骨末端への対称性の異常集積を認める。PET-CTは診断だけでなく活動性の評価や治療効果判定にも有用である。CTの特徴的所見として大動脈周囲の軟部陰影(coated aorta)や腎周囲脂肪織の毛羽立ち像(hairy kidney)を認めることがある。診断時には中枢病変の精査のためのGd造影頭部MRIや血液検査にて内分泌疾患、下垂体前葉機能、腎機能、CRPの評価も行うことが推奨されている。造血器腫瘍を合併する例もあるため、血算異常を伴う場合は骨髄穿刺を検討すべきである。鑑別診断として、LCHのほかRosai-Dorfman病、若年性黄色肉芽腫、ALK陽性組織球症、反応性組織球症などが挙げられ、これらは免疫染色などによって鑑別される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)以前はLCHに準じて副腎皮質ステロイドや抗がん剤などによる治療が行われていたが、効果は限定的であった。その後interferon-α(IFN-α)が全生存期間を延長することが報告され、ガイドラインで第1選択薬として挙げられている。また、BRAF遺伝子変異陽性のECDに対するBRAF阻害薬の有効性も報告されており、2017年にはベムラフェニブが米国FDAで承認されている。ただし、わが国ではこれらの薬剤は保険適用外となっている。第1選択薬のIFN-αは300万単位を週3回皮下投与が通常量だが、重症例では600~900万単位週3回の高容量投与も考慮される。また、PEG-IFNαで135ugを週1回皮下投与、重症例では180ugを週1回投与する。これらは50~80%の奏効率が期待されるが、半数程度に疲労感、関節痛、筋肉痛、抑うつ症状などの副作用がみられ、忍容性が問題となる。BRAF阻害薬(ベムラフェニブ)はBRAF遺伝子変異陽性のECDに効果が認められているが、皮膚合併症(発疹、扁平上皮がん)、QT延長などの副作用があり、皮膚科診察、心電図検査などのモニタリングが必要である。副作用などでIFNαが使用できない症例についてはプリンアナログのクラドリビンなどが検討される。副腎皮質ステロイド、手術、放射線療法は急性期症状や局所症状の緩和に使用されることがあるが、単体治療としては推奨されない。その他、病変が限局性で症状が軽微な症例については対症療法のみで経過観察を行うこともある。4 今後の展望ECDの病態や臨床像は長らく不明であったが、ここ20年ほどで急速に病態解明が進み、報告数も増加してきている。ベムラフェニブ以外のBRAF阻害薬やMEK阻害薬などの分子標的療法の有用性も報告されており、今後のさらなる発展とわが国での保険適用が待たれる。5 主たる診療科内科、整形外科、皮膚科、眼科、脳神経外科など多岐にわたる※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本の研究.com  Erdheim-Chester病に関する疫学調査(医療従事者向けのまとまった情報)Erdheim-Chester Disease Global Alliance(医療従事者向けのまとまった情報)1)Diamond EL, et al. Blood. 2014;124:483-492.2)Toya T, et al. Haematologica. 2018;103:1815-1824.3)Goyal G, et al. Mayo Clin Proc. 2019;94:2054-2071.4)Haroche J, et al. Blood. 2020;135:1311-1318.5)Goyal G, et al. Blood. 2020;135:1929-1945.公開履歴初回2022年3月16日

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第100回 私が見聞きした“アカン”医療機関(前編)時間外接種費用の上乗せ不正請求、処方箋の応需義務違反

100回記念、「身近で下世話な話題」集こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。心配していたMLBの労使交渉が3月10日(現地時間)、やっと合意しました。短縮が決まっていたレギュラーシーズンは従来どおり162試合で行われ、開幕も4月7日に決まりました。その後日本人選手の交渉も急進展、鈴木 誠也選手はサンディエゴ・パドレス、菊池 雄星投手はトロント・ブルージェイズと合意したとの報道もありました。と、ほっとしていたら、MLB好きの大学時代の友人から「エンゼルスの開幕戦のチケットがあるのだが、行きませんか?」とのお誘いが。「神宮に行きませんか」くらいの軽いノリの文面でしたが、球場はカリフォルニア州アナハイムです。彼は昨秋、コロナ禍の中、日本からシアトルまで大谷 翔平選手のホームランをわざわざ観に行った強者です。一瞬心が動きましたが、本連載含めいくつかの原稿の締め切りもあり、泣く泣く断念しました。さて、この連載も100回を迎えました。大きな事件や、医療政策などを取り上げて、偉そうな意見を述べてきたのですが、知人からは「もっと身近で下世話な話題も読みたい」と言われることも度々でした。今回も、旭川医科大学をクビではなく辞任となった吉田 晃敏・前学長の一件か、所得税法違反罪で検察側から懲役1年を求刑された田中 英寿・日本大学前理事長のことでも書こうと思っていたのですが、100回記念ということで少し趣向を変え、最近私や知人が体験した“アカン”医療機関について、書いてみたいと思います。内容としては10年前にフジテレビ系列で放映された、ダウンタウン司会の「爆笑 大日本アカン警察」をイメージしていただければと思います。【その1】ワクチン接種の時間外接種費用上乗せを不正請求ワクチンの3回目接種が各地で進んでいますが、知人がツイッターに投稿した写真を見て、衝撃を受けました。知人は土曜日に近くのかかりつけの診療所に3回目接種のために訪れたそうです。接種時間は11時過ぎだったのですが、医療機関に提出した問診票をふと覗いたところ、下の段にある医療機関記入欄の「時間外」の欄にはなぜかチェックが…。そして手書きの文字で12時過ぎの時間が。知人は「何か変だな」と感じ、その部分を携帯で撮影、ツイッターに上げたわけです。これはワクチンの時間外の接種費用上乗せを狙ったものと推察されます。ワクチン接種を通常の診療時間外に行う場合は2,070円→2,800円と730円上乗せされます。休日の場合は、2,070円→4,200円と2,130円上乗せされます。「時間外」の欄のチェックは、看護師によってごく当たり前のように行われていたそうです。1人730円でも、100人分なら7万3,000円になります。休日も混ぜるとなると、相当な金額になります。日本医師会の肝いりで進められた個別接種ワクチンの個別接種は「第72回 今さら「手紙」で協力求める日医・中川会長、“野戦病院”提言も動かない会員たちにお手上げ?」でも書いたように、日本医師会の肝いりで強引に進められました。しかし、診療所を含めることによって、ワクチンの配送や管理、接種登録が煩雑になることや集団接種への人員が割けないなど、さまざまな問題も発生。結果として接種推進の妨げの一因ともなりました。結局、個別接種は診療所医師がコロナ禍で存在感を示しつつ、手軽に臨時収入を稼ぐ手段となったわけですが、今でも診療所でのワクチン接種には、接種促進を理由に業務内容の割に手厚い報酬が用意されています。週100回以上、週150回以上を続ける場合にも上乗せ“特典”があります。にもかかわらず、こんなセコい不正請求もしているとは……。通常のレセプトの審査よりチェックが甘いと見ての時間外請求だとしたら悪質です。こうした医療機関は多くはないとは思いますが、これは“アカン”ですね。【その2】「薬がないから処方箋は受け取れない」と応需義務違反の薬局次は私の家族の体験です。1ヵ月ほど前に、家族が国立系のある病院を受診しました。年数回、定期的に通っている病院です。受診を終え、電車に乗って自宅に帰り、いつも利用している近所の個人経営の薬局に処方箋を持っていったのですが、そこの男性薬剤師から、「この処方箋は薬がないから受け取れない」と拒否されてしまったのです。処方箋は、バルプロ酸(デパケン)錠90日分でした。後発品メーカーの自主回収については、約1年前に「第53回 まだまだ続く日医工自主回収、ジェネリックが再び『ゾロ』と呼ばれる日」で書きましたが、その後、日本ジェネリック製薬協会および各社の自主的な製造過程の点検が行われ、多くの薬剤で未だに供給不足が続いています。バルプロ酸についても、1社の徐放顆粒が供給停止となり、その後すべての剤形で先発品、後発医薬品ともに、出荷調整が続いているようです。「正当な理由」に当たらず明らかに薬剤師法21条違反家族は「ないのなら、在庫がある薬局を教えて下さい。薬剤師会などで、薬の在庫の情報共有とかはしていないのですか」と聞いたのですが、男性薬剤師は「そんなことしていない。処方箋を発行した病院に問い合わせてみてくれ」と、最後まで処方箋の受け取りを拒否しました。「薬がないから処方箋を受け取れない」というのはいただけません。薬剤師には処方箋の応需義務があります。薬剤師法21条の「調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあつた場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない」に基づくものです。「正当な理由」については、薬局業務運営ガイドライン(厚生省薬務局長通知 平成5年4月30日 薬発第408号)に例が挙げられていますが、薬剤がなくて断っても「正当」とみなされるケースについては、「患者の症状等から早急に調剤薬を交付する必要があるが、医薬品の調達に時間を要する場合。但し、この場合は即時調剤可能な薬局を責任をもって紹介すること」と、他の薬局を紹介せよ、と明記されています。3月5日、日本薬剤師会は山本 信夫会長を次期会長に選びました。なんと5選目だそうです。会見では「医療の中で、薬剤師の担う責任の重さを実感させるとともに、処方医との連携体制をさらに強化しつつ、薬物治療に関する薬剤師・薬局業務の新たな可能性が示唆された」と語ったとのことですが、末端会員の薬局では今でもこんな応需義務違反が堂々と行われています。これは全く“アカン”ですね。ちなみに家族は、街の薬局を何軒か回って、やっと40日分だけ在庫がある薬局を見つけ、事なきを得ました。90日分が揃ったのは約1週間後でした。次回も、引き続き“アカン”医療機関を紹介します(この項続く)。

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高血圧:脳心血管疾患のリスク層別化に用いる予後影響因子【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q6

高血圧:脳心血管疾患のリスク層別化に用いる予後影響因子Q6高血圧治療ガイドライン2014(JSH2014)とJSH2019で、脳心血管疾患のリスク層別化に用いる予後影響因子に変更があった。JSH2019で示された予後影響因子に含まれないのは、下記危険因子のうちどれか。高齢(65歳以上)男性喫煙肥満(BMI≧25kg/m2) とくに内臓脂肪型肥満若年(50歳未満)発症の脳心血管疾患の家族歴脂質異常症糖尿病

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高齢者に対するベンゾジアゼピン使用の安全性

 高齢者に対するベンゾジアゼピン(BZD)使用については、とくに長期使用に関して、各ガイドラインで違いが認められる。カナダ・トロント大学のSimon Jc Davies氏らは、高齢者に対する継続的または断続的なBZD使用に関連するリスクの比較を、人口ベースのデータを用いて実施した。Journal of Psychopharmacology誌オンライン版2022年2月1日号の報告。 医療データベースよりBZDの初回使用で抽出されたカナダ・オンタリオ州の66歳以上の成人を対象に、人口ベースのレトロスペクティブコホート研究を実施した。初回使用から180日間の継続的および断続的なBZD使用は、性別、年齢、傾向スコアでマッチ(比率1:2)させ、その後最大360日フォローアップを行った。主要アウトカムは、転倒に伴う入院および救急受診とした。アウトカムのハザード比(HR)は、Cox回帰モデルを用い算出した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、継続的なBZD使用患者5万7,041例およびマッチさせた断続的なBZD使用患者11万3,839例。・フォローアップ期間中の転倒に伴う入院および救急受診率は、継続的なBZD使用患者で4.6%、断続的なBZD使用患者で3.2%であった(HR:1.13、95%信頼区間:1.08~1.19、p<0.0001)。・股関節骨折、入院および救急受診、要介護による入院、死亡などのほとんどの副次的アウトカムリスクは、継続的なBZD使用患者で有意に高かった。手首の骨折では、有意な差は認められなかった。・BZD使用量の調整により、HRへの影響を最小限に抑制することが可能であった。 著者らは「継続的なBZD使用は、断続的なBZD使用と比較し、BZD関連の有害リスクが有意に上昇することが示唆された。有害リスクの評価は、BZDの使用期間が症状に対する合理的な選択肢であるかを検討するうえで、患者および臨床医の意思決定に役立つ可能性がある」としている。

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高血圧:脳心血管疾患の危険因子【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q5

高血圧:脳心血管疾患の危険因子Q5血圧レベル以外の脳心血管疾患の危険因子として、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)で新たに追記されたのは次のうちどれか?男性喫煙アルコール多飲メタボリックシンドローム不眠症

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複雑性PTSD診断におけるICD-11導入後の期待

 複雑性PTSDはICD-11で初めて定義された疾患であり、PTSD診断の特徴であるトラウマ的症状に加え、自己組織化の障害(感情調節障害など)が認められる疾患である。デンマーク・オールボー大学のAshild Nestgaard Rod氏らは、複雑性PTSDの診断に対するICD-11の臨床的有用性について、調査を行った。European Journal of Psychotraumatology誌2021年12月9日号の報告。 ICD-11に含まれる国際的なフィールド調査、構成および妥当性の分析をレビューし、診断方法、国際トラウマアンケート(ITQ)、国際トラウマインタビュー(ITI)を調査した。複雑性PTSDと境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療、臨床的関連性の違いを明らかにするため、独立した分析を実施した。複雑性PTSD治療への影響は、既存のガイドラインと臨床ニーズを参照し、検討した。 主な結果は以下のとおり。・ITQおよびITIの検証では、複雑性PTSDのさらなる臨床診療への定着に貢献し、臨床的コミュニケーションと治療促進の双方に対する構成の的確な評価、意図された有益な価値が提供されていた。・経験的研究では、複雑性PTSDは、PTSDおよびBPDと鑑別可能であることが示唆されているが、BPDとPTSDの併存症例は、複雑性PTSDとされる可能性が認められた。・複雑性PTSDの診断治療において、自己組織化の障害を考慮したうえで、PTSDの確立された診断方法を用いる必要がある。 著者らは「複雑性PTSDがICD-11で定義されたことにより、治療介入へのアクセスが改善されるだけでなく、とくにストレス関連障害の研究により注目が集まるであろう。このような追加診断による臨床的有用性の価値は、ICD-11が臨床診断に導入される2022年以降、さらに明らかになると考えられる。今後、複雑性PTSDの症状評価や治療にベネフィットがもたらされることが期待される」としている。

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新型コロナ既感染者、ワクチン接種1回で再感染を予防/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した患者は、BNT162b2ワクチン(Pfizer-BioNTech製)を少なくとも1回接種することにより再感染のリスクが有意に低下することを、イスラエル・Clalit Health ServicesのAriel Hammerman氏らが、同国半数超の国民が加入する健康保険データを基に解析し、報告した。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染リスクは、COVID-19から回復した患者では著明に減少するが、獲得免疫の持続期間は不明である。現在のガイドラインでは回復した患者へのワクチン接種が推奨されているが、このようなケースでのワクチンの有効性に関するデータは限られていた。NEJM誌オンライン版2022年2月16日号掲載の報告。ワクチン未接種・感染者約15万人、その後のワクチン接種有無での再感染を比較 研究グループは、イスラエル国民の約52%が加入している同国最大の医療保険組織「Clalit Health Services」のデータを用い、ワクチン接種前にSARS-CoV-2に初感染し回復した(初感染から試験開始日の2021年3月1日時点で100日以上が経過していること)、16~110歳の会員を対象として、2021年3月1日~11月26日の間にBNT162b2 ワクチン接種を受けた人(接種群)と受けなかった人(非接種群)でのSARS-CoV-2再感染について検討した。 主要評価項目は、接種群と非接種群の再感染率の比較、副次評価項目はワクチン1回接種と2回接種の比較とした。再感染は、初感染から少なくとも100日後にPCR検査陽性と定義。時間依存共変量を用いるCox比例ハザード回帰モデルにより社会人口統計学的要因と併存疾患を補正し、ワクチン接種と再感染の関連を推定した。 解析対象は、適格基準を満たした14万9,032例であった。ワクチン有効性、16~64歳で82%、65歳以上で60%、1回接種と2回接種で差はなし 270日間の試験期間において、計14万9,032例中、接種群は8万3,356例(56%)、非接種群は6万5,676例であった。 再感染は、接種群で354例(10万人当たり2.46例/日)、非接種群で2,168例(10万人当たり10.21例/日)に発生。ワクチンの有効性は、16~64歳では82%(95%信頼区間[CI]:80~84)、65歳以上では60%(36~76)と推定された。 接種群8万3,356例のうち、1回接種は6万7,560例(81.0%)、2回接種は1万5,251例(18.3%)、3回接種が545例(0.7%)であった。2回接種に対する1回接種の再感染の補正後ハザード比は0.98(95%CI:0.64~1.50)であり、1回接種と2回接種でワクチンの有効性に有意差は認められなかった。

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がん治療中の薬剤性間質性肺疾患、診断・治療における専門家の推奨/JCO

 抗がん剤は薬剤性間質性肺疾患の主な原因であり、原因薬剤としてブレオマイシン、エベロリムス、エルロチニブ、トラスツズマブ デルクステカン、免疫チェックポイント阻害薬などが挙げられる。薬剤性間質性肺疾患の特定と管理は難しく、抗がん剤によって引き起こされる間質性肺疾患の診断と治療に関する具体的なガイドラインは現在存在しない。今回、イタリア・IOV-Istituto Oncologico Veneto IRCCSのPierfranco Conte氏らの学際的グループが、公表文献と臨床専門知識に基づいて、がん患者の薬剤性間質性肺疾患の診断と治療における推奨事項を作成した。ESMO Open誌2022年2月23日号に掲載。 主な推奨事項は以下のとおりで、薬剤性間質性肺疾患の診断・治療における多職種連携の重要性を強調している。・診断手順の重要な要素は、身体検査と丁寧な病歴聴取、バイタルサイン(とくに呼吸数と動脈血酸素飽和度)の測定、関連のある臨床検査、スパイロメーターと一酸化炭素肺拡散能による呼吸機能検査、CT/画像診断である。・薬剤性間質性肺疾患の臨床症状やX線画像は、肺炎や間質性肺疾患と類似していることが多いため、感染性の原因を除外または確認するための微生物検査や血清学的検査を含む鑑別診断が重要である。・ほとんどの場合、薬剤性間質性肺疾患の治療には、抗がん剤の投与中止と短期ステロイド投与が必要である。薬剤性間質性肺疾患の再活性化を防ぐためにステロイドをゆっくり漸減する必要がある。・Grade3~4の薬剤性間質性肺疾患の患者は入院が必要で、多くの場合、酸素吸入と非侵襲的人工呼吸が必要である。侵襲的人工呼吸については、がんの予後を考慮して決定する必要がある。

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第98回 増える病院へのサイバー攻撃、安全対策が急がれるも大幅赤字の現状

ウクライナ情勢を巡るロシアへの経済制裁に対して、ロシアが報復として日本企業などにサイバー攻撃を仕掛けてくる恐れがあるため、政府は2月23日、企業や金融機関などにサイバーセキュリティ対策の強化を呼び掛けた。ウクライナでは1月以降、政府機関や銀行などがサイバー攻撃の標的になり、ロシア側の関与が指摘されていた。ただ、医療機関の多くは経営状況の厳しさから、サイバーセキュリティ対策の費用を確保することが難しく、十分な対策が行えない。医療は国の重要なインフラストラクチャーなので、サイバーセキュリティ対策の費用については国の支援が必要だ、との声が病院界から上がっている。日本では昨年11月以降、マルウェア(悪意のあるプログラム)の「Emotet(エモテット)」の感染が拡大している。攻撃者はWordやExcelファイルをメールに添付して大量に送付する「ばらまき攻撃」を仕掛けてくる。ファイルを開くと感染し、メールアカウントやパスワード、アドレス帳などの情報を抜き取られる。攻撃者は抜き取った情報を基にほかのユーザーへ感染メールを送信するため、取引先や顧客が巻き込まれる。最悪の場合、感染元は損害賠償請求や取引停止を受けたり、ブランドイメージが失墜したりする。医療機関では身代金要求型ウイルスの被害が増加中コロナ禍で、とりわけサイバー攻撃の被害を受けているのが医療サプライチェーンだ、とサイバーセキュリティの専門家は指摘する。攻撃者の狙いの1つは、コロナワクチンや治療薬などの研究成果を盗むスパイ目的の攻撃。2つ目は、「ランサムウェア」のような身代金要求型ウイルスを使った金銭目的の業務妨害だ。ランサムウェアは、感染したパソコンをロックしたり、ファイルを暗号化したりすることで使用不能にした後、元に戻すことと引き換えに「身代金」を要求する不正プログラム。医療機関は身代金の支払いに応じやすい標的と見られており、日本でも2018年ごろから、被害報告が増加しており、コンピュータウイルスによる個人情報の流出とは比較にならない甚大な被害が生じている。4月から義務化されるサイバーセキュリティ対策直近では昨年10月末、徳島県西部のつるぎ町立半田病院がランサムウェア攻撃を受け、電子カルテなどの医療データがすべて暗号化されて利用できなくなった。新規患者や救急患者の受け入れを停止する事態に陥り、地域医療にも大きな影響を及ぼした。昨年末にシステムが全面復旧し、今年1月4日にすべての診療科で外来診療を再開。サイバー攻撃事件からの復旧に約2ヵ月も要した。このため、国はランサムウェア対策などを盛り込んだ「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の改訂作業を進めている。医療を含む14重点分野は、4月からサイバーセキュリティ対策が義務化されることになる。医療現場はこのような事態をどう捉えているのか。四病院団体協議会(四病協)は2月16日の記者会見で、病院のサイバーセキュリティ対策に必要となる金額の試算を公表。500床以上の病院の場合、不足額は最大で1億3,000万円程度に上ると見込まれ、対策費が大幅に不足している状況が明らかになった。四病協の試算で病床規模別の不足額が明確に日本病院会の相澤 孝夫会長は「収支差益は診療報酬改定に伴い変動・低減していく病院にとって、サイバーセキュリティへの投資を『自助』で行い続けることは困難」として、「公助」、つまり国による公的補助金支給が不可欠との考えを示した。ほかの産業では、収益に占めるIT予算比率は平均約2%で、そのIT予算のうちセキュリティ関連費用は15%以上が計上されているという日本情報システム・ユーザー協会の「企業IT動向調査報告」などを四病協は活用。これを第23回医療経済実態調査で得られた2020年度病床規模別損益に当てはめて、病院のセキュリティ関連費用を試算した。各病院が実際に充当しているセキュリティ費用の平均額の差を算出したところ、他産業と同様にIT予算の15%をセキュリティ対策に充てる場合、病床規模が100~199床で約400万円、200~299床で約1,100万円、300~499床で約2,100万円、500床以上で約5,600万円が不足しているという結果が出た。また、他産業と比べて病院の対策が遅れていることを考慮して、IT予算の30%をセキュリティ対策に充てる場合、不足額は100~199床で約1,200万円、200~299床で約2,600万円、300~499床で約5,000万円、500床以上で約1億3,000万円に膨らむ。はじめの数年は十分水準(IT予算の30%)の公的補助金の支給を受け、セキュリティ水準を底上げできたら、必要最低水準(IT予算の15%)の支給に変更していく段階的なアプローチを想定している。セキュリティ対策が不十分な中で医療のDX化を進めるリスク四病協はサイバーセキュリティ対策の委員会を設置、国の2022年度補正予算などでの支援費用の計上を目指して具体的な要望内容をまとめる方針だ。多くの病院では、コロナ禍以前からサイバーセキュリティ対策が遅れていたのに、コロナの収束が見えない中、さらに対策が取りにくくなっているのが実情だろう。それにもかかわらず、国は電子処方箋の導入など医療のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に前のめりになっている。しかし、医療DX以前にまず必要なのは、サイバーセキュリティ対策の公的補助なのではないだろうか。

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心停止後昏睡、抗けいれん治療併用で転帰改善は?/NEJM

 心停止後昏睡患者において、律動的および周期的な脳波活動を48時間以上抑制する抗けいれん治療を標準治療に併用しても、標準治療のみと比較して3ヵ月後の神経学的アウトカム不良の割合に有意差は認められないことが、オランダ・トゥウェンテ大学のBarry J. Ruijter氏らが実施した医師主導型無作為化非盲検(評価者盲検)臨床試験「TELSTAR試験」の結果、示された。心停止後昏睡患者において、律動的および周期性の脳波パターンを治療することにより転帰が改善するかどうかは明らかになっていなかった。NEJM誌2022年2月24日号掲載の報告。律動的/周期的な脳波活動を認める心停止後昏睡患者を対象に 研究グループは、心停止後昏睡状態で律動的および周期的な脳波活動が認められた18歳以上の患者を、標準治療のみ(対照群)と、標準治療に加えて抗けいれん治療によりこの脳波活動を48時間以上抑制する段階的戦略を併用する群(抗けいれん治療群)に、1対1の割合で無作為に割り付け検討した。両群とも、標準治療には体温管理療法が含まれた。抗けいれん治療は、てんかん重積状態の治療に関する国際ガイドラインに基づいて行った。 主要評価項目は、3ヵ月後の脳機能カテゴリー(CPC)スケールのスコアに基づく神経学的アウトカムとし、アウトカム良好(CPCスコア:障害なし、軽度障害、中等度障害)またはアウトカム不良(CPCスコア:高度障害、昏睡、死亡)に分類した。副次評価項目は、死亡率、集中治療室(ICU)在室期間、および人工呼吸管理期間であった。3ヵ月後の神経学的アウトカム不良は90% vs.92%、死亡率は80% vs.82% 2014年5月1日~2021年1月24日の間に、172例が登録され、88例が抗けいれん治療群、84例が対照群に無作為化された。心停止後、中央値で35時間後に律動的/周期的な脳波活動が検出され、データが得られた157例中98例(62%)にミオクローヌスが認められた。 48時間連続して律動的/周期的な脳波活動が完全に抑制された患者の割合は、抗けいれん治療群56%(49/88例)、対照群2%(2/83例)であった。 3ヵ月後の神経学的アウトカム不良の患者の割合は、抗けいれん治療群90%(79/88例)、対照群92%(77/84例)(群間差:2%、95%CI:-7~11、p=0.68)、3ヵ月死亡率はそれぞれ80%および82%であった。 ICU在室期間および人工呼吸管理期間の平均値は、抗けいれん治療群が対照群よりわずかに長かった。

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KRAS G12C変異陽性肺がんの新しい治療選択肢、ソトラシブ/日本臨床腫瘍学会

 2022年、KRAS G12C変異陽性非小細胞肺がんに対する2次治療の新たな選択肢として承認されたソトラシブについて、日本臨床腫瘍学会メディカルセミナーにて、愛知県がんセンターの藤原 豊氏が解説した。 肺がん、とくに肺腺がんには多くの遺伝子変異がある。今回ソトラシブが適応となるKRAS G12C変異は日本における扁平上皮非小細胞肺がんの4.1%程度であり、男性、喫煙者に多いことがわかっている。 KRAS G12C変異陽性非小細胞肺がんに対する従来の初回標準治療は、免疫チェックポイント阻害薬と細胞障害性抗がん剤の併用である。しかし、KRAS変異陽性の場合、陰性に比べて細胞障害性抗がん剤の効果が乏しく、とくに2次治療での効果は限定的であり、新しい治療選択肢が望まれていた。KRAS G12C変異陽性非小細胞肺がんに対するソトラシブの臨床試験成績 KRAS G12C変異陽性非小細胞肺がんに対するソトラシブの臨床試験、CodeBreaK100試験の概要は以下の通り。・対象:KRAS G12C変異陽性進行非小細胞肺がんで抗PD-1/PD-L1免疫治療および/またはプラチナ製剤を含む化学治療の前治療歴があり(前治療数は3つ以下)、RECIST1.1に基づく測定可能病変を有し、ESOG PS 0、1・方法:ソトラシブ960mgを1日1回経口投与(増悪、治療不耐性、同意撤回などまで投与を継続)・評価項目:[主要評価項目]客観的奏効率(ORR)[副次評価項目]奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)、病勢コントロール率(DCR)、全生存期間(OS)、奏効までの期間(TTR)、安全性 患者背景は男女同等、アジアからは19名が参加している。前治療で化学療法、免疫療法を受けていた割合はどちらも9割を超えていた。 KRAS G12C変異陽性非小細胞肺がんに対するソトラシブの臨床試験主な結果は以下の通り。・主要評価項目であるORRは37.1%(95%信頼区間:28.6~46.2)であり、副次評価項目のDCRは80.6%(95%信頼区間:72.6~87.2)であった。DORの中央値は11.1ヵ月(95%信頼区間:6.9~NE)。・安全性については、全Gradeの副作用が69.8%、Grade3が19.8%、Grade4が0.8%であった。多く見られた副作用は下痢、悪心、ALT・AST増加などであった。KRAS G12C変異陽性肺がんの2次治療はどう変わるか 肺がん診療ガイドラインでは2021年の段階で、すでにソトラシブがKRAS G12C変異陽性に2次治療以降でソトラシブ単剤療法を推奨すると記載されている。 藤原氏は今後の治療戦略について、「1次治療開始時にKRAS G12C遺伝子変異検査を実施し、結果を把握しておけば、2次治療が必要になった場合にすぐにソトラシブを使えると考えている。初回の検査でKRAS G12C変異を確認しておくことが重要」と述べた。

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硬化性萎縮性苔癬〔LSA:lichen sclerosus et atrophicus〕

1 疾患概要■ 概念・定義外陰部に好発する難治性炎症性疾患である。男性の陰茎部に生じるbalanitis xerotica obliterans、女性の外陰部にみられるkraurosis vulvaeやhypoplastic dystrophyと呼ばれる疾患も本症と同義である。■ 疫学性差は男女比が1:9と、圧倒的に女性の罹患者が多い。初経前と閉経後の2つの年齢層に発症のピークがある。男性例は30~50歳の壮年層に発症頻度が高い。■ 病因不明であるが、Borrelia burgdorferi感染の関与が示唆されたことはあるが、菌体が同定された報告は無く、現在では否定的と考えられている。■ 症状女性外陰部の病変は、象牙色調の浸潤を触れる硬化性または萎縮性の紅色局面が主体で、びらん、水疱、紫斑、出血を伴うことがある(図1)。図1 女性外陰部の硬化性苔癬大陰唇から膣口にびらん、苔癬化、脱色素斑が混在する。劇痒と形容される強い瘙痒感や、灼熱感を訴えることが多い。約3割で肛門周囲にも病変がみられ、外陰部から肛門周囲にかけて「8の字型」と称される連続病変を呈することがある(図2)。図2 外陰部から肛囲までの8の字病変肛門部では萎縮した白色調の病変が広がり、さまざまな程度で色素脱失や色素沈着が混在することが多い。同部の皮膚粘膜境界部に生じた場合には、尿道口や腟口部の狭窄を来たしうる。経過中に瘢痕を生じやすく、進展すると癒着による小陰唇の消失や陰核包皮の癒着・閉鎖、陰核の埋没などを来す。通常は腟や子宮頸部などの粘膜部位は侵さないが、辺縁の皮膚病変からびらん、亀裂、腟口部の狭窄が進展した場合には、自発痛や排尿痛、性交痛を生じることがある。その一方、高齢者では無症状の場合もあり、健診で初めて指摘されることもある。男性例は、成人では包皮、冠状溝、亀頭部、小児では通常包皮に生じる。女性例に比べて瘙痒が主症状になることは少なく、陰茎や肛囲の病変はまれである。高度の包茎や癒着による尿道口の狭小化のため、排尿異常を生じることがある。■ 分類性差を問わず、ほとんどが外陰部のみに限局する。外陰部以外の病変が併存することや、外陰部外のみの症例もあるが、諸外国と比べてわが国では極めてまれである。■ 予後長期の罹患に伴って上皮系悪性腫瘍(ほとんどが有棘細胞がん)が本症の5~11%で出現し、最も予後に影響する。また、溶血性貧血、白斑、自己免疫性水疱症のような自己免疫疾患や臓器特異的な自己抗体が検出される症例が、おのおの全体の2割と4割に合併することが知られており、予後に関わるものもある。中でも甲状腺疾患が12%、次いで白斑が6%と多い。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 諸検査1)皮膚生検と病理組織学的所見病理組織学的に不全角化を伴う過角化、毛孔性角栓を伴う様々な厚さの表皮肥厚や液状変性を認め、完成期には萎縮して表皮突起が平坦化する。直下の真皮浅層では、毛細血管拡張やリンパ球を主体とする炎症細胞浸潤に加え、膠原線維が均一化した無構造物「硝子様均質化(ヒアリン化, hyalinization)」が特徴的である(図3)。生検組織の蛍光抗体直接法では、免疫グロブリンや補体の沈着は通常認めない。図3 外陰部硬化性苔癬の病理組織像過角化、表皮突起の不規則化と消失、真皮上層の毛細血管拡張とヒアリン化、リンパ球浸潤を特徴とする。2)血液学的所見一般血液・生化学検査は正常であることが多く、本疾患の診断や病勢把握に有益な保険適応内のバイオマーカーは存在しない。上述のように、10~30%に自己免疫異常(抗甲状腺抗体、抗BP180抗体など)を認めることがある。■ 鑑別疾患外陰部カンジダ症を含む股部白癬、扁平苔癬、乳房外パジェット病、粘膜類天疱瘡、限局性強皮症(モルフェア)、白斑、円板状ループスエリテマトーデスなどを鑑別する必要がある。■ 合併症進行すると尿道狭窄や性交障害など、排尿や外陰部の機能障害を来すことがある。女性外陰部の硬化性苔癬では7~11%、また表皮が肥厚した病変では約30%に有棘細胞がんが出現するとの報告がある(図4)。図4 有棘細胞がんを合併した女性外陰部の硬化性苔癬右大陰唇から小陰唇の病変部内に隆起性の腫瘤を認める。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 治療目標ほとんどの症例が難治であり、各種治療に難渋することが多い。長期にわたって症状のコントロールが不良な症例では局所発癌の頻度が高まるため、通常の治療に抵抗する場合は、まず症状の緩和とその維持を目指す。■ 治療内容1)初期治療局所へのステロイド外用剤が第1選択である。外陰部は他の部位と比べて薬の吸収率が良いものの(42倍 vs. 0.14~13倍:前腕内側の吸収率を1とした場合)、治療効果を優先して、欧米やわが国のガイドラインでは強めのステロイド外用剤の使用が推奨されている。掻爬行為によって症状が悪化するため、抗ヒスタミン薬などを併用して瘙痒のコントロールを行うこともある。2)治療後期症状が軽快したのちも無治療ではなく、保湿剤による外陰部の保護を継続することで、再燃やそのピークが抑えられる場合が多い。3)治療抵抗例保険適応外ではあるが、ステロイド外用に加えてタクロリムス含有軟膏の併用や、局所への光線療法が奏効する場合もある。男性の場合、既存の包茎が症状の遷延化を招くことが多いため、症状に応じて専門科への紹介を考慮する。4)合併症への治療硬化性苔癬における外科的治療は、悪性腫瘍合併例の病変部切除や尿道口狭窄例の尿道拡張術や尿道再建手術などに限って行う。4 今後の展望■ 治療外用療法が基本となるため、ステロイド以外の抗炎症作用ならびに免疫抑制効果をもつ外用剤が期待されている。上述したタクロリムス外用や活性型ビタミンD3外用剤、局所紫外線療法の奏効例が報告されている(本邦保険適用外)。全身療法ではシクロスポリンやバリシチニブ(JAK阻害薬)の内服が奏効した報告がある。■ 診断本症の確定診断には皮膚生検による病理組織所見の確認が必須であるが、女性の罹患者が多く、病変部がプライベートパーツであることから、生検が困難な症例も少なくない。患者血清中の細胞外基質extracellular matrix protein 1(ECM1)に対するIgG抗体を用いた血清診断が、非侵襲的かつ経過中の病勢の把握に有用バイオマーカーになる可能性が指摘されている。いまだ本抗体の病的意義は不明であり、今後の検討が待たれる。5 主たる診療科皮膚科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本皮膚科学会 硬化性萎縮性苔癬 診断基準・重症度分類・診療ガイドライン(医療従事者向けのまとまった情報)1)長谷川 稔ほか. 日皮会誌. 2016;126:2251-2257.2)強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン作成委員会.全身性強皮症・限局性強皮症・好酸球性筋膜炎・硬化性萎縮性苔癬の診断基準・重症度分類・診療ガイドライン 2017. 金原出版;2017.3)Lewis FM, et al. Br J Dermatol. 2018;178:839-853.4)Kirtschig G, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2017;31:e81-e83.5)Oyama N, et al. Lancet. 2003;362:118-123.公開履歴初回2022年3月2日

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Stage I 非小細胞肺がん 再発高リスク群では補助化学療法が有効/Ann Thorac Surg

 わが国の肺癌診療ガイドラインでは2cmを超えるStage IA/BおよびIIA(TNM病期分類8版)の非小細胞肺がん(NSCLC)に対するテガフール・ウラシルの術後補助療法は推奨または提案、という位置づけである。 広島大学の津谷康大氏らによる、再発高リスクのStage I(TNM8版)完全切除NSCLCに対する補助化学療法の有効性を評価した試験結果がThe Annals of Thoracic Surgery誌に発表された。 同試験では、肺葉切除術を受けたStage I NSCLC1,278例のデータを前向きに収集し、分析した。再発リスク因子は、無再発生存率(RFS)のCox比例ハザードモデルを基に規定し、補助化学療法実施患者と非実施患者の生存率を比較した。 主な結果は以下のとおり。・RFSリスク因子としては、年齢70歳超、浸潤径2cm超、リンパ管侵襲、血管侵襲、臓側胸膜浸潤が同定された。・高リスク群(641例)においては、5年RFS(補助化学療法実施群81.4%対非実施群73.8%)、5年OS(補助化学療法実施群92.7%対非実施群73.8%)、とRFS、OSともに補助化学療法実施群で有意に長かった(5年RFS p=0.023、5年OS p<0.0001)。・低リスク群(637例)においては、補助化学療法実施群と非実施群の5年RFSは差はなかった(補助化学療法実施群98.1%対非実施群95.7%、p=0.30)。 補助化学療法は、病理学的T1c/T2a、リンパ節/血管侵襲など、高再発リスクを有するStage I NSCLC患者において、生存を改善する可能性が示唆される。

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高血圧性臓器障害評価【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q4

高血圧性臓器障害評価Q4高血圧による臓器障害評価の「一般検査」として高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)で明記された検査に、下記のうち当てはまらないものは?(1つのみ)心電図心エコーeGFR蛋白尿(定性)眼底検査

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統合失調症、うつ病患者に退院時使用されている頓服薬の傾向

 統合失調症やうつ病に対する継続的な薬物療法が重要であることは、さまざまなガイドラインで示唆されているが、頓服による治療に関する報告はほとんど行われていない。東京大学の市橋 香代氏らは、向精神薬の頓服使用を行っている統合失調症およびうつ病患者の特徴を明らかにするため、検討を行った。Asian Journal of Psychiatry誌オンライン版2022年1月13日号の報告。 精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)のデータを用いて、統合失調症(2,617例)およびうつ病患者(1,248例)の退院時における向精神薬頓服使用の有無、患者の年齢や性別、頓服使用と継続的な向精神薬使用との関連について評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・退院時における向精神薬の頓服使用率は、統合失調症患者で29.9%、うつ病患者で31.1%であった。・統合失調症患者では、65歳以上の向精神薬頓服使用率が21.6%であり、他の年齢層よりも低かった。・うつ病患者では、向精神薬頓服使用率が女性で34.2%であり、男性(25.5%)よりも有意に高かった。・統合失調症患者では、向精神薬の使用と継続的な向精神薬の併用との間に関連が認められた。 著者らは「向精神薬の頓服使用は、統合失調症患者では高齢者で少なく、うつ病患者では女性で多かった。統合失調症患者では、向精神薬頓服使用による向精神薬の多剤併用が認められた。これらのエビデンスを蓄積し、適切な頓服処方に関する知見を共有するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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認知症患者に対するベンゾジアゼピン、Z薬の使用

 世界中のガイドラインにおいて、認知症のBPSDや不眠の治療に対し、ベンゾジアゼピンやZ薬などのベンゾジアゼピン受容体アゴニスト(BZRA)の使用が制限下で推奨されている。オランダ・Center for Specialized Geriatric CareのDirk O. C. Rijksen氏らは、認知症ナーシングホームの入居者に対するBZRAの使用率と適切性についての評価を行った。Journal of Alzheimer's Disease Reports誌2021年12月9日号の報告。 2016~18年に実施した向精神薬使用に関する2つの介入研究より、BZRA使用に関して事後分析を実施した。対象は、24のオランダ介護組織の認知症特別ケアユニットに入居している患者1,111例。継続的および頓服のBZRAの使用率と患者の症状との関連を評価した。継続的なBZRA使用の適切性(適応症、投与量、投与期間、認知症や睡眠障害の治療ガイドラインに準じた評価)について評価した。 主な結果は以下のとおり。・BZRAの使用率は39.2%(95%信頼区間[CI]:36.3~42.0)、そのうち継続的な使用は22.9%、頓服使用は16.3%であった。・継続的なBZRA使用患者における適応症は、抗不安薬としての使用19.0%、睡眠薬としての使用44.8%であった。・不適切な適応に対するBZRAの使用は、攻撃性/興奮に対する抗不安薬の使用(継続的:75.7%、頓服:40.3%)、夜間の興奮に対する睡眠薬の使用(継続的:40.3%、頓服:26.7%)であった。・適切な適応症に対する継続的なBZRA使用は、他のすべての項目については適切に使用されていなかった。・ほとんどの使用において、評価期間および使用期間は4週間超であった。 著者らは「BZRAは、認知症ナーシングホームの入居者に対して頻繁に使用されていた。使用されていた患者の大部分は、ガイドラインに従っておらず、推奨期間を超えて使用されており、タイムリーな評価が行われていなかった。エビデンスに基づくガイドラインと日常診療との不一致を考慮すると、不適切なBZRA使用の要因を明らかにするための調査が求められる」としている。

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急性期脳梗塞へのアルテプラーゼ、発症前NOAC服用でもリスク増大なし/JAMA

 アルテプラーゼ静注治療を受けた急性虚血性脳卒中患者において、発症前7日以内の非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)服用者の頭蓋内出血リスクは、抗凝固薬非服用者と比べて大きく増大しないことが示された。米国・デューク大学のWayneho Kam氏らが、16万例超の患者を対象に行った後ろ向きコホート試験の結果を報告した。現行のガイドラインでは、急性虚血性脳卒中発症前にNOACを服用していた場合、原則的にはアルテプラーゼ静注を使用しないよう勧告されている。JAMA誌オンライン版2022年2月10日号掲載の報告。米国内1,752ヵ所の医療機関、約16万3,000例を対象に試験 研究グループは2015年4月~2020年3月に、脳卒中診療の質改善プログラム「Get With The Guidelines-Stroke」(GWTG-Stroke)に登録する米国内1,752ヵ所の医療機関で、急性虚血性脳卒中発症後4.5時間以内にアルテプラーゼ静注治療を受けた16万3,038例を対象に、後ろ向きコホート試験を行った。 被験者は、脳卒中発症前のNOAC服用者、抗凝固薬の非服用者であった。補完的に、抗凝固薬服用中に急性虚血性脳卒中や頭蓋内出血を発症した患者レジストリ「Addressing Real-world Anticoagulant Management Issues in Stroke」(ARAMIS)のデータも活用。脳卒中発症前NOAC服用患者への、アルテプラーゼ静注治療の安全性と機能性アウトカムについて、抗凝固薬の非服用者と比較した。 主要アウトカムは、アルテプラーゼ静注後36時間以内の症候性頭蓋内出血の発生だった。副次アウトカムは、院内死亡を含む安全性に関する4項目と、自宅への退院率を含む退院時に評価した機能性アウトカム7項目だった。症候性頭蓋内出血の発生率、NOAC服用群3.7%、抗凝固薬非服用群3.2% 被験者16万3,038例の年齢中央値は70歳(IQR:59~81)、女性は49.1%だった。このうち、脳卒中発症前のNOAC服用者(NOAC服用群)は2,207例(1.4%)、抗凝固薬の非服用者(非服用群)は16万831例(98.6%)だった。 NOAC服用群の年齢中央値は75歳(IQR:64~82)で、非服用群(同70歳、58~81)よりも高齢で、心血管系の併存疾患の罹患率が高く、脳卒中の程度もより重症だった(NIH脳卒中スケールの中央値、NOAC服用群:10[IQR:5~17]vs.非服用群:7[4~14])。 症候性頭蓋内出血の補正前発生率は、NOAC服用群3.7%(95%信頼区間[CI]:2.9~4.5)、非服用群3.2%(3.1~3.3)だった。ベースラインの臨床要因で補正後の症候性頭蓋内出血の発生リスクは、両群で同等だった(補正後オッズ比[OR]:0.88[95%CI:0.70~1.10]、補正後群間リスク差[RD]:-0.51%[95%CI:-1.36~0.34)。 副次アウトカムの安全性に関する項目は、院内死亡率(NOAC服用群6.3% vs.非服用群4.9%、補正後OR:0.84[95%CI:0.69~1.01]、補正後RD:-1.20%[-2.39~-0])を含めいずれも有意差はなかった。 機能性アウトカムについては、自宅への補正後退院率(NOAC服用群53.6% vs.非服用群45.9%、補正後OR:1.17[95%CI:1.06~1.29]、補正後RD:3.84%[1.46~6.22])など、7項目中4項目でNOAC服用群がより良好だった。

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痙攣性発声障害〔SD:Spasmodic dysphonia〕

1 疾患概要■ 概念・定義痙攣性発声障害は、発声器官に器質的異常や運動麻痺を認めない機能性発声障害の1つで、発声時に喉頭筋の不随意的、断続的な収縮により音声障害を来す疾患である。1871年にTraubeが“spastic dysphonia”として初めて報告した。1968年にAronsonらが内転型と外転型の2つの病型に分類して“spasmodic dysphonia”という名称を提唱し、それ以降その名称が用いられている。発声時の声帯筋の筋緊張に関わるフィードバック機構の異常による喉頭の局所性ジストニア(focal dystonia)と考えられている。■ 病因痙攣性発声障害では約12%の患者でジストニアの家族歴がみられ、少なくとも一部の例では遺伝的要因が関与すると考えられている1)。ジストニア関連遺伝子のうちGNAL遺伝子変異の関与が指摘され、GNAL遺伝子変異を認めた例ではfunctional MRIにより前頭頭頂葉皮質の活動が亢進し、小脳の活動が低下していることが示されている。本症の病因は十分には解明されていないが、大脳白質における神経細胞の解剖学的異常、発声に関わる感覚-運動ネットワーク障害、中枢の神経伝達物質であるドーパミンやGABAの代謝異常などの関与が推測されている1)。■ 病型および症状本症は大きく内転型と外転型に分けられる。内転型では発声時に声帯が内転して声門が過閉鎖されることで発声中の呼気流が遮断され、発声時に断続的な声の途切れ、声の詰まり、努力性発声などを呈する。一方、外転型は発声時に声帯が外転して声門が開大することで、断続的な気息性嗄声、声の抜けなどの症状を呈する。いずれの病型においても、スムーズな会話が障害され日常生活上、大きな支障が生じる。■ 疫学筆者らが2013年に行った全国疫学調査などによると、病型別では内転型が90~95%と大部分を占め、男女比は約1:4で女性に多く、年齢は20および30歳代が約60%を占める2)。また、有病率は3.5~7.0人/10万人で、いわゆる希少疾病である。海外と比較するとわが国では女性の比率が高く、発症年齢は低い傾向にある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)数年前まで、国内外を通じて本症の明確な診断基準はなかったが、厚生労働省研究班により2017年に診断基準と重症度分類が作成された。診断基準は必須条件、主要症状、参考となる所見、発声時の所見、治療反応性からなる(表1)3)。主な鑑別疾患は、音声振戦症、過緊張性発声、心因性発声障害、吃音がある。表1 痙攣性発声障害の診断基準(概要)画像を拡大する重症度分類はまず主観的重症度と客観的重症度に分けて評価する(表2)。主観的重症度は、音声障害の自覚度評価法であるVoice Handicap Indexと社会的・心理的支障度(声の障害により社会生活にどの程度の支障があるか)をそれぞれ点数化する。客観的重症度は規定文朗読や自由会話を検者が聞きとって、声の異常度を点数評価する。そして、両者の点数の組み合わせから、疾患の総合的重症度を決定する(表3)3)。表2 主観的および客観的重症度基準画像を拡大する表3 痙攣性発声障害の総合的重症度分類3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 保存的治療1)音声治療内転型痙攣性発声障害は発声時に声門が過閉鎖することによる音声障害であることから、発声時の喉頭筋の緊張を軽減させることで、症状を軽減できる場合がある。具体的な手技として、発声と呼吸のパターンを整えて楽な発声を誘導する腹式発声、喉頭筋の過緊張を軽減するための喉頭リラクゼーション法、高音での発声などがある。ただし、いずれも根本治療ではなく音声治療のみでの効果は限定的である。2)ボツリヌストキシン治療ボツリヌストキシンを喉頭筋に注入することで、筋の異常収縮を抑えて音声症状を改善させる治療法である。侵襲性が少なく奏効率が高いことから、米国耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会の「嗄声の診療ガイドライン」、わが国における「ジストニア診療ガイドライン」や「音声障害診療ガイドライン」において、本症に対する標準治療と位置付けられている。通常、内転型では輪状甲状間膜経由で甲状披裂筋に、外転型では輪状軟骨外側からのルートで後輪状披裂筋に、筋電図モニター下に投与する(図1)。治療効果は注入の1、2日後より現れ、平均15週間程度持続する。治療に伴う副作用としては、一過性の気息性嗄声や液体嚥下時のむせがある。国内では2018年にA型ボツリヌストキシン(商品名:ボトックス)の適用承認が得られた4)。先進国ではオーストラリアに次いで2ヵ国目である。図1 ボツリヌストキシン治療内転型では輪状甲状間膜経由で、外転型では輪状軟骨外側からのルートでそれぞれ標的筋に投与する。■ 外科的治療内転型痙攣性発声障害に対しては、以下に示す外科的治療があり、近年、適用症例が増えつつある。一方、外転型に対しては有効性が確立された外科的治療はない。1)甲状披裂筋切除術全身麻酔下に経口的に喉頭へアプローチし、声帯上面に切開を加えて責任筋である甲状披裂筋を両側性に鉗除する。手術手技が比較的簡単で皮膚切開を要しないという利点があるが、術後に気息性嗄声がみられる短所がある。2)選択的反回神経内転筋枝切断-再支配手術反回神経の内転筋枝を一旦切断したのちに再支配させる選択的反回神経内転筋枝切断-再支配手術(selective laryngeal adductor denervation-reinnervation surgery)が米国を中心に行われている。手技がやや煩雑でやはり術後に嗄声を来すことが多く、わが国ではあまり行われていない。3)甲状軟骨形成術2型局所麻酔下に甲状軟骨上に皮膚切開を置き、甲状軟骨を正中で縦切開して離断する。離断した軟骨を左右に開大することで、声帯前方を拡げて声帯の過閉鎖が起こらないようにする(図2)。術直後より音声が改善し、長期的にも安定した治療効果が得られることから5)、わが国を中心に手術例が増加しつつある。図2 内転型痙攣性発声障害に対する甲状軟骨形成術2型の模式図甲状軟骨を正中で切開し左右に開大してチタンブリッジにより固定することで、声帯内転による声門の過閉鎖を防止する。4 今後の展望近年の国内外における研究により、本症の病態は明らかになりつつある。また、治療においてもボツリヌストキシン治療や外科的治療の有効性が普及してきた。一方、本症に対する根治的治療法はまだない。発声に関わる中枢へのアプローチによる根治的治療法開発も進められており、今後のさらなる研究の発展が期待される。また、患者は耳鼻咽喉科のみならず、脳神経内科、脳神経外科、心療内科、精神科などさまざまな診療科を受診することが考えられる。本症の認知度はまだ十分とは言えず、早期診断や適切な治療に向けて、これらの診療科の医師や国民に対する啓発活動も望まれる。5 主たる診療科耳鼻咽喉科、脳神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診断・治療に関する情報日本音声言語医学会ホームページ(痙攣性発声障害の診断基準および重症度分類、ボツリヌストキシン治療実施可能施設一覧を掲載)患者会情報SDCP発声障害患者会(痙攣性発声障害を含む発声障害患者さんの交流と情報交換)1)兵頭政光. Clinical Neuroscience. 2020;38:1122-1124.2)Hyodo M, et al. Auris Nasus Larynx. 2021;48:179-184.3)鈴木則宏ほか編. Annual Review 神経 2020. 中外医学社;2020:229-235.4)Hyodo M, et al. Eur J Neurol. 2021;28:1548-1556.5)Sanuki T, et al. Otolaryngol Head Neck Surg. 2017;157: 80-84.公開履歴初回2022年2月21日

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